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特表2024-509799制御エンベロープベースの車両運動管理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】制御エンベロープベースの車両運動管理
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/095 20120101AFI20240227BHJP
   B60W 50/06 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B60W30/095
B60W50/06
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023552358
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2021055448
(87)【国際公開番号】W WO2022184258
(87)【国際公開日】2022-09-09
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ステンブラット,ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ビルカ,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】アリカー,アディシャ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン,レオン
(72)【発明者】
【氏名】ヘイン,ハンス‐マルティン
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241AA31
3D241AA71
3D241AF07
3D241BA10
3D241BA16
3D241BA32
3D241BA62
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE08
3D241CE09
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB13Z
3D241DB20Z
(57)【要約】
大型車両(100)の動作を制御するための方法であって、本方法は、少なくとも速度(vt0)および加速度(at0)を含む現在の車両状態(st0)を推定することであって、推定された現在の車両状態は現在の車両状態の不確実性と関連付けられる、推定することと、現在の車両状態(st0)および車両(100)の予測運動モデルに基づいて、将来の車両状態(st1)を推定することであって、将来の車両状態(st1)は将来の車両状態の不確実性と関連付けられる、推定することと、車両の動作限界を表す車両制御エンベロープを定義することであって、車両制御エンベロープは車両状態の範囲を定義することと、推定された将来の車両状態(st1)および関連付けられた将来の車両状態の不確実性を、車両制御エンベロープと比較することと、将来の車両状態(st1)が制御エンベロープを破る確率が設定された閾値を上回る場合、車両(100)の運動能力を制限することと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型車両(100)の動作を制御するための方法であって、
少なくとも速度(vt0)および加速度(at0)を含む現在の車両状態(st0)を推定すること(S1)であって、前記推定された現在の車両状態は現在の車両状態の不確実性と関連付けられる、前記推定すること(S1)と、
前記現在の車両状態(st0)および前記車両(100)の予測運動モデルに基づいて、将来の車両状態(st1)を推定すること(S2)であって、前記将来の車両状態(st1)は将来の車両状態の不確実性と関連付けられる、前記推定すること(S2)と、
前記車両の動作限界を表す車両制御エンベロープを定義すること(S3)であって、前記車両制御エンベロープは車両状態の範囲を定義すること(S3)と、
前記推定された将来の車両状態(st1)および前記関連付けられた将来の車両状態の不確実性を、前記車両制御エンベロープと比較すること(S4)と、
前記将来の車両状態(st1)が前記制御エンベロープを破る確率が設定された閾値を上回る場合、前記車両(100)の運動能力を制限すること(S5)と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記車両状態は、車輪スリップ(S11)、車軸横滑り、横方向および/または縦方向の車輪力、ならびにヨー運動のいずれかも含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ以上のセンサー入力信号と関連付けられた測定の不確実性に基づいて、前記現在の車両状態の不確実性を判定すること(S12)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記車両(100)の前記予測運動モデルと関連付けられた不確実性に基づいて、前記将来の車両状態の不確実性を判定すること(S21)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
1つ以上の運動支援装置MSDと関連付けられた制限された挙動に基づいて、前記将来の車両状態の不確実性を判定すること(S22)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記車両(100)は複数の車両ユニット(110,120)を備える連結車両であり、
前記方法は、さらに、前記複数の車両ユニット(110,120)の車両ユニットごとに、各々の前記将来の車両状態(st1)を個別に推定すること(S23)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
混合ガウスモデル、GMM、確率密度関数として少なくとも部分的に前記将来の車両状態(st1)(複数可)を推定すること(S24)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記現在の車両状態(st0)から時間的に0.5~1.5秒進んだ前記将来の車両状態(st1)(複数可)を推定すること(S25)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記車両(100)の最大速度能力を制限すること(S51)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記車両(100)の最大加速能力を制限すること(S52)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記車両(100)の最大ステアリング角能力を制限すること(S53)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記車両(100)の最大ヨーモーメント能力を制限すること(S54)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
特定の車軸の能力を制限すること(S55)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
特定の車輪の能力を制限すること(S56)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記将来の車両状態(st1)が前記制御エンベロープを破る前記確率が設定された閾値を上回ることに応答して、前記車両による補正アクションを行うこと(S6)を含み、
前記補正アクションは、MSD調整モジュールに伝達された所望の全体力を減少させることを含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記車両(100)の1つ以上のMSDから車輪スリップ値および/または車輪速度値を要求することによって、前記車両(100)を制御すること(S7)を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
コンピューターで、または制御ユニット(1100)の処理回路(1110)で実行されるとき、請求項1~16のいずれかのステップを行うためのプログラムコード手段を含むコンピュータープログラム(1120)。
【請求項18】
前記プログラム製品がコンピューターまたは制御ユニット(1100)の処理回路(1110)で実行されるとき、請求項1~16のいずれかのステップを行うためのプログラムコード手段を含む、コンピュータープログラム(1120)を保持するコンピューター可読媒体(1110)。
【請求項19】
連結車両(1)の許容可能な車両状態空間を判定するための制御ユニット(1000)であって、請求項1~16のいずれかに記載の方法のステップを行うように構成される、前記制御ユニット(1000)。
