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特表2024-509906COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物
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  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図1
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図2
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図3
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図4
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図5a
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図5b
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図6
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図7a
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図7b
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図8a
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図8b
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図9a
  • 特表-COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物 図9b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療のために超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20240227BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20240227BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20240227BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20240227BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K48/00
A61P31/12
A61K9/72
A61P31/14
A61P11/00
A61K47/60
A61K47/58
A61K47/54
A61P37/08
A61P11/06
A61K9/08
A61K9/51
A61P11/04
A61P11/02
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555188
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 KR2022003245
(87)【国際公開番号】W WO2022191567
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0029927
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514171197
【氏名又は名称】バイオニア コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BIONEER CORPORATION
【住所又は居所原語表記】8-11, Munpyeongseo-ro, Daedeok-gu, Daejeon 34302, Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】522397709
【氏名又は名称】サーナゲン セラピューティックス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】SIRNAGEN THERAPEUTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】パク ハンオ
(72)【発明者】
【氏名】イ サンギュ
(72)【発明者】
【氏名】ユン ソンイル
(72)【発明者】
【氏名】クォン オスン
(72)【発明者】
【氏名】コ ウンア
(72)【発明者】
【氏名】コ ヨンホ
(72)【発明者】
【氏名】パク ジュンホン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ガン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジャンソン
(72)【発明者】
【氏名】イ ミソン
(72)【発明者】
【氏名】チェ スンジャ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA24
4C076AA65
4C076AA93
4C076AA95
4C076BB21
4C076BB27
4C076CC15
4C076CC35
4C076DD34
4C076DD39
4C076DD41
4C076DD46
4C076DD59
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE23
4C076EE25
4C076FF70
4C084AA13
4C084MA13
4C084MA56
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZA34
4C084ZA59
4C084ZA61
4C084ZB13
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA10
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA38
4C086MA56
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZA34
4C086ZA59
4C086ZA61
4C086ZB13
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、超音波ネブライザを使用して、二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物に関する。この方法により、本発明の、水溶液中で90nmの中性電荷を有する自己組織化ナノ粒子を形成する二本鎖オリゴヌクレオチドは、非希釈溶液の材料と同じ濃度、分子量、純度、ナノ粒子サイズ、及び重量オスモル濃度を維持することが可能となる。加えて、該方法は、細胞毒性を伴わずに標的遺伝子抑制能力を維持することが可能であってかつ薬物を鼻腔及び肺に特異的に送達することが可能であり、よって本発明は、COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染によって引き起こされた肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療に利用することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式1:
[構造式1]
A‐X‐R‐Y‐B
(式中、Aは親水性化合物を表わし、Bは疎水性化合物を表わし、X及びYは各々独立して単純な共有結合又はリンカーを介した共有結合を表わし、かつRは二本鎖オリゴヌクレオチドを表わす)
によって表わされる構造を含む二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を含む、呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染によって引き起こされた肺線維症、又は呼吸器疾患を予防又は治療するための医薬組成物であって、ネブライザを使用して投与される医薬組成物。
【請求項2】
ネブライザは超音波ネブライザである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
二本鎖オリゴヌクレオチドは、センス鎖と、該センス鎖に相補的な配列を含むアンチセンス鎖とを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
センス鎖又はアンチセンス鎖は19~31ヌクレオチドから成る、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
センス鎖又はアンチセンス鎖は独立してDNA又はRNAである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
センス鎖又はアンチセンス鎖は化学修飾を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
化学修飾は、
1又は複数のヌクレオチドの糖構造の2’位のOH基が、メチル基(‐CH)、メトキシ基(‐OCH)、アミン基(‐NH)、フッ素(‐F)、‐O‐2‐メトキシエチル基、‐O‐プロピル基、‐O‐2‐メチルチオエチル基、‐O‐3‐アミノプロピル基、‐O‐3‐ジメチルアミノプロピル基、‐O‐N‐メチルアセトアミド基、及び‐O‐ジメチルアミドオキシエチル基から成る群から選択されたいずれか1つで置換される修飾;
ヌクレオチドの糖構造の酸素がイオウで置換される修飾;
ヌクレオチド間の結合が、ホスホロチオエート結合、ボラノホスフェート結合及びメチルホスホネート結合から成る群から選択されたいずれか1つの結合となされる修飾;並びに
PNA(ペプチド核酸)、LNA(ロック核酸)又はUNA(非固定核酸)となされる修飾
から成る群から選択されたいずれか1つ又は複数である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
少なくとも1つのリン酸基がアンチセンス鎖の5’末端に結合している、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項9】
二本鎖オリゴヌクレオチドはsiRNA、shRNA又はmiRNAである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
以下の構造式2:
[構造式2]
【化1】

(式中、S及びASはそれぞれ二本鎖オリゴヌクレオチドのセンス鎖及びアンチセンス鎖を表わし、A、B、X及びYは請求項1で規定されたとおりである)
によって表わされる構造物を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
以下の構造式3:
[構造式3]
【化2】

(式中、A、B、X、Y、S及びASは請求項10で規定されたとおりであり、かつ5’及び3’はそれぞれセンス鎖の5’末端及び3’末端を表わす)
によって表わされる構造物を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
親水性化合物は、以下の構造式4又は構造式5:
[構造式4]
(A’-J)
[構造式5]
(J-A’
(式中、A’は親水性モノマーを表わし、Jはm個の親水性モノマーどうしを接続するか又はm個の親水性モノマーをsiRNAと接続するリンカーを表わし、mは1~15の範囲の整数であり、かつnは1~10の範囲の整数であり、親水性モノマーA’は、以下の化合物(1)~(3):
[化合物(1)]
【化3】

(式中、Gは、CH、O、S及びNHから成る群から選択される);
[化合物(2)]
【化4】

[化合物(3)]
【化5】

