(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】タシピミジン製剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4178 20060101AFI20240227BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240227BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240227BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240227BHJP
A61P 25/28 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61P25/22
A61P43/00 111
A61K9/08
A61K47/12
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557249
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-15
(86)【国際出願番号】 FI2022050177
(87)【国際公開番号】W WO2022195174
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】300046083
【氏名又は名称】オリオン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クヤラ、ヨハンナ
(72)【発明者】
【氏名】レフチサロ、イェンニ
(72)【発明者】
【氏名】サルミア、ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】シネルボ、カイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB01
4C076CC01
4C076DD41R
4C076DD43Q
4C076DD43Z
4C076DD57U
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4C076FF36
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4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
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4C086NA03
4C086NA06
4C086NA10
4C086ZA05
4C086ZA15
4C086ZC41
(57)【要約】
本開示は、活性成分としてタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を含む経口送達液体医薬組成物の形態の新規な医薬組成物、およびアルファ2Aアゴニストが有効であると指摘されている障害、症状または疾患の治療および予防におけるそれらの使用、例えば、鎮静剤または鎮痛剤としての使用、および不安またはアジテーションの治療における使用に関する。組成物は、約2.0~約5.0のpH範囲で安定である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)活性成分として、少なくとも0.04mg/ml、好ましくは少なくとも0.20mg/ml、より好ましくは少なくとも0.25mg/mlの濃度のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩;
b)緩衝剤;
c)保存剤;および
d)水
を含み、
組成物のpHが約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、さらにより好ましくは約2.9~約3.1である、経口投与に適合させた液体医薬組成物。
【請求項2】
活性成分が硫酸タシピミジンである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組成物が、ヒトへの経口投与に適合させた液体医薬組成物である請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
組成物の重量に対して、約0.004~0.3%、好ましくは約0.01~0.1%、より好ましくは約0.02~0.05%のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
緩衝剤がクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液である請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
保存剤が安息香酸塩である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
保存剤が安息香酸ナトリウムである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
a)活性成分として、少なくとも0.04mg/ml、好ましくは少なくとも0.2mg/ml、より好ましくは少なくとも0.25mg/mlの濃度のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩;
