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特表2024-509472FGFR2及び癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化が同時発生する患者におけるがんの治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】FGFR2及び癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化が同時発生する患者におけるがんの治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20240222BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240222BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00
A61P1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555429
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 US2021048206
(87)【国際公開番号】W WO2022191870
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/158,083
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2020年9月14日 「ESMO バーチャル コングレス 2020」要約集およびポスターにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンハージ、カリム
(72)【発明者】
【氏名】ワチェク、ボルカー
(72)【発明者】
【氏名】ハリム、アブデル
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB06
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZB26
(57)【要約】
FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される、癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生する、胆管がんを患う対象を治療する方法が提供され、対象は、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を投与される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生する、胆管がんを患う対象を治療する方法であって、前記方法は、
有効量の(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
FGFR2における前記遺伝子変化がFGFR2再構成又は融合である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
FGFR2における前記遺伝子変化がFGFR2再構成である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
FGFR2における前記遺伝子変化がFGFR2融合である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記FGFR2融合が、FGFR2-ARHGAP22、FGFR2-AXDND1、FGFR2-AZI1、FGFR2-BEND3、FGFR2-BFSP2、FGFR2-BICC1、FGFR2-CA10、FGFR2-CCDC147、FGFR2-CEP44、FGFR2-CEP55、FGFR2-CIT、FGFR2-CREB5、FGFR2-CTNNA3、FGFR2-CUX1、FGFR2-DDX21、FGFR2-EVI5、FGFR2-GPHN、FGFR2-INA、FGFR2-KIAA1217、FGFR2-KIAA1524、FGFR2-KIAA1598、FGFR2-LRBA、FGFR2-MACF1、FGFR2-MYH9、FGFR2-NRBF2、FGFR2-OFD1、FGFR2-PDE3B、FGFR2-POC1B、FGFR2-PUM1、FGFR2-RBM20、FGFR2-RXRG、FGFR2-SEC21IP、FGFR2-SH3KBP1、FGFR2-SHROOM3、FGFR2-SLMAP、FGFR2-SMARCC1、FGFR2-SORBS1、FGFR2-SYNPO2、FGFR2-TACC1、FGFR2-TACC2、FGFR2-TBC1D4、FGFR2-TRIM8、FGFR2-TUFT1、FGFR2-TXLNA、FGFR2-VCL、及びFGFR2-WACからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記FGFR2融合が、FGFR2-ARHGAP22、FGFR2-AXDND1、FGFR2-BEND3、FGFR2-BFSP2、FGFR2-BICC1、FGFR2-CCDC147、FGFR2-CIT、FGFR2-CTNNA3、FGFR2-CUX1、FGFR2-DDX21、FGFR2-GPHN、FGFR2-KIAA1217、FGFR2-KIAA1524、FGFR2-KIAA1598、FGFR2-MACF1、FGFR2-PDE3B、FGFR2-RBM20、FGFR2-RXRG、FGFR2-SH3KBP1、FGFR2-SMARCC1、FGFR2-TACC1、FGFR2-TACC2、FGFR2-TUFT1、及びFGFR2-VCLからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記FGFR2融合が、FGFR2-BICC1、FGFR2-KIAA1217、及びFGFR2-SMARCC1からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記癌ドライバー遺伝子が、TP53、BAP1、及びARID1Aからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記癌ドライバー遺伝子が、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記癌ドライバー遺伝子が、BAP1及びARID1Aからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記癌ドライバー遺伝子がTP53である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
TP53における前記遺伝子変化が短バリアント型変異である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記癌ドライバー遺伝子がBAP1である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
BAP1における前記遺伝子変化が短バリアント型変異又はコピー数変化である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記癌ドライバー遺伝子がARID1Aである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ARID1Aにおける前記遺伝子変化が短バリアント型変異である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記癌ドライバー遺伝子がMLL2である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
MLL2における前記遺伝子変化が短バリアント型変異である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記癌ドライバー遺伝子がPIK3C2Bである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
PIK3C2Bにおける前記遺伝子変化が短バリアント型変異又はコピー数変化である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記癌ドライバー遺伝子がIKBKEである、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
IKBKEにおける前記遺伝子変化が短バリアント型変異又はコピー数変化である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記癌ドライバー遺伝子がMCL1である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
MCL1における前記遺伝子変化がコピー数変化である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記癌ドライバー遺伝子がMDM4である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
MDM4における前記遺伝子変化が短バリアント型変異又はコピー数変化である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記癌ドライバー遺伝子がMYCである、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
MYCにおける前記遺伝子変化がコピー数変化である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
胆管がんを患う前記対象は、投与前に、FGFR2及び前記癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化が同時発生すると判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記胆管がんが肝内胆管がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記胆管がんが肝外胆管がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記胆管がんが切除不能である、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
胆管がんを患う前記対象は、投与前に化学療法レジメンを受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
胆管がんを患う前記対象は、投与前に、ゲムシタビン、シスプラチン、フルオロウラシル、ロイコボリン、及びオキサリプラチンからなる群から選択される少なくとも1種を用いた化学療法レジメンを受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
1日あたり1~20mgの(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
前記(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、少なくとも21日間、前記対象に毎日投与される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年3月8日に出願された米国仮出願第63/158,083号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、FGFR2及び癌ドライバー遺伝子(例えば、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYC)に遺伝子変化が同時発生する癌性腫瘍の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
胆管のがんである胆管がん(Cholangiocarcinoma、CCA)は、胆管の上皮細胞の悪性形質転換から生じるまれな腫瘍である。通常、肝内(intrahepatic、iCCA)又は肝外(extrahepatic、eCCA)のいずれかに分類される。肝内胆管がんは、肝臓内の小さな胆管で発生し、この疾患の最も少ない形態であり(約10%)、一方、eCCAには肝門部領域(クラットスキン腫瘍としても知られる)及び遠位胆管領域のがんが含まれ、最も一般的(約90%)である。
