IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ドイチェス ツェントルム フューア ルフト ウント ラウムファールト エー.ファウ.の特許一覧

<>
  • 特表-燃料 図1
  • 特表-燃料 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】燃料
(51)【国際特許分類】
   C06D 5/00 20060101AFI20240227BHJP
   C06B 29/00 20060101ALI20240227BHJP
   C06B 31/02 20060101ALI20240227BHJP
   C06B 33/00 20060101ALI20240227BHJP
   F02K 9/42 20060101ALI20240227BHJP
   F02K 9/70 20060101ALI20240227BHJP
   B64G 1/00 20060101ALI20240227BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C06D5/00 A
C06B29/00
C06B31/02
C06B33/00
F02K9/42
F02K9/70
B64G1/00 A
B64G1/40 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548626
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 EP2021082929
(87)【国際公開番号】W WO2022171324
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】102021103380.2
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591023631
【氏名又は名称】ドイチェス ツェントルム フューア ルフト ウント ラウムファールト エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】マクシム クリロフ
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク フロイデンマン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ キルヒベルガー
(57)【要約】
本発明は、液体又はゲル状の燃料、特にロケットエンジン用の燃料に関するものであって、酸化剤としての無機塩であって、無機塩が少なくとも60重量%の酸素含有量を有する、無機塩と、一価又は二価のアルコール、ニトロアルカン及び/又は硝酸塩が陰イオンであるイオン液体を含む、燃料としての溶媒であって、溶媒が30重量%以上55重量%以下の酸素含有量を有する、溶媒と、を含み、無機塩は、溶媒に溶解している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体又はゲル状の燃料、特にロケットエンジン用の燃料であって、
-酸化剤としての無機塩であって、前記無機塩が少なくとも60重量%の酸素含有量を有する、無機塩と、
-一価又は二価のアルコール、ニトロアルカン及び/又は硝酸塩が陰イオンであるイオン液体を含む、燃料としての溶媒であって、前記溶媒が30重量%以上55重量%以下の酸素含有量を有する、溶媒と、
を含み、
前記無機塩が、前記溶媒に溶解している、
燃料。
【請求項2】
前記無機塩が、硝酸リチウム、リチウムジニトラミド、過塩素酸リチウム又はこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の燃料。
【請求項3】
前記燃料中の前記無機塩の割合が、15重量%以上65重量%以下である、請求項1又は2に記載の燃料。
【請求項4】
前記溶媒が、特に単一成分として、エタノール、メタノール又はn-ブタノールを含み、前記燃料中の前記無機塩の割合が、好ましくは50重量%以上65重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項5】
前記溶媒が、特に単一成分として、ニトロメタン又はニトロエタンを含み、前記燃料中の前記無機塩の割合が、好ましくは10重量%以上40重量%以下、より好ましくは20重量%以上30重量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項6】
