(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ジヒドロカルコン類の生体触媒生産
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20240226BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20240226BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240226BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20240226BHJP
C12N 9/90 20060101ALI20240226BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20240226BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240226BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N15/61
C12N1/21
C12N9/02
C12N9/90
C12P7/02
C12N1/19
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553366
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 EP2021055319
(87)【国際公開番号】W WO2022184248
(87)【国際公開日】2022-09-09
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521397201
【氏名又は名称】シムライズ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トルステン・ガイスラー
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブ・ペーター・ライ
(72)【発明者】
【氏名】バスティアン・ジルペル
(72)【発明者】
【氏名】ドン・イー
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・ボルンショイアー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC39
4B064CA05
4B064CA19
4B065AA15X
4B065AA15Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AA80X
4B065AA80Y
4B065BA02
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、食品成分の分野に属し、ジヒドロカルコン類の生産のために使用される様々な抽出物ならびに対応する酵素からのジヒドロカルコン類の生産のための方法に関する。さらに、本発明は、本発明による酵素を発現するためのトランスジェニック微生物およびベクターに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)配列番号24~46および169~176からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる少なくとも1つのエンレダクターゼを提供するステップ、
ii)配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる少なくとも1つの遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼを任意に提供するステップ、
iii)少なくとも1つのフラバノンおよび/または少なくとも1つのカルコンおよび/または対応するグリコシド類の少なくとも1つを提供するステップ、
iv)ステップi)で提供された前記少なくとも1つのエンレダクターゼ、および任意にステップii)で提供された前記少なくとも1つのカルコンイソメラーゼを、ステップiii)で提供された前記少なくとも1つのフラバノンおよび/または前記少なくとも1つのカルコンおよび/または前記少なくとも1つの対応するグリコシドと一緒にインキュベートするステップ、
v)少なくとも1つのジヒドロカルコンを得るステップ、
vi)前記得られたジヒドロカルコンを任意に精製するステップ
を含むかまたはそれらからなる、ジヒドロカルコン類の生体触媒製造のための方法。
【請求項2】
ステップi)で提供される前記少なくとも1つのエンレダクターゼは、精製または部分的に精製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップiv)の前記インキュベーションは、少なくとも5、10、15、20、25分間、好ましくは少なくとも30分間行われる、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
ステップiii)で提供される前記少なくとも1つのフラバノンおよび/または少なくとも1つのカルコンおよび/または対応するグリコシド類の少なくとも1つは、ホモエリオジクチオール、ヘスペリジン、ヘスペレチン‐7‐グルコシド、ネオヘスペリジン、ナリンゲニン、ナリンギン、ナリルチン、リキリチゲニン、ピノセムブリン、ステッポゲニン、スクテアモエニン、ジヒドロエキオジニン、ポンシレチン、サクラネチン、イソサクラネチン、4,7‐ジヒドロキシ‐フラバノン、4,7‐ジヒドロキシ‐3’‐メトキシフラバノン、3,7‐ジヒドロキシ‐4’‐メトキシフラバノン、3’4,7‐トリヒドロキシフラバノン、アルピネンチン、ピノストロビン、7‐ヒドロキシフラバノン、4’‐ヒドロキシフラバノン、3‐ヒドロキシフラバノン、ツガフォリンからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップiii)で少なくとも1つのフラバノンおよび/または少なくとも1つのカルコンおよび/または対応するグリコシド類の少なくとも1つが提供され、前記少なくとも1つのフラバノンおよび/または前記少なくとも1つのカルコンおよび/または対応するグリコシド類の少なくとも1つは、さらに精製または部分的に精製される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップv)で得られる前記少なくとも1つのジヒドロカルコンは、ブテインジヒドロカルコン、ホモブテインジヒドロカルコン、4‐O‐メチルブテインジヒドロカルコン、ナリンゲニンジヒドロカルコン、ヘスペレチンジヒドロカルコン、ホモエリオジクチオールジヒドロカルコンおよびエリオジクチオールジヒドロカルコンからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
配列番号169~176からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる遺伝子操作されたエンレダクターゼ。
【請求項8】
請求項7に記載の遺伝子操作されたエンレダクターゼをコードする核酸配列を含むトランスジェニック微生物。
【請求項9】
