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特表2024-509735敗血症の予後を処置、診断及び予測する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】敗血症の予後を処置、診断及び予測する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240227BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K45/00
A61P31/00
A61P31/04
A61P29/00
A61K9/12
A61K9/72
G01N33/53 R
G01N33/53 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548755
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-09-18
(86)【国際出願番号】 US2022014480
(87)【国際公開番号】W WO2022177724
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】63/200,147
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521145462
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オヴ ロチェスター
【氏名又は名称原語表記】University of Rochester
【住所又は居所原語表記】601 Elmwood Avenue, Box URV, Rochester, NY 14642 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー ピー ピエトロパオリ
(72)【発明者】
【氏名】ミンソー キム
(72)【発明者】
【氏名】アリッサ トシェツィアク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA93
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB28
4C076BB36
4C076FF02
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084CA17
4C084DC50
4C084MA12
4C084MA13
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB321
4C084ZB322
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC611
4C084ZC612
(57)【要約】
敗血症又は敗血症関連状態を処置する方法であって、そのような処置を必要とする対象に有効量のC1qを投与する工程を含み、対象が敗血症と診断され、対象の好中球におけるC1qタンパク質発現が閾値レベル未満である、方法。対象において予後不良の敗血症を判定する方法であって、対象から好中球を単離することと、単離された好中球中のC1qタンパク質のレベルを決定することと、C1qタンパク質のレベルが所定の閾値未満である場合、C1qを対象に投与することと、を含む、方法。処置及び診断の方法を実施するためのキット及び組成物も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症又は敗血症関連状態を処置する方法であって、
そのような処置を必要とする対象に有効量のC1qタンパク質又はその変異体を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記対象が敗血症と診断され、前記対象の好中球におけるC1qタンパク質発現が閾値レベル未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗生物質を前記対象に投与する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記C1qタンパク質又はその変異体が、吸入、気管内送達、噴霧及び吸入送達、尿道内送達、静脈内注射又はそれらの組合せによって投与される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記C1qタンパク質又はその変異体が、0.1~10mg/kg体重の量で1~14日間毎日投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記C1qタンパク質又はその変異体が、0.3~3mg/kg体重の量で2~7日間毎日投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記C1qタンパク質又はその変異体が、局所注射若しくは静脈内注射又は両方の組合せによって、0.1~10mg/kg体重の量で2~7日間1日3回投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記C1qタンパク質又はその変異体が、肺感染によって引き起こされる敗血症の処置のために吸入によって投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記C1qタンパク質又はその変異体が、腎臓感染によって引き起こされる敗血症の処置のために膀胱からの逆行性注入によって投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記C1qタンパク質又はその変異体が、膀胱感染によって引き起こされる敗血症の処置のために尿道内送達によって投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記敗血症関連状態が、肺炎、肺臓炎、尿路感染、腹膜炎、胆嚢炎、胆管炎を含む胆管系の感染、大腸炎、腸炎、腸閉塞、腸穿孔、血流感染、髄膜炎、脳炎、蜂巣炎、皮膚及び軟部組織感染、前立腺炎、子宮内膜炎、並びに術後創傷感染からなる群から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
対象において予後不良の敗血症を判定する方法であって、
前記対象から好中球を単離することと、
前記単離された好中球中のC1qタンパク質のレベルを決定することと、
前記C1qタンパク質のレベルが所定の閾値未満である場合、C1qタンパク質又はその変異体を前記対象に投与することと、を含む、方法。
【請求項13】
前記好中球が、前記対象の血液から単離される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記C1qのレベルがELISAによって決定される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が哺乳動物である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
敗血症を有する対象の予後を提供するためのキットであって、
試験試料中のC1qのレベルを決定するための試験装置と、
ユーザガイドと、を含む、キット。
【請求項17】
前記試験装置が、前記試験試料と接触しているとき、及び前記試験試料中の前記C1qのレベルが閾値レベルを上回るときに可視シグナルを提供する試験ストリップであり、陰性試験結果が予後不良を示す、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
フローサイトメトリーによってC1qレベルを測定するための試薬をさらに含む、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
細胞溶解試薬をさらに含む、請求項16に記載のキット。
【請求項20】
医薬組成物であって、
組換えC1qタンパク質又はその変異体と、
薬学的に許容される担体と、を含み、
前記医薬組成物が吸入用に製剤化されている、医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]関連出願の相互参照
本出願は、2021年2月17日に出願された米国特許出願第63/200,147号の優先権を主張する。前述の出願の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]本出願は、一般に、医学的処置及び診断、特に敗血症の予後及び処置に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]敗血症は、感染に対する身体の極端な応答である。それは、生命を脅かす医学的緊急事態である。敗血症は、感染が全身に有害な連鎖反応を引き起こす際に生じる。タイムリーな診断、トリアージ、及び処置がなければ、敗血症は急速に組織損傷、臓器不全、及び死に至り得る。
【0004】
[0004]ほとんどのあらゆる種類の感染は、敗血症をもたらし得る。敗血症をもたらす感染は、肺、尿路、腎臓、皮膚、又は胃腸管で最も頻繁に始まる。ほとんどの敗血症は、細菌感染によって引き起こされる。それはまた、COVID-19又はインフルエンザなどのウイルス感染、真菌感染及び原虫感染を含む他の感染の結果であり得る。
【0005】
[0005]以前は、敗血症診断は、推定感染の状況において少なくとも2つの全身性炎症反応症候群(SIRS)基準の存在を必要とした。これらの基準は、感染患者をスクリーニングし、敗血症患者を同定するために使用される。2016年に、迅速SOFAスコア(qSOFA)として知られる短縮された逐次臓器不全評価スコア(SOFAスコア)が、スクリーニングのSIRSシステムを置き換えるために提案された。敗血症のqSOFAスクリーニング基準には、呼吸数の増加、意識レベルの変化、及び低血圧の3つのうちの少なくとも2つが含まれる。敗血症ガイドラインは、抗生物質を開始する前に血液培養物を入手することを推奨している。しかし、診断は、血液が感染していることを必要としない。医用イメージングは、感染の可能性のある位置を探す際に役立つ。上記のスクリーニング基準の両方のセットは、敗血症を同定するのに特異的であるよりも感度が高い。同様の徴候及び症状の他の潜在的な原因のいくつかには、手術、心不全、貧血、脱水、肺塞栓症、アナフィラキシー、及び副腎機能不全に対する予想される反応が含まれる。
【0006】
[0006]重症敗血症は、重要臓器機能不全を引き起こす感染に対する全身性炎症反応として定義される。敗血症は病院死の最も一般的な理由の1つであるが、疾患に対する患者の応答は非常に不均一であり、多臓器不全及び死に進行する患者を同定することはしばしば困難である。しかしながら、敗血症管理の最適な進歩には、患者を適切にトリアージするために正確な予後測定が必要である。さらに、真の治療的ブレークスルーは、そのバイオマーカーによってシグナル伝達される病態生理学的経路を標的とする新規処置から利益を得る患者のサブグループを同定する正確で関連性のあるバイオマーカーを必要とする。
【発明の概要】
【0007】
