(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】GLP-1受容体作動薬を経口投与するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/26 20060101AFI20240227BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240227BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240227BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240227BHJP
C07K 14/605 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K38/26 ZNA
A61P3/10
A61P1/16
A61P3/04
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/22
A61K47/18
C07K14/605
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553342
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 IB2022051623
(87)【国際公開番号】W WO2022185155
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523331625
【氏名又は名称】ベニス, ファリド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ベニス, ファリド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076BB01
4C076CC21
4C076DD24Z
4C076DD25Z
4C076DD26Z
4C076DD41Z
4C076DD42Z
4C076DD43Z
4C076DD49Z
4C076DD50Z
4C076DD51Z
4C076DD60Z
4C076FF65
4C084AA02
4C084AA03
4C084DB35
4C084MA16
4C084MA34
4C084MA52
4C084NA03
4C084ZA70
4C084ZA75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA18
4H045BA19
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA30
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、疾患、特に代謝疾患の経口治療において薬剤として使用するための医薬組成物であって、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬、および上記医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系を含む医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の経口治療において薬剤として使用するための医薬組成物であって、
(i)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分、および
(ii)上記医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系
を含む医薬組成物。
【請求項2】
上記医薬組成物は、消化酵素による分解から上記タンパク質有効成分を保護することができる追加の化合物を含まない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
上記GLP-1受容体作動薬は、GLP-1、GLP-1類似体、エクセンディン-4、またはエクセンディン-4類似体より選択される、請求項1または2の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
上記疾患は、2型糖尿病、非アルコール性脂肪性肝炎、および/または肥満などの代謝疾患である、請求項1~3の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
上記GLP-1受容体作動薬は、(a)GLP-1、またはリラグルチド、デュラグルチド、アルビグルチド、およびセマグルチド、好ましくはセマグルチドより選択されるGLP-1類似体、あるいは(b)エクセナチドおよびリキシセナチドより選択されるエクセンディン-4またはエクセンディン-4類似体である、請求項1~4の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
上記組成物は液体形態または固体形態である、請求項1~5の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
上記医薬組成物を緩衝することができる系は、リン酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フタル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、イミダゾール、テトラブチルアンモニウム、トリヒドロキシメチルアミノメタン、トリス-グリシン、重炭酸塩、バルビタール、トリス-EDTA BSA、銅、および双性イオン性硫酸塩より選択される、請求項1~6の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
上記医薬組成物を緩衝することができる系によって、4.5~7.5の範囲、優先的には5~7の範囲、さらにより好ましくは6~7の範囲のpHを得ることができる、請求項1~7の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
上記医薬組成物を少なくとも1種の消化酵素と接触させた際に、上記医薬組成物を緩衝することができる系は、少なくとも70%、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%の上記タンパク質有効成分を上記消化酵素による分解から保護することができる、請求項1~8の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
上記医薬組成物を2~5mg/mlのペプシンと1時間接触させた際に、上記医薬組成物を緩衝することができる系は、少なくとも70%の上記タンパク質有効成分を上記ペプシンによる分解から保護することができる、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
