(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-04
(54)【発明の名称】グラファイト含有材料上に親水性表面を形成するための方法、およびバイポーラプレートを製造するための方法、ならびにバイポーラプレート、およびそのようなバイポーラプレートを有する燃料セルまたはフロー電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20240226BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20240226BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20240226BHJP
H01M 8/0226 20160101ALI20240226BHJP
【FI】
C01B32/21
H01M8/0213
H01M8/18
H01M8/0226
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554911
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2022055423
(87)【国際公開番号】W WO2022189258
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】102021105963.1
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021113591.5
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523060943
【氏名又は名称】シュンク コーレンシュトッフテクニック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】リン, グンター
(72)【発明者】
【氏名】フーアマン, ハウケ
(72)【発明者】
【氏名】バルマン, スーレン
(72)【発明者】
【氏名】アルトゥンタス, メズート
【テーマコード(参考)】
4G146
5H126
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146BA02
4G146CB16
4G146CB22
4G146DA07
4G146DA40
4G146DA50
5H126AA12
5H126BB10
5H126DD04
5H126GG06
5H126GG18
5H126HH01
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ10
(57)【要約】
親水性にされる表面(3)が、少なくとも0.5MW/mm
2の出力密度を有するパルスレーザ(11)で照射される、グラファイト含有材料(7)上に親水性表面(3)を形成するための方法が記載される。この方法により、例えば、バイポーラプレート(1)は、その表面(3)の部分領域(9)において、簡単な方法で、かつ器具に関して低支出で親水性にされ得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト含有材料(7)上に親水性表面(3)を形成するための方法であって、
前記親水性にされる表面(3)が、少なくとも0.5MW/mm
2の出力密度を有するパルスレーザ(11)で照射される、方法。
【請求項2】
前記パルスレーザ(11)が、少なくとも0.1J/mm
2の単位面積当たりのパルスエネルギーを有するパルスで前記親水性にされる表面(3)を照射する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パルスレーザ(11)が、1J/mm
2未満の単位面積当たりのパルスエネルギーを有するパルスで前記親水性にされる表面(3)を照射する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記パルスレーザ(11)が、1μs未満のパルス持続時間を有するパルスで前記親水性にされる表面(3)を照射する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記パルスレーザ(11)が、100kHz未満のパルス周波数で前記親水性にされる表面(3)を照射する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記パルスレーザ(11)が、800nm~1500nmの波長で前記親水性にされる表面(3)を照射する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記親水性にされる表面(3)を、前記照射中に反応性ガス雰囲気に露出させる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記グラファイト含有材料(7)が、ポリマーマトリックスに埋め込まれたグラファイト粒子を有する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記パルスレーザが、前記グラファイト含有材料(7)から、前記グラファイト含有材料以外の材料からなる表在ポリマー層および/または表面層を除去するためにさらに使用される、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー層および/または前記表面層の除去が、前記親水性表面の形成と同じレーザパラメータで実施される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記グラファイト含有材料(7)が、少なくとも60体積%のグラファイト含有量を有する、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記グラファイト含有材料(7)が、少なくとも20体積%のポリマー含有量を有する、
