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特表2024-509573ポリマーの架橋及び接着に使用されるアリールエーテルジアジリン類
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  • 特表-ポリマーの架橋及び接着に使用されるアリールエーテルジアジリン類 図1
  • 特表-ポリマーの架橋及び接着に使用されるアリールエーテルジアジリン類 図2
  • 特表-ポリマーの架橋及び接着に使用されるアリールエーテルジアジリン類 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ポリマーの架橋及び接着に使用されるアリールエーテルジアジリン類
(51)【国際特許分類】
   C07D 229/02 20060101AFI20240226BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20240226BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C07D229/02
C08F8/00
C07F7/18 U CSP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555145
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 CA2022050293
(87)【国際公開番号】W WO2022187932
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/158,578
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523340443
【氏名又は名称】エクスリンクス マテリアルズ インク
【氏名又は名称原語表記】XLYNX MATERIALS INC.
【住所又は居所原語表記】10217 Surfside Place, Sidney, British Columbia V8L 3R6 CANADA
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ベラング ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ムソリーノ ステフェニア
(72)【発明者】
【氏名】ナジル ラシド
(72)【発明者】
【氏名】ビ リティン
【テーマコード(参考)】
4H049
4J100
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ02
4H049VQ10
4H049VQ19
4H049VQ20
4H049VQ59
4H049VR22
4H049VR42
4H049VS02
4H049VS12
4H049VU17
4H049VV03
4H049VW01
4H049VW02
4J100AA02P
4J100AA03P
4J100BA02H
4J100BB12H
4J100BB18H
4J100BC43H
4J100CA01
4J100DA22
4J100HA53
4J100HC54
4J100HE17
4J100HG27
(57)【要約】
新規ジアジリン系分子群、並びにその製造及び使用方法が開示される。これらの化合物は、C-Hの挿入を介してポリオレフィンといった非官能性ポリマーを架橋させる。そのようなC-Hの挿過程入は、架橋剤をその場でドープし、活性化させることにより、例えば、表面エネルギーが低いフィルム若しくは材料の共有結合性接着、又は剛性3次元高分子構造の形成に有用である。開示される架橋剤は、熱的に、UV照射によって、又は電位によって活性化され得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】
で表される化合物であって、
式中、Aは、-X-L-Y-であり、
及びRは、独立して、アルキル及びシクロアルキルからなる群から選択され、
Ar及びArは、独立して、オルト-、メタ-、及びパラ-フェニレンからなる群から選択され、
X及びYは、独立して、O及びSからなる群から選択され、
Lは、炭素原子を2~20個有する飽和脂肪族鎖及び飽和エーテルからなる群から選択される、直鎖又は分岐鎖の2価の連結基であり、Lは、任意選択で、鎖中に化学的又は酵素的に開裂可能な構造単位、例えばエステル、シリルエーテル、ペプチド等を含んでよい、化合物。
【請求項2】
Ar及びArは、各々パラ-フェニレンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
X及びYは、各々Oである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
及びRは、各々トリフルオロメチルである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
Lは、(CHである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
Lは、COSi(iPr)OCである、請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
Lは、COC(O)OCである、請求項4に記載の化合物。
【請求項8】
Lは、CO(CO)OCである、請求項4に記載の化合物。
【請求項9】
【化2】
で表される化合物を使用してポリマーを架橋する方法であって、
式中、Aは、O、S、及び-X-L-Y-からなる群から選択され、
及びRは、独立して、アルキル及びシクロアルキルからなる群から選択され、
Ar及びArは、独立して、オルト-、メタ-、及びパラ-フェニレンからなる群から選択され、
X及びYは、独立して、O及びSからなる群から選択され、
Lは、炭素原子を2~20個有する飽和脂肪族鎖及び飽和エーテルからなる群から選択される、直鎖又は分岐鎖の2価の連結基であり、Lは、任意選択で、鎖中に化学的又は酵素的に開裂可能な構造単位、例えばエステル、シリルエーテル、ペプチド等を含んでよい、方法。
【請求項10】
Aは、-X-L-Y-である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式Iで表される前記化合物は、R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、Lが(CHである化合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
式Iで表される前記化合物は、R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、LがCOSi(iPr)OCである化合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
式Iで表される前記化合物は、R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、LがCOC(O)OCである化合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
式Iで表される前記化合物は、R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、LがCO(CO)OCである化合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
式Iで表される前記化合物は、R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、AがOである化合物である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
