(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】システインのための高度に水溶性で安定な化学センサー
(51)【国際特許分類】
C07D 209/12 20060101AFI20240227BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C07D209/12 CSP
G01N21/27 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023553973
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2022056065
(87)【国際公開番号】W WO2022194645
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】フォミン,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】クーヘルマイスター,ハンネス
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059DD13
2G059EE01
2G059EE12
2G059EE13
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH03
2G059JJ01
2G059KK07
(57)【要約】
本発明は、試験試料、好ましくは水性試験試料中のシステインの改善された検出のための化学プローブ、ならびにそれぞれの使用およびキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
(式中、
R
1およびR
2は、R
3、O-R
3、S-R
3、SO
3
-、SO
3-R
3から独立して選択され、R
3は、C
1~C
18アルキル、およびポリエチレングリコール(PEG)残基から選択され、
Accは、式II
【化2】
(式中、Xは、-N(CH
3)-、-S-、-Se-、-O-、および-C(CH
3)
2-から選択される)、
式III
【化3】
式IV
【化4】
および
式V
【化5】
(ここで、式II~Vの各々において、芳香環は1、2または3個のSO
3
-基で置換されていてもよく、
R
4は、C
1~C
18アルキル、C
1~C
6シクロアルキル、および(CH
2)
m-SO
3
-の群から選択され、mは、1~18から選択される整数である)
から選択される基から選択され、
nは、1、2および3から選択される)
による化合物、ならびにその好適な塩および溶媒和物。
【請求項2】
R
1およびR
2が、R
3、O-R
3、S-R
3、SO
3
-、SO
3-R
3から独立して選択され、R
3が、C
1~C
6アルキル、およびポリエチレングリコール(PEG)残基から選択され、
Accが、式II
【化6】
(式中、Xは、-N(CH
3)-、-S-、-Se-、-O-、および-C(CH
3)
2-から選択され、前記芳香環は1、2または3個のSO
3
-基で置換されていてもよく、R
4は、C
1~C
6アルキル、C
1~C
6シクロアルキル、および(CH
2)
m-SO
3
-から選択され、mは1~6の整数である)
であり、
nが1である、請求項1に記載の式Iの化合物、ならびにその好適な塩および溶媒和物。
【請求項3】
R
1およびR
2が、R
3、O-R
3、S-R
3、SO
3
-、SO
3-R
3から独立して選択され、R
3が、C
1~C
3アルキル、およびポリエチレングリコール(PEG)残基から選択され、
Accが、式II
【化7】
(式中、Xは-C(CH
3)
2-であり、前記芳香環は1、2または3個のSO
3
-基で置換されていてもよく、R
4は(CH
2)
m-SO
3
-であり、mは1~6の整数である)
であり、
nが1である、請求項1に記載の式Iの化合物、ならびにその好適な塩および溶媒和物。
【請求項4】
以下の式VI~IX
【化8】
による式Iの化合物、ならびにその好適な塩および溶媒和物。
【請求項5】
請求項1に記載の式Iの化合物を調製するための方法であって、
a)式VI
【化9】
(式中、R
1およびR
2は請求項1に記載されるとおりであり、nは1または2である)
の化合物を、
式II
【化10】
の化合物か、または
式III
【化11】
の化合物か、または
式IV
【化12】
の化合物か、または
式V
【化13】
の化合物
(ここで、式II~Vの各々において、芳香環は1、2または3個のSO
3
-基で置換されていてもよく、R
4は、C
1~C
18アルキル、C
