(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】歯周病及びインプラント周囲疾患の予防及び処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/722 20060101AFI20240227BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240227BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A61K31/722
A61P1/02
A61K9/06
A61K47/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557183
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 EP2022056801
(87)【国際公開番号】W WO2022194921
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514119292
【氏名又は名称】ラブリダ・アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カスパル・ヴォールファールト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB22
4C076CC16
4C076EE37P
4C076FF35
4C086AA01
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4C086MA01
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4C086MA03
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4C086MA05
4C086MA27
4C086MA57
4C086NA14
4C086ZA67
(57)【要約】
本文書は、歯科の分野、並びに口腔炎症及び/若しくは口腔感染の処置及び予防、並びに/又は任意選択でキトサンを含む剛毛を有するブラシと任意選択で組み合わせてキトサンゲルを使用することによる歯内処置における使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染の処置及び/若しくは予防における使用のための、並びに/又は歯内処置における使用のためのキトサンを含むヒドロゲルであって、前記ヒドロゲルが、約2.5~約5.2のpHを有する、使用のためのキトサンを含むヒドロゲル。
【請求項2】
前記口腔炎症状態及び/又は口腔感染が、歯周病、インプラント周囲疾患、口腔創傷及び/又はアフタ性病変である、請求項1に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項3】
前記歯周病が、歯肉炎、口腔粘膜炎及び/又は根尖性歯周炎等の歯周炎である、請求項2に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項4】
前記インプラント周囲疾患が、インプラント周囲粘膜炎及び/又はインプラント周囲炎である、請求項2に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項5】
前記口腔感染が、細菌、ウイルス及び/又は真菌感染である、請求項1に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項6】
前記ヒドロゲルが、約2.5~約7.0、例えば、約3~約6、約2.5~約6、約2.5~約5.2、約2.5~約5.0、約2.5~約4.5、約2.5~約4、約2.5~約3.8、約3~約4.5、約3~約4、約3.2~約3.8、又は約2.5~約3.5のpHを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項7】
前記ヒドロゲルの粘度が、約50~約3000mPaS、例えば、約500~約3000又は約50~約2000mPaS、又は、約100~約2000mPaSである、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項8】
キトサンの濃度が、約2wt%~約10wt%、例えば約3wt%~約9wt%、例えば約2wt%~約6wt%、例えば約2wt%~約5wt%、例えば約3wt%~約6wt%、例えば約3wt%~約5wt%、例えば約3.5wt%~約4.5wt%、例えば約4wt%である、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項9】
前記キトサンの分子量が、50~1000kDa、例えば50~600又は50~400kDaである、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項10】
前記ヒドロゲルが、抗生物質等の追加の抗菌剤及び/又は架橋剤を含まない、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項11】
前記ヒドロゲルが、濃度1wt%~10wt%の酢酸、濃度0.5wt%~10wt%のヒアルロン酸、濃度0.5wt%~4wt%のギ酸、濃度0.5wt%~10wt%のオレアノール酸、及び濃度0.5wt%~10wt%の乳酸からなる群から選択される酸のうちの1つ又は複数から選択される酸を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項12】
前記ヒドロゲルが、溶媒としての水及び/又はエタノール等のアルコール、キトサン、クロルヘキシジン、過酸化水素、ヨウ素、並びにpH調整剤、例えば酢酸、ヒアルロン酸、ギ酸、オレアノール酸、及び乳酸からなる群から選択される酸のうちの1つ又は複数、からなる、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項13】
前記ヒドロゲルが、キトサン、水性溶媒、例えば水及び/又はアルコール(エタノール等)、並びに1つ又は複数のpH調整剤、例えば乳酸、酢酸、ギ酸、及び/又はオレアノール酸からなる、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項14】
前記ヒドロゲルが、キトサンを含む、又はキトサンからなる剛毛を含むブラシと一緒に使用される、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のためのヒドロゲル。
【請求項15】
口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染の処置及び/若しくは予防のための、並びに/又は歯内処置における使用のための医薬の調製における、請求項1から13のいずれか一項に規定のキトサンを含むヒドロゲルの使用。
【請求項16】
口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染を処置及び/若しくは予防するための方法、並びに/又は歯内処置における使用のための方法であって、請求項1から13のいずれか一項に規定のキトサンを含むヒドロゲルを、それを必要とする患者の口腔表面、例えば歯、歯根、又は歯科用インプラント表面に塗布する工程を含む、方法。
