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特表2024-509893アルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ、これを用いたアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法、及びこれにより製造された溶接製品
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  • 特表-アルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ、これを用いたアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法、及びこれにより製造された溶接製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】アルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ、これを用いたアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法、及びこれにより製造された溶接製品
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/22 20060101AFI20240227BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240227BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20240227BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B23K35/22
B23K26/21 F
B23K26/322
B23K35/30 320A
B23K35/30 320Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554854
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 KR2022009252
(87)【国際公開番号】W WO2023277543
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】10-2021-0086583
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ, モク-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, デュ-ヨル
(72)【発明者】
【氏名】オム, サン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ハン, ド-キョン
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA12
4E168BA38
4E168BA83
4E168BA88
4E168DA40
(57)【要約】
【課題】樹脂マトリックスと、上記樹脂マトリックスの内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメントと、を含むアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ、これを用いたアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法、及びこれにより製造された溶接製品を提供する。
【解決手段】樹脂マトリックスと、前記樹脂マトリックスの内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメントと、を含むことを特徴とするアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ、および前記炭素フィラメントワイヤの直径は0.1~5mmであり、前記炭素フィラメントの形状比(長さ/直径)は10000以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリックスと、
前記樹脂マトリックスの内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメントと、を含むことを特徴とするアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ。
【請求項2】
前記炭素フィラメントワイヤの直径は0.1~5mmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ。
【請求項3】
前記炭素フィラメントの形状比(長さ/直径)は10000以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ。
【請求項4】
前記炭素フィラメントの直径は1~1000μmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ。
【請求項5】
前記炭素フィラメントワイヤの断面を基準に、炭素フィラメントワイヤ内の炭素フィラメントが占める分率は50~90面積%であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ。
【請求項6】
前記炭素フィラメントのうち少なくとも一つは、ソリッドワイヤで代替されることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ。
【請求項7】
前記ソリッドワイヤは、重量%で、C:0.001~1.0%、Mn:0.01~25%、Si:0.01~5.0%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項6に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ。
【請求項8】
前記ソリッドワイヤは、直径が0.01~0.05mmであることを特徴とする請求項6に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ。
【請求項9】
2枚以上のアルミニウム系めっき鋼板をレーザ溶接する溶接方法であって、
前記レーザ溶接時に、樹脂マトリックスと、前記樹脂マトリックスの内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメントと、を含む炭素フィラメントワイヤを送給することを特徴とするアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法。
【請求項10】
前記アルミニウム系めっき層は、Al系めっき層又はAl-Si系めっき層であることを特徴とする請求項9に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法。