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
燃料セル(19)またはフロー電池のバイポーラプレート(1)を製造するための方法であって、
少なくとも前記基材(5)の露出面(3)に隣接して、グラファイト含有材料からなる板状基材(5)を提供することと、
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって、前記露出面(3)の少なくとも部分領域(9)を親水性表面(3)として形成することと、を含む、方法。
【請求項14】
燃料セル(19)またはフロー電池のバイポーラプレート(1)であって、請求項13に記載の方法によって製造された、バイポーラプレート(1)。
【請求項15】
エネルギー貯蔵装置(25)であって、請求項14に記載のバイポーラプレート(1)を有する、特に少なくとも1つの燃料セル(19)またはフロー電池を有する、エネルギー貯蔵装置(25)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイト含有材料上に親水性表面を形成するための方法に関する。本発明はさらに、燃料セルまたはフロー電池のバイポーラプレートを製造するための方法に関する。本発明はさらに、例えば燃料セルまたはフロー電池の形態のバイポーラプレートおよびエネルギー貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイト含有材料は、例えば、それと共に異なる構造要素を形成するために、最も多様な用途に使用され得る。中に含有されるグラファイトの物理的特性、例えば、その高い導電性、機械的特性、熱安定性および/または化学的安定性などが有利に使用され得る。
【0003】
いくつかの用途では、グラファイト含有材料を使用して生成された構造要素の表面が、他の材料との接触時に特定の物理的特性を有する場合、有利であり得る。特に、その表面が親水性である場合、すなわち水と強く相互作用し、したがって水で容易に湿潤する場合、いくつかの用途に有利であり得る。
【0004】
グラファイト含有材料上に親水性表面を形成するための方法、ならびにそれによって達成され得る物理的特性および/または利点の実施形態を、燃料セルまたはフロー電池で使用され得るような、グラファイト含有材料を使用して形成されたバイポーラプレート上の親水性表面の形成を参照して以下に詳細に記載する。しかしながら、本明細書に記載の方法の実施形態は、少なくとも部分表面が親水性にされる他の構造要素の製造にも使用され得ることに留意されたい。
【0005】
バイポーラプレートは、積層されてスタックを形成すると燃料セルシステムのコアを形成する燃料セルのための複数の異なる機能を実行するように意図されている。一方では、それらは、隣接する燃料セルを互いに接続する、すなわち、1つのセルのアノードを隣接するセルのカソードに物理的かつ電気的に導通するように接続する。他方では、燃料セル内の反応空間へのガスの分配は、バイポーラプレートの面を介して行われることが可能であるべきであり、すなわち、バイポーラプレートは、反応ガスを反応ゾーンに誘導するためのものである。この目的のために、バイポーラプレートは、典型的には、両側にフロープロファイル(いわゆる流れ場)を有し、これは、元々形成および/または再成形されてもよく、すなわち、例えば粉砕または圧入されてもよく、一方の側では水が流れ、他方の側では空気が供給される。バイポーラプレートは、一般に、水蒸気の除去または熱および電気エネルギーの散逸も制御する。加えて、バイポーラプレートはさらに、隣接するセル間のガス分離、外側への封止、および任意選択的に、冷却を提供するためのものである。
【0006】
それから作製される要求を満たすことを可能にするために、バイポーラプレートの表面の少なくとも一部を水で可能な限り完全に湿潤することが可能でなければならず、すなわち、高度に親水性でなければならない。一例として、アノード側、すなわち燃料ガス側では、バイポーラプレートは、燃料セル中の電極およびメンブレンが均一に湿潤することを可能にすべきである。カソード側、すなわち酸素側では、燃料セル内での反応中に生成される水を効果的に除去可能でなければならず、さもなければ電極中の細孔系および/またはバイポーラプレート中の空気チャネルを遮断する場合がある。バイポーラプレートの表面の関連領域が親水性にされ、したがって非常に良好な湿潤特性を有する場合、水はもはや液滴の形態では存在せず、代わりに表面膜を形成し、次いで、例えばガス流によって容易に除去され得ることが達成され得る。
【0007】
材料の表面を親水性にするための異なる手法が公知である。
【0008】
例えば、親水性作用を有する材料で表面を被覆してもよい。適切なコーティング材料は、例えば、極性ポリマーである。
【0009】
親水性表面を形成するためのさらなる可能性は、シロキサン含有プラズマによる処理からなり、これにより、コーティングまたは表面改質と同様に、発熱性シリカの非常に薄い層が生成される。
【0010】
頻繁に使用されるさらなる可能性は、親水性にされる表面の直接酸化にある。この目的のために、例えば、強酸化性酸または過酸化水素による湿式化学酸化、例えばフッ素または三酸化硫黄による気相中の乾式酸化、大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理またはコロナ処理などの異なる方法が使用され得る。
【0011】