[0007]本出願の一態様は、敗血症又は敗血症関連状態を処置する方法であって、そのような処置を必要とする対象に有効量のC1qタンパク質又はその変異体を投与する工程を含む、方法に関する。
【0008】
[0008]いくつかの実施形態では、対象は敗血症と診断され、対象の好中球におけるC1qタンパク質発現は閾値レベル未満である。
【0009】
[0009]いくつかの実施形態では、本方法は、抗生物質を対象に投与する工程をさらに含む。
【0010】
[0010]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質又はその変異体は、吸入、気管内送達、噴霧及び吸入送達、尿道内送達、静脈内注射又はそれらの組合せによって投与される。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質又はその変異体は、0.1~10mg/kg体重の量で1~14日間毎日投与される。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質又はその変異体は、0.3~3mg/kg体重の量で2~7日間毎日投与される。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質又はその変異体は、局所注射若しくは静脈内注射又は両方の組合せによって、0.1~10mg/kg体重の量で2~7日間1日3回投与される。
【0011】
[0011]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質又はその変異体は、肺感染によって引き起こされる敗血症の処置のために吸入によって投与される。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質又はその変異体は、腎臓感染によって引き起こされる敗血症の処置のために膀胱からの逆行性注入によって投与される。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質又はその変異体は、膀胱感染によって引き起こされる敗血症の処置のために尿道内送達によって投与される。
【0012】
[0012]いくつかの実施形態では、敗血症関連状態は、肺炎、肺臓炎、尿路感染、腹膜炎、胆嚢炎、胆管炎を含む胆管系の感染、大腸炎、腸炎、腸閉塞、腸穿孔、血流感染、髄膜炎又は脳炎、蜂巣炎又は他の皮膚/軟部組織感染、前立腺炎、子宮内膜炎、及び術後創傷感染である。表1は、C1q投与で処置されてもよい敗血症関連状態のリストを提供する。
【表1】
【0013】
[0013]本出願の別の態様は、対象において予後不良の敗血症を判定する方法に関する。本方法は、対象から好中球を単離する工程と、単離された好中球中のC1qタンパク質のレベルを決定する工程と、C1qタンパク質のレベルが所定の閾値未満である場合、C1qタンパク質又はその変異体を対象に投与する工程と、を含む。
【0014】
[0014]いくつかの実施形態では、好中球は、対象の血液から単離される。いくつかの実施形態では、好中球は、遠心分離によって対象の血液から単離される。いくつかの実施形態では、C1qのレベルはELISAによって決定される。いくつかの実施形態では、対象は哺乳動物である。
【0015】
[0015]本出願の別の態様は、敗血症を有する対象の予後を提供するためのキットに関する。キットは、試験試料中のC1qのレベルを決定するための試験装置と、ユーザガイドと、を含む。
【0016】
[0016]いくつかの実施形態では、試験装置は、試験試料と接触しているとき、及び試験試料中のC1qのレベルが閾値レベルを上回るときに可視シグナルを提供する試験ストリップであり、陰性試験結果は予後不良を示す。いくつかの実施形態では、キットは採血管をさらに含む。いくつかの実施形態では、キットは細胞溶解試薬をさらに含む。
【0017】
[0017]本出願の別の態様は、医薬組成物に関する。医薬組成物は、組換えC1qタンパク質又はその変異体と、薬学的に許容される担体と、を含み、医薬組成物は吸入用に製剤化されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】[0018]図1は、伝統的な敗血症バイオマーカーは死亡率を予測しないが、CD49c+好中球亜集団は死亡率を予測することができることを示す図である。パネルA:研究フロー図。診断基準を満たしてから48時間以内(D<2)の重症敗血症患者由来の好中球、及び3~5日間隔で得たその後の2つの試料(n=D<2:55、D5-7:43、D7-10:24、年齢55.5±5歳、感染源:腎臓、肺、腹部、尿生殖器)を単離した。
図1B】パネルB:敗血症による生存及び死の診断。
図1C】パネルC及びD:敗血症、並びに血清因子(C)及び好中球マーカー(D)を測定した。グラフは、絶対値又はD<2に対するMFIの増加倍率を示す(マン・ホイットニーのU検定)。
図1D】パネルC及びD:敗血症、並びに血清因子(C)及び好中球マーカー(D)を測定した。グラフは、絶対値又はD<2に対するMFIの増加倍率を示す(マン・ホイットニーのU検定)。
図1E】パネルE:遺伝子発現のヒートマップ。
図1F】パネルF:敗血症患者由来の好中球サブセット(CD49c高対CD49c低)における差次的発現遺伝子のPCA。
図1G】パネルG:差次的発現遺伝子を分析し、経路濃縮をlog(-P)として表す。
図2A】[0019]図2は、敗血症好中球におけるC1q発現を示す図である。パネルA:敗血症好中球サブセットにおける差次的発現遺伝子の比較。赤色は好中球において増加した遺伝子を示し、青色は減少した遺伝子を示す。
図2B】パネルB:内毒素血症マウス又はナイーブ(PBS)マウスの好中球サブセットにおける差次的発現遺伝子のPCA。
図2C】パネルC及びD:遺伝子発現のヒートマップ(zスコア)(左)。p値が最も低い上位25遺伝子(p<10-10)は、補体経路関連遺伝子であった(右)。
図2D】パネルC及びD:遺伝子発現のヒートマップ(zスコア)(左)。p値が最も低い上位25遺伝子(p<10-10)は、補体経路関連遺伝子であった(右)。
図2E】パネルE:ヒト好中球におけるC1q発現。
図2F】パネルF:ELISAによって測定した、マウスにおける6時間及び12時間での敗血症中の血清及び腹膜中の総C1q分泌。
図2G】パネルG:マウス腹膜中の好中球数。
図2H】パネルH:刺激後のマウス好中球におけるC1qの発現。
図2I】パネルI:3つの平均ハウスキーピング遺伝子と比較した、健常患者及び敗血症患者におけるC1qa、C1qb、及びC1qcのqPCR。
図2J】パネルJ:死亡した敗血症患者は、好中球においてC1qタンパク質を発現することができなかった。健常患者(H)、死亡した敗血症患者(D)、及び生存した敗血症患者(S)から単離された好中球に対するC1qウェスタンブロット分析。M;男性、F;女性。
図2K】パネルK:C1qの血清レベルは変化しなかったことに留意されたい。データは、平均+/-SEM対b-アクチンとして示している。テューキーの多重比較事後検定を用いた通常の一元配置ANOVAによってデータを分析した。
図3A】[0020]図3は、C1qの遮断が敗血症死亡率を増加させることを示す図である。パネルA:アイソタイプIgG対照抗体又は抗C1q中和抗体で処置したLPS誘導内毒素血症マウスの生存アッセイ。群あたりn=6。血清中のIL-6及びIL-1b分泌(右)。
図3B】パネルB:アイソタイプIgG対照抗体又は抗C1q中和抗体で処置したCLP誘導敗血症マウスの生存アッセイ。群あたりn=6。血清中のIL-6及びIL-1b分泌(右)。
図3C】パネルC:LPSで処置したWT及びC1q cKOマウスの生存曲線及び敗血症重症度、群あたりn=6。データは平均+/-SEMとして示している。データを二元配置ANOVAによって分析した。(*P<0.05、**P<0.01)。
図3D】パネルD:血清中のIL-6、IL-1b、及びIL-10分泌。
図3E】パネルE:LPS処置後の末梢臓器(肺+腎臓+腹膜)におけるアポトーシス好中球のフローサイトメトリー分析(平均±標準誤差、群あたりn=4匹のマウス)。
図3F】パネルF:組織傷害は、C1q cKOマウスにおいて重度であった。代表的なH&E染色肺切片を示す。
図4A】[0021]パネルA:好中球特異的C1q発現がアポトーシス好中球の適切なエフェロサイトーシスに不可欠であることを示す図である。アポトーシス好中球は、オートクリン及び/又はパラクリン様式でC1qを分泌し、「自己装飾」し、それらを局所常在マクロファージによる効率的なエフェロサイトーシスのためにマーキングし、感染の消散及び生存をもたらす。C1qがないと、アポトーシス好中球が蓄積し、長期の炎症、したがって予後不良、最終的には死を引き起こす。
図4B】パネルB:アポトーシス好中球はC1qを分泌する。TNF(2~200ng ml-1)、fMLP(0.1~10μM)、又はFasL(1~100ng ml-1)刺激に応答した好中球によるC1q分泌を、好中球上清のウェスタンブロット分析によって決定した。各パネルは、3回の反復された実験の1つの代表的な画像を示す。データを二元配置ANOVAによって分析した。(*P<0.05)。
図4C】パネルC:C1qはアポトーシス好中球に結合し、食作用を促進する。生存又はアポトーシスヒト好中球をC1qとインキュベートした。C1q結合を、抗ヒトC1q Abを用いたフローサイトメトリーによって測定した。異なるドナーを用いた3つの実験で得られたデータ。(*P<0.05)スチューデントのt検定。
図4D】パネルD:U937細胞によるアポトーシスヒト好中球の食作用を、C1qの存在下でCypHer5を用いて測定した。
図4E】パネルE:内毒素マウスの肺毛細血管内への好中球の捕捉。LPS処置後の肺毛細血管(デキストラン、青色)におけるLy6G+(赤色)好中球捕捉のリアルタイムイメージング。
図4F】パネルF:精製C1qの注射は、LPS処置マウスの肺における好中球蓄積を改善する。右:PBS群、LPS群、LPS+C1q群間の肺微小循環におけるLy6G+細胞数の比較(マウスあたり10視野、群あたり3匹のマウス、両側t検定、*p<0.01)。データは平均±SEMとして示している。
図4G】パネルG及びH:LPS(G)又はCLP(H)+/-血清精製C1qで処置したマウスの生存曲線及び敗血症重症度(右)、群あたりn=6。(右)データは平均+/-SEMとして示している。データを、Aに対するマンテル・コックス及び二元配置ANOVAによって分析した。
図4H】パネルG及びH:LPS(G)又はCLP(H)+/-血清精製C1qで処置したマウスの生存曲線及び敗血症重症度(右)、群あたりn=6。(右)データは平均+/-SEMとして示している。データを、Aに対するマンテル・コックス及び二元配置ANOVAによって分析した。
図4I】パネルI:潜在的なC1q受容体についてのマウス敗血症マクロファージにおけるmRNA発現。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[0022]ここで本開示を詳細に説明し、例示的な実施形態に関連して説明を行うが、本開示は、図及び添付の特許請求の範囲に示される特定の実施形態によって限定されない。
