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特表2024-509691二色のエンタングルメントソースを使用して量子遠距離通信を実行するためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】二色のエンタングルメントソースを使用して量子遠距離通信を実行するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/355 20060101AFI20240227BHJP
   B82Y 10/00 20110101ALI20240227BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240227BHJP
   G06N 10/40 20220101ALI20240227BHJP
   H04B 10/70 20130101ALN20240227BHJP
【FI】
G02F1/355
B82Y10/00
B82Y20/00
G06N10/40
H04B10/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546336
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(85)【翻訳文提出日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 US2022014250
(87)【国際公開番号】W WO2022165134
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】63/143,740
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523033051
【氏名又は名称】クネクト インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】QUNNECT,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】セケルスキー、ローク
(72)【発明者】
【氏名】リチャードソン、アニタ
(72)【発明者】
【氏名】ナマジ、メディ
(72)【発明者】
【氏名】フラメント、マエル
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】クラドック、アレクサンダー
【テーマコード(参考)】
2K102
5K102
【Fターム(参考)】
2K102AA09
2K102AA37
2K102BA01
2K102BB05
2K102BC01
2K102BD04
2K102DA06
2K102DB03
2K102DD10
2K102EB02
2K102EB10
2K102EB12
2K102EB20
2K102EB30
5K102AB11
5K102AK02
5K102PB11
5K102PC11
5K102PH22
5K102PH24
5K102PH31
5K102PH49
5K102RB02
5K102RB04
5K102RB06
(57)【要約】
二色のエンタングルされた光子対を生成するためのシステムおよび方法が記載されている。システムは、第1および第2のレーザビームのビーム経路内に配置された原子種の原子を含む原子蒸気セルを含む。第1および第2のレーザビームは、第1および第2のレーザビームが原子蒸気セル内で四光波混合プロセスを生じさせるように、原子種の第1および第2の原子遷移に共鳴する第1および第2の波長に調整される。四光波混合プロセスの結果として、第3および第4の波長を有するエンタングルされた光子対が生成され、原子蒸気セルから出力される。第1および第2の波長は、原子蒸気セル内に電磁誘起透過(EIT)を形成するように選択され得、EITは、第3の波長において原子蒸気セル内に透過媒体を形成して、スペクトル輝度および/または光子線幅を向上させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンタングルされた光子の対を生成するためのデバイスであって、
第1のレーザビームおよび第2のレーザビームのビーム経路内に配置された第1の原子蒸気セルを備え、前記第1の原子蒸気セルは、前記第1のレーザビームおよび前記第2のレーザビームの光子によって生じる励起に応答して前記エンタングルされた光子の対を生成するように構成された原子種の原子を含んでおり、
前記原子種は、第1の原子遷移および第2の原子遷移を含んでおり、
前記第1のレーザビームは第1の波長を有しており、前記第1の波長は前記第1の原子遷移と共鳴するように調整されており、
前記第2のレーザビームは第2の波長を有しており、前記第2の波長は前記第1の波長とは異なり、かつ前記第2の原子遷移と共鳴するように調整されており、
前記第1および第2の波長は、前記第1の原子蒸気セルにおける四光波混合プロセスに関する条件を満たしている、デバイス。
【請求項2】
前記エンタングルされた光子の対の光子は、10MHz~500MHzの範囲の光子線幅を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記デバイスは、20s-1/MHz~200s-1/MHzの範囲のスペクトル輝度を有する前記エンタングルされた光子の対を生成するように構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記エンタングルされた光子の対は、第1の光子および第2の光子を含んでおり、前記デバイスは、前記第1の光子および/または前記第2の光子のビーム経路内に配置されたファブリーペローエタロンをさらに備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記エンタングルされた光子の対は、第1の光子および第2の光子を含んでおり、前記デバイスは、前記第1の光子および/または前記第2の光子のビーム経路内に配置されたダイクロイックミラーをさらに備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1のレーザビームを生成するように構成された第1のレーザと、
前記第2のレーザビームを生成するように構成された第2のレーザと、をさらに備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第1のレーザビームおよび前記第2のレーザビームは、前記第1の原子蒸気セル内の位置において交差する請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1のレーザビームは、前記第1の原子蒸気セルの面に垂直な第1の方向に沿って前記第1の原子蒸気セルに入射するように配置されており、
前記第2のレーザビームは、第2の方向に沿って前記第1の原子蒸気セルに入射するように配置されており、前記第2の方向は、前記第1の方向と前記第2の方向との間の0°より大きく、かつ5°以下の角度によって規定されている、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
第1および第2のレーザと前記第1の原子蒸気セルとの間に配置された少なくとも1つの音響光学偏向器(以下、AODとする)をさらに備え、前記少なくとも1つのAODは、前記第1および第2のレーザビームを偏向させて、少なくとも1つの軸に沿って空間パターンを形成するように構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記エンタングルされた光子の対は、第3の波長を有する第1の光子と、第4の波長を有する第2の光子とを含んでいる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記第3の波長は、750nm~850nmの範囲内であり、
前記第4の波長は、1300nm~1600nmの範囲である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記第3の波長は、約795nmであり、
前記第4の波長は、約1324nmまたは約1476nmである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記第3の波長は、約780nmであり、
前記第4の波長は、約1367nmまたは約1529nmである、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記第3の波長および前記第4の波長は、750nm~850nmの範囲内にある、請求項10に記載のデバイス。
【請求項15】
前記第3の波長は、約795nmであり、
前記第4の波長は、約762nmである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記第3の波長は、約780nmであり、
前記第4の波長は、約776nmである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
前記第3の波長は、750nm~850nmの範囲内であり、
前記第4の波長は、450nm~550nmの範囲である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項18】
前記第3の波長は、約795nmであり、
前記第4の波長は、約475nmである、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記第3の波長は、約780nmであり、
前記第4の波長は、約480nmである、請求項17に記載のデバイス。
【請求項20】
前記原子種がルビジウムを含んでいる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
第1のレーザの出力を前記第1の波長にロックし、第2のレーザの出力を前記第2の波長にロックするためのロックデバイスをさらに備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項22】
前記ロックデバイスは、
前記第1のレーザの出力に結合された第1のレーザ入力ポートと、
前記第2のレーザの出力に結合された第2のレーザ入力ポートと、
前記第1のレーザ入力ポートに入力された前記第1のレーザビームの一部を受け取り、前記第2のレーザ入力ポートに入力された前記第2のレーザビームの一部を受け取るように配置された第2の原子蒸気セルと、
前記第1のレーザビームの一部が前記第2の原子蒸気セルを通過した後に、前記第1のレーザビームの一部を受け取るように構成された第1の光検出器と、
前記第2のレーザビームの一部が前記第2の原子蒸気セルを通過した後に、前記第2のレーザビームの一部を受け取るように構成された第2の光検出器と、を含む、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
前記ロックデバイスは、ダイクロイックミラーをさらに備え、前記ダイクロイックミラーは、
前記第1のレーザビームの一部が前記第2の原子蒸気セルを通過した後に、前記第1のレーザビームの一部を前記第1の光検出器に反射し、
前記第2のレーザビームの一部を透過させるように構成されている、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
前記ロックデバイスは、1つまたは複数のビームスプリッタ部品をさらに含んでおり、前記1つまたは複数のビームスプリッタ部品は、
前記第1のレーザビームの一部を第1のビーム及び第2のビームに分割し、
前記第1のビームを前記第2の原子蒸気セルの第1の領域にダイレクトし、
前記第2のビームを前記第2の原子蒸気セルの第2の領域にダイレクトするように構成されている、請求項22に記載のデバイス。
【請求項25】
前記ロックデバイスは、前記第2のビームが前記第2の原子蒸気セルの前記第2の領域を通過した後に、前記第2のビームを前記第2の光検出器にダイレクトするように構成された1つまたは複数のミラーをさらに含んでいる、請求項24に記載のデバイス。
【請求項26】
前記1つまたは複数のビームスプリッタ部品は、前記第1のビームが前記第2の原子蒸気セルの前記第1の領域を通過した後に、前記第1のビームを前記第1の光検出器にダイレクトするようにさらに構成される、請求項24に記載のデバイス。
【請求項27】
前記第2の原子蒸気セルは、
前記第2の原子蒸気セルの第1の領域および前記第2の原子蒸気セルの第2の領域において前記第1のレーザビームの一部を受け取り、
前記第2の原子蒸気セルの前記第1の領域において前記第2のレーザビームの一部を受け取るが、前記第2の原子蒸気セルの前記第2の領域において前記第2のレーザビームの一部を受け取らないように配置されている、請求項22に記載のデバイス。
【請求項28】
前記第2の原子蒸気セルがルビジウム原子を含んでいる、請求項22に記載のデバイス。
【請求項29】
前記第2の原子蒸気セルを加熱するように構成された少なくとも1つの加熱要素をさらに備える、請求項22に記載のデバイス。
【請求項30】
エンタングルされた光子の対を生成するためのデバイスであって、
第1のレーザビームおよび第2のレーザビームのビーム経路内に配置された第1の原子蒸気セルを備え、前記第1の原子蒸気セルは、前記第1のレーザビームおよび前記第2のレーザビームの光子によって生じる励起に応答して前記エンタングルされた光子の対を生成するように構成された原子種の原子を含んでおり、
前記第1のレーザビームは第1の波長を有しており、
前記第2のレーザビームは第2の波長を有し、前記第2の波長は前記第1の波長とは異なっており、
前記エンタングルされた光子の対は、第3の波長を有する第1の光子と、第4の波長を有する第2の光子とを含んでおり、
前記第3の波長は、約795nmであり、
前記第4の波長は、約1324nmまたは約1476nmであり、
前記第1の波長および前記第2の波長は、前記第1の原子蒸気セル内に電磁誘起透過(以下、EITとする)を形成するための条件を満たしており、前記EITは、前記第3の波長において前記第1の原子蒸気セル内に透過媒体を形成する、デバイス。
【請求項31】
前記原子種は、第1の原子遷移および第2の原子遷移を含んでおり、
前記第1の波長は、前記第1の原子遷移と共鳴するように調整されており、
前記第2の波長は、前記第2の原子遷移と共鳴するように調整されている、請求項30に記載のデバイス。
【請求項32】
前記エンタングルされた光子の対の光子は、10MHz~500MHzの範囲の光子線幅を有する、請求項30に記載のデバイス。
【請求項33】
前記デバイスは、20s-1/MHz~200s-1/MHzの範囲のスペクトル輝度を有する前記エンタングルされた光子の対を生成するように構成される、請求項30に記載のデバイス。
【請求項34】
前記エンタングルされた光子の対は、第1の光子および第2の光子を含んでおり、前記デバイスは、前記第1の光子および/または前記第2の光子のビーム経路内に配置されたファブリーペローエタロンをさらに備える、請求項30に記載のデバイス。
【請求項35】
前記エンタングルされた光子の対は、第1の光子および第2の光子を含んでおり、前記デバイスは、前記第1の光子および/または前記第2の光子のビーム経路内に配置されたダイクロイックミラーをさらに備える、請求項30に記載のデバイス。
【請求項36】
前記第1のレーザビームを生成するように構成された第1のレーザと、
前記第2のレーザビームを生成するように構成された第2のレーザと、をさらに備える、請求項30に記載のデバイス。
【請求項37】
前記第1のレーザビーム及び前記第2のレーザビームは、前記第1の原子蒸気セル内の位置において交差する、請求項30に記載のデバイス。
【請求項38】
前記第1のレーザビームは、前記第1の原子蒸気セルの面に垂直な第1の方向に沿って前記第1の原子蒸気セルに入射するように配置されており、
前記第2のレーザビームは、第2の方向に沿って前記第1の原子蒸気セルに入射するように配置されており、前記第2の方向は、前記第1の方向と前記第2の方向との間の0°より大きく、かつ5°以下の角度によって規定されている、請求項37に記載のデバイス。
【請求項39】
第1および第2のレーザと前記第1の原子蒸気セルとの間に配置された少なくとも1つの音響光学偏向器(以下、AODとする)をさらに備え、前記少なくとも1つのAODは、前記第1および第2のレーザビームを偏向させて、少なくとも1つの軸に沿って空間パターンを形成するように構成されている、請求項30に記載のデバイス。
【請求項40】
前記原子種がルビジウムを含んでいる、請求項30に記載のデバイス。
【請求項41】
第1のレーザの出力を前記第1の波長にロックし、第2のレーザの出力を前記第2の波長にロックするためのロックデバイスをさらに備える、請求項30に記載のデバイス。
【請求項42】
前記ロックデバイスは、
前記第1のレーザの出力に結合された第1のレーザ入力ポートと、
前記第2のレーザの出力に結合された第2のレーザ入力ポートと、
前記第1のレーザ入力ポートに入力された前記第1のレーザビームの一部を受け取り、かつ前記第2のレーザ入力ポートに入力された前記第2のレーザビームの一部を受け取るように配置された第2の原子蒸気セルと、
前記第1のレーザビームの一部が前記第2の原子蒸気セルを通過した後に、前記第1のレーザビームの一部を受け取るように構成された第1の光検出器と、
前記第2のレーザビームの一部が前記第2の原子蒸気セルを通過した後に、前記第2のレーザビームの一部を受け取るように構成された第2の光検出器と、を含む、請求項41に記載のデバイス。
【請求項43】
前記ロックデバイスは、
前記第1のレーザビームの一部が前記第2の原子蒸気セルを通過した後に、前記第1のレーザビームの一部を前記第1の光検出器に反射し、
前記第2のレーザビームの一部を透過させるように構成されたダイクロイックミラーをさらに含んでいる、請求項42に記載のデバイス。
【請求項44】
前記ロックデバイスは、1つまたは複数のビームスプリッタ部品をさらに含んでおり、前記1つまたは複数のビームスプリッタ部品は、
前記第1のレーザビームの一部を第1のビーム及び第2のビームに分割し、
前記第1のビームを前記第2の原子蒸気セルの第1の領域にダイレクトし、
前記第2のビームを前記第2の原子蒸気セルの第2の領域にダイレクトするように構成されている、請求項42に記載のデバイス。
【請求項45】
前記ロックデバイスは、前記第2のビームが前記第2の原子蒸気セルの前記第2の領域を通過した後に、前記第2のビームを前記第2の光検出器にダイレクトするように構成された1つまたは複数のミラーをさらに含んでいる、請求項44に記載のデバイス。
【請求項46】
前記1つまたは複数のビームスプリッタ部品は、前記第1のビームが前記第2の原子蒸気セルの前記第1の領域を通過した後に、前記第1のビームを前記第1の光検出器にダイレクトするようにさらに構成される、請求項44に記載のデバイス。
【請求項47】
前記第2の原子蒸気セルは、
前記第2の原子蒸気セルの第1の領域および前記第2の原子蒸気セルの第2の領域において前記第1のレーザビームの一部を受け取り、
前記第2の原子蒸気セルの前記第1の領域において前記第2のレーザビームの一部を受け取るが、前記第2の原子蒸気セルの前記第2の領域において前記第2のレーザビームの一部を受け取らないように配置されている、請求項42に記載のデバイス。
【請求項48】
前記第2の原子蒸気セルがルビジウム原子を含んでいる、請求項42に記載のデバイス。
【請求項49】
前記第2の原子蒸気セルを加熱するように構成された少なくとも1つの加熱要素をさらに備える、請求項42に記載のデバイス。
【請求項50】
エンタングルされた光子の対を生成する方法であって、
第1のレーザを使用して、第1の波長を有する第1のレーザビームを生成するステップと、
第2のレーザを使用して、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2のレーザビームを生成するステップと、
前記第1のレーザビームおよび前記第2のレーザビームを、原子種の原子蒸気を含む第1の原子蒸気セルを通過させることによって、前記第1の原子蒸気セル内に四光波混合プロセスを生じさせるステップと、
前記四光波混合プロセスの結果として、前記エンタングルされた光子の対を生成するステップと、を含み、
前記エンタングルされた光子の対を生成するステップは、第3の波長を有する第1の光子および第4の波長を有する第2の光子を生成することを含んでおり、前記第1の波長は約795nmであり、前記第2の波長は約1324nmまたは約1449nmである、方法。
【請求項51】
