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特表2024-509892単一細胞およびマイクロサンプルの分析のためのピコスケール薄層クロマトグラフィー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】単一細胞およびマイクロサンプルの分析のためのピコスケール薄層クロマトグラフィー
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/92 20060101AFI20240227BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240227BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240227BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
G01N30/92
G01N33/50 U
G01N33/50 D
G01N33/68
G01N27/447 311A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554850
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 US2022019103
(87)【国際公開番号】W WO2022192121
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/158,047
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルブリトン,ナンシー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ユィリー
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB01
2G045DA02
2G045DA36
2G045FA13
2G045FB06
2G045FB12
(57)【要約】
ピコスケール試料の分析のための薄層クロマトグラフィー(TLC)装置、装置を使用する方法、および装置を作製する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に形成された1つまたは複数のマイクロチャネルを有する非多孔質基板を含む、薄層クロマトグラフィー(TLC)装置であって、各マイクロチャネルは、毛管作用によって駆動される流体流れに適合した、多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む、装置。
【請求項2】
前記多孔質マイクロバンドが、モノリシック多孔質シリカマイクロバンドである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記流体流れが、電気泳動と組み合わせた毛細管の流体流れである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記流体流れが、分子間力によって駆動される毛細管の流体流れである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記流体流れが、流体力学的遠心力によっても圧力駆動流体流れによっても駆動されない、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記マイクロチャネルが前記非多孔質基板表面にある、または前記非多孔質基板の上部に形成され、続いて非多孔質壁で横方向に覆われている、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記マイクロチャネルが直線的または曲線的である、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記多孔質マイクロバンドが、約1~約1000μmの幅を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記多孔質マイクロバンドが、約1~約100μmの深さを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記多孔質マイクロバンドが、前記装置の長さと実質的に同じ範囲にある長さを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記多孔質マイクロバンドが、約1~約100のアスペクト比(幅/深さ)を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記多孔質マイクロバンドが、約10μm~約50,000μmの断面積を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記基板が、ガラス、石英、プラスチック、ポリマー、セラミック、金属、またはケイ素である、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記装置が、前記多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む単一のマイクロチャネルを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記装置が、2~約1,000,000本のマイクロチャネルを含み、各マイクロチャネルが、前記多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
薄層クロマトグラフィー装置を作製する方法であって、
(a)非多孔質基板に1つまたは複数のマイクロチャネルを形成するステップ、
(b)前記1つまたは複数のマイクロチャネルに流動性多孔質マイクロバンド前駆体組成物を満たすステップ、および
(c)流動性多孔質マイクロバンド前駆体組成物で満たされた1つまたは複数のマイクロチャネルを有する前記非多孔質基板を、前記組成物を多孔質マイクロバンドに変換する条件に供して、薄層クロマトグラフィー装置を得るステップ
を含む、方法。
【請求項17】
満たすステップの前に、前記1つまたは複数のマイクロチャネルを包囲するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記前駆体組成物が、テトラメチルオルトシリケート、ポリエチレングリコール、および尿素を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記非多孔質基板を、前記前駆体組成物を多孔質マイクロバンドに変換する条件に供するステップが、前記前駆体組成物を重合してゲルを得ること、前記ゲルを熱(120℃)および圧力(15PSI)に供して多孔質ゲルを得ること(オストワルド熟成)、囲いを取り除くことにより前記多孔質ゲルを露出させること、次いで露出した多孔質ゲルを有する前記非多孔質基板を熱(330℃)に供して前記多孔質ゲルをか焼し、それにより1つまたは複数の多孔質シリカモノリシックマイクロバンドを含む非多孔質基板を得ることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記マイクロチャネルが直線的または曲線的である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記マイクロチャネルが、前記非多孔質基板表面にある、または前記非多孔質基板の上部に形成され、続いて非多孔質壁で横方向に覆われている、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記多孔質マイクロバンドが、約1~約1000μmの幅を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記多孔質マイクロバンドが、約1~約100μmの深さを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記多孔質マイクロバンドが、前記装置の長さと実質的に同じ範囲にある長さを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記多孔質マイクロバンドが、約1~約100のアスペクト比(幅/深さ)を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
前記多孔質マイクロバンドが、約10μm~約50,000μmの断面積を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項27】
前記多孔質マイクロバンドが、モノリシック多孔質シリカマイクロバンドである、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
前記基板が、ガラス、石英、プラスチック、ポリマー、セラミック、金属、またはケイ素である、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
前記装置が、前記多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む単一のマイクロチャネルを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項30】
前記装置が、2~約1,000,000本のマイクロチャネルを含み、各マイクロチャネルが、前記多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項31】
前記装置が、表面上に形成された1つまたは複数のマイクロチャネルを有する非多孔質基板を含み、各マイクロチャネルが、毛管作用によって駆動される流体流れに適合した、多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項32】
請求項1から15のいずれか1項に記載の装置を使用した、単一細胞、細胞群、またはマイクロサンプルの内容物の薄層クロマトグラフィーのための方法。
【請求項33】
前記内容物が生物学的分析物である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
