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特表2024-509972四級化トリメチルアミンを用いて医療機器の表面をグラフティングする方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】四級化トリメチルアミンを用いて医療機器の表面をグラフティングする方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 33/06 20060101AFI20240227BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20240227BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20240227BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20240227BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A61L33/06 300
A61L31/10
A61L29/08 100
A61L29/06
A61L31/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555723
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 KR2022003363
(87)【国際公開番号】W WO2022191637
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0031883
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0029513
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.TEFLON
3.ケブラー
(71)【出願人】
【識別番号】523346146
【氏名又は名称】ヴァスラー インターフェイス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,ド ヨン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ジョン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ス ギョン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC06
4C081AC08
4C081BA02
4C081CA212
4C081CC03
4C081DC04
4C081DC05
4C081EA05
(57)【要約】
本発明は四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)を用いて医療機器の表面をグラフティングする方法に関する。四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)でグラフティングを実施したカテーテルで血栓生成が減少した。したがって、四級化トリメチルアミンでグラフティングを実施したカテーテルは血栓生成を抑制し、血液吸着及び血液細胞吸着の抑制機能が向上する効果がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応溶媒、触媒、開始剤、イソシアネート基を有する化合物及び基材を混合して撹拌することによって基材の表面を改質する段階と、
表面が改質された基材に還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、
トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項2】
四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)で改質された基材の表面の水接触角は60°以下であり、フィブリノゲン吸着量が1μg/cm以下である、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項3】
前記触媒は、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、ジエチレントリアミン、ビスマスカルボキシレート及びジルコニウムキレートからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項4】
前記開始剤は、紫外線開始剤、熱開始剤及び酸化還元開始剤からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項5】
前記開始剤は、2,2-ビス(4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパン、トリ(t-ブチルペルオキシ)トリアジン、トリ(t-ブチルペルオキシ)トリメリテート、ポリエーテルポリ-t-ブチルペルオキシカーボネート、t-ブチルペルオキシメチルフマレート及びt-ブチルペルオキシエチルフマレートからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項6】
前記イソシアネート基を有する化合物は、2-イソシアナートエチルメタクリレート(2-isocyanatoethyl methacrylate;IEM)、2-イソシアナートエチルアクリレート(2-Isocyanatoethyl acrylate;ICEA)、イソホロンジイソシアネート(isophorone diisocyanate)及びヘキサメチレンジイソシアネート(hexamethylene diisocyanate)からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項7】
前記基材は、金属、セラミック、ガラス、合成高分子重合体、生体組職、織造纎維、不織布纎維、半金属、またはシリコン材質のうちのいずれか1種である、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項8】
前記トリメチルアミン系化合物は、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(Dimethylamino propyl methacrylamide)、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(Dimethylamino propyl acrylamide)及びジメチルアミノエチルメタクリレート(Dimethylamino ethyl methacrylate)からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項9】
前記還元剤は、金属塩、硫黄のオキシ酸、アルコール、ヒドロキシ酸、チオール、ケトン、アミンアルデヒド及びアミドからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項10】
前記金属塩は、Fe(II)、Cu(II)、Cr(II)、V(II)、Ti(III)またはAg(I)の塩である、請求項9に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項11】
前記四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)は、四級化ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(quaternized Dimethylamino propyl methacrylamide)、四級化ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(quaternized Dimethylamino propyl acrylamide)及び四級化ジメチルアミノエチルメタクリレート(Dimethylamino ethyl methacrylate)のうちのいずれか1種である、請求項1に記載の基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項12】