から選択されるいずれかの化合物であり、かつリンカー(J)はPO 、SO及びCOから選択される)
によって表わされる構造を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
親水性化合物の分子量は200~10,000である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
親水性化合物は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、及びポリオキサゾリンから成る群から選択されたいずれかである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
疎水性化合物の分子量は250~1,000である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
疎水性化合物は、ステロイド誘導体、グリセリド誘導体、グリセロールエーテル、ポリプロピレングリコール、C12‐C50の不飽和又は飽和炭化水素、ジアシルホスファチジルコリン、脂肪酸、リン脂質、リポポリアミン、脂質、トコフェロール、及びトコトリエノールから成る群から選択されたいずれかである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ステロイド誘導体は、コレステロール、コレスタノール、コール酸、ギ酸コレステリル、ギ酸コレスタニル、及びコレスタニルアミンから成る群から選択されたいずれかである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
グリセリド誘導体は、モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドから選択されたいずれかである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
X及びYそれぞれによって表わされる共有結合は、非分解性の結合又は分解可能な結合のいずれかである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項20】
非分解性の結合はアミド結合又はリン酸結合である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
分解可能な結合は、ジスルフィド結合、酸分解性の結合、エステル結合、無水物結合、生物分解性の結合、及び酵素分解性の結合から成る群から選択されたいずれかである、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項22】
呼吸器疾患は、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎、喘息、急性及び慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、気管支炎、細気管支炎、咽頭炎、扁桃腺炎、及び喉頭炎から成る群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項23】
二本鎖オリゴヌクレオチドは、アンフィレグリン、RelA/p65、及びSARS‐CoV‐2から成る群から選択された遺伝子の発現を特異的に阻害する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項24】
二本鎖オリゴヌクレオチド構造物は、投与用の水溶液中において、大きさが10~100nmであり中性の電荷を有する自己組織化ナノ粒子を形成する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項25】
ナノ粒子は、異なる配列を含む二本鎖オリゴヌクレオチドを含む二本鎖オリゴヌクレオチド構造物の混合物から構成される、請求項24に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波ネブライザを使用して二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物、特に、超音波ネブライザを使用して、COVID‐19を含む呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療に使用される二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を投与するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
吸入による薬物送達は、使い勝手が良く、少ない薬物用量でも薬物が所望の効果を示すことを可能とし、薬物が標的器官、特に気管支又は肺に直接到達するようにすることで全身性副作用を回避又は極小化する可能性があり、かつ薬物が迅速な効果を示すことを可能にする、薬物送達方法である。吸入器は、薬物の形態に従って定量噴霧式吸入器(MDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)、及びネブライザに分類される。定量噴霧式吸入器は、薬物容器内に充填されたガスの圧力により使用時にある一定量の薬物を放出するデバイスであり、乾燥粉末吸入器は、いかなるガスも充填されておらず、吸い込む力によって薬物を吸入する形式である。ネブライザは、薬物を霧化して小さな液体粒子とし、次いで霧化した粒子を空気圧によって吸入チューブを通して患者の体内に送達するために、機械的振動を使用するデバイスである。ネブライザは細かく霧化した薬物粒子を送達し、その効果が気管支及び肺胞に十分に届くので、呼吸器系ウイルス感染症、間質性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、喘息、気管支拡張症、気管支炎、肺炎、肺気腫などに使用することができるという長所を有する。ネブライザは、霧化の方法に従ってコンプレッサ式ネブライザ及び超音波ネブライザに分類することができる。コンプレッサ式ネブライザでは、コンプレッサがネブライザの薬物チャンバに空気を通すことにより霧化粒子を作り出し、振動しているメッシュの微小孔を通してエアロゾルが生成される。超音波ネブライザでは、超音波が薬物チャンバを通過する間に薬物を振動させることにより、エアロゾルが生成される。装置に応じて、空気又はマイクロ波がメッシュの微小孔を通過することにより一定の大きさのエアロゾルが生成される。
【0003】
siRNA系の薬物を吸入剤として開発するために、様々な試みが行われてきた。しかしながら、これらの吸入剤は主として乾燥粉末製剤、例えばヒアルロン酸でコーティングされたリポソームスプレー製剤(凍結乾燥製剤)、アルブミン及びPLGA(乳酸グリコール酸共重合体)の混合物を含むナノ粒子製剤、キトサンポリマー製剤、カチオン性の脂質又はリポソームの製剤、並びに細胞透過性タンパク質(MPG、TAT、CADY、LAH4)を含むナノ粒子製剤である。リポソーム系siRNA医薬のための吸入剤開発の最も大きな障害は、リポソームの安定性が噴霧化後に損なわれる現象、例えば噴霧化後のリポソームの断片化である。噴霧化後のリポソームの安定性を改善するために様々な製剤化方法が、例えばリポソームをコレステロール、相転移温度の高いリン脂質などと共に混合すること、又はリポソームのPEG化などが試みられてきたが、今もなお、リポソーム自体の安定性及びリポソーム中の薬物安定性を改善することが必要とされている(Mindaugas Rudokas, Med. Princ. Pract. 2016 March; Vol. 25, p.60)。加えて、カチオン性の脂質又はリポソームの製剤の場合には、粒子それ自体が毒性の恐れを有し、また従来のRNAi系医薬の場合には、炎症誘発性サイトカイン及びインターフェロンの応答を非特異的に活性化する自然免疫応答を誘導することによる毒性を引き起こす恐れがあり、限定的な送達効率及び薬物効果しか示さない(Hasan Uludag, front. Bioeng. Biotechnol. 2020 July; Vol. 8, p.916)。
【0004】
1995年、Guo及びKemphuesが、線虫(C. elegans)における遺伝子発現の阻害にセンスRNAのみならずアンチセンスRNAも有効であることを報告し、それ以来、その理由を特定するための研究が行なわれてきた。1998年、Fireらが、二本鎖RNA(dsRNA)を注入するとこれに対応するmRNAの特異的分解により遺伝子発現が阻害される現象について最初に報じた。この現象はRNA干渉(RNAi)と命名された。遺伝子発現を阻害するために使用されるプロセスであるRNAiは、低コストの単純な方式で遺伝子発現を阻害するという際立った効果を示すことが可能であり、よってこの技術の応用範囲は拡大してきた。
【0005】
遺伝子発現を阻害するこの技術は特定の遺伝子の発現を調節することができるので、がん、遺伝子疾患などに関係する特定の遺伝子をmRNAのレベルで除去することが可能であり、かつ疾患を治療する治療薬の開発及び標的の検証のための重要なツールとして使用することができる。標的遺伝子の発現を阻害するための従来の技法として、標的遺伝子についてトランスジーンを導入する技法が開示されている。この技法には、プロモータに関してアンチセンス方向にトランスジーンを導入する方法、及びプロモータに関してセンス方向にトランスジーンを導入する方法が含まれる。
【0006】
RNAを標的とするそのようなRNA療法は、標的RNAに対抗するオリゴヌクレオチドを使用して対象遺伝子の機能を取り除く方法であり、抗体及び小分子のような治療薬が主にタンパク質を標的とする従来の方法とは異なると考えてよい。RNAを標的とするための手法は大きく2種類、すなわち二本鎖RNAを介するRNAiと、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)とに分類される。現在、様々な疾患でRNAを標的とすることにより臨床試験が企図されている。
【0007】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(以下「ASO」と呼ぶ)は、ワトソン‐クリック型塩基対に従って標的遺伝子に結合するように設計された短い合成DNAであり、遺伝子の特定のヌクレオチド配列の発現を特異的に阻害することができる。よって、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、遺伝子の役割を研究するために、及び分子レベルでがんのような疾患を治療することができる治療薬を開発するために、使用されてきた。これらのASOは、遺伝子発現を阻害するための様々な標的を設定することにより容易に生産可能であるという長所を有しており、がん遺伝子の発現及びがん細胞の増殖を阻害するためのASOの使用について研究が行なわれてきた。ASOにより特定遺伝子の発現を阻害する過程は、ASOを相補的なmRNA配列に結合させてRNAaseHの活性を誘導してmRNAを除去することにより、又はタンパク質翻訳のためのリボソーム複合体の形成及び進行に干渉することにより、遂行される。加えて、ASOがゲノムDNAに結合して三重らせん構造物を形成し、その結果として遺伝子の転写を阻害することも報告されている。ASOは上述のような潜在能力を有するが、臨床現場でASOを使用するためには、ヌクレアーゼに抗するASOの安定性が改善されること、及び標的遺伝子のヌクレオチド配列に特異的に結合するようにASOが標的の組織又は細胞へ効率的に送達されることが必要である。加えて、遺伝子mRNAの二次構造及び三次構造はASOの特異的結合の重要な要素であり、mRNAの二次構造の形成が弱まる領域は、ASOが接近するのに非常に好都合である。よって、ASOを合成する前に、mRNAの二次構造の形成が弱まる領域を体系的に分析することにより、in vitroのみならずin vivoにおいても遺伝子特異的な阻害を効果的に達成する努力がなされてきた。これらのASOはRNAの一種であるsiRNAよりも安定であり、水及び生理食塩水に容易に溶けるという長所を有する。現在までに、3種のASOが米国食品医薬品局(FDA)に承認されている(Jessica, C., J Postdoc Res, 2016, Vol. 4, p.35-50)。
