(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】ブレーキディスクのブレーキバンドの製造方法、ブレーキディスクの製造方法、ブレーキディスク及びブレーキディスクのブレーキバンド
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20240227BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20240227BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240227BHJP
C04B 35/569 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
F16D65/12 E
F16D65/12 R
C04B41/88 U
C04B38/00 303Z
C04B35/569
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549548
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 IB2022051544
(87)【国際公開番号】W WO2022180508
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】102021000004451
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(71)【出願人】
【識別番号】523309129
【氏名又は名称】エネア - アジェンツィア・ナツィオナーレ・ペル・レ・ヌオーヴェ・テクノロジエ・レネルジア・エ・ロ・スヴィルッポ・エコノミコ・ソステニビーレ
【氏名又は名称原語表記】ENEA - Agenzia Nazionale Per Le Nuove Tecnologie, L’energia E Lo Sviluppo Economico Sostenibile
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ミラネージ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】マニャーニ,ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】ブルジョ,フェデリカ
【テーマコード(参考)】
3J058
4G019
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058BA46
3J058BA61
3J058BA68
3J058CB12
3J058CB24
3J058EA08
3J058EA17
3J058EA32
3J058EA36
3J058EA37
3J058FA01
4G019FA15
(57)【要約】
ディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)のブレーキバンド(2)の製造方法は、
a)内側キャビティ(11)を有する金型(10)を準備し、この金型は、製造されるブレーキバンド(2)に対応する形状の第1の部分(11a)からなる、工程;
b) 炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる中央層(200)と、上部外層(201)と、下部外層(202)とからなるバンドプリフォーム(20)を準備する工程であって、前記上部外層(201)および前記下部外層(202)は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸透させたものであり、前記上部外層(201)および前記下部外層(202)は、前記中央層(200)の反対側に対向して配置される工程と
c)前記バンドプリフォーム(20)を、前記内部キャビティ(11)の第1の部分(11a)の金型内に配置する工程;および
d) 多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォーム(20)の中央層(200)のみに前記アルミニウム合金を浸透させるように、金型(11)の内側キャビティ(11)全体の内部に液体または半固体のアルミニウム合金を注入し、製造されるブレーキバンド(2)を画定する前記中央プリフォーム(200)によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を第1の部分(11a)で得る工程を含む。ブレーキバンドとブレーキディスクは、少なくとも前述の方法で製造される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)用のブレーキバンド(2)を製造する方法であって、前記方法は、
a)内側キャビティ(11)を有する金型(10)を準備する工程であって、前記金型(10)は、製造される前記ブレーキバンド(2)に対応する形状の第1の部分(11a)からなる、金型(10)を準備する工程;
b) 炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる中央層(200)と、上部外層(201)と、下部外層(202)とからなるバンドプリフォーム(20)を準備する工程であって、前記上部外層(201)および前記下部外層(202)は、前記炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなり、ケイ素(SiC+Si)が浸透しており、前記上部外層(201)および前記下部外層(202)は、前記中央層(200)の反対側で、対向して配置されている、工程;
c)前記バンドプリフォーム(20)を、前記内部キャビティ(11)の前記第1の部分(11a)の前記金型内に配置する工程;および
d) 前記金型(11)の前記内部キャビティ(11)全体の内部に液体または半固体のアルミニウム合金を注入して、多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォーム(20)の前記中央層(200)のみに前記アルミニウム合金を浸透させ、製造される前記ブレーキバンド(2)を部分的に画定する前記中央層(200)によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を前記第1の部分(11a)で得る工程、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記工程b)の前に、前記バンドプリフォーム(20)を製造するために、
a1)炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる粗プリフォーム(20')を配置する工程であって、前記粗プリフォーム(20')は、上面(20a)および下面(20b)に入射して展開する側壁(20c)によって一緒に接合された、前記上面(20a)および反対側の前記下面(20b)を有する、工程;
a2) 前記側壁(20c)上に少なくとも部分的にマスキング層(21)を堆積させる工程であって、前記マスキング層(21)は、その後に行われる(a3)の工程におけるケイ素(Si)の浸入を防止するのに適している、工程;
