IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディーキン ユニバーシティの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】事前安定化反応器およびシステム
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/32 20060101AFI20240227BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20240227BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20240227BHJP
   F27B 9/04 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
D01F9/32
D01F9/22
F27D7/06 B
F27B9/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547616
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 AU2021050100
(87)【国際公開番号】W WO2022165547
(87)【国際公開日】2022-08-11
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511095676
【氏名又は名称】ディーキン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アトキス, スティーブン ポール
(72)【発明者】
【氏名】マゲ, マキシム ロバート
【テーマコード(参考)】
4K050
4K063
4L037
【Fターム(参考)】
4K050AA02
4K050BA09
4K050CA04
4K050CC08
4K050CC09
4K050CG01
4K063AA05
4K063AA15
4K063BA09
4K063BA16
4K063DA05
4K063DA23
4K063DA28
4K063DA31
4K063DA34
4L037CS02
4L037CT09
4L037CT10
4L037CT14
4L037FA01
4L037PA38
4L037PS02
(57)【要約】
本発明は、炭素系材料用の前駆体を事前安定化するための反応器であって、前駆体が所定の張力下で反応室を通過するときに、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を事前安定化するように構成された反応室と、反応室に前駆体を進入させるための入口と、前駆体を反応室から排出させるための出口と、実質的に酸素を含まないガスを反応室に送達するためのガス送達システムであって、実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらすために反応室をシールし、入口および出口を通って反応器から出る付随的なガス流を制限するためのガスシールアセンブリと、反応室内に加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらして、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するための強制ガス流アセンブリとを備える、ガス送達システムとを備えた、反応器に関する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系材料用の前駆体を事前安定化するための反応器であって、
前記前駆体が所定の張力下で前記反応室を通過するときに、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前記前駆体を事前安定化するように構成された反応室と、
前記前駆体を前記反応室に進入させるための入口と、
前記前駆体を前記反応室から排出させるための出口と、
実質的に酸素を含まないガスを前記反応室に送達するためのガス送達システムと
を備え、
前記ガス送達システムが、
前記反応室内に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらすために前記反応室をシールし、前記入口および前記出口を通って当該反応器から出る付随的なガス流を制限するためのガスシールアセンブリと、
前記反応室内に加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらして、前記実質的に酸素を含まない雰囲気中で前記前駆体を加熱するための強制ガス流アセンブリと
を備える、反応器。
【請求項2】
前記強制ガス流アセンブリが、前記反応室から実質的に酸素を含まないガスを受け取り、前記反応室に実質的に酸素を含まないガスを戻して、前記反応室を通って実質的に酸素を含まないガスを再循環させるように配置された少なくとも1つの戻りダクトを備える、請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
前記強制ガス流アセンブリが、前記反応室内の加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れの80%~98%を再循環させるように構成されている、請求項2に記載の反応器。
【請求項4】
前記強制ガス流アセンブリが、前記反応室内の加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れの少なくとも90%を再循環させるように構成される、請求項2または3に記載の反応器。
【請求項5】
前記反応室が2つ以上の反応ゾーンを備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項6】
前記強制ガス流アセンブリが、前記反応室の中心から前記反応室の各端に向かって加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらすように構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項7】
前記強制ガス流アセンブリが、前記反応室の各端から前記反応室の中心に向かって加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらすように構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項8】
前記反応室の1つまたは複数の反応ゾーンを外部から加熱するための加熱システムを備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項9】
前記加熱システムが、前記1つまたは複数の反応ゾーンを加熱するための1つまたは複数の加熱要素を備える、請求項8に記載の反応器。
【請求項10】
前記1つまたは複数の加熱要素が加熱ジャケット内に配置され、前記加熱ジャケットが、前記1つまたは複数の反応ゾーンに沿って前記加熱要素からの熱を分配するための熱伝達媒体を収容するように構成されている、請求項9に記載の反応器。
【請求項11】
前記加熱システムが、前記加熱ジャケットから熱伝達媒体を受け取り、熱伝達媒体を前記加熱ジャケットに戻して、前記加熱ジャケットを通して熱伝達媒体を再循環させるように配置された少なくとも1つの戻りラインを備える、請求項10に記載の反応器。
【請求項12】
前記ガスシールアセンブリが、前記反応室と前記入口および前記出口の各々との間にシールガスカーテンを設けるためのガスカーテンサブアセンブリと、排気ガスを抽出するための排気サブアセンブリとを備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項13】
前記排気サブアセンブリが、前記排気ガスを除去するための有害ガス低減システムを備える、請求項12に記載の反応器。
【請求項14】
前記有害ガス低減システムが、反応副生成物を破壊して高温燃焼ガスを生成するように前記排気ガスを燃焼させるためのバーナーを備える、請求項13に記載の反応器。
【請求項15】
前記ガス送達システムが、実質的に酸素を含まないガスを供給するための実質的に酸素を含まないガスの供給源に流体接続された供給ラインを備え、
前記有害ガス低減システムが、前記実質的に酸素を含まないガスを加温し、前記燃焼ガスを冷却するように、前記高温燃焼ガスから前記供給ラインによって供給される前記実質的に酸素を含まないガスに熱を伝達するための熱交換器を備える、請求項14に記載の反応器。
【請求項16】
前記反応室と前記出口との間に、前記前駆体が当該反応器から排出する前に前記前駆体を能動的に冷却するための冷却部を備える、請求項1~15のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項17】
2つ以上の反応室を備える、請求項1~16のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項18】
前記反応室が垂直に向けられており、
当該反応器が下端と上端とを有し、
前記入口および前記出口が当該反応器の下端に配置されており、
当該反応器が、前記入口から前記出口まで前記反応室を通って前記前駆体を通過させるためのローラをさらに備え、前記ローラが、当該反応器の前記上端に配置され、実質的に酸素を含まない雰囲気中に配置されるためのものである、請求項1~17のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項19】
炭素系材料用の前駆体を安定化するための装置であって、
事前安定化前駆体を製造するための請求項1~17のいずれか一項に記載の反応器と、
前記反応器の下流の酸化反応器と
を備え、
前記酸化反応器が少なくとも1つの酸化室を備え、前記酸化室は、前記事前安定化前駆体が該酸化室を通過するときに、前記事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化するように構成されている、装置。
【請求項20】
前記酸化室または各酸化室に関して、前記酸化反応器が、
前記前駆体を前記酸化室に進入させるための入口と、
前記前駆体を前記酸化室から排出させるための出口と
を備え、
前記酸化反応器が、
前記酸化室または各酸化室に酸素含有ガスを送達するための酸化ガス送達システムを備え、
前記酸化ガス送達システムが、
前記入口および前記出口を通って前記酸化反応器から出る付随的なガス流を制限するためのガスシールアセンブリと、
前記酸化室または各酸化室内に加熱された酸素含有ガスの流れをもたらして、前記酸素含有雰囲気中で前記事前安定化前駆体を加熱するための強制ガス流アセンブリと
を備える、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記反応器が前記酸化反応器の下に配置されている、請求項19または20に記載の装置。
【請求項22】
2つ以上の酸化室を備える、請求項19、20または21に記載の装置。
【請求項23】
4つ以上の酸化室を備える、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
年間最大1,500トンの安定化前駆体の生産量に適合される、請求項19~23のいずれか一項に記載の装置。
【請求項25】
標準的な40フィートの輸送コンテナ内に収まるように構成されている、請求項19~24のいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
前記反応室の上流および下流に配置された張力装置を備え、
前記張力装置が、所定の張力下で前記前駆体を前記反応室に通過させるように構成されている、請求項19~25のいずれか一項に記載の装置。
【請求項27】
炭素系材料用の前駆体を安定化するためのシステムであって、
事前安定化前駆体を製造するための請求項1~18のいずれか一項に記載の反応器と、
前記反応室の上流および下流に配置された張力装置であって、所定の張力下で前記反応室を通って前記前駆体を通過させるように構成された、張力装置と、
前記反応器の下流の酸化反応器と
を備え、
前記酸化反応器が少なくとも1つの酸化室を備え、前記酸化室は、前記事前安定化前駆体が該酸化室を通過するときに、前記事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化するように構成されている、システム。
【請求項28】
炭素系材料を調製するためのシステムであって、
事前安定化前駆体を製造するための請求項1~18のいずれか一項に記載の反応器と、
前記反応室の上流および下流に配置された張力装置であって、所定の張力下で前記反応室を通って前記前駆体を通過させるように構成された、張力装置と、
前記反応器の下流の酸化反応器であって、該酸化反応器が少なくとも1つの酸化室を備え、前記酸化室は、前記事前安定化前駆体が該酸化室を通過するときに、前記事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化させるように構成されている、酸化反応器と、
前記安定化前駆体を炭化して前記炭素系材料を形成するための炭化ユニットと
を備える、システム。
【請求項29】
前記酸化室または各酸化室の上流および下流に配置された張力装置を備え、前記張力装置が、所定の張力下で前記事前安定化前駆体を前記酸化室または各酸化室に通過させるように構成されている、請求項19~26のいずれか一項に記載の装置、または請求項27または28に記載のシステム。
【請求項30】
各張力装置が、加えられる張力の量を感知するためのロードセルを備える、請求項19~26および29のいずれか一項に記載の装置、または請求項27、28および29のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項31】
前記反応器の前記出口の下流かつ前記酸化反応器の上流に配置された反射率フーリエ変換赤外(FT-IR)分光計を備え、前記FT-IR分光計が、前記反応器からの前記事前安定化前駆体中の環化ニトリル基の割合を監視するためのものである、請求項19~26、29および30のいずれか一項に記載の装置、または請求項27~30のいずれか一項に記載のシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分安定化前駆体、特に、炭素繊維などの炭素系材料の製造に使用することができる部分安定化前駆体を形成するための反応器およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体などの有機前駆体を炭素に変換することによって製造される、主に炭素原子から構成される繊維である。
【0003】
従来、炭素繊維は、PAN前駆体に一連の熱処理を施すことによって製造され、これは2つの主ステップ:安定化および炭化に大別することができる。安定化と呼ばれる第1の主要ステップは、前駆体を調製して後続の炭化ステップに耐えることができるために、空気中で200℃~300℃の温度でPAN前駆体を加熱することを含む。炭化中、安定化前駆体は熱分解され、化学的再配列を受け、非炭素質原子の放出および高秩の炭素系構造の形成をもたらす。炭化ステップは、不活性雰囲気を含む炉内で、400℃~1600℃の範囲の温度で実施されることが多い。
【0004】
安定化プロセスは、多くの場合、一連のオーブンで行われ、完了するまでに多くの時間かかることがある。その結果、前駆体の安定化は、時間およびエネルギの観点から費用がかかる可能性があり、したがって、前駆体は炭素繊維製造プロセスの高価な部分になる。さらに、安定化反応の発熱性、ならびに前駆体の安定化に使用される熱と酸素との組み合わせは、火災の危険性を示し、したがって重大な安全上の懸念を引き起こす可能性がある。
【0005】
従来の前駆体安定化システムの1つまたは複数の欠点を克服または改善する安定化PAN前駆体の調製のためのシステムを提供することが望ましいであろう。炭素繊維をより効率的に製造することを可能にするシステムを提供することも望ましいであろう。
【発明の概要】
【0006】
本発明の実施形態は、事前安定化前駆体を調製するための反応器を対象とする。事前安定化前駆体は、炭素繊維などの炭素材料の製造における使用に適し得る。好適には、いくつかの実施形態では、本発明の反応器は、炭素繊維製造に有用な安定化前駆体繊維を迅速に形成することを可能にし得る。
【0007】
本発明は、炭素系材料用の前駆体を事前安定化するための反応器であって、
前駆体が所定の張力下で反応室を通過するときに、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を事前安定化するように構成された反応室と、
前駆体を反応室に進入させるための入口と、
前駆体を反応室から排出させるための出口と、
実質的に酸素を含まないガスを反応室に送達するためのガス送達システムであって、
反応室内に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらすために反応室をシールし、入口および出口を通って反応器から出る付随的なガス流を制限するためのガスシールアセンブリと、
反応室内に加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらして、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するための強制ガス流アセンブリと
を備える、ガス送達システムとを備えた、反応器を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、強制ガス流アセンブリは、反応室内に加熱された実質的に酸素を含まないガスの再循環流をもたらして、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するように構成されてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、強制ガス流アセンブリが、反応室から実質的に酸素を含まないガスを受け取り、反応室に実質的に酸素を含まないガスを戻して、反応室を通って実質的に酸素を含まないガスを再循環させるように配置された少なくとも1つの戻りダクトを備える。
【0009】
強制ガス流アセンブリが、反応室内の加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れの80%~98%を再循環させるように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、強制ガス流アセンブリが、反応室内の加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れの少なくとも90%を再循環させるように構成される。
【0010】
反応室は、2つ以上の反応ゾーンを備えてもよい。代替的または追加的に、反応器は、2つ以上の反応室を備えてもよい。
【0011】
いくつかの実施形態では、強制ガス流アセンブリが、反応室の中心から反応室の各端に向かって加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらすように構成される。いくつかの他の実施形態では、強制ガス流アセンブリが、反応室の各端から反応室の中心に向かって加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらすように構成される。
【0012】
いくつかの実施形態では、反応器が、反応室の1つまたは複数の反応ゾーンを外部から加熱するための加熱システムを備える。加熱システムが、前記1つまたは複数の反応ゾーンを加熱するための1つまたは複数の加熱要素を備えてもよい。1つまたは複数の加熱要素が加熱ジャケット内に配置され、加熱ジャケットが、前記1つまたは複数の反応ゾーンに沿って加熱要素からの熱を分配するための熱伝達媒体を収容するように構成されてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、加熱システムが、加熱ジャケットから熱伝達媒体を受け取り、熱伝達媒体を加熱ジャケットに戻して、加熱ジャケットを通して熱伝達媒体を再循環させるように配置された少なくとも1つの戻りライン(例えば、少なくとも1つの戻りダクト)を備える。
【0014】
いくつかの実施形態では、ガスシールアセンブリが、反応室と入口および出口の各々との間にシールガスカーテンを設けるためのガスカーテンサブアセンブリと、排気ガスを抽出するための排気サブアセンブリとを備える。
【0015】
いくつかの実施形態では、排気サブアセンブリが、排気ガスを除去するための有害ガス低減システムを備える。有害ガス低減システムが、反応副生成物を破壊して高温燃焼ガスを生成するように排気ガスを燃焼させるためのバーナーを備えてもよい。いくつかの実施形態では、ガス送達システムが、実質的に酸素を含まないガスを供給するための実質的に酸素を含まないガスの供給源に流体接続された供給ラインを備え、有害ガス低減システムが、実質的に酸素を含まないガスを加温し、燃焼ガスを冷却するように、高温燃焼ガスから供給ラインによって供給される実質的に酸素を含まないガスに熱を伝達するための熱交換器を備える。
【0016】
いくつかの実施形態では、反応室と出口との間に、前駆体が反応器から排出する前に前駆体を能動的に冷却するための冷却部を備える。
【0017】
いくつかの実施形態では、反応室は垂直に向けられており、反応器は、下端と上端とを有し、入口および出口は反応器の下端に配置されており、反応器が、入口から出口まで反応室を通って前駆体を通過させるためのローラをさらに備え、ローラが、反応器の上端に配置され、実質的に酸素を含まない雰囲気中に配置されるためのものである。
【0018】
本発明の反応器の実施形態は、炭素繊維用の事前安定化前駆体を調製するために使用することができ、事前安定化は、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、前駆体に所定量の張力を加えながら加熱することを含み、前駆体が雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体に加えられる張力は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0019】
さらに、本発明の反応器の実施形態を使用して、事前安定化前駆体を調製することができ、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、前駆体に実質的に一定量の張力を加えながら加熱して、前駆体中のニトリル基の環化を促進することであって、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体に加えられる張力の量がそれぞれ、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するように選択されることを含む。
【0020】
本発明の反応器を使用する事前安定化プロセスのために選択された温度、時間および張力条件は、少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を短期間で生成することを可能にし得る。
【0021】
特定の実施形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および加熱されるときに前駆体に加えられる張力の量はそれぞれ、5分未満、4分未満、3分未満、または2分未満からなる群から選択される期間に前駆体中の少なくとも10%の環化ニトリル基の形成を促進するように選択される。したがって、いくつかの実施形態では、前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で短期間(すなわち数分)加熱して、少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を生成するだけでよい。
【0022】
本明細書に記載の反応器を使用する前駆体安定化プロセス中、前駆体は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、選択された期間内に前駆体中の少なくとも10%の環化ニトリル基の形成を引き起こすのに十分な温度で加熱され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、前駆体は、前駆体の分解温度に近い温度で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される。1つの好ましいことでは、前駆体は、前駆体の分解温度より30℃以下低い温度で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される。
【0024】
特定の実施形態では、前駆体は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、約250℃~400℃の範囲の温度、好ましくは約280℃~320℃の範囲の温度で加熱される。
【0025】
前駆体に加えられる張力の量は、ニトリル基環化の程度に影響を及ぼし得る。張力は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するための温度および期間の選択されたパラメータの下で、事前安定化前駆体中に所望の量の環化ニトリル基が形成されることを可能にするように選択することができる。
【0026】
1つまたは複数の実施形態において、前駆体に加えられる張力の量は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも15%の環化ニトリル基、好ましくは少なくとも20%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するように選択される。
【0027】
特定の実施形態では、前駆体に加えられる張力の量は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように20%~30%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するように選択される。
【0028】
ポリアクリロニトリルを含む前駆体は、最大量のニトリル基環化を達成する可能性を有することが見出されている。温度、時間および張力の事前安定化プロセスパラメータは、前駆体中のニトリル基環化の最大範囲を促進するように選択することができる。あるいは、温度、時間および張力の事前安定化プロセスパラメータは、許容可能な量によって潜在的に達成可能な最大量から変化する前駆体中のニトリル基環化の程度を促進するように選択することができる。
【0029】
したがって、本発明の反応器を使用して前駆体を事前安定化するプロセスは、事前安定化前駆体を形成する前に前駆体の張力パラメータを決定するステップを含むことができ、前駆体の張力パラメータを決定することは、
実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するための温度および期間を選択すること、
前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で選択された温度で選択された期間加熱しながら、前駆体に異なる実質的に一定の張力の範囲を加えること、
フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって、前駆体に加えられた各実質的に一定量の張力について前駆体中に形成された環化ニトリル基の量を決定すること、
ニトリル基環化(%EOR)対張力の程度の傾向を算出すること、
算出された傾向から、前駆体中の少なくとも10%のニトリル基環化および最大ニトリル基環化をもたらす張力の量を特定すること、および
前駆体を事前安定化するために、少なくとも10%のニトリル基環化を生じさせる張力の量を選択すること
を含む。
【0030】
張力パラメータ決定ステップのいくつかの実施形態では、最大ニトリル環化を生じさせる張力の量が、本明細書に記載するように前駆体を事前安定化するように選択される。
【0031】
いくつかの実施形態では、前駆体に加えられる張力の量は、前駆体において達成可能な最大量よりも最大80%少ないニトリル基環化の程度を促進するように選択される。
【0032】
他の実施形態では、前駆体に加えられる張力の量は、前駆体において達成可能な最大量のニトリル基環化の形成を促進するように選択される。最大量の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体は、効率が改善された安定化前駆体の形成を容易にすることができる。
【0033】
1つまたは複数の実施形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱されるとき、約50cN~約50,000cNの範囲の張力の量が前駆体に加えられてもよい。
【0034】
本明細書に記載の反応器の反応室内にもたらすことができる実質的に酸素を含まない雰囲気は、適切なガスを含み得る。一実施形態では、実質的に酸素を含まない雰囲気は窒素を含む。
【0035】
事前安定化されると、前駆体は、安定化前駆体を形成するのに十分な条件下で酸素含有雰囲気に曝露されることができる。望ましくは、安定化前駆体は、炭化して炭素繊維などの炭素系材料を形成することができる。
【0036】
本発明の反応器は、適切な酸化反応器と組み合わせて安定化装置を提供し得る。特に、本発明は、炭素系材料用の前駆体を安定化するための装置であって、事前安定化前駆体を製造するための本発明の反応器と、
反応器の下流の酸化反応器であって、事前安定化前駆体が酸化室を通過するときに、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化するように構成された少なくとも1つの酸化室を備える、酸化反応器と
を備える、装置を提供する。
【0037】
酸化室または各酸化室に対して、酸化反応器が、
前駆体を酸化室に進入させるための入口と、
前駆体を酸化室から排出させるための出口と
を備え、
酸化反応器が、
酸化室または各酸化室に酸素含有ガスを送達するための酸化ガス送達システムであって、
入口および出口を通って酸化反応器から出る付随的なガス流を制限するためのガスシールアセンブリと、
酸化室または各酸化室内に加熱された酸素含有ガスの流れをもたらして、酸素含有雰囲気中で事前安定化前駆体を加熱するための強制ガス流アセンブリと
を備える、酸化ガス送達システムをさらに備えてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、酸化反応器の強制ガス流アセンブリは、酸化室または各酸化室内に加熱された酸素含有ガスの再循環流をもたらして、酸素含有雰囲気中で事前安定化前駆体を加熱するように構成されてもよい。したがって、酸化反応器の強制ガス流アセンブリは、酸化室から酸素含有ガスを受け取り、酸素含有ガスを酸化室に戻して、酸化室を通って酸素含有ガスを再循環させるように配置された少なくとも1つの戻りダクトを備えてもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、反応器は酸化反応器の下に配置される。
【0040】
いくつかの実施形態では、装置は、2つ以上の酸化室、例えば4つ以上の酸化室を備える。
【0041】
いくつかの実施形態では、装置は、年間最大1,500トンの安定化前駆体の生産量に適合される。
【0042】
いくつかの実施形態では、装置が、標準的な40フィートの輸送コンテナ内に収まるように構成される。
【0043】
いくつかの実施形態では、反応室の上流および下流に配置された張力装置を備え、張力装置が、所定の張力下で前駆体を反応室に通過させるように構成されてもよい。
【0044】
本発明は、炭素系材料用の前駆体を安定化するためのシステムであって、
事前安定化前駆体を製造するための本発明の反応器と、
反応室の上流および下流に配置された張力装置であって、所定の張力下で反応室を通って前駆体を通過させるように構成された、張力装置と、
反応器の下流の酸化反応器であって、
事前安定化前駆体が酸化室を通過するときに、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化するように構成された少なくとも1つの酸化室
を備える、酸化反応器と
を備える、システムをさらに提供する。
【0045】
事前安定化前駆体は、従来技術で知られている従来の前駆体安定化プロセスと比較して、安定化前駆体を形成するために比較的短期間だけ酸素含有雰囲気に曝露される必要があり得る。いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、約30分以下の期間、酸化反応器内の酸素含有雰囲気に曝露される。
【0046】
事前安定化前駆体は、好ましくは、酸素含有雰囲気中で加熱される。事前安定化前駆体の加熱は、安定化前駆体の迅速な形成を促進することができる。いくつかの特定の実施形態では、事前安定化前駆体は、酸素含有雰囲気中で約200℃~300℃の範囲の温度で加熱される。
【0047】
一組の実施形態では、事前安定化前駆体は、反応器を使用して事前安定化前駆体を形成するために使用される温度よりも低い温度で酸素含有雰囲気中で加熱される。
【0048】
安定化前駆体を形成するための温度は、事前安定化前駆体を形成するために使用される温度よりも低くてもよいので、本明細書に記載の前駆体安定化プロセスのいくつかの実施形態は、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気に曝露する前に事前安定化前駆体を冷却するステップをさらに備えてもよい。上記のように、反応器は冷却部を備えてもよく、冷却部はこの冷却ステップに使用されてもよい。
【0049】
本発明の前駆体を安定化するための装置およびシステムはそれぞれ、適切に安定化された前駆体を迅速に形成することを可能にすることができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、装置およびシステムはそれぞれ、約60分以下、約45分以下、約30分以下、および約25分以下から選択される期間内に安定化前駆体を形成することを可能にし得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明の装置およびシステムはそれぞれ、約1.1~2.6kWh/kgの範囲の平均エネルギ消費量を有する安定化前駆体を形成することができる。
【0052】
本発明は、炭素系材料を調製するためのシステムであって、
事前安定化前駆体を製造するための本発明の反応器と、
反応室の上流および下流に配置された張力装置であって、所定の張力下で反応室を通って前駆体を通過させるように構成された、張力装置と、
反応器の下流の酸化反応器であって、
事前安定化前駆体が酸化室を通過するときに、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化させるように構成された少なくとも1つの酸化室
を備える、酸化反応器と、
安定化前駆体を炭化して炭素系材料を形成するための炭化ユニットと
を備える、システムをさらに提供する。
【0053】
いくつかの実施形態では、炭素系材料を調製するためのシステムを使用して、炭素繊維を調製することができる。いくつかの実施形態では、炭素系材料を調製するためのシステムを使用して、炭素繊維を連続的に調製することができる。
【0054】
従来の炭化プロセス条件は、使用中に炭化ユニットで使用され、安定化前駆体を炭素繊維に変換することができる。一組の実施形態では、安定化前駆体を炭化することは、炭化ユニット内の不活性雰囲気中で、約350℃~3,000℃の範囲の温度で安定化前駆体を加熱することを含む。
【0055】
1つまたは複数の実施形態では、炭素系材料を調製するためのシステムを使用して、約70分以下、約60分以下、約50分以下、約45分以下、または約30分以下の期間内に炭素繊維を形成することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、炭素系材料を調製するためのシステムは、炭素繊維などの炭素系材料を連続的に調製するように構成される。このような実施形態では、システムを使用する連続プロセスは、
ポリアクリロニトリルを含む前駆体を反応器に供給し、前駆体に実質的に一定量の張力を加えながら実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱して、前駆体中のニトリル基の環化を促進し、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体に加えられる張力の量はそれぞれ、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するように選択されること、
事前安定化前駆体を酸化反応器に供給すること、
安定化前駆体を炭化ユニットに供給し、炭化ユニット内の安定化前駆体を炭化して炭素繊維を形成すること、
を含み得る。
【0057】
連続炭素繊維調製プロセスのいくつかの実施形態では、事前安定化前駆体が反応器から排出する前に、反応器の冷却部で事前安定化前駆体を能動的に冷却するさらなるステップがあってもよい。
【0058】
本発明の装置またはシステムでは、酸化室または各酸化室の上流および下流に配置された張力装置を設けることができ、張力装置は、所定の張力下で事前安定化前駆体を酸化室または各酸化室に通過させるように構成される。いくつかの実施形態では、各張力装置は、加えられている張力の量を感知するためのロードセルを備える。
【0059】
本発明の装置またはシステムは、反応器の出口の下流かつ酸化反応器の上流に配置された反射率フーリエ変換赤外(FT-IR)分光計を備え、前記FT-IR分光計は、反応器からの事前安定化前駆体中の環化ニトリル基の割合を監視するためのものである。
【0060】
本明細書に記載の反応器の実施形態のいずれか1つを使用して調製された事前安定化前駆体も提供される。本明細書に記載の装置およびシステムの実施形態のいずれかを使用して調製された安定化前駆体をさらに提供する。安定化前駆体は、炭素繊維などの炭素系材料の製造に好適に使用することができる。
【0061】
さらに、炭素系材料を調製するためのシステムの本明細書に記載の実施形態のいずれかを使用して調製された炭素繊維も提供される。
【0062】
本発明の反応器を使用し得る事前安定化プロセスの実施形態、本発明の装置およびシステムを使用し得る安定化プロセスの実施形態、ならびに本発明の炭素系材料を調製するためのシステムを使用し得る炭化プロセスの実施形態は、オーストラリア仮特許出願第2016904220号および国際特許出願第PCT/AU2017/051094号(国際公開第2019/071286号として公開)に記載されており、それぞれの内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の開示】
【0063】
本発明は、炭素系材料、特に炭素繊維の製造に有用な、炭素繊維の前駆体を事前安定化するのに適した反応器を提供する。図12を参照すると、本発明のいくつかの実施形態は、一般に、炭素繊維を連続的に製造するためのシステム90の一部として前駆体80を処理するために使用される反応器10に関する。図12は、ブロック図の形態の炭素繊維製造システム90を示す。図示の反応器10は、ポリアクリロニトリル繊維前駆体80から事前安定化前駆体81を製造するために使用されるが、他のタイプの反応器(例えば、糸、ウェブ、フィルム、布帛、織物、フェルトまたはマットの形態の前駆体などの他の種類の前駆体を処理または加工するために)も本発明の範囲内である。
【0064】
繊維源40は、前駆体80を分配するために使用される。いくつかの実施形態では、繊維源は、箱状、スプール状またはベール状の繊維であってもよい。例えば、繊維源はクリールであってもよい。前駆体80の複数の繊維は、トウと呼ばれる繊維の群として繊維源40によって同時に分配される。前駆体繊維80が分配された後、当該技術分野でよく知られているように、前駆体繊維は、複数のローラを有するテンションスタンドなどの材料取扱装置30を通過する。この材料取扱装置30は、反応器10の下流の材料取扱装置30と共に、前駆体80が反応器10を通過して事前安定化前駆体81を形成する際に前駆体に所定の張力を加えるために使用される。
【0065】
次いで、事前安定化前駆体81は、一連の酸化室を備えることができる酸化反応器20に供給される。さらなる材料取扱装置30を使用して、事前安定化前駆体81を酸化反応器20に引き込む。反応器10と同様に、酸化反応器20の上流および下流の材料取扱装置30は、事前安定化前駆体81が酸化反応器20を通過して安定化前駆体82を形成する際に事前安定化前駆体81に所定の張力を加えるために使用され得る。反応器10および酸化反応器20の構造的および動作的特性は、以下でさらに詳細に説明される。
【0066】
次いで、安定化前駆体82は、炭化ユニット50によって加工されて、安定化前駆体82を熱分解し、それを炭素繊維83に変換する。炭化ユニットは、1つまたは複数の炭化反応器を備える。炭化反応器は、実質的に酸素を含まない雰囲気を含むように構成され、炭素繊維形成に一般的に使用される高温条件に耐えることができるオーブンまたは炉であってもよい。次に、処理ステーション60で表面処理を行うことができる。次いで、サイジングステーション65で、処理された炭素繊維84にサイジングを適用することができる。
【0067】
次いで、サイジングされた炭素繊維85のトウは、ワインダ70を使用して巻き付けられる。各トウは、数百または数千の個々の炭素繊維フィラメント85を含む。複数のトウは、典型的には、炭素繊維布帛を形成するために編まれ、縫い合わされ、または織られる。当業者に理解されるように、炭素繊維製造システム90に必要に応じて、追加の処理装置および/または追加の材料取扱装置30を備える他の処理装置を使用することができる。
【0068】
本発明の反応器の実施形態は、炭素繊維用の事前安定化前駆体を調製するために使用することができ、事前安定化は、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、前駆体に所定量の張力を加えながら加熱するステップを含み、前駆体が雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体に加えられる張力は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するのに十分である。いくつかの実施形態では、加えられる張力の量は、前駆体が事前安定化されているため、実質的に一定の量であってもよい。
【0069】
本発明の反応器を使用して、事前安定化前駆体を調製することができ、前記使用が、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、前駆体に実質的に一定量の張力を加えながら加熱して、前駆体中のニトリル基の環化を促進することであって、前駆体が雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体に加えられる張力の量がそれぞれ、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するように選択されることを含む。
【0070】
事前安定化後、前駆体は部分安定化され、少なくとも10%の環化ニトリル基を有し得る。この事前安定化前駆体は、酸化反応器内の酸素含有雰囲気中でさらに処理されて、安定化前駆体を形成することができる。
【0071】
前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で選択された温度で選択された期間加熱することによって実質的に酸素を含まない雰囲気中で安定化反応を開始することによって、選択された実質的に一定量の張力が前駆体に加えられると、少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成することができ、これは酸素含有雰囲気中でのその後の反応のために活性化されることが分かった。事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気に曝露すると、安定化前駆体を容易に形成することができる。したがって、本発明の反応器を使用して、改善された効率で、炭素繊維製造に適した安定化前駆体などの安定化前駆体を調製することができる。
【0072】
特に、本発明の反応器を使用して、安定化前駆体を迅速に調製することができる。
【0073】
本明細書に記載のプロセスに関して使用される「急速」という用語は、プロセスが、同じ結果を達成するように設計されるがプロセスの一部として事前安定化ステップを含まない基準プロセスよりも迅速に(すなわち、より短い期間で)実行されることを示すことを意図している。したがって、事前安定化ステップを実施するために本発明の反応器を使用するプロセスは、基準プロセスと比較して時間を節約することができる。さらに、本発明の反応器の使用は、基準プロセスと比較して、エネルギ節約および設備節約をもたらすことができる。一例として、従来の基準安定化プロセスは、約70分の期間で所望の量の環化ニトリル基を含む安定化PAN前駆体を達成することができる。比較すると、本発明の反応器を使用する安定化プロセスのいくつかの実施形態は、同量の環化ニトリル基を含む安定化前駆体を約15分の期間内に形成することを可能にすることができる。したがって、本発明の反応器を使用する安定化プロセスは、基準プロセスよりも約55分(または約78%)の時間節約を達成することができる。
【0074】
好適には、本発明の反応器は、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱することによって、少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するために使用され得る。理論によって制限されることを望むものではないが、事前安定化前駆体中に少なくとも10%の環化ニトリル基を形成することによって、下流の利点を酸化的前駆体安定化、ならびに酸化的安定化前駆体の炭化に与えて、高性能品質を含む許容可能な品質の炭素系材料(炭素繊維など)を形成することができると考えられる。特に、少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体は、より高速で、より安全で、低コストの前駆体安定化および炭素系材料形成(例えば、炭素繊維)を容易にすることができると考えられる。さらに、事前安定化前駆体中で10%未満のニトリル基環化が得られる場合、炭素系材料に変換することができる適切に安定化された前駆体の高速形成、前駆体安定化の安全性の向上およびエネルギ消費の低減などのもたらされる利点は達成されないと考えられる。
【0075】
本明細書に記載の安定化プロセスに従って形成される安定化前駆体は、熱的に安定である。「熱的に安定」とは、安定化前駆体が、裸火に曝露されたときに燃焼または分解に耐性があり、適切に炭化して炭素繊維などの炭素系材料を形成することができることを意味する。
【0076】
本明細書に記載の安定化プロセスによって形成された安定化前駆体は、本明細書では「完全安定化前駆体」とも呼ばれ得る。これは、部分安定化前駆体である本明細書に記載の事前安定化前駆体と比較される。
【0077】
いくつかの実施形態では、本発明は、炭素繊維用の前駆体を安定化するための装置であって、
事前安定化前駆体を製造するための本発明の反応器と、
反応器の下流の酸化反応器であって、事前安定化前駆体が酸化室を通過するときに、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化するように構成された少なくとも1つの酸化室を備える、酸化反応器と
を備える、装置を提供する。この装置は、安定化前駆体を調製するために使用することができ、前記使用は、
ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、前駆体に実質的に一定量の張力を加えながら加熱して、前駆体中のニトリル基の環化を促進することであって、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体に加えられる張力の量がそれぞれ、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するように選択されること、
事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気に曝露して、安定化前駆体を形成すること
を含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、装置は、炭素繊維用の安定化前駆体を調製するために使用することができる。いくつかの実施形態では、装置は、反応器内で前駆体を初期事前安定化に供し、本明細書に記載の少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成することによって効率を改善して、炭素繊維などの炭素系材料の製造に適した安定化前駆体を調製するために使用することができる。
【0079】
本発明の反応器は、安定化前駆体の迅速な形成を促進し、炭素繊維製造に使用される前駆体安定化ステップを加速するのを助けるために使用され得る。さらに、本明細書に記載の反応器は、前駆体安定化ステップに関連するコストを低減するのに役立つだけでなく、前駆体安定化の安全性を改善するのに役立つことができる。
【0080】
上記のように、本発明の反応器、装置およびシステムは、ポリアクリロニトリル(PAN)を含む前駆体の安定化に有用であり得る。PANを含む前駆体は、本明細書では「ポリアクリロニトリル前駆体」または「PAN前駆体」とも呼ばれる。
【0081】
本明細書で言及されるPAN前駆体は、アクリロニトリルのホモポリマーならびにアクリロニトリルと1つまたは複数のコモノマーとのコポリマーおよびターポリマーを含む前駆体を含む。
【0082】
したがって、本明細書で使用される「ポリアクリロニトリル」という用語は、少なくともアクリロニトリルの重合によって形成されたホモポリマーおよびコポリマーを含む。このようなポリマーは、一般に直鎖状であり、炭素系ポリマー骨格から懸垂したニトリル基を有する。
【0083】
以下にさらに論じるように、ペンダントニトリル基の環化は、本発明の反応器の有利な使用において重要な役割を果たす。
【0084】
使用される前駆体は、少なくとも約85重量%のアクリロニトリル単位を有するポリアクリロニトリルを含み得る。いくつかの実施形態では、使用される前駆体は、85重量%未満のアクリロニトリル単位を有するポリアクリロニトリルを含み得る。そのようなポリマーは、35~85重量%のアクリロニトリル単位を含み、典型的には塩化ビニルまたは塩化ビニリデンと共重合されたポリマーとして一般的に定義される、モダクリルポリマーを含むことができる。
【0085】
ポリアクリロニトリル(PAN)は、その物理的および分子的特性ならびに高い炭素収率をもたらす能力のために、炭素繊維などの炭素系材料を製造するための前駆体に含めるのに適したポリマーである。
【0086】
一組の実施形態では、使用される前駆体は、ポリアクリロニトリルホモポリマー、ポリアクリロニトリルコポリマー、またはそれらの混合物を含み得る。
【0087】
当業者は、ポリアクリロニトリルホモポリマーが、アクリロニトリルのみから誘導される重合単位で構成されるポリマーであることを理解するであろう。
【0088】
ポリアクリロニトリルコポリマーは、アクリロニトリルと少なくとも1つのコモノマーとのコポリマーである。コモノマーの例としては、イタコン酸およびアクリル酸などの酸、酢酸ビニル、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルなどのエチレン性不飽和エステル、アクリルアミドおよびメタクリルアミドなどのエチレン性不飽和アミド、塩化ビニルなどのエチレン性不飽和ハロゲン化物、ならびにスルホン酸ビニルおよびp-スチレンスルホン酸などのスルホン酸が挙げられる。ポリアクリロニトリルコポリマーは、1~15重量%または1~10重量%の1つまたは複数のコモノマーを含んでいてもよい。前駆体は、2つ以上の異なるタイプのPANコポリマーを含み得る。
【0089】
前駆体中のポリアクリロニトリルは、少なくとも200kDaの分子量を有し得る。
【0090】
炭化の準備におけるポリアクリロニトリル前駆体の安定化に関与する化学的機構は、十分に理解されていない。しかしながら、ポリアクリロニトリルポリマー中のアクリロニトリル単位上のペンダントニトリル基の環化は、炭化に使用される高温条件に耐えることができる十分に安定化された前駆体を形成するのに重要な役割を果たすことができると考えられる。
【0091】
ポリアクリロニトリルポリマー中のペンダントニトリル基の環化は、以下に示すように六方晶の炭素-窒素環を生成する。
【化1】
【0092】
熱およびガス(HCNガスなど)は、典型的には、ニトリル基環化の結果として生成される。
【0093】
一組の実施形態において、前駆体は、アクリロニトリルと少なくとも1つの酸性コモノマーとのポリアクリロニトリルコポリマーであってもよい。酸性コモノマーの例としては、イタコン酸およびアクリル酸などの酸が挙げられる。ポリアクリロニトリルコポリマーは、1~15重量%、または1~10重量%の、少なくとも1つの酸性コモノマーに由来する重合単位を含み得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、アクリロニトリルと少なくとも1つの酸性コモノマーとのポリアクリロニトリルコポリマーを含む前駆体を安定化プロセス(本発明の反応器を使用する事前安定化ステップを含む)のための供給原料として利用することが好ましい。酸性コモノマーに由来する重合単位は脱プロトン化され、それによって前駆体中のニトリル基環化を触媒することができると考えられる。したがって、ニトリル基環化の開始は、より低い温度で起こり得る。酸性コモノマーに由来する重合単位をポリアクリロニトリルに含めることはまた、ニトリル基環化によって生成される発熱の制御を助けることができる。
【0095】
アクリロニトリルと少なくとも1つの酸性コモノマーとのポリアクリロニトリルコポリマーを含む前駆体では、前駆体の安定化中に形成される環式基は、以下に示すような構造を有し得る。
【化2】
【0096】
一組の実施形態では、本発明の反応器を使用するときに使用される前駆体は、追加の物質と混合またはブレンドされたポリアクリロニトリルを含み得る。
【0097】