しかしながら、公知の手法のほとんどは、克服するのに高価な欠点または少なくとも問題を伴う。例えば、バイポーラプレートの表面に塗布された層は、バイポーラプレートの表面における電気接触抵抗を増加させ得る。加えて、バイポーラプレートの表面上に非常に微細な構造物を均一に被覆することが困難な場合がある。バイポーラプレートの表面へのコーティングの恒久的かつ確実な接着も達成することが困難な場合がある。フッ素または三酸化硫黄などの非常に毒性の高いガスによる酸化は、そのような処理は、一般に密閉システムでのみ実施されるべきであるため、ここで使用される機器に高い要求をもたらす場合がある。例えば、プラズマ処理またはコロナ処理などの上記の方法のいくつかでは、満足のいく親水性が処理直後に見られることが多いが、この親水性は、経時的に安定ではなく、例えば数時間または数日間しか持続しないことがしばしば観察されている。加えて、公知の方法の多くでは、例えば他の部分領域の複雑なマスキングによって、表面の小面積部分領域を意図的かつ局所的に親水性にすることは困難である。
【0012】
欧州特許出願公開第2615675号明細書および欧州特許出願公開第2960973号明細書は、表面を最初に意図的に粗面化し、次いでレーザを照射する、燃料セルセパレータを生成するための方法を記載している。記載された方法は、一般に、複数の方法ステップを必要とする。したがって、本方法は、実施するのに高価であるか、または器具に関してかなりの支出を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2615675号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2960973号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来から知られている手法の最初に述べた利点または問題のうちの少なくともいくつかが回避または低減され得る手段によって、グラファイト含有材料上に親水性表面を形成するための方法が必要とされ得る。特に、グラファイト含有材料から生成された構造要素がその表面で低い電気接触抵抗を有し、微細な表面構造であっても親水性にすることができ、非常に毒性の高い物質または触媒毒を使用する必要がなく、親水性が長期間にわたって安定であるように生成され得、かつ/または容易に実施され得、器具に関して安価で、および/または低支出であるような方法が必要とされ得る。さらに、本明細書に記載の方法を使用することにより、バイポーラプレートの部分領域に親水特性が提供され得る、燃料セルまたはフロー電池のバイポーラプレートを製造するための方法が必要とされ得る。さらに、それに応じて製造されるバイポーラプレート、および例えば燃料セルまたはフロー電池の形態のエネルギー貯蔵装置が必要とされ得る。
【0015】
そのような必要性は、独立請求項の主題によって満たされ得る。有利な実施形態は、従属請求項に定義され、以下の説明にも記載され、図に示される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様は、グラファイト含有材料上に親水性表面を形成するための方法であって、親水性にされる表面が、少なくとも0.5MW/mm2、好ましくは少なくとも1MW/mm2または少なくとも2MW/mm2の出力密度を有するパルスレーザで照射される、方法に関する。
【0017】
本発明の第2の態様は、燃料セルまたはフロー電池のバイポーラプレートを製造するための方法であって、少なくとも基材の露出面に隣接して、グラファイト含有材料からなる板状基材を提供することと、本発明の第1の態様の実施形態による方法によって、露出面の少なくとも部分領域を親水性表面として形成することと、を含む、方法に関する。
【0018】
本発明の第3の態様は、燃料セルまたはフロー電池のバイポーラプレートに関し、バイポーラセルは、本発明の第2の態様の実施形態による方法によって製造された。
【0019】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様の実施形態によるバイポーラプレートを有する、特に燃料セルまたはフロー電池の形態のエネルギー貯蔵装置に関する。
【0020】
本発明の範囲を決して限定するものではないが、本発明の実施形態に関する考えおよび可能な特徴は、とりわけ、以下に記載される概念および知見に基づいていると考えられ得る。
【0021】
簡潔かつ大まかに要約すると、本明細書に記載される発想の基本的な概念は、驚くべきことに、比較的高い出力密度を有するパルスレーザを照射すると、グラファイト含有材料の表面が親水特性を発現することが観察されていることに見ることができる。グラファイト含有材料は、これまでレーザによって既に照射されていたが、ここで使用されるレーザの出力密度は、本明細書に記載される本発明に使用されるレーザの出力密度よりも著しく低かった。そのような低出力レーザで処理すると、グラファイト含有材料の表面は、いずれの場合も通常は完全に疎水性であり、一般に疎水性の増加が発現する。したがって、レーザで照射されたグラファイト含有材料の表面が、その目的のために使用されるレーザの特性の適切な選択によって、ますます疎水性にならず、代わりに親水性にさえなることは予想されなかった。
【0022】
本明細書に記載の方法および製品の実施形態の可能な詳細を以下に説明する。
【0023】
グラファイトは、炭素含有材料として、多くの用途に有利な特性を提供する。例えば、バイポーラプレートで使用する場合、グラファイトは、高い熱負荷耐性および十分に高い機械的強度と共に非常に高い導電性を提供する。
【0024】
