(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】アルファ-1アンチトリプシン投薬レジメン
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20240227BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240227BHJP
A61K 38/40 20060101ALI20240227BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P25/00
A61P43/00 121
A61K38/40
A61P25/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553689
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 IB2022000159
(87)【国際公開番号】W WO2022185123
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラクウェル・オリリョ・サウラ
(72)【発明者】
【氏名】モンセラット・コスタ・リエローラ
(72)【発明者】
【氏名】フランセスク・ザビエル・シフロ・コルサマタ
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ・カンプルビ・ヒメネス
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084DA38
4C084DC03
4C084DC34
4C084DC50
4C084MA16
4C084MA56
4C084MA59
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA10
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA081
4C084ZA082
4C084ZC751
(57)【要約】
本発明は、外傷性又は非外傷性原因、例えば虚血性卒中、脳低酸素症又は脊髄損傷から生じる神経系細胞損傷を受けた患者における、治療剤としてのアルファ-1アンチトリプシンの使用に関する。本発明の処置レジメンに従って投与されるアルファ-1アンチトリプシンはまた、それに対する損傷後の神経障害性疼痛の治療及び脊髄血管再生の促進において有用となりうる。アルファ-1アンチトリプシンを含む組成物は、革新的投薬レジメンの一部として患者に非経口的に又は吸入により投与されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、又は末梢神経損傷のうちの少なくとも1つから生じる神経系細胞損傷の治療に使用するための、アルファ-1アンチトリプシンを含む医薬組成物であって、
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、医薬組成物。
【請求項2】
神経系細胞損傷が、道路交通事故、暴行、スポーツでの衝突、又は無防備な転倒のうちの少なくとも1つから生じる外傷性脳損傷又は脊髄損傷によって引き起こされる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
神経系細胞損傷が、一過性虚血性発作、虚血性卒中、出血性卒中、脳低酸素症、脳無酸素症、新生児低酸素症、化学的毒素の摂取、水頭症、髄膜炎、又は脳炎のうちの少なくとも1つから生じる非外傷性脳損傷によって引き起こされる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
神経系細胞損傷が、一過性虚血性発作、虚血性卒中、脳低酸素症、脳無酸素症、新生児低酸素症、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される虚血性事象によって引き起こされる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
神経系細胞損傷が、虚血性卒中及び出血性卒中からなる群から選択される卒中によって引き起こされる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
神経系細胞損傷が、脊髄損傷によって引き起こされる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
アルファ-1アンチトリプシンが、
アルブミン、アンチトロンビン、トランスフェリン、ラクトフェリン、ポリクローナル免疫グロブリン、多特異性免疫グロブリン、C1エステラーゼ阻害剤、トランスサイレチン、及びそれらの組み合わせ
からなる群から選択される少なくとも1つの他の血漿タンパク質との併用療法の一部として投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
アルファ-1アンチトリプシンが、トランスフェリンとの併用療法の一部として投与される、請求項7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
トランスフェリンが、約30%以下の鉄飽和を有する、請求項8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
アルファ-1アンチトリプシンが、アンチトロンビンとの併用療法の一部として投与される、請求項7に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
アンチトロンビンが、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約120%を超えるが約200%未満まで増加させるのに十分な用量で、又は患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.2IU/mLを超えるが約2.0IU/mL未満まで増加させるのに十分な用量で投与される、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
アルファ-1アンチトリプシン及び血漿タンパク質が、一体型剤形として投与される、請求項7から11のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約120mg/kg/日の用量で投与される、請求項13に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの投与期間の1日目に約80mg/kg~約240mg/kgの初期用量で投与され、続いて、複数回投薬期間の残りの間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの投与期間の1日目に約80mg/kg~約120mg/kgの初期用量で投与され、続いて、複数回投薬期間の残りの間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約120mg/kg/日の用量で投与される、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
複数回投薬レジメンが、総累積用量まで約2~約30回の投与を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
複数回投薬レジメンが、総累積用量まで約5~約20回の投与を含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
複数回投薬レジメンが、約1~約30週の期間にわたる、請求項1から18のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
複数回投薬レジメンが、約1~約10週の期間にわたる、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
複数回投薬レジメンが、約1日~約30日の等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
複数回投薬レジメンが、約1日~約10日の等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
複数回投薬レジメンが、約1日~約30日の不等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項24】
複数回投薬レジメンが、約1日~約10日の不等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項23に記載の使用のための組成物。
【請求項25】
アルファ-1アンチトリプシンが、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、肺内、鼻腔内、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される投与経路によって投与される、請求項1から24のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項26】
脊髄損傷に罹患している患者における脊髄血管再生の促進に使用するための、アルファ-1アンチトリプシンを含む医薬組成物であって、
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、医薬組成物。
【請求項27】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約120mg/kg/日の用量で投与される、請求項26に記載の使用のための組成物。
【請求項28】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの投与期間の1日目に約80mg/kg~約240mg/kgの初期用量で投与され、続いて、複数回投薬期間の残りの間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、請求項27に記載の使用のための組成物。
【請求項29】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの投与期間の1日目に約80mg/kg~約120mg/kgの初期用量で投与され、続いて、複数回投薬期間の残りの間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約120mg/kg/日の用量で投与される、請求項26から28のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項30】
複数回投薬レジメンが、総累積用量まで約2~約30回の投与を含む、請求項26から29のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項31】
複数回投薬レジメンが、総累積用量まで約5~約20回の投与を含む、請求項26から30のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項32】
複数回投薬レジメンが、約1~約30週の期間にわたる、請求項26から31のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項33】
複数回投薬レジメンが、約1~約10週の期間にわたる、請求項26から32のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項34】
複数回投薬レジメンが、約1日~約30日の等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項26から33のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項35】
複数回投薬レジメンが、約1日~約10日の等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項26から34のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項36】
複数回投薬レジメンが、約1日~約30日の不等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項26から33のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項37】
複数回投薬レジメンが、約1日~約10日の不等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項26から33のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項38】
アルファ-1アンチトリプシンが、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、肺内、鼻腔内、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される投与経路によって投与される、請求項26から37のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項39】
アルファ-1アンチトリプシンが、
アルブミン、アンチトロンビン、トランスフェリン、ラクトフェリン、ポリクローナル免疫グロブリン、多特異性免疫グロブリン、C1エステラーゼ阻害剤、トランスサイレチン、及びそれらの組み合わせ
からなる群から選択される少なくとも1つの他の血漿タンパク質との併用療法の一部として投与される、請求項26から38のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項40】
アルファ-1アンチトリプシンが、トランスフェリンとの併用療法の一部として投与される、請求項39に記載の使用のための組成物。
【請求項41】
トランスフェリンが、約30%以下の鉄飽和を有する、請求項40に記載の使用のための組成物。
【請求項42】
アルファ-1アンチトリプシンが、アンチトロンビンとの併用療法の一部として投与される、請求項39に記載の使用のための組成物。
【請求項43】
アンチトロンビンが、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約120%を超えるが約200%未満まで増加させるのに十分な用量で、又は患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.2IU/mLを超えるが約2.0IU/mL未満まで増加させるのに十分な用量で投与される、請求項42に記載の使用のための組成物。
