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特表2024-509896プロテオミクスプロファイルマッチングを使用して組織試料を分析するためのエクスビボ方法、並びに病理の診断、予後及び治療に対する応答の予測のためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】プロテオミクスプロファイルマッチングを使用して組織試料を分析するためのエクスビボ方法、並びに病理の診断、予後及び治療に対する応答の予測のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240227BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240227BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20240227BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 V
C12Q1/02
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554879
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2022055792
(87)【国際公開番号】W WO2022189378
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】21305275.6
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506424209
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ボルドー
(71)【出願人】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】516324917
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニベルシテール・ドゥ・ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サルテル,フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド,アンヌ-オーレリー
(72)【発明者】
【氏名】ディ トマソ,シルヴェーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥルト,シリル
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA08
2G041GA09
2G041LA07
2G041LA08
2G045AA25
2G045AA26
2G045CB01
2G045DA36
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QS10
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4H045AA10
4H045AA50
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、対象における病理的状態の参照プロテオミクスプロファイルを決定するためのコンピュータ実装方法であって、-組織の病理的状態の診断が以前に確立されている少なくとも1人の対象由来の組織試料において同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標識定量化であって、試料が非病理的及び病理組織を含有する、無標識定量化ステップと、-各タンパク質について、非病理組織中のタンパク質に対する病理組織中のタンパク質の相対存在量の比を計算することによる、試料のプロテオミクスプロファイルを決定するステップと、-少なくとも2つの対象群の間で確立された統計的検定によって、以前に診断された病理的状態についての参照プロテオミクスプロファイルを決定するステップと、を含む、方法に関する。本発明はまた、本発明の方法を実施するための手段を含むデータ処理装置、対象において病理的である可能性が高い組織を分析するためのエクスビボ方法、組織のプロテオミクスプロファイリングのエクスビボ方法、対象における良性腫瘍のがんへの形質転換のリスクを評価するためのエクスビボ方法、対象における良性及び悪性腫瘍の鑑別診断のためのエクスビボ方法、並びに対象における病理の治療の有効性を予測するためのエクスビボ方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における病理的状態の参照プロテオミクスプロファイルを決定するためのコンピュータ実装方法であって、
-組織の病理的状態の診断が以前に確立されている少なくとも1人の対象由来の組織試料において同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標識定量化であって、前記試料が、非病理組織と、病理組織とを含有する、無標識定量化ステップと、
-各タンパク質について、前記非病理組織中の前記タンパク質に対する前記病理組織中の前記タンパク質の前記相対存在量の比を計算することによる、前記試料のプロテオミクスプロファイルを決定するステップと、
-少なくとも2つの対象群間で確立された統計的検定によって、前記以前に診断された病理的状態についての参照プロテオミクスプロファイルを決定するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記試料が、ホルマリン固定パラフィン包埋若しくは凍結組織のマクロダイセクション又はレーザーマイクロダイセクションによって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相対タンパク質存在量の前記無標識定量化が、質量分析によって実現される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記病理的状態が、がん、自己免疫疾患、血栓症、炎症性疾患、感染症、移植片若しくはプロテーゼ拒絶、又は良性腫瘍の中から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法を実施するための手段を備える、データ処理装置。
【請求項6】
対象において病理的である可能性が高い組織を分析するためのエクスビボ方法であって、
-前記対象由来の組織試料において同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標識定量化ステップであって、前記試料が、非病理組織と、病理組織である可能性が高い組織とを含有する、無標識定量化ステップと、
-各タンパク質について、前記非病理組織中の前記タンパク質の量に対する、病理的である可能性が高い前記組織中の前記タンパク質の前記相対量の比を計算することによる、前記試料のプロテオミクスプロファイルを決定するステップと、
-前記試料のプロテオミクスプロファイルと、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法によって得られた少なくとも1つの参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアを計算するステップと、を含む、エクスビボ方法。
【請求項7】
前記分析が、参照プロファイルに対する、病理的である可能性が高い前記組織におけるタンパク質発現調節解除のプロファイルの分析である、請求項6に記載のエクスビボ方法。
【請求項8】
対象における病理を診断するエクスビボ方法であって、請求項6又は7に記載の分析のエクスビボ方法を実施することを含み、前記対象由来の試料のプロテオミクスプロファイルと、病理の参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアが、前記病理を示す、方法。
【請求項9】
組織のプロテオミクスプロファイリングのエクスビボ方法であって、
-前記組織の試料において同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標
識定量化であって、前記試料が、非病理組織と、病理組織である可能性が高い組織とを含有する、無標識定量化ステップと、
-各タンパク質について、前記非病理組織中の前記タンパク質の量に対する病理的である可能性が高い前記組織中の前記タンパク質の前記相対量の比を計算することによる、前記組織のプロテオミクスプロファイル全体の決定ステップと、を含む、方法。
【請求項10】
対象における良性腫瘍のがんへの形質転換のリスクを評価するためのエクスビボ方法であって、請求項6又は7に記載の組織の分析のエクスビボ方法を実施することを含み、前記対象の試料のプロテオミクスプロファイルと、がんの参照プロテオミクスプロファイルとの類似性スコアが、前記良性腫瘍のがんへの形質転換のリスクを示す、方法。
【請求項11】
前記良性腫瘍が、肝細胞腺腫であり、前記がんが、肝臓がん、特に肝細胞がんである、請求項10に記載のエクスビボ方法。
【請求項12】
対象における良性及び悪性腫瘍の鑑別診断のためのエクスビボ方法であって、請求項8に記載のエクスビボ診断方法を実施することを含み、前記対象由来の試料のプロテオミクスプロファイルと、腫瘍の参照プロテオミクスプロファイルとの類似性スコアが、前記腫瘍、並びに任意選択でそのサブタイプ及び悪性形質転換状態を示す、方法。
【請求項13】
前記腫瘍が、肝臓腫瘍である、請求項12に記載のエクスビボ方法。
【請求項14】
前記良性腫瘍が、肝細胞腺腫であり、悪性腫瘍が、肝細胞がんである、請求項12に記載のエクスビボ方法。
【請求項15】
前記肝細胞腺腫が、H-HCA、IHCA、b-HCA、b-IHCA及びsh-HCAから選択される少なくとも1つのサブタイプに属する、請求項14に記載のエクスビボ方法。
【請求項16】
病理の少なくとも1つのバイオマーカーを同定するためのエクスビボ方法であって、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法を実施することを含む、方法。
【請求項17】
対象における病理の治療の有効性を予測するためのエクスビボ方法であって、請求項8に記載のエクスビボ診断方法を実施することを含み、前記対象由来の試料のプロテオミクスプロファイルと、前記病理の参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアが、前記病理の治療に対する応答又は非応答を予測する、方法。
【請求項18】
前記病理が、肝臓がん、特に肝細胞がんである、請求項17に記載のエクスビボ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における病理的状態の参照プロテオミクスプロファイルを決定するためのコンピュータ実装方法、並びに特に対象における状態の診断及び管理のための、組織試料のエクスビボ分析におけるその使用に関する。
【0002】
したがって、本発明は、医療分野、より具体的には、診断、予後、及びセラノスティック(theranostic)分野において有用性を有する。
【0003】
以下の説明では、角括弧([])内の参照は、本文書の終わりの参照文献のリストを指す。
【背景技術】
【0004】
病理の診断及び管理は、特に腫瘍については、異なる臨床的専門知識を必要とする。今日、医用イメージングは非常に進歩しており、診断及び腫瘍予後に関して有効な結果を提供している。しかしながら、主要な課題の1つは、腫瘍が悪性であるか否かを決定することに残っていることが多い。それが良性である場合、がんへの悪性形質転換を含む臨床的リスクを依然として提示するかどうかを認識することが重要である。がんが同定された場合、可能な限り最良の患者管理、より正確には、腫瘍に適合した治療アプローチを提案するために、最大限の生物学的情報が得られなければならない。
【0005】
生検は、一般に診断を確立するために必要とされる最初の避けられないステップである侵襲的処置である。生検の組織学的解析は、医用イメージングを補完する診断のための必須のツールである。病理学者は、組織の形態学的特徴を解析し、免疫組織化学(immunohistochemistry、IHC)によってバイオマーカー発現を可視化して、腫瘍の性質を決定することができる。今日、様々なバイオマーカーが、診断及び予後を支援するために現在利用可能であり、セラノスティクス及び病理学者は、連続免疫染色を使用して、増加する数のバイオマーカーの存在量を調査及び評価する。PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖応答)及びFISH(Fluorescence in situ hybridization:蛍光インサイチュハイブリダイゼーション)は、ヒト試料に対して日常的に行われる。最近の技術的進歩により、現在、凍結組織、さらにはホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed and paraffin-embedded、FFPE)組織から、非常に高度なゲノム(次世代配列決定)及びトランスクリプトーム(RNA配列決定)解析を実施することが可能になっている。
【0006】
それにもかかわらず、後者は、遺伝物質の分解を考慮すると、そのような解析に完全には適していない。これらの分子解析は、変異解析のために、又は日常治療試料中の特定の転写物の存在を検出するために使用することができる。しかしながら、実施されるIHC解析に加えて、それらは生物学的試料を使い果たすことが多い。翻訳の下流で、プロテオミクス解析は、疾患の機能的状態に関するかなりの量の情報の抽出を可能にし、潜在的なバイオマーカータンパク質(Sala M,et al.:「ASS1 Overexpression:A Hallmark of Sonic Hedgehog Hepatocellular Adenomas」.Recommendations for Clinical Practice.Hepatol.Commun.4,809-824(2020)([1]))及び臨床診療において使用可能な薬理学的標的(Gustafsson O,et al.「P.Proteomic developmen
ts in the analysis of formalin-fixed tissue」.Biochim.Biophys.Acta BBA-Proteins Proteomics 1854,559-580(2015)([2]))を直接同定及び定量化する。しかしながら、今日まで、プロテオミクスは、良性対悪性腫瘍の診断において有効ではない。
【0007】
FFPE組織プロテオームの詳細な解析は、トランスレーショナルリサーチにおいて現在一般的に使用されている技術である(Coscia F,et al.「A streamlined mass spectrometry-based proteomics workflow for largescale FFPE tissue analysis」.J.Pathol.251,100-112(2020)([3])、Henriet E,et al.「Argininosuccinate synthase 1(ASS1):A marker of unclassified hepatocellular adenoma and high bleeding risk」.Hepatol.Baltim.Md 66,2016-2028(2017)([4]))。レーザーマイクロダイセクションを伴うFFPE組織プロテオミクスは、関心組織領域の正確な選択を可能にするために既に組み合わされており、この技術は、ニードルによるマイクロ生検などの非常に少量の材料との適合性のために最適化されている(Sala M,et al.([1]))。実際、5μm厚のFFPE切片の1mmの面積は、病理組織対健常組織における1000個のタンパク質のタンパク質発現の調節解除を比較するのに十分である。以前に、探索的アプローチにおいてこの方法を使用して、肝細胞腺腫(hepatocellular adenomas、HCA)の特徴的なサブタイプについての新しい診断バイオマーカーが同定された(Sala M,et al.([1])、Henriet E,et al.([4]))。特に小肝生検において、IHC染色の解釈に疑問がある場合、質量分析によるHCAバイオマーカー定量化は、実際に、診断支援における情報の貴重な補足であり得ることも示されている(Sala M,et al.([1]))。
【0008】