【請求項20】
請求項19に記載の制御ユニット(1000)を備える、車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、安全かつ効率的な車両運動管理を確実にするための方法および制御ユニットに関する。本方法は、複数の車両ユニットを備えるトラックおよびセミトレーラー等の連結車両での使用に特に適している。しかしながら、本発明は、他のタイプの大型車両、例えば建設機器、鉱山車両、林業車両にも適用できる。
【背景技術】
【0002】
トラックおよびセミトレーラー車両等の大型車両は、過剰な車輪スリップ、アンダーステアリング、オーバーステアリング、車両の横転、ジャックナイフ、およびトレーラースイングのイベント等の望ましくないイベントを経験しないように、危険な運転シナリオでは慎重に制御する必要がある。経験の浅い運転者は、例えば何か予想外のことが起こった場合に過剰反応することによって、または間違ったタイプの制御入力を適用することによって、そのようなイベントが発生する状態に車両を誤って制御し得る。一方、経験豊富な運転者は、多くの場合、より合理的かつ冷静に車両を制御することによって、車両が危険な状況に陥るのを防ぐ車両制御を行うことが可能である。
【0003】
自律走行車および半自律走行車は、ナビゲーションおよび車両制御に様々なタイプのセンサー入力信号を使用する。また、先進運転支援システム(ADAS)もセンサー入力信号に基づいている。そのようなセンサー入力信号は、運転者に迫りくる危険について警告する等、車両の安全性を向上させるために使用できる。しかしながら、これらのセンサー信号は、いくつかの不確実性、すなわちセンサー誤差等と関連付けられ得る。したがって、センサー信号に基づいて車両の運動管理を行う制御ユニットは、常に、誤った入力データに基づいて制御決定を行う危険を伴う。
【0004】
上述の望ましくないイベントのリスクを減らす制御方法および装置が必要である。
【0005】
米国特許出願公開第2020/0133281号明細書では、車両の安全システムおよびそのシステムで使用するための方法が開示されている。開示された方法は、将来の運転モデルの状態の予測の不確実性を用いて、運転モデルのパラメーターを変更または更新する。これは、例えばセンサーデータの減少またはカメラの視認性の低下等に伴う、より高レベルの予測の不確実性を考慮して、自律走行車のより安全な動作を可能にするために行われる。
【0006】
特開2006-099715号公報では、衝突予測システムおよび方法が開示されている。衝突予測システムおよび方法は、一方の車両と別の車両との衝突の可能性の結果を判定する際に統合信頼性を使用する。統合信頼性は、車両の環境および状態に基づいている。
【0007】
それでも、大型車両の運動管理のための方法の改善の必要性が顕著に存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、上述の問題の少なくとも一部を軽減または克服する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、大型車両の運動を制御するための方法によって少なくとも部分的に達成される。本方法は、少なくとも速度および加速度を含む現在の車両の状態を推定することを含み、推定された現在の車両状態は、現在の車両状態の不確実性と関連付けられる。本方法は、また、現在の車両状態および車両の予測運動モデルに基づいて将来の車両状態を推定することを含み、将来の車両状態は将来の車両状態の不確実性と関連付けられる。本方法は、さらに、車両の動作限界を表す車両制御エンベロープを定義することであって、車両制御エンベロープは車両状態の範囲を定義することと、推定された将来の車両状態および関連付けられた将来の車両状態の不確実性を、車両制御エンベロープと比較することと、を含む。将来の車両状態が制御エンベロープを破る確率が設定された閾値を上回る場合、本方法は車両の運動能力を制限することを指定する。
【0010】
上述の機能の利点の1つは、車両の性能制約を超えた車両運動制御をもたらす突然のまたは過剰な運転者の入力の影響が低減され得、それによって、例えば、アンダー/オーバーステアリング、スキッド、ジャックナイフ、トレーラースイング等のこのタイプの運転者の入力に関連する事故が減る。
【0011】
車両運動推定、車両運動予測、および車両運動制御を含む集中車両運動管理システムを用いて、トルクを減らすことによって、またはブレーキおよびステアリングを適用することによって、車両が車両性能エンベロープの範囲外に進むことを事前に防止し、車両状態を制御エンベロープ内に戻すことが可能になる。提案された方法は、センサーデータおよび予測モデリングの不確実性を考慮することが可能であるため、これは利点となる。例えば、車両が将来の車両状態を予測することが困難な車両状態に陥いる場合、より保守的な車両制御戦略を選択できる。
【0012】
複数の態様によれば、車両状態はまた、車輪スリップ、車軸および/または車輪横滑り、横方向および/または縦方向の車輪力、ならびにヨー運動のいずれかを含む。したがって、本明細書で開示される方法は多用途であり、いくつかの異なる車両状態変数とともに使用できる。
【0013】
複数の態様によれば、本方法は、1つ以上のセンサー入力信号と関連付けられた測定の不確実性に基づいて現在の状態の不確実性を判定することを含む。本方法がセンサー測定誤差等を考慮することが可能であることは利点であり、これにより、車両運動管理のロバスト性(robustness)が向上する。
【0014】
複数の態様によれば、本方法は、車両の予測運動モデルと関連付けられた不確実性に基づいて将来の状態の不確実性を判定することを含む。したがって、本方法は、モデル化誤差を考慮することが可能であり、これにより、最終結果のロバスト性がさらに向上する。例えば、車両は将来の挙動を予測することが困難な状態に陥る場合がある。予測モデルの不確実性を考慮に入れることによって、この不確実性を減らすための補正アクションを事前に取ることができる。
【0015】
複数の態様によれば、本方法は、1つ以上の運動支援装置(MSD)と関連付けられた制限された挙動に基づいて将来の状態の不確実性を判定することを含む。MSD、または車両上のMSDの少なくとも一部は、例えば線形挙動が保証される契約に従って動作できる。これにより、モデルにおいて非線形挙動を無視できるため、車両挙動を予測することが容易になる。例えば、車両の車輪の車輪スリップ制限を実施することによって、タイヤの力と車輪スリップとの挙動が線形になることが保証される。
【0016】
複数の態様によれば、車両は複数の車両ユニットを備える連結車両であり、本方法は、さらに、複数の車両ユニットの車両ユニットごとに、各々の将来の車両状態を個別に推定することを含む。これは、いくつかの車両ユニットが危険状態に陥る危険性があるとみなされ得る一方、他の車両ユニットは危険状態に陥る危険性がないことを意味する。これにより、車両運動管理機能の動作の制御自由度が向上する。例えば、車両運動管理機能は、より安定した車両ユニットの1つによってブレーキをかけ、連結式車両を制御範囲内に戻し得る。
【0017】
複数の態様によれば、本方法は、将来の車両状態が制御エンベロープを破る確率が設定された閾値を上回ることに応答して、車両によって補正アクションを行うことを含み、補正アクションは、MSD調整モジュールに伝達された所望の全体力を減らすことを含む。
【0018】
複数の態様によれば、本方法は、また、車両の1つ以上のMSDから車輪スリップ値および/または車輪速度値を要求することによって車両を制御することを含む。車両の車輪にトルクを伝えることが可能である車両運動コントローラーとMSDとの間のインタフェースは、従来、車輪スリップを少しも考慮せずに、コントローラーから各MSDへのトルクベースの要求に焦点を当ててきた。しかしながら、このアプローチは、制御の遅延時間と関連するいくつかの性能限界と関連付けられる。代わりに、メイン車両コントローラーと、1つのMSDコントローラーまたは複数のMSDコントローラーとの間のインタフェースで車輪速度または車輪スリップベースの要求を使用することによって大きな利点を実現できる。これにより、困難なアクチュエーター速度制御ループをMSDコントローラーに移行し、MSDコントローラーは、一般に、メイン車両コントローラー機能のサンプル時間と比較してかなり短いサンプル時間で動作する。そのようなアーキテクチャは、トルクベースの制御インタフェースと比較して、はるかに優れた外乱除去を提供できるため、タイヤと道路との接触面で生成された力の予測可能性が向上する。
【0019】
本明細書では、上述の利点と関連付けられた制御ユニット、コンピュータープログラム、コンピューター可読媒体、コンピュータープログラム製品、および車両も開示されている。
【0020】