【請求項44】
脊髄損傷に罹患している患者における神経障害性疼痛の治療に使用するための、アルファ-1アンチトリプシンを含む医薬組成物であって、
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、医薬組成物。
【請求項45】
神経障害性疼痛が、中枢性神経障害性疼痛である、請求項44に記載の使用のための組成物。
【請求項46】
神経障害性疼痛が、末梢性神経障害性疼痛である、請求項44に記載の使用のための組成物。
【請求項47】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約120mg/kg/日の用量で投与される、請求項44から46のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項48】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの投与期間の1日目に約80mg/kg~約240mg/kgの初期用量で投与され、続いて、複数回投薬期間の残りの間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、請求項44から46のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項49】
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの投与期間の1日目に約80mg/kg~約120mg/kgの初期用量で投与され、続いて、複数回投薬期間の残りの間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約120mg/kg/日の用量で投与される、請求項44から46のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項50】
複数回投薬レジメンが、総累積用量まで約2~約30回の投与を含む、請求項44から49のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項51】
複数回投薬レジメンが、総累積用量まで約5~約20回の投与を含む、請求項44から50のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項52】
複数回投薬レジメンが、約1~約30週の期間にわたる、請求項44から51のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項53】
複数回投薬レジメンが、約1~約10週の期間にわたる、請求項44から52のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項54】
複数回投薬レジメンが、約1日~約30日の等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項44から53のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項55】
複数回投薬レジメンが、約1日~約10日の等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項44から53のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項56】
複数回投薬レジメンが、約1日~約30日の不等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項44から53のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項57】
複数回投薬レジメンが、約1日~約10日の不等間隔で投与される複数回部分用量を含む、請求項44から53のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項58】
アルファ-1アンチトリプシンが、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、肺内、鼻腔内、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される投与経路によって投与される、請求項44から57のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項59】
アルファ-1アンチトリプシンが、
アルブミン、アンチトロンビン、トランスフェリン、ラクトフェリン、ポリクローナル免疫グロブリン、多特異性免疫グロブリン、C1エステラーゼ阻害剤、トランスサイレチン、及びそれらの組み合わせ
からなる群から選択される少なくとも1つの他の血漿タンパク質との併用療法の一部として投与される、請求項44から58のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項60】
アルファ-1アンチトリプシンが、トランスフェリンとの併用療法の一部として投与される、請求項58に記載の使用のための組成物。
【請求項61】
トランスフェリンが、約30%以下の鉄飽和を有する、請求項59に記載の使用のための組成物。
【請求項62】
アルファ-1アンチトリプシンが、アンチトロンビンとの併用療法の一部として投与される、請求項58に記載の使用のための組成物。
【請求項63】
アンチトロンビンが、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約120%を超えるが約200%未満まで増加させるのに十分な用量で、又は患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.2IU/mLを超えるが約2.0IU/mL未満まで増加させるのに十分な用量で投与される、請求項61に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外傷性又は非外傷性原因から生じる神経系細胞損傷を受けた患者における神経保護剤としてのアルファ-1アンチトリプシンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳、脊髄、及び末梢神経系への損傷は、罹患した個体の生活の質を甚だしく変える即時的又は長期的な神経変性作用で現れうる。
【0003】
脊髄損傷及び末梢神経損傷は、主に外傷によって引き起こされる。脳損傷は、遺伝性、先天性、出生によって誘導された、又は出生以後に獲得された/後天性脳損傷(ABI)と分類することができる。外傷性及び非外傷性の2種類のABIがあり、両方とも、身体的完全性、代謝活性、又は脳における神経細胞の機能的能力に影響を与える脳のニューロン活性に変化をもたらす。
【0004】
外傷性脳損傷(TBI)は、外力によって引き起こされる、脳機能における変化、又は脳病理の他の証拠を特徴とする。外傷性衝撃損傷は、非穿通性又は穿通性と定義することができ、転倒、暴行、自動車事故及びスポーツでの損傷を含みうる。非外傷性脳損傷(NTBI)は、非衝撃プロセス、例えば酸素の欠乏、毒素への曝露、腫瘍からの圧力等を通じて脳にダメージを引き起こす。NTBIの例としては、卒中、動脈瘤、及び心臓発作によって引き起こされる脳への酸素供給の欠如が挙げられる。
【0005】
卒中は、NTBIの最も一般的なカテゴリーの1つであり、脳の一部への血液供給が遮られ又は低下し、脳組織が酸素及び栄養素を得ることを妨げる場合に生じる。神経変性プロセスはほぼ即座に開始し、脳細胞は、数分後に死に始める。虚血性卒中は、脳の領域に血液を供給する血管(動脈)が血液の塊によって遮断されるようになる場合に生じる。出血性卒中は、脳における動脈が漏れる又は破裂する場合に起こる。2つのうち、虚血性卒中は、卒中の最もよく起こる形態である。
【0006】
現代社会における卒中の蔓延は、保健医療のインフラ及び費用に莫大な負担を生じる。現在、組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)は、虚血性卒中に対する唯一のFDA承認治療剤である。rtPAの主な機能は、血液の塊を溶かし、再灌流を促進することである。遮断された血流を再建する代替方法は、外科的介入による。
【0007】
rtPA治療は、狭い治療時間枠を有するため、その広範な適用可能性は制限されている。更に、虚血組織へのrtPAを介した灌流の回復は重要であるが、壊死、アポトーシス、及び炎症のカスケードは、重篤な酸素欠乏から数分以内に開始する。ますます、虚血後組織炎症の間(数日から数週間継続しうる)の遺伝的にプログラムされた神経系細胞死は、患者の治療/評価における遅延のため、最終的な病理に著しく寄与することが仮定される。そのため、患者が評価のために現れる前ですら、永続的な神経及びニューロンのダメージが生じうる。
【0008】
先行技術では、卒中、並びに脳及び脊髄への外傷性損傷等の障害によって引き起こされるダメージを制限するように神経保護効果を発揮する分子の多くの報告がある。1つのそのような例は、卒中のラットモデルにおいて低酸素誘導因子(HIF)の活性を調節することによって神経保護効果を発揮するものとしてアポ-トランスフェリンを開示する、Grifols Worldwide Operations Ltd社の名における米国特許出願公開第2016008437号である。発明者らは、対照ラットと比較した場合のアポ-トランスフェリンで処置したラットにおける梗塞領域の体積の減少で現れる、アポ-トランスフェリンについての神経保護効果を観察した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016008437号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、2005年、D.B. Troy編、Lippincott Williams & Wilkins、Philadelphia
【非特許文献2】Encyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988~1999年、Marcel Dekker、New York
【非特許文献3】Ceriottiら、Improved direct specific determination of serum iron and total iron-binding capacity Clin Chem. 1980年、26(2)、327~31頁
【非特許文献4】Manleyら、Simultaneous Cu-, Fe-, and Zn-specific detection of metalloproteins contained in rabbit plasma by size-exclusion chromatography-inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy. J Biol Inorg Chem. 2009年、14、61~74頁
【非特許文献5】L von Bonsdorffら、Transferrin、第21章、301~310頁、Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use、J. Bertoliniら編、Wiley、2013年[印刷ISBN:9780470924310、オンラインISBN:9781118356807]
【非特許文献6】Bassoら、J. Neutrauma 23 (2006) 635~659頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
脊髄損傷、脳損傷、及び末梢神経損傷に関連する神経変性の重篤で衰弱させる作用は、相当な集中及び注意を要するものであることは即座に明らかである。そのため、この必要性に焦点を合わせた代替療法は非常に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の説明
単語「含む(comprises)/含むこと(comprising)」及び単語「有すること(having)/含むこと(including)」は、本発明に関して本明細書で使用される場合、記載される特徴、整数、工程又は成分の存在を特定するが、1つ又は複数の他の特徴、整数、工程、成分又はそれらの群の存在又は追加を排除しないように使用される。
【0013】
本明細書に開示される特定の実施形態は、単独で読まれるべきではなく、本明細書は、開示される実施形態が、個別にではなく互いに組み合わせて読まれることを意図することが、当業者によって理解されるべきである。そのため、各実施形態は、本明細書に開示される他の実施形態を改変又は制限するための基礎として役立ちうる。
【0014】
濃度、量、及び他の数値データは、範囲形式で本明細書に表され又は提示されうる。そのような範囲形式は、便宜及び簡潔さのためだけに使用され、したがって、範囲の限界として明示的に記載される数値を含むだけでなく、あたかも各数値及び下位範囲が明示的に記載されているかのように、その範囲内に包含される全ての個々の数値又は下位範囲も含むと柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。実例として、「10~100」の数値範囲は、10~100の明示的に記載される値を含むだけでなく、示される範囲内の個々の値及び下位範囲も含むと解釈されるべきである。したがって、個々の値、例えば10、11、12、13...97、98、99、100、及び下位範囲、例えば10~40、25~40及び50~60等がこの数値範囲に含まれる。この同じ原則は、「少なくとも10」等の1つのみの数値を記載する範囲に適用される。更に、このような解釈は、範囲の幅又は記載される特徴にかかわらず適用されるべきである。
【0015】
本発明の治療
第1の態様では、本発明は、外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、又は末梢神経損傷のうちの少なくとも1つから生じる神経系細胞損傷の治療に使用するための、アルファ-1アンチトリプシンを含む医薬組成物であって、
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、医薬組成物を提供する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「治療」は、神経系細胞損傷によって引き起こされる症状の任意の軽減、減少、又は排除を指す。「治療」はまた、未治療患者に対する、患者の症状又はウェルビーイングの悪化における任意の遅延を包含すると解釈されるものとする。このような治療は、予防的に、障害の開始前に、又は治療的に、障害の開始後にもたらされてもよい。
