(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】アレルギー応答を予測するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20240227BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555718
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 US2022019880
(87)【国際公開番号】W WO2022192625
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523345932
【氏名又は名称】アイジェニックス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルート, デレク
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ28
4B063QQ53
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR36
4B063QR40
4B063QR62
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4B063QR77
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、免疫グロブリンE(IgE)定常領域(Cε)の少なくとも一部をコードするB細胞由来のRNA種(例えば、非生産的なε生殖細胞系列転写物(εGLT))の量を測定することによって、対象におけるアレルギー応答を予測するためのシステムおよび方法を提供する。本発明者らは、B細胞内の抗体重鎖定常領域遺伝子座に由来する生殖細胞系列転写物が将来の抗体クラス生成を予測することを決定した。それらの転写物は、B細胞が抗体クラススイッチ組換えを経験して、例えばIgE抗体を生成する傾向を決定するために、同定され測定され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるアレルギー応答を予測するための方法であって、
免疫グロブリンE(IgE)定常領域(Cε)の少なくとも一部をコードする配列を含む1種または複数種のRNA種を含むサンプルを、対象から取得する工程;
該サンプルにおける該RNA種を同定する工程;
該サンプルにおける同定された該RNA種の量を測定する工程;および
特定の閾値と比較した測定された該RNA種の量に基づいて、該対象におけるアレルギー応答を予測する工程
を含む、方法。
【請求項2】
予測される前記アレルギー応答が、アレルギーの発症に対する予測される素因である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
予測される前記アレルギー応答がアレルギー反応重篤度の予測である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
既存のアレルギー応答の軽減または除去を予測する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
適切な治療介入を決定する工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
既知のアレルギー状態を有する患者における同定された前記RNA種の量を測定することによって前記閾値が決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記予測する工程が、予測される前記アレルギー応答を引き起こす少なくとも1種のアレルゲンを同定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アレルゲンが、食物アレルゲン、植物アレルゲン、真菌アレルゲン、動物アレルゲン、薬物アレルゲン、化粧品アレルゲン、およびラテックスアレルゲンのうちの少なくとも1種を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1種または複数種のRNA種が生殖細胞系列転写によって生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記1種または複数種のRNA種が非生産的なε生殖細胞系列転写物(εGLT)の少なくとも一部を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記同定する工程および/または測定する工程が、前記サンプルにおける1種または複数種のεGLTの発現を評価することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記εGLTが、5’IgE定常領域エクソンへとスプライスされる核酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記5’IgE定常領域エクソンへとスプライスされる核酸配列がIεエクソンまたはスイッチ領域(Sε)に由来する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記1種または複数種のRNA種を同定する工程が、前記5’IgE定常領域エクソンと前記Iεエクソンまたは前記スイッチ領域(Sε)とに広がる1つ以上のスプライスジャンクションの存在を前記εGLTにおいて決定することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記同定する工程および/または測定する工程が前記1種または複数種のRNA種を配列決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記同定する工程および/または測定する工程が定量的逆転写PCRを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、一般的には医学、アレルギー、および免疫学の分野に関し、より詳細には、アレルギーの測定、モニタリング、および予測に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
アレルギーは、世界の人口の30%を冒していると推定されている。診断されたアレルギーの有病率は、多くの要因に起因するが、部分的には新規のアレルゲンおよびアレルギー応答の認識ならびにアレルギー検査の増加した利用可能性によって、継続的に増加中である。
アレルギーは、環境中にある他の点では無害な物質に対する免疫系の過敏性によって引き起こされる多くの状態によって特徴付けられる。一般に、アレルギー反応は、そのアレルギーが存在しなければ反応を引き起こさない物質(アレルゲン)の存在に免疫系の局面が過剰反応する場合に生じる。アレルギーは、個体の生活の質に対して負の影響を有し、社会および個人の経済的負荷をもたらし得る。特定のアレルゲンに対するわずかな曝露が、生命を脅かす結果を有し得るので、アレルギーに罹患している人々はしばしば、過度に警戒することを要求され、アレルゲンを避けるように自身の行動を変えることを強制される。
【0003】
一般的に理解されるとおり、アレルゲンとは、他の点では無害である知覚された脅威と免疫系が闘う異常に活発な免疫応答を生じる、ある種の抗原である。技術用語において、アレルゲンとは、アトピー性個体において免疫グロブリンE(IgE)によって媒介されるI型過敏症反応を刺激可能である抗原である。ほとんどのヒトは、寄生生物感染に対する防御としてのみ顕著なIgE応答を開始する。しかし、一部の個体は、一般的な環境抗原に応答し得る。この遺伝的素因は、アトピーと呼ばれる。アトピー性個体において、非寄生生物抗原は不適切なIgE生成を刺激して、I型I過敏症をもたらす。
【0004】
新たに出現した研究は、アレルギーが均質な状態ではないことを示した。アレルギー研究は、多くの一般的なアレルギーが、以前に考えられたよりも複雑であることを示した。例えば、ピーナッツアレルギーを有する患者は、ピーナッツにおいて見出される1種または複数種のタンパク質ならびにそのタンパク質の1種または複数種のエピトープに対してアレルギー性であり得る。さらに、特定のアレルギーを有する患者は、同じ抗原に応答して種々のIgE抗体を生成し得る。
【0005】
ヒト患者において現在のアレルギー状況を検査するためのいくつかの方法が存在する。しかし、既存の検査は、将来のアレルギー状況を予測する能力を欠いている。
【0006】
例えば、ELISAベースの血清IgE検査は、最も一般的な形態のアレルギー検査の一つである。しかし、そのような検査は、低スループットであり、さらなる欠点に悩まされる。この抗体ベースの方法を使用する検査は、検査されるアレルゲン毎に固有の捕捉抗体を必要とし得る。例えば、種々の捕捉抗体が、特定の食物アレルギーに関連する種々のタンパク質を捕捉するため、および/または特定の食物アレルギーに関連するタンパク質エピトープを同定するために、必要とされ得る。さらに、特定のアレルゲンは、ELISAパネルにある種々の捕捉抗体と交差反応し得、このことはその結果を不明瞭にする。したがって、どの単一のパネルによって検査される抗原の幅も、制限される。
【0007】