いくつかの実施形態では、追加の物質は、追加のポリマーであってもよい。このような実施形態では、ブレンドまたは混合物は、好ましくは少なくとも50重量%のポリアクリロニトリル(PAN)を含み、PANは少なくとも1つのさらなるポリマーと混合される。
【0098】
前駆体が少なくとも1つのさらなるポリマーとブレンドまたは混合されたポリアクリロニトリルを含む実施形態では、前駆体中のPAN:さらなるポリマーの重量比は、55:45、60:40、70:30、80:20、85:15、90:10および95:5から選択され得る。
【0099】
ブレンドまたは混合物中のポリアクリロニトリルは、本明細書に記載されるように、ポリアクリロニトリルホモポリマーまたはポリアクリロニトリルコポリマーであり得る。
【0100】
ポリアクリロニトリルコポリマーは、少なくとも85重量%、または少なくとも90重量%のアクリロニトリルから誘導される重合単位を含み得る。ポリアクリロニトリルコポリマー中の重合単位の残りの部分は、酸性コモノマーなどの1つまたは複数のコモノマーに由来する。
【0101】
本明細書で言及される混合物およびブレンドのいくつかの実施形態では、さらなるポリマーは、炭素繊維製造の製造に使用することが公知のポリマーから選択され得る。いくつかの実施形態では、さらなるポリマーは、石油ピッチ、熱可塑性ポリマー、セルロース、レーヨン、リグニンおよびそれらの混合物からなる群から選択され得る。熱可塑性ポリマーとしては、ポリエチレン(PE)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリプロピレン(PP)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)およびポリ(スチレン)(PS)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0102】
いくつかの実施形態では、前駆体は、ナノフィラーなどのフィラーと混合またはブレンドされたポリアクリロニトリルを含み得る。例示的なナノフィラーは、カーボンナノチューブまたはグラフェンナノ粒子などのカーボンナノ粒子であり得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、前駆体は表面処理されてもよい。例えば、前駆体は、任意選択の表面コーティング(すなわち、サイジングまたはスピン仕上げ)を含んでもよい。表面処理の存在は、本発明の反応器を用いた事前安定化の利点を損なわない。
【0104】
本発明の反応器を使用して実施されるプロセスで使用される前駆体は、繊維、糸、ウェブ、フィルム、布帛、織物、フェルトおよびマット形態を含むがこれらに限定されない様々な形態であり得る。マットは、織マットまたは不織マットであってもよい。
【0105】
前駆体は、好ましくは連続長さの材料、例えば連続長さの繊維の形態である。前駆体繊維は、フィラメントの束を含み得る。
【0106】
前駆体はまた、例えば、円形、楕円形、豆形状、ドッグボーン形状、花弁形状または他の形状の断面を含む異なる断面形態を有してもよい。前駆体は、1つまたは複数の内部空隙を有する中空であってもよい。内部空隙は連続的であっても不連続的であってもよい。
【0107】
一組の実施形態では、前駆体は、繊維、好ましくは連続繊維の形態である。多くのPAN前駆体繊維が知られており、市販されている。本発明の反応器で実施することができるプロセスは、商業的供給源および非商業的供給源の両方からの様々なPAN前駆体を安定化するために利用することができる。
【0108】
PAN前駆体繊維は、1つまたは複数のトウに設けられてもよく、各トウは多数の連続フィラメントを含む繊維を有する。PAN前駆体を含むトウは様々なサイズであり得、サイズはトウ当たりのフィラメント数に依存する。例えば、トウは、トウ当たり100~1,000,000フィラメントを含んでもよい。これは、約0.1K~約1,000Kのトウサイズに相当する。いくつかの実施形態では、トウはトウあたり100~320,000フィラメントを含んでもよく、これは約0.1K~約320Kのトウサイズに相当する。
【0109】
PAN前駆体繊維を形成するフィラメントは、様々な直径を有することができる。例えば、直径は、約1~100ミクロンの間、または約1~30ミクロンの間、または約1~20ミクロンの間の範囲であり得る。しかしながら、そのような直径の大きさは、本明細書に記載のプロセスにとって重要ではない。
【0110】
本発明の反応器を使用する安定化プロセスは、安定化前駆体を形成するために、反応器を使用する事前安定化および酸化反応器を使用する酸化の2つの前駆体処理段階を含む。これらの2つの段階については、以下でさらに説明する。
【0111】
便宜上、以下の本発明の説明において、前駆体への言及は、繊維形態の前駆体を意味する。本発明は、炭素繊維の製造に有用であり得る前駆体の事前安定化に特に有用であることが想定され、この実施形態を詳細に説明する。しかしながら、これは、本発明がその使用の文脈に限定されることを意味すると解釈されるべきではない。上述の糸、ウェブおよびマット形態などの他の形態の前駆体は、本発明の反応器を使用して事前安定化することができることが理解されよう。
【0112】
反応室の容量ならびに入口および出口のサイズは、反応器によって処理することができる前駆体のサイズおよび形状を制限し得ることがさらに理解されよう。典型的には、反応器は、特定の供給原料を念頭に置いて設計される。しかしながら、処理され得る前駆体の寸法には限界があり得る。例えば、以下でさらに詳細に説明するように、前駆体は、反応室の外部にあるローラを使用して反応室を通って搬送され、前駆体が反応室を通って適切に搬送される間にローラ間にまたがることができる距離には限界がある。したがって、最大ローラ離間距離は、最大反応室長さに制限を課すことができる。
【0113】
多くの場合、反応器入口に先行するローラは、フリーランニングパスバックローラである。
【0114】
反応器に供給される前駆体の幅が増加するにつれて、ローラの長さが増加することが理解されよう。ローラの長さが増加するにつれて、ローラは屈曲(bend)または屈曲(flex)する傾向が大きくなる。したがって、ローラの長さが増加するにつれて、ローラの剛性を高めるためにローラの直径も増加することが多い。
【0115】
商業規模の反応器のいくつかの実施形態では、ローラの長さは、約2~4メートル、例えば約3メートルであってもよい。典型的には、ローラの長さは6.5メートル未満である。ローラ直径は、約200~400mmであってもよい。例えば、ローラ直径は、約250~350mmであってもよい。例えば、直径は約300mmであってもよい。
【0116】
より小規模の反応器を研究で使用することができ、これらの実施形態のいくつかでは、ローラの長さは、約300~500mm、例えば約400mmの長さであってもよい。ローラ直径は、約200mm~250mmであってもよい。例えば、直径は約200mmであってもよい。
【0117】
いくつかの実施形態では、ローラは平らな滑らかな表面を有してもよく、他の実施形態では、ローラは溝付き表面を有してもよい。ローラが溝付き表面を有する実施形態では、各溝は前駆体のトウを受け取るように構成されてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、溝の数は、反応器を通って運ばれる前駆体のトウの数に等しくてもよい。
【0118】
いくつかの実施形態では、ローラは加熱または冷却されてもよい。
【0119】
いくつかの実施形態では、異なるローラタイプの組み合わせを使用することができる。
【0120】
安定化前駆体を形成するために、本明細書に記載の反応器を使用するプロセスは、所定量の張力を前駆体に加えながら、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体繊維を加熱するステップを含む。これにより、このステップの結果として、事前安定化前駆体繊維が製造される。前駆体安定化プロセスのこのステップは、本明細書では「事前安定化」または「事前安定化」ステップとも呼ばれ得る。したがって、事前安定化ステップは、PAN前駆体を事前安定化前駆体に変換する。
【0121】
本明細書に記載の安定化プロセスのステップに関して本明細書で使用される「事前安定化」および「事前安定化」という用語は、そのステップが、以下に記載の酸化ステップにおける前駆体の完全安定化の前に行われる調製ステップであることを示す。したがって、事前安定化ステップは、酸化ステップにおける前駆体の完全安定化の前に前駆体を予備処理に供する前処理ステップまたは事前酸化ステップと見なすことができる。したがって、本発明の反応器を使用して、前駆体を前処理するステップを実施して、後述する酸素含有雰囲気中での酸化安定化のための前駆体の調製を助けることができる。したがって、「事前安定化前駆体」という用語は、本明細書に記載の「事前安定化」処理を受けた前駆体を示す。
【0122】
本明細書に記載の事前安定化ステップは、酸化安定化のために活性化される部分安定化前駆体の初期形成を可能にすることによって、前駆体の安定化前駆体への迅速かつ効率的な変換を有利に促進することができる。安定化前駆体の迅速な形成は、以下に説明するように、安定化前駆体が炭素化されて炭素繊維などの炭素系材料を形成するときに下流の利点を与えることができる。下流の利点は、炭素繊維などの材料を製造するための連続プロセスにおいて特に有利であり得る。したがって、本発明の反応器は、前駆体を連続的に事前安定化するように構成されてもよい。
【0123】
反応器の反応室は、前駆体が所定の張力下で反応室を通過するとき、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を事前安定化するように構成される。前駆体は、前に入口を介して反応器に入り、典型的には入口デッキを通過し、次いで反応室に入る。反応室を通過した後、前駆体は、典型的には、出口を介して排出する前に、出口デッキを通過する。
【0124】
本明細書における反応器の「デッキ」への言及は、反応室と反応器の入口および出口のいずれかまたはそれぞれとの間の、前駆体が通過する中間領域を指すと理解することができる。本明細書に記載されるように、反応器の様々な構成要素および部分は、デッキ内に配置されてもよい。
【0125】
いくつかの実施形態では、反応器の入口および/または出口は、調整可能なチョークおよび/またはバッフルを備えることができる。例えば、調整可能なチョークが入口および/または出口に設けられてもよい。さらに、調整可能なチョークが、入口(または出口)とプロセスガスが反応器に導入される点との間の位置など、入口デッキおよび/または出口デッキ内に設けられてもよい。前駆体が通過するための可能な限り小さい作業可能な間隙を有することは、反応器への酸素の流入を低減するのを助けることができることが分かった。さらに、前駆体が通過するための可能な限り小さい作業可能な間隙を有することは、反応器からの熱損失の低減を助けることができることが分かった。
【0126】
適切なチョーク機構は、1つまたは2つの摺動プレートを備えることができ、摺動プレートは、それらの間の開口部のサイズおよび/または位置を変更するように調整することができる。
【0127】
好ましくは、チョークは、(前駆体の通過を可能にするために)2つのプレートの間に形成された開口部の位置は、上方位置と下方位置(それらの間の中間位置を含む)との間で変更され得るように、各プレートは互いに独立して摺動する2つの摺動プレートを備える。この実施形態は、入口および出口の各々の開口部の位置を調整して、前駆体のカテナリーを考慮に入れることを可能にすることができる。
【0128】
前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および時間、ならびに熱処理中に前駆体に加えられる張力はそれぞれ、PAN前駆体中のニトリル基環化を促進するように選択される。実質的に酸素を含まない雰囲気中でのPAN前駆体繊維の加熱は、所望の時間量および所望の温度で進行し得る。さらに、反応器は、前駆体が所定の張力下で反応室を通過するように構成される。所定の張力を加えるための適切な張力装置を、反応室の上流および下流に設けることができる。いくつかの実施形態では、反応器は、所定の張力下で反応室を通って前駆体を通過させるように構成された張力装置を備える。
【0129】
本発明の反応器は、実質的に酸素を含まないガスを反応室に送達するためのガス送達システムを備え、ガス送達システムは、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するために反応室内に加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらすための強制ガス流アセンブリを備える。
【0130】
いくつかの実施形態では、強制ガス流アセンブリは、反応室内に加熱された実質的に酸素を含まないガスの再循環流をもたらして、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するように構成されてもよい。
【0131】
加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れを使用して、前駆体を反応温度にする。実質的に酸素を含まないガスは、本明細書では「プロセスガス」と呼ばれることもある。
【0132】
本発明の反応器のガス送達システムは、実質的に酸素を含まないガス供給源から新鮮なプロセスガスを反応器に供給するための少なくとも1つのプロセスガス供給入口を備える。実質的に酸素を含まないガスは、入口から所望の温度で放出されるように予熱されてもよい。いくつかの実施形態では、それは所望の事前安定化プロセス温度であり得る。いくつかの実施形態では、反応器は、プロセスガス供給入口から放出される前にプロセスガスを加熱するためのヒータを備えてもよい。適切なプロセスガス供給入口は、前駆体を安定化するための従来の酸化オーブンに通常使用される供給入口を備えることができる。典型的な使用において、そのような入口は、酸化室をシールしてその中に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらすように、酸化オーブンからのガス供給および抽出とバランスをとることができる流れをもたらす必要はなく、そのような雰囲気は酸化オーブンに必要とされない。しかしながら、そのようなガス供給入口が本発明の反応器内で使用される場合、もたらされる新鮮なプロセスガスの流れは、反応器への他のガス供給および排気ガスの抽出とバランスがとられ、その結果、ガスシールアセンブリは、反応室をシールしてその中に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口および出口を通る反応器からの付随的なガス流を制限する。いくつかの実施形態では、プロセスガスは、0.1~1.5m/sのガス速度でプロセスガス供給入口から放出され、例えば、速度は0.5~0.75m/sであってもよい。
【0133】
ガス供給入口または各ガス供給入口は、1つまたは複数のプロセスガス送達ノズルを備えてもよい。適切なノズルは、前駆体の全幅にわたって反応器を通過する際に、前駆体の上方および下方にプロセスガスを導くおよび/または分配するように構成されてもよい。ノズルは、前駆体が反応器を通過するときに前駆体の上下に均等に、かつ前駆体の全幅にわたって均等にプロセスガスを導くおよび/または分配するように構成されることが特に好ましい。いくつかの実施形態では、プロセスガス送達ノズルまたは各プロセスガス送達ノズルは、反応器を通過する際に前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部出力管を備えることができる。各出力管は、プロセスガスのジェットまたは流れをもたらすための1つまたは複数の開口部を備える。いくつかの実施形態では、各出力管は、ガスを前駆体に向けて導くためのスロット形状の開口部を有することができる。いくつかの実施形態では、プロセスガス送達ノズルまたは各プロセスガス送達ノズルは、前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部出力管を備えることができ、各出力管は、前駆体の幅にわたってガスの流れを導くおよび分配するための分配器に向けてプロセスガスを導くためのスロット形状の開口部を有する。これらの実施形態では、スロット形状の開口部は、少なくとも前駆体の幅と同じ長さであってもよい。
【0134】
本明細書で使用される「ノズル」という用語は、空気速度を変化させるためのテーパまたは狭窄を必要としない。
【0135】
いくつかの実施形態では、プロセスガス送達ノズルは、プロセスガスのカーテンをもたらすように構成されたプレナムプレートまたはノズル管のアレイを備える。プレナムプレートまたはノズル管のアレイを備えるノズルの実施形態は、シールガス送達ノズルを参照して以下でさらに説明されるが、そのようなノズル構成もプロセスガス送達ノズルに適し得ることが理解されよう。
【0136】
事前安定化中、PAN前駆体繊維中のニトリル基が環化を受けると、発熱エネルギが放出される。管理されていない場合、放出される発熱エネルギの量は、前駆体の温度を著しく上昇させ、前駆体を損傷させる可能性がある。前駆体の分解は、有毒ガスの発生をもたらし、潜在的に爆発性のガス混合物を生成する可能性がある。発熱暴走を回避するために、加熱された実質的に酸素を含まないガスの温度および流量は、前駆体の温度を許容限界内に維持するように選択される。したがって、強制ガス流は、反応室を通過するときの前駆体の温度を制御するために使用される。当業者は、放出された発熱エネルギにより前駆体がプロセスガスの温度よりも高い温度に達すると、実質的に酸素を含まないプロセスガスの流れが前駆体を冷却し、前駆体の温度を所望の温度に制御するように作用することができることを理解するであろう。
【0137】
前駆体中のニトリル基環化を引き起こすために、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を短期間高温にすることが有利であり得る。
【0138】
いくつかの実施形態では、実質的に酸素を含まない雰囲気に対して選択される温度は、PAN前駆体中のニトリル基環化を引き起こすまたは開始するのに十分高いが、前駆体の物理的完全性が損なわれるほど高くはない(例えば、前駆体繊維が溶融し、破断し、または分解する)。例えば、PAN前駆体は、前駆体の分解温度以下の温度で加熱されることが望ましい。一方、最低限として、PAN前駆体は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、所望の処理期間内に前駆体中のニトリル基環化を開始するのに十分な温度で加熱されるべきである。
【0139】
いくつかの実施形態では、事前安定化ステップ中、PAN前駆体は、前駆体の分解を引き起こすことなくニトリル基環化を開始するのに十分な温度で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される。
【0140】
いくつかの実施形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度もまた、より高い加熱温度が前駆体中のニトリル基環化を促進および増加させ得ることが見出されているので、ニトリル基環化の程度に影響を及ぼし得る。
【0141】
したがって、いくつかの実施形態では、実質的に酸素を含まない雰囲気中にあるときに前駆体が加熱される温度は、前駆体の分解温度に近いことが好ましい。前駆体の分解温度に近い高温は、高含有量の環化ニトリル基が短期間で確実に達成されるのを助けることができる。
【0142】
PAN前駆体は、一般に文献では約300~320℃の分解温度を有すると報告されている。しかしながら、前駆体分解温度はPAN前駆体の組成に依存し得るので、報告された文献値とは異なり得ることを当業者は理解するであろう。
【0143】
当業者が所与のPAN前駆体の分解温度を決定することを望む場合、これは窒素雰囲気下で示差走査熱量測定(DSC)を使用して確認することができる。DSCを使用して、所与の前駆体のサンプルを窒素雰囲気中に置き、10℃/分の速度で加熱することができる。次いで、温度による熱流束の変化が測定される。前駆体の熱分解は、DSC曲線における発熱転移を観察することによって検出することができる。したがって、発熱転移のピーク(または最大値)に対応する温度が前駆体の分解温度である。
【0144】
いくつかの実施形態では、前駆体は、前駆体分解温度より30℃以下低い温度で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される。これは、前駆体の分解温度を超える温度で前駆体を加熱することができず、さらに、分解温度より30℃を超えて低くすることができないことを意味すると理解される。したがって、そのような実施形態では、PAN前駆体は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、以下:(T-30℃)≦T<T(式中、Tは前駆体の分解温度(℃)である)によって表される範囲内になるように選択される温度(T)で加熱することができる。
【0145】
他の組の実施形態において、前駆体は、前駆体の分解温度より少なくとも5℃低く、分解温度より30℃以下低い最高温度で、実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される。これは、前駆体が、以下:(T-30℃)≦T≦(T-5℃)(式中、Tは前駆体の分解温度(℃)である)によって表される範囲内になるように選択された温度(T)で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱されることを意味すると理解される。
【0146】
一組の実施形態では、前駆体繊維は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、約400℃以下、好ましくは約380℃以下、より好ましくは約320℃以下の最高温度で加熱される。
【0147】
一組の実施形態では、前駆体繊維は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、約250℃以上、好ましくは約270℃以上、より好ましくは約280℃以上の最低温度で加熱される。
【0148】
典型的には、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度がプロセスガスの温度の40℃以内、好ましくはプロセスガスの温度の30℃以内であるようなものである。本明細書で使用される場合、「前駆体に隣接する」とは、前駆体の10mm以内、好ましくは前駆体の3mm以内、より好ましくは前駆体の1mm以内を意味する。いくつかの実施形態では、ガス流量は、実際の前駆体温度がプロセスガスの温度の50℃以内、好ましくはガスの温度の40℃以内、より好ましくはガスの温度の30℃以内であるようなものであり得る。
【0149】
所望のガス流量は、プロセスガス温度が前駆体の分解温度にどれだけ近いかによって決定され得る。例えば、いくつかの実施形態では、前駆体は、前駆体の分解温度より30℃以下低い温度で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される。そのような実施形態では、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度がプロセスガスの温度の30℃以内であり、前駆体の分解温度未満であるようなものである。一般に、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度が前駆体の分解温度未満であるようなものであることが望ましい。さらに、ガス流量は、実際の前駆体温度が前駆体の分解温度を下回るような流量であることが望ましい。
【0150】
プロセスガスの温度は、前駆体から少なくとも30mm、好ましくは前駆体から少なくとも40mm、より好ましくは前駆体から少なくとも50mm離れて測定されたガス流の温度である。
【0151】
プロセスガスの温度は、反応室内に適切に配置された熱電対を使用して監視することができる。すなわち、反応器は、適切に配置される熱電対を備えてもよい。いくつかの実施形態では、反応器は、各反応ゾーンの各端の近位に熱電対を備える。いくつかの実施形態では、熱電対または各熱電対は、プロセスガス温度の連続的な監視を可能にするように構成されてもよい。
【0152】
いくつかの実施形態では、反応器は、前駆体に隣接する温度を測定することを可能にするために、前駆体に隣接して熱電対を周期的に配置することを可能にするように構成される。いくつかの実施形態では、反応器は、前駆体が反応室を通過するときに前駆体の実際の表面温度を監視するのに適した赤外線温度センサを備え得る。
【0153】
強制ガスの流量は、高すぎないように制御される。強制ガスの流量は、繊維の破損を含む繊維の損傷につながる可能性があるため、前駆体が過度に撹拌されるほど高くはならない。さらに、過剰な流量は、ガスシールアセンブリによってもたらされるガスシールの性能が損なわれるように反応器を過剰に加圧する可能性がある。例えば、過剰加圧は、入口および出口を通る反応器からの許容できないレベルの付随的なガス流をもたらし得る。
【0154】
一実施形態では、強制ガスの流量は、前駆体の周りに局所的な乱流ガス流が存在するのに十分高い。前駆体の近傍のこの局所的な乱流は、反応副生成物の効果的な除去を容易にするとともに前駆体の発熱挙動の管理を助ける何らかの繊維撹拌および振盪を誘発する。ガス流中の繊維の撹拌は、繊維の温度が許容限界内に留まることを確実にするように、前駆体からプロセスガスの流れへの熱伝達を促進することができる。
【0155】
この局所的な乱流ガス流は乱流境界層であることが理解されよう。この境界層の厚さは、前駆体付近の局所的な乱流ガス流を除いて、反応室を通るガス流の大部分が実質的に層状であるように、反応室の高さよりも小さくてもよい。そのような実施形態は、反応室の高さが反応室の長さに対して大きい反応器を備えることができる。長さに対する高さの比が大きい反応室は、より小さい製造能力を有し得、研究開発用途に適した反応器の一部であり得る。それにもかかわらず、前駆体の温度を均一に制御するために、プロセスガスに可能な限り均一な流れをもたらすことが望ましい。ガス流の低い領域は、反応室内に「ホットスポット」の形成をもたらし得、これは前駆体を損傷する局所的な過熱をもたらし得る。ガス流の均一性は、反応室の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス流速に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。プロセスガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。
【0156】
いくつかの他の実施形態では、反応室の高さと比較したこの境界層の厚さは、反応室を通る流れが主に乱流になるようなものである。そのような流れは、長さに対する高さの比がより小さい反応室内にあってもよい。反応室の長さに対して反応室の高さが小さいこれらの反応器は、より大きな製造能力を有し得、商業用途に適した反応器の一部であり得る。
【0157】
一実施形態では、前駆体から強制ガス流への熱伝達を高めるために、反応室を通るガス流の大部分が実質的に乱流であることが望ましい。乱流のより大きな領域は、対流による前駆体からの熱伝達を促進することができる。前駆体の温度を均一に制御するために、プロセスガスに可能な限り均一な流れをもたらすことが依然として望ましい。ガス流の低い領域は、反応室内に「ホットスポット」の形成をもたらし得、これは前駆体を損傷する局所的な過熱をもたらし得る。ガス流の均一性は、反応室の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス速度に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。プロセスガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。適切な乱流を確保するために、プロセスガス流は、ガス流の方向に沿った反応ゾーンまたは各反応ゾーンの主プロセスガス入口から1.0mを超える点で算出した場合に、流れのレイノルズ数が100,000を超えるようなものであるべきである。
【0158】
いくつかの実施形態では、反応器は、強制ガス流の速度を監視するために、風速計または圧力計の形態の1つまたは複数のガス速度センサを備えることができる。プロセスガスのガス流速を測定するように、ガス速度センサは、ガス流の速度が前駆体から少なくとも30mm離れて、好ましくは前駆体から少なくとも40mm離れて、より好ましくは前駆体から少なくとも50mm離れて測定されるように配置されてもよい。
【0159】
いくつかの実施形態では、反応器は、各反応ゾーンの各端の近位にガス速度センサを備える。いくつかの実施形態では、ガス速度センサまたは各ガス速度センサは、プロセスガス速度の連続監視を可能にするように構成されてもよい。
【0160】
反応器が1つまたは複数の熱電対を備える実施形態では、1つまたは複数のガス速度センサはそれぞれ、熱電対と同じ場所に配置されてもよい。
【0161】
多くの場合、プロセスガスが反応室を通って流れるときにプロセスガスに良好な流れ均一性をもたらすように、強制ガス流アセンブリは、プロセスガスが反応室を通る前駆体の通路とほぼ平行に流れるようにプロセスガスを供給するように構成される。したがって、強制ガス流アセンブリは、反応室の各反応ゾーンについて、強制プロセスガスがゾーンの一方の端から他方の端へ流れるように構成されてもよく、ガス流の方向は、反応ゾーンを通る前駆体の通過に対して逆流または共流のいずれかでもたらされる。反応室内の強制ガス流は、反応器の中心からその端に向かって、または反応器の端からその中心に向かって、または反応器の一端からその他端に向かって導かれてもよい。例えば、強制ガス流アセンブリは、プロセスガスの中心から端への流れを供給するように構成されてもよい。あるいは、強制ガス流アセンブリは、プロセスガスの端から中心への流れを供給するように構成されてもよい。
【0162】
プロセスガスを反応室に供給するための他の構成は、前駆体の通過に対してプロセスガスのクロス流れをもたらすことを含むことができる。これらの実施形態では、強制ガス流アセンブリは、反応室の一方の側から他方の側に移動するガスの流れをもたらすように構成されてもよい。あるいは、強制ガス流アセンブリは、プロセスガスを垂直にもたらすように構成されてもよい。例えば、強制ガス流アセンブリは、反応室の頂部から床に向かって、またはその逆にプロセスガスの流れをもたらすように構成されてもよい。しかしながら、これらの代替構成では、ガス流の所望の均一性を達成することがより困難であり得る。例えば、プロセスガスの垂直流では、空気は前駆体を通過しなければならず、これは前駆体のトウ間を通過するときにベンチュリ効果をもたらし得る。したがって、プロセスガスの中心から端への流れまたは端から中心への流れをもたらすように構成された強制ガス流アセンブリが、典型的には好ましい。
【0163】
強制ガス流アセンブリは、所望のガス速度で反応室内に実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらすためのファンまたはブロワを備えることができる。ファンまたはブロワは、実質的に酸素を含まないガスの流れの速度を調整できるように調整可能(例えば、ファン回転速度を調整することによって)であってもよい。強制ガス流アセンブリが反応室を通って実質的に酸素を含まないガスを再循環させるように構成されている実施形態では、ファンまたはブロワは、所望のガス速度で反応室を通って実質的に酸素を含まないガスを再循環させるために戻りラインに沿って配置されてもよい。
【0164】
発熱挙動は前駆体間で異なり得る。したがって、反応器内の温度およびガス流は、前駆体を適切に事前安定化し、前駆体の発熱挙動を管理するように、各前駆体に適合される。
【0165】
いくつかの実施形態では、前駆体繊維は、約200~400℃の範囲のプロセスガス温度で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される。例えば、約250~400℃、いくつかの実施形態では、好ましくは約280~320℃の範囲である。プロセスガスの温度は、所望のプロセスガス温度から離れた温度の変動が、プロセスガスが所望のプロセスガス温度以下になるように制御することができる。いくつかの実施形態では、プロセスガスの温度は、温度が所望のプロセスガス温度よりも5℃以内に維持されるように制御することができる。
【0166】
いくつかの特定の実施形態では、事前安定化ステップ中に、前駆体を分解することなく前駆体中のニトリル基環化を開始するのに十分なプロセスガス温度で、前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱する。1つの好ましいことでは、プロセスガス温度は、少なくとも10%のニトリル基環化を促進するのに十分である。
【0167】
一組の実施形態では、プロセスガス温度は、250~400℃、約260℃~380℃、約280℃~320℃、および約290℃~310℃からなる群から選択される範囲内である。そのような範囲内の温度での加熱は、約5分以下、約4分以下、約3分以下または約2分以下からなる群から選択される期間行われてもよい。
【0168】
上記の温度は、事前安定化反応器の反応室または各反応室内の環境温度を表す。すなわち、それらは、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するための反応室または各反応室内の加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れの温度を表す。上述したように、プロセスガス温度は、熱電対または他の適切な温度測定装置によって測定することができる。事前安定化反応器内の環境温度は、好ましくは、事前安定化ステップ中に実質的に一定に維持される。
【0169】
前駆体は、実質的に一定の温度プロファイルまたは可変の温度プロファイルの下で加熱されてもよい。可変温度プロファイルの下で、前駆体は2つ以上の異なる温度で加熱されてもよい。2つ以上の異なる温度は、好ましくは、本明細書に記載の温度範囲内である。
【0170】
いくつかの実施形態では、事前安定化ステップ中のPAN前駆体繊維の加熱は、前駆体繊維を単一の温度ゾーンに通過させることによって行うことができる。そのような実施形態では、強制ガス流は、理想的には、反応室全体にわたって実質的に均一な温度が維持されるようなものである。
【0171】
いくつかの他の実施形態では、反応室は、2つ以上の反応ゾーンを備えてもよい。したがって、事前安定化ステップ中のPAN前駆体繊維の加熱は、前駆体を複数の反応ゾーンに通過させることによって行うことができる。そのような実施形態では、PAN前駆体繊維は、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の反応ゾーンを通過することができる。ゾーンの各々は、同じ温度であってもよく、および/または同じガス流量条件を有してもよい。あるいは、異なる温度および/またはガス流量条件を2つ以上のゾーンに適用することができる。いくつかの実施形態では、各ゾーンに異なる条件がある。
【0172】
例えば、少なくとも1つの温度ゾーン(例えば、第1の温度ゾーン)は、第1の温度にあってもよく、一方、少なくとも1つの温度ゾーン(例えば、第2の温度ゾーン)は、第1の温度とは異なる第2の温度にあってもよい。したがって、PAN前駆体繊維は、前駆体繊維を異なる温度の複数のゾーンに通過させることによって、可変温度プロファイル下で加熱することができる。
【0173】
一組の実施形態では、PAN前駆体繊維は、最初に選択された温度で加熱されてもよく、次いで、事前安定化ステップが進むにつれて温度が上昇してもよい。一例として、PAN前駆体繊維は、最初に約285℃の温度で加熱されてもよく、事前安定化ステップ中に温度が約295℃に上昇する。
【0174】
多くの場合、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するための1つまたは複数の温度および加熱プロファイルが選択されると、温度パラメータは固定されたままであり、変化しない。例えば、本発明の反応器を組み込んだ連続炭素材料(例えば、炭素繊維)製造プロセスでは、使用される各温度パラメータが一定のままであり、プロセス安定性のために選択された値に固定され、安定した連続運転を可能にすることが望ましい場合がある。
【0175】
いくつかの実施形態では、事前安定化反応が安定かつ連続的であることを確実にするために、任意の1つのゾーン内のプロセスガスの温度は、ゾーンの長さに沿って±3℃以下で変化するように制御される。いくつかの実施形態では、任意の1つのゾーンの温度は、ゾーンの長さに沿って±2℃以下、好ましくは±1℃以下で変化するように制御される。すなわち、反応器は、任意の1つの反応ゾーンにおけるプロセスガスの温度(およびガス流)の制御を可能にするように構成され得る。
【0176】
いくつかの実施形態では、反応器の1つまたは複数の反応ゾーンを加熱するように、反応器は、強制ガス流アセンブリに加えて加熱システムを備える。加熱システムは、反応室の各反応ゾーンの長さに沿った温度変動を最小限に抑えることができる。加熱システムは、反応室の反応ゾーンを外部から加熱するための1つまたは複数の加熱要素を備えてもよい。加熱要素は、加熱要素が前駆体が通過する空間内に突出せず、強制プロセスガスが流れるという点で、反応室の反応ゾーンを外部から加熱する。いくつかの実施形態では、加熱要素からの熱を反応ゾーンに沿って分配するように、加熱要素は、熱伝達媒体を含む加熱ジャケット内に配置される。典型的には、加熱ジャケットは断熱加熱ジャケットである。加熱ジャケットは、反応室の壁との熱伝達関係でその中に熱伝達媒体を保持するように構成することができる。
【0177】
熱伝達媒体は、加熱ジャケット内で循環されて、加熱要素から反応器の反応ゾーンに熱を伝達することができる。したがって、いくつかの実施形態では、加熱システムは、熱伝達媒体を加熱ジャケットから受け取り、熱伝達媒体を加熱ジャケットに戻して、熱伝達媒体を加熱ジャケットを通して再循環させるように配置された少なくとも1つの戻りライン(例えば、少なくとも1つの戻りダクト)を備える。いくつかの実施形態では、加熱システムは、熱伝達媒体を加熱ジャケットにもたらすための1つまたは複数の媒体入口、1つまたは複数の媒体出口、および1つまたは複数の戻りラインを備え、媒体出口または各媒体出口は、熱伝達媒体を戻りラインに導くためのものであり、戻りラインは、加熱ジャケット内の熱伝達媒体を再循環させるための少なくとも1つの媒体入口に流体接続される。いくつかの実施形態では、熱伝達媒体は空気である。いくつかの実施形態では、熱伝達媒体を再循環させることができるように、戻りラインに沿って熱伝達媒体を伝達するためにファンが戻りラインに沿って配置される。
【0178】
いくつかの実施形態では、各ゾーンに別個の加熱システムを設けて、ゾーンを異なる温度に加熱することができる。いくつかの他の実施形態では、単一の加熱システムを使用して、2つ以上の反応ゾーンを加熱することができる。
【0179】
本発明の反応器に有用なさらに他の熱伝達媒体および加熱システム構成は、本開示を考慮すると当業者には明らかであろう。
【0180】
いくつかの実施形態では、各ゾーンのガスの温度は同じであってもよいが、ガス流量は異なっていてもよい。
【0181】
前駆体の温度を制御することに加えて、強制ガス流を使用して、望ましくない反応生成物を繊維から運ぶことができる。特に、PAN前駆体の事前安定化プロセスはシアン化水素(HCN)ガスを生成する。シアン化水素は有毒であり、その生成は、入口および出口のいずれかまたは各々を通って反応器から逃げることが許される場合、吸入の危険をもたらす。
【0182】
強制ガス流は、反応生成物を反応器のガスシールアセンブリに向かって運ぶ。ガスシールアセンブリは、反応室をシールしてその中に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口および出口を通る反応器からの付随的なガス流を制限するためのものである。したがって、ガスシールアセンブリは、反応器からのHCNガスを含むフュージティブガスの放出を制限する。ガスシールアセンブリは、典型的には、反応器から排気ガスを除去するための排気サブアセンブリを備える。排気ガスは、排気ガス流を除去するために排気サブアセンブリの有害ガス低減システムに流れることができる。
【0183】
反応室をシールしてその中に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらすように、ガスシールを形成するために供給されるガスは実質的に酸素を含まないガスであることが理解されよう。いくつかの実施形態では、ガスシールアセンブリが、反応室と入口および出口の各々との間にシールガスカーテンを設けるためのガスカーテンサブアセンブリと、排気ガスを抽出するための排気サブアセンブリとを備える。シールガスカーテンのガスは、プロセスガスと同じ組成を有してもよく、または他の適切な実質的に酸素を含まないガスであってもよい。多くの場合、シールガスおよびプロセスガスは同じ組成を有し、同じガス供給源によってもたらされ得る。
【0184】
シールガスは、ガスカーテンサブアセンブリから放出されて所望の温度でガスカーテンを形成するように予熱されてもよい。所望の温度は、ガスカーテンが反応室に入る前に前駆体を加温するように、または反応室から排出するときに前駆体を適切な温度まで冷却するようにしてもよい。いくつかの実施形態では、反応器は、ガスカーテンを形成するためにガスカーテンサブアセンブリから放出される前にシールガスを加熱するためのヒータを備えてもよい。
【0185】
排気サブアセンブリの実施形態の有害ガス低減システムは、反応副生成物を破壊して高温燃焼ガスを生成するように排気ガスを燃焼させるためのバーナーを備えることができる。いくつかの実施形態では、ガス送達システムが、実質的に酸素を含まないガスを供給するための実質的に酸素を含まないガスの供給源に流体接続された供給ラインを備え、有害ガス低減システムが、実質的に酸素を含まないガスを加温し、燃焼ガスを冷却するように、高温燃焼ガスから供給ラインによって供給される実質的に酸素を含まないガスに熱を伝達するための熱交換器を備える。
【0186】
いくつかの実施形態では、2つ以上の供給ラインが存在してもよい。いくつかの実施形態では、供給ラインは、ガスをプロセスガス供給入口に供給するためのものであってもよい。いくつかの実施形態では、供給ラインは、ガスカーテン組立体にガスを供給するためのものであってもよい。
【0187】
有害ガス低減システムの熱交換器は、高温燃焼ガスから供給ラインの1つまたは複数に熱を伝達して、前記1つまたは複数の供給ラインによって供給される実質的に酸素を含まないガスを加温し、燃焼ガスを冷却するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、有害ガス低減システムの熱交換器は、高温燃焼ガスから少なくとも2つの供給ラインに熱を伝達して、前記少なくとも2つの供給ラインによって供給される実質的に酸素を含まないガスを加温し、燃焼ガスを冷却するように構成される。これらの実施形態のいくつかでは、有害ガス低減システムの熱交換器は、各供給ラインによって供給される実質的に酸素を含まないガスを異なる温度に加温するように、各供給ラインに異なる量の熱を伝達するように構成される。いくつかの実施形態では、有害ガス低減システムの熱交換器は、ガスカーテンサブアセンブリに供給されるガスよりもプロセスガス供給入口に供給される実質的に酸素を含まないガスを加温するように、ガスカーテンサブアセンブリにガスを供給する供給ラインよりも多くの熱を、プロセスガス供給入口にガスを供給する供給ラインに伝達するように構成される。
【0188】
いくつかの実施形態では、2つ以上の供給ラインは、実質的に酸素を含まないガスの供給源に流体接続された一次供給ラインから分岐した二次供給ラインであってもよい。
【0189】
典型的には、反応室と入口との間にデッキが存在する。さらに、典型的には、反応室と出口との間にデッキが存在する。いくつかの実施形態では、出口および入口に対して単一のデッキが存在し得る。他の実施形態では、入口および出口のそれぞれに対して別個のデッキが存在してもよい。反応室と出口との間のデッキの長さは、デッキが入口にもあるかどうかにかかわらず、前駆体が出口を通過する前に十分に冷却することを確実にするように選択することができる。典型的には、前駆体は、反応器から排出する前に反応温度未満になるように冷却され、前駆体が反応し続けないことを確実にし、そのため、一旦反応器の外側になると安全上のリスクを引き起こすのでHCNを発生させる。
【0190】
一般に、事前安定化前駆体は、酸化反応器内の酸素含有雰囲気中で前駆体をさらに処理して安定化前駆体を形成する温度未満の温度に冷却される。これは、事前安定化前駆体が酸化反応器内の酸素含有雰囲気の温度よりも高い温度にある状況で発生し得る火災リスクを制限するのに特に望ましい場合がある。加えて、事前安定化反応器を取り囲む雰囲気の空気が酸素含有雰囲気を構成するので、事前安定化前駆体は酸化反応のための温度未満に冷却されてもよく、さもなければ、事前安定化前駆体が事前安定化反応器内の実質的に酸素を含まない雰囲気を離れるとすぐに、酸化反応は許容できないほど高い速度で開始される。
【0191】
事前安定化反応と同様に、酸化ステップはシアン化水素(HCN)ガスを生成する。したがって、事前安定化前駆体を冷却して反応速度を遅くして、任意のHCN生成を許容可能なレベルまで低減することが望ましい。実際には、HCN生成の許容レベルは、事前安定化反応器の外側の雰囲気中での事前安定化前駆体の滞留時間によって決定される。したがって、いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体が酸化反応器に迅速に伝達されるため、事前安定化前駆体が事前安定化反応器を取り囲む雰囲気中でより長い滞留時間を有する場合に許容されるよりも高い温度で事前安定化前駆体が事前安定化反応器から排出することを可能にすることが許容され得る。
【0192】
事前安定化反応器が連続プロセスの一部として使用される実施形態では、反応器外のHCN生成の許容レベルは、連続HCN生成の許容レベルに基づいて評価される。
【0193】
いくつかの実施形態では、反応器から排出する前に反応温度未満になるように前駆体を冷却することが望ましいが、前駆体を酸化のための温度にするために酸化反応器内で必要とされる加熱を最小限に抑えるために前駆体を可能な限り保温することも望ましい。これは、安定化前駆体の製造中の不必要な加熱および冷却を回避することによって効率的なエネルギ使用を可能にし得る。
【0194】
いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、酸素雰囲気下で示差走査熱量測定(DSC)を使用して観察される発熱の開始温度より少なくとも低い温度に冷却され、この温度は、酸素含有雰囲気中での環化反応の開始に対応するためである。
【0195】
いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、240℃未満、220℃未満、140℃未満、および100℃未満からなる群から選択される温度に冷却されてもよい。
【0196】
事前安定化前駆体の温度は、少なくとも火災リスクを制限または回避するために、安全上の理由から240℃未満が望ましい場合がある。
【0197】
示差走査熱量測定(DSC)によって決定されるように事前安定化前駆体が事前安定化前駆体の発熱を確実に下回るようにするために、140℃未満の温度が望ましい場合がある。これは、事前安定化前駆体が酸化反応器に入る前にかなりの程度まで望ましくない反応をしないことを確実にするのに役立ち得る。
【0198】
事前安定化前駆体の取り扱いを可能にするためには、事前安定化前駆体の温度が100℃未満であることが望ましい場合がある。
【0199】
反応器が入口デッキおよび出口デッキを備える実施形態では、出口デッキの長さは、出口デッキ内の滞留時間を増加させ、前駆体が出口を通過する前に適切に冷却されることを確実にするように、入口デッキの長さよりも長くてもよい。
【0200】
いくつかの実施形態では、反応器は、反応室と前駆体を冷却するための出口との間に冷却部を備える。いくつかの実施形態では、反応器は、前駆体が反応器から排出する前に前駆体を受動的に冷却するために反応室と出口との間に構成される。例えば、受動冷却部は、事前安定化前駆体からの熱の伝達を容易にする体積の空隙または空間に事前安定化前駆体を通過させることによって、事前安定化前駆体を所望の温度に冷却することができる。したがって、いくつかの実施形態では、反応器は、反応室と出口との間に冷却サブ室を備えてもよく、冷却サブ室は、前駆体を受動的に冷却するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、出口デッキは、前駆体を受動的に冷却するように構成されてもよい。
【0201】
いくつかの実施形態では、反応器は、前駆体が反応器から排出する前に前駆体を能動的に冷却するために反応室と出口との間に構成される。いくつかの実施形態では、反応器は、反応室と前駆体を能動的に冷却するための出口との間に冷却部を備える。
【0202】
いくつかの実施形態では、冷却部は、冷却部の内面を冷却するための冷却器を備える。冷却器の冷却された内面は、次に、冷却部内の雰囲気を冷却し、この冷却された雰囲気は、前駆体を冷却するために使用される。冷却器は、冷却部の内面を冷却するために冷却剤を使用することができる。いくつかの実施形態では、冷却部の壁は、冷却剤用の導管を備えることができる。他の実施形態では、冷却剤を冷却ジャケット内で循環させて、冷却部の壁から冷却剤に熱を伝達することができる。典型的には、冷却ジャケットは断熱冷却ジャケットである。冷却ジャケットは、冷却部の内面を冷却するように、冷却部の壁との熱伝達関係で冷却剤を内部に保持するように構成することができる。いくつかの実施形態では、冷却剤は水である。本発明の反応器に有用なさらに他の冷却剤および冷却器構成は、本開示を考慮すると当業者には明らかであろう。
【0203】
前駆体を能動的に冷却するための冷却部のいくつかの実施形態では、事前安定化前駆体を冷却するために冷却ガスを使用することができる。例えば、窒素ガスなどの実質的に酸素を含まない冷却ガスの流れを使用して、事前安定化前駆体を冷却することができる。そのような実施形態では、事前安定化前駆体の能動的な冷却は、事前安定化前駆体からの熱の伝達を容易にする流量または体積で、事前安定化前駆体の上または周囲に適切な温度の実質的に酸素を含まないガスを流すことを含んでもよい。したがって、いくつかの実施形態では、前駆体を冷却するために冷却ガスを出口デッキに供給することができる。冷却部のいくつかの実施形態では、冷却剤を使用するように構成された冷却器に加えて、冷却ガスを使用することができる。いくつかの実施形態では、冷却器は、事前安定化前駆体を冷却するために使用される前に冷却ガスを冷却するように構成されてもよい。
【0204】
典型的には、冷却ガスは、プロセスガスと実質的に同じ組成を有し、同じガス供給源からのものであってもよい。いくつかの実施形態では、冷却ガスおよび/または冷却器は、約20℃~約240℃の範囲の温度であってもよい。しかしながら、これは酸化反応器の温度に依存し得、冷却ガスおよび/または冷却器の温度は、反応室から出てくる前駆体よりも比較的低温であるように選択されることが理解されよう。いくつかの実施形態では、冷却ガスは、反応器に供給する前に冷却されてもよい。いくつかの実施形態では、所望の冷却度を達成するように、冷却ガスは、冷却ガスの供給温度よりも高い温度であるが、反応室から排出する前駆体よりも依然として低温であるように加温されてもよい。したがって、反応器は、冷却ガスを所望の冷却ガス温度に冷却するための冷却器、または冷却ガスを加温するための加温器を備えてもよい。
【0205】
この冷却ガスは、シールガスカーテンによって供給されてもよい。したがって、ガスカーテンサブアセンブリは、冷却ガスのシールガスカーテンをもたらすためのものであってもよい。代替的または追加的に、冷却ガスの別個の流れが出口デッキに供給されてもよい。いくつかの実施形態では、冷却部は、冷却ガスカーテンをもたらすように、または冷却ガス流をもたらすように構成されてもよい。したがって、反応器は、冷却部に冷却ガスを供給するための冷却ガス入口を備えてもよい。冷却ガス入口は、冷却ガスの1つまたは複数のジェットを生成するための冷却ガスノズルを備えてもよい。いくつかの実施形態では、ジェットは、ガスジェットが前駆体に衝突するように、前駆体の移動方向に対して垂直に導かれる。
【0206】
冷却ガスの熱伝達効率は、以下の関数である:冷却ガスの初期温度;冷却ガスが前駆体に衝突し得る方法を含む、ガスの流量、ガスの流れの方向;および冷却ガス中の前駆体の滞留時間。冷却部、特に冷却ガス入口は、所定の長さにわたって所定の方向および種類のガス流を送達するように設計することができる。使用時には、入口に供給される冷却ガスの温度、出口に供給されるガスの量、および前駆体が冷却ガスを通過する速度のうちの1つ以上を調整することによって、冷却の程度を制御することができる。
【0207】
いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体を酸化反応器に導入する前に冷却するために、事前安定化前駆体を周囲室温で所定の期間、適切な冷却ガスに曝露してもよい。
【0208】
以下でさらに詳細に説明するように、反応器へのガス供給および排気ガスの抽出は、排気流出およびガス流入のバランスをとるように制御され、その結果、ガスシールアセンブリは、反応室をシールしてその中に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口および出口を通る反応器からの付随的なガス流を制限する。使用される場合、冷却ガスは、このガス流入および排気流出のバランスの因子となっている。ガス流のバランスは、冷却ガスの少なくとも一部が反応室に引き込まれ得るようなものであり得る。また、シールガスカーテンをもたらすためのガスカーテンサブアセンブリが冷却ガスの一部または全部を供給するように構成されていなくても、シールガスの一部が反応室に引き込まれてもよい。
【0209】