【0017】
更なる態様では、本発明は、脊髄損傷に罹患している患者における脊髄血管再生の促進に使用するための、アルファ-1アンチトリプシンを含む医薬組成物であって、
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、医薬組成物を提供する。
【0018】
本明細書で使用される場合、「脊髄血管再生を促進すること」は、脊髄及びその関連神経への損傷後の脊髄及びその関連神経への血流の回復に対してプラスの効果を直接的又は間接的に有することを意味すると解釈されるものとする。
【0019】
なお更なる態様では、本発明は、脊髄損傷に罹患している患者における神経障害性疼痛の治療に使用するための、アルファ-1アンチトリプシンを含む医薬組成物であって、
アルファ-1アンチトリプシンが、複数回投薬レジメンの一部として約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の用量で投与される、医薬組成物を提供する。
【0020】
再度、「治療すること」は、神経障害性疼痛の症状の任意の軽減、減少、又は排除と解釈されるものとする。一実施形態では、神経障害性疼痛は、中枢性神経障害性疼痛である。更なる実施形態では、神経障害性疼痛は、末梢性神経障害性疼痛である。
【0021】
アルファ-1アンチトリプシンは、分解性酵素、例えば構造タンパク質エラスチンを分解する好中球エラスターゼからの肺組織の保護において主要な役割を有する、血漿に基づくセリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン)である。アルファ-1アンチトリプシン欠損は、機能的アルファ-1アンチトリプシンの欠如が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の呼吸器合併症で現れる肺組織の慢性的悪化をもたらす、遺伝性障害である。アルファ-1アンチトリプシンは、多くの他の別名を有し、例えばアルファ-1プロテイナーゼ阻害剤、A1PI、AAT、A1AT、及びα1-アンチトリプシンがある。
【0022】
本発明は、その範囲内に、アルファ-1アンチトリプシンの全ての野生型哺乳動物バリアントを含む。配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒトアルファ-1アンチトリプシン(UniProtKB配列番号P01009)が特に好ましい。
【0023】
本発明で利用されるアルファ-1アンチトリプシンは、血漿由来又は組換え型でありうる。血漿由来アルファ-1アンチトリプシンは、当業者に周知のプロセスによって供血者の血漿から精製される。本発明で有用な材料の実例となるヒト血漿由来アルファ-1アンチトリプシンの好適な市販の調製物としては、以下に限定されないが、PROLASTIN、PROLASTIN C、ZEMAIRA、GLASSIA及びARALASTの商品名で販売されている調製物が挙げられる。
【0024】
本明細書は、その範囲内に、野生型タンパク質に対して組換えタンパク質の構造又はハイドロパシー性質を実質的に変更しなくてもよい、1つ若しくは複数の置換、1つ若しくは複数の欠失、又は1つ若しくは複数の挿入によって、配列番号1に示されるヒトタンパク質の野生型アミノ酸配列とは異なるアルファ-1アンチトリプシンの組換え誘導体を含む。本発明の範囲内のアルファ-1アンチトリプシンの組換えバリアントは、少なくとも1つの翻訳後修飾、例えばペグ化、グリコシル化、ポリシアリル化、又はそれらの組み合わせを更に含みうる。
【0025】
一実施形態では、本発明は、配列番号1における野生型タンパク質に対して1つ又は複数の保存的置換を有するアルファ-1アンチトリプシンの組換えバリアントを企図する。「保存的置換」は、あるアミノ酸を、ペプチド化学の当業者であればポリペプチドの二次構造及びハイドロパシー性質が実質的に変化しないと予測するであろう、類似の特性を有する別のアミノ酸の代わりに使う置換である。一般に、アミノ酸の以下の群内の変更は、保存的変更を表す:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr、(2)cys、ser、tyr、thr、(3)val、ile、leu、met、ala、phe、(4)lys、arg、his、及び(5)phe、tyr、trp、his。
【0026】
例えば、本発明の範囲内の組換えアルファ-1アンチトリプシンは、配列番号1に示される野生型ヒトアルファ-1アンチトリプシンタンパク質と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有しうる。
【0027】
当業者は、組換えタンパク質が、タンパク質発現、産生及び精製の技術分野で周知の標準的技術を利用して取得できることを理解する。目的の組換えタンパク質の核酸配列は、選択された宿主細胞、例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、及び細菌中での発現に好適な任意の発現ベクターに挿入することができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「発現ベクター」は、宿主細胞にタンパク質発現構築物を導入することが可能な実体を指す。一部の発現ベクターはまた、宿主細胞内で複製し、これにより、タンパク質発現構築物によるタンパク質発現は増加する。ベクターの1つの種類は、「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントが連結されうる環状二本鎖DNAループを指す。他のベクターとしては、コスミド、細菌人工染色体(BAC)及び酵母人工染色体(YAC)、フォスミド、ファージ及びファージミドが挙げられる。ベクターの別の種類は、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムに連結されうる、ウイルスベクターである。ある特定のベクターは、導入される宿主細胞中で自律複製が可能である(例えば、宿主細胞中で機能する複製起点を有するベクター)。他のベクターは、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれてもよく、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。更に、ある特定の好ましいベクターは、作動可能に連結される遺伝子の発現を指示することが可能である。
【0029】
好適な細菌細胞としては、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シュードモナス属の種(Pseudomonas spp.)、ストレプトミセス属の種(Streptomyces spp.)、及びスタフィロコッカス属の種(Staphylococcus spp.)が挙げられる。好適な酵母細胞としては、サッカロミセス属の種(Saccharomyces spp.)、ピキア属の種(Pichia spp.)、及びクルイベロミセス属の種(Kuyveromyces spp.)が挙げられる。好適な昆虫細胞としては、ボンビクス・モリ(Bombyx mori)、マメストラ・ブラシカエ(Mamestra brassicae)、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、トリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)及びドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)に由来するものが挙げられる。このような哺乳動物宿主細胞としては、以下に限定されないが、CHO、VERO、BHK、Hela、COS、MDCK、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2O及びT47D、NS0、CRL7O3O、HsS78Bst、ヒト肝細胞癌細胞(例えばHep G2)、ヒトアデノウイルス形質転換293細胞(例えばHEK293)、PER.C6、マウスL-929細胞、HaKハムスター細胞株、Swiss、Balb-c若しくはNIHマウス由来のマウス3T3細胞、並びにCV-1細胞株細胞が挙げられる。
【0030】
本発明はまた、任意の他のタンパク質、タンパク質断片、タンパク質ドメイン、ペプチド、小分子又は他の化学的実体にコンジュゲート又は融合された野生型及び組換えアルファ-1アンチトリプシンタンパク質の使用を企図する。例えば、好適な融合又はコンジュゲーションパートナーとしては、血清アルブミン(例えば、ウシ、ウサギ又はヒト)、スカシガイヘモシアニン、免疫グロブリン分子(免疫グロブリンのFcドメインを含む)、サイログロブリン、オボアルブミン、破傷風トキソイド、他の病原性細菌由来のトキソイド、弱毒化毒素誘導体、サイトカイン、ケモカイン、グルカゴン様ペプチド-1、エクセンディン-4、XTEN、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
一実施形態では、本発明で有用性を有するアルファ-1アンチトリプシンは、免疫グロブリンFcドメインに融合されうる。例えば、免疫グロブリンFcドメインは、定常重鎖免疫グロブリンドメインの少なくとも一部を含んでもよい。定常重鎖免疫グロブリンドメインは、好ましくは、CH2及びCH3ドメイン並びに場合によりヒンジ領域の少なくとも一部を含む、Fc断片である。免疫グロブリンFcドメインは、IgG、IgM、IgD、IgA若しくはIgE免疫グロブリンFcドメイン、又はそれらに由来する改変された免疫グロブリンFcドメインであってもよい。好ましくは、免疫グロブリンFcドメインは、定常IgG免疫グロブリンFcドメインの少なくとも一部を含む。IgG免疫グロブリンFcドメインは、IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4 Fcドメイン、又はそれらの改変されたFcドメインから選択されうる。
【0032】
神経系細胞損傷
驚くべきことに、本発明者らは、アルファ-1アンチトリプシンが、外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、又は末梢神経損傷のうちの少なくとも1つから生じる神経系細胞損傷の治療において非線形用量反応を示すことを発見した。
【0033】
「神経系細胞」により、本明細書は、グリア細胞及びニューロン細胞を含むがこれらに限定されない、神経系の全ての細胞を含む。一実施形態では、本発明の治療で言及される神経系細胞は、ニューロン細胞である。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「神経系細胞損傷」は、神経系細胞の構造及び/又は機能の喪失をもたらす神経系細胞への任意のダメージを意味するものとし、神経系細胞の死を含む。損傷は、即座の神経系細胞のダメージ又は死を引き起こす単発的な1回限りの事象/出来事でありうる。或いは、損傷は、神経系細胞のダメージ又は死のレベルの増加を漸進的に引き起こす連続的又は長期的事象でありうる。
【0035】
アルファ-1アンチトリプシンによって治療される神経系細胞損傷は、外傷性脳損傷、非外傷性脳損傷、脊髄損傷、又は末梢神経損傷のうちの少なくとも1つの結果によって引き起こされうる。一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンによって治療される神経系細胞損傷は、非外傷性脳損傷又は脊髄損傷のうちの少なくとも1つの結果によって引き起こされうる。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「外傷性脳損傷」は、頭部への穿通性又は非穿通性外傷によって引き起こされる脳への損傷を指す。多くの考えられる原因があり、非限定的な例としては、道路交通事故、暴行、スポーツでの衝突、無防備な転倒等が挙げられる。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「非外傷性脳損傷」は、非外傷性原因の結果として生じる脳への損傷を指す。非外傷性原因の好適な、非限定的な例としては、腫瘍、卒中、一過性虚血性発作、脳出血、出血性卒中、虚血性卒中、脳低酸素症、脳無酸素症、新生児低酸素症、化学的毒素/薬物の摂取、水頭症、髄膜炎及び脳炎が挙げられる。
【0038】
一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンによって治療される神経系細胞損傷は、非外傷性脳損傷によって引き起こされうる。一実施形態では、非外傷性脳損傷は、卒中、例えば、虚血性卒中又は出血性卒中によって引き起こされる。例えば、非外傷性脳損傷は、虚血性卒中によって引き起こされうる。一実施形態では、非外傷性脳損傷は、脳低酸素症、脳無酸素症、又は新生児低酸素症のうちの少なくとも1つによって引き起こされる。
【0039】
一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンによって治療される神経系細胞損傷は、脊髄損傷によって引き起こされうる。「脊髄損傷」により、本明細書は、可動性及び/又は感覚等の機能の喪失をもたらす脊柱管の末端における脊髄又は神経の任意の部分へのダメージを意味すると解釈されるべきである。脊髄損傷は、外傷性又は非外傷性でありうる。脊髄損傷の非限定的な原因としては、外傷(自動車事故、砲撃、転倒等)、疾患(ポリオ、二分脊椎等)、感染及び腫瘍が挙げられる。一実施形態では、脊髄損傷は、外傷によって引き起こされる。
【0040】
一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンによって治療される神経系細胞損傷は、虚血性事象によって引き起こされうる。虚血性事象は、一過性虚血性発作、虚血性卒中、脳低酸素症、脳無酸素症、新生児低酸素症、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される状態であってもよい。例えば、虚血性事象は、虚血性卒中、及び新生児低酸素症からなる群から選択される状態であってもよい。一実施形態では、虚血性事象は、虚血性卒中である。
【0041】
段落[0032]~[0040]内に開示される特定の実施形態は、単独で読まれるべきではなく、本明細書は、これらの実施形態が、個別に開示されていることとは対照的に他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図することが、当業者によって理解されるべきである。例えば、文脈上他の意味に解されない場合、段落[0032]~[0040]に開示される実施形態のそれぞれは、段落[0015]~[0031]における実施形態のそれぞれ、又はそこに開示される実施形態のうちの2つ以上の任意の並べ換えと明示的に組み合わされているものとして読まれるべきである。
