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特表2024-509696異常な空洞空間を治療するための方法及びキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】異常な空洞空間を治療するための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/00 20060101AFI20240227BHJP
【FI】
A61L24/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023547065
(86)(22)【出願日】2022-02-06
(85)【翻訳文提出日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 IL2022050154
(87)【国際公開番号】W WO2022168099
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】280733
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】287589
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517114528
【氏名又は名称】レッドドレス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】クシュニール,アロン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA12
4C081AB25
4C081AC02
4C081BA12
4C081CD34
4C081CE03
4C081EA01
(57)【要約】
本開示は、瘻孔、例えば痔瘻又はストーマ空間などの被験者の異常な空洞空間を治療するための方法及びキットを提供する。例えば、異常な空洞空間は、痔瘻、ストーマ開口部、又は毛巣洞である可能性がある。この方法は、被験者に由来する自己血液を利用し、それを異常な空洞空間に導入し、異常な空洞空間内で凝固させることにより、空洞空間内に凝固した血液塊、即ち血餅を形成し、異常な空洞空間の治癒過程を促進する。治癒は、上記空間のサイズ若しくは体積の完全若しくは部分的な閉鎖若しくは縮小、又は以前の異常な空洞空間内での健康な組織の形成であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の身体部分に形成された異常な空洞空間を治療する方法であって、
(i)前記被験者から全血を採取するステップと、
(ii)前記被験者の血液を1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と混合するステップと、
(iii)前記血液が完全に凝固する前に、前記凝固剤を含む前記血液を前記空洞空間に導入するステップと、
(iv)前記血液を前記異常な空洞空間内で凝固させるステップとを含む、方法。
【請求項2】
(i)が、前記被験者から全血を採取し、それを抗凝固剤と混合するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗凝固剤が、ACD-A(抗凝血性クエン酸デキストロース、溶液A)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(エチレングリコール四酢酸)、クエン酸塩、ヘパリン及びシュウ酸塩からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記空洞空間が2つ以上の開口部を有する場合、洞を形成するために前記空洞空間の1つ以上の開口部を封止するステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(iv)が、前記空洞空間の開口部に医療用包帯又はシールを適用するステップを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記適用が、前記導入から10分未満の期間の後に行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1種以上の凝固剤が液体又は粉末の形態である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤が、カオリン、Ca2+(例えば、グルコン酸カルシウムなどのカルシウム塩の形態)、Mg2+、負に帯電した脂質(PL)及び硫酸プロタミンから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(ii)が、まず前記血液をグルコン酸カルシウムと混合し、続いて前記血液とグルコン酸カルシウムの混合物