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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】低磁場磁気抵抗角度センサ
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/10 20230101AFI20240227BHJP
【FI】
H10N50/10 P
H10N50/10 U
H10N50/10 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557259
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-08
(86)【国際出願番号】 CN2022081199
(87)【国際公開番号】W WO2022194205
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】202110297617.4
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514116947
【氏名又は名称】江▲蘇▼多▲維▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】MULTIDIMENSION TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building D & E, No.2 Guangdong Road,Zhangjiagang Free Trade Zone,Zhangjiagang,Jiangsu,215634 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディーク、ジェイムズ ゲーザ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、チーミン
【テーマコード(参考)】
5F092
【Fターム(参考)】
5F092AA01
5F092AA11
5F092AB01
5F092AC08
5F092AC12
5F092AD22
5F092BB16
5F092BB31
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB42
5F092BB43
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC13
5F092BC42
(57)【要約】
本発明の実施形態において、低磁場磁気抵抗角度センサが開示される。このセンサは、X-Y平面内に位置する基板と、基板上に位置する磁気抵抗感知ユニットとを備える。磁気抵抗感知ユニットは、多層薄膜構造を備える。多層薄膜構造は、少なくとも自由層、バリア層、および参照層のスタックを備える。磁気抵抗感知ユニットは、楕円形を有する。楕円形の自由層は、長軸Ly、短軸Lx、および厚さLzを有する。さらに、自由層は、X方向に、飽和磁場、形状異方性反磁場、および結晶磁気異方性場を有する。外部磁場がX-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、結晶磁気異方性場は、外部磁場が自由層材料の飽和磁場の値に近い低い作動磁場値を有するように、自由層の有効異方性場を0に近づけるように、形状反磁場によって補償される。本発明の実施形態は、磁気抵抗角度センサの角度測定の精度を改善することができる。さらに、必要とされる外部磁場が低いので、センサは、低コストで実装され得る。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低磁場磁気抵抗角度センサであって、
X-Y平面内に位置する基板と、
該基板上に位置する磁気抵抗感知ユニットであって、該磁気抵抗感知ユニットは、多層薄膜構造を備え、該多層薄膜構造は、少なくとも自由層、バリア層、および参照層のスタックを備える、磁気抵抗感知ユニットと、を備え、該磁気抵抗感知ユニットは、楕円形を有し、該楕円形の自由層は、長軸Ly、短軸Lx、および厚さLzを有し、該自由層は、X方向に飽和磁場、形状異方性反磁場、および結晶磁気異方性場を有し、外部磁場が該X-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、該結晶磁気異方性場は、該外部磁場が自由層材料の該飽和磁場の値に近い低い作動磁場値を有するように、該自由層の有効異方性場を0に近づけるように、該形状異方性反磁場によって補償される、低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項2】
前記磁気抵抗感知ユニットは、プッシュ磁気抵抗感知ユニットと、プル磁気抵抗感知ユニットとを備え、該プッシュ磁気抵抗感知ユニットの自由層および該プル磁気抵抗感知ユニットの自由層は、正および負のX方向ニール結合磁場を有し、該プッシュ磁気抵抗感知ユニットおよび該プル磁気抵抗感知ユニットの該ニール結合磁場は、それぞれ、対応する前記自由層の前記結晶磁気異方性場および前記形状異方性反磁場によって補償される、請求項1に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項3】
複数のプッシュ磁気抵抗感知ユニットは、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリングを形成するように電気的に接続され、複数のプル磁気抵抗感知ユニットは、プル磁気抵抗感知ユニット・ストリングを形成するように電気的に接続され、該プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリングおよび該プル磁気抵抗感知ユニット・ストリングは、フル・ブリッジ構造または半ブリッジ構造のプッシュ・プル磁気抵抗角度センサを形成するように接続される、請求項2に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項4】
前記自由層の前記形状異方性反磁場は、形状異方性因子(Nx,Ny)によって決定され、前記自由層の前記結晶磁気異方性場は、結晶磁気異方性定数Kによって決定され、
Nx=Ny+K1/M であり、Mは、前記自由層の飽和磁気モーメントを表し、Nxは、X方向の形状異方性因子を表し、Nyは、Y方向の形状異方性因子を表す、請求項1に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項5】
前記自由層の前記形状異方性反磁場は、形状異方性因子(Nx,Ny)によって決定され、前記自由層の前記結晶磁気異方性場は、結晶磁気異方性定数K1によって決定され、
前記プッシュ磁気抵抗感知ユニットの場合、Nx=Ny+K1/M +2/Mであり、前記プル磁気抵抗感知ユニットの場合、Nx=Ny+K1/M -2/Mであり、
は、前記自由層の飽和磁気モーメントを表し、Nxは、X方向の形状異方性因子を表し、Nyは、Y方向の形状異方性因子を表し、Hは、前記自由層の前記ニール結合磁場を表す、請求項2または3に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項6】