b)クエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液;
c)安息香酸ナトリウム;および
d)水
を含み、
組成物のpHが約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、さらにより好ましくは約2.9~約3.1である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
a)組成物の重量に対して、0.004~0.3%のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩;
b)組成物の重量に対して、0.05~4.5%の緩衝剤;
c)組成物の重量に対して、0.01~1%の保存剤;および
d)組成物の重量に対して、96~98%の精製水
を含み、
組成物のpHが約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、さらにより好ましくは約2.9~約3.1である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
a)組成物の重量に対して、0.01~0.1%のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩;
b)組成物の重量に対して、2.0~2.7%のクエン酸/クエン酸塩緩衝液;
c)組成物の重量に対して、0.02~0.5%の安息香酸塩;および
d)組成物の重量に対して、97~97.9%の精製水
を含み、
組成物のpHが約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、さらにより好ましくは約2.9~約3.1である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
緩衝液濃度が約0.005~1M、好ましくは約0.03~0.2M、より好ましくは約0.1Mである、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
不安またはアジテーションの治療または予防における使用のため、および鎮静剤または鎮痛剤、およびアルファ2A作動作用が望まれる他の疾患の治療または予防における使用のための請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
ヒトにおける不安またはアジテーションの治療または予防における使用のため請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
ヒトにおける不安またはアジテーションの治療または予防のための医薬の製造における、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を活性成分として含む組成物の使用。
【請求項15】
組成物が請求項1~11のいずれか1項に記載されているものである、請求項14記載の使用。
【請求項16】
不安またはアジテーションが、認知症と関連付けられる、請求項14または15記載の使用。
【請求項17】
必要とする対象に、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を活性成分として含む液体組成物の有効量を投与することを含む、ヒトにおける不安またはアジテーションの治療または予防のための方法。
【請求項18】
組成物が、請求項1~11のいずれか1項に記載されているものである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
不安またはアジテーションが、認知症と関連付けられる、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
a)活性成分として、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を含む経口投与に適合させた液体医薬組成物、b)前記組成物を入れるためのパッケージ、およびc)不安またはアジテーションの治療または予防のために、前記組成物を哺乳類、特にヒトに投与するための使用説明書、を含む医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、活性成分としてタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を含む経口送達液体医薬組成物の形態の新規な医薬組成物、およびアルファ2Aアゴニストが有効であると指摘されている障害、症状または疾患の治療および予防におけるそれらの使用、例えば、鎮静剤または鎮痛剤としての使用、および不安またはアジテーションの治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルファ2アドレナリン受容体アゴニストは、クロニジンが降圧薬として導入された1960年代半ばから臨床使用されている。アルファ2アドレナリン受容体の活性化は、いくつかの臓器および組織からさまざまな反応を引き起こすことが知られている。交感神経終末に位置するシナプス前アルファ2アドレナリン受容体の活性化は、神経伝達物質であるノルアドレナリンの放出を阻害する。中枢神経系のシナプス後アルファ2アドレナリン受容体の活性化は、交感神経活動の抑制につながり、血圧および心拍数の低下、覚醒度の低下、鎮静、および不安の緩和を引き起こす。脊髄レベルでのアルファ2アドレナリン受容体の活性化は、鎮痛をもたらす。血管における末梢アルファ2アドレナリン受容体は、血管平滑筋の収縮を媒介する。アルファ2アドレナリン受容体には、アルファ2A、アルファ2B、およびアルファ2Cの3つの異なるサブタイプがあり、それぞれが独自の遺伝子によってコードされている。現在の知見では、アルファ2アドレナリン作用の大部分はアルファ2Aサブタイプによって媒介されている。