一般に、特許請求の範囲で使用される全ての用語は、本明細書で明示的に定義されていない限り、技術分野における通常の意味に従って解釈するべきである。「1つの/その(a/an/the)要素、装置、コンポーネント、手段、ステップ等」への全ての言及は、例えば、明示的に別段の記載がない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップ等の少なくとも1つの実例を指すものとして公然と解釈するべきである。本明細書に開示される任意の方法のステップは、明示的に記載されない限り、開示された順序で正確に行われる必要はない。添付の特許請求の範囲および以下の説明を検討するとき、本発明のさらなる特徴および本発明による利点が明らかになるであろう。本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に説明されるもの以外の実施形態を創出し得ることを当業者は認識している。
【0021】
添付の図面を参照して、例として挙げた本発明の実施形態のより詳細な説明が下記に続く。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】貨物輸送用の車両を概略的に示す。
図2A】望ましくないジャックナイフイベントを示す。
図2B】望ましくないトレーラーのスイングイベントを示す。
図2C】車両のアンダーステアリングイベントを示す。
図2D】車両のオーバーステアリングイベントを示す。
図3】車両の運動推定および運動予測を概略的に示す。
図4】車両制御エンベロープの例を示す。
図5】車両運動支援装置(MSD)制御システムの例を示す。
図6】階層化された車両制御システムのコンポーネントを示す。
図7】A~Bは運動予測の不確実性を概略的に示す。
図8】A~Cは線形化されたタイヤモデリングを示す。
図9】方法を示すフローチャートである。
図10】センサーユニットおよび/または制御ユニットを概略的に示す。
図11】コンピュータープログラム製品の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ここで、本発明の一態様を示す添付図面を参照して、本発明はより完全に以下に説明される。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で具体化され得、本明細書に記載される実施形態および態様に限定されるものとして解釈するべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなり、本発明の範囲が当業者に十分に伝わるように、例として提供されるものである。説明全体を通じて、同様の番号は同様の要素を指す。
【0024】
本発明は、本明細書に説明され、図面に示される実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、当業者は、添付の特許請求の範囲内で多くの変更および修正がなされ得ることを認識するであろう。
【0025】
フライトエンベロープ保護は、航空機の制御システムのヒューマンマシンインターフェイスの拡張機能であり、航空機のパイロットが航空機の構造的および空気力学的な動作限界を超えさせるであろう制御コマンドを発行することを防止する。最新の商用フライバイワイヤ航空機のほとんどで使用されている。飛行エンベロープ保護システムの利点は、緊急事態に対する不意の反応またはそれ以外かどうかにかかわらず、パイロットの過剰な制御入力が過剰な飛行制御動作に変換されるのを制限することである。概念上、これによって、機体に過度のストレスを与えて航空機の安全性を危険にさらす可能性のある過剰な操縦翼面の動きを電子的に制限することによって、パイロットは「驚愕」から生じる過剰な制御入力の影響を鈍らせながら、緊急事態に迅速に反応することが可能になる。
【0026】
本開示は、運転者によって、または何らかの形態の自律制御システムもしくは半自律制御システムによって、同様の制御制限アプローチを大型車両の制御に適用することに関する。しかしながら、航空電子工学からの飛行エンベロープ保護方法は、簡単に、そのまま大型車両の制御に適用できない。いくつかの重要な適応が必要であるが、これは以下で詳細に説明する。
【0027】
本開示による制御エンベロープベースの車両運動管理システムを備える大型車両は、車両による急速な過剰な応答を鈍らせるために運転者による制御を制限することによって、車両が車両の動作限界の範囲外に進む車両状態に陥ることを回避する。したがって、車両のアンダーステアリングやオーバーステアリング、車両の横転、ジャックナイフ、過剰なトレーラーのスイング等の望ましくないイベント、ならびに同様の望ましくないイベントを回避できると同時に、運転者は予想外のイベントが発生したときにそのイベントに迅速に反応することが可能になる。
【0028】
航空機では、翼および操縦翼面の周囲の流体力学によって揚力を生成するための特定の迎え角を有し、この迎え角を超えると、航空機は望ましくないイベントである失速に陥る危険がある。このタイプのイベントは航空機のモデルによって予測でき、パイロットに指示を与える制御システムを配置できることによって、パイロットが失速状況を回避することが可能になる。同様に、商用大型連結式車両は、例えば横転状況または重篤なアンダーステアリングイベントの望ましくない車両の状態を予測すなわち予見するように構成された車両運動の予測モデルを使用することによって、予測された制御エンベロープ内で安全に制御できる。
【0029】
本明細書で開示される技術は、車両が、運動推定および同様に運動予測を継続的に行う車両運動管理(VMM)機能を備えることに依存している。運動予測は、車両が時間的に0.5~1.5秒進んだ将来の車両状態を継続的に予測することを意味する。この将来の車両状態は、車両の動作限界を表す車両制御エンベロープと定期的に比較される。制御エンベロープの範囲外に最終的に出るリスクが高すぎるとコントローラーが判断した場合、何らかのタイプの補正アクションが取られる。この補正アクションは、例えば、上位層の制御アルゴリズムのいくつかに対して報告された能力が低下することであり得る。報告された能力は、トラクターもしくはトレーラー等の車両ユニット全体の能力、または車軸もしくはさらに単一の車輪等の車両ユニットの部品の能力であり得る。能力は、例えば、最大加速度または最大速度、横滑り等であり得る。したがって、車両の動作推定機能が車両が危険な状態に入っている途中の過程であることを認識する場合、動作調整により、例えば、トルクまたはブレーキおよびステアリングを低減すること等によって、車両を安全な状態に戻す。
【0030】
VMMの運動推定は、現在の車両状態の推定の不確実性と、将来の車両状態の予測を行うのに使用される予測車両モデルの不確実性の両方により、将来の予測を行う際に重大な不確実性があるという事実を取り込む確率的な部分を含み得る。例えば、大型連結式車両の転がり移動を正確にモデル化することは困難であり得る。車両が状態モデリングが困難な状態の範囲に入ったときを検出することによって、より高レベルの不確実性を割り当てできる。そのようなモデルを使用して、固定値の代わりに確率分布となる予測が得られる。次に、これらの分布を使用して、安全性(早期介入)と運転者の快適性(誤った介入が少ない)との適切な組み合わせを達成するために、車両の能力をいつどのように制限するかを決定できる。
【0031】
また、モデル誤差は、車両が道にできた穴(potholes)の上を走行する等、周囲環境の予想外の変化に遭遇した場合にも発生する可能性がある。車両運動制御に予測不確実性を追加することによって、例えば、車両運動予測および車両運動センサー入力が異なる場合の車両速度等を制限することが可能になる。
【0032】
図1は、本明細書で開示される技術を有利に適用できる貨物輸送用の例示的な車両100を示す。車両100は、前輪150および後輪160に支持されたトラクターまたはけん引車両110を備え、前輪150および後輪160の少なくとも一部は被駆動車輪である。必ずではないが、通常、トラクターの車輪は全て制動輪である。トラクター110は、既知の方法で第5の車輪接続によってトレーラー車輪170で支持された第1のトレーラーユニット120をけん引するように構成される。トレーラーの車輪は、通常、制動輪であるが、1つ以上の車軸上の被駆動車輪も含み得る。
【0033】
本明細書で開示される方法および制御ユニットは、ドローバー(drawbar)接続を備えたトラック、1つ以上のドリー(dolly)車、建設機器、バス等を含むマルチトレーラー車等の他のタイプの大型車両にも有利に適用できることを認識されたい。
【0034】
トラクター110は、様々な種類の機能、とりわけ、推進、制動、ステアリングを制御するための車両ユニットコンピューター(VUC)130を備える。いくつかのトレーラーユニット120は、また、トレーラーの車輪の制動、アクティブサスペンション、および場合によってはトレーラーの車輪の推進等、トレーラーの様々な機能を制御するためのVUC140も備える。VUC130、140は、いくつかの処理回路の全体にわたって、集中化または分散され得る。車両制御機能の一部は、また、例えば、無線リンクおよび無線アクセスネットワークを介して、車両100に接続されたリモートサーバーでリモートで実行され得る。
【0035】