前記溶媒が、更なるアルコール、特にn-ブタノール及び/又はエチレングリコール、及び/又は炭酸エステル、特にジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートを更に含む、請求項4又は5に記載の燃料。
【請求項7】
前記溶媒が、イオン液体、特に硝酸エチルアンモニウムを含み、前記燃料中の前記無機塩の割合が、好ましくは10重量%以上40重量%以下、より好ましくは15重量%以上25重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項8】
前記溶媒が、アルコール、特にエチレングリコール及び/又はエタノールを更に含み、好ましくは、硝酸エチルアンモニウムとアルコールの混合比が、6:1から1:3の範囲である、請求項7に記載の燃料。
【請求項9】
前記燃料が、水を含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項10】
前記燃料が、好ましくはポリアクリル酸、発熱性二酸化ケイ素、マイクロ~ナノスケールの金属粉末、二酸化チタンナノ粒子及び/又はカーボンナノチューブから選択される増粘剤を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項11】
前記金属粉末が、アルミニウム、マグネシウム、アルミニウム/マグネシウム合金、ホウ素、鉄、及びジルコニウムから選択される、請求項10に記載の燃料。
【請求項12】
前記増粘剤の割合が、最大10重量%、好ましくは1重量%以上5重量%以下である、請求項10又は11に記載の燃料。
【請求項13】
前記燃料が、好ましくはAlH、NaBH及び/又はAlLiHから選択される1種以上の軽金属の水素化物を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項14】
アンモニウム、ナトリウム及びカリウムの硝酸塩及び過塩素酸塩から選択される、更なる酸化剤を更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の燃料。
【請求項15】
前記燃料が、900kg/m以上1700kg/m以下、好ましくは1100kg/m以上1400kg/m以下の密度を有し、及び/又は、燃焼のために、前記燃料が、0%から-50%まで、好ましくは-20%から-40%までの酸素バランスを有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の燃料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体又はゲル状の燃料、特にロケットエンジン用の燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
反跳原理で作動するロケットエンジン用の燃料のうち、主に固体燃料システムと液体燃料システムとに区別される。具体的な応用分野(打ち上げ用ロケット、軌道エンジンなど)に応じて、異なる燃料システムを有利に使用することができるが、全てのシステムには、特有の欠点もある。
【0003】
固体燃料は、特にエネルギー密度が非常に高いことが特徴であり、航空宇宙工学や軍事工学において、例えば、打ち上げ用ロケットや軍事発射体などに広く使用されている。固体燃料と、酸化剤の混合物(二元推進剤)及び分子内で酸化還元反応を起こす単元推進剤(HMX、RDX、又はニトログリセリンとニトロセルロースの混合物など)との両方を使用することが可能である。固体燃料を使用するロケットエンジンは、燃料が燃焼室に直接導入されるため、構造が簡単であり、それゆえ別個の燃料タンクや燃料の供給システムが不要である。
【0004】
固体燃料の欠点は、主に、燃焼を制御することによって推力を変化させることが実際には不可能であるため、エンジンのスケーリング及び作動中の両方において、柔軟性に欠けることである。また、既知の固体燃料は、爆発性が高いため、燃焼室への導入前、導入中、導入後の安全な取り扱いが非常に複雑になる、という問題もある。固体燃料を導入する際には、燃焼室の壁と確実に係合させなければならないが、隙間や裂け目があると、燃焼が制御できなくなり、極端な場合には、機体の全損につながる可能性がある。
【0005】
