(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】直接水酸化リチウム製造のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/16 20060101AFI20240222BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20240222BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20240222BHJP
C02F 1/469 20230101ALI20240222BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240222BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240222BHJP
C01D 15/02 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C25B1/16
B01D61/44 500
B01D61/46
B01D61/46 500
C02F1/469
C25B9/19
C25B15/08 302
C01D15/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573013
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 US2022015850
(87)【国際公開番号】W WO2022173852
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523301743
【氏名又は名称】エナジー エクスプロレイション テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】パトワルダン アミット
(72)【発明者】
【氏名】イーガン ティーグ
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
4K021
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006HA44
4D006JA41Z
4D006JA42Z
4D006JA43Z
4D006JA44Z
4D006KE12R
4D006MA03
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4D061EB19
4D061EB39
4D061GC12
4K021AB01
4K021BC01
4K021DB31
(57)【要約】
本開示は、カチオン選択膜、一価選択膜、または好ましくはリチウム選択膜を利用することによる水酸化リチウムの直接製造のためのシステムおよび方法を提供する。リチウム選択膜は、多価および他の一価イオンよりも高いリチウム選択性を有し、したがって電気透析(ED)中のマグネシウム沈殿を防止し、ほとんどの天然の塩水または鉱物ベースのリチウム製造プロセスにおけるナトリウムの存在にも対処する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liと1つまたは複数の不純物とを含有する混合物からLiOH溶液を製造するための方法であって、
(A)イオン選択膜を含むEDセルに前記混合物を供給する工程;および
(B)別個のLiOH溶液を得るために、前記イオン選択膜に電位差を印加する工程
を含み、
前記別個のLiOH溶液が、LiOH、約25ppm未満のMg、および約50ppm未満のCaを含有する、
方法。
【請求項2】
前記LiOH溶液が約5ppm~約25ppmのMgを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記LiOH溶液が約5ppm~約50ppmのCaを含む、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記別個のLiOH溶液が、約2%~約14%のLiOHおよび水を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記イオン選択膜がバイポーラ膜電気透析セル内に含まれる、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記混合物が約1,000ppm~約60,000ppmの量のリチウムを含有する、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記混合物が、一価および二価のカチオンならびに二価のアニオンからなる群より選択される不純物イオンを含有する、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記混合物が、Kイオン、Naイオン、Mgイオン、およびCaイオンからなる群より選択される不純物イオンを含有する、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記不純物イオンがKである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記不純物イオンがNaである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記不純物イオンがMgである、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記不純物イオンがCaである、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記混合物が、約2を超えるLi/Mgイオンの比を含む、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記混合物が、約3を超えるLi/Caイオンの比を含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記混合物が、約1.5を超えるLi/Naイオンの比を含む、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記混合物が、約1.5を超えるLi/Kイオンの比を含む、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記混合物が、池蒸発と、直接リチウム抽出と、水、塩基または酸を使用したリチウム鉱物の浸出とからなる群より選択されるプロセスからの濃縮リチウム塩水である、請求項1~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記混合物が池蒸発塩水である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記混合物が岩石浸出液を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記混合物がDLE製造塩水である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
