(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-04
(54)【発明の名称】抗微生物性生体適合性共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物
(51)【国際特許分類】
C01F 3/02 20060101AFI20240226BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240226BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240226BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240226BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240226BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240226BHJP
A61L 15/18 20060101ALI20240226BHJP
A61L 29/10 20060101ALI20240226BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C01F3/02
A61P35/00
A61P31/00
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/10
A61L15/18 100
A61L29/10
A61P17/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554315
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 IL2022050253
(87)【国際公開番号】W WO2022190087
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523012953
【氏名又は名称】エヌエスシー-ナノ ソノ コーポレーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】フランコ,アリエル アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】サングルマス,ラジャシェカレヤ エー.
(72)【発明者】
【氏名】ハシン,アサフ
【テーマコード(参考)】
4C081
4G076
【Fターム(参考)】
4C081AA12
4C081AC08
4C081CE01
4C081CE02
4C081CF14
4C081CF24
4G076AA02
4G076AA18
4G076AB12
4G076BA13
4G076BA33
4G076BB08
4G076BC02
4G076BC07
4G076BE11
4G076BF07
4G076CA02
4G076CA29
4G076CA33
4G076DA16
(57)【要約】
本明細書では、工業的用途及び生物医学的用途のための抗微生物特性を有する共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを記載する。本開示の化合物を用いて、生物表面及び無生物表面における微生物の増殖を抑制及び/又は微生物の増殖を除去する方法も記載される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属A及びBでドープされた酸化マグネシウムを含む共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物であって、
金属Aは、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ニオブ、銀、及び亜鉛からなる群から選択される遷移金属であり、かつ
金属Bは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群から選択されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、かつ
前記共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、結晶性ペリクレース構造を備える、前記組成物。
【請求項2】
金属Aは、チタン又は亜鉛である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
金属Bは、カルシウム又はストロンチウムである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
金属Aは亜鉛であり、かつ金属Bはカルシウムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、(A
XB
Y)Mg
(1-Y)-XOの式を有し、式中、Xは酸化マグネシウムに対する金属Aの原子比であり、かつYは酸化マグネシウムに対する金属Bの原子比である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
Xは0~約0.1の範囲であり、かつYは0~約0.1の範囲である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物を含む、抗微生物性組成物又は抗腫瘍性組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物を含む、微生物の増殖の抑制及び/又は微生物の汚染の除去における使用のための組成物。
【請求項9】
前記微生物の増殖又は汚染は、細菌、ウイルス、又は真菌である微生物の増殖又は汚染である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記微生物の増殖又は汚染は、表面上、又は対象中にある、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記表面は、無生物の物体、又は対象上にある、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、創傷被覆材中又は創傷被覆材上に組み込まれている、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物は、布製の包帯、織物、カテーテル、針、又は電界紡糸繊維の中又はその上に組み込まれている、請求項8に記載の組成物。
【請求項14】
前記微生物は、少なくとも1つの抗微生物剤に対して耐性である、請求項9に記載の組成物。
【請求項15】
前記細菌は、グラム陽性細菌又はグラム陰性細菌である、請求項9に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は、塗料、プラスチック、又はコーティングに組み込まれている、請求項8に記載の組成物。
【請求項17】
前記コーティングは、疎水性及び/又は無水性のコーティングである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記コーティングは、金属、ガラス、プラスチック、又はセラミック上の微生物の増殖の抑制及び/又は予防における使用のためのコーティングである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
慢性又は急性の創傷の治療における使用のための、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物の有効量と、少なくとも1つの薬学的に許容される局所用の担体、アジュバント、及びビヒクルとを含む局所用医薬組成物。
【請求項20】
前記慢性又は急性の創傷は、火傷又は切り傷である、請求項19に記載の局所用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
2021年3月8日に出願された米国仮特許出願第63/157,889号に対して利益を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、工業用途及び生物医学用途のための、抗微生物特性(antimicrobial property)を有し、かつ生体適合性が増大した共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット(ナノ複合体)に関する。開示された化合物を用いて微生物の増殖を抑制する方法、及び/又は微生物汚染を除去する方法もまた記載される。
【背景技術】
【0003】
酸化マグネシウムのナノ材料(ナノMgO)は、生物医学的応用に有望な可能性を示す。低コストかつ環境に優しい材料として、これらの材料はすでに廃水からの酸性水及び染料を中和するプロセスに広く適用されている。過去10年間で、廃水処理に使用されるMgOの世界的な消費量は年間48,000トンを超えている。しかし、ナノMgOの細胞毒性及び抗菌活性についてはほとんど注目されていない。
【0004】