【0004】
診断時に限局性疾患である場合、CCA患者に治癒の唯一のチャンスとなるのは外科的切除である。残念なことに、通常、CCAが進行期になるまで症状は明らかではないため、ほとんどの患者(65%超)は診断時に切除不能な疾患を患っている。切除不能な局所進行性疾患(ステージIII)及び転移性疾患(ステージIV)は予後が悪く、5年全生存率(overall survival、OS)はそれぞれ10%及び0%である。そのような患者に対しては、通常、化学療法と支持療法が行われる。Lamarca A, Hubner RA, Ryder WD, et al. Second-line chemotherapy in advanced biliary cancer: a systematic review. Annals of Oncology. 2014;25:2328-2338を参照のこと。ゲムシタビン-シスプラチンは、進行性、転移性、切除不能なCCA患者に対する標準的な一次化学療法レジメンであり、進行性iCCA患者の全生存期間はわずか1年である。一次治療以外の標準レジメンはない。Valle J, Wasan H, Palmer DH, et al. Cisplatin plus gemcitabine versus gemcitabine for biliary tract cancer. NEJM. 2010;362:1273-1281を参照のこと。二次治療の設定では、CCAを含む進行性胆道がん患者761人を対象とした遡及的評価により、全奏効率の中央値は7.7%(95%信頼区間(confidence interval、CI):5~11%)、無増悪生存期間(progression-free survival、PFS)の中央値は3.2か月(95%CI:2.7~3.7か月)であることが示された。具体的には、進行性iCCA患者では、二次FOLOX(フルオロウラシル、ロイコボリン、及びオキサリプラチン)療法による全生存期間の中央値は6.2か月である。 Lamarca A, Hubner RA, Ryder WD, et al. Second-line chemotherapy in advanced biliary cancer: a systematic review. Annals of Oncology. 2014;25:2328-2338を参照のこと。これらの不良な結果は、初期化学療法が失敗した進行性CCA患者における新しい治療に対する医療ニーズが実質的に満たされていないことを裏付けている。
【0005】
線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptor、FGFR)シグナル伝達軸は、増殖、分化、遊走、及び生存における役割についてよく特徴付けられており、胚発生、血管新生の調節、及び成人における創傷治癒の基礎となっている。FGFRシグナル伝達経路の調節不全は、多くの発達障害及びがんと関連している。大量の文献は、FGFRが、後期ヒトがんにおいて最も頻繁に変異するか、そうでなければ異常に活性化される受容体チロシンキナーゼの1つであることを示している。
【0006】
CCAは、胆道内層の上皮細胞の腺がんの組織学的及び分子的特徴を有することが知られているが、実際の起始細胞は不明である。線維芽細胞増殖因子/線維芽細胞増殖因子受容体の異常は、報告されたCCAにおける遺伝子改変である。iCCAでは、線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)遺伝子の再構成(融合を含む)が、発がん事象の初期の駆動要因として特定されている。これらの遺伝子再構成/融合は、患者の10%~20%に存在すると推定されている。Hanahan D, Weinberg RA. The hallmarks of cancer. Cell. 2000 Jan 7;100:57-70;Borad, M. J., Gores, G. J., & Roberts, L. R. (2015). Fibroblast growth factor receptor 2 fusions as a target for treating cholangiocarcinoma. Current Opinion in Gastroenterology, 31(3), 264-268;及びGoyal L, Saha S, Liu L, et al. Polyclonal Secondary FGFR2 Mutations Drive Acquired Resistance to FGFR Inhibition in Patients with FGFR2 Fusion-Positive Cholangiocarcinoma. Cancer Discov. 2017;7(3)252-263を参照のこと。
【0007】
最近、受容体自己リン酸化の阻害によるFGFR1、2、及び3の選択的競合阻害剤であるペミガチニブ(PEMAZYRE、IncyteCorporation)は、以前に治療を受けた患者におけるFGFR2融合又は再構成を伴う局所進行性又は転移性胆管がんの治療について、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を得た。承認は、FGFR2融合又は再構成を伴う局所進行性又は転移性胆管がんの患者107人を登録した臨床試験の結果に基づいており、ペミガチニブ単剤療法の結果、独立中央判定で確認された客観的奏効率(objective response rate、ORR)は35.5%、無増悪生存期間(PFS)中央値は6.9か月(95%CI、6.2~9.6)であった。Silverman IM, Hollebecque A, Friboulet L, et al. Clinicogenomic Analysis of FGFR2-Rearranged Cholangiocarcinoma Identifies Correlates of Response and Mechanisms of Resistance to Pemigatinib. Cancer Discov February 2021 (11) (2) 326-339を参照のこと。
【0008】
しかし、発癌性ドライバー遺伝子の機能獲得型変化又は腫瘍抑制遺伝子の機能喪失型変化のいずれかの形での薬剤耐性は、FGFR阻害剤にとって大きな課題として浮上している。FGFR2再構成(融合を含む)を有する胆管がん患者の高い割合(63.0%)で、BAP1、CDKN2A/B、TP53、PBRM1、ARID1A、又はPTENなどのよく知られた腫瘍抑制遺伝子に同時発生する変化があることも判明しており、これは一次耐性のメカニズムを提供する可能性がある。腫瘍抑制遺伝子欠損のある患者は、FGFR阻害剤に対する反応が悪いレスポンダーとして特定されており、腫瘍抑制遺伝子に同時発生する変化がない患者(11.7か月)と比較して、PFS中央値が有意に短かった(6.8か月)。Silverman IM, Hollebecque A, Friboulet L, et al. Clinicogenomic Analysis of FGFR2-Rearranged Cholangiocarcinoma Identifies Correlates of Response and Mechanisms of Resistance to Pemigatinib. Cancer Discov February 2021 (11) (2) 326-339を参照のこと。例えば、TP53変化が同時発生する患者は、ペミガチニブに対して客観的奏効が得られず、TP53遺伝子欠損のない患者(9.0か月)と比較してPFS中央値が有意に短かった(2.8か月)。これらの結果は、FGFR2の遺伝子変化とTP53などの腫瘍抑制遺伝子の変化が同時発生する患者は全生存期間が短いことを示す以前の研究と一致している(Jain A, Borad MJ, Kelley RK, et al. Cholangiocarcinoma with FGFR genetic aberrations: a unique clinical phenotype. JCO Precis Oncol 2018:1-12)。まとめると、このような文献データは、FGFR2と、ある特定の癌ドライバー遺伝子、特にBAP1、CDKN2A/B、TP53、PBRM1、ARID1A、又はPTENなどの腫瘍抑制遺伝子の変化が同時発生する患者は、FGFR阻害薬による治療によく反応する可能性が低いことを示している。
【0009】
上記を考慮すると、FGFR2及び癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化が同時発生する胆管がん患者には新しい治療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明の目的は、FGFR2及び癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化が同時発生する、胆管がん、特に肝内胆管がん(iCCA)を患う対象を治療する方法を提供することである。
【0011】
以下の詳細な説明で明らかになるこの目的及び他の目的は、汎FGFR不可逆阻害剤である(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCのうちの1つ以上とに遺伝子変化が同時発生する対象におけるCCAを治療するために使用することができるという本発明者らの予期せぬ発見によって達成された。したがって、本発明は、以下を提供する。
【0012】
(1)FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生する胆管がんを患う対象を治療する方法であって、方法は、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法。以下の式を有するこの化合物(フチバチニブとしても知られる)を化合物(1)と呼ぶ。
【化1】
(2)FGFR2における遺伝子変化がFGFR2再構成又は融合である)、(1)に記載の方法。
(3)FGFR2における遺伝子変化がFGFR2再構成である)、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)FGFR2における遺伝子変化がFGFR2融合である、(1)又は(2)に記載の方法。
(5)FGFR2融合が、FGFR2-ARHGAP22、FGFR2-AXDND1、FGFR2-AZI1、FGFR2-BEND3、FGFR2-BFSP2、FGFR2-BICC1、FGFR2-CA10、FGFR2-CCDC147、FGFR2-CEP44、FGFR2-CEP55、FGFR2-CIT、FGFR2-CREB5、FGFR2-CTNNA3、FGFR2-CUX1、FGFR2-DDX21、FGFR2-EVI5、FGFR2-GPHN、FGFR2-INA、FGFR2-KIAA1217、FGFR2-KIAA1524、FGFR2-KIAA1598、FGFR2-LRBA、FGFR2-MACF1、FGFR2-MYH9、FGFR2-NRBF2、FGFR2-OFD1、FGFR2-PDE3B、FGFR2-POC1B、FGFR2-PUM1、FGFR2-RBM20、FGFR2-RXRG、FGFR2-SEC21IP、FGFR2-SH3KBP1、FGFR2-SHROOM3、FGFR2-SLMAP、FGFR2-SMARCC1、FGFR2-SORBS1、FGFR2-SYNPO2、FGFR2-TACC1、FGFR2-TACC2、FGFR2-TBC1D4、FGFR2-TRIM8、FGFR2-TUFT1、FGFR2-TXLNA、FGFR2-VCL、及びFGFR2-WACからなる群から選択される、(2)又は(4)に記載の方法。
(6)FGFR2が、FGFR2-ARHGAP22、FGFR2-AXDND1、FGFR2-BEND3、FGFR2-BFSP2、FGFR2-BICC1、FGFR2-CCDC147、FGFR2-CIT、FGFR2-CTNNA3、FGFR2-CUX1、FGFR2-DDX21、FGFR2-GPHN、FGFR2-KIAA1217、FGFR2-KIAA1524、FGFR2-KIAA1598、FGFR2-MACF1、FGFR2-PDE3B、FGFR2-RBM20、FGFR2-RXRG、FGFR2-SH3KBP1、FGFR2-SMARCC1、FGFR2-TACC1、FGFR2-TACC2、FGFR2-TUFT1、及びFGFR2-VCLからなる群から選択される、(2)、(4)又は(5)のいずれか一項に記載の方法。
