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特表2024-509976抗原をMHC-II経路にターゲティングし、宿主におけるCD8+及びCD4+T細胞による防御免疫を誘導するレンチウイルスベクター
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】抗原をMHC-II経路にターゲティングし、宿主におけるCD8+及びCD4+T細胞による防御免疫を誘導するレンチウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20240227BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/30 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/44 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 39/04 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 39/145 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240227BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/31
C12N15/30
C12N15/33
C12N15/44
C12N15/50
C12N7/01
C12N5/10
A61K39/04
A61K39/145
A61K39/215
A61K39/39
A61K35/76
A61P31/06
A61P31/16
A61P31/14
A61P37/04
C12N9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555798
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 EP2022056390
(87)【国際公開番号】W WO2022189656
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】21305317.6
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508029653
【氏名又は名称】アンスティテュ・パストゥール
(71)【出願人】
【識別番号】510031453
【氏名又は名称】テラヴェクティス
【氏名又は名称原語表記】THERAVECTYS
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・シャルノー
(72)【発明者】
【氏名】ラレー・マジレッシ
(72)【発明者】
【氏名】ジョディ・ロペス
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・アンナ
(72)【発明者】
【氏名】カトリーヌ・ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ファニー・モンコック
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C085AA03
4C085BA09
4C085BA55
4C085BA71
4C085CC32
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF13
4C085FF14
4C085FF17
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB33
4C087ZB35
(57)【要約】
融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えレンチウイルスベクターゲノムであって、前記融合ポリペプチドが、N末端からC末端の配置で、(i) MHC-II会合軽インバリアント鎖(li)、又は(ii))トランスフェリン受容体(TfR)の膜貫通ドメインを含む第1のポリペプチド、及び病原体の少なくとも1種の抗原性ポリペプチドを含む、組換えレンチウイルスベクターゲノム。本発明は、レンチウイルスベクター及びそれを含む医薬組成物にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えレンチウイルスベクターゲノムであって、前記融合ポリペプチドが、N末端からC末端の配置で、
- (i)好ましくは配列番号11のMHC-II会合軽インバリアント鎖(li)、又は(ii)好ましくは配列番号13のトランスフェリン受容体(TfR)の膜貫通ドメインを含む第1のポリペプチド、及び
- 病原体の少なくとも1種の抗原性ポリペプチド
を含む、組換えレンチウイルスベクターゲノム。
【請求項2】
前記抗原性ポリペプチドが、ある病原体の1種の抗原若しくはその免疫原性断片を含む単一抗原性ポリペプチドである、又は1つ若しくは複数の病原体の少なくとも2種の抗原を含む多抗原性ポリペプチド若しくはその免疫原性断片である、請求項1に記載の組換えレンチウイルスベクターゲノム。
【請求項3】
病原体が、細菌病原体、寄生生物病原体又はウイルス病原体、特に、哺乳動物における急性又は慢性呼吸器感染性疾患に関連する病原体であり、より詳細には、結核菌、インフルエンザウイルス又はSARS-CoV-2等のコロナウイルスである、請求項1又は2に記載の組換えレンチウイルスベクターゲノム。
【請求項4】
前記抗原性ポリペプチドが、EsxA、EspC、EsxH、PE19又はAg85Aから選択される1つ又は複数の結核菌(Mtb)抗原又はその免疫原性断片、特に、以下のMtb抗原の組合せ:
(a) EsxH;
(b) EsxH及びEsxA;
(c) EsxH、EsxA及びPE19;
(d) EsxH、EsxA、EspC及びPE19;
(e) EsxH、EsxA、EspC、PE19及びAg85A;
のうちの1つ、又はその免疫原性断片
を含む、請求項3に記載の組換えレンチウイルスベクターゲノム。
【請求項5】
前記ゲノムが、pFLAPベクタープラスミド、特に配列番号20のヌクレオチド配列のベクタープラスミドから得られ、融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、哺乳動物細胞において機能的なプロモーター、特にCMVプロモーター、ヒトベータ2ミクログロブリンプロモーター、配列番号21のSP1-ヒトベータ2ミクログロブリンプロモーター又は配列番号22の複合BCUAGプロモーターの制御下でクローニングされており、ベクターが、任意選択により、ウッドチャック肝炎ウイルスの転写後調節エレメント(WPRE)、特に配列番号23に記載の変異体WPREを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組換えレンチウイルスベクターゲノム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の組換えレンチウイルスベクターゲノムを含むDNAプラスミドであって、特に、前記ゲノムがpFLAPベクタープラスミド、好ましくは配列番号20のヌクレオチド配列のベクタープラスミド内に挿入され、組換えレンチウイルスベクターゲノム内に含まれるポリヌクレオチドによってコードされる融合ポリペプチドが、制限部位BamHIとXhoIの間に、GFP配列に置き換わって挿入される、DNAプラスミド。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の組換えレンチウイルスベクターゲノムを含む組換えレンチウイルスベクター粒子。
【請求項8】
組換え組込み欠損レンチウイルスベクター粒子であり、特に、HIV-1に基づくベクター粒子であり、レンチウイルスのゲノムにおいてコードされるインテグラーゼ遺伝子の、インテグラーゼが発現しない又は機能的に発現しないような変異の結果としてインテグラーゼが欠損しており、特に、インテグラーゼ遺伝子の変異が、アミノ酸残基64が置換されたインテグラーゼの発現を導き、特に、置換が、PolによってコードされるHIV-1インテグラーゼの触媒ドメインにおけるD64Vである、請求項7に記載の組換えレンチウイルスベクター粒子。
【請求項9】
前記組換えレンチウイルスベクター粒子が、組換え複製インコンピテントシュードタイプ化レンチウイルスベクター粒子、特に、複製インコンピテントシュードタイプ化HIV-1レンチウイルスベクター粒子であり、特に、レンチウイルスベクター粒子が、Indiana血清型又はNew-Jersey血清型の水疱性口内炎ウイルス(V-SVG)由来の糖タンパク質Gでシュードタイプ化されている、請求項7又は8に記載の組換えレンチウイルスベクター粒子。
【請求項10】
請求項6に記載のDNAプラスミドがトランスフェクトされた宿主細胞、好ましくは哺乳動物宿主細胞であって、特に、HEK-293T細胞株又はK562細胞株である、宿主細胞。
【請求項11】
請求項7から9のいずれか一項に記載の組換えレンチウイルスベクター粒子を、それを必要とする宿主、特にヒト宿主への投与に適した1種又は複数種の薬学的に許容される賦形剤と共に含む、哺乳動物宿主への投与に適した医薬組成物、特にワクチン組成物。
【請求項12】
アジュバント、特に、Th1促進性及び/又はTh17促進性アジュバント、例えば、ポリイノシン酸-ポリシチジン酸(ポリI:C)若しくはその誘導体、又は環状ジヌクレオチドアジュバント、特に環状グアニン-アデニンジヌクレオチド(cGAMP)等を更に含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
それを必要とする宿主、特にヒト宿主において抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片を対象とする抗体を惹起することによって防御的、優先的には予防的な免疫応答を惹起することにおける使用のための、請求項11又は12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
免疫応答が、抗原提示細胞、特に樹状細胞による抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片のMHC-I拘束提示及びMHC-II拘束提示の誘導、並びにCD4媒介性及びCD8媒介性細胞性免疫応答の誘導を伴う、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
それを必要とする哺乳動物宿主、特にヒト宿主における病原体による感染症、特に、哺乳動物における急性又は慢性呼吸器感染性疾患に関連する病原体による感染症の予防及び/又は治療における使用のための、請求項11から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
医薬組成物、特にワクチン組成物を調製するために適した組換えレンチウイルスベクター粒子を調製するための方法であって、
a)請求項1から5のいずれか一項に記載の、融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むレンチウイルスベクターゲノムを有する組換えレンチウイルス導入ベクター、又は請求項6に記載のDNAプラスミドを、宿主細胞、例えばHEK-293T細胞株又はK562細胞株にトランスフェクトする工程と、
b)工程a)の細胞に、(i)エンベロープタンパク質をコードするプラスミドベクターと、パッケージング構築物としてレンチウイルスGAG及びPOL又は変異POLタンパク質をコードするプラスミドベクター、及び(ii) VSV-G Indiana又はNew Jerseyエンベロープをコードするプラスミドを同時トランスフェクトする工程と、
c)宿主細胞を、融合ポリペプチドを発現する組換えレンチウイルスベクター粒子の産生に適した条件下で培養する工程と、
d)融合ポリペプチドを発現する組換えレンチウイルス粒子を回収する工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫原をMHC-I経路だけでなくMHC-II経路に向けても経路指定するため、及びCD4+T細胞応答とCD8+T細胞応答の両方を誘導するために活用される新世代のベクターを提供するために設計されたレンチウイルスベクターに関する。
【0002】
特に、本発明は、それを必要とする宿主、特に哺乳動物宿主、特にヒト宿主において免疫学的応答を惹起することに関して興味深いものであることで選択される抗原を発現するそのようなレンチウイルスベクターに関し、ここで免疫学的応答はCD4+T細胞応答を包含する。単一抗原又は複数の抗原と融合したMHC-II経路を対象とする分子を含む融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる、ベクターのレンチウイルス骨格内の挿入物から抗原を発現させることができる。
【0003】
本発明のレンチウイルスベクターは、免疫学的組成物、好ましくはワクチン候補、特に、哺乳動物宿主、特にヒト宿主に適したワクチンの設計における使用のために提供される。
【背景技術】
【0004】
レンチウイルスベクター(LV)は、特に抗原提示細胞(APC)を含めた宿主細胞の核への遺伝子移入に関する優れた潜在性に基づいて最も効率的なワクチンプラットフォームの1つをもたらすものである。そのような遺伝子の核移入により、CD8+T細胞を更に誘発するために、主要組織適合性遺伝子複合体クラス-I (MHC-I)提示機構、すなわち、プロテアソームに容易に接近する抗原の発現が開始される。内因性に産生される抗原をMHC-I経路に向けて経路指定することに関する実質的な能力とは基本的に対照的に、LVを含めたウイルスベクターは、エンドソームMHC-IIコンパートメント(MIIC)に分泌されない抗原の送達に関してはほとんど有効でない又は無効であり、CD4+T細胞を誘発することができない。CD8+T細胞は免疫による感染性疾患又は腫瘍成長の制御に大きく寄与するが、CD4+T細胞が主要な免疫プレーヤーである。CD4+T細胞は、長寿命及びそれら自体の直接エフェクター機能に加えて、自然免疫を調節すること、B細胞応答を調整すること、及びCD8+T細胞のエフェクター機能を支持することによって免疫系を調整する。したがって、CD4+T細胞を誘導するためにLVの潜在性を活用することにより、ワクチン戦略における成功率が最大になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 01/27304
【特許文献2】WO 01/27300
【特許文献3】WO 2006/010834
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jones S.ら、Human Gene Therapy、20:630-640 (June 2009)
【非特許文献2】Cockrell A.S.ら(Mol. Biotechnol.(2007)36:184-204)
【非特許文献3】Ikedia Y.ら(2003) Nature Biotechnol. 21: 569-572
【非特許文献4】Cockrell A;S.ら(2006) Molecular Therapy、14: 276-284
【非特許文献5】Kafri T.ら(1999) Journal of Virol. 73:576-584
【非特許文献6】ZennouらCell, 2000 Cell vol 101
【非特許文献7】Park F.ら、Mol Ther 2001; 4: 164-173
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えレンチウイルスベクターゲノムであって、前記融合ポリペプチドが、N末端からC末端の配置で、
- (i)好ましくは配列番号11のMHC-II会合軽インバリアント鎖(li)、又は(ii)好ましくは配列番号13のトランスフェリン受容体(TfR)の膜貫通ドメインを含む第1のポリペプチド、及び
- 病原体の少なくとも1種の抗原性ポリペプチド
を含む、組換えレンチウイルスベクターゲノムに関する。
【0008】
本発明は、更に、本発明による組換えベクターゲノムを含むDNAプラスミドに関する。
【0009】
本発明は、本発明による組換えレンチウイルスベクターゲノムを含む組換えレンチウイルスベクター又は組換えレンチウイルスベクター粒子にも関する。
【0010】
本発明は、N末端からC末端の配置で、
- (i)好ましくは配列番号11のMHC-II会合軽インバリアント鎖(li)、又は(ii)好ましくは配列番号13のトランスフェリン受容体(TfR)の膜貫通ドメインを含む第1のポリペプチド、及び
- 病原体の少なくとも1種の抗原性ポリペプチド
を含む融合ポリペプチドにも関する。
【0011】
本発明は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにも関する。
【0012】
本発明は、更に、本発明によるDNAプラスミドがトランスフェクトされた宿主細胞、好ましくは哺乳動物宿主細胞、特にヒト宿主細胞であって、特にHEK-293T細胞株又はK562細胞株である、宿主細胞に関する。
【0013】
別の態様では、本発明は、本発明の組換えレンチウイルスベクター、本発明の組換えレンチウイルスベクター粒子、又は本発明の宿主細胞を、それを必要とする宿主、特に哺乳動物宿主、特にヒト宿主への投与に適した1種又は複数種の薬学的に許容される賦形剤と共に含む、哺乳動物宿主、特にヒト宿主への投与に適した医薬組成物、特にワクチン組成物に関する。
【0014】
特に、本発明は、それを必要とする宿主、特に、哺乳動物宿主、特にヒト宿主において、抗原性ポリペプチド若しくはその免疫原性断片に含有されるエピトープを対象とするT細胞応答、並びに/又は細胞性及び/若しくは体液性応答を惹起することによって防御的、優先的には予防的な免疫応答を惹起することにおける使用のための医薬組成物に関する。
【0015】
本発明の別の態様は、医薬組成物、特にワクチン組成物を調製するために適した組換えレンチウイルスベクター粒子を調製するための方法であって、
a)本発明によるレンチウイルスベクターゲノムを有する組換えレンチウイルス導入ベクター、又は本発明によるDNAプラスミドを宿主細胞、例えばHEK-293T細胞株又はK562細胞株にトランスフェクトする工程と、
b)工程a)の細胞に、(i)レンチウイルスGAG及びパッケージング構築物としてPOL又は変異POLタンパク質をコードするプラスミドベクター、並びに(ii) VSV-G Indiana又はNew Jerseyエンベロープをコードするプラスミドを同時トランスフェクトする工程と、
c)宿主細胞を、本発明の融合ポリペプチドを発現する組換えレンチウイルスベクター粒子の産生に適した条件下で培養する工程と、
d)本発明の融合ポリペプチドを発現する組換えレンチウイルス粒子を回収する工程と
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、組換え融合タンパク質をコードするレンチウイルスベクタープラットフォームを設計し、調製した。これは、1種又は数種の抗原をタンパク質ドメインと融合し、それにより、エンドソームを通じて輸送され、したがって、抗原をMHC-II機構に送達する膜結合型タンパク質を生成するものである。本発明者らは、MHC-II経路への送達をもたらすタンパク質ドメイン、特に、MHC-II複合体会合軽インバリアント鎖(li)及びトランスフェリン受容体の膜貫通ドメインを、病原体の抗原と融合した場合、前記抗原を発現する組換えレンチウイルスベクターを使用し、MHC-II分子を発現する抗原提示細胞で抗原がプロセシングされると、MHC-II抗原提示及び強力なCD4+T細胞性免疫応答を惹起することができることを発見した。既存のレンチウイルスプラットフォームのT細胞免疫原性は主にCD8+T細胞性免疫応答に制限されていたので、これは予想外のことであった。
【0017】
MHC-IIによる抗原の提示によってMHC-Iによる抗原の提示に対する有害な影響は示されず、それにより、両方の提示経路が関与する免疫応答を惹起することが可能になることも認められた。
【0018】
したがって、本発明は、1種又は数種の抗原性ドメインとMHC-II経路への送達をもたらすドメインとが融合した多ドメイン組換えタンパク質として発現される融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えレンチウイルスベクターゲノムを開示するものである。
【0019】
融合ポリペプチドは、抗原をもたらす病原体に対する免疫学的応答、特に防御免疫原性応答又は有利には滅菌防御を惹起するための、抗原を有する融合ポリペプチドを発現するレンチウイルスベクター粒子を調製することを可能にするために、レンチウイルス導入ベクターの骨格内に組み換えられるポリヌクレオチドによってコードされる。
【0020】
したがって、一態様では、本発明は、融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えレンチウイルスベクターゲノムであって、前記融合ポリペプチドが、N末端からC末端の配置で、
