(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】バッテリーの動作を音響的に補助する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240227BHJP
【FI】
H01M10/48 301
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555214
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 PH2022050002
(87)【国際公開番号】W WO2022191721
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523341912
【氏名又は名称】ドランドレブ アール ジュアニコ
【氏名又は名称原語表記】JUANICO, Drandreb Earl
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230514
【氏名又は名称】泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】ドランドレブ アール ジュアニコ
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF31
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
電気以外の補助的な入力エネルギーでバッテリーを動作させることで、バッテリーの使用寿命を効果的に延ばすことが実証された。流体電解質に浸漬された多孔質電極の断面にわたって間隙圧力分布を非破壊的に動作中に再構成することで、バッテリーセルのサイクル寿命が延びる。バッテリーケースに埋め込まれた分散型トランスデューサによる二次的な音エネルギー入力は、電解液を通してバルク縦波を導き、間隙圧力分布の有益な再構成を引き起こす。再構成された間隙圧力分布は、多孔質電極マトリックスへの電気活性イオンの浸透を促進し、その結果、容量低下の原因となる放電副生成物の蓄積を抑制する。最後に、二次的な音エネルギー入力は、各セルの健全度を推定することで、すべてのバッテリーセルの充電バランスを補助する。バランスの取れた充電は、バッテリーの全体的な健全性を維持し、結果的に使用寿命を延ばすことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電中に電極表面上に形成される拡散層を通じた電気活性イオンの伝達を改善することにより動作の開始から硫酸塩堆積物の形成を防止又は遅延させるために、電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの入力を通じて、少なくとも1つのバッテリーセル内の多孔質コンポーネントの間隙圧力分布を非破壊的に再構成することにより、バッテリーの動作を補助する方法。
【請求項2】
電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの入力は、
電極表面の拡散層を越えて電解液から電極のバルク部分への電気活性イオンのより深い浸透を可能にする、多孔質コンポーネントの間隙圧力分布のタイムリーで中断のない再構成を生成するために、電気エネルギーの入力と同時又は時間的に重複して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのバッテリーセル内の多孔質コンポーネントは、少なくとも1つの電極と少なくとも1つのセパレーター材料からな
り、
それらは電解液混合パターンと多孔音響相互作用を起こし、サイクロンセンターのような低圧領域を生成し、その結果、間隙圧力分布が再構成され、電気活性イオンが低圧領域を通ってバルク電極の内部部分へとシャトル移動する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのバッテリーセルは、
電解液からの電気活性イオンが低圧領域を通ってバルク電極の内部へとシャトル移動することを可能にする間隙圧力分布の再構成によって影響を受ける間隙拡散を促進するために、バッテリーセルの多孔質コンポーネントを浸漬する流体電解質からなる独立コンパートメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
間隙圧力分布は、各間隙内の流体電解質の圧力であり、少なくとも1つのバッテリーセルの多孔質コンポーネントのそれぞれの断面全体にわたって変化
し、
電気エネルギーとは異なるエネルギー入力と多孔質材料の多孔音響相互作用によって生成される低圧領域によって特徴付けられ、バルク電極内部を通る電気活性イオンの浸透を促進する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
間隙圧力分布の非破壊的再構成は、
圧力波の振幅が流体電解質材料の霧化閾値以下となるように、電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの入力に由来する、少なくとも1つのバッテリーセルの流体電解質を通って伝播する圧力波によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態は、
90~3600kHzの間の周波数の音エネルギーである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
エネルギーの入力は、少なくとも1つの超音波トランスデューサの動作によって行われ、
振動振幅が流体電解質材料の霧化閾値以下となるような十分に低い電力で駆動される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
放電中に電極表面上に形成される拡散層を通じた電気活性イオンの伝達を改善することにより動作の開始から硫酸塩堆積物の形成を防止又は遅延させるために、電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの入力を通じて、少なくとも1つのバッテリーセル内の多孔質コンポーネントの間隙圧力分布を非破壊的に再構成することにより、バッテリーの動作を補助するシステム。
【請求項10】
電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの入力は、
電極表面の拡散層を越えて電解液から電極のバルク部分への電気活性イオンのより深い浸透を可能にする、多孔質コンポーネントの間隙圧力分布のタイムリーで中断のない再構成を生成するために、電気エネルギーの入力と同時又は時間的に重複して行われる、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態は、
90~3600kHzの間の周波数の音エネルギーである、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
少なくとも1つのバッテリーセルは、
電解液からの電気活性イオンが低圧領域を通ってバルク電極の内部へとシャトル移動することを可能にする間隙圧力分布の再構成によって影響を受ける間隙拡散を促進するために、バッテリーセルの多孔質コンポーネントを浸漬する流体電解質からなる独立コンパートメントである、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
少なくとも1つのバッテリーセルは、密閉されたアタッチメントを有する独立コンパートメント内に収容されて
おり、
当該密閉されたアタッチメントは、流体電解質のコンパートメント外への漏れを密閉するだけでなく、超音波トランスデューサの圧電振動の機械的効率も確保する、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの入力は、少なくとも1つの超音波トランスデューサの動作によって行われ、
振動振幅が流体電解質材料の霧化閾値以下となるような十分に低い電力で駆動される、請求項9に記載のシステム。
【請求項15】
密閉されたアタッチメントは、
トランスデューサ振動のエネルギー損失による発熱を抑えるために、ねじ構造と、少なくとも1つのバッテリーセルの流体電解質の漏れを防止する要素に隣接する密閉剤と、電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの入力の効率を高める機械的コンポーネントとを含んでもよい、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
少なくとも1つの超音波トランスデューサは、鉛、ジルコニウム、チタン、カリウム、ナトリウム、及び/又はニオブを含む複合材料からなり、電気エネルギーの入力により特定の基本周波数で特定の軸に沿って振動することを可能にする圧電特性を有するディスク形状に成形されて
おり、
当該複合材料は、トランスデューサの少なくとも1つの部品が電解液にさらされるため、バッテリーの化学的性質との適切なマッチングとなるように選定され、特に製造コストも考慮される、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
少なくとも1つの超音波トランスデューサの動作とは、全てのトランスデューサの振動部分がバッテリーセルの流体電解質に対して露出している状態で、複数のトランスデューサのそれぞれが、
