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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】両側手術ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/30 20160101AFI20240227BHJP
【FI】
A61B34/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557117
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 IB2022052297
(87)【国際公開番号】W WO2022195460
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】63/161,716
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/253,533
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523352332
【氏名又は名称】レム サージカル アーゲー
【氏名又は名称原語表記】LEM SURGICAL AG
【住所又は居所原語表記】Murtenstrasse 143a, 3008 Bern, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バル, ヨッシー
【テーマコード(参考)】
4C130
【Fターム(参考)】
4C130AA04
4C130AA32
4C130AA36
4C130AA54
4C130AD21
4C130DA01
(57)【要約】
移動式両側ロボット手術システムが提供される。上記システムは、ロボットによる脊椎手術のために最適化され得る。上記システムは、手術台の下に配備可能であるように構成される移動式カート、及び特に脊椎手術台を備える。上記移動式カートは、床又は手術台に固定されていなくてよい。上記カートは、手術台の下への配備を可能にするために当該カートの側部又は中へと折り畳み可能な複数のロボットアームを備える。それらロボットアームは、既知のシステムと比較して相対的に短く軽量であってよく、患者の両側へ展開される。これが、広範な手術処置の高精度での遂行を可能にする。上記移動式カートは、さらに、上記ロボットアームの位置をシステムが把握することを容易にする中央制御ユニットを備える。上記システムは、さらに、オプションとして、患者の生体構造及び手術処置において使用される器具の位置特定の機能におけるシステムの能力を強化するロボットナビゲーションのケイパビリティを備える。
【選択図】図4C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動式手術ロボットシステムであって、
単一の筐体と、
前記単一の筐体に設置された少なくとも2つのロボットアームと、
前記単一の筐体に設置され、前記少なくとも2つのロボットアームの動きをロボティックに協調させる中央制御ユニットと、
を備え、
前記移動式手術ロボットシステムは、手術処置の前、最中、又は後に、手術台の下に選択的に配置され及び当該手術台の下から選択的に撤去されるように構成される、
移動式手術ロボットシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記少なくとも2つのロボットアームが収納時及び前記手術台の下への配置の最中に前記単一の筐体内に収容可能であるように構成され、前記少なくとも2つのロボットアームは、前記手術処置の最中の使用のために、前記単一の筐体が前記手術台の下に配置された後に、前記単一の筐体から展開可能である、移動式手術ロボットシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記手術処置の最中の使用のために、少なくとも1つのロボットアームが前記手術台の一方の側に展開され、少なくとも1つのロボットアームが前記手術台の他方の側に展開されるように、前記少なくとも2つのロボットアームが展開される、移動式手術ロボットシステム。
【請求項4】
請求項3に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記少なくとも2つのロボットアームは、収納及び前記手術台の下への前記システムの配置の最中に、前記単一の筐体のそれぞれの側面へと折り畳まれている、移動式手術ロボットシステム。
【請求項5】
請求項3に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記少なくとも2つのロボットアームは、前記単一の筐体内のプラットフォームに設置され、前記プラットフォームは、前記ロボットアームを前記単一の筐体のそれぞれの側面から選択的に展開するために昇降可能である、移動式手術ロボットシステム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記移動式手術ロボットシステムとのユーザインターフェースのためのモニタ画面、をさらに備える、移動式手術ロボットシステム。
【請求項7】
請求項6のいずれか1項に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記システムは、ナビゲーションカメラ又は他の撮像機器の支援無しで、ある範囲の両側脊椎手術処置を遂行可能である、移動式手術ロボットシステム。
【請求項8】
請求項6に記載の移動式手術ロボットシステムであって、少なくとも3つのロボットアームをさらに備え、前記少なくとも3つのロボットアームのうちの少なくとも1つに、ロボットナビゲーションカメラが搭載される、移動式手術ロボットシステム。
【請求項9】
請求項8に記載の移動式手術ロボットシステムであって、患者の生体構造上に置かれる放射線不透過性マーカ、をさらに備える、移動式手術ロボットシステム。
【請求項10】
請求項9に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記少なくとも3つのロボットアームのうち1つは、前記放射線不透過性マーカと前記ロボットナビゲーションカメラとの間にマーカを配置することで、前記移動式手術ロボットシステムを前記患者の生体構造に座標合わせする、移動式手術ロボットシステム。
【請求項11】
請求項10に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記患者の前記移動式手術ロボットシステムの座標合わせの後、前記中央制御ユニットは、前記手術処置の遂行の最中に、手術器具を保持する前記少なくとも2つのロボットアーム及びロボットナビゲーションカメラが搭載される前記少なくとも1つのアームの前記動きをロボティックに協調させる、移動式手術ロボットシステム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記移動式手術ロボットシステムを移動させるための少なくとも3組の車輪、をさらに備え、前記少なくとも3組の車輪のうちの1組以上は、選択的に引込み可能であり得る、移動式手術ロボットシステム。
【請求項13】