トラクター110のVUC130(場合によって、トレーラー120のVUC140も同様に)は車両制御方法を実行するように構成され得、車両制御方法は、いくつかの機能が上位層の交通状況管理(TSM)ドメインに含まれ得、いくつかの他の機能が下位機能層に存在する車両運動管理(VMM)ドメインに含まれ得る階層化された機能アーキテクチャに従って編成される。
【0036】
図2A図2Dは、本明細書で提案された方法が予測車両運動管理によって軽減することを目的とするいくつかの望ましくないイベントの例を示す。
【0037】
図2Aはジャックナイフイベント200を示す。このタイプのイベントは、運転者が不適切なステアリングによって過剰に反応した場合に発生し得る。力F1は、トレーラーを、連結車両を望ましくない方向に折りたたむような方向に押す。
【0038】
図2Bは過剰なトレーラースイング210の例を示す。運転者が車両100を正しく操作しない場合、トレーラー120に大きな横力F2が発生し得、トレーラーが揺らされる。
【0039】
図2Cはアンダーステアリングが発生する運転シナリオ220を示す。図2Cに示される曲線をうまく通過するために、連結式車両は所望の経路221(破線)をたどる必要があるが、代わりに、車両は別の経路222(一点鎖線)をたどる、すなわちアンダーステアとなる。このアンダーステアリングは、例えば、路面摩擦の減少が原因であり得る。アンダーステアリングは運転者の怪我および車両の損傷に重大な危険をもたらし得る。例えば、交差点で右折することを望むが、車両が高速で交差点に進入し、車両ブレーキをかけるのが遅すぎる場合、車両は車輪スリップを受け、横方向のステアリング力を生成する能力が低下する。この状況は、交差点に進入する際に車速を減速する場合に回避できる。この状況を改善するために、補正ヨートルク223も適用できる。この補正ヨートルクは、例えば、トラクター車両ユニットの右後輪にブレーキ224をかけることによって生成できる。本明細書で提案された方法により、VUCはセンサー入力に基づいて車両状態を推定し、予測車両運動モデルを使用して将来の車両状態を予測する。車両が危険な状態に陥る危険性がある場合、車両運動制御は、運転者からの制御入力を制限することによって、または図2Cのブレーキの適用等、何らかの運動支援装置による作動をよりアクティブにトリガーすることによって、のいずれかで補正アクションを取る。
【0040】
図2Dは、オーバーステアリングイベント230が発生する運転シナリオ230を示す。破線の経路231をたどるのが望ましいが、何らかの理由でトレーラー車両ユニットがオーバーステアして一点鎖線232をたどる。この状況を回避するために、補正ヨー運動233が望ましい。この補正ヨー運動は、例えば、車両の左前輪にブレーキ234をかけることによって生成できる。図2Cのイベント220に関して、本明細書で提案された方法は、車両がオーバーステアリングシナリオに陥る危険性があることを予測することが可能であり、望ましくないイベントを回避するためにおよび/または危険な車両状態のその結果を軽減するために補正アクションを取ることが可能である。
【0041】
図3は、道路310に沿って走行する車両100を含む別の例示的なシナリオ300を示す。車両は、現在の車両状態を推定するためにVUC130、140によって使用される1つ以上のセンサーを備える。現在の車両状態は、速度ベクトル[v,v]、加速度ベクトル[a,a]、およびヨーモーメント等の変数を含む。
【0042】
地点Aにおいて、車両100は曲率を有するカーブに進入しようとしている。VUC130、140は、この時点において、現在の車両状態を推定する。現在の車両状態に加えて、VUCは、また、将来の車両状態、すなわち車両が点B、点Cにある時点等、将来のある時点で車両にもたらされると考えられる車両状態も予測する。そのような予測は、予測運動モデルを使用することによって可能であり、その例について以下で説明する。
【0043】
当然ながら、将来の車両状態のこの予測は完全とは限らず、多少の誤差と関連付けられる。例えば、センサー入力信号に誤差がない可能性は低く、運動予測にも同様に誤差と関連付けられる可能性が高くなる。さらに、当然ながら、運転者からの制御入力を発生前に正確に予測することは不可能である。この予測誤差、または車両状態予測の不確実性は、図3の増大領域320によって示される。一般に、予測が時間的により先に行われるほど、不確実性が増加することが理解される。
【0044】
車両100は、車両の動作限界を表す車両制御エンベロープと関連付けられる。この車両制御エンベロープは、安全とみなされる車両状態の範囲を定義する。車両100が制御エンベロープ内の状態にある限り、車両による運動は予測可能であり(多くの場合、直線的)、危険な状況と関連付けられない。しかしながら、車両100が制御エンベロープを破る場合、望ましくない挙動を予想できる。例えば、車輪力は、車輪スリップまたは加えられたトルクに応じて、非線形の挙動を示すことが始まり得る。
【0045】
例えば、図3の状況300は、アンダーステアリングイベントと関連付けられ得、予測運動モデルは、車両100が一点鎖線の経路330をたどる可能性を示す。本明細書で提示される方法は、アンダーステアリングイベントが発生しないように車両運動を補正するために予防的に機能する。例えば、図2Cに関連して上述したような補正ヨー運動は、車両運動管理システムによって生成され得る。別の例として、横転のリスクは、図3の状況300におけるリスクの増加と関連付けられ得る。本明細書で説明される方法は、予測的に車両を制御エンベロープ内に戻すために干渉する。
【0046】
例示的な制御エンベロープ400の概略図を図4に示す。ここでは、予測される将来の車両状態の不確実性320と関連付けられた誤差分布の確率から導出された不確実性楕円410を制御エンベロープと比較する。この不確実性楕円の十分に大きな部分が制御エンベロープを超えて広がる場合、車両の危険な動作および/または予測不可能な動作が続き、図2A図2Dのような望ましくない車両イベントが発生し得る。
【0047】
図5は、ここでは摩擦ブレーキ550(ディスクブレーキまたはドラムブレーキ等)および推進デバイス540(電気機械等)を含むいくつかの例示的なMSDによって、車輪560を制御するための機能500を概略的に示す。摩擦ブレーキ560および推進デバイス540は、車輪トルク生成デバイスの例であり、これは、アクチュエーターとも呼ばれ得、1つ以上の運動支援装置制御ユニット530によって制御できる。制御は、例えば、車輪速度センサー570から取得された測定データと、レーダーセンサー、ライダセンサー、ならびに同様にカメラセンサーおよび赤外線検出器等の視覚ベースのセンサー等の他の車両状態センサー580から取得された測定データとに基づく。本明細書で説明される原理に従って制御され得るトルク発生運動支援装置の他の例は、エンジンリターダーおよびパワーステアリングデバイスを含む。MSD制御ユニット530は、1つ以上のアクチュエーターを制御するように構成され得る。例えば、MSD制御ユニット530が車軸の両方の車輪を制御するように構成されていることは珍しくない。
【0048】
本明細書に開示される技術の一部では、そのようなシステムを容易にするために、ブレーキシステムおよび/または電気モータ等の推進デバイスに要件が課される。本開示は、任意の時点において、車両が例えばタイヤに対して達成できる最大達成可能な横力Fと最大縦力Fとの間に関連性があるという観察に少なくとも部分的に基づいている。これは、縦方向に加えられたブレーキ力が高すぎる場合、車両の横方向のステアリング能力が失われる(車両状態が制御エンベロープを破る)ことを意味する。モデルの観点から、これは、無制限のブレーキが許可される場合、横方向の車両力学に大きな不確実性が生じることを意味する。不確実性が大きいため、緊急操作の性能が保守的に分析されることがもたらされ、ひいては、運用設計領域(ODD)が大幅に減少する。本開示は、例えば、ブレーキおよび推進装置等の車輪トルクデバイスにおける許容可能な車輪スリップに制限を課すことによって、この欠点を克服することを目的とする。
【0049】
図6も参照すると、TSM機能510は、例えば1~10秒等の期間(time horizon)で運転動作を計画する。このタイムフレームは、例えば、車両100がカーブ等を通過するのにかかる時間に対応する。TSMによって計画および実行された車両の操作は、所与の操作で所望の車両速度および旋回を表す加速度プロファイルおよび曲率プロファイルと関連付けできる。TSMは、安全かつ強固な方法でTSMからの要求を満たす力配分を行うVMM機能520から所望の加速度プロファイルareqおよび曲率プロファイルcreqを継続的に要求する。VMM機能520は、能力情報(ここでは、最大速度ベクトルax,MAXおよび加速度ベクトルvx,MAXによって例示される)を、例えば、生成できる力、最大速度、加速度等の観点から車両の現在の能力を詳述するTSM機能に連続的にフィードバックする。
【0050】