架橋工程は、熱的、光化学的、又は電界の印加を通して達成される、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマーは、非官能性ポリマーである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記非官能性ポリマーは、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記非官能性ポリマーは、ポリエチレンである、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、特に非官能性ポリマーの架橋及び接着に関する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの架橋は、機械的強度及び熱安定性を増大させ、高温における材料のクリープを低減し、放電に対する耐性を付与し、且つ溶媒及び応力亀裂に対する安定性を向上させる。中程度の架橋は、悪影響となる脆性化を引き起こすことなく、多くの材料で許容されることが知られ、架橋ポリマーは、建設機器から医療装置に至るあらゆるものに既に広く使用されている。しかし、鎖間架橋を形成するためには、一般的に、ポリマー構造中に官能基が予め存在する必要がある。
【0003】
そのような官能性がない場合、水素原子を取り去るための高エネルギー工程(例えば、ガンマ線照射又はフリーラジカルの導入)を利用する必要がある。そのような工程は、費用がかかり、調節が不可能であり(調節が可能とは、体系的に架橋剤の特性及び濃度を変更することによって、又は架橋条件を変更することによって最終物質の特性を論理的に変更できる性能である)、且つ鎖断片化過程と競合するために多くの産業的に重要なポリマー(例えば、ポリプロピレン)に応用することができない。
【0004】
高分子材料への架橋の付加は、最終製品に幾つかの重要な利点をもたらす。耐衝撃性及び引張強度が増大し、材料のクリープが大幅に低減される。熱可塑性材料を熱硬化性に根本的に変更することで、高温性能が大きく向上し、低温における望まれない収縮が低減される。化学架橋の性質及び密度に依存し、そのような材料は、形状記憶を獲得することが多く、これは、熱を加えることによって変形した物体が元の形状に戻ることを意味する。これらの種の機械的特性は、多くの商業的に重要な製品に必要とされる。
【0005】
架橋材料は、溶媒及び放電、並びに生物学的及び化学的分解に対し、より高い耐性を有する。このことは、化学的、生物学的、又は電気的に促進される腐食から保護される必要がある用途において有利である。例えば、架橋ポリエチレン(「PEX」)は、電線用、及び腐食性液体の輸送に使用されるパイプ用の絶縁材として、医療装置に広く使用される。
【0006】
架橋における潜在的な欠点の1つは、脆性の増大である。ポリマー鎖は、もはや互いを超えて自由にずれることができないため、強い衝撃を加えると材料の壊滅的な破砕がもたらされる可能性がある。しかし、架橋密度が適切に制御されていれば、脆性を回避することができることが当分野で知られる。例えば、架橋ポリエチレンチューブの架橋密度は、通常65~89%であるが、より高い可撓性を必要とする応用例の架橋密度はより低いものである。
【0007】
様々な方法で架橋構造をポリマー中に形成することができる。特定の割合で架橋構造を形成する一般的な方法は、最初にコポリマーを合成する工程を含み、ここでモノマー構成要素の1つが架橋性部を導入する。そのような方法は、官能化モノマー成分が比較的高価であるか、又は合成困難である場合が多いため、産業的に好ましくない。更に、高度に官能化されたコポリマーにおいては、工業用途で必要とされる高い強度又は耐薬品性が欠如している場合が多い。
【0008】
架橋を達成する別の方法は、2つの官能基(1つは最初の重合に関与し、もう1つは続く架橋反応に関与する)を有するモノマーを使用する。例えば、工業的に重要な熱硬化性材料であるポリジシクロペンタジエンにおいて、モノマー中の1つのアルカンは、最初の重合反応に関与し、2つ目のアルカンは、主に架橋に関与する。
【0009】
残念なことに、上記の方法は何れも、所望の性質(機械的強度、製造の容易さ、低コスト、耐久性等)を有する既存のポリマー材料を架橋する必要がある場合に適切であるが、既存のポリマー材料は、その化学構造中に官能性を有さない(「非官能性ポリマー」)。これには、非常に重要な工業材料が含まれる。例えば、ポリエチレン(世界的な年間製造量:約8千万トン)及びポリプロピレン(約5千5百万トン)は、間違いなく地球上で最も重要な石油化学由来ポリマーであるが、化学架橋に適さない。同様に、ポリ乳酸のようなバイオマス由来ポリマー、及びポリカプロラクトンのような重要な生分解性ポリマーは、その直鎖にある程度の官能性を含有するものの、架橋性官能基を有さない場合が多い。
【0010】
非官能性ポリマーを架橋する既存の方法は、多くの欠点を有する。例えば、架橋ポリエチレンは、過酸化物で開始されるラジカル架橋によって製造され得る。この方法において、過酸化物添加剤(例えば、過酸化ジクミル)は、押出法によってポリエチレンと物理的に混合される。結果として得られる過酸化物を含侵させたポリマーは、次いで、高温(通常200~250℃)で加熱され、ラジカルの形成が開始され、次いで水素原子が取り去られ、最終的に架橋がもたらされる。ラジカルに基づく先行技術の架橋方法に伴う重要な問題は、非常に強いC-H結合を切断する必要があることであり、その強度は、ポリエチレン中の2°C-Hに関しては約401kJ/molであり、ポリプロピレン中の3°C-Hに関しては約389kJ/molである。本来、そのようなアルキルラジカルといった高エネルギー種を生成させる必要があるということは、先行技術で知られる架橋法を用いて制御することは不可能に等しいことを意味する。更に、これらの強いC-H結合の開裂に続いて生成される炭素中心ラジカルは、反応性が高く、架橋と競合する速度でフラグメンテーション(β開裂)反応を起こし得る。その結果、ポリマー鎖が切断され、材料の強度が低下する。
【0011】
架橋ポリエチレンは、ガンマ線又は電子ビームの何れかによる処理によっても生成され得る。過酸化物による架橋法と同様に、これらの方法は、強いC-H結合が初期に開裂することによって進行するため、上記のような多くの欠点を有する。ガンマ線を用いて生成されるポリマーは、場合により、過酸化物によって開始される方法で生成されたポリマーよりも優れた機械的特性を有し得るが、この工程には相当な費用がかかるため、小規模な医療装置の製造にその使用が制限される。
【0012】
上記の方法(及びシラン化のような関連する工程)は、何れもβ開裂及び他の望まれない副反応を起こし得るラジカル中間体を生成させる。β開裂は可逆的であるため、ほとんど架橋ポリエチレン(特に高密度ポリエチレンにおいて)の制限とならない。ポリマー鎖は、互いに密接して保持されるため、ラジカルフラグメンテーションによる生成物は、単に再結合して元の二級ラジカル中間体を生じさせる。しかし、ポリプロピレンに関しては、これらの種の工程は、大きな問題となる。
【0013】
ラジカル架橋の第三の問題は、β開裂で生じる中間体が位置化学的に異なる様式で再結合することができ、最終的にポリマー構造の予期されない分岐の原因となることである。これは、結晶性が損なわれる原因となり得、少なくともこれを予期及び制御することは困難である。
【0014】
上記の架橋工程は、単に経験的手法によって架橋密度を制御する以上に、細かく調整することができない。架橋構造の長さ又は剛性を制御する策はなく(これは、高架橋密度において脆性を軽減するのに非常に有用であり得る)、既存のポリマーの官能性をそれらの方法によって向上させる可能性もない。
【0015】
実際、アイソタクチックなポリプロピレンが、ポリエチレンよりも高い機械特性を有する(より高い融点及びより良好な耐熱性は言うまでもない)ことを考えると、ポリプロピレンに使用できる良好な架橋方法が実質的に存在しないことは驚くべきことである。これは、ラジカルに基づく架橋に伴う著しい制限の証拠となるだけでなく、最終的な架橋ポリプロピレン製品の大きな市場が未開発であることを示唆する。
【0016】
ジアジリンを用いてポリマーを架橋する方法が当分野で知られる。例えば、Burgoon(米国特許出願第20160083352号及び米国特許出願第20180186747号)は、フィルムコーティングマイクロ電子又は光電子デバイス用のフォトイメージャブル組成物の製造における光架橋剤として有用なジアジリン群を開示する。
【0017】
一般的に、当分野で知られるジアジリン系架橋剤を適用する方法は、何れも、単純なC-C結合及びC-H結合以外に、既存の官能性をその化学構造中に有するポリマーを使用する。そのような官能性の存在は、架橋を容易にするか、又は(例えば、ポリエチレンオキシドといったポリエーテル材料の場合のように)C-H結合強度を弱める。そのような官能性ポリマーは、一般的に、電子機器用途(OLED等)を目的として使用される。