請求項12に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記システムは、前記手術台の下への前記システムの配置の最中に、前記引込み可能な1組以上の車輪が引込まれ及び再展開されることが可能であるように構成される、移動式手術ロボットシステム。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記手術台に対して相対的な前記システムの位置を固定するために前記手術台の下面に圧力を印加するモダリティ、をさらに備える、移動式手術ロボットシステム。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記システムは、遠隔操作又はリモート制御されない、移動式手術ロボットシステム。
【請求項16】
移動式手術ロボットシステムであって、
単一の筐体と、
前記単一の筐体に設置された2つのロボットアームであって、当該ロボットアームのうちの1つが手術器具を保持するように構成され、当該ロボットアームのうちの1つがナビゲーションモダリティを提供するように構成される、前記2つのロボットアームと、
前記単一の筐体に設置され、前記少なくとも2つのロボットアームの動きをロボティックに協調させる中央制御ユニットと、
を備え、
前記移動式手術ロボットシステムは、手術処置の前、最中、又は後に、手術台の下に選択的に配置され及び当該手術台の下から選択的に撤去されるように構成される、
移動式手術ロボットシステム。
【請求項17】
請求項16に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記2つのロボットアームが収納時及び前記手術台の下への配置の最中に前記単一の筐体内に収容可能であるように構成され、前記2つのロボットアームは、前記手術処置の最中の使用のために、前記単一の筐体が前記手術台の下に配置された後に、前記単一の筐体から展開可能である、移動式手術ロボットシステム。
【請求項18】
請求項17に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記手術処置の最中の使用のために、1つのロボットアームが前記手術台の一方の側に展開され、1つのロボットアームが前記手術台の他方の側に展開されるように、前記2つのロボットアームが展開される、移動式手術ロボットシステム。
【請求項19】
請求項17に記載の移動式手術ロボットシステムであって、前記手術処置の最中の使用のために、双方のロボットアームが前記手術台の同じ側に展開されるように、前記2つのロボットアームが展開される、移動式手術ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[先の関連出願]
本出願は、2021年3月15日に出願された先願である米国仮特許出願第63/161,716号及び2021年10月7日に出願された米国仮特許出願第63/253,533号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、移動可能な両側手術ロボットシステムに関連し、両側手術ロボットシステムは、ロボティックに制御され協調された手術ナビゲーションシステムをも含み得る。とりわけ、本発明は、手術台の対向する両側面に配置される少なくとも2つのロボットアームを組み込んだ低い外形(low-profile)を有する移動式カートに関連し、当該移動式カートは手術台の下に配備可能である。ロボットアーム、エンドエフェクタ、カメラ、撮像装置、追跡装置、又はロボット手術に有用な他の装置といった複数のロボット要素を含めることができる。ロボット要素の配置及び動きは、単一の制御ユニットによって制御され協調されており、ロボット要素の全ては、単一の堅固な筐体をベースとしているので、単一の原点においてロボティックに協調される。具体的には、複数のロボット要素が、単一の制御ユニットに取り付けられ制御されてもよく、ロボット手術の処置の一部として、トラッカ、カメラ、及び手術器具を展開するために、協調的なやり方で使用されてもよい。より具体的には、ロボット脊椎手術の文脈において、複数のロボット要素が、単一の制御ユニットに取り付けられて制御されてもよく、各ロボット要素の相対的な動きを中央制御ユニットによって協調させながら、トラッカや手術器具を展開し、1つ以上のカメラを保持し及び手術処置を遂行するために、集中的に協調されたやり方で使用されてもよい。望まれるならば、この単一筐体のマルチアームロボット協調システムが、ロボットナビゲーション技術で強化されてもよい。
【背景技術】
【0003】
椎弓根スクリュー(pedicle screw)の配置といった脊椎手術の処置へのロボット技術の適用のように、ロボット手術は、当分野においてよく知られている。Intuitive Surgicalのda Vinciロボット手術システムなど、多くのロボット手術システムは、遠隔操作される。マルチアームのロボット手術システムが実地で利用可能であり、例えばCambridge Medical Roboticsによって提供されているが、これら既知のシステムもまた遠隔操作されることが多く、そのどれもが、リモートに位置する制御ユニットによってある程度協調されつつ別個に配備される単独のアーム群からなる。複数のカートに複数のアームを備えるシステムには、手術ワークフローへの統合に関する重大な欠点があり、加えて、手術室における設置面積も不必要に広い。また、これらマルチアームシステムが単一のカートを利用する場合、依然として、それらアーム間の協調は、制御ユニットに着座しつつ自身の目及び手で「ループをつなげる(close the loop)」医師によって行われる。そのうえ、リモートに位置する制御ユニットによる遠隔操作されるユニットの制御は、特に脊椎手術のケースで、手術処置の全範囲で要するレベルの制御を提供しない。制御ユニットを備える単一の筐体に全てのロボットアームが固定され協調されるシステムに対し、精度は必然的に劣るであろう。
【0004】
例えば、HashimotoによるUS2018/0193101では、手術台の下に配置されるマルチアームロボットシステムが開示されている。しかし、こうしたシステムは移動式ではなく、ロボットアームの動き及びナビゲーションの集中制御についていかなる開示の提供もない。ベッド搭載型システムもまた知られており、例えば、WonによるUS2010/0286712におけるものである。しかし、こうしたシステムは、定義上で移動式ではなく、また、執刀ワークフロー及び手術室内の利用可能なスペースに対して顕著な障壁を呈する。ZehaviによるWO2020/079596は、撮像及びオプションとしての器具の配備のために複数のアームを組み込んだ別の非移動式のロボット手術システムを開示している。しかし、当該ロボットアームは、床置き型で、大きく、そのため精度の劣化を被るであろうし、執刀ワークフローを顕著に妨害するはずであり、高価なコストが掛かることになる。これらの既知のシステムは、いずれもロボットアームの動き及びナビゲーションの集中制御を有する移動式のソリューションを提供しておらず、その全てが比較的大きいロボットアームを展開するが、当該ロボットアームは、それらのサイズ及び非移動式であるという事実に起因して、精度の欠如と低い利用度及び受け入れ率に苦慮しかねない。
【0005】
(大多数の処置のうちのごく一部を包含する椎弓根スクリューの配置にとどまらない)脊椎手術の処置の全範囲の遂行は、高精度のロボットアームを有する両側システム(bilateral system)を要し、ロボティックに協調されたナビゲーションの恩恵をも有意に受けるであろう。ある典型的な処置は、複数のパッシブ又はアクティブマーカを骨又は軟組織に配置することと、手術野からさまざまな距離に配置できる1つ以上のロボティックに制御され操作されるカメラと、ロボットアームにより展開される1つ以上のエンドエフェクタと、を要するかもしれない。1つの移動式カートに搭載され制御されるそうしたマルチアーム/マルチカメラシステムは、現在の最新技術において利用可能ではない。そうしたシステムを求めるニーズが強く長年にわたり感じられており、なぜならそれは、現時点では可能ではない精度レベルで、脊椎手術の処置の全範囲をロボティックに協調される制御及びナビゲーションと共に行うことを可能にすることになるためである。
