(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】水冷チラーのためのシェルアンドプレート熱交換器およびシェルアンドプレート熱交換器を備える水冷チラー
(51)【国際特許分類】
F28F 3/08 20060101AFI20240227BHJP
F28D 9/02 20060101ALI20240227BHJP
F28F 3/04 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
F28F3/08 311
F28D9/02
F28F3/04 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557137
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2022010735
(87)【国際公開番号】W WO2022196535
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】井上 智嗣
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA37
(57)【要約】
シェルアンドプレート熱交換器は、シェルおよびプレート・パックを有する。シェルは、第一流体および第二流体を受けるよう構成されるキャビティを形成する。プレート・パックは、キャビティ内に配置される。プレート・パックは、複数の熱交換器プレートを有する。それぞれの熱交換器プレートは、熱交換器プレートの厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面を有する。少なくとも一つの熱交換器プレートの少なくとも一方の側面は、表面粗さが5μm~100μmの間である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一流体および第二流体を受けるよう構成されるキャビティを形成するシェルと、
前記キャビティ内に配置されるプレート・パックであって、前記プレート・パックは複数の熱交換器プレートを有しており、前記熱交換器プレートのそれぞれは、前記熱交換器プレートの厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面を有しており、少なくとも一つの前記熱交換器プレートの少なくとも一方の前記側面は、表面粗さが5μm~100μmの間であるプレート・パックと、
を備える、シェルアンドプレート熱交換器。
【請求項2】
前記シェルは、前記第一流体を受けるための第一入口ポートおよび前記第一流体を排出するための第一出口ポートと、前記第二流体を受けるための第二入口ポートおよび前記第二流体を排出するための第二出口ポートと、を有し
前記プレート・パックは、前記第一流体および前記第二流体が前記熱交換器プレート間の空間を流れるよう、配置され構成される、
請求項1に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項3】
少なくとも一つの前記熱交換器プレートの少なくとも一方の前記側面の表面粗さは、5μm以上50μm以下である、
請求項1に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項4】
少なくとも一つの前記熱交換器プレートの少なくとも一方の前記側面の表面粗さは、9μm以上50μm以下である、
請求項3に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項5】
動作の際に前記第一流体と接するよう配置される前記複数の熱交換器プレートの少なくとも一方の前記側面の第一面粗さは、5μm~100μmの間の表面粗さである、
請求項1に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項6】
前記第一面粗さは、前記第二流体と接する前記複数の熱交換器プレートの少なくとも一方の側面の第二面粗さとは異なる、
請求項5に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項7】
前記第一面粗さは前記第二面粗さより大きく、
前記第一流体は冷媒であり、前記第二流体は水を含む、
請求項6に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項8】
前記第一面粗さは少なくとも9μmであり、
前記第二面粗さは9μm未満である、
請求項7に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項9】
前記熱交換器プレートの厚みは0.3mm~0.5mmである、
請求項1に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項10】