基材の表面に水酸基(-OH)を導入する段階と、
水酸基が導入された基材に開始剤、還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、
トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【請求項13】
反応溶媒、開始剤及び基材を混合して撹拌することによって基材の表面を改質する段階と、
表面が改質された基材に還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、
トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は四級化トリメチルアミンを用いて医療機器の表面をグラフティングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液と接触する心血管系を含む既存の多様な分野の医療機器の場合、感染及び血栓形成を抑制するために、抗菌性及び抗血栓性を有する物質をコーティングする技術が開発されて来たが、表面コーティングの低い安全性、コーティング工程の難しさ、体内の毒性誘発などの問題点が提起されてきたし、現在までも完全に解決することができていない状況である。よって、抗血栓性とともに抗菌性を有するとともに汎用性が高い高分子化合物及びこれを用いた化学添加用組成物の開発の必要性が非常に高い状況である。
【0003】
一般的に、タンパク質吸着現象は血液と接触する医療用素材の表面で自発的に発生する。その結果として、血液内の細胞及び多様な成分は既にタンパク質に吸着された医療用素材の表面に遅く分散されて付着される。タンパク質吸着は、医療用素材の機能を落とすだけでなく、血栓形成及び炎症のような副作用を引き起こす。また、タンパク質吸着は、患者の健康状態を確認するために挿入された医療機器センサーの敏感度を落として診断効率を落とすこともある。したがって、研究開発の観点で、体内に挿入される血液接触型医療機器の場合、体内挿入によって起こる一次的な現象であるタンパク質吸着を抑制する戦略が非常に効果的であると言える。
【0004】
一般的に、血栓は血液内のタンパク質及び血小板の吸着によって発生することになる。血栓が形成されれば、血液循環が円滑でなくてさまざまな人体内の疾患を引き起こす。特に、医療機器によって発生する深部静脈血栓症(Upper Deep Vein Thrombosis)は即刻の治療を要する非常に危険な疾患である。血栓の形成によって血流感染が発生することもある。病院内感染のうち尿路感染の次に一番頻繁に現れる感染事例が血流感染である。この血流感染は、一般的に血液接触医療器のうちカテーテルでよく発生し、全体病院内の感染事例の約30%以上を占める。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような血栓形成及び血栓による感染まで、タンパク質吸着によって発生する様々な疾患などを予防するために不必要な社会的費用、患者の費用が必要となる。このような理由で、タンパク質吸着及び血栓形成、バイオフィルム形成抑制機能性の医療機器が必要である。
【0006】
医療機器のうち、血液接触医療機器では一般的に二つの問題点が必ず発生する。一番目はタンパク質吸着による血栓形成であり、二番目は血栓形成による血流感染である。このような副作用を解決するために、医療機器の表面を改質して血液適合性向上、タンパク質吸着抑制、血栓形成抑制を向上させる技術を適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)を用いてグラフトフロム法を実施した結果、優れた血液吸着抑制機能、血液細胞吸着抑制機能を有し、内径10gaugeから20gaugeまでの小さい内径を有する血液接触医療機器に別途の溶質及び溶媒の循環装置なしに体内挿入医療機器に使用することができることを確認した。
【0008】
本発明の目的は、反応溶媒、触媒、開始剤、イソシアネート基を有する化合物及び基材を混合して撹拌することによって基材の表面を改質する段階と、表面が改質された基材に還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、基材の表面に水酸基(-OH)を導入する段階と、水酸基が導入された基材に開始剤、還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、反応溶媒、開始剤及び基材を混合して撹拌することによって基材の表面を改質する段階と、表面が改質された基材に還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法を提供することである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は四級化トリメチルアミンを用いて医療機器の表面をグラフティングする方法に関する。四級化トリメチルアミンでグラフティングを実施したカテーテルは、血栓生成を抑制し、血液吸着及び血液細胞吸着の抑制機能が向上する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施例によるグラフト重合体層を含む体内挿入用医療機器の概略図である。
【0013】
図2】実施例1による体内挿入用医療機器のグラフティング法を示す概略図である。
【0014】
図3】実施例2による体内挿入用医療機器のグラフティング法を示す概略図である。
【0015】
図4】実施例3による体内挿入用医療機器のグラフティング法を示す概略図である。
【0016】
図5】実施例4による体内挿入用医療機器のグラフティング法を示す概略図である。
【0017】
図6】一実施例及び対照群による基材の表面の赤外線分光分析(FT-IR)結果を示すグラフである。
【0018】
図7】比較例による基材の表面のH-NMR分析結果を示すグラフである。
【0019】
図8】一実施例、比較例及び対照群のグラフト重合層が形成された表面の接触角を測定した図である。
【0020】
図9】一実施例、比較例及び対照群のフィブリノゲン吸着量を観察したイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明を詳細に説明する。
【0022】
基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法
【0023】
前記目的を達成するための一様態として、本発明は、反応溶媒、触媒、開始剤、イソシアネート基を有する化合物及び基材を混合して撹拌することによって基材の表面を改質する段階と、表面が改質された基材に還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法を提供する。
【0024】
図1は一実施例によって製造されたグラフト重合体層を含む体内挿入用医療機器100の概略図である。
【0025】
図1を参照すると、前記体内挿入用医療機器100は、体内挿入用基材110及びグラフト重合体層120を含み、前記グラフト重合体層120は四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)のグラフト共重合体によって形成することができる。
【0026】
本発明において、四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)によって改質された基材の表面の水接触角は60°以下であり、フィブリノゲン吸着量は1μg/cm以下であり得る。具体的には、水接触角は20°以上50°以下、20°以上40°以下、20°以上30°以下であり得、フィブリノゲン吸着量は0.03μg/cm以上0.5μg/cm以下、0.03μg/cm以上0.3μg/cm以下、0.03μg/cm以上0.1μg/cm以下、0.03μg/cm以上0.05μg/cm以下であり得るが、これに限定されるものではない。
【0027】
図2及び図3は一実施例による体内挿入用医療機器のグラフティング法を示す図である。
【0028】
詳細には、図2及び図3はポリウレタンを使用したグラフティング法を示す図である。
【0029】
図2及び図3を参照すると、まずポリウレタン110、開始剤、アクリル酸2-イソシアナートエチル(2-Isocyanatoethyl acrylate;ICEA)及びジラウリン酸ジブチルすず(図2)/ビスマス触媒(図3)を反応溶媒に入れて反応させることで第1表面段階を実施する。
【0030】