90kHzから3600kHzの範囲内の単一又は種々の周波数で、各トランスデューサの間で0度から180度の範囲内の位相差を有する正弦波として振動する態様を指す、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
並列充電により適切なレベルの電流を供給するために、電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーを非破壊的に入力し、入力源に関して様々な位置で受信した伝播信号を解釈することで得られたセルの健全度の推定によって制御されるバッテリーセルへの電気エネルギーの入力の方法。
【請求項19】
電気エネルギーの入力は、バッテリーセルの端子に電流を供給することによって行われ、
電気エネルギーとは異なる他の1つの形態のエネルギー源への入力電力は10mW/cm
2
又は0.01ワット/cm
2
未満でなければならない、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの非破壊的な入力は、
90~3600kHzの間の周波数の音エネルギーである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
電気エネルギーとは異なる少なくとも1つの他の形態のエネルギーの非破壊的な入力は、バッテリーセルの外部筐体に設けられた少なくとも1つの超音波トランスデューサによって生成され、
振動軸に沿ったトランスデューサの片側だけが流体電解液にさらされる場合がある、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
伝播信号は、少なくとも1つの超音波トランスデューサによって生成され、バッテリーセルの流体電解質を通して圧力波として伝達され、バッテリーセルの多孔質コンポーネントによって散乱、反射、又は屈折されるエネルギーの入力であ
り、
圧力波の振幅が流体電解質材料の霧化閾値以下となるように構成されている、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
入力源としてのトランスデューサに関して様々な位置で受信された伝播信号は、バッテリーセルの外部筐体に設けられた少なくとも1つの超音波レシーバーによって受信される、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
受信した伝播信号の解釈は、健全度が80%を上回る又は下回るバッテリーセルの特徴を有するものとして受信信号セットを分類し、当該分類の結果を用いて
、セルレベルの充電を直列ではなく並列で行う再充電時のバッテリーセルに供給される電流の大きさを制御するための一連の計算を実行するためのコンピュータ命令セットによって行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
受信信号セットの分類のための一連の計算が、バッテリーセル
ユニットの健全度及び伝播信号に関連する既知の情報セットからパターンを機械学習することで得られるアルゴリズムである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
一連のコンピュータ命令は、非一時的なコンピュータ可読媒体に格納されており、少なくとも1つの超音波レシーバーからの受信信号を入力とし、バッテリーセル
ユニットの健全度が80%を上回るか下回るかを示す2進法の数字を出力する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
機械学習は、人工ニューラルネットワーク、決定木、ベイジアンネットワーク、サポートベクターマシンなど、あるいはこれらの少なくとも2つの組み合わせを用いて行われ、利用可能なデータセットを用いて、音響変数とバッテリーセル
ユニットの健全度との間の(データセット内の隠れた)関係を反復的に符号化し、少なくとも1つの超音波レシーバーからの受信信号として扱われる将来の入力データから出力用の2進数の数字を予測するための自動化されたプロトコルを生成する、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される発明は、二次電池の動作(すなわち、放電、充電、再充電、又はそれらの連続的な組合せ)に関し、具体的には、バッテリーの電荷貯蔵能力の経時的な低下(すなわち、容量フェード)を引き起こす放電副生成物の形成を緩和、最小化、又は防止することにより、バッテリーのサイクル寿命を長くすることに関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリーとは、ある物質間の化学変化プロセスの準可逆的作用による電気化学的貯蔵の一形態であり、ある形態で電荷を保持し、その電荷は電流として動き別の形態に至る。化学的な貯蔵プロセスとは、電子の生成又は電子の要求を生じさせる半電池反応である。このような電気化学プロセスを表す方程式は、反応器がよく混合されていることを暗黙の前提として記述されている。しかし、バッテリーは一般的に、混合性を犠牲にして携帯性と機械的安定性を優先するため、混合性が低く設計されている。設計や動作条件に依存した割合で時間とともに蓄積する放電副生成物の形成を通じ、バッテリーセル内の混合不良はプロセスの準可逆性を大きくする。放電副生成物は最終的に電極を不動態化させ、電荷を十分に保持するバッテリーの能力を低下させ、サイクル寿命が尽きる。
【0003】
長寿命で安全なバッテリーは、エネルギーを貯蔵する用途、特に再生可能エネルギー(RE)ソリューション(オフグリッドRE、マイクログリッド、グリッド統合など)の展開に不可欠であり、コスト効率も高い。世界の国々が地球の気候に悪影響を及ぼす温室効果ガスの排出で知られる化石燃料ベースの発電技術から脱却しつつある中、再生可能エネルギー源はエネルギーミックスの構成要素として増大している。再生可能エネルギーによる発電設備は通常、変動のある配電不能な電気出力を出す。変動する再生可能エネルギーによる発電は、具体的には、雲の動きによる太陽光発電の出力変動や、風速の変動による風力発電の出力変動において見られる。再生可能エネルギーによる過剰な発電の抑制は、再生可能エネルギーが多く、需要が少ないときに起こり、クリーンエネルギーをエネルギーミックスに組み入れる機会を逃す結果となる。また、送電網に制約があるため、再生可能エネルギーによる過剰な発電を他のサイトへ輸送することが妨げられ、これが抑制につながる。実用規模のバッテリー蓄電システム(BESS)は、再生可能エネルギーの抑制を削減する最も効果的なソリューションのひとつである。変動する再生可能エネルギーからなる特定の発電源をBESSと組み合わせることで、系統連系地点での断続的な発電出力を平滑化し、そうすることで再生可能エネルギーの統合を促進する。余剰電力は貯蔵され、最も必要とされるピーク需要時に利用される。
【0004】
水素やフライホイールなどの他のエネルギー貯蔵技術とは対照的に、バッテリーは電気を素早く吸収し、保持し、放出ことができる。しかし、電気化学的劣化は、バッテリーの化学的性質に関係なく、バッテリーのサイクル寿命を短くする。劣化のひとつに、鉛蓄電池のサルフェーションがある。サルフェーションは、エネルギー供給が断続的となる太陽光や風力などの再生可能エネルギーの用途などで、バッテリーの充電が不十分な場合に起こる。また、バッテリーが次の充電まで過度に長い時間放置された場合にも(暑い気候下では24時間という短い時間であっても)、サルフェーションは起こる。硫酸鉛(PbSO4)として知られる放電副生成物は、バッテリーが負荷に電流を供給する際、あるいは自然放電の際に形成される。この物質は、再充電中に部分的に再変換するために蓄積する。この部分的再変換は、電気活性種の混合が不十分で拡散が制限された移動につながるためである。PbSO4が蓄積して電極が実質的に不動態化し、電荷を蓄える能力が低下すると、バッテリーの寿命は短くなる。時間が経つにつれて、この容量は低下し、はエネルギー貯蔵に有用でなくなる。
【0005】
このように、混合は電池化学にとって重要であるが、ほとんどの商業用バッテリーは混合のための構成要素や特徴を備えた設計になっていない。むしろ、バッテリーは携帯可能で耐久性があるように設計されていて、このことは混合機能を組み込む余地が少ないことを意味している。例えば、固体電解質を使用したバッテリーは、拡散層と同じくらい薄くなければならない。液体電解質の場合、過充電によって意図的に電解液を沸騰させることで混合が誘導されるが、これも熱暴走を引き起こし、バッテリーに長期的なダメージを与える。一部のバッテリーでは、液体電解質をゲル状電解質に置き換えている。ゲル状電解質は耐久性に優れるが、熱作用や機械的運動による混合はさらに難しくなる。バッテリー内の混合を誘導する非破壊的な方法として、音波や音響波への曝露がある。音波は、特にバッテリーの多孔質コンポーネントに対して再構成された圧力分布を生成させ、これにより電極を介した物質移動を促進する可能性がある。しかし、音波はまた、霧化やネブライゼーションとして知られるメカニズムによって、特に液体電解質に気泡を発生させる可能性がある。この効果により、バッテリーの過充電によって発生する気泡に加えて、電解液のミスト化も引き起こしうる。硫酸の具体例では、この酸のミストは肺に有害である可能性があり、吸い込むと発がん性さえもある可能性がある。したがって、音響励振のいかなる手段も、ミスト発生と混合とのトレードオフを考慮しなければならない。
【0006】
