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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】癌療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240227BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240227BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240227BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240227BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20240227BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240227BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240227BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P35/00
A61K38/45
A61K48/00
A61P43/00 111
A61K31/7088
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/711
A61P43/00 105
A61K39/395 E
A61K39/395 T
C12N15/54
C12N15/63 Z
C12N15/115 Z
C12N15/113 Z
C12N15/62 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557136
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 IB2022052457
(87)【国際公開番号】W WO2022195543
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】63/162,214
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「革新的先端研究開発支援事業ソロタイプ「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」研究開発領域」「癌細胞の浸潤・転移を司る細胞膜の張力を介したシグナル伝達機構の解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻田 和也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】深見 希代子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 礼子
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA44
4C084CA53
4C084DC25
4C084MA16
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB21
4C084ZB26
4C085AA11
4C085BB31
4C085CC22
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
(57)【要約】
本開示は、癌細胞と癌細胞の細胞膜の張力を増加させる作用物質とを接触させ、それにより癌細胞の細胞移動及び/又は増殖を防止又は減少させ、癌を治療することにより、癌の治療に使用される作用物質、作用物質の組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞と該癌細胞の細胞膜の張力を増加させる作用物質とを接触させ、それにより該癌細胞を治療することを含む、癌を治療する方法。
【請求項2】
前記細胞膜の張力が約100pN/μm~200pN/μm以上に増加及び/又は維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞膜の張力を増加させることが、前記癌細胞の内圧を増加させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記癌細胞の内圧を増加させることが、該癌細胞の透過性機能を操作することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞膜の張力を増加させることが、該細胞膜の成分の量を増加又は減少させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞膜の成分が脂質、リン脂質、糖脂質、タンパク質、糖タンパク質及びコレステロールの1つ以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記作用物質が前記癌細胞に内在化する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞膜の張力を増加させる作用物質が、膜-アクチン皮質付着(MCA)の増加を引き起こし、該MCAの増加は、前記作用物質が接触していない細胞と比較したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記作用物質が、ホスファチジルイノシトール4-リン酸5-キナーゼ(PIP5K)遺伝子を含む発現ベクターであり、該PIP5K遺伝子がPIP5K1A、PIP5K1B及びPIP5K1Cの1つ以上であり、該1つ以上のPIP5K遺伝子の産物が、前記細胞膜中のホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)の量を増加させる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記作用物質が、EZR、RDX及びMSNの1つ以上を含むエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質のリン酸化の増加を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ERMタンパク質のリン酸化の増加が、該ERMタンパク質をリン酸化するキナーゼタンパク質の発現又は活性化の増加を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記キナーゼタンパク質がRHOA、ROCK1、ROCK2、SLK及びSTK10の1つ以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記作用物質がBin、アンフィファイシン及びRvs(BAR)ドメインを含む1つ以上のタンパク質の発現を阻害又は減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上のタンパク質がMTSS1L/ABBA、FNBP1L/Toca-1、TRIP10/CIP4、ARHGAP4、ARHGAP10/GARF2、ARHGAP17/RICH1、ARHGAP26/GRAF1、ARHGAP29、ARHGAP42/GRAF、ARHGAP44/RICH2、ARHGAP45/HMHA1、ARHGEF37、ARHGEF38、IRSp53/BAIAP2、BAIAP2L1/IRTKS、DNMBP/Tuba、FCHSD1、FCHSD2、FER;FES、FNBP1/FBP17、GAS7、GMIP、MTSS1/MIM、OPHN1、PACSIN1、PACSIN2、PACSIN3、SH3BP1、SRGAP1、SRGAP2及びSRGAP3の1つ以上の遺伝子産物を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記作用物質が抗体、アプタマー、短鎖干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、ナノボディ、アフィマー、DNA、CRISPR/Cas9系又は化学化合物である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記作用物質がMTSS1L/ABBA、FNBP1/FBP17、TRIP10/CIP4、ARHGAP4、ARHGAP10/GARF2、ARHGAP17/RICH1、ARHGAP26/GRAF1、ARHGAP29、ARHGAP42/GRAF、ARHGAP44/RICH2、ARHGAP45/HMHA1、ARHGEF37、ARHGEF38、IRSp53/BAIAP2、BAIAP2L1/IRTKS、DNMBP/Tuba、FCHSD1、FCHSD2、FER;FES、FNBP1L/Toca-1、GAS7、GMIP、MTSS1/MIM、OPHN1、PACSIN1、PACSIN2、PACSIN3、SH3BP1、SRGAP1、SRGAP2及びSRGAP3のメッセンジャーリボ核酸の1つ以上に結合するsiRNA、miRNA及びshRNAの1つ以上である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記siRNA、miRNA及びshRNAの1つ以上がMTSS1L/ABBA、FNBP1/FBP17及びTRIP10/CIP4の1つ以上のメッセンジャーリボ核酸に結合する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記DNAが、エズリンと融合したLynの保存されたミリスチル化配列を含むエズリン融合タンパク質を発現するように構成された発現ベクターであり、該エズリンがリン酸化模倣活性化突然変異(T567E)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記作用物質を、薬学的に許容可能な担体を含む組成物として配合する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
BARドメインを含む1つ以上のタンパク質の発現を減少させるか、又はエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の発現若しくはリン酸化を増加させ、それにより細胞の移動及び/又は増殖を阻害することを含む、細胞の移動及び/又は増殖を阻害する方法。
【請求項21】
真核細胞と該細胞の細胞膜の張力の変化を引き起こす作用物質とを接触させ、それにより細胞分裂速度を、前記作用物質と接触していない真核細胞の細胞分裂速度と比較して増加又は減少させることを含む、細胞培養における真核細胞の細胞分裂を増加又は減少させる方法。
【請求項22】
細胞分裂の減少を引き起こす作用物質がエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の1つ以上の発現を増加させるか、又は該ERMタンパク質のリン酸化の増加を引き起こす、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ERMタンパク質のリン酸化の増加を引き起こす作用物質がROCK1、ROCK2、SLK、STK10及びRHOAの1つ以上を含む発現ベクターを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞分裂の減少を引き起こす作用物質が、エズリンと融合したLynの保存されたミリスチル化配列を含むエズリン融合タンパク質を発現するように構成された発現ベクターであり、前記エズリンがリン酸化模倣活性化突然変異(T567E)を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
細胞分裂の増加を引き起こす作用物質が、1つ以上のBARドメインタンパク質の発現を増加させる、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞分裂の増加を引き起こす作用物質がエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の1つ以上の発現を減少させる、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記作用物質がアンチセンスRNA、siRNA、shRNA若しくはmiRNA、又は抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
細胞と該細胞の細胞膜の張力を変化させる作用物質とを接触させることを含む、細胞の特性を調節する方法であって、前記細胞膜の張力の変化により前記細胞の特性を調節する、方法。
【請求項29】
前記細胞の特性が膜-アクチン皮質付着(MCA)によって制御され、前記作用物質が該MCAを対照細胞と比較して増加又は減少させる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞の特性が細胞運動性及び周囲組織への浸潤の増加又は減少である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞の特性が細胞増殖及び腫瘍形成の増加又は減少である、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年3月17日に出願された米国特許仮出願第63/162,214号の米国特許法第119条(e)項に基づく優先権を主張し、この出願の開示は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0002】
配列表
本願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。2022年3月17日付けで作製された上記ASCIIコピーの名前は521_003WO1_SL.txtであり、45200バイトのサイズである。
【背景技術】
【0003】
転移は癌関連死の主な原因であるが、腫瘍播種の根底にある重要な決定因子についての理解は限られている。生物物理学的な観点から、癌細胞が組織を移行し、血管に入るために多大な変形を受ける必要があることを考えると、細胞力学の変化が転移性播種に不可欠であることが長い間提唱されてきた。細胞剛性の減少と浸潤及び転移効率の増加との強い相関によって示されるように、ナノテクノロジーの近年の進歩から悪性細胞の「力学的シグネチャー」が明らかとなっている。これにより、悪性進行によって引き起こされるはずの細胞力学の遺伝的変化が転移プロセスに重要であることが示唆される。逆に、上皮細胞は力学的恒常性を維持する戦略を既に有していることがあり、これが内因性腫瘍抑制因子として機能する可能性がある。しかしながら、悪性表現型への移行に重要な細胞固有の物理的パラメーターは、依然として不明であり、発癌性シグナル伝達と細胞力学の異常調節との関連、また力学的変化がどのように伝達され(メカノトランスダクション)、癌細胞の運動性を調節するかについての理解は限られている。
【0004】
細胞運動性は転移性播種に必須である。三次元(3D)環境を用いた近年の研究から、悪性細胞が、間葉系移動及びアメーバ様移動と称される2つの異なる浸潤移動様式を示すことが示されている。紡錘状の形状を示す間葉系移動は、Arp2/3複合体依存性分岐アクチン重合によって推進されるPM突出に依存する。対照的に、丸みを帯びた形態を特徴とするアメーバ様移動は、非常に不均一であり、アクチンベースの突出及び収縮性による膜ブレブの両方を示す。重要なことには、これら2つの移動様式は相互変換可能である。すなわち、癌細胞は、これらの移動様式を能動的に切り替えることができ、更には両方の混合表現型を示す。かかる柔軟性及び複雑性は、腫瘍の浸潤及び播種を制限する治療戦略を開発する上で大きな障害となると考えられる。
【0005】
PMはエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)ファミリータンパク質等のリンカータンパク質を介してアクチン皮質と可逆的に会合するため、細胞膜の力学は、膜-皮質接着(MCA)の程度に本質的に依存する。実際に、この複合構造によって主に決まるPM張力が、細胞形状の変化及び運動性において重要な役割を果たすことが明らかになっている。緊張した膜が細胞膜の変形を抑制することを考えると、PM張力は任意の膜突出の形成、最終的には細胞運動性を妨げると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、膜張力を増加させ、それにより悪性細胞の転移を抑制する化合物及び使用方法が必要とされている。本開示は、これらの必要性を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示においては、光学ピンセット、遺伝的干渉、癌ゲノムデータ、力学的摂動及びin vivo研究を用いて、恒常的PM張力を機械感受性BARタンパク質に対抗することによる癌細胞播種の力学的抑制因子として特定する。このデータから、細胞が間葉系又はアメーバ様のいずれの運動様式を示すかにかかわらず、PM張力の減少が悪性細胞の力学的特徴であることが実証される。高いPM張力の維持は、非腫瘍原性細胞に原則として影響を及ぼさない一方で、かかる3D移動様式、腫瘍浸潤及び転移を抑制するのに十分である。この研究は、癌細胞の細胞膜力学を標的とすることによる転移性癌の治療のための新たな精密治療戦略の道を開くものである。
【0008】
したがって、本開示は、癌細胞と該癌細胞の細胞膜の張力を増加させる作用物質とを接触させ、それにより癌細胞を治療することを含む、癌を治療する方法を提供する。
【0009】
幾つかの実施の形態において、作用物質は、細胞膜の張力を約100pN/μm~200pN/μm以上に増加させ、及び/又は約100pN/μm~200pN/μm以上に維持する。これは、限定されるものではないが、細胞の透過性機能を操作する(細胞膜の透過性を増加又は減少させる)か、又は細胞膜の成分の量を増加若しくは減少させることによって細胞の内圧を増加させる等の多くの方法で達成することができる。かかる細胞膜の成分は、脂質、リン脂質、糖脂質、タンパク質、糖タンパク質及びコレステロールの1つ以上である。幾つかの実施の形態において、リン脂質はホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)であり、細胞膜中のPIP2の量が増加する。
【0010】
幾つかの実施の形態において、細胞膜の張力を増加させるために使用される作用物質は、膜-アクチン皮質付着(MCA)の増加を引き起こし、MCAの増加は、作用物質が接触していない細胞と比較したものである。幾つかの実施の形態において、MCAを増加させるために使用される作用物質は、ホスファチジルイノシトール4-リン酸5-キナーゼ(PIP5K)遺伝子の1つ以上を含む発現ベクター又は構築物であり、PIP5K遺伝子は、ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)を産生するPIP5K1A、PIP5K1B及びPIP5K1Cの1つ以上をコードする。
【0011】
幾つかの実施の形態において、作用物質は、EZR、RDX及びMSNの1つ以上を含むエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の発現の増加を引き起こすことによって細胞膜の張力を増加させる。幾つかの実施の形態において、或る特定の遺伝子を用いて、ERMタンパク質の上流キナーゼ等のERMタンパク質を活性化することができる。幾つかの実施の形態において、キナーゼは、ERMタンパク質を直接又は間接的にリン酸化するRHOA、ROCK1、ROCK2、SLK及びSTK10の1つ以上である。幾つかの実施の形態において、作用物質は、1つ以上のERMタンパク質及び/又は1つ以上の上流キナーゼを含む1つ以上の発現ベクターである。
【0012】
他の実施の形態において、作用物質は、Bin、アンフィファイシン及びRvs(BAR)ドメインを含む1つ以上のタンパク質の発現を阻害又は減少させる。好ましくは、BARドメインタンパク質は、MTSS1L/ABBA、FNBP1L/Toca-1、TRIP10/CIP4、ARHGAP4、ARHGAP10/GARF2、ARHGAP17/RICH1、ARHGAP26/GRAF1、ARHGAP29、ARHGAP42/GRAF、ARHGAP44/RICH2、ARHGAP45/HMHA1、ARHGEF37、ARHGEF38、IRSp53/BAIAP2、BAIAP2L1/IRTKS、DNMBP/Tuba、FCHSD1、FCHSD2、FER;FES、FNBP1/FBP17、GAS7、GMIP、MTSS1/MIM、OPHN1、PACSIN1、PACSIN2、PACSIN3、SH3BP1、SRGAP1、SRGAP2及びSRGAP3の1つ以上の遺伝子産物を含む。
【0013】
幾つかの実施の形態において、作用物質は、抗体、アプタマー、短鎖干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、ナノボディ、アフィマー、DNA、CRISPR/Cas9系又は化学化合物である。
【0014】
幾つかの実施の形態において、作用物質は、MTSS1L/ABBA、FNBP1/FBP17、TRIP10/CIP4、ARHGAP4、ARHGAP10/GARF2、ARHGAP17/RICH1、ARHGAP26/GRAF1、ARHGAP29、ARHGAP42/GRAF、ARHGAP44/RICH2、ARHAGAP45/HMHA1、ARHGEF37、ARHGEF38、IRSp53/BAIAP2、BAIAP2L1/IRTKS、DNMBP/Tuba、FCHSD1、FCHSD2、FER;FES、FNBP1L/Toca-1、GAS7、GMIP、MTSS1/MIM、OPHN1、PACSIN1、PACSIN2、PACSIN3、SH3BP1、SRGAP1、SRGAP2及びSRGAP3のメッセンジャーリボ核酸の1つ以上に結合するsiRNA、miRNA及びshRNAの1つ以上である。幾つかの実施の形態において、siRNA、miRNA及びshRNAの1つ以上がMTSS1L/ABBA、FNBP1/FBP17及びTRIP10/CIP4のメッセンジャーリボ核酸に結合する。
【0015】
幾つかの実施の形態において、作用物質は、エズリンと融合したLynの保存されたミリスチル化配列を含むエズリン融合タンパク質を発現するように構成された発現ベクター又は構築物であり、エズリンはリン酸化模倣活性化突然変異(T567E)を含む。他の実施の形態において、作用物質は、ERMタンパク質を直接又は間接的にリン酸化し、それによりERMタンパク質を活性化するROCK1、ROCK2、SLK、STK10及びRHOAから選択される1つ以上のキナーゼを発現するように構成された発現ベクター又は構築物である。
【0016】
幾つかの実施の形態において、作用物質を、薬学的に許容可能な担体を含む組成物として配合する。
【0017】
本開示はまた、BARドメインを含む1つ以上のタンパク質の発現を減少させるか、又はエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の発現を増加させ、それにより細胞の移動及び/又は増殖を阻害することを含む、細胞の移動及び/又は増殖を阻害する方法を提供する。幾つかの実施の形態において、ERMリン酸化の増加は、細胞の移動及び/又は増殖の阻害を引き起こす。
【0018】
別の実施の形態において、本開示は、真核細胞と該細胞の細胞膜の張力の変化を引き起こす作用物質とを接触させ、それにより細胞分裂速度を、作用物質と接触していない真核細胞の細胞分裂速度と比較して増加又は減少させることを含む、細胞培養における真核細胞の細胞分裂速度を増加又は減少させる方法を提供する。
【0019】
幾つかの実施の形態において、細胞分裂速度の増加を引き起こす作用物質は、1つ以上のエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の発現を減少させるか、又は1つ以上のERMタンパク質のリン酸化を減少させ、それにより細胞分裂の増加を引き起こす。別の実施の形態において、作用物質は、エズリンと融合したLynの保存されたミリスチル化配列を含むエズリン融合タンパク質を発現するように構成された発現ベクター又は構築物であり、エズリンはリン酸化模倣活性化突然変異(T567E)を含む。
【0020】
他の実施の形態において、細胞分裂速度の増加を引き起こす作用物質は、1つ以上のBARドメインタンパク質の発現を増加させる。他の実施の形態において、細胞分裂の減少を引き起こす作用物質は、1つ以上のエズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の発現若しくは1つ以上のERMタンパク質のリン酸化を増加させるか、又は1つ以上のBARドメインタンパク質の発現を減少させる。作用物質はアンチセンスRNA、siRNA、shRNA若しくはmiRNA、又は抗体であるのが好ましい。
【0021】
本発明のこれら及び他の特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲と一緒に、次の詳細な説明から、更に完全に理解されるであろう。特許請求の範囲は、特許請求の範囲における詳述により定義され、本明細書に記載の特徴及び利点の具体的な論述により定義されるものではないことに注意する。
【0022】
以下の図面は、本明細書の一部をなし、本発明の或る特定の実施形態又は様々な態様を更に実証するために含まれる。場合によっては、本発明の実施形態は、本明細書に提示される詳細な説明と組み合わせて添付の図面を参照することにより、最もよく理解することができる。本明細書及び添付の図面では、或る特定の具体例又は本発明の或る特定の態様を強調することがある。しかしながら、当業者は実施例又は態様の一部が本発明の他の実施例又は態様と組み合わせて使用され得ることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】非浸潤性細胞における細胞膜(PM)張力が転移細胞よりも高いことを示す図である。a 指定の細胞のテザー力を比較する散布図。3回の独立実験からプールしたn=35(MCF10A)、n=24(MDCK II)、n=31(IAR-2)、n=23(AU565)、n=23(MCF7)、n=24(ラッフリングを有するMDA-MB-231)、n=14(ブレビングを有するMDA-MB-231)、n=21(ラッフリングを有するHs578T)、n=13(ブレビングを有するHs578T)、n=19(ラッフリングを有するPC-3)、n=14(ブレビングを有するPC-3)、n=24(PANC-1)細胞。平均±SD。b 抗リン酸化ERM(pERM)抗体及びファロイジンで染色した指定の細胞の共焦点画像の定量化。3回の独立実験からプールしたn=30(MCF10A)、n=26(Au565)、n=24(ラッフリングを有するMDA-MB-231)、n=20(ブレビングを有するMDA-MB-231)、n=22(ラッフリングを有するHs578T)及びn=18(ブレビングを有するHs578T)細胞のpERM及びF-アクチンの膜/細胞質強度比。平均±SD。**P=0.0073;***P=0.0014。c 3Dコラーゲンマトリックス(3D)において抗pERM抗体、ファロイジン及び小麦胚芽凝集素(WGA)で染色したMCF10A又はMDA-MB-231細胞の共焦点画像の定量化。細胞膜(PM)をWGAで標識した。3回の独立実験からプールしたn=24(MCF10A)、n=16(AU565)、n=15(MDA-MB-231、細長い)、n=12(MDA-MB-231、丸みを帯び、アクチンベースの突出を有する)、n=17(MDA-MB-231、丸みを帯び、ブレブを有する)及びn=17(Hs578T)細胞のpERM及びF-アクチンの膜/細胞質強度比。平均±SD。一元配置ANOVAとテューキーの多重比較検定(a)及び両側マン-ホイットニー検定(b、c)とを用いて試験した有意性。n.s.、有意でない;****P<0.0001。全てのスケールバー、10μm。