1~C
6シクロアルキル、および(CH
2)
m-SO
3
-から選択され、mは1~18の整数である)
と好適に反応させて、式VIII
【化14】
(式中、R
1、R
2およびAccは請求項1に記載されるとおりであり、nは1または2である)
の化合物を得る工程、ならびに
b)式VIIIの前記化合物を塩化アクリロイルと好適に反応させる工程
を含む、方法。
【請求項6】
試験試料中のシステインを検出するための方法であって、以下:
a)システインを含有することが予期される試験試料と接触させる前および後に、好適な溶媒中の請求項1~4のいずれか一項に記載される化合物の溶液のUV/Vis吸光度を測定する工程、
b)工程a)において測定されたUV/Visスペクトルの比較により吸光度における差異を決定する工程、ならびに
c)工程b)において決定された吸光度における前記差異に基づいて前記試験試料中のシステインを検出する工程
を含む、方法。
【請求項7】
前記UV/Vis吸光度が、200nm~1000nmの範囲内の離散波長において測定される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記波長が、340、378、409、480、512、520、552、583、629、659および800nmからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒が水性溶媒である、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
吸光度における前記差異の前記決定が、色変化の目視検査によるものである、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
吸光度における前記差異の前記決定が、Cedexによるものである、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
試験試料中のシステインを検出するためのキットであって、予め決定された量の請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物を含むバイアルまたは容器を、前記キットを使用するためのマニュアルと共に含む、キット。
【請求項13】
試験試料、好ましくは水性試験試料中のシステインを検出するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物、または請求項12に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験試料、好ましくは水性試験試料中のシステインの改善された検出のための化学プローブの他に、それぞれの使用およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
システイン(Cys)は、生合成、解毒、および代謝において重要である。総システインの上昇したレベルは、心臓血管疾患およびメタボリックシンドロームを予測することができる。システイン欠乏症は加齢の帰結の1つであることが公知である。構造的に類似したホモシステイン(Hcy)またはグルタチオン(GSH)に対してCysを選択的に検出することは、依然として非常に大きな課題となっている。Cysを検出するための多くの方法があるが、光ルミネッセンス(PL)および電気化学発光(ECL)技術は、それらの高い感度のために臨床診断および分析技術によく適する。
【0003】
組換えモノクローナル抗体におけるトリスルフィド形成は、一貫した製造物品質のために制御される必要がある不均質性の原因である。Ryll et al.(Kshirsagar,R.;McElearney,K.;Gilbert,A.;Sinacore,M.;Ryll,T.Biotechnol.Bioeng.2012,109,2523)は、フィード培地中のL-システイン(Cys)濃度は製造物(IgG1 mAb)中のトリスルフィドレベルと直接的に相関することを示している。したがって、Cysフィード戦略の制御が、トリスルフィド形成を許容され得るレベルまで低下させるために要求される。
【0004】
現在までに、Cysの検出は様々な生化学的応用のために多くの注目を集めている。Cysを検出するための多数の方法が開発されており、これは例えば蛍光光度法、電位差測定法、電気化学ボルタメトリー、およびエルマン試薬と組み合わせたまたは蛍光と連結したHPLCである。これらの方法は、複雑な計測手段を要求するか、面倒な実験室手順を伴うか、または低いスループットである。
【0005】