液体燃料の場合、上述の欠点は生じず、特に液体燃料を使用するロケットエンジンは、固体燃料を用いるロケットエンジンよりも実質的に柔軟である。エンジンのスケールアップがより容易になるだけでなく、燃焼室への燃料の供給量を調節することで、推力制御が可能になる。一方、1つ以上の燃料タンク、及びポンプ、バルブ、その他の補助部品を備えた供給システムが必要になるため、構造がより複雑になるという欠点を伴う。
【0006】
液体燃料の場合、単元推進剤及び二元推進剤も知られている。二元推進剤には、液体水素、液体メタン又はケロシンを燃料とし、液体酸素を酸化剤とする、極低温又は部分極低温燃料が含まれる。これらの液化ガスの貯蔵と取り扱いは複雑で、漏れがあれば爆発の危険があるため、最も厳しい安全対策が要求される。
【0007】
極低温システムだけでなく、液体燃料と酸化剤の組み合わせも知られており、これらは特に、人工衛星や宇宙探査機の飛行や位置決めを制御するための軌道エンジンに使用されている。これに関して、使用される燃料は、通常、ヒドラジン及びその誘導体(モノメチルヒドラジン及びジメチルヒドラジン)と、硝酸、四酸化二窒素、又は過酸化水素との組み合わせである。ここで重要な問題は、ヒドラジンは毒性が強く、発がん性があるため、健康上及び生態学上の理由から、可能な限り代替品を使用すべきであるということである。四酸化二窒素も毒性が懸念されるが、過酸化水素に置き換えると、燃料の効果が損なわれる。
【0008】
ヒドラジンに代わる毒性の低いものとして、アンモニウムジニトラミド(ADN)及び硝酸ヒドロキシルアンモニウム(HAN)がある。これらの単元推進剤は、爆発性が高いため、水溶液の形態でのみ扱うことができ、任意に、追加燃料としてメタノール及び/又はアンモニアと組み合わせる。この場合も、含水量により着火性が低下するため、ヒドラジンエンジンとは異なり、ADNやHANをベースとしたエンジンは、冷間始動することができず、事前に温めておく必要がある。さらに、ADN及びHANは、比較的高価である。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、特にロケットエンジン用の燃料を提案することであり、これによって従来技術の上述の欠点を、可能な限り回避することができる。
【0010】
本発明によれば、この目的は、
-酸化剤としての無機塩であって、無機塩が少なくとも60重量%の酸素含有量を有する、無機塩と、
-一価又は二価のアルコール、ニトロアルカン及び/又は硝酸塩が陰イオンであるイオン液体を含む、燃料としての溶媒であって、溶媒が30重量%以上55重量%以下の酸素含有量を有する、溶媒と、
を含む、液体又はゲル状の燃料によって達成され、
無機塩は、溶媒に溶解している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、表1に示した燃料の潜在的性能(Δv)を、異なる宇宙船構成における基準燃料であるヒドラジン(V1)に対する、偏差百分率で表したグラフである。
図2図2は、表2に示した燃料の潜在的性能(Δv)を、異なる宇宙船構成において、比較例V4からの偏差百分率で表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による燃料は、液体又はゲル状であり、ゲル状の燃料の場合、それはまた、ポンプ輸送可能である(下記参照)。このようにして、固体燃料の典型的な欠点が回避される。本発明による燃料は、極低温でないため、保管、取り扱い、及びエンジンへの燃料の供給が、基本的に簡素化される。最後に、本発明による燃料の成分は、少なくともヒドラジン及びその誘導体と比較すれば、毒物学的及び生態学的観点から比較的懸念が少ない。ADN又はHANと比較して、本発明による燃料は、コスト面で大きな利点を提供する。
【0013】
本発明による燃料は、二元推進剤であるが、酸化剤及び燃料は、別個の化学化合物であるため、エンジンに供給されるのは、有利には均質な混合物である。ここで、本発明は、酸化剤として使用される無機塩が、燃料として適切な様々な溶媒に対して比較的良好な溶解度を有する、という事実を利用し、その結果、酸化剤と燃料の必要な混合比を設定することができる。これに関連して、酸素バランス、エネルギー密度、比推力などの、燃料の固有の特性を、異なる要件や使用分野に適合させることを可能にするために、比較的高エネルギーの燃料(ニトロアルカン/硝酸塩)ではなく、比較的低エネルギーの燃料(一価又は二価アルコール)を溶媒として使用できることが特に有利である。