前記原子種は、第1の原子遷移および第2の原子遷移を含んでおり、
前記第1の波長は、前記第1の原子遷移と共鳴するように調整されており、
前記第2の波長は、前記第2の原子遷移と共鳴するように調整されている、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記第1のレーザビームを生成するステップは、約780nmである前記第1の波長を有する前記第1のレーザビームを生成することを含んでおり、
前記第2のレーザビームを生成するステップは、約1367nmまたは約1529nmである前記第2の波長を有する前記第2のレーザビームを生成することを含んでいる、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記エンタングルされた光子の対を生成するステップは、10MHz~100GHzの範囲の光子線幅を有するエンタングルされた光子の対を生成することを含んでいる、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記エンタングルされた光子の対を生成するステップは、20s-1/MHz~200s-1/MHzの範囲のスペクトル輝度を有するエンタングルされた光子の複数の対を生成することを含んでいる、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記原子種の前記第1の原子遷移が、前記第1の原子蒸気セル内の原子の基底状態から第1の励起状態への励起を含んでおり、
前記原子種の前記第2の原子遷移が、前記第1の原子蒸気セル内の原子の前記第1の励起状態から第2の励起状態への励起を含んでいる、請求項51に記載の方法。
【請求項56】
前記原子種がルビジウムを含んでいる、請求項50に記載の方法。
【請求項57】
前記第1のレーザビームおよび前記第2のレーザビームを前記第1の原子蒸気セルを通過させるステップは、
前記第1のレーザビームを、前記第1の原子蒸気セルの面に垂直な第1の方向に沿って前記第1の原子蒸気セルを通過させること、
前記第2のレーザビームを第2の方向に沿って前記第1の原子蒸気セルを通過させることを含んでおり、前記第2の方向は、前記第1の方向と前記第2の方向との間の0°より大きく、かつ5°以下の角度によって規定されている、請求項50に記載の方法。
【請求項58】
少なくとも1つのファブリーペローエタロンを使用して、前記エンタングルされた光子の対の光子をフィルタリングするステップをさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項59】
前記第1のレーザビームからの光の一部を第2の原子蒸気セルを通過させて第1の光検出器および第2の光検出器にダイレクトすること、
前記第2のレーザビームからの光の一部を前記第2の原子蒸気セルを通過するようにダイレクトすること、
前記第2の原子蒸気セルの原子による特性遷移周波数での前記第1のレーザビームからの前記光の一部の減衰量を示す、前記第1の光検出器によって生成された信号に基づいて、前記第1の波長において前記第1のレーザビームをロックすること、
前記第2の原子蒸気セルの原子による前記特性遷移周波数での前記第1のレーザビームからの前記光の一部の減衰量を示す、前記第2の光検出器によって生成された信号に基づいて、前記第2の波長において前記第2のレーザビームをロックすることによって、前記第1のレーザビームを前記第1の波長にロックし、前記第2のレーザビームを前記第2の波長にロックするステップをさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項60】
前記第1の波長において前記第1のレーザビームをロックすることは、前記第1のレーザに入力される電圧を変調すること、前記第1の光検出器によって生成された前記信号に基づいて生成された第1の誤差信号を測定することを含んでいる、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記第2の波長において前記第2のレーザビームをロックすることは、前記第2の光検出器によって生成される前記信号のより大きな減衰を生じさせる前記第2のレーザに入力される電圧を識別することを含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記第1のレーザビームからの光の一部は非偏光であり、前記第2のレーザビームからの光の一部は非偏光である、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記第2のレーザビームからの光の一部は、前記第1または第2の光検出器のいずれにも入射されない、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
前記第1のレーザビームからの光の一部は、前記第2の原子蒸気セルの第1および第2の領域を通過するようにダイレクトされ、前記第2のレーザビームからの光の一部は、前記第2の原子蒸気セルの前記第2の領域ではなく前記第1の領域を通過するようにダイレクトされる、請求項59に記載の方法。
【請求項65】
前記第2の原子蒸気セルがルビジウム原子を含んでいる、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
エンタングルされた光子対を生成するためのデバイスであって、
第1の波長を有する第1のレーザビームを出力するように構成された第1のレーザと、
第2の波長を有する第2のレーザビームを出力するように構成された第2のレーザと、
前記第1のレーザビーム及び前記第2のレーザビームを受け取るように構成された干渉計と、
前記干渉計のビーム経路内に配置され、かつ前記エンタングルされた光子対を生成するように構成された原子蒸気セルと、を備えるデバイス。
【請求項67】
前記エンタングルされた光子対は、第2の光子とエンタングルされた第1の光子を含んでおり、前記第1の光子は前記第1の波長を有しており、前記第2の光子は前記第2の波長を有している、請求項66に記載のデバイス。
【請求項68】
前記第1の波長は、1260nm~1675nmの範囲の遠距離通信波長を含んでいる、請求項67に記載のデバイス。
【請求項69】
前記第1の波長は、約1324nmであり、前記第2の波長は、約795nmである、請求項67に記載のデバイス。
【請求項70】
前記第1の波長および前記第2の波長は、前記原子蒸気セル内の原子蒸気の原子遷移準位に調整される、請求項67に記載のデバイス。
【請求項71】
前記干渉計は、前記第1のレーザビームおよび前記第2のレーザビームを使用して、反対方向に伝搬する水平偏光および垂直偏光のレーザビームを生成するように構成される、請求項66に記載のデバイス。
【請求項72】
前記原子蒸気セルは、前記干渉計によって生成された反対方向に伝搬するレーザビームを使用して、前記エンタングルされた光子対を生成するように構成される、請求項71に記載のデバイス。
【請求項73】
前記原子蒸気セルは、四光波混合を使用して、前記エンタングルされた光子対を生成するように構成される、請求項72に記載のデバイス。
【請求項74】
前記第1および第2のレーザと前記干渉計との間にあるレンズをさらに備え、前記レンズは、前記第1のレーザビームおよび前記第2のレーザビームを前記干渉計内の焦点に集束させるように構成される、請求項66に記載のデバイス。
【請求項75】
前記原子蒸気セルは、前記焦点に配置される、請求項74に記載のデバイス。
【請求項76】
前記第1および第2のレーザと前記レンズとの間に配置された少なくとも1つの音響光学偏向器(AOD)をさらに備え、前記少なくとも1つのAODは、前記第1および第2のレーザビームを偏向させて、少なくとも1つの軸に沿って空間パターンを形成するように構成されている、請求項74に記載のデバイス。
【請求項77】
前記少なくとも1つのAODは、前記第1および第2のレーザビームを偏向させて2つの軸に沿って空間パターンを形成するように構成された2つのAODを含んでいる、請求項76に記載のデバイス。
【請求項78】
前記干渉計は、
第1の偏光ビームスプリッタであって、前記第1の偏光ビームスプリッタの直交面に入射する前記第1および第2のレーザビームを受け取るように配置され、かつ同じ光路に沿って共伝搬するように前記第1および第2のレーザビームを結合するように構成されている、前記第1の偏光ビームスプリッタと、
第2の偏光ビームスプリッタであって、前記第2の偏光ビームスプリッタの同じ面に入射する共伝搬する第1および第2のレーザビームを受け取るように配置され、かつ前記第2の偏光ビームスプリッタの2つの直交面から前記第1および第2のレーザビームの水平偏光成分または垂直偏光成分を含む別々のレーザビームを出力するように構成されている、前記第2の偏光ビームスプリッタと、を含んでおり、
前記ビーム経路は、前記別々のレーザビームを同じ長さの光路を進行させることによって前記第2のビームスプリッタに帰還させるように構成された循環光路である、請求項66に記載のデバイス。
【請求項79】
前記干渉計は、サニャック干渉計を含んでいる、請求項66に記載のデバイス。
【請求項80】
前記原子蒸気セルは、気密セルおよび光学的に透明な壁を含む、請求項66に記載のデバイス。
【請求項81】
前記原子蒸気セルは、1つまたは複数の真空部品および/または冷却部品に結合されており、前記原子蒸気セルは、閉じ込められた蒸気領域内に原子集団を光学的にトラップするように構成されており、前記原子蒸気セルは、前記原子蒸気セルを介した光の多方向通過を可能にするように構成された複数のポートを含んでいる、請求項66に記載のデバイス。
【請求項82】
前記原子蒸気セル内に配置された原子集団の原子が、導波路を備えるチップ上に配置されるか、または中空光ファイバ内に配置される、請求項66に記載のデバイス。
【請求項83】
量子ネットワーキングを実行する方法であって、
第1の位置にある第1のデバイスを使用して第1の二色のエンタングルされた光子対を生成するステップと、
前記第1の位置とは異なる第2の位置に配置された第2のデバイスを使用して第2の二色のエンタングルされた光子対を生成するステップと、
前記第1および第2の二色のエンタングルされた光子対の各々の第1の光子を、前記第1および第2の位置にそれぞれある個別の量子メモリデバイスに保存するステップと、
前記第1および第2の二色のエンタングルされた光子対の各々からの第2の光子を、前記第1および第2の位置とは異なる第3の位置に配置された第1の二光子干渉測定デバイスに伝送するステップと、
伝送された前記第2の光子および前記第1の二光子干渉測定デバイスにおいて二光子干渉測定を実行することによって、前記第1及び第2の位置に保存された前記第1の光子の状態をエンタングルして、新たにエンタングルされた光子対を形成するステップと、を含む方法。
【請求項84】
前記第1および第2の二色のエンタングルされた光子対の各々を生成することは、
第1の波長を有する第1のレーザビームと、第2の波長を有する第2のレーザビームとを、原子蒸気を含む原子蒸気セルを通過させることによって、前記原子蒸気セル内に四光波混合プロセスを生じさせることを含んでおり、前記第1の波長は、前記原子蒸気の第1の原子遷移の周波数に対応しており、前記第2の波長は、前記原子蒸気の第2の原子遷移の周波数に対応している、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記第1の光子は、前記第1の波長を有しており、
前記第2の光子は、前記第2の波長を有しており、
前記第1の波長は、近赤外波長であり、
前記第2の波長は、赤外波長である、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記第1の波長は、795nmであり、前記第2の波長は、1324nmである、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記第2の光子を伝送することは、GPS同期デバイスからタイミング信号を受信した後に行われる、請求項83に記載の方法。
【請求項88】
前記第2の光子は、光ファイバを介して前記第1の二光子干渉測定デバイスに伝送される、請求項83に記載の方法。
【請求項89】
第1のエンタングルされた光子対の保存された前記第1の光子のうちの1つを第2の二光子干渉測定デバイスに伝送するステップと、
第2のエンタングルされた光子対の保存された第1光子を前記第2の二光子干渉測定デバイスに伝送するステップと、
前記第2の二光子干渉測定デバイス及び伝送された前記第1の光子を使用して二光子干渉測定を実行することによって、前記第1のエンタングルされた光子対の他の保存された第1の光子を前記第2のエンタングルされた光子対の別の保存された第1の光子とエンタングルさせるステップと、をさらに含む、請求項83に記載の方法。
【請求項90】
量子情報を伝送する方法であって、
複数の二色のエンタングルされた光子対を生成するステップと、前記複数の二色のエンタングルされた光子対の各々は、異なる位置に配置され、かつ第1の周波数を有する第1の光子と第2の周波数を有する第2の光子とを含んでおり、
個別の異なる位置において各二色のエンタングルされた光子対の前記第1の光子を保存するステップと、
各二色のエンタングルされた光子対の前記第2の光子を第1の中間位置に伝送するステップと、各第1の中間位置が2つの第2の光子を受け取り、
前記第1の中間位置の各々において、第1の二光子干渉測定デバイスを使用して、受け取られた前記第2の光子の二光子干渉測定を実行するステップと、
前記第1の二光子干渉測定デバイスによる二光子干渉測定が成功裏に実行された場合に、保存された第1の光子の対の間に新たにエンタングルされた状態を形成するステップと、を含む方法。
【請求項91】
前記第1の光子の一部を第2の中間位置に伝送するステップと、各第2の中間位置が2つの第1の光子を受け取り、
前記第2の中間位置の各々において、第2の二光子干渉測定デバイスを使用して、受け取られた前記第1の光子の二光子干渉測定を実行するステップと、
前記第2の二光子干渉測定デバイスによる二光子干渉測定が成功裏に実行された場合に、保存された異なる第1の光子対の間に新たにエンタングルされた状態を形成するステップと、をさらに含む、請求項90に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
量子ネットワークは、物理的に分離された量子プロセッサまたは他の量子デバイス(例えば、量子センサ)間の量子ビット(「キュービット(qubit)」)の形態での情報の伝送を可能にする。量子ネットワークは、長距離にわたる光学量子通信を可能にするために使用され得、かつ情報が(例えば、偏光で)符号化される単一光子の伝送を通して、標準遠距離通信(telecommunication)光ファイバを介して実施されることができる。任意の距離にわたる量子情報の信頼性のある伝送を可能にするために、追加の構成要素が必要とされ得る。
【発明の概要】
【0002】
以下は、本出願の一部の実施形態の非限定的な概要である。本出願の一部の態様は、エンタングルされた(entangled)光子の対を生成するためのデバイスに関する。デバイスは、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームのビーム経路内に配置された第1の原子蒸気セルを備えており、第1の原子蒸気セルは、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームの光子によって生じる励起に応答してエンタングルされた光子の対を生成するように構成された原子種の原子を含んでおり、原子種は、第1の原子遷移および第2の原子遷移を含んでおり、第1のレーザビームは、第1の波長を有しており、第1の波長は、第1の原子遷移と共鳴するように調整されており、第2のレーザビームは、第2の波長を有しており、第2の波長は、第1の波長とは異なり、かつ第2の原子遷移と共鳴するように調整されており、第1および第2の波長は、第1の原子蒸気セルにおける四光波混合(four-wave mixing)プロセスに関する条件を満たしている。
【0003】
本出願の一部の態様は、エンタングルされた光子の対を生成するためのデバイスに関する。デバイスは、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームのビーム経路内に配置された第1の原子蒸気セルを備えており、第1の原子蒸気セルは、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームの光子によって生じる励起に応答してエンタングルされた光子の対を生成するように構成された原子種の原子を含んでおり、第1のレーザビームは、第1の波長を有しており、第2のレーザビームは、第2の波長を有しており、第2の波長は、第1の波長とは異なっており、エンタングルされた光子の対は、第3の波長を有する第1の光子と、第4の波長を有する第2の光子とを含んでおり、第3の波長は、約795nmであり、第4の波長は、約1324nmまたは約1476nmであり、第1の波長および第2の波長は、第1の原子蒸気セル内に電磁誘起透過(EIT:electromagnetically-induced transparency)を形成するための条件を満たしており、EITは、第3の波長において第1の原子蒸気セル内に透過媒体を形成する。
【0004】
一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対の光子は、10MHz~500MHzの範囲の光子線幅を有する。一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対の光子は、10MHz~100GHzの範囲の光子線幅を有する。
【0005】
一部の実施形態では、デバイスは、20s-1/MHz~200s-1/MHzの範囲のスペクトル輝度を有するエンタングルされた光子の対を生成するように構成される。
一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対は、第1の光子および第2の光子を含んでおり、デバイスは、第1の光子および/または第2の光子のビーム経路内に配置されたファブリーペローエタロンをさらに備える。
【0006】
一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対は、第1の光子および第2の光子を含んでおり、デバイスは、第1の光子および/または第2の光子のビーム経路内に配置されたダイクロイックミラーをさらに備える。
【0007】
一部の実施形態では、デバイスは、第1のレーザビームを生成するように構成された第1のレーザと、第2のレーザビームを生成するように構成された第2のレーザと、をさらに備える。
【0008】
一部の実施形態では、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームは、第1の原子蒸気セル内の位置において交差する。一部の実施形態では、第1のレーザビームは、第1の原子蒸気セルの面に垂直な第1の方向に沿って第1の原子蒸気セルに入射するように配置されており、第2のレーザビームは、第2の方向に沿って第1の原子蒸気セルに入射するように配置されており、第2の方向は、第1の方向と第2の方向との間の0°より大きく、かつ5°以下の角度によって規定されている。
【0009】
一部の実施形態では、デバイスは、第1および第2のレーザと第1の原子蒸気セルとの間に配置された少なくとも1つの音響光学偏向器(AOD:acoustic optical deflector)をさらに備え、少なくとも1つのAODは、第1および第2のレーザビームを偏向させて、少なくとも1つの軸に沿って空間パターンを形成するように構成されている。
【0010】
一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対は、第3の波長を有する第1の光子と、第4の波長を有する第2の光子とを含む。
一部の実施形態では、第3の波長は、750nm~850nmの範囲内であり、第4の波長は、1300nm~1600nmの範囲内である。一部の実施形態では、第3の波長は、約795nmであり、第4の波長は、約1324nmまたは約1476nmである。一部の実施形態では、第3の波長は、約780nmであり、第4の波長は、約1367nmまたは約1529nmである。
【0011】
一部の実施形態では、第3の波長および第4の波長は、750nm~850nmの範囲内にある。一部の実施形態では、第3の波長は、約795nmであり、第4の波長は、約762nmである。一部の実施形態では、第3の波長は、約780nmであり、第4の波長は、約776nmである。