【0003】
現在入手可能な中枢作用性アルファ2アゴニストは、高血圧(クロニジン)、痙縮(チザニジン)、注意欠陥多動性障害(グアンファシン)、集中治療での鎮静および処置時の鎮静(デクスメデトミジン)の治療に適応がある。十分な高用量レベルでは、血圧や心拍数の低下、鎮静作用が得られるが、これは化合物によっては意図された治療効果であり、副作用として口渇、めまい、高用量での高血圧があり、そしてまれではあるが特に副交感神経緊張が高い状況での房室伝導のブロックや解離などがある。
【0004】
タシピミジン、(2-(5-メトキシイソクロマン-1-イル)-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール)は、新規な経口活性の、高選択的アルファ2Aアドレナリン受容体アゴニストである。そのため、タシピミジンは従来の非選択的薬剤よりも心血管系への影響が少ないと考えられている。高い経口バイオアベイラビリティとアルファ2A選択性は、現在承認されている最も特異的なアルファ2アドレナリン受容体アゴニストであるデクスメデトミジンとは異なる。さらに、タシピミジンはクロニジンよりも消失半減期(t1/2)が短く(クロニジンのt1/2は14時間)、作用発現が速く、鎮静作用が強い。犬において、タシピミジンは騒音や飼い主が離れることによって誘発される状況の不安や恐怖の緩和に有効であることが示されている。タシピミジンは酵素やトランスポーターを誘導したり阻害したりしないため、他の薬物との重大な相互作用はないと予想される。
【0005】
タシピミジンおよびその薬学的に許容され得る塩は、特許文献1に開示されている。特許文献1には、上記のアルファ2アゴニストの適応症に加え、タシピミジンの他の潜在的な適応症として、せん妄、多動性せん妄、不眠症、ベンゾジアゼピンまたはアルコールまたはオピオイドまたはタバコの離脱症状、早漏、頻脈、レストレスレッグ症候群、ほてり、外傷後ストレス障害、疼痛、慢性骨盤痛症候群、およびがん性突発痛が挙げられている。タシピミジンおよびその塩、特に硫酸塩は、例えば特許文献2に記載されている方法を用いて製造することができる。
【0006】
アルツハイマー病(AD)は、特に高齢化社会を有する地域社会における世界的な公衆衛生上の懸念である。ADの特徴は、進行性の認知および機能低下である。加えて、ADに関連する神経精神症状(NPS)は、介護者の負担を増加させ、早期の施設入所につながり、また認知症に対応するための費用を増加させる、一般的で、重度で、かつ苦痛を伴う問題である。興奮と攻撃性は、ADに伴うNPSの中でも最も重篤な症状の一部である。これらの症状は患者やその周囲の人々にとって潜在的に危険であり、介護者のストレスに大きく寄与する。これらの症状は、予後不良、認知症状の急速な低下、早期の施設入所、生活の質の低下、および介護費用の増加と関連している。したがって、興奮と攻撃性の管理はADの治療における主要な医療ニーズである。
【0007】
現在のところ、興奮と攻撃性の治療の選択肢は限られている。治療ガイドラインでは通常、薬物療法を検討する前に環境的および行動的アプローチを推奨している。これまでに研究されてきた医薬のクラスには、抗精神病薬、抗うつ薬、抗けいれん薬、およびベンゾジアゼピン系薬剤などがある。しかし、これらの治療介入の有効性はせいぜいわずかであり、その使用には特に高齢者において特に関わりのある重大な安全性の問題が伴う。ADにおける興奮と攻撃性に対する薬理学的介入として最もよく研究されているのは抗精神病薬である。メタアナリシスでは、抗精神病薬は通常検出可能な有益性を示しているが、その使用は脳血管有害事象や死亡率のリスク増加と関連している。さらに、これらの化合物のいくつかは、錐体外路系、代謝系、認知系、および時には心臓のQT時間に関連した副作用のリスクを伴う。他の医薬クラスについては、利用可能な研究ははるかに少ない。その結果、ヨーロッパ諸国ではリスペリドンとハロペリドールのみが短期間の使用について特定の条件下で承認されており、米国では興奮/攻撃性の治療のために承認されている薬理学的薬剤はない。したがって、より安全でより効果的な薬物療法が確かに求められている。
【0008】
AD患者の興奮および攻撃性の治療におけるアルファ2アドレナリン受容体アゴニストの使用は、攻撃性の発作のあいだ活性化される交感神経(逃走と闘争)反応を緩和するアルファ2アドレナリン受容体アゴニストの中枢性交感神経遮断作用のために示唆されている。最近、統合失調症患者と双極性障害患者の両方における急性の興奮の発作の治療において、アルファ2アドレナリン受容体アゴニストであるデクスメデトミジン舌下フィルムの第3相有効性試験が成功したことが公表され、このことが実験的に裏付けられた。さらに、本薬は急性興奮を伴う認知症患者の少数集団においても有効性を示している。興奮に対するタシピミジンの治療効果は、対象集団において起立性低血圧および転倒に大きな影響を及ぼすことなく、境界域の鎮静作用を有する用量レベルで達成されると想定される。
