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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】フレーバー付与組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/27 20160101AFI20240227BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20240227BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240227BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240227BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240227BHJP
【FI】
A23L27/27
A23L27/20 F
A23L27/00 C
A23L5/00 H
A23L7/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539017
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 EP2022056727
(87)【国際公開番号】W WO2022194879
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/081825
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】21172102.2
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009287
【氏名又は名称】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Firmenich SA
【住所又は居所原語表記】7,Rue de la Bergere,1242 Satigny,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ セアニー
(72)【発明者】
【氏名】イー-チュン ディン
(72)【発明者】
【氏名】ウェン-ジャン シャン
【テーマコード(参考)】
4B023
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LE08
4B023LE30
4B023LG01
4B023LG06
4B023LG08
4B023LK02
4B023LP07
4B023LP20
4B035LC01
4B035LG04
4B035LG32
4B035LG34
4B035LG36
4B035LK02
4B035LP01
4B047LF04
4B047LF07
4B047LG05
4B047LG06
4B047LG41
4B047LP02
4B047LP05
4B047LP20
(57)【要約】
本明細書で提示される様々な態様は、フレーバー付き消費者向け製品に使用するためのスモーキーな芳香プロファイルを有するフレーバー付与組成物、およびそのようなフレーバー付与組成物を調製するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む群から選択される1種以上の芳香化合物を含む、スモーキーな芳香プロファイルを有するフレーバー付与組成物において、300ppb未満の多環芳香族炭化水素および/またはアクリルアミドを有することを特徴とする、フレーバー付与組成物。
【請求項2】
前記多環芳香族炭化水素が、ナフタレン、アセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレン、ベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3-c,d]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセン、ベンゾ[g,h,i]ペリレン、ベンゾ[j]フルオランテン、シクロペンタ[cd]ピレン、ジベンゾ[a,e]ピレン、ジベンゾ[a,h]ピレン、ジベンゾ[a,i]ピレン、ジベンゾ[a,l]ピレン、5-メチルクリセン、ベンゾ[c]フルオレンを含む群から選択され、好ましくは、前記PAHがベンゾ[a]ピレンである、請求項1記載のフレーバー付与組成物。
【請求項3】
前記組成物が10ppb未満の多環芳香族炭化水素を含む、請求項1または2記載のフレーバー付与組成物。
【請求項4】
前記組成物が300ppb未満のアクリルアミドを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のフレーバー付与組成物。
【請求項5】
前記フレーバー付与組成物が穀物ふすまから調製される、請求項1から4までのいずれか1項記載のフレーバー付与組成物。
【請求項6】
前記穀物ふすまがトウモロコシであり、前記芳香化合物が2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む、請求項5記載のフレーバー付与組成物。
【請求項7】
前記穀物ふすまが小麦であり、前記芳香化合物が2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む、請求項5記載のフレーバー付与組成物。
【請求項8】
前記穀物ふすまが米であり、前記芳香化合物が2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む、請求項5記載のフレーバー付与組成物。
【請求項9】
フレーバー付与組成物にスモーキーな芳香を付与するための、請求項1から8までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか1項記載のフレーバー付与組成物を調製する方法であって、
(i)外因性の水を添加せずに穀物ふすまを200~250℃の温度に1~5時間加熱すること、
(ii)ステップ(i)によって生成した前記フレーバー付与組成物を回収すること
を含む、方法。
【請求項11】
ステップ(i)が、空気または窒素流の存在下で前記穀物ふすまを加熱することをさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
(iii)加熱された前記穀物ふすまに外因性の水を添加すること、
(iv)生じる熱水蒸留物を回収すること、
(v)ステップ(iv)の前記熱水蒸留物を、ステップ(ii)によって生成した前記フレーバー付与組成物と混ぜ合わせること
をさらに含む、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
ステップ(ii)の前記フレーバー付与組成物が、凝縮物、熱水蒸留、または蒸気蒸留として回収される、請求項10または12記載の方法。
【請求項14】
請求項1から8までのいずれか1項記載のフレーバー付与組成物を含む、フレーバー付き消費者向け製品。
【請求項15】
前記製品が肉ベースの製品、肉ではない製品、または飲料である、請求項14記載のフレーバー付き消費者向け製品。
【請求項16】
本発明の前記フレーバー付与組成物を10~2000mg/kgの濃度で含む、請求項14または15記載のフレーバー付き消費者向け製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で提示される様々な態様は、フレーバー入り消費者向け製品に使用するためのスモーキーな芳香プロファイルを有するフレーバー付与組成物、およびそのようなフレーバー付与組成物を調製するための方法に関する。
【0002】
背景