前記第一流体が冷媒であるときに、10~30kW/m
2の熱流束で1.5~4.0kW/m
2・℃の沸騰伝熱係数が得られる、
請求項1に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項11】
外部環境と熱的連通状態で配置される水ラインと、
複数の第一熱交換器プレートを有する第一シェルアンドプレート熱交換器を含む蒸発器であって、前記第一熱交換器プレートのそれぞれが前記第一熱交換器プレートの厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面を有しており、少なくとも一つの前記第一熱交換器プレートの少なくとも一方の前記側面の表面粗さが5μm~100μmの間である蒸発器と、
複数の第二熱交換器プレートを有する第二シェルアンドプレート熱交換器を含む凝縮器であって、前記第二熱交換器プレートのそれぞれが前記第二熱交換器プレートの厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面を有しており、少なくとも一つの前記第二熱交換器プレートの少なくとも一方の前記側面がs溝またはr溝を有している凝縮器と、
を備える、水冷チラー。
【請求項12】
少なくとも一つの前記第一熱交換器プレートの表面粗さは、5μm以上50μm以下である、
請求項11に記載の水冷チラー。
【請求項13】
少なくとも一つの前記第一熱交換器プレートの表面粗さは、9μm以上50μm以下である、
請求項12に記載のシェルアンドプレート熱交換器。
【請求項14】
前記蒸発器は、冷媒を受けるための第一入口ポートおよび前記冷媒を排出するための第一出口ポートと、前記水ラインから水を受けるための第二入口ポートおよび水を排出するための第二出口ポートと、を有し
前記表面粗さは、前記複数の第一熱交換器プレートの少なくとも前記冷媒と接する前記側面の表面粗さである、
請求項11に記載の水冷チラー。
【請求項15】
前記水冷チラーの冷却能力は少なくとも300冷凍トンである、
請求項11に記載の水冷チラー。
【請求項16】
少なくとも一つの前記第一熱交換器プレートの厚みは0.3mm~0.5mmであり、
少なくとも一つの前記第二熱交換器プレートの厚みは0.3mm~0.5mmである、
請求項11に記載の水冷チラー。
【請求項17】
少なくとも前記第二熱交換器プレートの少なくとも一方の前記側面はs溝およびr溝の両方を含んでいる、
請求項11に記載の水冷チラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、水冷チラーのためのシェルアンドプレート熱交換器およびそのシェルアンドプレート熱交換器を備える水冷チラーに関する。本発明は、特に、水冷チラーにおける使用に適している伝熱係数を有するシェルアンドプレート熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
チラーシステムは、媒体から熱を奪う冷却機械または装置である。一般に、水等の液体または水を含む液体が媒体として用いられ、チラーシステムは、蒸気-圧縮冷却サイクルで動作してその液体を冷却する。その後液体は、熱交換器を通って循環することによって、必要に応じて空気または器材を冷却できる。冷却サイクルには、副産物として廃熱が不可避であり、廃熱は、冷媒から周囲空気へと放出されるか、効率を高めるために加熱目的のために回収される。蒸気-圧縮タイプのチラーシステムは、冷媒を圧縮するための圧縮器を有する。蒸気-圧縮チラーシステムにおいて用いられる圧縮器のタイプには、往復動圧縮器、スクロール圧縮機、スクリュー圧縮器および遠心圧縮器がある。
【0003】
従来の(ターボ)チラーにおいては、冷媒は、圧縮器において圧縮されて、熱交換器に送られ、そこで冷媒と第一熱交換媒体(例えば液体)との間で熱交換が行われる。この熱交換器は凝縮器と呼ばれている。この熱交換器が冷媒を凝縮させるからである。その結果、熱は、第一熱交換媒体(液体)へ転送され、したがって、第一熱交換媒体は加熱される。凝縮器から出てきた冷媒は、膨張弁によって膨張され、他の熱交換器に送られ、そこで冷媒と第二熱交換媒体(例えば液体)との間で熱交換が行われる。この熱交換器は蒸発器と呼ばれている。この熱交換器が冷媒を蒸発させるからである。熱は第二熱交換媒体(例えば上述した水)から冷媒へと転送され、そして、液体が冷却される。その後、蒸発器からの冷媒は圧縮器に戻され、そして、サイクルが繰り返される。
【0004】
