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特表2024-509671リガンド担持ペロブスカイト発光結晶組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】リガンド担持ペロブスカイト発光結晶組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/66 20060101AFI20240227BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240227BHJP
   C09K 11/74 20060101ALI20240227BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20240227BHJP
   C09K 11/57 20060101ALI20240227BHJP
   C09K 11/58 20060101ALI20240227BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20240227BHJP
   C09K 11/85 20060101ALI20240227BHJP
   C09K 11/77 20060101ALI20240227BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20240227BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240227BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20240227BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240227BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20240227BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240227BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20240227BHJP
   H10K 59/38 20230101ALI20240227BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20240227BHJP
   H10K 59/35 20230101ALI20240227BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240227BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20240227BHJP
   H10K 50/115 20230101ALI20240227BHJP
   H10K 50/125 20230101ALI20240227BHJP
【FI】
C09K11/66
C09K11/08 G
C09K11/74
C09K11/88
C09K11/57
C09K11/58
C09K11/61
C09K11/08 A
C09K11/85
C09K11/77
C09K11/00 E
C08K3/01
C08K3/24
C08L101/00
C08K9/06
G09F9/30 360
H05B33/12 E
H10K59/38
H10K85/50
H10K59/35
G02B5/20
H05B33/14 Z
H10K50/115
H10K50/125
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544065
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2022051292
(87)【国際公開番号】W WO2022157279
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】21152825.2
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519177828
【氏名又は名称】ウニベルジテート フュル ボーデンクルトゥル ウィーン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ベーツァト シルマルディ
(72)【発明者】
【氏名】エーリク ライムフルト
【テーマコード(参考)】
2H148
3K107
4H001
4J002
5C094
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA01
2H148AA07
2H148AA18
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC02
3K107CC07
3K107CC22
3K107CC45
3K107EE25
3K107FF18
4H001CA04
4H001CC13
4H001CF01
4H001XA01
4H001XA03
4H001XA06
4H001XA07
4H001XA11
4H001XA16
4H001XA19
4H001XA25
4H001XA29
4H001XA32
4H001XA35
4H001XA37
4H001XA38
4H001XA47
4H001XA50
4H001XA51
4H001XA52
4H001XA55
4H001XA66
4H001XA69
4H001XA70
4H001XA79
4H001XA82
4H001XA83
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA031
4J002AA051
4J002AA061
4J002AA071
4J002AC071
4J002AC111
4J002BB071
4J002BB121
4J002BC031
4J002BD041
4J002BG041
4J002BG061
4J002BK001
4J002BL011
4J002BN151
4J002CF061
4J002CG001
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4J002CH041
4J002CM041
4J002CN033
4J002CP033
4J002CP091
4J002DE186
4J002FB266
4J002FD206
4J002GP00
5C094AA10
5C094AA31
5C094BA21
5C094FA01
5C094FB01
5C094FB02
(57)【要約】
少なくとも700g/molの分子量を有するポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶を含むペロブスカイト発光結晶組成物であって、ポリマー表面リガンドは、主鎖及び側鎖を含むポリマーであり、少なくとも1個の側鎖は、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1個の官能基を含み、ペロブスカイト発光結晶と表面リガンドとの結合は、前記表面リガンドの官能基を介して起こり、それによってペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体が形成され、ペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体は、ポリマーに埋め込まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも700g/molの分子量を有するポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶を含むペロブスカイト発光結晶組成物であって、前記ポリマー表面リガンドが、主鎖及び側鎖を含むポリマーであり、少なくとも1個の側鎖が、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1個の官能基を含み、前記ペロブスカイト発光結晶と前記表面リガンドとの結合が、前記表面リガンドの官能基を介して起こり、それによってペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体が形成される、ペロブスカイト発光結晶組成物。
【請求項2】
前記ポリマー表面リガンドが、700g/mol~400,000g/mol、好ましくは2,000g/mol~20,000g/mol、特に好ましくは3,000g/mol~20,000g/molの範囲の分子量を有する、請求項1に記載のペロブスカイト発光結晶組成物。
【請求項3】
前記ペロブスカイト発光結晶が、式Aの化合物から選択され、式中、
Aが、Cs、Rb、K、Na、Li、アンモニウム、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、ストロンチウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、プロトン化チオ尿素、又はこれらの混合物から選択される1つ以上の1価のカチオンを表し、
Mが、Pb2+、Ge2+、Sb2+、Te2+、Sn2+、Bi3+、Mn2+、Cu2+、及び任意の希土類イオン、好ましくはCe2+、Tb2+、Eu2+、Sm2+、Yb2+、Dy2+、Tm2+;及びAg若しくはAu、又はこれらの混合物を含む群から選択される1種以上の金属を表し、
Xが、F、Cl、Br、I、シアン化物イオン、チオシアネート、又はこれらの混合物を含む群から選択される1つ以上のアニオンを表し、
aが、1~4の整数であり、
bが、1又は2の整数であり、
cが、3~9の整数であり、
好ましくは、式AMX、式AMX又はこれらの混合物である、
請求項1又は2に記載のペロブスカイト発光結晶組成物。
【請求項4】
前記ポリマー表面リガンドが、C、O、N、Si、Sから選択される骨格原子を有する主鎖を含み、(a)前記ポリマー表面リガンドの側鎖の少なくとも0.0025mol%が、前記官能基の1個以上を含むか、又は(b)前記ポリマー表面リガンドの前記側鎖が、前記ポリマー表面リガンドの800個の骨格原子ごとに前記官能基の少なくとも1個を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のペロブスカイト発光結晶組成物。
【請求項5】
