(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-04
(54)【発明の名称】多重化蛍光顕微鏡検査のための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240226BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20240226BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240226BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
G01N33/542 A
G01N21/64 E
G01N21/64 B
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550272
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2022054140
(87)【国際公開番号】W WO2022175483
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523315186
【氏名又は名称】マイクログラフィア バイオ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】アジャリー,ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン,クリストファー シー.
【テーマコード(参考)】
2G043
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA02
2G043DA08
2G043EA01
2G043FA02
2G043FA03
2G043LA03
4B063QA01
4B063QA18
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4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR32
4B063QR48
4B063QR66
4B063QS03
4B063QS33
4B063QX02
(57)【要約】
多重化蛍光顕微鏡検査のための方法であって、固定サンプルを結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットと接触させて、該サンプル中に存在する任意の結合パートナーと該結合剤を結合させることであって、該セットが、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、該Tオリゴヌクレオチドの配列が、それがコンジュゲートされている該結合剤に特有である、結合させることと、該サンプル及びステップaの結果として結合した任意の結合剤をFRETオリゴヌクレオチドと接触させることと、該FRETオリゴヌクレオチドのエミッター分子の励起を引き起こす波長を該サンプルに照射することと、該FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長における該サンプルの蛍光動態プロファイルを1つ以上のピクセルで経時的に観察することとを含み、該FRETオリゴヌクレオチドは、該セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、方法が提供される。関連するキット、結合剤Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチド、ならびにそのようなセットを設計する方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重化蛍光顕微鏡検査のための方法であって、
a. 固定サンプルを結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットと接触させて、前記サンプル中に存在する任意の結合パートナーと前記結合剤を結合させることであって、前記セットが、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、前記Tオリゴヌクレオチドの配列が、それがコンジュゲートされている前記結合剤に特有である、前記結合させることと、
b. 前記サンプル及びステップaの結果として結合した任意の結合剤をFRETオリゴヌクレオチドと接触させることと、
c. 前記FRETオリゴヌクレオチドのエミッター分子の励起を引き起こす波長を前記サンプルに照射することと、
d. 前記FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長における前記サンプルの蛍光動態プロファイルを1つ以上のピクセルで経時的に観察することと
を含み、前記FRETオリゴヌクレオチドは、前記セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、前記方法。
【請求項2】
前記蛍光動態プロファイルから区別可能なメトリックを計算することと、場合により、前記観察されるサンプル中の1つ以上のピクセルに、そのピクセルにおける前記サンプルの前記蛍光動態プロファイルから計算された前記メトリックに基づいてアイデンティティを割り当てることとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非結合状態の結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートは、ステップaの後に除去される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプルは、結合した任意の結合剤をさらに固定化するために、ステップaの後に再固定される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
a. 前記セット内の各Tオリゴヌクレオチドは、8~35ヌクレオチド単位の長さである、及び/または、
b. 前記FRETオリゴヌクレオチドは、(i)前記FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子のフェルスター半径を超える長さである、及び/または(ii)少なくとも12ヌクレオチド単位の長さである、
先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
各Tオリゴヌクレオチドは、前記FRETオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることができ、各Tオリゴヌクレオチドは、前記FRETオリゴヌクレオチドとの0~40%の塩基ペアミスマッチを有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記結合剤は、タンパク質性分子、場合により抗体またはその断片である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2つのメトリックが、前記蛍光動態プロファイルから計算され、前記観察されるサンプル中の1つ以上のピクセルにアイデンティティを割り当てるために使用される、請求項2~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
各々の異なるFRETオリゴヌクレオチド及びTオリゴヌクレオチドペアの前記蛍光動態プロファイルから計算または導出される少なくとも1つのメトリックが、
(i)各蛍光放出の間の平均時間、
(ii)前記蛍光放出の平均持続時間、
(iii)蛍光放出の発生率、
(iv)前記蛍光動態プロファイルから推測される、前記FRETオリゴヌクレオチドと前記Tオリゴヌクレオチドの結合の解離定数(Koff)、ならびに
(v)前記蛍光動態プロファイル及び成分の濃度から推測される、前記FRETオリゴヌクレオチドと前記Tオリゴヌクレオチドの結合の会合定数(Kon)
からなる群から選択される、請求項2~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光動態プロファイルは、単一分子点滅事象を検出することが可能な高フレームレートイメージングデバイスを使用して観察される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
(i)ステップaは、前記サンプルを結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット群と接触させることであって、前記セット群が、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第1のセット、及び結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つ以上の後続のセットを含む、前記接触させることを含み、
(ii)ステップbは、前記サンプル及びステップaの結果として結合した任意の結合剤を、第1のFRETオリゴヌクレオチド、及び1つ以上の後続のFRETオリゴヌクレオチドと接触させることを含み、
前記第1のFRETオリゴヌクレオチドは、前記第1のセット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、前記後続のFRETオリゴヌクレオチドの各々は、その対応するセット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、(i)各セット内でそのペアに特有であり、かつ(ii)前記セット群内でそのペアに特有である蛍光動態プロファイルを生成する、
先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のFRETオリゴヌクレオチド及び前記後続のFRETオリゴヌクレオチドは、オーバーラップする発光スペクトルを有するエミッター分子を含み、場合により同じエミッター分子を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップaが、前記サンプルを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセット群であって、各セット群が、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第1のセット、及び結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つ以上の後続のセットを含み、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応する前記FRETオリゴヌクレオチド中の前記エミッター分子の前記発光スペクトルが、そのセット群に特異的なチャネルで検出され得る、前記複数のセット群と接触させることを含み、前記サンプルの前記蛍光動態プロファイルを観察する前記ステップが、各セット群に対するチャネルで前記サンプルの前記蛍光動態プロファイルを観察することを含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの各セット群について、対応する前記第1のFRETオリゴヌクレオチド及び前記後続のFRETオリゴヌクレオチドは、同じエミッター分子を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(i)ステップaは、前記サンプルを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セットについての対応する前記FRETオリゴヌクレオチド中の前記エミッター分子の前記発光スペクトルが、そのセットに特異的なチャネルで検出され得る、前記複数のセットと接触させることを含むか、または、
(ii)ステップaは、前記サンプルを、
(I)結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つまたは複数のセットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セットについての対応する前記FRETオリゴヌクレオチド中の前記エミッター分子の前記発光スペクトルが、そのセットに特異的なチャネルで検出され得る、前記1つまたは複数のセット、及び
(II)結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つまたは複数のセット群であって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応する前記FRETオリゴヌクレオチド中の前記エミッター分子の前記発光スペクトルが、そのセット群に特異的なチャネルで検出され得る、前記1つまたは複数のセット群
と接触させることを含み、
前記サンプルの前記蛍光動態プロファイルを観察する前記ステップは、各セットに対する、または各セット群に対するチャネルで、前記サンプルの前記蛍光動態プロファイルを観察することを含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項16】
(i)ステップaは、前記サンプルを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの各セットについて、対応する前記FRETオリゴヌクレオチドが、各セットに特異的なエミッター分子を含む、前記複数のセットと接触させることを含むか、または、
(ii)ステップaは、前記サンプルを、
(I)結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つまたは複数のセットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの各セットについて、対応する前記FRETオリゴヌクレオチドが、各セットに特異的なエミッター分子を含む、前記1つまたは複数のセット、及び
(II)結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つまたは複数のセット群であって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの各セット群について、対応する前記第1のFRETオリゴヌクレオチド及び前記後続のFRETオリゴヌクレオチドが、同じエミッター分子を含む、前記1つまたは複数のセット群
と接触させることを含み、
前記サンプルの前記蛍光動態プロファイルを観察する前記ステップは、各セットに対する、または各セット群に対するチャネルで、前記サンプルの前記蛍光動態プロファイルを観察することを含む、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの前記セットまたは各セットは、2~25個の異なる結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの前記セット群または各セット群は、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの2~25個のセットを含む、請求項11~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの少なくとも1つのセットは、
a. 配列番号1及び配列番号2の配列の前記Tオリゴヌクレオチドの一方もしくは両方を含み、対応する前記FRETオリゴヌクレオチドは、配列番号7の配列のFRETオリゴヌクレオチドであり、
及び/または
b. 結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの少なくとも1つのセットは、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6の配列の前記Tオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1つを含み、対応する前記FRETオリゴヌクレオチドは、配列番号8の配列のFRETオリゴヌクレオチドである、
先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
多重化蛍光顕微鏡検査のためのキットであって、
a. 結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットであって、前記セットが、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、前記Tオリゴヌクレオチドの配列が、それがコンジュゲートされている前記結合剤に特有である、前記セットと、
b. FRETオリゴヌクレオチドと
を備え、前記FRETオリゴヌクレオチドは、前記セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、前記キット。
【請求項21】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つ以上の追加のセット、及び1つ以上の追加のFRETオリゴヌクレオチドをさらに備え、前記さらなるFRETオリゴヌクレオチドの各々は、その対応するセット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、各セット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの少なくとも1つのセットは、
a. 配列番号1及び配列番号2の配列の前記Tオリゴヌクレオチドの一方もしくは両方を含み、対応する前記FRETオリゴヌクレオチドは、配列番号7の配列のFRETオリゴヌクレオチドであり、
及び/または
b. 結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの少なくとも1つのセットは、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6の配列の前記Tオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1つを含み、対応する前記FRETオリゴヌクレオチドは、配列番号8の配列のFRET-オリゴヌクレオチドである、
請求項20または21に記載のキット。
【請求項23】
多重化蛍光顕微鏡検査のためのキットを作製するための結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドであって、
a. Tオリゴヌクレオチドのセットと、
b. FRETオリゴヌクレオチドと
を含み、前記FRETオリゴヌクレオチドは、前記セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、各々の異なるFRETオリゴヌクレオチドとTオリゴヌクレオチドとの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、前記結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット及び対応する前記FRETオリゴヌクレオチド。
【請求項24】
前記結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、
a. 配列番号1及び配列番号2の配列の前記Tオリゴヌクレオチドの一方もしくは両方を含み、対応する前記FRETオリゴヌクレオチドは、配列番号7の配列のFRETオリゴヌクレオチドであるか、
または
b. 前記結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6の配列の前記Tオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1つを含み、前記FRETオリゴヌクレオチドは、配列番号8の配列のFRETオリゴヌクレオチドである、
請求項23に記載の多重化蛍光顕微鏡検査のためのキットを作製するための結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチド。
【請求項25】
請求項21または22に記載のキットを調製する方法であって、Tオリゴヌクレオチドのセット、及び結合剤のセット、及び対応するFRETオリゴヌクレオチドを用意することと、請求項23に記載のTオリゴヌクレオチドのセットを前記結合剤のセットとコンジュゲートして、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットを形成することとを含み、前記結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、前記Tオリゴヌクレオチドの配列は、そのセット内で、それがコンジュゲートされている前記結合剤に特有である、前記方法。
【請求項26】
請求項1~19のいずれか1項に記載の方法で使用するためのTオリゴヌクレオチドのセット及びFRETオリゴヌクレオチドを設計する方法であって、
a. 少なくとも12ヌクレオチドの長さのFRETオリゴヌクレオチド配列を選択することと、
b. 前記FRETオリゴヌクレオチド配列に相補的である少なくとも8ヌクレオチドの長さの1つ以上の配列を取得することと、
c. 各々が前記FRETオリゴヌクレオチドに相補的な前記配列とは少なくとも1ヌクレオチド異なる、複数の潜在的なTオリゴヌクレオチド配列を生成することと、
d. 互いに異なる蛍光動態プロファイルを生成する少なくとも2つのTオリゴヌクレオチド配列の能力に基づいて、前記少なくとも2つのTオリゴヌクレオチド配列を選択することと
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重化蛍光顕微鏡検査の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
蛍光顕微鏡検査
蛍光顕微鏡検査は、ライフサイエンス及び薬学的研究の主要な構成要素である。ライフサイエンス及び薬学的研究の多くの分野は、生物学的サンプルを細胞以下のレベルで観察して、細胞内の成分を高解像度でイメージングできるようにするために、蛍光顕微鏡検査に大きく依存している。直交標識ストラテジーにより、複数のチャネルを使用して(例えば、複数のフルオロフォアの使用に基づいて)、同じ細胞内で異なる成分をイメージングすることも可能になり、これらのマルチチャネル顕微鏡像の構成は、種々の下流分析において極めて有用である。
【0003】
同じサンプルから異なるチャネルをイメージングできるようにするには、通常、様々な蛍光タンパク質または色素からの既知の励起/発光スペクトルを利用する必要がある。標準的な蛍光顕微鏡検査のセットアップでイメージングできるチャネルの数は、利用可能なフルオロフォアの発光/励起の分布がオーバーラップする量によって制限される。実際、蛍光は、多重化すること、つまり、複数の分析物を同時に測定することが難しいことで知られている。理論上は、任意の数の異なるフルオロフォアを蛍光顕微鏡検査実験で使用できるが、異なるフルオロフォアがオーバーラップする光の波長で励起または発光する場合、蛍光シグナルをデコンボリューションする、またはそれぞれのチャネルに分離する方法がない。したがって、標準的な蛍光顕微鏡検査は、実際には、単一のサンプルで4~5つの画像モダリティを評価できるようにするために、各々の励起/発光波長が大きく異なる4~5つの異なるフルオロフォアの使用に制限されている。したがって、実際には、このスペクトルのオーバーラップの問題により、同時に視覚化できる異なる成分の数が制限される。
【0004】
単一分子局在顕微鏡検査における最近の進歩
アッベ回折限界を突破できるため、蛍光顕微鏡検査の解像度を向上させる、オリゴヌクレオチドに基づく蛍光標識ストラテジーが開発されてきた。簡潔に述べると、単一分子局在顕微鏡検査(SMLM)技術の一例であるDNA-PAINT(Point Accumulation Imaging in Nanoscale Topography)(例えば、Schnitzbauer,J.,Strauss,M.T.,Schlichthaerle,T.,Schueder,F.,and Jungmann,R.(2017),Super-resolution microscopy with DNA-PAINT.Nat.Protocols 12,1198-1228を参照のこと)などの技術は、結合分子(例えば抗体)に繋がれた相補的なドッキング鎖に可逆的にハイブリダイズする蛍光タグ付きDNAプローブを使用する。結合分子が静止している場合(例えば、固定細胞サンプル中の結合パートナーに結合しているため)、標識鎖とドッキング鎖との間の可逆的なハイブリダイゼーションにより、一時的な発光事象が生じる。一時的な発光事象は検出することができる。生成される局在データを使用すると、高解像度でサンプルの画像を作成することができる。発光事象の一時的な性質により、さもなければ(例えば、分子が互いの非常に近くに位置しているので、標準的技術を使用してイメージングしようとするとシグナルが区別不可能であるため)空間的に分解できなかった分子の時間的な分離が可能になる。
【0005】
複数の確率的結合事象(例えばサンプル中の異なる部位での結合事象)をキャプチャした動画を記録できるということは、これらの事象が最終的に単一の超解像度画像として再構成され得ることを意味する。各発光プロファイルは、回折限界未満の解像度で単一分子の正確な位置特定を可能にする点像分布関数に当てはめることができる。
【0006】
DNA-PAINT技術の大きな制限は、この技術に関連する高いバックグラウンドである。これは、蛍光標識されたイメージャープローブの使用の結果として生じる。これらの非結合状態のプローブからの蛍光は、大量のバックグラウンド蛍光に寄与する。この高いバックグラウンドは、個々の結合したプローブ分子のシグナルピークの検出における問題を生じさせるだけでなく、他の実際的な制限も生じさせる。この高いバックグラウンドという問題を解決しようとする試み自体が二律背反になることがよくある。すなわち、イメージャープローブの濃度を低下させるとバックグラウンドが低下し得るが、イメージャープローブの濃度が低下すると、複合体が生じる速度(したがって結合事象の頻度)が低下するため、画像捕捉が起こり得る速度が制限され、ひいては迅速な画像捕捉が妨げられる。したがって、DNA-PAINTを用いた画像キャプチャプロセスは遅いことが多い。さらに、SMLMは通常、励起用のレーザー波長が最大3つに制限されているため、3つを超えるモダリティを単一の実験でイメージングすることは通常不可能である。
【0007】
本発明者らは、単一波長励起照射プロトコルを使用できる多重化蛍光顕微鏡検査のための方法を考案した。本方法は、DNAに基づく蛍光ストラテジーによってもたらされる蛍光の確率的放出を利用するものであり、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)オリゴヌクレオチドの使用により、例えば蛍光標識されているがシグナルを常に放出し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用したイメージングと比較すると、強化されたスペクトル非依存多重化モダリティイメージングが可能になる。上記で説明したように、DNA-PAINTのような技術における標準的な蛍光オリゴヌクレオチドの使用は、使用されるオリゴヌクレオチドの連続的な蛍光を所与として、高いバックグラウンドを伴う。この高いバックグラウンドは、本発明の方法では、FRETオリゴヌクレオチドを使用することによって回避される。本発明で使用されるこれらのFRETオリゴヌクレオチドは、溶液中で遊離しているときはバックグラウンド蛍光をほとんどまたは全く有しないが、オリゴヌクレオチドとハイブリダイズして結合ペアを形成すると蛍光を発し得る。高いバックグラウンドの回避は、本発明の方法においてより高濃度の蛍光オリゴヌクレオチドを使用できることを意味し、したがって観察のステップ(画像またはビデオのキャプチャを含む)がより迅速になることを意味する。
【0008】
FRETの原理、及びオリゴヌクレオチドに関連したFRETの使用については、当技術分野でよく知られている。そのようなオリゴヌクレオチドでは、エミッター分子及び消光体を使用するFRETの原理が使用される。エミッターの励起波長の照射では、エミッター分子及び消光体が互いの十分近く(典型的には1~10nmの範囲内)に位置している場合、エミッターの発光波長での蛍光は観察されない。これは、エミッター分子から消光体への効率的なエネルギー移動によるものである。しかし、エミッター分子及び消光体が物理的に十分離れていれば、FRETの速度は低下し、したがってエミッター分子からの発光がエミッターの発光波長で検出できるようになる。
【0009】
本発明では、この原理を操作して蛍光動態プロファイルを生成する。FRETオリゴヌクレオチドは、エミッター分子及び消光体を含む。FRETオリゴヌクレオチドが溶液中にあるとき、エミッターの励起波長を照射すると、近位に位置する消光体への効率的なエネルギー移動のために(例えば、近接するオリゴヌクレオチドの2つの端部またはその付近に通常位置するエミッター分子及び消光体を許容する自由/柔軟なコンフォメーションのために)、エミッターの発光波長では蛍光が観察されない。FRETオリゴヌクレオチドは、結合剤にコンジュゲートされたトランス活性化オリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド)のセットのメンバーと可逆的にハイブリダイズする能力を有する。Tオリゴヌクレオチドとハイブリダイズすると、FRETオリゴヌクレオチドの構造が、このハイブリダイゼーションによって拘束される。これにより、エミッター分子及び消光体が物理的に分離され、FRETの速度が低下し、エミッターの励起波長での照射により、エミッターの発光波長におけるエミッター分子からの発光がハイブリダイゼーション部位で検出できるようになる。Tオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドは、形成されるペア間の可逆的なハイブリダイゼーションを可能にするように設計される。これは、各ペアについて蛍光動態プロファイルが経時的に観察される、すなわち、結合ペアがハイブリダイズ構成にある場合には蛍光放出が起こるが、ペアが分離している場合には蛍光放出が起こらないことを意味する。上記で説明したDNA PAINTのように、蛍光動態プロファイルが検出されるということは、高解像度が達成されることを意味する。DNA PAINTとは異なり、バックグラウンド蛍光が低いため、シグナルの感度または質は、シグナル対ノイズ比が高いなどの理由から、DNA PAINTよりも良好であり得る。
