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特表2024-510005マスタブレーキシリンダを行程シミュレータまたは少なくとも1つのブレーキ回路に選択的に接続する3ポート2位置切換弁を備えたブレーキシステム用の液圧式の操作システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】マスタブレーキシリンダを行程シミュレータまたは少なくとも1つのブレーキ回路に選択的に接続する3ポート2位置切換弁を備えたブレーキシステム用の液圧式の操作システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/122 20060101AFI20240227BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20240227BHJP
   B60T 15/36 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B60T13/122 B
B60T13/138
B60T15/36 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557093
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2022056626
(87)【国際公開番号】W WO2022194828
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】102021106270.5
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509159159
【氏名又は名称】アイピーゲート・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】IPGATE AG
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 160b, 8808 Pfaeffikon, Switzerland
(71)【出願人】
【識別番号】523351759
【氏名又は名称】ハインツ ライバー
【氏名又は名称原語表記】Heinz Leiber
【住所又は居所原語表記】Theodor-Heuss-Strasse 34, 71739 Oberriexingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ ライバー
(72)【発明者】
【氏名】アントン ファン ザンテン
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
【Fターム(参考)】
3D048BB01
3D048BB59
3D048CC54
3D048HH13
3D048HH18
3D048HH26
3D048QQ07
3D048RR06
3D048RR17
3D048RR35
3D049BB01
3D049BB39
3D049CC02
3D049HH12
3D049HH20
3D049HH39
3D049HH43
3D049JJ01
3D049JJ07
3D049JJ08
3D049JJ09
3D049QQ04
3D049RR04
3D049RR08
3D049RR13
(57)【要約】
ブレーキシステム用の液圧式の操作システムであって、以下の-少なくとも1つの液圧作動式のホイールブレーキを備えた少なくとも1つのブレーキ回路(BK)と、-特にブレーキペダルの形態の操作装置を介して操作可能な、少なくとも1つの作業室(R1,R2)を備えたマスタブレーキシリンダ(SHZ,THZ)と、-操作装置に対して反力を生ぜしめる、液圧式に作用する行程シミュレータ(WS)とを有する、液圧式の操作システムにおいて、作業室(R1)は、制御される3ポート2位置切換弁(MV)を介して、1つのブレーキ回路(BK)または行程シミュレータ(WS)に接続可能であることを特徴とする、液圧式の操作システム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシステム用の液圧式の操作システムであって、以下の
-少なくとも1つの液圧作動式のホイールブレーキを備えた少なくとも1つのブレーキ回路(BK)と、
-特にブレーキペダルの形態の操作装置を介して操作可能な、少なくとも1つの作業室(R1,R2)を備えたマスタブレーキシリンダ(SHZ,THZ)と、
-前記操作装置に対して反力を生ぜしめる、液圧式に作用する行程シミュレータ(WS)と
を有する、液圧式の操作システムにおいて、
前記作業室(R1,R2)は、制御される3ポート2位置切換弁(MV)を介して、1つのブレーキ回路(BK)または前記行程シミュレータ(WS)に接続可能であることを特徴とする、液圧式の操作システム。
【請求項2】
当該液圧式の操作システムは、前記少なくとも1つのブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を制御もしくは調整する、特に増圧(pauf)する少なくとも1つの圧力発生装置(DZ)を有している、請求項1記載の液圧式の操作システム。
【請求項3】
当該液圧式の操作システムもしくはブレーキシステムの通常動作では、前記少なくとも1つのブレーキ回路(BK1)内の圧力制御もしくは圧力調整が、前記圧力発生装置(DZ)により行われ、前記作業室(A1)は、前記3ポート2位置切換弁(MV)を介して、前記行程シミュレータ(WS)にのみ液圧式に接続されている、請求項2記載の液圧式の操作システム。
【請求項4】
前記3ポート2位置切換弁(MV)は、前記圧力供給装置(DV)と前記マスタブレーキシリンダ(SHZ,THZ)との間の液圧接続部(L7,L4,L1)に配置されている、請求項2または3記載の液圧式の操作システム。
【請求項5】