いくつかの先行特許では、音響波を応用してバッテリーの性能を何らかの形で向上させている。特許文献1(米国特許第8487627号明細書)は、反応の副生成物の堆積を防止するのではなく、むしろ促進するに際して、界面プロセスを支援する弾性波を放射する音響トランスデューサを利用する方法を開示している。バッテリーケース又は電解液との接触を伴う既存のバッテリー設備を改造するための実施形態も開示されている。特許文献2(米国特許第5932991号明細書)及び特許文献3(国際公開第1998/034317号)に開示された同様の発明は、バッテリー全体を包囲する別個の流体容器を伴う超音波処理機の形態での音響励振に関するものであり、この発明はバッテリーの充電性能を高めるための手段がかなり嵩張るものとなっている。しかし、いずれの発明も、バッテリー又はバッテリーセル内部の誘導混合には着目していない。
【0007】
これよりも後の特許の中には、放電副生成物の形成を防止したり遅らせたりするために、音響波による振動エネルギーを使用することを開示しているものもある。例えば、特許文献4(米国特許第7592094号明細書(又は、特許文献5(欧州特許第1639672号明細書)))と特許文献6(米国特許出願公開第2020/0020990号明細書)は、圧電トランスデューサを埋め込むか積み重ねるかしてセルエレメントの固体電極を振動させる方法を開示している。このトランスデューサの機械的振動は、結果として周囲の剛性の低い構成要素(例えば、液体又は固体電解質)を揺さぶり、それによって、放電副生成物を電極表面から分離させたり、(一定の励起により)電極表面に全く形成させなかったりし得る。しかしながら、この埋め込まれた圧電材料をコーティングする追加の保護層は、電解液と電極の間のより深い相互作用のためのイオン移動に対する電極の多孔度を減少させる可能性がある。さらに、圧電材料は必然的にもろいので、振動中に硬い材料と衝突することによるひずみが、圧電材料の機械的な破損や熱亀裂を引き起こす可能性がある。また、この層の振動によって引き起こされる高い加速度は、ネブライゼーションを誘発し、運転を続けることで電解液に熱を伝える可能性がある。これらはすべて、放電副生成物の蓄積として長期的なバッテリー容量とサイクル寿命に悪影響を及ぼす可能性があり、どちらの解決策もこの課題に対処しようとしている。
【0008】
カリフォルニア大学サンディエゴ校のグループは、電解液の流動的性質を利用し、音響波を用いて混合を引き起こすという異なるアプローチをとった。このグループによる複数の特許や特許出願(特許文献7(米国特許出願公開第2019/0237818号明細書)、特許文献8(国際公開第2018/049178号)、特許文献9(国際公開第2021/026043号))は、液体電解質の混合を引き起こすための表面弾性波(SAW)デバイスを開示している。この技術は、10-2メートル以下の長さスケールで顕著な音響ストリーミングが発生するため、小型バッテリーセルでは高い持続可能性を有する。しかし、10-2メートルを超えると、SAW周波数が必ず低下してしまうか、波長が必ず長くなってしまう。SAWデバイスはより厚く、波長の1000倍も長くなければならないため、5MHz又は5000kMz以下の周波数は実用的ではない。いくつかの有用なバッテリー用途、特に費用対効果の高い再生可能エネルギー貯蔵(ディープサイクル鉛蓄電池など)はより大きく、SAWデバイスを実用的に活用できない長さスケールである。また、SAWデバイスが生み出す高い周波数では、流体を動かす表面加速度が1010ms-2くらいまで高くなる可能性があり(非特許文献1(Huang et al., 2020))、発表されたいくつかの研究が示すように、音響ストリーミングだけでなく、あらゆる流体液滴のネブライゼーションも促進される。非常に大きい加速度による慣性効果は界面を不安定化させることに寄与し、この不安定化により液滴がより小さな液滴に分解される。SAWデバイスは、低い駆動電力であっても、高い周波数で非常に小さな、さらにはイオン化した液滴を生成する(非特許文献2(Kooij et al.))。公表された研究(非特許文献3(Qi et al.、2008))が示唆するように、小さな霧状の液滴は十分な速度で噴出されるため、バッテリーセルからの漏出や液漏れが起こりうる。この液漏れは、蒸発を促進する熱入力がなくても電解液を枯渇させる可能性がある。噴出された電解液ミストは健康を脅かす可能性がある。例えば、この酸性ミストは発がん性があることが知られており、長期的な呼吸器合併症を引き起こす可能性がある。
【0009】
特許文献10(米国特許第1115889号明細書)に係る特許は、バッテリーの音響操作に関する発明に対して付与された。この発明は、電解液に攪拌効果を効果的に与える電気エネルギーの入力方法に関するものである。本開示によって教示されるところでは、ここで生じる攪拌によって、リチウムアノードバッテリーの固体部品間の界面に形成されるわずかな量の固体堆積物(すなわち、デンドライト)をも溶かし出して溶解すると想定されている。また、本開示によって教示される攪拌効果は、固体電気化学的副産物(例えば、デンドライト)の存在を前提としており、当該介入はこの副産物を狙って分解する。また、音響エネルギーの入力には必ず電気的な入力のための工学的操作が伴い、正確な値からのわずかなずれにも敏感な場合でも対応できるような複雑な制御が必要とされる。このようなバッテリーは、エネルギー密度を高めるために、平面ではなく円筒形の形状に依存していることに注意することが重要である。また、バッテリーセルの内部構造や材料との音響相互作用が概して非線形であることの効果は、形状によって大きく左右されることにも留意すべきである。したがって、円筒形バッテリーに見られる効果を、平板形バッテリーのような他の形状のバッテリーに一般化することはできない。具体的には、カミーユ・アルフォンス・フォールによって最初に紹介された鉛蓄電池セルの設計は、平らな電極板に基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第8487627号明細書
【特許文献2】米国特許第5932991号明細書
【特許文献3】国際公開第1998/034317号
【特許文献4】米国特許第7592094号明細書
【特許文献5】欧州特許第1639672号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2020/0020990号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2019/0237818号明細書
【特許文献8】国際公開第2018/049178号
【特許文献9】国際公開第2021/026043号
【特許文献10】米国特許第1115889号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Huang, A., Liu, H., Manor, O., Liu, P., & Friend, J. (2020). Enabling Rapid Charging Lithium Metal Batteries via Surface Acoustic Wave‐Driven Electrolyte Flow. Advanced Materials, 32(14), 1907516.
【非特許文献2】Kooij, S., Astefanei, A., Corthals, G. L., & Bonn, D. (2019). Size distributions of droplets produced by ultrasonic nebulizers. Scientific reports, 9(1), 1-8.
【非特許文献3】Qi, A., Yeo, L. Y., & Friend, J. R. (2008). Interfacial destabilization and atomization driven by surface acoustic waves. Physics of Fluids, 20(7), 074103.
【非特許文献4】Kawada, S., Kimura, M., Higuchi, Y., & Takagi, H. (2009). (K, Na) NbO3-based multilayer piezoelectric ceramics with nickel inner electrodes. Applied physics express, 2(11), 111401.
【非特許文献5】Wang, K., Li, J. F., & Zhou, J. J. (2011). High normalized strain obtained in Li-modified (K, Na) NbO3 lead-free piezoceramics. Applied physics express, 4(6), 061501.
【非特許文献6】Pohlman, R., Heisler, K., & Cichos, M. (1974). Powdering aluminium and aluminium alloys by ultrasound. Ultrasonics, 12(1), 11-15.
【非特許文献7】Gaete-Garreton, L., Briceno-Gutierrez, D., Vargas-Hernandez, Y., & Zanelli, C. I. (2018). Ultrasonic atomization of distilled water. The Journal of the Acoustical Society of America, 144(1), 222-227.