【0010】
さらに、本発明の方法及びキットは多重化を可能にする。各FRETオリゴヌクレオチドは、対応するセット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズし、したがって複数のペアを形成することができる。異なる各ペアの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する。これは、単一のセットで生成された複数の蛍光動態プロファイルを単一のチャネルで(すなわち同じ発光スペクトルに基づいて)同時に観察でき、また、その蛍光動態プロファイルがそのセット内でそのペアに特有であるため、各ペアにおけるTオリゴヌクレオチドのアイデンティティをその蛍光動態プロファイルによって(例えば、そのペアに一意に起因する蛍光動態プロファイルの1つ以上のメトリックを計算することによって)決定できることを意味する。サンプル中の任意の蛍光動態プロファイルの観察(例えば検出またはキャプチャ)は、サンプル中の1つ以上の、例えば複数の位置またはピクセルで蛍光動態プロファイルをキャプチャする動画を記録することによるものであり得る。この情報を使用して、蛍光動態プロファイルの1つ以上のメトリックを計算し、次にこれを使用して、観察されるサンプル中の1つ以上のピクセルに、そのピクセルにおけるサンプルの蛍光動態プロファイルから計算されたメトリックに基づいてアイデンティティを割り当て、最終的に、サンプルまたはその一部の1つ以上の画像を再構成する。蛍光動態プロファイルのメトリックは、単に、蛍光動態プロファイルの1つ以上の態様の尺度または表現であり、例えば蛍光動態プロファイルの1つ以上の態様の数学的分析により、蛍光動態プロファイルから計算または導出することができる。
【0011】
Tオリゴヌクレオチドは、Tオリゴヌクレオチドの配列が、それがコンジュゲートされている結合剤に特有であるように、結合剤にコンジュゲートされている。したがって、サンプル内の任意の与えられた位置で観察される蛍光動態プロファイルまたはそのメトリックに基づいて、その位置にどの結合剤が存在するかを決定することができる。これらのメトリックの非限定的な例には、(i)各蛍光放出の間の平均時間(オフ時間とも呼ばれる)、(ii)蛍光放出の平均持続時間(オン時間とも呼ばれる)、及び(iii)蛍光放出の発生率が含まれる。少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのそのようなメトリックを蛍光動態プロファイルから抽出し、それを記述するために使用することができる。これらの例示的なメトリック以外のメトリックを使用してもよい。
【0012】
この技術で達成される高解像度及び低バックグラウンドは、固有の多重化機能と合わせて、この技術が特に有利であることを意味する。
【0013】
単一のFRETオリゴヌクレオチドと、Tオリゴヌクレオチドのセットとを使用することで、複数の異なる蛍光動態プロファイル(例えば最大10または最大25)を生成することができる。ただし、多重化は複数のレベルで可能になる。第1のレベルでは、本発明は、セット内の複数のTオリゴヌクレオチドに結合できるFRETオリゴヌクレオチドを使用して、そのセット内で形成される各ペアによって異なる蛍光動態プロファイルが生成されるようにする。したがって、経時的にサンプルから放出されるいずれかの蛍光動態プロファイル(またはそのメトリック)を観察することにより、観察されるいずれかの蛍光動態プロファイルを生じさせるTオリゴヌクレオチドのアイデンティティ、ひいてはTオリゴヌクレオチドがコンジュゲートされている特定の結合パートナーを、サンプル中の任意の位置で決定することができる。
【0014】
さらなる多重化は、各FRETオリゴヌクレオチドが対応するTオリゴヌクレオチドのセットを有する、複数のFRETオリゴヌクレオチドを使用することによって達成することができる。各FRETオリゴヌクレオチドが対応するTオリゴヌクレオチドのセットを有する2つ以上のFRETオリゴヌクレオチドを使用することにより、より広範囲の異なる蛍光動態プロファイルを生成することができ、したがって、より多くの結合剤を使用することができ、より多くの異なる標的分子を検出することができる。したがって、本方法は多重化に特に有利である。
【0015】
例として、Tオリゴヌクレオチドの第1のセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドは、複数の異なる蛍光動態プロファイルを生じさせ得る。蛍光動態プロファイルからは、任意の数の数値メトリックまたは特徴が抽出され得る。これらのメトリックの非限定的な例には、(i)各蛍光放出の間の平均時間(オフ時間とも呼ばれる)、(ii)蛍光放出の平均持続時間(オン時間とも呼ばれる)、及び(iii)蛍光放出の発生率が含まれる。少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのメトリックを蛍光動態プロファイルから抽出し、それを記述するために使用することができ、これらのメトリックは、上記に列挙したメトリックでも、代替的なメトリックでもよい。
【0016】
さらに、「点滅」として概念化される、蛍光放出がオフ及びオンになることを使用して、各Tオリゴヌクレオチドと対応するFRETオリゴヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーション親和性を記述する数値メトリックを定義することができる。点滅動態から、少なくとも(i)Kon(会合速度定数、M-1.s-1で表される)及び(ii)Koff(解離速度定数、s-1で表される)を含む、任意の数の親和性メトリックが導出され得る。各Tオリゴヌクレオチドが、特有のハイブリダイゼーション動態プロファイル、ひいては特有の点滅動態プロファイルを呈するようにエンジニアリングされているため、任意の個々のメトリックまたはメトリックの組み合わせを使用して、観察下のTオリゴヌクレオチドのアイデンティティを区別することができる。これらの親和性メトリックは、蛍光動態プロファイルを記述する方法にもなり得る。
【0017】
所定のTオリゴヌクレオチドのセットは、例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド1~10)を含み得る。FRETオリゴヌクレオチドAは、例えば、これら10個のTオリゴヌクレオチドに可逆的にハイブリダイズし、10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル1~10)を生成し得る。例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド11~20)を含むさらなるTオリゴヌクレオチドのセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチド(FRETオリゴヌクレオチドB)とを追加することにより、さらに10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル11~20)を使用することができる。
【0018】
さらなる程度の多重化が、異なるスペクトルチャネルで(例えば異なるフルオロフォアを使用して)検出可能な蛍光放出を生じさせる異なるフルオロフォアを有するFRETオリゴヌクレオチドを使用することによってもたらされる。複数のスペクトルチャネルでシグナルを収集することにより、さらなるレベルの多重化が可能になり、単一のサンプル中で結合剤のさらに多くの標的を検出できるようになる。
【0019】
例えば、所定のTオリゴヌクレオチドのセットは、例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド1~10)を含み得る。FRETオリゴヌクレオチドAは、例えば、これら10個のTオリゴヌクレオチドに可逆的にハイブリダイズし、10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル1~10)を生成し得る。例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド21~30)を含むさらなるTオリゴヌクレオチドのセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチド(FRETオリゴヌクレオチドC)[FRETオリゴヌクレオチドCは、FRETオリゴヌクレオチドAとは異なるスペクトルチャネルで検出可能である蛍光シグナルを生じさせる(例えば、FRETオリゴヌクレオチドCがFRETオリゴヌクレオチドAとは異なるフルオロフォアを含むため)]とを追加することにより、さらに10個の蛍光動態プロファイル(プロファイル21~30)を使用することができる。プロファイル21~30は、プロファイル1~10とは異なるスペクトルチャネルで検出可能であるため、該プロファイルのうちの1つ以上は、それらが異なるスペクトルチャネルで検出されることに基づいて(例えば、FRETオリゴヌクレオチドCがFRETオリゴヌクレオチドAとは異なるフルオロフォアを含むため)区別可能であることから、プロファイル1~10のうちの1つ以上と類似または同一である可能性がある。Tオリゴヌクレオチドは、依然として結合パートナーに特有であり、各Tオリゴヌクレオチドは、その検出チャネル内で特有の蛍光動態プロファイルを生じさせるはずである。
【0020】
したがって、このアプローチでは、多くの他のアプローチとは異なり、多重化する能力が、スペクトル分解可能な異なるフルオロフォアの数によって制限されない。本方法における多重化は、Tオリゴヌクレオチドの塩基配列における差異を使用することによって達成できる、区別可能な蛍光動態プロファイルを生成する能力に依存する。多数の異なるTオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドの配列を設計し、生成することができ、これはつまり、単一のフルオロフォアしか使用しなくても(または、FRETオリゴヌクレオチドが、オーバーラップする発光スペクトルを有するエミッター分子を含んでいても)、本発明には固有の多重化能力があることを意味するが、異なるチャネルで検出され得る発光を生じさせるフルオロフォアによって(例えば複数のフルオロフォアを使用して)、さらなるレベルの多重化が達成され得る。本発明の方法はさらに、標準的な顕微鏡検査のセットアップ、例えば落射蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、全内部反射蛍光顕微鏡(TIRF)、誘導放出抑制(STED)顕微鏡、構造化照射顕微鏡(SIM)、及び、レーザー、LED、ハロゲン、または他の照射源によってサンプル内に含まれるフルオロフォア分子を標的とした励起が可能である他のタイプの蛍光顕微鏡と容易に統合することができる。
【0021】
他の技術は、DNA PAINTタイプのプローブの多重化を試みているが、一般にこれらは、WO2015/138653に記載されているようなプローブの順次結合を使用して多重化を達成した。本件の技術の多重化への適応性は、低いバックグラウンド蛍光及び向上したイメージング時間と共に、本方法の利点の一つである。これらの利点のため、本発明の方法はハイスループットアッセイに特に適用される。ハイスループットアッセイにおけるこの有用性は、高度な多重化を行う能力に特に関連しており、これは、実験セットアップごとにより多くの情報量が実験で得られるために望ましい。
【0022】
したがって、本明細書で提供される方法は、オリゴヌクレオチドの塩基配列が、オリゴヌクレオチドを一意に識別する方法であるということを利用する。その塩基配列は、オリゴヌクレオチドと他のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの性質も決定する。Tオリゴヌクレオチド及び対応するFRETオリゴヌクレオチドの塩基配列は、特定の蛍光動態プロファイルを有するペアを生成するためにプログラムすることができ、その結果、蛍光動態プロファイルの識別により、そのペアに存在する特定のTオリゴヌクレオチドの識別が可能になり、これにより、Tオリゴヌクレオチドがコンジュゲートされている特定の結合パートナーの識別が可能になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、オリゴヌクレオチドを使用して、それらがコンジュゲートされている結合パートナーを一意に識別し、これらのオリゴヌクレオチドがFRETオリゴヌクレオチドとペアを形成するように、多重化蛍光顕微鏡検査の方法との関連でFRETの原理を利用できるという、本発明者らの発見に基づく。FRETオリゴヌクレオチドを使用することには、さらに詳細に説明するように、幾つかの利点がある。第1に、FRETオリゴヌクレオチドが溶液中にあるとき(
図1A)、エミッター分子の励起波長を照射すると、エミッターの発光波長では蛍光は観察されない。これは、FRETオリゴヌクレオチドが溶液中で自由なコンフォメーションをとることによって可能になる、エミッターから消光体への効率的なエネルギー移動が起こるためである。これは、蛍光の(例えば、エミッターの発光波長での)バックグラウンドレベルが低いことを意味する。これに対し、FRETオリゴヌクレオチドは、細胞サンプル全体で固定化されている相補的なオリゴヌクレオチドとハイブリダイズすると、エミッターの発光波長で蛍光を放出する(
図1B)。TオリゴヌクレオチドとのFRETオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションにより、FRETオリゴヌクレオチドが線状化され、これにより消光成分が発光成分から物理的に分離され、FRETの速度が低下する。したがって、エミッターの発光波長での蛍光シグナルは、ハイブリダイゼーション部位で、かつFRETオリゴヌクレオチドがハイブリダイズしているときにのみ放出される。Tオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドの配列は、FRETオリゴヌクレオチドがセット内の様々なTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズできるように設計される。形成される異なる各ペアにより、特有の蛍光動態プロファイルが生じる。これは、生成された蛍光動態プロファイルを観察し、蛍光動態プロファイルの区別可能なメトリックを計算することにより、サンプル中の特定の位置でペアのアイデンティティをデコンボリューションし(
図4及び5)、ひいてはサンプル中のその特定の位置で結合した結合パートナーを決定することが可能であることを意味する。
【0024】
したがって、本発明は、多重化蛍光顕微鏡検査のための方法であって、
a. 固定サンプルを結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットと接触させて、該サンプル中に存在する任意の結合パートナーと該結合剤を結合させることであって、該セットが、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、該Tオリゴヌクレオチドの配列が、それがコンジュゲートされている該結合剤に特有である、結合させることと、
b. 該サンプル及びステップaの結果として結合した任意の結合剤をFRETオリゴヌクレオチドと接触させることと、
c. 該FRETオリゴヌクレオチドのエミッター分子の励起を引き起こす波長を該サンプルに照射することと、
d. 該FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長における蛍光動態プロファイルを1つ以上のピクセルで経時的に観察することと
を含み、該FRETオリゴヌクレオチドは、該セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、方法を提供する。
【0025】
本発明はまた、多重化蛍光顕微鏡検査のためのキットであって、
a. 結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットであって、該セットが、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、該Tオリゴヌクレオチドの配列が、それがコンジュゲートされている該結合剤に特有である、該セットと、
b. FRETオリゴヌクレオチドと
を備え、該FRETオリゴヌクレオチドは、該セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、キットを提供する。
【0026】
本発明はまた、多重化蛍光顕微鏡検査のためのキットを作製するための結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドであって、
a. Tオリゴヌクレオチドのセットと、
b. FRETオリゴヌクレオチドと
を含み、該FRETオリゴヌクレオチドは、該セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、各々の異なるFRETオリゴヌクレオチドとTオリゴヌクレオチドとの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドを提供する。
【0027】
本発明はまた、本発明のキットを調製する方法を提供し、該方法は、Tオリゴヌクレオチドのセット、及び結合剤のセット、及び対応するFRETオリゴヌクレオチドを用意することと、該Tオリゴヌクレオチドのセットを該結合剤のセットとコンジュゲートして、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットを形成することとを含み、該結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、該Tオリゴヌクレオチドの配列は、そのセット内で、それがコンジュゲートされている該結合剤に特有である。
【0028】
本発明はさらに、本発明の方法で使用するためのTオリゴヌクレオチドのセット及びFRETオリゴヌクレオチドを設計する方法を提供し、該方法は、
a. 少なくとも12ヌクレオチドの長さのFRETオリゴヌクレオチド配列を選択することと、
b. 該FRETオリゴヌクレオチド配列に相補的である少なくとも8ヌクレオチドの長さの1つ以上の配列を取得することと、
c. 各々が該FRETオリゴヌクレオチドに相補的な該配列とは少なくとも1ヌクレオチド異なる、複数の潜在的なTオリゴヌクレオチド配列を生成することと、
d. 互いに異なる蛍光動態プロファイルを生成する少なくとも2つのTオリゴヌクレオチド配列の能力に基づいて、該少なくとも2つのTオリゴヌクレオチド配列を選択することとを含む。
【0029】
多重化蛍光顕微鏡検査
蛍光顕微鏡検査
蛍光顕微鏡検査は、蛍光化合物の検出に基づいており、これはサンプルの画像を生成するために使用され得る(これは、光の検出の代わり、またはそれに加えたものであり得る)。フルオロフォアは、光励起すると光を再放出することができる蛍光性の化学化合物または生物学的タンパク質である。蛍光顕微鏡検査では、1つ以上の特定の波長をもつ光をフルオロフォアに照射する。この光はフルオロフォア(複数可)によって吸収され、フルオロフォアのエネルギーは短時間により高い励起状態に上昇する。その後に基底状態に戻ると、検出及び測定され得る蛍光の放出が起こる。放出された光の検出は、画像を生成するために使用され得る。
【0030】
したがって、フルオロフォアは、光励起に応答して光を放出する分子であり、再放出された光は、励起に使用される光よりも波長が長い。いかなるフルオロフォアも、励起及び発光スペクトルのピークに対応する定義された最大励起及び発光波長を有する。例としては、フルオレセイン(FITC)、ローダミン誘導体(TRITC)、クマリン誘導体、及びシアニン誘導体が挙げられる。
【0031】
蛍光顕微鏡検査は、例えば、サンプル内の1つ以上の標的分子の存在または位置を検出するために使用され得る。ある特定の標的分子、例えば核酸は、蛍光染色剤(内因的に蛍光を発する小分子であり得る)を使用して検出することができる。DAPI及びHoechstなどの核酸染色剤は、DNAの副溝に結合することから細胞核を蛍光標識するために慣例的に使用されている好適な例である。サンプル内の他の標的分子の存在または位置を検出するには、標的分子に結合する特異的結合剤の能力を操作することができる。例えば、抗体を結合剤として使用することはよく知られている。そのような方法では、特定の標的分子に対する抗体を使用することができる。一次抗体(標的分子に結合するもの)を蛍光分子で標識してもよいし、この蛍光分子を、一次抗体に結合する第2の抗体に搭載してもよい。このようにして、サンプル内の特定の位置における蛍光の検出は、標的分子がその位置に存在することを示す。
【0032】
以下にさらに詳細に記載するように、本方法は、FRETオリゴヌクレオチドとTオリゴヌクレオチドとの間の解離及び再会合の結果として生成される蛍光動態シグナルの観察を含むため、本方法では蛍光顕微鏡検査が使用される。
【0033】
多重化
本明細書で使用される多重化とは、複数の結合剤が使用されることを意味し、これは一般に、複数の標的分子が存在すれば、それらが同じサンプル中で検出され得ることを意味する(ただし、複数の結合剤は、原理上、複数の抗体が大きなポリペプチドに結合し、各抗体が異なるエピトープに結合する場合など、単一の標的分子に結合し得る)。したがって、多重化は、複数の標的分子を並行して観察することを可能にし得る。
【0034】
これらの結合剤は、概して、例えば同時にサンプルと接触し、それぞれの標的が同じサンプル中に存在する場合には、それらに結合し得る。標準的な多重化アッセイの一例は、1つの標的分子に対する第1の一次抗体と、第2の標的分子に対する第2の一次抗体とを使用することである。次いで、サンプル及び結合した任意の一次抗体を、複数のフルオロフォア、すなわち第1の二次抗体に対する第1のフルオロフォアと、第2の二次抗体に対する第2のフルオロフォアとで標識された、対応する二次抗体と接触させる。2つのフルオロフォアの各々から全てのシグナルを検出することにより、サンプル内の2つの標的分子の位置の画像を生成することができる。
【0035】
したがって、多重化プロセスには、同じサンプルから複数の蛍光シグナルを検出する能力が必要である。標準的な蛍光顕微鏡検査技術において、これは、複数のフルオロフォア、例えば、差別化できるように十分に異なる波長の光を放出するフルオロフォアを使用することによって行われ得る。好適な例は、第1のフルオロフォアとしてフルオレセインに基づく分子を使用して、第2のフルオロフォアとしてローダミンに基づく分子を使用する方法である。しかし、上述のように、フルオロフォアに関しては多重化が困難である。ほとんどのフルオロフォアの発光スペクトルは広いため、標準的な蛍光顕微鏡では多重化が4つまたは5つの標識に制限される。さらに、二次抗体の使用に依存する技術では、異なる種に由来する抗体を使用することによって二次抗体間にクロスハイブリダイゼーションが生じないことを確実にする必要もある。これにより可能な組み合わせの数が制限されるが、この制限は、本発明で克服される。
【0036】
本発明では、多重化は、少なくとも、関連するエミッター分子の発光波長での蛍光シグナルの存在または非存在だけでなく、その時間的パターンも観察されるということによって達成される。関連するエミッター分子の発光波長での蛍光の存在または非存在を単に観察するのではなく、複数の「蛍光動態プロファイル」が観察される。蛍光動態プロファイルの使用は、使用される各チャネルから、より多くの情報を取得できることを意味する。異なる特異性を有する複数の結合剤が使用され、各結合剤はTオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされている。Tオリゴヌクレオチドの配列は、それがコンジュゲートされている結合剤に特有である。Tオリゴヌクレオチドのセットには、セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができる、対応するFRETオリゴヌクレオチドがある。Tオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドの配列は、形成されるペアが解離及び再会合を起こすようなものであり、異なる各ペアの間のこの解離及び再会合は、セット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する。蛍光動態プロファイルはセット内でそのペアに特有であるため、1つ以上のピクセルにおける特定の蛍光動態プロファイルの観察は、サンプル中のその位置における特定のTオリゴヌクレオチドの存在(したがって、サンプル中のその位置における、Tオリゴヌクレオチドがコンジュゲートされている結合剤の存在、そして最終的には結合剤が結合する標的分子)を示す。言い換えれば、1つ以上のピクセルにおける特定の蛍光動態プロファイルの観察は、サンプル中のその位置に、対応する標的分子が存在することを示す。
【0037】
本明細書で使用される「蛍光動態プロファイル」という用語は、Tオリゴヌクレオチドとその対応するFRETオリゴヌクレオチドとの任意のペアの経時的な解離及び再会合から生じる蛍光放出のパターンを表す。エミッター分子の発光波長における(ペアの経時的な解離及び再会合の直接の結果である)エミッター分子からの蛍光は、経時的な蛍光強度として表すことができる(例えば、
図3~5、12、及び13に示されるようにプロットされる)。ただし、各ペアの解離及び再会合は確率的プロセスであるため、ペアの蛍光動態プロファイルの個々の観察が、必ずしも毎回同一に見えるとは限らず、所定のペアの蛍光動態プロファイルの各個の観察が、プロットに表されたときに異なって見える場合があることは理解されよう。しかし、ペアの蛍光動態プロファイルには、それらの蛍光動態プロファイルの各個の観察の間で一貫している、認識できる特性または特徴がある。これらの一貫した特性または特徴を使用することで、ペアの蛍光動態プロファイルを記述及び/または定義することができる。これらの特性または特徴には、本明細書の他の箇所で説明されるメトリックが含まれる。
【0038】
したがって、単一の観察された蛍光動態プロファイルは、1つ以上の一貫した特性または特徴(例えば、本明細書の他の箇所で言及されるメトリックのうちの1つ以上)を参照して記述され得る。したがって、ペアの単一の観察された蛍光動態プロファイルは、必ずしもそれが観察されるたびに同一に見えるとは限らないが、所定のペアの蛍光動態プロファイルは独特であり、その一貫した特性または特徴が各セット内のペアの識別を可能にするため、各セット内のペアに特有である(または、各セット内のペアについて一意に認識できる)、またはセット群内で特有である(または、セット群内のペアについて一意に認識できる)と記述され得る。
【0039】
単一のFRETオリゴヌクレオチドが複数のペアを形成でき、その各々が独特の蛍光動態プロファイルを生成し、各蛍光動態プロファイルが、ペアを形成したTオリゴヌクレオチドに特異的であり、したがってそれを示すため、本件の方法は、効果的な多重化に容易に適応し、実際、そのために設計されている。観察段階では、蛍光動態プロファイルが、1つ以上のピクセルで観察され、記録され得る。蛍光動態プロファイルが観察されるところでは、蛍光動態プロファイルに基づいて、各ピクセルにアイデンティティが割り当てられ得る。これは概して、蛍光動態プロファイルの区別可能なメトリックを計算すること、そして場合により、観察されるサンプル中の1つ以上のピクセルに、そのピクセルにおけるサンプルの蛍光動態プロファイルのメトリックに基づいてアイデンティティを割り当てることによって達成される。各々の異なるTオリゴヌクレオチド-FRETオリゴヌクレオチドペアが独自の蛍光動態プロファイルを生成するため、単一のFRETオリゴヌクレオチドでも、多重化が達成され得る。実際、複数の蛍光動態プロファイルを観察でき、場合により、同じスペクトルチャネルで記録できるため、単一のFRETオリゴヌクレオチドを使用することは有利である。
【0040】
本発明の方法において、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、概して、異なる特異性を有する複数の結合剤を含む。例えば、異なる特異性を有する、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上または10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、19個以上、20個以上、21個以上、22個以上、23個以上、24個以上、または25個以上の結合剤がセット内にあってもよく、各結合剤は、Tオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされており、Tオリゴヌクレオチドの配列は、それがコンジュゲートされている結合剤に特有である。例えば、異なる特異性を有する、最大3個、最大4個、最大5個、最大6個、最大7個、最大8個、最大9個、最大10個、最大11個、最大12個、最大13個、最大14個、最大15個、最大16個、最大17個、最大18個、最大19個、最大20個、最大21個、最大22個、最大23個、最大24個、最大25個の結合剤がセット内にあってもよく、各結合剤は、Tオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされており、Tオリゴヌクレオチドの配列は、それがコンジュゲートされている結合剤に特有である。好適な範囲には、セット内の、異なる特異性を有する、2~25個、3~24個、4~23個、5~22個、6~21個、7~20個、8~19個、9~20個、10~19個、11~18個、12~17個、13~16個、14~15個の結合剤が含まれ、各結合剤は、Tオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされており、Tオリゴヌクレオチドの配列は、それがコンジュゲートされている結合剤に特有である。
