(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】シアロオリゴ糖の精製
(51)【国際特許分類】
C07H 7/027 20060101AFI20240227BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20240227BHJP
C12P 19/00 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C07H7/027
C12N15/54
C12P19/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551182
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 IB2022052207
(87)【国際公開番号】W WO2022190055
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508278309
【氏名又は名称】グリコム・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Glycom A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】モッラ, ゲタチュウ エス.
【テーマコード(参考)】
4B064
4C057
【Fターム(参考)】
4B064AF04
4B064AF41
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC03
4B064CC15
4B064CC24
4B064CD09
4B064CE06
4B064CE11
4B064DA01
4B064DA10
4C057AA12
4C057BB04
4C057CC03
4C057DD01
(57)【要約】
本発明は、シアリル化オリゴ糖の、それが産生される水性媒体からの単離及び精製に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアリル化オリゴ糖を、前記シアリル化オリゴ糖を含む水溶液から精製する方法であって、前記方法は、イオン交換樹脂による前記水溶液の処理を含み、
前記イオン交換樹脂の処理は、前記水溶液をH
+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させることを含み、
強酸の無機陰イオンは、前記イオン交換処理よりも前に前記水溶液に添加される、方法。
【請求項2】
前記無機陰イオンが、塩化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩化物が、塩形態である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩が、NaClである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記無機陰イオンが、計算されたモル量で前記シアリル化オリゴ糖を含有する前記水溶液に添加される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記添加された陰イオンの前記モル量が、前記シアリル化オリゴ糖に対する前記弱塩基性陰イオン交換樹脂の結合能の少なくとも0.5当量である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記添加された陰イオンの前記モル量が、前記シアリル化オリゴ糖に対する前記弱塩基性陰イオン交換樹脂の結合能の最大で3当量である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記添加された陰イオンの前記モル量が、0.75~2.5当量である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記モル量が、1~1.5当量である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記シアリル化オリゴ糖を含有する前記水溶液が、発酵ブロス又はex vivoの酵素反応混合物を含む水性媒体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記シアリル化オリゴ糖を含有する前記水溶液が、発酵ブロス又はex vivoの酵素反応混合物を含む任意選択的に前処理された水性媒体に由来する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記水性媒体が、発酵ブロスを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記シアリル化オリゴ糖を含有する前記水溶液が、1つ以上の精製工程の後に、発酵ブロス又は酵素反応混合物を含む前記水性媒体から得られる、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上の精製工程が、遠心分離、限外濾過、ナノ濾過、活性炭処理、又はこれらの任意の組み合わせを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ以上の精製工程が:
- 前記発酵ブロスを限外濾過して、限外濾過透過液を得ることと、
- 前記限外濾過透過液をナノ濾過して、ナノ濾過保持液を得ることと、
- 任意選択的に、前記ナノ濾過保持液を活性炭処理して、前記シアリル化オリゴ糖を含有する脱色された水溶液を得ることと、
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が:
a)前記発酵ブロスの限外濾過(UF)、及びUF透過液(UFP)の回収と、
b)前記UFPのナノ濾過(NF)、及びNF保持液(NFR)の回収と、
c)任意選択的に、前記UFP及び/又はNFRの活性炭による処理、及び活性炭溶出液(CE)の回収と、
d)強酸の無機陰イオン、好ましくは塩化物、例えばNaClを、前記NFR又はCEに添加することと、
e)工程d)で得られた前記水溶液を、H
+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理することと、
を含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記シアリル化オリゴ糖が、その構造中に1つのみのシアリル部分を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記シアリル化オリゴ糖が、酸性ヒトミルクオリゴ糖(HMO)である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記酸性HMOが、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(FSL)、LST a、フコシル-LST a(FLST a)、LST b、フコシル-LST b(FLST b)、LST c、フコシル-LST c(FLST c)、シアリル-LNH(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ヘキサオース(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースI(SLNH-I)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースII(SLNH-II)、及びジシアリル-ラクト-N-テトラオース(DS-LNT)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記酸性HMOが、その構造中に1つのみのシアリル部分を含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記酸性HMOが、3’-SL又は6’-SLである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記酸性HMOが、遺伝子改変微生物により産生される、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記遺伝子改変微生物が、E.コリ(E.coli)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記E.コリ(E.coli)が、遺伝子クラスターneuBCAを保有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記方法が:
i)内在化したラクトースから3’-SL又は6’-SLを産生することができる遺伝子改変微生物を培養することと、
ii)工程i)のブロスを限外濾過して、限外濾過透過液を得ることと、
iii)前記限外濾過透過液をナノ濾過して、ナノ濾過保持液を得ることと、
iv)任意選択的に、前記ナノ濾過保持液を活性炭処理して、脱色された水溶液を得ることと、
v)工程iii)又はiv)で得られた溶液に、弱塩基性陰イオン交換樹脂の3’-SL又は6’-SLに対する結合能に対して0.75~2.5当量、好ましくは1~1.5当量のモル量でNaClを添加することと、
vi)工程v)で得られた水溶液をH
+型の強陽イオン交換樹脂で処理することと、
vii)工程vi)の溶出液を遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理し、溶出液を回収することと、
を含む、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、シアリル化オリゴ糖の、それが微生物により産生される発酵ブロスからの単離及び精製に関する。
【0002】
[発明の背景]
過去数十年、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の調製及び商品化への関心が着実に高まっている。ヒトミルクオリゴ糖の重要性は、このヒトミルクオリゴ糖の固有の生物学的活性に直接関係している。ジシアリルラクト-N-テトラオース、3’-O-シアリル-3-O-フコシルラクトース、6’-O-シアリルラクトース、3’-O-シアリルラクトース、6’-O-シアリル化-ラクト-N-ネオテトラオース及び3’-O-シアリル化-ラクト-N-テトラオースなどのシアリル化ヒトミルクオリゴ糖は、ヒトミルクの主要成分の1つである。これらのシアリル化ヒトミルクオリゴ糖においては、シアル酸残基は、α-グリコシド結合を介して、末端D-ガラクトースの3-O-位置及び/若しくは6-O-位置、又は非末端GlcNAc残基の6-O-位置に常に連結される。シアリル化HMOは、病原体に対する抵抗性、腸の成熟、免疫機能及び認知発達を支える役割を果たすため、新生児にとって重大な健康上の利益があると考えられている(ten Bruggencate et al.Nutr.Rev.72,377(2014))。
【0003】
シアリル化HMOを含むHMOを合成するプロセスを開発する努力は、多くのヒトの生物学的プロセスにおけるそれらの役割のために、過去10年間で著しく増大した。この点に関して、微生物発酵、酵素プロセス、化学合成、又はこれらの技術の組み合わせによってそれらを製造するためのプロセスが開発されてきた。生産性に関しては、実験室規模で3’-SL及び6’-SLを生産する発酵プロセスが有望であることが証明されている。
【0004】
しかしながら、シアリル化ラクトース又はシアリル化オリゴ糖を発酵ブロスのような複合マトリックスから単離することは、困難な作業である。最近の開発により、シアリルラクトースのブロスからの精製は、典型的には、イオン交換クロマトグラフィーと組み合わせた膜濾過を含み、イオン交換クロマトグラフィーは、シアリルラクトース含有溶液をH+型の強酸性陽イオン交換体及びCl-型の強塩基性陰イオン交換体で処理することを含む(例えば欧州特許出願公開第A-3456836号明細書、国際公開第2019/043029号パンフレット、国際公開第2019/110803号パンフレット、国際公開第2019/229118号パンフレットを参照されたい)。
【0005】
強塩基性陰イオン交換体の適用の欠点は、樹脂の対イオンが溶出液に放出されることである。したがって、溶出液のpHは必要な値に設定されなければならず、及び/又はそのように生成された無機塩は、(例えばナノ濾過により)後続の工程で除去されなければならない。
【0006】
したがって、シアロオリゴ糖、好ましくはシアリルラクトースを、工業規模の発酵ブロスなどの水性媒体から単離及び精製するための経済的な方法は、イオン交換樹脂処理により、高い回収率を維持しながら、必要な純度/アッセイでシアロオリゴ糖を直接提供する方法が模索されてきた。
【0007】
[発明の概要]
本発明は、シアリル化オリゴ糖を水溶液から精製する方法であって、方法が、イオン交換樹脂による上記水溶液の処理を含み、水溶液が、上記シアリル化オリゴ糖を含有する発酵ブロス又は酵素反応混合物であるか又はそれらに由来するものであり、ここで、
- イオン交換処理は、シアリル化オリゴ糖を含有する水溶液をH+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させることを含み、
- 強酸の無機陰イオンは、好ましくは、シアリル化オリゴ糖に対する遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂の結合能のおよそ1~2モル当量である量で、上記イオン交換処理よりも前にシアリル化オリゴ糖を含有する水性媒体に添加される、方法に関する。
【0008】
したがって、本発明は、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを水溶液から分離するための方法又はプロセスであって、方法が、上記シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する上記水溶液をH+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理することを含み、水溶液が、樹脂処理の前に水溶液に添加される強酸の無機陰イオン、好ましくは塩化物、例えばNaClの形態を好ましくは所定量で更に含む、方法又はプロセスに関する。更に、本発明は、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを水溶液から分離するための方法又はプロセスであって、方法が、例えば、限外濾過、ナノ濾過、活性炭処理、又はこれらの任意の組み合わせにより、発酵ブロス又は酵素反応混合物を含む水性媒体を前処理して、上記シアリル化オリゴ糖を含有する水溶液を得ることと、水溶液をH+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理することと、を含み、水性媒体が、共添加された強酸の無機陰イオン、好ましくは塩化物、例えばNaClを所定量で更に含む、方法又はプロセスに関する。
【0009】
一実施形態では、分離/精製方法は:
- 限外濾過(UF)し、好ましくは水性媒体からバイオマス及び若しくは酵素を分離する工程、