前記3ポート2位置切換弁(MV)に対して追加的に、少なくとも1つの別の切換弁(PD,BP1,BP2)が、前記圧力供給装置(DV)と前記マスタブレーキシリンダ(SHZ,THZ)との間、特に前記圧力供給装置(DZ)と前記3ポート2位置切換弁(MV)との間の前記液圧接続部(L7,L4)に、特に有利には前記圧力供給装置(DZ)を1つのブレーキ回路導管(L4,L8)に接続する液圧導管(L5,L6,L7)内に配置されている、請求項4記載の液圧式の操作システム。
【請求項6】
フォールバックレベルでは、特に故障の場合もしくは前記圧力発生装置(DZ)により調整される、少なくとも1つのホイールブレーキ内での圧力変化がもはや不可能であるかもしくは保障されていない場合には、前記作業室(R1)は、前記3ポート2位置切換弁(MV)を介して、1つのブレーキ回路(BK1)または複数のブレーキ回路(BK1,BK2)に液圧式に接続されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の液圧式の操作システム。
【請求項7】
前記3ポート2位置切換弁(MV)内への汚れの侵入を防ぐために、少なくとも1つのフィルタ(F1,F2,F3)が設けられており、特に前記3ポート2位置切換弁(MV)の少なくとも1つの液圧接続部(AN1,AN2,AN3)に対して少なくとも1つのフィルタ(F1,F2,F3)が設けられており、特に前記3ポート2位置切換弁(MV)のケーシング内に前記フィルタ(F1,F2,F3)のうちの少なくとも1つが配置されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の液圧式の操作システム。
【請求項8】
当該液圧式の操作システムもしくはブレーキシステムは、複数の弁のための弁モジュール(HCU)を有しており、該弁モジュール(HCU)内に前記3ポート2位置切換弁(MV)が配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の液圧式の操作システム。
【請求項9】
前記マスタブレーキシリンダ(THZ)は、2つの作業室(R1,R2)を有しており、各作業室(R1,R2)は、液圧導管(HL1,HL2)を介して1つのブレーキ回路(BK1,BK2)に接続されており、前記液圧導管(HL1,HL2)はそれぞれ、1つの弁(MV,MV1)を介して遮断可能であり、2つの弁のうちの1つは前記3ポート2位置切換弁(MV)である、請求項1から8までのいずれか1項記載の液圧式の操作システム。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の液圧式の操作システムを備えたブレーキシステム。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の液圧式の操作システムまたはブレーキシステム用の3ポート2位置切換弁(MV)において、
当該3ポート2位置切換弁(MV)は、各1つの弁閉鎖体(VSK1,VSK2)により閉鎖可能な2つの弁座(VS1,VS2)を有しており、第1の前記弁閉鎖体(V1)は、磁石可動子(4)に結合されていて、第1の前記弁座(VS1)と協働し、第2の前記弁閉鎖体(VSK2)は、第2の前記弁座(VS2)と協働し、2つの前記弁座(VS1,VS2)を貫通し、やはり前記磁石可動子(4)に結合されたプランジャ(ST)が設けられていることを特徴とする、3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項12】
前記第1の弁閉鎖体(VSK1)は第1の弁室(K1)内に配置されており、前記第2の弁閉鎖体(VSK2)は第2の弁室(K2)内に配置されており、前記弁座(VS1,VS3)は、円錐形の弁座面(VS1,VS2)を備えて環状に形成されており、前記第1の弁室(K1)と前記第2の弁室(K2)との間には、第3の弁室(K3)が配置されており、特に当該3ポート2位置切換弁(MV)の励磁コイル(5)に通電することにより達成される前記磁石可動子(4)の第1の位置では、前記磁石可動子(4)が、前記第1の弁閉鎖体(VSK1)を前記第1の弁座(VS1)の方にシールするように押圧し、ひいては前記第1の弁室(K1)から前記第3の弁室(K3)に通じる前記第1の液圧接続部(HV1)が閉じられており、このとき同時に、前記プランジャ(ST)は、前記第2の弁閉鎖体(VSK2)を、前記第2の弁座(VS2)から弁ばね(VF)とは反対の方向に押し離しており、これにより、前記第2の弁室(K2)から前記第3の弁室(K3)に通じる前記第2の液圧接続部(HV2)は開放されている、請求項11記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項13】
特に非通電状態の当該3ポート2位置切換弁(MV)と、当該3ポート2位置切換弁(MV)の前記弁ばね(VF)とにより達成される前記磁石可動子(4)の第2の位置では、前記第1の液圧接続部(HV1)は開放されており、前記第2の液圧接続部(HV2)は閉鎖されている、請求項11または12記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項14】
前記ブレーキ回路(BK)に接続する、当該3ポート2位置切換弁(MV)の第1の接続部(AN1)は、前記第1の弁室(K1)に液圧式に接続されており、当該3ポート2位置切換弁(MV)を前記行程シミュレータ(WS)に接続する、当該3ポート2位置切換弁(MV)の第2の接続部(AN2)は、前記第2の弁室(K2)に液圧式に接続されており、当該3ポート2位置切換弁(MV)を前記マスタブレーキシリンダ(SHZ,THZ)に接続する、当該3ポート2位置切換弁(MV)の第3の接続部(AN3)は、前記第3の弁室(K3)に液圧式に接続されている、請求項11から13までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項15】
前記弁ばね(VF)は、前記第2の液圧接続部(HV2)の開放圧力を決定し、前記弁閉鎖ばね(VF)は、前記第2の弁室(K2)内に配置されている、請求項11から14までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項16】