- (i)好ましくは配列番号11のMHC-II会合軽インバリアント鎖(li)、又は(ii)好ましくは配列番号13のトランスフェリン受容体(TfR)の膜貫通ドメインを含むポリペプチド、及び
- 病原体の少なくとも1種の抗原性ポリペプチド
を含む、組換えレンチウイルスベクターゲノムに関する。
【0021】
一実施形態では、融合ポリペプチドは、病原体の少なくとも1種の抗原性ポリペプチドと融合したMHC-II会合軽インバリアント鎖(li)を含む又はそれからなる。
【0022】
別の実施形態では、融合ポリペプチドは、病原体の少なくとも1種の抗原性ポリペプチドと融合したトランスフェリン受容体(TfR)の膜貫通ドメインを含む又はそれからなる。
【0023】
本発明によると、2つのポリペプチドは、2つのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が互いにインフレームでライゲーションして、融合ポリペプチド又はタンパク質をコードするキメラ遺伝子が創出されている場合、互いに融合している。本発明では、抗原性ポリペプチドのヌクレオチド配列は、一般に、第1のポリペプチドのヌクレオチド配列に対して3'位にライゲーションされる。2つのポリペプチド配列間の融合は、直接的なものであっても間接的なものであってもよい。第1のポリペプチド鎖のC末端と第2のポリペプチド鎖のN末端が共有結合している場合、2つのポリペプチドは直接融合している。ポリペプチドが間接的に融合している、すなわち、2つの融合したポリペプチドの間にリンカー又はスペーサーペプチド又はさらなるポリペプチドが存在することが好ましい。
【0024】
インバリアント鎖は、ヒトMHC-II会合軽インバリアント鎖であることが好ましい。一実施形態では、軽インバリアント鎖は、配列番号11の配列又は配列番号11に対して少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは80%若しくは85%、好ましくは90%若しくは95%、更に好ましくは98%若しくは99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、特にそれからなる。一実施形態では、軽インバリアント鎖は、配列番号11に対して1~10個、特に1~5個、より詳細には1~3個のアミノ酸の変化を有する。本明細書で使用される場合、アミノ酸の変化は、アミノ酸置換、付加又は欠失からなる。アミノ酸置換は保存的アミノ酸置換であることが好ましい。
【0025】
トランスフェリン受容体は、天然には、トランスフェリンの担体タンパク質として作用する。その機能は、トランスフェリン-鉄複合体を受容体媒介性エンドサイトーシスによって内部移行することにより鉄を細胞内に移入することである。本発明では、トランスフェリン受容体は、ヒトトランスフェリン受容体であることが好ましい。
【0026】
したがって、融合ポリペプチドに、ヒトトランスフェリン受容体の膜貫通ドメイン、好ましくはヒトトランスフェリン受容体のアミノ酸1~118を含めることができる。一実施形態では、本発明の融合ポリペプチド内に含まれるトランスフェリン受容体の膜貫通ドメインは、配列番号13の配列又は配列番号13に対して少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは80%若しくは85%、好ましくは90%若しくは95%、更に好ましくは98若しくは99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなる。一実施形態では、トランスフェリン受容体の膜貫通ドメインは、配列番号13に対して1~10個、特に1~5個、より詳細には1~3個のアミノ酸の変化を有する。
【0027】
本発明によると、融合ポリペプチドは、1種又は数種の抗原を有する。
【0028】
ある実施形態では、抗原性ポリペプチドは、ある病原体の1種の抗原又はその免疫原性断片を含む単一抗原性ポリペプチドである。或いは、前記抗原性ポリペプチドは、1種又は複数種の病原体の少なくとも2種の抗原を含む多抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片である。
【0029】
「抗原」又は「抗原性ポリペプチド」は、本明細書では、病原性生物体の野生型若しくはネイティブ抗原、又はそのような野生型若しくはネイティブ抗原の断片、又は、野生型若しくはネイティブ抗原に対して変異した、特に置換されたアミノ酸残基を5%未満含む変異ポリペプチドと定義される。変異は、特に、野生型又はネイティブ抗原のアミノ酸配列の1、2、3又は4アミノ酸残基の点変異である。野生型又はネイティブ抗原の断片は、それが由来するポリペプチドの免疫原性を保持していること、又は本発明のレンチウイルスベクターによって発現された際に改善された免疫原性を示すことが有利であり、また、宿主において発現された際に免疫防御特性を示すことが有利である。抗原の断片は、1種又は数種のエピトープ、特にT細胞エピトープ、より詳細にはCD4+又はCD8+T細胞エピトープを若しくはそれら両方をもたらすために十分なアミノ酸配列を有し、免疫原性、特にそれが由来する抗原性ポリペプチドの防御活性を導く防御特性を保持し、且つ/又は、本発明のレンチウイルスベクターによって発現された際にそのような防御特性を示す。
【0030】
「T細胞エピトープ」という表現は、T細胞によって駆動される適応免疫応答に関与する抗原性決定因子を指す。特に、前記T細胞エピトープは、適切な条件下で宿主に送達されると、T細胞を惹起する。特定の実施形態によると、本発明に従って標的とされる抗原性ポリペプチド及びこれらの抗原性ポリペプチドのポリペプチド誘導体は、CD4+T細胞応答を媒介するエピトープを含み、CD8+T細胞応答を媒介するエピトープも含むことが有利である。
【0031】
本発明において記載され、使用されるポリペプチド及び抗原は、ネイティブなタンパク質に対して少なくとも50%のアミノ酸同一性、特に少なくとも60%、特に少なくとも70%、特に少なくとも80%、より詳細には少なくとも90%又は95%、より詳細には少なくとも99%の同一性を有し得る。
【0032】
特定の実施形態では、融合ポリペプチドは、少なくとも2種、特に少なくとも3種又は少なくとも4種又は少なくとも5種、特に特に2種、3種、4種又は5種の抗原(及び/又は病原体のネイティブな又は野生型の決定された抗原に対する抗原断片若しくは変異抗原)を提供し、したがって、少なくとも2種、少なくとも3種又は少なくとも4種の抗原(及び/又は病原体のネイティブな又は野生型の決定された抗原に対する抗原断片若しくは変異抗原)を包含する。特定の実施形態では、融合ポリペプチドに含有される抗原性ポリペプチドは、最大6種の抗原又はその抗原断片若しくは変異断片の融合物を含む又はそれからなる。本発明者らは、本発明の融合ポリペプチドにより、第1のポリペプチドの後ろに融合した大きな抗原性ポリペプチドの発現を駆動することが可能であることを実証した。一実施形態では、融合ポリペプチドは、少なくとも200アミノ酸、特に少なくとも300アミノ酸、特に少なくとも400アミノ酸、より詳細には少なくとも500又は600アミノ酸を含む。一実施形態では、融合ポリペプチドは、200アミノ酸から1000アミノ酸、特に200アミノ酸から800アミノ酸を含む。一実施形態では、レンチウイルスベクターによって発現される1種又は数種の抗原を含む抗原性ポリペプチドは、少なくとも100アミノ酸、特に少なくとも300アミノ酸、より詳細には少なくとも400又は500アミノ酸を含む。一実施形態では、抗原性ポリペプチドは、100アミノ酸から1000アミノ酸、特に200アミノ酸から600アミノ酸を含む。
【0033】
抗原性ポリペプチドと第1のポリペプチドを、リンカーを介して融合することができる。同様に、数種の抗原又はその免疫原性断片が融合ポリペプチド内に存在する場合、ネオエピトープの形成を回避するために、抗原の配列をリンカー配列によって隔てることができる。特に、4アミノ酸リンカーであるGGGD、NNGG又はNNDD等のペプチドリンカーを使用することができる。適切なリンカーは実施例、特にTable S3 (表3)にも示されている。
【0034】
1つ又は複数の抗原を、例えば、融合ポリペプチドが発現された際に抗原のネイティブな三次構造が保存されるように選択し、融合ポリペプチド内に配置することが好ましい。ネイティブなタンパク質フォールディングが保存されることで、レンチウイルスベクターにより、MHC-II機構に向けた効率的な抗原経路指定を誘導することができる。
【0035】
一実施形態では、病原体は、細菌病原体、寄生生物病原体又はウイルス病原体、特に、哺乳動物に感染する病原体若しくはヒト宿主から選択される、又は腫瘍性抗原若しくはその免疫原性断片、特に哺乳動物腫瘍由来の抗原、特にヒト腫瘍又はその免疫原性断片である。一実施形態では、融合ポリペプチドは、少なくとも2種の抗原又はその免疫原性断片を含み、少なくとも2種の抗原又はその免疫原性断片は、別個の病原体由来の抗原又はその免疫原性断片から選択される。一実施形態では、病原体は、急性又は慢性呼吸器感染性疾患に関連するものであり、特に、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(Mtb)、インフルエンザウイルス、特にA型、B型若しくはC型インフルエンザウイルス、特にH1N1、H2N2若しくはH3N2インフルエンザウイルス、又はコロナウイルス、特にSARS-CoV-2から選択することができる。
【0036】
特に、抗原性ポリペプチドは、1つ又は複数の結核菌(Mtb)抗原を含み得、結核菌(Mtb)抗原は、特に、EsxA (UniProtKB-P9WNK7)、EspC (UniProtKB-P9WJD7)、EsxH (UniProtKB-P9WNK3)、PE19(UniProtKB-Q79FK4)、又はAg85A (UniProtKB-P9WQP3)、又はその免疫原性断片、特に、最初のメチオニンを欠く断片から選択される。EsxHの免疫原性断片は、配列番号15のMHCエピトープ及び/又は配列番号16のMHCエピトープを含むことが好ましい。EsxAの免疫原性断片は、配列番号17のMHCエピトープを含むことが好ましい。PE19の免疫原性断片は、配列番号18のMHCエピトープを含むことが好ましい。Ag85Aの免疫原性断片は、配列番号19のMHCエピトープを含むことが好ましい。一実施形態では、抗原性ポリペプチドは、以下のMtb抗原の組合せ:
(a) EsxH;
(b) EsxH及びEsxA;
(c) EsxH、EsxA及びPE19;
(d) EsxH、EsxA、EspC及びPE19;
(e) EsxH、EsxA、EspC、PE19及びAg85A;
のうちの1つ又はその免疫原性断片、特に、本明細書で言及されるMHCエピトープを包含する免疫原性断片の組合せを含み得る。
【0037】
一実施形態では、抗原性ポリペプチドを含有する抗原性ポリペプチド及び/又は融合ポリペプチドは、オボアルブミン又はその免疫原性断片の配列を含まない。
【0038】
一実施形態では、融合ポリペプチドは、配列番号24に記載の配列を有し、ここで、抗原性ポリペプチドの配列を別の目的の抗原性ポリペプチドで置き換えることができる。
【0039】
本発明は、本明細書で定義される融合ポリペプチドにも関する。
【0040】
本発明は、更に、本明細書において定義される融合ポリペプチドをコードする核酸分子に関する。核酸は、DNA、特にcDNAであってもよく、RNA、特に安定化されたRNAであってもよい。RNA配列は、DNA配列から、チミン(T)核酸塩基をウラシル(U)核酸塩基で置き換えて推定できる。RNAポリヌクレオチドは、DNA又はcDNAの転写によって得たものであってもよく、合成されたものであってもよい。
【0041】
核酸分子は、抗原を含む融合ポリペプチドの転写又は発現のための制御ヌクレオチド配列を更に含み得る。核酸分子はまた、プラスミド又はベクターゲノム(移入プラスミド)、特にレンチウイルスベクターゲノム等の別個のポリヌクレオチドと作動可能にライゲーションされるように改変することもできる。核酸分子はまた、特に、例えばRNAとして使用するために、より安定になるように改変することができる。さらなる実施形態では、核酸は、哺乳動物細胞、それぞれヒト細胞における発現のために哺乳動物に対してコドン最適化された配列、特にヒトに対してコドン最適化された配列である。
【0042】
本発明は、宿主における免疫応答を惹起するために選択された抗原を有する融合ポリペプチドをコードする核酸分子を用いて組み換えられたプラスミドベクターにも関する。
【0043】
ある実施形態では、プラスミドベクターは、導入ベクター、特に、本発明のレンチウイルスベクターのゲノムを提供するために適したレンチウイルス導入ベクターである。レンチウイルスベクターは、宿主においてin vivoで発現されると、それらの融合ポリペプチド内の選択された抗原性ポリペプチドを発現する。
【0044】
特定の実施形態では、導入ベクターのゲノムを含有する核酸分子を、病原体の選択された抗原をコードするポリヌクレオチドを用いて組み換えられたレンチウイルス骨格ベクターを含むプラスミドとして提供し、それにより、前記ベクターゲノムを宿主への投与に使用されるレンチウイルスベクター粒子に入れて供給した際に融合ポリペプチドとして発現される。
【0045】
更に、核酸分子は、転写を制御するため及び/若しくは発現を制御するための配列を含有し得、且つ/又は、別個の核酸とライゲーションするため、例えば、プラスミド若しくはベクターゲノムとライゲーションするための配列を含有し得る。したがって、核酸は、制限部位の1つ又は複数の配列、コザック配列、プロモーター又は本明細書に開示され、実施例に例示される他の配列を含有し得る。
【0046】
「ベクター」という表現は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをそのようなベクターが投与される宿主の細胞に送達するために適した生物学的又は化学的実体に関する。ベクターは当技術分野で周知であり、例えば、ヒトに感染するレンチウイルス等、本明細書に記載のウイルスベクターであってよい。本発明は、特に、HIVベクター、特に、実施例に例示されているHIV-1ベクターの使用に関する。HIV-1ベクターの構築に関する詳細は、当技術分野で公知であり、また、実施例で提供されている。
【0047】
本発明によると、抗原性ポリペプチドを発現するレンチウイルスベクターが提供され、ここで、ベクターは、それらのゲノム(ベクターゲノム)内に、本発明による融合ポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドを有する又は含み、前記融合ポリペプチドは、少なくとも1種の抗原性ポリペプチド、特に病原体の少なくとも1種の抗原性ポリペプチドを含む。
【0048】
本発明のレンチウイルスベクター、特に、好ましいHIV-1に基づくベクターは、複製インコンピテントシュードタイプ化レンチウイルスベクター、特に複製インコンピテントシュードタイプ化HIV-1レンチウイルスベクターであってよく、ここで、前記ベクターは、哺乳動物に対してコドン最適化された合成核酸、特にヒトに対してコドン最適化された合成核酸を含むゲノムを含有し、前記合成核酸は、抗原性ポリペプチド、特に、哺乳動物、特にヒト宿主に感染する、決定された病原体の抗原性ポリペプチドを含む本発明による融合ポリペプチドをコードする。レンチウイルスベクターは、Indiana又はof New-Jersey血清型の水疱性口内炎ウイルス(Vesicular Stomatitis Virus)(V-SVG)由来の糖タンパク質Gを用いてシュードタイプ化されていてよい。
【0049】
ベクター粒子のゲノムにコドン最適化された配列を使用することにより、特に、ベクターが投与された宿主の細胞において、特に、mRNA安定性を改善すること又は二次構造を減少させることにより、抗原性ポリペプチドを強力に発現させることが可能になる。更に、発現された抗原性ポリペプチドは、宿主の細胞における抗原性ポリペプチドのプロセシングに適した翻訳後修飾、特に、コードされるポリペプチド内の翻訳修飾部位(例えば、グリコシル化部位等)が修飾されることによる翻訳後修飾を受ける。GeneArt(Life technologies社-USA)及びDNA2.0(Menlo Park社、California-USA)から入手可能なもの等のアルゴリズム及びサービスを含めたコドン最適化されたツールが当技術分野で周知である。特定の実施形態では、抗原性ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)配列に対してコドン最適化を行い、最適化は、ORFをコードする配列をベクターゲノムの調製のために意図されたプラスミドに導入する前に行う。別の実施形態では、ベクターゲノムの追加的な配列もコドン最適化する。
【0050】
ウイルスベクターからなる活性成分は、組込み型シュードタイプ化レンチウイルスベクター、特に、複製インコンピテント組込み型シュードタイプ化レンチウイルスベクター、特に、HIV-1ベクターであり得る。そのようなレンチウイルスベクターは、哺乳動物に対してコドン最適化された合成核酸、特にヒトに対してコドン最適化された合成核酸を含むゲノムを更に含有し得、前記合成核酸は、抗原性ポリペプチド、特に本明細書に開示されるもの等の哺乳動物に感染する決定された病原体、特にヒト宿主に感染するウイルス又は細菌又は寄生生物の抗原性ポリペプチドを含む本発明による融合ポリペプチドをコードする。
【0051】
或いは、レンチウイルスベクター、特にHIV-1に基づくベクターは、非組込み型複製インコンピテントシュードタイプ化レンチウイルスベクターであってもよい。
【0052】
本発明を実現するために適したレンチウイルスベクターの特定の実施形態は、pTRIPベクタープラスミド又はpFLAPdeltaU3ベクタープラスミド、好ましくはpFLAPdeltaU3プラスミド、特に配列番号20のヌクレオチド配列のベクタープラスミドからゲノムを得るレンチウイルスベクターに関し、ここで、融合ポリペプチドをコードする核酸は、哺乳動物細胞において機能的なプロモーター、特にCMVプロモーター、ヒトβ2-ミクログロブリンプロモーター、配列番号21のSP1-β2mプロモーター又は配列番号22の複合「BCUAG」プロモーター、好ましくはSP1-β2mプロモーターの制御下でクローニングされており、ベクターは、任意選択により、野生型又は変異したウッドチャック肝炎ウイルスの転写後調節エレメント(WPRE)を含む。特に、WPREは、配列番号23に記載の変異体WPREである。
【0053】
pFLAPdeltaU3プラスミド又はpFLAPプラスミドは、pTRIPプラスミドに由来するレンチウイルスプラスミドベクターである。pFLAPプラスミドの例は図13、14及び15に示されている。
【0054】
本発明のさらなる実施形態では、本明細書に記載の特色による融合ポリペプチドを発現するレンチウイルスベクター粒子は、Indiana又はNew-Jersey血清型の水疱性口内炎ウイルス(V-SVG)の糖タンパク質Gを用いてシュードタイプ化されている。
【0055】
そのようなレンチウイルスベクターの特定の特色を以下に更に詳細に考察する。
【0056】
本発明は、本明細書で提供される定義による組換えレンチウイルスベクターゲノムを含むDNAプラスミドにも関し、特に、前記ゲノムがpFLAPdeltaU3ベクタープラスミド、好ましくは配列番号20のヌクレオチド配列のベクタープラスミドに挿入されており、本発明による融合ポリペプチドが、制限部位BamHIとXhoIの間に、GFP配列に置き換わって挿入される。
【0057】
本発明は、更に、本発明のレンチウイルスベクターゲノムを含む、又は本発明によるDNAプラスミドがトランスフェクトされた宿主細胞、好ましくは哺乳動物宿主細胞に関する。特に、前記宿主細胞は、HEK-293T細胞株又はK562細胞株である。本発明は、更に、前記宿主細胞の培養物に関する。
【0058】
本発明は、哺乳動物宿主への投与に適した製剤又は医薬組成物、特に、本発明の組換えレンチウイルスベクターを、それを必要とする宿主、特に哺乳動物宿主、特にヒト宿主への投与に適した1種又は複数種の薬学的に許容される賦形剤と共に含むワクチン組成物にも関する。
【0059】
本発明は、哺乳動物宿主、本明細書で定義されるレンチウイルスベクター粒子を、病原体感染症又は病原体により誘導される状態若しくは疾患に対する防御のための活性成分として含み、それと共に、それを必要とする宿主、特にヒト宿主への投与に適した賦形剤を含む特にヒト宿主への投与に適する製剤にも関する。疾患は、急性又は慢性呼吸器感染性疾患、例えば、結核、インフルエンザ、特にA型、B型又はC型インフルエンザウイルス、特にH1N1、H2N2又はH3N2インフルエンザウイルスであり得る。疾患はまた、コロナウイルス疾患、特にSARS-CoV-2によって引き起こされるものであり得る。
【0060】
本発明による医薬組成物、特に、ワクチン組成物、又は製剤は、アジュバント構成成分、特に、Th1促進性(pro-Th1)及び/又はTh17促進性アジュバント、及び/又は免疫賦活性構成成分も含み得る。
【0061】