(7)FGFR2融合が、FGFR2-BICC1、FGFR2-KIAA1217、及びFGFR2-SMARCC1からなる群から選択される、(2)、(4)又は(6)のいずれか一項に記載の方法。
(8)癌ドライバー遺伝子が、TP53、BAP1、及びARID1Aからなる群から選択される、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(9)癌ドライバー遺伝子が、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(10)癌ドライバー遺伝子が、BAP1及びARID1Aからなる群から選択される、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
【0013】
(11)癌ドライバー遺伝子がTP53である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(12)TP53における遺伝子変化が短バリアント型変異である、(11)に記載の方法。
(13)癌ドライバー遺伝子がBAP1である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(14)BAP1における遺伝子変化が短バリアント型変異又はコピー数変化である、(13)に記載の方法。
(15)癌ドライバー遺伝子がARID1Aである、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(16)ARID1Aにおける遺伝子変化が短バリアント型変異である、(15)に記載の方法。
(17)癌ドライバー遺伝子がMLL2である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(18)MLL2における遺伝子変化が短バリアント型変異である、(17)に記載の方法。
(19)癌ドライバー遺伝子がPIK3C2Bである、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(20)PIK3C2Bにおける遺伝子変化が短バリアント型変異又はコピー数変化である、(19)に記載の方法。
【0014】
(21)癌ドライバー遺伝子がIKBKEである、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(22)IKBKEにおける遺伝子変化が短バリアント型変異又はコピー数変化である、(21)に記載の方法。
(23)癌ドライバー遺伝子がMCL1である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(24)MCL1における遺伝子変化がコピー数変化である、(23)に記載の方法。
(25)癌ドライバー遺伝子がMDM4である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(26)MDM4における遺伝子変化が短バリアント型変異又はコピー数変化である、(25)に記載の方法。
(27)癌ドライバー遺伝子がMYCである、(1)~(7)のいずれか一項に記載の方法。
(28)MYCにおける遺伝子変化がコピー数変化である、(27)に記載の方法。
(29)胆管がんを患う対象は、投与前に、FGFR2及び癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化が同時発生すると判定される、(1)~(28)のいずれか一項に記載の方法。
(30)胆管がんが肝内胆管がんである、(1)~(29)のいずれか一項に記載の方法。
【0015】
(31)胆管がんが肝外胆管がんである、(1)~(29)のいずれか一項に記載の方法。
(32)胆管がんが切除不能である、(1)~(31)のいずれか一項に記載の方法。
(33)胆管がんを患う対象は、投与前に化学療法レジメンを受けている、(1)~(32)のいずれか一項に記載の方法。
(34)胆管がんを患う対象は、投与前に、ゲムシタビン、シスプラチン、フルオロウラシル、ロイコボリン、及びオキサリプラチンからなる群から選択される少なくとも1種を用いた化学療法レジメンを受けている、(1)~(33)のいずれか一項に記載の方法。
(35)(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、対象に経口投与される、(1)~(34)のいずれか一項に記載の方法。
(36)(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)対象に投与される、(1)~(35)のいずれか一項に記載の方法。
(37)1日あたり1~20mgの(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、対象に投与される、(1)~(36)のいずれか一項に記載の方法。
(38)(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩が、少なくとも21日間、対象に毎日投与される、(1)~(37)のいずれか一項に記載の方法。
(39)FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生する胆管がんを患う対象を治療する抗腫瘍剤であって、抗腫瘍剤は、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を含む、抗腫瘍剤。
(40)FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生する胆管がんを患う対象の治療における、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩の使用。
【0016】
(41)FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生する、がんを患う対象を治療する方法であって、方法は、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
(42)FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生する、がんを患う対象を治療する抗腫瘍剤であって、抗腫瘍剤は、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を含む、抗腫瘍剤。
(43)FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生する、がんを患う対象の治療における、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩の使用。
(44)FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生するがんの治療に使用する場合の、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩。
(45)FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCからなる群から選択される癌ドライバー遺伝子とに遺伝子変化が同時発生するがんを治療するための、(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オン又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
化合物(1)は、4つのFGFRアイソフォームすべてに対する、新規で選択性が高く、強力で、共有結合する不可逆阻害剤であり、半数阻害濃度(IC50)値(nmol/L)は、FGFR1で3.9、FGFR2で1.3、FGFR3で1.6、FGFR4で8.3である。in vivo研究は、化合物(1)が、FGFR1又はFGFR2増幅及びFGFR3転座のような様々なFGFR遺伝子異常を有する腫瘍において強い抗腫瘍効果を有することを示している。
【0018】
化合物(1)は、米国特許第9,108,973号、米国特許第10,124,003号、米国特許出願公開第2019/0015417号、米国特許出願公開第2016/0193210号、米国特許出願公開第2019/0183897号、米国特許第10,434,103号、米国特許出願公開第2019/0350932号、米国特許出願公開第2021/0030755号、国際公開第2019/181876号、国際公開第2020/096042号、国際公開第2020/110974号、国際公開第2020/175697号、国際公開第2020/175704号、国際公開第2020/256096号、及び国際公開第2021/153703号に記載されており、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0019】
化合物(1)は、直接使用することもできるし、薬学的に許容される塩の形で使用することもできる。「薬学的に許容される」という語句は、本明細書では、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、又はその他の問題若しくは合併症を引き起こすことなく、ヒトの組織と接触して使用するのに適しており、かつ合理的なベネフィット/リスク比に見合った化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指すために使用される。化合物(1)の薬学的に許容される塩は、特に限定されず、その例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸との付加塩;酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸などの有機酸;カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;及び、アンモニウム塩、エチルアミン塩、アルギン酸塩などの有機塩基との塩が挙げられる。薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、一般に、水中若しくは有機溶媒(例えば、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリル)中、又はそれら2つの混合物中で化合物(1)を化学量論的量の適切な塩基又は酸と反応させることによって合成することができる。
【0020】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、「溶媒和物」の形態であってもよく、これは、参照化合物と1種以上の溶媒分子(有機又は無機を問わず)との物理的会合を指す。この物理的会合には、水素結合が含まれる。ある特定の例では、例えば1種以上の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子に組み込まれている場合、溶媒和物は単離可能である。溶媒和物中の溶媒分子は、規則的な配列及び/又は非規則的な配列で存在し得る。溶媒和物は、化学量論的量又は非化学量論的量の溶媒分子を含んでもよい。溶媒和物は、溶液相及び単離可能な溶媒和物の両方を包含する。溶媒和物を形成し得る例示的な溶媒分子としては、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、酢酸エチル、グリセリン、アセトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
化合物(1)は、9.5°、14.3°、16.7°、19.1°、20.8°、21.9°及び25.2°から選択される回折角(20±0.2°)で少なくとも3つの特徴的なピークを含む粉末X線回折スペクトルを示す結晶形で存在することができる。化合物(1)は、13.5°、17.9°、19.5°、20.6°、22.0°、22.6°、23.3°、23.7°及び24.2°から選択される回折角(20±0.2°)で少なくとも7つの特徴的なピークを含む粉末X線回折スペクトルを示す結晶形で存在することができる。これらの基準のいずれかを満たす結晶は、安定性が良く、経口吸収性に優れ、化学純度が高く、大量生産に適している。このような結晶形を製造する方法は、米国特許第10,434,103号に記載されており、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