上記組成物はインスリン、その誘導体、またはその類似体を含まず、かつ/または上記組成物は他のタンパク質有効成分を含まない、請求項1~10の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
上記組成物は固体形態の組成物であり、
(i)上記医薬組成物の総質量に対して0.5~20質量%のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)上記医薬組成物の総質量に対して10~60質量%の無水クエン酸モノナトリウム、
(iii)上記医薬組成物を緩衝することができる系の総質量に対して20~95質量%の重炭酸ナトリウム、
(iv)上記医薬組成物の総質量に対して0.5~20質量%の安息香酸ナトリウム、および
(v)上記医薬組成物の総質量に対して0.0001~5質量%、好ましくは0.001~1.5質量%、好ましくは0.001~1質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%、さらにより好ましくは0.05~0.5質量%の上記GLP-1受容体作動薬、好ましくはセマグルチドを含む、請求項1~11の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
上記組成物は固体形態の組成物であり、
(i)120ミリグラム(mg)のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)1142mgの無水クエン酸モノナトリウム、
(iii)2076mgの重炭酸ナトリウム、
(iv)157mgの安息香酸ナトリウム、および
(v)0.5~100mg、好ましくは0.5~40mg、より好ましくは1~50mgのGLP-1作動薬、好ましくはセマグルチドを含む、請求項1~12の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~13の何れか一項に記載の組成物を調製する方法であって、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分を、上記医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系と混合する、方法。
【請求項15】
疾患の経口治療において薬剤として使用するための試薬キットであって、
(i)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分を含む固体形態の医薬組成物、および
(ii)緩衝系を含む医薬組成物であって、上記組成物(i)および(ii)が溶液中で混合されると、上記タンパク質有効成分を含む上記医薬組成物(i)のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる緩衝系を含む医薬組成物
を含む試薬キット。
【請求項16】
上記試薬キットは、上記医薬組成物(i)の上記タンパク質有効成分を消化酵素による分解から保護することができる追加の化合物を含まない、請求項15に記載の試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患の経口治療において薬剤として使用するための医薬組成物であって、(i)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分、および(ii)上記医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「グルカゴン様ペプチド-1」すなわち「GLP-1」は、インクレチン、つまり、食物の摂取に応じて腸内分泌腺細胞により分泌される腸ホルモンである。GLP-1は、脾臓β細胞に特異的なGLP-1受容体に結合することによりグルコースのホメオスタシスを調節する。GLP-1受容体の活性化の主な生物学的効果は、グルコース依存性インスリン分泌の刺激、食後のグルカゴン分泌の阻害(所謂、グルコース依存性作用)、胃内容排出の減速、および胃酸分泌の阻害(所謂、満腹作用)である。GLP-1、すなわち、GLP-1(7-36)およびGLP-1(7-37)の生物学的な活性形態は、初期生成物GLP-1(1-37)のタンパク質分解開裂後に得られる。
【0003】
GLP-1は、高血糖の制御および2型糖尿病の治療において強い治療的関心が寄せられている。しかしながら、GLP-1、すなわち、GLP-1(7-36)およびGLP-1(7-37)の活性形態は、血清酵素DPP-4(ジペプチルペプチダーゼ4)による急速な不活性化により非常に存続期間が短い。
【0004】
このDPP-4によるGLP-1の不活性化に関する制約を克服するために、薬剤としてGLP-1類似体およびエクセンディン4類似体(エクセナチド)という2つのクラスのGLP-1受容体作動薬が開発された。それにもかかわらず、これらGLP-1受容体作動薬は、消化酵素(例えば、胃ではペプシン、腸ではトリプシン)に対して分解されやすいままであり、これは経口経路によるこれらの投与においては欠点である。
【0005】
したがって、GLP-1受容体作動薬は非経口投与される。オゼンピック(R)は、セマグルチドを含む注射可能な形態の薬剤である。バイエッタ(R)製品もまた、注射可能な形態で提供される薬剤であり、エクセナチドを含む。しかしながら、この投与経路は技術的な制限があり、特に毎日投与する場合に、経口経路よりも患者の快適さに劣る。非経口投与もまた、患者の服薬遵守の問題がある。
【0006】
文献に記載されているGLP-1受容体作動薬の経口投与用製剤は、一般に、消化酵素による分解からGLP-1受容体作動薬を保護することができる化合物を含む。例えば、これは、文献US2011/0046053に記載の製剤の場合であり、該製剤は、エクセナチドをトリプシン阻害剤、EDTA、および魚油と共に投与するための経口または直腸組成物である。この組成物は、胃での消化を阻害し、したがってタンパク質有効成分を分解から保護することができるコーティングを含む。他の文献には、重合体粒子にGLP-1受容体作動薬を組み込むことや(WO2020/028907)、プロテアーゼを阻害し、よって消化酵素による分解を防ぐために、銅、鉄、または亜鉛などの鉱物と吸収活性剤との併用が記載されている(WO2017/060500)。
【0007】
文献WO2012/080471には、GLP-1受容体作動薬と、SNAC(すなわちN-(8-(2ヒドロキシベンゾイル)アミノ)カプリル酸の塩)と呼ばれるキャリア剤とを含む固体組成物の経口投与用薬剤としての使用が記載されている。SNAC化合物によって、胃を通過する際に消化酵素を阻害することによりGLP-1受容体作動薬を保護し、その吸収を向上させることができる。製品リベルサス(R)は特に、SNAC化合物と組み合わせてセマグルチドを含み、経口投与に適応される。
【0008】