近年、電解ナノMgO懸濁液の大腸菌(E.coli)に対する相互作用の研究により、ナノMgOが抗菌作用を有することが明らかになった。これらの研究は、いくつかの純粋な金属酸化物粒子とドープされた金属酸化物粒子との抗菌特性(antibacterial property)について記載した以前の研究につながる(Stankicら,J.Nanobiotech,14:73(2016);及び米国特許公開第2020/0231459号)。抗微生物効果に加えて、酸化マグネシウム組成物は抗腫瘍特性を有することも観察されている(Aminaら,PLOS ONE,2020年8月14日;Jayapriyaら,Res.on Chem.Int.,2020年1月4日;及びBehzadiら,Int.J.Nanomed.,2019,14:257-270)。しかし、こうした抗菌特性及び抗腫瘍性特性が期待されるにもかかわらず、金属酸化物ナノ材料の毒性(環境及び生物学的の両方)及び生体適合性については大きな疑問が残っている(Sengui及びAsmatulu,Env.Chem.Letters 18,pp.1659-1683(2020)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開第2020/0231459号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stankicら,J.Nanobiotech,14:73(2016)
【非特許文献2】Aminaら,PLOS ONE,2020年8月14日
【非特許文献3】Jayapriyaら,Res.on Chem.Int.,2020年1月4日
【非特許文献4】Behzadiら,Int.J.Nanomed.,2019,14:257-270
【非特許文献5】Sengui及びAsmatulu,Env.Chem.Letters 18,pp.1659-1683(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、強力な抗微生物特性及び抗腫瘍性特性を有し、しかもヒト及び動物に対し十分な生体適合性及び無毒性である金属酸化物ナノ材料の開発が引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
概要
本明細書では、ヒト及び動物に適するように生体適合性を付加した、新規の抗微生物性金属酸化物ナノ材料が提供される。本明細書に記載のナノ材料は、金属A及びBでドープされた酸化マグネシウムを含む共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物であり、ここで金属Aは、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ニオブ、銀、及び亜鉛から選択される遷移金属であり;かつ金属Bは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり;かつ共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、結晶性ペリクレース(periclase)構造を有する。
【0009】
共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物の特定の実施形態において、金属Aはチタン又は亜鉛である。他の特定の実施形態において、金属Bはカルシウム又はストロンチウムである。
【0010】
共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物の特定の一実施形態において、金属Aは亜鉛であり、かつ金属Bはカルシウムである。
【0011】
記載の組成物の特定の実施形態において、共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、(AXBY)Mg(1-Y)-XOの式を有し、式中、Xは、酸化マグネシウムに対する金属Aの原子比であり、Yは、酸化マグネシウムに対する金属Bの原子比である。いくつかの実施形態において、Xは0~約0.1の範囲であり、かつYは0~約0.1の範囲である。
【0012】
また、本明細書では、前述の実施形態の記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物を含む抗微生物性組成物及び抗腫瘍性組成物が提供される。
【0013】
本明細書に記載される抗微生物性共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物の開発により、本開示は、記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物のいずれかと微生物とを接触させることによって、微生物の増殖を抑制し、及び/又は微生物汚染を除去する方法も提供する。
【0014】
記載された方法の特定の実施形態において、微生物は細菌、ウイルス、又は真菌であり、これらは、特定の実施形態において、表面上又は対象内(例えば、対象の表面の創傷上)に存在し得る。他の実施形態において、前記表面は無生物の物体又は対象上(例えば、対象の皮膚上)である。さらに他の実施形態において、共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、対象上に直接投与されるか、又は創傷被覆材に組み込まれている。
【0015】
上記及びその他の目的、特徴、及び利点は、添付図を参照しながら進む以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、シュウ酸を有機沈殿剤として使用して製造したZn(II)とCa(II)との共ドープMgOの結晶性ペリクレース構造を実証するX線回折(XRD)パターンを示す。
【
図2】
図2は、有機沈殿剤としてシュウ酸を使用して製造したZn(II)とCa(II)との共ドープMgOの形態を確認するための高分解能透過型電子顕微鏡(high resolution transmission electron microscopy:HRTEM)画像分析を示す。
【
図3】
図3は、有機沈殿剤としてNa
2CO
3を使用して製造したZn(II)とCa(II)とのドープMgOの結晶性ペリクレース構造のX線回折(XRD)パターンを示す。
【
図4】
図4は、沈殿剤としてNa
2CO
3を使用して製造したZn(II)とCa(II)との共ドープMgOの形態を確認するためのSEM画像分析を示す。
【
図5】
図5(上部)は、Na
2CO
3を沈殿剤として使用して製造したZn(II)とCa(II)との共ドープMgOのサイズ及び形態を確認するためのHRTEM画像分析である。
図5(下部)はNa
2CO
3を沈殿剤として使用して製造したZn(II)とCa(II)との共ドープMgOのドーピング組成を確認するためのエネルギー分散型分光法(Energy-dispersive spectroscopy:EDS)ポイント分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
I.用語
特に説明がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」、「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数形の参照語を含む。同様に、「又は(or)」という言葉は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、「及び(and)」を含むことを意図している。さらに、分子量又は分子質量の値はすべて概算値であり、説明のために提供されていることを理解されたい。本開示の実施又は試験には、本明細書に記載したものと類似又は同等の方法及び材料を用いることができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。「comprise(含む)」という用語は「include(含む)」を意味する。略語「e.g.(例えば」)」はラテン語のexempli gratiaに由来し、本明細書では非限定的な例を示すために使用される。したがって、「e.g.」という略語は、「for example(例えば)」という用語と同義である。
【0018】
矛盾が生じた場合は、用語の説明を含む本明細書が優先される。さらに、すべての材料、方法、及び実施例は例示であり、限定を意図するものではない。
【0019】
投与:選択された経路によって、対象内又は対象上に組成物を導入すること。例えば、記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット化合物は、創傷部位にて、表面を化合物と接触させる当該技術分野で既知の任意の方法により、局所的に投与することができる。特定の例では、化合物は局所製剤の一部として直接投与される。他の例では、化合物は、対象に接触する固体基材上又は固体基材中に埋め込まれている。
【0020】
抗菌剤:微生物の増殖、複製、拡散、又は活性を抑制、予防、又は根絶する化合物。特定の実施形態において、抗微生物剤は、記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットである。一般的に使用される場合、抗微生物剤は、細菌及び真菌などの生きている微生物、及び/又は生きていないウイルス性微生物の増殖及び拡散を抑制、予防、又は根絶することができる。化合物と接触させなかった微生物と比較して、微生物の存在又は活性が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも100%、又は少なくとも250%以上減少した場合に、微生物は抑制されている。微生物を根絶するか、又はその増殖を防ぐ薬剤は殺微生物剤とも呼ばれる。