前記主鎖が、-Si-O-、-C-O-、-C-C-、-C-C-O-、Si-C-、-Si-C-O-、-Si-O-C-O-、-C-S-、-C-S-C-から選択される繰り返しサブユニットの構造を含み、任意のC及び/又はSiが、独立して置換されてよく、及び/又は前記側鎖が、官能基含有構造-Z-Lを含み、Zが、分枝状、環状又は直鎖状のC1~30アルキル、C1~30アルケニル、C1~30アルキニル、C1~30アリール、C1~30シクロアルキルから選択される基であり、式中、1個以上のCが、O、N、Si、S又はPによってヘテロ置換されてもよく、Lが、前記官能基から選択され、好ましくは、好ましくは、少なくとも100個の繰り返しサブユニットごとに、1個の官能基含有構造が含まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載のペロブスカイト発光結晶組成物。
【請求項6】
前記ポリマー表面リガンドが、一般式
【化1】
を有し、式中、
が、Si、Cから選択され、
が、存在しないか、又はSi、C、O、N、Sから選択され、
が、Si、C、O、Sから選択され、
が、存在しないか、又はSi、C、O、N、Sから選択され、
mが、0~2,000の整数であり、
nが、0~2,000の整数であり、
、R、R、R、R、R、R、Rが、独立して、存在しないか、H、分枝状、環状又は直鎖状のC1~30アルキル、C1~30アルケニル、C1~30アルキニルから選択され、任意選択で、O、S、N又はPヘテロ置換されており、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ビニル、アクリル、メタクリル、エチルアミノプロピル、エチルアミノエチルから選択され、
式中、Dが、存在しないか、O、N又はSである場合、R及びRが、存在せず、
式中、Dが、存在しないか、O、N又はSである場合、R及びRが、存在せず、
Lが、存在しないか、又はアミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール、ビニル、ビニルシロキサン、アルコキシシリル、-Si(CH、エポキシド、カルビノール、アクリレート、飽和若しくは不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、環状若しくは分岐状炭化水素、ハロゲン化若しくは非ハロゲン化炭化水素、又はこれらの混合物の群から選択され、
及びR10が、存在しないか、又は独立して、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、ヒドロキシ基、チオール又はこれらの混合物の群から選択され、
式中、R及びR10が存在するか、R及びLが存在するか、R10及びLが存在するか、Lが存在するか、又はR、R10及びLが存在し、
polが、平均重合度であり、好ましくは4~5401の数であり、又は
前記ポリマー表面リガンドが、以下のサブユニット
【化2】
を有するコポリマーであり、式中、
、D、D、D、R、R、R、R、R、R、R、R、Lが、上記の意味を有し、前記サブユニットが、骨格原子D、D、D及びDで接続され、前記コポリマー中のサブユニット2対サブユニット1の分子比が、0.0025対1である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のペロブスカイト発光結晶組成物。
【請求項7】
ペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体が、ポリマー、好ましくはエラストマーに埋め込まれている、請求項1~6のいずれか一項に記載のペロブスカイト発光結晶組成物。
【請求項8】
前記ポリマーが、-CH-OH、-CH-NH又は-CH-SH官能基を含まないか、又はこれらの官能基を、前記ポリマー表面リガンドの骨格原子1,000個当たり1個の官能基未満の量で含み、好ましくは、前記ポリマーが、請求項5又は6において前記表面リガンドについて定義された前記主鎖を有するが、Lを含まず、又は好ましくは、前記ポリマーが、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタラート(PET)から選択される、請求項7に記載のペロブスカイト発光結晶組成物。
【請求項9】
ペロブスカイト発光結晶を提供することと、少なくとも700g/molの分子量を有するポリマー表面リガンドを提供することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を生成する方法であって、前記ポリマー表面リガンドが、主鎖及び側鎖を含むポリマーであり、少なくとも1個の側鎖が、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1個の官能基を含み、前記ペロブスカイト発光結晶を前記ポリマー表面リガンドと混合し、及び/又は前記ポリマー表面リガンドの存在下で前記ペロブスカイト発光結晶を結晶化させ、それによってペロブスカイト発光結晶-表面リガンド複合体を形成することを含む、方法。
【請求項10】
前記ポリマー表面リガンドの存在下で前記ペロブスカイト発光結晶を生成することを含む、請求項9に記載の方法であって、前記ペロブスカイト発光結晶が、式Aの化合物から選択され、式中、
Aが、Cs、Rb、K、Na、Li、アンモニウム、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、ストロンチウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、プロトン化チオ尿素、又はこれらの混合物から選択される1つ以上の1価のカチオンを表し、
Mが、Pb2+、Ge2+、Sb2+、Te2+、Sn2+、Bi3+、Mn2+、Cu2+、及び任意の希土類イオン、好ましくはCe2+、Tb2+、Eu2+、Sm2+、Yb2+、Dy2+、Tm2+;及びAg若しくはAu、又はこれらの混合物を含む群から選択される1種以上の金属を表し、
Xが、F、Cl、Br、I、シアン化物イオン、チオシアネート、又はこれらの混合物を含む群から選択される1つ以上のアニオンを表し、
aが、1~4の整数であり、
bが、1又は2の整数であり、
cが、3~9の整数であり、
好ましくは、式AMX、式AMX又はこれらの混合物である、
方法。
【請求項11】
ポリマー、好ましくはエラストマーを、前記ペロブスカイト発光結晶-表面リガンド複合体と混合すること、又は前記ペロブスカイト発光結晶-表面リガンド複合体の周囲にポリマーを形成して、前記ペロブスカイト発光結晶-表面リガンド複合体を前記ポリマーに埋め込むことを更に含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記ペロブスカイト発光結晶を、流体中で、アニオン、好ましくは置換されるアニオンとは異なるアニオンとイオン結合したアンモニウムカチオン、好ましくは第一級アンモニウムカチオンを含むポリマー表面リガンドと接触させる工程を含む、請求項3に記載のペロブスカイト発光結晶組成物中の前記アニオンを部分的又は完全に置換する方法であって、好ましくは、前記ポリマー表面リガンドが、前記選択された官能基の代わりにアニオンとイオン結合した前記アンモニウムカチオンを含むことを除いて、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー表面リガンドである、方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載のペロブスカイト発光結晶組成物の、好ましくはディスプレイにおける、発色成分としての使用、又は、好ましくは紫外線、X線光子やガンマ線光子などの高エネルギー光子又は荷電粒子を吸収するための、荷電粒子吸収体材料若しくは光子吸収体材料としての使用、又はシンチレータ材料としての使用。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載のペロブスカイト発光結晶組成物と、励起源と、前記ペロブスカイト発光結晶に機能的に接続された検出システムと、を含む放射線検出装置であって、好ましくは、前記励起源が、高エネルギーを有する荷電粒子、又は600nm未満、好ましくは480nm未満の波長を有する高エネルギー光子、を生成する源を含み、及び/又は好ましくは、前記検出システムが、デジタルカメラ、光電子増倍管(PMT)検出器、薄膜トランジスタ(TFT)、フォトダイオードセンサー、CCDセンサー、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサー又はインジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)TFTセンサー、特に好ましくはデジタルカメラを含む、放射線検出装置。
【請求項15】
光源、好ましくは青色発光光源又は電気励起光源と、ポリマー膜と、を含む発光ディスプレイセルであって、前記ポリマー膜が、少なくとも2つのゾーンを含み、第1のゾーンが、前記光源の光に対して透明であり、第2のゾーンが、前記ポリマー膜中に、請求項1~8のいずれか一項に記載のペロブスカイト発光結晶組成物を含み、好ましくは、前記ポリマー膜中に、請求項1~8のいずれか一項に記載のペロブスカイト発光結晶組成物を含む第3のゾーンを更に含み、好ましくは、前記第2のゾーン及び前記第3のゾーンの前記ペロブスカイト発光結晶が、前記光源による照射時に異なる波長、好ましくは赤色光及び緑色光で発光する、発光ディスプレイセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト発光結晶の形成、及びそのリガンド担持による安定化、及びポリマーマトリックスへの埋め込みの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイトは、独特な光電子学的特性及び結晶学的特性を有している。その高性能、低コスト、豊富さから、ペロブスカイトは、太陽電池、レーザー、発光ダイオード(LED)、水分解、及びレーザー冷却など、幅広い用途で非常に有望な材料分類である(Haら、Chem.Sci.2017,8,2522-2536)。発光を示すペロブスカイト量子ドット(PQD)又はペロブスカイトナノ結晶(いわゆるペロブスカイト発光結晶)を使用すると、フォトルミネッセンス量子収率(PLQY)が更に向上する。特に量子ドット(QD)では、QDの物理的直径がボーア半径よりも小さいため、量子閉じ込め効果が優勢となり、正孔及び電子の閉じ込めによって放射再結合が促進される(Chaら、J.Mater.Chem.C,2017,5,6667-6671)。
【0003】
Protesescuら(Nano Lett.2015,15,3692-3696)は、明るい発光と広い色域を有する光電子材料としてのペロブスカイトナノ結晶を開示している。
【0004】
Pathakら(Chem.Mater.2015,27,8066-8075)は、調整可能な白色発光のためのペロブスカイトナノ結晶を記載している。