【非特許文献8】Gandhi, K. S. (2020). Modeling of Sulfation in a Flooded Lead-Acid Battery and Prediction of its Cycle Life. Journal of the Electrochemical Society, 167(1), 013538.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示は、少なくとも2つの形態のエネルギー入力を用いてバッテリーを充電する一般的な形態に注目する。一方で、従来、バッテリーは、充電アルゴリズム又は手順に応じて、電流、電圧の一定供給、又は両方の動的供給のいずれかの電気エネルギーの入力によって再充電される。従来的ではなく、むしろ探索的ともいえる充電戦略では、計画的な複数の形態のエネルギー入力が用いられている。充電の過程で起こる発熱性の電気化学反応によって熱の形態で二次的なエネルギー入力が発生し、気体を含んだ気泡の破裂による機械的な沸騰攪拌を引き起こすが、このようなエネルギー入力の態様は、計画的というよりむしろ意図せざるものである。この熱エネルギーは、むしろ電気エネルギー入力の副産物として論じられることがある。本明細書で開示する方法とその実施態様は、この概念、つまり、バッテリー充電のためのマルチ変形(すなわち「多数形態」)エネルギー入力を規定する。具体的には、本開示では、エネルギー入力の一形態が検討される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書で開示する二次的な形態の計画的なエネルギー入力は、音又は音響エネルギーである。音エネルギーは、36~3600kHzの周波数の圧力波として伝達される。この周波数範囲は超音波領域であり、超音波トランスデューサとして知られる装置によって発生させることができる。このような装置は、多くのバリエーションで、多くの目的のために、産業的に利用可能である。このような装置を利用する一般的な目的には、流体の霧化、ネブライゼーション、洗浄、電気メッキなどがある。これらの目的のいずれにも、バッテリー又はセルとして知られるバッテリーのモジュール部品への(からの)電気エネルギーの貯蔵(抽出)のような、電池の動作を補助するためにこのような超音波発生装置を応用することは含まれていない。
【0014】
また本開示は、充電容量の動的最適化をもたらす活性イオンの物質移動を促進するメカニズムにも注目する。実際、音波とバッテリーセルの構造及び材料との相互作用により、バルク縦波(BLW)が発生する。BLWの効果は、流体部分だけでなく、固体材料内やそれらの間の界面に至るまで、バッテリーセルの内部に浸透する圧力変動として現れる。特に、圧力変動は、バッテリーセル内の多孔質材料の断面にわたって再構成された間隙圧力分布の形態を取りうる。圧力変動は、少なくとも計算マルチフィジックスシミュレーションによって、高圧と低圧の分布パターンとして可視化することができる。このパターンは、典型的には天気予報で示される気圧分布図に似ている。低気圧の領域は相対速度の高い領域に対応する。固体材料(例えば電極とセパレーター)の界面の一部に低圧スポットが発生すると、イオンは高い移動度でそのスポットを横切ることができる。この移動に対する効果は、バッテリー電極とセパレーターを構成する多孔質固体材料間の物質移動の促進として解釈することができ、これは再充電時の活物質の回復に必要な条件である。
【0015】
さらに本開示は、セルエレメントレベルでの音響補助バッテリー動作の実施形態にも注目する。この実施形態では、市販されている最小サイズのバッテリー向けのセルモジュールの筐体に音源を取り付ける方法を説明する。全体的な設計は、より大きなバッテリーサイズにも拡張可能である。音源の取り付けは、原理的には、バルクヘッドフィッティングに似ている。本実施形態の計算シミュレーションと実験室での実験から得られる結果は、それぞれが互いを裏付けるものであり、電気エネルギー入力を補う音エネルギーの入力がバッテリーセルの充電容量を最適化するという研究仮説を裏付けている。前記結果の裏付けは、経験的証拠が、音響エネルギーとバッテリーの内部構造及び材料との間の相互作用について認識された理論と一致していることを暗に意味する。この一致は、開示された実施形態を通じて確認されたが、この裏付けは、他のバッテリーサイズにも同様に適用されることが予想される。
【0016】
最後に、本開示は、同じ形式の二次的なエネルギーの入力、すなわち音を用いてバッテリーの健全度(SoH)を非破壊的に推定する方法に注目する。この方法では、動作中のバッテリーの内部構造を横断する放出信号と受信信号の両方として音を使用する必要がある。放出された音響信号は基準信号として機能し、受信された音響信号は診断として機能する。この診断結果は、自動パターン分類を実行するようにプログラムされた計算ソフトウェアへの入力として供給される。このパターン分類の結果は、診断結果を、閾値SoHを上回るセル状態に対応するものと、前記閾値を下回るセル状態に対応するものとに分類する決定である。この決定は、あらゆるバッテリーセルの充電のための電気入力レベルを切り替えるプログラムされた制御回路への入力として供給される。
【0017】
本発明は、バッテリーのケーシングへの一時的又は恒久的なアドオンアタッチメントとして実施することができる。ピエゾセラミック素子は、バルクヘッドフィッティングのような配管分野の当業者に公知の方法を用いてケースに埋め込むことができる。ピエゾセラミック素子が固体材料を通してではなく、電解液に直接音響波を放射するため、埋め込みにより効率的なエネルギー伝達が確保される。
【0018】
基本的な流体の流れの重ね合わせにより、分散型トランスデューサの構成は、物質移動のバルクカバレッジを最大化する複雑な混合パターンを作り出す。トランスデューサ間の波形、位相差、周波数差、多孔質コンポーネントの微細孔との音響相互作用は、混合流を定常的ではなく動的なものにし、乱流や渦を生じさせると同時に、多孔質コンポーネントの間隙圧力分布を再構成する。
【0019】
音響トランスデューサは、再充電時や、場合によっては充電後のゼロではない期間、例えばアイドリング中や放電中などに起動される。音響的に強制された対流は、電極-セパレーター界面及び電解液-電解液界面で電気活性種を動かすことになる。放電中は、Pb2+イオンは電子移動ステップから生成され、続いて放電副生成物であるPbSO4が析出する。再充電時に、Pb2+イオンは、PbSO4の溶解と、それに続く電子移動ステップによるPbO2又はPbの析出によって生成される。移動は、充電中に生成した溶媒和Pb2+イオンの溶解を助けるかもしれない。また、すでに電極表面に放電副生成物が堆積している場合には、放電副生成物のひび割れ、不安定化、最終的には剥離を引き起こすこともある。トランスデューサの起動は、マイクロコントローラーを使って自動化することができる。底部に設置された場合、トランスデューサは、重力により電解質濃度が底部に向かって増加する電解質成層化傾向の勾配に対抗しうる上向きの流体運動量を発生させる。成層化、すなわち垂直濃度勾配の存在は、放電副生成物の蓄積を促進するということも知られている。これは、電流の垂直分布が不均一であることに起因すると思われる。トランスデューサは、その振動面がセパレーター/電極の面の法線ベクトルとほぼ平行になるように配置することができる。トランスデューサの表面とセルエレメントとの間のギャップを調整することができる。このギャップは、音波とセル内部の設定(すなわち、材料、形
状、界面微細構造など)との間の非線形相互作用から生じる流れのパターンを最適化する。
【0020】
周波数は高いが、10-6メートル又はそれ以下のオーダーに中央値を有する液滴を生成するカットオフ周波数を超えない。このようなサイズの非常に小さな液滴は、バルクに戻って再結合するよりも、開口部から容易に放出され、空気中に放散されるだろう。より大きな液滴は、液滴のバルクとの再結合率が高くなり、再結合する傾向があるだろう。液滴が大きいと、重力によって液滴がバルク電解液に再結合する割合が高くなる傾向があるだろう。約10-6メートルを中心とした狭い液滴サイズ分布は、ピエゾセラミックディスクで実現可能である。他のピエゾセラミック形状では、中心をずらすことができるが、分布の狭い幅は維持できる。
【0021】
