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特表2024-509956抗N3pGluアミロイドベータ抗体及びその使用
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  • 特表-抗N3pGluアミロイドベータ抗体及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】抗N3pGluアミロイドベータ抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240227BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240227BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P39/02
A61P25/28
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555533
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 US2022019903
(87)【国際公開番号】W WO2022192639
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/160,490
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/192,288
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】ミンタン,マーク
(72)【発明者】
【氏名】シムズ,ジョン ランドール,ザ セカンド
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC21
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA21
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、抗N3pGlu Aβ抗体を使用して、アルツハイマー病、ダウン症候群、及び脳アミロイドアンギオパチーを含む、脳におけるAβの沈着を特徴とする疾患を有するヒト対象において、認知低下を治療する、予防する、及び/又はその進行を遅延させる方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)高い神経学的タウ負荷、あるいはii)高い神経学的タウ負荷及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のアミロイドベータ(Aβ)沈着物を特徴とする疾患を治療し、又は予防する方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与するよう用いられることを特徴とする、方法。
【請求項2】
i)後外側側頭葉のタウ負荷、あるいはii)後外側側頭葉のタウ負荷及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患を治療し、又は予防する方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与するよう用いられることを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉及び後頭葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉、後頭葉、及び頭頂葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉、及び前頭葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト対象が、神経学的PETイメージングにより、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉、及び/又は前頭葉のタウ負荷のうちの1つ以上を有すると判定されている、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉、及び/又は前頭葉のタウ負荷のうちの1つ以上が、1.46SUVrを超える神経学的タウ負荷に対応する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
i)緩徐進行性アルツハイマー病(AD)認知機能低下、あるいはii)緩徐進行性AD認知機能低下及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象においてADを治療し、予防し、又はその進行を遅延させる方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与するよう用いられることを特徴とする、方法。
【請求項9】
前記ヒト対象が、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉及び後頭葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉、後頭葉、及び頭頂葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉、及び前頭葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒト対象が、ADAS-Cog、iADL、CDR-SB、MMSE、APOE-4ジェノタイピング、タウレベル、P-タウレベル、及び/又はiADRSのうちの1つ以上により、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている、請求項8~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト対象が、iADRSにより、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
iADRSが、20未満まで減少している、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
iADRSが、6ヶ月間にわたって20未満まで減少している、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
iADRSが、12ヶ月間にわたって20未満まで減少している、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
iADRSが、18ヶ月間にわたって20未満まで減少している、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
iADRSが、24ヶ月間にわたって20未満まで減少している、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記ヒト対象が、APOE-4ジェノタイピングにより、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記ヒト対象が、APOE-4ヘテロ接合性であると判定されている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ヒト対象が、APOE-4ホモ接合性陰性であると判定されている、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒト対象が、MMSEにより、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒト対象が、27を上回るMMSEを有すると判定されている、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
MMSEが、3未満まで減少している、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
MMSEが、6ヶ月間にわたって3未満まで減少している、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
MMSEが、12ヶ月間にわたって3未満まで減少している、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
MMSEが、18ヶ月間にわたって3未満まで減少している、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
MMSEが、24ヶ月間にわたって3未満まで減少している、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記ヒト対象が、神経学的PETイメージングにより、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている、請求項1又は9に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒト対象が、神経学的PETイメージングにより、1.46SUVrを上回る高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている、請求項31に記載の方法
【請求項33】
前記ヒト対象が、残基217のスレオニンでリン酸化されたヒトタウ(「hTau-pT217」)の定量化により、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている、請求項1又は9に記載の方法。
【請求項34】
hTau-pT217が、前記ヒト対象の生体試料において定量化される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記生体試料が、脳脊髄液である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記生体試料が、血液、血漿、又は血清のうちの1つである、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記抗Aβ抗体が、抗N3pG Aβ抗体を含む、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記抗N3pG Aβ抗体が、軽鎖可変領域(LCVR)と、重鎖可変領域(HCVR)とを含み、前記LCVR及びHCVRが、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むLCVR及び配列番号2のアミノ酸配列を含むHCVR、又は