前記混合物が不純物を除去するために処理されている、請求項17~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記混合物が未処理である、請求項17~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記イオン選択膜が、リチウム選択膜、一価選択膜、およびアニオンに対するカチオン選択膜からなる群より選択される、請求項1~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記イオン選択膜がリチウム選択膜である、請求項1~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記イオン選択膜が、少なくとも10のLi/Mg、Caの範囲内の選択性を有するリチウム選択膜である、請求項1~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記イオン選択膜が、少なくとも3のLi/Na Kの範囲内の選択性を有するリチウム選択膜である、請求項1~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
前記イオン選択膜が、ポリマーマトリックスを含むリチウム選択膜である、請求項1~26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
前記イオン選択膜が、ポリマーマトリックスおよびその中に分散されているMOF粒子を含むリチウム選択膜である、請求項1~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
前記イオン選択膜がアニオンに対するカチオン選択膜であり、かつ前記混合物を前記EDセルに供給する前に、ライミングまたは軟化が行われる、請求項1~28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記プロセスが、LiOHへの炭酸リチウム前駆体を実質的に含まない、請求項1~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
供給物の少なくとも一部が次いで電気透析を通って進行してLiOHを直接製造するように、前記混合物を前記EDセルに供給する前に、前記混合物の一部をリチウム沈殿物として沈殿させる工程をさらに含む、請求項1~30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
前記リチウム沈殿物が、炭酸リチウム、リン酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群より選択される材料を含む、請求項31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
水酸化リチウム一水和物を製造するために、水酸化リチウム溶液を結晶化に供する工程をさらに含む、請求項1~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
前記水酸化リチウム溶液が、約2%~約14%の範囲内の水酸化リチウムを含む、請求項1~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
前記水酸化リチウム一水和物が、95重量%超~99.9重量%の範囲内の純度を有する、請求項1~34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
前記水酸化リチウム一水和物が、95重量%~99.9重量%の範囲内の純度を有する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記混合物を前記膜に供給する前にホウ素溶媒抽出またはイオン交換を行う工程をさらに含む、請求項1~36記載の方法。
【請求項38】
前記混合物が一連の塩水池からの蒸発濃縮物であり、前記方法が、前記EDセルへのより低いMg含有量供給物を製造するために、Mgの膜分離および前記分離されたMgを沈殿のために以前の池に再循環することをさらに含む、請求項1~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
前記混合物を前記EDセルに供給する前に、多価イオンを除去するために前記混合物がライミングおよび軟化に供される、請求項1~38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
前記LiOH溶液をイオン交換に供する工程をさらに含む、請求項1~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
Liと1つまたは複数の不純物とを含有する混合物からLiOHを製造するように構成されているシステムであって、
(A)リチウム選択膜、一価選択膜、またはアニオンに対するカチオン選択膜からなる群より選択される、イオン選択膜;
(B)前記膜の上流にあり、かつ池蒸発と、直接リチウム抽出と、水または酸を使用したリチウム鉱物の浸出とからなる群より選択されるプロセスからの濃縮リチウム塩水を含む混合物を受け取るように構成されている、供給入口;ならびに
(C)約2重量%~約14重量%のLiOH、25ppm未満のMg、および50ppm未満のCaを含有するLiOH溶液を運ぶように構成されている、前記膜の下流の出口
を含む、システム。
【請求項42】
前記LiOH溶液が約5ppm~約25ppmのMgを含む、請求項41記載のシステム。
【請求項43】
前記LiOH溶液が約5ppm~約50ppmのCaを含む、請求項41または請求項42記載のシステム。
【請求項44】
前記膜がリチウム選択膜である、請求項41~43のいずれか一項記載のシステム。
【請求項45】
前記膜が、ポリマーマトリックスを含むリチウム選択膜である、請求項41~44のいずれか一項記載のシステム。
【請求項46】
前記膜が、ポリマーマトリックスおよびその中に分散されているMOL粒子を含むリチウム選択膜である、請求項45記載のシステム。
【請求項47】
前記イオン選択膜が、少なくとも10のLi/Mg、Caの範囲内の選択性を有するリチウム選択膜である、請求項41~45のいずれか一項記載のシステム。
【請求項48】
前記イオン選択膜が、少なくとも3のLi/Na、Kの範囲内の選択性を有するリチウム選択膜である、請求項41~47のいずれか一項記載のシステム。
【請求項49】
前記膜がリチウム選択膜である、請求項41~48のいずれか一項記載のシステム。
【請求項50】
前記膜がEDセルの一部である、請求項41~49のいずれか一項記載のシステム。
【請求項51】
前記膜がBPMEDセルの一部である、請求項41~50のいずれか一項記載のシステム。
【請求項52】
前記膜の上流にあり、かつ前記混合物の少なくとも一部が次いで電気透析を通って進行してLiOHを直接製造するように、リチウム沈殿物としての前記混合物の一部を運ぶように構成されている、出口をさらに含む、請求項41~51のいずれか一項記載のシステム。
【請求項53】