例えばバイポーラプレートなどの構造要素の形成には、とりわけ、グラファイト粒子がポリマーマトリックスに埋め込まれたグラファイト含有材料が使用される。グラファイト粒子は、所望の電気的および/または熱的特性を材料に提供する。ポリマーマトリックスは、とりわけ、グラファイト粒子を一緒に機械的に保持し、部品中の荷重を伝達するのに役立つ。ポリマーマトリックスは、例えば、エポキシ樹脂を含有してもよい。したがって、グラファイト粒子は、充填剤として作用し、ポリマーマトリックスは、一種のバインダーとして作用する。グラファイト粒子およびポリマーに加えて、材料混合物はまた、例えばカーボンブラック、さらなるバインダーなどの形態のさらなる成分を含有してもよい。
【0025】
有利には、グラファイト含有材料は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、またはさらには少なくとも80%のグラファイト含有量を有し得る。パーセンテージは、ここでは体積に基づくことができる。高いグラファイト含有量のために、材料は、特にバイポーラプレートの形成に使用する場合に有利であるように、とりわけ非常に良好な導電性を提供し得る。
【0026】
グラファイト含有材料中のポリマー含有量、すなわちポリマーマトリックスの含有量は、好ましくは少なくとも20体積%、好ましくは20~40体積%の範囲、より好ましくは25~35体積%の範囲にある。換言すれば、グラファイト含有材料は、レーザによるその処理中に、かなりの割合のポリマーを含有し、ポリマーは、グラファイト粒子のバインダーとして機能し得、かつ/またはバイポーラプレートの機械的安定性および/もしくは気密性に必要とされ得る。言い換えれば、グラファイト含有材料は、レーザで処理する前に炭化も焼成もしないことが好ましい。グラファイト含有材料の構成要素の炭化または焼成は、ほとんどの場合、問題の構成要素にかなりの収縮および/または機械的応力をもたらし、その結果、反り、寸法公差および/または破損が生じる場合がある。したがって、大型部品、特に大面積のバイポーラプレートは、多くの場合、炭化または焼成されたグラファイト含有材料を使用して製造することができない。しかしながら、本明細書に記載の方法では、炭化または焼成が省略されることが好ましく、それによって大型および/または非常に薄いバイポーラプレート(例えば、300mmを超えるもしくは400mmを超える長さ、100mmを超えるもしくは130mmを超える幅、および/または0.3mm~2mm、例えば0.6mm±0.2mmの厚さを有する)の作製が可能になる。レーザによる処理は、好ましくは、グラファイト含有材料に含有されるポリマーバインダーが、それによって導入される高エネルギー入力によって損傷されないか過度に損傷されないが、バイポーラプレートの表面からのみ除去されるように実施される。
【0027】
グラファイト含有材料の例および可能な特性は、とりわけ、本出願人の先の特許出願PCT/EP2020/078489に記載されている。本明細書に記載の方法の実施形態では、そこに記載のグラファイト含有材料を加工し、その表面上を親水性にし得る。先の出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0028】
通常、純粋なグラファイトは、いかなる極性基も有さないため、グラファイトの表面は、一般に疎水特性を有することが知られている。
【0029】
これまで、グラファイト含有材料の表面は、レーザによって加工され得るが、多くの場合、それらの疎水特性は、少なくとも低減されず、むしろそれによって増加すると想定されてきた。特に、表面がレーザで処理されるときに典型的に形成されるような微視的な表面テクスチャは、そのような微視的な表面構造が、典型的にはロータス効果のために水による湿潤を阻害するため、処理された表面がよりさらに顕著な疎水特性を発現するという結果をもたらすことが想定または観察されている。
【0030】
欧州特許出願公開第2615675号明細書には、グラファイト粉末、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および他の成分の組み合わせを含む燃料セルセパレータが、とりわけその表面の親水特性に影響を及ぼすために、高出力レーザで処理されることが記載されている。しかしながら、使用されるレーザの出力およびパルス持続時間に関する詳細のみが欧州特許出願公開第2615675号明細書に記載されている。とりわけ、さもなければ基材の反りが発生し得ることが懸念されるため、例えば30ns未満の短すぎるパルス持続時間が回避されるべきであることが示されている。レーザパルスビームのパルス繰り返し周波数および/または断面積の詳細は、欧州特許出願公開第2615675号明細書には示されていないため、パルスレーザによってもたらされる出力密度に関する情報は、その刊行物から導き出すことができない。
【0031】
そのような予想または以前の観察とは対照的に、驚くべきことに、本明細書に記載の本発明の発明者らによって、グラファイト含有材料の表面は、特定の要件を満たすパルスレーザの照射後に、そのような照射前よりも実際に親水性が高いことが観察されている。言い換えれば、このように処理された表面と水が形成する接触角は、照射前よりも小さい。ここで、パルスレーザが限界値を超える出力密度で表面を照射することが親水性を改善するために重要であると考えられることが認識されている。0.5MW/mm2は、そのような限界値として想定される。処理された表面の非常に良好な親水性は、例えば、少なくとも1MW/mm2、特に少なくとも1.5MW/mm2の出力密度を有するパルスレーザビームの照射で観察されている。短パルスレーザは、非常に短いパルス持続時間の間、ここでは、非常に高い光パワーで短時間の間に1mm2を大幅に下回る一般的に非常に小さい領域を照明する。
【0032】