別の一般的な形態のアレルギー検査は、患者をアレルゲンと、例えば、皮膚プリック試験、パッチ試験、皮内試験、または経口食物負荷を使用して、直接接触させることを含む。これらの検査は、個体をアレルゲンと直接接触させるという明確な問題を提起し、これは、不快感またはより重篤なアレルギー応答をもたらし得る。重篤な反応のリスクは、新たに発見されたアレルゲンについての検査が厳格な安全性検査を受けることを必然的に意味し、これは、アレルギー検査がアレルゲンの発見を遅らせ得ることを意味する。さらに、この様式の検査における使用のためにアレルゲンを抽出することは、高い純度および混入がないことを確保するために厳密で高価な製造プロトコルを必要とする。さらに、接触検査は高い感度を有するが、その特異性は低いものであり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(概要)
本発明は、免疫グロブリンE(IgE)定常領域(Cε)の少なくとも一部をコードするB細胞由来のRNA(非生産的なε生殖細胞系列転写物(εGLT)を含む)を測定することによって、対象におけるアレルギー応答を予測するためのシステムおよび方法を提供する。
【0009】
本発明者らは、B細胞内の抗体重鎖定常領域遺伝子座に由来する生殖細胞系列転写物が将来の抗体クラス生成を予測することを決定した。それらの転写物は、B細胞が抗体クラススイッチ組換えを経験して、例えばIgE抗体を生成する傾向を決定するために、同定され測定され得る。したがって、生殖細胞系列転写は、将来のアレルギー応答(アレルギーに対する素因を含む)を予測するために有用であり、したがって、可能性のある介入をもたらす。
【0010】
特に、本発明は、無数の潜在的なアレルゲンについてのアレルギー素因の正確な予測を可能にする。さらに、本開示の方法およびシステムは、アレルギー発症およびアレルギー状況の長期的動態の遡及的研究のために有用である。本発明の方法およびシステムは、複数の抗原を含む供給源に由来するどの特定の抗原がアレルギー応答を引き起こす可能性が最も高いかを予測するために有用である。さらに、本明細書中に記載されるシステムおよび方法は、介入の治療有効性の正確な予測を可能にする。
【0011】
したがって、本発明は、アレルギー応答を予測するための方法を含む。特定の方法において、免疫グロブリンのすべてもしくはフラグメントをコードするB細胞由来の1種または複数種のRNA種を含む、体液サンプルあるいは組織サンプルが、そのサンプルが取得された個体についての免疫プロファイルを予測するために使用される。好ましい実施形態において、その免疫グロブリンはIgE免疫グロブリンまたはIgG免疫グロブリンである。非常に好ましい実施形態において、そのフラグメントはIgE重鎖定常領域またはIgG重鎖定常領域である。その後、そのRNA種の正体が決定される。取得されたRNAの型およびその量は、例えば、その測定された量が所定の閾値を超える場合に、その対象におけるアレルギー応答を予測するために使用される。
【0012】
特定の方法において、その閾値は、既知のアレルギーを有する患者における1種または複数種のRNA種の量を測定することによって、決定される。その患者において測定される量は、その患者がアレルギー応答を経験した後を含む、任意の時点で取得され得る。
【0013】
アレルギー応答を予測することは、予測された応答を引き起こすアレルゲンを決定することなく、アレルギー発症の可能性を予測することを含み得る。アレルギー応答を予測することはまた、その対象におけるその予測されるアレルギー応答を引き起こす少なくとも1種のアレルゲンを同定することを含み得る。同定されるアレルゲンとしては、例えば、食物アレルゲン、植物アレルゲン、真菌アレルゲン、動物アレルゲン、薬物アレルゲン、化粧品アレルゲン、およびラテックスアレルゲンのうちの少なくとも1種が挙げられ得る。
【0014】
そのRNA種は、非生産的な生殖細胞系列転写物(GLT)の少なくとも一部を含み得る。したがって、特定の方法において、その同定する工程および/または測定する工程は、そのサンプルにおけるGLTの発現を評価することを含む。そのGLTは、1種または複数種のIgE定常領域エクソンを含み得、したがって、ε生殖細胞系列転写物(εGLT)として、その5’IgE定常領域エクソンへとスプライスされる核酸配列を含み得る。その5’IgE定常領域エクソンへとスプライスされる核酸配列は、Iεエクソンまたはスイッチ領域(Sε)に由来し得る。特定の方法において、1種または複数種のRNA種を同定することは、その5’IgE定常領域エクソンとIεエクソンまたはスイッチ領域(Sε)とに広がる1つ以上のスプライスジャンクションの存在を1種または複数種のεGLTにおいて決定することを含む。
【0015】