前記微生物は、E.coli BL21、E.coli MG1655、好ましくはE.coli W3110などのEscherichia coli種、Bacillus licheniformis、Bacillus subitilis、またはBacillus amyloliquefaciensなどのBacillus種、Saccharomyces種、好ましくはS.cerevesiae、Hansenula、またはK.phaffiiおよびH.polymorphaなどのKomagataella種、好ましくはK.phaffii、Y.lipolyticaなどのYarrowia種、K.lactisなどのKluyveromyces種からなる群より選択される、請求項7または8に記載のトランスジェニック微生物。
【請求項10】
‐配列番号24~46および169~176からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するエンレダクターゼをコードする少なくとも1つの核酸配列
および任意に
‐配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有する遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼをコードする少なくとも1つの核酸配列
を含むベクター、好ましくはプラスミドベクター。
【請求項11】
請求項7に記載の少なくとも1つのエンレダクターゼおよび/または請求項8または9に記載の少なくとも1つのトランスジェニック微生物および/または請求項10に記載の少なくとも1つのベクターの、ジヒドロカルコン類の生体触媒製造における、好ましくは請求項1~6のいずれか1項に記載の方法における、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品成分の分野に属し、ジヒドロカルコン類の生産のために使用される様々な抽出物ならびに対応する酵素からのジヒドロカルコン類の生産のための方法に関する。さらに、本発明は、本発明による酵素を発現するためのトランスジェニック微生物およびベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
食品技術の領域では、香味物質が常に必要とされている。特にジヒドロカルコン類のクラスは、これらの物質またはこれらの物質の混合物が他の香味物質と比較して優れた特性を示すため、注目される。ジヒドロカルコン類の天然源は植物であり、リンゴの葉に特に高い含量が見られる(非特許文献1)。植物からのジヒドロカルコン類の回収および抽出は、収率およびプロセス費用の点で好ましくないため、ジヒドロカルコン類のいくつかの生産方法が文献に記載されている。
【0003】
望ましい産物はヘスペレチンジヒドロカルコン(3)である。
【0004】
【0005】
香味物質としてのヘスペレチンジヒドロカルコン(3)の芳香効果は、特許文献1に記載されている。この特性は、非特許文献2および非特許文献3からも知られる。ヘスペレチンジヒドロカルコン(3)と、果糖および他の甘味料の含量を増加させたコーンシロップとの混合物が、特許文献2に記載される。
【0006】
1,8‐ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ‐7‐エン、tert‐ブチルジメチルシリルクロリドおよび塩酸を反応させることにより、ワンポット反応においてヘスペレチン(2)からのヘスペレチンカルコン(1)の生産が達成できることが記載されている(非特許文献4)。
【0007】
ヘスペレチンカルコン(1)を生成するさらなる方法は、水酸化カリウムの添加によるトリヒドロキシアセトンのイソバニリンとのアルドール縮合を含む(非特許文献5)。
【0008】
さらなるステップでは、ヘスペレチンカルコン(1)が水素またはギ酸およびパラジウム触媒を用いた水素化を介してさらに還元されて、ヘスペレチンジヒドロカルコン(3)が形成され得る(非特許文献6、特許文献3)。
【0009】
鉄または白金などの無機触媒によってヘスペレチンカルコン(2)からヘスペレチンジヒドロカルコン(3)の生産を直接達成できることも記載されている(特許文献4)。
【0010】
ヘスペレチンジヒドロカルコン(3)は、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの酸加水分解によっても調製され得る(特許文献2)。さらに、特許文献5または特許文献4に記載されるように、ヘスペレチンカルコン(2)を10%KOH水溶液に溶解し、続いて水素(Pd/C触媒)で還元することによって、ヘスペレチンカルコン(2)からヘスペレチンジヒドロカルコン(3)を得ることができる。保護基、他の塩基または還元剤の使用、および酸触媒アルドール反応の可能性は、当業者に知られている。
【0011】
しかし、最新技術で記載された全ての方法をEC1334/2008に従って天然の生産方法であると表明することはできず、特定のジヒドロカルコンの生産に限定される。
【0012】
天然物としてのラベル付けは、多くの消費者にとって購入決定に非常に重要であるため、このラベル表示が許される適切なジヒドロカルコン類が特に必要であることは明らかである。植物原料からジヒドロカルコン類を得ることは、時間および費用がかかるプロセスであり、本明細書に挙げられた一部のジヒドロカルコン類では、自然には見られないため不可能である。
【0013】
酵素法または発酵法に関しては、ナリンゲニン、エリオジクチオールおよびホモエリオジクチオールの変換のみが最新技術で報告されている(特許文献6、非特許文献7)。単一酵素のフラバノノール開裂レダクターゼがナリンゲニンおよびホモエリオジクチオールをそれぞれのジヒドロカルコン類に変換できることにもさらに言及されている(非特許文献8)。4‐O‐メチル化誘導体はいずれも酵素によって変換されなかった。
【0014】
腸内細菌Eubacterium ramulusが、ジヒドロキシカルコンフロレチンの生産を伴う経路を介してナリンゲニン‐7‐O‐グルコシドを変換できることがさらに知られている。残念なことに、これはフロログルシノールおよびジヒドロケイ皮酸にさらに分解される(非特許文献9)。
【0015】
いくつかの生物について、カルコンのそれぞれのジヒドロカルコン類への還元活性が文献に、例えば非特許文献10および非特許文献11に記載されている。
【0016】
報告された方法およびプロセスはいずれも、高価であるか、手間がかかるか、または商業生産用に利用できないかのいずれかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2017186299A1号
【特許文献2】国際公開第2019080990A1号
【特許文献3】米国特許出願公開第20180177758A1号
【特許文献4】中国特許第111018684号
【特許文献5】独国特許第2148332A1号
【特許文献6】欧州特許第2963109A1号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】アダム(Adamu)ら著、リンゴ(Malus sp.)葉におけるジヒドロカルコン類の形成についての研究(Investigations on the formation of dihydrochalcones in apple(Malus sp.)leaves).アクタホルティクルツラエ(Acta Horticulturae)2019年,1242,415‐420
【非特許文献2】ジャーナルオブアグリカルチュラルアンドフードケミストリー(J.Agric.Food Chem.)、25(4)、763‐772