【0014】
本発明による燃料及びその成分は、典型的には爆発性を有しないので、取り扱い及び製造が簡素化され、燃料がより安全になる。一方、本発明による燃料は、良好な点火特性を有し、電気点火、熱点火、触媒-熱点火又は触媒点火が基本的に可能である。
【0015】
酸化剤として使用される無機塩は、好ましくは硝酸リチウム、リチウムジニトラミド、過塩素酸リチウム又はこれらの混合物から選択される。これらの塩は、複数の適切な燃料、特にアルコールに対して比較的良好な溶解度を有する。例えば、硝酸リチウムのメタノールへの溶解度は、約58g/100gであり、過塩素酸リチウムのメタノールへの溶解度は、約182g/100gである。硝酸塩が陰イオンであるニトロアルカン及びイオン液体では、溶解度はあまり良くなく、この場合、アルコール又は更なる溶媒を混ぜることによって、塩の溶解度を高めることが可能である。
【0016】
燃料中の無機塩の割合は、広い範囲で変えることができ、通常、15重量%以上65重量%以下の範囲である。一方では、その割合は、上述したように、選択される溶媒及び無機塩の溶解度に依存し、他方では、燃料の燃焼のための所望の酸素バランスに依存して変化させることができる。
【0017】
本発明の好ましい実施態様では、溶媒は、特に単一成分として、エタノール、メタノール又はn-ブタノールを含む。これら一価アルコールへの溶解性が良好であるため、この場合、燃料中の無機塩の割合は比較的高く、好ましくは50重量%以上65重量%以下を選択することができる。
【0018】
本発明の更に有利な実施態様では、溶媒は、特に単一成分として、ニトロメタン又はニトロエタンを含む。溶解度が幾分低いので、この場合、無機塩の割合は、好ましくは10重量%以上40重量%以下、より好ましくは20重量%以上30重量%以下である。
【0019】
上述したように、本発明による燃料は、溶媒又は燃料として単一のアルコール又は単一のニトロアルカンを含むことができる。本発明の更なる実施形態によれば、溶媒は、更なるアルコール、特にn-ブタノール(これが主溶媒でない場合)及び/又はエチレングリコール、及び/又は炭酸エステル、特にジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートを更に含む。炭酸エステルはまた、低エネルギー燃料である。
【0020】
本発明の更に好ましい実施態様では、溶媒は、イオン液体、特に硝酸エチルアンモニウムを含む。この場合、燃料中の無機塩の割合は、好ましくは10重量%以上40重量%以下、より好ましくは15重量%以上25重量%以下である。
【0021】
イオン液体に加えて、溶媒は、好ましくはアルコール、特にエチレングリコール及び/又はエタノールを含む。このような混合物を用いると、単一溶媒に比べて無機塩(酸化剤)の溶解度を高めることができる。硝酸エチルアンモニウムの場合、硝酸エチルアンモニウムとアルコールの混合比は、好ましくは6:1から1:3の範囲である。
【0022】
好ましくは、本発明による燃料は、水を含まず、この点で、特にADN又はHANに基づく公知の燃料とは異なる。水を含まない結果、本発明による燃料は、良好な着火性を有する。
【0023】
更に好ましい実施形態によれば、本発明による燃料は、ゲル状の燃料である。ゲルのような粘着性を達成するために、燃料は、好ましくはポリアクリル酸、発熱性二酸化ケイ素、マイクロ~ナノスケールの金属粉末、二酸化チタンナノ粒子及び/又はカーボンナノチューブから選択される増粘剤を含む。金属粉末の場合、これは、好ましくはアルミニウム、マグネシウム、アルミニウム/マグネシウム合金、ホウ素、鉄、及びジルコニウムから選択される。
【0024】
ゲル状の燃料は、液体燃料よりも安全性が高いという利点があり、これは第一に、液体成分の蒸気圧が低下するためであり、第二に、粘度が高いことは、漏出時の排出速度が低いことを意味するためである。更なる利点は、ゲル状の燃料の場合、液体燃料では沈殿するような不溶性成分も懸濁状態に保つことができることである。これは特に、燃料が任意に含有する金属粉末に当てはまり、増粘剤としての機能に加えて、追加の燃料も提供し、燃料のエネルギー密度を高めるために使用することができる。
【0025】