シールガスおよび冷却ガスの各々は、実質的に酸素を含まないガスである。典型的には、冷却ガスおよびシールガスはそれぞれプロセスガスと実質的に同じ組成を有し、それぞれ同じガス供給源からのものであってもよい。反応室に引き込まれる冷却ガスおよびシールガスは、反応室内の実質的に酸素を含まないガスの流れの一部を形成する。したがって、反応室に引き込まれる冷却ガスおよびシールガスは、プロセスガスの一部を構成することができ、シールガスおよび冷却ガスの組成を選択する際に考慮することができる。反応室に引き込まれる前に、反応器の出口端において、シールガスおよび冷却ガスは、反応器から排出する前駆体によって加温されている。特に、冷却ガスが前駆体を冷却すると、冷却ガスは加温される。プロセスガスとして反応器から排出する前駆体によって加温されたガスのその後の使用は、前駆体からの熱回収のための機構をもたらす。この熱回収は、本発明の反応器を使用する事前安定化プロセスのエネルギ効率を高めることができる。
【0210】
以下でさらに説明するように、実際には、反応器は、特にシールガスの一部が入口または出口を介して反応器から出ることができるように、わずかな正圧で動作することができる。さらに、シールガスおよび冷却ガスの一部は、プロセスガスとして利用されることなく排気として抽出されてもよい。しかしながら、実質的に酸素を含まないガスの消費を最小限に抑えるために、ガスシールを過度に損なうことなく、プロセスガスとして利用することができるガスの量を最大にすることが望ましい場合がある。
【0211】
いくつかの実施形態では、反応器は、2つ以上の反応室を備えてもよい。各反応室は、上述のように1つまたは複数の反応ゾーンを備えることができる。したがって、各反応室は、同じ温度および/または同じガス流量条件を有することができる。あるいは、異なる温度および/またはガス流量条件を2つ以上の反応室に適用することができる。いくつかの実施形態では、各反応室に異なる条件が存在し、各反応ゾーンには異なる条件がある。
【0212】
反応器が2つ以上の反応室を備えるこれらの実施形態では、反応室は互いに積み重ねられてもよい。
【0213】
反応器が2つ以上の反応室を備えるいくつかの実施形態では、各反応室を通して前駆体を搬送するためのローラは反応器の外部にある。したがって、前駆体は、事前安定化反応の中間点で出口を通って反応器から排出し、次の反応室に通じる入口を通ってローラを介して伝達され得る。前駆体は、事前安定化前に特定の温度を超える酸素含有雰囲気中で反応性であり、事前安定化が部分的にのみ行われた場合、前駆体は、酸素含有雰囲気中での反応のために少なくとも部分的に活性化される。したがって、部分事前安定化前駆体は、周囲雰囲気中の酸素との反応を適切に制限するように、反応器から排出する前に冷却される。
【0214】
「周囲雰囲気中の酸素との任意の反応を適切に制限する」ために必要な制限の程度は、プロセス安全要件によって部分的に決定され、事前安定化前駆体の所望の特性によって部分的に決定される。いくつかの実施形態では、酸素含有雰囲気に中間体を曝露することなく同じプロセス条件下で調製された事前安定化前駆体と比較して、事前安定化前駆体の品質の顕著なまたは最小限の顕著な低下がない場合、酸素との反応は適切に制限されている。いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体が、事前安定化前駆体の使用目的のための所望の品質基準を依然として満たす場合、品質のいくらかの認識可能な差が許容され得る。
【0215】
適切な冷却量は、部分事前安定化前駆体がある反応室から次の反応室に伝達されるときの酸素含有雰囲気中での部分事前安定化前駆体の滞留時間および特定の温度での反応速度に基づいて決定され得る。
【0216】
いくつかの実施形態では、部分事前安定化前駆体は、酸素雰囲気下で示差走査熱量測定(DSC)を使用して観察される発熱の開始温度より少なくとも低い温度に冷却され、この温度は、酸素含有雰囲気中での環化反応の開始に対応するためである。
【0217】
いくつかの実施形態では、部分事前安定化前駆体は、240℃未満、220℃未満、140℃未満、および100℃未満からなる群から選択される温度に冷却されてもよい。
【0218】
部分事前安定化前駆体は、反応器から排出する前に事前安定化前駆体を冷却するために上記と同じ方法で冷却されてもよい。例えば、反応器は、部分事前安定化前駆体が出口を通過する前に適切な温度に冷却するために、反応室と出口との間に冷却部を備えてもよい。
【0219】
反応器が2つ以上の反応室を備えるいくつかの他の実施形態では、反応器は、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気を離れることなく、前駆体を1つの反応室から他の反応室に通過させるために、必要に応じて1つまたは複数の内部ローラを備える。各内部ローラは、プロセスガスが供給される反応器内の中間室内に配置されてもよい。あるいは、反応室は、内部ローラが配置されている共通のデッキを共有してもよい。そのような実施形態では、ガスシールアセンブリは、ローラが配置される領域内に実質的に酸素を含まない雰囲気が維持されることを確実にするように構成される。
【0220】
いくつかの実施形態では、内部ローラまたは各内部ローラは駆動ローラであってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、反応器は、1つまたは複数の内部駆動ステーションを備えることができる。いくつかの他の実施形態では、内部ローラまたは各内部ローラは、非従動ローラであってもよい。
【0221】
2つ以上の内部ローラが使用される実施形態では、1つまたは複数の駆動ローラと1つまたは複数の非従動ローラとの組み合わせが使用されてもよい。
【0222】
前駆体が各内部ローラによって搬送されているので、上流および下流駆動ステーションによって搬送されているときに前駆体の速度とローラ速度を一致させることが重要である。内部ローラの速度が、そうでなければ前駆体が搬送されている速度と一致しない場合、これは、前駆体とローラとの間の摩擦またはローラによる前駆体のスカッフィングをもたらす可能性があり、それぞれが繊維を損傷する可能性がある。これは、繊維破壊および繊維ラップアラウンドをもたらし得る。このため、いくつかの実施形態では、非従動内部ローラが好ましい場合がある。
【0223】
反応室内の滞留時間は、反応室の長さ、前駆体が反応室を通過する際の前駆体の速度、および反応室を通る前駆体の流路によって決定される。
【0224】
さらに、反応器内の総滞留時間は、反応室の数、各反応室の長さ、前駆体が各反応室を通過する際の前駆体の速度、および各反応室を通る前駆体の流路によって決定される。
【0225】
上記のように、反応室または各反応室は、2つ以上の反応ゾーンを備えることができる。
【0226】
PAN前駆体繊維は、選択された反応ゾーンを1回通過することができる。例えば、単一のゾーンまたは異なる温度の複数のゾーンが使用される場合、前駆体繊維は、各ゾーンを1回通過することができる。
【0227】
あるいは、PAN前駆体繊維は、反応室を複数回通過してもよい。例えば、前駆体は、反応室を2回、3回、4回以上通過してもよい。
【0228】
反応器が反応室に前駆体を複数回通過させるように構成されるいくつかの実施形態では、各通過を通して前駆体を搬送するためのローラは反応器の外部にある。したがって、前駆体は、事前安定化反応の中間点で出口を通って反応器から排出し、次の通過のために反応室に戻る入口を通ってローラを介して伝達され得る。上記のように、前駆体は、事前安定化前に特定の温度を超える酸素含有雰囲気中で反応性であり、事前安定化が部分的にのみ行われた場合、前駆体は、酸素含有雰囲気中での反応のために少なくとも部分的に活性化される。したがって、部分事前安定化前駆体は、周囲雰囲気中の酸素との反応を適切に制限するように、反応器から排出する前に冷却される。
【0229】
反応器が2つ以上の反応室を備える実施形態を参照して上述したように、「周囲雰囲気中の酸素との任意の反応を適切に制限する」ために必要な制限の程度が決定され、部分事前安定化前駆体が冷却される温度が選択される。したがって、部分事前安定化前駆体は、反応器から排出する前に事前安定化前駆体を冷却するために上述したのと同じ方法で冷却されてもよい。例えば、反応器は、部分事前安定化前駆体が出口を通過する前に適切な温度に冷却するために、反応室と出口との間に冷却部を備えてもよい。次いで、冷却された部分事前安定化前駆体を、外部ローラを介して反応室に戻し、さらに通過させることができる。
【0230】
いくつかの実施形態では、部分事前安定化前駆体は、次の通過のための入口と反応室との間を通過するときに、再び冷却部を通過することができる。いくつかの他の実施形態では、冷却部は、部分事前安定化前駆体(または完全事前安定化前駆体)が反応室から出口に移動するときにのみ冷却部を通過するように構成される。いくつかの実施形態では、反応器は、1つまたは複数の冷却部を備える。例えば、反応器の出口ごとに冷却部を設けることができる。
【0231】
反応器が前駆体を反応室に複数回通過させるように構成されているいくつかの実施形態では、反応器は、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気を離れることなく前駆体を反応室に2回以上通過させるために、必要に応じて1つまたは複数の内部ローラを備える。各内部ローラは、プロセスガスが供給される反応器内の中間室内に配置されてもよい。あるいは、内部ローラは、デッキに配置されてもよい。そのような実施形態では、ガスシールアセンブリは、ローラが配置される領域内に実質的に酸素を含まない雰囲気が維持されることを確実にするように構成される。例えば、デッキは、実質的に酸素を含まないサブ室を備え得る。
【0232】
いくつかの実施形態では、内部ローラまたは各内部ローラは駆動ローラであってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、反応器は、1つまたは複数の内部駆動ステーションを備えることができる。いくつかの他の実施形態では、内部ローラまたは各内部ローラは、非従動ローラであってもよい。
【0233】
2つ以上の内部ローラが使用される実施形態では、1つまたは複数の駆動ローラと1つまたは複数の非従動ローラとの組み合わせが使用されてもよい。
【0234】
上述したように、前駆体が各内部ローラによって搬送されているので、上流および下流駆動ステーションによって搬送されているときに前駆体の速度とローラ速度を一致させることが重要である。したがって、いくつかの実施形態では、非従動内部ローラが好ましい場合がある。
【0235】
反応室を通る実質的に酸素を含まないガスの流れの均一性を妨げないように、ローラは反応室内に設けられない。したがって、前駆体は、反応室を通って搬送されるとき、反応室の外部の駆動ローラなどの材料取扱装置の間に懸架される。結果として、反応室の長さは、前駆体を依然として所望の張力で反応室を通って均一に搬送しながらローラを分離することができる最大距離によって制限される。ローラ間の距離が大きすぎると、前駆体が反応室の中心に向かって移動するにつれて垂れ下がり始める場合がある。いくつかの実施形態では、反応室は、20,000mm未満の長さ、例えば18,000mm未満の長さである。
【0236】
使用時には、反応室内への酸素の流入を制限するように実質的に酸素を含まないガスの流れで前駆体を取り囲むことによって、反応室内の前駆体の周りに実質的に酸素を含まない雰囲気がもたらされる。特に、ガスの流れは、周囲雰囲気から入口および出口を通って反応室への空気の流入を制限する。本発明の反応器は、反応室に実質的に酸素を含まないガスを送達するためのガス送達システムを備え、ガス送達システムは、反応室をシールしてその中に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口および出口を通って反応器から出る付随的なガス流を制限するためのガスシールアセンブリを備える。いくつかの実施形態では、ガスシールアセンブリは、反応室と入口および出口の各々との間にシールガスカーテンをもたらすためのガスカーテンサブアセンブリと、反応器から排気ガスを除去するための排気サブアセンブリとを備える。
【0237】
適切なガスシールアセンブリは、炉をシールして炉内に所望の雰囲気をもたらし、炉からの付随的なガス流を制限するために、従来の雰囲気制御炉に通常使用される構成要素を備えることができる。典型的な使用において、そのようなガスシールアセンブリ構成要素は、内部に強制ガス流を有する反応器のためのシールをもたらす必要はない。本発明の反応器の強制ガス流アセンブリによって使用時にもたらされる強制ガス流は、炭素繊維炭化のためのものなどの従来の雰囲気制御炉内の非強制ガス流と対比され得る。炭素系材料を形成するのに十分な条件下で安定化前駆体を炭化するために使用される炭化炉などの従来の雰囲気制御炉では、任意のガス流は、所望の雰囲気組成を維持するために必要な排気吸引および置換プロセスガス供給に付随する。対照的に、本発明における強制ガス流は、まず、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するために反応室内に加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れをもたらし、次いで、放出された発熱エネルギにより前駆体がプロセスガスの温度よりも高い温度に達すると、前駆体を冷却し、前駆体の温度を制御するためのものである。実際には、適切な強制ガス流は、一般に、排気吸引および置換プロセスガス供給によって引き起こされる付随的な流量を超える。
【0238】
ガスを反応器に供給し、所望の流量を誘導するのに十分な量で反応器から排気を引き出すことによって、適切な強制ガス流を生成することができる。しかしながら、これは、実質的に酸素を含まないガスの過剰な消費につながる。さらに、以下でさらに説明するように、過剰な排気抽出率は、ガスシールの有効性を損なう可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、プロセスガスの大部分は、所望の強制ガス流量をもたらすように再循環され、これについては以下でさらに説明する。そのような実施形態では、排気吸引は、主に、反応副生成物の発生に基づく所望の排気吸引と、ガスシールの機能に望ましい排気吸引とに基づいて決定される。
【0239】
従来の炭化炉では、ガスの再循環はない。
【0240】
反応器内から一定量のガスが排気として除去される。いくつかの実施形態では、少量の排気のみが除去される。いくつかの実施形態では、排気吸引は強制ガス流の約2%~20%であり、プロセスガスの残りは再循環される。いくつかの実施形態では、排気として除去されるガスの量は、プロセスガスの約10%までである。
【0241】
排気ガスの吸引の位置および抽出速度は、ガスシールアセンブリの有効性に影響を及ぼす可能性があり、これについては以下でさらに説明する。さらに、プロセスガスの一部を除去して、新鮮なプロセスガスと置き換えることができるようにすることが望ましい。これにより、反応副生成物が反応器内に蓄積せず、事前安定化プロセスの安定性を維持するのを助けることを確実にすることができる。
【0242】
排気サブアセンブリによって除去されないプロセスガスを再循環させることができる。したがって、いくつかの実施形態では、強制ガス流アセンブリが、反応室から実質的に酸素を含まないガスを受け取り、反応室に実質的に酸素を含まないガスを戻して、反応室を通って実質的に酸素を含まないガスを再循環させるように配置された少なくとも1つの戻りダクトを備える。いくつかの実施形態では、プロセスガスの80%~98%が再循環される。いくつかの実施形態では、プロセスガスの少なくとも90%が再循環される。
【0243】
いくつかの実施形態では、強制ガス流アセンブリは、加熱された実質的に酸素を含まないガスを反応室に供給するための1つまたは複数のプロセスガス入口と、1つまたは複数のプロセスガス出口と、1つまたは複数の戻りダクトとを備え、プロセスガス出口または各プロセスガス出口は、強制ガスを戻りダクトに導くためのものであり、戻りダクトは、少なくとも1つのプロセスガス入口に流体接続されて、反応室内の加熱された実質的に酸素を含まないガスの流れを再循環させる。
【0244】
強制ガス流アセンブリは、実質的に酸素を含まないガスを所望のプロセスガス温度に加熱するためのヒータを備えてもよい。ヒータは、プロセスガス温度が所望のレベルに調整されることを可能にするように調整可能であってもよい。強制ガス流アセンブリが反応室を通って実質的に酸素を含まないガスを再循環させるように構成されている実施形態では、ヒータは、ガスを所望のプロセスガス温度に維持するように再循環ガスを加熱するためのものであってもよい。いくつかの実施形態では、強制ガス流アセンブリは、再循環流の実質的に酸素を含まないガスが所望のプロセスガス温度に加熱されるように、各戻りダクトを通過するガスを加熱するように構成された1つまたは複数の加熱要素を備える。
【0245】
いくつかの実施形態では、ガスシールアセンブリが、反応室と入口および出口の各々との間にシールガスカーテンを設けるためのガスカーテンサブアセンブリと、排気ガスを抽出するための排気サブアセンブリとを備える。排気抽出速度、シールガス流量、およびプロセスガス流量(冷却ガス流量などの任意の他のガス流量と共に)は、反応室をシールしてその中に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口および出口を通る反応器からの付随的なガス流を制限するようにバランスをとることができる。
【0246】
一実施形態では、ガスカーテンサブアセンブリによって放出されるガス流および排気サブアセンブリの吸引は、反応室を効果的にシールし、したがって反応室内に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口および出口を通る反応器からの付随的なガス流を制限するように制御される。理想的には、ガスカーテンサブアセンブリによって放出されるガス流および排気サブアセンブリの吸引は、入口および出口を通って反応器から付随的なガス流が出ないように、および周囲雰囲気からの空気の流入がないように制御される。しかしながら、実際には、わずかな量のフュージティブエミッションが入口から放出されるように、反応器をわずかな正圧で動作することができる。
【0247】
排気の流出とシールガスおよびプロセスガス(および冷却ガスなどの任意の他のガス)の流入とのバランスをとることは、典型的には、排気ガスの抽出速度を変更すること、および/またはシールガスおよびプロセスガスの流量を変更することによって達成される。したがって、一実施形態では、排気サブアセンブリ吸引は、例えば排気ファン回転速度を調整することによって調整可能である。
【0248】
他の実施形態では、シールガスの供給速度は調整可能である。さらなる実施形態では、プロセスガスの供給の流量は調整可能である。供給流量の調整は、バルブ、絞り、チョーク、ダイバータ、ガス供給源の圧力の変更などの使用を含む、当業者に知られている任意の手段によって達成可能であり得る。
【0249】
一例として反応器の入口端を使用すると、シールガスが供給される点が入口と排気が抽出される点との間に配置される場合、過剰な排気吸引速度(または排気吸引に対して不十分なシールガスの供給)が、ガスシールアセンブリによってもたらされるガスシールを通過して入口を通して空気を引き込む可能性がある。追加的または代替的に、過剰な排気吸引は、反応室に向けて大量のシールガスを引き込み、シールガスをプロセスガスの供給と混合させる可能性がある。多くの場合、シールガスはプロセスガスよりも低温であるため、過剰量のシールガスをプロセスガスに引き込むと、プロセスガスが冷却され、反応器の効率および信頼性が低下する可能性がある。これは、前駆体が反応器から排出する前に前駆体を冷却するようにシールガスがより低温であることが特に望ましい可能性がある反応器の出口端における特定の問題であり得る。上述のように、シールガスは、反応器から排出するときに前駆体から熱を回収するために使用されてもよい。したがって、シールガスをプロセスガスに引き込むことは、理想的には、前駆体からの熱回収を最大にするように選択される。
【0250】
一例として反応器の入口端を再び使用すると、排気が抽出される点が入口とシールガスが供給される点との間に配置される場合、過剰な排気吸引速度は、反応室から入口に向かって有毒な副生成物を含む過剰量のガスを引き込む可能性があり、その結果、反応器から許容できないレベルの付随的なガス流が生じる可能性がある。
【0251】
一般に、過剰な排気引き込み速度は、過剰量のシールガスおよびプロセスガスが排気として反応器から除去されることにつながるので望ましくない。これは、実質的に酸素を含まないガスを不必要に浪費する可能性がある。
【0252】
排気吸引速度が不十分であると、反応器内にガスが蓄積し、反応器内の圧力が上昇する可能性がある。これは、ガスシールアセンブリによってもたらされるガスシールの性能が損なわれるように反応器を過剰に加圧し、その結果、入口または出口を通って反応器から許容できないレベルの付随的なガス流が生じる可能性がある。同様に、プロセスガスの過剰な供給は、反応器を過剰に加圧し、ガスシールアセンブリによってもたらされるガスシールの性能が損なわれる可能性がある。
【0253】
いくつかの実施形態では、排気サブアセンブリは、入口および/または出口と反応室との間のデッキに配置された反応器から排気ガスを除去するための少なくとも1つの排気出口を備えることができる。例えば、いくつかの実施形態では、反応器は入口デッキおよび出口デッキを備え、排気サブアセンブリは、入口デッキに配置された反応器から排気ガスを除去するための少なくとも1つの排気出口と、出口デッキに配置された反応器から排気ガスを除去するための少なくとも1つの排気出口とを備えることができる。
【0254】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の戻りダクトは、1つまたは複数の排気ガス出口を備えることができる。排気ガス出口は、デッキの任意の出口に加えて1つまたは複数の排気ガス出口が必要とされるように、より大きな割合の排気ガスを除去することが望ましい実施形態では、戻りダクトに沿って設けられてもよい。
【0255】
いくつかの実施形態では、反応器は、反応室と入口および出口のそれぞれとの間にシールガスカーテンをもたらすためのガスカーテンサブアセンブリを備える。いくつかの実施形態では、ガスカーテンサブアセンブリによって反応室と入口との間にもたらされた少なくともシールガスカーテンは、シールガスカーテンを通過する前駆体に結合した大気酸素を破壊するように適合されたガス流特性を有する。したがって、シールガスカーテンは、前駆体と共に反応室への酸素の流入を制限または防止することができる。
【0256】
いくつかの実施形態では、ガスカーテンサブアセンブリは、入口デッキに少なくとも1つのシールガスカーテンノズルを備え、出口デッキに少なくとも1つのシールガスカーテンノズルを備える。
【0257】
適切なノズルは、前駆体が反応器を通過する際に、前駆体の上下および前駆体の全幅にわたってシールガスを導くおよび/または分配するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、シールガス送達ノズルまたは各シールガス送達ノズルは、反応器を通過する際に前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部ガス出口を備えることができる。各ガス出口は、シールガスのジェットまたは流れをもたらすための1つまたは複数の開口部を備える。一実施形態では、ノズルは、前駆体の幅と少なくとも同じ長さのスロット形状の開口部を備える。したがって、スロットは、デッキの幅の大部分または全部にわたって延在してもよい。いくつかの他の実施形態では、ノズルは開口部のアレイを備えることができる。いくつかの実施形態では、ノズルは、1つまたは複数の開口部(openings)または開口部(apertures)から放出されたガスの流れを分配および/または導くための分配器を備えることができる。
【0258】
入口デッキの少なくとも1つのシールガスカーテンノズルは、入口デッキの少なくとも1つの排気出口と反応室との間に配置されてもよい。代替的または追加的に、入口デッキの少なくとも1つのシールガスカーテンノズルは、入口デッキの少なくとも1つの排気出口と入口との間に配置されてもよい。同様に、出口デッキ内の少なくとも1つのシールガスカーテンノズルは、出口デッキ内の少なくとも1つの排気出口と反応室との間に配置されてもよい。代替的または追加的に、出口デッキ内の少なくとも1つのシールガスカーテンノズルは、出口デッキ内の少なくとも1つの排気出口と出口との間に配置されてもよい。
【0259】
一実施形態では、ガスカーテンサブアセンブリは、ガスカーテンをもたらすように構成された第1および第2のプレナムを備える。第1および第2のプレナムの各々は、プレナムプレートを備える。第1および第2のプレナムのプレナムプレートは、それらが対向して実質的に平行になるように配置されてもよい。プレナムプレートは、それらの間を前駆体がそれらによって形成されるガスカーテンを通って移動することを可能にするために適切な距離だけ分離される。
【0260】
各プレナムプレートは、ガスカーテンを形成するための複数の開口部を有する。しかしながら、いくつかの実施形態では、プレートは、ノズル管のアレイの代わりに使用されてもよい。
【0261】
これらの実施形態では、ガスカーテンサブアセンブリは、開口部またはノズル管を通してシールガスのジェットをもたらすように構成される。正のガス圧がプレートの後ろにもたらされる。圧力は、典型的には約1kPa未満であり、ガスは、開口部を通った速度で噴出される。衝突速度は、前駆体の脆弱性に少なくとも部分的に応じて変化し、典型的には約0.5m/秒未満である。
【0262】
開口部は、ガスジェットを前駆体の表面上に高速で導くように構成されてもよい。好ましくは、開口部は、前駆体のすべての表面にガスを導くように構成される。したがって、前駆体が入口と反応室との間に配置されたガスカーテンを通って移動するにつれて、前駆体の表面に結合した酸素は、ガスカーテンの流れ特性によって実質的に破壊される。一実施形態では、ガス流は、前駆体の平面に対して実質的に垂直に導かれる。そのようなジェットの流れは、前駆体に損傷が生じないことを確実にするように選択されるべきである。
【0263】
いくつかの実施形態では、開口部の周囲によって画定される開口面積は、約0.5~20mmである。例えば、面積は、0.79mm、3.14mm、7.07mm、12.57mm、または19.63mm、好ましくは約7.07mmであり得る。いくつかの実施形態では、開口部は円形である。したがって、いくつかの実施形態における開口直径は、約1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmである。いくつかの実施形態では、開口部はスロットである。スロットは、所望の開口面積をもたらすための適切な厚さを有する、0.5~20mmの長さ、例えば2~20mmの長さであってもよい。いくつかの実施形態では、スロットは、1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmの厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、スロットは、それらが前駆体の進行方向に平行になるように向けられる。他の実施形態では、スロットは、それらが前駆体の進行方向に対して垂直になるように向けられる。いくつかの実施形態では、スロットは、前駆体の進行方向に対して45°などの角度で向けられる。理想的には、すべての場合において、開口部は、前駆体の幅にわたる繊維が同じレベルの衝突流を受けることを確実にするように配置される。
【0264】
プレナムプレートは、厚さ約10mmのステンレス鋼から製造されてもよい。
【0265】
開口部の数、シールガスカーテンの長さ、およびカーテンガスの流量は、製品への衝突速度を決定する。特定の前駆体のためにガスシールアセンブリをカスタマイズするために、衝突速度の制御が必要とされ得る。例えば、繊維破損を含む繊維損傷を回避するように、衝突速度を低下させて前駆体の撹拌、はためきまたは移動を低減することができる。
【0266】
好適には、いくつかの実施形態では、プレートは、カスタマイズおよびメンテナンスを容易にするために交換可能に構成される。
【0267】
変更され得る他のパラメータは、プレナムプレート間の距離である。したがって、ガスカーテンサブアセンブリの一実施形態では、プレートは、プレート間の距離の変化を可能にするように調整可能である。プレナムプレート間の間隙の調整可能性は、この距離の最適化を可能にする。調整の典型的な目的は、反応室内の実質的に酸素を含まない雰囲気を維持しながら、最小限の不活性ガス消費量と共に、前駆体によって形成されたカテナリーを可能にする最小の作業可能な間隙をもたらすことである。
【0268】
プレートは、前駆体に対して垂直方向に調整することができ、外部ゲージは内部プレナムプレートの位置を示す。
【0269】
上述したように、雰囲気制御炉で典型的に使用される構成要素は、本発明の反応器のガスシールアセンブリでの使用に適し得る。例えば、国際公開第2014/121331号(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)は、ガスカーテンを製造するように構成された装置を記載しており、この装置からの構成要素は、本発明の反応器のガスシールアセンブリの実施形態に適し得る。したがって、一実施形態では、ガスカーテンサブアセンブリは、2つのゾーンを備えるガスカーテンをもたらすように構成された第1および第2のプレナムを備え、第1のゾーンは、反応器を取り囲む雰囲気からの空気の流入を制限するように構成されたガス流特性を有し、第2のゾーンは、ガスカーテンを通過する前駆体上の大気酸素を破壊して移動させるように構成されたガス流特性を有する。
【0270】
第1および第2のプレナムの各々は、少なくとも2つの領域を有するプレナムプレートを備える。第1および第2のプレナムのプレナムプレートは、それらが対向して実質的に平行になるように配置されてもよい。プレナムプレートは、それらの間を前駆体がそれらによって形成されるガスカーテンを通って移動することを可能にするために適切な距離だけ分離される。
【0271】
各プレートには、第1の領域にガスカーテンの非乱流領域を形成するために、第1の領域に開口部がない。プレートの第1の領域は、入口または出口(すなわち、大気に直接隣接している)に最も近く配置され、形成されたガスカーテンの非乱流領域は、乱流および大気酸素の導入を回避するように構成される。しかしながら、ガスカーテンのこの非乱流領域は、前駆体に結合した酸素を破壊するように構成されなくてもよい。
【0272】
前駆体が入口を通って反応器に入ると、前駆体はガスカーテンの第1のゾーンを通過する。このゾーンの流れは、いくつかの実施形態では、実質的に層状である。反応器のガスシールアセンブリに関して本明細書で使用される場合、「実質的に層状」という用語は、流れの方向がチャンバ、デッキおよび/または前駆体の壁と実質的に同一平面上にある状況を含むことを意図している。この構成は、酸素の流入をもたらし得る第1のカーテンゾーンと反応器を取り囲む雰囲気との間の界面の周りの乱流の実質的な抑制をもたらす。この時点で、いくらかの酸素が依然として前駆体の表面に結合し得る。
【0273】
各プレナムプレートは、ガスカーテンの第2の乱流ゾーンを形成するために、第2の領域に複数の開口部を有する。この実施形態のプレナムプレートの開口部は、開口部のない第1の領域を含まないプレナムプレートについて上述したとおりであってもよい。典型的には、各プレートの第2の領域は、第1の領域よりも長い。第1の領域と第2の領域の長さの比は、約3:1であってもよい。
【0274】
これらの実施形態では、ガスカーテンサブアセンブリは、開口部を通してシールガスのジェットをもたらすように構成される。正のガス圧がプレートの後ろにもたらされる。圧力は、典型的には約1kPa未満であり、ガスは、開口部を通った速度で噴出される。衝突速度は、前駆体の脆弱性に少なくとも部分的に応じて変化し、典型的には約0.5m/秒未満である。
【0275】
開口部は、ガスジェットを前駆体の表面上に高速で導くように構成されてもよい。好ましくは、開口部は、前駆体のすべての表面にガスを導くように構成される。したがって、前駆体が第2のゾーンに移動すると、結合した酸素は、第2のゾーン内のガスの実質的な乱流特性によって実質的に破壊される。一実施形態では、第2の領域内のガス流は、前駆体の平面に対して実質的に垂直に導かれる。
【0276】
開口部の数、シールガスカーテンの長さ、およびカーテンガスの流量は、製品への衝突速度を決定する。衝突速度の制御は、特定の前駆体をカスタマイズするために必要とされ得、前駆体に損傷を引き起こし得る前駆体の過剰な撹拌、はためきまたは移動を回避するように選択される。
【0277】
この実施形態によるプレナムプレートは、カスタマイズおよびメンテナンスを容易にするために交換可能であってもよい。
【0278】
この実施形態のプレナムプレート間の距離は、上述のように変更することができる。
【0279】
シールガスノズルの実施形態について上述した構成は、冷却ガス入口が設けられる場合には、冷却ガス入口の実施形態にも適した構成である。
【0280】
実質的に酸素を含まない雰囲気が、使用時に反応室内で使用される。「実質的に酸素を含まない雰囲気」という用語は、酸素原子を実質的に含まない雰囲気を意味する。酸素原子は、大気中にある分子状酸素(すなわち、O)または水(すなわち、HO)などの酸素含有分子の一部であってもよい。しかしながら、「実質的に酸素を含まない雰囲気」という用語は、前駆体中のポリマーの分子構造の一部を形成する酸素原子が存在することを可能にする。
【0281】
酸素原子は、ニトリル基環化速度、したがって選択された期間内に事前安定化前駆体中の必要な量の環化ニトリル基を達成する能力に悪影響を及ぼし得ると考えられるので、実質的に酸素を含まない雰囲気中の酸素原子の量を制限することが好ましい。
【0282】
したがって、少なくとも10%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体の事前安定化および形成が、実質的に酸素を含まない雰囲気中で行われることは、プロセスの重要な部分である。
【0283】
さらに、水は雰囲気の冷却をもたらす可能性があるので、実質的に酸素を含まない雰囲気中に水(例えば、蒸気または水蒸気の形態で)が存在しないことが望ましい。したがって、実質的に酸素を含まない雰囲気を所望の温度に維持するために、より多くのエネルギを消費する必要がある。したがって、事前安定化ステップに使用される実質的に酸素を含まない雰囲気は、少なくとも実質的に水を含まないことが好ましく、1つの好ましいことでは水を含まない。
【0284】
上述したように、「実質的に酸素を含まない雰囲気」という用語はまた、雰囲気が分子状酸素(すなわち、O)を実質的に含まないことを示すために使用され、これは一般に「酸素」と呼ばれる。前駆体繊維が曝露される雰囲気中には、少量の酸素(すなわち、O)が存在し得る。実質的に酸素を含まない雰囲気は、1体積%以下、0.5体積%以下、0.1体積%以下、0.05体積%以下、0.01体積%以下、または0.005体積%以下の酸素(O)を含有し得る。いくつかの実施形態では、事前安定化中に使用される雰囲気が酸素を含まないように、酸素が存在しないことが好ましい。
【0285】
酸素の存在は、事前安定化前駆体を形成するために使用されるいくつかの動作温度で火災リスクをもたらし得るので、実質的に酸素を含まない雰囲気中の酸素の量を制限することが望ましい場合がある。
【0286】
一組の実施形態では、実質的に酸素を含まない雰囲気は、不活性ガスを含む。適切な不活性ガスは、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンおよびラジウムなどの希ガスであってもよい。適切な不活性ガスは窒素であってもよい。実質的に酸素を含まない雰囲気は、窒素とアルゴンの混合物などの不活性ガスの混合物を含んでもよい。
【0287】
1つの好ましいことでは、実質的に酸素を含まないガスは不活性ガスである。実質的に酸素を含まないガスは、窒素、またはアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンおよびラジウムなどの希ガス、またはそれらの混合物を含んでもよい。上記のように、実質的に酸素を含まないガスは、本明細書では「プロセスガス」とも記載される。
【0288】
一実施形態では、プロセスガスは窒素である。プロセスガスは、純度99.995%および露点-30℃未満の窒素であってもよい。
【0289】
いくつかの実施形態では、実質的に酸素を含まないガスは、少なくとも99.995%の純度の医療グレードの窒素であり得る。医療グレードの窒素は、多くの商業的供給業者から入手可能である。
【0290】
好ましくは、反応器の反応室内の前駆体の滞留時間は比較的短期間であり、より好ましくは滞留時間はほんの数分である。したがって、本発明の反応器を使用して、事前安定化前駆体を迅速に形成することができる。
【0291】
当業者は、事前安定化反応器の各実施形態が規定の長さを有することを理解するであろう。前駆体の総流路長は、反応器内の反応室の数および構成に依存する。上記のように、反応器内の総滞留時間(ドウェル時間)は、反応室の数、各室の長さ、前駆体が各反応室を通過する際の前駆体の速度、および各室を通る前駆体の流路によって決定される。次に、ドウェル時間は、事前安定化ステップが実行される期間を決定することができる。
【0292】
さらに、反応室内の前駆体の滞留時間は、反応室内または各反応室内の温度の影響を受ける可能性があり、逆もまた同様である。例えば、より高い温度が事前安定化のために使用される実施形態では、より低い温度が使用される実施形態と比較して、反応室内の滞留時間を短縮することが望ましい場合がある。
【0293】
前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で短期間加熱することが望ましい場合があり、これは、特に処理時間に関して、前駆体安定化の効率およびその後の炭素繊維製造の改善を助ける下流の利点を与えるのに役立ち得るからである。特に、本明細書に記載の事前安定化は、前駆体繊維の炭素繊維への高速変換を助けることができることが分かった。
【0294】
一組の実施形態において、反応器中の前駆体の滞留時間は、約5分以下、約4分以下、約3分以下または約2分以下である。
【0295】
いくつかの実施形態では、前駆体が事前安定化反応器を通って搬送される速度は、炭素繊維製造ラインで使用されるライン速度に一致するように選択される。これにより、事前安定化反応器を炭素繊維製造システムに容易に組み込むことができる。いくつかの実施形態では、反応器は、既存の炭素繊維製造システムに統合されてもよい。
【0296】
特定の実施形態では、前駆体は、約10~1,000メートル/時間の範囲の速度で事前安定化反応器を通って搬送されてもよい。例えば、ライン速度は、最大500メートル/時(m/hr)とすることができる。
【0297】
商業規模の操作では、前駆体が各反応室を通過する際の前駆体の速度は、約100~1,000m/時間、例えば120~900m/時間の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、速度は、約600~1,000m/時、例えば700~800m/時の範囲であってもよい。
【0298】
本発明の反応器を使用してPAN前駆体を短期間処理することを可能にするために、前駆体が加熱される温度ならびに加熱中にPAN前駆体に加えられる張力の量などのパラメータを選択して、事前安定化のための所望の期間を確実に満たすことができるようにすることができる。
【0299】
所与の反応器について、反応室または各反応室の温度、ならびに前駆体が各反応室を通って搬送される速度および各反応室を通る前駆体の流路は、所望のドウェル時間を達成するために調整することができる。
【0300】
事前安定化期間が選択されると、その選択された期間内に事前安定化が完了することを可能にするために、事前安定化中に前駆体が加熱される温度が選択されてもよい。加熱温度の決定手順の一例を以下に示す。
【0301】
いくつかの特定の実施形態では、事前安定化中、前駆体は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、約250℃~400℃、または約280℃~320℃の範囲の温度で加熱される。そのような範囲内の温度での加熱は、約5分以下、約4分以下、約3分以下または約2分以下からなる群から選択される期間行われてもよい。
【0302】
好適には、加熱温度およびPAN前駆体繊維に加えられる張力の量を調整することによって、本発明の反応器を使用して短い事前安定化期間を達成することができる。
【0303】
PAN前駆体繊維が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱されている間、所定量の張力が前駆体繊維にも加えられる。本明細書に記載のプロセスのいくつかの実施形態では、実質的に一定量の張力が前駆体繊維に加えられる。
【0304】
一組の実施形態では、前駆体繊維が加熱される温度および前駆体繊維に加えられる張力の量はそれぞれ、前駆体が約5分以下、約4分以下、約3分以下、または約2分以下の期間、実質的に酸素を含まない雰囲気中に存在することを可能にするように選択される。
【0305】
本発明者らは、張力がPAN前駆体中に存在するニトリル基の環化の程度に影響を及ぼし得ることを見出した。これに関して、PAN前駆体が、予め選択された時間および温度の条件下で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される場合、前駆体に加えられる張力の量は、ニトリル基環化の程度に影響を及ぼし得る。すなわち、時間および温度条件が固定されている場合、それらの固定された条件下で前駆体に異なる量の張力を加えると、前駆体繊維に異なる量の環化ニトリル基が生成され得る。
【0306】
本発明は、前駆体を事前安定化するためのシステムを提供し、システムは、本発明の反応器と、反応室の上流および下流に配置された張力装置とを備え、張力装置は、所定の張力下で前駆体を反応室に通過させるように構成される。いくつかの実施形態では、張力装置は、当技術分野で知られているような材料取扱装置であり、反応器とは別個の構成要素である。いくつかの実施形態では、反応器は、1つまたは複数の張力装置を備える。反応器が2つ以上の反応室を備える実施形態では、前駆体が1つの反応室から次の反応室に通過する際に張力装置を介して搬送されるように、張力装置が各反応室の上流および下流に設けられてもよい。
【0307】
ローラは、反応器を通って前駆体を搬送するために使用され、前駆体に所定の張力を加えるように選択されたローラの構成を備えることが多い。したがって、張力装置は、ローラの組み合わせを備えることができる。所定の張力を加えるためのローラの適切な組み合わせは、当該技術分野で知られており、Sラップ、オメガ(Ω)、5ローラ、7ローラおよびニップローラ駆動ローラ構成を含む。
【0308】
駆動ローラ構成の選択は、前駆体タイプ;ローラのための利用可能な空間;所望の量および品質の両方に関して、前駆体の所望の生成;および前駆体に加えられる張力;ならびに予算上の制約によって影響を受ける可能性がある。例えば、Sラップ、オメガおよびニップローラの構成は比較的コンパクトな構成であり、スペースが限られている実施形態では好ましい場合がある。例えば、そのような構成は、5ローラ駆動構成に利用可能なスペースが不十分な状況で選択されてもよい。
【0309】
いくつかの実施形態では、反応器は、航空宇宙用炭素繊維の製造のための事前安定化前駆体を提供するように構成される。これらの実施形態のいくつかでは、5ローラまたは7ローラ駆動構成が好ましい場合がある。
【0310】
いくつかの実施形態では、必要なローラの数を最小限に抑えるように、Sラップ、オメガおよびニップローラの構成が好ましい場合がある。
【0311】
いくつかの実施形態では、5ローラまたは7ローラ駆動構成は、これらの構成が他の構成よりも大きな量の張力を前駆体に加えることができるため、好ましい場合がある。
【0312】
上記のように、いくつかの実施形態では、反応器は1つまたは複数の内部ローラを備える。内部ローラは、反応室を通って前駆体を2回以上搬送するために使用されてもよい。代替的または追加的に、内部ローラを使用して、反応器内で前駆体を一方の反応室から他方の反応室に搬送することができる。多くの場合、内部ローラは非従動通過ローラである。しかしながら、いくつかの実施形態では、内部駆動ローラは、1つまたは複数の張力装置であってもよい。したがって、各反応室および/または反応室を通る前駆体の各通過に張力装置を設けることができる。したがって、張力装置を使用して、各反応室および/または反応室を通る前駆体の各通過に所定の張力を加えることができ、これらの所定の張力は同じ(すなわち、実質的に一定の張力が加えられる)であっても異なっていてもよい。
【0313】
理論によって制限されることを望むものではないが、前駆体中に存在するニトリル基の一部の環化は、酸素含有環境でのその後の安定化処理のための前駆体の調製を助けることができると考えられる。したがって、事前安定化によってもたらされる利点は、所望の量の環化ニトリル基を有する前駆体を形成する能力であり、これは容易にさらなる反応を受けて安定化前駆体を形成することができる。したがって、事前安定化ステップは、より少ない時間およびより少ないエネルギで安定化前駆体を形成することを可能にすることができる。
【0314】
PAN前駆体の事前安定化は、前駆体繊維に所定量の張力を加えることを含む。加えられた張力は、ポリアクリロニトリル化学構造の一部を形成するペンダントニトリル基の環化を促進するのに役立ち得ることが分かった。ニトリル基の環化は、前駆体に加えられる熱によって開始され、その後、加えられる張力による前駆体繊維内のポリアクリロニトリルの分子整列の増加によって促進され得る。環化ニトリル基は、前駆体中に結合六方晶炭素-窒素環を形成することができる。その結果、少なくとも部分的に安定化され、環化ニトリル基によりPANの少なくとも一部がはしご型構造に変換された前駆体繊維が得られる。
【0315】
PAN前駆体中のニトリル基の環化は発熱性であり、ニトリル基が環化を受けると発熱エネルギが放出される。発熱挙動は前駆体間で異なり得る。したがって、前駆体を加熱するために選択された加熱温度および期間、ならびに実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を事前安定化するために使用される加えられた張力は、前駆体を適切に事前安定化し、その発熱挙動を管理するように、所与の前駆体に適合させることができる。したがって、張力装置は、特定の前駆体に対するそのような適合を可能にするように構成されてもよい。
【0316】
前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および時間、ならびに熱処理中に前駆体に加えられる張力はそれぞれ、PAN前駆体中のニトリル基環化を促進するように選択される。したがって、事前安定化ステップに用いられるプロセス条件は、事前安定化前駆体中の所望量の環化ニトリル基の形成を促進するように設定することができる。
【0317】
本明細書に記載の事前安定化ステップのいくつかの実施形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および時間、ならびに前駆体に加えられる張力はそれぞれ、所定の割合の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体が形成されるように、ニトリル基環化を制御するように選択される。特に、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および時間、ならびに前駆体に加えられる張力はそれぞれ、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体が形成されるように、ニトリル基環化を制御するように選択される。
【0318】
ニトリル基環化の程度(反応の程度(%EOR)として表される)は、Collinsら、Carbon,26(1988)671-679によって開発された方法論に従ってフーリエ変換赤外(FT-IR)分光法を使用して決定することができる。この方法論の下で、以下の式を使用することができる。
【数1】

式中、Abs(1590)およびAbs(2242)は、それぞれC=N基およびニトリル(-CN)基に対応する、1590cm-1および2242cm-1で記録されたピークの吸光度である。ニトリル基(2242cm1)は、環化によってC=N基に変換される。したがって、1590cm-1と2242cm-1のピーク間の吸光度比は、環化を受けたニトリル基の割合に関する指標をもたらすことができる。
【0319】
本明細書に記載のニトリル基環化は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって最も適切に決定される。
【0320】
事前安定化ステップのために選択されるプロセス条件は、所定の%EOR、特に少なくとも10%である%EORを有する事前安定化前駆体を形成するのに十分であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の事前安定化のために選択されたプロセス条件は、少なくとも15%または少なくとも20%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0321】
事前安定化前駆体中の環化ニトリル基の量(%EOR)は、反応器を使用する事前安定化ステップに用いられる特定のプロセスパラメータの選択によって変えることができることが分かった。例えば、いくつかの実施形態では、前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で一定の温度および時間条件で加熱したときに前駆体繊維に異なる量の張力を加えることによって、前駆体中のニトリル基環化の程度を変えることができることが分かった。
【0322】
前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間もまた、ニトリル基環化に影響を及ぼし得る。しかしながら、理論によって制限されることを望まないが、前駆体に加えられる張力の量は、環状構造の形成により大きな影響を及ぼし得ると考えられる。
【0323】
特に、前駆体に加えられる張力は、前駆体中のニトリル基環化の程度を制御することができることが分かった。これは、前駆体に加えられる張力が前駆体中のポリアクリロニトリルの分子整列に影響を及ぼし得るために生じ得る。
【0324】
一例として、PAN前駆体の事前安定化は、ポリアクリロニトリルを含む前駆体に実質的に一定量の張力を加えながら、実質的に酸素を含まない雰囲気中で所定の温度で所定の期間加熱することを含み得る。所定の加熱温度および時間を含むそのような実施形態では、加えられる張力の量は、前駆体中のニトリル基環化の程度に影響を及ぼし得る。したがって、事前安定化ステップの時間および温度条件が固定されている場合、それらの固定された条件下で前駆体に異なる実質的に一定の量の張力を加えることにより、前駆体中に異なる量の環化ニトリル基を生成することができる。したがって、加えられる張力は、ニトリル基環化の程度を制御することができ、所定の割合の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成することを可能にする。
【0325】
特定の実施形態では、%EORは、事前安定化中に前駆体に加えられる張力の量を変えることによって調整することができる。したがって、事前安定化ステップにおいて前駆体に加えられる張力の量は、所望の量の環化ニトリル基の形成を確実にするように制御することができる。次に、これは、事前安定化繊維における特定の化学的および構造的特性の進化を助けることができる。
【0326】
一組の実施形態では、事前安定化中にPAN前駆体に加えられる張力の量は、FT-IR分光法によって決定されるように少なくとも10%、少なくとも15%、または少なくとも20%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するように選択される。
【0327】
1つの好ましいことでは、前駆体に加えられる張力の量は、事前安定化前駆体中の高含有量の環化ニトリル構造の形成を促進する。
【0328】
高含有量の環化ニトリル基は、安定化前駆体の形成のための前駆体の効率的な処理を助けることができる。
【0329】
さらに、大量の環化ニトリル基は、熱的に安定な部分安定化前駆体の迅速な形成を助けることができる。
【0330】
理論的には、事前安定化前駆体中に存在し得る環化ニトリル基の量に上限はない。しかしながら、実際には、事前安定化前駆体は、約50%以下、約45%以下、または約35%以下の環化ニトリル基を有することが望ましい場合がある。
【0331】
いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、FT-IR分光法によって決定されるように約10%~約50%、約10%~約45%の環化ニトリル基、または約20%~約30%の環化ニトリル基を含み得る。
【0332】
いくつかの実施形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および時間、ならびに前駆体に加えられる張力の量はそれぞれ、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも15%または少なくとも20%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体が形成されるように、ニトリル基環化を制御するように選択される。
【0333】
他の実施形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および時間、ならびに前駆体に加えられる張力の量はそれぞれ、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように10%~50%、15%~45%、または20%~30%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体が形成されるように、ニトリル基環化を制御するように選択される。
【0334】
