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特表2024-5094282-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル並びにそのセレン等価物の製造方法及び利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル並びにそのセレン等価物の製造方法及び利用
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/60 20060101AFI20240222BHJP
   C07C 323/58 20060101ALI20240222BHJP
   C07C 391/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C07C323/60
C07C323/58
C07C391/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553011
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 FR2022050388
(87)【国際公開番号】W WO2022185018
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】2102123
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507200961
【氏名又は名称】アディッソ・フランス・エス.エー.エス.
【氏名又は名称原語表記】ADISSEO FRANCE S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベリエール-バカ ビルジニー
(72)【発明者】
【氏名】ギノド エメリック
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC46
4H006AC52
4H006AC54
4H006BC10
4H006BC16
4H006BC31
4H006BD33
4H006BD52
4H006BE06
4H006TA04
4H006TB52
(57)【要約】
本発明は、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)又はそのセレン化等価物(HMSeBN)を、シアン化水素と3-メチル(MTP)又は対応するセレン化アルデヒド(MSeP)から調製する方法に関する。当該方法は、次の工程を含む。MTP又はMSePに対するHCNのモル比を1以上に調節し、且つ、pHを3.5以上の値に調節及び維持し、その中で前記HMTBN又は前記HMSeBNが形成された反応媒体を得る。その後、反応媒体のpHを2.5以下の値に下げ、且つ、HCNを反応媒体から抽出して、HMTBN又はHMSeBNを回収する。本発明は、当該方法の利用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチロニトリル(HMSeBN)を、それぞれ、3-メチルチオプロパナール(MTP)又は3-メチルセレノプロパナール(MSeP)と、シアン化水素(HCN)とから調整する方法において、
MTP又はMSePに対するHCNのモル比を1以上に調節し、且つ、pHを3.5以上の値に調節及び維持し、その中で前記HMTBN又は前記HMSeBNが形成された反応媒体を得て、
その後、前記反応媒体のpHを2.5以下の値に調節し、且つ、HCNを前記反応媒体から抽出し、
前記HMTBN又は前記HMSeBNが回収されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、
HCNのMTPに対するモル比は、1.02以上の値に調節されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法において、
前記pHは、4以上、好ましくは5以上の値に調節且つ維持されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つの方法において、
50℃から110℃の温度範囲において行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つの方法において、
前記pHは、クエン酸/クエン酸ナトリウム、クエン酸/苛性ソーダ、クエン酸ナトリウム/リン酸の対から選択される緩衝溶液によって、調節及び維持されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つの方法において、
第2の工程において、前記反応媒体のpHは2.2以下の値、特に2以下の値、更には1.5以下の値にまで下げられることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つの方法において、