(b)配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含むLCVR及び配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含むHCVRから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記投与するステップが、
i)前記ヒト対象に、1回以上の約100mg~約700mgの第1の用量の抗N3pG Aβ抗体を投与することであって、各第1の用量が、約4週間に1回投与されることと、
ii)前記1回以上の第1の用量を投与した約4週間後に、1回以上の700mg~約1400mgの第2の用量の前記抗N3pG Aβ抗体を前記ヒト対象に投与することであって、各第2の用量が、約4週間に1回投与されることを含む、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記ヒト対象が、前記第2の用量を投与する前に前記第1の用量で1回、2回、又は3回投与される、請求項39に記載の方法
【請求項41】
前記ヒト対象が、約700mgの第1の用量で投与される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ヒト対象が、1回以上の約800mg、約900mg、約1000mg、約1100mg、約1200mg、約1300mg、又は約1400mgの第2の用量で投与される、請求項39~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記ヒト対象が、1回以上の約1400mgの第2の用量で投与される、請求項39~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記抗N3pGlu Aβ抗体が、最長72週間の期間、前記ヒト対象に投与される、請求項39~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記ヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする前記疾患が、前臨床アルツハイマー病(AD)、臨床AD、前駆期AD、軽度AD、中等度AD、重度AD、ダウン症候群、臨床的脳アミロイド血管症、又は前臨床的脳アミロイド血管症から選択される、請求項1~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記ヒト対象が、早期症候性AD患者である、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記ヒト対象が、前駆期AD及び/又はADによる軽度の認知症を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
治療有効量の抗Aβ抗体を投与することを含む、i)高い神経学的タウ負荷、あるいはii)高い神経学的タウ負荷及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患の治療又は予防に使用するための、抗Aβ抗体。
【請求項49】
i)後外側側頭葉タウ負荷、あるいはii)後外側側頭葉タウ負荷及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患の治療又は予防に使用するための、抗Aβ抗体。
【請求項50】
i)緩徐進行性アルツハイマー病(AD)認知機能低下、あるいはii)緩徐進行性AD認知機能低下及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象におけるADの治療、予防、又はその進行の遅延に使用するための、抗Aβ抗体。
【請求項51】
i)高い神経学的タウ負荷、又はii)高い神経学的タウ負荷及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患の治療又は予防のための薬剤の製造における、抗Aβ抗体の使用。
【請求項52】
i)後外側側頭葉タウ負荷、あるいはii)後外側側頭葉タウ負荷及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患の治療又は予防のための薬剤の製造における、抗Aβ抗体の使用。
【請求項53】
i)緩徐進行性アルツハイマー病(AD)認知機能低下、あるいはii)緩徐進行性AD認知機能低下及び/又はAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象におけるADの治療、予防、又はその進行の遅延のための薬剤の製造における、抗Aβ抗体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に関する。より詳細には、本発明は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease、AD)、ダウン症候群、及び脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy、CAA)を含む、ヒト対象におけるアミロイドベータ(Amyloid Beta、Aβ)の沈着を特徴とする疾患の予防又は治療に関する。本発明のいくつかの態様は、Aβの沈着を特徴とする疾患の治療又は予防のための、抗N3pGlu Aβ抗体を含む抗Aβ抗体の使用に関する。更なる態様では、本発明は、ヒト対象におけるAβの沈着を特徴とする疾患の治療又は予防に関し、ヒト対象は、その神経学的タウ(tau)レベル/負荷及び/若しくはその認知低下率に基づいて治療又は予防のために選択される。いくつかの態様では、本発明は、ADの疾患進行を遅らせることに関する。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載される抗N3pGlu抗体を使用する、AD神経病理及びADの軽度認知障害(mild cognitive impairment、MCI)又は軽度認知症段階のいずれかの証拠を有する患者における治療/予防/疾患進行の遅延に関する。
【背景技術】
【0002】
脳アミロイド沈着物の形態でのアミロイド-β(Aβ)ペプチドの蓄積は、アルツハイマー病(AD)における初期の必須事象であり、神経変性をもたらし、その結果、臨床症状:認知及び機能障害の発症をもたらす(Selkoe,「The Origins of Alzheimer Disease:A is for Amyloid,」JAMA 283:1615-7(2000);Hardy et al.,「The Amyloid Hypothesis of Alzheimer’s Disease:Progress and Problems on the Road to Therapeutics,」Science 297:353-6(2002);Masters et al.,「Alzheimer’s Disease,」Nat.Rev.Dis.Primers 1:15056(2015);及びSelkoe et al.,「The Amyloid Hypothesis of Alzheimer’s Disease at 25 years,」EMBO Mol.Med.8:595-608(2016))。疾患の進行の誘起におけるアミロイド沈着物の役目は、Aβ沈着を増加又は減少させる珍しい遺伝的変異体の研究によって裏付けられている(Fleisher et al.,「Associations Between Biomarkers and Age in the Presenilin 1 E280A Autosomal Dominant Alzheimer Disease Kindred:A Cross-sectional Study,」JAMA Neurol 72:316-24(2015);Jonsson et al.,「A Mutation in APP Protects Against Alzheimer’s Disease and Age-related Cognitive Decline,」Nature 488:96-9(2012))。更に、疾患の初期におけるアミロイド沈着物の存在は、軽度認知障害(MCI)からAD型認知症への進行の可能性を増加させる(Doraiswamy et al.,「Amyloid-β Assessed by Florbetapir F18 PET and 18-month Cognitive Decline:A Multicenter Study,」Neurology 79:1636-44(2012))。Aβ沈着物(アミロイドプラークを含む)の除去を目的とする介入は、ADの臨床的進行を遅らせると仮定される。
【0003】
いくつかの既知の抗Aβ抗体には、ドナネマブ、バピヌズマブ、ガンテネルマブ、アデュカヌマブ、GSK933776、ソラネズマブ、クレネズマブ、ポネズマブ、及びレカネマブ(BAN2401)が挙げられる。Aβを標的とする抗体は、前臨床試験及び臨床試験の両方においてアルツハイマー病の治療薬として有望であることが示されている。この将来性にもかかわらず、アミロイドを標的とするいくつかの抗体は、複数の臨床試験において治療エンドポイントを満たすことができなかった。抗アミロイド臨床試験の歴史はほぼ20年にわたり、大部分は、ADを効果的に治療するためのそのような療法の可能性に疑問を投げかけている(Aisen et al.,「The Future of Anti-amyloid Trials,」The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease 7:146-151(2020))。今日まで、ほんの一握りのAD治療しか承認されていない。そのような治療の有用性は、それらが部分的な症状軽減を提供するだけであり、AD進行の過程を変えることができないので、限定されている。Budd et al.,「Clinical Development of Aducanumab,an Anti-Aβ Human Monoclonal Antibody Being Investigated for the Treatment of Early Alzheimer’s Disease,」The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease 4(4):255-263(2017)及びKlein et al.,「Gantenerumab Reduces Amyloid-β Plaques in Patients with Prodromal to Moderate Alzheimer’s Disease:A PET Substudy Interim Analysis,」Alzheimer’s Research & Therapy 11.1:1-12(2019)も参照されたい。