事前安定化のために選択されたプロセス条件は、炭素繊維への高速変換に適した事前安定化前駆体の形成を容易にすることができる。すなわち、実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するための温度および期間、ならびに前駆体に加えられる張力は、所望の特性を有する事前安定化前駆体の形成を可能にするように選択され、互いに適切にバランスをとることができ、その後、炭素繊維に迅速に変換することができる。
【0335】
例えば、事前安定化ステップ中に前駆体を加熱するためにより低い温度またはより高い温度が所望される場合、選択された温度を考慮して、前駆体を加熱する期間および/または前駆体に加えられる張力に対して適切な調整を行うことができることが理解されよう。例えば、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度が上昇する場合、前駆体を加熱する期間は、上昇した温度を補償するために減少されてもよく、逆もまた同様である。
【0336】
多くの指標を使用して、前駆体を事前安定化前駆体に変換するために使用されるプロセス条件(すなわち、温度、時間および張力)の選択を誘導することができる。当業者は、異なるPAN前駆体供給原料が異なる特性を有し得ることを理解するであろう。したがって、指標は、所望の特性を有する事前安定化前駆体を事前安定化ステップの終了時に形成することができるように、所与の前駆体供給原料の事前安定化ステップで使用される適切な時間、温度および張力条件の選択を容易にすることができる。指標は、別々にまたは組み合わせて考慮されてもよい。
【0337】
事前安定化プロセス条件の選択を誘導するために使用され得る1つの指標は、ニトリル基環化の程度(反応の程度(%EOR)として表される)である。反応の程度(%EOR)は、事前安定化前駆体中の環化ニトリル基の割合に対応する。当業者は、ニトリル基環化がC-N三重結合から前駆体中に共役C-N二重結合構造を生成することを理解するであろう。
【0338】
したがって、%EORおよび環化ニトリル基の割合(%)の値は、実際に環化された前駆体中のポリアクリロニトリル中に存在する利用可能な環化可能なニトリル基の割合を表す。
【0339】
%EORに加えて、事前安定化ステップで使用するための適切なプロセス条件の選択にも役立ち得る他の指標には、前駆体の色、機械的特性(引張強度、引張弾性率および伸びなどの引張特性を含む)、質量密度および外観が含まれる。これらの他の指標の各々は、以下でさらに説明される。
【0340】
未使用(未処理)PAN前駆体は、典型的には白色である。PAN前駆体は、視覚的に観察することができる事前安定化中に色変化を受ける。前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で短期間加熱した後でも色変化が起こることが観察されている。
【0341】
発生する発色は、前駆体中の環化ニトリル基の形成に起因して化学的に誘導されると考えられる。少なくとも10%の環化ニトリル基を有する、例えば約20%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体は、暗黄色または橙色から赤銅色までの範囲の色を有し得る。したがって、PAN前駆体の色の変化は、当業者が前駆体を加熱するための適切な温度および期間を選択するのを助けることができる。しかしながら、製造品質管理の目的のために、色の変化が観察される場合があるが、反応器を使用するプロセスが許容範囲内にあることを確実にするために%EORの値を測定することが望ましい場合がある。前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体に加えられる張力は、事前安定化の終わりに所望の色の前駆体が確実に達成されるように選択され得る。好ましくは、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間は、前駆体が暗褐色または黒色になるほど高くないかまたは長くない。
【0342】
いくつかの実施形態では、前駆体は、色の変化が観察されるように、前駆体中に存在するニトリル基の一部の環化を少なくとも開始するのに十分な温度で実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される。いくつかの実施形態では、前駆体の加熱は、選択された期間内に行われる。
【0343】
視覚的に、ニトリル基環化は、前駆体の色の白色から暗黄色から赤銅色の範囲の色への変化によって示すことができる。前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で短期間加熱した後でも色変化が起こることが観察されている。
【0344】
一組の実施形態では、前駆体繊維は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、約250~400℃の範囲、好ましくは約280℃~320℃の範囲の温度で加熱される。
【0345】
事前安定化のためのプロセス条件の選択を誘導するのを助けることができる他の有用な指標は、事前安定化前駆体の機械的特性、特にその引張特性である。
【0346】
PAN前駆体の極限引張強度および引張弾性率の機械的特性は、事前安定化ステップ後に低下し得ることが分かった。さらに、前駆体の伸びは、事前安定化ステップの後に増加し得ることが見出された。
【0347】
事前安定化ステップの一形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体が雰囲気中で加熱されるときに前駆体に加えられる張力の量は、未使用のPAN前駆体よりも低い極限引張強度を有する事前安定化前駆体を形成するように選択される。一組の実施形態では、本発明の反応器を使用して製造された事前安定化前駆体は、初期未使用PAN前駆体よりも最大60%低い、例えば約15%~約60%低い極限引張強度を有し得る。
【0348】
事前安定化ステップの一形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体が雰囲気中で加熱されるときに前駆体に加えられる張力の量は、未使用のPAN前駆体の引張弾性率よりも低い引張弾性率を有する事前安定化前駆体を形成するように選択される。一組の実施形態では、事前安定化前駆体は、初期未使用PAN前駆体の引張弾性率よりも最大40%低い、例えば約15%~約40%低い引張弾性率を有する。
【0349】
事前安定化ステップの一形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体が雰囲気中で加熱されるときに前駆体に加えられる張力の量は、未使用のPAN前駆体の破断伸びよりも高い破断伸びを有する事前安定化前駆体を形成するように選択される。一組の実施形態では、事前安定化前駆体は、初期未使用PAN前駆体の破断伸びよりも最大45%高い、例えば約15%~約45%高い破断伸びを有する。
【0350】
事前安定化プロセス条件の選択を誘導するさらなる指標は、PAN前駆体の質量密度である。前駆体の質量密度は、本明細書に記載の事前安定化ステップにおける前駆体の処理後に増加することができる。
【0351】
事前安定化ステップの一形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに雰囲気中で加熱されるときに前駆体に加えられる張力の量は、約1.19~1.25g/cm、例えば約1.21~1.24g/cmの範囲の質量密度を有する事前安定化PAN前駆体を形成するように選択される。
【0352】
またさらなる指標として、PAN前駆体の外観は、事前安定化プロセス条件の選択を誘導するのにも役立ち得る。事前安定化PAN前駆体は、好ましくは実質的に欠陥がなく、許容可能な外観を有する。前駆体の溶融または部分的なトウ破損を含む欠陥は、前駆体を用いて調製された炭素材料の低い機械的特性(例えば、引張特性)またはさらには故障につながる可能性があると考えられる。
【0353】
事前安定化ステップのプロセス条件は、得られた事前安定化前駆体が、所望の%EORを有することに加えて、上述のパラメータ内の色、機械的特性(極限引張強度、引張弾性率および破断伸びから選択される引張特性を含む)、質量密度および外観から選択される1つまたは複数の特性を有することを確実にするように選択することができる。
【0354】
事前安定化ステップの一形態では、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、ならびに前駆体が雰囲気中で加熱されるときに前駆体に加えられる張力の量は、実質的に欠陥のない事前安定化PAN前駆体を形成するようにそれぞれ選択される。
【0355】
PAN前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される選択された温度および選択された期間は、前駆体中のニトリル基の環化を少なくとも開始および促進するのに十分であり、任意選択で上記の指標の1つまたは複数の発生も促進するのに十分である。
【0356】
当業者は、張力がPAN前駆体繊維に加えられる力であることを理解するであろう。本明細書に記載のプロセスによれば、特許請求される発明のシステムを使用して前駆体に加えられる張力の量は、所定の値である。本明細書に記載のプロセスのいくつかの実施形態によれば、特許請求される発明のシステムを使用して前駆体に加えられる張力の量は、実質的に一定の値に維持され、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱されている間は変化しない。したがって、所与の前駆体に対して一定量の張力が選択されると、本発明の反応器内の事前安定化中に前駆体が実質的に一定量の張力で処理され得るように張力が維持され得る。
【0357】
一組の実施形態では、PAN前駆体に加えられる張力は、前駆体の寸法(例えば、形状または長さ)を大幅に変更するのに十分ではないことが望ましい。むしろ、PAN前駆体中の望ましい化学反応(すなわち、ニトリル基環化)を促進するために張力が加えられる。加えられる張力の量は、例えば、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および期間、PAN前駆体の組成および前駆体トウのサイズなどの多くの要因に依存し得る。加えられた張力は、特定の前駆体および/またはトウサイズおよび/または時間および温度の選択された事前安定化プロセス条件に対して最適化された結果が達成されることを可能にするように構成させることができる。
【0358】
また、事前安定化ステップが進行するにつれて繊維に生じ得る物理的および/または化学的変化に起因して前駆体に固有の張力効果が存在し得ることも認識される。しかしながら、本明細書に記載の実施形態のプロセスに従って前駆体に加えられる張力は、事前安定化ステップ中に前駆体に生じ得る任意の固有の張力変化を包含することが意図される。いくつかの実施形態では、加えられる張力は、事前安定化中に前駆体で起こる変化に起因する前駆体の固有張力の変化に適応することができる。いくつかの実施形態では、前駆体繊維に加えられる張力は、事前安定化ステップ中に実質的に一定の値に維持される。
【0359】
特に、PAN前駆体繊維に加えられる張力の量は、少なくとも10%の環化ニトリル基を生成するのに十分であるべきであり、これは本明細書に記載のFT-IR分光法によって決定される。
【0360】
一組の実施形態では、前駆体繊維に加えられる張力の量は、少なくとも15%または少なくとも20%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するのに十分である。ニトリル基環化の程度は、本明細書に記載のフーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定される。いくつかの実施形態では、不十分な張力が前駆体繊維に加えられると、不十分な環化が起こり得る。
【0361】
いくつかの実施形態では、前駆体に加えられる張力の量は、FT-IR分光法によって決定されるように約10%~約50%、好ましくは約10%~約45%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0362】
選択されたPAN前駆体繊維ならびに事前安定化ステップのための選択された加熱時間および温度条件について、前駆体繊維に加えられる張力の量は、前駆体繊維が弛緩状態にないようなものでなければならない。実用的な考慮のために、前駆体に加えられる張力は、反応室の内面との接触も回避しながら、事前安定化ステップを実行するために使用される反応室を通る繊維の輸送を促進するのに十分である。しかしながら、加えられた張力もまた、加えられた張力下で前駆体繊維が破断するほど高くすべきではない。
【0363】
加えられる張力の量は、前駆体の性質に依存する。例えば、加えられる張力の量は、前駆体の組成に依存し得る。さらに、トウ数がより多い前駆体および/または直径がより大きい繊維は、トウ数がより少ない前駆体および/または直径がより細かい前駆体よりも大きな張力を加える必要があり得る。加えられた張力は、特定の前駆体および/またはトウサイズおよび/または時間および温度の選択された事前安定化プロセス条件に対して最適化された結果が達成されることを可能にするように構成させることができる。システムの張力装置は、特定の前駆体および/またはトウサイズに対して最適化された結果を達成することを可能にするように、加えられた張力を適合させることができる。
【0364】
選択されたPAN前駆体繊維の場合、前駆体繊維に加えられる張力の量は、前駆体繊維が緊張状態(すなわち、前駆体繊維はたるんでいない)にあるように十分であるべきであるが、加えられた張力下で前駆体繊維が破断するほど高くはない。
【0365】
一組の実施形態では、張力装置は、トウサイズに応じて、約50cN~約50,000cNの範囲の張力の量をPAN前駆体に加えるように構成される。例えば、約50cN~約10,000cNの範囲の張力。例えば、いくつかの実施形態では、最大6,000cNの張力を加えることができる。いくつかの実施形態では、最大4,000cNの張力を加えることができる。
【0366】
所与の前駆体において所望の量のニトリル基環化を促進するのに適した張力が選択されると、いくつかの実施形態では、前駆体に加えられる張力は実質的に一定のままであり、固定される。前駆体が実質的に一定の張力で処理されるように、張力が選択された値から許容範囲内に維持されることを確実にするために、対照を利用することができる。これは、安定した前駆体処理を確実にするために張力が維持されることを確実にするために重要であり得、それは前駆体安定化プロセスの連続的な操作を容易にし、事前安定化前駆体、安定化前駆体、続いて炭素繊維においても一貫した品質を確実にすることができる。
【0367】
必要に応じて、システムは、所定量の張力をPAN前駆体繊維に加えることを可能にするために、各張力装置によって加えられる張力を制御するための張力コントローラを備えることができる。
【0368】
加えられる張力の量は、張力計またはロードセル(例えば圧電ロードセル)を使用することによって監視することができる。例えば、各張力装置は、前駆体に加えられている張力の量を感知するために、繊維搬送ローラの支持軸受に取り付けられたロードセルを備えてもよい。
【0369】
経時的に加えられる張力の量の変化が、事前安定化プロセスの不安定性を示す可能性があるため、張力を監視することが有益であり得る。実際には、実質的に一定量の張力を加えることは、加えられる張力のわずかな変動を含む。わずかな変動量は、事前安定化反応器の6時間の動作期間にわたる5%以下の張力の変化、好ましくは2%以下の変化、より好ましくは1%以下の変化を含む。さらに、わずかな変動量は、加えられる張力の変化の持続的な全体的な傾向がある状況を含まない。例えば、6時間以上持続する張力の減少の全体的な傾向は、前駆体が高すぎる温度に達したことを示すことができる。特に、6時間以上持続する5%以上の張力の低下の全体的な傾向は、前駆体がプロセスが不安定であり、前駆体の破損などのプロセス障害を防止するためにプロセスパラメータを変更する必要があるような高すぎる温度に達することを示すことができる。張力の低下は、前駆体が高すぎる温度に達することを示す可能性があるため、反応室内のプロセスガスの温度を低下させること、および/またはプロセスガス流の熱伝達効率を改善するために流量を変更することが必要な場合がある。代替的または追加的に、張力の低下は、前駆体が反応器内で時間をかけすぎていることを示し得る。したがって、前駆体が反応器を通過する速度を調整する必要があり得る。
【0370】
事前安定化中にPAN前駆体に加えられる張力の量は予め決定されており、いくつかの実施形態では、加えられる張力は、前駆体中のニトリル基環化の程度を最大にするように選択される。
【0371】
いくつかの実施形態では、PAN前駆体繊維に加えられる張力の量は、事前安定化前駆体繊維に最大量の環化ニトリル基が生成されるようなものであることが望ましい場合がある。この張力は、「最適張力」値と呼ばれることがある。最適化された張力値については、以下でさらに論じる。したがって、実質的に酸素を含まない雰囲気下でPAN前駆体中で達成可能なニトリル基の反応の程度(%EOR)は、約最適化された張力値で最も高い。
【0372】
所与の前駆体繊維に加えられる張力の量が増加するにつれて(実質的に酸素を含まない雰囲気中での温度およびドウェル時間の予め選択された条件は一定のままであるが)、FT-IR分光法によって測定されるニトリル環化度(%EOR)は、最大値に達するまで増加することが分かった。最大値は、使用される事前安定化条件のもとで前駆体繊維において生成される環化ニトリル基の最大量に対応する。最大値に続いて、加えられる張力の量が増加しても、環化ニトリル基の量の程度は減少する。環化の程度が最大になる張力値は、そのPAN前駆体の最適化された張力である。
【0373】
一組の実施形態では、事前安定化ステップ中、前駆体に実質的に一定量の張力が加えられている間、前駆体は、実質的に酸素を含まない雰囲気中、所定の温度で所定の期間加熱され、張力は、FT-IR分光法によって決定されるように最大程度のニトリル環化(最大%EOR)を有する事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0374】
特定の実施形態では、最大程度のニトリル環化(最大%EOR)を得るために前駆体を加熱する所定の期間は、約5分以下、約4分以下、約3分以下または約2分以下から選択することができる。
【0375】
特定の実施形態では、最大程度のニトリル環化(最大%EOR)を得るために前駆体が加熱される所定の温度は、約250℃~400℃、または約280℃~320℃の範囲内であり得る。
【0376】
特定の実施形態では、最大程度のニトリル環化(最大%EOR)を得るために前駆体に加えられる張力は、約50cN~約50,000cNの範囲内であり得る。例えば、約50cN~約10,000cNの範囲の張力。
【0377】
一組の実施形態において、本発明の反応器を用いた事前安定化は、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、前駆体に実質的に一定量の張力を加えながら5分以下の期間加熱することを含み、前駆体が雰囲気中で加熱される温度および前駆体に加えられる張力は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0378】
特定の一連の実施形態では、PAN前駆体の事前安定化は、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中、前駆体に実質的に一定量の張力を加えながら、約250℃~400℃の範囲の温度で5分以下の期間加熱することを含み、この張力は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0379】
いくつかの実施形態では、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、4分以下、3分以下、または2分以下の期間加熱する。
【0380】
いくつかの実施形態では、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に酸素を含まない雰囲気中で約280℃~320℃の範囲の温度で加熱する。
【0381】
他の組の実施形態では、事前安定化ステップ中に、前駆体に実質的に一定量の張力が加えられている間に、前駆体を所定の期間、実質的に酸素を含まない雰囲気中で所定の温度で加熱し、前駆体に加えられる張力の量は、FT-IR分光法によって決定されるように最適量の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0382】
特定の実施形態では、PAN前駆体の事前安定化は、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、前駆体に実質的に一定量の張力を加えながら、実質的に酸素を含まない雰囲気中、約250℃~400℃の範囲の温度で5分以下の期間加熱することを含み、張力の量は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように最適量の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するように選択される。
【0383】
本明細書で論じられるように、環化ニトリル基の最適量は、前駆体において達成可能な環化ニトリル基の最大量を最大80%、最大70%、最大60、最大50%、最大40%、最大30%、または最大20%下回る量であり得る。
【0384】
特定の実施形態では、前駆体を加熱して最適量のニトリル基環化を得る所定の期間は、約5分以下、約4分以下、約3分以下または約2分以下から選択されてもよい。
【0385】
特定の実施形態では、前駆体を加熱して最適量のニトリル基環化を得る所定の温度は、約250℃~400℃、または約280℃~320℃の範囲内であり得る。
【0386】
特定の実施形態では、最適な量のニトリル基環化を得るために前駆体に加えられる張力は、約50cN~約50,000cNの範囲、または約50cN~約10,000cNの範囲であり得る。
【0387】
事前安定化中に加えられる張力の量は、PAN前駆体繊維中の必要量の環化ニトリル基の迅速な形成を容易にする。
【0388】
いくつかの実施形態では、炭素繊維などの炭素材料を製造するための経済的なプロセスのために、最適化された張力値を前駆体に適用することが有益であり得る。
【0389】
前駆体の張力は、反応器に入る前の前駆体の相対温度および相対湿度を含むいくつかの要因によって影響を受ける可能性がある:材料取扱装置(例えば、ローラ)間の距離の影響を受けるカテナリー効果;前駆体において生じる化学変化に起因して前駆体が受ける収縮の程度;および前駆体が事前安定化されるときに生じる他の固有の材料特性の変化を含む。
【0390】
いくつかの実施形態では、前駆体に実質的に一定量の張力を加えるために、張力装置によって加えられる延伸比が必要に応じて調整される。したがって、実際には、事前安定化反応器内の所与の温度および滞留時間で同じ前駆体について、張力装置によって適用される延伸比は、所望の所定の実質的に一定の張力が前駆体に適用されることを確実にするように、前駆体の張力に影響を及ぼす要因を考慮するように変更または調整することができる。例えば、同じ所望の所定の実質的に一定量の張力を各反応器内の前駆体に加えることができるように、より長い長さを有する反応器と比較して、ローラ間の距離が比較的短い反応器に異なる延伸比を適用することができる。
【0391】
延伸比は、下流(すなわち、出口側)の張力装置の伝達速度と比較した、事前安定化反応器の上流(すなわち、入口側)の張力装置の伝達速度によって決定される。下流伝達速度が上流速度よりも高い場合、延伸比は正であり、加えられる張力を増加させるために前駆体に伸長荷重が加えられている。逆に、上流速度が下流速度よりも高い場合、延伸比は負であり、加えられる張力を低減するために圧縮荷重が前駆体に加えられる。いくつかの実施形態では、収縮度および他の固有の材料特性の変化は、所望の所定の実質的に一定の張力を前駆体に加えるように負の延伸比が使用されるようなものであってもよい。他の実施形態では、正の延伸比を使用することができる。
【0392】
いくつかの他の実施形態では、0%の延伸比が使用されるように伝達速度が選択される。したがって、いくつかの実施形態では、事前安定化反応器の上流および下流に配置された張力装置は、前駆体繊維を延伸することなく吊り下げられた前駆体繊維に所望の量の張力を確実に加えることができるように動作することができる。例えば、事前安定化反応室の上流および下流に配置された張力装置の駆動ローラは、反応器を通って移動するときにその間に懸架された前駆体繊維が確実に伸張されないようにするために、同じ回転速度で動作することができる。
【0393】
いくつかの実施形態では、事前安定化ステップ中に前駆体に加えられる張力は、単一フィラメント引張試験によって決定されるように伸び広がり(標準偏差)が可能な限り低いようなものである。小さな標準偏差、したがって小さな伸び広がりは、前駆体繊維が均一に処理されているかどうかを判定するのに役立ち得る。1つの好ましいことでは、加えられる張力は、事前安定化ステップのための伸長の広がりが未処理(未使用)PAN前駆体の伸長の広がりに可能な限り近くなるようなものである。
【0394】
単繊維サンプルの機械的特性は、「ロボット2」サンプルローダを取り付けたTextechno Favimat+シングルフィラメント引張試験機で試験することができる。この機器は、各繊維の底部に取り付けられた(~80~150mg)のプレテンション重量で、マガジン(25サンプル)に装填された個々の繊維の線密度および力伸長データを自動的に記録する。
【0395】
いくつかの実施形態では、事前安定化ステップに使用されるプロセス条件(すなわち、温度、時間および張力)を決定するとき、事前安定化ステップを実行するために使用される反応室を通る選択された速度での前駆体の搬送を容易にするのに十分なベースライン張力を最初に確認することが有用であり得る。前駆体が輸送される速度は、反応室内の前駆体の滞留時間を決定し得る。反応室内のベースライン張力および滞留時間が決定されると、次いで、前駆体を加熱するための温度を選択することができる。
【0396】
事前安定化ステップにおいて前駆体を加熱するための温度は、前駆体中に存在するニトリル基の一部の環化を開始または促進するのに十分であるが、前駆体の分解を引き起こすほど高くはない。上述のように、ニトリル基の環化は、白色から暗黄色または橙色から赤銅色までの範囲の色への前駆体の色の変化として視覚的に示され得る。したがって、前駆体の色の変化は、いつニトリル基環化が開始され得るかの指標をもたらし、加熱温度を選択するための視覚的合図として使用することができる。
【0397】
実際には、加熱温度を選択するために、前駆体に加えられるベースライン張力および反応室内の前駆体の滞留時間がそれぞれ固定されたままで、前駆体を様々な異なる温度で加熱することができる。次いで、前駆体の色の変化が視覚的に決定される。前駆体の初期色変化が観察される温度は、その前駆体を事前安定化するために使用することができる最低温度と見なすことができる。
【0398】
1つの好ましいことでは、前駆体は、分解温度より30℃以下低い温度で加熱される。PAN前駆体を前駆体の分解温度の30℃以内の高温で加熱すると、前駆体に短期間(例えば約2分以内)で色変化が起こり得ることが分かった。色の変化は、視覚的に識別することができ、前駆体において生じる化学的変化(環化および芳香族化反応など)を示すことができる。
【0399】
いくつかの実施形態では、前駆体は、前駆体の分解温度に近い高温で実質的に酸素を含まない雰囲気内で加熱されてもよい。実質的に酸素を含まない雰囲気中にあるときの前駆体分解温度に近い高温でのPAN前駆体の加熱は、約5分未満、約4分未満、約3分未満、または約2分未満の期間で、少なくとも10%、好ましくは20%~30%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体の形成を促進することができると考えられる。
【0400】
いくつかの実施形態では、前駆体の分解温度に近い温度で前駆体を加熱することにより、事前安定化前駆体の迅速な形成を促進することができる。
【0401】
加熱温度が決定されると、次いで、選択された加熱温度および時間条件下で前駆体中のニトリル基環化の所望のレベル(%EOR)を促進する張力値が特定されるまで、前駆体に加えられる張力の量がベースライン値から調整される(例えば、増加)。上述のように、%EORは、FT-IR分光法によって決定することができる。
【0402】
前駆体中の所望の%EORを与える張力値が特定されると、得られた事前安定化前駆体に対して試験を実施して、前駆体が所望のパラメータ内の機械的特性(例えば、引張特性)、質量密度および外観などの特性を有するかどうかを確認することができる。必要に応じて、前駆体に加えられる張力の量が、所望のレベルのニトリル基環化(%EOR)を有する事前安定化前駆体を形成するのに十分であるだけでなく、所望の色、機械的特性、質量密度および/または外観も形成するのに十分であるように、張力パラメータを微調整するためにさらなる調整を行うことができる。
【0403】
いくつかの実施形態では、前駆体は、最大量の環化ニトリル基を達成する可能性を有し、PAN前駆体繊維に加えられる張力の量は、事前安定化前駆体繊維における最大量の環化ニトリル基の形成を促進するように選択されることが望ましい場合がある。この張力は、「最適張力」値と呼ばれることがある。したがって、実質的に酸素を含まない雰囲気下でPAN前駆体中で達成可能なニトリル基の反応の程度(%EOR)は、約最適化された張力値で最も高い。
【0404】
最適化された張力値は、実質的に酸素を含まない雰囲気中の温度および時間の予め選択された条件が一定のままで、前駆体繊維に異なる量の実質的に一定の張力を加えることによって決定され得る。所与の前駆体繊維に加えられる張力の量が増加するにつれて、FT-IR分光法によって測定されるように、ニトリル基環化度(%EOR)は、最大値に達するまで増加することが分かった。最大%EORは、使用される事前安定化条件のもとで前駆体繊維において生成される環化ニトリル基の最大量に対応する。最大値に続いて、加えられる張力の量が増加しても、環化ニトリル基の程度または量は減少する。したがって、「ベル型」%EOR対張力曲線を形成することができる。ベル型の曲線は、一般に、ピーク%EORを含み、これは、その所与の前駆体について達成可能な最大%EORに対応する。したがって、予め選択された温度および時間パラメータの下でニトリル基環化の最大範囲(すなわち、最大%EOR)をもたらす張力値は、そのPAN前駆体の最適化された張力である。
【0405】
いくつかの実施形態では、安定化前駆体が改善された効率で形成されることを可能にするために、事前安定化前駆体が最大量の環化ニトリル基を有することが望ましい場合がある。
【0406】
前駆体は、最大量のニトリル基環化を達成する可能性を有することができ、本発明のいくつかの実施形態では、張力装置は、前駆体に加えられる張力の量が前駆体中の最大ニトリル基環化を促進するように選択されるように構成される。したがって、そのような実施形態では、最大量の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するように、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で選択された温度および選択された期間加熱されるとき、最適化された量の張力が前駆体に加えられ得る。最適化された張力は、前駆体中に少なくとも10%の環化ニトリル基を生成し、前駆体中に10%を超える環化ニトリル基を生成してもよく、好ましくは生成する。
【0407】
異なる商業的供給業者からのPAN前駆体のわずかに異なるポリマー組成のために、PAN前駆体について達成可能な異なる最大%EORおよび最大化ニトリル基環化を促進することができる最適化された張力は、異なる前駆体について異なり得ることが理解されよう。例えば、PAN前駆体は、組成およびトウサイズなどのパラメータの範囲が異なり得る。したがって、前駆体において達成可能な最適化された張力および環化ニトリル基の最大量は、異なる前駆体供給原料によって変化し得ることが理解されよう。例えば、いくつかの前駆体供給原料では、最大40%の環化ニトリル基の可能性が達成され得るが、他の前駆体供給原料では、最大20%の環化ニトリル基のみが可能であり得る。
【0408】
いくつかの実施形態では、10%を超えるがその前駆体について達成可能な環化ニトリル基の最大量未満である環化ニトリル基の量を有する事前安定化前駆体を形成することができるように、張力パラメータの許容可能な動作窓が存在してもよい。すなわち、事前安定化前駆体は、最大%EORから変化し、最大%EOR未満であるが、10%より大きいままである中間量の環化ニトリル基を有することができる。
【0409】
いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、最適な量の環化ニトリル基を有することができ、最適な量は、環化ニトリル基の最大量(最大%EOR)、ならびにその許容可能な変動を含む。したがって、「最適量」は、最適化された張力で得られる所与の前駆体について達成可能な最大%EOR、ならびに最適化された張力より上または下の張力で得られる%EORの許容可能な部分最大値を含み得る。%EOR対張力曲線の文脈において、環化ニトリル基の「最適量」は、%EOR対張力曲線において最大%EORを表すピークを囲む領域によってもたらされる許容可能な動作窓内の量であり、最大%EORを下回る%EORの許容可能な値を包含する。
【0410】
最大未満であるが、最適な量の環化ニトリル基は、それでもなお、事前安定化、安定化前駆体の効率的な形成を促進し得る。
【0411】
最適量の環化ニトリル基として適格であり、効率的な前駆体処理に許容されると考えられる最大%EORからの変動量は、前駆体および最大%EORの値に依存し得る。当業者であれば、最大%EORからのより大きな変動は、最大%EORのより高い値が前駆体において達成され得る場合に許容され得るが、最大%EORのより小さい値が達成可能である場合には、最大%EORからのより小さい変動のみが許容され得ることを理解するであろう。
【0412】
最大量の環化ニトリル基を達成する可能性がある前駆体の場合、いくつかの実施形態では、前駆体に加えられる張力の量は、事前安定化前駆体中の最大達成可能なニトリル基環化よりも最大80%少ない環化を促進するように選択される。いくつかの実施形態では、前駆体に加えられる張力の量は、事前安定化前駆体中の最大到達可能ニトリル基環化よりも最大70%少ない、最大60%少ない、最大50%少ない、最大40%少ない、最大30%少ない、または最大20%少ない環化を促進するように選択することができる。前述の範囲の各々は、独立して、所与の前駆体中に最適な量の環化ニトリル基を形成することができる窓を表すことができる。
【0413】
1つの例示的な例において、前駆体において達成され得る環化ニトリル基の最大量が50%である場合、その前駆体に加えられる張力は、10%~50%の範囲内の環化ニトリル基の量を有する事前安定化前駆体を形成するように選択されてもよい。したがって、この例では、%EORで40%までの許容可能な動作範囲があり得る。さらに、この例では、10%の量は、事前安定化前駆体に許容される環化ニトリルの最小量を表す。この10%の値はまた、達成可能な最大ニトリル基環化の約80%(すなわち、50%の80%)の量を表す。最適な量を表す環化ニトリル基の量は、10~50%の範囲内のものから選択されてもよく、この%EOR範囲内の環化ニトリル基の量を促進する張力が、いくつかの好ましいことにおいて選択されてもよい。
【0414】
他の例示的な例では、前駆体において達成され得る環化ニトリル基の最大量が30%である場合、その前駆体に加えられる張力は、10%~30%の範囲内の環化ニトリル基の量を有する事前安定化前駆体を形成するように選択されてもよい。したがって、この例では、%EORで20%までの許容可能な動作範囲があり得る。したがって、10%環化ニトリル基の最小値は、達成可能な最大ニトリル基環化の約67%(すなわち、30%の67%)の量を表す。したがって、上記の例示的な例と同様に、最適な量を表す環化ニトリル基の量は、10~30%の範囲内のものから選択されてもよく、この%EOR範囲内の環化ニトリル基の量を促進する張力が、いくつかの好ましいことにおいて選択されてもよい。
【0415】
さらに他の例示的な例では、前駆体中で達成することができる環化ニトリル基の最大量が20%である場合、達成可能な最大ニトリル基環化より80%少ない環化は4%の環化ニトリル基を表す。しかしながら、4%の値は、本発明による事前安定化前駆体に必要な少なくとも10%の環化ニトリル基の最小閾値を下回ることが理解されよう。したがって、そのような状況では、許容可能な動作窓は、10%環化ニトリル基の下限閾値によって制限され、その前駆体に加えられる張力は、10%~20%の範囲内の量の環化ニトリル基を形成するように選択されるだけでよい。したがって、この例では、達成可能な最大ニトリル基環化の50%(すなわち、20%の50%)までしかもたらさない操作窓が許容される。したがって、10~20%の範囲の環化ニトリル基の量は、最適な環化ニトリル基の量を表すことができ、この%EOR範囲内の環化ニトリル基の量を促進する張力が、いくつかの好ましいことにおいて選択され得る。
【0416】
いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、環化ニトリル基の下限(または最小)量として少なくとも15%または少なくとも20%の環化ニトリル基を有してもよい。そのような実施形態では、最大%EORからの許容可能な変動量は、より小さい窓内であり得る。例えば、前駆体において達成することができる環化ニトリル基の最大量が50%であり、形成された部分安定化前駆体において最小15%のニトリル基環化が必要である場合、その前駆体に加えられる張力は、15%~50%の範囲内の環化ニトリル基の量を形成するように選択されてもよい。したがって、この例では、%EORで35%までの許容可能な動作範囲があり得る。したがって、15%のニトリル環化の最小範囲は、最大ニトリル基環化の約70%(すなわち、50%の70%)の量を表す。
【0417】
前駆体において達成可能な環化ニトリル基の潜在的な最大量よりも少ないが10%よりも多い所望の量の環化ニトリル基が事前安定化前駆体において所望される実施形態では、前駆体に加えられる張力の量は、所望の量の環化基の形成を促進するために、その前駆体の最適化された張力値から変化し得る。最適化された張力からの変動は、最大ニトリル基環化を促進する最適化された張力値より上または下の張力値であり得る。
【0418】
一組の実施形態では、前駆体を選択された温度および選択された期間、実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱すると、最適化された張力から最大20%変化する張力の量を前駆体に加えて、少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成することができる。他の実施形態では、最適化された張力から15%まで、または10%まで変化する張力の量を前駆体に適用して、少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成することができる。
【0419】
本発明の反応器の使用は、事前安定化前駆体を形成する前に前駆体の張力パラメータを決定するステップであり、前駆体の張力パラメータを決定することは、
実質的に酸素を含まない雰囲気中で前駆体を加熱するための温度および期間を選択すること;
前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で選択された温度で選択された期間加熱しながら、前駆体に異なる実質的に一定の張力の範囲を加えること;
フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって、前駆体に加えられた各実質的に一定量の張力について前駆体中に形成された環化ニトリル基の量を決定すること;
ニトリル基環化(%EOR)対張力の程度の傾向を算出すること;
算出された傾向から、少なくとも10%のニトリル基環化および最大ニトリル基環化をもたらす張力の量を特定すること;および
前駆体を事前安定化するために、少なくとも10%のニトリル基環化を生じさせる張力の量を選択すること
を含んでいてもよい。
【0420】
張力パラメータの決定は、理想的には、その前駆体に関して安定化プロセス(本発明の反応器を使用して行われる事前安定化プロセスを含む)を実行する前に、その前駆体に対して行われる。適切には、張力パラメータの決定は、その前駆体から事前安定化前駆体を形成する前に実行される。
【0421】
張力パラメータの決定は、選択された温度および期間条件下で所与の前駆体における所望の程度のニトリル基環化を促進するための適切な量の張力の同定および選択を容易にする。これにより、前駆体が、本発明の反応器を使用する安定化プロセスの一部として、選択された温度および期間の下、実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱されたときに、所望の量の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成することができる。
【0422】
張力パラメータの決定は、(i)所与の前駆体中の少なくとも10%の環化ニトリル基、(ii)前駆体中の最大到達可能量の環化ニトリル基、および(iii)前駆体を選択された温度および時間パラメータの下、実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱した場合に前駆体中に10%~最大到達可能量で生じる中間量の環化ニトリル基の形成を促進することができる張力の量の特定を容易にすることができる。
【0423】
したがって、上記の張力パラメータ決定ステップは、評価される前駆体から生成される事前安定化前駆体において所望の程度のニトリル基環化(%EOR)を達成する張力の量についてスクリーニングするのを助けるために使用され得る。
【0424】
前駆体の張力パラメータの決定は、前駆体が選択された温度および選択された期間、実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱されるときに、前駆体に様々な実質的に一定の量の張力を加えることを含む。したがって、前駆体を加熱するための温度および期間はそれぞれ、この評価中に選択された値に固定されたままである。
【0425】
張力パラメータの決定は、実質的に酸素を含まない雰囲気で前駆体を加熱するための温度および時間の選択された条件は、それぞれ選択された値に固定されたままでありながら、前駆体繊維に異なる量の実質的に一定の張力を加えることを含む。実際には、前駆体に初期張力を加えることが有用であり、これはベースライン張力であってもよい。上述のように、ベースライン張力は、事前安定化反応器を通る前駆体の搬送を容易にするのに十分な張力である。次いで、前駆体に加えられる張力の量は、初期(例えば、ベースライン)値から徐々に増加させることができる。次いで、異なる実質的に一定の張力量の範囲が前駆体に加えられるときに前駆体中に形成される環化ニトリル基の量(%EOR)をFT-IR分光法によって決定する。
【0426】
張力の異なる加える量で形成された環化ニトリル基の量(%EOR)に関するデータが収集されると、ニトリル基環化対張力の程度(%EOR)の傾向を算出することができる。いくつかの実施形態では、ニトリル基環化(%EOR)対張力の程度の傾向の算出は、%EOR対張力曲線を示すグラフの生成を含むことができる。
【0427】
ニトリル基環化の程度(%EOR)対張力の算出された傾向から、前駆体中の(i)少なくとも10%のニトリル基環化、(ii)最大ニトリル基環化、および(iii)10%~最大到達可能量の中間量のニトリル環化を促進する張力の量を同定することが可能である。例えば、いくつかの実施形態では、算出された傾向から、前駆体中の20%~30%の環化ニトリル基の形成を促進し得る張力の量を同定することが可能である。
【0428】
選択された温度および期間の下で前駆体中の所望の選択された%EORを生じさせるか、またはその形成を促進する張力の量が算出された傾向から特定されると、その張力の量は、前駆体の事前安定化に使用するために選択され得る。
【0429】
一般に、少なくとも10%のニトリル基環化を促進する張力の量は、本明細書に記載の事前安定化ステップにおいて前駆体を事前安定化するように選択される。
【0430】
いくつかの実施形態では、10%~50%、15%~45%、または20%~30%のニトリル基環化を促進する張力の量は、本明細書に記載の反応器を使用して事前安定化ステップで前駆体を事前安定化するように選択される。
【0431】
さらに他の実施形態では、前駆体において達成可能な最大ニトリル基環化よりも最大80%、最大70%、最大60%、最大50%、最大40%、最大30%、または最大20%少ない張力促進量が、本明細書に記載の反応器を使用して事前安定化ステップにおいて前駆体を事前安定化するように選択される。
【0432】
他の実施形態では、最大ニトリル環化を促進する張力の量は、本明細書に記載の事前安定化ステップにおいて前駆体を事前安定化するように選択される。
【0433】
反応器を使用して前駆体を事前安定化するときに使用される選択された張力パラメータ(上記のステップに従って決定されている)に加えて、張力パラメータを決定するときに利用される温度および期間もまた、反応器を使用して前駆体を事前安定化するために使用される。これは、所与の前駆体の事前安定化のために異なる温度および/または期間条件が使用される場合、必要な量の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を適切に形成するための所望の張力パラメータが変化し得るためである。
【0434】
一組の実施形態では、PAN前駆体の事前安定化は、ポリアクリロニトリルを含む前駆体を、実質的に一定量の張力を前駆体に加えながら、実質的に酸素を含まない雰囲気中で5分間以下の期間加熱することを含み、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気中で加熱される温度および前駆体に加えられる張力の量は、フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0435】
上述のように、前駆体に加えられる張力は、前駆体中のニトリル基環化の程度を制御することができ、したがって所望の量の環化ニトリル基を達成することができる。本明細書に記載の事前安定化プロセスのいくつかの実施形態では、前駆体に加えられる張力は、FT-IR分光法によって決定されるように少なくとも15%、好ましくは20~30%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するのに十分である。
【0436】
一組の実施形態では、事前安定化ステップ中に、前駆体に実質的に一定量の張力が加えられている間に、前駆体を所定の時間、実質的に酸素を含まない雰囲気中で所定の温度で加熱し、張力の量は、FT-IR分光法によって決定されるように少なくとも10%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を形成するのに十分である。当業者は、10%の値が事前安定化前駆体中の環化ニトリル基の最小量を表し、より多量の環化ニトリル基が事前安定化前駆体中に形成され得ることを理解するであろう。例えば、事前安定化前駆体は、20~30%の環化ニトリル基を有してもよい。いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、FT-IR分光法によって決定されるように10~50%、15~40%、または20~30%の環化ニトリル基を有し得る。
【0437】
いくつかの実施形態では、本発明の装置またはシステムは、反応器から産出される事前安定化前駆体中の環化ニトリル基の割合を監視するように、事前安定化反応器の出口の下流に配置されたインライン反射率FT-IR分光計を備えてもよい。インライン反射率FT-IR分光計は、事前安定化前駆体が出口と出口の下流の第1のローラとの間を移動するときに測定結果を取得できるように配置されてもよい。したがって、インラインFT-IR反射率分光計は、事前安定化反応器の下流に配置された張力装置または材料取扱装置の上流にあってもよい。
【0438】
FT-IR分光データは、制御ユニットに提供することができる。代替的または追加的に、任意の熱電対からの温度測定結果および/または任意のガス速度センサからのガス速度測定結果を制御ユニットにもたらすことができる。さらに、張力装置の任意の張力計またはロードセルからの張力測定結果を制御ユニットにもたらすことができる。さらに、リアクタに備えられた任意の他のセンサからのデータを制御ユニットにもたらすことができる。そのようなセンサは、反応器のガスシールの有効性を感知するために設けられ得るHCNガスおよび/または酸素センサなどのガスセンサを備えることができる。
【0439】
ソフトウェアベースのアルゴリズムを使用して、制御ユニットにもたらされるデータを分析することができる。したがって、制御ユニットを使用して、以下:プロセスガス、シールガス、および冷却ガスのうちの1つまたは複数の温度;反応器内の任意の加熱要素の温度;反応室を通るプロセスガスの流量;反応器から抽出される排気の量;任意の入口へのプロセスガス、シールガスおよび冷却ガスの供給速度;前駆体が反応器を通って搬送される速度;および前駆体に加えられる張力のうちの任意の1つまたは複数を含む1つまたは複数のパラメータを調整すべきかどうかを自動的に評価することができる。ソフトウェアは、反応器の動作を最適化するために前述のパラメータの自動調整を指示することができる。制御システムは、事前安定化プロセス中に連続的に作動することができ、それによって最適な条件が維持されることを保証する。
【0440】
必要に応じて、事前安定化前駆体繊維は、酸素含有雰囲気に曝露される前に任意に収集されてもよい。例えば、事前安定化前駆体繊維は、スプール上に収集されてもよい。
【0441】
しかしながら、事前安定化前駆体は、事前安定化中のPAN前駆体の部分的な環化に少なくとも部分的に起因して、酸化処理ステップのために活性化されると考えられる。この活性化のために、事前安定化前駆体は化学的に不安定であり、酸素含有環境(空気など)にあるときにさらなる反応を受けやすい可能性がある。例えば、不活性雰囲気中で生成され得るジヒドロピリジン構造は、酸素に曝露されたときにフリーラジカル自動酸化によって反応しやすいと考えられる。したがって、この不安定性のために、事前安定化前駆体を貯蔵するのではなく、その形成直後またはまもなく、安定化に適した条件下で、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気に曝露することが有利であり得る。事前安定化前駆体の貯蔵が望まれる場合、貯蔵を実質的に酸素を含まない雰囲気、例えば不活性ガスを含む雰囲気で行うことが有益であり得る。
【0442】
事前安定化ステップから得られた事前安定化前駆体は、未使用のPAN前駆体よりも熱的に安定であると考えられ、示差走査熱量測定(DSC)によって決定されるようにより低い発熱性を有し得る。事前安定化前駆体の発熱挙動の減少は、少なくとも部分的に、事前安定化前駆体中の環化ニトリル基の存在に起因すると考えられる。炭素繊維製造プロセスに移ると、PAN前駆体の加工中に放出されるエネルギの減少は、さらなる酸化発熱反応のより良好な制御を可能にし、したがって炭素繊維製造の安全性を高める。
【0443】
本発明は、反応器を使用して製造された事前安定化前駆体を、安定化前駆体を形成するのに十分な条件下で酸素含有雰囲気に曝露することができる装置およびシステムを提供する。したがって、本発明の安定化装置およびシステムを使用することにより、事前安定化前駆体を安定化前駆体に変換することができる。本明細書に記載のプロセスのこのステップは、本明細書では「酸化」または「酸化」ステップとも呼ばれ得る。
【0444】
本発明において、装置およびシステムは、反応器の下流に酸化反応器を備えてもよく、酸化反応器は、事前安定化前駆体が酸化室を通過するときに事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化するように構成された少なくとも1つの酸化室を備える。
【0445】
酸化ステップ中、事前安定化ステップ中に環化しなかったPAN中のペンダントニトリル基は、ここで環化を受けることができる。したがって、酸化ステップは、事前安定化前駆体繊維の量に対して環化ニトリル基の量(したがって、六角形の炭素-窒素環の量)を増加させ、前駆体中のはしご型構造の割合をより高くする。環化ニトリル基の量を増加させることにより、前駆体は熱安定性の増加を得て、炭素繊維などの炭素系材料を形成するために使用することができる、本明細書に記載のその後の炭化プロセスのために適切に調製される。
【0446】
高い割合の環化ニトリル基を含む安定化前駆体は、引張特性を含む望ましい物理的および機械的特性を有する高品質炭素材料の形成を可能にするために有益であり得る。いくつかの実施形態では、安定化前駆体は、少なくとも50%の環化ニトリル基、好ましくは少なくとも60%の環化ニトリル基を含み得る。安定化前駆体は、最大約85%の環化ニトリル基を含み得る。特定の実施形態では、安定化前駆体は、約65%~75%の環化ニトリル基を含み得る。
【0447】
少なくとも10%の環化ニトリル基を含む事前安定化前駆体を形成するために本発明の反応器を使用することにより、安定化前駆体中の所望の量の環化ニトリル基をより短い時間で、付随してより低いエネルギ消費およびコストで得ることが可能であり得る。
【0448】
当業者は、酸化ステップ中に、脱水素および酸化反応ならびに分子間架橋反応などの追加の化学反応も起こり得ることを理解するであろう。ポリマー骨格に沿った脱水素反応は共役電子系および縮合環構造の形成をもたらし得るが、酸化反応はカルボニルおよびヒドロキシル官能基の形成をもたらし得る。
【0449】
酸化ステップ中に事前安定化前駆体が曝露される酸素含有雰囲気は、適切な量の酸素を含む。
【0450】