【非特許文献3】J.Med.、1981年、24(4)、408‐428
【非特許文献4】マイルズ・クリストファー(Miles,Christopher)O.ら著、オーストラリアンジャーナルオブケミストリー(Australian Journal of Chemistry)(1989年)、42(7)、1103‐13
【非特許文献5】ワダー(Wadher),S.J.ら著、インターナショナルジャーナルオブケミカルサイエンシズ(International Journal of Chemical Sciences)(2006年),4(4),761‐766
【非特許文献6】ガン・リシェ(Gan,Li‐She)ら著、バイオオーガニック&メディシナルケミストリーレターズ(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters)(2017年),27(6)、1441‐1445
【非特許文献7】ガル(Gall)ら著、アンゲヴァンテケミーインターナショナルエディション(Angew.Chem.Int.Ed.)2013年、52、1‐5
【非特許文献8】ブラウネ(Braune)ら著、2019年 アプライドアンドエンヴァイロンメンタルマイクロバイオロジー(Appl Environ Microbiol)85:e01233‐19
【非特許文献9】H.シュナイダー(Schneider)、M.ブラウト(Blaut)著、アーカイブズオブマイクロバイオロジー(Arch.Microbiol.)2000年、173、71‐75
【非特許文献10】ジシュカ・ハーベレヒト(Zyszka‐Haberecht)ら著、2018年
【非特許文献11】ストンパー(Stompor)ら著、2016年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、本発明の主な課題は、好ましくは費用効率が高くスケーラブルであり、得られた産物を「天然物」としてラベル付けできる、様々な望ましいジヒドロカルコン類の生産のための方法および適切な生体触媒を提供することであった。
【0020】
本発明の主な課題は、
i)配列番号24~46および169~176からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる少なくとも1つのエンレダクターゼを提供するステップ、
ii)配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる少なくとも1つの遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼを任意に提供するステップ、
iii)少なくとも1つのフラバノンおよび/または少なくとも1つのカルコンおよび/または対応するグリコシド類の少なくとも1つを提供するステップ、
iv)ステップi)で提供された少なくとも1つのエンレダクターゼ、および任意にステップii)で提供された少なくとも1つのカルコンイソメラーゼを、ステップiii)で提供された少なくとも1つのフラバノンおよび/または少なくとも1つのカルコンおよび/または少なくとも1つの対応するグリコシドと一緒にインキュベートするステップ、
v)少なくとも1つのジヒドロカルコンを得るステップ、
vi)得られたジヒドロカルコンを任意に精製するステップ
を含むかまたはそれらからなる、ジヒドロカルコン類の生体触媒製造のための方法を提供することによって解決される。
【0021】
ジヒドロカルコン類は、系統的にプロパノン誘導体と名付けられ、構造的に1,3‐ジフェニルプロペノン(カルコン)に関係し、植物において生合成され、広範囲の生物活性を示す、開鎖フラボノイドである。カルコン類からジヒドロカルコン類への変換は、カルコン類の二重結合を還元し、したがってジヒドロカルコン類を形成する酵素によって媒介され得る。
【0022】
本発明に関しての生体触媒製造は、生体触媒の助けの下での抽出物からの産物の製造として理解されねばならない。このような生体触媒は、部分的に精製されたまたは精製された、生きた生物系(細胞)の一部として存在し得る酵素であると一般に理解される。各生体触媒は、固有の化学反応を触媒する。
【0023】
本発明による方法に関連して使用される酵素は、配列番号24~46および169~176からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるエンレダクターゼである。エンレダクターゼは、電子的に活性化された炭素‐炭素二重結合の不斉還元を高い化学選択性および上昇した立体選択性で触媒する。
【0024】
驚くべきことに、本発明による方法で使用されるエンレダクターゼは、カルコン類からジヒドロカルコン類への変換を触媒するために優れた活性および選択性を示すことが分かった。配列番号24~46および169~176のエンレダクターゼは、それらの触媒活性および選択性に基づいて選択され、配列番号24~46は、配列の説明に記載されるように異なる生物からの天然に存在する配列であり、配列番号169~176は、Arabidopsis thaliana酵素AtDBR1に由来する遺伝子操作された配列である。
【0025】
本開示がパーセンテージに関してアミノ酸配列の配列相同性に言及するときは常に、核酸配列の場合はEMBOSS Water Pairwise Sequence Alignments(ヌクレオチド)(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_water/nucleotide.html)、またはアミノ酸配列の場合はEMBOSS Water Pairwise Sequence Alignments(タンパク質)(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_water/)を使用して計算できる値を指す。欧州分子生物学研究所(EMBL:European Molecular Biology Laboratory)欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI:European Bioinformatics Institute)により提供される局所配列アラインメントツールの場合には、修正されたSmith‐Watermanアルゴリズムが使用される(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/およびスミス(Smith),TF&ウォーターマン(Waterman),M.S.「共通分子部分配列の同定(Identification of common molecular subsequences)」ジャーナルオブモレキュラーバイオロジー(Journal of Molecular Biology)、1981年147(1):195‐197を参照)。さらに、ここでは、修正されたSmith‐Watermanアルゴリズムを使用して2つの配列のそれぞれのペアワイズアライメントを行う際に、EMBL‐EBIによって現在与えられるデフォルトパラメータが参照される。これらは、(i)アミノ酸配列の場合:マトリックス=BLOSUM62、ギャップオープンペナルティ=10、およびギャップ伸長ペナルティ=0.5、ならびに(ii)核酸配列の場合:マトリックス=DNAfull、ギャップオープンペナルティ=10、およびギャップ伸長ペナルティ=0.5である。
【0026】
「配列相同性」という用語は、本発明との関連では「配列同一性」と互換的に使用されることができる。いずれの用語も常に、それに対して配列同一性または配列相同性が決定される酵素の全長と比較した本発明による酵素の全長を指す。