【0020】
[0023]本出願の特定の態様及び例示的な実施形態を詳細に参照し、添付の構造及び図の例を示す。本出願の態様は、方法、材料及び例を含む例示的な実施形態と併せて説明され、そのような説明は非限定的であり、本出願の範囲は、一般的に知られているか、又は本明細書に組み込まれているすべての均等物、代替物及び修正物を包含することを意図している。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本出願が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。当業者は、本出願の態様及び実施形態の実施に使用することができる、本明細書に記載されたものと類似又は均等な多くの技術及び材料を認識するであろう。本出願の記載された態様及び実施形態は、記載された方法及び材料に限定されない。
【0021】
[0024]定義及び用語
本明細書で使用される場合、以下の用語は以下の意味を有するものとする。
【0022】
[0025]本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、内容が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0023】
[0026]本明細書で使用される「C1qタンパク質」という用語は、補体成分1qを指す。C1qは、C1r及びC1sと共にC1複合体を形成し、補体系の従来の活性化経路を開始する。「危険シグナル」、すなわち抗原抗体複合体及び病原体、感染細胞又はアポトーシス細胞の表面に存在する因子へのC1qの結合は、C1sを活性化するC1rの自己活性化をもたらす。次いで、活性化されたC1sは、他の補体成分のカスケードにおける活性化を開始する。本明細書における「C1q」への言及は、ポリペプチド変異体、相同配列、断片及びC1qタンパク質と配列同一性を有する他のアミノ酸配列を参照により組み込む。
【0024】
[0027]本明細書で互換的に使用される「ポリペプチド」、「タンパク質」及び「ペプチド」という用語は、そのサイズ又は機能にかかわらず、20個のタンパク質アミノ酸のポリマー又はアミノ酸類似体を指す。「タンパク質」は比較的大きなポリペプチドに関して使用されることが多く、「ペプチド」は小さなポリペプチドに関して使用されることが多いが、当技術分野におけるこれらの用語の使用は重複し、変動する。本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、特に明記しない限り、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質を指す。「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」という用語は、遺伝子産物を指す場合、本明細書で互換的に使用される。したがって、例示的なポリペプチドには、遺伝子産物、天然に存在するタンパク質、ホモログ、オルソログ、パラログ、断片及び上記の他の均等物、変異体、及び類似体が含まれる。
【0025】
[0028]「変異体」という用語は、1つ以上のアミノ酸、例えば1つ以上のアミノ酸置換によって参照タンパク質又はポリペプチドとは異なるが、参照タンパク質又はポリペプチドの生物学的機能を実質的に維持するタンパク質又はポリペプチドを指す。「変異体」という用語は、保存的置換変異体をさらに含む。「保存的置換変異体」という用語は、1つ以上の保存的アミノ酸置換によって参照ペプチドとは異なり、参照ペプチドの活性の一部又は全部を維持するアミノ酸残基配列を含むペプチドを指す。「保存的アミノ酸置換」は、機能的に類似する残基によるアミノ酸残基の置換である。保存的置換の例としては、1つの非極性(疎水性)残基、例えばイソロイシン、バリン、ロイシン若しくはメチオニンの別のものへの置換、1つの荷電若しくは極性(親水性)残基の別のものへの置換、例えば、アルギニンとリジンとの間、グルタミンとアスパラギンとの間、トレオニンとセリンとの間での置換、1つの塩基性残基、例えばリジン若しくはアルギニンの別のものへの置換、又は1つの酸性残基、例えばアスパラギン酸若しくはグルタミン酸の別のものへの置換、又は1つの芳香族残基、例えばフェニルアラニン、チロシン、若しくはトリプトファンの別のものへの置換が挙げられる。「保存的置換変異体」という語句はまた、得られるペプチドが参照ペプチドの活性の一部又は全部を維持する限り、残基が化学的に誘導体化された残基で置き換えられているペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ペプチドの機能的変異体は、参照ペプチドと70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を共有する。例えば、タンパク質の機能的変異体は、タンパク質の参照バージョンと70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%及び99%の配列同一性を共有してもよく、融合タンパク質の機能的変異体は、参照融合タンパク質と70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%及び99%の配列同一性を共有してもよい。
【0026】
[0029]ポリペプチドの変異体は、元のポリペプチドの断片であってもよい。「断片」という用語は、参照ポリペプチドに関して使用される場合、参照ポリペプチド自体と比較してアミノ酸残基が欠失しているが、残りのアミノ酸配列が通常、参照ポリペプチド中の対応する位置と同一であるポリペプチドを指す。そのような欠失は、参照ポリペプチドのアミノ末端若しくはカルボキシ末端、又はその両方で起こり得る。断片は、典型的には、少なくとも3、5、6、8又は10アミノ酸長、少なくとも14アミノ酸長、少なくとも20、30、40又は50アミノ酸長、少なくとも75アミノ酸長、又は少なくとも100、150、200又はそれ以上のアミノ酸長である。
【0027】
[0030]本明細書で使用される「相同アミノ酸配列」という用語は、本明細書で特に明記されない限り、ポリペプチドのアミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸の置換に由来するアミノ酸配列を指す。さらに、本明細書で使用される「相同ポリペプチド」という用語は、本明細書で特に明記されない限り、ポリペプチドのアミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸の置換に由来するポリペプチドホモログを指す。
【0028】
[0031]本明細書で使用される「配列同一性」という用語は、2つのペプチド配列が比較ウィンドウにわたって同一である(すなわち、アミノ酸毎に)ことを意味する。「配列同一性のパーセンテージ」という用語は、比較ウィンドウにわたって2つの最適にアラインメントされた配列を比較し、両配列において同一のアミノ酸残基が生じる位置の数を決定して、マッチした位置の数を得、マッチした位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。参照配列は、例えば、本発明において特許請求される組成物の全長配列のセグメントとして、より大きな配列のサブセットであってもよい。
【0029】
[0032]「敗血症」という用語は、高度に不均一な症状、進行、及び高い死亡率を伴う血流感染を指す。敗血症は、感染と戦うために血流中に放出された化学物質が体内で非適応性炎症反応を引き起こす場合に生じる。これは、複数の臓器系を損傷する変化のカスケードを引き起こし、それらを失敗させ、時には死をもたらすことさえあり得る。症状には、発熱、呼吸困難、低血圧、心拍数の上昇、及び精神錯乱が含まれる。処置には、抗生物質及び静脈内輸液が含まれる。
【0030】
[0033]敗血症を呈する患者は、敗血症を有する患者を同定するために使用される臨床基準を呈する患者であり、症状は、発熱、呼吸困難、低血圧、心拍数の上昇、及び精神錯乱を含む場合がある。例えば、敗血症診断には、証明され得る又は疑われ得る感染の存在、及び以下の基準のうちの2つ以上が必要である。低血圧(収縮期血圧<90mmHg又はベースラインからの>40の低下、平均動脈圧<70mmHg)、乳酸>1mmol/L、斑点のある皮膚、爪床又は皮膚の毛細血管再充満の減少、>38.0℃又は101°Fの発熱、低体温<36℃深部体温(<96.8°F)、心拍数>90、頻呼吸、精神状態の変化、有意な浮腫又は正の体液バランス(24時間にわたり>20mL/kg)、糖尿病非罹患者における高血糖(>140mg/dL)、白血球数>12,000若しくは4,000未満、又は>10%の「バンド」(未成熟形態)、血清中のC反応性タンパク質の上昇(>10mg/L)、血清中のプロカルシトニンの上昇(>2ng/mL)、動脈低酸素血症(paO2/FiO2<300)、尿量の急激な低下(輸液蘇生にもかかわらず少なくとも2時間<0.5ml/kg/時、又は70kgの人で約35ml/時)、クレアチニン増加>0.5mg/dL、国際標準比(INR)>1.5又は活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)>60秒、腸音なし(イレウス)、血小板数<10万、高ビリルビン(総ビリルビン>4mg/dL)。
【0031】
[0034]「重症敗血症」という用語は、体組織への血流障害(低灌流)又は検出可能な臓器機能不全を伴う敗血症を指す。重症敗血症は、敗血症誘発性低血圧(例えば、発熱、脳症及び腎不全を伴うが、血圧は正常である)の有無にかかわらず生じる場合がある。
【0032】
[0035]「敗血症性ショック」という用語は、適切な輸液蘇生後に持続する敗血症誘発性低血圧(収縮期血圧<90mmHg(又はベースラインからの>40mmHgの低下)又は平均動脈圧<70mmHg)を伴う重症敗血症を指す。「適切」は、患者の血管内容積状態の推定によって決定される。
【0033】
[0036]「全身性炎症反応症候群」又は「SIRS」という用語は、24時間以内の以下の状態のうちの2つ以上によって示されるような、様々な重度の臨床的傷害に対する臨床的応答を指す。体温が38℃(100.4°F)超又は36℃(96.8°F)未満、心拍数(HR)が90拍/分超、呼吸数(RR)が20回/分超、又はPCO2が32mmHg未満、若しくは機械的換気を必要とする、及び白血球数(WBC)が12.0×109/L超若しくは4.0×109/L未満のいずれか、又は10%超の未成熟バンド形態を有する。
【0034】
[0037]SIRSのこれらの症状は、将来的に他の定義によって修正又は置換され得るSIRSのコンセンサス定義を表す。本定義は、現在の臨床診療を明確にするために使用され、本出願の重要な態様を表すものではない(例えば、American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference:Definitions for Sepsis and Organ Failure and Guidelines for the Use of Innovative Therapies in Sepsis,1992,Crit.Care.Med.20,864-874を参照のこと。その全内容は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0035】