前記リチウム沈殿物が、炭酸リチウム、リン酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群より選択される材料を含む、請求項52記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年2月9日に出願された米国仮出願第63/147,656号の優先権の恩典を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
本開示は、塩水および鉱物資源から炭酸リチウム前駆体を製造する必要なく、高純度リチウム製品、特に水酸化リチウム一水和物を直接製造するための単純化された低コストのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
世界の最大のリチウム資源および製造地域は、南米のリチウム含有塩水である。リチウム需要の圧力は、これまで経済的でなかった硬岩リチウム資源もすでに現在では実行可能なものとし、新たな供給のかなりの割合はこれらの供給源から来ており、これらの供給源は、主にオーストラリアに位置する。また、リチウム前駆体、すなわち炭酸リチウムおよび水酸化リチウムの需要予測にも変化があり、将来の予測は水酸化リチウムに有利である。
【0004】
上記の資源のいずれかからリチウムを製造するには、現在、炭酸リチウム前駆体を製造し、続いて、水酸化リチウムに変換しなければならない。これは、最終的な目標が水酸化リチウムである場合、大きな潜在的に不必要なコストを提示する。しかしながら、水酸化リチウムへの直接的な商業的に実行可能な経路が現在利用可能ではないため、これは必要である。炭酸リチウム製造をバイパスすることの潜在的な利点のいくつかが、(Grageda et al.,2020)によって記載されており、予備研磨または不純物イオンの除去前の現実的な塩水と比較して、Li/Na、K比およびLi/Mg、Ca比が非常に低い非常に清浄な塩水を使用するこの手法の実現可能性を実証している。このような清浄化塩水の使用にもかかわらず、Gragedaらは、一価の不純物カチオンによるそれらの水酸化リチウム製品の著しい汚染を報告している。
【0005】
天然由来のリチウム塩水濃縮物、例えば池蒸発塩水は、Na、K、Mg、およびCaなどの非リチウムカチオンを大部分含有する。特に、Naイオンは、リチウム抽出プロセス中に広がり、リチウム含有塩水は、大量のKClと共に実質的に常にNaClで飽和している。ジャダライトなどのいくつかの硬岩源では、Naはリチウム鉱物自体の一部である。スポジュメンの苛性浸出も、大過剰のNaを導入する。より一般的なスポジュメンの酸焙焼でさえ、浸出中のNa含有量は、典型的にはリチウム含有量の25%超である。上記の資源材料が加工されるとき、Na2CO3が添加されてCaが除去され、次いで最終的に炭酸リチウムが沈殿し、これもまたプロセスにNaをさらに添加する。
【0006】
精製された塩化リチウム塩水または硫酸リチウム塩水を膜電気透析に供して、比較的清浄な水酸化リチウム溶液および酸性溶液を製造することができるが、膜前精製工程は費用がかかる可能性がある。塩水からリチウムを分離するための膜電気透析は、Gmar&Chagnes,2019に概説されている。従来のカチオン選択的電気透析(ED)膜は、LiとNa、K、CaまたはMgとの間で選択的ではない。したがって、非リチウム不純物カチオンの存在下では、膜は不純物カチオンをリチウムと共に通過させて混合水酸化物を生成し、リチウム製造のための電流利用効率を低減する(Zhao et al.,2020)。結果として、高ナトリウムリチウム塩水におけるEDは、LiOH製品のNa汚染をもたらすだけでなく、Li+イオンと共に望ましくないNa+イオンを輸送するために過剰な電気を消費する。さらにより重要なことに、二価の水酸化物は非常に不溶性であり、EDセル内に沈殿し、この操作を不可能にする。
【0007】
Nemaska Lithium Inc.は、カナダのWhabouchi堆積物からのスポジュメンから直接LiOHを製造するプロセスを研究し、試験した。これを達成するために、膜電気透析の前に、一次および二次不純物除去工程、それに続くイオン交換を含む浸出液の非常に深い清浄化が利用されている(Bourassa et al.,2020)。電気透析膜への供給物は、5.8mg/LのCaおよび0.2mg/LのMgを含有し、Li/Na比は4であった。カソード液(LiOH流)は同様のLi/Na比を含み、2つの間の選択性がほとんどないことを示した。報告された最も高いカソード液CaおよびMgは、ほぼ2Mの[OH-]バックグラウンドにおいて、それぞれ4mg/Lおよび0.55mg/Lであった。6%LiOH溶液中のカソード液では、平均してCaレベルは3.8mg/Lであり、Mgは検出限界の0.07mg/L未満であった。
【0008】
Buckleyら(2020)はまた、従来のED膜を使用した水酸化リチウムの電気透析のために、150ppb以下のMg+Ca(好ましくはそれぞれ50ppb未満)の非常に厳格な要件を含む供給塩水を規定している。従来のED膜は、一価-二価選択的ではない。より最新の選択膜でさえ、Li-Mg選択性は8~33の範囲のみであることが多い(Gmar&Chagnes,2019)。
【0009】
Qiu et al.,2019は、一価選択膜を用いた二段階の電気透析、LiからMgを分離するための沈殿およびイオン交換、次いでLiOHを製造するためのバイポーラ電気透析を利用する、ナトリウム/カリウムを含まない供給塩水での五段階分離プロセスを実証している。いくつかの研究は、リチウムを含有する清浄な溶液からLiOHを製造するためにバイポーラ膜電気透析(BPMED)を使用する能力を報告している(Bunani,Arda,et al.,2017;Bunani,Yoshizuka,et al.,2017;Jiang et al.,2014)。アニオンおよびカチオンが電位下で半透膜を横切って選択的に輸送されてイオンを駆動し水などの担体からそれらの分離を達成する膜電気透析と、バイポーラ膜電気透析は同様である。バイポーラ膜は、典型的には、それらの接合部で親水性界面と共に挟まれたカチオン性交換膜およびアニオン性交換膜を含む。印加電流下では、親水性接合部に移動する水分子はH+イオンおよびOH-イオンに分割され、これらは移動して他のアニオンおよびカチオンと共に酸および塩基を製造する。Bunani,Arda,et al.,2017は、バイポーラ電気透析膜を使用して、LiOHおよびホウ酸としてのLiおよびBの分離をそれぞれ99.6%および88.3%で達成した。他では、Bunani,Yoshizuka,et al.,2017はまた、およそ10xのLi濃度因子を達成しながら高い回収率を示した。しかしながら、溶液中のNa+のような他のカチオンの存在下では、約2の低いLi-Na選択性が達成されたのみである。これは、重要な事前精製工程を経ていない天然資源に特に基づいて、直接的なLiOH製造の経路を追求するための重要な課題を提示する。
【0010】