水冷式チラーにおいて凝縮器および蒸発器として用いられる熱交換器は、典型的には、シェルアンドチューブ型熱交換器(浸漬・流下液膜型熱交換器も含む)である。すなわち、熱交換器は、キャビティまたはチャンバを形成する外側シェルと、外側シェル内に配置される複数のチューブと、を有する。このタイプの熱交換器においては、概して、冷媒がキャビティを通り、液体媒体(すなわち、第一熱交換媒体または第二熱交換媒体)がチューブの内部を通る。凝縮器または蒸発器として用いることができる他のタイプの熱交換器は、シェルアンドプレート型熱交換器である。シェルアンドプレート型熱交換器は、製造に要する費用がシェルアンドチューブ型熱交換器よりも多少高くなる傾向がある。しかしながら、シェルアンドプレート熱交換器は、シェルアンドチューブ型熱交換器よりも設置面積を小さくでき、占有空間を小さくできる可能性がある。また、シェルアンドプレート型熱交換器は、より少ない量の冷媒で動作できる。このように、シェルアンドチューブ熱交換器の代わりにシェルアンドプレート熱交換器を用いることにより利点が得られる。
【発明の概要】
【0005】
シェルアンドプレート熱交換器には上述した利点があるが、水冷チラー用途に適した、シェルアンドプレート熱交換器のプレートの表面で十分な伝熱係数を達成するという課題がある。水冷チラー用途の凝縮器および蒸発器としてシェルアンドプレート熱交換器を実際に使用するためには、現在得られている伝熱係数の3倍にも達する改良が望まれている。
【0006】
本願のいくつかの態様では、改良した伝熱係数を有する、水冷式チラーシステムにおける凝縮器または蒸発器として使用に適したシェルアンドプレート熱交換器を提供する。いくつかの態様では、凝縮器または蒸発器の少なくとも一方としてシェルアンドプレート熱交換器を利用する水冷チラーを提供する。
【0007】
既知の技術の状況に鑑み、本開示の一の面では、水冷チラーにおける使用に適したシェルアンドプレート熱交換器を提供する。シェルアンドプレート熱交換器は、シェルアンドプレート・パックを有する。シェルは、第一流体および第二流体を受けるよう構成されるキャビティを形成する。プレート・パックは、キャビティ内に配置される。プレート・パックは、複数の熱交換器プレートを有する。それぞれの熱交換器プレートは、熱交換器プレートの厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面を有しており、熱交換器プレートのうちの側面のうちの少なくとも一方は、表面粗さが5μm~100μmの間であるかまたは複数の溝を有する。
【0008】
本開示のいくつかの実施形態では、シェルアンドプレート熱交換器を用いる水冷チラーを提供する。水冷チラーは、水ラインと蒸発器と凝縮器とを有する。水ラインは、外部環境と熱的連通状態で配置される。蒸発器は、複数の第一熱交換器プレートを有する第一シェルアンドプレート熱交換器である。それぞれの第一熱交換器プレートは、第一熱交換器プレートの厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面を有する。少なくとも一つの第一熱交換器プレートの少なくとも一方の側面の表面粗さは、5μm~100μmの間である。凝縮器は、複数の第二熱交換器プレートを有する第二シェルアンドプレート熱交換器である。第二熱交換器プレートのそれぞれは、第二熱交換器プレートの厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面を有する。少なくとも一つの第二熱交換器プレートの少なくとも一方の側面は、s溝またはr溝を有する。
【0009】
これらおよび他の目的、特徴、態様、および利点は、添付の図面と組み合わせて、本発明の好ましい態様を開示する以下の説明から当業者に明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示の一部をなす添付の図面を以下で簡単に説明する。
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態にかかる水冷チラーの概略図を示す。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態にかかるシェルアンドプレート熱交換器を示す斜視分解図である。
【
図3】
図3は、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態の長手方向断面図である。
【
図4】
図4は、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態の部分断面斜視図である。
【
図5】
図5は、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態のクロスフローパターンを示す模式図である。
【
図6】
図6は、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態のプレート・パックの溶接構造を示す概略図である。
【
図7】
図7は、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態の熱交換器プレートの取り得る形状を示す図である。
【
図8】