[0038]SIRSを有する対象は、上に定義されるSIRSとして分類される臨床症状を有するが、敗血症性であるとは臨床的にみなされない。どの対象が敗血症を発症するリスクがあるかを決定する方法は、当業者に周知である。そのような対象には、例えば、集中治療室(ICU)にいる対象、及びそうでなければ熱傷、手術又は他の傷害などの生理学的外傷を患った対象が含まれる。SIRSの特徴は、頻脈、頻呼吸又は過呼吸、低血圧、低灌流、乏尿、白血球増加又は白血球減少、発熱又は低体温及び大量注入の必要性によって特徴付けられ得る炎症促進状態の生成である。「敗血症の発症」とは、敗血症の初期段階、例えば従来の臨床症状が敗血症の臨床的疑いを裏付けるのに十分である段階の前を指す。本出願の方法は、従来の技術を使用して敗血症が疑われる時点より前に敗血症を検出するために使用され得るので、特定の実施形態では、敗血症の症状がより臨床的に明白である場合に、早期敗血症での対象の疾患状態が遡及的に確認される。対象が敗血症になる正確な機構は、本出願の重要な態様ではない。本出願の方法は、感染過程の起源とは無関係に敗血症の発症を検出することができる。
【0036】
[0039]本明細書で使用される「診断」という用語は、一般に、対象が所与の疾患、障害又は機能不全に罹患している可能性が高いかどうかに関する判定を含む。当業者は、1つ以上の診断指標、すなわちバイオマーカーに基づいて診断を行うことが多く、その有無又は量は、疾患、障害又は機能不全の有無を示す。
【0037】
[0040]本明細書で使用される「予後」という用語は、一般に、臨床状態又は疾患の起こり得る経過及び転帰の予測を指す。患者の予後診断は、通常、疾患の好ましい又は好ましくない経過又は転帰を示す疾患の因子又は症状を評価することによって行われる。「予後」という用語は、必ずしも100%の精度で状態の経過又は転帰を予測する能力を指すものではないことが理解される。代わりに、当業者は、「予後」という用語は、特定の経過又は転帰が起こる可能性の増加を指すことを理解するであろう。すなわち、経過又は転帰が、所与の状態を示す患者において、その状態を示さない個体と比較した場合に、より起こりやすいということである。
【0038】
[0041]「臨床マーカー」は、臨床バイタルサインなど、対象において測定され得る生理学的パラメータを指す。例としては、呼吸数、体温、心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧平均動脈圧、白血球数、単球数、リンパ球数、顆粒球数、好中球数、未成熟好中球対全好中球比、血小板数、血清クレアチニン濃度、尿素濃度、乳酸濃度、グルコース濃度、塩基過剰、pO2及びHCO3-濃度が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
[0042]「バイオマーカー」は、生体試料中に存在するか、又は生体試料に由来する化合物である。この文脈で使用される「に由来する」という語句は、検出された場合、生体試料中に存在する特定の分子を示す化合物を指す。例えば、化合物の特定の断片の検出は、生体試料中の化合物自体の存在を示すことができる。バイオマーカーは、例えば、生体試料から単離され得るか、生体試料中で直接測定され得るか、又は生体試料中で検出され得るか若しくは生体試料中にあると判定され得る。バイオマーカーは、例えば、機能的、部分的に機能的、又は非機能的であり得る。
【0040】
[0043]本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒト対象と動物対象の両方を含む。したがって、本開示の主題に従って、ペット、動物園動物及び家畜のための獣医学的治療用途が提供される。
【0041】
[0044]「哺乳動物」という用語は、ヒト、非ヒト霊長類、飼育動物及び家畜、並びに動物園、スポーツ、又はペット動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシなどを含む、哺乳動物として分類される任意の動物を指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0042】
[0045]本明細書で使用される「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するのに必要な投与量及び期間で有効な量を指す。「予防有効量」は、所望の予防結果を達成するのに必要な投与量及び期間で有効な量を指す。
【0043】
[0046]本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、生理学的に適合する任意の及びすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。医薬組成物は、好適な固体又はゲル相の担体又は賦形剤を含んでもよい。例示的な担体又は賦形剤には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、及びポリエチレングリコールなどのポリマーが含まれるが、これらに限定されない。例示的な薬学的に許容される担体には、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びそれらの組合せの1つ以上が含まれる。多くの場合、等張剤、例えば糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、又は塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。薬学的に許容される担体は、治療薬の有効期間又は有効性を高める、湿潤剤又は乳化剤、保存剤又は緩衝剤などの少量の補助物質をさらに含んでもよい。
【0044】
[0047]敗血症又は敗血症関連状態の処置方法
本出願の著者らは、敗血症患者の好中球中のC1qタンパク質レベルが低いことが低い生存率に関連し、敗血症動物に外因的に発現されたC1qタンパク質を与えると生存率が増加することを予想外に発見した。したがって、本出願の一態様は、敗血症又は敗血症関連状態を処置する方法であって、そのような処置を必要とする対象に治療有効量のC1qタンパク質又はその変異体を投与する工程を含む、方法に関する。敗血症関連状態の例としては、肺炎、肺臓炎、尿路感染、腹膜炎、胆嚢炎、胆管炎を含む胆管系の感染、大腸炎、腸炎、腸閉塞、腸穿孔、血流感染、髄膜炎又は脳炎、蜂巣炎又は他の皮膚/軟部組織感染、前立腺炎、子宮内膜炎、及び術後創傷感染が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
[0048]C1qタンパク質
循環C1qタンパク質は、18本のポリペプチド鎖、すなわち6本のA鎖、6本のB鎖、及び6本のC鎖から構成される400kDaのタンパク質複合体である。ヒトC1qタンパク質のA、B及びC鎖の完全なアミノ酸配列を配列番号1~3に列挙する。集合したC1q六量体は、中心コア又は柄部、6つのコラーゲン様ドメイン及び6つの球状タンパク質頭部を含む。これらの球状又は末端領域は、免疫グロブリン(IgM、IgG)の結合を担う。C1qは、血清補体系を活性化するC1酵素複合体のサブユニットである。
【0046】
[0049]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、哺乳動物種由来のC1qタンパク質である。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、野生型ヒトC1qタンパク質、又はヒトC1qタンパク質の変異体である。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、精製ヒトC1qタンパク質である。いくつかの実施形態では、ヒトC1qは、ヒト血漿中で産生される。
【0047】
[0050]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、組換えタンパク質である。組換えC1qタンパク質は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,294,284号に従って調製されてもよい。
【0048】
[0051]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、改善された薬物動態、安定性、及び/又は治療活性を有する化学修飾C1qタンパク質である。化学修飾C1qタンパク質の例としては、PEG化、グリコシル化及び/又はマンノシル化によって修飾されたC1qタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。C1qタンパク質のPEG化は、C1qタンパク質の溶解度、サイズ、分子量及び立体障害を変化させる。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、非分解性PEG代替物によって修飾される。非分解性PEG代替物の例としては、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)及びポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)、ポリグリセロール(PG)、ポリオキサゾリン(POZ)、並びにポリ(N-アクリロイルモルホリン)(PNAM)が挙げられるが、これらに限定されない。分解性PEG代替物には、ポリシアル酸(PSA)、トレハロースグリコポリマー、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ポリ(エチルエチレンホスフェート)(PEEP)及び組換え合成ポリペプチドが含まれる。グリコシル化及びマンノシル化C1qタンパク質は、PEG化C1qタンパク質とは異なる薬理学的特性を示す場合がある。
【0049】
[0052]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、コンジュゲーションパートナーにコンジュゲートされる。コンジュゲーションパートナーの例としては、胆汁酸輸送体、アミノ酸及びオリゴペプチド輸送体、水溶性ビタミン輸送体、リン酸輸送体、モノカルボン酸輸送体及び炭水化物輸送体が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、FLAGタグ又はFcタグなどのコンジュゲーションパートナーに共有結合的にコンジュゲートされる。
【0050】
[0053]投与量及び処置レジメン
投与されるC1qタンパク質の量は、対象の必要性に基づいて決定されてもよい。いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、標的組織又は臓器中の浸潤好中球のクリアランスを促進するのに十分な量で投与される。
【0051】