既存の文献に基づいて、EDを試みる前に、二価/多価イオンの広範な還元が必要であり、従来、石灰添加、それに続く軟化によって試みられている。しかしながら、これは依然として、ライミングpHならびに溶液中のCaの量に応じて、かなりの量のMgを残す。また、NaおよびKなどの一価の不純物が溶液中に残留し、実際にはCa除去のためのNaの添加によりNa含有量は増加する。この手法は、沈殿およびスケーリングの問題が潜在的に低減されるにもかかわらず、依然として同じ欠点に直面している。製品は、依然としてLiOHとNaOHとの混合物であり、複数の分別結晶およびイオン交換を使用したより広範な処理を必要とする。電気透析の前にイオン交換を使用して二価/多価カチオンが超低レベルに除去されていたとしても、高いNaレベルは低い電流効率をもたらし、混合水酸化物製品を製造する。Meng et al.,2021は、炭酸リチウムおよび水酸化リチウムを製造するためのそのような手法を概説している。
【0011】
上記のおよび関連する課題のために、LiOH製造への商業的に実施される唯一の経路は、以下の
図1aに示すように、多数の工程を含み、中間製品である炭酸リチウムを製造する。約2%~6%のLi含有量の蒸発池からの濃縮塩水は、Naに加えてかなりの量のB、Mg、およびCaを含有する。ホウ素は、従来、水不溶性アルコール溶媒を使用した溶媒抽出によって塩水から除去される。続いて、石灰ソーダ軟化プロセスを使用した沈殿によって、MgおよびCaが除去される。塩水は、10を超えるpHで石灰Ca(OH
2)で処理され、マグネシウム、鉄、シリカ、および他の重金属不純物が沈殿する。沈殿物は大量であり、塩水を固体から分離するために広範な固体/液体分離を必要とする。固体への付着液中のリチウム損失を最小限に抑えるために、向流洗浄および濾過の複数の段階が必要である。次いで、塩水は、Caで飽和され、Caは、制御された量のソーダ灰(Na
2CO
3)の添加によってCaCO
3として沈殿し、炭酸リチウムの共沈殿を防止する。塩水は比較的清浄であり、本質的にLiカチオンおよびNaカチオンを含有し、10ppm未満のMgおよび30ppm未満のCaを含む。LiからのNaの分離は、Liを水性に残す方法で行うことは困難である。したがって、Liを炭酸リチウムとして沈殿させて、それを水性のままであるナトリウムから分離する。炭酸リチウム製品は粗製であり、精製しなければならない。このために、炭酸リチウムをCO
2下で溶解させてその溶解度を高める。溶解した溶液を濾過して少量の不溶物を除去し、続いてイオン交換してNaのような少量の溶解した不純物を除去する。次いで、清浄な塩水からのCO
2を清浄な蒸気でストリッピングして、電池グレードの炭酸リチウムを再沈殿させる。LiOHを製造するために、電池グレードの炭酸リチウムを再び溶解し、石灰で苛性化し、次いで沈殿物から分離し、得られたLiOH溶液を蒸発結晶化させる。石灰と共に一部の不純物が再添加されるために、水酸化リチウム製品は、再溶解し、イオン交換および再結晶をさらに使用して研磨する必要があり得る。いくつかの例では、粗炭酸リチウムをLiOHプロセスに直接進める。しかしながら、これらの状況では、より高い不純物負荷に起因して、LiOHの追加のイオン交換および複数回の再結晶が必要とされる。これらの工程を
図1aに示す。
【0012】
リチウム塩水濃縮のための別の新たな手法は、代わりに機械的分離および太陽蒸発で熱蒸発を利用し、直接リチウム抽出(DLE)と呼ばれる。
図2は、イオン交換、イオン収着または溶媒抽出を使用した、Na、K、Mg、およびCaなどの主要な不純物からのLiの大まかな分離が関与する、一般的な工程を示す。これに続いて、ナノ濾過を使用して多価イオンをさらに除去する。次いで、逆浸透を使用して、逆浸透を推進するのに必要な圧力が実行不能になる点まで水を分離することによって、塩水(残留不純物を含むLi)を濃縮する。次いで、熱蒸発を使用した追加のLiおよび不純物の濃縮が続く。次いで、濃縮塩水は、
図1aに示すのと同じ工程に続いて、加工プラントに流入する。
【0013】
必要とされているのは、EDまたは分離膜への供給塩水の予備精製を必要とせずに、特に中間製品である炭酸リチウムの製造を必要とせずに、Li、特に塩水などの天然源を含有する混合物からLiOHを製造するためのより効率的なプロセスである。
【発明の概要】
【0014】
概要
LiTAS(商標)などの適切な膜を使用することにより、現在使用されている加工工程の一部または大部分を排除することができ、その結果、直接リチウム抽出プロセス、塩水蒸発池、または岩石浸出液などの他の手段による濃縮供給物などのリチウム含有資源から、はるかに効率的に水酸化リチウムを製造することができる。
【0015】
本開示は、イオン選択膜を含む電気透析セルまたはBPMEDセルに混合物を供給し、別個のLiOH溶液を得るために電位差下でイオン選択膜を機能させることによって、Liと1つまたは複数の不純物とを含有する混合物から直接、実質的に清浄なLiOH溶液を製造するための方法を提供し、別個のLiOH溶液は、約2重量%~約14重量%のLiOH、約0ppm~3ppmの範囲内のMg、および約0ppm~約5ppmの範囲内のCaを含有する。分離されたLiOH溶液内の他のLiOH濃度も可能である。好ましい態様では、イオン選択膜はBPMEDセルと共に含まれる。
【0016】
1つのケースでは、混合物は、リチウムを約1,500ppm~約60,000ppmの量で含有する。別のケースでは、混合物は、一価および二価のカチオンならびに二価のアニオンからなる群より選択される不純物イオンを含有する。不純物イオンは、Mgイオン、Caイオン、Naイオン、およびKイオンからなる群より選択され得る。一局面では、混合物は、約3~約20の範囲内のLi/Mgイオンの比を含む。別の局面では、混合物は、約5~約10の範囲内のLi/Caイオンの比を含む。さらに別の局面では、混合物は、約1.5~約70の範囲内のLi/NaイオンおよびLi/Kイオンの比を含む。好ましくは、混合物は、池蒸発と、直接リチウム抽出と、水または酸を使用したリチウム鉱物の浸出とからなる群より選択されるプロセスからの濃縮リチウム塩水である。混合物は、スポジュメン、ジャダライト、ヘクトライト粘土、チンワルド雲母、または他のリチウム含有鉱物などからの岩石浸出液を含み得る。
【0017】
一局面では、イオン選択膜は、リチウム選択膜、一価カチオン選択膜、またはアニオンに対するカチオン選択膜からなる群より選択される。好ましい態様では、イオン選択膜は、10~100の範囲内の選択性を有するリチウム選択膜である。特に好ましい態様では、イオン選択膜は、ポリマーマトリックスおよびその中に分散されている金属有機構造体(MOF)粒子を含むリチウム選択膜である。別の態様では、カチオン選択膜はアニオンに対するカチオン選択膜であり、膜を含むEDセルに混合物を供給する前に、ライミングが行われる。
【0018】
好ましい態様では、このプロセスは、LiOHの前駆体としての炭酸リチウムの形成の必要性をバイパスするか、または少なくとも大幅に軽減する。別の局面では、このプロセスは、LiOHの前駆体としての炭酸リチウム形成を実質的に含まない。別の態様では、炭酸リチウム、リン酸塩、シュウ酸塩または他の沈殿物としての部分的なリチウム分離を供給塩水から製造してもよく、次いで、残りのリチウム含有供給物は電気透析を通って進行し、LiOHを直接製造する。好ましくは、次いで、得られた水酸化リチウム溶液を結晶化させて、約95重量%~約99.9重量%の範囲内の純度を有する水酸化リチウム一水和物を製造する。別の局面では、水酸化リチウム溶液は、5重量%~14重量%の範囲内の水酸化リチウムを含む。
【0019】