生物学的分析物が脂質である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
生物学的分析物が、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド、リポペプチド、ビタミン、ホルモン、タンパク質、炭水化物、酵素基質、および代謝物質である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
請求項1から15のいずれか1項に記載の装置を使用した、約1zL~約100nLの体積を有する試料中の分析物の薄層クロマトグラフィーのための方法。
【請求項37】
前記分析物が、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド、リポペプチド、タンパク質、炭水化物、代謝物質、ホルモン、抗原、花粉、胞子、ビタミン、サイトカイン、インドール、抗生物質、顔料、ステロイド、フェノール、胆汁酸、クマリン、医薬、反応分析物、毒素、農薬、殺虫剤、毒物、または公害汚染物質である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
クロマトグラフィー用の前記試料が、インクジェット印刷、コンタクトプリント、マイクロ流体送達、マイクロピペット堆積、噴霧法(エレクトロスプレー、電着など)、エレクトロウェッティング、オプトエレクトロウェッティング、誘電泳動、表面弾性波堆積、磁気もしくは静電気液滴堆積、不混和性流体流れ、マイクロトラップ、マイクロウェヤー、マイクロホール、ドッキングサイト、マイクロバルビング、光学ピンセット、または圧力ベースおよび磁気ベース操作によって堆積する、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
クロマトグラフィー用の前記試料が、毛管力、圧力、真空、遠心力、電気泳動力、浸透力、または磁力によって移動する、請求項36または37に記載の方法。
【請求項40】
前記分析物が、蛍光吸収(UV、可視、および赤外光)、化学染料、ルミネセンス、赤外分光、表面増強ラマン分光、質量分析、放射能、比色定量、沈澱物形成、電気化学、核磁気共鳴、または電気化学ルミネセンスによって検出される、請求項32から39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
単一細胞の内容物をクロマトグラフするための、請求項1から15のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項42】
単一生物体の内容物をクロマトグラフするための、請求項1から15のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項43】
ウイルス粒子の内容物をクロマトグラフするための、請求項1から15のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項44】
約1zL~約100nLの体積を有する試料中の分析物をクロマトグラフするための、請求項1から15のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項45】
法医学的薬物分析、毒物学、爆発物分析、ならびに薬物、爆発物、インクおよび染料、毒素、および殺虫剤の同定および比較のための染料およびインクの分析において試料をクロマトグラフするための、請求項1から15のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項46】
薬物候補および薬物代謝物質をアッセイするための、請求項1から15のいずれか1項に記載の装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年3月8日に出願された米国特許出願第63/158047号の利益を主張し、その全体は参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0002】
政府ライセンス権に関する表明
この発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金番号R01 CA233811の下で、政府支援によりなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の背景
薄層クロマトグラフィー(TLC)は、吸着性マトリックスの薄層での移動差により、不揮発性化合物を分離するために一般に使用される分析技術である。従来のTLC板は、ガラス板のシート、プラスチックシートまたはアルミニウム箔の上に形成された吸着剤層(シリカゲル、酸化アルミニウムまたはセルロースなど)からなる。TLCの性能は、スポッティング、展開、および検出の3つのステップからなる。分析される化合物の溶液は、最初にTLC板のスタートライン上にスポットされる。試料の溶媒を蒸発させて、分離する化合物を残す。次いで、TLC板は、その下端を溶媒(溶離液)に接触させることによって、チャンバー内で展開される。溶媒は毛管作用によって吸着性マトリックスに引き込まれ、試料の複数の化合物を、マトリックスとの相互作用が異なり展開溶媒中の溶解度が異なることにより様々な速度で垂直に動かす。溶媒の前端がポイントに達すると(通常は、上部板の端から約1cm)、板は溶離液との接触から取り外され、乾燥される。板上の化合物の位置は、紫外(UV)光、化学染料、蛍光、質量分析、赤外分光、または(ほぼ常に、ノイズに対して非常に低い感度、または高いシグナルの)広範囲の他の方法を活用して、視覚化することができる。従来のTLCは、その単純性、低コスト、および分離速度のために、合成化学、食品、医薬、および環境分析で広く使用されている。
【0004】
TLC技術は、従来のTLCの標準化された手順が確立された1950年代以来、著しく進歩した。従来のTLCは、250μmの典型的な吸着剤層の厚さ、10~12μmの平均粒子径および5~20μmの粒度分布を有する。高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)は、より小さい大きさ(5~6μm)、粒度分布(4~8μm)および層の厚さ(100μm)を有する吸着材粒子を利用することによって、1970年代に開発され、従来のTLCと比較して、感度、分解能および分析速度の向上をもたらした。さらなる改良により、2001年にメルク社によって超薄層クロマトグラフィー(UTLC)が導入された。UTLCは、ガラス板に直接結合した、10μm厚さのモノリシックシリカ吸着剤層を有する。UTLCは、HPTLCと比較してさらに感度を改善し、分析時間および分離距離を減少させている。モノリシックシリカに加えて、電界紡糸ナノ繊維、カーボンナノチューブテンプレートフォレスト(carbon-nanotube-templated forest)、多孔質ポリマーモノリシック層、およびナノ構造化薄膜を含む他の材料が、UTLCの吸着剤層を構築するために使用された。
【0005】
過去数十年間、大多数のTLC研究は、感度、分解能および分析速度の向上を目的として、吸着剤層および検出方法の最適化に注目してきたが、極微量のアッセイによって提起される厳しい課題のために、大きな試料の大きさにも依然として注目している。今日までTLC技術は、TLCの不十分な感度、必要な大量の試料ローディング量、および中程度の分離性能のために、単一細胞のアッセイに好適な方法としては見られていなかった。実際に、多大な努力と著しい資源の消費にもかかわらず、単一細胞または極微量のTLCは単に不可能であると、今までの試みは実証してきた。
【0006】
単一細胞分析は、急速に成長している生物医学研究分野であり、マイクロ/ナノ流体装置などの非常に高感度で統合された技術の速い展開のために、臨床的疾病診断および予後に対する高い知名度をさらに獲得している。集団内の細胞の不均質性は、疾病要因であると同時に、正常な生理機能のほとんど全ての側面を理解する上で根本的に重要であることも、現在よく認識されている。さらにこれらのマイクロ/ナノ流体およびアレイベース装置は、単一細胞の寸法および体積と合うように容易にスケール変更して、アッセイの成功を達成し、適切なシグナルとノイズの検出を達成する。前述のように、TLCを単一細胞の分析に使用することに対する主な障害の1つは、TLC吸着性マトリックスの寸法(厚さ:10~>100μm、幅:>1cm)が、単一細胞の寸法(典型的な直径および厚さ:10~20μm、体積:1~2pL)を著しく超えることである。その結果、単一細胞から溶出した化合物は、マトリックス内で横方向および垂直方向に希釈され、検出限界未満の濃度に急速に達する。この課題に対処するために、TLCの多孔質マトリックスの厚さおよび幅は、単一細胞の大きさに匹敵する厚さ/幅を有するマイクロバンドへ小型化する必要がある。この小型化により、横方向の拡散が低減され、マイクロバンドに沿った化合物の動きが限定されると期待される。
【0007】
試料ローディングゾーンおよびワークフローも、単一細胞のそれに適している必要がある。いくつかの以前の刊行物は、分離レーンとしてTLCバンドを生成しているが、そのバンド幅は200μmを超え、そのいずれも単一細胞分析を目的としてTLCバンドを小型化していない。さらに、レーン厚さ(≧200μm)は、小型の試料アッセイをサポートするにははるかに大きすぎる。これらの方法は、興味深いが、極小試料アッセイに関しては、標準的なTLCと比較して有益性が実証されない。
【0008】
吸光度、蛍光、比色分析展開、質量分析、および様々な分光法戦略を含む、広範囲の検出戦略がTLCと組み合わされてきた。集中的な努力にもかかわらず、検出限界は他の分離法と比較して比較的不十分なままであり、検出限界(LOD)は、通常は10-14~10-10モル/スポットである。これは、試料の希釈、マトリックスノイズ、低いまたはゼロである分析物吸着のオフレート(off rate analyte adsorption)のためである。これらの望ましくないマトリックスの課題を最適化または除去する努力は、成功していない。試料堆積は、通常はガラス毛細管を利用して(HPTLCに対して)0.1~0.5μLの液体量をスポットし、空間精度は不十分である(すなわち、通常は1cm幅の板につき1スポット)。したがって、従来のTLC、HPTLCおよびUTLCは、極微量の分析に必要な厳しい仕様を達成することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