前記多層薄膜構造は、前記基板が前記磁気抵抗感知ユニットを指す方向に沿って、シード層、前記自由層、前記バリア層、前記参照層、金属層、ピン止め層、反強磁性層、および絶縁層を備える、請求項1に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項7】
前記多層薄膜構造は、前記基板が前記磁気抵抗感知ユニットを指す方向に沿って、シード層、反強磁性層、ピン止め層、金属層、前記参照層、前記バリア層、前記自由層、および絶縁層を備え、前記参照層は、軸外イオン・ビーム・ミリングによって平坦化される、請求項1に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項8】
前記参照層は、二重層複合構造またはSAF多層複合構造である、請求項1に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項9】
前記バリア層は、ルテニウムもしくは銅から用意される導電層であり、または前記バリア層は、酸化アルミニウムもしくは酸化マグネシウムから用意される絶縁層であり、前記自由層は、フェロニッケル、コバルト鉄ホウ素、およびコバルト鉄のうちの2つ以上の合金で構成された多層薄膜である、請求項1に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【請求項10】
前記結晶磁気異方性場は、20Oeよりも小さく、
前記短軸と前記長軸の前記比Lx/Lyは、0.5<Lx/Ly<0.95の範囲内であり、前記厚さLzは、5nm<Lz<200nmの範囲内であり、前記短軸Lxは、0.5μm<Lx<50μmの範囲内であり、
前記形状異方性反磁場の配向角と前記結晶磁気異方性場の配向角との間の差は、90°である、請求項1に記載の低磁場磁気抵抗角度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気センサの技術分野に関し、特に、低磁場磁気抵抗角度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
TMRまたはGMRなどのスピン・バルブ磁気抵抗角度感知ユニットは、通常、円形である。通常の使用において、外部磁場Hの値は、自由層(FL)の飽和磁場Hsよりもはるかに大きく、その結果、自由層(FL)の磁気モーメントMと外部磁場Hとは、方向が一致することになる。
【0003】
しかしながら、外部磁場Hを加えることによって、自由層(FL)の磁気モーメントMsとHとは方向において一致することが保証されるが、磁気抵抗角度感知ユニットにおける他の膜層の偏向角は、Hの振幅の増加と共に増加され得、したがって、余分な測定角度誤差が引き起こされ得る。さらに、高い外部磁場Hは、強力な磁石をさらに必要とし、価格がより高くなり、結果として、使用コストが増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、低磁場磁気抵抗角度センサを提供し、従来の角度センサの低い測定精度および高いコストの問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は、低磁場磁気抵抗角度センサであって、
X-Y平面内に位置する基板と、
基板上に位置する磁気抵抗感知ユニットであって、磁気抵抗感知ユニットは、多層薄膜構造を含み、多層薄膜構造は、少なくとも自由層、バリア層、および参照層のスタックを含む、磁気抵抗感知ユニットとを含み、磁気抵抗感知ユニットは、楕円形を有し、楕円形の自由層は、長軸Ly、短軸Lx、および厚さLzを有し、自由層は、X方向に飽和磁場、形状異方性反磁場、および結晶磁気異方性場を有し、外部磁場がX-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、結晶磁気異方性場は、外部磁場が自由層材料の飽和磁場の値に近い低い作動磁場値を有するように、自由層の有効異方性場を0に近づけるように、形状異方性反磁場によって補償される、低磁場磁気抵抗角度センサを提供する。
【0006】
さらに、磁気抵抗感知ユニットは、プッシュ磁気抵抗感知ユニットと、プル磁気抵抗感知ユニットとを含み、プッシュ磁気抵抗感知ユニットの自由層およびプル磁気抵抗感知ユニットの自由層は、正および負のX方向ニール結合磁場を有し、プッシュ磁気抵抗感知ユニットおよびプル磁気抵抗感知ユニットのニール結合磁場は、それぞれ、対応する自由層の結晶磁気異方性場および形状異方性反磁場によって補償される。
【0007】
さらに、複数のプッシュ磁気抵抗感知ユニットは、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリングを形成するように電気的に接続され、複数のプル磁気抵抗感知ユニットは、プル磁気抵抗感知ユニット・ストリングを形成するように電気的に接続され、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリングおよびプル磁気抵抗感知ユニット・ストリングは、フル・ブリッジ構造または半ブリッジ構造のプッシュ・プル磁気抵抗角度センサを形成するように接続される。
【0008】
さらに、自由層の形状異方性反磁場は、形状異方性因子(Nx,Ny)によって決定され、自由層の結晶磁気異方性場は、結晶磁気異方性定数K1によって決定され、
Nx=Ny+K1/M であり、Mは、自由層の飽和磁気モーメントを表し、Nxは、X方向の形状異方性因子を表し、Nyは、Y方向の形状異方性因子を表す。
【0009】
さらに、自由層の形状異方性反磁場は、形状異方性因子(Nx,Ny)によって決定され、自由層の結晶磁気異方性場は、結晶磁気異方性定数K1によって決定され、
プッシュ磁気抵抗感知ユニットの場合、Nx=Ny+K1/M +2*H/Mであり、プル磁気抵抗感知ユニットの場合、Nx=Ny+K1/M -2*HN/Mであり、
は、自由層の飽和磁気モーメントを表し、Nxは、X方向の形状異方性因子を表し、Nyは、Y方向の形状異方性因子を表し、Hは、自由層のニール結合磁場を表す。
【0010】
さらに、多層薄膜構造は、基板が磁気抵抗感知ユニットを指す方向に沿って、シード層、自由層、バリア層、参照層、金属層、ピン止め層、反強磁性層、および絶縁層を含む。
【0011】
さらに、多層薄膜構造は、基板が磁気抵抗感知ユニットを指す方向に沿ってシード層、反強磁性層、ピン止め層、金属層、参照層、バリア層、自由層、および絶縁層を含み、参照層は、軸外イオン・ビーム・ミリングによって平坦化される。
【0012】
さらに、参照層は、二重層複合構造またはSAF多層複合構造である。
【0013】
さらに、バリア層は、ルテニウムもしくは銅から用意される導電層であり、またはバリア層は、酸化アルミニウムもしくは酸化マグネシウムから用意される絶縁層であり、自由層は、フェロニッケル、コバルト鉄ホウ素、およびコバルト鉄のうちの2つ以上の合金で構成された多層薄膜である。
【0014】
さらに、結晶磁気異方性場は、20Oeよりも小さく、