をカオリンと混合するステップを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(iii)の前に、注入口を有するシールで前記異常な空洞空間を封止するステップを含み、続いて(iii)を行い、前記導入が前記注入口を介して行われる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記空洞空間が、前記身体の外面に形成された少なくとも1つの開口部を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記空洞空間が痔瘻である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記空洞空間が洞又は毛巣洞である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記空洞空間が腹部空間である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記空洞空間が、ストーマ手術の結果として形成されたストーマ空間である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記空洞空間の少なくとも1つの開口部がストーマ開口部である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記異常な空洞空間が2つ以上の開口部を含み、前記方法が、(iii)の前に、膨張可能/収縮可能要素をその収縮状態で前記開口部の1つに隣接させ、それを膨張させて前記開口部を封止し、それによって前記血液が非密閉開口部を介して前記空洞空間に導入されたときに前記血液を前記空洞空間内に維持できるようにするステップを更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記空洞空間内で前記血液が十分に凝固した後、前記膨張可能/収縮可能要素を収縮させて、前記膨張可能/収縮可能要素を回収するステップを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被験者の身体部分に形成された異常な空洞空間の治療に使用するためのキットであって、
前記被験者から血液を採取することができる1つ以上の血液採取装置と、
前記被験者から採取された前記血液を受け入れるための1つ以上の血液収集容器と、
前記採取された血液の凝固過程を開始するために、前記採取された血液を1種以上の凝固剤と混合することを可能にするように構成された凝固アセンブリと、
前記不完全に凝固した血液を前記空洞空間に導入するためのアプリケータとを備える、キット。
【請求項20】
前記1つ以上の収集容器が真空管である、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記凝固アセンブリが、前記採取された血液を導入するための容積を含み、前記容積が1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と接触可能である、請求項19又は20に記載のキット。
【請求項22】
前記採取された血液と混合するための1種以上の抗凝固剤を含む、請求項19~21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記1種以上の抗凝固剤が、前記1つ以上の血液収集容器内に含まれる、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記抗凝固剤が、ACD-A(抗凝血性クエン酸デキストロース、溶液A)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(エチレングリコール四酢酸)、クエン酸塩、ヘパリン及びシュウ酸塩からなる群から選択される、請求項22又は23に記載のキット。
【請求項25】
前記1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤が、カオリン、Ca2+、Mg2+、負に帯電した脂質(PL)及び硫酸プロタミンから選択される、請求項19~24のいずれか一項に記載のキット。
【請求項26】
前記異常な空洞空間の開口部を封止するためのシールを含み、前記シールが、前記シールを介して前記異常な空洞空間に血液を注入できるようにする注入口を含む、請求項19~25のいずれか一項に記載のキット。
【請求項27】
前記異常な空洞空間が痔瘻である、請求項19~26のいずれか一項に記載のキット。
【請求項28】
前記異常な空洞空間が洞である、請求項19~27のいずれか一項に記載のキット。
【請求項29】
前記異常な空洞空間が腹部空間である、請求項19~27のいずれか一項に記載のキット。
【請求項30】