本開示におけるがんの「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、又は「治療(treatment)」という用語は、状態、疾患、障害などの改善、又はそれらの症状の改善をもたらすあらゆる効果、例えば軽減、減少、調節、安定化、改善又は排除を含む。具体的には、これらの用語は以下を指すことができる。(1)がん細胞の安定化、減少(例えば、投与前と比較して、がん細胞集団及び/又は腫瘍サイズの減少が10%、20%、30%、40%、50%を超え、好ましくは60%を超える)、又は排除、(2)がん性細胞分裂及び/又はがん性細胞増殖を阻害すること、(3)調節されていない細胞分裂又は異常な細胞分裂に関連する、又はそれによって部分的に引き起こされる病理に関連する1つ以上の症状をある程度緩和する(又は、好ましくは排除する)こと、(4)無病、無再発、無増悪、及び/又は全生存期間、期間、又は率の増加、(5)入院率の減少、(6)入院期間の短縮、(7)原発性がん、局所がん及び/又は転移性がんの根絶、除去、又は制御、(8)腫瘍又は新生物の増殖の安定化又は減少(例えば、初期増殖速度に対して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、好ましくは少なくとも80%減少)、(9)腫瘍形成の障害、(10)死亡率の減少、(11)奏効率、奏効の持続性、又は奏効例数若しくは寛解例数の増加、(12)腫瘍のサイズが維持され、増加しないか、又は増加が10%未満、好ましくは5%未満、好ましくは4%未満、好ましくは2%未満、(13)手術(例えば、結腸切除術、乳房切除術)の必要性の減少、及び/又は(14)がん細胞の転移の予防又は軽減。
【0023】
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)の遺伝子変化は、様々な腫瘍タイプにわたって存在する腫瘍形成要因であり、遺伝子変化はすべてのFGFRサブタイプ(FGFRl、FGFR2、FGFR3、及びFGFR4)で観察されている。本明細書で治療されるがんは、FGFR、特にFGFR2の遺伝子変化、及び少なくとも1つの癌ドライバー遺伝子(FGFR以外)における同時発生する遺伝子変化を有するがんである。
【0024】
「癌ドライバー遺伝子」とは、遺伝子改変されたときに細胞の増殖に有利な状態を与え、腫瘍の増殖を助ける遺伝子である。癌ドライバー遺伝子は一般に、腫瘍抑制遺伝子とがん遺伝子の2種類に分類される。「腫瘍抑制遺伝子」、又は抗がん遺伝子は、細胞増殖の負の制御を提供する。これらの遺伝子によってコードされるタンパク質の機能喪失は、遺伝子の欠失又は不活化を通じて、細胞を増殖の制約から解放し、悪性形質転換に寄与する。「がん遺伝子」とは、通常は細胞の成長を助ける遺伝子であり、遺伝子改変されるとタンパク質のレベルが活性化又は過剰発現され、アポトーシスの対象となっている細胞を生存させ、代わりに増殖させることができる。したがって、がん遺伝子の機能獲得と腫瘍抑制遺伝子の機能喪失は共に、腫瘍の形成と発達を制御するプロセスを決定する。
【0025】
本開示において、「遺伝子変化」には、遺伝子増幅(例えば、コピー数変化)、遺伝子変異、染色体転座/挿入/逆位、遺伝子再構成又は遺伝子融合(遺伝子再構成のサブセット)などが含まれる。
【0026】
治療できるがんには、胆管がん、乳がん、大腸がん、脳腫瘍、尿路上皮がん、頭頸部がん、食道がん、子宮頸がん、胃がん、非小細胞肺がん、肉腫、皮膚がん、虫垂がん、子宮内膜がん、胆嚢がん、中皮腫、神経内分泌腫瘍、神経芽腫、卵巣がん、前立腺がん、腎細胞がん、及び骨髄性/リンパ系新生物などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書に開示される方法はまた、同時発生する遺伝子変化を有する悪性腫瘍に対する臓器横断的な治療としても使用され得る。治療されるがんは通常、固形がんである。様々なステージ及び切除可能性のがんが開示された治療に反応する可能性があるが、本明細書に記載の方法は、切除不能な局所進行性疾患(ステージIII)及び転移性(ステージIV)疾患の治療において特に有用であり得る。
【0027】
本開示の治療方法は、iCCA及びeCCAの両方を含む胆管がんの治療において特に有用であり、iCCAが特に好ましい。胆管がんの危険因子を持つ対象には、原発性硬化性胆管炎、潰瘍性大腸炎、肝硬変、C型肝炎、B型肝炎、ある特定の肝吸虫による感染、及びいくつかの先天性肝奇形を有する対象が含まれる。しかし、多くの人は特定できる危険因子を持っていない。
【0028】
FGFRの1つ以上の遺伝子変化を有する対象、特にFGFR2変化を有する対象は、本明細書における治療の候補である。FGFR2変化は、構成的なFGFR2シグナル伝達を引き起こす重要な発がん性駆動要因であり、その結果、様々な腫瘍形成プロセスに寄与する。
【0029】
FGFR2の遺伝子変化は再構成の形態である可能性がある。FGFR2「再構成」には、FGFR2イントロン17又はエクソン18ホットスポット内にゲノム切断点があり、また、(i)FGFR2のフレーム外又は鎖外にあると予測される新規パートナー遺伝子があるか、又は(ii)特定可能なパートナー遺伝子が存在しないものが含まれる。
【0030】
FGFR2の遺伝子変化は融合の形態である可能性がある。FGFR2再構成は、(i)ゲノム切断点がイントロン17又はエクソン18ホットスポット内にある場合、及び(ii)融合遺伝子パートナーが以前に記載された融合パートナー又はFGFR2とのインフレーム融合であると予測される新規遺伝子パートナーのいずれかである場合、「融合」として更に定義される。したがって、本明細書では、FGFR2融合はFGFR2再構成のサブセットであるとみなされる。有利なことに、本明細書の方法において、FGFR2融合を有する対象とFGFR2再構成を有する対象では、客観的奏効率(ORR)に有意差はない。
【0031】
FGFR2融合は、様々な融合パートナー(以下、FGFR2-XのXとして列挙される)から形成され得るが、融合パートナーの選択は特に限定されない。FGFR2の例としては、FGFR2-ARHGAP22、FGFR2-AXDND1、FGFR2-AZI1、FGFR2-BEND3、FGFR2-BFSP2、FGFR2-BICC1、FGFR2-CA10、FGFR2-CCDC147、FGFR2-CEP44、FGFR2-CEP55、FGFR2-CIT、FGFR2-CREB5、FGFR2-CTNNA3、FGFR2-CUX1、FGFR2-DDX21、FGFR2-EVI5、FGFR2-GPHN、FGFR2-INA、FGFR2-KIAA1217、FGFR2-KIAA1524、FGFR2-KIAA1598、FGFR2-LRBA、FGFR2-MACF1、FGFR2-MYH9、FGFR2-NRBF2、FGFR2-OFD1、FGFR2-PDE3B、FGFR2-POC1B、FGFR2-PUM1、FGFR2-RBM20、FGFR2-RXRG、FGFR2-SEC21IP、FGFR2-SH3KBP1、FGFR2-SHROOM3、FGFR2-SLMAP、FGFR2-SMARCC1、FGFR2-SORBS1、FGFR2-SYNPO2、FGFR2-TACC1、FGFR2-TACC2、FGFR2-TBC1D4、FGFR2-TRIM8、FGFR2-TUFT1、FGFR2-TXLNA、FGFR2-VCL、及びFGFR2-WACが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
予測された奏効率及び相対頻度に基づいて、好ましい対象は、FGFR2-ARHGAP22、FGFR2-AXDND1、FGFR2-BEND3、FGFR2-BFSP2、FGFR2-BICC1、FGFR2-CCDC147、FGFR2-CIT、FGFR2-CTNNA3、FGFR2-CUX1、FGFR2-DDX21、FGFR2-GPHN、FGFR2-KIAA1217、FGFR2-KIAA1524、FGFR2-KIAA1598、FGFR2-MACF1、FGFR2-PDE3B、FGFR2-RBM20、FGFR2-RXRG、FGFR2-SH3KBP1、FGFR2-SMARCC1、FGFR2-TACC1、FGFR2-TACC2、FGFR2-TUFT1、及びFGFR2-VCLのFGFR2融合を有する対象であり、特にFGFR2-BICC1、FGFR2-KIAA1217、及びFGFR2-SMARCC1が好ましい。
【0033】
FGFR2融合又は再構成の存在は、例えば、対象の事前スクリーニング中に、又は対象に対して行われた以前の検査から決定することができ、又はそうでなければ、FDA承認の診断/予後アッセイを含む既知のアッセイに従って確認することができる。例としては、Foundation Medicineによる検査(例えば、FoundationOne(商標)CDxアッセイ)、Sysmex Corporationによる検査(例えば、OncoGuide(商標)NCC Oncopanel System)、次世代シーケンシング(next generation sequencing、NGS)、蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization、FISH)、又は腫瘍組織上若しくはctDNAからのFGFR2遺伝子融合若しくは他のFGFR2再構成を特定できる他のアッセイが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、保存された腫瘍組織サンプルのない対象を生検することができ、FGFR2遺伝子融合又は他のFGFR2再構成の確認のために、新鮮な腫瘍生検標本を分析するか、又は例えばFoundation Medicineに提出することができる。
【0034】
短バリアント型変異などのFGFR2変異の形態のFGFR2遺伝子変化を有する対象も、開示された方法によって治療され得る。FGFR2変異は、キナーゼ中の特徴的な「ゲートキーパー」アミノ酸残基に対応する必要はないが、対応する可能性があり、及び/又はペミガチニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ニンテダニブ、乳酸ドビチニブ、レンバチニブメシル酸塩、セジラニブ、オラチニブ、アラニン酸ブリバニブ、AZD4547、NVP-BGJ398(インフィグラチニブ)、スルファチニブ、レンバチニブ、JNJ-42756493(エルダフィチニブ)、ARQ-087(デラザンチニブ)、S-49076、IMCA1、PRO001、R3Mabなどの従来のFGFR阻害剤に対して耐性となった腫瘍に関連する可能性がある。FGFR2変異の例としては、米国特許第10,124,003号及び米国特許出願公開第2019/0015417号(これらの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている、FGFR2のN550、V565、E566、及びK660のうちの少なくとも1つの変異が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩で治療できる対象はまた、同時発生する癌ドライバー遺伝子の遺伝子変化、すなわち、FGFR、特にFGFR2の遺伝子変化(例えば、これまでに記載されたFGFR2遺伝子融合/再構成)に加えて、癌ドライバー遺伝子の変化を有する。以下の癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化が同時発生する対象は、本明細書の治療に対する陽性臨床レスポンダーとして特定されている。TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYC。治療は、癌ドライバー遺伝子に対する1つの遺伝子変化、又は癌ドライバー遺伝子に対する複数の遺伝子変化を有する対象に対して実施され得る。同時発生する遺伝子変化は、腫瘍抑制遺伝子(すなわち、TP53、BAP1、ARID1A、及び/又はMLL2)又はがん遺伝子(例えば、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及び/又はMYC)に対する遺伝子変化であり得る。
【0036】
例えば、対象は、FGFR2とTP53に遺伝子変化が同時発生する可能性がある。TP53遺伝子は、転写活性化、DNA結合、及びオリゴマー化ドメインを含むタンパク質である腫瘍タンパク質p53をコードする腫瘍抑制遺伝子である。コードされたタンパク質は、様々な細胞ストレスに応答して標的遺伝子の発現を調節し、それによって細胞周期の停止、アポトーシス、老化、DNA修復、又は代謝の変化を誘導する。この遺伝子の変異は様々なヒトがんに関連しており、生殖細胞系列又は体細胞の変異のいずれかである可能性がある。TP53の遺伝子変化としては、限定されないが、短バリアント型変異などの変異を挙げることができる。変異はミスセンス変異である可能性がある。