【0012】
一部の実施形態では、第3の波長は、750nm~850nmの範囲内であり、第4の波長は、450nm~550nmの範囲内である。一部の実施形態では、第3の波長は、約795nmであり、第4の波長は、約475nmである。一部の実施形態では、第3の波長は、約780nmであり、第4の波長は、約480nmである。
【0013】
一部の実施形態では、原子種はルビジウムを含む。
一部の実施形態では、デバイスは、第1のレーザの出力を第1の波長にロックし、第2のレーザの出力を第2の波長にロックするためのロックデバイスをさらに備える。
【0014】
一部の実施形態では、ロックデバイスは、第1のレーザの出力に結合された第1のレーザ入力ポートと、第2のレーザの出力に結合された第2のレーザ入力ポートと、第1のレーザ入力ポートに入力された第1のレーザビームの一部を受け取り、かつ第2のレーザ入力ポートに入力された第2のレーザビームの一部を受け取るように構成された第2の原子蒸気セルと、第1のレーザビームの一部が第2の原子蒸気セルを通過した後に第1のレーザビームの一部を受け取るように構成された第1の光検出器と、第2のレーザビームの一部が第2の原子蒸気セルを通過した後に第2のレーザビームの一部を受け取るように構成された第2の光検出器と、を含む。
【0015】
一部の実施形態では、ロックデバイスは、第1のレーザビームの一部が第2の原子蒸気セルを通過した後に、第1のレーザビームの一部を第1の光検出器上に反射し、第2のレーザビームの一部を透過させるように構成されたダイクロイックミラーをさらに含む。
【0016】
一部の実施形態では、ロックデバイスは、第1のレーザビームの一部を第1のビームおよび第2のビームに分割し、第1のビームを第2の原子蒸気セルの第1の領域にダイレクトし(direct)、第2のビームを第2の原子蒸気セルの第2の領域にダイレクトするように構成された1つまたは複数のビームスプリッタ部品をさらに含む。
【0017】
一部の実施形態では、ロックデバイスは、第2のビームが第2の原子蒸気セルの第2の領域を通過した後に、第2のビームを第2の光検出器にダイレクトするように構成された1つまたは複数のミラーをさらに含む。
【0018】
一部の実施形態では、1つまたは複数のビームスプリッタ部品は、第1のビームが第2の原子蒸気セルの第1の領域を通過した後に、第1のビームを第1の光検出器にダイレクトするようにさらに構成される。
【0019】
一部の実施形態では、第2の原子蒸気セルは、第2の原子蒸気セルの第1の領域および第2の原子蒸気セルの第2の領域において第1のレーザビームの一部を受け取り、かつ第2の原子蒸気セルの第1の領域において第2のレーザビームの一部を受け取るが、第2の原子蒸気セルの第2の領域において第2のレーザビームの一部を受け取らないように配置されている。
【0020】
一部の実施形態では、第2の原子蒸気セルはルビジウム原子を含む。
一部の実施形態では、ロックデバイスは、第2の原子蒸気セルを加熱するように構成された少なくとも1つの加熱要素を含む。
【0021】
本出願の一部の態様は、エンタングルされた光子の対を生成する方法に関する。方法は、第1のレーザを用いて第1の波長を有する第1のレーザビームを生成するステップと、第2のレーザを用いて第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2のレーザビームを生成するステップと、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームを原子種の原子蒸気を含む第1の原子蒸気セルを通過させることによって、第1原子蒸気セル内に四光波混合プロセスを生じさせるステップと、四光波混合プロセスの結果として、エンタングルされた光子の対を生成するステップと、を含んでおり、エンタングルされた光子の対を生成するステップは、第3の波長を有する第1の光子と、第4の波長を有する第2の光子とを生成することを含んでおり、第1の波長は、約795nmであり、第2の波長は、約1324nmまたは約1449nmである。
【0022】
一部の実施形態では、原子種は、第1の原子遷移および第2の原子遷移を含んでおり、第1の波長は、第1の原子遷移と共鳴するように調整され、第2の波長は、第2の原子遷移と共鳴するように調整される。
【0023】
一部の実施形態では、第1のレーザビームを生成するステップは、約780nmである第1の波長を有する第1のレーザビームを生成することを含んでおり、第2のレーザビームを生成するステップは、約1367nmまたは約1529nmである第2の波長を有する第2のレーザビームを生成するステップを含んでいる。
【0024】
一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対を生成するステップは、10MHz~100GHzの範囲の光子線幅を有するエンタングルされた光子の対を生成することを含んでいる。一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対を生成するステップは、10MHz~500MHzの範囲の光子線幅を有するエンタングルされた光子の対を生成することを含んでいる。
【0025】
一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対を生成するステップは、20s-1/MHz~200s-1/MHzの範囲のスペクトル輝度を有するエンタングルされた光子の複数の対を生成することを含んでいる。
【0026】
一部の実施形態では、原子種の第1の原子遷移は、第1の原子蒸気セル内の原子の基底状態から第1の励起状態への励起を含んでおり、原子種の第2の原子遷移は、第1の原子蒸気セル内の原子の第1の励起状態から第2の励起状態への励起を含んでいる。
【0027】
一部の実施形態では、原子種はルビジウムを含む。
一部の実施形態では、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームを第1の原子蒸気セルを通過させることは、第1のレーザビームを第1の原子蒸気セルの面に垂直な第1の方向に沿って第1の原子蒸気セルを通過させること、および第2のレーザビームを第2の方向に沿って第1の原子蒸気セルを通過させることを含んでおり、第2の方向は、第1の方向と第2の方向との間の0°より大きく、かつ5°以下の角度によって規定されている。
【0028】
一部の実施形態では、方法は、少なくとも1つのファブリーペローエタロンを使用して、エンタングルされた光子の対の光子をフィルタリングするステップを含む。
一部の実施形態では、方法は、第1のレーザビームからの光の一部を第2の原子蒸気セルを通過させて第1の光検出器および第2の光検出器上にダイレクトすること、第2のレーザビームからの光の一部を第2の原子蒸気セルを通過するようにダイレクトすること、第2の原子蒸気セルの原子による特性遷移周波数での第1のレーザビームからの光の一部の減衰量を示す、第1の光検出器によって生成された信号に基づいて、第1の波長において第1のレーザビームをロックすること、第2の原子蒸気セルの原子による特性遷移周波数での第1のレーザビームからの光の一部の減衰量を示す、第2の光検出器によって生成された信号に基づいて、第2の波長において第2のレーザビームをロックすることによって、第1のレーザビームを第1の波長にロックし、第2のレーザビームを第2の波長にロックするステップをさらに含む。
【0029】
一部の実施形態では、第1の波長において第1のレーザビームをロックすることは、第1のレーザに入力される電圧を変調すること、第1の光検出器によって生成された信号に基づいて生成された第1の誤差信号を測定することを含んでいる。
【0030】
一部の実施形態では、第2の波長において第2のレーザビームをロックすることは、第2の光検出器によって生成される信号のより大きな減衰を生じさせる第2のレーザに入力される電圧を識別することを含んでいる。
【0031】
一部の実施形態では、第1のレーザビームからの光の一部は非偏光であり、第2のレーザビームからの光の一部は非偏光である。
一部の実施形態では、第2のレーザビームからの光の一部は、第1または第2の光検出器のいずれにも入射されない。
【0032】
一部の実施形態では、第1のレーザビームからの光の一部は、第2の原子蒸気セルの第1および第2の領域を通してダイレクトされ、第2のレーザビームからの光の一部は、第2の原子蒸気セルの第2の領域ではなく、第1の領域を通過するようにダイレクトされる。
【0033】
一部の実施形態では、第2の原子蒸気セルはルビジウム原子を含む。
本出願の一部の態様は、エンタングルされた光子対を生成するためのデバイスに関する。デバイスは、第1の波長を有する第1のビームを出力するように構成された第1のレーザと、第2の波長を有する第2のビームを出力するように構成された第2のレーザと、第1のビームおよび第2のビームを受け取るように構成された干渉計と、干渉計のビーム経路内に配置され、かつエンタングルされた光子対を生成するように構成された原子蒸気セルとを備える。
【0034】
一部の実施形態では、二色のエンタングルされた光子対は、第1の光子とエンタングルされた第1の光子を含み、第1の光子は第1の波長を有しており、第2の光子は第2の波長を有している。
【0035】
一部の実施形態では、第1の波長は、1260nm~1675nmの範囲内の遠距離通信(telecom)波長を含んでいる。
一部の実施形態では、第1の波長は、約1324nmであり、第2の波長は、約795nmである。
【0036】
一部の実施形態では、第1の波長および第2の波長は、原子蒸気セル内の原子蒸気の原子遷移準位に調整される。
一部の実施形態では、干渉計は、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームを使用して、反対方向に伝搬する(counter-propagating)水平偏光および垂直偏光のレーザビームを生成するように構成される。
【0037】
一部の実施形態では、原子蒸気セルは、干渉計によって生成された反対方向に伝搬するレーザビームを使用してエンタングルされた光子対を生成するように構成される。
一部の実施形態では、原子蒸気セルは、四光波混合を使用して、エンタングルされた光子対を生成するように構成される。
【0038】
一部の実施形態では、デバイスは、第1および第2のレーザと干渉計との間にあるレンズをさらに備え、レンズは、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームを干渉計内の焦点に集束させるように構成される。一部の実施形態では、原子蒸気セルは焦点に配置される。
【0039】
一部の実施形態では、デバイスは、第1および第2のレーザとレンズとの間に配置された少なくとも1つの音響光学偏向器(AOD)をさらに備え、少なくとも1つのAODは、第1および第2のレーザビームを偏向させて、少なくとも1つの軸に沿って空間パターンを形成するように構成されている。一部の実施形態では、少なくとも1つのAODは、第1および第2のレーザビームを偏向させて2つの軸に沿って空間パターンを形成するように構成された2つのAODを含んでいる。
【0040】
一部の実施形態では、干渉計は、第1の偏光ビームスプリッタであって、第1の偏光ビームスプリッタの直交面に入射する第1および第2のレーザビームを受け取るように配置され、かつ同じ光路に沿って共伝搬するように第1および第2のレーザビームを結合するように構成された第1の偏光ビームスプリッタと、第2の偏光ビームスプリッタであって、第2の偏光ビームスプリッタの同じ面に入射する共伝搬する第1および第2のレーザビームを受け取るように配置され、かつ第2の偏光ビームスプリッタの2つの直交面から第1および第2のレーザビームの水平偏光成分または垂直偏光成分を含む別々のレーザビームを出力するように構成された第2の偏光ビームスプリッタと、を含んでおり、ビーム経路は、別々のレーザビームを同じ長さの光路を進行させることによって第2のビームスプリッタに帰還させるように構成された循環光路である。
【0041】
一部の実施形態では、干渉計は、サニャック干渉計を含んでいる。
一部の実施形態では、原子蒸気セルは、気密セルおよび光学的に透明な壁を含んでいる。
【0042】
一部の実施形態では、原子蒸気セルは、1つまたは複数の真空部品および/または冷却部品に結合されており、原子蒸気セルは、閉じ込められた蒸気領域内に原子集団(atomic cloud)を光学的にトラップするように構成されており、原子蒸気セルは、原子蒸気セルを介した光の多方向通過を可能にするように構成されたポートを含んでいる。
【0043】
一部の実施形態では、原子蒸気セル内に配置された原子集団の原子は、導波路を備えるチップ上に配置されるか、または中空光ファイバ内に配置される。
本出願の一部の態様は、量子ネットワーキングを実行する方法に関する。方法は、第1の位置にある第1のデバイスを使用して第1の二色のエンタングルされた光子対を生成するステップと、第1の位置とは異なる第2の位置に配置された第2のデバイスを使用して第2の二色のエンタングルされた光子対を生成するステップと、第1および第2の二色のエンタングルされた光子対の各々の第1の光子を、第1および第2の位置にそれぞれある個別の量子メモリデバイスに保存するステップと、第1および第2の二色のエンタングルされた光子対の各々からの第2の光子を、第1および第2の位置とは異なる第3の位置に配置された第1の二光子干渉測定デバイスに伝送するステップと、伝送された第2の光子および第1の二光子干渉測定デバイスにおいて二光子干渉測定を実行することによって、第1および第2の位置に保存された第1の光子の状態をエンタングルして、新たにエンタングルされた光子対を形成するステップと、を含む。
【0044】
一部の実施形態では、第1および第2の二色のエンタングルされた光子対の各々を生成することは、第1の波長を有する第1のレーザビームと、第2の波長を有する第2のレーザビームとを、原子蒸気を含む原子蒸気セルを通過させることによって、原子蒸気セル内に四光波混合プロセスを生じさせることを含んでおり、第1の波長は、原子蒸気の第1の原子遷移の周波数に対応しており、第2の波長は、原子蒸気の第2の原子遷移の周波数に対応している。
【0045】
一部の実施形態において、第1の光子は第1の波長を有しており、第2の光子は第2の波長を有しており、第1の波長は、近赤外波長であり、第2の波長は、赤外波長である。
一部の実施形態では、第1の波長は、795nmであり、第2の波長は、1324nmである。
【0046】
一部の実施形態では、第2の光子を伝送することは、GPS同期デバイスからタイミング信号を受信した後に行われる。
一部の実施形態では、第2の光子は、光ファイバを介して第1の二光子干渉測定デバイスに伝送される。
【0047】
一部の実施形態では、方法は、第1のエンタングルされた光子対の保存された第1の光子のうちの1つを第2の二光子干渉測定デバイスに伝送するステップと、第2のエンタングルされた光子対の保存された第1の光子を第2の二光子干渉測定デバイスに伝送するステップと、第2の二光子干渉測定デバイスおよび伝送された第1の光子を使用して二光子干渉測定を実行することによって、第1のエンタングルされた光子対の他の保存された第1の光子を第2のエンタングルされた光子対の別の保存された第1の光子とエンタングルさせるステップとをさらに含む。
【0048】
本出願の一部の態様は、量子情報を伝送する方法に関する。方法は、複数の二色のエンタングルされた光子対を生成するステップと、複数の二色のエンタングルされた光子対の各々は、異なる位置に配置され、かつ第1の周波数を有する第1の光子と第2の周波数を有する第2の光子とを含んでおり、個別の異なる位置において各二色のエンタングルされた光子対の第1の光子を保存するステップと、各二色のエンタングルされた光子対の第2の光子を第1の中間位置に伝送するステップと、各第1の中間位置が2つの第2の光子を受け取り、第1の中間位置の各々において、第1の二光子干渉測定デバイスを使用して、受け取られた第2の光子の二光子干渉測定を実行するステップと、第1の二光子干渉測定デバイスによる二光子干渉測定が成功裏に実行された場合に、保存された第1の光子の対の間に新たにエンタングルされた状態を形成するステップとを含む。
【0049】
一部の実施形態では、方法は、第1の光子の一部を第2の中間位置に伝送するステップと、各第2の中間位置が2つの第1の光子を受け取り、第2の中間位置の各々において、第2の二光子干渉測定デバイスを使用して、受け取られた第1の光子の二光子干渉測定を実行するステップと、第2の二光子干渉測定デバイスによる二光子干渉測定が成功裏に実行された場合に、保存された異なる第1の光子の対の間に新たにエンタングルされた状態を形成するステップとをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0050】
添付の図面は、一定の縮尺で描かれることを意図していない。図面では、様々な図に示される同一またはほぼ同一の構成要素はそれぞれ、同様の数字によって表される。明確にするために、全ての図面において全ての構成要素に符号が付されているわけではない。図面は以下の通りである。
図1】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、二色のエンタングルされた光子対を生成するように構成され、かつ干渉計を含む二色の光子源(bichromatic photon source)100の概略図である。
図2A-2B】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、生成された二色のエンタングルされた光子対の例示的な軌道を示す図である。
図3A】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、例示的な二光子崩壊経路を有するルビジウムの例示的なエネルギー準位図である。
図3B-3D】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、例示的な二光子崩壊経路を有するルビジウムの例示的なエネルギー準位図である。
図4】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、干渉計を含み、かつ多重化された二色のエンタングルされた光子対を生成するように構成された二色の光子源400の概略図である。
図5A】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、干渉計を有しておらず、かつ二色のエンタングルされた光子対を生成するように構成された別の二色の光子源500の概略図である。
図5B】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、ラックマウント型ハウジング内に配置された二色の光子源500の説明図である。
図6】生成された共鳴光子に対する原子蒸気セルによって生じるフィルタリングの効果を示す例示的なプロットを示す図である。
図7】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、二光子崩壊経路を有する原子種の別の例示的なエネルギー準位図である。
図8】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、共鳴時に原子蒸気セルの原子をポンピングすることによって開かれた透過窓を示す例示的なプロットを示す図である。
図9A】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、原子蒸気セルの原子が共鳴時にポンピングされる二色の光子源に対する光子線幅の調整可能な機能を示す例示的なシミュレーションプロットを示す図である。
図9B】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、原子蒸気セルの原子が共鳴時にポンピングされる二色の光子源に対する光子線幅の調整可能な機能を示す例示的な実験プロットを示す図である。
図10】本明細書に説明される技術の一部の実施形態による、異なる光ポンプ出力に対する生成された光子の測定された同時発生(coincidence)を示す例示的な実験プロットを示す図である。
図11A-11B】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、二色の光子源の2つの出力光子アームに対して測定された二次自己相関関数(second-order auto-correlation functions)を示すプロットを示す図である。