酸素含有雰囲気は、酸素のみ(すなわち分子状酸素またはO)を含んでもよく、または混合物中の1つまたは複数のガスと組み合わせて酸素を含んでもよい。いくつかの実施形態では、酸素含有雰囲気の酸素濃度は、5体積%~30体積%である。
【0451】
一実施形態では、酸素含有雰囲気は空気である。当業者は、空気の酸素含有量が約21体積%であることを理解するであろう。
【0452】
一組の実施形態では、空気などの酸素含有ガスの流れを使用して、酸素含有雰囲気を確立することができる。
【0453】
事前安定化前駆体の酸素含有雰囲気への曝露は、安定化前駆体を形成するのに十分な所望の期間および所望の温度で進行し得る。さらに、いくつかの実施形態では、酸化ステップ中に事前安定化前駆体に張力を加えることもできる。
【0454】
事前安定化ステップと同様に、事前安定化前駆体を安定化前駆体に変換するために酸化ステップ中に使用されるプロセス条件(すなわち、温度、時間および張力)の選択を誘導するために、多くの指標を使用することができる。指標は、別々にまたは組み合わせて考慮されてもよい。酸化プロセス条件は、望ましい特性を有する安定化前駆体繊維の形成を助けるように選択することができる。
【0455】
事前安定化前駆体を安定化前駆体に変換するために使用される酸化プロセス条件の選択は、いくつかの実施形態では、完全安定化前駆体において生成される以下の指標:前駆体の機械的特性(極限引張強度、引張弾性率、および破断伸びの引張特性を含む)、前駆体繊維の直径、前駆体の質量密度、ニトリル基環化の程度(%EOR)、および前駆体の外観(例えば、スキン-コア形態の形成)のうちの1つ以上に関連して所望される結果に依存し得る。酸化中に使用されるプロセス条件は、酸化ステップの終了時に生成される安定化前駆体において望ましい結果を達成するために、上記の指標の1つまたは複数の発生を促進するために調整することができる。
【0456】
いくつかの実施形態では、酸化ステップ中に酸化反応器で使用されるプロセス条件が、望ましい引張特性を有する安定化前駆体を生成するように選択されることが望ましい場合がある。
【0457】
例えば、いくつかの実施形態では、低い引張強度および引張弾性率が高度の前駆体安定化の指標をもたらすことができるため、酸化ステップ中に酸化反応器で使用されるプロセス条件は、酸化ステップから生成された安定化前駆体の極限引張強度および/または引張弾性率の最小値を生成するように選択されることが望ましい場合がある。
【0458】
さらに、いくつかの実施形態では、酸化中に使用されるプロセス条件は、酸化から生成された安定化前駆体において最大破断伸び値を生成するように選択されることが望ましい場合がある。
【0459】
酸化反応器は、事前安定化前駆体を安定化前駆体に変換するために使用される酸化プロセス条件(すなわち、温度、期間および張力)が、所望の引張特性を有する安定化前駆体の形成を助ける酸化ステップ中に、ニトリル基の環化および脱水素化を含む化学反応を適切に促進するように選択されることを可能にするように構成され得る。
【0460】
一例として、酸化ステップ中の固定された温度および時間条件下では、PAN前駆体の極限引張強度および引張弾性率の特性は、事前安定化前駆体に加えられる張力の量が増加するにつれてそれぞれ減少し得ることが見出された。極限引張強度および引張弾性率の減少は、各特性の最小値に達するまで続く。その後、前駆体に加えられる張力の量がさらに増加すると、極限引張強度および引張弾性率が増加する。
【0461】
同様に、酸化ステップ中の一定の温度および時間条件では、最大破断伸び値が達成されるまで、酸化中に事前安定化前駆体に加えられる張力の量が増加するにつれて、安定化PAN前駆体の破断伸びが増加し得る。最大値を超えると、破断伸びは、加えられた張力の対応する増加に対して減少し始める。いくつかの実施形態では、酸化ステップ中に使用されるプロセス条件は、酸化ステップから形成された安定化前駆体の最大破断伸び値を生成するように選択されることが望ましい場合がある。
【0462】
前駆体繊維の直径もまた、酸化ステップの結果として減少し得る。繊維径の減少は、化学反応によって引き起こされる重量損失と繊維収縮との組み合わせの結果である。いくつかの実施形態では、繊維の直径は、酸化ステップ中に前駆体に加えられる張力によって影響され得る。
【0463】
酸化ステップ中のはしご状構造の安定化および発生の進行と共に、前駆体の質量密度は酸化中に増加し、線形傾向に従うことができる。したがって、完全安定化前駆体の質量密度は、酸化ステップのためのプロセス条件の選択を誘導するのを助けるための指標として使用することができる。
【0464】
いくつかの実施形態では、酸化ステップのために選択されるプロセス条件は、約1.30g/cm~1.40g/cmの範囲の質量密度を有する安定化前駆体を得るのに十分である。このような範囲の質量密度を有する安定化前駆体は、高性能炭素繊維の製造に適し得る。
【0465】
酸化プロセス条件の選択に使用され得る他の指標は、安定化前駆体中のニトリル基環化の程度(%EOR)である。反応の程度(%EOR)は、安定化前駆体中の環状構造の割合の測定結果をもたらす。事前安定化ステップ中に生成された%EORの知見と共に、この指標は、酸化安定化プロセス中にどれだけの環化が起こったかを決定することを可能にすることができる。
【0466】
いくつかの実施形態では、酸化ステップのために選択されたプロセス条件は、少なくとも50%の環化ニトリル基、好ましくは少なくとも60%の環化ニトリル基を有する安定化前駆体を形成するのに十分である。安定化前駆体は、最大約85%の環化ニトリル基を有し得る。一組の実施形態では、酸化ステップのために選択されたプロセス条件は、約65%~75%の環化ニトリル基を有する安定化前駆体を形成するのに十分である。安定化前駆体中のニトリル基環化の程度は、本明細書に記載の手順に従ってFT-IR分光法を使用して決定される。
【0467】
本発明の反応器を使用するプロセスの1つの利点は、代替の安定化プロセスと比較して、少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%の環化ニトリル基を有する安定化前駆体をより短い期間で迅速に形成することができることである。
【0468】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の安定化装置またはシステムなどの本発明の反応器を使用する安定化プロセスによって、低密度安定化前駆体を形成することができる。本明細書に記載の事前安定化前駆体を本明細書に記載の酸化安定化条件に供することにより、低密度の安定化前駆体を形成できることが分かった。そのような低密度安定化前駆体は、少なくとも60%、少なくとも65%、または少なくとも70%の環化ニトリル基と、約1.30g/cm~1.33g/cmの範囲の質量密度とを有することができる。そのような低密度安定化前駆体は十分に熱的に安定であり、炭化され、許容可能な特性を有する炭素繊維などの炭素系材料に変換することができることが分かった。本発明の反応器を使用して事前安定化ステップを実施する安定化プロセスは、独特の低密度安定化前駆体を生成し得ると考えられる。
【0469】
酸化プロセス条件の選択を誘導するのを助けるために使用され得るさらなる指標は、完全安定化前駆体の外観である。例えば、スキンコア形成は前駆体のスキンからそのコアへの不均一な安定化の結果であるため、安定化前駆体におけるスキンコア断面形態の形成を制限または回避するためのプロセス条件を選択することが望ましい場合がある。しかしながら、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のプロセスに従って形成された完全安定化前駆体は、スキンコア断面形態を有し得る。さらに、本明細書に記載の実施形態に従って調製された完全安定化PAN前駆体は、好ましくは実質的に欠陥がなく、許容可能な外観を有する。前駆体の溶融または部分的なトウ破損を含む欠陥は、安定化前駆体を用いて調製された炭素材料の低い機械的特性またはさらには故障につながる可能性があると考えられる。
【0470】
本明細書に記載の安定化プロセスに従って形成された安定化前駆体は、熱的に安定であり、裸火に曝露されたときに燃焼に耐性がある。さらに、安定化前駆体は、炭素繊維などの炭素系材料に変換するために炭化することができる。
【0471】
酸化ステップは、室温(約20℃)で行ってもよいが、高温で行うことが好ましい。
【0472】
事前安定化に供された前駆体繊維の場合、酸化ステップは、安定化前駆体の製造に従来使用されている温度よりも低い温度で実施することができる。
【0473】
本明細書に記載の前駆体安定化プロセスのいくつかの実施形態では、安定化前駆体を形成するための酸化ステップは、事前安定化ステップを利用しない従来のまたは代替の安定化プロセスで使用される温度よりも少なくとも20℃低い温度で実施することができる。
【0474】
より低い温度で酸化ステップを実行する能力は、前駆体安定化中に起こる化学反応に起因して生成され得る制御されない熱発生および熱暴走に関連するリスクを低減するのを助けることができるので有利であり得る。さらに、酸化ステップが実施される温度を低下させることによって、前駆体を安定化させるのに必要なエネルギ量も低減され得る。
【0475】
例えば、事前安定化前駆体は酸素に対して感受性であり、「活性化状態」にあり、それによって酸素に対して反応性であると考えられる。したがって、これは前駆体安定化に必要な期間を短縮することができ、大幅なエネルギ節約および製造コスト削減をもたらす。
【0476】
特に、環化ニトリル基の含有量が高い事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気に曝露すると、前駆体の完全安定化につながる酸化反応をより短い期間内に完了させることができることが分かった。したがって、少なくとも10%、少なくとも15%、または少なくとも20%の環化ニトリル基を有する事前安定化前駆体を最初に形成することによって、事前安定化前駆体が酸素含有雰囲気に曝露されたときに前駆体中の酸化安定化反応およびさらなるニトリル基環化の速度を増加させることができ、したがって、安定化前駆体の形成に必要な期間を短縮することができる。
【0477】
いくつかの実施形態では、酸化ステップは高温で行われる。
【0478】
事前安定化および酸化ステップ中に前駆体が受ける温度、ならびにこれらのステップ中に前駆体に加えられる張力はまた、炭素繊維などの炭素材料の製造に使用するのに適した安定化前駆体の迅速な形成を促進することができる。
【0479】
一組の実施形態では、事前安定化前駆体は、所定の温度の酸素含有雰囲気に所定の期間曝露される。
【0480】
所定の温度は、室温(約20℃)~約300℃までの範囲の温度、好ましくは約200℃~300℃の範囲の温度であり得る。
【0481】
所定の期間は、約120分以下、約90分以下、約60分以下、約45分以下、約30分以下、および約20分以下からなる群から選択されてもよい。
【0482】
事前安定化前駆体が所定の温度の酸素含有雰囲気に所定の期間曝露されると、酸素含有雰囲気中にある間に、上述の指標の1つまたは複数の発生を促進し、したがって炭素繊維製造に適した望ましい特性を有する安定化前駆体の形成を助けるために、事前安定化前駆体に張力が加えられ得る。
【0483】
一実施形態では、本発明の装置は、酸化ステップを実行するときに、酸素含有雰囲気中で事前安定化前駆体を加熱するための酸化反応器を備える。1つの好ましいことでは、酸素含有雰囲気は、少なくとも10体積%の酸素を含む。酸素含有雰囲気は、適切な量の酸素を含み得る。一実施形態では、酸素含有雰囲気は空気である。
【0484】
当業者は、酸化ステップ中に起こる酸化安定化反応が酸素原子を消費し得ることを理解するであろう。結果として、酸素含有雰囲気中の酸素の含有量は、酸素含有雰囲気を確立するために使用されるガス中の酸素含有量よりも少なくてもよい。
【0485】
いくつかの実施形態では、酸化プロセスにおける酸素の消費を補償するために必要に応じてより多くの酸化ガスを供給するための補助ガス入口があってもよい。あるいは、補助ガス入口を使用して、異なる組成のガスを酸化ガスに添加して、酸化室内に所望のガス組成をもたらすことができる。例えば、いくつかの実施形態では、酸素に富むガス混合物を導入して、予想されるレベルよりも高い酸素消費を補償することができる。いくつかの実施形態では、酸化反応器の強制ガス流アセンブリは、酸化室から酸素含有ガスを受け取り、酸素含有ガスを酸化室に戻して、酸化室を通して酸素含有ガスを再循環させるように配置された少なくとも1つの戻りダクトを備えてもよい。これらの実施形態では、補助ガス入口は、戻りダクトにガスを供給するためのものであってもよい。そのような実施形態では、補助ガスは、酸素含有ガスの再循環流と共に酸化反応器に流入することができる。いくつかの実施形態では、酸化プロセスにおける酸素の消費を補償するために必要に応じてより多くの酸化ガスを供給するために、バルブまたはダンパによって制御される補助ガス入口があってもよい。
【0486】
1つの好ましいことでは、事前安定化前駆体は、安定化前駆体を形成するために酸化反応器を使用して空気中で加熱される。
【0487】
酸化ステップは、事前安定化ステップの温度よりも高いまたは低い温度で実施されてもよい。あるいは、酸化ステップは、事前安定化ステップに使用される温度とほぼ同じ温度で実行されてもよい。
【0488】
特定の実施形態では、事前安定化前駆体は、反応器内の実質的に酸素を含まない雰囲気の温度よりも低い温度で酸素含有雰囲気中で加熱される。すなわち、酸化ステップは、事前安定化ステップの温度よりも低い温度で実行されてもよい。
【0489】
一形態では、酸化ステップは、周囲室温より高く、事前安定化ステップで使用される温度より低い温度で実行される。
【0490】
いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、事前安定化ステップで使用される温度よりも少なくとも20℃低い温度で酸素含有雰囲気中で加熱されてもよい。
【0491】
1つの好ましいことでは、事前安定化前駆体繊維は、酸素含有雰囲気中で約200~300℃の範囲の温度で加熱される。
【0492】
酸化ステップが高温で行われる場合、事前安定化前駆体は、実質的に一定の温度プロファイルまたは可変の温度プロファイルの下で加熱されてもよい。
【0493】
一組の実施形態では、事前安定化前駆体は、可変温度プロファイル下で加熱される。例えば、事前安定化前駆体は、最初に選択された温度で加熱されてもよく、次いで、酸化ステップが進むにつれて温度が上昇してもよい。一例として、事前安定化前駆体は、最初に約230℃の温度で加熱されてもよく、酸化ステップ中に約285℃まで温度が上昇する。
【0494】
事前安定化前駆体の加熱は、適切に加熱された酸化反応器内で行われてもよい。
【0495】
いくつかの実施形態では、適切な酸化反応器は、当技術分野で周知のものなどの従来の酸化反応器を備える。これらの実施形態では、酸化反応器の動作パラメータは、事前安定化前駆体を酸化するために上記のように調整される。したがって、いくつかの実施形態では、事前安定化反応器は、そうでなければ従来の構成要素で作られる炭素繊維製造システムの一部を形成する。
【0496】
例示的な酸化反応器は、空気などの酸素含有雰囲気を収容するように構成された炉またはオーブンであってもよい。
【0497】
以下でさらに詳細に説明するように、酸素含有ガスの流れを使用して、酸化室内に酸素含有雰囲気を確立することができる。
【0498】
公知の炭素繊維製造システムは、典型的には、前駆体の従来の安定化のための反応時間をもたらすために、いくつかの酸化室を備える。上記のように、従来の安定化は、完了するまでに数時間かかる可能性があり、その結果、前駆体安定化は、炭素繊維製造における時間とエネルギを要するステップとなり得る。しかしながら、本発明の反応器を使用して製造された事前安定化前駆体は、事前安定化ステップ中にPAN前駆体繊維中のニトリル基の部分的な環化のために酸化ステップのために活性化され得る。したがって、事前安定化は、安定化前駆体をより迅速に形成することを可能にすることができる。したがって、本発明の反応器を使用することにより、製造システムに必要な酸化室が少なくなり得る。
【0499】
いくつかの実施形態では、事前安定化反応器は、既存の炭素繊維製造システムに後付けされる。本発明の反応器を追加することにより、炭素繊維製造システムの効率および能力を改善することができる。
【0500】
既存の炭素繊維製造システムに後付けするために、反応器は、未使用の前駆体の供給源と既存の酸化室との間に配置される。典型的には、前駆体供給源と酸化室との間の空間は制限される。限られた空間に配置するのに適した反応器をもたらすために、本発明は、いくつかの実施形態では、垂直反応器を提供する。反応器を垂直に向けることによって、反応器の設置面積を最小化することができ、その結果、前駆体供給源と酸化室との間の限られた空間に反応器を配置することができる。
【0501】
商業規模のシステムでは、前駆体供給源と酸化室との間の空間は、反応器の設置面積が約1,500mm~2,000mmの長さであるようなものであり、反応器の幅は既存の酸化室の幅に対応し、その結果、システム全体にわたって一貫した幅の前駆体を処理することができる。
【0502】
小規模システムの場合、反応器の設置面積は1,000mm未満の長さであり得る。いくつかの実施形態では、設置面積は600mm程度の低さであり得る。反応器の幅は、1,000mmほどの低さであり得る。
【0503】
いくつかの実施形態では、垂直反応器は、前駆体に所望の流路をもたらすように1つまたは複数の内部ローラを備える。上記のような内部ローラの配置は、垂直反応器で使用されてもよい。例えば、垂直反応器のいくつかの実施形態では、入口および出口は反応器の下端に配置され、反応器は、前駆体を入口から出口に通過させ、反応室を通過させるためのローラをさらに備え、ローラは反応器の上端に配置され、実質的に酸素を含まない雰囲気中に配置される。すなわち、いくつかの実施形態では、反応室が垂直に向けられており、反応器が下端と上端とを有し、入口および出口が反応器の下端に配置されており、反応器が、入口から出口まで反応室を通って前駆体を通過させるためのローラをさらに備え、ローラが、反応器の上端に配置され、実質的に酸素を含まない雰囲気中に配置されるためのものである。
【0504】
いくつかの実施形態では、入口が反応器の一端に配置され、出口が反応器の他端に配置される垂直反応器(すなわち、反応室が垂直に向けられている反応器)が提供されてもよい。これらの実施形態では、垂直反応器は、反応器の長さが所望の滞留時間をもたらすのに十分であり得るので、反応器の上端に内部ローラを備えなくてもよい。典型的には、そのような実施形態は、製造設備の天井高のために10,000mmの有効加熱長に制限される。
【0505】
いくつかの実施形態では、垂直反応器は、最大17,000mmの高さを有することができる。しかしながら、一般に、垂直実施形態は、生産設備の天井高のために10,000mmの高さに制限されることが多い。さらに、垂直反応器がより高くなるにつれて、特に反応器の設置面積が小さいため、反応器の安定性を保証するために追加の支持体が提供されなければならない。
【0506】
垂直反応器は、既存の炭素繊維製造システムに後付けされることに限定されないことが理解されよう。
【0507】
本発明はまた、本発明による事前安定化前駆体を製造するための反応器、および反応器の下流の酸化反応器を備える、炭素繊維用の前駆体を安定化するための装置を提供し、酸化反応器は、事前安定化前駆体が酸化室を通過するときに、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化するように構成された少なくとも1つの酸化室を備える。この酸化反応器は、本発明の反応器と組み合わせて使用するために構成させることができる。
【0508】
上述のように、事前安定化のための滞留時間は、典型的には酸化のための滞留時間よりも短い。炭素繊維の連続製造のためのシステムを備える、安定化前駆体の連続製造のためのシステムでは、前駆体は、共通の供給速度でシステム全体に供給される。実際には、そのシステムライン速度は、安定化前駆体および/または炭素繊維の所望の製造速度をもたらすように選択される。
【0509】
前駆体が酸化反応器を通過するのと同じ速度で事前安定化のために反応器を通過するので、前駆体が酸化反応器を通過する距離を、前駆体が事前安定化反応器を通過する距離に対して増加させることによって、より長い酸化のための滞留時間がもたらされる。これは、事前安定化のために反応室に対する酸化室の長さの1つ以上を調整し、酸化室の数を調整し、各酸化室を通過する回数を調整し、酸化反応器の数を調整することによって達成され得る。例えば、いくつかの実施形態では、システムは、単一の反応室および単一の酸化室を有することができるが、酸化のためのより長い滞留時間をもたらすように、酸化室は反応室よりも長くなる。いくつかの他の実施形態では、酸化反応器は、所望の滞留時間をもたらすために複数の酸化室を備える。
【0510】
いくつかの実施形態では、本発明は、事前安定化反応器と酸化反応器とが積層される装置の実施形態を提供する。いくつかの実施形態では、事前安定化反応器は、酸化反応器の下に配置されてもよい。他の実施形態では、事前安定化反応器は、酸化反応器の上方に配置されてもよい。
【0511】
そのような積層構成は、従来の炭素繊維製造システムで使用される酸化室よりも比較的コンパクトな安定化装置を提供することができる。いくつかの実施形態では、安定化装置が、標準的な40フィートの輸送コンテナ内に収まるように構成されてもよい。本明細書で使用される場合、「標準40フィート輸送コンテナ」は、特に、海による物品の輸送のために多数使用されるタイプの40フィート容器を備えると解釈される。問題の容器は、国際標準化機構(ISO)規格の対象であり、以下のサイズで入手可能である:長さ:40フィート(12,192mm);幅8フィート(2,438mm);高さ8フィート6インチ(2,591mm)または9フィート6インチ(2,896mm)。したがって、いくつかの実施形態では、安定化装置は、12,056mm(長さ)×2,347mm(幅)×2,684mm(高さ)未満の容積を有することができる。そのような装置は、年間最大1,500トンの生産量に適し得る。
【0512】
コンパクトなサイズの装置は、輸送物流を有利に単純化し、生産設備の構築を容易にすることができる。
【0513】
さらに、本発明の装置は、同じ生産量で前駆体を安定化するために必要な従来の酸化室よりも小さい設置面積を有することができる。したがって、本発明を使用することにより、生産設備の単位面積当たりに達成され得る生産量を増加させることができる。したがって、製造設備のサイズ要件を低減することができる。
【0514】
上記のように、酸化反応器内の滞留時間は、典型的には、事前安定化反応器内の滞留時間よりも長い。積層構成を有する実施形態では、安定化装置全体にわたって一貫した前駆体速度を使用することが望ましい。また、積層構成を有する実施形態では、酸化反応器の全長は、事前安定化反応器の長さに制限されてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、酸化反応器を通る前駆体の流路は、所望のより長い滞留時間をもたらすように選択される。実際には、前駆体は、事前安定化反応器よりも酸化反応器を多く通過するように、1つまたは複数の酸化室を通過する。
【0515】
酸化通過に対する事前安定化通過の比は、事前安定化および酸化のための相対的な滞留時間を反映する。この比は、前駆体の種類、ならびに事前安定化および酸化の各ステップに使用されるプロセス条件に応じて変化する。いくつかの実施形態では、通過の比は約1:8であり得る。
【0516】
一般に、本発明の反応器と共に使用するのに適した酸化反応器の酸化室は、前駆体が酸化室を通過するときに酸素含有雰囲気中で前駆体を安定化するように構成される。前駆体は、典型的には入口デッキを通過した後に酸化室に入る前に、入口を介して酸化反応器に入る。酸化反応室を通過した後、前駆体は、典型的には、出口を介して排出する前に、出口デッキを通過する。
【0517】
酸素含有雰囲気中での事前安定化前駆体繊維の加熱は、所望の時間量および所望の温度で進行し得る。酸化室内の所望の滞留時間は、酸化室内の温度の影響を受ける可能性があり、逆もまた同様である。例えば、より高い温度が使用される実施形態では、より低い温度が使用される実施形態と比較して、酸化室内の滞留時間を短縮することが望ましい場合がある。
【0518】
本発明の酸化反応器は、典型的には、酸化室に酸素含有ガスを送達するための酸化ガス送達システムを備え、ガス送達システムは、酸素含有雰囲気中で事前安定化前駆体を加熱するために酸化室または各酸化室内に加熱された酸素含有ガスの流れをもたらすための強制ガス流アセンブリを備える。
【0519】
反応器内の強制ガス流と同様に、加熱された酸素含有ガスの流れを使用して、事前安定化前駆体を反応温度まで上昇させる。酸素含有ガスは、本明細書では「酸化ガス」とも呼ばれる。
【0520】
酸化中、事前安定化ステップ中に環化しなかった前駆体中のニトリル基がここで環化を受けるので、発熱エネルギが依然として放出される。管理されていない場合、放出される発熱エネルギの量は、事前安定化前駆体の温度を著しく上昇させ、事前安定化前駆体を損傷させ、火災の危険性をもたらす可能性がある。熱暴走を回避するために、加熱された酸化ガスの温度および流量は、事前安定化前駆体の温度を許容限界内に維持するように選択される。したがって、ガス流は、前駆体が酸化室を通過するときに前駆体の温度を制御するために使用することができる。加熱されたガス流は、事前安定化前駆体を通る酸素拡散を促進するのをさらに助けることができ、また、酸化ステップ中に前駆体で発生する化学反応の結果として放出される有毒ガスを取り除くことを助けることができる。
【0521】
典型的には、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度が酸化ガスの温度の60℃以内、好ましくは酸化ガスの温度の50℃以内であるようなものである。本明細書で使用される場合、「前駆体に隣接する」とは、前駆体の10mm以内、好ましくは前駆体の3mm以内、より好ましくは前駆体の1mm以内を意味する。いくつかの実施形態では、ガス流量は、実際の前駆体温度が酸化ガスの温度の60℃以内、好ましくはガスの温度の50℃以内であるようなものであってもよい。
【0522】
酸化ガスの温度は、前駆体から少なくとも30mm、好ましくは前駆体から少なくとも40mm、より好ましくは前駆体から少なくとも50mm離れて測定されたガス流の温度である。
【0523】
酸化ガスの温度は、酸化室内に適切に配置された熱電対を使用して監視することができる。すなわち、酸化反応器は、適切に配置される熱電対を備えてもよい。いくつかの実施形態では、酸化反応器は、各酸化ゾーンの各端の近位に熱電対を備える。いくつかの実施形態では、熱電対または各熱電対は、酸化ガス温度の連続的な監視を可能にするように構成されてもよい。
【0524】
いくつかの実施形態では、酸化反応器は、前駆体に隣接する温度を測定することを可能にするために、前駆体に隣接して熱電対を周期的に配置することを可能にするように構成される。いくつかの実施形態では、酸化反応器は、前駆体が酸化室を通過するときに前駆体の実際の表面温度を監視するのに適した赤外線温度センサを備えることができる。
【0525】
強制ガスの流量は、事前安定化前駆体の周りに乱流ガス流が存在するのに十分高い。事前安定化反応器と同様に、酸化反応器において、前駆体の近傍のこの局所的な乱流は、反応副生成物の効果的な除去を容易にするとともに、酸化中の事前安定化前駆体の発熱挙動の管理を助ける何らかの繊維撹拌および振盪を誘発する。ガス流中の繊維の撹拌は、繊維の温度が許容限界内に留まることを確実にするように、前駆体から酸化ガスの流れへの熱伝達を促進することができる。
【0526】
さらに、酸化ガス内での事前安定化前駆体の撹拌は、酸化プロセスが効率的かつ効果的であるように、前駆体を酸素と効果的に接触させるのを助けることができる。
【0527】
強制ガスの流量は、高すぎないように制御される。強制ガスの流量は、繊維の破損を含む繊維の損傷につながる可能性があるため、前駆体が過度に撹拌されるほど高くはならない。さらに、過剰な流量は、ガスシールアセンブリによってもたらされるガスシールの性能が損なわれるように酸化反応器を過剰に加圧する可能性がある。例えば、過剰加圧は、入口および出口を通る反応器からの許容できないレベルの付随的なガス流をもたらし得る。
【0528】
この局所的な乱流ガス流は乱流境界層であることが理解されよう。この境界層の厚さは、事前安定化前駆体付近の局所的な乱流ガス流を除いて、反応室を通るガス流の大部分が実質的に層状であるように、反応室の高さよりも小さくてもよい。そのような実施形態は、酸化室の高さが酸化室の長さに対して大きい反応器を備えることができる。長さに対する高さの比が大きい酸化室は、より小さい生産能力を有し得、研究開発用途に適した酸化反応器の一部であり得る。それにもかかわらず、事前安定化前駆体の温度を均一に制御するために、酸化ガスに可能な限り均一な流れをもたらすことが望ましい。低ガス流量の領域は、酸化室内に「ホットスポット」の形成をもたらす可能性があり、これは、事前安定化前駆体を損傷する局所的な過熱をもたらす可能性がある。ガス流の均一性は、酸化室の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス流に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。酸化ガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。
【0529】
いくつかの他の実施形態では、酸化室の高さと比較したこの境界層の厚さは、酸化室を通る流れが主に乱流になるようなものである。そのような流れは、長さに対する高さの比がより小さい酸化室内にあってもよい。酸化室の高さが酸化室の長さに対して小さいこれらの反応器は、より大きな生産能力を有することができ、商業用途に適した酸化反応器の一部であり得る。
【0530】
一実施形態では、事前安定化前駆体から酸化ガスの強制ガス流への熱伝達を促進するために、酸化室を通るガス流の大部分が実質的に乱流であることが望ましい。乱流のより大きな領域は、対流による前駆体からの熱伝達を促進することができる。事前安定化前駆体の温度を均一に制御するために、プロセスガスに可能な限り均一な流れをもたらすことが依然として望ましい。ガス流の低い領域は、反応室内に「ホットスポット」の形成をもたらし得、これは前駆体を損傷する局所的な過熱をもたらし得る。ガス流の均一性は、酸化室の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス速度に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。プロセスガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。適切な乱流を確保するために、酸化ガス流は、ガス流の方向に沿って主酸化ガス入口から1.0mを超える点で算出した場合に、流れのレイノルズ数が10万を超えるようなものでなければならない。
【0531】
いくつかの実施形態では、酸化反応器は、強制酸化ガス流の速度を監視するために、風速計または圧力計の形態の1つまたは複数のガス速度センサを備えることができる。酸化ガスのガス流速を測定するように、ガス流速センサは、ガス流の速度が、事前安定化前駆体から少なくとも30mm離れて、好ましくは前駆体から少なくとも40mm離れて、より好ましくは前駆体から少なくとも50mm離れて測定されるように配置されてもよい。
【0532】
いくつかの実施形態では、酸化反応器は、酸化オーブンの各ゾーンの各端の近位にガス速度センサを備える。いくつかの実施形態では、ガス速度センサまたは各ガス速度センサは、プロセスガス温度の連続監視を可能にするように構成されてもよい。
【0533】
酸化反応器が1つまたは複数の熱電対を備える実施形態では、1つまたは複数のガス速度センサはそれぞれ熱電対と同じ場所に配置されてもよい。
【0534】
多くの場合、酸化ガスが酸化室を通って流れる際に良好な流れ均一性を酸化ガスにもたらすように、強制酸化ガス流アセンブリは、酸化ガスが事前安定化前駆体の酸化室を通る通路とほぼ平行に流れるように酸化ガスを供給するように構成される。例えば、強制ガス流アセンブリは、酸化ガスの中心から端への流れを供給するように構成されてもよい。例えば、米国特許第4,515,561号明細書は、加熱空気流が炭素繊維前駆体の周りを循環し、進行方向に平行な方向で前駆体と接触するオーブンを開示している。
【0535】
酸化室に酸化ガスを供給するための他の構成が知られており、事前安定化前駆体の通過に対して酸化ガスのクロスフローを供給することを含むことができる。これらの実施形態では、強制ガス流アセンブリは、反応室の一方の側から他方の側に移動するガスの流れをもたらすように構成されてもよい。あるいは、強制ガス流アセンブリは、酸化ガスを垂直に供給するように構成されてもよい。例えば、強制ガス流アセンブリは、酸化室の上部から床に向かって、またはその逆に、酸化ガスの流れをもたらすように構成されてもよい。米国特許第6,776,611号明細書は、酸化ガスが炭素繊維前駆体の周りを循環し、進行方向に垂直な方向で前駆体と接触する酸化反応器を記載している。
【0536】
これらの代替構成では、ガス流の所望の均一性を達成することがより困難になり得る。例えば、酸化ガスの垂直流では、ガスは事前安定化前駆体を通過しなければならず、これは、事前安定化前駆体のトウ間を通過する際にベンチュリ効果をもたらし得る。したがって、酸化ガスの中心から端への流れをもたらすように構成された強制ガス流アセンブリが、典型的には好ましい。
【0537】
酸化反応器の強制ガス流アセンブリの実施形態では、反応器の強制ガス流アセンブリについて上述したのと実質的に同じ構成を使用することができる。
【0538】
発熱挙動は、事前安定化前駆体間で異なり得る。したがって、酸化反応器内の温度およびガス流は、前駆体の安定化を適切に完了し、酸化中の前駆体の発熱挙動を管理するように、各事前安定化前駆体に適合される。
【0539】
いくつかの実施形態では、安定化前駆体は、約200~300℃の範囲の酸化ガス温度で酸素含有雰囲気中で加熱される。例えば、約210~285℃、いくつかの実施形態では、好ましくは約230~280℃の範囲である。酸化ガスの温度は、所望の酸化ガス温度から離れた温度の変動が、酸化ガスが所望の酸化ガス温度以下になるように制御されてもよい。いくつかの実施形態では、酸化ガスの温度は、温度が所望の酸化ガス温度よりも5℃未満に維持されるように制御されてもよい。
【0540】
事前安定化前駆体は、酸化中に実質的に一定の温度プロファイルまたは可変の温度プロファイルで加熱されてもよい。酸化ステップは発熱性であり得るので、制御された速度で酸化ステップを実行することが望ましい場合がある。これは、例えば、事前安定化前駆体を所望の温度範囲の温度が徐々に上昇する一連の温度ゾーンに通過させることによって、様々な方法によって達成され得る。
【0541】
いくつかの実施形態では、酸化中の事前安定化前駆体の加熱は、安定化前駆体を単一の温度ゾーンに通過させることによって行われてもよい。そのような実施形態では、強制酸化ガス流は、理想的には、実質的に均一な温度が酸化室全体にわたって維持されるようなものである。
【0542】
他の実施形態では、酸化ステップ中の事前安定化前駆体の加熱は、事前安定化前駆体を複数の温度ゾーンに通過させることによって行われてもよい。すなわち、いくつかの実施形態では、酸化室は、2つ以上の酸化ゾーンを備えることができる。したがって、酸化ステップ中の事前安定化前駆体の加熱は、事前安定化前駆体を複数の酸化ゾーンに通過させることによって行うことができる。そのような実施形態では、事前安定化前駆体は、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の酸化ゾーンを通過することができる。ゾーンの各々は、同じ温度であってもよく、および/または同じガス流量条件を有してもよい。あるいは、異なる温度および/またはガス流量条件を2つ以上のゾーンに適用することができる。いくつかの実施形態では、各ゾーンに異なる条件がある。
【0543】
例えば、少なくとも1つの温度ゾーン(例えば、第1の温度ゾーン)は、第1の温度にあってもよく、一方、少なくとも1つの温度ゾーン(例えば、第2の温度ゾーン)は、第1の温度とは異なる第2の温度にあってもよい。
【0544】
一組の実施形態では、事前安定化前駆体繊維は、最初に選択された温度で加熱されてもよく、次いで、酸化ステップが進むにつれて温度が上昇してもよい。一例として、PAN安定化前駆体繊維は、最初に約230℃の温度で加熱され、酸化ステップ中に約280℃まで温度が上昇する。
【0545】
いくつかの実施形態では、各ゾーンのガスの温度は同じであってもよいが、ガス流量は異なっていてもよい。
【0546】
事前安定化前駆体の温度を制御することに加えて、強制ガス流を使用して、望ましくない反応生成物を繊維から運ぶことができる。特に、酸化ステップはシアン化水素(HCN)ガスを生成する。シアン化水素は有毒であり、その生成は、入口および出口のいずれかまたは各々を通って反応器から逃げることが許される場合、吸入の危険をもたらす。
【0547】
強制ガス流は、反応生成物を酸化反応器のガスシールアセンブリに向かって運ぶ。ガスシールアセンブリは、酸化室をシールしてその中に酸素含有雰囲気をもたらし、入口および出口を通る反応器からの付随的なガス流を制限するためのものである。したがって、ガスシールアセンブリは、反応器からのHCNガスを含むフュージティブガスの放出を制限する。ガスシールアセンブリは、典型的には、反応器から排気ガスを除去するための排気サブアセンブリを備える。排気ガスは、排気ガス流を除去するための有害ガス低減システムに流れることができる。
【0548】
酸化ステップは、単一の酸化反応器で行ってもよいし、複数の酸化反応器で行ってもよい。一実施形態では、酸化ステップは、オーブン、または複数のオーブンで実行される。
【0549】
複数の酸化反応器を用いる場合は、直列に配置してもよい。そのような実施形態では、事前安定化前駆体は、酸化反応器間の適切な輸送手段を介して搬送されてもよい。適切な搬送手段は、場合によっては非従動ローラと組み合わせた駆動ローラを備えることができる。適切な輸送手段には、当技術分野で周知のもの(例えば、複数のローラを有するテンションスタンド)などの材料取扱装置が含まれる。
【0550】
いくつかの実施形態では、反応器は、2つ以上の酸化室を備えてもよい。例えば、3つの酸化室、4つの酸化室、またはそれ以上である。事前安定化前駆体は、酸化室間の適切な搬送手段を介して搬送されてもよい。適切な搬送手段は、場合によっては公知の材料処理装置などの非従動ローラと組み合わせた駆動ローラを備えることができる。
【0551】
各酸化室は、上述のように1つまたは複数の酸化ゾーンを備えることができる。したがって、各酸化室は、同じ温度および/または同じガス流量条件を有することができる。あるいは、異なる温度および/またはガス流量条件を2つ以上の反応室に適用することができる。いくつかの実施形態では、各反応室に異なる条件が存在し、各反応ゾーンには異なる条件がある。
【0552】
酸化反応器が2つ以上の酸化反応室を備えるこれらの実施形態では、反応室は互いに積み重ねられてもよい。
【0553】
上述のように、事前安定化前駆体は、事前安定化ステップ中にPAN前駆体繊維中のニトリル基の部分環化に起因して酸化ステップのために活性化され得る。特に、事前安定化ステップによる前駆体の活性化は、安定化前駆体をより迅速に形成することを可能にすることができることが分かった。
【0554】
一組の実施形態では、事前安定化前駆体は、約120分以下、約90分以下、約60分以下、約45分以下、約30分以下および約20分以下からなる群から選択される期間、酸素含有雰囲気に曝露される。
【0555】
本発明は、炭化して炭素繊維を形成することができる安定化前駆体繊維を迅速に調製するためのシステムまたは装置を提供することができ、ライン速度は、プロセス(事前安定化および酸化ステップを含む)が、約60分以下、約45分以下、約30分以下、約25分以下、および約20分以下からなる群から選択される期間にわたって行われるようなものである。
【0556】
したがって、炭素繊維製造に適した安定化前駆体繊維は、約60分以下、約45分以下、約30分以下、約25分以下、および約20分以下からなる群から選択される期間内に形成することができる。
【0557】
炭化可能な安定化前駆体を迅速に形成する能力は、炭素繊維などの炭素系材料の製造における大幅な時間、エネルギおよびコストの節約をもたらすことができる。例えば、所望の量の環化ニトリル基を有する安定化前駆体は、同様に安定化された前駆体を形成するように設計された比較安定化プロセスよりも少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%速く形成することができるが、本明細書に記載の事前安定化ステップを含まない。
【0558】
好適には、前駆体安定化に使用される酸化ステップは、高速で進行し得る。これにより、炭素繊維製造処理時間およびエネルギ需要に対する酸化ステップの影響を低減することができ、したがって炭素繊維製造における前駆体安定化ステップに関連するコストを低減することができる。
【0559】
酸化室内の滞留時間は、酸化室の長さ、安定化前駆体が酸化室を通過する際の安定化前駆体の速度、および酸化室を通る安定化前駆体の流路によって決定される。
【0560】
上述したように、酸化室は、2つ以上の酸化ゾーンを備えることができる。
【0561】
事前安定化前駆体は、特定の温度ゾーンを1回通過または複数回通過することができる。例えば、異なる温度の単一または複数のゾーンが使用される場合、安定化前駆体繊維は、各ゾーンを1回通過することができる。
【0562】
前駆体は、酸化室を複数回通過してもよい。例えば、前駆体は、酸化室を2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回以上通過してもよい。前駆体を酸化室に所望の回数通過させるために、反応器の各端にローラが配置される。いくつかの実施形態では、所望の通過数で前駆体を酸化室を通して搬送するために、1つまたは複数の非従動ローラが一端に配置され、1つまたは複数の従動ローラが他端に配置される。
【0563】
酸化室を通るガスの流れの均一性を妨げないように、酸化室内にローラは設けられていない。したがって、事前安定化前駆体は、酸化室を通って搬送されるときに、酸化室の外部のローラなどの材料取扱装置間に懸架される。結果として、酸化室の長さは、安定化前駆体を依然として所望の張力で酸化室を通して均一に搬送しながらローラを分離することができる最大距離によって制限される。ローラ間の距離が大きすぎる場合、安定化前駆体は、酸化室の中心に向かって移動するにつれて垂れ下がり始める可能性がある。いくつかの実施形態では、酸化室は、20,000mm未満の長さ、例えば18,000mm未満の長さである。
【0564】
一組の実施形態では、材料取扱装置は、事前安定化前駆体が酸化反応器を通過するときに前駆体に張力を加えるための張力装置を備える。
【0565】
事前安定化反応器に関して上述したように、前駆体を搬送するために使用されるローラは、前駆体に所定の張力を加えるように選択されたローラの配置を含むことが多い。したがって、張力装置は、ローラの組み合わせを備えることができる。所定の張力を加えるためのローラの適切な組み合わせは、当該技術分野で知られており、Sラップ、オメガ(Ω)、5ローラ、7ローラおよびニップローラ駆動ローラ構成を含む。
【0566】
駆動ローラ構成の選択は、前駆体タイプ;ローラのための利用可能な空間;所望の量および品質の両方に関して、前駆体の所望の生成;および前駆体に加えられる張力;ならびに予算上の制約によって影響を受ける可能性がある。例えば、Sラップ、オメガおよびニップローラの構成は比較的コンパクトな構成であり、スペースが限られている実施形態では好ましい場合がある。
【0567】
いくつかの実施形態では、酸化反応器は、航空宇宙用炭素繊維の製造のための事前安定化前駆体をもたらすように構成される。これらの実施形態のいくつかでは、5ローラまたは7ローラ駆動構成が好ましい場合がある。
【0568】
いくつかの実施形態では、必要なローラの数を最小限に抑えるように、Sラップ、オメガおよびニップローラの構成が好ましい場合がある。
【0569】
いくつかの実施形態では、5ローラまたは7ローラ駆動構成は、これらの構成が他の構成よりも大きな量の張力を事前安定化前駆体に加えることができるため、好ましい場合がある。
【0570】
上述のように、いくつかの実施形態では、事前安定化前駆体は、酸化室を通って2回以上搬送されてもよい。代替的または追加的に、酸化反応器は、2つ以上の酸化室を備えてもよい。いくつかの実施形態では、各酸化室および/または酸化室を通る前駆体の各通過に張力装置が設けられてもよい。したがって、張力装置を使用して、各酸化室および/または酸化室を通る事前安定化前駆体の各通過に所定の張力を加えることができ、これらの所定の張力は、同じ(すなわち、実質的に一定の張力が加えられる)であっても異なっていてもよい。
【0571】
張力装置は、事前安定化前駆体繊維に所定量の張力を加えることを可能にするために、張力制御器によって制御されてもよい。
【0572】
加えられる張力の量は、張力計またはロードセル(例えば圧電ロードセル)を使用することによって監視することができる。例えば、各張力装置は、前駆体に加えられている張力のレベルを感知するために、繊維搬送ローラの支持軸受に取り付けられたロードセルを備えてもよい。
【0573】
張力装置を使用して、酸化中に事前安定化前駆体に所定量の張力を加えることができる。酸化ステップ中に加えられる張力は、安定化中に起こる化学反応を促進し、ポリアクリロニトリルの分子整列を高め、前駆体中により高度に秩序化された構造の形成を可能にするのに役立ち得る。
【0574】
一組の実施形態では、約50cN~50,000cN、例えば約50cN~10,000cNの範囲の張力が、酸化ステップ中に事前安定化前駆体に加えられる。
【0575】
事前安定化と同様に、温度、時間および張力の処理パラメータが酸化反応器内の事前安定化前駆体の酸化のために選択されると、パラメータは、酸化ステップが実行される間、固定され、不変のままであり得る。さらに、プロセスパラメータが選択された値の許容限界内に適切に維持されることを確実にするために、制御を利用することができる。これは、一貫した安定した前駆体安定化が達成され得ることを確実にするのに役立ち得る。
【0576】
いくつかの実施形態では、任意の熱電対からの温度測定結果および/または任意のガス速度センサからのガス速度測定結果を制御ユニットに提供することができる。さらに、張力装置の任意の張力計またはロードセルからの張力測定結果を制御ユニットにもたらすことができる。この制御ユニットは、反応器と同じ制御ユニットであってもよく、または酸化オーブン用の別個の制御ユニットであってもよい。さらに、酸化反応器に備えられる任意の他のセンサからのデータを制御ユニットにもたらすことができる。そのようなセンサは、酸化反応器のガスシールの有効性を感知するために設けられ得るHCNガスおよび/または酸素センサなどのガスセンサを備えることができる。
【0577】
ソフトウェアベースのアルゴリズムを使用して、制御ユニットにもたらされるデータを分析することができる。したがって、制御ユニットを使用して、以下のうちのいずれか1つまたは複数を含む1つまたは複数のパラメータを調整すべきかどうかを自動的に評価することができる:酸化ガスの温度;酸化反応器内の任意の加熱要素の温度;酸化室を通る酸化ガスの流量;酸化反応器から抽出される排気の量;任意の入口への酸化ガスの供給速度;事前安定化前駆体が酸化反応器を通って搬送される速度;および事前安定化前駆体に加えられる張力。ソフトウェアは、酸化反応器の動作を最適化するために前述のパラメータの自動調整を指示することができる。制御システムは、酸化プロセス中に連続的に作動することができ、それによって最適な条件が維持されることを保証する。
【0578】
本発明の反応器を使用することにより、PAN前駆体繊維は、従来の前駆体安定化プロセスにしばしば用いられるよりも短い期間で安定化され得る。より速い安定化時間は、PAN前駆体を本発明の反応器内で非常に短い期間(例えば、約5分以下、約4分以下、約3分以下、または約2分以下の期間)の初期の事前安定化ステップに供し、続いて安定化プロセスを完了させ、安定化前駆体繊維の形成をもたらす酸化ステップに供することによって達成することができる。
【0579】
したがって、本発明の反応器の使用は、従来の酸化安定化プロセスよりも短い期間および/またはより低い温度およびエネルギで酸化を行うことを有利に可能にし得る。
【0580】
したがって、事前安定化ステップは、全体的な安定化時間を著しく短縮することができ、安定化前駆体の追加処理時に、優れた特性を有する炭素繊維などの炭素系材料を製造することができる。したがって、炭素繊維の製造に適したPAN前駆体の迅速な酸化安定化を達成することができる。
【0581】
本明細書に記載の反応器、装置およびシステムは、安定化前駆体の形成を可能にするために、様々な形態および組成の一連の前駆体にさらに構成することができる。
【0582】
一組の実施形態では、安定化前駆体を調製するためのシステムが提供される。したがって、本発明は、前駆体を安定化するためのシステムであって、
本発明による事前安定化前駆体を製造するための反応器;
反応室の上流および下流に配置された張力装置であって、所定の張力下で反応室を通って前駆体を通過させるように構成された、張力装置;および
反応器の下流の酸化反応器であって、
事前安定化前駆体が酸化室を通過するときに、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化するように構成された少なくとも1つの酸化室
を備えた、酸化反応器
を備えた、システムを提供する。
【0583】
そのような実施形態では、事前安定化および酸化ステップを連続的に実行することができる。すなわち、酸化ステップは、事前安定化ステップの直後に行われる。したがって、いくつかの実施形態では、前駆体が酸化反応器を通って搬送される速度は、事前安定化反応器中に使用されるライン速度と一致するように選択される。これにより、形成された事前安定化前駆体を下流の酸化反応器に直接供給することができる。したがって、これにより、事前安定化前駆体を収集する必要性を回避することができる。
【0584】
いくつかの実施形態では、反応器および酸化反応器は、システムに備えられる単一の装置の一部を形成する。いくつかの他の実施形態では、反応器および酸化反応器は、別個の独立した装置として提供されてもよい。
【0585】
本発明の装置およびシステムを使用して調製された安定化前駆体は、1.30g/cm~1.40g/cm、例えば1.34g/cm~1.39g/cmの密度を有し得る。
【0586】
本明細書に記載の反応器、装置またはシステムを使用して調製された安定化PAN前駆体は、従来の安定化プロセスを使用して形成された安定化前駆体とは異なる一連の特性を示し得る。
【0587】
例えば、比較安定化プロセスによって形成された安定化PAN前駆体と比較して、本発明を使用して調製された安定化PAN前駆体は、異なる結晶構造を有することができ、より小さい見かけの結晶子サイズ(Lc(002))を示すことができる。いくつかの実施形態では、Lc(002)は、本発明の反応器を使用する事前安定化ステップを含まない比較安定化プロセスを使用して形成された比較安定化前駆体で観察されるものよりも少なくとも20%小さくてもよい。
【0588】
さらに、本発明を使用して調製された安定化PAN前駆体は、DSCによって測定されるように、より高い熱変換率を有し、より低い発熱エネルギが生成されて形成され得る。これは、炭素繊維製造の安全性を潜在的に高める本発明の使用の可能性を強調する。
【0589】
本発明の反応器、装置またはシステムを使用して調製された安定化前駆体はまた、事前安定化ステップを含まない比較プロセスを使用して形成された安定化前駆体と比較して、より高い脱水素化指数(CH/CH比)を有することが観察され得る。いくつかの実施形態では、脱水素化指数は、比較安定化前駆体のそれよりも少なくとも5%、または少なくとも10%高くてもよい。より高い脱水素化指数は、より高い程度の酸化的化学反応または酸化ステップ中のPAN前駆体のより高い化学変換を反映すると考えられる。
【0590】
上述のように、本明細書に記載の事前安定化反応器を備えた本発明の安定化装置またはシステムの使用は、炭化のために十分に熱的に安定な安定化前駆体を迅速に形成することを可能にし得る。
【0591】
本明細書に記載のプロセスに関して使用される「急速」という用語は、プロセスが、同じ結果を達成するように設計されるがプロセスの一部として事前安定化ステップを含まない基準プロセスよりも迅速に(すなわち、より短い期間で)実行されることを示すことを意図している。したがって、事前安定化処理を含むプロセスを実施するための本発明の使用は、基準プロセスと比較して時間節約をもたらすことができる。一例として、従来の基準安定化プロセスは、約70分の期間内に65%~70%の環化ニトリル基を有する安定化PAN前駆体を形成し得る。比較すると、本発明のいくつかの実施形態を使用して、わずか約15分である期間内に等価量の環化ニトリル基を有する安定化前駆体を調製することができる。したがって、本発明の反応器の使用は、基準プロセスよりも約55分(または約78%)の時間節約を達成することができる。
【0592】
好適には、反応器、装置またはシステムを使用して、本発明は、より少ない時間およびより低いコストで安定化前駆体を形成することを可能にし得る。
【0593】
いくつかの実施形態では、反応器、装置またはシステムを使用して、本発明は、安定化前駆体中で等価量のニトリル基環化を達成するように設計されているが、事前安定化ステップを備えない基準プロセスよりも少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%または少なくとも80%速い安定化プロセスの実行を可能にすることができる。
【0594】
PAN前駆体を迅速に安定化する能力はまた、安定化プロセスを実行するときに消費されるエネルギが少ないため、エネルギ節約を達成することを可能にする。これにより、炭素繊維製造などのプロセスのフローオンコストを節約することができる。例えば、本発明の反応器を使用する安定化プロセスは、平均で約1.1~2.6kWh/kgを消費し得る。これは、約3.7~8.9kWh/kgの平均エネルギ消費量を有する従来の安定化プロセスと比較される。