前記第1の弁閉鎖体(VSK1)および/または前記磁石可動子(4)に作用する別の第2の弁ばね(VF2)が設けられている、請求項11から15までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項17】
前記磁石可動子(4)のヨーク(6)内に永久磁石(PM)が配置されており、これにより、非通電状態の前記励磁コイル(5)において、前記永久磁石(PM)の磁界が、前記第2の弁座(VS2)を閉鎖する前記第1の弁ばね(VF)のばね力を支援する、請求項11から16までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項18】
前記第1の弁座(VS1)は前記磁石可動子(4)の前記磁石ヨーク(6)に配置されているか、または前記磁石ヨーク(6)の所定の領域が、前記第1の弁座(VS1)として形成されている、請求項11から17までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項19】
前記励磁コイル(5)は、当該3ポート2位置切換弁(MV)の前記ケーシング(9)と共に注型されており、かつ/または前記ケーシング(9)には、少なくとも1つの冷却体(10)または少なくとも1つの熱交換器ユニットが配置されている、請求項11から18までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項20】
前記第2の弁室を形成する構成ユニット(BE)は、その円錐形の側でもって前記第2の弁座(VS2)を形成しており、かつ内部に前記弁ばね(VF)と、前記第2の弁閉鎖体(VSK2)と、任意のばね皿(FT)とを収容しており、特にこれらの構成部材は、共に1つの構成ユニットを形成している、請求項11から19までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項21】
前記第2の弁室(VK2)は、前記弁皿(FT)における窓状の貫通部もしくは前記第2の弁室(VK2)を形成する前記構成ユニット(BE)の壁における窓状の貫通部を介して、当該3ポート2位置切換弁(MV)の前記第2の接続部(AN2)に液圧式に接続されている、請求項11から20までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項22】
前記励磁コイル(5)は、前記磁石ケーシングと共に注型されている、請求項11から21までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)。
【請求項23】
請求項11から22までのいずれか1項記載の3ポート2位置切換弁(MV)を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の液圧式の操作システムまたはブレーキシステムを動作させる方法において、
前記磁石可動子(4)の第2の位置に到達した後に、制御電流を低下させることを特徴とする、方法。
【請求項24】
請求項11から22までのいずれか1項記載のまたは請求項23記載の方法に基づく3ポート2位置切換弁(MV)を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の液圧式の操作システムまたはブレーキシステムを動作させる方法において、
前記第1の弁座(VS1)の故障時に、前記圧力供給装置(DZ)により発生させられた圧力と、前記3ポート2位置切換弁(MV)を相応に制御することとにより、ペダル戻り感覚をシミュレートするかもしくは発生させるペダル力を生ぜしめることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の特徴を備えた、ブレーキシステム用の液圧式の操作システムと、この操作システムに相応して形成された3ポート2位置切換弁とに関する。
【0002】
上位概念に記載の1つの可能なブレーキシステムが図1に示されている。このブレーキシステムは、2つの作業室R1およびR2を有するタンデムマスタブレーキシリンダとして形成されたマスタブレーキシリンダHZを有しており、この場合、作業室R1は、液圧導管L2と接続弁V3とを介してブレーキ回路BK2に接続され得る。作業室R2は、液圧導管L1およびL4と接続弁V1とを介してブレーキ回路BK1に接続可能である。液圧導管L1も同様に、液圧導管L3に接続されており、液圧導管L3には行程シミュレータWSが接続されており、この場合、液圧導管L3は接続弁V2により遮断可能である。追加的に、このブレーキシステムはさらに、少なくとも1つの圧力供給装置DZを有しており、圧力供給装置DZは、液圧導管L5およびL6を介してブレーキ回路BK1およびBK2に接続されており、この場合、一般に、導管L5およびL6を遮断する追加的な弁(図1には図示せず)が設けられている。ブレーキシステムが支障なく働く場合(これを通常動作と呼ぶ)、2つの接続弁V1およびV3は閉じられており、接続弁V2は開かれている。車両を運転する人員によりブレーキペダル1が操作されると、センサ2により検出されるブレーキペダル位置に応じて、少なくとも1つの圧力供給装置DZによりブレーキ回路BK1およびBK2内のブレーキ圧が制御もしくは調整される。ブレーキペダル1が変位させられると、プランジャ3と、マスタブレーキシリンダHZ内に設けられたピストンとを介して、行程シミュレータWSと協働して圧力が形成され、これにより、人員にペダル感覚を伝える反力が生じる。少なくとも接続弁V2は、常に2ポート2位置切換弁として形成されている。少なくとも1つの圧力供給装置DZによるブレーキ回路BK1およびBK2内の圧力制御がもはや不可能な故障が発生した場合には、2つの接続弁V1およびV3が開かれ、接続弁V2は閉じられる。フォールバックレベルとも称されるこの状態では、マスタブレーキシリンダHZは、ブレーキ回路BK1およびBK2用の圧力供給源として働き、この状態では、ブレーキペダル1を用いてブレーキ回路内に圧力を形成することができる。接続弁V2を閉じることにより、ブレーキ圧形成時に行程シミュレータWSにより及ぼされる影響が回避される。接続弁V2を閉鎖しないと、行程シミュレータWSの容積が、マスタブレーキシリンダの損失容積として作用することがあり、このことは、ペダル行程延長につながり、ひいてはこれに伴って、より低いブレーキ圧をもたらす恐れがある。したがって、接続弁V2が引き続き開放された場合には、ブレーキ力の増大不足により、法的な要求を大幅に上回ることがある、極めて高い踏力が必要とされる場合がある。ブレーキ力の増大不足のために、マスタブレーキシリンダHZはしばしば、補助回路とも称される。