図12A-12B】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、出力光子のベル状態を確認する、二色の光子源の2つの出力光子アームに対して測定された同時発生を各アーム上に配置された偏光子の回転角に対して示すプロットを示す図である。
図13】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、エンタングルされた光子の対を生成するためのプロセス1300を説明するフローチャートである。
図14】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、レーザの波長を安定化させるためのシステム1400の概略図である。
図15】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、2つの異なるレーザを2つの異なる周波数にロックするための例示的なデバイス1500の概略図である。
図16A】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、ルビジウムの原子励起を示す図である。
図16B】本明細書に説明される技術の一部の実施形態による、光検出器によって受信される信号の減衰を示す図である。
図17A-17B】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、例示的なロックデバイス1700を示す図である。
図18A-18B】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、二色の光子源および量子メモリの概略ブロック図と、二色のエンタングルされた光子を生成し、対の光子を保存および伝送する例示的なプロセスとを示す図である。
図19A-19B】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、量子ネットワーク1900の概略ブロック図、および量子ネットワーク1900内に保存された光子をエンタングルする例示的なプロセスを示す図である。
図19C】本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、量子ネットワーク1900の概略ブロック図、および量子ネットワーク1900内に保存された光子をエンタングルする例示的なプロセスを示す図である。
図20A】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、複数のストレージノードを有する量子ネットワーク2000の概略ブロック図、および量子ネットワーク2000のエンドノードにおいて保存された光子をエンタングルする例示的なプロセスを示す図である。
図20B-20C】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、複数のストレージノードを有する量子ネットワーク2000の概略ブロック図、および量子ネットワーク2000のエンドノードにおいて保存された光子をエンタングルする例示的なプロセスを示す図である。
図20D】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、複数のストレージノードを有する量子ネットワーク2000の概略ブロック図、および量子ネットワーク2000のエンドノードにおいて保存された光子をエンタングルする例示的なプロセスを示す図である。
図21】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、量子ネットワーク2100の例証的な例を示す図である。
図22】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、量子ネットワーキングを実行するためのプロセス2200を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本明細書では、二色のエンタングルされた光子対を生成し、前記二色のエンタングルされた光子対を使用して、遠距離通信ネットワークを介して量子情報を伝送するための技法について説明する。これらの技術は、原子蒸気の2つの原子遷移に調整された周波数を有するレーザビームの使用を含む。レーザビームは、原子蒸気の原子と相互作用し、四光波混合プロセスを介して、二色のエンタングルされた光子対を原子蒸気セルから放出させ、対の光子はそれぞれ異なる周波数を有する。次いで、二色のエンタングルされた光子対は、第1のノードおよび第2のノードにおいてそのような対を生成し、対の第1の光子を量子メモリに保存し、対の第2の光子を光ファイバを介して伝送し、受信した第2の光子の二光子干渉測定を実行して保存された第1の光子のエンタングルメントを生じさせ、それによって量子情報を第1のノードから第2のノードに転送することによって、量子情報を伝送するために使用され得る。
【0052】
量子通信は、情報の符号化、処理および転送を指数関数的に向上させるために、量子力学の特別な特性を活用する。最終目標が、量子コンピュータを接続すること、超精密センシング測定を実行すること、または量子保護通信ネットワークを形成することであるかどうかにかかわらず、全て、異種量子デバイスの接続に依存するであろう。そのようなデバイスは、多くの場合、本質的に通信互換性がなく、例えば、それらは、異なる周波数または空間モードを使用して動作し得る(例えば、自由空間または光ファイバを介して伝送する)。例えば、原子磁力計(AM:atomic magnetometer)は、ルビジウム(Rb)原子を使用して、Rb原子と相互作用する磁場の偏光状態の変化を検出することによって10fT/√Hzよりも良好な感度で磁場を測定する。AMのアレイを偏光エンタングルされた光子源とネットワーク化することは、量子リピータに基づく長基線望遠鏡に対して提案されているものと同様に、測定感度を向上させるために望ましい。多くのアプリケーションは、分散センシング問題に対処するために共同で動作する複数のセンサを必要とする。
【0053】
しかしながら、AMおよび他の原子ベースのセンサは、典型的には、光ファイバ通信のために一般的に使用される1300nmおよび/または1550nmの代わりに、約780~795nmの波長で動作するため、この実現は依然として困難なままである。同じ課題は、Rb原子を使用する室温量子メモリ、ならびに量子シミュレータおよびフォトニック位相変調器などの多くの他の原子技術でも直面している。量子デバイス間の通信は、量子技術が静的量子デバイスからモバイル量子デバイス(例えば、空中または海上量子ノード)に移行するにつれて、さらに複雑になる。これらのモバイルノードを互いに効率的に接続するために、近赤外(NIR)波長(780~795nm)を有する光子は、光ファイバに適合する波長(例えば、赤外線波長)の光子と比較して、大気損失および外乱が低減されることが示されている。量子セキュアネットワークにおいてクロスデバイス周波数互換性を可能にするデバイスに対する重要で満たされていないニーズが存在する。
【0054】
加えて、周波数変換器は、量子デバイスと遠距離通信インフラストラクチャとの間の波長不整合に対処するために使用され得るが、周波数変換器は、典型的には、非線形結晶源に依存して、適切な波長の光子を生成する。非線形結晶によって生成されたこれらの光子は、それらの大きな線幅のために、原子モジュール、イオンモジュールまたは他の光子モジュールとインタフェースするために依然として適合しない可能性がある。例えば、非線形結晶によって生成された光子は、通常、10THz程度の線幅を有し、これは、量子バッファ、シミュレータ、および原子プロセッサなどの原子デバイスまたはイオンデバイスによって使用される任意の線幅よりも著しく広い。量子コンピュータおよび量子センサは、典型的には、数MHzから数十MHzの線幅を有する光子と相互作用する。今日まで、このような狭い線幅は、商業的なエンタングルメントソースでは利用可能ではない。
【0055】
本発明者らは、特定の複数の原子種における原子遷移の複数の対を使用して、複数の遠距離通信波長および複数の自由空間通信波長において対応するエンタングルされた複数の光子対を生成し得ることを認識した。従って、本発明者らは、87Rbおよび85Rb原子を使用する二色の光子源であって、二色のエンタングルされた光子対を生成するように構成された二色の光子源を開発した。これらの二色のエンタングルされた光子対は、偏光空間においてエンタングルされた光子を含むが、二色のエンタングルされた光子対の各光子は、異なる波長を有する。例えば、二色のエンタングルされた光子対の一方の光子は近赤外(NIR)波長を有し、他方の光子は赤外波長を有する。二色の光子源は、2つの古典的なポンプ場からの(例えば、第1および第2のポンプレーザからの)光子を、互いにエンタングルされている2つの異なる波長の単一光子の対に変換するために、高温(warm)原子蒸気セルにおける自発四光波混合(SFWM:Spontaneous Four-Wave Mixing)のプロセスを利用する。二色の光子源は、例えば、ファイバ伝送のための遠距離通信O、S、およびC帯域、ならびに量子バッファリング、処理、およびセンシングのためのNIRを含む、広範囲の波長にアクセスするために、よく特徴付けられた(well-characterized)Rb蒸気の原子遷移を使用し得る。
【0056】
一部の実施形態では、二色の光子源は、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームのビーム経路内に配置された原子蒸気セルを含む。第1の原子蒸気セルは、原子蒸気中に原子種(例えば、Rb、Cs、または任意の他の適切なアルカリ金属)の原子を含む。原子種の原子は、第1の原子遷移および第2の原子遷移を有し、かつ第1のレーザビームおよび第2のレーザビームの光子によって生じる光励起に応答してエンタングルされた光子の対を生成するように構成される。
【0057】
本発明者らはさらに、原子種の原子遷移と共鳴するようにポンプレーザの波長を調整することにより、原子蒸気セルのフィルタリング効果を軽減することができ、それによって、より狭い光子線幅を可能にすることを認識し、かつ理解した。例えば、ポンプレーザが、原子蒸気の原子共鳴波長ではないが、それに近い波長で動作されるとき、原子蒸気セルの原子は、フィルタとして機能して、二色のエンタングルされた光子対の出力および品質を低減させ得る。特に、ポンプレーザが、原子蒸気の原子共鳴波長に近いが、その波長ではない波長(例えば、約1~2GHzに対応するエネルギーだけ異なる)で動作されるとき、二色の光子対は、個別の共鳴に近い波長で放出される。しかしながら、原子蒸気は、近共鳴光子に対して光学的に厚く、従って、生成された光子は、原子蒸気セル内の原子によって複数回吸収および再放出され得る。この効果は、生成された光子のエンベロープ内に追加のノイズを発生させ、かつ生成される二色のエンタングルされた光子対の数を低減する。
【0058】
本発明者らはさらに、原子種の原子遷移と共鳴してポンプレーザを動作させることにより、光子線幅のカスタマイズが可能になることを認識し、かつ理解した。特に、生成された二色のエンタングルされた光子対の線幅は、ポンプレーザの出力(例えば、NIRポンプレーザの出力)に基づいて調整され得る。このようにして、光子線幅は、10MHz~100GHzの範囲または10MHz~500MHzの範囲でカスタマイズ可能であり得る。従って、一部の実施形態では、第1のレーザビームは、原子蒸気セル内の原子種の第1の原子遷移と共鳴するように調整された第1の波長を有し、第2のレーザビームは、原子蒸気セル内の原子種の第2の原子遷移と共鳴するように調整された第1の波長とは異なる第2の波長を有する。
【0059】
本発明者らはさらに、原子種の原子遷移と共鳴する波長でポンプレーザを動作させることが、原子蒸気セル内にV型の電磁誘起透過(EIT)を形成するための条件を満たすことができることを認識、かつ理解した。このEITは、生成された二色のエンタングルされた光子対の第1の光子の波長において原子蒸気セル内に透過媒体を形成する。このV型のEITは、二色の光子源のスペクトル輝度を増加させるために利用することができる。例えば、本発明者らは、ポンプレーザの第1の波長および第2の波長が第1の原子蒸気セル内でEITを形成するための条件を満たす二色の光子源を動作させる技術を開発した。EITは、二色の光子源のスペクトル輝度を20~200s-1MHz-1の範囲内で増加させることができるように、二色のエンタングルされた光子対の一方の光子の波長において第1の原子蒸気セル内に透過媒体を形成する。
【0060】
一部の実施形態では、エンタングルメントソースは、(例えば、2つの異なる周波数を有する2つのレーザビームからの)コヒーレント二光子ポンピングが、非相関ポンプ光子を偏光エンタングルされた二色の光子対に変換することができるように、干渉計の光路に配置されたRb蒸気セルを含み、対の光子は2つの異なる周波数を有する。エンタングルメントソースは、光ファイバ伝送のための遠距離通信OおよびC帯域、量子保存/バッファリングのためのNIR、ならびにトラップされたイオンキュービットおよびリュードベリ(Rydberg)励起のための近UVを含む広範囲の波長にアクセスするために、よく特徴付けられたRb蒸気の原子遷移を使用する。生成された光子対は、一部の実施形態では、量子情報の伝送のために、または代替的に、伝令付き単一光子用途(例えば、量子鍵配信またはQKD)のために使用され得る。
【0061】
一部の実施形態では、原子蒸気または原子集団は、真空下で磁気光学トラップによって閉じ込められ得る。トラップ装置は、(例えば、2つの異なる周波数を有する2つのレーザビームからの)コヒーレント二光子ポンピングが、無相関ポンプ光子を、光子対の光子が2つの異なる周波数を有する偏光エンタングルされた二色の光子対に変換することができるように、干渉計の光路内に配置され得る。この構成では、ソースによって生成されるエンタングルされた光子は、磁気光学トラップ内の原子のレーザ冷却に起因するドップラー広がりの緩和により、著しく狭い線幅を有する。
【0062】
一部の実施形態では、干渉計は、第1のビームおよび第2のビームを使用して、原子蒸気セルにダイレクトされる反対方向に伝搬する水平偏光および垂直偏光のビームを生成するように構成され得る。原子蒸気セルは、反対方向に伝搬するビームを使用して二色のエンタングルされた光子対を生成するように構成され得る。一部の実施形態では、原子蒸気セルは、四光波混合および共伝搬ビームを使用して二色のエンタングルされた光子対を生成するように構成される。
【0063】
一部の実施形態では、干渉計は、第1の偏光ビームスプリッタおよび第2の偏光ビームスプリッタを備える。第1の偏光ビームスプリッタは、第1の偏光ビームスプリッタの直交面に入射する第1および第2のビームを受け取るように配置され、同じ光路に沿って共伝搬するように第1および第2のビームを結合するように構成され得る。第2の偏光ビームスプリッタは、第2の偏光ビームスプリッタの同じ面に入射する共伝搬する第1および第2のビームを受け取るように配置され、第2の偏光ビームスプリッタの2つの直交面から第1および第2のビームの水平偏光成分または垂直偏光成分を含む別々のビームを出力するように構成され得る。ビーム経路は、別々のビームを同じ長さの光路を移行することによって第2のビームスプリッタに帰還させるように構成された循環光路であり得る。一部の実施形態では、干渉計は、機械的ノイズ(例えば熱膨張)の影響に対して特に堅牢なサニャック干渉計を含む。
【0064】
一部の実施形態では、エンタングルメントソースは、第1及び第2のレーザと干渉計との間にあるレンズを含み得る。レンズは、第1のビームおよび第2のビームを干渉計内の焦点に集束させるように構成され得る。一部の実施形態では、原子蒸気セルは、焦点に配置され得る。
【0065】
一部の実施形態において、エンタングルメントソースは、第1及び第2のレーザとレンズとの間に配置された少なくとも1つの音響光学偏向器(AOD)を含み得る。少なくとも1つのAODは、第1および第2のビームを偏向させて、少なくとも1つの軸に沿って空間パターンを形成する(例えば、多重化を提供する)ように構成され得る。一部の実施形態では、少なくとも1つのAODは、第1および第2のビームを偏向させて2つの軸に沿って空間パターンを形成するように構成された2つのAODを含む。代替的に、一部の実施形態では、AODの代わりに空間光変調器(SLM(spatial light modulator)、図示せず)を使用して、第1および第2のビームを偏向させて、少なくとも1つの軸に沿って空間パターンを形成し得る。
【0066】
本発明者らは、二色のエンタングルメントソースを使用して量子ネットワーキングを実行するための方法をさらに開発した。一部の実施形態では、本方法は、第1の位置にある第1のデバイスを使用して第1の二色のエンタングルされた光子対を生成するステップと、第1の位置とは異なる第2の位置に配置された第2のデバイスを使用して第2の二色のエンタングルされた光子対を生成するステップとを含む。方法は、第1および第2の二色のエンタングルされた光子対の各々の第1の光子を、第1および第2の位置にある個別の量子メモリデバイスにそれぞれ保存するステップと、第1および第2の二色のエンタングルされた光子対の各々からの第2の光子を、第1および第2の位置とは異なる第3の位置に配置された第1の二光子干渉測定デバイスに伝送するステップとをさらに含む。さらに、方法は、伝送された第2の光子および第1の二光子干渉測定デバイスにおいて二光子干渉測定を実行することによって、第1および第2の位置に保存された第1の光子の状態をエンタングルして新たにエンタングルされた光子対を形成するステップを含む。
【0067】
以下は、量子遠距離通信システムのための動的偏光ドリフト補正を実施するための技法に関する種々の概念および実施形態のより詳細な説明である。本明細書で説明する様々な態様は、多数の方法のいずれかで実施され得ることを理解されたい。特定の実施形態の例は、説明のためのみに本明細書で提供される。加えて、以下の実施形態で説明される様々な態様は、単独で、または任意の組み合わせで使用されてもよく、本明細書で明示的に説明される組み合わせに限定されない。
【0068】
I. 二色のエンタングルされた光子源
図1は、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、二色のエンタングルされた光子対を生成するためのデバイス100の概略図である。デバイス100は、干渉計130によって受信されるレーザビームを出力するように構成された第1のレーザ110および第2のレーザ120を含む。また、第1のレーザ110及び第2のレーザ120は、それぞれ異なる周波数を有するレーザビームを出力するように構成されている。例えば、第1のレーザ110および第2のレーザ120は、干渉計内のビーム経路内に位置する原子蒸気セル136内に保存された原子蒸気の2つの原子遷移に調整された周波数を有するレーザビームを出力し得る。
【0069】
一部の実施形態では、第1のレーザ110は、原子蒸気セル136内の原子蒸気を形成する原子種の原子の第1の原子遷移エネルギーに一致するように選択された波長を有する第1のレーザビーム111を出力するように構成され得る。例えば、周波数は、赤外線周波数(例えば、1260nm~1675nmの範囲内の波長)に対応し得る。一部の実施形態では、第1のレーザ110は、1324nmまたは1367nmの波長を有する第1のレーザビーム111を出力するように構成され得る。一部の実施形態では、波長は、Rb原子の5P1/2から6S1/2への遷移の励起エネルギーに一致するように選択され得る。
【0070】
一部の実施形態では、第2のレーザ120は、原子蒸気セル136の原子蒸気内の第2の原子遷移エネルギーに一致するように選択された波長を有する第2のレーザビーム121を出力するように構成され得る。例えば、波長は、近赤外線(NIR)周波数(例えば、750nm~1000nmの範囲内の波長)に対応し得る。一部の実施形態では、第2のレーザ120は、795nmまたは780nmの波長を有する第2のレーザビーム121を出力するように構成され得る。一部の実施形態では、周波数は、Rb原子の5S1/2から5P1/2への遷移の励起エネルギーに一致するように選択され得る。
【0071】