前記反応媒体のpHは、硫酸、硝酸、塩酸及びそれらのいずれかの混合物から選択される酸により下げられることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つの方法において、
HCNは、蒸発、ストリッピング、蒸留又は膜法により前記反応媒体から抽出されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つの方法において、
前記抽出されたHCNは、当該方法において再利用されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つの方法において、
連続的に行われることを特徴とする方法。
【請求項11】
メチオニン又はセレノメチオニンを、それぞれ、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチロニトリル(HMSeBN)から製造する方法において、
前記HMTBN又は前記HMSeBNは、請求項1~10のいずれか1つにより定義された方法により調整され、
前記HMTBN又は前記HMSeBNは、以下のいずれか1つの方法により、それぞれメチオニン又はセレノメチオニンに転化される方法。
(a)前記HMTBN又は前記HMSeBNを直接メチオニン又はセレノメチオニンに転化する
(b)前記HMTBNを、NH3及びCO2と反応させてメチオニンヒダントインを生成し、これをNaOH、K2CO3等の塩基によりケン化してメチオニンナトリウム又はメチオニンカリウムを生成し、これを酸性化することでメチオニンを得る
(c)前記HMTBN又は前記HMSeBNを2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリル(AMTBN)又は2-アミノ-4-メチルセレノブチロニトリル(AMSeBN)に転化し、
前記AMTBN又は前記AMSeBNを2-アミノ-4-メチルチオブチルアミド(AMTBM)又は2-アミノ-4-メチルセレノブチルアミド(AMSeBM)に転化し、その後、
前記AMTBN又は前記AMSeBMを加水分解してメチオニン又はセレノメチオニンを得る、又は、
(d)前記HMTBN又は前記HMSeBNを2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリル(AMTBN)又は2-アミノ-4-メチルセレノブチロニトリル(AMSeBN)に転化し、
前記AMTBN又は前記AMSeBNをメチオニン又はセレノメチオニンに転化する。
【請求項12】
請求項11の方法において、
(a)の方法により前記HMTBN又は前記HMSeBNをそれぞれメチオニン又はセレノメチオニンにする転化は、少なくとも、水と、アルミナ、二酸化チタン及びジルコニアの少なくとも1つを含む触媒との存在下において、且つ、任意でアンモニアの存在下において、行われることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11の方法において、
(d)の方法により前記AMTBN又はAMSeBNをそれぞれメチオニン又はセレノメチオニンにする転化は、少なくとも、水と、アルミナ、二酸化チタン及びジルコニアの少なくとも1つを含む触媒との存在下において、且つ、任意でアンモニアの存在下において、行われることを特徴とする方法。
【請求項14】
2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチル酸(HMTBA)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチル酸(HMSeBA)を、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチルニトリル(HMSeBN)から出発して製造する方法において、
前記HMTBN又は前記HMSeBNは、請求項1~10のいずれか1つに定義された方法により調製され、
前記HMTBN又は前記HMSeBNは、HMTBA又はHMSeBAに転化されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14の方法において、
前記HMTBN又は前記HMSeBNは、
少なくとも水と、弱酸と、少なくともアルミナ、二酸化チタン及びジルコニアの少なくとも1つを含む触媒との存在下において、それぞれHMTBA又はHMSeBAに転化されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(2-hydroxy-4-methylthiobutyronitrile、HMTBN)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチロニトリル(2-hydroxy-4-methylselenobutyronitrile 、HMSeBN)を、それぞれ、3-メチルチオプロパナール(3-methylthiopropanal 、MTP)又は3-メチルセレノプロパナール(3-methylselenopropanal、MSeP)とシアン化水素(HCN)とから製造する方法の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