a3)前記粗プリフォーム(20')に、前記上面(20a)および前記下面(20b)を介して所定の深さまでケイ素(Si)を浸透させ、Siが浸透していない前記中央層(200)からなる前記バンドプリフォーム(20)を得る工程であって、前記ケイ素(SiC+Si)が浸潤された前記上部外層(201)および前記ケイ素(SiC+Si)が浸潤された前記下部外層(202)であって、前記上部外層(201)および前記下部外層(202)は、対向して配置され、前記中央層(200)の反対側に配置された、前記上部外層(201)および前記下部外層(202)、工程、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程a2)において、前記マスキング層(21)を堆積する工程が、窒化ホウ素(BN)の層の堆積を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程a2)において、前記マスキング層(21)の堆積が前記側壁(20c)全体に適用され、前記粗プリフォーム(20')の前記上面(20a)および前記下面(20b)には適用されない、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程a3)において、前記粗プリフォーム(20')を坩堝内に配置し、所定量のケイ素(Si)粉末を前記坩堝に添加し、前記粗プリフォーム(20')を、大気圧で、不活性雰囲気中、好ましくはアルゴン雰囲気中で、少なくとも5分間、1414℃を超える温度に加熱する、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記粗プリフォーム(20')を1500℃から1650℃の間の温度に15分から90分の間で構成される時間間隔で加熱する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記粗プリフォーム(20')を1550℃と1600℃の間の温度に30分と60分の間の時間で加熱する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記粗プリフォーム(20')が、厚さ、すなわち、前記上面(20a)と前記下面(20b)との間の距離が4ミリメートルから40ミリメートルの間に構成され(極端を含む)、ケイ素の予め定義された量が前記プリフォームの直径の関数である、請求項5から7までのいずれか1項による方法。
【請求項9】
アルミニウム合金を前記金型内に導入する工程d)が、半固体または液体浸透技術に従って、または重力浸透技術に従って、または液体アルミニウムによるダイカストによって、またはスクイズ鋳造技術に従って行われる、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記粗プリフォーム(20')が、ポリマー結合組成物で表面被覆されたセラミック材料顆粒の塊を成形、脱脂および焼結に順次供することによって得られる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記焼結が、2つの別個の焼結サイクルで実施され、第1の焼結サイクルが1600℃以上、好ましくは約1800℃の温度で実施され、第2の焼結サイクルが2000℃以上、好ましくは2100℃~2200℃の範囲の温度で実施され、いずれも不活性雰囲気中で実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程d)において、前記金型(10)が前記バンドプリフォーム(20)の前記上部外層(201)および前記下部外層(202)の上を閉じることにより、前記金型へのアルミニウムの導入中に、前記上部外層(201)の上および前記下部外層(202)の下へのアルミニウムの浸入が防止され、前記ブレーキバンド(2)の外側ブレーキ面(2a,2b)にアルミニウムが存在しないようにする、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ブレーキディスクの製造方法であって、前記ブレーキディスクは、ブレーキバンド(2)とベル(3)とを含み、前記方法は、
a) 作製される前記ブレーキディスク(1)の前記ブレーキバンド(2)に対応する形状の第1の部分(11a)と、作製される前記ブレーキディスク(1)のベル(3)に対応する形状の第2の部分(11b)とからなる内部キャビティ(11)を有する金型(10)を準備する工程であって、前記内部キャビティ(11)の前記第1の部分(11a)と前記第2の部分(11b)とが互いに連通する、工程;
b)炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる中央層(200)と、上部外層(201)と、下部外層(202)とからなるバンドプリフォーム(20)を準備する工程であって、前記上部外層(201)および前記下部外層(202)は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸透させたものであり、前記上部外層(201)および前記下部外層(202)は、前記中央層(200)の反対側に対向して配置される、工程;
c)前記バンドプリフォーム(20)を、前記内部キャビティ(11)の前記第1の部分(11a)の前記金型内に配置する工程;および
d) 前記金型(10)の内側キャビティ(11)全体の内部に液体または半固体のアルミニウム合金を注入して、多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォーム(20)の前記中央層(200)のみに前記アルミニウム合金を浸透させ、製造される前記ブレーキディスクの前記ブレーキバンド(2)を部分的に画定する前記中央層(200)によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を前記第1の部分(11a)で得る工程と、前記第2部分(11b)を前記アルミニウム合金で充填することにより、金属マトリックス複合材製のブレーキバンド(2)と一体に接続され、製造されるブレーキディスク(1)のベル(3)を画定するアルミニウム合金の融合を得る、工程;を含む、方法。
【請求項14】
ディスクブレーキ用ブレーキディスクのブレーキバンド(2)であって、前記ブレーキバンド(2)は、
炭化ケイ素(SiC)からなるセラミック材料で強化されたアルミニウム金属マトリックス複合材料からなる中央部分(200')であって、前記複合材料は、粗プリフォーム(20')の炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる中央層(200)にアルミニウム合金を浸入させることによって得られる、中央部分(200')と、
前記中央部分(200')に接合される上側部分(201')であって、前記上側部分(201')は、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸潤させた多孔質セラミック材料からなり、その一側で前記中央部分(200')を覆う、上側部分(201')と
上側部分(201')に対して反対側、すなわち反対側で前記中央部分(200')に接合される下側部分(202')であって、前記下側部分(202')は、炭化ケイ素(SiC)からなりケイ素(SiC+Si)が浸潤された多孔質セラミック材料からなり、前記上側部分(201')に対して反対側、すなわち反対側で前記中央部分(200')を覆う、下側部分(202')と、を備える、ブレーキバンド(2)。