特に、組成物又は製剤は、ポリイノシン酸-ポリシチジン酸(ポリI:C)又はその誘導体等のTh1促進性アジュバントを含み得る。poly (I:C)の誘導体は、不対塩基を導入することによってpoly (I:C)の特定の立体的構造を改変することによって得られる、ミスマッチを有するdsRNAを指し、それらとして、poly (I:CxU)、poly (IxU:C)(xは平均で3から40の数である)等が挙げられる。poly (I:C)の誘導体は、商品名Ampligen (商標)の下で市販されているpoly (I:C12U)又はpoly (C:I12U)であることが好ましい。
【0062】
組成物又は製剤は、環状ジヌクレオチドアジュバント等のTh1促進性/Th17アジュバントも含み得る。環状ヌクレオチドアジュバントは、STING活性化環状ジヌクレオチドアジュバントとも称される。「環状ジヌクレオチド」(「CDN」)という用語は、本明細書で使用される場合、2つのプリンヌクレオチド間に2'-5'及び/又は3'-5'リン酸ジエステル連結を含む分子のクラスを指す。これには、2'-5'-2',5'、2'-5'-3'5'、及び3',5'-3',5'連結が含まれる。CDNは、細菌によって合成される遍在する小分子二次メッセンジャーであり、多様なプロセスを調節する。また、ワクチン効力を増大させることが示されている比較的新しいクラスのアジュバントである。CDNは、小胞体に常在する受容体STING (インターフェロン遺伝子の刺激物質)に直接結合すること、インターフェロン-β(IFN-β)及び同様に核因子-κB (NF-κB)依存性炎症性サイトカインの発現を誘導するシグナル伝達経路を活性化することによって自然免疫を活性化する。CDNは環状グアニン-アデニンジヌクレオチド(cGAMP)であることが好ましい。
【0063】
本発明者らは、アジュバント、特にTh1促進性及び/又はTh17促進性アジュバントを本発明のレンチウイルスベクターと共に使用することにより、Th1 CD4+又はCD8+T細胞、並びにIL-17A産生Th17 CD4+T細胞の生成が惹起されることを示した。
【0064】
本発明の別の態様では、活性成分、特にレンチウイルスベクター粒子、又はそれを含む組成物若しくは製剤は、哺乳動物宿主、特にヒト宿主における病原性感染症に対する、又は病原体により誘導される状態若しくは疾患に対する防御免疫において、任意選択により適当な送達ビヒクルを伴って、及び任意選択によりアジュバント構成成分及び/又は免疫賦活薬構成成分、例えば、本明細書において定義されているアジュバント構成成分及び/又は免疫賦活薬構成成分と共に、使用するためのものである。
【0065】
したがって、活性成分、又は組成物、特に本発明のレンチウイルスベクター粒子は、それを必要とする宿主、特に哺乳動物宿主、特にヒト宿主に投与されると、抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片を対象とする抗体を惹起することにより、免疫応答を惹起する。前記免疫応答は、ナイーブなリンパ球の活性化及びエフェクターT細胞応答の生成及び病原体の抗原に対する免疫記憶抗原特異的T細胞応答の生成を包含し得る。
【0066】
本発明の1つの態様は、それを必要とする哺乳動物宿主、特にヒト宿主における病原体による感染症、特に、哺乳動物における急性又は慢性呼吸器感染性疾患に関連する病原体による感染症の予防及び/又は治療における使用のための、本発明の活性成分、特にレンチウイルスベクター粒子、医薬組成物及び/又は製剤に関する。本発明は、それを必要とする哺乳動物宿主、特にヒト宿主における病原体による感染症、特に、哺乳動物における急性又は慢性呼吸器感染性疾患に関連する病原体による感染症の予防及び/又は治療方法であって、本発明の活性成分、医薬組成物及び/又は製剤を有効用量で前記哺乳動物宿主に投与する工程を含む、方法にも関する。
【0067】
本明細書に記載の製品、方法及び使用は、ヒトに適用するためのもの又は動物に適用するためのものであり得る。
【0068】
免疫応答は、抗原提示細胞、特に樹状細胞による抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片のMHC-I拘束提示及びMHC-II拘束提示の誘導、並びにCD4媒介性及びCD8媒介性免疫応答の誘導を伴う。対照的に、同じ抗原性ポリペプチドをインバリアント鎖(li)又はトランスフェリン受容体の膜貫通ドメインと融合せずに使用した同等のベクターでは、意義のあるCD4+T細胞応答が誘発されない。したがって、本発明のレンチウイルスベクターによって惹起される頑強なCD4+T細胞応答は予想外のものであり、既存のレンチウイルスベクターを使用した場合に直面する、CD8+T細胞応答に制限されるという欠点を克服するものである。一実施形態では、本発明のレンチウイルスベクターによって惹起されるCD4+T細胞応答は、抗原性ポリペプチドが単独で発現され、インバリアント鎖(li)又はトランスフェリン受容体の膜貫通ドメインと融合した融合タンパク質内にない同等のレンチウイルスベクターと比較して、少なくとも30%高い、好ましくは少なくとも50%高い、更に好ましくは少なくとも100%高い、なお一層好ましくは少なくとも200%高い。CD4+T細胞応答は、本発明のレンチウイルスベクターの、好ましくは医薬組成物、特にワクチン組成物としての投与、例えば注射に応答した抗原特異的CD4+T細胞の拡大を評定することによって測定することができる。本明細書の実施例に測定等が例示されている。
【0069】
本発明のレンチウイルスベクターは、特に、IFN-γ/TNF-α産生CD4+又はCD8+T細胞の生成を惹起することができる。
【0070】
免疫応答は、病原体の感染症を予防し得る、又は感染症に起因する病理学的状態の発症若しくは発達を予防し得る。
【0071】
生理的に許容されるビヒクルは、免疫組成物の投与経路に関して選択することができる。好ましい実施形態では、投与を注射、特に、筋肉内注射、皮内注射、皮下注射によって、又は鼻腔内投与若しくは局部的な皮膚への塗布によって行うことができる。
【0072】
本発明の組換えレンチウイルスベクター粒子を、宿主、特に、哺乳動物宿主、特にヒト宿主において、粒子によって発現される抗原をもたらす病原体に対する免疫応答を惹起するために使用し、前記使用は、宿主の細胞性免疫応答を惹起する活性成分、特にレンチウイルス粒子を有効量で予備刺激として投与する工程と、その後に、宿主の細胞性免疫応答をブーストするために、同じ活性成分又は別の活性成分、例えばレンチウイルス粒子を有効量で投与する工程と、任意選択により、ブーストのために前記投与工程を繰り返す(1回又は数回)工程とを含む免疫化パターンを伴う。
【0073】
レンチウイルスベクター粒子の投与の各工程に関して、特に複数の投与工程を包含するレジメンでは、ベクター粒子のシュードタイプ化用エンベロープタンパク質は他の工程において使用されるものとは異なる、特に、異なるウイルス、特に異なるVSVを起源とすることが好ましい。予備刺激-ブーストレジメンでは、各工程で投与される化合物の組合せは、本明細書で定義されるレンチウイルスベクターを含む。
【0074】
予備刺激工程とブースト工程には、少なくとも2週間、特に6週間、特に少なくとも8週間の時間的な隔たりを設ける。
【0075】
特定の実施形態では、本発明の組換えレンチウイルスベクター粒子を、宿主、特に、哺乳動物宿主、特にヒト宿主において、粒子によって発現される抗原をもたらす病原体に対する免疫応答を惹起するために使用し、前記使用は、本発明の組換えレンチウイルスベクター粒子をブーストとして使用する異種予備刺激-ブーストレジメンを含む免疫パターンを伴う。予備刺激工程は、生弱毒化病原体ワクチン又は本発明の組換えレンチウイルスベクター粒子に対して異種の別の免疫原性組成物を使用して実施することができる。投与レジメンに関する詳細を以下に考察する。
【0076】
LV粒子により、細胞性免疫応答(T細胞性免疫応答)、特にCD4+T細胞性免疫応答及び有利にCD8+T細胞性免疫応答、すなわち、それぞれCD4又はCD8受容体を有する活性化された細胞によって媒介される適応免疫応答がもたらされる。
【0077】
特に有利な実施形態では、LV粒子によってもたらされる免疫応答は、長続きする免疫応答である、すなわち、前記免疫応答は、メモリー細胞応答、特にセントラルメモリー細胞応答を包含する。特定の実施形態では、LV粒子によってもたらされる免疫応答は、最後の投与工程の少なくとも数カ月後に依然として検出され得る。
【0078】
本発明によると、レンチウイルス粒子を予備刺激-ブーストレジメン又は多数の工程による投与レジメンにおいて使用する場合、VSV Indiana又はNew-Jersey株から得た第1の決定されたシュードタイプ化用エンベロープGタンパク質を用いてシュードタイプ化されたレンチウイルスベクター粒子を供給し、後で投与されるレンチウイルスベクター粒子として、VSV New Jersey又はIndiana株から得た第2の決定されたシュードタイプ化用エンベロープGタンパク質を用いてシュードタイプ化されたものが供給される。したがって、記載されている予備刺激-ブーストレジメンにおける第1の化合物と第2の化合物の使用順序を逆にすることができる。したがって、本発明の組合せ又は組成物の別々の活性成分/化合物に含有されるレンチウイルスベクター粒子は、予備刺激-ブーストレジメンにおける使用が意図されている場合、ベクター粒子のシュードタイプ化に使用される特定のシュードタイプ化用エンベロープタンパク質に少なくとも起因して互いに別個のものである。
【0079】
投与パターンに使用される、細胞性免疫応答を惹起することが意図されたレンチウイルスベクターの用量は、組込み型ベクターを使用する場合、105 TUから1010 TUの組換えレンチウイルス粒子、特に、105 TUから108 TUを含み得る。宿主への投与が意図された用量は、組込み型インコンピテントベクターを使用する場合、108から1010の各型の組換えレンチウイルスベクター粒子を含み得る。
【0080】
本発明は、哺乳動物宿主、特にヒト宿主において免疫化をもたらす方法であって、本開示に従って、免疫応答を惹起するために、本発明の組換えレンチウイルスベクター粒子を予備刺激として又はブーストとして投与する工程と、任意選択により、特に、前記応答ブーストするために、投与工程を1回又は複数回繰り返す工程とを含む、方法にも関する。
【0081】
任意選択により、組換えレンチウイルスベクター粒子を、哺乳動物宿主、特にヒト宿主への投与に適したアジュバント化合物、及び/又は免疫賦活化合物を伴って、適当な送達ビヒクルと共に使用することができる。適切なアジュバント及び免疫賦活化合物は本明細書に記載されている。
【0082】
組換えレンチウイルスベクター粒子を宿主に、皮下(s.c.)注射、皮内(i.d.)注射、筋肉内(i.m.)注射又は静脈内(i.v.)注射を含めた異なる経路での注射によって投与することもでき、局部的に粘膜を通じて経口的に投与すること又は皮膚投与、特に、鼻腔内(i.n.)投与又は吸入投与することもできる。投与される数量(投薬量)は、患者の状態、個体の免疫系の状態、投与経路及び宿主のサイズを考慮することを含め、治療を受ける対象に依存する。適切な投薬量範囲を、HIV-1由来レンチウイルスベクター粒子の等価の形質導入単位中の含有量に対して決定することができる。
【0083】
本発明の他の例及び特色は、本明細書に示されている定義と個別に組み合わせることができる特色を有するレンチウイルスベクター粒子の調製及び適用を例示する実施例及び図を読めば明らかになろう。
【0084】
本発明に従って使用するためのレンチウイルスベクターの詳細な説明
したがって、本発明は、(i) HIVではないRNAウイルスを起源とする決定された異種ウイルスエンベロープタンパク質又はウイルスエンベロープタンパク質を用いてシュードタイプ化されていること、及び(ii)病原体の抗原のエピトープを有する少なくとも1種の抗原性ポリペプチド(又はその免疫原性断片等のそのポリペプチド誘導体)を含む本発明の少なくとも1つの組換え融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをゲノム内に含み、ここで、病原体は、哺乳動物宿主、特にヒト宿主に感染することが可能なものであり、前記エピトープは、T細胞エピトープ、特に、CD4+T細胞エピトープ及びCD8+T細胞エピトープの両方を包含することを特徴とする、組換えレンチウイルス粒子(すなわち、組換えベクター粒子)であり、複製インコンピテントなレンチウイルスベクター、特に、複製インコンピテントなHIV-1に基づくベクターであり得るレンチウイルスベクターを伴う。
【0085】
本発明の特定の実施形態によると、レンチウイルスベクターを、非欠損(proficient)(すなわち、組込みコンピテント)粒子又は欠損(すなわち、組込みインコンピテント)粒子のいずれかを発現するように設計する。本発明の特定の実施形態によると、組換えレンチウイルスベクター粒子は、組込みインコンピテントかつ複製インコンピテントである。
【0086】
レンチウイルスベクターの調製は当業者には周知であり、文献に広範囲にわたって開示されている(総説に関してはSakuma T.ら、(Biochem. J.(2012)443、603-618を参照されたい)。そのようなベクターの調製は、本明細書の実施例においても例示される。
【0087】
本発明の特定の実施形態では、レンチウイルスベクターの抗原性ポリペプチド(ORF)をコードするポリヌクレオチドは、哺乳動物に対してコドン最適化されたもの(CO)である、特に、ヒトに対してコドン最適化されたものである。任意選択により、前記粒子のゲノムのレンチウイルス配列も哺乳動物に対してコドン最適化されたヌクレオチド配列を有する。本発明の特定の態様では、コドン最適化は、マウス細胞における発現のために行われたものである。別の実施形態では、レンチウイルスベクターの抗原性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列は、ヒトに対してコドン最適化されたもの(CO)である。
【0088】
コドン最適化されたヌクレオチド配列により、特に、哺乳動物細胞、特にヒト細胞における発現のために最適化された場合、そのような哺乳動物細胞又はヒト細胞においてより高収率での粒子の産生が可能になることが観察された。産生細胞は実施例に例示されている。したがって、本発明のレンチウイルスベクター粒子を哺乳動物宿主、特にヒト宿主に投与すると、前記宿主においてより多くの量の粒子が産生され、強力な免疫応答を惹起するために好都合である。
【0089】
本発明において定義される組換えレンチウイルスベクター(すなわち、レンチウイルスベクター粒子又はレンチウイルスに基づくベクター粒子)は、レンチウイルスベクター粒子のベクターゲノムを提供する特定のレンチウイルスとは異なるウイルス(特に、HIV、特にHIV-1とは異なるウイルス)を起源とする1種又は複数種のエンベロープタンパク質を有するベクター粒子からなるシュードタイプ化レンチウイルスベクターである。したがって、前記1種又は複数種のエンベロープタンパク質は、粒子のベクターゲノムに対して「異種」の1種又は複数種のウイルスエンベロープタンパク質である。以下のページにおいて、「エンベロープタンパク質」は、本発明を実施するために適したあらゆる型の1種又は複数種のエンベロープタンパク質を包含するものとして言及される。
【0090】
本出願において「レンチウイルス」ベクター(レンチウイルスに基づくベクター)に言及する場合、特に、HIVに基づくベクター、特にHIV-1に基づくベクターに関する。
【0091】
本発明を実施するために適したレンチウイルスベクターは、いわゆる置換えベクター、つまり、レンチウイルスタンパク質をコードする元のレンチウイルスの配列がベクターのゲノムにおいて本質的に欠失している、又は、存在する場合には、生物活性のあるレンチウイルスタンパク質の発現を防止するために、特に、HIVの場合では、組換えレンチウイルスベクター粒子のゲノムを供給する前記導入ベクターによる、機能的ENV、GAG、及びPOLタンパク質、並びに任意選択により、レンチウイルス、特にHIVのさらなる構造タンパク質及び/又はアクセサリータンパク質及び/又は調節タンパク質の発現を防止するために、改変、特に変異、特に短縮されている。
【0092】
特定の実施形態では、レンチウイルスベクターを(i)パッケージング構築物、(ii)エンベロープ及び(iii)導入ベクターゲノムをもたらすために別々のプラスミドを使用して得ることを特徴とする第1世代ベクター、特に、第1世代のHIVに基づくベクターから作出する。或いは、更にウイルスアクセサリータンパク質(例えば、HIV-1の場合ではVif、Vpu、Vpr又はNef等)を欠き、したがって、HIVの完全な遺伝子9種のうち4種: gag、pol、tat及びrevのみを含む第2世代ベクター、特に、第2世代のHIVに基づくベクターからレンチウイルスベクターを作出することもできる。別の実施形態では、更に前記ウイルスアクセサリータンパク質を欠き、且つTat非依存性でもある第3世代ベクター、特に、第3世代のHIVに基づくベクターからベクターを作出する。これらの第3世代ベクターは、ベクターの機能的エレメントを提供するために4つのプラスミドを使用して得ることができ、この4つのプラスミドには、ベクターがHIV-1に基づくものである場合にはHIVのRevタンパク質をコードする1つのプラスミドが含まれる。そのようなベクター系は、HIV-1の遺伝子9種のうち3種のみを含む。そのような数世代のHIVに基づくベクターの構造及び設計は当技術分野において周知である。
【0093】
これらの数世代のベクターのうちのいずれに関しても、本発明によると、本明細書に記載の融合ポリペプチドのベクター骨格への挿入を行って、免疫原をMHC-II経路に向けて経路指定するため及びCD4+T細胞応答とCD8+T細胞応答の両方を誘導するためにAPC、特に樹状細胞を標的とし、活性化するために活用されるLVベクターをもたらすことによって改変が更になされる。
【0094】
ベクター粒子の「ベクターゲノム」は、特に本明細書に開示される病原体の1つ又は複数の抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片を含む本発明による融合ポリペプチドをコードする目的のポリヌクレオチド又は導入遺伝子も組換え配列として含む、組換え核酸である。ベクターゲノムのレンチウイルスに基づく配列及びポリヌクレオチド/導入遺伝子がプラスミドベクターによって担持され、したがって、「配列ベクター」とも称される「導入ベクター」が生じる。したがって、これらの表現は本明細書では互換的に使用される。特定の実施形態によると、本発明のために調製されるベクターゲノムは、配列番号20の配列を有する核酸を含み、この配列は、本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、制限部位BamHIとXhoIの間に、GFP配列(配列番号30)に置き換わって挿入されたものである。
【0095】
したがって、本明細書で定義されるベクターゲノムは、発現のために適当な調節配列の制御下に置かれた、抗原性ポリペプチドを含む本発明の融合ポリペプチドをコードするいわゆる組換えポリヌクレオチドとは別に、前記ゲノムの非コード領域であり、DNA又はRNA合成及びプロセシングの認識シグナルをもたらすために必要である元のレンチウイルスゲノムの配列(ミニウイルスゲノム)を含有する。これらの配列は、特にシス作用性配列であり、パッケージング(ψ)、逆転写(LTR、場合によって元のLTRに対して変異を有するもの)及び転写、並びに任意選択により組込み(RRE)、及び更に本発明の特定の目的のために必要なものであり、細胞における核内移行、したがって、前記細胞における導入遺伝子移入効率に好都合な機能的配列を含有し、このエレメントは、レンチウイルスゲノム配列、特にHIV-1又は酵母のもの等の一部のレトロエレメントに存在するいわゆるセントラルcPPT-CTSヌクレオチドドメインを含有する又はそれからなるDNAフラップエレメントと記載される。
【0096】
本発明のレンチウイルスベクターを調製するために使用されるベクターゲノムの構造及び組成物は、(Zennouら、2000; Firat H.ら、2002; VandenDriessche T.ら)に主に開示されている当技術分野において記載されている原理及びそのようなレンチウイルスベクターの例に基づく。この型の構築物は、本明細書で参照されるCNCM (Institut Pasteur、France)に寄託されている。この点において、特許出願WO 99/55892、WO 01/27300及びWO 01/27304における寄託された生物材料を含む開示も参照される。
【0097】
本発明の特定の実施形態によると、ベクターゲノムは、2つの長い末端反復(LTR)の間の全てのウイルスタンパク質コード配列が本明細書に開示される抗原性ポリペプチドを含む本発明の融合ポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドによって置き換えられ、DNAフラップエレメントが、必要とされる本明細書に記載のシス作用性配列を伴って再挿入された、置換えベクターであり得る。ベクターゲノムの組成物に関するさらなる特色は粒子の調製との関連で開示される。
【0098】
特定の実施形態では、本発明のレンチウイルスベクターは、ゲノム内に、本発明による組換え融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを1つ又は1つよりも多く含み得る。特に、前記ベクターゲノムは、ゲノム上で連続しているか又は隔てられており、病原体又は別個の病原体の同じ又は別個の抗原のいずれかの異なるポリペプチドをコードする2つのポリヌクレオチドを含む。