【請求項17】
d)請求項14に規定のブラシ;
e)請求項1から13のいずれか一項に規定のヒドロゲル;
f)任意選択で、前記ヒドロゲルを歯の表面又は歯科用インプラント表面等の口腔表面に塗布するための注射器等のデバイス、を含むキット。
【請求項18】
請求項1から13のいずれか一項に規定のキトサンを含むヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科の分野、並びに特に歯周病及びインプラント周囲疾患、特に歯肉炎、粘膜炎、歯周炎及びインプラント周囲炎の処置及び予防、並びに歯内処置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用インプラントは、今日、解剖学的構造を置き換えるために、及び/又は、体の機能若しくは外見を修復するために、ヒトを含む脊椎動物に頻繁に埋め込まれている。
【0003】
医療用インプラントは、その用途に応じて種々の材料で作製することができる。材料の例としては、複合材料(間に化学結合を有さない混合材料)及び、任務を遂行すると体に吸収される生分解性材料が挙げられる。生分解性材料は、体に吸収されるだけでなく、むしろ体内で代謝され、最終生成物は、例えば水及び二酸化炭素の形態で、体内から完全に分泌、排泄、又は吐出される。シリコーン製インプラントは、軟組織部を置き換えるために使用することができる。ステンレス鋼は、骨折を修復するため又は関節の一部を置き換えるため等、高い機械的強度が必要な場合によく使用される強力な材料である。ポリエチレン製インプラントは、関節置換インプラントの一部に使用することができる。
【0004】
また、多くの医療用インプラント、例えば、歯科用インプラント、整形外科用インプラント、及び血管ステントは金属製である、すなわち金属材料で作成されている。金属製の医療用インプラントを構築するために一般的に利用される金属材料の例としては、鋼、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、及び、それらの合金が挙げられる。特に、チタン及びチタン合金は、医療用インプラントの構築に利用するのに好適であることが証明されている。これは、チタンが、生体適合性があり、体液中で優れた腐食耐性を有し、軽量且つ頑丈であるという事実のためである。
【0005】
歯科用インプラントは、1つ又は複数の歯を失っている患者における歯科修復手順において利用される。歯科用インプラントは、人口歯根置換として利用される歯科用固定具を備えている。したがって、歯科用固定具は、新しい歯の根として機能する。歯科用固定具は、典型的にはねじ形状である、すなわち、歯科用固定具は、ねじのねじ山を有している。インプラントは顎骨に外科的に埋め込まれ、その後、骨組織が、固定具の周囲で、最適には骨がインプラント表面と直接接触した状態で、成長する。インプラントを骨に一体化させるプロセスは、骨が埋め込まれた固定具の表面と直接接触して成長する場合、オッセオインテグレーション(osseointegration)と呼ばれている。オッセオインテグレーションにより、インプラントの堅固で永久的な設置が得られる。
【0006】
インプラントを使用している患者では、歯周炎様状態が、インプラント周囲炎と呼ばれる状態に進行する場合があり、これはインプラントの表面上に細菌のコロニー形成が行われることによって引き起こされる。この状態は、歯科用インプラントのより広範な使用とともに出現した新しい疾患実体である。これまでのところ、インプラント周囲炎を治癒するための予測可能な処置戦略は開発されておらず、現在利用可能な証拠に基づいた処置レジメンはない。感染は、例えば、口腔衛生が不十分な場合、細菌によって引き起こされる場合がある。インプラント周囲の組織での炎症は、処置せずに放置すると骨の損失を引き起こすことがあり、最終的にはインプラントの損失につながることがある。インプラントを使用している患者はまた、インプラント周囲粘膜炎と呼ばれる状態を発症しやすい。この状態は、インプラント周囲の粘膜に炎症の存在を伴うが、インプラント周囲炎患者において観察される骨損失とは対照的に、支持骨の損失の兆候はない。
【0007】
歯周病の処置は通常、細菌の沈着物及び歯石を除去することを伴う。これは通常、露出した根の表面を手作業で剥がし取り、歯肉縁の沈着物を含む細菌沈着物及び歯石を除去することによって行う。しかし、より深い歯周ポケットを処置するための完全なアクセスを達成することは困難であり、その結果、組織に再感染する場合のある細菌が残留することになる。そのため、処置は、歯のポケットを開いて歯を露出させる外科処置と多くの場合組み合わせる。次に、根を細菌の沈着物及び歯石から機械的に解放するだけでなく、肉芽組織及び細菌毒素も除去する。代替処置としては、創傷郭清及び下部罹患組織のすすぎ、抗生物質及び抗炎症薬による局所的又は全身的処置も挙げられる。
【0008】
インプラント周囲の細菌感染は、露出表面の創傷郭清と同様に処置する。
【0009】
更に、多くの場合、外科的に露出させた硬組織表面を創傷郭清することが有利であるか、又は必要である。例えば、外科的に露出させた硬組織表面の創傷郭清は、再生処置の前に行う、すなわち再生処置のために硬組織表面を準備するために行うのが有利であるか、又は必要であり得る。
【0010】
迅速な創傷郭清処置が、より良好な全体の処置転帰を確保するために重要である。加えて、全体の処置転帰は、創傷郭清処置中に使用される創傷郭清器具によって解剖学的構造にもたらされた損傷の程度にも依存する場合がある。更に、全体の処置転帰は、処置された表面上に創面切除器具によって残された汚染物質の残留物の量に依存する場合もある。汚染物質の残留物は、その有益な効果に対して不釣り合いな異物反応、毒性反応、又は炎症を引き起こす場合がある。
【0011】
加えて、インプラントを体内に埋入した後、インプラントの表面と周囲組織を、場合により洗浄する必要がある。このことは、感染又は汚染が発生した場合に特に重要である。これらの場合、疾患の進行を阻止し、インプラントの再度の一体化を可能にするために、不調のインプラントの表面から微生物及び汚染物質を除去する必要がある。安定な処置転帰を維持し、更なる疾患の進行を予防するために、インプラント表面は、患者自身と診療所の歯科医療従事者との両方によって、定期的に洗浄する必要もある。インプラント表面が十分に洗浄及び維持されていないと、疾患が進行し、最終的にはインプラントと顎骨等の周囲組織の両方を喪失する場合がある。
【0012】
金属製のインプラントを洗浄するために今日一般的に使用されている器具は、殆どの場合歯洗浄用に設計されており、歯根表面の完全な洗浄を提供するために、比較的硬くて鋭利である。このような洗浄器具は、例えば、ステンレス鋼、チタン、硬質合金、又は硬質ポリマーから作製することができる。これらの器具は、硬くて鋭利な洗浄器具で創傷郭清されたときに損傷し得る繊細な表面構造を有することが多い医療用及び/又は歯科用インプラントを洗浄するには、必ずしも好適であるとは限らないことがある。また、このような洗浄器具は、インプラント表面形態を破壊する場合があり、また、細菌が隠れて付着して、表面の除染が困難になり得る表面損傷を形成する場合がある。
【0013】
また、インプラント創面切除に今日用いられる洗浄器具は、医療用インプラント表面又はインプラント周囲組織に汚染物質の残留物を残してしまう。このような物質の残留物は、その有益な効果に対して不釣り合いな毒性反応若しくは異物反応、及び/又はその他の炎症反応を引き起こす可能性があり、これは、インプラント周囲疾患を更に拡大する場合があるため、インプラント取付具の更なる喪失を引き起こす可能性がある。