組織プロテオミクスの専門家は、プロテオミクス解析が近い将来に外科病理学者の分野を統合することに同意する(Coscia F,et al.([3])、Ahmed M,et al.「Next-generation protein analysis in the pathology department」.J.Clin.Pathol.73、1-6(2020)([5])、Jin P,et al.「Pathology,proteomics and the pathway to personalised medicine」.Expert Rev.Proteomics.15,231-243(2018)([6]))。質量分析は、バイオマーカー同定のためのいくつかの特定の要件を既に満たしている。しかしながら、専門家は、単一のバイオマーカーが決して100%特異的ではなく、診断、予後又はセラノスティックアプローチに十分ではあり得ないことに同意することが多い。
【0009】
したがって、患者の管理を可能にし、治療に対する応答を予測してその効率を改善する代替的な診断ツールが必要とされている。本発明は、上記及び他の必要性を満たす。
【発明の概要】
【0010】
本出願人は、組織におけるタンパク質発現調節解除のプロファイル、特にタンパク質発現調節解除の全プロファイルが、単一のバイオマーカーよりもはるかに完全な方法での病理的実体の診断及び管理であり得ることを見出した。
【0011】
本出願人は、組織からの診断のためにプロテオミクスパターンマッチングを使用して先駆的な研究を行った。広範な研究の後、本出願人は、診断、したがって患者管理を改善す
るためにプロテオミクスプロファイリングを開発した。
【0012】
本出願者は、生検又は外科標本から抽出されたプロテオミクスプロファイルと、完全に特徴付けられた患者からのプロテオミクスプロファイルから構成される参照データベースとの比較に基づく新規ツールを開発した。
【0013】
本出願人の広範な研究は、動作日常分析のための解析プロセスにつながる。さらに、この解析には少量の組織しか必要とせず、したがって試料を枯渇させることがなく、再使用することができる。このプロセスの別の印象的な利点は、完全な解析を1週間以内に達成することができるので、臨床診療によって課される期限に適合したままであることである。さらに、生成されたプロテオミクスデータは、さらなる適用(予後、セラノスティクス)のために再利用され得るリソースのままである。
【0014】
本出願人は、タンパク質調節解除のプロファイル(病理的対非病理的)に作用する主な利点は、個人間の変動を減少させることによって病理組織同一性に直接アクセスする能力であり、患者のコレクションが少ないにもかかわらず解析を効率的にすることを実証した。これはまた、機能的生物学的パスウェイとのプロテオミクスプロファイルマッチングの関連付け、生物学的関連性の制御、及び新しい標的の同定を可能にする。スペクトル強度プロファイルに対するタンパク質発現調節解除のプロファイルに作用するさらなる利点は、参照データベースの構築が質量分析計のタイプに依存しないことである。実際に、本発明の方法は、画像取得に使用されるデバイス間の異質性に関する主要な障害に直面するラジオミクスとは対照的に、異なる機器を有する現場で実施することができる。
【0015】
さらに、本出願人は、日常的な臨床診療において動作可能であり、患者診断の進行を提供することができるプロテオミクスベースの機械学習解析を開発した。
【0016】
したがって、本発明は、対象における病理的状態の参照プロテオミクスプロファイルを決定するためのコンピュータ実装方法であって、
-組織の病理的状態の診断が以前に確立されている少なくとも1人の対象由来の組織試料の相対タンパク質存在量の無標識定量化であって、上記試料が、非病理組織と、病理組織とを含有する、無標識定量化ステップと、
-各タンパク質について、非病理組織中の上記タンパク質に対する病理組織中の上記タンパク質の相対存在量の比を計算することによる、上記試料のプロテオミクスプロファイルを決定するステップと、
-少なくとも2つの対象群間で確立された統計的検定によって、以前に診断された病理的状態についての参照プロテオミクスプロファイルを決定するステップと、を含む、方法に関する。
【0017】
したがって、第1の態様において、本発明は、病理的状態の参照プロテオミクスプロファイルを決定するためのコンピュータ実装方法であって、
-組織の病理的状態の診断が以前に確立されている少なくとも1人の対象由来の組織試料において同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標識定量化であって、上記試料が、非病理組織と、病理組織とを含有する、無標識定量化ステップと、
-各タンパク質について、非病理組織中の上記タンパク質に対する病理組織中の上記タンパク質の相対存在量の比を計算することによる、上記試料のプロテオミクスプロファイルを決定するステップと、
-少なくとも2つの対象群間で確立された統計的検定によって、以前に診断された病理的状態についての参照プロテオミクスプロファイルを決定するステップと、を含む、方法を提供する。
【0018】
「参照プロテオミクスプロファイル」は、本明細書において、診断された病理的状態について確立されたタンパク質発現のプロファイルを指し、診断されていない組織を分析するための比較参照として使用することができる。
【0019】
本発明によれば、「病理的状態」は、本明細書において、任意の疾患、疾患に起因する身体状態、又は疾患に発展する可能性がある身体状態を指す。それは、例えば、がん、自己免疫疾患、血栓症、炎症性疾患、感染症、移植片若しくはプロテーゼ拒絶、又は良性腫瘍であってもよいが、これらに限定されない。
【0020】
本発明の方法は、質量分析によって分析される可能性がある任意の種類のものであり得る組織試料に対して実現され得る。それは、当技術分野で知られている任意の方法によって、例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋若しくは凍結組織のマクロダイセクション又はレーザーマイクロダイセクションによって得ることができる。組織切片の調製、タンパク質抽出、質量分析のための試料の調製、及びレーザーマイクロダイセクションカッティング、ホルマリン固定反転及び凍結(もしあれば)のステップは、例えば、Sala M,et al.([1])、及びHenriet E,et al.([2])によって記載されるような、当技術分野で知られている方法に従って実現され得る。
【0021】
組織は、例えば、乳房、肝臓、腎臓、肺、子宮、前立腺、精巣、舌、皮膚、骨髄、結腸、気管支、及び/又は筋肉組織、膵臓、内分泌組織、脳、眼、膀胱、胆嚢、唾液腺又はリンパ系組織などの、組織分析のための最新技術において一般的に使用される任意の種類のヒト又は動物組織であり得る。
【0022】
上記のように、本発明の方法において使用される組織試料は、非病理組織と、病理組織との両方を含有する。「病理組織」は、本明細書において、以前に確立された病理的状態によって影響を受けた組織領域を指し、一方、「非病理組織」は、病理的状態によって影響を受けていない組織領域を指す。組織の病理的領域又は組織の非病理的領域の同定は、当技術分野で知られている任意の方法によって、例えば、組織の形態学的特徴の視覚的同定によって実現され得るか、又は連続切片に対する免疫組織学的解析によって同定され得る。
【0023】
病理的状態の参照プロテオミクスプロファイルを決定するための方法において、組織試料は、少なくとも1人(匹)の対象から得ることができる。有利には、組織試料は、少なくとも5、又は少なくとも10、又は少なくとも15、又は少なくとも20、又は少なくとも30、又は少なくとも40、又は少なくとも50、又は少なくとも60、又は少なくとも70、又は少なくとも100、又は少なくとも150、又は少なくとも200人(匹)、又はそれよりも多い対象から得ることができる。有利には、より多くの対象が存在するほど、プロファイルはより「ロバスト」である。
【0024】
「無標識定量化」は、本明細書において、タンパク質を標識する安定同位体含有化合物を使用することなく、少なくとも2つの組織試料中の同定されたタンパク質の抽出及び相対存在量の比較を可能にする質量分析における方法を指す。方法は、例えば、Sala M,et al.([1])、Henriet E,et al.([2])によって記載されるような、最新技術において知られる任意の方法であってもよい。定量データは、最新技術においてこの目的のために一般的に使用される任意のデータ解析ソフトウェア、例えばRソフトウェアを使用して解析されてもよい。この技術分野において一般的に実現されるように、複製は、病理組織及び非病理組織に関して、各対象について実現され得る。あるいは、無標識定量化は、同重体又は同位体標識によって置き換えられてもよい。例えば、TMT(Tandem Mass Tag,ThermoFisher)システムにおけるような同重体標識であってもよい。
【0025】
本発明によれば、相対タンパク質存在量は、組織試料中で同定された全タンパク質について、又はこれらのタンパク質の一部について決定することができる。本発明によれば、相対的タンパク質存在量は、組織試料の非病理的領域と病理的領域との間で比較される。
【0026】
病理組織/非病理組織比は、各タンパク質について、又はもしあれば技術的反復中央値から計算することができる。有利なことに、特徴付けられた対象からのプロテオミクスプロファイルは、参照データベースを構成し得る。
【0027】
「対象群」は、本明細書において、それらのプロテオミクスプロファイルを通して比較されるべき群又は対象を指す。有利には、それは、上述の試料のプロテオミクスプロファイルを少なくとも別の対象群の1つ又は少なくとも別の対象と比較することに対応し得る。例えば、
-健康な組織と病理組織とを比較することと、
-処置に対する良好な応答者及び不良な応答者を有する患者の2つの群を比較することと、
-2つ又は3つの治療を受けた良好な応答者である患者を比較すること(これもまた、いくつかの群の比較を可能にする)と、
-再発した群と再発していない群とを比較することと、
-メールフォームを作成したグループとメールフォームを作成しなかったグループとを比較することと、のために使用されてもよい。
【0028】
このようにして得られた比の統計解析は、最新技術において同様の目的で知られている任意の方法によって実現することができる。それは、例えば、ウィルコクソン-マン-ホイットニー U検定又はt検定であり得る。当業者は、この技術分野の知識に関する統計解析の1つ以上を選択することができる。
【0029】
有利には、本発明のコンピュータ実装方法は、この技術分野で一般的に使用されるツール、例えば、特に各試料について、以前に確立された病理的状態診断に関連するプロテオミクスプロファイルを記録するための記録コンポーネントと、データを記憶するための記憶コンポーネントと、データを処理するためのコンピュータプロセッサであって、記憶コンポーネントに結合され、データを受信し、1つ以上のアルゴリズムに従ってデータを解析するために記憶コンポーネントに記憶された命令を実行するように構成されたコンピュータプロセッサと、参照プロテオミクスプロファイルに関する情報を表示するための表示コンポーネントとの使用を含む。
【0030】
したがって、本発明の別の目的は、上記で定義された病理的状態の参照プロテオミクスプロファイルを決定するためのコンピュータ実装方法を実行するための手段を含むデータ処理デバイスに関する。
【0031】
本発明はまた、上述の方法といくつかのステップを共有し、上述の一般的な発明概念に基づくいくつかの方法に関する。したがって、本発明の以下の説明では、同じ用語は、必要な変更を加えて、上で与えられたものと同じ意味を有する。
【0032】
したがって、本発明の別の目的は、組織のプロテオミクスプロファイリングのエクスビボ方法であって、
-上記組織の試料において同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標識定量化であって、上記試料が、非病理組織と、病理組織である可能性が高い組織とを含有する、無標識定量化ステップと、
-各タンパク質について、非病理組織中の上記タンパク質の量に対する病理的である可
能性が高い組織中の上記タンパク質の相対量の比を計算することによる、上記組織のプロテオミクスプロファイルを決定するステップと、を含む、方法に関する。
【0033】
本発明の別の目的は、対象において病理的である可能性が高い組織を分析するためのエクスビボ方法であって、
-上記対象由来の組織試料において同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標識定量化ステップであって、上記試料が、非病理組織と、病理組織である可能性が高い組織とを含有する、無標識定量化ステップと、
-各タンパク質について、非病理組織中の上記タンパク質の量に対する、病理的である可能性が高い組織中の上記タンパク質の相対量の比を計算することによる、上記試料のプロテオミクスプロファイルを決定するステップと、
-上記試料のプロテオミクスプロファイルと、上記で定義された病理的状態の参照プロテオミクスプロファイルを決定するためのコンピュータ実装方法によって得られた少なくとも1つの参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアを計算するステップと、を含む、方法に関する。
【0034】
有利には、類似性スコアは、当業者によって一般的に使用される任意の知られている方法によって計算されてもよい。それは、類似性の計算のための任意の方法、例えば、単純化されたデータに対するカイ二乗検定、PCA後のユークリッド距離計算、又はPCAによって削減されたデータに対するランダムフォレストでもよい。
【0035】
既に上で説明したように、本発明の分析のためのエクスビボ方法は、参照プロファイルに対する、病理的である可能性が高い上記組織におけるタンパク質発現調節解除のプロファイルの分析、すなわちプロテオミクスプロファイルマッチングによる分析に基づく。
【0036】
本発明の別の目的は、対象における病理を診断するエクスビボ方法であって、上記で定義されたエクスビボ分析方法を実施することを含み、上記対象由来の試料のプロテオミクスプロファイルと病理の参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアが、上記病理を示す、方法に関する。
【0037】
有利には、本発明の診断のエクスビボ方法は、プロテオミクスパターンマッチングに基づき、臨床的な日常診療の間に実現することができる。この診断方法は、この技術分野において一般的に実行される以下のような段階を含むことができる。
(i)データの収集を含む検査段階。有利には、このステップは、少なくとも、上記の対象由来の組織試料中で同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標識定量化、及び上記で定義されたような、上記試料のプロテオミクスプロファイルの決定を含み得る。
(ii)これらのデータと標準値との比較。このステップは、上記試料のプロテオミクスプロファイルと、上記で定義された少なくとも1つの参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアを少なくとも計算することを含み得る。
(iii)比較中の何らかの有意な偏差、すなわち症状の発見。
(iv)特定の臨床像、すなわち演繹的医療決定段階(厳密には治療目的のための診断)への偏差の帰属。
【0038】
本発明の別の目的は、対象における良性腫瘍のがんへの形質転換のリスクを評価するためのエクスビボ方法であって、上記で定義された組織のエクスビボ分析方法を実施することを含み、上記対象の試料のプロテオミクスプロファイルとがんの参照プロテオミクスプロファイルとの類似性スコアが、上記良性腫瘍のがんへの形質転換のリスクを示す、方法に関する。
【0039】
本発明によれば、良性腫瘍は、がんに形質転換するリスクがある任意の腫瘍であり得る。それは、例えば、肝細胞がん、特に肝細胞がんに発達し得る肝細胞腺腫であり得る。良性腫瘍のがんへの形質転換のリスクを評価するためのこの方法は、この技術分野において一般的に実施される以下のような段階を含み得る。
(i)データの収集を含む検査段階。有利には、このステップは、少なくとも、上記の対象由来の組織試料中で同定された全てのタンパク質の相対タンパク質存在量の無標識定量化、及び上記で定義されたような、上記試料のプロテオミクスプロファイルの決定を含み得る。
(ii)これらのデータと標準値との比較。このステップは、上記試料のプロテオミクスプロファイルと、がんの少なくとも1つの参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアを少なくとも計算することを含み得る。
(iii)比較中の何らかの有意な偏差、すなわち症状の発見。