[0054]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、個別に、又は他の薬剤と組み合わせて、0.01~100mg/kg体重、0.01~30mg/kg体重、0.01~10mg/kg体重、0.01~3mg/kg体重、0.01~1mg/kg体重、0.01~0.3mg/kg体重、0.01~0.1mg/kg体重、0.01~0.03mg/kg体重、0.03~100mg/kg体重、0.03~30mg/kg体重、0.03~10mg/kg体重、0.03~3mg/kg体重、0.03~1mg/kg体重、0.03~0.3mg/kg体重、0.03~0.1mg/kg体重、0.1~100mg/kg体重、0.1~30mg/kg体重、0.1~10mg/kg体重、0.1~3mg/kg体重、0.1~1mg/kg体重、0.1~0.3mg/kg体重、0.3~100mg/kg体重、0.3~30mg/kg体重、0.3~10mg/kg体重、0.3~3mg/kg体重、0.3~1mg/kg体重、1~100mg/kg体重、1~30mg/kg体重、1~10mg/kg体重、1~3mg/kg体重、3~100mg/kg体重、3~30mg/kg体重、3~10mg/kg体重、10~100mg/kg体重、10~30mg/kg体重又は30~100mg/kg体重の用量範囲内の1つ以上の用量で投与される。
【0052】
[0055]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、個別に、又は他の薬剤と組み合わせて、0.6~6000mg/用量、0.6~2000mg/用量、0.6~1000mg/用量、0.6~300mg/用量、0.6~100mg/用量、0.6~30mg/用量、0.6~10mg/用量、0.6~3mg/用量、2~6000mg/用量、2~2000mg/用量、2~1000mg/用量、2~300mg/用量、2~100mg/用量、2~30mg/用量、2~10mg/用量、6~6000mg/用量、6~2000mg/用量、6~1000mg/用量、6~300mg/用量、6~100mg/用量、6~30mg/用量、20~6000mg/用量、20~2000mg/用量、20~1000mg/用量、20~300mg/用量、20~100mg/用量、60~6000mg/用量、60~2000mg/用量、60~1000mg/用量、60~300mg/用量、200~6000mg/用量、200~2000mg/用量、200~1000mg/用量、600~6000mg/用量又は600~2000mg/用量の範囲内の1つ以上の用量で投与される。
【0053】
[0056]投与単位形態は、本明細書で使用される場合、処置される対象の単位投与量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要な医薬担体と組み合わせて所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性材料を含有する。本出願の投与単位形態の仕様は、(a)活性材料の固有の特性及び達成されるべき特定の治療効果、並びに(b)本明細書に記載のように身体の健康が損なわれている状態を有する生体対象における状態を処置するためにそのような活性材料を配合する技術分野に固有の制限に基づいて選択され得る。
【0054】
[0057]投与レジメンは、当業者に公知の方法に従って対象の必要性に従って変更してもよい。投与レジメンは、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、週1回、週2回、週3回、週4回を含んでもよい。投与レジメンは、敗血症の発症の1週間前、敗血症の発症の6日前、敗血症の発症の5日前、敗血症の発症の3日前、敗血症の発症の2日前、敗血症の発症の1日前、敗血症の発症時、敗血症の発症の1日後、敗血症の発症の2日後、敗血症の発症の3日後、敗血症の発症の4日後、敗血症の発症の5日後、敗血症の発症の6日後、敗血症の発症の1週間後、又は敗血症が軽減されるか若しくは寛解するまで用量を服用することを含んでもよい。投与レジメンは、1~2日間、1~3日間、1~4日間、1~5日間、1~6日間、1~7日間、1~8日間、1~9日間、1~10日間、1~11日間、1~12日間、1~13日間、又は1~14日間などの日数の範囲を網羅してもよい。投与レジメンはまた、C1qタンパク質処置と併せて敗血症の処置のための他の薬剤を含んでもよい。
【0055】
[0058]投与経路
[0059]治療有効量のC1qは、対象に好適な経路によって投与されてもよい。例示的な投与経路には、非経口(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内)、吸入、粘膜(例えば、経鼻、舌下、頬側、直腸、膣)、局所(経鼻、経皮、皮内又は眼内)、リンパ内、脊髄内、頭蓋内、腹腔内、気管内、膀胱内、髄腔内、経腸、肺内、リンパ内、腔内、眼窩内、嚢内及び経尿道、並びにカテーテル又はステントによる局所送達が含まれる。非経口組成物は、本明細書で論じられるような投与の容易さ及び投与量の均一性のために投与単位形態で製剤化されてもよい。
【0056】
[0060]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、対象への静脈内投与によって投与される。
【0057】
[0061]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、経口吸入又は鼻腔スプレーによって投与される。
【0058】
[0062]いくつかの実施形態では、C1qタンパク質は、膀胱からの逆行性注入によって投与される。
【0059】
[0063]対象
[0064]処置の対象は、補体を有する免疫系を有する任意の哺乳動物であり得る。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。他の実施形態では、対象は、非ヒト霊長類、動物園動物又はペットである。
【0060】
[0065]いくつかの実施形態では、対象は、敗血症を有する。いくつかの実施形態では、対象は、重症敗血症を有する。いくつかの実施形態では、対象は、敗血症性ショック状態にある。
【0061】
[0066]特定の実施形態では、対象は、敗血症陰性である。本出願の文脈では、敗血症陰性対象には、当業者の判断による任意の理由で、本出願の処置を必要とする対象が含まれる。そのような対象には、病院の集中治療室にいる敗血症陰性対象及び同様に状態にある対象が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、対象は、集中治療室におり、全身性炎症状態のリスクがある可能性がある対象である。
【0062】
[0067]いくつかの実施形態では、対象は、敗血症を発症するリスクがある。さらなる適用方法を使用して、重症敗血症、敗血症性ショック、多臓器機能不全又は死亡の発症の可能性の増加又は減少について処置又は予防をモニタリングすることができ、あるいは敗血症陽性又は敗血症陰性への起こり得る転換についてモニタリングすることができる。
【0063】
[0068]併用療法
いくつかの実施形態では、本方法は、別の処置剤を対象に投与する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、処置剤は抗生物質である。いくつかの実施形態では、処置剤は静脈内輸液である。いくつかの実施形態では、処置剤は昇圧剤である。いくつかの実施形態では、処置剤はコルチコステロイドである。いくつかの実施形態では、処置剤はインスリンである。いくつかの実施形態では、処置剤は、鎮痛剤又は鎮静剤である。いくつかの実施形態では、処置剤は抗ウイルス剤である。
【0064】
[0069]敗血症の予後又は診断の方法
本出願の別の態様は、全身性炎症状態を有する対象の予後を提供する方法に関する。全身性炎症状態の例としては、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック及び多臓器機能不全又は死亡が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
[0070]いくつかの実施形態では、本出願は、対象において予後不良の敗血症を判定する方法であって、対象から好中球を単離することと、単離された好中球中のC1qタンパク質のレベルを決定することと、C1qタンパク質のレベルが所定の閾値未満である場合、C1qを対象に投与することと、を含む、方法に関する。
【0066】
[0071]好中球の単離
好中球は、当業者に公知の従来の方法を用いて単離されてもよい。好中球は、当業者に公知の任意の様式で対象の体液又は組織から単離されてもよい。特定の実施形態では、対象の体液又は組織は、血液、血漿、唾液、血清、痰、尿、細胞、細胞抽出物又は組織生検である。いくつかの実施形態では、好中球は、対象の血液から単離される。いくつかの実施形態では、好中球は、遠心分離によって対象の血液から単離される。
【0067】
[0072]いくつかの実施形態では、好中球は、密度勾配分離法によって血液から単離される。具体的には、全血試料を対象から採取し、EDTA、クエン酸塩、及びヘパリンなどの抗凝固剤と混合し、密度勾配媒体に重層して遠心分離に供する。遠心分離後に好中球層を回収する。残留赤血球を溶解する。次いで、好中球を洗浄し、計数し、所望の濃度に再懸濁する。いくつかの実施形態では、単離された好中球を洗浄し、計数し、C1qタンパク質レベルを決定するための所望の濃度に再懸濁する。
【0068】
[0073]いくつかの実施形態では、好中球は、例えばフローサイトメトリーなどの当業者に公知の他の方法によって単離されてもよい。ヒト好中球を単離するための市販のキットも入手可能であり、使用されてもよい。
【0069】
[0074]C1qタンパク質レベルの検出
単離された好中球中のC1qタンパク質レベルの検出は、当業者に公知の従来の方法で行われ得る。いくつかの実施形態では、好中球を溶解し、溶解物中のC1qタンパク質の量を、ELISA、ウェスタンブロット、質量分析又はアフィニティークロマトグラフによって決定する。いくつかの実施形態では、好中球溶解物中のC1qタンパク質の量は、ELISAベースのシステムを使用して試験紙で決定される。特定の実施形態では、検出システムは、試験試料中のC1qの量が所定の閾値を超える場合に陽性シグナルを示すELISAベースの検出システムである。いくつかの実施形態では、好中球C1qレベルは、フローサイトメトリー分析によって決定される。
【0070】
[0075]単離された好中球中のC1qタンパク質の量が少ないことは、敗血症を有する対象の予後不良を示す。いくつかの実施形態では、閾値レベルは、対象における敗血症前好中球C1qレベルである。他の実施形態では、閾値レベルは、健康個体における平均好中球C1qレベルである。閾値レベル(又は基準レベル)は、当業者に公知の任意の好適な統計的方法に従って計算され得る。好中球C1qの閾値レベルは、敗血症発症の異なる段階で変化する場合があることに留意すべきである。例えば、好中球C1qタンパク質レベルは、一般に、敗血症診断後3~7日でピークになる。したがって、いくつかの実施形態では、敗血症後3~7日の好中球C1qの閾値レベルは、敗血症発症のこの期間の前後の好中球C1qの閾値レベルよりも高い。