【0009】
特許文献3には、興奮の治療のためのデクスメデトミジンの舌下投与の使用が記載され、特許文献4には、舌下投与に適したデクスメデトミジンを含む特定のフィルム製剤が記載されている。特許文献5には、静脈内経路により塩酸デクスメデトミジンを投与することによる興奮の治療が記載されている。さらに、特許文献6には、睡眠障害の治療のためのデクスメデトミジンの舌下製剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2013/150173号
【特許文献2】国際公開第2019/106238号
【特許文献3】国際公開第2018/126182号
【特許文献4】国際公開第2020/006092号
【特許文献5】国際公開第2020/006119号
【特許文献6】国際公開第2016/061413号
【発明の概要】
【0011】
今、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩が、特に経口液体医薬組成物の形態で、アルファ2アゴニストが有効であると指摘されている障害、症状または疾患の治療のための、例えば、鎮静剤または鎮痛剤としての使用のための、および不安またはアジテーションの治療における使用のための有効な医薬であることが見出された。上記経口液体医薬組成物は、少なくとも0.04mg/ml、好ましくは少なくとも0.20mg/ml、より好ましくは少なくとも0.25mg/mlの濃度のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を含む。タシピミジン硫酸塩は、薬物それ自体は優れた安定性を有するが、賦形剤の添加によりその安定性が損なわれる。しかしながら、本組成物は、驚くべきことに約2.0~約5.0のpH範囲で安定であることが見出された。したがって、本開示の組成物は、ヒトにおける経口送達に特に適している。タシピミジンの高いアルファ2A選択性により、組成物は、重大な心臓血管作用を生じさせることなく迅速に作用を発現させる。タシピミジンの、例えばアジテーションに対する治療作用は、起立性低血圧への主要な衝撃なく、境界域の鎮静作用である用量レベルで達成される。タシピミジンの高い経口バイオアベイラビリティにより、経口溶液として正確かつ容易に投与することができ、高齢者などに便利な剤形である。
【0012】
本教示の上述のならびに他の特徴および利点は、以下の説明および特許請求の範囲からより完全に理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、
a)活性成分として、少なくとも0.04mg/ml、好ましくは少なくとも0.20mg/ml、より好ましくは少なくとも0.25mg/mlの濃度のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩;
b)緩衝剤;
c)保存剤;および
d)水
を含み、組成物のpHが約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、さらにより好ましくは約2.9~約3.1である、経口投与に適合させた新規な液体医薬組成物に関する。
【0014】
一実施態様において、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩、特に硫酸塩が、活性成分として使用される。
【0015】
一実施態様において、本開示は、哺乳類、特にヒトへの経口投与に適合させた液体医薬組成物である、上記組成物に関する。組成物は、患者の自己投与のため、または非専門のまたは専門の介護者により投与されるように特に適合される。組成物は、不安またはアジテーションの治療または予防のため、そして鎮静剤または鎮痛剤としての使用のため、そしてアルファ2A作動が望まれている他の疾患のために特に有用である。
【0016】
投与されるタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩の実際の量は、多くの因子、例えば、治療される対象の性別、年齢、体重および全身の健康状態、ならびに治療すべき特定の症状などに依存し得る。投与される組成物の量は、しかし処置された対象において重大な鎮静を誘導することなくおよび/または血圧および/または心拍に臨床的に意味のある作用を引き起こすことなく、十分な不安およびアジテーションを軽減する効果を提供するように、など適切に選択される。そのため、ヒトにおける不安およびアジテーションの治療または予防のため、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩は、通常、約0.01~2mg/kg、好ましくは約0.02~1mg/kg、より好ましくは約0.05~0.5mg/kg、および典型的には約0.1~0.2mg/kg、例えば約0.15mg/kgの量で投与される。タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩の量は、本明細書全体を通して特に断りのない限り、遊離塩基として表現される。各量は、1日1回、または複数回、対象に投与することができる。
【0017】
一実施態様において、本開示は、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を単独の活性成分として含む組成物に関する。
【0018】