別の態様では、混合物をEDセルまたはED膜に供給する前に、ホウ素溶媒抽出が行われる。さらに別の態様では、混合物は、一連の塩水池からの蒸発濃縮物であり、この方法は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、Systems and Methods for Recovering Lithium from Brinesと題する同時係属中の米国特許出願第17/602,808号に実質的に開示されているように、より低いMg含有量のLi濃縮供給塩水を製造するために、Mgの膜分離および分離されたMgを以前の池に再循環して沈殿させることをさらに含む。
【0020】
本開示はまた、炭酸リチウム前駆体を実質的に製造することなくLiOHを直接製造するように構成されているシステムを提供する。このシステムは、リチウム選択膜、一価選択膜、またはアニオンに対するカチオン選択膜からなる群より選択されるイオン選択膜を含むEDセルまたはBPMEDセル;膜の上流にあり、かつ池蒸発と、直接リチウム抽出と、水または酸を使用したリチウム鉱物の浸出とからなる群より選択されるプロセスからの濃縮リチウム塩水を含む混合物を受け取るように構成されている、供給入口;ならびに、約2重量%~約14重量%のLiOH、25ppm未満のMg、および50ppm未満のCaを含有するLiOH溶液を運ぶように構成されている、膜の下流の出口を含む。いくつかの態様では、LiOH溶液は、20ppm未満、15ppm未満、10ppm未満、および5ppm未満のMgを含有する。LiOH溶液は、約1ppm~約50ppmのMg、約2.5ppm~約75ppmのMg、約5ppm~約50ppmのMg、または約5ppm~約25ppmのMgを含み得る。いくつかの態様では、LiOH溶液は、50ppm未満、45ppm未満、40ppm未満、35ppm未満、30ppm未満、25ppm未満、20ppm未満、15ppm未満、10ppm未満、および5ppm未満のCaを含有する。LiOH溶液は、約1ppm~約50ppmのCa、約2.5ppm~約75ppmのCa、約5ppm~約50ppmのCa、または約5ppm~約25ppmのCaを含み得る。
【0021】
好ましい態様では、本システムは、リチウム選択膜である膜を含む。一局面では、膜は、ポリマーマトリックスおよびその中に分散されているMOF粒子を含むリチウム選択膜である。別の局面では、リチウム選択膜は、少なくとも10のLi/Mg、Caの範囲内および少なくとも3のLi/Na、Kの範囲内の選択性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1a】
図1は、(a)LiOH製造のための従来のプロセス、(b)LiOH製造のための単純化された低コストのリチウム選択的ED膜ベースの製造プロセス、および(c)任意で供給塩水ライミングおよび軟化後の(b)の膜ベースプロセスの適用を示す。
【
図2】
図2は、太陽蒸発池を使用する代わりに、機械的にリチウムを濃縮し、不純物からリチウムを分離する一般的な工程を示す、典型的な直接リチウム抽出(DLE)プロセスブロックフロー図を示す。
【
図3】
図3は、清浄なLiOH溶液を直接製造するための高度にLi選択的な膜、例えばLiTAS(商標)膜を用いた、望ましくない一価および二価のカチオンならびに二価のアニオンを含有する供給塩水のバイポーラ膜電気透析を示す。
【
図4a】
図4は、(a)従来のカチオン選択的電気透析膜と、(b)リチウム選択膜と、(c)MgおよびCaのような多価不純物を除去するための供給塩水の石灰ソーダ軟化後の、アニオンに対するカチオン選択膜とを使用したバイポーラ膜電気透析を使用した、典型的な低硫酸塩チリ蒸発池濃縮リチウム供給塩水のバイポーラ膜電気透析を示す。
【
図5a】
図5は、(a)従来のカチオン選択的電気透析膜と、(b)リチウム選択膜と、(c)供給塩水の石灰ソーダ軟化後の、アニオンに対するカチオン選択膜とを使用した、典型的なアルゼンチン蒸発池濃縮リチウム供給塩水のバイポーラ膜電気透析を示す。
【
図6a】
図6は、(a)従来のカチオン選択的電気透析膜と、(b)リチウム選択膜と、(c)石灰ソーダ軟化後の、アニオンに対するカチオン選択膜とを使用した、スポジュメン硫酸焙焼浸出のバイポーラ膜電気透析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
好ましい態様の詳細な説明
適切な選択膜を使用することにより、現在使用されている加工工程の一部または大部分を排除することができ、その結果、蒸発塩水および岩石浸出液などのリチウム含有資源から水酸化リチウムをはるかに効率的に製造することができる。例えばリチウム選択性に関する「選択性」は、ここでは、回収された他のイオン/他のイオン供給濃度の比に対する回収されたLiイオン/供給Li濃度の比として定義される。
【0024】
図1bに示すように、塩水または鉱物浸出溶液(例えば、塩化リチウム液または硫酸リチウム液)は、リチウム選択性カチオン膜を使用して電気透析に直接供することができる。リチウム選択性カチオン膜は、大部分がリチウムイオンのみの移動を可能にし、蒸発結晶化の準備ができている高濃度水酸化リチウム溶液を製造する。したがって、例えば、高度にLi/Na選択的なED膜の適用は、より濃縮されておらず不純な塩水からの直接LiOH製造への経路を提供することができ、中間のLi
2CO
3加工要件ならびに関連する資本コストおよび運転コストを排除することができる。
【0025】
図1cに示すように、供給塩水のMg、Ca負荷が高い場合、石灰ソーダ軟化工程が、LiOHを直接電気透析する前に、中間のLi
2CO
3加工要件を再びバイパスして、任意で行われてもよい。このプロセスでは、資本コストおよび運転コストの大幅な節約が依然として維持される。
【0026】
LiOH製造に関する本明細書における「直接の」または「直接に」とは、LiOHへの中間炭酸リチウム前駆体の製造を実質的にバイパスすることができ、ほとんどの場合、天然塩水、Li含有岩石浸出液、またはDLEプロセスからの供給物の予備研磨もバイパスすることができるシステムおよびプロセスを意味する。有利には、本明細書で教示される方法およびシステムが、加工工程の数を実質的に低減して、天然の不純物および/または他の不純物を含むLi含有供給原料から高濃縮LiOHを生成することが見出された。得られたLiOH溶液は、例えば蒸発によって容易に結晶化して、実質的に純粋な(例えば、95%~99.9%純粋な)水酸化リチウム一水和物を生成し得る。いくつかの態様では、本方法または本システムは、約90重量%超、92.5重量%超、95重量%超、96重量%超、97重量%超、98重量%超、99重量%超、99.5重量%超、99.9重量%超またはそれ以上純粋なLiOHなどの最終リチウム製品を製造する。いくつかの態様では、本方法または本システムは、約90重量%~約99.999重量%純粋な、約92.5重量%~約99.99重量%純粋な、約95重量%~約99.9重量%純粋な、または約96重量%~約99重量%純粋な最終リチウム製品を製造する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「カチオン選択的電気透析膜」または「カチオン交換膜」または「アニオンに対するカチオン選択膜」という用語は、カチオンとアニオンとの間で選択的であるが、LiとNa、K、CaまたはMgとの間などのカチオン間では選択的ではない膜を意味する。したがって、非リチウム不純物カチオンの存在下では、そのような膜は不純物カチオンをリチウムと共に通過させて混合水酸化物を生成する。「一価選択膜」または「一価選択的カチオン交換膜」は、一価イオンと二価イオンとの間で選択的であり、したがってNa、KおよびLiなどの一価イオンを許容し、CaまたはMgのような二価/多価カチオンを遅延させる膜を意味する。「一価選択膜」はまた、Cl-またはF-のような本質的に一価アニオンのみの通過を可能にし、SO4