図8は、
図2のシェルアンドプレート熱交換器のプレート・スタックのカセットを形成するために溶着される一対の熱交換器プレートの側面平面図である。
【
図9A】
図9Aは、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態の隣接するカセットのポート開口の溶接縁部の部分図である。
【
図9B】
図9Bは、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態の隣接するカセットのポート開口の溶接縁部の部分図である。
【
図10A】
図10Aは、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態の熱交換器プレートに形成される起伏の取り得る断面形状を示す図である。
【
図10B】
図10Bは、シェルアンドプレート熱交換器の一実施形態の熱交換器プレートに形成される起伏の取り得る断面形状を示す図である。
【
図11】
図11は、伝熱性能を試験するために用いる6つの試験プレートの表面構成を示す模式図である。
【
図12】
図12は、蒸発の際の伝熱性能を試験するために6つの試験プレートを用いて得られたデータのプロット図である。
【
図13】
図13は、凝縮の際の伝熱性能を試験するために6つの試験プレートを用いて得られたデータのプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
選択的な実施形態を、図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明は単なる例示であって、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって定義される本発明を限定するものではないことは、本開示から、当業者には明らかであろう。
【0012】
図1に、本発明の例示的な実施形態にかかる水冷チラー10を示す。水冷チラー10は、第一水ライン12と第二水ライン14と蒸発器16と凝縮器18と圧縮器20とを有する。第一水ライン12および第二水ライン14は、それぞれ、チラー10の外部環境と熱的連通状態に配置される。本実施形態においては、第一水ライン12は、室内熱交換器22(例えば、ファン・コイル・ユニット)を介して、冷却される空間と熱的連通状態で接続される。一方、第二水ライン14は、室外熱交換器24(例えば、冷却塔)を介して、屋外の空気と熱的連通状態にある。本実施形態では、圧縮器20は遠心圧縮器であるが、本発明は遠心圧縮器を有するチラーに限定されない。
【0013】
蒸発器16は、複数の第一熱交換器プレート26を有する第一シェルアンドプレート熱交換器である。それぞれの第一熱交換器プレート26は、第一熱交換器プレート26の厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面26a,26bを有する。少なくとも一つの第一熱交換器プレートの少なくとも一方の側面の表面粗さは、約5μm~100μmの間である。蒸発器16は、以降で詳細に説明する。
【0014】
凝縮器18は、複数の第二熱交換器プレート28を有する第二シェルアンドプレート熱交換器である。それぞれの第二熱交換器プレート28は、第二熱交換器プレート28の厚さ方向において互いに反対方向に面する二つの側面28a,28bを有する。いくつかの実施形態では、少なくとも一つの第二熱交換器プレート28の少なくとも一方の側面は、s溝Sまたはr溝Rを有する。
図11に示すように、いくつかの実施形態において、s溝は熱交換器プレートの中心から出ていく螺旋状(スパイラル)溝であり、r溝はプレートの中心から出ていく放射状(ラジアル)溝である。いくつかの実施形態では、溝を、同心状の円、または他の形状、または同様の溝パターンとすることができる。凝縮器18は、以降で詳細に説明する。
【0015】
いくつかの実施形態において、水冷チラー10は、少なくとも300トンの冷却容量を有する。したがって、水冷チラー10は、大規模な産業用途のための媒体に特によく適している。なお、本発明は、このような用途に限定されない。特に、蒸発器および凝縮器の特徴を、伝熱性能を向上したシェルアンドプレート熱交換器が必要とされるより小型のチラーにまたは他の熱交換器用途に用いることができる。
【0016】
図2~
図4は、本発明の例示的な実施形態にかかるシェルアンドプレート熱交換器を具現化する蒸発器16を例示する。蒸発器16は、シェル30とプレート・パック32とを有する。シェル30は、第一流体FL1および第二流体FL2を受けるよう構成されるキャビティ34を形成する。より具体的には、シェル30は、第一流体FL1を受けるための第一入口ポート36と、第一流体FL1を排出するための第一出口ポート38と、を有する。シェル30は、また、第二流体FL2を受けるための第二入口ポート40と、第二流体FL2を排出するための第二出口ポート42と、を有する。本実施形態では、第一流体FL1は冷媒であり、第二流体FL2は第一水ライン12に流れる水を含む液体である。いくつかの実施形態では、想定されるこのような冷媒には、限定するものではないが、R1233zd(E)、R410A、R32、R454B、DR-55、R134A、R513A、R515A、R515B、HFO冷媒(例えばHFO-1234ze、HFO-1233zdもしくはHFO-1234yf)、またはそれらのうちの任意の数の組み合わせがある。