前記第1表面改質段階を実施するのに伴い、ポリウレタン110が反応溶媒によって膨潤し、膨潤したポリウレタン110の内部に開始剤が浸透するようになる。
【0031】
また、ポリウレタン110の-NH基とアクリル酸2-イソシアナートエチル(2-Isocyanatoethyl acrylate;ICEA)基とが反応してポリウレタン110の表面に-C=C基を形成することになる。ここで、前記アクリル酸2-イソシアナートエチル(2-Isocyanatoethyl acrylate;ICEA)の-NCO基はポリウレタン110の表面の-NHと結合することになり、-NCO基はポリウレタン110と化学的結合を形成する。
【0032】
次の段階(第2段階)として、表面が改質されたポリウレタン110に鉄(II)グルコネート(グルコン酸鉄)及びトリメチルアミン系化合物を追加してポリウレタン110の表面にトリメチルアミン重合体層を形成するために第2表面改質段階を実施する。
【0033】
詳細には、第2表面改質段階を実施することにより、ポリウレタン110の内部に浸透した開始剤が還元剤によって開始されてラジカルが形成され、前記形成されたラジカルとトリメチルアミン系化合物とが重合反応することにより、トリメチルアミン重合体層が形成される。
【0034】
すなわち、トリメチルアミン重合体層はポリウレタン110の内部から形成されたラジカルと重合反応することにより、ポリウレタン110と強い物理的結合が形成される。
【0035】
最後の段階(第3段階)として、トリメチルアミン重合体層が形成されたポリウレタン110に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)を添加して混合してトリメチルアミン系化合物と過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)とを反応させることによってポリウレタン110の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層120を形成するために第3表面改質段階を実施する。
【0036】
下記反応式1は図2及び図3の第3表面改質段階の化学反応メカニズムを示すものであり、ポリウレタン110の表面に形成されたトリメチルアミン系化合物であるジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(Dimethylamino propyl methacrylamide)及びジメチルアミノプロピルアクリルアミド(Dimethylamino propyl acrylamide)の3次窒素部分と過酸化水素(H)またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid;MCPBA)が反応して酸化することによって四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する。
【0037】
【化1】
【0038】
(前記反応式1で、Rは水素(H)またはメチル基(CH)である。)
【0039】
一方、第1表面改質段階によってポリウレタン110の表面に形成されたC=C基と前記トリメチルアミン系化合物とが重合反応してトリメチルアミン重合体層を形成する。ここで、前記C=C基と前記トリメチルアミン重合体層との間に化学的結合を形成する。
【0040】
すなわち、トリメチルアミン重合体層はポリウレタン110の内部から強い物理的結合を形成し、ポリウレタン110の表面と化学的結合を形成するものであり、高分子ブラシ状のトリメチルアミン重合体層が形成される。
【0041】
本発明において、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法は、1段階として、反応溶媒、触媒、開始剤、イソシアネート基を有する化合物及び基材を混合して撹拌する段階を含む。
【0042】
本発明において、前記反応溶媒は、蒸留水、トルエン、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン(Acetone)、エチルアセテート(EtOAc)、アセトンニトリル(ACN)、ヘキサン(Hexane)、ヘプタン(Heptane)、及びイソプロピルアルコール(Isopropylalcohol)からなる群から選択され得る。
【0043】
本発明において、前記触媒は、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、ジエチレントリアミン、ビスマスカルボキシレート及びジルコニウムキレートからなる群から選択され得る。
【0044】
本発明において、前記開始剤(initiator)は酸化剤または還元剤と会ってラジカルを形成することができる。よって、本開始剤と酸化剤または還元剤とが会ってラジカルを形成することによってラジカル重合反応(radical polymerization)を引き起こすことができる。ここで、開始剤は過酸化物開始剤であり得る。前記ラジカル重合反応は自由ラジカルの連続的な添加によって高分子を形成する重合方法であり、前記ラジカルは一般的に別途の開始剤分子によって多様な機序を介して形成され得る。一旦、反応が開始されると、形成されたラジカルは二重結合を含む高分子単量体からパイ結合電子一つを用いて安定した単一結合を形成し、前記二重結合は単一結合に転換されながら、ラジカルと結合しなかった他の炭素に余分の電子を含む新しいラジカルを形成する。前記形成された新しいラジカルによって前述した過程を繰り返して高分子鎖を成長させることができる。前記開始剤は化学的吸着によって基材の表面に導入することができ、開始剤は、基材の表面と化学的に反応して基材と開始剤との間に化学的結合を形成する反応性基を含むことができる。
【0045】
本発明において、また前記開始剤は物理的吸着によって基材の表面内及び/または基材の表面上に導入することができる。前記開始剤は溶媒または溶媒の組合物に溶解する。開始剤を含む溶媒または溶媒組合物内に基材が所定の時間漬かるようにすることで、開始剤が物理的に吸着され得る。
【0046】
本発明において、前記開始剤は、紫外線開始剤、熱開始剤及び酸化還元開始剤からなる群から選択され得る。
【0047】
具体的には、紫外線開始剤は、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、3’-ヒドロキシアセトフェノン、4’-エトキシアセトフェノン、4’-ヒドロキシアセトフェノン、4’-フェノキシアセトフェノン、4’-tert-ブチル-2’,6’-ジメチルアセトフェノン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド/2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾイン、4,4’-ジメチルベンジル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾイン、2-メチルベンゾフェノン、3,4-ジメチルベンゾフェノン、3-ヒドロキシベンゾフェノン、3-メチルベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ビス[2-(1-プロフェニル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ベンゾイルビフェニル、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸2無水物、ベンゾフェノン、メチルベンゾイルホルメート、ミヒラーケトン(Michler’s ketone)、スルホニウム、イオジウム、2-(4-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、ジフェニルヨードニウムp-トルエンスルホネート、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシミドパーフルオロ-1-ブタンスルホネート、N-ヒドロキシナフタルイミドトリフラート、2-tert-ブチルアントラキノン、9,10-フェナンドレンキノン、アントラキノン-2-スルホン酸ナトリウム塩1水和物、カンファーキノン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、10-メチルフェノチアジン、チオキサントン、及びIRGACURE 2959を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