【0041】
使用する異なるFRETオリゴヌクレオチドの数を増加させることにより、より多くの異なる蛍光動態プロファイルを達成することができる。これは、非常に多様な配列を有するTオリゴヌクレオチドのセットを使用しても、所定のFRETオリゴヌクレオチド(すなわち、所定の配列を有するFRETオリゴヌクレオチド)について、生成できる異なる蛍光動態プロファイルの数が有限であり得るためである。本方法で使用される、各FRETオリゴヌクレオチドが対応するTオリゴヌクレオチドのセットを有する、異なるFRETオリゴヌクレオチドの数を増加させることで、生成され得る異なる蛍光動態プロファイルの数が増加し得る。したがって、より多くの異なる結合剤を本発明の方法で使用することができ、より多くの標的分子を単一の実験で検出することができる。
【0042】
上記で説明したように、各蛍光放出(「点滅」として概念化され得る)の間の平均時間は、蛍光動態プロファイルの一成分であり、観察された蛍光動態プロファイルから導出され得るメトリックである。Tオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドが比較的速くハイブリダイズまたは会合するとき、すなわち、2成分が互いから解離した状態にある持続時間が短い(オフ時間が短い)とき、エミッター分子の発光波長における各蛍光放出の間の短い平均時間が見られる。例えば
図3では、プロファイルB及びCは、プロファイルAよりもオフ時間が短いペアを表す。Tオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドが比較的速くハイブリダイズまたは会合するが、比較的速く解離もする場合には、高い頻度または速度の「点滅」が見られる。単一のFRETオリゴヌクレオチドと、1セットのTオリゴヌクレオチドとを使用して、ある特定の範囲の点滅動態プロファイルを達成することが可能であり得る。第2のFRETオリゴヌクレオチド及び対応するTオリゴヌクレオチドのセットを使用すると、第1のFRETオリゴヌクレオチド及び対応するTオリゴヌクレオチドのセットから生じるものとは異なる蛍光動態プロファイルを生成することが可能になり得る(例えば、それらは、第1の範囲とオーバーラップする、またはオーバーラップしない範囲を生じさせ得る)。
【0043】
容易に(例えば異なる蛍光動態プロファイルの数を増加させるために)変更できるFRETオリゴヌクレオチドの一態様は、FRETオリゴヌクレオチドの長さである。長いオリゴヌクレオチドは、短いオリゴヌクレオチドよりもそのペアに強くハイブリダイズすることにより、FRETオリゴヌクレオチド及びTオリゴヌクレオチドが解離するのにかかる平均時間を増加させる可能性がある。これは、ペアのK
offという観点から表すことができる(例えば、より弱くハイブリダイズするペアよりも、より強くハイブリダイズするペアについて、低下したK
off値が見られる)。したがって、より長いFRETオリゴヌクレオチドは、FRETオリゴヌクレオチドがより短いペアよりも、蛍光放出の平均持続時間がより長い(すなわち、オン時間がより長い)蛍光動態プロファイルを生成するペアに寄与し得る。例えば
図3において、プロファイルBは、プロファイルA及びCよりもオン時間が長いペアの蛍光動態プロファイルの表現である。
【0044】
1つのより長いFRETオリゴヌクレオチドと、1つのより短いFRETオリゴヌクレオチドとを有することは、増加した範囲の点滅動態プロファイルを生じさせるためのアプローチの一例にすぎない。他の例には、塩基含有量を変えることが含まれる(例えば、GCリッチなFRETオリゴヌクレオチドは、ATリッチなオリゴヌクレオチドよりも強くそのペアにハイブリダイズする可能性を有する傾向があり、それにより、GCリッチなFRETオリゴヌクレオチドは、FRETオリゴヌクレオチド及びTオリゴヌクレオチドが解離するのにかかる平均時間を増加させる)。これは、ペアのKoffという観点から表すことができる(例えば、より弱くハイブリダイズするペアよりも、より強くハイブリダイズするペアについて、低下したKoff値が見られる)。
【0045】
複数の蛍光動態プロファイルを生成する厳密な方法にかかわらず、Tオリゴヌクレオチドの複数のセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチドとを作ることによって、生成され得る異なる蛍光動態プロファイルの数が増加することは理解されよう。
図3は、これを簡略化した形式で示している。プロファイルB及びCは、プロファイルAよりもオフ時間が短いペアを表し、プロファイルA及びCは、プロファイルBよりもオン時間が短いペアを表す。例えばオン時間及びオフ時間の値が異なる、多数の異なる蛍光動態プロファイルが生成され得ることは理解されよう。これにより、多重化の可能性が高まる。言い換えれば、Tオリゴヌクレオチドの単一のセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチドとを使用するよりも、Tオリゴヌクレオチドの複数のセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチドとを使用することにより、より高度な多重化が可能である。以下でさらに詳細に説明するように、蛍光動態プロファイルから導出または計算することができる例示的で非限定的なメトリックには、(i)各蛍光放出の間の平均時間(オフ時間とも呼ばれる)、(ii)蛍光放出の平均持続時間(オン時間とも呼ばれる)、及び(iii)蛍光放出の発生率が含まれ得る。
【0046】
上記を説明すると、所定の結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド1~10)を含み得る。FRETオリゴヌクレオチドAは、例えば、これら10個のTオリゴヌクレオチドに可逆的にハイブリダイズし、10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル1~10)を生成し得る。例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド11~20)を含むさらなる結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチド(FRETオリゴヌクレオチドB)とを追加することにより、さらに10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル11~20)を使用することができる。FRETオリゴヌクレオチドA及びFRETオリゴヌクレオチドBが、同じチャネルで観察され得る蛍光を放出する場合(例えば、それらが、オーバーラップする発光スペクトルを有するエミッター分子を含む場合、または、それらが同じエミッター分子を含む場合)、20個の異なる蛍光動態プロファイルのすべてが、単一のスペクトルチャネルで観察され得る。FRETオリゴヌクレオチドA及びFRETオリゴヌクレオチドBが、蛍光動態プロファイルを観察するために複数のスペクトルチャネルを必要とする蛍光を放出する場合、または、それらが異なるチャネルで観察され得る場合、もしくは異なるチャネルで最適に観察される場合(例えば、それらが、オーバーラップしない発光スペクトルを有するエミッター分子を含む場合、またはそれらが、発光最大値の異なる発光スペクトルを有するエミッター分子、もしくは異なるエミッター分子を含む場合)、蛍光動態プロファイルを観察するために、複数のスペクトルチャネルが使用され得る。
【0047】
複数のFRETオリゴヌクレオチド及び対応するTオリゴヌクレオチドが使用される場合、本明細書ではこれを、Tオリゴヌクレオチドのセット群を使用するという。Tオリゴヌクレオチドのセット群が使用される場合でも、存在する各Tオリゴヌクレオチドの配列は、それがコンジュゲートされている結合剤に特有である。さらに、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、(i)そのセット内でそのペアに特有であり、かつ(ii)該セット群内でそのペアに特有である蛍光動態プロファイルを生成する。さらに、いくつかの実施形態では、各Tオリゴヌクレオチドは、その対応するFRETオリゴヌクレオチドだけにハイブリダイズし、該セット群内の他のセットのFRETオリゴヌクレオチド(複数可)にはハイブリダイズしない。蛍光動態プロファイル、Tオリゴヌクレオチド、及び結合剤の間の相関関係が維持されるように、クロスハイブリダイゼーションは避けるべきである。
【0048】
さらなるレベルの多重化は、例えば、異なるチャネルで検出され得る蛍光放出としての蛍光動態プロファイルを生成するために、異なる発光スペクトルを有するフルオロフォアを含むFRETオリゴヌクレオチドを使用して、蛍光動態シグナルが観察される異なるチャネルの数を増加させることによって達成され得る。このような場合、生成される蛍光動態プロファイルの各々は異なり得るが、複数のチャネルを使用することは、特定の蛍光動態プロファイルがセット群間で複製され得ることを意味する。言い換えれば、類似またはさらには同一の蛍光動態プロファイルを生成する2つ以上のペアが、異なるチャネルで観察される蛍光放出としての蛍光動態プロファイルを生成すれば、非常に類似またはさらには同一の蛍光動態プロファイルを生成するこれら2つ以上のペアを使用することができる。
【0049】
このタイプの多重化では、各Tオリゴヌクレオチドは依然として、それがコンジュゲートされている結合剤に特有の異なる配列を有し、セット内の異なる各ペアは、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成するが、異なるチャネルで検出され得る蛍光放出としての蛍光動態プロファイルを生成するFRETオリゴヌクレオチドを使用すると、多重化の可能性がさらに向上する。
【0050】
上記を説明すると、所定の結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド1~10)を含み得る。FRETオリゴヌクレオチドA(例えば、「赤」の蛍光を発する)は、例えば、これら10個のTオリゴヌクレオチドに可逆的にハイブリダイズし、10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル1~10)を生成し得る。例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド11~20)を含むさらなる結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチド(FRETオリゴヌクレオチドB(例えば、同じく「赤」の蛍光を発する))とを追加することにより、さらに10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル11~20)を使用することができる。FRETオリゴヌクレオチドA及びFRETオリゴヌクレオチドBは、オーバーラップする発光スペクトルを有するエミッター分子を含むため(例えば、それらが同じエミッター分子を含む場合)、それらの蛍光を同じチャネル(ここでは「赤」という)で観察することができ、それゆえ、20個の異なる蛍光動態プロファイルのすべてを単一のチャネルで観察することができる。ここで、Tオリゴヌクレオチド1~10を含む結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートは1セットであり、Tオリゴヌクレオチド11~20を含む結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートは第2のセットであり、したがって、Tオリゴヌクレオチド1~20を含む結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートは「セット群」である。
【0051】
さらなる結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット群を使用してもよく、例えば、さらなる結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド21~30)を含み得る。FRETオリゴヌクレオチドC(例えば、「緑」の蛍光を発する)は、例えば、これら10個のTオリゴヌクレオチドに可逆的にハイブリダイズし、10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル21~30)を生成し得る。例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド31~40)を含むさらなる結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチド(FRETオリゴヌクレオチドD(例えば、同じく「緑」の蛍光を発する))とは、さらに10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル31~40)を生成し得る。FRETオリゴヌクレオチドC及びFRETオリゴヌクレオチドDは、オーバーラップする発光スペクトルを有するエミッター分子を含むため(例えば、それらは同じエミッター分子を含む)、それらの蛍光を同じチャネル(ここでは「緑」という)で観察することができ、したがって、20個の異なる蛍光動態プロファイルのすべてを単一のチャネルで観察することができる。ここで、Tオリゴヌクレオチド21~30を含む結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートは1セットであり、Tオリゴヌクレオチド31~40を含む結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートは第2のセットであり、したがって、Tオリゴヌクレオチド21~40を含む結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートは「セット群」である。
【0052】
したがって、この例では、これら2つのセット群(すなわち「複数のセット群」)を多重化蛍光顕微鏡検査法において一緒に使用することができ、ここでは40個の結合剤が使用され得る。各結合剤-Tオリゴヌクレオチドは、それがコンジュゲートされている結合剤に特有の配列を有するTオリゴヌクレオチドを含む。さらに、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、(i)各セット内でそのペアに特有であり、かつ(ii)各セット群内でそのペアに特有である蛍光動態プロファイルを生成する。異なる各ペアの間の解離及び再会合は、同じく複数のセット群内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成し得るが、2つの蛍光動態プロファイルが、異なるエミッター分子(例えば、異なるチャネルで観察され得る、異なる蛍光発光スペクトルなどの発光スペクトルを有するエミッター分子)を有するFRETオリゴヌクレオチドによって生成される場合、2つの類似または同一の蛍光動態プロファイルが使用され得るため、これは必須ではない。
【0053】
したがって、上記の理論上の例では、40個の異なる蛍光動態プロファイルを生成するようにオリゴヌクレオチドが設計され得る。例えば、FRETオリゴヌクレオチドA及び1つのTオリゴヌクレオチド、ならびにFRETオリゴヌクレオチドC及び別のTオリゴヌクレオチドを使用するペアが、両方とも類似または同一の蛍光動態プロファイルを生じさせる場合、40個より少ない異なる蛍光動態プロファイルを生成するオリゴヌクレオチドを使用することができる。これは、FRETオリゴヌクレオチドAを使用して取得される蛍光動態プロファイルと、FRETオリゴヌクレオチドCを使用して取得されるものとが、異なるチャネルで検出されるためである。
【0054】
したがって、上記は、本発明を使用した場合にさらなる多重化がどのように達成され得るかを示す。厳密に上記のとおりに多重化を構築する必要はない。例えば、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセットを使用することが可能であり、ここで、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セットについての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルは、そのセットに特異的なチャネルで検出することができ、サンプルの蛍光動態プロファイルを観察するステップは、各セットに対するチャネルでサンプルの蛍光動態プロファイルを観察することを含む。
【0055】
例えば、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第1のセットは、例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド1~10)を含み得る。FRETオリゴヌクレオチドA(赤)は、例えば、これら10個のTオリゴヌクレオチドに可逆的にハイブリダイズし、10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル1~10)を生成し得る。例えば、10個のTオリゴヌクレオチド(Tオリゴヌクレオチド11~20)を含む結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセットと、対応するFRETオリゴヌクレオチド(FRETオリゴヌクレオチドB(緑))は、10個の異なる蛍光動態プロファイル(プロファイル11~20)を生成する。各結合剤-Tオリゴヌクレオチドは、それがコンジュゲートされている結合剤に特有の配列を有するTオリゴヌクレオチドを含む。異なる各ペアの間の解離及び再会合は、各セット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する。蛍光動態プロファイルは、複数のセット内でそのペアに特有であり得るが、必ずしもそうとは限らない。異なる各ペアの間の解離及び再会合は、同じく複数のセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成し得るが、2つの蛍光動態プロファイルが、異なるエミッター分子(例えば、異なるチャネルで観察され得る、蛍光発光スペクトルなどの発光スペクトルを有するエミッター分子)を有するFRETオリゴヌクレオチドによって生成される場合、2つの類似または同一の蛍光動態プロファイルが使用され得るため、これは必須ではない。
【0056】
別の例では、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つまたは複数のセットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セットについての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルが、そのセットに特異的なチャネルで検出され得る、1つまたは複数のセットを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つまたは複数のセット群であって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルが、そのセット群に特異的なチャネルで検出され得る、1つまたは複数のセット群と共に使用する。言い換えれば、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのある(例えば1つの)セットを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのある(例えば1つの)セット群と共に使用してもよい(ここで、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルは、その群に特異的なチャネルで検出され得る)。結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのある(例えば1つの)セットを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセット群と共に使用してもよい(ここで、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルは、その群に特異的なチャネルで検出され得る)。結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セットについての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルが、そのセットに特異的なチャネルで検出され得る、複数のセットを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのある(例えば1つの)セット群であって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルが、その群に特異的なチャネルで検出され得る、セット群と共に使用してもよい。結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セットについての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルが、そのセットに特異的なチャネルで検出され得る、複数のセットを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセット群であって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルが、その群に特異的なチャネルで検出され得る、複数のセット群と共に使用してもよい。
【0057】
本発明に従って多重化がどのように達成され得るかについての特定の例には、表1にまとめられたものが含まれる。
【表1-1】
【表1-2】
【0058】
サンプル
サンプルは、概して、1つ以上の細胞(例えば、細胞の集団)を含むか、または細胞もしくは細胞の集団からの細胞溶解物を含み得る。サンプルは、原核細胞または真核細胞、例えば動物、植物、酵母、細菌、または他の細胞を含み得る。細胞は動物細胞であることが好ましい。それらは動物由来であり得、特に哺乳動物由来であり得る。それらは初代細胞でもよく、または哺乳動物細胞株などの細胞株である細胞でもよい。サンプルは、疾患の動物モデルまたは疾患を有するヒトもしくは動物患者に由来する細胞を含み得る。サンプルは、例えば動物(好ましくはヒトまたはマウスもしくはラットなどの実験動物のような哺乳動物)由来の生物学的サンプルでもよく、サンプルは、例えば血液、痰、リンパ液、粘液、糞便、尿などでもよい。サンプルは、組織切片などの組織サンプルでもよい。サンプルは、水サンプル、空気サンプル、食品サンプルなどの環境サンプルでもよい。
【0059】
サンプルの固定
本発明の方法は、化学的に固定されたサンプルであり得る固定サンプルに対して行われる。蛍光顕微鏡検査用のサンプルの固定はよく知られており、サンプルを保存するために(例えば、生存時の状態に構造的に近い状態で細胞の形態を維持するために)行われる。切除組織を使用する場合、固定により、その自己溶解及び壊死も防止できる。また、抗原性を保存し、本方法で使用される成分が細胞の内部部分により容易にアクセスできるようにすることもできる。
【0060】
本発明の方法は、例えばサンプルを保存するために、サンプルを固定する1つ以上のステップをさらに含み得る。これは、本明細書に記載される方法のステップa)の前に行われ得る。固定サンプルを結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットと接触させて、サンプル中に存在する任意の結合パートナーと結合剤を結合させた後、かつ、サンプル及びステップa)の結果として結合した任意の結合剤をFRETオリゴヌクレオチドと接触させる前に、さらなる任意選択の固定ステップを行ってもよい。本方法のこの段階でさらなる固定ステップを行うことは、サンプル上で結合した結合剤をさらに固定化するために有利である。結合剤は、例えば静電結合を使用してその標的分子に結合し得るが、固定を行うと、サンプルのさらなる処理ステップが向上し得る。この向上は、固定によって、サンプル中の結合した結合剤と標的分子との間により強い結合が作り出され得ること、例えば、サンプル中の結合した結合剤と標的分子とが共有結合で架橋されるということの結果として生じ得る。
【0061】
化学的固定などの固定は、当技術分野でよく知られている。
【0062】
化学的固定を行うための好適な方法の例としては、例えば、アルデヒドに基づくものなどの架橋固定剤(例えば、サンプル中のタンパク質間に共有結合性化学結合を作り出すため)、または酸化架橋固定剤の使用が挙げられる。アルデヒドに基づく固定剤の例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、パラホルムアルデヒドが挙げられる。酸化架橋固定剤は、例えば四酸化オスミウム、クロム酸、重クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウムである。あるいは、沈殿固定剤、例えばアセトン、エタノール、メタノールを使用してもよい。代替的な薬剤には、Hepes-グルタミン酸バッファー媒介有機溶媒保護効果(HOPE)固定剤、B-5及びツェンカー固定剤などの水銀剤、ならびにピクリン酸塩が含まれる。好ましくは、アルデヒド架橋固定剤が使用される。
【0063】
サンプルの透過処理
サンプルの透過処理を行ってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、例えば、本方法で使用される分子が細胞の内部にアクセスできるようにするために、サンプルを透過処理する1つ以上のステップを含む。これは、本明細書に記載される方法のステップa)の前、かつ任意の固定ステップの前、その後、またはそれと同時に行われ得る。好適な透過処理剤及びプロトコルは、当技術分野で公知であり、サポニン、Triton-X及びTween-20などの薬剤の使用を含む。好適なプロトコルは、例えば、Jamur M.C.,Oliver C.((2010)Permeabilization of Cell Membranes. In:Oliver C.,Jamur M.(eds)Immunocytochemical Methods and Protocols. Methods in Molecular Biology(Methods and Protocols),vol 588. Humana Press)に記載されているか、またはhttps://www.abcam.com/ps/pdf/protocols/fixation_permeabilization.pdfに記載されているとおりである。
【0064】
さらなるサンプル処理
ステップa)では、固定サンプルを結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットと接触させて、サンプル中に存在する任意の結合パートナーと結合剤を結合させる。概して、サンプルは固定され、したがって、蛍光顕微鏡検査のための任意の好適な時点で、固体支持体に付着する。接触ステップは、サンプル中に存在する任意の結合パートナーに結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットが結合することを可能にする任意の適切な様式で行われ得る。これは概して、サンプルが付着する固体支持体に、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットを含む溶液を適用することによる。結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートは、例えば5~50ug/ml(または1~500、2~250ug/ml)の濃度で溶液中に存在し得る。
【0065】
好適な条件には、例えば、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲート及びBSAまたはサケ精子DNAなどのブロッキング試薬を含む緩衝液中、約4℃、または約15~25℃でのインキュベーションが含まれる。
【0066】
接触させることは、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットを任意の結合パートナーに結合させるために、任意の適切な長さの時間にわたって継続し得る。例示的な期間には、10分から2時間、例えば30分から1時間が含まれる。
【0067】
本明細書に記載される本方法の利点は、洗浄ステップが必要なく、例えば上記で説明したDNA-PAINT法と比較すると、バックグラウンド蛍光レベルが概して高くないことである。これは、質の良いデータを取得するために、非結合状態の成分を除去する洗浄ステップが概して必要とされないことを意味する。しかし、ステップaの後に、非結合状態の結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートを除去するステップを行ってもよい。これは、FRETオリゴヌクレオチドが非結合状態の結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートに結合する場合があり、それによってバックグラウンド蛍光が生じ得ることから、バックグラウンド蛍光レベルをさらに低下させるために行われ得る。