【発明の概要】
【0006】
両側ロボット手術システムがここで提供される。上記両側ロボット手術システムは、手術台の下、特に脊椎手術台の下に、選択的に配置されるように構成される移動式カート、を備える。上記移動式カートは、手術時に手術台のどちらの側にも配置されるように構成される少なくとも2つのロボットアーム、を取り入れる。
【0007】
上記移動式カートは、従来知られているシステムよりも有意に低い外形を有し、上記ロボットアームを、それらの展開時から上記手術台の側面へと下方へ折り畳むことができ、又は、実際上、上記カート自体の内部へ折り畳むことができる。移動式カートの低い外形、及びアームをカートの内部へ又はその側面へと折り畳める能力は、手術台の下への移動式カートのオプション的な配備を提供する。手術室におけるスペースの節約と、システム及びそのアームによる執刀ワークフローへの干渉が生じないこととを考えると、これは極めて重要な能力である。
【0008】
上記移動式カートの設計は、相対的に短く軽いロボットアームを手術台の両側に展開することを可能にする。この両側アプローチにより、ロボットによるより広範な手術処置、特にロボットによる脊椎の手術処置の遂行が可能となるのみならず、ロボットアームの精度もまた向上される。現行の発明のシステムの相対的に短く軽いロボットアームは、当分野で知られているシステムのより大きいアームよりも、本質的に高精度である。とりわけ、器具を展開させるロボットアームを1つしか持たないシステムは、本システムのより小さいアームよりも格段に広い手術野をカバーする必要があるが、本システムでは、各アームが器具を担持し格段に狭い手術野をカバーすればよい。そのうえ、その到達範囲(reach)の最大限まで伸びきった単一のロボットアームは、より折り畳まれた展開で使用される同一のロボットアームよりも、タスクの遂行における精度がより低いことが、当分野で知られている。
【0009】
現行の発明のシステムの主要な特徴は、ロボットアームが共通的な基部から出ていることである。共通的な基部には、中央制御ユニットもまた組み込まれる。この設計では、ロボットアームの動きが共通的な基部の制御ユニットによって集中的に協調される。アーム群が単一の出発点を有することの利点は、システムの全ての要素の空間的な位置及び軌跡、並びに相互の相対的な位置及び軌跡を、システムが把握することになることである。したがって、提供されるロボットシステムは、厳密にいえば(位置決め方法としての)ナビゲーションを要さず、但し、ナビゲーションを加えてシステムを強化するようなオプションとしての選択肢をなすことはできる。
【0010】
本発明のシステムの代替的な実施形態において、上記移動式カートは、オプションとして、手術台の下に配備される際に両側から手術台に接近して連結可能な2つの構成移動ユニットを備えてもよい。この実施形態では、適切な機械的及び電気的な接続によって、2つの構成移動ユニットが手術台の下で連結されて1つの移動式カートを形成することが可能となる。各構成移動ユニットは、ユニットの側面又は上面から展開可能な1つ以上のロボットアームを収蔵する。さらに、この実施形態において、構成移動ユニットのうちの1つが中央制御ユニットを収蔵し、ひとたび移動ユニット同士が連結されると、上記中央制御ユニットは、それら構成移動ユニットの間の機械的及び電気的な接続の手段によって、ロボットアームの全ての展開及び動きを制御する。この手法で、単一筐体の移動式ロボット手術システムが、2つの構成部品から作られ、単一の制御ユニットによって集中制御される。
【0011】
ここでは、両側ロボット手術システムを強化するためのロボティックに制御される手術ナビゲーションシステムもまた提供される。具体的には、ここで提供されるのは、ロボット脊椎手術のためのロボティックに制御される手術ナビゲーションシステムである。上記システムは、現在知られているロボットシステムによって遂行される椎弓根スクリューの配置のような簡単な措置を超越し、ロボット脊椎手術の処置の全ての局面を遂行するように構成される。
【0012】
代表的な実施形態において、上記システムは、手術用カートにより収蔵される中央制御ユニットを備える。少なくとも2つのアーム又は他のホルダが上記カートに搭載可能である。上記少なくとも2つのアーム又はホルダは、カメラ、エンドエフェクタ、又は、手術、より具体的には脊椎手術において使用されるべき他の器具を保持するように構成される。上記少なくとも2つのアーム又はホルダは、軟組織又は硬組織、具体的には優先的に脊椎の骨に取り付けられる手術野内のパッシブ又はアクティブマーカを追跡するためにも使用されてよく、それらマーカは、通常は手術処置の冒頭の辺りで医師又は執刀医によって配備済みである。アクティブ又はパッシブマーカは、オプションとして、手術台、手術及び補助用の支柱又はスタンド、並びにアーム又はホルダ自体といった、さまざまな関係する表面にも取り付けられてよい。
【0013】
本発明のロボティック協調手術ナビゲーションシステムが提供することとして、手術用カートに収蔵される制御ユニットによってアーム又は他のホルダの一元的な協調がなされる。単に一例に過ぎないが、これによって、1つのアーム又はホルダを手術器具を骨マーカを基準として展開させ、一方で他のアーム又はホルダにナビゲーション/トラッキングカメラを適切な距離及び角度で展開させることが可能となり、それら全てが、器具の協調的な展開とマーカの追跡とを可能にする。さらなる例として、単一のカートに収蔵される制御ユニットによる複数のアーム又はホルダの一元的な制御及び協調により、適切な距離及び角度で展開された1つ以上のカメラを手術処置の最中にナビゲーションのために使用することができ、その中で、1つ以上のロボットアームにより保持された1つ以上のエンドエフェクタが、パッシブ又はアクティブマーカを基準として複数の手術器具及びデバイスを配置することで促進される案内(guidance)を使用して手術野内で作動させられる。
【0014】
本発明の多様な実施形態の主要な特徴のうちの1つは、1つ以上のナビゲーションカメラが1つ以上のロボットアームに搭載可能なことであり、それらの動きは中央制御ユニットによって協調される。したがって、マーカを適切な距離と角度で可視化できるように、カメラの角度が制御されロボットシステム及びマーカと協調される。このアプローチは、複数のロボットカートを手術室へ持ち込むと生じることになるであろう執刀ワークフローの混乱を防止する。脊椎手術では、カメラが手術野からより離れた距離で維持され(例えば、2メートル以上)、その位置ではより大きいマーカを使用しなければならず、そららマーカが脊椎及び/又は手術野の多様な面を隠してしまうという問題が一般に見出されているが、本アプローチはその問題をも解決する。手術中に骨の生体構造が動いて大きなマーカがずれると、それら大きなマーカは当該生体構造に対して望ましくない動きをすることにもなりかねず、やはり精度が損なわれ得る。
【0015】