【0003】
上述のブレーキシステムにおける欠点は、ブレーキ回路BK1およびBK2ならびに行程シミュレータWSに対してマスタブレーキシリンダHZを遮断するために、少なくとも3つの接続弁ひいてはこれに伴い比較的多くの液圧導管が必要とされる点であり、このことは、製造が高価であるということのみならず、ブレーキシステムの弁がまとめられた液圧モジュールの比較的大きな構成体積にもつながる。
【0004】
3ポート2位置切換電磁弁は、液圧式の駆動装置において、特に自動車のブレーキシステムにおいても広く普及している。ブレーキシステムでは大抵、圧力制御・調整用に2ポート2位置切換電磁弁が使用される。これに対して、3ポート2位置切換電磁弁は大抵、ブレーキシステムの個々のコンポーネントの接続および遮断に使用される。そのため、独国特許出願公開第102017000472号明細書には、ブレーキ回路をモータ駆動式の圧力供給装置またはマスタブレーキシリンダに選択的に接続するための、3ポート2位置切換電磁弁の使用が開示されている。しかしながら、前掲の独国特許出願公開第102017000472号明細書から公知のような3ポート2位置切換弁の使用は、故障時または不密な弁座において問題を生ぜしめる。例えば、3ポート2位置切換電磁弁内の、マスタブレーキシリンダから圧力供給装置への液圧接続部が故障している、すなわち不密である場合、このことは、不都合にも大幅なペダル後退作用を招き、このことは必然的に、圧力供給装置の遮断を招き、これにより同時に、ブレーキ力増大が中止される。
【0005】
本発明の課題は、上位概念に記載のブレーキシステムを改良して、より少ない弁で間に合うようにし、ひいてはより廉価、より小型かつより軽量にすることにある。
【0006】
この課題は本発明に基づき、請求項1に記載の特徴を有する液圧式の操作システムにより解決される。請求項1から9に記載の液圧式の操作システム用の本発明による3ポート2位置切換弁が、請求項11とその従属請求項とに基づき請求される。
【0007】
本発明の根底を成す発明の思想は、従来、マスタブレーキシリンダの一方の作業室を行程シミュレータまたはブレーキ回路に選択的に接続するために用いられてきた2つの2ポート2位置切換電磁弁V1およびV2(図1参照)を、単一の3ポート2位置切換弁に置換する点にある。これにより、有利にはコストと、いわゆる液圧式の制御装置における取付けスペースとが節約される。さらに、3ポート2位置切換弁が不密な場合でさえ、有利にはなお、圧力供給装置による圧力制御が可能であり、同時に、3ポート2位置切換弁を相応して制御することによりさらに、ペダル感覚を発生させるマスタブレーキシリンダ内の圧力を調整することができる。これにより、本発明によるブレーキシステムは、有利には従来のブレーキシステムよりもはるかにフェイルセーフである。
【0008】
本発明による、ブレーキシステム用の液圧式の操作システムでは、マスタブレーキシリンダの一方の作業室が、制御される3ポート2位置切換弁を介して、1つのブレーキ回路または行程シミュレータに接続可能である。さらにブレーキシステムは、少なくとも1つのブレーキ回路内の圧力を制御もしくは調整する、特に増圧および/または減圧する少なくとも1つの圧力発生装置を有している。もちろん、ブレーキシステムがさらに追加的に、減圧用の少なくとも1つの出口弁および/または代替的な制御部材、例えば電動モータにより駆動される減圧用の別の圧力供給装置DZ等を有している場合も、本発明の思想の範囲内である。
【0009】
ブレーキシステムのいわゆる「通常動作」では、少なくとも1つのブレーキ回路内の圧力制御もしくは圧力調整が、圧力発生装置により行われる。マスタブレーキシリンダの作業室は、この動作状態では3ポート2位置切換弁を介して、行程シミュレータにのみ液圧式に接続されている。作業室からブレーキ回路への液圧接続部は中断されている。このためには、3ポート2位置切換弁が通電され、磁石可動子が第1の位置を占め(このことは以下、3ポート2位置切換弁の第2の切換状態とも称される)、第1の位置において磁石可動子は、第1の弁閉鎖体を対応する弁座に押し当て、ひいてはブレーキ回路に対する接続部とマスタブレーキシリンダに対する接続部との接続に用いられる3ポート2位置切換弁の第1の液圧接続部を閉鎖する。この場合、ブレーキ回路内を支配する圧力は、磁力を支援するように第1の弁閉鎖体に作用する。このことを可能にするために、本発明では、3ポート2位置切換弁が、圧力供給装置とマスタブレーキシリンダとの間の液圧接続部に配置されている。これにより、3ポート2位置切換弁内の弁ばねを、戻し力を高めて寸法設定することができるため、3ポート2位置切換弁は、有利には、ブレーキ回路内に未だ150bar超の圧力が存在していても、つまり、フェード現象時の圧力を超えていても、磁石可動子の第1の位置から磁石可動子の第2の位置へ、なお確実に、3ポート2位置切換弁の第2の切換状態に切り換わる。これにより、有利には、ブレーキシステムのフェイルセーフが向上する。
【0010】
弁ばねの故障を検出するための診断は、有利には、電磁弁の切換電流を介して簡単に行うことができる。
【0011】
3ポート2位置切換弁の不密性が生じた場合、有利には、ホイールブレーキ内またはブレーキ回路内の圧力を制御する圧力供給装置により、ブレーキシステムを引き続き動作させることができる。3ポート2位置切換弁を相応に制御することにより、運転している人員がなお想定可能なペダル特性を調整することができる。このために有利には、マスタブレーキシリンダの作業室内の圧力が、所定のペダル特性を調整するために3ポート2位置切換弁の2つの切換状態の間で3ポート2位置切換弁を相応に切り換えることにより調整され得、この場合、このためには、圧力供給装置により形成された圧力が利用される。このようにして有利には、行程シミュレータが故障した場合および/または3ポート2位置切換弁、特に行程シミュレータに対する接続部とマスタブレーキシリンダに対する接続部との間の液圧接続部に不密性が生じた場合でも、依然として少なくとも1つの圧力供給装置により、ブレーキ力増大が維持され得る。