前記腹部空間がストーマ空間である、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
被験者の異常な空洞空間を治療する方法で使用するための、請求項19~30のいずれか一項に記載のキットであって、前記方法が、
(i)前記被験者から全血を採取するステップと、
(ii)前記被験者の血液を1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と混合するステップと、
(iii)前記血液が完全に凝固する前に、前記凝固剤を含む前記血液を前記空洞空間に導入するステップと、
(iv)前記血液を前記空間内で凝固させるステップとを含む、キット。
【請求項32】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法で使用するための、請求項19~30のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被験者における異常な空洞空間、特に瘻孔又は痔瘻の治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
本開示の主題の背景として関連すると考えられる参考文献を以下に列挙する。
-国際公開第2019/058373号
-国際公開第2019/058375号
-米国特許第9,180,142号
【0003】
本明細書における上記の参考文献の承認は、これらが本開示の主題の特許性に何らかの形で関連することを意味するものとして推測されるべきではない。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、瘻孔、例えば痔瘻又はストーマ空間などの被験者の異常な空洞空間を治療するための方法及びキットを提供する。本開示の文脈における「異常な空洞空間」という用語は、特定の病状に起因して、又はその結果としてヒト又は非ヒト動物に形成される異常な空洞として解釈されるべきである。例えば、異常な空洞空間は、痔瘻、ストーマ開口部、又は毛巣洞である可能性がある。この方法は、被験者に由来する自己血液を利用し、それを異常な空洞空間に導入し、異常な空洞空間内で凝固させることにより、空洞空間内に凝固した血液塊、即ち血餅を形成し、異常な空洞空間の治癒過程を促進する。治癒は、上記空間のサイズ若しくは体積の完全若しくは部分的な閉鎖若しくは縮小、又は以前の異常な空洞空間内での健康な組織の形成であり得る。
【0005】
本開示のいくつかの実施形態に従って治療される異常な空洞空間は、身体の外面に少なくとも1つの開口部を含む。即ち、空洞空間には、被験者の皮膚の一部に形成された開口部を通してアクセス可能である。他の実施形態によれば、異常な空洞空間は、内部体腔に開口していてもよく、例えば、2つの管状器官の間(例えば、結腸と尿道の間)の瘻孔であってもよい。
【0006】
したがって、本開示の第1の態様は、被験者の異常な空洞空間を治療する方法を提供する。この方法は、(i)被験者から全血を取得又は採取するステップを含む。このステップは、当技術分野で公知の任意の方法によって実施することができる。この方法は更に、(ii)被験者の血液を1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と混合して血液の凝固過程を開始するステップを含む。次に、(iii)血液が完全に凝固する前に、凝固剤を含む血液を上記空洞空間に導入する、例えば、注入するステップと、(iv)血液が完全に凝固し、異常な空洞空間内に血餅が形成されるまで、血液を上記異常な空洞空間内で凝固させるステップとを含む。「血液が完全に凝固する前に」という用語に言及する場合、それは、凝固過程が開始されているが、血液がまだ流動可能な状態にあり、例えば、注入により異常な空洞空間に流れ込み、その中で凝固を完了することができ、即ち凝固して異常な空洞空間内で血餅を形成することを意味することに留意されたい。血餅は、それが注入された空間内に所定の期間、例えば数時間又は数日間維持されるか、又は治癒過程全体を通じて維持される場合がある。異常な空洞空間内の凝固した血液塊は、吸収されるか、自然に分解されるか、治癒中の空洞空間から自然に押し出されるか、又は一定期間後に除去される可能性がある。
【0007】
この方法のいくつかの実施形態では、この方法は、治療すべき空洞空間に血液を導入する前に、被験者から全血を採取し、それを抗凝固剤と混合するステップを含む。これにより、凝固過程の制御が可能になり、例えば、抗凝固剤の性質又はその濃度によって凝固時間及び得られる凝固血液の物理的特性を微調整することができる。
【0008】