HMTBN及びHMSeBNは、メチオニン及びそのセレン化等価物であるセレノメチオニンの合成のための前駆体である。実例として、HMTBNからのメチオニンの合成が文献WO01/60790A1に記載されている。アンモニアとの反応により、HMTBNは2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリル(2-amino-4-methylthiobutyronitrile、AMTBN)に変換され、続いてこれが塩基性媒体中でアセトンと反応して、2-アミノ-4-メチルチオブチルアミド(2-amino-4-methylthiobutyramide、AMTBM)を形成する。AMTBMの接触加水分解によりメチオニンアンモニウム(ammonium methionine)が誘導され、そこからメチオニンが回収される。
【0003】
またHMTBNは、メチオニンの水酸化誘導体である2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチル酸(2-hydroxy-4-methylthiobutyric acid 、HMTBA)を製造する際の中間生成物でもある。例えば、文献US2001/0001105A1によって、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(2-hydroxy-4-methylthiobutyronitrile 、HMTBN)から2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチル酸(HMTBA)を連続的に製造する方法は既知である。この方法では、第1の工程において、硫酸のような無機酸の水溶液の存在下にて、HMTBNを水和させて2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチルアミド(HMTBM)とし、続いて、第2の工程において、HMTBMを水和させてHMTBAとする。同等の合成をセレン系列について行うことができ、これにより2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチル酸(2-hydroxy-4-methylselenobutyric acid 、HMSeBA)が得られる。
【0004】
メチオニン市場の規模は、特に動物栄養の分野では、もはや提示する必要は無い。その製造方法は依然として多数の開発の対象である。
【0005】
メチオニンの液体の等価物である2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチル酸(HMTBA)、その塩、そのキレート、特に金属(Ca、Zn、Co、Mn、Cu、Fe、M……)キレート、及び、そのエステル、例えばHMTBAのイソプロピル及びtert-ブチルエステルについても、動物栄養において広く用いられている。同様に、この酸のセレン誘導体及びその塩、そのキレート、そのエステルも、動物栄養において大きな関心事である。
【0006】
HMTBNをシアン化水素(HCN)及び3-メチルプロパナール(MTP)から調製することはよく知られ、工業規模で広く用いられており、例えば文献US2012/215022A1において方法の例が開示されている。この方法は、以下の工程を含む。
【0007】
アミンから選ばれた触媒の存在下、複数ゾーン反応器内において、MTPがHCNと反応し、形成されたHMTBNと、試薬であるMTP、HCN及び触媒とを共に含む反応混合物が生成され、且つ、
未反応のHCNが、反応媒体から、MTP及び触媒を含む吸収ゾーンに抽出され、そこで再度反応する。
【0008】
この方法によると、99%を超えるHMTBNの収率を得ることができる。
【0009】
MTPをHCNと反応させてHMTBNを得る反応は可逆であり、反応媒体は常に、HMTBNに加えて、残留したHCN及びMTPを含んでいる。
【0010】
1に近いHCN/MTPの比を用い、且つ、反応媒体から残留したHCNを抽出する、US2012/215022A1の方法によって、当該方法の収益性が改善される。これに加えて、アミン型の触媒を用いることにより、他の塩基性触媒に比べて、MTPからの副生成物の形成を抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの方法の欠点は、得られたHMTBN中におけるHCN及びMTPの残留濃度が高いことである。
【0012】
HMTBN中における残留HCNの存在は、下流の工程における蟻酸の生成につながり、最終製品の品質が低下すること、及び/又は、水性流出物にける化学的酸素要求量(COD)が増加して処理が高価になることの原因となる。
【0013】