【0037】
別の例では、対象は、FGFR2及びBAP1に遺伝子変化が同時発生する可能性がある。BAP1遺伝子は、細胞成長、細胞増殖、及び細胞死を調節する脱ユビキチン化酵素として機能するユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素BAP1タンパク質(BAP1と略す)を産生するための指示を提供する腫瘍抑制遺伝子である。BAP1の遺伝子変化としては、変異、増幅、及び再構成を挙げることができるが、これらに限定されず、特に、短バリアント型変異又はコピー数変化などの変異及び増幅が挙げられる。
【0038】
別の例では、対象は、FGFR2及びARID1Aに遺伝子変化が同時発生する可能性がある。ATリッチ相互作用ドメイン含有タンパク質1A(ARID1A)遺伝子は、SWI/SNFタンパク質複合体の1つのサブユニットを形成するタンパク質を産生するための指示を提供する腫瘍抑制遺伝子であり、SWI/SNFタンパク質複合体は、クロマチンリモデリングによって遺伝子発現を調節し、損傷したDNAを修復し、DNAを複製し、細胞の増殖、分裂、及び分化を制御する。ARID1Aの遺伝子変化としては、限定されないが、短バリアント型変異などの変異を挙げることができる。
【0039】
別の例では、対象は、FGFR2及びMLL2に遺伝子変化が同時発生する可能性がある。MLL2は、ヒストンH3リジン4(H3K4)モノメチルトランスフェラーゼをコードする腫瘍抑制遺伝子であり、転写エンハンサー上の系統決定的転写因子と共局在し、細胞分化と胚発生に必須である。MLL2の遺伝子変化としては、限定されないが、短バリアント型変異などの変異を挙げることができる。
【0040】
別の例では、対象は、FGFR2及びPIK3C2Bに遺伝子変化が同時発生する可能性がある。ホスファチジルイノシトール-4-リン酸3-キナーゼ、触媒サブユニット2型ベータ(PIK3C2B)は、細胞増殖、発がん性形質転換、細胞生存、細胞移動、及び細胞内タンパク質輸送に関与するシグナル伝達経路において役割を果たすホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)ファミリータンパク質をコードするがん遺伝子である。PIK3C2Bの遺伝子変化としては、変異、増幅、及び再構成を挙げることができるが、これらに限定されず、特に、短突然型変異又はコピー数変化などの変異及び増幅が挙げられる。
【0041】
別の例では、対象は、FGFR2及びIKBKEに遺伝子変化が同時発生する可能性がある。がん遺伝子として、IKBKE遺伝子は、炎症反応、免疫細胞の活性化と増殖、及び代謝性疾患の調節に不可欠な非標準的IKKファミリーのメンバーであるタンパク質IKBKE(核因子κBキナーゼサブユニットεの阻害剤)をコードする。IKBKEは、AKT、ERαなどの重要なシグナル伝達標的のリン酸化及びNFκB活性化を通じて発がん活性を示す。IKBKEの遺伝子変化としては、限定されないが、短バリアント型変異又はコピー数変化などの変異及び増幅を挙げることができる。
【0042】
別の例では、対象は、FGFR2及びMCL1に遺伝子変化が同時発生する可能性がある。MCL1遺伝子は、骨髄性細胞白血病1(myeloid cell leukemia 1、MCL1)タンパク質をコードするがん遺伝子であり、MCL1タンパク質は、BCL2ファミリーの強力なマルチドメイン抗アポトーシスタンパク質であり、他のBCL2ファミリーメンバーとヘテロ二量体化してアポトーシス細胞死を防ぐ。MCL1の遺伝子変化としては、限定されないが、コピー数変化などの増幅を挙げることができる。
【0043】
別の例では、対象は、FGFR2及びMDM4に遺伝子変化が同時発生する可能性がある。がん遺伝子として、MDM4遺伝子は、N末端にp53結合ドメイン、C末端にRINGフィンガードメインを含む核マウス二重微小染色体4(Mouse double Minute 4、MDM4)タンパク質をコードし、p53結合タンパク質MDM2と構造的類似性を示す。両方のタンパク質はp53腫瘍抑制タンパク質と結合してその活性を阻害し、様々なヒトがんで過剰発現することが示されている。MDM4の遺伝子変化としては、限定されないが、短バリアント型変異又はコピー数変化などの変異及び増幅を挙げることができる。
【0044】
更に別の例では、対象は、FGFR2及びMYCに遺伝子変化が同時発生する可能性がある。MYC遺伝子は、細胞周期の進行、アポトーシス、及び細胞の形質転換に役割を果たす核リン酸化タンパク質をコードするがん原遺伝子である。コードされたタンパク質は、関連する転写因子MAXとヘテロ二量体を形成する。この複合体は、EボックスDNAのコンセンサス配列に結合し、特定の標的遺伝子の転写を調節する。この遺伝子の増幅は、多数のヒトがんで頻繁に観察される。MYCの遺伝子変化としては、限定されないが、コピー数変化などの増幅を挙げることができる。
【0045】
癌ドライバー遺伝子における遺伝子変化の存在は、例えば、対象の事前スクリーニング中に、又は対象に対して行われた以前の検査から決定することができ、又はそうでなければ、FDA承認の診断/予後アッセイを含む既知のアッセイに従って確認することができる。例としては、Foundation Medicineによる検査(例えば、FoundationOne CDxアッセイ)、Sysmex Corporationによる検査(例えば、OncoGuide(商標)NCC Oncopanel System)、次世代シーケンシング(NGS)、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、又は腫瘍組織上若しくはctDNAからの遺伝子変化を特定できる他のアッセイが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、保存された腫瘍組織サンプルのない対象を生検することができ、上記で同定された癌ドライバー遺伝子の遺伝子変化を確認するために、新鮮な腫瘍生検標本を分析するか、又は例えばFoundation Medicineに提出することができる。
【0046】
多くの阻害剤クラスと同様に、FGFR阻害剤は、様々な癌ドライバー遺伝子の変化を伴う耐性メカニズムの影響を受けやすいことが証明されている。例えば、FGFR2及び腫瘍抑制遺伝子に遺伝子変化が同時発生する患者は、腫瘍抑制遺伝子が変化していない患者に比べて、ペミガチニブなどのFGFR阻害剤による治療に対する反応が全体的に悪いことがわかっている。Silverman IM, Hollebecque A, Friboulet L, et al. Clinicogenomic Analysis of FGFR2-Rearranged Cholangiocarcinoma Identifies Correlates of Response and Mechanisms of Resistance to Pemigatinib. Cancer Discov February 2021 (11) (2) 326-339を参照のこと。更に、TP53などの特定の癌ドライバー遺伝子の変化は、FGFR阻害剤クラスでは特に問題となることがわかっている。例えば、TP53変化が同時発生する患者は、ペミガチニブに対して客観的奏効が得られず、TP53変化のない患者(9.0か月)と比較してPFS中央値(2.8か月)が有意に短かった。
【0047】
FGFR2及び上記で同定された癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化が同時発生する対象が、本開示のFGFR阻害剤、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩による治療に反応し、これらの癌ドライバー遺伝子が変化していない対象と比較して、癌ドライバー遺伝子が変化した対象において、ORR及びPFSに明白な又は有意な差が観察されないことを、本発明者らは予想外にも見出した。これには、特定の問題のあるTP53遺伝子が含まれる。したがって、本開示の好ましい実施形態は、FGFR2及びTP53に遺伝子変化が同時発生する胆管がんを患う対象を、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩で治療することを含む。FGFR2と、TP53、BAP1、ARID1A、MLL2、PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCから選択される癌ドライバー遺伝子、特に腫瘍抑制因子の遺伝子の両方に遺伝子変化を有する対象を、化合物(1)で治療できることは、FGFR阻害剤に関するこれまでの知見を考慮すると予想外である。
【0048】
治療を開始する前に、対象が、FGFR2と上記で同定された癌ドライバー遺伝子の同時発生する遺伝子変化を有するか否かについて判定することができる。したがって、この方法は、対象が同時発生する遺伝子変化を有し、治療の良い候補であるか否かを判断するための事前スクリーニングステップを含み得る。遺伝子変化は、遺伝子変化を伴うがんの家族歴から、対象の遺伝子型を決定するか、又はこれまでに説明したようなアッセイを使用して対象から採取した血液若しくは腫瘍サンプルを含む対象からの任意の組織サンプルを分析することによって、又は履歴記録若しくは対象に対して実施された以前の検査から決定することができる。対象がFGFR(例えば、FGFR2)の遺伝子変化と少なくとも1つの癌ドライバー遺伝子の遺伝子変化の両方を有する場合、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩による治療が適切である。
【0049】
「投与する(administer)」、「投与すること(administering)」、「投与(administration)」などの用語は、生物学的作用の所望の部位への活性成分の送達を可能にするために使用され得る方法を指す。投与の経路又は様式は、本明細書に記載のとおりである。これらの方法としては、経口経路、十二指腸内経路、非経口注射(静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、血管内、又は注入を含む)、局所/経皮、及び直腸/膣内投与が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、使用できる投与技術に精通している。経口投与が好ましい。
【0050】
本出願において、「投与スケジュール」とは、薬物治療における薬物の種類、量、期間、手順などを時系列に示した計画であり、各薬物の投与量、投与方法、投与順序、投与日などが示されている。指定された投与日は、薬物投与の開始前に決定される。一連の投与スケジュールを「コース」として、そのコースを繰り返すことで投与を継続する。
【0051】
本発明の投与スケジュールに関して、「連続」とは、治療コース中に中断することなく毎日投与することを意味する。投与スケジュールが「間欠的」投与スケジュールに従う場合、投与日の後には「休息日」又はコース内の薬物非投与日が続く場合がある。
【0052】
「休薬期間」とは、薬物が所定の投与スケジュールに従って投与されないことを示す。例えば、数回の治療コースを受けた後、例えば積極的な治療を再開する前に、投与スケジュールの一部として、対象に規制された休薬期間を処方することができる。
【0053】
投与量及び治療期間は、薬物の生物学的利用能、投与様式、薬物の毒性、性別、年齢、ライフスタイル、体重、他の薬物及び栄養補助食品の使用、疾患段階、投与される薬物に対する体の忍容性及び耐性などの要因によって異なり、次にそれらに応じて決定及び調整される。適切な投与量は個人によって異なる場合がある。任意の個々の場合における適切な投与量は、用量漸増などの技術を使用して決定することができる。
【0054】
FGFR、特にFGFR2の遺伝子変化、及び少なくとも1つの癌ドライバー遺伝子に同時発生する遺伝子変化を有する対象を、約1mg/日から、約2mg/日から、約4mg/日から、約6mg/日から、約8mg/日から、約10mg/日から、約12mg/日から、約14mg/日から、約16mg/日から、約18mg/日から、約50mg/日まで、約45mg/日まで、約40mg/日まで、約35mg/日まで、約30mg/日まで、約25mg/日まで、約20mg/日までの連続(週に7日間投与)投与のための用量レベルで、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩で治療することができる。投与レベルは、約1mg/日~約50mg/日、約12mg/日~約20mg/日、及び約16mg/日~約20mg/日などの範囲内で変動し得る。