【0014】
歯周病は、歯の表面上に常に形成される膜である歯垢内の細菌によって引き起こされる。この疾患は非常に一般的であり;世界人口の70~90%の間が罹患していると推定されている。歯周病は、35歳超の人が歯を喪失する主な原因である。歯周病の最も一般的な形態は、歯肉炎及び歯周炎である。
【0015】
歯内感染を処置せずに放置すると、細菌が根管から周囲の骨及び軟組織に拡散する場合がある。細菌が拡大し、これを処置せずに放置すると、患者の罹患率が高い急性感染を引き起こす場合がある。ここでは、根管治療の転帰を向上させるための抗菌剤を開発する必要もある。
【0016】
WO2013072308は、剛毛がキトサンを含む歯科用洗浄器具を開示している。
【0017】
Mayerら(Clin Exp Dent Res. 2020;1~8.)は、歯の洗浄におけるキトサンブラシの使用について説明している。
【0018】
しかし、歯周病及び歯科用インプラントに関連する状態の処置及び予防を改善する必要がある。また、歯内処置用のより良好な抗菌剤も必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Mayerら(Clin Exp Dent Res. 2020;1~8.)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本文書は、口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染の処置及び/若しくは予防における使用のための、並びに/又は歯内処置における使用のための、キトサンを含むヒドロゲル(本明細書ではキトサンヒドロゲル等とも表す)を開示する。
【0022】
口腔炎症状態及び/又は口腔感染は、歯周病、インプラント周囲疾患、口腔創傷及び/又はアフタ性病変であり得る。歯周病の非限定的な例としては、歯肉炎、口腔粘膜炎並びに/又は辺縁性歯周炎及び根尖性歯周炎の両方を含む歯周炎が挙げられる。インプラント周囲疾患の非限定的な例としては、インプラント周囲粘膜炎及び/又はインプラント周囲炎が挙げられる。口腔感染は、細菌、ウイルス及び/又は真菌感染であり得る。
【0023】
キトサンヒドロゲルは、典型的には、約2.5~約7.0、例えば、約2.5~約6、約3~約6、約2.5~約5.2、約2.5~約5.0、約2.5~約4.5、約2.5~約4、約2.5~約3.8、約3~約4.5、約3~約4、約3.2~約3.8、又は約2.5~約3.5のpHを有する。
【0024】
キトサンヒドロゲルは、典型的には、約50~約3000mPaS、例えば約500~約3000又は約50~約2000mPaS、例えば約100~約2000mPaSの粘度を有する。
【0025】
キトサンヒドロゲル中のキトサンの濃度は、典型的には、約2wt%~約10wt%、例えば約3wt%~約9wt%、例えば約2wt%~約6wt%、例えば約2wt%~約5wt%、例えば約3wt%~約6wt%、例えば約3wt%~約5wt%、例えば約3.5wt%~約4.5wt%、例えば約4wt%である。
【0026】
キトサンの分子量は、典型的には50~1000kDa、例えば50~600又は50~400kDaである。
【0027】
キトサンヒドロゲルの脱アセチル化度は、典型的には68%~99.9%の間であり、典型的には85%~99%の間、例えば少なくとも80%又は少なくとも90%又は98%である。
【0028】
キトサンヒドロゲルは、酢酸、ヒアルロン酸、ギ酸、オレアノール酸、及び乳酸からなる群から選択される酸のうちの1つ又は複数から選択される酸を含み得る。
【0029】
ギ酸の濃度は、0.5wt%~10wt%、例えば0.5wt%~4wt%であってもよい。
【0030】
ヒアルロン酸の濃度は、0.5wt%~10wt%、例えば0.5wt%~4wt%であってもよい。
【0031】
オレアノール酸の濃度は、0.5wt%~10wt%、例えば0.5wt%~4wt%であってもよい。
【0032】
乳酸の濃度は、0.5wt%~10wt%、例えば0.5wt%~4wt%であってもよい。
【0033】
酢酸の濃度は、1wt%~10wt%、例えば2wt%~10wt%であってもよい。
【0034】
キトサンヒドロゲルは、例えば、溶媒としての水及び/又はエタノール等のアルコール、キトサン、クロルヘキシジン、過酸化水素、ヨウ素、並びにpH調整剤、例えば酢酸、ヒアルロン酸、ギ酸、オレアノール酸、及び乳酸からなる群から選択される酸のうちの1つ又は複数、からなってもよい。キトサンヒドロゲルは、例えば、代替的に、溶媒としての水及び/又はエタノール等のアルコール、キトサン、過酸化水素、ヨウ素、並びにpH調整剤、例えば酢酸、ギ酸、オレアノール酸、及び乳酸からなる群から選択される酸のうちの1つ又は複数、並びに任意選択で添加剤、例えばヒアルロン酸及びオレアノール酸、からなってもよい。或いは、ヒドロゲルは、キトサン、水性溶媒、例えば水及び/又はアルコール(エタノール等)、並びに1つ又は複数のpH調整剤、例えば乳酸、酢酸、ギ酸、及び/又はオレアノール酸からなってもよい。
【0035】
本文書は、本明細書においてそのように定義されるキトサンヒドロゲルにも関する。
【0036】
キトサンヒドロゲルは、キトサンを含む、又はキトサンからなる剛毛を含むブラシと一緒に使用することができる。ブラシは、回転ハンドピース、振動ハンドピース、又は超音波ハンドピース用の挿入部を備えていてもよい。
【0037】
本文書はまた、口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染を処置及び/若しくは予防するための方法、並びに/又は歯内処置における使用のための方法であって、本明細書に定義されるキトサンヒドロゲルを、それを必要とする患者の口腔表面、例えば歯、歯根の内部若しくは外部、又は歯科用インプラント表面に塗布する工程を含む、方法を開示する。この方法は、本明細書で定義されるブラシを用いて、前記ヒドロゲルが塗布された前記口腔表面を処置する工程を更に含んでもよい。
【0038】
本文書はまた、口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染の処置及び/若しくは予防のための、並びに/又は歯内処置における使用のための、医薬の製造のための、本明細書で定義されるキトサンヒドロゲルも開示する。
【0039】
本文書は、
a)キトサンを含む剛毛を備えたブラシ;
b)本明細書で定義されるキトサンヒドロゲル;
c)任意選択で、前記ヒドロゲルを歯の表面又は歯科用インプラント表面等の口腔表面に塗布するための注射器等のデバイス、を含むキットも開示する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】15分間隔で目視検査した試験群1(pH3.48)の溶解度を示す図である。
【
図2】15分間隔で目視検査した試験群1(pH4.0)の溶解度を示す図である。
【
図3】選択された時点での
図1及び
図2の結果を拡大した図である。
【
図4】18時間後の目視検査での繊維溶解度を示す図である:試験群1(左上)、試験群2(左中)、陰性対照:pH7の水(右上)、pH6.8のヒト唾液(右中)及びEDTA(下、左から右へ:a)ベースライン、b)105分、c)150分)。