グリルまたは調理された食品の味と匂いを模倣するために使用されるスモークフレーバー付与組成物は、摂取可能な製品において人気のある添加物である。例えば、そのようなフレーバーは、肉、チーズ、魚、スナックの製造において長く使用されてきた。さらに、近年では、健康および環境上の理由から、代替肉やベジタリアン代用品の人気が高まっている。そのような食品にスモークフレーバー付与組成物を使用することは、消費者の観点から望ましい。
【0003】
スモークフレーバーは、薪を燃やし、その煙を凝縮させることにより得ることができる。得られる煙凝縮物(液体煙)は精製され、さらに処理されて、煙の香りを付与するために食品に使用される。しかしながら、薪を高温で燃焼させることによって得られるスモークフレーバーには、多環芳香族炭化水素(PAH)などの有毒化合物が含まれる可能性がある。これは、例えばEUなどの規制法により、薪の燃焼から得られるスモークフレーバーが安全でないかまたは天然でないと見なされる可能性があることを意味し得る。
【0004】
そのため、スモーキーな芳香プロファイルを有するものの、問題となる量の多環芳香族炭化水素(PAH)などの有毒化合物を含まないフレーバー付与組成物を開発することが必要とされている。
【0005】
本発明の目的は、そのようなフレーバー付与組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】フェルラ酸からのフェノール系化合物の形成の図である。
図2】対象フェノールの化学構造(番号は表1を参照)の図である。
図3】様々な温度での米ふすまの焙煎中のグアイアコールの形成の図である。
図4】フェノール形成に対する穀物品種の影響(235℃、5時間)の図である。
図5】フェノール形成に対する他のパラメータの影響(表4の条件)の図である。
【0007】
詳細な説明
本発明は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む群から選択される1種以上の芳香化合物を含む、スモーキーな芳香プロファイルを有するフレーバー付与組成物において、300ppb未満の多環芳香族炭化水素および/またはアクリルアミドを有することを特徴とする、フレーバー付与組成物を提供する。
【0008】
本明細書において使用される用語「PAH」は、多環芳香族炭化水素を意味する。
【0009】
スモーキーな芳香プロファイルを有するフレーバー付与組成物は、様々な消費者向け製品への人気が高い添加物である。しかしながら、製造プロセスで生成する特定の化合物の毒性に関する認識の高まりにより、一部の国や地域では、人間が消費する食品へのそのような化合物の最小許容量を導入している。例えば、EUの規制は、スモーキーな芳香プロファイルに含まれるPAHとアクリルアミドの量を制限している。PAHであるベンゾ[a]ピレン(BaP)は10ppbに制限されている。アクリルアミドは、熱処理された食品に含まれる別の潜在的に有毒な化合物である。EUにおける基準レベルは穀物製品で300ppbである。
【0010】
スモーキーな芳香プロファイルを有するフレーバー付与組成物を調製するための既存の方法は、高温で長時間加熱される薪に基づく出発原料を使用することを含む。そのような出発原料を使用すると、そのような反応条件によりPAHおよびアクリルアミドが形成される可能性が高まる。
【0011】
フレーバー付与組成物のスモーキーな芳香プロファイルは、主に特定のフェノール系化合物の存在によるものである。
【0012】
したがって、本発明の目的は、十分な量の芳香化合物を有すると同時にPAHおよびアクリルアミドのレベルを許容可能な量まで減らした、スモーキーな芳香プロファイルを有するフレーバー付与組成物を調製することである。
【0013】
以下で示すように、本発明者らは、PAHおよびアクリルアミドの量を許容可能な量まで大幅に減らすと同時に十分な量の芳香化合物を得る、新規で革新的なプロセスを発明した。添付の実施例で見られるように、これにより、魅力的な芳香性能を有するフレーバー付与組成物が得られる。例えば、この芳香は、肉のフレーバー、特に豚肉およびベーコンにスモーキーで焦げたようなノートを付与できると考えられる。
【0014】
「スモーキーな芳香プロファイル」には、本発明のフレーバー付与組成物が煙を思わせる味および/または匂い、すなわちスモーキーフレーバーを付与する場合が含まれる。この用語はフレーバーの分野ではよく知られている。例えば、これはスモーキーフレーバーを有し、燻製されたような味を有するものを指すことが知られている。したがって、この用語は、この分野の専門家には明確に理解されるであろう。
【0015】
芳香プロファイルは芳香化合物によって提供される。「芳香化合物」は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む群から選択される。
【0016】
化合物は当該技術分野で周知であり、一般に知られている分析方法を使用して検出および測定することができ、その例は添付の実施例に示されている。
【0017】
当業者であれば、フレーバー付与組成物が本明細書に列挙されている芳香化合物のうちの1種以上を含み得ることを理解することができる。例えば、組成物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む群から選択される少なくとも2種の芳香化合物、好ましくは少なくとも3種の芳香化合物、好ましくは少なくとも5種の芳香化合物、好ましくは少なくとも7種の芳香化合物、好ましくは少なくとも9種の芳香化合物、好ましくは少なくとも10種の芳香化合物、好ましくは少なくとも11種の芳香化合物、好ましくは少なくとも12種の芳香化合物、好ましくは少なくとも13種の芳香化合物、好ましくは少なくとも14種の芳香化合物、好ましくは少なくとも15種の芳香化合物を含むことができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、フレーバー付与組成物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む群から選択される1種以上の芳香化合物がフレーバー付与組成物の少なくとも0.05ppmの量で存在する実施形態である。
【0020】
好ましくは、組成物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む群から選択される少なくとも2種の芳香化合物、好ましくは少なくとも3種の芳香化合物、好ましくは少なくとも5種の芳香化合物、好ましくは少なくとも7種の芳香化合物、好ましくは少なくとも9種の芳香化合物、好ましくは少なくとも11種の芳香化合物、好ましくは少なくとも13種の芳香化合物、好ましくは少なくとも14種の芳香化合物を含むことができ、これらはフレーバー付与組成物の少なくとも0.05ppmの量で存在する。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含み、芳香化合物の量は約590ppm以下である。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなり、芳香化合物の量は約590ppm以下である。
【0023】
本発明のフレーバー付与組成物は、300ppb未満の多環芳香族炭化水素および/またはアクリルアミドの含有量を有することを特徴とする。
【0024】
多環芳香族炭化水素(PAH)の化合物は、当該技術分野において周知であり、十分に定義されている。
【0025】
多環芳香族炭化水素(PAH)は、複数の芳香環から構成される炭化水素である。そのような化学物質の中で最も単純なものは、2つの芳香環を持つナフタレン、ならびに三環化合物のアントラセンおよびフェナントレンである。多芳香族炭化水素または多核芳香族炭化水素という用語もこの概念に使用される。
【0026】
PAHは電荷を持たない非極性分子であり、芳香環内の非局在化電子に一部起因する特有の特性を有している。それらの多くは石炭や石油鉱床の中で見られ、また例えばエンジンや焼却炉、あるいは森林火災でバイオマスが燃焼する際など、有機物の熱分解によっても生成される。
【0027】