【0027】
本発明に関しては、本発明による方法のステップii)において追加のカルコンイソメラーゼを提供することが好ましい。カルコンイソメラーゼは、カルコンからフラバノンへ、またはその逆の反応を触媒する酵素である。カルコンイソメラーゼの別名は、カルコン‐フラバノンイソメラーゼである。
【0028】
驚くべきことに、配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼは、フラバノンからカルコンへの反応を触媒する際に優れた性能を示し、したがってジヒドロカルコン類を生産するための抽出物としてフラバノンで開始する方法において使用され得ることが分かった。本発明による方法で使用されるところのカルコンイソメラーゼが、フラバノンをカルコンに変換でき、それがその後カルコンからジヒドロカルコンへの反応に供給されるため、本発明による、本発明による方法のステップi)で提供されるところのエンレダクターゼによるカルコンのジヒドロカルコンへの変換を促進することは特に驚くべきことであった。
【0029】
本発明に関しての「遺伝子操作された」とは、本発明による酵素が、天然に存在する酵素または最新技術から知られている酵素と比較して変更または修飾されていることを意味する。適切な修飾は、アミノ酸配列における変異であり得る。適切な変異誘発法、ならびに必要な条件および試薬は、当業者によく知られている。変異は、例えば塩基の置き換え(もしくは置換)、除去(もしくは欠失)、または付加を通じて遺伝子レベルで生じる。これらの変異は、結果として生じるタンパク質のアミノ酸配列に対して異なる影響を有する。置換の場合には、いわゆる「ナンセンス」変異が生じ、タンパク質生合成を早期に停止させ、結果として生じるタンパク質を機能不全にとどまらせ得る。いわゆる「ミスセンス」変異では、コードされたアミノ酸のみが変化し、これらの変異は結果として生じるタンパク質の機能的変化をもたらし、最善の場合には、結果として生じるタンパク質の安定性または活性の向上を引き起こし得る。一般的な命名法では、アミノ酸置換変異は、その位置および置換されるアミノ酸に基づいて、例えばA143Gと指名される。この表記法は、N末端からC末端のアミノ酸配列の143位でアミノ酸のアラニンがグアニンに交換されていることを意味する。
【0030】
フラバノン類は、フラボノイド生合成経路の最初のフラボノイド産物である。これらは、C2のキラル中心の存在とC2‐C3結合の不存在とにより特徴付けられる。フラバノン類は柑橘類に高濃度で見られる。これらは、本発明による抽出物として好ましく使用され、以下にさらに明記される。
【0031】
カルコン類は、異なる置換基を持つα,β‐不飽和カルボニル系によって結合された2つの芳香環(AおよびB)からなるα,β‐不飽和ケトン類である。本発明による抽出物として好ましく使用されるカルコンは、以下にさらに明記される。
【0032】
使用されるフラバノン類および/またはカルコン類に関連する「対応するグリコシド類」という用語は、グリコシド結合を介して別の官能基に結合した糖を有する対応するフラバノン類および/またはカルコン類を指す。フラバノン類および/またはカルコン類のグリコシド類は、フラバノン類および/またはカルコン類の天然源中に特に存在する。
【0033】
本発明による方法から得られるジヒドロカルコン類は、使用されるフラバノンおよび/またはカルコンおよび/またはそれらの対応するグリコシド類、またはそれぞれ使用される出発材料に応じて、異なるジヒドロカルコン類の混合物として、および/または他の化合物と一緒になった混合物において存在し得る。それらは、当業者に知られる適切な方法によってさらに精製され得る。得られたジヒドロカルコン類の混合物または精製されたジヒドロカルコン類は、芳香組成物、栄養または享楽向けの調製物などの調製物に香味剤として組み込まれるのが好ましい。
【0034】
好ましくは、栄養または享楽向けの調製物は、(カロリーオフ)焼き物(例えばパン、乾燥ビスケット、ケーキ、他の焼き物品)、菓子類(例えばミューズリーバー製品、チョコレート、チョコレートバー、他のバー形態の製品、フルーツガム、ドラジェ、ハードおよびソフトキャラメル、チューインガム)、ノンアルコール飲料(例えばココア、コーヒー、緑茶、紅茶、(緑、紅)茶抽出物を強化した(緑、紅)茶飲料、ルイボスティー、その他のハーブティー、果実入りソフト飲料、アイソトニック飲料、清涼飲料、ネクター、果物および野菜ジュース、果物または野菜ジュース調製物)、インスタント飲料(例えばインスタントココア飲料、インスタントティー飲料、インスタントコーヒー飲料)、肉製品(例えばハム、フレッシュソーセージまたは生ソーセージ調製物、香辛料入りまたはマリネしたフレッシュまたは塩漬け肉製品)、卵または卵製品(乾燥卵、卵白、卵黄)、シリアル製品(例えば朝食用シリアル、ミューズリーバー、調理済みインスタント米製品)、乳製品(例えば高脂肪または低脂肪または無脂肪乳飲料、ライスプディング、ヨーグルト、ケフィア、クリームチーズ、ソフトチーズ、ハードチーズ、乾燥粉乳、ホエー、バター、バターミルク、アイスクリーム、部分または完全加水分解乳タンパク質含有製品)、大豆タンパク質または他の大豆画分から作られた製品(例えば豆乳およびそれから生産された製品、単離または酵素処理大豆タンパク質含有飲料、大豆粉含有飲料、大豆レシチン含有調製物、豆腐もしくはテンペなどの発酵製品またはそれらから生産された製品、ならびに果物調製物および任意に香味料との混合物)、タンパク質豊富な植物材料からの(例えばオート麦、アーモンド、エンドウ、ルピナス、レンティル、ソラマメ、ひよこ豆、米、キャノーラの種子材料からの)乳製品様調製物(乳タイプ、ヨーグルトタイプ、デザートタイプ、アイスクリーム)、植物タンパク質強化乳製品不使用飲料、果物調製物(例えばジャム、シャーベット、フルーツソース、フルーツフィリング)、野菜調製物(例えばケチャップ、ソース、乾燥野菜、冷凍野菜、調理済み野菜、煮詰め野菜)、スナック類(例えばベークドまたはフライドポテトチップまたはポテト生地製品、トウモロコシまたはラッカセイベースの押出物)、脂または油ベースの製品またはそれらのエマルション(例えばマヨネーズ、レムラード、ドレッシング、いずれも高脂肪または減脂肪)、その他の既製料理およびスープ(例えば乾燥スープ、インスタントスープ、調理済みスープ)、香辛料、香辛料混合物、および特に例えばスナック類の分野で使用される調味料、甘味料調製物、錠剤または小袋、飲料を甘くまたは白くするためのその他の調製物からなる群より選択され得る。
【0035】
本発明の意味の中での栄養または享楽向けの調製物は、カプセル、錠剤(非被覆および被覆錠剤、例えば胃耐性被覆)、糖衣ピル、顆粒、ペレット、固体混合物、液相中の分散物、エマルションとして、粉末として、溶液として、ペーストとして、または飲み込みもしくは咀嚼できる他の製剤としての形の栄養補助食品としても存在することができる。
【0036】
本発明の好ましい実施形態は、本発明による方法であって、i)で提供される少なくとも1つのエンレダクターゼは、精製または部分的に精製される、方法に関する。精製されたエンレダクターゼとは、提供時に90%(w/w)以上の純度を示す酵素をいう。酵素の精製のための適切な方法は、当業者に知られている。部分的に精製された酵素とは、純度が90%(w/w)未満であり、生体内に存在しない酵素を指す。
【0037】