本発明に係るロボット協調手術ナビゲーションシステムには、複数のフィードバックループが存在する。例えば、第1のフィードバックループでは、上述したように、多様な機器を保持する複数のロボットアームが同一のカートから展開される。これらのロボットアームは、相互に協調され、並びに、放射線不透過性マーカが骨に取り付けられている間、及び/又は少なくとも1つのロボットアームに取り付けられた少なくとも1つのマーカがスキャン画像内にある間に、例えば患者を(X線やCTで)スキャンすることによって、生体構造上の(例えば、タングステン素材からなる)放射線不透過性マーカとも協調される。
【0016】
複数のロボットアームが単一の制御ユニットを有する単一の筐体上で展開されるので、それらロボットアームの動きを協調させることができ、アーム間のフィードバックループは閉じている。より具体的には、位置決め方法としてのナビゲーションの支援が無くても、同じ共通的な軸の原点を共有しつつロボット運動学を使用することで、双方のロボットアームを、骨の生体構造を基準として正確にロボット制御可能とすることができる。
【0017】
第2の例示的なフィードバックループでは、例えばロボットナビゲーションカメラ、エンドエフェクタ、及び手術ナビゲーションマーカ又は器具の、任意の望ましい組み合わせを保持する様々なロボットアームの全てが、ロボットアームの動きを協調させる単一の制御ユニットを収容する単一の筐体に設置されており、そのためこのフィードバックループは閉じている。
【0018】
この点において、ロボティックに操作されるこれらのナビゲーションカメラは、基準のナビゲーションマーカを盲目的に探索するのではなく、むしろ所望のマーカ又は場所に能動的に狙いを定める。なぜなら、中央コントローラが、対象の場所を画像(例えば、CT)から知っているからであり、中央コントローラは、最適な距離と角度で対象に到達するようにロボットナビゲーションシステムの動きを協調させる。
【0019】
フィードバックループのさらに別の例では、ロボットナビゲーションカメラ又はエンドエフェクタを保持し得る他のロボットアームと共に単一の筐体上に配備されるロボットアームに、アクティブ又はパッシブマーカが置かれてもよい。単一の筐体がロボットアームの動きを協調させる制御ユニットを有しているので、フィードバックループのこの第3の例は閉じており、例えば、ロボットナビゲーションカメラがロボットアームの1つ又は全てに付けられたマーカを可視化し、1つ以上のロボットアームの位置がそれに応じて変更される場合でも、フィードバックループは閉じている。
【0020】
これらニーズ及び要素の全ては、本発明の単一カート、マルチアーム、非遠隔操作のロボットシステムの集中的な協調及び制御の恩恵を大いに享受する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1a図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの多様な側面図及び上面図を表示している。
図1b図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの多様な側面図及び上面図を表示している。
図1c図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの多様な側面図及び上面図を表示している。
図1d図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの多様な側面図及び上面図を表示している。
図1e図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの多様な側面図及び上面図を表示している。
図1f図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの多様な側面図及び上面図を表示している。
図1g図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの多様な側面図及び上面図を表示している。
図1h図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの多様な側面図及び上面図を表示している。
図2a図2a~図2bは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの側面ドアの操作の2つの側面図を表示している。
図2b図2a~図2bは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの側面ドアの操作の2つの側面図を表示している。
図3a図3a~図3cは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの車輪展開の交互の側面図を表示している。
図3b図3a~図3cは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの車輪展開の交互の側面図を表示している。
図3c図3a~図3cは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの車輪展開の交互の側面図を表示している。
図4a図4a~図4gは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の多様な上面図、側面図、及び端面図を表示している。
図4b図4a~図4gは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の多様な上面図、側面図、及び端面図を表示している。
図4c図4a~図4gは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の多様な上面図、側面図、及び端面図を表示している。
図4d図4a~図4gは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の多様な上面図、側面図、及び端面図を表示している。
図4e図4a~図4gは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の多様な上面図、側面図、及び端面図を表示している。
図4f図4a~図4gは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の多様な上面図、側面図、及び端面図を表示している。
図4g図4a~図4gは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の多様な上面図、側面図、及び端面図を表示している。
図5a図5a~図5dは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの手術器具展開の多様な上面図及び側面図を表示している。
図5b図5a~図5dは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの手術器具展開の多様な上面図及び側面図を表示している。
図5c図5a~図5dは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの手術器具展開の多様な上面図及び側面図を表示している。
図5d図5a~図5dは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムの手術器具展開の多様な上面図及び側面図を表示している。
図6図6は、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのナビゲーションモダリティの展開を表示している。