極微量の分析が可能な改善されたTLC装置、および改善された性能、特に極微量の分析を有するTLC装置を作製する方法への必要性が、存在している。本発明は、この必要性を満たすことを求めており、さらに関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明は、クロマトグラフィー装置(薄層クロマトグラフィー(TLC)装置)、装置を作製する方法、および装置を使用する方法を提供する。
【0011】
一態様では、本発明は、表面上に形成された1つまたは複数のマイクロチャネルを有する非多孔質基板を含む、薄層クロマトグラフィー(TLC)装置であって、各マイクロチャネルは、毛管作用によって駆動される流体流れに適合した、多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む、装置を提供する。
【0012】
別の態様では、薄層クロマトグラフィー装置を作製する方法は、
(a)非多孔質基板に1つまたは複数のマイクロチャネルを形成するステップ;
(b)1つまたは複数のマイクロチャネルに流動性多孔質マイクロバンド前駆体組成物を満たすステップ;および
(c)流動性多孔質マイクロバンド前駆体組成物で満たされた1つまたは複数のマイクロチャネルを有する非多孔質基板を、組成物を多孔質マイクロバンドに変換する条件に供して、薄層クロマトグラフィー装置を得るステップ
を含む。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載されるクロマトグラフィー装置を使用した、単一細胞、細胞群、またはマイクロサンプルの内容物の薄層クロマトグラフィーのための方法を提供する。
【0014】
前述の態様、および本発明の付随する利点の多くは、添付図面と併せて、以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に評価され、よりよく理解されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ピコスケールの薄層クロマトグラフィー(pTLC)によって、単一細胞または他の小さいスケールの試料などの小さいスケールの試料から化合物を分離する概念を示す図である。パネルAは、非多孔質基板(例えば、スライドガラス)上に形成された多孔質マイクロバンド(単一のマイクロバンド)を含む、代表的なpTLC板を示している。パネルBは、マーカー(例えば、フルオロフォア)で染色された細胞内の化合物を示しており、単一細胞または他の試料はマイクロバンドの左側に分注される。パネルCは、マイクロバンドの左端での溶媒適用および右端への溶媒の移動を示している。細胞または他の堆積した試料において染色された化合物は、溶媒によって抽出される。化合物は、化合物の移動速度の違いおよびマトリックスとの相互作用により分離される。
図2A】pTLC板の作製を示す図である。図2Aは代表的な作製プロセスの概略図である(PDMS:ポリジメチルシロキサン、TMOS:テトラメチルオルトシリケート、PEG:ポリエチレングリコール)。図2Bは、pTLC板の明視野顕微鏡画像を示す(上:低倍率上面図、中:高倍率上面図、下:高倍率側面図)。図2Cは、シリカマイクロバンドの多孔質組織を示す図である。左側の2本のバンドは、乾燥していて暗い。右側の2本のバンドは、水に浸され、透明になっている。
図2B】pTLC板の作製を示す図である。図2Aは代表的な作製プロセスの概略図である(PDMS:ポリジメチルシロキサン、TMOS:テトラメチルオルトシリケート、PEG:ポリエチレングリコール)。図2Bは、pTLC板の明視野顕微鏡画像を示す(上:低倍率上面図、中:高倍率上面図、下:高倍率側面図)。図2Cは、シリカマイクロバンドの多孔質組織を示す図である。左側の2本のバンドは、乾燥していて暗い。右側の2本のバンドは、水に浸され、透明になっている。
図2C】pTLC板の作製を示す図である。図2Aは代表的な作製プロセスの概略図である(PDMS:ポリジメチルシロキサン、TMOS:テトラメチルオルトシリケート、PEG:ポリエチレングリコール)。図2Bは、pTLC板の明視野顕微鏡画像を示す(上:低倍率上面図、中:高倍率上面図、下:高倍率側面図)。図2Cは、シリカマイクロバンドの多孔質組織を示す図である。左側の2本のバンドは、乾燥していて暗い。右側の2本のバンドは、水に浸され、透明になっている。
図3A】スポットされた脂質混合物のpTLCによる分離を示す図である。図3Aは展開および画像処理のためのセットアップの概略図である。図3Bは、1-ブタノール:水:酢酸(18:4:4、体積:体積:体積)による、18:1 PE CFおよびTexas Red DHPEの分離を示す。図3Cは、化学構造、ならびに1-ブタノール:水:酢酸(18:1:1、体積:体積:体積)による、スフィンゴシンフルオレセイン(SpF)とスフィンゴシン-1-ホスフェートフルオレセイン(S1PF)の分離を示す。
図3B】スポットされた脂質混合物のpTLCによる分離を示す図である。図3Aは展開および画像処理のためのセットアップの概略図である。図3Bは、1-ブタノール:水:酢酸(18:4:4、体積:体積:体積)による、18:1 PE CFおよびTexas Red DHPEの分離を示す。図3Cは、化学構造、ならびに1-ブタノール:水:酢酸(18:1:1、体積:体積:体積)による、スフィンゴシンフルオレセイン(SpF)とスフィンゴシン-1-ホスフェートフルオレセイン(S1PF)の分離を示す。
図3C】スポットされた脂質混合物のpTLCによる分離を示す図である。図3Aは展開および画像処理のためのセットアップの概略図である。図3Bは、1-ブタノール:水:酢酸(18:4:4、体積:体積:体積)による、18:1 PE CFおよびTexas Red DHPEの分離を示す。図3Cは、化学構造、ならびに1-ブタノール:水:酢酸(18:1:1、体積:体積:体積)による、スフィンゴシンフルオレセイン(SpF)とスフィンゴシン-1-ホスフェートフルオレセイン(S1PF)の分離を示す。
図4A】pTLCによる、単一細胞から親油性赤色/緑色脂質の分離を示す図である。図4Aは、DiOおよびDiDの化学構造を示す。図4Bは、DiOおよびDiDで染色されたU937細胞を示す。図4Cは、単一U937細胞から1-ペンタノールによるDiOとDiDの分離を示すコマ撮り画像である。
図4B】pTLCによる、単一細胞から親油性赤色/緑色脂質の分離を示す図である。図4Aは、DiOおよびDiDの化学構造を示す。図4Bは、DiOおよびDiDで染色されたU937細胞を示す。図4Cは、単一U937細胞から1-ペンタノールによるDiOとDiDの分離を示すコマ撮り画像である。
図4C】pTLCによる、単一細胞から親油性赤色/緑色脂質の分離を示す図である。図4Aは、DiOおよびDiDの化学構造を示す。図4Bは、DiOおよびDiDで染色されたU937細胞を示す。図4Cは、単一U937細胞から1-ペンタノールによるDiOとDiDの分離を示すコマ撮り画像である。
図5A】pTLCによる、単一細胞からのスフィンゴシン代謝物質の分離を示す図である。図5Aは、プロセスの概略図を示す。スフィンゴシン(Sp)アルキンを、U937細胞にロードする。細胞の内部では、スフィンゴシンアルキンはスフィンゴシンキナーゼによってスフィンゴシン-1-ホスフェート(S1P)アルキンに変換される。次いで細胞は固定され、クリックケミストリーを通して、アルキン部分をアジド含有フルオロフォア(例えば、CY5-アジド)と反応させる(Spアルキン、S1PアルキンおよびCY5-アジドの化学構造を示す)。図5Bは、Spアルキンをロードし、CY5-アジドでクリックしたU937細胞を示す。図5Cは、単一のU937細胞からのSp-CY5とS1P-CY5の分離を示す、コマ撮り画像(0、2、4、6、および11分)である。展開液は、1-ブタノール:1-プロパノール:水:トリエチルアミン(18:2:4:1、体積:体積:体積:体積)である。図5Dは、Sp-CY5がS1P-CY5から完全に分離されていることを示す、11分でのTLCクロマトグラムである。
図5B】pTLCによる、単一細胞からのスフィンゴシン代謝物質の分離を示す図である。図5Aは、プロセスの概略図を示す。スフィンゴシン(Sp)アルキンを、U937細胞にロードする。細胞の内部では、スフィンゴシンアルキンはスフィンゴシンキナーゼによってスフィンゴシン-1-ホスフェート(S1P)アルキンに変換される。次いで細胞は固定され、クリックケミストリーを通して、アルキン部分をアジド含有フルオロフォア(例えば、CY5-アジド)と反応させる(Spアルキン、S1PアルキンおよびCY5-アジドの化学構造を示す)。図5Bは、Spアルキンをロードし、CY5-アジドでクリックしたU937細胞を示す。図5Cは、単一のU937細胞からのSp-CY5とS1P-CY5の分離を示す、コマ撮り画像(0、2、4、6、および11分)である。展開液は、1-ブタノール:1-プロパノール:水:トリエチルアミン(18:2:4:1、体積:体積:体積:体積)である。図5Dは、Sp-CY5がS1P-CY5から完全に分離されていることを示す、11分でのTLCクロマトグラムである。
図5C】pTLCによる、単一細胞からのスフィンゴシン代謝物質の分離を示す図である。図5Aは、プロセスの概略図を示す。スフィンゴシン(Sp)アルキンを、U937細胞にロードする。細胞の内部では、スフィンゴシンアルキンはスフィンゴシンキナーゼによってスフィンゴシン-1-ホスフェート(S1P)アルキンに変換される。次いで細胞は固定され、クリックケミストリーを通して、アルキン部分をアジド含有フルオロフォア(例えば、CY5-アジド)と反応させる(Spアルキン、S1PアルキンおよびCY5-アジドの化学構造を示す)。図5Bは、Spアルキンをロードし、CY5-アジドでクリックしたU937細胞を示す。図5Cは、単一のU937細胞からのSp-CY5とS1P-CY5の分離を示す、コマ撮り画像(0、2、4、6、および11分)である。展開液は、1-ブタノール:1-プロパノール:水:トリエチルアミン(18:2:4:1、体積:体積:体積:体積)である。図5Dは、Sp-CY5がS1P-CY5から完全に分離されていることを示す、11分でのTLCクロマトグラムである。