【0008】
RNA干渉(以下「RNAi」と呼ぶ)の役割が見出されて以来、RNAiが様々な種類の哺乳動物細胞において配列特異的mRNAに対して作用することが判明している(Barik, S., J Mol. Med., 2005, Vol. 83, p.764-773)。長鎖の二本鎖RNAが細胞内に送り込まれると、送達された二本鎖RNAはダイサー(Dicer)エンドヌクレアーゼによって21~23塩基対(bp)にプロセシングされた小型干渉RNA(以下「siRNA」と呼ぶ)に変換される。siRNAはRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合し、ガイド(アンチセンス)鎖が標的mRNAを認識及び分解する過程を通じて配列特異的な方式で標的遺伝子の発現を阻害する。siRNAを使用して遺伝子発現を阻害する技術は、標的細胞内の標的遺伝子の発現を阻害して生じた変化を観察するために使用され、標的細胞における標的遺伝子の機能を同定する研究に効果的に使用されている。特に、感染性ウイルス又はがん細胞における標的遺伝子の機能の阻害は、対象とする疾患の治療方法を開発するために効果的に使用される可能性がある。in vitroの研究及び実験動物を使用するin vivoの研究を実施した結果、siRNAによって標的遺伝子の発現を阻害することが可能であることが報告されている。
【0009】
Bertrandらは、siRNAが、同じ標的遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)よりもin vitro及びin vivoでのmRNA発現に対してより優れた阻害効果を有すること、並びにその効果がより長く持続することを報告した。加えて、作用機構に関しては、siRNAは標的mRNAへの相補的結合によって配列特異的な方式で標的遺伝子の発現を調節する。よって、siRNAは、siRNAを適用可能な対象範囲を劇的に拡大することが可能であるという点で、従来の抗体系薬物又は化学薬物(小分子の薬物)よりも優れている(MA Behlke, MOLECULAR THERAPY., 2006, Vol. 13, No. 4, p.664-670)。
【0010】
siRNAは優れた効果を有し幅広い適用範囲に使用可能であるが、siRNAが治療薬として開発されるためには、siRNAのin vivoでの安定性及び細胞への送達効率が、siRNAを標的細胞に効果的に送達できるように改善されるべきである。in vivoでの安定性を改善し、かつsiRNAの非特異的な自然免疫刺激に関連する問題を解決するために、siRNAの研究は、ヌクレアーゼ耐性を得るためにsiRNAのいくつかのヌクレオチド又はその骨格を修飾すること、又はウイルスベクター、リポソーム、若しくはナノ粒子を使用することにより、積極的に試みられてきた。
【0011】
アデノウイルス又はレトロウイルスのようなウイルスベクターを含む送達システムは高いトランスフェクション効率を有するが、免疫原性及び発がん性が高い。他方、ナノ粒子を含有する非ウイルス性の送達システムは、細胞送達効率はウイルス性の送達システムよりも低いが、in vivoにおける高い安全性、標的特異的な送達、細胞内又は組織内へのRNAiオリゴヌクレオチドの効率的な取込み及び内在化、並びに低い細胞毒性及び免疫刺激などの長所を有する。よって、非ウイルス性の送達システムは現在のところウイルス性の送達システムよりも有望な送達方法と考えられている(Akhtar S, J Clin Invest., 2007 December 3, Vol. 117, No. 12, p.3623-3632)。
【0012】
非ウイルス性の送達システムの中でも、ナノキャリアを使用する方法は、リポソーム及びカチオン性ポリマー複合体のような様々なポリマーを使用してナノ粒子が形成され、かつそのようなナノ粒子(すなわちナノキャリア)にsiRNAが装荷されて細胞に送達される方法である。ナノキャリアを使用する方法の中で、高頻度で使用される方法には、ポリマーナノ粒子、ポリマーミセル、リポプレックスなどを使用する方法が挙げられる。その中で、リポプレックスはカチオン性脂質から構成され、細胞のエンドソームのアニオン性脂質と相互作用してエンドソームの不安定化を引き起こすように機能し、これによりエクソソームの細胞内送達を可能にする。
【0013】
加えて、薬物動態学的特性を改善するためにsiRNAのパッセンジャー(センス)鎖の末端領域に化学化合物などをコンジュゲートすることにより、in vivoにおけるsiRNAの効率を高めることが可能であることが知られている(J. Soutschek, Nature 11, 2004, Vol. 432, No. 7014, p.173-8)。この場合、siRNAの安定性は、siRNAのセンス(パッセンジャー)鎖又はアンチセンス(ガイド)鎖の末端にコンジュゲートされた化学化合物の特性に応じて変化する。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)のようなポリマー化合物をコンジュゲートさせたsiRNAは、カチオン性化合物の存在下でsiRNAのアニオン性のリン酸基と相互作用して複合体を形成することにより、siRNAの安定性が改善されたキャリアを提供する(SH Kim, J Control Release, 2008, Vol. 129, No. 2, p.107-16)。特に、ポリマー複合体から構成されるミセルは、ミクロスフェア又はナノ粒子のような他の薬物送達システムと比較して非常に小さくかつ非常に均一なサイズ分布を有し、自然発生的に形成される。よって、これらのミセルは、ミセル製剤の品質の管理が容易であり、かつその再現性が容易に担保されるという点で、有利である。
【0014】
siRNAの細胞内送達効率を改善するために、生体適合性ポリマーである親水性化合物(例えばポリエチレングリコール(PEG))を単純な共有結合又はリンカーを介した共有結合によってsiRNAにコンジュゲートすることにより得られたsiRNAコンジュゲートを使用して、siRNAの安定性を保証し、かつsiRNAの細胞膜透過性を高めるための技術が、開発されてきた(韓国登録特許第883471号公報)。しかしながら、siRNAが化学的に修飾されてポリエチレングリコール(PEG)にコンジュゲート(PEG化)された場合でも、依然としてsiRNAはin vivoにおける安定性が低く、かつ標的器官内へ容易には送達されないという欠点を有する。上記の欠点を克服するために、オリゴヌクレオチド、特にsiRNAのような二本鎖オリゴRNAに親水性化合物及び疎水性化合物が結合している、二本鎖オリゴRNA構造物が開発されている。この構造物は、疎水性化合物の疎水的相互作用によって、SAMiRNA(Self Assembled Micelle Inhibitory RNA)と名付けられた自己組織化ナノ粒子を形成する(韓国登録特許第1224828号公報)。SAMiRNA技術は、大きさが非常に小さい均質なナノ粒子を得ることができるという点で従来の送達技術を上回る利点を有する。
【0015】
具体的には、SAMiRNA技術では、PEG(ポリエチレングリコール)又はHEG(ヘキサエチレングリコール)が親水性化合物として使用される。合成ポリマーであるPEGは、医療用の薬物、特にタンパク質の溶解度を高めるために、及び薬物の薬物動態を調節するために、一般に使用されている。PEGは多分散材料であって、1バッチのポリマーは様々な数のモノマーから成っており、よってガウス曲線を有する分子量分布を示す。加えて、材料の均質性は多分散性指数(Mw/Mn)として表される。換言すれば、PEGが低分子量(3~5kDa)である場合は約1.01の多分散性指数を有し、またPEGが高分子量(20kDa)である場合は約1.2の高い多分散性指数を有して、PEGの均質性はその分子量が大きくなるにつれて低下することが示される。よって、PEGが製薬用の薬物にコンジュゲートされる場合、PEGの多分散性がそのコンジュゲートに反映され、かつその結果として単一の材料であることを実証するのは容易ではない、という欠点がある。この欠点のため、PEGの合成及び精製の工程は、多分散性指数が低い材料を生産するために改善されてきた。しかしながら、PEGが低分子量の化合物にコンジュゲートされる場合、化合物の多分散性に伴う問題、例えばコンジュゲーションが円滑に達成されたかどうかの確認が容易ではないという問題が存在する(Francesco M.V., DRUG DISCOVERY TODAY, 2005, Vol. 10, No. 21, p.1451-1458)。
【0016】
従って、近年、SAMiRNA技術(すなわち自己組織化ナノ粒子)は、二本鎖RNA構造物(SAMiRNAを構成している)の親水性化合物を、各々が均一な分子量を有する1~15個のモノマーと、必要ならばリンカーとを含んでいる基本単位ブロックの形として、適切な数のブロックが必要に応じて使用されるようにすることにより、改善されてきた。その結果として、従来のSAMiRNA(商標)と比較して小型でありかつ多分散性が大幅に改善された新しい種類の送達システム技術が開発された(韓国登録特許第18162349号公報)。既に知られていることであるが、siRNAが注入されると、siRNAは血液中に存在する様々な酵素によって急速に分解され、したがって標的の細胞又は組織へのその送達効率は不十分である。そのため、標的遺伝子の違いによる安定性及び発現阻害率の変動が、改善型SAMiRNAにおいても出現した。従って、改善型の自己組織化ナノ粒子から構成されたSAMiRNAを使用して標的遺伝子の発現をより安定的かつ効果的に阻害するために、本発明者らは、ガイド(センス)鎖としてASOのDNA配列と、パッセンジャー(アンチセンス センス)配列としてRNA配列とを具備する二本鎖オリゴヌクレオチドを利用することにより、標的遺伝子に対するSAMiRNAの発現阻害作用及びSAMiRNAの安定性を増強することを試みた。
【0017】
しかしながら、RNAi薬物の送達において、従来のRNAi薬物送達方法は主として粉末製剤を基本としており、粉末製剤は、上述のように、粒子それ自体による毒性及び非特異的な免疫応答を引き起こす恐れを有し、かつ限定的な薬物送達効率及び薬物効果しか示さない。従って、本発明者らは、SAMiRNAの構造上の特性に基づいて、上記の限界を克服することが可能な、特にSAMiRNAに適した薬物送達方法の開発を企図してきており、様々な薬物送達手段の中でも超音波ネブライザが使用された場合に、SAMiRNAが、ストック材料(噴霧化前のSAMiRNA)と同じ濃度、分子量、純度、ナノ粒子サイズ、及び重量オスモル濃度を示し、かつ標的遺伝子を阻害するその能力を維持しながらも、細胞毒性を伴うことなく特に肺へと効果的に送達可能であることを見出し、その結果として本発明が完成された。
【0018】
[特許文献]
韓国登録特許第1224828号公報
韓国登録特許第1862349号公報
[非特許文献]
Mindaugas Rudokas, Med. Princ. Pract., 2016 March, Vol. 25, p.60
Hasan Uludag, Front. Bioeng. Biotechnol., 2020 July, Vol. 8, p.916
Jessica, C., J Postdoc Res., 2016, Vol. 4, p.35-50
MA Behlke, MOLECULAR THERAPY., 2006, Vol. 13, No. 4, p.664-670
【0019】
Akhtar S, J Clin Invest., 2007 December 3, Vol. 117, No. 12, p.3623-3632
SH Kim, J Control Release, 2008, Vol. 129, No. 2, p.107-16
Francesco M.V., DRUG DISCOVERY TODAY, 2005, Vol. 10, No. 21, p.451-1458