図2】PM張力の減少により、2D環境及び3D環境の両方において上皮細胞が間葉系移動表現型へと変換されることを示す図である。a 指定のRNAiで処理したMCF10A細胞の推定PM張力を比較する散布図。3回の独立実験からプールしたn=60(si-対照)、n=40(si-RHOA)、n=28(si-ERM)及びn=25(si-SLK+STK10)細胞。平均±SD。b RNAiで処理し、抗pERM抗体及びファロイジンで染色したMCF10A細胞の共焦点画像の定量化。3回の独立実験からプールしたn=29(si-対照)、n=26(si-RHOA)、n=19(si-ERM)及びn=28(si-SLK+STK10)細胞のpERM及びF-アクチンの膜/細胞質強度比。平均±SD。c 指定のRNAiで処理し、3Dオントップ(on-top)培養において成長させたMCF10A細胞の位相差画像。画像は、同様の結果を有する3回の独立実験を代表するものである。スケールバー、20μm。d 8μmの孔を通って移動したsiRNA処理MCF10A細胞の定量化。3回の独立実験からのn=9フィールド。平均±SD。**P=0.0011。e 3回の独立実験からのn=155(si-対照)、n=126(si-RHOA)、n=128(si-ERM)及びn=123(si-SLK+STK10)細胞の3D移動表現型の定量化。f 3Dにおいて抗pERM抗体及びファロイジンで染色した指定のRNAi処理MCF10A細胞の共焦点画像の定量化。3回の独立実験からプールしたn=20(si-対照)、n=14(si-RHOA)、n=15(si-ERM)及びn=18(si-SLK+STK10)細胞のpERM及びF-アクチンの膜/細胞質強度比。平均±SD。両側マン-ホイットニー検定(a、b、e)、両側スチューデントt検定(c)及びカイ二乗検定(d)を用いて試験した有意性。****P<0.0001。
図3】PM張力の減少と悪性進行との相関を示す図である。a 抗pERM抗体及びファロイジンで染色したMCF10A又はSnail発現細胞の共焦点画像の定量化。3回の独立実験からプールしたn=23(MCF10A)及びn=25(Snail発現細胞)細胞のpERM及びF-アクチンの膜/細胞質強度比。平均±SD。b 指定の細胞の推定PM張力を比較する散布図。3回の独立実験からプールしたn=38(MCF10A)、n=33(Snail発現細胞)及びn=36(Slug発現細胞)細胞。平均±SD。c 指定のRNAiで処理し、3Dオントップ培養において成長させたMCF10A細胞の位相差画像。画像は、同様の結果を有する3回の独立実験を代表するものである。スケールバー、20μm。d 3Dにおける抗pERM抗体及びファロイジンで染色したMCF10A又はSnail発現細胞の共焦点画像の定量化。黄色の矢印は、アクチンベースの突出を示す。スケールバー、10μm。3回の独立実験からプールしたn=21(MCF10A)及びn=21(Snail発現細胞)細胞のpERM及びF-アクチンの膜/細胞質強度比。平均±SD。e 癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas:TCGA)データ(6586個のサンプル)における14種の癌型にわたるRHOA、SLK及びSTK10の遺伝子変化。f SLK+STK10のmRNA発現に応じて層別化した乳癌、肺癌及び胃癌患者の全生存を示すカプラン-マイヤープロット。両側マン-ホイットニー検定(a、b、c)及び両側ログランク検定(e)を用いて試験した有意性。****P<0.0001。
図4】PM張力の増加が3D移動及び転移の抑制に十分であることを示す図である。a 上、膜アンカー活性エズリンの概略図。下、指定の細胞の推定PM張力を比較する散布図。3回の独立実験からプールしたn=26(親)、n=29(エズリン)及びn=31(MA-エズリン)細胞。b 3回の独立実験からのn=207(親)、n=224(エズリン)及びn=214(MA-エズリン)細胞の突出の定量化。c 指定の細胞の移動又は浸潤速度の定量化。抗HA抗体及びファロイジンで染色した3回の独立実験からのn=9フィールド。d 3回の独立実験からのn=176(親)、n=187(エズリン)及びn=175(MA-エズリン)細胞の3D移動表現型の定量化。e 8時間にわたって(d)で追跡した指定の細胞の細胞中心の軌道。右、8時間にわたる1細胞の平均速度。3回の独立実験からプールしたn=34(エズリン)及びn=44(MA-エズリン)細胞。f 指定の細胞を注射したマウスの原発腫瘍及び周囲組織の代表的なヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色切片の定量化。腫瘍縁部での腫瘍浸潤面積を定量化した。1群当たり3つの腫瘍についてのn=9領域。g 定量PCRによる自然肺転移の定量化。n=6マウス(親)、n=3(エズリン)及びn=6マウス(MA-エズリン)。**P=0.0152;***P=0.0119。h 指定の細胞の尾静脈注射後の肺の画像全体及び肺切片のH&E染色の定量化(下)。1群当たりn=8マウス。***P=0.0002。全てのデータを平均±SDで表した。両側マン-ホイットニー検定(a、c、g、h、i)、両側スチューデントt検定(c)及びカイ二乗検定(b、d)を用いて試験した有意性。n.s.、有意でない;****P<0.0001。
図5】恒常的PM張力がBARタンパク質に対抗することによって癌細胞移動を抑制することを示す図である。a 指定のRNAiで処理した、3Dオントップ培養において成長させた浸潤構造を有するMCF10Aスフェロイドの割合。対照siRNA単独、及びERM欠失により誘導される浸潤構造を減少させるBARタンパク質を標的とするsiRNA。データは、1回の実験当たり少なくとも50個の細胞を用いた2回の独立実験の平均である。b 取り込み画像における3Dオントップ培養での指定の細胞の浸潤構造の割合。データは、1回の実験当たり少なくとも200個の細胞を用いた3回の独立実験の平均±SDである。スケールバー、20μm。**P=0.002;***P=0.0007。c 3回の独立実験からのn=153(si-対照)、n=150(si-MTSS1L)及びn=155(si-Tocaタンパク質)細胞の3D移動表現型の指定のRNAiで処理したMDA-MB-231細胞の位相差画像の定量化。d 8時間にわたってcで追跡した指定の細胞の細胞中心の軌道。右、8時間にわたる1細胞の平均速度。3回の独立実験からプールしたn=35(si-対照)、n=43(si-MTSS1L)及びn=46(si-Tocaタンパク質)細胞。平均±SD。e 3Dにおける指定の細胞の突出の定量化。3回の独立実験からのn=151(si-対照)、n=132(si-MTSS1L)及びn=138(si-Tocaタンパク質)。f 3回の独立実験からプールしたn=26(si-対照)、n=22(si-ERM)、n=22(si-SLK+STK10)及びn=22(Snail発現細胞)細胞のGFP-FBP17斑点を発現する指定の細胞の共焦点画像の定量化。g 3回の独立実験からプールしたn=20(エズリン)及びn=20(MA-エズリン)細胞のGFP-FBP17斑点を示す、3Dにおけるファロイジン及びWGAで染色した指定の細胞の共焦点画像の定量化。aを除く全てのデータを平均±SDで表した。両側スチューデントt検定(b、f、g)、両側マン-ホイットニー検定(d)及びカイ二乗検定(c、e)を用いて試験した有意性。****P<0.0001。
図6】恒常的PM張力がどのように癌細胞播種の力学的抑制因子として作用するかを説明するモデルの提案を示す図である。a BARタンパク質を介した癌細胞播種をもたらす恒常的PM張力の破壊に癌進行がどのように関連するかを説明するモデルの提案。b 膜-皮質付着(MCA)によって維持される恒常的PM張力は、アクチンベース及びブレブベースの両方の突出の重要な調節因子であるBARタンパク質の集合を抑制することによって非運動性状態を維持し得る。
図7】テザー力及びPM張力の分析を示す図である。a 光学ピンセットを用いたテザー力(Fテザー)の測定の模式図。kはトラップの剛性であり、Δxはトラップ中心からのビーズの変位である。PM張力は、記載の式を用いて推定することができる。Bは膜の曲げ剛性である。詳細については方法のセクションを参照されたい。b ERMタンパク質を介した膜-皮質付着(MCA)によるPM張力調節の模式図。ERMタンパク質は、ROCK1/2、SLK及びSTK10を含むERMキナーゼを介してRHOAにより活性化される。c 抗pERM抗体、ファロイジン及び小麦胚芽凝集素(WGA)で染色した指定の細胞の共焦点画像からの側面のPMを横切るライン走査の平均蛍光強度。3回の独立実験からのn=10(MCF10A)、n=10(AU565)、n=10(MDA-MB-231)及びn=10(HS578T)細胞。d 3Dコラーゲンマトリックス(3D)における指定の細胞の突出の定量化。2回の独立実験からのn=144(MCF10A)、n=107(AU565)、n=175(MDA-MB-231)及びn=126(Hs578T)細胞。共焦点画像は、3Dコラーゲンマトリックスにおいて抗pERM抗体、ファロイジン及びWGAで染色したAU565又はHs578T細胞のものとした。カイ二乗検定。n.s.、有意でない;****P<0.0001。
図8】PM張力の減少が上皮細胞において間葉系移動表現型を誘導することを示す図である。a ウエスタンブロッティングを用いたRNAi分析による標的タンパク質の発現の下方調節の確認。画像は、同様の結果を有する2回の独立実験を代表するものである。b 指定のRNAiで処理したMCF10A細胞のテザー力を比較する散布図。3回の独立実験からプールしたn=60(si-対照)、n=40(si-RHOA)、n=28(si-ERM)及びn=25(si-SLK+STK10)細胞。平均±SD。図2aも参照されたい。c 指定の細胞における内因性ホスホミオシン軽鎖(pS19MLC)、MLC、E-カドヘリン、ビメンチン及びβ-アクチンレベルのウエスタンブロット。画像は、同様の結果を有する2回の独立実験を代表するものである。d 2Dにおいて6時間にわたって追跡した指定の細胞の細胞中心の軌道。3回の独立実験からのn=21(si-対照)、n=22(si-RHOA)、n=17(si-ERM)及びn=16(si-SLK+STK10)細胞。右、3回の独立実験からプールしたn=81(si-対照)、n=98(si-RHOA)、n=81(si-ERM)及びn=85(si-SLK+STK10)細胞のアスペクト比を比較する散布図。平均±SD。e マトリゲルを通して浸潤したAU565又はMCF7細胞の定量化。2回の独立実験からのn=6フィールド。平均±SD。f 指定のRNAiで処理したMCF10A細胞の増殖速度。データは、3回の独立実験の平均±SDからのものである。適切な対照との統計比較は、両側マン-ホイットニー検定(b、d)及び両側スチューデントt検定(e)を用いて行った。****P<0.0001。
図9】癌患者におけるMCA調節因子の下方調節を示す図である。a 指定の細胞における内因性E-カドヘリン、ビメンチン及びβ-アクチンレベルのウエスタンブロット。画像は、同様の結果を有する2回の独立実験を代表するものである。b 指定の細胞の推定PM張力を比較する散布図。3回の独立実験からプールしたn=15(MDCK II細胞、Dox(-))及びn=16(RasV12を発現するMDCK II細胞、Dox(+))細胞。平均±SD。両側マン-ホイットニー検定。****P<0.0001。c TCGAデータ(6586個のサンプル)における14種のヒト腫瘍型にわたる指定の遺伝子の遺伝子変化。d 癌細胞株百科事典(Cancer Cell Line Encyclopedia:CCLE)データにおける961個の癌細胞にわたる指定の遺伝子の遺伝子変化。
図10】PM張力の増加が3D移動を抑制することを示す図である。a MDA-MB-231細胞の増殖速度を指定のように表す。データは、3回の独立実験からの平均±SDとして提示する。b マトリゲルを通して浸潤した薬物処理細胞の定量化。2回の独立実験からのn=6フィールド。平均±SD。n.s.、有意でない;****P<0.0001。c MβCDで処理したMDA-MB-231細胞の推定PM張力を比較する散布図。3回の独立実験からプールしたn=20(モック、水)及びn=21(MβCD)細胞。平均±SD。****P<0.0001。d 乳腺脂肪体への指定の細胞の注射後の原発腫瘍成長。n=12マウス(MDA-MB-231、親)、n=4(エズリン)及びn=6マウス(MA-エズリン)。平均±SD。平均腫瘍体積をグラフに示す。**P=0.0095;***P=0.0001。両側スチューデントt検定(b、c)及び両側マン-ホイットニー検定(d)を用いた統計分析。
図11】恒常的PM張力がBARタンパク質集合を抑制することにより癌細胞移動を阻害することを示す図である。a、b 3Dオントップ培養における位相差画像を用いた指定のRNAi処理MDA-MB-231細胞(a)又はマトリゲルを通して浸潤したMCF10A細胞(b)の定量化。3回の独立実験からのn=9フィールド。平均±SD。c PMでのGFP-FBP17又はGFP-MTSS1L斑点の定量化。3回の独立実験からプールしたn=20(GFP-FBP17)及びn=20(GFP-MTSS1L)細胞。d 3回の独立実験からプールしたn=20(si-対照)、n=20(si-ERM)及びn=20(Snail発現細胞)細胞のPMでのGFP-MTSS1L斑点の定量化。平均±SD。e 3回の独立実験からプールしたn=20(モック、水)及びn=20(MβCD)細胞のPMでのGFP-FBP17斑点の定量化。平均±SD。f 機械的伸展(20%)の前後のMDA-MB-231細胞におけるGFP-FBP17又はGFP-MTSS1Lの共焦点画像の定量化。2回の独立実験からプールしたn=20(GFP-FBP17)又はn=20(GFP-MTSS1L)細胞。平均±SD。両側スチューデントt検定(a、c、e)、一元配置ANOVAとテューキーの多重比較検定(b)及び両側マン-ホイットニー検定(d、f)とを用いた統計分析。****P<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
以下の定義は、本明細書及び特許請求の範囲の明確かつ一貫した理解をもたらすために含まれる。本明細書において使用される場合、記載の用語は以下の意味を有する。本明細書に使用される他の全ての用語及び表現は、当業者に理解される通常の意味を有する。このような通常の意味は、Hawley’s Condensed Chemical Dictionary 14th Edition, by R.J. Lewis, John Wiley & Sons, New York, N.Y., 2001等の専門用語辞典を参照することで得ることができる。
【0025】
本明細書における「一実施形態」、「実施形態」等への言及は、記載の実施形態が特定の態様、特徴、構造、部分又は特性を含み得ることを示すが、全ての実施形態が必ずしもその態様、特徴、構造、部分又は特性を含むわけではない。さらに、かかる表現は、本明細書の他の部分で言及される同じ実施形態を指す場合があるが、必ずしもそうとは限らない。さらに、特定の態様、特徴、構造、部分又は特性が或る実施形態に関連して記載される場合、明示的に記載されているか否かを問わず、かかる態様、特徴、構造、部分又は特性が他の実施形態に影響する又は関連付けられることは当業者の知識の範囲内である。
【0026】
文脈上他に明らかに指示されない限り、数量を特定していない単数形(The singular forms "a," "an," and "the")は、複数の指示対象を含む。このため、例えば、「化合物(a compound)」への言及は、複数のかかる化合物を含み、化合物Xは複数の化合物Xを含む。さらに、特許請求の範囲があらゆる任意の要素を除外するように起草され得ることに留意されたい。このように、この記述は、本明細書に記載の任意の要素、及び/又は特許請求の範囲の要素の列挙に関連した「単に(solely)」、「のみ(only)」等の排他的な用語の使用、又は「否定的」限定の使用の先行詞となることを意図したものである。
【0027】
「及び/又は」という用語は、この用語が関連する項目のいずれか1つ、項目の任意の組合せ、又は項目の全てを意味する。「1つ以上」及び「少なくとも1つ」という表現は、特にその用法の文脈で読むことで、当業者には容易に理解される。例えば、この表現は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、10個、100個、又は記載の下限値のおよそ10倍、100倍若しくは1000倍の任意の上限値を意味し得る。例えば、フェニル環上の1つ以上の置換基は、環上の1つ~5つの置換基を指す。
【0028】
当業者には理解されるように、成分の量、分子量等の特性、反応条件等を表す数値を含む全ての数値が近似値であり、いずれの場合も「約」という用語で任意に修飾されると理解される。これらの値は、本明細書における記載の教示を用いて当業者が得ようとする所望の特性に応じて変化し得る。また、かかる値が、それぞれの試験測定で見られる標準偏差から必然的に生じる変動性を本質的に含むことが理解される。値が先行詞「約」の使用により近似値として表される場合、修飾語「約」のない特定の値も更なる態様を形成することが理解される。
【0029】
「約」及び「およそ」という用語は、区別なく使用される。どちらの用語も指定の値の±5%、±10%、±20%又は±25%の変動を指すことができる。例えば、「約50」%は、幾つかの実施形態において45%~55%の変動を有することがあり、又は特定の請求項によって別に定義される。整数の範囲については、「約」という用語は、範囲の両端に記載される整数よりも大きい及び/又は小さい1つ又は2つの整数を含み得る。本明細書において他の指定がない限り、「約」及び「およそ」という用語は、個々の成分、組成物又は実施形態の機能性の点で同等である、記載の範囲に近い値、例えば重量百分率を含むことを意図している。「約」及び「およそ」という用語は、本段落において上で論考したように、記載の範囲の端点を修飾することもある。
【0030】
当業者には理解されるように、ありとあらゆる目的、特に書面による説明を提供するという点で、本明細書に記載される全ての範囲は、ありとあらゆる可能性のある部分範囲及びその部分範囲の組合せ、並びにその範囲を構成する個々の値、特に整数値も包含する。したがって、2つの特定の単位の間の各単位も開示されることが理解される。例えば、10~15が開示される場合、11、12、13及び14も個別に、また範囲の一部として開示される。記載の範囲(例えば、重量百分率又は炭素基)は、その範囲内のそれぞれの特定の値、整数、小数又は同一性を含む。列挙される範囲はいずれも、同じ範囲が少なくとも等分、3分の1、4分の1、5分の1又は10分の1に分割されることを十分に説明し、可能にするものとして容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書において論考される各範囲は、下位3分の1、中位3分の1及び上位3分の1等に容易に分割され得る。また、当業者には理解されるように、「最大」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」、「より多い」、「又はそれ以上」等の全ての文言は、記載の数値を含み、かかる用語は、上で論考したように、続いて部分範囲に分割され得る範囲を指す。同様に、本明細書に記載される全ての比率は、より広い比率内に含まれる全ての部分比率も含む。したがって、ラジカル、置換基及び範囲について記載される特定の値は、例示のみを目的とし、他の規定の値、又はラジカル及び置換基について規定される範囲内の他の値を除外するものではない。さらに、各範囲の端点は、もう一方の端点との関係においても、もう一方の端点から独立しても有効であることが理解される。
【0031】
本開示は体積、質量、パーセンテージ、比率等の変数に対する範囲、限界及び偏差を提供する。「数1」~「数2」等の範囲が、整数及び分数を含む連続的な数値範囲を意味することが当業者には理解される。例えば、1~10は1、2、3、4、5、...9、10を意味する。これは1.0、1.1、1.2.1.3、...、9.8、9.9、10.0も意味し、1.01、1.02、1.03等も意味する。開示の変数が「数10」未満の数である場合、上で論考したように、数10未満の整数及び分数を含む連続的な範囲を意味する。同様に、開示の変数が「数10」より大きい数である場合、数10より大きい整数及び分数を含む連続的な範囲を意味する。これらの範囲は、上で意味を説明した「約」という用語で修飾されることがある。
【0032】
また、当業者であれば、成員がマーカッシュ群のように共通の様式でグループ化される場合、本発明が、全体として挙げられる群全体だけでなく、その群の各成員を個別に、また主要な群の全ての可能な部分群を包含することを容易に認識するであろう。さらに、あらゆる目的で、本発明は、主要な群だけでなく、群の成員の1つ以上を欠いた主要な群も包含する。したがって、本発明では、記載の群の成員のいずれか1つ以上の明確な除外が想定される。したがって、条件は開示のカテゴリー又は実施形態のいずれにも適用することができ、それにより記載の要素、種又は実施形態のいずれか1つ以上が、例えば明確な否定的限定で使用されるように、かかるカテゴリー又は実施形態から除外され得る。
【0033】
「接触させる」という用語は、例えば溶液中、反応混合物中、in vitro又はin vivoにおいて、生理的反応、化学反応又は物理的変化をもたらすために、例えば細胞レベル又は分子レベルを含めて、触れさせる、接触させる、又はすぐ近く若しくは密接に接近させる行為を指す。
【0034】
「有効量」とは、疾患、障害及び/又は病態を治療するか、又は記載の効果をもたらすのに有効な量を指す。例えば、有効量は、治療される病態又は症状の進行又は重症度を軽減するのに有効な量であり得る。治療有効量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。「有効量」という用語は、例えば宿主において疾患若しくは障害を治療若しくは予防するか、又は疾患若しくは障害の症状を治療するのに有効な、本明細書に記載の化合物の量又は本明細書に記載の化合物の組合せの量を含むことを意図している。このため、「有効量」は概して、所望の効果をもたらす量を意味する。
【0035】
代替的には、「有効量」又は「治療有効量」という用語は、本明細書において使用される場合、治療される疾患又は病態の症状の1つ以上を或る程度緩和するのに十分な作用物質、又は組成物若しくは組成物の組合せの投与量を指す。結果は、疾患の兆候、症状若しくは原因の軽減及び/又は緩和、又は生物系の任意の他の所望の変化であり得る。例えば、治療用途のための「有効量」は、疾患の症状の臨床的に重要な減少をもたらすのに必要とされる、本明細書に開示される化合物を含む組成物の量である。任意の個々の場合における適切な「有効」量は、用量漸増研究等の技術を用いて決定することができる。用量は1回以上の投与で投与され得る。しかしながら、有効な用量とみなされ得るものの正確な決定は、患者の年齢、体格、疾患のタイプ又は程度、疾患の段階、組成物の投与経路、使用される補足療法のタイプ又は程度、進行中の疾患プロセス、及び所望される治療のタイプ(例えば、積極的治療対従来の治療)を含むが、これらに限定されない、各患者に個別の因子に基づき得る。
【0036】
「治療すること」、「治療する」及び「治療」という用語には、(i)疾患、病的状態若しくは医学的状態が生じるのを防ぐこと(例えば予防)、(ii)疾患、病的状態若しくは医学的状態を阻害するか、若しくはその発生を阻止すること、(iii)疾患、病的状態若しくは医学的状態を緩和すること、及び/又は(iv)疾患、病的状態若しくは医学的状態と関連する症状を減ずることが含まれる。このため、「治療する」、「治療」及び「治療すること」という用語は、予防にまで及ぶことがあり、治療される病態又は症状の進行又は重症度を予防(prevent, prevention, preventing)、低減、停止又は逆転させることを含み得る。このように、「治療」という用語は、必要に応じて医学的、治療的及び/又は予防的投与を含み得る。
【0037】
本明細書において使用される場合、「被験体」又は「患者」は、疾患又は他の悪性腫瘍の症状又はそのリスクを有する個体を意味する。患者は、ヒトであっても又は非ヒトであってもよく、例えば、本明細書に記載のマウスモデルのような研究目的で「モデル系」として使用される動物の系統又は種を含み得る。同様に、患者には、成人又は年少者(例えば小児)のいずれが含まれていてもよい。さらに、患者は、本明細書において企図される組成物の投与から利益を得る可能性がある任意の生物、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト又は非ヒト)を意味し得る。哺乳動物の例としては、哺乳綱の任意の成員:ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジー、並びに他の類人猿及びサル種;ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の家畜;ウサギ、イヌ及びネコ等の飼育動物;齧歯類、例えばラット、マウス及びモルモットを含む実験動物等が挙げられるが、これらに限定されない。非哺乳動物の例としては、鳥類、魚類等が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において提供される方法の一実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0038】
本明細書において使用される場合、「提供する」、「投与する」、「導入する」という用語は、本明細書において区別なく使用され、所望の部位への化合物の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法又は経路によって本開示の化合物を被験体に入れることを指す。化合物は、被験体の所望の位置への送達をもたらす任意の適切な経路によって投与することができる。