【0018】
WO/2020/215144は、ポリオレフィンといった非官能性ポリマーの架橋に有用な一連の新規ジイアジリン類を開示する。ここで開示される化合物は、当分野の方法の中でも利点を有する。これらの化合物は、C-H、O-H、及びN-Hの挿入を妨げる障害となりにくく、C-H、O-H、又はN-H結合を含有する原則的にあらゆるポリマーの架橋を制御可能にする。更に、そのような架橋剤は、架橋自体の化学構造を調節可能にする。
【0019】
更なる利点として、WO/2020/215144は、ジアジリン系架橋剤が接着剤として使用され得ることを教示する。2つのポリマー物品の間に多量の架橋剤を塗り(又は塗布し)、次いでジアジリン基を活性化させることで、当業者は、2つのポリマー表面間に新たな結合を形成することができる。そのようにして生じた新たな結合は、2つの物品間の強い接着力となる。
【0020】
本明細書に開示される化合物群が、当分野の化合物に対し予期せぬ効果を有することが見出された。具体的には、過去に研究された分子架橋剤と比較し、アリールエーテル連結が導入されたジアジリンは、未活性C-H結合を挿入させる反応において、はるかに有効であることがわかった。標準的なベンチマーク実験において、新規アリールエーテル分子は、WO/2020/215144の代表的な架橋剤と比較し10倍を超える向上を示した。更なる利点として、新規アリールエーテルジアジリンは、当分野で知られる化合物よりも実質的に低い温度で熱活性化され得、より長波長の光で活性化される可能性を有し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
下記式Iで表される化合物は、架橋剤及び接着剤として有用であり、非官能性ポリマーの架橋及び接着に特に有用である。
【0022】
【化1】
式中、Aは、O、S、及び-X-L-Y-からなる群から選択され、
及びRは、独立して、アルキル及びシクロアルキルからなる群から選択され、
Ar及びArは、独立して、オルト-、メタ-、及びパラ-フェニレンからなる群から選択され、
X及びYは、独立して、O及びSからなる群から選択され、
Lは、炭素原子を2~20個有する飽和脂肪族鎖及び飽和エーテルからなる群から選択される、直鎖又は分岐鎖の2価の連結基である。
Lは、鎖中に化学的又は酵素的に開裂可能な構造単位、例えばエステル、シリルエーテル、ペプチド等を含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、化合物6及び化合物12のDSC曲線である。
図2図2は、化合物6、化合物12、及び従来記載のビス-ジアジリン架橋剤に関するヨシダの相関性分析である。
図3】化合物6のUHMWPE生地への担持実験
【発明を実施するための形態】
【0024】
式Iで表される化合物が開示される。
【0025】
【化2】
式中、Aは、O、S、及び-X-L-Y-からなる群から選択され、
及びRは、独立して、アルキル及びシクロアルキルからなる群から選択され、
Ar及びArは、独立して、オルト-、メタ-、及びパラ-フェニレンからなる群から選択され、
X及びYは、独立して、O及びSからなる群から選択され、
Lは、炭素原子を2~20個有する飽和脂肪族鎖及び飽和エーテルからなる群から選択される、直鎖又は分岐鎖の2価の連結基である。
Lは、鎖中に化学的又は酵素的に開裂可能な構造単位、例えばエステル、シリルエーテル、ペプチド等を含んでよい。
【0026】
本明細書で使用されるアリールエーテルという用語は、酸素連結及び硫黄連結(すなわちチオエーテル)の両方を含む。
【0027】
本明細書で使用されるアルキルという用語は、炭素原子を1~6個有するアルキル基を意味し、直鎖アルキル基及び分岐アルキル基の両方を含む。そのような基の限定されない例として、メチル、エチル、及びイソプロピルが挙げられる。そのようなアルキル基は、ハロゲン化されてよい。ハロゲン化アルキル基の限定されない例として、フルオロメチル、ジフルオロメチル、及びトリフルオロメチルが挙げられる。Rは、好ましくはCF基である。
【0028】
本明細書で使用されるシクロアルキルという用語は、炭素原子を1~6個有するシクロアルキル基を意味し、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等を含む。そのようなシクロアルキル基は、ハロゲン化されてよい。そのような基の限定されない例として、シクロプロピル及びパーフルオロシクロプロピルが挙げられる。
【0029】
本明細書で使用される飽和脂肪族鎖という用語は、エチレン、トリメチレン、ヘキサメチレン等を含む。
【0030】
本明細書で使用される飽和エーテルという用語は、オリゴ(エチレングリコール)連結(すなわち、CHCH(OCHCH)、オリゴ(プロピレングリコール)連結(すなわち、CHCHCH(OCHCHCH)等を含む。CHCH(SCHCH)、CHCHCH(SCHCHCH等といったS類縁体も含まれる。
【0031】
Aが-X-L-Y-である、式Iで表される化合物が好ましい。
【0032】
及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、且つLが(CHである、式Iで表される化合物が好ましい。R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、且つLが(CH14である、式Iで表される化合物が2番目に好ましい。R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、且つLがCOCOCOCである、式Iで表される化合物が3番目に好ましい。R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがSであり、且つLが(CHである、式Iで表される化合物が4番目に好ましい。
【0033】
及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、且つLがCOSi(ROCである、式Iで表される化合物が5番目に好ましく、ここでRはメチル、エチル、イソプロピル、又はtert-ブチルである。R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、且つLがCOC(O)OCである、式Iで表される化合物が6番目に好ましい。R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、X及びYがOであり、且つLがCO(CO)OCである、式Iで表される化合物が7番目に好ましい。R及びRがCFであり、Ar及びArがパラ-フェニレンであり、AがOである、式Iで表される化合物が更に好ましい。
【0034】
式Iで表される特定の化合物は、比較的高いN:C比を有する。ジアジリンは、問題なく数十年間使用されているが、一部の単純なジアジリン化合物は、爆発の危険があることが知られる。好ましい化合物は、本明細書に記載される工程に使用するのに適する特徴を有する化合物である。そのような化合物は、実施例11に示されるDSCデータ、衝撃性試験、及びヨシダの相関性分析によって判断されるように非爆発性である。
【0035】
式Iで表される化合物は、本明細書に記載されるように、当分野で知られる方法を使用して調製され得る。例えば、式Iで表される化合物は、ジアジリン前駆体の酸化によって調製され得、ジアジリン前駆体は、対応するケトン又は他の適切な出発試薬から得られ得る。実施例1、2、4~6は、式Iで表される化合物を調製するための合成経路を表す。
【0036】
式Iで表される化合物は、架橋剤として有用であり、当分野の方法の中でも優れている。式Iで表される化合物は、C-H、O-H、及びN-Hの挿入を妨げる障害となりにくく、C-H、O-H、又はN-H結合を含有する原則的にあらゆるポリマーの架橋を制御可能にする。更に、そのような架橋剤は、架橋自体の化学構造を調節可能にする。
【0037】
本明細書に開示される発明の範囲を制限することを意図するものではないが、式Iで表される化合物は、窒素を失うことによって機能して反応性カルベンを形成し、反応性カルベンは、次いでポリマーに対しC-H、O-H、又はN-Hを挿入することができると考えられる。これにより、化学架橋がもたらされる。架橋過程は、例えば、目的のポリマー材料の強度を高め、融点を上昇させ、溶解性を低下させることができる。2本のポリマーの間に架橋剤層が適用される場合、その後の架橋過程によって接着がもたらされる。