【0055】
FGFR、特にFGFR2の遺伝子変化、及び少なくとも1つの癌ドライバー遺伝子に同時発生する遺伝子変化を有する対象を、約50mg/日から、約56mg/日から、約60mg/日から、約80mg/日から、約100mg/日から、約120mg/日から、約140mg/日から、約200mg/日まで、約190mg/日まで、約180mg/日まで、約170mg/日までの間欠投与のための用量レベルで、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩で治療することができる。投与レベルは、約50mg/日~約200mg/日、約100mg/日~約160mg/日、及び約120mg/日~約160mg/日などの範囲内で変動し得る。
【0056】
投与は、例えば、薬物動態及び特定の患者の薬物のクリアランス/蓄積に応じて、連続的(週に7日間投与)又は間欠的であり得る。間欠投与の場合、スケジュールは、例えば、週に4日間の投与と3日間の休薬(休息日)、又は適切な医学的判断に基づいて適切とみなされる他の間欠的な投与スケジュールであってもよい。連続投与が好ましい。投与は、1日1回(QD)又は1日2回以上(1日2回、1日3回など)行うことができ、QDで約12~20mg/日の用量が好ましい。1日の用量は、単回用量として、又は複数の個別の分割用量として投与することができる。例えば、各錠剤が4mgの化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を含む5個の錠剤を対象に1日1回(QD)、総用量20mg/日で投与することができる。
【0057】
連続的であろうと間欠的であろうと、投与は特定の治療サイクル、典型的には少なくとも21日のサイクルにわたって継続され、休薬期間の有無にかかわらず繰り返すことができる。14日、18日、24日、28日、35日、又はそれらの間の任意の範囲などの、より長い又はより短いサイクルも使用することができる。サイクルは、対象に応じて、休薬期間なしで、又は休薬期間ありで繰り返されてもよい。有害事象の有無、治療に対するがんの反応、患者の都合などに応じて、他のスケジュールも可能である。「有害事象」とは、薬剤が投与された患者に生じる任意の好ましくない又は意図しない病気又はその症状を指す。薬との因果関係があるか否かは関係ない。例えば、間欠投与は、21日サイクルで、1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、及び21日目;1、4、8、11、15、及び19日目;1、3、5、8、10、12、15、17、及び19日目に行うことができる。
【0058】
高用量の場合は通常、間欠的に投与し、最大約20mgの用量の場合は通常、連続的に(毎日)投与する。対象は低用量から開始し、その後、最大用量に達するか、又は対象が有害事象を経験するまで用量を漸増させ、その時点で漸増を中止し、薬物の投与量を、有害事象が発生しなかった、又は治療を中止する必要があるほど深刻ではなかった以前の用量に減すことができる。有害事象を経験した対象は、適切とみなされる場合には、投薬中断(例えば、休薬期間)によって管理することもできる。連続レジメンの典型的な用量は12、16、又は20mg/日であり得るが、治療に対する対象の反応や有害事象の有無に応じて、より高い用量又はより低い用量を使用することができる。ある用量で忍容性が良好であれば、その用量を増加させることができる。連続投与は、1サイクル、例えば21日間継続することができ、その後、必要に応じてサイクルを繰り返すことができる。
【0059】
このような連続投与又は間欠投与は、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩が1種以上の他の抗がん剤と組み合わせて投与される併用療法にも適用できる。
【0060】
本開示の治療方法は、単独療法として化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を投与することを含み得る。治療はまた、腫瘍を外科的に除去した後の腫瘍の再発を防ぐために行われる術後補助化学療法、ならびに腫瘍を外科的に除去する手術前の術前補助化学療法としての投与も含み得る。胆管がんなどの一部の場合には、手術は肝移植を含む場合がある。治療はまた、放射線療法中若しくは放射線療法後に、又は手術などの他の治療によりがんがなくなった患者における腫瘍の再発を予防するための補助療法として、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を投与することを含み得る。
【0061】
以前に化学療法レジメンを受けたことのない対象を治療することができ、すなわち、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を一次化学療法として投与する。あるいは、以前に化学療法レジメンを受けたことのある対象を治療することができ、すなわち、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩を、二次、三次、四次などの療法として投与する。以前の化学療法レジメンは、様々な抗がん剤を用いて実施されてきた可能性があるが、そのような抗がん剤の例については以下で説明する。胆管がんを治療する特定の事例では、以前の化学療法レジメンで対象に投与された可能性のある抗がん剤の注目すべき例としては、ゲムシタビン、シスプラチン、フルオロウラシル、ロイコボリン、及びオキサリプラチンのうちの1種以上が挙げられるが、これらに限定されず、胆管がんの標準的な一次治療はゲムシタビン-シスプラチン化学療法であり、胆管がんの標準的な二次治療はFOLFOX(フルオロウラシル-ロイコボリン-オキサリプラチン)化学療法である。
【0062】
以前にFGFR阻害剤による化学療法レジメンを受けたことのない対象を治療することができる。あるいは、以前に記載された従来のFGFR阻害剤(複数可)を含むFGFR阻害剤で以前に治療された対象を治療することができる。
【0063】
以下に記載されるように、化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、以下に適合されたものを含めて、固体又は液体の形態で投与するために特別に製剤化され得る。(1)経口投与、例えば、ドレンチ(水性又は非水性の溶液又は懸濁液)、錠剤又はカプセル、例えば、頬側、舌下、及び全身吸収を目的としたもの、ボーラス、粉末、顆粒、シロップ、舌に塗布するためのペースト、(2)例えば滅菌溶液若しくは懸濁液、又は徐放性製剤としての、例えば皮下、筋肉内、静脈内又は硬膜外注射による非経口投与、(3)例えば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏、又は放出制御パッチ若しくはスプレーとしての局所適用/経皮投与、(4)例えばペッサリー、クリーム又はフォームとしての膣内又は直腸内投与、又は(5)経鼻投与。化合物(1)又はその薬学的に許容される塩の場合、経口製剤が好ましい。
【0064】
製剤は、薬学的に許容される担体などを用いて公知の製剤方法により調製することができる。例えば、造粒方法としては、流動層造粒法、撹拌造粒法、転動流動造粒法、押出造粒法などを用いることができる。化合物(1)の製剤は、米国特許出願公開第2021/0030755号及び国際公開第2019/181876号に開示されており、それらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
薬学的に許容される担体は、主題の化合物を、ある器官又は体の一部から別の器官又は体の一部に運ぶ又は輸送することに関与する液体又は固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、製造助剤(例えば、滑沢剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛、又はステアリン酸)、又は溶媒封入材料のような材料、組成物又はビヒクルである。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、対象に有害ではないという意味で「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体として機能できる材料のいくつかの例としては、ほんの数例を挙げると、(1)ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖類、(2)コーンスターチ及びジャガイモデンプンなどのデンプン類、(3)セルロース及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロース、(4)トラガカント粉末;(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)ココアバター及び座薬ワックスなどの賦形剤、(9)落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及び大豆油などの油類、(10)プロピレングリコールなどのグリコール類、(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール類、(12)オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル類、(13)寒天、(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、(15)アルギン酸、(16)発熱物質を含まない水、(17)等張食塩水、(18)リンゲル液、(19)エチルアルコール、(20)pH緩衝溶液、(21)ポリエステル、ポリカーボネート及び/又はポリ無水物、並びに(22)シクロデキストリン、リポソーム、及びミセル形成剤、例えば胆汁酸などの医薬製剤に使用される他の非毒性適合性物質が挙げられる。
【0066】
薬学的に許容される担体は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁剤、膨潤剤、等張剤、pH調整剤、緩衝剤、安定剤、着色剤、香料などの様々な汎用剤として分類することができる。
【0067】
賦形剤の例としては、ラクトース、スクロース、D-マンニトール、グルコース、デンプン(コーンスターチ)、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、及び無水ケイ酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
結合剤の例としては、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、単シロップ、液状グルコース、液体a-デンプン、液状ゼラチン、D-マンニトール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、低粘度ヒドロキシプロピルセルロース)、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルデンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、及びポリビニルピロリドンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
崩壊剤の例としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、D-マンニトール、クロスポビドン、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、及びラクトースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
滑沢剤の例としては、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸、精製タルク、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ホウ砂、及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