【0039】
本明細書に記載の化合物及び組成物は、組成物の安定性及び活性を持続させるための付加的な組成物とともに、又は他の治療薬と組み合わせて投与することができる。
【0040】
「阻害する」、「阻害すること」及び「阻害」という用語は、疾患、感染、病態又は細胞群の成長又は進行を遅延、停止又は逆転させることを指す。阻害は、例えば治療又は接触の非存在下で生じる成長又は進行と比較して、約20%、40%、60%、80%、90%、95%又は99%超であり得る。
【0041】
「実質的に」という用語は、本明細書において使用される場合、広義の用語であり、限定されるものではないが、指定のものが大部分であるが、必ずしも全てではないことを含む、通常の意味で使用される。例えば、この用語は、100%完全な数値ではない可能性がある数値を指すことができる。完全な数値は約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%又は約20%少なくてもよい。
【0042】
本明細書において「含む」という用語が使用される場合には、「からなる」又は「から本質的になる」という用語が代わりに使用される選択肢が企図される。本明細書において使用される場合、「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含有する」又は「特徴とする」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、付加的な記載されていない要素又は方法工程を除外するものではない。本明細書において使用される場合、「からなる」とは、態様の要素に指定されない任意の要素、工程又は成分を除外するものである。本明細書において使用される場合、「から本質的になる」とは、態様の基本的な新規の特性に実質的に影響しない材料又は工程を除外するものではない。本明細書の各例において、「含む」、「から本質的になる」及び「からなる」という用語はいずれも、他の2つの用語のいずれかと置き換えることができる。本明細書において例示的に記載される開示は、本明細書において具体的に開示されない任意の要素(単数又は複数)、限定(単数又は複数)の非存在下で適切に実施され得る。
【0043】
本明細書において使用される場合、2つの核酸配列又はポリペプチド配列の文脈における「配列同一性」又は「同一性」は、配列比較アルゴリズム又は目視検査によって測定される、指定の比較ウィンドウにわたって最大限一致するようにアラインメントした場合に同じである、2つの配列中の残基の指定のパーセンテージを指す。配列同一性のパーセンテージをタンパク質に関して使用する場合、同一でない残基の位置が、しばしば保存的アミノ酸置換によって異なり、ここでアミノ酸残基が、同様の化学的特性(例えば、電荷又は疎水性)を有する他のアミノ酸残基に置換され、したがって分子の機能的特性が変化しないことが認識される。配列が保存的置換で異なる場合、配列同一性パーセントを、置換の保存的性質を補正するために上方修正することができる。かかる保存的置換によって異なる配列は、「配列類似性」又は「類似性」を有するとされる。この修正を行う手段は、当業者に既知である。通例、これは、保存的置換を完全なミスマッチではなく部分的なミスマッチとしてスコアリングし、それにより配列同一性パーセンテージを増加させることを含む。このため、例えば同一のアミノ酸に1のスコアが与えられ、非保存的置換に0のスコアが与えられる場合、保存的置換には0と1との間のスコアが与えられる。保存的置換のスコアリングは、例えばプログラムPC/GENE(Intelligenetics,Mountain View,Calif.)に実装されているように算出される。
【0044】
本明細書において使用される場合、「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適にアラインメントされた配列を比較ウィンドウにわたって比較することによって決定される値を意味し、ここで、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのための参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加又は欠失(すなわちギャップ)を含み得る。パーセンテージは、同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が両方の配列に生じる位置の数を決定し、一致した位置の数を得て、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数で除算し、結果に100を乗算して配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。
【0045】
ペプチドの文脈における「実質的同一性」という用語は、ペプチドが指定の比較ウィンドウにわたり、参照配列に対して少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%若しくは94%、又は、更には95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有する配列を含むことを示す。或る特定の実施形態において、最適なアラインメントは、Needleman及びWunschの相同性アラインメントアルゴリズム(Needleman and Wunsch, JMB, 48, 443 (1970))を用いて行われる。2つのペプチド配列が実質的に同一であることの指標は、一方のペプチドが、第2のペプチドに対して産生される抗体と免疫学的に反応することである。このため、ペプチドは、例えば2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合、第2のペプチドと実質的に同一である。したがって、本発明はまた、本明細書に提示される核酸分子及びペプチドと実質的に同一の核酸分子及びペプチドを提供する。
【0046】
配列比較については、通例1つの配列が、試験配列と比較される参照配列として機能する。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験配列及び参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。次いで、配列比較アルゴリズムにより、指定のプログラムパラメーターに基づいて、参照配列に対する試験配列(複数の場合もある)の配列同一性パーセントを算出する。
【0047】
遺伝子は、例えばsiRNA分子が遺伝子の発現を選択的に低減又は阻害する場合に、本発明によるsiRNAによって「標的化」される。「選択的に低減又は阻害する」という表現は、本明細書において使用される場合、遺伝子の発現に影響を及ぼすsiRNAを包含する。代替的には、siRNA(の一方の鎖)が、ストリンジェントな条件下で遺伝子の転写産物、すなわちそのmRNAとハイブリダイズする場合、siRNAにより遺伝子が標的化される。「ストリンジェントな条件下」でハイブリダイズするとは、標準的な条件下、例えばハイブリダイゼーションを妨げる傾向がある高温及び/又は低塩含量で標的mRNA領域にアニーリングすることを意味する。好適なプロトコル(0.1×SSC、68℃で2時間を含む)は、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1982, at pages 387-389に記載されている。
【0048】
本明細書に引用される核酸配列は、他に指定のない限り、5’→3’方向に書かれている。「核酸」という用語は、DNA(アデニン「A」、シトシン「C」、グアニン「G」、チミン「T」)又はRNA(アデニン「A」、シトシン「C」、グアニン「G」、ウラシル「U」)に存在するプリン塩基又はピリミジン塩基を含むDNA若しくはRNAのいずれか、又はその修飾形態を指す。本明細書において提供される干渉RNAは、「T」塩基がRNA中には本来存在しないにもかかわらず、例えば3’末端に「T」塩基を含んでいてもよい。場合によっては、これらの塩基は、リボヌクレオチドの鎖中に存在するデオキシリボヌクレオチドと区別するために「dT」と表示され得る。
【0049】
本明細書において使用される場合、「発現ベクター」は、細胞内でのポリヌクレオチドの発現を可能にするベクターを意味する。ポリヌクレオチドの発現は、転写事象及び/又は転写後事象を含む。
【0050】
「遺伝子」という用語は、本明細書において使用される場合、宿主ゲノムのありとあらゆる個別のコード領域、又は機能性RNA(例えばtRNA、rRNA、調節RNA、例えばリボザイム等)のみをコードする領域、並びに関連する非コード領域及び任意に調節領域を指す。或る特定の実施形態において、「遺伝子」という用語は、その範囲内に、特定のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム、イントロン、並びに発現の調節に関与する隣接5’及び3’非コードヌクレオチド配列を含む。この点で、遺伝子は、所与の遺伝子に天然に関連するプロモーター、エンハンサー、終結シグナル及び/又はポリアデニル化シグナル等の制御シグナル、又は異種制御シグナルを更に含んでいてもよい。遺伝子配列は、eDNA若しくはゲノムDNA又はそれらのフラグメントであり得る。遺伝子は、染色体外維持又は宿主への組込みに適切なベクターに導入することができる。
【0051】
「mRNA」という用語は、それ自体がタンパク質をコードする、DNAを鋳型として用いて細胞内で産生される「転写産物」であるメッセンジャーRNAを意味する。mRNAは通例、タンパク質をコードする領域(すなわちコード領域)である5’-UTRと、3’-UTRとから構成される。mRNAは、細胞内で限られた半減期を有し、これは安定性要素、特に3’-UTR内であるが、5’-UTR及びタンパク質コード領域にも見られる安定性要素によって部分的に決定される。
【0052】
「操作可能に接続した」又は「操作可能に連結した」等は、機能的関係にあるポリヌクレオチド要素の連結を意味する。核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれる場合に「操作可能に連結する」。例えば、プロモーター又はエンハンサーは、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に操作可能に連結する。操作可能に連結したとは、連結される核酸配列が通例連続し、2つのタンパク質コード領域を接合する必要がある場合に、連続し、リーディングフレーム内にあることを意味する。コード配列は、RNAポリメラーゼが2つのコード配列を単一のmRNAに転写し、これが続いて両方のコード配列に由来するアミノ酸を有する単一のポリペプチドに翻訳される場合、別のコード配列に「操作可能に連結する」。コード配列は、発現される配列が最終的にプロセシングされ、所望のタンパク質を生じる限りにおいて、互いに連続する必要はない。プロモーターを転写可能なポリヌクレオチドに「操作可能に接続する」とは、転写可能なポリヌクレオチド(例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチド又は他の転写産物)をプロモーターの調節制御下に置くことを意味し、プロモーターが、そのポリヌクレオチドの転写及び任意に翻訳を制御する。異種プロモーター/構造遺伝子の組合せの構築においては、プロモーター又はその変異体を、転写可能なポリヌクレオチドの転写開始部位から、そのプロモーターと、それが天然の状況で制御する遺伝子、すなわちプロモーターが由来する遺伝子との間の距離とほぼ同じ距離に配置することが一般に好ましい。当該技術分野で既知のように、この距離の幾らかの変動が、機能を失うことなく適合され得る。同様に、制御下に置かれる転写可能なポリヌクレオチドに対する調節配列要素(例えばオペレーター、エンハンサー等)の好ましい配置は、天然の状況での要素の配置、すなわちそれが由来する遺伝子によって規定される。
【0053】
「プロモーター」とは、一般にコード領域の上流(5’)にあり、転写の開始及びレベルを少なくとも部分的に制御するDNAの領域を意味する。本明細書における「プロモーター」への言及は、その最も広い文脈で解釈され、TATAボックス配列及びCCAATボックス配列を含む古典的ゲノム遺伝子の転写調節配列、並びに発生刺激及び/又は環境刺激に応答して、又は組織特異的若しくは細胞型特異的に遺伝子発現を変化させる付加的な調節要素(すなわち活性化配列、エンハンサー及びサイレンサー)を含む。プロモーターは通常、それが発現を調節する構造遺伝子の上流又は5’に位置するが、必ずしもそうとは限らない。さらに、プロモーターを含む調節要素は、通常は遺伝子の転写開始部位から2kb以内に位置する。本発明によるプロモーターは、細胞内での発現を更に増強し、及び/又はそれが操作可能に接続した構造遺伝子の発現のタイミング又は誘導性を変化させるために、開始部位からより遠位に位置する、付加的な特定の調節要素を含んでいてもよい。「プロモーター」という用語は、誘導性、抑制性及び構成的プロモーター、並びに最小プロモーターもその範囲内に含む。最小プロモーターは通例、操作可能に連結された選択DNA配列の転写を開始することが可能な最小の発現制御要素を指す。幾つかの例において、最小プロモーターは、付加的な調節要素(例えば、エンハンサー又は他のシス作用性調節要素)の非存在下で、基礎レベルを超える転写を開始することができない。最小プロモーターは、TATAボックス又はTATA様ボックスからなることが多い。多数の最小プロモーター配列が文献で既知である。例えば、最小プロモーターは、数ある中でもfos、CMV、SV40及びIL-2のプロモーター領域を含む、多種多様な既知の配列から選択することができる。最小CMVプロモーター又は最小IL2遺伝子プロモーター(開始部位に対して-72~+45;Siebenlist, 1986)を使用する実例が提示される。
【0054】
本発明の実施形態
本開示は、癌細胞の細胞膜の張力を増加させ、それにより癌細胞の移動及び増殖を防止することを含む、癌を治療する方法を提供する。細胞膜の張力は、約100pN/μm~200pN/μmに増加及び/又は維持されるのが好ましい。
【0055】
本開示はまた、細胞分裂速度、細胞運動速度及び細胞増殖速度を増加又は減少させる方法を提供する。
【0056】
本開示の幾つかの実施形態において、細胞膜の張力を増加させることは、癌細胞の透過性機能を操作することを含み得る。例えば、或る特定の作用物質(例えば薬物、タンパク質、核酸)は、癌細胞と接触し、膜透過性の変化を引き起こし、その後の癌細胞からの溶質の流入又は流出をもたらすことができる。溶質の流入又は流出は、内圧を増加させ、それにより細胞膜張力の増加を引き起こし得る。他の態様において、作用物質は、癌細胞と接触し、内圧を調節する1つ以上の細胞成分(例えばイオン輸送体タンパク質、小分子輸送体タンパク質、水チャネルタンパク質、糖合成タンパク質及び輸送タンパク質(例えばグルコース輸送体)等)の増加又は減少を引き起こすことができる。
【0057】
幾つかの実施形態において、膜透過性は、癌細胞への水分子の流入を引き起こすように影響され得る。
【0058】
本開示の他の実施形態において、細胞膜の張力を増加させることは、限定されるものではないが、脂質、リン脂質、糖脂質、タンパク質、糖タンパク質及びコレステロール等の細胞膜の成分の量を増加又は減少させることを含む。
【0059】
幾つかの実施形態において、細胞膜の張力の増加又は減少は、膜-アクチン皮質付着(MCA)を強める又は弱めることによって調節、変更、達成され得る。したがって、本開示の作用物質は、MCAを調節する様々な遺伝子及び/又はそれらのタンパク質産物を標的とすることができる。
【0060】
一実施形態において、作用物質は、MCAの増強又は増加をもたらす様々な膜-アクチンリンカータンパク質の活性化を促進する。MCAの増強又は増加は、作用物質が接触していないか、又は1つ以上のMCA相互作用に欠陥がある対照細胞と比較され得る。幾つかの実施形態において、光学ピンセットを用い、形成される膜テザーに加わる力を測定することによってMCAの増加を直接確認することができる。MCAが膜をアクチンに連結するリンカータンパク質(特にERMタンパク質)に依存することが知られており、したがってERM活性(この場合はリン酸化状態)の分析により、MCAが対照細胞と比較して増強されているかを間接的に測定することができる。
【0061】
MCAを増強又は増加させ得る分子の1つが、リン脂質ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)である。PIP2は、細胞膜の成分であり、ERMタンパク質等の膜-アクチンリンカータンパク質を活性化することができる。したがって、幾つかの実施形態において、MCAは、PIP2の形成を合成することが知られる1つ以上のタンパク質の発現を増加させることによって増加又は強化される。例えば、ホスファチジルイノシトール4-リン酸5-キナーゼ(PIP5K)は、PIP2合成を増加させる(例えば、Ben-Aissa et al., Cell Biology, Volume 287, Issue 20, P16311-16323, May 2012を参照されたい)。幾つかの実施形態において、PIP5K1A(配列番号77)、PIP5K1B(配列番号79)及びPIP5K1C(配列番号81)等の1つ以上のPIP5kタンパク質の発現の増加は、続いてERMタンパク質を活性化するPIP2の量を増加させることによって、MCAの増加及び細胞膜張力の増加を引き起こす。他の実施形態において、1つ以上のPIP5K遺伝子を含む発現ベクターを細胞に導入し、MCAを増加させることができる。これらの遺伝子としては、PIP5K1A(配列番号76)、PIP5K1B(配列番号78)及びPIP5K1C(配列番号80)が挙げられる。
【0062】
幾つかの実施形態において、1つ以上のERMタンパク質の発現レベル及び/又は活性は、細胞膜張力を増加させるように調節される。これは例えば、ERMタンパク質を(例えばリン酸化により)直接的又は間接的のいずれかによって活性化することが知られる或る特定のタンパク質の発現を増加させることで、活性ERMタンパク質の量を増加させ、それによりMCAの量及び細胞膜張力を増加させることによって達成され得る。幾つかの実施形態において、ERMタンパク質の或る特定の上流キナーゼが、ERMタンパク質の活性をERMのリン酸化により増加させるために使用される。幾つかの実施形態において、ERMタンパク質をリン酸化し、その活性を増加させるキナーゼは、ROCK1(DNA配列:配列番号210;アミノ酸配列:配列番号211)、ROCK2(DNA配列:配列番号212;アミノ酸配列:配列番号213)、SLK(DNA配列:配列番号214;アミノ酸配列:配列番号215)、STK10(DNA配列:配列番号216;アミノ酸配列:配列番号217)及びRHOA(DNA配列:配列番号7;アミノ酸配列:配列番号8)の1つ以上である。
【0063】
本開示の幾つかの実施形態において、細胞膜の張力の増加は、癌細胞又は癌性であることが疑われる細胞を、癌細胞に内在化し、細胞膜の張力の増加を引き起こす作用物質と接触させることによって影響を受ける。
【0064】
幾つかの実施形態において、作用物質は抗体、抗体フラグメント、抗体ミメティック、アプタマー、siRNA、マイクロRNA、shRNA、ナノボディ、DNA又は化学化合物の1つ以上を含み得る。作用物質は、或る特定の遺伝子(単数又は複数)の発現を阻害することができ、又は該遺伝子のタンパク質産物を不活性化、隔離、分解するか、又は他の形で低減若しくは阻害することができる。
【0065】
「抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、抗原と非共有結合的、可逆的かつ特異的に結合することが可能な免疫グロブリンファミリーのポリペプチド(又は一連のポリペプチド)を指す。例えば、天然に存在するIgG型の「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互に連結した少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む四量体である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVと略記する)と重鎖定常領域とから構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインから構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVと略記する)と軽鎖定常領域とから構成される。軽鎖定常領域は1つのドメイン、すなわちCLから構成される。V領域及びV領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域が組み入れられた相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域に更に細分することができる。各V及びVは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配列した3つのCDR及び4つのFRから構成される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含み、これを本明細書では抗原結合ドメインと称することがある。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。「抗体」という用語には、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ化抗体、キメラ抗体、二重特異性又は多重特異性抗体、及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば本明細書に記載の抗体に対する抗Id抗体を含む)、単鎖可変フラグメント、及びシングルドメイン抗体が含まれるが、これらに限定されない。抗体は、任意のアイソタイプ/クラス(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)又はサブクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)であり得る。軽鎖及び重鎖の両方が構造的及び機能的相同性の領域に分けられる。「定常」及び「可変」という用語は、機能的に用いられる。この点で、軽鎖(V)及び重鎖(V)部分の両方の可変ドメインが抗原認識及び特異性を決定することが理解されよう。逆に、軽鎖(CL)及び重鎖(CH1、CH2又はCH3)の定常ドメインは、分泌、経胎盤移動性、Fc受容体結合、補体結合等の重要な生物学的特性を付与する。慣例により、定常領域ドメインの番号付けは、抗体の抗原結合部位又はアミノ末端から遠ざかるにつれて増加する。N末端は可変領域であり、C末端に定常領域があり、CH3ドメイン及びCLドメインは実際に、それぞれ重鎖及び軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0066】
或る特定の実施形態において、抗体部分は、単鎖可変フラグメント(scFv)、シングルドメイン抗体、二重特異性抗体又は多重特異性抗体の1つ以上を含み得る。
【0067】
「scFv」という用語は、軽鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体フラグメントと、重鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体フラグメントとを含む融合タンパク質を指し、軽鎖及び重鎖の可変領域は、短い柔軟なポリペプチドリンカーを介して連続的に連結され、一本鎖ポリペプチドとして発現可能であり、scFvは、それが由来するインタクト抗体の特異性を保持する。指定のない限り、本明細書において使用される場合、scFvは、V可変領域及びV可変領域を、例えばポリペプチドのN末端及びC末端に対していずれの順序で有していてもよく、scFvはV-リンカー-Vを含んでいても、又はV-リンカー-Vを含んでいてもよい。ScFv分子は、当該技術分野で既知であり、その作製は、例えば米国特許第4,946,778号及び米国特許第5,641,870号に記載されている。
【0068】
「二重特異性抗体」という用語は、2つの異なるタイプの抗原に対して特異性を示す抗体を指す。「多重特異性抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、1つの抗原又は2つ以上の異なる抗原上の2つ以上の異なるエピトープに結合する分子を指す。各抗原の認識は、一般に「抗原結合ドメイン」によって達成される。多重特異性抗体は複数、例えば2つ以上、例えば2つの抗原結合ドメインを含む1つのポリペプチド鎖を含み得る。幾つかの実施形態において、多重特異性抗体は、一緒に複数、例えば2つ以上、例えば2つの抗原結合ドメインを構成する2つ、3つ、4つ又はそれ以上のポリペプチド鎖を含み得る。二重特異性及び多重特異性抗体の作製及び単離の例は、例えば国際公開第2014031174号及び国際公開第2009080252号に記載されている。
【0069】
「シングルドメイン抗体」という用語は、抗体の重鎖(VH)又は軽鎖(VL)のいずれかの可変領域を指す。シングルドメイン抗体は、例えば米国特許出願公開第20060002935号に記載されている。
【0070】
本開示の或る特定の実施形態において、抗体ミメティックは、アフィボディ、アフィリン(affilin)、アフィマー、アフィチン(affitin)、アルファボディ(alphabody)、アンチカリン及びアビマー、DARPin、フィノマー(Fynomer)、クニッツドメインペプチド又はモノボディを含むか又はそれからなる。
【0071】
本明細書において使用される場合、「抗体ミメティック」という用語は、標的配列に特異的に結合し、天然に存在する抗体とは異なる構造を有する有機化合物を記載することを意図したものである。抗体ミメティックはタンパク質、核酸又は小分子を含み得る。本開示の抗体ミメティックが特異的に結合する標的配列は、抗原であり得る。抗体ミメティックは、優れた溶解性、組織透過性、熱及び酵素に対する安定性(例えば酵素分解に対する耐性)、並びにより低い生産コストを含むが、これらに限定されない、抗体よりも優れた特性をもたらすことができる。例示的な抗体ミメティックとしては、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、及びアビマー(アビディティー多量体としても知られる)、DARPin(設計アンキリン反復タンパク質:Designed Ankyrin Repeat Protein)、フィノマー、クニッツドメインペプチド、及びモノボディが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