【0038】
本明細書に開示される発明の範囲を制限することを意図するものではないが、式Iで表される化合物は、他の知られるジアジリンの活性化に伴って優先的に得られ得る三重項カルベンではなく、窒素の損失に伴い一重項カルベンを優先的に生じさせると考えられる。
【0039】
これらのC-H挿入工程は、ほとんど妨げられることがないため、β開裂又は他のフラグメンテーション反応を起こさずに化学架橋を進行させる。
【0040】
更に、架橋過程は、完全に非官能性であるポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)のみならず、官能性を有するものの架橋されにくい他の重要なポリマー(例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン)でも起こり得る。従来型の方法によって架橋することができるが(例えば、シリコーン)、現在の架橋技術では限界があるポリマーに対しても、式Iで表される化合物は利点を有する。
【0041】
式Iで表される化合物は、熱的に、光化学的に、電気的に、又は遷移金属を使用して活性化され得る。驚くべきことに、熱活性化は、多くの用途で最適であると思われる。例えば、(シクロヘキサンをモデル基質として使用する)非官能性材料の一端同士の(head-to-head)架橋実験においては、熱活性化が優れている。一方、ジアジリンを使用する先行技術の方法においては、光化学活性化が好ましい活性化方法である。
【0042】
光化学活性化に関し、360nm、更には390nmといった254nmを超える波長でジアジリンを活性化することができる。これは、大部分の工業ポリマーが光学的に透明な範囲内であり、バルク媒体への光の損失が最小限に抑えられることを意味する。同様に、これらの波長を利用することで、高エネルギーの254nmの光を用いる必要がある場合が多いラジカルに基づく過程と比較し、ポリマー基質の望まれない光分解が最小限に抑えられる。
【0043】
原則として、式Iで表される化合物は、C-H、又はO-H、又はN-H結合を有するあらゆる有機ポリマーの架橋に使用され得る。ポリエチレンを使用する実施例12における概念実証実験は、これを裏付ける。
【0044】
従って、本明細書に記載される架橋剤を局所的に適用するか、又はその場で添加し、活性化させることによって様々な高分子材料の化学構造を変性させることができる。そのような化学変性に伴い、例えば、ポリマーの引張強度が高まり、分子量が増大し、融点が上昇し、「剛性」が高まり、且つ/又はUV耐性が高まり、現場発泡剤として機能が発揮される。
【0045】
本明細書に記載される架橋剤の局所適用により、そのような材料の商業的利用を拡大させる重要なパラメータであるポリマーの表面エネルギーを高めることもできる。表面エネルギーが高いほど、接着強度が強くなる。
【0046】
選択されるポリマー基質として、例えばポリエチレン及びポリプロピレンといったC-H結合を有する低表面エネルギー材料が挙げられる。O-H又はN-H結合を有する材料も使用可能である。
【0047】
そのような高分子材料の形式として、例えば、既成物品、フィルム、粉体、シート、ベアファイバ、メッシュ、及びリボンが挙げられる。
【0048】
そのような形式の材料は、編まれた紐又はロープ、織物又は不織布、交互に直交する単方向性繊維層、編み布、積層フィルム、及びメッシュ又はウェブ状構造物といった形状に更に加工され得る。
【0049】
粉体状高分子材料を様々な形状に焼結させるか、又は圧縮させることもできる。
【0050】
織物若しくは不織布繊維、又は編まれた紐若しくはロープで構成される材料においては、架橋剤分子及び溶媒キャリアが、より高度にそのような加工材料へ浸透するよう真空又は高圧を利用して促進させることは、利点となり得る。
【0051】
本明細書に記載される架橋剤は、例えば圧力又は溶媒注入によって、ポリマー材料自体に導入され得、ここでそのような注入は、架橋剤をポリマー中に実質的に分散させる。
【0052】
そのような注入は、架橋剤を、ポリマーを融解させないか、又は架橋剤を活性化させない温度で、例えば、ペンタンといった(活性化前に除去することができる)揮発性有機溶媒中に溶解させることによって完了し得る。編まれた布、織物及び不織布繊維、ベアファイバ、又は繊維ストランドから構成される材料中への、より高度な架橋剤の浸透を達成させるために、任意選択で、真空を最初に印加することができる。
【0053】
代わりに、架橋剤は、溶媒キャリアを使用するか又は使用せずに圧力注入され得る。
【0054】
架橋剤の添加は、ポリマー溶解物又は押出成形物に架橋剤を直接添加することによっても達成され得る。本明細書に開示される架橋剤の様々な応用を以下に記載する。これらの応用は、包括的ではないが、開示される架橋剤の添加によって可能となる化学的改質の一部を表すことを意図する。
【0055】
応用1-ポリオレフィンフィルムの共有結合
ポリオレフィン及び他のポリマーフィルムの接着又は熱ラミネーションは、特に食品包装産業で広く市販される。これらの包装フィルム積層体は、様々な高引張強度二軸配向フィルムを含む。
【0056】
しかし、ポリオレフィンフィルム、特にPP(ポリプロピレン)フィルム及びBOPP(二軸配向ポリプロピレン)の接合には、剥離強度(すなわち、フィルム接合接着)に表面の前処理を要し、積層フィルム間の剥離強度が制限されるという問題がある。
【0057】
また、HDPE(高密度ポリエチレン)及びUHMWPE(超高分子量ポリエチレン)といったポリエチレンフィルムを強固に接着積層することは困難である。
【0058】
本明細書に開示される架橋剤は、標準的な工業的「糊」塗布過程を使用し、選択された被積層フィルム間に好適に適用され得、次いで熱的に活性化されて強固な共有結合を生じさせることができる。
【0059】
そのような共有結合で積層されたフィルムは、PE-PE(ポリエチレン-ポリエチレン)、PP-PP(ポリプロピレン-ポリプロピレン)、またはPE-PP(ポリエチレン-ポリプロピレン)から構成され得る。ここで、糊で接着された材料は、全て、ストレスを継続的に負荷した場合、時間が経つと最終的に分離するため、そのような共有結合は、特殊な接着剤を使用する「糊接着」型の先行技術よりも優れている。また、水分の注入は、ポリマーフィルムの積層を剥離させるよう作用し得るが、共有結合した界面は、そのような剥離過程の影響を受けない。
【0060】
応用2-架橋剤のポリオレフィンフィルムへの注入
ポリオレフィンフィルムは、食品包装を含む包装に世界的に使用される。
【0061】
引張強度、低表面エネルギー、引裂強度、ガス拡散、及びUV劣化は、これらのフィルムの使用を制限する重要なパラメータの一部である。
【0062】
そのようなパラメータは、本明細書に開示される架橋剤の少なくとも1つを材料そのものに導入することで変更され得る。
【0063】
応用3-ポリマー溶解物又は押出成形物への架橋剤の直接添加
本明細書に開示される架橋剤の1つ又は複数をポリマー溶解物又は押出成形物へ添加し、次いで押出過程中又は押し出し後に、熱、光化学、又は他の手段によって架橋を開始させることで最終ポリマー物品の材料特性を制御することができる。
【0064】
応用4-医療用インプラント用UHMWPEへの架橋剤の圧力又は溶媒注入
成形UHMWPE構造物は、現在、医療用インプラントにおける人工器官として使用される。そのような先行技術のインプラントは、材料の引張強度が向上するよう、ガンマ線照射を使用して改質される。そのような照射を使用する処理は高価であるため、普及が制限される。
【0065】
本明細書に記載される架橋剤の少なくとも1つを圧力又は溶媒注入し、続いて低温活性化(<110℃)することにより、そのようなUHMWPE人口器官を改質するための、便利で費用効率の高い方法がもたらされる。
【0066】
応用5-UHMWPE織物又は不織布及び関連材料への架橋剤の圧力又は溶媒注入
紐又はロープに編まれた繊維、及び織物、不織布又は編み物から構成されるそのようなUHMWPE構造物には、潜在的に多くの商業的用途がある。
【0067】