混合流は、複数の振動ピエゾセラミック素子から発生するバルク縦波(BLW)によって直接生成される。BLWは、振動する固体によって支持された流体の表面にファラデー波を引き起こす。電極やセパレーターのような多孔質材料は流動抵抗に寄与するが、細孔は流動パターンに乱流を引き起こす可能性があり、これはむしろ有利である。BLWによって駆動される強制対流から生じる複雑な流れパターンは、電解液を混合するだろう。混合流は電気活性種を循環させ、電気化学的相互作用のホットスポットを一掃することができる。バッテリーセルの容量低下への途上には、理想的なハーフセル反応式の成立を妨げるものが含まれる。例えば、バッテリーの再充電時に、溶解-析出プロセスが放電動作中の析出を完全に逆転させなければ、放電副生成物は、電気活性物質の枯渇とともに徐々に蓄積することになる。BLWから生じる混合流は、再充電段階の期間中に、放電副生成物が活物質に容易に変換可能な形態に溶解するのを助ける可能性がある。
【0022】
ピエゾセラミック素子の製造では、バッテリーのコンポーネントに見られるものと同じコア材料、例えばPbを利用してもよい。ピエゾセラミック材料の製造を統合することは、バッテリーメーカーが経済的に実現可能であろう。他の鉛フリーピエゾセラミック材料、例えばニッケル内部電極を持つニオブ酸カリウム-ナトリウム(KNN)(非特許文献4(Kawada et al., 2009))は、ニッケルベースのバッテリーに適している。依然として従来の焼結技術で製造可能であるが(非特許文献5(Wang et al., 2011))、KNNにおける既知のリチウム置換法は、リチウムベースのバッテリーに適している可能性がある。
【0023】
基本的な電気化学セル、すなわちバッテリーの基本単位に対して音響波を注入する効果を、計算でシミュレーションし、実験で確認した。マルチフィジックスシミュレーションは、再充電及び/又は放電中の音とバッテリーセル構造及び材料との相互作用の仮想的メカニズムを最もうまく数学的に表現している。実験室での実験により、計算シミュレーションが示唆する結果が検証される。実験結果とシミュレーション結果の一致は、音波とバッテリーセル内部の構造及び材料との相互作用の基礎となる理論的原理が適切に捉えられていることを示している。
【0024】
シミュレーション結果は、音を入力しない対照条件下にあるセルエレメントユニットの場合と、音を入力した実験条件の場合で示される。対照ケースは、実験例の結果が示す明らかな偏位が統計的に有意であるかどうかを検証するための基準となる。シミュレーションには、実際のポテンショスタットで実行されるのと同じ充放電シーケンスが組み込まれている。関連する物理現象が特定され、バッテリーセル内部で発生する音と物質の相互作用を体系的に表現するものとして互いに結合される。その結果、注入された音波は、特に劣化速度が最も高いと思われるセルエレメントユニットの最内部において、劣化要因の生成を効果的に減速させることが示される。音による劣化要因の抑制は、結果が示唆するように、セルエレメントのサイクル寿命を直接的に延ばす。音の周波数が異なるとこの効果の大きさが異なるところ、このことは、サイクル寿命を最大化しうる他のパラメータの組み合わせ(本開示のベースとなった研究で検討されたもの以外)が存在する可能性を示唆している。圧力と速度のパターンを詳細に可視化することで、音によって活性イオンの物質移動が促進されるという仮説的メカニズムが裏付けられる。この促進された物質移動が活性イオンの分布に影響を与え、セルエレメント内の電極の電荷蓄積能力を効果的に最大化するように見える。音入力によって引き起こされるこの容量の最大化は、音入力のない対照シナリオに比べて明らかに有意である。
【0025】
確認実験の結果も、本開示に示される。実験室での実験は、平均温度25℃、相対湿度50%の制御された環境で行われた。時間的な影響を排除し、結果に影響を与える可能性のある温度や湿度などの環境条件が確実に同じとなるように、すべての試験において、対照ケースと実験ケースを同時に実行した。充放電サイクルは、自動化されたバッテリーポテンショスタット(Biologic VSP-3e システム)により、充電効率決定(CED)試験プロトコルを用いて実施した。この試験プロトコルは、セルを100%の深度まで放電させるもので、加速劣化の耐久試験の実施に相当する。超音波トランスデューサは、バッテリーが充電されているときのみ動作した。実験は、充電容量が70%を超えられなかった2つ目のサイクルで終了した。実験結果は、実際に、シミュレーションで予測されたとおりのものであった。音の入力の補助により、バッテリーセルは平均して200%ほどより長いサイクルを達成することができた。
【0026】
バッテリーのサイクル寿命を向上させるための音の利用は、バッテリー動作の受動的介入だけでなく、能動的介入にも有効である。バッテリー寿命に伴う硫酸塩堆積物の形成など、バッテリーの内部構造のあらゆる変化を検出する信号として音を使用することができる。また、バッテリー全体の充電プロセスに影響を与える能動的介入を実施する方法と装置も開示する。ここでの介入は、従来の方法である直列充電ではなく、並列充電という新規な手順を意味する。並列充電では、バッテリーの各セルエレメントは、同時に充電している他のセルエレメントとは異なる量の電流を受け取ることができる。この使い方は、バッテリーのセルが常に同期して動作するわけではないという観察結果に動機づけられている。あるセルは他のセルより早く放電し、それが最終的にバッテリー全体の充電状態を決定する。充電が直列で行われる場合、最も放電の少なかったセルが再びフル充電になるまで、すべてのセルに同じ電流が流れる。すでにフルになっているセルの過充電は、電解液を沸騰させうる熱の発生から明らかである。しかし、最も放電したセルの存在がまさにバッテリーを再充電する理由であるが、このセルが必ずしも十分に充電されない可能性があった。そのため、再びバッテリーが放電動作に入ると、セルの充電状態のアンバランスはバッテリー全体の状態を悪化させるだけである。セルレベルでのSoHの推定は困難である可能性があり、電極や電解液の状態に影響を与えないよう非破壊的でなければならない。音を用いたこの非破壊的なSoH推定方法は、バッテリーセル内部にわたって透過音、反射音、回折音を検出するサウンドエミッターとレシーバーで構成される超音波トランスデューサアレイを利用することで可能になった。
【0027】
受信音のパターンには、バッテリーセルの内部構造の情報が含まれており、それを使ってSoHを推測することができる。したがって、これらのパターンを「良い」(SoH80%を上回る)セルと「悪い」(SoH80%を下回る)セルのいずれかに属するように分類することで、SoH情報を抽出することができる。パターンがバッテリーSoHに関連する情報を含むという仮定は、硫酸塩が固体であり、一般的に電極とセパレーターの間の界面で発生するという事実に動機づけられている。これらの界面に蓄積した固体硫酸塩は、伝播する音波に遅延を引き起こし、放出音と受信音の相互相関を変化させる。受信音のパターンに埋め込まれた情報を抽出し、バッテリーの充電時にセルエレメントに流す電流量を制御することにこの抽出情報が使われる。この 「カスタマイズ」された電流入力によって、充電後のバッテリーをコンポーネントセル間でバランスが取れた状態にできる。このバランスにより、過充電(発熱や沸騰を引き起こす)や充電不足(サルフェーションを加速させる)を緩和、最小化、又は防止できるため、バッテリーの寿命が延びるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】バッテリーケースに組み込まれた音波源、複数の電極(正極と負極の両方)からなるセルエレメント、セパレーターの有無による電極間の間隔を示す、上蓋を除いた部分に強調したバッテリーセルのマルチビュー(不等角投影図で表示)を示す。
【
図2】各音波源と、電解液に浸漬されたバッテリーエレメントのうち最も近い端部との間のギャップを示すバッテリーセルの側面図を示す。
【
図3】電解液に運動量をもたらす音波源から発生する音波による電解液の混合を示す流れ場の線を強調したバッテリーセルの側面図を示す。
【
図4】バッテリーセルと、バッテリー端子と内蔵音波源に電力を供給する充電システムとの接続を表す概念図を示す。
【
図5】分散型トランスデューサ構成によって発生する音響混合による電気活性種の物質移動を示す。
【
図6】超音波を組み込んだ筐体内のセルエレメントユニットの詳細図を上段に、音を出さない対照実験の場合のセルエレメントの三次元図を下段左に、音を出す実験の場合のセルエレメントの三次元図を下段右に、それぞれ示す。
【
図7】バッテリーのセルエレメントユニットのマルチフィジックスモデルの基本形状であり、実験用のものを上段左に、対照実験用のものを上段右に、それぞれをシースルービューで示す。このセルエレメントユニットは、それぞれの側面において正極と負極が外側の面となるまで、正極、セパレーター、負極を交互に積み重ねたものである。実験の設定には、セル筐体の側面と底面に取り付けられた埋め込み型トランスデューサ(円盤状の物体)が含まれる。
【
図8】音とバッテリーセルの内部構造及び材料との相互作用の基礎となるメカニズムを仮想的に表現する様々な種類の物理学を示す、計算マルチフィジックスモデルのブロック図を示す。