EP0601195A1によると、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチル酸(HMTBA)をHMTBNから製造する文脈において、HMTBNをMTP及びHCNから調製する工程が説明されている。反応は、HCN:MTPのモル比1:1において、NaOHの存在下で行われ、その後、硫酸が加えられてpHが3に下げられる。未反応のHCNは加圧下での蒸留により抽出され、前記の蟻酸の生成を抑制することができる。それでも尚、MTP含有量は大きく、下流における製品、特にHMTBの純度に影響する。
【0014】
反応媒体にMTPが存在することも、実際、同様に有害である。これは、このアルデヒドは、アルドール型の劣化した生成物、クロトマー(crotomeres)及び誘導体に繋がり、MTPのオリゴマー化反応に起因するが、これは、HCNと同程度にメチオニン又はHMTBAの収率低下の原因となり、且つ、これらの生成物が抽出されなかった場合には最終製品の品質低下の原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、反応媒体におけるMTP及びHCNの含有量を低下させることで、その存在による欠陥を削減し、合成の収率を向上し、液体流出物の高額な処理を避け、最終製品の品質を向上可能な手段を提供する。
【0016】
本発明は、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチロニトリル(HMSeBN)を、それぞれ3-メチルチオプロパナール(MTP)又は3-メチルセレノプロパナール(MSeP)と、シアン化水素(HCN)とから調製する方法を提供し、これは少なくとも次の工程を含む。
【0017】
MTP又はMSePに対するHCNのモル比を1以上に調節し、且つ、pHを3.5以上の値に調節及び維持し、その中でHMTBN又はHMSeBNが形成された反応媒体を得て、
その後、反応媒体のpHを2.5以下の値に調節し、且つ、HCNを反応媒体から抽出し、
HMTBN又はHMSeBNを回収する。
【0018】
上記の方法に従い、それぞれ、HCNのMTPに対する比の値を決めることと、合成及びHCN抽出の際のpHを決めることとを組み合わせると、反応媒体中においてMTPの消費を促進でき、ひいてはアルデヒド及びHCNを全く又はほとんど含まないHMTBN又はHMSeBNの流れを回収できることが発見された。この方法は更に、実施にあたって大きな利点を有する。つまり、既存の製造ラインを大きな変更無しに適応させることができる。
【0019】
第1の工程において、HCNのMTPに対する比と、反応媒体のpHとをそれぞれ調節することは、余剰MTPの濃度をできるだけ低くしながらHMTBN又はHMSeBNの形成を促進するために必要である。
【0020】
HCNのMTPに対する比について、これが1を超えていると、反応の平衡により余剰MTPの濃度が下がることが知られている。本発明によると、比は少なくとも1である値とされ、有利には1に近い値に維持され、特に1から2の範囲に変動可能であるが、2が最大と考えるべきである。これは、2を超えると、過剰のHCNが経済的に非常に有害だからである。反応媒体のpHの値は、少なくとも3.5とされるが、最適化された反応のためには、好ましくは少なくとも4、更に好ましくは少なくとも5とされる。pHは工業規模でこの合成を実施する際には重要なパラメータである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明詳細に説明する前に、本文で用いられる語句と表現を定義する。
【0022】
「~以上の値」又は「少なくとも~の値」というとき、明らかに、上限は定められていない。前述の通り、MTPのHCNとの反応は当業者に知られており、それを超えると関心のある工程がもはや実行できなくなる値を見積もることは、当業者の一般的知識である。つまり、第1の工程において、HCN/アルデヒド比は一般に2を超えないし、同様に、反応媒体のpHは8を超えない。
【0023】
また、「~以下の値」又は「最大でも~の値」というとき、当業者であれば、関心のある工程がもはや実行できなくなる下限を理解できる。つまり、反応媒体のpHの値が3.5又はそれより低い値とされるとき、0より低くされることはないと理解できる。
【0024】
本文においてアルデヒドというとき、MTP(これはまた、MMPつまりメチルメルカプトプロピオンアルデヒド、及び、AMPTつまりメチルチオプロピオンアルデヒドと同等でもある)又はMSePを意味する。
【0025】
本発明の方法における好ましい特性は以下において述べられる。これらは単一又は組み合わせで検討されうる。
【0026】
本発明の好ましい実施によると、HCNのMTPに対するモル比の値は1.02以上に定められる。これ未満では、本方法の性能は低下が見られる。但し、望ましくは、この値は1.5を超えない。超えると、期待できる利点に比べて、HCNを抽出するために要するエネルギーが大きくなりすぎる。
【0027】