【請求項15】
前記上側部分および前記下側部分(202')が、好ましくは0.5~4ミリメートルの間の厚さを有する、請求項14に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項16】
前記ディスクブレーキ用の前記ブレーキディスクであって、請求項14から15に記載のブレーキバンド(2)と、前記ブレーキバンド(2)に連結されたベル(3)とを備えるブレーキディスク。
【請求項17】
前記ベル(3)は、前記ブレーキバンド(2)に一体に連結され、前記ブレーキバンド(2)を構成する複合材の金属マトリックスと共鋳されたアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項16に記載のブレーキディスク。
【請求項18】
前記アルミニウム合金マトリックスが、前記複合材の内部に均質に分布した構造を有する、請求項16または17に記載のブレーキディスク(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクのブレーキバンドの製造方法、ブレーキディスクの製造方法、ブレーキディスク、および前記方法により製造されたブレーキディスクのブレーキバンドに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のディスクブレーキシステムのブレーキディスクは、環状構造体、すなわちブレーキバンドと、ベルとして知られる中央固定要素とからなり、この固定要素によってディスクが車両サスペンションの回転部分、たとえばハブに取り付けられる。ブレーキバンドは、摩擦要素(ブレーキパッド)と協働するのに適した対向するブレーキ面を備えており、このブレーキバンドにまたがって配置され、車両サスペンションの非回転部品と一体化された少なくとも1つのグリッパー本体に収容されています。対向するブレーキパッドとブレーキバンドの対向するブレーキ面との間の制御された相互作用は、摩擦によるブレーキ作用を引き起こし、車両を減速または停止させる。
【0003】
一般に、ブレーキディスクはねずみ鋳鉄または鋼鉄製である。実際、これらの材料は比較的低コストで良好なブレーキ性能(特に摩耗の抑制)を得ることができる。カーボンまたはカーボンセラミック材料で作られたディスクは、はるかに高い性能を提供するが、はるかに高いコストがかかる。
【0004】
ねずみ鋳鉄またはスチール製ディスクに代わるものとして、ディスクの重量を減らすためにアルミニウム製のディスクが提案されている。アルミニウム製ディスクには保護コーティングが施されている。保護コーティングは、一方ではディスクの摩耗を低減し、鋳鉄製ディスクと同様の性能を確保する役割を果たし、他方では、アルミニウムの軟化温度(200~400℃)をはるかに超えるブレーキ時に発生する温度からアルミニウムベースを保護する役割を果たす。
【0005】
現在入手可能でアルミニウム製ディスクに塗布される保護コーティングは、耐摩耗性を提供する一方で、しばしば剥離の原因となり、コーティングがディスクから剥離する。このため、ディスクの製造工程が複雑になる。事実上、ディスクは表面仕上げ処理を受けなければならず、また、ベルとの接続のために準備されなければならない。
【0006】
上述したことから明らかなように、保護コーティングを施したアルミニウムまたはアルミニウム合金製ディスクは、現在のところ、鋼製またはねずみ鋳鉄製ディスクに完全に取って代わることはできない。
【0007】
しかしながら、鋼鉄およびねずみ鋳鉄の両方に対してアルミニウムの密度が低いため、ブレーキシステム産業関係者の間では、鋼鉄およびねずみ鋳鉄の優れた潜在的代替品としてアルミニウムに対する関心が非常に高い。
【0008】
したがって、この分野では、一方ではアルミニウムの特殊な操作上の特徴(何よりもまず、その密度の低さによる)を利用することを可能にし、他方では少なくとも鋼やねずみ鋳鉄のディスクに匹敵する機械的強度と摩耗特性を得ることができるアルミニウムベースのブレーキディスクが必要とされている。また、できるだけ簡単で経済的な製造工程でこれらのディスクを製造する必要もある。
【0009】
WO2019/123222A1には、溶融アルミニウム(液体または半固体状態)を浸透させた多孔質セラミックプリフォームを用いてアルミニウムディスクを製造する方法が記載されている。残念なことに、この方法で得られたディスクは、ブレーキパッドとアルミニウムをベースとする金属マトリックスとの直接接触をもたらし、アルミニウムが摩擦によって融点まで過熱された箇所で、ディスクに局所的な劣化現象が発生する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、当業界では、局所的な劣化を起こさず、一方ではアルミニウムの特別な操作上の特徴(主として低密度)を利用することを可能にし、他方では、鋼またはねずみ鋳鉄ディスクに匹敵する機械的強度および摩耗特性を得ると同時に、可能な限り単純で経済的な製造工程で製造されるアルミニウムベースのブレーキディスクに対する強いニーズが存在する。
【0011】
前記の要求とともに、鋳鉄または鋼のディスクに対してより高い耐腐食性を有し、汚染する金属粒子の排出がより少ないブレーキディスクも必要である。
【0012】
前述の要求は、添付の独立請求項に係るブレーキディスクのブレーキバンドの製造方法、ブレーキディスクの製造方法、ディスクブレーキ用ブレーキディスクおよびブレーキバンドによって満足される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明によるブレーキバンドの製造方法は、次の工程からなる。
a) 作製されるブレーキバンドに対応する形状の第1の部分を構成する内側キャビティを有する金型を準備する工程;
b) 炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる中央層、上部外層、および下部外層からなるバンドプリフォームを準備する工程であって、前記上部外層および前記下部外層は、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸透させた多孔質セラミック材料からなり、前記上部外層および前記下部外層は、さらに、対向する態様で、前記中央層の反対側に配置される工程;
c) バンドプリフォームを、前記内部キャビティの第1部分において金型内に配置する工程;
d) 多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォームの中央層のみに前記アルミニウム合金を浸透させるように、金型の内側キャビティ全体の内部に液体または半固体のアルミニウム合金を注入し、製造されるブレーキバンドを部分的に画定する前記中央層によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を第1の部分で得る工程。
【0014】
有利には、バンドプリフォームを製造するために、本方法は以下の工程を含む。
a1)炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる粗プリフォームを準備する工程であって、前記粗プリフォームは、上面および対向する下面を有し、上面および下面に入射する側壁によって互いに接合され、例えば、粗プリフォームは、円筒形またはその他の中心中空円筒形状(図示のとおり)を有し、下面および上面は円筒形状の基部であり、側壁は円筒形状の側面である、工程;