- ナノ濾過(NF)し、好ましくは前処理された水性媒体中のシアリル化オリゴ糖を濃縮し、及び/若しくは前処理された水性媒体中の無機塩含量を低減し、及び/若しくは前処理された水性媒体中のシアリル化オリゴ糖から単糖又はラクトースのような低分子量有機化合物を分離する工程、並びに/又は
- 活性炭(AC)処理し、好ましくは任意選択的に前処理された水性媒体を脱色する工程、
を更に含む。
【0010】
好ましくは、UF工程は、NF及びAC工程並びにイオン交換樹脂処理のいずれかの前に実施される。シアリル化オリゴ糖は、イオン交換樹脂処理の後に回収され得る。
【0011】
また、好ましくは、水性媒体は、上記シアリル化オリゴ糖を内在化炭水化物前駆体から産生することができる遺伝子改変微生物を培養する発酵ブロスである。
【0012】
また、好ましくは、方法は、以下の順序で、シアリル化オリゴ糖を含有する水性媒体で実施され、適用される:UF工程、NF工程、任意選択のAC処理並びにH+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂による処理であって、ここで、水性媒体は、共添加された強酸の無機陰イオン、好ましくは塩化物、例えばNaClを所定量で更に含む。
【0013】
本発明の一実施形態は、シアリル化オリゴ糖を発酵ブロスから分離及び精製する方法であって、上記シアリル化オリゴ糖が、内在化した炭水化物前駆体から上記シアリル化オリゴ糖を産生することができる遺伝子改変微生物を培養することによって生成され:
a)発酵ブロスの限外濾過(UF)及びUF透過液(UFP)の回収工程と、
b)UFPのナノ濾過(NF)及びNF保持液(NFR)の回収工程と、
c)任意選択的に、UFP及び/又はNFRの活性炭による処理及び活性炭溶出液(CE)の回収工程と、
d)強酸の無機陰イオン、好ましくは塩化物、例えばNaClを、所定量で、NFR又はCEに添加することと、
e)工程d)で得られた水溶液を、H+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理する工程と、
を含む方法に関する。
【0014】
好ましくは、工程は、次の順番で行われる:工程a)、工程b)、任意選択の工程c)、工程d)、工程e)。
【0015】
好ましくは、シアリル化オリゴ糖は、その構造中に1つのみのシアリル部分を含む(モノシアリル化オリゴ糖と称される場合もある)。
【0016】
好ましくは、シアリル化オリゴ糖は、酸性ヒトミルクオリゴ糖(HMO)である(シアリル化HMOと称される場合もある)。
【0017】
好ましくは、シアリル化HMOは、その構造中に1つのみのシアリル部分を含む(モノシアリル化HMOと称される場合もある)。
【0018】
好ましくは、モノシアリル化HMOは、シアリルラクトース、例えば3’-SL又は6’-SLである。
【0019】
[発明の詳細な説明]
本発明によれば、「シアリル化オリゴ糖」という用語は、好ましくは、少なくとも2つの単糖単位を含有する糖ポリマーを意味し、その少なくとも1つはシアリル(N-アセチルノイラミニル)部分である。シアリル化オリゴ糖は、グリコシド間結合によって互いに連結される単糖単位を含有する直鎖状構造又は分枝状構造を有し得る。有利には、シアリル化オリゴ糖は、酸性ヒトミルクオリゴ糖である。
【0020】
「酸性ヒトミルクオリゴ糖」、「酸性HMO」、又は「シアリルHMO」という用語は、好ましくは、1つ以上のβ-N-アセチル-ラクトサミニル単位及び/又は1つ以上のβ-ラクト-N-ビオシル単位により伸長され得る還元末端でラクトース単位であるコア構造を含み、このコア構造はα-N-アセチル-ノイラミニル(シアリル)部分により置換され、任意選択的にαL-フコピラノシル部分により置換され得るヒトの母乳で見られる複合シアリル化オリゴ糖を意味する(Urashima et al.:Milk Oligosaccharides.Nova Science Publisher,2011;Chen Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.72,113(2015))。これに関して、酸性HMOは、それらの構造中に少なくとも1つのシアリル残基を有する。酸性HMOの例としては、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(FSL)、LST a、フコシル-LST a(FLST a)、LST b、フコシル-LST b(FLST b)、LST c、フコシル-LST c(FLST c)、シアリル-LNH(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ヘキサオース(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースI(SLNH-I)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースII(SLNH-II)及びジシアリル-ラクト-N-テトラオース(DS-LNT)が挙げられる。「シアリル化ラクトース」という用語は、好ましくは、3’-SL又は6’-SLを意味する。
【0021】
「遺伝子改変細胞」又は「遺伝子改変微生物」という用語は、好ましくは、そのDNA配列中に少なくとも1つの改変がある細胞又は微生物、例えば細菌細胞、例えばE.コリ(E.coli)細胞を意味する。野生型細胞の本来の特性に変化をもたらし得る改変は、例えば、改変細胞は、野生型細胞中に存在しない酵素の発現をコードする新規の遺伝物質の導入に起因して追加の化学的変換を実施し得る、又は遺伝子の除去(ノックアウト)に起因して分解のような変換を実行し得ない。遺伝子改変細胞は、当業者によく知られた遺伝子操作技術により従来の方法で製造し得る。
【0022】
「内在化した炭水化物前駆体からシアリル化オリゴ糖を産生し得る遺伝子改変細胞又は微生物」という用語は、好ましくは、上記シアリル化オリゴ糖の合成に必要なシアリルトランスフェラーゼをコードする組換え遺伝子、上記グリコシルトランスフェラーゼによって炭水化物前駆体(アクセプター)に転移されるのに適したシアル酸ヌクレオチドドナーを産生する生合成経路、及び/又は炭水化物前駆体(アクセプター)がシアリル化されて目的のシアリル化オリゴ糖を産生する細胞への培養培地からの炭水化物前駆体(アクセプター)の内在化の機構を含むように遺伝子操作された(上記を参照)細胞又は微生物を意味する。
【0023】
「シアリル化オリゴ糖を含有する水性媒体」という用語は、好ましくは、上記シアリル化オリゴ糖が生成又は合成される水性反応物又は生成混合物を意味し、上記水性反応物又は生成混合物は、反応又は生成の最後に得られる。そのような水性媒体は、典型的には、発酵ブロス又はex vivoの酵素反応混合物である。したがって、水性媒体は、通常、一次生成物としてのシアリル化オリゴ糖の他に、合成反応又は製造方法の性質に応じて、様々な種類の副生成物、未反応の反応物又は試薬、中間体、触媒、添加剤、溶媒(水以外)などを含有する。
【0024】
「シアリル化オリゴ糖を含有する水溶液」という用語は、好ましくは、本発明に従ってイオン交換樹脂処理が施される上記シアリル化オリゴ糖を含有する任意選択的に前処理された水性媒体(上記を参照)を意味する。この関連で、シアリル化オリゴ糖を含有する水性媒体は、本発明に従ってイオン交換樹脂処理が直接施され得るか、又はその水性媒体は、本発明に従ってイオン交換樹脂処理を適用する前に通常イオン交換処理とは異なる1つ以上の工程により前処理されているかのいずれかである。上記の定義の意味で言えば、「シアリル化オリゴ糖を含有する水溶液」という用語は、上記シアリル化オリゴ糖を含有する水性媒体及び上記シアリル化オリゴ糖を含有する前処理された水性媒体を包含する。前処理により、水性媒体は、部分的に精製され、一部の汚染物質の量が減少する。