【0042】
投薬及び投与
本発明の投薬レジメンの一部として投与されるアルファ-1アンチトリプシンは、当業者に公知の任意の慣習の薬物送達手段によって神経系細胞損傷の部位に直接的又は間接的に投与されてもよい。
【0043】
例えば、アルファ-1アンチトリプシンは、脳内、頭蓋内、髄腔内、及び鞘内からなる群から選択される慣習の経路によって局所的に又は神経系細胞損傷の近くに投与することができる。或いは、アルファ-1アンチトリプシンは、外科的介入中に局所的に投与されてもよい。
【0044】
逆に、アルファ-1アンチトリプシンは、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、肺内、鼻腔内、経皮、経粘膜、経口、膣及び直腸からなる群から選択される投与経路によって神経系細胞損傷の部位に間接的に送達することができる。
【0045】
一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンは、患者に非経口的に、例えば静脈内に投与される。別の実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンは、例えば噴霧器又は吸入器デバイスを使用して、肺内又は鼻腔内から選択される投与経路によって患者に投与される。
【0046】
アルファ-1アンチトリプシンは、複数回投薬レジメンの一部として患者に投与されてもよく、アルファ-1アンチトリプシンは、各用量について同じ投与経路を使用して患者に投与される。一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンの各用量は、患者に非経口投与される。例えば、アルファ-1アンチトリプシンの各用量は、患者に静脈内投与されてもよい。
【0047】
本発明はまた、投与の組み合わ様式を組み込む投薬レジメンを提供する。例えば、初期用量は、非経口的に、例えば静脈内又は皮下に投与されてもよく、その後の用量は、肺内又は鼻腔内から選択される投与経路によって送達されてもよい。代替の実施形態では、最初の1~5用量は、非経口的に、例えば静脈内又は皮下に投与されてもよく、その後の用量は、肺内又は鼻腔内から選択される投与経路によって投与されてもよい。
【0048】
或いは、初期用量は、肺内又は鼻腔内から選択される投与経路によって送達されてもよく、その後の用量は、非経口的に、例えば静脈内又は皮下に投与されてもよい。別の実施形態では、最初の1~5用量は、肺内又は鼻腔内から選択される投与経路によって送達されてもよく、その後の用量は、非経口的に、例えば静脈内又は皮下に投与されてもよい。
【0049】
一実施形態では、投薬ごとに投与されるアルファ-1アンチトリプシンの量は、約80~約240mg/kg体重/日の間の量である。別の実施形態では、投薬ごとに投与されるアルファ-1アンチトリプシンの量は、約80~約180mg/kg体重/日の間の量である。なお別の実施形態では、投薬ごとに投与されるアルファ-1アンチトリプシンの量は、約80~約140mg/kg体重/日の間の量である。更に別の実施形態では、投薬ごとに投与されるアルファ-1アンチトリプシンの量は、約80~約120mg/kg体重/日の間の量である。別の実施形態では、投薬ごとに投与されるアルファ-1アンチトリプシンの量は、約90~約110mg/kg体重/日の間の量である。一実施形態では、投薬ごとに投与されるアルファ-1アンチトリプシンの量は、約100mg/kg体重/日である。
【0050】
一実施形態では、患者に投与されるアルファ-1アンチトリプシンの量は、複数回投薬レジメンの経過中に各用量について同じであってもよい。例えば、投与期間の1日目に約80mg/kg~約240mg/kgの初期用量、続いて、複数回投薬期間の間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約240mg/kg/日の同じ用量。例えば、投与期間の1日目に約80mg/kg~約120mg/kgの初期用量、続いて、複数回投薬期間の間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約120mg/kg/日の同じ用量。一実施形態では、約100mg/kgの初期用量が、投与期間の1日目に投与され、続いて、投薬ごとに約100mg/kg/日の用量が、複数回投薬期間の間に投与される。
【0051】
別の実施形態では、患者に投与されるアルファ-1アンチトリプシンの量は、複数回投薬レジメンの経過にわたり投薬ごとに変わってもよい。例えば、投与期間の1日目に約80mg/kg~約240mg/kgの初期用量、続いて、複数回投薬期間の間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約180mg/kg/日。例えば、投与期間の1日目に約80mg/kg~約180mg/kgの初期用量、続いて、複数回投薬期間の間に投薬ごとに約80mg/kg/日~約140mg/kg/日。一実施形態では、投与期間の1日目に約80mg/kg~約140mg/kgの初期用量、続いて、複数回投薬期間の間に投薬ごとに約80mg/kg~約120mg/kg。更なる実施形態では、投与期間の1日目に約80mg/kg~約100mg/kgの初期用量、続いて、複数回投薬期間の間に投薬ごとに約100mg/kg。
【0052】
複数回投薬期間は、総累積用量まで約5~約30回の投与を含みうる。例えば、複数回投薬期間は、総累積用量まで約5~約25回の投与を含みうる。一実施形態では、複数回投薬期間は、総累積用量まで約5~約20回の投与を含みうる。別の実施形態では、複数回投薬期間は、総累積用量まで約5~約15回の投与を含みうる。なお更なる実施形態では、複数回投薬期間は、総累積用量まで約4~約20回の投与を含みうる。一実施形態では、複数回投薬期間は、総累積用量まで約2~約20回の投与を含みうる。別の実施形態では、複数回投薬期間は、総累積用量まで約3~約10回の投与を含みうる。なお更なる実施形態では、複数回投薬期間は、総累積用量まで約4~約10回の投与を含みうる。一実施形態では、複数回投薬期間は、総累積用量まで約5~約10回の投与を含みうる。
【0053】
複数回投薬期間は、約1~約30週の期間にわたりうる。例えば、複数回投薬期間は、約1~約20週の期間にわたりうる。一実施形態では、複数回投薬期間は、約1~約10週の期間にわたりうる。いくつかの実施形態では、複数回投薬期間は、約1~約5週の期間にわたりうる。一実施形態では、複数回投薬期間は、約5週未満の期間にわたりうる。なお更なる実施形態では、複数回投薬期間は、約3週未満の期間にわたりうる。
【0054】
複数回部分用量は、約1日~約30日の等間隔で投与されてもよい。例えば、複数回部分用量は、約1日~約20日の等間隔で投与されてもよい。いくつかの実施形態では、複数回部分用量は、約1日~約15日の等間隔で投与されてもよい。一実施形態では、複数回部分用量は、約1日~約10日の等間隔で投与されてもよい。更なる実施形態では、複数回部分用量は、約1日~約7日の等間隔で投与されてもよい。
【0055】
或いは、複数回部分用量は、約1日~約30日の不等間隔で投与されてもよい。例えば、複数回部分用量は、約1日~約20日の不等間隔で投与されてもよい。いくつかの実施形態では、複数回部分用量は、約1日~約15日の不等間隔で投与されてもよい。一実施形態では、複数回部分用量は、約1日~約10日の不等間隔で投与されてもよい。更なる実施形態では、複数回部分用量は、約1日~約7日の不等間隔で投与されてもよい。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「不等間隔」は、複数回部分用量のうちの少なくとも1つが、他の用量に対して異なる間隔で投与されることを意味するものとする。例えば、この用語は、最初の5用量が1日の間隔で投与され、その後の5用量が7日の間隔で投与される、投薬レジメンを含むと解釈されるものとする。
【0057】
段落[0042]~[0056]内に開示される特定の実施形態は、単独で読まれるべきではなく、本明細書は、これらの実施形態が、個別に開示されていることとは対照的に他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図することが、当業者によって理解されるべきである。例えば、文脈上他の意味に解されない場合、段落[0042]~[0056]に開示される実施形態のそれぞれは、段落[0015]~[0041]における実施形態のそれぞれ、又はそこに開示される実施形態のうちの2つ以上の任意の並べ換えと明示的に組み合わされているものとして読まれるべきである。
【0058】
本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物は、場合により、少なくとも1つの薬学的に許容される担体を更に含みうる。少なくとも1つの薬学的に許容される担体は、アジュバント及びビヒクルから選択されうる。少なくとも1つの薬学的に許容される担体は、所望の特定の剤形に好適なあらゆる溶媒、希釈剤、他の液体ビヒクル、分散助剤、懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤、乳化剤、保存剤を含む。
【0059】
好適な担体は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、2005年、D.B. Troy編、Lippincott Williams & Wilkins、Philadelphia、及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988~1999年、Marcel Dekker、New Yorkに記載され、これらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。このような担体又は希釈剤の好ましい例としては、以下に限定されないが、水、食塩水、リンゲル液、グリコール、デキストロース溶液、緩衝液(例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、及びソルビン酸カリウム)及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。リポソーム及び非水性ビヒクル、例えば飽和植物性脂肪酸のグリセリド混合物、及び固定油(例えば落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及び大豆油)はまた、投与経路に応じて使用されうる。
【0060】
本発明の医薬組成物は、その意図される投与経路と適合するように製剤化される。全身的使用について、本発明の医薬組成物は、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、脳内、頭蓋内、肺内、鼻腔内、髄腔内、鞘内、経皮、経粘膜、経口、膣、及び直腸からなる群から選択される慣習の経路による投与のために製剤化することができる。
【0061】
一実施形態では、非経口投与が、選択される投与経路である。医薬組成物は、アンプル、使い捨て注射器、密封した袋、又はガラス若しくはプラスチックでできた複数用量バイアルに入れられてもよい。一実施形態では、静脈内注射としての投与が、選択される投与経路である。製剤は、注入によって又はボーラス注射によって連続的に投与されうる。
【0062】
注射用に好適な医薬組成物は、滅菌水性溶液(水溶性である場合)若しくは分散体、並びに滅菌注射用溶液若しくは分散体の即時調製のための滅菌粉末を含む。静脈内投与について、好適な担体としては、生理食塩水、静菌水、CREMOPHOR EL、又はリン酸塩緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。いくつかの実施形態では、担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及びそれらの好適な混合物を含有する、溶媒又は分散媒でありうる。全ての場合に、組成物は、滅菌でなければならず、容易な注射針通過性が存在する程度まで流動性であるべきである。
【0063】
微生物の増殖の防止は、様々な抗細菌及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば糖(例えばマンニトール、ソルビトール等)、多価アルコール、又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の延長された吸収は、組成物中に、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンを含めることによってもたらされうる。
【0064】
本発明の医薬組成物の滅菌注射用溶液は、上に論じられる1つの成分又は成分の組み合わせを有する適切な溶媒中に必要な量の活性分子を組み込み、続いて濾過滅菌することによって、調製することができる。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法は、予め滅菌濾過したその溶液から任意の追加の所望の成分を加えた活性成分の粉末をもたらす真空乾燥及び凍結乾燥を含む。
【0065】
一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンは、本発明の注射用医薬組成物の総タンパク質含有量の少なくとも20質量%を構成しうる。例えば、アルファ-1アンチトリプシンは、本発明の注射用医薬組成物の総タンパク質含有量の約30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、75質量%、80質量%、85質量%、90質量%、93質量%、95質量%、96質量%、97質量%、98質量%、又は99質量%以上を構成しうる。
【0066】
本発明の注射用医薬組成物は、単位投薬単位形態として、すなわち、治療されるべき対象に対する一体型投薬として意図された物理的に区別された単位として提示されうる。
【0067】
例えば、皮下投与に好適なアルファ-1アンチトリプシンの水性製剤は、賦形剤として疎水性アミノ酸を含有しうる。このような水性製剤は、約7の中性に近いpHを有しうる。疎水性アミノ酸は、脂肪族疎水性アミノ酸であってもよい。例えば、アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。一実施形態では、アミノ酸は、アラニンである。
【0068】