一部の実施形態では、第1のレーザ110および第2のレーザ120からのレーザビーム111、121は、干渉計130に入射する前に1つまたは複数の光学部品を通過し得る。図1の例は、レーザビーム111、121の両方が波長板102と、レーザビームを同じ光路に沿って共伝搬させるように構成された偏光ビームスプリッタ104と、干渉計130に入射する前の半波長板106とを通過することを示す。いくつかの光学部品は、任意選択的であり得、かつ/または図1の例に示されていないものであり得ることを理解されたい。例えば、(例えば、本明細書の図4の例に示されるように)原子蒸気セル136がレンズの焦点に配置されるように、半波長板106の後かつ干渉計130の前の光路にあるレンズが含まれ得る。代替的または追加的に、干渉計130の前のこれらの光学部品のいくつかは、干渉計130に含まれ得る。例えば、偏光ビームスプリッタ104、および偏光ビームスプリッタ104と干渉計の偏光ビームスプリッタ132との間の任意の光学部品は、図1の例に示されるような外部ではなく、干渉計内に収容され得る。
【0072】
一部の実施形態では、干渉計130は、偏光ビームスプリッタ132、ミラー134、および遮蔽138によって包囲された原子蒸気セル136を含み得る。偏光ビームスプリッタ132は、第1のレーザ110および第2のレーザ120からの入射レーザビームを分割するように構成され得る。偏光ビームスプリッタ132を出射する分割されたビームは、水平方向および垂直方向(それぞれ、|H>および|V>によって示される)に沿って偏光され得る。
【0073】
一部の実施形態では、偏光ビームスプリッタを出射するレーザビームは、ミラー134によって原子蒸気セル136に向かってダイレクトされる。原子蒸気セル136は、原子蒸気の原子を原子蒸気セル136内に閉じ込めるように構成された磁気光学トラップを支持するハウジングを含み得る。原子蒸気セル136のハウジングは、汚染を防止するために気密封止され得、かつ光が原子蒸気セル136に入射し、かつ/または出射することを可能にするために1つまたは複数の光学的に透明な窓を含み得る。原子蒸気セル136は、高温原子蒸気または低温原子集団を閉じ込めるように構成され得る。一部の実施形態では、原子蒸気または原子集団は、導波路を備えるチップ上に配置されるか、または中空光ファイバ内に配置され得る。一部の実施形態では、原子蒸気セル136は、磁場および/または電場が原子蒸気セル136内の原子蒸気に影響を及ぼすことを防止するために、遮蔽138によって包囲され得る。例えば、遮蔽138は、原子蒸気を外部磁場から遮蔽するためにミューメタルで形成され得る。
【0074】
一部の実施形態では、原子蒸気セル136は、反対方向に伝搬するポンプ場(例えば、レーザビーム)を受信すると、ある周波数の受信光子を吸収し、2段階励起および減衰プロセスを経て、エンタングルされた偏光状態を有する光子を再放出し得る原子を含む原子蒸気を含有し得る。例えば、原子蒸気セル136は、Rb(例えば、87Rb、85Rb、または任意の他の適切な同位体)の原子蒸気を含有し得る。代替的に、一部の実施形態では、原子蒸気セル136は、別のアルカリ金属の原子蒸気を含有し得る。例えば、アルカリ金属は、Csの同位体(例えば、133Cs、または任意の他の適切な同位体)を含み得る。
【0075】
一部の実施形態では、原子蒸気は、2つの所望の波長でエンタングルされた光子対の生成を可能にする二光子共鳴を示し得る。例えば、図3Aに示されるように、87Rbは、遷移5S1/2-5P1/2-6S1/2に沿った二光子共鳴(または四光波混合プロセス)を示し、これは、約780nmおよび約1367nmの波長を有する受信光による励起に応答して、約795nmおよび約1324nmの波長を有するエンタングルされた光子を生成することができる。この例示的な遷移サイクルは、光子が自然に基底状態に減衰するための経路をほとんど提供せず、より高いエンタングルメント率および非相関の光子のより少ない出力を提供する。他の類似の二光子共鳴が、Rbの他の同位体または他の原子系に存在し得ることを理解されたい。
【0076】
本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、Rbにおける追加の二光子共鳴の例が、図3B図3Dに示されている。図3B図3Dの追加の例は、NIR、O、C、および/またはS帯域における波長のスペクトルを生成するために使用され得るRbの柔軟性を示す。これらの特定の帯域は、量子通信および量子計算にわたる広範囲の用途を有する。例えば、波長1324nm、1476nm、及び1529nmは、それぞれO、S、及びCの遠距離通信帯域に対応し、かつ長距離にわたる光ファイバ通信に適した波長である。さらに、波長795nmおよび780nmは量子バッファおよびセンサに一般的に使用され、波長776nmおよび762nmは自由空間通信に適している。最後に、480nmおよび475nmの波長は、中性量子コンピュータおよびセンサ等のいくつかのリュードベリ技術およびイオン技術とインタフェースするために使用されることができる。本明細書に記載の二色の光子源(例えば、光源100、400、および/または500)と共に使用され得るレーザ波長対及び入力レーザ波長対の例は、本明細書の表1に提供されている。
【0077】
表1に提供されるレーザ波長対および入力レーザ波長対の特定の例は、本明細書で説明される技術の態様がこの点において限定されないことから、使用または生成され得る唯一の波長ではないことを理解されたい。例えば、一部の実施形態では、レーザ波長対および/またはエンタングルされた光子波長対は、750nm~850nmの範囲および1300nm~1600nmの範囲、または750nm~850nmの範囲および450nm~550nmの範囲であり得る。原子種の所望の原子遷移エネルギーに対応する任意の適切な波長は、これらの範囲内から選択され得る。
【0078】
【表1】
【0079】
第1のレーザ110および第2のレーザ120の周波数を原子蒸気内の原子のポンプ周波数に調整することによって、対応する二光子共鳴を使用して、励起された原子状態の減衰時に二色のエンタングルされた光子対を生成し得る。一部の実施形態では、原子蒸気セル136は、図2Aおよび図2Bの例に示すように、受信レーザビームの軸線に対して軸外の方向に二色のエンタングルされた光子対の光子を生成して出力し得る。
【0080】
図1に戻ると、一部の実施形態では、二色のエンタングルされた光子対の生成された光子は、破線によって示される光路をたどる。生成された光子は、ミラー134および偏光ビームスプリッタ132を使用して、原子蒸気セル136から干渉計の外へ伝送され得る。生成された光子は、次いで、ミラー142、波長板144、および周波数フィルタ146を含む光学部品によって、ノード148においてエンタングルメントソース100から出力され得る。次いで、出力光子は、必要に応じて、エンタングルメントソース100によって保存または伝送され得る。
【0081】
図4は、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、多重化された二色のエンタングルされた光子対を生成するための別の二色の光子源400の概略図である。デバイス400は、生成された二色のエンタングルされた光子対の空間多重化を提供するように構成され得る。空間多重化によって、入力レーザビームが原子蒸気セル136内の複数の原子領域を同時にアクセスすることが可能となるため、エンタングルメントソースの輝度及びヘラルディング(heralding)効率が増加し得る。
【0082】
一部の実施形態では、多重化は、1つまたは複数の音響光学偏向器408(AOD)によって提供され得る。AOD408は、第1のレーザ110および第2のレーザ120からの共伝搬レーザビーム111、121を1つまたは複数の軸に沿って偏向させ得る。例えば、AOD408は、レーザビーム111、121を水平軸に沿って偏向させて、水平軸に沿った空間パターンを形成し得る。代替的または追加的に、AOD408は、レーザビーム111、121を垂直軸に沿って偏向させて、水平軸および垂直軸によって規定される平面内に2次元空間パターンを形成し得る。
【0083】
一部の実施形態では、レンズ409は、レーザビームをさらに偏向させて、レーザビームを干渉計130内の平行光路に沿って共伝搬させ得る。原子蒸気セル136は、レンズ409の焦点に配置され得、共伝搬レーザビームは、図1の例に関連して説明したのと同様に、干渉計130内の原子蒸気セル136にダイレクトされ得る。レーザビームの光子を受信して吸収すると、原子蒸気セル136は、互いに反対方向に進行する破線によって示されるように、二色のエンタングルされた光子対を出力し得る。一部の実施形態では、生成された二色のエンタングルされた光子対は、次いで、干渉計を出射し、収集のためにAOD408にダイレクトされ、さらなる保存または伝送のために出力ノード148を介して出力され得る。
【0084】
図5Aは、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、二色のエンタングルされた光子対を生成するように構成された別の二色の光子源500の概略図である。二色の光子源500は、二色の光子源100および400とは対照的に、干渉計を含んでいない。詳しくは、図5Aの例に示されるように、二色の光子源500は、第1のレーザビーム111を生成するように構成された第1のレーザ110と、第2のレーザビーム121を生成するように構成された第2のレーザ120とを含む。一部の実施形態では、第1のレーザ110および第2のレーザ120は、二色の光子源500に含まれなくてもよく、二色の光子源500は、適切な入力ポート(図示せず)を通して第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121を受信し得ることを理解されたい。
【0085】
一部の実施形態では、第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121は、任意選択的に、ビームスプリッタ502(例えば、50:50ビームスプリッタ)を最初に通過し得る。ビームスプリッタ502は、第1のレーザビーム111の一部及び第2のレーザビーム121の一部が出力503にダイレクトされるように、第1のレーザビーム111及び第2のレーザビーム121を分割し得る。出力503は、第1のレーザ110および第2のレーザ120の出力を所望の第1および第2の波長にロックするように構成された1つまたは複数のロックデバイスに光学的に結合され得る。第1のレーザ110および第2のレーザ120の両方の出力をロックするように構成されたロックデバイスの例は、本明細書の図14図17Bに関連して説明される。
【0086】
一部の実施形態では、第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121は、次いで、半波長板106および偏光ビームスプリッタ104を通過し得る。1つまたは複数のミラー142は、その後、第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121を原子蒸気セル136内にダイレクトし得る。図5Aの例では、第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121の各々に対して2つのミラー142が示されているが、本技術の態様はこの点において限定されないことから、任意の適切な数のミラー142を使用して第1および第2のレーザビーム111、121をダイレクトし得ることを理解されたい。
【0087】
一部の実施形態では、二色の光子源500は、第1および第2のレーザ110、120と第1の原子蒸気セル136との間に配置された音響光学偏向器(AOD、図示せず)を含み得る。少なくとも1つのAODは、第1および第2のレーザビーム111、121を偏向させて、少なくとも1つの軸に沿った空間パターンを形成して、(例えば、本明細書において図4の例に関連して説明したように)生成されたエンタングルされた光子対の多重化を可能にするように構成され得る。
【0088】
一部の実施形態において、第1のレーザビーム111は、第1の方向に沿って原子蒸気セル136に入射し、第2のレーザビーム121は、第1の方向とは異なる第2の方向に沿って原子蒸気セル136に入射し得る。例えば、図5Aに示すように、第2のレーザビーム121は、原子蒸気セル136の面に垂直な方向に沿って原子蒸気セル136に入射し得る。第1のレーザビーム111は、第1のレーザビーム111が原子蒸気セル136の面に対して平行でも垂直でもない角度で原子蒸気セル136に入射するように、第2の方向に対する角度θによって規定される第1の方向に沿って原子蒸気セル136に入射し得る。
【0089】
一部の実施形態では、角度θを設定することは、二色の光子源500の出力における不所望のノイズを低減するために使用され得る。第1のレーザビーム111と第2のレーザビーム121との間の相対角度θを調整することにより、原子蒸気セル136に入力されるレーザビームを、生成された光子から空間的に分離させることができる。例えば、角度θは、X度からY度の範囲内の任意の適切な角度であり得る。一部の実施形態では、角度θは約2.7°であり得る。
【0090】
一部の実施形態では、二色の光子源500は、第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121のビーム経路内に配置された原子蒸気セル136を含む。第1のレーザビーム111及び第2のレーザビーム121は、原子蒸気セル136内の位置で交差するように配置され得る。二色の光子源100および400に関連して説明したように、原子蒸気セル136は、原子蒸気の形態の原子を含み得る。原子は、第1の原子遷移および第2の原子遷移を有する原子種であり得る。例えば、原子種は、ルビジウムまたはルビジウムの任意の他の適切な同位体もしくは別のアルカリ金属であり得る。
【0091】
一部の実施形態では、原子蒸気セル136内の原子は、第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121によって励起されて、本明細書で説明されるような四光波混合プロセが生じる。第1のレーザビーム111は第1の波長を有し、第2のレーザビーム121は、第1の波長とは異なる第2の波長を有し得る。二色の光子源100および400に関連して説明したように、第1の波長および第2の波長は、原子蒸気セル136内に配置された原子種の原子遷移のエネルギーに対応するように選択され得る。例えば、一部の実施形態では、第1の波長は、750nm~850nmの範囲内であり得、第2の波長は、1300nm~1600nmの範囲内または450nm~550nmの範囲内であり得る。一部の実施形態では、第1の波長および第2の波長は、本明細書の表1に記載された値を有し得る。
【0092】
一部の実施形態では、四光波混合プロセスは、二色のエンタングルされた光子対の生成を生じさせ得る。二色のエンタングルされた光子対の光子は、図5Aの例に示すように、第1のビーム経路135および第2のビーム経路137に沿って原子蒸気セル136から出射し得る。また、原子蒸気セル136の原子によって吸収されない第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121の一部は原子蒸気セル136を出射して、例えば、ビームトラップ504または他の光吸収媒体によって吸収され得る。
【0093】
一部の実施形態では、二色のエンタングルされた光子対の光子は第1の光子および第2の光子を含み得、第1の光子は第3の波長を有し、第2の光子は第3の波長とは異なる第4の波長を有する。第3の波長および第4の波長は、原子種の二光子崩壊経路における原子遷移のエネルギーに対応し得る。例えば、第3の波長は、750nm~850nmの範囲内であり得、第4の波長は、1300nm~1600nmの範囲内、750nm~850nmの範囲内、または450nm~550nmの範囲内であり得る。ルビジウム原子を含有する原子蒸気セルに対して利用可能な波長のさらなる例が、本明細書の表1に提供されている。しかしながら、他の特定の波長が他の適切な原子種(例えば、他のアルカリ金属)によって生成され得ることから、表1に提供される例は、非限定的かつ非網羅的であることを理解されたい。
【0094】
一部の実施形態では、二色のエンタングルされた光子対の光子は、ダイクロイックミラー506aおよび506bに入射し得る。ダイクロイックミラー506aおよび506bは、二色のエンタングルされた光子対の生成された光子の波長またはその付近の波長を有する光を反射するように構成され得る。また、ダイクロイックミラー506aおよび506bは、不所望の波長の光がビーム経路135、137の残り部分に沿って伝送され得ないように、生成された光子の波長またはその付近の波長以外の波長を有する光を透過するように構成され得る。
【0095】
一部の実施形態では、追加のミラー142が、二色のエンタングルされた光子対の光子をビーム経路135、137に沿ってさらに誘導し得る。一部の実施形態では、二色のエンタングルされた光子対の光子は、その後、追加のフィルタ508を通過し得る。フィルタ508は、例えば、広帯域フィルタ(例えば、干渉フィルタ、体積型ブラッグ格子(volume Bragg gratings))、または代替的に、狭帯域フィルタ(例えば、ファブリーペローエタロン(Fabry-Perot etalons))を含み得る。そのような狭帯域フィルタを使用することにより、100程度の出力信号対ノイズ比を提供することができる。フィルタリングされた後、光子は、二色の光子源500から出力され得る。
【0096】
本発明者らはさらに、二色の光子源100、400、および/または500のいずれかの小型化が、向上した大量生産、低減されたフォームファクタ、ならびに既存の遠距離通信インフラストラクチャとの互換性および統合の容易さに対して有利であることを認識し、かつ理解した。一例として、図5Bは、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、ラックマウント型ハウジング540内に配置された二色の光子源500の説明図を示す。図5Bのラックマウント型ハウジングは、6インチ(15.24センチメートル)×15インチ(38.1センチメートル)×2インチ(5.08センチメートル)以下の設置面積サイズを有して、モジュールが、種々の場所および実験において使用されること、ならびに展開可能なラックマウントユニットに統合されることができることを確実にするようになっている。
【0097】
一部の実施形態では、ラックマウント型ハウジング540は、図5Aに関連して説明したように、第1および第2のレーザ110、120に光学的に結合され得る入力を含み得る。前述したように、第1のレーザビーム111および第2のレーザビーム121は、ミラー142によって原子蒸気セル136内に誘導される前に、半波長板106および偏光ビームスプリッタ104を通過し得、四光波混合プロセスによって、二色のエンタングルされた光子の対の生成が生じる。次に、生成された二色のエンタングルされた光子の光子の対は、二色ミラー506a、506b及び追加のミラー142によってラックマウント型ハウジング540の出力に向けて誘導され、二色の光子源500から出力される前にフィルタ508を通過する。その後、出力された二色のエンタングルされた光子対は、遠距離通信、量子計算、または本明細書で説明されるような他の量子情報デバイスとインタフェースするために使用され得る。
【0098】
本発明者らはさらに、ポンプレーザ(例えば、第1および第2のレーザ110、120)が、原子蒸気の原子共鳴波長ではないが、それに近い波長で動作される場合に、原子蒸気セルの原子は、フィルタとして機能して、二色のエンタングルされた光子対の出力および品質を低下させ得ることを認識した。特に、ポンプレーザが、原子蒸気の原子共鳴波長ではないが、それに近い波長(例えば、約1~2GHzだけずれている場合、このオフ共鳴動作は図3AにおいてΔで示される)で動作される場合、二色の光子対は、それぞれの共鳴波長に近い波長で放出される。しかしながら、四光波混合セルは、近共鳴(near-resonant)光子に対して光学的に厚い(optically thick)ため、生成される光子は、原子蒸気セル内で複数回吸収され、再放出され得る。この効果は、近赤外光子のエンベロープ内に追加のノイズを発生させ、生成される二色のエンタングルされた光子対の数を減少させる。
【0099】
図6は、ポンプレーザがオフ共鳴で動作される場合に、原子蒸気セルによって生じるフィルタリング効果を示す。図6は、光子確率対周波数を示す曲線602を示し、原子共鳴は線604によって示されている。曲線602は、単一光子のローレンツパルスから原子蒸気セルをガウスフィルタリングすることによって生じる長いガウステールを含む。ガウステールは大きな線幅を有しているため、共鳴状態のローレンツパルスに対して原子蒸気セル内での吸収が少なくなり、ガウステールが光子のエンベロープを支配するようになる。従って、これらのフィルタリングされた光子は、非常に大きい線幅(例えば、100MHzより大きく、最大数十GHz)を有する可能性があり、多くの量子デバイス(例えば、狭い線幅を必要とする原子メモリまたは他のデバイス)とインタフェースすることができなくなる。