加速度プロファイルおよび曲率プロファイルは、また、ステアリングホイール、アクセルペダル、およびブレーキペダル等の通常の制御入力デバイスを介して大型車両の運転者から取得され得る。該加速度プロファイルおよび曲率プロファイルのソースは、本開示の範囲内ではないため、本明細書ではより詳細に説明しない。
【0051】
VMM機能520は、約0.1~1.5秒等の期間で動作し、加速度プロファイルareqおよび曲率プロファイルcreqを車両100の異なるMSD530によって作動する車両運動機能を制御するための制御コマンドに継続的に変換し、MSD530は能力をVMMに報告し、次に、その報告は車両制御の制約として使用される。VMM機能520は車両状態または運動推定610を行う。すなわち、VMM機能520は、MSD530に接続していることが多いが必ずしも接続しているわけではない車両100に配置された様々なセンサー570を使用して動作を監視することによって、連結式車両の異なるユニットの位置、速度、加速度、ヨー運動、および連結角度を含む車両状態s(多くの場合、ベクトル変数)を継続的に判断する。
【0052】
運動推定610の結果、すなわち推定された車両状態sは、現在の車両状態sに基づく車両による将来の予測運動状態s’に基づく運動予測モジュール620に入力される。
【0053】
MSD調整機能630は、要求された加速度プロファイルareqおよび曲率プロファイルcreqに従って車両100を移動させるために、異なる車両ユニットに必要な全体力(global forces)を判定し、車輪力を割り当て、ステアリングおよびサスペンション等の他のMSDを調整する。次に、調整されたMSDは、連結車両100によって所望の運動を取得するために、車両ユニットへの所望の横力Fおよび縦力F、ならびに必要なモーメントMを共に提供する。
【0054】
例えば、全地球測位システム、視覚ベースのセンサー、車輪速度センサー、レーダーセンサー、および/またはライダセンサーを使用して車両ユニットの運動を判定し、そして、この車両ユニットの運動を所与の車輪560のローカル座標系に変換することによって(例えば、縦および横の速度成分に関して)、車輪基準座標系における車両ユニットの運動を、車輪560に関連して配置された車輪速度センサー570から取得されたデータと比較することによって、リアルタイムで車輪スリップを正確に推定することが可能になる。逆タイヤモデル640を使用して、所与の車輪iの所望のタイヤ縦力Fxiと、車輪の等価の車輪スリップλとの間で変換できる。車輪スリップλは、車輪の回転速度と対地速度との差に関係し、以下でより詳細に説明される。車輪速度ωは、車輪の回転速度であり、例えば、1分あたりの回転数(rpm)、またはラジアン/秒(rad/sec)もしくは度/秒(deg/sec)で表される角速度の単位で与えられる。
【0055】
本明細書では、タイヤモデルは、車輪スリップの関数として縦方向(転がり方向)および/または横方向(縦方向に直交する方向)に発生する車輪力を表す車輪挙動のモデルである。“Tyre and vehicle dynamics”, Elsevier Ltd.2012, ISBN978-0-08-097016-5, Hans Pacejkaでは、タイヤモデルの基礎を取り上げている。例えば、車輪スリップと縦力との関係について説明している第7章を参照されたい。
【0056】
縦方向の車輪スリップλは、SAEJ670(SAE Vehicle Dynamics Standards Committee January 24,2008)に従って、下式のように定義され得る。
【数1】
ここで、Rはメートル単位の有効車輪半径であり、ωは車輪の角速度であり、vは車輪の縦方向速度(車輪の座標系)である。したがって、λは-1~1に制限され、車輪が路面に対して滑っている量がどれくらいかを定量化する。車輪スリップは、本質的に、車輪と車両との間で測定された速度差である。したがって、本明細書で開示される技術は、任意のタイプの車輪スリップに関する定義での使用に適応できる。また、車輪スリップ値は、車輪の座標系において、表面上の車輪の速度が与えられた場合の車輪速度値に等しいことを認識されたい。
【0057】
図8のA~Cを参照すると、車輪(またはタイヤ)が車輪力を生成するために、スリップが発生する必要がある。スリップ値が小さい場合、スリップと生成された力との関係はほぼ線形であり、比例定数は多くの場合タイヤのスリップ剛性Cとして表される。タイヤ560は、縦力F、横力F、および垂直抗力Fを受ける。垂直抗力Fは、いくつかの重要な車両特性を判定するのに重要である。例えば、垂直抗力は、車輪によって達成可能なタイヤ縦力Fを大部分判定する。なぜなら、通常F≦μFであり、μは道路摩擦条件と関連付けられた摩擦係数であるためである。所与の横滑りに対して利用可能な最大横力は、Hans Pacejkaによる“Tyre and vehicle dynamics”, Elsevier Ltd. 2012, ISBN978-0-08-097016-5に説明されているように、いわゆるマジックフォーミュラによって表すことができる。
【0058】
車輪スリップλが車輪スリップ限界λlim未満に保たれている限り、図8Bおよび図8Cに示されるように、力とスリップとの関係はほぼ線形になり、ここで、Cは縦方向のスリップ剛性であり、Cは横方向のスリップ剛性である。剛性係数は、垂直抗力F、タイヤ摩耗、およびスリップ(横滑りの場合)の関数によって近似できる。
【0059】
概要を説明すると、VMM機能520は力の生成およびMSD調整の両方を管理する。すなわち、VMM機能520は、例えば、TSMによって要求された必要な加速度プロファイルに従って車両を加速させるためにおよび/または同様にTSMによって要求された車両による特定の曲率運動を発生させるために、TSM機能510からの要求を満たすために車両ユニットで必要とされる力の量を判定する。力は、例えば、ヨーモーメントM、縦力Fおよび横力F、ならびに異なる車輪に加えられる異なるタイプのトルクを含み得る。
【0060】
車両の車輪に、トルクを伝えることが可能であるVMMとMSDとの間のインタフェースは、従来、車輪スリップを少しも考慮せずに、VMMから各MSDへのトルクベースの要求に焦点を当ててきた。しかしながら、このアプローチは性能限界と関連付けられ得る。安全上最重視すべき状況または過剰なスリップ状況が発生した場合、通常、別のコントロールユニットで動作する関連の安全機能(けん引制御、アンチロックブレーキ等)が介入し、スリップを制御範囲内に戻すために、トルクオーバーライドを要求する。このアプローチに関する問題として、アクチュエーターのプライマリ制御、およびアクチュエーターのスリップ制御が異なる電子制御ユニット(ECU)に割り当てられるため、それらの間の通信に伴う遅延時間がスリップ制御性能を大幅に制限することが挙げられる。さらに、実際のスリップ制御を実現するために使用される2つのECUで行われる、関連のアクチュエーターおよびスリップの想定が一致しない可能性があり、したがって、これにより準最適な性能をもたらし得る。代わりに、VMMと、1つのMSDコントローラーまたは複数のMSDコントローラーとの間のインタフェースで車輪速度または車輪スリップベースの要求を使用することによって大きな利点を実現でき、困難なアクチュエーター速度制御ループをMSDコントローラーに移行し、MSDコントローラーは、一般に、VMM機能のサンプル時間と比較してかなり短いサンプル時間で動作する。そのようなアーキテクチャは、トルクベースの制御インタフェースと比較して、はるかに優れた外乱除去を提供できるため、タイヤと道路との接触面で生成された力の予測可能性が向上する。
【0061】
図6を再度参照すると、逆タイヤモデルブロック640は、MSD調整ブロックによって各車輪または車輪のサブセットに対して判定された必要な車輪力Fxi、Fyiを等価車輪速度ωwiまたは車輪スリップλに変換する。これらの車輪速度またはスリップは、各々のMSDコントローラー530に送信される。MSDコントローラーは、例えばMSD調整ブロック630で制約として使用できる能力を報告する。トルク要求Tは、トルクを生成するMSDの一部または全てに対して発行され得ることに留意されたい。
【0062】
図6の制御システムは、また、制御エンベロープモジュール650も備える。このエンベロープ制御モジュールは、運動予測モジュール620からの予測車両状態s’を、制御エンベロープの設定された定義660と比較するように構成される。予測された車両状態がこの制御エンベロープを破る場合、制御エンベロープモジュール650は、VMM層520からTSM層510に報告される車両100の能力を制限する。これは、おそらく運転者を驚かせる何らかの予想外のイベントに応答して、車両の運転者が突然ハンドルを切る場合があることを意味する。しかしながら、この大きなステアリングホイール入力は、図6に概略的に示されるシステムを経由して伝播し、制御エンベロープモジュール650による制御エンベロープの予測違反をもたらし、その結果として、車両能力が制限される。この車両能力の低下は、車両の動作領域の範囲外に出てしまうことを回避するために、推進トルク、制動トルク、ステアリング角のいずれかが制限される、またはさらに減少することを意味する。したがって、運転者による強すぎる反応は、車両運動管理が行うことができる予測可能な領域内に車両運動を維持するために制限される。