【0595】
他の態様では、本発明の反応器を使用して、少なくとも60%の環化ニトリル基および約1.30g/cm~1.33g/cmの範囲の質量密度を有するポリアクリロニトリルを含む低密度安定化前駆体を提供することができる。いくつかの実施形態では、低密度安定化前駆体は、少なくとも65%または少なくとも70%の環化ニトリル基を有する。低密度安定化PAN前駆体は熱的に安定であり、許容可能な特性を有する繊維などの炭素材料に変換することができる。安定化前駆体の密度が比較的低いにもかかわらず、炭素繊維などの炭素材料への変換を達成することができる。
【0596】
本明細書に記載の低密度安定化PAN前駆体も軽量であり、軽量安定化前駆体が望まれる様々な用途に有利に使用することができる。例えば、低密度安定化前駆体は、布帛に適切に組み込むことができる。
【0597】
必要に応じて、本発明を使用して製造された安定化前駆体を回収し、さらなる使用のために準備して保存してもよい。例えば、安定化前駆体は、スプール上に収集されてもよい。
【0598】
本発明によって調製された安定化前駆体は、炭化を受けて炭素繊維などの炭素系材料または生成物を形成することができる。特定の実施形態では、本明細書に記載の方法によって調製された安定化前駆体は、高性能炭素繊維の製造における適切な使用であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の前駆体安定化システムは、改善された炭素繊維製造システムを提供するために、炭素繊維を調製するためのシステムに組み込むことができる。
【0599】
したがって、他の態様では、本発明は、炭素系材料を調製するためのシステムであって、
事前安定化前駆体を製造するための本発明の反応器と、
反応室の上流および下流に配置された張力装置であって、所定の張力下で反応室を通って前駆体を通過させるように構成された、張力装置と、
反応器の下流の酸化反応器であって、
事前安定化前駆体が酸化室を通過するときに、事前安定化前駆体を酸素含有雰囲気中で安定化させるように構成された少なくとも1つの酸化室
を備える、酸化反応器と、
安定化前駆体を炭化して炭素系材料を形成するための炭化ユニットと
を備える、システムをさらに提供する。そのようなシステムの一実施形態が、ブロック図の形態で図12に示される。いくつかの実施形態では、本発明は、炭素繊維を連続的に製造するためのシステムを提供する。
【0600】
炭素系材料は、繊維、糸、ウェブ、フィルム、布帛、織布およびマットの形態を含む様々な形態であってもよい。マットは、織マットまたは不織マットであってもよい。
【0601】
1つの好ましいことでは、炭素系材料は炭素繊維である。炭素繊維を製造するために、安定化前駆体は、繊維、好ましくは連続長さの繊維の形態であってもよい。
【0602】
安定化前駆体繊維からの炭素繊維の形成を参照して炭化を説明することが好都合であろう。しかしながら、当業者は、繊維以外の形態を含む様々な異なる形態の炭素系材料を調製することができるように、システムが他の形態の安定化前駆体を炭化するのに適しているように構成させることができることを理解するであろう。
【0603】
安定化前駆体を炭化する際に、一連の適切な条件を使用することができる。炭化ステップのプロセス条件の選択は、所望の特性および/または構造を有する炭素材料の形成を容易にするように選択することができる。いくつかの実施形態では、炭化プロセス条件は、高性能炭素繊維などの高性能炭素材料の形成を可能にするように選択される。適切なプロセス条件は、当業者に知られている従来の炭化条件を含み得る。したがって、炭化ユニットは、当業者に知られている従来の炭化ユニットであってもよい。
【0604】
炭化中、安定化ステップで形成されたはしご状分子構造は互いに結合し、グラファイト状構造に改質され、それによって炭素繊維の炭素系構造を形成する。さらに、炭化中、炭素以外の元素の揮発も起こる。
【0605】
一組の実施形態では、安定化前駆体繊維は、炭化ステップ中に実質的に酸素を含まない雰囲気で加熱される。
【0606】
いくつかの実施形態では、炭化は、実質的に酸素を含まない雰囲気中で、約350~3,000℃、好ましくは約450~1,800℃の範囲の温度で安定化前駆体繊維を加熱することを含む。
【0607】
一組の実施形態では、炭化は、低温炭化および高温炭化を含み得る。
【0608】
低温炭化は、安定化前駆体繊維を約350℃~約1,000℃の範囲の温度で加熱することを含み得る。
【0609】
高温炭化は、安定化前駆体繊維を約1,000℃~1,800℃の範囲の温度で加熱することを含み得る。
【0610】
炭化ユニットのいくつかの実施形態では、高温炭化の前に低温炭化を行うことができる。
【0611】
炭化ユニットは、1つまたは複数の適切な炭化反応器を備えることができる。例えば、ユニットは、2つ以上の炭化反応器を備えてもよい。炭化反応器は、安定化前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気中で炭化させるように構成され、安定化前駆体を炭化反応器に入れるための入口と、安定化前駆体を炭化反応器から排出するための出口と、実質的に酸素を含まないガスを炭化反応器に送達して実質的に酸素を含まない雰囲気を確立するのを助けるためのガス送達システムとを備えることができる。一組の実施形態では、実質的に酸素を含まないガスは窒素を含む。
【0612】
炭化反応器はまた、炭化反応器を加熱するための加熱要素を備えてもよい。加熱要素は、炭化反応器の内部に送達される実質的に酸素を含まないガスを加熱することができる。炭化反応器は、内部を通過する安定化前駆体を加熱するための単一の温度ゾーンまたは複数の温度ゾーンを提供するように構成されてもよい。
【0613】
例示的な炭化反応器は、実質的に酸素を含まない雰囲気を含むように構成され、炭素繊維形成に一般的に使用される高温条件に耐えることができるオーブンまたは炉であってもよい。上記のように、ユニットは、当技術分野で周知の炉などの従来の反応器を備えることができ、安定化前駆体の炭化を行うように当技術分野で公知の動作パラメータを使用することができる。
【0614】
2つ以上の炭化反応器が使用される場合、別々の炭化反応器は炭化ユニット内に直列に配置されてもよく、前駆体は各反応器を1回通過するだけである。例えば、炭化ユニットは、低温(LT)炉および高温(HT)炉を備えてもよい。高温炉は、一般に、低温炉の下流に配置される。
【0615】
炭化ユニット内で、安定化前駆体繊維は、可変温度プロファイル下で加熱されて炭素繊維を形成することができる。例えば、温度は、低温および/または高温炭化に使用される規定の温度範囲内で変化させることができる。
【0616】
炭化ステップのための可変温度プロファイルは、直列に配置された複数の温度ゾーンに安定化前駆体繊維を通過させることによって達成することができ、各温度ゾーンは異なる温度である。炭化ユニットは、複数の炭化反応器を有することによって可変温度プロファイルを提供するように構成されてもよい。代替的または追加的に、炭化反応器は、反応器の長さに沿って配置された2つ以上の炭化温度ゾーンを備えてもよい。したがって、炭化中の安定化前駆体繊維の加熱は、安定化前駆体繊維を複数の炭化反応器および/またはゾーンに通過させることによって行うことができる。そのような実施形態では、安定化前駆体は、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の反応器および/またはゾーンを通過することができる。
【0617】
炭化は、不活性ガスを含み得る実質的に酸素を含まない雰囲気中で行われる。適切な不活性ガスは、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンおよびラジウムなどの希ガスであってもよい。さらに、適切な不活性ガスは窒素であってもよい。実質的に酸素を含まない雰囲気は、窒素とアルゴンの混合物などの不活性ガスの混合物を含んでもよい。
【0618】
当業者は、炭化ユニットが、反応器または各反応器の加熱長さによって確立される規定の長さを有し、安定化前駆体が所定の速度で炭化ユニットを通過することができることを理解するであろう。炭化ユニットの長さおよび前駆体が炭化ユニットを通って搬送される速度は、ユニット内の前駆体の総滞留(ドウェル)時間に影響を及ぼし得る。次に、ドウェル時間は、炭化ステップが実行される期間を決定することができる。
【0619】
炭化は、炭素繊維を製造するのに適した期間行われてもよい。いくつかの実施形態では、炭化ステップは、最大20分、最大15分、最大10分、および最大5分から選択される期間にわたって実施され得る。例えば、一組の実施形態では、炭化ユニット内の安定化前駆体のドウェル時間は、約20分以下、約15分以下、約10分以下、または約5分以下である。
【0620】
炭化ユニット内の1つまたは複数の炭化反応器の温度、ならびに前駆体が炭化ユニットを通って搬送される速度は、所望の時間に炭素材料を達成するために調整することができる。
【0621】
いくつかの実施形態では、安定化前駆体は、約10~1,000メートル/時の範囲の速度で炭化ユニットを通って搬送されてもよい。
【0622】
いくつかの実施形態では、前駆体が炭化ユニットを通って搬送される速度は、本明細書に記載の事前安定化および酸化ステップで使用されるライン速度に一致するように選択される。これにより、炭素繊維などの炭素材料の連続製造を容易にすることができる。
【0623】
炭化ユニットを介して安定化前駆体を容易に搬送するために、前駆体は、典型的には、炭化反応器を通過する際に垂れ下がらないまたは引きずられないことを確実にするために、前駆体にいくらかの張力が加えられる。さらに、炭化ステップ中に加えられる張力は、炭素材料の収縮を抑制または制御するのに役立つだけでなく、炭素材料中のより高度に秩序化された構造の形成を促進することができる。
【0624】
炭素繊維などの炭素材料を形成するための従来の炭化プロセスで使用される張力値は、本明細書に記載のプロセスの炭化ステップで使用することができる。
【0625】
所望の量の張力は、ユニットまたは前駆体を炭化するために使用される各炭化反応器の上流および下流に配置された張力装置によって加えられてもよい。前駆体は、炭化室を通って前駆体を搬送するように構成された張力装置の間に懸架される。
【0626】
炭化ステップ中に安定化前駆体に加えられる張力の選択は、いくつかの実施形態では、前駆体から形成された炭素繊維の1つまたは複数の機械的特性に関して所望される結果に依存し得る。炭素繊維に望ましい機械的特性は、極限引張強度、引張弾性率および破断伸びなどの引張特性を含み得る。炭化中に前駆体に加えられる張力は、炭素繊維において所望の結果を達成するために、上記の特性の1つまたは複数の発生を促進するために調整することができる。
【0627】
典型的には、当該技術分野で知られているような材料取扱装置は、張力装置を備える。したがって、炭化は、張力装置を備える1つまたは複数の材料取扱装置を備えることができる。張力装置は、典型的には、安定化前駆体に所定の張力を加えるために、任意選択的に非従動ローラと組み合わせた従動ローラの配置を備える。所定の張力を加えるためのローラの適切な組み合わせは、当該技術分野で知られており、Sラップ、オメガ(Ω)、5ローラ、7ローラおよびニップローラ駆動ローラ構成を含む。
【0628】
いくつかの実施形態では、炭化ユニットは、1つまたは複数の材料処理装置を備える。炭化ユニットが2つ以上の炭化反応器を備える実施形態では、前駆体が1つの炭化反応器から次の炭化反応器に移動する際に張力装置を介して搬送されるように、各炭化反応器の上流および下流に材料取扱装置を設けることができる。
【0629】
炭素系材料、特に炭素繊維の連続製造は、本明細書で上述した事前安定化、酸化および炭化のための動作条件で本発明のシステムを使用して行うことができる。
【0630】
炭素繊維を形成するための連続プロセスを実施する場合、前駆体および事前安定化前駆体は、好ましくは、実質的に同じ速度(rate)または速度(speed)で事前安定化反応器および酸化反応器に供給される。すなわち、一般的な速度(rate)または速度(speed)を使用することが好ましい。その結果、前駆体は、反応器間で前駆体を収集する必要なく、1つの反応器から次の反応器に連続的に搬送される。さらに、安定化前駆体は、好ましくは、実質的に同じ速度(rate)または速度(speed)で炭化ユニットに供給され、その結果、酸化反応器と炭化ユニットとの間で前駆体を収集することなく、安定化前駆体をユニットに搬送することができる。したがって、前駆体は、好ましくは、システム全体にわたって連続的に搬送される。
【0631】
いくつかの実施形態では、ライン速度は、10メートル/時(m/hr)程度の低さであり得る。いくつかの他の実施形態では、ライン速度は最大500m/hrであってもよい。ライン速度は、1,000m/hrまでであってもよい。工業用炭素繊維製造プロセスの場合、ライン速度は、約100~1,000m/hr、例えば120~900m/hrの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、ライン速度は、約600~1,000m/hr、例えば700~800m/hrの範囲であってもよい。
【0632】
製造ライン上のライン速度は、PAN前駆体繊維および事前安定化前駆体繊維が、前駆体および事前安定化前駆体がそれぞれ事前安定化反応器および酸化反応器内で所望の滞留時間を有することを可能にする割合で供給されるように選択することができる。
【0633】
一組の実施形態では、ライン速度は、PAN前駆体繊維が約5分以下、約4分以下、約3分以下、または約2分以下の事前安定化反応器内での滞留時間(すなわち、ドウェル時間)を有するようなものである。
【0634】
一組の実施形態において、ライン速度は、事前安定化前駆体繊維が、約60分以下、約45分以下、約30分以下または約20分以下の酸化反応器内での滞留時間(すなわち、ドウェル時間)を有するようなものである。
【0635】
一組の実施形態では、本発明の装置またはシステムを使用する安定化プロセス(事前安定化および酸化ステップを含む)が、約60分以下、約45分以下、約30分以下、約25分以下、および約20分以下からなる群から選択される期間で完了する条件が選択される。したがって、完全安定化前駆体が前述の期間内に形成される。
【0636】
前駆体が事前安定化および酸化中に受ける温度、ならびに前駆体が事前安定化および酸化反応器に存在する時間中に前駆体に加えられる張力はまた、炭素繊維などの炭素材料の製造に使用するのに適した安定化前駆体の迅速な形成を促進することができる。
【0637】
本明細書に記載の本発明の実施形態は、従来のPAN前駆体安定化プロセスと比較して、炭素繊維製造に適した安定化前駆体をより短期間で形成することを可能にする反応器、装置およびシステムを提供することができる。事前安定化反応器および酸化反応器における前駆体の短い滞留時間のみが必要とされ得る。
【0638】
安定化前駆体を迅速に形成する能力は、特に炭素繊維を形成するのに必要な時間に関して、炭素繊維製造の下流の利点をもたらすことができる。したがって、製造システムのための炭素繊維製造速度は、本発明の反応器を使用して実施される迅速安定化プロセスのために増加させることができ、当該技術分野で知られている従来の炭素繊維製造プロセスと比較して、より速い速度および/またはより高い体積で炭素繊維を製造する能力をもたらす。さらに、本明細書に記載の反応器、装置およびシステムはまた、大量の炭素繊維を工業規模でより迅速に製造することを可能にし得る。したがって、炭素繊維製造に関連する製造コストを低減することができる。
【0639】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の反応器、装置またはシステムを使用して調製された炭素繊維は、約70分以下、約65分以下、約60分以下、約45分以下、または約30分以下の期間で形成され得る。
【0640】
特定の実施形態では、システムは、安定化前駆体繊維を、安定化前駆体の製造速度に対応する速度で炭化反応器に供給するように構成され得る。したがって、本発明のシステムの実施形態を使用する場合、酸化反応器から排出する安定化前駆体繊維は、炭化反応器に直接連続的に供給することができる。
【0641】
本明細書に開示される反応器、装置、およびシステムは、炭素繊維の製造を参照して説明されているが、当業者は、記載された反応器、装置、およびシステムを使用して、非繊維形態の炭素系材料を調製することができることを理解するであろう。すなわち、前駆体が非繊維形態(例えば、糸、ウェブ、フィルム、布帛、織布またはマットの形態)である場合、安定化前駆体の炭化後に形成される炭素系材料は、これらの他の形態であってもよい。
【0642】
好適には、本明細書に記載の本発明の実施形態の反応器、装置およびシステムで製造された炭素繊維は、産業で使用される従来の炭素繊維製造プロセスによって製造されたものと少なくとも同等の機械的特性(例えば、引張特性)を示し得る。
【0643】
ここで、添付の図面を参照して、本発明の様々な実施形態を単なる例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0644】
図1a】本発明による反応器の第1の実施形態の概略上面図を示す。
図1b】本発明による反応器の第2の実施形態の概略上面図を示す。
図1c】本発明による反応器の第3の実施形態の概略上面図を示す。
図1d】本発明による反応器の第4の実施形態の概略上面図を示す。
図1e】本発明による反応器の第4の実施形態の出口端の拡大概略断面図である。
図2a図1aと同様の概略上面図を示し、反応器内のガス流路を示すように注釈が付けられる。
図2b図1bと同様の概略上面図を示し、反応器内のガス流路を示すように注釈が付けられる。
図2c図1cと同様の概略上面図を示し、反応器内のガス流路を示すように注釈が付けられる。
図2d図1dと同様の概略上面図を示し、反応器内のガス流路を示すように注釈が付けられる。
図3a】本発明による垂直反応器の第1の実施形態の概略正面図を示す。
図3b】本発明による垂直反応器の第1の実施形態の概略側面図を示す。
図3c】本発明による垂直反応器の第2の実施形態の概略正面図を示す。
図3d】本発明による垂直反応器の第3の実施形態の概略正面図を示す。
図4a図3aと同様の概略正面図を示し、反応器内のガス流路を示すように注釈が付けられる。
図4b図3cと同様の概略正面図を示し、反応器内のガス流路を示すように注釈が付けられる。
図4c図3dと同様の概略正面図を示し、反応器内のガス流路を示すように注釈が付けられる。
図5】本発明による垂直反応器の実施形態を備えるシステムの部分図を示す。
図6】本発明による反応器と共に使用するのに適した酸化反応器の概略上面図を示す。
図7図6と同様の概略上面図を示し、酸化反応器内のガス流路を示すように注釈が付けられる。
図8a】本発明による装置の第1の実施形態の正面図を示す。
図8b】本発明による装置の第1の実施形態の内部を通る前駆体の通過の概略正面図を示す。
図8c】装置の第1の実施形態の外部の背面図を示す。
図8d】装置の第2の実施形態の外部の背面図を示す。
図8e】装置の実施形態の反応器での使用に適したプレナムプレートを示す。
図9】本発明による安定化前駆体を製造するためのシステムを通る前駆体の通過の概略正面図を示す。
図10】本発明による安定化前駆体を製造するためのシステムの他の正面図を示す。
図11】本発明による炭素繊維製造システムを示す。
図12】本発明による反応器を有する炭素繊維製造システムのブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0645】
以下の詳細な説明では、詳細な説明の一部を形成する添付の図面を参照する。図面に示され、特許請求の範囲に定義された詳細な説明に記載された例示的な実施形態は、限定することを意図するものではない。提示された主題の趣旨または範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用することができ、他の変更を行うことができる。本明細書で一般的に説明され、図面に示される本開示の態様は、多種多様な異なる構成で配置、置換、組み合わせ、分離および設計することができ、そのすべてが本開示で企図されていることが容易に理解されよう。
【0646】
本明細書で使用される場合、単数形「a、」、「an、」および「the」は、単数のみを指定するように明示的に述べられていない限り、単数および複数の両方を指定する。
【0647】
「約」という用語および範囲の使用は、一般に、約という用語によって限定されるか否かにかかわらず、理解される数が本明細書に記載の正確な数に限定されないことを意味し、本発明の範囲から逸脱することなく、実質的に引用された範囲内の範囲を指すことを意図している。本明細書で使用される場合、「約」は、当業者によって理解され、それが使用される文脈上である程度変化する。用語が使用される文脈を考慮すると、当業者には明確でない用語の使用がある場合、「約」は、特定の用語のプラスまたはマイナス10%までを意味する。
【0648】
本明細書で言及される割合(%)は、特に明記しない限り、重量パーセント(w/wまたはw/v)に基づく。
【0649】
図1図11には、本発明の反応器の様々な実施形態が示される。図1図11では、前駆体は、本発明の図示された実施形態の関連する詳細を不明瞭にしないように概略的に示されることが理解されよう。
【0650】
本発明の反応器の一実施形態において、前駆体は、ローラを介して反応室を通過する。図1aは、反応器10の第1の実施形態の概略図をもたらす。この実施形態では、搬送ローラ(図示せず)は反応器10の外側に配置され、反応器10の一部を形成しない。いくつかの他の実施形態では、反応器10は、反応器10を通って前駆体80を通過させ、それをシステムの下流構成要素に供給するためにシステムの構成要素と協働する外部に配置された駆動ローラを備えることができる。
【0651】
使用中、反応器10の内部は、従来のローラには高温すぎる可能性がある。したがって、前駆体80がローラと反応器の内部との間を通過して事前安定化前駆体81を製造することを可能にするための入口11および出口12がある。図1aから分かるように、前駆体は、入口デッキ13を通過し、移行領域120aを通過し、反応室17を通過し、他の移行領域120bを通過し、出口デッキ14を通過することによって反応器10を通って移動し、その後出口12を介して排出する。
【0652】
ローラと反応器10の内部との間で繊維を自由に通過させる能力は、反応室内に実質的に酸素を含まない雰囲気を維持する必要性と、反応器からのフュージティブガスの放出を制限する必要性とのバランスを取らなければならない。以下の説明では、便宜上、実質的に酸素を含まないガスとして窒素を用いる。しかしながら、上述した他の実質的に酸素を含まないガスを使用することができることが理解されよう。
【0653】
入口デッキ13は、入口に隣接して配置された排気ノズル(一方のみ図示)18aを備える。排気ノズル18aは、反応器を通過する際に前駆体80の上方および下方から排出ガスを引き込む。
【0654】
入口デッキ13の排気ノズルの隣には、シールガス供給ノズル19aが配置される。シールガス供給ノズル19aは、デッキ13を横切るプロセスガスのガスカーテンをもたらすように構成される。ガスカーテンは、入口11を通る反応器の周囲の雰囲気からの空気の流入を制限するように作用する。さらに、ガスカーテンは、反応室17からのガスの流出を制限する。
【0655】
シールガス供給ノズル19a、19bおよび排気ノズル18a、18bを通るガス流量は、反応室17を効果的にシールし、したがって反応室内に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口11を通る反応器からの付随的なガス流を制限するように制御される。理想的には、ガスはシールガス供給ノズル19aを通って流れ、排気ノズル18aは、入口11を通って反応器10から出る付随的なガス流がなく、周囲雰囲気から排気ノズル18aを通過する空気の流入がないように制御される。しかしながら、実際には、わずかな量のフュージティブエミッションが入口11から放出されるように、反応器10はわずかな正圧で動作する。フュージティブエミッションの組成は主に窒素であり、HCN含有量は10ppmを超えず、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意されたい。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。センサは、オペレータの安全を確保するためにエミッションの組成を監視するために入口11に配置される。さらに、デッキ13内の酸素レベルを監視して、実質的に酸素を含まない雰囲気が反応室17内に維持されることを確実にする。実際には、反応器10をわずかに過剰な圧力で動作させることは、反応器を取り囲む雰囲気からの空気が反応室17に入らないことを確実にするのに役立つ。
【0656】
いくつかの実施形態では、反応器10は、フュージティブエミッションを収集し、それらを排気低減システムに導くために、二次外部排気管理システムを装備することができる。この二次外部排気管理システムは、追加のオペレータの安全性をもたらすことができる。
【0657】
デッキ13の端には、内部入口スロットおよびプロセスガス送達ノズル110aがある。前駆体は、反応室17の主第1のゾーン171の主要部分に入る前に、内部入口を通過し、プロセスガス送達ノズル110aを通過し、反応室17の第1のゾーン171の戻りノズル151aが配置される移行領域120aに入る。
【0658】
デッキ13の長さおよび反応器10に吹き込まれるガスの温度は、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気内に配置されるまで反応温度にならないように選択される。次いで、前駆体は、反応室17の2つのゾーン171、172を通過した後、第2の反応ゾーン戻りノズル151bで移行ゾーン120bに到達する。移行ゾーン120bの端には、他のプロセスガス送達ノズル110bが配置され、その上に出口デッキ14がある。
【0659】
いくつかの実施形態では、排気ガス流は、150~200℃の温度および-30~-2ミリバール、例えば-10~-6ミリバールの圧力で、管181a、181bを通って反応器10から排出する。シールガスは、ライン191a、191bを通して20.68~344.7kPa(3~50psi)の圧力で200~250℃の温度で放出されてもよい。一般に、繊維の乱れを最小限に抑えるために、効果的なガスカーテンが生成されることをさらに確実にしながら、シールガスの流れの圧力を可能な限り低く保つことが好ましい。
【0660】
プロセスガスは、ライン1101a、1101bを使用して250~310℃、例えば290~310℃の温度でプロセスガス送達ノズル110a、110bから放出することができる。ガスは、0.1~1.5m/sの速度で放出されてもよく、例えば、速度は0.5~0.75m/sであってもよい。
【0661】
図1aに示すように、出口デッキ14は、入口デッキ13について示される構成を実質的に反映するプロセスガス送達ノズル110b、シールガス供給ノズル19b、および排気ノズル18b(1つのみ図示)の構成を有する。ここでも、排気ノズル18bを通る排気ガスの流量および出口デッキ14を横切るガスカーテンをもたらすために使用されるプロセスガスの流量は、理想的には、実質的に酸素を含まない雰囲気が反応室17内にもたらされることを確実にし、反応器10から出口から付随的なガス流がないことを確実にするように制御される。しかしながら、入口11を参照して上述したように、典型的には、実際には、反応器10は、わずかな量のフュージティブエミッションが存在するように、わずかに過剰な圧力で動作する。これらのエミッションは主に窒素(すなわち、プロセスガス)であり、出口の外側では、フュージティブエミッションが10ppmを超えないHCN含有量を有することを確実にするようにHCNを監視することになり、これは、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が、曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意されたい。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。
【0662】
また、入口デッキ13と同様に、出口デッキ14には、実質的に酸素を含まない雰囲気が依然として反応室17の出口端に向かって維持されていることを確実にするように酸素監視もある。
【0663】
いくつかの実施形態では、反応器10は、二次外部排気管理システムが入口11に配置され得るのと同じ理由で、出口12に二次外部排気管理システムを備える。
【0664】
シールガス供給ノズル19bによって出口デッキ14に供給されるガスの温度および出口デッキ14の長さは、前駆体が出口12を通過する前に確実に冷却するように選択される。前駆体は、反応器10から排出する前に反応温度未満になるように冷却され、前駆体が反応し続けないことを確実にし、したがって、反応器10の外側になると安全上のリスクをもたらすのでHCNを発生させる。
【0665】
いくつかの実施形態では、排気ノズル18a、18bおよびシールガス供給ノズル19a、19bの位置は、シールガス供給ノズル19a、19bが入口11および出口12にそれぞれ最も近く配置され、排気ノズル18a、18bが各シールガス供給ノズル19a、19bに隣接して内側に配置されるように逆にすることができる。
【0666】
いくつかの実施形態では、反応器10は、入口11または出口12のすぐ外側の雰囲気が20.9%未満に低下しない酸素含有量を有するかどうかを監視するための少なくとも1つのセンサを各端に備える。
【0667】
図1aに示す反応器10は、2つの反応ゾーン171、172を有し、それぞれが一般にそれ自体の強制ガス流アセンブリを備える。しかしながら、反応室17の中心には、ガスの流れが反応室17の全長に沿って確実に供給されるように、共通の中間プロセスガス送達ノズル153が設けられることが分かる。
【0668】
図2aは、反応器10のこの実施形態を通るガスの流れを示す矢印で注釈が付けられる。
【0669】
2つの反応ゾーン171、172の強制ガス流アセンブリの構造は、鏡像関係にある。アセンブリは、主に中央から端まで反応室17にプロセスガスを供給するように構成される。すなわち、反応室17に供給される高温のプロセスガスの大部分は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bを介して反応室の中心から供給され、反応室17の端に向かって流れる。より小さい割合のプロセスガスが、入口11および出口12に向かって配置されたプロセスガス送達ノズル110a、110bによって送達される。
【0670】
入口11および出口12に向かうプロセスガス送達ノズル110a、110bは、プロセスガス供給源140に接続され、新鮮なプロセスガスを反応室17に供給するためのものである。反応器10内のプロセスガスの大部分は、反応器10の動作中に強制ガス流アセンブリによって再循環される。すなわち、新鮮なプロセスガスの供給は、排気ノズル18a、18bを通る損失を補償するためにもたらされる。
【0671】
いくつかの実施形態では、プロセスガス送達ノズル110a、110bのいずれかまたは各々および/またはシールガス供給ノズル19a、19bのいずれかまたは各々は、前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部出力管を備えることができ、各出力管は、ガスを前駆体に導くためのスロット形状の開口部を有する。いくつかの実施形態では、プロセスガス送達ノズル110a、110bのいずれかまたは各々および/またはシールガス供給ノズル19a、19bのいずれかまたは各々は、前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部出力管を備えることができ、各出力管は、プロセスガスを分配器に導くためのスロット形状の開口部を有する。分配器は、ガスの流れを前駆体の幅にわたって導き、分配するためのものである。そのようなノズル構成の一例が、反応器10の第4の図示の実施形態のプロセスガスノズル110bについて図1eに示される。
【0672】
典型的には、プロセスガスが反応室17を通って流れる際に良好な流れ均一性をプロセスガスにもたらすように、強制ガス流アセンブリは、プロセスガスが反応器10を通る前駆体の通路とほぼ平行に流れるようなものとなる。
【0673】
図2aに示すように、プロセスガスの中心から端への供給は、反応室17全体のプロセスガス流に良好な均一性をもたらすので好ましい場合がある。この構成では、ガスの大部分は前駆体と平行に流れている。ガス流の均一性は、反応室17の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス流に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。
【0674】
図2aから、第1の反応ゾーン171において、ガス流は、反応室17を通る前駆体の通過に対して逆流ベースでもたらされることが理解されよう。第2の反応ゾーン172において、ガス流は、前駆体の通過との共流としてもたされる。
【0675】
典型的には、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度がプロセスガスの温度の40℃以内、好ましくはプロセスガスの温度の30℃以内であるようなものである。いくつかの実施形態では、ガス流量は、実際の前駆体温度がプロセスガスの温度の50℃以内、好ましくはガスの温度の40℃以内、より好ましくはガスの温度の30℃以内であるようなものであり得る。プロセスガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。
【0676】
この実施形態では、使用されるプロセスガス流は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bの供給要素1521a、1521bからガス流の方向に沿って1.0mを超える点で算出した場合に、流れのレイノルズ数が10万を超えるようなものでなければならない。
【0677】
上述のように、プロセスガスを反応室に供給するための他の構成を使用することができる。しかしながら、プロセスガスの中心から端への流れまたはプロセスガスの端から中心への流れをもたらすように構成された強制ガス流アセンブリが、典型的には好ましい。プロセスガスの端から中心への流れを有する反応器の一実施形態を、図1d、図1eおよび図2dを参照して以下に説明する。
【0678】
反応室17は、2,000~17,000mmの有効加熱長を有することができる。反応室17の高さは、100~1,600mmであってもよい。反応室17の幅は、100~3,500mmであってもよい。反応室17のサイズは、前駆体の所望の処理体積に基づいて選択されてもよい。上記範囲の下端に向かう寸法を有する反応器10は、年間約1トンの生産量で、研究開発用途に適している可能性がある。上述した範囲の上端に向かう寸法を有する反応器10は、年間最大2,500トンの生産量を有する商業用途での使用に適し得る。例えば、年間最大2,000トンまたは年間最大1,500トンの生産量。
【0679】
反応室17のサイズに応じて、排気量は25Nm/分~3,000Nm/分であってもよく、プロセスガスの関連する消費量は100L/分~5,000L/分である。
【0680】
各強制ガス流アセンブリには、ガス戻りダクト156a、156bが設けられ、それに沿ってヒータ157a、157bが配置される。ヒータ157a、157bの下流には、ヒータ157a、157bを通ってプロセスガスを引き込み、したがってプロセスガスをプロセス温度まで上昇させるために使用されるファン158a、158bがある。次いで、ガスは、ファン158a、158bによって入口プレナム159a、159bを通って主プロセスガス送達ノズル152a、152bから吹き出される。上述したように、各入口プレナム159a、159bからのプロセスガスの一部はまた、中間プロセスガス送達ノズル153を通って導かれる。これを達成するために、ノズルダクトの後壁は、プロセスガスの一部を中間プロセスガス送達ノズル153に導くためのノズル開口部のアレイを備える。しかしながら、入口プレナム159a、159bからのプロセスガスの大部分は、ノズルダクトを通って主プロセスガス送達ノズル152a、152bから外に導かれる。
【0681】
主プロセスガス送達ノズル152a、152bは前駆体の上下に配置され、各ノズルは供給要素1521a、1521bを備える。この実施形態では、各供給要素1521a、1521bは、供給ノズル管(図示せず)のアレイを備える。
【0682】
各プロセスガス入口プレナム159a、159bは、ノズル152a、152bを通る均一なガス流をもたらすのを助けるために、一次ガス流分配バッフル154a、154bおよび二次ガス流分配バッフル155a、155bを有する。プロセスガスが反応室17に沿って通過すると、その後、プロセスガスは、戻りノズル151a、151bを通って戻りダクト156a、156bに戻される。しかしながら、プロセスガスの一部は、反応室17から入口または出口デッキ13、14のいずれかに流れ、最終的に排気ノズル18a、18bを介して反応器10から除去される反応副生成物を運ぶ。
【0683】
各戻りノズル151a、151bは、排出要素1511a、1511bを備える。この実施形態では、各排出要素1511a、1511bは、排出ノズル開口部のアレイを画定する有孔シートで終端する。しかしながら、いくつかの他の実施形態では、各排出要素1511a、1511bは、排出ノズル管のアレイを備える。
【0684】
反応室17を流れるプロセスガスは、200~400℃であってもよい。したがって、ヒータ157a、157bの表面温度は、典型的には450℃を超えない。
【0685】
この図示の実施形態では、反応室17は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bの近くの各反応ゾーン171、172に配置され、次いで入口11または出口12にそれぞれ近い反応ゾーン171、172の他端に向かって配置されたプロセスガスの温度を監視するための熱電対1301a、1301b、1302a、1302bを有する。プロセスガスの温度を監視するように、熱電対1301a、1301b、1302a、1302bは、前駆体から少なくとも30mm、好ましくは前駆体から少なくとも40mm、より好ましくは前駆体から少なくとも50mm離れたガス流の温度を測定するように配置される。
【0686】
反応器はまた、各戻りダクト156a、156b内に、ガスがヒータ157a、157bを通って引き込まれる前にガスの温度を監視するための熱電対1303a、1303bを備える。
【0687】
この実施形態では、および本明細書に記載の他の図示の実施形態では、反応器は、反応器を通る強制ガス流の速度を監視するために、風速計または圧力計の形態のガス速度センサを備えることができる。設けられる場合、ガス速度センサまたは各ガス速度センサは、熱電対と同じ場所に配置することができる。
【0688】
反応器には、各端に統合低減システム16a、16bが設けられる。低減システム16a、16bは、HCNなどの汚染反応副生成物を破壊するように排気ガスを700~850℃で燃焼させてバーナー161a、161bを備える。バーナー161a、161bは、天然ガスを使用して操作することができる。次いで、燃焼ガスは新鮮な空気と混合され、混合物はダクト162a、162bに沿って大気に排出される。
【0689】
各低減システム16a、16bは、高温の燃焼ガスから、ライン1401a、1401bに沿って反応器10に供給された新鮮な実質的に酸素を含まないガスに熱を伝達することを可能にする熱交換器163a、163bを組み込む。本実施形態では、実質的に酸素を含まないガスは窒素である。したがって、低温窒素は燃焼ガスによって加熱され、その結果、高温窒素をライン1402a、1402bを介して、入口および出口デッキ13、14に配置されるシールガスノズル19a、19bおよびプロセスガス送達ノズル110a、110bに供給することができる。同様に、燃焼ガスは、大気に排出される前に冷却される。したがって、熱交換器163a、163bは、低減システム16a、16bからのエネルギ回収を可能にし、反応器10の全体的なエネルギ消費を低減する。
【0690】
例えば、いくつかの実施形態では、反応器10のエネルギ消費は、5kW~40kWであり得る。
【0691】
図1bは、図1aに示す反応器の第1の実施形態と同様の構造を有する反応器10の第2の実施形態を示すが、この第2の実施形態では、反応器は供給ライン1402bを備えない。代わりに、プロセスガスおよびシールガスは、熱交換器163bからの2つの別個のライン1101b、191bによって反応器に供給される。
【0692】
新鮮な実質的に酸素を含まないガスを供給するライン1401bは、図1aを参照して上述した反応器の第1の実施形態と同様に、統合低減システム16bの熱交換器163bに接続される。ダクト162bに沿って放出される前に、高温燃焼ガスは、ライン1401bに沿って反応器10に供給された新鮮な実質的に酸素を含まないガスに高温燃焼ガスから熱を伝達することを可能にする熱交換器163bを通過する。この場合、実質的に酸素を含まないガスは窒素である。これにより、冷温窒素が燃焼ガスによって加熱され、反応器10に高温窒素を供給することができる。
【0693】
本実施形態の熱交換器163bは、プロセスガス送達ノズル110bにプロセスガスを供給するライン1101bに接続される出口と、シールガスノズル19bにシールガスを供給するライン191bに接続される出口との2つの出口を備える。2つの出口は、熱交換器163bにおいて燃焼ガスと異なる程度の熱交換を受けたガスを放出する。したがって、熱交換器163bは、2つの異なる温度に加熱されたガスを放出するように構成される。したがって、ライン1101bによって送達されるプロセスガスは、ライン191bによって送達されるシールガスとは異なる温度である。事前安定化前駆体81は、出口12を通って反応器から排出する前に冷却されるので、プロセスガスよりも低い温度でシールガスを供給することが望ましく、その結果、シールガスは、事前安定化前駆体81が出口デッキ14を通過するときにそれを冷却することができる。
【0694】
プロセスガスは、ライン1101bを使用して290~310℃の温度でプロセスガス送達ノズル110bから放出することができる。いくつかの実施形態では、ガスは、20℃~300℃、例えば100℃~220℃、または100℃~160℃、または140℃未満の温度でプロセスガス送達ノズル110bから放出される。ガスは、0.1~1.5m/sの速度で放出されてもよく、例えば、速度は0.5~0.75m/sであってもよい。
【0695】
いくつかの実施形態では、排気ガス流は、100~200℃の温度、好ましくは120~160℃の温度、および-30~-2ミリバール、例えば-10~-6ミリバールの圧力で、管181a、181bを通って反応器10から排出する。シールガスは、ライン191bを介して、20~250℃、好ましくは100~250℃、より好ましくは120~160℃の温度、20.68~344.7kPa(3~50psi)の圧力で放出され得る。一般に、繊維の乱れを最小限に抑えるために、効果的なガスカーテンが生成されることをさらに確実にしながら、シールガスの流れの圧力を可能な限り低く保つことが好ましい。事前安定化前駆体81は、20℃~220℃の温度で反応器から排出してもよい。
【0696】
事前安定化前駆体81の温度は、少なくとも火災リスクを制限または回避するために、安全上の理由から220℃未満が望ましい場合がある。
【0697】
示差走査熱量測定(DSC)によって決定されるように事前安定化前駆体81が事前安定化前駆体81の発熱を確実に下回るようにするために、140℃未満の温度が望ましい場合がある。これは、事前安定化前駆体が酸化反応器に入る前にかなりの程度まで望ましくない反応をしないことを確実にするのに役立ち得る。
【0698】
事前安定化前駆体81の取り扱いを可能にするためには、事前安定化前駆体の温度が100℃未満であることが望ましい場合がある。
【0699】
図2bは、反応器10のこの実施形態を通るガスの流れを示す矢印で注釈が付けられる。
【0700】
図1aに示す第1の実施形態と同様に、ここで図1bに示す熱交換器163bは、燃焼ガスが大気に排出される前に燃焼ガスを冷却しながら高温窒素を反応器に供給できるように、低温窒素を燃焼ガスによって加熱することを可能にする。したがって、熱交換器163bは、低減システム16bからのエネルギ回収を可能にし、反応器10の全体的なエネルギ消費を低減する。いくつかの実施形態では、反応器10のエネルギ消費は、5kW~40kWであり得る。
【0701】
2つの出口を有する熱交換器163bが、出口12に最も近い反応器10の端に示されるが、入口11に最も近い反応器10の端の熱交換器163aおよびライン191a、1101aに同じ構成を使用できることが理解されよう。
【0702】
図1cは、図1bに示す反応器の第2の実施形態と同様の構造を有する反応器10の第3の実施形態を示すが、反応器10は、強制ガス流アセンブリに加えて反応室17を外部から加熱するための加熱要素101a、101bを備える加熱システムを備える。
【0703】
この実施形態では、加熱システムは、反応室17の上方および下方に配置された反応ゾーン171、172の各々のための加熱要素101a、101bを備える。各ゾーン171、172について、加熱要素101a、101bは、それらが供給要素1521a、1521bの近位にあり、さらなる加熱要素101a、101bが排出要素1511a、1511bの近位の反応室17の上下に配置されるように、関連するゾーンの長さに沿って反応室17の上下に配置される。
【0704】
加熱素子からの熱を反応室17に沿って分配するように、加熱要素101a、101bは、熱伝達媒体を含む加熱ジャケット102内に配置される。本実施形態では、熱伝達媒体は空気である。
【0705】
熱伝達媒体は、加熱ジャケット102内で循環されて、加熱要素101a、101bから反応器の反応ゾーン171、172に熱を伝達する。加熱システムは、熱伝達媒体を加熱ジャケット102に供給するための媒体入口ライン104a、104bを備える。加熱システムは、加熱ジャケット102内の熱伝達媒体を再循環させるための媒体入口ライン104a、104bに流体接続された戻りライン106a、106bを備える。ファン105a、105bは、各戻りライン106a、106bに沿って配置され、戻りライン106a、106bおよび媒体入口ライン104a、104bに沿って熱伝達媒体を伝達させて、再循環させることができる。
【0706】
加熱ジャケットは、反応室17の壁との熱伝達関係でその中に熱伝達媒体を保持するためにシールされることが理解されよう。加熱ジャケット102は、入口プレナム159a、159bから主プロセスガス送達ノズル152a、152bおよび中間プロセスガス送達ノズル153にダクティングを通すことを可能にするために、その周りに加熱ジャケット102がシールされる開口部103を備える。加熱ジャケット102は、反応器10の入口11および出口12に向かって反応室17に沿って延在する。加熱ジャケットは、各ゾーン171、172の端の排出要素1511a、1511bに沿った中間点で終端する。したがって、加熱ジャケット102は、排出要素1511a、1511bと供給要素1521a、1521bとの間のそれらの全長に沿って反応ゾーン171、172を取り囲む。
【0707】
この図示の実施形態では、反応室17は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bの近くの各反応ゾーン171、172に配置され、次いで入口11または出口12にそれぞれ近い反応ゾーン171、172の他端に向かって配置されたプロセスガスの温度を監視するための熱電対1301a、1301b、1302a、1302bを有する。反応器はまた、各媒体入口ライン104a、104bに熱電対107a、107bを備え、熱伝達媒体が加熱ジャケット102に供給される前に熱伝達媒体の温度を監視する。
【0708】
熱電対を使用して温度は測定され、熱電対1301a、1301b、1302a、1302b、107a、107bは、加熱要素101a、101bの温度が適切なレベルにあるかどうか、および熱伝達媒体が適切な速度で加熱ジャケット102を通して再循環されているかどうかを評価するために使用される。
【0709】
図2cは、加熱ジャケット102、媒体入口ライン104a、104b、および戻りライン106a、106bを備える加熱システムを通る熱伝達媒体の流れを含む、反応器10のこの実施形態を通るガスの流れを示す矢印で注釈が付けられる。
【0710】
他の実施形態では、追加の加熱要素、ならびに加熱要素を備える加熱システムの他の配置および構成が使用されてもよいことが理解されよう。例えば、反応室の各ゾーンには、加熱要素と、この図示の実施形態について説明したように再循環される熱伝達媒体を含む加熱ジャケットとを備える別個の加熱サブ構造が設けられてもよい。適切な加熱システムは、炭化炉で使用されるものと同様の構造を備えることができるが、事前安定化反応器の典型的な動作温度は、炭化炉で従来使用されている温度よりもかなり低いことが理解されよう。
【0711】
図1dは、反応器10の第4の実施形態の概略図をもたらす。この実施形態では、搬送ローラ(図示せず)は反応器10の外側に配置され、反応器10の一部を形成しない。いくつかの他の実施形態では、反応器10は、反応器10を通って前駆体80を通過させ、それをシステムの下流構成要素に供給するためにシステムの構成要素と協働する外部に配置された駆動ローラを備えることができる。
【0712】
図1a、図1b、図1c、図2a、図2bおよび図2cに示される反応器と同様に、使用中、反応器10の内部は、従来のローラにとって高温すぎる可能性がある。したがって、前駆体80がローラと反応器の内部との間を通過して事前安定化前駆体81を製造することを可能にするための入口11および出口12がある。図1dから分かるように、前駆体は、入口デッキ13を通過し、移行領域120aを通過し、反応室17を通過し、他の移行領域120bを通過し、出口デッキ14を通過することによって反応器10を通って移動し、その後出口12を介して排出する。
【0713】
入口デッキ13には、シールガス供給口193aが配置される。シールガス供給入口193aは、デッキ13を横切るプロセスガスのガスカーテンをもたらすように構成される。ガスカーテンは、入口11を通る反応器の周囲の雰囲気からの空気の流入を制限するように作用する。さらに、ガスカーテンは、反応室17からのガスの流出を制限する。シールガス供給入口193aおよびそれによってもたらされるシールガスカーテンは、出口デッキ14内のシールガス供給入口193bを説明する際に、以下でさらに説明される。
【0714】
図1bに示す反応器10は、2つの反応ゾーン171、172を有し、それぞれが一般にそれ自体の強制ガス流アセンブリを備える。
【0715】
図2dは、反応器10のこの実施形態を通るガスの流れを示す矢印で注釈が付けられる。
【0716】
2つの反応ゾーン171、172の強制ガス流アセンブリの構造は、鏡像関係にある。アセンブリは、反応室の端から中心に向かって反応室17にプロセスガスを主に供給するように構成される。すなわち、反応室17に供給された高温のプロセスガスの大部分は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bを介して反応室の両端から供給され、反応室17の端に向かって流れる。より小さい割合のプロセスガスが、入口11および出口12に向かって配置されたプロセスガス送達ノズル110a、110bによって送達される。
【0717】
入口11および出口12に向かうプロセスガス送達ノズル110a、110bは、プロセスガス供給源140に接続され、新鮮なプロセスガスを反応室17に供給するためのものである。反応器10内のプロセスガスの大部分は、反応器10の動作中に強制ガス流アセンブリによって再循環される。すなわち、新鮮なプロセスガスの供給は、排気出口183a、183bを通る損失を補償するためにもたらされる。
【0718】
典型的には、プロセスガスが反応室17を通って流れる際に良好な流れ均一性をプロセスガスにもたらすように、強制ガス流アセンブリは、プロセスガスが反応器10を通る前駆体の通路とほぼ平行に流れるようなものとなる。
【0719】
図2dに示すように、プロセスガスの端から中央への供給は、反応室17全体のプロセスガス流に良好な均一性をもたらすので好ましい場合がある。この構成では、ガスの大部分は前駆体と平行に流れている。ガス流の均一性は、反応室17の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス流速に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。
【0720】
図2dから、第1の反応ゾーン171において、ガス流は、反応室17を通る前駆体の通過に共流ベースでもたらされることが理解されよう。第2の反応ゾーン172において、ガス流は、前駆体の通過に伴う逆流としてもたらされる。
【0721】
ガス送達ノズル152a、152bを通るガス流の方向は、プロセスガス送達ノズル110a、110bからのガス流の方向と相補的であるため、プロセスガスの端から中心への供給が好ましい場合がある。したがって、プロセスガスの端から中央への供給は、反応室17への新鮮なプロセスガスの効率的な流入を促進することができる。
【0722】
典型的には、反応室17内のガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度がプロセスガスの温度の40℃以内、好ましくはプロセスガスの温度の30℃以内であるようなものである。いくつかの実施形態では、ガス流量は、実際の前駆体温度がプロセスガスの温度の50℃以内、好ましくはガスの温度の40℃以内、より好ましくはガスの温度の30℃以内であるようなものであり得る。プロセスガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。
【0723】