【発明の概要】
【0020】
本発明の目的は、呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス性肺線維症、又は呼吸器疾患の予防又は治療に適した二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を、気管支及び肺へと特異的かつ効果的に送達するための、医薬組成物を提供することである。
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の構造式1:
[構造式1]
A‐X‐R‐Y‐B
【0021】
(式中、Aは親水性化合物を表わし、Bは疎水性化合物を表わし、X及びYは各々独立して単純な共有結合又はリンカーを介した共有結合を表わし、かつRは二本鎖オリゴヌクレオチドを表わす)
【0022】
によって表わされる構造を備えた二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を含む、呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス性肺線維症、又は呼吸器疾患を予防又は治療するための医薬組成物であって、ネブライザを使用して投与される医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】超音波ネブライザ及びコンプレッサ式ネブライザの各々から回収したSAMiRNAナノ粒子の分子量、純度、ナノ粒子サイズ、及び容量オスモル濃度を比較分析した結果を示す図。
図2】超音波ネブライザから回収したSAMiRNAナノ粒子の細胞毒性を評価した結果を示す図。
図3】超音波ネブライザから回収したSAMiRNAナノ粒子の標的遺伝子発現阻害活性を分析した結果を示す図。
図4】超音波ネブライザ及びコンプレッサ式ネブライザの各々から回収したSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子のCy5蛍光、分子量、純度、ナノ粒子サイズ、及び容量オスモル濃度を比較分析した結果を示す図。
図5a】超音波ネブライザを使用してハムスターにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した24時間後に採取した、肺、脾臓、肝臓及び腎臓などの器官の重量を分析した結果を示す図。
図5b】超音波ネブライザを使用してハムスターにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した24時間後に採取した、肺、脾臓、肝臓及び腎臓などの器官についての光学画像(左)、蛍光画像(中央)及び蛍光値分析の結果を示す図。
図6】超音波ネブライザを使用してハムスターにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した24時間後に採取した肺組織に、SAMiRNAナノ粒子が効果的に送達されて分布していることを示す、共焦点画像。
図7a】超音波ネブライザを使用してマウスにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した後の様々な時点(1、24、48、96、及び168時間)における組織の採取について示す実験スキーム。
図7b】超音波ネブライザを使用してマウスにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した後の様々な時点(1、24、48、96、及び168時間)で採取した肺、脾臓、肝臓、腎臓及び心臓の光学画像及び蛍光画像を示す図。
図8a】超音波ネブライザを使用してマウスにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した後の様々な時点(1、24、48、96、及び168時間)で採取した鼻腔及び肺の組織の蛍光を定量的に分析した結果を示す図。
図8b】超音波ネブライザを使用してマウスにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した後の様々な時点(1、24、48、96、及び168時間)で採取した肺組織のPK分析の結果を示す図。
図9a】超音波ネブライザを使用してマウスにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した後の様々な時点(1、24、48、96、及び168時間)で採取した肺組織に、SAMiRNA‐Cy5が送達されて分布していることを示す、共焦点画像。
図9b】超音波ネブライザを使用してマウスにSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を投与した1時間後に採取した肺組織に、SAMiRNA‐Cy5が送達されて分布していることを示す、共焦点画像。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[本発明の詳細な説明及び好ましい実施形態]
別段の定めがないかぎり、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示に関係する当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。一般に、本明細書中で使用される呼称は当分野において周知であり広く使用されている。
【0025】
本発明による二本鎖オリゴヌクレオチドを送達するための様々な手段の中でも、超音波ネブライザは、該構造物の物理的/化学的性質に影響を及ぼすことのない最適な吸入式薬物送達手段であることが見出された。具体的には、超音波式エアロゾル吸入器を通過した本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド構造物の物理的性質を分析した結果、濃度、分子量、純度、ナノ粒子サイズ、及び重量オスモル濃度は、ストック材料(超音波ネブライザを通過する前の構造物)のものと同レベルに維持されることが確認された。しかしながら、コンプレッサ式ネブライザを使用した場合、コンプレッサ式ネブライザを通過した後の構造物のナノ粒子サイズ、分子量、及び純度はストック材料のものと同レベルに維持されるが、構造物の濃度及び重量オスモル濃度はストック材料のものと比較して著しく低下することが確認された。
【0026】
それと同時に、超音波ネブライザによって投与された構造物の細胞毒性についてヒト鼻上皮細胞株RPMI2650及びヒト肺がん細胞株A549を使用して評価した結果、該構造物は50μMの高濃度でも細胞毒性を示さないということを知ることができた。加えて、各々の物質の標的遺伝子阻害活性を評価するために、RPMI2650細胞及びA549細胞を様々な濃度の各物質で処理した後に分析を行い、その結果、超音波ネブライザを通過した後の各々の物質が超音波ネブライザを通過した後の物質と同じ標的阻害活性を示すことを確認することができた。
【0027】
最後に、本発明の構造物が超音波ネブライザによってin vivoで肺まで効果的に送達されるかどうかを調べるために、SAMiRNAをCy5とコンジュゲートして超音波ネブライザによってハムスターに投与し、次いで肺組織を採取及び観察した。その結果、SAMiRNA‐Cy5の蛍光は肺組織を構成しているほとんどの細胞に見出されること、特に、SAMiRNA‐Cy5の強い蛍光が肺胞及び気管支に見出されることが確認され、SAMiRNAという物質が超音波ネブライザによって投与されると効果的に送達されることが示唆された。すなわち、本発明による二本鎖オリゴヌクレオチド構造物及び該構造物から自己組織化したナノ粒子の最適な投与は、超音波ネブライザによって達成可能であることが確認された。
したがって、本発明は、以下の構造式1:
[構造式1]
A‐X‐R‐Y‐B
【0028】
(式中、Aは親水性化合物を表わし、Bは疎水性化合物を表わし、X及びYは各々独立して単純な共有結合又はリンカーを介した共有結合を表わし、かつRは二本鎖オリゴヌクレオチドを表わす)
によって表わされる構造を備えた二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を含む、呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス性肺線維症、又は呼吸器疾患を予防又は治療するための医薬組成物であって、ネブライザを使用して投与される医薬組成物に関する。
本発明において、ネブライザは超音波ネブライザであってよい。
【0029】
本発明において、二本鎖オリゴヌクレオチドは、センス鎖と、該センス鎖に相補的な配列を含むアンチセンス鎖とを含むことができる。
本発明において、センス鎖又はアンチセンス鎖の各々は19~31ヌクレオチドから成っていてよいが、これに限定はされない。
【0030】
本発明において、センス鎖又はアンチセンス鎖は独立してDNA又はRNAであってよく、例えば、RNA/RNA、DNA/DNA、又はDNA/RNAハイブリッドの形態の配列を含むことができる。
本発明において、センス鎖又はアンチセンス鎖は化学修飾を含んでもよく、
該化学修飾は、限定するものではないが、以下の化学修飾すなわち:
1又は複数のヌクレオチドの糖構造の2’位のOH基が、メチル基(‐CH)、メトキシ基(‐OCH)、アミン基(‐NH)、フッ素(‐F)、‐O‐2‐メトキシエチル基、‐O‐プロピル基、‐O‐2‐メチルチオエチル基、‐O‐3‐アミノプロピル基、‐O‐3‐ジメチルアミノプロピル基、‐O‐N‐メチルアセトアミド基、及び‐O‐ジメチルアミドオキシエチル基から成る群から選択されたいずれか1つで置換される修飾;
ヌクレオチドの糖構造の酸素がイオウで置換される修飾;
ヌクレオチド間の結合が、ホスホロチオエート結合、ボラノホスフェート結合及びメチルホスホネート結合から成る群から選択されたいずれか1つの結合となされる修飾;並びに
PNA(ペプチド核酸)、LNA(ロック核酸)又はUNA(非固定核酸)となされる修飾;
から成る群から選択された1又は複数の化学修飾であってよい。
【0031】
本発明において、化学修飾は、in vivoにおける安定性の強化すなわちヌクレアーゼ耐性の付与、及び非特異的免疫応答の低減に寄与することができる。
本発明において、1以上のリン酸基、好ましくは1~3個のリン酸基が、限定するものではないがアンチセンス鎖の5’末端に、結合していてもよい。
【0032】
本発明による二本鎖オリゴヌクレオチドは、一般的なRNAi活性を有する全ての物質を含むように意図されており、当業者には明白であるように、標的遺伝子特異的な二本鎖オリゴヌクレオチドの例には標的遺伝子特異的なshRNAも含まれる。すなわち、該オリゴヌクレオチドは、siRNA、shRNA又はmiRNAであってよい。
本発明による二本鎖オリゴヌクレオチドは、一方又は両方の鎖の3’末端に、1又は複数の非対合ヌクレオチドを含むオーバーハングを具備してもよい。
【0033】
本発明による二本鎖オリゴヌクレオチドは、好ましくはDNA‐RNAハイブリッド、siRNA(短鎖干渉RNA)、shRNA(短鎖ヘアピンRNA)又はmiRNA(マイクロRNA)の形態であるが、これらに限定されるものではなく、miRNAに対するアンタゴニストとして作用する一本鎖miRNA阻害剤も含みうる。
より好ましくは、本発明による医薬組成物は、以下の構造式2:
[構造式2]
【化1】
【0034】
(式中、S及びASはそれぞれ二本鎖オリゴヌクレオチドのセンス鎖及びアンチセンス鎖を表わし、A、B、X及びYは構造式1において規定されたとおりである)
によって表わされる構造物を含むことができる。
より好ましくは、本発明による医薬組成物は、以下の構造式3:
[構造式3]
【化2】
によって表わされる構造物を含む。
【0035】
別例として、本発明による医薬組成物は、以下の構造式3’:
[構造式3’]
【化3】
によって表わされる構造物を含む。
【0036】
上記の構造式3及び3’において、A、B、X、Y、S及びASは構造式2において規定されたとおりであり、5’及び3’はそれぞれセンス鎖の5’末端及び3’末端を表わす。
本発明において、親水性化合物の分子量は200~10,000であってよいが、これに限定はされない。