本開示のアフィボディ分子は、ジスルフィド架橋を全く有しない1つ以上のαヘリックスを含むか又はそれからなるタンパク質足場を含む。本開示のアフィボディ分子は、3つのαヘリックスを含むか又はそれからなるのが好ましい。例えば、本開示のアフィボディ分子は、免疫グロブリン結合ドメインを含み得る。本開示のアフィボディ分子は、例えばプロテインAのZドメインを含み得る。
【0073】
本開示のアフィリン分子は、例えばγBクリスタリン又はユビキチンのいずれかの露出アミノ酸の修飾によって作製されるタンパク質足場を含む。アフィリン分子は、抗原に対する抗体の親和性を機能的に模倣するが、構造的には抗体を模倣しない。アフィリンを作製するために用いられる任意のタンパク質足場において、正確に折り畳まれたタンパク質分子中の溶媒又は考え得る結合パートナーにアクセス可能なこれらのアミノ酸は、露出アミノ酸とみなされる。これらの露出アミノ酸のいずれか1つ以上が、標的配列又は抗原に特異的に結合するように修飾されていてもよい。
【0074】
本開示のアフィマー分子は、特定の標的配列に対して高親和性の結合部位をもたらすペプチドループを提示するように操作された、高度に安定したタンパク質を含むタンパク質足場を含む。本開示の例示的なアフィマー分子は、シスタチンタンパク質又はその三次構造に基づくタンパク質足場を含む。本開示の例示的なアフィマー分子は、逆平行βシート上に位置するαヘリックスを含む共通の三次構造を有し得る。
【0075】
幾つかの実施形態において、作用物質は、RNAの安定性に影響を及ぼすことができる。本明細書において使用される場合、RNAの安定性とは、本明細書に開示される作用物質によるERMタンパク質RNA、Barドメインタンパク質RNA、又は本明細書に開示される遺伝子の他のRNAの安定性における任意の調節を指す。より具体的には、RNA修飾は、機能又は安定性を変化させる可能性がある合成後のリボ核酸(RNA)分子の化学組成に対する変化である。
【0076】
安定性を増加させるRNA修飾には、キャッピング、すなわちmRNAの5’末端へのメチル化グアニンヌクレオチドキャップの付加、切断及びポリアデニル化、すなわちRNAの3’末端の切断に続く、ポリ(A)テールを形成する約250個のアデニン残基の付加が含まれ得る。このため、幾つかの実施形態において、作用物質はキャッピング、切断及び/又はポリアデニル化に関与するプロセスのいずれかを直接又は間接的に調節することによってRNAの安定性を調節することができる。
【0077】
他の実施形態において、作用物質は、RNAの分解を直接又は間接的に調節することによってRNAの安定性を調節することができる。より具体的には、RNA分解は、RNAを内部で切断するエンドヌクレアーゼ、RNAを5’末端から加水分解する5’エキソヌクレアーゼ、及びRNAを3’末端から分解する3’エキソヌクレアーゼの3つの主要なクラスの細胞内RNA分解酵素(リボヌクレアーゼ又はRNアーゼ)によって媒介される。RNA分解機構の特異性は、ヘリカーゼ、ポリメラーゼ及びシャペロン等の補助因子によって付与されることが多い。
【0078】
ATP依存性RNAヘリカーゼは、RNAのプロセシング及び分解のほぼ全ての経路に関与する大きなタンパク質ファミリーである。真核生物エキソソーム複合体は、3’エキソヌクレアーゼ及びエンドヌクレアーゼの両方の活性を示し、ヘリカーゼファミリーメンバーであるMtr4及びSki2とともにRNA分解プロセスにおいて機能する。
【0079】
さらに、幾つかの付加的又は代替的な実施形態において、作用物質は、例えば本明細書に開示されるERMタンパク質遺伝子及び/又はBARドメインタンパク質遺伝子のRNAの翻訳を増加又は減少させることができる。
【0080】
幾つかの実施形態において、作用物質は核酸分子であってもよい。より詳細には、核酸分子は、一本鎖DNA(ssDNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、二本鎖DNA(dsDNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを有する核酸分子、及びそれらの任意の組合せの少なくとも1つを含む分子であり得る。
【0081】
より具体的には、或る特定の実施形態において、作用物質は、ERM及び/又はBarドメインタンパク質RNAの量若しくはレベルを減少させ(安定性の低下、分解の増加及び/又はその合成の減少のいずれかによる)、及び/又はErm若しくはBARドメインRNAの活性を阻害若しくは低下させ、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、ロックド核酸(LNA)、並びに他の核酸誘導体の少なくとも1つを含み得る核酸分子であってもよい。
【0082】
干渉RNA(RNAi又は干渉RNA配列と区別なく称されることがある)とは、現在既知の又は未だ開示されていない任意の作用機序によって標的遺伝子の発現をサイレンシング、低減又は阻害することが可能な二本鎖RNAを指す。例えば、RNAiは、RNAiが標的遺伝子と同じ細胞内にある場合にRNAiの配列と相補的なmRNAの分解を媒介することによって作用し得る。本明細書において使用される場合、RNAiは、2つの相補的なRNA鎖又は1つの自己相補的な鎖によって形成される二本鎖RNAを指すことがある。RNAiは、標的mRNAと実質的若しくは完全に相補的であってもよく、又は標的mRNAとのアラインメント後に1つ以上のミスマッチを含んでいてもよい。干渉RNAの配列は、完全長の標的mRNA又はその任意の部分配列に対応するものであり得る。
【0083】
概して、RNAiは多段階プロセスである。最初の工程では、大きなdsRNAが、「低分子干渉RNA」又は「短鎖干渉RNA」(siRNA)と呼ばれる21~23リボヌクレオチド長の二本鎖エフェクター分子へと切断される。次いで、これらのsiRNA二重鎖は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)として知られるエンドヌクレアーゼを含む複合体と会合する。RISCは、siRNA鎖の一方に相補的な配列を含む内因性mRNA/RNAを特異的に認識し、切断する。二本鎖siRNA分子の鎖の一方(「ガイド」鎖)は、標的遺伝子のヌクレオチド配列又はその一部に相補的なヌクレオチド配列を含み、二本鎖siRNA分子の第2の鎖(「パッセンジャー」鎖)は、標的遺伝子のヌクレオチド配列又はその一部と実質的に類似したヌクレオチド配列を含む。
【0084】
より特定の実施形態において、siRNAは、約18~25ヌクレオチド長の二重鎖又は二本鎖領域を含む。多くの場合、siRNAは、各鎖の3’末端に約2個~4個の対になっていないヌクレオチドを含む。siRNAの二重鎖又は二本鎖領域の一方の鎖の少なくとも一部は、本明細書において定義される遺伝子産物(すなわちRNA)分子内の標的配列と実質的に相同又は実質的に相補的である。標的RNA分子に相補的な鎖は、「アンチセンスガイド鎖」であり、標的RNA分子に相同な鎖は、「センスパッセンジャー鎖」(これもsiRNAアンチセンスガイド鎖に相補的である)である。siRNAは、ループ、連結配列、並びにステム及び他の折畳み構造等の付加的な配列を有するmiRNA及びshRNA等の構造内に含まれていてもよい。
【0085】
上述のように、RNAiは低分子干渉RNAを含み、これは本明細書においてsiRNAと区別なく称されることがある。siRNAは、例えば米国特許第9,328,347号、同第9,328,348号、同第9,289,514号、同第9,289,505号及び同第9,273,312号(各々の内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。siRNAは、約15~60、15~50又は15~40ヌクレオチド長、より典型的には約15~30、15~25又は18~23ヌクレオチド長の二重鎖長を有する任意の干渉RNAであり得る。二本鎖siRNAの各相補配列は15~60、15~50、15~40、15~30、15~25又は18~23ヌクレオチド長であり得るが、他の非相補配列が存在していてもよい。例えば、siRNA二重鎖は、1~4ヌクレオチド若しくはそれ以上の3’オーバーハング、及び/又は1~4ヌクレオチド若しくはそれ以上を含む5’リン酸末端を含み得る。siRNAは、多数のコンフォメーションのいずれかで合成することができる。特定の目的で使用されるsiRNAコンフォメーションのタイプが当業者には認識される。siRNAコンフォメーションの例としては、一方の鎖がセンス鎖であり、他方が相補的なアンチセンス鎖である、2つの別個の鎖分子から組み立てられた二本鎖ポリヌクレオチド分子、センス領域及びアンチセンス領域が核酸ベース又は非核酸ベースのリンカーによって連結される、一本鎖分子から組み立てられた二本鎖ポリヌクレオチド分子、相補的なセンス領域及びアンチセンス領域を有するヘアピン二次構造を有する二本鎖ポリヌクレオチド分子、又は2つ以上のループ構造と、自己相補的なセンス領域及びアンチセンス領域を有するステムとを有する環状一本鎖ポリヌクレオチド分子が挙げられるが、これらに限定される必要はない。環状ポリヌクレオチドの場合、ポリヌクレオチドはin vivo又はin vitroのいずれかでプロセシングされ、活性二本鎖siRNA分子を生成することができる。
【0086】
siRNAは、化学的に合成することができ、プラスミドにコードされ、転写されてもよく、又はsiRNAを発現するように操作されたウイルスによってベクター化されてもよい。siRNAは、ヘアピンループを有する二重鎖へと自己ハイブリダイズする相補配列を有する一本鎖分子であってもよい。siRNAは、E.コリ(E. coli)RNアーゼ III又はDicer等の適切な酵素を用いた親dsRNAの切断によって生成することもできる(Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 9942-9947 (2002)、Calegari et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 14236-14240 (2002)、Byrom et al, Ambion TechNotes 10, 4-6 (2003)、Kawasaki et al, Nucleic Acids Res 31, 981-987 (2003)及びKnight et al., Science 293, 2269-2271 (2001))。親dsRNAは、完全又は部分的なmRNA転写産物等のsiRNAを産生することができる任意の二本鎖RNA二重鎖であり得る。
【0087】
ミスマッチモチーフは、標的配列と100%相補的でないsiRNA配列の任意の部分であり得る。siRNAは0、1つ、2つ若しくは3つ又はそれ以上のミスマッチ領域を有することがある。ミスマッチ領域は、連続していても、又は任意の数の相補的ヌクレオチドで隔てられていてもよい。ミスマッチモチーフ又は領域は、単一のヌクレオチドを含んでいてもよく、又は2つ以上の連続したヌクレオチドを含んでいてもよい。
【0088】
siRNA分子は幾つかの形態で、例えば1つ以上の単離されたsiRNA二重鎖として、より長い二本鎖RNA(dsRNA)として、又はDNAプラスミド中の転写カセットから転写されたsiRNA若しくはdsRNAとして提供され得る。siRNA配列は、オーバーハングを有していてもよく(Elbashir et al, Genes Dev 15, 188 (2001)(各々の内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているように3’又は5’オーバーハングとして)、又はオーバーハングを欠いていてもよい(すなわち、平滑末端を有する)。
【0089】
1つ以上のsiRNA鋳型をコードする1つ以上のDNAプラスミドを用いて、siRNAを得ることができる。siRNAは、例えば核内低分子RNA U6又はヒトRNアーゼP、RNアーゼH1の天然に存在する転写単位に基づく、RNAポリメラーゼIII転写単位を有するプラスミド中のDNA鋳型からヘアピンループを有する二重鎖へと自動的に折り畳まれる配列として転写することができる(Brummelkamp et al, Science 296, 550 (2002)、Donze et al, Nucleic Acids Res 30, e46 (2002)、Paddison et al, Genes Dev 16, 948 (2002))。通例、転写単位又はカセットは、所望のsiRNA配列の転写のための鋳型と、2、3個のウリジン残基及びポリチミジン(T5)配列(ポリアデニル化シグナル)から構成される終結配列とに操作可能に連結された、H1-RNA又はU6プロモーター等のRNA転写プロモーター配列を含む。選択されたプロモーターは、構成的又は誘導性転写をもたらすことができる。RNA干渉分子のDNA依存性転写のための組成物及び方法は、米国特許第6,573,099号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に詳細に記載されている。転写単位は、プラスミド又はDNAベクターに組み込まれ、そこから干渉RNAが転写される。治療目的での遺伝物質のin vivo送達に適したプラスミドは、米国特許第5,962,428号及び同第5,910,488号(各々の内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に詳細に記載されている。選択されたプラスミドは、標的細胞への核酸の一時的な又は安定した送達をもたらすことができる。本来所望の遺伝子配列を発現するように設計されたプラスミドを、siRNAの転写のための転写単位カセットを含むように改変し得ることが当業者には明らかである。
【0090】
PCR法(米国特許第4,683,195号及び同第4,683,202号、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Innis et al, eds, (1990)を参照されたい)と同様、RNAを単離する方法、RNAを合成する方法、核酸をハイブリダイズする方法、cDNAライブラリーを作成し、スクリーニングする方法、及びPCRを行う方法は、当該技術分野で既知である(例えば、Gubler and Hoffman, Gene 25, 263-269 (1983)、Sambrook and Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor N.Y., (2001)(各々の内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい)。
【0091】
siRNA分子は、化学合成してもよい。化学合成の一例では、siRNA二重鎖配列を含む一本鎖核酸は、Usman et al, J Am Chem Soc, 109, 7845 (1987)、Scaringe et al, Nucl Acids Res, 18, 5433 (1990)、Wincott et al, Nucl Acids Res, 23, 2677-2684 (1995)及びWincott et al, Methods Mol Bio 74, 59 (1997)(各々の内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているような当該技術分野で既知の様々な技術のいずれかを用いて合成することができる。一本鎖核酸の合成には、5’末端のジメトキシトリチル及び3’末端のホスホロアミダイト等の一般的な核酸保護基及びカップリング基を用いる。非限定的な例として、小規模合成は、Applied Biosystemsの合成装置(Thermo Fisher Scientific,Waltham,Mass.)で、2’-O-メチル化ヌクレオチドについて2.5分のカップリング工程を有する0.2マイクロモル規模のプロトコルを用いて行うことができる。代替的には、0.2マイクロモル規模での合成は、Thermo Fisher Scientificの96ウェルプレート合成装置で行うことができる。しかしながら、現在既知の又は未だ開示されていない任意の合成方法を含め、より大規模又は小規模の合成も本発明に包含される。siRNA一本鎖分子の合成に適した試薬、RNA脱保護の方法及びRNA精製の方法は、当業者に既知である。
【0092】
或る特定の実施形態において、siRNAは、タンデム合成技術によって合成することができ、両方の鎖が、その後切断され、ハイブリダイズしてsiRNA二重鎖を形成する別個のフラグメント又は鎖を生じるリンカーによって分離された単一の連続したフラグメント又は鎖として合成される。リンカーは、ポリヌクレオチドリンカー又は非ヌクレオチドリンカーを含む任意のリンカーであり得る。siRNAのタンデム合成は、マルチウェル/マルチプレート合成プラットホームと、バッチ反応器、合成カラム等を用いる大規模合成プラットホームとの両方に容易に適合させることができる。幾つかの実施形態において、siRNAは、一方の鎖がsiRNAのセンス鎖を含み、他方がアンチセンス鎖を含む、2つの異なる一本鎖分子から組み立てられ得る。例えば、各鎖を別個に合成し、合成及び/又は脱保護後にハイブリダイゼーション又はライゲーションによって接合することができる。センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれかが、互いに相補的でなく、二本鎖siRNAを形成しない付加的なヌクレオチドを含んでいてもよい。或る特定の例において、siRNA分子は、単一の連続したフラグメントとして合成することができ、自己相補的なセンス領域及びアンチセンス領域がハイブリダイズして、ヘアピン二次構造を有するsiRNA二重鎖を形成する。
【0093】
siRNA分子は、二本鎖領域を形成する2つの相補鎖を有する二重鎖を含んでいてもよく、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドが二本鎖領域に存在する。修飾ヌクレオチドは、一方の鎖又は両方に存在し得る。修飾ヌクレオチドが両方の鎖に存在する場合、各鎖の同じ位置にあっても、又は異なる位置にあってもよい。修飾siRNAは、対応する非修飾siRNA配列よりも免疫賦活性が低い場合があるが、標的配列の発現をサイレンシングする能力を保持する。
【0094】
本発明への使用に適した修飾ヌクレオチドの例としては、2’-O-メチル(2’OMe)、2’-デオキシ-2’-フルオロ(2’F)、2’-デオキシ、5-C-メチル、2’-O-(2-メトキシエチル)(MOE)、4’-チオ、2’-アミノ又は2’-C-アリル基を有するリボヌクレオチドが挙げられるが、これに限定されない。当該技術分野で、例えばSanger, Principles of Nucleic Acid Structure, Springer-Verlag Ed. (1984)(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているようなコンフォメーションを有する修飾ヌクレオチドも、siRNA分子への使用に適している。他の修飾ヌクレオチドとしては、限定されるものではないが、ロックド核酸(LNA)ヌクレオチド、G-クランプヌクレオチド又はヌクレオチド塩基類似体が挙げられる。LNAヌクレオチドとしては、2’-O,4’-C-メチレン-(D-リボフラノシル)ヌクレオチド)、2’-O-(2-メトキシエチル)(MOE)ヌクレオチド、2’-メチル-チオ-エチルヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロ(2’F)ヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-クロロ(2Cl)ヌクレオチド及び2’-アジドヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定される必要はない。G-クランプヌクレオチドとは、修飾シトシン類似体を指し、修飾により、二重鎖内の相補的なグアニンヌクレオチドのワトソン-クリック面及びフーグスティーン面の両方を水素結合する能力が付与される(Lin et al, J Am Chem Soc, 120, 8531-8532 (1998)、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)。ヌクレオチド塩基類似体としては、例えばC-フェニル、C-ナフチル、他の芳香族誘導体、イノシン、アゾールカルボキサミド、並びに3-ニトロピロール、4-ニトロインドール、5-ニトロインドール及び6-ニトロインドール等のニトロアゾール誘導体が挙げられる(Loakes, Nucl Acids Res, 29, 2437-2447 (2001)、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)。
【0095】
siRNA分子は、siRNAの一方又は両方の鎖に1つ以上の非ヌクレオチドを含んでいてもよい。非ヌクレオチドは、アデノシン、グアニン、シトシン、ウラシル若しくはチミン等の一般に認識されるヌクレオチド塩基ではない、又はそれを含まない、1つ以上のヌクレオチド単位の代わりに核酸鎖に組み込むことが可能な任意のサブユニット、官能基又は他の分子実体、例えば、糖又はリン酸であり得る。
【0096】
siRNAの化学修飾は、siRNA分子にコンジュゲートを付着させることを含み得る。コンジュゲートは、核酸又は非核酸リンカー等の共有結合を介してsiRNAのセンス鎖及び/又はアンチセンス鎖の5’末端及び/又は3’末端に付着させることができる。コンジュゲートは、カルバメート基又は他の連結基を介してsiRNAに付着させることができる(例えば、米国特許出願公開第2005/0074771号、同第2005/0043219号及び同第2005/0158727号(各々の内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい)。コンジュゲートは、多数の目的のいずれかのためにsiRNAに付加することができる。例えば、コンジュゲートは、細胞内へのsiRNAの送達を容易にする分子実体であっても、又は薬物若しくは標識を含む分子であってもよい。本発明のsiRNAへの付着に適したコンジュゲート分子の例としては、限定されるものではないが、コレステロール等のステロイド、ポリエチレングリコール(PEG)等のグリコール、ヒト血清アルブミン(HSA)、脂肪酸、カロテノイド、テルペン、胆汁酸、フォレート(例えば葉酸、葉酸類似体及びその誘導体)、糖(例えばガラクトース、ガラクトサミン、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、マンノース、フルクトース、フコース等)、リン脂質、ペプチド、細胞取込みを媒介し得る細胞受容体のリガンド、及びそれらの組合せが挙げられる(例えば米国特許出願公開第2003/0130186号、同第2004/0110296号及び同第2004/0249178号、米国特許第6,753,423号(各々の内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい)。他の例としては、米国特許出願公開第2005/0119470号及び同第2005/0107325号(各々の内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている親油性部分、ビタミン、ポリマー、ペプチド、タンパク質、核酸、小分子、オリゴ糖、炭水化物クラスター、インターカレーター、マイナーグルーブバインダー、切断剤及び架橋剤コンジュゲート分子が挙げられる。他の例としては、米国特許出願公開第2005/0153337号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている2’-O-アルキルアミン、2’-O-アルコキシアルキルアミン、ポリアミン、C5-カチオン性修飾ピリミジン、カチオン性ペプチド、グアニジニウム基、アミジニウム基、カチオン性アミノ酸コンジュゲート分子が挙げられる。コンジュゲート分子の付加的な例としては、米国特許出願公開第2004/0167090号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているような疎水基、膜活性化合物、細胞透過性化合物、細胞標的化シグナル、相互作用調節剤又は立体安定剤が挙げられる。更なる例としては、米国特許出願公開第2005/0239739号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているコンジュゲート分子が挙げられる。
【0097】
他の実施形態において、二本鎖干渉RNA(例えばsiRNA)の鎖を連結して、ヘアピン又はステム-ループ構造(例えばshRNA)を形成することができる。このため、上述のように、作用物質は低分子ヘアピンRNA(shRNA)であってもよい。
【0098】
他の実施形態によると、作用物質はマイクロRNA(miRNA)を含んでいてもよい。miRNAは、様々なサイズの一次転写産物をコードする遺伝子から作られる小さなRNAである。miRNAは、動物及び植物の両方で特定されている。一次転写産物(「pri-miRNA」と称される)は、様々な核酸分解工程を経て、より短い前駆体miRNA、すなわち「pre-miRNA」へとプロセシングされる。pre-miRNAは、折り畳まれた形態で存在するため、最終(成熟)miRNAは二重鎖で存在し、2つの鎖がmiRNAと称される。pre-miRNAは、前駆体からmiRNA二重鎖を除去する一種のdicerの基質であり、その後、siRNAと同様に、二重鎖がRISC複合体に取り込まれ得る。siRNAとは異なり、miRNAは、部分的な相補性しか有しない転写配列に結合し、通常は定常状態のRNAレベルに影響を与えることなく翻訳を抑制する。miRNA及びsiRNAの両方がDicerによってプロセシングされ、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)の構成要素と会合する(例えば、Michaels et al., Nature Communications, 19:818.2019を参照されたい)。
【0099】
作用物質は、少なくとも1つのshRNA分子を含み得る核酸作用物質を含んでいてもよい。より特定の実施形態において、かかるshRNAは、EMRタンパク質RNA若しくはBARドメインタンパク質RNA、又はそれらの任意のフラグメント(複数の場合もある)若しくは変異体(複数の場合もある)に少なくとも部分的に相補的な核酸配列を含み得る。「shRNA」という用語は、本明細書において使用される場合、相補配列の第1の領域及び第2の領域を含むステム-ループ構造を有するRNA作用物質を指す。領域の相補性の程度及び配向は領域間で塩基対合が生じるのに十分である。第1の領域及び第2の領域はループ領域によって接合し、ループは、ループ領域内のヌクレオチド(又はヌクレオチド類似体)間の塩基対合の欠如によって生じる。ループ内のヌクレオチドの幾つかは、ループ内の他のヌクレオチドとの塩基対相互作用に関与し得る。