PAHの例としては、ナフタレン、アセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレン、ベンゾ(a)アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3-c,d]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセン、ベンゾ[g,h,i]ペリレン、ベンゾ[j]フルオランテン、シクロペンタ[cd]ピレン、ジベンゾ[a,e]ピレン、ジベンゾ[a,h]ピレン、ジベンゾ[a,i]ピレン、ジベンゾ[a,l]ピレン、5-メチルクリセン、ベンゾ(c)フルオレンが挙げられる。基準となるPAHはベンゾ[a]ピレンである。
【0028】
ここでも、これらは、一般に知られている分析方法を使用して検出および測定することができ、その例は添付の実施例に示されている。
【0029】
別の実施形態では、PAHはベンゾ[a]ピレンであり、10ppb未満、好ましくは5ppb未満、より好ましくは4ppb未満、より好ましくは3ppb未満、より好ましくは2ppb未満、より好ましくは1ppb未満、またはそれ未満である。
【0030】
好ましい実施形態では、フレーバー付与組成物は、300ppb未満、好ましくは200ppb未満、より好ましくは100ppb未満、より好ましくは50ppb未満、より好ましくは20ppb未満、より好ましくは10ppb未満、またはそれ未満のアクリルアミドを有する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、フレーバー付与組成物は穀物ふすまから調製される。
【0032】
本明細書において使用される「穀物ふすま」とは、穀物の外皮または殻を指し、果皮、種皮、および糊粉層からなることができる。本発明の組成物を調製する方法に適した穀物ふすまの例としては、米、トウモロコシ、小麦、オーツ麦、ライ麦、大麦、ソルガム、およびスペルト小麦からのふすまが挙げられる。
【0033】
本発明者らは、添付の実施例で概説する一連の実験を行った。これらの実験の中で、異なる穀物ふすまから調製することができる芳香化合物の量を測定した。
【0034】
その結果、穀物ふすまがトウモロコシである場合、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約1841.3ppm以下である。好ましくは、芳香化合物の量は約590ppm以下である。
【0035】
好ましくは、穀物ふすまはトウモロコシであり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約1841.3ppm以下である。好ましくは、芳香化合物の量は約590ppm以下である。
【0036】
別の実施形態では、穀物ふすまは小麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約792.4ppm以下である。好ましくは、芳香化合物の量は約320ppm以下である。
【0037】
好ましくは、穀物ふすまは小麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約792.4ppm以下である。好ましくは、芳香化合物の量は約320ppm以下である。
【0038】
別の実施形態では、穀物ふすまは米であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約2005.2ppm以下である。好ましくは、芳香化合物の量は約270ppm以下である。
【0039】
好ましくは、穀物ふすまは米であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約2005.2ppm以下である。好ましくは、芳香化合物の量は約270ppm以下である。
【0040】
別の実施形態では、穀物ふすまはスペルト小麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約190ppm以下である。
【0041】
好ましくは、穀物ふすまはスペルト小麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約190ppm以下である。
【0042】
別の実施形態では、穀物ふすまはライ麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約160ppm以下である。
【0043】
好ましくは、穀物ふすまはライ麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約160ppm以下である。
【0044】
別の実施形態では、穀物ふすまはソルガムであり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約110ppm以下である。
【0045】
好ましくは、穀物ふすまはソルガムであり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約110ppm以下である。
【0046】
別の実施形態では、穀物ふすまはオーツ麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約110ppm以下である。
【0047】
好ましくは、穀物ふすまはオーツ麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約110ppm以下である。
【0048】
別の実施形態では、穀物ふすまは大麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約42ppm以下である。
【0049】
好ましくは、穀物ふすまは大麦であり、芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約42ppm以下である。
【0050】
好ましい実施形態では、組成物は水性組成物または粉末組成物であり、より好ましくは粉末組成物である。水性組成物とは、抽出された物質全体が溶液中に存在し、溶媒が水を含むことを意味する。粉末組成物とは、抽出された物質全体が固体の粉末状で存在することを意味する。
【0051】
本発明のさらなる態様は、フレーバー付与組成物にスモーキーな芳香を付与するための、本発明の前述した実施形態のいずれかで定義された組成物の使用を提供する。
【0052】
したがって、本発明のこの方法で使用するための組成物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む群から選択される1種以上の芳香化合物を含む、組成物において、組成物が300ppb未満の多環芳香族炭化水素および/またはアクリルアミドを有することを特徴とする。組成物に関連する本明細書に記載の本発明の全ての他の実施形態は、芳香化合物の種類および量を含め、本発明のこの態様に含まれる。
【0053】
上述したように、本発明者らは、PAHおよび/またはアクリルアミドの量を許容可能な量まで大幅に減らすと同時に十分な量の芳香化合物を得る、新規で革新的なプロセスを開発した。
【0054】
したがって、本発明のさらなる態様は、本発明のフレーバー付与組成物を調製する方法であって、
(i)外因性の水を添加せずに穀物ふすまを200~250℃の温度に1~5時間加熱すること、
(ii)ステップ(i)によって生成したフレーバー付与組成物を回収すること
を含む、方法を提供する。
【0055】
上述したように、芳香化合物は、煙を思わせる味および/または匂いを与える。典型的な「芳香化合物」は、多くの場合フェノール類に由来する。クマル酸、フェルラ酸、およびシナピン酸のようなフェニルプロパン酸類は、スモーキーなフェノールの前駆体である。したがって、本発明を発明する際、穀物ふすまがフェルラ酸および他のフェニルプロパン酸類を豊富に含み、安価であるが、食品として位置づけられていることから、本発明者らは穀物ふすまを出発原料として選択した。
【0056】