【請求項11】
前記レーザ溶接時に、溶接入熱量は10~200J/mmであることを特徴とする請求項9に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法。
【請求項12】
前記炭素フィラメントワイヤの送給速度は2~200mm/sであることを特徴とする請求項9に記載のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項によって製造されたことを特徴とする溶接製品。
【請求項14】
前記溶接製品は、母材に比べて溶接部のAl及びC含量が高いことを特徴とする請求項13に記載の溶接製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ、これを用いたアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法、及びこれにより製造された溶接製品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全性を確保しながらも排出ガスの低減あるいは燃費の向上のために、車体に使用される素材は高強度化が求められる。しかし、素材の強度が増加すると、プレスなどの成形が困難であるだけでなく、部品組立のための溶接にも問題が発生する。これは、素材の強度を増加させるために添加されるC、Si、Cr、Mnなどの元素が溶接硬化能を高めることにより、溶接部の脆性を増加させるという問題点があるためである。
【0003】
熱間プレス成形とは、素材をA3変態温度以上に加熱した後、プレスによって成形と同時に冷却を行うことで製品を製造することである。このとき、プレス金型による急速冷却により素材中のオーステナイトがマルテンサイトに変態して素材の強度を増加させる。上記技術は、自動車において優れた衝突性能が要求されるBピラーなどの部品への適用が増加している。さらに、強度を高めながらも重量を減少させるために、位置ごとに厚さ又は鋼種の異なる素材を、レーザで溶接して製造されたTWBパネルを使用して部品を製造する場合が増加する傾向にある。
【0004】
一方、高温に加熱された板材をプレス成形する場合、板材の表面に酸化及び脱炭が起こるとか、板材が金型に焼着するという問題などが発生する。これにより、従来、自動車用素材として主に用いられる亜鉛めっき鋼板の場合、亜鉛の蒸発温度(約906℃)が低いため、使用が困難であるという欠点がある。 このような問題を解決するために、アルミニウム又はアルミニウム-シリコンめっき鋼板の使用が増加している。しかし、アルミニウム及びシリコンはフェライトの生成を促進する元素であるため、熱間成形部品の溶接部強度を低下させるという問題を招く。すなわち、アルミニウム又はアルミニウム-シリコンめっき鋼板を溶接する場合、めっき層のアルミニウム又はシリコン成分が溶接部に混入してフェライトの生成を促進させ、結果的に、熱間成形部品の溶接部におけるマルテンサイトの生成を妨げて強度が低下する。
【0005】
このような問題点を解決するための技術としては、特許文献1がある。特許文献1では、溶接部が形成される領域のめっき層をブラシ又はレーザで除去してからレーザ溶接する方法を提案している。しかしながら、この方法は、追加の工程が要求されるため、工程が複雑になりコストが追加されるという問題点がある。
【0006】
他の技術としては、特許文献2がある。特許文献2では、フィラーワイヤを使用して溶接部のオーステナイトの生成を促進する方法を提案している。しかしながら、この方法は、オーステナイト形成促進元素の添加量に制約が伴い、溶接ビードが過度に形成されるため、追加の加工工程が要求され、部品の製造コストが上昇するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2007545号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0353983号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ、これを用いたアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法、及びこれにより製造された溶接製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、樹脂マトリックスと、上記樹脂マトリックスの内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメントと、を含むアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤを提供する。
【0010】
また、本発明は、2枚以上のアルミニウム系めっき鋼板をレーザ溶接する溶接方法であって、上記レーザ溶接時に、樹脂マトリックスと、上記樹脂マトリックスの内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメントと、を含む炭素フィラメントワイヤを送給することを特徴とするアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、上記製造方法により製造された溶接製品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤ、これを用いたアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法、及びこれにより製造された溶接製品を提供することができ、これによって、熱間プレス成形による部品製造時に追加の工程が要求されず、且つ、母材に比べて溶接部の強度が低下するという問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤの断面図である。
図2】本発明の発明例1と比較例1の溶接部を光学顕微鏡で観察した写真である。
図3】本発明の発明例1と比較例1の溶接部を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
図4】発明例1と比較例1の溶接部におけるAl及びCの濃度をEPMA(Electron Probe Micro Analysis)で観察した写真である。
図5】本発明の発明例1と比較例1の溶接部に対する硬度分布を示すグラフである。
図6】本発明の発明例1と比較例1の引張試験後の破断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤについて説明する。
【0015】
図1は、本発明のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接用炭素フィラメントワイヤの断面図である。
【0016】
図1に示すように、本発明の炭素フィラメントワイヤ10は、樹脂マトリックス1及び上記樹脂マトリックス1の内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメント2を含む。