【0037】
親水性化合物は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン及びポリオキサゾリンから成る群から選択されてよいが、これらに限定はされない。
本発明において、親水性化合物は以下の構造式4又は構造式5:
[構造式4]
(A’‐J)
[構造式5]
(J‐A’
【0038】
(式中、A’は親水性モノマーを表わし、Jは、m個の親水性モノマーどうしを接続するか又はm個の親水性モノマーをsiRNAと接続するリンカーを表わし、mは1~15の範囲の整数であり、かつnは1~10の範囲の整数であり、
親水性モノマーA’は、以下の化合物(1)~(3):
[化合物(1)]
【化4】
(式中、Gは、CH、O、S及びNHから成る群から選択される);
[化合物(2)]
【化5】
[化合物(3)]
【化6】
から選択されるいずれかの化合物であり、かつリンカー(J)はPO 、SO及びCOから選択される)
によって表される構造を有することができる。
上記の構造式4又は5によって表される親水性ブロックを有する場合、本発明による二本鎖オリゴヌクレオチド構造物は、以下の構造式6又は7:
[構造式6]
(A’‐J)‐X‐R‐Y‐B
[構造式7]
(J‐A’‐X‐R‐Y‐B
(式中、X、R、Y及びBは上記の構造式1において規定されたとおりであり、A’、J、m及びnは上記の構造式4及び5において規定されたとおりである)
によって表わされる構造を有することができる。
【0039】
上記の構造式4及び5の親水性モノマー(A’)として、非イオン性の親水性ポリマーの中から選択されたものは、本発明の目的に適合する限りは制約なしで使用可能である。好ましくは、以下の表1に記載された化合物(1)~化合物(3)の中から選択されたモノマーが使用されるとよく、かつより好ましくは、化合物(1)のモノマーが使用されるとよい。化合物(1)において、Gは、O、S及びNHの中から選択されることが好ましい。
【0040】
特に、親水性モノマー中でも、化合物(1)によって表わされるモノマーは本発明による構造物の生産に非常に適しているが、その理由は、該モノマーが、様々な官能基を該モノマーに導入可能であること、並びに該モノマーが良好なin vivo親和性及び優れた生体適合性を有することから免疫応答をほとんど引き起こさず、構造式6又は7によって表わされる構造に含まれる二本鎖オリゴヌクレオチドのin vivoでの安定性を高めることが可能であり、かつ二本鎖オリゴヌクレオチドの送達効率を高めることが可能である、という長所を有することである。
【0041】
[表1]
【表1】
【0042】
構造式4~構造式7の親水性化合物の総分子量は、好ましくは1,000~2,000の範囲内にある。よって、例えば、構造式6及び構造式7の中の化合物(1)がヘキサエチレングリコールすなわちGがOでmが6の化合物である場合、ヘキサエチレングリコールスペーサーの分子量は344なので繰り返し数(n)は3~5であることが好ましい。特に、本発明は、構造式4及び構造式5において(A’‐J)又は(J‐A’で表わされた親水基(親水性ブロック)の繰り返し単位が必要に応じて適切な数(nで表わされる)で使用可能であるという点を特徴とする。各親水性ブロックに含まれる親水性モノマーA及びリンカーJは、親水性ブロック間で同じであっても異なっていてもよい。各親水性ブロックに含まれる親水性モノマーA及びリンカーJは、親水性ブロック間で同じであっても異なっていてもよい。換言すれば、3個の親水性ブロックが使用される場合(n=3)、化合物(1)の親水性モノマー、化合物(2)の親水性モノマー及び化合物(3)の親水性モノマーがそれぞれ第1ブロック、第2ブロック及び第3ブロックに使用されて、全ての親水性ブロックにおいて異なるモノマーが使用されうることが示されてもよい。別例として、化合物(1)~(3)の親水性モノマーの中から選択されたいずれか1つの親水性モノマーが、全ての親水性ブロックに使用されてもよい。同様に、親水性モノマーの結合を仲介するリンカーとして、同一のリンカーが親水性ブロックにおいて使用されてもよいし、様々なリンカーが親水性ブロックにおいて使用されてもよい。加えて、親水性モノマーの数であるmも、親水性ブロックの間で同じであっても異なっていてもよい。換言すれば、第1の親水性ブロックでは3個の親水性モノマーが接続され(m=3)、第2の親水性ブロックでは5個の親水性モノマーが接続され(m=5)、かつ第3の親水性ブロックでは4個の親水性モノマーが接続されて(m=4)、様々な数の親水性モノマーが親水性ブロック内で使用されうることが示されてもよい。別例として、同数の親水性モノマーが全ての親水性ブロックにおいて使用されてもよい。
【0043】
加えて、本発明では、リンカー(J)は、‐PO ‐、‐SO‐、及び‐CO‐から成る群から選択されることが好ましいが、これらに限定はされない。使用される親水性モノマーを考慮して選択されたいかなるリンカーも、本発明の目的に適合する限り使用可能であることは、当業者には明白であろう。
【0044】
構造式3’、構造式6及び構造式7の疎水性化合物(B)は、疎水的相互作用により、オリゴヌクレオチド構造物から構成されたナノ粒子を形成する機能を果たす。疎水性化合物は、分子量が250~1,000であることが好ましく、かつステロイド誘導体、グリセリド誘導体、グリセロールエーテル、ポリプロピレングリコール、C12‐C50の不飽和又は飽和炭化水素、ジアシルホスファチジルコリン、脂肪酸、リン脂質、リポポリアミン、脂質、トコフェロール、及びトコトリエノールから成る群から選択された任意の疎水性化合物であってよいが、これらに限定はされない。いかなる疎水性化合物も本発明の目的に適合する限り使用可能であることは、当業者には明白であろう。
【0045】
ステロイド誘導体は、コレステロール、コレスタノール、コール酸、ギ酸コレステリル、ギ酸コレスタニル、及びコレステリルアミンから成る群から選択可能であり、かつグリセリド誘導体は、モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドなどから選択されてよい。ここでは、グリセリドの脂肪酸はC12‐C50の不飽和又は飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0046】
特に、疎水性化合物の中でも、飽和若しくは不飽和の炭化水素又はコレステロールの使用が好ましいが、その理由は、本発明による二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を合成するステップにおいて容易に結合させることができるからである。最も好ましくは、C24の炭化水素、特にジスルフィド結合を含有する疎水性炭化水素が使用される。
【0047】
疎水性化合物は、親水性化合物から遠位にある端部に結合させることが可能であり、かつ二本鎖オリゴヌクレオチドのセンス鎖上又はアンチセンス鎖上の任意の部位に結合させることが可能である。
【0048】
本発明による構造式1~3’、6及び7における親水性化合物又は疎水性化合物は、単一の共有結合又はリンカーを介した共有結合(X又はY)によって二本鎖オリゴヌクレオチドに結合している。共有結合を仲介するリンカーは、二本鎖オリゴヌクレオチドの末端において親水性化合物又は疎水性化合物に共有結合し、必要に応じて特定の環境で分解可能な結合を提供する限り、特に限定はされない。したがって、本発明で使用されるリンカーは、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を生産する工程において二本鎖オリゴヌクレオチド及び/又は親水性(若しくは疎水性)化合物を活性化するために結合される任意の化合物であってよい。共有結合は、非分解性の結合及び分解可能な結合のうちのいずれかであってよい。ここで、非分解性の結合の例には、限定するものではないがアミド結合及びリン酸結合が含まれ、分解可能な結合の例には、限定するものではないがジスルフィド結合、酸分解性の結合、エステル結合、無水物結合、生物分解性の結合、及び酵素分解性の結合が含まれる。
【0049】
加えて、本発明による二本鎖オリゴヌクレオチドを含む構造物において、アミン基又はポリヒスチジン基が、構造物中のオリゴヌクレオチドに結合した親水性化合物の遠位端部に追加として導入されてもよい。
【0050】
これにより、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドを含む構造物を含んでいる担体の細胞内取込み及びエンドソーム脱出が容易になり、また既に報告されていることであるが、アミン基及びポリヒスチジン基の導入は、量子ドット、デンドリマー又はリポソームのような担体の細胞内取込み及びエンドソーム脱出を容易にするために使用可能である。
【0051】
具体的には、担体の端部すなわち外側に導入された第一級アミン基は生物学的pHでプロトン化されると同時に負に荷電した遺伝子と相互作用してコンジュゲートを形成すること、及びエンドソーム脱出は細胞内取込み後に低pHで緩衝効果を有する内部の第三級アミンにより促進され、これにより担体をリソソームによる分解から保護することができる、ということが知られている(Gene Delivery and Expression Inhibition Using Polymer-Based Hybrid Material, Polymer Sci. Technol., Vol. 23, No. 3, p.254-259)。
【0052】
加えて、非必須アミノ酸であるヒスチジンはその側鎖(‐R)にイミダゾール環(pKa=6.04)を有し、したがってエンドソーム及びリソソームにおいて緩衝能を高める作用を有することが知られており、それゆえにヒスチジン修飾は、エンドソーム脱出効率を高めるためにリポソームなどの非ウイルス系遺伝子担体に使用することができる(Novel histidine-conjugated galactosylated cationic liposomes for efficient hepatocyte selective gene transfer in human hepatoma HepG2 cells. J. Controlled Release Vol. 118, p.262-270)。
アミン基又はポリヒスチジン基は、1又は複数のリンカーによって親水性化合物又は親水性ブロックに接続することができる。
【0053】
アミン基又はポリヒスチジン基が本発明の構造式1で表わされる二本鎖オリゴヌクレオチド構造物の親水性化合物に導入される場合、該構造物は以下の構造式8:
[構造式8]
P‐J‐J‐A‐X‐R‐Y‐B
【0054】
(上記式中、A、B、R、X及びYは上記の構造式1において規定されたとおりであり、Pはアミン基又はポリヒスチジン基であり、かつJ及びJはリンカーであって、各々が単純な共有結合、PO 、SO、CO、C12のアルキル、アルケニル及びアルキニルの中から独立して選択可能であるが、これらに限定はされない)
【0055】
で表わされる構造を有することができる。当業者には明白であろうが、本明細書中で使用される親水性化合物を考慮して選択されたリンカーは全て、該リンカーが本発明の目的に適合する限り、J及びJとして使用することができる。
【0056】
好ましくは、アミン基が導入される場合、Jは単純な共有結合又はPO であることが好ましく、かつJはCアルキルであることが好ましいが、これに限定はされない。
【0057】
加えて、ポリヒスチジン基が導入される場合、構造式8のJは単純な共有結合又はPO であること、及びJは化合物(4)であることが好ましいが、これに限定はされない。
[化合物(4)]
【化7】
【0058】
加えて、構造式8で表わされる二本鎖オリゴヌクレオチド構造物の親水性化合物が構造式5又は6で表わされる親水性ブロックであり、かつそこにアミン基又はポリヒスチジン基が導入される場合、二本鎖オリゴヌクレオチド構造物は以下の構造式9又は10:
[構造式9]
P‐J‐J‐(A’‐J)‐X‐R‐Y‐B
[構造式10]
P‐J‐J‐(J‐A’‐X‐R‐Y‐B
【0059】