一実施形態では、本発明は、アルファ-1アンチトリプシンのエアロゾル化投与を提供する。エアロゾルは、任意の薬学的に許容されるプロペラントガス中の微細固体粒子又は液滴の浮遊物でありうる。一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンは、吸入デバイスにおける使用又は微粒子化に好適な乾燥粉末として製剤化されうる。乾燥粉末組成物は、グリシン、トレハロース、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される賦形剤を含有しうる。一実施形態では、本発明の乾燥粉末組成物は、30ミクロン以下のD90粒径分布を有し、すなわち粒子の90%は30mmより小さい。本発明の乾燥粉末組成物の粒径分布は、当業者に公知の任意の手段、例えば光散乱によって測定されてもよい。
【0069】
一実施形態では、吸入に好適なアルファ-1アンチトリプシンの水性製剤は、賦形剤として、約7の中性pHのリン酸塩緩衝食塩水を含有しうる。
【0070】
一実施形態では、アルファ-1アンチトリプシンは、本発明の乾燥粉末医薬組成物の総タンパク質含有量の少なくとも20質量%を構成しうる。例えば、アルファ-1アンチトリプシンは、本発明の乾燥粉末医薬組成物の総タンパク質含有量の約30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、75質量%、80質量%、85質量%、90質量%、93質量%、95質量%、96質量%、97質量%、98質量%、又は99質量%以上を構成しうる。
【0071】
段落[0058]~[0070]内に開示される特定の実施形態は、単独で読まれるべきではなく、本明細書は、これらの実施形態が、個別に開示されていることとは対照的に他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図することが、当業者によって理解されるべきである。例えば、文脈上他の意味に解されない場合、段落[0058]~[0070]に開示される実施形態のそれぞれは、段落[0015]~[0057]における実施形態のそれぞれ、又はそこに開示される実施形態のうちの2つ以上の任意の並べ換えと明示的に組み合わされているものとして読まれるべきである。
【0072】
併用療法
本発明はまた、アルファ-1アンチトリプシンと組み合わせた補足の活性化合物及び分子の使用を企図する。補足の活性化合物及び分子は、単位剤形として、すなわち、治療されるべき対象に対する一体型投薬として意図された物理的に区別された単位として、アルファ-1アンチトリプシンと共製剤化されうる。
【0073】
或いは、補足の活性化合物及び分子は、部分のキットとして提示されてもよく、
・段階的又は連続的投薬パターンで、アルファ-1アンチトリプシンとは別々に投与されうるか、又は
・異なる剤形から同時に共投与されうる。
【0074】
例えば、本発明は、アルファ-1アンチトリプシンと組み合わせて他の血清又は血漿に基づくタンパク質を投与することを企図する。本発明の範囲内の血清又は血漿タンパク質は、好適な血漿供給源、例えばヒト血漿から精製されたもの、及び組換え製造技術を使用して調製されたものを含む。例えば、血清又は血漿タンパク質は、アルブミン(例えばALBUTEIN)、アンチトロンビン(例えばTHROMBATE III)、ポリクローナル免疫グロブリン(IgG、IgA、及びそれらの組み合わせ)、多特異性免疫グロブリン(IgM)、C1エステラーゼ阻害剤(例えばBERINERT)、トランスサイレチン、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されうる。
【0075】
本発明の範囲内の例示的ポリクローナル免疫グロブリンとしては、市販のポリクローナルIgG製剤、例えばFLEBOGAMMA DIF 5% & 10%、GAMUNEX-C 10%、BIVIGAM 10%、GAMMAGARD Liquid 10%等が挙げられる。
【0076】
本発明の範囲内の例示的多特異性免疫グロブリン(IgM)としては、多特異性IgMを含有する市販の免疫グロブリン製剤、例えばPENTAGLOBIN又はTRIMODULINが挙げられる。
【0077】
一実施形態では、血清又は血漿タンパク質は、アルブミン、アンチトロンビン、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されうる。例えば、血清又は血漿タンパク質は、アンチトロンビン、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されうる。
【0078】
特定の実施形態では、治療有効量のアンチトロンビンは、アルファ-1アンチトリプシンに加えて患者に投与される。アンチトロンビンは、複数用量で患者に投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約120%を超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約120%を超えるが約200%未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約130%を超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約130%を超えるが約200%未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約140%を超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約140%を超えるが約200%未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約150%を超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約150%を超えるが約200%未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約160%を超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン活性を、約160%を超えるが約200%未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。アンチトロンビン活性は、当業者にとって共通の一般的知識である標準的技術を使用して測定される。例えば、患者の血漿は、ヘパリン及びトロンビンと混合されてもよく、トロンビン阻害の程度は、患者試料の機能的アンチトロンビン濃度に比例する。残存トロンビン活性は、発色性基質の変換の速度によって測定され、AT濃度を算出するために使用される。
【0079】
例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.2IU/mLを超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.2IU/mLを超えるが約2.0IU/mL未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.3IU/mLを超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.3IU/mLを超えるが約2.0IU/mL未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.4IU/mLを超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.4IU/mLを超えるが約2.0IU/mL未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.5IU/mLを超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.5IU/mLを超えるが約2.0IU/mL未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.6IU/mLを超えるまで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。例えば、アンチトロンビンは、患者の血漿アンチトロンビン濃度を、約1.6IU/mLを超えるが約2.0IU/mL未満まで増加させるのに十分な用量で投与されてもよい。アンチトロンビン濃度は、当業者にとって共通の一般的知識である標準的技術を使用して測定される。例えば、患者の血漿を、従来の発色性イムノアッセイ又はELISAの一部としてアンチトロンビンに特異的な抗体と接触させ、アンチトロンビン濃度を、既知濃度の対照試料に対して決定しうる。
【0080】
特定の実施形態では、トランスフェリン、ラクトフェリン、及びそれらの組み合わせから選択される、治療有効量のタンパク質は、アルファ-1アンチトリプシンに加えて患者に投与される。一実施形態では、治療有効量のトランスフェリンは、アルファ-1アンチトリプシンに加えて患者に投与される。
【0081】
一実施形態では、本発明の併用療法に関して、アルファ-1アンチトリプシンは、本発明の併用療法に利用される総タンパク質含有量の少なくとも20質量%を構成しうる。例えば、アルファ-1アンチトリプシンは、本発明の併用療法に利用される総タンパク質含有量の約30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、75質量%、80質量%、85質量%、90質量%、93質量%、95質量%、96質量%、97質量%、98質量%、又は99質量%以上を構成しうる。
【0082】
本発明はまた、その範囲内に、上に列挙される血清又は血漿タンパク質のそれぞれの、アルファ-1アンチトリプシンへの共有結合コンジュゲートを企図することを、当業者は理解する。更に、本発明はまた、その範囲内に、場合により適切なリンカー配列によって連結された、上に列挙される血清又は血漿タンパク質のそれぞれの、アルファ-1アンチトリプシンへの組換え融合タンパク質を企図することが理解される。
【0083】
一実施形態では、治療有効量のトランスフェリン又はラクトフェリンは、アルファ-1アンチトリプシンと組み合わせて患者に投与される。「トランスフェリン」及び「ラクトフェリン」により、本明細書は、治療有効量の
・それぞれ野生型(哺乳動物、好ましくはヒト)トランスフェリン又はラクトフェリンタンパク質、
・それぞれのその機能的変異体、又は
・それぞれのその機能的断片
を意味すると解釈されるべきである。
【0084】
本発明は、その範囲内に、全ての野生型哺乳動物トランスフェリンタンパク質を含むが、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するヒトトランスフェリン(UniProtKB配列番号Q06AH7)が特に好ましい。同様に、本発明は、その範囲内に、全ての野生型哺乳動物ラクトフェリンタンパク質を含むが、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するヒトラクトフェリン(UniProtKB配列番号P02788)が特に好ましい。
【0085】
野生型トランスフェリンタンパク質は、各ローブ(lobe)が単一鉄原子に結合する、2つの相同なローブ(Nローブ及びCローブ)を含有する。そのため、各野生型トランスフェリン分子は、分子あたり最大2個の鉄原子又はイオンを結合することができる。同様に、各野生型ラクトフェリン分子は、類似の方式で分子あたり2個の鉄原子を結合することができる。一実施形態では、トランスフェリン、その機能的変異体、又はその機能的断片の鉄飽和は、約50%以下である。好ましくは、鉄飽和は、約40%以下である。一実施形態では、鉄飽和は、約30%以下である。例えば、鉄飽和は、約20%以下、例えば約10%以下であってもよい。いくつかの実施形態では、鉄飽和は、約5%以下である。なお更なる実施形態では、鉄飽和は、約1%未満であってもよい。疑義を避けるために、X%未満と本明細書に提示される範囲は、0~X%を含み、すなわち結合した鉄が全くない - 0%鉄飽和のトランスフェリンを含む。
【0086】
一実施形態では、ラクトフェリン、その機能的変異体、又はその機能的断片の鉄飽和は、約50%以下である。好ましくは、鉄飽和は、約40%以下である。一実施形態では、鉄飽和は、約30%以下である。例えば、鉄飽和は、約20%以下、例えば約10%以下であってもよい。いくつかの実施形態では、鉄飽和は、約5%以下である。なお更なる実施形態では、鉄飽和は、約1%未満であってもよい。
【0087】
本明細書で使用される場合、「アポ-トランスフェリン」は、1%未満の鉄飽和を有するトランスフェリンを意味するものとする。同様に、「ホロ-トランスフェリン」は、99%以上の鉄飽和を有するトランスフェリンを意味するものとする。本明細書で使用される場合、「アポ-ラクトフェリン」は、1%未満の鉄飽和を有するラクトフェリンを意味するものとする。同様に、「ホロ-ラクトフェリン」は、99%以上の鉄飽和を有するラクトフェリンを意味するものとする。
【0088】
当業者は、トランスフェリン及びラクトフェリンの鉄飽和レベルが、既知のタンパク質濃度を有する試料中の総鉄レベルを定量化することによって、過度な負担なく容易に決定可能であることを理解する。試料中の総鉄レベルは、当業者に公知のいくつかの方法のうちのいずれか1つによって測定することができる。好適な例としては以下が挙げられる:
・比色アッセイ - 562nmで、酢酸塩緩衝液中のフェロジンとFe2+との間の反応で形成された紫色の錯体の強度を測定することによって、鉄は定量化される。チオ尿素又は他の化学物質が、Cu2+等の錯体混入金属に添加されてもよく、この錯体混入金属も、フェロジンに結合し、誤って上昇した鉄の値をもたらしうる。内容が参照により本明細書に組み込まれる、Ceriottiら、Improved direct specific determination of serum iron and total iron-binding capacity Clin Chem. 1980年、26(2)、327~31頁を参照されたい。
・誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP-AES) - これは、試料中の金属の質量百分率を定量化する発光分光技術である。ICP-AESは、プラズマ(陽イオン及び遊離電子からなるイオン化ガス)を使用した試料中の金属原子/イオンの励起に基づき、その特定の金属に特徴的な電磁放射線の発光波長を分析する。この技術は、当業者の共通の一般的知識内の標準的分析技術ではあるが、ICP-AESに対する更なる情報は、内容が参照により本明細書に組み込まれる、Manleyら、Simultaneous Cu-, Fe-, and Zn-specific detection of metalloproteins contained in rabbit plasma by size-exclusion chromatography-inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy. J Biol Inorg Chem. 2009年、14、61~74頁に見出すことができる。