本明細書において使用される「穀物ふすま」とは、穀物の外皮または殻を指し、果皮、種皮、および糊粉層からなることができる。本発明の組成物を調製する方法における使用に適した穀物ふすまの例としては、米、トウモロコシ、小麦、オーツ麦、ライ麦、大麦、ソルガム、およびスペルト小麦からのふすまが挙げられる。
【0057】
好ましくは、穀物ふすまは、米、トウモロコシ、または小麦のふすまである。
【0058】
本発明の方法のステップ(i)において、穀物ふすまは、外因性の水を添加せずに200~250℃の温度で1~5時間加熱される。200~250℃の温度は、薪に基づく出発原料から煙抽出物を調製するために典型的に使用される温度よりも低く、組成物中のPAHの量が少なくなることから、200~250℃の温度を選択することは重要である。一部の国では食品の調製を上限の240℃未満で行うことが求められているため、好ましくは200~240℃の温度が使用される。
【0059】
1~5時間の時間枠内で最も多くの量の芳香化合物が生成されるため、1~5時間の時間が選択される。
【0060】
本発明者らは、添付の実施例で概説する一連の実験を行った。これらの実験では、異なる温度に約5時間加熱した穀物ふすまから調製することができる芳香化合物の量を測定した。
【0061】
したがって、本発明の本方法の一実施形態では、穀物ふすまは200℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約77ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0062】
好ましくは、穀物ふすまは200℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約77ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0063】
したがって、本発明の本方法の一実施形態では、穀物ふすまは220℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約140ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0064】
好ましくは、穀物ふすまは220℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約140ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0065】
したがって、本発明の本方法の一実施形態では、穀物ふすまは225℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約232ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0066】
好ましくは、穀物ふすまは225℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約232ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0067】
したがって、本発明の本方法の一実施形態では、穀物ふすまは230℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約245ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0068】
好ましくは、穀物ふすまは230℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約245ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0069】
したがって、本発明の本方法の一実施形態では、穀物ふすまは235℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約274ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0070】
好ましくは、穀物ふすまは235℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約274ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0071】
したがって、本発明の本方法の一実施形態では、穀物ふすまは250℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールを含む。好ましくは、芳香化合物の量は約337ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0072】
好ましくは、穀物ふすまは250℃に5時間加熱され、フレーバー付与組成物中の芳香化合物は、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3-エチルフェノール、4-エチルフェノール、グアイアコール、4-メチルグアイアコール、5-メチルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコール、オイゲノール、E-イソオイゲノール、Z-イソオイゲノール、4-ビニルフェノール、4-プロピルグアイアコール、および2,6-ジメトキシフェノールからなる。好ましくは、芳香化合物の量は約337ppm以下である。好ましくは、穀物ふすまは米ふすまである。
【0073】
しかしながら、穀物ふすまは235℃以下に加熱することが好ましい。
【0074】
本発明者らは、添付の実施例で概説する一連の実験を行った。これらの実験の中で、空気または窒素流の存在下または不存在下で加熱された穀物ふすまから調製することができる芳香化合物の量を測定した。
【0075】
本明細書のデータから、空気または窒素流の存在により、調製された穀物ふすまに由来し得る芳香化合物の量が増加したことが分かる。
【0076】
したがって、本発明の方法の好ましい実施形態では、ステップ(i)は、空気または窒素流の存在下で穀物ふすまを加熱することをさらに含む。
【0077】
水は化学反応を変化させ、本発明の組成物中の芳香化合物およびPAHの量を変化させるように作用する可能性があるため、外因性の水が存在しないことが好ましい。
【0078】
本発明の方法の好ましい実施形態では、方法は、
(iii)加熱された穀物ふすまに外因性の水を添加すること、
(iv)生じる熱水蒸留物を回収すること、
(v)ステップ(iv)の熱水蒸留物を、ステップ(ii)によって生成したフレーバー付与組成物と混ぜ合わせること
をさらに含む。
【0079】
この実施形態では、加熱された穀物ふすまへの外因性の水がある程度添加されることで、内因性の水が枯渇した後に加熱反応を完了させることができる。
【0080】
本発明の方法の残りのステップは明らかであり、以下の本出願の実施例の項でも説明される。好ましくは、ステップ(i)によって生成したフレーバー付与組成物は、凝縮物、熱水蒸留、または蒸気蒸留として回収される。
【0081】
本発明のさらなる態様は、本発明の方法のいずれかに従って調製されたフレーバー付与組成物を提供する。
【0082】
本発明は、フレーバー成分としてのフレーバー付与組成物の使用にも関する。言い換えると、本発明は、フレーバー付与組成物またはフレーバー付き物品の味覚特性を付与、強化、改善、または修正するための方法またはプロセスであって、この方法は、例えばその典型的なノートを付与するために、有効量の本発明のフレーバープロファイルを前記組成物または物品に添加することを含む、方法またはプロセスに関する。
【0083】
典型的な有効量は、組成物またはそれが配合される物品の重量を基準として、0.001ppm~1000ppm、より好ましくは0.1ppm~500ppm、より好ましくは0.5ppm~350ppm、最も好ましくは1ppm~100ppm程度の本発明の組成物である。
【0084】
「組成物の使用」は、フレーバー産業において有利に使用することができる本発明の任意の組成物の使用も本明細書では理解する必要がある。