Kim and Hong(Photoluminescence and Electrochemiluminescence Dual-Signaling Sensors for Selective Detection of Cysteine Based on Iridium(III)Complexes.ACS Omega 2019,4,7,12616-12625)は、HcyおよびGSHからのCysの識別のためのシクロメタル化イリジウム(III)錯体を使用するPLおよびECLデュアルチャネルセンサーを報告している。
【0006】
UV-vis分光法は迅速かつ単純な測定手順を提供する。そのため、バイオプロセスにおいて必須の代謝物を定量化するために、自動化分析装置、例えばCedex Bio HT(Roche Diagnostics、Penzberg、Germany)を使用する測光アッセイが用いられる。しかし、わずかな候補のみがCedex Bio HT Analyzer(「Cedex」)上での比色Cys検出のために利用可能であり、分析デバイスは限られた波長のセット:340、378、409、480、512、520、552、583、629、652、659、および800nmのみを提供する。追加的に、Cedexシステムのための理想的なプローブは、高い感度、迅速な応答、水溶解性および安定性、ならびに使用の容易性を含まなければならない。
【0007】
現在までに、Cysのための指標のほとんどはチオール基の強い求核性に基づく。マイケル付加および切断反応を含む、様々な機序が用いられている。アクリレート基に基づく感知戦略は有望であると思われ、その理由は、それは他のアミノ酸およびチオールからCysを識別することを可能としたからである(Han,Q.;Shi,Z.;Tang,X.;Yang,L.;Mou,Z.;Li,J.;Shi,J.;Chen,C.;Liu,W.;Yang,H.;Liu,W.Organic&Biomolecular Chemistry 2014,12,5023)。感知機序は
図1に与えられる。この戦略は、チオエステルを生成するためのアクリレートへのCysの共役付加、続いて分子内環化を伴う。チオール活性化部位としてのアクリレート部分はCysとのみ迅速な環化を起こし、その理由は、反応速度は得られるラクタムの環サイズに強く依存するからである。マスキングアクリレート基が除去された後に、発色団の共役されたπ電子系は回復され、これは比色応答を可能にする。
【0008】
不利なことに、少数のアクリレートベースプローブのみが、Cedex上での使用のために要求される波長において激しい比色応答を特徴とする。それらの発色団は、キサンテン、メロシアニン、ヘプタメチンおよびフルオレセインに基づく。報告されたアクリレートのほとんどは有機溶媒-水混合物において応用されたという事実は、水性培地中でのそれらの不良な溶解性により自明に必要とされる。しかしながら、プローブが水に可溶性であることはCedex上での応用のために必須であり、その理由は機器のパーツは有機溶媒に不安定であるからである。また、アッセイ溶液が合理的な長さの時間にわたりCedex中に貯蔵され得ることを確実にするために、既存のプローブの安定性が評価される必要がある。
【0009】
これらおよび他の欠点を考慮して、水性溶液において使用可能であり、かつ要求される波長の1つにおいて十分な比色応答を提供するCysプローブを提供することが本発明の目的である。他の目的および利点は、本発明の本明細書を検討する際に当業者に明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様において、上記の目的は、式(I):
【化1】
(式中、
R
1およびR
2は、R
3、O-R
3、S-R
3、SO
3
-、SO
3-R
3から独立して選択され、R
3は、C
1~C
18アルキル、およびポリエチレングリコール(PEG)残基から選択され、
Accは、式II
【化2】
(式中、Xは、-N(CH
3)-、-S-、-Se-、-O-、および-C(CH
3)
2-から選択される)、
式III
【化3】
式IV
【化4】
および
式V
【化5】
(ここで、式II~Vの各々において、芳香環は1、2または3個のSO
3
-基で置換されていてもよく、
R
4は、C
1~C
18アルキル、C
1~C
6シクロアルキル、および(CH
2)
m-SO
3
-の群から選択され、mは、1~18から選択される整数である)
から選択される基から選択され、
nは、1、2および3から選択される)
による化合物、ならびにその好適な塩および溶媒和物により解決される。
【0011】
本発明者らは、メロシアニン発色団に基づいてアクリロイルエステルのシリーズを合成し(