また、熱開始剤は、tert-アミルペルオキシベンゾエート、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス[(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,3,-ジメチルボレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル、2,2-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチル-3-ヘキシン、ビス(1-(tert-ブチルペルオキシ)-1-メチルエチル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、tert-ブチルハイドロペルオキサイド、tert-ブチルパーアセテート、tert-過酸化ブチル、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、クメンハイドロペルオキサイド、過酸化シクロヘキサノン、過酸化ジクミル、過酸化ラウロイル、過酸化2,4-ペンタンジオン、過酢酸、過硫酸カリウムを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
また、酸化還元開始剤は基材の表面から重合を開始させるのに用いられるものである。酸化還元開始剤は、典型的に一対の開始剤、すなわち酸化剤及び還元剤を含む。酸化還元開始は、穏やかな条件で自由ラジカルを効率的に発生するために1-電子移動反応として見なされる。適切な酸化剤としては、過酸化物、ハイドロペルオキサイド、過硫酸塩、ペルオキシカーボネート、ペルオキシジサルフェート、ペルオキシジホスフェート、過マンガン酸塩、金属、例えば、Mn(III)、Ce(IV)、V(V)、Co(III)、Cr(VI)及びFe(III)の塩を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
そして、適切な還元剤としては、金属塩、例えば、Fe(II)、Cr(II)、V(II)、Ti(III)、Cu(II)及びAg(I)塩、及び硫黄のオキシ酸、ヒドロキシ酸、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、アミン及びアミドを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。例えば、いくつかの実施形態において、還元剤は、鉄(II)塩、例えば、鉄(II)L-アスコルベート、硫酸第1鉄、鉄(II)アセテート、鉄(II)アセチルアセトネート、鉄(II)エチレンジアンモニウムサルフェート、鉄(II)グルコネート、鉄(II)ラクテート、鉄(II)オキサレートまたは鉄(II)サルフェートである。
【0051】
本発明において、前記開始剤は、2,2-ビス(4,4-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパン、トリ(t-ブチルペルオキシ)トリアジン、トリ(t-ブチルペルオキシ)トリメリテート、ポリエーテルポリ-t-ブチルペルオキシカーボネート、t-ブチルペルオキシメチルフマレート及びt-ブチルペルオキシエチルフマレートからなる群から選択され得る。本発明の実施例では、開始剤として、ポリエーテルポリ-t-ブチルペルオキシカーボネート(製品名:JWEB50)を使用した。
【0052】
本発明において、前記イソシアネート基を有する化合物は、2-イソシアナートエチルメタクリレート(2-isocyanatoethyl methacrylate;IEM)、2-イソシアナートエチルアクリレート(2-Isocyanatoethyl acrylate;ICEA)、イソホロンジイソシアネート(isophorone diisocyanate)及びヘキサメチレンジイソシアネート(hexamethylene diisocyanate)からなる群から選択され得る。本発明の一実施例では、イソシアネート基を有する化合物として、2-イソシアナートエチルメタクリレート(2-isocyanatoethyl methacrylate;IEM)及び2-イソシアナートエチルメタクリレート(2-isocyanatoethyl methacrylate;ICEA)を使用した。
【0053】
本発明において、前記基材の表面にイソシアネート基を有する化合物が-NCO基を介して化学的に結合する。
【0054】
本発明において、基材の表面にトリメチルアミン系化合物をグラフティングする方法は、2段階として、表面が改質された基材に還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させる段階を含む。
【0055】
本発明において、前記トリメチルアミン系化合物は、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(Dimethylamino propyl methacrylamide)、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(Dimethylamino propyl acrylamide)及びジメチルアミノエチルメタクリレート(Dimethylamino ethyl methacrylate)からなる群から選択されるいずれか1種以上のものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0056】
本発明において、前記1段階で基材の表面に結合した開始剤と2段階で追加される還元剤及びトリメチルアミン系化合物を用いてポリウレタンなどの基材の表面にトリメチルアミン系化合物をグラフティングさせる。
【0057】
本発明において、前記還元剤は、金属塩、硫黄のオキシ酸、アルコール、ヒドロキシ酸、チオール、ケトン、アミンアルデヒド及びアミドからなる群から選択され得る。
【0058】
本発明において、前記金属塩は、Fe(II)、Cu(II)、Cr(II)、V(II)、Ti(III)またはAg(I)の塩であり得る。本発明の一実施例では、還元剤として金属塩、具体的にはグルコン酸鉄(FERROUS GLUCONATE)を使用した。
【0059】
本発明において、基材の表面に四級化トリメチルアミンをグラフティングする方法は、3段階として、過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)とトリメチルアミン系化合物とを反応させる段階を含む。四級化トリメチルアミンが形成される反応は前記反応式1で説明したので、以下では省略する。
【0060】
本発明において、前記四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)は、四級化ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(quaternized Dimethylamino propyl methacrylamide)、四級化ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(quaternized Dimethylamino propyl acrylamide)及び四級化ジメチルアミノエチルメタクリレート(Dimethylamino ethyl methacrylate)のうちのいずれか1種であり得る。
【0061】
本発明において、本発明のグラフティングによって形成される高分子膜は、医療器の表面下の数ナノメートルから形成されることにより、超音波処理のような強い刺激にも損傷されないことが特徴である。前記高分子でグラフティングした体内挿入用医療機器においても、タンパク質及び/または細胞の付着性が減少するので、タンパク質吸着による血栓形成、血栓形成による感染の危険が著しく低くなることができる。グラフティング法の他に、表面改質方法のうちコーティング法は、剥離現象が発生しやすくて人体循環器医療器の表面改質方法としては安全性が確保されないので適切ではない。よって、外部はもちろんのこと、人体内の刺激によっても剥離現象が発生しない表面改質方法が必要である。また、小さい内径を有する血液接触医療器では、溶質、溶媒の内径内停滞による閉塞現象が発生するから、医療器として円滑な機能を果たしにくい。これを解決するために、前記四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングで造成して体内挿入用医療機器に適用したところ、安全性及び有効性の両者を満たすことが本発明の特徴である。