一実施態様において、本開示は、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩に加え、1つまたは複数の他の活性成分、特にヒトにおける不安またはアジテーションの治療または予防において有用である他の活性成分を含んでも良い上記組成物に関する。
【0019】
本開示の組成物は、哺乳類、特にヒトに経口投与するために適合された水溶液の形態であることが好ましい。タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩の濃度は、経口投与するために非現実的な多量な溶液を必要としないように十分に高いものとしなければならない。したがって、水溶液組成物におけるタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩の濃度は、少なくとも0.04mg/ml、好ましくは少なくとも0.20mg/ml、より好ましくは少なくとも0.25mg/mlである。例えば、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩の濃度は、通常、約0.04mg/ml~3.0mg/ml、好ましくは約0.1mg/ml~1.0mg/ml、より好ましくは約0.2mg/ml~0.5mg/mlの範囲内、例えば約0.3mg/mlである。
【0020】
タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩の安定性は、低いpH値を有する組成物において改善されるということが見出された。しかしながら、経口投与のための製剤は、下痢、嘔吐、組織の潰瘍形成または壊死、および投与時の痛みなどの起こり得る副作用を回避できるように約2未満のpHとすべきではない。組成物のpHは、適切には、約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、なおより好ましくは約2.9~約3.1の範囲、例えば約3.0である。このpH範囲では、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩は、本開示の組成物において安定であることが分かる。本組成物のpHは、所望の範囲に、例えばpH調整剤を用いて調整することができる。pH調整剤は、それ自体でpH緩衝能力を有さない単純な酸または塩基、例えばHClまたはNaOHであり得る。好ましくは、溶液は緩衝される。適切な緩衝剤は、特に限定されるものではないが、例えば乳酸/乳酸塩緩衝液、クエン酸/クエン酸塩緩衝液、マレイン酸/マレイン酸塩緩衝液、マロン酸/マロン酸塩緩衝液、またはリン酸/リン酸塩緩衝液を含む。適切な緩衝液の濃度は、約0.005~3M、好ましくは約0.005~1M、より好ましくは約0.01~1M、さらにより好ましくは約0.03~0.2M、例えば約0.1Mである。緩衝液は、製剤のおいしさに何らかの負の作用が無いように選択されるべきである。特に好ましい緩衝剤は、0.1Mのクエン酸/クエン酸塩緩衝液である。
【0021】
組成物は、適切には溶液中での微生物および/または真菌増殖を阻止するために保存剤も含む。保存剤は、要求されたpH範囲において物理化学的に安定かつ活性であり、製剤のおいしさに何ら負の作用をもたず、そして製剤の他の成分と適合する薬剤から選択される。保存剤の例は、特に限定されるものではないが、安息香酸および安息香酸ナトリウムまたは安息香酸カリウムなどのその塩、ソルビン酸およびソルビン酸カリウムなどのその塩を含む。保存剤は、一般に、組成物の重量に対して、約0.01~1%、好ましくは約0.02~0.5%、例えば約0.04~0.2%の量で使用される。安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩が、特に好ましい保存剤であることが見出された。安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩は、組成物の重量に対して、約0.02~0.1%の量で好ましく使用される。
【0022】
組成物は、1つまたは複数の着色剤をさらに含んでもよい。例えば、着色された溶液は、着色料は、美的外観を向上させ、特徴的な外観を付与するために使用することができ、製造および流通段階で製品を識別するのに役立つ。液体組成物が患者の口から排出される場合、それを容易に気づくことができる。
【0023】
組成物は、1つまたは複数の香味剤をさらに含んでもよい。香味剤は、特に限定されるものではないが、甘味料、人工香料、自然香料、清涼剤および味覚マスキング剤、またはそれらの組み合わせが含まれる。香味剤は、患者のコンプライアンスまたはヒトに対する溶液のおいしさを改善するように適切に選択される。組成物を溶液の形態に維持するために、香味剤も、水に溶解し、安定でかつ組成物の他の成分と適合するものであるべきである。香味剤は、通常、組成物の重量に対して、約0.001~10%、好ましくは約0.002~5%、より好ましくは約0.002~1%の量で使用される。
【0024】
一実施態様において、本開示は、
a)活性成分として、少なくとも0.04mg/ml、好ましくは少なくとも0.2mg/ml、より好ましくは少なくとも0.25mg/mlの濃度のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩;
b)クエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液;
c)安息香酸ナトリウム;および
d)水