特定の局面において、本発明は、その1種または複数種のRNA種を配列決定することをさらに含む。その配列決定は、シングルセルRNA配列決定を含み得る。特定の方法において、同定する工程および/または測定する工程は、定量的逆転写PCRを含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、非生産的なε生殖細胞系列転写物(εGLT)の生成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(詳細な説明)
本発明は、B細胞からの1種または複数種のRNA種の発現を測定することによって、アレルギー応答を予測するためのシステムおよび方法を提供する。好ましい実施形態において、そのRNAは、免疫グロブリン(好ましくは、免疫グロブリンE(IgE)定常領域(Cε))の少なくとも一部(例えば、非生産的なε生殖細胞系列転写物(εGLT))をコードする。
【0018】
IgE抗体は、炎症性免疫細胞(例えば、体表面および体腔の内側を覆う粘膜組織中の肥満細胞、ならびに循環中にある好塩基球)にある特異的レセプターに結合することによって、アレルギー応答を媒介する。それらの細胞は、炎症性分子(例えば、ヒスタミン)の放出を介してIgEによって認識される特異的抗原(アレルゲン)によって誘発されるアレルギー応答を媒介する。その炎症応答は、くしゃみ、鼻水または鼻づまり、目のかゆみ、呼吸困難、極端な場合には、アナフィラキシーショックおよびそれどころか死亡などの、症状をもたらす。
【0019】
クラススイッチ組換え(CSR)とは、抗体クラス(したがって、エフェクター機能)の切り替えを可能にすると同時に、その可変領域によって決定される抗体特異性は維持する、DNA組換えプロセスである。IgEへのクラススイッチ組換えは、IgE定常領域(Cε)遺伝子セグメントによる抗体重鎖定常領域遺伝子セグメントの置換を含む。IgEへのCSRの前に、B細胞は、非生産的なε生殖細胞系列転写物(εGLT)を発現し、これは、Iεエクソンの上流で開始してスイッチ領域(Sε)とそのCεをコードするエクソンとを通って進行する転写の生成物である。このGLTのスプライシングは、イントロンラリアットと、5’CεエクソンへとスプライスされるIεエクソンを標準的には特徴とする成熟ポリアデニル化転写物とを生成する。
【0020】
図1は、IgEへのCSRの前のIgM抗体を発現するB細胞の免疫グロブリン重鎖遺伝子座の機構を示す。明確にするために、IgE CSRに関係する領域のみが、示されている。一次εGLTが転写により生成され、この転写は、Iεエクソンの上流のプロモーターエレメント(
図1における矢印)で開始してCεエクソンを通って進行する。この生成物のスプライシングは、独特な上流スプライスドナーへとスプライスされる5’Cεエクソンからなる、1種または複数種の成熟εGLT(例えば、標準的なIεエクソン(εGLT1))を生じる。そのようなスプライスジャンクションに広がるプライマー対は、εGLTを特異的に増幅し得る。
【0021】
本発明者らは、εGLT発現の評価が、個体におけるアレルギー応答および/またはアレルギー状況を予測するために使用され得ることを発見した。
【0022】
任意の体液サンプルまたは組織サンプルが、本発明における使用のために適切である。好ましくは、B細胞の供給源であるサンプルが、取得される。B細胞を含むサンプルは、例えば、血液、唾液、痰、尿、精液、経膣液(transvaginal fluid)、脳脊髄液、汗、糞便、細胞または組織であり得る。好ましくは、そのサンプルは末梢血である。本発明の方法は、そのサンプルからB細胞を濃縮または単離する工程をさらに含み得る。B細胞を単離または濃縮する方法は公知であり、例えば、Crooteら「Human IgE producing B cells have a unique transcriptional program and generate high affinity,allergen-specific antibodies」、bioRxiv327866;doi:https://doi.org/10.1101/327866(2018)およびCrooteら「High-affinity allergen-specific human antibodies cloned from single IgE B cell transcriptomes」、Science、362、1306~1309(2018)(これらの各々は参照によって本明細書中に援用される)において提供されている。特定の方法およびシステムにおいて、B細胞は、細胞選別フローサイトメトリーを使用して、例えば、蛍光活性化細胞選別法を介して、単離または濃縮される。特定の局面において、そのB細胞は、特定のB細胞アイソタイプまたは特定のB細胞サブセットについて濃縮される。
【0023】