図2、下記を参照);プローブLZ07は、対照としてかつ比較のために調製され、文献(Han,Q.;Shi,Z.;Tang,X.;Yang,L.;Mou,Z.;Li,J.;Shi,J.;Chen,C.;Liu,W.;Yang,H.;Liu,W.Organic&Biomolecular Chemistry 2014,12,5023)から公知である。本発明者らは次に、アクリロイルエステルのスペクトル特性、水溶解性および安定性を研究し、Cysに対する応答を評価した。化学的な設計は、特にCedexのための、特化したプローブを提供することが実証できた。
【0012】
好ましいのは、R
1およびR
2が、R
3、O-R
3、S-R
3、SO
3
-、SO
3-R
3から独立して選択され、R
3が、C
1~C
6アルキル、およびポリエチレングリコール(PEG)残基から選択され、
Accが、式II
【化6】
(式中、Xは、-N(CH
3)-、-S-、-Se-、-O-、および-C(CH
3)
2-から選択され、芳香環は1、2または3個のSO
3
-基で置換されていてもよく、R
4は、C
1~C
6アルキル、C
1~C
6シクロアルキル、および(CH
2)
m-SO
3
-から選択され、mは1~6の整数である)
であり、
nが1である、本発明による式Iの化合物、ならびにその好適な塩および溶媒和物である。
【0013】
さらに好ましいのは、R
1およびR
2が、R
3、O-R
3、S-R
3、SO
3
-、SO
3-R
3から独立して選択され、R
3が、C
1~C
3アルキル、およびポリエチレングリコール(PEG)残基から選択され、
Accが、式II
【化7】
(式中、Xは-C(CH
3)
2-であり、芳香環は1、2または3個のSO
3
-基で置換されていてもよく、R
4は(CH
2)
m-SO
3
-であり、mは1~6の整数である)
であり、
nが1である、本発明による式Iの化合物、ならびにその好適な塩および溶媒和物である。
【0014】
さらに好ましいのは、以下の式VI~IX
【化8】
の本発明による式Iによる化合物、ならびにその好適な塩および溶媒和物である。
【0015】
本発明の文脈において、好適な塩は、通常は、本発明による化合物の溶解性に、特に水性培地中での溶解性に干渉しないか、または実質的に干渉しないものである。例は、第I族元素(Li+、Na+、K+、Cs+、Rb+)、アンモニウムイオン(NH4
+)、硝酸イオン(NO3
-)を含有し、Cl-、Br-、もしくはI-を含有する塩、または硫酸塩である。
【0016】
本発明のさらに別の態様は次に、本発明による式Iによる化合物を調製するための方法であって、
a)式VI
【化9】
(式中、R
1およびR
2は上記に定義されるとおりであり、nは1または2である)
の化合物を、
式II
【化10】
の化合物か、または
式III
【化11】
の化合物か、または
式IV
【化12】
の化合物か、または式V
【化13】
の化合物
(ここで、式II~Vの各々において、芳香環は1、2または3個のSO
3
-基で置換されていてもよく、R
4は、C
1~C
18アルキル、C
1~C
6シクロアルキル、および(CH
2)
m-SO
3
-から選択され、mは1~18の整数である)
と好適に反応させて、式VIII
【化14】
(式中、R
1、R
2およびAccは上記に定義されるとおりであり、nは1または2である)
の化合物を得る工程、ならびに
b)式VIIIの化合物を塩化アクリロイルと好適に反応させる工程
を含む、方法に関する。上記の方法を行うための好適な条件は当業者に公知であり、以下の実施例およびスキームにおいて例示的に開示されている。
【0017】
本発明のさらに別の態様は次に、試験試料中のシステインを検出するための方法であって、以下:a)システインを含有することが予期される試験試料と接触させる前および後に、好適な溶媒中の本発明にしたがって定義される化合物の溶液のUV/Vis吸光度を測定する工程、b)工程a)において測定されたUV/Visスペクトルの比較により吸光度における差異を決定する工程、ならびにc)工程b)において決定された吸光度における前記差異に基づいて前記試験試料中のシステインを検出する工程を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、Cysとのアクリロイルエステルの反応の機序(R-OH=メロシアニン)のスキームを示す。
【
図2】
図2は、本発明の文脈において合成されたプローブの構造を示す。
【
図3】
図3は、フィード培地(CysなしのDMT118F.01)における軟正の結果を示す。SRDMSO/水(1:1)中のMF70。R1:100mM K-PO
4.