【
図5】実施例5の群1の結果を示す図である:陽性対照、未処理インプラント。
【
図6】実施例5の群2の結果を示す図である:キトサンブラシ単独。
【
図7】実施例5の群3の結果を示す図である:pH3.86の4%キトサンゲルを伴う、キトサンブラシ。
【
図8】実施例5の群4の結果を示す図である:pH3.86の90%乳酸を伴う、キトサンブラシ。
【
図9】実施例5の群5の結果を示す図である:pH3.86の4%キトサンゲルを伴う、キトサンブラシ+滅菌生理食塩水でのすすぎ。矢印はアーチファクト、すなわちコインを生理食塩水ですすぐ前に寒天プレート上に滴下したゲルを示している。
【
図10】実施例5の群6の結果を示す図である:pH5.83の4%キトサン単独を伴う、キトサンブラシ。
【
図11】実施例5の群7の結果を示す図である:pH3.86の4%滅菌(オートクレーブ処理)キトサンゲルを伴う、キトサンブラシ。
【発明を実施するための形態】
【0041】
特に別途明記しない限り、本明細書におけるすべての百分率は質量/質量である。
【0042】
本文書は、単独で、又はキトサン等の生体吸収性ポリマーを含む剛毛を含む器具と組み合わせて、口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染の処置及び/若しくは予防における使用のための、並びに/又は歯内処置における使用のためのキトサンを含むヒドロゲル(本明細書ではキトサンヒドロゲルとも表す)に関する。本文書はまた、キトサンヒドロゲル自体、並びにキトサンヒドロゲルと、キトサンを含む剛毛を有する創面切除及び/又は洗浄器具とを含むキットにも関する。
【0043】
キトサンヒドロゲル
本文書によるヒドロゲルは、キトサンを含む。キトサンは、ランダムに分布したβ-(1→4)-結合D-グルコサミン(脱アセチル化単位)及びN-アセチル-D-グルコサミン(アセチル化単位)で構成される直鎖状多糖である。キトサンは通常、エビの殻に由来する。
【0044】
本明細書に開示されるキトサンヒドロゲルは、歯周病の処置及び/若しくは予防に使用する場合、並びに/又は歯内処置に使用する場合に、いくつかの利点を有する。キトサンヒドロゲル自体には抗菌効果及び抗炎症効果がある。キトサンヒドロゲルを歯又はインプラントの表面等の表面に塗布すると、キトサンヒドロゲルは、細菌等の微生物の増殖を防ぐことができ、上皮が成長して歯の表面(歯若しくは根等)又はインプラントと接触するまでの時間を与える。抗生物質とは対照的に、キトサンヒドロゲルに対する耐性が発生するリスクはない。更に、抗菌効果に加えて、キトサンヒドロゲルは、処置された表面及び/又はその近くの表面に対して抗炎症効果を及ぼすことができる。
【0045】
本文書のキトサンヒドロゲルは、典型的には、約2.5~約7.0、例えば、約2.5~約6、約3~約6、約2.5~約6、約2.5~約5.2、約2.5~約5.0、約2.5~約4.5、約2.5~約4、約2.5~約3.8、約3~約4.5、約3~約4、約3.2~約3.8、又は約2.5~約3.5のpHを有する。
【0046】
キトサンヒドロゲルの酸性pHは、根又はインプラント表面等の口腔表面に適用すると、これによりバイオフィルム、損傷した上皮の除去がもたらされ、且つ/又は結合組織の成長が刺激される。キトサンと低pHの組み合わせにより、キトサン又は酸を単独で使用した場合よりも優れた洗浄、抗菌、及び/又は抗炎症効果が提供される。キトサンヒドロゲルのpH選択により、pHが体への適用が苦痛になるほど低くなくても、良好な抗菌活性を得ることが可能になる。
【0047】
キトサンヒドロゲルのpHは、典型的には、酸等のpH調整剤の存在によって調整される。pHの調整に好適な酸の例は、酢酸、ヒアルロン酸、ギ酸、オレアノール酸、及び乳酸である。典型的には、ギ酸及び/又はオレアノール酸は、酢酸、ヒアルロン酸及び/又は乳酸と組み合わせる。酢酸、ヒアルロン酸及び/又は乳酸は、キトサンの適切な溶解を保証する。ギ酸及び/又はオレアノール酸は、これらの酸が優れた抗菌効果を発揮しながらも強すぎず、したがって身体表面に安全に適用することができるため、キトサンヒドロゲルに使用するのに有利である。キトサンヒドロゲル中のギ酸、オレアノール酸、乳酸及びヒアルロン酸の濃度は、典型的には0.5wt%~10wt%、例えば0.5wt%~4wt%である。酢酸の濃度は、典型的には、単独で使用する場合は、2wt%~10wt%であり、ギ酸、オレアノール酸、乳酸及び/又はヒアルロン酸と組み合わせて使用する場合は1wt%~10wt%である。
【0048】
キトサンヒドロゲルは、塗布された表面に留まることができる粘度を有する。典型的には、粘度は、約50~約3000mPaS、例えば約500~約3000又は約50~約2000mPaS、例えば約100~約2000mPaS、すなわち0.05~3Ns/m2、0.5~3Ns/m2、0.05~2Ns/m2、又は0.1~2Ns/m2である。これにより、キトサンヒドロゲルは、歯の表面又はインプラント表面等の処置された表面に結合し、ゆっくりと分解して、したがって長期間その効果を発揮する。キトサンヒドロゲルの粘度が高すぎると、非常に粘稠になり、ゲルを塗布するのが困難になり、塗布された表面上で正しく分散できなくなる。しかし、本明細書に開示されるキトサンヒドロゲルは、多量のキトサンとともに低いpHを提供することによって、キトサンゲルを表面に効率的に送達することができる。更に、指定された粘度により、キトサンヒドロゲルが塗布された表面上に数日間、更には数週間も留まることが可能になる。
【0049】
キトサンヒドロゲル中のキトサンの濃度は、典型的には、約2wt%~約10wt%、例えば約3wt%~約9wt%、例えば約2wt%~約6wt%、例えば約2wt%~約5wt%、例えば約3wt%~約6wt%、例えば約3wt%~約5wt%、例えば約3.5wt%~約4.5wt%、例えば約4wt%である。キトサンの分子量は、典型的には約50~約1000kDa、例えば約50~約600又は約50~約400kDaである。分子量が低いほど、より優れた抗菌効果が得られる。しかし、十分に高い粘度を有するヒドロゲルを形成することが不可能となるため、分子量は低すぎることができない。
【0050】
キトサンヒドロゲルの粘度は、キトサン濃度とキトサンの分子量の両方に依存する。キトサンの濃度が高いほど、及び/又はキトサンの分子量が高いほど、粘度は高くなる。
【0051】
キトサンヒドロゲルは、典型的には水性であり、水及び/又はエタノール等のアルコールから選択される溶媒を含有する。エタノール等のアルコールを加えると、ヒドロゲル内のキトサンの濃度を高める(キトサンヒドロゲルの塗布が困難になる可能性がある)必要がなく、キトサンヒドロゲルが塗布される表面上のキトサン濃度を増加させることができる。この理由は、キトサンヒドロゲルを表面に塗布した後、アルコールが急速に蒸発し、それによってキトサンヒドロゲルのキトサン濃度がより高く、粘稠度がより高くなるからである。これにより、キトサンヒドロゲルは、それが塗布される表面上に、より容易に留まる。以下に開示されるように、キトサンヒドロゲルが塗布される表面上のキトサンの濃度はまた、キトサンを含む剛毛を有するブラシで表面を処理することによって増加させることもできる。アルコールの使用によって、例えば、4wt%のキトサンヒドロゲル中のキトサンの濃度を、それが適用される表面上で8wt%に増加させることができる。表面をキトサンを含む剛毛を有するブラシで処理する場合、処理された表面上のキトサンの濃度は場合により15wt%まで増加し得る。