着色剤の例としては、食用黄色5号染料、食用青色2号染料、食用レーキ染料、三二酸化鉄、黄色三二酸化物、及び酸化チタンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
甘味料/香味料の例としては、アスパルテーム、サッカリン(サッカリンナトリウム、サッカリンカリウム、又はサッカリンカルシウムとして)、シクラミン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、又はカルシウム塩として)、スクラロース、アセスルファムK、ソーマチン、ネオヘスペリジン、ジヒドロカルコン、アンモニア化グリチルリチン、デキストロース、マルトデキストリン、フルクトース、レブロース、スクロース、グルコース、野生オレンジピール、クエン酸、酒石酸、冬緑油、ペパーミント油、スペアミント油、サッサフラス油、丁子油、シナモン、アネトール、メントール、チモール、オイゲノール、ユーカリプトール、レモン、ライム、及びレモンライムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
必要に応じて、経口製剤に望ましい方法により、腸溶性コーティング又は効果の持続性を高めるためのコーティングを施すことができる。このようなコーティング剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、Tween(登録商標)80などが挙げられる。
【0074】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、好ましくは、経口投与用の固体剤形、例えばカプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒剤、トローチ剤などの形態で製剤化され、フィルムコーティング錠が好ましい。化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、1種以上の薬学的に許容される担体(例えば、クエン酸ナトリウム若しくはリン酸二カルシウム、及び/又は以下のいずれか)と混合され得る。(1)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及び/又はケイ酸などの充填剤又は増量剤、(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/又はアカシアなど、(3)グリセロールなどの保湿剤、(4)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、(5)パラフィンなどの溶解遅延剤、(6)第四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、及びポロクサマー及びラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤、(7)湿潤剤、例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセリン、非イオン性界面活性剤(例えば、Tween80(登録商標)などのソルビタンの脂肪酸エステル、ソルビタンのポリアルコリン化脂肪酸エステル)など、(8)カオリン及びベントナイト粘土などの吸収剤、(9)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、及びそれらの混合物などの滑沢剤、(10)着色剤、(11)クロスポビドン又はエチルセルロースなどの放出制御剤。カプセル、錠剤及び丸剤の場合、製剤は緩衝剤を含むこともできる。ラクトース又は乳糖、及び高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用して、同様の種類の固体組成物を、軟殻ゼラチンカプセル及び硬殻ゼラチンカプセル中の充填剤として使用することもできる。
【0075】
錠剤は、任意に1種以上の副成分と共に、圧縮又は成形によって製造することができる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤を使用して製造することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械で成形することによって製造することができる。錠剤及び他の固体剤形は、必要に応じて、刻み目をつけたり、コーティング及びシェル(腸溶性コーティング及び医薬製剤分野で周知の他のコーティングなど)を用いて製造したりすることができる。コーティング配合物の一例としては、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、酸化チタン、及び着色剤を挙げることができる。それらはまた、例えば、所望の放出プロフィールを提供するために様々な割合のヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又はミクロスフェアを使用して、その中の活性成分の徐放又は制御放出を提供するように製剤化することもできる。それらは速放用に製剤化され、例えば凍結乾燥されてもよい。それらは、例えば細菌保持フィルタを通した濾過によって、又は使用直前に滅菌水若しくはいくつかの他の滅菌注射可能媒体に溶解できる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって滅菌することができる。これらの製剤はまた、必要に応じて不透明剤を含んでもよく、また、活性成分を胃腸管の、ある特定の部分においてのみ又は優先的に、場合によっては遅延的に放出する組成物であってもよい。使用できる包埋組成物の例としては、ポリマー物質及びワックスが挙げられる。活性成分は、適切であれば、上記の賦形剤の1種以上とともにマイクロカプセル化された形態であってもよい。
【0076】
化合物(1)又はその薬学的に許容される塩は、米国特許出願公開第2019/0350932号(その開示が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているものなどの1種以上の他の抗がん剤と組み合わせることができる。抗がん剤は特に限定されないが、その例としては、代謝拮抗剤(プリン代謝拮抗剤、葉酸拮抗剤、及びピリミジン代謝拮抗剤)、アルカロイド抗腫瘍剤、白金含有薬剤、分子標的薬(低分子分子標的薬、抗体分子標的薬、及び免疫チェックポイント阻害剤)、抗腫瘍性抗生物質、及びアルキル化剤が挙げられる。
【0077】
代謝拮抗剤の例としては、フルダラビン、クラドリビン、及びネララビンなどのプリン代謝拮抗剤;5-フルオロウラシル(5-FU)、テガフール/ギメラシル/オテラシルカリウム、テガフール/ウラシル、トリフルリジン/チピラシル塩酸塩、カペシタビン、ドキシフルリジン、5-フルオロ-2’-デオキシウリジン、ゲムシタビン、及びシタラビンなどのピリミジン代謝拮抗剤;並びにペメトレキセド及びメトトレキサートなどの葉酸拮抗薬が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
アルカロイド抗腫瘍剤の例としては、パクリタキセル(アルブミン結合パクリタキセル(例えば、ABI-007)及びPEG結合パクリタキセルなどの誘導体を含む)、ドセタキセル、カバジタキセル、エリブリン、イリノテカン、ノギテカン、エトポシド、ビノレルビン、ビンクリスチン、及びビンブラスチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
白金含有薬剤の例としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、及びネダプラチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
分子標的薬の例としては、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、スニチニブ、ダサチニブ、エベロリムス、テムシロリムス、セルメチニブ、トラメチニブ、ソラフェニブ、アファチニブ、レゴラフェニブ、ダブラフェニブ、ベムラフェニブ、トランス-3-アミノ-1-メチル-3-(4-(3-フェニル-5H-イミダゾ[1,2-c]ピリド[3,4-e][1,3]オキサジン-2-イル)フェニル)シクロブタノール及びその薬学的に許容される塩、8-[4-(1-アミノシクロブチル)フェニル]-9-フェニル-1,2,4-トリアゾロ[3,4-f][1,6]ナフチリジン-3(2H)-オン(MK2206)及びその薬学的に許容される塩、特にEGFR、MAPK、PI3K/AKT/mTOR、及びNFκBシグナル伝達経路を標的とするものなどの低分子量分子標的薬;トラスツズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、パニツムマブ、ベルツズマブ、リツキシマブ、及びラムシルマブなどの抗体分子標的薬;並びに、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、イピリムマブ、トレメリムマブ、及びアバタセプトなどの免疫チェックポイント阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
抗腫瘍抗生物質の例としては、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、アクチノマイシンD、及びマイトマイシンCが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
アルキル化剤の例としては、シクロホスファミド、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、及びメルファランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
本開示で使用される場合、「組合せ(combination)」、「組み合わされた(combined)」という用語、又はその変形は、2種以上の化合物/薬物の組合せの使用を含む治療法を定義することを意図している。この用語は、同じ全体的な投与スケジュールの一部として投与される化合物/薬物を指すことができる。2種以上の化合物/薬物のそれぞれの用量は異なっていてもよい。併用療法は、これらの化合物/薬物を逐次的に投与すること、すなわち、各化合物/薬物を異なる時間に投与すること、並びにこれらの化合物/薬物又は化合物/薬物のうちの少なくとも2種を実質的に同時に投与することを包含することを意図している。実質的同時投与は、例えば、各化合物/薬物の一定比率を有する単一剤形を対象に投与すること、又は化合物/薬物のそれぞれを複数の単一の剤形で対象に投与することによって達成することができる。各化合物/薬物の逐次的又は実質的に同時の投与は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、及び粘膜組織(例えば、頬)を介した直接吸収を含むがこれらに限定されない任意の適切な経路によって達成することができる。化合物/薬物は、同じ経路又は異なる経路によって投与することができる。例えば、選択された組合せの第1の化合物/薬物は静脈内注射によって投与されてもよく、一方、組合せの他の化合物/薬物は経口投与されてもよい。あるいは、例えば、すべての化合物/薬物は経口投与されてもよく、又はすべての化合物/薬物は静脈内注射によって投与されてもよい。
【0084】
併用療法はまた、上記の化合物/薬物を他の生物学的活性成分及び非薬物療法(例えば、手術又は放射線治療)と更に組み合わせて投与することを包含することができる。併用療法が非薬物治療を更に含む場合、非薬物治療は、化合物/薬物と非薬物治療との組合せの共同作用による有益な効果が達成される限り、任意の適切な時間に実施することができる。例えば、適切な場合には、非薬物治療が化合物/薬物の投与から一時的に、おそらく数日、又は更に数週間取り除かれても、有益な効果は依然として達成される。
【実施例
【0085】
治験設計。すべての標準治療が失敗した、又は標準治療が存在しないか忍容されない、FGFR2遺伝子融合又は他のFGFR2再構成が確認されたiCCA患者約100人に対して、化合物(1)の非盲検、非無作為化、第2相試験を実施した。
【0086】
選択基準。以下の組み入れ基準をすべて満たす患者に、化合物(1)による治療を施した:
1)書面によるインフォームドコンセントフォーム(informed consent form、ICF)を提供する。