短軸と長軸の比Lx/Lyは、0.5<Lx/Ly<0.95の範囲内であり、厚さLzは、5nm<Lz<200nmの範囲内であり、短軸Lxは、0.5μm<Lx<50μmの範囲内であり、
形状異方性反磁場の配向角と結晶磁気異方性場の配向角との間の差は、90°である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、外部磁場がX-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、結晶磁気異方性場は、自由層における形状異方性反磁場によって補償され、それにより、自由層は、0に近い有効異方性場を有し、対応する外部磁場は、自由層材料の飽和磁場の値に近い低い磁場値を有する。したがって、磁気抵抗角度センサの角度測定誤差は、減少させられ得、角度測定精度は改善され得る。加えて、外部磁場は低く、したがって、強力な磁石を構成することは必要とされず、磁気抵抗角度センサは、低コストで実装され得る。
【0016】
本発明の実施形態または先行技術における技術的解決策のより明確な説明を提供するために、実施形態または先行技術の説明において必要とされる添付図面に対する簡単な紹介がなされる。以下の説明における添付図面は、本発明のいくつかの特定の実施形態であるが、当業者にとっては、本発明の様々な実施形態によって開示および示唆されるデバイス構造、駆動方法、および製造方法の基本概念は、他の構造および図面に拡大および拡張され得、それらは、本発明の特許請求の範囲内に疑う余地なくあることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサの概略図である。
図2】本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサのX-Y平面の磁化図である。
図3】本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサのX-Z平面の磁化図である。
図4】本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサにおける多層スタッキング構造の概略図である。
図5a】本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサにおけるプッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリングの概略図である。
図5b】本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサにおけるプル磁気抵抗感知ユニット・ストリングの概略図である。
図6】楕円形磁気抵抗感知ユニットにおける異なるLz値を有する自由層の(Lx/Ly)-Lxの2次元図である。
図7】楕円形磁気抵抗感知ユニットにおける異なるLz値を有する自由層のLx-Lyの2次元図である。
図8】磁気抵抗感知ユニットにおける多層スタッキング構造の概略図である。
図9】本発明の一実施形態によるプッシュ磁気抵抗感知ユニットにおける自由層の磁化図である。
図10】本発明の一実施形態によるプル磁気抵抗感知ユニットにおける自由層の磁化図である。
図11a】楕円形自由層の磁化図であり、図11aは、楕円形プッシュ自由層のX-Y平面の磁化図である。
図11b】楕円形自由層の磁化図であり、図11bは、楕円形プッシュ自由層のX-Z平面の磁化図である。
図11c】楕円形自由層の磁化図であり、図11cは、楕円形プル自由層のX-Y平面磁化グラフである。
図11d】楕円形自由層の磁化図であり、図11dは、楕円形プル自由層のX-Z平面磁化グラフである。
図12a】別の楕円形自由層の磁化図であり、図12aは、楕円形プッシュ自由層のX-Y平面磁化グラフである。
図12b】別の楕円形自由層の磁化図であり、図12bは、楕円形プッシュ自由層のX-Z平面の磁化図である。
図12c】別の楕円形自由層の磁化図であり、図12cは、楕円形プル自由層のX-Y平面の磁化図である。
図12d】別の楕円形自由層の磁化図であり、図12dは、楕円形プル自由層のX-Z平面の磁化図である。
図13】Lx-Ly2次元座標におけるHの等値図である。
図14】プッシュ磁気抵抗感知ユニットおよびプル磁気抵抗感知ユニットのサイズ選択図である。
図15】楕円形自由層のサイズおよび材料性能に対応するM-H曲線である。
図16】円形自由層のサイズおよび材料性能に対応するM-H曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の目的、技術的解決策、および利点をより明確にするために、本発明の技術的手法は、本発明の実施形態における図面を参照して、実施形態によって明確かつ完全に説明される。明らかに、説明される実施形態は、本発明の実施形態の一部であり、それらのすべてではない。本発明の実施形態によって開示および促進される基本概念に基づいて、当業者によって得られるすべての他の実施形態は、本発明の保護の範囲に属する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサの概略図であり、図2は、本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサのX-Y平面の磁化図であり、図3は、本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサのX-Z平面の磁化図である。本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサは、X-Y平面内に位置する基板100と、基板100上に位置する磁気抵抗感知ユニット200とを含み、磁気抵抗感知ユニット200は、多層薄膜構造を含み、多層薄膜構造は、少なくとも自由層(FL)201、バリア層(BL)202、および参照層(RL)203のスタックを含む。磁気抵抗感知ユニット200は、楕円形を有し、楕円形の自由層201は、長軸Ly、短軸Lx、および厚さLzを有し、自由層201は、X方向に飽和磁場Hs、形状異方性反磁場H、結晶磁気異方性場Hを有し、外部磁場HがX-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、結晶磁気異方性場Hは、外部磁場Hが自由層201材料の飽和磁場Hの値に近い低い作動磁場値を有するように、自由層201の有効異方性場を0に近づけるように、形状異方性反磁場Hによって補償される。
【0020】
本実施形態では、任意選択で、基板100は、ウェハであり、基板100は、1つまたは複数の磁気抵抗感知ユニット200を備える。各磁気抵抗感知ユニット200は、多層薄膜構造を含み、多層薄膜構造は、少なくとも自由層201、バリア層202、および参照層203のスタックを含む。自由層201、バリア層202、および参照層203は、図2に示された順序に従ってスタックされ得、これに限定されない他の順序に従ってスタックされることも可能であることを理解されたい。磁気抵抗感知ユニット200は、楕円形であり、楕円形の長軸はY方向に平行であり、楕円形の短軸はX方向に平行であり、楕円形の厚さはZ方向に平行であり、自由層201の楕円形の長軸はLyであり、Y方向に平行であり、楕円形の短軸はLxであり、X方向に平行であり、楕円形の厚さはLzであり、Z方向に平行であり、他の実施形態では、磁気抵抗感知ユニットは、これに限定されない他の形状であるように選択されてもよい。