【0100】
幾つかの具体的な実施形態において、shRNAは、標的ERMタンパク質RNA及び/又はBARドメインタンパク質RNAに相補的な配列を含み、約5~50ヌクレオチド、具体的には5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、45、46、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50ヌクレオチド又はそれ以上の長さを有し得る。より具体的な実施形態において、相補配列は、9~29ヌクレオチドの範囲の長さであり得る。
【0101】
幾つかの実施形態において、ERMタンパク質及びBARドメインタンパク質等の標的遺伝子は、例えば米国特許第10,266,850号、同第10,227,611号、同第10,000,772号、同第10,113,167号及び米国特許出願公開第20190134227号に記載されているように、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)(CRISPR)及びCRISPR関連(Cas)タンパク質を用いて、上記タンパク質の発現を低減又は抑制するように編集することができる。
【0102】
一般に、「CRISPR系」という用語は、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNA又は活性部分tracrRNA)、tracr-mate配列(内因性CRISPR系の文脈では、「ダイレクトリピート」及びtracrRNAによりプロセシングされる部分ダイレクトリピートを包含する)、ガイド配列(内因性CRISPR系の文脈では、「スペーサー」とも称される)、及び/又はCRISPR遺伝子座からの他の配列及び転写産物を含む、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現又はその活性の指向に関与する転写産物及び他の要素をまとめて指す。
【0103】
CRISPR系は、例えばCRISPR/Casヌクレアーゼを含むことがあり、又はCRISPR/Casヌクレアーゼ系は、配列特異的にDNAに結合するノンコーディングRNA分子(ガイド)RNAと、ヌクレアーゼ機能性(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を有するCasタンパク質(例えばCas9)とを含む。幾つかの実施形態において、CRISPR系の1つ以上の要素は、タイプI、タイプII又はタイプIII CRISPR系に由来する。幾つかの実施形態において、CRISPR系の1つ以上の要素は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)等の内因性CRISPR系を含む特定の生物に由来する。
【0104】
幾つかの実施形態において、Casヌクレアーゼ及びガイドRNA(標的配列に特異的なcrRNAと固定tracrRNAとの融合を含む)を細胞に導入する。一般に、gRNAの5’末端の標的部位が、相補的塩基対合を用いて、Casヌクレアーゼを標的部位、例えば遺伝子に標的化する。幾つかの実施形態において、標的部位は、通例NGG、又はNAG等のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列のすぐ5’の位置に基づいて選択される。この点で、gRNAは、標的DNA配列に対応するようにガイドRNAの最初の20ヌクレオチドを修飾することにより、所望の配列に標的化される。
【0105】
幾つかの実施形態において、CRISPR系の1つ以上の要素の発現を推進する1つ以上のベクターを、CRISPR系の要素の発現が1つ以上の標的部位でのCRISPR複合体の形成を指向するように細胞に導入する。例えば、Cas酵素、tracr-mate配列に連結されたガイド配列、及びtracr配列は各々、別個のベクター上の別個の調節要素に操作可能に連結され得る。代替的には、同じ又は異なる調節要素から発現される要素の2つ以上を単一のベクターに組み合わせることができ、1つ以上の付加的なベクターが、最初のベクターに含まれないCRISPR系の任意の構成要素を提供する。幾つかの実施形態において、単一のベクターに組み合わせるCRISPR系の要素は、1つの要素が第2の要素に対して5’(その「上流」)又は第2の要素に対して3’(その「下流」)に位置するような任意の好適な配向で配置することができる。1つの要素のコード配列は、第2の要素のコード配列の同じ又は逆の鎖上に位置し、同じ又は逆の方向に配向し得る。幾つかの実施形態において、単一のプロモーターが、CRISPR酵素と、1つ以上のイントロン配列に(例えば、各々が異なるイントロンに、2つ以上が少なくとも1つのイントロンに、又は全てが単一のイントロンに)組み込まれたガイド配列、tracr mate配列(任意にガイド配列に操作可能に連結される)及びtracr配列の1つ以上とをコードする転写産物の発現を推進する。幾つかの実施形態において、CRISPR酵素、ガイド配列、tracr mate配列及びtracr配列は、同じプロモーターに操作可能に連結され、それから発現される。
【0106】
幾つかの実施形態において、ベクターは、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(「クローニング部位」とも称される)等の1つ以上の挿入部位を含む。幾つかの実施形態において、1つ以上の挿入部位(例えば約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個若しくはそれ以上の、又は約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個若しくはそれ以上を超える挿入部位)が、1つ以上のベクターの1つ以上の配列要素の上流及び/又は下流に位置する。幾つかの実施形態において、ベクターは、tracr mate配列の上流、任意にtracr mate配列に操作可能に連結された調節要素の下流に挿入部位を含み、挿入部位へのガイド配列の挿入後の発現時に、ガイド配列が真核細胞内の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を誘導する。幾つかの実施形態において、ベクターは2つ以上の挿入部位を含み、各挿入部位は、各部位でガイド配列の挿入が可能なように2つのtracr mate配列の間に位置する。かかる配置においては、2つ以上のガイド配列が単一のガイド配列の2つ以上のコピー、2つ以上の異なるガイド配列、又はこれらの組合せを含み得る。複数の異なるガイド配列が使用される場合、単一の発現構築物を用いて、細胞内の複数の異なる対応する標的配列にCRISPR活性を標的化することができる。例えば、単一のベクターは、約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個若しくはそれ以上の、又は約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個若しくはそれ以上を超えるガイド配列を含み得る。幾つかの実施形態において、約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個若しくはそれ以上の、又は約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個若しくはそれ以上を超えるかかるガイド配列含有ベクターが提供され、任意に細胞に送達され得る。
【0107】
幾つかの実施形態において、ベクターは、Casタンパク質等のCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に操作可能に連結された調節要素を含む。Casタンパク質の非限定的な例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1及びCsx12としても知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ又はそれらの改変体が挙げられる。これらの酵素は既知であり、例えばS.ピオゲネス(S. pyogenes)Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベースにアクセッション番号Q99ZW2で見ることができる。幾つかの実施形態において、Cas9等の非修飾のCRISPR酵素は、DNA切断活性を有する。
【0108】
幾つかの実施形態において、CRISPR酵素はCas9であり、S.ピオゲネス又はS.ニューモニエ(S. pneumoniae)に由来するCas9であってもよい。幾つかの実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列内及び/又は標的配列の相補体内等の標的配列の位置で一方又は両方の鎖の切断を指向する。幾つかの実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の最初又は最後のヌクレオチドから約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500塩基対又はそれ以上の範囲で一方又は両方の鎖の切断を指向する。幾つかの実施形態において、ベクターは、対応する野生型酵素に対して突然変異したCRISPR酵素をコードし、突然変異したCRISPR酵素は、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの一方又は両方の鎖を切断する能力を欠く。例えば、S.ピオゲネスに由来するCas9のRuvC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を、両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(単一の鎖を切断する)へと変換する。幾つかの実施形態において、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列(複数の場合もある)、例えばそれぞれDNA標的のセンス鎖及びアンチセンス鎖を標的とする2つのガイド配列と組み合わせて用いることができる。この組合せにより、両方の鎖にニックを入れ、非相同末端結合の誘導に用いることが可能となる。
【0109】
一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するために、標的ポリヌクレオチド配列と十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である。幾つかの実施形態において、ガイド配列とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、好適なアラインメントアルゴリズムを用いて最適にアラインメントされた場合、約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%若しくはそれ以上である、又は約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%若しくはそれ以上を超える。
【0110】
最適なアラインメントは、配列のアラインメントのための任意の好適なアルゴリズムを用いて決定することができ、その非限定的な例としては、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler変換に基づくアルゴリズム(例えばBurrows Wheeler Aligner)、ClustalW、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies)、ELAND(Illumina,San Diego,Calif.)、SOAP(soap.genomics.org.cnで利用可能)及びMaq(maq.sourceforge.netで利用可能)が挙げられる。幾つかの実施形態において、ガイド配列は、約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75ヌクレオチド若しくはそれ以上の、又は約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75ヌクレオチド若しくはそれ以上を超える長さである。幾つかの実施形態において、ガイド配列は、約75、50、45、40、35、30、25、20、15、12ヌクレオチド未満又はそれ以下の長さである。標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するガイド配列の能力は、任意の好適なアッセイによって評定され得る。例えば、試験すべきガイド配列を含むCRISPR複合体を形成するのに十分なCRISPR系の構成要素を、対応する標的配列を有する細胞に、例えばCRISPR配列の構成要素をコードするベクターによるトランスフェクションによって供給し、続いて標的配列内での選択的切断を評定することができる。同様に、標的ポリヌクレオチド配列の切断は、標的配列、試験すべきガイド配列を含むCRISPR複合体の構成要素、及び試験ガイド配列とは異なる対照ガイド配列を準備し、試験ガイド配列及び対照ガイド配列の反応間の標的配列での結合又は切断速度を比較することによって試験管内で評価することができる。
【0111】
ガイド配列は、任意の標的配列を標的とするように選択することができる。幾つかの実施形態において、標的配列は細胞のゲノム内の配列である。例示的な標的配列としては、標的ゲノムに固有の配列が挙げられる。幾つかの実施形態において、ガイド配列は、ガイド配列内の二次構造の程度を低下させるように選択される。二次構造は、任意の好適なポリヌクレオチド折畳みアルゴリズムによって決定することができる。
【0112】
一般に、tracr mate配列は、(1)対応するtracr配列を含む細胞内のtracr mate配列に挟まれたガイド配列の切除、及び(2)標的配列でのCRISPR複合体の形成の1つ以上を促進するために、tracr配列と十分な相補性を有する任意の配列を含み、CRISPR複合体は、tracr配列にハイブリダイズしたtracr mate配列を含む。一般に、相補性の程度は、tracr mate配列とtracr配列との2つの配列のうち短い方の長さに沿った最適アラインメントを基準にする。
【0113】
最適アラインメントは、任意の好適なアラインメントアルゴリズムによって決定することができ、tracr配列又はtracr mate配列のいずれかにおける自己相補性等の二次構造を更に説明し得る。幾つかの実施形態において、最適にアラインメントされた場合の2つのうち短い方の長さに沿ったtracr配列とtracr mate配列との間の相補性の程度は、約25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97.5%、99%若しくはそれ以上の、又は約25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97.5%、99%若しくはそれ以上を超える。幾つかの実施形態において、tracr配列は、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50ヌクレオチド若しくはそれ以上の、又は約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50ヌクレオチド若しくはそれ以上を超える長さである。幾つかの実施形態において、tracr配列及びtracr mate配列は、両者の間のハイブリダイゼーションによりヘアピン等の二次構造を有する転写産物が生じるように、単一の転写産物内に含まれる。幾つかの態様では、ヘアピン構造に使用されるループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、配列GAAAを有する。しかしながら、より長い又は短いループ配列だけでなく、代替的な配列を使用してもよい。幾つかの実施形態において、配列には、ヌクレオチドトリプレット(例えばAAA)及び付加的なヌクレオチド(例えばC又はG)が含まれる。ループ形成配列の例としては、CAAA及びAAAGが挙げられる。幾つかの実施形態において、転写産物又は転写ポリヌクレオチド配列は、少なくとも2つ以上のヘアピンを有する。幾つかの実施形態において、転写産物は2つ、3つ、4つ又は5つのヘアピンを有する。更なる実施形態において、転写産物は多くとも5つのヘアピンを有する。幾つかの実施形態において、単一の転写産物は、ポリT配列等の転写終結配列、例えば6つのTヌクレオチドを更に含む。
【0114】
幾つかの実施形態において、作用物質は、BARドメインを含む1つ以上のタンパク質の発現を阻害又は減少させる。BAR(Bin/アンフィファイシン/Rvs)ドメインは、ヒトゲノムにコードされる35超のタンパク質に見られる。これらのタンパク質は、エンドサイトーシス(すなわちエンドフィリン、ソーティングネキシン及びアンフィファイシン)及びアクチン再構築(すなわち、RhoGAP及びRhoGEF)等の多様な細胞プロセスで機能する。機能性BAR二量体は、6つのヘリックスのバナナ形の束であり、先端に、またその凹面に沿って正電荷を帯び、リン脂質結合を媒介し得る。凹面の曲率は、直径が約220Åの丸みを帯びた膜に適合する。例えば、アンフィファイシンのBARドメインは、およそ210アミノ酸長であり、3つの伸びたαヘリックスから構成されるコイルドコイルからなる。2つの単量体が二量体化し、6つのヘリックスの機能性のバナナ形の束を形成する。正電荷はバナナ様構造の先端に、またその凹面に沿ってクラスター化する。これらの正電荷は、リン脂質への結合を媒介すると考えられ、凹面の曲率は、直径が約220Åの丸みを帯びた膜に適合する。全てのBARドメインが、曲がった脂質と結合し得るが、BARドメインのサブセットが膜の曲率を誘導する可能性がある。したがって、BARドメインは、小胞形成時に曲がった膜にタンパク質を標的化するか、又は膜の曲率の誘導を物理的に補助するかのいずれかのように機能し得ると予測される。
【0115】
例示的なBARドメイン遺伝子及びそれらのタンパク質としては、MTSS1L/ABBA、FNBP1/FBP17、TRIP10/CIP4、ARHGAP10/GARF2、ARHGAP17/RICH1、ARHGAP26/GRAF1、ARHGAP29、ARHGAP42/GRAF、ARHGAP44/RICH2、ARHGAP45/HMHA1、ARHGEF37、ARHGEF38、IRSp53/BAIAP2、BAIAP2L1/IRTKS、DNMBP/Tuba、FCHSD2、FER;FES、FCHSD1、GAS7、GMIP、MTSS1/MIM、OPHN1、PACSIN1、PACSIN2、PACSIN3、SH3BP1、SRGAP1、SRGAP2、SRGAP3及びARHGAP4が挙げられる。
【0116】
幾つかの実施形態において、BARドメイン遺伝子は、MTSS1L/ABBA(配列番号11)、FNBP1/FBP17(配列番号13)、TRIP10/CIP4(配列番号15)、ARHGAP10/GARF2(配列番号17)、ARHGAP17/RICH1(配列番号19)、ARHGAP26/GRAF1(配列番号21)、ARHGAP29(配列番号23)、ARHGAP42/GRAF(配列番号25)、ARHGAP44/RICH2(配列番号27)、ARHGAP45/HMHA1(配列番号29)、ARHGEF37(配列番号31)、ARHGEF38(配列番号33)、IRSp53/BAIAP2(配列番号35)、BAIAP2L1/IRTKS(配列番号37)、DNMBP/Tuba(配列番号39)、FCHSD2(配列番号41)、FER(配列番号43);FES(配列番号45)、FCHSD1(配列番号47)、GAS7(配列番号49)、GMIP(配列番号51)、MTSS1/MIM(配列番号53)、OPHN1(配列番号55)、PACSIN1(配列番号57)、PACSIN2(配列番号59)、PACSIN3(配列番号61)、SH3BP1(配列番号63)、SRGAP1(配列番号65)、SRGAP2(配列番号67)、SRGAP3(配列番号69)、ARHGAP4(配列番号71)及びFNBPL1(配列番号73)と90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である。
【0117】
幾つかの実施形態において、BARドメインタンパク質は、MTSS1L/ABBA(配列番号12)、FNBP1/FBP17(配列番号14)、TRIP10/CIP4(配列番号16)、ARHGAP10/GARF2(配列番号18)、ARHGAP17/RICH1(配列番号20)、ARHGAP26/GRAF1(配列番号22)、ARHGAP29(配列番号24)、ARHGAP42/GRAF(配列番号26)、ARHGAP44/RICH2(配列番号28)、ARHGAP45/HMHA1(配列番号30)、ARHGEF37(配列番号32)、ARHGEF38(配列番号34)、IRSp53/BAIAP2(配列番号36)、BAIAP2L1/IRTKS(配列番号38)、DNMBP/Tuba(配列番号40)、FCHSD2(配列番号42)、FER(配列番号44);FES(配列番号46)、FCHSD1(配列番号48)、GAS7(配列番号50)、GMIP(配列番号52)、MTSS1/MIM(配列番号54)、OPHN1(配列番号56)、PACSIN1(配列番号58)、PACSIN2(配列番号60)、PACSIN3(配列番号62)、SH3BP1(配列番号64)、SRGAP1(配列番号66)、SRGAP2(配列番号68)、SRGAP3(配列番号70)、ARHGAP4(配列番号72)及びFNBP1L(配列番号74)と90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である。
【0118】
したがって、幾つかの実施形態において、作用物質はARHGAP4、ARHGAP10/GARF2、ARHGAP17/RICH1、ARHGAP26/GRAF1、ARHGAP29、ARHGAP42/GRAF、ARHGAP44/RICH2、ARHGAP45/HMHA1、ARHGEF37、ARHGEF38、IRSp53/BAIAP2、BAIAP2L1/IRTKS、DNMBP/Tuba、FCHSD1、FCHSD2、FER;FES、FNBP1/FBP17、FNBP1L/Toca-1、GAS7、GMIP、MTSS1/MIM、MTSS1L/ABBA、OPHN1、PACSIN1、PACSIN2、PACSIN3、SH3BP1、SRGAP1、SRGAP2、SRGAP3及びTRIP10/CIP4の1つ以上のmRNAに結合するsiRNA、shRNA、miRNAである。
【0119】
幾つかの実施形態において、BARドメインタンパク質の1つ以上のmRNAに結合するsiRNAは、ARHGAP4のmRNAに結合する配列番号82~配列番号85のいずれか1つ、ARHGAP10のmRNAに結合する配列番号86~配列番号89のいずれか1つ、ARHGAP26のmRNAに結合する配列番号90~配列番号93のいずれか1つ、ARHGAP29のmRNAに結合する配列番号94~配列番号97のいずれか1つ、ARHGAP42のmRNAに結合する配列番号98~配列番号101のいずれか1つ、BAIAP2のmRNAに結合する配列番号102~配列番号105のいずれか1つ、BAIAP2L1のmRNAに結合する配列番号106~配列番号109のいずれか1つ、DNMBPのmRNAに結合する配列番号110~配列番号113のいずれか1つ、FCHSD1のmRNAに結合する配列番号114~配列番号117のいずれか1つ、FCHSD2のmRNAに結合する配列番号118~配列番号121のいずれか1つ、FESのmRNAに結合する配列番号122~配列番号125のいずれか1つ、GAS7のmRNAに結合する配列番号126~配列番号129のいずれか1つ、GMIPのmRNAに結合する配列番号130~配列番号133のいずれか1つ、HMHA1のmRNAに結合する配列番号134~配列番号137のいずれか1つ、MTSS1のmRNAに結合する配列番号138~配列番号141のいずれか1つ、MTSS1LのmRNAに結合する配列番号142~配列番号145のいずれか1つ、OPHN1のmRNAに結合する配列番号146~配列番号149のいずれか1つ、PACSIN1のmRNAに結合する配列番号150~配列番号153のいずれか1つ、PACSIN2のmRNAに結合する配列番号154~配列番号157のいずれか1つ、PACSIN3のmRNAに結合する配列番号158~配列番号161のいずれか1つ、SRGAP1のmRNAに結合する配列番号162~配列番号165のいずれか1つ、SRGAP2のmRNAに結合する配列番号166~配列番号169のいずれか1つ、SRGAP3のmRNAに結合する配列番号170~配列番号173のいずれか1つ、ARHGAP17のmRNAに結合する配列番号174~配列番号177のいずれか1つ、ARHGAP44のmRNAに結合する配列番号178~配列番号181のいずれか1つ、SH3BP1のmRNAに結合する配列番号182~配列番号185のいずれか1つ、ARHGEF37のmRNAに結合する配列番号186~配列番号189のいずれか1つ、ARHGEF38のmRNAに結合する配列番号190~配列番号193のいずれか1つ、FERのmRNAに結合する配列番号194~配列番号197のいずれか1つ、FNBP1のmRNAに結合する配列番号198~配列番号201のいずれか1つ、TRIP10のmRNAに結合する配列番号202~配列番号205のいずれか1つ、又はFNBP1LのmRNAに結合する配列番号206~配列番号209のいずれか1つを含む。
【0120】
幾つかの実施形態において、作用物質は、barドメイン遺伝子MTSS1L/ABBA、FNBP1/FBP17及びTRIP10/CIP4又はそれらのタンパク質産物を低減又はノックダウンする。
【0121】
他の実施形態において、作用物質はEZR、RDX及びMSNの1つ以上、又はキナーゼ若しくは他の活性化タンパク質等の上流活性化タンパク質等のERMタンパク質発現の増加を引き起こすことができる。幾つかの実施形態において、ERM遺伝子は、EZR(配列番号1)、RDX(配列番号3)及びMSN(配列番号5)と90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である。幾つかの実施形態において、ERM遺伝子は、EZR(配列番号2)、RDX(配列番号4)及びMSN(配列番号6)と90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である。一実施形態において、活性化タンパク質は、配列番号7によるDNA配列を有する形質転換タンパク質RhoA(配列番号8)である。他の実施形態において、活性化タンパク質は、ROCK1(配列番号211)、ROCK2(配列番号213)、SKL(配列番号215)及びSTK10(配列番号217)、又は上記タンパク質をコードする遺伝子、すなわちROCK1(配列番号210)、ROCK2(配列番号212)、SKL(配列番号214)及びSTK10(配列番号216)の1つ以上である。他の実施形態において、活性化タンパク質は、1つ以上のPIP5K遺伝子を含む発現ベクターであり、細胞に導入して、ERMタンパク質を活性化することができる。これらの遺伝子としては、PIP5K1Aタンパク質(配列番号77)、PIP5K1Bタンパク質(配列番号79)及びPIP5K1Cタンパク質(配列番号81)をそれぞれコードするPIP5K1A(配列番号76)、PIP5K1B(配列番号78)及びPIP5K1C(配列番号80)が挙げられる。
