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特表2024-510027二次電池用の硫黄を含む正極材料、その製造方法および二次電池
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  • 特表-二次電池用の硫黄を含む正極材料、その製造方法および二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】二次電池用の硫黄を含む正極材料、その製造方法および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240227BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240227BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240227BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240227BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/38 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557272
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-09-18
(86)【国際出願番号】 CN2022078705
(87)【国際公開番号】W WO2022247375
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】202110566526.6
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507190994
【氏名又は名称】上海交通大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JIAO TONG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】800 Dongchuan Rd.,Minhang District,Shanghai,200240,P.R.CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】王 久林
(72)【発明者】
【氏名】雷 靖宇
(72)【発明者】
【氏名】楊 軍
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK05
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029DJ13
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ06
5H029HJ14
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA11
5H050HA01
5H050HA06
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】 二次電池用の硫黄を含む正極材料、その製造方法および二次電池を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は二次電池用の硫黄を含む正極材料、その製造方法および二次電池に関し、硫黄を含む正極材料は微多孔質(孔径は0.2-2nm)ポリアクリロニトリルを前駆体として採用し、元素状硫黄と均一に混合してから、加熱処理して得られる;微多孔質ポリアクリロニトリルはアクリロニトリルモノマーおよび架橋剤をフリーラジカル重合することによって得られる。従来技術に比べ、本発明の微多孔質ポリアクリロニトリルは多孔質構造を有するため、線形ポリアクリロニトリルに比べ、比表面積が18.5倍に向上し、高温焼結過程で、大量の硫黄分子をポリアクリロニトリル微多孔質に充填でき、それによって硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料中の硫黄含有量が高くなり、二次電池の正極とした場合、比容量が大きく、二次電池エネルギーの密度を顕著に向上させる;さらに製造方法は簡単で実行しやすく、環境にやさしく、コストが安価で、実用価値が高く、応用の将来性が高い。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄および微多孔質ポリアクリロニトリルを含み、前記の微多孔質ポリアクリロニトリルがアクリロニトリルモノマーと架橋剤を重合反応させて得られることを特徴とする二次電池用の硫黄を含む正極材料。
【請求項2】
前記の微多孔質ポリアクリロニトリルの孔径が0.2-2nmであり、且つ2nmを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用の硫黄を含む正極材料。
【請求項3】
微多孔質ポリアクリロニトリルの重合反応がさらに以下の原料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用の硫黄を含む正極材料:開始剤、界面活性剤および溶媒,前記のアクリロニトリルモノマー、開始剤、架橋剤、界面活性剤および溶媒の質量比は1:0.01-0.1:0.01-0.1:0.01-0.1:4-10である。
【請求項4】
前記の架橋剤がジビニルベンゼン、ポリジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリラート、二アクリル酸1,4ブタンジオール、ポリエチレングリコールジメタクリラートおよびポリエチレングリコールジアクリレートの一種または複数であることを特徴とする、請求項1または3に記載の二次電池用の硫黄を含む正極材料。
【請求項5】
以下の条件におけるいずれか一項または複数であることを特徴とする、請求項3に記載の二次電池用の硫黄を含む正極材料:
(i)前記の開始剤は過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾジイソブチロニトリルおよび過酸化ベンゾイルの一種または複数である;
(ii)前記の界面活性剤は1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの一種または複数である;
(iii)前記の溶媒は水、トルエン、エチルベンゼン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドの一種または複数である。
【請求項6】
重合反応の時間が3h-12hであり、重合反応の温度は50℃-100℃であることを特徴とする、請求項1または3に記載の二次電池用の硫黄を含む正極材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池用硫黄を含むことを特徴とする正極材料。元素状硫黄と微多孔質ポリアクリロニトリルを質量比2-16:1で混合してから、250-450℃に加熱して1-16h保温すると硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、すなわち前記の二次電池用硫黄を含む正極材料である;好ましくは元素状硫黄と微多孔質ポリアクリロニトリルを質量比3-8:1で混合してから、300-400℃に加熱して4-10h保温すると硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、すなわち前記の二次電池用硫黄を含む正極材料である。
【請求項8】
二次電池用硫黄を含む正極材料において、硫黄の含有量が45-70wt%であり、好ましくは50-65wt%であることを特徴とする請求項7に記載の二次電池用硫黄を含む正極材料的製造方法