【0099】
本発明の種々の実施形態によると使用されるレンチウイルスベクターの特定の特色は、実施例にも開示され、そのような特色を単独で又は組み合わせて用いてベクターを作製する。
【0100】
本発明のある実施形態によると、レンチウイルスベクター粒子を、レンチウイルスのゲノム粒子のレンチウイルス配列を提供するレンチウイルスではないRNAウイルスを起源とする異種ウイルスエンベロープタンパク質又はエンベロープのウイルスポリタンパク質を用いてシュードタイプ化する。
【0101】
レンチウイルスベクターを調製するためのシュードタイプ化用エンベロープタンパク質の例として、本発明は、例えばIndiana株のVSV-Gタンパク質及びNew Jersey株のVSV-Gタンパク質の群の中から選択される、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のウイルス膜貫通グリコシル化(いわゆるGタンパク質)エンベロープタンパク質に関する。
【0102】
本発明のレンチウイルスベクターのシュードタイプ化に使用することができるVSV-Gタンパク質の他の例には、ベジクロウイルス属: Carajasウイルス(CJSV)、Chandipuraウイルス(CHPV)、Cocalウイルス(COCV)、Isfahanウイルス(ISFV)、Marabaウイルス(MARAV)、Piryウイルス(PIRYV)、水疱性口内炎ウイルスアラゴアス株(VSAV)、水疱性口内炎ウイルスインディアナ株(VSIV)及び水疱性口内炎ウイルスニュージャージ株(VSNJV)に分類される種、並びに/又は、ソウギョラブドウイルス、BeAn 157575ウイルス(BeAn 157575)、Botekeウイルス(BTKV)、Calchaquiウイルス(CQIV)、アメリカウナギラブドウイルス(EVA)、Gray Lodgeウイルス(GLOV)、Juronaウイルス(JURV)、Klamathウイルス(KLAV)、Kwattaウイルス(KWAV)、La Joyaウイルス(LJV)、Malpais Springウイルス(MSPV)、Mount Elgon batウイルス(MEBV)、Perinetウイルス(PERV)、パイクフライラブドウイルス(PFRV)、Portonウイルス(PORV)、Radiウイルス(RADIV)、コイ春ウイルス(SVCV)、ツパイウイルス(TUPV)、潰瘍性疾患ラブドウイルス(UDRV)及びYug Bogdanovacウイルス(YBV)としてベジクロウイルス属に暫定的に分類される種の中で特に選択されるVSV-G糖タンパク質が包含される。
【0103】
水疱性口内炎ウイルスのエンベロープ糖タンパク質(VSV-G)は、野生型ウイルス粒子の表面外被として機能する膜貫通タンパク質である。VSV-Gはまた、工学的に操作されたレンチウイルスベクターに適した外被タンパク質でもある。現在、9つのウイルス種がVSV群に決定的に分類されており、19種のラブドウイルスがこの群に暫定的に分類されており、全てが、種々の程度の交差中和を示す。配列決定を行ったところ、Gタンパク質遺伝子の配列類似性が示された。VSV-Gタンパク質は、N末端外部ドメイン、膜貫通領域及びC末端細胞質尾部に存在する。VSV-Gタンパク質は、トランスゴルジネットワーク(小胞体及びゴルジ装置)によって細胞表面に移出される。
【0104】
本発明のレンチウイルスベクターをシュードタイプ化するため、又はレンチウイルスベクターをシュードタイプ化するための組換えエンベロープタンパク質を設計するために好ましい株は、水疱性口内炎ウイルスインディアナ株(VSIV)及び水胞性口内炎ウイルスニュージャージ株(VSNJV)である。それらのVSV-Gタンパク質は、いくつかの株が提示されているGenBankにおいて開示されている。VSV-G New Jersey株については、特に、受託番号V01214を有する配列を参照されたい。VSV-G Indiana株については、JO2428株に対応するGenbankの受託番号AAA48370.1を有する配列を参照されたい。
【0105】
前記ウイルスエンベロープタンパク質は、抗原提示細胞によって、特に、肝臓樹状細胞を含めた樹状細胞によって、融合及び/又はエンドサイトーシスにより取り込まれることが可能である。特定の実施形態では、取り込みの効率を、シュードタイプ化用のVSVのエンベロープを選択するための特色として使用することができる。この点において、相対的な形質導入の力価(DCの力価/他の形質導入された細胞、例えば293T細胞の力価)を判定基準とみなすことができ、DCと融合する能力が比較的良好なエンベロープが好ましい。
【0106】
抗原提示細胞(APC)、特に樹状細胞(DC)がシュードタイプ化レンチウイルスベクターに対する適当な標的細胞であり、したがって、免疫組成物として使用される。
【0107】
VSV-Gエンベロープタンパク質は、前記タンパク質のコード配列を含有するポリヌクレオチドから発現され、ここで、ポリヌクレオチドは、本発明のレンチウイルスベクター粒子を調製するために使用されるプラスミド(エンベロープ発現プラスミド又はシュードタイプ化用envプラスミドと称される)に挿入されている。エンベロープタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、任意選択により、転写後調節エレメント(PRE)、特に、Invitrogen社から入手可能なウッドチャック肝炎ウイルスのエレメント、すなわちWPRE配列、又は配列番号23に記載のWPREの変異体配列等のポリヌクレオチドを含む、コード配列の転写及び/又は発現の調節配列の制御下にある。
【0108】
したがって、哺乳動物細胞、特にヒト細胞におけるin vivoでの使用に適した内部プロモーター、及び、前記プロモーターの制御下にある、エンベロープタンパク質をコードする核酸を含む核酸構築物が提供される。この構築物を含有するプラスミドを、ベクター粒子の調製に適した細胞へのトランスフェクションに使用する。プロモーターは、特に、それらの構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、又は誘導性プロモーターとしての特性で選択することができる。適切なプロモーターの例には、以下の遺伝子のプロモーター: MHCクラス-Iプロモーター、ヒトベータ2ミクログロブリン遺伝子(β2Mプロモーター)、EF1α、ヒトPGK、PPI (プレプロインスリン)、チオデキストリン、HLA DRインバリアント鎖(P33)、HLA DRアルファ鎖、フェリチンL鎖若しくはフェリチンH鎖、キモシンベータ4、キモシンベータ10、シスタチンリボソームタンパク質L41、CMVie、又はJones S.ら(Jones S.ら、Human Gene Therapy、20:630-640 (June 2009))に開示されているGAG (CMV初期エンハンサー/ニワトリβアクチン)若しくは本明細書に開示されるベータ2m-CMV (BCUAG)等のキメラプロモーターが包含される。
【0109】
これらのプロモーターを、カプシド形成プラスミドからのgag-pol由来タンパク質の発現に関与する発現調節配列に、及び/又は導入ベクターから抗原性ポリペプチドを発現させるためにも使用することができる。
【0110】
或いは、エンベロープ発現プラスミドが、安定なパッケージング細胞株における発現、特に、連続的に発現されるウイルス粒子としての安定発現を意図したものである場合、エンベロープタンパク質を発現させるための内部プロモーターは、Cockrell A.S.ら(Mol. Biotechnol.(2007)36:184-204)に開示されているもの等の誘導性プロモーターであることが有利である。そのようなプロモーターの例として、テトラサイクリン及びエクジソン誘導性プロモーターが参照される。パッケージング細胞株は、STARパッケージング細胞株(参考文献Cockrell A.S.ら(2007)、Ikedia Y.ら(2003) Nature Biotechnol. 21: 569-572)又はSODkパッケージング細胞株、例えば、SODk1及びSODk3を含めたSODk0由来細胞株(参考文献Cockrell A.S.ら(2007)、Cockrell A;S.ら(2006) Molecular Therapy、14: 276-284、Xu K.ら(2001)、Kafri T.ら(1999) Journal of Virol. 73:576-584)であってよい。
【0111】
本発明によると、レンチウイルスベクターは、
- (i)パッケージング、逆転写、及び転写に必要な、レンチウイルス、特にHIV-1のシス-活性配列、及び、更に、機能的な、レンチウイルス、特に、HIV-1に由来するDNAフラップエレメント、並びに(ii)発現調節配列、好ましくはヒトβ2ミクログロブリンプロモーター又は改変ヒトβ2-ミクログロブリンプロモーター、例えば、配列番号21のSP1-β2mプロモーター等の制御下にある、免疫応答が求められている1種又は複数種の病原体の1種又は複数種の抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片をそれ自体が含む本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び任意選択により、ゲノムを宿主細胞に組み込むための配列、を含むベクタープラスミド、
- RNAウイルスに由来するシュードタイプ化用エンベロープをコードする発現プラスミドであって、エンベロープタンパク質又はシュードタイプ化用のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、前記エンベロープシュードタイプ化用タンパク質が、VSV由来である、特に、Indiana株又はNew Jersey株のVSV-Gであることが有利である、発現プラスミド、並びに
- レンチウイルス、特にHIV-1の、組込みコンピテントベクター粒子の産生に適したgag-polパッケージング配列又は組込み欠損ベクター粒子の産生に適した改変gag-polパッケージング配列を含む、カプシド形成プラスミド
を哺乳動物細胞に同時トランスフェクトすることによって回収された産物である。
【0112】
したがって、本発明は、以下をトランスフェクトした安定な細胞株から回収された産物である、上記のレンチウイルスベクター粒子にも関する:
- (i)パッケージング、逆転写、及び転写に必要な、レンチウイルス、特にHIV-1のシス-活性配列を含み、更に、機能的な、レンチウイルス、特にHIV-1のDNAフラップエレメントを含み、任意選択により、組込みに必要なシス-活性配列を含むベクタープラスミドであって、(ii)発現調節配列、特にプロモーターの制御下にある、1種又は複数種の本明細書に開示される病原体の1種又は複数種の抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片を含む本発明の融合ポリペプチドをコードする遺伝子のマウス又はヒトに対するコドン最適化された配列のポリヌクレオチドを更に含む、ベクタープラスミド、
- VSV-Gエンベロープタンパク質、特にIndiana株又はNew Jersey株のVSV-Gをコードするポリヌクレオチドを含むVSV-Gエンベロープ発現プラスミドであって、前記ポリヌクレオチドが、発現を調節する配列、特に、プロモーターを含む発現調節配列の制御下にある、VSV-Gエンベロープ発現プラスミド、及び
- レンチウイルス、特にHIV-1の、組込みコンピテントベクター粒子の産生に適したgag-polコード配列又は組込み欠損ベクター粒子の産生に適した改変gag-polコード配列のいずれかを含むカプシド形成プラスミドであって、前記gag-pol配列が、DNAフラップエレメントと同じレンチウイルスサブファミリーに由来するものであり、前記レンチウイルスgag-pol又は改変gag-pol配列が、発現を調節する配列の制御下にある、カプシド形成プラスミド。
【0113】
本発明のベクター粒子を発現する安定な細胞株は、特に、プラスミドをトランスフェクトすることによって得られる。
【0114】
本明細書に開示される任意の実施形態による、(i) MHC-II会合軽インバリアント鎖(li)又は(ii)トランスフェリン受容体(TfR)の膜貫通ドメイン、及び病原体の1種又は複数種の抗原性ポリペプチドを含む第1のポリペプチドを含む、本発明による融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0115】
したがって、ベクタープラスミドは、種々の抗原性ポリペプチドの発現のための発現カセットを1種又は数種含み得る、若しくは、ポリヌクレオチドが、抗原性ポリペプチド、及び任意選択により、ウイルス起源のIRES配列(配列内リボソーム進入部位)によって隔てられた追加的な種々のポリペプチドを含む融合ポリペプチドをコードするバイシストロニック又はマルチシストロニック発現カセットを含み得る、又は、融合タンパク質をコードし得る。
【0116】
ベクターゲノム内に含有され、病原体の抗原性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を制御する内部プロモーター(導入遺伝子として、又は発現カセット内で)は、以下の遺伝子のプロモーターから選択することができる:MHCクラスIプロモーター、例えば、ヒトβ2-ミクログロブリンプロモーター(β2Mプロモーター)、SP1-β2mプロモーター、又はEF1α、ヒトPGK、PPI (プレプロインスリン)、チオデキストリン、HLA DRインバリアント鎖(P33)、HLA DRアルファ鎖、フェリチンL鎖若しくはフェリチンH鎖、キモシンベータ4、キモシンベータ10、又はシスタチンリボソームタンパク質L41 CMVie又はキメラプロモーター、例えば、Jones S.ら(2009)に開示されているGAG (CMV初期エンハンサー/ニワトリβアクチン)又はBCUAG。
【0117】
上で引用した内部プロモーターの中で、エンベロープタンパク質及びパッケージング(gag-pol由来)タンパク質の発現のためのプロモーターを選択することもできる。
【0118】
ヒトレンチウイルスに基づいて、特にHIV-1ウイルスに基づいてレンチウイルスベクターを調製する場合、以下の特定の実施形態を実施することができる。
【0119】
本発明によると、レンチウイルスゲノムベクターは、ヒトレンチウイルス、特に、HIVレンチウイルスに由来するものである。特に、シュードタイプ化レンチウイルスベクターは、HIVに基づくベクター、例えば、HIV-1又はHIV-2に基づくベクターであり、特に、HIV-1M、例えば、BRU又はLAI分離株に由来するものである。或いは、ベクターゲノムに必要な配列を供給するレンチウイルスベクターは、哺乳動物細胞への形質導入が可能なEIAV、CAEV、VISNA、FIV、BIV、SIV、HIV-2、HIV-O等のレンチウイルスを起源とするものであってよい。
【0120】
上記の通り、ベクターゲノムに最終的に含有される組換えポリヌクレオチドとは切り離して考えた場合、ベクターゲノムは、元のレンチウイルスゲノムの2つの長い末端反復(LTR)の間の核酸が、宿主内の細胞の核に導入遺伝子を効率的に送達するためを含め、DNA若しくはRNAの合成及びプロセシングのために、シス作用性配列に制限されている、又は、少なくとも、生物学的に機能的のGAGポリタンパク質並びに場合によってPOL及びENVタンパク質を含めたレンチウイルス構造タンパク質の発現を可能にする必須の核酸セグメントが欠失又は変異している、置換えベクターである。
【0121】
特定の実施形態では、レンチウイルスの5' LTR及び3' LTR配列をベクターゲノムに使用するが、3' LTRは、少なくとも、元のレンチウイルス3' LTRに関して、少なくともU3領域において改変されており、その改変は、例えば、エンハンサー(デルタU3)の欠失又は部分的な欠失であってよい。5' LTRも、特にそのプロモーター領域内を改変することができ、その場合、例えば、Tat非依存性プロモーターでU3内在性プロモーターを置換することができる。
【0122】
特定の実施形態では、ベクターゲノムは、Vif-、Vpr、Vpu-及びNef-アクセサリー遺伝子(HIV-1レンチウイルスベクターについて)コード配列のうちの1つ又はいくつかを含む。或いは、これらの配列は独立して又は互いに欠失していてもよく、非機能的であってもよい(第2世代レンチウイルスベクター)。
【0123】
レンチウイルスベクター粒子のベクターゲノムは、挿入されたシス作用性断片として、DNAフラップエレメントからなる又はそのようなDNAフラップエレメントを含有するポリヌクレオチドを少なくとも1つ含む。特定の実施形態では、DNAフラップを、抗原性ポリペプチドを有する本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの上流に挿入し、必ずしもではないが、有利には、ベクターゲノム内の適当な中央部の位置に位置する。本発明に適したDNAフラップは、レトロウイルス、特にレンチウイルス、特にヒトレンチウイルス、特にHIV-1レトロウイルスから、又は、レトロトランスポゾン等のレトロウイルス様生物体から得ることができる。或いは、CAEV (ヤギ関節炎脳炎ウイルス)ウイルス、EIAV (ウマ感染症性貧血ウイルス)ウイルス、ビスナウイルス、SIV (サル免疫不全ウイルス)ウイルス又はFIV (ネコ免疫不全ウイルス)ウイルスからDNAフラップを得ることができる。DNAフラップは、合成的に調製することもでき(化学合成)、上で定義した適当な供給源由来のDNAフラップを供給するDNAを例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅することによって調製することもできる。より好ましい実施形態では、DNAフラップをHIVレトロウイルス、例えばHIV-1又はHIV-2ウイルスから得る。HIV-1又はHIV-2ウイルスには、これらの2つの型の任意の分離株が含まれる。
【0124】
DNAフラップ(cPPT/CTSとも称される)(Zennou V.ら、ref 27、2000、Cell vol 101、173-185又はWO 99/55892及びWO 01/27304において定義されている)は、一部のレンチウイルス、特にHIVのゲノムにおける中心構造であり、そこでは、通常、特にHIV逆転写の間に合成され、HIVゲノム核内移行のシス-決定因子として作用する3本鎖DNA構造が生じる。DNAフラップにより、逆転写の間に中心ポリプリントラクト(cPPT)及び中心終結配列(CTS)によってシスに制御される中心鎖置換事象が可能になる。ポリヌクレオチドをレンチウイルスの由来ベクターに挿入すると、DNAフラップが逆転写の間に産生され、遺伝子移入効率を刺激し、核内移行のレベルを補完して野生型レベルにすることが可能になる(Zennouら、Cell、2000 Cell vol 101、173-185又はWO 99/55892及びWO 01/27304)。
【0125】
DNAフラップの配列は、先行技術で、特に、上で引用した特許出願において開示されている。これらの配列は、本明細書で記載されているpTRIPベクターの配列にも開示されている。DNAフラップの配列は、断片として、任意選択により、追加的な隣接配列と共に、ベクターゲノム内に、前記ベクターの中心付近であることが好ましい位置にゲノム挿入されることが好ましい。或いは、DNAフラップの配列を、本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を制御するプロモーターのすぐ上流に挿入することができる。ベクターゲノム内に挿入されるDNAフラップを含む前記断片は、その起源及び調製に応じて約80~約200 bpの配列を有し得る。
【0126】
特定の実施形態によると、DNAフラップは、約90~約140ヌクレオチドのヌクレオチド配列を有する。
【0127】
HIV-1では、DNAフラップは、安定な99ヌクレオチド長のプラス鎖オーバーラップである。本発明のレンチウイルスベクターのゲノムベクターに使用する場合、特に、PCR断片として調製する場合、より長い配列として挿入することができる。DNAフラップをもたらす構造を含む特定の適当なポリヌクレオチドは、HIV-1 DNAのcPPT及びCTS領域を包含する124塩基対のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)断片である。
【0128】
GAG及びPOLポリタンパク質をコードするゲノムベクター及びカプシド形成プラスミドのポリヌクレオチドに使用されるDNAフラップは、同じレンチウイルスサブファミリー又は同じレトロウイルス様生物体を起源とするものであるべきことが規定されている。
【0129】
ゲノムベクターの他のシス活性化配列も、DNAフラップをもたらすものと同じレンチウイルス又はレトロウイルス様生物体を起源とするものであることが好ましい。
【0130】
ベクターゲノムは、組換えポリヌクレオチドをクローニングするための1種又は数種の独特な制限部位を更に含み得る。
【0131】
好ましい実施形態では、前記ベクターゲノムにおいて、レンチウイルスベクターゲノムの3' LTR配列は、少なくとも活性化因子(エンハンサー)及び場合によってU3領域のプロモーターを欠く。別の特定の実施形態では、3' LTR領域はU3領域を欠く(デルタ U3)。これに関しては、WO 01/27300及びWO 01/27304の記載を参照されたい。