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による試験試料は、システインを含むか、またはシステインを含むことが予期される任意の試料を含むことができる。例は、例えば、血漿中、患者から得られた試料中、異なる種類の細胞株中の全タンパク質、組織試料中、細胞溶解液中、血清中、唾液中または尿中、抗体試料中、およびバイオテクノロジー応用において使用される試料中の生体チオールの検出である。好ましいのは、Cedexシステムにおいて分析される水性生物学的試料である。
【0020】
Cysの存在下で記録されたスペクトルは、アクリロイルエステルの切断を通じた比色応答を裏付けた。合成されたプローブは、緑色および黄色範囲の可視スペクトルへの有意な深色性シフトを示した(表2)。好ましいのは、UV/Vis吸光度が、200nm~1000nmの範囲内の離散波長において測定される、本発明による方法である。さらに、それらのスペクトルプロファイルは、CedexシステムにおけるCys感知応用のための波長要求(340、378、409、480、512、520、552、583、629、652、659および800nm)を有利なことに満たしていた。
【0021】
より好ましいのは、溶媒が水性溶媒である、本発明による方法である。
【0022】
本発明の好ましい態様において、吸光度における差異の前記決定が、色変化、例えば、緑色および黄色範囲の可視スペクトルへの有意な深色性シフト等の目視検査によるものである、本発明による方法である。例として、わずかに異なるアプローチにおいて、Hai-Feng Yin,et al.(simple probe with visible color change for selective detection of cysteine,Spectroscopy Letters,(2020)DOI:10.1080/00387010.2020.1821063)は、システインを選択的に検出することができる蛍光プローブを合成した。システインの添加と共に、プローブ溶液は、肉眼により著明なペールイエローから橙色への色変化を示した。
【0023】
吸光度における差異の前記決定がCedex Bio HT(Roche Diagnostics、Penzberg、Germany)によるものである、本発明による方法。
【0024】
本発明のさらに別の態様は次に、試験試料中のシステインを検出するためのキットであって、予め決定された量の本発明による化合物を含むバイアルまたは容器を、前記キットを使用するためのマニュアルと共に含む、キットに関する。含まれる材料の例は、例えば、標準品、本発明によるプローブ、および緩衝液である。
【0025】
本発明のさらに別の態様は次に、試験試料、好ましくは本明細書に開示されている水性試験試料中のシステインを検出するための、本発明による化合物、または本発明によるキットの使用に関する。
【0026】
本発明は、以下の実施例において、そしてまた図面を参照して、さらに説明されるが、それに限定されるわけではない。本発明の目的のために、本明細書に引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【実施例】
【0027】
メロシアニン発色団に基づくアクリロイルエステルのシリーズを合成し(
図2)、文献(Han,Q.;Shi,Z.;Tang,X.;Yang,L.;Mou,Z.;Li,J.;Shi,J.;Chen,C.;Liu,W.;Yang,H.;Liu,W.Organic&Biomolecular Chemistry 2014,12,5023)から公知のプローブLZ07と比較した。スペクトル特性、水溶解性および安定性を研究し、Cysに対する応答を評価した。本発明による化学的な設計はCedex用の特化したプローブを提供することを本発明者らは実証した。
【0028】
以下は、既知のCysプローブおよびそれらの特性に関する当技術分野の現状の簡単な要約である。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0029】
実験手順
材料および方法
試薬および溶媒をSigma-Aldrichから最高商用品質で購入し、さらなる精製なしで使用した。CHROMASOLV溶媒をHPLCにおける溶出液として使用した。収率は、他に記載されなければ、クロマトグラフィー的に(HPLC-MS)および分光学的に(1H NMR)均質な材料を指す。対となる陰イオンは明確性のために省略している。
【0030】
分析HPLC-MS(ESI-MS)
化合物の純度を、以下の構成要素:2695 Separation module、2696 photodiode arrayおよびWaters Micromass ZQ(ESCIイオン化モード)検出器を含有するWaters(Milford、USA)からのHPLC-MS装置の助けと共に決定した。データ取得はMassLynx(V4.1)ソフトウェアにより実行した。