【0021】
自由層201は、X方向に飽和磁場H、形状異方性反磁場H、および結晶磁気異方性場Hを有する。外部磁場HがX-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、結晶磁気異方性場Hおよび形状異方性反磁場Hは、方向が反対であり、互いに補償することができ、すなわち、形状異方性反磁場Hは、結晶磁気異方性場Hを補償することができる。形状異方性反磁場Hの磁場値が結晶磁気異方性場Hの値に近い場合、自由層201は、0に近い有効異方性場を有する。自由層201は、飽和磁場Hをさらに有し、自由層201が0に近い有効異方性場を有する場合、外部磁場Hは、外部磁場HがX-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、飽和磁場Hに近い。自由層201の飽和磁場Hsの磁場値は低く、したがって、外部磁場Hは、自由層201の飽和磁場Hsに近い低い磁場値を有することが知られている。
【0022】
およびHの相互補償は、以下のモードで実現される、すなわち、自由層は磁場アニール処理技術によって処置され、または自由層はバイアス磁場を用いたスパッタ成膜技術によって成長させられ、形成された自由層膜は一軸結晶磁気異方性場Hを有することができ、異方性は特定の方向にあり、他方で、自由層は、円い形状の代わりに楕円形であるように配置され、特定の方向の形状異方性反磁場Hは、楕円形の長軸Lyのサイズおよび短軸Lxのサイズを設定することによって得られ、したがって、HおよびHは、相互補償されることに留意されたい。
【0023】
任意選択で、磁気抵抗角度センサは、TMRまたはGMRであり得るが、TMRまたはGMRに限定されない。
【0024】
本発明の実施形態によれば、外部磁場がX-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、結晶磁気異方性場は、自由層における形状異方性反磁場によって補償され、それによって自由層は、0に近い有効異方性場を有し、対応する外部磁場は、自由層の飽和磁場の値に近い低い磁場値を有する。したがって、磁気抵抗角度センサの角度測定誤差は、減少させられ得、角度測定精度は、改善させられ得る。さらに、外部磁場は低く、したがって、強力な磁石を構成することは必要とされず、磁気抵抗角度センサは、低コストで実装され得る。
【0025】
例示として、図4は、本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサにおける多層スタッキング構造の概略図である。図4に示されるように、任意選択で、磁気抵抗感知ユニットは、プッシュ磁気抵抗感知ユニット200aと、プル磁気抵抗感知ユニット200bとを含み、プッシュ磁気抵抗感知ユニット200aの自由層201、およびプル磁気抵抗感知ユニット200bの自由層201は、正および負のX方向ニール結合磁場Hを有し、プッシュ磁気抵抗感知ユニット200aおよびプル磁気抵抗感知ユニット200bのニール結合磁場Hは、それぞれ、対応する自由層201の結晶磁気異方性場Hおよび形状異方性反磁場Hによって補償される。
【0026】
本実施形態では、磁気抵抗感知ユニットは、プッシュ・プル磁気抵抗感知ユニットである。任意選択で、プッシュ磁気抵抗感知ユニット200aの自由層201は、正のX方向のニール結合磁場Hを有し、プル磁気抵抗感知ユニット200bの自由層201は、負のX方向のニール結合磁場Hを有する。他の実施形態では、任意選択で、プッシュ磁気抵抗感知ユニットの自由層は、-X方向のニール結合磁場を有し、プル磁気抵抗感知ユニットの自由層は、+X方向のニール結合磁場を有する。
【0027】
プッシュ磁気抵抗感知ユニット200aのニール結合磁場Hは、自由層201の結晶磁気異方性場Hおよび形状異方性場Hによって補償され、プル磁気抵抗感知ユニット200bのニール結合磁場Hは、自由層201の結晶磁気異方性場Hおよび形状異方性場Hによって補償される。
【0028】
図5aおよび図5bは、本発明の一実施形態による低磁場磁気抵抗角度センサの概略図である。図5aに示されるように、任意選択で、複数のプッシュ磁気抵抗感知ユニット200aは、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(1)を形成するように電気的に接続され得、図5bに示されるように、任意選択で、複数のプル磁気抵抗感知ユニット200bは、プル磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(2)を形成するように電気的に接続され得、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(1)およびプル磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(2)は、フル・ブリッジ構造または半ブリッジ構造のプッシュ・プル磁気抵抗角度センサを形成するように接続される。
【0029】
本実施形態では、磁気抵抗角度センサは、プッシュ・プル磁気抵抗角度センサであり、プッシュ・プル磁気抵抗角度センサは、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(1)と、プル磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(2)とを含み、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(1)およびプル磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(2)は、フル・ブリッジ構造を形成するように接続され、またはプッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(1)およびプル磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(2)は、半ブリッジ構造を形成するように接続される。
【0030】
図5aに示されるように、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(1)は、複数のプッシュ磁気抵抗感知ユニット200aを直列におよび並列に接続することによって形成され、図5bに示されるように、プル磁気抵抗感知ユニット・ストリング200(2)は、複数のプル磁気抵抗感知ユニット200bを直列におよび並列に接続することによって形成される。他の実施形態では、任意選択で、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリングは、複数のプッシュ磁気抵抗感知ユニットを直列に接続することによって形成されてもよく、プル磁気抵抗感知ユニット・ストリングは、複数のプル磁気抵抗感知ユニットを直列に接続することによって形成され、あるいは、さらなる任意選択で、プッシュ磁気抵抗感知ユニット・ストリングは、複数のプッシュ磁気抵抗感知ユニットを並列に接続することによって形成されてもよく、プル磁気抵抗感知ユニット・ストリングは、複数のプル磁気抵抗感知ユニットを並列に接続することによって形成される。それは、これ限定されない。