【0017】
上記樹脂マトリックスは、直径が非常に細い炭素フィラメントを互いに結合して溶接部に送給が可能なように強度と剛性を付与し、レーザビームによって分解されて生成された炭素の一部は、溶接部に混入してフェライトの生成を抑制するのに寄与する役割を果たす。本発明では、上記樹脂マトリックスの種類について特に限定していないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いることができ、例えば、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリレート、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和エステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリスルフィド、シリコン、ニトリルゴムなどを用いることができる。
【0018】
上記炭素フィラメントは、溶接時にレーザビームによって分解され、溶接部に混入することで、フェライトの生成を抑制する役割を果たす。より具体的には、従来の溶接ワイヤは、めっき鋼板の母材成分と類似のレベル(1%以下)の炭素が添加されるのに対し、本発明の炭素フィラメントは、これよりも高いレベルの炭素の含有を可能にすることで、めっき層のAlが溶接部に混入されてもフェライトの生成を抑制することができる。一方、上記炭素フィラメントは2つ以上の場合、炭素フィラメントワイヤの送給性が改善できる。これは、上記炭素フィラメントは直径が非常に薄く過度に柔軟であり、送給に不利であるため、複数のストランドの炭素フィラメントに樹脂を含浸させると、剛性が増加するためである。
【0019】
上記炭素フィラメントワイヤの直径は0.1~5mmであってもよい。上記炭素フィラメントワイヤの直径が0.1mm未満の場合には、溶接時に上記炭素フィラメントワイヤの送給に困難が生じる可能性があり、5mmを超える場合には、溶接部に混入する炭素の量が過剰になるだけでなく、溶接時に、レーザビームにより上記炭素フィラメントワイヤを十分に溶融させることが困難になる可能性がある。
【0020】
上記炭素フィラメントの形状比(長さ/直径)は10000以上であってもよい。上記炭素フィラメントの形状比が10000未満の場合には、十分な延性を確保できず、溶接時に炭素フィラメントワイヤの円滑かつ連続的な送給が不可能になることがある。上記炭素フィラメントの形状比(長さ/直径)は大きければ大きいほど、連続的な作業に有利であるため、本発明では、その上限について特に限定しない。
【0021】
上記炭素フィラメントの直径は1~1000μmであってもよい。上記炭素フィラメントの直径が1μm未満の場合には、製造過程で切れやすくなるだけでなく、炭素フィラメントワイヤ内の炭素の含量が減少することがあり、1000μmを超える場合は、炭素フィラメントワイヤの柔軟性が低下し、溶接時にレーザビームにより上記炭素フィラメントワイヤを十分に溶融させることが困難になる可能性がある。
【0022】
上記炭素フィラメントワイヤの断面を基準に、炭素フィラメントワイヤ内の炭素フィラメントが占める分率は50~90面積%であってもよい。樹脂マトリックスは容易に燃焼し、溶接部への炭素混入には大きく寄与することができず、むしろ溶接部又は周囲を汚染させる。したがって、上記炭素フィラメントの面積比率が50%未満であると、溶接部又は周囲環境を汚染させる可能性がある。これに対し、上記炭素フィラメントの面積比率が90%を超えると、炭素フィラメント間の結合力が弱くなり、送給性が低下することがある。
【0023】
一方、上記炭素フィラメントのうち少なくとも一つは、ソリッドワイヤで代替することができる。上記ソリッドワイヤは、めっき鋼板の母材と類似の成分で構成され、溶接部の隙間あるいはスパッタなどによって発生し得るアンダーフィル(充填不足)を補完したり、溶接部の余盛(オーバーラップ)を増加させて溶接部を強化させる役割を果たすことができる。また、上記ソリッドワイヤは相対的に剛性が高いため、炭素フィラメントワイヤの強度及び剛性を向上させることができる。
【0024】
上記ソリッドワイヤは、当該技術分野において通常用いられるものを使用することができ、例えば、重量%で、C:0.001~1.0%、Mn:0.01~25%、Si:0.01~5.0%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる。
【0025】
上記ソリッドワイヤは、直径が0.01~0.05mmであってもよい。上記ソリッドワイヤの直径が0.01mm未満の場合には、溶接部の体積の増大、剛性の補強などの効果が低くなる可能性があり、0.05mmを超えると、溶接部の炭素含量の増加効果が低くなる可能性がある。
【0026】
一方、本発明では、上記炭素フィラメントワイヤの製造方法について特に限定しない。但し、例えば、上記炭素フィラメントワイヤは、炭素フィラメントが液状あるいは可塑状態の樹脂が備えられた容器を通過させ、所望の直径のノズルを通過させた後、自然に冷却されるようにするか、又は必要に応じて硬化処理を行うことによって製造することができる。このとき、上記炭素フィラメントは、樹脂が備えられた容器への容易な送給のために撚線された形態(互いに捩じられた状態)で存在することができる。
【0027】
以下、本発明のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法について説明する。
【0028】
本発明のアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法は、アルミニウム系めっき鋼板をレーザ溶接する溶接方法であって、上記レーザ溶接時に、樹脂マトリックスと、上記樹脂マトリックスの内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメントと、を含む炭素フィラメントワイヤを送給することを特徴とする。
【0029】
本発明では、上記レーザ溶接方法について特に限定せず、当該技術分野において通常用いられる全ての方法を用いることができる。上記めっき鋼板も、アルミニウム系めっき層が形成されているものであれば、当該技術分野において用いられる全ての種類の鋼板を用いることができる。さらに、溶接される上記めっき鋼板は、互いに異なる厚さや強度を有することができる。一方、上記アルミニウム系めっき層は、Al系めっき層又はAl-Si系めっき層であってもよい。
【0030】
上記レーザ溶接時に、溶接入熱量は10~200J/mmであってもよい。上記溶接入熱量が10J/mm未満の場合には、被溶接材あるいは炭素フィラメントワイヤを十分に溶融させにくくなる可能性があり、200J/mmを超える場合には、溶落ちにより被溶接材と炭素フィラメントの溶融物質が失われる可能性がある。一方、上記溶接入熱量QはQ=P/Vで求めることができ、ここで、Pはレーザ出力(ワット(W))であり、Vは溶接速度(mm/s)を意味する。