図1に示すように、第一流体FL1(冷媒)は、蒸発器16と凝縮器18と圧縮器20と膨張弁44とから構成される冷却回路を循環する。第二流体FL2(液体)は、蒸発器16と室内熱交換器22(例えば、ファン・コイル・ユニット)との間において、第一水ライン12を流れる。第一入口ポート36および第一出口ポート38は、冷却回路に接続される。第二入口ポート40および第二出口ポート42は、第一水ライン12に接続される。
【0017】
プレート・パック32は、キャビティ34内に配置される。プレート・パック32は、複数の第一熱交換器プレート26から構成される。それぞれの第一熱交換器プレート26は、熱交換器プレート26の厚さ方向において互いに反対方向を向く二つの側面26a,26bを有する。
図5に示す通り、プレート・パック32は、第一流体FL1(冷媒)および第二流体FL2(液体)が第一熱交換器プレート26間の交互の空間を流れるよう、配置され構成される。すなわち、プレート・パック32の第一熱交換器プレート26は、冷媒が第一入口ポート36から第一出口ポート38へと流れるとき、冷媒はプレート・パック32の二つの隣接するプレート26間の空間を通って流れるよう、流路を形成するように、配置され構成される。第一熱交換器プレート26は、さらに、液体が第二入口ポート40から第二出口ポート42へと流れるとき、液体はプレート・パック32の二つの隣接するプレート26間の異なる空間を通って流れるよう、流路を形成するように、配置され構成される。この例示的な実施形態においては、冷媒および液体は、熱伝導熱交換器プレートによって分離されることになる。言い換えれば、蒸発器16の両端部に位置する二つの第一熱交換器プレート26を除いて、それぞれの第一熱交換器プレート26の側面のうちの一方、26aまたは26bは、冷媒と接し、それぞれの第一熱交換器プレート26の反対側の側面は液体と接する。
図6からよく分かる通り、いくつかの実施形態では、流路は、一部が、溶接点WPで第一熱交換器プレート26を溶接することによって形成される。なお、本発明は、溶接を用いて隣接するプレートを封止することには限定されない。例えば、ガスケットや他の封止方法を用いることもできる。
【0018】
いくつかの実施形態では、第一熱交換器プレート26の形状は、略円形である。なお、熱交換器プレートの形状は、特に限定されず、シェル30の形状に応じて、
図7に示すように、楕円形、正方形または長方形とすることもできる。蒸発器16の第一熱交換器プレート26は、第一熱交換器プレート26が、互いに平行に所定の間隔で配置されるよう、シェル30のキャビティ34内に配置される。いくつかの実施形態では、第一熱交換器プレート26は垂直に配置されるが、本発明にかかるシェルアンドプレート熱交換器は、熱交換器プレートが垂直に配置される配置に限定されない。
【0019】
いくつかの実施形態では、
図3~
図5に示す通り、蒸発器16の設置状態において、第一入口ポート36はシェル30の底部に配置され、第一出口ポート38はシェル30の上部に配置される。これより、第一流体FL1(冷媒)は、第一入口ポート36から第一出口ポート38へと移動するとき、キャビティ34の底部からキャビティ34の上部へと移動する。一方、第二入口ポート40はシェル30の上部の近傍に、そして第二出口ポート42はシェル30の底部の近傍に配置される。これより、第二流体FL2(液体)は、第二入口ポート40から第二出口ポート42へと移動するとき、キャビティ34の上部からキャビティ34の底部へと移動する。これにより、
図4からよく分かる通り、蒸発器16は、本実施形態では、対向流モードで動作する。なお、本発明は、対向流構成に限定されない。
【0020】
いくつかの実施形態では、第一熱交換器プレート26は、強度および耐腐食性に関する有利な特性から、ステンレス鋼で形成される。なお、本発明は、ステンレス鋼で形成される熱交換器プレートに限定されない。いくつかの実施形態では、面粗さは、サンドブラストを用いて達成される。あるいは、いくつかの実施形態においては、面粗さを、例えばエッチングまたはナノ粒子スプレー等の他の面加工手法を用いて、達成できる。
【0021】
いくつかの実施形態では、凝縮器18は、基本的に、蒸発器16と同じ構成を有する。このため、対応する部材には同一の参照符号を用いて明瞭化する。具体的には、
図2~