【0085】
「味」は、味の知覚および味の感覚を意味することが意図されている。
【0086】
実際にフレーバー付与成分として有利に使用することができる前記組成物も本発明の目的である。
【0087】
本発明のこの態様には、本発明のフレーバー付与組成物または本発明の方法のいずれかに従って調製されたフレーバー付与組成物が希釈された形態で提供される場合も含まれる。例えば、本発明のフレーバー付与組成物は、例えば水で75%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、1%、0.5%、0.25%、0.1%、0.05%、0.025%、0.01%の濃度に希釈することができる。
【0088】
したがって、本発明は、
i.少なくとも本発明のフレーバー組成物;
ii.フレーバー担体、フレーバー付与併用成分、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの成分;ならびに
iii.任意選択的な少なくとも1種のフレーバー補助剤;
を含むフレーバー付与組成物にも関する。
【0089】
「フレーバー担体」とは、フレーバー付与成分の官能特性を有意に変えない限りにおいて、フレーバーの観点から実質的に中性である物質を意味する。担体は液体であっても固体であってもよい。
【0090】
適切な液体担体としては、例えば、乳化系、すなわち溶媒と界面活性剤の系、またはフレーバーに一般的に使用される溶媒が挙げられる。フレーバーに一般的に使用される溶媒の性質および種類についての詳細な説明は、網羅することはできない。適切な溶媒としては、例えば、プロピレングリコール、トリアセチン、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(neobee(登録商標))、クエン酸トリエチル、ベンジルアルコール、エタノール、植物油、例えば亜麻仁油、ヒマワリ油、もしくはヤシ油、またはテルペン類が挙げられる。
【0091】
適切な固体担体としては、例えば、吸収性ガムまたはポリマー、さらにはカプセル化材料が挙げられる。そのような材料の例には、単糖、二糖、もしくは三糖、天然もしくは加工デンプン、親水コロイド、セルロース誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、タンパク質もしくはペクチンなどの壁形成および可塑化材料、さらにはH. Scherz, Hydrokolloide: Stabilisatoren, Dickungs- und Geliermittel in Lebensmitteln, Band 2 der SchriftenreiheLebensmittelchemie, Lebensmittelqualitaet, Behr’s Verlag GmbH & Co., Hamburg, 1996などの参照テキストで列挙されている材料が含まれ得る。カプセル化は、当業者に周知のプロセスであり、例えば噴霧乾燥、凝集、押出、コアセルベーションなどの技術を使用して行うことができる。
【0092】
「フレーバー付与併用成分」とは、本明細書では、快楽効果を与えるためにフレーバー付与調製物または組成物中で使用される化合物を意味する。言い換えると、そのような成分は、フレーバーであると見なされるためには、単に味を有するだけでなく、組成物の味を肯定的な形または心地よい形で付与または修飾できると当業者によって認識されなければならない。
【0093】
フレーバー付与組成物中に存在するフレーバー併用成分の性質およびタイプは、本明細書でより詳細な説明を保証するものではなく、当業者はその一般常識に基づいて、ならびに使用目的または用途および望まれる官能効果に従って選択することができる。一般的には、これらのフレーバー併用成分は、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アセテート、ニトリル、テルペノイド、窒素または硫黄を含むヘテロ環化合物、および精油などの多様な化学的分類に属しており、前記賦香併用成分は天然であっても合成起源であってもよい。これらの併用成分の多くは、いずれの場合も、S. Arctanderによる書籍であるPerfume and Flavor Chemicals, 1969, Montclair, New Jersey, USAもしくはそのより最近のバージョンなどの参考テキスト、または同様の性質の他の著作物、ならびにフレーバー分野の豊富な特許文献の中に列挙されている。前記併用成分は、制御された形で様々なタイプのフレーバー付与化合物を放出することが知られている化合物であってもよいことも理解される。
【0094】
「フレーバー補助剤」とは、本明細書では、色、特定の耐光性、化学的安定性などの追加の利益を付与することができる成分を意味する。フレーバー付与組成物に一般的に使用される補助剤の性質および種類についての詳細な説明は、網羅することはできない。しかしながら、そのような補助剤は、一般知識に基づいて、および意図される使用または用途に従ってそれらを選択することができる当業者には周知である。
【0095】
少なくとも本発明のフレーバー組成物と少なくとも1種のフレーバー担体とからなる組成物、ならびに少なくとも本発明のフレーバー組成物と少なくとも1種のフレーバー担体と少なくとも1種のフレーバー併用成分と任意選択的な少なくとも1種のフレーバー補助剤とを含むフレーバー付与組成物は、本発明の特定の実施形態を表す。
【0096】
さらに、本発明のフレーバー組成物は、前記抽出物が添加される消費者向け製品の味を肯定的に付与または修正するために、フレーバーのあらゆる分野で有利に使用することができる。結果として、本発明は、上で定義した本発明のフレーバー組成物を含む、フレーバー付き消費者向け製品に関する。
【0097】
本発明のフレーバー組成物は、フレーバー付き消費者向け製品に添加することができる。これは、そのまま、または本発明のフレーバー付与組成物の一部として添加することができる。
【0098】
明確にするために明記しておくと、「フレーバー付き消費者向け製品」とは、食品であっても飲料であってもよく、揚げ物であってもそうでなくてもよく、冷凍であってもそうでなくてもよく、低脂肪であってもそうでなくてもよく、マリネされたもの、衣を付けられたもの、冷蔵されたもの、脱水されたもの、インスタントのもの、缶詰、戻されたもの、レトルト、または保存されたものであってよい食用製品を表すことが意図されている。したがって、本発明によるフレーバー付き物品は、本発明の抽出物、ならびに望まれる食用製品、例えば香味キューブの味およびフレーバープロファイルに対応する任意選択的な有益な作用物質を含む。
【0099】
食品または飲料の成分の性質および種類は、ここでより詳細な説明を保証するものではなく、当業者であれば、一般知識に基づいて、かつ前記製品の性質に応じてそれらを選択することができる。
【0100】
前記フレーバー付き消費者向け製品の典型的な例としては、以下のもの:
・ 香味料または調味料、例えばストック、香味キューブ、粉末ミックス、フレーバー付きオイル、ソース(例えばレリッシュ、バーベキューソース、ドレッシング、グレービーソース、スイートおよび/またはサワーソース)、サラダドレッシング、またはマヨネーズ;
・ 鶏肉、牛肉、または豚肉ベースの製品、魚介類、すり身、または魚肉ソーセージなどの肉ベースの製品;
・ 透明なスープ、クリームスープ、チキンもしくはビーフのスープ、またはトマトもしくはアスパラガスのスープなどのスープ;
・ インスタント麺、米、パスタ、ポテトフレークまたは揚げ物、麺、ピザ、トルティーヤ、ラップなどの炭水化物ベースの製品;
・ スプレッド、チーズ、普通または低脂肪マーガリン、バター/マーガリンブレンド、バター、ピーナッツバター、ショートニング、プロセスチーズ、またはフレーバー付きチーズなどの乳製品または脂肪製品;
・ スナック、ビスケット(例えばチップスまたはクリスプ)または卵製品、ポテト/トルティーヤチップ、電子レンジ用ポップコーン、ナッツ、ブレッツェル、餅、せんべいなどの塩味の製品;