この方法のいくつかの実施形態では、抗凝固剤は、ACD-A(Anticoagulant Citrate Dextrose、Solution A、抗凝血性クエン酸デキストロース、溶液A)、EDTA(ethylenediaminetetraacetic Acid、エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(ethylene glycol tetraacetic acid、エチレングリコール四酢酸)、クエン酸塩、ヘパリン及びシュウ酸塩からなる群から選択される。
【0009】
いくつかの実施形態では、この方法は、上記空洞空間が2つ以上の開口部、例えば瘻孔を有する場合、空洞空間の1つ以上の開口部、例えば瘻孔の遠位開口部を封止することにより洞を形成すること、即ち、1つの開口部のみを開いた状態に維持するステップを更に含む。このステップは、上記の(iii)の前の任意の時点で行われる。いくつかの実施形態では、この方法は、(iv)空洞空間の開口部に医療用包帯又はシールを適用して異常な空洞空間又は洞からの血液の漏出を防止し、それによって空洞空間中での血液の凝固を確実にするステップを更に含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、この方法は、膨張可能要素を膨張させて開口部の1つを閉塞することによって、異常な空洞空間の開口部の1つを封止するステップを更に含む。例えば、痔瘻の場合、膨張可能要素のそのような膨張は直腸内で行われてもよく、膨張可能要素の壁は、それによって直腸管腔内への瘻孔の開口部を封止する。開口部が膨張した要素によって封止された後、凝固中の血液は、閉塞されていない開口部を通って異常な空洞空間に導入される。場合によっては、膨張可能要素は、限られた時間、その場で維持されてもよく、例えば、血液を異常な空洞空間内で十分な程度に凝固させた後、膨張可能要素を収縮させて回収することができる。これは、例えば、痔瘻の場合に関連しており、痔瘻の開口部の1つは直腸管腔の壁にあり、血液は肛門付近の外表皮膚に形成された開口部から導入される。したがって、膨張可能要素は非膨張可能な状態で直腸を介して導入され、所定の位置に配置されると、膨張可能要素は膨張状態まで膨張されて直腸管腔への開口部を封止し、そのような封止後にのみ凝固中の血液が外部開口部を介して導入される。次に、血液を例えば数分間、痔瘻の空洞空間内で凝固させることができ、その後、膨張可能要素を収縮させて除去することができる。血液が十分に凝固すると、膨張可能要素は凝固剤を痔瘻内に保持する必要がない可能性があり、そして膨張可能要素は非膨張状態まで収縮され、直腸を介して回収され、凝固した血液は痔瘻の空洞空間内に残る。
【0011】
この方法のいくつかの実施形態によれば、医療用包帯又はシールは、治療された空洞空間の開口部に適用され、これは、凝固中の血液を空洞空間の中に導入した直後、又はある期間後、例えば、導入から3~15分間の期間後、若しくは1、2、3、4、5、6、7、8分から10、11、12、13、14、15、16分間の期間後、若しくは約9分間の期間後であってもよい。この期間は、典型的には、異常な空洞空間内で血液が凝固することを可能にする時間枠であることに留意されたい。いくつかの実施形態では、この時間枠は、10、9、8、7、6、5、4、3、2未満、又は時には1分未満であり得る。
【0012】
「約」という用語は、指定値からの最大20%の偏差として理解されるべきである。例えば、約10分の期間は、8~12分の間の任意の期間を指す。
【0013】
この方法のいくつかの実施形態では、1種以上の凝固剤は液体又は粉末の形態である。
【0014】
この方法のいくつかの実施形態では、1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤は、カオリン、Ca2+(例えば、グルコン酸カルシウムなどのカルシウム塩の形態)、Mg2+、負に帯電した脂質(PL)及び硫酸プロタミンから選択される。
【0015】
この方法のいくつかの実施形態では、(ii)は、まず血液をグルコン酸カルシウムと混合し、続いて血液とグルコン酸カルシウムの混合物をカオリンと混合するステップを含む。
【0016】
この方法のいくつかの実施形態では、上記空洞空間は瘻孔である。この方法のいくつかの実施形態では、上記瘻孔は痔瘻である。
【0017】
この方法のいくつかの実施形態では、上記空洞空間は洞である。
【0018】
この方法のいくつかの実施形態では、上記空洞空間は毛巣洞である。
【0019】
この方法のいくつかの実施形態では、血液は、所定の注入プロファイルで異常な空洞空間に導入又は注入される。注入プロファイルは、最初に、空間全体を満たすまで、即ち、血液が上記空間をその近位端まで満たすまで、空洞空間の遠位端に血液を注入することを含む。このプロファイルにより、異常な空洞空間、例えば瘻孔が柔軟である場合にその膨張を防止し、注入された血液が異常な空洞空間の全容積を満たすことを確実にすることができる。
【0020】