【0012】
有利には、本発明による3ポート2位置切換弁のためには、アンチロックブレーキ機能(ABS)に利用されるような従来の2ポート2位置切換弁の多数のコンポーネントが使用され得る。特に、従来の2ポート2位置切換弁の電磁部分を、本発明による3ポート2位置切換弁のために利用することができる。追加的に必要とされる第2の弁座は、第2の弁閉鎖体と弁ばねと共に、別個の構成ユニットにまとめられてよい。この場合、第1の弁閉鎖体は第1の弁室内に配置されており、第2の弁閉鎖体は第2の弁室内に配置されている。2つの弁座の間には、第3の弁室が配置されている。第1の弁室は、通路を介してブレーキ回路に対する第1の弁接続部に接続されており、第2の弁室は、通路を介して行程シミュレータに対する第2の弁接続部に接続されている。第3の弁室は、通路を介してマスタブレーキシリンダに対する弁接続部に接続されている。第1の弁閉鎖体は、有利には磁石可動子に結合されており、この場合、第1の弁閉鎖体にはプランジャが配置されており、プランジャは、2つの弁座を貫通し、かつその長さが、電磁弁の第1の切換状態において第2の弁閉鎖体がプランジャにより弁ばね力とは反対の方向で第2の弁座から持ち上げられ、これにより、第2の弁接続部と第3の弁接続部との間の液圧接続部が開放されているように寸法設定されている。第2の弁位置では、非通電状態の3ポート2位置切換弁において、第2の弁閉鎖体が弁ばねにより第2の弁座に対してシールするように押圧され、このとき第1の弁閉鎖体は、プランジャに基づき第1の弁座から持ち上げられ、これにより、第1の弁接続部と第3の弁接続部との間の第1の液圧接続部は開放されており、第3の弁接続部と第2の弁接続部との間の第2の液圧接続部は中断されている。
【0013】
磁石可動子を第1の弁閉鎖体に結合するピンは、ABS用の標準的な2ポート2位置切換弁におけるよりも直径を小さく形成されてよく、これにより、有利には約20%の磁力が実現され得る。大きな力に関して3ポート2位置切換弁の損失出力を低減するために、有利には、3ポート2位置切換弁の励磁コイルは磁石ケーシング内に注型され得、磁石ケーシングには冷却体が設けられてよい。また、損失出力を減じるために、永久磁石をヨーク内に配置することも可能である。
【0014】
マスタブレーキシリンダとして、シングルマスタブレーキシリンダとタンデムマスタブレーキシリンダの両方が使用され得る。
【0015】
シングルマスタブレーキシリンダの使用により、有利にはコスト削減と、スマート冗長性による安全性の向上とがもたらされる。
【0016】
上述したブレーキ回路には、公知の形式で別の弁回路(ここではこれ以上説明せず)を介して、ホイールブレーキが接続されている。
【0017】
次に図面に基づき、本発明によるブレーキシステムおよびこのブレーキシステムに必要な3ポート2位置切換弁を、より詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】マスタブレーキシリンダ、ペダル、行程シミュレータおよび3つの2ポート2位置切換弁を備えた従来のブレーキシステムを示す図である。
図2】タンデムブレーキシリンダとして形成されたマスタブレーキシリンダを行程シミュレータまたはブレーキ回路に選択的に接続する3ポート2位置切換弁を備えたブレーキシステム用の本発明による液圧式の操作システムの第1の可能な実施形態を示す図である。
図3】シングルブレーキシリンダとして形成されたマスタブレーキシリンダを行程シミュレータまたはブレーキ回路に選択的に接続する3ポート2位置切換弁を備えたブレーキシステム用の本発明による液圧式の操作システムの第2の可能な実施形態を示す図である。
図4】本発明による操作システム用の本発明による3ポート2位置切換弁の1つの可能な実施形態を示す概略図である。
図5a】本発明による液圧式の操作システムの様々な動作状態を示す図である。
図5b】本発明による液圧式の操作システムの様々な動作状態を示す図である。
図5c】本発明による液圧式の操作システムの様々な動作状態を示す図である。
図5d】本発明による液圧式の操作システムの様々な動作状態を示す図である。
図5e】本発明による液圧式の操作システムの様々な動作状態を示す図である。
図6】3ポート2位置切換弁の磁力特性線を示す図である。
図7】3ポート2位置切換弁の可能な設計の構成を示す図である。
図8】故障時に想定可能なペダル感覚を発生させるペダル行程の時間的な推移を示す図である。
【0019】
図2には、タンデムブレーキシリンダとして形成されたマスタブレーキシリンダTHZを行程シミュレータWSまたは第1のブレーキ回路BK1に選択的に接続する3ポート2位置切換弁MVを備えた本発明による液圧式の操作システムの第1の可能な実施形態が示されている。タンデムマスタブレーキシリンダ(THZ)は、リザーバタンクVBと、2つの作業室R1およびR2とを有している。2つの作業室R1およびR2を隔てているピストン(図示せず)は、ペダル1によりピン3を介して変位可能である。第1の作業室R1は、液圧導管L2を介して接続弁V3に接続されており、接続弁V3は、液圧導管L2を選択的に、第2のブレーキ回路BK2のブレーキ回路導管L8から切り離すか、もしくはこれに接続する。タンデムマスタブレーキシリンダTHZの第2の作業室R2は、液圧導管L1を介して3ポート2位置切換弁MVに接続されている。3ポート2位置切換弁MVの切換状態に応じて、液圧導管L1は、行程シミュレータWSに通じる液圧導管L3または第1のブレーキ回路BK1の液圧導管L4に接続されている。図2には、3ポート2位置切換弁MVが非通電状態で示されており、これは、上述した3ポート2位置切換弁MVの第2の切換状態に相当する。破線ボックス内には、例示的に3つの弁PD,BP1およびBP2が示されており、これらの弁PD,BP1およびBP2は、圧力供給装置DZを2つのブレーキ回路BK1およびBK2に接続するために用いられる。もちろん、相応して適合させられた弁回路を備えるもう1つの第2の圧力供給装置(図示せず)を使用することも可能である。