【0122】
幾つかの実施形態において、ERMタンパク質を細胞膜に固定するもの等の融合タンパク質のコード領域を含むDNAを細胞に導入することができ、そこでDNAが続いて発現され、融合タンパク質が細胞膜の張力の増加を引き起こす。一実施形態において、DNAは、エズリンと融合したLynの保存されたミリスチル化配列を含むMA-エズリン融合タンパク質を発現するように構成された発現ベクター又は構築物であり、エズリンはリン酸化模倣活性化突然変異(T567E)を含む。MA-エズリン融合タンパク質遺伝子のDNA配列は配列番号9であり、MA-エズリンタンパク質のアミノ酸配列は配列番号10である。幾つかの実施形態において、作用物質は、配列番号9のMA-エズリン融合タンパク質のDNA配列を含む発現ベクターである。
【0123】
本開示の他の実施形態において、細胞の移動及び/又は増殖を阻害する方法は、BARドメインを含む1つ以上のタンパク質の発現を減少させ、それにより細胞の移動及び/又は増殖を阻害することを含む。BARドメインタンパク質を減少させる方法は、本開示全体を通して論考される。
【0124】
作用物質は、当該技術分野で既知の方法を用いて細胞に送達され、内在化し得る。例えば、幾つかの実施形態において、siRNA、shRNA又はmiRNA等の作用物質は、カチオン性脂質、リポソーム、コクリエート(cochleate)、ビロソーム、免疫刺激複合体、マイクロ粒子、マイクロスフェア、ナノスフェア、単層ベシクル、多層ベシクル、水中油型エマルション、油中水型エマルション、エマルソーム(emulsome)、ポリカチオン性ペプチド、カチオン性ナノエマルション又はそれらの組合せに封入、結合又は吸着することができる。
【0125】
幾つかの実施形態において、作用物質、特にsiRNA、shRNA、miRNA又は他のポリヌクレオチド分子は、リポソームを介して細胞に入ることができる。様々な両親媒性脂質が水性環境で二重層を形成し、リポソームとしてRNA含有水性コアを封入することができる。これらの脂質はアニオン性、カチオン性又は双性イオン性の親水性頭部基を有し得る。アニオン性リン脂質からのリポソームの形成は、1960年代に遡り、カチオン性リポソーム形成脂質は、1990年代から研究されている。一部のリン脂質はアニオン性であるが、他のリン脂質は双性イオン性である。リン脂質の好適なクラスとしては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルグリセロールが挙げられるが、これらに限定されない。有用なカチオン性脂質としては、ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DSDMA)、1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DODMA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLenDMA)が挙げられるが、これらに限定されない。双性イオン性脂質としては、アシル双性イオン性脂質及びエーテル双性イオン性脂質が挙げられるが、これらに限定されない。有用な双性イオン性脂質の例はDPPC、DOPC及びドデシルホスホコリンである。脂質は飽和又は不飽和であり得る。
【0126】
リポソームは、単一の脂質又は脂質の混合物から形成することができる。混合物は、(i)アニオン性脂質の混合物、(ii)カチオン性脂質の混合物、(iii)双性イオン性脂質の混合物、(iv)アニオン性脂質とカチオン性脂質との混合物、(v)アニオン性脂質と双性イオン性脂質との混合物、(vi)双性イオン性脂質とカチオン性脂質との混合物、又は(vii)アニオン性脂質と、カチオン性脂質と、双性イオン性脂質との混合物を含み得る。同様に、混合物は飽和脂質及び不飽和脂質の両方を含んでいてもよい。例えば、混合物はDSPC(双性イオン性、飽和)、DlinDMA(カチオン性、不飽和)及び/又はDMPG(アニオン性、飽和)を含み得る。脂質の混合物を使用する場合、混合物中の脂質成分の全てが両親媒性である必要はなく、例えば、1つ以上の両親媒性脂質をコレステロールと混合することができる。
【0127】
脂質の親水性部分をPEG化する(すなわち、ポリエチレングリコールの共有結合により修飾する)ことができる。この修飾は、安定性を高め、リポソームの非特異的吸着を防ぐことができる。例えば、Heyes et al. (2005) J Controlled Release 107:276-87に開示されているような技術を用いて、脂質をPEGにコンジュゲートすることができる。
【0128】
リポソームは通常、多層ベシクル(MLV)、小型単層ベシクル(SUV)及び大型単層ベシクル(LUV)の3つの群に分けられる。MLVは、各ベシクルに複数の二重層を有し、幾つかの個別の水性コンパートメントを形成する。SUV及びLUVは、水性コアを封入する単一の二重層を有し、SUVは通例、50nm以下の直径を有し、LUVは50nm超の直径を有する。本発明で有用なリポソームは、理想的には50nm~220nmの範囲の直径を有するLUVである。異なる直径を有するLUVの集団を含む組成物については、(i)数値的に少なくとも80%が20nm~220nmの範囲の直径を有する必要があり、(ii)集団の平均直径(Zav、強度による)が理想的には40nm~200nmの範囲であり、及び/又は(iii)直径が0.2未満の多分散指数を有する必要がある。
【0129】
好適なリポソームを調製する技術は、当該技術分野で既知であり、例えば、Liposomes: Methods and Protocols, Volume 1: Pharmaceutical Nanocarriers: Methods and Protocols. (ed. Weissig). Humana Press, 2009. ISBN 160327359X、Liposome Technology, volumes I, II & III. (ed. Gregoriadis). Informa Healthcare, 2006、及びFunctional Polymer Colloids and Microparticles volume 4 (Microspheres, microcapsules & liposomes). (eds. Arshady & Guyot). Citus Books, 2002を参照されたい。
【0130】
他の実施形態において、siRNA、shRNA、miRNA又は他のポリヌクレオチド分子等の作用物質は、マイクロ粒子の一部として細胞に入ることができる。様々なポリマーがマイクロ粒子を形成し、作用物質を封入又は吸着することができる。実質的に非毒性のポリマーの使用は、レシピエントが粒子を安全に受け取ることができることを意味し、生分解性ポリマーの使用は、長期残留を回避するために粒子が送達後に代謝され得ることを意味する。有用なポリマーはまた、医薬品グレードの配合物の調製を助けるために滅菌可能である。
【0131】
適切な非毒性及び生分解性のポリマーとしては、ポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリラクトン(ポリカプロラクトンを含む)、ポリジオキサノン、ポリバレロラクトン、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリシアノアクリレート、チロシン由来ポリカーボネート、ポリビニルピロリジノン又はポリエステルアミド、及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
幾つかの実施形態において、マイクロ粒子は、ポリ(ラクチド)(「PLA」)等のポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(「PLG」)等のラクチドとグリコリドとのコポリマー、及びD,L-ラクチドとカプロラクトンとのコポリマーから形成される。有用なPLGポリマーとしては、例えば20:80~80:20の範囲、例えば25:75、40:60、45:55、55:45、60:40、75:25のラクチド/グリコリドモル比を有するものが挙げられる。有用なPLGポリマーとしては、例えば5000Da~200000Da、例えば10000Da~100000Da、20000Da~70000Da、40000Da~50000Daの分子量を有するものが挙げられる。マイクロ粒子は、理想的には0.02μm~8μmの範囲の直径を有する。異なる直径を有するマイクロ粒子の集団を含む組成物については、数値的に少なくとも80%が0.03μm~7μmの範囲の直径を有する必要がある。
【0133】
好適なマイクロ粒子を調製する技術は、当該技術分野で既知であり、例えば、Functional Polymer Colloids and Microparticles volume 4 (Microspheres, microcapsules & liposomes). (eds. Arshady & Guyot). Citus Books, 2002、Polymers in Drug Delivery. (eds. Uchegbu & Schatzlein). CRC Press, 2006. (Chapter 7)、及びMicroparticulate Systems for the Delivery of Proteins and Vaccines. (eds. Cohen & Bernstein). CRC Press, 1996を参照されたい。作用物質の吸着を促進するために、例えばO'Hagan et al. (2001) J Virology 75:9037-9043及びSingh et al. (2003) Pharmaceutical Research 20: 247-251に開示されているように、マイクロ粒子がカチオン性界面活性剤及び/又は脂質を含んでいてもよい。ポリマーマイクロ粒子を作製する代替的な方法は、例えば国際公開第2009/132206号に開示されているように、成形及び硬化によるものである。
【0134】
幾つかの実施形態において、RNAi分子、例えばsiRNA又は他のポリヌクレオチド分子は、マイクロ粒子に吸着させることができ、マイクロ粒子にカチオン性材料(例えばカチオン性脂質)が含まれることで吸着が促進される。
【0135】
幾つかの実施形態において、リポソーム又はマイクロ粒子は抗体、抗体フラグメント、抗体ミメティック、アプタマー又はリガンド等の標的化部分を含んでいてもよく、例えば細胞表面上の特定の受容体を標的化することによって、リポソーム又はマイクロ粒子を特定の細胞に標的化し、それによりリポソーム又はマイクロ粒子の内在化を引き起こす。
【0136】
幾つかの実施形態において、作用物質(例えばsiRNA分子、shRNA分子等)は、米国特許第6,090,619号に記載されているような受容体媒介エンドサイトーシスによって細胞に導入することができる。
【0137】
幾つかの実施形態において、トランスフェクション試薬(例えば、Lipofectamine等のカチオン性脂質)は通例、例えばdsRNAの形態のsiRNA、shRNA、miRNAによる細胞のトランスフェクションを促進するために使用される。
【0138】
他の実施形態において、或る特定のベクターを用いて作用物質を標的細胞に送達することができる。これらのベクターとしては、例えばバクテリオファージ、プラスミド、ファージミド、ウイルス、組込み可能なDNAフラグメント、エピソームプラスミド/ウイルス、及び他のビヒクル又は系が挙げられ、これらは所望の標的宿主細胞への核酸分子の移入を可能にするか、又は特定の位置での特定の核酸分子の組込みを可能にし、幾つかの更なる実施形態においては、標的細胞における上記形質導入核酸分子の発現をもたらす。核酸分子の特異的標的化移入のために本発明に使用され得る系の非限定的な例としては、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR/Cas)系、転写活性化因子エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガータンパク質(ZEN)系、及び任意の同等の系を挙げることができる。
【0139】
ベクターは通例、所望の核酸配列と、好適な宿主細胞において認識され、所望の遺伝子の転写及び翻訳を達成する、操作可能に連結した遺伝子制御要素とを含む自己複製DNA又はRNA構築物である。一般に、遺伝子制御要素は、原核生物プロモーター系又は真核生物プロモーター発現制御系を含み得る。かかる系は通例、転写プロモーター、RNA発現のレベルを高めるための転写エンハンサーを含む。ベクターは通常、ベクターが宿主細胞とは独立して複製することを可能にする複製起点を含む。しかしながら、複製欠損となるように意図的に設計されたベクターがあり、ランダムであるか又は予め設計された部位におけるかにかかわらず、細胞への送達及び宿主ゲノムへの組込みが可能である。
【0140】
したがって、制御要素及び調節要素という用語には、プロモーター、ターミネーター及び他の発現制御要素が含まれる。かかる調節要素は、Molecular Cell Biology Editors: H. Lodish et al., 7th edition 2013 (又は8th edition 2016)に記載されている。例えば、本発明の方法を用いて任意の所望のRNA又はタンパク質をコードするDNA配列を発現するために、DNA配列に操作可能に連結された場合にDNA配列の発現を制御する広範な発現制御配列のいずれかを、これらのベクターに使用することができる。
【0141】
ベクター又は送達ビヒクルは、ベクター含有細胞のポジティブ選択(G418耐性等)又はネガティブ選択(ヘルペスウイルスTK等)に適切な制限部位、抗生物質耐性、蛍光タグ又は他のマーカーを付加的に含んでいてもよい。プラスミドが最も一般的に使用される形態のベクターであるが、同等の機能を果たし、当該技術分野で既知であるか又は既知となる他の形態のベクターも本明細書での使用に適している。例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (2016) Wiley online libraryを参照されたい。
【0142】
幾つかの実施形態において、本開示による送達ビヒクルは、レンチウイルス、アデノウイルス又はAAV等の少なくとも1つのウイルスベクターであり得る。アデノウイルスベクター及び遺伝子移入方法の例は、国際公開第00/12738号及び国際公開第00/09675号、並びに米国特許第6,033,908号、同第6,019,978号、同第6,001,557号、同第5,994,132号、同第5,994,128号、同第5,994,106号、同第5,981,225号、同第5,885,808号、同第5,872,154号、同第5,830,730号及び同第5,824,544(各々の全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0143】
幾つかの実施形態において、発現構築物は、以下からなる群から選択される1つ以上の要素を任意の順序で含む:(i)PCR増幅産物を直接クローニング可能な線状化ベクターをもたらすように酵素的又はそうでなければ生化学的に適切に切断可能である、ヌクレオチドの配列を導入するための多重クローニング部位(例えばEc1HK1部位)、(ii)レポーター遺伝子、(iii)転写可能なポリヌクレオチド(例えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)の発現を調節するためのプロモーター及び/又はエンハンサー、(iv)ポリアデニル化配列、(v)選択可能なマーカー遺伝子、並びに(vi)複製起点。
【0144】
或る特定の実施形態において、発現構築物は、遺伝子発現(例えば、プロモーター又はエンハンサー活性)の研究又は測定又はモニタリングに用いられるベクター又はベクターのセット、特に、排他的にではないがプラスミドの形態である。ベクターは、適切には原核生物ベクター又は真核生物ベクターの形態である。多くの他のベクター、例えばウイルス、人工染色体及び他の非プラスミドベクターも使用され得る。
【0145】
本開示はまた、培養中の真核細胞の細胞分裂速度を調節する方法を提供する。或る特定の細胞は、培養下で成長させる場合に細胞分裂を起こすのが困難な場合があるが、他の細胞は、遅い細胞分裂速度を示すだけである。他の例では、或る種の細胞の細胞分裂速度を遅らせるのが有益であり得る。本開示は、細胞培養の使用者の必要性に応じて細胞分裂速度を増加させるか、又は細胞分裂速度を減少させるために、細胞分裂速度を調節する方法を提供する。
【0146】
本開示はまた、真核細胞と該細胞の細胞膜の張力の変化を引き起こす作用物質とを接触させ、それにより細胞分裂速度を、作用物質と接触していない真核細胞の細胞分裂速度と比較して増加又は減少させることを含む、細胞培養における真核細胞の細胞分裂速度を増加又は減少させる方法を提供する。
【0147】
幾つかの実施形態において、細胞分裂速度の減少を引き起こす作用物質は、エズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の1つ以上の発現を増加させるか、又はERMタンパク質のリン酸化の増加を引き起こす。幾つかの実施形態において、ERMタンパク質の発現の増加を引き起こす作用物質は、エズリン(配列番号1)、ラディキシン(配列番号3)及びモエシン遺伝子(配列番号5)の1つ以上を含む発現ベクターを含む。幾つかの実施形態において、ERMタンパク質のリン酸化の増加を引き起こす作用物質は、ROCK1(配列番号210)、ROCK2(配列番号212)、SLK(配列番号214)、STK10(配列番号16)及びRHOA(配列番号7)遺伝子の1つ以上を含む発現ベクターを含む。作用物質は、上記のような1つ以上のERMタンパク質及び/又はERMキナーゼを含む幾つかの発現ベクターを含み得る。
【0148】
一実施形態において、細胞分裂速度の減少は、エズリンと融合したLynの保存されたミリスチル化配列を含むエズリン融合タンパク質を発現するように構成された発現ベクターによって引き起こされ、エズリンは、リン酸化模倣活性化突然変異(T567E)を含む。幾つかの実施形態において、エズリン融合タンパク質は、それぞれ配列番号8及び配列番号9のDNA配列及びアミノ酸配列を含む。
【0149】
別の実施形態において、細胞分裂速度の増加を引き起こす作用物質は、1つ以上のBARドメインタンパク質の発現を増加させる。
【0150】
幾つかの実施形態において、細胞分裂速度の変化(例えば増加)を引き起こす作用物質は、エズリン、ラディキシン及びモエシン(ERM)タンパク質の1つ以上の発現又はリン酸化を減少させる。例えば、作用物質は、ERMタンパク質の1つ以上の上流キナーゼを阻害する化合物であり得る。一例では、作用物質は、例えばOhata et al., Cancer Res; 72(19) October 1, 2012に論考されるように、Y-27632又はROCKi-IV等のROCK1及び/又はROCK2の阻害剤である。ERMキナーゼの他の阻害剤は、当該技術分野で既知である。他の実施形態において、作用物質はアンチセンスRNA、siRNA、shRNA若しくはmiRNA、又は抗体である。
【0151】
本開示はまた、細胞と細胞の細胞膜の張力を変化させる作用物質とを接触させることを含む、細胞の特性を調節する方法であって、細胞膜の張力の変化により細胞の特性を調節する、方法を提供する。
【0152】
幾つかの実施形態において、細胞の特性は、膜-アクチン皮質付着(MCA)によって制御され、作用物質は、MCAを対照細胞と比較して増加又は減少させる。
【0153】
幾つかの実施形態において、細胞の特性は、細胞運動性及び周囲組織への浸潤の増加又は減少である。他の実施形態において、細胞の特性は、細胞増殖及び腫瘍形成の増加又は減少である。細胞の特性を調節するために使用され得る作用物質は、本開示全体を通して論考される。
【0154】
結果及び論考
悪性腫瘍は、転移性播種に必要とされる多大な細胞変形に寄与する細胞力学の変化と関連する。上皮細胞力学を維持する細胞固有の物理的因子が腫瘍抑制因子として機能し得ると仮定した。ここで、光学ピンセット、遺伝的干渉、力学的摂動及びin vivo研究を用いて、上皮細胞が転移細胞よりも高い細胞膜(PM)張力を維持すること、また高いPM張力が、膜の曲率を感知/生成するBARファミリータンパク質に対抗することにより癌細胞の移動及び浸潤を強力に阻害することが示される。この張力恒常性は、ERMタンパク質によって調節される膜-皮質付着(MCA)により達成され、その破壊により、上皮細胞がBARタンパク質によって駆動する間葉系移動表現型へと自発的に変換される。EMT転写因子の強制発現による上皮間葉移行(EMT)の誘導は、PM張力の減少を一貫してもたらす。転移細胞において、MCAの操作によりPM張力を増加させることは、BARタンパク質による膜媒介メカノシグナル伝達を損なうことで間葉系及びアメーバ様の両方の3D移動及び腫瘍浸潤を抑制するのに十分であり、それにより、これまで記載されていなかった力学的腫瘍抑制機構が明らかになる。
【0155】
上皮細胞は、悪性細胞よりも高いPM張力を有する。上皮細胞と転移細胞との間にPM張力の差があるかを決定するために、光学ピンセットを用いて、PM張力に比例する膜テザー力を分析した(図7a)。一般に使用される悪性転移のモデルであることから、ヒト非浸潤性乳腺上皮細胞(MCF10A)及び転移性乳癌細胞(MDA-MB-231)を主に使用した。細胞間接着等の細胞外因性の影響を回避するために、テザー力を単一細胞レベルで測定した。MCF10A細胞のテザー力が、低浸潤性ヒト乳癌細胞とほぼ同等であることが見出された(AU565及びMCF7;図1a)。これらの低浸潤性細胞とは異なり、MDA-MB-231細胞及びHs578T細胞等の転移性乳癌細胞は、コーティングされていないガラス基板上で培養すると、顕著な膜ラッフル及びブレブの両方を形成した。興味深いことに、ラッフリング細胞とブレビング細胞との間にテザー力の差は見られず、それらのテザー力が低運動性細胞よりも有意に低いことが見出された(図1a)。同様の結果が進行性前立腺癌細胞(PC-3)及び膵癌細胞(PANC-1)でも得られた(図1a)。PM張力は、転移細胞において低運動性細胞のおよそ2分の1であった(表1)。イヌ腎臓MDCK II細胞及びラット肝臓IAR-2細胞等の正常な上皮細胞のテザー力がMCF10A細胞と同様であったことから、悪性細胞よりも高いPM張力を維持する能力は、種及び組織を越えて共通する上皮細胞の特性のようである(図1a、表1)。
【0156】
【表1】
【0157】
PM張力には、脂質二重層の面内張力及びMCAの両方が寄与している(図7b)。PM張力がMCAに大きく依存すると考えられることから、PM下のERMタンパク質及びF-アクチンに注目した。ERMタンパク質は、保存されたトレオニン残基のリン酸化によって活性化される。MCA10A細胞及びAU565細胞では、強力なリン酸化ERM(pERM)シグナルがPMを全体的に装飾し、F-アクチンと部分的に共局在化することが観察された(図1b及び図7c)。対照的に、MDA-MB-231細胞及びHs578T細胞は、膜のラッフリング又はブレビングを示すかにかかわらず、全体的により低レベルの膜結合pERM及びF-アクチンを有し、一部のpERMレベルは、細胞後部及び場合により収縮ブレブに限定された(図1b及び図7c)。これらの2D観察と一致して、共焦点の再構成3D画像から、コラーゲンマトリックス(3D)に包埋されたMCF10A細胞及びAU565細胞が常に丸みを帯びた形状を示し、PM下の均一で強いpERM及びF-アクチンのレベルを有することが示された(図1c及び図7d)。MDA-MB-231細胞は、3Dでアクチンベースの細長い間葉系移動表現型と、アクチン及びブレブベースの丸みを帯びたアメーバ様移動表現型との両方を示した(図7d)。どちらの場合も、膜近傍のpERM及びF-アクチンは、全体的に低下したレベルを示した(図1c)。同様に、3Dでアクチンベースの細長い表現型を主に示す(図7d)、Hs578T細胞、一貫した表現型をもたらした(図1c)。これらの結果から、非運動性細胞と浸潤性細胞との間で観察されるPM張力の差が、主にMCAのERM媒介変化によるものであり、かかる力学的破壊が、突出のタイプ及び運動様式にかかわらず、浸潤性表現型と相関することが示唆される。
【0158】
上皮細胞は、PM張力を減少させると、間葉系移動表現型へと自発的に転換する。上記の知見から、PM張力の減少が、上皮細胞が浸潤挙動を獲得するのに十分であり得ると仮定された。これを試験するために、ERMの3つのメンバー(エズリン、ラディキシン及びモエシン)又はそれらの特異的キナーゼ(SLK及びSTK10(LOKとしても知られる))を同時にノックダウンすることによりMCAを操作した(図8a)。これらのERMキナーゼの上流調節因子として作用することが知られていることから、RHOAにも注目した(図7b)。逆説的にではあるが、RHOAは、細胞移動での重要な役割にもかかわらず、浸潤及び転移において抑制的な役割を果たすことが報告されている。特に、MCF10A細胞におけるこれらのタンパク質のノックダウンは、テザー力の有意な減少を引き起こし(図8b)、これはPM張力の減少に対応していた(図2a)。注目すべきことに、ミオシンII活性化のマーカーであるリン酸化ミオシン軽鎖(pS19MLC)は、ERM及びSLK+STK10枯渇細胞では影響を受けず(図8c)、観察されたPM張力の差が、アクトミオシン収縮性ではなく、MCAの変化に特異的に起因することが示された。これらのノックダウン細胞は、2Dでの膜状仮足等の顕著なアクチンベースの突出及び膜ラッフリングを伴う細胞拡散と同時に、膜結合pERM及びF-アクチンのレベルの全体的な減少を示した(図2b、図8d)。次に、癌研究で一般に使用されるコラーゲンとマトリゲルとの混合物を用いた3Dオントップ培養系においてPM張力の減少の影響を評価した。予想の通り、対照細胞は、完全に丸みを帯びたスフェロイドを形成した(図2c)。驚くべきことに、低張力細胞の60%超が細長い浸潤性表現型を示し、周囲のマトリックスへの細胞播種を示した(図2c)。これらの細胞は、狭い隙間からの浸潤及び制限された移動を含む運動挙動の顕著な増加を一貫して示した(図d)。観察された浸潤性表現型は、これらの低張力細胞が上皮特性を保持することから(図8c)、古典的EMTプログラムとは独立しているようであり、E-カドヘリン枯渇は、浸潤及び移動の僅かではあるが有意な阻害を引き起こした(図d)。低浸潤性乳癌細胞におけるERMタンパク質の欠失も浸潤の劇的な増加をもたらした(図8e)。MCAの減少は、MCF10A細胞の増殖に影響を及ぼさなかった(図8f)。