【0031】
例示として、図2および図3に示されるように、任意選択で、自由層の形状異方性反磁場は、形状異方性因子(Nx,Ny)によって決定され、自由層の結晶磁気異方性場は、結晶磁気異方性定数K1によって決定され、Nx=Ny+K1/M であり、Mは、自由層の飽和磁気モーメントを表し、Nxは、X方向の形状異方性因子を表し、Nyは、Y方向の形状異方性因子を表す。
【0032】
任意選択で、自由層の形状異方性反磁場は、形状異方性因子(Nx,Ny)によって決定され、自由層の結晶磁気異方性場は、結晶磁気異方性定数K1によって決定され、プッシュ磁気抵抗感知ユニットの場合、Nx=Ny+K1/M +2*H/Mであり、プル磁気抵抗感知ユニットの場合、Nx=Ny+K1/M -2*H/Mであり、Mは、自由層の飽和磁気モーメントを表し、Nxは、X方向の形状異方性因子を表し、Nyは、Y方向の形状異方性因子を表し、Hは、自由層のニール結合磁場を表す。
【0033】
本実施形態では、解析は、結晶磁気異方性場Hおよび形状異方性反磁場Hの行列表現から開始されて、結晶磁気異方性場Hおよび形状異方性反磁場Hによる補償を達成するプロセスを説明する。形状異方性反磁場は、磁気形状異方性磁場を指す。
【0034】
数学的には、結晶磁気異方性場Hおよび形状異方性反磁場Hは、異方性テンソル行列によって表すことができ、異方性テンソル行列は、以下の式(1)のように示される。
【数1】
【0035】
主軸方向の座標を変換することにより、異方性テンソル行列(1)は対角行列に変換することができ、対角行列は以下の式(2)として示される。
【数2】
【0036】
幾何学的に、異方性テンソル行列(1)は、楕円体によって記述することができ、プッシュ磁気抵抗感知ユニットの自由層およびプル磁気抵抗感知ユニットの自由層は、Z方向に圧縮された特殊な偏球楕円体と等価である。
【0037】
したがって、理論的には、HおよびHの相互補償は、結晶磁気異方性場Hの行列[D]と形状異方性反磁場Hの行列[D]との和が0に等しい限り、すなわち、[D]+[D]=0行列である限り、達成され得、エネルギーの観点では、結晶磁気異方性場Hの結晶磁気異方性エネルギーと形状異方性反磁場Hの磁気形状異方性エネルギーとの和が0である。
【0038】
結晶磁気異方性エネルギーおよび磁気形状異方性エネルギーについては、表現式は、以下の式(3)に示される。
【数3】
【0039】
式(3)において、Mはベクトル磁気モーメントを表し、m、m、およびmの3つの成分として表すことができ、θはMとX軸との間の角度を含むベクトルを表し、θはMとY軸との間の角度を含むベクトルを表し、θはMとZ軸との間の角度を含むベクトルを表し、θ、θ、θは関係式(4)を満たす。
cosθ+cosθ+cosθ=1 (4)
【0040】
プッシュ磁気抵抗感知ユニットの自由層がZ方向に圧縮された特殊な偏球楕円体と等価であり、プル磁気抵抗感知ユニットの自由層がZ方向に圧縮された特殊な偏球楕円体と等価であることに従って、対角行列式(2)におけるDx=Dzが設定され、式(3)は、以下の式(5)に変換される。
【0041】
他方で、結晶磁気異方性の別の表現式が、式(6)に示される。
=K・sinθ+K (6)
【0042】
式(6)において、KおよびKは、結晶磁気異方性定数であり、数式(5)と(6)とを比較して、式(7)を得る。
=-M・(Dx-Dy) (7)
【0043】
実際の作業では、結晶磁気異方性場については、因子は、パラメータKによって表され、形状異方性反磁場については、形状異方性減磁率は、Nx(Dx)、Ny(Dy)、およびNz(Dz)によって表される。結晶磁気異方性エネルギーと磁気形状異方性エネルギーの和は0であり、これはHとHの相互補償のための条件である。結晶磁気異方性エネルギーと磁気形状異方性エネルギーの方向が逆であるとき、以下の式(8)が得られる。
・sinθ+K-M・(Nx-Ny)・sinθ=0 (8)
【0044】
式(8)が簡略化された後に、式(9)が得られる。
Nx=2K/M+Ny (9)
【0045】
したがって、結晶磁気異方性場Hは、式(10)によって表され、形状異方性反磁場Hは、式(11)によって表される。
=2K/M (10)
=M・(Nx-Ny) (11)
【0046】
およびHの相互補償のための条件は、式(12)に示される。
=M・(Nx-Ny)=H (12)
【0047】
任意選択で、結晶磁気異方性場Hは、20Oeよりも小さく、短軸と長軸の比Lx/Lyは、0.5<Lx/Ly<0.95の範囲であり、厚さLzは、5nm<Lz<200nmの範囲であり、短軸Lxは、0.5μm<Lx<50μmの範囲であり、形状異方性反磁場Hの配向角と結晶磁気異方性場Hの配向角との差は、90°である。
【0048】
パーマロイNiFeは、軟磁性材料(H,M)の性能パラメータが知られているという条件下で、パーマロイによって形成された自由層および薄膜楕円体のサイズ(Lx,Ly,Lz)の設計を説明するための以下の一例として得られ、ただし、H=20Oe、M=10000Gである。
【0049】
楕円形自由層の長軸はLyであり、短軸はLxであり、厚さはLzであり、具体的には、Ly>Lx>>Lzの場合、減磁率Nx、Ny、およびNzの計算式は、以下の式(13~16)に示される。
【数4】
【0050】
KおよびEは完全な楕円積分項であり、入力パラメータはeであり、(Lx,Ly,Lz)対Hの関係グラフは、式(12)に代入することによって解くことができる。
【0051】
上述したように、図2に示されるように、磁気抵抗角度センサは単一ドメイン構造であり、磁化容易軸方向(EA)はX軸方向であり、ゼロ磁場の下で、形状異方性反磁場Hdの方向は-X方向であり、Hは外部磁場であり、磁気モーメントMの方向は外部磁場Hの方向と一致すると仮定される。
【0052】
図6は、楕円形磁気抵抗感知ユニットの異なるLz値を有する自由層の(Lx/Ly)-Lxの2次元図である。図6に示されるように、任意選択で、自由層の形状異方性反磁場Hおよび結晶磁気異方性場Hは、H=H=20Oeを満たし、Lzは、1nmから50nmまで等間隔で配置されて10本の曲線を形成し、各曲線の対応するLz値は、1+49/9*(n-1)nmであり、すなわち、nは整数であり、1≦n≦10として示され、n=1の場合、第1の曲線の対応するLz値は1nmであり、n=2の場合、第2の曲線の対応するLz値は、約6.44nmであり、n=3の場合、第3の曲線の対応するLz値は、約11.88nmなどであり、n=10の場合、10番目の曲線の対応するLz値は、50nmである。Lx/Lyは、0<Lx/Ly<1の範囲であり、各Lz値について、Lxは、最大値を有し、各Lx値について、1つのみの対応するLx/Lyが存在し、Lxが増加するにつれて、Lx/Lyは減少し、すなわち、それに応じてLyを増加させることも必要とされることが理解できる。