しかしながら、消化管を通過する作動薬を特にペプシンなどの消化酵素から最適に保護することを保証できる、GLP-1受容体作動薬の経口投与に好適な新規な組成物を開発する必要が依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって、本発明は、医薬品分野における応用を見出したものであり、消化酵素による分解からGLP-1受容体作動薬を保護することができる医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の側面によれば、本発明は、疾患の経口治療において薬剤として使用するための医薬組成物であって、(i)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分、および(ii)上記医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系を含む医薬組成物に関する。
【0011】
第二の側面によれば、本発明は、本発明による組成物を調製する方法であって、GLP-1受容体作動薬であるタンパク質有効成分を、上記医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系と混合する、方法に関する。
【0012】
第三の側面によれば、本発明は、疾患の経口治療において薬剤として使用するための試薬キット(部品キットとも呼ばれる)であって、
(i)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分を含む固体形態の医薬組成物、および
(ii)緩衝系を含む医薬組成物であって、上記組成物(i)および(ii)が溶液中で混合されると、上記タンパク質有効成分を含む上記医薬組成物(i)のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる緩衝系を含む医薬組成物を含む試薬キットに関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
【0014】
用語「医薬組成物」は、医薬用途に好適な組成物を意味する。医薬組成物は、1種以上の医薬的に許容可能な賦形剤を含むことができる。
【0015】
用語「医薬的に許容可能な賦形剤」は、希釈剤、アジュバント、または担体、例えば、保存料、充填剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、溶媒、分散剤、潤滑剤、抗バクテリアおよび抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、およびこれらの類似体を意味する。これら医薬的に許容可能な賦形剤はいずれも、本発明による医薬組成物においてタンパク質有効成分を消化酵素による分解から保護することはできないことが理解される。
【0016】
用語「経口治療」は、消化管を介した投与を意味する。
【0017】
用語「タンパク質有効成分」は、タンパク質またはペプチドなど、ペプチド結合によって互いに結合したアミノ酸残基の配列からなる有効成分を指す。
【0018】
用語「GLP-1受容体作動薬」は、部分的または完全にGLP-1受容体を活性化させるタンパク質有効成分を指す。GLP-1受容体作動薬は、1μM未満、例えば100nMの親和性定数(Kd)でGLP-1受容体に結合することができる。親和性定数は、例えば、WO98/08871に記載された従来の方法を用いて測定される。GLP-1受容体作動薬を同定する方法は、(i)GLP-1受容体をGLP-1受容体作動薬候補と接触させること、および(ii)GLP-1受容体の活性化に関連した1つ以上の生物学的活性の検出可能な変化を測定することを含んでいてもよい。GLP-1受容体作動薬は、GLP-1、GLP-1類似体、エクセンディン-4(「エクセナチド」としても知られている)、および/またはエクセンディン-4類似体から選択されてもよい。好ましくは、GLP-1受容体作動薬は、(a)GLP-1、またはリラグルチド、デュラグルチド、アルビグルチド、およびセマグルチド、好ましくはセマグルチドより選択されるGLP-1類似体、あるいは(b)エクセナチドおよびリキシセナチドより選択されるエクセンディン-4またはエクセンディン-4類似体である。
【0019】
用語「GLP-1」は、GLP-1(1-37)形態、GLP-1(7-37)形態、またはGLP-1(7-36)形態に対応する。ヒトまたは動物由来のGLP-1であってもよく、例えば、ヒトGLP-1の(1-37)形態に対応する配列番号1のアミノ酸配列のGLP-1、ヒトGLP-1の(7-36)形態に対応する配列番号2のアミノ酸配列のGLP-1、またはヒトGLP-1の(7-37)形態に対応する配列番号3のアミノ酸配列のGLP-1であってもよい。
【0020】
「GLP-1類似体」は、他のアミノ酸によって置換された1種以上のアミノ酸、および/または1種以上の削除されたアミノ酸、および/または1種以上の付加されたアミノ酸を有するアミノ酸配列のGLP-1を指す。一般に、GLP-1類似体は、対応するGLP-1との配列相同性が少なくとも90%である。GLP-1類似体はまた、アシル化、アルキル化、還元、酸化、または架橋などにより修飾された1種以上のアミノ酸を含むことができる。GLP-1類似体はまた、そのGLP-1類似体の半減期を増加させることができる分子、例えば、免疫グロブリンGのFc断片、アルブミン、脂肪酸、および/またはポリエチレングリコール(PEG)に融合していてもよい。GLP-1類似体は、リラグルチド、デュラグルチド、アルビグルチド、およびセマグルチド、優先的にはセマグルチドより選択することができる。
【0021】
リラグルチドは、アルギニン34がリジンによって置換され、かつ位置26がC16型の脂肪酸で修飾されているヒトGLP-1の(7-37)形態に対応する。
【0022】
デュラグルチドは、IgG4のFc断片に融合させたヒトGLP-1の(7-37)形態である。
【0023】
アルビグルチドは、ヒトGLP-1の(7-36)形態の二量体とヒトアルブミンとの融合から得られる。この二量体の2つのヒトGLP-1の(7-36)形態はそれぞれ、位置2にアラニンに代えてグリシンを有する。
【0024】
セマグルチドは、位置8および34が変異しているヒトGLP-1の(7-37)形態に対応する。
【0025】
用語「エクセンディン-4」は、大トカゲ「アメリカドクトカゲ」の唾液腺に存在する39個のアミノ酸のタンパク質を指す。エクセナチドは、エクセンディン-4の組み換え形態または合成形態である。エクセナチドはDPP4活性に耐性がある。
【0026】
用語「エクセンディン-4類似体」は、他のアミノ酸によって置換された1種以上のアミノ酸、および/または1種以上の削除されたアミノ酸、および/または1種以上の付加されたアミノ酸を有するアミノ酸配列のエクセンディン-4を指す。エクセンディン-4類似体はまた、アシル化、アルキル化、還元、酸化、または架橋などにより修飾された1種以上のアミノ酸を含んでいてもよい。エクセンディン-4類似体はまた、そのエクセンディン-4類似体の半減期を増加させることができる分子、例えば、免疫グロブリンGのFc断片、アルブミン、脂肪酸、および/またはポリエチレングリコール(PEG)に融合していてもよい。エクセンディン-4類似体は、例えば、リキシセナチドであり得る。リキシセナチドは44個のアミノ酸を含んでおり、プロリン38がなく、かつ6個のリジン残基が付加されたエクセンディン-4に対応する。