【0025】
「およそ」という用語は、一実施形態では、示された値からの±10%偏差か、又は別の実施形態では、±5%偏差を意味する。
【0026】
上記で特定した従来技術の問題を克服するために、本発明者らは、無機物、タンパク質、アミノ酸などの様々な種類のイオン性不純物を除去するために、強塩基性陰イオン交換樹脂を弱塩基性陰イオン交換樹脂に置き換えるように従来技術のプロセスを改善した。
【0027】
弱塩基性陰イオン交換樹脂は、典型的には、例えば第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン(遊離アミン基)、グアニジノ又は窒素含有複素芳香族基(ピリジノ、ピリミジノなど)、好ましくは第三級アミンを含む、特定の窒素含有基などのプロトンを引きつける孤立電子対を有する塩基性基を含有する。遊離塩基型では、塩基性基はプロトン化された形ではない、言い換えれば、塩基性基には対陰イオンが存在しない。したがって、この基は全体として酸を吸着することができる、すなわち、酸陽イオン(H+)と酸陰イオン(X-)の両方がイオン交換なしで(対イオンを放出せずに)供給溶液から除去される。したがって、H+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂によるイオン交換体処理は、実質的に塩を含まない溶液を直接提供できるため、更なる精製/脱塩の必要がない。
【0028】
この関連で、強塩基性陰イオン交換樹脂を弱塩基性陰イオン性樹脂に置き換えることが良い選択肢と思われる。更に、弱塩基性陰イオン性樹脂の再生は、強塩基性陰イオン交換体の再生よりも簡単且つ安価である。しかしながら、本発明者らは、弱陰イオン性樹脂が、Cl-型の強塩基性陰イオン交換体よりも多量のシアリル化オリゴ糖/シアリルラクトースに結合する傾向があり、したがって、シアリル化オリゴ糖/シアリルラクトースの全体的な回収率は約10~15%低くなる可能性があることを見出した。
【0029】
本発明者らは、驚くべきことに、遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂の適用に伴う有利な効果と、従来技術の高い回収率とを組み合わせるプロセス/方法を見出した。この関連で、シアリル化オリゴ糖を水溶液から精製する方法であって、上記方法は、イオン交換樹脂による上記水溶液の処理を含み、水溶液は、上記シアリル化オリゴ糖を含有する任意選択的に前処理されている発酵ブロス又は酵素反応混合物であるか又はそれらに由来するものであり、ここで、
- イオン交換処理は、シアリル化オリゴ糖を含有する水溶液をH+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させることを含み、
- 強酸の無機陰イオン、好ましくは塩化物、例えばNaClは、樹脂処理よりも前にシアリル化オリゴ糖を含有する水溶液に添加される、方法が提供される。
【0030】
一実施形態では、添加された陰イオンの量は、シアリル化オリゴ糖に対する遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂の結合能のおよそ1~2モル当量である。
【0031】
したがって、本発明は、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを、水溶液、例えば内在化した炭水化物前駆体から上記シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを産生することができる遺伝子改変細胞若しくは微生物を培養することによって得られる発酵ブロス中又は酵素反応混合物中に存在するその他の化合物から精製する方法に関する。
【0032】
本発明の方法は、溶液からシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースが高収率且つ良好な純度で、特に無機陰イオン含量が非常に低い状態で得ることができる、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースが高度に濃縮されている精製溶液を直接提供する。
【0033】
シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有し、好ましくは発酵又はex vivoの酵素反応後に得られる水溶液は、上記で開示されたイオン交換樹脂処理に直接施され得るが、後で開示するようにイオン交換樹脂処理の前に前処理することが好ましい。
【0034】
シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する水溶液にイオン交換樹脂処理を施す前に、供給物に陰イオンを添加する。上述のように、弱塩基性陰イオン交換樹脂は、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースに対して特定の結合能を有する。特定の理論に縛られるものではないが、本発明者らは、供給物に添加された共陰イオンは、弱塩基性陰イオン交換樹脂の官能基に競合的に結合するため、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースは溶液中に残り、結合せずに樹脂を通過すると考えている。結果として、樹脂上のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの損失を最小限に抑えることができ、溶出液中により多くの量を回収することができる。
【0035】
添加された共陰イオンは、典型的には、無機酸の陰イオンである。例示的な陰イオンは、強い無機酸のもの、例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、亜リン酸塩、過塩素酸塩など、好ましくは塩化物である。共陰イオンは、酸として、又はその塩形態、好ましくは塩形態で、樹脂処理の前に供給溶液に添加され得る。共陰イオンの塩の陽イオンは、典型的には、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、又はマグネシウムイオンなどの、Be2+を除くI族元素及びII族元素のイオンから選択される強無機塩基の陽イオンであるが、弱塩基からの陽イオン、例えばアンモニウム、Al3+、Fe3+なども選択することができる。好ましい塩は、水溶性中性塩であり、より好ましくは、LiCl、NaCl、KCl、MgCl2、又はCaCl2などの塩化物、特にNaClである。
【0036】