この実施形態では、使用されるプロセスガス流は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bの供給要素1521a、1521bからガス流の方向に沿って1.0mを超える点で算出した場合に、流れのレイノルズ数が10万を超えるようなものでなければならない。
【0724】
上述のように、プロセスガスを反応室に供給するための他の構成を使用することができる。しかしながら、プロセスガスの中心から端への流れまたはプロセスガスの端から中心への流れをもたらすように構成された強制ガス流アセンブリが、典型的には好ましい。プロセスガスの中心から端への流れを有する反応器のいくつかの実施形態は、図1a、図1b、図1c、図2a、図2bおよび図2cを参照して上述される。
【0725】
各強制ガス流アセンブリには、ガス戻りダクト156a、156bが設けられ、それに沿ってヒータ157a、157bが配置される。ヒータ157a、157bの下流には、ヒータ157a、157bを通ってプロセスガスを引き込み、したがってプロセスガスをプロセス温度まで上昇させるために使用されるファン158a、158bがある。次いで、ガスは、ファン158a、158bによって入口プレナム159a、159bを通って主プロセスガス送達ノズル152a、152bから吹き出される。
【0726】
ガス戻りダクト156a、156bはそれぞれ、排気出口183a、183bを備える。排気出口183a、183bは、ガス戻りダクト156a、156bに沿って再循環されるガス流から排気ガスを引き込む。いくつかの実施形態では、排気ガス流は、200~400℃の温度および-30~-2ミリバール、例えば-10~-6ミリバールの圧力で、管181a、181bを通って反応器10から排出する。排気ガスは、再循環されるプロセスガス流から抽気されているので、排気ガス流は、典型的には、所望のプロセスガス温度に等しいかまたはそれに近い温度で反応器から排出する。
【0727】
ガス戻りダクト156a、156bから排気ガスを引き込むために排気出口183a、183bを使用することにより、排気ノズル18a、18bが入口デッキ13および出口デッキ14に配置されている図1a、1b、1c、2a、2bおよび2cに示すような実施形態よりも多くの排気ガスを除去することができる。
【0728】
ガス戻りダクト156a、156b内に排気出口183a、183bを設けることによってより多くの量の排気ガスを引き込む能力にもかかわらず、プロセスガスおよびシールガスの消費を最小限に抑えるために排気引き込みを最小限に抑えることが望ましい。実際には、排気吸引量は、正確な反応器の構成、前駆体の性質、事前安定化中に生成される反応副生成物の性質および量、ならびに反応器のシールが効果的であるようにガス流のバランスをとるのに必要な吸引速度によって決定される。
【0729】
いくつかの実施形態では、戻りダクト内に排気出口に加えて、入口および出口デッキに排気ノズルを設けることが望ましい場合がある。適切な排気ノズル構成は、図1a、図1b、図1c、図2a、図2bおよび図2cを参照して上述したものを備えることができる。
【0730】
図1dおよび図2dに示す実施形態に戻ると、主プロセスガス送達ノズル152a、152bは、前駆体の上下に配置され、各々が供給要素1521a、1521bを備える。この実施形態では、各供給要素1521a、1521bは、供給ノズル管のアレイを備える。
【0731】
各プロセスガス入口プレナム159a、159bは、ノズル152a、152bを通る均一なガス流をもたらすのを助けるために、一次ガス流分配バッフル154a、154bおよび二次ガス流分配バッフル155a、155bを有する。プロセスガスが反応室17の中心に向かって反応ゾーン171、172に沿って通過すると、その後、プロセスガスは戻りノズル151a、151bを通って戻りダクト156a、156bに戻される。各戻りノズル151a、151bは、排出要素1511a、1511bを備える。この実施形態では、各排出要素1511a、1511bは、排出ノズル開口部のアレイを画定する有孔シートで終端する。しかしながら、いくつかの他の実施形態では、各排出要素1511a、1511bは、排出ノズル管のアレイを備える。
【0732】
シールガス供給入口193a、193b、プロセスガス送達ノズル110a、110bおよび排気出口183a、183bを通るガス流量は、反応室17を効果的にシールし、したがって反応室内に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口11および出口12を通る反応器からの付随的なガス流を制限するように制御される。理想的には、ガスはシールガス供給入口193a、193bを通って流れ、プロセスガス送達ノズル110a、110bおよび排気出口183a、183bは、入口11または出口12を通って反応器10から付随的なガス流がないように、およびシールガス供給入口193a、193bを通過する周囲雰囲気からの空気の流入がないように制御される。しかしながら、実際には、反応器10は、少量のフュージティブエミッションが入口11および出口12から放出されるように、わずかな正圧で動作する。シールガス供給入口193a、193bが入口11および出口12に隣接して配置されているので、フュージティブエミッションの構成は主に窒素であり、HCN含有量は10ppmを超えないことになり、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]は、曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を指定していることに留意されたい。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。センサは、オペレータの安全を確保するためにエミッションの組成を監視するために入口11および出口12に配置される。さらに、デッキ13、14内の酸素レベルを監視して、実質的に酸素を含まない雰囲気が反応室17内に維持されることを確実にする。実際には、反応器10をわずかに過剰な圧力で動作させることは、反応器を取り囲む雰囲気からの空気が反応室17に入らないことを確実にするのに役立つ。
【0733】
いくつかの実施形態では、反応器10は、入口11または出口12のすぐ外側の雰囲気が20.9%未満に低下しない酸素含有量を有するかどうかを監視するための少なくとも1つのセンサを各端に備える。
【0734】
いくつかの実施形態では、反応器10は、フュージティブエミッションを収集し、それらを排気低減システムに導くために、入口11および/または出口12に二次外部排気管理システムを装備することができる。この二次外部排気管理システムは、追加のオペレータの安全性をもたらすことができる。
【0735】
反応室17を流れるプロセスガスは、200~400℃であってもよい。したがって、ヒータ157a、157bの表面温度は、典型的には450℃を超えない。
【0736】
この図示の実施形態では、反応室17は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bの近くの各反応ゾーン171、172に配置され、次いで入口11または出口12にそれぞれ近い反応ゾーン171、172の他端に向かって配置されたプロセスガスの温度を監視するための熱電対1301a、1301b、1302a、1302bを有する。プロセスガスの温度を監視するように、熱電対1301a、1301b、1302a、1302bは、前駆体から少なくとも30mm、好ましくは前駆体から少なくとも40mm、より好ましくは前駆体から少なくとも50mm離れたガス流の温度を測定するように配置される。
【0737】
反応器はまた、各戻りダクト156a、156b内に、ガスがヒータ157a、157bを通って引き込まれる前にガスの温度を監視するための熱電対1303a、1303bを備える。
【0738】
反応室17は、2,000~17,000mmの有効加熱長を有することができる。反応室17の高さは、100~1,600mmであってもよい。反応室17の幅は、100~3,500mmであってもよい。反応室17のサイズは、前駆体の所望の処理体積に基づいて選択されてもよい。上記範囲の下端に向かう寸法を有する反応器10は、年間約1トンの生産量で、研究開発用途に適している可能性がある。上述した範囲の上端に向かう寸法を有する反応器10は、年間最大2,500トンの生産量を有する商業用途での使用に適し得る。例えば、年間最大2,000トンまたは年間最大1,500トンの生産量。
【0739】
反応室17のサイズに応じて、排気量は25Nm/分~3,000Nm/分であってもよく、プロセスガスの関連する消費量は100L/分~5,000L/分である。
【0740】
入口デッキ13の端には、内部入口スロットおよびプロセスガス送達ノズル110aがある。前駆体は、反応室17の主第1のゾーン171の主要部分に入る前に、内部入口を通過し、プロセスガス送達ノズル110aを通過し、反応室17の第1のゾーン171の主プロセスガス送達ノズル152aが配置される移行領域120aに入る。
【0741】
デッキ13の長さおよび反応器10に吹き込まれるガスの温度は、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気内に配置されるまで反応温度にならないように選択される。次いで、前駆体は、反応室17の2つのゾーン171、172を通過した後、第2の反応ゾーンの主プロセスガス送達ノズル152bで移行ゾーン120bに到達する。移行ゾーン120bの端には、他のプロセスガス送達ノズル110bが配置され、その上に出口デッキ14がある。
【0742】
シールガスは、ライン191a、191bを通して20.68~344.7kPa(3~50psi)の圧力で100~180℃の温度で放出されてもよい。事前安定化前駆体81は、出口12を通って反応器から排出する直前に、アウトバウンドシールガス供給入口193bによってもたらされるシールガスカーテンを通過するので、事前安定化前駆体の所望の排出温度以下でシールガスを供給することが望ましい場合がある。
【0743】
一般に、繊維の乱れを最小限に抑えるために、効果的なガスカーテンが生成されることをさらに確実にしながら、シールガスの流れの圧力を可能な限り低く保つことが好ましい。
【0744】
プロセスガスは、ライン1101a、1101bを使用して250~310℃、例えば290~310℃の温度でプロセスガス送達ノズル110a、110bから放出することができる。ガスは、0.1~1.5m/sの速度で放出されてもよく、例えば、速度は0.5~0.75m/sであってもよい。
【0745】
図1dに示すように、出口デッキ14は、プロセスガス送達ノズル110bおよびアウトバウンドシールガス供給入口193aを有する。さらに、反応器10は、プロセスガス送達ノズル110bとアウトバウンドシールガス供給入口193aとの間に冷却ガス入口108を備える。冷却ガス入口は、事前安定化前駆体81が出口デッキ14を通過するときに冷却ガスのカーテンをもたらすように構成される。
【0746】
図1dに示すように、シールガス供給入口193a、193bに接続されたライン191a、191bおよび冷却ガス入口108に接続されたライン1081は、プロセスガス供給源140から新鮮なプロセスガスを供給するライン1401a、1401bから分岐される。したがって、シールガス供給入口193a、193bおよび冷却ガス入口108の各々から放出されるガスは、プロセスガス供給源140から供給されるガスの温度であってもよい。ソースガスは、周囲温度で加熱、冷却、または供給されてもよい。
【0747】
冷却ガス入口108によって出口デッキ14に供給される冷却ガスの温度(および供給されるシールガスの温度)および出口デッキ14の長さは、前駆体が出口12を通過する前に確実に冷却するように選択される。冷却ガス入口108によってもたらされる冷却ガスカーテンの長さ、ならびにガスカーテンの流れ特性はまた、所望の冷却度を達成するように選択することができる。前駆体は、反応器10から排出する前に反応温度未満になるように冷却され、前駆体が反応し続けないことを確実にし、したがって、反応器10の外側になると安全上のリスクをもたらすのでHCNを発生させる。
【0748】
図1eは、反応器10の出口デッキ部14をさらに詳細に示す、図1dの破線で示すような、図1dの断面の概略断面図を示す。図1eは、移行ゾーン120b内に供給要素1521b、1521b’をそれぞれ備える上部主処理ガス送達ノズル152bおよび下部主処理ガス送達ノズル152b’内にガスを導くための二次ガス流分配バッフル155bを示す。この構造は、二次ガス流分配バッフル155a、上側および下側主処理ガス送達ノズル152a、ならびに移行ゾーン120a内の供給要素1521aについて鏡像関係にあることが理解されよう。
【0749】
事前安定化前駆体81は、移行ゾーンを出て出口デッキ14に入ると、プロセスノズル110bを通過する。図1eに示すように、プロセスガスノズル110bは、前駆体の上下に配置されるように配置された上部および下部出力管1104b、1104b’を備える。各出力管1104b、1104b’は、プロセスガスの流れを前駆体の幅にわたって導き、分配するための分配器1103b、1103b’に向かってプロセスガスを導くためのスロット形状の開口部1102b、1102b’を有する。プロセスガスノズル110aに同じ構造が使用されることが理解されよう。プロセスガスノズル110a、110bを通るプロセスガス流量は、100~5,000L/分であってもよい。
【0750】
次いで、前駆体は、出口デッキ14内の冷却ガス入口108を通過する。冷却ガス入口108は、冷却ガスが上部冷却ガス供給入口1082および下部冷却ガス供給入口1082’を介して供給される上部プレナム1084および下部プレナム1084’を備える。各プレナム1084、1084’は、前駆体81に衝突する冷却ガスのジェットを生成するための開口部のアレイを備えるプレナムプレート1083、1083’を備える。正のガス圧が各プレナムプレート1083、1083’の背後にもたらされる。圧力は、典型的には約1kPa未満であり、ガスは、開口部を通った速度で噴出される。衝突速度は、前駆体81の脆弱性に少なくとも部分的に応じて変化し、典型的には約0.5m/秒未満である。冷却ガス入口108を通る冷却ガス流量は、125~6250L/分であってもよい。
【0751】
いくつかの実施形態では、プレナムプレート1083、1083’の各開口部の周囲によって画定される開口面積は、約0.5~20mmである。例えば、面積は、0.79mm、3.14mm、7.07mm、12.57mm、または19.63mm、好ましくは約7.07mmであり得る。いくつかの実施形態では、開口部は円形である。したがって、いくつかの実施形態における開口直径は、約1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmである。いくつかの実施形態では、開口部はスロットである。スロットは、所望の開口面積をもたらすために適切な厚さを有する2~20mmの長さであってもよい。いくつかの実施形態では、スロットは、1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmの厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、スロットは、それらが前駆体81の進行方向に平行になるように向けられる。他の実施形態では、スロットは、それらが前駆体の進行方向に対して垂直になるように向けられる。いくつかの実施形態では、スロットは、前駆体の進行方向に対して45°などの角度で向けられる。
【0752】
反応器10から排出する前に、前駆体81は、出口デッキ14内のシールガス供給入口193bを通過する。シールガス供給入口193aは、上部および下部プレナム1934b、1934b’を備え、上部および下部シールガス供給入口1932b、1932b’を介してシールガスが供給される。各プレナム1934b、1934b’は、出口12にシールガスカーテンを形成するためにガスのジェットを生成するための開口部のアレイを備えるプレナムプレート1933b、1933b’を備える。正のガス圧が各プレナムプレート1933b、1933b’の背後にもたらされる。圧力は、典型的には約1kPa未満であり、ガスは、開口部を通った速度で噴出される。衝突速度は、前駆体81の脆弱性に少なくとも部分的に応じて変化し、典型的には約0.5m/秒未満である。シールガス供給入口193aのために同じ構造が使用されることが理解されよう。シールガス供給入口193a、193bを通るシールガス流量は、110~5,500L/分であってもよい。
【0753】
プレナムプレート1083、1083’と同様に、プレナムプレート1933b、1933b’のいくつかの実施形態では、各開口部の周囲によって画定される開口面積は、約0.5~20mmである。例えば、面積は、0.79mm、3.14mm、7.07mm、12.57mm、または19.63mm、好ましくは約7.07mmであり得る。いくつかの実施形態では、開口部は円形である。したがって、いくつかの実施形態における開口直径は、約1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmである。いくつかの実施形態では、開口部はスロットである。スロットは、所望の開口面積をもたらすために適切な厚さを有する2~20mmの長さであってもよい。いくつかの実施形態では、スロットは、1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmの厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、スロットは、それらが前駆体81の進行方向に平行になるように向けられる。他の実施形態では、スロットは、それらが前駆体の進行方向に対して垂直になるように向けられる。いくつかの実施形態では、スロットは、前駆体の進行方向に対して45°などの角度で向けられる。
【0754】
出口12において、反応器10は、前駆体81の通過を可能にするために2つのプレート間に形成された開口部の位置が上方位置、下方位置およびそれらの間の任意の中間位置の間で変更され得るように、各プレート109、109’が互いに独立して摺動する2つの摺動プレート109、109’を備えるチョーク機構を備える。スライドプレート109、109’の分離は、反応器出口12を取り囲む雰囲気からの空気の流入を最小限に抑えるために、出口12において前駆体のカテナリーサグに対応することができる最小の作業間隙をもたらすように調整することができる。反応器10の入口11にも同じチョーク機構が設けられる。
【0755】
反応器には、各端に統合低減システム16a、16bが設けられる。低減システム16a、16bは、HCNなどの反応副生成物を破壊するように排気ガスを700~850℃で燃焼させるためのバーナー161a、161bを備える。バーナー161a、161bは、天然ガスを使用して操作することができる。次いで、燃焼ガスは新鮮な空気と混合され、混合物はダクト162a、162bに沿って大気に排出される。
【0756】
ダクト162a、162bに沿って放出される前に、高温燃焼ガスは、高温燃焼ガスからライン1401a、1401bに沿って反応器10に供給された新鮮な実質的に酸素を含まないガスに熱を伝達することを可能にする熱交換器163a、163bを通過する。この場合、実質的に酸素を含まないガスは窒素である。したがって、ライン1403a、1403bを介して低温窒素は熱交換器163a、163bに供給され、燃焼ガスによって加熱され、その結果、ライン1101a、1101bを介して入口および出口デッキ13、14に配置されたプロセスガス送達ノズル110a、110bに高温窒素を供給することができる。燃焼ガスは、大気に排出される前に冷却される。したがって、熱交換器163a、163bは、低減システム16a、16bからのエネルギ回収を可能にし、反応器10の全体的なエネルギ消費を低減する。
【0757】
例えば、いくつかの実施形態では、反応器10のエネルギ消費は、5kW~40kWであり得る。
【0758】
図1a~図1eおよび図2a~図2dを参照して上述した実施形態は、最大3メートルの幅(例えば、繊維形態の前駆体のトウバンド幅)を有する前駆体を事前安定化することができるように構成され得る。しかしながら、いくつかの実施形態では、前駆体の幅が2メートルを超える場合、構造が反応室の両側に設けられるように、強制ガス流アセンブリを反映するように反応器を変更することが望ましい場合がある。そのような実施形態では、それぞれに沿ってヒータ(図1a~図1dの157a、157b)が配置されるガス戻りダクト(図1a~図1dの156a、156b)を反応室の両側に設けることができる。各戻りダクトについて、ヒータの下流では、ファン(図1a~図1dの158a、158b)を使用してヒータを通ってプロセスガスを引き込み、それによってプロセスガスをプロセス温度まで上昇させる。次いで、ガスは、戻りダクトに流体接続された入口プレナム(図1a~図1dの159a、159b)を通ってファンによって吹き出される。主プロセスガス送達ノズル(図1a~図1dの152a、152b)および中間プロセスガス送達ノズル(図1a~図1cの153)(使用される場合)は、適切な強制ガス流を前駆体の全幅にわたってもたらすことができるように、入口プレナムの対向する対からのガス流入を収容するように構成することができる。いくつかの実施形態では、入口および出口のデッキの構造を鏡像関係とし、プロセスガス、シールガス、および冷却ガスの所望の供給と、デッキの全幅にわたる所望の排気抽出とをもたらすこともできる。
【0759】
図3aおよび図3bは、既存の生産ラインに後付けするのに適した反応器10の図を示す。反応器10の設置面積を小さくし、したがって既存のラインに後付けできるようにするために、反応室は垂直に向けられる。さらに、前駆体80が適切な滞留時間の間反応室17を通過することを確実にし、反応器10が非実用的に高くないことを確実にするように、前駆体80は反応室17の各ゾーン171、172を2回通過する。前駆体を実質的に酸素を含まない雰囲気に維持しながらこれを行うことを可能にするように、反応器は、その上端に内部戻りローラ32を備える。内部戻りローラ32は、戻りローラ32の上方に配置され、ダクト181に接続された排気ノズル18を備える中間室144内に配置される。戻しローラ32の下方には、シールガス供給ノズル192a、192bが配置される。シールガス供給ノズルは、内部アイドルローラ32を取り囲む雰囲気からのガスの流入を制限し、反応室17からのガスの流出を制限するように、前駆体の各通過の上下にシールガスのカーテンをもたらすように構成される。
【0760】
戻しローラ32は非従動通過ローラである。非従動ローラを使用することにより、ローラ32は、上流および下流駆動ステーション(図示せず)によって搬送される前駆体の速度に本質的に一致する。そうすることにより、(内部ローラが前駆体速度と一致しない駆動速度を有する従動ローラである場合に起こり得る)ローラ上での前駆体の擦れまたはスカッフィングおよび結果として生じ得るその後の前駆体の損傷のリスクを最小限に抑える。
【0761】
入口11および出口12はそれぞれ反応器10の下端に配置され、シールガス供給ノズル19a、19bはデッキ131内の入口11および出口12の隣に配置される。シールガス供給ノズル19a、19bは、デッキ131を横切るプロセスガスのガスカーテンをもたらすように構成される。ガスカーテンは、反応器の周囲の雰囲気から入口11および出口12を通る空気の流入を制限するように作用する。さらに、ガスカーテンは、反応室17からのガスの流出を制限する。この実施形態の反応器10の対称構造により、入口11が出口として機能し、出口12が入口として機能するように、反応器を通る前駆体の方向を逆にすることができることが理解されよう。
【0762】
図1aおよび図2aに示す水平に向けられた反応器とは対照的に、反応器のこの実施形態は、反応器10の下端のデッキ131に排気ノズルを備えない。プロセスガスおよび事前安定化プロセスから生じる排気ガスの温度のために、排気ガスは反応器10の上端に向かって移動する傾向がある。したがって、この実施形態では、反応器10の下端に排気ノズルも設ける必要はなく、代わりに反応器10の上端に配置された排気ノズル18のみが必要である。
【0763】
シールガス供給ノズル19a、19b、192a、192bおよび排気ノズル18のガス流量は、反応室17を効果的にシールし、したがって反応室内に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口11および出口12を通って反応器10から出る付随的なガス流を制限するように制御される。
【0764】
理想的には、ガスは、シールガス供給ノズル19a、19b、192a、192bを通って流れ、排気ノズル18は、入口11および出口12を通って反応器10から出る付随的なガス流がなく、周囲雰囲気からの空気の流入がないように制御される。しかしながら、実際には、反応器10は、少量のフュージティブエミッションが入口11および出口12から放出されるように、わずかな正圧で動作する。フュージティブエミッションの組成は主に窒素であり、HCN含有量は10ppmを超えず、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意されたい。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。センサは、オペレータの安全を確保するためにエミッションの組成を監視するために反応器10の下端に配置される。さらに、デッキ131内の酸素レベルを監視して、実質的に酸素を含まない雰囲気が反応室17内に維持されることを確実にする。実際には、反応器をわずかに過剰な圧力で動作させることは、反応器を取り囲む雰囲気からの空気が反応室17に入らないことを確実にするのに役立つ。
【0765】
いくつかの実施形態では、反応器10は、入口11および出口12のすぐ外側の雰囲気が20.9%以上の酸素含有量を有するかどうかを監視するための少なくとも1つのセンサを備えることができる。
【0766】
いくつかの実施形態では、反応器10は、フュージティブエミッションを収集し、それらを排気低減システムに導くために、反応器の下端に二次外部排気管理システムを装備することができる。この二次外部排気管理システムは、追加のオペレータの安全性をもたらすことができる。
【0767】
デッキ131の端には、内部入口および出口スロット111、121ならびにプロセスガス送達ノズル1102a、1102bがある。前駆体は、反応室17の第1のゾーン171の主要部分に入る前に、内部入口111を通過し、プロセスガス送達ノズル1102aを通過し、反応室17の第1のゾーン171の戻りノズル151aが配置された移行領域120aに入る。
【0768】
次いで、前駆体は、反応室17の2つのゾーン171、172を通過した後、第2の反応ゾーン戻りノズル151bで移行ゾーン120bに到達する。移行ゾーン120bの端には、他のプロセスガス送達ノズル1103aが配置され、その上に戻りローラ32が配置される中間室144が配置される。前駆体は、出口スロット122を通過して上部反応ゾーン172を排出して、中間室144に入る。次いで、戻しローラ32は、前駆体がプロセスガス送達ノズル1103bを通過し、移行ゾーン120bおよび反応室17の2つのゾーン171、172を通って搬送されるように、前駆体を入口スロット112に戻す。次いで、前駆体は、反応器17の下端に配置された移行ゾーン120aを通って戻り、プロセスガス送達ノズル1102bを通過してデッキ131内に入る。
【0769】
入口11、出口12、内部入口スロット111、入口スロット112、内部出口スロット121、出口スロット122の各々は、2つのスライドプレートを備えたチョーク機構を備え、各プレートは互いに独立してスライドし、前駆体の通過を可能にするために2つのプレートの間に形成された開口部の位置は、上方位置、下方位置、およびそれらの間の任意の中間位置の間で変更され得る。スライドプレートの分離は、反応室17を取り囲む雰囲気からのガスの流入を最小限に抑えるために、出口に最小の作業間隙をもたらすように調整されてもよい。
【0770】
デッキ131の長さおよび反応器10に吹き込まれるガスの温度は、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気内に配置されるまで反応温度にならないように選択される。さらに、デッキ131の長さおよびシールガス供給ノズル19a、19bによってデッキに供給されるガスの温度は、出口12を通過する前に前駆体が確実に冷却するように選択される。前駆体は、反応器10から排出する前に反応温度未満になるように冷却され、前駆体が反応し続けないことを確実にし、したがって、反応器10の外側になると安全上のリスクをもたらすのでHCNを発生させる。
【0771】
中間室144に配置されたシールガス供給ノズル192a、192bは、内部駆動ローラ32を取り囲む雰囲気からのガスの流入を制限するように作用するとともに、使用時に内部ローラ32にアクセスすることが必要な状況では反応室17からのガスの流出を制限するように作用するガスカーテンをもたらすことができる。例えば、いくつかの実施形態では、反応器10は、繊維前駆体を処理するときに発生し得る繊維ラップアラウンドまたは同様の事象に対処するために、内部ローラ32にアクセスするために開くことができるアクセスハッチ(図示せず)を備えることができる。いくつかの他の実施形態では、駆動ローラ32は、任意の繊維ラップアラウンドに対処するためにドクターブレード(図示せず)を備えることができる。
【0772】
さらに、実際には、反応器10を取り囲む雰囲気から完全にシールされた中間室144を設けることは困難であり得る。したがって、シールガスの流れは、反応器10の通常の使用中に周囲雰囲気から中間室144へのガスの付随的な流入を制限することができる。
【0773】
中間室144をシールする二次的な機能として、シールガスは中間室144を冷却することができる。前駆体が依然として発熱状態にあるため、前駆体が中間室144を通過するときに前駆体を冷却することが望ましい場合がある。
【0774】
中間室144は直接加熱されない。しかしながら、熱はこの領域に流出する。大部分は、その後、排気ガスの流れによって除去される。典型的には、中間室144は、150~200℃の温度で動作する。そのような温度範囲内では、内部ローラ32に有害な影響はない。
【0775】
いくつかの実施形態では、排気ガス流は、150~200℃の温度および-30~-2ミリバール、例えば-10~-6ミリバールの圧力で管181を通って反応器から排出する。シールガスは、ライン191、1921を介して、200~250℃の温度、20.68~344.7kPa(3~50psi)の圧力で放出され得る。一般に、繊維の乱れを最小限に抑えるために、効果的なガスカーテンが生成されることをさらに確実にしながら、シールガスの流れの圧力を可能な限り低く保つことが好ましい。
【0776】
プロセスガスは、250~310℃、例えば290~310℃の温度でプロセスガス送達ノズル1102a、1102b、1103a、1103bから放出することができる。ガスは、0.1~1.5m/sの速度で放出されてもよく、例えば、0.5~0.75m/sであってもよい。
【0777】
図3aおよび図3bに示す反応器は、それぞれが一般にそれ自体の強制ガス流アセンブリを備えた2つの反応ゾーン171、172を有する。しかしながら、反応室の中心には、ガスの流れが反応室17の全長に沿って確実に供給されるように、共通の中間プロセスガス送達ノズル153が設けられることが分かる。
【0778】
図4aは、反応器10のこの実施形態を通るガスの流れを示すために矢印で注釈が付けられる。
【0779】
2つの反応ゾーン171、172の強制ガス流アセンブリの構造は、鏡像関係にある。アセンブリは、主に中央から端まで反応室17にプロセスガスを供給するように構成される。すなわち、反応室17に供給される高温のプロセスガスの大部分は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bを介して反応室17の中心から供給され、反応室17の端に向かって流れる。より小さい割合のプロセスガスが、上端および下端に配置されたプロセスガス送達ノズル1102a、1102b、1103a、1103bによって送達される。
【0780】
図4に示すように、プロセスガスの中心から端への供給は、反応室17全体のプロセスガス流に良好な均一性をもたらすため、好ましい場合がある。この構成では、ガスの大部分は前駆体と平行に流れている。ガス流の均一性は、反応室17の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス流速に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。
【0781】
典型的には、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度がプロセスガスの温度の40℃以内、好ましくはプロセスガスの温度の30℃以内であるようなものである。いくつかの実施形態では、ガス流量は、実際の前駆体温度がプロセスガスの温度の50℃以内、好ましくはガスの温度の40℃以内、より好ましくはガスの温度の30℃以内であるようなものであり得る。プロセスガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。
【0782】
この実施形態では、使用されるプロセスガス流は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bの供給要素1521a、1521bからガス流の方向に沿って1.0mを超える点で算出した場合に、流れのレイノルズ数が10万を超えるようなものでなければならない。
【0783】
また、上述したように、プロセスガスを反応室17に供給するための他の構成を使用することができる。しかしながら、プロセスガスの中心から端への流れをもたらすように構成された強制ガス流アセンブリが、典型的には好ましい。
【0784】
反応室17の加熱長さは、2,000~10,000mmであってもよい。しかしながら、前駆体は、所望の滞留時間および有効な加熱長さをもたらすように、この長さを2回通過することが理解されよう。反応室17の高さは、100~1,600mmであってもよい。反応室17の幅は、100~3,500mmであってもよい。反応室17のサイズは、前駆体の所望の処理体積に基づいて選択されてもよい。上記範囲の下端に向かう寸法を有する反応器10は、年間約1トンの生産量で、研究開発用途に適している可能性がある。上述した範囲の上端に向かう寸法を有する反応器10は、年間最大2,500トンの生産量を有する商業用途での使用に適し得る。例えば、年間最大2,000トンまたは年間最大1,500トンの生産量。
【0785】
反応室17のサイズに応じて、排気量は25Nm/分~3,000Nm/分であってもよく、プロセスガスの関連する消費量は100L/分~5,000L/分である。
【0786】
各強制ガス流アセンブリには、ガス戻りダクト156a、156bが設けられ、それに沿ってヒータ157a、157bが配置される。ヒータ157a、157bの下流には、ヒータ157a、157bを通ってプロセスガスを引き込み、したがってプロセスガスをプロセス温度まで上昇させるために使用されるファン158a、158bがある。次いで、ガスは、ファンによって入口プレナム159a、159bを通って主プロセスガス送達ノズル152a、152bから吹き出される。上述したように、各入口プレナム159a、159bからのプロセスガスの一部はまた、中間プロセスガス送達ノズル153を通って導かれる。これを達成するために、ノズルダクトの後壁は、プロセスガスの一部を中間プロセスガス送達ノズル153に導くためのノズル開口部のアレイを備える。しかしながら、入口プレナム159a、159bからのプロセスガスの大部分は、ノズルダクトを通って主プロセスガス送達ノズル152a、152bから外に導かれる。
【0787】
主プロセスガス送達ノズル152a、152bは前駆体の上下に配置され、各ノズルは供給要素1521a、1521bを備える。この実施形態では、各供給要素1521a、1521bは、供給ノズル管のアレイを備える。
【0788】
各プロセスガス入口プレナムは、ノズル152a、152bを通る均一なガス流をもたらすのを助けるために、一次ガス流分配バッフル154a、154bおよび二次ガス流分配バッフル155a、155bを有する。プロセスガスが反応室17に沿って通過すると、その後、プロセスガスは、戻りノズル151a、151bを通って戻りダクト156a、156bに戻される。しかしながら、プロセスガスの一部は、反応室17から中間室144に流れ、最終的に排気ノズル18を介して反応器10から除去される反応副生成物を運ぶ。
【0789】
各戻りノズル151a、151bは、排出要素1511a、1511bを備える(図3b参照)。この実施形態では、各排出要素1511a、1511bは、排出ノズル開口部のアレイを画定する有孔シートで終端する。しかしながら、いくつかの他の実施形態では、各排出要素1511a、1511bは、排出ノズル管のアレイを備える。
【0790】
反応室17を流れるプロセスガスは、200~400℃であってもよい。したがって、ヒータ157a、157bの表面温度は、典型的には450℃を超えない。
【0791】
この図示の実施形態では、反応室17は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bの近くの各反応ゾーン171、172に配置され、次いで反応ゾーン171、172の他端に向かって配置されたプロセスガスの温度を監視するための熱電対1301a、1301b、1302a、1302bを有する。プロセスガスの温度を監視するように、熱電対1301a、1301b、1302a、1302bは、前駆体から少なくとも30mm、好ましくは前駆体から少なくとも40mm、より好ましくは前駆体から少なくとも50mm離れたガス流の温度を測定するように配置される。
【0792】
反応器には、統合低減システム16が設けられる。低減システム16は、HCNなどの反応副生成物を破壊するように排気ガスを700~850℃で燃焼させるためのバーナー161を備える。バーナー161は、天然ガスを使用して操作することができる。次いで、燃焼ガスは、ダクト162に沿って大気に排出される。
【0793】
ダクトに沿って放出される前に、高温燃焼ガスは、高温燃焼ガスからライン1401を介して反応器10に供給された新鮮な実質的に酸素を含まないガスに熱を伝達することを可能にする熱交換器163を通過する。この場合、実質的に酸素を含まないガスは窒素である。したがって、低温窒素は燃焼ガスによって加熱され、その結果、ライン1402を介して、反応器10の各端に配置されたシールガスノズル19a、19b、192a、192bおよびプロセスガス送達ノズル1102a、1102b、1103a、1103bに高温窒素を供給することができる。同様に、燃焼ガスは、大気に排出される前に冷却される。したがって、熱交換器163は、低減システム16からのエネルギ回収を可能にし、反応器10の全体的なエネルギ消費を低減する。
【0794】
図3cは、図3aおよび図3bに示す反応器の第1の実施形態と同様の構造を有する垂直に向けられた反応器10の第2の実施形態を示す。可能なより速い前駆体速度を可能にするために、この実施形態では、反応器10の出口12で追加の冷却がもたらされる。この場合、前駆体80は、図3aに示す方向とは反対の方向に垂直に向けられた反応器10を通過する。すなわち、前駆体80は、非従動ローラ33、34を備えた材料取扱装置を介して反応器10内に搬送される。図3aに関して上述したように、反応10を通る前駆体の流路は、内部ローラ32によって画定される。
【0795】
事前安定化前駆体81は、非従動ローラ31を備えた材料取扱装置によって反応器10から下流の酸化反応器に搬送される。前駆体方向の変化の結果として、入口11、内部入口スロット111および出口スロット122の位置は、それぞれ出口12、内部出口スロット121および入口スロット112の位置と入れ替わっている。
【0796】
この第2の実施形態では、(図3aに示すように)デッキ131の代わりに、断熱隔壁133によって分離された入口デッキ13および出口デッキ14がある。冷却ガス入口108は、内部出口スロット121と出口12との間の出口デッキ14に設けられる。冷却ガス入口108によってもたらされるガスカーテンもシールをもたらす。したがって、冷却ガス入口108によって延長されたシールおよび冷却ガスカーテンがもたらされる。また、内部出口スロット121にはチョーク機構が設けられない。
【0797】
冷却ガス入口108に接続されたライン1081は、事前安定化前駆体81が反応器から排出する前にガスカーテンシールが冷却効果をもたらすことを可能にするために冷却ガス供給源に接続される。
【0798】
冷却およびシールガス入口108によって出口デッキ14に供給される冷却ガスの温度および出口デッキ14の長さは、前駆体が出口12を通過する前に確実に冷却するように選択される。冷却ガス入口108によってもたらされる冷却およびシールガスカーテンの長さ、ならびにガスカーテンの流れ特性はまた、所望の冷却度を達成するように選択することができる。前駆体は、反応器10から排出する前に反応温度未満になるように冷却され、前駆体が反応し続けないことを確実にし、したがって、反応器10の外側になると安全上のリスクをもたらすのでHCNを発生させる。
【0799】
冷却ガス入口108は、ライン1081に接続された上部冷却ガス供給入口および下部冷却ガス供給入口(図示せず)を介して冷却ガスが供給される上部プレナム1084および下部プレナム1084’を備える。各プレナム1084、1084’は、前駆体81に衝突する冷却ガスのジェットを生成するための開口部のアレイを備えるプレナムプレート1083、1083’を備える。正のガス圧が各プレナムプレート1083、1083’の背後にもたらされる。圧力は、典型的には約1kPa未満であり、ガスは、開口部を通った速度で噴出される。衝突速度は、前駆体81の脆弱性に少なくとも部分的に応じて変化し、典型的には約0.5m/秒未満である。
【0800】
いくつかの実施形態では、各開口部の周囲によって画定される開口面積は、約0.5~20mmである。例えば、面積は、0.79mm、3.14mm、7.07mm、12.57mm、または19.63mm、好ましくは約7.07mmであり得る。いくつかの実施形態では、開口部は円形である。したがって、いくつかの実施形態における開口直径は、約1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmである。いくつかの実施形態では、開口部はスロットである。スロットは、所望の開口面積をもたらすために適切な厚さを有する2~20mmの長さであってもよい。いくつかの実施形態では、スロットは、1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmの厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、スロットは、それらが前駆体81の進行方向に平行になるように向けられる。他の実施形態では、スロットは、それらが前駆体の進行方向に対して垂直になるように向けられる。いくつかの実施形態では、スロットは、前駆体の進行方向に対して45°などの角度で向けられる。
【0801】
図4bは、冷却ガス入口108からの冷却ガスの流れを含む、反応器10のこの実施形態を通るガスの流れを示す矢印で注釈が付けられる。
【0802】
図3dは、図3cに示す反応器の第2の実施形態と同様の構造を有する反応器10の第3の実施形態を示すが、反応器10は、強制ガス流アセンブリに加えて、反応室17を加熱するための加熱要素101a、101bを備える加熱システムを備える。
【0803】
この実施形態では、加熱システムは、反応ゾーン171、172の各々のための加熱要素101a、101bを備える。各ゾーン171、172について、加熱要素101a、101bは、反応ゾーンの各端の近位に加熱要素があるように、関連するゾーンの長さに沿って配置される。
【0804】
加熱素子からの熱を反応室17に沿って分配するように、加熱要素101a、101bは、熱伝達媒体を含む加熱ジャケット102内に配置される。本実施形態では、熱伝達媒体は空気である。
【0805】
熱伝達媒体は、加熱ジャケット102内で循環されて、加熱要素101a、101bから反応器の反応ゾーン171、172に熱を伝達する。加熱システムは、熱伝達媒体を加熱ジャケット102に供給するための媒体入口ライン104を備える。加熱システムは、加熱ジャケット102内の熱伝達媒体を再循環させるための媒体入口ライン104に流体接続された戻りライン106を備える。ファン105は、戻りライン106に沿って配置され、熱伝達媒体を戻りライン106および媒体入口ライン104に沿って伝達して再循環させることができる。
【0806】
加熱ジャケットは、反応室17の壁との熱伝達関係でその中に熱伝達媒体を保持するためにシールされることが理解されよう。加熱ジャケット102は、入口プレナム159a、159b(図3bおよび図4cを参照)から主プロセスガス送達ノズル152a、152bおよび中間プロセスガス送達ノズル153にダクティングを通すことを可能にするために、加熱ジャケット102がその周りにシールされる開口部(図示せず)を備える。加熱ジャケット102は、反応ゾーンの端に向かって反応室17に沿って延在する。
【0807】
この図示の実施形態では、反応室17は、各反応ゾーン171、172に配置されたプロセスガスの温度を監視するための熱電対1301a、1301b、1302a、1302bを有する。反応器はまた、熱伝達媒体が加熱ジャケット102に供給される前に熱伝達媒体の温度を監視するための媒体入口ライン104内の熱電対107を備える。
【0808】
熱電対1301a、1301b、1302a、1302b、107を使用して測定された温度は、加熱要素101a、101bの温度が適切なレベルにあるかどうか、および熱伝達媒体が適切な速度で加熱ジャケット102を通して再循環されているかどうかを評価するために使用される。
【0809】
図4cは、加熱ジャケット102、媒体入口ライン104、および戻りライン106を備える加熱システムを通る熱伝達媒体の流れを含む、反応器10のこの実施形態を通るガスの流れを示す矢印で注釈が付けられる。
【0810】
他の実施形態では、追加の加熱要素、ならびに加熱要素を備える加熱システムの他の配置および構成が使用されてもよいことが理解されよう。例えば、反応室の各ゾーンには、加熱要素と、この図示の実施形態について説明したように再循環される熱伝達媒体を含む加熱ジャケットとを備える別個の加熱サブ構造が設けられてもよい。適切な加熱システムは、炭化炉で使用されるものと同様の構造を備えることができるが、事前安定化反応器の典型的な動作温度は、炭化炉で従来使用されている温度よりもかなり低いことが理解されよう。
【0811】
垂直に向けられた反応器10は、比較的小さい設置面積を有する。例えば、図示の実施形態では、反応器10の設置面積は、600mm×1,000mmであってもよい。したがって、垂直に向けられた反応器は、前駆体繊維の供給源と酸化反応器との間の既存の空間内の既存の炭素繊維製造ラインに後付けされてもよい。図5は、クリール41と従来の酸化オーブン21を備える酸化反応器20との間に配置された、図3aを参照して説明した垂直に向けられた反応器10を示すこの例を示す。垂直に向けられた反応器10の他の実施形態は、既存の炭素繊維製造ラインに後付けされるように同様に配置されてもよいことが理解されよう。
【0812】
前駆体80をクリール41から反応器10に搬送するために使用される反応器の上流にニップローラ構成を有する駆動ステーション301がある。これは、外部の非従動ローラ31を介して反応器10に搬送される。上述したように、反応10を通る前駆体の流路は、内部ローラ32によって画定される。
【0813】
事前安定化前駆体81は、反応器10から駆動ステーション302までの前駆体81の流路を画定する非従動ローラ33、34、35を備える材料取扱装置によって反応器10から酸化反応器20に搬送される。駆動ステーション302は、前駆体が第1の駆動ステーション301と第2の駆動ステーション302との間の反応器10を通過するときに前駆体に所定の張力を加える張力装置である。第1の駆動ステーション301は制動力を加え、これは前駆体80をクリール81から搬送するために使用される。
【0814】
第2の駆動ステーション302は、非従動通過ローラ3021と、5ローラ駆動構成3022とを備える。
【0815】
上述したように、理論に束縛されるものではないが、反応器10を使用して形成された事前安定化前駆体81は、事前安定化中の前駆体繊維の部分的な環化に少なくとも部分的に起因して酸化のために活性化されると考えられる。したがって、従来の酸化反応器20の動作パラメータは、この活性化を説明するように構成させることができる。例えば、酸化は、安定化前駆体の製造に従来使用されている温度よりも低い温度で行われてもよい。さらに、事前安定化による前駆体の活性化は、酸化をより迅速に行うことを可能にし得る。したがって、従来の酸化反応器20が使用される場合、より少ない酸化オーブン21が酸化ステップに必要とされ得、および/または前駆体が各酸化オーブン21を通過する回数がより少なくなり得る。
【0816】
いくつかの実施形態では、酸化反応器20は、本発明の事前安定化反応器10と共に使用するために特に構成されてもよい。このような酸化反応器20を図6に示す。
【0817】
図6は、本発明の反応器10と共に使用するのに適した酸化反応器20の第1の実施形態の概略図をもたらす。搬送ローラ(図示せず)は、酸化反応器の外側に配置され、反応器の一部を形成しない。いくつかの他の実施形態では、酸化反応器は、反応器を通って前駆体を通過させ、それをシステムの下流構成要素に供給するためにシステムの構成要素と協働する外部に配置されたローラを備えることができる。
【0818】
使用時に、酸化反応器20の内部は、従来のローラには高温すぎる可能性がある。したがって、前駆体81がローラと酸化反応器20の内部との間を通過することを可能にするための入口21および出口22がある。図6から分かるように、事前安定化前駆体81は、入口デッキ23を通過し、移行領域220aを通過し、反応室27を通過し、他の移行領域220bを通過し、出口デッキ24を通過することによって酸化反応器20を通過した後、出口22を介して排出する。
【0819】
ローラと反応器20の内部との間で繊維を自由に通過させる能力は、酸化反応器20内の雰囲気から酸化反応器を取り囲む雰囲気へのガスの流出を制限する必要性と釣り合わなければならない。
【0820】
酸化室27には、酸素含有ガスが供給される。多くの場合、この酸素含有ガスは空気であり、便宜上、以下の説明では実質的に酸素含有ガスとして空気を指す。しかしながら、上述した他の酸素含有ガスを使用することができることが理解されよう。
【0821】
入口デッキ23は、入口に隣接して配置された排気ノズル28a(下側のもののみを示す)を備える。排気ノズル28aは、酸化反応器を通過する際に前駆体の上下から排気ガスを引き込む。
【0822】
排気ノズル28a、28bを通ってガスが引き込まれる速度は、入口を通って酸化反応器27から出る付随的なガス流を制限することによって酸化室27を効果的にシールするように制御される。空気が酸化ガスであるこの実施形態では、冷気は、入口21を通って排気ノズル28aによって引き込まれる。したがって、酸化反応器20は、フュージティブエミッションが入口21から放出されないように、入口デッキ23内でわずかな負圧で動作する。センサは、オペレータの安全を確保するためにフュージティブエミッションを監視するために入口21に配置される。1つまたは複数のセンサは、入口21のすぐ外側の雰囲気が10ppmを超えないHCN含有量を有するかどうかを監視し、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意する。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。また、少なくとも1つのセンサを使用して、入口21のすぐ外側の雰囲気が20.9%未満に低下しない酸素含有量を有するかどうかを監視する。
【0823】
デッキ23の端には、内部入口スロットおよび酸化ガス送達ノズル210aがある。事前安定化前駆体は、内部入口を通過し、酸化ガス送達ノズル210aを通過して移行領域220aに入り、ここで、酸化室27の第1の酸化ゾーン271の戻りノズル251aが、酸化室27の第1のゾーン271の主要部分に入る前に配置される。
【0824】
デッキ23の長さ、入口21を通って引き込まれる空気の量、および酸化反応器20に吹き込まれるガスの温度は、デッキ23におけるHCNの発生を最小限に抑えるように、前駆体が酸化室27内に配置されるまで反応温度に上昇しないように選択される。次いで、前駆体は、酸化室27の2つのゾーン271、272を通過した後、第2の酸化ゾーン戻りノズル251bで移行ゾーン220bに到達する。移行ゾーン220bの端には、他の酸化ガス送達ノズル210bが配置され、その上に出口デッキ24がある。
【0825】
いくつかの実施形態では、排気ガス流は、150~250℃の温度および-30~-2ミリバール、例えば10~-6ミリバールの圧力で、管281a、281bを通って酸化反応器20から排出する。
【0826】
酸化ガスは、210~280℃の温度で酸化ガス送達ノズル210a、210bから放出することができる。ガスは、0.1~1.5m/sの速度で放出されてもよく、例えば、速度は0.5~0.75m/sであってもよい。
【0827】
図6aおよび図6bに示すように、出口デッキ24は、入口デッキ23について示される構成を実質的に反映する酸化ガス送達ノズル210bおよび排気ノズル28bの構成を有する。ここでも、排気ノズル28bを通る排気ガスの流量は、反応器20から出口22から付随的なガス流がないことを確実にするように選択される。入口デッキ23を参照して上述したように、典型的には、実際には、空気が出口22を通って引き込まれるように、反応器20は出口デッキ24内の圧力下でわずかに動作する。
【0828】
センサは、オペレータの安全を確保するためにフュージティブエミッションを監視するために出口22に配置される。1つまたは複数のセンサは、出口22のすぐ外側の雰囲気が10ppmを超えないHCN含有量を有するかどうかを監視し、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意する。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。また、少なくとも1つのセンサを使用して、出口22のすぐ外側の雰囲気が20.9%未満に低下しない酸素含有量を有するかどうかを監視する。