高出力密度での照射の結果として親水性が改善されたという驚くべき観察結果を理解するための試みがなされてきた。以下に概説するモデルを開発し、レーザ照射によって引き起こされた効果について想定した。しかしながら、観察の基礎となる微視的な、すなわち特に原子または分子の相互作用は、まだ完全には理解されていないことを明示的に留意すべきである。したがって、以下のモデルおよび想定の記載は、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0033】
グラファイト含有材料に非常に高い出力密度で照射すると、グラファイトに不完全性、特に欠陥の発生をもたらすことが想定される。結晶格子におけるそのような不完全性は、それ自体で、材料の表面における親水特性に既に影響を及ぼす可能性がある。加えて、ヒドロキシル基は、その後、そのような不完全性に結合可能であると想定される。これらのヒドロキシル基は、それらの極性のために、おそらく材料表面の親水特性を著しく増加させ得る。酸素のカップリングも同様の効果を生じ得る。
【0034】
特に、パルスレーザが少なくとも0.1J/mm2、好ましくは少なくとも0.2J/mm2またはさらには少なくとも0.3J/mm2の単位面積当たりのパルスエネルギーを有するパルスで表面を照射する場合、処理された表面の親水特性が増加し得ると想定される。
【0035】
言い換えれば、グラファイト含有材料の表面を処理するために使用されるパルスレーザは、少なくとも0.1J/mm2の下限値を超えるパルスエネルギーが得られるように、個々の各光パルスが比較的大量のエネルギーを小さな面積に放射する光パルスを放出すべきである。放射パルスエネルギーは、照射領域内で局所的に変動してもよく、上述の限界値は、平均値であってもよい。単一の光パルスは、例えば、1mJを超えるエネルギーを有し得る。光パルスが照射される領域は、略円形もしくは矩形または別の形状であってもよく、例えば、直径または横寸法が0.1mm以下を有してもよい。
【0036】
出力密度に加えて、レーザによって放出される光パルスの単位面積当たりのパルスエネルギーも親水特性の発現にかなりの影響を及ぼすと考えられ、好ましくは両方のパラメータが特定の限界値を超えるべきである。
【0037】
上記に提示されたモデルの範囲内で、単位面積当たりのパルスエネルギーが増加するにつれて、レーザビームでの照射によって発生され得るような不完全性の密度が増加し得ることが想定され得る。
【0038】
しかしながら、親水特性の発現中、パルスレーザで照射される表面は、1J/mm2未満、好ましくは0.8J/mm2未満、またはさらには0.7J/mm2未満の単位面積当たりのパルスエネルギーを有するパルスで照射されるべきであるとさらに想定される。
【0039】
言い換えれば、グラファイト含有材料の表面を処理するために使用されるパルスレーザは、光パルスを放出すべきであり、そのエネルギー量は、照射面積に基づいて、1J/mm2の上限値を超えてはならない。
【0040】
そのような限界値を超える単位面積当たりのパルスエネルギーの場合、悪影響を与える熱的影響が発生し得ることが想定される。換言すれば、照射面積当たりのパルスエネルギーが非常に高いレーザパルスの場合、グラファイト含有材料が短時間に局所的に非常に大幅に加熱され、それによって材料への熱損傷が生じ得るという結果になる場合が想定される。
【0041】
パルスレーザが、1μs未満、好ましくは100ns未満またはさらには20ns未満または10ns未満のパルス持続時間を有するパルスで親水性にされる表面を照射する場合に有利であると想定される。
【0042】
言い換えれば、親水性にされる表面を照射するためにナノ秒の短パルスレーザを使用することが有利であると考えられる。ここでは、一方では所望の親水特性を形成し、他方ではレーザ放射による悪影響を回避するために、所望の高出力密度を放射する必要があり、非常に短い時間のみ放射する必要があると想定する。
【0043】
特に、一方では、非常に短い時間の極めて集中的な照明であっても不純物が発生され得ることが上記に提示されたモデルの範囲内で想定される。一方、過度に長い照明では、材料の過度に顕著な局所加熱、およびそれに関連する負の熱効果が発生し得ることが想定される。特に、パルス持続時間が20nsを超えるか、またはパルス持続時間が50nsを超えると、選定されたパルスエネルギー、レーザスポットのサイズ、パルス周波数および/または走査速度に応じて、レーザ加工表面に破壊表面および/または電気接触抵抗の増加が発生し得ることが観察されている。
【0044】
好ましくは、1nsを超える、好ましくは5nsを超えるパルス持続時間を有するパルスで表面を照明することが望ましい。親水特性は、さらにより短いパルス持続時間での照射でも改善され得ることが観察されているが、特殊な超短パルスレーザは、一般に、ピコ秒またはさらにはフェムト秒の領域でそのようなさらにより短いパルス持続時間を発生するために必要であり、そのようなレーザは、高価および/またはメンテナンス集約的であり得る。
【0045】
十分に強力なナノ秒レーザのレーザビームパルスで親水性にされる表面を照射することは、本明細書で提案される方法の範囲内で十分であると想定される。そのようなナノ秒レーザは、比較的安価に入手可能であり、かつ/または低メンテナンスで動作し得る。例えば、大規模用途向けに設計され、高い出力密度を有する短いレーザパルスを発生し得るナノ秒ファイバーレーザを使用することが可能である。
【0046】
好ましくは、パルスレーザは、100kHz未満、好ましくは50kHz未満、またはさらには30kHz未満のパルス周波数で親水性にされる表面を照射し得る。
【0047】