(iv)良性腫瘍のがんへの形質転換のリスクの臨床像への偏差の帰属。
【0040】
本発明の別の目的は、対象における良性及び悪性腫瘍の鑑別診断のためのエクスビボ方法であって、上記で定義されたエクスビボ診断方法を実施することを含み、上記対象由来の試料のプロテオミクスプロファイルと、腫瘍の参照プロテオミクスプロファイルとの類似性スコアが、上記腫瘍、並びに任意選択でそのサブタイプ及び悪性形質転換状態を示す、方法に関する。
【0041】
良性腫瘍及び悪性腫瘍の鑑別診断のためのこの方法は、この技術分野において一般的に実施される段階を含み得る。
【0042】
(i)データの収集を含む検査段階。
有利には、このステップは、少なくとも、上記対象由来の組織試料の相対タンパク質存在量の無標識定量化、及び、上記で定義されたような、上記試料のプロテオミクスプロファイルの決定を含み得る。
(ii)これらのデータと標準値との比較。このステップは、上記試料のプロテオミクスプロファイルと、がん又は良性若しくは悪性腫瘍のサブタイプの少なくとも1つの参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアを少なくとも計算することを含み得る。
(iii)比較中の何らかの有意な偏差、すなわち症状の発見。
(iv)がん又は良性若しくは悪性腫瘍のサブタイプの臨床像への偏差の帰属。
【0043】
上述したように、腫瘍は任意の腫瘍、例えば肝腫瘍であり得る。より具体的には肝細胞がんであってもよく、良性腫瘍は肝細胞腺腫であってもよい。有利には、肝細胞腺腫が、H-HCA、IHCA、b-HCA、b-IHCA及びsh-HCAから選択される少なくとも1つのサブタイプに属し得る。
【0044】
本発明の別の目的は、病理の少なくとも1つのバイオマーカーを同定するためのエクスビボ方法であって、コンピュータ実装方法を実行することを含む方法に関する。
【0045】
本発明の別の目的は、対象における病理の治療の有効性を予測するためのエクスビボ方法であって、上記で定義したエクスビボ診断方法を実施することを含み、上記対象由来の試料のプロテオミクスプロファイルと病理の参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアが、上記病理の治療に対する応答又は非応答を予測する、方法に関する。
【0046】
有利には、対象は悪性腫瘍、例えば肝腫瘍を有する。有利には、病理は肝臓がん、特に肝細胞がん(hepatocellular carcinoma、HCC)である。有利には、HCCの治療はソラフェニブ治療である。
【0047】
特に、本発明は、対象における肝臓がんの治療の有効性を予測するためのエクスビボ方法であって、上記で定義されたエクスビボ診断方法を実施することを含み、上記対象由来の試料のプロテオミクスプロファイルと肝細胞がんの参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアが、上記肝細胞がんの治療に対する応答を予測する方法に関する。
【0048】
特に、本発明は、対象における病理の治療の有効性を予測するためのエクスビボ方法であって、上記で定義されたエクスビボ診断方法を実施することを含み、上記対象由来の試料のプロテオミクスプロファイルと病理の参照プロテオミクスプロファイルとの間の類似性スコアが、上記病理の治療に対する非応答を予測する方法に関する。病理は、任意の種類の病理、例えばがん、特に肝細胞がんであり得る。
【0049】
本発明は、限定として解釈されるべきではない添付の図面に関して以下の実施例によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1-1】HCAデータベース検証及びプロテオミクスプロファイルとHCAサブタイプを定義する変異との関連付けを表す図である。a:プロテオミクスデータベースを構成する60症例における各サブタイプ(H-HCA、IHCA、b-HCA ex3 nS45、b-HCA ex3 S45、b-HCA ex7/8、b-IHCA ex3 nS45、b-IHCA ex3 S45、b-IHCA ex7/8、sh-HCA及びFNH)についてのHCAバイオマーカー(L-FABP、GS、CRP/SAA及びASS1)の調節解除。各点は、症例の腫瘍対非腫瘍(Tumoral vs Non-Tumoral、T/NT)比を表す。T/NT比の中央値を各サブタイプについて示す。線は、T肝臓とNT肝臓との間で同一の発現レベルを示す(T/NT=1)。b~d:HNF1A、CTNNB1、及びJAK/STATシグナル伝達パスウェイの遺伝子について、各HCAサブタイプ(H-HCA、IHCA、b-HCA ex3 nS45、b-HCA ex3 S45、b-HCA ex7/8、b-IHCA ex3 nS45、b-IHCA ex3 S45、b-IHCA ex7/8、sh-HCA)における変異遺伝子と頻繁に機能的に関連するタンパク質の調節解除。各サブタイプの免疫マーカーが強調されている。HNF1A若しくはCTNNB1(それぞれALB及びOAT)における変異に関連する発現を有するタンパク質、又はJAK/STATシグナル伝達パスウェイに関連する炎症性サイトカイン(MIF)の例が強調されている。各HCA分子サブタイプを特徴付けるために使用されたNault et al(「Molecular Classification of Hepatocellular Adenoma Associates With Risk Factors,Bleeding,and Malignant Transformation」.Gastroenterology.152,880-894.e6(2017)([12]))によって列挙されたパスウェイ及び機能障害についてプロテオミクスによって同定されたタンパク質発現データ(データは示さず)から行われた、遺伝子セットエンリッチメント解析(Gene set enrichment analysis、GSEA)。
図1-2】図1(続き)
図1-3】図1(続き)
図1-4】図1(続き)
図1-5】図1(続き)
図1-6】図1(続き)
図1-7】図1(続き)
図2-1】HCA対FNH(a)及び異なるHCAサブタイプ間(b:H-HCA sh-HCA;c:IHCA+b-IHCA;d:b-HCA;e:IHCA及びb-IHCA;f:b-IHCA ex3 S45及びb-HCA ex3 nS45;b-IHCA ex 7/8、b-IHCA ex3 nS45及びb-IHCA ex3 S45)におけるタンパク質発現調節解除のプロファイルを比較する主成分解析(Principal Component Analysis、PCA)を表す。生物学的パスウェイは、HCAサブタイプ特異的プロファイルに関連する。遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)を、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)データベース(カノニカルパスウェイ)で実施した(データは示さず)。
図2-2】図2(続き)
図3-1】a:逐次プロテオミクスパターンマッチングに基づく診断アルゴリズム、b~d:プロテオミクスパターンマッチングを使用して得ることができる結果の例(b(R_01)はb-IHCAエクソン3非S45に対応し、c(BP_01)はsh-HCAに対応し、d(BP_02)はH-HCAに対応する)を表す。参照データベースからのPCAに関する各症例の位置は、赤色の矢印によって示される。
図3-2】図3(続き)
図4-1】a:分子サブタイプによって分類された形質転換HCA症例の同定、b:Bordeauxでの260症例の本発明者らのコレクションにおいて、男性対女性で診断されたHCAで発生したHCC又は「ボーダーライン」のパーセンテージ、c及びd:分子サブタイプ(c)に従って病理レポート(d)から抽出された細胞学的異型性及び/又は構造的異常を有する本発明者らのBordeauxコレクションにおけるHCA症例のパーセンテージを表す。
図4-2】図4(続き)
図5-1】HCA(HCC/HCA)及び対応するHCA(b)上で開発されたHCCについてのタンパク質発現調節解除のプロファイルを比較する階層的クラスタリング(a)及び主成分解析(PCA)を表す。10個のタンパク質が同定され、HCA悪性腫瘍のシグネチャーを構成した。それらの調節解除のレベル(T/NT比)は、ヒートマップの形態で表される(データは示さず)。Reactomeデータベースから抽出された機能アノテーションを表cに列挙する。
図5-2】図5(続き)
図6-1】12症例における悪性腫瘍シグネチャー検証を表す。a~b:疑わしい悪性腫瘍を提示する2つの症例の組織学的ヘマトキシリンエオシン(H&E)染色:症例217(左)「ボーダーラインHCA」の診断につながる減少したレチクリンネットワークの病巣(ここでは図示せず)に関連する軽度の細胞学的異型性、及び症例280(右)明らかな細胞学的及び構造的異型性を有する十分に分化したHCCであると疑われ、これらの2つの症例は、主成分解析(PCA)上に位置する。(b)検証症例のためのPCA上の例示的位置である。PCA上のテストされた症例の位置は、緑色の矢印によって示される。
図6-2】図6(続き)
図6-3】図6(続き)
図7】本発明の方法において実施される段階の概要を表す。
図8-1】ソラフェニブ処置に対する進行HCC患者の応答を予測するプロテオミクスシグネチャーの同定を表す。a:ソラフェニブに対する良好な応答者(GR n=5)又は不十分な応答者(BR n=9)における腫瘍対非腫瘍(T/NT)発現調節解除のプロテオミクスプロファイルの階層的クラスタリング。データセットは、2つの群の間で有意に異なる発現を有する77個のタンパク質のシグネチャーに削減された。左側の値は、近似的に不偏なp値(approximately unbiased p-value、AU)を表し、右側の値はブートストラップ確率(boot-strap probability、BP)に対応する。b:ソラフェニブに対する良好な応答者(GR n=5)又は不十分な応答者(BR n=9)における腫瘍対非腫瘍(T/NT)発現調節解除のプロテオミクスプロファイルの主成分解析。データセットは、2つの群の間で有意に異なる発現を有する77個のタンパク質のシグネチャーに削減された。GR患者はオレンジ色の三角形で表され、BRは青色の点で表される。c:各患者についてGRとBRとの間で有意に差次的に発現される77個のタンパク質のヒートマップ。d:セラノスティックシグネチャーの77個のタンパク質間の機能的相互作用の表現(Stringデータベースhttps://string-db.org/)から作成される。
図8-2】図8(続き)
図8-3】図8(続き)
図8-4】図8(続き)
図9-1】セラノスティックシグネチャー(Ingenuity Pathway(IPA)データベースから作成)の77個のタンパク質間の機能的相互作用を表す。色は、良好な応答者(a)及び不良な応答者(b)についての腫瘍組織と非腫瘍組織との間のタンパク質発現の差(赤色=上方制御及び緑色=下方制御)に対応する。
図9-2】図9(続き)
図10-1】遺伝子セットエンリッチメント解析を表す。遺伝子オントロジー(分子機能)から得られた結果。a:及びIngenuity Pathways(IPA)(カノニカルパスウェイ)。b:GRとBRとの間で有意に差次的に発現された77個のタンパク質を用いたデータベース。y軸は負のlog10p値を表す。オレンジ色の線は最小レベルの有意性(p<0.05)を表す。各バーの上部の数字は、各生物学的機能のエンリッチメントを計算するために使用されたタンパク質の数に対応する。
図10-2】図10(続き)
【実施例
【0051】
実施例1:プロテオミクスパターンマッチングによる肝細胞腺腫の診断及び悪性腫瘍判定
HCAは、上記文献(Zucman-Rossi J,et al.:「Genetic Landscape and Biomarkers of Hepatocellular Carcinoma」.Gastroenterology.149,1226-1239.e4(2015)([13])、Nault et al.([12]))において、広範かつ正確な遺伝的、免疫病理的、及び臨床学的特徴付けを受けた稀な肝臓腫瘍である。HCAは、主に中年の女性に影響を及ぼし、男性にはより少ない程度で影響を及ぼす。HCAの主な危険因子は、エストロゲン又はアンドロゲンへのホルモン曝露であるが、代謝疾患、血管疾患、糖原病、及びいくつかの他の稀な遺伝性疾患もまた、HCAの発症に関連している。出血及び肝細胞がん(HCC)への悪性形質転換は、2つの主要な合併症であり、両方とも腺腫のサイズ及びその分子病理学的サブタイプに強く関連する。切除は、通常、HCAが5cmに達し、β-カテニンパスウェイが活性化されたときに推奨される。有意な臨床リスクを有する症例を特定するために、HCAは、変異の同定並びに対応する臨床特性、組織学的特性及び免疫組織学的特性に基づいて4つの群に分類されている(Nault et al.([12]))。
(1)HNF1Aの不活性化変異を有するH-HCA。その発現がHNF1 Aによって調節されるL-FABPは、H-HCA腫瘍細胞において免疫検出されない。
(2)炎症性HCA(IHCA)は、JAK/STATシグナル伝達パスウェイを活性化する様々な変異(IL6ST、FRK、STAT3、JAK1、GNAS)又は染色体変化を示す(Nault et al([8]))。腫瘍性肝細胞は、急性期炎症性タンパク質SAA及びCRPに対して強力かつびまん性の免疫応答性を示す。
(3)β-カテニンをコードするCTNNB1遺伝子(S45又はエクソン7/8を含む、様々なホットスポットにおけるエクソン3)の活性化変異を有するb-HCA。グルタミンシンセターゼ(Glutamine Synthetase、GS)をコードするβ-カテニン標的であるGLUL遺伝子は、非S45エクソン3 b-HCA腫瘍において強く検出される。BHCAエクソン3非S45腫瘍は、特にそれらがテロメラーゼ逆転写酵素(Telomerase Reverse Transcriptase、TERT)プロモーターにおける変異に関連する場合、HCCへの悪性形質転換のリスクが高い。加えて、β-カテニン変異HCAの半分も炎症性の特徴を示す(b-IHCA)。
(4)最後のグループは、sh-HCAに対応し、INHBEプロモーターをGLI遺伝子と融合させる微小欠失によって定義される。Sh-HCAは、ASS1の過剰発現によって同定され、主要な臨床問題である高い出血リスクを有する(Nault et al.([12]))。
【0052】
HCAの遺伝子型/表現型分類は、現在、科学的観点からほぼ完全であると考えられている。しかし、悪性形質転換及び出血の根底にある機構は未知のままである。加えて、HCA患者の日常管理は、多くの外科医及び肝臓病専門医にとって依然として難題である。第1の課題は、他の良性肝臓「腫瘍」からのHCAの鑑別である。これらの他の腫瘍は、本質的に過形成性、すなわち、限局性結節性過形成(Focal Nodular Hyperplasia、FN
H)として特徴付けられる。いくつかの症例について、HCAとFNHとの間の鑑別診断は、肝臓病理学者の専門家であっても、画像化及び生検解析によって困難なままである。これは特に、GSがFNHにおいても上方調節されるためである。FNHは出血も悪性形質転換もしないので、切除は指示されず、モニタリングは必須ではない。HCA診断後、第2の課題は、手術に関連するリスク-ベネフィット比を考慮して、適切な場合に切除(稀な症例では移植)を提案するために、HCCへの形質転換及び出血のリスクの判定にある。
【0053】
この研究の目的は、HCAをモデルとして使用して、プロテオミクスベースの機械学習解析が日常的な臨床診療において動作可能であり、患者診断の進行を提供することができるという概念の証拠を確立することであった。最後に、このタイプのアプローチは、他の病理に転移可能な画期的なものである。
【0054】
材料及び方法
患者
全ての患者はインフォームドコンセントを提出し、この研究は、本発明者らの地域委員会である、Bordeaux University Hospitalの「Direction de la Recherche Clinique et de I’Innovation」、Bordeaux Liver Biobank BB-0033-00036によって承認された。
【0055】
HCAデータベース構築