図7a図7a~図7bは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の代替的な方法論の側面図を表示している。
図7b図7a~図7bは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステムのロボットアーム展開の代替的な方法論の側面図を表示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
これより、図面及び本発明のいくつかの代表的な実施形態を参照しながら、以下の詳細な説明を提供する。
【0023】
本発明の一実施形態において、少なくとも2つのロボットアームを組み込んだ移動式カートが提供され、少なくとも1つのアームが手術台の各側に配置される。上記移動式カートは、従来知られているシステムよりも有意に低い外形を有するため、ロボットアームが折り畳まれていれば、それらロボットアームを手術台及びその上に横たわる患者の両側に展開できるようにする目的で、システム全体をいかなる一般的な(例えば、最大約1メートルの高さの)手術台の下にも配備することができる。ロボットシステム全体を手術台の下に置くことは、貴重な手術室の床スペースを節約し、手術チーム及び彼らのワークフローを邪魔しないようにする点で、顕著な意義を有する。
【0024】
多様な実施形態において、ロボットアームは、移動式カートの横又は内側に複数の手法で折り畳まれてよい。それらアームは、オプションとして、下へカートの側方まで折り畳まれてもよく、又は、カートの側面の中か又は下へ向けてカートの上面の中かのいずれかであり得るカートの中まで折り畳まれてもよい。折り畳みのモダリティに関わらず、望ましい最終的な帰結は、折り畳み可能なアームを有する移動式カートが手術台の下に容易に配備可能であることである。
【0025】
上記カートは、手術台の下の移動式カートの配備及び撤去を容易にする少なくとも2つの車輪ペアを具備する。それら車輪ペアは、脊椎手術用の台の下に見られる長手方向の棒状物のような障害物を回避して進み横断できるようにするため、選択的に折り畳まれ及び/又は引込まれ得る。ある実施形態において、上記カートは3つの車輪ペアを具備し、それらペアのうち2つが、カートを脊椎手術用の台の下に配備できるようにするために選択的に引込み可能である。
【0026】
代替的な実施形態において、上記移動式カートは、オプションとして、手術台の下に配備される際に両側から手術台に接近して連結可能な2つの構成移動ユニットを備えてもよい。これにより、車輪ペアを折り畳み及び/又は引込むことを要しない、手術台の下への配備のための代替的な方法論が提供される。
【0027】
この実施形態では、適切な機械的及び電気的な接続によって、2つの構成移動ユニットが手術台の下で連結されて集中的な制御及び通信の機能を有する1つの移動式カートを形成することが可能となる。2つの構成ユニット間の接続及び集中的な制御は、ロボットアームが単一の筐体を基部とすることを可能とし、よって真の一元的なロボット制御の恩恵を享受する。
【0028】
各構成移動ユニットは、ユニットの側面又は上面から展開可能な1つ以上のロボットアームを収蔵する。さらに、この実施形態において、構成移動ユニットのうちの1つが中央制御ユニットを収蔵し、ひとたび移動ユニット同士が連結されると、上記中央制御ユニットは、それら構成移動ユニットの間の機械的及び電気的な接続の手段によって、ロボットアームの全ての展開及び動きを制御する。この手法で、単一筐体の移動式ロボット手術システムは、2つの構成部品から作られ、単一の制御ユニットによって一元的に制御される。それらロボットアームは、単一の原点から作動することで、原点が共通であることに起因してそれらアームの各々が3次元空間においてどこにいるかをロボットシステムが「知っている」ことに付随する全ての恩恵を有する。
【0029】
現行の発明の両側ロボット手術システムの多様な実施形態において、上記カートについても上記ロボット手術アームについても、手術台又は床に固定されるべきという要件は存在しない。上記移動式カートの車輪は、移動を防ぐためにロックされてもよい。また、オプションとして、カートを手術台の下に配備した場合にカートの一要素を当該台の下面に押し付けるように展開し、そのようにして、患者の動きを考慮し及び/又は外力が患者又は台に加わるとしても手術台を安定化させることができる。
【0030】
上記カートは、ロボットアーム群にとって共通の堅固な基部として供され、複数のロボットアームの間の正確な場所、軌跡、及び関係が既知となる。各ロボットアームは、そのロボット基部の高さ調節(Z軸)を含むいくつかの自由度を有してもよい。ロボット基部は、固有の事例ごとに、それらロボット基部を調節する目的で追加的な2自由度(X-Yの動き)を提供する堅固で高精度なレールをも備えてもよい。これにより、ロボット基部を患者の体の近く(例えば、患者の体から約10cm)の最適な位置に持ってくることができる。
【0031】
以下のロボットシステムの重要かつ新規な要素の1つは、比較的小さくて短い2つのロボットアーム(例えば最大1メートルのアーム長)のみを使用する一方で、非常に大きい操作の規模(指定された臓器の周囲の最大360度の軌跡カバレッジ)を提供できる点であり、これは脊椎手術のような手術分野において極めて重要である。これは、各アームにより求められるのが、台の各側において、患者の体の一部のみを単独でカバーすることであるからこそ可能であり―例えば、右側のロボットアームは患者の右側/右部分のみの場所をカバーすることに責任を有し、左側のロボットアームは患者の左側/左部分の軌跡に到達することしか要しない。各ロボットアームは、所要の手術規模の全体を単独でカバーするには不十分であるが、双方のアームが互いに連携して協調するだけで、手術ボリュームのカバレッジ全体を提供するために十分となる。そのうえ、あるタスクについて1メートル長の1つのアームが台の一方の側から他方の側までの所要の距離をカバーできるとしても、アームをその最大長まで伸ばすことは、精度の顕著な低下を引き起こすことになる。当分野でよく知られていることとして、ロボットアームは、折り畳み位置でははるかに堅固でそのため精度が高くなり、拡張/伸展位置では剛性及び精度が低くなる。単独で作動する(非ナビゲーション)ロボットアームを有する他のシステムは、広範囲の手術野のカバレッジが望まれる場合、より大きく、より重く、より精度の低いロボットアームを配備することを要する。
【0032】
例えば手術の対象(例えば、人の脊椎)に対して相対的なロボットの場所の所要の座標をロボットコントローラに提供する目的で、本ロボットシステムにいくつかの位置決め技術を取り入れることができる。提案しているロボットシステムにナビゲーションシステムを取り入れることは、サードパーティシステムとしてロボットシステムから独立的になされるか、又は当該システムに統合されるかのいずれかである。別の選択肢は、注目領域においてロボットがマーカを保持し又は類似のマーカが骨の生体構造に固定されている間に、X線スキャン又はCTスキャンを行い、それによって指定の臓器に対して相対的なロボットのエンドエフェクタの場所を取得することである。
【0033】
さらなる実施形態において、これまで、特に脊椎手術において、他の手術システムによっては解決されなかったいくつかの課題をこの両側ロボットの設計によって解決することができる。まず、上記ロボットアームは、(当分野で知られているいくつかの現行のシステムのように)台のレールには取り付けられず、それにより、患者に近付き過ぎて、患者の体にぶつかって患者を傷付け及び/又はロボットの動きを制限してしまうことがない。一方、既存のロボットシステムでは、ロボットアームが台の横に置かれるカート上に組み立てられ、よって同じ場所から患者の両側(体の左部分及び右部分)へ到達するためにロボットアームが長く、重く、扱いにくいものとならざるを得ないということが起こり得るが、本ロボットアームは、そのように患者から離れ過ぎることもない。