【0004】
ヒト患者において見出されるアミロイド沈着物は、Aβペプチドの不均一混合物を含む。N3pGlu Aβ(N3pG Aβ、N3pE Aβ、Aβ pE3-42、又はAβp3-42とも呼ばれる)は、Aβペプチドの短縮型であり、アミロイド沈着物中にのみ認められる。N3pGlu Aβは、ヒトAβのN末端における最初の2つのアミノ酸残基を欠失しており、Aβの第3のアミノ酸位置におけるグルタミン酸に由来したピログルタミン酸塩を有する。N3pGlu Aβペプチドは、脳の中に沈着したAβの微量構成要素であるが、複数の研究は、N3pGlu Aβペプチドが積極的な凝集特性を有し、沈着カスケードにおいて早期に蓄積することを示唆している。
【0005】
Aβペプチドに対する抗体は、米国特許第7,195,761号、同第8,591,894号、及び同第8,066,999号)に関して当該分野において既知である。N3pGlu Aβに対する抗Aβ抗体は、当該技術分野において既知であり、例えば、米国特許第8,679,498号(その中に開示された抗N3pGlu Aβ抗体を含め、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)は、抗N3pGlu Aβ抗体、及びアルツハイマー病などの疾患を抗体で治療する方法を開示している。沈着物に見られる、N3pGlu Aβを含むAβに対する抗体の長期慢性投与による受動免疫は、様々な動物モデルにおける脳内のAβ凝集体を破壊し、プラークのクリアランスを促進することが示されている。ドナネマブ(米国特許第8,679,498号に開示されている)は、脳内のアミロイドプラークにのみ存在するアミロイドベータ(N3pGlu Aβ)エピトープの3番目のアミノ酸のピログルタミン酸改変に対する抗体である。ドナネマブの作用機序は、ADの重要な病理学的特徴である既存のアミロイドプラークの標的化及び除去である。
【0006】
今日まで、ドナネマブによる治療の臨床的焦点は、既存の脳アミロイド負荷を伴う早期症候性AD患者に限定されてきた。しかしながら、ADの第2の神経病理学的特徴は、過剰リン酸化タウタンパク質を含む細胞内神経原線維変化の存在である。現在の疾患モデルは、Aβがタウの病理を引き起こし、Aβとタウの間のより複雑で相乗的な相互作用が後期段階で現れ、疾患の進行を促進することを示唆している(Busche et al.,「Synergy Between Amyloid-β and Tau in Alzheimer’s disease,」Nature Neuroscience 23:1183-93(2020))。
【0007】
現在、ADのための疾患修飾治療はない。したがって、ヒト対象におけるAβの沈着を特徴とする、ADを含む疾患を治療する改善された方法に対する必要性が存在する。そのような方法は、そのような患者がそのような治療から治療的有用性を有し得るかどうかに基づいて患者を特定するのに役立つはずである。更に、そのような治療及び方法は、細胞傷害性の増加又は他の既知の有害事象が伴ってはならない。本発明は、これらの必要性のうちの1つ以上を満たす。
【0008】
Doody et al.,「Phase 3 Trials of Solanezumab for Mild-to-Moderate Alzheimer’s Disease,」NEJM,370;4,311-321(2014)は、「APOE ε4キャリアとノンキャリアとの間で有効性尺度に対する明確な治療効果の違いは観察されなかった」ことを示している。APOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子を有するヒト対象(例えば、APOE e4のキャリア)に抗N3pGlu Aβ抗体を投与することは、これらの対立遺伝子のうちの1つ以上のノンキャリアと比較した場合に、予想外かつ驚くべき有効性を提供することがここで見出された。したがって、本実施形態は、患者の認知低下を遅延させる手段として、その対立遺伝子を有する患者に抗N3pGlu Aβ抗体の用量を投与することを含む。具体的には、患者に抗N3pGlu Aβ抗体を投与した場合、APOE e4のノンキャリアよりもキャリアにおいてより大きな効果があることが見出されている。これは、APOE e4を有する患者が、様々な臨床測定を用いて様々なエンドポイントで測定した場合に、ノンキャリアよりも認知低下が少ないことを意味する。
【発明の概要】
【0009】
実施形態によれば、本発明は、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されているヒト対象の脳内のアミロイドベータ(Aβ)沈着物を特徴とする疾患を治療又は予防する方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与することを含む、方法を提供する。追加的に、特定の実施形態によれば、本発明は、後外側側頭葉タウ負荷を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患を治療又は予防する方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与することを含む、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特定の実施形態によれば、本発明は、高い神経学的タウ負荷を有し、かつアポリポタンパク質Eのイプシロン4対立遺伝子(本明細書ではAPOE e4又はAPOE4と称する)の1つ又は2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患を治療又は予防する方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与することを含む、方法を提供する。追加的に、特定の実施形態によれば、本発明は、後外側側頭葉タウ負荷を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患を治療し、又は予防する方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与することを特徴とする、方法を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患を治療し、又は予防する方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与することを特徴とする、方法を提供する。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、高い神経学的タウ負荷を有し、同様にAPOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子も有すると判定されている。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明は、後外側側頭葉タウ負荷を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患の治療又は予防に使用するための抗Aβ抗体を提供する。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉タウ負荷を有し、同様にAPOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子も有すると判定されている。
【0013】
追加的に、いくつかの実施形態では、本発明は、緩徐進行性アルツハイマー病(AD)認知機能低下を有すると判定されているヒト対象におけるADの治療、予防、又はその進行の遅延に使用するための抗Aβ抗体を提供する。本発明のいくつかの実施形態は、緩徐進行性アルツハイマー病(AD)認知機能低下及びAPOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象におけるADの治療、予防、又はその進行の遅延に使用するための抗Aβ抗体を提供する。
【0014】
更に、いくつかの実施形態によれば、本発明は、i)高い神経学的タウ負荷、又はii)高い神経学的タウ負荷及びAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患の治療又は予防のための薬剤の製造における、抗Aβ抗体の使用を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、i)後外側側頭葉タウ負荷、又はii)後外側側頭葉タウ負荷及びAPOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子を有すると判定されているヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患の治療又は予防のための薬剤の製造における、抗Aβ抗体の使用を提供する。そして更なる実施形態では、本開示は、i)緩徐進行性アルツハイマー病(AD)認知機能低下、又はii)APOE e4の1つ若しくは2つの対立遺伝子及び緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されているヒト対象におけるADの治療、予防、又はその進行の遅延のための薬剤の製造における、抗Aβ抗体の使用を提供する。
【0015】
本明細書で提供されるいくつかの実施形態によれば、ヒト対象は、後外側側頭葉及び後頭葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉、後頭葉、及び頭頂葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉、及び前頭葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、神経学的PETイメージングによって、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉及び/又は前頭葉のタウ負荷のうちの1つ以上を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉及び/又は前頭葉のタウ負荷のうちの1つ以上は、1.46SUVrを超える神経学的タウ負荷に対応する。