パルス周波数は、レーザパルスが周期的に繰り返される周波数であると理解される。パルス周波数が上限未満のままである場合、実施される方法にプラスの効果を有することが想定される。加工される表面は、表面に沿って走査することによって非常に高いパルス周波数で特に迅速に走査され得るが、非常に高い出力密度で照射されると、材料が照射された表面から表面的に剥離し、一種のダスト雲を形成する場合があると想定される。非常に高いパルス周波数では、すなわち、時間に関して非常に密接に互いに続くパルスの場合、このダスト雲は、放射された光の部分的な吸収をもたらし、したがってレーザパルスの有効性を低下させる可能性がある。
【0048】
パルスレーザは、好ましくは800nm~1500nm、好ましくは1000nm~1200nmの範囲の波長で親水性にされる表面を照射してもよい。
【0049】
一方で、そのような波長、すなわち近赤外範囲の放射レーザビームは、典型的には、グラファイト含有材料によって容易に吸収され得、特に好ましくは表面近くで吸収され得る。一方、赤外線レーザは、一般に安価に入手可能であり、使用が簡単である。
【0050】
さらなる対策として、親水性にされる表面は、照射中に反応性ガス雰囲気に露出させてもよい。
【0051】
反応性ガス雰囲気は、レーザによって照射された表面上のヒドロキシル基または他の極性化学組成物の形成を促進し得る。反応性ガス雰囲気は、例えば、ラジカル、特に窒素ラジカルおよび/または酸素ラジカルを含み得る。反応性ガス雰囲気は、周囲圧力、すなわち典型的には1013±50hPaの圧力を有し得る。あるいは、ガス雰囲気は、減圧または高圧を有し得る。加えて、ガス雰囲気は、周囲温度、すなわち典型的には25±15℃の温度であり得る。あるいは、ガス雰囲気は、より低い温度またはより高い温度を有し得る。
【0052】
好ましくは、材料表面をより親水性にするために使用されるパルスレーザはまた、グラファイト含有材料から、グラファイト含有材料以外の材料からなる表在ポリマー層および/または表面層を除去するためにさらに使用される。
【0053】
既に上述したように、導電性の高いグラファイト粉末がポリマー材料のマトリックスに埋め込まれた材料は、特にバイポーラプレートを形成するために使用され得る。典型的には、バイポーラプレートがそのような材料から製造されると、表面上に表面スキンと同様の薄いポリマー層が形成される。加えて、または代替的には、グラファイト含有材料以外の材料からなる表面層は、グラファイト含有材料の表面上に形成されてもよい。そのような表面層は、例えば、添加剤または外部離型剤を含有するか、またはそれらからなり得る。ポリマー層または表面層は、例えば、グラファイト含有材料の表面と、例えば電解質または反応パートナー流体などの隣接する材料との間の接触抵抗を増加させることによって、不利な電気的特性をもたらす場合がある。そのような層の下に圧縮グラファイトを露出させ、したがってとりわけ、例えば電解質などの隣接する材料に対する電気接触抵抗を低減するために、この表在ポリマー層および/または表面層は、一般に、少なくともいくつかの領域で除去されなければならない。有利には、本明細書に記載されるように、より親水性の表面特性をもたらすためにも使用されるのと同じレーザがこの目的のために使用され得ることが認識されている。
【0054】
特に、ポリマー層および/または表面層の除去は、親水性表面の形成と同じレーザパラメータで実施し得ることが観察されている。
【0055】
言い換えれば、より親水性の表面特性をもたらすためにも使用され得るのと同じレーザおよび同じレーザパラメータを使用して、基材上の表在ポリマー層を除去し得ることが認識されている。したがって、好ましくは単一の接合プロセスステップにおいて、表在ポリマー層および/または不利な表面層を基材から除去すること、ならびにグラファイト含有材料の下にある部分を、より親水特性を発現するように改質することの両方が可能である。
【0056】
要約すると、本明細書に提示される方法によって、グラファイト含有材料を使用して生成された構造要素の表面は、いくつかの領域またはその表面全体にわたって親水特性にされ得、かつ/または同時に、器具に関して比較的低支出で不利な表在ポリマー層または表面層を除去し得る。この目標のためには、この目的のために、特に提供されるべき最小出力密度に関して特定の条件を満たさなければならないが、それにもかかわらず安価に工業的に試験された様式で提供され得るパルスレーザが有利に使用され得る。特に、この目的のために、例えばグラファイト含有材料の加工またはバイポーラプレートの製造において、他の目的、例えばグラファイト含有材料から表在ポリマー層を除去するためにも使用され得るパルスレーザが使用され得る。理想的には、表面の十分な親水特性は、ここでは、高出力パルスレーザによる記載された照射によって実質的にまたは単独でもたらされ得る。言い換えれば、追加の手段は、好ましくは省略され得る。例えば、親水性にされる表面の粗面化などの先行する加工ステップは、不要であり得る。さらに、例えば、さらなる粗面化、コーティング、酸化、プラズマ処理またはコロナ処理などの後続の処理ステップが不要であり得る。
【0057】
本明細書に提示される方法の実施形態は、とりわけ、バイポーラプレートの少なくとも部分領域に親水性表面を提供するために、バイポーラプレートの製造に有利に使用され得る。板状基材は、ここでは、全体がグラファイト含有材料からなっていてもよく、または少なくともその表面のうちの1つの上にグラファイト含有材料を有していてもよい。次いで、この材料の露出面は、親水特性を有するようにレーザパルスでの照射によって記載の方法で改質されてもよい。このようにして製造されたバイポーラプレートは、エネルギー貯蔵装置として機能する燃料セルまたはフロー電池に有利に使用され得る。
【0058】