例えば、防弾服に有用な、100gsm(グラム毎平方メートル)のUHMWPE平織布は、活性化された際に布の実効引張強度を高めることができる本明細書に記載される架橋の少なくとも1つを圧力又は溶媒注入することによって改質され得る。この材料の引張強度の著しい強化は、材料の重さを著しく増大させることなく材料の防弾特性を高めるよう作用する。
【0068】
防弾用途以外に、架橋剤で改質されたそのような織物は、強度の高い帆、テント、タープ、凧、手提げ袋、バックパック等といった物品にも使用され得る。
【0069】
応用6-3D印刷
様々な熱可塑性ポリマーを使用する多様な物品の3D印刷は、急速に拡大しており、この洗練された技術が、広範に利用される。しかし、そのような印刷されたポリマー物品の物性は、印刷に使用されるポリマー固有の性質によって限定される。
【0070】
本明細書に開示される架橋剤の少なくとも1つを使用し、熱活性化、UV活性化、又は印加電界を利用する活性化によって印刷ポリマー物品の物性を改質することは、従来にない商業的可能性を使用者に提供する。
【0071】
応用7-自然発泡剤としての架橋剤
本明細書に開示される架橋剤は、活性化時に窒素ガスを放出するため、自然発泡剤として作用することができる。適切な粘度のポリマー組成物に組み込む場合、適切な量の架橋剤を活性化することにより、発泡パラメータ(膨張性、密度等)の制御が可能となる。
【0072】
応用8-架橋剤由来のポリマー及びコポリマー
本明細書に開示される架橋剤は、高分子材料を生じさせるポリマー基質の非存在下で活性化され得る。代わりに、ネットワークポリマーを形成するため、架橋剤は、適切な非高分子有機基質(例えば、アダマンタン、メシチレン、テトラメチルビフェニル、テトラキス(p-トリル)メタン等)と活性化前に組み合わされ得る。
実施例
【0073】
実施例1:可撓性脂肪族連結基を有する代表的アリールエーテル架橋剤の合成
工程1:フェノール性前駆体の適切な連結基へのカップリング
【0074】
【化3】
【0075】
マグネチックスターラーの撹拌子及び凝縮装置を備える1Lの丸底フラスコ内で、DMF(200mL)中の4-ブロモフェノール(14.8g、85.8mmol、2.2等量)及び炭酸カルシウム(21.5g、155.9mmol、4等量)の攪拌混合物に1,8-ジブロモオクタン(10.6g、38.9mmol、1等量)を添加した。混合物を60℃で2日間加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、EtOで希釈、次いで水で希釈した。水層をEtOで3回、EtOAcで1回抽出した。有機層を混ぜ合わせ、次いで塩水で洗浄し、NaSOで乾燥させ,真空中で凝縮させた。粗化合物1が白色固体(17.6g、38.6mmol、99%)として得られた。HNMR(300MHz,CDCl)δ7.36(d,J=9.0Hz,4H),6.77(d,J=8.9Hz,4H),3.91(t,J=6.5Hz,4H),1.77(dq,J=8.0,6.4Hz,4H),1.53-1.32(m,8H)
【0076】
工程2:トリフルオロメチルケトンの導入
【0077】
【化4】
【0078】
-78℃のアルゴン雰囲気下で、化合物1(1.2g、2.6mmol、1等量)の乾燥THF(15mL)攪拌溶液にn-ブチルリチウム(2.5ml、6.3mmol、2.4等量)を徐々に添加し、-78℃で1時間攪拌を維持した。次いで、トリフルオロ酢酸エチル(0.6mL、5.3mmol、2等量)を滴下し、混合物を-78℃で更に1時間攪拌し、次いで攪拌を続けて室温まで温めた。6時間後、飽和NHCl水溶液で反応を失活させ、水層をジエチルエーテルで(3回)抽出し、MgSOで乾燥させた。乾燥有機層をろ過し、減圧下で凝縮させた。石油エーテル:EtO(8:2)を溶離液として使用し、シリカゲルを通すフラッシュカラムクロマトグラフィーで1.2g(92%)の純粋な化合物2を白色固体として得た。HNMR(500MHz,CDCl)δ8.04(d,J=7.9Hz,4H),6.98(d,J=9.0Hz,4H),4.07(t,J=6.5Hz,4H),1.88-1.79(m,4H),1.56-1.46(m,4H),1.41(p,J=3.5Hz,4H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ165.15,132.91,122.77,114.98,68.67,29.36,29.11,26.03。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-70.97。
【0079】
工程3:ビス-オキシムの形成
【0080】
【化5】
【0081】
攪拌されている化合物2(558mg、1.14mmol、1等量)のエタノール(0.2M)溶液に塩酸ヒドロキシルアミン(474mg、6.82mmol、6等量)及びピリジン(0.73mL、9.09mmol、8等量)を添加し、反応混合物を加熱して16時間還流した。次いで、混合物を室温まで冷却し、混合物を2MHClで処理し、EtOで(3回)抽出した。混ぜ合わせた有機層を、洗浄層のpHが中性になるまで蒸留水で洗浄し、次いで硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、凝縮させた。残渣を高真空下で長時間乾燥させて所望の粗ビス-オキシム3を(幾何異性体の混合物として)白色固体(505mg)として得た。更なる精製を行わずに化合物を次の工程に供した。HNMR(300MHz,CDCl)δ8.58(s,0.6H、微量異性体)、8.40(d,J=16.7Hz,1H),8.28(d,J=10.1Hz,1H),8.06(s,0.6H、微量異性体),7.50(d,J=8.5Hz,4H),7.43(d,J=8.4Hz,2.8H、微量異性体),6.96(d,J=8.9Hz,4H),6.91(d,J=8.6Hz,2.8H、微量異性体),4.04-3.93(m,6.8H),1.91-1.72(m,12H),1.54-1.30(m,40H)。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-62.32,-66.26。
【0082】
工程4:対応するノシラートの形成によるオキシムの活性化
【0083】
【化6】
【0084】
化合物3(505mg、0.97mmol、1等量)をCHCl(5mL)に溶解させ、トリエチルアミン(0.4mL、2.91mmol、3等量)、DMAP(6mg、0.048mmol、5mol%)、及び塩化ノシル(430mg、1.94mmol、2等量)を0℃で連続して添加した。5分後、氷浴を取り除き、室温で1時間反応混合物を攪拌した。次いで、混合物を、飽和NHCl水溶液で処理し、CHClで抽出した。混ぜ合わせた有機抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、凝縮させて所望の粗ビス-ノシルオキシム4(870mg)を得た。粗ビス-ノシルオキシム4を、更なる精製を行わずに次の工程に供した。HNMR(300MHz、CDCl)δ8.28(d,J=7.5Hz,2H),7.95-7.77(m,4H),7.61(d,J=8.5Hz,4H),7.00(d,J=9.0Hz,4H),4.02(t,J=6.4Hz,4H),1.92-1.70(m,14H),1.53-1.29(m,35H)。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-65.60。
【0085】
工程5:ビス-ジアジリジンの形成
【0086】
【化7】
【0087】
アルゴン中で、無水THF(20mL)中のビス-ノシルオキシム4(864mg、0.97mmol、1等量)を、火力乾燥させた三口フラスコに移し、-20℃まで冷却した。攪拌されている溶液を無水アンモニア気体で3時間バブリングした。次いで、反応系を12時間攪拌した状態で-20℃から室温まで温めた。飽和NHCl水溶液で混合物を失活させ、EtOで(3回)抽出した。混ぜ合わせた有機層を塩水で洗浄し、次いで硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、凝縮させて所望の粗ビス-ジアジリジン5(540mg)を得た。粗ビス-ジアジリジン5を、更なる精製を行わずに次の工程に供した。19FNMR(283MHz、CDCl)δ-75.91。
【0088】
工程6:所望のビス-ジアジリンへの酸化
【0089】
【化8】
【0090】