【0016】
本明細書で提供されるいくつかの実施形態によれば、ヒト対象は、APOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子並びに後外側側頭葉及び後頭葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、APOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子並びに後外側側頭葉、後頭葉及び頭頂葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、APOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子並びに後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉及び前頭葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉及び/又は前頭葉タウ負荷のうちの1つ以上を、神経学的PETイメージングによって、並びにAPOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉及び/又は前頭葉のタウ負荷のうちの1つ以上は、1.46SUVrを超える神経学的タウ負荷に対応する。
【0017】
追加的な実施形態によれば、本発明は、緩徐進行性アルツハイマー病(AD)認知低下を有すると判定されているヒト対象においてADを治療し、予防し、又はその進行を遅延させる方法であって、治療有効量の抗Aβ抗体を投与することを特徴とする、方法を提供する。いくつかの実施形態によれば、ヒト対象は、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態によれば、ヒト対象は、APOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉タウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉及び後頭葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉、後頭葉、及び頭頂葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉、及び前頭葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、後外側側頭葉タウ負荷及びAPOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、APOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子並びに後外側側頭葉及び後頭葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、APOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子並びに後外側側頭葉、後頭葉及び頭頂葉のタウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、APOE e4の1つ又は2つの対立遺伝子並びに後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉及び前頭葉のタウ負荷を有すると判定されている。
【0018】
本明細書で提供される本発明の実施形態によれば、ヒト対象は、ADAS-Cog、iADL、CDR-SB、MMSE、APOE-4ジェノタイピング、タウレベル、P-タウレベル、及び/又はiADRSのうちの1つ以上により、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、iADRSによって、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、iADRSは、20未満まで減少した。いくつかの実施形態では、iADRSは、6ヶ月間にわたって20未満まで減少している。いくつかの実施形態では、iADRSは、12ヶ月間にわたって20未満まで減少している。いくつかの実施形態では、iADRSは、18ヶ月間にわたって20未満まで減少している。いくつかの実施形態では、iADRSは、24ヶ月間にわたって20未満まで減少している。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、APOE-4ジェノタイピングによって、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、APOE-4ヘテロ接合体であると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、APOE-4ホモ接合体陰性であると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、MMSEによってAD認知機能低下を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、27を超えるMMSEを有することが判定されている。いくつかの実施形態では、MMSEは、3未満まで減少した。いくつかの実施形態では、MMSEは、6ヶ月間にわたって3未満まで減少している。いくつかの実施形態では、MMSEは、12ヶ月間にわたって3未満まで減少している。いくつかの実施形態では、MMSEは、18ヶ月間にわたって3未満まで減少している。いくつかの実施形態では、MMSEは、24ヶ月間にわたって3未満まで減少している。
【0019】
本明細書で提供される本発明の実施形態によれば、ヒト対象は、神経学的PETイメージングによって高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、神経学的PETイメージングによって、1.46SUVrを超える高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、残基217のスレオニンでリン酸化されたヒトタウ(「hTau-pT217」)の定量化によって、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている。いくつかの実施形態では、hTau-pT217は、ヒト対象の生物学的試料において定量化される。いくつかの実施形態では、生物学的試料は、脳脊髄液である。いくつかの実施形態では、生物学的試料は、血液、血漿又は血清のうちの1つである。
【0020】
本明細書に提供される本発明の実施形態によれば、抗Aβ抗体は、抗N3pG Aβ抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗N3pG抗体は、軽鎖可変領域(light chain variable region、LCVR)及び重鎖可変領域(heavy chain variable region、HCVR)を含み、当該LCVR及びHCVRは、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むLCVR及び配列番号2のアミノ酸配列を含むHCVR、又は(b)配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含むLCVR及び配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含むHCVRから選択される。
【0021】
本明細書に提供される本発明のいくつかの実施形態によれば、抗N3pG Aβ抗体を投与することは、i)約100mg~約700mgの抗N3pG Aβ抗体の1回以上の第1の用量をヒト対象に投与することであって、各第1の用量が約4週間毎に1回投与され、次いでii)1回以上の第1の用量を投与してから約4週間後に、700mg~約1400mgの抗N3pG Aβ抗体の1回以上の第2の用量をヒト対象に投与することであって、各第2の用量が約4週間毎に1回投与されることを含む。いくつかの実施形態では、ヒト対象には、第2の用量を投与する前に第1の用量を1回、2回、又は3回投与される。いくつかの実施形態では、ヒト対象には、約700mgの第1の用量が投与される。いくつかの実施形態では、ヒト対象には、約800mg、約900mg、約1000mg、約1100mg、約1200mg、約1300mg、又は約1400mgの1回以上の第2の用量が投与される。いくつかの実施形態では、ヒト対象には、約1400mgの1回以上の第2の用量が投与される。いくつかの実施形態では、抗N3pGlu Aβ抗体は、最大72週間の期間にわたってヒト対象に投与される。
【0022】
本明細書に提供される本発明の実施形態によれば、ヒト対象の脳内のAβ沈着物を特徴とする疾患は、前臨床アルツハイマー病(AD)、臨床AD、前駆期AD、軽度AD、中等度AD、重度AD、ダウン症候群、臨床的脳アミロイド血管症、又は前臨床的脳アミロイド血管症から選択される。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、初期症候性AD患者である。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、前駆期AD及び/又はADによる軽度の認知症を有する。
【0023】
本発明の目的のために、ヒト対象のタウレベル又は負荷(本明細書において互換的に使用される)は、例えば、i)神経学的若しくは脳のタウ沈着、ii)血液、血清及び/若しくは血漿中のタウ、又はiii)脳脊髄液中のタウを検出又は定量化する技術若しくは方法を使用して判定することができる。いくつかの実施形態では、神経学的タウ負荷(PETを介して、又は血液、血清、血漿又は脳脊髄液アッセイを介して判定されるかどうかにかかわらず)を使用して、神経学的タウ負荷(例えば、低い、中等度、又は高い神経学的タウ負荷)に基づいて対象を層別化することができる。
【0024】