特定の局面において、そのB細胞は、そのRNAを放出するように溶解され得る。放出後、そのRNAは、例えば、RNA単離キット(例えば、Qiagen(Valencia、CA)によって商標名RNeasyとして販売されているRNA単離キット)で、単離され得る。単離されたRNAは、分析のためのcDNAを生成するために使用され得る。あるいは、そのRNAは、専用の単離工程を行うことなく、cDNAの生成において直接使用され得る。cDNAの生成は、当該分野において公知である種々の方法を使用して行われ得る。そのcDNAは、さらなる分析のためのcDNAライブラリーを作製するために使用され得る。
【0024】
本発明の方法は、そのサンプルにおけるそのRNA種を同定する工程およびそのサンプルにおけるRNAの量を測定する工程をさらに含む。そのような方法は、当該分野において公知であり、そのような方法は、シングルセルRNA-SeqもしくはバルクRNA-Seq、RT-qPCR、直接的RNA配列決定、またはインサイチュハイブリダイゼーションを介して発現レベルを定量する、1種あるいは複数種の方法を含み得る。RNAを同定するための他の技術としては、免疫細胞染色、免疫蛍光、フローサイトメトリー、および配列決定が挙げられる。シングルセルRNA検出法(例えば、RNASeq)が本発明の状況において有用であるが、必要ではない。その理由は、本発明は、バルク細胞測定において、より低コストで、より複雑度が低く、より高スループットという利点を有するからである。
【0025】
特定の方法は、cDNAの生成を含む。cDNAの生成は、種々の方法を使用して行われ得る。例えば、cDNAは逆転写酵素を使用して生成され得、逆転写酵素は、RNA分子中の情報を使用してcDNA分子を生成する能力を有する。逆転写酵素は、RNA依存性DNAポリメラーゼである。すべてのDNAポリメラーゼと同様に、逆転写酵素は、新規合成を開始し得ないが、プライマーの存在に依存する。多くのRNAはその3’末端にポリAテールを有するので、DNA合成を開始するためにオリゴdTが頻繁に使用される。ランダムプライマーまたは特定のRNAを増幅するために設計されたプライマーのいずれかを使用することによってcDNAを生成することもまた、可能である。いったん、第1鎖のcDNAが生成されると、一般的には第2鎖のDNAを生成することが必要である。その第2鎖を生成するための多くの方法が存在することを、当業者は認識する。ある1種の機構は、RNアーゼHとDNAポリメラーゼとの組合せへのそのDNA/RNAハイブリッドの曝露を含む。RNアーゼHはそのRNA中に一本鎖ニックを引き起こす能力を有し、その後、DNAポリメラーゼがこれらの一本鎖ニックを使用して「第2鎖」DNA合成を開始し得る。この二工程手順は、cDNAの忠実度および長さを最大にするように最適化されてきた。第2鎖合成の後、そのcDNAはPCRによって増幅され得る。
【0026】
ビオチン化捕捉ベイトまたはビオチン化捕捉プローブが、目的とする特定のcDNA分子の標的化濃縮のために使用され得る。そのビオチン化捕捉プローブは、RNA、DNA、またはRNAヌクレオチドとDNAヌクレオチドとのハイブリッドを含み得る。ビオチン化RNA捕捉プローブがこのcDNAライブラリーに添加され得、そのビオチン化RNA捕捉プローブがその標的cDNA分子にWatson-Crick塩基対形成に基づいてハイブリダイズするのに十分な温度でそのために十分な時間インキュベートされ得る。例えば、cDNAとプローブとを含む混合物が、65℃で24時間インキュベートされ得る。ハイブリダイゼーションの後、その標的cDNA分子とハイブリダイズされているビオチン化RNA捕捉プローブが、ストレプトアビジンまたは抗体を使用して、捕捉され分離され得る。その後、その標的cDNA分子はPCRによって増幅され得る。
【0027】
ライブラリー調製が、使用される配列決定機器の要件とcDNAが適合するようにcDNAを改変するために使用される。ライゲーションまたは他の反応(例えば、タグメンテーション)の間に、完全なアダプターまたは部分的なアダプターがそのcDNAに組み込まれ得る。好ましくは、それらのアダプターは、配列決定プラットフォームによって認識される配列(例えば、Illumina P5/P7(フローセル結合配列)を含み得る。それらのアダプターはまた、そのcDNAライブラリーを増幅するためのPCRプライマー結合部位を含み得る。一部の実施形態において、それらのアダプターはさらに、バーコード配列を含み得る。それらのバーコード配列は、プールされた配列決定実行(run)における各ライブラリーに独特なタグまたは識別子を与えるために使用され得る。
【0028】