【
図9】自動化されたポテンショスタットにより実施された充放電サイクル・プロトコル。(左)と、計算マルチフィジックスソフトウェアを使ってシミュレーションした充放電サイクル・プロトコル(右)を示す。
【
図10】10回の充放電サイクル後のセルエレメント全体における電池活物質の濃度シミュレーションの比較(対照実験の場合(音なし)と同じ駆動電圧(18Vpp)で様々な周波数を用いた場合の比較)を示す。
【
図11】第1サイクルから第4サイクルまでの、積層セルプレートの面に垂直な軸に沿ったバッテリー活物質の濃度推移のシミュレーション(上から下)を示す。
【
図12】第8サイクル(上)及び第10サイクル(下)における、積層セルプレートの面に垂直な軸に沿ったバッテリー活物質の濃度推移のシミュレーションを示す。
【
図13】複数のサイクルを通じた電極の健全度(SoH)の変化のシミュレーションであり、様々な条件(対照実験の場合(音なし)と異なる周波数の音あり)の結果を重ね合わせたものを上図に示す。各条件についてセルエレメントユニットにわたって異なる電極ごとのSoHの変化を下図に示す。
【
図14】18Vのピーク・ツー・ピーク電圧で駆動される110kHzの音響周波数における、セルエレメントユニットの異なる電極プレート上の圧力(上段)と物質移動速度(下段)のスキャンシミュレーションを示す。
【
図15】18Vのピーク・ツー・ピーク電圧で駆動される1700kHzの音響周波数における、セルエレメントユニットの異なる電極プレート上の圧力(上部パネルセット)と物質移動速度(下部パネルセット)のスキャンシミュレーションを示す。
【
図16】18Vのピーク・ツー・ピーク電圧で駆動される2400kHzの音響周波数における、セルエレメントユニットの異なる電極プレート上の圧力(上部パネルセット)と物質移動速度(下部パネルセット)のスキャンシミュレーションを示す。
【
図17】
図17aは、対照実験用の設定の場合(音なし)の実験室での実験の典型的な経過を示す。下段には、対応する充放電サイクル性能が示されており、複数サイクルを通じた電圧曲線と充放電容量の線の変遷がプロットされている。
図17bは、超音波を組み込んだ仮想的な設定の場合の実験室での実験の典型的な経過を示す。下段には、対応する充放電サイクル性能が示されており、複数サイクルを通じた電圧曲線と充放電容量の線の変遷がプロットされている。
【
図18】音なしの対照実験の場合と、異なる周波数と駆動電圧(ピーク・ツー・ピーク)の音を用いた実験の場合を含め、様々な条件で比較した多数の実験結果をサイクル性能としてまとめたものを示す。
【
図19】非破壊的音響診断を用いたSoH推定を伴うセルレベルの並列充電器の一実施形態の三次元図を示す。
【
図20】音響診断からの情報を利用したバッテリーのセルレベルの並列充電の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
バッテリーケース101は、バッテリーの電気化学に積極的に関与しないため、バッテリーの最も革新的でない部分である。本開示は、よく混合されたバッテリーセルという仮定の下で分析される本質的な電気化学反応の収率と速度を最大化することを期待して、非破壊的な方法で、バッテリーセルの電気活性種の混合を引き起こすために音波を用いることを指摘する。間隙圧力分布の再構成による混合問題の解決が、本開示の中核的な主題である。音波源、例えば、ピエゾセラミックトランスデューサの形態の音波源を、バッテリーケース101の底部103、非底部/面102、104に配置することができる。非底部トランスデューサは、バッテリーセルコンパートメントを覆う蓋に障害物(例えば、端子、通気孔)がない限り、セルの上部分を含んでもよい。ケース101の内部に見られるセルエレメント105は、いくつかの変形例では、電極107と電極間間隔106からなる積層構成で配置されてもよく、電気絶縁性であるが多孔性のセパレーター材料を含んでも含まなくてもよい。電極107の積層は、いくつかの変形例では、正電極と負電極の交互配置で構成されることがある。各電極は、非金属活物質コーティングの有無にかかわらず、金属材料からなるプレートであり、多孔質であってもなくてもよい。セルエレメント全体は、バッテリーが取り付けられるプラットフォームの動きを見越して、機械的安定性又は耐久性を達成するために、セルコンパートメント101内の所定の位置に固定される。音波源はピエゾセラミックトランスデューサ102、103、104であってもよく、セルエレメント105に対して戦略的な位置に配置されてもよい。図に描かれたトランスデューサの数は、いかなる意味においても、限定したものと解釈されるものではなく、概念を説明するための手段としてのみ解釈される。
【0030】
バッテリーケースに対するトランスデューサのアタッチメントは、トランスデューサが電解液201のようなバッテリー内部と直接相互作用できるようにしながら、バッテリー内部から電解液201や他の活物質が漏れるのを防ぐために密閉されなければならない。アタッチメントは、バルクフィッティングなどの標準的な接続部材を用いて作製してもよい。接続部材を設計の一部として統合されてもよく、バッテリーケース101の製造において接続部材が供給されるようにしてもよい。いくつかの変形例では、セル内部にトランスデューサを取り付けるためのアクセスポイントのない既存のバッテリーケースにアタッチメントを後付けしてもよい。
【0031】
音波源とセル内部の間の直接的な相互作用が、エネルギーと運動量の伝達の効率を高めることになるので、混合301は、最小限の入力電力、及び/又は、最小限の熱及び/又は粘性加熱による損失で起こることとなる。漏洩防止機能を有する接続部材は外部から内部を隔離することとなる。そして外部には、音響トランスデューサ102、103、104をトランスデューサ動作用の電源に接続するための電気配線405、406、407が存在していてもよい。音響トランスデューサは、バッテリー管理モジュール404によって駆動されてもよく、バッテリー管理モジュール404は、供給ライン408を介して外部エネルギー源409に接続されている。このエネルギー源409は、太陽光発電システム、風力タービンシステム、オルタネータ、又は、その他の電気生成手段であってもよい。マイクロコントローラー404は、バッテリーセルの異なる部分への供給ライン403、405、406、407に分岐する。供給ライン403は、充電/再充電時にバッテリー端子401と402に電荷を導く。充電と音響トランスデューサの起動の動作は、バッテリー管理モジュール404によって管理され、このモジュールには、トランスデューサの駆動とバッテリーへの電荷の供給を行う手順にバリエーションを生み出すオンボードコンピューターが含まれていてもよい。この管理モジュール404は、供給ライン403、405、406、407を通じてフィードバックを受け取り、監視と制御の目的で電池の劣化に関する状態を推定してもよい。この管理モジュール404は、バッテリーの過充電と充電不足、又は音響トランスデューサの過剰駆動と駆動不足の場合を、最小限に抑えるようにする。したがって、音響トランスデューサ102、103、104は、音波を通して電池の劣化に関連する変化を検知する能力を有してもよく、その場合、音波は、バッテリーセル内で起こっている動的変化(例えば、堆積副生成物の形成、温度上昇、又は微細ミストの形成)に対する音の相互作用に関連する情報を伝達することができる。
【0032】
音響相互作用は、電解液へのバルク縦波(BLW)の発生に基づき、バッテリーセル内の多孔質構造を通して行われる。音響変換器は周波数Fで振動し、対流を強制する圧力変動を流体中に発生させる。セルエレメントの多孔性は流れの抵抗となるが、トランスデューサ表面近傍の加速度から生じる運動量を通じて引き起こされる強制対流がこの抵抗に打ち勝つ。この加速は、バルクを通して伝播する密度変化を速いペースで引き起こす。バルク抵抗のため、密度波はバルク流体の粘度、表面張力、密度、及びトランスデューサのFに依存する実効距離まで伝播する。音響波の伝播は、電極間間隔106を通して行われる混合プロセス301を通して、バルク電解質に溶解した溶媒和イオン又は電気活性種の物質移動を促進する可能性がある。ここで生じる物質移動501は、セルエレメント105の孔を通過し、容器全体にイオン種を均等に分布させることができる。実際、BLWは流体電解質に運動量を与え、バッテリーの基礎となる電気化学的メカニズムを表現するために使用されるハーフセル反応式によって暗示されるように、セルの動作をよく混合された反応器のようにする。セル内の多孔音響の影響を受けた音響誘起混合による電気活性種の物質移動501が実際に促進されることは、バッテリーのサイクル寿命を通じてハーフセル反応の収率を最大化できる動的手段といえる。
【0033】