この方法のいくつかの実施形態では、(上記で定義された)方法の要素(ii)及び(iii)が同時に実施される。即ち、血液を異常な空洞空間に導入又は注入しながら、血液を1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と混合する。
【0021】
この方法のいくつかの実施形態では、(iii)の前に、この方法は、注入口を有するシールで異常な空洞空間の開口部を封止するステップを更に含み、続いて(iii)を行い、導入は注入口を介して行われる。
【0022】
この方法のいくつかの実施形態では、異常な空洞空間の開口部のうちの少なくとも1つは、被験者の身体の外面部分に形成される。したがって、上記少なくとも1つの開口部は、身体を貫通する必要なしに、異常な空洞空間に凝固中の血液を導入するために利用可能である。治療すべき異常な空洞空間の部位に応じて、開口部は、例えば、直腸部分、腹部、又は被験者の身体上の任意の他の露出部分に形成することができる。
【0023】
この方法のいくつかの実施形態では、上記空洞空間は腹部空間である。腹部空間は、ストーマ又はストーマ反転手術の結果として形成することができ、血液は、異常な空洞空間の開口部を構成するストーマ開口部を通して導入することができる。ストーマ反転手術では、腹部空間内に導入された凝固中の血液がストーマ開口部に接触すると共に、ストーマ手術中に分離された再吻合された腸端にも接触する。その後、血液は、治癒すべき組織、即ちストーマ開口部と、再吻合された2つの腸端間の付着界面で凝固し、治癒過程を促進する。
【0024】
本開示の更に別の態様は、被験者の異常な空洞空間又は空洞の治療に使用するための部品のキット又はシステムを提供する。キット又はシステムは、被験者から血液を採取するための1つ以上の血液採取装置と、被験者から採取された血液を受け入れるための1つ以上の血液収集容器と、採取された血液の凝固過程を開始するために、採取された血液を1種以上の凝固剤と混合するように構成された凝固アセンブリと、凝固中の血液を空洞空間に導入するためのアプリケータとを含む。
【0025】
キット又はシステムのいくつかの実施形態では、1つ以上の収集容器は真空管である。
【0026】
キット又はシステムのいくつかの実施形態では、凝固アセンブリは、採取された血液を受け入れ、それを1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と混合するための筐体を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、キットは、採取された血液と混合してその自然な凝固過程を防止し、所望の時点でその凝固を制御可能に誘導できるようにするための1種以上の抗凝固剤を更に含む。
【0028】
キットのいくつかの実施形態では、1種以上の抗凝固剤は、上記1つ以上の血液収集容器内に含まれる。
【0029】
キットのいくつかの実施形態では、抗凝固剤は、ACD-A(抗凝血性クエン酸デキストロース、溶液A)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(エチレングリコール四酢酸)、クエン酸塩、ヘパリン及びシュウ酸塩からなるリストから選択される。
【0030】
キットのいくつかの実施形態では、1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤は、カオリン、Ca2+(例えば、グルコン酸カルシウムなどのカルシウム塩の形態)、Mg2+、負に帯電した脂質(PL)及び硫酸プロタミンから選択される。
【0031】
いくつかの実施形態では、キットは、異常な空洞空間の開口部を封止するためのシールを更に含む。シールは、シールを介して凝固中の血液を異常な空洞空間に注入できるようにするための注入口を含む。
【0032】
キットのいくつかの実施形態では、異常な空洞空間は瘻孔である。キットのいくつかの実施形態では、瘻孔は痔瘻である。
【0033】
キットのいくつかの実施形態では、異常な空洞空間は洞である。
【0034】
「洞」という用語は、あらゆる器官若しくは組織の嚢若しくは空洞、あるいは組織の破壊によって引き起こされる異常な空洞若しくは通路を指すことに留意されたい。
【0035】
いくつかの実施形態では、キットは、被験者の異常な空洞空間又は空洞を治療するための方法で使用することを目的としている。この方法は、
(i)被験者から全血を採取又は取得するステップと、
(ii)被験者の血液を1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と混合するステップと、
(iii)血液が完全に凝固する前に、凝固剤を含む血液を上記空洞空間に導入するステップと、