【0063】
異なるMSDへの制御信号は、車輪スリップλ、車輪速度ω、または加えられたトルクTiのいずれかであり得ることに留意されたい。ステアリングコマンドは、ステアリング角δを含み得る。
【0064】
図7Aは、予測される車両状態s’の不確実性を推定することを含む運転シナリオを示す。車両100は現在時間t0に位置Aにあり、センサー信号を使用して、現在の車両状態s(t0)を推定する。この状態sは、ここでは、位置x、車両速度v、加速度a、全ての2次元ベクトルを含む。不確実性は、平均および共分散と関連付けられた多次元ガウス確率変数n(t0)としてモデル化される。現在の車両状態における一般的な不確実性は、不確実性楕円710によって示される。この不確実性は2次元以上を有することが認識されるため、これは単なる説明を目的としている。
【0065】
点Bでは、車両100は、さらに多くのセンサーデータ720を取得する。このセンサーデータは、当然、不確実性、つまり誤差分布にも関連付けられる。このセンサー誤差は、現在の車両状態の推定に影響を与える。さらにセンサーデータ730は点Cで取得される。
【0066】
車両は将来の車両状態を継続的に予測する。例えば、車両が点Cにあるとき、時間t1(D点に対応する時間)における車両状態を予測できる。この推定された将来の車両状態は、将来の状態の不確実性740と関連付けられ、これは、当然、予測モデル誤差、推定された現在の状態の誤差、および同様に運転者または車両制御システムによる想定された制御入力の誤差とともに増加する。
【0067】
構成された車両制御エンベロープは、一点鎖線750によって概略的に示される。不確実性楕円740がこの制御エンベロープの範囲外に出過ぎる場合、アクションはVUC130、140の一方または両方によってトリガーされる。
【0068】
将来の状態の不確実性は、例えば、カルマン(Kalman)フィルターまたは同様の最小平均二乗誤差(MMSE)フィルターによる外挿から取得できる。
【0069】
時間kまでのデータ入力が与えられた場合、サンプルk(または等価的に、離散時間インデックスk)におけるカルマンフィルターアルゴリズムの共分散行列推定値PK|Kは、下式のように判定される。
【数2】
ここで、
【数3】
であり、PK|K―1は、時間k-1までのデータが与えられた時間kにおける共分散行列推定値であり、Iは単位行列であり、Kは時間ステップkにおけるカルマンゲインであり、Hは時間ステップkにおける観測行列であり、Rは測定ノイズの想定された共分散行列、すなわち、Rは入力センサー信号の不確実性を表し、Fは時間ステップkにおける状態遷移行列であり、Qは時間ステップkにおけるプロセスノイズである。
【0070】
以下の関係式に留意されたい。
【数4】
この式を使用して、行列演算をn回繰り返して行うことによって、時間kからのn番目の時間ステップの不確実性を予測でき、Pk+n|k―1が与えられる。カルマンフィルターを使用する外挿は既知であるため、本明細書ではより詳細に説明しない。
【0071】
共分散行列Pk|kの推定値はセンサーデータの実際の実現には依存せず、誤差の分布およびプロセスの想定された統計にだけ依存することにも留意されたい。したがって、不確実性楕円体740は、上記の方程式を単に反復することによって判定できる。
【0072】
図7Aにおける一連の不確実性楕円体は、車両の初期状態s(t0)から開始し、位置(A)でP0|0から判定される関連付けられた不確実性楕円体710から、車両状態および関連の不確実性楕円体740と関連付けられた計画された軌道の終点位置(D)までを判定できる。
【0073】
車両制御エンベロープの範囲外で車両状態が実現される確率はQ関数を使用して評価され得る。単一変数の場合、下式を用いる。
【数5】
ベクトル状態変数の場合、多次元Q関数を使用する必要がある。近似計算を使用して、計算をより効率的にするためにQ関数を評価できる。Q関数に対するいくつかの異なる近似が知られている。例えば、Abramowitz, M. & Stegun, I.A. (1972). Handbook of Mathematical Functions. Dover, New York. p. 932を参照されたい。
【0074】
別の代替手段は、その変数が限界値以下になる確率が調整可能な閾値確率と等しくなるように、分位関数を使用して状態の限界値を判定する。
【0075】
図7Bは、将来の車両状態がどのように推定できるかについて、また、関連付けられた将来の車両状態の不確実性がどのように判定できるかについて別の例760を示す。この例は粒子フィルターの実施に基づいており、多数の粒子を使用して、車両状態を推定する。粒子770のそれぞれは、異なるセンサー誤差および運動予測誤差の実現を利用して実現および更新され、これは、粒子が時間の経過とともに分散することを意味する。粒子フィルターは一般に知られているため、本明細書ではより詳細に説明しない。推定される将来の車両状態の不確実性は、粒子の広がりによって与えられる。粒子群は、例えば、車両制御エンベロープを定義する境界ポリトープ(polytope)の範囲外に位置する粒子の数をカウントすることによって、車両制御エンベロープと比較できる。十分な粒子がこの境界ポリトープの範囲外にある場合、エンベロープを破ったとみなされ、車両を制御下に戻すための対策が取られる。
【0076】
図9は、上述の技術を例示するフローチャートである。図9は、図1に関連して上述した車両100またはいくつかの他のタイプの大型車両等の大型車両の運動を制御するための方法を示す。大型車両は任意の数の車両ユニットを備え得る。車両は、リジッドトラック、セミトレーラー、またはさらに1つ以上の台車ユニットを備えるマルチトレーラー車両であり得る。
【0077】
本方法は、現在の車両状態st0(例えば、図7Aのs(t0)によって例示される)を推定すること(S1)を含む。車両状態は、少なくとも速度vt0および加速度at0を含む。速度および加速度の両方は、車両ユニットの基準フレームにおける速度または加速度の方向も示す2次元ベクトルまたは3次元ベクトルであり得る。車両状態は、多くの場合、速度および加速度だけでなく、さらに多くのパラメーターを含む。例えば、ヨーモーメント、車輪スリップ、ステアリング角、横方向および/または縦方向の車輪力、車両コンポーネントの温度等も車両状態に含まれ得る。通常、車両状態は、連結車両のユニットごとに推定される。すなわち、トラクターは1つの状態と関連付けられ、トレーラーは別の状態と関連付けられる。2つの車両ユニット間に機械的連結部があるため、当然、2つの状態は関連する。
【0078】
推定された現在の状態は、現在の状態の不確実性と関連付けられる。この状態の不確実性は、確率密度関数(PDF)、累積密度関数(CDF)、尤度関数、または不確実性のレベルを示すいくつかの他の関数等の確率関数を使用して表され得る。例えば1~256の単純な値を使用して不確実性を示すこともできる。256は不確実性が高いことを意味し、1は確実性が非常に高いこと、すなわち推定された状態値の信頼性を意味する。車両状態の異なるパラメーターは、時間の経過とともに異なる不確実性値を有し得ることが認識される。例えば、速度は高い確実性で推定され得る一方、横方向の加速度はあまり確実ではない場合がある。図7Aの例のように、車両状態はベクトルとして見ることができ、不確実性は多次元の不確実性楕円によって視覚化される。
【0079】
いくつかの態様によれば、本方法は、1つ以上のセンサー入力信号と関連付けられた測定の不確実性に基づいて現在の状態の不確実性を判定すること(S12)を含む。例えば、VUC130、140は、センサーの現在の信頼性値を提供する各センサーのモデルを記憶し得る。例えば、レーダーセンサーは物体までの距離を高精度で推定することが可能であり得るが、角度を推定する精度は低くなる。したがって、状態パラメーターがレーダー情報に依存する場合、精度は、例えば車両速度および/または車両加速度を判定するために使用された車両ユニットおよび標的物体の相対位置に応じて変化し得る。車輪速度センサーは、トルクが加えられている期間中、対地上の車両ユニット速度を判定するとき、トルクが加えられることによって車輪スリップが発生するため、信頼できない場合がある。
【0080】
本明細書で説明される方法および技術は、トルク要求の代わりに、車輪スリップまたは車輪速度要求を異なるMSDに送信することを含む制御戦略と一緒に使用するのが最も有利である。次に、MSDは、高帯域幅の制御ループで車輪スリップを制御することによって、安定した縦力を生成することが可能である。したがって、いくつかの態様によれば、本方法は、車両100の1つ以上のMSDから車輪スリップ値および/または車輪速度値を要求することによって、車両100を制御すること(S7)を含む。
【0081】