【0132】
特定の実施形態では、ベクターゲノムにおいて、LTR 5'のU3領域が非レンチウイルスU3、又はtat非依存性一次転写を駆動するために適したプロモーターによって置き換えられる。そのような場合では、ベクターは、tatトランス活性化因子には非依存性である(第3世代ベクター)。
【0133】
ベクターゲノムはまた、psi(ψ)パッケージングシグナルも含む。パッケージングシグナルは、gag ORFのN末端断片に由来する。特定の実施形態では、導入遺伝子によるgag ペプチドの可能性のある転写/翻訳へのあらゆる干渉を防止するために、その配列をフレームシフト変異によって改変することができる。
【0134】
ベクターゲノムは、任意選択により、スプライスドナー部位(SD)、スプライスアクセプター部位(SA)及び/又はRev応答性エレメント(RRE)中から選択されるエレメントも含み得る。
【0135】
特定の実施形態によると、ベクタープラスミド(又は付加されるゲノムベクター)は、トランスジェニック発現カセットに対する以下のシス作用性配列を含む:
1.逆転写に必要なLTR配列(長い末端反復)、これは、転写に必要な配列であり、任意選択により、ウイルスDNAへの組込みのための配列を含む。少なくとも、遺伝子移入に必要な機能を乱すことなくSINベクター(自己不活化型)を供給するためのプロモーターに関しては、2つの主な理由:第1に、DNAがゲノム内に組み込まれた際の宿主遺伝子のトランス活性化を回避するため、及び、第2に、逆転写(retrotranscription)後のウイルスシス配列の自己不活性化を可能にするために、3' LTRのU3領域が欠失している。任意選択により、ゲノムの転写を駆動する5'-LTR由来のtat依存性U3配列を非内在性プロモーター配列によって置き換える。したがって、標的細胞において、内部プロモーターからの配列のみが転写される(導入遺伝子)。
2.ウイルスRNAカプシド形成に必要なψ領域。
3. Revタンパク質の結合後にウイルスメッセンジャーRNAの核から細胞質基質への移出を可能にするRRE配列(REV応答性エレメント)。
4.核内移行を容易にするためのDNAフラップエレメント(cPPT/CTS)。
5.任意選択により、転写後調節エレメント、特に、樹状細胞における融合ポリペプチド及び/又は抗原性ポリペプチドの発現を改善するエレメント、例えば、mRNAの安定性を最適化するためのWPREシス-活性配列(ウッドチャックB型肝炎ウイルス後応答性エレメント(Woodchuck hepatitis B virus Post-Responsive Element))(Zuffereyら、1999)、免疫グロブリン-カッパ遺伝子のもの等のマトリックス又は足場付着領域(SAR及びMAR配列)(Park F.ら、Mol Ther 2001; 4: 164-173)も追加する。
【0136】
本発明のレンチウイルスベクターは、非複製性(複製インコンピテント)である、すなわち、該ベクター及びレンチウイルスベクターゲノムは、複製コンピテントレンチウイルスに関する懸念を緩和するために適するとみなされ、特に、投与後に、感染した宿主細胞から生じる新しい粒子を形成することができない。これは、レンチウイルスゲノム内にgag、pol若しくはenv遺伝子が存在しないこと、又はそれらが「機能的遺伝子」として存在しないことの結果として、周知のやり方で実現することができる。したがって、gag及びpol遺伝子は、トランスでのみ供給される。これも、粒子形成に必要な他のウイルスコード配列及び/又はシス作用性遺伝子エレメントを欠失させることによって実現することができる。
【0137】
「機能的」とは、遺伝子が正しく転写され、且つ/又は正しく発現されることを意味する。したがって、この実施形態において本発明のレンチウイルスベクターゲノム内に存在する場合、gag、pol、又はenvの配列は、個別に、転写されないか、又は不完全に転写される。「不完全に転写される」という表現は、転写物であるgag、gag-pro又はgag-pro-polの変更、これらのうちの1つ又はいくつかが転写されないことを指す。この状況を実現するため、レンチウイルス複製に関与するベクターゲノム内の他の配列を変異させることもできる。レンチウイルスベクターの複製の非存在をレンチウイルスゲノムの複製と区別すべきである。実際に、以前に記載されている通り、レンチウイルスゲノムは、レンチウイルスベクターゲノムの複製を確実にするが、ベクター粒子の複製は必ずしも確実にしない複製起点を含有し得る。
【0138】
本発明によるレンチウイルスベクターを得るために、ベクターゲノム(ベクタープラスミドとして)を、カプシド形成して粒子又は偽性粒子にしなければならない。したがって、エンベロープタンパク質以外のレンチウイルスタンパク質を、産生系、特に、産生細胞内のベクターゲノムに、gag遺伝子及びpolレンチウイルス遺伝子又は組込み型インコンピテントpol遺伝子のいずれかを有し、Vif-、Vpr、Vpu-及びNef-アクセサリー遺伝子コード配列の一部又は全部を欠くことが好ましく、任意選択により、Tat (HIV-1レンチウイルスベクターに関して)を欠く少なくとも1つのカプシド形成プラスミドに依拠するベクターゲノムと共にトランスで供給しなければならない。
【0139】
レンチウイルスベクター粒子をシュードタイプ化するために選択されたエンベロープシュードタイプ化用タンパク質をコードするポリヌクレオチドを有するさらなるプラスミドを使用する。好ましい実施形態では、パッケージングプラスミドは、ウイルス粒子合成に必須のレンチウイルスタンパク質のみをコードする。したがって、プラスミド内に存在することで安全性の懸念が生じるアクセサリー遺伝子は除去する。したがって、パッケージングのためにトランスでもたらされるウイルスタンパク質は、それぞれ、HIV-1を起源とするものについて例示されている通りである:
1.マトリックス(MA、見かけの分子量p17)、カプシド(CA、p24)及びヌクレオカプシド(NC、p6)を作出するためのGAGタンパク質。
2.POLにコードされる酵素:インテグラーゼ、プロテアーゼ及び逆転写酵素。
3.TAT及びREV調節タンパク質、LTR媒介性転写の開始にTATが必要な場合; 非依存性転写を駆動するプロモーターを5'LTRのU3領域で置き換える場合、TAT発現を省くことができる。REVを改変し、それに応じて、例えば、ベクターゲノム内のRRE配列を置き換えるドメインを認識することを可能にする組換えタンパク質に使用することができる、又は、RRE配列のそのRBD (RNA結合性ドメイン)を通じた結合を可能にする断片として使用することができる。
【0140】
パッケージングプラスミドに含有される遺伝子から生じたmRNAのウイルス粒子におけるあらゆるパッケージングを回避するために、ψ領域をパッケージングプラスミドから除去する。組換え問題を回避するために異種プロモーターをプラスミドに挿入し、タンパク質をコードする配列由来の3'にポリA尾部を付加する。適当なプロモーターは上に開示されている。
【0141】
エンベローププラスミドは、本明細書に開示される内部プロモーターの制御下にある本明細書に開示されるシュードタイプ化用のエンベロープタンパク質をコードする。
【0142】
本発明のレンチウイルスベクター粒子を調製するための任意の又は全ての記載のプラスミドを、タンパク質をコードするセグメントでコドン最適化されたもの(CO)であってよい。本発明によるコドン最適化とは、哺乳動物細胞、マウス、又は、特にヒト細胞におけるプラスミドに含有されるコード配列の翻訳を改善するために実施されることが好ましい。本発明によると、コドン最適化は、特に、ベクター粒子の調製を直接的若しくは間接的に改善するため、又は、ベクター粒子が投与される宿主の細胞によるベクター粒子の取り込みを改善するため、又は、抗原性ポリペプチドを含む融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(導入遺伝子)が宿主の形質導入された細胞のゲノムに移入される効率を改善するために適している。コドンを最適化するための方法は当技術分野で周知であり、コドン最適化は、特に、その影響のために利用可能なプログラムを使用して実施される。コドン最適化は、実施例に使用されるコード配列について例示される。
【0143】
本発明の特定の実施形態では、シュードタイプ化レンチウイルスベクターは、その上又はその代わりに、組込みコンピテントであり、したがって、ベクターゲノム及びそれが含有する組換えポリヌクレオチドを、形質導入された細胞又は該レンチウイルスベクターが投与された宿主の細胞にゲノム内に組み込むことが可能である。
【0144】
本発明の別の特定の実施形態では、シュードタイプ化レンチウイルスベクターは、その上又はその代わりに、組込みインコンピテントである。そのような場合では、ベクターゲノム、したがって、それが含有する組換えポリヌクレオチドは、形質導入された細胞又は該レンチウイルスが投与された宿主の細胞のゲノム内に組み込まれない。
【0145】
したがって、本発明の組換えレンチウイルスベクター粒子は、組換え組込み欠損レンチウイルスベクター粒子であり得、特に、組換え組込み欠損レンチウイルスベクター粒子は、HIV-1に基づくベクター粒子であり、レンチウイルスのゲノムにおいてコードされるインテグラーゼ遺伝子の、インテグラーゼが発現されない又は機能的に発現されないような変異の結果としてインテグラーゼが欠損しており、特に、インテグラーゼ遺伝子の変異は、アミノ酸残基64が置換されたインテグラーゼの発現を導き、特に、置換は、PolによってコードされるHIV-1インテグラーゼの触媒ドメインにおけるD64Vである。
【0146】
本発明は、発現されるインテグラーゼタンパク質が欠陥のあるものであり、特に病原体のエピトープを有する少なくとも1種の抗原性ポリペプチドを含む、特に本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを更に含むレンチウイルスベクターの、免疫原性組成物への使用に関する。
【0147】
「組込みインコンピテント」とは、レンチウイルスを起源とすることが好ましいインテグラーゼが、レンチウイルスゲノムを宿主細胞のゲノム内に組み込む能力を欠く、すなわち、インテグラーゼタンパク質が、そのインテグラーゼ活性が特異的に変更されるように変異していることを意味する。
【0148】
組込みインコンピテントレンチウイルスベクターは、インテグラーゼをコードするpol遺伝子を改変し、それにより、組込み欠損インテグラーゼをコードする変異したpol遺伝子をもたらすことによって得られ、前記改変されたpol遺伝子はカプシド形成プラスミド内に含有される。そのような組込みインコンピテントレンチウイルスベクターは、特許出願WO 2006/010834に記載されている。したがって、タンパク質のインテグラーゼとしての能力は変更されるが、一方、カプシド形成プラスミドからのGAG、PRO及びPOLタンパク質の正しい発現及び/又はカプシド、したがってベクター粒子のベクター粒子、並びに、組込み工程よりも前又はその後のウイルスサイクルの他の工程、例えば、逆転写、核内移行はインタクトなままになる。インテグラーゼは、インテグラーゼにより可能になるはずの組込みが、組込み工程が1000分の1未満、好ましくは10000分の1未満で生じるように変更されている場合、欠陥のあるものと言える。
【0149】
本発明の特定の実施形態では、欠陥のあるインテグラーゼは、欠陥のあるインテグラーゼの発現要件を満たす、クラス1の変異、好ましくはアミノ酸置換(1アミノ酸置換)又は短い欠失の結果生じる。変異は、pol遺伝子内でなされる。これらのベクターは、酵素の触媒ドメイン内に変異D64Vを有する欠陥のあるインテグラーゼを有し得、該インテグラーゼは、組込み工程のDNAの切断及び接合反応を特異的に遮断する。D64V変異により、シュードタイプ化HIV-1の組込みが野生型の1/10,000に至るまで低減するが、非分裂細胞への形質導入の能力は保持され、それにより、効率的な導入遺伝子の発現が可能になる。
【0150】
HIV-1のインテグラーゼのインテグラーゼとしての能力に影響を及ぼすpol遺伝子の他の変異は以下のものである:H12N、H12C、H16C、H16V、S81 R、D41A、K42A、H51A、Q53C、D55V、D64E、D64V、E69A、K71A、E85A、E87A、D116N、D116I、D116A、N120G、N120I、N120E、E152G、E152A、D-35-E、K156E、K156A、E157A、K159E、K159A、K160A、R166A、D167A、E170A、H171A、K173A、K186Q、K186T、K188T、E198A、R199C、R199T、R199A、D202A、K211A、Q214L、Q216L、Q221 L、W235F、W235E、K236S、K236A、K246A、G247W、D253A、R262A、R263A及びK264H。
【0151】
特定の実施形態では、pol遺伝子の変異は、D64位、D116位若しくはE152位のいずれか、又は、タンパク質の触媒部位にあるこれらの位置のいくつかにおいてなされる。上記を含め、これらの位置における置換はいずれも適切である。
【0152】
別の提唱される置換は、アミノ酸残基RRK (262~264位)のアミノ酸残基AAHによる置換えである。
【0153】
本発明の特定の実施形態では、レンチウイルスベクターが組込みインコンピテントである場合、レンチウイルスゲノムは複製起点(ori)を更に含み、その配列は、レンチウイルスゲノムを発現させなければならない細胞の性質に依存する。前記複製起点は、真核生物起源、好ましくは哺乳動物起源、最も好ましくはヒト起源のものであり得る。或いは、前記複製起点はウイルス起源、特に、SV40又はRPSと同様に環状エピソームDNAに由来するものであり得る。本発明のレンチウイルスベクターのレンチウイルスゲノムに複製起点が挿入されているのが本発明の有利な実施形態である。実際に、レンチウイルスゲノムが宿主細胞ゲノムに組み込まれない場合(欠陥のあるインテグラーゼに起因して)、レンチウイルスゲノムは、頻繁な細胞分裂を受ける細胞では失われる。これは、特に、B細胞又はT細胞等の免疫細胞の場合である。複製起点が存在することにより、細胞分裂後であっても各細胞に少なくとも1つのレンチウイルスゲノムが存在することが確実なり、したがって、免疫応答の効率が最大になる。
【0154】
本発明の前記レンチウイルスベクターのレンチウイルスベクターゲノムは、特に、1999年10月11日にCNCM (Institut Pasteur、25-28、rue du Docteur Roux、75724 Paris Cedex 15、France)に番号I-2330の下で寄託されたHIV-1プラスミドpTRIPΔU3.CMV-GFP (WO01/27300にも記載されている)又はそのバリアントに由来するものであってよい。本発明の前記レンチウイルスベクターのレンチウイルスベクターゲノムは、特に、2021年2月16日にCNCM (Institut Pasteur、25-28、rue du Docteur Roux、75724 Paris Cedex 15、France)に番号CNCM I-5657の下で寄託されたHIV-1プラスミドpFlap-SP1beta2m-GFP-WPREm又はそのバリアントに由来するものであってよい。
【0155】
一実施形態では、レンチウイルスベクターゲノムは、配列番号20、配列番号25又は配列番号26の配列を有するプラスミドに由来する。特に、レンチウイルスベクターゲノムは、配列番号20、配列番号25又は配列番号26に対して少なくとも70%、特に80%又は90%、より詳細には95%又は99%配列同一性を有する配列を含む。
【0156】
ベクターゲノムがこれらの特定のプラスミドに由来するものである場合、本出願で開示される特に病原体の抗原性ポリペプチドを含む本発明の融合ポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドの配列を、該ベクターゲノムに、配列番号20内のGFPをコードする断片、配列番号25のli-EsxH断片又は配列番号26のTfR-EsxH断片に加えて又はそれと置き換えて挿入する。プロモーター、すなわち、CMV又はSP1-β2mプロモーターも、特に、導入遺伝子発現との関連で、別のプロモーター、特に上に開示されているプロモーターのうちの1つによって置換することができる。
【0157】
WPRE又はWPREm配列も特定のpFlap (pFLAPDeltaU3)に含有され、又、pTRIPベクターを任意選択により欠失させることができる。
【0158】
ベクター粒子は、適当な細胞(例えば、哺乳動物細胞又は293 T細胞によって例示されるヒト胎児由来腎臓細胞等のヒト細胞等)への前記プラスミドによる、又は他のプロセスによるトランスフェクション後に産生させることができる。レンチウイルス粒子の発現のために使用される細胞では、プラスミドの全部又は一部を、それらをコードするポリヌクレオチドを安定に発現させるため、又はそれらをコードするポリヌクレオチドを一過性に若しくは半安定的に発現させるために使用することができる。
【0159】
産生される粒子の濃度を、細胞の上清のP24(HIV-1のカプシドタンパク質)含有量を測定することによって決定することができる。
【0160】
本発明のレンチウイルスベクターは、宿主に投与されると、宿主の細胞、場合によって、シュードタイプ化に用いたエンベロープタンパク質に応じて特定の細胞に感染する。感染症により、宿主細胞の細胞質へのレンチウイルスベクターゲノムの放出が導かれ、そこで、逆転写(retro-transcription)が起こる。三重形態になったら(DNAフラップによって)、レンチウイルスベクターゲノムが核に移入され、病原体の抗原のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが細胞機構によって発現される。非分裂細胞に形質導入した場合(例えば、DC等)、発現は安定であり得る。B細胞等の分裂細胞に形質導入した場合、レンチウイルスゲノムの複製起点の非存在下では、核酸の希釈及び細胞分裂に起因して、発現は一過性になる。複製起点を供給し、細胞分裂後のレンチウイルスベクターゲノムの娘細胞への妥当な拡散を確実にすることにより、発現をより長いものにすることができる。MAR (Matrix Associated Region)又はSAR (Scaffold Associated Region)エレメントをベクターゲノムに挿入することによっても、安定性及び/又は発現を増大させることができる。
【0161】
実際に、これらのSAR又はMAR領域は、ATリッチ配列であり、レンチウイルスゲノムを細胞の染色体基質に係留し、したがって、少なくとも1種の抗原性ポリペプチドを含む本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を調節すること、特に、導入遺伝子の遺伝子発現を刺激すること、及びクロマチン接近可能性を改善することが可能なものである。
【0162】
レンチウイルスゲノムが非組込み型である場合、宿主細胞のゲノムには組み込まれない。それにもかかわらず、導入遺伝子によってコードされる少なくとも1種のポリペプチドが、プロセシングされ、MHC分子と会合し、最終的に細胞表面に方向付けられるために十分にかつ長く発現される。病原体の抗原性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの性質に応じて、MHC分子と会合した少なくとも1種のポリペプチドエピトープが細胞性免疫応答を誘発する。
【0163】
別段の指定のない限り、又は技術的に関連性がない場合を除き、レンチウイルス粒子の、特にそれらのエンベロープタンパク質に関して、又は組換えポリヌクレオチドの構造又は使用の種々の特色、実施形態又は例のいずれかに関して本出願において開示される特徴を任意の可能性のある組合せに従って組み合わせることができる。
【0164】
本発明は、更に、少なくとも以下を含む、哺乳動物宿主に別々に投与する化合物の組合せに関する:
(i)第1の決定された1種又は複数種の異種ウイルスエンベロープシュードタイプ化用タンパク質を用いてシュードタイプ化された本発明のレンチウイルスベクター粒子;そのような第1のシュードタイプ化用タンパク質は、VSVのNew-Jersey株由来のものであり得る;
(ii)(i)のレンチウイルスベクター粒子とは別々に供給される、前記第1の異種ウイルスエンベロープシュードタイプ化用タンパク質とは別個の第2の決定された1種又は複数種の異種ウイルスエンベロープシュードタイプ化用タンパク質を用いてシュードタイプ化された本発明のレンチウイルスベクター粒子;そのような第2のシュードタイプ化用タンパク質は、VSVのIndiana株由来のものであり得る。
【0165】
本発明の別の実施形態では、場合によって、上記の開示される核酸の代替形態と組み合わせて、少なくとも1種の抗原性ポリペプチドを含む本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを構造的に改変する、及び/又は化学修飾する。例示的なそれらのポリヌクレオチドは、5'領域にKozakコンセンサス配列を含む。ベクターゲノム内に存在し得るレンチウイルス起源ではない他の核酸配列は、ポリペプチド合成の開始に適したIRES配列(配列内リボソーム進入部位)、産生されたRNAを安定化する転写後調節エレメントとしてのWPRE配列又は改変WPRE配列である。