【0027】
本発明の文脈において、表現「上記医薬組成物を緩衝することができる系」は、特に胃媒体および腸媒体において、医薬組成物に緩衝効果を及ぼすことができる系を指す。
【0028】
表現「消化酵素による分解からタンパク質有効成分を保護することができる追加の化合物」は、消化酵素による分解からタンパク質有効成分を保護して、消化過程中に胃液および/または膵液に存在する消化酵素(例えばプロテアーゼ、優先的には、ペプシン、トリプシン、またはキモトリプシン、特にペプシンより選択されるプロテアーゼ)によるタンパク質有効成分の分解を防ぐことができる、上記医薬組成物を緩衝することができる系以外の化合物を指す。
【0029】
本発明は、消化酵素による分解からのGLP-1受容体作動薬の保護に対して医薬組成物を緩衝することができる系が及ぼす効果についての本発明者らによって示された驚くべき利点に基づくものである。
【0030】
医薬組成物
【0031】
第一の側面によれば、本発明は、疾患の経口治療において薬剤として使用するための医薬組成物であって、(i)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分、および(ii)上記医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系を含む医薬組成物に関する。
【0032】
上記疾患は、2型糖尿病、非アルコール性脂肪性肝炎(NASHという)、および/または肥満などの代謝疾患であり得る。好ましくは、上記疾患は2型糖尿病である。特に、肥満の治療という文脈では、本発明による組成物は、食欲を減退させ、満腹感を誘発することができ、その結果、食物の摂取が低減する。
【0033】
医薬組成物を緩衝することができる系によって、pHが4~8の範囲、例えば、4.5~7.5の範囲、5~7の範囲、5.5~7の範囲、6~7の範囲である医薬組成物を得ることができる。特に好ましくは、医薬組成物を緩衝することができる系によって、pHが6.5~7の範囲である医薬組成物を得ることができる。
【0034】
この系は、消化酵素、例えばプロテアーゼ、優先的には、ペプシン、トリプシン、またはキモトリプシン、特にペプシンから選択されるプロテアーゼによる分解からタンパク質有効成分を保護することができる。本発明の文脈では、医薬組成物を緩衝することができる系による保護は、胃腸環境における消化酵素の効果の不活性化に対応する。
【0035】
タンパク質有効成分の保護は、HPLCなどによる有効成分の構造分析によって測定することができる。タンパク質有効成分の保護はまた、タンパク質有効成分の生物学的活性を測定することなどによって、その有効成分の機能分析により測定することができる。タンパク質有効成分の生物学的活性は、GLP-1受容体に及ぼす作動薬の効果の測定など、機能試験を実施することなどによって、GLP-1受容体に及ぼすその効果を観察することで容易に決定することができる。GLP-1受容体に及ぼす作動薬の効果の測定は、例えば、ハムスター腎臓細胞で環状AMPの産生を測定することによって行うことができる。
【0036】
本出願の実施例では、タンパク質有効成分の保護はHPLCにより測定される。
【0037】
本発明による組成物に存在するタンパク質有効成分、すなわちGLP-1受容体作動薬の量は、治療する疾患の当業者によって調整することができる。本発明による医薬組成物は、医薬組成物の総質量に対して0.0001~5質量%、好ましくは0.001~1.5質量%、好ましくは0.001~1質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%、さらにより好ましくは0.05~0.5質量%、例えば、0.08質量%、0.2質量%、0.4質量%、0.7質量%、または1.4質量%のGLP-1受容体作動薬を含んでいてもよい。例えば、本発明による医薬組成物は、医薬組成物の総質量に対して0.08質量%、0.2質量%、0.4質量%、0.7質量%、または1.4質量%のセマグルチドを含む。
【0038】
有利には、医薬組成物を少なくとも1種の消化酵素に接触させた際に、上記系は、上記消化酵素による分解から(構造分析または機能分析によれば)少なくとも70%、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%のタンパク質有効成分を保護することができる。100%のタンパク質有効成分の保護は、全く分解されておらず、その生物学的活性をすべて保持しているタンパク質有効成分に対応する。70%のタンパク質有効成分の保護は、30%分解された有効成分に対応する。すなわち、タンパク質有効成分を含む組成物において、70%のタンパク質有効成分が分解されず、30%のタンパク質有効成分が分解されている。0%のタンパク質有効成分の保護は、完全に分解され、その生物学的活性をすべて失った有効成分に対応する。有利には、医薬組成物を2~5mg/mLのペプシン、例えば3.2mg/mLのペプシンに1時間または2時間接触させた際などに、上記系は、ペプシンによる分解から少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%のタンパク質有効成分を保護することができる。
【0039】
医薬組成物を緩衝することができる系は、ヨーロッパ薬局方現行版(モノグラフ4.1.3)に示される緩衝系のリストから選択することができる。好ましくは、本発明による医薬組成物を緩衝することができる系は、以下の緩衝剤:リン酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フタル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、(例えば無水クエン酸モノナトリウム)、イミダゾール、テトラブチルアンモニウム、トリヒドロキシメチルアミノメタン、トリス-グリシン、重炭酸塩(例えば重炭酸ナトリウム)、バルビタール、トリス-EDTA BSA、銅、および双性イオン性硫酸塩より選択される。医薬組成物を緩衝することができる系は、有利には、リン酸緩衝液(リン酸モノナトリウム二水和物など)、クエン酸緩衝液(無水クエン酸モノナトリウムなど)、および重炭酸緩衝液(重炭酸ナトリウムなど)を含む。特定の一実施形態では、医薬組成物を緩衝することができる系は、リン酸緩衝液(リン酸モノナトリウム二水和物など)、クエン酸緩衝液(無水クエン酸モノナトリウムなど)、および重炭酸緩衝液(重炭酸ナトリウムなど)からなる。
【0040】