2-のような二価アニオンを遅延させる、一価選択的アニオン交換膜であり得る。「従来の電気透析膜」は、カチオンとアニオンとを区別し、一価イオンと二価イオンとの間で本質的に非選択的である膜を意味する。
【0028】
「電気透析」は、印加された電位差の下で供給流から異なるイオン流にイオンを分離するために1つまたは複数のイオン交換膜を使用することを意味する。任意の適切な電位差、例えば、400A/m2~約3000A/m2の範囲内の電流を使用することができるが、これに限定されない。
【0029】
「バイポーラ膜電気透析」またはBPMEDは、電気透析プロセスまたは電気透析システムを意味し、アニオンおよびカチオンが、イオンを駆動し、水などの担体からのそれらの分離を達成する電位下で半透膜を横切って選択的に輸送される。バイポーラ膜は、典型的には、それらの接合部で親水性界面と共に挟まれたカチオン性交換膜およびアニオン性交換膜を含む。印加電流下では、親水性接合部に移動する水分子はH
+イオンおよびOH
-イオンに分割され、これらは移動して他のアニオンおよびカチオンと共に酸および塩基を製造する。本明細書で使用される典型的なBPMEDシステムは、単なる例示として
図3に示されており、本明細書の教示を使用して、様々な他のBPMED設定が可能である。
【0030】
本明細書の供給組成物は、典型的には3を超える、より典型的には5を超えるLi/Mgの不純物イオン比、および1.5を超える、典型的には3.5を超えるLi/Ca比を含み得る。供給リチウム含有量は、典型的には、1,000ppm超、5,000ppm超、または10,000ppm超である。例えば、本明細書で使用される供給物は、Li/Mgの不純物イオン比が3~20、典型的には5~15、およびLi/Ca比が5~100、典型的には20~50、およびLi/Na、K比が1.5~10、典型的には3.5~7.5、ならびに供給リチウム含有量が典型的には1000ppm~60,000ppm、好ましくは5000ppm~25,000、池蒸発塩水の場合、典型的には10,000ppm~60,000ppmの、望ましくない不純物イオン(一価および二価のカチオンならびに二価のアニオンなど)を含有する組成を有し得る。
【0031】
本明細書に開示される方法およびシステムから得られたLiOH溶液は、典型的には、高濃縮LiOHを含有する。例えば、約2重量%~約14重量%LiOHのLiOH濃度範囲を達成することができる。いくつかの態様では、LIOH濃度は、少なくとも5%である。他の濃度も可能である。有利には、これらの濃度は、容易に結晶化して、実質的に純粋な水酸化リチウム一水和物を生成し得る。
【0032】
図1bおよび
図1cの態様を参照すると、本開示は、現在のプロセス工程(
図1a)の大部分および中間の炭酸リチウム沈殿を不要にするための選択膜電気透析を提供する。本発明者らは、必要な膜Li/Mg、Ca選択性が供給物Li/Mg比およびLi/Ca比の関数であることを見出した。チリの濃縮塩水に典型的な10を超えるLi/Mg比およびLi/Ca比の場合、10を超えるLi/Mg、Ca選択性が好ましく、より好ましくはLi/Mg、Ca選択性は30を超えるか、または50を超える。一部のアルゼンチンの塩水の場合のように、10未満の供給物Li/Mg比の場合、75を超えるLi/Mg選択性が好ましい。供給物Li/Mg比が2~5の付近では、
図1cに示す手法が任意で使用され、LiOHの直接電気透析を行う前にMgを化学的に沈殿させることを含む。この場合、好ましいLi/Mg選択性は、およそ10以上、好ましくは30超であり得る。すべての場合において、10を超えるより高いLi/Na、K選択性は有益であるが必須ではなく、
図1cに示す手法にとって特に有益である。本明細書の教示を考慮すると、適切な選択性は、上述の選択性の膜が、好ましくはそれぞれ約25ppm以下および約50ppm以下の最大Mg含有量および最大Ca含有量を有する非沈殿LiOH溶液を直接生成するように、供給不純物含有量に基づいて選択され得る。これらのCa数およびMg数は、K
sp(Mg(OH
2))=5.61E-12およびK
sp(Ca(OH
2))=5.02E-6の溶解度積を使用して計算され得るものよりも高い(Lide,2004)。しかしながら、Bourassa et.al.(2020)によって言及されているように、超精製塩水からの電気透析を使用してLiOHを製造する長時間の試験運転中に、最大4mg/Lおよび最大0.55mg/Lのより高濃度のCaおよびMgが報告された。理論に束縛されることを望むものではないが、溶解度積から計算されたものと比較してより高レベルのCaおよびMgは、おそらく成分の活性および他の不純物イオンの安定化影響のために、それらが溶液中に残留することを可能にする何らかの安定化機構を示す。本発明者らは、最大25mg/LのMgおよび最大50mg/LのCaが、5%LiOH溶液中の安定な非沈降溶液中に残留し得ることを実験的に検証した。
【0033】
本開示の態様において有用な膜は、1つまたは複数の不純物からの一価イオンまたはリチウムの少なくとも一部の分離、好ましくは標的の一価-一価および/または一価-多価の分離を達成することができる任意の膜を含み得ることを理解されたい。
【0034】
一例として、1つの特に適切な膜はLiTAS(商標)膜である。このような膜は、金属有機構造体(MOF)成分を利用して、500以上の一価-二価イオン選択性を有することが示されている。このような膜はまた、1500の対応するLi-Mg選択性を示した(Lu et al.,2020)。約1000の選択性を示しているLi-Na選択的MOFを組み込んだLiTAS(商標)膜も提供され得る。
【0035】
「LiTAS(商標)」膜技術とは、ポリマー担体中で金属有機構造体(MOF)ナノ粒子を使用するリチウムイオン輸送および/または分離を意味する。MOFは、非常に高い内部表面積と、特定のイオンのみが通過することを可能にしながらイオンの分離および輸送を達成する調節可能な開口部とを有する。これらのMOFナノ粒子は粉末のように具現化されるが、ポリマーと組み合わされた場合、組み合わされたMOFおよびポリマーは、ナノ粒子が埋め込まれた混合マトリックス膜を作り出すことができる。MOF粒子は、選択されたイオンが通過することを可能にするパーコレーションネットワークまたはチャネルを作り出す。リチウムを抽出する場合、膜はモジュールハウジング内に配置される。蒸発塩水などの供給物は、高塩分であっても効果的な分離を行う膜の1つまたは複数の層を有するシステムを通してポンプ輸送される。現在の分離器技術は、ある領域または別の領域では不足する可能性があるが、LiTAS(商標)が特に好ましく、効果的である。LiTAS(商標)膜技術の2019年8月27日に出願された米国特許出願第62/892,439号、2019年6月20日に公開された国際特許公開公報第2019/113649号、および2020年8月26日に出願された国際特許出願第PCT/US2020/047955号は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。特に、LiTAS(商標)膜は、1つまたは複数のナノ粒子を含むポリマー膜であってもよい。特に、膜中のナノ粒子は、UiO-66、UiO-66-(CO2H)2、UiO-66-NH2、UiO-66-SO3、UiO-66-Br、またはそれらの任意の組み合わせなどの1つまたは複数の金属-有機構造体(MOF)を含み得る。他のMOFとしては、ZIF-8、ZIF-7、HKUST-1、UiO-66、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