共添加された陰イオンは、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの弱塩基性陰イオン交換樹脂への結合を阻害するため、任意の量の共添加された陰イオンにより、イオン交換クロマトグラフィー後のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの回収率が増加する。好ましくは、商業的に適切な回収率の向上を達成するため、共添加された陰イオンのモル量は、弱塩基性陰イオン交換樹脂に結合したシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースのモル量に対して(陰イオンとシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースのそれぞれの電荷との関係で)少なくとも0.5当量、例えばおよそ0.6、0.7、0.8、0.9、又は1当量などである。共添加された特定の当量の陰イオンのモル量は、陰イオン及びシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの電荷も考慮され、正規化されることを意味する。共添加された陰イオンの電荷及びシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの電荷が等しい場合、1当量とは、共添加された陰イオンのモル量が結合したシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースのモル量と同じモル量であることを意味する。この場合、例えば、共添加された陰イオン及びシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの両方は、それぞれ一価(塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、過塩素酸塩などの場合、並びにモノシアリル化オリゴ糖/モノシアリル化ラクトースの場合[ただし、オリゴ糖/ラクトースがシアリル以外の荷電部分を含まないことを条件とする])であるか、又は二価(硫酸塩などの場合、並びにジシアリル化オリゴ糖/ジシアリル化ラクトースの場合)である。共添加された陰イオンの電荷及びシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの電荷が等しくない場合、例えば、次のようなシナリオが存在する:
- 共添加された陰イオンは二価であり、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースは一価である:共添加された陰イオンの1当量とは、結合したシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースに対して1/2モル量を意味する;
- 共添加された陰イオンは三価(例えばホスフェート)であり、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースは一価である:共添加された陰イオンの1当量とは、結合したシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースに対して1/3モル量を意味する;
- 共添加された陰イオンは一価であり、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースは二価である:共添加された陰イオンの1当量とは、結合したシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースに対して2倍のモル量を意味する。
【0037】
一実施形態では、陰イオンは、1当量を超える量、例えば、2当量まで、3当量まで、5当量まで、又は更には10当量まで添加される。しかしながら、弱塩基性樹脂の共陰イオンに対する結合能(シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの結合能と同じ値ではない)に達すると、共陰イオンが溶出液中に漏出する。この場合、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの回収率は依然として高いが、溶出液から過剰な共陰イオンを除去するために追加の工程が必要になる場合がある。
【0038】
この関連で、好ましい実施形態によれば、共添加された陰イオンのモル量は、およそ0.5当量~およそ3当量の範囲、好ましくは0.75~2.5当量、例えば0.75~2当量、0.75~1.5、1~2.5、1~2、1又は~1.5当量などに設定される。この場合、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの回収率は、陰イオンが溶出液に漏出しない程度に十分に高い。特に好ましい範囲は、1~2又は1~1.5当量である。
【0039】
シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースに対する遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂の結合能を決定するために、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する供給溶液を、遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムの上部にアプライし、水で溶出し、溶出液を分画して収集する。樹脂の結合能は、以下の実験部分に示すように、供給溶液に加えて溶出液の濃度及び体積、並びに樹脂の体積がわかれば、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの初期量から樹脂を通過する量を引いたものとして計算することができる。
【0040】
本発明のプロセスで適用されるプロトン化(H+)型の強陽イオン交換樹脂は、供給溶液中に存在する無機陽イオンに結合し、利用された生産菌株による発酵中に任意選択的に代謝的に生成される有機アミンと同様に、アミノ酸及び短いペプチドが効率的に結合及び除去される。得られた樹脂溶出液は、酸性形態のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する。
【0041】
好適な酸性陽イオン交換樹脂の非限定的な例は、例えば、Amberlite(商標)IR100、Amberlite(商標)IR120、Amberlite(商標)FPC22、Dowex(商標)50WX、Finex(商標)CS16GC、Finex(商標)CS13GC、Finex(商標)CS12GC、Finex(商標)CS11GC、Lewatit(商標)S、Diaion(商標)SK、Diaion(商標)UBK、Amberjet(商標)1000、Amberjet(商標)1200、Dowex(商標)88であり得る。
【0042】
遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換体は、全体として無機酸を吸着して供給溶液から除去するが、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースには結合しない。好適な弱塩基性陰イオン交換体の非限定的な例は、Dowex(商標)66又はAmberlite(商標)FPA53である。
【0043】
上記で開示した工程の後、このようにして得られたシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトース溶液を噴霧乾燥、凍結乾燥、又は結晶化して、固体形態のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを得ることができる。或いは、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースは、水を除去することにより、例えば、蒸留、好ましくは真空蒸留又はナノ濾過により、濃縮された水溶液又はシロップの形態で提供され得る。
【0044】
本発明による方法は、上記で開示された樹脂装置にシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する水溶液をアプライするよりも前に、他の工程を更に含んでもよい。
【0045】
シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースが発酵又はex vivoの酵素プロセスのいずれかによって生成されると、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する水性媒体は、好ましくはイオン交換処理の前に前処理、好ましくは第一工程として限外濾過にかけられる。発酵ブロスは、典型的には、生成されたシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの他に、使用された微生物の細胞のバイオマスを、タンパク質、タンパク質断片、DNA、エンドトキシン、生体アミン、無機塩、ラクトースなどの未反応の炭水化物アクセプター、糖様副産物、シアル酸、着色体などとともに含有する。ex vivoの酵素反応混合物は、典型的には、生成されたシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの他に、タンパク質、タンパク質断片、無機塩、ラクトースなどの未反応の炭水化物アクセプター、糖様副産物、シアル酸、及びその前駆体などを含有する。限外濾過工程は、バイオマス及び高分子量懸濁固体を、成分が透過液中で限外濾過膜を通過する水性媒体の可溶性成分から分離(保持)することである。このUF透過液(UFP)は、生成されたシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する水溶液である。
【0046】
分子量カットオフ(MWCO)範囲が約1~約500kDa、例えば10~250、50~100、200~500、100~250、1~100、1~50、10~25、1~5kDa、任意の他の好適な部分範囲(供給元の規格に従う)を有する任意の従来の限外濾過膜を使用することができる。膜材料は、セラミックであってもよく、又は合成ポリマー若しくは天然ポリマー、例えば、ポリスルホン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、又はポリ乳酸で作製されていてもよい。限外濾過工程は、デッドエンドモード又はクロスフローモードで適用し得る。このUF工程は、MWCOが異なる膜を使用する(例えば、第1の膜は第2の膜のより高いMWCOを有する2つの限外濾過分離を使用する)2工程以上の限外濾過工程を含んでもよい。この配置により、水性媒体の分子量がより高い成分の分離効果が良好になり得る。この分離工程の後、透過液は、第2の膜のMWCOと比べて分子量が低い物質、例えばシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する。
【0047】
一実施形態では、水性媒体、好ましくは、発酵ブロスは、10~25、15又は20kDaなどの5~30kDaのMWCOを有する膜を使用して、限外濾過される。
【0048】
バイオマスの分離は、UFの代わりにブロスを遠心分離することにより実施され得る。
【0049】
シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する水性媒体の前処理は、ナノ濾過(NF)工程を含んでもよい。NF工程は、UF工程又は任意選択の活性炭処理工程の後に行ってもよい(下記)。有利には、このナノ濾過工程を使用して、予め処理されたシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する水性媒体を濃縮し、且つ/又はイオン、主に一価のイオン、及びシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースより分子量が小さい有機物、例えば単糖を除去し得る。ナノ濾過膜は、工程a)で使用された限外濾過膜よりもMWCOが低く、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの分子量の約25~50%である、目的のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを確実に保持するMWCOを有する。例として、およそ150~300DaのMWCOを有するナノ濾過膜は、シアリル化ラクトースの保持に好適である。これに関して、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースは、NF保持液(NFR)中に蓄積される。ナノ濾過は、透過性分子をより効果的に除去するために、例えば、透過水の導電率が塩の存在を示さないか、又は塩の存在が非常に少ないことを示すまで、水による透析濾過と組み合わせることができる。
【0050】
より多くの量のラクトースを含有するUF透過液に有利に適用されるナノ濾過の他の態様では、膜は、MWCOが、三又はより高次のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを確実に保持し、且つラクトースの少なくとも一部がこの膜を通過することを可能にする600~3500Daであり、この膜の活性(上)層は、ポリアミドで構成され、前記膜でのMgSO4阻止率は、約20~90%、好ましくは50~90%である。次いで適用されたナノ濾過膜は、効率的に保持されるために、三価以上のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースをしっかりと保持する。このような膜は、国際公開第2019/003133号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0051】
シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する水性媒体の前処理は、活性炭(AC)処理の工程を含んでもよい。UF工程又はNF工程の後にAC工程が続いてもよい。AC処理は、必要に応じて、着色剤及び/又は例えば塩等の水溶性汚染物質を除去するか、又は少なくともそれらの量を減少させるのに役立つ。
【0052】
目的のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースのような炭水化物物質は、この炭水化物物質の水溶液、例えばUF工程又はNF工程後に得られる水溶液から活性炭粒子の表面に結合する傾向がある。同様に、着色剤も活性炭に吸着する。炭水化物及び着色物質は吸着されるが、活性炭に結合していないか又は弱く結合している水溶性物質は、水で溶出され得る。溶出液を水から水性エタノールに変更することにより、吸着したシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースは容易に溶出し、別の画分に回収され得る。吸着した着色物質は、依然として活性炭に吸着したままであり、そのため、脱色及び脱塩を同時に達成することができる。活性炭処理は、撹拌下でシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの水性媒体/溶液に活性炭(例えば、粉末、ペレット、又は顆粒)を添加し、活性炭を濾別し、撹拌下で水性エタノールに再懸濁させ、濾過により活性炭を分離することにより行うことができる。より大規模の精製では、UF工程及び/又はNF工程後のシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの水溶液を、活性炭を充填したカラム(活性炭はceliteと任意選択的に混合してもよい)にロードし、次いでこのカラムを必要な溶離液で洗浄する。シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを含有する画分は、回収される。これらの画分から、必要な場合、例えば蒸発によってエタノールを除去して、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの水溶液を得ることができる。