配列決定は、配列決定ライブラリー内の分子の核酸配列を決定するために使用される。使用され得る配列決定技術の例は、Illumina配列決定である。Illumina配列決定は、合成による配列決定に基づく。固体表面にあるDNAが、フォールドバックPCR(fold-back PCR)および係留されたプライマーを使用して増幅される。その後、4種の蛍光標識された可逆的停止ヌクレオチド(reversibly terminating nucleotide)が、逐次的な配列決定を実施するために使用される。ヌクレオチド組込みの後、そのフルオロフォアを励起させるためにレーザーが使用され、画像が取得され、その塩基の正体が記録される。この技術にしたがう配列決定は、米国特許出願公開第2011/0009278号、米国特許出願公開第2007/0114362号、米国特許出願公開第2006/0024681号、米国特許出願公開第2006/0292611号、米国特許第7,960,120号、米国特許第7,835,871号、米国特許第7,232,656号、米国特許第7,598,035号、米国特許第6,306,597号、米国特許第6,210,891号、米国特許第6,828,100号、米国特許第6,833,246号、および米国特許第6,911,345号(各々が参照によって援用される)に記載されている。配列決定としては、シングルセル配列決定法(例えば、シングルセルRNA配列決定(scRNA-Seq)法であり、これにより、細胞は溶解およびcDNA合成の前に分割して単離され得る)が挙げられ得る。
【0029】
配列決定後に、そのサンプル中のRNA種は、例えば、得られた配列読取りを参照と整列することによって同定され得る。そのRNA種がεGLTを含む場合、整列は、GRCh38ヒトゲノムに対してであり得、好ましくはスプライス認識整列(splice-aware alignment)ソフトウェア(例えば、STAR(A Dobinら「STAR:ultrafast universal RNA-seq aligner」、Bioinformatics、29、15~21(2013))(これは参照によって本明細書中に援用される)を使用する。サンプルにおける1種または複数種の独特なεGLTを同定することが、5’IgE定常領域エクソンと、IεエクソンまたはSε内の位置のいずれかとに広がるスプライスジャンクションの存在を同定することによって達成されることを、本発明者らは発見した。
【0030】
特定の局面において、サンプルにおける特定のRNA種の量は、配列決定を使用して測定される。例えば、相対的発現が、スプライスジャンクションへマッピングする正規化された遺伝子カウントまたは配列決定読取りに基づいて計算され得る。さらに、そのRNA種に由来するcDNAは、それらの相対的発現レベルを確認するためにバーコードおよび/または独特な識別子で標識され得る。
【0031】
特定の局面において、そのRNA種(例えば、εGLT)はRT-qPCRによって同定および/または測定される。特定の局面において、そのRT-qPCRは一工程RT-qPCRまたは二工程RT-qPCRである。
【0032】
本発明の方法は、アレルギー応答を予測する工程をさらに含む。例えば、方法は、アレルギー応答を経験することに対する対象の素因を予測する工程、アレルギーの発症に対する対象の素因を予測する工程、対象のアレルギー状況を予測する工程、対象のアレルギー反応重篤度を予測する工程、および/あるいは特定の治療介入により対象がアレルギー応答の軽減または除去を経験する可能性を予測する工程を、含み得る。
【0033】
方法は、そのサンプルにおける1種または複数種のRNA種の発現が特定の閾値を超えるかまたはその閾値を下回るかを決定する工程を含み得る。その閾値は、既知のアレルギーを有する患者のRNA発現分析に基づき得る。既知のアレルギーを有する個体は、同定され測定されるその個体のB細胞に由来する免疫グロブリンE(IgE)定常領域(Cε)の少なくとも一部をコードする核酸配列を含むRNA種を有し得る。そのRNA種の発現レベルは、既知のアレルギー状態を有しない個体と比較され得、かつ/または抗原への曝露の前および後の同じ患者と比較され得る。これらの比較における差に基づいて、1種または複数種の独特なRNA種(例えば、εGLT)の発現パターンは、アレルギー状況または特定のアレルギー状態と関連付けられ得る。これらの発現パターンを使用して、閾値が設定され得、検査される対象におけるアレルギー反応を予測するためにその閾値が使用され得る。
【0034】
特定の局面において、複数の閾値が使用され得る。例えば、種々のRNA種間の閾値または単一のRNA種内の閾値。それらの閾値は、例えば、患者がアレルギー反応を経験する可能性があるかまたは可能性がないことだけではなく、特定の信頼値(confidence value)もまた伴って決定するために使用され得る。