【0052】
キトサンヒドロゲルは、抗生物質及び/又はクロルヘキシジン等の追加の抗菌剤を含まなくてもよい。キトサンヒドロゲルは架橋剤を含まなくてもよい。
【0053】
本文書のキトサンヒドロゲルは、キトサン、クロルヘキシジン、過酸化水素、ヨウ素、水性溶媒、例えば水及び/又はアルコール(エタノール等)、並びに1つ又は複数のpH調整剤、例えば、酢酸、ヒアルロン酸、ギ酸、オレアノール酸、及び乳酸からなる群から選択される酸のうちの1つ又は複数、からなってもよい。キトサンヒドロゲルは、例えば、代替的に、溶媒としての水及び/又はエタノール等のアルコール、キトサン、過酸化水素、ヨウ素、並びにpH調整剤、例えば酢酸、ギ酸、オレアノール酸、及び乳酸からなる群から選択される酸のうちの1つ又は複数、並びに任意選択で添加剤、例えばヒアルロン酸及びオレアノール酸、からなってもよい。キトサンヒドロゲルの一例は、水、キトサン、クロルヘキシジン、過酸化水素、ヨウ素、酢酸、及びギ酸及び/又はオレアノール酸を含むか、又はそれらからなる。本文書のキトサンヒドロゲルの別の例は、水、キトサン、過酸化水素、ヨウ素、酢酸、及びギ酸及び/又はオレアノール酸を含むか、又はそれらからなる。キトサンヒドロゲルの別の例は、水、エタノール、キトサン、クロルヘキシジン、過酸化水素、ヨウ素、酢酸、及びギ酸及び/又はオレアノール酸を含むか、又はそれらからなる。キトサンヒドロゲルの別の例は、水、エタノール、キトサン、過酸化水素、ヨウ素、酢酸、及びギ酸及び/又はオレアノール酸を含むか、又はそれらからなる。キトサンヒドロゲルの更に別の例は、エタノール、キトサン、クロルヘキシジン、過酸化水素、ヨウ素、酢酸、及びギ酸及び/又はオレアノール酸を含むか、又はそれらからなる。キトサンヒドロゲルの別の例は、エタノール、キトサン、過酸化水素、ヨウ素、酢酸、及びギ酸及び/又はオレアノール酸を含むか、又はそれらからなる。例えば、キトサンヒドロゲルは、キトサン、水性溶媒、例えば水及び/又はアルコール(エタノール等)、並びに1つ又は複数のpH調整剤、例えば乳酸、酢酸、ギ酸、及び/又はオレアノール酸からなってもよい。本文書のキトサンヒドロゲルの別の例は、水性溶媒、例えば水及び/又はアルコール(例えばエタノール)、濃度約4%のキトサン、及び乳酸からなり、キトサンヒドロゲルのpHは約3.5~約4、例えば約3.8である。
【0054】
キトサンヒドロゲルの別の例は、水性溶媒、例えば水及び/又はアルコール(例えばエタノール)、キトサン、ジグルコン酸クロルヘキシジン、デキサンテノール(dexanthenol)、及びアラントインを含むか、又はそれらからなる。
【0055】
キトサンヒドロゲルはまた、安定剤、例えばグリセリン、尿素、アスコルビン酸、ソルビン酸カリウム又はポリソルベート20、トコフェロール及び/又はコラーゲンを含んでもよい。
【0056】
キトサンヒドロゲルに使用されるキトサンの脱アセチル化度は、典型的には68%~99.9%の間、及び典型的には85%~99%の間である。脱アセチル化度は、例えば少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%又は98%であり得る。これにより、好適な抗菌効果が提供される。更に、この脱アセチル化度により、処理される表面に塗布されると、キトサンゲルの好適な分解速度及び/又はより優れた静菌効果がもたらされる。
【0057】
キトサンヒドロゲルの調製
本明細書に開示されるキトサンヒドロゲルは、典型的には、pH調整剤でpHを調整することによって調製された水(滅菌水等)及び/又はアルコール等の酸性水性溶媒中に適格な量のキトサンを溶解することによって調製する。
【0058】
溶液は、典型的には、約1~3時間、例えば約2時間等のしばらく間撹拌する。同時に、溶液を約50℃の温度までゆっくり加熱してもよい。
【0059】
次に、例えばブフナー漏斗及び真空チャンバーを使用する等、125μm PEフィルター等の滅菌フィルターで濾過することによって混合溶液中の潜在的な不純物を除去する。
【0060】
次に、溶液を最初に約20分間超音波処理し、次に約20℃まで冷却することができる。
【0061】
無菌性は、例えば、一次パッケージングであるキャップ付きガラスバイアル内の溶液を蒸気滅菌することによって得られる。例えば、プロセス保持温度が≧121℃で≧15分間の蒸気滅菌サイクル(Ph.Eur.5.1.1参照サイクル)。
【0062】
キトサンを含む剛毛を有するブラシによるキトサンヒドロゲルの使用
本文書は、
a)キトサンを含む、又はキトサンからなる剛毛を含む、本明細書に定義されるブラシ;
b)本明細書で定義されるキトサンヒドロゲル;
c)任意選択で、前記ヒドロゲルを口腔表面に塗布するための注射器等のデバイス、
を含むキットにも関する。
【0063】
ブラシは、キトサンを含む、又はキトサンからなる剛毛を含む。
【0064】
剛毛の長さは0.5~50mmであってもよい。剛毛とは別に、洗浄用の他の構造、例えばフィラメント又は生体吸収性ポリマーで作成された他の柔軟な要素も実現可能である。このような要素は、本明細書では「剛毛」等の用語によって包含される。
【0065】
ブラシは、洗浄部及び把持部を備えていてもよい。把持部は、回転ハンドピース、振動ハンドピース、又は超音波ハンドピース等のモーター駆動デバイスにブラシを取り付けるための手段を有していてもよい。
【0066】
ブラシは、典型的には、生体吸収性ポリマーを含む、又はそれからなる剛毛がワイヤーの間に撚り入れられているツイストインワイヤーブラシである。ブラシは、回転ハンドピース、振動ハンドピース、又は超音波ハンドピース用の挿入部を備えていてもよい。
【0067】
本文書に従って使用するのに好適なブラシの例は、WO2013072308に開示されている。ブラシの具体例は、Labrida BioClean(登録商標)ブラシ(Labrida AS社、Slemdalsveien1、0369Oslo、Norway)である。Labrida BioClean(登録商標)ブラシは、スチールワイヤーの間にキトサン剛毛を撚り入れたツイストインワイヤーブラシであり、回転ハンドピース、振動ハンドピース、又は超音波ハンドピース用の挿入部を備えている。
【0068】
ブラシは、創面切除、歯、及び/又はインプラント洗浄器具と呼ばれることもある。
【0069】
ブラシのキトサン剛毛に使用されるキトサンの脱アセチル化度は、典型的には少なくとも50%である。
【0070】
本明細書で定義されるキトサンヒドロゲルと本明細書で定義されるブラシとを組み合わせて使用すると、処理される表面の洗浄及び/又は創面切除が改善される。例えば、微生物、バイオフィルム、並びに/又は感染組織、炎症組織、及び/若しくは死んだ組織は、処理された表面から効率的に除去される。更なる利点は、本明細書の他の箇所で開示される。
【0071】