【0005】
しかしながら、そのイオン性により、ペロブスカイトは、外部ストレス、例えば、極性溶媒、熱、酸素、水分、光、又は電場に極めて敏感である(Wangら、Adv.Mater.2016,28,10710-10717)。ペロブスカイトの安定性を高めるために、(i)あらかじめ形成されたメソポーラス無機マトリックスの含浸と孔充填による膜形成、(ii)ポリマー又はカーボンナノチューブ(CNT)複合体を含むペロブスカイト膜の被覆によるマクロスケール不動態化、又は(iii)個々のナノ結晶粒子の不動態化など、幾つかの不動態化方法が開発されてきた。しかしながら、これらの戦略では、ペロブスカイト発光結晶の保護が不十分であったり、発光効率が低下したりすることが多い(Wangら、Adv.Mater.2016,28,10710-10717)。
【0006】
外部応力に対する安定性を向上させるために、発光結晶を有機マトリックスに封入することは、最先端では一般的に行われている。特にQDは、狭い帯域幅で純粋かつ飽和した発光色、低加工コスト、QDの大きさを変化させることによる発光波長の調整の容易さのおかげで、量子ドット発光ダイオード(QLED)テレビに広く使用されている。QDは、発色量子ドット強調フィルム(QDEF)に組み込まれ、青色LEDバックライトから発せられる光を純粋かつ飽和した赤色と緑色の光に変換する。これら3原色の組み合わせにより、高いエネルギー効率で、画素レベルで任意の色を生成することができる。
【0007】
QDEFにおけるペロブスカイト量子ドット(PQD)の使用は、カドミウムやインジウムに基づく旧世代のQDに対して、すなわち(i)製造コストがより低い、(ii)毒性がより低い、(iii)彩度がより優れている、といった幾つかの利点がある。しかしながら、PQDを発色フィルムに使用するためには、上記のようなPQDの劣化に対する感受性を十分に克服する必要がある。
【0008】
Chaら(J.Mater.Chem.C,2017,5,6667)は、膜をパターニングし、エッチングによってパターニング粒子を除去し、ポリマー膜のエッチングされた細孔内でペロブスカイトQDを成長させることを含む、ポリマー膜におけるサイズ制御可能な有機金属ハロゲン化物PQDの形成を記載している。
【0009】
Linら(ACS Appl.Mater.Interfaces、DOI:10.1021/acsami.7b15989)は、LED用の耐水性伸縮性ペロブスカイト埋め込み繊維膜を記載している。
【0010】
Panら(Nano Lett.2017,17,11,6759-6765)は、高い環境安定性を有するグラフェン酸化物-ポリマー-ペロブスカイトナノ結晶三元複合体を記載している。
【0011】
Rajaら(ACS Appl.Mater.Interfaces 2016,8,35523-35533)は、安定性のためにペロブスカイトナノ結晶をマクロスケールポリマーマトリクスにカプセル化することを開示している。
【0012】
Wangら(Adv.Mater.2016,28,10710-10717)及びWO2018/009530A1は、ポリマーの膨潤及び脱膨潤による有機-無機ペロブスカイト-ポリマー複合膜の安定性向上について研究している。ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、酢酸セルロース(CA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、及びポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)というポリマーの使用が記載されている。
【0013】
WO2019/177537A1は、ポリマーマトリックスがビニル基を含むモノマーから形成される、ペロブスカイト含有ポリマー膜を記載している。
【0014】
US6,716,927は、ペロブスカイトが有機化合物(例えば、(CH(CHC≡CC≡CH-NHPbBr)中に一体化されている、層状ペロブスカイト化合物を記載している。
【0015】
US9,905,765B2及びUS2018/0159041A1は、ペロブスカイトがメチルアンモニウム塩化鉛(CHNHPbCl)ナノピラー結晶である、ポリマー-ペロブスカイト膜を記載している。これらのナノピラーに適したポリマーは、ポリイミドである。
【0016】
EP3296378A1は、ペロブスカイト-ポリマー複合体を記載しており、ペロブスカイトは、式CsABであるか、又はその式RNHABによる有機部分を含み、ポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、酢酸セルロース(CA)、ポリスルホン(PSF)、芳香族ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)のいずれか1つである。
【0017】
X線吸収のためのポリマーマトリックス中の無鉛ハロゲン化金属ペロブスカイトは、WO2019/195517A1に記載されている。
【0018】
ペロブスカイト発光結晶の色スペクトルは、Nedelcuら(Nano Lett.2015,15,8,5635-5640)、Wongら(Adv.Mater.2019,1901247)、Torunら(ACS Appl.Nano Mater.2019,2,3,1185-1193)、Akkermanら(J.Am.Chem.Soc.2015,137,32,10276-10281)、Zhangら(J.Am.Chem.Soc.2016,138,23,7236-7239)、及びGuhrenzら(Chem.Mater.2016,28,24,9033-9040)が記載されているように、アニオン交換によって変化させることができる。しかしながら、異なる色を発光するペロブスカイト発光結晶を同じポリマーマトリックスに封入すると、狭い発光スペクトルを広げる強力なイオン交換効果が観察され、したがって純度と色の飽和度が低下する(Wangら、Angew.Chem.Int.2016,55,7924-7929)。
【0019】
イオン交換を回避する一般的な方法は、例えばUS2019/0018287A1では、複数のサブ層からなる発色層の使用である。各ペロブスカイト発光結晶組成物が別々のサブ層に埋め込まれるため、純粋かつ飽和した色が生成される。しかしながら、異なる色の生成のために別々の層を製造することは、複雑さと製造コストを著しく増加させる。
【0020】
イオン交換を回避する別の方法は、ペロブスカイト発光結晶を、その表面に強固に結合する(界面活性剤又は分散剤とも呼ばれる)高親和性リガンドでコーティングすることを伴う。このようなリガンドは、異なる組成のペロブスカイト発光結晶を同じポリマーマトリックスに混合して埋め込む際に、それらの異なる発光スペクトルを維持することを可能にするだけでなく、ペロブスカイト発光結晶の安定性に関して追加の利点をもたらす。
【0021】
コーティング工程は、発光結晶の合成中に行うことも、合成後のカプセル化工程によって行うこともできる。無機化合物(例えば、SiO、TiO、Al、PbS、酸化グラフェンなど)及びポリマー(例えば、ポリスチレン(PS)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)など)を用いるコーティングは、ペロブスカイト発光結晶の安定性を高めることが知られている(Liuら、Nano Lett.2019,19,9019-9028)。
【0022】
酸化物コーティングを用いるペロブスカイト発光結晶のコーティングは、US2019/0148602A1に開示されている。酸化物は、シリカ、アルミナ、チタン、酸化ホウ素及び酸化亜鉛から選択される。
【0023】
Huangら(Chem.Sci.,2016,7,5699-5703)は、多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)でコーティングされた耐水性CsPbXナノ結晶の製造、及びLEDにおけるその使用を記載している。
【0024】
Kimら(Angew.Chem.Int.Ed.2020,59,10802-10806)は、スルホベタイン又はホスホリルコリン双性イオンをリガンド及びマトリックスとして有する機能性ポリマーを含む、良好なペロブスカイトナノ粒子分散性及び光学的透明性を有するポリマー膜を開示している。
【0025】
US2019/0153313A1は、ペロブスカイト結晶、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤又は双性イオン性界面活性剤を含む固体ポリマー組成物、並びにアクリレートポリマー、スチレンポリマー、シリコーンポリマー、カーボネートポリマー及び環状オレフィンポリマーの群から選択される硬化ポリマーを開示している。
【発明の概要】
【0026】
本発明の目的は、ポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶組成物を提供することであり、それにより、優れた安定性と優れた輝度を有するペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体を形成する。
【0027】
本発明の更なる目的は、前記ペロブスカイト発光結晶組成物を製造し、ポリマーマトリックス中に埋め込む方法を提供することである。
【0028】
驚くべきことに、多座配位ポリマー表面リガンド、すなわち2つ以上の官能基を含むポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶は、安定性が向上し、優れた輝度で純粋かつ飽和した色を発光することが判明した。
【0029】
さらに驚くべきことに、多座配位ポリマー表面リガンドとして第一級アミン基を含むポリシロキサンを有するペロブスカイト発光結晶は、(i)少なくとも90%以上のフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)、及び20nm以下の半値全幅(FWHM)に反映されるように、発光色の純度と彩度が高いことを示す輝度が特に高いこと、並びに(ii)安定性及び耐老化性に優れていること、が見出された。
【0030】
さらに驚くべきことに、本発明によるポリマー表面リガンドを有する本発明のペロブスカイト発光結晶は、それに応じて処理パラメーターを調整すると、優れた分散性及び均一性で所望のポリマーに埋め込むことができることが見出された。
【0031】
さらに驚くべきことに、本発明によるポリマー表面リガンドを有する本発明のペロブスカイト発光結晶は、ポリスチレン(PS)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、in situ架橋されたポリジメチルシロキサン(PMMA)、又は特に優れた分散性と均一性を備えた、in situ架橋された紫外線硬化性樹脂、に埋め込むのに特に適していることが見出された。