【0159】
3Dでの単細胞運動挙動に対するPM張力の減少の影響を更に調査した。タイムラプス動画から、コラーゲンマトリックスに包埋された場合の単細胞状態では、対照RNAi処理細胞のおよそ95%が非運動性表現型を有する丸みを帯びた形状を示すことが示された(図2e)。対照的に、MCA調節因子のノックダウンは、全て間葉系様式の移動表現型への変換をもたらした。およそ50%の細胞が、膜の突出及び退縮を示す動的な細胞形状変化を有する細長い移動表現型を示した(図2e)。丸みを帯びた形状を特徴とするアメーバ様運動は、これらのノックダウン細胞では観察されなかった。3Dにおいては、かかる細長い表現型は、転移細胞で観察されるように、PM下のより低レベルのpERM及びF-アクチンと密接に関連していた(図2f)。これらのデータから、PM張力が減少すると、非運動性上皮細胞が間葉系様運動表現型に自発的に転換し得ることが示される。
【0160】
PM張力の減少と悪性進行との相関。PM張力の減少によって誘導される細長い細胞形状の変化が、EMTによって誘導される変化と驚くほど類似していることに注目した。したがって、PMにおける張力恒常性の破壊が一般に悪性転換と関連し得ると仮定した。この仮定を試験するために、EMTを強く誘導する転写因子であるSnail又はSlugを安定に過剰発現するMCF10A細胞株を樹立した。予想の通り、これらの細胞は、アクチンベースの突出の形成(図3a、矢印)並びにE-カドヘリン及びビメンチンの発現の変化(図9a)を含むEMT特性を示した。興味深いことに、Snailの発現は、膜結合pERM及びF-アクチンレベルの有意な減少をもたらした(図3a)。さらに、Snail又はSlugを過剰発現するMCF10A細胞は、親細胞のPM張力よりも低いPM張力を示した(図3b)。同様の結果が、癌の進行及び転移の既知の重要なドライバーであるK-Ras活性化突然変異体(G12V)を誘導的に発現するMDCK II細胞で得られた(図9b)。3Dにおいては、EMTにより誘導された細長い形態は、2Dと同様、pERM及びアクチン染色パターンの変化と密接に関連し(図3c及び図3d)、PM張力の変化と浸潤性表現型の獲得との密接な相関が示唆された。
【0161】
PM張力の減少が癌進行に関与する一般的な特徴であるかを更に明らかにするために、癌ゲノムアトラス(TCGA)からの汎癌データを用いて癌ゲノムを分析した。驚くべきことに、6586人の患者にわたる14種の主要な癌の包括的な分析により、上皮腫瘍がRHOA、SLK、STK10及びERMの推定ヘテロ接合欠失を頻繁に有することが明らかとなった(図3e及び図9c)。同様の傾向が癌細胞株百科事典(CCLE)の961個の癌細胞株で観察された(図9d)。さらに、メタ分析により、乳癌、肺癌及び胃癌においてERMキナーゼの発現の増加と患者生存の増加との重要な関連性が明らかとなった(図3f)。これらのデータから、恒常的PM張力の破壊が悪性細胞の一般的な力学的特性であり、癌進行と相関し得ることが示唆される。
【0162】
PM張力の増加は3D移動、腫瘍浸潤及び転移を抑制するのに十分である。PM張力の減少が移動及び浸潤性を獲得する鍵であるならば、MCAの増加が癌細胞播種を抑制するのに十分であり得ると仮定した。したがって、MCAを直接操作することによりPM張力を増加させようと試みた。進行性癌細胞ではERMタンパク質がPMから全体的に解離することから、膜標的化活性エズリン(Membrane-targeted Active ezrin:MA-エズリン)がPM張力の減少を回復させ得ると推論した。これを試験するために、Lynの保存されたミリストイル化配列をエズリンと融合させたMA-エズリン構築物を設計した後、リン酸化模倣活性化突然変異(T567E)を導入し、それによりPM全体にわたる活性状態を維持した(図4a)。特に、MDA-MB-231細胞におけるその発現は、PM張力の有意な増加をもたらした(図4a)。MA-エズリンは、全体的にPMに局在化し、顕著なアクチン及びブレブベースの膜突出の抑制をもたらした(図4b及び図4b)。これらの高張力細胞は、in vitroで正常な細胞増殖能を示したが(図10a)、浸潤及び移動の著しい減少を示した(図4c)。
【0163】
ERM活性が少なくとも有糸分裂細胞の円形化において皮質剛性と関連することも報告されている。ミオシンII活性を増加させることにより、皮質の剛性又は張力を増加させるために一般に使用されるカリクリンAでの処理が、収縮性の変化による癌細胞移動の柔軟性を反映して、浸潤能には影響を及ぼさないことが見出された(図10b)。さらに、PM張力を増加させるが(図10c)、皮質剛性を減少させるコレステロール除去化合物であるメチル-β-シクロデキストリン(MβCD)での細胞の処理は、浸潤を有意に減少させ(図10b)、癌細胞移動の阻害時の皮質剛性の潜在的な影響が除外された。
【0164】
次に、PM張力の増加が3D移動に影響を与えるかを試験した。3D再構成共焦点画像から、エズリン発現細胞が親細胞と同様に異なる突出表現型を示したが、MA-エズリン発現細胞が、上皮細胞の特性を連想させる、突出形成のない丸みを帯びた形状を有することが示された。実際に、タイムラプス動画から、親細胞及びエズリン発現MDA-MB-231細胞が、以前に報告されたように、細長い間葉系運動性(およそ20%)、丸みを帯びたアメーバ様運動性、及び2つの様式間での表現型の切替え(混合表現型;50%)を示すことが示された(図4d及び図4e)。対照的に、MA-エズリン発現細胞の大部分が、非移動挙動(80%)及び著しく低下した移動速度(4倍超遅い)とともに、丸みを帯びた形状を示した(図4d及び図4e)。これらのデータから、PM張力の増加が3D移動の2つの異なる様式の両方を抑制するのに十分であることが実証される。
【0165】
高いPM張力の維持が癌細胞播種の抑制において積極的な役割を果たすかを更に調査するために、ヒト乳房腫瘍の形成、局所浸潤及び自然転移の同所性マウスモデルを用いた。MA-エズリン発現MDA-MB-231細胞は、乳腺脂肪体に注入すると、in vitroで親細胞の速度と同等の速度で増殖するが(表2;図10a)、腫瘍形成能の低下を示し、有意に小さな腫瘍を生じた(図10d)。
【0166】
【表2】
【0167】
加えて、多数の癌細胞が周囲の脂肪組織に浸潤する顕著な浸潤挙動を有する対照腫瘍とは対照的に、MA-エズリン発現腫瘍は、腫瘍細胞の領域と隣接組織との間に明らかな境界線を示し、浸潤性の有意な低下を示した(図4f)。さらに、MA-エズリン細胞は、自然肺転移(図4g)及び実験的(尾静脈注射)肺転移(図h)において顕著な減少を示した。総合すると、これらのデータから、MCAによって維持されるPM張力が腫瘍形成、浸潤及び転移を阻害する強力な腫瘍抑制因子として作用することが示される。
【0168】
恒常的PM張力は、BARタンパク質に対抗することにより癌細胞の運動性を抑制する。次に、PM張力が癌細胞の運動性を阻害する機構を調べた。本発明者らは、膜の曲率を調節するBARドメイン含有タンパク質であるFBP17が、アクチンベースの指向性移動に関与するPM張力のセンサーとして作用することを以前に実証した。BARタンパク質の重合能が膜張力に本質的に依存することが数理モデルにより一貫して示され、BARタンパク質を介した普遍的な張力感知機構が示唆された。このため、ERMノックダウン後のBARタンパク質のsiRNAスクリーニングを行い、BARタンパク質が、3Dオントップ培養において低いPM張力により誘導される浸潤性表現型に重要な役割を果たすかを調べた(図5a)。MTSS1L(ABBAとしても知られる)を含む幾つかのBARタンパク質が特定された(図5a)。また、以前に報告されたように、FBP17及びCIP4等のTocaタンパク質のノックダウンが、ERM枯渇により誘導される細長い浸潤挙動をやや減少させ、それらの機能的冗長性が示唆されることに注目した。実際に、それらの同時枯渇により、浸潤性表現型の抑制が増加した(FBP17+CIP4+Toca-1、トリプルKD)(図5a)。特性されたタンパク質のうち、MTSS1L及びTocaタンパク質も、MDA-MB-231細胞(図11a)又はERMタンパク質若しくはRHOAの枯渇によって誘導されるMCF10A細胞(図11b)の浸潤に必要とされた。このため、その後の分析においては、これらのタンパク質に注目した。MTSS1L及びTocaタンパク質は、Arp2/3複合体に依存するアクチン核形成の活性化を介した膜状仮足形成又は膜ラッフリングに関与し、これらのタンパク質が、低張力により媒介されるアクチンベースの突出において役割を果たす可能性があることが示唆された。実際に、これらのBARタンパク質のノックダウンにより、Snail過剰発現によって駆動する細長い浸潤性表現型が抑制されることが見出された(図5b)。3D癌細胞の運動性におけるBARタンパク質の役割を更に試験した。タイムラプス動画から、MTSS1L又はTocaタンパク質の枯渇が、間葉系及びアメーバ様の両方の運動性を抑制し、細胞の大部分が、丸みを帯びた形状及び3倍遅い移動速度を有する非運動性表現型を示すことが示された(図5c及び図5d)。MTSS1L又はTocaタンパク質の欠失は、アクチンベースの突出の阻害だけでなく、非極性の膜ブレブの形成も一貫してもたらした(図5e)。
【0169】
これらのデータから、BARタンパク質による低張力媒介メカノシグナル伝達が、癌細胞の運動性において極めて重要な役割を果たし、その機構が通常、非運動性上皮細胞では恒常的PM張力によって抑制されることが示唆される。実際に、GFP-FBP17は主に、MCF10A細胞において細胞質分布を示したが、ERM、それらのキナーゼ又はSnail発現のノックダウンは、PMでのGFP-FBP17の蓄積をもたらした(図5f)。対照的に、エズリンを発現するMDA-MB-231細胞では、GFP-FBP17は、2D環境(図11c)及び3D環境(図5g)においてアクチンベース及びブレブベースの両方の膜突出に自発的に蓄積した。しかしながら、高張力MA-エズリン発現細胞では、GFP-FBP17の顕著な蓄積は観察されなかった(図5g及び図11c)。同様の結果がGFP-MTSS1Lで得られた(図11c及び図11d)。さらに、MBCD処理によるPM張力の増加も、PMへのFBP17の動員を妨げるのに十分であった(図11f及び図11e)。PM張力がBARタンパク質の集合を直接制御するかを更に調査するために、細胞伸展デバイスを用い、面内膜張力を調節することによって張力を増加させた。PMの機械的伸展は、移動先端(leading edges)の消失を伴うFBP17又はMTSS1Lの急速な脱集合を引き起こした。これらのデータから、恒常的PM張力が、BARタンパク質による膜媒介メカノトランスダクションに対抗することにより、癌細胞播種を阻害する力学的腫瘍抑制因子として作用することが示される。
【0170】
細胞力学が浸潤及び転移と本質的に関連すると長い間考えられてきた。しかしながら、かかる力学的変化が腫瘍播種能に細胞レベル及び分子レベルでどのような影響を与えるかは、悪性表現型の根底にある重要な物理的パラメーターの理解の欠如から、分かりにくいままであった。ここで、本発明者らは、転移細胞が上皮細胞よりも顕著に低いPM張力を示し、またこの力学的特性が膜突出だけでなく、腫瘍浸潤及び転移とも密接に関連することを示す。本発明者らのデータから、このMCAベースの張力の減少が、MTSS1L及びTocaタンパク質等のBARタンパク質の自己集合を介したArp2/3複合体依存性アクチン重合に変換され、癌細胞の移動及び浸潤を促進することが更に示される(図6a、図6b)。近年の研究では、様々なBARタンパク質が様々な癌の浸潤及び転移において積極的な役割を果たすことが示されている。本発明者らの知見の重要な面は、浸潤挙動が、突出のタイプ及び運動様式にかかわらず、MCAベースのPM張力を単に増加させることで表現型的に正常化され得ることである。このことは、膜-アクチン剥離がアクチンベース及びブレブベースの両方の突出の鍵となることを示す近年の研究と一致している。in vivo研究から、モエシン(ショウジョウバエの唯一のERMタンパク質)単独の欠損が、ショウジョウバエにおいて浸潤を誘導するのに十分であることが報告された。さらに、臨床サンプルの分析から、乳癌、肺癌及び頭頚部扁平上皮癌を含む悪性腫瘍では、ERMタンパク質が一般に細胞質分布を示すことが示された。したがって、本発明者らの研究は、これらの観察結果とともに、力学的腫瘍抑制因子としてのMCAベースのPM張力の一般的役割を支持するものである。
【0171】
本発明者らの研究の限界は、ERMタンパク質が様々なシグナル伝達分子の調節に関与することが知られているため、MA-エズリン発現がPM張力以外の影響を有し得る可能性を排除することができないことである。近年の研究では、細胞膜をアクチン皮質に単に連結することによりMCAを操作する合成分子ツール(iMCリンカー)の開発が報告されている。興味深いことに、このツール及び構成的に活性なエズリンを用いた近年の2つの補足的研究から、細胞分化と相関する幹細胞の拡散が、MCAベースの張力の増加によって阻害されることが示されている。癌細胞の運動性の阻害におけるERM媒介MCAの重要性を支持するためには、このツールを用いた将来の研究が必要とされるであろう。
【0172】
本発明者らのデータから、ERM媒介MCAが非浸潤性細胞における恒常的PM張力の維持に関与することが示される。しかしながら、アクチン構造自体の変化もPM張力に影響を与えると考えられる。移動細胞は、より安定性が低いF-アクチンと、G-アクチンモノマーを供給することにより動的な突出形成に寄与するコフィリンによって主に媒介される、顕著に上昇したアクチンフィラメントのターンオーバー速度とを特徴とする。このような加速した脱重合は、PM張力の変化を引き起こし、それにより癌細胞移動を相乗的に促進する可能性もある。このことから、PM張力の変化がどのように2つの異なる突出形成及びその後の移動様式をもたらしたのかという疑問が生まれる。上皮細胞では、MCAの全体的な減少は、遅い間葉系様運動性のみを誘導するようであった。これにより、MCAの局所的増加、特に細胞後部での増加がアメーバ様移動等の速い移動様式に必要とされ得ることが示される。加えて、実験的研究及び数学的考察から、本発明者らのテザー力のデータ及び以前の皮質張力測定と一致して、PM張力の減少及び皮質張力の増加がブレブ形成、ひいてはブレブベースの移動に有利であることが示唆される。したがって、PM張力の減少が両方のタイプの突出形成の前提条件である可能性があり、皮質張力がそれらの切替え及びその後の移動様式に重要であり、これは高いPM張力の維持が両方の移動様式を効率的に抑制する理由を反映している。移動挙動におけるこれら2つの力の間の力学的関係を、特に3D環境で調べる将来の研究により、細胞力学がどのように癌細胞移動を制御するかについての理解が深まるであろう。
【0173】
近年の研究では、上皮細胞における細胞間接着の破壊が必ずしも単細胞播種を引き起こすとは限らないことが示されている。本発明者らの研究から、恒常的PM張力が非運動性細胞の細胞自律的な特性であり、これにより上記の現象が部分的に説明され得ることが示唆される。加えて、癌細胞が細胞間接着による多細胞間の協調を特徴とする集団移動を播種のために利用することが知られている。かかる集団的プロセスは、細胞接着力とアクトミオシン収縮性との協調によって力学的に媒介される。PM張力がこれらの力とどのように統合されて集団移動を制御するか、またPM張力の操作により、このタイプの運動を抑制し得るかを調査することは興味深い。
【0174】
恒常的PM張力が、腫瘍の形成及び成長を妨げる上で積極的な役割を果たす可能性もあることは予期せぬ発見であった。興味深いことに、細胞表面力学の変化が癌の幹細胞性と相関し得ることが示唆されている。さらに、近年の研究により、膜突出と癌進行との直接的な関連が示唆される。本発明者らのデータから、EMT又は発癌性形質転換によって引き起こされる、このような膜の揺らぎがPM張力の減少によって説明され得ることが示され、高いPM張力の維持が腫瘍原性を抑制する有効な機構としても機能し得ることが示唆される。特に癌の幹細胞性との関連において、PM張力と癌進行との関連を更に探ることは興味深い。
【0175】
本発明者らのデータから、上皮細胞のPM張力が約100pN/μmであり、再構成実験及び数理モデルによって決定される、BARドメインの自己集合が阻害される膜張力(100pN/μm~200pN/μm)と同等であることが示され、BARタンパク質集合の閾値張力が示唆された。本発明者らは、臨界閾値を超えるPM張力によりBARタンパク質の自己組織化を阻害し、それにより分岐アクチンの集合及びその後のアクチンベースの移動を抑制することを提案する。幾つかのBARタンパク質が腫瘍形成に積極的な役割を果たすことが報告されていることから、この阻害機構により、PM張力の増加が腫瘍成長を抑制する理由も部分的に説明される可能性がある。本発明者らの予期せぬ発見は、BARタンパク質がブレブベースの運動にも必要とされることであった。本発明者らのノックダウン実験から、BARタンパク質が膜ブレブの形成には必要ではないが、それらの分極に関与することが示唆された。このことは、BARタンパク質によって引き起こされる局所的な膜陥入が、指向性のブレブベースの移動に不可欠である局所的な膜突出を可能にすることを報告している近年の研究に関連する可能性がある。重要なことには、MCAによって調節されるPM張力が局所パラメーターとして働くはずであることから、それが剥離する際の局所的な膜の起伏は、曲率感知BARタンパク質を動員し、分極したアクチンベース及びブレブベースの両方の運動性を駆動する可能性がある。全体として、これらの観察から、低PM張力-BARタンパク質軸が、癌細胞移動を駆動する膜媒介メカノシグナル伝達の一般的な形態として働く可能性があり、腫瘍播種を制限するための有望な標的としてのPM張力が再び強調されることが示唆される。
【0176】
マイクロベシクル/エキソソームの形成及び微飲作用を含む細胞膜形状の異常変化が癌の特徴である。これらの機能がPM張力により直接制御され得ると推測したくなる。本発明者らの知見は、細胞膜力学の正常化を目的とした治療的介入にMCA操作が利用され得るかについての将来の調査の基盤を提供するものである。
【0177】
医薬配合物
本明細書に記載の化合物を用いて、例えば化合物と薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤又は担体とを組み合わせることにより、治療用医薬組成物を調製することができる。化合物は、塩又は溶媒和物の形態で担体に添加してもよい。例えば、化合物が安定した非毒性の酸又は塩基の塩を形成するのに十分に塩基性又は酸性である場合、化合物を塩として投与することが適切であり得る。薬学的に許容可能な塩の例は、生理学的に許容可能な陰イオンを形成する酸と形成される有機酸付加塩、例えばトシレート、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、α-ケトグルタル酸塩及びβ-グリセロリン酸塩である。塩酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩及び炭酸塩を含む好適な無機塩を形成することもできる。
【0178】
薬学的に許容可能な塩は、例えばアミン等の十分に塩基性の化合物と好適な酸とを反応させ、生理学的に許容可能なイオン性化合物を得ることにより、当該技術分野で既知の標準的な手順を用いて得ることができる。カルボン酸のアルカリ金属(例えばナトリウム、カリウム又はリチウム)又はアルカリ土類金属(例えばカルシウム)塩も類似の方法によって調製することができる。
【0179】
本明細書に記載の式の化合物は、医薬組成物として配合し、ヒト患者等の哺乳動物宿主に様々な形態で投与することができる。この形態は、選択される投与経路、例えば経口投与、又は静脈内、筋肉内、局所若しくは皮下経路による非経口投与に特に適合させることができる。
【0180】
本明細書に記載の化合物は、不活性希釈剤又は同化可能な食用担体等の薬学的に許容可能なビヒクルと組み合わせて全身投与することができる。経口投与については、化合物をハードシェル若しくはソフトシェルゼラチンカプセルに封入するか、錠剤に圧縮するか、又は患者の食事の食品に直接組み入れることができる。化合物を1つ以上の賦形剤と組み合わせ、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハー等の形態で使用してもよい。かかる組成物及び製剤は通例、少なくとも0.1%の活性化合物を含有する。組成物及び製剤の割合は変化させることができ、好都合には所与の単位剤形の重量の約0.5%~約60%、約1%~約25%又は約2%~約10%であり得る。このような治療上有用な組成物中の活性化合物の量は、有効な投与量レベルを得ることができるようなものであり得る。
【0181】
錠剤、トローチ剤、丸薬、カプセル等は、トラガカントゴム、アラビアゴム、トウモロコシデンプン又はゼラチン等の結合剤、リン酸二カルシウム等の賦形剤、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸等の崩壊剤、及びステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤の1つ以上を含有していてもよい。スクロース、フルクトース、ラクトース若しくはアスパルテーム等の甘味剤、又はペパーミント、冬緑油若しくはチェリー香料等の着香料を添加してもよい。単位剤形がカプセルである場合、上記のタイプの材料に加えて、植物油又はポリエチレングリコール等の液体担体を含有し得る。様々な他の材料がコーティングとして、又はそうでなければ固体単位剤形の物理的形態を変更するために存在していてもよい。例えば、錠剤、丸薬又はカプセルをゼラチン、ワックス、シェラック又は糖等でコーティングすることができる。シロップ又はエリキシルは活性化合物、甘味剤としてのスクロース又はフルクトース、防腐剤としてのメチルパラベン及びプロピルパラベン、色素、並びにチェリーフレーバー又はオレンジフレーバー等の香料を含有し得る。任意の単位剤形の調製に使用される任意の材料は、薬学的に許容可能であり、用いられる量で実質的に非毒性であるべきである。加えて、活性化合物を徐放性製剤及びデバイスに組み込むことができる。
【0182】
活性化合物は、注入又は注射により静脈内又は腹腔内に投与することができる。活性化合物又はその塩の溶液は、水中で調製し、任意に非毒性の界面活性剤と混合することができる。分散液はグリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン若しくはそれらの混合物、又は薬学的に許容可能な油中で調製することができる。通常の貯蔵及び使用の条件下では、製剤は、微生物の成長を防止するために防腐剤を含有し得る。
【0183】
注射又は注入に適した医薬剤形は、滅菌した注射可能又は注入可能な溶液又は分散液の即時調製に適合した活性成分を含む滅菌水溶液、分散液又は滅菌粉末を含み、任意にリポソームに封入することができる。最終的な剤形は滅菌され、流体であり、製造及び貯蔵の条件下で安定するものであるべきである。液体担体又はビヒクルは、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、植物油、非毒性グリセリルエステル、及びそれらの好適な混合物を含む溶媒又は液体分散媒であり得る。適当な流動性は、例えばリポソームの形成、分散液の場合に必要とされる粒径の維持、又は界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び/又は抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、緩衝剤又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅らせる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及び/又はゼラチンによってもたらされ得る。
【0184】
滅菌注射液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙した様々な他の成分とともに適切な溶媒に組み入れ、任意に濾過減菌を続いて行うことによって調製することができる。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法には真空乾燥技術及び凍結乾燥技術が含まれ、活性成分と溶液中に存在する任意の付加的な所望の成分との粉末を得ることができる。
【0185】
局所投与については、化合物は、例えば液体である場合に純粋な形態で適用することができる。しかしながら、活性作用物質を、例えば固体、液体、ゲル等であり得る皮膚科学的に許容可能な担体と組み合わせて、組成物又は配合物として皮膚に投与することが一般的に望ましい。
【0186】
有用な固体担体としては、タルク、クレー、微結晶性セルロース、シリカ、アルミナ等の微粉化された固体が挙げられる。有用な液体担体としては、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アルコール、グリコール又は水-アルコール/グリコールブレンドが挙げられ、これらに、任意に非毒性の界面活性剤を用いて、化合物を有効レベルで溶解又は分散させることができる。香料及び付加的な抗菌剤等のアジュバントを添加し、特性を所与の用途に最適化することができる。得られる液体組成物を吸収パッドから適用するか、包帯及び他のドレッシングへの含浸に使用するか、又はポンプ式若しくはエアゾール式噴霧器を用いて患部に噴霧することができる。
【0187】
合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸塩及びエステル、脂肪アルコール、変性セルロース、又は変性鉱物材料等の増粘剤を液体担体とともに用いて、使用者の皮膚に直接適用するために、塗布可能なペースト、ゲル、軟膏、石鹸等を形成することもできる。
【0188】
本明細書に記載の化合物の有用な投与量は、in vitro活性と動物モデルにおけるin vivo活性とを比較することによって決定することができる。マウス及び他の動物における有効投与量をヒトに外挿する方法は、当該技術分野で既知である。例えば、米国特許第4,938,949号(Borch et al.)を参照されたい。治療への使用に必要とされる化合物又はその活性塩若しくは誘導体の量は、選択される特定の化合物又は塩だけでなく、投与経路、治療される病態の性質、並びに患者の年齢及び状態によっても異なり、最終的に担当医又は臨床医の裁量による。
【0189】
しかしながら、一般に、好適な用量は、1日当たり約0.5mg/kg~約100mg/kg、例えば約10mg/kg~約75mg/kg(体重)の範囲、例えば1日当たりレシピエントの体重1kgにつき3mg~約50mg、好ましくは6mg/kg/日~90mg/kg/日の範囲、最も好ましくは15mg/kg/日~60mg/kg/日の範囲である。