【0053】
図7は、楕円形磁気抵抗感知ユニットにおける異なるLz値を有する自由層のLx-Lyの2次元図である。図7に示されるように、任意選択で、自由層の形状異方性反磁場Hおよび結晶磁気異方性場Hは、H=H=20Oeという式を満たし、Lzは、1nmから50nmまで等間隔で配置されて10本の曲線を形成し、各曲線の対応するLz値は、1+49/9*(n-1)nmであり、すなわち、nは整数であり、1≦n≦10として示され、n=1の場合、第1の曲線の対応するLzは1nmであり、n=2の場合、第2の曲線の対応するLz値は約6.44nmであり、n=3の場合、第3の曲線の対応するLz値は約11.88nmなどであり、n=10の場合、第10の曲線の対応するLz値は50nmである。Lzが増加するにつれて、Lx値の範囲は徐々に広くなり、Lzが1nmに近いとき、Ly/Lx値の範囲は、Lz=50nmに対して劇的に変化することが理解できる。
【0054】
Lz=50nmの場合、1つの値は、Lx=14.36μm、Ly=28.35μm、Lz=50nm、Nx=0.001116855、Ny=0.003114851、Nz=0.995768293、Hd≒20Oe=Hkとして示され、外部磁場Hの不等式H>H+H+H+Hにおいて、H+H=0の場合、相互補償が達成され、H>H+Hの場合、Hの振幅は、大きく減少させられる。
【0055】
例示的に、図8は、磁気抵抗感知ユニットにおける多層スタック構造の概略図である。図8に示されるように、任意選択で、基板100が磁気抵抗感知ユニット200を指す方向(+Z方向と同じ)に沿って、多層薄膜構造は、シード層(seed)、自由層(FL)、バリア層(BL)、参照層(RL)、金属層(ML)、ピン止め層(PL)、反強磁性層(AFL)、および絶縁層(CL)を含む。プッシュ磁気抵抗感知ユニット200aの場合、自由層201は、+X方向の結晶磁気異方性場Hを含み、参照層(RL)の磁気モーメント方向は+X方向であり、ピン止め層(PL)の磁気モーメント方向は-X方向であり、反強磁性層(AFL)の磁気モーメント方向は-X方向である。プル磁気抵抗感知ユニット200bの場合、自由層201は、-X方向の結晶磁気異方性場Hを含み、参照層(RL)の磁気モーメント方向は-X方向であり、ピン止め層(PL)の磁気モーメント方向は+X方向であり、反強磁性層(AFL)の磁気モーメント方向は+X方向である。
【0056】
例示的に、図4に示されるように、任意選択で、基板100が磁気抵抗感知ユニット200を指す方向(+Z方向と同じ)に沿って、多層薄膜構造は、シード層(seed)、反強磁性層(AFL)、ピン止め層(PL)、金属層(ML)、参照層(RL)、バリア層(BL)、自由層(FL)、および絶縁層(CL)を含み、参照層(RL)は、軸外イオン・ビーム・ミリングによって平坦化される。プッシュ磁気抵抗感知ユニット200aの場合、自由層201は、+X方向の結晶磁気異方性場Hを含み、参照層(RL)の磁気モーメント方向は+X方向であり、ピン止め層(PL)の磁気モーメント方向は-X方向であり、反強磁性層(AFL)の磁気モーメント方向は-X方向である。プル磁気抵抗感知ユニット200bの場合、自由層201は、-X方向の結晶磁気異方性場Hを含み、参照層(RL)の磁気モーメント方向は-X方向であり、ピン止め層(PL)の磁気モーメント方向は+X方向であり、反強磁性層(AFL)の磁気モーメント方向は+X方向である。絶縁層(CL)は、キャップ層とみなすこともできる。
【0057】
任意選択で、参照層(RL)は、二重層複合構造またはSAF多層複合構造である。任意選択で、バリア層は、ルテニウムまたは銅から用意される導電層であり、あるいはバリア層は、酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムから用意される絶縁層であり、自由層は、フェロニッケル、コバルト鉄ホウ素、およびコバルト鉄のうちの2つ以上の合金で構成された多層薄膜である。
【0058】
図9は、本発明の一実施形態によるプッシュ磁気抵抗感知ユニットにおける自由層の磁化図であり、図10は、本発明の一実施形態によるプル磁気抵抗感知ユニットにおける自由層の磁化図である。図9および図10に示されるように、任意選択で、自由層の長軸Lyは短軸Lxに近く、すなわち、自由層201は、ほぼ円い。任意選択で、磁気抵抗角度センサにおける磁気抵抗感知ユニットは、プッシュ・プル磁気抵抗感知ユニットであり、図4のプッシュ磁気抵抗感知ユニット200aの磁化図、および図8のプッシュ磁気抵抗感知ユニット200aの磁化図は、図9に示され、図4のプル磁気抵抗感知ユニット200bの磁化図、および図8のプル磁気抵抗感知ユニット200bの磁化図は、図10に示される。
【0059】
磁気抵抗感知ユニットにおける参照層(RL)、バリア層(BL)、および自由層(FL)のスタックは、トンネル接合ユニットを形成し、トンネル接合ユニットの位置は、磁気抵抗感知ユニットにおけるピン止め層(PL)の相対的な位置変化に従って異なる。図4に示される磁気抵抗感知ユニットは、ボトム・ピン止めされた多層薄膜スタック構造として理解でき、トンネル接合ユニットは、ボトム・ピン止めされた多層薄膜スタック構造上に位置し、すなわち、基板100、シード層(seed)、反強磁性層(AFL)、ピン止め層(PL)、金属層(ML)、参照層(RL)、バリア層(BL)、自由層(FL)、およびキャップ層(CL)10が、順次スタックされる。図8に示される磁気抵抗感知ユニットは、トップ・ピン止めされた多層薄膜スタック構造として理解でき、トンネル接合ユニットは、トップ・ピン止めされた多層薄膜スタック構造と基板100との間に位置し、すなわち、基板100、シード層(seed)、自由層(FL)、バリア層(BL)、参照層(RL)、金属層(ML)、ピン止め層(PL)、反強磁性層(AFL)、およびキャップ層(CL)10が、順次スタックされる。
【0060】
プッシュ磁気抵抗感知ユニット200aおよびプル磁気抵抗感知ユニット200bの反強磁性層(AFL)は、反対の正および負のX方向の磁気モーメント方向を有し、プッシュ・ピン止め層(PL)およびプル・ピン止め層(PL)も、反対の正および負のX方向の磁気モーメント方向を有し、プッシュ・ピン止め層(PL)、プッシュ金属層(ML)、およびプッシュ参照層(RL)は、RKKY効果によってプッシュ磁気抵抗感知ユニット200aのSAF構造を形成し、プル・ピン止め層(PL)、プル金属層(ML)、およびプル参照層(RL)は、RKKY効果によってプル磁気抵抗感知ユニット200bのSAF多層複合構造を形成し、それにより、プッシュ参照層(RL)およびプル参照層(RL)が反対の-Xおよび+X方向の磁気モーメント方向を有することが保証される。
【0061】
任意選択で、バリア層(BL)がAlまたはMgOである場合、磁気抵抗感知ユニットは、TMRユニットであり、任意選択で、バリア層(BL)が金属層RuまたはCuである場合、磁気抵抗感知ユニットは、GMRユニットである。
【0062】