【0032】
本発明は、ペロブスカイト発光結晶組成物及びその製造方法を提供する。特に、本発明は、分子量が少なくとも700g/mol、好ましくは少なくとも2,000g/mol、特に好ましくは少なくとも3,000g/molのポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶を含むペロブスカイト発光結晶組成物を対象としており、ポリマー表面リガンドは、主鎖及び側鎖を含むポリマーであり、少なくとも1個の側鎖は、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1個の官能基、好ましくは第一級アミンを含み、ペロブスカイト発光結晶と表面リガンドとの結合は、表面リガンドの官能基を介して起こり、それによってペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体を形成する。
【0033】
本発明は、ペロブスカイト発光結晶を提供することと、少なくとも700g/mol、好ましくは少なくとも2,000g/mol、特に好ましくは3,000g/molの分子量を有するポリマー表面リガンドを提供することと、を含む、ペロブスカイト発光結晶組成物の生成方法を更に対象としており、ポリマー表面リガンドは、主鎖及び側鎖を含むポリマーであり、少なくとも1個の側鎖は、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1個の官能基、好ましくは第一級アミンを含み、前記ペロブスカイト発光結晶をポリマー表面リガンドと混合し、及び/又はポリマー表面リガンドの存在下でペロブスカイト発光結晶を結晶化し、それによってペロブスカイト発光結晶表面-リガンド複合体を形成する。
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の全ての好ましい実施形態は、相互に関連しており、各好ましい実施形態及び/又は開示された特徴は、互いに組み合わせることができ、また2つ以上の好ましい実施形態/特徴のいずれかの組み合わせとしてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本出願の文脈内では、ペロブスカイト発光結晶及びポリマー表面リガンドを含む本発明のペロブスカイト発光結晶組成物は、「ペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体」又は「粒子組成物」とも呼ばれる。「ペロブスカイト発光結晶及びポリマー表面リガンド」は、「粒子」とも呼ばれる。
【0036】
本発明の文脈で使用される用語「a」、「an」、「the」及び類似の用語は、本明細書で別途指示されない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方を包含すると解釈されるべきである。
【0037】
特に明記しない限り、以下の定義が本出願の文脈に適用される。
【0038】
「発光結晶」(LC)という用語は、発光を示し、2nm~200μmの範囲の大きさを有する単結晶及び多結晶粒子の形態の量子ドット(QD)及び/又は(ナノ)結晶を含む粒子に関する。多結晶粒子の場合、1つの結晶は、結晶又はアモルファスの相境界によって接続された、幾つかの結晶ドメイン(粒子)で構成されてもよい。この文脈において、「結晶」という用語は、発光結晶が典型的に示す1以上の構造次元にわたるナノ構造の長距離秩序を指す。本発明の粒子及び組成物の発光は、好ましくはフォトルミネセンスを意味する。
【0039】
本発明における「前駆体」とは、ペロブスカイト発光結晶の前駆体であり、一価カチオン(A)、二価カチオン(M)、アニオン(X)及びゲスト分子を含む。前駆体は、アモルファス相、結晶相、又はアモルファス相と結晶相の混合物であってもよい。
【0040】
「量子ドット」(QD)は、発光結晶のサブグループであり、通常2nm~15nmの範囲の直径を有する。この範囲では、QDの物理直径は、励起子のボーア半径の範囲内にあり、量子閉じ込め効果が優勢になる。その結果、QDの電子状態、したがってバンドギャップは、QDの組成と物理的な大きさの関数になる、すなわち、吸収/発光の色は、QDの大きさに関係する。QDサンプルの光学品質は、その均一性に直接関係しており、単分散性が高いほど半値全幅(FWHM)が小さくなる。
【0041】
「半値全幅」(FWHM)という用語は、分布内の従属変数がその最大値の半分に等しくなる、独立変数の2つの値の差を意味する。すなわち、FWHMは、最大振幅の半分であるy軸上の点の間で測定されたスペクトル曲線の幅である。発光結晶の発光スペクトルに関して、FWHMは、その大きさ及び化学構造の両方に依存する。FWHMが小さいほど、放出される光/色の純度と彩度は高くなる。
【0042】
「フォトルミネッセンス量子収率」(PLQY)は、発光結晶の輝度を示し、吸収された光子数に対する放出された光子数の比として計算される。
【0043】
「発光結晶(LC)複合体」という用語は、発光結晶及びマトリックスを含む複合体に関する。LC複合体では、発光結晶は、発光結晶を互いに空間的に分離し、酸素や湿度などの外部ストレスから保護することによって安定化させる、ポリマーマトリックスや無機マトリックスなどのマトリックスに埋め込まれている。
【0044】
「マトリックス」という用語は、ポリマーマトリックスや無機マトリックスなどの複合体の連続相を指し、その中に不連続相が埋め込まれている。本発明の文脈内では、「マトリックス」という用語は、ポリマーマトリックスを意味する。マトリックスに埋め込まれた不連続相は、好ましくは、補強効果又は特性向上効果を有し、(ナノ)粒子、繊維、フィラメント、織物から選択され得る。本出願において、不連続相は、ポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶を含む、本発明のペロブスカイト発光結晶組成物である。
【0045】
「ポリマー」という用語は、多数の共有結合した繰り返し単位を含む高分子を指す。この用語は、合成ポリマー及び天然ポリマー、及び熱可塑性物質、熱硬化性物質(熱硬化性樹脂とも呼ばれる)及びエラストマーの群を含む。熱可塑性物質は、アモルファス又は半結晶性ポリマーのいずれかであり、分岐の有無、すなわち側鎖の存在の有無に拘らず線状ポリマー鎖を含む。熱硬化性物質及びエラストマーは、三次元的に架橋したポリマーである。本出願の範囲では、ポリマーという用語は、同様にホモポリマー、コポリマー及びターポリマーを含む。ポリマーは、一緒になって分子の連続鎖を形成する、共有結合した原子の最も長い系列である、「主鎖(backbone)」又は「主鎖(backbone chain)」とも呼ばれるものを含む。主鎖は、重合過程の際に結合する類似のモノマー部分に由来する繰り返しサブユニットを含む。モノマー中の2つの重合性基の間にある原子は、共有結合した原子の最も長い系列(すなわち、側鎖を除いた主鎖)で結合すると、主鎖の一部となる。
【0046】
「プレポリマー」という用語は、モノマー及びオリゴマーを含むものと理解される。モノマーは、重合を受けることができ、それによって高分子の構造に構成単位として寄与する分子である。オリゴマーは、通常、多数の同一又は類似のモノマー単位を化学的に結合することによって形成される約4~100の繰り返し単位を含む。
【0047】
「硬化(cure)」/「硬化(curing)」、「架橋(crosslink)」/「架橋(crosslinking)」、「硬化(harden)」/「硬化(hardening)」という用語は、本発明の範囲内で互換的に使用される。これらの用語は、線状ポリマー鎖(すなわち、熱可塑性物質)間又は多官能性プレポリマー間に共有結合を形成することによって、三次元ポリマーネットワークを生成することを定義する。架橋は、好ましくは硬化剤(架橋剤、硬化剤(curative)又は硬化剤(curing agent)ともいう)及び/又は(光)開始剤の存在下で、例えば加熱時に、又は放射線、例えば紫外線、ガンマ線又はX線により実施することができる。
【0048】
「溶媒」という用語は、物質や化合物などの物質を溶解できる液体分子に関する。溶媒は、無機分子又は有機分子、飽和分子又は不飽和分子、極性分子又は非極性分子、及び直鎖状分子、分岐分子又は環状分子の群から選択することができる。有機溶媒は、典型的には2~24個の炭素原子、好ましくは4~16個の炭素原子を有する。本出願の範囲において、溶媒という用語は、特に有機溶媒を指す。
【0049】
「リガンド」という用語は、懸濁液又はコロイド中の発光結晶などの粒子の分離を改善し、これらの粒子の凝集又は沈降を防止するために使用される、溶媒以外の有機分子を示す。「リガンド」という用語とは別に、「界面活性剤」、「分散剤(dispersing agent)」又は「分散剤(dispersant)」という用語も同義に使用される。リガンドは、例えば共有結合、イオン結合、ファンデルワールス結合又は他の分子相互作用を介して、粒子表面に物理的又は化学的に結合する。リガンドは、粒子を溶媒に添加する前又は添加した後のいずれかで粒子表面に結合され、それによって粒子分離の所望の改善を提供する。リガンドは、ポリマー、オリゴマー及びモノマーの群から選択することができ、主鎖、側鎖又は末端基に極性及び/又は非極性官能基を含んでもよい。本出願の範囲において、「多座配位ポリマー表面リガンド」とは、2つ以上の官能基を含むポリマーを意味する。
【0050】
「懸濁液」という用語は、固体粒子が溶解せず、溶媒のバルク全体に懸濁して自由に浮遊する不均質混合物を意味する。固体粒子は、機械的撹拌によって溶媒/流体全体に分散される。
【0051】
本発明は、ポリマー表面リガンドによって結合されたペロブスカイト発光結晶を含むペロブスカイト発光結晶組成物に関する。ペロブスカイト結晶は、少なくとも700g/molの分子量を有するポリマー表面リガンドによって結合されており、ポリマー表面リガンドは、主鎖と側鎖を含むポリマーであり、少なくとも1個の側鎖は、アミン基、カルボキシレート基、ホスフェート基、チオレート基、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1個の官能基を含み、ペロブスカイト結晶と表面リガンドとの結合は、表面リガンドの官能基を介して起こり、それによってペロブスカイト発光結晶表面-リガンド複合体を形成する。リガンドは、1種類のみ含むことも、あるいは官能基の組み合わせを含むこともできる。例えば、アニオン性官能基(例えば、カルボキシレート、ホスフェート)及びカチオン性官能基(例えば、アンモニウムとしてのアミン)を含む双性イオン性リガンドでは、このような組み合わせが挙げられる。アミンは、第一級、第二級又は第三級アミンであってもよい。アミンは、荷電していても荷電していなくてもよい。