本発明による燃料中の増粘剤の割合は、好ましくは最大10重量%、より好ましくは1重量%以上5重量%以下である。ここで、増粘剤の種類及び量は、ゲル状の本発明による燃料が、液体燃料の実質的に全ての利点、すなわち、特に良好なポンプ輸送性及び柔軟性(単純な拡張性、推力制御能力、及び再着火性)を有するように有利に選択することができる。その結果、本発明によるゲル状の燃料は、レオロジーがせん断減粘挙動を有し、液体燃料に通常用いられる供給システムを使用してポンプ輸送できないような顕著な降伏点を有する、先行技術の既知のゲル燃料とは実質的に異なる。
【0026】
さらに、本発明による燃料は、好ましくはAlH、NaBH及び/又はAlLiHから選択される1種以上の軽金属の水素化物を含むことができる。金属水素化物は、燃料のエネルギー含有量及び性能能力を変更することができる追加燃料である。
【0027】
本発明の更なる実施形態によれば、燃料は、好ましくはアンモニウム、ナトリウム及びカリウムの硝酸塩及び過塩素酸塩から選択される更なる酸化剤を更に含む。これは、特にゲル状の燃料の場合に当てはまり、これらの酸化剤は、溶解度が低いため、懸濁液の形態である。
【0028】
本発明による燃料は、典型的には900kg/m以上1700kg/m以下、好ましくは1100kg/m以上1400kg/m以下の範囲の密度を有する。
【0029】
燃焼のために、本発明による燃料は、好ましくは0%から-50%まで、より好ましくは-20%から-40%までの酸素バランスを有する。酸素バランスが0の場合、燃焼は完全に化学量論的であり、その結果、燃料のエネルギー含有量は、完全に使い尽くされる。しかしながら、燃料の過度の自然発火傾向(爆発性)を避けるために、殆どの場合、負の酸素バランス、すなわち酸化剤に対する燃料の過剰が好ましい。
【0030】
本発明の文脈において、液体又はゲル状の燃料の質的及び量的組成を変化させる上述の可能性のために、燃料の比推力はまた、広い範囲(例えば、7MPaの燃焼圧力及び70:1の膨張比において、150秒以上300秒以下の範囲内)にあることができる。したって、本発明による燃料は、航空宇宙工学における様々な種類のロケットエンジンに、主駆動及び補助駆動の両方に、特に打ち上げ用ロケット、ブースターロケット、ロケット段又は軌道エンジンに使用することができる。さらに、比推力が上記範囲の下限にある燃料はまた、航空宇宙システムのガス発生器の運転に使用することができる。
【0031】
宇宙旅行とは別に、本発明による燃料はまた、航空機の駆動(例えば、打ち上げ時の補助動力装置)又は民間若しくは軍事発射体に使用することができる。
【0032】
本発明による燃料の更に有利な応用分野は、鉱業であり、燃料は、例えば切断トーチ又はボーラーに使用することができる。しかしながら、鉱業とは別に、例えば金属を接合したり分離したりするための工作機械を駆動するために、燃料を使用することも考えられる。
【0033】
本発明のこれら及び更なる利点は、以下の実施例を参照してより詳細に説明する。
【実施例
【0034】
液体燃料の実施例
以下の表1において、それぞれの場合において、本発明による液体燃料の4つの実施例(実施例1~4)について、百分率組成、比推力、密度、断熱燃焼温度及び酸素バランスが規定されている。ここでは比較例として、それぞれヒドラジン(V1)及びアンモニウムジニトラミド(V2及びV3)をベースとする従来の燃料がある。
【表1】
【0035】
比推力(燃焼圧力5MPa、膨張比50:1)の値は、従来の燃料に匹敵するか、場合によっては、それ以上である。本発明による燃料の密度も、同様の範囲である。
【0036】
比推力と同様に、NASA-CEAコード(McBride&Gordon,1996)を使用して、断熱燃焼温度を計算した。実施例2~4では、この値も比較例と同様の範囲にある。これは、エンジンの構造に使用される材料が、これまでと非常に類似している可能性があることを意味し、新しい燃料の技術的な実装を単純化する。実施例1は、例外である。この場合、燃焼温度及び性能(比推力)の両方が著しく高くなり、その結果、エンジンの既存のエンジニアリングへの適合(特に触媒装置の高温に耐えることができる建設材料)が必要になる可能性があるが、それでも実現される性能の可能性を考慮すると、価値があると思われる。
【0037】
本発明による燃料の酸素バランスは、ADNに基づく従来の「グリーン推進剤」の場合よりも低い。このことは、一方では、燃焼が化学量論的でなくなり、化学エネルギーの推進エネルギーへの変換が不完全になることを意味し、他方では、新しく開発された燃料が、機械的及び熱的負荷の結果として起爆しにくくなることを示していると考えられる。