本方法の他の利点は、非常に広い温度範囲において実行可能な点にある。好ましい範囲は50℃から110℃である。温度に依存して、HCNは液体又は気体の状態を取る。ある実施形態では、HCNは気体の形で反応媒体中に供給され、当該媒体の温度は30℃よりも、好ましくは50℃よりも、更に好ましくは60℃よりも上に維持される。
【0028】
反応媒体の圧力状態は、1から1.5バール(絶対圧力)である。
【0029】
pHの値を少なくとも3.5に調節し且つこの値に維持することを確実にするには、一般に緩衝溶液を用いる。これは、当業者が利用できる全ての適切な対、例えばクエン酸/クエン酸ナトリウム、クエン酸/苛性ソーダ、クエン酸ナトリウム/リン酸から選択することができる。
【0030】
本発明の方法の主な特性によると、第2の工程において、反応媒体のpHの値は2.2以下に下げられ、特に、2以下、更には1.5以下に下げられる。
【0031】
反応媒体のpHは、当業者であればその技術に基づいて選択可能な酸により2.5以下に下げられる。酸は、特に、無機酸、例えば硫酸、硝酸、塩酸及びそれらの混合物から選択される。
【0032】
反応媒体からHCNを抽出するためには、ストリッピング(蒸気、窒素、空気、CO2及びこれらの任意の混合物を媒体ガスとして用いる)、蒸発、蒸留、膜法等、任意の適切な技術が用いられて良い。本発明の好ましい変形例では、蒸発が用いられる。
【0033】
HCNを抽出することから、それをアルデヒドと反応させる工程において再利用できる。HCNは、直接再利用されても良いし、また、反応媒体中に再導入される前に、1つ以上の操作により処理されても良い。
【0034】
本発明の方法は、連続的に実行されても良い。これは、本方法を用いる際の好ましい方法である。
【0035】
前記の通り、本発明の応用は、メチオニン、セレノメチオニン、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチル酸(HMTBA)及び2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチル酸(HMSeBA)の製造を含む。
【0036】
つまり、本発明は、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチロニトリル(HMSeBN)から開始して、順に、メチオニン又はセレノメチオニンを製造する方法を提供する。この方法は、少なくとも以下の工程を含む。
【0037】
HMTBN又はHMSeBNを、上記に一般的に又は特定の変形例の1つとして定められた手段により調製し、
HMTBN又はHMSeBNを、以下の方法の一つにより、順にメチオニン又はセレノメチオニンに転化する
(a)HMTBN又はHMSeBNを直接、メチオニン又はセレノメチオニンに転化する。例として、この転化は、少なくとも水と、アルミナ、二酸化チタン及びジルコニアの少なくとも1つを含む触媒との存在下において、任意で、更には望ましくは、アンモニアの存在下において、実行される。
【0038】
(b)HMTBNをNH3及びCO2と反応させてメチオニンヒダントインを生成し、これをNaOH、K2CO3等の塩基によりケン化してメチオニンナトリウム又はメチオニンカリウムを生成し、これを酸性化することでメチオニンを得る。これは例えばUS5990349Aに記載のお通りである。又は、
(c)HMTBN又はHMSeBNを2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリル(AMTBN)又は2-アミノ-4-メチルセレノブチロニトリル(AMSeBN)に転化し、
AMTBN又はAMSeBNを2-アミノ-4-メチルチオブチルアミド(AMTBM)又は2-アミノ-4-メチルセレノブチルアミド(AMSeBM)に転化し、その後、
AMTBM又はAMSeBMを加水分解してメチオニン又はセレノメチオニンを得る。これは例えばWO01/60790A1に記載の通りである。又は、
(d)HMTBN又はHMSeBNを2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリル(AMTBN)又は2-アミノ-4-メチルセレノブチロニトリル(AMSeBN)に転化し、
AMTBN又はAMSeBNをメチオニン又はセレノメチオニンに転化する。
【0039】
例として、(d)の方法によりAMTBN又はAMSeBNをそれぞれメチオニン又はセレノメチオニンにする転化は、少なくとも、水と、アルミナ、二酸化チタン及びジルコニアの少なくとも1つを含む触媒との存在下において、且つ、任意でアンモニアの存在下において、実行できる。
【0040】
本発明は、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチル酸(HMTBA)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチル酸(HMSeBA)を、それぞれ、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)又は2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチルニトリル(HMSeBN)から製造する方法を提供し、当該方法は、少なくとも以下の工程を含む。