a2)側壁上に、少なくとも部分的に、a3)の工程でケイ素(Si)の浸入を防止するのに適したマスキング層を堆積させる工程;
a3)ケイ素(Si)が浸入していない中央層、ケイ素(SiC+Si)が浸入した上部外層およびケイ素(SiC+Si)が浸入した下部外層からなるバンドプリフォームを得るように、上部面および下部面を通して粗プリフォームに所定の深さまでケイ素(Si)を浸入させる工程であって、前記上部外層および前記下部外層は、対向するように、かつ中央層の反対側に配置される、工程。
【0015】
好ましくは、工程a2)において、マスキング層を堆積させる工程は、窒化ホウ素(BN)層の堆積からなる。
【0016】
有利には、工程a2)において、マスキング層の堆積は側壁全体に適用され、粗プリフォームの上面および下面には適用されない。
【0017】
好ましくは、工程a3)において、粗プリフォームを坩堝に入れ、所定量のケイ素(Si)粉末を坩堝に添加し、粗プリフォームを、大気圧で、不活性雰囲気中、好ましくはアルゴン雰囲気中で、少なくとも5分間、1414℃を超える温度に加熱する。
【0018】
好ましくは、粗プリフォームは1500℃から1650℃の間の温度に15分から90分の間の時間間隔で加熱される。
【0019】
さらに好ましくは、粗プリフォームは1550℃から1600℃の間の温度に30分から60分の間の時間間隔で加熱される。
【0020】
好ましくは、粗プリフォームは、4ミリメートルから40ミリメートルの間の厚さ、すなわち上側の面と下側の面との間の距離を有し、両端が含まれ、さらに好ましくは10ミリメートルから20ミリメートルの間であり、ケイ素の所定の量は、最大で0.5ミリメートルから3ミリメートルの間、好ましくは約2ミリメートルの間の上側の外層および/または下側の外層の厚さを得るように、プリフォームのサイズに応じて決定される。好ましくは、アルミニウム合金を金型内に配置する工程d)は、半固体または液体浸透技術またはスクイズ鋳造技術に従って、または液体アルミニウムによるダイカストによって実施される。
【0021】
重力浸潤の場合、浸潤は好ましくは不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気中で行われる。
【0022】
有利には、粗プリフォームは、重合体結合組成物で表面被覆されたセラミック材料からなる顆粒の塊を成形、脱脂および焼結に順次供することによって得られる。
【0023】
好ましくは、焼結は、2つの別個の焼結サイクルで実施され、第1の焼結サイクルは、1600℃以上、好ましくは約1800℃の温度で実施され、第2の焼結サイクルは、2000℃以上、好ましくは2100℃~2200℃の範囲の温度で実施され、いずれも不活性雰囲気中で実施される。
【0024】
さらに好ましくは、工程d)において、金型は、金型へのアルミニウムの注入中に、上部外層および下部外層上へのアルミニウムの浸入が阻止されるように、バンドプリフォームの上部外層上および下部外層上を閉じ、ブレーキバンドの外側ブレーキ面にアルミニウムが存在しないようにする。
【0025】
本発明によるブレーキバンドとベルとからなるブレーキディスクの製造方法は、以下の工程からなる。
a) 作製されるブレーキディスクのブレーキバンドに対応する形状の第1の部分と、作製されるブレーキディスクのベルに対応する形状の第2の部分とからなる内部キャビティを有する金型を準備する工程であって、前記内部キャビティの第1および第2の部分が互いに連通する、工程;
b)炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる中心層、上部外層、および下部外層(202)からなるバンドプリフォームを準備する工程であって、上部外層および下部外層は、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸透させた多孔質セラミック材料からなり、上部外層および下部外層は、対向する態様で、中心層の反対側に配置される、工程;
c) バンドプリフォームを、前記内部キャビティの最初の部分の金型内に配置する工程;
d) 前記金型の内側キャビティ全体内に液体または半固体のアルミニウム合金を注入して、多孔質セラミック材料からなる前記バンドプリフォームの中央層のみに前記アルミニウム合金を浸透させ、第1の部分に、製造されるブレーキディスクのブレーキバンドを部分的に画定する、前記中央層によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を得、第2の部分に前記アルミニウム合金を充填して、金属マトリックス複合材からなるブレーキバンドと接続され、製造されるブレーキディスクのベルを画定するアルミニウム合金融合を得る工程。
【0026】
この発明によるディスクブレーキは、ブレーキバンドと、前記ブレーキバンドに連結されたベルとからなる。
【0027】
好ましくは、有利な態様において、ベルはブレーキバンドと一体に接続され、ブレーキバンドを形成する複合材料の金属マトリックスとアルミニウム合金からなる共鋳物で構成される。
【0028】
本発明によれば、ブレーキバンドは、炭化ケイ素(SiC)からなるセラミック材料で強化されたアルミニウム金属マトリックス複合材からなる中央部分で構成される。前記複合材は、粗プリフォームの炭化ケイ素(SiC)から成る多孔質セラミック材料から成る中心層をアルミニウム合金に浸透させることによって得られる。ブレーキバンドはまた、中央部分に接合される上部から構成される。前記上部は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料にケイ素を浸透させた(SiC+Siを形成する)ものであり、その片側で中央部分を覆っている。ブレーキバンドはまた、反対側、すなわち上側部分と対向する側で中央部分に接合される下側部分によって構成される。前記下部もまた、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素を浸潤させた(SiC+Siを形成する)多孔質セラミック材料からなる。さらに、下側部分は、反対側、すなわち上側部分とは反対側で中央部分を覆っている。
【0029】
好ましくは、上側部分および下側部分は、2~4ミリメートルの間の厚さを有する。
【0030】
好ましくは、アルミニウム合金マトリックスは、前記複合材内に均質に分布した構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明のさらなる特徴および利点は、その好ましい非限定的な実施形態の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう:
【
図1】
図1は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの透視図である;
【
図2】
図2は、本発明の実施形態によるブレーキディスク用ブレーキバンドの製造方法の工程を概略的に示す図である;
【
図3】
図3は、本発明の実施形態によるバンドプリフォームの透視図である;
【
図4】
図4、
図5、
図6および