【0021】
コンポジット:一般的に構造的及び物理的に異なる2つ以上の構成部分から構成される材料。ナノコンポジット材料は、ナノメートル(nm)範囲、一般的には1~1000nmのサイズである。
【0022】
接触:直接物理的に接続(関連)した状態に配置されること。固体と液体との両方の形態の組成物による表面の接触を含む。接触は、対象に投与することによりin vivoで起こり得る。
【0023】
ドープ(金属酸化物):意図的に不純物を導入した金属酸化物化合物。共ドープコンポジット化合物は複数の不純物を含有する。本明細書に記載のナノコンポジットの特定の実施形態において、酸化マグネシウムは、亜鉛及びカルシウムと共ドープされている。
【0024】
化合物の有効量:所望の効果を達成するのに十分な量の化合物。治療において、治療上有効量の化合物とは、治療対象において所望の効果を達成するための量である。例えば、記載のナノコンポジットの治療上有効量は、創傷に接触させたとき、又は無生物表面にコーティングしたときに抗微生物効果をもたらすのに必要な量となるであろう。
【0025】
ペリクレース:結晶性ペリクレースは、MgO結晶によって形成されることが知られている長方形の結晶構造であり、これは本明細書で製造及び記載する共ドープMgOナノ材料によって同様に共有される。
【0026】
薬学的に許容される担体:本開示で有用な薬学的に許容される担体は従来のものである。「The Science and Practice of Pharmacy」、Adeboye Adejare(編)第23版(2020年)には、本明細書に開示される化合物の薬学的送達に適した組成物及び製剤が記載されている。一般的に、担体の性質は、例えば軟膏、懸濁液、クリーム、又は類似の懸濁液の外用剤として使用するためなど、使用される特定の投与様式に依存するであろう。
【0027】
対象:脊椎動物を含む生多細胞生物。ヒトとヒト以外の哺乳類との両方を含むカテゴリー。
【0028】
[所望の活性の実行]に十分な条件下:所望の活性を可能にする任意の環境を記載する表現。
【0029】
創傷:皮膚の損傷又は出血を伴うこともあるが、必ずしも必要ではない生体組織の損傷。創傷の特定の非限定的な例としては、打撲傷、火傷、及び切り傷(様々な深さ及び重症度のもの)が挙げられる。創傷は、転倒によるものなど意図的でない場合もあれば、手術又はその他の医療処置の結果など意図的な場合もある。
【0030】
創傷被覆材:創傷を覆うために使用される任意の材料の任意のカバー。特定の実施形態において、創傷被覆材は天然又は合成繊維であり得る。他の実施形態において、創傷被覆材は、記載の組成物から構成されるか、又はそれを含むフィルムであり得る。特定の実施形態において、創傷被覆材はいずれの活性物質を含まない。他の実施形態において、創傷被覆材は、記載の組成物を単独で、又は他の治療剤と共に含む。
【0031】
II.共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物
ドープ酸化マグネシウムナノ組成物が抗微生物効果を示すことは以前に記載されている(V.Rajendranら,IOP Conf.Ser.:Mater.Sci.Eng.Vol.360,2018)。本開示は、強固な抗微生物特性を提供し、かつ生体適合性があり、毒性が低い、新たに開発された共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを提供する。
【0032】
本明細書には、結晶性ペリクレース構造を維持し、生体適合性が高く、かつ抗微生物特性(抗菌特性及び/又は抗真菌特性)、抗腫瘍性特性(例えば、細胞増殖の疾患及び病態の治療方法における使用のため)、又はそれらの組み合わせを有する、共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットが記載される。記載の酸化マグネシウムナノコンポジットは、本明細書では「金属酸化物A」(又は「金属A」)及び「金属酸化物B」(又は「金属B」)と呼ばれる2つの金属の組み合わせにより共ドープされる。金属酸化物Aは遷移金属であり、金属酸化物Bはアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。
【0033】
特定の実施形態において、金属Aは、チタン、マンガン、鉄、ジルコニウム、又は亜鉛から選択される遷移金属である。一実施形態において、金属Aは、金属部分が亜鉛及びチタンから選択される可溶性金属塩である。
【0034】
特定の実施形態において、金属Bは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、又はバリウムから選択されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。一実施形態において、金属Bはカルシウム又はストロンチウムから選択される。
【0035】
さらに特定の実施形態において、金属Aは亜鉛である。他の実施形態において、金属Bはカルシウムである。さらに他の実施形態において、記載のナノコンポジットは、亜鉛とカルシウムとで共ドープされた酸化マグネシウムナノコンポジットである。
【0036】
特定の実施形態において、共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、式(AXBY)Mg(1-Y)-XOから構成され、式中、Xは、酸化マグネシウムに対する金属Aの原子比であり、かつYは、酸化マグネシウムに対する金属Bの原子比である。一般に、酸化マグネシウムナノコンポジットのXの値は0~約0.1の範囲である。様々な実施形態において、例えば、0~約0.05、0~約0.03、又は0~約0.02である。一実施形態において、Xの値は0.01である。一般に、酸化マグネシウムナノコンポジットのYの値は、0~約0.2の範囲であり、例えば0~約0.07又は約0~約0.05の範囲である。別の実施形態において、Yの値は0.002又は0.01であり得る。
【0037】
共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットの結晶構造は、典型的なペリクレース構造に主に相当している。酸化マグネシウムナノコンポジットの結晶構造は、当技術分野で知られている方法で決定することができる。結晶構造を決定するための非限定的な方法は、ラマン分光法、高分解能遷移電子顕微鏡法(HR-TEM/EDS)、X線結晶構造解析法、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
III.共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットの調製プロセス
さらに、本明細書には、記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを調製するためのプロセスが開示される。前記プロセスには以下が含まれる:(a)マグネシウムの可溶性有機塩;上記のとおりの金属Aの可溶性有機塩;及び上記のとおりの金属Bの可溶性有機塩、を含む第1の水溶液を提供する工程;(b)少なくとも1つの可溶性有機アニオンを含む第2の水溶液を提供する工程;(c)第1の水溶液と第2の水溶液とを混和して、不溶性有機マグネシウムナノコンポジット前駆体を形成する工程;(d)不溶性有機マグネシウムナノコンポジット前駆体を単離する工程;(e)不溶性有機マグネシウムナノコンポジット前駆体を乾燥する工程;及び(f)不溶性有機マグネシウムナノコンポジット前駆体を熱分解して、共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを形成する工程。これらのプロセスは、バッチ式、半連続式、又は連続式で実施することができる。
【0039】
(a)第1の水溶液
このプロセスは、可溶性有機マグネシウム塩;金属Aの可溶性有機塩;金属Bの可溶性有機塩を含む第1の水溶液を調製することから始まる。
【0040】
可溶性マグネシウム塩、可溶性金属A塩、及び可溶性金属B塩には、多種多様なアニオンを使用することができる。これらのアニオンの重要な側面は、アニオンが容易に交換可能で、水溶液に可溶性であり、無毒で、pHが中性で、かつ熱分解可能であることである。適切なアニオンの非限定的な例としては、クエン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、任意の可溶性有機塩、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。特定の実施形態において、可溶性マグネシウム塩、可溶性金属A塩、及び可溶性金属B塩は酢酸塩である。
【0041】
他の実施形態において、第1の水溶液は、可溶性マグネシウム塩、可溶性金属A塩、及び可溶性金属B塩に加えて、1つ又は複数の異なる可溶性塩をさらに含むことができる。このような可溶性塩の例としては、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、及び塩化亜鉛などが挙げられる。
【0042】