別の好ましい実施形態は、本発明による方法であって、ステップiv)のインキュベーションは、少なくとも5、10、15、20、25分間、好ましくは少なくとも30分間行われる、方法に関する。
【0038】
さらに別の実施形態は、本発明による方法であって、ステップiii)で提供される少なくとも1つのフラバノンおよび/または少なくとも1つのカルコンおよび/または対応するグリコシド類の少なくとも1つは、ホモエリオジクチオール、ヘスペリジン、ヘスペレチン‐7‐グルコシド、ネオヘスペリジン、ナリンゲニン、ナリンギン、ナリルチン、リキリチゲニン、ピノセムブリン、ステッポゲニン、スクテアモエニン、ジヒドロエキオジニン、ポンシレチン、サクラネチン、イソサクラネチン、4,7‐ジヒドロキシ‐フラバノン、4,7‐ジヒドロキシ‐3’‐メトキシフラバノン、3,7‐ジヒドロキシ‐4’‐メトキシフラバノン、3’4,7‐トリヒドロキシフラバノン、アルピネンチン、ピノストロビン、7‐ヒドロキシフラバノン、4’‐ヒドロキシフラバノン、3‐ヒドロキシフラバノン、ツガフォリンからなる群より選択される、方法に関する。
【0039】
好ましいフラバノン類および/またはカルコン類は、以下に示されるそれらの構造式で表現される。
【0040】
【0041】
本発明の一実施形態は、本発明による方法であって、ステップiii)で少なくとも1つのフラバノンおよび/または少なくとも1つのカルコンおよび/または対応するグリコシド類の少なくとも1つが提供され、少なくとも1つのフラバノンおよび/または少なくとも1つのカルコンおよび/または対応するグリコシド類の少なくとも1つは、精製または部分的に精製される、方法に関する。
【0042】
本発明の別の実施形態は、本発明による方法であって、ステップv)で得られる少なくとも1つのジヒドロカルコンは、ブテインジヒドロカルコン、ホモブテインジヒドロカルコン、4‐O‐メチルブテインジヒドロカルコン、ナリンゲニンジヒドロカルコン、ヘスペレチンジヒドロカルコン、ホモエリオジクチオールジヒドロカルコンおよびエリオジクチオールジヒドロカルコンからなる群より選択される、方法に関する。
【0043】
好ましいジヒドロカルコン類は、以下に示されるそれらの構造式で表現される。
【0044】
【0045】
上に好ましいものとして記載された全ての実施形態は、本発明に関して互いに互換可能に組み合わせることができる。
【0046】
本発明の別の態様は、配列番号169~176からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる遺伝子操作されたエンレダクターゼに関する。
【0047】
本発明の好ましい一実施形態は、配列番号189によるコンセンサス配列を有する遺伝子操作されたエンレダクターゼに関する。
【0048】
コンセンサス配列は、本発明による全ての遺伝子操作された酵素を表し、アミノ酸置換が存在し得る可変位置はXaaによってマークされる。
【0049】
本発明の別の好ましい実施形態は、遺伝子操作されたエンレダクターゼに関し、遺伝子操作されたエンレダクターゼは、アラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、バリン、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニンおよびフェニルアラニンからなる群より選択される276位および/または290位のアミノ酸を含む。
【0050】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、遺伝子操作されたエンレダクターゼに関し、遺伝子操作されたエンレダクターゼは、ロイシン、グルタミン、スレオニン、システイン、フェニルアラニンアスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群より選択される285位のアミノ酸を含む。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態では、遺伝子操作されたエンレダクターゼは、野生型配列と比較して285位のバリンからグルタミンへのアミノ酸置換(V285Q)を含む。
【0052】
配列番号169~176からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるエンレダクターゼは、Arabidopsis thalianaからの天然に存在するエンレダクターゼAtDBR1に由来し、遺伝子操作されて新たなAtDBR1バリアントが生成された。特に、配列番号169~176からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するバリアントは、カルコン類からジヒドロカルコンへ類の変換において活性および選択性の増加を示すことが分かった。これらのバリアントは、酵素の特異性および活性を変更する機能的アミノ酸置換を示す。
【0053】
配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼも本明細書に記載される。
【0054】
遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼは、配列番号190によるコンセンサス配列を有するのが好ましい。
【0055】
遺伝子操作されたカルコンは、明記された位置の以下のアミノ酸の少なくとも1つを含むのが特に好ましい。
‐40位
‐79位アラニン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン、バリンメチオニンまたはイソロイシン、
‐87位リシン、アルギニンまたはアスパラギン、
‐122位アスパラギン酸、アスパラギンまたはグルタミン酸、
‐125位アルギニンまたはグリシン
【0056】
さらに好ましいのは、アラニン、グリシン、プロリン、イソロイシン、バリン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびアルギニンからなる群より選択される79位または125位のアミノ酸を含む遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼである。驚くべきことに、配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼは、フラバノンからカルコンへの反応を触媒する際に優れた性能を示すことが分かった。本発明によるカルコンイソメラーゼは、カルコンの部分で等価の反応を有し、フラバノンからカルコンへの反応を主に触媒することは特に驚くべきことであった。そのようにして得られたカルコンはその後、本発明による、本発明による方法のステップi)で提供されるところのエンレダクターゼによりジヒドロカルコンに触媒され得る。
【0057】
好ましくは、遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼは、配列番号154、157、145、152、155、153、147からなる群より選択される、より好ましくは配列番号157、154および145からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0058】
さらなる好ましい実施形態では、遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼの配列は、配列番号85~98からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するEubacterium ramulusに由来する。