【0062】
本発明の用語「体内挿入用医療機器」は手短に「医療機器」とも言い、血液接触医療器で発生する血栓形成、及び高感染危険性医療機器でバクテリアバイオフィルムによる感染が頻繁に発生する医療器具であり、手術機器、医療機器または歯科用機器、人工呼吸装置、薬物伝達装置、スカホルド、バルブ、ペースメーカー、ステント、カテーテル、ロッド、インプラント、骨折固定装置、ポンプ、チューブ、配線、電極、内視鏡、特に生体組職と接触することになるその他の機器を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
本発明において、前記医療機器の基材は、金属、セラミック、ガラス、合成高分子重合体、生体組職、織造纎維、不織布纎維、半金属、またはシリコン材質を有するものであり得る。
【0064】
本発明において、前記セラミックは、遷移金属元素または準金属元素の酸化物、炭化物またはチッ化物からなる群から選択されるものであり得る。
【0065】
本発明において、前記金属は、チタン及びその合金、ステンレススチール、タンタル、パラジウム、ジルコニウム、ニオビオム、モリブデン、ニッケル-クロム、コバルトまたはその合金及びその組合せからなる群から選択されるものであり得る。
【0066】
本発明において、また前記基材は、ポリウレタン、ポリグアニジン、ポリメタクリレート、ポリスチレン、置換ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリシロキサン、ポリアミン、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリアジン、ポリアクリロニトリル、ポリアンハイドライド、ポリアルケン、ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオレフィン、ポリウレア、ポリイミド、ポリ(カーボネート)、ポリケタール、ポリ(ケトン)、ポリホスファゼン、ポリフルオロカーボン、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、テフロン(Teflon)、PTFE、天然及び合成弾性重合体、多糖類、ハロゲン化重合体、シリコン、アルデヒド架橋結合樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ラテックス、ケブラー、ノーメックス、ダクロン、ナイロンまたはこれらの共重合体または配合物を含むものであり得る。
【0067】
本発明において、前記医療機器は、血管挿入型カテーテル、例えば末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC)、中心静脈カテーテル(CVC)、または血液透析カテーテル、胃瘻管、静脈バルブ、涙点栓、案内装置及びインプラントであり得る。また、前記医療機器の基材は、医療等級のポリウレタンから形成されたあるいは医療等級のポリウレタンでコーティングされた物質から形成された血管挿入型カテーテルであり得る。
【0068】
水酸基を導入した基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法
【0069】
前記目的を達成するための一様態として、本発明は、基材の表面に水酸基(-OH)を導入する段階と、水酸基が導入された基材に開始剤、還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法を提供する。
【0070】
図4は一実施例による体内挿入用医療機器のグラフティング法を示す図である。
【0071】
詳細には、図4はポリウレタンを使用したグラフティング法を示す図である。
【0072】
図4を参照すると、まずポリウレタン110、過硫酸カリウム(KPS)、及び蒸留水を混合して反応させることによってポリウレタン110の表面に水酸基(-OH)を改質する第1表面改質段階を実施する。
【0073】
次の段階(第2段階)として、前記第1表面改質段階を経た後、水酸基が導入されたポリウレタン110に還元剤である鉄(II)グルコネート(グルコン酸鉄)、開始剤である硝酸セリウムアンモニウム(ceric ammonium nitrate)及びトリメチルアミン系化合物を追加してポリウレタン110の表面にトリメチルアミン重合体層を形成するために第2表面改質段階を実施する。
【0074】
トリメチルアミン重合体層が形成されたポリウレタン110に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)を添加して混合することで、トリメチルアミン系化合物と過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)とが反応することによってポリウレタン110の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層120を形成するために、第3表面改質段階を実施する。
【0075】
詳細には、第1表面改質段階を実施することで、ポリウレタン110の表面に水酸基(-OH)を導入して表面を改質する。
【0076】
そして、第2表面改質段階を実施することにより、ポリウレタン110の内部に開始剤が浸透し、浸透した開始剤が還元剤によって開始されてラジカルが形成され、前記形成されたラジカルとトリメチルアミン系化合物とが重合反応してトリメチルアミン重合体層が形成される。
【0077】
すなわち、トリメチルアミン重合体層はポリウレタン110の内部から形成されたラジカルと重合反応することによって前記ポリウレタンと強い物理的結合が形成される。
【0078】
一方、第1表面改質段階によってポリウレタン110の表面に形成された水酸基(-OH基)と前記トリメチルアミン系化合物とが重合反応してトリメチルアミン重合体層を形成する。ここで、前記水酸基(-OH基)と前記トリメチルアミン系化合物との間に化学的結合を形成する。
【0079】
すなわち、トリメチルアミン重合体層はポリウレタン110の内部から強い物理的結合を形成し、ポリウレタン110の表面と化学的結合を形成することにより、高分子ブラシ状のトリメチルアミン重合体層が形成される。
【0080】
本発明による水酸基を導入した基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法は、イソシアネート基を有する化合物を添加しなくても水酸基で基材の表面を改質した後、還元剤及び開始剤を添加することによってトリメチルアミン系化合物と反応してトリメチルアミン重合体層を形成するようになり、トリメチルアミンが過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)と反応することによって四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)が基材の表面にグラフトされる。
【0081】
前記本発明についての内容は、前述した具体的な内容と矛盾しない限り、そのまま適用可能である。
【0082】
イソシアネート基が導入されなかった基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法
【0083】
前記目的を達成するための一様態として、本発明は、反応溶媒、開始剤及び基材を混合して撹拌することによって基材の表面を改質する段階と、表面が改質された基材に還元剤及びトリメチルアミン系化合物をさらに混合して反応させることによって基材の表面にトリメチルアミン重合体層を形成する段階と、トリメチルアミン重合体層が形成された基材に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)をさらに混合して反応させることによって基材の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層を形成する段階と、を含む、基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法を提供する。
【0084】
図5は一実施例による体内挿入用医療機器のグラフティング法を示す図である。