260の切除されたHCAの本発明者らのコホートにおいて、248症例が、H-HCA(77)、IHCA(82)、b-HCA(28)、b-IHCA(35)、sh-HCA(25)HCAに対応した。1症例のみが未分類のHCAであった。12症例において、サブタイプ分けは技術的理由のために評価できなかった。本発明者らは、HCAの外科的切除であり、2019年のWHO分類20(6 H-HCA、5 IHCA、16 b-HCA(4 b-HCAエクソン3非S45、5 b-HCAエクソン3 S45、5 b-HCAエクソン7/8+分類のために送られた2症例のb-HCA(1エクソン3 S45及び1エクソン7/8)をこのコレクションに加えた)、16 b-IHCA(6 b-IHCAエクソン3非S45、4 b-IHCAエクソン3 S45、6 b-IHCAエクソン7/8)、9 sh-HCA)によって定義される全ての異なるサブタイプの代表である52個の試料を選択した。HCA及びHCAサブタイプの診断は、形態学及び免疫染色に従って病理学者によって特徴的であると考えられ、結果は常に遺伝子型決定によって確認された。
【0056】
プロテオミクス解析
組織切片の調製、レーザーマイクロダイセクションカッティング、タンパク質抽出、ホルマリン固定反転、質量分析用試料の調製、質量分析、生質量分析データの処理、及び無標識定量化を、上述したように行った(Sala M,et al.([1])、Cos
cia F,et al.([3]))。質量分析プロテオミクスデータは、PRIDEパートナーリポジトリを介してProteomeXchange Consortiumに寄託されている。
【0057】
質量分析データ処理
フリーRソフトウェアを用いて定量データを分析した。2未満の特異的ペプチドを有する質量分析によって同定されたタンパク質を除外した。各患者について、3つの技術的腫瘍(tumour、T及び非腫瘍(non tumour、NT)複製(連続切片から)を実施した。技術的反復中央値からのT/NT比を、各タンパク質について計算した。各群において有意に異なり、したがって特異的プロテオミクスプロファイルに対応した発現(p<0.05)を有するタンパク質を特異的に同定するために、Rパッケージを使用してWilcoxon-Mann-Whitney U検定を実施した。
【0058】
距離計算及びパターンマッチング
フリーRソフトウェアを使用して解析を行った。階層的クラスタリングは、Rパッケージ及びその「hclust」関数によって表された。凝集法として「ward.D」法を使用し、ユークリッド距離を距離計算のために使用した。主成分解析(PCA)のために、VIMパッケージからk-最近傍(k-Nearest Neighbor、KNN)インピュテーション法を使用して欠損値をインピュテーションした。PCAデータを計算し、factoextra及びFactoMineRパッケージ内のPCA及びfviz_pca_ind関数によってフォーマットした。ユークリッド距離は、dist関数及びchisq.test関数を使用する独立のカイ二乗検定を使用して計算した(両方ともRパッケージ内)。ランダムフォレストは、ランダムフォレストパッケージ内のランダムフォレスト関数を使用して生成された。最適パラメータは、カレットパッケージ内のトレイン関数によって計算された。
【0059】
統合的生物学的解析
パスウェイ解析は、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)(Qiagen)データベースを使用して行った。10個の最も有意にエンリッチされたカノニカルパスウェイを各群(HCAサブタイプ及びFNH)から選択し、比較した。機能アノテーションは、GSEA(遺伝子セットエンリッチメント解析)ウェブツールを使用して遺伝子オントロジー(生物学的機能)及びReactomeデータベースから抽出した(https://www.gsea-msigdb.org/gsea/index.jsp)。
【0060】
プロテオミクスプロファイルの検証のための症例の選択
本発明者らが同定したプロテオミクスプロファイルの診断適用性を検証するために、本発明者らは、試料分類のために11症例の生検及び1切除、並びに悪性腫瘍状態のために4切除のパネルを選択した。
【0061】
グラフィカル表現
グラフィカル表現は、ggplot2パッケージ及びその全ての依存性を使用してフォーマットされた。
【0062】
結果
本発明者らのセンターにおける最先端のHCA診断
最初に、HCA診断を評価し、それを改善するために、本発明者らは、本発明者らの三次施設(Bordeaux,France)においてHCA管理を検討した。全てのHCAは、組織病理的解析及びIHCによって機械的に分類される。1984年から2020年の間の研究に含まれた合計260例の切除された症例(227例が女性/33例が男性
)のうち、71%(185/260症例)の症例も、遺伝子変異を同定するために、主に切除された標本について分子生物学によって解析された。
【0063】
臨床データ及び患者管理履歴を全ての症例について収集した。症例の27パーセント(70/260症例)はまた、手術前に生検を受けていた。本発明者らは、これら全ての症例の病歴を抽出した。70個の生検のうち、27個(38.6%)のみがHCA及びHCAサブタイプの診断に寄与した。これらは両方とも、外科的切除の後に判定された。生検解釈が正式でなかった場合、それは、解釈可能な材料の欠如(8症例)などの技術的に寄与しない要因、又は標準的な病理的ツールを用いて高度に分化されたHCC(15症例)若しくはFNH(3症例)で標準的な鑑別診断を行うことが不可能であったことのいずれかによるものであった。これらのデータは、Bordeauxでの本発明者らの三次施設における本発明者らの経験に基づいて、HCAなどの十分に特徴付けられた腫瘍及びこの分野の専門病理学者に対してさえ、さらなる診断支援ツールが、これらの診断生検の60%に有用であり得ることを明らかにした。
【0064】
参照HCAプロテオミクスデータベースの作成
本発明者らの収集物からロバストなデータベースを構築するために、本発明者らは、全てのHCAサブタイプ及びFNHを代表する52例のHCA外科的切除症例を選択した。これらの切除の診断は、病理学者によって典型的であると考えられ、遺伝子解析によって確認された。
【0065】
プロテオミクス解析のために本発明者らの最適化された方法を適用して、本発明者らは、各患者由来の腫瘍性(T)肝臓組織と非腫瘍性(NT)肝臓組織との間で相対的タンパク質存在量を比較した。本発明者らは、各患者について平均1604個のタンパク質を同定及び定量化した。最初に、本発明者らのデータベースのロバスト性を検証するために、本発明者らは、日常的な臨床診断において使用されるHCAバイオマーカーT/NT比を定量化した。本発明者らは、対応する腫瘍:それぞれb-HCA/b-IHCAエクソン3非S45、IHCA/b-IHCA、及びsh-HCA(図1a、図b、及び図c)におけるGS、CRP/SAA、及びASS1マーカーの特異的かつ予測された調節解除を確認した。L-FABPの喪失は、H-HCA(中央値T/NT=0.04)とのみ関連していたが、本発明者らは、b-IHCAエクソン3非S45(中央値T/NT=0.49)、b-IHCAエクソン7/8(中央値T/NT=0.59)、及びsh-HCA(中央値T/NT=0.50)の減少も認めた(図1a)。
【0066】
本発明者らは、最初に、各HCAサブタイプについてのタンパク質シグネチャーが、それらを定義する根底にある変異を反映すると仮定した。したがって、本発明者らは、各HCAサブタイプ(HNF1A、CTNNB1、JAK/STATシグナル伝達パスウェイ)を定義する根底にある変異遺伝子に機能的に関連するタンパク質を調べた。驚くべきことに、免疫マーカーとして現在使用されている検証された標的タンパク質(L-FABP、GS、CRP/SAA)を除いて、本発明者らは、各変異に関連して頻繁に見出される他のタンパク質の主要な調節解除を観察しなかった。本発明者らは、これをALB30、OAT31、及びMIF32の例で示す(図1b、図1c及び図1d)。さらに、本発明者らは、トランスクリプトームアプローチ13(IHCA及びsh-HCAにおいて主に見出されるエストロゲン関連経口避妊薬パスウェイ、H-HCAにおける腫瘍脂肪症、b-HCA及びb-IHCAにおける胆汁うっ滞、b-HCAにおけるHCCの発症)から各HCA群について上述した典型的/特異的パスウェイを調査した。本発明者らは、教師なし解析によって、全てのHCAサブタイプにおいてこれらのパスウェイの全てが有意に調節解除されていることを見出した(データは示さず)。本発明者らは、これらの結果内において、HCC発生に関連するタンパク質が全てのHCAサブタイプにおいて有意に調節解除されたことに注目し、したがって、全てのサブタイプが潜在的に形質転換され得ることを示唆した。この段階で、本発明者らは、変異及び関連マーカーがHCAのサブタイプを同定することができるとしても、これだけでは表現型を定義することができないと結論付けた。
【0067】
したがって、本発明者らは、調節解除されたタンパク質発現に関する各HCAサブタイプの特異性を調査した。本発明者らは、HCAとFNHとの間のタンパク質発現における有意な変動、及び各HCA群についての有意な変動の両方を選択した(図2)。本発明者らは、各特異的タンパク質発現プロファイルからのHCA群間の距離を解析した。HCA及びFNHのプロテオミクスプロファイルは全く異なっていた(図2a)。HCA及びFNHプロテオミクスプロファイルを鑑別することができたら、次に、異なるHCAサブタイププロテオミクスプロファイルを鑑別することが可能であるかどうかを試験した。本発明者らは、最初に、最も類似していないプロファイル、すなわちH-HCA及びsh-HCAを分離した(図2b)。興味深いことに、炎症性タンパク質発現プロファイルは、炎症性HCA(IHCA及びb IHCA)によって共有される強いシグネチャーであり、その2つの群は、他のHCAとは異なっていた(図2c)。b-HCAのプロテオミクスプロファイルは、b-HCAの階層的クラスタリング後であっても、PCAによって他のHCAと十分に区別されなかった(図2d)。しかし、IHCA及びb-IHCAを特異的に比較した場合、それらのプロテオミクスプロファイルは著しく異なっていた(図2e)。さらに、それらのタンパク質発現プロファイルは、b-HCA及びb-IHCAの両方について、CTNNB1変異のタイプ(エクソン3非S45、エクソン3 S45、又はエクソン7/8)に従って明確に分類された(図2f)。
【0068】
これらの結果は、プロテオミクスプロファイルと遺伝子型/表現型分類との間の優れた相関を実証し、優性(sh-HCA、炎症性H-HCA)及びあまり明らかでないプロファイル(CTNNB1変異)の両方の存在を明らかにした。
【0069】
次いで、本発明者らは、各特異的プロフィールに関連する生物学的機能を試験した。遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)は、FNHとHCAとの間の主要な差異を明らかにした。これは、FNHにおいて有意でなかったアミノ酸代謝の破壊を含む、HCAにおけるミトコンドリア障害の存在であった(データは示さず)。各HCAサブタイプに関連するプロテオミクス調節解除のプロファイルの解析は、遺伝的分類よりも正確でない特異性を明らかにした。対照的に、本発明者らは、プロテオミクス調節解除のほとんどが異なるHCAサブタイプによって共有されることを見出した(データは示さず)。予想通り、H-HCAの最も有意に調節解除されたパスウェイは、脂肪症に関連する脂肪酸ベータ酸化パスウェイであり、これはこれらの腫瘍において特徴的に観察されるが、炎症性HCAにおいても見出された。これらのデータは、IHCAの80症例中23症例が本発明者らの収集において脂肪症であったという事実と一致している可能性がある(11症例が肝臓の3分の2より多い脂肪症を示し、12症例が3分の1と3分の2の間である)。H-HCAはまた、アミノ酸代謝及び異物代謝における強い調節解除、sh-HCAと共有される有意なパスウェイ調節解除を示し、これに対して、本発明者らは上述した尿素サイクル調節解除も見出した(Henriet E,et al.([4]))。
【0070】
炎症性HCA(IHCA及びb-IHCA)について最も有意にエンリッチされたパスウェイは、予想通り、炎症応答の活性化(FXR/RXR活性化、急性期応答シグナル伝達)に関連していた。Eif2シグナル伝達パスウェイに関連するmRNA翻訳を調節するストレス関連シグナルもまた、sh-HCA特異的プロテオミクスプロファイルと同様に、炎症性HCAにおいて有意にエンリッチされた(データは示さず)。対照的に、sh-HCAとは異なり、HHCA特異的プロテオミクスプロファイルは、エストロゲンシグナル伝達パスウェイに関連する有意なタンパク質発現調節解除、炎症性HCAと共有され、より低い程度でb-HCAと共有される特徴(データは示さず)を示した。b-HCAサブタイプは、β-カテニンパスウェイさえも含む特異的パスウェイのエンリッチメントによって区別することができなかった(データは示さず)。この統合的解析は、遺伝子変異がタンパク質レベルで厳密に明確な機能分類に翻訳されないことを明らかにした。
【0071】
HCA及びFNH診断のための機械学習ツール
本発明者らのプロテオミクスデータベースの統計解析により、本発明者らがそれぞれの異なるHCAサブタイプを区別することが可能になったことを考慮して、本発明者らは、診断ツールを設定することに決めた。臨床応用のための第1の重要なステップは、試料がHCA又はFNHに対応し、別のタイプの高分化型肝腫瘍に対応しないかどうかを定義することであった。これを調べるために、本発明者らのプロテオミクスプロファイル同定方法を使用して、本発明者らは、本発明者らのデータベースに含まれておらず、したがって本発明者らが参照プロテオミクスプロファイルを有していなかった2つの他のタイプの高分化型肝腫瘍、すなわち肝硬変肝臓における低グレード異形成結節及び高分化型HCCを解析した。両方の場合について、HCA又はFNHとの類似性スコアは非常に低く、誤った帰属の可能性を除外し、腫瘍がHCAでもFNHでもないことを示した。次に、本発明者らは、最初に、同定された主なHCA群(sh-HCA、HHCA、炎症(IHCA及びb-IHCA)、次いで二次プロテオミクスプロファイル(異なるCTNNB1変異によるb-HCA)を統合するアルゴリズムを構築した(図3a)。したがって、その原理は、それらのHCAサブタイプを診断するために、HCAサブタイプ参照プロテオミクスプロファイルを新しい症例と逐次比較することである(図3b、図3c、及び図3d)。本発明者らは、類似性を計算するために3つのアプローチ、すなわち(1)異なる参照プロテオミクスプロファイル間で、上方調節されたタンパク質(T/NT比>1.5)、下方調節されたタンパク質(T/NT比<0.67)、及び非調節タンパク質(T/NT比>0.67及び<1.5)を比較するためのカイ二乗検定、(2)PCAからの各グループ間のユークリッド距離の計算、(3)PCA削減データセットに対するランダムフォレスト解析、を使用した。本発明者らは、それらを、FNH及びHCA(任意のサブタイプ)の11の生検及び1つの切除のパネルに適用して、各解析の利点及び限界を試験した。
【0072】
12症例のうち3症例は、典型的なb-HCAエクソン3非S45、sh-HCA及びH-HCA(それぞれ、R_01、BP_01、及びBP_02)であり、分類においていかなる困難も示さなかった(図3b、図3c、図3d及び図3e)。他の9症例は、本発明者らの三次施設において形態及びIHCについて診断された生検の代表的なパネルからなった。単一HCAバイオマーカーの質量分析による定量化は、これらの症例のうちのいずれのサブタイプ分けにも寄与しなかった。しかしながら、3つの異なる数学的アプローチによって同定されたプロテオミクスプロファイルは、3症例(BP_03、_04及び_05)についての臨床病理的解釈と一致した。他の2症例(BP_06及び_07)については、ランダムフォレスト及びユークリッド距離(BP_06)又はカイ二乗検定(BP_07)が病理診断と一致した。しかしながら、1回の試験では、各症例について異なる結果が得られた。これらの2症例について、ランダムフォレストは正しい診断を与えたが、これらの症例はあまり典型的ではなく、データベース中のHCAと完全に一致しなかった。別の症例(BP_08)は、b-HCAエクソン7/8サブタイプであり、その後、切除に関する遺伝子解析によって同定された。ランダムフォレスト及びユークリッド距離は、それをb-HCAエクソン7/8サブタイプとして確実に認識したが、カイ二乗検定は、それを非常に類似したb-HCAエクソン3 S45群と分類した。最後に、その後の切除を伴わない3つの生検(BP_09、_10、及び_11)であって、病理学者がIHCAをb-IHCA(エクソン7/8又はエクソン3 S45)から区別することができなかった3つの生検は、b-IHCAエクソン7/8又はエクソン3 S45プロファイルを有する群であることが見出された。
【0073】
結論として、これらの結果は、プロテオミクスパターンマッチングがHCAをFNHか
ら鑑別し、分子HCAサブタイプを割り当てることができることを実証している。異型症例に関して困難な場合、プロテオミクスプロファイリングは、診断を支持するさらなる手がかりをもたらし得る。