図7はそれぞれ、本発明の実施形態によるブレーキディスクの製造方法における工程を示し、工程は
図4から
図7まで順に互いに続く。特に、
図7は、粗ブレーキディスクの直径平面上に作られた粗ブレーキディスクの断面を示し;粗ブレーキディスクは、
図1に示す最終ブレーキディスクの直前の中間製品であり、当該ブレーキディスクは、その後の機械加工によって粗ブレーキディスクの不要な部分を除去することによって得られる。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの製造方法における工程を示す。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの製造方法における工程を示す。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態によるブレーキディスクの製造方法における工程を示す。特に、
図7は、粗ブレーキディスクの直径平面上に作られた粗ブレーキディスクの断面を示し;粗ブレーキディスクは、
図1に示す最終ブレーキディスクの直前の中間製品であり、当該ブレーキディスクは、その後の機械加工によって粗ブレーキディスクの不要な部分を除去することによって得られる。
【0032】
以下に説明する実施形態に共通する要素または要素の一部には、同じ参照数字を付して示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
前述の図を参照して、参照数字1は、この発明によるブレーキディスクを全体的に示す。
【0034】
添付の図に示されたこの発明の一般的な実施形態によれば、ブレーキディスク1は、2つの対向する外側ブレーキ面2aおよび2bを備えたブレーキバンド2からなり、各ブレーキ面2aおよび2bは、少なくとも部分的にディスクの2つの主面のうちの1つを画定している。
【0035】
ブレーキディスク1は、ブレーキバンド2に連結されたベル3をさらに備えている。
【0036】
本発明の第1の態様によれば、ブレーキバンド2は、炭化ケイ素(SiC)からなるセラミック材料で強化されたアルミニウムベースの金属マトリックス複合材からなる中央部分200'で構成されている。前記複合材料は、粗プリフォーム20'の炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料の中心層にアルミニウム合金を浸透させることによって得られる。
【0037】
前記複合材は、当業界でMMC(金属マトリックス複合材)として知られている複合材の範疇に入る。)
【0038】
ブレーキバンド2にアルミニウムからなる前記MMC複合材を使用することにより、アルミニウムのものに関してさらに大きい機械的および化学的-物理的特徴を得ることができ、同時に(アルミニウムまたはその合金における単純な融合に関して)ブレーキ表面に保護コーティングを必要とすることなく、ブレーキシステムに要求されるような重い用途に適した機能的特徴を付加することができる。
【0039】
さらに、ブレーキバンド2は、中央部分200'に一体に接合される上側部分201'からも構成され、これは、所定の深さD1まで浸潤された単一の初期粗プリフォーム20'のケイ素浸潤によって得られ、その結果、上側部分201'の厚さが決定される。このように、上側部分201'は、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)が浸潤された多孔質セラミック材料からなる。さらに、上側部分201'は、その一方の側において中央部分200'を覆っており、当該側において、ブレーキディスクがディスクブレーキに装着されたときに中央部分200'がブレーキパッドと接触しないようになっている。
【0040】
換言すれば、上側部分201'は、所定の深さまでケイ素が浸潤された初期粗プリフォーム20'の領域である。
【0041】
さらに、ブレーキバンド2は、中央部分200'に一体に接合される下部202'で構成され、単一の粗プリフォーム20'の所定の深さD2、好ましくはD1に等しい深さまでのケイ素浸潤によって得られ、したがって、下部202'の厚さを決定する。従って、下側部分202'も、炭化ケイ素(SiC)からなり、ケイ素(SiC+Si)を浸潤させた多孔質セラミック材料からなる。さらに、下側部分202'は、反対側、すなわち上側部分201'とは反対側で中央部分200'を覆っている。このようにして、結果として、中央部分200'は、上側部分201'と下側部分202'との間に介在される。特に、ブレーキバンド2の外側ブレーキ面2a,2bは、それぞれ、上側部分201'の、下側部分202'の、下側部分の最も外側の面であり、中央部分200'に対して、一体化されていないという意味でも接合されていない。
【0042】
中央部分200'は、ブレーキバンドの軸方向、すなわちブレーキディスク1の一部を形成するときのブレーキバンドの回転軸方向において、上側部分201'と下側部分202'との間に介在していることは明らかである。換言すれば、中央部分200'は、摩擦要素(ブレーキキャリパパッド)によって外側ブレーキ面2a,2bに作用するブレーキ力(すなわち圧力)の作用方向において、上側部分201'と下側部分202'との間に介在している。
【0043】
好ましくは、中央部分200'、上側部分201'および下側部分202'はそれぞれ、各部分がその全体がブレーキバンド2の半径方向に延びるという意味で、中央帯、上側帯および下側帯である。換言すれば、各中央部分200'、上側部分201'、および下側部分202'は、ブレーキバンド2全体のフットプリントと実質的に等しい、軸方向に垂直な平面内のフットプリント、例えば円板状または円形クラウンのフットプリントを有する。
【0044】
換言すれば、ブレーキバンド2は、単一の粗プリフォーム20'の所与の深さに対するケイ素の上部浸潤(上部201')および下部浸潤(下部202')によって得られる。浸潤深さは、プリフォーム20'の全厚さよりもはるかに小さい、すなわち側壁の高さよりもはるかに小さいことは明らかである。
【0045】
有利な実施形態によれば、上側部分201'および下側部分202'は、2~4ミリメートル、好ましくは3ミリメートルの厚さを有する。これにより、剛性、耐摩耗性および重量の間の適切な妥協点を得ることができる。
【0046】
アルミニウムまたはその合金の1つだけで作られたブレーキバンドに関して、中央部分200'にセラミック材料で作られた補強材が存在し、上側部分201'および下側部分202が存在することによって、より大きな硬度、より大きな剛性、より高い摩擦係数、およびより高い耐摩耗性が得られる。これらの特徴により、このブレーキバンドはブレーキディスクに使用するのに適している。
【0047】
このようにして、アルミニウムの有利な特徴(特に、鋼鉄および鋳鉄に対してより低い密度を参照)を有するブレーキバンドを作ることが可能であるが、同時に、ブレーキ面に保護コーティングを施す必要性、および生産上および操作上の制約と不都合を回避することができる。
【0048】
補強材が好ましくは作られる前記セラミック材料は炭化ケイ素である。
【0049】
後述の説明で取り上げるように、中央部分200'を形成するMMC複合材料は、多孔質セラミック材料プリフォームにアルミニウム合金を浸透させることによって得られる。有利なことに、炭化ケイ素を含む上記のセラミック材料は、その化学的および物理的構造を変化させることなく、また巨視的および微視的にいかなる程度も損傷されることなく、溶融金属による浸潤の工程に耐えることができる。この理由からも、これらは前述の複合体の製造に特に適している。