【0085】
詳細には、図5はシリコン110を使用したグラフティング法を示す図である。
【0086】
図5を参照すると、まずシリコン110、溶媒、及び開始剤を混合して反応させる第1表面改質段階を実施する。
【0087】
次の段階(第2段階)として、前記第1表面改質段階を経た後、シリコン110に還元剤である鉄(II)グルコネート(グルコン酸鉄)及びトリメチルアミン系化合物を追加してシリコン110の表面にトリメチルアミン重合体層を形成するために、第2表面改質段階を実施する。
【0088】
最後の段階(第3段階)として、トリメチルアミン重合体層が形成されたシリコン110に過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)を添加して混合することによってトリメチルアミン系化合物と過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)とが反応することにより、シリコン110の表面に四級化トリメチルアミングラフト重合体層120を形成するために、第3表面改質段階を実施する。
【0089】
詳細には、表面改質段階を実施することにより、シリコン110の内部に浸透した開始剤が還元剤によって開始されてラジカルが形成され、前記形成されたラジカルとトリメチルアミン系化合物とが重合反応してトリメチルアミン重合体層を形成する。
【0090】
イソシアネート基が導入されなかった基材の表面に四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)をグラフティングする方法は、イソシアネート基を有する化合物を添加しなくても基材の表面が開始剤と反応して改質された後、還元剤及びトリメチルアミン系化合物を添加して反応させることによってトリメチルアミン重合体層を形成するようになり、トリメチルアミンが過酸化水素またはメタクロロ過安息香酸(meta-Chloroperoxybenzoic acid)と反応することにより、四級化トリメチルアミン(quaternized trimethylamine)が基材の表面にグラフトされる。
【0091】
前記本発明についての内容は、前述した具体的な内容と矛盾しない限り、そのまま適用可能である。
発明の実施のための形態
【0092】
以下、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施することができるように、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。しかし、本発明は様々な相異なる形態に具現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0093】
<実験例1>ポリウレタンチューブ(カテーテル)及びシリコンチューブ(カテーテル)準備
【0094】
実施例1.グラフティングの実施によって表面処理されたポリウレタンチューブ(カテーテル)製造
【0095】
外径7FR、長さ15cmのポリウレタンチューブ(カテーテル)、アセトニトリル(Acetonitrile)、5重量%イソシアネートエチルアクリレート(Isocyanatoethyl acrylate;ICEA)、0.03Mジラウリン酸ジブチルすず(DBTBL、Dibutyltin dilaurate)及び1重量%ポリエーテルポリ-t-ブチルペルオキシカーボネート(polyether poly-t-butylperoxy carbonate:JWEB50)を混合し、40℃で2時間撹拌した。
【0096】
その後、前処理されたポリウレタンチューブ(カテーテル)、5mMグルコン酸鉄(FERROUS GLUCONATE)及び10%ジメチルプロピルメタクリルアミド(Dimethylamino propyl methacrylamide:DMAPMA)を10時間の間に蒸留水で40℃で反応させることで、ポリウレタンチューブ(カテーテル)にジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(Dimethylamino propyl methacrylamide)をグラフティングした。
【0097】
その後、200mL過酸化水素(30%)溶液にジメチルアミノプロピルメタクリルアミドがグラフティングされたポリウレタンチューブ(カテーテル)を沈澱した後、40℃で反応させることにより、最終的に四級化ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(quaternized Dimethylamino propyl methacrylamide)で表面改質されたポリウレタンチューブ(カテーテル)を収得した(図2参照)。
【0098】
実施例2.グラフティングの実施によって表面処理されたポリウレタンチューブ(カテーテル)製造
【0099】
外径7FR、長さ15cmのポリウレタンチューブ(カテーテル)、0.05重量%ビスマスカルボキシレート触媒、5重量%イソシアネートエチルアクリレート(Isocyanatoethyl acrylate;ICEA)及び1重量%ポリエーテルポリ-t-ブチルペルオキシカーボネート(polyether poly-t-butylperoxy carbonate:JWEB50)をトルエンの下で混合し、40℃で2時間撹拌した後、ポリウレタンチューブ(カテーテル)を乾燥させた。
【0100】
その後、前記乾燥したポリウレタンチューブ(カテーテル)、5mMグルコン酸鉄(FERROUS GLUCONATE)及びジメチルアミノプロピルアクリルアミド(Dimethylamino propyl acrylamide:DMAPA)0.3molを蒸留水で5時間の間に40℃で反応させることで、ポリウレタンチューブ(カテーテル)にジメチルアミノプロピルアクリルアミドをグラフティングした。
【0101】
その後、200mL過酸化水素(30%)溶液にジメチルアミノプロピルアクリルアミドがグラフティングされたポリウレタンチューブ(カテーテル)を沈澱した後、40℃で反応させることにより、最終的に四級化ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(quaternized Dimethylamino propyl acrylamide)で表面改質されたポリウレタンチューブ(カテーテル)を収得した(図3参照)。
【0102】
実施例3.グラフティングの実施によって表面処理されたポリウレタンチューブ(カテーテル)製造
【0103】
外径7FR、長さ15cmのポリウレタンチューブ(カテーテル)を10%過硫酸カリウム(POTASSIUM PERSULFATE)溶液(蒸留水:50mL、過硫酸カリウム:0.5g)に投入した後、4時間の間に80℃で反応させてポリウレタンチューブ(カテーテル)の表面に水酸基(-OH基)を導入した。
【0104】
水酸基で表面が改質されたポリウレタンチューブ(カテーテル)を蒸留水で洗浄し、40℃で乾燥した。その後、乾燥したポリウレタンチューブ(カテーテル)を蒸留水に入れて一晩(Overnight)反応させた。
【0105】
反応されたポリウレタンチューブ(カテーテル)を1重量%ポリエーテルポリ-t-ブチルペルオキシカーボネート(polyether poly-t-butylperoxy carbonate:JWEB50)を含有するエタノール溶液に浸漬した後、2時間反応させた。
【0106】
反応されたポリウレタンチューブ(カテーテル)、50mL蒸留水及び5%ジメチルエチルメタクリレート(Dimethylamino ethyl methacrylate;DMAEMA)を含む溶液、0.05g硝酸セリウムアンモニウム(ceric ammonium nitrate)、0.126g硝酸(nitric acid)及び5mMグルコン酸鉄(FERROUS GLUCONATE)を混合し、5時間反応させることで、ポリウレタンチューブ(カテーテル)にジメチルアミノエチルメタクリレートをグラフティングした。
【0107】
その後、200mL過酸化水素(30%)溶液にジメチルアミノエチルメタクリレートがグラフティングされたポリウレタンチューブ(カテーテル)を沈澱した後、40℃で反応させることにより、最終的に四級化ジメチルアミノエチルメタクリレート(quaternized Dimethylamino ethyl methacrylate)で表面改質されたポリウレタンチューブ(カテーテル)を収得した(図4参照)。