図5D】pTLCによる、単一細胞からのスフィンゴシン代謝物質の分離を示す図である。図5Aは、プロセスの概略図を示す。スフィンゴシン(Sp)アルキンを、U937細胞にロードする。細胞の内部では、スフィンゴシンアルキンはスフィンゴシンキナーゼによってスフィンゴシン-1-ホスフェート(S1P)アルキンに変換される。次いで細胞は固定され、クリックケミストリーを通して、アルキン部分をアジド含有フルオロフォア(例えば、CY5-アジド)と反応させる(Spアルキン、S1PアルキンおよびCY5-アジドの化学構造を示す)。図5Bは、Spアルキンをロードし、CY5-アジドでクリックしたU937細胞を示す。図5Cは、単一のU937細胞からのSp-CY5とS1P-CY5の分離を示す、コマ撮り画像(0、2、4、6、および11分)である。展開液は、1-ブタノール:1-プロパノール:水:トリエチルアミン(18:2:4:1、体積:体積:体積:体積)である。図5Dは、Sp-CY5がS1P-CY5から完全に分離されていることを示す、11分でのTLCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明はクロマトグラフィー装置(薄層クロマトグラフィー(TLC)装置)、装置を作製する方法、および装置を使用する方法を提供する。
【0017】
薄層クロマトグラフィー(TLC)は、様々な用途に広く使用される分析技術であるが、体積が1ピコリットルの小さい体積を有する単一細胞などの非常に微小な試験片への使用は、これまで実現されていない。主な課題は、従来のTLCにおける吸着剤層の寸法が、単一細胞の寸法を著しく超えるということである。吸着剤の体積が大きいことが、極微量の拡散の広がりを限定せず、クロマトグラフの分離ステップ中に試料の希釈をもたらす。こうしたマイクロサンプルの検出は、非常に少数の試料分子(10-21~10-15モル)および吸着剤によって生成したバックグラウンドノイズ(例えば、マトリックスによる光散乱および光吸収)のために、大きな制約である。ゼロまたは非常に遅いオフレート(またはオフレートの範囲)で試料が吸着剤へ非特異的に結合すると、これらの制約された試料のアッセイのために克服しなければならない困難をさらに生成する。他の課題としては、少量の試料を正確な位置に堆積させるために使用される方法が挙げられるが、極小試料に対して、従来のTLCでは十分な体積分解能または空間分解能はない。極微量のアッセイで成功するためには、試料領域の入り口に高い空間分解能(≦50μm)で試料を配置する能力とともに、(従来のTLCに必要な)大きな試料量による分散、または表面張力による試料の広がりを克服しなければならない。従来のTLCは、これらの厳しい仕様に合致することができない。
【0018】
この課題に対処するために、本発明は、ゾル-ゲル化学と微細加工技術を組み合わせたTLCプラットフォーム(ピコスケール薄層クロマトグラフィー(pTLC)と称される)を提供する。pTLCは、ピコリットルスケールの体積の試料を受理するように設計された高多孔質モノリシックシリカ(または他の材料)から作られた、単一またはずらりと並んだマイクロスケールバンドからなる。ある態様では、本発明は、非常に高感度な検出方法と分離の最適化を組み合わせて、今日までのTLC方法論のさらなる制約を克服する。ある実施形態では、本発明は、各バンドの幅および深さが単一細胞の大きさ(≦100μm)に匹敵するTLC装置を提供する。以下で記載するように、極小試料分析の原理証明を実証するために、モデル蛍光性化合物(18:1 PE CFおよびTexas Red DHPE、スフィンゴシンフルオレセインおよびスフィンゴシン1-ホスフェートフルオレセイン)をマイクロバンド上にマイクロスポットし、pTLCによってうまく分離した。以下でさらに記載するように、ピコリットル体積を分離する能力を実証するために、蛍光性化合物がロードされた哺乳類単一細胞(DiOおよびDiD、CY5標識スフィンゴシン代謝物質)をマイクロバンド上にスポットし、化合物を単一細胞から抽出してpTLCによって分離した。したがって、ある態様では、本発明は、単一細胞分析およびフェムト~ナノリットルスケール試料のための装置および方法を提供する。
【0019】
本明細書に記載される装置および方法は、疾患の診断、細胞不均質性(cell heterogeneity)分析、液滴ベースの反応のモニタリング、微小環境試料、食品試料、法医学および医薬試料の検出など、微小の標本およびハイスループット並行分析が必要な用途で有用である。本明細書に記載される装置および方法の強力な利点は、それらの単純性および高速分離能力にある。例えば、本明細書に記載される装置は、アクティブな流体制御(ポンプ、バルブ、流量計)、電流の流れ、または流体レベルのバランシングなしに容易に運転される。溶媒を単純に蒸発させることによって、クロマトグラフィー後の検出のために分離を終結させることができる。これらの特徴は、装置を強靭でしかも運転が単純なものにし、完全に密閉されたカセットを可能にする(例えば、家庭でのアッセイ、および創薬またはコンビナトリアル化学反応など、自動化ハイスループット運転用に非常に拡張性がある)。
【0020】
本発明は、単一細胞などの非常に微小の試料および標本の分析のための、TLCプラットフォームを提供する。このプラットフォームは、広範囲の極微量試料(1ゼプトL(zL)、1アトL(aL)、1フェムトL(fL)、10fL、100fL、1pL、10pL、100pL、1nL、10nL、100nL)のアッセイに好適である。モル試料サイズの範囲としては、10-21、10-20、10-19、10-18、10-17、10-16、および10-15モルが挙げられる。単一細胞などの少ない試料量から化合物を分離するためにpTLCを使用する概念を、図1に示す。細胞に加えて、この概念は、液滴、エアロゾル、結晶、繊維、マイクロカプセル、マイクロビーズ、マイクロゲル、液体、固体、ゲル、オイル、ピコ~ナノリットル容器、マイクロプラスチック、微粒子、プリオン、凝集体、リポソームおよび他の膜結合型の小胞/構造、プラーク、膜、沈澱物、ならびに粒子の形態にある他の微小試料にも適用することができる。pTLC板は、非多孔質基板上に多孔質マトリックスから作られたずらりと並んだマイクロスケールバンドからなる(図1A、1つのバンドのみ示す)。バンドの寸法は、単一細胞の大きさ(典型的な直径:10~20μmだが、ウイルス、細菌、真菌、酵母、微生物、プランクトン、藻類、哺乳類および植物の細胞、卵母細胞、精子、線虫、昆虫、鱗片、毛髪などのより小さいおよびより大きい細胞ならびに生物体でもある)に匹敵する。小さい試料の大きさとしては、オルガノイド、細胞群体、生検、吸引液ならびに血漿、血液、尿、膜、リンパ液、大脳または脊髄分泌液、涙、唾液、胆汁、糞便、汗および他の排泄物/分泌物などの他の生物学的試料、などの細胞の集団を挙げることができる。細胞内、細胞外または細胞によって分泌された化合物が、試料であり得る。細胞内小器官は、核、ゴルジ体、ミトコンドリア、小胞体、分泌小胞もしくはタンパク質分解小胞もしくはシナプス小胞、リソソーム、液胞、細胞外小胞、ファゴソーム、核小体、リボソーム、細胞質ゾル、または中心体などの好適な試料である。マイクロスケールバンドは、1~1000μmの範囲の幅、0.5~100μmの範囲の深さ、および0.1~100mmの範囲の長さを有する。したがって、試料寸法またはスポットの大きさは、50nm、100nm、1ミクロン、10ミクロン、1000ミクロンの範囲にあり得る。小さい試料で発見された化合物は、分離ステップの前または後に、マーカー(例えば、フルオロフォア、化学染料、抗体、希金属アイソトープ、放射性同位体、クリック試薬、架橋剤、ナノ粒子、量子ドット、p-ドット、ランタノイド)で染色される場合と、染色されない場合があり、単一細胞または他の少量の試料はマイクロバンドの左側に分注される(図1B)。溶媒はマイクロバンドの左端に適用され、その移動はマイクロバンドに沿って毛管力の方向に引かれる。染色された化合物は、細胞または試料スポットから溶出され、それらの移動はバンドに沿って限定され、それらの移動速度の違いのために下流に分離される(図1C)。
【0021】
TLC装置
一態様では、本発明はクロマトグラフィー装置を提供する。ある実施形態では、本発明は、表面上に形成された1つまたは複数のマイクロチャネルを有する非多孔質基板を含む、薄層クロマトグラフィー(TLC)装置であって、各マイクロチャネルは、毛管作用によって駆動される流体流れに適合した、多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む、装置を提供する。
【0022】
ある実施形態では、流体流れは、電気泳動と組み合わせた毛細管の流体流れである。他の実施形態では、流体流れは、分子間力によって駆動される毛細管の流体流れである。この装置では、流体流れは、流体力学的遠心力によっても圧力駆動流体流れによっても駆動されない。溶媒を多孔質マイクロバンドに引き込み、次いで、とりわけ毛管力、圧力、真空、遠心力、電気泳動力、浸透力、または磁力によってバンドに沿って移動させることができる。溶媒の組合せを使用し、不連続的にまたは勾配的にマイクロバンドに適用することができる。
【0023】
本明細書で使用する場合、「マイクロチャネル」という用語は、非多孔質基板の表面に形成されたチャネルを指す。本明細書に記載されるTLC装置の作製中に、各マイクロチャネルは流動性組成物(例えば、シリカゾル-ゲルスラリー)を受け取り、それは、その後その場で処理されてマイクロバンドが提供される。マイクロチャネルは、様々な形状を有することができる。例えば、マイクロチャネルは、U字型、V字形であり得、長方形もしくは正方形の3つの面を含むことができ、または三角形/五角形/六角形の底部を含むことができる。ある実施形態では、マイクロチャネルは平らなU字形を有する。他の実施形態では、マイクロチャネルは、基板の表面と実質的に平行な第1の表面(底部)、ならびに第1表面に実質的に垂直である第2および第3の対向した表面(側面)を含む(すなわち、3面チャネル)。
【0024】