音波源とセル内部、特に流体電解質との間の直接的な相互作用によって引き起こされる大きくなった流れの運動量は、そのような電解液をセルから離れ蒸発させられる性質を備えるエアロゾル液滴に変換させる基本的な根拠でもある。霧化又はネブライゼーションは、周波数Fで振動する固体プラットフォームによって支持された流体表面に形成される毛細管波(又はファラデー波)のために起こる。ファラデー波長は、σが電解液の表面張力、ρがその密度である以下の式から推定することができる。
【0034】
【0035】
Fの値が高いためにかなりの加速度が生じるため、振動の振幅は液滴がバルクから離れるのに十分な長さになる。このような液滴の直径の中央値は、ファラデー波長の因子である。したがって、周波数が高いほど、より小さな液滴が生成されると予想される。実際、ミストとして集合的に現れる微細な液滴は、超音波周波数で形成される。ミスト形成を界面不安定性の結果として扱えば(非特許文献3(Qi et al., 2008))、閾値条件を見つけることで霧化を予測することができる。実際、霧化の閾値は、PohlmanとStammが最初に示した数学的関係である(非特許文献6(Pohlman et al., 1974)で引用されている)。この数学的関係は、トランスデューサの振動の振幅Aと霧化の開始を、電解質流体の粘度η、その表面張力と密度、及び、ファラデー波長λに関係づける。
【0036】
【0037】
トランスデューサの振動の最小振幅は、加振周波数Fが増加するにつれて減少する。その結果、超音波周波数が高くなると、バルク流体からミストを発生させ始めるためには、より小さな振動振幅が必要となる。ミストの発生は医療用ネブライザーにとっては有益であるが(例えば、エアロゾル吸入によって特定の治療薬をより効果的に送達する手段として)、バッテリーにとってはむしろ好ましくない。電解液ミスト、特に酸性のものは発がん性があることが知られている。実際、バッテリー工場では、ミストを吸入すると肺が潰瘍を起こし、最終的には致命的なレベルにまで達する可能性があるため、労働者の健康予防のために酸性のミストを浄化することが義務付けられている。
【0038】
分散型トランスデューサの構成は、ミストの発生と混合の間のトレードオフを最適化する。個々のトランスデューサは、大きな電力入力で駆動する必要はない。例えば、この構成におけるいずれのトランスデューサも、10mW/cm2未満の電力入力で駆動することができる。このような低パワーでは、振動するトランスデューサの加速によって生じる圧力変動の程度が制限される。しかし分散型の構成は、混合効果、すなわち物質移動501の範囲を広く確保することにより、このような制限的となる影響を補う。トランスデューサの戦略的な位置決めは、セルの三次元構造とセルエレメントのスタッキングの全般的な設定に依存している。電極間間隔は、それが十分に狭く、電極間のイオン移動の架け橋として機能するため、(セパレーターの存在下において)混合パターンに乱流を生じさせる多孔音響流路として二重に機能する。その結果、複雑な混合パターンは強制対流に十分な強度のランダム性を効果的に注入することとなり、化学的相互作用が生じ得る部位を電気活性種がいつでも一掃する可能性を高めることとなる。このように化学的相互作用の確率が高まることで、バッテリーの基本的なメカニズムの停滞、すなわち電気化学反応にもはや関与しない放電副生成物の形成が猶予される。音響的に補助された混合がなければバッテリーの容量低下を早めてしまうような条件下に置かれていても(例えば、再生エネルギー貯蔵用途におけるディープサイクル充電など)、音響的に補助された混合があるため、いわゆる溶解と析出のメカニズムは動作を続ける。
【0039】
ピエゾセラミックトランスデューサの製造は、同じ原材料を利用できる可能性があるため、バッテリー工場内に併設することができる。この併設により、音響補助充電機能を備えたバッテリーの総製造コストを削減できる可能性があり、サイクル寿命の延長に係る利益が追加コストを上回ることになる。この利点により、大規模な改造をすることなく、成熟したバッテリー技術で使用されている既存の化学物質ほどは理解されていない新規の化学物質を使用することなく、バッテリーを再生可能エネルギーの貯蔵により適したものにするだろう。サイクル寿命が少なくとも25%延びれば、再生可能エネルギー貯蔵の経済性を高めるのに十分であり、その結果、よりクリーンなエネルギー形態の利用が増え、主要エネルギー源としての化石燃料から社会が切り離されやすくなるだろう。化石燃料からの排出物は、差し迫った地球の気候の激変の原因であると広く信じられており、それは文明に壊滅的な結果をもたらす可能性がある。そのため、音響補助充電機能によりサイクル寿命が長く、費用対効果の高いバッテリー技術を展開することで、再生可能エネルギー電源の採用が世界中で広まるだろう。このような普及により、世界のエネルギーミックスにおける化石燃料の優位性を維持することによる長期的な損害を回避できる日が来るかもしれない。電池の需要増は、既存のバッテリーメーカーに生産規模の拡大を促すだけでなく、既存のバッテリー技術の電気化学に大幅な変更を加えないアドオン技術によって供給者ベースをさらに拡大させる可能性もある。このような動機付けは、本開示が説明するように、バッテリーケースに音響源を備えるという追加コストの抑制の見通しによってさらに強化される。
【0040】
鉛蓄電池のセルエレメントユニットは、ブラケット601によって結合された電極とセパレーターのスタック602で構成されている。典型的なセルエレメント構造では、ブラケット601が全ての負電極を一方の端子ラグに接続し、正電極を他方の端子ラグに接続している。この構造は、サイズに関係なく、すべてのセルエレメントユニットに標準的な構造である。セルエレメントユニット602と筐体との関係を三次元図で示す。コントロールセルは端子ラグ603を示しており、端子ラグ603はセルエレメントを筐体606の蓋に固定するというもう1つの役割を果たしている。ここの実験セルには、セルエレメントエレメントユニット602の電極間の空間に対向する筐体607の面に接続部材605によって取り付けられた少なくとも1つの超音波トランスデューサ604が含まれる。各接続部材605の内部には、トランスデューサの振動の機械的効率を高める機械的要素があり、音を発生させる際の発熱を抑えている。この接続部材には、あらゆる形態のバッテリー液がそこから漏れるのを防ぐための密閉剤も組み込まれている。このように密閉することで、トランスデューサ604の振動側のみがバッテリーセルの内部に露出される。
【0041】
対照設定701と実験設定701のセルエレメントの形状は、後者だけトランスデューサ703が存在することを除けば、類似している。ここでは、トランスデューサ703の位置がセルエレメントユニット702に関連して視覚化されている。このセルエレメントの電極には「SU(n)」のラベルが貼られ、nは、一方での「1」から反対側での「n」へと増える。この構造からなる典型的な実施形態は、図示されているように、n=6の場合である。この設計では、最も内部にある電極はSU3、SU4と表示されている。これらの電極は、セルエレメントユニットのバルクにおいて十分に内側にあるため、電解液への露出が最も少ない。各SUは、実際には、流体電解質に浸漬された正極、セパレーター、負極からなる電気化学セルを表す「サンドイッチ・ユニット」である。n=6の場合、このようなサンドイッチ・ユニットが6つあり、それらが順次積層される(702)。このセルエレメントの形状は、カミーユ・アルフォンス・フォールに由来するもので、彼の平板設計は今日の自動車用バッテリーに採用された成功した標準となった。平板設計は大量生産において最も経済的でもある。
【0042】
セルエレメントユニットの性能は、セルの動作のうちマルチフィジックスに関係する側面を組み込んだ適切な計算シミュレーションから予測することができる。トランスデューサのマルチフィジックス801には、正弦波振動を駆動するための電気回路が組み込まれている。電気から振動への変換は、静電気学・固体力学モジュールで処理され、圧力音響は流体への振動エネルギーの伝達を圧力波として扱う。電解質マルチフィジックス802は、圧力波の影響から生じる流体力学と、電極から電解質への電気化学反応によって生成された熱エネルギーの散逸による熱伝達を扱う。電解質マルチフィジックス802は、電気化学グループ803と連結している。電気化学グループ803は、物質移動によって電解液中を流れる副生成物を生成する電気化学反応を扱う。マルチフィジックス計算シミュレーションは、実際のポテンショスタットのクーロン効率決定(CED)プロトコルによるレート901で駆動される。CEDプロトコルとは、終了条件903(すなわち、充電容量が2サイクル連続で70%を超えられないという条件)が満たされるまで、経時的にセルエレメントユニットを動作させる充電・放電シーケンス902である。