本発明による医薬組成物は、医薬組成物の総質量に対して5~99質量%、好ましくは10~80質量%、特に20~50質量%、例えば、30質量%、35質量%、40質量%、45質量%、55質量%、60質量%、65質量%、70質量%、75質量%、80質量%の、組成物を緩衝することができる系を含んでいてもよい。本発明の他の実施形態では、本発明による医薬組成物は、医薬組成物の総質量に対して50~99質量%、好ましくは70~99質量%、特に80~99質量%、例えば、85質量%、90質量%、95質量%、98質量%の、組成物を緩衝することができる系を含んでいてもよい。
【0041】
特定の一実施形態では、医薬組成物を緩衝することができる系は、
(i)医薬組成物を緩衝することができる系の総質量に対して0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)医薬組成物を緩衝することができる系の総質量に対して10~60質量%、好ましくは20~50質量%、より好ましくは30~45質量%の無水クエン酸モノナトリウム、および
(iii)医薬組成物を緩衝することができる系の総質量に対して20~95質量%、好ましくは40~80質量%、より好ましくは50~70質量%の重炭酸ナトリウムを含む。
【0042】
非常に特定の一実施形態では、医薬組成物を緩衝することができる系は、
(i)医薬組成物を緩衝することができる系の総質量に対して約5質量%のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)組成物を緩衝することができる系の総質量に対して約35質量%の無水クエン酸モノナトリウム、および
(iii)医薬組成物を緩衝することができる系の総質量に対して約60質量%の重炭酸ナトリウムを含む。
【0043】
好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、消化酵素による分解からタンパク質有効成分を保護することができる追加の化合物を含まない。この実施形態では、したがって、医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系は、消化酵素による分解からタンパク質有効成分を保護する能力を有する、医薬組成物に存在する唯一の化合物である。特に、本発明による医薬組成物は、物理的な保護系、例えば、コーティング、マトリックス、カプセル壁、例えばタンパク質有効成分を包んで消化酵素による分解から保護するリポソームを含まない。特に、本発明による医薬組成物は、例えば、鉱物、SNAC化合物、ペプスタチン、ジアゾケトン、アルギン酸塩、および/または大豆抽出物など、消化酵素の作用を阻害することができる化合物を含まない。
【0044】
好ましくは、本発明による組成物は、インスリン、その誘導体の1種、またはその類似体の1種などの他のタンパク質有効成分を何れも含まない。
【0045】
組成物は固体形態または液体形態であり得る。
【0046】
組成物が固体形態である場合、本発明による医薬組成物を経口摂取した後に胃などで溶解されると医薬組成物を緩衝することができる系を含む。固体組成物は、例えば、錠剤、特に、分散錠剤、口腔内分散錠剤、発泡性錠剤、丸薬、粉末、発泡性粉末、顆粒、発泡性顆粒、または凍結乾燥物の形態であり得る。好ましくは、組成物は発泡性形態であり、有利には発泡性錠剤の形態である。
【0047】
特定の一実施形態において、組成物が固体形態である場合、医薬組成物を緩衝することができる系は、
(i)医薬組成物の総質量に対して0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)医薬組成物の総質量に対して10~60質量%、好ましくは20~50質量%、より好ましくは30~45質量%の無水クエン酸モノナトリウム、および
(iii)医薬組成物を緩衝することができる系の総質量に対して20~95質量%、好ましくは40~80質量%、より好ましくは50~70質量%の重炭酸ナトリウムを含む。
【0048】
非常に特定の一実施形態において、組成物が固体形態である場合、医薬組成物を緩衝することができる系は、
(i)医薬組成物の総質量に対して約3.5質量%のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)医薬組成物の総質量に対して約32質量%の無水クエン酸モノナトリウム、および
(iii)医薬組成物の総質量に対して約59質量%の重炭酸ナトリウムを含む。
【0049】
本発明の非常に好ましい一実施形態において、組成物が固体形態である場合、本発明による医薬組成物は、
(i)医薬組成物の総質量に対して0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%、例えば3.5質量%のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)医薬組成物の総質量に対して10~60質量%、好ましくは20~50質量%、より好ましくは30~45質量%、例えば32質量%の無水クエン酸モノナトリウム、
(iii)医薬組成物を緩衝することができる系の総質量に対して20~95質量%、好ましくは40~80質量%、より好ましくは50~70質量%、例えば59質量%の重炭酸ナトリウム、
(iv)医薬組成物の総質量に対して0.5~20質量%、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~5質量%、例えば4.5質量%の安息香酸ナトリウム、および
(v)医薬組成物の総質量に対して0.0001~5質量%、好ましくは0.001~1.5質量%、好ましくは0.001~1質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%、さらにより好ましくは0.05~0.5質量%、例えば、0.08質量%、0.2質量%、0.4質量%、0.7質量%、または1.4質量%のGLP-1受容体作動薬、好ましくはセマグルチドを含む。
【0050】
本発明の好ましい一実施形態において、組成物が固体形態、例えば発泡性錠剤の形態である場合、本発明による医薬組成物は、
(i)120ミリグラム(mg)のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)1142mgの無水クエン酸モノナトリウム、
(iii)2076mgの重炭酸ナトリウム、
(iv)157mgの安息香酸ナトリウム、および
(v)0.5~100mg、好ましくは0.5~40mg、より好ましくは1~50mg、より好ましくは3、7、14、25、または50mgのGLP-1受容体作動薬、好ましくはセマグルチドを含む。
【0051】
本発明による医薬組成物が固体形態である場合に、医薬組成物が消化酵素による分解からタンパク質有効成分を保護することができる追加の化合物を含んでいなくてもいいとした場合、医薬組成物は腸溶性コーティングを有さない。
【0052】
組成物が液体形態である場合、組成物は、溶質、懸濁液、またはシロップの形態であり得る。
【0053】