・ 模倣食品、例えば乳製品(例えば油脂および増粘剤から作られた改質チーズ)、または魚介類もしくは肉類(例えばベジタリアン用代用肉、ベジバーガー)、または類似品;
・ ペットもしくは動物用の食品;または
・ 温かい飲み物(例えばお茶やコーヒー)、炭酸入りソフトドリンク、アルコール飲料(例えばウイスキー)、すぐに飲める飲料、または粉末ソフトなどの飲料
が挙げられる。
【0101】
上述したフレーバー付き消費者向け製品の一部は、本発明のフレーバー組成物にとって攻撃的な媒体となる可能性があり、そのため、例えばカプセル化によって、後者を早期の分解から保護する必要がある場合がある。
【0102】
好ましい実施形態では、本発明のフレーバー組成物は、食品が加熱処理される前に、すなわち例えば調理、ロースト、またはグリルされる前に食品に添加される。
【0103】
本発明のフレーバー組成物を様々な上述した製品に配合することができる割合は、広い値の範囲内で変化する。これらの値は、フレーバー付けされる消費者向け製品の性質および望まれる官能効果、ならびに本発明による組成物が当該技術分野で一般的に使用される賦香成分もしくはフレーバー付与成分、溶媒、または添加剤と混合される場合の所定の基剤中での併用成分の性質に依存する。
【0104】
例えば、フレーバー付き消費者向け製品の場合、典型的な濃度は、それらが配合される消費者向け製品の重量を基準として、0.001ppm~1000ppm、より好ましくは0.1ppm~500ppm、さらにより好ましくは0.5ppm~350ppm、最も好ましくは1ppm~100ppm程度の本発明の抽出物または組成物である。
【0105】
以降で、本発明の利点および長所を説明する以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0106】
実施例
実施例1:穀物ふすまからのスモーキーなフェノールの熱生成
概要
スモークフレーバーは、EUでは天然のフレーバーとして位置づけされていない。天然の代替物に対するビジネスニーズがあるため、熱により生成するスモーキーな匂いに対する穀物ふすまの可能性を調査した。ふすまには、燻製食品の主要な臭気物質であるフェノール類の前駆体が豊富に含まれている。穀物のふすまを丸型フラスコ中で焙煎し、発生する凝縮物を回収した。焙煎時間と温度が、対象のフェノール類および8種類の穀物ふすまの生成に及ぼす影響を調べた。100gのふすまから、最大1.9mg/gの対象フェノール(最大0.9mg/gのグアイアコールを含む)を含む30~35mlの蒸留物が得られる。235℃で3時間焙煎したトウモロコシふすまが最も高い官能評価を受け、これを試作のために選択した。これはフレーバーリストからは肯定的な評価を受けた。出発原料のトウモロコシふすまはデンプン生産の食品グレードの副産物として広く入手可能であり、トウモロコシは食物アレルギー誘発性とは無関係である。
【0107】
序論
スモークフレーバーは薪を燃焼させ、その煙を凝縮させることで得られる。得られた煙凝縮物(液体煙)は精製され、さらに処理されて、スモークの香りを付与するために食品に使用される。しかしながら、スモークフレーバーはEUでは天然のフレーバーとして位置づけされていない。また、薪の熱分解中の高温は、有毒化合物を形成する大きなリスクを引き起こす。そのため、EUでは、多環芳香族炭化水素類(PAH)の含有量をベンゾ[a]ピレン(BaP)10μg/kg、およびベンズ[a]アントラセン20μg/kgに制限している
【0108】
フェノール類は、燻製食品とスモークフレーバーの両方において必須の重要な臭気物質である2~8。確かに、それらはスモークフレーバーの天然代替品においても不可欠である。クマル酸、フェルラ酸、およびシナピン酸などのフェニルプロパン酸類は、スモーキーなフェノール類の前駆体である図1は、フェルラ酸の熱分解についてFiddlerが提案したスキームを示している10
【0109】
本発明者らは、フェノール前駆体を豊富に含む食品を加熱することによるスモーキーなフェノール類の生成を研究している。穀物ふすまは、フェルラ酸およびその他のフェニルプロパン酸類が豊富に含まれており11、安価でありながら食品として位置づけされているため、これらを選択した。選択した200~250℃の温度は、薪の火の温度(約600℃)よりも低く、パンを焼いたり、肉や黒麦芽をローストしたりするのに使用される温度に近い12
【0110】
1.結果と考察
1.1.フェノール系の対象の臭気物質
分析は、芳香に関連するフェノール類の定量に焦点を当てた。燻製食品中の臭気閾値を超える濃度のフェノール類2、13、14を対象フェノール類として選択した(図2)。酢酸やカルボニル化合物などの他の関連臭気物質は研究の範囲外であった。
【0111】
1.2.米ふすまの焙煎
予備試験では、ガラス管内の米ふすま(1~2g)を、加熱した金属ブロックの中で200~350℃で2~4時間加熱した。凝縮した蒸留物をショートパス蒸留ブリッジを介して回収した。蒸留物の一部は、独特のスモーキーな匂いを有していた。
【0112】
その結果を受け、試験をより大きなスケールで継続した。米ふすま(100g)を丸底フラスコに入れ、ショートパス蒸留を介してウシ型受器に接続した。米ふすまの入ったフラスコをシリコンオイルバスに浸し、235℃で5時間加熱した。安全上の理由のため、引火点が高い(>300℃)シリコンオイルを使用した。焙煎中にそれぞれ1時間に相当する5つのフラクションを回収した。5時間後、フラスコをオイルバスから出し、水(20ml)を添加してさらに30分間蒸留を継続し、その後得られた蒸留物(フラクション6)を回収した。
【0113】
表1に各フラクションの蒸留物の体積を示す。100gのふすまから、最初の5時間の加熱中(F1~F5)に20.6ml、水を添加して蒸留を継続した後(F6)に12.4ml、合計33mlの蒸留物を回収した。F3は対象フェノール類を最も豊富に含むフラクションであり、F6がそれに続いた。フェノール組成は様々なフラクションで異なっていた。4-ビニルグアイアコール(10)は、F1(56%)およびF2(15%)でより高い割合を有していた。対照的に、グアイアコール(6)はF1からF5まで比例的に増加した。フラクションF6は、F1~F5と比較して、グアイアコール(6)よりも4-エチルフェノール(5)と4-エチルグアイアコール(9)を比例的に多く含んでいた。これらはグアイアコール(205℃)と比較して沸点が高い(218℃および236℃)ため、最初の5時間の間に蒸留物中に持ち越される5および9は少ないと考えられる。水を添加した後は、熱水蒸留がより効率的であった可能性がある。その結果、焙煎後の熱水蒸留は、ふすまからのフェノール系化合物の収率を向上させる可能性がある。
【0114】
【表1】
【0115】
加熱時間はフェノール収率に大きく影響を与えた。グアイアコールの収率は、様々な温度で5時間にわたってほぼ直線的に増加した(図3)。235℃の温度では、220℃(8.1mg)の2.1倍多くのグアイアコール(17.0mg)が生成した。研究した他のフェノール類も同様の傾向を示している(表2を参照)。主な化合物はグアイアコールであり、4-エチルフェノール、4-エチルグアイアコール、4-ビニルグアイアコールがそれに続いた。それらの比率は220℃から250℃までほぼ一定であった(65:16:11:8)。4-メチルグアイアコールは匂いの閾値(21μg/kg)が低いため15、4-メチルグアイアコールも芳香に大きく寄与していると考えられる。対象フェノール類のパーセント割合は温度とともに1%から3.6%に増加する。
【0116】
【表2】
【0117】
1.3.穀物の品種の影響
異なる穀物のふすまは異なる栄養成分(炭水化物、タンパク質、脂肪)を有している。同様に、フェノール酸類(例えばフェルラ酸やクマル酸)の含有量も異なる11ため、どのフェノールがどの程度形成されるかに影響を与える可能性がある。
【0118】