【0089】
本発明の目的で試料の鉄含有量を決定する好ましい方法は、ICP-AESである。次いで、トランスフェリンの鉄飽和は、例えば、トランスフェリンタンパク質濃度、試料の総鉄含有量、及び野生型トランスフェリンが2個の鉄結合部位を有するという事実に基づいて算出される。野生型ヒトトランスフェリン(分子量79,750)は、2個の鉄原子に結合することができるため、1gのトランスフェリンを含有する試料は、1.4mgの鉄によって100%飽和される。
【0090】
執筆時点では、トランスフェリンは、世界中のいずれの主な管轄区域でも医薬品として認可されていない。そのため、薬局方モノグラフは、トランスフェリンについて存在しない。鉄飽和等のトランスフェリンの物理的特性に関する更なる情報は、当業者が参考にする主な参考教科書から得ることができる;内容が参照により本明細書に組み込まれ、当業者の共通の一般的知識内であると見なされる、L von Bonsdorffら、Transferrin、第21章、301~310頁、Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use、J. Bertoliniら編、Wiley、2013年[印刷ISBN:9780470924310、オンラインISBN:9781118356807]を参照されたい。
【0091】
更なる実施形態では、本発明は、構造を維持するが、タンパク質が鉄結合ドメインの一方又はもう一方、例えばNローブ、Cローブ、又はそれらの組み合わせに鉄を結合することを妨げる、トランスフェリン及び/又はラクトフェリンの変異体形態を含む。
【0092】
特定の一実施形態では、本発明の範囲内のアルファ-1アンチトリプシンと組み合わせうるトランスフェリン変異体としては、以下に限定されないが、
i)Y188F変異体Nローブ(配列番号4)、
ii)Y95F/Y188F変異体Nローブ(配列番号5)、
iii)Y426F/Y517F変異体Cローブ(配列番号6)、
iv)Y95F/Y188F/Y517F変異体N及びCローブ(配列番号7)、及び
v)Y95F/Y188F/Y426F/Y517F変異体N及びCローブ(配列番号8)
が挙げられる。
【0093】
本発明の一実施形態では、本発明でアルファ1-アンチトリプシンと組み合わされるトランスフェリン及びラクトフェリンタンパク質は、改善されたインビボ半減期を有する融合タンパク質であり、この融合タンパク質では、
・野生型(哺乳動物、好ましくはヒト)トランスフェリン又はラクトフェリンタンパク質が、免疫グロブリンFcドメイン及びアルブミンから選択される融合パートナーに融合されている、又は
・本発明の方法の範囲内の変異体トランスフェリン又はラクトフェリンタンパク質が、免疫グロブリンFcドメイン及びアルブミンから選択される融合パートナーに融合されている。
【0094】
一実施形態では、好ましい融合パートナーは、免疫グロブリンFcドメインである。例えば、免疫グロブリンFcドメインは、定常重鎖免疫グロブリンドメインの少なくとも一部を含んでもよい。定常重鎖免疫グロブリンドメインは、好ましくは、CH2及びCH3ドメイン並びに場合によりヒンジ領域の少なくとも一部を含む、Fc断片である。免疫グロブリンFcドメインは、IgG、IgM、IgD、IgA若しくはIgE免疫グロブリンFcドメイン、又はそれらに由来する改変された免疫グロブリンFcドメインであってもよい。好ましくは、免疫グロブリンFcドメインは、定常IgG免疫グロブリンFcドメインの少なくとも一部を含む。IgG免疫グロブリンFcドメインは、IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4 Fcドメイン、又はそれらの改変されたFcドメインから選択されうる。
【0095】
一実施形態では、融合タンパク質は、IgG1 Fcドメインに融合されたトランスフェリンを含みうる。一実施形態では、融合タンパク質は、IgG1 Fcドメインに融合されたトランスフェリン変異体を含みうる。例えば、融合タンパク質は、配列番号9に示されるY95F/Y188F/Y426F/Y517Fトランスフェリン変異体及びIgG1 Fcドメインを含んでもよい。
【0096】
段落[0072]~[0095]内に開示される特定の実施形態は、単独で読まれるべきではなく、本明細書は、これらの実施形態が、個別に開示されていることとは対照的に他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図することが、当業者によって理解されるべきである。例えば、文脈上他の意味に解されない場合、段落[0072]~[0095]に開示される実施形態のそれぞれは、段落[0015]~[0071]における実施形態のそれぞれ、又はそこに開示される実施形態のうちの2つ以上の任意の並べ換えと明示的に組み合わされているものとして読まれるべきである。
【0097】
本発明の追加の特徴及び利点は、添付の図面でより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【
図1】偽、ビヒクル及び本発明の処置レジメンに供された、周産期低酸素虚血のマウスモデルにおける脳染色の画像である。
【
図2】広く利用されている認知試験(NOLT及びT迷路)における、低酸素虚血を誘導する条件に置かれたマウスの遂行能力をプロットしたグラフである。マウスは、偽、ビヒクル及び本発明の処置レジメンに供された。
【
図3】広く利用されている運動機能試験(ロータロッド及び平均台)における、低酸素虚血を誘導する条件に置かれたマウスの遂行能力をプロットしたグラフである。マウスは、偽、ビヒクル及び本発明の処置レジメンに供された。
【
図4】低酸素虚血を誘導する条件に置かれたマウスにおけるカスパーゼ-3のレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。
【
図5】低酸素虚血を誘導する条件に置かれたマウスにおけるGFAP及びIba1のレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。
【
図6】低酸素虚血を誘導する条件に置かれたマウスにおける炎症促進性バイオマーカーのレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。
【
図7】低酸素虚血を誘導する条件に置かれたマウスにおけるミエリン塩基性タンパク質のレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。
【
図8】広く利用されているBMS移動運動試験における、脊髄損傷を受けたマウスの遂行能力をプロットするグラフである。マウスは、ビヒクル及び本発明の処置レジメンに供された。
【
図9】広く利用されている足底痛覚測定試験における、脊髄損傷を受けたマウスの遂行能力をプロットするグラフである。マウスは、ビヒクル及び本発明の処置レジメンに供された。
【
図10】脊髄損傷を受けたマウスにおけるNeuNのレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示すグラフである。
【
図11-1】(A)脊髄損傷を受けたマウスにおけるGFAP(A)のレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。(B)脊髄損傷を受けたマウスにおけるIba-1(B)のレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。
【
図11-2】(C)脊髄損傷を受けたマウスにおけるMBP(C)のレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。(D)脊髄損傷を受けたマウスにおけるO4(D)のレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。
【
図12】脊髄損傷を受けたマウスにおける血管再生のレベルに対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。
【
図13】脊髄損傷後のマウスにおけるグリア瘢痕形成の予防に対する、本発明によるA1ATの処置レジメンの効果を示す図である。
【
図14】中大脳動脈閉塞マウスモデルにおける腹腔内経路により投与された様々な用量のアンチトロンビンの効果を示すグラフである。
【
図15】中大脳動脈閉塞マウスモデルにおける腹腔内経路により投与された様々な用量のアンチトロンビンの効果を示すグラフである。
【
図16】中大脳動脈閉塞マウスモデルにおける腹腔内経路により投与された様々な用量のアンチトロンビンの効果を示すグラフである。
【
図17】中大脳動脈閉塞マウスモデルにおける腹腔内経路により投与された様々な用量のアンチトロンビンの効果を示すグラフである。
【
図18-1】腹腔内経路により投与されたアンチトロンビンの用量を、血漿アンチトロンビン活性、及び
図14~
図17で測定した変数に対して生じた有益な効果に対して相関させるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0099】
本明細書において以下に開示される実施例は、一般化された実施例のみを表し、本発明を再現することができる他の配置及び方法が可能であり、本発明によって包含されることが当業者には容易に明らかであるはずである。
【0100】
周産期低酸素虚血(HI)マウスモデルにおけるアルファ-1アンチトリプシン療法
(実施例1)
マウスにおけるHI誘導
C57/BL6マウスにおいて、生後8日齢(P8)で、左総頸動脈の結紮を1時間行い、その後、マウス内でHIを誘導するために、動物を低酸素条件(90%N2及び10%02)下に50分間置いた。低酸素条件の終了後、動物を、回復のためにケージ中に置く。
【0101】
HIの誘導から6時間後、様々な用量のヒトアルファ-1アンチトリプシン(hA1AT)の腹腔内投与を、マウスに送達した:25、50、75、100、150及び200mg/Kg。個々のマウスは、7日の期間にわたり同じ用量を毎日受け、例えば、1日目に50mg/Kgを受けたマウスは、7日の投薬期間にわたり同じ50mg/Kg用量を毎日受け続けた。必要な場合、7日間の終わりに、マウスを屠殺し、その後バイオマーカー分析を行った。
【0102】
(実施例2)
脳病変体積に対するhA1AT用量の効果
ヘマトキシリン-エオシン(H-E)及び2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)染色を行って、脳損傷/病変体積と、マウスが置かれた条件(ビヒクル[食塩水]、処置、又は偽)との間の相関関係を可視化した。染色を利用して、マウスにおけるHI誘導後の皮質、海馬及び線条体における病変の体積を測定する。マウスをヘパリン添加食塩水、続いて、4%パラホルムアルデヒドで灌流し、脳を処理して、クライオスタット切片を得た。
【0103】
結果をTable 1(表1)に示す。値を、平均値±SEM(n=4)として偽条件下で測定した体積に対する%として表し、ボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。Table 1(表1)に示すように、周産期HIは、ビヒクルのみで処置したマウスの群において、50%を超える、皮質、海馬及び線条体の脳体積の減少を引き起こす。
【0104】
HIの誘導後にhA1ATで処置したマウスは、25mg/Kg用量とビヒクルとの間で有意差を示さない(Table 1(表1))。50mg/Kgを上回る用量は、観察できる神経保護効果をもたらし、皮質及び海馬における健康な細胞の体積の有意な増加が認められる。hA1ATの有効性は、100mg/Kgで横ばいになるように見える - 100mg/Kgを超える用量で、追加の恩恵はほとんど見られない。
【0105】
偽条件、ビヒクル/HI、及び100mg/KgのhA1AT処置における脳TTC染色の代表的な画像を
図1に示す。ビヒクルで処置したマウスは、HI誘導性損傷による体積の喪失に特徴的な、偽に対するTTC染色の大幅な喪失(星印で示す、より明るい領域)を示す。100mg/KgのhA1ATで処置したマウスからの脳薄片は、大きな体積のTTC染色を示し、このことは、100mg/KgのhA1ATが、著しい体積の脳病変の形成を首尾よく妨げたことを示す。
【0106】
【0107】
(実施例3)
hA1ATで処置したHIマウスにおける認知の改善
実施例1に概説した8日齢のC57/BL6マウスに対する虚血性損傷後、マウスを、100mg/Kg/日の用量のhA1ATの腹腔内投与で毎日1週間処置し、同じ100mg/Kg用量のその後の隔週投与で6週間処置した。投薬期間が終了したら、認知試験を行い、続いて、運動試験(下記参照)を後日行った。
【0108】
マウスは、2つの認知試験を受けた:NOLT(新規物体位置試験)及びT迷路(T字型アーム)。第1の試験では、動物に、囲まれた領域中の2つの物体を2~3分間探索させる。24時間後、長期記憶を評価する。マウスが同じ囲まれた領域中に配置されるとき、物体のうちの一方を、囲まれた領域中の異なる位置に再配置する。優れた記憶力を有するマウスは、再配置された物体を探索することにより多くの時間を費やす。試験の結果を認識指数で表す:より高い認識指数は、より優れた長期記憶及び再配置された物体の認識と等しい。
【0109】
図2における認知試験結果は、古い物体(A)又は古いアーム(B)に対する新しい物体(A)又は新しい迷路アーム(B)の認識指数として%で表される。平均値±SEM(n=6)及びボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。
【0110】
図2Aから、偽群が、73%±3の認識指数を記録したと見ることができる。対照的に、損傷した動物(ビヒクル)は、52%±5の認識指数を記録し、このことは、損傷した動物が、両方の物体を等しく探索することを示し、記憶プロセスにおける欠損と相関する。満足なことに、100mg/KgのhA1AT投薬レジメンで処置した動物は、ビヒクルよりも統計的に有意なより高い認識指数を実証する(69%±4)。重要なことに、hA1AT処置マウスの認識指数は、偽群の認識指数と非常に密接に近似する(
図2A)。
【0111】
T迷路試験では、動物に、T字型アームを探索させるが、アームのうちの一方は閉鎖されている。8時間後、アームを開放し、動物を再び迷路にさらす。優れた記憶力を有するマウスは、新しく開放されたアームをより長く探索することにより多くの時間を費やす(認識の指数)。T迷路試験の結果を