【0190】
化合物は、例えば1単位剤形当たり5mg~1000mg、好都合には10mg~750mg、最も好都合には50mg~500mgの活性成分を含有する単位剤形に配合するのが好都合である。一実施形態において、本発明は、かかる単位剤形に配合された本発明の化合物を含む組成物を提供する。
【0191】
化合物は、例えば1単位剤形当たり5mg/m~1000mg/m、好都合には10mg/m~750mg/m、最も好都合には50mg/m~500mg/mの活性成分を含有する単位剤形で好都合に投与することができる。所望の用量は単回用量で、又は適切な間隔で投与される分割用量として、例えば1日当たり2つ、3つ、4つ又はそれ以上の下位用量として好都合に与えられ得る。下位用量自体を、例えば多数の個別のまばらな間隔の投与に更に分割することができる。
【0192】
所望の用量は単回用量で、又は適切な間隔で投与される分割用量として、例えば1日当たり2つ、3つ、4つ又はそれ以上の下位用量として好都合に与えられ得る。下位用量自体を、例えば多数の個別のまばらな間隔の投与、例えば吸入器からの複数回の吸入又は眼への複数回の滴剤の適用に更に分割することができる。
【0193】
本明細書に記載の化合物は、有効な抗腫瘍剤であり、BHPIと比較してより高い効力及び/又は減少した毒性を有し得る。本発明の化合物は、BHPIよりも強力かつ低毒性であり、及び/又はBHPIで見られる異化代謝の潜在的部位を回避し、すなわちBHPIとは異なる代謝プロファイルを有するのが好ましい。さらに、本明細書に記載の化合物は、BHPI及び他の既知の化合物よりも重篤な運動失調を引き起こさない。
【0194】
本発明は、癌を有する哺乳動物に本明細書に記載の化合物又は組成物を有効量投与することを含む、哺乳動物等の脊椎動物において癌を治療する治療方法を提供する。哺乳動物には、霊長類、ヒト、齧歯類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ヤギ、ウシ等が含まれる。癌は、一般に望ましくない細胞増殖、例えば無秩序な成長、分化の欠如、局所組織浸潤及び転移を特徴とする、様々なタイプの悪性新生物のいずれかを指す。本明細書に記載の化合物によって治療され得る癌としては、例えば乳癌、子宮頸癌、結腸癌、子宮内膜癌、白血病、肺癌、黒色腫、膵癌、前立腺癌、卵巣癌又は子宮癌、特にERα陽性の任意の癌が挙げられる。
【0195】
癌を治療する本発明の化合物の能力は、当該技術分野で既知のアッセイを用いて決定することができる。例えば、治療プロトコルの設計、毒性評価、データ分析、腫瘍細胞死の定量化、及び移植性腫瘍スクリーニングの使用の生物学的重要性が知られている。加えて、癌を治療する化合物の能力は、下記の試験を用いて決定することができる。
【0196】
以下の実施例は、上記の発明を説明することを意図したものであり、その範囲を狭めるとして解釈すべきではない。当業者は、実施例が本発明を実施し得る多くの他の方法を示唆することを容易に認識するであろう。本発明の範囲内に留まりながら多数の変形及び修正がなされ得ることを理解すべきである。
【実施例
【0197】
実施例1.材料及び方法
細胞培養。ヒト非腫瘍原性乳腺上皮細胞(MCF10A)、ヒト乳癌細胞(MCF7、AU565、MDA-MB-231及びHs578T)、及びヒト膵癌細胞(PANC-1)は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から購入した。正常ラット肝臓(IAR-2)上皮細胞及びヒト前立腺(PC-3)癌細胞は、日本研究バイオリソースコレクション(JCRB)細胞バンクから入手した。正常イヌ腎臓(MDCK II)上皮細胞は、M. Murata氏(東京大学)の厚意により提供された。ドキシサイクリン誘導性RasV12を有するMDCK II細胞は、以前に記載されている。MCF10A細胞は、5%ウマ血清(Gibco)、EGF(20ng/ml;R&D Systems)、インスリン(10μg/ml;Sigma-Aldrich)、コレラ毒素(80μg/ml;富士フイルム和光純薬株式会社)及びヒドロコルチゾン(0.5μg/ml;Sigma-Aldrich)を添加したDMEM/F12(Invitrogen)中で培養した。AU565細胞は、10%FBS(Sigma-Aldrich)を添加したRPMI-1640(ナカライテスク株式会社)中で培養した。他の細胞株は、10%FBS(Sigma-Aldrich)を添加したDMEM(ナカライテスク株式会社)中で培養した。全ての細胞株を37℃にて5%CO中で培養した。全ての細胞株を、PCRベースのマイコプラズマ検出キット(Venor GeM Classic;MB minerva biolabs)を用いて、マイコプラズマ汚染について定期的に試験した。
【0198】
3D培養については、細胞を3Dコラーゲン格子(I型ウシコラーゲン;最終濃度、1.67mg/ml;Advanced BioMatrix)に組み入れた。3Dオントップ培養については、以前に記載されているように(https://brugge.med.harvard.edu/Protocols)、細胞をマトリゲル:コラーゲンの混合物中で成長させた。成長因子を減少させたマトリゲル(BD Biosciences)を使用した。
【0199】
光学ピンセットによるテザー力測定及びPM張力の推定。テザー力測定は、赤外(IR)レーザー光源(3W、1064nm)を備える光学ピンセットシステム(NanoTracker(商標)2、JPK Instruments)を用い、60倍(開口数=1.2)の水浸対物レンズ(Olympus)を有するOlympus IX-73倒立顕微鏡で行った。シリカビーズ(直径1.5μm、Polysciences)をコンカナバリンA(Sigma-Aldrich)と1mg/mlで1時間インキュベートした。細胞をガラスボトムディッシュ(WPI)にプレーティングした。コーティングしたビーズを、25mM HEPES(pH7.5)を添加した細胞培養培地に添加し、実験を37℃で行った。テザー力(F)は、フックの法則:F=kΔx(ここで、kはトラップの剛性であり、Δxはトラップ中心からのビーズの変位である)を用いて算出することができる。各実験について、トラップ剛性(k、通例約0.15pN/nm)をパワースペクトル分析によって較正した。単一のビーズを光学トラップによって捕捉し、500ミリ秒にわたって細胞膜と接触させた後、コンピュータ制御下にてピエゾステージを1μm/秒で動かすことによって引き離し、膜テザー(長さ5μm)を形成した。トラップ中心におけるビーズの変位(Δx)は、高精度(分解能1nm)未満の4分割フォトダイオード検出器によって決定した。データ分析は、JPKデータ処理ソフトウェアを用いて行った。非運動性上皮細胞と悪性細胞とでPM張力を比較するために、細胞の側面のテザー力を測定した。悪性細胞のようなPM張力が低い細胞が、しばしば二重のテザーを形成し、テザー力の2倍の増加を示すことに注目した。これは、それらの低い張力に起因し得る。したがって、1つのテザーが形成されたかを注意深く確認し、二重テザーのデータを除外した。テザーが破断しやすい上皮細胞とは対照的に、転移細胞では膜テザーがより長く伸長する傾向がある(15μm超)ことにも注目した。
【0200】
PM張力は、以下の式:T=Fテザー /8Bπ(式中、Tは見かけの細胞膜張力(PM張力)であり、Fテザーは光学ピンセットによって測定したテザー力であり、Bは膜の曲げ剛性である)によって推定することができる。Bが試験した細胞型間で比較的不変であることが知られていることから(1×10-19N/m~3×10-19N/m)、B(1.4×10-19N/m)を用いてPM張力を算出した。
【0201】
材料。メチル-β-シクロデキストリン(MβCD)(Sigma-Aldrich)及びカリクリンA(Cell Signaling Technology)は、それぞれ4mM及び0.5nMの最終濃度で用いた。以下の抗体を使用した:抗ERM(ウサギポリクローナル、1:1000、イムノブロッティング用;#3142、Cell Signaling Technology(CST));抗ホスホ-ERM(ウサギモノクローナル、1:100、免疫染色用;#3726、CST);抗RHOA(マウスモノクローナル、1:1000、イムノブロッティング用;#sc-418、Santa Cruz Biotechnology);抗pS19 MLC(ホスホミオシン軽鎖2(Ser19))(マウスモノクローナル、1:1000、イムノブロッティング用;#3675、CST);抗MLC(ウサギポリクローナル、1:1000、イムノブロッティング用;#3672、CST);抗E-カドヘリン(ウサギモノクローナル、1:1000、イムノブロッティング用;#3915、CST);抗ビメンチン(ウサギモノクローナル、1:1000、イムノブロッティング用;#5741、CST);抗MTSS1L(ウサギポリクローナル、1:200、イムノブロッティング用;#NBP2-57037、Novus Biologicals);抗FBP17(FNBP1)(ウサギポリクローナル、1:1000、イムノブロッティング用);抗CIP4(TRIP10)(マウスモノクローナル、1:1000、イムノブロッティング用;#612556、BD Transduction Laboratories);抗HA-Tag(ウサギモノクローナル(C29F4)、1:100、免疫染色用;#3724、CST)及び抗β-アクチン(ウサギポリクローナル、1:2000、イムノブロッティング用;#PM053、MBL)。Alexa-Fluor-488コンジュゲート二次抗体(1:500、免疫染色用;ウサギ、#A11034;マウス、#A11029)は、Thermo Scientificから入手した。
【0202】
ヒトSnail及びSlugは、pMXs-IRES-Puroレトロウイルスベクター(Cell Biolabs, Inc;C末端にHAタグを導入することによって改変)にサブクローニングした。Lyn10-エズリンT567E(MA-エズリン)は、PM標的シグナル(MGCIKSKRKD(配列番号75)、Lynチロシンキナーゼに由来するミリストイル化モチーフ)をヒトエズリンのN末端に融合した後、PCRプライマーを用いてT567E突然変異を生成することによって構築し、配列を確認した。エズリン及びMA-エズリン構築物は、ネオマイシン耐性遺伝子を有するpQCXIN-HAレトロウイルスベクター(Clontech;C末端にHAタグを導入することによって改変)にサブクローニングした。ヒトMTSS1Lは、pEGFP C-1ベクターにサブクローニングした。レトロウイルス感染については、細胞を6ウェルプレートにプレーティングし、4μg/mlポリブレン(Sigma-Aldrich)の存在下でウイルスとともにインキュベートした。感染細胞をG418(0.8mg/ml)又はピューロマイシン(1.5μg/ml)で選択した。導入遺伝子発現は、ウエスタン分析及び共焦点顕微鏡法によって評定した。
【0203】
短鎖干渉RNA(siRNA)及びトランスフェクション。ノックダウン実験については、ヒト遺伝子に対するDharmacon SMARTpool-ON-TARGETplus siRNA(4つの異なるsiRNAの混合物;Thermo Scientific)を使用した:EZR/エズリン(L-017370-00);RDX/ラディキシン(L-011762-00);MSN/モエシン(L-011732-00);RHOA(L-003860-00);SLK(L-003850-00);STK10(L-004168-00);ARHGAP4(L-003628-00);ARHGAP10/GARF2(L-009382-01);ARHGAP17/RICH1(L-008335-02);ARHGAP26/GRAF1(L-008426-00);ARHGAP29(L-008277-00);ARHGAP42/GRAF3(L-026507-01);ARHGAP44/RICH2(L-009238-01);ARHAGP45/HMHA1(L-023893-00);ARHGEF37(L-032927-01);ARHGEF38(L-020676-00);IRSp53/BAIAP2(L-012206-02);BAIAP2L1/IRTKS(L-018664-02);DNMBP/Tuba(L-026304-01);FCHSD1(L-015107-02);FCHSD2(L-021240-01);FER(L-003129-00);FES(L-003130-00);FNBP1/FBP17(L-026214-02);FNBP1L/Toca-1(L-020718-01);GAS7(L-011492-00);GIMP(L-021160-01);MTSS1/MIM(L-018506-00);MTSS1L/ABBA(L-022582-01);OPHN1/オリゴフレニン1(L-009444-00);PACSIN1(L-007735-00);PACSIN2(L-019666-02);PACSIN3(L-015343-00);SH3BP1(L-009546-01);SRGAP1(L-026974-00);SRGAP2(L-021531-02);SRGAP3(L-014175-00);TRIP10/CIP4(L-012685-00)。ON-TARGETplus Non-Targeting siRNA Pool(D-001810-10)を対照siRNAとして使用した。RNA(25nM)を、Lipofectamine RNAi MAX(Invitrogen)を用いて細胞にトランスフェクトした。分析をトランスフェクションの72時間後に行った。主要タンパク質(ERMタンパク質、RHOA、SLK、STK10、MTSS1L、FBP17及びCIP4)のノックダウンをウエスタン分析によって確認した。プラスミドのトランスフェクションは、FuGENE HD(Roche)を用い、製造業者のプロトコルに従って行った。トランスフェクト細胞を24時間後に試験した。
【0204】
in vitro浸潤及び移動アッセイ。浸潤及び移動アッセイについては、それぞれBioCoat Matrigel Invasion Chamber(Corning)及び8.0μm PET遊走インサート(Corning)を使用した。浸潤アッセイにおいては、1×10個の細胞を無血清培地に懸濁し、血清を含有する培地を底に入れたチャンバーの膜上に播種した。MβCD又はカリクリンA処理については、薬物を両側に添加した。低浸潤性上皮(MCF10A、AU565及びMCF7)細胞及びMDA-MB-231細胞を、それぞれ36時間及び24時間インキュベートした後、4%ホルムアルデヒドで固定した。浸潤した細胞を、BZ-X700顕微鏡(株式会社キーエンス)を用いて倍率10倍で撮像し、計数した。移動アッセイにおいては、5×10個の細胞をPET膜上に播種し、24時間インキュベートし、浸潤アッセイについて記載されているように分析した。3Dオントップ培養において成長させた浸潤構造の定量化については(図5a及び図5b)、細長い間葉様形態及び丸みを帯びた形態を、それぞれ浸潤性表現型及び非浸潤性表現型と定義し、定量化した。丸みを帯びた形状を特徴とするアメーバ様運動は、ERMノックダウン細胞又はSnail発現細胞では観察されなかった。
【0205】
共焦点顕微鏡法、ライブセルイメージング及び画像解析。免疫蛍光分析については、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の4%ホルムアルデヒドで10分間固定し、PBS中にて0.2%Triton X-100で10分間透過処理した。細胞をPBS中の5%ヤギ血清(Sigma-Aldrich)で1時間ブロッキングし、一次抗体とともに少なくとも3時間インキュベートした。次いで、細胞を二次抗体とともに1時間インキュベートした。膜の可視化のために、Alexa Fluor(商標)350コンジュゲート小麦胚芽凝集素(WGA)(Thermo Scientific)を透過処理の前に固定細胞とともに30分間インキュベートした。F-アクチンの可視化のために、Alexa Fluor(商標)568ファロイジン(Thermo Scientific)を固定細胞とともに30分間インキュベートした。蛍光画像を、405nm、473nm及び568nmのダイオードレーザーを備える共焦点顕微鏡システム(FluoView 1000-D;Olympus)を用い、対物レンズ(60倍油浸対物レンズ、NA=1.35)を通して取り込んだ。3D画像のために、0.5μm間隔の連続光学面のZスタック画像を細胞全体について取得した。最大強度z投影は、Image J及びImaris 8.0.2を用いて再構成した。他の全ての共焦点画像は、単一面として表示した。図1図3に示す3Dデータにおいては、膜領域を明らかに識別可能な3Dスタックの中央付近の平面画像を代表画像として選択した。位相差顕微鏡法を用いたライブイメージングについては、細胞をコラーゲンマトリックスと混合し、8ウェルプレート(IWAKI)にプレーティングした。画像は、BZ-X700顕微鏡(株式会社キーエンス)を用い、倍率20倍で37℃及び5%COにて撮影した。単一細胞を、Manual Tracking Tool ImageJソフトウェアプラグインを用いて手動で追跡した。移動プロット及び細胞速度は、Chemotaxis and Migration Tool(Ibidi)を用いて得た。細胞形態力学を3Dで評価するために、細胞を先に記載したように間葉系表現型(細長い;アスペクト比4超)又はアメーバ様表現型(丸みを帯び、アクチン又はブレブベースの突出を有する;アスペクト比4未満)に分類した。アスペクト比を細胞長軸の長さと細胞短軸の長さとの比率として決定し、Image Jにより自動的に算出した。細長い細胞が通例、5~8のアスペクト比を有するのに対し、アメーバ様細胞のアスペクト比が2~3であることが観察された。膜/細胞質の強度比を算出するために、WGAチャネルの閾値画像を用いて膜領域全体をセグメント化し、ブラシ選択ツールを用いて5ピクセル(幅およそ500nm)の大きさで膜領域を手動で選択した。次いで、全て膜領域に沿ったpERM又はF-アクチンの平均強度を算出し、細胞質全体(核を避ける)の平均強度で除算した。3D画像を定量化するために、図1dに示すようにWGA染色によって明らかに識別可能な膜領域を有する単一平面画像(3Dスタックの中央付近の画像に相当する)を、2Dと同様に定量分析に使用した。さらに、3Dスタックの厚さによる蛍光強度の変動を考慮に入れるために、選択した中央の画像からz方向に約1.5μm(細長い細胞)から4μm(丸みを帯びた細胞)まで上下にシフトした2つの画像を定量化した。3つ全ての画像の平均膜/細胞質強度比を1つのサンプルとして用いた。PMでのBARタンパク質の蓄積を定量化するために、膜マーカーによって画定された膜領域とマージしたBARタンパク質スポットの数を定量化した。
【0206】
ウエスタンブロッティング。細胞溶解物を、Laemmliバッファーを用いて抽出した。サンプルをSDS-PAGEゲルで電気泳動し、ポリフッ化ビニリデン膜に転写し、0.1%Tween 20を含有するTBS中の5%BSA又は脱脂粉乳でブロッキングし、一次抗体とインキュベートした後、二次抗体をインキュベートした。
【0207】
増殖アッセイ。2×10個の細胞を6ウェルプレートに各時点について二連で播種し、2日後及び4日後にCountess Automated cell counter(Thermo Fisher)を用いて計数した。
【0208】
臨床データセットの分析。TCGA及びCCLEデータセットをcBioPortal(www.cbioportal.org/)の2020年版で分析した。KMplotter(www.kmplot.com)の2020年版からの癌患者の臨床データセットを、各プローブ(SLK:206875_s_at及びSTK10:228394_at)及び自己選択ベストカットオフを用いて分析した。群間の生存差の有意性をログランク検定によって評定した。
【0209】
動物研究。腫瘍形成、局所浸潤及び自然転移アッセイのために、1×10個の細胞をPBS(0.1mL)に再懸濁し、6週齢の雌性BALB/c nu/nuマウスの乳腺脂肪体に注射した。マウスを温度(23±1℃、湿度55±5%)に12/12時間の明/暗サイクルで維持した。マウスを注射の7週間後に屠殺し、腫瘍及び肺を採取した。腫瘍体積を式V=1/2(A×B)(式中、A及びBは、それぞれ腫瘍の最大寸法及び最小寸法を表す)に従って算出した。切除した腫瘍を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。浸潤性分析のために、腫瘍と脂肪組織との境界を手動で定義し、37829μmの定量化ボックスを配置した。各ボックスにおいて、腫瘍浸潤面積をImage Jを用いて算出した。自然転移を定量化するために、ヒト/マウスDNAの比率を、前述のようにヒト特異的定量PCR(qPCR)を用いて評定した。簡潔に述べると、PowerTrack SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific)及び100ngの肺ゲノムDNAをヒト及びマウス特異的PTGER2プライマー対とともに用いてqPCRを行った。qPCRに使用したプライマーを表1に記載する。MDA-MB-231細胞及び異種移植ナイーブマウス肺から抽出したゲノムDNAを用いて標準曲線を作成した。qPCRは、StepOnePlus Real-Time PCR Systemを用いて行った。実験的肺転移アッセイについては、2×10個の細胞を0.1mlのPBSに再懸濁し、6週齢の雌性BALB/c nu/nuマウスに静脈注射し、8週間後に肺転移を評定した。肺を固定し、H&Eを用いて染色した。全ての切片をBZ-X700顕微鏡又はBZ-8000顕微鏡(株式会社キーエンス)下で試験した。全ての動物実験が機関内倫理委員会によって審査され、東京薬科大学(日本、東京)の実験動物研究に関するガイドラインに従って行われた。
【0210】
【表3】
【0211】
細胞の機械的伸展。フィブロネクチン(0.05mg/ml;Sigma-Aldrich)でコーティングしたシリコンチャンバー(STB-CH-04、ストレックス株式会社)上で細胞を24時間成長させた。チャンバーを伸展装置(STB-100、ストレックス株式会社)に設置し、5分間一軸伸展した(20%の伸展)。
【0212】
統計。統計分析は、GraphPad Prism 6及びExcelを用いて行った。ダゴスティーノピアソンオムニバス検定及びコルモゴロフ-スミルノフ検定(P値についてはダラル-ウィルキンソン-リリー(Dallal-Wilkinson-Lillie)を用いる)を用い、データセットをガウス分布について試験した。統計的有意性は、2群については両側スチューデントt検定又はノンパラメトリックマン-ホイットニーU検定、多重比較については一元配置ANOVAとテューキー検定とを用いて決定した。表現型分布は、カイ二乗検定を用いて比較した。サンプルサイズ、各実験の反復数及び特定の検定は、図面の凡例に記載する。
【0213】
データ可用性。ソースデータを本書に提示する。TCGA及びCCLEのデータセットは、cBioPortal(www.cbioportal.org/)から入手可能である。癌患者の臨床データセットは、KMplot(www.kmplot.com)から入手可能である。
【0214】
実施例2.医薬剤形
以下の配合物は、本明細書に記載の式の化合物、本明細書に特に開示される化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物(以下、「化合物X」と称する)の治療的又は予防的投与に使用され得る代表的な医薬剤形を例示するものである。
(i)錠剤1 mg/錠
「化合物X」 100.0
ラクトース 77.5
ポビドン 15.0
クロスカルメロースナトリウム 12.0
微結晶性セルロース 92.5
ステアリン酸マグネシウム 3.0
300.0
(ii)錠剤2 mg/錠
「化合物X」 20.0
微結晶性セルロース 410.0
デンプン 50.0
デンプングリコール酸ナトリウム 15.0
ステアリン酸マグネシウム 5.0
500.0
(iii)カプセル mg/カプセル
「化合物X」 10.0
コロイド状二酸化ケイ素 1.5
ラクトース 465.5
アルファ化デンプン 120.0
ステアリン酸マグネシウム 3.0
600.0
(iv)注射1(1mg/mL) mg/mL
「化合物X」(遊離酸形態) 1.0
二塩基性リン酸ナトリウム 12.0
一塩基性リン酸ナトリウム 0.7
塩化ナトリウム 4.5
1.0N水酸化ナトリウム溶液 適量
(pHを7.0~7.5に調整)
注射用水 1mLまで適量
(v)注射2(10mg/mL) mg/mL
「化合物X」(遊離酸形態) 10.0
一塩基性リン酸ナトリウム 0.3
二塩基性リン酸ナトリウム 1.1
ポリエチレングリコール400 200.0
0.1N水酸化ナトリウム溶液 適量
(pHを7.0~7.5に調整)
注射用水 1mLまで適量
(vi)エアロゾル mg/can
「化合物X」 20
オレイン酸 10
トリクロロモノフルオロメタン 5000
ジクロロジフルオロメタン 10000
ジクロロテトラフルオロエタン 5000
【0215】
これらの配合物は、医薬技術分野で既知である従来の手順によって調製することができる。上記の医薬組成物を、異なる量及びタイプの活性成分「化合物X」に適合するために既知の医薬技術に従って変化させ得ることが理解されよう。エアロゾル配合物(vi)は、標準的な計量エアロゾルディスペンサーとともに使用することができる。さらに、特定の成分及び割合は、説明を目的とするものである。成分は好適な均等物と交換することができ、対象の剤形の所望の特性に応じて割合を変化させることができる。
【0216】
開示の実施形態及び実施例を参照して、具体的な実施形態を上で説明したが、かかる実施形態は、例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。以下の特許請求の範囲に定義される、より広い態様での本発明から逸脱することなく、当該技術分野における通常の技能に従って変更及び修正を行うことができる。
【0217】
全ての刊行物、特許及び特許文献は、個々が特にTsujita et al., Nat Commun 12(1), 5930 (2021)を引用することにより本明細書の一部をなすかのように、引用することにより本明細書の一部をなす。本開示と矛盾する限定は、それらから理解すべきではない。様々な具体的かつ好ましい実施形態及び技術を参照して本発明を説明した。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲内に留まりながら多くの変更及び修正がなされ得ることを理解すべきである。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図9-5】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
【配列表】
2024510010000001.app
【国際調査報告】