【0050】
好ましくは、アルミニウム合金は、鋳造に使用されることが知られているアルミニウム合金の群から選択されるか、または少なくともマグネシウム、マンガン、またはケイ素を含むアルミニウム合金の群から選択される。
【0051】
有利には、アルミニウム合金マトリックスは、複合材料内に均質に分布した構造を有する。後述するように、これは、その体積全体にわたって均質な気孔率を有する多孔質セラミック材料からなるプリフォームにアルミニウム合金を浸透させることによって達成することができる。アルミニウム合金は、浸透プロセスにより、セラミック材料の多孔性に浸透し、均質な構造を形成する。
【0052】
この発明の別の態様によれば、ブレーキディスク1は、ベル3がブレーキバンド2と一体に連結されるように設けられ、ブレーキバンド2を形成する複合材料の金属マトリックスと共鋳されたアルミニウム合金で構成される。
【0053】
以下の説明で取り上げるように、ベル3は、好ましくは、同じアルミニウム合金を用いて、セラミック材料のプリフォームのアルミニウム合金による浸潤が実施される同じ金型内で得られる。このようにして、同じ操作工程で、複合材料の成形とベルの融合が得られ、2つの材料の完全な結合が達成される。
【0054】
ベルをブレーキバンドと共同鋳造することにより、製造工程を大幅に簡略化することができる。実際、ベルを製造するための専用の製造ラインと、ベルをバンドに組み付けるための組立ラインの両方を設ける必要がなくなる。
【0055】
本発明の前述の2つの本質的側面の組合せにより、一方ではアルミニウムに由来する特別な操作上の特徴(何よりもまず密度が低い)を利用することが可能であり、他方では鋼またはねずみ鋳鉄ディスクに匹敵する機械的特徴および耐摩耗性特徴を有することが可能であり、同時に可能な限り単純かつ経済的な製造工程で製造され得るアルミニウムベースのブレーキディスクを有することが可能になる。
【0056】
議論を簡単にするために、ブレーキバンド2とブレーキディスク1を、本発明によるそれぞれの製造方法と関連付けて説明する。ブレーキディスク1は、好ましくは、これから説明する本発明による方法で製造されるが、必ずしもそうである必要はない。
【発明の実施の形態】
【0057】
この発明による方法の一般的な実施形態によれば、ブレーキディスク1の製造方法は、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2に対応する形状の第1の部分11aと、製造されるブレーキディスク1のベル3に対応する形状の第2の部分11bとからなる内側キャビティ11を有する金型10を準備する第1の操作工程a)からなる。
【0058】
前記内部キャビティ11の第1の部分11aおよび第2の部分11bは、本発明による方法の文脈において使用可能な金型の一例を概略的に示す
図5および
図6に示されるように、互いに連通する。
【0059】
有利には、
図4および
図5に示されるように、鋳型は、アルミニウム合金を鋳型10の内側キャビティ11の第2の部分に直接注入するための1つまたは複数の注入口13を備える。前記注入口13は、製造されるブレーキディスク1のベル3に対応する形状の第2の部分11bの円周方向の展開と同軸に展開する。したがって、操作上、アルミニウム合金の射出は、入口開口部13から行うことができ、その後、入口開口部13から第1の部分11aに伝播する。
【0060】
本方法は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる中央層200と、上部外層201と、下部外層202とからなるバンドプリフォーム20を準備する第2の操作工程b)からなる。上部外層201および下部外層202は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料にケイ素(SiC+Si)を浸透させたものである。さらに、上部外層201および下部外層202は、対向するように、かつ中央層200の反対側に配置されている。すなわち、バンドプリフォーム20は、下部外層201、中央層200、上部外層201が順に重なって配置された多層プリフォームである。
【0061】
以下により明確にされるように、下部外層201、中央層200および上部外層201は、好ましくは、上下に浸潤された単一の粗プリフォーム20'から得られる。
【0062】
有利なことに、上部外層201および下部外層202へのケイ素の浸潤は、多孔質セラミック材料内の空間を占有し、従って、後続のアルミニウム合金の浸潤工程において、アルミニウムが前記上部層201および下部層202にも移動して浸潤することを防止する。このようにして、アルミニウムは中央層200に閉じ込められたままである。
【0063】
好ましくは、バンドプリフォーム20は、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2の形状と実質的に同じ形状を有する。例えば、好ましくはディスクであり、好ましくは中央に円形の貫通開口を有するディスクである。
【0064】
本方法はさらに、以下の追加の操作工程を含む。
- c)前記バンドプリフォーム20を、前記内部キャビティ11の第1の部分11aの金型内に配置する工程;および
- d) 金型10の内側キャビティ11全体内に液体または半固体のアルミニウム合金を注入する工程。
【0065】
アルミニウム合金の注入は、前記バンドプリフォーム20の中心層200のみに前記アルミニウム合金を浸透させるように行われ、第1の部分11aにおいて、製造されるブレーキディスクのブレーキバンド2を部分的に画定する、前記中心層200によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を得る。これは、第2の部分11bに前述のアルミニウム合金を充填し、金属マトリックス複合材からなるブレーキバンド2と一体に接続され、製造されるブレーキディスク1のベル3を画定するアルミニウム合金の融合を得るように行われる。
【0066】
一般的な実施形態によれば、ブレーキディスク1用のブレーキバンド2を製造するための方法は、金型10がブレーキバンド2のみを製造するための形状であり、ベル3を製造するための形状ではないという事実を除いて、ブレーキディスクを製造するための方法の工程と同様の一連の工程からなる。その結果、ブレーキディスクの製造方法の工程に関して、工程a)において、金型は、製造されるブレーキディスク1のベル3に対応する形状の第2の部分11bを構成しない。さらに、ブレーキディスク1の製造方法に関して、工程d)において、アルミニウム合金の浸潤は、前記バンドプリフォーム20の中央層200に前記アルミニウム合金を浸潤させるようにのみ行われ、第1の部分11aにおいて、製造されるブレーキバンド2を部分的に画定する中央プリフォーム200によって補強されたアルミニウムベースの金属マトリックス複合材が得られる。ブレーキバンドのみを製造する場合、混同によるブレーキディスクベル2の同時製造が必要でないため、第2の部分11bを充填するアルミニウム合金を設ける必要がないことは明らかである。ブレーキバンドの製造方法のための金型は、添付の図には描かれていないが、ベルの製造のために意図された第2の部分11bがないように、前述の金型10をどのように修正するかは、当業者によって明確かつ明白に導き出され得る。