図2Bに示す。非処置ビヒクル群は、70%±4.5の再認指数を有する偽群と比較して、49%±4の認識指数を生じた。この結果は、神経系ダメージを受けたビヒクル群と一致する。NOLT試験と同様に、hA1AT投薬レジメンで処置した群は、ビヒクルに対して認識指数(62%±4)における統計的に有意な増加を記録した。
【0112】
(実施例4)
hA1ATで処置したHIマウスにおける運動機能の改善
実施例1に従う8日齢のC57/BL6マウスに対する虚血性損傷後、マウスを、100mg/Kg/日の用量のhA1ATの腹腔内投与で毎日1週間処置し、同じ100mg/Kg用量のその後の隔週投与で6週間処置した。投薬期間が終了したら、運動機能試験を後日行った。
【0113】
マウスの運動機能を2つの試験で評価した:ロータロッド及び平均台。ロータロッド試験は、2つの異なる速度(16及び24rpm)で回転する円柱からなり、1分間にマウスが円柱から落下する回数を算定する。落下数が多いほど、動物の運動協調能力は低い。
【0114】
運動機能試験の結果は、
図3にプロットされ、1分の期間の間の、ロータロッドからの落下の数(A)、cmでの平均台上を移動した距離(B)及び平均台からのスリップの数(C)を測定する。平均値±SEM(n=6)及びボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。
【0115】
hA1AT投薬レジメンの後、6週間後、ロータロッド(
図3A)及び平均台(
図3B及び
図3C)試験を、偽、ビヒクル/HI、及びhA1AT処置動物に対して行った。著しい神経系損傷を有すると予測される動物(ビヒクル群)は、16rpm及び24rpmの両方の速度で多くの数の落下を示し、結果をTable 2(表2)に表す。これまでの他の結果と一致して、hA1AT処置群は、ビヒクル群と比較して、統計的に有意なより少ない数の落下を有する。
【0116】
【0117】
同様の結果が、平均台試験で観察された。この試験では、動物は円柱上を進み、1分間に移動した距離及び動物のスリップの数を算定する。結果を
図3B及び
図3Cに示し、以下のTable 3(表3)に表す。
【0118】
【0119】
損傷した動物は、偽群よりも遅い速度で歩いて渡り(
図3B)、より多い数の脚のスリップを有する(
図3C)。意味深いことに、hA1ATで処置した動物は改善された運動機能を実証し、ビヒクルに対してより大きな移動距離、及び1つの脚が滑るより少ない回数を示す。
【0120】
重要なことに、hA1ATで処置したマウスは、異なる脳領域によって制御される2つの非常に異なる脳機能である認知及び運動機能において有意な改善を示した。
【0121】
(実施例5)
hA1ATで処置したHIマウスにおけるバイオマーカーレベル
全てのバイオマーカー研究を、実施例1に概説した条件を受けたマウスに対して行った。
【0122】
カスパーゼ-3:アポトーシス
HI誘導は、最初に壊死、及びその後にアポトーシス死の活性化をもたらす。hA1ATがアポトーシスを調節する能力を、カスパーゼ-3の活性断片のレベルを測定することによって決定した。
図4は、3つの異なる脳領域におけるウエスタンブロットによる活性カスパーゼ-3の分析の結果を示す。HIは、3つ全ての領域においてカスパーゼ-3の活性断片の増加を誘導する(
図4Aを参照されたい:皮質:195%±12、海馬:209%±11、線条体:201%±10)。
図4Aにおいて、結果を、偽群に対する%として、平均値±SEM(n=6)として表す。ボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。
【0123】
100mg/Kg/日での7日間のhA1ATの毎日の投与は、カスパーゼ-3活性化を有意に減少させ、処置と偽との間に著しい差は観察されない(結果を偽群に対する%で表す:皮質:137%±9、海馬:129%±9、線条体:133%±8)。これらの結果は、100mg/Kg用量のhA1ATが、偽群に対して著しく異ならないレベルまで、3つの脳領域におけるアポトーシス死を顕著に減少させたことを示す。皮質領域からの代表的なイムノブロットを、
図4Bに示す。
【0124】
グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)及びイオン化カルシウム結合アダプター分子1(Iba1):グリア細胞反応性
グリア反応性は、著しいニューロン毒性を引き起こす。アストロサイト反応性を、偽、ビヒクル/HI、及びHI後7日間100mg/Kg/日のhA1ATで処置したマウスにおける3つの脳領域において、ウエスタンブロットによってGFAPレベルを測定することによって決定した。GFAPは、アストロサイト細胞骨格由来のタンパク質であり、そのレベルは、それが反応性である場合に増加する。
図5Aは、HI誘導が、3つ全ての脳領域においてGFAPレベルの増加をもたらすことを示す(皮質:217%±11、海馬:198%±10、線条体:187%±6)。結果を、偽に対する%で、平均値±SEM(n=6)として表す。ボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。hA1ATで処置した動物は、3つの脳領域において、HIにさらされたマウスの群と比較して、統計的に有意な減少を表す(145%±7、海馬:141%±6、線条体:133%±7)。
【0125】
同様の結果が、ミクログリア細胞に特異的なタンパク質である、Iba1のタンパク質レベルを測定することによって得られる。
図5Bは、HI誘導が、3つ全ての脳領域においてIba1レベルの増加をもたらすことを示す(皮質:ビヒクル202%±11 - hA1AT139%±8、海馬:ビヒクル212%±13 - hA1AT131%±7、線条体:ビヒクル195%±10 - hA1AT140%±6)。結果を、偽に対する%で、平均値±SEM(n=6)として表す。ボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。
【0126】
したがって、本発明者らは、HI誘導が、3つの脳領域においてアストロサイト及びミクログリア反応性をもたらし、本発明の処置レジメンによるhA1ATの投与が、この反応性を有意に減少させることを結論付けることができる。
【0127】
エラスターゼ、トリプシン、プロテイナーゼ-3、TNFα、IL-1及びIL-6:炎症促進性プロテアーゼ及びサイトカイン
炎症プロセスは、HIにおける組織損傷の発生に非常に重要である。炎症を、偽、ビヒクル/HI、及びHI後7日間100mg/Kg/日のhA1ATで処置したマウスにおいて、ウエスタンブロットによってエラスターゼ、トリプシン及びプロテイナーゼ-3レベルを測定することによって評価した。大脳皮質におけるレベルを
図6Aに表す。結果を、偽条件(破線)に対する%で、平均値±SEM(n=6)として表す。ボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。HI誘導が、偽条件(破線)に対して3つのプロテアーゼの増加をもたらすことが観察された(エラスターゼ:269%±18、トリプシン:317%±15、プロテイナーゼ-3:260%±18)。重要なことに、本発明によるhA1ATの投与は、これらのプロテアーゼの濃度を有意に減少させる。hA1ATで処置したマウスの群の大脳皮質における3つのプロテアーゼのレベルの統計的に有意な減少が見出された(エラスターゼ:149%±9.1、トリプシン:141%±10.5、プロテイナーゼ-3:130%±11.1)。同様の結果が、海馬及び線条体で得られている(図示せず)。
【0128】
3つの炎症促進性サイトカインのレベルも、偽、ビヒクル/HI、及びHI後7日間100mg/Kg/日のhA1ATで処置したマウスにおいて、ウエスタンブロットによって研究した(TNFα、IL-1及びIL-6)。得られた結果は、プロテアーゼレベルで観察されたのと同じ傾向を提示する。大脳皮質におけるレベルを
図6Bに表す。結果を、偽条件(破線)に対する%で、平均値±SEM(n=6)として表す。ボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。HI誘導が、偽条件(破線)に対して3つのサイトカインの増加をもたらすことが観察される(TNFα:ビヒクル257%±17 - hA1AT153%±10.7、IL-1:ビヒクル223%±16 - hA1AT147%±9.9、IL-6:ビヒクル227%±13 - hA1AT139%±11)。
【0129】
同様の結果が、海馬及び線条体で得られている(図示せず)。これらの結果は、本発明のhA1AT投薬が、HIによって誘導される炎症プロセスを妨げることができることを示す。
【0130】
ミエリン塩基性タンパク質(MBP):脳白質レベル
虚血プロセスの間、脳の白質及び灰白質の両方は悪化する。したがって、治療は、白質及び灰白質の両方の保存に及ぶ神経保護効果を有するべきである。
【0131】
白質保存を、脳の皮質下領域における、ミエリンに属するタンパク質であるMBP(ミエリン塩基性タンパク質)を測定することによって評価した。レベルを、偽、ビヒクル/HI、及びHI後7日間100mg/Kg/日のhA1ATで処置したマウスにおいて、ウエスタンブロットによって評価した。皮質下領域におけるMBPのレベルを
図7に示す。結果を偽条件に対する%で表す。平均値±SEM(n=6)及びボンフェローニの事後検定を用いた一元配置分散分析を行った。
【0132】
MBPレベルは、白質悪化を示すHI誘導マウスの脳において統計的により低かった(偽群に対する%で:33%±4)。意味深いことに、MBPレベルの増加が、hA1ATで処置した動物の群において、HI動物と比較して観察され(偽群に対する%で:71%±6)、このことは、hA1ATが、HI条件の間、白質を保存することを実証する。代表的なイムノブロットも示す。
【0133】
急性脊髄損傷(SCI)におけるアルファ-1アンチトリプシン療法
(実施例8)
マウスにおけるSCIの誘導
脊髄損傷を、マウスの脊髄の上におもりを落とすことによってマウス(Balb/C系統)で誘導した。5gのおもりを、10mmの発射距離からマウスの脊髄の上に落とした。実験により、後半の条件は、ヘマトキシリン-エオシン(H-E)染色によって決定した場合、損傷誘導の発生場所において脊髄体積の50%を超えない損傷/病変体積をもたらすことが示されていた。
【0134】
(実施例9)
外傷性脊髄損傷からの回復に対するhA1AT用量の効果の評価
hA1ATを、腹腔内投与により様々な用量(25、50、75、100、150、及び200mg/Kg)で損傷マウスに投与した。最初の用量を、手術後に動物を回復させるために損傷から3時間後に投与し、14日間、毎日繰り返した。機能性試験を8週目まで毎週行い、形態学的及び生化学的試験を処置(2週間)の終了時及び損傷から8週後に行った。
【0135】
hA1ATの最も効果的な用量を決定するために、脊髄損傷の面積を、H-E染色を使用して測定した。H-E染色を行い、染色されていない面積を、総髄表面に関して分析する。Table 4(表4)における結果は、総髄面積に対する、病変が占める面積の%として表される。平均値±SEM(n=4)及び一元配置分散分析を、ボンフェローニの事後検定を用いて行った。Table 4(表4)におけるビヒクルエントリーから分かるように、脊髄損傷手順は、損傷後14日(dpi)において43.8%の生存細胞質喪失をもたらす。56dpiにおいて、損傷面積は増加せず、56dpiで45.3%である。
【0136】
14dpiにおいて、hA1AT投与は、100mg/Kg以上の用量で損傷面積を実質的に減少させる。100mg/Kgを超える用量では、病変体積の減少は、100mg/Kgの用量に対して統計的に有意ではない。より低い用量(25及び50mg/Kg)は、14dpiにおいて、ビヒクルに対して病変体積に効果をもたらさない。75mg/Kgの用量は、病変の体積の減少を誘導するが、これは、ビヒクルに対して統計的に有意ではない。
【0137】
56dpiにおけるhA1ATのこの保護効果は、あまり顕著ではない。25~75mg/Kgの用量は、ビヒクルに対する病変体積の減少を誘導しない。100~200mg/Kgの用量では、病変体積における観察できる減少がある。データの傾向は、hA1ATが、約100mg/Kg以上の用量で脊髄損傷に対する保護効果を有し、この保護効果が、複数回投薬レジメンの一部としてのhA1ATの継続投与によって最も強力になることを示す。
【0138】
【0139】
(実施例10)
hA1ATで処置したSCIマウスにおける運動機能の改善
Bassoマウススケール(BMS)は、単一試験において6個の移動運動パラメータを分析する周知の移動運動試験である。これらの6個のパラメータを組み合わせて、値を与えるスケールを作り出す(値が高いほど、動物の移動運動能力が大きい)。この試験は、Balb/C系統において脊髄損傷によって引き起こされる移動運動障害を測定するために特に適用可能である。更なる詳細について、Bassoら、J. Neutrauma 23 (2006) 635~659頁を参照されたい。
【0140】
脊髄損傷を、実施例8に概説した手順に従ってBalb/C系統マウスにおいて誘導した。マウスを、hA1AT(100mg/Kg)の腹腔内投与で処置した。7dpi(損傷後の日数)ごとに、マウスを、BMS移動運動試験を使用して評価した。結果を
図8にプロットし、BMS標準化スケールに従って表す。偽動物は、20の平均値を有した(示さず)。平均値±SEM(n=6)及び一元配置分散分析を、ボンフェローニの事後検定を用いて行った。
【0141】
マウスの両方の群(ビヒクル及びhA1AT)は、損傷前に20のBMS移動運動値を有し、良好な移動運動状態を確認し、両方の群の間に著しい差がないことを確認した。その後の脊髄損傷は、マウスBMS移動運動スコアにおける激しい減少で現れる(
図8、7dpiを参照されたい、BMSスケールの値:1.8%±0.3)。移動運動能力の減少(BMSスコア<4)は、観察期間全体を通して、56dpiまでそのままであった。
【0142】
14日間の100mg/KgのhA1ATの毎日の腹腔内投与は、ビヒクル群に対して7dpi(9.7%±0.9)及び14dpi(13.2%±1.1)の両時点でマウスの運動機能/BMSスコアを有意に改善した。改善の大きさは、hA1ATによる処置が停止したら減少した。しかし、21及び28dpiにおいて、BMSスコアにおける統計的に有意な改善は、hA1AT処置アームにおいて依然として観察された(
図8、21dpi - 9.1%±0.8、28dpi - 5.1%±0.4)。
【0143】
(実施例11)
hA1ATで処置したSCIマウスにおける神経障害性疼痛の軽減