(iv)血液が完全に凝固し、異常な空洞空間内に血餅が形成されるまで、血液を上記空間内で凝固させるステップとを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、キットは、方法の上記の実施形態のいずれかで使用することを目的としている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本明細書に開示される主題をよりよく理解し、それを実際にどのように実施することができるかを例示するために、次に、添付の図面を参照しながら、単なる非限定的な例として実施形態を説明する。
【0038】
図1A】本開示の一態様による方法の非限定的な例の異なる段階を示す概略図である。
図1B】本開示の一態様による方法の非限定的な例の異なる段階を示す概略図である。
図1C】本開示の一態様による方法の非限定的な例の異なる段階を示す概略図である。
図1D】本開示の一態様による方法の非限定的な例の異なる段階を示す概略図である。
図2A】本開示の一態様による方法の異なる実施形態の非限定的な例の流れ図である。
図2B】本開示の一態様による方法の異なる実施形態の非限定的な例の流れ図である。
図3A】痔瘻を治療するための処置の異なる段階を示す概略図である。
図3B】痔瘻を治療するための処置の異なる段階を示す概略図である。
図3C】痔瘻を治療するための処置の異なる段階を示す概略図である。
図3D】痔瘻を治療するための処置の異なる段階を示す概略図である。
図3E】痔瘻を治療するための処置の異なる段階を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本開示の方法は、被験者に存在する異常な空洞空間、例えば痔瘻を治療することを目的としている。この方法は、まず、治療すべき異常な空洞空間を有する被験者から全血を取得することを必要とする。これは、任意の既知の方法で被験者から血液を採取することによって行われる。血液を採取した後、血液を凝固させて血餅を形成することが望まれるまで、血液を抗凝固剤と混合して、血液を凝固していない液体形態で保存できるようにするのが一般的である。次に図1A図1Cを参照する。これらの図は、患者から血液を採取した後の、本開示の一態様による方法の一実施形態の異なる段階を示す概略図である。図1Aは、凝固アセンブリ102を示し、これは、被験者から採取された血液を受け入れるための無菌容積106を閉じ込める密閉ブリスター104を含む。密閉ブリスター104は、プロセスの可視化を可能にするために透明又は半透明であり得る血液注入部分108と、1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤の液体又は粉末形態を保持する凝固剤含有表面110とから形成される。貫通要素111、例えば適合した針を備えた注射器を使用することにより、血液注入部分108は、図1Aに見られるように、2つの異なる位置で貫通されて2つの開口部を形成し、それにより、空気が第2の開口部から逃げる間、第1の開口部から無菌容積106へ血液を導入することが可能になる。次に図1Bに例示されるように、採取された血液が無菌容積106に注入され、凝固剤又は抗抗凝固剤が被験者の血液と混合されて、凝固過程が開始される。混合は、振盪中の血液の漏れを防ぐために血液注入部分108の開口部を封止した後、凝固アセンブリ102を振盪することによって強化することができる。次に、ブリスター104は、例えば、図1Cに例示されるように、ブリスター104の底部にある封止ベース112を除去することによって、又は血液注入部分108を貫通して、凝固中の血液を注射器内に吸引することによって開封される。次に、このプロセスは、ブリスターから凝固中の血液を吸引し、それを異常な空洞空間、例えば瘻孔に、又は異常な空洞空間の開口部の1つ以上が例えば縫合処置によって封止されている場合に洞腔に注入することを含む。これは図1Dに例示されており、注射器114内に貯蔵された凝固剤又は抗抗凝固剤を含む血液が瘻孔FIS内に注入され、そこで凝固できるようになることが示されている。
【0040】
次に、本開示の一態様による方法の異なる実施形態を例示する流れ図である図2A図2Bを参照する。図2Aに例示されている方法は、治療すべき異常な空洞空間、例えば瘻孔又は痔瘻を有する被験者から全血を採取するステップ250を含む。この方法は、採取された血液を1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と混合するステップ252を更に含む。次に、この方法は、血液と凝固剤の混合物を異常な空洞空間に導入するステップ254を含む。これは、血液がまだ流動可能な状態にある間、即ち完全に凝固する前に行われる。血液が空洞空間内にある間、この方法は、血液を異常な空洞空間内で凝固させ、それによって異常な空洞空間内に血餅を形成させるステップ256を含む。
【0041】
次に図2Bを参照する。図2Bは、被験者から全血を採取した後(250)、血液を1種以上の抗凝固剤と混合し、これにより、血液の自然な凝固過程を阻害し、所望のタイミングでその凝固過程を制御可能に誘導できるようにすることを含む点で、図2Aと異なる。