【0067】
したがって、一般的な実施形態において、この発明によるブレーキバンドの製造方法は、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2に対応する形状の第1の部分11aからなる内部キャビティ11を有する金型10を準備する第1の操作工程a)からなる。
【0068】
またこの場合、金型は、アルミニウム合金を金型10の内側キャビティ11の第2の部分に直接注入するための1つ以上の注入口13を備える。
【0069】
本方法は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる中心層200と、上部外層201と、下部外層202とからなるバンドプリフォーム20を準備する第2の操作工程b)からなる。前記上部外層201及び前記下部外層202は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料にケイ素(SiC+Si)を浸透させたものである。前記上部外層201および前記下部外層202は、前記中心層200の反対側に対向して配置される。
【0070】
本方法はさらに、以下の追加の操作工程を含む。
c)前記バンドプリフォーム20を、前記内部キャビティ11の第1の部分11aの金型内に配置する工程;および
d) 金型10の内側キャビティ11全体内に液体または半固体のアルミニウム合金を注入する工程。
【0071】
アルミニウム合金の注入は、前記バンドプリフォーム20の中心層200に前記アルミニウム合金を浸透させるように行われ、第1の部分11aにおいて、製造されるブレーキバンド2を部分的に画定する中心プリフォーム200によって補強されたアルミニウム金属マトリックス複合材を得る。
【0072】
有利には、ブレーキディスク1を製造するためにも、ブレーキバンド2を製造するためにも、金型内にアルミニウム合金を注入する工程b)は、その目的に適合する任意の技術に従って実施することができる。
【0073】
特に、工程b)は、液体状態の浸潤技術に従って、スクイズ鋳造技術に従って、重力浸潤技術に従って、または半固体状態の浸潤技術に従って、または液体アルミニウムを用いたダイカスト鋳造によって実施することができる。
【0074】
重力浸潤の場合、浸潤は好ましくは不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気中で行われる。
【0075】
前記の浸潤技術は当業者に周知であるので、ここでは説明を省略する。
【0076】
好ましくは、アルミニウム合金を鋳型内に注入する工程b)は、半固体浸潤技術に従って実施される。実際、この技法はセラミックプリフォームの浸潤に適しており、プロセスの最後に、MMC材料からなるディスクがその構造全体にわたって均質な特徴を有するように、すなわちプリフォームの完全な浸潤を実現することが判明している。同時に、この技術は、同じ工程内でベルを形成するのに特に適している。
【0077】
より具体的には、半固体段階での浸潤は、使用されるアルミニウム合金の液相線と固相線との間の温度、すなわち合金が半固体状態にある状態で起こる。半固体の塊の粘度が低いため、金型への射出と浸潤のプロセスは、乱流が少なくスムーズに行われる。
【0078】
特に有利なことは、ケイ素で浸潤された上部外側バンドおよび下部外側バンドの存在により、アルミニウムが前記上部外側バンドおよび下部外側バンドに浸潤することが防止されることである。その結果、一対の対向するブレーキ面2a、2bは、アルミニウムを含まず、アルミニウムディスクの先行技術に対して摩擦係数が改善されているので、ブレーキディスクに使用するのに特に適している。
【0079】
有利な実施形態によれば、ブレーキバンドを製造するための方法およびブレーキディスクを製造するための方法の両方が、例えば
図2に概略的に示されているように、工程b)の前に実行される一連の操作工程を含んでいる。特に、前述の一連の操作工程は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔質セラミック材料からなる粗プリフォーム20'を準備する最初の操作工程a1)を想定している。前記粗プリフォーム20'は、上側面20aと対向する下側面20bとからなり、上側面20aと下側面20bとに付随して、好ましくは垂直に展開する側壁20cによって結合される。好ましくは、粗プリフォーム20'は、中央貫通孔5を既に備えており、従って、側壁20cに対向する内側側壁20dを備えている。
【0080】
好ましくは、粗プリフォーム20'は、製造されるブレーキディスク1のブレーキバンド2と実質的に等しい形状を有する。
【0081】
さらに、前述の一連の操作工程は、少なくとも部分的にマスキング層21を側壁20c上に堆積させる後続の操作工程a2)を提供し、これは、後続の浸潤工程a3)におけるケイ素(Si)の浸潤をそれを通して防止するのに適している。
【0082】
前記壁20cのケイ素による浸潤は、アルミニウム合金の浸潤工程におけるプリフォーム内へのアルミニウム合金の侵入を防止する。
【0083】
好ましくは、この工程a2)において、マスキング層21を堆積する工程は、窒化ホウ素(BN)層の堆積からなる。
【0084】
有利な変形実施形態によれば、マスキング層21の堆積は側壁20c全体に適用され、粗プリフォーム20'の上面20aおよび下面20bには適用されない。
【0085】
さらなる変形例によれば、マスキング層21の蒸着は内側側壁20d全体に施され、粗プリフォーム20'の上面20aおよび下面20bには施されない。
【0086】
別の変形例によれば、マスキング層21の堆積は、内側側壁20d全体および側壁20cに適用される。
【0087】
マスキング層21により、有利には、ケイ素が側壁20cおよび/または側壁20dから浸入しないことが保証される。これにより、マスキング層21が除去されると、鋳型10の製造方法に応じて、アルミニウムが側壁20cおよび/または側壁20dを通過して中心層200に浸入する。
【0088】
前記の一連の操作工程は、ケイ素が浸入していない中央層200、ケイ素(SiC+Si)が浸入した上部外層201、およびケイ素(SiC+Si)が浸入した下部外層202からなるバンドプリフォーム20を得るように、上部面20aおよび下部面20bを通して粗プリフォーム20'にケイ素(Si)を所定の深さまで浸入させる追加の操作工程a3)を提供する。上部外層201および下部外層202は、対向して配置され、中央層200の反対側に配置される。
【0089】
好ましくは、この工程a3)において、粗プリフォーム20'を坩堝に入れ、所定量のケイ素(Si)粉末を坩堝に添加し、粗プリフォーム20'を、大気圧で、不活性雰囲気中、好ましくはアルゴン雰囲気中で、少なくとも5分間、1420℃を超える温度に加熱する。
【0090】
この工程は、適切な大きさの工業炉を用いて達成することができる。さらに、好ましくは、浸潤工程に続いて、上側および下側の外側プリフォームは、以下に記載される後続の工程に付される前に、水平にされる(ground)。
【0091】
本方法の一実施形態によれば、粗プリフォーム20'は、1500℃~1650℃の範囲の温度に15分~90分の時間間隔で加熱される。