水中の可溶性マグネシウム塩、可溶性金属A塩、及び可溶性金属B塩の合計濃度は、約0.01M(モル/リットル)~約1.0Mの範囲であり得る。様々な実施形態において、合計濃度は、約0.01M~約1.0M、約0.03M~約0.5M、又は約0.05M~約0.3Mの範囲であり得る。特定の実施形態において、可溶性マグネシウム塩;可溶性金属A塩;及び可溶性金属B塩の合計濃度は約0.3Mであり得る。他の実施形態において、金属A塩及び金属B塩の量は、マグネシウム(例えばMgO)濃度の%として表すことができる。一実施形態において、金属A塩と金属B塩とはMgO濃度の約0.5%~2.0%である。
【0043】
様々な実施形態において、第1の水溶液の調製は、約10℃~約40℃の範囲の温度、例えば約15℃~約35℃、約20℃~約30℃、又は間の他の温度範囲の温度で実施することができる。一実施形態において、第1の水溶液の調製は室温(約25℃)で実施することができる。反応は通常、常圧下で行われる。反応は不活性雰囲気下又は空気下で行うこともでき、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム下で行うこともできる。
【0044】
第1の水溶液を調製する時間は、温度、使用する混合装置の種類、及び使用する前駆体の種類などの要因によって変化する、及び変化可能である。一般に、第1の水溶液の調製時間は、約5分~約12時間の範囲であり得る。様々な実施形態において、第1の水溶液の調製時間は、約5分~約30分、約30分~約2時間、約2時間~約4時間、約4時間~約10時間、又は約10時間~約12時間の範囲であり得る。第1の水溶液の調製は、均質になるまで続けられる。
【0045】
(b)第2の水溶液
第2の水溶液は、容易に交換可能であり、水溶液に可溶で、非毒性であり、かつ熱分解性である少なくとも1つの可溶性アニオン源を含む。適切な可溶性アニオン源の非限定的な例としては、重炭酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸、リンゴ酸、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。特定の実施形態において、第2の水溶液中の可溶性アニオンは、炭酸アンモニウム、シュウ酸、又はシュウ酸アンモニウムである。特定の実施形態において、可溶性アニオン源は炭酸塩であり、特に炭酸ナトリウムである。
【0046】
第2の水溶液中の少なくとも1つの可溶性アニオン源の濃度は、約0.10M~約1.0Mの範囲であり得る。様々な実施形態において、第2の水溶液中の少なくとも1つの可溶性アニオン源の濃度は、約0.05M~約3.0M、約0.1M~約20M、又は約0.15M~約0.5Mの範囲であり得る。特定の実施形態において、第2の水溶液中の少なくとも1つの可溶性アニオン源の濃度は、約0.3Mであり得る。
【0047】
特定の実施形態において、第2の水溶液は、安定剤をさらに含む。本方法において使用するための安定剤の非限定的な例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオキシエチレン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。一実施形態において、第2の水溶液に使用される安定剤はPVPである。
【0048】
第2の水溶液中の安定剤の濃度は、約20g/L~約0.1g/Lの範囲であり得る。様々な実施形態において、第2の水溶液中の安定剤の濃度は、約10g/L~約1g/Lの範囲であり得る。特定の実施形態において、第2の水溶液中の安定剤の濃度は約5g/Lである。
【0049】
第2の水溶液を調製する工程は、有機溶媒をさらに含むことができる。有機溶媒の添加は、誘電率の急激な変化を引き起こすことができ、酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の沈殿の動態を変化させることができる。これらの変化はさらに、酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の階層構造、異方性配置、又はこれらの特性の両方の組み合わせをもたらすことができる。この溶媒のさらなる特性は、溶媒が揮発性であり、過剰量の溶媒を除去できることである。第2の水溶液で使用するのに適した溶媒の非限定的な例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、iso-プロパノール、アセトン、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。特定の実施形態において、第2の水溶液に使用される溶媒はエタノールである。
【0050】
一般に、第2の水溶液中の溶媒の体積パーセントは、約0.01体積%~約0.1体積%の範囲であり得る。様々な実施形態において、第2の水溶液中の溶媒の体積パーセントは、約0.01体積%~約0.1体積%、約0.02体積%~約0.08体積%、又は約0.03体積%~約0.07体積%の範囲である。特定の実施形態において、第2の水溶液中の溶媒の体積パーセントは約0.02体積%である。
【0051】
第2の水溶液は、少なくとも1つの可溶性アニオン源、安定剤、水、及び任意の溶媒を含む反応混合物を形成することによって調製される。これらの成分は、すべて同時に添加しても、順次添加しても、あるいは任意の順序で添加してもよく、その後、任意の既知の混合装置又は反応容器で、混合物が透明な溶液になるまで混ぜ合わせる。
【0052】
第2の水溶液の調製は、約10℃~約100℃の範囲の温度で実施され得る。様々な実施形態において、調製の温度は、約30℃~約90℃、約50℃~約80℃、又は約60℃~約75℃の範囲であり得る。一実施形態において、調製の温度は約70℃であり得る。調製は通常、常圧下で行われる。調製は、空気又は不活性雰囲気下で行うこともでき、例えば窒素、アルゴン、又はヘリウム下で行うこともできる。
【0053】
第2の水溶液の調製時間は、温度、混合方法、及び混合対象の少なくとも1つのアニオン源の量など、多くの要因によって変化するであろう。反応時間は約5分~約12時間の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、反応時間は、約5分~約30分、約30分~約2時間、約2時間~約4時間、約4時間~約10時間、又は約10時間~約12時間の範囲であり得る。
【0054】
(c)不溶性共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の調製
不溶性共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体を調製するために、第1の水溶液を第2の水溶液と接触させる。第2の水溶液が第1の水溶液と接触すると、以下のスキームに従って化学反応が起こる:
【化1】
【0055】
特定の実施形態において、第2の水溶液はシュウ酸又はアンモニウム塩を含む。第2の水溶液にシュウ酸又はアンモニウム塩を使用する利点は、副生成物である酢酸又は酢酸アンモニウムが水溶性であり、かつ不溶性の酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体から容易に除去できることである。この反応後に残る微量の酢酸アンモニウム又は酢酸は、その過程で容易に熱分解される。別の特定の実施形態において、第2の水溶液は炭酸塩を含み、例えば炭酸ナトリウムを含む。
【0056】
不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体は、第1の水溶液、第2の水溶液、及び任意の溶媒を含む反応混合物を形成することによって調製することができる。不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体は、既知の混合装置又は反応容器又はスタティックミキサーで、混合物が完全に反応するまで上記の成分を混ぜ合わせることにより生成される。
【0057】
一般に、第1の水溶液は、バッチ式で直ちに、又はスタティックミキサーで連続的に、第1の水溶液に対して約20体積%~約45体積%の範囲において第2の水溶液に添加される。残りの部分は、第1の添加の後に分割して添加することができる。
【0058】
第1の水溶液と第2の水溶液とを混合する速度は、反応を確実に完了させるために重要である。一般に、混合速度は約1L/分~約10L/分の範囲で行うことができる。様々な実施形態において、混合速度は、1L/分~約10L/分、約2L/分~約8L/分、又は約4L/分~約6L/分の範囲であり得る。一実施形態において、混合速度は約5L/分~約6L/分の範囲であり得る。
【0059】
不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の調製時間は、プロセスの温度及び規模など、多くの要因によって変化可能、及び変化するであろう。反応時間は約5分~約6時間の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、反応時間は、約5分~約6時間、約15分~約4時間、又は約20分~約1時間の範囲であり得る。一実施形態において、不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の調製時間は約30分であり得る。
【0060】
(d)不溶性共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の単離