【0053】
或いは、特定の条件下では、シアリル化オリゴ糖は、活性炭粒子に吸着しないか、又は少なくとも実質的に吸着せず、水による溶出により、シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの水溶液をさほど失うことなく得られ、一方、着色物質は吸着したままである。
【0054】
シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースは、化学合成、ex vivoでの酵素合成、又はシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを産生することができる遺伝子改変体の培養によって生成することができる。シアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースを精製する好ましい方法は、発酵である。
【0055】
6’-SLの化学合成の場合は、例えば国際公開第2010/116317号パンフレット又は国際公開第2011/100979号パンフレットを参照されたい。
【0056】
トランスシアリダーゼを使用することによるシアリル化ラクトースのex vivoでの酵素による合成については、例えば、Maru et al.Biosci.Biotech.Biochem.56,1557(1992)、Masuda et al.J.Chem.Bioeng.89,119(2000)又は国際公開第2012/007588号パンフレットを参照されたい。シアリルトランスフェラーゼを使用することによる3’-SLのex vivoでの酵素による合成については、例えば、国際公開第96/32492号パンフレット、Gilbert et al.Nature Biotechnol.16,769(1998)、国際公開第99/31224号パンフレット、又はMine et al.J.Carbohydr.Chem.29,51(2010)を参照されたい。
【0057】
遺伝子改変細胞を含む発酵生産物は、以下の方法で生じることが好ましい。外部から添加されたアクセプターは、培養培地から細胞に内在化され、そこで、適切なシアリルトランスフェラーゼによって媒介される酵素的シアリル化を含む反応において、目的のシアリルオリゴ糖に変換される。一実施形態では、この内在化は、外因性アクセプターが細胞の細胞膜にわたって受動的に拡散する受動的輸送機構により起こり得る。この流れは、内在化するアクセプター分子に関する細胞外空間及び細胞内空間での濃度差により導かれ、アクセプターは、濃度がより高い場所から、濃度がより低いゾーンに移動して平衡となる傾向があると考えられる。別の実施形態では、外因性アクセプターは、この外因性アクセプターが細胞の輸送タンパク質又はパーミアーゼの影響下で細胞の細胞膜にわたって拡散する能動的輸送機構により細胞中に内在化し得る。ラクトースパーミアーゼ(LacY)は、ガラクトース、N-アセチル-グルコサミン、ガラクトシル化単糖(例えば、ラクトース)、N-アセチル-グルコサミニル化単糖、及びそれらのグリコシド誘導体から選択される単糖又は二糖に対して特異性を有する。これらの炭水化物誘導体は全て、能動輸送により、LacY透過酵素を有する細胞によって容易に取り込まれ、細胞内に蓄積された後にグリコシル化され得る(国際公開第01/04341号パンフレット、Fort et al.J.Chem.Soc.,Chem.Comm.2558(2005)、欧州特許出願公開第A-1911850号明細書、国際公開第2013/182206号パンフレット、国際公開第2014/048439号パンフレット)。これは、細胞がそのLacYパーミアーゼを用いてこれらの炭水化物アクセプターを細胞内に輸送することができ、且つ細胞はこれらのアクセプター、特にLacZを分解し得る酵素を欠いているからである。内在化される基質の糖部分に対する特異性は、既知の組換えDNA技術を用いる変異によって変化させることができる。好ましい一実施形態では、外部から添加されるアクセプターは、ラクトースであり、このラクトースの内在化は、細胞のラクトースパーミアーゼ、より好ましくはLacYにより媒介される能動的輸送機構により起こる。細胞中に内在化すると、アクセプターは、既知の技術、例えばこの細胞の染色体に組み込むことによるか又は発現ベクターを使用することにより、この細胞中に導入されている異種遺伝子又は核酸配列により発現されるシアリルトランスフェラーゼによりシアリル化される。遺伝子改変細胞は、対応するシアリルトランスフェラーゼにより転移されるのに適したシアル酸単糖ヌクレオチドドナー(典型的には、CMP-シアル酸)を産生する生合成経路を含む。遺伝子改変細胞は2通りの方法でCMP-シアル酸を産生することができる。1つの方法では、外部から付加されたシアル酸は能動的又は受動的に、好ましくはシアル酸パーミアーゼによって、より好ましくはnanTによりコードされるパーミアーゼによって能動的に内在化し、続いて、例えば、異種neuAによってコードされる、CMP-NeuAcシンターゼ(例えば、異種neuAによってコードされる)によってCMP-シアル酸に変換する。別の方法では、内部で利用可能なUDP-GlcNAcを利用し、これを中間体としてManNAc及びシアル酸を介してCMP-シアル酸に変換する異種のneuC、neuB及びneuAを発現させる。一方、シアル酸及びその前駆体に対する細胞の異化活性は、アルドラーゼ遺伝子(nanA)及び/又はManNAcキナーゼ遺伝子(nanK)の不活性化/欠失により抑制される。内在化された炭水化物前駆体は、シアリル化以外のグリコシル化、例えば、N-アセチルグルコサミニル化、ガラクトシル化及び/又はフコシル化の対象であり得、その後、上記のようにシアリル化される。
【0058】
遺伝子改変微生物によるシアリル化オリゴ糖/シアリル化ラクトースの産生の好ましい実施形態では、シアリル化オリゴ糖を産生することができる微生物は、好ましくはneuBCAを保有するLacZ-又はLacY+LacZ-遺伝子型の、E.コリ(E.coli)である。微生物中の異種シアリルトランスフェラーゼ遺伝子は、好ましくは、α-2,3-又はα-2,6-シアリルトランスフェラーゼであり、炭水化物受容体として外部から添加されたラクトースから、それぞれ3’-SL又は6’-SLが産生される。このような微生物は、例えば、国際公開第2007/101862号パンフレット、Fierfort et al.J.Biotechnol.134,261(2008)、Drouillard et al.Carbohydr.Res.345,1394(2010)、又は国際公開第2017/101958号パンフレットに開示されている。
【0059】
したがって、本発明の一実施形態は、シアリル化ラクトースを、内在化したラクトースから上記シアリル化ラクトースを産生することができる遺伝子改変微生物を培養することによって得られる発酵ブロスから精製する方法であって:
i)ブロスを限外濾過して、限外濾過透過液を得る工程と、
ii)限外濾過透過液をナノ濾過して、ナノ濾過保持液を得る工程と、
iii)任意選択的に、ナノ濾過保持液を活性炭処理して、脱色された水溶液を得る工程と、
iv)工程ii)又はiii)で得られた溶液に陰イオンを添加する工程と、
v)工程iv)で得られた水溶液をH+型の強陽イオン交換樹脂で処理する工程と、
vi)工程v)の溶出液を遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理し、溶出液を回収する工程と、
を含む方法である。
【0060】