【0034】
また、本システムは台のそれぞれの側に少なくとも1つ配備されるロボットアームを有することから、各アームは台の片側でのみタスクを行うことを要し、そのためこのシステムは比較的小さく/短くて堅固なロボットアームを具備することができる。この事実は、精度の観点から極めて重要であり、これらの堅固なアームによって非常に強い力を要する脊椎手術の追加的なタスク(例えば、椎骨操作)を遂行することも可能となる―この話題は以下のセクションでさらに議論される。
【0035】
ロボット手術において、高い精度を達成し維持するために、ロボット基部とロボットのエンドエフェクタと手術対象の臓器との間の距離をできる限り小さく維持することが極めて重要である。以下の設計は、まさにそれを、患者の片側においてのみならず両側において同時に可能にする。この設計のおかげで、この極めて重要な両側の「精度のトライアングル(triangle of accuracy)」が他の全ての利用可能なシステムよりも有意に小さい。
【0036】
提案している設計では、上述した非常に低い外形上に配置される短いロボットアームが、手術チームを物理的に邪魔する可能性はより低く、彼らの視界/視野を遮ることもない。この提案している設計では、最も高い作業位置においてさえ、ロボットアームが執刀医の見通し線を遮ることはほとんどない。
【0037】
新規な上記両側ロボット手術システムは、その設計によって、例示に過ぎないものの、次のロボット手術アクティビティを容易にし及び可能にすることもできる:
-患者の両側で同時に及び/又は順に、両側的かつ並列的な手術タスクを遂行する(例えば、椎骨にドリルで穴をあけ、インプラントを挿入するなど)。この並列作業は、精度の観点からさらなる決定的な重要性を有する。脊椎手術においてよく知られていることとして、(例えば)一方の椎骨から隣の椎骨まで脊椎に沿って作業する際、一方の椎骨と他方との間の相対的な動きに起因して、精度を維持することが難しい。その1つの理由は、(例えばロボットの位置決めにナビゲーションシステムを使用する場合)ナビゲーションマーカで印をつけた椎骨から遠くで動く際に精度が低下するからである。別の理由は、一方の椎骨に触れ/ドリルで穴をあける際、当該椎骨が自身に対して物理的に回転移動し脊椎の他方の椎骨に対しても相対的に動くからである。提案しているシステムは、次の例示的シーケンスにおいて説明されるように、この課題を克服することができる:
-1つのロボットアームは、第1の椎弓根(ナビゲーションシステムマーカ又は画像スキャンマーカに最も近いものとして選ばれ、又はこのシステムと連携して使用される他の任意の位置決め方法で選ばれる第1の椎骨)にドリルで穴をあけ椎弓根スクリューを高精度で配置する。その時点で良好に固定されたドリル/インプラントにロボットアームを接続したまま、今度はこのアームを、椎骨に堅固に接続しつつ、次の椎骨/椎弓根―同じ椎骨か又は隣の椎骨(上又は下)かのいずれか―に対するドリルでの穴あけのためのスタビライザとして使用する。そして、上記システムは、ドリルでの穴あけとスクリューの配置とを「ジグザク」パターン、即ち、右のグリップによって左のドリルでの穴あけを安定させ、その逆も行いつつ、左右/上下に、という形で続けることができる。
【0038】
本システムの複数のロボットアームが短くて強く、同じ堅固なプラットフォーム(カート)に堅く接続されているという事実に起因して、これらアームは、(例えば)両側から椎骨の椎弓根に堅く挿入されるインプラントを保持して、椎骨を互いに相対的に操作することができる。この技法を使用して、2つの椎骨を操作し(例えば、間接的減圧、圧迫、伸延など)、又はいくつかの椎骨をまとめて、さらには脊椎全体をも操作することができる。これらのアームを前後に配置させることで、それらに2つの椎骨を数ミリメートルずらさせて、執刀医がそれら椎骨の間で繊細な手術タスク(例えば、ディスクの除去、減圧など)を遂行している間にこのズレを一定かつ安全に維持することができる。
【0039】
代替的実施形態において、システムにはそれぞれの側に追加的なアームを加えることが可能であり、そのため、上述したように、2つの対向するアームが2つの椎骨の引込みに従事している間、第3及び第4のアームが、人間の執刀医による案内/制御によるか又はソフトウェア及びアルゴリズムでの案内によりロボティックに制御されて、追加的な手術タスクを行うために利用可能である。そのうえ、それらアームは、短くて強く、同じ堅固な基部を共有することに起因して、オプションとして、(例えば)装具の一部であってスクリューを接続する金属ロッドに取り付け可能であり、ロッドを曲げ望ましい脊椎の姿勢を達成することでそれらに対して操作を行うことができる。これは、利用可能な他のいかなる手術ロボットシステムでも達成できるものではない。この手術アプローチにおいて、ロボットアームが、患者の両側から展開され、相対的に低い外形を有し、互いに離れてはいるが共通的な基部から出ており、各アームの位置を把握している中央コントローラにより制御されるという事実は、ロッドを安全に曲げ生体内の脊椎を操作するために強い力及び高い精度を適用できることを意味する。
【0040】
高精度でロバストなロボットによる骨操作の同様の技術は、股関節/膝関節置換手術などのようなさらなる手術領域と関連しており、ロボティックに協調された2つの強いアームは、2つの骨(例えば、大腿骨、脛骨など)を保持し操作することができ、一方で、ロボット制御でこれらと同期された第3のアームは、手術を強化し及び/又は執刀医が何らかの手術タスクをその合間に遂行している間に複数のタスクで彼を支援するために、イメージングやナビゲーションなどを提供する。第3のアームが何らかの種類の手術器具を保持してもよく、これらの3つ又は4つの手術アームは、人間による監視の有る無しによらず、自動的に協働して、手術タスクをロボティックに遂行することができる。主に、これらのアーム全てが単一の堅固な筐体を使用してロボティックに協調され、通常の経済性及びヒューマンマシンインターフェース(HMI)の考慮の下でも依然扱いやすいという事実に起因して、次のことが達成される。
【0041】
生体構造の対象及びマーカを、手術中の画像(例えば、術中CT)によって取得できるようになる。この例では、ロボットアームに搭載されたロボットナビゲーションカメラが使用され、当該ロボットアームは一方で制御ユニットを有する単一の筐体に固定される。単一の筐体は、そこに搭載され手術タスクのために使用される1つ以上のロボットアームを有してもよい。制御ユニットは、複数のロボットアーム、ひいては生体構造の対象に向けられるナビゲーションカメラの動きを協調させて、閉じたフィードバックループを生成する。ナビゲーションカメラの使用によって、解剖学的な注目対象に関する情報の冗長性及び多様性の双方が提供され、これは情報の精度及び全体的な妥当性のために不可欠である。カメラは、例えば赤外線及び光学(RGB)モダリティといった様々な技術を採用してよい。様々なモダリティの使用によっても、情報の多様性が提供され、よって、提供される情報の全体的な精度及び品質が向上する。
【0042】