更に、本明細書に開示されるキトサンヒドロゲルが本明細書に定義されるブラシとともに使用される場合、特に剛毛がキトサンを含むか、若しくはキトサンからなる場合キトサンゲルは、器具の使用中に緩む場合がある剛毛を溶解し、このことにより本体からの緩んだ剛毛がより迅速に除去されることとなり、及び/又はこのことは本明細書の他の箇所で説明するように、処理された表面の周囲のキトサン濃度の増加に寄与する。生体吸収性ポリマーを含まない他の洗浄器具を使用すると、緩んだ剛毛が体内に残るリスクがあり、このことは、例えば治癒を妨げ、炎症及び/又はアレルギー等の望ましくない反応を引き起こす可能性がある。前述のように、本文書のキトサンヒドロゲルを、キトサンを含む、又はキトサンからなる剛毛を有するブラシと組み合わせると、表面の効率的な処理が得られるとともに、キトサン剛毛に対するキトサンヒドロゲルの溶解効果により、体内に残る剛毛の緩んだ部分が回避される。また、本明細書の他の箇所で開示されているように、キトサンヒドロゲルと、キトサンを含む、又はキトサンからなる剛毛を備えたブラシとを組み合わせて使用すると、使用中に剛毛が溶解することが可能になり、したがって、実際に取り扱い可能な濃度よりもヒドロゲル中のキトサン濃度を高める必要がなく、更に大量のキトサンを処置部位に送達することが可能になる。対照的に、キトサンの量が多すぎるキトサンヒドロゲルは、粘度が高すぎて、簡便な方法で表面上に塗布することができなくなる。例えば、粘度が高すぎるヒドロゲルは、注射器を使用して塗布することができない。
【0072】
したがって、本文書は、本明細書に開示される医療用途のための、本明細書に開示されるキトサン剛毛を備えたブラシを伴う、本明細書に開示されるキトサンヒドロゲルの医療用途にも関する。
【0073】
キトサンヒドロゲルの医療用途
本文書はまた、口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染の処置及び/若しくは予防における使用のための、並びに/又は歯内処置における使用のための、本明細書で定義されるキトサンヒドロゲルに関する。任意選択で、キトサンヒドロゲルは、そのような医療用途のためにキトサン剛毛を備えたブラシと組み合わせて使用してもよい。
【0074】
本文書はまた、口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染の処置及び/若しくは予防のための、並びに/又は歯内処置における使用のための、医薬の製造のための、本明細書で定義されるキトサンヒドロゲルの使用にも関する。任意選択で、キトサンヒドロゲルは、そのような医療用途のために、本明細書の他の箇所に記載されているように、キトサン剛毛を備えたブラシと組み合わせて使用してもよい。
【0075】
本文書はまた、口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染を処置及び/若しくは予防するための方法、並びに/又は歯内処置における使用のための方法であって、本明細書に定義されるヒドロゲルを、それを必要とする患者の口腔表面、例えば歯、歯根、又は歯科用インプラント、に塗布する工程を含む、方法に関する。任意選択で、キトサンヒドロゲルは、そのような方法において、本明細書の他の箇所に記載されているように、キトサン剛毛を備えたブラシと組み合わせて使用してもよい。
【0076】
口腔炎症状態及び/又は口腔感染は、歯周病、インプラント周囲疾患、口腔創傷及び/又はアフタ性病変であり得る。歯周病の非限定的な例としては、歯肉炎、口腔粘膜炎及び/又は辺縁性歯周炎若しくは根尖性歯周炎のいずれかの歯周炎が挙げられる。インプラント周囲疾患の非限定的な例としては、インプラント周囲粘膜炎及び/又はインプラント周囲炎が挙げられる。口腔感染は、細菌、ウイルス及び/又は真菌感染であり得る。
【0077】
キトサンヒドロゲルを、口腔炎症状態及び/若しくは口腔感染の処置及び/若しくは予防に使用する、並びに/又は歯内処置に使用する場合、キトサンゲルは、処置される表面、例えば歯の表面、例えば歯若しくは歯根表面の内部若しくは外部、歯科用インプラント表面、インプラントクラウン及び/若しくはブリッジの内部、及び/又は口腔内の他の任意の表面に塗布される。キトサンヒドロゲルは、外科手術によらず又は外科手術中、のいずれかで塗布することができる。その後、キトサンヒドロゲルは塗布部位に残り、そこで抗菌作用及び/又は抗炎症作用を発揮しながらゆっくりと分解される。キトサンヒドロゲルによる処置時間は、典型的に、1部位あたり20秒~3分の間である。キトサンヒドロゲルは、典型的には、注射器等を使用して処理される表面に塗布されるか、又はブラシ、例えば本明細書の他の箇所で開示されるキトサン製の剛毛を備えたブラシで塗布される。キトサンヒドロゲルは、歯周病及びインプラント周囲炎の積極的処置中に塗布することができるが、ホームケア製品に含めることもできる。
【0078】
治療される患者は、典型的にはヒトであるが、ウマ、イヌ及びネコ等のすべての哺乳動物を、本文書によるキトサンヒドロゲルで処置することができる。
【0079】
キトサンゲルは、本明細書の他の箇所に記載されているように、キトサンを含む、又はキトサンからなる剛毛を有するブラシと一緒に使用することもできる。このようなブラシを使用する場合、キトサンヒドロゲルが塗布された表面上でブラシを緩やかに動かして、例えば、微生物又は死んだ組織を機械的に除去する。このような処置は、表面が効率的に洗浄され、それにより、例えば結合組織は歯及び/又はインプラント表面に付着しやすくなるため、優れた処置転帰をもたらすことができる。したがって、本文書は、本明細書に開示されるように、キトサンヒドロゲルとキトサン剛毛を備えたブラシを組み合わせて使用する、本明細書に開示される医療用途にも関する。
【0080】
キトサンを含む、又はキトサンからなる剛毛を有するブラシは、器具を使用する前にキトサンヒドロゲルに浸漬することができる。次に、キトサンヒドロゲルを、洗浄器具、特にキトサン等の生体吸収性ポリマーを含む器具の部分に塗布する。浸漬時間は、典型的には少なくとも15秒、好ましくは少なくとも30秒、更により好ましくは少なくとも1分、最も好ましくは少なくとも2分であるが5分未満である。浸漬時間は、典型的には30~40分を超えない。次に、器具を使用できるように準備する。浸漬中、洗浄ブラシのキトサン部分が膨張し、キトサンゲルのキャリアとして機能する。
【0081】
ゲルは、静菌特性による長期効果を有するため、処置終了後、洗浄部位に残る、すなわち、洗い流されない(下記の実験セクションの実施例4を参照のこと)。
【0082】
実験セクション
【実施例1】
【0083】
キトサンヒドロゲルの調製及び構成
キトサンを含むヒドロゲルを以下のように調製した:
2%酢酸は、蒸留水と98~100%酢酸を混合することによって調製する。pHは、2.9+/-0.2であるように監視した。
【0084】
4%w/wキトサン(50~400kDa間の低分子量、及び>95%の高度な脱アセチル化度を伴う)を溶液に加える。
【0085】
溶液を2時間撹拌し、同時にゆっくりと50℃まで加熱する。
【0086】
混合溶液を、ブフナー漏斗及び真空チャンバーを使用して、125μm PEフィルターで濾過する。
【0087】
次に、溶液を最初に20分間超音波処理し、次に20℃まで冷却する。粘度及びpHは、20℃で測定した。粘度は、2000~3000mPasの間であった。
【0088】
pHは4.1~4.7の間であった。
【0089】
pH3.5のキトサンヒドロゲルを調製するために、同じ手順を使用したが、第1の工程で15%酢酸溶液を調製した。
【実施例2】
【0090】
繊維溶解試験
このインビトロ実験では、目的は、キトサン繊維がキトサンヒドロゲルにどのように溶解するかを試験することであった。この効果の1つは、実際に取り扱い可能な濃度を超えて(例えば、キトサンヒドロゲル中のキトサンの濃度が高すぎると、粘度が高くなりすぎて表面に簡単に塗布できなくなる)キトサンヒドロゲルの濃度を増加させる必要がなく、キトサンヒドロゲルの塗布部位でのキトサンの濃度を増加させることができることである。