本発明の実施形態の可能な特徴および利点は、本明細書において、部分的にはグラファイト含有材料上に親水性表面を形成するための方法に関連して、部分的にはバイポーラプレートを製造するための方法に関連して、ならびに方法に従って製造されたバイポーラプレートおよびそれを装備したエネルギー貯蔵装置に関連して、説明されることに留意されたい。当業者であれば、個々の実施形態について記載された特徴は、類似の様式で他の実施形態に適切に移行されてもよく、本発明のさらなる実施形態および場合によっては相乗効果に到達するように適合および/または交換されてもよいことを認識するであろう。
【0059】
本発明の有利な実施形態は、添付の図面を参照して以下でさらに説明され、図面も説明も決して本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】本発明の実施形態による方法中のバイポーラプレートを示す図である。
【
図2】本発明の実施形態による燃料セルを有するエネルギー貯蔵装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図面は、単に概略的なものであり、縮尺通りではない。様々な図面における同一の参照番号は、同一の特徴または同じ効果を有する特徴を示す。
【0062】
図1は、表面3を親水性にするために本発明による方法によって処理されている間のバイポーラプレート1を非常に簡略化して示す。
【0063】
ここでのバイポーラプレート1は、板状基材5を有する。少なくとも露出面3に隣接して、基材5は、グラファイト含有材料7からなる。グラファイト含有材料7は、グラファイト粒子を含有する。グラファイト粒子は、典型的には、ポリマー材料のマトリックスによって一緒に保持される。一方の表面上に、基材5は、例えば基材5の生成中に形成されていてもよい表在ポリマー層(明確にするために図には示されていない)を有してもよい。バイポーラプレート1は、従来のバイポーラプレートと同じまたは同様の方法で構造的および/または機能的に設計され得る。
【0064】
露出面3の少なくとも部分領域9を親水性にするために、これらの部分領域9は、パルスレーザ11によって照射される。パルスレーザ11は、例えば、ナノ秒ファイバーレーザ13であってもよい。パルスレーザ11は、基材5の表面3上の露出領域17上にパルスレーザビーム15を導き得る。レーザビーム15および露出領域17は、親水性にされる部分領域9を照明するために、表面3に沿って徐々に変位されてもよい。部分領域9は、例えば、細長い形態であってもよく、例えば、燃料セルまたはフロー電池の動作中に水がバイポーラプレート1の表面に沿って案内されるチャネル構造の基部を形成してもよい。
【0065】
レーザビーム15は、0.5MW/mm2以上の出力密度で露出領域17に当たる。個々の各パルスは、好ましくは、0.1J/mm2を超えるが1J/mm2未満の単位面積当たりのパルスエネルギーを有する。パルスは、例えば、5ns~20nsのパルス持続時間を有してもよい。パルスは、例えば、20kHz~40kHzのパルス周波数で繰り返されてもよい。レーザビーム15は、例えば1064nmの波長で放出され得る。照射中、基材5は、反応性ガス雰囲気に露出されてもよい。同じ作業ステップにおいて、または任意選択的に、別個の作業ステップにおいて、レーザ11はまた、基材5から表在ポリマー層を除去するために使用されてもよい。レーザ11は、ここでは、好ましくは、親水性表面特性の向上を達成するために使用されるのと同じレーザパラメータで動作され得る。
【0066】
バイポーラプレート1は、例えば、
図2に模式的に示すように、燃料セル19に使用されてもよい。ここで、エネルギー貯蔵装置25として機能する燃料セルシステム23のセルスタック21中の隣接する燃料セル19は、互いに分離され、互いに電気的に接続され、バイポーラプレート1によって燃料が供給されてもよい。
【0067】
本明細書に記載された本発明の実施形態の背景ならびに可能な構成および/または利点は、場合によっては異なる表現で以下に再び記載され、この記載は、単にさらなる説明を提供するものとして解釈されるべきであり、決して限定するものではない。
【0068】
本発明は、とりわけ、フロー電池、燃料セルなどのためのバイポーラプレートを生成するための方法、およびその方法によって生成されたバイポーラプレートに関する。本発明はさらに、本発明によるバイポーラプレートを有する燃料セル、特に燃料セル束(スタック)、またはフロー電池、特にレドックスフロー電池に関する。本発明はさらに、バイポーラプレートの生成におけるレーザ、特に超短パルスレーザの使用に関する。
【0069】
本発明の目的:
グラファイト材料、特に燃料セルに使用するためのグラファイト充填ポリマーのバイポーラプレート上に親水性表面を生成するための方法。燃料セルの性能および信頼性は、セル中の水管理に大きく依存する。アノード側、すなわち燃料ガス側では、電極およびメンブレンの均一な湿潤が確保されなければならないが、カソード側、すなわち酸素側では、余分な水がさもなければ電極中の細孔系およびバイポーラプレート中の空気チャネルを遮断し得るので、反応で生成される水を効果的に除去しなければならない。
【0070】
典型的には、これは、親水性表面を有するバイポーラプレートを必要とする。非常に良好な湿潤特性は、水がもはや液滴の形態では存在せず、表面膜を形成し、次いでガス流で容易に除去され得るという結果をもたらす。
【0071】
グラファイト充填ポリマーの表面は、ほとんどの場合、水による湿潤のみが不十分であり、接触角は、典型的には>60°である。この理由は、グラファイト状充填剤の疎水特性だけでなく、ポリマーバインダーおよび表面上に蓄積し得る離型剤の疎水特性の組み合わせである。
【0072】