【0108】
実施例4.グラフティングの実施によって表面処理されたシリコンチューブ(カテーテル)製造
【0109】
シリコンチューブ(カテーテル)と1重量%ポリエーテルポリ-t-ブチルペルオキシカーボネート(polyether poly-t-butylperoxy carbonate:JWEB50)をトルエンの下で混合し、40℃で2時間撹拌した後、シリコンチューブ(カテーテル)を乾燥させた。
【0110】
その後、前記乾燥したシリコンチューブ(カテーテル)、50mL蒸留水及び5%ジメチルエチルメタクリレート(Dimethylamino ethyl methacrylate;DMAEMA)を含む溶液、及び5mMグルコン酸鉄(FERROUS GLUCONATE)を混合し、5時間反応させることで、シリコンチューブ(カテーテル)にジメチルアミノエチルメタクリレートをグラフティングした。
【0111】
その後、200mL過酸化水素(30%)溶液にジメチルアミノエチルメタクリレートがグラフティングされたシリコンチューブ(カテーテル)を沈澱した後、40℃で反応させることにより、最終的に四級化ジメチルアミノエチルメタクリレート(quaternized Dimethylamino ethyl methacrylate)で表面改質されたシリコンチューブ(カテーテル)を収得した(図5参照)。
【0112】
比較例1.グラフティングの実施によって表面処理されたポリウレタンチューブ(カテーテル)製造
【0113】
ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(Dimethylamino propyl acrylamide:DMAPA)50g(0.294mol)をアイスバースで撹拌した後、30%過酸化水素48.8gを徐々に30分間滴下して反応させた。その後、常温で24時間反応させた。ポリウレタンチューブ(カテーテル)と1重量%ポリエーテルポリ-t-ブチルペルオキシカーボネート(polyether poly-t-butylperoxy carbonate:JWEB50)をエタノールの下で撹拌した後、ポリウレタンチューブ(カテーテル)を乾燥させた。その後、酸化した四級化ジメチルアミノプロピルアクリルアミド0.3molを含む溶液に5mMグルコン酸鉄(FERROUS GLUCONATE)と一緒に反応させることで、ポリウレタンチューブ(カテーテル)に酸化した四級化ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(N-oxide)をグラフティングした。
【0114】
<実験例2>血栓観察及び等級測定
【0115】
1)ビーグル犬に対するポリウレタンチューブ(カテーテル)挿入及び血栓生成評価
【0116】
ビーグル犬の頸静脈(jugular vein)手術部位全体を除毛した後、ポビドン消毒及びアルコール消毒を実施した後、ドレープ(drapes)で覆った。ビーグル犬の甲状軟骨(thyroid cartilage)を基準に左側の外側頸静脈を下方に約15cm露出させた。甲状軟骨に平行な頸静脈を始点として実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を下方に10±1cm挿入した。挿入されなかった実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)の末端部位を周辺頸部組職にテープ処理して動けないように固定させた。4.0±0.5時間維持してから痲酔した後、イソフルラン(Isoflurane)5%濃度以上の深痲酔の下で実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)が挿入されている部位を含む10±1cmの頸静脈を摘出した。ゾレチル(Zoletil)2.5mg/kg及びキシラジン(Xylazine)1mg/kgを筋肉注射でさらに痲酔した後、多量のKClを静脈注射して安楽死させた。
【0117】
摘出された血管の一側面を長く切って血管の内部を全体的に広げ、固定ピンで固定した。写真撮影を実施し、血栓生成有無に対してスコアリング評価し、精密電子天秤で血栓の重さを測定した。
【0118】
2)血栓生成評価結果
【0119】
ビーグル犬の頸静脈を露出させ、実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を3時間、1日、7日、14日、21日、30日間適用することで、血管の内部及び実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)の周辺部位に血栓形成有無を確認し、血栓の重さ測定及び生成程度をスコアリング評価した。
【0120】
【表1】
【0121】
<実験例3>血液凝固及び血小板検査
【0122】
実験実施の前、実験個体の橈側皮静脈(cephalic vein)から血液を採取し、3.2%クエン酸ナトリウムチューブ(Sod. Citrate tube)に入れ、血液凝固に関連したPT(Prothrombin time)、aPTT(Activated partial thromboplastin time)検査を実施した。クエン酸ナトリウム(Sodium citrate)と血液を1:9の比で抗凝固した全血を血液凝固分析器(Coag Dx、IDEXX、USA)で測定した。また、EDTAチューブ(EDTA tube)で血液を採取し、自動血球分析器(ADVIA 2120i、SIEMENS Healthineers、USA)によって血小板(Platelet)検査を実施した。
【0123】
*ビーグル犬の血液正常範囲:PT=11~17(sec)/aPTT=72~102(sec)/Platelet=143.3~400(×10/μl)
【0124】
表2は、ビーグル犬に対して前記実験例2に記載した方法によって実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を適用する前と比較して、挿入して3時間後、1日後、7日後、14日後、21日後、30日後に血小板(Platelet)、PT、aPTTを測定した結果である。
【0125】
前記実験例2に記載した方法によって実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を適用したビーグル犬に対して、実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を挿入する前、血小板(platelet)の値は218(×10/μl)から始めて、挿入して3時間後、1日後、7日後、14日後、21日後、30日後にはそれぞれ201、197、161、163、181、166に変化した。PT値は17(sec)を基準点に挿入して3時間後、1日後、7日後、14日後、21日後、30日後にはそれぞれ17、15、14、17、14、14に変化した。またaPTT値は82(sec)で挿入して3時間後、1日後、7日後、14日後、21日後、30日後にはそれぞれ95、94、94、89、86、83に変化した。実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を適用したビーグル犬に対して、血小板(Platelet)、PT、aPTTのすべての検査値は正常範囲に含まれたことを確認した。
【0126】
【表2】
【0127】
(前記表2で、Preは実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)の挿入前を意味し、Post ODは実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)の挿入後を意味する。以下の表3及び4でも同じ意味として使用される。)
【0128】
<実験例4>ビーグル犬の体重測定
【0129】
前記実験例2に記載した方法によって実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を適用した後、ビーグル犬の体重を測定した。表3はビーグル犬に対して実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を適用する前と比較して、挿入して3時間後、1日後、7日後、14日後、21日後、30日後に体重を比較した結果である。
【0130】
【表3】
【0131】