図5に示す通り、凝縮器18はシェル30とプレート・パック32とを有する。シェル30は、第一流体FL1および第二流体FL2を受けるよう構成されるキャビティ34を形成する。より具体的には、シェル30は、第一流体FL1を受けるための第一入口ポート36と、第一流体FL1を排出するための第一出口ポート38と、を有する。シェル30は、また、第二流体FL2を受けるための第二入口ポート40と、第二流体FL2を排出するための第二出口ポート42と、を有する。本実施形態では、第一流体FL1は上述した冷媒であり、第二流体FL2は、凝縮器18と室外熱交換器24(例えば、冷却塔)との間で第二水ライン14を流れる水を含む液体である。こうして、第一入口ポート36および第一出口ポート38は、冷却回路に接続される。凝縮器18の第二入口ポート40および第二出口ポート42は、第二水ライン14に接続される。
【0022】
蒸発器16の第一熱交換器プレート26と同様に、凝縮器の第二熱交換器プレート28はステンレス鋼で形成されるが、本発明は、ステンレス鋼を第二熱交換器プレート28の材料として用いることに限定されない。いくつかの実施形態では、溝、s溝(螺旋溝)Sおよび/またはr溝(放射状溝)Rは、切削工具を用いて形成される。切削工具の先端角度は、例えば、30度または60度とすることができる。なお、本発明は、s溝および/またはr溝を形成するのに切削工具を用いることには、特に限定されない。いくつかの実施形態では、少なくとも一つの第二熱交換器プレート28の少なくとも一方の側面は、s溝とr溝の両方を有する。いくつかの実施形態では、それぞれの第二熱交換器プレート28の一方の側面に、30度切削工具によってs溝が形成される。
【0023】
いくつかの実施形態では、TP2,TP3,TP4のs溝は、ピッチまたは間隔が約500μmで、深さが約500μmで形成される。なお、他の深さおよびピッチを用いることも可能である。好ましくは、深さは100~1000μmの範囲内であり、ピッチは100~1000μmの範囲内である。いくつかの実施形態では、80本のr溝が、25μmの深さで周方向に略等間隔に形成される。なお、異なる数のr溝を異なる深さで形成することもできる。好ましくは、形成されるr溝の数は60~100の範囲内であり、r溝の深さは10~50μmの範囲内である。
【0024】
図8~
図10を参照して、いくつかの実施形態においては、面加工(すなわち、粗くする加工、またはs溝および/またはr溝)に加えて、第一熱交換器プレート26および第二熱交換器プレート28のそれぞれを、プレートの表面を横断する平行な起伏又は隆起(リッジ)46を有するよう形成される。これらのしわ46は、プレートの剛性を高めるよう機能する。
図10Aおよび
図10Bに示す通り、起伏46は、丸みを付けた断面形状またはある角度で折り曲げられた断面形状を有することができる。いくつかの実施形態では、プレート26および28のそれぞれには、また、プレート・パック32内の入口通路および出口通路を形成する二つの開口部48,50が形成される。構成する際に、開口部48、50が互いに整列し、二枚のプレートが開口部48,50の円周の周囲に形成される溶接によって一体に溶接されるよう、プレートの各組をカセット52(
図2、6および8を参照)として一体に結合することができる。その後、カセット52は、プレート・パック32を形成するよう、一体に溶接される。いくつかの実施形態では、カセット52の内部プレート面がそのままの状態とされる(加工されない)。
図9Aおよび
図9Bは、三つの隣接するカセット52に形成される開口部48または50の一方の溶接縁部を示している。熱交換器プレート(第一熱交換器プレート26または第二熱交換器プレート28)の開口部48および50は、蒸発器16または凝縮器18の第二入口ポート40および第二出口ポート42にそれぞれ接続される。
【0025】
先に記載した通り、蒸発器16の第一熱交換器プレート26の少なくとも一つにおいて、側面26a,26bのうちの少なくとも一方の表面は、5μm~100μm間の表面粗さに加工されている。以降でより詳細に説明する通り、表面粗さを5μm~100μmの間とすることができ、流体と熱交換器プレート26の表面との間に伝熱係数を増加させるのに役立つ。好ましくは、少なくとも一つの熱交換器プレート26の少なくとも一方の側面の表面粗さは、5μm以上50μm以下である。より好ましくは、少なくとも一つの熱交換器プレート26の少なくとも一方の側面の表面粗さは、9μm以上50μm以下である。一般的に、伝熱性能は粗さの増加とともに向上する。しかしながら、それぞれの第一熱交換器プレート26の厚みは、一般的に、0.3mm~0.5mm(300~500のμm)の間にある。このため、100μm以上の粗さを達成することは、第一熱交換器プレート26の厚みと比較するとかなりの量の材料を除去することを意味する。場合によっては、これにより、コスト増加や、第一熱交換器プレート26の構造的一体性を損なうなどの欠点となり得る。