【0074】
形質転換されたHCAの悪性度のプロテオミクスプロファイルの同定
十分に確立された分子病理学的分類にもかかわらず、HCA管理は、多くの外科医にとって繊細なままである。1996年に、Ault G.T.,et al.(「Selective management of hepatic adenomas」.Am.Surg.62,825-829(1996)([14]))は、症候性HCA又は5cmより大きいHCAの切除を既に提案しているが、分子的及び免疫病理的分類の出現にもかかわらず、これらの臨床勧告以来、実質的に何も変化していない。実際、外科的切除を悪性の可能性のあるHCAのみに限定することは、それが実際に同定することが非常に困難であるため、現在のところ依然として不可能である。これを確認するために、本発明者らは、分子分類の出現が、本発明者らの三次施設の臨床診療においてサブグループタイプに従ってHCA管理を改変しなかったことに気付いた。これは、より多くの術前生検を行う傾向がわずかであるにもかかわらずである。
【0075】
したがって、分類を改善することは、HCA患者の管理を変更するのに十分ではない。しかしながら、悪性形質転換はHCAの主要な合併症であり、本発明者らは、本発明者らのプロテオミクスプロファイルに基づくツールがこの問題に対処するのに役立ち得るかどうかを決定したいと考えた。本発明者らの症例の収集からの臨床データの解析は、HCAサブグループの大部分が悪性形質転換を受け得(図4a)、b-HCAエクソン3非S45サブタイプが悪性形質転換の最も高いリスクを示したとしても、他のサブグループからの症例の無視できない割合が関係し得る(sh-HCAについて13.6%まで)(図4a)ことを判定した。悪性腫瘍の組織学的特徴の解釈は困難であり得、病理学者の専門知識に依存し、観察者に依存し得ることは注目に値する。これらの症例の半分において、本発明者らは、病理学者のための留保に気付いた。これは、「ボーダーライン」という用語によって説明され、もはやHCAの特徴ではないが、同時に、明確なHCCのいくつかの特徴を欠く異型病巣を提示する腫瘍として定義された(図4a及び図4b)。臨床及びイメージングの状況に加えて、組織学におけるHCC診断の主張は、形態学的基準、例えば、細胞核異型(図4c及び図4d)、偽腺形成、骨梁肥厚、間質浸潤、レチクリンネットワーク崩壊/減少を含むが、免疫組織化学的基準(免疫マーカー陽性、例えば、グリピカン3(GPC3)、熱ショックタンパク質70(HSP70)、及びTERTプロモーター変異を含む分子特徴を含む)も含む一連の特徴に基づく。これらの基準は、完全に特異的かつ繊細なものではなく、むしろかなり主観的である。
【0076】
さらに、これらの基準は、HCAで発症したHCCの症例において、それらがデノボHCC又は肝硬変肝臓における異形成結節で生じるHCCにおいて主に定義されたことを考慮すると、異なる可能性がある(図4c)。これが、高分化型HCCとHCAとの間の差異をHCA関連悪性病巣の診断と対比して識別することが、特にいくつかの高分化型β-カテニン活性化腫瘍に関して困難であり得る理由である。HUMP(Hepatocellular Neoplasm of Uncertain Malignant potential)という用語は、これらを分類するために提案されている。したがって、患者管理を改善するために、悪性腫瘍のプロテオミクスシグネチャーを同定することが実際的であると思われた。
【0077】
HCA悪性腫瘍プロファイルで発症したHCCの同定
HCAにおける悪性疾患に関連するタンパク質を同定するために、本発明者らは、異なるHCAサブタイプ(2 b-HCAエクソン3非S45、1 b-IHCAエクソン3
S45、1 UHCA、2 sh-HCA)から、HCAで発症した明確なHCC(本発明者らはこれを「HCC/HCA」と呼ぶ)を示した外科的切除の6つの症例を選択し
た。上述したように、本発明者らは、6つのHCA及びそれらの対応するHCC/HCAのT/NT比を比較し、10個のタンパク質からなる有意なプロテオミクスプロファイルを単離した。これらのタンパク質は、階層的クラスタリング(図5a)及びPCA(図5b)の両方によって、悪性組織及び良性組織の完全な分離を可能にした。さらに、各群内のタンパク質発現調節解除は均一であった(データは示さず)。他の臨床病理的状況において悪性腫瘍を同定するために日常的に使用されるバイオマーカー(GPC3、HSP70)は、このシグネチャーの一部ではなかったことに留意されたい。GPC3は、HCAで発症したHCCのいずれの症例においてもプロテオミクス解析によって同定されなかった。プロテオミクス解析によって同定されたHSP70は、HCAで発症したHCCのいずれの症例においても上方調節されなかった。
【0078】
悪性腫瘍タンパク質プロファイルの抽出された機能アノテーションの半分は、免疫応答及び免疫関連細胞活性化(MPO、PRDX2、LCP1、PPIA、SERPINA1、PLD3)、インターロイキン-12シグナル伝達(PPIA、LCP1)、並びに好中球脱顆粒(PPIA、SERPINA1、MPO)と関連していた(図5c)。これらの10個のタンパク質のうち、既知のβ-カテニン機能環境の一部であるものはなかった。
【0079】
次いで、本発明者らは、いくつかの新しい症例のセットを用いて、HCA形質転換のこのプロテオミクスプロファイルを検証しようとした。カイ二乗スコアリング法は、10個のタンパク質のみからなるプロファイルには適用できなかった。ユークリッド距離間の差が小さくても、それらは適用可能であると思われたので、本発明者らは、PCAによる削減後にランダムフォレストに加えて距離計算を使用した。検証のために、本発明者らは、最初に、HCAで発症したHCCの1つの陽性対照及び本発明者らのデータベースからの良性HCAの7症例に対する形質転換の本発明者らの10個のタンパク質プロテオミクスプロファイルを試験した。
【0080】
HCAで発症した調節HCCによる検証
症例167は、HCAで発症したHCCを有するてんかん男性であり、組織学的曖昧性はなかった。HCCは、腫瘍細胞におけるいくつかの核異型及び胆汁色素、並びに不規則かつ減少したレチクリンネットワークを伴う、高分化肝細胞増殖を示した。IHCは、強くびまん性のGS染色、類洞におけるびまん性のCD34染色を示し、細胞の5~10%は、いくつかの領域においてMIB1陽性であり、GPC3染色は病巣特異的であった。分子解析は、CTNNB1遺伝子のエキソン3(ホットスポットT41)における変異を同定した。この症例のプロテオミクスプロファイルは、ランダムフォレスト検定及びHCC群についてのより小さいユークリッド距離(HCAについて5.18対HCCについて5.43)によって確認された、形質転換症例の信頼楕円により近かった(図6b及び図6c)。したがって、本発明者らのプロテオミクスプロファイルは、形質転換HCAのこの症例の悪性度の確認を可能にした。
【0081】
良性対照による検証
次に、本発明者らは、組織学的検査による良性腫瘍の診断に関して疑わしくなかったHCAの7症例を選択した(図6b、図6c)。全てのこれらの腫瘍のプロテオミクスプロファイルは、ランダムフォレスト検定によって確認されたPCA及びHCA群についての最小ユークリッド距離の両方によって、良性HCAと関連していた(図6b及び図6c)。プロテオミクスプロファイルは、悪性形質転換の組織学的特徴を欠くHCAの全ての症例の良性の性質の確認を可能にした。
【0082】
悪性腫瘍の診断に関して疑いのある症例
次いで、本発明者らは、悪性腫瘍の診断に関して疑いが生じた管理歴を有する症例を選
択した。第1の症例は、生検解析時に疑われ、線維性非アルコール性脂肪性肝炎(fibrotic non-alcoholic steatohepatitis、NASH)で発症した偶発的に発見されたHCAに対応する。病理学者による術前生検の解釈は、HCAを高分化型グレード1 HCCから明確に区別することができなかった。外科的切除の最終的な組織学的解析は、後にsh-HCAとして同定されたこのHCAの良性の性質について明らかであった。臨床状況を再現するために、本発明者らは、最初に疑いが生じた術前生検のプロテオームを解析した。明らかに、プロテオミクスプロファイルは、HCAの信頼楕円により近かった。これは、ランダムフォレスト検定及びHCAについての最小ユークリッド距離(HCAについて2.99対HCCについて5.01)によって確認された(図6b及び図6c)。
【0083】
次に、本発明者らは、増殖中の未分類のHCAにおける画像化によって腫瘍内出血を示した「ボーダーライン」症例を選択した。2016年には、組織学における知識の状態は、この高度に血管化されたHCAの分類を可能にせず、脂肪性HCAについても炎症性HCAについても可能にしなかった。腫瘍内血腫の存在は解釈を困難にし、細胞学的異型性及び異常な類洞(CD34陽性及び減少したレチクリン染色)の存在に起因して、HCAとHCCとを区別することは困難であった。IHCは、既知のサブタイプを示さなかった(L-FABP(通常、sh-HCAの場合である)の減少であるが、喪失ではなく、GS陰性、及び弱いCRP陽性)。分子生物学解析は、事後診断がsh-HCAであることを見出した。プロテオミクスプロファイルは、ランダムフォレスト検定によって確認されるように、HCC群と非常に明確に関連していた。しかしながら、ユークリッド距離計算は、2群間の決定を可能にしなかった(HCAについて4.55対HCCについて4.65)。この特異的症例について、プロテオミクスは、HCAとHCCとの間の進行性スケールでのこの腫瘍の位置付けを可能にするさらなる定量的特徴を提供した(図6a、図6b及び図6c)。
【0084】
最後の症例(図6b及び図6c)は、良性の10cm肝腫瘍について最初に遠隔管理された女性であった。切除標本の組織学的解析は、病理学者にとって難題であり、すなわち、びまん性の細胞学的異型性及び異常なレチクリンネットワークと組み合わされた、全ての日常的に使用されるIHCマーカーの陰性を有するHCAが分類不可能であった。したがって、これは、推定HCCの診断をもたらしたが、HCCに有利なIHCマーカー(GPC3陰性及びMIB1陰性)及び陰性分子解析(TERT陰性)はなかった。プロテオミクスプロファイルは、明らかに、HCA群で発症したHCCを有するこの症例の分類を可能にした(HCAについて4.27対HCCについて4.99)。
【0085】
この検証患者セットに関するこれらの結果を考慮すると、プロテオミクス悪性プロファイルは、形質転換のプロセスに関与するHCAの判定に有効であった。
【0086】
この研究において、本発明者らは、HCAサブタイプ及び悪性形質転換のそのレベルを反映するスコアを判定することができるHCA診断のための完全なツールを提供する。
【0087】
結論
プロテオミクス解析は、患者管理を改善するためのゲノミクス及びトランスクリプトミクスに続く次の「オミクス」ステップである。現在まで、FFPE組織のプロテオミクスプロファイリングは、臨床診療において、特に腫瘍病理分野において使用されたことがなかった。
【0088】
本発明者らは、FFPE組織からの診断のためにプロテオミクスパターンマッチングを使用して先駆的研究を行った。本発明者らのツールの主な原理は、生検又は外科標本から抽出されたプロテオミクスプロファイルと、完全に特徴付けられた患者からのプロテオミクスプロファイルから構成される参照データベースとの比較に基づく。本発明者らは、動
作日常解析のための解析プロセスを開発し、適合させた。本発明者らは、3×5μmの切片切断で1mmに相当する少量の組織を使用し、したがって試料を枯渇させず、それを再使用することができる。完全な解析は、1週間以内に達成することができるので、臨床診療によって課される期限に適合したままである。さらに、生成されたプロテオミクスデータは、さらなる適用(予後、セラノスティクス)のために再利用され得るリソースのままである。
【0089】
タンパク質調節解除のプロファイル(腫瘍対非腫瘍)に作用する主な利点は、個人間の変動を減少させることによって腫瘍同一性に直接アクセスする能力であり、患者のコレクションが少ないにもかかわらず解析を効率的にする。これはまた、機能的生物学的パスウェイとのプロファイルの関連付け、生物学的関連性の制御、及び新しい標的の同定を可能にする。スペクトル強度プロファイルに対するタンパク質発現調節解除のプロファイルに作用するさらなる利点は、参照データベースの構築が質量分析計のタイプに依存しないことである。実際に、本発明の方法は、画像取得に使用されるデバイス間の異質性に関する主要な障害に直面するラジオミクスとは対照的に、異なる機器を有する現場で実施することができる。
【0090】
HCAの分子分類は、過去10年間にわたって多くの更新を受けてきており、現在ではほぼ確立されたと考えられているNault J-C,et al([12])。分子分類の強化はHCA生理病理学のより良い理解をもたらしたが、それは患者の管理を変更していないことに留意しなければならない。本発明者らは、2つの主要な問題、すなわち、(1)生検に基づく分類、及び(2)悪性腫瘍状態の同定、を認識した。実際、いくつかの理由から、古典的なアプローチを用いた生検の診断は明白ではない。さらに、潜在的に全てのHCAが形質転換し得るという事実は、特に良性肝臓腫瘍が専門でない病理学者にとって、診断時に疑いを引き起こし得る。HCCの疑いは、医学的及び外科的処置並びに追跡調査を劇的に変化させる。実際、外科的戦略は同じようには考えられておらず、HCAを扱う場合、腫瘍の単純な摘出で十分である。これに反して、HCCの外科的管理は、せいぜい、解剖学的切除(対応する門脈枝を除去すること)からなり、これが可能でない場合、外科医は、2cmの最適マージンを有するように努力しなければならない。
【0091】
これら全ての理由から、本発明者らは、最初に、HCAサブタイププロテオミクス分類のためのHCAデータベースを生成した。第二に、本発明者らは、HCAサブタイプにかかわらず悪性形質転換を直接診断するタンパク質プロファイルを同定した。このプロファイルは、細胞変性に応答した免疫活性化と相関しており、活性な抗腫瘍免疫を有する腫瘍形質転換又は分化した腫瘍にとって意味がある。β-カテニンパスウェイは、全てのHCAサブタイプにわたって同定されたことを考慮すると、本発明者らの悪性腫瘍シグネチャーに現れなかった可能性が高い。この検証されたシグネチャーにより、本発明者らは、HCA形質転換状態を定義することができる。機械学習は、臨床データ解釈のための新たな有望な専門分野である。本発明者らの研究において、本発明者らは、類似性の計算のために異なる統計解析を試験した(差異スコア計算:単純化されたデータに対するカイ二乗検定、PCA後のユークリッド距離計算、PCAによって削減されたデータに対するランダムフォレスト)。先入観なしに、本発明者らは、本発明者らが参照群に関して試験したプロテオミクスプロファイルの類似性に関する証拠を提供するために、解析のいくつかを使用したいと考えた。ランダムフォレストが最も信頼できることが証明されたが、これらの方法は全て成功した。これを解釈するために、3つの数学的アプローチが同じ結論を導く場合、それはロバスト性の証拠である。一方、それらが非定型症例に関して矛盾する場合、より慎重である必要があり、解析を診断における追加の特徴として考慮する必要がある。本発明者らのHCAデータベースへの進行中の症例追加は、診断をますます正確にする。
【0092】
その後、本発明者らの方法論は、一般的な臨床状況において鑑別診断が紛らわしい可能性がある高分化型HCCなどの肝臓分野における他の重要な臨床上の疑問に答えるために実施することができる。これは、本発明者らが同定した悪性腫瘍シグネチャーが、HCAに厳密に関連しているか、又は他のより頻繁な病因及びバックグラウンドに共通であるかを定義し得る。
【0093】
より広い観点から、肝腫瘍及び腫瘍周囲組織に肝生検を実施するための臨床勧告は系統的ではなく、リスク評価よりも論理的利益に従わなければならない。実際、この侵襲的処置は取るに足らないものではなく、出血及び腫瘍細胞拡散などの合併症、ときには重篤な合併症を引き起こす可能性がある。生検性能の価値もまた、画像化の進歩を考慮して議論されている。実際に、放射線専門医は、排除によってさえ、ますます正確な診断を行うことができる。これは既に、管理、特に切除の決定に役立つ。これらの理由から、肝疾患を有する患者に対する生検の役割は、肝臓病専門医の間で最も重要な考慮事項の1つである。それにもかかわらず、プロテオミクスプロファイルによって提供される情報は、肝生検を行うことのベネフィット-リスク比を逆転させ、臨床診療において真の差異を作り、個別化医療への道を開くことができる。例えば、悪性腫瘍は、移植に対する患者の適格性を条件付けるため、悪性腫瘍診断は、実際に、肝硬変の肝臓に見出される異形成性肝臓結節に非常に有用であり得る。将来、プロテオミクスプロファイルを使用して、例えば、治療手段が最近拡大された進行性HCCを有する患者において、抗がん治療に対する応答又は非応答の要素を同定することもできる。肝臓以外では、プロテオミクスプロファイリングは、腫瘍学分野、すなわち肺がん、低悪性度神経膠腫、利用可能な生検材料が非常に少なく、IHCの解釈が困難である乳がんにおけるセンチネルリンパ節における生検の性能を改善することができる。