好ましくは、予め定められた量の共陰イオンを工程iv)で添加する。より好ましくは、共陰イオンの量は、弱塩基性陰イオン交換樹脂に結合したシアリル化ラクトースのモル量の0.5~3当量(それぞれ陰イオン及びシアリル化ラクトースの電荷との関係)である。
【0061】
[実施例]
[6’-SLの産生]
6’-SLは、国際公開第2017/101958号パンフレットに従って、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼが染色体に組み込まれた染色体から発現され、neuBCA及びnadCが同じプラスミドから発現されたLacY+LacZ-の遺伝子型のE.コリ(E.coli)を用いた発酵によって産生された。欧州特許出願公開第A-3456836号明細書に従って、発酵ブロスを精製し(UF、NF)、以下の実施例で使用される6’-SLを含有する水溶液を得た。
【0062】
[実施例1]
本実施例は、弱塩基性樹脂に結合する6’-SLの量の決定を示す。
【0063】
6’-SLを含有する水溶液を、樹脂1からの溶出液が樹脂2のカラムの上部に直接導かれるように、異なるイオン交換樹脂で充填した2つの相互接続されたカラムに通した。樹脂1はDowex(商標)88(H+型の強酸性陽イオン交換樹脂(SAC))であり、一方樹脂2は遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂Dowex(商標)66であった。樹脂2からの溶出液に、NaOH溶液を添加し、pHをおよそ5に設定した。
【0064】
3つの実験を並行して実施し、各々の処理動作パラメータを以下の表にまとめる。
【0065】
【0066】
炭水化物は、HPLC(PADを備えたCarboPac PA200でのイオンクロマトグラフィー)によって測定した。
【0067】
データから明らかなように、弱塩基性陰イオン交換樹脂への結合によりかなりの量の6’-SLが失われ、加水分解によって失われる量は少量であった(ラクトースバランスから計算)。したがって、1リットルのDowex(商標)66(湿潤体積)は、およそ0.2モルの6’-SLと結合する。
【0068】
[実施例2]
本実施例では、同じ6’-SL水溶液と同じ樹脂装置を使用したが、計算された量のNaClが樹脂供給物に添加された点が異なる。実験の処理動作パラメータを以下の表にまとめる:
【0069】
【0070】
流出液からのサンプルを凍結乾燥し、キャピラリー電気泳動で無機陰イオン含量を分析した:
【0071】
【0072】
実施例では、樹脂供給物に1モル当量又は1.5モル当量のNaClを添加すると(それぞれ実験#4及び#5)、6’-SLの回収率が効果的に向上する一方、単離されたサンプル中の陰イオンの量は非常に低く、法的な要求事項を大幅に下回っていたことが実証された。およそ10当量のNaClを添加した場合(実験#6)、回収率は高かったものの、単離された6’-SLにかなりの量の塩が混入した。
【0073】
[結論]
特許請求の範囲に記載されている改良精製方法は、欧州特許出願公開第A-3456836号明細書に開示されている先行技術のプロセスと、特に陰イオン含有量の点で、少なくとも同じ収率及び同じ純度/分析で6’-SLを提供する。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアリル化オリゴ糖を、前記シアリル化オリゴ糖を含む水溶液から精製する方法であって、前記方法は、イオン交換樹脂による前記水溶液の処理を含み、
前記イオン交換樹脂の処理は、前記水溶液をH
+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させることを含み、
-強酸の無機陰イオンは、前記イオン交換処理よりも前に前記水溶液に添加される、方法。
【請求項2】
前
記陰イオンが、塩化物であ
り、好ましくはNaClの形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記陰イオンが、前記シアリル化オリゴ糖に対する前記弱塩基性陰イオン交換樹脂の結合能の少なくとも0.5当量
のモル量で添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記モル量が0.75~2.5当量
、好ましくは1~1.5当量である、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記シアリル化オリゴ糖を含有する前記水溶液が、発酵ブロス又はex vivoの酵素反応混合物を含む任意選択的に前処理された水性媒体
である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水性媒体が発酵ブロス
であり、前記前処理が、遠心分離、限外濾過、ナノ濾過及び活性炭処理の1つ以上を含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が:
a)前記発酵ブロスの限外濾過(UF)、及びUF透過液(UFP)の回収と、
b)前記UFPのナノ濾過(NF)、及びNF保持液(NFR)の回収と、
c)任意選択的に、前記UFP及び/又はNFRの活性炭による処理、及び活性炭溶出液(CE)の回収と、
d)強酸の無機陰イオン、好ましくは塩化物、例えばNaClを、前記NFR又はCEに添加することと、
e)工程d)で得られた前記水溶液を、H
+型の強酸性陽イオン交換樹脂、続いて遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理することと、
を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記シアリル化オリゴ糖が、酸性ヒトミルクオリゴ糖(HMO)であり、
好ましくは、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(FSL)、LST a、フコシル-LST a(FLST a)、LST b、フコシル-LST b(FLST b)、LST c、フコシル-LST c(FLST c)、シアリル-LNH(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ヘキサオース(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースI(SLNH-I)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースII(SLNH-II)、又はジシアリル-ラクト-N-テトラオース(DS-LNT)である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記酸性HMOが、3’-SL又は6’-SLである、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が:
i)内在化したラクトースから3’-SL又は6’-SLを産生することができる遺伝子改変微生物を培養することと、
ii)工程i)のブロスを限外濾過して、限外濾過透過液を得ることと、
iii)前記限外濾過透過液をナノ濾過して、ナノ濾過保持液を得ることと、
iv)任意選択的に、前記ナノ濾過保持液を活性炭処理して、脱色された水溶液を得ることと、
v)工程iii)又はiv)で得られた溶液に、弱塩基性陰イオン交換樹脂の3’-SL又は6’-SLに対する結合能に対して0.75~2.5当量、好ましくは1~1.5当量のモル量でNaClを添加することと、
vi)工程v)で得られた水溶液をH
+型の強陽イオン交換樹脂で処理することと、
vii)工程vi)の溶出液を遊離塩基型の弱塩基性陰イオン交換樹脂で処理し、溶出液を回収することと、
を含む、請求項
9に記載の方法。
【国際調査報告】