【0071】
[0076]いくつかの実施形態では、好中球C1q発現の閾値レベル(又は基準レベル)は、当業者が入手可能なデータを調べることによって敗血症発症の異なる段階で同定される。そのようなデータは、当業者が利用可能な任意のソースから得られ得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法に従って当業者によって収集された基準量の好中球C1qタンパク質発現を用いてソースを開発することができる。
【0072】
[0077]いくつかの実施形態では、好中球は、敗血症の診断後1~10日目に対象から得られる。いくつかの実施形態では、好中球は、敗血症の診断後3~7日目に対象から得られる。
【0073】
[0078]いくつかの実施形態では、好中球は、敗血症の発症の直前に対象から得られる。いくつかの実施形態では、好中球は、敗血症の発症の12、24、36又は48時間前に対象から得られる。
【0074】
[0079]いくつかの実施形態では、本方法は、対象における第2の予後マーカーのレベルを決定する工程をさらに含む。そのような予後マーカーの例としては、乳酸、プロカルシトニン、WBC数、ANC、CD64、CD49c、炎症性サイトカイン、例えばIL6、TNF、IL8、及び疾患スコアリングシステム、例えばAPACHE、SOFA、Murray Lung Injury Score、及びSAPSの重症度が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
[0080]本出願の特定の実施形態では、好中球C1qタンパク質発現プロファイルは、例えば、C1q複合体のサブユニットの1つ(例えば、C1q複合体のA鎖、B鎖又はC鎖)の量を検出することによって決定されてもよい。
【0076】
[0081]特定の実施形態では、対象から好中球を単離する工程、及び単離された好中球中のC1qタンパク質のレベルを決定する工程は、異なる時点で1回以上繰り返され、異なる時点における好中球C1qタンパク質レベルに基づいて予後判定が行われる。
【0077】
[0082]いくつかの実施形態では、好中球C1qレベルは、敗血症を有する対象において上記の方法を用いてモニタリングされ、C1q処置は、対象における好中球C1qレベルが閾値レベルを下回るときに開始される。いくつかの実施形態では、敗血症のリスクがある対象は、対象が集中治療室に到着した直後にモニタリングされる。いくつかの実施形態では、対象は、集中治療室に到着した後、毎日モニタリングされる。いくつかの実施形態では、対象は、集中治療室に到着した後、1~3時間、3~8時間、8~12時間、12~16時間、又は16~24時間毎にモニタリングされる。
【0078】
[0083]予後の他の指標
[0084]本出願のいくつかの実施形態では、敗血症を有する対象に予後を提供する方法は、敗血症予後の1つ以上の他の指標をモニタリングする工程をさらに含む。そのような指標の例としては、敗血症を有する対象における、エンドトキシン、細菌DNA、プロテインC、プロテインS、プロカルシトニン(PCT)、C反応性タンパク質(CRP)、LBP LPS結合タンパク質、フィブリン分解産物、HLA-DR、細胞表面タンパク質CD-14及びCD-64、E-セレクチン、コルチゾール、ACTH、表面結合腫瘍壊死因子受容体I(sTNFRI)、表面結合腫瘍壊死因子受容体II(sTNF-RII)、TNF-α、インターロイキンIL-6、IL-8及びIL-10、D-ダイマー、プロトロンビン、アンチトロンビンIII、活性化部分トロンボプラスチン、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1、可溶性トロンボモジュリン、トロンビン活性化線溶阻害因子、コペプチン、高移動度群ボックス1(HMGB1)、ミエロイド細胞に発現するトリガー受容体1(TREM1)並びにアルブミンのレベルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
[0085]いくつかの実施形態では、予後の指標は、呼吸数、体温、心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧平均動脈圧、白血球数、単球数、リンパ球数、顆粒球数、好中球数、未成熟好中球対全好中球比、血小板数、血清クレアチニン濃度、尿素濃度、乳酸濃度、グルコース濃度、塩基過剰、pO2、HCO3-濃度、及び疾患スコアリングシステム(APACHE、SOFA、Murray Lung Injury Score、及びSAPSなど)の重症度からなる群から選択される1つ以上の臨床指標をさらに含む。
【0080】
[0086]処置の投与
いくつかの実施形態では、対象における好中球C1qレベルが閾値レベル(又は基準レベル)未満である場合、対象は、本出願で論じられる方法で外因性C1qタンパク質又はC1qタンパク質の変異体で処置される。
【0081】
[0087]医薬組成物
本出願の別の態様は、医薬組成物であって、組換えC1qタンパク質と、薬学的に許容される担体と、を含み、医薬組成物が吸入用に製剤化されている、医薬組成物である。C1qは、任意の好適な形態及び任意の好適な組成で対象に投与されてもよい。組成物は、例えば、流動性担体/溶媒(ビヒクル)、保存剤、1つ以上の賦形剤、着色剤、香味剤、塩、消泡剤などを含むように製剤化されてもよい。C1qは、敗血症を発症するリスクがある対象に投与されたときに、敗血症の予防又は処置のための予防有効量又は治療有効量のC1qを提供するビヒクル中の濃度で存在してもよい。
【0082】
[0088]本開示によるC1qを含む医薬組成物は、任意の薬学的に許容される担体又は賦形剤に製剤化されてもよい。いくつかの実施形態では、C1qは、非経口投与に好適な医薬組成物に組み込まれ得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、緩衝剤を含む。好適な緩衝剤には、コハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム又はリン酸カリウムが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、0~300mM(液体剤形では最適には150mM)の濃度で塩化ナトリウムを含む。
【0083】
[0089]いくつかの実施形態では、ポリマーミセルが使用されてもよい。さらなる実施形態では、治療用C1qタンパク質は、より高い膜安定性の利点を有する、リポソームの特性と同様の特性を有するブロック又はグラフト両親媒性コポリマーから構成されるポリマーソームによって送達されてもよい。ポリマー膜の疎水性ドメインは、疎水性タンパク質/薬物を組み込むことができ、一方、水性コアは、親水性タンパク質をカプセル化することができる。ブロックコポリマー組成、分子量及び構造を変えることにより、薬物の負荷及び送達を最適化するためのサイズ、形状、膜厚、機械的強度、透過性及び表面化学を調整することが可能である。
【0084】
[0090]特定の実施形態では、ポリマーネットワークを使用して、親水性タンパク質をそれらのマトリックス内にカプセル化してもよい。ヒドロゲルナノ粒子は、大量の水を含有する三次元ポリマーネットワークであり、ヒドロゲルの膨潤及び分解性は、効率的なタンパク質の負荷及び放出を達成するために、ポリマーの種類及び架橋密度の選択によって調整され得る。ポリマー組成物は、ステルス性を提供し、長い血漿半減期を保証し、標的化を増強するように選択され得る。
【0085】
[0091]特定の実施形態では、グリココール酸ナトリウム、メシル酸カモスタット、バシトラシン、大豆トリプシン阻害剤及びアプロチニンなどの酵素阻害剤が、治療用C1qタンパク質と共に添加されてもよい。特定の実施形態では、キトサン、脂肪酸、レクチン、又は閉鎖帯毒素(ZOT)などの吸収促進剤が、治療用C1qタンパク質と共に使用されてもよい。他の吸収促進剤は、細胞透過性ペプチド、ポリアミン又はビリポソームであってもよい。
【0086】
[0092]特定の実施形態では、ナノ粒子が、治療用C1qタンパク質を送達するために使用されてもよい。さらなる実施形態では、脂質ベースのマイクロ及びナノキャリア、例えばエマルジョン、エキソソーム、非イオン性界面活性剤小胞、固体脂質粒子及びミセルが、治療用C1qタンパク質のナノカプセル化及び輸送に使用されてもよい。
【0087】
[0093]特定の実施形態では、治療用C1qタンパク質は、油、水及び界面活性剤から構成されるコロイド分散液であるエマルジョンによって送達されてもよい。製剤及び製造条件に応じて、水中油滴又は油中水滴は、小さいサイズであり得(マイクロエマルジョン及びナノエマルジョン)、経口及び経皮送達などの非非経口経路によるC1qタンパク質の送達に使用され得る。
【0088】
[0094]さらなる実施形態では、治療用C1qタンパク質は、天然の膜組成物を有する中性細胞外小胞(細胞由来小胞)であるエキソソームによって送達されてもよい。これらの天然小胞は、細胞間コミュニケーションに関与し、生体分子移動経路において重要な役割を果たす。エキソソームとリポソームとの類似性には、脂質二重層(コレステロール及びジアシルグリセロールが豊富)の存在、最小毒性、生体適合性、ナノメートルサイズ、及びいくつかの生体分子が捕捉され得る内部容積が含まれる。これらのナノ粒子の主な利点は、高度かつ特異的な臓器向性及び免疫適合性である。
【0089】
[0095]特定の実施形態では、治療用C1qタンパク質は、主に非イオン性界面活性剤及びコレステロールから構成される非イオン性界面活性剤小胞であるニオソームによって送達されてもよい。粒径(10nm~20μm)は、調製方法及び組成に依存する。ニオソームは、容易な調製、生体適合性、低毒性の点でリポソームの同様の利点を示す。特定の実施形態では、治療用C1qタンパク質は、リン脂質又は界面活性剤の単層で安定化された固体脂質核から構成される固体脂質ナノ粒子によって送達されてもよい。それらは、様々な脂質、例えばモノ、ジ及びトリグリセリド、リン脂質、脂肪酸、ワックス及びステロイド、並びに両親媒性物質、例えばポロキサマー及びポリソルベートを使用して調製される。
【0090】
[0096]治療用C1qタンパク質の送達のための特定の実施形態では、タンパク質脂質化が使用される。所望の治療用物質と脂肪酸とのコンジュゲーションは、安定性を高め、腸壁の生体膜を横切るコンジュゲート化タンパク質の輸送を改善する。例えば、タンパク質の傍細胞拡散を増加させ、肝代謝を予防するために、それぞれカプリン酸塩及びトリグリセリドが最も頻繁に使用される。
【0091】
[0097]治療用C1qタンパク質の送達のためのいくつかの実施形態では、コロイド担体系は、C1qタンパク質を分解から保護し、放出速度を延長し、定常状態放出を制御し、投与頻度を減少させ、治療用C1qタンパク質の血漿半減期を維持し、患者のコンプライアンスを改善する。コロイド担体系は、当業者に公知の微粒子、ナノ粒子、リポソーム及び感熱性ゲルを含むいくつかの技術を含む。
【0092】