「多孔質マイクロバンド」という用語は、クロマトグラフィーに好適な多孔質マトリックスを指す。各多孔質マイクロバンドは、マイクロチャネルにその場で形成される。マイクロバンドは、試料がそこを通って移動する実質的に均質な(例えば、亀裂のない、割目のない、欠陥のない)多孔質マトリックスである。一実施形態では、マイクロバンドは、約1~約1000μmの幅、1~100μmの深さ、および約0.1~約100mmの長さを有する、多孔質で亀裂のないシリカモノリシックマトリックスである。
【0025】
マイクロバンドは、ナノメートル~マイクロメートル(例えば、約1nm~約999μm)の孔径を有する多孔質マトリックスである。「多孔質」という用語は、マイクロチャネルを満たし、TLC装置において試料がそこを通って移動するマイクロバンドを指す。好適な多孔質マイクロバンドとしては、無機(例えば、ケイ素、酸化ケイ素、シリカゲル、酸化アルミニウム、酸化チタン、カーボンナノ構造)、金属(例えば、金、銀、チタン)、有機(例えば、ポリマーナノ繊維、ポリマーヒドロゲル、ポリアミド、モノリシック多孔質ポリマーなどのポリマー性)、天然(例えば、キトサン、珪藻土、珪藻バイオシリカ、セルロース)、プラスチック、およびハイブリッド材料が挙げられる。多孔質マイクロバンド用の代表的な材料としては、珪藻土、セルロース(および変性セルロース)、ポリアミド、変性/被覆シリカ(アミノ結合シリカ、シアノ結合シリカ、チオール結合シリカ、ジオール結合シリカ、C-18、C-8およびC-2結合シリカ、フェニルシリカ他)、ヒドロキシルアパタイト、炭酸亜鉛、ポリエチレン、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、デキストラン、ポリアクリロニトリル、ポリカプロラクトン、水酸化カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、デンプン、寒天、アルミナ、チタニア、酸化インジウムスズ、ならびに上記の組合せ(シリカ-チタニアなど)が挙げられる。代表的な多孔質マイクロバンドとしては、シリカ系マイクロバンドが挙げられる。
【0026】
ある実施形態では、多孔質マイクロバンドはモノリシック多孔質シリカである。
一実施形態では、薄層クロマトグラフィー(TLC)装置は、表面上に形成された1つまたは複数のマイクロチャネルを有する非多孔質基板を含み、各マイクロチャネルは、毛管作用によって駆動される流体流れに適合したモノリシック多孔質シリカマイクロバンドを含む。
【0027】
本明細書に記載されるTLC装置は、モノリシック多孔質シリカマイクロバンドに有利であることが実証されたが、シリカ以外の材料から作られた他の多孔質マトリックスが、本明細書に記載されるTLC装置のマイクロバンドに有用であり、本発明の範囲内であることが認識されるであろう。
【0028】
ある実施形態では、多孔質マイクロバンドは、約1~約1000μm(例えば、≦5、≦15、≦30、≦50、≦100、≦200、≦500、または≦1000μm)の幅を有する。これらの実施形態のあるものでは、多孔質マイクロバンドは約50~約150μmの幅を有する。他の実施形態では、多孔質マイクロバンドは約50~約100μmの幅を有する。さらなる実施形態では、多孔質マイクロバンドは約50~約75μmの幅を有する。ある実施形態では、多孔質マイクロバンドは、200μm未満(例えば、190μm未満)の幅を有する。代表的な実施形態では、多孔質マイクロバンドは、約1μm、約5μm、約10μm、約50μm、約100μm、約200μm、約500μm、または約1000μmの幅を有する。本明細書に記載されるTLC装置の多孔質マイクロバンドは、記載された幅を有し、不連続性がない(例えば、亀裂がない、割目がない、欠陥がない)。
【0029】
ある実施形態では、多孔質マイクロバンドは、約1~約100μm(例えば、≦5、≦15、≦30、≦50、または≦100μm)の深さを有する。これらの実施形態のあるものでは、多孔質マイクロバンドは、約10~約50μmの深さを有する。他の実施形態では、多孔質マイクロバンドは、約15~約25μmの深さを有する。さらなる実施形態では、多孔質マイクロバンドは約15μmの深さを有する。
【0030】
ある実施形態では、多孔質マイクロバンドは、装置の長さと実質的に同じ範囲にある長さを有する。代表的な長さは、約0.1~約100mmである。
【0031】
ある実施形態では、多孔質マイクロバンドは、約1~約100のアスペクト比(幅/深さ)を有する。代表的で有用なアスペクト比は、0.1、0.5、1、5、10、5、10、50、および100である。
【0032】
ある実施形態では、多孔質マイクロバンドは、約10μm~約50,000μmの断面積を有する。代表的で有用な断面積は、10μm、100μm、500μm、1,000μm、5,000μm、10,000μm、および50,000μmである。
【0033】
TLC装置では、各マイクロチャネルは、多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む。これは、多孔質材料の流動性前駆体が各マイクロチャネルを満たし、プロセスにおいてマイクロチャネルの形状をとり、それによってチャネルを満たす、作製プロセスによって達成される。各マイクロチャネルを占める固体の多孔質マイクロバンドは、本明細書に記載されるようにさらに処理することによって、前駆体から形成される。そのように形成された固体の多孔質マイクロバンドは、各マイクロチャネルを満たすための流動性ゾル-ゲル前駆体を使用するおかげで、均質でもある。本明細書で使用する場合、「均質な」という用語は、多孔質マイクロバンドの組成、機械的性質(例えば、強度、安定性、および連続的、亀裂のない、割目のない、欠陥のない、不連続性のない)、ならびに気孔の性質(例えば、孔径(1nm~<10μm)、孔径分布、およびマイクロバンド全体を通した孔の分布)を指す。
【0034】
ある実施形態では、マイクロバンドは、異なる性質を有するゾーンまたは領域を有するパターン化されたマイクロバンドである。これらの実施形態のあるものでは、マイクロバンドは、分析物バンドを捕捉するのに効果的な架橋性の領域を含む。
【0035】
ある実施形態では、マイクロチャネルおよび最終的にマイクロバンドは、直線的または曲線的(例えば、ジグザグ、らせん状、円形)である。
【0036】
ある実施形態では、マイクロチャネルおよび最終的にマイクロバンドは、(例えば、フォトリソグラフィーまたは微細加工プロセスを介して)非多孔質基板にある。他の実施形態では、マイクロチャネルは、(例えばキャピラリー中で微小成形(micromolding)を介して)非多孔質基板の上部に形成され、続いてマイクロバンドの両側の非多孔質の壁で横方向に覆われている(clad)。
【0037】
「非多孔質」という用語は、TLC装置で試料を溶出するために使用される溶媒および溶媒システムに対して、非多孔質である基板材料を指す。好適な非多孔質基板としては、無機(例えば、ガラス、ケイ素、石英)、金属、プラスチック、または有機(例えば、ポリマー性)基板が挙げられる。非多孔質基板は、無機(例えば、ガラス、ケイ素、石英)、有機(例えば、ポリマー板)、または金属であり得る。ある実施形態では、基板は、ガラス、石英、プラスチック、ポリマー、セラミック、金属、またはケイ素である。ある実施形態では、基板はガラスである。
【0038】
ある実施形態では、装置は、多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む単一のマイクロチャネルを含む。
【0039】
他の実施形態では、装置は2~約1,000,000本のマイクロチャネルを含み、各マイクロチャネルは、多孔質で実質的に均質なマイクロバンドを含む。典型的なTLC板は、20cm×20cmである。一実施形態では、こうした板に対して、装置は、10,000本のチャネル(10μmの幅、10μmのギャップ)を含む。別の実施形態では、装置は、2,000本以下のチャネル(50μmの幅、50μmのギャップ)を含む。さらなる実施形態では、高精度の作製技術(例えば、レーザー加工、電子線)を使用して、装置は、100,000本までのチャネル(10μmの幅、5μmのギャップ)を含む。
【0040】
本発明の代表的なTLC装置は、他の従来のTLC装置と異なる。従来のTLC、HPTLC、UTLCは連続的であり、マイクロバンドに依存したり、マイクロバンドを使用したりしない。従来のTLC装置の狭いバンド(narrow band)は、本明細書に記載されるTLC装置のマイクロバンドではない。狭いバンドは従来の装置に記載されているが、これらの狭いバンドは200μmを超える幅を有し、本明細書に記載されるような本発明の代表的なTLC装置のマイクロバンドの寸法を有するものはない。
【0041】
従来のTLCは、それらの多孔質固定相が非多孔質の壁で横方向に覆われていないので、「連続的」と定義される。本明細書に記載される装置のマイクロバンドは、それらが非多孔質壁で横方向に覆われているので、「連続的」ではない。この覆いの結果、分析物の動きは横方向の拡散がなく、マイクロバンドに沿って制限される。
【0042】
本明細書に記載されるTLC装置は、
単一細胞の内容物をクロマトグラフする(chromatograph);
単一生物体の内容物をクロマトグラフする;
ウイルス粒子の内容物をクロマトグラフする;
約1zL~約100nLの体積を有する試料中の分析物をクロマトグラフする;
法医学的薬物分析、毒物学、爆発物分析、ならびに薬物、爆発物、インクおよび染料、毒素、および殺虫剤の同定および比較のための染料およびインクの分析において試料をクロマトグラフする;ならびに
薬物候補および薬物代謝物質をアッセイするために、
利用することができる。
【0043】
TLC装置の作製方法
別の態様では、クロマトグラフィー装置を作製する方法が提供される。ある実施形態では、本発明は、薄層クロマトグラフィー装置を作製する方法であって、
(a)非多孔質基板に1つまたは複数のマイクロチャネルを形成するステップ;
(b)1つまたは複数のマイクロチャネルに流動性多孔質マイクロバンド前駆体組成物を満たすステップ;および
(c)流動性多孔質マイクロバンド前駆体組成物で満たされた1つまたは複数のマイクロチャネルを有する非多孔質基板を、組成物を多孔質マイクロバンドに変換する条件に供して、薄層クロマトグラフィー装置を得るステップ