【0100】
本発明者らは、原子蒸気セル内の原子種の原子遷移と共鳴するようにポンプレーザ(例えば、第1および第2のレーザ110、120)を調整することにより、これらのフィルタリング効果を軽減することができることを認識し、かつ理解した。加えて、本発明者らは、ポンプレーザをそのような共鳴周波数で動作させることにより、原子蒸気セル内にV型の電磁誘起透過(EIT)を形成するための条件を満たすことができ、EITは、生成された二色のエンタングルされた光子対の一方の光子のNIR波長(例えば、795nm)に対して原子蒸気セル内に透過媒体を形成することを認識し、かつ理解した。V型のEITは、795nmで生成される光子の線幅を減少させるために利用することができるため、二色の光子源を、厳密な線幅許容基準を有する他の原子デバイス(例えば、量子メモリ)に結合する有効性が増加する。より一般的には、線幅の関数としての輝度、または二色の光子源のスペクトル輝度は、EITによって増加する。
【0101】
図7は、本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、ルビジウムの原子遷移と共鳴するように調整されたポンプ波長および対応する二光子崩壊経路を有する例示的なエネルギー準位図を示す。エネルギー準位図は、図中の超微細分裂を含む。図7の例では、ポンプ波長780nmおよび1367nmは、5S1/2状態と5P3/2状態との間の原子遷移、および5P3/2状態と6S1/2状態との間の原子遷移にそれぞれ対応する。二色のエンタングルされた光子対の生成された光子は、6S1/2状態と5P1/2状態との間の原子遷移、および5P1/2状態と5S1/2状態との間の原子遷移にそれぞれ対応する1324nmおよび795nmの波長を有する。
【0102】
原子蒸気セルによって生成される1324nmの光子は、5P1/2中間状態にある集団が無視できるほどであるため、0に近い減衰で原子蒸気セルを通過して伝搬することができる。しかしながら、弱駆動制限では、原子蒸気セル内の大部分の原子は5S1/2状態にある。このような原子蒸気セルにおける典型的な大きな光学的密度では、795nmの光子が原子蒸気セルを通過する過程でもって再吸収および散乱され得るため、これは、795nmの光子について大きな損失をもたらす。780nmのポンプレーザの出力および周波数を調整することによって、V型のEIT効果が、生成された795nm光子と780nmポンプレーザとの間に誘起され得る。V型のEIT効果によって、795nm光子のための光透過窓が開いて、光子が原子蒸気セルから比較的邪魔されずに伝搬することが可能となるため、原子蒸気セルによって出力される二色のエンタングルされた光子対の数が増加する。図8は、典型的な温度および光出力における原子蒸気のシミュレーションである一例に対する曲線802を示す。
【0103】
図8は、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、共鳴時に原子蒸気セルの原子をポンピングすることによって開かれたEIT誘起された透過窓のシミュレーションを示す例示的なプロットである。曲線802は、出力光子の共鳴周波数(例えば、795nm)付近の光子に対する透過係数の増加を示す。この周波数では、出力光子は、通常100dB以上の損失の代わりに、半分の損失になる。
【0104】
その結果、ポンプレーザ(例えば、第1および第2のレーザ110、120)によって生成される波長を、原子蒸気セル内の原子の原子遷移と共鳴するように調整することによって、原子蒸気セルから成功裏に出力される使用可能な二色のエンタングルされた光子対の数が著しく増加する。しかしながら、光子の線幅に対する影響を考慮することなく、大きな輝度値がほとんどの場合に実現されることから、高レートの(「明るい」)エンタングルメントソースのみでは、量子デバイスとのインタフェースには十分ではない。例えば、全ての現在利用可能なエンタングルメントソースは、約1~100THzの範囲の線幅を有する光子を生成するが、ほとんどの量子コンピューティング及びセンシングアーキテクチャをカバーする原子ベースのデバイスは、典型的には、数十MHzよりも広くない線幅を有する光子を受け入れる。これは、ソースが有するレートの高さにかかわらず、約10,000,000対ごとに1対のみがこれらの量子デバイスとインタフェースすることができることを意味する。
【0105】
従って、注目すべきより信頼性のある測定基準は、スペクトル輝度であり、これは、単位線幅当たりの単位時間当たりの光子の割合(本明細書ではs-1MHz-1)である。スペクトル輝度のより高い値は、より狭い線幅の光子のより高い出力率を示す。本発明者らは、二色の光子源500などのデバイスを使用して、20~200s-1MHz-1の範囲のスペクトル輝度を観察しており、理論的には20~800,000s-1MHz-1の範囲のスペクトル輝度が実現可能である。これらの値は、他の大半の市販のエンタングルメントソースで測定されたスペクトル輝度を桁違いにはるかに上回る。
【0106】
本発明者らはさらに、共鳴状態のポンプレーザによって誘起されるV型のEITが、出力光子の線幅の調整を可能にすることを認識し、かつ理解した。特に、二色のエンタングルされた光子対のスペクトル線幅は、原子蒸気セルを光学的にポンピングするために使用されるレーザ出力に大きく依存する。一例として、図9Aは、予測光子線幅と入力ポンプレーザ出力との間の関係を示すシミュレートされたプロットであり、曲線904は点902にフィットしている。
【0107】
この効果は、より高い出力の光ポンプがより大きなラビ周波数を有するという観察によって説明することができる。これらのより大きなラビ周波数は、より高出力の光ポンプを原子蒸気内のより多数の速度クラス(velocity classes)と相互作用させて、結果的に、放出される光子対に対するスペクトル幅がドップラー効果の影響でより広くなる。この効果の実験的確認が図9Bに示されており、図9Bは、測定された光子線幅対入力ポンプ出力のプロットであり、曲線908は測定された点906にフィットしている。この実験では、1367nm励起出力を固定した状態で、780nm励起出力を変化させた。次いで、二次強度自己相関関数(second-order intensity auto-correlation function)の幅を、出力795nmの光子に対して監視した。この値は、光子線幅に直接相関する。図9Aおよび図9Bの両方において、出力光子線幅に対する√P780スケーリングが観察され、ここで、P780は780nmのポンプレーザの出力であり、光子線幅と780nmのポンプのラビ周波数との間に予想される直線的なスケーリング関係があることが検証される。
【0108】
本発明者らは、ポンプレーザ(例えば、第1および第2のレーザ110、120)の共鳴状態(on-resonant)動作によって可能にされる、この容易に調整可能な光子線幅が、約10MHzから約100GHzの範囲内、または約10MHzから約500MHzの範囲内の出力光子線幅およびスペクトル輝度のカスタマイズを可能にすることを認識し、かつ理解した。そのようなカスタマイズ可能性は、本明細書で説明される二色の光子源(例えば、二色の光子源100、400、および/または500)が、異なる線幅要件および/またはスペクトル輝度要件を有する複数の量子技術に柔軟かつ汎用的に結合することを可能にする。例えば、超狭線幅領域(例えば、100MHz未満)では、光子線幅は、ポンプレーザ出力を変更することによって調整され得る。この領域を超えて、約500MHzまでの線幅は、二色の光子源100、400、および/または500を使用して、ポンプレーザを適切に離調することによって(例えば、原子蒸気の原子遷移エネルギーに対応する波長ではなく、その波長付近(例えば、約1~2GHz離れている)でポンプレーザを動作させることによって)実現可能である。
【0109】
この線幅の調整可能性は、g(2)関数の時間的な幅の測定、または測定された同時発生によって実験的に検証された。この測定の例が図10に示されており、g(2)値が異なる時間ビンτに対して示されている。曲線1002は1mWの780nmポンプ出力を用いて収集されたものであり、曲線1004は10mWの780nmポンプ出力を用いて収集されたものである。曲線1004は、曲線1002よりも時間的に著しく狭く、これは、780nmポンプ出力を調整することによる生成される二色のエンタングルされた光子対に対する効果を示す。
【0110】
本発明者らは、本明細書に記載される二色の光子源の熱的性質を確認した。図11Aおよび図11Bは、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、二色の光子源の2つの出力アームに対してハンブリー・ブラウン-ツインズ(Hanbury Brown-Twiss)測定を使用して測定された二次自己相関関数g(2)を示す。二次強度自己相関関数1102及び1104は、各出力光子アームが約4MHzの半値全幅(FWHM)のキャビティ(例えば、走査ファブリーペローキャビティ)を通過した後に測定された。図11A及び図11Bに見られるように、両方の出力光子アームに関して、g(2)は、τ=0の周囲での集まり(バンチング(bunching))を示す。検出器の時間的な線幅を考慮に入れると、両方の出力光子アームは、純粋な熱光源に対するg(2)(0)の期待値2と一致する。
【0111】
この時間的な相関は、コーシー-シュワルツ(Cauchy-Schwartz)の不等式によって設定された古典的な限界が破られている。古典的には、ポンプレーザの二次自己相関関数は以下のように記述することができる。
【0112】
【数1】
【0113】
ここで、下付き文字SおよびIは、ストークス(Stokes)レーザ光源およびアイドラ(idler)レーザ光源を示し、I(t)は強度を示し、< >は時間平均量を取ることを示す。コーシー-シュワルツの不等式は以下の通りである。
【0114】
【数2】
【0115】
この不等式から、以下を導出することができる。
【0116】
【数3】
【0117】
二色の光子源500のような二色の光子源から取得された実験データの場合、この測定値は以下の通りである。
【0118】
【数4】
【0119】
この値は、コーシー-シュワルツの不等式が明らかに破られており、この光子源が非古典的に時間的に相関していることを実証している。
しかしながら、光子対源は、必ずしもエンタングルされない非古典的な時間的に相関する光子を生成することができる。従って、本発明者らは、本明細書に記載の二色の光子源によって生成された二色のエンタングルされた光子対を含む光子のエンタングルされた性質をさらに確認した。二色の光子源が、同一の偏光を有する2つの直線偏光ポンプレーザ(例えば、両方のポンプレーザがH偏光されている)で駆動される場合、5S1/2から5P3/2および5P3/2から6S1/2への二光子遷移は、磁気量子数においてゼロシフトをもたらす(例えば、Δmf=0)。占有されている上方の励起状態の各々に対する分岐比は、Δmf=0およびΔmf=±1の遷移に対して正確に1/3分割である。全二光子カスケード減衰がΔmf=0でなければならないとすると、二光子の状態がH偏光状態及びV偏光状態に射影された場合、出力されたエンタングルされた対の状態は、以下の形の偏光を有する。
【0120】
【数5】
【0121】
この偏光を確認するために、二色の光子源の各出力アーム上に偏光子が配置される。次に、偏光子を回転させながら同時発生が測定される。図12Aおよび図12Bは、二色の光子源の795nmの出力光子アームに対するこれらの測定された同時発生を、795nmの出力アーム上に配置された偏光子の回転角に対して示す。曲線1202、1204、1206、および1208は、1324nmの出力光子アーム上の異なる偏光子の角度(例えば、それぞれ、232°、277°、254.5°、および299.5°)で取得された測定値に対する正弦関数のフィットである。正弦関数の曲線は、出力光子のベル状態を確認する。
【0122】
これらの測定値は、一般的なベルの不等式であるCHSHの不等式が破られていることを示すためにも使用することができる。パラメータC(a、b)を定義すると以下のようになる。
【0123】
【数6】
【0124】
ここで、N±±(a,b)は、半波長板の角度aおよびbに対する検出器A±およびB±(即ち、二光子源の2つのアーム)間の同時発生を表し、古典的に以下のように示すことができる。
【0125】
【数7】
【0126】
本明細書に記載される二色の光子源から取得された測定値から、以下のことが実証された。
【0127】
【数8】
【0128】
これは、CHSHの不等式が破られており、二色の光子源がエンタングルされた光子の対を生成しているという明確な証拠を提供している。
図13は、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、エンタングルされた光子の対(例えば、二色のエンタングルされた光子の対)を生成するためのプロセス1300を示すフローチャートである。プロセスは、本明細書で説明されるような二色の光子源100、400、および/または500のうちのいずれか1つ、またはそれらの任意の適切な代替構成を使用して実行され得る。プロセス1300は、任意選択的に、動作1302から開始し得、ここでは、第1のレーザビームが第1のレーザを使用して生成され、第1のレーザビームが第1の波長を有している。一部の実施形態では、第1のレーザは、二色の光子源から離れて(例えば、第1の原子蒸気源に対して異なる部屋、異なる建物、および/または異なる施設内に)配置され得る。一部の実施形態では、第1のレーザは、二色の光子源と同じ場所に(例えば、第1の原子蒸気源と同じ部屋、同じハウジング、同じラックマウント型ハウジング内に)配置され得る。
【0129】
プロセス1302の後、プロセス1300は任意選択的にプロセス1304に移行し得る。ここでは、第2のレーザビームが第2のレーザを使用して生成され、第2のレーザビームが第1の波長とは異なる第2の波長を有している。一部の実施形態では、第2のレーザは、二色の光子源から離れて(例えば、第1の原子蒸気源に対して異なる部屋、異なる建物、および/または異なる施設内に)配置され得る。一部の実施形態では、第2のレーザは、二色の光子源と同じ場所に(例えば、第1の原子蒸気源と同じ部屋、同じハウジング、同じラックウント型ハウジング内に)配置され得る。
【0130】
一部の実施形態では、第1および第2のレーザビームを生成することは、本明細書に説明されるような(例えば、表1に説明されるような)任意の適切な波長値に調整された第1および第2の波長を有するレーザビームを生成することを含み得る。一部の実施形態では、第1および第2のレーザビームを生成することは、750nm~850nmの範囲内の波長値に調整された第1のレーザビームを生成すること、および450nm~550nm、750nm~850nm、および/または1300nm~1600nmの範囲内の波長値に調整された第2のレーザビームを生成することを含み得る。
【0131】
動作1304の後、プロセス1300は動作1306に移行し得る。ここでは、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームを第1の原子蒸気セルを通過させることによって、第1の原子蒸気セル内に四光波混合プロセスを生じさせる。一部の実施形態では、第1のレーザビームを第1の原子蒸気セルを通過させることは、第1の原子蒸気セルの面に垂直な第1の方向に沿って第1のレーザビームをダイレクトすることによって行われる。第2のレーザビームを第1の原子蒸気セルを通過させることは、第1の方向と第2の方向との間の角度θによって規定される第2の方向に沿って第2のレーザビームをダイレクトすることによって実行され得る。角度θは、生成されるエンタングルされた光子対におけるノイズを低減するように選択され得る。従って、本明細書で説明するように、角度θは、0°より大きく5°以下であり得るか、または一部の実施形態では、2.7°であり得る。一部の実施形態では、第1のレーザビームおよび第2のレーザビームは、角度θが0°より大きく、かつ180°以下であり得るように、反対方向に伝搬する態様で配置され得る。
【0132】
一部の実施形態では、第1の原子蒸気セルは、原子種の原子を含有し、原子は原子蒸気の形態である。例えば、一部の実施形態では、原子種はルビジウムであり得る。代替的に、一部の実施形態では、原子種は、ルビジウムの1つまたは複数の同位体であり得るか、または任意の他の適切なアルカリ金属(例えば、セシウム)の1つまたは複数の同位体であり得る。原子種は、第1の原子遷移および第2の原子遷移を有し得る。一部の実施形態では、第1の原子遷移は、基底状態から第1の励起状態への遷移であり得、第2の原子遷移は、第1の励起状態から第2の励起状態への遷移であり得る。
【0133】
一部の実施形態では、第1および第2のレーザビームの第1の波長および第2の波長は、第1の原子蒸気セル内の原子種の第1の原子遷移および第2の原子遷移と共鳴するように調整され得る。例えば、第1の波長は、ルビジウムの5S1/2から5P3/2への原子遷移と共鳴する約780nmの第1の波長に調整され得る。次に、第2の波長は、ルビジウムの5P3/2から6S1/2への原子遷移と共鳴する約1324nmの第2の波長に調整され得る。本明細書で説明されるように、原子蒸気を共鳴状態にポンピングすることによって、V型のEIT効果が第1の原子蒸気セル内で誘起されて、スペクトル輝度が増加し、かつ生成されたエンタングルされた光子対の光子線幅の調整可能性が与えられる。結果として、生成されたエンタングルされた光子は、約10MHzから約100GHzまでの範囲内、または約10MHzから約500MHzまでの範囲内の光子線幅、および/または20s-1/MHzから200s-1/MHzまでの範囲内のスペクトル輝度を有し得る。
【0134】
一部の実施形態では、動作1306の後、プロセス1300は動作1308に移行し得る。動作1308において、エンタングルされた光子の対は、四光波混合プロセスの結果として生成され得る。一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対は、第3の波長を有する第1の光子と、第4の波長を有する第2の光子とを含み得る。例えば、第3の波長は、750nm~850nmの範囲内であり得、第4の波長は、1300nm~1600nm、750nm~850nm、または450nm~550nmの範囲内であり得る。一部の実施形態では、第3の波長および第4の波長は、(例えば、本明細書の表1に関連して)本明細書に説明される任意の適切な値であり得る。例えば、第3の波長は約795nmであり得、第4の波長は約1324nmであり得るか、または一部の実施形態では、約1449nmであり得る。
【0135】
エンタングルされた光子の対が生成された後、それらは第1の原子蒸気セルおよび二色の光子源から出力され得る。一部の実施形態では、生成されたエンタングルされた光子の対は、光ファイバカプラを介して二色の光子源から出力され得る。一部の実施形態では、エンタングルされた光子の対が第1の原子蒸気セルから出力された後、かつ二色の光子源から出力される前に、エンタングルされた光子の対はフィルタリングされ得る。例えば、光子は、広帯域フィルタ(例えば、干渉フィルタ、体積型ブラッグ格子)、または代替的に、狭帯域フィルタ(例えば、ファブリーペローエタロン)を使用してフィルタリングされ得る。
【0136】
一部の実施形態では、プロセス1300は、任意選択的に、第1のレーザビームを第1の波長にロックし、第2のレーザビームを第2の波長にロックすることを含む。ロックは、ロックデバイスを使用して行われ得る。ロックデバイスの付加的態様は、図14図17Bに関連して本明細書において説明される。
【0137】
一部の実施形態では、第1および第2のレーザビームを第1および第2の波長にロックすることは、第1のレーザビームからの光の一部を、第2の原子蒸気セルを通過して第1の光検出器および第2の光検出器にダイレクトすることを含む。また、ロックすることは、第2のレーザビームからの光の一部を第2の原子蒸気セルを通過するようにダイレクトすることを含む。第1のレーザビームからの光の一部は、第2の原子蒸気セルの第1および第2の領域を通過するようにダイレクトされ得、一方、第2のレーザビームからの光の一部は、第2の原子蒸気セルの第2の領域ではなく、第1の領域を通過するようにダイレクトされ得る。第2のレーザビームからの光の一部は、第1または第2の光検出器のいずれにも入射しなくてもよい。一部の実施形態では、第1のレーザビームからの光の一部および第2のレーザビームからの光の一部は、それぞれ非偏光である。