【0094】
結論として、本発明者らは、プロテオミクスプロファイリングが患者管理プロセスにおいてより重要な状態を生検に与え得ることを示す。本発明者らは、HCAの診断及びサブタイピング並びにその悪性形質転換の評価を用いて概念実証を示し、これは日常的な臨床ケアへの移行に利用可能である。これは、プロテオミクス解析を診療現場に統合し、エビデンスベースのケアバンドルの一部としてプロテオミクス結果を患者の病理報告に追加することを意味する。プロテオミクス解析は、病理学サービスを新しい解析時代にもたらすであろう。
【0095】
実施例2:生検プロテオームプロファイリングを使用した進行性HCCにおけるセラノスティックアプローチ:概念実証としてのソラフェニブ
肝臓がんは主要な健康問題であり、世界中で2番目に多いがん死亡の原因であり、毎年850,000件を超える新たな症例がある。西洋諸国では、過去20年にわたって症例数が増加している。原発性肝臓がんの中で、肝細胞がん(HCC)が最も一般的であり(Ferlay J,et al.「Cancer incidence and mortality worldwide:sources,methods and major patterns in GLOBOCAN」.Int.J.Cancer.136:E359-386(2012)([7]))、これは通常肝硬変に発症し、例外的に健康な肝臓に発症する。肝硬変監視プログラムは、治癒的処置(外科的切除、経皮的破壊、肝臓移植)が利用可能である多数の初期段階HCCを検出することができるが、がんの50~70%は後期に診断される。その極めて不良な予後で知られている、進行性HCCは、局所的(動脈化学塞栓術)又は全身的緩和療法でのみ治療することができる。
【0096】
HCCの診断及び管理における肝生検の役割は、常に長い間疑問視されてきた。腫瘍播種及び出血などの合併症のリスク、並びに画像化による実行可能な非侵襲的診断の利用可能性は、これまで、HCCの管理における肝生検の使用を制限してきた。しかしながら、現在では、これらのリスクは稀であり、管理可能であり、疾患の経過に影響せず、したが
って、生検を避ける理由として考慮されるべきではないことが広く受け入れられている。一方、不十分なサンプリングのリスクも多くの研究によって強調されている。これはおそらく、正確な技術の欠如によるものであり、また、DNA及びRNA解析が、日常的な臨床使用における材料に対応する固定された生検材料よりも凍結試料においてより効率的であるためである。しかしながら、これらの腫瘍試料は、固定された生検が現在のリスク/ベネフィット比を逆転させ得る有益な情報を含むので、明らかに過小評価されており、十分に使用されない(Di Tommaso L,et al.「Role of liver biopsy in hepatocellular carcinoma」.World.J.Gastroenterol.25:6041-6052(2019)([8])。
【0097】
ほとんどの国において、ソラフェニブは、非常に少数の応答者及び有意な副作用にもかかわらず、その実証された生存利益のために、進行性HCCのための標準的な第一選択療法として承認されている(Hollebecque A,et al.「Systemic treatment of advanced hepatocellular carcinoma:from disillusions to new horizons」.Eur.J.Cancer.51:327-339(2015)([9])。進行性HCCにおけるソラフェニブの承認以来、いくつかの第III相臨床試験は、優れた生存利益を実証することができなかった(Hollebecque,et al.([9]))。さらに、第III相試験は、全生存期間においてソラフェニブと比較してレンバチニブの非劣性を示し、同等の安全及び忍容性プロファイルにより、第一選択治療における今日のその使用が正当化されている(Kudo M,et al.「Lenvatinib versus sorafenib in first-line treatment of patients with unresectable hepatocellular carcinoma:a randomised phase 3 non-inferiority trial」.Lancet.391:1163-1173(2018)([10])。臨床勧告によれば、ソラフェニブ又はレンバチニブが無効であるか、又は忍容性がなかった患者は、最近出現した第2選択肢(カボザンチニブ、ラムシルマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブを含む)から利益を得ることができる。有効性が証明されたこれらの新薬の市場への到達は、HCC緩和ケアにおける真の革命であった。
【0098】
加えて、免疫療法処置(ニボルマブ、ペンブロリズマブ)の初期の有望な結果の後、アンゾリズマブ(抗プログラム死リガンド1(PDL1))及びベバシズマブ(抗血管内皮増殖因子(VEGF))の組み合わせは、最近、標準治療(ソラフェニブ)と比較して第一選択において劇的な利益を示しており、近い将来、第一選択における新しい標準となるであろう。この強化された治療手段は、進行性HCCを有する患者において全生存期間中央値を6ヶ月から26ヶ月超まで増加させ、肝機能を保存することを既に可能にしており、かなりの進歩である。しかしながら、第一選択の治療及び/又は治療順序の選択に対応する治療戦略は明確ではない。
【0099】
ソラフェニブは、腫瘍細胞(細胞増殖阻害)及び内皮細胞(血管新生阻害)の両方を直接標的とする多標的キナーゼ阻害剤(Rafキナーゼ、VEGF-R1及びR3、c-kit及びRET)である(Ferlay,et al.([7]))。10年よりも多くの年月にわたって、HCCにおけるソラフェニブに対する応答の遺伝子プロファイル、臨床パラメータ、予後又は予測血液又は組織バイオマーカーを同定するための研究が増えてきた(Zucman-Rossi,et al.
[(13]))(Marisi G,et al.「Ten years of sorafenib in hepatocellular carcinoma:Are there any predictive and/or prognostic m
arkers?」.World J.Gastroenterol.24:4152-4163(2018)([15])、Pinyol R,et al.「Molecular predictors of prevention of recurrence in HCC with sorafenib as adjuvant treatment and prognostic factors in the phase 3 STORM trial」.Gut.68:1065-1075(2019)([16]))。いくつかの結果は有望であった(より長い遅延進行時間に関連するより高い治療前リン酸化ERKレベル(Abou-Alfa GK,et al.「Phase II study of sorafenib in patients with advanced hepatocellular carcinoma」.J.Clin.Oncol.24:4293-4300(2006)([17]))、治療有効性を予測するc-Metの高発現(Chu JS,et al.「Expression and prognostic value of VEGFR-2,PDGFR-β,and c-Met in advanced hepatocellular carcinoma」.J.Exp.Clin.Cancer Res.32:16(2013)([18]))、治療に応答しない患者におけるphospho-c-Junのより高い発現(Hagiwara S,et al.「Activation of JNK and high expression level of CD133 predict a poor response to sorafenib in hepatocellular carcinoma」.Br.J.Cancer.106:1997-2003(2012)([19]))。しかしながら、今日まで検証されたものはない。
【0100】
本発明者らは以前に、レーザー捕捉と質量分析とを組み合わせて、腫瘍プロテオミクスプロファイルを徹底的に解析した(Henriet E,et al.([4])、Vial G,et al.「Antigenic Mimicry in Paraneoplastic Immune Thrombocytopenia」.Front Immunol.10:523(2019)([20]))。ホルマリン固定及びパラフィン包埋組織(formalin-fixed and paraffin-embedded tissues、FFPET)の解析並びに診断生検などの非常に少量の材料と適合するこの技術的プロセスにより、出血リスクに関連するソニックヘッジホッグ肝細胞腺腫の診断に現在使用されているバイオマーカーを同定することが既に可能になっている(Henriet E,et al.([4])、Nault J-C,et al.([12])、Sala M,et al.,([1]))。
【0101】
この研究では、診断生検を用いて、このインサイチュウプロテオミクス戦略を適用して、セラノスティック戦略を開発した。目的は、ソラフェニブ治療前の固定生検におけるHCCプロテオミクスプロファイリングの解析、並びにソラフェニブに対する良好な応答者及び不良な応答者の腫瘍と隣接組織との間のタンパク質発現調節解除の比較を使用して、治療に対する進行性HCCの応答を予測するマーカーを同定することであった。ソラフェニブを用いて実施されたこのプロセス及び概念実証は、他のHCC治療に適用可能であり、他の病理にも転用可能である。
【0102】
材料及び方法
患者
この研究を実施するために必要とされる生物学的資源へのアクセスは、Magellan Digestive Oncology Department(Pessac,France)の存在によって保証され、BordeauxのCentre de Ressources Biologiquesと提携した(2017/06/09にCRBに対してなされた要求番号160、割り当て番号676)。
【0103】
ソラフェニブで処置された進行性HCCを有する患者を選択し、処置に対するそれらの応答に従って2つの群に分けた(以下の表1を参照されたい)。
【0104】
【表1】
【0105】
応答は、放射線応答基準及び/又は処置開始後の最初の2ヶ月で評価されたアルファ-フェトプロテイン(alpha-fetoprotein、AFP)レベルに基づいた。良好な応答は、>
30%の放射線学的腫瘍退縮及び/又は>50%のAFPの減少に対応した。>20%の放射線学的腫瘍進行は、不十分な応答に対応した。
【0106】
各患者は、処置の開始前に、質量分析によるその後のプロテオミクス解析のために十分な腫瘍及び非腫瘍組織(>1mm2)を含む生検を有していなければならない。
【0107】
レーザー捕捉
各患者からのスライドを再解析し、ヘマトキシリンエオシンサフラン染色を組織病理的検査に使用して、解剖されるべき関心領域を決定した。次いで、同じ表面積及び均質な構成(線維症の不在)の腫瘍性(T)及び非腫瘍性(NT)肝臓を、解剖病理学者の監督下で選択した(BLB;PBS)。
【0108】
H&E染色スライド上で予め選択された1平方ミリメートルの腫瘍組織及び非腫瘍組織を、PALMタイプ4(Zeiss)レーザー顕微解剖器を用いてFFPE 5μm厚切片から顕微解剖した。同領域を連続切片に切断し、同じ方法で処置して3つの技術的複製を形成した。
【0109】
プロテオミクス解析のための試料調製
固定復帰及び組織切片からのタンパク質抽出、ゲルタンパク質消化、ゲルからのペプチド抽出及びLC-MS/MS解析のためのペプチド試料調製を、上述したように行った(Henriet E,et al.([4]))。
【0110】
質量分析
オンラインナノLC-MS/MS解析を、ナノスプレーQ-Exactiveハイブリッド四重極-Orbitrap質量分析器又はナノスプレーOrbitrap Fusion(商標)Lumos(商標)Tribrid(商標)質量分析器(Thermo Scientific,USA)に連結されたUltimate 3000 RSLC Nano-UPHLCシステム(Thermo Scientific,USA)を使用して、上述したように実施した(Henriet E,et al.([4]))。
【0111】
データベース検索、MS結果処理及び定量化
タンパク質同定のために、Proteome Discoverer 1.4 Software(Thermo Fisher Scientific Inc.)で利用可能なMascot 2.5アルゴリズムを使用した。UniProt Homo sapiensデータベース(71 525エントリ、Reference Proteome
Set、リリース2017_12)、http://www.uniprot.org/websiteに対して検索することにより、バッチモードで使用した。2つの欠落した酵素切断が許容された。MS及びMS/MSにおける質量許容差を10ppm及び0.02Daに設定した。メチオニンの酸化、リシンのアセチル化並びにアスパラギン及びグルタミンの脱アミド化を、動的修飾について検索した。システイン上のカルバミドメチル化を静的修飾として検索した。生のLC-MS/MSデータをProline Studio(Bouyssie D,et al.「Proline:an efficient and user-friendly software suite for large-scale proteomics」.Bioinforma.Oxf.Engl.36,3148-3155(2020)([11]))に、特徴検出、位置合わせ、及び定量化のためにインポートした。タンパク質同定は、少なくとも2つの特異的ペプチドについてのみ受け入れられ、かなりのランク=1であり、Mascot 1における「デコイ」オプションを用いて計算されたタンパク質FDR値は1.0%未満であった。抽出イオンクロマトグラム(extracted ion chromatograms、XIC)によるMS1レベルの無標識定量化を、上述したパラメータ(Henriet E,et al.([4]))を用いて行った。タンパク質存在量を、Proline Studioの「中央値比」オプションを使用して正規化した。
【0112】
バイオインフォマティック解析
各患者についての腫瘍試料と非腫瘍試料との間のタンパク質差次的発現を、腫瘍/非腫瘍試料の各対についての正規化タンパク質存在量の中央値の対数比を計算することによって解析した。
【0113】
ソラフェニブに対する良好な応答者(good responder、GR)と不良な応答者(bad responder、BR)とを区別する潜在的なバイオマーカーを明らかにするために、t検定(等集団分散を仮定しないウェルチのt検定)を適用した。調整された確率値(p値)の有意性についての閾値を0.005に設定し、77個のタンパク質によって構成される予測シグネチャーをもたらした。
【0114】
この関連するデータセットを使用して、主成分解析(PCA)を、Rにおいて利用可能なFactoMineR及びFactoextraを使用して実施した。階層的クラスタリングもまた、Rパッケージpvclustにおいて利用可能なマルチスケールブートストラップアルゴリズム、並びにユークリッド距離及び二乗非類似度を用いるウォード最小分散クラスタリング法に設定されたパラメータを使用して実施した。pvclustは、ブートストラップ再サンプリング技術を使用して各クラスタについてのp値を計算する。それは、クラスタ信頼度が解釈されることを可能にする2つのタイプのp値、すなわち近似的に不偏なp値についての「AU」及びブートストラップ確率についての「BP」を提供する。AUは、マルチスケールブートストラップリサンプリングを使用して計算され、BPは、通常のブートストラップリサンプリングを使用して生成される。
【0115】
GRとBRとの間で有意に調節解除されたパスウェイを見出すために、77個のタンパク質シグネチャーに関する遺伝子セットエンリッチメント解析を、遺伝子オントロジー(Gene Ontology、GO)生物学的プロセスデータベースに対して実施し、文字列(https://string-db.org)及びIngenuity Pathways(Qiagen)データベースに列挙された機能的相互作用を解析した。