を含む、方法を提供する。
【0044】
ある実施形態では、作製は、以下:
(1)ガラスにマイクロチャネルを形成するステップ;
(2)一時的にマイクロチャネルをエラストマースラブ(PDMSなど)で密封するステップ;
(3)マイクロチャネルに流動性シリカゾル-ゲルスラリーを満たすステップ;
(4)流動性ゾル-ゲル組成物を亀裂のない、モノリシックシリカ多孔質構造に変換する(ゲル化およびエージングさせる)ステップ;および
(5)ガラスからエラストマースラブを切り離すことによって、多孔質マイクロバンドを出現させるステップ
を含む。
【0045】
作製方法は、有利なことにステップ(2):マイクロチャネルをエラストマースラブで密封するステップ、を含む。このステップは、ステップ(3)および(4)を実行するために必要な、包囲されたマイクロチャネルをもたらす。
【0046】
本明細書に記載されるTLC装置のある実施形態では、多孔質マイクロバンドは、モノリシック多孔質シリカで作られた多孔質マトリックスである。モノリシック多孔質シリカは、クラックが形成されるために、マイクロバンドに微細加工することが困難である。従来より、モノリシック多孔質シリカは、ゾル-ゲル化学によってカラムまたは毛細管の内部に形成される。今日まで、本明細書に記載されるようなモノリシック多孔質シリカマイクロバンドの作製は、知られていない。本明細書に記載される作製方法、例えば、上記ステップ(1)~(5)の組合せは、新規で亀裂のない(割目のない、欠陥のない)(非多孔質壁で覆われた)モノリシック多孔質シリカマイクロバンドをもたらす。
【0047】
この作製方法はモノリシック多孔質シリカに有利であることが実証されたが、シリカ以外の材料を含む他の多孔質マトリックスも本明細書に記載されるTLC装置のマイクロバンドに有用であり、本発明の範囲内であることが認識されるであろう。
【0048】
上記のように、ある実施形態では、この方法は、前駆体組成物で満たす前に、1つまたは複数のマイクロチャネルを包囲する(例えば、PDMSスラブ)ステップを含む。ある実施形態では、前駆体組成物はテトラメチルオルトシリケート、ポリエチレングリコール、および尿素を含む。
【0049】
ある実施形態では、前駆体組成物を多孔質マイクロバンドに変換する条件に非多孔質基板を供するステップは、前駆体組成物を重合してゲルを得ること、ゲルを熱(120℃)および圧力(15PSI)に供して多孔質ゲルを得ること(オストワルド熟成)、囲いを取り除くことにより多孔質ゲルを露出させること、次いで露出した多孔質ゲルを有する非多孔質基板を熱(330℃)に供して多孔質ゲルをか焼し、それにより1つまたは複数のモノリシック多孔質シリカマイクロバンドを含む非多孔質基板を得ることを含む。
【0050】
マイクロバンドの形状、幅、深さ、長さ、アスペクト比、断面積、および組成は、TLC装置について上記の通りである。
【0051】
非多孔質基板は、TLC装置について上記の通りである。
ある実施形態では、マイクロチャネルは、(例えば、フォトリソグラフィーもしくは微細加工プロセスを介して)非多孔質基板表面にある、または(例えば、毛細管内の微小成形を介して)非多孔質基板の上部に形成され、続いて非多孔質壁で横方向に覆われる。
【0052】
代表的な作製プロセスの概略図を、図2Aに示す。プロセスは、マイクロキャピラリー(すなわち、マイクロチャネル)内でのゾルゲル微小成形を図示している。図2Aを参照すると、ずらりと並んだ開口で直線的マイクロ流体チャネルを保有するソーダ石灰スライドガラス(3インチ×1インチ)が、フォトリソグラフィーおよびウェットエッチングによって作製された(例えば、Castano-Alvarez,M.;Ayuso,D.F.P.;Granda,M.G.;Fernandez-Abedul,M.T.;Garcia,J.R.;Costa-Garcia,A.、Critical points in the fabrication of microfluidic devices on glass substrates、Sens.Actuator B-Chem.2008年、130巻(1号)、436~448頁を参照されたい)。この例におけるチャネルは、60~80μmの幅、13μmの深さおよび60mmの長さを有する。ガラスとシリカモノリスの結合を高めるために、7.5%重炭酸ナトリウム水溶液を用いて70℃で24時間エッチングすることによってチャネル表面を粗面化した。チャネルは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)スラブを取り付けることによって包囲した。5.6mLのテトラメチルオルトシリケート(TMOS)、1.2~1.5gのポリエチレングリコール(PEG、MW=10,000g/モル)、0.9gの尿素、および10mLの酢酸水溶液(10mM)を氷上で45分間混合することによって、モノリシックシリカゾル-ゲル前駆体を調製した。次いで、チャネルに前駆体を満たし、加湿されたチャンバー内、40℃で24時間インキュベートして、シリカゲルを重合させた。PEGは、マクロ多孔質シリカ構造を形成するための相分離誘導物質として作用した。ゲル化の後、(PDMSスラブを取り付けた)スライドガラスを、ポリプロピレンコプリンジャー内で、尿素を含有する(0.09g/mLの尿素濃度をもたらす)45mLの10mM酢酸水溶液に浸漬し、120℃、15ポンド毎平方インチ(PSI)で4時間オートクレーブ処理して、オストワルド熟成プロセスによるメソ細孔を形成した。次いで、板を水ですすぎ、空気中で乾燥させた。次いで、PDMSスラブをスライドガラスから切り離して、シリカマイクロバンドを露出させた。次いで、スライドを水中で2時間インキュベートして、シリカモノリスからPEGおよび尿素を浸出させた。シリカモノリスから有機ポリマーPEGをさらに除去するために、スライドを硫酸に24時間浸漬した。次いで、スライドを水中で24時間インキュベートして、硫酸を除去した。最後に、モノリス/スライドを330℃で24時間、ホットプレート上で焼成することによってか焼して、機械的に安定なシリカモノリスを提供した。
【0053】
多孔質シリカモノリシックマイクロバンドの形成を確認するために、スライドガラスを明視野顕微鏡下で検査した(図2Bおよび2C)。ガラスチャネルは、上面が空気に開放されて、シリカモノリスで満たされた(図2B)。シリカバンドは、多孔質構造であること、およびシリカ(1.475)と空気(1)の屈折率に差があることから、暗く不透明である。シリカモノリスは親水性であり、水は容易に多孔質構造に入るので、バンドは水に浸漬すると、シリカ(1.475)と水(1.33)の屈折率が類似しているため明瞭で透明になる(図3C)。
【0054】
上記記載は、pTLCバンドを生成するための作製方法(マイクロキャピラリーまたはマイクロチャネルにおける微小成形)の例を示している。しかし、pTLCは、3D印刷、マイクロトランスファー成形、溶媒支援微小成形、レプリカ微小成形、マイクロコンタクト成形、フォトリソグラフィー、ソフトリソグラフィー、ステレオリソグラフィー、マイクロ/ナノ-インプリントリソグラフィー、電界紡糸、およびインクジェット印刷などの代替戦略から作製することができる。
【0055】
TLC装置を使用する方法
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載されるクロマトグラフィー装置を使用する方法を提供する。
【0056】
ある実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるクロマトグラフィー装置(すなわち、TLC装置)を使用した、単一細胞、細胞群、またはマイクロサンプルの内容物の薄層クロマトグラフィーのための方法を提供する。これらの実施形態のあるものでは、内容物は生物学的分析物である。ある実施形態では、生物学的分析物は脂質である。他の実施形態では、生物学的分析物は、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド、リポペプチド、ビタミン、ホルモン、タンパク質、炭水化物、酵素基質、および代謝物質である。
【0057】
他の実施形態では、本発明は、約1zL~約100nLの体積を有する試料中の分析物の薄層クロマトグラフィーのための方法を提供する。これらの実施形態のあるものでは、分析物は、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド、リポペプチド、タンパク質、炭水化物、代謝物質、ホルモン、抗原、花粉、胞子、ビタミン、サイトカイン、インドール、抗生物質、顔料、ステロイド、フェノール、胆汁酸、クマリン、医薬、反応分析物、毒素、農薬、殺虫剤、毒物または公害汚染物質である。
【0058】
本明細書に記載される方法では、クロマトグラフィー用の試料は、インクジェット印刷、コンタクトプリント、マイクロ流体送達、マイクロピペット堆積、噴霧法(エレクトロスプレー、電着など)、エレクトロウェッティング、オプトエレクトロウェッティング、誘電泳動、表面弾性波堆積、磁気もしくは静電液滴堆積、不混和性流体流れ、マイクロトラップ、マイクロウェヤー(microweir)、マイクロホール、ドッキングサイト、マイクロバルビング、光学ピンセット、または圧力ベースおよび磁気ベース操作によって堆積してもよい。
【0059】
本明細書に記載される方法では、クロマトグラフィー用の試料は、毛管力、圧力、真空、遠心力、電気泳動力、浸透力または磁力によって移動させてもよい。
【0060】
本明細書に記載される方法では、分析物は、クロマトグラフィー支持体上で分離された分析物を検出するために、当該技術分野で公知の検出によって検出してもよい。代表的な検出技術としては、蛍光吸収(UV、可視、および赤外光)、化学染料、ルミネセンス、赤外分光、表面増強ラマン分光、質量分析、放射能、比色定量、沈澱物形成、電気化学、核磁気共鳴、または電気化学ルミネセンスが挙げられる。
【0061】
ある実施形態では、本明細書に記載される装置は、(i)単一細胞の内容物、(ii)単一生物体の内容物、(iii)ウイルス粒子の内容物、または(iv)約1zL~約100nLの体積を有する試料中の分析物をクロマトグラフするために使用される。
【0062】