(上記式中、X、R、Y、B、A’、J、m及びnは上記の構造式4又は5において規定されたとおりであり、P、J及びJは上記の構造式8において規定されたとおりである)
で表わされる構造を有しうる。
【0060】
特に、構造式9及び構造式10の親水性化合物は、二本鎖オリゴヌクレオチドのセンス鎖の3’末端に結合していることが好ましい。この場合、構造式8~構造式10は、以下の構造式11~構造式13:
[構造式11]
【化8】
[構造式12]
【化9】
[構造式13]
【化10】
(上記式中、X、R、Y、B、A、A’J、m、n、P、J及びJは上記の構造式8~構造式10において規定されたとおりであり、5’及び3’はそれぞれ、標的遺伝子特異的な二本鎖オリゴヌクレオチドのセンス鎖の5’末端及び3’末端を表わす)
に相当しうる。
【0061】
本発明において導入されうるアミン基は、第一級、第二級、又は第三級アミン基であってよい。特に、第一級アミン基が使用されることが好ましい。導入されたアミン基はアミン塩として存在することができる。例えば、第一級アミン基の塩はNH として存在することができる。
【0062】
加えて、本発明において導入可能なポリヒスチジン基は、好ましくは3~10個のヒスチジン、より好ましくは5~8個のヒスチジン、最も好ましくは6個のヒスチジンを含む。ヒスチジンに加えて、1以上のシステインが含まれてもよい。
【0063】
一方、本発明による標的遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドを含む二本鎖オリゴヌクレオチド構造物及び該構造物から形成されるナノ粒子に、標的指向部分が提供される場合、該標的指向部分は標的細胞への構造物又はナノ粒子の効率的送達を促進し、その結果、構造物又はナノ粒子は比較的低い濃度でも標的細胞に送達可能となり、従って強力な標的遺伝子発現調節作用を示すことができる。
【0064】
従って、本発明は、リガンド(L)、特に受容体依存性エンドサイトーシス(RME)によって標的細胞への内在化を高める受容体に特異的に結合する性質を有するリガンドが、構造式1~3’、6及び7のうちいずれかによって表わされる構造物にさらに結合している、二本鎖オリゴRNA構造物を提供する。例えば、リガンドが構造式1で表わされる二本鎖オリゴRNA構造物に結合している構造物は、以下の構造式14:
[構造式14]
(L‐Z)‐A‐X‐R‐Y‐B
【0065】
(上記式中、A、B、X及びYは上記の構造式1において規定されたとおりであり、Lは、受容体依存性エンドサイトーシス(RME)によって標的細胞への内在化を高める受容体に特異的に結合する性質を有するリガンドであり、かつ「i」は、1~5、好ましくは1~3の範囲の整数である)
によって表わされる構造を有する。
【0066】
構造式14の中のリガンドは、好ましくは、標的細胞への内在化を高めるRME特性を有する、標的受容体特異的な抗体、アプタマー及びペプチド;葉酸塩(用語「葉酸塩(folate)」は一般に葉酸(folic acid)と互換的に使用され、かつ本明細書中で使用される用語「葉酸塩」は、天然の形態であるか又はヒト体内で活性化された葉酸塩を意味する);並びに化学化合物、例えばN‐アセチルガラクトサミン(NAG)のようなヘキソサミン、及びグルコースやマンノースのような糖又は炭水化物の中から選択可能であるが、これらに限定はされない。
加えて、上記の構造式14の親水性化合物Aは、構造式4又は5で表わされる親水性ブロックの形で使用されてもよい。
【0067】
本発明において、構造式1~3’、構造式6及び構造式7においてR(又はS及びAS)で表わされる二本鎖オリゴヌクレオチドは、限定するものではないが、アンフィレグリン、RelA/p65、及びSARS‐CoV‐2から成る群から選択された遺伝子の発現を特異的に阻害する任意のオリゴヌクレオチドであってよい。具体的には、R(又はS及びAS)で表わされる二本鎖オリゴヌクレオチドは、アンフィレグリン遺伝子の発現を特異的に阻害することが可能であって、アンフィレグリンを標的とする配列を含んでいてもよい。アンフィレグリンを標的とする配列は、例えば、配列番号(SEQ ID NO)5及び/又は6の配列を含みうる。具体的には、該配列は、配列番号5のセンス配列及び配列番号6のアンチセンス配列を含みうる。
【0068】
R(又はS及びAS)で表わされる二本鎖オリゴヌクレオチドは、SARS‐CoV‐2を標的とする配列を含んでもよい。SARS‐CoV‐2を標的とする配列は、例えば、配列番号11~30から成る群から選択された配列を含みうる。
【0069】
本発明は様々な呼吸器疾患の予防又は治療に適しており、呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染を原因とする肺線維症、又は呼吸器疾患を予防又は治療するための組成物を投与する方法として特に適している。
【0070】
本発明において、呼吸器系ウイルスはCOVID‐19であってもよいが、これに限定はされない。本発明において、ウイルス感染を原因とする肺線維症とはウイルス感染によって引き起こされる続発症の一例であり、かつ本発明は、肺線維症に加えて、ウイルス感染、特に呼吸器系ウイルス感染によって引き起こされる続発症を、予防又は治療するための組成物を投与するために使用可能である。
【0071】
本発明において、呼吸器疾患は、間質性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎、喘息、急性及び慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、気管支炎、細気管支炎、咽頭炎、扁桃腺炎、並びに喉頭炎から成る群から選択されうるが、これらに限定はされない。
【0072】
本発明において、二本鎖オリゴヌクレオチド構造物は、投与用の水溶液中において、大きさが10~100nmであり中性の電荷を有する自己組織化ナノ粒子を形成することができる。
本発明において、該ナノ粒子は、異なる配列を含む二本鎖オリゴヌクレオチドを含む二本鎖オリゴヌクレオチド構造物の混合物から構成されてよい。
【0073】
投与については、本発明の組成物は、上記の活性成分に加えて1以上の薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができる。薬学的に許容可能な担体は活性成分との適合性を有していなければならず、生理食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝生理食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、及びこれらのうち2以上の混合物の中から選択されてよい。必要に応じ、組成物はその他の従来の添加剤、例えば酸化防止剤、緩衝剤又は静菌剤などを含んでもよい。さらに、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤が追加として組成物に添加されて、水溶液、懸濁液、及び乳濁液のような注射用製剤が調製されてもよい。特に、組成物は凍結乾燥製剤として提供されることが好ましい。凍結乾燥製剤の調製については、本発明が関係する分野において既知の従来の方法を使用可能であり、凍結乾燥用の安定化剤も添加されてよい。更に、組成物は、当分野で既知の適切な方法により、又はRemington's Pharmaceutical Science, Mack Publishing Company, Easton PAに開示された方法により、各々の疾患や構成成分に応じて製剤化されることが好ましい。
【0074】
本発明の医薬組成物は、非経口的に投与されることが好ましく、気管支内への吸入によって肺に投与されることが特に好ましい。本発明による組成物の用量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態及び食生活、投与期間、投与様式、排泄率、疾患の重症度などに応じて様々であってよく、当業者が容易に決定することができる。
【0075】
[実施例]
以下、本発明について、実施例を参照しながらより詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明についてより詳細に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないことは当業者には明白であろう。従って、本発明の本質的な範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によって規定されることになる。
<実施例1.二本鎖オリゴヌクレオチド構造物の合成>
本発明において作られる二本鎖オリゴヌクレオチド構造物(SAMiRNA)は、以下の構造式:
【化11】
で表わされる構造を有する。
【0076】
monoSAMiRNA二本鎖オリゴ構造物のセンス鎖を合成するために、3,4,6‐トリアセチル‐1‐ヘキサ(エチレングリコール)‐CPGを支持担体として使用し、親水性モノマーとして3個のデメトキシトリチル(DMT)ヘキサエチレングリコールホスホロアミダートを、反応により支持担体に連続的に結合させた。次にDNAの合成を実施し、次いでジスルフィド結合を含有する疎水性のC24(C18‐S‐S‐C)を5’末端領域に結合させることにより、ヘキサエチレングリコール‐(‐PO ヘキサエチレングリコール)が3’末端に結合し、かつC24(C18‐S‐S‐C)が5’末端に結合しているセンス鎖を合成した。
【0077】
合成が完了した後、合成されたDNA一本鎖及びDNA‐ポリマー構造物を、60℃の水槽にて28%(v/v)アンモニアを用いた処理によりCPGから切り離し、次いで保護基を脱保護反応によって除去した。DNA一本鎖、DNA‐ポリマー構造物及びリガンドが結合したDNA‐ポリマー構造物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって反応生成物群から分離し、これらの分子量を、合成されるべきヌクレオチド配列及びDNA‐ポリマー構造物と一致するかどうか確認するためにMALDI‐TOF質量分析計(MALDI TOF‐MS、島津製作所、日本)を使用して計測した。
【0078】
アンチセンス鎖の合成については、センス鎖に相補的な配列を有するRNAの合成を、リンカー(UnyLinker(商標))が結合した支持担体を使用して実施し、次いで5’末端領域にリン酸基(PO)が結合したアンチセンス鎖を合成した。
【0079】
合成が完了した後、合成されたRNA一本鎖及びRNA‐ポリマー構造物を、60℃の水槽にて28%(v/v)アンモニアを用いた処理によりCPGから切り離し、次いで保護基を脱保護反応によって除去した。保護基を除去した後、RNA一本鎖及びRNA‐ポリマー構造物を、70℃のオーブンにて体積比10:3:4のN‐メチルピロリドン、トリメチルアミン及びトリエチルアミントリヒドロフルオリドで処理して2’‐TBDMS(tert‐ブチルジメチルシリル)を除去した。RNA一本鎖、RNA‐ポリマー構造物及びリガンドが結合したRNA‐ポリマー構造物を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって反応生成物群から分離し、これらの分子量を、合成されるべきヌクレオチド配列及びRNA‐ポリマー構造物と一致するかどうか確認するためにMALDI‐TOF質量分析計(MALDI TOF‐MS、島津製作所)を使用して計測した。その後、個々の二本鎖オリゴ構造物を作り出すために、センス鎖及びアンチセンス鎖を等量で混合し、1×PBS(リン酸緩衝生理食塩水、30mg/1ml(1×)PBS)アニーリングバッファー(30mM HEPES、100mM酢酸カリウム、2mM酢酸マグネシウム、pH7.0~7.5)に添加し、90℃の水槽で5分間反応させ、室温まで徐々に冷却することにより、所望のSAMiRNAを生産した。生産された二本鎖オリゴRNA構造物のアニーリングを高速液体クロマトグラフィー(HPLC、非変性)によって確認した。効能評価のために合成されたSAMiRNA‐AREGの配列についての情報を以下の表2に示す。
【0080】
[表2]
【表2】
【0081】