【0166】
本発明の別の実施形態によると、複数の異種ポリペプチドが1つのベクターゲノムコードされる場合、コード配列を、任意選択により、核酸に基づく分子又は核酸に基づくものではない分子のいずれであってもよいリンカー部分によって隔てることができる。そのような分子は、それが連結する3'官能化核酸を認識することを目的とした官能化リンカー分子である。或いは、リンカーとして機能させるために適した配列は、2Aペプチド等の自己切断性ペプチドをコードする核酸であり得る。
【0167】
上記の実施形態に使用される特色を含めた本発明のさらなる特色及び特性を、本発明によるものであり、したがって、本発明を特徴付けるために使用される実施例及び図に記載する。
【0168】
配列表
配列番号1:li-HAEPアミノ酸配列
配列番号2:li-HAEP DNA配列
配列番号3:li-HAEPAアミノ酸配列
配列番号4:li-HAEPA DNA配列
配列番号5:li-EsxHアミノ酸配列
配列番号6:li-EsxH DNA配列
配列番号7:TfR1-118-EsxHアミノ酸配列
配列番号8:TfR1-118-EsxH DNA配列
配列番号9:SP-EsxH-MITDアミノ酸配列
配列番号10:SP-EsxH-MITD DNA配列
配列番号11:ヒトインバリアント鎖(li)アミノ酸配列
配列番号12:ヒトインバリアント鎖(li) DNA配列
配列番号13:ヒトトランスフェリン受容体の膜貫通ドメイン、アミノ酸配列
配列番号14:ヒトトランスフェリン受容体の膜貫通ドメイン、DNA配列
配列番号15:EsxH20-28エピトープアミノ酸配列
配列番号16:EsxH74-88エピトープアミノ酸配列
配列番号17:EsxA1-20エピトープアミノ酸配列
配列番号18:PE-191-18エピトープアミノ酸配列
配列番号19:Ag85A241-260エピトープアミノ酸配列
配列番号20:プラスミドpFlap-SP1beta2m-GFP-WPREm (SP1beta2mプロモーター、GFP導入遺伝子及びWPREm) DNA配列
配列番号21:SP1-ヒトβ2-ミクログロブリンプロモーター
配列番号22:BCUAGプロモーター
配列番号23:変異体WPRE
配列番号24:ヒト化li-抗原アミノ酸配列(ヒトli-EsxH)
配列番号25:ヒト化li-EsxH抗原ヌクレオチド配列の融合配列を有する組換えpFLAP (β2-ミクログロブリンプロモーター)
配列番号26:ヒト化TfR-EsxH抗原ヌクレオチド配列の融合配列を有する組換えpFLAP (β2-ミクログロブリンプロモーター)
配列番号27:GGGDリンカー
配列番号28:NNGGリンカー
配列番号29:NNDDリンカー
配列番号30:緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子のヌクレオチド配列(コドン最適化されたもの)
配列番号31:緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子のアミノ酸配列
【図面の簡単な説明】
【0169】
図1】Beijing又は非Beijing Mtb臨床分離株によるAg85A/B及びEsxA分泌の食細胞内定量化を示す図である。(A~B)骨髄由来DC (H-2b)に、Table S1 (表1)に示されている通り番号を付した一連の非Beijing又はBeijing臨床分離株からの各Mtb株を種々のCFU/mlで感染させた。一晩インキュベートした後、Ag85A/B (DE10)(A)又はEsxA (NB11)(B)に特異的なMHC-II拘束T細胞ハイブリドーマを添加し、24時間インキュベートした後、T細胞ハイブリドーマによって産生されたIL-2の濃度をELISAによって決定した。T細胞ハイブリドーマによって産生されたIL-2の濃度はDCファゴソームの内部に分泌されたMtb抗原の量に比例する(C)4×103 CFU/mlを感染させたDCにおいて決定された、食細胞内のAg85A/B又はEsxA分泌の量。
図2A】抗原をMHC-IIプロセシング経路に方向付けるためのLVの調整を示す図である。従来のLVではCD4+T細胞を誘導することができない。EsxA-Ag85A-EspC-EsxH-PE19 Mtb免疫原の融合物をコードする従来のLVを用いて免疫化したC57BL/6マウス由来の脾細胞の血球計算分析。H-2bにおける、in vitroで、MHC-I拘束エピトープ及びMHC -II拘束エピトープの両方を含有するEspC:45-54ペプチド、又は陰性対照ペプチドを用いて刺激した後のCD4+及びCD8+T脾細胞IFN-γ応答が示されている。
図2B】抗原をMHC-IIプロセシング経路に方向付けるためのLVの調整を示す図である。MHC-II経路を通じた経路指定を潜在的に容易にする配列がN末端又はC末端に付加された全長EsxHタンパク質のスキーム。
図2C】抗原をMHC-IIプロセシング経路に方向付けるためのLVの調整を示す図である。EsxH単独、Ii-EsxH、TfR-EsxH又はSP-EsxH-MITDをコードするLVを1×106 TU/mlで用いて形質導入し、形質導入後3日目に、EsxH:20-28に特異的であり、Kdによって拘束されるT細胞ハイブリドーマ(YB8)(上)又はEsxH:74-88に特異的であり、I-Adによって拘束されるT細胞ハイブリドーマ(1H2)(下)と共培養したDC (H-2d)によるMHC-I-又はMHC -II拘束EsxHエピトープの提示。結果は、一晩共培養した後にT細胞ハイブリドーマによって産生されるIL-2の濃度の平均±SDである。
図3】最適化されたLVによる全身又は粘膜CD4+及びCD8+T細胞応答の誘導を示すグラフである。BALB/c (H-2d)マウス(n=3/群)を、5×107 TUのLV::li-EsxHを単独で、(1)又はポリI:Cをアジュバントとして伴って(2)又はcGAMPをアジュバントとして伴って(3)用いてs.c.免疫化した。11 dpi時点で、個々のマウスにおける脾細胞のEsxH特異的Th1サイトカイン応答をICSによって分析した。(A)サイトカイン産生CD4+又はCD8+T細胞に対して行ったゲーティング戦略。(B~C)CD4+ Tサブセット(B)又はCD8+ Tサブセット(C)内での各(多)機能的集団の反復頻度。(D~E) BALB/cマウス(n=3/群)を5×107 TUのLV::li-EsxHを単独で、又はポリI:C若しくはcGAMPをアジュバントとして伴って用いてi.n.に免疫化した。13dpi時点で、EsxH特異的肺CD4+又はCD8+T細胞応答を、肺から富化されたリンパ球を、EsxH:74-88(MHC-II)(D)又はEsxH:20-28(MHC-I)(E)を負荷した同種DCと共培養することによって分析した。共培養物の上清中のIL-2、IL-17A又はIFN-γ含有量をELISAによって定量化した。
図4-1】最適化されたLVによって誘導される粘膜CD4+又はCD8+T細胞応答の特徴付け。BALB/c (H-2d)マウス(n=3/群)を、5×107 TUのLV::li-EsxHを単独で又はポリI:C若しくはcGAMPをアジュバントとして伴って用いてi.n.に免疫化した。13dpi時点で、屠殺3分前にPE-抗CD45 mAbをi.v.注射することにより、肺CD4+(A)又はCD8+(E) T細胞を、間質内に位置するか(CD45i.v-)又は脈管構造内に位置するか(CD45i.v+)区別した。肺間質又は脈管構造の肺CD4+又はCD8+T細胞においてICSによって検出される(B、F)CD27発現とCD62L発現、又は(C、D、G、H)サイトカイン産生のプロファイル。結果は、2~3回の独立した実験を代表するものであり、肺由来のものであり、実験群後ごとに正確な血球計算分析のために十分に多い細胞数に達するまでプールした。
図4-2】最適化されたLVによって誘導される粘膜CD4+又はCD8+T細胞応答の特徴付け。BALB/c (H-2d)マウス(n=3/群)を、5×107 TUのLV::li-EsxHを単独で又はポリI:C若しくはcGAMPをアジュバントとして伴って用いてi.n.に免疫化した。13dpi時点で、屠殺3分前にPE-抗CD45 mAbをi.v.注射することにより、肺CD4+(A)又はCD8+(E) T細胞を、間質内に位置するか(CD45i.v-)又は脈管構造内に位置するか(CD45i.v+)区別した。肺間質又は脈管構造の肺CD4+又はCD8+T細胞においてICSによって検出される(B、F)CD27発現とCD62L発現、又は(C、D、G、H)サイトカイン産生のプロファイル。結果は、2~3回の独立した実験を代表するものであり、肺由来のものであり、実験群後ごとに正確な血球計算分析のために十分に多い細胞数に達するまでプールした。
図5】LVのi.n.投与によって誘導される粘膜自然免疫の特徴付けを示すグラフである。(A)種々の粘膜自然免疫細胞集団を分析するために総肺細胞に対して使用した血球計算ゲーティング戦略。PBSを注射した陰性対照からの細胞について示されている。(B)2 dpi時点で決定した、PBS、LV単独、又はcGAMPをアジュバントとして伴うLVをi.n.注射したC57BL/6マウスにおける各自然免疫サブセットの総肺CD45+細胞に対するパーセンテージ。結果は、3匹の個々のマウス/群からのものである。ns=有意でない、片側マン・ホイットニー検定によって決定。
図6】CD4+及びCD8+T細胞の誘導に関する多抗原性LV::li-HAEPの潜在性。(A)LVDC::li-HAEP、又は陰性対照としてLV::TBを用いて形質導入し、形質導入後3日目に、EsxH:20-28に特異的であり、Kdによって拘束されるT細胞ハイブリドーマ(YB8)、EsxH:74-88に特異的であり、I-Adによって拘束されるT細胞ハイブリドーマ(1G1)、EsxA:1-20に特異的であり、I-Abによって拘束されるT細胞ハイブリドーマ(NB11)又はPE19:1-18に特異的であり、I-Abによって拘束されるT細胞ハイブリドーマ(IF6)と共培養したH-2d又はH-2bによるMHC-I-又はMHC-II拘束エピトープの提示。(B~D)C57BL/6(H-2b)マウスを、5×108 TUのLV::li-HAEPを用いてs.c.免疫化した、又はPBSを注射した。11 dpi時点での個々のマウスにおける、ELISPOTによってSFU (スポット形成単位)として決定された(B)又はICS (C-D)によって決定された脾細胞の抗原特異的サイトカイン応答。(C~D)各マウスについての、無関連の陰性対照ペプチドを用いて観察されたバックグラウンドシグナルを除去した後のCD4+ Tサブセット(C)又はCD8+ Tサブセット(D)内の各(多)機能的集団の反復頻度が示されている。
図7】LV::li-HAEPによって誘導された粘膜T細胞応答の特色を示すグラフである。C57BL/6(H-2b)マウスを、5×108 TUのLV::li-HAEPをcGAMPをアジュバントとして伴って用いてi.n.に免疫化した(n=7)、又はPBSを滴下注入した(n=3)。13dpi時点で、屠殺3分前にPE-抗CD45 mAbをi.v.注射し、EsxA:1-20(MHC-II)、PE19:1-18(MHC-II)、EspC:40-54(MHC-I、及び-II)、EsxH:20-28(MHC-I)又は無関連の陰性対照ペプチドを負荷した同種DCと共培養した後、CD4+(A)又はCD8+(B)肺T細胞応答をICSによって分析した。間質内(CD45i.v-)又は脈管構造内(CD45i.v+)に位置するCD4+ Tサブセット(A)又はCD8+ Tサブセット(B)内の各(多)機能的集団の反復絶対数が示されている。(C、D)間質内(CD45i.v-) CD4+(C)又はCD8+(D)の表現型決定。結果は、群ごとに血球計算分析のために十分な数に達するまでプールした肺由来の細胞から生成されたものである。
図8】最適化された多抗原性LVのTBワクチン接種におけるブースターとしての防御潜在性を示す図である。(A)LV::li-HAEPA、又は陰性対照としてLV::TBを形質導入し、形質導入後3日目に、IL-2プロモーターの制御下にあるZsGreenレポーターをコードする遺伝子を有するg85A特異的又はEsxA特異的T細胞ハイブリドーマと共培養したDC (H-2b)において検出された、EsxAと並行したAg85AのMHC-II拘束提示。(B)C57BL/6マウス(n=5-9/群)に対して実施した、BCG::ESX-1Mmarを用いた予備刺激、cGAMPをアジュバントとして伴うLV::li-HAEPAを用いたブースト、及びMtb H37Rv株を用いたチャレンジの時系列。(C)チャレンジ後5週目に個々のマウスの肺及び脾臓におけるCFU計数によって決定されたマイコバクテリア負荷量(Mycobacterial loads)。ns=有意でない、*(p=0.0415)、**(p=0.0040)***(p=0.00105)、統計的に有意、片側マン・ホイットニー検定によって決定。(D)代表的な肺ヘマトキシリン・エオシン病理組織学的検査結果。ワクチン接種を行っていないC57BL/6マウス(左)、BCG::ESX-1Mmarを用いてワクチン接種を行ったC57BL/6マウス(中央)又はBCG::ESX-1Mmarを用いて予備刺激を行い、cGAMPをアジュバントとして伴うLV::li-HAEPAを用いてブーストを行ったC57BL/6マウス(右)の左肺葉に対して、Mtbチャレンジ後5週目に分析を実施した。
図9】DC成熟化の誘導に関するLVの能力が弱いことを示すグラフである。C57BL/6マウス由来の骨髄由来DCを、無処理のままにしたか(陰性対照)、MtbをMOI=3で用いて処理したか(陽性対照)、又はLVを50の高MOIで用いて処理した。(A~C)CD40、CD80、CD86、MHC-I及びMHC-II表面分子の発現(B)のために一晩インキュベートした後にフローサイトメトリーによってモニタリングしたCD11c+CD11b+細胞の成熟化(A)。(C)明るい(hi)細胞のMFI又はパーセンテージ。結果は、2回の独立した実験を表す。
図10】LV媒介性CD8+T細胞誘導の、DCにおけるIFNARシグナル伝達に対する非依存性を示すグラフである。(A)ifnarflox/flox pCD11c-Cre-(WT)又はifnarflox/flox pCD11c-Cre+(KO)マウスの造血幹細胞に由来する骨髄DCによるIFNAR1表面発現を評定することによる、KOマウスのDCにおけるIFNAR1欠如の検証。(B~G)ifnarflox/flox pCD11c-Cre-(WT)又はifnarflox/flox pCD11c-Cre+(KO)のいずれかのマウスを、5×107 TUのLV::OVA (B~C)又はLV::li-EsxH (D~G)を用いてi.m.に免疫化した。11 dpi時点で、抗原特異的CD8+T脾細胞を四量体染色、ELISPOT又はICS分析によって評定した。(B)総CD3+CD8+T脾細胞と比較した「OVA四量体」で陽性に染色された細胞のパーセンテージ。(C)ELISPOTによって検出された、OVA:257-264を用いたex vivo刺激後にIFN-γを分泌する脾細胞の数。(D)ELISPOTによって検出された、EsxH:3-11又は陰性対照ペプチドを用いたex vivo刺激後にIFN-γ又はTNF-αを分泌する脾細胞の数(SFU=スポット形成単位)。(E)表面CD107a染色によって評価された、IFN-γ産生CD8+T細胞の脱顆粒活性。(F)CD8+T脾細胞に対して実施したICS分析に使用したゲーティング戦略。(G)種々の(多)機能的EsxH:3-11特異的CD8+T細胞エフェクターの反復頻度。
図11】LV媒介性CD4+T細胞誘導の、DCにおけるIFNARシグナル伝達に対する非依存性を示すグラフである。Ifnarflox/flox pCD11c-Cre-マウス(WT)及びifnarflox/flox pCD11c-Cre+マウス(KO)を、5×108 TUのLV::li-HAEPを用いてs.c.免疫化した。11 dpi時点で、抗原特異的CD4+T細胞応答をICSによって評定した。EsxA:1-20又はPE19:1-18 ペプチドを用いた刺激後に検出された、EsxA又はPE19に対して特異的な(多)機能的CD4+T脾細胞の反復頻度が示されている。
図12】i.m.又はs.c.により注射された全身経路でのLV::li-HAEPの免疫原性の比較を示すグラフである。C57BL/6マウスを、5×108 TUのLV::li-HAEPを用いてi.m.又はs.c.に免疫化した。14dpi時点で、抗原特異的IFN-γ又はTNF-α T細胞応答をELISPOTによって評定した。
図13】EsxHバリアント又は多抗原性融合タンパク質をコードするプラスミドのマップである。目的のワクチンのEsxHバリアント又は多抗原性融合タンパク質をコードするコドン最適化されたcDNA配列Table S3(表3)をSP1-β2mプロモーターの下でpFLAP骨格プラスミドに挿入した。
図14】GFPを含有するpFLAP骨格プラスミドのマップである。GFP導入遺伝子の配列をSP1-β2mプロモーターの下で、WPREm配列と共に挿入した。
図15】ヒト免疫化のためのプラスミドのマップである。EsxHバリアントをコードするコドン最適化されたcDNA配列をSP1-β2mプロモーターの下でpFLAP骨格プラスミドに挿入した。パネルA: EsxH抗原をヒトliと融合した。パネルB: EsxH抗原をhTfRと融合した。
【実施例
【0170】
緒言
世界保健機関(World Health Organization)によれば、結核菌(Mtb)は、世界的に毎年8百万件を超える肺結核(TB)の新規症例を引き起こしており、依然として上位10種の死因のうちの1つ、そして感染症性病原体に起因する死亡率の第1原因のままである。Mtbに潜伏感染しており無症候性の推定17億人のうち、5~15%が活動性TBに進行する。HIVに同時感染している又は低栄養、糖尿病、喫煙若しくはアルコール依存症の影響を受けている個体では疾患が発生するリスクが高い(1)。唯一の現行のTBワクチンは、広範に投与されるマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)カルメット・ゲラン桿菌(BCG)であり、生後早期に接種することが、幼児におけるTh1に偏った応答の誘導に関して特に有効である。BCGは、小児を肺及び播種性形態から保護することに関しては有効であるが、青少年及び成人肺TB並びに潜伏TBの再活動性化に対する影響は限定されており、したがって、広範囲の桿菌性拡散を防ぐことはできない(2)。したがって、(i)曝露前ワクチンとして有効である、(ii) Mtb一次感染症のリスクを低減させることができる、(iii)潜伏TBの活動性疾患への進行を防止するものである、又は(iv) TB免疫療法に使用可能である、新しい免疫戦略の緊急の必要性が存在する。
【0171】
TB防御の免疫相関は十分には理解されていないにもかかわらず、細胞内病原体Mtbに対する防御免疫が細胞媒介性免疫に主に依存することは十分に確立されている。適当な自然免疫及びT細胞媒介性免疫、とりわけ、IFN-γ/TNF-α産生CD4+Th1細胞、及びより低い程度でCD8+T細胞の寄与が、抗マイコバクテリア宿主防御に関して、完全防御に達するには不十分だとしても、有益である(3、4)。1921年から、40億人がBCGによるワクチン接種を受けており、多数の改善された弱毒生ワクチン候補が開発中である(5)。BCGによって付与される免疫は、持続時間が変動するが、明らかに約10年に限定されている。弱毒生ワクチン、及びマイコバクテリアの反復投与を用いた同種ブーストを行うと、IL-6、IL-17、TNF-α及びCXCL2の強力な発現、並びに好中球の広範囲の動員を特徴とする有害な壊死性炎症、すなわち「コッホ現象」が引き起こされる恐れがある(6)。これに関連して、改善された弱毒生ワクチンを用いた予備刺激、その後の、サブユニットワクチンを用いてブーストすることに依拠する異種予備刺激-ブーストレジメンは、Mtb特異的防御免疫を相乗的に増強するための魅力的な手法である(7)。Mtbと系統学的に関連する魚類病原体、すなわち、マイコバクテリウム・マリヌム(Mycobacterium marinum)のesx-1ゲノム領域で安定に補完されたBCG Pasteur株に基づく有望な生弱毒化TBワクチン候補(BCG::ESX-1Mmar)が以前に作り出されている(8)。この株は、BCGと比較して、動物モデルにおいてTBに対する大きく改善された防御潜在性を示し、これは、その既知の特性と一致する。実際、この株は、抗原性レパートリーの拡大、cGAS (環状GMP-AMPシンターゼ)/STING (インターフェロン遺伝子の刺激物質)/IRF3(インターフェロン調節因子3)/IFN-I (I型IFN)軸を誘発する能力、並びにNLRP3(NOD様受容体ファミリータンパク質3)及び細胞質基質DNAセンサー、AIM-2(黒色腫に存在しない-2)インフラマソーム経路を補強する能力を示すと同時に、毒力の弱毒化を示す(8、9)。マウスTBモデルにおいて、BCG::ESX-1Mmarワクチン接種により、親BCGよりも良好にマイコバクテリア負荷量が減少するが、滅菌性免疫はまだ導かれず、ブースターワクチンの防御潜在性を評価する可能性が残される。