【0041】
HMTBN又はHMSeBNを、上記に一般的に又は特定の変形例の1つとして定められた手段により調製し、
HMTBN又はHMSeBNを、HMTBA又はHMSeBAに転化する。
【0042】
例として、HMTBN又はHMSeBNは、少なくもと水と、酢酸、蟻酸及びプロピオン酸のような弱酸と、少なくともアルミナ、二酸化チタン及びジルコニアの少なくとも1つを含む触媒との存在下において、HMTBA又はHMSeBAに転化される。
【0043】
本発明とその利点について、以下の例により説明される。
【0044】
(例1:本発明によるHMTBNの合成、HCN:MTPのモル比が1.1:1の場合)
HMTBNの合成は、質量パーセントで10%のHCN、61%のN2、1%のCO2、4%のCO及び24%の水を含む気体HCNの流れを、液体のMT`Pと接触させることで実行される。モル比は1.1:1である。媒体はクエン酸/クエン酸ナトリウム混合物によりpH=5に緩衝され、反応は70℃で起こる。
【0045】
得られたHMTBN溶液は、70.5%(質量)のHMTBN、4000ppmのHCN、1000ppmのMTP、及び、29%(質量)の水を含む。
【0046】
硫酸により、混合物のpHは2に下げられる。混合物を250mbarにおいて65℃に加熱することで、蒸発により混合物からHCNが抽出される。最終的な媒体は、65ppmだけのHCN、1200ppmのMTP、72%(質量)のHMTBN、及び、27.9%(質量)の水を含む。
【0047】
蒸気は部分的に凝結される。残りの気体は75%(質量)のHCN、9%(質量)の空気、及び、16%(質量)の水からなり、HCNの流れと共に合成に戻される。
【0048】
97%(質量)の水、0.2%(質量)のMTP及び2.8%(質量)のHCNを含む液体は、MTPと共に合成に戻される。
【0049】
(例2:本発明によるHMTBNの合成、HCN:MTPのモル比が1.05:1の場合)
HMTBNの合成は、質量パーセントで10%のHCN、61%のN2、1%のCO2、4%のCO及び24%の水を含む気体HCNの流れを、液体のMT`Pと接触させることで実行される。モル比は1.05:1である。媒体はクエン酸/クエン酸ナトリウム混合物によりpH=5に緩衝され、反応は70℃で起こる。
【0050】
得られたHMTBN溶液は、70.5%(質量)のHMTBN、2000ppmのHCN、1900ppmのMTP、及び、29.1%(質量)の水を含む。
【0051】
硫酸により、混合物のpHは2に下げられる。混合物を250mbarにおいて65℃に加熱することで、蒸発により混合物からHCNが抽出される。最終的な媒体は、50ppmだけのHCN、2100ppmのMTP、72%(質量)のHMTBN、及び、27.8%(質量)の水を含む。
【0052】
蒸気は部分的に凝結される。圧縮された残りの気体は66%のHCN、18%の空気、及び、16%の水からなり、HCNの流れと共に合成に戻される。
【0053】
97%(質量)の水、0.2%(質量)のMTP及び2.8%(質量)のHCNを含む液体は、MTPと共に合成に戻される。
【0054】
(例3:異なるpHにおけるHMTBNの合成)
HMTBNの合成は、上記の例1の条件において行われるが、相違点として、HMTBNが得られた後にpHが順に3.4(比較のため)に、また、2.2、2及び1.5(本発明による)に下げられる。pHは硫酸を加えることで下げられる。それぞれの試験において、反応媒体からHCNを除去する前(A)及び後(B)について、HMTBN、HCN、MTP、及び、生成したHMTBNの水和の結果であるHMTBMの含有量を測定した。HMTBN、MTP及びHMTBMの量は、HPLCにより測定した。HCNの量は、ラマン分析により測定した。HCNは、流量0.5L/分の窒素を用いたストリッピングにより除去し、水酸化ナトリウムを含むトラップにより回収した。この水酸化ナトリウムのHCNの含有量についても、実質上抽出されたHCNに対応するが、測定した(C)。
【0055】
下の表に、得られた結果を示す。
【0056】
【表1】
ndは測定していないことを示す。
【0057】
これらの結果から、反応媒体のpHが2.5以下、特に、2.2、2又は1に下げられると、MTPの含有量の増大は大きく減少し、従ってMTP分解物の生成を限定して、高品質のHMTBNに繋がることが示される。
【0058】
更に、回収されたHCNの量(C)は、反応媒体のpHの値が本発明に従って下げられる場合には抽出されたHCNの量に実質的に対応するのに対し、pHを3.4までしか下げない場合には、大幅に多い。これは、HCNはHMTBNを犠牲にして再生されていることを意味する。この観測は、測定されたMTP量とも一致する。
【国際調査報告】