【0052】
ペロブスカイト発光結晶は、好ましくは式Aの化合物から選択され、式中、
Aは、Cs、Rb、K、Na、Li、アンモニウム、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、ストロンチウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、プロトン化チオ尿素、又はこれらの混合物から選択される1つ以上の1価のカチオンを表し、
Mは、Pb2+、Ge2+、Sb2+、Te2+、Sn2+、Bi2+、Mn2+、Cu2+、及び任意の希土類イオン、好ましくはCe2+、Tb2+、Eu2+、Sm2+、Yb2+、Dy2+、Tm2+;及びAg若しくはAu、又はこれらの混合物を含む群から選択される1種以上の金属を表し、
Xは、F、Cl、Br、I、シアン化物、チオシアネート、又はこれらの混合物を含む群から選択される1つ以上のアニオンを表し、
aは、1、2、3、4などの1~4の整数であり、
bは、1又は2の整数であり、
cは、3、4、5、6、7、8、9などの3~9の整数である。
【0053】
好ましくは、ペロブスカイト発光結晶は、式AMX、式AMX又はこれらの混合物であり、A、M、Xは上記の意味を有する。
【0054】
好ましくは、無機ペロブスカイト発光結晶、特に好ましくは式CsPbBrのものが使用される。
【0055】
本発明組成物のペロブスカイト発光結晶は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した場合、その長手方向に沿った平均サイズが2nm~200μm、好ましくは5nm~50nmであってもよい。量子閉じ込め効果は、この範囲の粒子サイズにおいて優勢であり、かつ非常に効果的であり、したがって、本発明のペロブスカイト発光結晶組成物の化学構造と共に、優れたフォトルミネッセンス量子収率を可能にする。
【0056】
本発明によるポリマー表面リガンドは、C、O、N、Si、S及び側鎖から選択される骨格原子を有する主鎖を含む。好ましくは、ポリマー表面リガンドの側鎖の少なくとも0.0025mol%は、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの組み合わせから選択される官能基の1個以上を含む;あるいは、ポリマー表面リガンドの側鎖は、ポリマー表面リガンドの800個の骨格原子に対してこれらの官能基の少なくとも1個を含む。特に好ましくは、ポリマー表面リガンドは、0.5%~25%の官能基、より好ましくはアミン基、最も好ましくは第一級アミン基を含み、これらの基は、ペロブスカイト発光結晶に特に高い安定性を与える。
【0057】
ポリマー表面リガンドの分子量は、700g/mol~400,000g/mol、好ましくは900g/mol~400,000g/mol、より好ましくは1,100g/mol~400,000g/mol、より好ましくは1,300g/mol~400,000g/mol、さらに好ましくは1,600g/mol~400,000g/mol、さらに好ましくは2,000g/mol~400,000g/mol、さらに好ましくは2,500g/mol~400,000g/mol、さらに好ましくは3,000g/mol~400,000g/mol、さらに好ましくは2,000g/mol~20,000g/mol、最も好ましくは3,000g/mol~20,000g/molの範囲である。この分子量の範囲内であれば、ポリマー表面リガンドは、ペロブスカイト発光結晶上への滞留時間が比較的に長く、優れた安定性を与えることが驚くべきことに判明した。
【0058】
好ましくは、ポリマー表面リガンドは、23℃の温度で10~100,000cSt、より好ましくは50~10,000cStの粘度を有する粘性流体である。これにより、適切な溶媒にすぐに溶解でき、加工が容易になる。
【0059】
ポリマー表面リガンドは、ペロブスカイト発光結晶の周囲に平均厚さ1nm~100nmの層で存在することができる。この厚さにより、ペロブスカイト発光結晶の優れた保護と安定性が確保され、粒子表面への滞留時間が長くなる一方で、フォトルミネッセンス量子収率は、大きく損なわれない。
【0060】
好ましい実施形態では、ポリマー表面リガンドの主鎖は、-Si-O-、-C-O-、-C-C-、-C-C-O-、-Si-C-、-Si-C-O-、-Si-O-C-O-、C-S-、C-S-C-、-S-S-、-S-O-S-、-S-O-から選択される繰り返しサブユニットの構造を含み、式中、任意のC及び又はSiは、独立して置換され得る。
【0061】
ポリシロキサンは、好ましくは本発明においてポリマー表面リガンドとして使用され、ビス(3-アミノプロピル)末端ポリ(ジメチルシロキサン)、アミノプロピルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、例えば、(2~3%アミノプロピルメチルシロキサン)-ジメチルシロキサンコポリマー、(4~5%アミノプロピルメチルシロキサン)-ジメチルシロキサンコポリマー、(6~7%アミノプロピルメチルシロキサン)-ジメチルシロキサンコポリマー、(9~11%アミノプロピルメチルシロキサン)-ジメチルシロキサンコポリマー、(20~25%アミノプロピルメチルシロキサン)-ジメチルシロキサンコポリマー、アミノエチルアミノプロピル-メトキシシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、例えば、分枝構造を有する(0.5~1.5%アミノエチルアミノプロピル-メトキシシロキサン)-ジメチルシロキサンコポリマー、分枝構造を有する(2~4%アミノエチルアミノプロピル-メトキシシロキサン)-ジメチルシロキサンコポリマー、又はこれらの混合物から選択することができる。
【0062】
ポリマー表面リガンドの側鎖は、好ましくは、官能基含有構造-Z-Lを含み、Zは、分枝状、環状又は直鎖状のC1~30アルキル、C1~30アルケニル、C1~30アルキニル、C1~30アリール、C1~30シクロアルキル、C1~30ヘテロアルキル、C1~30アルキルアミン、C1~30カルボキシアルキルであり、1個以上のCは、O、N、Si、S又はPによってヘテロ置換されてもよく、Lは、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの組み合わせから選択される官能基から選択される。好ましくは、少なくとも100個の繰り返しサブユニットごとに、1個の官能基含有構造を含む。1個の官能基のみを有するポリマー表面リガンドは、結晶の表面からの脱離が容易であるため、ペロブスカイト発光結晶を劣化から十分に保護しないことに留意されたい。反対に、2個以上の官能基を含むポリマー表面リガンド(いわゆる多座配位ポリマー表面リガンド)は、ペロブスカイト発光結晶の表面への滞留時間がより長い。官能基の1個が結晶表面から剥離しても、ポリマー表面リガンドは、残りの官能基によって、依然として表面に結合している。
【0063】
好ましくは、ポリマー表面リガンドは、一般式
【化1】
を有し、式中、
は、Si、Cから選択され、
は、存在しないか、又はSi、C、O、N、Sから選択され、
は、Si、C、O、Sから選択され、
は、存在しないか、又はSi、C、O、N、Sから選択され、
mは、0~2,000の整数であり、
nは、0~2,000の整数であり、
、R、R、R、R、R、R、Rは、独立して、存在しないか、H、分枝状、環状又は直鎖状のC1~30アルキル、C1~30アルケニル、C1~30アルキニルから選択され、任意選択で、O、S、N又はPヘテロ置換されており、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ビニル、アクリル、メタクリル、エチルアミノプロピル、エチルアミノエチルから選択され、
式中、Dが、存在しないか、O、N又はSである場合、R及びRは、存在せず、
式中、Dが、存在しないか、O、N又はSである場合、R及びRは、存在せず、
好ましくは、R、R、R、R、R、R及びRは、-CHであり;Rは、好ましくは、Lの存在下では-CH-であり、Lの非存在下では-CHであり、
Lは、存在しないか、又はアミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール、ビニル、ビニルシロキサン、アルコキシシリル、-Si(CH、エポキシド、カルビノール、アクリレート、飽和若しくは不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、環状若しくは分岐状炭化水素、ハロゲン化若しくは非ハロゲン化炭化水素、又はこれらの混合物の群から選択され;好ましくは、Lは、存在しないか、又はCアルキルアミン、Cアルキルアミン、Cアルキルアミン、Cアルキルアミン、Cアルキルアミン若しくはCアルキルアミン、特に好ましくは、-NH、-CH-NH、-CH-CH-NH、-CH-CH-CH-NH、-CH-CH-CH-NH-CH-CH-NH、又は-O-CHから選択される。R、R、R、R、R、R、R、Rは、好ましくは独立して、Cアルキル、Cアルキル、Cアルキル、Cアルキル、Cアルキル、又はCアルキルから選択される。
【0064】
及びR10は、存在しないか、又は独立して、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの混合物の群から選択され、
式中、R及びR10が存在するか、R及びLが存在するか、R10及びLが存在するか、Lが存在するか、又はR、R10及びLが存在すし、
好ましくは、R及びR10は、-CH、-NH、-CH-NH、-CH-CH-NH又はビス(3-アミノプロピル)から選択され、特に好ましくは、-CHである。
【0065】
polは、重合度であり、好ましくは3~1,000,000、好ましくは4~5,401の整数である。アミノプロピルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーの場合、polは、好ましくは、2,000g/mol~20,000g/molのポリマー表面リガンドの分子量に相当する、8~84の範囲である。好ましい実施形態では、DはSiであり、DはOであり、DはSiであり、DはOである。
【0066】
好ましい実施形態では、ポリマー表面リガンドは、以下のサブユニット
【化2】
を有するコポリマーであり、式中、