【0091】
主観的課題は、感染歯肉部位の機械的創面切除及び化学的創面切除による歯周病の処置において、キトサンブラシがキトサンヒドロゲルの実現可能なキャリアとなるという仮説を試験することであった。
【0092】
4%キトサンを酢酸中に溶解して、pH3.48及び4.0として、2つのキトサン溶液を調製した。高度に脱アセチル化された(95%)キトサン繊維からなる作用端部を備えた市販のキトサンブラシ(Labrida BioClean(登録商標)、Labrida AS社、Oslo Norway)を、4ccの溶液、A.試験1。pH3.48 n=4、B.試験2 pH4.0 n=4、C.陰性対照1。水pH7.0 n=1 D.陰性対照2、ヒト唾液pH6.8 n=1。E.陰性対照3:EDTAゲル(PrefGel、Straumann AS社、Peter Merian-Weg 12、4002 Basel、Switzerland)を含む4つの別々のバイアルに入れた。溶解度は、15分間隔で目視検査した(
図1~
図4を参照のこと)。
【0093】
結果
実験開始後5分以内にキトサンブラシの溶解が始まった。
【0094】
試験群1(pH3.48)に配置されたキトサン剛毛フィラメントは45分後にほぼ完全に溶解したが、試験群2(pH4)に配置されたフィラメントは60~90分後に完全に溶解した。
【0095】
3つの対照群に配置されたキトサン剛毛フィラメントは、18時間後に無傷であり、目視検査のどの時点でも溶解の兆候を示さなかった。
【0096】
結論
pH3.48と4.0のキトサンヒドロゲルは両方とも、キトサン繊維を含むブラシと組み合わせることが実現可能である。溶解速度を高めるには、できるだけ低いpHのゲルが最適である。
【実施例3】
【0097】
キトサンブラシ及びキトサンヒドロゲルを使用した歯科用インプラントの機械的及び化学的創面切除
目的
この研究では、乳酸を含みpH3.86の4%キトサンからなるキトサンゲルを試験し、キトサンブラシのみを使用した機械的創面切除に加えた場合の補助効果に対するゲルの効果を評価する。
【0098】
材料及び方法
50個のStraumann SLA歯科用インプラント(D、4.1mm、L、12mm)Standard Plus、SLA(Straumann Ag社、Basel、Switzerland)が含まれる。すべてのインプラントを、製造元の、元のパッケージで無菌状態で受け取る。インプラントは、10本のインプラントの3つの処置群及び陰性対照(10本のインプラント)にランダムに割り当てる。処置群及び未処置陰性対照群を、P.ジンジバリス(P.gingivalis)菌株で汚染する。
【0099】
インプラントの汚染
1つのP.ジンジバリス菌株、A7A1-28(VIR)を、嫌気条件下で血液寒天プレート上で4日間増殖させた。
【0100】
このP.ジンジバリス菌株は、もともとA.J van Winkelhoff氏、The Netherlandsによって提供され、MLST、及びfimA遺伝子型決定を特徴とするEnersenら2008の論文に含まれる物質の一部である。
【0101】
この菌株を、マクファーランド1.8で嫌気性PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)中に溶解し、100μlを各培養フラスコに移す。培養フラスコは、ジャー(90%N2、5%H2、5%CO2)(Anoxomat WS9000、Mart社、Lichtenvoorde、The Netherlands)内で37℃で嫌気的にインキュベートし、インプラントとともに8日間撹拌(50rpm)する。
【0102】
SEM
対照群からの1つのインプラント、及びインプラント表面へのP.ジンジバリス菌株の付着を、走査型電子顕微鏡(SEM)(XL30 EEM、Philips社、Eidenhoven、The Netherlands)を使用して確認する。インプラントを2.5%グルタルアルデヒドで固定し、エタノールの勾配で脱水し、その後臨界点で乾燥させ、金属スタッドに取り付け、Polaron E5100スパッタコータで30nm厚の白金層によりスパッタコーティングする。SEMは、15kVで動作させた。
【0103】
インプラントの除染
インプラントは、カスタムインプラントホルダーを使用して、以下の標準化されたプロトコルに従って装備する。インプラントをランダムに選択し、垂直位置に固定する。各インプラントを、およそ20mLの滅菌生理食塩水を使用して徹底的にすすぐ。器具使用は、根尖部-歯頸部方向で環状に実行する。研究前の試験に基づいて、各デバイスがインプラント表面の除染を完了するには2分間の器具使用で十分であると考えられる。汚染を防止するため、インプラントホルダーを、各インプラント器具使用の前及びその合間にエタノール及び滅菌生理食塩水ですすぐ。
【0104】
群
1.試験1.キトサンブラシ単独 n=10(VIR)
2.試験2.pH3.86の4%滅菌キトサンゲルを伴う、キトサンブラシ n=10(VIR)
3.陽性対照、未処理インプラント n=10(VIR)
4.陰性対照(滅菌インプラント)
【0105】
方法を較正するための主要プロジェクトに先立って、以下の群によるチタンコインを用いたパイロット研究を実行した。
1. 陽性対照、未処理インプラント n=3
2. キトサンブラシ単独 n=4
3. pH3.86の4%キトサンゲルを伴う、キトサンブラシ n=4
4. pH3.86の90%乳酸を伴う、キトサンブラシ
5. pH3.86の4%キトサンゲルを伴う、キトサンブラシ+滅菌生理食塩水でのすすぎ n=4
6. pH5.83の4%キトサン単独を伴う、キトサンブラシ n=4
7. pH3.86の4%滅菌(オートクレーブ処理)キトサンゲルを伴う、キトサンブラシ n=4
8. 5.PrefGel(EDTAゲル、Straumann社)を伴う、キトサンブラシ+滅菌生理食塩水でのすすぎ n=4
【0106】
インプラントには、キトサンブラシ単独、又は回転ブラシ(Labrida BioClean(登録商標)、Labrida AS社)を使用したpH3.86の4%キトサンゲルを含むキトサンブラシのいずれかを装備する。
【0107】
使用前に、滅菌パッケージ化されたブラシを、滅菌生理食塩水又はキトサンゲルに2分間浸漬し、次に1500rpmに設定されたマイクロモーターに接続された、1:1のギアを備えたハンドピースに取り付ける。ブラシを、インプラントの長軸に対し平行に、丁寧に使用する。インプラントごとに新しいブラシを使用する。同様に、新しいインプラントごとにハンドピースもエタノールを使用して消毒する。
【0108】
きれいなインプラントを新しいブロス/寒天に入れて、インプラント上に残っている生きた細菌を観察する。対照インプラントは、同梱の滅菌生理食塩水で軽くすすぐだけである。生きた細菌は、1日目と3日目にブロスからアリコートを採取し、寒天プレート(嫌気性インキュベーション)及びエッペンドルフチューブ(DNA分析用)に移すことによって観察する。更に、インプラントを、DNA/RNA単離のためにエッペンドルフチューブに移す。
【0109】
SYBR green(AriaMx)による微生物学的サンプリング、DNA抽出、及びqPCR