<実施例2.ネブライザからのSAMiRNAナノ粒子の回収>
本発明では、SAMiRNAを超音波ネブライザ及びコンプレッサ式ネブライザの各々から回収した。
1mlのSAMiRNAを超音波ネブライザ(Meshnet2、中国)の薬物チャンバに入れ、該チャンバにマウスピースを接続した。このエアロゾル吸入器を、マウスピースの先端が回収用試験管の中に入った状態で操作した。噴霧化されたSAMiRNAを回収するために、アイスボックスに入った氷の中に試験管を入れ、ネブライザを10分間操作し、噴霧化されたSAMiRNAの回収を、噴霧化SAMiRNAの液化時間を考慮して合計20分間実行した。
【0082】
1mlのSAMiRNAをコンプレッサ式ネブライザ(フィリップス(Philips)の非加熱式ネブライザ、米国)の薬物チャンバに入れ、該チャンバにゴムホースを接続し、ゴムホースの端に回収用試験管をつないだ。噴霧化されたSAMiRNAを回収するために、アイスボックスに入った氷の中に試験管を入れ、ネブライザを10分間操作し、噴霧化されたSAMiRNAの回収を、噴霧化SAMiRNAの液化時間を考慮して合計20分間実行した。
【0083】
<実施例3.各々のネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子の物理的性質の分析>
各々の回収されたSAMiRNAからRNA一本鎖、RNA‐ポリマー構造物及びリガンドが結合したRNA‐ポリマー構造物を高速液体クロマトグラフィーによって分離し、意図した配列が存在しているかどうかを確認するためにMALDI‐TOF質量分析計を使用して分析した。捕捉されたSAMiRNAの重量オスモル濃度が、血管に直接入っても浸透圧の変化を引き起こさない生理食塩水と同じかどうかを確認するために、回収されたSAMiRNAの容量オスモル濃度をOsmomat(商標)3000(ゴノテック(Gonotec)、ドイツ連邦共和国)で計測した。回収されたSAMiRNAの粒径は、動的光散乱(DLS)デバイスであるZetasizer NANO‐ZS(マルバーン(Malvern)、英国)、及び調整可能抵抗パルスセンシング(TRPS)を用いるqNano Gold(アイゾン(IZON)、ニュージーランド)を使用して、製造業者のプロトコールに従って分析した。
【0084】
その結果、超音波ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子の濃度、分子量、純度、ナノ粒子サイズ、及び重量オスモル濃度は超音波ネブライザを通過する前のSAMiRNAと同じであった一方、コンプレッサ式ネブライザから回収されたSAMiRNAの場合には、SAMiRNAのナノ粒子サイズ、分子量、及び純度はコンプレッサ式ネブライザを通過する前のSAMiRNAと同じであったが、濃度は3.6倍低下し(8.3mg/ml)、重量オスモル濃度も生理的食塩水より著しく低い、ということを確認することができた(図1)。
【0085】
<実施例4.各ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子の細胞毒性の評価>
ヒト肺がん細胞株A549(CCL‐185、ATCC、米国)及びヒト鼻上皮細胞株RPMI2650(韓国細胞株バンク(Korea Cell Line Bank)、韓国)を、各ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子の細胞毒性を評価するために使用した。A549細胞は、10%ウシ胎児血清(ハイクローン(Hyclone)、米国)及び1%ペニシリン‐ストレプトマイシン(ハイクローン、米国)を含有するF12K培地(ギブコ(Gibco)、米国)を使用して、5%CO下にて37℃で培養した。RPMI2650細胞は、10%ウシ胎児血清(ハイクローン、米国)及び1%ペニシリン‐ストレプトマイシン(ハイクローン、米国)を含有するRPMI1640培地(ハイクローン、米国)で、5%CO下にて37℃で培養した。A549細胞は96ウェルプレート(ファルコン(Falcon)、米国)に細胞3×10個/ウェルの密度で播種し、RPMI2650細胞は96ウェルプレート(ファルコン、米国)に細胞1×10個/ウェルの密度で播種した。翌日、各ネブライザから回収されたSAMiRNAを様々な濃度(0、1、5、10、20、及び50μM)で用いて細胞を処理した。96時間のインキュベーションの後、SAMiRNAの細胞毒性を計測するために、WSTアッセイキット(ドーゲン(DOGEN)、韓国)を使用して製造業者のプロトコールに従って実験分析を実施した。
【0086】
その結果、濃度20μMまでは超音波ネブライザを通過する前後で2種類の細胞株において細胞毒性は見出されず、RPMI2650細胞の場合には、濃度50μMでのみ若干の細胞毒性が見出されることが確認された(図2)。
【0087】
<実施例5.各超音波ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子の標的遺伝子発現阻害活性の評価>
≪5‐1.超音波ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子を用いた細胞の処理≫
A549細胞(CCL‐185、ATCC、米国)及びRPMI2650細胞(韓国細胞株バンク、韓国)を使用して、超音波ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子が標的遺伝子の発現を効果的に阻害するかどうかを分析した。A549細胞は、10%ウシ胎児血清(ハイクローン、米国)及び1%のペニシリン‐ストレプトマイシン(ハイクローン、米国)を含有するF12K培地(ギブコ、米国)を使用して5%CO下にて37℃で培養した。RPMI2650細胞は、10%ウシ胎児血清(ハイクローン、米国)及び1%ペニシリン‐ストレプトマイシン(ハイクローン、米国)を含有するRPMI1640培地(ハイクローン、米国)で、5%CO下にて37℃で培養した。A549細胞は12ウェルプレート(ファルコン、米国)に細胞5×10個/ウェルの密度で播種し、RPMI2650細胞は12ウェルプレート(ファルコン、米国)に細胞1.2×10個/ウェルの密度で播種した。翌日、超音波ネブライザから回収されたSAMiRNAを様々な濃度(0、0.1、0.5、1、5、及び10μM)で用いて細胞を処理した。
【0088】
≪5‐2.超音波ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子を用いた標的遺伝子発現処理の分析≫
実施例5‐1に記載された方法に従って、各々の細胞株を超音波ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子で処理した。24時間のインキュベーションの後、汎用性のRNA抽出キット(バイオニア(Bioneer)、韓国)を使用して細胞溶解物から全RNAを抽出した。このRNAを鋳型として用いて、ヒトのAREG及びRPL13A(ヒト参照用qPCRプライマーセット、バイオニア、韓国)のmRNA発現レベルを、AccuPower(登録商標)GreenStar(商標)RT‐qPCRマスターミックス(バイオニア、韓国)を製造業者のプロトコールに従って使用して、qRT‐PCRによって解析した。qPCRアレイの後に得られた2つの遺伝子のCt値に基づき、試験群におけるAREG mRNAを対照群と比較した相対量(変化率)を、2(-デルタデルタC(T))法[Livak KJ, Schmittgen TD., Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2(-Delta Delta C(T)) Method. Methods. 2001.Dec, Vol. 25, No. 4, p.402-8]によって分析した。各遺伝子のためのプライマー配列は以下のとおりである(表3)。
【0089】
[表3]
【表3】
【0090】
その結果、超音波ネブライザを通過する前及び後のいずれのSAMiRNAナノ粒子も、2つの細胞株において濃度依存的にAREG mRNAの阻害効果を示すことが観察された(図3)。簡潔に述べれば、超音波ネブライザから回収されたSAMiRNAナノ粒子は、その物理・化学的性質を維持し、細胞毒性を示さず、かつ超音波ネブライザを通過する前と同じ標的遺伝子阻害活性を維持していることが確認された。
【0091】
<実施例6.動物モデルにおいて超音波ネブライザを使用して投与されたSAMiRNAナノ粒子の送達効率の評価>
≪6‐1.超音波ネブライザを通過した後に回収された蛍光標識SAMiRNA(SAMiRNA‐Cy5)ナノ粒子の特性分析≫
実施例2の方法に従って超音波ネブライザから回収されたSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子を、実施例3の方法に従って分析した。その結果、超音波ネブライザから回収されたSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子は、該エアロゾルネブライザを通過する前の材料と同じ蛍光値、濃度、分子量、純度、ナノ粒子サイズ、及び重量オスモル濃度を有することが確認された(図4)。
【0092】
≪6‐2.ハムスターの動物モデルにおいて超音波ネブライザを使用して投与されたSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子の送達効率の評価≫
ハムスターを実験動物として使用した。ハムスター(5週齢、雄)は、セントラル・ラボラトリー・アニマル・インコーポレイテッド(Central Laboratory Animal Inc.)から購入し、1週間順化を行い、実験に使用した。超音波ネブライザのマウスピースをハムスターの顔面に取り付けた後、SAMiRNA‐Cy5(5mg/ml)又は1mlのPBSを薬物チャンバに入れ、ハムスターがネブライザによる投与を受けるようにさせながら超音波ネブライザを2分30秒間稼働させた。超音波ネブライザ投与の24時間後に、肺、肝臓、脾臓、及び腎臓を採取して計量した。各器官の蛍光画像及び蛍光値の分析を、Davinch‐Invivo(商標)画像システム(ダヴィンチ‐ケイ(Davinch-K)、韓国)を使用して実施した。
【0093】
その結果、超音波ネブライザによってSAMiRNA‐Cy5を投与されたハムスターから採取された肺、脾臓、肝臓、及び腎臓の重量及び対体重比は、超音波ネブライザによってPBSを投与されたハムスターの器官と比較して変化はないことが観察された(図5a)。さらに、超音波ネブライザによってSAMiRNA‐Cy5を投与されたハムスターから採取された肺、脾臓、肝臓、及び腎臓の組織の蛍光画像を、Davinch‐Invivo(商標)システムを使用して分析した結果、肝臓、脾臓及び腎臓には蛍光はほとんど見られないが肺には強い蛍光が見出されることが確認され(図5b)、SAMiRNAナノ粒子が超音波ネブライザによって気道を通して肺へと効率的に送達されることが示された。
【0094】
≪6‐3.ハムスターの動物モデルで超音波ネブライザによって投与されたSAMiRNAナノ粒子の肺組織内分布の分析≫