その結果、実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)の適用前及び適用後に体重変化はほとんどなかったことを確認した。
【0132】
<実験例5>血液炎症測定
【0133】
前記実験例2に記載した方法によって実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を適用する前及び後、ビーグル犬の血液炎症程度を比較するために、白血球(White blood cell;WBC)数、C-反応性タンパク質(C-reactive protein;CRP)濃度、赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate;ESR)を測定した。表4はビーグル犬に対して実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)を適用する前と比較して、挿入して3時間後、1日後、7日後、14日後、21日後、30日後にWBC数、CRP濃度、ESRを比較した結果である。
【0134】
その結果、実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)の適用初期(3時間後、1日後)に一時的にWBC数が増加したが、時間が経つにつれて減少した。また、CRP濃度も実施例1のポリウレタンチューブ(カテーテル)の適用初期(3時間後、1日後)に増加したが、時間が経つにつれて減少した。ESRも適用14日後及び30日後に増加したが、残りは適用前と同一であった。
【0135】
【表4】
【0136】
<実験例6>赤外線分光分析(FT-IR)及びH-NMR分析
【0137】
ポリウレタンチューブに開始剤及びイソシアネートエチルアクリレート(Isocyanatoethyl acrylate;ICEA)を入れ、赤外線分光分析を実施した結果を図6に示した。
【0138】
図6を参照すると、実施例2で、ポリウレタンチューブ(カテーテル)の表面の-NHとICEAの-NCO基が結合し、これによりC=C二重結合が形成されたことを確認することができる。よって、ポリウレタン110の表面に形成されたC=C基とトリメチルアミンとが重合反応してグラフト重合体を形成することができるというのを予め予測することができた。
【0139】
一方、実施例1~4の場合、基材にトリメチルアミン系化合物をグラフティングした後は、過酸化水素と反応させて四級化トリメチルアミンが形成された形態をH-NMRで測定することができないから、基材の表面にグラフティングする前に四級化トリメチルアミンが形成されたかを比較例1で間接的に確認しようとした。
【0140】
このために、比較例1で、基材の表面にグラフト重合体層を形成する前、トリメチルアミンが過酸化水素と反応して四級化トリメチルアミンが形成されるかをH-NMR分析で確認した。
【0141】
図7を参照すると、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(Dimethylamino propyl acrylamide;DMAPA)が過酸化水素と反応して四級化ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(quaternized Dimethylamino propyl acrylamide)が形成されたことをH-NMR分析で確認することができた。
【0142】
<実験例7>グラフトチューブの表面特性分析(water contact angle)
【0143】
ポリウレタンチューブの表面に水分子が付く水和現象が発生すると、ポリウレタンチューブの表面に水和層を形成して血漿タンパク質、血清、血液細胞、血小板などの吸着を抑制し、バクテリアのバイオフィルム形成を抑制するようになる。よって、1次的に水和現象の尺度を確認する水接触角テストを実施した。
【0144】
具体的には、針が付いたシリンジに蒸留水(DW)を約0.2mL程度注入し、接触角測定装備に固定させた。表面処理しなかったポリウレタンロッド(対照群)、表面処理されたポリウレタンロッド(実施例2及び3)及びシリコンロッド(実施例4)を装備に固定した後、シリンジを垂直に置いた。フォーカス(Focus)を合わせ、ベースライン(Base line)を合わせた後、1回の実験時に必要な量である0.75μlを入力して実験を実施した。水滴がサンプルに触れれば、針を上げた後、接触角を測定した。
【0145】
図8は、一実施例、比較例及び対照群のグラフト重合層が形成された表面の接触角を測定したものであり、表5はその結果をまとめて示したものである。
【0146】
図8及び表5を参照すると、対照群(表面処理しなかったポリウレタンチューブ)の接触角は78.50°であり、比較例1のポリウレタンチューブ(対照群)の接触角は53.81°であり、グラフト重合体層を形成した実施例2~実施例4の表面接触角はそれぞれ23.18°、27.78°及び23.18°であることから、接触角が小さいことを確認することができた。
【0147】
これは、前記ポリウレタンチューブ及びシリコンチューブの表面にグラフト重合体層が形成されることによって前記ポリウレタンチューブ及びシリコンチューブの表面が親水性に改質され、これにより接触角が小さくなることを意味する。
【0148】
【表5】
【0149】
<実験例8>グラフトチューブのタンパク質吸着抵抗性効果-フィブリノゲン(Fibrinogen)吸着実験
【0150】
グラフトチューブは実施例2~4のサンプルを使用し、表面処理しなかったポリウレタンチューブ(対照群)及び酸化によって先に四級化ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(Dimethylamino propyl acrylamide)を形成した後、これをグラフティングしたポリウレタンチューブ(比較例1)を一緒に使用した。前記試料は同様な方法でタンパク質吸着実験を実施した。
【0151】
前記試料を1cm×1cmのサイズの6片に切って試料を準備した。準備した試料を24ウェル(well)プレートの各ウェルに加えた。PBS 1mLを入れ、2時間水和(Hydration)した。
【0152】
各ウェルでPBS溶液を吸引(Suction)して除去した後、フィブリノゲン溶液(Fibrinogen solution)(0.1mg/mlのフィブリノゲン(Fibrinogen、Sigma-Aldrich社製))を1mlずつ加え、常温で10分間維持した。
【0153】
その後、フィブリノゲン溶液を除去し、試料をPBS溶液で4~5回繰り返し洗浄した。各ウェルに1mlの2重量%ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate:SDS)溶液を加え、室温で約100rpmの速度で約2時間撹拌した。UV検出器を使用して562nmの波長で反応物の吸光度を測定し、測定された吸光度からタンパク質を定量し、その結果を表6に示した。
【0154】
表6を参照すると、グラフト重合体層が形成された実施例2のポリウレタンロッドは0.0431μg/cmであり、実施例3のポリウレタンロッドは0.0459μg/cmであり、実施例4のシリコンロッドは0.04989μg/cmであるが、対照群は0.1734μg/cmであり、比較例1は0.1358μg/cmの結果値を得た。
【0155】
すなわち、対照群及び比較例1に比べて、実施例2及び3のポリウレタンロッド及び実施例4のシリコンロッドでフィブリノゲンの吸着量がおよそ67~75%程度減少したことを確認した。
【0156】
【表6】
【0157】
また、図9は、一実施例、比較例及び対照群のフィブリノゲン吸着量を観察したイメージである。図9を参照すると、比較例1及び対照群の場合、ポリウレタンの表面にフィブリノゲンが吸着されることを確認することができる。これに対して、グラフト重合体層が形成された実施例2及び3のポリウレタン及び実施例4のシリコンの場合、比較例1及び対照群に比べて観察されたフィブリノゲンの量が格段に減ったことを確認することができる。
【0158】
以上本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、次の請求範囲で定義している本発明の基本概念を用いた当業者の様々な変形及び改良の形態も本発明の権利範囲に属するものである。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】