【0020】
図3には、ブレーキシステム用の本発明による液圧式の操作システムの別の第2の可能な実施形態が示されており、この場合、図2に示したブレーキシステムとは異なり、マスタブレーキシリンダは、1つの作業室R1のみを備えたシングルマスタブレーキシリンダとして形成されている。シングルマスタブレーキシリンダSHZの作業室R1は、液圧接続導管L1を介して3ポート2位置切換弁MVに接続されており、3ポート2位置切換弁MVは、図2に示して説明した3ポート2位置切換弁MVと同様に、作業室R1を選択的に、行程シミュレータWSまたはブレーキ回路BK1に接続する。このようなブレーキシステムの場合、例示的に、圧力供給装置は分離弁PDを介して液圧導管L5でもってブレーキ回路BK1に接続されていてよい。
【0021】
図4には、本発明によるブレーキシステム用の本発明による3ポート2位置切換弁MVの1つの可能な実施形態の概略図が示されている。3ポート2位置切換弁MVは、励磁コイル5を有しており、励磁コイル5は、磁石ヨーク6を取り囲んで配置されており、磁石ヨーク6内では、磁石可動子4がピン7,7aに対して軸線方向に変位可能である。磁石可動子4の左端部には、ストッパ部材4aが統合されており、ストッパ部材4aは、図4に示す弁MVの第2の非通電切換状態では、磁石ヨーク6の内壁に突き当たっている。接続ピン7,7aの右側の端部には、接続ピン端部7aに固く結合された第1の弁閉鎖体VSK1が配置されている。第1の弁閉鎖体VSK1は、磁石ヨーク6の構成部材であってよい第1の弁座VS1と協働する。磁石ヨーク6は、ピン部分7aの領域に第1の弁室K1を形成しており、第1の弁室K1は液圧通路を介して、ブレーキ回路BK1を接続するための第1の弁接続部AN1に接続されている。
【0022】
3ポート2位置切換弁MVは、さらに第2の弁室K2を有しており、第2の弁室K2内には、弁ばねVFと、第2の弁閉鎖体VSK2とが配置されている。第2の弁室K2は液圧通路を介して、行程シミュレータWSが接続された第2の弁接続部AN2に接続されている。第2の弁室K2は、その左側でもって弁MVの第2の弁座VS2を形成しており、第2の弁座VS2は、第2の弁閉鎖体VSK2と協働する。2つの弁座VS1およびVS2の間には、第3の弁室K3が配置されており、第3の弁室K3は、マスタブレーキシリンダSHZもしくはTHZに対する第3の弁接続部AN3に接続されている。第1の弁閉鎖体VSK1の、ピン7,7aとは反対の側には、プランジャSTが一体成形されているかまたは取り付けられており、プランジャSTは、その長さに関して、プランジャSTが第1の弁座VS1および第3の弁室K3を貫通し、その自由端部でもって、3ポート2位置切換弁MVの通電状態において第2の弁閉鎖体VSK2に作用することができるように寸法設定されている。図4には、「非通電」状態が示されている。この状態では、弁ばねVFが第2の弁閉鎖体VSK2を第2の弁座VS2の方に押圧しており、この場合さらに、磁石可動子4が左側に変位させられており、これにより、第1の弁室K1と第3の弁室K3との間の第1の液圧接続部HV1が開放されており、これにより、マスタブレーキシリンダSHZもしくはTHZは第1のブレーキ回路BK1に接続されており、行程シミュレータWSは第3の弁室K3から切り離されている。
【0023】
この場合、弁ばねVFの寸法設定が、例えば圧力供給装置DZの故障時のフォールバックレベルにおける開放圧力を決定する。この場合、立法者は、ブレーキペダル1に対する500Nの踏力により0.24gの車両減速を生ぜしめることができる、ということを求めている。マスタブレーキシリンダにおける開放圧力が75barになるように弁ばねを寸法設定することにより、ほぼ3倍の減速値が達成され得る。
【0024】
図5a~図5eには、本発明によるブレーキシステムの様々な動作状態が示されており、以下で個別に、より詳しく説明する。
【0025】
図5aには、電磁弁MVが通電されかつマスタブレーキシリンダSHZが行程シミュレータWSに接続された第1の切換状態にある第1の限界例が示されている。ブレーキ回路BK1内を0barの圧力が支配しており、この場合、マスタブレーキシリンダSHZにより220barの圧力が形成される。これにより、弁ばね力RF、磁力F、ならびに液圧により生ぜしめられる力Fが作用し、このとき、第1の弁閉鎖体VSK1が確実にシールするように第1の弁座VS1の方に押圧され続けるように、磁力Fは、力RFとFとの和よりも大きくなければならない。この状態では、磁石可動子4はその初期位置から行程hだけ進んでいる。
【0026】
図5bには、ブレーキ回路BK1内を220barの圧力が支配している別の限界例が示されている。マスタブレーキシリンダSHZにより形成される圧力は、40barだけに過ぎない。差圧により第1の弁閉鎖体VSK1に作用する力Fは、弁ばねの力RFよりも大幅に大きいため、この状態では、電磁弁MVをこの切換状態に保つために、励磁コイル5に通電する必要はない。
【0027】
図5cには、圧力供給装置によるブレーキ回路内の圧力制御が不可能なフォールバックレベルに関する第1の切換状態が示されている。この動作状態では、圧力がブレーキペダルにより、マスタブレーキシリンダSHZを介してのみ形成される。通常の場合、200Nのペダル力において、ブレーキ回路BK1内に100bar超の圧力が形成され、このことは、約1gの車両の減速をもたらす。マスタブレーキシリンダにより形成された圧力の場合には、弁ばね力RFがさらに、第2の弁室K2と第3の弁室K3との間の第2の液圧接続部HV2の確実な閉鎖を生ぜしめる。フォールバックレベルにおいて立法者は、全ての運転者がもたらせるわけではない500Nのペダル力において、0.24gの制動減速が生ぜしめられることを求めている。この理由から弁ばねは、750N超の踏力において第3の弁室K3内の圧力が、第2の弁閉鎖体VSK2が弁ばね力RFとは反対の方向に第2の弁座VS2から持ち上げられ、ひいては液圧接続部HV2が開くような大きさになるように設計され、これにより、ペダル力が比較的大きな場合でも、圧力上昇はもはや不可能である。