、D、D、D、R、R、R、R、R、R、R、R、Lは、上記の意味を有し、コポリマー中のサブユニット2対サブユニット1の分子比は、0.0025対1である。好ましくは、側鎖は、アニオン性、カチオン性、非イオン性又は双性イオン性である。サブユニットは、存在する場合、骨格原子D、D、D及びDで接続される。好ましい実施形態では、DはSiであり、DはOである。また、好ましくは、DはSiであり、DはOである。ポリマー表面リガンドは、サブユニット2、又はサブユニット1とサブユニット2の組み合わせを含んでもよい。サブユニット1及び/又はサブユニット2の異なる変種が存在してもよく、例えば、D、D、D、D、R、R、R、R、R、R、R、R、Lの異なる選択が存在してもよい。
【0067】
本発明によれば、(粒子と呼ばれる)ポリマー表面リガンドを有する多数のペロブスカイト発光結晶(LC)をポリマーマトリックス中に埋め込むことができ、これによりいわゆるLC複合体を生成することができる。「埋め込む」という用語は、これらの粒子の大部分がポリマーマトリックス内にあり、ポリマーマトリックスに囲まれていることを意味するが、一部の粒子は、ポリマーマトリックスの端部や表面に位置することもある。
【0068】
好ましい実施形態では、粒子は、ポリマー、好ましくはエラストマーに埋め込まれているため、この材料分類は、高い柔軟性と伸縮性を提供する。ポリマーは、固体形態であり、好ましくは1μm~50mm、特に好ましくは5μm~1mmの厚さを有し、この範囲は、QLEDテレビのQDEFやシンチレータなどの多数の用途において、そのように形成されたLC複合膜を使用できるようにするのに適している。
【0069】
固体ポリマーは、好ましくは、-CH-OH、-CH-NH又は-CH-SH官能基を含まないか、又はポリマー表面リガンドの骨格原子1,000個当たり1個未満の量のこれらの官能基を含む。好ましくは、固体ポリマーは、本発明によるポリマー表面リガンドについて定義したような骨格の化学構造を有するポリマーであるが、上記で定義したような構造単位Lを含まない。
【0070】
特に好ましくは、固体ポリマーは、(i)シリコーンゴム(Q)、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリルゴム(AEM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)を含むエラストマーの群から選択されるポリマー;若しくは(ii)ポリアクリレート、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリブタジエン(PB)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、を含む熱可塑性物質の群から選択されるポリマー;又はこれらの混合物である。
【0071】
CH-OH、-CH-NH又はCH-SH官能基を1個以上の繰り返し単位に含むポリマーは、ポリマー表面リガンドの官能基と相互作用し、反応する可能性が高い。しかしながら、処理パラメーター、特に硬化パラメーター(硬化温度、硬化時間、硬化中の圧力など)を注意深く選択し、使用する硬化系を調整して、均一な粒子分布を確保すると、-CH-OH、-CH-NH又はCH-SH官能基を含むポリマー、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂(PF)又はエポキシフェノールノボラック(EPN)を、ポリマーマトリックスとして採用することもでき、又はポリマーマトリックス及びポリマー表面リガンドが本質的に同じ化学構造を有することもできる。
【0072】
好ましくは、本発明によるLC複合体のマトリックス材料として採用されるポリマーは、透明である。これは、ポリマーが、ポリマーの厚さが少なくとも1mmであっても、光が著しく散乱することなく材料を透過するのを可能にすることを意味し、発光結晶によって放出される光の少なくとも80%、及び発光結晶を励起するために使用される光源の可能性のある光が透過する。特に好ましくは、ポリマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であるため、このポリマーは透明で、非常に柔軟で伸縮性があり、耐高温性があり、ポリマー表面リガンドの官能基と反応せず、簡便な加工と硬化を可能にする。このように、本発明のペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体を、in situ架橋されたPDMSに埋め込むことにより、優れた粒子分布が得られ、薄膜を容易に製造することができる。
【0073】
好ましい実施形態では、粒子は、固体ポリマーに0.0001重量%~90重量%、好ましくは0.1重量%~50重量%、より好ましくは1重量%~50重量%、さらに好ましくは1重量%~10重量%の濃度で存在し、この範囲内であれば、特に高いフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)が得られる一方で、良好な加工性及び良好な分散性が確保される。
【0074】
ポリマーマトリックス中の粒子分布は、例えば、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)、X線回折画像又は原子間力顕微鏡(AFM)などの顕微鏡画像によってLC複合体の表面又は断面を視覚的に分析することによって、あるいは硬度測定又は引張試験によってLC複合体を機械的に分析することによって、制御することができ、全体のLC複合体にわたって微小分子スケール及び巨大分子スケールでの均質性を確保することができる。
【0075】
本発明のLC複合体を高温で使用する場合、熱劣化を避けるのに十分な長期温度安定性を有するポリマーをマトリックス材料として選択するよう注意しなければならない。例えば、LEDの温度は、100℃を超えることがある。したがって、高温用途では、使用中の熱老化や劣化を避けるために、ポリマーは少なくとも120℃、より好ましくは少なくとも150℃、さらに好ましくは少なくとも180℃の長期温度安定性を有する必要がある。このことは、アモルファス熱可塑性物質及び架橋されたポリマー、すなわちエラストマー及び熱硬化性物質は、適用温度より高いガラス温度を有する必要があり、半結晶性熱可塑性物質は、適用温度より高いガラス温度又は溶融温度を有する必要があることを意味する。いずれにしても、全体の適用温度範囲にわたって均質な物性が確保されるように、エネルギー弾性状態からエントロピー弾性状態への遷移領域、又はエントロピー弾性状態から(結晶相の)溶融状態への遷移領域のいずれかが、LC複合体の適用温度範囲内に位置するポリマーを使用することは、避けなければならない。ポリマー又はLC複合体の熱的及び/又は熱機械的特性は、例えば、動的走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)及び/又は動的機械分析(DMA)によって評価することができる。
【0076】
好ましい実施形態では、ポリマー表面リガンドは、(a)ペロブスカイト発光結晶の表面に結合しているポリマー鎖の各々の側鎖に、少なくとも1個のアミン基、好ましくは2~5個のアミン基を有するポリシロキサン、又は(b)0.5%~25%の範囲のアミン基の含量を有するポリシロキサンであって、アミン基は、好ましくは第一級アミン基であり、ポリシロキサンの分子量は、好ましくは3,000g/mol~20,000g/molの範囲である。ポリシロキサンはさらに、ポリマー主鎖の片末端又は両末端にアミン基を含んでもよい。驚くべきことに、上記の分子量及び上記の範囲のアミン基の数を有するポリシロキサンを使用することにより、形成されたペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体が優れた安定性を示し、90%~95%の高いPLQYを示すことが見出された。
【0077】
異なる組成、したがって異なる発光スペクトルを有する本発明のペロブスカイト発光結晶-リガンド複合体の優れた安定性により、それらを同じポリマーマトリックス中に埋め込むことができる。イオン交換が回避されるため、組成の異なるペロブスカイト発光結晶の明瞭な発光スペクトルが維持される。その結果、異なる色の生成のために別々の層を製造する必要がなくなり、複雑さ及び製造コストの削減という点で大きな利点がもたらされる。
【0078】
本発明は、ペロブスカイト発光結晶を提供することと、少なくとも700g/mol、好ましくは少なくとも2,000g/mol、特に好ましくは少なくとも3,000g/molの分子量を有するポリマー表面リガンドを提供することと、を含む、ペロブスカイト発光結晶組成物を生成する方法に更に関するものであり、ポリマー表面リガンドは、主鎖及び側鎖を含むポリマーであり、少なくとも1個の側鎖は、アミン、カルボキシレート、ホスフェート、チオール又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1個の官能基、特に好ましくは第一級アミンを含み、当該方法は、前記ペロブスカイト発光結晶をポリマー表面リガンドと混合するか、又はポリマー表面リガンドの存在下でペロブスカイト発光結晶を結晶化させることにより、ペロブスカイト発光結晶-表面リガンド複合体を形成することを含む。
【0079】
好ましい実施形態では、本方法は、表面リガンドの存在下でペロブスカイト発光結晶の生成を含み、ペロブスカイト発光結晶は、式Aの化合物から選択され、式中、
Aは、Cs、Rb、K、Na、Li、アンモニウム、メチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、ストロンチウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、プロトン化チオ尿素、又はこれらの混合物から選択される1つ以上の1価のカチオンを表し、
Mは、Pb2+、Ge2+、Sb2+、Te2+、Sn2+、Bi3+、Mn2+、Cu2+、及び任意の希土類イオン、好ましくはCe2+、Tb2+、Eu2+、Sm2+、Yb2+、Dy2+、Tm2+;及びAg若しくはAu、又はこれらの混合物を含む群から選択される1種以上の金属を表し、
Xは、F、Cl、Br、I、シアン化物、チオシアネート、又はこれらの混合物を含む群から選択される1つ以上のアニオンを表し、
aは、1~4の整数であり、
bは、1又は2の整数であり、
cは、3~9の整数であり、
好ましくは、式AMX、式AMX又はこれらの混合物である。
【0080】
好ましくは、ペロブスカイト発光結晶の結晶化は、少なくとも2デバイの分子双極子モーメントを有する極性溶媒の存在下、及び2デバイ未満の分子双極子モーメントを有する低極性溶媒の存在下、ポリマー表面リガンドの存在下で起こる。極性溶媒及び有機溶媒は、好ましくは、製造を容易にするために約20℃~25℃の範囲の温度で液体である。好ましい実施形態では、極性溶媒及び有機溶媒は、200g/mol未満の分子量を有する。好ましくは、溶媒は140℃未満、特に好ましくは120℃未満の沸点を有する。
【0081】