【0031】
Column:YMC-Triart C18 3μM(4.6×150mm)/Product Nr.TA12S03-1546WT。
流量:0.7mL/分。
相A:脱イオン水中のトリエチルアンモニウムアセテート(TEAAc)緩衝液(10mM、pH7.0)。
相B:MeCN。
勾配 80:5-80B(7分);80-80B(2分);80-5B(0.5分);5-5B(2.5分)。
勾配 100:5-100B(7分);100-100B(2分);100-5B(0.5分);5-5B(2.5分)。
【0032】
NMR
NMRスペクトルをBruker Avance(500および600MHz)ならびにAgilent 400 MR DD2(400MHz)機器上で記録し、内部参照として残留非重水素化溶媒を使用して軟正した。1NMRピーク多重度を説明するために以下の略語を使用した:s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット、br=ブロード。
【0033】
HRMS
HRMS(高分解能質量スペクトル)のために、試料をMeCNに溶解し、Waters Q-ToF Premier機器上でのポジティブイオンモードにおける直接フロー注入(注入体積=5μL)エレクトロスプレーイオン化飛行時間型(ESI-TOF)質量分析により分析した。
【0034】
一般的手順I
メロシアニン色素の調製
エタノール中のそれぞれのアルデヒド(1当量)およびインドリウム塩(1当量)の混合物をAr下でピペリジン(0.1~2当量)の存在下で1~16h還流させた。反応混合物を室温まで緩徐に冷却させた後に、溶媒を真空中で除去し、残留物を逆相カラムクロマトグラフィー(C-18、TEAB緩衝液(10mM、pH7.4)/MeCNまたはH2O(0.1% TFA)/MeCN)により精製した。
【0035】
一般的手順II
アクリロイルエステルの調製
塩化アクリロイル(4~5当量)をAr下で0℃で乾燥DCM中のそれぞれのメロシアニン色素(1当量)およびEt3N(4~5当量)の混合物に加えた。0℃で1hの撹拌後に、水性NH4Cl(0.1M)を加えることにより反応をクエンチし、有機材料をDCMで2回抽出した。合わせた抽出物をNH4Cl(0.1M)で洗浄し、Na2SO4上で乾燥させ、真空中で濃縮した。残留物を逆相カラムクロマトグラフィー(C-18、H2O/MeCN)により精製した。
【0036】
一般的手順III
アクリロイルエステルの調製
塩化アクリロイル(4~5当量)をAr下で0℃で乾燥DCM中のそれぞれのメロシアニン色素(1当量)およびEt3N(4~5当量)の混合物に加えた。0℃で1hの撹拌後に、水性NH4Cl(0.1M)を加えることにより反応をクエンチし、水溶性生成物をH2Oで2回抽出した。合わせた抽出物をDCMで洗浄し、真空中(20ミリバール、20℃)で濃縮し、次に逆相カラムクロマトグラフィー(C-18、H2O/MeCN)により精製した。
【0037】
分光学的材料および方法
吸収スペクトルをVarianからのCary 50 UV-vis分光計上で記録した。すべての測定は1cm UV-vis使い捨てキュベット(BRAND semi-micro)および空気平衡化溶液中25±0.1℃で行った。1.0mLの全アッセイ体積を各々の測定のために使用した。以下のパラメーターを使用してUV-visスキャンスペクトルを記録した:平均時間0.05s;データ間隔1nm;スキャン速度1200nm/分;ベースライン補正あり。
【0038】
Vortex Mixerを使用して溶液を1.5mLバイアル(Eppendorf(登録商標)マイクロチューブ3810X)中に調製した。
【0039】
アッセイされる化合物(2~5mM)のストック溶液をH2O-DMSO(1:1)中に調製し、-20℃で貯蔵し、使用前に緩衝液で1.0mMに希釈した。L-Cysストック溶液(20.0mM)を測定前に緩衝液中に新たに調製した。HEPES緩衝液(25mM、pH7.4)をすべての測定のために使用した。
【0040】
Millipore purification systemを使用して得られた、18MΩ cm-1以上の抵抗を有する脱イオン水(MQ水)中にすべての水性溶液を作製した。2
【0041】
消光係数
測定のために、1000μLの緩衝液および1~50μLのプローブ(1.0mM)を混合し、次にキュベットに移した。吸光度スペクトル(250~800nm)を緩衝液のブランクに対して測定した。MS Excelソフトウェア(Microsoft)を使用して、各々の化合物の少なくとも6つの濃度を使用してプローブ濃度vs吸光度プロットの勾配から消光係数を算出した。
【0042】
同様に、過剰なCys(100μM)と反応させたプローブの溶液からεCysを決定した。反応は37℃(インキュベーション時間15分)で行った。ブランク反応をCysの添加なしで行った。