器具使用後、DNAがインプラントから抽出され、既知の希釈P.ジンジバリスDNA標準を使用したqPCRによって定量する。AriaMxリアルタイムPCRマシン(Agilent社)を使用する。P.ジンジバリスを伴う場合及び伴わない場合で、陽性及び陰性対照のDNAを、参照値として使用する。各群では、残りの細菌インプラント表面DNAを、除染の逆行列式として適用する。DNA抽出の前に、処理したインプラントを200マイクロリットルのTE溶液(10mM Tris-HCl及び1mM EDTA)を含有するチューブに移す。DNA単離を、Epicentre(MasterPure(商標)Complete DNA及びRNA精製キット)によって実行する。
【0110】
統計分析
細菌数を、既知のP.ジンジバリスDNA標準と比較して分析する。記述統計、細菌スコアの中央値、及び範囲を、各処置群に対して計算する。細菌数の結果を、カテゴリ別に整理し、正規分布しないため、クラスカル-ウォリス順位検定を適用して、処置群間の細菌減少の全体的な差異を検査する。同じ試験を更に使用して、群間の細菌数の差を検査する。パラメーターSa、Sds、及びSdrは、各インプラントの3つの異なる部位から測定した。3つのパラメーターの生データを示すボックスプロットを表示する。各インプラントは、3つの部位で測定されたため、線形混合効果モデルを使用する。線形モデル(正規分布と恒等リンク関数を仮定する)には、3つの部位及び4つの処置カテゴリにダミーコーディングを適用する固定効果部分が含まれていた。インプラントは、同じインプラントからの異なる測定値間の相関を調整する変量効果として入力する。これらの分析から、推定された固定効果に基づいて推定された周辺平均値を表示する。処置群及び部位間の差異を複数比較するための事後分析は、シェッフェ法を使用して調整する。結果は、P、0.05に関して統計的に有意であると考えられる。すべての分析にはStataバージョン13(Stata Corp社、College Station、Tex)を使用する。
【実施例4】
【0111】
キトサンゲル及びキトサンブラシによるチタンコインの洗浄効率に対するヒドロゲルのpHの効果
キトサンの剛毛を有するキトサンブラシ(Labrida BioClean(登録商標)、Labrida AS社)及びさまざまな除染剤を含めて、キトサンブラシのみを使用した機械的創面切除に追加した場合の補助効果に対する除染剤の効果を評価した。
【0112】
材料及び方法
Straumann SLA表面(Straumann AG社、Basel、Switzerland)を表す直径を有する直径5mmの滅菌チタンコインが含まれていた。コインはStraumann AG社から入手した。すべてのコインを、無菌状態で受け取った。
【0113】
群
1.陽性対照、未処理コイン n=3
2.キトサンブラシ単独 n=4
3.pH3.86の4%キトサンゲル及び乳酸を伴う、キトサンブラシ n=4
4.pH3.86の90%乳酸を伴う、キトサンブラシ
5.pH3.86の4%キトサンゲル及び乳酸を伴う、キトサンブラシ+滅菌生理食塩水でのすすぎ n=4
6.pH5.83の4%キトサン単独を伴う、キトサンブラシ n=4
7.pH3.86の4%滅菌(オートクレーブ処理)キトサン及び乳酸ゲルを伴う、キトサンブラシ n=4。
【0114】
上記の群では、溶媒として水を使用した。
【0115】
コインの汚染
1つのP.ジンジバリス菌株、A7A1-28(VIR)を、嫌気条件下で血液寒天プレート上で4日間増殖させた。
【0116】
このP.ジンジバリス菌株は、もともとA.J van Winkelhoff社、The Netherlandsによって提供され、MLST、及びfimA遺伝子型決定を特徴とするEnersenら2008の論文に含まれる物質の一部である。
【0117】
この菌株を、マクファーランド1.8で嫌気性PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)中に溶解し、100μlを各培養フラスコに移した。培養フラスコは、ジャー(90%N2、5%H2、5%CO2)(Anoxomat WS9000、Mart社、Lichtenvoorde、The Netherlands)内で37℃で嫌気的にインキュベートし、コインとともに8日間撹拌(50rpm)した。
【0118】
コインの除染
チタンコインは、以下の標準化されたプロトコルに従って装備した。チタンコインを、滅菌鉗子で水平位置に固定した。器具使用は、根尖部-歯頸部方向で環状に実行した。研究前の試験に基づいて、各デバイスがコイン表面の除染を完了するには2分間の器具使用で十分であると考えられた。器具使用後、群1のコインを、およそ20mLの滅菌生理食塩水を使用して再度すすいだ。群2、3、4、6、及び7のコインはすすがなかった、すなわち、除染剤が表面に残っていた。群5のコインを、創傷郭清後、20mlの滅菌生理食塩水ですすいだ。汚染を防止するため、鉗子を、各コイン器具使用の前及びその合間にエタノール及び滅菌生理食塩水ですすいだ。
【0119】
コインには、キトサンブラシ単独、又は回転ブラシ(Labrida BioClean(登録商標)、Labrida AS社)を使用した、4%キトサンゲルを含むキトサンブラシ、又は10%乳酸を含む4%キトサンゲルのいずれかを装備した。使用前に、滅菌パッケージ化されたブラシを、滅菌生理食塩水又はゲル(No2~7)のうちの1つのいずれかに2分間浸漬し、次に1500rpmに設定されたマイクロモーターに接続された振動ハンドピース(NSK ER10/TEQY)に取り付けた。ブラシを、コインに対し平行に、丁寧に使用した。コインの各面に1分間かけた。コインの側面も同様に処理した。コインごとに新しいブラシを使用した。同様に、新しいインプラントごとにハンドピースもエタノールを使用して消毒した。鉗子は、ブンゼンバーナー炎を使用して滅菌した。
【0120】
器具使用(7つの異なる処理)後、処理ごとに2枚のコインを寒天プレートに直接移し、2枚のコインを1.0mlチオグリコレートブロス+5%ヒト血液中で2(1)日間インキュベートした。次に、各ウェルからの20μlの培地及びコインを血液寒天プレートに移し、3日間及び7日間細菌コロニーを監視した。
【0121】
結果
微生物の増殖は、7日間の増殖後に訓練を受けた経験豊富な微生物学者によって目視検査された。代表的な写真を撮影した(
図5~
図11を参照のこと)。
【0122】
【0123】
【0124】
上記の実験に基づいて、キトサンブラシのみを使用すると、チタンコインに細菌が残ったことが報告されている。キトサンブラシにpH3.86のキトサンゲルを補助的に使用し、滅菌生理食塩水ですすぐと、すなわちチタン表面にゲルが残っていないと、細菌の再増殖は妨げられなかった、すなわち、殺菌効果は報告されなかった。3.86の2つのキトサンゲル(群3及び7)で洗浄し、表面にキトサンゲルが残っていると、ゲルが存在する場所での更なる増殖が妨げられ、すなわち静菌効果が報告された。キトサン単独(群6、pH5.83)も乳酸単独(群4、pH3.86)も更なる増殖を妨げなかった。
【0125】
結論
上記の実験に基づいて、4%キトサン及び乳酸の効果を組み合わせたpH3.86のキトサンゲルは、P.ジンジバリスに対して静菌効果があることが実証された。乳酸単独又は4%キトサン単独では静菌効果は提供されなかった。
【0126】
本発明を特定の例示的な実施形態を参照して説明してきたが、この説明は一般に本発明の概念を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明は一般に、特許請求の範囲によって定義される。
【国際調査報告】