【0028】
図5dには、全制動の約70%で生じる負荷がかけられた第2の切換状態における電磁弁MVが示されており、この場合、ブレーキ回路BK1内を30barの圧力が支配しており、ブレーキペダルにより、マスタブレーキシリンダSHZ内に10barの圧力が形成される。弁室K1とK3との間を支配する差圧に基づき、通電量は、図5aに示した状態よりも大幅に少なくてよい。
【0029】
図5eには、ブレーキ回路BK1内の高圧を用いた制動中に電気制御ユニット(ECU)または電気制御装置が故障したときの動作状態が示されている。弁ばねVFの累進的なばね力RFにより、弁ばねVFは、ブレーキ回路BK1内の150barの圧力(弁ばねの設計A)においても依然として、液圧接続部HV2を閉鎖しかつ第3の弁室K3と第1の弁室K1との間の第1の液圧接続部を開放することができる。
【0030】
弁ばね力RFの低下は、例えば、電磁弁MVを、第1の液圧接続部HV1が閉鎖されている第2の切換状態へ切り換える励磁コイル5に必要とされる開放電流により診断され得る。
【0031】
図6には、磁石可動子4の行程hに依存する電流iおよび磁力により、3ポート2位置切換弁MVの磁力特性線が示されている。4bおよび4dは、2つの主機能に関する作動点を示しており、作動点4bは、図5cに示して説明した状態に相当し、作動点4dは、図5eに示して説明した状態に相当する。上述した好適な設計Aで弁ばねを設計した場合に生じるばね力の推移がAで示されている。
【0032】
Bは、第2の弁ばねDが設けられている場合に生じる力の推移であり、第2の弁ばねDは、行程hが短い場合に初めて作用する。力の推移Cは、永久磁石PM(図7参照)が設けられている場合に生じ、永久磁石PMは、短い行程hにおいて必要な開放力(図5eに示した状態)をもたらす。これらの解決手段の提案は全て、損失出力および熱負荷の低減を目的としたものである。磁力曲線には、例えば最大2.5Aの電流も対応付けられている。作動点4bに関する曲線もしくは力の均衡は、例えば1.5Aの電流において達成される。これに対して、作動点4dに到達するためには、1.0Aの電流で足りる。
【0033】
図7には、3ポート2位置切換弁の1つの可能な設計の構成が示されている。この場合、磁石可動子4、励磁コイル5、磁石ヨーク6から成る上側部分は、アンチロックブレーキシステム(ABS)用の標準的な2ポート2位置切換入口弁の構成に相当する。この理由から、ここでは詳細な説明は省き、2ポート2位置切換弁の3ポート2位置切換弁への変換を生ぜしめる下側部分のみを詳しく説明する。
【0034】
磁石ヨーク6は、第1の弁閉鎖体VSK1に結合されたピン7,7aのガイドに用いられる。ピン7は、2ポート2位置切換入口弁の標準的な構成と比較して、直径をより小さく形成され得、このことは、有効磁極面を拡大する。このことは、図6において説明したような、戻しばねVFの力を支援するための、ヨーク6における永久磁石PMの取付けをも可能にし、これにより、より小さな損失出力が達成される。第1の弁閉鎖体VSK1は、第1の弁座VS1と協働し、確実なシール作用を達成するかもしくは保証するために、半球状に形成されている。第1の弁座VS1は、磁石ヨーク6内に配置されている。ただし第1の弁座VS1は、磁石ヨーク6に統合されてもよいか、または縁曲げプレートにより形成されてもよい。プランジャSTは、第1の弁閉鎖体VSK1に一体成形されているか、またはピン7aに結合されている。プランジャは、第1の弁座VS1を貫通しており、球として形成されかつ第2の弁座VS2と協働する第2の弁閉鎖体VSK2に作用する。
【0035】
図示のように、第2の弁座VS2は、球VSK2と弁ばねVFと共に、別個のケーシング内に構成ユニットとしてまとめられてよい。このことは、事前組立ておよび弁調整における利点をもたらす。このために構成ユニットは、ヨークケーシング内に圧入される。プランジャ行程を測定するために、球ストッパが、測定ピンを介して球の行程を検出するための孔を有している。構成ユニットと磁石ヨークとの確実な結合のためには、給電することが適している。弁座VS1およびVS2を保護するために、ブレーキ回路、マスタブレーキシリンダおよび行程シミュレータに対する全ての接続部は、フィルタF1,F2,F3により保護されている。
【0036】
弁調整は、プランジャSTが球VSK2に対して小さな間隔を有するように行われる。
【0037】
コイル加熱を減じるために、励磁コイル5は磁石ケーシング9と共に注型され得る。追加的に、リブ状の冷却体10が設けられてもよい。
【0038】
図8には、故障時に想定可能なペダル感覚を発生させるペダル行程の時間的な推移が示されている。
【0039】
生じ得る第1の故障は、3ポート2位置電磁弁の不密性により発生する可能性がある。3ポート2位置切換弁の制御では、例えば侵入した汚染粒子に基づき、マスタブレーキシリンダとブレーキ回路との間の液圧接続部に不密性が生じることがある。この場合、本発明によるブレーキシステムによりフォールバックレベルを形成することができ、フォールバックレベルでは、ブレーキペダル特性もしくはペダル感覚が、ブレーキペダル行程と圧力供給装置DZとの協調により保たれる。
【0040】
通常の場合には、運転者による制動時に、圧力供給装置DZによりブレーキ回路内の圧力が、ブレーキペダル行程から導出されるホイールシリンダの目標圧力に調整される。運転者による制動(非回生)に際して、ブレーキ液は故障に起因してブレーキ回路BK1から不密な3ポート2位置切換弁を介してマスタブレーキシリンダSHZもしくはTHZ内へ流入し、これによりブレーキペダルが押し戻されて、ブレーキペダル行程が短縮させられる。
【0041】
正常なブレーキシステムの場合には、各ブレーキペダル行程に、マスタブレーキシリンダSHZもしくはTHZ内の所定の圧力が対応しており、この圧力が、ペダル特性を決定する。マスタブレーキシリンダ内の圧力は、例えば圧力センサ(図示せず)により直接測定されるか、または例えばペダル力を測定することができる力-距離センサ(図示せず)により間接的に測定される。このようにして、マスタブレーキシリンダ内の各ブレーキ圧力に関して目標ブレーキペダル行程を決定することができる。ペダル特性は、ブレーキ回路内の圧力がマスタブレーキシリンダ内の圧力よりも大きくなるように設計されている。