【0043】
活物質の濃度は、充放電の各サイクル後に電極組成に何が起こるかを示す重要な指標である。
図10のカラーバーは、10サイクル経過後の活物質の表面濃度を示している。なお、シミュレーションの開始時点では、活物質の濃度はセルエレメント全体にわたって均一である。対照実験1001の10サイクル後、(SU3とSU4からなる)セルエレメントユニットの内部は、他のSUよりも明るい。この明るさは、SU3とSU4の活物質が対照実験の初期レベルまで回復しなかったことを示している。音の周波数を変更し、18Vppの駆動電圧で行った実験例では、内部の相対濃度は対照実験よりも影響を受けておらず、このような効果には音波が関係していることが示唆される。さらに検討すると、内部の相対濃度は、1700kHz(1003)及び2400kHz(1004)よりも110kHz(1002)で最も影響が少なく、110kHz(1002)がこのセルエレメントの形状に適した音響波パターンを生成している可能性を示唆している。内部における相対性能の急激な偏位は、濃度のプロファイルグラフ1101、1102、1103、1201、1202から最も明らかである。第1サイクル(1101)から第10サイクル(1202)まで、内部、すなわちSU3とSU4の活物質濃度が、対照実験で最も偏位が大きい。周波数、駆動電圧、位相差、超音波トランスデューサの位置をさらに最適化することで、内部の劣化とセルエレメント全体の劣化の偏位を抑制することができる(なお、この加速劣化試験では、第10サイクル(1202)までに24mol/m
3から22mol/m
3に低下している)。
【0044】
健全度(SoH)1301は、一連の充放電サイクルにわたるバッテリー寿命の最も直接的な尺度であり、さらなる比較により、バッテリーセルの内部構造に導入されたBLW のプラスの効果が実証された。音波がない場合、対照実験1302のSU3とSU4は、他のすべてのSUよりも早く、第10サイクルまでに70%の閾値に到達した。このような早い段階での閾値逸脱は、この加速劣化試験の10サイクル後にセルエレメント全体が「死んだ」と判断されることを意味する。一方、音波を用いることで、この閾値70%への下降傾向を先に延ばし、少なくともサイクル数で100%増まで延びるようである。110kHzの周波数(1303)では、サイクル寿命におけるこの増加は、対照実験に比べて200%以上であり、1002と1202の示唆を裏付けている。SoHの軌跡1302、1303、1304、1305は、活物質の消耗変化を裏付けるものである。
【0045】
シミュレーション結果は、実験で測定することが容易でない量を可視化することができ、これらの可視化は、110kHzの音波がもたらす性能向上のさらなるヒントを提供する。セルエレメントの各SUにおける間隙圧力1401と物質移動速度分布1402が示される。間隙圧力1401と速度分布1402は、バッテリーセル内部のBLW伝播が引き起こす圧力変動による活物質の再分布の様子を示すことができる。間隙圧力分布の暗い部分は低圧力スポットを意味し、速度分布の明るい部分は活性イオンの高い運動量を意味する。110kHzが、セルエレメントのSU全体で最も均一な再分布を提供するようである。均一な再分布は、電極の表面積が最大であることを意味し、これは電荷容量の最大化も示している。1700kHzの場合、対応する間隙圧力1501と物質移動速度1502の分布は、高低のコントラストがより大きく、かなり均一である。一方、2400kHzの場合、対応する間隙圧力1601と物質移動速度1602の分布は、多孔質界面の断面にわたって明らかに不均一であり、再充電時の活物質の回復についての長期的な持続性にとって好ましくない可能性がある。
【0046】
この実験手順は、同じポテンショスタットシステムに接続しながら、仮想サンプル1702と対照サンプル1712を同時に実行する。このように対照サンプルと仮想サンプルを同時に実行する目的は、環境や電気的変動の時間的な影響を最小限に抑えるためである。仮想サンプル1701と対照サンプル1711のサイクル性能のグラフは、実験中にライブで記録される。セルエレメントの電圧がモニターされる一方、充電容量が充放電中に追跡される。この容量の追跡は、増加する線として示され、モードが放電から充電に切り替わる時、又はその逆の時に終了する。SoHは、あるサイクルでの容量追跡線が到達した最大レベルを、1サイクル目における最大レベルで割ったパーセンテージである。新品の電極で構成されたセルエレメントは、試験開始時に最大の健全状態にあると仮定される。この方法で測定されたSoHは、電荷を受け入れ蓄えるためのセルの健全状態を最も正確に表している。しかし実際には、ポテンショスタットシステムのような高価な装置を必要とするこの測定方法は、商業的な場、例えば自動車のサービスセンターなどでは一般的に実施されていない。したがって、費用対効果の高い他の手段を用いてSoHを推定する必要がある。仮想サンプル1702のトランスデューサ1703が、サイクル追跡において再充電時に明らかに多値電圧経過1701を引き起こしているように見える。この結果は、対照サンプル1712の再充電時の電圧追跡線1711がかなり滑らかであるのとは異なる。充電時における多値的な電圧追跡線1701は、界面における間隙圧力分布の再構成から生じる物質移動の促進を示す間接的な証拠である。
【0047】
対照実験と様々な実験例のサイクル性能の比較から、予測された補助的な音エネルギーの効果は検証されたとまとめられる。箱ひげ
図1801は、様々な実験例ごとに加速劣化試験が行われたセルエレメントの性能の中央値を示している。対照実験では、サイクル寿命の中央値は4サイクルであるが、6サイクルにも達する可能性もある。このばらつきは、大量生産で予想されるセルコンポーネント間の工場出荷時のばらつきの結果である可能性がある。110kHzでは、サイクル寿命の中央値は対照実験よりも著しく大きく、他の試験周波数に関しても同様である。駆動電圧が高いほど、この周波数でのサイクル寿命が向上するように見えるが、この傾向は他の試験周波数ではあまり決定的ではない。この実験に基づく見解は、特にバッテリー内部構造への音の注入によるサイクル寿命の向上について、計算シミュレーションから得られた結果を裏付けている。18Vの駆動電圧(ピーク・ツー・ピーク)の場合、110kHzでのサイクル寿命の中央値は、対照実験と大きさと比較して100%以上大きい。1700kHzでは、18Vの駆動電圧(ピーク・ツー・ピーク)において、サイクル寿命はより広い範囲にわたっていることがわかった。しかしながら、2400kHzでの性能は、再構成された間隙圧力分布1601の不均一を裏付けるように、対照実験時と大差がない。このような不均一では、回復した活物質を均一に再分配しないため、サイクル寿命の向上はわずかである。
【0048】
音は、充電段階におけるセルの充電状態の能動的なバランシングを実施するために、独立して、あるいは統合した態様の技術で使用することもできる。このような装置の一実施形態は、各セルコンパートメント1906に一つずつ配置された診断サブシステム1904のアレイで構成されている。この図では、6つのサブシステム1904があり、この6セルバッテリーの6つのセルコンパートメント1906のそれぞれに1つずつある。各診断サブシステムは、少なくとも1つの超音波レシーバー1905から構成される。この診断サブシステムは、セルの長期的な容量を損ないうる電気化学的副生成物の形成に関連して、セルコンパートメントの内部で起こっている変化に関連する情報を取り込む。診断サブシステムは、スイッチング電圧レギュレータ1902を介してセルへの電流供給をリレーするレギュレータ1903を介して、電源1901から電力を引き出す中央コントローラーに情報を供給する。セルにリレーされる電流の値は、与えられたセルのSoHと一致する。SoHが低いセルはより高いCレートを必要とし、SoHが高いセルは比較的低いCレートしか必要としない可能性がある。SoHの低いセルに対する高いCレートには、充電容量についてSoHが比較的高い隣接するセルに追いつかせるという意味がある。セル間で供給される電流にこのような違いがあることは、装置2001によって実装されるように、充電が並列に進行しなければならないことを意味する。サブシステム2004の並列接続により、各セルエレメントが以前のSoHに回復するのに必要な量の充電しか受けないことが確保される。装置2001は、バッテリーの異なるサイズやモデルに対応するために、ディスプレイ2002とコントロールノブ2003も備えている。この並列充電戦略は、バッテリー全体で確実にバランスが取れるようにする方法である。バランスの取れたバッテリーは、過充電やサルフェーションによるストレスが最小限に抑えられるため、長持ちする傾向があるだろう。実際、SoHの不均一はバッテリーの寿命を縮める。
【国際調査報告】