【0068】
洗浄ステップは、例えば、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートを含む溶液を除去し、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートを含まない液体、例えば適切なバッファーの1回以上の交換でこれを置き換えることによって行われ得る。
【0069】
サンプル及びステップaの結果として結合した任意の結合剤をFRETオリゴヌクレオチドと接触させるステップは、ステップaの直後、または1つ以上の洗浄ステップの後に行われ得る。接触ステップは、FRETオリゴヌクレオチドが1つ以上のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることを可能にする任意の適切な様式で行われ得る。このようにして、複数のペアが形成される。これは概して、FRETオリゴヌクレオチドを含む溶液を、サンプル及びステップaの結果として結合した任意の結合剤に適用することによって行われる。FRETオリゴヌクレオチドは、例えば1pM~1uM(または10pM~500nM、20pM~250nM、50pM~100nM、100pM~50nM、200pM~25nM、500pM~1nM)の濃度で溶液中に存在し得る。
【0070】
エミッター分子の励起を引き起こす波長でサンプルを照射するステップ、及びサンプルの動態蛍光プロファイルを1つ以上のピクセルで経時的に観察するステップは、概して、サンプルがFRETオリゴヌクレオチドと接触してから行われる。したがって、照射及び観察ステップは、サンプルがFRETオリゴヌクレオチドと接触している間に行われ、サンプルがFRETオリゴヌクレオチドと接触している限り、または蛍光動態プロファイルをキャプチャし、場合により記録するために好適な期間にわたって継続し得る。
【0071】
オリゴヌクレオチド
TオリゴヌクレオチドまたはFRETオリゴヌクレオチドなどのオリゴヌクレオチドは、連結された単位を含む線状ポリマー分子であり、その単位は核酸塩基またはその機能的均等物を含む。核酸塩基は、アデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシル、イノシン、シュードウリジン、ジヒドロウリジン、7-メチルグアノシン(好ましくは、アデニン、チミン、グアニン、シトシン、及びウラシルから選択される)などの天然に発生する核酸塩基、及びそれらの誘導体、またはイソシトシン、イソグアニンなどの天然に発生しない核酸塩基であり得る。核酸塩基を含む単位は、ヌクレオシド(核酸塩基及び糖基、例えば五炭糖、好ましくはリボースまたはデオキシリボース)でもよいが、好ましくはヌクレオチド(ヌクレオシド及びリン酸)である。ヌクレオチドは、DNA及びRNAの単量体単位であり、本発明の方法で使用されるオリゴヌクレオチドは、ヌクレオチド、例えばデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはそれらの類似体を含むことが好ましい。
【0072】
好ましくは、オリゴヌクレオチドは蛍光核酸塩基を含まない。好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチドはDNAであるか、またはDNAを含む。
【0073】
オリゴヌクレオチドのよく知られている例としては、DNA、RNA、または他の核酸様構造であるか、またはそれらを含むものが挙げられる。それらは、リン酸-糖骨格、または非リン酸-糖部分(例えば、ペプチド核酸(PNA)及びモルホリノ)を含む骨格を有し得る。リン酸-糖骨格類似体には、PNA、モルホリノ及びロックド核酸(LNA)、ならびにグリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)及びヘキシトール核酸(HNA)が含まれる。これらは各々、分子の骨格に対する変化により、天然に存在するDNAまたはRNAから区別される。
【0074】
本発明は、一本鎖分子としてのオリゴヌクレオチドが、相補的または部分的に相補的なオリゴヌクレオチドとハイブリダイズして、二本鎖ペアを形成する能力を利用する。2つの完全に相補的または部分的に相補的なオリゴヌクレオチドは、当技術分野でよく知られているように、相補的塩基ペアリングに基づいて互いに結合して二本鎖分子を形成することができる。
【0075】
本発明の方法において、Tオリゴヌクレオチド及びそれらの対応するFRETオリゴヌクレオチドは、概して部分的にのみ相補的である配列を有するように設計され、その結果、Tオリゴヌクレオチドとそれらの対応するFRETオリゴヌクレオチドとの間に形成されるオリゴヌクレオチドペアは、一時的にのみ二本鎖形態になる。各ペアは、一定期間にわたって会合及び解離のプロセスを受ける。FRETオリゴヌクレオチドは蛍光エミッター分子及び消光体を含むため、ハイブリダイゼーションの一時的な性質が蛍光動態プロファイルに反映される。FRETオリゴヌクレオチドが溶液中にあるとき、消光体が蛍光エミッター分子に近接しているということは、適切な波長の光を照射した際に、エミッター分子から放出された蛍光が消光体によって消光され、エミッター分子の発光波長では検出されないことを意味する。FRETオリゴヌクレオチドがTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすると、それによってFRETオリゴヌクレオチドの構造が拘束されて、消光体及び蛍光エミッター分子が物理的に分離され、その結果、適切な波長の光を照射した際に、エミッター分子から放出された蛍光が消光体によって消光されず、エミッター分子の発光波長で観察できるようになる。したがって、各ペアの2つのメンバー間の会合は、エミッター分子の発光波長での蛍光に関連し、解離は、エミッター分子の発光波長での蛍光の非存在に関連する。
【0076】
Tオリゴヌクレオチドの各セットにおいて、セットのメンバーは、異なる配列を有し、それらの配列に依存する様式で、対応するFRETオリゴヌクレオチドと解離及び再会合する。したがって、各ペアの2つのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション動態により、観察され得る蛍光動態プロファイルが決まる。
【0077】
オリゴヌクレオチドは、その相補的または部分的に相補的なペアに結合していないとき、一本鎖である場合があり、安定な二次構造を持たない場合がある。好ましい実施形態において、本明細書で使用されるオリゴヌクレオチドは、一本鎖形態では、ヘアピンループなどの安定な二次構造を形成しない。これは、本発明における利点を提供する。なぜなら、そのような安定な二次構造を形成しないオリゴヌクレオチドは、より容易に、したがってより迅速にペアを形成することができ、イメージングにより適したものとなるからである。
【0078】
Tオリゴヌクレオチド
Tオリゴヌクレオチドは、それがコンジュゲートされている結合剤に特異的な配列を有する。また、Tオリゴヌクレオチドは、その対応するFRETオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることが可能である。オリゴヌクレオチドの配列は、それを構成する単位の性質及び順序によって決定される。その配列を定義するには(例えば、分子の塩基配列に関して)、標準的な用語が使用され得る。
【0079】
Tオリゴヌクレオチドは、概して、8~35ヌクレオチドまたは均等な単位の長さであり、1ヌクレオチド単位は、標準的なDNAヌクレオチド単位のサイズである。あるいは、Tオリゴヌクレオチドは、9~30、10~29、11~28、12~27、13~26、14~25、15~24、16~23、17~22、18~21、または10~19、11~18、12~17、13~18、14~17、15~16ヌクレオチド単位の長さ(例えば、最大35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、または少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34ヌクレオチド単位の長さ)でもよい。
【0080】
Tオリゴヌクレオチドは、概して、その対応するFRETオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることが可能であり、概して、セット内の他のTオリゴヌクレオチド、または使用される場合にはセット群内の他のTオリゴヌクレオチドにはハイブリダイズしない。概して、各Tオリゴヌクレオチドは、その対応するFRETオリゴヌクレオチドにハイブリダイズし、その対応するFRETオリゴヌクレオチド以外の、本方法で使用されるFRETオリゴヌクレオチドにはハイブリダイズしない。
【0081】
Tオリゴヌクレオチド及びその対応するFRETオリゴヌクレオチドは、相補的なヌクレオチドまたはその機能的均等物を含む。2本のオリゴヌクレオチド鎖に相補的塩基が存在する場合、相補的塩基間に水素結合が発生し得る。ハイブリダイゼーションは、2本のオリゴヌクレオチド鎖間の非共有結合性で配列特異的な相互作用であり、2本の鎖の単一複合体を形成する。
【0082】
1つ以上のミスマッチを有する2つの相補鎖も互いに結合し得るが、ミスマッチによってそれらの間の結合がさほどエネルギー的に好都合でなくなるため、さほど容易には結合しない。結合特性に対する変化は、少なくとも、(i)オリゴヌクレオチドの(例えば、オーバーラップ領域にわたる)長さ、(ii)配列の組成、(ii)相補性の(例えば、オーバーラップ領域にわたる)程度、(iii)2本の鎖におけるミスマッチの位置(隣接するミスマッチは、一般に、隣接しないミスマッチよりも、2本の鎖の間の相互作用の安定性に大きな影響を及ぼす)、(iv)相補的ペアの性質(例えば、核酸塩基A=Tのペアは、G≡Cペアよりも不安定な結合を形成する)に依存する。
【0083】
本明細書の他の箇所で説明するように、Tオリゴヌクレオチドは概して、8~35または9~20オリゴヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドは、FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子のフェルスター半径を超える長さ、及び/または(ii)少なくとも12ヌクレオチド単位の長さである。
【0084】
一般に、2つのオリゴヌクレオチドがハイブリダイズする強さは、2本の鎖の間の相補性の程度(すなわち、各オリゴヌクレオチドの全長と比較して、または配列が同じ長さでない場合は2つのオリゴヌクレオチド間のオーバーラップの長さと比較して、相補的である塩基の数)にも依存する。ハイブリダイゼーションが起こるには、ある程度の配列相補性が必要である。
【0085】
概して、Tオリゴヌクレオチドと、その対応するFRETオリゴヌクレオチドとの間には、そのようなペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数と比較して、0~40%、10~40%、または20~40%の範囲のミスマッチがある。Tオリゴヌクレオチドは概して、8~35ヌクレオチド単位の長さであり、対応するFRETオリゴヌクレオチドは概して、FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子のフェルスター半径を超える長さであり、及び/または(ii)少なくとも12ヌクレオチド単位の長さである。ミスマッチのパーセンテージは、2つのオリゴヌクレオチドが常に同じ長さであるとは限らないことを考慮して、形成され得る塩基ペアの最大数と比較したミスマッチのパーセンテージとして定義される。言い換えれば、Tオリゴヌクレオチドが10ヌクレオチド単位の長さであり、対応するFRETオリゴヌクレオチドが15ヌクレオチド単位の長さである場合、このペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数は10であり、したがって、このペアにおける0~40%のミスマッチは、オーバーラップする10ヌクレオチド単位の区間における0~4個のミスマッチに相当し、このペアにおける20~40%のミスマッチは、オーバーラップする10ヌクレオチド単位の区間における2~4個のミスマッチに相当する。これは、以下の表に示されており、この表では、各ペアについて、20~40%のミスマッチをもたらすミスマッチの例示的な数が、各ペアで形成され得る塩基ペアの最大数(括弧内に示される)と共に示されている。Tオリゴヌクレオチドが12ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドも12ヌクレオチド単位の長さである別の例では、このペアで形成され得る塩基ペアの最大数は12であり、この20~40%に相当するミスマッチの数は2~4である。
【0086】
Tオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドの特定の好ましい組み合わせについて20~40%に相当するミスマッチの数を以下の表2に示す。
【表2】
【0087】
したがって、概して、Tオリゴヌクレオチドは、その対応するFRETオリゴヌクレオチドとの、1~8、2~7、3~6個のミスマッチ、例えば1~3、2~4、2~5、3~6、4~8個のミスマッチを有する。
【0088】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が9である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが9ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも12ヌクレオチド単位の長さである場合)、1~3個のミスマッチが存在し得る。
【0089】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が10である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが10ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも12ヌクレオチド単位の長さである場合)、2~4個のミスマッチが存在し得る。
【0090】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が11である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが11ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも12ヌクレオチド単位の長さである場合)、2~4個のミスマッチが存在し得る。
【0091】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が12である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが12ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも12ヌクレオチド単位の長さである場合、または、Tオリゴヌクレオチドが13~20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが12ヌクレオチド単位の長さである場合)、2~4個のミスマッチが存在し得る。
【0092】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が13である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが13ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも13ヌクレオチド単位の長さである場合、または、Tオリゴヌクレオチドが14~20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが13ヌクレオチド単位の長さである場合)、2~5個のミスマッチが存在し得る。
【0093】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が14である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが14ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも14ヌクレオチド単位の長さである場合、または、Tオリゴヌクレオチドが15~20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが14ヌクレオチド単位の長さである場合)、2~5個のミスマッチが存在し得る。
【0094】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が15である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが15ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも15ヌクレオチド単位の長さである場合、または、Tオリゴヌクレオチドが16~20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが15ヌクレオチド単位の長さである場合)、3~6個のミスマッチが存在し得る。
【0095】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が16である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが16ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも16ヌクレオチド単位の長さである場合、または、Tオリゴヌクレオチドが17~20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが16ヌクレオチド単位の長さである場合)、3~6個のミスマッチが存在し得る。
【0096】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が17である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが17ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも17ヌクレオチド単位の長さである場合、または、Tオリゴヌクレオチドが18~20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが17ヌクレオチド単位の長さである場合)、3~6個のミスマッチが存在し得る。
【0097】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が18である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが18ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも18ヌクレオチド単位の長さである場合、または、Tオリゴヌクレオチドが19~20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが18ヌクレオチド単位の長さである場合)、3~7個のミスマッチが存在し得る。
【0098】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が19である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが19ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも19ヌクレオチド単位の長さである場合、または、Tオリゴヌクレオチドが20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが19ヌクレオチド単位の長さである場合)、3~7個のミスマッチが存在し得る。
【0099】
ペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数が20である場合(例えば、Tオリゴヌクレオチドが20ヌクレオチド単位の長さであり、FRETオリゴヌクレオチドが少なくとも20ヌクレオチド単位の長さである場合)、4~8個のミスマッチが存在し得る。
【0100】
ミスマッチは、2本の鎖上の塩基間に塩基ペアが生じないところで起こり得る。これは、TオリゴヌクレオチドまたはFRETオリゴヌクレオチドにおいて適切な位置に相補的塩基が存在しないためであり得る。非相補的塩基ペアは、天然に発生する塩基(例えばA、T、C、G、U)を含むか、またはそれらからなり得る。天然に発生する非相補的塩基ペアの例には、A-G、G-A、A-C、C-A、A-A、T-T、T-G、G-T、T-C、C-T、C-C、G-G、U-U、U-G、G-U、U-C、C-Uペアが含まれる。他の塩基の存在(例えば、天然に発生しない塩基または修飾された塩基)も、ミスマッチを生じさせ得る。
【0101】
位置(または、複数のミスマッチがある場合は相対的位置)も、オリゴヌクレオチドペアの安定性に寄与する。2つ以上の隣接するミスマッチの存在は、隣接しない(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9つの相補的塩基ペアによって隔てられている)2つのミスマッチよりも大きな程度でハイブリダイゼーションに影響を与える傾向がある。したがって、本発明に従って使用されるTオリゴヌクレオチドは、2つ以上の隣接するミスマッチ、例えば3つ以上、または4つ以上、または5つ以上の隣接するミスマッチを生じさせる配列を有し得る。したがって、本発明に従って使用される他のTオリゴヌクレオチドは、隣接しない(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9つの相補的塩基ペアによって隔てられている)2つのミスマッチ、または隣接しない(例えば、ミスマッチのすべてのペアが、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9つの相補的塩基ペアによって隔てられている)少なくとも3つのミスマッチを生じさせる配列を有し得る。本発明に従って使用されるさらなるTオリゴヌクレオチドは、隣接するミスマッチと、隣接しないミスマッチとの混合物を生じさせる配列を有し得る。
【0102】
Tオリゴヌクレオチドの末端の方、例えばTオリゴヌクレオチドの末端の5、4、3、2ヌクレオチド単位以内のミスマッチにGまたはC塩基が含まれると、ハイブリダイゼーションがさらに妨げられる。したがって、本発明に従って使用されるTオリゴヌクレオチドは、Tオリゴヌクレオチドの末端の方、例えばTオリゴヌクレオチドの末端の5、4、3、2ヌクレオチド単位以内に位置する1つ以上のミスマッチを生じさせる配列を有し得る。好ましくは、各ミスマッチペアにおけるミスマッチ塩基のうちの1つは、GもしくはCまたはその機能的均等物である(例えば、GまたはCが、ミスマッチが存在するようなこの位置でTオリゴヌクレオチドまたは対応するFRETオリゴヌクレオチドに存在し得る)。
【0103】
柔軟な突出部を作り出す、または新しい構造的コンフォメーションを生成するミスマッチを含めると、ハイブリダイゼーションがさらに妨げられる。ミスマッチの導入は、モノヌクレオチドリピートを生成する場合もある。モノヌクレオチドリピートは単一ヌクレオチドのリピートであり、したがって、例えば、ミスマッチにおける少なくとも1つのヌクレオチドがモノヌクレオチドリピートの一部である1つ以上のミスマッチ(例えば、リピートが少なくとも2、3、4、5、6ヌクレオチドである場合)が使用され得る。ミスマッチの導入は、FRETオリゴヌクレオチドとTオリゴヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーションに影響を与え得る二次構造も生成し得る(例えば、少なくとも2、3、4、5ヌクレオチド単位の長さのTオリゴヌクレオチドにおけるヘアピン構造の形成など)。
【0104】
上記を考慮すると、本発明に従って使用される任意の個々のTオリゴヌクレオチドは、上記の特性のうちの1つ以上を有し得る:
(i)そのようなペアにおいて形成され得る塩基ペアの最大数と比較した、その対応するFRETオリゴヌクレオチドとの0~40%、10~40%、または20~40%のミスマッチ、
(ii)2つ以上の隣接するミスマッチ(例えば3つ以上、または4つ以上、または5つ以上の隣接するミスマッチ)、
(iii)2つ以上の隣接しないミスマッチ(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9つの相補的塩基ペアによって隔てられている、または、2つを超える隣接しないミスマッチがある場合、ミスマッチの各ペアは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9つの相補的塩基ペアによって隔てられている)、
(iv)Tオリゴヌクレオチドの末端の5、4、3、2ヌクレオチド単位以内に位置する1つ以上のミスマッチ[場合により、各ミスマッチペアにおけるミスマッチ塩基のうちの1つは、GもしくはCまたはその機能的均等物である(例えば、GまたはCが、ミスマッチが存在するようなこの位置でTオリゴヌクレオチドまたは対応するFRETオリゴヌクレオチドに存在し得る)]、
(v)柔軟な突出部を作り出す1つ以上のミスマッチ、
(vi)新しい構造的コンフォメーションを生成する1つ以上のミスマッチ、
(vii)ミスマッチにおける少なくとも1つのヌクレオチドがモノヌクレオチドリピートの一部である1つ以上のミスマッチ(例えば、リピートが少なくとも2、3、4、5、6ヌクレオチドである場合)、
(viii)ミスマッチにおける少なくとも1つのヌクレオチドがFRETオリゴヌクレオチドとTオリゴヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーションに影響を与え得る二次構造の一部を形成する1つ以上のミスマッチ(例えば、少なくとも2、3、4、5ヌクレオチド単位の長さのTオリゴヌクレオチドにおけるヘアピン構造の形成など)。
【0105】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット
本発明による方法では、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットが使用される。セットでは、複数の結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートが使用される。本方法は、各蛍光動態プロファイルが特定のTオリゴヌクレオチドの存在に起因する異なる蛍光動態プロファイルを生成する能力を前提としているため、各セットを構成する異なるTオリゴヌクレオチドの選択は、複数の蛍光動態プロファイルが生成されるようなやり方で行われなければならない。
【0106】
Tオリゴヌクレオチドの各セットには、対応するFRETオリゴヌクレオチドがある。各セット内のTオリゴヌクレオチドは、各Tオリゴヌクレオチド及びその対応するFRETオリゴヌクレオチドの会合及び解離の結果として異なる蛍光動態プロファイルが生じるように選択される。結合剤Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの各セットは、2つ以上の異なるTオリゴヌクレオチドを含み、Tオリゴヌクレオチドの構造的特徴(例えば配列)により、そのペアの蛍光動態プロファイルが決まる。したがって、セットは、対応するFRETオリゴヌクレオチドとの会合及び解離の結果として異なる蛍光動態プロファイルを生じさせるTオリゴヌクレオチドを含む。
【0107】
例えば、所定のFRETオリゴヌクレオチドについて、Tオリゴヌクレオチドのセットの1つのメンバーは、比較的速く、例えば1秒に15回の点滅事象の頻度で会合及び解離するペアを生じさせる場合があり、Tオリゴヌクレオチドのセットの別のメンバーは、より遅く、例えば1秒に5回の点滅事象の頻度で会合及び解離するペアを生じさせる場合がある。概して、ミスマッチの数が多いオリゴヌクレオチドペアは、ミスマッチの数が少ないペアよりも高い頻度の点滅事象を有することになる。概して、完全に相補的なオーバーラップ領域を有する2つのペアを比較すると、より長いオーバーラップ領域を有するペアは、より短いオーバーラップ領域を有するペアよりも長いオフ時間及び長いオン時間を有する。
【0108】
本明細書の他の箇所で言及されるように、本明細書で定義されるセットは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または最大2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、例えば1~25、2~24、3~23、4~22、5~21、6~20、7~19、8~18、9~17、10~16、11~15、12~14個の結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートを含み得る。
【0109】
Tオリゴヌクレオチドは、概して、その対応するFRETオリゴヌクレオチドのみにハイブリダイズし、他のFRETオリゴヌクレオチドまたは他のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることはない。