を含み、
組成物のpHが約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、さらにより好ましくは約2.9~約3.1である、哺乳類、特にヒトに経口投与するために適合された液体医薬組成物に関する。
【0025】
一実施態様において、本開示は、
a)組成物の重量に対して、約0.004~0.3%、好ましくは約0.01~0.1%、より好ましくは約0.02~0.05%のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩;
b)組成物の重量に対して、約0.05~4.5%、好ましくは約2.0~2.7%、より好ましくは約2.2~2.3%の緩衝剤;
c)組成物の重量に対して、約0.01~1%、好ましくは約0.02~0.5%、より好ましくは約0.04~0.2%の保存剤;および
d)組成物の重量に対して、約96~98%、好ましくは約97~97.9%、より好ましくは約97.5~97.8%の水
を含み、
組成物のpHが約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、さらにより好ましくは約2.9~約3.1である、哺乳類、特にヒトに経口投与するために適合された液体医薬組成物に関する。
【0026】
一実施態様において、本開示は、
a)組成物の重量に対して、約0.004~0.3%、好ましくは約0.01~0.1%、より好ましくは約0.02~0.05%のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩;
b)組成物の重量に対して、約0.05~4.5%、好ましくは約2.0~2.7%、より好ましくは約2.2~2.3%のクエン酸/クエン酸塩緩衝液;
c)組成物の重量に対して、約0.01~1%、好ましくは約0.02~0.5%、より好ましくは約0.04~0.2%の安息香酸塩;および
d)組成物の重量に対して、約96~98%、好ましくは約97~97.9%、より好ましくは約97.5~97.8%の水
を含み、
組成物のpHが約2.0~約5.0、好ましくは約2.1~約4.0、より好ましくは約2.5~約3.5、さらにより好ましくは約2.9~約3.1である、哺乳類、特にヒトに経口投与するために適合された液体医薬組成物に関する。
【0027】
上記実施態様のいずれかによる液体医薬組成物は、水溶液、すなわちタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩が完全に溶解された形態である組成物である。
【0028】
一実施態様において、本開示は、必要とする対象に、有効量のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を活性成分として含む液体組成物を、所望の治療効果を与えるのに十分な回数投与することを含む、哺乳類、特にヒトの治療方法に関する。
【0029】
ヒトを治療するための上記方法は、タシピミジンのアルファ2Aアドレナリン受容体アゴニストとしての活性に由来する全ての潜在的用途、例えば、血圧降下剤、抗不安剤、鎮痛剤、鎮静剤等としての使用を含む、タシピミジンの全ての潜在的用途を包含することが意図されていることに留意すべきである。特に、認知症、例えばアルツハイマー病患者における不安またはアジテーションまたは攻撃性の治療に有用である。アジテーションは、慢性または急性のアジテーションであり得る。アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、認知症、レビー小体型認知症、心的外傷後ストレス障害、パーキンソン病、血管性認知症、血管性認知障害、ハンチントン病、多発性硬化症、クロイツフェルト-ヤコブ病、多系統萎縮症、および進行性核上性麻痺、アルツハイマー型老人性認知症からなる群より選択される神経変性状態に関連するアジテーション;または統合失調症、双極性障害、双極性躁病、せん妄、およびうつ病(認知症または大うつ病(例えば、ストレス関連大うつ病)の対象の気分障害を含む)からなる群から選択される精神神経症状に関連するアジテーション;またはOPD/IPD処置(MRI、CTまたはCATスキャン、腰椎穿刺、骨髄吸引/生検、抜歯および他の歯科処置など)などの他の状態に関連するアジテーション;またはアルコール、オピオイド使用障害、オピオイド離脱および物質乱用離脱に関連するアジテーションを治療するのに特に有用である。さらに、せん妄、多動性せん妄、不眠症、ベンゾジアゼピンまたはアルコールまたはオピオイドまたはタバコの離脱、早漏、頻脈、レストレスレッグ症候群、ほてり、外傷後ストレス障害、パニック障害、疼痛、慢性骨盤痛症候群、がん性突発痛、外傷性脳損傷、遅発性ジスキネジアの治療に有用である。
【0030】
一実施態様において、本開示は、ヒトにおける不安またはアジテーションの治療または予防における使用のための、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を活性成分として含む組成物に関する。
【0031】
一実施態様において、本開示は、ヒトにおける不安またはアジテーションの治療または予防のための医薬の製造における、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を活性成分として含む組成物の使用に関する。
【0032】