脊髄損傷の症例のおよそ50%において、神経障害性疼痛が発症し、これは、生活の質を大幅に低下させ、脊髄損傷患者における著しい数の自殺の原因であることが示されている要因である。神経障害性疼痛を軽減するhA1ATの効果を決定するために、マウスを、足底痛覚測定を使用して評価した。後半は、動物の脚の足裏にレーザーを投射し、脚を移動させるのにかかる時間を測定することを含む;マウスに損傷を引き起こすことを回避するために、最大時間限界を設定する。より素早く脚を引っ込めることは、神経障害性疼痛に罹患することによる、疼痛に対するマウスの鋭敏化の増加を示す。
【0144】
脊髄損傷を、実施例8に概説した手順に従ってBalb/C系統マウスにおいて誘導した。マウスを、実施例9に概説した14日の投薬レジメンに従って、hA1AT(100mg/Kg)の腹腔内投与で処置した。7dpi(損傷後の日数)ごとに、マウスを、上に論じた足底痛覚測定試験を使用して評価した。結果を、脚を引っ込める時間(秒)で表す。偽動物は、20秒の平均値を呈した(示さず)。平均値±SEM(n=6)及び一元配置分散分析を、ボンフェローニの事後検定を用いて行った。
【0145】
足底痛覚測定評価を、損傷前に両方の群(ビヒクル及びhA1AT)で行い、2つの群の間に著しい差がないことを確認した(0dpi)。その後の脊髄損傷は、マウス内の疼痛鋭敏化の増加で現れる。
図9に関して、7dpiにおいて、ビヒクル群は、非常に速く脚を引っ込め、これは神経障害性疼痛を示した(7dpi、2.8±0.5、14dpi、3.5±0.7、21dpi、4.1±0.6)。hA1AT処置マウスは、より遅く引っ込め、これは、28dpiまでビヒクル群に対して統計的に有意であった。結果は、hA1ATが、脊髄損傷を受けたマウスにおける神経障害性疼痛を首尾よく軽減させるという仮説を確認する。
【0146】
要約すると、これらの結果は、移動運動回復におけるだけでなく、神経障害性疼痛の開始の予防にもおける、hA1ATの治療能力を実証する。この効果は、処置の初期段階(14dpiまで)で顕著である。
【0147】
(実施例12)
hA1ATで処置したSCIマウスにおけるバイオマーカー分析
いくつかの異なるバイオマーカーのレベルに対する、SCIマウスにおける100mg/Kg用量のhA1ATの効果を評価した。
図10は、脊髄損傷から14日後の脊髄に対する神経保護効果を決定するために、ニューロンマーカーであるNeuNのレベルに対するhA1ATの効果を示す。脊髄損傷誘導後、動物を、腹腔内hA1AT(100mg/Kg)で処置した。14及び56dpiにおいて、NeuN染色を脊髄切片に対して行い、陽性面積を測定する。結果を偽(100%NeuN染色)に対する%で表す。平均値±SEM(n=4)及び一元配置分散分析を、ボンフェローニの事後検定を用いて行った。hA1ATの投与は、脊髄損傷後のニューロン喪失を大幅に減少させる。
【0148】
グリア反応性[GFAP(アストロサイトマーカー)及びIba-1(ミクログリアマーカー)]及び脊髄における白質の保存[MBP(ミエリン由来のタンパク質)、及びO4(ミエリンの産生を担う細胞であるオリゴデンドロサイトのマーカー)]の脊髄レベルに対するhA1AT投与の効果を、ウエスタンブロットによって決定した。チューブリンタンパク質レベルを対照として使用する。
【0149】
図11は、GFAP(A)、Iba-1(B)、MBP(C)及びO4(D)に対するhA1ATの効果を示す。結果を偽条件(100%)に対する%で表す。平均値±SEM(n=6)及び一元配置分散分析を、ボンフェローニの事後検定を用いて行った。
図11に示すように、腹腔内hA1AT(100mg/Kg)投与は、脊髄損傷によって誘導されるグリア反応性を減少させ、白質の要素を保存する。
【0150】
(実施例13)
SCI後の脊髄血管再生に対するhA1ATの効果の評価
血管再生、及びグリア瘢痕の消失は、機能的回復の助けとなる、脊髄損傷後の神経再生のための2つの重要な要素である。これらのプロセスに対するhA1AT投与の効果を評価するために、reca-1(内皮状態のマーカー)、及びコラーゲン-IV(グリア瘢痕状態のマーカー)のレベルを決定した。
【0151】
損傷及び処置プロトコールは、実施例8及び9に概説した手順に従う。動物を、鈍的外傷によって傷つけ、その後、100mg/KgのhA1ATで14日間処置した。分析を行うために選択した損傷後の日数(dpi)は、14dpi(亜急性状態、及び処置の終了)、28dpi及び56dpi(両方とも中期から長期の損傷後状態)であった。全ての場合について、群あたり4匹の動物を使用した。
【0152】
14、28及び56dpiにおいて、reca-1染色を行い、各時期に得られた結果を分析し、
図12(A)にプロットした。結果を、平均値±SEM(n=4)として表す。偽群は、平均18%のreca-1染色面積を呈する(示さず)。一元配置分散分析を、ボンフェローニの事後検定を用いて行う。
図12(B)は、14dpiにおけるビヒクル/SCI群及びhA1ATで処置した群におけるreca-1による染色の代表的な画像を提供する(スケールバー:100μM)。
【0153】
reca-1染色は、14日間のhA1ATの投与が、ビヒクルに対してreca-1レベルを統計的に有意に増加させることができることを示す(
図12(A)、染色面積の絶対値における14dpi:ビヒクル、4.5%±0.5、hA1AT、12.7%±0.6)。効果の大きさは、患者の血漿におけるhA1ATのレベルに比例する;14、28及び56dpiにおける結果から、reca-1染色における漸進的な低下が観察できる。結果は、hA1ATが、損傷した脊髄領域において血管再生を促進する能力を有することを示す。
【0154】
14、28及び56dpi(損傷後の日数)において、コラーゲン-IV染色を行い、各時期に得られた結果を分析し、
図13(A)にプロットした。結果を、平均値±SEM(n=4)として表す。偽群は、グリア瘢痕が形成されないため、染色を示さない(データ示さず)。一元配置分散分析を、ボンフェローニの事後検定を用いて行う。
図13(B)は、14dpiにおけるビヒクル群及びhA1ATで処置した群におけるコラーゲン-IV染色の代表的な画像を提供する(スケールバー:100μM)。
【0155】
図13(A)におけるコラーゲン-IV染色は、14日間のhA1ATの投与が、14及び28dpiにおいて、ビヒクルに対してコラーゲン-IVレベルを統計的に有意に減少させることができることを示す(14dpi:ビヒクル、67%±5.9、hA1AT、31%±4.1、28dpi:ビヒクル、72%±5.7、hA1AT、47%±5.5)。効果は、処置を停止すると減少した。結果は、hA1ATが、脊髄損傷後のグリア瘢痕形成を予防する能力を有することを示唆する。
【0156】
図13(B)は、14dpiにおける2つの代表的な画像を示す。ビヒクル群では、発達したグリア瘢痕を示す強い染色がある。hA1AT処置群では、この染色は減少し、グリア瘢痕形成を減少させるhA1ATの能力を確認する。
【0157】
(実施例14)
中大脳動脈閉塞マウスモデルにおけるアンチトロンビンIII(ATIII)の効果の評価
8~10週齢で体重およそ20gのC57/BL6マウスを、イソフルラン麻酔下に置き、左総頸動脈(CCA)の閉塞を行った。その後、外部総頸動脈(ECA)周囲の永久的縫合を行った。次いで、6.0シリコン被覆モノフィラメント縫合をECAに導入した。閉塞栓を、中大脳動脈(MCA)の起点を閉塞するために導入する。閉塞を60分間行う。手順の間、マウスの体温制御を行った。その後(閉塞後2時間以内に)、動物を、神経スコア分析によって評価した。研究に使用したカットオフは、神経スコア≧4であった。
【0158】
5個の異なる群を評価した:偽、MCAO、MCAO+ATIII(異なるATIII用量を用いた3つの群を組み込む)。MCAOマウスを有する群では、最初にn=8匹の動物/群が研究に含まれる。偽群はn=5匹の動物である。適切な対照について、偽及びMCAOマウスに、それぞれ同じ体積の賦形剤溶液及びATIIIを投与した。異なるATIII処置群に、同じ体積のATIIIの適切な希釈液を投与した。
【0159】
MCAOから3時間後、様々な用量のATIIIを、マウスに腹腔内投与した(250、500及び750IU/Kg)。その後、この投与を、MCAOから24時間後及び48時間後に繰り返した。MCAOから54時間後に(屠殺)、マウスを神経スコア分析によって評価し、血漿試料を収集し、脳を灌流した。
【0160】
血漿試料を、血漿ATIIIレベルの分析のために、屠殺時に心臓穿刺によって得た。Table 5(表5)は、MCAO後の脳病変の程度を評価するために使用した、7点の神経スコアスケールを示す。
【0161】
【0162】
脳を、以下のように分析のために調製した。マウスを、氷冷ヘパリン添加(ヘパリン2.5IU/ml)食塩水で経心的に灌流し、脳から血液を除去した。新鮮な脳を取り出し、左半球全体の塊を、+4℃で24時間、0.1Mリン酸塩緩衝液(PB)中の4%パラホルムアルデヒド中に入れ、+4℃にてシェーカー上で2~3日間、0.1M PB中の30%スクロース中で凍結防護した。次いで、脳を乾燥させ、バイアルコルクの上に置き、液体窒素上で凍結させ、次いで、クライオスタット切片を得るまで、塊を-80℃で保存した。病変体積をMAP2染色によって測定した。アポトーシス細胞死を定量化するために、切断型カスパーゼ-3に対する免疫蛍光(Cell Signaling Technology社)を測定した。好中球浸潤を研究するために、抗好中球抗体NIMP-R14(Abcam社)を使用して免疫蛍光を測定した。両方の場合に、定量化を、立体解析学的分析を使用して行った。
【0163】
MCAO後の神経スコア評価は、MCAO媒介性脳病変が、マウス内で誘導されるかどうかを確立する。4匹の動物は、神経スコアの欠損を示さず(カットオフ>4)、最終的な分布は以下であった(神経スコア値の差は、ATIII処置前に群間で存在しなかった):
偽:5匹の動物、
MCAO:7匹の動物、
MCAO+250IU/Kg ATIII:7匹の動物、
MCAO+500IU/Kg ATIII:7匹の動物、
MCAO+750IU/Kg ATIII:7匹の動物。
【0164】
神経スコアを、54時間において盲検的に評価した。結果を
図14に示す。群を、ボンフェローニ事後分析を用いた分散分析を使用して比較した(***MCAO賦形剤群に対するp<0.001)。
図14から、MCAO+250IU/Kg群は、MCAO群と比較して差を示さなかったことが明らかである(MCAO:4.29±0.31、MCAO+250ATIII:4.14±0.28)。興味深いことに、500及び750IU/KgのATIIIの投与は、MCAO群と比較して、統計的に有意な神経スコア値の改善をもたらした(MCAO+500ATIII:2.29±0.18、MCAO+750ATIII:2.14±0.15)。偽群は、0の神経スコア値を示した。
【0165】
病変サイズ/体積を、様々な群で測定した。結果を
図15に示す。群を、ボンフェローニ事後分析を用いた分散分析を使用して比較した(***MCAO賦形剤群に対するp<0.001)。病変体積を、相対梗塞体積の%として表した。
図15から、本発明者らは、MCAO群が53±2.5%の体積の病変を示したことが分かる。ATIIIの投与は、MCAOで誘導される病変の体積の統計的に有意な減少をもたらした(MCAO+500ATIII:29±2.8%、MCAO+750ATIII:25±2.8%)。対照的に、250IU/KgのATIIIの投与は、病変の体積を減少させなかった(MCAO+250ATIII:48±2.4%)。
【0166】
カスパーゼ-3のレベルに対するATIIIの効果を
図16に示す。群を、ボンフェローニ事後分析を用いた分散分析を使用して比較した(P値***MCAO賦形剤に対するp<0.001)。MCAO誘導性病変は、カスパーゼ-3活性化の大きな増加をもたらした。しかし、ATIIIの投与は、500及び750IU/Kgにおいてカスパーゼ-3の活性化を有意に減少させた。MCAO群と、MCAO+ATIII250mg/Kgとの間の差は検出されなかった。したがって、ATIIIは、抗アポトーシス効果により、神経学的改善及び病変体積減少に対するその効果を媒介しうる。
【0167】
好中球浸潤に対するATIIIの効果を
図17に示す。群を、ボンフェローニ事後分析を用いた分散分析を使用して比較した(P値*MCAO賦形剤に対するp<0.05)。MCAO誘導性病変は、好中球浸潤の増加を引き起こした。ATIIIの投与は、750IU/Kgの用量だけで、好中球浸潤を有意に減少させた。MCAO群と、MCAO+ATIII250及び500IU/Kgとの間の差は検出されなかった。したがって、ATIIIは、血液脳関門の透過性の保存により、神経学的改善及び病変体積減少に対するその効果を媒介しうる。
【0168】
(実施例15)
腹腔内経路により投与したアンチトロンビンIII(ATIII)の、血漿ATIII活性との相関関係
血漿試料を、血漿ATIIIレベルの分析のために、屠殺時の心臓穿刺によって得た。投与した各腹腔内用量に対する血漿ATIII活性の相関関係を、以下のTable 6(表6)に示す。
【0169】
【0170】
図18は、血漿ATIII活性の関数として、
図14~
図17で測定した生物変数のそれぞれを再プロットする。血漿ATIII活性の増加が、MCAOマウス処置の効果の改善において有益な効果を有することが十分に明らかである。
【0171】
配列
先行する本文中に言及される配列は、fasta形式で以下に示される。本文中に列挙される配列と、添付の配列表中の対応する配列との間に相違がある場合、誤記を修正する目的で、本文中に列挙される配列が、優先する配列であるものとする。
【0172】
配列番号1 ヒトアルファ-1アンチトリプシン(UniProtKB配列番号P01009)タンパク質配列
【化1】
【0173】
配列番号2 ヒトトランスフェリン[UniProt Q06AH7]タンパク質配列
【化2】
【0174】
配列番号3 ヒトラクトフェリン[UniProt P02788]タンパク質配列
【化3】
【0175】
配列番号4 Y188FトランスフェリンNローブ変異体タンパク質
【化4】
【0176】
配列番号5 Y95F/Y188FトランスフェリンNローブ変異体タンパク質
【化5】
【0177】
配列番号6 Y426F/Y517FトランスフェリンCローブ変異体タンパク質
【化6】
【0178】
配列番号7 Y95F/Y188F/Y517 N及びCローブ変異体タンパク質
【化7】
【0179】
配列番号8 Y95F/Y188F/Y426F/Y517FトランスフェリンN及びCローブ変異体タンパク質
【化8】
【0180】
配列番号9 Y95F/Y188F/Y426F/Y517Fトランスフェリン-Fc N及びCローブ変異体タンパク質
【化9】
【配列表】
【国際調査報告】