神経学的タウ負荷は、PETリガンドである[18F]-フロルタウシピルを含む放射線標識PET化合物を用いたタウイメージング(Leuzy et al.,「Diagnostic Performance of RO948 F18 Tau Positron Emission Tomography in the Differentiation of Alzheimer Disease from Other Neurodegenerative Disorders,」JAMA Neurology 77.8:955-965(2020);Ossenkoppele et al.,「Discriminative Accuracy of[18F]-flortaucipir Positron Emission Tomography for Alzheimer Disease vs Other Neurodegenerative Disorders,」JAMA 320,1151-1162,doi:10.1001/jama.2018.12917(2018)、これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)などの方法を使用して判定することができる。PETタウ画像は、例えば、公開された方法によってSUVr(標準化取り込み値比)を推定するために定量的に評価することができる(Pontecorvo et al.,「A Multicentre Longitudinal Study of Flortaucipir(18F)in Normal Ageing,Mild Cognitive Impairment and Alzheimer’s Disease Dementia,」Brain 142:1723-35(2019);Devous et al.,「Test-Retest Reproducibility for the Tau PET Imaging Agent Flortaucipir F18,」Journal of Nuclear Medicine 59:937-43(2018);Southekal et al.,「Flortaucipir F18 Quantitation Using Parametric Estimation of Reference Signal Intensity,」J.Nucl.Med.59:944-51(2018)、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、及び/又は患者を視覚的に評価するため、例えば、患者がADパターンを有するかどうかを判定するため定量的に評価することができる(Fleisher et al.,「Positron Emission Tomography Imaging With[18F]-flortaucipir and Postmortem Assessment of Alzheimer Disease Neuropathologic Changes,」JAMA Neurology 77:829-39(2020)、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。SUVr値が低いほどタウ負荷が少ないことを示し、SUVr値が高いほどタウ負荷が高いことを示す。実施形態では、flortaucipirスキャンによる定量的評価は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Southekal et al.,「Flortaucipir F18 Quantitation Using Parametric Estimation of Reference Signal Intensity,」J.Nucl.Med.59:944-951(2018)に記載される自動画像処理パイプラインによって達成される。いくつかの実施形態では、脳内の特定の標的領域内のカウント(例えば、マルチブロック重心判別分析又はMUBADA、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Devous et al,「Test-Retest Reproducibility for the Tau PET Imaging Agent Flortaucipir F18,」J.Nucl.Med.59:937-943(2018)を参照されたい)を参照領域と比較し、参照領域は、例えば、小脳全体(wholeCere)、小脳GM(cereCrus)、アトラス-ベースの白質(atlasWM)、対象固有のWM(ssWM、例えば、参照シグナル強度のパラメトリック推定(PERSI)、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Southekal et al.,「Flortaucipir F18 Quantitation Using Parametric Estimation of Reference Signal Intensity,」J.Nucl.Med.59:944-951(2018))である。タウ負荷を判定する例示的な方法は、標準化取り込み値比(SUVr)として報告される定量分析である。これは、参照領域(例えば、PERSIを使用)と比較した場合、脳内の関心のある特定の標的領域内のカウント(例えば、MUBADA)を表す。
【0025】
いくつかの実施形態では、リン酸化タウ(P-タウ;スレオニン181若しくは217で、又はそれらの組み合わせのいずれかでリン酸化)を用いて本発明の目的のためにタウロード/負荷を測定することができる(Barthelemy et al.,「Cerebrospinal Fluid Phospho-tau T217 Outperforms T181 as a Biomarker for the Differential Diagnosis of Alzheimer’s Disease and PET Amyloid-positive Patient Identification,」Alzheimer’s Res.Ther.12,26,doi:10.1186/s13195-020-00596-4(2020);Mattsson et al.,「Aβ Deposition is Associated with Increases in Soluble and Phosphorylated Tau that Precede a Positive Tau PET in Alzheimer’s Disease,」Science Advances 6,eaaz2387(2020)、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。特定の実施形態では、残基217のスレオニンでリン酸化されたヒトタウに対する抗体を使用して、対象におけるタウロード/負荷を測定することができる(参照によりその全体が組み込まれる国際特許出願公開第2020/242963号を参照されたい)。本発明は、いくつかの実施形態では、国際公開第2020/242963号に開示された抗タウ抗体を使用して、対象におけるタウロード/負荷を測定することを含む。国際公開第2020/242963号に開示された抗タウ抗体は、CNSにおいて発現されるヒトタウのアイソフォームに対して作成される(例えば、CNSにおいて発現されるアイソフォームを認識し、もっぱらCNSの外側で発現されるヒトタウのアイソフォームを認識しない)。
【0026】
放射性標識PET化合物を用いたアミロイドイメージング、又はAβ若しくはAβのバイオマーカーを検出する診断法を使用するなどの方法によって脳内でアミロイドが検出された場合、対象はアミロイド沈着物が陽性である。脳ロード/負荷を測定するために使用することができる例示的な方法としては、例えば、フロルベタピア(Florbetapir)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Carpenter,et al.,「The Use of the Exploratory IND in the Evaluation and Development of 18F-PET Radiopharmaceuticals for Amyloid Imaging in the Brain:A Review of One Company’s Experience,」The Quarterly Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging 53.4:387(2009),which is hereby incorporated by reference in its entirety)、フロルベタベン(Florbetaben)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Syed et al.,「[18F]Florbetaben:A Review in β-Amyloid PET Imaging in Cognitive Impairment,」CNS Drugs 29,605-613(2015))、及びフルテメタモル(Flutemetamol)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Heurling et al.,「Imaging β-amyloid Using [18F] Flutemetamol Positron Emission Tomography:From Dosimetry to Clinical Diagnosis,」European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging 43.2:362-373(2016))が挙げられる。[18F]-フロルベタピルは、前駆期AD又は軽度AD認知症の患者を含む患者の脳プラーク負荷の定性的及び定量的測定を提供し、脳からのアミロイドプラークの低減を評価するためにも使用できる。
【0027】