【0116】
結果
患者における臨床病理的特徴及び解析戦略
ソラフェニブに対する良好な応答者の割合が非常に低く(SHARP試験において2%の客観的応答)、全ての患者が処置前に生検されるわけではないという事実を考慮すると、この研究の最初の課題は、腫瘍及び非腫瘍肝臓組織を処置前に比較することができる十分な応答者を収集することであった。5人の良好な応答者(Bordeaux University Hospitalから3症例、Bayonne University Hospitalから1症例、及びPau University Hospitalから1症例)を収集し、9人の不良な応答者(Bordeaux University Hospitalから)と比較した。ソラフェニブ治療の開始日は、2012年8月から2017年12月であった。解析は、ソラフェニブ処置を開始する前に採取したFFPET肝生検に対して行った。変動性を制限するように設計された3つの技術的反復に加えて、個体間変動性に起因するバックグラウンドノイズを平滑化し、したがってより多くの統計的検出力を得るために、腫瘍対非腫瘍タンパク質発現比を各患者について解析した。この方法論により、小さなコホートであってもロバストなデータを得ることができた(Henriet E,et al.([4]))。選択された患者の臨床的特徴を上の表1に詳述する。解析戦略は、この避けられない変動性による偏りを制限するように設計されている(表1)。
【0117】
腫瘍プロテオームは、良好な患者と不良な応答者とを鑑別する
【0118】
症例当たり平均982±329個のタンパク質を同定し、同定された合計2790個のタンパク質(2個を超える特異的ペプチドを有する)について定量化した。良好な応答者について、平均して、同定されたタンパク質の12.9%が上方調節され(T/NT比>2)、19.7%が下方調節された(T/NT比<0.5)。不良な応答者については、同定されたタンパク質の18.9%が上方調節され、24.3%が下方調節された(以下の表2参照)。
【0119】
【表2】
【0120】
良好な応答者と不良な応答者を鑑別するプロテオミクスシグネチャーを同定するために、2つの群のT/NT比を比較する調整されたウィルコクソンt検定を適用した。調整されたp値の有意性についての閾値を0.005に設定し、77個のタンパク質シグネチャーをもたらした(以下の表3を参照)。
【0121】
【表3-1】
【0122】
【表3-2】
【0123】
【表3-3】
【0124】
2群の患者は、差次的タンパク質発現プロファイルの半教師あり階層解析及び主成分解析の両方において、十分に分離されているようであった。(図8a、図8b及び図8c)タンパク質の4分の3が、stringタンパク質及びIngenuity Pathwaysデータベース(図8d及び図9)に従って、機能的に結合した。
【0125】
このセラノスティックシグネチャーに関連する生物学的パスウェイを、GOデータベース(分子機能)に対する、及びIngenuity Pathwaysデータベース(カノニカルパスウェイ)に対する遺伝子セットエンリッチメント解析によって調査した(図10a)。これらの2つの統計解析は相補的であり、以下のパスウェイのエンリッチメン
トを明らかにした:(1)EIF2パスウェイ(EIF2のリン酸化がUPRにおいて必要とされる)、タンパク質ユビキチン化パスウェイ及びBAG2シグナル伝達パスウェイを含むストレス応答を含む小胞体ストレス応答(Unfolded Protein Response、UPR)
、(2)急性期シグナル伝達、(3)酸化ストレス及び(4)細胞接着(図8c)。
【0126】
UPR関連パスウェイのより高い発現が、不良な応答者並びに酸化ストレスに関連するタンパク質において観察された一方で、良好な応答者は、急性炎症応答期に関連するタンパク質を発現する可能性がより高かった(図10b)。
【0127】
結論
多くの研究にもかかわらず、進行性HCCにおけるソラフェニブに対する応答についての予測マーカーの欠如は、依然として大きな課題のままである。これらの予測マーカーは、特に新しい治療の利用可能性に起因して、患者が治療される方法を変化させる可能性がある(Marisi G,et al.([15])、Pinyol R,et al.([16]))。これまで、3つの異なる治療選択肢が、進行性HCCの第一選択において利用可能であり、それは、ソラフェニブ、レンバチニブ、及びより最近ではアテゾリズマブ/ベバシズマブの組み合わせである。患者がこれらの治療に対して異なって応答することは明らかである。考慮すべき他の点は、この薬物の有害作用及び公衆衛生のためのそれらの著しい費用である。その結果、各患者に最適な治療を決定するためには、精密医療に到達することが必要である。このセラノスティック戦略に必要な全ての情報は、固定診断生検において利用可能である。
【0128】
レーザー捕捉と質量分析とを組み合わせた本発明者らの技術的プロセスを使用して、本発明者らは、臨床で利用可能なこの日常的な生物学的試料からタンパク質発現調節解除プロファイルにアクセスすることができた。本発明者らの解析は、処置前に不良な応答者においてUPRタンパク質の過剰発現の傾向があったことを明らかにした。いくつかの研究は、ソラフェニブが、HCC細胞におけるUPRのPERK及びIRE1α分枝を活性化し得るが、内因性活性化は、進行性HCCにおけるソラフェニブの応答の指標ではないことを以前に示している。しかしながら、UPRは、様々ながん治療に対するがん細胞応答の決定因子として既に記載されている。本発明者らの結果は、処置前のUPRの内因性活性化が、ソラフェニブ処置に対するHCC感受性の欠如に寄与し得ることを示す。これは、さらなる解析及び検証を必要とするが、新たな薬理学的選択肢を提供し得る。
【0129】
セラノスティック指標であり得るパスウェイの中で、本発明者らはまた、酸化ストレスに関連するタンパク質を同定した。これらのタンパク質の上方調節は、不良な応答者におけるソラフェニブ処置に対する感受性を低下させ得る。患者において得られた本発明者らの結果は、ソラフェニブがHCC細胞による活性酸素種(reactive oxygen species、R
OS)産生を増強することを示した以前のインビトロ研究を確証する。これらの先天的な調節解除は、腫瘍に直接的な利点を与え、治療中に獲得され得る耐性機構に対抗する。
【0130】
本発明者らはまた、最も特徴的なタンパク質のうちのBGNを含む、細胞接着に関連するタンパク質を見出した。実際、BGN発現は、良好な応答者においてより高い。ソラフェニブは、インビトロでとりわけ細胞接着に関連する遺伝子の発現の有意な減少を誘導することが知られている(Cervello M,et al.「Molecular mechanisms of sorafenib action in liver cancer cells」.Cell Cycle.11:2843-2855(2012)([25]))。さらに、非応答者コホートにおける処置前後のタンパク質発現を比較する腫瘍プロテオミクス解析は、接着パスウェイの有意なエンリッチメントを明らかにした。ビメンチンなどのタンパク質、並びにフィブロネクチン及びビトロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質が上方調節された。加えて、接着結合分子は、治療中にむしろ負の調節を受けた(Dazert E,et al.「Quantitative proteomics and phosphoproteomics on serial tumor biopsies from a sorafenib-treated HCC patient」.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.113:1381-1386(2016)([26]))。本発明者らの結果はこれを支持しない。しかし、細胞接着がソラフェニブに対するHCCの応答に関連するという一連の証拠が存在するが、接着タンパク質が関与する正確な機構は依然として特徴付けられる。
【0131】
ソラフェニブに応答するこの予測タンパク質シグネチャーの中で、本発明者らは、TKTが、不良な応答者において最も反復的に過剰発現されるタンパク質であることを見出した。この結果は、マーカー及び重要な治療標的としてのTKTを強調する。以前の研究は、TKT枯渇を、ソラフェニブ処置に対するHCC細胞のインビトロ感受性と既に関連付けていた(Xu IM-J,et al.([23]))。本発明者らは、患者におけるこれらの結果を確認及び補完し、このことは、本発明者らのセラノスティックシグネチャーの関連性を強調する。さらに、TKTは、HCCのソラフェニブ治療に対する応答の予測因子として提案されたことはなかったが、本発明者らは、このリードを強化するために、患者解析から強い議論を提供する。対照的に、TKTは、レンバチニブ療法に対する感受性に関与していないようであり、2つの第一選択のマルチキナーゼ阻害剤の間で選択するための良好なマーカーとなった。
【0132】
進行性HCCに対して二重併用療法が高度に探求された戦略であるときには、TKT阻害剤の使用が探求されるべきである。以前に、TKTに特異的でないPPPの阻害剤であるオキシチアミンは、HCC細胞において有効なインビトロ及びインビボであることが既に示されている(Xu IM-J,et al.([23]))。本発明者らは、HUH7細胞の増殖に対するオキシチアミンの効果を確認しなかった。しかし、本発明者らは、肝細胞中のTKTが主に細胞核で発現されるのに対して、PPPは細胞質であることを示した。最近の研究は、TKTの核転座及び異なるキナーゼ及び転写コレギュレーターとのその相互作用を強調する、HCCにおける代謝再プログラミングを記載した(Qin Z,et al.([22]))。これに関連して、核TKT機能とソラフェニブ感受性との関係は完全に理解されたままであるが、核におけるTKT活性の特異的阻害は薬理学的に関連しており、従うべき手段である。
【0133】
ソラフェニブに対する応答を予測するバイオマーカーとしてのTKTの使用が検証されると、治療前のTKTの定量化は、2つの第一選択マルチキナーゼ阻害剤間の治療の現在の選択のための貴重な指標となるであろう。これに対処するために、質量分析によるTKTの定量化は、ソラフェニブに対する応答を予測し、IHC欠陥に対処するための第1の選択肢であり得る。本発明者らは、統計的に最も強いプロテオミクスプロファイル全体を解析することが、日常的な臨床診療において使用され得る有望な方法論的選択肢であると考える。この解析戦略は、第一又は第二選択において現在使用されているマルチキナーゼ阻害剤、及び第一選択処置のための暫定認可を有する免疫療法のために拡張され得る。さらに、ソラフェニブ応答の予測シグネチャーにおいて、本発明者らは、その発現レベルが良好な応答者においてより高かった腫瘍関連免疫に関与するタンパク質(A2M及びIGHG1)を同定した。これらの同定は、併用抗VEGF/抗PDL1免疫療法に対する応答を予測する腫瘍プロテオミクスプロファイルを探索することを促している。さらに、レーザーマイクロダイセクションのおかげで、本発明者らはまた、免疫原性領域をより正確に標的化して、免疫療法に対する応答に関与する細胞型に関する情報により正確にアクセスすることができる。
【0134】
本発明者らのプロセスの利点は、通常の治療で使用される日常的な針生検に適用できることである。本発明者らの研究は、HCCにおけるセラノティックアプローチのために肝
生検を行うことを促進する。HCC生検に関する活発な議論が依然として存在する。病理的解析は、HCCのサブタイプ、分化の程度、胆管又は前駆細胞表現型及び増殖指数などのロバストなヒストプログノスティックマーカーを提供することができる。非侵襲性セラノスティックバイオマーカー(血液バイオマーカー、循環DNA、循環細胞、エキソソーム)を同定することに大きな努力が注ぎ込まれる。しかしながら、これらの異なる戦略は、ダイナミックレンジが非常に可変である血液中で希釈された腫瘍の小さな部分を同定することを伴う。特に、この小さな部分はまた、処置に対する応答の予測値を有さなければならない。非侵襲的戦略はまだ利用可能ではなく、生検が全体のごく一部を占める場合であっても、本発明者らは大量の情報に容易にアクセスすることができる。将来、進行性HCCの各処置について同定されたセラノスティックプロテオミクスプロファイルは、参照として使用され得、処置を待っているあらゆる新規患者と統計的に比較され得る。したがって、機械学習を使用するプロテオミクスプロファイリングは、個人化された管理及び精密医療を可能にする。さらに、固定された生検についてのホスホプロテオミクス解析は、シグナル伝達パスウェイの活性化状態へのアクセスを提供し得、これは、より正確な機能的情報を提供する。
【0135】
結論として、この研究を通して、本発明者らは、進行性HCCにおいて発現されるタンパク質の定量化が、処置に対する応答の予測を可能にすることを示した。この概念実証は、外科的実践において生検試料を収集することを促進し、精密医療を実施することを可能にし、最終的に、治療有効性の有意な増加、したがって患者の生存をもたらし得る。
【0136】
実施例3:肝細胞腺腫のプロテオミクスプロファイルの特徴付けは、新しい診断アプローチへの道を開く
本発明者らは、全タンパク質発現調節解除パターンが、単一バイオマーカーよりもはるかに完全な方法で診断的であり得ると仮定した。本発明者らは、全HCAプロテオミクスプロファイルの特徴付けを用いて本発明者らの解析を進め、確立された分子分類とのそれらの対応を評価し、それらがさらなる診断的価値を提供し得るかどうかを評価した。
【0137】
260症例のコレクションから、本発明者らは、最初のHCAプロテオミクスデータベースを構築した52の典型的な症例を選択した。レーザーマイクロダイセクション及び質量分析に基づくプロテオミクス解析を組み合わせて、本発明者らは、各患者由来の腫瘍(T)肝臓組織と非腫瘍(NT)肝臓組織との間の相対的タンパク質存在量を比較し、本発明者らは、各HCAサブグループの特異的プロテオミクスパターンを規定した。次に、本発明者らは、診断される生検又は外科標本から抽出されたプロテオミクスパターンを本発明者らの参照HCAデータベースと比較するマッチングアルゴリズムを構築した。
【0138】
実験手順
患者
全ての患者はインフォームドコンセントを提出し、この研究は、本発明者らの地域委員会である、Bordeaux University Hospitalの「Direction de la Recherche Clinique et de I’Innovation」、Bordeaux Liver Biobank BB-0033-00036によって承認された。
【0139】
HCAデータベース構築
260の切除されたHCAの本発明者らのコホートにおいて、248症例が、H-HCA(77)、IHCA(82)、b-HCA(28)、b-IHCA(35)、sh-HCA(25)HCAに対応した。1症例のみが未分類のHCAであった。12症例において、サブタイプ分けは技術的理由のために評価できなかった。
【0140】
本発明者らは、HCAの外科的切除であり、2019年のWHO分類20(6 H-HCA、5 IHCA、16 b-HCA(4 b-HCAエクソン3非S45、5 b-HCAエクソン3 S45、5 b-HCAエクソン7/8+分類のために送られた2症例のb-HCA(1エクソン3 S45及び1エクソン7/8)をこのコレクションに加えた)、16 b-IHCA(6 b-IHCAエクソン3非S45、4 b-IHCAエクソン3 S45、6 b-IHCAエクソン7/8)、9 sh-HCA)によって定義される全ての異なるサブタイプの代表である52個の試料を選択した。HCA及びHCAサブタイプの診断は、形態学及び免疫染色に従って病理学者によって特徴的であると考えられ、結果は常に遺伝子型決定によって確認された。FNHの5切除症例も対照として含めた。
【0141】
プロテオミクス解析
組織切片の調製、レーザーマイクロダイセクションカッティング、タンパク質抽出、ホルマリン固定反転、質量分析用試料の調製、質量分析、生質量分析データの処理、及び無標識定量化を、上述したように行った。質量分析プロテオミクスデータは、PRIDEパートナーリポジトリを介してProteomeXchange Consortiumに寄託されている(識別名PXD022835、PXD022837、PXD022839、PXD022844及びPXD023000)29。
【0142】
質量分析データ処理
フリーRソフトウェアを用いて定量データを解析した。2未満の特異的ペプチドを有する質量分析によって同定されたタンパク質を除外した。各患者について、3つの技術的腫瘍(T)及び非腫瘍(NT)複製(連続切片から)を実施した。技術的反復中央値からのT/NT比を、各タンパク質について計算した。各群において有意に異なり、したがって特異的プロテオミクスパターンに対応した発現(p<0.05)を有するタンパク質を特異的に同定するために、Rパッケージを使用してWilcoxon-Mann-Whitney U検定を実施した。