【0829】
出口22を通って出口デッキ24に引き込まれる空気の量および出口デッキ24の長さは、前駆体が出口22を通過する前に確実に冷却するように選択される。前駆体は、反応器20から排出する前に反応温度未満になるように冷却されて、前駆体が反応し続けないことを確実にし、そのため、一旦酸化反応器20の外側になると安全上のリスクを引き起こすのでHCNを発生させる。
【0830】
酸素含有ガスが空気ではない実施形態などのいくつかの実施形態では、酸化反応器は、入口および出口デッキにシールガス供給ノズルを備えることができる。シールガス供給ノズルは、各デッキを跨いで酸化ガスのガスカーテンを供給するように構成される。ガスカーテンは、酸化室からのガスの流出を制限するように作用する。さらに、ガスカーテンは、入口および出口を通って反応器を取り囲む雰囲気からの空気の流入を制限することができる。
【0831】
シールガス供給ノズルおよび排気ノズルを通るガス流量は、酸化室を効果的にシールし、したがって酸化室内の酸素含有雰囲気を維持し、入口および出口を通る反応器からの付随的なガス流を制限するように制御される。理想的には、ガスは、シールガス供給ノズルを通って流れ、排気ノズルは、入口および出口を通って酸化反応器から出る付随的なガスの流れがなく、周囲雰囲気から排気ノズルを通過する空気の流入がないように制御される。しかしながら、実際には、わずかな量のフュージティブエミッションが入口から放出されるように、反応器はわずかな正圧で動作する。フュージティブエミッションの組成は主に酸素含有ガスであり、HCN含有量は10ppmを超えず、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意されたい。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。センサは、オペレータの安全を確保するためにエミッションの組成を監視するために入口および出口に配置される。また、センサを使用して、入口および出口のすぐ外側の雰囲気が20.9%未満に低下しない酸素含有量を有するかどうかを監視する。
【0832】
設けられる場合、各デッキのシールガス供給ノズルは、排気ノズルと酸化ガス送達ノズルとの間に配置されてもよい。あるいは、シールガス供給ノズルは、排気ノズルと入口または出口との間に配置されてもよい。シールガスは、50~250℃の温度で放出されてもよい。ガスは、0.5~4.5m/sの速度で放出されてもよく、例えば、速度は1~4m/sであってもよい。
【0833】
いくつかの実施形態では、反応器20は、フュージティブエミッションを収集し、それらを排気低減システムに導くために、二次外部排気管理システムを装備することができる。この二次外部排気管理システムは、追加のオペレータの安全性をもたらすことができる。
【0834】
図6に示す酸化反応器は、それぞれが一般にそれ自体の強制ガス流アセンブリを備えた2つの酸化ゾーン271、272を有する。しかしながら、ガスの流れが酸化室27の全長に沿って確実に供給されるように、反応室の中心に共通の中間酸化ガス送達ノズル253が設けられることが分かる。
【0835】
図7は、酸化反応器20のこの実施形態を通るガスの流れを示すために矢印で注釈が付けられる。
【0836】
2つの酸化ゾーン271、272の強制ガス流アセンブリの構造は、鏡像関係にある。アセンブリは、主に中心から端まで酸化室27に酸化ガスを供給するように構成される。すなわち、反応室27に供給される高温酸化ガスの大部分は、主酸化ガス送達ノズル252a、252bを介して反応室の中心から供給され、反応室27の端に向かって流れる。より小さい割合の酸化ガスが、入口21および出口22に向かって配置された酸化ガス送達ノズル210a、210bによって送達される。入口21および出口22に向かう酸化ガス送達ノズル210a、210bは、酸素含有ガスの供給源2401a、2401bに接続され、新鮮な酸化ガスを酸化室27に供給するためのものである。酸化ガスの大部分は、酸化室27の動作中に強制酸化ガス流アセンブリによって再循環される。
【0837】
典型的には、酸化ガスが反応室27を通って流れるときに良好な流れ均一性を有するように、強制酸化ガス流アセンブリは、酸化ガスが反応器20を通る前駆体の通過とほぼ平行に流れるようなものである。
【0838】
図7に示すように、酸化ガスの中心から端への供給は、反応室27全体の酸化ガスの流れに良好な均一性をもたらすため、好ましい場合がある。この構成では、ガスの大部分は前駆体と平行に流れている。ガス流の均一性は、反応室27の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス流に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。
【0839】
典型的には、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度がプロセスガスの温度の60℃以内、好ましくはプロセスガスの温度の50℃以内であるようなものである。本明細書で使用される場合、「前駆体に隣接する」とは、前駆体の10mm以内、好ましくは前駆体の3mm以内、より好ましくは前駆体の1mm以内を意味する。酸化ガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。
【0840】
この実施形態では、使用されるプロセスガス流は、主プロセスガス送達ノズル252a、252bの供給要素2521a、2521bからガス流の方向に沿って1.0mを超える点で算出した場合に、流れのレイノルズ数が10万を超えるようなものでなければならない。
【0841】
上述したように、酸化ガスを反応室27に供給するための他の構成を使用することができる。しかしながら、中心から端への酸化ガスの流れをもたらすように構成された強制ガス流アセンブリが、典型的には好ましい。
【0842】
酸化室27は、2,000~17,000mmの有効加熱長を有することができる。酸化室27の高さは、100~1,600mmであってもよい。酸化室27の幅は、100~3,500mmであってもよい。酸化室27のサイズは、前駆体の所望の処理量に基づいて選択されてもよい。上記範囲の下端に向かう寸法を有する酸化反応器20は、年間約1トンの生産量で、研究開発用途に適している可能性がある。上述した範囲の上端に向かう寸法を有する反応器20は、年間最大2,500トンの生産量を有する商業用途での使用に適し得る。例えば、年間最大2,000トンまたは年間最大1,500トンの生産量。
【0843】
酸化室20のサイズに応じて、排気量は25Nm/分~3,000Nm/分であってもよく、プロセスガスの関連する消費量は100L/分~5,000L/分である。
【0844】
各強制ガス流アセンブリには、ガス戻りダクト256a、256bが設けられ、それに沿ってヒータ257a、257bが配置される。ヒータ257a、257bの下流にはファン258a、258bがあり、これを使用してヒータ257a、257bを通して酸化ガスを引き込み、したがってプロセス温度まで上昇させる。次いで、ガスは、ファン258a、258bによって入口プレナム259a、259bを通って主酸化ガス送達ノズル252a、252bから吹き出される。上述したように、各入口プレナム259a、259bからの酸化ガスの一部も、中間酸化ガス送達ノズル253を通って導かれる。これを達成するために、ノズルダクトの後壁は、酸化ガスの一部を中間酸化ガス送達ノズル153に導くためのノズル開口部のアレイを備える。しかしながら、入口プレナム259a、259bからの酸化ガスの大部分は、ノズルダクトを通って主酸化ガス送達ノズル252a、252bから外に導かれる。
【0845】
主酸化ガス送達ノズル252a、252bは前駆体の上下に配置され、各ノズルは供給要素2521a、2521bを備える。この実施形態では、各供給要素2521a、2521bは、供給ノズル管のアレイを備える。
【0846】
各酸化ガス入口プレナム259a、259bは、ノズルを通る均一なガス流をもたらすのを助けるために、一次ガス流分配バッフル254a、254bおよび二次ガス流分配バッフル255a、255bを有する。酸化ガスが酸化室27に沿って通過すると、その後、戻りノズル251a、251bを通って戻りダクト256a、256bに戻される。しかしながら、酸化ガスの一部は、反応室27から入口または出口デッキ23、24のいずれかに流れ、最終的に排気ノズル28a、28bを介して反応器から除去される反応副生成物を運ぶ。
【0847】
各戻りノズル251a、251bは、排出要素2511a、2511bを備える。この実施形態では、各排出要素2511a、2511bは、排出ノズル開口部のアレイを画定する有孔シートで終端する。しかしながら、いくつかの他の実施形態では、各排出要素2511a、2511bは、排出ノズル管のアレイを備える。
【0848】
いくつかの実施形態では、ガス戻りダクト256a、256bのいずれかまたは各々への補助ガス入口(図示せず)があってもよい。補助ガス入口は、酸化プロセスにおける酸素の消費を補償するために必要に応じてより多くの酸化ガスを供給するために使用されてもよい。あるいは、補助ガス入口を使用して、異なる組成のガスを酸化ガスに添加して、酸化室内に所望のガス組成をもたらすことができる。例えば、いくつかの実施形態では、酸素に富むガス混合物を導入して、予想されるレベルよりも高い酸素消費を補償することができる。
【0849】
反応室27を流れる酸化ガスは、200~400℃であってもよい。したがって、ヒータ257a、257bの表面温度は、典型的には450℃を超えない。
【0850】
この図示の実施形態では、酸化室は、主酸化ガス送達ノズル252a、252bの近くの各酸化ゾーン271、272に配置され、次いで入口21または出口22にそれぞれ近い酸化ゾーン271、272の他端に向かって配置された酸化ガスの温度を監視するための熱電対2301a、2301b、2302a、2302bを有する。酸化反応器20はまた、各戻りダクト256a、256b内に、ガスがヒータ257a、257bを通って引き込まれる前にガスの温度を監視するための熱電対2303a、2303bを備える。
【0851】
酸化反応器20には、各端に統合低減システム26a、26bが設けられる。低減システム26a、26bは、HCNなどの反応副生成物を破壊するように排気ガスを700~850℃で燃焼させるためのバーナー261a、261bを備える。バーナー261a、261bは、天然ガスを使用して操作することができる。次いで、燃焼ガスは、ダクト262a、262bに沿って大気に排出される。
【0852】
ダクト262a、262bに沿って放出される前に、高温燃焼ガスは、高温燃焼ガスから反応器20に供給された新鮮な酸素含有ガスに熱を伝達することを可能にする熱交換器263a、263bを通過する。この場合、酸素含有ガスは空気である。したがって、冷気は燃焼ガスによって加熱され、その結果、高温空気をライン2402a、2402bを介して入口および出口デッキ23、24に配置された酸化ガス送達ノズル210a、210bに供給することができる(使用される場合、任意のシールガスノズル)。同様に、燃焼ガスは、大気に排出される前に冷却される。したがって、熱交換器263a、263bは、低減システム26a、26bからのエネルギ回収を可能にし、酸化反応器20の全体的なエネルギ消費を低減する。
【0853】
例えば、いくつかの実施形態では、反応器20のエネルギ消費は、5kW~40kWであり得る。
【0854】
いくつかの実施形態では、反応器10および酸化反応器20は、単一の装置1000の一部として提供される。そのような装置1000の一実施形態が、図8a、図8bおよび図8cに示される。安定化装置の図示の実施形態において、反応器10は、酸化反応器20が上に積み重ねられた状態で装置の底部に設けられる。酸化反応器20は、やはり上下に積み重ねられた4つの酸化室2701、2702、2703、2704を有する。したがって、この安定化装置は、反応室17とそれぞれ同じ長さである4つの酸化室2701、2702、2703、2704を備える。図8bは、前駆体80、81、82が安定化装置1000の内部をどのように通過するかを示す。前駆体は、反応器10を一回通過し、次いで酸化反応器の酸化室2701、2702、2703、2704の各々を2回通過する。したがって、事前安定化のための滞留時間に対して酸化のための所望の滞留時間をもたらすために、前駆体は酸化反応器20を8回通過するが、反応器10を通過するのは1回だけである。
【0855】
図8bに見られるように、反応器10は、入口11と、前駆体の上下の排気ノズル18aとして機能する通気ポートを備える入口デッキ13とを有する。前駆体に隣接して、プロセスガスのガスカーテンを前駆体を横切って供給するように構成されたシールガス供給ノズル19aがある。
【0856】
シールガス供給ノズル19a、19bはそれぞれ、ライン191a、191bに接続された上部および下部シールガス供給入口(図示せず)を介してシールガスが供給される上部および下部プレナム194a、194a’、194b、194b’を備える。各プレナム194a、194a’、194b、194b’は、入口デッキ13および出口デッキ14を横切るシールガスカーテンを形成するためにガスのジェットを生成するための開口部のアレイを備えるプレナムプレート193a、193a’、193b、193b’を備える。各プレナムプレート193a、193a’、193b、193b’の背後に正のガス圧が供給される。圧力は、典型的には約1kPa未満であり、ガスは、開口部を通った速度で噴出される。衝突速度は、前駆体の脆弱性に少なくとも部分的に応じて変化し、典型的には約0.5m/秒未満である。
【0857】
プレナムプレート193a、193a’、193b、193b’のいくつかの実施形態では、各開口部の周囲によって画定される開口面積は、約0.5~20mmである。例えば、面積は、0.79mm、3.14mm、7.07mm、12.57mm、または19.63mm、好ましくは約7.07mmであり得る。いくつかの実施形態では、開口部は円形である。したがって、いくつかの実施形態における開口直径は、約1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmである。いくつかの実施形態では、開口部はスロットである。スロットは、所望の開口面積をもたらすために適切な厚さを有する2~20mmの長さであってもよい。いくつかの実施形態では、スロットは、1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmの厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、スロットは、それらが前駆体81の進行方向に平行になるように向けられる。他の実施形態では、スロットは、それらが前駆体の進行方向に対して垂直になるように向けられる。いくつかの実施形態では、スロットは、前駆体の進行方向に対して45°などの角度で向けられる。
【0858】
シールガス供給ノズル19aの位置および構造は、入口デッキ13が2つのサブ室131、132に分割される。第1のサブ室は、排気ノズル18aが配置されるシール室131である。
【0859】
シールガス供給ノズル19aの他方の側には、プロセスガス事前パージサブ室132が内部入口の前に設けられ、プロセスガス戻りノズル151aが配置される反応室17の移行ゾーン120aに通じる。図1に示す反応器10の場合のように、安定化装置の反応器10はまた、中心から端へプロセスガスを供給する。また、反応器は、各デッキ13、14の端にプロセスガス供給ノズル110a、110bを備える。プロセスガス供給ノズル110a、110bは、プロセスガス供給源140に接続される。
【0860】
入口11および出口12には、チョーク機構109a、109bが設けられる。また、プロセスガス事前パージサブ室132とプロセスガス供給ノズル110aとの間の内部入口には、チョーク機構1091aが設けられる。プロセスガス事前パージサブ室142とプロセスガス供給ノズル110bとの間の内部出口には、さらなるチョーク機構1091bが設けられる。
【0861】
各チョーク機構109a、109b、1901a、1091bは、前駆体の通過を可能にするために2つのプレートの間に形成された開口部の位置が上方位置、下方位置およびそれらの間の任意の中間位置の間で変更され得るように、各プレートが互いに独立して摺動する2つの摺動プレートを備える。摺動板の分離は、ガスの出入りを最小限に抑えるために出口で前駆体のカテナリーサグを収容することができる最小の作業間隙をもたらすように調整することができる。
【0862】
シールガス供給ノズル19a、19bおよび排気ノズル18a、18bを通るガス流量は、反応室17を効果的にシールし、したがって反応室内に実質的に酸素を含まない雰囲気をもたらし、入口11を通る反応器からの付随的なガス流を制限するように制御される。理想的には、ガスはシールガス供給ノズル19aを通って流れ、排気ノズル18aは、入口11を通って反応器から付随的なガス流が出ないように、および周囲雰囲気から排気ノズル18aを通過する空気の流入がないように制御される。しかしながら、実際には、わずかな量のフュージティブエミッションが入口11から放出されるように、反応器はわずかな正圧で動作する。フュージティブエミッションの組成は主に窒素であり、HCN含有量は10ppmを超えず、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意されたい。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。センサは、オペレータの安全を確保するためにエミッションの組成を監視するために入口11に配置される。さらに、デッキ13内の酸素レベルを監視して、実質的に酸素を含まない雰囲気が反応室17内に維持されることを確実にする。実際には、反応器10をわずかに過剰な圧力で動作させることは、反応器10を取り囲む雰囲気からの空気が反応室17に入らないことを確実にするのに役立つ。
【0863】
デッキ13の長さおよび反応器10に吹き込まれるガスの温度は、前駆体が実質的に酸素を含まない雰囲気内に配置されるまで反応温度にならないように選択される。典型的には、プロセスガス事前パージサブ室132内の雰囲気は、実質的に酸素を含まない。
【0864】
反応室17は、それぞれ鏡像関係の強制ガス流アセンブリが設けられた2つの反応ゾーン171、172を備える。したがって、反応室17の中心において、主プロセスガス送達ノズル152a、152bは、反応室17の全長に沿ってガス供給の流れが存在することを確実にするように中間プロセスガス送達ノズル153がその間に設けられて配置される。各戻りノズル151a、151bは、ヒータ(図示せず)が沿って配置された戻りガスダクト(図示せず)に接続される。ヒータの下流にはファン158a、158b(図8cに示す)があり、これを使用してヒータを通してプロセスガスを引き込み、したがってプロセスガスを処理温度まで上昇させる。次いで、ガスは、ファン158a、158bによって入口プレナム(図示せず)を通って主プロセスガス送達ノズル152a、152bから吹き出される。
【0865】
出口デッキ14の構造は、一般に、入口デッキ13の構造を反映しており、内部出口のすぐ外側のプロセスガス事前パージサブ室142と、シールガス送達ノズル19bと、次いで、排気ノズル18bとして機能する通気ポートが配置されるシールサブ室141とを備える。
【0866】
ここでも、排気ノズル18bを通る排気ガスの流量および出口デッキ14を横切るガスカーテンをもたらすために使用されるプロセスガスの流量は、理想的には、実質的に酸素を含まない雰囲気が反応室17内にもたらされることを確実にし、反応器から出口12から付随的なガス流がないことを確実にするように制御される。しかしながら、入口11を参照して上述したように、典型的には、実際には、反応器は、わずかな量のフュージティブエミッションが存在するように、わずかに過剰な圧力で動作する。これらのエミッションは主に窒素(すなわち、プロセスガス)であり、出口12の外側では、フュージティブエミッションが10ppmを超えないHCN含有量を有することを確実にするようにHCNを監視することになり、これは、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が、曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意されたい。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。
【0867】
また、入口デッキ13と同様に、出口デッキ14には、実質的に酸素を含まない雰囲気が依然として反応室17の出口端に向かって維持されていることを確実にするように酸素監視もある。
【0868】
シールガス供給ノズル19bによって出口デッキ14に供給されるガスの温度および出口デッキ14の長さは、前駆体が出口12を通過する前に確実に冷却するように選択される。前駆体は、反応器10から排出する前に反応温度未満になるように冷却され、前駆体が反応し続けないことを確実にし、したがって、反応器10の外側になると安全上のリスクをもたらすのでHCNを発生させる。
【0869】
いくつかの実施形態では、排気ノズル18a、18bおよびシールガス供給ノズル19a、19bの位置は、シールガス供給ノズル19a、19bが入口11および出口12にそれぞれ最も近く配置され、排気ノズル18a、18bが各シールガス供給ノズル19a、19bに隣接して内側に配置されるように逆にすることができる。
【0870】
いくつかの実施形態では、排気ガス流は、150~200℃の温度および-30~-2ミリバール、例えば-10~-6ミリバールの圧力で、管181a、181bを通って反応器から排出する。シールガスは、ライン191a、191bを通して20.68~344.7kPa(3~50psi)の圧力で200~250℃の温度で放出されてもよい。一般に、繊維の乱れを最小限に抑えるために、効果的なガスカーテンが生成されることをさらに確実にしながら、シールガスの流れの圧力を可能な限り低く保つことが好ましい。
【0871】
いくつかの実施形態では、プロセスガス送達ノズル110aは、前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部出力管を備えることができ、各出力管は、ガスを前駆体に導くためのスロット形状の開口部を有する。いくつかの実施形態では、プロセスガス送達ノズル110aは、前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部出力管を備えることができ、各出力管は、ガスを分配器に導くためのスロット形状の開口部を有する。分配器は、ガスの流れを前駆体の幅にわたって導き、分配するためのものである。そのようなノズル構成の一例が、プロセスガスノズル110bについて図1eに示される。さらなる実施形態では、プロセスガス送達ノズルは、後述するプロセスガス送達ノズル110bと同じ構造を有してもよい。
【0872】
反応器10から排出する前に前駆体の冷却を容易にするように、プロセスガス送達ノズル110bは、シールガス供給ノズル19a、19bと同様の構造を有する。したがって、プロセスガス送達ノズル110bは、ライン1101bに接続された上部および下部シールガス供給を介してプロセスガスが供給される上部および下部プレナムを備える。各プレナムは、前駆体の幅にわたってガスカーテンを形成するためにガスのジェットを生成するための開口部のアレイを備えるプレナムプレート1103b、1103b’を備える。圧力は、典型的には約1kPa未満であり、ガスは、開口部を通った速度で噴出される。衝突速度は、前駆体の脆弱性に少なくとも部分的に応じて変化し、典型的には約0.5m/秒未満である。
【0873】
プレナムプレート1103b、1103b’のいくつかの実施形態が図8eに示される。各開口部の周囲によって画定される開口面積は、約0.5~20mmである。例えば、面積は、0.79mm、3.14mm、7.07mm、12.57mm、または19.63mm、好ましくは約7.07mmであり得る。いくつかの実施形態では、開口部は円形である(プレート11031参照)。したがって、いくつかの実施形態における開口直径は、約1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmである。いくつかの実施形態では、開口部はスロットである(プレート11032、11033参照)。スロットは、所望の開口面積をもたらすために適切な厚さを有する2~20mmの長さであってもよい。いくつかの実施形態では、スロットは、1、2、3、4、または5mm、好ましくは約3mmの厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、スロットは、それらが前駆体の進行方向に平行になるように向けられる(プレート11032参照)。他の実施形態では、スロットは、それらが前駆体の進行方向に対して垂直になるように向けられる。いくつかの実施形態では、スロットは、前駆体の移動方向に対して45°などの角度で向けられる(プレート11033参照)。
【0874】
プロセスガスは、ライン1101aを介して250~310℃、例えば290~310℃の温度でプロセスガス送達ノズル110aから放出することができる。プロセスガスは、20℃~300℃の間、例えば100℃~220℃の間、または100℃~160℃の間、または140℃未満の温度でプロセスガス送達ノズル110bからライン1101bを介して放出することができる。ガスは、0.1~1.5m/sの速度で放出されてもよく、例えば、速度は0.5~0.75m/sであってもよい。
【0875】
上述したように、2つの反応ゾーン171、172の強制ガス流アセンブリの構造は鏡像関係にある。アセンブリは、主に中央から端まで反応室にプロセスガスを供給するように構成される。すなわち、反応室に供給される高温のプロセスガスの大部分は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bを介して反応室の中心から供給され、反応室の端に向かって流れる。
【0876】
新鮮なプロセスガスの供給は、排気ノズル18a、18bを通る損失を補償するためにもたらされる。
【0877】
図2aを参照して説明したように、プロセスガスの中心から端への供給は、反応室17全体のプロセスガス流に良好な均一性をもたらすので好ましい場合がある。この構成では、ガスの大部分は前駆体と平行に流れている。ガス流の均一性は、反応室17の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス流に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。
【0878】
図8bから、第1の反応ゾーン171において、ガス流は、反応室17を通る前駆体の通過に対して逆流ベースでもたらされることが理解されよう。第2の反応ゾーン172において、ガス流は、前駆体の通過との共流としてもたされる。
【0879】
典型的には、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度がプロセスガスの温度の40℃以内、好ましくはプロセスガスの温度の30℃以内であるようなものである。いくつかの実施形態では、ガス流量は、実際の前駆体温度がプロセスガスの温度の50℃以内、好ましくはガスの温度の40℃以内、より好ましくはガスの温度の30℃以内であるようなものであり得る。プロセスガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。
【0880】
この実施形態では、使用されるプロセスガス流は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bからガス流の方向に沿って1.0mを超える点で算出した場合に、流れのレイノルズ数が10万を超えるようなものでなければならない。
【0881】
この図示の実施形態の反応室17は、約8,000mmの有効加熱長を有する。反応室17の高さは約300mmである。反応室17の幅は約500mmである。しかしながら、反応室17のサイズは、前駆体の所望の処理量体積に基づいて選択されてもよいことが理解されよう。図示の実施形態では、生産量は年間最大250トンであってもよい。
【0882】
反応室17のサイズに応じて、排気量は25Nm/分~3,000Nm/分であってもよく、プロセスガスの関連する消費量は100L/分~5,000L/分である。
【0883】
上述したように、各入口プレナムからのプロセスガスの一部はまた、中間プロセスガス送達ノズル153を通って導かれる。これを達成するために、主プロセスガス送達ノズル152a、152b用のノズルダクトの後壁は、プロセスガスの一部を中間プロセスガス送達ノズル153に導くためのノズル開口部のアレイを備える。しかしながら、入口プレナムからのプロセスガスの大部分は、主プロセスガス送達ノズル152a、152bからノズルダクトを通って導かれる。
【0884】
反応室17を流れるプロセスガスは、200~400℃であってもよい。したがって、ヒータの表面温度は、典型的には450℃を超えない。
【0885】
図8cに示すように、反応器10には、各端に統合低減システム16a、16bが設けられる。低減システム16a、16bは、HCNなどの反応副生成物を破壊するように排気ガスを700~850℃で燃焼させるためのバーナー161a、161bを備える。バーナー161a、161bは、ライン165を介して供給される天然ガスを使用して操作することができる。次いで、燃焼ガスは、ダクト162a、162bに沿って大気に排出される。反応器10のダクト162a、162bは、酸化反応器20の統合低減システム26a、26bのダクト262a、262bに接続される。
【0886】
ダクト162a、162bに沿って放出される前に、高温燃焼ガスは、高温燃焼ガスから反応器10に供給された新鮮な実質的に酸素を含まないガスに熱を伝達することを可能にする熱交換器163a、163bを通過する。この場合、実質的に酸素を含まないガスは窒素である。したがって、低温窒素は燃焼ガスによって加熱され、それにより、入口および出口デッキ13、14に配置されたシールガスノズル19a、19bおよびプロセスガス送達ノズル110a、110bに高温窒素を供給することができる。同様に、燃焼ガスは、大気に排出される前に冷却される。したがって、熱交換器163a、163bは、低減システム16a、16bからのエネルギ回収を可能にし、反応器10の全体的なエネルギ消費を低減する。
【0887】
図8cに示す実施形態では、ライン191a、191bおよびライン1101a、1101bは、熱交換器163a、163bからのライン1402a、1402bから分岐している。図1bに示す実施形態と同様の代替実施形態を図8dに示す。この実施形態では、熱交換器163bは、一方がプロセスガス送達ノズル110bにプロセスガスを供給するライン1101bに接続され、他方がシールガスノズル19bにシールガスを供給するライン191bに接続された2つの出口を備える。2つの出口は、熱交換器163bにおいて燃焼ガスと異なる程度の熱交換を受けたガスを放出する。したがって、熱交換器163bは、2つの異なる温度に加熱されたガスを放出するように構成される。したがって、ライン1101bによって送達されるプロセスガスは、ライン191bによって送達されるシールガスとは異なる温度である。事前安定化前駆体81は、出口12を通って反応器から排出する前に冷却されるので、プロセスガスよりも低い温度でシールガスを供給することが望ましく、その結果、シールガスは、事前安定化前駆体81が出口デッキ14を通過するときにそれを冷却することができる。
【0888】
2つの出口を有する熱交換器163bが、出口12に最も近い反応器10の端に示されるが、入口11に最も近い反応器10の端の熱交換器163aおよびライン191a、1101aに同じ構成を使用できることが理解されよう。
【0889】
反応器10はシールされ、その上に配置された酸化反応器20から絶縁される。反応器10は、代替的な実施形態では、酸化反応器20上に配置されてもよいことが理解されよう。
【0890】
安定化装置1000の酸化反応器20は、4つの反応室2701、2702、2703、2704を備える。いくつかの特徴は、一方の反応室2703のみに関してラベル付けされているが、各反応室2701、2702、2703、2704は、装置2000内で同じ構造を有することが理解されよう。
【0891】
反応器20は、酸化反応器20を通る前駆体の各通過のための入口211、212および出口221、222を有する。各酸化室27は、図6aおよび図6bに示す実施形態と同様の構造を有し、酸化ガス送達ノズル210a、210b、2102a、2102bは、各酸化室2701、2702、2703、2704の内部入口および出口の隣に配置される。
【0892】
図8bに示すように、チョーク機構209a、209a’、209b、209b’が入口211、212および出口221、222に設けられる。さらに、チョーク機構2091a、2091a’、2091b、2091b’は、各酸化室2701、2702、2703、2704の内部入口および出口において、共通のデッキ231、241と酸化ガス送達ノズル210a、210b、2102a、2102bとの間に設けられる。
【0893】
各チョーク機構209a、209a’、209b、209b’、2091a、2091a’、2091b、2091b’は、2つの摺動プレートを備え、各プレートは互いに独立して摺動し、前駆体の通過を可能にするために2つのプレートの間に形成された開口部の位置は、上方位置、下方位置、およびそれらの間の任意の中間位置の間で変更することができる。スライドプレートの分離は、ガスの出入りを最小限に抑えるために出口に最小の作業間隙をもたらすように調整することができる。
【0894】
酸化ガス送達ノズル210a、210b、2102a、2102bの各々は、前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部出力管を備えることができ、各出力管は、ガスを前駆体に向けて導くためのスロット形状の開口部を有する。いくつかの実施形態では、酸化ガス送達ノズル210a、210b、2102a、2102bの各々は、前駆体の上方および下方に配置されるように配置された上部および下部出力管を備えることができ、各出力管は、分配器に向かってプロセスガスを導くためのスロット形状の開口部を有する。分配器は、ガスの流れを前駆体の幅にわたって導き、分配するためのものである。そのようなノズル構成の一例が、プロセスガスノズル110bについて図1eに示される。
【0895】
各酸化室2701、2702、2703、2704内の温度の独立した調整を可能にするために、酸化室2701、2702、2703、2704を互いに絶縁するために、絶縁チャンババリア201が酸化室間に設けられる。
【0896】
酸化室2701、2702、2703、2704は、各端部で共通のデッキ231、241を共有する。前駆体が酸化室を前後に通過するとき、各デッキ231、241は、酸化室2701、2702、2703、2704に出入りする前駆体の通過に適しているように構成される。ローラと酸化反応器20の内部との間で、デッキ231、241を通って前駆体を自由に通過させる能力は、酸化反応器20内の雰囲気から酸化反応器20を取り囲む雰囲気へのガスの流出を制限する必要性と釣り合わなければならない。
【0897】
したがって、各デッキ231、241の長さ、入口211、212および出口212、222を通って引き込まれる空気の量、ならびに酸化反応器20に吹き込まれるガスの温度は、各デッキ231、241におけるHCNの発生を最小限に抑えるように、前駆体が酸化室2701、2702、2703、2704内に配置されるまで反応温度に上昇しないように選択される。
【0898】
さらに、入口211、212および出口221、222を通って各デッキ231、241に引き込まれる空気の量および各デッキ231、241の長さは、出口221、222を通過する前に前駆体が確実に冷却するように選択される。前駆体は、反応器20から排出する前に反応温度未満になるように冷却されて、前駆体が反応し続けないことを確実にし、そのため、一旦酸化反応器20の外側になると安全上のリスクを引き起こすのでHCNを発生させる。
【0899】
各デッキ231、241は、デッキ231、241から排気ガスを直接抽出するための排気ダクト282a、282bと、各通過の前駆体の上下の排気ノズル(図示せず)とを備える。排気ダクト282a、282bおよび排気ノズルからの管281a、281bは、統合低減システム26a、26bに接続される。
【0900】
ガスが排気ダクト282a、282bおよび排気ノズルを通って引き込まれる速度は、入口211、212および出口221、222を通って酸化反応器20から出る付随的なガス流を制限することによって、酸化室2701、2702、2703、2704を効果的にシールするように制御される。空気が酸化ガスであるこの実施形態では、冷気は、入口211、212および出口221、222を通って排気ダクトによって引き込まれる。したがって、酸化反応器20は、入口211、212および出口221、222からフュージティブエミッションが放出されないように、デッキ231、241内のわずかな負圧で動作する。センサは、オペレータの安全を確保するためにフュージティブエミッションを監視するために入口211、212および出口221、222に配置される。1つまたは複数のセンサは、入口211、212および出口221、222のすぐ外側の雰囲気が10ppmを超えないHCN含有量を有するかどうかを監視し、Australian Adopted National Exposure Standards For Atmospheric Contaminants In The Occupational Environment[NOHSC:1003(1995)]が曝露基準10ppmピーク表皮および10mg/mピーク表皮の曝露基準を規定していることに留意する。好ましくは、HCN含有量は2.5ppmを超えず、より好ましくは1ppmを超えない。また、少なくとも1つのセンサを使用して、入口211、212および出口221、222のすぐ外側の雰囲気が20.9%を下回らない酸素含有量を有するかどうかを監視する。
【0901】
各デッキ231、241の端部には、内部入口スロットおよび酸化ガス送達ノズル210a、2102bがある。事前安定化前駆体は、内部入口を通過し、酸化ガス送達ノズル210a、2102bを通過して移行領域220a、220bに入り、酸化室2701、2702、2703、2704の酸化ゾーン271、272の戻りノズル251a、251bが、酸化室2701、2702、2703、2704の関連ゾーン271、272の主要部分に入る前に配置される。
【0902】
いくつかの実施形態では、排気ガス流は、150~250℃の温度および-10~-6ミリバールの圧力で管281a、281bを通って酸化反応器20から排出する。
【0903】
図8bから分かるように、酸化反応器20を通る事前安定化前駆体81の各通過について、事前安定化前駆体が1つのデッキ231、241を通って移動した後、酸化室2701、2702、2703、2704のための移行領域220a、220bを通って移動する。次いで、前駆体は、酸化室2701、2702、2703、2704を通過し、他の移行領域220b、220aを通過し、他のデッキ241、231を通過した後、出口221、222を介して排出する。次いで、前駆体は、すべての反応器20の通過が完了し、安定化前駆体82が生成されるまで、同じ酸化室2701、2702、2703、2704を再び通過するか、または酸化反応器20の次の酸化室2701、2702、2703、2704に渡されることができる。
【0904】
各酸化室2701、2702、2703、2704は、それぞれが一般にそれ自体の強制ガス流アセンブリを備えた2つの酸化ゾーン271、272を有する。しかしながら、各反応室の中心には、ガスの流れが酸化室2701、2702、2703、2704の全長に沿って確実に供給されるように、共通の中間酸化ガス送達ノズル253が設けられることが分かる。
【0905】
2つの酸化ゾーン271、272の強制ガス流アセンブリの構造は、鏡像関係にある。アセンブリは、主に中心から端まで酸化室2701、2702、2703、2704に酸化ガスを供給するように構成される。すなわち、反応室2701、2702、2703、2704に供給される高温の酸化ガスの大部分は、主酸化ガス送達ノズル252a、252bを通って反応室の中心から供給され、反応室2701、2702、2703、2704の端に向かって流れる。酸化ガスの大部分は、酸化室の動作中に強制酸化ガス流アセンブリによって再循環され、新鮮な酸化ガスが、排気ダクト282a、282bおよび排気ノズルを通る損失を補償するために供給される。
【0906】
ガス流の均一性は、各酸化室2701、2702、2703、2704の幅、高さ、および長さのそれぞれにわたってガス流に1%~10%の変動しかないようなものであってもよい。典型的には、ガス流量は、前駆体に隣接して測定された温度がプロセスガスの温度の60℃以内、好ましくはプロセスガスの温度の50℃以内であるようなものである。酸化ガス流の速度は、0.5~4.5m/sであってもよく、例えば、2~4m/sであってもよい。
【0907】
この実施形態では、各酸化室2701、2702、2703、2704は、約16,000mmの有効加熱長さを有し、約8,000mmの加熱長さを通過する2回の通過に対応する。反応室2701、2702、2703、2704の高さは約300mmである。反応室2701、2702、2703、2704の幅は約500mmである。いくつかの実施形態では、反応室2701、2702、2703、2704は異なるサイズであることが理解されよう。例えば、いくつかの実施形態では、反応室2701、2702、2703、2704は、安定化装置1000の1つまたは複数の他の反応室2701、2702、2703、2704と比較して、その反応室2701、2702、2703、2704を通る前駆体のより多くの通過に対応するように他の反応室2701、2702、2703、2704より高くてもよい。
【0908】
反応室2701、2702、2703、2704のサイズに応じて、排気量は25Nm/分~3,000Nm/分であってもよく、酸化ガスの関連する消費量は100L/分~5,000L/分である。
【0909】
各強制ガス流アセンブリには、ヒータ(図示せず)がそれに沿って配置されたガス戻りダクト(図示せず)が設けられる。ヒータの下流にはファン258a、258bがあり、これを使用してヒータを通して酸化ガスを引き込み、したがってプロセス温度まで上昇させる。次いで、ガスは、ファンによって入口プレナム(図示せず)を通って主酸化ガス送達ノズル252a、252bから吹き出される。各入口プレナムからの酸化ガスの一部もまた、中間酸化ガス送達ノズル253を通って導かれる。これを達成するために、ノズルダクトの後壁は、酸化ガスの一部を中間酸化ガス送達ノズル253に導くためのノズル開口部のアレイを備える。しかしながら、入口プレナムからの酸化ガスの大部分は、ノズルダクトを通って主酸化ガス送達ノズル252a、252bから出るように導かれる。
【0910】
主酸化ガス送達ノズル252a、252bは、前駆体の各通過の上下に配置され、ノズル開口部のアレイを画定する有孔シートで終端する。各酸化ガス入口プレナムは、ノズルを通る均一なガス流をもたらすのを助けるための一次および二次ガス流分配バッフル(図示せず)を有する。酸化ガスが酸化室2701、2702、2703、2704に沿って通過すると、その後、戻りノズル251a、251bを通って戻りダクトに戻される。しかしながら、酸化ガスの一部は、反応室2701、2702、2703、2704からいずれかのデッキ231、241に流れ、最終的に排気ダクト282a、282bおよびノズルを介して反応器から除去される反応副生成物を運ぶ。
【0911】
反応室2701、2702、2703、2704を通って流れる酸化ガスは、200~400℃であってもよい。したがって、ヒータの表面温度は、典型的には450℃を超えない。
【0912】
積層された酸化室2701、2702、2703、2704を有する酸化反応器20は、反応器10のための低減システム16a、16bと同様に、各端に統合低減システム26a、26bを備える。低減システム26aは、HCNなどの反応副生成物を破壊するように排気ガスを700~850℃で燃焼させるためのバーナー261a、261bを備える。バーナー261a、261bは、天然ガスを使用して操作することができる。次いで、燃焼ガスは、ダクト262a、262bに沿って大気に排出される。
【0913】
ダクト262a、262bに沿って放出される前に、高温燃焼ガスは、高温燃焼ガスから反応器20に供給された新鮮な酸素含有ガスに熱を伝達することを可能にする熱交換器263a、263bを通過する。この場合、酸素含有ガスは空気である。これにより、燃焼ガスによって冷気が加熱され、酸化ガス送達ノズル210a、2102bに接続されたライン2402a、2402bを介して酸化室2701、2702、2703、2704に高温空気を供給することができる。同様に、燃焼ガスは、大気に排出される前に冷却される。したがって、熱交換器263a、263bは、低減システム26a、26bからのエネルギ回収を可能にし、酸化反応器20の全体的なエネルギ消費を低減する。
【0914】
図8aに示されるように、アクセスハッチ1001、1002、1003、1004は、反応器10および酸化反応器20のデッキ13、14、231、241へのアクセスを可能にするために設けられる。さらに、各反応ゾーン171、172または酸化ゾーン271、272へのアクセスを可能にするために、アクセスハッチ1005、1006が設けられる。反応室17の中心で主ガス送達ノズル152a、152bおよび共通の中間プロセスガス送達ノズル153にアクセスするためにハッチ1008が設けられ、各酸化室2701、2702、2703、2704の中心で主ガス送達ノズル252a、252bおよび共通の中間プロセスガス送達ノズル253にアクセスするためにハッチ1007が設けられる。
【0915】
図9および図10は、図8a、図8b、および図8cに示す装置1000を使用する安定化システムを示す。システムは、装置の両端に配置された第1および第2の材料取扱装置310、320を有する。
【0916】
図9は、安定化システムを通る前駆体80、81、82の流路を示す。前駆体80は、繊維源(図示せず)からシステムに入り、駆動ステーション312を通過する。駆動ステーション312は、ニップ3121および非従動ローラ3122を有する5ローラ駆動構成を備える。次いで、それは、反応器10に入る前に所望の前駆体流路を画定する通過ローラ3101を通って伝達される。リアクタの他端には、Sラップ構成を有する駆動ステーション321がある。駆動ステーション312、321は、反応器10を通過するときに前駆体に実質的に一定の張力を加えるために使用される。次いで、前駆体81は、駆動ステーション321から最下部の酸化室2704を通って移動する。一旦出口221を通過すると、それは非従動ローラ313の周りを移動し、次いで最下部の反応器2704を通って繊維を再び通過させる。
【0917】
次いで、駆動ステーション322を使用して、繊維を直列の次の反応器2703に伝達する。この駆動ステーションはまた、ニップローラを有する従動ローラの構成を有する。
【0918】
図9および図10に示すように、駆動ステーション322および非従動戻りローラ313のこの構成は、酸化反応器20内の残りの酸化室2702、2701に使用され、最終駆動ステーション323は、安定化前駆体82をシステムの次の部分に伝達するために使用される。最終駆動ステーション323は、5ローラ構成およびニップローラを有する。
【0919】
安定化前駆体は、後で炭素繊維製造システムで使用するために巻き取られ、貯蔵されてもよい。あるいは、安定化前駆体は、連続炭素繊維製造プロセスの一部として炭化ユニットに直接渡されてもよい。酸化室2701、2702、2703、2704の各々の端の駆動ステーション322、323は、酸化室2701、2702、2703、2704を通過する前駆体の張力を制御するように構成することができる。したがって、システム2000内の各酸化室17、2701、2702、2703、2704は、それ自体の個々の張力設定を有することができる。
【0920】
図12は、ポリアクリロニトリル繊維前駆体80から事前安定化前駆体81を製造するための本発明による反応器10を備えるブロック図の形態の炭素繊維製造システム90を示す。
【0921】
繊維源40は、前駆体80を分配するために使用される。前駆体80の複数の繊維は、トウとして繊維源40によって同時に分配される。前駆体繊維80が分配された後、当該技術分野でよく知られているように、前駆体繊維は、複数のローラを有するテンションスタンドなどの材料取扱装置30を通過する。この材料取扱装置30は、反応器10の下流の材料取扱装置30と共に、前駆体80が反応器10を通過して事前安定化前駆体81を形成する際に前駆体に所定の張力を加えるために使用される。
【0922】
次に、事前安定化前駆体81は、一連の酸化室(例えば、図5図8a、図8bおよび図8c参照)を備えることができる酸化反応器20に供給される。さらなる材料取扱装置30を使用して、事前安定化前駆体81を酸化反応器20に引き込む。反応器10と同様に、酸化反応器20の上流および下流の材料取扱装置30は、事前安定化前駆体81が酸化反応器20を通過して安定化前駆体82を形成する際に事前安定化前駆体81に所定の張力を加えるために使用され得る。
【0923】
次いで、安定化前駆体82は、炭化ユニット50によって加工されて、安定化前駆体82を熱分解し、それを炭素繊維83に変換する。炭化ユニットは、1つまたは複数の炭化反応器を備える。炭化反応器は、実質的に酸素を含まない雰囲気を含むように構成され、炭素繊維形成に一般的に使用される高温条件に耐えることができるオーブンまたは炉であってもよい。次に、処理ステーション60で表面処理を行うことができる。次いで、サイジングステーション65で、処理された炭素繊維84にサイジングを適用することができる。
【0924】
次いで、サイジングされた炭素繊維85のトウは、ワインダ70を使用して巻き付けられ、および/または束ねられる。
【0925】
図11は、図9および図10に示すように安定化システム2000を備える炭素繊維製造システム90の実施形態を示す。したがって、システム90は、図8a、図8bおよび図8cに示すような安定化装置1000を備える。
【0926】
クリール41は、前駆体80のトウを巻き出して分配するために使用される。前駆体繊維80が巻き出された後、材料取扱装置310を通過する。第1の駆動ステーション312および反応器10の下流の駆動ステーション321は、前駆体80が反応器10を通過して事前安定化されるときに前駆体に所定の張力を加えるために使用される。
【0927】
次いで、事前安定化前駆体81は、4つの酸化室2701、2702、2703、2704を備える酸化反応器20に供給される。さらなる材料取扱装置320は、第1の材料取扱装置310と協働して、上述のように事前安定化前駆体81を酸化反応器20に引き込む。
【0928】
安定化前駆体82は、炭化ユニット50によって処理されて、安定化前駆体82を熱分解し、それを炭素繊維83に変換する。炭化ユニットは、第1の低温炭化反応器51と、第2の高温炭化反応器52とを備え、その間に材料取扱ステーション530を有する。次いで、得られた炭素繊維83は、さらなる材料取扱システム330によって処理ステーション60に送られる。
【0929】
処理ステーション60において、炭素繊維83の表面は、電解浴601を使用する電解プロセスによって化学的にエッチングされる。処理ステーション60は、処理された繊維84上の水分含有量を減少させるための接触乾燥機602を備える。接触乾燥は、フィラメントに直接的で均一な熱を加える一連のステンレス鋼の加熱ローラを通して繊維を織ることを含む。
【0930】
次いで、処理された繊維84は、サイジングが繊維84に適用されるサイジングステーション65に送られる。繊維84は、サイジング浴651を使用して個々の繊維フィラメントをコーティングする液体サイジング溶液を通過する。
【0931】
サイジング後に非接触乾燥が行われ、再循環空気乾燥機652を用いて行われ、サイジングされた炭素繊維85が製造される。
【0932】
次いで、サイジングされた炭素繊維85は、ワインダ70を使用して巻き付けられる。
【0933】
図示の実施形態における各ラインまたは管(例えば、140、1401、1401a、1401b、1402、1402a、1402b、1403a、1403b、165、181、181a、181b、281a、281b、191、191a、191b、1921、1931a、1931b、1101a、1101b、1081、2401a、2401b、2402a、2402b)は、ラインまたは管を通る流れを調節し、微調整することができるように、フローダンパを備えることができる。
【0934】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通して、文脈上別段の要求がない限り、「備える(comprise)」という単語、ならびに「備える(comprises)」および「備える(comprising)」などの変形は、記載された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を含むが、任意の他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を除外しないことを意味すると理解される。
【0935】
本明細書における任意の先行する刊行物(またはそれに由来する情報)または任意の公知の事項への言及は、その先行する刊行物(またはそれに由来する情報)または公知の事項が、本明細書が関連する試みの分野における共通の一般知識の一部を形成することの承認または了解または任意の形態の示唆として解釈されず、そのように解釈されるべきではない。
【0936】
本開示の趣旨または範囲から逸脱することなく、前述の部分に対して変形および修正を行うことができる。

図1a
図1b
図1c
図1d-1e】
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】