2)18歳以上。
3)以下の基準を満たす組織学的又は細胞学的に確認された局所進行性転移性がんを患っている:
(i)以下のいずれかの結果に基づいて、FGFR2遺伝子融合又は他のFGFR2再構成を有する、組織学的又は細胞学的に確認された局所進行性、転移性、切除不能なiCCA:
a.Foundation Medicineによる検査:
i.治験の事前スクリーニングの一環として、又は
ii.Foundation Medicineによって以前に検査済み。
b.次世代シーケンシング(NGS)、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、又は腫瘍組織上若しくはctDNAからのFGFR2遺伝子融合又は他のFGFR2再構成を特定できる他のアッセイを使用した地域の臨床検査。
(ii)患者は、少なくとも1回のゲムシタビン及びプラチナベースの全身化学療法による治療を受けていた。ゲムシタビン-プラチナによる補助化学療法歴のある患者は、レジメンの最終投与から6か月以内に再発した場合に適格とされた。
(iii)患者は、直近の治療でX線による疾患進行の文書記録を持っていた。
4)患者は、進行性固形腫瘍に関するResponse Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)ガイドライン(バージョン1.1、2009年)で定義された測定可能疾患を患っていた。
5)サイクル1の1日目におけるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のパフォーマンスステータスが0又は1。
6)経口で薬を服用できる(例えば、栄養チューブなし)。
【0087】
除外基準。化合物(1)の初回投与前の指定された時間枠内に以下のいずれかで治療された患者は、治療から除外された。
1)過去4週間以内の大手術(化合物(1)による治療前に外科的切開は完全に治癒している必要がある)。
2)4週間以内の拡大照射野放射線療法、又は2週間以内の限定照射野放射線療法。
3)4週間以内に肝動脈化学塞栓術(transarterial chemoembolization、TACE)、選択的内部放射線療法(selective internal radiotherapy、SIRT)、又はアブレーションなどの局所領域療法を受けた患者。
4)非治験抗がん療法を3週間以内に受けたか、又は化合物(1)投与前にそのような療法の副作用から回復していない(過去5週間以内にマイトマイシンを受けた)。
-3週間以内又は半減期の5倍以内(いずれか短い方)の標的療法又は免疫療法
5)薬物の半減期の5倍以内又は4週間以内(いずれか短い方)に投与された治験薬。観察研究への同時参加が許可される場合がある。
6)以前にFGFR指向療法を受けた患者。
【0088】
治験薬投与。フチバチニブ(「化合物(1)」)-(S)-1-[(3)-[4-アミノ-3-[(3,5-ジメトキシフェニル)エチニル]-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]-1-ピロリジニル]-2-プロペン-1-オンを4mgのフィルムコーティング錠として供給した。化合物(1)のフィルムコーティング錠は、米国特許出願公開第2021/0030755号及び国際公開第2019/181876号(それらの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に従って、ラウリル硫酸ナトリウム、ラクトース一水和物、コーンスターチ、低粘度ヒドロキシプロピルセルロース、D-マンニトール、微結晶セルロース、クロスポビドン、及びステアリン酸マグネシウムを担体系として使用し、コーティングにヒプロメロース、ポリエチレングリコール、酸化チタン、及び着色剤を使用して製剤化された。化合物(1)の用量は20mg QDであった。患者は、化合物(1)の投与前少なくとも2時間及び投与後1時間は絶食する必要があったが、この期間中は水を飲むことが許可された。患者が服用を忘れた場合(すなわち、その日の予定時刻の12時間を超えて化合物(1)を服用しなかった場合)、患者は翌日服用するように指示された。
【0089】
治療レジメン。疾患の進行、許容できない有害事象(adverse event、AE)、同意の撤回、又は死亡のうちの少なくとも1つが満たされるまで、化合物(1)を21日間の治療サイクルで毎日、連続的に経口投与した。サイクル間に投与の中断はなかった。AEが観察された場合、最大2回の減量が許可された。1回目の減量では、用量を16mg QDに減らした。2回目の減量では、用量を16mg QDに減らした。
【0090】
腫瘍評価。固形腫瘍を有するすべての患者について、胸部、腹部、及び骨盤の腫瘍評価/画像検査(臨床的に必要である場合)を、以下に示す各時点で取得した。
-サイクル1の1日目前の28日以内のスクリーニング。署名されたICFの前に得られたコンピュータ断層撮影スキャンは、それらが化合物(1)の初回投与の28日以内に得られた場合、スクリーニングスキャンとして使用することができる。
-2サイクル(+2週間まで)ごとの終了時、サイクル4まで
-サイクル4後、少なくとも3サイクル(±7日)ごと、又は臨床的に必要である場合、進行が記録されるまで(放射線学的疾患進行以外の理由で患者が治療を中止した場合は治療終了後を含む)。
-治療終了時(+0~7日)、患者が放射線学的疾患進行以外の理由で治療を中止した場合、化合物(1)治療の中止の9週間以上前に以前のスキャンが実施されていた場合には、CTスキャンを実施した。
現場での腫瘍評価は、RECISTガイドライン(バージョン1.1、2009年)に従って、治験責任医師/地域の放射線科医が実施した。標的及び非標的病変に対する反応並びに新たな病変の出現を含むこれらの評価の結果は、化合物(1)による治療の継続又は中止の根拠となった。
【0091】
有効性評価。上記のように腫瘍評価を実施した。抗腫瘍効果の判定は、一次元評価の改訂されたRECISTガイドライン(バージョン1.1、2009年)に従って治験責任医師が実施した客観的腫瘍評価に基づいた。主要評価項目は客観的奏効率(Objective Response Rate、ORR)、副次的評価項目は奏効期間(Duration of response、DOR)、病勢コントロール率(Disease control rate、DCR)、無増悪生存期間(Progression-free survival、PFS)、患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome、PRO)、及び全生存期間(Overall Survival、OS)(Core Imaging Laboratoryによる独立画像判定に基づく奏効評価)であった。更に、治験責任医師又は地域の放射線科医による評価に基づいて、いくつかの主要な有効性エンドポイント(特にORRとPFS)の感度分析を実施した。
【0092】
客観的奏効率(ORR)。客観的奏効率(ORR)は、完全奏効(complete response、CR)又は部分奏効(partial response、PR)の客観的証拠を持つ患者の割合として定義される。CRは、すべての標的病変の消失として定義される(すべての病理学的リンパ節は短軸が10mm未満に縮小していなければならない)。PRは、ベースラインの合計直径を基準として、標的病変の直径の合計が少なくとも30%減少することとして定義される。CR又はPRと判定された患者の合計数は、「レスポンダー」と呼ばれる。したがって、パーセンテージとして表す場合、ORRは、群内の患者(例えば、同じゲノム変化を有する)の総数に対するレスポンダーの数(n)である。ORRの評価は、次のような治験責任医師による評価及び/又は画像の独立中央判定に基づいた。
-中央独立CT/MRI画像評価(一次分析)及び局所CT/MRI画像評価(感度分析)。
分析段階では、治験治療開始後に記録され、少なくとも4週間後に確認された最良の奏効として最良の客観的奏効を、各患者に割り当てた。該当する場合、疾患進行後又は新しい抗がん治療の開始後に記録された奏効を除外した。ORRについて、Clopper-Pearson法に基づいた正確な両側CIを導出した。
【0093】
無増悪生存期間(PFS)。無増悪生存期間(PFS)は、初回投与日から、客観的に最初に記録された疾患の進行又は死亡(原因は問わず)のいずれか早い方の日までの期間として定義される。疾患の進行が報告されずに死亡した患者は、死亡日に進行したとみなされた。進行も死亡もしなかった患者は、最後の腫瘍評価日に打ち切りとした。治験中の評価を受けず、かつ死亡しなかった患者は、初回投与日に打ち切りとした。以前に進行の報告がないままその後の抗がん療法を開始した患者は、その後の抗がん療法の開始前の最後の腫瘍評価時に打ち切りとした。無増悪生存期間はまた、イベント発生までの期間(time-to-event)のエンドポイントとして解析され、3、6、9及び12か月時点のPFS率のカプラン-マイヤー推定値及び関連する95%CI(Kalbfleisch-Prenticeの対数-対数変換法)と共に、中央値(カプラン-マイヤー推定値)及び関連する95%CI(Brookmeyer-Crowley法)が報告された。
【0094】
同時発生する遺伝子変化による部分解析。FGFR2再構成/融合を有し、少なくとも1つの癌ドライバー遺伝子に遺伝子変化も同時発生する患者に対して部分解析を実施した。FGFR2遺伝子変化の特定に使用されたのと同じ方法を使用して、癌ドライバー遺伝子の変化を組織学的又は細胞学的に確認した。
【0095】
結果。様々な癌ドライバー遺伝子において同時発生するゲノム変化に従って、上記に従って化合物(1)で治療されたFGFR2融合/再構成を有するゲノム変化データを持つ被験者を部分解析した。ORR及びPFS中央値に関する結果を表1に示す。
【0096】
【表1-1】
【0097】
【表1-2】
【0098】
【表1-3】
【0099】
ペミガチニブとの比較結果。表2は、FGFR2及び様々なドライバー遺伝子にゲノム変化が同時発生する患者をペミガチニブで治療した以前に報告された結果(ORR及びPFS中央値)を示す。全体的に見て、BAP1、CDKN2A/B、PBRM1、TP53、ARID1A、及びPTENなどの腫瘍抑制遺伝子に遺伝子変化が同時発生する患者は、腫瘍抑制遺伝子が変化していない患者(11.7か月)よりもPFS中央値が有意に短かった(6.8か月)。提示された個々の腫瘍抑制遺伝子のデータから、CDKN2A/B、PBRM1及びTP53に変化がある患者は、これらの遺伝子に変化がない患者よりも、ペミガチニブによるPFS中央値が有意に短かった。特に、TP53変化が同時発生する被験者では、ORRが0%、PFS中央値が2.8か月と大幅に低下したのに対し、TP53が変化していない場合はORRが38.8%、PFS中央値が9.0か月であった。それほど有意ではないが、BAP1への変化も、変化した状態でPFS中央値が短くなる傾向があった(変化なしの場合の9.1か月に対して6.9か月)。この傾向はがん遺伝子PIK3CA及びIDH1にも見られ、これらの遺伝子が変化していない場合と比較して、変化した状態ではPFS中央値が短いことが示された。
【0100】
【表2】
【0101】
化合物(1)の分析。ペミガチニブによる所見とは対照的に、FGFR2、並びに腫瘍抑制遺伝子TP53、BAP1、及びARID1Aに遺伝子変化が同時発生する被験者を化合物(1)で治療すると、驚くべきことに、腫瘍抑制遺伝子に変化がない被験者と同様又は類似して治療に反応することが判明した。TP53変化を有する被験者から得られた結果は特に顕著であり、ORRとPFS中央値はそれぞれ38.5%と7か月で、TP53が変化していない被験者の43.8%と9か月にほぼ匹敵する一方、ペミガチニブはこの患者集団の治療には効果がないようであった。驚くべきことに、MLL2などの他の腫瘍抑制遺伝子に変化がある被験者も、化合物(1)による治療に対するレスポンダーとして同定された。また、がん遺伝子PIK3C2B、IKBKE、MCL1、MDM4、及びMYCに遺伝子変化が同時発生する被験者が、化合物(1)による治療に対して陽性レスポンダーであり、ORR及びPFS中央値が、これらのがん遺伝子に変化がない被験者よりも実際に高かったという知見は、予想外であった。
【0102】
明らかに、上記の教示に照らして、本発明の多くの修正及び変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載された以外の方法でも実施できることを理解されたい。
【国際調査報告】