[0098]治療用調製物を凍結乾燥し、滅菌粉末として、好ましくは真空下で保存し、次いで注射前に静菌水(例えば、ベンジルアルコール保存剤を含有する)又は滅菌水で再構成することができる。医薬組成物は、注射による、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与のために製剤化されてもよい。
【0093】
[0099]注射用途に好適な医薬形態には、滅菌水溶液又は分散液、及び滅菌注射液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末が含まれる。形態は、容易な注射可能性が存在する程度に無菌で流動性であるべきである。これは、製造及び保存の条件下で安定であるべきであり、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から保護されるべきである。医薬担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。
【0094】
[0100]滅菌注射液は、上に列挙した様々な他の成分と共に適切な溶媒中に必要量の組成物を組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散液は、様々な滅菌された活性成分を、塩基性分散媒及び上に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製され得る。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法には、真空乾燥及び凍結乾燥技術が含まれ、これにより、活性成分及び任意の追加の所望の成分の粉末が、以前に滅菌濾過されたその溶液から得られる。
【0095】
[0101]本明細書に開示される有効量の組成物は、所望の予防効果又は治療効果が生じるように、無毒であるが十分な量の組成物である。必要とされる組成物の正確な量は、種、年齢、動物の状態、動物における炎症又は腫瘍関連障害の重症度、使用される特定の担体又はアジュバント、その投与様式などに応じて、対象毎に異なる。したがって、本明細書に開示される任意の特定の治療用組成物の有効量は、特定の状況に基づいて異なり、適切な有効量は、それぞれの適用の場合において、日常的な実験のみを使用して当業者によって決定され得る。
【0096】
[0102]いくつかの実施形態では、医薬組成物は、凍結乾燥剤形であり、凍結保護剤を含む。凍結保護剤の例としては、スクロース(最適には0.5~1.0%)、トレハロース及びラクトースが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、増量剤をさらに含む。増量剤の例としては、マンニトール、グリシン及びアルギニンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
[0103]敗血症を有する患者を処置するための医薬組成物はまた、薬学的又は生理学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤を含有する。医薬組成物は、固体又は液体形態、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、溶液、懸濁液、又はエマルジョンであり得、経口、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内点滴によって、腔内若しくは膀胱内点滴によって、眼内、動脈内、病巣内、粘膜、例えば鼻、喉、及び気管支の粘膜への適用によって、又は1つ以上のリンパ節への導入によって投与され得る。ほとんどの治療目的のために、ペプチド又は核酸を静脈内又は非経口投与することができる。
【0098】
[0104]注射可能な投与量の場合、1つ以上の治療薬の溶液又は懸濁液は、医薬担体を含む生理学的に許容される希釈剤中で調製され得る。そのような担体には、界面活性剤、並びにアジュバント、賦形剤又は安定剤を含む他の薬学的及び生理学的に許容される担体の添加の有無にかかわらず、水及び油などの滅菌液体が含まれる。例示的な油は、石油、動物、植物、又は合成起源のもの、例えば落花生油、大豆油、又は鉱油である。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロース及び関連する糖溶液、並びにグリコール、例えばプロピレングリコール又はポリエチレングリコールは、特に注射液用の液体担体である。
【0099】
[0105]エアロゾルとして使用するために、溶液又は懸濁液中の1つ以上の治療薬は、好適な噴射剤、例えば従来のアジュバントを含むプロパン、ブタン、又はイソブタンなどの炭化水素噴射剤と共に加圧エアロゾル容器に包装されてもよい。材料はまた、ネブライザ又はアトマイザなどの非加圧形態で投与されてもよい。
【0100】
[0106]キット
本出願の別の態様は、敗血症のリスクがある、敗血症にかかりやすい、又は敗血症に罹患している対象を処置するためのキットに関する。キットは、C1qと、好適な容器に包装された任意の他の薬剤と、キットを使用するための説明書と、を含む。
【0101】
[0107]一実施形態では、キットは、抗体チップと、細胞単離のための手段と、を含む。特定の実施形態では、キットは、C1qレベルが閾値レベルを上回る場合に陽性シグナルを示すことができる(陰性結果は敗血症の発症の可能性及び処置の必要性を示す)試験紙を含んでもよい。特定の実施形態では、キットは、細胞を溶解するための試薬と、C1qを検出するためにELISAを実施するための材料及び装置と、を含む。いくつかの実施形態では、キットは、フローサイトメトリーによってC1qレベルを測定するための試薬をさらに含む。
【0102】
[0108]別の実施形態では、キットは、C1q及び任意の他の薬剤を投与するための、シリンジ又は吸入器などのディスペンサをさらに含む。
【0103】
[0109]本出願は、限定として解釈されるべきではない以下の実施例によってさらに説明される。本出願を通して引用されたすべての参考文献、特許、及び公開された特許出願、並びに図及び表の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0104】
[0110]実施例1
単離された好中球においてC1qタンパク質レベルを測定する。好中球は、当業者に公知の任意の方法に従って単離されてもよい。例えば、血液を、ヘパリン含有バキュテイナにおける前肘静脈穿刺を介して健常志願者から採取した。顆粒球及び赤血球を、一段階ポリモルフ(Fresenius Kabi Norge AS)密度勾配による遠心分離によって全血から分離した。残りの赤血球を低張溶解によって除去し、98%の好中球純度を得た。C1qタンパク質レベルは、一般に、敗血症診断後3~7日でピークになる。
【0105】
[0111]日常的な臨床測定が経時的にICU敗血症患者の疾患の重症度を反映し予測するかどうかを決定するために、患者の疾患の経過にわたって縦断的研究を行った。一連の献血を、診断時(診断基準を満たしてから48時間以内)に開始し、その後3~5日間隔で2つのその後の試料を、傷害重症度(ISS、APACHE及びSOFA)のスコアを含む臨床データと共に敗血症患者から得た(図1、パネルA)。敗血症の最終診断を有する患者は、微生物学的データ及び直接検査に基づいていたが、患者のAPACHEスコアと院内死亡率との間の有意な相関により、診断基準の信頼性が独立して確認された(図1、パネルB)。
【0106】
[0112]重症感染及び敗血症の伝統的なマーカーには、体温、白血球増加、乳酸、及びプロカルシトニン(PCT)が含まれる。乳酸、PCT、及びWBCの血清レベルは敗血症の初期段階で上昇したが、これらの炎症マーカーのいずれも敗血症患者の生存又は死を確実に予測しなかった(図1、パネルC)。近年、敗血症の診断マーカーとして白血球細胞表面抗原が注目されている。これらの中で、高親和性Fc受容体である好中球表面CD64は、感染及び敗血症の間に定量的にアップレギュレートされる。しかしながら、絶対好中球数(ANC)及びCD64発現の両方は、敗血症患者の院内死亡率を予測することができなかった(図1、パネルD)。敗血症患者からのデータは、これらの伝統的なバイオマーカーが疾患の診断に役立ち、不必要な処置を減少させる可能性があるが、どの患者がより重度の免疫調節不全を有し、したがってより高い死亡率を有するかを決定する診断能力を改善しないことを示唆している。
【0107】
[0113]敗血症患者において高レベルのCD49c(VLA-3;α3β1)を発現する好中球の活動亢進サブセットの存在が観察され、好中球CD49cのレベル上昇は、敗血症診断と相関していた。予想外にも、敗血症患者から単離された好中球の検査により、敗血症患者で生じる好中球の亜集団が敗血症死亡率と密接に関連していたことが明らかになった(図1、パネルD)。結果は、疾患の経過の後期にサンプリングされた場合であっても、CD49c好中球亜集団の固有の予測値を示す。
【0108】
[0114]敗血症の転帰を予測することができる好中球の亜集団を同定することにより、敗血症関連致死率のより信頼性の高い機能的分類指標を発見するためのさらなる検討が促された。最初に、RNAseqによって敗血症患者から単離されたCD49c対CD49c好中球の転写シグネチャを定義した。敗血症好中球において差次的に発現される同定された遺伝子の主成分分析により、患者由来のCD49c高対CD49c低好中球における明確な転写の違いが明らかになった(図1、パネルF)。同定された53,736個の遺伝子のうち、1,077個がCD49c高好中球において差次的に発現された(図1、パネルE)。経路分析により、予想通り、敗血症がCD49c高好中球における先天性炎症反応に関連する遺伝子の有意なアップレギュレーションをもたらしたことが明らかになった(図1、パネルG)。興味深いことに、それらのうち、いくつかの重要な補体経路遺伝子の堅固なアップレギュレーションがさらに検証された。
【0109】
[0115]制御されたマウス敗血症モデルにおける遺伝子発現結果をさらに検証するために、内毒素血症マウス由来の好中球をCD49c及びCD49c好中球集団にFACS選別し、mRNAをRNAseqによって分析した。主成分分析(図2、パネルB)はマウスにおける好中球サブセットの明確な転写分離を示し、ボルケーノプロットは特定の遺伝子間の差を示した(図2、パネルA)。同定された16,384個の遺伝子のうち、5,717個がCD49c敗血症好中球とCD49c敗血症好中球との間で差次的に発現されることが見出された(図2、パネルD)。これらの遺伝子のうち、本発明者らは、CD49c好中球と比較してCD49c好中球において有意に過剰発現された326個の遺伝子を同定した。Enrichr分析を使用して、本発明者らは、タンパク質機能カテゴリに従ってこれらの遺伝子をランク付けした。注目すべきことに、本発明者らは、CD49c発現が補体及び凝固カスケード中の遺伝子と高度に相関したことを見出し(図2、パネルC)、したがって、敗血症患者試料における本発明者らの所見が確認された(図1)。補体及び凝固カスケード遺伝子のうち、最も差次的に発現された遺伝子は、補体因子C1qに集合するC1qA、C1qB、及びCqC鎖をコードするC1q遺伝子であった(図2、パネルA及びパネルD)。