【0026】
好ましくは、表面加工は、伝熱性能の増加が求められる第一熱交換器プレート26(または第二熱交換器プレート28)のすべての表面に、適用される。一方、いくつかの実施形態においては、伝熱性能の向上が必要でない熱交換器プレート26または28の表面への表面加工は省略することも可能である。言い換えれば、伝熱性能を向上させる必要性は、特定の用途およびシェルアンドプレート熱交換器を通って流れる流体に応じて変化することになる。このため、動作の際に、第一流体FL1(冷媒)と接するよう配置される第一熱交換器プレート26の表面上の第一面粗さを提供するとともに、第二流体FL2(液体)と接するよう配置される第一熱交換器プレート26の反対の面には、第一面粗さと異なる第二面粗さを提供することができる。例えば、第一面粗さを第二面粗さより大きくすることができる。同様に、第一面粗さおよび第二面粗さを、それぞれ、すべての第一熱交換器プレート26の二つの面に提供することもできる。好ましくは、冷媒と接するよう配置される複数の第一熱交換器プレート26の側面のうちの少なくとも一方に適用される第一面粗さは、5μm~100μmの間の面粗さである。さらにより好ましくは、第一面粗さは少なくとも9μmであり、そして、第二面粗さは9μm未満である。本実施形態では、冷媒と接するそれぞれの第一熱交換器プレート26の側面には約9μmの面粗さが適用され、第一熱交換器プレート26の側面のうち液体と接する面はそのままの状態とする。ここで、「そのままの状態」とは、表面粗さが1μmより小さい、表面が加工されていない比較的滑らかな状態を意味する。同様に、本実施形態では、冷媒と接する、それぞれの第二熱交換器プレート28の側面は、30度カッターによって形成されるs溝を有し、それぞれの第二熱交換器プレート28の反対側の側面はそのままの状態である。
【0027】
より詳細に説明する通り、本願の発明者らは、冷媒と接する蒸発器16の第一熱交換器プレート26の側面の表面が5μm~100μmの間の表面粗さとなるよう加工された場合に、伝熱性能が向上することを見出した。冷媒と接する蒸発器16の第一熱交換器プレート26の表面に表面粗さを設けることによって、シェルアンドプレート熱交換器10が10~30kW/m2の熱流束で動作するときに1.5~4.0kW/m2・℃の沸騰伝熱係数を得ることができる。より具体的には、約10kW/m2の熱流束において約1.5kW/m2・℃の沸騰伝熱係数を得ることができ、約30kW/m2の熱流束において約3.5~4.0kW/m2・℃の沸騰伝熱係数を得ることができる。また、凝縮器18の第二熱交換器プレート28の、冷媒と接する側面の表面に、30度切削工具によってs溝を形成するよう加工したときにも、伝熱性能が向上する。
【0028】
次に、上述した例示の実施形態の特徴を導き出した実験の結果を説明する。
図11に示す通り、6つの異なる表面構成を有する6枚の試験プレートを準備し、それらを用いて蒸発および凝縮の際の伝熱性能を試験した。第一試験プレートTP1は、粗さが0.44μmである、そのままの状態の滑らかな表面を有する。第二試験プレートTP2は、60度カッターによって形成される螺旋溝(「s溝」)と、放射状溝(「r溝」)と、の両方が形成された加工表面を有する。第三試験プレートTP3は、60度カッターによって形成される螺旋溝が形成された加工表面を有する。第四試験プレートTP4は、30度カッターによって形成される螺旋溝が形成された加工表面を有する。第五試験プレートTP5は、粗さが9.02μmに加工された表面を有し、第六試験プレートTP6は、粗さが6.18のμmに加工された表面を有する。粗さの値は、Ra粗さパラメータに基づく。TP5およびTP6の粗面は、サンドブラストによって形成された。すべての試験プレートの厚さは0.5mmである。
【0029】
試験には、種々の試験液体の蒸発(沸騰)および凝縮に関する、熱流束値が0~30kW/m2の範囲での試験プレートの試験表面における伝熱係数HTCの評価が含まれる。試験流体には、冷媒としてのR1233zd(E)と、液体媒体としての水が含まれる。試験は、オープンフェイス状態の試験プレートで、加えて、シールドを試験プレートの表面の近傍に所定の隙間を空けて配置して、シェルアンドプレート熱交換器内部の条件をシミュレーションするよう行った。広範囲に行った試験から、冷媒と接する表面に粗さを適用することによって、蒸発の結果が改善されることが分かった。一方、30度切削工具で螺旋溝を形成することによって、凝縮の結果が改善されることが分かった。液体媒体(水)と接する熱交換器プレートの側面に対する表面加工は、蒸発および凝縮の場合の両方において、あまり重要でないことが分かった。
【0030】
図12および
図13は、それぞれ、蒸発(沸騰)および凝縮に関する試験結果をまとめたものである。
図12に示すように、蒸発に関しては、最も高い伝熱係数は、粗さが9.02μmとなるよう加工された試験プレートTP5で得られた。具体的には、10~30kW/m