本明細書に記載される装置は、法医学的薬物分析、毒物学、爆発物分析、ならびに薬物、爆発物、インクおよび染料、毒素、および殺虫剤の同定および比較のための染料およびインクの分析において試料をクロマトグラフするために;ならびに薬物候補および薬物代謝物質をクロマトグラフおよびアッセイするために、使用してもよい。
【0063】
以下の記載は、本明細書に記載のように調製された本発明の代表的なTLC装置の分離効率を実証する。
【0064】
スポットされた脂質混合物のpTLCによる分離。上記のように調製された代表的なpTLC装置の分離効率を、モデル脂質を使用して評価した。pTLCが有機化合物を分離できるかどうかを決定するために、2つのモデル蛍光性脂質(18:1 PE CFおよびTexas Red DHPE)を選択した。パラフィルムを鋭い三角形状に切断し、pTLC装置のマイクロバンド上に300~1,000ピコリットルの試料をマイクロスポットするために、その先端を使用した。試料をスポットするために、パラフィルム先端を蛍光性脂質溶液(エタノール中1μg/mL)に浸漬し、取り出し、直ちにpTLC板の試料ゾーンに接して配置した。パラフィルムは十分に軟らかいので、シリカモノリスを損傷しない。試料をスポットした後、pTLC装置を下向きに配置し、図3Aに示すように、水平位置のペトリ皿において展開した。溶媒を、一端にあるワイパーから、シリカマイクロバンドの中へ引き込んだ。分離は、Olympus FluoView FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡でモニタリングした。18:1 PE CFおよびTexas Red DHPEは、1-ブタノール:水:酢酸(18:4:4、体積:体積:体積)を使用して、わずか3分で、360μm(図3B)という短い移動距離でうまく分離した。18:1 PE CFの9分間にわたる平均移動速度264μm/分は、Texas Red DHPEの101μm/分より速い。移動速度は、化合物とシリカの間の相互作用と関係する。Texas Red DHPEは、18:1 PE CF(1つのカーボネート)より多くの荷電基(charged group)(2つの第三アミン、1つのスルホネート)を有する。このため、Texas Red DHPEは、より多くのシリカ(その表面は電荷を有する)との相互作用を有し、18:1 PE CFよりゆっくり動く。
【0065】
pTLCの有用性をさらに実証するために、生物学上重要な2つの化合物(スフィンゴシンおよびスフィンゴシン1-ホスフェート)を分離した(図3C)。スフィンゴシン1-ホスフェート(S1P)は、細胞内のスフィンゴシンキナーゼ(SK)の作用によって形成される、スフィンゴシン(Sp)の代謝産物である。生物学的試料のS1PおよびSpの分析は、病理学および治療における脂質シグナル伝達を明らかにするのに有用であり、SARS、MERSおよびコロナウイルス(COVID 19)などの脂質に包囲されたウイルスによる感染において、重要なメディエーターと認識されている。S1Pの細胞増殖特性のために、大多数の腫瘍はこの経路を利用して、遺伝子突然変異、過剰発現およびこの経路を上方制御する他の戦略を介してそれらの悪性挙動を加速させる。SK経路は、自己免疫疾患などの免疫病理にも関与する。一例として、フィンゴリモドは、多発性硬化症を治療するために使用されるスフィンゴシン-1-ホスフェート受容体モジュレーターである。他のモルフォリノ類似体およびオザニモドおよびシポニポドは、自己免疫疾患における、ならびに脳炎、関節炎、外傷性脳損傷、癌、潰瘍性大腸炎、ウイルスおよび細菌感染症、繊維症、腎疾患、同種移植片拒絶反応および他の病理における、スフィンゴシン経路を標的にする新しい薬物候補として構想される。
【0066】
フルオレセイン標識されたSpおよびS1P溶液(エタノール中10μM)を、pTLC板上にパラフィルム先端を使用してスポットした。スフィンゴシンフルオレセイン(SpF)とスフィンゴシン1-ホスフェートフルオレセイン(S1PF)の唯一の違いは、S1PFにおけるマイナスのホスフェート基である。1-ブタノール:水:酢酸(18:1:1、体積:体積:体積)で展開することによって、SpFをS1PFからうまく分離した。16分間にわたるSpFの平均移動速度170μm/分は、S1PFの36μm/分より速い。S1PFのマイナスのホスフェート基は、シリカとの相互作用のために、S1PFの移動を妨げる。上記結果は、pTLCが、マイクロスポットされた有機化合物を分離できることを実証している。pTLCのユニークな利点の1つは、移動が、横方向の拡散がなく、マイクロバンドに沿って限定されることである。他の誘導体化脂質(蛍光性、またはクリック可能部分を有する)も同様に、pTLCによる分離およびアッセイに好適である。
【0067】
pTLCを使用して分析することができる代表的な脂質は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、グリセロリン脂質、コレステロール、ステロイド、トリアシルグリセロール、トリアシルグリセリド、脂肪酸、胆汁酸塩、エイコサノイド、ケトン、脂肪酸アシル、グリセロ脂質、糖脂質、ポリケチド、グリセロホスホコリン、グリセロホスホエタノールアミン、グリセロホスホセリン、グリセロホスホグリセロール、グリセロリン酸、グリセロホスホイノシトール、グリセロホスホイノシトールモノホスフェート、グリセロホスホイノシトールビス-ホスフェート、グリセロホスホイノシトールトリス-ホスフェート、グリセロホスホグリセロホスホグリセロール、カルディオリピン、グリセロホスホグリセロホスフェート、グリセロピロホスフェート、CDP-グリセロールCDP-DG、グリコシルグリセロホスホ脂質、グリセロホスホイノシトールグリカン、グリセロホスホノコリン、グリセロホスホノエタノールアミンである。
【0068】
十分な空間分解能および体積分解能を有する他の試料堆積戦略としては、インクジェット印刷、コンタクトプリント、マイクロ流体送達、マイクロピペット堆積、噴霧法(エレクトロスプレー、電着など)、エレクトロウェッティング、オプトエレクトロウェッティング、誘電泳動、表面弾性波堆積、磁気もしくは静電気液滴堆積、不混和性流体流れ、その他が挙げられる。液滴を機器(フローサイトメトリーなど)によって発生させ、pTLCバンド上に直接堆積させることができる。さらに、マイクロトラップ、マイクロウェヤー、マイクロホール、ドッキングサイト、マイクロバルビング、光学ピンセット、または圧力ベースおよび磁気ベース操作を、試料堆積領域での精密試料配置のために使用することができる。
【0069】
上記記載は、pTLCによって分離することができる脂質の2つの例を提供している。脂質に加えて、pTLCは、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド、リポペプチド、タンパク質、炭水化物、代謝物質、ホルモン、抗原、花粉、胞子、ビタミン、サイトカイン、インドール、抗生物質、顔料、ステロイド、フェノール、胆汁酸、クマリン、医薬、反応分析物、毒素、農薬、殺虫剤、毒物、公害汚染物質を含む、他の生物学的分析物を分離することができる。生物学的分析物に加えて、pTLCは、法医学的薬物分析、毒物学、爆発物分析、ならびに薬物、爆発物、インクおよび染料、毒素、殺虫剤の同定および比較のための染料およびインクの分析に使用することができる。特に価値があるのは、薬物候補、薬物代謝物質および合成反応汚染物質または副生物のアッセイである。
【0070】
分析物の検出の例として、蛍光を使用した。吸収(UV、可視、および赤外光)、化学染料、ルミネセンス、赤外分光および他の分光法、表面増強ラマン分光、質量分析、放射能、比色定量、沈澱物形成、電気化学、核磁気共鳴、および電気化学ルミネセンスを含む、他の検出戦略は、(シグナル増幅の有無に関わらず)pTLCに好適である。
【0071】
単一細胞からの親油性赤色/緑色脂質の分離。単一細胞分析に対するpTLCの可能性を実証するために、2つのモデル蛍光性脂質(DiOおよびDiD)を最初にU937細胞(単球由来腫瘍細胞、体積約1pL、大きさ10~20μm)にロードし、次いで、分離するために、上記のように調製した代表的なpTLC装置のマイクロバンド上に、単一U937細胞をスポットした(図4)。DiOまたはDiD(図4Aに化学構造を示す)は、細胞膜および他の疎水性構造を標識するための親油性蛍光染色剤である。これらの染料は高い吸光係数を有し、明瞭な蛍光色(DiO:緑色蛍光;DiD:赤色蛍光)を示す。U937細胞は、DiOおよびDiD(ハンクス平衡塩類溶液中5μM)とともに37℃で20分間インキュベートして、細胞による脂質の取り込みを可能にした。細胞を、PBS中4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、続いてPBSで5回すすいだ。細胞は、赤色および緑色の両方の蛍光を示し、予期された細胞間不均質性(cell-to-cell heterogeneity)を有した(図4B)。単一細胞をスポットするために、パラフィルム先端を細胞懸濁液(10,000細胞/mL)に浸漬し、取り出し、直ちにpTLCマイクロバンドに接触させた。ポアソン統計学により、ほとんどのマイクロバンドは、0および>1細胞でスポットされた。堆積した単一細胞の数は、マイクロ流体工学、インクジェット印刷、微小滴、細胞ドッキングサイト、電気泳動、コンタクトプリント、マイクロピペット堆積、噴霧法(エレクトロスプレー、電着など)、エレクトロウェッティング、オプトエレクトロウェッティング、誘電泳動、不混和性流体流れ、その他を使用して容易に最適化される。さらに、マイクロトラップ、マイクロウェヤー、マイクロホール、マイクロバルビング、光学的ピンセット、または圧力ベースおよび磁気ベース操作を、試料堆積領域での精密細胞配置に使用することができる。1つの細胞がスポットされたマイクロバンドだけを、アッセイに使用した。単一細胞の存在は、顕微鏡法によって確認した。pTLC板は、図3Aに示すセットアップにおける1-ペンタノールで展開した。単一細胞からのDiO/DiDの溶出およびマイクロバンドに沿った移動を、Olympus FluoView FV3000共焦点レーザー走査顕微鏡(図4C)を用いて画像処理した。DiOおよびDiDを細胞から抽出し、わずか2分で分離した。5分で、DiDをDiOから完全に分離した。DiOはより極性であるので、DiDの移動はDiOより速い。これらの結果は、本明細書に記載されるTLC技術が、単一細胞の内容物をアッセイするために適用できることを実証している。この結果は、細胞適合性試料ローディングゾーン、希釈を最小限にするように細胞含有物を含むマイクロバンド、単一細胞の堆積戦略、および細胞サイズに適した機能を有する吸着剤を生成することによって達成された。高感度な検出方法を組み合わせることにより、単一細胞内容物をアッセイする能力がさらに強化された。