前記プロセスの次の工程は、工程(c)の反応混合物から不溶性の酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体を単離することである。工程(c)の反応混合物から不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体を単離する方法は数多く存在することが理解されよう。非限定的な方法には、ろ過、遠心分離、デカンテーション、又はそれらの組み合わせが挙げられる。単離後、不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体は、上澄み液が無色になるか、或は前駆体の色が一定になるまで、水、エタノール、又はそれらの組み合わせですすがれる。
【0061】
(e)不溶性の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の乾燥
前記プロセスの次の工程は、不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体から過剰な溶媒を除去するために、工程(d)で反応混合物から不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体を乾燥させることである。当業者に理解されるように、前駆体を乾燥させるために多くの装置が利用可能である。固体を乾燥するための非限定的な例としては、バッチ乾燥機、対流式オーブン、回転式乾燥機、ドラム式乾燥機、キルン乾燥機、フラッシュ乾燥機、又はトンネル乾燥機が挙げられる。
【0062】
一般に、不溶性金属酸化物ナノコンポジット前駆体の乾燥は、約30℃~約120℃の範囲の温度で実施することができる。様々な実施形態において、調製の温度は、約30℃~約120℃、約40℃~約100℃、又は約50℃~約80℃の範囲であり得る。一実施形態において、乾燥の温度は約60℃である。調製は通常、常圧下で行われる。調製は、空気又は不活性雰囲気下で行うこともでき、例えば窒素、アルゴン、又はヘリウム下で行うこともできる。
【0063】
不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の乾燥時間は、温度、前駆体の量、乾燥機の種類など、多くの要因によって異なるであろう。反応時間は約30分~約48時間の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、反応時間は、約30分~約48時間、約1時間~約24時間、又は約2時間~約4時間の範囲であり得る。一実施形態において、不溶性金属酸化物半導体前駆体を乾燥させる時間は、約3時間であり得、又は不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の乾燥により水分が10%未満になるまでとすることができる。
【0064】
(f)共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを形成する不溶性共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の熱分解
前記プロセスにおいて次の工程は、酸化マグネシウムナノコンポジットを形成する不溶性の酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の熱分解である。この工程では、酸化物を形成する熱に不安定な配位子を除去し、副生成物を除去し、かつ工程(d)で除去されなかった不純物を除去する。当業者に理解されるとおり、炭素、水素、及び過剰な酸素は、熱に不安定な配位子、副生成物、及び不純物から二酸化炭素及び水蒸気として放出される。一実施形態において、マグネシウム、亜鉛、ストロンチウム、及び/又はカルシウムを含む不溶性共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体を熱分解して、共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを形成する。この反応は、以下のスキームに従って記載することができる:
【化2】
【0065】
一般に、不溶性酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の熱分解は、約300℃~約1200℃の範囲の温度で行われる。様々な実施形態において、調製の温度は、約400℃~約1100℃、約500℃~約1000℃、又は約550℃~約950℃の範囲であり得る。一実施形態において、焼なましの温度は約950℃であり得る。調製は通常、常圧下で行われる。調製は、空気又は不活性雰囲気下で行うこともでき、例えば窒素、アルゴン又はヘリウム下で行うこともできる。
【0066】
不溶性共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体の熱分解の時間は、温度、前駆体の量、乾燥機の種類(例えば、炉又はオーブン)などの多くの要因によって異なるであろう。反応時間は約5分~約48時間の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、反応時間は、約10分~約48時間、約15時間~約24時間、又は約2時間~約4時間の範囲であり得る。一実施形態において、不溶性金属塩の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット前駆体を焼なましするための時間は約2時間である。
【0067】
IV.共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジット組成物の使用
本明細書で開示する共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、様々な医療用途及び工業用途に使用することができる。
【0068】
特定の実施形態において、記載のナノコンポジットは、物品をコーティングするための抗微生物性組成物において使用することができ、及び/又は、これらに限定されないが、布地、包帯、織物、カテーテル、電界紡糸繊維、及び注射針などの材料及び物体に組み込むことができる。他の実施形態において、記載のナノコンポジットは、創傷における微生物増殖を抑制又は予防するために、ヒト及び動物用の局所製剤において使用することができる。
【0069】
他の実施形態において、記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、該酸化マグネシウムナノコンポジットを含む太陽電池の構成要素として使用することができる。他の実施形態において、記載のナノコンポジットは、塗料、プラスチック、又はコーティングに組み込むことができる。
【0070】
一実施形態において、本方法は、これらに限定されないが、布製包帯、織物、カテーテル、電界紡糸繊維、針などの物品に、有効量の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットをコーティング又は組み込むことを含む。本方法は、酸化マグネシウムナノコンポジットを、目的とする材料と共に使用するのに適した溶媒(エタノール、水、シリコーン、又はそれらの組み合わせなど)中に分散させること、分散させた酸化マグネシウムナノコンポジットを物品上に適用し、それにより酸化マグネシウムナノコンポジットの少なくとも一層を物品上に形成すること、及び熱、真空、又は不活性ガスを使用して溶媒を除去するために前記層を乾燥させることを含む。記載のナノ複合材でコーティングされた場合、物品は、抗菌効果、抗真菌効果、又はそれらの組み合わせなどの抗微生物効果を必要とする用途、又はその恩恵を受ける用途に使用することができる。分散された酸化マグネシウムナノコンポジットは、塗装、噴霧、浸漬によって、又は分散される材料を物品に適用するための当該技術分野で知られている他の方法によって、物品に適用することができる。
【0071】
別の実施形態において、記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、急性創傷又は慢性創傷の治療のための毒性が著しく低減された抗微生物性組成物に使用することができる。このような方法には、共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを局所製剤に混合し、次いでその局所製剤を対象の表面に適用することが含まれる。特定の実施形態において、前記製剤は感染部位に適用される。他の実施形態において、前記製剤は開放創又は重度の火傷などの感染しやすい部位に適用される。記載の局所製剤は、細菌及び/又は真菌などの微生物を抑制又は除去するために、対象に抗菌特性及び/又は抗真菌特性を含む抗微生物特性を提供する。共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを提供するために、様々な局所製剤を使用することができる。本方法で使用するための局所製剤には、適宜、従来の無毒性の薬学的に許容される担体、アジュバント、及びビヒクルが含まれる。他の特定の実施形態において、記載のナノコンポジットの局所投与は、経皮パッチ又はイオン導入デバイスなどの経皮投与経路によって達成される。
【0072】