2の熱流束において、沸騰伝熱係数は約1.5~4kW/m
2・℃であった。このことから、TP5で得られる伝熱係数は、そのままの状態の試験プレートTP1で得られる伝熱係数の少なくとも二倍大きい。また、他の試験プレートT2~T4およびT6も、プレート試験プレートTP1に対して改善が見られた。理論に縛られることなく、より高い伝熱係数が、TP5よりも粗さの値が高くなる表面加工によって得られる可能性が期待される。しかしながら、上述した通り、粗さの値をより大きくすることにより、サンドブラスト時間も長くなり、サンドブラストに用いる砂(サンド)の消費も増え、かつ/または、伝熱プレートから無駄な材料が取り除かれることから、コストは高くなる。
【0031】
図13に示すように、凝縮に関しては、最も高い伝熱係数は、30度カッターで螺旋溝が形成された試験プレートTP4で得られた。具体的には、10~20kW/m
2の熱流束において、沸騰伝熱係数は約5.4~3.2kW/m
2・℃であった。このことから、TP4で得られる伝熱係数は、そのままの状態の試験プレートTP1で得られる伝熱係数の少なくとも1.5倍大きい。また、試験プレートTP3も結果は良好であった。一方、凝縮の場合には、表面加工(TP5およびTP6)として表面粗さを用いることでは、そのままの状態の試験プレートTP1に対して十分な改善が得られなかった。
【0032】
蒸発器16において表面加工としての表面粗さを利用し、凝縮器18において表面加工としてs溝(螺旋溝)を利用することによって、例示の実施形態にかかる水冷チラー10は性能が向上する。いくつかの実施形態では、水冷チラー10は、蒸発器および凝縮器としてシェル・チューブ熱交換器の代わりにシェルアンドプレート熱交換器を用いることにより、サイズをコンパクトにできるとともに、冷媒量を低減できる。同時に、水冷チラー10の実施形態は、これらの利点を得るために、熱交換器性能を犠牲にしない。一方の流体が冷媒であり、他の流体が水を含む液体である応用例をいくつかの実施形態で記載したが、本発明にかかるシェルアンドプレート熱交換器は特に流体のこの組合せには限定されない。また、本発明にかかるシェルアンドプレート熱交換器は、チラー用途に特に限定されず、蒸発器または凝縮器以外の器材として用いることもできる。
【0033】
<用語の概括的な説明>
本発明の範囲の理解において、ここで用いられる用語「備える」およびその派生語は、記載された特徴、要素、構成要素、群、一体物、および/またはステップが有ることを明記しているオープンエンドの用語を意味するのであって、記載されていない特徴、要素、構成要素、群、一体物、および/またはステップが有ることを排除するものではない。上記は、用語「有する」、「含む」およびそれらの派生語など同様の意味を持つ語にも当てはまる。また、単数形的に用いられる用語「部分/部品(パート)」、「部分(セクション)」、「部/部分(ポーション)」、「部材」あるいは「要素」は、単一のパートあるいは複数のパーツの2つの意味を持ちうる。
【0034】
コンポーネント、装置の部(セクション)あるいは部品/部分(パート)を説明するためにここで用いられる語「構成される(コンフィギュアされる)」は、所望の機能を実現するよう構築される(コンストラクトされる)かつ/またはプログラムされるハードウェアおよび/またはソフトウェアを含む。
【0035】
ここでは、「ほぼ」、「およそ」、「約」といった程度を示す用語は、最終結果が大きく変わらないような、妥当な変形の条件の変更量を意味するものとして用いる。
【0036】
本発明の説明のためにいくつかの実施例が選択されたに過ぎず、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の変更、変形ができることは、本開示から当業者には明らかであろう。例えば、必要に応じておよび/または所望により、種々の構成要素の大きさ、形状、配置、向きを変更できる。互いと直接的に連結あるいは接触するよう示した構成要素は、それらの間に中間構造体を有することができる。一つの要素の機能は二つによって達成することができ、またその逆の場合も同様である。一の態様の構造および機能を他の態様に適用することもできる。すべての利点が必ずしも同時に特定の態様にもたらされる必要はない。先行技術から区別されるそれぞれの特徴は、それ単独として、あるいは他の特徴と組み合わせとして、そのような特徴により実施される構造的あるいは機能的思想を含む出願人によるさらなる発明の内容として付帯的に考慮されるものとする。このように、前述の本発明にかかる実施例の説明は単なる例示であって、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって決められる本発明を限定するものではないことは、本開示から当業者には明らかであろう。
【国際調査報告】