追加的に、β-アミロイドの脳脊髄液又は血漿ベースの分析を使用して、アミロイドロード/負荷を測定することもできる。例えば、Aβ42を使用して脳のアミロイドを測定することができる(Palmqvist,S.et al.,「Accuracy of Brain Amyloid Detection in Clinical Practice Using Cerebrospinal Fluid Beta-amyloid 42:a Cross-validation Study Against Amyloid Positron Emission Tomography.JAMA Neurol 71,1282-1289(2014))。いくつかの実施形態では、Aβ42/Aβ40又はAβ42/Aβ38の比は、アミロイドベータのバイオマーカーとして使用することができる(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Janelidze et al.,「CSF Abeta42/Abeta40 and Abeta42/Abeta38 Ratios:Better Diagnostic Markers of Alzheimer Disease,」Ann Clin Transl Neurol 3,154-165(2016))。いくつかの実施形態では、CSF又は血漿中に沈着した脳アミロイドプラーク又はAβを使用して、アミロイドロード/負荷に基づいて対象をグループに層別化することができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「抗N3pGlu Aβ抗体」、「抗N3pG抗体」、又は「抗N3pE抗体」は、互換的に使用され、Aβ1-40又はAβ1-42よりもN3pGlu Aβに優先的に結合する抗体を指す。当業者は、「抗N3pGlu Aβ抗体」、並びに「hE8L」、「B12L」及び「R17L」を含むいくつかの特異的抗体が、米国特許第8,679,498(B2)号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に特定され、開示されている(作製及び使用方法と共に)ことを理解し、認識するであろう。例えば、米国特許第8,679,498(B2)号の表1を参照されたい。「hE8L」、「B12L」及び「R17L」抗体を含む、米国特許第8,679,498(B2)号に開示されている抗体の各々を、本発明の抗N3pGlu Aβ抗体として、又は本発明の様々な態様に記載されている抗N3pGlu Aβ抗体の代わりに使用することができる。抗N3pGlu Aβ抗体の他の代表的な種としては、米国特許第8,961,972号、米国特許第10,647,759号、米国特許第9,944,696号、国際公開第2010/009987(A2)号、国際公開第2011/151076(A2)号、国際公開第2012/136552(A1)号及びその等価物(例えば35U.S.C112(f)の下で)に開示されている抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
当業者は、「抗N3pGlu Aβ抗体」、及びいくつかの特異的抗体が、米国特許第8,961,972号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、米国特許第10,647,759号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、及び米国特許第9,944,696号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に特定され、開示されている(作製及び使用方法と共に)ことを理解し、認識するであろう。米国特許第8,961,972号、同第9,944,696号、及び同第10,647,759号に開示されている抗N3pGlu Aβ抗体のいずれかが、本発明の抗N3pGlu Aβ抗体として、又は本発明の様々な態様に記載される抗N3pGlu Aβ抗体の代わりに使用され得る。
【0030】
当業者は、「抗N3pGlu Aβ抗体」、並びに「抗体VI」、「抗体VII」、「抗体VIII」、及び「抗体IX」を含むいくつかの特異的抗体が、WO2010/009987A2(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)で特定され、開示されている(そのような抗体を作製及び使用する方法と共に)ことを理解し、認識するであろう。これらの4つの抗体(例えば、「抗体VI」、「抗体VII」、「抗体VIII」、及び「抗体IX」)のそれぞれを、本発明の抗N3pGlu Aβ抗体として、又は抗N3pGlu Aβ抗体の代わりに使用することができる。N3pGlu Aβ抗体は、本発明の様々な態様に記載されている。
【0031】
当業者は、「抗N3pGlu Aβ抗体」、並びに「抗体X」及び「抗体XI」を含むいくつかの特異的抗体が、国際公開第2011/151076(A2)号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に特定され、開示されている(そのような抗体を作製及び使用する方法と共に)ことを理解し、認識するであろう。これらの2つの抗体(例えば、「抗体X」及び「抗体XI」)の各々は、本発明の抗N3pGlu Aβ抗体として、又は本発明の様々な態様に記載される抗N3pGlu Aβ抗体の代わりに使用され得る。
【0032】
当業者は、「抗N3pGlu Aβ抗体」、並びに「抗体XII」及び「抗体XIII」を含むいくつかの特異的抗体が、国際公開第2012/136552(A1)号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)において特定され、開示されている(当該抗体を作製及び使用するための方法と共に)ことを理解し、認識するであろう。これらの2つの抗体(例えば、「抗体XII」及び「抗体XIII」)の各々は、本開示の抗N3pGlu Aβ抗体として、又は本発明の様々な態様に記載される抗N3pGlu Aβ抗体の代わりに使用され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された2つのHC及び2つのLCを含む免疫グロブリン分子である。各LC及びHCのアミノ末端部分は、そこに含まれる相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)を介した抗原認識に関与する可変領域を含む。CDRには、フレームワーク領域と呼ばれる、より保存された領域が局在している。本発明の抗体のLCVR及びHCVR領域内のCDRドメインへのアミノ酸の割り当ては、次のようなKabat番号付け規則(Kabat,et al.,Ann.NY Acad.Sci.,190:382-93(1971);Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242(1991))、及びNorth番号付け法(North et al.,A New Clustering of Antibody CDR Loop Conformations,Journal of Molecular Biology,406:228-256(2011))に基づく。上記の方法に従って、本発明の抗体のCDRを決定した。
【0034】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体(「mAb」)である。モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ技術、組換え技術、ファージ提示技術、合成技術、例えばCDR移植、又はそのような技術又は当該技術分野で既知の他の技術の組み合わせにより産生することができる。本発明のモノクローナル抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体である。ヒト化抗体は、非ヒト抗体に由来するCDRを取り囲む1つ以上のヒトフレームワーク領域(又は実質的にヒトフレームワーク領域)を含有するように操作することができる。ヒトフレームワーク生殖細胞系配列は、ImunoGeneTics(INGT)からそのウェブサイトhttp:/imgt.cines.fr、又はMarie-Paule Lefranc及びGerard Lefranc,Academic 25 Press,2001,ISBN 012441351.TechinquesによるThe Immunoglobulin FactsBookから得ることができる。ヒト抗体又はヒト化抗体を生成するための技法は、当技術分野において周知である。本発明の別の実施形態では、抗体又は抗体をコードする核酸は単離形態で提供される。本明細書で使用する場合、「単離」という用語は、細胞環境に見出される任意の他の高分子種を含まないか、又は実質的に含まない、タンパク質、ペプチド、又は核酸を指す。「実質的に含まない」とは、本明細書中で使用する場合、目的のタンパク質、ペプチド、又は核酸が存在する高分子種の80%超(モル基準で)、好ましくは90%超、より好ましくは95%超の含むことを意味する。
【0035】
本発明の抗体は、薬学的組成物として投与される。本発明の抗体を含む薬学的組成物は、親経路(例えば、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内)により、本明細書に記載の疾患又は障害のリスクがある、又は示す対象に投与することができる。皮下及び静脈内経路が好ましい。
【0036】
「治療」、「治療すること」又は「治療する」などの用語には、対象の既存の症状、状態、疾患、又は障害の進行又は重症度の抑制、遅延、又は停止が含まれる。「対象」という用語は、ヒトを指す。
【0037】
「予防」という用語は、アルツハイマー病の発症又は進行を予防するために、無症候性対象又は前臨床期アルツハイマー病に罹患している対象への本発明の抗体の予防上の投与を意味する。
【0038】
本明細書で使用される「進行を遅らせる」という用語は、対象における疾患又はその症状の進行を遅らせる又は抑えることを意味する。
【0039】
「Aβの沈着を特徴とする疾患」又は「Aβ沈着物を特徴とする疾患」という用語は、脳内又は脳脈管構造内のAβ沈着物を病理学的に特徴とする疾患である。これには、アルツハイマー病、ダウン症候群、脳アミロイド血管障害などの疾患が含まれる。アルツハイマー病の臨床診断、病期分類又は進行は、既知の技術を使用し、結果を観察することにより、当業者のような担当診断医又は医療専門家によって容易に判定され得る。これは、一般に、脳のプラークイメージング、精神若しくは認知評価(例えば、臨床的認知症評定-ボックスの要約(Clinical Dementia Rating-summary of box、CDR-SB)、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Exam、MMSE)若しくはアルツハイマー病評価スケール-認知(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cog、ADAS-Cog))、又は機能評価(例えば、アルツハイマー病共同研究-日常生活の活動(Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living、ADCS-ADL)を含む。認知及び機能評価を使用して、患者の認知(例えば、認知低下)及び機能(例えば、機能低下)の変化を判定することができる。したがって、対象は、本明細書に記載の技術に従って、「緩徐進行性」認知機能低下を有すると判定され得る。例示的な実施形態において、「緩徐進行性」認知機能低下は、iADRSによって特定することができ、ここで、対象のiADRは、例えば所定の期間(例えば、6、12、18又は24ヶ月)にわたって約20未満低下している。別の例示的な実施形態では、「緩徐進行性」認知機能低下は、APOE-4ジェノタイピングによって特定することができ、ここで、対象は、APOE-4ホモ接合型陰性又はAPOE-4ヘテロ接合型である。別の例示的な実施形態では、「緩徐進行性」認知機能低下は、MMSEによって特定することができ、ここで、対象は、約27のMMSE、又は所与の期間(例えば、6、12、18又は24ヶ月)にわたって約3未満のMMSE低下を有すると判定されている。本明細書で使用される「臨床的アルツハイマー病」は、アルツハイマー病の診断された段階である。これには、前駆期アルツハイマー病、軽度アルツハイマー病、中等度アルツハイマー病及び重度アルツハイマー病と診断された状態が含まれる。「前臨床的アルツハイマー病」という用語は、臨床的アルツハイマー病に先行する段階であり、バイオマーカーの測定可能な変化(CSFAβ42レベル又はアミロイドPETによる沈着した脳プラーク負荷など)は、臨床的アルツハイマー病に進行する、アルツハイマー病の患者の最も初期の兆候を示す。これは通常、記憶喪失及び混乱のような症状が顕著となる前である。前臨床期アルツハイマー病には、1つ又は2つのAPOE e4対立遺伝子を保持するためにADを発症するリスクが高い患者だけでなく、発症前の常染色体優性保因者も含まれる。