【0043】
安定性の評価
測定のために、1000μLの緩衝液および16μLのプローブ(1.0mM)を混合し、次に+4℃および+37℃で5hインキュベートした。得られた混合物をキュベットに移し、吸光度(250~800nm)を測定した。各々の測定を3連で行った。
【0044】
溶解性の評価
実験において、5~10mgの乾燥した材料を室温で250~500μLのH2Oに懸濁した。得られた懸濁液を室温で10分間遠心分離した(16000rcf)。上清のUV-visを室温で緩衝液(25mM HEPES pH7.4)中で記録した。各々の測定を3連で行った。ペレットを真空中で16h乾燥させ、次に計量した。
【0045】
上記のように、最終生成物を2工程合成(縮合およびアクリル化;スキーム1~3)において得た。MF65の場合の6%を除いて、全体的な収率は21~59%。生成物をHPLC-MS、
1Hおよび
13C NMR、およびUV-Visにより特徴付けた。
【化15】
【0046】
スキーム1.試薬および条件:(i)ピペリジン(触媒)、EtOH、還流、Ar;(ii)Et
3N(4当量)、DCM、0℃、t<2h、Ar。
【化16】
【0047】
スキーム2.試薬および条件:(i)ピペリジン(触媒)、EtOH、還流、Ar;(ii)Et
3N(4当量)、DCM、0℃、t<2h、Ar。
【化17】
【0048】
スキーム3.試薬および条件:(i)ピペリジン(触媒)、EtOH、還流、Ar;(ii)Et3N(4当量)、DCM、0℃、t<2h、Ar。
UV-visおよびCys応答
【0049】
得られた色素のUV-visを評価した。ベンゼン環上の選択された置換基は、初期メロシアニン色素についての値を増加させることを助けた。最も顕著な結果は、好ましい中間体化合物MF56、MF57およびMF66について観察された。
【表2】
【0050】
Cysの存在下で記録されたスペクトルは、アクリロイルエステルの切断を通じた比色応答を裏付けた。合成されたプローブは、緑色および黄色範囲の可視スペクトルへの有意な深色性シフトを示した(表2)。さらに、それらのスペクトルプロファイルは、CedexシステムにおけるCys感知応用のための波長要求(340、378、409、480、512、520、552、583、629、652、659および800nm)を有利なことに満たしていた。
【表3】
【0051】
安定性
安定性は、生物学的アッセイ用の比色プローブの評価のための別の重要なパラメーターである。商用応用のためのプローブは4℃で数か月間貯蔵可能である必要がある。追加的に、安定性は、Cedex Bio HT分析装置のアッセイ条件(37℃)下で調べられる必要がある。
【0052】
本発明者らは、貯蔵およびアッセイの通常の条件をシミュレートするために4℃および37℃の緩衝液(10mM HEPES pH7.4)中でプローブの安定性を定性的に調べた。各々のプローブの溶液をUV-visにより5hモニターした。すべての分光学的評価の結果を表3に要約する。
【表4】
【0053】
溶解性
【0054】
プローブの水溶解性は、生物学的アッセイにおける化合物の性能のための別の重要な特性である。本発明者らは、UV-visを使用して本発明によるプローブの水中での溶解性を決定した。最初に、各々のプローブの過飽和の混合物を調製した。混合物を遠心分離し、次に上清のプローブにおける濃度をUV-visにより調べた。結果をさらに検証するために、単離されたペレット重量から濃度を算出した。表4に見られるように、両方のアプローチで決定された結果は同じ範囲内にあり、同じ傾向に従った。2つのスルホ基を含有する好ましいプローブMF70は、そのアナログLZ05および1つのスルホ基のみを含有するMF59と比較して高度に水溶性である。また、MF70の溶解性は、文献から公知の化合物LZ07よりも優れている。
【表5】
【0055】
Cedex Bio HTにおけるプローブMF70の性能
得られたような迅速な動態プロファイル、安定性および低いバックグラウンドシグナルは、Cedex Bio HTにおけるCys感知のためにMF70をさらに使用することを促すものであった。試薬溶液を、モノクローナル抗体製造のために使用されるフィード培地中で様々なCys濃度(0.5~7.6mM)で処理した。
図3に示されるように、漸進的に増強された吸光度がCysの量の増加と共に観察された。これらの条件下で、信頼できる応答が1週の期間にかけて得られ(表5)、3.6μM Cysの対応する検出限度、およびブランク2.2μM Cysの限度であった。
【表6】
【0056】
結論として、本発明によるプローブ、および好ましくはプローブMF70は、商用アッセイのための要求を満たす。メロシアニン色素スキャフォールドは、明るい色素産生性シグナルを確実にする。オルト位におけるメチル基、およびスルホン酸基は、それぞれ加水分解に対する安定性および水溶解性を確実としているようである。
【国際調査報告】