極性溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルホルムアミド(NMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、プロピレンカーボネート、又はこれらの混合物から選択することができ、好ましくはDMSOである。
【0082】
低極性溶媒は、極性溶媒よりも極性が低い。例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル類、特にグリコールエーテル類、エステル類、アルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、スルホン類、ホスフィン類、アルキルカーボネート類、又はこれらの混合物から選択される有機溶媒であってよく、これらはまた、1個以上の置換基、例えば、ハロゲン(フルオロなど)、ヒドロキシ、C1~4アルコキシ、例えばメトキシ又はエトキシ、及びアルキル、例えばメチル、エチル、イソプロピル、によって置換されてもよい。好ましい実施形態では、低極性溶媒は、オレイン酸である。低極性溶媒中の炭素原子の数は、好ましくは30個未満である。
【0083】
ペロブスカイト発光結晶を形成するには、前駆体を極性溶媒に溶解して、保存溶液を形成する。ポリマー表面リガンドは、好ましくは、オレイン酸などの界面活性剤と組み合わせたトルエンなどの低極性溶媒に添加される。続いて、保存溶液を、100℃未満の温度、好ましくは20℃~25℃の範囲の温度で、ポリマー表面リガンドを含む低極性溶媒に添加し、続いて少なくとも2分間撹拌して、ペロブスカイト発光結晶を形成する。その後の合成は、好ましくは、反応溶媒中、例えばDMSOとトルエンの混合溶媒中で、溶媒支援沈殿法を使用して行われる。ポリマー表面リガンドを有する合成されたペロブスカイト発光結晶は、反応溶媒中で沈殿し、例えば遠心分離によって分離することができ、この後、例えば酢酸メチルで洗浄し、乾燥させることができる。
【0084】
ポリマー表面リガンドは、好ましくは、溶媒支援沈殿法により、合成中にペロブスカイト発光結晶に結合される。しかしながら、チオール基などの特定の官能基を含むポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶の合成は、前駆体のイオンに対する特定の官能基の高い結合親和性が結晶の形成を阻害するため、上記の溶媒支援沈殿法による合成は、不可能である。例えば、鉛に対するチオール基の結合親和性が高いため、臭化鉛の粒子形成への寄与が阻害され、臭化鉛が溶媒中に可溶な状態で残留する。しかしながら、チオール基などのこれらの官能基は、合成後のリガンド交換によって導入に成功することができ、その結果、より多くの官能基をポリマー表面リガンドに導入することが可能になる。
【0085】
本発明の別の実施形態では、ペロブスカイト発光結晶は、粉末の形態で提供され、ポリマー表面リガンドの溶液に添加される。好ましくは、その後、溶媒を除去し、及び/又は架橋反応を行い、ポリマー、好ましくはエラストマーを形成し、そこにポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶が埋め込まれる。
【0086】
本発明の更なる実施形態では、ポリマー表面リガンドは、記載した選択された官能基の代わりに、アニオンとイオン結合したアンモニウムカチオンを含む。これらのアニオンは、部分的に置換されていても、完全に置換されていてもよい。この置換は、ペロブスカイト発光結晶を、流体中で、アニオン、好ましくは置換されるアニオンとは異なるアニオンとイオン結合している、アンモニウムカチオン、好ましくは第一級アンモニウムカチオンを含むポリマー表面リガンドと接触させる工程を含む。
【0087】
ポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶の合成は、その大きさの均質な分布を得るために、より大きなサイズの結晶及び/又はその凝集体の大きさを小さくするために、粉砕工程が続いてもよい。例えば、結晶及び/又はその凝集体の最長寸法に沿った平均サイズは、5μm未満に低減され得る。剪断力は、例えば乳鉢を用いた手作業で加えられる。結晶及び/又はその凝集体は、反応溶媒中に懸濁させたまま粉砕することができ、又は既に乾燥状態である場合には、ポリマー、好ましくはLC複合体のマトリックス材料の形成を企図したポリマーと混合することができる。これにより、ペロブスカイト発光結晶の表面からのポリマー表面リガンドの脱離を回避しながら、結晶及び/又は凝集体が破壊されるように、剪断力を調整することができる。ポリマー表面リガンドは、ペロブスカイト発光結晶に優れた安定性を与え、粉砕工程の結果として、特性の著しい劣化が観察されず、そのことが、粉砕工程中に主に凝集物が分解され、粉砕工程後もペロブスカイト発光結晶の表面がポリマー表面リガンドで実質的に覆われたままであることを意味することに留意されたい。さらに、本発明のペロブスカイト発光結晶組成物は、粉砕工程後も高い輝度(PLQYが90%~95%)を示す。反対に、ポリマー表面リガンドを含まないペロブスカイト発光結晶は、PLQYがわずか5%と低い。このことは、本発明のペロブスカイト発光結晶組成物の安定性及び輝度が高く、粉砕工程後もこれらの特性が保持されていることを、明確に示している。本発明のペロブスカイト発光結晶組成物の優れた輝度は、本発明によるポリマー表面リガンド、特にその官能基、より詳細には、側鎖の官能基に関係している。
【0088】
本方法は、(i)ポリマー、好ましくはエラストマーと、ペロブスカイト発光結晶-表面リガンド複合体とを混合すること、又は(ii)ポリマー、好ましくはエラストマーを、ペロブスカイト発光結晶-表面リガンド複合体の周囲に形成して、ペロブスカイト発光結晶-表面リガンド複合体(以下では「粒子」と称する)をポリマーに埋め込むこと、を更に含むことができ、これはin situ重合及び/又はin situ架橋と称される。
【0089】
溶融若しくは軟化した熱可塑性ポリマー、又は液体及び/若しくは半固体のプレポリマーを、粒子及び適切な硬化系と混合する。この後、適当な硬化系を用いてポリマー又はプレポリマーをin situ重合及び/又はin situ架橋させ、粒子が埋め込まれた、ポリマー、好ましくは三次元架橋されたポリマー、特に好ましくはエラストマーを生成する。固体ポリマーマトリックスを形成するために本発明で使用することができるプレポリマーは、アクリレート類、カーボネート類、スルホン類、エポキシ類、ウレタン類、イミド類、エステル類、フラン類、アミン類、スチレン類、シリコーン類、及びこれらの混合物の群から選択することができる。
【0090】
in situ架橋反応を行うためには、適切な硬化系、すなわち適切な架橋剤、活性化剤及び/又は開始剤が存在する必要がある。エネルギーは、熱的に、又は放射線、例えばUV光の照射によって導入することができる。ペロブスカイトは、光開始剤として作用することができるので、UV光による放射を使用する場合には、追加の光開始剤を省略することができる。好ましくは、熱硬化プロセスが適用される。硬化温度及び時間は、ポリマー及び硬化系に従って選択する必要がある。好ましくは、硬化温度は、80℃~180℃、より好ましくは90℃~150℃、更に好ましくは100℃~120℃の範囲であり、特に好ましくは110℃である。硬化時間は、適用される硬化温度に依存し、好ましくは20分未満、より好ましくは10分未満、最も好ましくは3分~5分である。一般に、硬化反応は、常圧で行われるが、特にin situ架橋されたポリマーネットワークの生成に液体プレポリマーを使用する場合に生じやすい気泡の形成を避けるために、硬化反応を真空下で行うか、又は少なくとも硬化反応前に混合物を真空チャンバー内で脱気することが好ましい場合がある。
【0091】
本発明によるペロブスカイト発光結晶組成物は、好ましくはLCDディスプレイ又はOLEDディスプレイなどのディスプレイにおける発色成分として、又は、好ましくは紫外線、X線光子やガンマ線光子などの高エネルギー光子又は荷電粒子を吸収するための、荷電粒子吸収材料若しくは光子吸収材料として、又はシンチレータ材料として使用することができる。
【0092】
本発明によるペロブスカイト発光結晶組成物は、放射線検出装置中に更に存在することができる。このような放射線検出装置は、本発明のペロブスカイト発光結晶組成物とは別に、励起源と、ペロブスカイト発光結晶に機能的に接続された検出システムと、を含み、好ましくは、励起源は、X線、ガンマ線、荷電粒子、600nm未満、好ましくは480nm未満の波長を有する紫外線などの、高エネルギーを有する荷電粒子、又は高エネルギー光子を生成する源を含み、及び/又は好ましくは、検出システムは、デジタルカメラ、光電子増倍管(PMT)検出器、薄膜トランジスタ(TFT)、フォトダイオードセンサー、CCDセンサー、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサー又はインジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)TFTセンサー、特に好ましくはデジタルカメラを含む。
【0093】
本発明によるペロブスカイト発光結晶組成物は、光源、好ましくは青色発光光源又は電気励起光源と、ポリマー膜と、を含む発光ディスプレイセルに使用することができる。ポリマー膜は、少なくとも2つのゾーンを含み、第1のゾーンは、光源の光に対して透明であり、第2のゾーンは、本発明のペロブスカイト発光結晶組成物を含む。好ましくは、ポリマー膜は、本発明のペロブスカイト発光結晶組成物を含む第3のゾーンを更に含み、光源による照射時の第2のゾーン及び第3のゾーンのペロブスカイト発光結晶組成物の発光波長は、異なる色、好ましくは赤色及び緑色が生成されるように、互いに著しく異なる。
【0094】
本発明によるペロブスカイト発光結晶組成物は、放射線検出装置又は発光ディスプレイセルに使用する場合、1層又は2層のバリア層でコーティングすることができる。好ましくは、バリア層の材料は、ポリ塩化ビニリデン、環状オレフィンコポリマー、ポリエチレン、金属酸化物、酸化ケイ素、窒化ケイ素、又はこれらの混合物を含む群から選択され、任意に有機及び/又は無機多層膜の形態である。
【0095】
本発明によるペロブスカイト発光結晶組成物は、放射線検出装置又は発光ディスプレイセルにおいて使用される場合、光散乱粒子を含む、または光散乱粒子でコーティングされた層中に存在することができる。好ましくは、これらの光散乱粒子は、少なくとも2の屈折率及び/又は最大寸法で100nm~1μmの平均粒径を有する。好ましくは、層中の光散乱粒子の濃度は、1~40重量%の範囲である。TiO又はZrO光散乱粒子が、特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1】溶媒支援沈殿法により合成された、多座配位ポリマー表面リガンドとしてアミン基を有するポリシロキサンを有するペロブスカイト発光結晶のTEM画像。