【0035】
本発明の方法はまた、対象における潜在的なアレルギー反応の重篤度を決定する工程を含み得る。特定の局面において、閾値が、対象におけるアレルギー応答の潜在的な重篤度および型を確認するために設定され得る。同様に、本発明の方法はまた、特定の治療介入が特定のアレルギー状態を改善または除去する可能性を決定するために使用され得る。
【0036】
本発明は抗体ベースのハイブリダイゼーション技術の使用を必要としないので、本発明は詳細な結果を提供し得る。アレルギーを発症する傾向が予測され得るだけではなく、特定の局面において、アレルギー状態を引き起こす可能性がある特定のアレルゲン(例えば、タンパク質またはタンパク質エピトープ)もまた予測され得る。特定の局面において、サンプルにおいて見出される抗体可変領域を含むRNA種が、特定のアレルゲンまたはエピトープに対する反応性を予測するために、既知の特異性を有する可変領域の抗体データベースと比較される。本発明は遺伝的情報を使用するので、本発明は、抗体を使用するハイブリダイゼーションアッセイに固有の不確実性によっては影響を受けない。
【0037】
同様に、本開示のシステムおよび方法はアレルゲン抽出物の使用も抗体の使用も必要としないので、本開示のシステムおよび方法は、広範で多様な群の予測される抗原反応性について同時に検査するために使用され得る。例えば、本開示のシステムおよび方法は、食物アレルゲン、植物アレルゲン、真菌アレルゲン、動物アレルゲン、チリダニアレルゲン、薬物アレルゲン、化粧品アレルゲン、またはラテックスアレルゲンが挙げられ得るがそれらに限定はされない特定のアレルゲンによって引き起こされるアレルギー反応を、予測し得る。
一部の食物(例えば、ピーナッツ(豆果)、堅果、魚介類および貝類・甲殻類(shellfish))は、多くの人々における重篤なアレルギーの原因である。公式に、アメリカ食品医薬品局は、感受性のある集団の大部分におけるアレルギー反応について8種の食物が一般的であると認識している。これらとしては、ピーナッツ、木の実、卵、乳、貝類・甲殻類、魚類、コムギおよびその誘導体、ならびにダイズおよびその誘導体、ならびに亜硫酸塩(化学物質ベースであり、しばしば食物中の香料および着色料において見出される)が挙げられる。したがって、本開示のシステムおよび方法は、特定の食物または食物において見出されるアレルゲンによって引き起こされる対象におけるアレルギー応答を予測するために使用され得る。
【0038】
アレルギー反応は、そのアレルゲンとの任意の形態の直接接触-感受性がある食物もしくは飲料を消費すること(摂取)、花粉もしくは香水もしくはペットのふけを吸うこと(吸入)、またはアレルギーを引き起こす植物で身体の一部を擦ること(直接接触)-によって、引き起こされ得る。本開示のシステムおよび方法は、アレルゲンまたはアレルゲン供給源の摂取、吸入および/もしくは接触に起因する対象におけるアレルギー応答を予測するために使用され得る。したがって、本開示の発明は、従来の接触ベースのアレルギー検査法(これは、反応のリスクを有し、摂取または吸入によって対象が曝露されるすべてのアレルゲンに利用可能はない可能性がある)に対する明らかな改善を提供する。
【0039】
特定の実施形態において、本開示の方法およびシステムは、対象の発現分析結果を、既知のアレルギーを有する個体に由来する発現プロファイルおよび発現パターンのデータベースと比較することを含み得る。そのデータベースは、定期的にアップデートされ得る。特定の局面において、対象のRNA種発現データは、そのデータベースがアップデートされた場合に再分析され得る。したがって、新規アレルギー応答予測が、その対象が追加サンプルを提供することを必要とすることなく行われ得る。同様に、そのデータベース中の患者に関する追加情報(例えば、臨床転帰、病歴、遺伝情報/エピジェネティックス情報、併存疾患、処置に対する反応など)が、処置の決定を知らせるために使用され得る、より総合的な予測を提供するための検査を受ける対象と比較され得る。
【0040】
(参照による援用)
他の文献(例えば、特許、特許出願、特許公開、雑誌、書籍、論文、ウェブコンテンツ)の参照および引用が、本開示の全体にわたって行われた。すべてのそのような文献は、すべての目的のためにその全体が参照によって本明細書により本明細書中に援用される。
【0041】
(均等物)
本明細書において示され記載されたものに加えて、本発明およびその多くのさらなる実施形態の種々の改変が、本明細書の全内容(本明細書中に引用される科学文献および特許文献の参照を含む)から当業者に明らかになる。本明細書中の主題は、本発明の種々の実施形態およびその均等物において本発明の実施に適合され得る重要な情報、例証および指針を含む。
【国際調査報告】