【0042】
異常な空洞空間の1つ以上の開口部を封止する必要がある場合、この方法は、1つ以上の開口部を封止して、凝固中の血液が導入される洞を形成するステップを更に含むことに留意されたい。
【0043】
次に、本開示による痔瘻の治療手順を例示する概略図である図3A図3Eを参照する。図3Aは、腹部痔瘻FISによって形成された異常な空洞空間からなる被験者の初期病理を示す。まず、図3Bに示されるように、痔瘻FISの一方の開口部から滅菌液SLを導入して痔瘻FISを洗浄する。典型的には、液体は痔瘻の第1の開口部を介して導入され、第2の開口部を介して排出される。次に、図3Cに見られるように、膨張可能/収縮可能要素316が、収縮状態にあるときに直腸RMを介して導入される。直腸を介してのみアクセス可能な開口部OPの近傍に配置されると、膨張可能/収縮可能要素316は、図3Dに示されるように、その膨張状態まで膨張され、被験者から採取された凝固中の全血318が、瘻孔FISの非密閉開口部NSOを介して導入される。全血は、膨張可能/収縮可能要素316がその収縮状態まで収縮され、直腸RMを介して回収される前に、瘻孔FIS内で十分に凝固することができる。
【実施例
【0044】
以下は、本発明の様々な態様に基づく臨床試験の例である。
【0045】
実施例1-痔瘻患者における自己全血血餅治療
目的:痔瘻は慢性炎症過程であり、通常は自然治癒しないため、手術が依然として最終的治療法である。瘻孔の再発率が高く、便失禁の潜在的なリスクが高いことは、外科手術後の大きな問題であり続ける。
【0046】
ActiGraftは、患者自身の末梢血から生成され、物理的及び生物学的メカニズムを介して細胞の再生を促進するフィブリン塊を形成する自己血餅である。ActiGraftは、炎症の停滞期から増殖期への慢性創傷治癒を促進し、細胞の増殖、創傷床肉芽組織の形成、及び創傷の閉鎖をもたらすことが判明した。
【0047】
方法:慢性痔瘻患者29人が、瘻孔洗浄及びデブリードマン、内部、直腸側、開口部の縫合を含む外科的処置を受けた。水漏れ試験を実施した。処置後、患者から18mLの血液を採取し、カオリン及びグルコン酸カルシウムと混合し、直ちに瘻孔管の創傷部に注入し、洞を遮断することで血液を内部で凝固させた。適用後3ヶ月で視覚的評価及びMRIによって瘻孔治癒の検証を行った。
【0048】
結果:この報告の時点で、8人の被験者が6か月の追跡調査を完了したが、他の19人の被験者は全員継続中である。治験実施計画に適合した対象集団に対して中間解析を実施したところ、ActiGraft治療により、6か月の追跡調査を完了した患者8人中7人が完全に治癒したことがMRIで確認されたことが示された。興味深いことに、治癒が確認された7人の患者の中にクローン病患者も含まれており、この亜集団患者に対するActiGraftの劇的な効果が示されている。
【0049】
結論:ActiGraftは、クローン病患者を含む痔瘻患者の治療において安全かつ効果的であることが判明し、術後3か月で完全治癒を達成した。
【0050】
実施例2-最小侵襲手術後の毛巣洞における自己全血血餅治療の安全性と有効性
目的:ピロニダル病は、世界中の若い患者が罹患する一般的な疾患である。これは、最も一般的には、仙尾骨の出生裂の毛包で発生し、異物反応を引き起こして正中線の窪みの形成につながり、この状態は、健康な若年成人に感染、重大な不快感、痛み、不動、及び仕事の生産性の低下を引き起こす可能性がある。毛巣病の一般的な治療法は、外科的リスクを伴う洞管の外科的切除である。
【0051】
自己血餅であるActiGraftは、皮膚の術後及び慢性創傷の治癒に安全かつ効果的であることが判明した。血餅は、身体の自然で最適な一時的な創傷基質であり、細胞が移動できる一時的な基質として機能し、局所組織の再生を促進する。低侵襲外科手術による毛巣洞の血餅治療は、一時的な基質としてだけでなく、洞腔を封止して新しい肉芽組織の形成と再上皮化をもたらすことができる再生組織としても機能し、したがって、治癒時間を短縮し、洞の再発と合併症を予防する。
【0052】
方法:毛巣洞患者43人が低侵襲トレフィン手術を受けた。処置直後に、18mLの血液を採取し、カオリン及びグルコン酸カルシウムと混合し、直ちに洞腔に注入し、血液を内部で凝固させて血餅を形成させた。毛巣洞の治癒を術後12週間で視覚的に検証した。
【0053】
結果:治験実施計画に適合した対象集団に対して中間解析を実施した。25人の患者が12週間の追跡調査を完了し、13人の患者がまだ追跡調査段階にあり、5人の患者が追跡調査不能となった。研究を完了した患者25人中21人で完全治癒が確認され、有害事象は報告されなかった。
【0054】
結論:ActiGraftは、低侵襲トレフィン毛巣洞手術後の洞腔の完全閉鎖に到達するのに安全かつ効果的であることが判明した。
【0055】