8種類のふすまを235℃で5時間焙煎した。トウモロコシふすまが最も多くのフェノール類を生成し(合計59mg/100g)、その後小麦ふすま(32mg/100g)、そして米ふすま(27mg/100g)が続いた(表3)。図4は、米ふすま蒸留物ではグアイアコールが主なフェノールであるのに対し、トウモロコシふすま蒸留物では4-エチルグアイコールと4-ビニルグアイアコールが比較的大きな割合を有していることを示している。4-エチルフェノールの形成は米ふすまからが好ましいようである。
【0119】
【表3】
【0120】
1.4.他のパラメータの影響
焙煎中の空気の流れ、窒素の流れ、真空。
【0121】
一部の反応ステップには酸化が含まれるため、焙煎中の空気の有無はフェノールの形成に影響を与える可能性がある(図1)。その結果、参照試験(R1)を用いた新しい一連の実験で、穏やかな空気の流れ(R2)、穏やかな窒素の流れ(R3)、および減圧(100mbar、R4)を用いた実験を行った(表4、図5に図示)。空気の流れだけでなく窒素の流れも、対象フェノール類の合計量を増加させた。
【0122】
対照的に、真空(100mbar)では概して形成が減少した。興味深いことに、真空では4-ビニルグアイアコールのレベルが8倍に増加した。R4中の4-ビニルグアイアコール濃度が高い理由は、100mbarにおけるその低い沸点である可能性がある。これは最初に形成される反応生成物の1つであるため、さらに分解される前に部分的に蒸留された可能性がある。
【0123】
【表4】
【0124】
加圧調理したサンプルR6およびR7は、凍結乾燥した参照R5よりも総フェノール濃度が低かった(表4、図5)。全ての対象のフェノール類の量は、R5よりも水で処理したサンプルR6で少なく、特に4-ビニルグアイアコールで少なかった(389μg対2984μg)。グアイアコールのみが多量に形成された(24mg対20mg)。同様に、ギ酸で処理した米ふすまでは、全ての対象フェノール類の蒸留物が少ない量であった。明らかに、前処理では、対象フェノール類に関して参照試験と有意に異なる結果は得られなかった。この手段はそれ以上追求しなかった。加えて、処理条件(加圧下で150℃)は、EUでは天然フレーバーとしての表示から除外されるであろう(加圧調理の制限は120℃)。
【0125】
1.5.有毒化合物:ベンゾ[a]ピレンおよびアクリルアミド
薪の高い燃焼温度に起因して、燻製食品には健康上の懸念、特に多環芳香族炭化水素類(PAH)が存在する可能性の懸念が存在する。EUの規制により、スモークフレーバー中のPAH濃度が制限されている。主な化合物であるベンゾ[a]ピレン(BaP)は10μg/kgに制限されている。アクリルアミドも、熱処理された食品に含まれる別の潜在的に有毒な化合物である。朝食用シリアルであるふすま製品についてのEUにおける基準レベルは300ppbである18
【0126】
2つの米ふすま蒸留物サンプル(235℃、5時間)を外部の研究所でBaPとアクリルアミドについて分析した。5時間加熱後の蒸留物(フラクション1~5)、ならびに水を加えてさらに蒸留した後の蒸留物(フラクション6)を調査した。いずれのサンプルにもBaPは含まれていなかった(表5)。アクリルアミドはフラクション6で検出されたが、朝食用シリアル中のアクリルアミドのEU基準値よりもはるかに低いレベルであった。トウモロコシふすま蒸留物はそのままでは消費されず、食品中で低レベルで利用される。したがって、最終製品中のアクリルアミドのレベルはさらに低くなり、おそらく1ppbをはるかに下回るであろう。まとめると、これらの予備的な結果は、焙煎した穀物ふすま蒸留物にPAHとアクリルアミドによって引き起こされるリスクがないことを示している。
【0127】
【表5】
【0128】
1.6.フレーバーリストによる官能評価
官能コメントを得るために、3種の焙煎した穀物抽出物(米、トウモロコシ、小麦)を、様々な関連会社の数人のフレーバーリストに送った。これらは、穀物ふすまから、235℃で3時間乾留し、続いて水を添加し、さらに30分間蒸留することによって製造した。スモークノートは、風味のある食品(例えばハム、ソーセージ)および飲料(例えばウイスキー)の両方に利用することができる。そのため、香辛料と飲料の両方のフレーバーリストからフィードバックを求めた。彼らのコメントは、適切なテイスティング濃度が500ppmであると指摘している。
【0129】
3種の試作品は全てスモーキーな特徴を有していたが、他の香りのノート(例えばローストされた、クラッカーのような、コーヒーのような)も有していた。全体として、トウモロコシと小麦の試作品が米の試作品よりも好まれた。トウモロコシふすま抽出物は全体的に好まれており、その上小麦とは異なり主要な食物アレルゲンではない。
【0130】
2.結論
スモークフレーバーの天然の代替品として強く求められている、スモーキーな芳香を持つ成分を製造するために、乾燥加熱の出発原料として穀物ふすまを使用するという仮説が実証された。これは実現可能である。得られる蒸留物は、スモーキーなフレーバーを有し、天然として位置づけられる。
【0131】
まとめ:
・ 温度が高く、反応時間が長いほど、対象フェノール系化合物が多くなる。
・ 試験した穀物ふすまの中では、トウモロコシふすま、小麦ふすま、および米ふすまが最も優れていた。
・ ベンズ[a]ピレンやアクリルアミドなどの有毒化合物の生成はわずかなようである。
・ フレーバーリストからの官能フィードバックは、焙煎したトウモロコシふすま蒸留物が好ましいスモークフレーバーの代替品であることを示している。
【0132】
2.1.方法
焙煎(グラムスケール)。米ふすま(1~2g)をガラス管(10×1.5cm、すり合わせ14/20)内で高温ドライブロックヒーター(Grant BT5D、Grant Instruments, Cambridge, UK)で200~350℃で2~4時間加熱した。得られた蒸留物をショートパス蒸留ブリッジを介して回収した。
【0133】
焙煎(100グラムスケール)。ショートパス蒸留を介して受けフラスコ付きのウシ型受器に接続された500ml丸型フラスコに穀物ふすま(100g)を入れた。フラスコをシリコンオイルバスに浸した。その後、加熱を開始した。オイルバスは、マグネチックスターラー(IKA RCT basic、Guangzhou, PRC)を使用して磁気撹拌子により撹拌した。これを、Systag(Rueschlikon, Switzerland)の保護された電気加熱コイルを使用して加熱した。安全上の理由から、引火点が高い(>300℃)シリコンオイルを使用した。典型的な実験では、1時間ごとに1つのフラクションを回収し、合計5つのフラクションを回収した。次いで、丸底フラスコをオイルバスから出し、ショートパス蒸留部分から水(20ml)を添加し、その後さらに30分間蒸留を継続した(フラクション6)。全てのフラクションを遠心分離し、分析のために冷蔵保存した。
【0134】
熱によるふすまの前処理。参考として、米ふすま(100g)を、Alpha1-4 LSCbasic凍結乾燥機(Martin Christ, Osterode, Germany)を使用して凍結乾燥した。水による前処理のために、米ふすまを水と均一に混合し(1:2.5w/w)、100mlの蒸解オートクレーブ(Xi’an Instruments Ltd., PRC)に入れ、これを150℃の実験用オーブンの中に入れた(Binder ED23、Binder, Shanghai, PRC)。15時間後、オートクレーブを室温に戻し、前処理したふすまスラリーを凍結乾燥した。水の代わりに10%ギ酸を用いて同様の実験を行った。
【0135】
3.参考文献
1.European Parliament. REGULATION (EC) No 2065/2003 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 10 November 2003 on smoke flavourings used or intended for use in or on foods. Official Journal of the European Union 2003, 46, L 309/1.