図9および図10に示されるように、プッシュ磁気抵抗感知ユニットの自由層201aおよびプル磁気抵抗感知ユニットの自由層201bが円い構造であるとき、異方性場は0であり、すなわち、異なる方向の磁気モーメントは、自由層201aおよび自由層201b上に分布し、等方性特性が達成される。次いで、外部磁場Hが自由層201aおよび自由層201b上で0~360°だけ回転するときに必要とされる最大磁場Hの値が評価される。
【0063】
図9に示されるように、HNは、自由層(FL)201aとプッシュ参照層(RL)との間のニール結合磁場であり、方向は、プッシュ参照層(RL)の磁気モーメント方向、すなわち+X方向と一致し、方向は、外部磁場Hと共に変化することができない。外部磁場Hが-X方向にあるとき、プッシュ自由層(FL)201a上で+X方向の磁気モーメントがあり、外部磁場Hの異方性場Hは、材料によって決定され、方向は+X方向であり、このとき、反磁場Hは明らかに+X方向にある。プッシュ自由層(FL)201a上のすべての磁気モーメントを-X方向に向けることを可能にするために、必要な最大磁場値は、ニール磁場HN、反磁場H、異方性場H、および材料飽和磁界Hの値の和に等しく、このとき、外部磁場Hの磁気モーメントMは、プッシュ自由層(FL)201aの磁気モーメントMと一致し、すなわち、H>HN+H+H+Hである。
【0064】
同様に、図10に示されるように、プル磁気抵抗感知ユニットのプル自由層(FL)201bの場合、外部磁場Hが+X方向にあるとき、H>HN+H+H+Hとして示される最大磁場値が存在する。
【0065】
結論として、円いプル自由層(FL)201aおよびプル自由層(FL)201bの減磁率は、以下のように表され得る。
={sqrt(t+R)-R}/2t
tは、自由層の膜厚を表し、Rは、円半径を表し、パーマロイ薄膜の場合、厚さは、t≒10nm、R≒5000nm、us~1T、H≒16Oeとして示される。
【0066】
ニール結合場HNの典型的な値は、1~10Oeの範囲内であり、ニール結合場HNはまた、自由層を飽和させるために外部磁場Hによって打ち勝たれる必要もある。大雑把に言えば、円い自由層の場合、外部磁場Hの最小の可能な磁場強度は、一般的に50Oeよりも大きいことが必要とされ、このとき、H>>Hである。
【0067】
外部磁場Hの値を減少させるために、HN、H、およびHの値が減少させられ得、理想的な条件下では、HNは、FL層膜およびPL層膜の堆積プロセスを調整してFL層とPL層の間のラフネスを最小にすることによって、できるだけ小さくされ得る。これに基づいて、任意選択で、磁気抵抗感知ユニットの多層薄膜スタック構造は、トップ・ピン止めされた多層薄膜スタック構造であり、または任意選択で、磁気抵抗感知ユニットの多層薄膜スタック構造は、ボトム・ピン止めされた多層薄膜スタック構造である。バリア層が堆積される前に、プッシュ参照層およびプル参照層は、ラフネスを減少させるために平坦化され、任意選択で、平坦化プロセスは、軸外イオン・ビーム・ミリングであり得る。
【0068】
上記の実施形態については、自由層がほぼ円いまたはほぼ楕円であるかに関わらず、HとHの相互補償は、以下のモードで達成され、すなわち、自由層は、磁場アニール処理技術によって処理され、またはバイアス磁場を用いてスパッタ成膜技術によって成長され、形成された自由層膜は一軸結晶磁気異方性場Hを有することができ、異方性は特定方向にあり、他方、自由層が円い形状の代わりに楕円形であるように配置され、特定方向の形状異方性アニール場Hは、楕円形の長軸Lyのサイズおよび短軸Lxのサイズを設定することによって得られ、HとHの和はHによって補償され、このとき、Hは、参照層(RL)の磁気モーメント方向の差に従ってX方向にあることができると共にY方向にあることもでき、したがって、Hは、HおよびHを補償することができる。
【0069】
図11a~図11dに示されるように、参照層RLの磁化方向がX方向であるとき、図11aは、楕円形プッシュ自由層のX-Y平面の磁化図であり、図11bは、楕円形プッシュ自由層のX-Z平面の磁化図であり、図11cは、楕円形プル自由層のX-Y平面磁化グラフであり、図11dは、楕円形プル自由層のX-Z平面磁化グラフである。HNは、X方向に加えられるバイアス磁場に相当し、このとき、Hは、依然として、楕円形の自由プッシュ層201cおよび201dのLx、Ly、およびLzのサイズを調整することによって得ることができ、HNとHの和を補償するために使用され得る。
【0070】
このとき、H、H、およびHの組み合わされた作用によって、自由層の全エネルギーE(θ)は、以下の式(17)のように表される。
【0071】
正の符号および負の符号は、それぞれプッシュ磁気抵抗感知ユニットおよびプル磁気抵抗感知ユニットの自由層201cおよび201dに対応する。すなわち、プッシュ磁気抵抗感知ユニットの自由層201cは、E(θ)=-(H+H)・M・cosθ-Hy・M・sinθ+[K1-M・(Ny-Nx)]・sinθ]であり、プル磁気抵抗感知ユニットの自由層201dは、E(θ)=-(H-H)・M・cosθ-Hy・M・sinθ+[K1-M・(Ny-Nx)]・sinθ]であり、またはプル磁気抵抗感知ユニットの自由層201dは、E(θ)=-(H+H)・M・cosθ-Hy・M・sinθ+[K1-M・(Ny-Nx)]・sinθ]であり、プッシュ磁気抵抗感知ユニットの自由層201cは、E(θ)=-(H-H)・M・cosθ-Hy・M・sinθ+[K1-M・(Ny-Nx)]・sinθ]である。
【0072】
飽和磁場Hの磁気モーメントがX方向およびY方向にあるとき、自由層の全エネルギーE(θ)は、同じ数値を有し、すなわち、以下の式(18)が満たされる。
E(0)=E(90) (18)
【0073】
このとき、H、H、およびHkの相互補償により、Hの項目だけが外部磁場Hの表現式に残され(H>H+H+H+H)、すなわち、外部磁場Hの表現式は、H>Hであり、Hは、以下を満たす。Hx=Hy=H (19)
【0074】
Hx=H、Hy=0は、E(0)に代入され、Hy=H、Hx=0は、E(90)に代入される。式(20)は、式(18)
(±H)・M=-[K-M・(N-N)] (20)
に従って得られる。
【0075】
式(20)が簡略にされた後、H、H、およびHの相互補償を満たす関係式(21)が得られる。
【数5】
【0076】
参照層(RL)の磁化方向がY方向、すなわち、HがY方向にあるとき、自由層の全エネルギーE(θ)は、以下の式(22)を満たす。
【0077】
正の符号および負の符号は、それぞれプッシュ磁気抵抗感知ユニットおよびプル磁気抵抗感知ユニットの自由層201cおよび201dに対応する。
【0078】
飽和磁場Hの磁気モーメントがX方向およびY方向にあるとき、自由層の全エネルギーE(θ)は、同じ数値を有し、すなわち、E(0)=E(90)である。
【0079】
式(22)が簡略にされた後、H、H、およびHの相互補償を満たす関係式(23)が得られる。
【数6】
【0080】
任意選択で、自由層の形状異方性反磁場は、形状異方性因子(Nx,Ny)によって決定され、自由層の結晶磁気異方性場は、結晶磁気異方性定数K1によって決定される。
【0081】
プッシュ磁気抵抗感知ユニットの場合、Nx=Ny+K1/Ms+2*H/Mであり、プル磁気抵抗感知ユニットの場合、Nx=Ny+K1/M -2*H/Mである。