【0110】
好ましいTオリゴヌクレオチドのセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドには、以下が含まれる:
- 以下を含む(場合によりそれらからなる)セット:
o配列番号1(5’-TTCCACATTACTTCT-3’)及び
配列番号2(5’-ATCCCCATTACTTCT-3’)
の配列のTオリゴヌクレオチド(複数可)の一方または両方、
ならびに
o配列番号7(5’-AGAAGTAATGTGGAA-3’)の配列の対応するFRETオリゴヌクレオチド、
- 以下を含む(場合によりそれらからなる)セット:
o配列番号3(5’-GGGTGGCGTATGATAGCTAT-3’)、
配列番号4(5’-AGGTTAAGTATGATAGTTAT-3’)、
配列番号5(5’-GGGTTAAGCATGGTAGTTAT-3’)及び
配列番号6(5’-AGGTTAAGCGTTATATTTAT-3’)
の配列のTオリゴヌクレオチド(複数可)のうちの少なくとも1つ(例えば、列挙されたTオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも2、3、または4つすべて)、
ならびに
o配列番号8(5’-ATAACTATCATACTTAACCT-3’)の配列の対応するFRETオリゴヌクレオチド。
【0111】
上記の2つのセットは、例えば、2つのFRETオリゴヌクレオチドが、オーバーラップする発光スペクトルを有するエミッター分子を含み、場合により同じエミッター分子を有する場合、セット群として一緒に使用され得る。
【0112】
結合剤及び標的分子
結合剤は、結合パートナーまたは目的の標的分子に結合できる、例えば目的の標的分子に直接的または間接的に結合する、任意の作用因子である。結合剤は、概して、目的の標的分子に特異的であり、例えば、サンプル中の他の成分に対するものよりも高い親和性及び/または特異性で目的の標的分子に結合し得る。結合剤は、概して、目的の標的分子に直接、例えば静電結合を介して結合する。
【0113】
標的分子は、検出が必要とされる、いかなる目的の分子または実体でもよい。例えば、標的分子は、ペプチドまたはタンパク質、核酸(RNA、DNA、またはそれらの任意の修飾形態)、脂質、炭水化物、小分子を含み得る。標的分子は、細胞内または細胞上に存在し得る。本発明の方法は複数の標的分子の研究を可能にするため、すべての標的分子が同じタイプのものである必要はない。したがって、本方法は、ペプチドもしくはタンパク質、核酸(RNA、DNA、またはそれらの任意の修飾形態)、脂質、炭水化物、もしくは小分子、またはこれらのいくつかもしくはすべての組み合わせのうちの1つ以上の観察をもたらし得る。
【0114】
結合剤は、タンパク質(例えばポリペプチド)でもよく、もしくはそれを含んでもよく、または非タンパク質分子でもよく、もしくはそれを含んでもよい。タンパク質である、またはそれを含む結合剤の例としては、抗体、抗体断片、受容体(例えば可溶性受容体)、リガンド、レクチンが挙げられる。非タンパク質分子である、またはそれを含む結合剤の例としては、炭水化物及び核酸分子またはそれらの誘導体、ならびにアプタマーが挙げられる。
【0115】
結合剤は、その標的に対して高い結合親和性、例えば、解離定数がマイクロモルまたはナノモル範囲の(例えば、約10-4M、10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、もしくは10-9M未満、または10-4M~10-6M、もしくは10-7M~10-9Mの範囲)の結合親和性を有するように選択され得る。親和性は、分子(例えば抗体)がそのリガンド(例えば抗原)に結合する強さである。これは通常、平衡解離定数(KD)によって測定及び報告される。KDは、抗体の抗体会合速度(「オンレート」またはKon)、すなわち抗体がその抗原に結合する速さに対する、抗体解離速度(「オフレート」またはKoff)、すなわち抗体がその抗原から解離する速さの比である。例えば、親和性が1μM以下の抗体は、好適なin vitro結合アッセイによって決定して1μM以下のKD値(すなわち、1μM以上の親和性)を有する。バイオレイヤー干渉法(例えば、Octet)または表面プラズモン共鳴(例えば、Biacore System)など、好適なin vitroアッセイを使用して、よく知られている方法に基づくKD値によって測定される親和性を評価することができる。標的分子に対して高い結合親和性を有する結合剤を選択することにより、本発明の方法の選択性及び感度が高まり得る。「抗体」という用語は、少なくとも1つのVH及び/またはVLドメインを含み、標的分子に結合する免疫グロブリンタンパク質を意味するために使用される。ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む完全長抗体、ラクダ科及びサメのHCAbのような重鎖のみの抗体など、多くの抗体構造が知られている。抗体断片は、抗体またはその抗原結合部分を含み得る。抗体は、ポリクローナルでもモノクローナルでもよく、天然に発生するものでも合成のものでもよく、またはそれらの改変形態(例えば、ヒト化、キメラ)でもよい。
【0116】
抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって果たされ得る。本明細書で使用される場合、抗体の、例えばモノクローナル抗体の「抗原結合部分」は、抗原に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片(VH、VL、CL及びCH1ドメインを含む一価断片)、(ii)F(ab’)2断片(ヒンジ領域でジスルフィド橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片)、(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片、(iv)Fv断片(抗体の1本のアームのVH及びVLドメイン(scFv断片、例えば、VH及びVL部分が合成リンカーによって接合された断片、ならびにそれらの多量体を含む))、(v)dAb断片(単一VHドメイン)、ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、または、例えば合成リンカーによって接合されていてもよい少なくとも2つのCDRの組み合わせが挙げられる。
【0117】
これらの抗体断片は、当業者に公知の従来技術を使用して取得され、これらの断片は、インタクトな抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。
【0118】
非タンパク質分子である、またはそれを含む結合剤の例としては、オリゴヌクレオチド(例えばDNA、RNAまたは合成オリゴヌクレオチドであり得る、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド及び/または合成ヌクレオチド残基を含み得る)を含む結合剤が挙げられる。
【0119】
結合剤及びTオリゴヌクレオチドのコンジュゲーション
結合剤及びTオリゴヌクレオチドは、コンジュゲートされる。これは、コンジュゲートのこれら2成分が共有結合または非共有結合で連結されることを意味する。これは、任意の好適な手段によって達成することができる。コンジュゲートの成分は、直接的に、または間接的に、例えばリンカーを介して連結され得る。
【0120】
結合剤が核酸またはアプタマーである実施形態において、カップリングは、例えば、1つのヌクレオチドまたはその機能的均等物の5’リン酸基と、別のヌクレオチドまたはその機能的均等物の3’OH基との間の、共有結合性ホスホジエステル結合を介するものであり得る。このような実施形態では、結合剤成分及びTオリゴヌクレオチド成分は、調和していてもよいし、1つ以上のオリゴヌクレオチド単位によって分離されていてもよい。このような場合、結合標的またはFRETオリゴヌクレオチドとの結合に関与しないオリゴヌクレオチド単位は、連結オリゴヌクレオチド単位と表現され得る。例えば、2~30、3~25、4~20、5~15、6~10個の連結オリゴヌクレオチド単位、または最大2、3、4、5、6、7、8、9、10個の連結オリゴヌクレオチド単位が存在し得る。
【0121】
結合剤が抗体などのタンパク質である実施形態では、結合剤とTオリゴヌクレオチドとの間のコンジュゲーションは、任意の適切な共有結合性または非共有結合性の連結によるものであり得る。当技術分野で知られている好適な手段には、例えば、架橋剤などのリンカーを介した、コンジュゲートの2成分の化学架橋が含まれる。架橋試薬は、タンパク質または他の分子上の特定の官能基(第一級アミン、スルフヒドリルなど)に対する反応性末端を含む。タンパク質及びペプチドにおいて幾つかの化学基が利用可能であることで、これらは架橋法を使用したコンジュゲーションの標的となる。架橋剤は、タンパク質及び核酸などの生体分子に見られる一般的な官能基を標的とする少なくとも2つの反応性基を含む。一般的にバイオコンジュゲーションの標的とされる官能基には、第一級アミン、スルフヒドリル、カルボニル、炭水化物、及びカルボン酸が含まれる。他の例には、修飾された(例えば、マレイミド、NHS、またはアジド基を持つ)Tオリゴを使用するクリック化学が含まれる。架橋剤の2つの反応性基は、例えばPEGを含み得るスペーサーによって分離されている。スペーサーは概して、3~50オングストロームの長さである。
【0122】
Tオリゴは、結合パートナーがその結合パートナーに結合する能力に干渉しない、結合剤上の位置でコンジュゲートされることが好ましい。例えば、抗体または抗体断片である結合剤の場合、Tオリゴは、定常領域で、及び/または抗体がその標的に結合するのに干渉しない領域内で、例えば抗原結合部位から離れたところでコンジュゲートされることが好ましい。
【0123】
結合剤の各分子は、単一のTオリゴヌクレオチド分子、または複数のTオリゴヌクレオチド分子にコンジュゲートされ得る。結合剤の分子ごとに複数のTオリゴヌクレオチド分子が結合する場合、これらのTオリゴヌクレオチド分子の各々は、同じオリゴヌクレオチド配列を有する(Tオリゴヌクレオチドの配列は、それがコンジュゲートされている結合剤に特有であるため)。
【0124】
例として、1~10、2~9、3~8、4~7、または5~6個のTオリゴヌクレオチド分子が、結合剤の各分子にコンジュゲートされる。各Tオリゴヌクレオチド分子は、結合剤上の異なる位置で結合していてもよい。各結合剤分子に結合するTオリゴヌクレオチド分子の数は、使用されるコンジュゲーションの性質に依存する。結合剤の分子ごとのTオリゴヌクレオチドの分子のこの数は、例えば結合剤の各分子が同じ数のTオリゴヌクレオチドの分子を有する場合、絶対的なものであり得る。あるいは、結合剤の分子ごとのTオリゴヌクレオチドの分子の数は、結合剤の分子ごとのTオリゴヌクレオチドの平均数を表してもよい。
【0125】
FRETオリゴ
FRETオリゴヌクレオチドは、本明細書の他の箇所で定義されるオリゴヌクレオチドである。このオリゴヌクレオチドには、蛍光エミッター分子(エミッター分子)及び消光体が結合し、組み込まれ、及び/またはコンジュゲートされている。蛍光エミッター分子は、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)ドナーでもよく、消光体は、対応するFRETアクセプターでもよい。FRETオリゴヌクレオチドが溶液中にあるとき、エミッター分子の励起を引き起こす波長で照射すると、消光体への効率的なエネルギー移動のため、エミッター分子の発光波長では蛍光が観察されない。しかし、TオリゴヌクレオチドとのFRETオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションにより、エミッター及び消光体が物理的に分離され、エミッターとクエンチャーとの間のエネルギー移動、例えばFRETの速度が低下し、その結果、蛍光がエミッター分子の発光波長で観察できるようになる。
【0126】
したがって、エミッター分子及び消光体は、FRETオリゴヌクレオチドが完全に線状であるとき(例えば、FRETオリゴヌクレオチドと配列が完全に相補的なTオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドにハイブリダイズするとき)、エミッター分子及び消光体が空間的に分離され、その結果、2つの分子間のエネルギーの移動が起こらず、蛍光がエミッター分子の発光波長で観察され得るような位置でオリゴヌクレオチド上に位置付けられる。
【0127】
これに対し、FRETオリゴヌクレオチドが溶液中にあるとき、その構成は乱れ、蛍光エミッター分子及び消光体は空間的に分離されない。したがって、エミッター分子と消光体との間のエネルギーの移動は起こらず、エミッター分子の発光波長で蛍光は観察できないか、または観察されない。消光体の性質に応じて、そのエネルギー移動の結果、すべての蛍光が消光または抑制され得る(例えば、ダーククエンチャーまたはブラックホールクエンチャーが使用される場合。なぜなら、ダーククエンチャーは一般に、エミッター分子から励起エネルギーを吸収し、エネルギーを熱として放散し、すなわち蛍光が全く検出されないためである)。あるいは、クエンチャー分子自体が蛍光を放出する場合があるが、これは、エミッター分子の発光波長とは異なる波長でクエンチャー分子から放出される。これは、クエンチャーの性質または消光のメカニズムにかかわらず、エミッター分子の発光の消光により、エミッター分子の発光波長での蛍光放出が低減または消失することを意味する。低減は、クエンチャー実体の非存在下でエミッター分子の発光波長において観察される蛍光放出の60、50、40、30、20、10%未満への低減であり得る。
【0128】
上記を考慮すると、蛍光放出は、大まかに言えば、FRETオリゴヌクレオチドがTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズしているときは、エミッター分子の発光波長でFRETオリゴヌクレオチド中の蛍光エミッター分子から検出可能であるが、FRETオリゴヌクレオチドが溶液中で遊離しているときには検出されない(または低下したレベルで検出される)。FRETオリゴヌクレオチドとTオリゴヌクレオチドとが会合すると、エミッター分子の発光波長での蛍光放出が「オン」になり、解離すると、エミッター分子の発光波長での蛍光放出が「オフ」になる。FRETオリゴヌクレオチド及びTオリゴヌクレオチドは、不完全にハイブリダイズするように設計されているため、それらは容易に解離及び再会合し、各ペアに特徴的な独特の蛍光動態プロファイルを生じさせる。蛍光動態プロファイルは、以下でさらに詳細に説明するように、点滅の頻度及び「オン」シグナルの持続時間の両方で構成される。
【0129】
したがって、蛍光エミッター分子及び消光体は、オリゴヌクレオチドが結合したコンフォメーションにあるとき、蛍光エミッター分子と消光体との間のエネルギー移動(例えばFRET)を妨げる距離で、オリゴヌクレオチドに結合し、組み込まれ、及び/またはコンジュゲートされる。別の言い方をすると、オリゴヌクレオチド中の2成分間の距離は、FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子のフェルスター半径を超える。したがって、ヌクレオチド単位の観点から表現すると、エミッター分子及び消光体は、少なくとも12ヌクレオチド単位の長さの距離でオリゴヌクレオチドに結合し、組み込まれ、及び/またはコンジュゲートされる。この距離は、ほとんどのFRETペアについて少なくとも5、6、または7nm、好ましくは、ほとんどのFRETペアについて少なくとも9nmの距離に対応する。これらの距離は、線状の完全に伸長した形態、または結合したコンフォメーションでのFRETオリゴヌクレオチドに関して測定または表現される。
【0130】
例えば、Atto425/Atto488を使用したFRETオリゴの場合、フェルスター半径は5.2nmである。Atto488/Atto550を使用したFRETオリゴの場合、フェルスター半径は6.3nmである。Atto550/Atto647を使用したFRETオリゴの場合、フェルスター半径は6.5nmである。Atto647/BHQ3(ダーククエンチャー)を含むFRETオリゴの場合、フェルスター半径は7.0nmである。
【0131】
これは、FRETオリゴヌクレオチド内の少なくとも12ヌクレオチド単位隔てられた位置に蛍光エミッター分子及び消光体を位置付けることによって達成され得る。例えば、FRETオリゴヌクレオチドが12オリゴヌクレオチド以上の長さである場合、蛍光エミッター分子がFRETオリゴヌクレオチドの最も5’側のオリゴヌクレオチド単位に位置付けられ、消光体がFRETオリゴヌクレオチドの最も3’側のオリゴヌクレオチド単位に位置付けられる、またはその逆になるように、2つの分子を位置付けてもよい。あるいは、2つの分子が少なくとも11オリゴヌクレオチド単位離れた(例えば少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20オリゴヌクレオチド単位離れた)ヌクレオチド単位に位置付けられるように、それらをFRETオリゴヌクレオチド上に位置付けてもよい。例えば、2つの分子は、ヌクレオチド単位1番及び12番、1番及び13番、1番及び14番、1番及び15番、1番及び16番、1番及び17番、1番及び18番、1番及び19番、1番及び20番、2番及び13番、2番及び14番、2番及び15番、2番及び16番にある場合などに、11オリゴヌクレオチド単位離れている。
【0132】
ある特定の実施形態では、蛍光エミッター分子及び消光体の少なくとも一方、及び好ましくは両方が、末端オリゴヌクレオチド単位に位置付けられる。例えば、蛍光エミッター分子をFRETオリゴヌクレオチドの最も5’側のオリゴヌクレオチド単位に位置付けてもよく、消光体をFRETオリゴヌクレオチドの最も3’側のオリゴヌクレオチド単位に位置付けてもよく、またはその逆でもよい。
【0133】
FRETオリゴヌクレオチドは、ヘアピンまたはヘアピンループなどの二次構造を形成しない配列を有することが好ましい。これは、そのような二次構造を有するFRETオリゴヌクレオチドにとって、溶液中でこの二次構造を形成することがエネルギー的に好都合であるためである。二次構造が存在すると、Tオリゴヌクレオチドとの二量体が形成され得る速度が減少する。FRETオリゴは、セルフライゲーション、または本発明の方法で使用され得る他のFRETオリゴヌクレオチドとの交差二量化を許容しない配列を有することが好ましい。セルフライゲーション、または本発明の方法で使用され得る他のFRETオリゴヌクレオチドとの交差二量化は、Tオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションの非存在下で蛍光を生成する。FRETオリゴヌクレオチドはまた、サンプル中に存在するDNA配列に相補的であってはならない。
【0134】
蛍光エミッター分子及び消光体は、ある特定の実施形態では、FRETオリゴヌクレオチドの最も5’側及び最も3’側のオリゴヌクレオチド単位に位置付けられる。蛍光エミッター分子及び消光体は、蛍光エミッター分子がFRETオリゴヌクレオチドの最も5’側のオリゴヌクレオチド単位に位置付けられ、消光体がFRETオリゴヌクレオチドの最も3’側のオリゴヌクレオチド単位に位置付けられる、またはその逆になるように位置付けられ得る。
【0135】
蛍光エミッター分子及び消光体
蛍光エミッター分子は、適切なスペクトル発光での照射時に既定の蛍光波長の発光を生成する分子である。
【0136】
本明細書で言及される消光体は、蛍光エミッター分子によって放出される既定の蛍光波長の発光が、例えばフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)によって伝えられる分子である。クエンチャーが、例えば適切な位置に存在する場合、励起された蛍光エミッター分子は、光を放出することなく、そのエネルギーをクエンチャーに伝えることによって基底状態に戻ることができ、一方、クエンチャーは励起状態に活性化される。エミッターが励起状態にある間、エネルギーがエミッター(またはドナー)分子から移動する。FRETは、ドナー及びアクセプターの遷移双極子間の古典的な双極子間相互作用に基づいており、1/R6の率で減衰するドナーとアクセプターの距離Rに非常に依存している。
【0137】
蛍光エミッター分子は、適切なスペクトル発光(例えば、特定の波長)での照射によって励起されると、励起状態に活性化される。クエンチャーの非存在下では、励起された分子は、基底状態に戻る際に、その発光波長で光を放出する。クエンチャーが適切な位置に存在すると、エネルギーがクエンチャーに移動する結果、エミッター分子の発光波長での蛍光放出が低減または消失する。クエンチャーの性質に応じて、エネルギー移動の結果、蛍光が放出されない場合がある(例えば、ダーククエンチャーまたはブラックホールクエンチャーが使用される場合)。あるいは、発光波長とは異なる波長で光の放出を生じさせるクエンチャーを使用してもよく、その場合でも、エミッター分子の発光波長での蛍光放出の低減または消失が起こる。
【0138】
2つの分子間の(例えばFRETによる)エネルギー移動が起こるには、ドナーとアクセプターのスペクトルが適切にオーバーラップする必要があり、エミッター分子の発光スペクトルは、クエンチャー実体の吸収スペクトルとオーバーラップしなければならない。したがって、ある特定の蛍光エミッター分子及び消光体のペアのみが使用され得る。ドナーの発光スペクトルがアクセプターの励起スペクトルとオーバーラップする限り、最適なFRETペアを任意の波長で設計することができる。照射源の最適な励起波長は、ハイブリダイゼーション中のFRETオリゴヌクレオチドの蛍光放出に基づくべきである。
【0139】
蛍光エミッター分子及び消光体の適切なペアが選択され得る。好適なペアの例としては、Atto425/Atto488(例えば、UV照射源で励起し、Atto425発光波長で点滅を検出する)、Atto488/Atto550(例えば、青色照射源で励起し、atto488発光波長で点滅を検出する)、Ato550/Atto647(例えば、緑色照射源で励起し、Atto550発光波長で点滅を検出する)、Atto647/BHQ3(ダーククエンチャー)(赤色照射源で励起し、Atto647発光波長で点滅を検出する)、Cy5フルオロフォア及びBHQ-3ダーククエンチャー(例えば、639nmレーザーで励起し、Cy5発光波長で点滅を検出する)が挙げられる。
【0140】
BHQ-1、BHQ-2及びBHQ-3は、当技術分野でよく知られており、広く使用されているブラックホールクエンチャーである。例えば、https://www.sigmaaldrich.com/technical-documents/articles/biology/black-hole-quenchers.htmlを参照のこと。他のダーククエンチャーには、緑色スペクトルで吸収し、フルオレセインと共に使用されることの多いDabsyl(ジメチルアミノアゾベンゼンスルホン酸)、Qxlクエンチャー(可視スペクトル全体に及ぶ)、Iowa black FQ(スペクトルの緑色から黄色の部分で吸収する)、Iowa black RQ(スペクトルのオレンジ色から赤色の部分をブロックする)、IRDye QC-1(可視から近赤外の範囲(500~900nm)の色素を消光する)が含まれる。
【0141】
FRETプローブのペアの他の例は、Yoshiyuki Arai and Takeharu Nagai(2013)Extensive use of FRET in biological imaging,Microscopy 0(0):1-10(2013)に記載されており、例えば、以下のエミッター分子及び消光体が好適な例である。
【表3-1】
【表3-2】
【0142】
本明細書では、エミッター分子の発光波長について言及する。エミッター分子からの発光が、ピーク波長または発光最大値の近くの複数の波長で発光が発生するスペクトルとして表され得ることはよく知られている。このスペクトルの正確な形状及び発光最大値は、各エミッター分子について容易に決定することができる。エミッター分子の発光波長に言及する場合、これは概して、エミッター分子の発光最大値またはそれに近い1つ以上の波長(例えば、エミッター分子の発光最大値、または所定のエミッター分子の発光最大値の上下1nm以内、2nm以内、3nm以内、4nm以内、5nm以内、10nm以内、15nm以内、20nm以内、25nm以内、30nm以内、40nm以内、50nm以内のウィンドウ)を意味する。
【0143】
実際には、所定のエミッター分子について、その蛍光は、エミッター分子の発光スペクトルに基づいて選択される波長の予め定義されたウィンドウであるチャネルで観察される。チャネルは、例えば、所定のエミッター分子の発光最大値の上下1nm以内、2nm以内、3nm以内、4nm以内、5nm以内、10nm以内、15nm以内、20nm以内、25nm以内、30nm以内、40nm以内、50nm以内であり得る。したがって、例えば、エミッターの発光波長における動態蛍光プロファイルの観察もしくは検出、またはその存在もしくは非存在、またはその低減に言及する場合、これは、エミッター分子の発光最大値での蛍光、またはエミッター分子の発光最大値を囲む既定のウィンドウ内の蛍光を指し得る。
【0144】
当業者は、所定のエミッター分子(複数可)の発光を観察するための1つ以上の適切なチャネルを選択することができる。チャネルのサイズは容易に決定でき、特定の実験パラメータに適合させることができる。概して、蛍光放出を観察するために単一のチャネルが使用される所定のセットアップが使用される場合、これは、複数のチャネルが使用される実験セットアップのためのウィンドウよりも大きなウィンドウになる。当業者は、例えば、吸収スペクトル及び発光スペクトルのオーバーラップを回避するために適切なパラメータを使用することについても理解している。使用される1つ以上のエミッター分子の性質に応じて、必要な蛍光動態プロファイルを観察するための慣例的な方法を使用して、任意の適切なチャネルを選択することができる。例えば、単一のエミッター分子が使用される場合、単一のチャネルを使用することができ、この場合、ウィンドウは比較的広くなり得る(例えば、30nmm以内、40nm以内、50、50nm以内、70nm以内、80nm以内、90nm以内、100nm以内)。複数のエミッター分子からの蛍光動態プロファイルが使用される場合、各ウィンドウは概して、例えば様々なスペクトル間のオーバーラップを回避するために、より狭く、例えば1nm以内、2nm以内、3nm以内、4nm以内、5nm以内、10nm以内、15nm以内、20nm以内、25nm以内、30nm以内になる。蛍光動態プロファイルは、エミッター分子の励起スペクトル内の任意の単一の波長または波長群において観察または検出され得る。
【0145】
照射
本方法は、適切なスペクトル発光を使用して蛍光エミッター分子を照射し、それによって蛍光エミッター分子にその既定の蛍光波長の発光を生成させる照射のステップを含む。これは「励起」と呼ばれることもあり、使用される蛍光エミッター分子の既知の特性またはそれらの組み合わせに基づいて、この目的のために適切な波長を選択することができる。複数の蛍光エミッター分子が使用される場合、単一の光源を使用してこれらを励起することができる。あるいは、使用される蛍光エミッター分子ごとに別個の光源を使用してもよいし、それらの組み合わせを使用してもよい。蛍光エミッター分子は、十分に特性解析された励起スペクトルまたは吸収スペクトルを有しており、すべての蛍光エミッター分子の励起に好適な波長またはその組み合わせを選択することは、慣例的なことである。
【0146】
一時的なハイブリダイゼーション及び蛍光動態プロファイル
上記で説明したように、Tオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドペアは完全に相補的ではなく、一時的にハイブリダイズする。すなわち、ペアの2成分間で解離及び再会合が起こる。ペア間のこの解離及び再会合により、蛍光動態プロファイルが生成される。セット内のTオリゴヌクレオチド間の配列の差異の結果として、蛍光動態プロファイルは、そのセット内でそのペアに特有である。
【0147】
蛍光動態プロファイルには複数の成分がある。蛍光エミッター分子及び消光体は、ハイブリダイズした状態でしか、FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長における発光の消光を妨げるように十分に分離しないため、ペアの解離により、FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長の蛍光シグナルが「オフ」になり、ペア間の再会合により、FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長のシグナルが「オン」になる。蛍光動態プロファイルは、複数の異なるやり方で特性解析され得る。蛍光動態プロファイルからは、時空間情報を含む、任意の数の数値メトリックまたは特徴が抽出され得る。これらのメトリックの非限定的な例には、(i)各蛍光放出の間の平均時間(オフ時間とも呼ばれる)、(ii)蛍光放出の平均持続時間(オン時間とも呼ばれる)、及び(iii)蛍光放出の発生率が含まれる。少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのそのようなメトリックを蛍光動態プロファイルから抽出し、それを記述するために使用することができる。これらの例示的なメトリック以外のメトリックを使用してもよい。
【0148】