本明細書で使用するための膜はまた、供給塩水Mg含有量および適用の種類に応じて、十分に高いリチウム/二価選択性を有する一価選択的カチオン交換膜であり得る(
図1bまたは
図1c)。例えば、Nie et al.,2017は、高いLi回収率および20~33の良好な選択性を達成する、高Mg含有量塩水からのLi-Mg分離のための一価選択膜について言及している。
【0037】
別の例はイオノフォアを含む膜であり、これは、Demeter et.al.,2020で議論されているように、半透過性表面または半透膜を横切って特定のイオンを輸送する材料である。このようなイオノフォアは、14-クラウン-4クラウンエーテル誘導体に基づく。他の可能性のある例は、カチオン選択膜(Li-Mg選択性が8~33、Li-Ca選択性が約7、Li-Na選択性が約3、およびLi-K選択性が約5)が記載されているLi et al.,2019による総説論文に記載されているように、電気透析における支持液体膜またはイオン性液体膜である。
【0038】
ここで
図3を参照すると、BPMED設定で適用されたLiTAS(商標)膜が示されている。この設定では、電気透析セルは、端部電極に隣接する電極リンス流路に加えて3つの区画に設定される。カチオン交換膜、バイポーラ膜およびアニオン交換膜を含む3区画単位が繰り返し単位として設定される。本明細書で企図されるEDセルまたはBPMEDセルでは、任意の数の繰り返し単位を設けることができる。この例のカチオン交換膜は、本質的にリチウムイオンおよび水のみが少量の不純物と共に透過することを可能にするLi選択膜である。これらの膜はまた、Na、KおよびLiなどの一価イオンを許容し、CaまたはMgのような二価/多価カチオンを遅延させる一価選択的であり得る。バイポーラ膜は、上述したようにカチオン交換膜およびアニオン交換膜を挟んだものである。正に帯電したアニオン交換膜は、負に帯電したアニオンのみが通過することを実質的に可能にし、正に帯電したカチオンを撥ね付ける。これらの膜はまた、一価選択的であってもよく、硫酸のような二価アニオンに対して、塩素イオンのような一価アニオンのみが透過することを本質的に可能にする。
【0039】
供給物は、各繰り返し単位の中央区画に入る。Li選択膜では、実質的にLiのみが膜を透過して隣接する塩基回収区画に入る。同様に、アニオンはアニオン交換膜を透過して酸回収区画に入る。区画の反対側のバイポーラ膜は、酸回収区画にH+イオンを提供するか、または塩基回収区画にOH-イオンを提供する。このようにして、供給塩水または浸出溶液から清浄なLiOH流を直接製造することができる。
【0040】
別の態様(
図1c)では、供給塩水が過度に多量の多価イオン、典型的にはそれぞれ5を超えるLi/Mg比および2を超えるLi/Ca比を含む場合、ライミング工程後またはライミングおよび軟化工程後にBPMEDを適用することができる。しかしながら、ライミングおよび軟化工程は、MgイオンをCaで置換し、CaイオンをNaで置換することによって、供給塩水のナトリウム含有量を増加させる。この場合、LiとNaとを区別するリチウム選択膜が最も好ましい。しかしながら、カチオンとアニオンとを区別するだけのアニオンに対するカチオン選択膜を、場合によっては、主に軟化後の実行可能なプロセスに使用して、実行可能な製品を製造することもできる(
図4cおよび
図5c)。場合によっては、従来のED膜は、高いCaレベルによって示されるように実行不能なままであり、高いCaレベルを含むカソード液(図中の流れBC)をもたらし、これは、EDセル中で沈殿する傾向がある。従来のED膜が潜在的に実行可能な製品を与える場合であっても、ほとんどの場合、
図5cのように、製品は比較的低品質であり、
図1aに示す工程と同様の追加の加工工程、すなわち、Na、K、および他の微量不純物を除去するためのLiOH再結晶およびイオン交換(IX)を必要とする。
【0041】
本発明者らは、驚くべきことに、ED中の適切な選択膜の使用によって、従来のLiOH製造に必要な加工工程の大部分を低減または排除することが可能であることを見出した。本明細書の教示および例示的な態様に基づいて、プロセス工程を再構成するか、または追加の工程を含む他の態様が、当業者にとって任意であろう。例えば、他の態様は、供給塩水からのホウ素の溶媒抽出(SX)、または供給塩水からのもしくはLiOH結晶化中のホウ素除去のためのIXを含んでもよい。
【実施例】
【0042】
分析方法:
様々な地域および供給源からの複数の実際の塩水の例が、多種多様な場合における本明細書に記載のシステムおよび方法の適用性を実証する以下の段落で提供される。現実的な塩水化学に基づいて、リチウム選択膜の有無にかかわらず、電気透析分離をモデル化した。
【0043】
リチウム選択膜については、LiTAS(商標)膜の文書化された性能に基づいて、100のLi-Mg、Ca選択性を使用した。50のLi-Na、K選択性をこの選択膜に使用した。従来のEDモデリングは、カチオン間の選択性を有さない。選択性は、ここでは、回収された他のカチオン/他のカチオン供給濃度の比に対する、回収されたLiイオン/供給Li濃度の比として定義される。水酸化リチウム濃度は、すべての場合において、溶解限界に近い5%に設定した。塩酸濃度もEDを出る5%に設定した。非選択膜において、Liについて95%および他のカチオンについて100%の通過あたり回収率を使用した。他のカチオン回収率は、Liがこれらの塩水中の主成分であり、プロセスが95%のLi回収率に到達し続けるにつれて他のカチオンがより高い程度に回収されるので、より高く設定した。Li選択膜については、95%という同じLi回収率を使用し、他のカチオン回収率は、選択性および相対濃度に基づいて決定した。水酸化リチウム溶液および塩酸溶液を、蒸発してそれぞれ14%溶解限界のLiOHおよび30%溶解限界のHClになるように設定した。硫酸系では、硫酸を65%に濃縮されるように設定した。これらの蒸発からの蒸気は凝縮され、追加のLiOHおよびHCl/H2SO4を回収するための担体流体としてEDセルに戻される。このようにして、BPMED分離、蒸発、水酸化リチウム一水和物の結晶化、および濾過を組み込んだ、定常状態のマスバランスモデルを開発した。平衡状態での系を予測するために、異なる供給化学をこのモデルで実行した。特に、塩基区画出口流中の不純物は、MgおよびCaレベルが溶液中に残留することを確実にするために関心対象であった。
【0044】