ActiGraftは、損傷した組織を共に保持し、自然治癒過程に必要な一時的な基質と因子を提供するフィブリン足場を含む。ActiGraftの特性により、ActiGraftは、毛巣洞の有望な治療法として位置づけられている。
【0056】
実施例3-自己血餅がストーマ反転後の創傷閉鎖を促進する
目的:ストーマ反転手術は様々な合併症を引き起こす可能性があり、これにより、入院期間が長くなり、医療関連費用が大幅に増加し、長期転帰が不良になる可能性がある。SSIは依然として最も一般的な合併症であり、その範囲は2%~41%であるため、SR後のSSIの発生率を減らすことは、満たされていない重要なニーズである。
【0057】
自己全血血餅は、ケアの時点で患者自身の末梢血から生成され、創傷治癒過程を促進して細胞肉芽形成を増加させる保護足場を形成し、創傷への細菌の浸潤を遅らせることが示唆された。
【0058】
対象:SR手術と自己全血血餅治療を受けた4人の患者を調査した。手術の終了時に、創傷を部分的に開いたままにし、手術の18~24時間後、患者から血液を採取し、血液をカオリン及びカルシウム凝固剤と混合し、直ちに開いた創傷に注入し、血液を創傷内で凝固させて血餅を形成させた。感染の兆候及び閉鎖率について患者を追跡調査した。
【0059】
結果:SR後の4人の患者に自己血餅治療を適用した。自己血餅治療の3週間後に、すべての患者で感染の兆候が見られず、完全な創傷閉鎖が認められた。自己血餅治療は創傷治癒過程を促進し、SR創傷の閉鎖と感染のリスクを促進する可能性がある。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
【手続補正書】
【提出日】2022-12-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から血液を採取することができる1つ以上の血液採取装置と、
前記被験者から採取された前記血液を受け入れるための1つ以上の血液収集容器と、
前記採取された血液の凝固過程を開始するために、前記採取された血液を1種以上の凝固剤と混合することを可能にするように構成された凝固アセンブリと、
前記不完全に凝固した血液を前記被験者の異常な空洞空間に導入するためのアプリケータであって、前記空洞空間が瘻孔、洞、毛巣嚢胞及びストーマのうちの1つである、アプリケータとを備える、キット。
【請求項2】
(i)前記被験者から全血を採取するステップと、
(ii)前記被験者の血液を1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と混合するステップと、
(iii)前記血液が完全に凝固する前に、前記凝固剤を含む前記血液を前記空洞空間に導入するステップと、
(iv)前記血液を前記空間内で凝固させるステップとを含む方法で使用するためのものである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記1つ以上の収集容器が真空管である、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
前記凝固アセンブリが、前記採取された血液を導入するための容積を含み、前記容積が1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤と接触可能である、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項5】
前記採取された血液と混合するための1種以上の抗凝固剤を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のキット。
【請求項6】
前記1種以上の抗凝固剤が、前記1つ以上の血液収集容器内に含まれる、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記抗凝固剤が、ACD-A(抗凝血性クエン酸デキストロース、溶液A)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(エチレングリコール四酢酸)、クエン酸塩、ヘパリン及びシュウ酸塩からなる群から選択される、請求項5又は6に記載のキット。
【請求項8】
前記1種以上の凝固剤又は抗抗凝固剤が、カオリン、Ca2+、Mg2+、負に帯電した脂質(PL)及び硫酸プロタミンから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のキット。
【請求項9】
前記異常な空洞空間の開口部を封止するためのシールを含み、前記シールが、前記シールを介して前記異常な空洞空間に血液を注入できるようにする注入口を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記異常な空洞空間が痔瘻である、請求項1~9のいずれか一項に記載のキット。
【国際調査報告】