【0038】
図1は、表1に示した燃料の潜在的性能(Δv)を、異なる宇宙船構成における基準燃料であるヒドラジン(V1)に対する、偏差百分率で表したグラフである。これらは、x軸に示すバーンアウト質量比(ζ)に対してプロットされている。例として、バーンアウト質量比0.55は、ヒドラジンを燃料とする典型的な宇宙探査機(すなわち、燃料が宇宙船全質量の45%を占める)に対応し、バーンアウト質量比0.92は、ヒドラジンを燃料とする地球観測衛星に対応する。
【0039】
より密度の高い燃料を使用すれば、同じタンク容積でより多くの燃料を搭載することができ、すなわちバーンアウト質量比が下がり、宇宙船のΔv、すなわち軌道操作に必要な軌道速度の調整量が上がる。グラフの線は、ヒドラジン以外の燃料を同じ宇宙船に使用した場合に、どれだけ多くのΔvを適用できるかを示している。ADNに基づく従来の燃料(V2及びV3)を使用した場合、Δvを30%以上50%以下増加させることができ、したがって探査機や衛星の運用期間を最大1.5倍長くすることができる。本発明による液体燃料は、同様の範囲かそれ以上(実施例1)であるため、従来のヒドラジン代替品と競合する。
【0040】
ゲル状燃料の実施例
以下の表2において、それぞれの場合において、本発明によるゲル状燃料の3つの実施例(実施例5~7)について、百分率組成、比推力、密度及びC燃焼効率が規定されている。比較例として、様々な従来の燃料(V4~V7)がある。
【表2】
【0041】
比推力の値は、極低温又は部分的に極低温の二元推進剤の場合よりも低く、固体燃料のエネルギー特性により匹敵する。しかしながら、本発明による燃料の密度は、固体燃料の密度ほどではないが、高い。
【0042】
図2は、表2に示した燃料の潜在的性能(Δv)を、異なる宇宙船構成において、比較例V4からの偏差百分率で表したグラフである。示されているバーンアウト量比の値は、発射体及び高度研究ロケット(0.15以上0.35以下)、ブースター段(0.3以上0.45以下)又は上段(0.4以上0.65以下)に典型的なものである。
【0043】
同じ大きさの段であれば、グラフに示した全ての燃料は、例えばVega発射システムのP80ブースター段に使用されている参照固体燃料(V4)よりもΔvが小さくなる。極低温又は部分極低温燃料の場合、Δvは、1%以上20%以下少ない。本発明による燃料の場合、Δvは、12%以上25%以下少ない。実施例7は例外であり、この燃料のΔv性能は、従来の極低温及び部分極低温二元推進剤の範囲にある。
【0044】
しかしながら、試験した全ての燃料が参照燃料よりも低いΔvを与えるという事実は、それらの使用が不利であることを意味しない。この比較では、個々の駆動システム間の違いは、考慮されていない。例えば、固体燃料エンジンの「タンク」は、同時に燃焼室であり、このために高圧と同時に高い熱負荷に耐えなければならないことを考慮しなければならず、特に、バーンアウト質量比が小さい非常に大きな段の場合、構造質量が比較的大きくなり、したがって、液体又はゲル燃料の場合よりも最小バーンアウト質量比がより高くなる。さらに、燃料ブロックの中心に縦軸に沿った空洞があるため、固体燃料エンジンの最大燃料充填レベルは、液体燃料段のレベルよりも小さい。
【0045】
本システムの更に重要な態様は、液体とゲル状の単元推進剤と二元推進剤との間の比較で見ることができることであって、前者の場合、1種類のみの物質がロケット段内に貯蔵され、供給されるが、後者の場合は2種類である。このため、単元推進剤システムは、二元推進剤システムよりも複雑さが著しく低い。さらに、本発明による単元推進剤は、いずれも極低温でない。これも同様に取り扱いをかなり単純化する。MONやヒドラジンなどの他の貯蔵可能な燃料とは異なり、本発明による高エネルギー単元推進剤は、毒性、発がん性、又は環境に対する危険性がない。
【0046】
システムのこれらの態様を考慮に入れれば、本発明による燃料を使用して運転される駆動システムは、多くの従来の駆動システムよりも優れている可能性がある。これに関連して、システムの利点である推力制御及びエンジン再着火を容易に実現することができると同時に、二重推進剤の性能を有する、実施例7による燃料に特に注目すべきである。上述したように、これは、固体燃料エンジンでは、はるかに複雑である。
図1
図2
【国際調査報告】