医薬組成物は、選択された組成物の形態に適合する1種以上の医薬的に許容可能な賦形剤を含んでいてもよい。
【0054】
本発明による組成物は、タンパク質有効成分と、医薬組成物を緩衝することができる系とを別々に含んでいてもよい。この実施形態では、タンパク質有効成分および医薬組成物を緩衝することができる系は、タンパク質有効成分が消化系を通過する際に本発明による組成物が緩衝されるように共に投与される。
【0055】
特定の一実施形態では、本発明による使用のための組成物は、(i)発泡性錠剤の形態の医薬組成物を緩衝することができる系、および(ii)錠剤、例えば発泡性錠剤の形態のタンパク質有効成分から調製される。そして、これら2つの錠剤を溶液中で混合して、本発明の使用のための組成物を形成する。
【0056】
他の実施形態によれば、本発明による組成物は、単位形態で製剤化することができる。すなわち、タンパク質有効成分および医薬組成物を緩衝することができる系は共に製剤化される。
【0057】
方法
【0058】
第二の目的によれば、本発明は、本発明による医薬組成物を調製する方法であって、GLP-1グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分を、上記医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系と混合する、方法に関する。
【0059】
このような組成物の調製は、文献に記載されている従来の方法にしたがって行われる。本発明による医薬組成物の特定の調製様式について、実施例で詳細に記載する。
【0060】
固体形態または液体形態の医薬組成物の調製は、文献に記載されている従来の方法を用いて行われる。
【0061】
固体形態の組成物の調製は、GLP-1受容体作動薬より選択されたタンパク質有効成分を、医薬組成物のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる系と混合することを含む。そして、緩衝系は、本発明による医薬組成物を経口摂取した後に胃などで溶解されると固体形態の組成物を緩衝することができる。
【0062】
上記、特に「医薬組成物」の箇所で記載したような医薬組成物の特徴は、本発明による方法に適用することができる。
【0063】
試薬キット(または部品キット)
【0064】
第三の目的によれば、本発明は、疾患の経口治療において薬剤として使用するための試薬キット(部品キットとも言われる)であって、
(i)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるタンパク質有効成分を含む固体形態の医薬組成物、および
(ii)緩衝系を含む医薬組成物であって、上記組成物(i)および(ii)が溶液中で混合されると、上記タンパク質有効成分を含む上記医薬組成物(i)のpHを4~8の範囲の値に緩衝することができる緩衝系を含む医薬組成物を含む試薬キットに関する。
【0065】
上記疾患は、2型糖尿病、非アルコール性脂肪性肝炎(非アルコール性脂肪性肝炎をNASHと言う)、および/または肥満などの代謝疾患であり得る。好ましくは、上記疾患は2型糖尿病である。特に、肥満治療の文脈では、本発明による試薬キット(または部品キット)によって、食欲を減退させ、満腹感を誘発することができ、その結果、食物の摂取が低減する。
【0066】
本発明による試薬キットの文脈では、組成物(i)および(ii)が溶液中で混合されると、緩衝系を含む医薬組成物(ii)は、タンパク質有効成分を含む医薬組成物(i)のpHを4~8の範囲の値、例えば、4.5~7.5の範囲の値、5~7の範囲の値、5.5~7の範囲の値、6~7の範囲の値に緩衝することができる。特に好ましくは、組成物(i)および(ii)が溶液中で混合されると、緩衝系を含む医薬組成物(ii)は、タンパク質有効成分を含む医薬組成物(i)のpHを6.5~7の範囲の値に緩衝することができる。
【0067】
溶液中で医薬組成物(i)と混合される際、試薬キットの医薬組成物(ii)の緩衝系は、消化酵素、例えばプロテアーゼ、好ましくは、ペプシン、トリプシン、またはキモトリプシン、特にペプシンより選択されるプロテアーゼによる分解から医薬組成物(i)のタンパク質有効成分を保護することができる。本発明の文脈では、医薬組成物(ii)の緩衝系による保護は、医薬組成物(i)のタンパク質有効成分に対する胃腸媒体中の消化酵素の効果の不活性化に対応する。
【0068】
試薬キットの組成物(i)および(ii)が溶液中で混合されれば、タンパク質有効成分の保護は、HPLCなど、本発明による医薬組成物の場合と同じ方法で測定することができる。
【0069】
試薬キットの組成物(i)および(ii)は、医薬組成物(i)および(ii)を別々に経口摂取した後に胃において溶液中で混合することができる。あるいは、組成物(i)および(ii)は、経口摂取される前に溶液中で混合することができる。
【0070】
有利には、溶液中で医薬組成物(i)と混合させた場合、医薬組成物(ii)の緩衝系は、組成物(i)および(ii)を含む溶液を少なくとも1種の消化酵素と接触させた際に上記消化酵素による分解から医薬組成物(i)の(構造分析または機能分析によれば)少なくとも70%、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%のタンパク質有効成分を保護することができる。100%のタンパク質有効成分の保護は、全く分解されておらず、その生物学的活性のすべてを保持しているタンパク質有効成分に対応する。70%のタンパク質有効成分の保護は、30%分解された有効成分に対応する。すなわち、タンパク質有効成分を含む医薬組成物(ii)において、70%のタンパク質有効成分が分解されず、30%のタンパク質有効成分が分解されている。0%のタンパク質有効成分の保護は、完全に分解され、その生物学的活性をすべて失った有効成分に対応する。有利には、組成物(i)および(ii)を含む溶液を2~5mg/mLのペプシン、例えば3.2mg/mLのペプシンに1時間または2時間接触させた際などに、緩衝系は、ペプシンによる分解から少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%のタンパク質有効成分を保護することができる。
【0071】
試薬キットの医薬組成物(i)が固体形態である場合、例えば、錠剤、特に、分散錠剤、口腔内分散錠剤、発泡性錠剤、丸薬、粉末、発泡性粉末、顆粒、発泡性顆粒、または凍結乾燥物、有利には発泡性錠剤の形態であってもよい。
【0072】
試薬キットの医薬組成物(i)が固体形態である場合、0.5~100mg、好ましくは0.5~40mg、より好ましくは1~50mg、より好ましくは3、7、14、25、または50mgのGLP-1受容体作動薬を含んでいてもよい。例えば、医薬組成物(i)は、3、7、14、25、または50mgのセマグルチドを含む。
【0073】
試薬キットの医薬組成物(i)は、固体形態に好適な1種以上の医薬的に許容可能な賦形剤を含んでいてもよい。