本方法は、また、現在の車両状態st0および車両100の予測運動モデルに基づいて、将来の車両状態st1図7Aのs(t1)によって例示される)を推定すること(S2)も含み、将来の車両状態st1は将来の車両状態の不確実性と関連付けられる。将来の車両状態の推定は、いくつかの異なる方法で実施できる。カルマンフィルター外挿法および粒子フィルターを含む例は、上述したものであった。また、混合ガウスモデルも有利に使用され得る。運動予測は比較的よく研究されている分野であり、このテーマに関する多くの文献が入手可能である。したがって、運動予測自体については、本明細書ではより詳細に説明しない。
【0082】
近い将来の車両状態とその不確実性を推定した後、本方法は、図4に示されるように、この将来の車両状態が許容できないレベルのリスクと関連付けられるか、または車両の安全な運用設計領域内にあるかを判定する。
【0083】
随意に、本方法は、車両100の予測運動モデルと関連付けられた不確実性に基づいて将来の状態の不確実性を判定すること(S21)を含む。大型車両での使用に適したほとんどの予測運動モデルは、予測と関連付けられた信頼性尺度も出力する。例えば、カルマンフィルターの外挿法を使用して将来の車両状態を予測する場合、フィルターの共分散行列から、モデルの不確実性についての考えが与えられる。粒子フィルター予測子は、粒子の拡散における不確実性の自然な尺度を提供する。現在の車両状態の推定および運動予測の不確実性を組み合わせることから、不確実性の合計を取得できる。初期の車両状態推定値があまり良好でない場合、当然、将来の車両状態推定値も不正確になり、その逆も同様である。本方法は、また、混合ガウスモデル、GMM、確率密度関数として少なくとも部分的に将来の車両状態st1を推定すること(S24)を含み得る。
【0084】
上述したように、車両100は、複数の車両ユニット110,120を備える連結車両であり得る。この場合、本方法は、複数の車両ユニット110,120の車両ユニットごとに各々の将来の車両状態st1を個別に推定すること(S23)を含み得る。
【0085】
本方法は、また、1つ以上の運動支援装置(MSD)と関連付けられた制限された挙動に基づいて、将来の状態の不確実性を判定すること(S22)を含み得る。本方法は、例えば、少なくとも1つの車両トルクデバイスの動作に対して車輪スリップ限界を設定することと、次に、設定された車輪スリップ限界に基づいて車両力学と関連付けられたモデルを取得することとを含み得る。このように、車両のトルクデバイス(ブレーキまたは推進デバイス)が設定された車輪スリップを超えることはないと想定できるため、モデルは自動的に検証される。したがって、開示された方法は、車両力学の明示的なモデルを使用して、例えば緊急操作中の車両の挙動を分析することを可能にする。これは、明示的モデルはi)人間がより簡単に分析でき、ii)制御理論から確立された形式的手法を使用して緊急操作中の挙動を分析することを可能にするため、データによって暗黙的に与えられるモデルと比較して利点がある。したがって、本明細書に開示される方法は、例えば緊急操作の性能が検証されるとき、より効率的なデータの使用を提供する。本明細書で開示される方法と関連付けられた別の有益な効果は、例えば緊急操作中に横力を生成することが可能である能力が、車輪スリップの設定制限により維持されることである。これにより、必要なモデルの不確実性マージンが減るため、車両のODDが増加し、これが利点となる。
【0086】
図8のA~Cを参照すると、MSDの最大許容スリップの尺度は、以下のように判定できる。車両が何らかの運用設計ドメイン(ODD)と関連付けられると仮定する。例えば、速度vおよび道路曲率Qに対する制限、または車両による操縦に対するいくつかの他のタイプの制限が存在し得る。最大横加速度ay,maxは下式のように判定できる。
【数6】
ここで、vx,maxは車両の設定された速度制限または速度能力である。この横加速度は、タイヤ横力F(車両の質量特性に応じて変わる)になる。このタイヤ横力を使用して、最大許容スリップ限界340を見つけることができる。例えば車両のコーナリング応答を検討するとき、車軸上の全てのタイヤの効果を1つの仮想タイヤに結合するのに便利である。この仮定は、ワントラックモデル(またはシングルトラックモデル、自転車モデル)と呼ばれ、理解を容易にするだけでなく、重要な現象を取り込むこともできる。車両力学モデルを単一の軌道モデルに単純化することはよく知られており、本明細書では、より詳細に説明されない。横方向の車輪スリップSywは下式のように定義できる。
【数7】
ここで、VおよびVは、各々、横方向および縦方向の速度を示す。タイヤの横滑りSytは下式のように定義できる。
【数8】
ここで、Vはタイヤの並進速度を示す。縦滑りがない場合、v=RωおよびSyt=Sywである。車輪スリップ角αはSyw=tanαのように定義できる。タイヤの横滑りが小さい場合、図8Bに示されるように、タイヤ横力Fは、下式のようにモデル化され得る。
【数9】
ここで、Cは定数である。この定数はコーナリング剛性と呼ばれることもあり、例えば車輪スリップおよび垂直抗力Fに依存する。横力FはF*μを超える可能性はなく、μは摩擦係数である。車両を加速できる方法を判定することに関して、1つの駆動軸または複数の駆動軸にかかる軸荷重が特に重要である。多くの場合、駆動軸にかかる軸荷重が低いことは、車輪がより滑りやすくなることを意味する。
【0087】
車両のコーナリング剛性は、車輪スリップに制限を設定することによって検証できる車両モデルの例である。これは、少なくとも部分的に、車輪が深刻なスリップ状態に入るときコーナリング剛性のモデルが大幅に変化する一方、より単純なモデルが低いスリップ値、すなわちタイヤの横滑りが小さい場合には有効であると想定できるためである。許容可能な車輪スリップに制限を課すことによって、小さな車輪スリップに有効な車両特性の簡略化されたモデルを使用できることにも留意されたい。これにより、車両運動の予測が簡略化される。
【0088】
本方法は、さらに、車両の動作限界を表す車両制御エンベロープを定義すること(S3)を含む。車両制御エンベロープは、状態ベクトルの値を境界付けるポリトープ等、車両状態の範囲を定義する。
【0089】
推定された将来の車両状態st1および関連付けられた将来の車両状態の不確実性を車両制御エンベロープと比較すること(S4)によって、例えば、現在の運転者入力コマンドが動作サポートデバイスへの通過が可能になる場合、車両が危険な状況または予測不可能な状況に陥る危険性があるかを確認できる。将来の車両状態st1が制御エンベロープを破る確率が設定された閾値を上回る場合、車両制御ユニットは車両100の運動能力を制限する(S5)。この制限は、例えば、車両の新しい能力、または連結車両の特定の車両ユニットの新しい能力に関する報告を上位層の制御機能に送信することによって簡単に実施され得る。また、この制限は、この能力制限を制御アロケーターに直接送信することによっても実施できる。最初に、状況が危険になりつつあるが、過剰に危険ではないとき、TSMにだけ能力制限を送信することによって、次に、状況が実際に危険になったとき、制御アロケーターに能力制限を送信することによって、多段階の介入メカニズムを実装できる。
【0090】
複数の態様によれば、本方法は、将来の状態st1、または現在の車両状態st0から時間的に0.5~1.5秒進んだ状態を推定すること(S25)を含む。この期間(time horizon)は、現在の車両センサー技術および予測運動モデルを使用してサポートすることが可能であることが判明している。当然ながら、より長い期間およびより短い期間の両方とも使用できる。一般に、将来の車両状態の不確実性が考慮されるため、任意の期間を使用できる。使用する期間が長すぎる場合、不確実性が無限大になり、推定に正確な情報がないこと、すなわち、はるかに時間的に先の将来の車両状態に関連する情報が存在しないことを示す。
【0091】
将来の車両状態が制御エンベロープを破る危険性があるとき、様々なアクションがトリガーされ得る。例えば、本方法は、車両100の最大速度能力を制限すること(S51)、車両100の最大加速能力を制限すること(S52)、車両100のステアリング角能力を制限すること(S53)、車両100の最大ヨーモーメント能力を制限すること(S54)、特定の車両の車軸の能力を制限すること(S55)、および特定の車両の車輪の能力を制限すること(S56)、のいずれかを含み得る。
【0092】
本明細書に開示される方法は、また、将来の車両状態st1が制御エンベロープを破る確率が設定された閾値を上回ることに応答して、車両による補正アクションを行うこと(S6)を含み得る。この補正アクションは、例えば、MSD調整モジュールに伝達された所望の全体力を低減することを含み得る。
【0093】