実施例1、チリ蒸発池塩水:
濃縮供給塩水に対するBPMED設定で機能するカチオン選択的ED膜対Li選択膜の性能を
図4に示す。EDへの供給物は、池濃縮塩水、例えば、ある程度の太陽蒸発後の天然塩水(例えば、98%体積)である。これは、およそ10のLi/Mg比を有する典型的なチリの濃縮塩水組成物である。濃縮された酸流および塩基流、ならびにLiOH.H
2O中の結晶化水と共に出る水を補充するために、酸区画および塩基区画に別々に添加された、追加の補給の清水が示されている。担体水の大部分は、再循環型蒸発器晶析装置蒸気凝縮物である。BPMEDからのLi枯渇流出物は、蒸発池に再循環させることができる。
図4a(非選択膜)と
図3b(選択膜)との間の塩基区画出口組成の比較は、得られたLiOH流の不純物レベルの顕著な差を示す。実際には、
図4aのEDを出る塩基流中の約1200ppmのMg濃度は、この濃度がこの溶液中のMgの溶解度を超えるので不可能である。Mgはこれらの濃度で沈殿し、従来のED膜の使用を不可能にする。この流中の最大Mgレベルおよび最大Caレベルは、Li選択膜で達成可能なように溶液中に留まるために、それぞれ3ppm未満および5ppm未満である必要がある。Li選択膜により、LiOH流の不純物プロファイルは、
図4bに見られるように、商業的に販売可能なリチウム製品への直接結晶化を適応可能にする。
【0045】
図4cは、濃縮供給塩水を石灰ソーダ軟化で処理して多価カチオンを沈殿させた後のプロセス流への、カチオン交換膜(異なる種類のカチオン間で選択的ではない)を使用したBPMEDの適用を示す。この場合のLiOH濃縮流は、低レベルのMgおよびCaを示すが、高レベルのKおよび上昇したNa含有量を示す。この流からの水酸化リチウムの製造は、最初の石灰ソーダ軟化に加えて、LiOH再結晶およびIX研磨を任意で含んでもよい。これは、炭酸リチウム製造がバイパスされ、プロセス工程が大幅に低減されるため、従来の製造プロセスよりもかなりの改善をもたらす。ケースa、b、およびcで達成された水酸化リチウム一水和物の純度は、それぞれ95%、99.9%、および92%である。
【0046】
実施例2、アルゼンチン蒸発池塩水:
この塩水をEDで処理したマスバランスの概要を
図5に示す。
図5aは、カチオン選択的ED膜を使用した直接処理を示す。濃縮池塩水は、図に示すように他の成分を含んで、1.9%Liである。非選択的(従来の)EDは、沈殿を防止するために必要とされる3ppm未満よりも著しく高い1662ppmの塩基区画中のMgレベルを生成する。したがって、直接LiOH製造に適したED膜を使用した本明細書で教示されるシステムおよび方法と比較して、この従来の膜分離は好ましくない。
【0047】
図5bは、リチウム選択的ED膜を使用する処理を示す。塩基区画内のMgレベルおよびCaレベルは、3ppmおよび5ppmの最大レベル未満である。注目すべきことに、NaレベルおよびKレベルも低く、高純度LiOH.H
2O製品をもたらす。
【0048】
図5cは、二価および多価カチオン除去のための石灰ソーダ軟化プロセスに塩水を供した後の、カチオン選択的ED膜を使用した塩水の処理を示す。この場合、塩基区画内のMgレベルおよびCaレベルは許容可能なレベルである。したがって、このプロセスは可能であるが、しかしながら、塩基区画内のNaレベルおよびKレベルが高いため、Li電流効率が60%低い比較的粗製な(約71%LiOH.H
2O)製品が製造される。
【0049】
実施例3、硬岩(スポジュメン)酸焙焼浸出液:
EDを介してこの材料を処理することのマスバランスの概要を
図6に示す。示したような酸焙焼浸出組成物は、Bourassa,2019から得た。
図6aは、カチオン選択的な従来のED膜を使用した直接処理を示す。濃縮浸出液は、図に示すように他の成分を含んで、2.1%Liである。これは典型的な硫酸系である。カチオン選択的な従来のEDは、塩基区画中に96ppmのMgレベルおよび263ppmのCaレベルを生成し、これらは一般に実用的ではない(
図6a)。
図6cに示すように、浸出液が軟化した後、CaおよびMgレベルはそれぞれ2ppmおよび20ppmに低減される。塩基区画溶液は、ここでは1.2ppmの許容可能なMg濃度である。しかしながら、12ppmのCa濃度は、この適用をほとんどの目的のために一般に非実用的にする。しかしながら、Li選択膜を使用することによって、非常に清浄なLiOH.H
2O製品が可能である(
図6c)。
【0050】
上記に加えて、典型的なボリビアの塩水および他のチリの塩水の追加の実施例を表1に提供する。Li選択的EDの適用はすべての場合において有益であることが分かる。太陽光もしくはDLE手段によって蒸発させた塩水または濃縮供給物でのリチウム選択膜電気透析は、供給塩水、直接リチウム抽出、および鉱物浸出液からの直接水酸化リチウム製造への経路を開放することができる。特定の状況(硬岩スポジュメンを除く)では、供給塩水の軟化は、従来の非カチオン選択的EDの適用前に、任意で行われる。しかしながら、そのような場合の製品は、比較的粗く、例えば、追加の精製を必要とするNaおよびKの水酸化物で汚染されている可能性がある。また、不純物水酸化物の回収から、より低いリチウム電流効率がもたらされる。
【0051】
Li選択的EDは、今日のリチウム供給のほぼすべてを占める南米の塩水およびスポジュメンなどのすべての主要なリチウム源において直接LiOH製造への効率的な経路を提供する。本明細書で教示されるシステムおよび方法はまた、ヘクトライト粘土、ジャダライト、チンワルド雲母などの他のリチウム源にも適用可能である。この方法は、プロセスを大幅に単純化し、資本、運転および試薬のコストを低減し、製造コストを低くする。他の利点としては、沈殿物による損失が池および加工プラントの両方で回避されるため、著しく濃縮されていない供給物を加工し、より高いリチウム回収率を得る能力が挙げられる。
【0052】
表1 本明細書に開示される方法論を使用して処理された様々な現実的な塩水および硬岩源の濃縮LiOH(5%)溶液不純物プロファイル。Li選択膜と共に使用されたBPMEDが最良の製品を生成する。アニオンに対するカチオン選択膜を用いて軟化供給物に使用されたBPMEDは、ほとんどの場合、実現可能なプロセスを生成するが、製品の純度は低い。処理された液体は、蒸発池からの濃縮Li塩水またはスポジュメン焙焼および浸出からの浸出液のいずれかである。場合によっては、供給液には、多価カチオンを除去するための最初の石灰ソーダ軟化後のものも含まれる。
【0053】
【表1】
*プロセスを実現不可能にする沈殿。
+再加工を必要とする製品中の不純物が多いため、実現可能であるがあまり望ましくない。
表1 本明細書に開示される方法論を使用して処理された様々な現実的な塩水および硬岩源の濃縮LiOH(5%)溶液不純物プロファイル。Li選択膜と共に使用されたBPMEDが最良の製品を生成する。アニオンに対するカチオン選択膜を用いて軟化供給物に使用されたBPMEDは、ほとんどの場合、実現可能なプロセスを生成するが、製品の純度は低い。処理された液体は、蒸発池からの濃縮Li塩水またはスポジュメン焙焼および浸出からの浸出液のいずれかである。場合によっては、供給液には、多価カチオンを除去するための最初の石灰ソーダ軟化後のものも含まれる。
【0054】
【国際調査報告】