【0092】
より有利には、粗プリフォーム20'は、30分から60分の時間間隔で1550℃から1600℃の範囲の温度に加熱され、ブレーキディスクの製造に適した厚さで、驚くべきことに、より均質な伝搬フロントで、適切かつ均質なケイ素浸潤を得ることができる。
【0093】
好ましくは、粗プリフォーム20'は、4ミリメートルから40ミリメートルの極値を含む間、さらに好ましくは10ミリメートルから20ミリメートルの間の厚さ、すなわち上面20aと下面20bとの間の距離を有し、ケイ素の所定の量はプリフォームの直径に依存する。
【0094】
例えば、ケイ素を浸透させる層の体積は、以下のように計算することができる: Vtot=π(R2-r2)hここで、半径Rおよびrはそれぞれ、粗プリフォーム20'によって記述される円形クラウンの外側半径Rおよび内側半径rであり、hは所望のケイ素浸潤深さである。見かけ密度は以下のように定義される。
Da=多孔質人工物の質量/多孔質人工物の総体積(空隙を含む)、
および気孔率は、以下のように定義される。
P=1-Dsolid/Da
ここで、固体密度Dsolidは非多孔質人工物の密度である、
予め定義されたケイ素の量(Msi)は、以下のように計算することができる。
Msi=ケイ素体積×ケイ素密度
ここで、ケイ素体積=Vtot・Pである。
【0095】
このようにして、ある気孔率を有するプリフォームと、ケイ素が浸透される層のある体積とが与えられると、使用されるケイ素の質量を先験的に定義することが可能である。
【0096】
ブレーキバンド2を製造するための方法またはブレーキディスク1を製造するための方法の好ましい実施形態によれば、多孔質セラミック材料からなる粗プリフォーム20'は、高分子結合組成物で表面的に被覆されたセラミック材料顆粒の塊を、以下の連続的な操作工程:成形、剥離(または脱脂)、および焼結に供することによって得られる。
【0097】
有利には、前述のセラミック材料顆粒は、"Ready-to-Press "として知られる粉末顆粒である。この種の商業的に入手可能な粉末は、プレス技術とともに、粉末それ自体を超える他の成分または添加剤を必要とすることなく、「ネットシェイプ成形」製品を得ることを可能にする。
【0098】
好ましくは、顆粒が形成される前記セラミック材料は炭化ケイ素である。
【0099】
好ましくは、セラミック材料顆粒を被覆する高分子結合組成物は、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーからなる群から選択される。
【0100】
好ましくは、セラミック材料顆粒の塊の成形は、一軸的もしくは等静的に、またはそのようなサイズおよび形状のプリフォームを得ることを可能にする任意の他の技術を用いて行われる。
【0101】
成形プロセスの最後に、ポリマー結合組成物のそれぞれのコーティングによって促進されたセラミック微細構造によって連結された、前述のセラミック材料顆粒の集合体が得られる。前記骨材は、顆粒コーティングからの有機残留物を含む。これらの有機残留物は、脱ボンディング(または脱ワックス)工程において除去される。
【0102】
有利には、成形後のセラミック材料顆粒の塊中に存在する有機相が完全に除去されるまで、700℃未満の温度で空気流条件下で剥離が実施される。
【0103】
変形例によれば、剥離は不活性大気条件下で行われる。
【0104】
剥離工程の最後に、本質的にセラミック材料のみからなるグリーン体が得られる。このグリーン体は、次に焼結段階に付され、個々のセラミック粒子を連結するブリッジの形成により、グリーン体を連続的な構造に変える。この結果、構造体全体にわたって均質な特性を示す本体が得られる。
【0105】
好ましくは、焼結は2つの別個の焼結サイクルで実施される。第1の焼結サイクルは1600℃以上、好ましくは約1800℃の温度で実施され、第2の焼結サイクルは2000℃以上、好ましくは2100℃~2200℃の範囲の温度で実施され、いずれも不活性雰囲気下で実施される。
【0106】
有利には、多孔質セラミック材料からなる得られた粗プリフォーム20'は、その体積全体にわたって均質な密度および気孔率の分布を有する。前記特徴により、プリフォームは、前記合金の浸潤後に均質に分布したアルミニウム合金マトリックスを製造するのに適している。
【0107】
特定の実施形態によれば、ブレーキバンドの製造方法は、粗プリフォーム20'が40%の密度を有することを提供する。この実施形態では、高さ13mmの粗プリフォームが、上下の外面にケイ素粉末を有する黒鉛るつぼ内に置かれ、重量は10~20グラムであり、側壁2cに窒化ホウ素のマスキング層21が設けられている。このプリフォームは、大気圧で1430℃から1550℃の間の温度の流動アルゴン中で、1時間から3時間の間の時間、ケイ素の融合および浸潤のための炉内で熱サイクルに供される。有利には、温度1550℃、時間60分、ケイ素量14グラムの場合、2ミリメートルから3ミリメートルの間の上部および下部外層の平均厚さが得られる(最小2ミリメートル、好ましくは最大2.6ミリメートル)。
【0108】
明らかに、上記のようにバンドプリフォーム20が得られれば、中央層200はブレーキバンド20の中央部分200'に対応し、上部201および下部202外層はそれぞれブレーキバンド20の上部外層バンド201'および下部外層バンド202'に対応する。
【0109】
有利には、この発明による方法の工程d)において、例えば
図5~
図6に見えるように、金型へのアルミニウムの注入中に、上側外層201および下側外層202の上へのアルミニウムの浸入が阻止されるように、金型が上側外層201および下側外層202の上で閉じるので、ディスクの外側ブレーキ面2a、2bにはアルミニウムがない。換言すれば、アルミニウム合金は、上部201および下部202外層上、すなわち、各外層201、202の中央層200に接合されていない側で、流動およびクリープすることが防止される。
【0110】
これまで説明したことから理解されるように、本発明によるブレーキバンド、ブレーキディスク、および前記ブレーキディスクと前記ブレーキバンドを製造する方法は、従来技術に示された欠点を克服することを可能にする。
【0111】
特に革新的な態様において、実際、本発明のブレーキバンドおよびブレーキディスクは、ブレーキパッドと、MMC(金属マトリックス複合)アルミニウム合金からなる金属マトリックスを有する複合材料からなる中央部分との間に、セラミック材料からなる2つの外側ブレーキバンドを介在させることにより、従来技術において見出された、アルミニウムの過熱による局所的な劣化に関連する問題を、除去しないまでも、低減することを可能にする。さらに、外側のブレーキバンドは、摩擦係数の高い材料上のパッドの結合により、より大きなブレーキ力を同時に発生させることを可能にする。同時に、効率性、簡便性、低導入コスト、腐食問題の低減が保証される。腐食の低減は、回生ブレーキの導入がディスクブレーキの不連続な使用を伴い、腐食現象につながる可能性がある電気自動車において特に有利である。
【0112】
当業者であれば、偶発的かつ特定のニーズを満足させるために、上述した本発明に多数の修正および変形を加えることができ、これらの修正および変形は、すべて以下の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内に含まれる。
【国際調査報告】