粗ビス-ジアジリジン5(540mg)のCHCl(5mL)溶液に、0℃でトリエチルアミン(0.81mL、5.82mmol、6等量)及びヨウ素(542mg、2.13mmol、2.2等量)を連続して添加した。着色混合物を0℃で1時間攪拌した。混合物をCHClで希釈し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。水層をCHClで(3回)再抽出した。次いで、混ぜ合わせた有機抽出物を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、凝縮させた。ペンタン:EtO(8:2)を溶離液として使用し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで残渣を精製して所望のビス-ジアジリジン6(298mg、0.58mmol、60%)を黄色固体として得た。HNMR(500MHz,CDCl)δ7.13(d,J=8.4Hz,4H),6.88(d,J=8.9Hz,4H),3.95(t,J=6.5Hz,4H),1.78(p,J=6.6Hz,4H),1.46(dp,J=12.4,6.5Hz,4H),1.43-1.35(m,4H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ160.32,129.55,128.25,123.50,121.32,120.85,114.99,68.22,29.38,29.23,26.07。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-65.63。
【0091】
実施例2:剛性ビス-アリールエーテル架橋剤の合成
工程1:トリフルオロメチルケトンの導入
【0092】
【化9】
【0093】
-78℃のアルゴン雰囲気下で、4,4‘-オキシビス(ブロモベンゼン)7(636mg、1.94mmol、1等量)の乾燥THF(50mL)攪拌溶液にn-ブチルリチウム(1.86ml、2.4mmol、2.5M)を徐々に添加し、-78℃で1時間攪拌を維持した。次いで、トリフルオロ酢酸メチル(0.40mL、3.9mmol、2等量)を滴下し、混合物を-78℃で更に1時間攪拌し、次いで攪拌を続けて室温まで温めた。6時間後、飽和NHCl水溶液で反応を失活させ、水層をEtOで(3回)抽出し、MgSOで乾燥させた。減圧下で乾燥有機層をろ過し、凝縮させた。石油エーテル:EtO(8:2)を溶離液として使用し、シリカゲルを通すフラッシュカラムクロマトグラフィーで501mg(62%)の純粋な化合物8を無色油として得た。HNMR(300MHz,CDCl)δ8.14(d,J=8.0Hz,4H)、7.20(d,J=8.9Hz,4H)。19FNMR(283MHz、CDCl)δ-71.32。
【0094】
工程2:ビス-オキシムの形成
【0095】
【化10】
【0096】
攪拌されている化合物8(500mg、1.0mmol、1等量)のエタノール(0.2M)溶液に塩酸ヒドロキシルアミン(426mg、6.13mmol、6等量)及びピリジン(0.66mL、8.16mmol、8等量)を添加し、反応混合物を加熱して16時間還流した。次いで、混合物を室温まで冷却し、混合物を2MHClで処理し、EtOで(3回)抽出した。混ぜ合わせた有機層を、洗浄層のpHが中性になるまで蒸留水で洗浄し、次いで硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、凝縮させた。残渣を高真空下で長時間乾燥させて所望の粗ビス-オキシム9を(幾何異性体の混合物として)(527mg)得た。更なる精製を行わずに化合物を次の工程に供した19FNMR(283MHz,CDCl)δ-62.26,-66.42。
【0097】
工程3:対応するノシラートの形成によるオキシムの活性化
【0098】
【化11】
【0099】
化合物9(527mg、1.1mmol、1等量)をCHCl(5mL)に溶解させ、トリエチルアミン(0.47mL、3.3mmol、3等量)、DMAP(6.8mg、0.056mmol、5mol%)、及び塩化ノシル(0.17mL、2.24mmol、2等量)を0℃で連続して添加した。5分後、氷浴を取り除き、室温で2時間反応混合物を攪拌した。次いで、混合物を、飽和NHCl水溶液で処理し、CHClで抽出した。混ぜ合わせた有機抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、凝縮させて所望の粗ビス-メシルオキシム10(596mg)を得た。粗ビス-メシルオキシム10を、更なる精製を行わずに次の工程に供した。HNMR(300MHz,CDCl)δ7.66(d,J=8.9Hz,4H),7.58(dd,J=9.0,2.9Hz,4H),7.23-7.10(m,8H),3.29(s,6H),3.27(s,6H)。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-61.39,-66.22。
【0100】
工程4:ビスジアジリジンの形成
【0101】
【化12】
【0102】
アルゴン中で、無水THF(20mL)中のビス-メシルオキシム10(596mg、1.0mmol、1等量)を火力乾燥させた三口フラスコに移し、-20℃まで冷却した。攪拌されている溶液を無水アンモニア気体で3時間バブリングした。次いで、12時間反応系を攪拌した状態で-20℃から室温まで温めた。飽和NHCl水溶液で混合物を失活させ、EtOで(3回)抽出した。混ぜ合わせた有機層を塩水で洗浄し、次いで硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、凝縮させて所望の粗ビス-ジアジリジン11(290mg)を得た。粗ビス-ジアジリジン11を、更なる精製を行わずに次の工程に供した。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-75.81。
【0103】
工程5:所望のビス-ジアジリンへの酸化
【0104】
【化13】
粗ビス-ジアジリジン11(276mg)のCHCl(5mL)溶液に、0℃でトリエチルアミン(0.6mL、4.24mmol、6等量)及びヨウ素(394mg、1.5mmol、2.2等量)を連続して添加した。着色混合物を0℃で1時間攪拌した。混合物をCHClで希釈し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。水層をCHClで(3回)再抽出した。次いで、混ぜ合わせた有機抽出物を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、凝縮させた。ペンタンを溶離液として使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーで残渣を精製し、所望のビス-ジアジリジン12(244mg、0.63mmol、63%)を無色液体として得た。HNMR(300MHz,CDCl)δ7.20(d,J=8.8Hz,4H)、7.01(d,J=8.9Hz,4H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ157.79,128.67,124.52,119.45,29.86。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-65.45。
【0105】
実施例3:開裂性架橋剤の調製に有用な構成要素及び関連するジアジリン含有試薬の合成
工程1:トリフルオロメチルフェニルジアジリンのヨード化
【0106】
【化14】
【0107】
周囲雰囲気下で、ジアジリン13(5.0g、27mmol、10等量)のトリフルオロ酢酸(TFA、30mL)溶液に、-10℃で、-10℃のN-ヨードスクシンイミド(7.3g、32mmol、1.2等量)を分割して添加した。添加したN-ヨードスクシンイミドが完全に溶解した後、HSO(1.7mL、32mmol、1.2等量)のトリフルオロ酢酸(20mL)溶液を反応混合物に滴下した。空のバルーンを添加し、生じるあらゆる気体の脱気を促進させた。反応系を室温まで徐々に温め、2日間攪拌した。次いで、0℃で混合物を飽和重炭酸ナトリウム溶液に注ぎ、ジエチルエーテルで(3回)抽出した。混ぜ合わせた有機層をチオ硫酸ナトリウムで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を蒸発させた後、(100%ペンタンを溶離液として使用して)シリカゲルカラムクロマトグラフィーで残渣を精製し、所望の純粋な生成物を黄色油(6.1g、20mmol、74%、-20℃で黄色固体)として得た。HNMR(500MHz,CDCl)δ7.74(d,J=8.6Hz,2H),6.93(d,J=8.2Hz,2H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ138.18,128.91,128.25,122.05(q,J=274.7Hz),96.12,77.16、28.28。19FNMR(471MHz,CDCl)δ-65.26。