さらに、「点滅」として概念化される、蛍光放出がオフ及びオンになることを使用して、各Tオリゴヌクレオチドと対応するFRETオリゴヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーション親和性を記述する数値メトリックを定義することができる。点滅動態から、少なくとも(i)Kon(会合速度定数、M-1.s-1で表される)及び(ii)Koff(解離速度定数、s-1で表される)を含む、任意の数のメトリックが導出され得る。各Tオリゴヌクレオチドが、特有のハイブリダイゼーション動態プロファイル、ひいては特有の点滅動態プロファイルを呈するようにエンジニアリングされているため、任意の個々のメトリックまたはメトリックの組み合わせを使用して、観察下のTオリゴヌクレオチドのアイデンティティを区別することができる。これらの親和性メトリックは、蛍光動態プロファイルを記述する方法にもなり得る。
【0149】
所定の時間枠におけるFRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長での蛍光放出の発生回数は、所定の時間枠でFRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長において蛍光放出がオンに切り替わる回数を意味する。ペアの2成分間のハイブリダイゼーションの一時的な性質は、FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長における蛍光放出が時間と共に現れては消え、ペアがハイブリダイズ形態にあるときにFRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長で発光が現れることを意味する。蛍光放出の発生回数、または蛍光強度のピークの数は、時間単位当たり、例えば1秒(S)当たりの数として表現することができる。標準濃度のFRETオリゴヌクレオチドを仮定した場合、より高い点滅速度は通常、Tオリゴヌクレオチドが多数のミスマッチを含む場合など、FRETオリゴヌクレオチドとTオリゴヌクレオチドとの間の低親和性ハイブリダイゼーションを示す。逆に、標準濃度のFRETオリゴヌクレオチドを仮定した場合、少ない点滅数は、高親和性ハイブリダイゼーションを示す。
【0150】
非限定的な例である(i)各蛍光放出の間の平均時間(オフ時間とも呼ばれる)、(ii)蛍光放出の平均持続時間(オン時間とも呼ばれる)、及び(iii)蛍光放出の発生率を含む、様々なメトリックにより、様々な方法でプロファイルを記述することができる。オン時間は、蛍光放出の持続時間であり、結合状態または明時間とも表現できる。このパラメータは、FRETオリゴヌクレオチドとTオリゴヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーションの性質に固有のものである。これは、ペアの2成分がペアを形成した後にハイブリダイズした状態を維持できるかどうかが、オーバーラップ領域の配列に依存するためである。これに対し、蛍光放出が存在しない持続時間であるオフ時間(非結合状態/暗時間とも表現できる)は、オーバーラップ領域の配列に依存するが、固定化されたTオリゴヌクレオチドに加えられるFRETオリゴヌクレオチドの濃度にも依存する。これは、ペアの2つのメンバーがハイブリダイズする可能性が、それらの相互作用の強さだけでなく、2つのメンバーが互いに遭遇する確率にも依存するからである。
【0151】
上記のように、FRETオリゴヌクレオチド及びTオリゴヌクレオチドの動態は、それぞれ、それらの解離(結合解除)及び会合(結合)速度定数であるKoff及びKonの観点から記述することもできる。その場合、KonはFRETオリゴの濃度及びその配列に影響され(例えば、ヘアピンの存在はKonを低下させる)、一方、Koffはハイブリダイゼーションの安定性に影響される。したがって、例えばオーバーラップ領域が長いほど、Koffは小さくなる(結合解除がゆっくりと起こる)。ミスマッチの導入は、ハイブリダイゼーションを不安定にし、したがってKoffを増加させる(解離が急速に起こる)。
【0152】
蛍光動態プロファイルを記述するために使用できる特定のメトリック、例えば、指定された時間枠内での発生回数(蛍光強度のピーク)、Tオリゴヌクレオチド及びFRETオリゴヌクレオチドの所定濃度での各オリゴヌクレオチドペアについてのオン時間及びオフ時間は、Tオリゴヌクレオチドを固定化し、固定化されたTオリゴヌクレオチドをFRETオリゴヌクレオチドと接触させ、固定化された各Tオリゴヌクレオチドの蛍光動態プロファイルを観察することによって、実験的に測定及び/または計算することができる。所定の各ペアについての少なくとも1つのメトリックに関する情報は、観察されるサンプル中の1つ以上のピクセルにアイデンティティを割り当てるプロセスの一部を形成する。この割り当ては、観察及び/または計算される、そのピクセルにおけるサンプルの蛍光動態プロファイルの少なくとも1つのメトリックに基づき得る。
【0153】
1つのメトリックに基づいてこのデコンボリューションを行うことが可能である。ある特定の実施形態では、蛍光動態プロファイルの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つのメトリックが使用される。概して、本方法は、複数のメトリックを使用することでより効率的にすることができるが、使用されるメトリックが区別可能である限り(例えば、そのメトリックに基づいてTオリゴヌクレオチドにアイデンティティが割り当てられ得るという点で)、メトリックを単独で使用してもよい。ある特定の実施形態では、複数のメトリックに依存することが必要な場合があり、組み合わせられたメトリックは、別の所定の蛍光動態プロファイルに関するメトリックの組み合わせから区別可能であり得る。
【0154】
蛍光動態プロファイルの特定の成分は、例えばオリゴヌクレオチドセットの設計プロセス中に、例えば実施例2に示すように、漸増濃度のTオリゴヌクレオチドをFRETオリゴヌクレオチドと共にインキュベートする場合の、溶液中の蛍光原性プロファイルを決定することによって調査することもできる。溶液中では、各TオリゴヌクレオチドへのFRETオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションによって、より破壊的なミスマッチが蛍光原性の見かけの低減をもたらす、独特の蛍光原性プロファイルが生成される。
【0155】
実際、本発明の方法を行うとき、Tオリゴヌクレオチドは、Tオリゴヌクレオチドがコンジュゲートされている結合剤によってサンプル上に固定化される。結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートが固定化されるということは、任意の1つ以上のピクセルにおける蛍光動態プロファイルが観察され得ることを意味する。したがって、Tオリゴヌクレオチドを固定化し、固定化されたTオリゴヌクレオチドにFRETオリゴヌクレオチドを加えることにより、特定のFRETオリゴヌクレオチドTオリゴヌクレオチドペアを本発明の方法で使用する前に、そのようなペアのFRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長における蛍光動態プロファイルを観察することが可能である。このようにして、各ペアの蛍光動態プロファイルを観察することができ、また、Tオリゴヌクレオチドのセットが、本発明の方法において有用となる適切な蛍光動態プロファイルを生成すること、そして特に、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルが存在することを確認することができる。さらに、各ペアのプロファイルの性質(例えば、蛍光動態プロファイルの1つ以上のメトリックの観察または計算を含む)を決定することができる。
【0156】
観察
標準的な顕微鏡ベース及び照射システムと適合するこの技術では、標準的な蛍光顕微鏡検査光学システムを使用することができる。観察されるサンプルの各ピクセルから発する蛍光プロファイルを観察するためには、経時的に画像捕捉を行う必要がある。この作業には、単一分子を検出することが可能な任意のタイプのイメージングデバイスが好適であるが、フレームレートが高ければ蛍光動態プロファイルのプロファイリングの精度が高まるため、高フレームレート(1秒当たり100フレーム超)の相補型金属酸化物半導体(CMOS)カメラが使用され得る。
【0157】
各サンプルについて、例えば最長1、2、3、4、5、10、20、30、40、50、60秒、例えば10~120、20~110、30~100、40~80、50~70秒、好ましくは0~2、2~5、2~10秒の合計捕捉時間で、経時的に画像が観察及び/または記録され得る。蛍光強度の時間トレースを生成して、画像スタック内の特定の関心領域の動態プロファイルを示すことができる。
【0158】
画像捕捉は概して、チャネルにおいて行われる。本明細書で使用される場合、チャネルとは、FRETオリゴヌクレオチドエミッター分子の発光波長(複数可)を含み、エミッター分子の発光スペクトルに基づいて選択される波長の予め定義されたウィンドウを指す。チャネルは、例えば、所定のエミッター分子の発光最大値の上下1nm以内、2nm以内、3nm以内、4nm以内、5nm以内、10nm以内、15nm以内、20nm以内、25nm以内、30nm以内、40nm以内、50nm以内であり得る。上記でも述べたように、チャネルのサイズは、使用されるエミッター分子またはエミッター分子の組み合わせに依存する。例えば、エミッターの発光波長における動態蛍光プロファイルの観察もしくは検出、またはその存在もしくは非存在、またはその低減に言及する場合、これは、エミッター分子の発光最大値での蛍光、またはエミッター分子の発光最大値を囲む既定のウィンドウ内の蛍光を指し得る。例えば、使用されるエミッター分子がAtto550であれば、発光チャネルは赤色発光のスペクトル帯域幅に相当し得、使用されるエミッター分子がAtto647であれば、発光チャネルは近赤外発光のスペクトル帯域幅に相当し得、使用されるエミッター分子がAtto488であれば、発光チャネルは緑色発光のスペクトル帯域幅に対応し得る。
【0159】
さらに、例えば将来の分析のために、蛍光動態プロファイルを記録してもよい。これは、当技術分野で知られている任意の適切な技術を使用して行うことができる。さらに、蛍光動態プロファイルを分析してもよい。例えば、他の箇所で説明するような少なくとも1つのメトリックを、観察及び/または記録された蛍光動態プロファイルから導出または計算することができる。
【0160】
画像処理
経時的連続画像は、連続的で順序付けられた捕捉画像のセットである。例えば、経時的連続画像では、各焦点について蛍光動態プロファイルが観察される。次に、これを分析して、例えば、他の箇所で説明するような少なくとも1つのメトリックを導出または計算することができる。蛍光動態プロファイルの任意の区別可能なメトリックなどの任意のメトリック(限定されるものではないが、例えば、指定された時間枠内での平均発生回数(蛍光強度のピーク)、平均オン時間、及び平均オフ時間のうちの1つ以上が測定または決定され得る)を使用して、観察されるサンプル中の1つ以上のピクセルに、そのピクセルにおけるサンプルの蛍光動態プロファイルから計算されたメトリックに基づいてアイデンティティを割り当てることができる。
【0161】
焦点とは、単一分子から発する点滅が観察される領域である。通常、その直径は約3~5ピクセルであるが、これは使用される倍率及び光学系に応じて異なり得る。
【0162】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートが固定化されていないピクセルまたは焦点(すなわちバックグラウンドピクセル)については、確率的蛍光が観察され得るが、このバックグラウンド「ノイズ」の蛍光動態プロファイルは、例えば実施例2に示すように、標的のFRETオリゴヌクレオチドTオリゴヌクレオチドの蛍光動態プロファイルから非常に区別しやすい。3つの異なるペアに対するこれらの代表的な基本プロファイルの例を、
図4A(下側プロファイル)及び5A(左下プロファイル)に示す。
図13にも代表的なプロファイルの例が含まれている。
【0163】
各々の異なるFRETオリゴヌクレオチドTオリゴヌクレオチドペアが、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成するため、各ピクセルにおける蛍光動態プロファイル(例えば、その少なくとも1つのメトリックに関して定義されるもの)に、アイデンティティを(例えば、それを生成した特定のTオリゴヌクレオチドに対して)割り当てることができる。このようにして、ピクセルにおけるサンプルの蛍光動態プロファイル(例えば、その少なくとも1つのメトリックに関して定義されるもの)に基づいて、そのピクセルにアイデンティティが割り当てられる。これは、例えば
図5に示されている。各抗体種が異なるTオリゴにコンジュゲートされている、異なる分子エピトープを認識する抗体と接触させた細胞サンプルを、コンジュゲートされたTオリゴに対応するFRETオリゴと接触させた。経時的な画像捕捉により、5Bに示すように、各ピクセルの蛍光を測定し、プロファイルを観察または作成することができる。各FRETオリゴ/Tオリゴペアは特有の動態結合プロファイルを有するため、このプロファイル(例えば、その少なくとも1つのメトリックに関して定義されるもの)を使用して、ピクセルの蛍光プロファイルを、そのTオリゴのアイデンティティ、ひいては細胞標的に関連付けることができる。(C)各ピクセルが特定のTオリゴのアイデンティティ、またはバックグラウンドに割り当てられており、(D)単一のレーザー励起波長を使用した実験にもかかわらず、この割り当てから、各イメージングモダリティに対する別個のチャネル画像を生成することができる。これは、観察されるサンプル中の1つ以上のピクセルに、そのピクセルにおけるサンプルの蛍光動態プロファイル(例えば、その少なくとも1つのメトリックに関して定義されるもの)に基づいてアイデンティティを割り当てることが可能であることを意味する。
【0164】
FRETオリゴヌクレオチドTオリゴヌクレオチドの様々なペアの蛍光動態プロファイル(例えば、その少なくとも1つのメトリックに関して定義されるもの)は、例えば本明細書の他の箇所に記載されるように実験的に決定することができ、それにより、サンプル中でいずれかの蛍光動態プロファイルが観察されたとき、観察された蛍光動態プロファイル(例えば、その少なくとも1つのメトリックに関して定義されるもの)を、様々なペアの既知または既定の蛍光動態プロファイル(例えば、その少なくとも1つのメトリックに関して定義されるもの)と比較して、各位置にどのペアが存在するか(したがって、どのTオリゴヌクレオチドがペア内に存在するか、ひいてはどの結合剤がその位置で結合したか)を決定することが可能である。
【0165】
この比較及び割り当ては、任意の好適な手段によって行うことができる。例えば、蛍光動態プロファイルの少なくとも1つのメトリックが、蛍光動態プロファイルから計算される。このメトリック(複数可)は、使用されたFRETオリゴヌクレオチドTオリゴヌクレオチドの各ペアについての蛍光動態プロファイルの既知または既定のメトリック(複数可)と比較され得る。この比較により、観察されるサンプル中の1つ以上のピクセルに、そのピクセルにおけるサンプルの蛍光動態プロファイルから計算されたメトリックに基づいてアイデンティティを割り当てることができる。
【0166】
次いで、ピクセルのアイデンティティを使用して、例えばサンプル内の1つ以上の結合剤及び/または標的分子の位置を示す、サンプルの1つ以上の画像を生成することができる。各Tオリゴヌクレオチドのアイデンティティに割り当てられるピクセルは、個々のグレースケールチャネルに分離することができる。個々のグレースケールチャネル画像を合成すると、各Tオリゴヌクレオチドチャネルが異なる色で示される疑似カラー顕微鏡画像にすることができる。
【0167】
セット群による多重化
ある特定の実施形態では、ステップaは、サンプルを結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット群と接触させることであって、該セット群が、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第1のセット、及び結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つ以上の後続のセットを含む、接触させることを含み、ステップbは、該サンプル及びステップaの結果として結合した任意の結合剤を、第1のFRETオリゴヌクレオチド、及び1つ以上の後続のFRETオリゴヌクレオチドと接触させることを含み、該第1のFRETオリゴヌクレオチドは、該第1のセット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、該後続のFRETオリゴヌクレオチドの各々は、その対応するセット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、(i)各セット内でそのペアに特有であり、かつ(ii)該セット群内でそのペアに特有である蛍光動態プロファイルを生成する。
【0168】
このような実施形態では、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第1のセット、及び結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つ以上の後続のセットを含むセット群が使用される。したがって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの各セットに対するFRETオリゴヌクレオチドが使用される。上記で説明したように、複数のFRETオリゴヌクレオチドの使用は、より広範囲の蛍光動態プロファイルが生成され得ることを意味する。
【0169】
セット群は、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または最大2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、例えば1~25、2~24、3~23、4~22、5~21、6~20、7~19、8~18、9~17、10~16、11~15、12~14個のセットを含み得る。
【0170】
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット群が使用される場合、対応する各FRETオリゴヌクレオチドは、オーバーラップする発光スペクトルを有するエミッター分子を含み得る(そのため、放出された蛍光を単一のチャネルで検出することができる。例えば、それらは、同じ波長の蛍光を放出するエミッター分子を含んでもよいし、同じエミッター分子を含んでもよい)。これは、すべてのオリゴヌクレオチドペアについて同時に観察ステップを行うことを可能にするため、有利であり得る。例として、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット群が使用される場合、各々の異なるFRETオリゴヌクレオチドは、Atto550であるエミッター分子を含み得る。代替的な実施形態において、各々の異なるFRETオリゴヌクレオチドは、Atto647であるエミッター分子を含み得る。さらなる代替的な実施形態において、各々の異なるFRETオリゴヌクレオチドは、Atto488であるエミッター分子を含み得る。
【0171】
あるいは、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット群が使用される場合、対応するFRETオリゴヌクレオチドは、複数のチャネルで検出され得る蛍光を放出するエミッター分子を含んでもよく、例えば、異なる波長の蛍光を放出するエミッター分子を含んでもよいし、異なるエミッター分子を含んでもよい。例として、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセット群が使用される場合、
1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto647であるエミッター分子を含むことができるか、
1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto488であるエミッター分子を含むことができるか、
または、1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto647であるエミッター分子を含むことができ、1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto488であるエミッター分子を含むことができるか、
1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto488であるエミッター分子を含むことができ、1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドが、Atto647であるエミッター分子を含むことができる。
【0172】
複数の蛍光動態プロファイルを生成する厳密な方法にかかわらず、Tオリゴヌクレオチドのセット群と、対応するFRETオリゴヌクレオチドとを作ることによって、生成され得る異なる蛍光動態プロファイルの数が増加することは理解されよう。Tオリゴヌクレオチドの単一のセットと、対応する単一のFRETオリゴヌクレオチドとを使用するよりも、Tオリゴヌクレオチドのセット群と、対応するFRETオリゴヌクレオチドとを使用することにより、より高度な多重化が可能である。
【0173】
Tオリゴヌクレオチドのセット群が使用される場合でも、存在する各Tオリゴヌクレオチドの配列は、それがコンジュゲートされている結合剤に特有である。さらに、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、(i)そのセット内でそのペアに特有であり、かつ(ii)該セット群内でそのペアに特有である蛍光動態プロファイルを生成する。さらに、いくつかの実施形態では、各Tオリゴヌクレオチドは、その対応するFRETオリゴヌクレオチドだけにハイブリダイズし、該セット群内の他のセットのFRETオリゴヌクレオチド(複数可)にはハイブリダイズしない。蛍光動態プロファイル、Tオリゴヌクレオチド、及び結合剤の間の相関関係が維持されるように、クロスハイブリダイゼーションは避けるべきである。
【0174】
複数のセット群による多重化
上記で説明したように、本方法は、ステップaが、サンプルを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセット群であって、各セット群が、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第1のセット、及び結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つ以上の後続のセットを含み、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応するFRETオリゴヌクレオチドの発光スペクトルが、そのセット群に特異的なチャネルで検出され得る、複数のセット群と接触させることを含み、サンプルの動態蛍光プロファイルを観察するステップが、各セット群に対するチャネルで動態蛍光プロファイルを観察することを含む、実施形態を含み得る。
【0175】
これは、単一のセットまたはセット群と比較して、さらなるレベルの多重化を達成するために有用である。このようにして、例えば、異なるチャネルで検出され得る蛍光動態プロファイルを生成するために、異なる発光スペクトルを有するフルオロフォアを含むFRETオリゴヌクレオチドを使用して、蛍光動態シグナルが観察される異なるチャネルの数を増加させる。
【0176】
このような場合、生成される蛍光動態プロファイルの各々は異なり得るが、複数のチャネル(すなわち、異なる波長の蛍光を放出するエミッター分子、またはそれらは異なるエミッター分子を含み得る)を使用することは、所定の蛍光動態プロファイルがセット群間で複製され得ることを意味する。言い換えれば、類似またはさらには同一の蛍光動態プロファイルを生成する2つ以上のペアが、異なるチャネルで観察される蛍光放出としての蛍光動態プロファイルを生成すれば、非常に類似またはさらには同一の蛍光動態プロファイルを生成するこれら2つ以上のペアを使用することができる。
【0177】
このタイプの多重化では、各Tオリゴヌクレオチドは依然として、それがコンジュゲートされている結合剤に特有の異なる配列を有し、セット内の異なる各ペアは、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する。複数のセット群が使用され、異なるセット群のFRETオリゴヌクレオチドが、異なるチャネルで検出され得る蛍光放出としての蛍光動態プロファイルを生成するため、これは、1つのセット(または1つのセット群)のペアが、異なるセット(または異なるセット群)のペアと類似または同一の蛍光動態プロファイルを有する場合、FRETオリゴヌクレオチド上のエミッター分子が区別可能な発光を生じさせる限り、両方のペアが使用され得ることを意味する。
【0178】
各FRETオリゴヌクレオチドのエミッター分子の励起を引き起こすためには、1つ以上の波長でサンプルを照射する必要がある。使用される特定のエミッター分子またはそれらの組み合わせ次第では、異なる照射源、例えば異なる波長を使用してエミッター分子を励起する必要がある場合もあれば、エミッター分子のすべてを励起するのに単一の光源で十分である場合もある。例として、UV照射を使用して、Atto 594、Atto 700、及びAtto 465の各々の励起を引き起こすことができる。
【0179】
例として、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つのセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto647であるエミッター分子を含むことができるか、
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つのセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto488であるエミッター分子を含むことができるか、
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つのセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto647であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto488であるエミッター分子を含むことができるか、
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つのセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto488であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第3のセット群に対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto647であるエミッター分子を含むことができる。
【0180】
複数のセットによる代替的な多重化
本方法の他の実施形態では、ステップaは、サンプルを、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセットと接触させることを含み、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セットについての対応するFRETオリゴヌクレオチドの発光スペクトルは、そのセットに特異的なチャネルで検出され得る。このような実施形態では、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの複数のセットが使用され、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの各セットは、単一のチャネルで検出可能な蛍光放出を生じさせる対応するFRETオリゴヌクレオチドを有し、例えば、各FRETオリゴヌクレオチドは、他の各FRETオリゴヌクレオチドとは異なる波長の蛍光を放出するエミッター分子を有し、例えば、各FRETオリゴヌクレオチドは、異なるエミッター分子を有する。
【0181】
例として、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つのセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto647であるエミッター分子を含むことができるか、
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つのセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto488であるエミッター分子を含むことができるか、
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つのセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto647であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto488であるエミッター分子を含むことができるか、