【0138】
一部の実施形態では、第2の原子蒸気セルは、第1の原子蒸気セル内に含有されるものと同じ原子種を含み得る。例えば、第1および第2の原子蒸気セルは両方ともルビジウム原子を含有し得る。代替的に、第1および第2の原子蒸気セルは両方とも、他の適切な同位体および/またはアルカリ金属原子を含有し得る。一部の実施形態では、第1の原子蒸気セルは、同位体的に純粋な原子蒸気セルであり得、第2の原子蒸気セルは、天然に存在する同位体の混合物を含み得る。
【0139】
一部の実施形態では、第1のレーザビームは、第1の光検出器によって生成される信号(例えば、電気信号)に基づいて、第1の波長にロックされ得る。第1の光検出器によって生成された信号は、第2の原子蒸気セルの原子による第2の原子蒸気セル内の原子種の特性遷移周波数での第1のレーザビームからの光の一部の減衰量を示し得る。例えば、第1のレーザビームを第1の波長にロックすることは、第1のレーザに入力される電圧を変調し、第1の光検出器によって生成された信号に基づいて生成された第1の誤差信号を測定することによって実行され得る。
【0140】
一部の実施形態では、第2のレーザビームを第2の波長にロックすることは、第2の光検出器によって生成される信号(例えば、電気信号)に基づいて実行され得る。第2の光検出器によって生成された信号は、第2の原子蒸気セルの原子による特性遷移周波数での第1のレーザビームからの光の一部の減衰量を示し得る。例えば、第2のレーザビームを第2の波長にロックすることは、第2の光検出器によって生成された信号のより大きな減衰を生じさせる第2のレーザに入力される電圧を識別することによって実行され得る。
【0141】
II. レーザの波長ロック
多くの原子ベースの量子技術では、原子ベースの量子技術は、レーザによる特定の原子遷移(単数または複数)の刺激に依存する。従って、レーザ生成光の波長は、所望の原子遷移を効果的に刺激するために特定の値に調整される必要があり得、かつ所望の波長に安定して維持される必要があり得る。例えば、本明細書において二色の光子源100、400、および/または500に関連して説明したようにルビジウム原子を用いて動作させる場合、第1のレーザを780nmのビームに安定化させることが望ましい。光ファイバおよび遠距離通信用途のために、より高い波長で第2のレーザを動作させることが望ましい。しかしながら、ルビジウムなどの材料の室温蒸気における励起状態の原子数が不足するため、光を遠距離通信周波数に安定化させることは困難である。
【0142】
本発明者らは、異なる波長を有する複数のレーザを安定化させるための技術、および二色の光子源(例えば、本明細書における二色の光子源100、400、および/または500のいずれか)と組み合わせてこれらの安定化技術の使用を認識し、かつ理解した。一部の実施形態では、1つの波長は、遠距離通信または量子計算において一般に使用される波長であり得る。原子蒸気セル内の原子は、2つの異なる励起状態に励起され得、これらの状態は、飽和分光法を介して検出され得る。特に、第1のレーザからの光は、複数のビームに分割され、これらのビームは、原子蒸気セルの2つの異なる領域を通して、2つの異なる光検出器にダイレクトされる。この光は、セルの各領域内の原子を第1の励起状態に励起し得る。第1のレーザからのさらなる光は、どの程度まで光が減衰されているかを検出するために励起された原子を通過し得、それによって、第1のレーザが励起に対応する第1の周波数に適切に調整されているかどうかを検出し得る。原子の密度を考慮すると、光が最大限に減衰されない場合、これは、第1のレーザが正しい周波数に調整されず、従って所望の励起を生成しないことを意味する。さらに、第2のレーザからの光は、セルの2つの領域のうちの一方のみにダイレクトされて、第1の励起状態から第2のより高い励起状態へのさらなる励起を生じさせ得る。第1のレーザからのさらなる光は、どの程度まで光が減衰されているかを検出するためにこれらの励起された原子を通過し得、それによって、第2のレーザからの光が、より高い励起に対応する第2の周波数に適切に調整されるかどうかを検出し得る。結果として、第1のレーザからの光の前述の吸収からの信号を測定する2つの光検出器は、両方のレーザの周波数をロックするために使用され得る信号を生成し得る。
【0143】
一部の実施形態による、レーザの出力波長を安定化させる概略的なプロセスが図14に示されている。システム1400は、実験に使用される(例えば、原子ベースの量子系などの量子系にダイレクトされる)レーザ1410を含む。レーザ1410からの光は、レーザ1410の周波数がどの程度まで所望の周波数で駆動されているかを示す1つまたは複数の信号を生成することができるデバイスであるロック参照デバイス1412にもダイレクトされる。ロック参照は、様々な技術を利用して現在のレーザ周波数を示す誤差信号を生成することができ、誤差信号は、レーザを駆動する制御ユニット1414に提供される。例えば、誤差信号は、所望の周波数からのレーザの偏差に比例する電子信号であり得る。
【0144】
一部の実施形態では、制御ユニットは、現在のレーザ周波数に対する所望の周波数からの偏差を示す誤差信号を生成するために、小さい範囲の周波数にわたって(例えば、数百THzで動作するレーザに対して数百MHzにわたって)レーザの周波数および/または振幅を繰り返し変調し得る。典型的には、誤差信号は、誤差信号の値からレーザ周波数が所望の周波数よりも高いかまたは低いかを知ることができるように構成されており、レーザの周波数を増加または減少させる(例えば、レーザに入力される電圧を増加または減少させる)ために制御ユニットがレーザ制御をどのように調整すべきかを示すフィードバックを制御ユニットに提供する。従って、適切なロック参照デバイスを使用することによって、上述のフィードバックループは、レーザを所望の周波数に安定して維持することができ、これは、レーザの「ロック」と呼称することもできる。
【0145】
図15は、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、2つの異なるレーザを2つの異なる波長にロックするための例示的なデバイス1500の概略図である。図15の例では、システム1500は、第1のレーザ1501(近赤外範囲、例えば、780nmまたはその付近の公称波長を有し得る)と、第2のレーザ1502(遠距離通信に典型的に使用される範囲、例えば、1367nmまたはその付近の公称波長を有し得る)とを含む。システム1500は、以下のプロセスを使用して、2つのレーザ(例えば、第1のレーザ110および第2のレーザ120)の出力波長を安定化(「ロック」)するように構成される。
【0146】
システム1500においてレーザ110および120からの光がたどる経路を最初に説明するために、レーザ110からの光は、入力1501においてシステム1500に入り、かつ50:50ビームスプリッタ1508に入射する。レーザ110からの光の一部は分割され、次に50:50ビームスプリッタ1509、減衰器1510、および原子蒸気セル1536の上側部分を通過する。レーザ110が、蒸気セル1536内の原子の原子遷移に対応する波長に適切に調整される場合、この光は、ビーム経路内の原子をより高いエネルギーレベルに励起し得る。そのようなエネルギー準位の例示的な例が、ルビジウムの場合に図16Aに示されており、第1の励起1610が、基底状態エネルギー準位1601と第1の励起状態1602との間に示されている。ルビジウムの場合、この励起エネルギー1610は、約780nmの波長に対応している。従って、この波長に調整され、かつ基底状態にあるルビジウム原子にダイレクトされたレーザは、これらの原子の一部を励起状態1602に励起する。
【0147】
次に、蒸気セル1536を通過したレーザ110からの光は、ショートパスミラー1506(例えば、比較的低い波長を透過し、比較的高い波長を反射するように構成されたダイクロイックミラー)を通過してフォトダイオード1514に到達する。フォトダイオード1514からの信号を利用してレーザ120をロックし得る方法を以下に説明する。
【0148】
50:50ビームスプリッタ1508によって50:50ビームスプリッタ1509に反射されなかったレーザ110からの他の光は、50:50ビームスプリッタ1508によって原子蒸気セル1536の下側部分に反射される。蒸気セル内の原子は、この光によって励起されてもよく、次いで、光は、NDフィルタ部品1510(これもまた、光を減衰させる)によって反射される。次いで、光は、蒸気セル1536を通って戻り、50:50ビームスプリッタ1508を通ってフォトダイオード1512上に移行する。反射された光は、減衰され、かつ蒸気セル1536の左側部分に入射する初期光に対して反対方向に伝搬し、初期光がどの程度まで蒸気セル内の原子を励起したかに基づいて減衰され得る。次いで、この光はフォトダイオード1512に入射する。フォトダイオード1512からの信号は、以下で説明されるように、第1のレーザ110をロックするために利用され得る。
【0149】
第2のレーザ120からの光も、ミラー1524およびショートパスミラー1506を介して蒸気セル1536の上側部分に反射される。第2のレーザ120が、蒸気セル1536内の原子の原子遷移に対応する周波数に適切に調整される場合、この光は、これらの原子をより高いエネルギーレベルに励起し得る。特に、第2のレーザ120は、望ましくは、上述のようにレーザ110によって第1のエネルギー準位に励起された原子が、レーザ120からの光によってより高いエネルギー準位にさらに励起され得るように調整され得る。図16Aの図に戻ると、ルビジウムの場合、例えば、第1の励起状態1602に励起された原子は、第2の励起1611を介して状態1603にさらに励起され得る。ルビジウムの場合、この励起エネルギー1611は約1367nmに対応しているため、この波長に調整され、かつ第1の励起状態1602にあるルビジウム原子にダイレクトされたレーザは、これらの原子の一部を励起状態1603に励起する。
【0150】
図示されたもの以外の部品がシステム1500において利用され得ることが理解されよう。例えば、ショートパスミラー1506の代わりに、ビームスプリッタを用いて2つの入射ビームを結合することができる。
【0151】
以上の構成により、以下のような効果が得られる。第1に、フォトダイオード1512に入射する光は、レーザ110からの光が励起1610に対応する波長に調整された場合に、より大きな減衰を示す。この効果は図16Bに示されており、図16Bは、レーザに入力される電圧(レーザの周波数と等価であると考えられ得る)対フォトダイオードによって測定された電圧(レーザの測定振幅と等価であると考えられ得る)を示す。線1621(「遠距離通信なし」)に注目すると、特定の入力電圧(波長)において、フォトダイオード1512によって生成されるフォトダイオード信号が減衰されていることが分かる。この効果は、レーザ波長が原子遷移のエネルギーと一致していることによって生じる。この状況では、レーザは原子をより高いエネルギー状態に励起し、蒸気セルを透過する光の量が減少する。この効果に基づいて、レーザ110は、図14に関連して説明した方法または他の方法によって原子遷移の波長にロックされ得る。例えば、レーザ入力電圧は、小さい範囲の値にわたって掃引されてもよく、フォトダイオードは、これらの入力電圧に対する減衰量を示す値を生成し得る。対象となる特定の電圧範囲内(例えば、図16Bに示す異なる減衰のうちの特定の1つの付近)のフォトダイオード信号の最大減衰に対応する適切な電圧にレーザを駆動することができるように、適切な誤差信号を生成することができる。
【0152】
システム1500によって生成される追加の効果は、レーザ120からの光が励起1611に対応する波長に調整される場合、フォトダイオード1514に入射する光がより少ない減衰を示すことである。上述したように、フォトダイオード1514に入射する光は、蒸気セル1536の上側部分を通過し、かつ両方のレーザ110および120からの光は、その部分にダイレクトされる。その結果、レーザ110が励起1610に対応する波長にロックされている場合、蒸気セルの上側部分の原子の一部は第1の励起状態1602に励起される。さらに、レーザ120が励起1611に対応する波長にロックされる場合、第1の励起状態の原子のいくつかは、第2の励起状態1603にさらに励起される。原子蒸気セル1536を通過するレーザ110からの光は、原子蒸気セル内の原子がどの程度まで第1の励起状態にあるかに基づいて減衰されるため、これらの原子の一部を第2の励起状態にさらに励起すると、レーザ110からの光が受ける減衰量が減少する。この効果は図16Bにも示されており、図16Bは、曲線1622(「遠距離通信あり」)において、強調された減衰領域におけるフォトダイオード1514の信号を示しており、レーザ120によって生じた蒸気コール内の原子に対する効果により、フォトダイオード1512の信号の場合よりも減衰量が減少した(即ち、フォトダイオード電圧が量1623だけ高い)ことを示している。
【0153】
これらの効果の結果として、レーザ110および120の両方は、原子遷移1610および1611に対応する所望の波長にロックされ得る。レーザ110は、フォトダイオード1512からの出力を使用して、上述したように、図16Bに示されるスペクトルの減衰領域の位置を検索することによって、原子遷移1610に対応する波長にロックされ得る。レーザ120は、フォトダイオード1514からの出力を使用して、スペクトルの減衰領域内の信号1623の低減された減衰の存在を識別することによって、原子遷移1611に対応する波長にロックされ得る。
【0154】
上述したこのプロセスの1つの利点は、本技術がレーザ110またはレーザ120のいずれかからの光の偏光状態によって制限されないことであり得る。従って、光の偏光状態が実験において(例えば、量子情報を符号化するために)使用される場合、システム1500は光の偏光状態に依存せず、かつ光の偏光状態によって影響を受けないので、上述のロックシステムは、成功裏に実施され得る。従って、一部の実施形態では、レーザ110および/またはレーザ120の各々は、非偏光光をシステム1500に入力し得る。一部の実施形態では、システム1500は、光学素子を含まなくてもよく、その光学素子は、光学素子に入射する光の偏光状態に依存するものである。
【0155】
さらに、ルビジウムの例示的な例は一例として提供されているに過ぎず、ルビジウムにおける代替的な795nmの遷移および1324nmの遷移、本明細書に記載されるルビジウム、任意の適切なアルカリ原子、または任意の他の適切な原子における任意の他の代替的な遷移を含む、任意の他の原子ラダーシステムを用いた他のポンピングスキームが想定され得ることが理解されよう。従って、本明細書に記載される技法は、対象となる原子または波長に関係なく、原子ラダースキームのために使用することができる。
【0156】
一部の実施形態によれば、図15に示す単一の蒸気セル1536の代わりに、2つの別個の原子蒸気セルを使用することができる。例えば、原子蒸気セルの2つの別々の領域に説明したように光をダイレクトする代わりに、2つの異なる蒸気セルを使用して、光を各セルに別々にダイレクトすることができる。一部の実施形態によれば、蒸気セル1536は、(例えば、約40℃に)加熱されるか、または室温で保持され得る。
【0157】
図17A図17Bは、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、ラックマント可能なハウジング内に配置された例示的なロックデバイス1700を示す。図17 A~図17Bの例では、同じデバイスが示されているが、説明のために異なる光路が強調されている。デバイス1700は、別個の光入力(例えば、レーザ光入力、レーザ110および120からの光の一部)のための2つの入力ポート1711および1712を含むユニットである。デバイス1700はまた、光検出器1721および1722を含み、これらは両方とも、第1の入力ポートからの光を受け取るが、この光は、以下で説明するように、デバイスの光学部品を通してダイレクトされた後のものである。入力ポート1712に入力された光は、光検出器1721または1722のいずれにも直接入射せず(または全く入射せず)、かつレーザ120が蒸気セル1536内の原子を励起するためのみに使用される図15の例のように、蒸気セル1715内の原子を励起するためのみに使用される。
【0158】
図17Aに示すように、デバイス1700において、入力ポート1711を介して入力された光は、最も右側のビームスプリッタ1701によって分割される。次いで、光の一部は、蒸気セル1715を上方に向かって通過し、減衰器1706を通過し、ミラー1702によって反射され、最も右側のビームスプリッタ1701によって光検出器1721上に反射される。その結果、光検出器1721は、入力ポート1711への光入力が、蒸気セル1715内の原子の励起に対応する所望の波長にどの程度までロックされているかを示す信号を生成する。入力ポート1711に入力された他方の光は、減衰器1707および蒸気セル1715を通過するようにダイレクトされ、次にミラー1703および1704によって反射される。次に、この光は、ダイクロイックミラー1705に入射し、ダイクロイックミラー1705は、より低い波長の光(例えば、ポート1711に入力されると予想される光)を反射し、より高い周波数の光(例えば、ポート1712に入力されると予想される光)を透過するように構成されている。これにより、この光は光検出器1722に反射される。
【0159】
図17Bに示されるように、入力ポート1712を通過して入力される光は、ダイクロイックミラー1705を通過して伝送され、ミラー1704および1703によって反射され、次いで、蒸気セル1715を通過して伝送される。蒸気セルの他方の側に到達する任意の光は、減衰器1707によって減衰され、かつ/またはデバイスの壁に向かってダイレクトされる。この光は、図15に関連して上述したように、蒸気セル1715内の原子をさらに励起することができる。
【0160】
一部の実施形態によれば、デバイス400は、光検出器1721および1722に入射する光の量を示す信号(例えば、各光検出器の電圧信号)を生成する1つまたは複数の出力ポートを備え得る。
【0161】
一部の実施形態によれば、デバイス1700は、蒸気セル1715を加熱するように構成された1つまたは複数の加熱要素を備え得る。一部の実施形態では、デバイスはまた、蒸気セルの温度を固定温度に自動的に調節するための回路を備え得る。一部の実施形態では、デバイスは、蒸気セル1715の温度を示す出力と、デバイス1700の外部のデバイスまたはシステムが蒸気セル1715の温度を調節し得るように、1つまたは複数の加熱要素を駆動する入力とを含み得る。一部の実施形態では、蒸気セル1715は、1つまたは複数の光学的に透明な窓を備え得る。窓は、互いに平行であってもよく、または互いに対して斜めであり得る。
【0162】
III. 量子遠距離通信における応用
2つ以上のエンタングルメントソース間でエンタングルメントを「スワッピング(swapping)」することによって、遠隔光子をエンタングルすることが可能である。エンタングルメントスワッピングプロセスは、光ファイバに沿って生じる指数関数的な損失に対処するための最もレート効率の良い手法であるため、エンタングルメント分布は、ユニバーサル量子ネットワーキングにとって重要である。スワッピングプロセスを可能にし、かつサポートする全てのデバイス量子エンタングルメントソース、量子バッファ、およびエンタングルメントスワッピングノードの組合せは、量子リピータとして知られている。これらの構成要素の組合せは、通信およびセンシングにおける多くの用途に使用することができ、新しい機能を可能にする技術主導の機会も提供する。改良された量子リピータ技術は、高データレートの長距離量子通信ネットワークの実施を推進し、ファイバ損失によって課される現在の制限を超えたエンタングルメントおよび量子情報の同期配信を可能にする。
【0163】