【0074】
本発明による試薬キットの文脈において使用することができる医薬組成物(i)の一例は、市販品リベルサス(R)に対応する。
【0075】
試薬キットの医薬組成物(ii)の緩衝系は、ヨーロッパ薬局方現行版(モノグラフ4.1.3)に示される緩衝系のリストから選択することができる。好ましくは、医薬組成物(ii)の緩衝系は、以下の緩衝剤:リン酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フタル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩(例えば無水クエン酸モノナトリウム)、イミダゾール、テトラブチルアンモニウム、トリヒドロキシメチルアミノメタン、トリス-グリシン、重炭酸塩(例えば重炭酸ナトリウム)、バルビタール、トリス-EDTA BSA、銅、および双性イオン性硫酸塩より選択される。医薬組成物(ii)の緩衝系は、有利には、リン酸緩衝液(リン酸モノナトリウム二水和物など)、クエン酸緩衝液(無水クエン酸モノナトリウムなど)、および重炭酸緩衝液(重炭酸ナトリウムなど)を含む。特定の一実施形態では、医薬組成物(ii)の緩衝系は、リン酸緩衝液(リン酸モノナトリウム二水和物など)、クエン酸緩衝液(無水クエン酸モノナトリウムなど)、および重炭酸緩衝液(重炭酸ナトリウムなど)からなる。
【0076】
特定の一実施形態では、試薬キットの医薬組成物(ii)の緩衝系は、
(i)医薬組成物(ii)の緩衝系の総質量に対して0.5~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)医薬組成物(ii)の緩衝系の総質量に対して10~60質量%、好ましくは20~50質量%、より好ましくは30~45質量%の無水クエン酸モノナトリウム、および
(iii)医薬組成物(ii)の緩衝系の総質量に対して20~95質量%、好ましくは40~80質量%、より好ましくは50~70質量%の重炭酸ナトリウムを含む。
【0077】
非常に特定の一実施形態では、医薬組成物(ii)の緩衝系は、
(i)医薬組成物(ii)の緩衝系の総質量に対して約5質量%のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)医薬組成物(ii)の緩衝系の総質量に対して約35質量%の無水クエン酸モノナトリウム、および
(iii)医薬組成物(ii)の緩衝系の総質量に対して約60質量%の重炭酸ナトリウムを含む。
【0078】
試薬キットの医薬組成物(ii)は固体形態または液体形態であり得る。
【0079】
試薬キットの医薬組成物(ii)が固体形態である場合、例えば、錠剤、特に、分散錠剤、口腔内分散錠剤、発泡性錠剤、丸薬、粉末、発泡性粉末、顆粒、発泡性顆粒、または凍結乾燥物の形態であってもよい。好ましくは、医薬組成物(ii)は発泡性形態、有利には発泡性錠剤の形態である。
【0080】
試薬キットの医薬組成物(ii)が固体形態、例えば発泡性錠剤の形態である場合、好ましくは、
(i)120ミリグラム(mg)のリン酸モノナトリウム二水和物、
(ii)1142mgの無水クエン酸モノナトリウム、
(iii)2076mgの重炭酸ナトリウム、および
(iv)157mgの安息香酸ナトリウムを含む。
【0081】
試薬キットの医薬組成物(ii)が液体形態である場合、溶質、懸濁液、またはシロップの形態であってもよい。
【0082】
試薬キットの医薬組成物(ii)は、選択された組成物(ii)の形態に適合する1種以上の医薬的に許容可能な賦形剤を含んでいてもよい。
【0083】
好ましくは、医薬組成物(i)および医薬組成物(ii)は、固体形態、例えば発泡性錠剤の形態である。
【0084】
好ましい一実施形態によれば、本発明による試薬キット(または部品キット)は、消化酵素による分解から医薬組成物(i)のタンパク質有効成分を保護することができる追加の化合物を含まない。特に、組成物(i)および組成物(ii)は、消化酵素による分解から医薬組成物(i)のタンパク質有効成分を保護することができる追加の化合物を含まない。この実施形態では、医薬組成物(ii)の緩衝系は、消化酵素による分解から医薬組成物(i)のタンパク質有効成分を保護する能力を有する、本発明による試薬キットに存在する唯一の化合物である。特に、タンパク質有効成分を含む医薬組成物(i)および緩衝系を含む医薬組成物(ii)は、物理的な保護系、例えば、コーティング、マトリックス、カプセル壁、例えばタンパク質有効成分を包んで消化酵素による分解から保護するリポソームを含まない。特に、タンパク質有効成分を含む医薬組成物(i)および緩衝系を含む医薬組成物(ii)は、例えば、鉱物、SNAC化合物、ペプスタチン、ジアゾケトン、アルギン酸塩、および/または大豆抽出物など、消化酵素の作用を阻害することができる化合物を含まない。
【0085】
好ましくは、試薬キットのタンパク質有効成分を含む医薬組成物(i)および緩衝系を含む医薬組成物(ii)は、インスリン、その誘導体の1種、またはその類似体の1種などの他のタンパク質有効成分を含まない。
【0086】
試薬キットの医薬組成物(i)および(ii)は、消化酵素による分解からタンパク質有効成分を保護することができる追加の化合物を含まなくてもよいので、医薬組成物(i)および(ii)のどちらかが固体形態である場合、これらは腸溶性コーティングを有さない。
【実施例】
【0087】
実施例1:本発明による医薬組成物を緩衝することができる系の調製
【0088】
実施例1A:
【0089】
表1にしたがって、緩衝系を含む発泡性錠剤の形態の製剤を調製した。
【0090】
工程1)炭酸水素ナトリウム、無水クエン酸モノナトリウム、およびリン酸モノナトリウム二水和物を乾燥混合した。
【0091】
工程2)水および96%エタノールからなる湿潤液を用いて、工程1)で得られた混合物を造粒した。
【0092】
工程3)このようにして得た顆粒を較正し、次いで所定の残留湿度が得られるまで乾燥した。
【0093】
工程4)顆粒を安息香酸ナトリウムと混合した。
【0094】
工程5)最終混合物を圧縮して、所定の硬度、破断強度、直径、および質量を得た。
【0095】
GLP-1受容体作動薬は、別に製剤化してから、錠剤が溶解されれば錠剤と即座に混合することができ、あるいは実施例1Bに詳述するように錠剤へと直接組み込むことができる。このように、錠剤は、選択されたGLP-1受容体作動薬へと組み込むことができる。
【0096】
表1は、このようにして調製された発泡性錠剤の組成を示す。
【0097】
【0098】
実施例1B:
【0099】
表2にしたがって、緩衝系を含む発泡性錠剤の形態の製剤を調製した。
【0100】
工程1)炭酸水素ナトリウム、無水クエン酸モノナトリウム、およびリン酸モノナトリウム二水和物を乾燥混合した。
【0101】
工程2)水および96%エタノールからなる湿潤液を用いて、工程1)で得られた混合物を造粒した。
【0102】