結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つのセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto550であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第2のセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto488であるエミッター分子を含むことができ、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの第3のセットに対するFRETオリゴヌクレオチドは、Atto647であるエミッター分子を含むことができる。
【0182】
セット及びセット群の混合物を使用した多重化
本方法の他の実施形態では、セット及びセット群の混合物が使用され得る。例えば、
ステップaは、サンプルを、
i. 結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つまたは複数のセットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セットについての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルが、そのセットに特異的なチャネルで検出され得る、1つまたは複数のセット、及び
ii. 結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つまたは複数のセット群であって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドの各セット群についての対応するFRETオリゴヌクレオチド中のエミッター分子の発光スペクトルが、そのセット群に特異的なチャネルで検出され得る、1つまたは複数のセット群
と接触させることを含み得、
サンプルの動態蛍光プロファイルを観察するステップは、各励起/発光スペクトルに対するチャネルで、サンプルの動態蛍光プロファイルを観察することを含む。
【0183】
キット
多重化蛍光顕微鏡検査のためのキットであって、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットであって、該セットが、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、該Tオリゴヌクレオチドの配列が、それがコンジュゲートされている該結合剤に特有である、該セットと、FRETオリゴヌクレオチドとを備え、該FRETオリゴヌクレオチドは、該セット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、そのセット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する、キットも提供される。このキットの構成要素を使用して、本発明の方法を行うことができる。キットは、方法ステップを行うための適切なバッファー及び溶液、例えば、本明細書で定義される固定試薬及び/または本明細書で定義される透過処理試薬、及び/または洗浄ステップのための好適な溶液及び液体をさらに備えていてもよい。
【0184】
キットは、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つ以上の追加のセット、及び1つ以上の追加のFRETオリゴヌクレオチドをさらに備えていてもよく、さらなる該FRETオリゴヌクレオチドの各々は、その対応するセット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、各セット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する。
【0185】
したがって、キットは、例えば本方法の文脈で本明細書の他の箇所で定義されるように、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つもしくは複数のセット、または1つもしくは複数のセット群と、対応する数のFRETオリゴヌクレオチドとを備えていてもよい。各FRETオリゴヌクレオチドは、その対応するセット内の複数のTオリゴヌクレオチドにハイブリダイズして複数のペアを形成することができ、異なる各ペアの間の解離及び再会合は、各セット内でそのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成する。FRETオリゴヌクレオチドの発光スペクトルは、そのセットまたはそのセット群に特異的であり得、セット間及びセット群間で異なり得る。
【0186】
本発明はまた、Tオリゴヌクレオチドの1つ以上のセット、及び1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドを含む、多重化蛍光顕微鏡検査のためのキットを作製するための結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの1つ以上のセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドを提供し、ここで、Tオリゴヌクレオチドのセット、及び1つ以上のFRETオリゴヌクレオチドは、本明細書の他の箇所で定義されているとおりである。
【0187】
好ましいTオリゴヌクレオチドのセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドには、以下が含まれる:
- 以下を含む(場合によりそれらからなる)セット:
o配列番号1(5’-TTCCACATTACTTCT-3’)及び
配列番号2(5’-ATCCCCATTACTTCT-3’)
の配列のTオリゴヌクレオチド(複数可)の一方または両方、
ならびに
o配列番号7(5’-AGAAGTAATGTGGAA-3’)の配列の対応するFRETオリゴヌクレオチド、
- 以下を含む(場合によりそれらからなる)セット:
o配列番号3(5’-GGGTGGCGTATGATAGCTAT-3’)、
配列番号4(5’-AGGTTAAGTATGATAGTTAT-3’)、
配列番号5(5’-GGGTTAAGCATGGTAGTTAT-3’)及び
配列番号6(5’-AGGTTAAGCGTTATATTTAT-3’)
の配列のTオリゴヌクレオチド(複数可)のうちの少なくとも1つ(例えば、列挙されたTオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも2、3、または4つすべて)、
ならびに
o配列番号8(5’-ATAACTATCATACTTAACCT-3’)の配列の対応するFRETオリゴヌクレオチド。
【0188】
上記の2つのセットは、例えば、2つの対応するFRETオリゴヌクレオチドが、オーバーラップする発光スペクトルを有するエミッター分子を含み、場合により同じエミッター分子を有する場合、セット群として一緒に使用され得る。
【0189】
キットを調製する方法
本発明はまた、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの各セット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドが提供される、上記で言及したキットを調製する方法を提供する。本方法は、Tオリゴヌクレオチドのセットを結合剤のセットとコンジュゲートして、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットを形成することをさらに含み、ここで、結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのセットは、異なる特異性を有する複数の結合剤を含み、Tオリゴヌクレオチドの配列は、そのセット内で、それがコンジュゲートされている結合剤に特有である。コンジュゲーションステップは、上記のものなどの当技術分野で知られている任意の好適な手段によって行うことができる。
【0190】
本発明の方法で使用するためのTオリゴヌクレオチドのセット及びFRETオリゴヌクレオチドを設計する方法
FRETオリゴヌクレオチドの生成:
概して、FRETオリゴヌクレオチドが最初に生成され、続いてTオリゴヌクレオチド配列が生成される。FRETオリゴヌクレオチドは、概して、本方法が適用されるサンプル中に見出されるいかなる配列にも相補的ではないヌクレオチド配列を有する。これは、サンプル中の標的分子に結合する結合剤-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートの非存在下で蛍光放出を生じさせる、サンプル中の核酸物質とのFRETオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを回避するためである。
【0191】
FRETオリゴヌクレオチドを生成するための好適なプロセスを以下に示す。単純なヌクレオチドからより複雑なヌクレオチドの組み合わせを含んでランダムに生成され、いかなる既知のゲノム配列ともマッチしないように事前にフィルター処理された配列から、初期配列を選択する。好適な配列は、FRETオリゴヌクレオチドの非結合状態において、例えば電子移動または電子交換に関与するために、末端を近接させるのに十分な柔軟性を提供する。
【0192】
本方法で使用されるペアの蛍光動態プロファイルには多様性がある必要があるため、FRETオリゴヌクレオチドの長さは、それが結合状態(すなわち、Tオリゴヌクレオチドと会合した状態)を保つ所望の時間の長さに基づいて選択され得る。FRETオリゴヌクレオチドの長さを伸ばすと塩基ペアリングが強化されるため、解離にはより長い時間がかかるか、またはより多くのエネルギーが必要になる。そのGC含有量を増加させると塩基ペアリングが強化されるため、解離にはより長い時間がかかるか、またはより多くのエネルギーが必要になる。
【0193】
in silicoでFRETオリゴヌクレオチドに好適な配列が生成されたら、その配列を試験して、二次構造が存在しないこと、ならびにセルフライゲーション及び/または本方法で使用される他のFRETオリゴとの交差二量化の可能性がないことを確認する。これは、大抵のオリゴヌクレオチド供給業者によって提供されている標準的なソフトウェアツールなど、当技術分野で知られている方法によって行うことができる。市販のツールの例には、例えば、Sigma-Aldrichの「Oligo Analyzer Tool」、Thermofisherの「Multiple Primer Analyzer」、IDTの「OligoAnalyzer(商標)Tool」が含まれる。
【0194】
Tオリゴヌクレオチドの生成:
FRETオリゴヌクレオチド配列が生成されたら、次いで好適なTオリゴヌクレオチドを生成することができる。概して、これは、FRETオリゴヌクレオチドの全部または一部に完全に相補的な配列から出発することによって行われる。
【0195】
完全に相補的な配列にミスマッチを導入することにより、in silicoで可能なTオリゴヌクレオチドが生成される。例えば、ミスマッチは、可能な塩基ペアの20~40%に導入され得る。ミスマッチは、上記で説明したように、異なるパターンで導入され得る。
【0196】
所定のペアについて可能な蛍光プロファイル動態は、ミスマッチの数及び位置から推測され得る(例えば、一連のミスマッチがあるペアは、同数のミスマッチを有するが配列全体に均等に分布しているペアとは異なるプロファイルを有する)。必要な蛍光動態プロファイルを生じさせる可能性が高い配列が合成され、それらの点滅プロファイルについて試験される。
【0197】
これは、例えば
図2に示されている。FRET/Tオリゴペアの蛍光原性プロファイルは、溶液中で評価することができる。FRETオリゴヌクレオチドを溶液中で異なるTオリゴヌクレオチドと接触させ、様々なTオリゴヌクレオチド濃度で蛍光放出を測定し、場合により、完全にマッチする配列と比較する。
図2Aに見られるように、完全にマッチするオリゴヌクレオチドは、ミスマッチするTオリゴヌクレオチドとは異なるプロファイルを生成し、異なるミスマッチペアは、溶液中で異なる蛍光原性プロファイルを有する。FRETオリゴが、FRETオリゴとTオリゴヌクレオチドとの間の適切な塩基ペアリングに干渉するミスマッチを含む異なるTオリゴヌクレオチドの存在下にあるとき、これらの独特の動態プロファイルが生成される。各TオリゴヌクレオチドへのFRETオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションによって、より破壊的なミスマッチが蛍光原性の見かけの低減をもたらす、独特の蛍光原性プロファイルが生成される。
【0198】
溶液中で試験すると、全体の蛍光量のみが測定され得る。プロファイルに関するさらなる情報は、今回は表面上に固定化されている同じTオリゴヌクレオチドにFRETオリゴヌクレオチドを加えることによって生成され得る(Tオリゴヌクレオチドを結合剤にコンジュゲートさせ、これをサンプルに結合させることで、Tオリゴヌクレオチドがサンプル上に効果的に固定化されるようにする、本発明の方法において起こることを模倣している)。この構成におけるFRETオリゴは、断続的な蛍光を放出する。
図2Bは、試験したオリゴヌクレオチドペアの代表的な結果を示しており、ペアごとに1秒当たりの点滅事象の数(例えば、指定された秒の時間枠内の蛍光放出の発生回数)が示されている。上記で説明したように、指定された時間枠内の蛍光放出の発生回数は、蛍光動態プロファイルの1成分である。点滅動態は、FRETオリゴヌクレオチドの蛍光原性プロファイルを低減させる破壊的なミスマッチなど、Tオリゴヌクレオチドに導入されたミスマッチの性質を含む要因に影響される。
図2Bに示すように、異なるペアでは、指定された時間枠内での蛍光放出の発生回数が異なる。
【0199】
この試験形式で所定のペアの蛍光動態プロファイルを観察できるということは、ペアを設計するときに、所定の用途に必要な範囲のプロファイルをもたらすために適切な配列を選択できることを意味する。
【0200】
したがって、本発明は、本発明の方法で使用するためのTオリゴヌクレオチドのセット及びFRETオリゴヌクレオチドを設計する方法を提供し、該方法は、
a. 少なくとも12ヌクレオチドの長さのFRETオリゴヌクレオチド配列を選択することと、
b. 該FRETオリゴヌクレオチド配列に相補的である少なくとも8ヌクレオチドの長さの1つ以上の配列を取得することと、
c. 各々が該FRETオリゴヌクレオチドに相補的な該配列とは少なくとも1ヌクレオチド異なる、複数の潜在的なTオリゴヌクレオチド配列を生成することと、
d. 互いに異なる蛍光動態プロファイルを生成する少なくとも2つのTオリゴヌクレオチド配列の能力に基づいて、該少なくとも2つのTオリゴヌクレオチド配列を選択することとを含む。
【0201】
少なくとも12ヌクレオチドの長さのFRETオリゴヌクレオチド配列を選択するステップaは、上記のように行うことができ、(i)潜在的なFRETオリゴヌクレオチドが、本方法が適用されるサンプル中に見出されるいかなる配列にも相補的ではないヌクレオチド配列を有するかどうかを決定すること、(ii)該配列が、FRETオリゴヌクレオチドの非結合状態において、例えば電子移動または電子交換に関与するために、末端を近接させるのに十分な柔軟性を有するかどうかを決定すること、(ii)潜在的なFRETオリゴヌクレオチドが、本発明の方法で使用される別のFRETオリゴヌクレオチドのいかなる配列にも相補的ではないヌクレオチド配列を有するかどうかを決定することのうちの1つ以上を含み得る。
【0202】
FRETオリゴヌクレオチド配列に相補的である少なくとも8ヌクレオチドの長さの1つ以上の配列を取得するステップbは、単に、相補的ペアを作ることによって行われる。FRETオリゴヌクレオチドは概して少なくとも12ヌクレオチド単位の長さであり、Tオリゴヌクレオチドはそれより短い場合があるため、このステップは、長さの異なる複数の可能な相補的配列を作製することを必要とし得る。
【0203】
各々がFRETオリゴヌクレオチドに相補的な配列とは少なくとも1ヌクレオチド異なる、複数の潜在的なTオリゴヌクレオチド配列を生成するステップcは、ステップbと同様に、in silicoまたは手作業で行うことができる。
【0204】
互いに異なる蛍光動態プロファイルを生成する少なくとも2つのTオリゴヌクレオチド配列の能力に基づいて、少なくとも2つのTオリゴヌクレオチド配列を選択するステップdは、配列、例えばミスマッチの性質、数、及び位置からこれらの特性を推測すること、または分子を合成してそれらを試験することによって行うことができる。それらを試験するステップは、溶液中の各ペアのメンバー同士を接触させ、蛍光放出を観察すること、例えば発光の量を決定することを含み得る。これは、例えば
図2Aに示すような蛍光原性プロファイルを生成するために、潜在的なTオリゴヌクレオチドの複数の濃度で行われ得る。さらに、潜在的なTオリゴヌクレオチドを固体表面上に固定化し、FRETオリゴヌクレオチドと接触させ、各ペアの蛍光動態プロファイルを観察してもよい。
【0205】
次いで、少なくとも2つのTオリゴヌクレオチドを選択して、セットを形成する。これらのTオリゴヌクレオチドは、セット内で特有の蛍光動態プロファイルを生じさせる。
【0206】
第2もしくは後続のセットに含まれる、またはセット群で使用するためのFRETオリゴヌクレオチドを設計する際に、同じ原理を適用することができる。第2または後続のセットに関する追加の考慮事項には、(i)FRETオリゴヌクレオチド(複数可)が他のセット内のいずれのTオリゴヌクレオチドにもハイブリダイズしない必要性、及び(ii)他のFRETオリゴヌクレオチドにハイブリダイズしない必要性が含まれる。
【0207】
好ましいTオリゴヌクレオチドのセット及び対応するFRETオリゴヌクレオチドには、以下が含まれる:
- 以下を含む(場合によりそれらからなる)セット:
o配列番号1(5’-TTCCACATTACTTCT-3’)及び
配列番号2(5’-ATCCCCATTACTTCT-3’)
の配列のTオリゴヌクレオチド(複数可)の一方または両方、
ならびに
o配列番号7(5’-AGAAGTAATGTGGAA-3’)の配列の対応するFRETオリゴヌクレオチド、
- 以下を含む(場合によりそれらからなる)セット:
o配列番号3(5’-GGGTGGCGTATGATAGCTAT-3’)、
配列番号4(5’-AGGTTAAGTATGATAGTTAT-3’)、
配列番号5(5’-GGGTTAAGCATGGTAGTTAT-3’)及び
配列番号6(5’-AGGTTAAGCGTTATATTTAT-3’)
の配列の1つ以上のTオリゴヌクレオチド(複数可)、
ならびに
o配列番号8(5’-ATAACTATCATACTTAACCT-3’)の配列の対応するFRETオリゴヌクレオチド。
【0208】
通則
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」及び「からなる(consisting)」を包含する。例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、Xのみからなる場合もあれば、何らかの追加要素を含む、例えばX+Yである場合もある。
【0209】
数値xに関する「約」という用語は、例えば、x±10%を意味する。
【0210】
「実質的に」という言葉は「完全に」を除外しない。例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要に応じて、「実質的に」という言葉は本発明の定義から省略されてもよい。
【0211】
本発明が、複数の連続ステップを含むプロセスを提供する場合、これらのステップは、示された順序、すなわち番号順またはアルファベット順で行われる。しかし、当業者であれば、ステップの順序を変更しても依然として有用な結果を達成できることを理解するであろう。本発明は、総数未満のステップを含むプロセスを提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【
図1】フェルスター共鳴エネルギー移動オリゴヌクレオチド(FRETオリゴヌクレオチド)-Tオリゴヌクレオチドペアを使用した、DNAに基づく確率的蛍光を示す。(A)FRETオリゴヌクレオチドが溶液中にあるとき、エミッターの励起波長を照射すると、消光体への効率的なエネルギー移動のために、蛍光は観察されない。(B)しかし、固定化されたTオリゴヌクレオチドとのFRETオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションにより、エミッター及び消光体が物理的に分離され、FRETの速度が低下して、エミッターフルオロフォアからの発光がハイブリダイゼーション部位で検出できるようになる。
【
図2A】FRET/Tオリゴペアの蛍光原性及び点滅プロファイルを示す。FRET/Tオリゴペアの蛍光原性プロファイルが、溶液中で評価されている。FRETオリゴが、FRETオリゴとTオリゴヌクレオチドとの間の適切な塩基ペアリングに干渉するミスマッチを含む異なるTオリゴヌクレオチドの存在下にあるとき、独特の動態プロファイルが生成される。各TオリゴヌクレオチドへのFRETオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションによって、より破壊的なミスマッチが蛍光原性の見かけの低減をもたらす、独特の蛍光原性プロファイルが生成される。点滅動態は、FRETオリゴヌクレオチドの蛍光原性プロファイル(A)を低減させる破壊的なミスマッチが、その点滅速度(B)を増加させるように、Tオリゴヌクレオチドに導入されるミスマッチの性質を含む要因に影響される。
【
図2B】FRET/Tオリゴペアの蛍光原性及び点滅プロファイルを示す。今回は抗体コンジュゲーションを介して表面上または細胞中に固定されている同じTオリゴヌクレオチドにFRETオリゴヌクレオチドを加えると、FRETオリゴヌクレオチドの断続的な蛍光を直接観察することができる。点滅動態は、FRETオリゴヌクレオチドの蛍光原性プロファイル(A)を低減させる破壊的なミスマッチが、その点滅速度(B)を増加させるように、Tオリゴヌクレオチドに導入されるミスマッチの性質を含む要因に影響される。
【
図4A】細胞サンプル中の固定化されたTオリゴヌクレオチド+FRETオリゴヌクレオチドの結合からの放出シグナルの表現を示す。特定の細胞成分の構造を認識する一次抗体が、異なるTオリゴヌクレオチドに共有結合しており、固定され透過処理された細胞の免疫標識に使用される。FRETオリゴヌクレオチドの一時的なハイブリダイゼーションにより、所定の焦点で断続的な蛍光が生じる。
【
図4B】細胞サンプル中の固定化されたTオリゴヌクレオチド+FRETオリゴヌクレオチドの結合からの放出シグナルの表現を示す。結合ハイブリダイゼーション(したがって蛍光)の動態を区別することにより、各焦点のアイデンティティを数十のFRETオリゴ/Tオリゴヌクレオチドペアのうちの1つまたはバックグラウンドに割り当てることができる。
【
図5A】Tオリゴヌクレオチドのデコンボリューションを行ったチャネル画像の構築を示す。細胞サンプルが、異なる分子エピトープを認識する抗体で標識されている。各抗体種は、異なるTオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされている。次に、コンジュゲートされたTオリゴヌクレオチドに対応するFRETオリゴヌクレオチドがサンプルに加えられる。各FRETオリゴヌクレオチドのペアは、同じエミッターフルオロフォア及び蛍光クエンチャーを用いる。Tオリゴヌクレオチドから結合解除されると、FRETオリゴヌクレオチドは、FRETに基づく消光のために蛍光を発することができない。対応するTオリゴヌクレオチドとハイブリダイズすると、ハイブリダイゼーション部位で蛍光が発生する。経時的な画像捕捉により、各ピクセルの蛍光を測定し、プロファイルを作成することができる。
【
図5B】Tオリゴヌクレオチドのデコンボリューションを行ったチャネル画像の構築を示す。各FRETオリゴヌクレオチド/Tオリゴヌクレオチドペアは特有の動態結合プロファイルを有するため、これを使用して、ピクセルの蛍光プロファイルを、そのTオリゴヌクレオチドのアイデンティティ、ひいては細胞標的に関連付けることができる。
【
図5C】Tオリゴヌクレオチドのデコンボリューションを行ったチャネル画像の構築を示す。各ピクセルは、特定のTオリゴヌクレオチドのアイデンティティ、またはバックグラウンドに割り当てられている。
【
図5D】Tオリゴヌクレオチドのデコンボリューションを行ったチャネル画像の構築を示す。単一のレーザー励起波長を使用した実験にもかかわらず、この割り当てから、各イメージングモダリティに対する別個のチャネル画像を生成することができる。
【
図6】異なるTオリゴヌクレオチドの存在下でのCy5-BHQ-3 FRETオリゴヌクレオチドの用量応答を示す。ウェルの底から約10μm上でキャプチャされた50×10ms画像のスタック全体で算定された生のピクセルの総数または平均数のいずれかを使用して、3つの反復試験の蛍光強度を平均した。Cy5標識対照オリゴ(すなわち、消光されていないエミッター)について取得された平均蛍光値に対して値を正規化した。FRETオリゴ/完全マッチTオリゴペア(0ミスマッチ)については、すべてのサンプルプレートの平均値を算定した。ここに示されているのは、各群内で取得された様々なプロファイルの95% CIを包含する各陰影領域を含む、ミスマッチの数によって集計されたプロットである。
【
図7A】広範囲の蛍光原性プロファイルが、3つのミスマッチを有するTオリゴの存在下のFRETオリゴについて取得されることを示す。これは、ミスマッチが等しくなく、一部がその他よりも高コストであることを示唆する。各ハイブリダイゼーションについて、位置及び塩基置換が示されている。
【
図7B】広範囲の蛍光原性プロファイルが、3つのミスマッチを有するTオリゴの存在下のFRETオリゴについて取得されることを示す。これは、ミスマッチが等しくなく、一部がその他よりも高コストであることを示唆する。各ハイブリダイゼーションについて、位置及び塩基置換が示されている。
【
図8A】Tオリゴへの4つのミスマッチの導入は、概してコストが高くなり、FRETオリゴの蛍光原性プロファイルに劇的に影響することを示す(正規化された蛍光が0.1未満に留まる用量応答曲線)。しかし、FRETオリゴは、いくつかの選択されたTオリゴにはより良好にハイブリダイズするように見受けられる(正規化された蛍光が0.1~0.2に達する曲線)。比較すると、Tオリゴが4つのミスマッチを含む高速点滅ペア(点線)は、蛍光原性が低いものに含まれる。
【
図8B】Tオリゴへの4つのミスマッチの導入は、概してコストが高くなり、FRETオリゴの蛍光原性プロファイルに劇的に影響することを示す(正規化された蛍光が0.1未満に留まる用量応答曲線)。しかし、FRETオリゴは、いくつかの選択されたTオリゴにはより良好にハイブリダイズするように見受けられる(正規化された蛍光が0.1~0.2に達する曲線)。比較すると、Tオリゴが4つのミスマッチを含む高速点滅ペア(点線)は、蛍光原性が低いものに含まれる。
【
図9A】Tオリゴにおける単一のミスマッチの導入が、ミスマッチの位置及びそのアイデンティティに応じて、FRETオリゴの溶液中の蛍光プロファイルに異なる影響を与えることを示す。各ハイブリダイゼーションについて、位置及び塩基置換が示されている。漸増濃度の完全に相補的なTオリゴと共にFRETオリゴをインキュベートしたときに取得される蛍光プロファイルが含まれている。同じ位置だが異なるミスマッチを有するハイブリダイゼーションパートナーが示されている。例えば、14位の置換を比較すると、TからAへの置換はFRETオリゴの蛍光原性に実質的に影響を与えないが、TからCへの置換は蛍光原性の低下をもたらすことが示される。
【
図9B】Tオリゴにおける単一のミスマッチの導入が、ミスマッチの位置及びそのアイデンティティに応じて、FRETオリゴの溶液中の蛍光プロファイルに異なる影響を与えることを示す。各ハイブリダイゼーションについて、位置及び塩基置換が示されている。漸増濃度の完全に相補的なTオリゴと共にFRETオリゴをインキュベートしたときに取得される蛍光プロファイルが含まれている。同じ位置だが異なるミスマッチを有するハイブリダイゼーションパートナーが示されている。例えば、14位の置換を比較すると、TからAへの置換はFRETオリゴの蛍光原性に実質的に影響を与えないが、TからCへの置換は蛍光原性の低下をもたらすことが示される。
【
図10】40秒の合計捕捉期間にわたる点滅事象の累積数及び分布を示す、相補的な「マッチ」及びミスマッチTオリゴについての最大強度Z投影を示す。スポットの数の増加は、点滅事象の数の増加を示す。ミスマッチTオリゴヌクレオチド(右)は、マッチTオリゴヌクレオチド(左)よりも、露光中に多くの点滅を生じる。
【
図11】異なるTオリゴとペアにしたFRETオリゴの蛍光動態プロファイリングを表すワークフローを示す。各実験群について、2000枚の画像を20msのフレームレートで捕捉し、合計捕捉時間を40秒とした。蛍光強度の時間トレース(四角で囲ったトレース)は、画像スタック内の特定の関心領域の動態プロファイルを示す(これにそれらが関連付けられる)。右側のヒストグラムプロットは、2つの異なるTオリゴ設計の合計捕捉時間にわたるフレーム当たりの点滅事象の累積頻度を示す。
【
図12A】ビオチン/ストレプトアビジン被覆ガラスカバースリップ上の固定化されたTオリゴにFRETオリゴを加えた際に取得された焦点動態プロファイルを示す。各測定では、1000×20msの露光で個々の焦点を記録した。完全マッチTオリゴヌクレオチド(A)及びミスマッチTオリゴヌクレオチド(B)について、サンプル蛍光動態プロファイルが示されている。露光の総持続時間中の点滅事象の平均数は、マッチTオリゴヌクレオチド(1.8)の方が、ミスマッチTオリゴヌクレオチド(4.6)と比較して少ない。さらに、所定の点滅事象の平均オン時間は、ミスマッチ(30ms)に対し、マッチTオリゴヌクレオチドの方が長い(95ms)。これらは、Tオリゴヌクレオチドのアイデンティティをデコンボリューションするために使用され得る2つの例示的なメトリックである。
【