同じ実施例において、同じ単一の筐体に搭載されたさらなるロボットアームに、さらなるロボットナビゲーションカメラが搭載されてもよく、当該さらなるカメラは、手術野全体を画像化し得るように手術野から慣例の通りの距離(例えば、1~2メートル)に配置される。追加的なロボットアームが、単一の筐体に設置されてもよく、マーカ又はエンドエフェクタを保持してもよい。ロボットアームの全てが同じ筐体に設置され、それらの動きが筐体に収容された制御ユニットにより協調されるという事実に起因して、多様なアームの各々の動きが、閉じたフィードバックループにおいて他のロボットアームの動きと関係付けられることを、当業者は認識するであろう。例えば、ロボットアームのうちの1つが、マーカの位置に基づいて解剖学的な注目領域(例えば、特定の椎骨)付近にナビゲーションカメラを保持している場合、慣例の通りの距離で保持されているナビゲーションカメラが、手術野全体を可視化し、他の近接ナビゲーションカメラを解剖学的な注目領域の近傍に(例えば、既にマーカが置かれた隣接の椎骨に)配置することを支援をすることができる。そして、この閉じたフィードバックループを使用して、手術器具の展開を案内することができ、当該手術器具は、単一の筐体に搭載されたロボットアーム上のエンドエフェクタとしてロボティックに手術野に持ち込まれ、又は執刀医によって手作業で手術野に持ち込まれ得る。ロボットによるシナリオ又はロボットによらないシナリオのいずれにおいても、手術野から慣例の通りの距離に保持されたロボットナビゲーションカメラは、手術器具の展開を支援し得るが、これは、あらゆる具体的なシナリオにとって最適な距離及び角度で手術野全体を捉える視界と、その進路を隠してしまう障害及び干渉を克服するためにロボティックに自身を操作できる固有の能力とのおかげである。
【0043】
ここで具体的に開示される光学ナビゲーションモダリティが、現行の発明のシステムのナビゲーション機能を強化するための1つの可能性に過ぎないことを、当業者は理解するであろう。当業者が認識するであろうこととして、単なる例に過ぎないが、EMナビゲーション及び超音波ナビゲーションなどの他のナビゲーションモダリティの各々を、当分野で知られている技法に従って同様の形で現行の発明のシステムに組み込むことができるはずである。
【0044】
出願人らは、2つの手術アーム(即ち、手術器具を展開するロボットアーム)と1つのナビゲーションアーム(即ち、ナビゲーションカメラを保持するロボットアーム)とを伴う本発明のシステムの実施形態を開示したが、1つの手術アームと1つのナビゲーションアームとを伴う本発明のシステムの実施形態を有することも可能である。こうした2アームの実施形態は、ナビゲーションアーム及び手術アームをカートの対向する両端に設置して両側システムを提供し得るが、ナビゲーションアーム及び手術アームをカートの同じ端部に設置することも可能である。この2アームシステムのいずれのアーム配置のシナリオにおいても、上述したように、現行の発明のシステムの移動式カートはやはり手術台の下に配備されることになるので、可動性及び執刀ワークフローとの干渉無しという開示した利点を提供する。
【0045】
これより、添付図面への具体的な言及を行う。添付の図面が本発明の代表的な実施形態に過ぎないことを、当業者は容易に理解するであろう。説明される実施形態を、その思想又は意図から逸脱することなく容易に変更することができ、そのような変形例もやはり本開示の範囲内に含まれることになることを、当業者は理解するであろう。単に例示の手段で、添付の図面の多くは3つのロボットアームを有する移動式ロボットシステムを示しているが、より多い又は少ないロボットアームを展開し得ることを、当業者は理解するであろう。さらなる例として、添付の図面の多くは、手術台の下の移動式ロボットカートの配備を容易にする3組の引込み可能な車輪を有する移動式ロボットシステムを示している。しかしながら、車輪又は移動式カートを手術台、特に脊椎手術用の台の下に配備可能とする類似の機構のいかなる組み合わせも現行の発明の範囲内に入ることを、当業者は理解するであろう。
【0046】
当業者がやはり理解するであろうこととして、いかなる知られた利用可能な手術ロボットアームも、現行の発明に係る移動式ロボットシステム上に配備されることができるはずである。本発明者らは、具体的なロボットアームに対して財産権を主張するものではなく、むしろ、複数のロボットアームが配備され共通的な基部から制御される移動式手術ロボットシステムを発明したのであり、これにより、ここで説明されるように、現時点の最新技術に対して有意な利点を提供する。当業者であれば、本発明と連携して使用され得るロボットアームの種類を認識し選択することができるであろう。
【0047】
また、当業者は、ひとたび現行の開示を見直せば、現行の発明のシステムを組み立てるために要する材料の種類及び大きさを認識し選択することができるであろう。当業者は、手術ロボットシステムにおいて商業的に受け入れ可能な材料の種類を知っているであろうし、目下開示される発明のシステムを組み立てて操作するために要するはずの制御システム及び関連するソフトウェアを理解するであろう。
【0048】
図1a~図1hは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステム100の多様な側面図及び上面図を表示している。移動式手術ロボットシステム100は、移動式カート101に具現化され示されている。カート101は、例えば手術室の周りでのカート101の移動を促進するように選択的に引込み可能な3組の車輪102、103、104を有する。車輪102、103、104の引込み可能な性質によって、カート101が例えば脊椎手術用の台の下に見られる長手方向の棒状物のような障害物を回避して進むことが可能とされる。
【0049】
図1a~図1hのカート101は、1つ以上のロボットアーム107、108、109の収納及び展開のために、1組のドア105を一端に、1組のドア106を他端に有する。図示したように、カート101は、3つのロボットアーム107、108、109を収納しており、これらは、ドアが開放されているときに、随意的に、カート101内へと折り畳み可能であり又はカート101の両端から展開可能である。ここで既に議論したように、カート101は、ロボットアーム107、108、109のための共通的な基部を形成する。ロボットアーム107、108、109は、共通的な基部に端を発し、カート101内に位置する中央制御ユニットによってそれらの選択的な展開を管理される。
【0050】
図2a~図2bは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステム200の側面ドアの操作の2つの側面図を表示している。図2a及び図2bに示すように、移動式手術ロボットシステム200のカート201は、カート201の各端部に配置される1組のドア202、203を有する。ここで提供される図において、1つ以上のロボットアーム204がカート201の各端部の中に折り畳まれており、ドア202、203は、ロボットアーム204の展開ができるように選択的に開放可能である。
【0051】