さらに別の実施形態において、記載の共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、無生物物体の表面をコーティングするための疎水性及び/又は無水性のコーティングに添加することができる。このような方法には、共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットを疎水性コーティングと混合し、それによってコーティングされる物品上に抗菌性及び/又は抗真菌性などの抗微生物性の表面を形成することが含まれる。記載の組成物でコーティングできる物品の非限定的な例としては、食品包装又は縫合糸などの多くの用途に使用される金属、ガラス、プラスチック、及びセラミックスが挙げられる。
【0073】
別の実施形態において、酸化マグネシウムナノコンポジットは、塗料、プラスチック、又は様々なコーティングに混合又は分散される。その結果、塗料、プラスチック、又は様々なコーティングは、抗菌特性及び/又は抗真菌特性などの抗微生物特性を塗料、プラスチック、又は様々なコーティングに提供することになるであろう。
【0074】
前述のように、記載の酸化マグネシウムナノコンポジットは、生物又は無生物の表面における微生物の増殖を抑制及び/又は予防するために、様々な用途に使用することができる。対象とすることができる微生物の例としては、細菌(グラム陽性及びグラム陰性)及び真菌が挙げられる。記載の化合物の使用によって抑制され得る細菌の特定の例としては、これらに限定されないが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、及び表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)などのブドウ球菌種;エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)などのエンテロコッカス種;サルモネラ・タイフィ(Salmonella typhi)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)などのサルモネラ種;エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などのエシェリヒア種;肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、アガラクティエ連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)などの連鎖球菌種;ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)などのヘリコバクター種;カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)などのカンピロバクター種;並びにエルシニア属、クラミジア属、コクシラ属、エールリキア属、フランシセラ属、レジオネラ属、パスツレラ属、ブルセラ属、プロテウス属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、トロフェリマ属、アシネトバクター属、エロモナス属、アルカリゲネス属、カプノサイトファーガ属、バチルス属、クロストリジウム属、コリネバクテリウム属、エリシペロスリックス属、リステリア属、シュードモナス属の種などが挙げられる。記載の化合物によって抑制される微生物の例には、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、イヌ小胞子菌(Microsporum canis)、スポロトリックス・シェンキイ(Sporothrix schenckii)、紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)、毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)、癜風菌(Malassezia furfur)、癜風(Pityriasis versicolor)、エクソフィアラ・ウェルネッキー(Exophiala werneckii)、トリコスポロン・ベージュリー(Trichosporon beigelii)、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)、ブラストミセス・デルマティティジス(Blastomyces dermatitidis)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、エピデルモフィトン種(Epidermophyton spp)、フザリウム種(Fusarium spp)、接合菌種(Zygomyces spp)、クモノスカビ種(Rhizopus spp)、ムコール種(Mucor spp)などの真菌によって引き起こされる感染症も含まれる。
【0075】
さらに、記載の化合物は、少なくとも1つの抗微生物剤に耐性を有する微生物の増殖を抑制又は予防するために適用することができる。本明細書で使用する「抗微生物剤(antimicrobial agent)」という用語は、直接的又は間接的に、微生物を死滅させるか又はその増殖を抑制する天然又は合成由来の任意の薬剤を指し、従来の抗生物質、並びにスルホンアミド、イソニアジド、エタンブトール、AZT、合成ペプチド抗生物質などの合成化学療法剤が含まれる。したがって、特定の実施形態において、記載の化合物によって抑制又は予防される微生物は、上記の微生物の抗微生物剤耐性株、特に、黄色ブドウ球菌、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・フェカリス、E.coli、サルモネラ・タイファイ、カンピロバクター・ジェジュニ、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、カンジダ・アルビカンスなどの抗微生物剤耐性株を含む。より特に、このような抗微生物剤耐性菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(ancomycin-resistant enterococci:VRE)、アンピシリン耐性E.coli(例えば、E.coli O157:H7)、フルオロキノロン耐性サルモネラ・チフィ、セフタジジム耐性肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、フルオロキノロン耐性淋菌(Neisseria gonorrhoeae)などが挙げられる。
【0076】
記載のナノコンポジットは、他のドープ及び共ドープされた金属及び重金属ナノ粒子化合物と比較して生体適合性がある。このような特性は、ヒト対象及び動物対象、及びそのような対象に接触するデバイスへの使用を可能にし、並びに工業用途で使用される場合、このような化合物の環境への影響を軽減する。
【0077】
さらに、本明細書に記載されるとおり、共ドープナノコンポジットの特定の実施形態は、他の共ドープナノコンポジットと比較して、予想外に、抗微生物特性の増大が実証される。このような活性が増大した化合物の利点のうち、効果を得るために必要な化合物の量が比較的少なくて済む一方で、強固な抗微生物効果を提供できることが理解されよう。
【0078】
さらなる実施形態において、記載のナノコンポジット化合物は工業用途に使用することができる。このような用途の特定の例としては、大気中の有機汚染物質及び染料の分解、及び水の浄化を含む環境清浄化及び精製の活動が挙げられる。このような実施形態において、記載のナノコンポジットは、精製対象の物質、又は毒素が分解もしくは除去される対象の物質と接触させる当該技術分野で知られている任意の方法によって提供されることが理解されよう。特定の例としては、空気及び水に対するフィルター及びろ過システムが挙げられ、記載のナノコンポジットがその中及び/又はその上に埋め込まれるか、又は噴霧される。
【0079】
以下の実施例は、ある特定の特徴及び/又は実施形態を説明するために提供される。これらの実施例は、記載された特定の特徴又は実施形態に本開示を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0080】
実施例1:X及びYが0である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
5Lの反応器に965gのMg(OAc)2四水和物及び3Lの脱イオン水を室温で加えた。この混合物を固形分が溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。機械的撹拌器を備えた別の20Lの反応器に、12Lの脱イオン水(deionized water:DI)を入れた。この溶液に567.3gのH2C2O4二水和物を加えた。この混合物を室温で固形分が溶解するまで撹拌した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、第1の溶液を直ちに20Lの反応器に加え、200rpmにて機械的撹拌を維持した。溶液の添加が完了した後、反応液をさらに30分間撹拌し、ここで固体沈殿物が形成した。撹拌を止め、真空ろ過で固体沈殿物をろ過した。固形物をDI水で数回洗浄した。その後、ろ過ケークを乾燥させた。固形物を取り出し、真空オーブンで3時間40℃にて乾燥させた。
【0081】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧にて焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱し、180gのナノ材料を得た。