【0059】
全ての上述した酵素の実施形態は、上述した本発明による方法に関して使用することができる。
【0060】
本発明のさらに別の態様は、本発明による遺伝子操作されたエンレダクターゼをコードする核酸配列を含むトランスジェニック微生物に関する。
【0061】
本発明の好ましい一実施形態は、本発明によるトランスジェニック微生物であって、E.coli BL21、E.coli MG1655、好ましくはE.coli W3110などのEscherichia coli種、Bacillus licheniformis、Bacillus subitilis、またはBacillus amyloliquefaciensなどのBacillus種、Saccharomyces種、好ましくはS.cerevesiae、Hansenula、またはK.phaffiiおよびH.polymorphaなどのKomagataella種、好ましくはK.phaffii、Y.lipolyticaなどのYarrowia種、K.lactisなどのKluyveromyces種からなる群より選択される微生物に関する。
【0062】
本発明の一態様は、
‐配列番号24~46および169~176からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するエンレダクターゼをコードする少なくとも1つの核酸配列
および任意に
‐配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有する遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼをコードする少なくとも1つの核酸配列
を含むベクター、好ましくはプラスミドベクターに関する。
【0063】
本発明によるベクターの好ましい一実施形態では、ベクターは、
配列番号24~46および169~176からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するエンレダクターゼをコードする少なくとも1つの核酸配列
および
‐配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有する遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼをコードする少なくとも1つの核酸配列
を含む。
【0064】
本発明の一態様は、2つのベクターを含むベクター系に関し、第1のベクターは、
配列番号24~46および169~176からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有するエンレダクターゼをコードする少なくとも1つの核酸配列
を含み、第2のベクターは、
配列番号145~158からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性を有する遺伝子操作されたカルコンイソメラーゼをコードする少なくとも1つの核酸配列
を含む。
【0065】
上述のトランスジェニック微生物またはベクターのさらなる実施形態は、上述の本発明による方法の好ましい実施形態を検討すれば明らかになり、したがって本発明によるトランスジェニック微生物またはベクターに関連して適宜適用される。
【0066】
本発明の別の態様は、本発明による少なくとも1つのエンレダクターゼおよび/または本発明による少なくとも1つのトランスジェニック微生物および/または本発明による少なくとも1つのベクターの、好ましくは上に好ましいものとして記載されたような、ジヒドロカルコン類の生体触媒製造における、好ましくは本発明による方法における、使用に関する。
【0067】
本発明は、例示的な非限定的実施例によってさらに特徴付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】CHIおよびAtDBR1を発現する(点線)またはCHIのみを発現する(実線)E.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清を使用したブテインの生体内変換のLCクロマトグラムを示す。
【
図2】CHIおよびAtDBR1を発現する(点線)またはCHIのみを発現する(実線)E.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清を使用したホモブテインの生体内変換のLCクロマトグラムを示す。
【
図3】CHIおよびAtDBR1を発現する(点線)またはCHIのみを発現する(実線)E.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清を使用した4‐O‐メチルブテインの生体内変換のLCクロマトグラムを示す。
【
図4】AtDBR1を発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清を使用したナリンゲニンカルコンの生体内変換のLC‐MSクロマトグラムを示す。
【
図5】AtDBR1を発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清を使用したヘスペレチンカルコンの生体内変換のLC‐MSクロマトグラムを示す。
【
図6】AtDBR1を発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清を使用したエリオジクチオールカルコンの生体内変換のLC‐MSクロマトグラムを示す。
【
図7】ブテインとともにインキュベートされた異なるエンレダクターゼを発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清の産物ブテインジヒドロカルコンの形成を示す。
【
図8】ホモブテインとともにインキュベートされた異なるエンレダクターゼを発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清の産物ホモブテインジヒドロカルコンの形成を示す。
【
図9】4‐O‐メチルブテインとともにインキュベートされた異なるエンレダクターゼを発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清の産物4‐O‐メチルブテインジヒドロカルコンの形成を示す。
【
図10】ナリンゲニンカルコンとともにインキュベートされた異なるエンレダクターゼを発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清の産物ナリンゲニンジヒドロカルコンの形成を示す。
【
図11】ヘスペレチンカルコンとともにインキュベートされた異なるエンレダクターゼを発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清の産物ヘスペレチンジヒドロカルコンの形成を示す。
【
図12】エリオジクチオールカルコンとともにインキュベートされた異なるエンレダクターゼを発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清の産物エリオジクチオールジヒドロカルコンの形成を示す。
【
図13】ホモエリオジクチオールカルコンとともにインキュベートされた異なるエンレダクターゼを発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清の産物ホモエリオジクチオールジヒドロカルコンの形成を示す。