図3a~図3cは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステム300の車輪展開の交互の側面図を表示している。図3a~図3cにおいて、移動式手術ロボットシステム300のカート301は、カート301の一端付近に第1組の車輪302、カート301の他端付近に第2組の車輪303、及び、中央線に対し第1組の車輪302と同じ側に第3組の車輪304を有する。この設計セットアップによれば、現行の発明の移動式カート301を、従来の脊椎手術用の台のほぼ全てに見られる長手方向の棒状物306のような障害物が途中にあり得る手術台305の下に配備することができる。図3aに示すように、カート301が脊椎手術用の台の下の長手方向の棒状物306に近付いたときに、他の2組の車輪303、304を床に接触させたまま、第1組の車輪302を引込むことができる。次に、図3bに示すように、ひとたび第1組の車輪302の垂直面が棒状物306を通過すると、第1組の車輪302を戻して床に接触させることができる。最後に、図3cに示すように、手術台305の下で移動式カート301を前進させ中央に位置付けることができるように、第3組の車輪304を引込むことができる。2組の車輪が常に床と接触しているため、カート301は、可動性及び安定性を維持する。
【0052】
図4a~図4gは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステム400のロボットアーム展開の多様な上面図、側面図、及び端面図を表示している。この一連の図面に見られる多様な図は、複数のロボットアームがカート401の開放されたドアを通って展開される際の部分的な展開及び完全な展開を示している。例えば、図4cは、3つのロボットアーム402、403、404が展開された状態の本発明の移動式手術ロボットシステム400の実施形態を示している。2つのロボットアーム403、404は手術器具405を保持しており、第3のロボットアーム402はナビゲーションカメラ406を保持している。加えて、図4cには、ユーザが本発明のシステム400とインターフェースするための多様な選択肢を提供する2つの画面407が示されている。
【0053】
図4d~図4gは、本発明の移動式手術ロボットシステム400の移動式カートからのロボットアーム展開のより引いた上面図を示している。これらの図面は、本発明を使用する際のアーム及び画面展開の多様な段階のより全体的な図を提供する。図4d~図4gは、ユーザがシステムとインタラクションするための2つの画面407と共に展開される3つのロボットアーム402、403、404を示しており、うち2つ403、404は手術器具405を保持しており、1つ402はナビゲーションカメラ406を保持している。当業者が当然に理解するであろうこととして、本開示の思想及び実質から逸脱することなく、ロボットアーム及び画面の数を変更することができる。
【0054】
図5a~図5dは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステム500の手術器具展開の多様な上面図及び側面図を表示している。2つのロボットアーム501、502は手術器具504を保持するように示されており、1つのロボットアーム503はナビゲーションカメラ505を保持するように示されている。システム500とインタラクションするための2つの画面506もまた示されている。これら図面は、相対的に短くロバストなロボットアームを、患者のそれぞれの側から1つずつ展開でき、各ロボットアームが独立して手術器具を患者の対象の生体構造に向けて前進できることを示している。ここで議論されているように、これが、ロボットアームの到達範囲、安定性、及び精度の観点で有意な利点を提供し、はるかに広い範囲の手術処置を遂行することができるようになる。ロボットアーム群が全てカート上の同じ原点から出ているため、本発明の移動式手術ロボットシステムは、それらロボットアームの位置を常に空間的に互いを基準として把握することを可能にする。よって、追加的なナビゲーション機能を厳密には要しない。
【0055】
図5a~図5dは、患者の生体構造に取り付けられる単一の手術マーカ507をも示している。ロボットアームのうちの1つ503に搭載されるナビゲーションカメラ505は、マーカ507を可視化することができる。ナビゲーションカメラ505が他のロボットアーム501、502と同じ共通点(カート)から出ているロボットアーム503に搭載されていることから、本発明の移動式手術ロボットシステム500は、ナビゲーションカメラ505からの情報を、手術器具504を保持している手術ロボットアーム501、502の案内に取り入れることができる。ここで議論されているように、本発明のシステムの中央制御ユニットによって3つ全てのロボットアームが協調されることで、一元的なロボット協調が提供され、ひいては精度及びユーザビリティの向上が提供される。
【0056】
図6は、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステム600のナビゲーションモダリティの展開を表示している。図6では、放射線不透過性手術マーカ601が患者の骨の生体構造に取り付けられている。本移動式手術ロボットシステム600のロボットアームのうちの1つ602は、患者の対象の骨の生体構造の上方に追加的なマーカ603を保持しており、前述のマーカ601、603を含む手術野の画像を取得するため、術中CTシステム604が展開される。この点について、患者の骨の生体構造の空間的な場所が、マーカ603を保持するロボットアーム602のエンドエフェクタの位置と共に取得される。ここで説明されるように、本システムのロボットアームの全てがシステムのカート上の同じ共通の原点から出ているので、このとき本発明の移動式手術ロボットシステムは患者の対象の生体構造に座標合わせされ、中央制御ユニットは、手術処置の遂行の最中に、ロボットアームの動きを(取り付けられた器具及びエンドエフェクタと共に)対象の生体構造へと案内することができ、追加的に、ナビゲーションカメラ(これもカート上の同じ共通的な基部から出ているロボットアームに搭載されているため共に座標合わせされている)から得られる情報が使用される。座標合わせのステップは、例えば、対象の生体構造が移動したとき、又は執刀医が生体構造の異なる領域に対する操作を望むときなど、手術処置の最中に要望に応じて反復され得る。
【0057】
図7a~図7bは、本発明の多様な実施形態に係るマルチアーム移動式手術ロボットシステム700のロボットアーム展開の代替的な方法論の側面図を表示している。図7aは、本発明の移動式手術ロボットシステムの移動式カート701内に折り畳まれたロボットアーム702を示している。カート701のそれぞれの側のロボットアーム702は、垂直面内で選択的に移動可能なプラットフォーム703、704上に配備され、カート701の内側又は外側上部で随意的に展開される。図7bは、カート701から上昇させられたプラットフォーム703、704と、それによりカート701の外側に展開されたロボットアーム702とを示している。この展開戦略がいくつかのユースケースで利点を提供し得ることを、当業者は理解するであろう。この方式でのロボットアーム702の展開は、複数の側面ドアを要しないことから、機械的な視点から見てよりシンプルとなり得る。また、この方式でのアーム702の展開によって、ロボットアームの展開後に、手術処置の最中に生じる可能性のある液体及び破片からカートの内部を保護するために、上面ドアをより簡単に閉じることが可能となり得る。
【0058】
開示された実施形態に対し、現行の発明の外縁の範囲内に留まりながら、いくつもの変更をなすことが可能であることを、当業者は理解するであろう。単なる例として、本発明から逸脱することなく、ナビゲーションカメラ、ロボットアーム、マーカ、及びエンドエフェクタの数が異なる変形例を使用することができる。他の例として、多様なサイズのマーカを使用することができる。提供された実施形態は、その性質上で代表的なものである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
【国際調査報告】