【0082】
実施例2:X(Zn+2)が0.01であり、かつYが0である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
5Lの反応器に955.4gのMg(OAc)2四水和物及び10gのZn(AcO)2二水和物を室温にて3Lの脱イオン水(DI)中に加えた。この混合物を固形分が溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。機械的撹拌器を備えた別の20Lの反応器に、12Lの脱イオン水(DI)を入れた。この溶液に567.3gのH2C2O4二水和物を加えた。この混合物を室温で固形分が溶解するまで撹拌した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、第1の溶液を直ちに20Lの反応器に加え、200rpmにて機械的撹拌を維持した。溶液の添加が完了した後、反応液をさらに30分間撹拌し、ここで固形物が析出し始めた。析出した固形物を真空ろ過を用いてろ過した。固形物をDI水で数回洗浄し、次いでろ過した。ろ過ケークを乾燥させた後、固形物をさらなるDI水で洗浄した。固形物を取り出し、真空オーブンで3時間40℃にて乾燥させた。
【0083】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。次いで固形物を磁製るつぼに移した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧にて焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱し、182gのナノ材料を得た。
【0084】
実施例3:Xが0であり、かつY(Ca+2)が0.01である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
5Lの反応器に955.4gのMg(OAc)2四水和物及び8gのCa(AcO)2一水和物を室温にて3Lの脱イオン水(DI)中に加えた。この混合物を固形分が溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。機械的撹拌器を備えた別の20Lの反応器に、12Lの脱イオン水(DI)を入れた。この溶液に567.3gのH2C2O4二水和物を加えた。この混合物を室温で固形分が溶解するまで撹拌した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、第1の溶液を直ちに20Lの反応器に加え、200rpmにて機械的撹拌を維持した。溶液の添加が完了した後、反応液をさらに30分間撹拌し、ここで固形物が析出し始めた。析出した固形物を真空ろ過を用いてろ過した。固形物をDI水で数回洗浄し、次いでろ過した。ろ過ケークを乾燥させた後、固形物をさらなるDI水で洗浄した。固形物を取り出し、真空オーブンで3時間40℃にて乾燥させた。
【0085】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。固形物を磁製るつぼに移した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧にて焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱し、182gのナノ材料を得た。
【0086】
実施例4:X(Zn+2)が0.01であり、かつY(Ca+2)が0.01である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
5Lの反応器に946gのMg(OAc)2四水和物、7.85gのCa(AcO)2一水和物、及び10gのZn(AcO)2二水和物を室温にて3Lの脱イオン水(DI)中に加えた。この混合物を固形分が溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。機械的撹拌器を備えた別の20Lの反応器に、12Lの脱イオン水(DI)を入れた。この溶液に567.3gのH2C2O4二水和物を加えた。この混合物を室温で固形分が溶解するまで撹拌した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、第1の溶液を直ちに20Lの反応器に加え、200rpmにて機械的撹拌を維持した。溶液の添加が完了した後、反応液をさらに30分間撹拌し、ここで固形物が析出し始めた。析出した固形物を真空ろ過を用いてろ過した。固形物をDI水で数回洗浄し、次いでろ過した。ろ過ケークを乾燥させた後、固形物をさらなるDI水で洗浄した。固形物を取り出し、真空オーブンで3時間40℃にて乾燥させた。
【0087】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。固形物を磁製るつぼに移した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧にて焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱し、97gのナノ材料を得た。
【0088】
誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP-AES)による元素分析を、実施例1~4のナノコンポジットについて実施した(chem.libretexts.org/Bookshelves/Analytical_Chemistry/Book%3A_Physical_Methods_in_Chemistry_and_Nano_Science_(Barron)/01%3A_Elemental_Analysis/1.05%3A_ICP-AES_Analysis_of_Nanoparticlesでオンラインで利用可能な方法と同様の方法に従った)。結果を表1に示す:
【表1】
【0089】
X線回折(
図1)及び高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)(
図2)により、共ドープMgO:Zn:Caナノコンポジットの物理構造をさらに評価し、ペリクレースであることを確認した。
【0090】
実施例5:X(Zn+2)が0.01であり、Y(Sr+2)が0.01である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
5Lの反応器に946gのMg(OAc)2四水和物、9.6gのSr(AcO)2一水和物、及び10gのZn(AcO)2二水和物を室温にて3Lの脱イオン(DI)水中に加えた。この混合物を固形分が溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。機械的撹拌器を備えた別の20Lの反応器に、12Lの脱イオン水(DI)を入れた。この溶液に567.3gのH2C2O4二水和物を加えた。この混合物を室温で固形分が溶解するまで撹拌した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、第1の溶液を直ちに20Lの反応器に加え、200rpmにて機械的撹拌を維持した。溶液の添加が完了した後、反応液をさらに30分間撹拌し、ここで固形物が析出し始めた。析出した固形物を真空ろ過を用いてろ過した。固形物をDI水で数回洗浄し、次いでろ過した。ろ過ケークを乾燥させた後、固形物をさらなるDI水で洗浄した。固形物を取り出し、真空オーブンで3時間40℃にて乾燥させた。
【0091】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。固形物を磁製るつぼに移した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧にて焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱し、185gのナノ材料を得た。
【0092】
実施例6:X(Ti+4)が0.01であり、かつY(Ca+2)が0.01である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
5Lの反応器に、946gのMg(OAc)2四水和物、7.85gのCa(AcO)2一水和物、及び13.2gの(NH4)2TiO(C2O4)2一水和物を室温にて3Lの脱イオン水(DI)中に加えた。この混合物を固形分が溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。機械的撹拌器を備えた別の20Lの反応器に、12Lの脱イオン水(DI)を入れた。この溶液に567.3gのH2C2O4二水和物を加えた。この混合物を室温で固形分が溶解するまで撹拌した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、第1の溶液を直ちに20Lの反応器に加え、200rpmにて機械的撹拌を維持した。溶液の添加が完了した後、反応液をさらに30分間撹拌し、ここで固形物が析出し始めた。析出した固形物を真空ろ過を用いてろ過した。固形物をDI水で数回洗浄し、次いでろ過した。ろ過ケークを乾燥させた後、固形物をさらなるDI水で洗浄した。固形物を取り出し、真空オーブンで3時間40℃にて乾燥させた。