【0072】
本明細書に記載される赤色および緑色のフルオロフォアに加えて、青色、薄緑色、濃緑色、黄色、オレンジ色、赤色、遠赤色、赤外線の範囲の発光色を含む他のフルオロフォアもpTLC検出に好適である。これらのフルオロフォアは、近UV、可視、近IRのスペクトルに及ぶ。
【0073】
U937細胞は単球由来腫瘍細胞であるが、他の腫瘍細胞および正常細胞のタイプ、例えば、リンパ球、好中性、好酸球、好塩基球、マクロファージ、赤血球、血小板、巨核球、血小板、肥満細胞、ナチュラルキラー細胞、形質細胞、上皮細胞、ニューロン、筋細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、神経細胞、内皮細胞、骨細胞、線維芽細胞、卵細胞、精子細胞、胚性幹細胞、組織特異性幹細胞(例えば、造血幹細胞、間充織幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、皮膚幹細胞)、人工多能性幹細胞、心臓細胞、腸細胞、筋肉、線維芽細胞、腎臓、肝臓、ニューロン/神経、網膜、肺、脾臓、骨、および哺乳類、ヒト、植物、昆虫または動物に発見される任意の他の細胞または組織もアッセイすることができる。
【0074】
単一細胞からのスフィンゴシン代謝物質の分離。DiOまたはDiDは、上記のようにpTLCによって単一細胞から分離し検出することができるが、スフィンゴシンおよびスフィンゴシン1-ホスフェートなどの細胞内部の多くの生物学的に重要な化合物は、非蛍光性であるかまたは非常に低濃度で存在する。これらの課題を克服するために、分析物の増幅戦略、非常に高感度な検出方法、およびセンサーを開発することができる。こうした戦略の例が、以下に続く。クリック化学を使用して、細胞内部にロードされた非蛍光性センサーを高度蛍光染料と検出目的で結合させた(conjugate)(図5A)。U937細胞を、センサーであるスフィンゴシンアルキン(10μM)とともに37℃で30分間インキュベートした。スフィンゴシンアルキンセンサーは細胞に入り、アルキンが最小限の摂動(perturbative)であるので、スフィンゴシンと同様に細胞酵素によって代謝される。例えば、細胞内のスフィンゴシンキナーゼは、スフィンゴシンアルキンをスフィンゴシン1-ホスフェートアルキンに変換する。スフィンゴシンアルキンとその代謝物質の比は、スフィンゴシンキナーゼの活性を明らかにする。細胞を、ロードされたスフィンゴシンアルキンとともにインキュベートし、次いでPBS中4%のパラホルムアルデヒドで15分間固定し、続いてPBSで5回すすぐ。非蛍光性アルキンを検出するために、クリック化学として広く知られる銅(I)-触媒アジドアルキン付加環化(CuAAC)を使用して、CY5-アジドをアルキン部分と細胞内で結合させた。CY-5は、鋭い吸収バンド、高いモル吸光係数(エタノール中250,000cm-1-1)、高い量子効率、および光退色に対する優れた耐性を有する(図5B)。
【0075】
単一細胞内のSp-CY5とS1P-CY5の比を検出するために、パラフィルム先端を使用して、上記のように調製した代表的なpTLC装置のpTLCマイクロバンド上に、単一細胞をスポットした。pTLC板を、1-ブタノール:1-プロパノール:水:トリエチルアミン(18:2:4:1、体積:体積:体積:体積)で展開した。Sp-CY5およびS1P-CY5は単一細胞から溶出し、マイクロバンドに沿って移動した。CY5蛍光は、顕微鏡を使用してモニタリングした(図5C)。Sp-CY5およびS1P-CY5は、2分以内に細胞から外に遠ざかって移動した。脂質は、早くも4分で分離された。4分後、S1P-CY5は、Sp-CY5から完全に分離された(分解能=1)。S1P-CY5は余剰のホスフェート基を有し、したがってより極性であるため、S1P-CY5の移動はSp-CY5より遅い。11分におけるpTLCクロマトグラムの定量分析は、測定された全CY5蛍光のうち、S1P-CY5ピーク面積は33.8%であり、Sp-CY5ピーク面積は66.2%であることを示している。このデータから、この特定の細胞は、スフィンゴシンキナーゼの作用を介して、ロードされたSpアルキンの33.8%をS1Pアルキンに30分で変換することが実証される。この結果は、本明細書に記載のpTLC技術が、単一細胞内の生物学的に重要な化合物を分析するのに使用できることを実証している。
【0076】
他のクリック可能な脂質の例としては、フォトクリックスフィンゴシン[(2S,3R,E)-2-アミノ-13-(3-(ペンタ-4-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)トリデカ-4-エン-1,3-ジオール]、27-アルキンコレステロール、アルキン-コレステロール、フォトクリックコレステロール、クリックPI(4,5)P2-アジド、18:0プロパルギルPC、18:1プロパルギルPC、16:0プロパルギルSM(d18:1-16:0)、C6(6-アジド)セラミド、C6(6-アジド)LacCer、C6(6-アジド)GalCer、C6(6-アジド)GluCer、16:0アジドコエンザイムA、N3C14SOBRAC、三官能性スフィンゴシン、16:0アジドカプロイルPE、16:0ヘキシノイルPE、16:0 DBCO PE、18:1 DBCO PE、18:0 アジドエチルPC、16:0 アジドエチルSM(d18:1/16:0)、IKS02、18:0-16:0(16-アジド)PC、DSPE PEG(2000)アジド、DSPE-PEG(2000)-DBCO、三官能性脂肪酸、パルミチン酸(15-イン)、pacFA、pacFAセラミド、pacFA GlcCer、pacFA GalCer、16:0-pacFA PC、pacFA-18:1 PC、アラキドン酸-アルキン、オレイン酸(17-イン)、16:0(アルキン)-18:1 PC、16:0(アルキン)-18:1 PE、オレイン酸(18-アジド)、フォトクリックスフィンゴシン-1-ホスフェート、フォトクリックC6セラミド、フォトクリックGM1(合成)が挙げられ、スフィンゴシンアルキンおよびスフィンゴシン-1-ホスフェートアルキンを含むこれらは全て市販されている。細胞ベースのアッセイに好適な広い範囲の他のクリック可能なプローブは、とりわけ:他のフルオロフォア、ゲル剤、PEG、ヌクレオチド、ビス-dPEG 11-DBCO、アジドプロピルビニルスルホンアミド二官能性クリック試薬、ビオチン、ドコサヘキサエン酸アルキン、4-ヒドロキシノネナールアルキン、ファルネシルアルコールアジド、6-アジドヘキサン酸、オレイン酸アルキン、エイコサペンタエン酸アルキン、パルミチン酸アルキン、12(S)-HETE-19,20-アルキン、アラキドン酸アルキン、ミリスチン酸アルキン、パルミトイルアルキン-コエンザイムA、ドコサヘキサエン酸アルキン、4-ヒドロキシノネナールアルキン、ファルネシルアルコールアジド、6-アジドヘキサン酸、オレイン酸アルキン、L-ホモプロパルギルグリシン、4-ペンチノイル-コエンザイムA、エイコサペンタエン酸アルキン、パルミチン酸アルキン、5-アジドペンタン酸、12(S)-HETE-19,20-アルキン、アラキドン酸アルキン、ミリスチン酸アルキン、パルミトイルアルキン-コエンザイムA(トリフルオロ酢酸塩)、15-ヘキサデシノイル-CoA、パルミトイルアルキン-CoAである。
【0077】
ある実施形態では、分離後、検出前に、分析物を標識することができる。ある実施形態では、分析物は、分離前に試料自体の中でその場で標識することができる。
【0078】
ある実施形態では、細胞内の化合物は、架橋可能な部分とクリック可能な部分(例えば、アジド、アルキン)の両方を有することができる。これらの方法では、化合物をpTLCによって分離し、マイクロバンドで架橋して化合物を固定し、次いで、例えば、可視化用に蛍光染料でクリックすることができる。
【0079】
ある実施形態では、本発明のpTLC装置は、例えば創薬における並行分析のためのハイスループットスクリーニングに使用することができる。各バンドのマイクロスケール幅のため、マイクロバンドの高密度アレイを生成することができる。例えば、バンドの幅が50μmで、バンドギャップが50μmである場合、2,000本のバンドを20×20cmの板上に生成することができる。バンド上に試料をスポットするために、マイクロディスペンサーまたはプリンターを使用することができる。
【0080】
このように、本明細書に記載されるTLC技術は、統合されたハイスループット、および高度に並列なマイクロ流体装置;薬物スクリーニングのためのアッセイ;コンビナトリアルケミストリースクリーニングのためのアッセイ;反応スクリーニング;細胞間不均質性分析;細胞内小器官アッセイ;水痘、インフルエンザ、疱疹、HIV/AIDS、ヒトパピローマウイルス、耳下腺炎、麻疹、風疹、帯状疱疹、肝炎、脳膜炎、肺炎、MERS、SARS、およびCOVID19などのコロナウイルス他を含むウイルス検出アッセイに、有利に適用することができる。エンベロープウイルスは、これらのアッセイに適している。
【0081】
上記のように、ある実施形態では、本発明のpTLC装置は、非常に小さいスケールの試料量(例えば、1ゼプトリットル~100nL)に使用することができ、したがって貴重な、希少なまたは非常に小さな試料(法医学標本など)の分析に好適である。
【0082】
本明細書で使用する場合、「約」という用語は、規定された値の±5%を指す。
例示的実施形態を図示し記載してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更をその中に加えられることが認識されるであろう。
【0083】
排他的な財産または特権が主張される本発明の実施形態は、以下のように定義される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
【国際調査報告】