図10は、VUC130、140のいずれか等、本明細書の説明の実施形態による制御ユニット1000のコンポーネントを、いくつかの機能ユニットに関して概略的に示す。この制御ユニット1000は連結車両1に含まれ得る。例えば、記憶媒体1030の形態のコンピュータープログラム製品に記憶されたソフトウェア命令を実行することが可能である、適切な中央処理装置CPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラー、デジタル信号プロセッサDSP等の1つ以上の任意の組み合わせを使用して、処理回路1010が提供される。処理回路1010は、さらに、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC、またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(field programmable gate array:FPGA)として提供され得る。
【0094】
特に、処理回路1010は、図9に関連して説明した方法等の動作またはステップのセットを制御ユニット1000に行わせるように構成される。例えば、記憶媒体1030は動作のセットを記憶し得、処理回路1010は記憶媒体1030から動作のセットを読み出し、制御ユニット1000に動作のセットを行わせるように構成され得る。動作のセットは、実行可能な命令のセットとして提供され得る。したがって、処理回路1010は、本明細書で開示される方法を実行するように構成される。
【0095】
例えば、記憶媒体1030は、また、磁気メモリ、光学メモリ、ソリッドステートメモリ、またはさらにリモートに搭載されたメモリのうちの任意の単一のものまたは組み合わせであり得る永続記憶装置を含み得る。
【0096】
制御ユニット1000は、さらに、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインタフェース1020を含み得る。したがって、インタフェース1020は、アナログコンポーネントおよびデジタルコンポーネントと、有線通信または無線通信のための適切な数のポートとを含む、1つ以上の送信機および受信機を含み得る。
【0097】
処理回路1010は、例えば、インタフェース1020および記憶媒体1030にデータおよび制御信号を送信することによって、インタフェース1020からデータおよび報告を受信することによって、ならびにデータおよび命令を記憶媒体1030から読み出すことによって、制御ユニット1000の通常の動作を制御する。制御ノードの他のコンポーネントおよび関連する機能は、本明細書で提示される概念を不明瞭にしないために省略される。
【0098】
図11は、該プログラム製品がコンピューター上で起動するとき、図9に示される方法を行うためのプログラムコード手段1120を備えるコンピュータープログラムを保持するコンピューター可読媒体1110を示す。コンピューター可読媒体およびコード手段は、一緒に、コンピュータープログラム製品1100を形成し得る。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型車両(100)の動作を制御するための方法であって、
少なくとも速度(vt0)および加速度(at0)を含む現在の車両状態(st0)を推定すること(S1)であって、前記推定された現在の車両状態は現在の車両状態の不確実性と関連付けられる、前記推定すること(S1)と、
1つ以上のセンサー入力信号と関連付けられた測定の不確実性に基づいて、前記現在の車両状態の不確実性を判定すること(S12)と、
前記現在の車両状態(st0)および前記車両(100)の予測運動モデルに基づいて、将来の車両状態(st1)を推定すること(S2)であって、前記将来の車両状態(st1)は将来の車両状態の不確実性と関連付けられる、前記推定すること(S2)と、
前記車両の動作限界を表す車両制御エンベロープを定義すること(S3)であって、前記車両制御エンベロープは車両状態の範囲を定義すること(S3)と、
前記推定された将来の車両状態(st1)および前記関連付けられた将来の車両状態の不確実性を、前記車両制御エンベロープと比較すること(S4)と、
前記将来の車両状態(st1)が前記制御エンベロープを破る確率が設定された閾値を上回る場合、前記車両(100)の運動能力を制限すること(S5)と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記車両状態は、車輪スリップ(S11)、車軸横滑り、横方向及び/または縦方向の車輪力、ならびにヨー運動のいずれかも含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記車両(100)の前記予測運動モデルと関連付けられた不確実性に基づいて、前記将来の車両状態の不確実性を判定すること(S21)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1つ以上の運動支援装置MSDと関連付けられた制限された挙動に基づいて、前記将来の車両状態の不確実性を判定すること(S22)を含む、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記車両(100)は複数の車両ユニット(110,120)を備える連結車両であり、
前記方法は、さらに、前記複数の車両ユニット(110,120)の車両ユニットごとに、各々の前記将来の車両状態(st1)を個別に推定すること(S23)を含む、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
混合ガウスモデル、GMM、確率密度関数として少なくとも部分的に前記将来の車両状態(st1)(複数可)を推定すること(S24)を含む、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記現在の車両状態(st0)から時間的に0.5~1.5秒進んだ前記将来の車両状態(st1)(複数可)を推定すること(S25)を含む、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記車両(100)の最大速度能力を制限すること(S51)を含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記車両(100)の最大加速能力を制限すること(S52)を含む、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記車両(100)の最大ステアリング角能力を制限すること(S53)を含む、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記車両(100)の最大ヨーモーメント能力を制限すること(S54)を含む、請求項1~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
特定の車軸の能力を制限すること(S55)を含む、請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
特定の車輪の能力を制限すること(S56)を含む、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記将来の車両状態(st1)が前記制御エンベロープを破る前記確率が設定された閾値を上回ることに応答して、前記車両による補正アクションを行うこと(S6)を含み、
前記補正アクションは、MSD調整モジュールに伝達された所望の全体力を減少させることを含む、請求項1~13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記車両(100)の1つ以上のMSDから車輪スリップ値および/または車輪速度値を要求することによって、前記車両(100)を制御すること(S7)を含む、請求項1~14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
コンピューターで、または制御ユニット(1100)の処理回路(1110)で実行されるとき、請求項1~15のいずれかのステップを行うためのプログラムコード手段を含むコンピュータープログラム(1120)。
【請求項17】
前記プログラム製品がコンピューターまたは制御ユニット(1100)の処理回路(1110)で実行されるとき、請求項1~15のいずれかのステップを行うためのプログラムコード手段を含む、コンピュータープログラム(1120)を保持するコンピューター可読媒体(1110)。
【請求項18】
連結車両(1)の許容可能な車両状態空間を判定するための制御ユニット(1000)であって、請求項1~15のいずれかに記載の方法のステップを行うように構成される、前記制御ユニット(1000)。
【請求項19】
請求項18に記載の制御ユニット(1000)を備える、車両(100)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
また、国際公開第2020/224778号には、所定の車両制御コマンドが安全に実行できるかどうかを判断する方法が開示されている。
それでも、大型車両の運動管理のための方法の改善の必要性が顕著に存在する。
【国際調査報告】