【0082】
は自由層の飽和磁気モーメントを表し、NxはX方向の形状異方性因子を表し、NyはY方向の形状異方性因子を表し、Hは自由層のニール結合磁場を表す。
【0083】
同様に、パーマロイNiFeを一例としてとると、H=20Oe、M=10000Gであり、ニール結合場Hの典型的な値は、1~10Oeの範囲内である。H=5Oeである場合、プッシュ磁気抵抗感知ユニットについては、H+H=25Oeであり、プル磁気抵抗感知ユニットについては、H-H=15Oeであり、したがって、プッシュ磁気抵抗感知ユニットおよびプル磁気抵抗感知ユニットは、それぞれ異なるLxおよびLyサイズを有する。
【0084】
図12a~図12dに示されるように、図12aは、楕円形プッシュ自由層のX-Y平面磁化グラフであり、図12bは、楕円形プッシュ自由層のX-Z平面の磁化図であり、図12cは、楕円形プル自由層のX-Y平面の磁化図であり、図12dは、楕円形プル自由層のX-Z平面の磁化図である。磁気プッシュ式抵抗感知ユニットのサイズをLx1およびLy1とし、磁気プル式抵抗感知ユニットのサイズをLx2およびLy2とすると、磁気プッシュ式抵抗感知ユニットの抵抗が同じである必要があるため、すなわち、面積が同じである必要があるため、以下の関係式(24)が存在する。
x1・Ly1=Lx2・Ly2 (24)
【0085】
図13に示されるように、Lzが知られているという条件下で、Lx1およびLy1は、Lx-Lyの2次元座標におけるHの等値図によって得られる。Lx1およびLy1は、H=H+Hの等価曲線22を満たし、Lx2とLy2は、H=H-Hの等価曲線20を満たす。次に、Lx*Ly=Lx1*Ly1の双曲線21が(Lx1,Ly1)を通って作られ、双曲線21と等価曲線20との交点は別の点(Lx2,Ly2)である。同様に、Y方向のHに対応する(Lx3,Ly3)、(Lx4,Ly4)を解くことができる。
【0086】
図14は、プッシュ磁気抵抗感知ユニットおよびプル磁気抵抗感知ユニットのサイズ選択図である。2つの等高線H=25OeおよびH=15Oeが選択され、H=25OeおよびH=15Oeは、(1,2)で一方の双曲線Lx*Ly=36と交差し、H=25OeおよびH=15Oeは、(3,4)で他方の双曲線Lx*Ly=64と交差する。対応するLxおよびLyデータ表は、表1を参照されたい。
【0087】
【表1】
【0088】
上記の表に示されるように、対応する面積がLx*Ly=36μm*μmであるとき、プッシュ磁気抵抗感知ユニットのサイズは、5.22808<Lx1<5.3192、6.72222<Ly<6.87273として示され、プル磁気抵抗感知ユニットのサイズは、5.51825<Lx1<5.62978、6.42121<Ly<6.57172である。
【0089】
対応する面積がLx*Ly=64μm*μmであるとき、プッシュ磁気抵抗感知ユニットのサイズは、6.72868<Lx1<6.80542、9.43131<Ly<9.58182として示され、プル磁気抵抗感知ユニットのサイズは、7.20738<Lx1<7.30707、8.82929<Ly<8.9798である。
【0090】
図15および図16は、それぞれ、楕円形自由層および円い自由層の2つのサイズおよび材料性能に対応するM-H曲線を示す。図15に示すように、低磁場磁気抵抗角度センサの有効異方性場は0に近いので、すなわち、H、H、およびHは、互いに補償するので、M-Hループの保磁力は0に近い。図16に示されるように、低磁場磁気抵抗角度センサの異方性場は、Hによって主に決定されるので、矩形のM-Hループが存在することになり、一方、Hの存在により、保磁力は-H+HおよびH-Hであり、M-Hループは非対称である。磁気抵抗角度センサにおけるプッシュ・アームおよびプル・アームに対応するH値は、方向が反対であることに留意されたい。数値シミュレーション表現によれば、Hは、正しいLx/Lyを選択することによって減少させることができ、そして、Hと同様の外部磁場Hが得られ得る。
【0091】
上記のいずれの実施形態についても、自由層は、同じ+X方向または-X方向の結晶磁気異方性場Hを有し、反対の+X方向および-X方向のニール結合場Hも有し、ピン止め層(PL)は、反対の+X方向および-X方向のピン止め場Hを有することに留意されたい。外部磁場HがX-Y平面内で0~360°だけ回転するとき、結晶磁気異方性場Hおよびニール結合場Hは、FL層形状異方性反磁場Hによって補償され、それにより、FL層は、0に近い有効異方性場を有し、外部磁場Hは、FL層飽和磁場Hに近い低い磁場値を有する。したがって、PL層の偏向角は、効果的に減少させることができ、角度測定の精度は、改善され得る。
【0092】
自由層が最小の飽和磁界Hを有する条件は、自由層の反磁場Hの形状異方性因子(Nx,Ny)と結晶磁気異方性場Hの結晶磁気異方性定数K1とが、Nx=Ny+K1/M として示される関係にあり、MがFL層の飽和磁気モーメントを表すことが理解できる。
【0093】
任意選択で、|H|=|H|であり、Hの配向角とHの配向角との間の差が90°であり、すなわち、結晶磁気異方性方向は、短軸の方向に対して強制された磁化強度の方向になる傾向がある。
【0094】
加えて、自由層(FL)の磁気モーメントMおよびHの方向が一致するという条件下で、外部磁場Hが減少させられ、外部磁場Hの作用によってピン止め層(PL)の偏向角が減少させられ得、したがって、PLの偏向角は、Hの振幅の増大と共に増大することが防がれ、測定角度誤差が減少させられる。したがって、外部磁場Hの振幅が減少させられ、それによりピン止め層(PL)の偏向角が減少させられ、同時に、自由層(FL)の磁気モーメントMがH方向に飽和状態にあることが確実にされ得、さらに、磁石のコストが減少させられ得、それは、TMRまたはGMRスピン・バルブ高精度磁気抵抗角度センサの用意を改善し、コストを減少させるために重要な意味を有する。
【0095】
上記のものは、本発明の好ましい実施形態および技術的原理であるに過ぎないことに留意されたい。当業者は、本発明が、本明細書に記載された特定の実施形態に限定されず、本発明の保護範囲から逸脱することなく、様々な明らかな変更、調整、組合せ、および置換を受けることができることを理解するであろう。したがって、本発明は、上記の実施形態によって詳細に説明されたが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の概念から逸脱することなく、本発明は、より多くの均等な実施形態を含むこともでき、本発明の範囲は、添付の請求の範囲の範囲によって決定される。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
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図8
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図10
図11a
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【国際調査報告】