【
図14】異なるカルコンに対するCHIおよびCHIeraバリアントの特異的活性を示す。
【
図15】異なるカルコンとともにインキュベートされた精製されたAtDBR1のジヒドロカルコン産物の形成を示す。
【
図16】ヘスペレチンカルコンとともにインキュベートされた異なるAtDBR1バリアントを発現するE.coli BL21(DE3)細胞の溶解物上清の産物ヘスペレチンジヒドロカルコンの形成を示す。
【
図17】A)酵素を用いず50mMリン酸バッファーpH6.0中で90分間、B)精製されたAtDBR1を用いて0分間、C)精製されたAtDBR1を用いて90分間の、ヘスペレチンインキュベーションのLC‐MSクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【実施例】
【0070】
1.プラスミドDNAのEscherichia coli細胞への形質転換
プラスミド増殖のために、プラスミドDNAを化学的にコンピテントなEscherichia coli(E.coli)DH5α細胞(ニューイングランドバイオラボ(New England Biolabs)、フランクフルトアムマイン、ドイツ)に形質転換した。発現株の生成のために、プラスミドDNAを化学的にコンピテントなE.coli BL21(DE3)細胞に形質転換した。
【0071】
50μLのそれぞれのE.coli株を氷上で5分間インキュベートした。1μlのプラスミドDNAを添加した後、懸濁液を混合し、氷上で30分間インキュベートした。細胞懸濁液をサーモブロック内で42℃で45秒間インキュベートし、続いて氷上で2分間インキュベートすることによって形質転換を行った。350μlのSOCアウトグロース培地(ニューイングランドバイオラボ(New England Biolabs)、フランクフルトアムマイン、ドイツ)を添加した後、細胞を37℃および200rpmで1時間インキュベートした。続いて、細胞懸濁液を、それぞれの抗生物質を含むLB‐寒天プレート(カーロス社(Car Roth GmbH)、カールスルーエ、ドイツ)上に広げ、37℃で16時間インキュベートした。
【0072】
2.発現プラスミドの生成
配列番号48をコードする配列番号47をベクターpCDFDuet‐1にクローニングして、ベクターpCDFDuet‐1CHIを得た。ベクターpCDFDuet‐1と配列番号49および配列番号50、ならびに配列番号56と配列番号51および配列番号52を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)によって専門家に知られる一般的な手法に従って増幅し、反応溶液を1:1の比で混合し、実施例1に記載のように37℃での1時間のインキュベーション後に、1.5μlの混合物をE.coli DH5αに形質転換した。ベクターpCDFDuet‐1CHIを、実施例1に記載のようにE.coli BL21(DE3)に形質転換する。
【0073】
配列番号24~配列番号46をそれぞれコードする配列番号1~配列番号23の配列を合成し、pET28aベクターのNcoI制限部位とXhoI制限部位との間にクローニングして(ツイストバイオサイエンス(Twist BioScience)、サンフランシスコ、米国)、表1に列挙されたプラスミドを得た。これらの発現ベクターを、実施例1に記載のようにE.coli BL21(DE3)細胞またはプラスミドpCDFDuet‐1CHIを含むE.coli BL21(DE3)細胞に形質転換する。
【0074】
【0075】
配列番号69~配列番号84をそれぞれコードする配列番号53~配列番号68の配列を合成し、pET28bベクターのNdeI制限部位とBamHI制限部位との間にクローニングして(バイオキャット(BioCat)、ハイデルベルク、ドイツ)、表2に列挙されたプラスミドを得た。これらの発現ベクターを、実施例1に記載のようにE.coli BL21(DE3)細胞に形質転換する。
【0076】
【0077】
人工設計により、CHIera酵素の活性および/または特異性を最適化するために、CHIeraのある変異体を作製した。これらのCHIera変異体バリアントは、配列番号145~配列番号158をコードする配列番号85~配列番号96に対応し、QuikChangeキット(アジレント(Agilent)、米国)を使用した部位特異的変異誘発によって生成された。このために、配列番号68を含むベクターpET28b_CHIeraを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって製造者のマニュアルに従って配列番号99~配列番号143の配列からの同じ対番号の1つのプライマー対をそれぞれ用いて増幅した。1μLのDpnIで37℃で1時間消化した後、混合物を、実施例1に記載のようにE.coli DH5αに形質転換して、表3に列挙したプラスミドを得た。
【0078】
【0079】
配列番号160をコードする配列番号159の配列を合成し、pET28aベクターのNdeI制限部位とXhoI制限部位との間にクローニングして(ツイストバイオサイエンス(Twist BioScience)、サンフランシスコ、米国)、プラスミドpET28a_his‐AtDBR1を得た。
【0080】
人工設計により、AtDBR1酵素の活性および/または特異性を最適化するために、AtDBR1のある変異体を作製した。これらのAtDBR1変異体バリアントは、配列番号169~配列番号176をコードする配列番号161~配列番号168に対応し、Q5(登録商標)部位特異的変異誘発キット(ニューイングランドバイオラボ(New England Biolabs)、ドイツ)を使用した部位特異的変異誘発によって生成された。このために、配列番号159を含むベクターpET28a_his‐AtDBR1を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって製造者のマニュアルに従って配列番号177~配列番号188の配列からの同じ対番号の1つのプライマー対をそれぞれ用いて増幅した。製造者のマニュアルにしたがった消化およびライゲーションの後、混合物を、実施例1に記載のようにE.coli DH5αに形質転換して、表4に列挙したプラスミドを得た。
【0081】
【0082】
3.E.coli細胞の培養およびエンレダクターゼによる生体内変換
pCDFDuet‐1CHIと表1からのpET28aプラスミドの1つとを含むE.coli BL21(DE3)細胞、または表1からのpET28aプラスミドの1つだけを含むE.coli BL21(DE3)細胞を使用して、必要な抗生物質を含む5mLのLB培地(カールロス社(Carl Roth GmbH)、カールスルーエ、ドイツ)にそれぞれ植菌した。16時間のインキュベーション(37℃、200rpm)後、細胞を使用して、必要な抗生物質を含む50mLのTB培地(カールロス社(Carl Roth GmbH)、カールスルーエ、ドイツ)にOD600=0.1で植菌した。細胞をOD600=0.5~0.8まで増殖させ(37℃、200rpm)、1mMのイソプロピル‐β‐D‐チオガラクトピラノシドを培養物に添加した。細胞培養物を16時間インキュベートし(22℃、200rpm)、遠心分離し(10分、10,000rpm)、上清を廃棄した。細胞ペレットを、B‐PERタンパク質抽出試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)、ボン、ドイツ)を製造者の指示に従って使用して溶解した。その後の遠心分離(10分、20.000rpm)後、1.5mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、1.5mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、1Mグルコース、1Uグルコースデヒドロゲナーゼおよび1mM基質の添加により上清を生体内変換のために使用した。ブテイン、ホモブテイン、4‐O‐メチルブテイン、ナリンゲニンカルコン、ヘスペレチンカルコン、エリオジクチオールカルコンおよびホモエリオジクチオールカルコンをそれぞれ基質として使用した。反応混合物を30℃で16時間インキュベートした。メタノール(1体積の反応混合物+1体積のメタノール)で反応を停止させた後、サンプルを遠心分離し(20分、20,000rpm)、上清をLCおよびLC‐MS分析のために使用した。