【0172】
強力なMtb抗原を発現する組換えウイルスワクチンベクターを使用することにより、弱毒生ワクチン候補を用いて予備刺激を受けた個体における抗マイコバクテリア免疫の相乗的な増強をもたらすことができる。この増強は、抗原特異的T細胞の頻度の増加、T細胞結合力の改善、並びに、一般にマイコバクテリアでは効果的に誘導されないCD8+T細胞応答の増強によって実現され得る。複製欠損レンチウイルスベクター(LV)は、(i)遺伝毒性の潜在性が低いこと、(ii)8kbの挿入物を受容する能力があること、(iii)複製細胞及び非分裂細胞のどちらに対してもin vivoで形質導入する強力な能力があること、(iv)持続的に抗原を発現させること、及び(v)ヒト集団において既存の抗ベクター免疫の標的にならないという利点があること(10~15)に基づいて、強力な送達系であり、魅力的な免疫ツールである。しかし、LVの1つの限定は、今までのところTB及び多数の他の疾患に対する防御の最良の相関であると考えられている、抗原を主要組織適合性遺伝子複合体クラスII (MHC-II)経路にターゲティングしてCD4+T細胞を誘発するにすることができないことである。
【0173】
ここで、ベクターによってコードされる抗原のN末端部分にMHC-II軽インバリアント鎖(li)を付加することによって創出される、免疫原をMHC-II機構に向けて経路指定する能力を有する新世代のLVを記載する。全身又は粘膜経路を介したこの手法及び免疫戦略は、MHC-II機構への抗原輸送の適当な実行を可能にし、それにより、CD8+T細胞に加えて、表現型、機能及び肺への局在が徹底的に特徴付けられている適当なCD4+T細胞を誘導するものである。BCG::ESX-1Mmarを用いて予備刺激を行ったマウスに対してブースターとして使用され、全身及び鼻腔内(i.n.)経路によって投与される5種の強力なMtb抗原をコードする、選択された最適化されたLVの意義のある防御潜在性を更に報告する。
【0174】
結果
Mtb免疫原の合理的選択
MtbのT細胞標的は主に分泌型タンパク質であるので(16、17)、多抗原性のLVに基づくワクチンを開発するために、以下の毒力関連因子を選択した:どちらもESX-1 VII型分泌系(T7SS)によって分泌される(i) EsxA (Rv3875)、(ii) ESX-1分泌関連タンパク質(Esp) C (Rv3615c)、(iii) ESX-3 T7SSによって分泌されるEsxH (Rv0288、TB10.4)、(iv) ESX-5 T7SSによって分泌されるPE19(Rv1791)(18~21)、及び(v) Tat系によって分泌される、マイコリルトランスフェラーゼAg85複合体由来のAg85A (Rv3804c)(17、22)。後者に関しては、いくつかのBeijing臨床分離株が微量のAg85A/Bしか発現しないことを以前に観察しており、これらの抗原をワクチン候補に組み入れることの妥当性が疑問視された(23)。ここで、この仮定を再評価するために、Table S1 (表1)に列挙されている15種の非Beijing又は31種のBeijing臨床Mtb分離株のそれぞれを感染させた樹状細胞(DC)内のAg85A/Bの食細胞内分泌を(図1A) EsxA (図1B)と比較的に定量化した。これを、Ag85A/B又はEsxAに特異的なT細胞ハイブリドーマ(Table S2 (表2))を使用して実施して、これらの抗原に由来するT細胞エピトープのMHC-II媒介性提示を測定した。この提示はそれらの抗原の食細胞内分泌に比例する(23)。Beijing臨床分離株によるAg85A/B発現の平均は非Beijing株によるAg85A/B発現の平均よりも統計学的に低かったが、これらの抗原の発現は、極めて変動性であり、多くのBeijing分離株が大量のAg85A/Bを産生することが見いだされた(図1C)。この観察から、Ag85A/Bが実際に関連性のあるワクチン標的であることが決定された。
【0175】
Mtb免疫原をMHC-II経路に経路指定するためのLV最適化
ウイルスベクターは、内因性に産生される抗原をMHC-Iに経路指定することに関しては高度に効率的であるが、MHC-II機構への抗原送達に関しては無効ではないにせよ、有効性が不十分である。これは、個々のEsxA、EspC、EsxH、PE19若しくはAg85A、又はそれらの種々の融合物をコードする最初の従来のLVではマウスにおけるCD4+T細胞応答が誘発されなかったという事実によって確認されている。これは、EsxA、Ag85A、EspC、EsxH、及びPE19を含めたMtb抗原の融合物をコードする従来のLV (LV::TB)を用いて免疫化したC57BL/6マウスにおいて、EspC特異的CD8+T細胞は存在していたにもかかわらず、EspC特異的CD4+T細胞が存在しなかったことによって例示された(図2A)。EspC:45-54内のMHC-II拘束エピトープに加えて(23)、このセグメントは、MHC-I拘束エピトープを含有することがこれまでH-2bマウスにおいて明らかになっており、ここでLVを使用することによって証明されることに注目すべきである。LVによりCD4+T細胞を誘導できないことを克服するために、以下に詳述されている通り、EsxHをレポーター抗原として使用し、EsxH特異的MHC-I-又は-II拘束T細胞ハイブリドーマ(Table S2 (表2))の利用可能性を考慮して、このベクターを最適化することを試みた(24、25)。
【0176】
(i) EsxH単独(LV::EsxH)、(ii)翻訳された抗原をMHC-IIコンパートメントにターゲティングするために、N末端部分にマウスMHC-II「li」軽インバリアント鎖を付加したEsxH (LV::li-EsxH)(26、27)、(iii) MHC-II経路への接近を潜在的に獲得するために、エンドソームを通じて輸送される膜結合型タンパク質を生成するためにN末端部分にヒトトランスフェリン受容体の1-118膜貫通ドメインを付加したEsxH (LV::TfR1-118-EsxH)(26、27)、又は(iv) MHC-I分子もエンドソームを経由して輸送されるので(28)、N末端及びC末端にそれぞれHLA-B由来リーダーSPペプチド及びMHC-I輸送シグナルを付加したEsxH (LV::SP-EsxH-MITD)をコードする一連のLVを生成した(図2B図13)。いずれのEsxHバリアントをコードするLVを用いて形質導入したDCも、MHC-I拘束EsxH:20-28エピトープを特異的なT細胞ハイブリドーマに効率的に提示することができた(図2C)。従来のLV::EsxHとは基本的に対照的に、最適化されたLV::li-EsxHのみ、及びより少ない程度に、LV::TfR1-118-EsxHにより、特異的なT細胞ハイブリドーマに対する効率的なMHC-II拘束EsxH:74-88エピトープ提示を誘導することができた(図2C)。LV::SP-EsxH-MITDではMHC-IIによる抗原提示が可能にならなかった。したがって、下記のさらなる実験のために、MHC-Iによる提示に影響を及ぼすことなく、最も高いMHC-IIによる提示レベルがもたらされた、liを隣接させる戦略を選択した。要するに、MHC-IによってだけでなくMHC-II経路を通じても適当な抗原提示、すなわち「シグナル1」(29)をもたらす有益な特性を獲得した新世代のLVを作り出した。
【0177】
LVの自然免疫に対する影響はそれらの注目すべきT細胞免疫原性に対して非常に軽微なものである
最適化されたLVの、in vivoにおけるCD4+T細胞の誘導に関する潜在性を探索する前に、DC成熟化又は炎症性サイトカインシグナル伝達、すなわち「シグナル2~3」(29)の誘導に関するLVのいくつかの特性を評定した。あるLVの調製物は、内毒素含有量については特徴付けられていないが、in vivoにおいてわずかな炎症反応を誘導することが記載されている(30)。別の試験では、in vitroにおいていくらかの程度のLV誘導性DC成熟化が報告されたが、これは、LVのシュードタイプ化に用いた水疱性口内炎ウイルス(VSV) Gエンベロープ糖タンパク質に帰するものであった(31)。マウスDCは、高量(MOI 50)の本発明者らのpre-GMP品質のVSV-Gでシュードタイプ化したLVにさらされた場合であっても非常にわずかな表現型の成熟化を示した。これは、CD86アップレギュレーションが非常に軽微なものでしかないこと、及びMHC-Ihi又はMHC -IIhi細胞のパーセンテージの上昇が微小なものであることによって判断された(図9A~B、C)。機能的成熟に関しては、LVを用いて形質導入したDCは、容易に検出可能な量のIFN-α、CCL5及びIL-10、並びに非常に少量のIFN-βを分泌した。重要なことに、IL-1α、IL-1β、IL-6、TNFαは検出されず、これにより、LVの低炎症性、更には抗炎症性特性が示される(図9 D)。
【0178】
次いで、IFN-Iの誘導に関するLVの効力(30、32)及びナイーブなT細胞を活性化するDCの独特の能力に基づいて、DCにおけるLV媒介性CD8+T細胞誘導(12)のIFN-Iシグナル伝達に対する依存性を評価した。この目的のために、条件的C57BL/6変異体であるifnar1flox/flox pCD11c-Cre+(IFNAR欠損DCを有する)とfnar1flox/flox pCD11c-Cre-(IFNAR非欠損DCを有する)とを、前者に由来するDCが表面IFNAR発現の大きな低減を示すことの予備確認後に使用した(図10A)。同腹仔を起源とするifnar1flox/flox pCD11c-Cre-又はCre+マウスを、5×107形質導入単位(TU)のLV::OVA又はLV::li-EsxHを用いてs.c.免疫化した。免疫化の11日後(dpi)、四量体染色、ELISPOT又は細胞内サイトカイン染色(ICS)アッセイにより、両方のマウス型において、強力な同等のOVA特異的(図10B-C)又はEsxH特異的(図10D-G) CD8+T脾細胞応答が検出され、同様の割合のIFN-γ+CD107a+脱顆粒性又は多機能的CD8+T細胞が含まれていた。したがって、LVのCD8+T細胞応答を誘導する能力は、従来のDCにおけるIFNARシグナル伝達によって支配されるものではない。
【0179】
LVのDC刺激能が非常に小さいことから、これらの効率的なベクターの炎症特性が内因的に軽微であることが強調される。更に、LV媒介性T細胞誘導が、それらが誘導し得る稀な炎症性メディエーター(IFN-I)を通じたDCシグナル伝達に非依存性であることから、基礎をなす自然免疫機構が極小まで低減されることが示唆される。
【0180】
最適化されたLVの、全身及び粘膜CD4+T細胞免疫の誘導に関する実質的な能力
次いで、最適化されたLV::li-EsxHの、全身又は粘膜レベルでCD4+T細胞応答を誘導する潜在性を評価した。LVの自然免疫系に対する軽度の影響及びこのベクターのこれまで特徴付けられていないCD4+T細胞免疫原性を考慮に入れて、最適化されたLV::li-EsxHを、単独で、又はTh1促進性ポリイノシン酸-ポリシチジン酸(ポリI:C)若しくはTh1促進性/Th17環状グアニン-アデニンジヌクレオチド(cGAMP)をアジュバントとして伴ってのいずれかで調査した(33)。第1に、BALB/cマウスを、5×107 TUのLV::li-EsxHを、単独で又はアジュバントを伴って用いてs.c.免疫化した。11 dpi時点で、ICS分析により、注目すべき量のEsxH特異的Th1サイトカイン産生CD4+(図3A、B)並びにCD8+(図3A、C) T脾細胞が検出された。全身免疫によって誘導されるそのような応答に、アジュバントが伴うことの有意な影響は観察されなかった(図3B、C)。次いで、BALB/cマウスの粘膜免疫を、5×107 TUのLV::li-EsxHを単独で又はアジュバントを伴って用いて鼻腔内(i.n.)経路を介して実施した。13dpi時点で、肺T細胞を、それぞれMHC-II又は-I H-2d T細胞エピトープを有するEsxH:74-88又はEsxH:20-28ペプチドを負荷した同系DCと共培養した(24、25)。粘膜抗原特異的IL-2産生又はIL-17A産生CD4+T細胞が、cGAMPをアジュバントとして伴うLV::li-EsxHを用いて免疫化したマウスの肺においてのみ検出された(図3D)。並行して、粘膜抗原特異的IL-2産生又はIL-17A産生CD8+T細胞が、LV::li-EsxHといずれかのアジュバントの組合せを用いて免疫化したマウスの肺において検出された(図3E)。抗原特異的IFN-γ産生肺CD4+又はCD8+T細胞が全ての免疫化群において検出された(図3D、E)。
【0181】
マウスに、屠殺3分前にPE-抗CD45 mAbを静脈内(i.v.)注射することにより、肺間質内に位置する造血細胞と肺脈管構造内に位置する造血細胞を区別することが可能になる(34)。PBSを注射した対照と比較して、LV::li-EsxHを単独で用いて免疫化したマウスは、間質内に注目すべきパーセンテージのCD45i.v -CD4+(図4A)又はCD45i.v -CD8+(図4E) T細胞を有していた。このT細胞動員/拡大は、アジュバントを伴うLV::li-EsxHを用いて免疫化したマウスにおいて増大した。間質内CD4+(図4B)又はCD8+(図4F) CD45i.v -T細胞の中で、CD27-CD62L-最近移動性エフェクターのパーセンテージも、アジュバントを伴うLV::li-EsxHを用いて免疫化したマウスにおいて高かった。注目すべき量の抗原特異的IFN-γ/TNF-α産生CD4+(図4C)又はCD8+(図4G) T細胞エフェクターがLV::li-EsxHを単独で用いて免疫化したマウスの間質において検出され、アジュバントを伴うLV::li-EsxHを用いて免疫化したそれらの対応物では、これらのT細胞が更に多量に検出された。cGAMPをアジュバントとして伴うLV::li-EsxHによる免疫化により、間質において検出された通り、Th17細胞(図4D)及びTc17細胞(図4H)が生成され、これは、in vitroでEsxH:74-88又はEsxH:20-28ペプチドを用いて刺激した肺T細胞の上清にIL-17Aが放出されたことと一致した(図3D、E)。又、CD45i.v+Th1サイトカイン産生CD4+又はCD8+T細胞が脈管構造において検出され(図4C、G)、これにより、i.n.免疫化することで、血液循環への接近を獲得し、したがって、全身免疫に寄与し得る抗原特異的T細胞も生成されることが示される。
【0182】
1 dpi時点での血球計算によって決定された通り、LV単独でのi.n.投与は、PBS処置単独と比較して、種々の肺自然免疫細胞サブセットの割合に有意な影響は及ぼさなかった(図5A、B)。ポリI:C又はcGAMPをアジュバントとして伴うLVのi.n.滴下注入後、DC及び間質内マクロファージのパーセンテージの軽微な統計学的に有意でない上昇が検出された。とりわけ、LVで処置したマウスにおいて、マイコバクテリア感染症の状況で潜在的に有害である(38)アレルゲン性促進性の肥満細胞又は好塩基球、及び炎症性Ly6C+マクロファージ/単球又は好中球の割合が変化しないままであった。
【0183】
最適化された多抗原性LVの生成
次いで、liと並列配列EsxH、EsxA、EspC及びPE19との融合物(LV::li-HAEP)をコードする最適化されたLVを生成した(Table S3 (表3)、図5S)。LV::li-HAEPを用いて形質導入したDCは、これらの免疫原のMHC-I又はMHC-II拘束エピトープを特異的なT細胞ハイブリドーマに提示することができた(図6A)。ELISPOTによって決定された通り、C57BL/6マウスでは、5×108 TUのLV::li-HAEPを単独で用いた全身s.c.免疫により、含めた免疫原全てに対して特異的なIFN-γ/TNF-α産生CD4+又はCD8+T脾細胞が誘導され(図6B)、どちらのサブセットにおいても注目すべき二機能的又は多機能的が伴った(図6C、D)。LV媒介性CD8+T細胞誘導と同様に、この最適化されたLVを用いた場合、CD4+T細胞誘導のDC IFNARシグナル伝達に対するいかなる依存性も検出されなかった(図11)。LV::li-HAEPを単独で用いたs.c.又は筋肉内(i.m.)全身経路による免疫化の結果、同等のIFN-γ又はTNF-α CD4+及びCD8+T脾細胞応答がもたらされることも確立した(図12)。
【0184】
cGAMPをアジュバントとして伴うLV::li-HAEPを用いたC57BL/6マウスの粘膜i.n.免疫化により、肺間質において、及び脈管構造においても低い程度で、4種のMtb抗原のそれぞれに特異的な(多)機能的CD4+(図7A)又はCD8+(図7B) T細胞が惹起された。ワクチン接種したマウスにおけるCD45i.v.-間質内CD4+又はCD8+Tサブセットは、増大した割合のCD27-CD62L-移動性エフェクター及びCD69+CD103+肺組織常在細胞を含有した(図7C)。大多数のCD69+CD103+CD4+T細胞はCD8+T細胞常在メモリー表現型(39、40)によく似たCD44+CXCR3+表現型を示した(図7Cの下部)。
【0185】
最適化された多抗原性LVの防御ブースター潜在性の評価
Ag85A/B抗原がワクチン標的として興味深いものであることを考慮して(図1)、作り出したベクターのブースト潜在性を最大にするために、Ag85A:241-260免疫原性領域(41、42)をLV::li内のHAEPのC末端に付加した(LV::li-HAEPA)(Table S3 (表3)、図13)。EsxAによって例示され、特異的なT細胞ハイブリドーマによって検出される通り(参考文献23)、LV::li-HAEPAを用いて形質導入したDCは、他のMtb抗原の提示に加えて、Ag85A:241-260の特異的なT細胞ハイブリドーマへのMHC-II拘束提示を誘導することができた(図8A)。LV::li-HAEPAのブースター有効性を評価するために、C57BL/6マウスを、ワクチン接種しないままにしたか、又は、0週目に、親BCGと比較して防御能が増大したBCG::ESX-1Mmarワクチン候補(8)を1×106 CFUでs.c.に用いて予備刺激を行った(図8B)。予備刺激免疫に関してこの弱毒生ワクチン候補のBCGを超える利点は、オルソロガスESX-1 T7SSによってEsxA及びEspCを分泌する能力に関連付けられ、本発明では、この能力により、最適化された多抗原性LVに含まれる全てのMtb抗原に対するT細胞応答をブーストすることが可能になる。BCG::ESX-1Mmarを用いて予備刺激を行ったマウスの群に対して、5週目に、5×108 TUのcGAMPをアジュバントとして伴うLV::li-HAEPAをs.c.に用いてブーストを行い、次いで、誘導された免疫エフェクターを肺粘膜に誘引するために、10週目に、同じ量のcGAMPをアジュバントとして伴うLV::li-HAEPAをi.n.に用いて再度ブーストを行った。12週目にマウスを≒200 CFUの毒性Mtb H37Rv株を用いてエアロゾルによってチャレンジし、17週目に肺及び脾臓におけるマイコバクテリア負荷量(burden)を決定した。予備刺激-ブーストを行ったマウスにおける肺マイコバクテリア負荷量の平均は、ワクチン接種を行っていない対照と比較して≒2.5 log10減少し(マン・ホイットニー検定、p値=0,0005)、BCG::ESX-1Mmarを用いてワクチン接種した対応物と比較して≒1 log10減少した(マン・ホイットニー検定、p値=0,0415)(図8C)。予備刺激及びブーストを行ったマウスにおける、BCG::ESX-1Mmarのみを用いたワクチン接種を行ったマウスと比較したこの有意な減少にもかかわらず、肺の病理組織検査値には大きな影響がないと思われる(図8D)。脾臓では、cGAMPをアジュバントとして伴うLV::li-HAEPAを用いてブーストすることにより、マイコバクテリア負荷量が減少する正味の傾向が導かれたが、統計的有意性には達しなかった。これは、特に、マウス及びモルモットモデルにおいて脾臓への播種に対するESX-1により補完されたBCG株の保護効果が強力であり、ほとんど改善できないものであることによって説明することができる(22、43、44)。
【0186】
考察
健康なドナー又は潜伏TBを有する個体と活動性TBを有する個体とにおける「オミクス」手法によるヒト免疫細胞の広範囲にわたる調査により、活動性TBの宿主応答に基づく診断を開発するためのバイオマーカーを同定することが可能であった(45)。しかし、これらの試験では、肉芽腫に対する免疫不良及び活動性TBへの進行をもたらす多因子プロセスに関する徹底的な所見はもたらされなかった。したがって、最適な防御と潜伏TBから活動性TBへの非進行の原因となるバイオマーカーの信頼できる相関は依然としてほとんどわからないままである。これに関連して、新世代のTBワクチンを合理的に設計することは困難である(46)。当該領域内での共通認識の1つは、予備刺激-ブースト免疫手法からなる。BCGは、これまで80年間にわたって優れた安全性記録を示しており、又、小児における播種性形態のTBに対して高い率の保護効果を示している。したがって、(i) BCG又は改善された弱毒生ワクチンを予備刺激に使用すること、及び(ii)サブユニットワクチン候補をブーストに使用することが有望な戦略である。
【0187】