【0143】
距離計算及びパターンマッチング
フリーRソフトウェアを使用して解析を行った。階層的クラスタリングは、Rパッケージ及びその「hclust」関数によって表された。凝集法として「ward.D」法を使用し、ユークリッド距離を距離計算のために使用した。主成分解析(PCA)のために、VIMパッケージからk-最近傍(k-Nearest Neighbor、KNN)インピュテーション法を使用して欠損値をインピュテーションした。PCAデータを計算し、factoextra及びFactoMineRパッケージ内のPCA及びfviz_pca_ind関数によってフォーマットした。ユークリッド距離は、dist関数及びchisq.test関数を使用する独立のカイ二乗検定を使用して計算した(両方ともRパッケージ内)。ランダムフォレストは、ランダムフォレストパッケージ内のランダムフォレスト関数を使用して生成された。最適パラメータは、カレットパッケージ内のトレイン関数によって計算された。
【0144】
統合的生物学的解析
パスウェイ解析は、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)(Qiagen)データベースを使用して行った。10個の最も有意にエンリッチされたカノニカルパスウェイを各群(HCAサブタイプ及びFNH)から選択し、比較した。機能アノテーションは、GSEA(遺伝子セットエンリッチメント解析)ウェブツールを使用して遺伝子オントロジー(生物学的機能)及びReactomeデータベースから抽出した(https://www.gsea-msigdb.org/gsea/index.jsp)。
【0145】
プロテオミクスパターンの検証のための症例の選択
本発明者らが同定したプロテオミクスパターンの診断適用性を検証するために、本発明者らは、試料分類のために11症例の生検及び1切除、並びに悪性腫瘍状態のために4切除のパネルを選択した。
【0146】
グラフィカル表現
グラフィカル表現は、ggplot2パッケージ及びその全ての依存性を使用してフォーマットされた。
【0147】
結果
参照HCAプロテオミクスデータベースの作成
本発明者らの収集物からロバストなデータベースを構築するために、本発明者らは、全てのHCAサブタイプ及びFNHを代表する52例のHCA外科的切除症例を選択した。これらの切除の診断は、病理学者によって典型的であると考えられ、遺伝子解析によって確認された。
【0148】
本発明者らは、各患者由来の腫瘍性(T)肝臓組織と非腫瘍性(NT)肝臓組織との間の相対的タンパク質存在量を比較した。最初に、本発明者らは、対応する腫瘍:b-HCA/b-IHCAエクソン3非S45、IHCA/b-IHCA、sh-HCA及びH-HCAそれぞれにおけるGS、CRP/SAA、ASS1、及びLFABPマーカーの特異的かつ予想された調節解除を確認し(図1)、本発明者らのデータベースのロバスト性を検証した。
【0149】
本発明者らは、各HCAサブタイプについてのタンパク質シグネチャーが、それらを定義する根底にある変異を反映すると仮定した。したがって、本発明者らは、各HCAサブタイプ(HNF1A、CTNNB1、JAK/STATシグナル伝達パスウェイ)を定義する根底にある変異遺伝子に機能的に関連するタンパク質を調べた。驚くべきことに、免疫マーカーとして現在使用されている検証された標的タンパク質(L-FABP、GS、CRP/SAA)を除いて、本発明者らは、ALB30、OAT31、及びMIF32で示されるように、各変異に関連して頻繁に見出される他のタンパク質の主要な調節解除を観察しなかった(図1e、図1f及び図1g)。加えて、本発明者らは、トランスクリプトームアプローチ18から各HCA群について上述した典型的/特異的パスウェイを調査した。本発明者らは、教師なし解析によって、全てのHCAサブタイプにおいてこれらのパスウェイの全てが有意に調節解除されていることを見出した。本発明者らは、これらの結果内において、HCC発生に関連するタンパク質が全てのHCAサブタイプにおいて有意に調節解除されたことに注目し、したがって、全てのサブタイプが潜在的に形質転換され得ることを示唆した。
【0150】
次いで、本発明者らは、HCAとFNHとの間の有意差を調査した(図2)。HCA及びFNHのプロテオミクスパターンは全く異なっていた(図2a)。次いで、本発明者らは、異なるHCAサブタイプのプロテオミクスパターンを鑑別することが可能であるかどうかを試験した。本発明者らは、最初に、最も類似していないパターン、すなわちH-HCA及びsh-HCAを分離した(図2b)。興味深いことに、炎症性タンパク質発現パターンは、他のHCAとは異なっていた炎症性HCA(IHCA及びb-IHCA)によって共有される強いシグネチャーであった(図2c)。b-HCAのプロテオミクスパターンは、b-HCAの階層的クラスタリング後であっても、主成分解析(PCA)によって他のHCAと十分に区別されなかった(図2d)。しかし、IHCA及びb-IHCAを特異的に比較した場合、それらのプロテオミクスパターンは著しく異なっていた(図2e)。さらに、それらのタンパク質発現パターンは、b-HCA及びb-IHCAの両方について、CTNNB1変異のタイプ(エクソン3非S45、エクソン3 S45、又は
エクソン7/8)に従って明確に分類された(図2f)。
【0151】
これらの結果は、プロテオミクスパターンと遺伝子型/表現型分類との間の優れた相関を実証し、優性(sh-HCA、炎症性H-HCA)及びあまり明らかでないパターン(CTNNB1変異)の両方の存在を明らかにした。
【0152】
HCA及びFNH診断のための機械学習ツール
本発明者らのプロテオミクスデータによる、本発明者らがそれぞれの異なるHCAサブタイプを区別することを可能にしたことを考慮して、本発明者らは、診断ツールを設定することを決めた。第1の重要なステップは、試料がHCA又はFNHに対応し、別のタイプの高分化型肝腫瘍に対応しないかどうかを定義することであった。これを調べるために、本発明者らは、肝硬変肝臓及び高分化型HCCにおける低悪性度異形成結節を解析した。両方の場合について、HCA又はFNHとの類似性スコアは非常に低く、誤った帰属の可能性を除外し、腫瘍がHCAでもFNHでもないことを示した。
【0153】
次に、本発明者らは、最初に、同定された主要なHCA群(sh-HCA、H-HCA、炎症性(IHCA及びb-IHCA)、次いで二次プロテオミクスパターン(異なるCTNNB1変異によるb-HCA)を統合するアルゴリズムを構築した(図3a)。したがって、その原理は、それらのHCAサブタイプを診断するために、HCAサブタイプ参照プロテオミクスパターンを新しい症例と逐次比較することである(図3b、図3c、及び図3d)。本発明者らは、類似性を計算するために、以下の3つのアプローチを使用した。(1)T/NT調節解除を異なる参照プロテオミクスパターンと比較するためのカイ二乗検定、(2)各グループ間のユークリッド距離の計算、(3)PCA削減データセットに対するランダムフォレスト解析、を使用した。本発明者らは、それらを、FNH及びHCA(任意のサブタイプ)の11の生検及び1つの切除のパネルに適用して、各解析の利点及び限界を試験した。
【0154】
12症例のうち3症例は、典型的なb-HCAエクソン3非S45、sh-HCA及びH-HCA(それぞれ、R_01、BP_01、及びBP_02)であり、分類においていかなる困難も示さなかった(図3b、図3c、図3d及び図3e)。他の9症例は、本発明者らの三次施設において診断された生検の代表的なパネルからなった。HCAバイオマーカーは、これらの症例のうちのいずれのサブタイプ分けにも寄与しなかった。しかしながら、プロテオミクスパターンは、3つの症例(BP_03、_04及び_05)についての臨床病理的解釈と一致した。他の2つの症例(BP_06及び_07)については、ランダムフォレストが正しい診断を与え、もう1つの試験が病理診断と一致し、最後の1つの試験が異なる結果を与えた。これらの症例はあまり典型的ではなく、データベース中のHCAと完全に一致しなかった。症例BP_08は、b-HCAエクソン7/8サブタイプであり、その後、切除に対する遺伝子解析によって同定された。ランダムフォレスト及びユークリッド距離は、それをb-HCAエクソン7/8サブタイプとして確実に認識したが、カイ二乗検定は、それを非常に類似したb-HCAエクソン3 S45群と分類した。最後に、その後の切除を伴わない3つの生検(BP_09、_10、及び_11)であって、病理学者がIHCAをb-IHCA(エクソン7/8又はエクソン3 S45)から区別することができなかった3つの生検は、b-IHCAエクソン7/8又はエクソン3 S45パターンを有する群であることが見出された。
【0155】
結論として、これらの結果は、プロテオミクスパターンマッチングがHCAをFNHから鑑別し、分子HCAサブタイプを割り当てることができることを実証している。異型症例に関して困難な場合、プロテオミクスプロファイリングは、診断を支持するさらなる手がかりをもたらし得る。
【0156】
形質転換されたHCAについての悪性度のプロテオミクスパターンの同定
十分に確立された分子病理学的分類にもかかわらず、臨床診療は実質的に変化せず、HCA管理は多くの外科医にとって繊細なままである。本発明者らの中心でこれを説明するために、分子分類は、サブグループタイプに従ってHCA管理を改変していない。これは、より多くの術前生検を行う傾向がわずかであるにもかかわらずである。
【0157】
しかしながら、悪性形質転換はHCAの主要な合併症であり、本発明者らは、本発明者らのプロテオミクスパターンに基づくツールがこの問題に対処するのに役立ち得るかどうかを決定したいと考えた。
【0158】
本発明者らのコレクションにおけるHCA症例は、HCAサブタイプにかかわらず、HCCに形質転換され得る(図4a)。b-HCAエクソン3非S45サブタイプが悪性形質転換の最も高いリスクを示したとしても、他のサブグループからの症例の無視できない割合が関係し得る(sh-HCAについては13.6%まで)(図4a)。悪性腫瘍の組織学的特徴の解釈は困難であり得、病理学者の専門知識に依存し、観察者に依存し得ることは注目に値する。
【0159】
これらの症例の半分において、本発明者らは、病理学者のための留保に気付いた。これは、「ボーダーライン」という用語によって説明され、もはやHCAの特徴ではないが、同時に、明確なHCCのいくつかの特徴を欠く異型病巣を提示する腫瘍として定義された(図4a及び図4b)。臨床及びイメージングの状況に加えて、組織学におけるHCC診断の主張は、細胞核異型(図4c及び図4d)などの形態学的基準だけでなく、免疫組織化学的陽性(例えば、グリピカン3(GPC3)及び熱ショックタンパク質70(HSP70))33、及びTERTプロモーター変異34も含む特徴のセットに基づく。これらの基準は、完全に特異的かつ繊細なものではない。したがって、患者管理を改善するために、悪性腫瘍のプロテオミクスシグネチャーを同定することが実際的であると思われた。
【0160】
HCA悪性腫瘍パターンで発症したHCCの同定
HCAにおける悪性疾患に関連するタンパク質を同定するために、本発明者らは、異なるHCAサブタイプ(2 b-HCAエクソン3非S45、1 b-IHCAエクソン3
S45、1 UHCA、2 sh-HCA)から、HCAで発症した明確なHCC(本発明者らはこれを「HCC/HCA」と呼ぶ)を示した外科的切除の6つの症例を選択した(補足表3)。上述したように、本発明者らは、6つのHCA及びそれらの対応するHCC/HCAのT/NT比を比較し、10個のタンパク質からなる有意なプロテオミクスパターンを単離した。これらのタンパク質は、階層的クラスタリング(図5a)及びPCA(図5b)の両方によって、悪性組織及び良性組織の完全な分離を可能にした。さらに、各群内のタンパク質発現調節解除は均一であった(図5)。
【0161】
悪性腫瘍タンパク質パターンの抽出された機能アノテーションの半分は、免疫応答及び免疫関連細胞活性化(MPO、PRDX2、LCP1、PPIA、SERPINA1、PLD3)、インターロイキン-12シグナル伝達(PPIA、LCP1)、並びに好中球脱顆粒(PPIA、SERPINA1、MPO)と関連していた(図5c)。これらの10個のタンパク質のうち、既知のβ-カテニン機能環境の一部であるものはなかった。
【0162】
次いで、本発明者らは、新しい症例のセットを用いて、HCA形質転換のこのプロテオミクスパターンを検証しようとした。カイ二乗スコアリング法は、10個のタンパク質からなるパターンには適用できなかった。ユークリッド距離及びランダムフォレストを用いて、本発明者らは、最初に、HCAで発症したHCCの1つの陽性対照及び本発明者らのデータベースからの良性HCAの7症例に対する形質転換の本発明者らの10個のタンパク質プロテオミクスパターンを試験した。
【0163】
HCAで発症した調節HCCによる検証
症例167は、HCAで発症したHCCであり、組織学的曖昧性はなく、分子解析によって確認された。プロテオミクスプロファイルは、ランダムフォレスト検定及びHCC群についてのより小さいユークリッド距離(HCAについて5.18対HCCについて5.43)によって確認された、形質転換症例により近かった(図6b及び図6c)。本発明者らのプロテオミクス悪性パターンは、HCC診断の確認を可能にした。
【0164】
良性対照による検証
次に、本発明者らは、組織学的検査による良性腫瘍の診断に関して疑わしくなかったHCAの7症例(症例105、116、121、135、119、83、218)を選択した(図6)。これら全ての腫瘍のプロテオミクスプロファイルにより、これら全ての症例の良性の性質が確認された(図6)。
【0165】
悪性腫瘍の診断に関して疑いのある症例
次いで、本発明者らは、悪性腫瘍の診断に関して疑いが生じた管理歴を有する症例を選択した。第1の症例(178)は、生検解析時に悪性であると疑われた。外科的切除の最終的な組織学的解析は、後にsh-HCAとして同定されたこのHCAの良性の性質について明らかであった。臨床状況を再現するために、本発明者らは、最初に疑いが生じた術前生検のプロテオームを解析した。明白に、プロテオミクスパターンは、より近い良性HCAであり、ランダムフォレスト検定及びHCAについての最小ユークリッド距離(HCAについて2.99対HCCについて5.01)によって確認された(図6f及び図6i)。
【0166】
次に、我々は「ボーダーライン」症例を選択した。症例217は、増殖中及び未分類のHCAにおける画像化によって腫瘍内出血を示した。腫瘍内血腫の存在は解釈を困難にし、細胞学的異型性及び異常な類洞(CD34陽性及び減少したレチクリン染色)の存在に起因して、HCAとHCCとを区別することは困難であった。分子生物学解析は、事後診断がsh-HCAであることを見出した。プロテオミクスプロファイルは、ランダムフォレスト検定によって確認されるように、HCC群と非常に明確に関連していた。しかしながら、ユークリッド距離計算は、2群間の決定を可能にしなかった(HCAについて4.55対HCCについて4.65)。この特異的症例について、プロテオミクスは、HCAとHCCとの間の進行性スケールでのこの腫瘍の位置付けを可能にするさらなる定量的特徴を提供した(図16a、図16g及び図16i)。
【0167】
最後の症例(症例280、図6)は、良性の10cm肝腫瘍について最初に遠隔管理された女性であった。切除標本の組織学的解析は、病理学者にとって難題であり、すなわち、びまん性の細胞学的異型性及び異常なレチクリンネットワークと組み合わされたHCAが分類不可能であった。したがって、これは、推定HCCの診断をもたらしたが、HCCに有利なIHCマーカー(GPC3陰性及びMIB1陰性)及び陰性分子解析(TERT陰性)はなかった。プロテオミクスパターンは、明らかに、HCA群で発症したHCCを有するこの症例の分類を可能にした(HCAについて4.27対HCCについて4.99)。
【0168】
この検証患者セットに関するこれらの結果を考慮すると、プロテオミクス悪性パターンは、形質転換のプロセスに関与するHCAの判定に有効であった。
【0169】
この研究において、本発明者らは、HCAサブタイプ及び悪性形質転換のそのレベルを反映するスコアを判定することができるHCA診断のための完全なツールを提供する。
【0170】
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図1-1】
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【国際調査報告】