【0042】
故障は、実際ブレーキペダル行程と目標ブレーキペダル行程とを継続して比較することにより発見される。フォールバックレベルでは、測定される実際ブレーキペダル行程と、目標ブレーキペダル行程(図2、参照符号2)との間の差が選択可能な下限値を下回ると、圧力供給装置DZが停止させられ、ホイールシリンダ(図示せず)に対する弁が閉じられる。3ポート2位置切換弁MVの制御は遮断され、ブレーキ回路内の出口弁(図示せず)が開放される。これにより、ブレーキ液がマスタブレーキシリンダHZから、マスタブレーキシリンダからブレーキ回路へ開かれた接続部を通ってブレーキ回路内に流入し、かつ出口弁を通ってリザーバタンク内に流入し、これにより、ブレーキペダル行程が再び増大する。実際ブレーキペダル行程と目標ブレーキペダル行程との間の差が選択可能な上限値を超えると、出口弁(図示せず)が再び閉じ、3ポート2位置切換弁を再び制御し、圧力供給装置DZを再び接続し、ホイールシリンダに対する切換弁を再び開放し、ホイールシリンダ内の圧力を再び圧力供給装置DZにより目標圧力に調整する。これにより故障に起因して、既に説明したように、ブレーキペダル行程は再び短縮される。実際ブレーキペダル行程と目標ブレーキペダル行程との間の差が選択可能な下限値を再び下回ると、圧力供給装置DZは再び停止させられ、ホイールシリンダに対する切替弁が閉じられ、ブレーキ回路内の出口弁が開放され、3ポート2位置切換弁MVの制御が遮断されるという過程が繰り返される。これにより、ブレーキペダル感覚は概ね通常のままである。ただし、ブレーキペダルの軽微な振動が生じる場合がある。
【0043】
次に、図8に示す平均値に基づきフォールバックレベルに関する1つの可能な計算例を簡単に説明する。
【0044】
ブレーキペダル操作により、ホイールシリンダ内に100barへの圧力上昇Paufが生ぜしめられる。
【0045】
ブレーキ圧が100barの場合、ペダル行程は、例えば54mmである。ブレーキペダル行程協調により、ペダル振動の振幅は5mmを超えないことが望ましい。ペダル比が4.0の場合、このことは、マスタブレーキシリンダ-ピストン振幅が0.125cmであることを意味する。
【0046】
ブレーキ回路内の圧力が100barの場合、マスタブレーキシリンダ圧力は約20barであることが望ましい。この場合、マスタブレーキシリンダとブレーキ回路との間の差圧は80barである。平均すると、制動を開始してからの差圧は、80/2=40barである。3ポート2位置切換弁を介した差圧が40barの場合、弁の不密性による漏出流は、例えば7cm/sである。
【0047】
マスタブレーキシリンダのピストン面積が例えば2.85cmの場合、マスタブレーキシリンダ-ピストンは、漏出流により7cm/s/2.85cm=2.46cm/sの速度で押し戻される。許容されるHZ-ピストン振幅が0.125cmの場合、0.125cm/2.46cm/s=50ms後に必然的に、HZ内の容積が減少させられる。
【0048】
この場合、50msで不密な3ポート2位置切換弁を通って漏出する体積は、0.050s*7cm/s=0.35cmである。3ポート2位置切換弁を遮断しかつ出口弁(図示せず)を開放することにより、ブレーキ液はマスタブレーキシリンダHZから3ポート2位置切換弁を通りブレーキ回路BKへ流れると共に、出口弁(図示せず)を通りブレーキ回路BKからリザーバタンクへ流れる。3ポート2位置切換弁の弁横断面積が例えば0.8mm、出口弁(図示せず)の弁横断面積が例えば0.8mm、マスタブレーキシリンダ内の平均圧力が例えば10barの場合、マスタブレーキシリンダHZからの体積流量は、例えば8.24の弁定数において、8.24*0.8*sqrt(10*0.64/(0.64+0.64))=8.24*0.8*sqrt(5)=14.7cm/sである。この場合、0.35cmの漏出体積が、3ポート2位置切換弁と出口弁(図示せず)とを通り、0.35cm/14.7cm/s=約25msで流出する。この場合、1回のサイクルは、2*(50+25)ms=150msを要する。ペダルは、約1000ms/150ms=約6.7Hzの周波数で振動する。
【0049】
本発明による、ブレーキシステム用の操作システムは、ホイールブレーキと、介在する別の弁回路、例えば周知のABS/ESPモジュールまたは各ホイールブレーキに前置された圧力制御を行う個々の切換弁と合わせてのみ、完全なブレーキシステムを生ぜしめる、ということは自明である。このためにはさらに、一般にECUとも呼ばれる制御・調整装置が必要である。もちろん、これらのコンポーネントは全て、本発明によるブレーキシステムの構成部材であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 ペダル
2 リザーバタンク
3 ピストンプランジャ
4 磁石可動子
4a 磁石可動子4のストッパ
5 励磁コイル
6 磁石ヨーク
7,7a ピン
9 磁石ケーシング
10 冷却体
AN1,AN2,AN3 弁接続部
BE 構成ユニット
BK1,BK2 第1および第2のブレーキ回路
BP1,BP2 分離弁
DZ 圧力供給装置
F1,F2,F3 フィルタ
液圧による力
H 磁石可動子の行程
HV1 第1の液圧接続部
HV2 第2の液圧接続部
K1,K2,K3 弁室
Li 液圧導管
MV 3ポート2位置切換弁
PD 分離弁
R1,R2 マスタブレーキシリンダの作業室
RF 弁ばね力
SHZ/THZ シングルマスタブレーキシリンダもしくはタンデムマスタブレーキシリンダ
ST プランジャ
V1,V2,V3 2ポート2位置切換弁
VF 弁ばね
VS1 第1の弁座
VS2 第2の弁座
VSK1 第1の弁閉鎖体
VSK2 第2の弁閉鎖体
WS 行程シミュレータ
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図6
図7
図8
【国際調査報告】