【0083】
4.CHIの精製および生体内変換
表2または表3からのpET28bプラスミドの1つを含むE.coli BL21(DE3)細胞を使用して、1LのLB培地にOD=0.1で植菌した。細胞をODが0.4~0.6に達するまで37℃、250rpmでインキュベートし、0.1mM IPTGを補充することにより誘導した。28℃、250rpmでの16時間のタンパク質発現後、4,000×gでの15分間の遠心分離により細胞を採取した。採取した細胞を、0.5mg/mLリゾチーム(シグマアルドリッチ(Sigma‐Aldrich))、0.4U/mL Benzonase(シグマアルドリッチ(Sigma‐Aldrich))およびBugBuster(メルク(Merck))により室温で0.5時間溶解して、粗細胞抽出物を得た。粗抽出物を10,000×gで30分間遠心分離して、ペレットを除去した。Niアフィニティクロマトグラフィ(GEヘルスケア(GE Healthcare))によって組換えタンパク質を精製した。粗抽出物の上清を、20mMイミダゾールとともにカラムにロードした。カラムを、5カラム体積の30mMイミダゾールと20mM PBS(pH7.4)および500mM NaClで洗浄した。150mMイミダゾールと20mM PBS(pH7.4)および500mM NaClによって標的タンパク質を溶出した。Amicon Ultra‐15(メルク(Merck))による限外濾過によって50mM PBS(pH7.5)とのバッファー交換を達成した。反応混合物(25℃の50mM PBS中のCHIと100μMのナリンゲニンカルコン、ヘスペレチンカルコン、エリオジクチオールカルコン、ホモエリオジクチオールカルコンまたは4‐O‐メチルブテインのいずれか)における384nmでの吸光度の減少を測定することによって、それぞれの精製された酵素の活性を決定した。結果を表5に示す。
【0084】
【0085】
5.
AtDBR1の精製および基質供給
プラスミドpET28a_his‐AtDBR1を含むE.coli BL21(DE3)細胞を使用して、必要な抗生物質を含む5mL LB培地(カールロス社(Carl Roth GmbH)、カールスルーエ、ドイツ)に植菌した。16時間のインキュベーション(37℃、200rpm)後、細胞を使用して、必要な抗生物質を含む50mLのTB培地(カールロス社(Carl Roth GmbH)、カールスルーエ、ドイツ)にOD
600=0.1で植菌した。細胞をOD
600=0.5~0.8まで増殖させ(37℃、200rpm)、1mMのイソプロピル‐β‐D‐チオガラクトピラノシドを培養物に添加した。細胞培養物を16時間インキュベートし(22℃、200rpm)、遠心分離し(10分、10,000rpm)、上清を廃棄した。細胞ペレットを、B‐PERタンパク質抽出試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)、ボン、ドイツ)を製造者の指示に従って使用して溶解した。続く遠心分離(10分、20,000rpm)の後、1mLのHisTrap FFカラム(GEヘルスケア(GE Healthcare))を製造者のマニュアルに従って使用して上清を精製した。溶出したタンパク質を、PD‐10脱塩カラム(GEヘルスケア(GE Healthcare))を使用して、製造者のマニュアルの重量分析プロトコルを使用して脱塩した。タンパク質を50mM リン酸バッファーpH6.0に溶出させた。精製されたタンパク質を、1.5mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の添加および基質(ナリンゲニンカルコン、ヘスペレチンカルコン、エリオジクチオールカルコンまたはホモエリオジクチオールカルコンをそれぞれ使用した)の供給により生体内変換のために使用した。反応液に、10ppmの基質を10分毎に150分間補充した。30℃でインキュベーションを行った。メタノール(1体積の反応混合物+1体積のメタノール)で反応を停止させた後、サンプルを遠心分離し(20分、20.000rpm)、上清をLCおよびLC‐MS分析のために使用した(
図15を参照)。
【0086】
精製されたAtDBR1を、1.5mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸および10μMヘスペレチンの添加により生体内変換のために使用した。対照反応を、上記のように、但し精製されたAtDBR1の代わりに50mMリン酸バッファーpH6.0を用いて行った。反応物を30℃でインキュベートした。インキュベーションの0分後、またはインキュベーションの90分後に、メタノール(1体積の反応混合物+1体積のメタノール)で反応を停止させた。サンプルを遠心分離し(20分、20,000rpm)、上清をLC‐MS分析のために使用した。結果を
図17に描写する。
【0087】
6.
E.coli細胞の培養およびAtDBR1バリアントによる生体内変換
表4のpET28aプラスミドの1つを含むE.coli BL21(DE3)細胞を使用して、必要な抗生物質を含む450μL LB培地(カールロス社(Carl Roth GmbH)、カールスルーエ、ドイツ)の前培養物をそれぞれ植菌した。6時間のインキュベーション(37℃、300rpm)後、細胞を使用して、それぞれの前培養物35μLを抗生物質を含む665μL TB培地(カールロス社(Carl Roth GmbH)、カールスルーエ、ドイツ)に植菌した。細胞を75分間増殖させ(37℃、300rpm)、50μlの15mMイソプロピル‐β‐D‐チオガラクトピラノシドを培養物に添加した。細胞培養物を16時間インキュベートし(28℃、300rpm)、遠心分離し(20分、5,000rpm)、上清を廃棄した。細胞ペレットを、500μL B‐PERタンパク質抽出試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)、ボン、ドイツ)中で製造者の指示に従って溶解した。その後の遠心分離(60分、5,000rpm)後、1.5mMニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸および20μMの基質ヘスペレチンカルコンの添加により上清を生体内変換のために使用した。反応混合物を40℃で3.5時間インキュベートした。メタノール(1体積の反応混合物+1体積のメタノール)で反応を停止させた後、サンプルを遠心分離し(60分、5,000rpm)、上清をLC分析のために使用した。結果を
図16に描写する。
【配列表】
【国際調査報告】