より良い電気接触のために、機能面からポリマーリッチな表面スキンおよび剥離剤リッチな表面スキンを除去することが必要な場合がある。一般的な方法は、とりわけ、研磨ブラシ、微細ブラスト、研削、および特に赤外線レーザによる洗浄でもある。これらの方法のほとんどは、表面のわずかな粗面化をもたらす。グラファイトの疎水特性を考慮すると、これは、接触角が>90°の超疎水性表面(ロータス効果)をもたらすことさえあり得、そこから水滴が非常に容易に転がり落ちる。
【0073】
表面をコーティングまたは修飾するための方法は、文献から公知である。全体的な目的は、十分な数の極性官能基を生成することであり、これは良好な湿潤特性の要件である。
【0074】
-コーティング材料として極性ポリマー(例えば、フェノール樹脂、架橋ポリビニルアルコール)が使用され得、これに微細に分割された極性充填剤(例えば、発熱性シリカ、酸化カーボンブラック)も添加され得る。
【0075】
-コーティングと表面改質との間の境界領域では、シロキサン含有プラズマによる処理があり、これは発熱性シリカの非常に薄い層の堆積をもたらす。
【0076】
-しかしながら、主な目的は、グラファイト表面の直接酸化であり、様々な方法が使用される:
-強酸化性酸または過酸化水素による湿式化学酸化
-フッ素または三酸化硫黄による気相中での乾式酸化
-大気圧プラズマ処理
-低圧プラズマ処理
-コロナ処理。
【0077】
先行する公知の解決策の欠点:
-ポリマーバインダーによるコーティングは、グラファイト状充填を再び部分的に覆い、したがって電気接触抵抗を増加させ得る。さらに、特に充填剤を含有する系の場合、微細なチャネル構造の均一なコーティングは、非常に困難である。したがって、やはり均一なフローおよび均質な材料交換に必要な要件である、チャネル形状の非常に狭い公差の維持は、もはや不可能である。
【0078】
-バインダー含有量が低いコーティングの場合、燃料セルの長期動作でも維持される十分な層接着性を確保することができない。これは、プラズマ処理による発熱性シリカのバインダーを含まない堆積の場合によりいっそう当てはまる。
【0079】
-気相中のフッ素または三酸化硫黄による酸化は、恒久的に親水性の表面改質をもたらし得るが、ガスの毒性のために、処理は、密閉システムでのみ実施され得、これは大規模製造にとって重大な欠点である。さらに、部分表面の処理は、不可能であるか、またはプレートの非常に複雑なマスキングでのみ可能である。
【0080】
-一方では、特に常圧でのプラズマ処理、および技術的に関連するコロナ法は、製造プロセスに非常に容易に組み込むことができ、短期間では接触角が<15°の容易に湿潤可能な表面ももたらす。しかしながら、この状態は、数時間または数日間しか持続しないことが示されている。長い休止期間の後、約25~50°の範囲の中程度の湿潤性および接触角を有するほぼ定常状態が確立される。
【0081】
本発明の目的:
目標は、大規模での使用に適した効率的な製造方法を使用することにより、水滴の接触角が<25°の恒久的に親水性の表面である。
【0082】
解決策:
驚くべきことに、恒久的に親水性の表面が、ポリマーリッチ表面スキンを除去するためにも使用され得るレーザ処理によって生成され得ることが示されている。レーザ処理が疎水特性を増加させる傾向があるという以前の想定とは対照的に、十分に高いパルスエネルギーでの処理は、ポリマースキンの除去をもたらすだけでなく、グラファイト表面の構造変化ももたらす。短い集中的なレーザは、表面に近いグラファイト粒子の層面に明らかに欠陥を誘発し、極端な場合には、グラファイト結晶の広範な破壊をもたらす。次いで、欠陥は、良好な湿潤挙動の要件である酸素およびヒドロキシル基で自然に飽和状態になる。
【0083】
この効果は、約15psのパルス持続時間および約0.4mJのパルスエネルギーを有する超短パルスレーザを使用して最初に実証することができる。しかしながら、出力が制限され、コストが比較的高いため、バイポーラプレートの大規模製造の場合、超短パルスレーザの使用は、ほとんど除外される。しかしながら、驚くべきことに、それぞれ約30MWおよび5kWの個々のパルス出力が3桁を超える大きさだけ異なるとしても、パルスエネルギーが同等のレベルにある場合、パルスナノ秒ファイバーレーザを使用して同等の表面特性が確立され得ることが示された。単位面積当たりのパルスエネルギーは、明らかに臨界値を超えるはずである。記載された場合、その値は、約0.3~0.7J/mm2であった;下限はまだ正確に決定されていない。ナノ秒ファイバーレーザは、異なる出力クラスの最新技術であり、大規模使用のために容易にスケーリングされ得る。
【0084】
恒久的に親水性の特性は、低いグラファイト化度を有する充填剤と、より低いパルスエネルギーでのレーザ処理後のプラズマまたはコロナ処理との組み合わせによっても可能であろう。充填剤は、酸化処理において極性表面基を形成するのに必要な十分な数の欠陥を既に有している。しかしながら、結果として、材料全体はまた、低い導電性および熱伝導率を有し、追加の製造ステップが再び必要とされる。
【0085】
最後に、「有する」、「含む」などの用語は、いかなる他の要素またはステップも排除するものではなく、「1」という用語は、複数を排除するものではないことに留意されたい。上記の例示的な実施形態のうちの1つを参照して記載された特徴またはステップはまた、上記の他の例示的な実施形態の他の特徴またはステップと組み合わせて使用されてもよいことがさらに指摘されるべきである。特許請求の範囲における参照番号は、限定と見なされるべきではない。
【符号の説明】
【0086】
1 バイポーラプレート
3 親水性にされる表面
5 基材
7 グラファイト含有材料
9 部分領域
11 パルスレーザ
13 ナノ秒ファイバーレーザ
15 レーザビーム
17 露出領域
19 燃料セル
21 セルスタック
23 燃料セルシステム
25 エネルギー貯蔵装置
【国際調査報告】