【0108】
工程2:銅によるカップリングを通したエチレングリコール枝の添加
【0109】
【化15】
【0110】
周囲雰囲気下で、ジアジリン14(1.5g、4.8mmol、1.0等量)のDMSO(4.5mL、1.0M)溶液に、室温でエチレングリコール(2.7mL、48mmol、10等量)を添加した。次いで、Cu(acac)(0.63g、2.4mmol、0.5等量)を添加し、次いでCsOH・xHO(2.0g、12mmol、2.5等量)を添加した。反応混合物を40℃まで温め、40℃で24時間攪拌した。次いで、混合物を水に注ぎ、ジクロロメタンで(3回)抽出した。混ぜ合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を蒸発させた後、(0-100%酢酸エチルペンタン溶液で溶離して)シリカゲルカラムクロマトグラフィーで残渣を精製し、所望の純粋な生成物を黄色油(0.45g、1.8mmol、38%、―20℃で黄色固体)として得た。HNMR(500MHz,CDCl)δ7.15(d,J=8.6Hz,2H),6.92(d,J=8.9Hz,2H),4.12-4.04(m,2H),4.02-3.93(m,2H),2.04(m,1H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ159.81,128.36,122.36(q,J=274.4Hz),121.58,115.07,69.47,61.44,28.35(q,J=38.8Hz)。19FNMR(471MHz,CDCl)δ-65.63。
【0111】
実施例4:シリルエーテル含有架橋剤の合成
【0112】
【化16】
【0113】
アルゴン雰囲気下で、火力乾燥させた丸底フラスコにイミダゾール(0.028g、0.41mmol、2.0等量)を添加した後、ジクロロジイソプロピルシラン(0.024mL、0.20mmol、1.0等量)をジアジリン15(0.10g、0.41mmol、2.0等量)の無水ジクロロメタン(2.0mL、0.20M)溶液中に0℃で滴下した。遮光しながら室温で3.5時間攪拌した後、反応混合物をろ過し、ジクロロメタンで洗浄した。溶媒を蒸発させた後、(100%ペンタンを含む)シリカゲルのプラグを通して溶離することによってシリカゲルカラムクロマトグラフィーで残渣を精製し、所望の純粋な生成物を黄色油(0.062g、0.10mmol、50%、―20℃で淡黄色固体)として得た。HNMR(500MHz,CDCl)δ7.12(d,J=8.6Hz,4H),6.89(d,J=8.8Hz,4H),4.16-4.00(m,8H),1.05(s,14H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ160.11,128.26,122.40(d,J=274.8Hz),121.20,115.07,77.16,69.47,61.68,28.36(q,J=39.6Hz),17.31,12.19。19FNMR(471MHz,CDCl)δ-65.65。
【0114】
実施例5:カルボナート含有架橋剤の合成
【0115】
【化17】
【0116】
ジアジリン15(0.050g、0.20mmol、1.0等量)のジクロロメタン(1.0mL、0.20M)溶液に、DMAP(0.099g、0.81mmol、4.0等量)を室温で添加した後、周囲雰囲気下で1,1’-カルボニルジイミダゾール(0.33g、0.20mmol、1.0等量)を添加した。室温で3時間攪拌した後、第2等量のジアジリン15(0.050g、0.20mmol、1.0等量)を反応混合物中に直接添加した。混合物を40℃まで温め、一晩攪拌した。次いで、0.25MHCl水溶液の添加によって反応を失活させ、ジクロロメタンで(3回)抽出した。混ぜ合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を蒸発させた後、(0-100%酢酸エチルペンタン溶液で溶離して)シリカゲルカラムクロマトグラフィーで残渣を精製し、所望の純粋な生成物を黄色油(0.080g、0.15mmol、75%、―20℃で黄色油)として得た。HNMR(500MHz,CDCl)δ7.14(d,J=8.7Hz,4H),6.90(d,J=8.9Hz,4H),4.59-4.45(m,4H),4.28-4.16(m,4H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ159.47,155.03,128.33,122.35(q,J=274.5Hz),121.76,115.09,66.23、65.83,28.32(q,J=40.4Hz)。19FNMR(471MHz,クロロホルム-d)δ-65.63。
【0117】
実施例6:オキサレート含有架橋剤の合成
【0118】
【化18】
【0119】
アルゴン雰囲気下で、火力乾燥させた丸底フラスコにトリエチルアミン(0.071mL、0.51mmol、1.3等量)を添加した後、塩化オキサリル(0.10mL、0.20mmol、0.50等量、ジクロロメタン中2.0M)をジアジリン15(0.10g、0.41mmol、1.0等量)の無水ジクロロメタン(1.5mL、0.27M)溶液中に0℃で滴下した。室温で2時間攪拌した後、反応混合物を直接高真空に長時間繋ぎ、粗混合物を得た。次いで、固体粗生成物をろ過し、冷ジエチルエーテルで洗浄し、所望の純粋な生成物を白色固体(0.092g、0.017mmol、85%)として得た。HNMR(500MHz,CDCl)δ7.15(d,J=8.7Hz,4H),6.90(d,J=8.9Hz,4H),4.70-4.60(m,4H),4.32-4.21(m,4H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ159.34,157.30,128.39,122.33(q,J=274.5Hz),121.95,115.15,65.40,65.06,28.30(q,J=40.7Hz)。19FNMR(471MHz,CDCl)δ-65.63。
【0120】
実施例7:シクロヘキサンの架橋による架橋剤効率の評価
シクロヘキサン分子とポリエチレン分子は何れも限りあるCH基鎖を含むと言え、シクロヘキサンがポリエチレンの分子モデルとして有用であり得ることは当分野で知られる。シクロヘキサン中で様々なビス-ジアジリンを熱的に活性化させ、次いでC-Hが挿入された生成物を単離することにより、ポリエチレン又はポリプロピレンといった低官能性ポリマーの架橋にどの種が最も効果的であるかを把握することができる。
【0121】
驚くべきことに、本例示は、アリールジアジリン基が脂肪族鎖によって分離されたビス-ジアジリン6が、シクロヘキサンの架橋に関し、過去に研究された分子架橋剤よりも10倍を超え効果的であることを明らかにした。2つのアリールジアジリン基が1個の酸素原子によって架橋される剛性ジアリールエーテル12も、前述した分子架橋剤よりは効果的であるが、ビス-エーテル6よりも効果が低い。
【0122】
【化19】
(a)Lepageら、Science2019、DOI:10.1126/science.aay6230に記載されるビス-ジアジリン架橋剤から
(b)Simhadnら、Chemical Science2021、DOI:10.1039/d0sc06283aに記載されるビス-ジアジリン架橋剤から
【0123】
実施例8:ビス-ジアジリン6によるシクロヘキサンの架橋
【0124】
【化20】
【0125】