工程3)このようにして得た顆粒を較正し、次いで所定の残留湿度が得られるまで乾燥した。
【0103】
工程4)顆粒を3mg、7mg、または14mgのセマグルチド量および安息香酸ナトリウムと混合した。
【0104】
工程5)最終混合物を圧縮して、所定の硬度、破断強度、直径、および質量を有する錠剤を得た。
【0105】
表2は、このようにして調製された発泡性錠剤の組成を示す。
【0106】
【0107】
実施例2:インビトロで再現した胃条件(酸性pHおよびペプシンの添加)下での本発明による組成物によるセマグルチドの保護の測定
【0108】
この試験の目的は、本発明による組成物におけるセマグルチドの胃安定性を示すことである。
【0109】
工程1)実施例1Aで得られた錠剤を50mLの飲料水に溶解させて緩衝液を得た。
【0110】
工程2)塩酸(0.2NのHCl)でpHを1.2に調整して模擬胃媒体を作製した。
【0111】
工程3)工程1)で得られた緩衝液を50mLの模擬胃媒体と混合して、0.1NのHClの最終溶液100mLを得た。
【0112】
工程4)セマグルチドを工程3)で得られた溶液に加えて、セマグルチドの最終濃度0.05mg/mlを得た。
【0113】
工程5)工程4)で得られた溶液にペプシンを最終濃度3.2mg/mlで加えるか、あるいはペプシンを加えず(ペプシンなし)、得られた溶液を一定の撹拌下で37℃にて2時間保持した。
【0114】
外部標準較正を用い、紫外線(UV)検出器に連結した超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)によりセマグルチドアッセイを行った。初期セマグルチド含有量に対する時間tのセマグルチド含有量を測定することによって、セマグルチド残留量を算出した。結果は、パーセント(%)表示の比率である。セマグルチドの残留量は、セマグルチドの保護率%に対応する。
【0115】
【0116】
【0117】
結果
【0118】
表3および4に記載された結果から、本発明による組成物に製剤化されなかった場合、セマグルチドはペプシンの存在下で酸性媒体において保護されなかったことが示された(ペプシンあり、緩衝系なしで残留量0%)。セマグルチドが本発明による緩衝系で製剤化された場合、ペプシンがあってもなくてもセマグルチドは2時間後に分解されていなかった。
【0119】
これらの結果から、本発明による組成物は、模擬胃媒体におけるペプシンによる分解からセマグルチドを完全に保護することが示された。
【0120】
実施例3:インビトロで再現した胃条件(酸性pHおよびペプシンの添加)下での本発明による組成物によるエクセナチドの保護の測定
【0121】
工程1)発泡性錠剤(実施例1Aによる)を50mLの飲料水に溶解させて緩衝液を得た。
【0122】
工程2)塩酸(0.2NのHCl)でpHを1.2に調整して模擬胃媒体を作製した。
【0123】
工程3)工程1)で得られた緩衝液を50mLの模擬胃媒体と混合して、0.1のHCLの最終溶液100mLを得た。
【0124】
工程4)次いで、工程3)で得られた溶液にエクセナチドを加えて、最終溶液中の最終濃度0.05mg/mL(最終100mL中5mgのエクセナチド)または1mg/mL(最終5mL中5mgのエクセナチド)を得た。溶液を混合してエクセナチドを可溶化し、溶液を均一にした。
【0125】
工程5)次いで、この溶液に従来の投与量3.2mg/mLでペプシンを加えるか、あるいはペプシンを添加しなかった(ペプシンなし)。溶液を一定の撹拌下で37℃にて2時間保持した。
【0126】
エクセナチド含有量は、具体的には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。初期エクセナチド含有量に対する時間tのエクセナチド含有量を測定することによって、残留量を算出した。結果は、パーセント(%)表示の比率である。エクセナチドの残留量は、エクセナチドの保護率%に対応する。
【0127】
【0128】
【0129】
結果
【0130】
結果を表5および6に示す。エクセナチドは、ペプシンの存在下で医薬組成物を緩衝することができる系によって保護された。また、本発明による組成物によって、ペプシンの非存在下でエクセナチドを保護することができた(表5)。しかしながら、ペプシンありの胃媒体にエクセナチドのみ(緩衝系なし)を導入した場合、エクセナチドは完全に分解された(表6)。これらの結果から、胃条件およびペプシン存在下でエクセナチドに対する緩衝系の保護効果が示された。
【0131】
実施例4:インビトロで再現した胃条件(酸性pHおよびペプシンの添加)下で製品リベルサス(R)と比較した本発明による組成物によるセマグルチドの保護の測定
【0132】
セマグルチドによる胃耐性試験を濃度0.05mg/mL(最終100mL中5mgのセマグルチド)で行った。実施例3に記載したのと同じプロトコルにしたがって模擬胃媒体を作製した。
【0133】
製品リベルサス(R)は、セマグルチド、サルカプロザートナトリウム(SNAC)、ポビドン、微結晶性セルロース、およびステアリン酸マグネシウムを含む。
【0134】
工程1)比較試験に14mgのリベルサス(R)錠剤を使用し、撹拌しながら50mLの飲料水に30分間溶解させた。セマグルチドの最終濃度は0.28mg/mLであった。
【0135】
工程2)工程1で得られた溶液に発泡性錠剤(実施例1Aによる)を加えるか、あるいは加えなかった。発泡が止まった後、50mLの0.2NのHCl(pH1.2)を加えて、0.1NのHClの最終溶液100mLを得た。これは模擬胃環境に対応する。セマグルチドの最終濃度は、100mLあたり14mgである。
【0136】
工程3)次いで、工程2で得られた溶液に従来の投与量3.2mg/mlでペプシンを加えるか、あるいは加えなかった。試験を37℃の温度で2時間行った。
【0137】
セマグルチド含有量は、具体的には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりアッセイした。初期セマグルチド含有量に対する時間tのセマグルチド含有量を測定することによって、残留量を算出した。結果は、パーセント(%)表示の比率である。セマグルチドの残留量は、セマグルチドの保護率%に対応する。
【0138】
【0139】
【0140】
結果
【0141】
上記結果から、ペプシンの存在下、緩衝系ありで模擬胃媒体においてセマグルチドが完全に保護されることが示された(表7)。また、ペプシンの非存在下では、セマグルチドは緩衝系の存在下において安定である(表7)。上記結果から、ペプシンの非存在下では、胃媒体においてリベルサスは78%の量のみが1時間安定であり、2時間後には16%の量のみが保持されることが示された(表8)。リベルサスに製剤化されたセマグルチドは、緩衝系なしで模擬胃媒体において直ちに完全にペプシンにより分解される(表8)。よって、本発明の医薬組成物によって、胃媒体中の酸性およびペプシンから製品リベルサスを保護することができる。
【0142】
【配列表】
【国際調査報告】