【0110】
[0116]実施例2:フローサイトメトリー分析により、ナイーブマウス及びLPS処置マウスの両方の好中球におけるC1qの有意な発現がさらに確認された
フローサイトメトリー分析により、ナイーブマウス及びLPS処置マウスの両方の好中球におけるC1qの有意な発現がさらに確認された(図2E)。インビボでは、C1qの血清レベルは、LPS誘導マウス内毒素血症後の最初の6~12時間の間に有意に低下したが、炎症の腹膜部位でのC1q発現の増加がみられた(図2、パネルF)。注目すべきことに、上昇した局所C1qレベルは、腹膜における好中球の広範な浸潤と一致した(図2、パネルG)。
【0111】
[0117]単離されたヒト好中球では、fMLPではなくLPSで刺激すると、C1qの発現レベルが有意に上昇した(図2、パネルH)。定量的逆転写PCR(RT-qPCR)分析により、C1q発現に関連する遺伝子が、敗血症患者の末梢血から単離された好中球において、個体の生存状態に関係なく有意に増加したことが明らかになった(図2、パネルI)。驚くべきことに、生存した敗血症患者由来の好中球のみが、死亡した患者と比較して、細胞内C1qタンパク質を翻訳及び維持することができた(図2、パネルJ)。すべての敗血症患者はC1q転写物を発現する能力を保持していたが、より不良な患者転帰はC1q翻訳の喪失に関連していた。重要なことに、これらの健常群及び患者群において血清C1qレベルのいかなる有意差も認められなかった(図2、パネルK)。したがって、データは、より良好な敗血症予後が好中球特異的C1q発現と関連しており、好中球においてC1qタンパク質を産生することができない患者は敗血症死亡の可能性がより高いことを示唆している。
【0112】
[0118]実施例3:C1qは古典的補体カスケード以外の役割を有し、重度の全身性炎症中に重要な炎症メディエーターとして機能する
C1qは古典的補体カスケードのイニシエーター分子であり、最終的に膜侵襲複合体(MAC)の形成による細胞溶解をもたらす。従来の補体経路に加えて、C1qは、IgG又はIgM含有免疫複合体に結合する可溶性パターン認識分子として機能し、次いでセリンプロテアーゼC1r及びC1sを動員して微生物の表面に固定化するか、又は宿主細胞上に発現される危険関連分子パターンに固定化する。炎症組織における高いC1qレベルの存在及び敗血症生存者における好中球C1q産生の増加により、本発明者らは、C1qが古典的補体カスケード以外の役割を有し、重度の全身性炎症中に重要な炎症メディエーターとして機能すること、及び新たに動員された好中球による炎症組織部位での局所的なC1qの分泌が敗血症中の患者の生存にとって重要である可能性があると仮定するに至った。この仮説を検証するために、C1q中和抗体を敗血症チャレンジの1時間前にマウス腹膜に投与した。この機能アッセイのために、以下の2つのマウスモデルを使用した。C1qが抗体被覆細菌に結合し、補体カスケードを開始する必要性を回避し得るLPS誘導内毒素血症、及び盲腸結紮穿刺(CLP)術。炎症部位で局所的にC1q機能を遮断すると、両方のマウス敗血症モデルにおいて敗血症死亡率が劇的に増加し、血清中の炎症促進性サイトカインレベルIL-6及びIL-1bが有意に増加した(図3、パネルA及びパネルB)。重要なことに、C1q中和抗体の局所注射は、血清中のC1qの全身レベルを変化させなかった。
【0113】
[0119]インビボでの免疫機能に対するC1qの寄与を決定することは、アポトーシス細胞のクリアランス障害によって重度の自己免疫で死亡するマウスにおけるC1qサブユニットノックアウトの死亡率が増加するため、困難であった。この問題を回避し、敗血症に対する好中球由来C1qの機能をさらに評価するために、コンディショナルノックアウトC1qflox/flox;Ly6G-Cre(C1q cKO)を、C1qa floxedマウスを、Ly6g遺伝子の第1エクソンがCreリコンビナーゼをコードするノックイン対立遺伝子で置き換えられたマウス系統と交雑させることによって作製した。floxed aサブユニット対立遺伝子の欠失及びタンパク質発現の欠如を、PCR及びウェスタンブロット分析によって確認した。同腹仔対照としてのC1qwt/wt;Ly6G-Cre(WT)マウスを使用した。C1q cKOマウスは、軽度の内毒素血症の初期期間中にそれらのWT同腹仔と同様の重症度の炎症を示したが、好中球由来C1qの非存在は、LPS処置後の対照WTマウスと比較して劇的に増加した死亡率をもたらした(図3、パネルC)。IL-6及びIL-1bの血清レベルは、対照と比較してC1q cKOマウスで有意に上昇し、敗血症の重症度の増加が示された(図3、パネルD)。一方、好中球の発達、細菌クリアランス、TLR4表面発現レベル、及びC1q cKOマウスから単離された好中球による炎症媒介酸化バーストは影響を受けなかった。C1q中和抗体処置マウス及びC1q cKOマウスにおける死亡率の増加は、内毒素血症の24時間以内に測定した場合、炎症を起こした肺及び腹膜腔におけるアポトーシス好中球の蓄積及び/又はクリアランスの遅延によるものである可能性が高かった(図3、パネルE)。図3パネルFは、C1q cKOマウス及び対照の肺組織切片を示す。
【0114】
[0120]実施例4:アポトーシス好中球による局所C1q分泌は、食細胞によるそれらの迅速なエフェロサイトーシス及びクリアランスのために必要である
血液から組織感染部位への好中球の動員は、敗血症中の早期自然免疫応答に不可欠である。それらがそれらの作用を完了すると、浸潤好中球は急速に自発的アポトーシスを開始し、組織から排除されるはずである。好中球応答の回復の遅延は、しばしば、広範囲の組織損傷、臓器不全、及び最終的には危篤患者の死に関連する。したがって、未回復の好中球応答の存在は、長い間、有害であると考えられてきた。C1qは、アポトーシス細胞上のホスファチジルセリン(PS)に結合し、エフェロサイトーシスを媒介する。したがって、アポトーシス好中球による局所C1q分泌が、食細胞によるそれらの迅速なエフェロサイトーシス及びクリアランスのために必要であり、これは敗血症中のより良好な患者予後のために不可欠であると仮定された(図4、パネルA)。炎症刺激に応答して好中球がC1qを分泌するかどうかを調べるために、好中球上清のウェスタンブロット分析を行った。興味深いことに、TNF又はfMLPなどの好中球脱顆粒を誘導する高濃度の炎症刺激でさえ、好中球からの可溶性C1qの有意な放出を検出することができなかった(図4、パネルB)。好中球からのC1q放出を引き起こす潜在的な刺激因子をスクリーニングするために、次に、好中球アポトーシスを調べた。C1qの分泌は、Fasリガンド(FasL)による好中球アポトーシスの誘導後に最も有意に増強された(図4、パネルB)。
【0115】
[0121]好中球からのC1qの分泌が細胞アポトーシスに依存する場合、概念的には、好中球由来C1qが、敗血症性炎症の消散中に局所食細胞によるエフェロサイトーシスを促進する重要な「eat me」シグナルとして機能し、このシグナルが患者の生存にとって重要である可能性があり得る。生存好中球対アポトーシス好中球のフローサイトメトリー分析により、アポトーシス好中球表面上のより大きな程度のC1q結合がさらに明らかになった(図4、パネルC)。さらに、C1qは、マクロファージによるアポトーシス好中球の食作用性取込みの有意な用量依存的増強を示した(図4、パネルD)。重要なことに、内因性C1q発現の喪失は、好中球のアポトーシス頻度を変化させなかった。
【0116】
[0122]敗血症誘導急性肺傷害(ALI)のマウスモデルでは、肺微小循環における未回復の好中球の広範な組織浸潤及びその後の隔離が、付随的な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)をもたらす。実際、特注の肺イメージングウィンドウを用いたマウス肺の生体内多光子顕微鏡法(IV-MPM)により、LPS誘導ALIマウスの肺微小循環における有意な数の好中球凝集体が明らかになった(図4、パネルE)。未回復好中球凝集体が敗血症誘導ALIマウスにおける肺毛細血管閉塞の主な原因であったことに留意されたい。これらのLPS誘導ALIマウスでは、C1qの投与(20mg×3回、IP)により、LPS刺激24時間後のマウスにおいて好中球凝集体数が有意に減少した(図4、パネルF)。これらの所見は、マウス生存アッセイと類似しており、定期的なC1q注射は、LPS誘導内毒素血症モデル及び敗血症のCLP手術モデルの両方においてマウスを敗血症致死から保護した(図4、パネルG及びパネルH)。
【0117】
[0123]アポトーシス好中球がオートクリン及び/又はパラクリン様式でC1qを分泌し、「自己装飾」し、それらを効率的なエフェロサイトーシスのためにマーキングするという所見は、好中球が、組織常在マクロファージによるアポトーシス好中球エフェロサイトーシスを媒介する組織C1q(血清C1qではない)の主な供給源であり、炎症の首尾良い消散及び敗血症生存の改善をもたらすことを示唆している。実際、これまでに知られている潜在的なC1q受容体のうち、LPS処置マウスから単離された腹腔マクロファージは、少なくとも5つの受容体をアップレギュレートし(図4、パネルF)、敗血症中のアポトーシス好中球-マクロファージ相互作用がこれらの受容体によって少なくとも部分的に媒介されることが示唆された。
【0118】
[0124]様々な実施形態を上述したが、そのような開示は例としてのみ提示されており、限定するものではないことを理解されたい。したがって、主題の組成物及び方法の幅及び範囲は、上述の例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲及びそれらの均等物に従ってのみ定義されるべきである。
【0119】
[0125]上記の説明は、当業者に本発明を実施する方法を教示する目的のためのものであり、その説明を読むと当業者には明らかになるであろう、そのすべての明白な修正及び変形を詳述することを意図するものではない。しかしながら、そのような明白な修正及び変形はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれることが意図される。特許請求の範囲は、文脈が特に反対のことを示さない限り、そこで意図された目的を満たすのに有効な任意の順序で構成要素及び工程を網羅することを意図している。

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図2C
図2D
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図2F
図2G
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図2I
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図3A
図3B
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図4A
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【国際調査報告】