火力乾燥させた密封チューブ内で、アルゴンを徐々に流して蓋をし、シクロヘキサン(15mM)中のビスジアジリン6(11.3mg、0.022mmol、1等量)を140℃で2時間加熱した。混合物を室温まで冷却した後、丸底フラスコ内に反応混合物を移し、真空中で凝縮させて粗生成物(14mg)を得た。100%石油エーテルを使用し、シリカゲルを通すフラッシュカラムクロマトグラフィーで化合物19(12mg、0.02mmol)を91%の収率で得た。HNMR(300MHz,CDCl)δ7.05(d,J=8.6Hz,4H),6.78(d,J=8.7Hz,4H)、3.87(t,J=6.5Hz,4H),2.90(qd,J=10.3,7.9Hz,2H),1.95-1.79(m,4H),1.77-1.62(m,8H),1.61-1.50(m,4H),1.45-1.27(m,12H),1.11-0.96(m,4H),0.74(dd,J=12.1,3.0Hz,2H)。13CNMR(126MHz,CDCl)δ158.64,132.21、130.20,126.98,116.30,114.31,67.87,55.41,55.21,38.54,31.53,30.68,29.72,29.32,29.29,26.20,26.12,26.04。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-63.73。
【0126】
実施例9:ビス-ジアジリン12によるシクロヘキサンの架橋
【0127】
【化21】
火力乾燥させた密封チューブ内で、アルゴンを徐々に流して蓋をし、シクロヘキサン(15mM)中のビス-ジアジリン12(24.9mg、0.064mmol、1等量)を、140℃で2時間加熱した。混合物を室温まで冷却した後、丸底フラスコ内に反応混合物を移し、真空中で凝縮させて粗生成物(34.6mg)を得た。100%石油エーテルシリカゲルを通すフラッシュカラムクロマトグラフィーで化合物20(17.6mg、0.034mmol)を54%の収率で得た。HNMR(300MHz,CDCl)δ7.20(d,J=8.7Hz,4H),6.98(d,J=8.7Hz,3H),3.03(p,J=9.8Hz,2H),2.03-1.84(m,5H),1.84-1.71(m,2H),1.68-1.59(m,5H),1.22-1.01(m,8H),0.85-0.72(m,2H)。13CNMR(76MHz,CDCl)δ130.69,118.91,38.68,30.84,26.23,26.14。19FNMR(283MHz,CDCl)δ-63.60。
【0128】
実施例10:典型的なアリールエーテル架橋剤に関する熱パラメータの評価
示差走査熱量測定(DSC)をビス-ジアジリン架橋剤の熱活性化温度の評価に使用できることが当分野で知られる。化合物6及び化合物12のDSC曲線を図1に示す。驚くべきことに、過去に研究された分子架橋剤よりも約30℃低い温度で、アリールジアジリン基が脂肪族鎖から分離されたビス-ジアジリン6を活性化することができた。前述の分子架橋剤よりも低いが、化合物6よりも高い温度で、2つのアリールジアジリン基が1個の酸素原子によって架橋された剛性ジアリールエーテル12も活性化することができた。
【0129】
ポリマー基質の融点を超えることを避ける必要がある場合、より低い温度で活性化する架橋剤は、汎用架橋ポリマー、又はこれらのポリマーを使用する接着用途よりも有利であり得る。
【0130】
【表1】
(a)Lepageら、Science2019、DOI:10.1126/sience.aay6230
(b)Simhadriら、Chemical Science2021、DOI:10.1039/d0sc06283a
【0131】
実施例11:爆発性の評価
複数の窒素原子を含有する化合物について、爆発伝播又は衝撃感度の推定傾向を予測するためにヨシダから導出される特定の式を使用することができることが当分野で知られる。
【0132】
(数1)
衝撃感度=log(QDSC)-0.72×log(TONSET-25)-0.98
【0133】
(数2)
爆発伝播=log(QDSC)-0.38×log(TONSET-25)-1.67
【0134】
ここで、QDSCは、窒素放出のエンタルピー(cal/g)であり、TONSETは、(DSC曲線の接線の外挿によって測定され、℃で記録される)ジアジリン活性化開始温度である。衝撃感度及び/又は爆発伝播値が正である場合、材料は爆発する傾向にあると考えられる。
【0135】
【表2】
(a)Lepageら、Science2019、DOI:10.1126/sience.aay6230
(b)Simhadriら、Chemical Science2021、DOI:10.1039/d0sc06283a
【0136】
脂肪族鎖基に含まれる質量が増大した結果、ビス-ジアジリン6は、2つのアリールジアジリン基が1個の酸素原子によって架橋されるジアリールエーテル12よりも著しく少ないエネルギーを単位重量当たり放出した。
【0137】
驚くべきことに、熱活性化時におけるエネルギー消費量のこのような低減の結果、過去に研究された分子架橋剤と比較して、活性化温度が低下するにもかかわらず、ビス-エーテル6が衝撃に敏感な試薬であるか、又は爆発を起こす可能性が高いとは、ヨシダの相関性の適用によって見出されなかった。一方、ジアリルエーテル12は、その衝撃感度スコアを計算した結果が統計的範囲内の値である0であるため、潜在的に衝撃に敏感な試薬である。
【0138】
衝撃感度及び爆発伝播の閾値に対応する線を、反応エンタルピー(Q)とTONSETの関係を示すチャート上にプロットすることで、ヨシダの相関性をグラフで表すことができることも当分野で知られる。これらの線を下回るあらゆる処理過程は、危険性がないと予測される。代表的な一連のビス-ジアジリン類にこの試験を行うことより、図2に示すように、ビス-エーテル6は2本の線を十分下回るが、ジアリールエーテル12は、衝撃感度の曲線上にほぼ乗ることが明らかになった。
【0139】
この分析から、化合物12は、取り扱いに十分な注意が必要であるが、化合物6は、取り扱いに安全な試薬であると見なすことができると結論付けられる。
【0140】
実施例12:UHMWPE生地への架橋剤の担持
過去に研究された分子架橋剤よりも優れた効果をビス-エーテル6が有することが示された前述のシクロヘキサン架橋実験を更に発展させ、超高分子量ポリエチレン(UHMWWPE)の不可逆架橋を検討した。この実験では、化合物6をLepageら、Science2019、DOI:10.1126/science.aay6230に記載の第一世代の分子架橋剤と直接比較した。
【0141】
【化22】
【0142】
所望のビス-ジアジリンのペンタン溶液を満たした密封アルミニウム皿に1インチ×1インチ片の生地を入れることによって、市販の75g/mUHMWPE生地を何れかの試験化合物に含侵させた。本実験に使用される生地の質量に対し、架橋剤が1.25重量%、6.25重量%、又は12.5重量%となるよう溶液の濃度を算出した。溶液槽をアルミニウム箔で覆い、室温で30分間インキュベートした。その後、覆いを外し、ドラフト内でペンタンを20分間蒸発させた。ペンタンを蒸発させた後、含侵シートをアルミニウム箔で包み、110℃の炉に4時間入れた。
【0143】
ペンタン槽に架橋剤を添加する以外は同様の手順に従って対照試料を調製した。
【0144】
熱硬化後、試料を秤量し、各生地片と結合した反応架橋剤の総質量を決定した。次いで、20mLのメタノールを使用して各試料を室温で5分間抽出し、生地に不可逆的に付着しなかったあらゆる反応生成物を除去した。炉内で処理した生地を乾燥(100℃、5分間)させた後、各試料を再度秤量し、メタノール抽出によって失われた反応生成物の質量を決定した。
【0145】
【表3】
【0146】
驚くべきことに、初期の硬化に際して生地に添加されたビス-ジアジリンの量は、何れの種も同じ質量であったが、第一世代架橋剤で得られた反応生成物の実質量は、続くメタノール抽出で失われた。ペンタン及びメタノールで生地を抽出することによる各段階における材料の「バックグラウンド」損失について補正することにより、添加された第一世代の架橋剤生成物の約30%が低担持量で損失し、第一世代の架橋剤の約60%が中担持量で損失し、第一世代の架橋剤の約90%が高担持量で損失することが見出された。対照的に、図3に示されるように、(対照試料と比較し)化合物6由来の反応生成物の著しい損失が観測された。
【0147】
これらのデータは、アリールエーテルを足場とするビス-ジアジリンが、低官能性ポリマーに対し優れた架橋試薬である可能性があることを示す。

図1
図2
図3
【国際調査報告】