【0040】
認知機能低下の低減又は緩徐化は、臨床認知症評価-ボックスの要約、ミニメンタルステート検査、又はアルツハイマー病評価スケール-認知などの認知評価によって測定できる。機能低下の低減又は緩徐化は、ADCS-ADLなどの機能評価によって測定することができる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「mg/kg」とは、キログラム単位の体重に基づいて、対象に投与される抗体又は薬物のミリグラム単位の量を意味する。用量は、一度に与えられる。例えば、体重70kgの対象に対する抗体の10mg/kg用量は、単回投与で投与される抗体の単回700mg用量である。同様に、体重70kgの対象に対する20mg/kg用量の抗体は、単回投与で投与される抗体の1400mg用量となる。
【0042】
本明細書で使用される場合、18F-フロルタウシピルベースの定量分析を用いて、タウ負荷が1.10SUVr(<1.10SUVr)未満である場合、ヒト対象は、「非常に低いタウ」負荷を有し、定量分析は、SUVrの計算を指し、SUVrは、参照領域と比較した場合、脳内の関心のある特定の標的領域内のカウントを表す(マルチブロック重心判別分析又はMUBADA、Devous et al,「Test-Retest Reproducibility for the Tau PET Imaging Agent Flortaucipir F18,」J.Nucl.Med.59:937-943(2018)を参照されたい)(参照シグナル強度又はPERSIのパラメトリック推定値、Southekal et al.,「Flortaucipir F 18 Quantitation Using Parametric Estimation of Reference Signal Intensity,」J.Nucl.Med.59:944-951(2018)を参照されたい)。本明細書で使用される場合、18F-フロルタウシピルベースの定量分析を用いて、タウ負荷が1.46SUVr(すなわち、≦1.46SUVr)以下である場合、ヒト対象は、「非常に低いタウから中程度のタウ」負荷」を有し、定量分析は、SUVrの計算を指し、SUVrは、参照領域と比較した場合、脳内の関心のある特定の標的領域内のカウントを表す(MUBADA、Devous et al,「Test-Retest Reproducibility for the Tau PET Imaging Agent Flortaucipir F18,」J.Nucl.Med.59:937-943(2018)を参照されたい)(PERSI、Southekal et al.,「Flortaucipir F 18 Quantitation Using Parametric Estimation of Reference Signal Intensity,」J.Nucl.Med.59:944-951(2018)を参照されたい)。
【0043】
本明細書で使用される場合、18F-フロルタウシピルベースの定量分析を用いて、タウ負荷が1.10以上から1.46以下(すなわち、≦1.10SUVr~≦1.46SUVr)である場合、ヒト対象は、「低いタウから中程度のタウ」負荷を有し、定量分析は、SUVrの計算を指し、SUVrは、参照領域と比較した場合、脳内の関心のある特定の標的領域内のカウントを表す(MUBADA、Devous et al,「Test-Retest Reproducibility for the Tau PET Imaging Agent Flortaucipir F18,」J.Nucl.Med.59:937-943(2018)を参照されたい)(PERSI、Southekal et al.,「Flortaucipir F 18 Quantitation Using Parametric Estimation of Reference Signal Intensity,」J.Nucl.Med.59:944-951(2018)を参照されたい)。「低いタウから中等度のタウ」負荷を有するヒト対象は、「中間」タウ負荷を有することが呼ぶこともできる。
【0044】
本明細書で使用される場合、18F-フロルタウシピルベースの定量分析を用いて、タウ負荷が1.46SUVr超(すなわち、>1.46SUVr)である場合、ヒト対象は、「高いタウ」負荷を有し、定量分析は、SUVrの計算を指し、SUVrは、参照領域と比較した場合、脳内の関心のある特定の標的領域内のカウントを表す(マルチブロック重心判別分析又はMUBADA、Devous et al,「Test-Retest Reproducibility for the Tau PET Imaging Agent Flortaucipir F18,」J.Nucl.Med.59:937-943(2018)を参照されたい)(PERSI、Southekal et al.,「Flortaucipir F 18 Quantitation Using Parametric Estimation of Reference Signal Intensity,」J.Nucl.Med.59:944-951(2018)を参照されたい)。
【0045】
本明細書で使用される「約」という用語は、最長±10%を意味する。
【0046】
「ヒト対象」及び「患者」という用語は、本開示において互換的に使用される。
【0047】
本明細書で使用される場合、「治療方法」とは、本明細書に記載の疾患又は障害を治療するための組成物の使用、及び/又は本明細書に記載の疾患又は障害を治療するための薬剤の製造における使用及び/又は使用のための組成物の使用に等しく適用可能である。
【0048】
以下の実施例は、本発明を更に説明するものである。しかしながら、実施例は、限定ではなく例示のために記載され、当業者により様々な変更が行われ得ることを理解すべきである。
【実施例
【0049】
実施例1:操作されたN3pGlu Aβ抗体の発現及び精製
N3pGlu Aβに対する抗体は、当該技術分野において既知である。例えば、米国特許第8,679,498号及び米国特許第8,961,972号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)は、抗N3pGlu Aβ抗体、抗体を作製する方法、抗体製剤、及びそのような抗体を用いてアルツハイマー病などの疾患を治療する方法を開示している。
【0050】
本発明の抗N3pGlu Aβ抗体を発現及び精製する例示的な方法は、以下のとおりである。適切な宿主細胞、例えば、HEK293EBNA又はCHOは、最適な所定のHC:LCベクター比を用いて抗体を分泌するための発現系、又はHCとLCの両方をコードする単一のベクター系で、一過性に、又は安定的に、のいずれかでトランスフェクトされる。抗体が分泌された、清澄化した培地を、多くの一般的に使用される技術のいずれかを使用して精製する。例えば、培地は、適合する緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)等で平衡化したプロテインA又はGのセファロースFFカラムに都合よく適用され得る。カラムを洗浄して、非特異的結合構成成分を除去する。結合した抗体を、例えば、pH勾配(例えば、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)から0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)へ)によって、溶出される。抗体断片をSDS-PAGEなどにより検出し、次いでプールする。意図する使用に応じて、更なる精製は任意選択的である。抗体を、一般的な技術を使用して濃縮及び/又は滅菌濾過し得る。可溶性凝集体及び多量体を、サイズ排除、疎水性相互作用、イオン交換、又はヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーを含む一般的な技術によって効果的に除去し得る。これらのクロマトグラフィーステップ後の抗体の純度は、99%を上回る。生成物は、-70℃で直ちに凍結させてもよく、又は凍結乾燥させてもよい。抗N3pGlu Aβ抗体のアミノ酸配列は、配列表に提供される。
【0051】
実施例2:神経学的タウ負荷と認知変化との比較
認知変化と比較した、全脳葉及び前頭葉の両方の神経学的タウ負荷の評価は、実質的に以下に記載されるように測定される。対象は、ベースラインにおいて、本明細書に記載されるようにフロルタウシピルによって、全脳葉及び前頭葉の両方の神経学的タウ負荷について評価される。更に、ベースラインにおいて、対象は、当技術分野において既知であるように、iADRS又はCDR-SBのうちの1つの下で認知評価される。対象は、例えば、iADRS又はCDR-SBのうちの1つの下で、その後の所与の時点で、例えば、26週目、52週目、78週目、又は104週目に、認知的に再評価され得る。神経学的タウ負荷に対する認知評価の変化は、図1図2及び図3に示すようにプロットすることができる。
【0052】