超音波ネブライザによって実施例6‐2でPBS及びSAMiRNA‐Cy5を各々投与されたハムスターから採取した肺組織について、免疫蛍光染色を実施した。組織を固定用の10%中性緩衝ホルマリン(シグマ(Sigma)、米国)の中に1日入れておき、次いで10%、20%、及び30%のスクロース(シグマ、米国)溶液で順次脱水した。各々の肺組織サンプルを、OCTコンパウンド(サクラファインテック(Sakura Finetek)、米国)が入ったベースモールド(サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)、米国)の中に入れ、ステンレス製プレートを液体窒素が入った容器内に入れてその上にベースモールドを置き、OCTコンパウンドを完全に凍結させた。凍結した組織は-70℃に保管し、組織切片作製を容易にするためにミクロトームによる切片作製の前に-20℃に30分間置いた。厚さ14μmの組織切片をスライド上に置き、1時間乾燥させた。次にこの組織を、細胞透過性上昇のために0.1%Triton‐X100(シグマ、米国)溶液と共に10分間インキュベートし、5%正常ヤギ血清(アブカム(Abcam)、英国)及び1%BSA(シグマ、米国)を含有する溶液で1時間ブロッキング処理し、アルファ・アクチン‐2抗体(シグマ、米国)と共に4℃で1日間インキュベートした。PBSで洗浄した後、組織を二次抗体であるAlexa Fluor(登録商標)488標識抗マウス抗体(インビトロジェン(Invitrogen)、米国)とともに1時間インキュベートし、その後洗浄した。組織を1μMのDAPI(シグマ、米国)溶液と共に10分間インキュベートして洗浄し、その上に封入剤溶液(サーモサイエンティフィック、米国)を滴下してカバーグラス(ブイダブリューアール(VWR)、米国)で覆った。染色された組織の蛍光分析については、スピニングディスク共焦点顕微鏡検査(Dragonfly高速共焦点画像プラットフォーム、アンドール(Andor)、英国)を使用して、染色された組織を分析した。
【0095】
その結果、蛍光(SAMiRNA‐Cy5)は、超音波ネブライザによってSAMiRNA‐Cy5を投与されたハムスターの肺全体にわたって見出された。高倍率で各部を観察した結果、SAMiRNA‐Cy5は肺を構成するほとんどの細胞に十分送達されることが確認され、特に、肺胞及び気管支に強い蛍光が見出されることが確認された(図6)。SAMiRNAナノ粒子が超音波ネブライザを使用して投与されると、該ナノ粒子は肺へと効率的に送達されることが確認され、二本鎖オリゴヌクレオチド構造物及びナノ粒子が超音波ネブライザのための最適化されたsiRNAの基盤となることが示唆された。
【0096】
≪6‐4.マウス動物モデルにおける超音波ネブライザによるSAMiRNA‐Cy5ナノ粒子投与後の組織の時間依存的蛍光画像分析≫
【0097】
C57BL/6マウスを実験動物として使用した。マウス(6週齢、雄)をデハン・バイオリンク(Daehan Biolink)から購入し、実験の前に1週間順化させた。蛍光標識されたSAMiRNA‐Cy5として、実施例6‐1で使用された材料を使用した。超音波ネブライザのマウスピースを各々のマウスの顔面に取り付けた後、SAMiRNA‐Cy5(2mg)又はPBSを薬物チャンバに入れ、超音波ネブライザを30秒間稼働させること(15秒間の吸入‐15秒間の休止‐15秒間の吸入)により投与した(図7a)。投与後、鼻腔、肺、肝臓、脾臓、腎臓及び心臓を様々な時点(0、1、24、48、96、及び168時間)で採取して計量し、次いで蛍光画像分析を、Davinch‐Invivo(商標)画像システム(ダヴィンチ‐ケイ、韓国)を使用して実施した。蛍光画像分析は、全ての組織(様々な時点で採取)について同じ条件(蛍光強度、露光時間など)で実施した。
その結果、超音波ネブライザによる投与の1時間後に採取されたマウスの鼻腔及び肺の組織において最も強い蛍光が見出されることが確認され、SAMiRNAが鼻腔及び肺の組織に効率的に送達されることが示された。他方、肝臓、腎臓、心臓、脾臓、脳、血液などでは蛍光信号は見出されないことが確認された。24時間後、鼻腔及び肺の組織の蛍光強度は1時間後の蛍光強度よりも著しく低く、48時間後、鼻腔及び肺の組織の蛍光強度は徐々に低下し始め、168時間後には、蛍光は肺組織でもほとんど見られない、ということが観察された(図7b)。
【0098】
≪6‐5.マウス動物モデルの鼻腔及び肺の組織における超音波ネブライザによって投与されたSAMiRNAナノ粒子の定量分析≫
蛍光定量分析及びPK分析は、実施例6‐4で超音波ネブライザによってPBS及びSAMiRNA‐Cy5をそれぞれ投与されたマウスから採取した鼻腔及び肺の組織を使用して実施した。採取した各々の組織を計測し、組織全体を丸底チューブ(エスピーエル(SPL)、韓国)に入れた。1mlの組織溶解バッファー(バイオニア、韓国)を組織に添加し、次いでこれを、ホモジナイザー(イカ(IKA)、ドイツ連邦共和国)を使用して均質化した。氷上で15分間のインキュベーションの後、組織を4℃、14,000rpmで15分間遠心分離処理し、次に上清を1.5mlの琥珀色のマイクロ遠心チューブ(アキシジェン(Axigen)、米国)に移して保管した。蛍光定量分析のための標準サンプルは、PBSで処理された組織の溶解物にSAMiRNA‐Cy5を様々な濃度(0.1、0.5、0.25、及び0.125μg/ml)で添加することにより調製した。標準物及びサンプルをそれぞれ100μl、黒色の96ウェルマイクロプレート(コーニング・コースター(Corning Costar)、米国)に分注し、次いでその蛍光強度(励起波長645nm、放出波長675nm)をマイクロプレートリーダ(テカン(TECAN)、スイス連邦)で計測し、決定された標準曲線に代入することにより、各組織に残存しているSAMiRNA‐Cy5の量を測定した。SAMiRNAのPK分析については、溶解させた組織サンプルを、QIAshredder(キアゲン(QIAGEN))を使用してもう一度均質化した。組織溶解物から、抗マウスAGO2抗体(シグマ、米国)とコンジュゲートしたMagListo(商標)プロテインGキット(バイオニア、韓国)を使用して、Ago2免疫沈降を実施した。得られたRISC装荷siRNAを、ステムループRT‐qPCRによる絶対定量分析に供した。Taqman(商標)マイクロRNA逆転写キット(アプライド・バイオシステム(Applied Biosystem)、米国)、Mygenie(商標)96(バイオニア、韓国)、及びSAMiRNA‐mRelAアンチセンスRTプライマー(バイオニア、韓国)を使用してcDNAへの変換を実施し、次に、AccuPower(登録商標)Plus DualStar(商標)qPCRマスターミックス(バイオニア、韓国)、600nMのqPCRプライマー(バイオニア、韓国)、300nMのプローブ、及びExicycler(商標)96(バイオニア、韓国)を使用してqPCRを実施した。定量用に使用された標準物を未処理のサンプルに添加し、次いで同じ方法の分析に使用した。分析に使用されたRT及びqPCRプライマーの配列は以下のとおりである(表4)。
【0099】
[表4]
【表4】
【0100】
その結果、投与後に採取された肺で検出されたSAMiRNA‐Cy5の量は、投与後1時間で144.18μg/g(1.3%)、24時間で1.27μg/g(0.01%)、及び48時間で0.77μg/g(0.006%)であることが確認された。鼻腔において検出されたSAMiRNA‐Cy5の量は、投与後1時間で661.8μg/g(8.2%)、24時間及び48時間で0.7μg/g(0.01%)であった。超音波ネブライザによって鼻腔及び肺の組織に送達されたSAMiRNAは投与後1時間で最大量が検出されること、並びに検出されるSAMiRNAの量は時間とともに徐々に減少することが確認された(図8a)。肺組織のPK分析の結果では、肺組織の蛍光定量分析の結果と同じように、SAMiRNAのアンチセンス鎖のコピー数は投与後1時間で最も高く(3.E+11)、24時間で2.E+08、及び48時間で6.E+07であることが確認され、SAMiRNAのアンチセンス鎖のコピー数が時間とともに徐々に減少することが示された(図8b)。
【0101】
SARS‐CoV‐2を標的とするSAMiRNAについては、SAMiRNAが鼻腔及び肺の組織に送達されるかどうかを上述と同じ方法で調べることが可能である。SARS‐CoV‐2を標的とする配列を以下の表5に示す。
【0102】
[表5]
【表5】
【0103】
≪6‐6.マウスの動物モデルで超音波ネブライザによって投与されたSAMiRNAナノ粒子の肺組織内分布の分析≫
超音波ネブライザによって実施例6‐4でPBS及びSAMiRNA‐Cy5を各々投与されたマウスから採取した肺組織について、免疫蛍光染色を実施した。肺組織を固定用の10%中性緩衝ホルマリン(シグマ、米国)の中に1日入れておき、次いで10%、20%、及び30%のスクロース(シグマ、米国)溶液で順次脱水した。各々の肺組織サンプルを左葉及び右葉に分け、次いでOCTコンパウンド(サクラファインテック、米国)が入ったベースモールド(サーモサイエンティフィック、米国)の中に入れ、ステンレス製プレートを液体窒素が入った容器内に入れてその上にベースモールドを置き、OCTコンパウンドを完全に凍結させた。凍結した組織は-70℃に保管し、組織切片作製を容易にするためにミクロトームによる切片作製の前に-20℃に30分間置いた。厚さ8μmの組織切片をスライド上に置き、1時間乾燥させた。次に、この組織を細胞透過性上昇のために0.1%Triton‐X100(シグマ、米国)溶液と共に10分間インキュベートし、次いで5%正常ヤギ血清(アブカム、英国)及び1%BSA(シグマ、米国)を含有する溶液で1時間ブロッキング処理した。次に、組織を1μMのDAPI(シグマ、米国)溶液と共に10分間インキュベートして洗浄し、次いでその上に封入剤溶液(サーモサイエンティフィック、米国)を滴下してカバーグラス(ブイダブリューアール、米国)で覆った。染色された組織の蛍光分析については、スピニングディスク共焦点顕微鏡検査(Dragonfly高速共焦点画像プラットフォーム、アンドール、英国)を使用して、染色された組織を分析した。肺組織におけるSAMiRNAの経時的な分布を正確に分析するために、共焦点顕微鏡検査を全ての肺組織サンプルについて同じ条件(蛍光強度、露光時間など)で実施した。
【0104】
その結果、SAMiRNA‐Cy5の蛍光は、肺組織の蛍光定量分析及びPK分析の結果と同じように、投与後1時間で最も高く、時間と共に徐々に減少することが観察された。SAMiRNAは、肺組織において蛍光が観察された1時間、24時間、及び48時間の間は、肺組織全体にわたって均一に分布していることが観察された(図9a)。投与の1時間後に左肺及び右肺の組織を観察した結果、SAMiRNAが左肺及び右肺の全体にわたって均一に分布していることが確認され、効率的に送達されたことが示された(図9b)。加えて、投与後1時間の肺組織を高倍率で観察した結果、SAMiRNA‐Cy5は肺組織を構成するほとんどの細胞に見出され、かつ細気管支、細気管支上皮細胞、肺胞上皮細胞、肺胞嚢などにおいて均一に分布していることが確認され、効率的に送達されたことが示された(図9b)。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明による二本鎖オリゴヌクレオチド構造物は、水溶液中で、大きさが90nmであり中性の電荷を有する自己組織化ナノ粒子を形成し、したがって、該構造物を5μm以下の微粒子の形態で噴霧化するネブライザのための最適化されたsiRNA基盤としての役割を果たすことができる。特に、超音波ネブライザが使用される場合、投与される予定のストック材料と同じ濃度、分子量、純度、ナノ粒子サイズ、及び重量オスモル濃度のみならず標的遺伝子阻害活性も維持することにより、投与の間に変化を生じることなく医薬組成物を鼻腔及び肺(肺胞)に効率的に送達することが可能である。
【0106】
したがって、本発明は、呼吸器系ウイルス感染症、ウイルス感染によって引き起こされた肺線維症若しくは肺炎、又はその他の呼吸器疾患の治療に適しており、かつ特に、本発明が、世界中で爆発的な感染及び死を引き起こしている新型呼吸器系ウイルスSARS‐CoV‐2を原因とするCOVID‐19の治療薬に適用された場合、患者は二本鎖オリゴヌクレオチド構造物を容易かつ便利に自己投与することが可能となり、二本鎖オリゴヌクレオチド構造物の効率的なin vivo送達が可能となる、という点で長所を有する。
【0107】
本発明について、具体的特徴を参照して詳細に説明してきたが、この説明は単に本発明の好ましい実施形態に関する説明であり、本発明の範囲を限定しないことは、当業者には明白であろう。よって、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によって規定されることになる。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
【配列表】
2024509906000001.app
【国際調査報告】