ウイルスベクター、とりわけ、改変ワクシニアアンカラ(MVA)又はアデノウイルスベクターがMtbに対する免疫化に使用されている(7)。前臨床動物モデルにおけるその注目すべき成功にもかかわらず、Ag85AをコードするMVAは臨床試験では免疫原性が低く、防御を誘導することができなかった(47)。Ag85Aをコードする別のLVをNF-kB 活性化因子と共に用いた場合、全身及び粘膜T細胞免疫が誘導されたが、マウスモデルにおけるBCGチャレンジに対する防御はもたらされなかった(48)。BCGを用いて予備刺激を行ったマウスでは、Ag85B-PPE57融合物をコードするLVを用いてブーストすることにより、高用量i.v. Mtbチャレンジに対するT細胞応答及び防御の大きさが増大した(49)。これらの試験では、LVは1種又は2種のMtb抗原のみをコードするものであり、標的抗原のMHC-II提示経路への最適化は行われず、それにより、Mtbに対する防御を誘導する能力の不十分さを説明することができる。実際、LVを含めたウイルスベクターは、内因性に産生される抗原を形質導入された抗原提示細胞のMHC-I経路にターゲティングする注目すべき能力にもかかわらず、大部分が、抗原をCD4+T細胞誘導のためにMHC-II機構に送達することができない。本発明では、複数の強力なMtb抗原をコードする遺伝子が、得られる融合タンパク質のMHC-II経路を通じた輸送を可能にするように工学的に操作されたものである、新世代のLVを生成した。li又はTfRを単一又は多抗原性タンパク質のN末端に付加することにより、MHC-I提示又はCD8+T細胞誘導を低減するいかなる傾向も伴わずに、MHC-II機構に適当に経路指定すること及びCD4+T細胞を頑強に誘発することが実現された。しかし、タンパク質配列へのN末端へのli融合は、必ずしも十分であるとは限らず、得られるタンパク質のネイティブな三次構造の保護もまた問題だと思われる。例えば、liとEsxH、EsxA、EspC及びPE19に由来する予測されるT細胞エピトープクラスターとの融合物をコードするLVは、タンパク質フォールディングの保存に失敗し、配列が疎水性残基に富むと、MHC-II機構への効率的な抗原経路指定を誘導しなかった。
【0188】
最適化されたLVに挿入する多抗原に含めるMtb免疫原の選択は、種々のTB相全体を通したそれらのMtb免疫原とin vivoにおけるマイコバクテリア毒力及びESX-1、ESX-3、ESX-5 T7SS又はTat系による活性な分泌との直接的な関連性に基づいた(16、17)。これらのタンパク質の中で、PE19が特に興味深い。単一抗原として、PE19は、いくつかのホモログと共有されるT細胞エピトープを有する。Mtbゲノムは、最大100のpe (及びppe)遺伝子を含有する。得られるPE/PPEタンパク質は、それらのN末端PE又はPPEモチーフにちなんで名づけられたものであり(18、50、51)、分泌されるか又は細胞壁に付着し、多くが病原性の潜在性に関連する大きな多重遺伝子ファミリーのタンパク質を形成する(18~21)。PE/PPEタンパク質は、祖先の遺伝子重複に起因して実質的な配列相同性を示し、したがって、多数のT細胞エピトープを共有する(42)。Mtbゲノム全体にわたってpe/ppe遺伝子の任意の挿入により、独立したプロモーターのアレイによるそれらの発現が導かれ、それにより、別個の感染症相におけるそれらの発現プロファイルの前例のない程度の変動性が生じる(52)。この状況により、種々のTB相の間の、共有されるPE (/PPE)エピトープの群の連続的なディスプレイが容易に生じ得る(42、53~55)。
【0189】
SARS-CoV-2に対するLVに基づくワクチン接種を用いて最近実証した通り(56)、全身免疫応答は、高品質のものであっても、必ずしも肺粘膜の感染部位に到達して肺内の病原体の複製を防止するとは限らない。抗体及び組織常在リンパ球を含めた粘膜免疫が気道からの病原体クリアランスに有益であることが示されている(56~60)。TBワクチン接種に関しては、本発明者らによる以前の結果から、Esx又はPE/PPE抗原を種々の製剤として用いたi.n.免疫化の利点が実証された(9、61)。更に、肺TBに対する防御は、抗原特異的常在メモリーCD4+T細胞の存在との相関が示されている(62~65)。本発明において、EsxH又はHAEP (A)多抗原をコードする最適化されたLVを全身又はi.n.投与することによって誘導されるCD4+及びCD8+T細胞の機能及び表現型を徹底的に特徴付けた。とりわけ、粘膜免疫により、多機能的エフェクター特色を有する肺CD4+及びCD8+T細胞が誘導され、活性化された組織常在性のメモリー表現型が伴った。cGAMPアジュバントを伴って製剤化し、i.n.投与した場合にも、最適化されたLVにより肺Th17及びTc17応答が誘発され、Mtbに対する防御における見込みが暗示された(66、67)。
【0190】
in vitroにおけるLVのDC成熟化に対する影響は非常に軽度であること、及びLV単独でi.n.投与した後の肺自然免疫細胞組成の改変が非常にわずかなものであることから、これらのベクターの炎症性特性が内因的に低いことが示される。興味深いことに、IFN-I、すなわち、LVによって誘導される稀な炎症性因子を通じたDCシグナル伝達は、これらのベクターによるCD4+又はCD8+T細胞誘導には関与しない。このことから、LVによって頑強なT細胞免疫を誘導するために必要とされる自然免疫経路の関与が必要最低限のものであることが示唆される。これらの特徴は、LVの非複製性特性と共に、好都合に、とりわけ、粘膜経路による動物又はヒトワクチン接種に関するそれらの安全性を反映する。更に、粘膜関門に起因して、i.n.免疫化では、更に、全身有害作用の最小化も生じ得る(68)。
【0191】
最後に、予防的C57BL/6マウスTBモデルにおいて、改善された弱毒生ワクチンであるBCG::ESX-1Mmarを用いた予備刺激(8)及びcGAMPと製剤化した最適化されたLV::li-HAEPAを用いたブーストに基づいて、ワクチン接種手法の防御潜在性を調査した。BCG::ESX-1Mmar自体が肺及び脾臓におけるMtb負荷量の実質的な減少を誘発するが、全身及び経鼻経路によるLVブーストにより、肺における細菌負荷量の有意な追加的な減少が実現され、脾臓への播種が弱まる正味の傾向が伴った。これらのデータから、LVに関しては、EsxHのような単一の小さな抗原だけでなく、liと融合した複数の抗原の融合物でも、CD8+T細胞の誘発を低減することなく、MHC-II提示経路への接近を獲得して、CD4+T細胞を誘導することができるという概念実証がもたらされる。更に、最適化されたLVを用いたi.n.免疫化により、常在メモリー表現型を有する多重特異性肺CD4+及びCD8+T細胞免疫の動員及び確立が誘導される。この手法を、任意選択により、適当なアジュバントを追加することによって改善することができる。
【0192】
i.n.免疫化に縦隔リンパ節が関与し、免疫細胞が、肺実質に直接動員されてそこに存在するのか、又は「三次リンパ器官」の高度に組織化された異所性リンパ系様構造に動員されるのかは、依然として明らかなっていない。後者は、粘膜組織における免疫胚中心を模倣するものであり、局所的な制御された炎症及び潜在的な感染部位における抗微生物宿主免疫を補強するための自然免疫及び適応免疫細胞クロストークに最適な環境がもたらされる(74)。
【0193】
非複製性且つ非常に弱い炎症性特性を有するLVが今やCD4+T細胞応答を誘導するように最適化され、これらのベクターは、特にi.n.経路による粘膜ワクチン接種のために選択されるツールになると予測される。これらのLVに基づく戦略の開発の見込みは、マイコバクテリア感染症をはるかに超え、この手法は急性又は慢性呼吸器感染性疾患まで拡張される。
【0194】
材料及び方法
Mtb(多)抗原をコードする移入プラスミドの構築及びLV生成
Eurofins社によって合成されたEsxHを単独で若しくはli、TfR、及びMITDとの融合物としてコードする、又は、li-HAEP若しくはli-HAEPAをコードするコドン最適化された遺伝子を、次いで、(i)主に免疫細胞、とりわけ、活性化されたAPCにおける抗原発現を導き出すヒトβ2ミクログロブリン(β2m)プロモーターに基づくものであり(70)、且つ(ii)たとえ最小の近位エンハンサーであるとしてもCMVプロモーターを起源とする挿入/置換領域を含有し、したがって、ベクターの安全性を改善する(本発明者らの未発表の結果)「SP1」プロモーターの下流にクローニングした。プロモーターは、遺伝子の転写を増大させるために変異WPRE (ウッドチャック転写後調節エレメント)配列を含有するpFLAPΔU3移入プラスミドのBamHI部位とXhoI部位の間に位置する(14)(図13)。LVの産生及び力価測定を他で記載されている通り実施した(56)
【0195】
マイコバクテリア
Mtb (H37Rv株)又はBCG::ESX-1Mmar (8)を、アルブミン、ブドウ糖及びカタラーゼを補充したDubosブロス(ADC、Difco、Becton Dickinson社、Le Pont-de-Claix、France)中で対数期まで培養した。フランスで最も蔓延している遺伝子型のうちの代表的な非Beijing及びBeijing臨床Mtb分離株を、薬剤耐性の特徴付け及びマイコバクテリア散在反復単位縦列反復配列多型(Mycobacterial Interspersed Repetitive-Unit-Variable-Number Tandem-Repeat) (MIRU-VNTR)遺伝子型決定のためにNational Reference Centre for TBに提出した(75)。Mtb臨床分離株を、オレイン酸ADC (OADC、Difco)を補充したDubosブロス中で増殖させた。マイコバクテリア培養物の力価をOD600測定によって決定した。病原性マイコバクテリアを用いた実験をBSL3でInstitut Pasteurの衛生及び安全保障推奨に従って実施した。
【0196】
in vitroにおけるMHC-I又は-II拘束抗原性提示の検出
組織適合性骨髄由来DCを、24ウェルプレートにおいて、5% FBSを含有するRPMI 1640中、ウェル当たり細胞5×105個でプレーティングした。接着性の場合、細胞にLVベクターを形質導入する、又は1μg/mlの同種又は対照合成ペプチドを負荷する。感染症の24時間後に、適当なT細胞ハイブリドーマ5×105個を添加し、24時間の時点で共培養物の上清をIL-2産生についてELISAによって評定する。このアッセイでは、放出されるIL-2の量は、MHC分子による抗原性提示の有効性に比例する。MHC-I又は-II拘束エピトープを有するペプチドをProteogenix社(Schiltigheim、France)で合成し、5%ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma-Aldrich社)を含有するH2O中に再構成した。必要に応じて、最近の記載の通り、TCR誘発後に蛍光シグナルを放出するように形質導入したレポーターT細胞ハイブリドーマを使用することによって抗原性提示を評定した(23)。
【0197】
マウス、免疫化
雌BALB/c (H-2d)及びC57BL/6(H-2b)(Janvier Labs社、Le Genest-Saint-Isle、France)を、少なくとも1週間の順化後、示されている用量のLVをi.m.注射についてはマウス当たり50μl、尾の基部へのs.cについてはマウス当たり200μl、又はi.n.滴下注入についてはマウス当たり20μlに含有させて免疫化した。i.n.投与は、質量を適合させた分量のImalgene1000(ケタミン、すなわち、100 mg/kg、Merial社、France)及びRompun 2%(キシラジン溶液、10 mg/kg、Bayer社、Germany)を含有するPBS 100μlをi.p.注射することで得た全身麻酔下で実施した。必要に応じてLVにアジュバントとしてマウス当たり10μgのポリI:C又はcGAMP (Invivogen社)を用いた。
【0198】
マウスCD11cプロモーターの調節下にあるCre DNAリコンビナーゼをコードする遺伝子を有するヘミ接合性C57BL/6(H-2b)マウス(76)を、「flox化された」ifnar1対立遺伝子についてホモ接合性であるC57BL/6マウス(77)と交配して、Cre導入遺伝子を有する又は有さないホモ接合性ifnar1flox/floxマウスの同腹仔を得た。ifnar1flox/flox pCD11c-Cre+マウスでは、CD11cを発現する形質細胞様DCを例外として、全ての他のDC集団がIFNAR1を欠くものである(77)。育種はInstitut Pasteurの中央動物施設においてSPF条件下で実施した。
【0199】
ヨーロッパ及びフランスの指令(Directive 86/609/CEE及びDecree 87-848 of 19 October 1987)に従い、Institut Pasteur Safety, Animal Care and Use Committeeによる承認を得た後、地域の倫理委員会プロトコール合意番号# CETEA 2013-0036及びCETEA 2012-0005(APAFIS#14638-2018041214002048)の下で、全てのマウスを8週齢から16週齢の間に使用した。
【0200】
細胞内サイトカイン染色
免疫化したマウス由来の脾細胞を組織ホモジナイゼーションによって得、100μmのナイロンフィルター(Cell Strainer、BD Biosciences社)を通し、24ウェルプレートにウェル当たり細胞4×106個でプレーティングした。肺を400 U/mlのIV型コラゲナーゼ及びDNase I (Roche社)を用いて37℃で30分間処理し、GentleMacs (Miltenyi社)を使用することによってホモジナイズした。次いで、細胞を、70μmのナイロンフィルター(Cell Strainer、BD Biosciences社)を通して濾過し、フィコール勾配培地(Lympholyte M、Cedarlane Laboratories社)上、室温、3000 rpm、ブレーキなしで20分間遠心分離した。肺T細胞を富化した画分を24ウェルプレート中、ウェル当たり細胞4×106個で組織適合性骨髄由来DC (ウェル当たり細胞8×105個)と共培養した。脾細胞又は肺T細胞を10μg/mlの相同又は対照ペプチド、1μg/mlの抗CD28 mAb (クローン37.51)及び1μg/mlの抗CD49d mAb (クローン9C10-MFR4.B)(BD Biosciences社)の存在下で6時間共培養した。インキュベーションの最後の3時間の間に、細胞を、どちらもBD Biosciences社からのGolgi PlugとGolgi Stopの混合物で処理した。必要に応じて、PE-Cy7抗CD107a mAb (クローン1D4B、BioLegend社)もこの工程で培養物に添加した。次いで、細胞を収集し、3% FBS及び0.1% NaN3を含有するPBS (FACS緩衝剤)で洗浄し、FcγII/III受容体遮断抗CD16/CD32 mAb (クローン2.4G2)及びAPC-eFluor780-抗CD3ε mAb (クローン17A2)、eF450-抗CD4 mAb (クローンRM4-5)、BV711-抗CD8 mAb (クローン53-6.7)(BD Biosciences社又はeBioscience社)の混合物と共に4℃で25分間インキュベートした。細胞をFACS緩衝剤で2回洗浄し、次いで、Cytofix/Cytopermキット(BD Bioscience社)を使用することによって透過処理した。次いで、細胞をCytofix/CytopermキットのPermWash 1X緩衝剤で2回洗浄し、AF488-抗IL-2 mAb (クローンJES6-5H4、BD Biosciences社)、PE/Dazzle 594-抗TNF-α mAb (MP6-XT22、BioLegend社)、及びAPC-抗IFN-γ mAb (クローンXMG1.2、BD Biosciences社)の混合物又は適当な対照Igアイソタイプの混合物と共に4℃で30分間インキュベートした。次いで、細胞をPermWashで2回、FACS緩衝剤で1回洗浄し、次いで、Cytofix (BD Biosciences社)を用いて4℃で一晩固定した。細胞をAttune NxT cytometer system (Invitrogen)で取得し、FlowJo software (Treestar社、OR、USA)を使用してデータ解析を実施した。
【0201】
肺細胞の表現型決定
屠殺3分前にPE-抗CD45(クローン30-F11、BioLegend社)をi.v.注射したマウスから、リンパ球を富化させた肺細胞を上記の通り調製し、全てFcγII/III受容体遮断抗CD16/CD32(BD Biosciences社)の存在下にある、APC-eFluor780-抗CD3ε mAb (クローン17A2、eBioscience社)、eF450-抗CD4 mAb (クローンRM4-5、eBioscience社)、BV711-抗CD8 mAb (クローン53-6.7、BD Biosciences社)と、(i) PE-Cy7-抗CD27 mAb (クローンLG.7F9、eBioscience社)及びAF700-抗CD62L mAb (クローンMEL-14、BD Biosciences社)、又は(ii) BV605-抗CD69 mAb (クローンH1.2F3、BioLegend社)、FITC-抗CD103 mAb (クローン2E7、BioLegend社)、PE-Cy7-抗CD49a mAb (クローンHM1、BioLegend社)、AF700-抗CD44 mAb (クローンIM7、BioLegend社)及びAPC-Fire750-抗CXCR3 mAb (クローンCXCR3-173、BioLegend社)のいずれかの混合物を用いて染色した。4℃で25分間インキュベートした後、細胞をFACS緩衝剤で2回洗浄し、Cytofix (BD Bioscience社)と共に4℃で一晩インキュベートすることによって固定した。肺自然免疫細胞の血球計算分析は最近他で詳述されている(56)。
【0202】
ELISPOTアッセイ
個々のマウス由来の脾細胞をホモジナイズし、100μmのポアフィルターを通して濾過し、1500 rpmで5分間遠心分離した。次いで、細胞をRed Blood Cell Lysing Buffer (Sigma社)で処理し、PBSで2回洗浄し、MACSQuant-10サイトメーター(Miltenyi Biotec社)で計数した。次いで、脾細胞を、ELISPOTプレート(Mouse IFN-γ又はTNF-α ELISPOTPLUS、Mabtech社)において、10%熱失活FBS、100 U/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシン、1×10-4Mの非必須アミノ酸、1% vol/volのHEPES、1×10-3Mのピルビン酸ナトリウム及び5×10-5Mのβ-メルカプトエタノールを含有するRPMI-GlutaMAX 200μl中にウェル当たり細胞1×105個でプレーティングした。細胞を刺激せず置いたか、又は2μg/mlの適当な合成ペプチド(Proteogenix社)を用いて、若しくは機能的対照として2.5μg/mlのコンカナバリンA(Sigma社)を用いて刺激した。各マウスについて、アッセイを3連で製造者の推奨に従って実施した。プレートをELR04 ELISPOTリーダー (AID社、Strassberg、Germany)で分析した。
【0203】
防御アッセイ
C57BL/6マウスに、0日目にBCG::ESX-1Mmar(8)を1×106 CFU/マウスでs.c.に用いて予備刺激を行い、5週目にアジュバントを伴うLVを5×108 TU/マウスでs.c.に用いてブーストを行い、10週目にアジュバントを伴うLVを5×108 TU/マウスでi.n.に用いて再度ブーストを行った。免疫化したマウス、並びに、年齢を釣り合わせたワクチン接種を行っていない対照に、i.n.ブーストの2週間後に、自家製ネブライザーを使用することでエアロゾルによって以前に記載されている通りチャレンジを行った(9)。簡単に述べると、1.7×106 CFU/mlのH37Rv Mtb株の懸濁液5 mlをエアロゾル化して、≒200 CFU/マウスの吸入用量を送達した。感染させたマウスをInstitut PasteurのBSL3施設内の隔離飼育器に入れた。5週間後、感染させたマウスの肺又は脾臓をMillMixerホモジナイザー (Qiagen社、Courtaboeuf、France)を使用してホモジナイズし、PBS中に調製した段階5倍希釈物を、ADC (Difco社、Becton Dickinson)を補充した7H11寒天にプレーティングした。37℃で3週間インキュベートした後にCFUを計数した。群間のCFU差異の有意性をPrism v8.01(GraphPad Software, Inc.社)を使用することによりマン・ホイットニーt検定によって決定した。
【0204】
【表1A】
【0205】
【表1B】
【0206】
【表2】
【0207】
【表3】
【0208】
[参考文献]
[寄託証]
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図14
図15A
図15B
【配列表】
2024509976000001.app
【国際調査報告】