図1図2及び図3は、ベースラインにおけるより低いタウ負荷に関連するより低い認知低下を示す。更に、図1図2及び図3は、ベースラインにおいてより高いタウ負荷(例えば、約1.4のSUVRより大きい)を有すると判定された患者間の認知低下における不均一性を実証する。図1は、ベースラインにおける全体的なタウ負荷対18ヶ月にわたるiADRS変化を示す。図2は、ベースラインにおける前頭葉タウ負荷対18ヶ月にわたるiADRS変化を示す。図3は、ベースラインにおける前頭葉タウ負荷対76週間にわたるCDR-SB変化を示す。
【0053】
実施例3:高い神経学的タウ負荷を有すると特定された対象の治療
対象は、フロルタウシピルの使用を含むPETイメージング、並びにヒトpTau217評価を含む、本明細書に記載される方法に従って、ベースラインにおいて、高い神経学的タウ負荷を有すると判定され得る。神経学的タウ負荷は、全体的に評価されてもよく、又は局所的な脳葉負荷、例えば後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉及び/若しくは前頭葉に基づいて評価されてもよい。高い神経学的タウ負荷を有すると判定された患者は、本明細書に記載のN3pG抗体を用いて、本明細書に記載の用量レジメンに従って治療され得る。
【0054】
加えて、対象は、ベースラインにおいて、ADAS-Cog、iADL、CDR-SB、MMSE、APOE-4ジェノタイピング及び/又はiADRSのうちの1つ以上によるものを含む、本明細書に記載されるような様式によって認知的に評価され得る。本明細書に記載のN3pGAbによる治療後、本明細書に記載の用量レジメンに従って、対象は、例えば、26週目、52週目、78週目、又は104週目に、認知的に再評価され得る。高い神経学的タウ負荷を有すると判定された患者を含む、遅い、又は急速でない認知低下を示す患者は、本明細書に記載されるN3pG抗体で処置され続けることができる。
【0055】
配列(下線部分はCDRを示す)
配列番号1;軽鎖可変領域(LCVR)
【表1】
【0056】
配列番号2;重鎖可変領域(HCVR)
【表2】
【0057】
配列番号3;軽鎖(Light Chain、LC)
【表3】
【0058】
配列番号4;重鎖(Heavy Chain、HC)
【表4】
【0059】
配列番号5;軽鎖相補性決定領域1(Light Chain Complementarity Determining Region 1、LCDR1)
【表5】
【0060】
配列番号6;軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)
【表6】
【0061】
配列番号7;軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)
【表7】
【0062】
配列番号8;重鎖相補性決定領域1(Heavy Chain Complementarity Determining Region 1、HCDR1)
【表8】
【0063】
配列番号9;重鎖相補性決定領域2(HCDR2)
【表9】
【0064】
配列番号10;重鎖相補性決定領域3(HCDR3)
【表10】
【0065】
配列番号11;配列番号1のヌクレオチド配列;軽鎖可変領域(LCVR)
【表11】
【0066】
配列番号12;配列番号2のヌクレオチド配列;重鎖可変領域(HCVR)
【表12】
【0067】
配列番号13;配列番号3のヌクレオチド配列;軽鎖(LC)
【表13】
【0068】
配列番号14;配列番号4のヌクレオチド配列重鎖(HC)
【表14】
【0069】
配列番号15;ソラネズマブの軽鎖のアミノ酸
【表15】
【0070】
配列番号16;ソラネズマブの重鎖のアミノ酸
【表16】
【図面の簡単な説明】
【0071】
原文に記載なし
図1
図2
図3
【配列表】
2024509956000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗Aβ抗体を含む、緩徐進行性アルツハイマー病(AD)認知低下を有すると判定されているヒト対象においてADを治療し、予防し、又はその進行を遅延させるための医薬組成物であって、前記抗Aβ抗体を前記ヒト対象に投与するよう用いられることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
前記ヒト対象が、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉又は後頭葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉、後頭葉、及び頭頂葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ヒト対象が、後外側側頭葉、後頭葉、頭頂葉、及び前頭葉のタウ負荷を有すると判定されている、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ヒト対象が、ADAS-Cog、iADL、CDR-SB、MMSE、APOE-4ジェノタイピング、タウレベル、P-タウレベル、及び/又はiADRSのうちの1つ以上により、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ヒト対象が、iADRSにより、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
iADRSが、20未満まで減少している、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
iADRSが、i)6ヶ月間にわたって20未満、ii)12ヶ月間にわたって20未満、iii)18ヶ月間にわたって20未満、又はiv)24ヶ月間にわたって20未満まで減少している、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ヒト対象が、APOE-4ジェノタイピングにより、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ヒト対象が、i)APOE-4ヘテロ接合性であるか、又はii)APOE-4ホモ接合性陰性であると判定されている、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ヒト対象が、MMSEにより、緩徐進行性AD認知機能低下を有すると判定されている、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ヒト対象が、27を上回るMMSEを有すると判定されている、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
MMSEが、i)3未満、ii)6ヶ月間にわたって3未満、iii)12ヶ月間にわたって3未満、iv)18ヶ月間にわたって3未満、又はv)24ヶ月間にわたって3未満まで減少している、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記ヒト対象が、神経学的PETイメージングにより、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ヒト対象が、神経学的PETイメージングにより、1.46SUVrを上回る高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記ヒト対象が、残基217のスレオニンでリン酸化されたヒトタウ(「hTau-pT217」)の定量化により、高い神経学的タウ負荷を有すると判定されている、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項18】
hTau-pT217が、前記ヒト対象の生体試料において定量化される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記生体試料が、脳脊髄液、血液、血漿、又は血清である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記抗Aβ抗体が、抗N3pG Aβ抗体を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記抗N3pG Aβ抗体が、軽鎖可変領域(LCVR)と、重鎖可変領域(HCVR)とを含み、前記LCVR及びHCVRが、
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むLCVR及び配列番号2のアミノ酸配列を含むHCVR、又は
(b)配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含むLCVR及び配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列を含むHCVRから選択される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記投与するステップが、
i)前記ヒト対象に、1回以上の約100mg~約700mgの第1の用量の抗N3pG Aβ抗体を投与することであって、各第1の用量が、約4週間に1回投与され、次いで
ii)前記1回以上の第1の用量を投与した約4週間後に、1回以上の700mg~約1400mgの第2の用量の前記抗N3pG Aβ抗体を前記ヒト対象に投与することであって、各第2の用量が、約4週間に1回投与されるよう用いられることを特徴とする、請求項1~21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記ヒト対象が、前記第2の用量が投与される前に前記第1の用量で1回、2回、又は3回投与される、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記ヒト対象が、約700mgの第1の用量で投与される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記ヒト対象が、1回以上の約800mg、約900mg、約1000mg、約1100mg、約1200mg、約1300mg、又は約1400mgの第2の用量で投与される、請求項22~24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記抗N3pGlu Aβ抗体が、最長72週間の期間、前記ヒト対象に投与される、請求項22~25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記ヒト対象が、早期症候性AD患者である、請求項1~26のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】