一実施態様において、本開示は、ヒトにおける不安またはアジテーションの治療または予防のための医薬の製造における、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を活性成分として含む組成物に関する。
【0033】
一実施態様において、本開示は、必要とする対象に、有効量のタシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を活性成分として含む組成物を投与することを含む、ヒトにおける不安またはアジテーションの治療または予防方法に関する。
【0034】
一実施態様において、本開示は、a)活性成分として、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩を含む経口投与に適合させた液体医薬組成物、b)上記組成物を入れるためのパッケージ、およびc)不安またはアジテーションの治療または予防のために、前記組成物を哺乳類、特にヒトに投与するための使用説明書、を含む医薬キットに関する。好ましくは、上記パッケージはガラス瓶であり、さらに、組成物の適切な容量を投薬することのできるシリンジなどのアプリケーターを含むことができる。
【0035】
上記実施態様のいずれかによる液体医薬組成物は、例えば、撹拌下、活性成分と賦形剤を水に溶解し、次いで必要に応じてpHを調節することにより調製することができる。
【0036】
タシピミジンの薬学的に許容され得る塩は、公知の方法により製造することができる。好適な塩は、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、および酢酸、ギ酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、エタン-1,2-ジスルホン酸などの有機酸と形成される酸付加塩を含む。硫酸塩が好ましい塩である。
【0037】
本明細書において使用される用語は、以下に示される意味を有する。
【0038】
本明細書において使用する場合、用語「タシピミジン」は、遊離型の2-(5-メトキシイソクロマン-1-イル)-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール、およびその薬学的に許容され得る塩、特に硫酸塩を意味する。
【0039】
本明細書において使用する場合、用語「対象」は、ヒト患者を意味する。
【0040】
本明細書において使用する場合、用語「保存剤」は、添加される溶液において微生物および/または真菌の増殖を阻害する化合物を意味する。
【0041】
本明細書において使用する場合、用語「緩衝剤」または「緩衝液」は、緩衝剤を添加していない水に同じ酸および塩基を同量添加した場合と比較して、水に溶解した場合に、酸または塩基の添加の際にpHの変化に抵抗する化合物または化合物の組み合わせを意味する。
【0042】
本明細書において使用する場合、用語「液体医薬組成物」は、水などの液体担体を含む医薬組成物であって、タシピミジン、またはその薬学的に許容され得る塩などの活性成分が少なくとも部分的に、好ましくは完全に溶解されている医薬組成物を意味する。したがって、好ましい実施態様においては、「液体医薬組成物」は水溶液である。
【0043】
本明細書において使用する場合、用語「軽減する」は、不安およびアジテーションの徴候を減少させ、阻害し、予防し、抑制しまたは除去することを意味する。
【0044】
本開示は、以下の実施例により、より詳細に説明される。実施例は、単に説明の目的のものであり、特許請求の範囲に規定された本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1.pH3.0のタシピミジン0.3mg/ml経口溶液
【0046】
実施例1の組成物は、原料物質を水に順次添加し、混合することにより溶解して調製した。
【0047】
遊離塩基として0.3mgのタシピミジンを含むpH2~6.9の以下の溶液を上述の方法にしたがい調製した。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
実験1.安定性試験
5℃でpH範囲約2~7の水溶液における硫酸タシピミジンの安定性を評価するためにASAP(加速安定性評価プログラム)試験を行った。実施例2~8の溶液を、温度30、40、50、60、70および80℃に1~28日間ストレスを加えられた。溶液から主な分解生成物(N-(2-アミノエチル)-5-メトキシ-3,4-ジヒドロ-1H-2-ベンゾピラン-1-カルボキサミド)を、HPLCを用いて分析し、仕様限界である分解生成物1.0%を用いて5℃での使用可能期間を計算した。計算はASAP Prime ソフトウェアを用いて行った。
【0056】
ストレス条件および分解生成物の結果は、表1~7に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
結果は、酸性条件は、分解からタシピミジンを保護するということを明らかに示している。pH2.0~3.6では、5℃での見積平均保存可能期間は、自己の寿命を制限する分解生成物の使用限界1.0%を考慮すると、>3年である。
【0066】
当業者であれば、本明細書に記載の実施形態は、本発明の概念から逸脱することなく変更可能であることを理解するであろう。当業者はまた、本開示が開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内にある実施形態の改変もカバーすることが意図されていることを理解する。
【国際調査報告】