【0093】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。固形物を磁製るつぼに移した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧にて焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱し、187gのナノ材料を得た。
【0094】
実施例7:第2の溶液についてシュウ酸アンモニウムを用いた、X(Zn+2)が0.01であり、かつY(Ca+2)が0.01である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
5Lの反応器に946gのMg(OAc)2四水和物、7.85gのCa(AcO)2一水和物、及び10gのZn(AcO)2二水和物を室温にて3Lの脱イオン水(DI)中に加えた。この混合物を固形分が溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。機械的撹拌器を備えた別の20Lの反応器に、12Lの脱イオン水(DI)を入れた。この溶液に639.5gのシュウ酸アンモニウム一水和物を加えた。この混合物を室温で固形分が溶解するまで撹拌した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、第1の溶液を直ちに20Lの反応器に加え、200rpmにて機械的撹拌を維持した。溶液の添加が完了した後、反応液をさらに30分間撹拌し、ここで固形物が析出し始めた。析出した固形物を真空ろ過を用いてろ過した。固形物をDI水で数回洗浄し、次いでろ過した。ろ過ケークを乾燥させた後、固形物をさらなるDI水で洗浄した。固形物を取り出し、真空オーブンで3時間40℃にて乾燥させた。
【0095】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。固形物を磁製るつぼに移した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧にて焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱し、180gのナノ材料を得た。
【0096】
実施例8:第2の溶液に炭酸アンモニウムを使用した、X(Zn+2)が0.01であり、かつY(Ca+2)が0.01である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
5Lの反応器に946gのMg(OAc)2四水和物、7.85gのCa(AcO)2一水和物、及び10gのZn(AcO)2二水和物を室温にて3Lの脱イオン水(DI)中に加えた。この混合物を固形分が溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。機械的撹拌器を備えた別の20Lの反応器に、12Lの脱イオン水(DI)を入れた。この溶液に432.5gの炭酸アンモニウムを加えた。この混合物を室温で固形分が溶解するまで撹拌した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、第1の溶液を直ちに20Lの反応器に加え、200rpmにて機械的撹拌を維持した。溶液の添加が完了した後、反応液をさらに30分間撹拌し、ここで固形物が析出し始めた。析出した固形物を真空ろ過を用いてろ過した。固形物をDI水で数回洗浄し、次いでろ過した。ろ過ケークを乾燥させた後、固形物をさらなるDI水で洗浄した。固形物を取り出し、真空オーブンで3時間40℃にて乾燥させた。
【0097】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。固形物を磁製るつぼに移した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧にて焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱し、97gのナノ材料を得た。
【0098】
実施例9:共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットの殺菌効果
この実施例では、本明細書に開示した共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットの殺菌効果を比較する。
【0099】
共ドープ酸化マグネシウムナノコンポジットは、先の実施例に記載したとおりに調製し、生理食塩水に100ppmの濃度へ懸濁した。
【0100】
共ドープ酸化マグネシウムの抗菌活性をE.coli(ATCC8739)に対して試験した。遊離粒子を試験するために、Tryptic Soy Broth(HiLabs、イスラエル)中での一晩の細菌培養物を回収し、生理食塩水(0.86% NaCl、Bio-Lab、イスラエル)で洗浄した。懸濁液中の細菌濃度は、ネフェロメーター(PhoenixSpec、BD)を用いて推定した。その後、懸濁液を約106cfu/mLへ適宜希釈した。200mLのガラスビーカーに20mgを秤量し、100mLの滅菌脱イオン水を加え、ソノトロード(Hielscher、ドイツ)を用いて振幅80%で2分間懸濁することにより、200ppmのナノ粒子懸濁液を調製した。50mLのポリプロピレン製試験管に、1mLの濃塩化ナトリウム水溶液(7.74g/L)を水中の8mLのナノ粒子懸濁液に加え、生理食塩水と同様に塩濃度を0.86g/Lにした。これに生理食塩水中の菌懸濁液1mL(106cfu/mL)を加え、菌濃度を105cfu/mLに達するようにした。T0時の細菌濃度を測定するために、1mLの試料を採取した。試験管を36℃、220rpmで振とうしてインキュベートした。1時間後、試験管から試料1mLを取り出し、連続希釈液の調製に使用した。その後、希釈していない溶液及び各希釈液の1mLの溶液を、溶解したTryptic Soy Agar(HiLabs、イスラエル)を用いて、45~47℃のpour-plate法を用いて3連でプレーティングした。試験した種に応じて、プレートを36℃で24時間~48時間インキュベートし、インキュベーションの最後に、細菌コロニーをカウントした。細菌の生存率の減少をlog10(Nt/Ni)によって決定し、式中、Ni及びNtは、cfu/mL単位の細菌の初期カウント(Ni)及び最終カウント(Nt)である。抗菌アッセイの結果の概要を以下に示す。
【0101】
【0102】
表2に示すとおり、ナノコンポジットの合成条件によって多少のばらつきはあるものの、試験したナノコンポジットはすべて殺菌性である。
【0103】
実施例10:X(Zn+2)が0.01であり、かつY(Ca+2)が0.02である場合の(AX,BY)Mg(1-Y)-XOナノコンポジットの調製
反応器に62.4gの酢酸マグネシウム四水和物、0.66gの酢酸亜鉛二水和物、及び1.06gの酢酸カルシウム一水和物を0.2LのDI水に加え、完全に溶解するまで撹拌した(第1の溶液)。別の反応器に、31.76gの炭酸ナトリウムを0.8LのDI水に溶解した(第2の溶液)。第2の溶液が均一になる際に、撹拌を維持しながら第1の溶液を直ちに加えた。すぐに沈殿が生じ、撹拌を室温でさらに60分間続けた。析出した固形物を真空ろ過を用いてろ過した。固形物をDI水で数回洗浄し、次いでろ過した。ろ過ケークを乾燥させた後、固形物をさらなるDI水で洗浄した。固形物を取り出し、40℃の真空オーブンで一晩乾燥させた。得られた沈殿物の質量は30gであった。
【0104】
真空オーブンから固形物を取り出し、室温まで冷却した。固形物を磁製るつぼに移し、大気圧の焼きなまし炉に導入し、固形物を950℃で2時間加熱して、9.4gのナノ材料を得た。
【0105】
【0106】
ナノコンポジットの元素分析は、誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP-AES)を使用して実行した。結果を表3に示す。
【0107】
【0108】
Zn(II)とCa(II)との共ドープMgOナノコンポジットの構造及び形態は、さらにX線回折(
図3)、走査型電子顕微鏡(SEM)(
図4)、及び高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)(
図5)によって評価及び検証した。ここで製造したナノコンポジットは、先の実施例で製造及び記載された元素組成及び結晶性ペリクレース構造と一致した。
【0109】
ナノコンポジットの殺菌活性は、上述のとおり、グラム陽性菌とグラム陰性菌との幅広いスペクトルに対して試験した。結果は表4に示し、抗生物質耐性株を含むグラム陽性菌及びグラム陰性菌に対して強い殺菌活性が示された。
【0110】
【0111】
開示された本発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮すると、記載された実施形態は本発明の好ましい例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものとして捉えられるべきではないことを認識すべきである。むしろ、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によって定義される。したがって本発明者らは、これらの請求項の範囲及び精神に含まれるすべてのものを発明として主張する。
【国際調査報告】