図12B】ビオチン/ストレプトアビジン被覆ガラスカバースリップ上の固定化されたTオリゴにFRETオリゴを加えた際に取得された焦点動態プロファイルを示す。各測定では、1000×20msの露光で個々の焦点を記録した。完全マッチTオリゴヌクレオチド(A)及びミスマッチTオリゴヌクレオチド(B)について、サンプル蛍光動態プロファイルが示されている。露光の総持続時間中の点滅事象の平均数は、マッチTオリゴヌクレオチド(1.8)の方が、ミスマッチTオリゴヌクレオチド(4.6)と比較して少ない。さらに、所定の点滅事象の平均オン時間は、ミスマッチ(30ms)に対し、マッチTオリゴヌクレオチドの方が長い(95ms)。これらは、Tオリゴヌクレオチドのアイデンティティをデコンボリューションするために使用され得る2つの例示的なメトリックである。
【
図13】FRETオリゴを加えた際の、ミスマッチ及び相補的な「マッチ」Tオリゴのスペクトル非依存多重化イメージングSIMIを示す。100nMのFRETオリゴの存在下のTオリゴ被覆ビーズ。画像は、10msの露光1000回の最大強度Z投影を表す。丸印は、相補的Tオリゴ(A)及びミスマッチTオリゴ(B)を含むビーズ、ならびにそれらの対応する動態プロファイル(右パネル+)を示す。丸印Cは、バックグラウンドを測定するために使用した等面積領域を示す。丸で囲った領域内で測定された平均シグナルが、露光時間に対してプロットされている。ミスマッチTオリゴヌクレオチドで被覆されたビーズは、マッチTオリゴヌクレオチドで被覆されたビーズよりも少ない全体的蛍光を呈する。これは単一のFRETオリゴヌクレオチドを使用した同じサンプルであるため、この差異は、ミスマッチTオリゴヌクレオチドにおける点滅のオン時間がより短いことに起因する。
【
図14A】固定細胞上の6つの細胞標的のスペクトル非依存多重化イメージング(SIMI)を示す。標的は、2つの異なるTオリゴセットから導出された異なるTオリゴに各々がコンジュゲートされている、固定細胞上の6つの異なる抗体を固定化することによってイメージングした。各々がTオリゴのセットの一方に会合した2つのFRETオリゴを同時に加え、イメージングバッファーに5nMで希釈した。露光各10msの10000フレームをNikonの60倍1.49NA TIRF対物レンズで捕捉し、Cy5フィルターセットでフィルター処理し、Prime BSI Express CMOSカメラを使用してイメージングした。Picasso及びQC-STORMソフトウェアを使用して、累積されたフレームから超解像度画像を再構成した。各FRETオリゴ/Tオリゴに関連する蛍光動態プロファイルから導出されたメトリックを使用して、超解像画像の逆多重化を行った。個々の分子の空間的位置を含む超解像度画像が、数千枚の生画像から再構成されている(経時的連続画像を形成している)。
【
図14B】固定細胞上の6つの細胞標的のスペクトル非依存多重化イメージング(SIMI)を示す。標的は、2つの異なるTオリゴセットから導出された異なるTオリゴに各々がコンジュゲートされている、固定細胞上の6つの異なる抗体を固定化することによってイメージングした。各々がTオリゴのセットの一方に会合した2つのFRETオリゴを同時に加え、イメージングバッファーに5nMで希釈した。露光各10msの10000フレームをNikonの60倍1.49NA TIRF対物レンズで捕捉し、Cy5フィルターセットでフィルター処理し、Prime BSI Express CMOSカメラを使用してイメージングした。Picasso及びQC-STORMソフトウェアを使用して、累積されたフレームから超解像度画像を再構成した。各FRETオリゴ/Tオリゴに関連する蛍光動態プロファイルから導出されたメトリックを使用して、超解像画像の逆多重化を行った。再構成された画像の逆多重化により、個々の細胞標的を別個のチャネルに割り当てることが可能になる。6つの個々のグレースケールチャネル画像が示され、サンプル上の6つの異なる細胞標的の位置が特定される。
【
図14C】固定細胞上の6つの細胞標的のスペクトル非依存多重化イメージング(SIMI)を示す。標的は、2つの異なるTオリゴセットから導出された異なるTオリゴに各々がコンジュゲートされている、固定細胞上の6つの異なる抗体を固定化することによってイメージングした。各々がTオリゴのセットの一方に会合した2つのFRETオリゴを同時に加え、イメージングバッファーに5nMで希釈した。露光各10msの10000フレームをNikonの60倍1.49NA TIRF対物レンズで捕捉し、Cy5フィルターセットでフィルター処理し、Prime BSI Express CMOSカメラを使用してイメージングした。Picasso及びQC-STORMソフトウェアを使用して、累積されたフレームから超解像度画像を再構成した。各FRETオリゴ/Tオリゴに関連する蛍光動態プロファイルから導出されたメトリックを使用して、超解像画像の逆多重化を行った。定義された数のフレームにわたって算定されるピクセルワイズの関連メトリックを使用して、ピクセルがFRETオリゴ/Tオリゴペア(ひいては細胞標的)に割り当てられる。これらのメトリックのいくつかは、ここで3つの例示的なピクセルについて示すように、時間的トレース(蛍光動態プロファイル)から算定され得る。
【
図14D】固定細胞上の6つの細胞標的のスペクトル非依存多重化イメージング(SIMI)を示す。標的は、2つの異なるTオリゴセットから導出された異なるTオリゴに各々がコンジュゲートされている、固定細胞上の6つの異なる抗体を固定化することによってイメージングした。各々がTオリゴのセットの一方に会合した2つのFRETオリゴを同時に加え、イメージングバッファーに5nMで希釈した。露光各10msの10000フレームをNikonの60倍1.49NA TIRF対物レンズで捕捉し、Cy5フィルターセットでフィルター処理し、Prime BSI Express CMOSカメラを使用してイメージングした。Picasso及びQC-STORMソフトウェアを使用して、累積されたフレームから超解像度画像を再構成した。各FRETオリゴ/Tオリゴに関連する蛍光動態プロファイルから導出されたメトリックを使用して、超解像画像の逆多重化を行った。各ピクセルから抽出された時空間情報を含む特徴をプロットして、ピクセルを分類し、標的の割り当て(逆多重化)を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0213】
実施例1
細胞内の異なるエピトープを認識する様々な抗体に、Tオリゴを共有結合させる。標準的な細胞生物学プロトコルを用いて、細胞を固定し、透過処理する。一次抗体-Tオリゴコンジュゲートを、固定され透過処理されたサンプルと接触させ、それぞれのエピトープ部位に結合させる。細胞を洗浄して、非結合状態の抗体-Tオリゴコンジュゲートを取り除く。次いで、エミッターフルオロフォアの励起波長での照射下で、FRETオリゴをサンプルと共にインキュベートする。FRETオリゴがそれぞれのTオリゴとハイブリダイズしていないとき、消光体は、エミッターフルオロフォアからの蛍光放出を抑制する。ハイブリダイゼーションすると、この消光が解除され、ハイブリダイゼーション部位での蛍光の検出が可能になる。
【0214】
高速CMOSセンサーは、数秒から数分でサンプルの画像を捕捉する。各焦点の蛍光が経時的にモニターされ、動態蛍光プロファイルが生成される。特定の焦点における蛍光プロファイル(またはそのメトリック)を使用することで、その焦点の蛍光動態プロファイルが決定される。
【0215】
各ピクセルのアイデンティティは、FRETオリゴ/Tオリゴペアの1つ、またはバックグラウンドに割り当てられる。
【0216】
各FRETオリゴ/Tオリゴペアのピクセルは、個々のチャネルに分離され、同じ照射波長の光の下でキャプチャされた数十の異なるイメージングモダリティを表す。
【0217】
実施例2
実施例2-スペクトル非依存多重化イメージング(SIMI)で使用するための独特の焦点動態プロファイルを有するFRETオリゴヌクレオチドとトランス活性化オリゴヌクレオチドのペアの生成
序論
目的は、FRETオリゴヌクレオチドまたはFRETオリゴと呼ばれるプローブを使用した超解像度顕微鏡検査による多重イメージングのためのプラットフォームを開発することである。これらのFRETオリゴは、指定されたDNA標的への一時的な結合、及びその結果としての可視状態と不可視状態との間の切り替え(すなわち、点滅)を可能にするように設計されている。この設計は、FRET(フェルスター共鳴エネルギー移動)による消光を利用しており、FRETオリゴの末端は、非蛍光クエンチャーアクセプターなどのクエンチャー及びエミッター(例えば、フルオロフォアドナー)とコンジュゲートされている。プローブのヌクレオチド配列は、高い構造的柔軟性を提供し、エミッター及びクエンチャーを近接させて、強力な消光及びバックグラウンド蛍光の抑制をもたらすことができる。FRETオリゴがトランス活性化オリゴヌクレオチドまたはTオリゴに結合すると、ドナーからアクセプターへのエネルギー移動を妨げるコンフォメーション変化が起こり、ドナーの蛍光が検出される。
【0218】
スペクトル非依存多重化イメージング(SIMI)は、原理上、ナノメートル長スケールで無制限の数の細胞内標的をイメージングすることができる。FRETオリゴ/Tオリゴのペアを使用するSIMIは、様々なオリゴヌクレオチド配列設計に関連する点滅速度の動態プロファイリングを目的としている。これにより、単回の超解像度画像捕捉で複数の標的マーカーを識別することが可能になり、FRETオリゴ/Tオリゴに基づくSIMIのフェノミクスプロファイリング能力の大幅な向上につながる可能性がある。この目標を実現するには、異なるFRETオリゴ/Tオリゴペアの動態プロファイルが、同じ視野で正確に識別されるように互いに十分に異なっている必要がある。
【0219】
材料及び方法
オリゴ
例示的なFRETオリゴは、5’末端及び3’末端でそれぞれCy5フルオロフォア及びBHQ-3ダーククエンチャーとコンジュゲートさせた、Chung et al.BioRxiv 2020(Chung,K.KH,Zhang,Z.,Kidd,P.,Zhang,Y.,Williams,ND.,Rollins,B.,Yang,Y.,Lin,C.,Baddeley,D.and Bewersdorf,B.(2020).Fluorogenic probe for fast 3D whole-cell DNA-PAINT.BioRxiv)に由来する15ヌクレオチド長の配列(5’AGAAGTAATGTGGAA(配列番号7))である。我々はPythonスクリプトを使用して、ミスマッチをランダムな位置で導入することにより、Tオリゴを生成した。すべてのオリゴ(すなわち、FRETオリゴ及びTオリゴ)は、IDTから購入し、100μM TEバッファー(10mM Tris-HCl及び1mM EDTA、pH8.0)に再懸濁した。凍結融解サイクルの数を制限するためにアリコートを調製し、-20℃で貯蔵した。
【0220】
蛍光原性プロファイリング
TEバッファー中で100μM、10μM、または1μMのTオリゴを調製し、イメージングバッファー(500mM NaClを含む1×PBS)で5、50、500、または5000nMに希釈した。FRETオリゴは、総量50μL中で50nMの最終濃度で使用した。
【0221】
バッファー単独、Cy5もしくはBHQ-3で標識したオリゴヌクレオチド単独、またはFRETオリゴ単独を対照として使用した。さらに、上記で定義したような漸増濃度の完全に相補的なTオリゴと共にインキュベートしたFRETオリゴを含むサンプルを追加の対照として使用して、FRETオリゴの固有の蛍光原性プロファイルを定義した。
【0222】
プローブからの蛍光放出は、Olympus BX50倒立顕微鏡を使用して測定した。530~550nmのバンドパスフィルターでフィルター処理した水銀アークランプを使用してサンプルを照射した。サンプルからの蛍光放出を590nmのロングパスフィルターに通し、sCMOSカメラチップ上にイメージングした。各ウェルに40倍0.6NA対物レンズを使用して10ms露光の50枚の画像を捕捉し(2回目の積分時間は500ms)、image Jを使用してスタック画像すべてのピクセル強度を平均または合計した。各サンプルは96ウェルプレートに三連でロードした。
【0223】
バッファーまたはBHQ-3標識オリゴのみを含むイメージングウェルからのバックグラウンド蛍光(値は同等であった)を、各サンプルについて取得された蛍光強度値から差し引いた。報告値は3つの反復試験の平均として算定し、Cy5標識オリゴ(すなわち、消光されていないエミッター)で取得された蛍光強度値に対して正規化した。
【0224】
SIMI
Tオリゴ点滅プロファイリング
各Tオリゴについて、1μMのビオチン化Tオリゴを、18ウェルのIbidiスティッキースライドにマウントされたBSA-ビオチン-ストレプトアビジン被覆ガラスカバースリップに加え、37℃で1時間または4℃で一晩インキュベートした。次いで、洗浄したカバースリップを50μLのイメージングバッファー(500mM NaClを含むTEバッファー)に浸し、顕微鏡下に置いた。次いで、10nMのCy5/BHQ-3 FRETオリゴFretプローブをサンプルに加えた。全出力(150mW)で動作する639nmレーザーで励起した後、Nikonの60倍1.49NA TIRF対物レンズを使用して蛍光を収集し、Cy5フィルターセットでフィルター処理し、Prime BSI Express CMOSカメラを使用してイメージングした。捕捉された画像の画像分析及び後処理はImageJで行い、オープンソースプラグインtrackmateを使用して単一粒子検出を行った。
【0225】
Tオリゴ焦点動態プロファイリング
5μLのストレプトアビジン被覆ポリスチレンビーズ(Φ=3μm)を50μLの結合/洗浄バッファー(20mM Tris、pH7.5;1M NaCl、1mM EDTA)に再懸濁した。次いで、洗浄したビーズを1μMのビオチン化Tオリゴと混合し、4℃で一晩インキュベートした。
【0226】
ミスマッチ及び完全に相補的なTオリゴがコンジュゲートされたビーズの混合物1μLを、18ウェルのIbidiスティッキースライドのBSA/ビオチン被覆ガラスカバースリップ上に固定化し、上記と同じ顕微鏡セットアップを用い、100nMのFRETオリゴの存在下でイメージングした。
【0227】
1000回の10ms露光のスタックを使用して、高速及びマッチTオリゴの点滅動態プロファイルを生成した。
【0228】
結果
我々は、Chung et al.BiorXiv 2019によって公開されたオリゴヌクレオチド配列を使用して、FRET実験で一般的に使用される色素/クエンチャーペアであるCy5及びBHQ-3で5’末端及び3’末端をそれぞれ標識することにより、FRETオリゴを設計した。
【0229】
漸増濃度の分解されたTオリゴの存在下で、Cy5/BHQ-3 FRETオリゴの溶液中の蛍光を測定した。これらを生成するために、完全に相補的なTオリゴのランダムな位置で1~6ヌクレオチドを改変するPythonスクリプトを設計した。1~6つのミスマッチの各カテゴリーで15個のTオリゴを、FRETオリゴへの結合時の蛍光の放出について試験した。
【0230】
ハイブリダイゼーションパートナーに導入されたミスマッチの数と、各プローブ/パートナーペアについて取得された用量応答曲線(
図6)との間には、導入されるミスマッチが多いほど、プローブの蛍光原性及び飽和蛍光レベル(SFL)値が低くなるような、一般的相関関係があることが観察された。さらに、いくつかの注目すべき例外を除いて、2つ以上のミスマッチを有するTオリゴは、完全に相補的なTオリゴよりも3~40倍高い活性化濃度50(AC50)を示した。これは、FRETオリゴを活性化させるには、より高い濃度の部分的に相補的なハイブリダイゼーションパートナーが必要であることを示唆している。概して、5つ以上のミスマッチの導入は、FRETオリゴプローブの蛍光原性を大幅に減少させた。これは、場合によっては完全に消失する可能性がある(
図6)。蛍光原性プロファイルの最も広い範囲は、3つのミスマッチの導入で得られたが(
図7)、4つのミスマッチを有するいくつかのTオリゴは、大多数よりも優れた性能を示すように見受けられた(
図8)。
【0231】
特にミスマッチが4つ以下のTオリゴについて、特定のミスマッチが蛍光原性プロファイルにおいて観察された差異を説明し得るかどうかをさらに調査するために、置換の位置及びアイデンティティを分析した。単一のミスマッチを有するTオリゴとFRETオリゴプローブの分析は、ある特定の位置が他の位置よりも用量応答及びSFLに大きく影響することを示した(
図9)。概して、配列における最初の残基及び中央に位置する残基は、FRETオリゴがTオリゴに結合するのに重要であるが、下流の位置はさほど重要ではないと見受けられた。同様の位置だが異なる置換を伴うミスマッチの比較は、一部の残基が他の残基よりもFRETオリゴ/Tオリゴのハイブリダイゼーション及び蛍光の放出にとって有害であり得ることを示唆した。
【0232】
次のステップでは、FRETオリゴ/Tオリゴペアの蛍光原性とその点滅特性との間に相関関係が存在するという仮説を検証するために、独特の蛍光原性プロファイルを有するTオリゴのセットを選択した。
【0233】
点滅事象を記録するためのロバストな測定プロトコルを確立するために、「マッチ」と表される完全に相補的なTオリゴと、「ミスマッチ」と表される4つのヌクレオチドミスマッチを有するTオリゴとの2つのTオリゴ設計についてまず研究した。表面に固定化されたTオリゴを含む各ウェルの3つの異なる領域で、2000×20msの露光からなる画像スタックを捕捉した。2つのTオリゴに関する2000×20msのカメラ露光の最大強度z投影の分析により、完全に相補的なTオリゴと比較すると4ミスマッチTオリゴにおける事象の数が大幅に増加した、事象の密度における質的変化が明らかになった(
図10)。関心領域を選択し、画像スタック全体で蛍光強度を測定することにより(
図11)、点滅が発生する関心領域の個々の時間トレースを可視化した(緑及び紫の線プロット)。フレームごとに検出された事象の総数の累積分布の分析により、フレーム当たりの点滅頻度が増加するにつれて分布が右にシフトし、2つのTオリゴについて異なる動態プロファイルを識別できることが実証された。
【0234】
この実験プラットフォーム及び分析ワークフローを使用して、異なる配列設計及び蛍光原性プロファイルを有するTオリゴのセットに結合したCy5-BHQ3/Fretプローブによって生成された点滅事象を検出した。異なるTオリゴ間の動態点滅プロファイルにおける変化が、溶液中の対応するTオリゴの逆の蛍光原性プロファイルに対応する、すなわち、高速点滅動態を有するTオリゴは溶液中の蛍光原性プロファイルが低く、その逆も同様であることが観察された(
図2)。
【0235】
次いで、Tオリゴをカバースリップ表面から解離させることなく、捕捉期間(1000フレーム、20ms/フレーム)の全体で個々の焦点から複数の点滅事象をキャプチャできるように、ビオチン-ストレプトアビジン被覆カバースリップ上に固定化された相補的Tオリゴ及びミスマッチTオリゴについて、8つの焦点それぞれの焦点動態プロファイルを分析した。焦点を測定すると、オン時間τonが100msを超えることはめったにないミスマッチTオリゴと比較して、点滅する相補的Tオリゴではτonが数十ミリ秒から数秒の範囲であった(
図12)。露光の総持続時間中の点滅事象の平均数も、マッチTオリゴヌクレオチド(1.8)の方が、ミスマッチTオリゴヌクレオチド(4.6)と比較して少ない。これは、Tオリゴヌクレオチドのアイデンティティをデコンボリューションするために使用され得る2つの例示的なメトリックを示す。
【0236】
最後に、ミスマッチ及び相補的Tオリゴとコンジュゲートされたストレプトアビジン被覆ポリスチレンビーズの混合物を、BSA/ビオチン被覆ガラス上の単一ウェルで固定化し、100nM FRETオリゴプローブの存在下で、TIRFモードでイメージングした。各測定では、単焦点からの蛍光を20msの露光で1,000回記録した。ガラスカバースリップ上に固定化されたTオリゴで以前に見られたように、ビーズ表面上の固定化されたTオリゴを表す、捕捉中の複数の点滅事象があった焦点が識別された。ミスマッチTオリゴで被覆されたビーズ上で検出された短いτonと比較して、τonが長い焦点は、相補的Tオリゴで被覆されたビーズ上で識別できた(
図9)。
【0237】
結論
完全に相補的なTオリゴのランダムな位置に1~6つのミスマッチを導入することによって生成された、溶液中の90個のFRETオリゴ/Tオリゴペアの体系的な蛍光原性プロファイリングは、ミスマッチの数がペアの蛍光原性と相関することを示した。すなわち、Tオリゴが含むミスマッチが多いほど、Tオリゴへのハイブリダイゼーション時のFRETオリゴの蛍光原性は低くなり、これはおそらく、FRETオリゴとTオリゴとの間の結合を不安定にすることによるものと考えられる。また、FRETオリゴの蛍光原性プロファイルが影響を受ける程度に、ミスマッチの位置が影響することも分かった。Tオリゴ配列の中央部分におけるミスマッチは、FRETオリゴの蛍光原性により大きな影響を与えると見受けられた。さらに、隣接するミスマッチは、より強い影響を及ぼした。これはおそらく、より大きな隆起を作り出し、したがってハイブリダイゼーションペアをさらに不安定にすることによると考えられる。
【0238】
我々は次に、指定されたペアのオン/オフレートが溶液中のその蛍光をプロファイリングするだけで予測できるような、FRETオリゴ/Tオリゴペアの蛍光原性プロファイルと点滅速度との間の相関関係を確立することが可能かどうかを評価した。固定化されたTオリゴにFRETオリゴがハイブリダイズした際に生成された点滅プロファイルを分析した。FRETオリゴとのペアリングにより独特の蛍光原性プロファイルをもたらす6つの異なるTオリゴを選択した。FRETオリゴとのペアリングの際に溶液中で低蛍光原性プロファイルを生成するTオリゴは、表面に固定化されると高い高速点滅速度を示すのに対し、蛍光原性が高いペアは低い点滅速度を示すことが観察された。これは、蛍光原性プロファイルと点滅動態プロファイルとの間の逆相関関係を示唆した。これは、潜在的な非特異的点滅を回避するために今回はビーズ上に固定化された完全に相補的なTオリゴまたはミスマッチTオリゴに加えたときのFRETオリゴの焦点動態プロファイルを分析することにより、さらに確認された。τonが長い焦点と、τonが短い焦点の、2つの異なるタイプの焦点が識別され、これらはそれぞれ、完全に相補的及びミスマッチな固定化されたTオリゴへのFRETオリゴのハイブリダイゼーションに対応する。これらの結果は、同時にイメージングされる異なるFRETオリゴ/Tオリゴペアについて焦点動態プロファイルが確立され得ることを実証するのに成功した。
【0239】
実施例3
実施例3-固定細胞上の6つの細胞標的のスペクトル非依存多重化イメージング(SIMI)
細胞内の6つの異なるエピトープを認識する6つの一次抗体にTオリゴ(1~6、表3参照)を共有結合させ、6つの一次抗体-Tオリゴコンジュゲートを形成した。
【表4】
【0240】
市販のヒトがん細胞を固定し、透過処理した(材料及び方法を参照のこと)。次いで、固定され透過処理されたサンプルと一次抗体-Tオリゴコンジュゲートを接触させた。細胞を洗浄して、非結合状態の抗体-Tオリゴコンジュゲートを除去した。次いで、両方とも5’末端でCy5フルオロフォアと、3’末端でBHQ-3ダーククエンチャーとコンジュゲートされた2つのFRETオリゴ(A及びB、表3参照)を、サンプルと共にインキュベートした。
【0241】
2つのFRETオリゴは各々、そのセット内の抗体-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートと可逆的にハイブリダイズすることができ、すなわち、Tオリゴa~bは、セット1内のFRETオリゴAとハイブリダイズすることができ、Tオリゴc~fは、セット2内のFRETオリゴBとハイブリダイズすることができる。
【0242】
サンプルをCy5の励起波長で照射した。各FRETオリゴについて、それがそれぞれのTオリゴのうちの1つとハイブリダイズしていないとき、消光体BHQ-3は、エミッターフルオロフォアCy5からの蛍光放出を抑制する。ハイブリダイゼーションすると、この消光が解除され、ハイブリダイゼーション部位での蛍光の検出が可能になる。
【0243】
高速CMOSセンサーは、数秒から数分でサンプルの画像を経時的連続画像として捕捉する(
図14A)。焦点の各々の蛍光が経時的にモニターされ、動態蛍光プロファイルが生成される。特定の焦点における蛍光プロファイル(またはその1つ以上のメトリック)を使用することで、その焦点の蛍光動態プロファイルが決定される。この実施例では、焦点の直径は2~3ピクセルである。各ピクセルのアイデンティティは、FRETオリゴ/Tオリゴペアの1つ、またはバックグラウンドに割り当てられる。
【0244】
各々の異なるFRETオリゴヌクレオチドTオリゴヌクレオチドペアが、そのペアに特有の蛍光動態プロファイルを生成するため、各ピクセルにおける蛍光動態プロファイル(トレース例は
図14Cに示されている)に、アイデンティティを(例えば、それを生成した特定のTオリゴヌクレオチドに対して)割り当てることができる。このようにして、ピクセルにおけるサンプルの蛍光動態プロファイル(例えば、その少なくとも1つのメトリックに関して定義されるもの)に基づいて、そのピクセルにアイデンティティが割り当てられる。
【0245】
ThunderSTORM(Ovesny et al.Bioinformatics 2014))、QC-STORM(Li et al,Opt.Express 2019)、及びPicasso(Schnitzbauer et al,Nature Protocols 2017)のソフトウェアに見出されるものなどの標準的な位置特定アルゴリズムを使用して、累積フレームから超解像度画像を再構成した(
図14A)。この実施例では、超解像画像に逆多重化を行った(
図14B)。しかし、逆多重化は超解像度再構成の有無にかかわらず可能である。各FRETオリゴ/Tオリゴに関連する点滅プロファイルから導出された時空間メトリックに対し、標準的なクラスターベースの数学的アプローチを使用して、標的の割り当てを行った。
図14Dは、逆多重化を行うことができる2つの抽出された特徴(例えば、点滅持続時間、及びオフ時間)の散布図を示す(
図14D)。
【0246】
この実施例では、1種類のフルオロフォア(Cy5)のみを使用してFRETオリゴを標識しているため、表3に示すFRETオリゴ及び抗体-Tオリゴヌクレオチドコンジュゲートのペアのセットは、同じ「色」を持つペアのセット群1つ(第1群)を形成する(すなわち、これらは単一のチャネルを介して観察される)。他の例では、追加の群のFRETオリゴが異なる「色」で発光する場合、例えば、FRETオリゴを標識するためのフルオロフォアとしてCy3を使用することにより、ペアが第1群に見られるものと類似または同一のプロファイルを生成する、さらなるセット群(例えば、第2群、第3群…)を追加してもよい。この追加のレベルの多重化は、複数の異なるイメージングチャネルを使用して画像を捕捉することによってデコンボリューションされる。
【0247】
材料及び方法
オリゴ
それぞれ15ヌクレオチド及び20ヌクレオチドの長さであり、両方とも5’末端でCy5フルオロフォアと、3’末端でBHQ-3ダーククエンチャーとコンジュゲートされた、2つのFRETオリゴを使用した。Pythonスクリプトを使用して、さもなければ完全に相補的な配列にランダムな位置でミスマッチを導入することにより、Tオリゴを生成した。Tオリゴの配列を表3に示す。Tオリゴ及びFRETオリゴは、IDTから購入し、100μM TEバッファー(1M Tris-HCl、pH8.0、0.5M EDTA pH8.0)に再懸濁し、アリコートとして-20℃で貯蔵した。
【0248】
一次抗体コンジュゲーション
各標的について、1)α-チューブリン、2)カルネキシン、3)ゴルジン-97、4)Ki-67、5)ミオシンIIB、及び6)Tomm-20に対する市販の一次抗体15μgを異なるTオリゴとのコンジュゲーションのために使用して、コンジュゲーションごとに800pmolのオリゴを補充した。次いで、抗体コンジュゲートを50kDa Amicon Ultra-0.5カラムで精製した後、4℃で貯蔵した。
【0249】
免疫標識
18ウェルガラス底マイクロスライド(Ibidi)に細胞を播種し、約80%コンフルエントになったときに4% PFAで固定した。ブロッキングバッファー(1×PBS、1%BSA、0.1%Triton-X、0.2mg/ml剪断サケ精子DNA)中で、細胞を60分間室温でインキュベートし、次いでTオリゴ-抗体ミックスと共に4℃で一晩インキュベートし、各Tオリゴ-抗体コンジュゲートは、1×PBS、1%BSA、0.1%Triton-X、0.1mg/ml剪断サケ精子DNA、150mM NaCl、5mM EDTA、0.05%硫酸デキストランで1/100~1/200に希釈した。
【0250】
イメージング
イメージングバッファー(1×PBS、10mM Tris-HCl pH8、500mM NaCl、1mg/mlグルコースオキシダーゼ、5mg/mlグルコース、0.04mg/mlカタラーゼ、1mM Trolox)で希釈した5nMのFRETオリゴと共に免疫標識細胞をインキュベートした。10ms/フレーム、16ビット、2-CMSゲインモードで10000枚の画像をNikonの60倍1.49NA TIRF対物レンズで捕捉し、Prime BSI Express sCMOSカメラを備えたCy5フィルターセットでフィルター処理した。QC-STORMまたはPicassoソフトウェアを使用して、最終的な超解像度画像を再構成した。次いで、各FRETオリゴ/Tオリゴに関連する点滅プロファイルから導出された時空間メトリックに対し、標準的なクラスターベースの数学的アプローチを使用して、各チャネルから個々の標的のアイデンティティを取得するための逆多重化を行った。
【配列表】
【国際調査報告】