【0031】
上記炭素フィラメントワイヤの送給速度は2~200mm/sであってもよい。上記炭素フィラメントワイヤの送給速度が2mm/s未満の場合には、溶接部における炭素の希釈量が少なく、フェライト相の生成を抑制しにくくなる可能性があり、200mm/sを超える場合には、レーザビームで炭素フィラメントワイヤを十分に溶解させにくくなる可能性があるだけでなく、溶接部に添加される炭素の量が過剰となり、溶接部が脆弱になる可能性がある。なお、上記送給速度sはs=t・v/dで求めることができ、ここで、tは被溶接材の厚さ(mm)、vは溶接速度、dは炭素フィラメントワイヤの直径(mm)を意味する。一方、被溶接材、すなわち、めっき鋼板の厚さが互いに異なる場合には、平均厚さを考慮して上記送給速度を求めることができる。
【0032】
以下、本発明の一実施形態による溶接製品について説明する。
【0033】
本発明は、上述した炭素フィラメントワイヤを用いたアルミニウム系めっき層を有する鋼板のレーザ溶接方法により製造された溶接製品を提供する。
【0034】
本発明では、溶接部が形成される領域のめっき層を除去しないため、上記溶接製品は、めっき鋼板のめっき層内のAlが溶接部に混入される。また、炭素フィラメントワイヤを用いて溶接されるため、溶接部の炭素含量も増加する。これにより、本発明の溶接製品には、母材に比べて高い含量のAlとCが存在することになる。これによって、溶接部はマルテンサイト組織が容易に形成され、強度や剛性が向上する。
【0035】
一方、上記溶接製品は、溶接された鋼板であってもよく、上記溶接された鋼板をホットプレスフォーミングして得られる成形部品であってもよい。上記成形部品は、2枚以上の鋼板が同じ厚さや強度を有してもよいが、厚さ又は強度が異なるTWB(Tailor Welded Blank)であってもよい。さらに、上記成形部品は、自動車のAピラー、Bピラー、バンパービーム、ドアビーム、クロスメンバなどに適用されることができる。
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明についてより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明をより詳細に説明するための例示であり、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0037】
(実施例)
下記表1の条件を有する炭素フィラメントワイヤを作製した後、Al-Si系めっき層を有する引張強度1.5GPa級鋼板を突き合わせた後、上記炭素フィラメントワイヤを送給しながら、下記表1の条件でレーザ溶接を行った。このとき、樹脂マトリックスとしてはエポキシ樹脂を使用した。このようにして製造された溶接製品についてホットプレスフォーミングした後、溶接部の微細組織、引張強度及び硬度を測定し、その結果を下記表2に示した。一方、比較例1は溶接ワイヤの送給なしで自生溶接したものである。
【0038】
微細組織は、溶接部が含まれた試験片をモールドして研磨した後、ナイタル2%腐食液で腐食させてから光学顕微鏡で観察した。
【0039】
引張強度は、KS B 0801 13B号規格で試験片を加工し、KS B 0802に従って引張試験を行い、最大荷重を測定した。
【0040】
硬度は、荷重500gfでKS B 0811に従ってビッカース硬度試験によって測定した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
上記表1及び2から分かるように、発明例1はマルテンサイトが形成され、引張強度及び硬度が高いレベルであるのに対し、比較例1の場合には一部のフェライトが形成され、引張強度及び硬度が低いレベルであることが分かる。
【0044】
図2は、発明例1と比較例1の溶接部を光学顕微鏡で観察した写真であり、図3は、発明例1と比較例1の溶接部を走査電子顕微鏡で観察した写真である。図2及び図3から分かるように、発明例1の場合には、マルテンサイトが形成されたのに対し、比較例1の場合には、マルテンサイトの他にフェライトが形成されたことが分かる。
【0045】
図4は、発明例1と比較例1の溶接部におけるAl及びCの濃度をEPMA(Electron Probe Micro Analysis)で観察した写真である。図4から分かるように、発明例1と比較例1はAl含量が類似しているが、比較例1の場合には、溶接部と母材の炭素含量が類似のレベルであるのに対し、発明例1の場合には、母材に比べて溶接部のC含量が高いことが分かる。
【0046】
図5は、本発明例1と比較例1の溶接部に対する硬度分布を示すグラフである。図5から分かるように、発明例1の場合には、母材に比べて溶接部の硬度が高いレベルであるのに対し、比較例1の場合には、母材に比べて溶接部の硬度が低いレベルであることが分かる。
【0047】
図6は、発明例1と比較例1の引張試験後の破断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。図6から分かるように、発明例1の場合には、微細な粒内破断の形態を示したのに対し、比較例1の場合には壁開破断が発生したことが分かる。
【符号の説明】
【0048】
1:樹脂マトリックス
2:炭素フィラメント
10:炭素フィラメントワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-09-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
図1に示すように、本発明の炭素フィラメントワイヤ10は、樹脂マトリックス及び上記樹脂マトリックスの内部に備えられる2つ以上の炭素フィラメントを含む。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
上記樹脂マトリックスは、直径が非常に細い炭素フィラメントを互いに結合して溶接部に送給が可能なように強度と剛性を付与し、レーザビームによって分解されて生成された炭素の一部は、溶接部に混入してフェライトの生成を抑制するのに寄与する役割を果たす。本発明では、上記樹脂マトリックスの種類について特に限定していないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いることができ、例えば、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリレート、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和エステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリスルフィド、シリコン、ニトリルゴムなどを用いることができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
1:炭素フィラメント
2:樹脂マトリックス
10:炭素フィラメントワイヤ
【国際調査報告】