従来、量子リピータの各量子デバイスは、それらの動作波長にかかわらず、個別に配備される(例えば、量子エンタングルメントソース、量子バッファ、およびエンタングルメントスワッピングノードは全て、異なる波長で動作し得る)。次いで、量子周波数変換器は、光ファイバおよび量子リピータの量子デバイスとインタフェースするために光子の波長を変化させるために使用される。例えば、多くのエンタングルメントソースは、非線形結晶を使用して、光ファイバとのインタフェースに適した波長で複数の光子対を生成する。光子対が光ファイバの他端に到達すると、光子は、例えば、原子ベースの量子バッファを使用して同期されるべくNIR波長に変換される必要がある。理論的には可能であるが、実際にはこのようなアプローチにはいくつかの問題がある。
【0164】
第1に、周波数変換器は、特に室温で損失が大きい。周波数変換器を含むシステムの全体的な光子変換および伝送は、約10%を超える可能性は低い。第2に、周波数変換器は、典型的には、ポンプレーザの残留効果を除去するために強力なポンプレーザおよび/または複雑なフィルタリングシステムを必要とするため、最もコスト効率の良い解決策ではない。最後に、周波数変換器は、波長不整合によって生じる問題に対処することができるが、非線形結晶源によって生成される光子は、それらの大きい線幅により、原子モジュール、イオンモジュール、または他の光子モジュールとインタフェースするために依然として互換性がない可能性がある。例えば、非線形結晶によって生成された光子は、通常、10THz程度の線幅を有し、これは、量子バッファ、シミュレータ、および原子プロセッサなどの原子デバイスまたはイオンデバイスによって使用される任意の許容可能な線幅よりも著しく広い。量子コンピュータおよび量子センサは、典型的には、数MHzから数十MHzの線幅を有する光子と相互作用する。
【0165】
従って、本発明者らは、周波数変換器およびヘラルディング量子メモリの必要性を排除しながら、各ノードにおいて光子をバッファリングおよび同期させることによって、強化されたエンタングルメント分布速度を提供する二色の光子源(例えば、本明細書に記載される二色の光子源100、400、および/または500)を使用する量子反復手法を開発した。さらに、この手法は、ファイバ線から原子バッファを除去することによって、遠距離通信経路を完全に透過に保持する。
【0166】
図18Aおよび図18Bは、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による、エンタングルメントソースおよび量子メモリの概略ブロック図と、二色のエンタングルされた光子対を生成し、対の光子を保存および伝送する例示的なプロセスとを示す。エンタングルメントソース1802は、二色の光子源100、400、または500、またはそれらの任意の適切な変形のうちのいずれか1つであってもよく、かつ本明細書に記載される二色の光子を生成するように構成され得る。二色のエンタングルされた光子対は、第1の周波数を有する第1の光子1804と、第2の周波数を有する第2の光子1806とを含み得る。例えば、第1の光子1804は赤外帯域の周波数を有し、第2の光子1806はNIR帯域の周波数を有し得る。第1の光子1804と第2の光子1806とのエンタングルメントは、リンクEによって示される。
【0167】
図18Aは、エンタングルメントソース1802からの第1の光子1804および第2の光子1806の出力を示す。第2の光子1806は、量子メモリ1808にダイレクトされ得る。一部の実施形態において、量子メモリ1808は、高温蒸気(例えば、高温ルビジウム蒸気)ベースの量子メモリであり得る。しかしながら、本明細書で説明されるアーキテクチャは、高温蒸気ベースの量子メモリに限定されないことを理解されたい。
【0168】
一部の実施形態では、第2の光子1806が量子メモリ1808に保存されると、量子メモリ1808の状態は、図18Bの例におけるリンクEによって示されるように、第1の光子1804と新たにエンタングルされ得る。次いで、第1の光子1804は、量子メモリ1808とのエンタングルメントを維持しながら、エンタングルメントソース1802から離れて伝送され得る。
【0169】
この機能は、エンタングルメントスワッピングを介して遠隔量子状態をリンクするために使用し得る。例えば、図19A図19B、および図19Cは、本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、量子ネットワーク1900の概略ブロック図、および量子ネットワーク1900内に保存された光子をエンタングルする例示的なプロセスを示す。図19Aの例に示すように、エンタングルメントソース1802の対及び量子メモリの対は、位置間の物理的距離を有する2つの異なる位置に配置されている。
【0170】
一部の実施形態では、複数のエンタングルメントソース1802は、次いで、図19Bに示されるように、二色のエンタングルされた光子の複数の対を生成し得る。一部の実施形態において、複数のエンタングルメントソース1802は、GPS同期信号に応答して二色のエンタングルされた光子の複数の対を生成し得る。二色のエンタングルされた光子の複数の対を生成した後、第1の光子1804は、光ファイバ1910を介して伝送され、第2の光子1806は、量子メモリ1808に保存され得る。
【0171】
一部の実施形態では、第1の光子1804は、中間位置にある二光子干渉測定デバイス1912に伝送され得る。二光子干渉測定デバイス1912は、送信された光子の受信時に二光子干渉測定を実行するように構成され得る。例えば、二光子干渉測定デバイスは、伝送された光子の受信時にベル状態測定を実行するように構成されたベル状態測定デバイスであり得る。二光子干渉測定の実行および通知が成功すると、図19Cの例におけるリンクEによって示されるように、量子メモリ1808間に新しいエンタングルメントが形成され得る。このようにして、量子情報は、二色のエンタングルされた光子対を使用して、ある距離にわたって伝送され得る。
【0172】
量子情報が伝送され得る距離を増加させるために、追加のノードが量子ネットワークに追加され得る。図20A図20B図20C、および図20Dは、本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、複数のストレージノードを有する量子ネットワーク2000の概略ブロック図、および量子ネットワーク2000のエンドノードにおいて保存された光子をエンタングルする例示的なプロセスを示す図である。図20Aに示すように、各エンタングルメントソースは、二色のエンタングルされた光子対を生成し、第1の光子1804が光ファイバを介して伝送され、第2の光子1806(図示せず)が量子メモリ1808に保存される。一部の実施形態では、中間ノードに配置された2つのエンタングルメントソース1802は、(例えば、図4の例に示すように)多重化技術を用いて2つ以上のエンタングルされた二色の光子対を生成するように構成された単一のエンタングルメントソースに置き換えられ得る。
【0173】
一部の実施形態では、送信された第1の光子1804の二光子干渉測定デバイス1912での受信時に、二光子干渉測定が実行され得る。二光子干渉測定の結果の通知によって、図20BのリンクEによって示されるように、量子メモリ1808間の新たなエンタングルメントが生じ得る。
【0174】
その後、一部の実施形態では、図20Cの例に示すように、中間の第2の光子1806が別の二光子干渉デバイス2014に伝送され得る。一部の実施形態2の光子1806は、一部の実施形態では、自由空間にわたって伝送され得る。次いで、二光子干渉デバイス2014は、図20Dに示されるように、二光子干渉測定を実行して、ネットワーク2000のエンドノードにおける量子メモリ間のエンタングルメントを生じさせ得る。
【0175】
図21は、本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、量子ネットワーク2100の実施の例示的な例を示す。図21の例では、青色部品は光ファイバを介した通信を示し、赤色部品は自由空間リンクを介した通信を示す。
【0176】
一部の実施形態では、量子ネットワーク2100は、異なる位置にある複数のノードを含み、各ノードはエンタングルメントソースおよび量子メモリを有する。エンタングルメントソースは、本明細書に記載されるような二色のエンタングルされた光子対を生成するように構成され得る。第1の光子は、(例えば、図20Bの例に示されるように)量子メモリの一部の状態をエンタングルするために、エンタングルメントソースからベル状態測定デバイスに送信され得る。次いで、ネットワーク2100のエンドノードにおける量子メモリのエンタングルメントは、自由空間を介して別のベル状態測定デバイス(例えば、図21の例に示されるように、衛星などのモバイルノードにある)に第2の光子を送信することによって実行され得る。
【0177】
図22は、本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、量子ネットワーキングを実行するためのプロセス2200を説明するフローチャートである。プロセス220は、一部の実施形態では、動作2202において開始し得る。動作2202において、複数の二色のエンタングルされた光子対が生成され得る。例えば、二色のエンタングルされた光子対は、本明細書に記載の二色の光子源100、400、および/または500を含む任意の適切な二色の光子源を使用して生成され得る。
【0178】
一部の実施形態では、複数の二色のエンタングルされた光子対エンタングルされた光子対を生成することは、第1の位置に配置された第1のデバイスを使用して第1の二色のエンタングルされた光子対を生成すること、および第1の位置とは異なる第2の位置に配置された第2のデバイスを使用して第2の二色の光子を生成することを含む。例えば、第1の二色のエンタングルされた光子対源は、位置Aにおいて第1の二色のエンタングルされた光子対を生成し、第2の二色の光子源は、位置Bにおいて第2の二色の光子を生成し得る。位置Aは、位置Bからある距離(例えば、数キロメートル)離れて位置し得る。二色のエンタングルされた光子対の生成は、位置C、D、E等において繰り返され得る。
【0179】
一部の実施形態では、動作2202の後、プロセス2200は動作2204に移行し得る。動作2204において、各二色の光子対の第1の光子は、個別の位置に保存され得る。例えば、第1の二色のエンタングルされた光子対の第1の光子は、位置Aにある量子メモリに保存され、第2の二色のエンタングルされた光子対の第1の光子は、位置Bにえる量子メモリに保存され得る。適切な量子メモリデバイスのさらなる態様は、2021年10月1日に出願された「量子ネットワークデバイス、システムおよび方法(Quantum Network Devices,Systems,and Methods)」という名称の米国特許出願公開第2020/0105135号明細書に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0180】
一部の実施形態では、動作2204の後、プロセス2200は動作2206に移行し得る。動作2206において、各二色のエンタングルされた光子対の第2の光子が第1の中間位置に伝送され得る。第1の中間位置は、複数の二色のエンタングルされた光子対を生成するために使用される二色の光子源の位置(例えば、位置A、B、Cなど)から空間的に分離されている。例えば、本明細書の図21に示すように、各二色のエンタングルされた光子対の第2の光子は、光ファイバを介して第1の中間位置に伝送され得る。一部の実施形態では、第2の光子は、量子ノードがGPS同期デバイスからタイミング信号を受信した後に伝送され得る。
【0181】
一部の実施形態では、動作2206の後、プロセス2200は動作2208に移行し得る。動作2208において、第1の中間位置の各々において二光子干渉測定が実行され得る。二光子干渉測定は、二光子干渉測定デバイスを用いて実行され得る。例えば、二光子干渉測定は、ベル状態測定デバイスによって実行されるベル状態測定であり得る。
【0182】
一部の実施形態では、動作2208の後、プロセス2200は動作2210に移行し得る。動作2210において、保存された第1の光子の対の状態がエンタングルされて、新たにエンタングルされた光子対が形成され得る。保存された第1の光子の対は、第1の中間位置に伝送された第2の光子に対する二光子干渉測定の実行の成功によってエンタングルされ得る。このようにして、エンタングルメントは、第1の光子と第2の光子の対の間から、量子メモリに保存された第1の光子の対の間に「スワップ」され得る。
【0183】
一部の実施形態では、プロセス2200は、第1の光子のエンタングルされた複数の対の保存された複数の第1の光子のうちの1つを、第2の中間位置および第2の中間位置にある第2の二光子干渉測定デバイスに伝送することをさらに含み得る。第2の中間位置の各々において、受信した第1の光子および第2の二光子干渉測定デバイスを使用して、二光子干渉測定が実行され得る。第2の二光子干渉測定の実行に成功すると、保存された第1の光子の異なる対の間に新たにエンタングルされた状態が形成され得る。このようにして、量子エンタングルメントは、第1の光子の第1の対(例えば、最も近い隣接位置に配置された第1の光子の対)から第1の光子の第2の対(例えば、次に最も近い隣接位置に配置された第1の光子の対)にスワップされ得る。
【0184】
技法が回路実行可能命令および/またはコンピュータ実行可能命令において実施される実施形態が説明されてきた。一部の実施形態は、少なくとも1つの例が提供された方法の形態であり得ることを理解されたい。方法の一部として実行される動作は、任意の適切な方法で順序付けられ得る。従って、例示的な実施形態では連続した動作として示されているが、いくつかの動作を同時に実行することを含み得る、図示されたものとは異なる順序で動作が実行される実施形態が構築され得る。
【0185】
上述の実施形態の様々な態様は、単独で、組み合わせて、または前述の実施形態で具体的に説明されていない様々な構成で使用することができ、従って、その適用において、前述の説明に記載された、または図面に示された構成要素の詳細および構成に限定されない。例えば、一実施形態に記載された態様は、他の実施形態に記載された態様と任意の方法で組み合わせることができる。
【0186】
また、説明したように、一部の態様は、1つまたは複数の方法として具現化され得る。方法の一部として実行される動作は、任意の適切な方法で順序付けられ得る。従って、例示的な実施形態では連続した動作として示されているが、いくつかの動作を同時に実行することを含み得る、図示されたものとは異なる順序で動作が実行される実施形態が構築され得る。
【0187】
本明細書で定義され、使用される全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書における定義、および/または定義された用語の通常の意味を優先するものとして理解されるべきである。
【0188】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される不定冠詞「a」及び「an」は、明確に反対の指示がない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
本明細書および特許請求の範囲で使用される「および/または」という句は、そのように結合された要素の「いずれかまたは両方」、即ち、ある場合には結合的に存在し、他の場合には選言的に存在する要素を意味すると理解されるべきである。「および/または」と共に列挙された複数の要素は、同様に解釈されるべきであり、即ち、そのように結合された要素の「1つまたは複数」である。「および/または」節によって具体的に識別される要素以外の他の要素が、具体的に識別されるそれらの要素に関連するかまたは関連しないかにかかわらず、任意選択的に存在し得る。従って、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む(comprising)」などのオープンエンド言語と併せて使用される場合、一実施形態では、Aのみ(任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態では、Bのみ(任意選択的にA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態では、AおよびBの両方(任意選択的に他の要素を含む)などを指すことができる。
【0189】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、1つまたは複数の要素のリストに関して「少なくとも1つ」という句は、要素のリスト内の要素のうちの任意の1つまたは複数から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、必ずしも要素のリスト内に具体的に列挙された各要素および全ての要素のうちの少なくとも1つを含むわけではなく、要素のリスト内の要素の任意の組合せを除外するわけではないことを理解されたい。この定義はまた、「少なくとも1つ」という語句が言及する要素のリスト内で具体的に識別された要素以外の要素が、具体的に識別されたそれらの要素に関連するか関連しないかにかかわらず、任意選択的に存在し得ることを可能にする。従って、非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または同等に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または同等に、「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、少なくとも1つ、任意選択的に2つ以上のAを含み、Bが存在しない(および任意選択的にB以外の要素を含む)こと、別の実施形態では、少なくとも1つ、任意選択的に2つ以上のBを含み、Aが存在しない(および任意選択的にA以外の要素を含む)こと、さらに別の実施形態では、少なくとも1つ、任意選択的に2つ以上のAを含み、および少なくとも1つ、任意選択的に2つ以上のBを含む(および任意選択的に他の要素を含む)ことなどを指すことができる。
【0190】
特許請求の範囲において請求項の要素を修飾するための請求項における「第1」、「第2」、「第3」などの序数用語の使用は、それ自体では、ある請求項の要素の別の請求項の要素に対する任意の優先度、優先順位、もしくは順序、または方法の動作が実行される時間的順序を暗示するものではなく、単に、ある名前を有するある請求項の要素を、同じ名前を有する別の要素(序数用語の使用を除く)から区別するためのラベルとして使用される。
【0191】
特許請求の範囲ならびに上記の明細書において、「備える(comprising)」、「含む(including)」、「搬送する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」、「保持する(holding)」、「から構成される(composed of)」などの全ての移行句は、オープンエンドである、即ち、含むが限定されないことを意味するものと理解されるべきである。「からなる」および「本質的にからなる」という移行句のみが、それぞれクローズドまたはセミクローズドの移行句であるものとする。「例示的」という語は、本明細書では、例、事例、または例示として機能することを意味するものとして使用される。従って、例示的なものとして本明細書で説明される任意の実施形態、実装形態、プロセス、特徴などは、説明のための例であると理解されるべきであり、別段の指示がない限り、好ましいか、または有利な例であると理解されるべきではない。
【0192】
「およそ」および「約」という用語は、一部の実施形態において目標値の±20%以内、一部の実施形態において目標値の±10%以内、一部の実施形態において目標値の±5%以内、および/または一部の実施形態において目標値の±2%以内を意味するものとして使用され得る。用語「およそ(approximately)」および「約(about)」は、目標値を含み得る。
【0193】
少なくとも1つの実施形態の一部の態様をこのように説明してきたが、様々な変更、修正、および改良が当業者に容易に想起されることを理解されたい。そのような変更、修正、および改良は、本開示の一部であることが意図され、本明細書で説明される原理の趣旨および範囲内にあることが意図される。従って、前述の説明および図面は、例示にすぎない。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A-12B】
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A-17B】
図18A-18B】
図19A-19B】
図19C
図20A
図20B-20C】
図20D
図21
図22
【国際調査報告】