2.Kosowska, M.; Majcher, M. A.; Jelen, H. H.; Fortuna, T., Key Aroma Compounds in Smoked Cooked Loin. J Agric Food Chem 2018, 66, 3683-3690.
3.Varlet, V.; Serot, T.; Cardinal, M.; Knockaert, C.; Prost, C., Olfactometric determination of the most potent odor-active compounds in salmon muscle (Salmo salar) smoked by using four smoke generation techniques. J Agric Food Chem 2007, 55, 4518-25.
4.Poisson, L.; Schieberle, P., Characterization of the Most Odor-Active Compounds in an American Bourbon Whisky by Application of the Aroma Extract Dilution Analysis. J Agric Food Chem 2008, 56, 5813-5819.
5.Giri, A.; Zelinkova, Z.; Wenzl, T., Experimental design-based isotope-dilution SPME-GC/MS method development for the analysis of smoke flavouring products. Food Addit Contam Part A Chem Anal Control Expo Risk Assess 2017, 34, 2069-2084.
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8.Baloga, D. W.; Reineccius, G. A.; Miller, J. W., Characterization of ham flavor using an atomic emission detector. J Agric Food Chem 1990, 38, 2021-2026.
9.Wittkowski, R.; Ruther, J.; Drinda, H.; Rafiei-Taghanaki, F., Formation of Smoke Flavor Compounds by Thermal Lignin Degradation. In Flavor precursors, Teranishi, R., Ed. ACS: Washington DC, 1992; pp 232-243.
10.Fiddler, W.; Parker, W. E.; Wasserman, A. E.; Doerr, R. C., Thermal decomposition of ferulic acid. J Agric Food Chem 1967, 15, 757-761.
11.Mattila, P.; Pihlava, J.-M.; Hellstroem, J., Contents of Phenolic Acids, Alkyl- and Alkenylresorcinols, and Avenanthramides in Commercial Grain Products. J Agric Food Chem 2005, 53, 8290-8295.
12.Hornsey, I. S., Malting. In Brewing, Royal Society of Chemistry: Cambridge, 2013; pp 25-65.
13.Shu, N. Starkenmann, C. Cured ham knowledge. Analysis of two European ham selected as golden standards; 2013, 5816-R.
14.Poisson, L. Charakterisierung der Schluesselaromastoffe in amerikanischem Bourbon Whisky und schottischem Single Malt Whisky. PhD thesis. Technical University Munich, 2003.
15.https://www.leibniz-lsb.de/en/databases/leibniz-lsbtum-odorant-database/copyright-and-citation/
16.European Parliament. REGULATION (EC) No 1334/2008 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 16 December 2008 on flavourings and certain food ingredients with flavouring properties for use in and on foods and amending Council Regulation (EEC) No 1601/91, Regulations (EC) No 2232/96 and (EC) No 110/2008 and Directive 2000/13/EC. Official Journal of the European Union 2008, 51, L354/34.
17.Esposito, D.; Antonietti, M., Redefining biorefinery: the search for unconventional building blocks for materials. Chem Soc Rev 2015, 44, 5821-35.
18.European Commission. COMMISSION REGULATION (EU) 2017/2158 of 20 November 2017 establishing mitigation measures and benchmark levels for the reduction of the presence of acrylamide in food. Official Journal of the European Union 2017, 60, L 304/24.
【0136】
実施例2:組成
本発明者らは、以下の文献で報告されている製品の組成を再調査した。
D1:Ross et al, J Analytical and Applied Pyrolysis 2011, vol 7, no 6, pages 763-776.
D2:Knowles et al J. Science of Food and Agriculture 1975, vol 26, no 2, pages 189-196
D3: Anonymous Guiaiacol
D4:Wittkowski et al Chemistry, Process Design, and safety for the nitration industry ACS Symposium Series 13 May 1992, vol 190, pages 232-243
D5:Kosowska et al J Agricutural and Food Chemistry vol 66, no 14, pages 3683-3690
【0137】
結果を以下の表6に示す。
【0138】
【表6】
【0139】
本発明者らは、さらに、本明細書に記載の本発明の方法を使用した、様々な材料からの生成物の組成も分析した。
【0140】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】