図2】熱硬化したPDMS(Sylgard(商標)184)中の緑色ペロブスカイト発光結晶の発光スペクトル。発光ピークの中心は518nmであり、半値全幅(FWHM)は19nmである。
図3】赤色と緑色に発光するペロブスカイト発光結晶を用いるLC-PDMS複合体の発光スペクトルであり、発光ピークは、それぞれ523nmと635nmを中心としており、背面には青色(455nm)を発光するLEDが配置されている。
図4】PDMS膜中のペロブスカイトLCの発光ピークの位置は、(a)常温(25℃)、昼光;(b)85℃、無光;及び(c)35℃、紫外線の条件下で、3日間保存しても殆ど変化せず、その安定性を示している。
【実施例
【0097】
本発明は、必ずしも本発明のこれらの実施形態に限定されることなく、以下の実施例よって更に説明される。
【0098】
実施例1:溶媒支援沈殿法を使用したポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶の合成
典型的な合成では、PbBr(純度98%以上、Sigma Aldrich、0.4mmol、1.46g)及びCsBr(純度99.9%、Sigma Aldrich、0.4mmol、0.85g)を100mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、ストックAとした。
【0099】
20mLのオレイン酸(純度90%の工業グレード、Sigma Aldrich)を20mLの(2~3%アミノプロピルメチルシロキサン)-ジメチルシロキサンコポリマー(CAS番号99363-37-8、製品コードAMS-132、Gelest)と5分間混合し、ストックBを形成した。
【0100】
ストックA及びストックBを5分間混合して、金属塩-リガンド混合物を形成し、800mLのトルエン(合成用純度99.5%、Sigma Aldrich)に速やかに添加して反応溶媒とした(DMSOとトルエンの体積比は1:8)。当該溶液を20℃で18時間、300rpmから500rpmの回転速度で撹拌し、徐々に緑色に変化させた。
【0101】
合成後、形成したCsPbBr発光結晶は沈殿し、遠心分離(4,500rcf、30秒)により分離した後、酢酸メチル(純度99%以上、Sigma Aldrich社製、5mL)で2回洗浄し、減圧下(0.35mbar)、20℃で18時間乾燥して、発光結晶(量約1.21g~1.22g)を形成した。合成された多座配位ペロブスカイト発光結晶の大きさは、5nm~50μmであり、TGAで測定した有機物含有量(すなわち、ポリマー表面リガンドの含有量)は、約5%であった。
【0102】
実施例2:研磨
合成後、反応溶媒(DMSOとトルエンの体積比1:8)に懸濁させたまま、又はポリマー、好ましくはLC複合体のマトリックス材料の形成を企図したポリマーの存在下のいずれかで、剪断力を加え、結晶及び/又は凝集体を手作業ですり潰すことにより、本発明によるポリマー表面リガンドを有する大きなサイズのペロブスカイト発光結晶の大きさを5μm未満に縮小した。
【0103】
実施例3:ポリマー表面リガンド
ペロブスカイト発光結晶は、アミン基を含む幾つかのポリマー表面リガンドを使用して合成しており、表1に、それぞれの供給元、合成に使用した量、CAS番号、及び分子量を示している。全ての得られた結晶のPLQYは、90%~95%の範囲であり、518nm~520nmを中心とする発光ピークがあり、発光ピークのFWHMは18nm~20nmの範囲である。これらの特性は、結晶を酢酸メチルで洗浄した直後に測定した。ペロブスカイト発光結晶を劣化から保護するためには、多座配位ポリマー表面リガンドを使用することが重要である。オレイルアミンを表面リガンドとして持つ乾燥したペロブスカイト発光結晶は、空気下20℃で2日間保存した後、劣化してオレンジ色に変色し、PLQYの90%を失ったため、1個のアミン基のみを含む不飽和有機化合物である、オレイルアミンでは、十分な安定性が得られない。
【表1】
【0104】
同様の条件下で形成されたが、ポリマー表面リガンドが存在しないペロブスカイト発光結晶は、表2から分かるように、安定性が不十分であり、すぐに分解した。本発明によるポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶とは対照的に、保護されていないペロブスカイト発光結晶は、酢酸メチルで洗浄した直後にオレンジ色に変色し、低いPLQYに反映されるように、乏しい発光輝度しか有していなかった。
【表2】
【0105】
実施例4:合成後のリガンド交換によるチオール基を含むポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶の製造
チオール基を含むポリマー表面リガンドを合成に用いる場合、鉛に対するチオール基の結合親和性が高いため、粒子形成において臭化鉛の寄与が妨げられ、臭化鉛が溶媒中に可溶な状態で残留する。したがって、上記の溶媒支援沈殿法によるチオール基を含むポリマー表面リガンドを有するペロブスカイト発光結晶の合成は、不可能である。
【0106】
しかしながら、チオール基は、リガンド交換によって導入に成功することができる。チオール基を含む多座配位ポリマー表面リガンドを、反応溶媒(DMSOとトルエンの体積比1:8)中の5重量%粒子懸濁液に添加した。反応溶媒1Lあたり約2mLのリガンドを添加した。リガンド交換反応は、粒子合成後、又は10mLの酢酸メチルによる洗浄工程中のいずれかで行った。反応溶媒中で合成した粒子、又は酢酸メチル中で乾燥させた粒子を、チオール基を含む多座配位ポリマー表面リガンドと共に、緩やかな撹拌(100rpm)下、20℃で2時間インキュベートした。リガンド交換後、チオール基を有する多座配位ポリマー表面リガンドを有する、形成されたペロブスカイト発光結晶粒子を、溶媒から分離し、トルエンで洗浄した後、減圧下(0.35mbar)、20℃で乾燥させた。
【0107】
実施例5:発光結晶(LC)-PDMS複合体の調製
アミン基を含む多座配位ポリマー表面リガンドを有する、乾燥したペロブスカイト発光結晶30mgを、PDMS(Sylgard 184、Dow Corning Corp.;基剤と硬化剤の比10:1)3gと混合し、乳鉢で3分間粉砕した。混合物を真空チャンバー(100mbar)で20℃、30分間脱気し、気泡を除去した。その後、混合物を、フィルムアプリケーター(TQC Sheen社製)を使用してガラス基材上に注ぎ、110℃で3分間硬化させ、厚さ120μm、粒子濃度1重量%の硬化したLC-PDMS複合膜を形成した。得られた粒子のPLQYは、67.8%であり、519.6nmを中心とする発光ピークを有し、FWHMは、20.3nmであった。
【0108】
実施例6:発光結晶(LC)-PMMA及びLC-PS複合体の調製
アミン基を含む多座配位ポリマー表面リガンドを有する、乾燥したペロブスカイト発光結晶30mgを、トルエン中3gのPMMA又はPSと混合し(10重量%溶液)、乳鉢で3分間粉砕した。その後、混合物を、フィルムアプリケーター(TQC Sheen社製)を使用してガラス基材上に注ぎ、溶媒を1気圧下、20℃でゆっくりと蒸発させ、厚さ120μm、粒子濃度1重量%の硬化したLC PMMA又はLC-PS複合膜を形成した。得られた粒子のPLQYは、65%であり、518nmを中心とする発光ピークを有し、発光のFWHMは、19nmであった。
【0109】
実施例7:紫外硬化性樹脂を用いた発光結晶(LC)複合体の調製
アミン基を含む多座配位ポリマー表面リガンドを有する、乾燥したペロブスカイト発光結晶30mgを、3gの紫外硬化性樹脂(CPS 1040 UV-A、Sigma Aldrich)と混合し、乳鉢で3分間粉砕した。この混合物を、2枚のガラス又はPET基材の間に置き、紫外光(365nm、2W)で30秒間、試料と光源との間の距離を約14cmにして硬化させ、厚さ120μm、粒子濃度1重量%の硬化膜を形成した。得られた粒子のPLQYは、64%であり、521nmを中心とする発光ピークを有し、発光のFWHMは、19nmであった。
【0110】
実施例8:発光結晶(LC)-PDMS複合体の輝度に対するエージングの影響
輝度に対するエージングの影響を評価するために、LC-PDMS複合体を、厚さ100μmのPETフィルムで挟み、(a)通常状態(25℃)、昼光、(b)85℃、無光、(c)35℃、紫外線で3日間保存した(図4)。PLQYは、それぞれ約0%、20%、40%低下し、エージング、特に熱エージングに対して優れた安定性を示した。LC-PDMS複合材料中のペロブスカイト発光結晶の発光ピークの位置は、エージング試験後も変化しなかった。
【0111】
実験方法
透過型電子顕微鏡(TEM):TEMによる研究は、160kVで動作するFEI Tecnai G2 20透過電子顕微鏡を用いて行った。TEM試料は、トルエン中にポリマー表面リガンドを有する0.1mg/mLの本発明のペロブスカイト発光結晶の分散液を、300メッシュの炭素コーティングした銅グリッド上に滴下し、その後、約25℃、空気中で溶媒を蒸発させることにより調製した。
【0112】
フォトルミネッセンス量子収率(PLQY)の測定:ポリマー表面リガンドを有する本発明のペロブスカイト発光結晶組成物の発光特性を評価するために、トルエン中の各発明組成物の0.1 mg/mLの分散液を調製した。各分散液約10μLをPET基材上に滴下し、その後30分間超音波処理を行った。Advanced 4-Channel LED Driver(DC4100,Thorlab)を備えた励起波長405nm(10mA)の4-Wavelength High-Power LED Head(LED4D067,Thorlab)を光源として使用した。ショートパスフィルター(FES450,Thorlab)を有する積分球(IS200-4,Thorlabs)を使用して、発光量を測定し、吸光度を含まない反射スペクトルを得た。散乱損失は、推定し、フォトルミネッセンス量子収率(PLQY)は、放出された光子の数を吸収された光子の数で割って計算した。
【0113】
熱重量分析(TGA):TGA曲線は、Mettler-Toledo TGA/DSC 1 STAR Systemを用いて、25℃~650℃の温度範囲で、合成空気中、10K/分の加熱速度で記録した。各測定には、ポリマー表面リガンドを有する本発明ペロブスカイト発光結晶組成物あたり5mgを使用し(乾燥後)、650℃における質量損失を評価して、有機含有量(すなわち、ポリマー表面リガンドの含有量)を評価した。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】