【請求項9】
負極および正極を有し、前記の正極が請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池用硫黄を含む正極材料を含むことを特徴とする、二次電池。
【請求項10】
前記の負極がリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムまたはアルミニウムを含むことを特徴とする、請求項9に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫黄を含む正極材料に関し、特にリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムまたはアルミニウム負極と二次電池を組立てることができる硫黄を含む正極材料およびその製造方法に関し、本発明はさらに該硫黄正極材料の二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはアルミニウムを負極とし、硫黄を正極とする二次電池はエネルギー密度が高く、硫黄資源が豊富で、コストが安価で、環境の最適化等の顕著な利点を有する。リチウム硫黄電池を例に取ると、その論理的エネルギー密度は2600Wh/kgに達し、且つ低コストおよび環境にやさしいなどの利点を有し、広く注目を受けている。2002年には、文献(J .Wang et al,Advanced materials,2002, 13-14, 963)で初めて硫黄およびポリアクリロニトリル(PAN)が高温下で反応し、硫黄化ポリアクリロニトリル(S@PAN)複合正極材料を製造できることが報告され、該正極材料は炭酸エステル基電解質でポリスルフィドイオンの溶解による往復現象がなく、充放電効率が高く、自己放電が低く、サイクルが安定し、レート特性に優れている。しかしながら、線形ポリアクリロニトリルを前駆体として採用する場合、S@PAN正極材料において得られる硫黄含量には限りがあり、50 wt%より低く、一般的には45 wt%前後であり、該材料の比容量が低くなり、二次電池のエネルギー密度に影響を与える。従って、高い硫黄含量および高比容量を有するS@PAN正極材料を製造することによって、二次電池のエネルギー密度を向上させることに対して重要な意義を有する。
【0003】
関連する従来技術の文献:
(1)中国特許CN106957443Aでは向上した電気容量を有するポリアクリロニトリル‐硫黄‐複合材料が開示されている;
(2)文献(Science advances, 2018, 4(6):eaat1687)では熱分解ポリアクリロニトリル/二硫化セレン複合物が開示されている;
(3)文献(The Journal of Physical Chemistry C, 2017, 121, 26172‐26179)ではモレキュラーシーブSBA-15ハードテンプレート合成のメソ細孔ポリマーが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願の出願人は綿密研究によって以下を発見した:
中国特許CN106957443Aで開示されている向上した電気容量を有するポリアクリロニトリル‐硫黄‐複合材料は、ポリアクリロニトリルおよび硫黄と少なくとも一種の架橋剤の反応を採用し、ポリマー粒子表面修飾技術であり、ポリマー粒子内部に影響を与えず、硫黄含有量を向上させる効果は限定的である。
【0005】
文献(Science advances, 2018, 4(6):eaat1687)で開示されている熱分解ポリアクリロニトリル/二硫化セレン複合物中の多孔質ポリマーは電界紡糸を採用して孔径2-50nmのメソ細孔、さらに100nmの大孔を形成し、硫黄分子の大きさは1nm前後であり、該孔径の大きさは単分散の硫黄分子を収容することに適さず、非定型の硫黄を形成することもできない。
【0006】
文献(The Journal of Physical Chemistry C, 2017, 121, 26172‐26179)で開示されているモレキュラーシーブSBA-15ハードテンプレート合成のメソ細孔ポリマーは、孔径が2-50nmである。硫黄分子の大きさ1nmしかないため、孔径が2nmを超えると、充填される硫黄は分子の凝集体であり、電気化学反応動力学が非常に遅いため、メソ細孔も単分散の硫黄分子を収容するのに適さない。
【0007】
本発明の目的は二次電池用の硫黄を含む正極材料、その製造方法および二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はポリアクリロニトリル(PAN)前駆体から出発し、多孔質(孔径は2nmより小さい)を豊富に有するポリアクリロニトリルを構築し、大量の微多孔質を硫黄材料に収容でき、それによって硫黄化ポリアクリロニトリル中の硫黄の含有量を顕著に向上させ、電池正極の比容量でもあり、さらに方法が簡単で、拡大しやすく、実用性が高い。
【0009】
本発明の目的は以下の技術的解決手段によって実現される:
本発明の第1の態様では二次電池用の硫黄を含む正極材料を提供し、硫黄および微多孔質ポリアクリロニトリルを含み、前記の微多孔質ポリアクリロニトリルはアクリロニトリルモノマーと架橋剤を重合反応して得られ、架橋ポリアクリロニトリル(CPAN)とも呼ばれる。
【0010】
好ましくは、前記の微多孔質ポリアクリロニトリルの孔径は0.2-2nmであり、且つ2nmを含まない。
【0011】
好ましくは、微多孔質ポリアクリロニトリルの重合反応はさらに以下の原料を含む:開始剤、界面活性剤および溶媒。前記のアクリロニトリルモノマー、開始剤、架橋剤、界面活性剤および溶媒の質量比は1:0.01-0.1:0.01-0.1:0.01-0.1:4-10である。
【0012】
好ましくは、前記の架橋剤はジビニルベンゼン、ポリジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリラート、二アクリル酸1,4ブタンジオール、ポリエチレングリコールジメタクリラートおよびポリエチレングリコールジアクリレートの一種または複数である。
【0013】
好ましくは、前記の開始剤は過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾジイソブチロニトリル(AIBN)および過酸化ベンゾイル(BPO)の一種または複数である。
【0014】
好ましくは、前記の界面活性剤は1-ドデカンスルホン酸ナトリウム(SDS)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)およびヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)の一種または複数である。
【0015】
好ましくは、前記の溶媒は水、トルエン、エチルベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)およびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)の一種または複数である。
【0016】
好ましくは、重合反応の時間は3h-12hであり、重合反応の温度は50℃-100℃である。
【0017】
採用する開始剤、架橋剤、界面活性剤および溶媒、および重合温度および時間のプロセス条件は微多孔質ポリアクリロニトリルに対して重要な影響を有する。
【0018】
本発明の第2の態様では前記の二次電池用硫黄を含む正極材料の製造方法を提供し、元素状硫黄と微多孔質ポリアクリロニトリルを質量比2-16:1で混合し、250-450℃まで加熱して1-16h保温すると硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、すなわち前記の二次電池用硫黄を含む正極材料である。
【0019】
好ましくは前記製造方法において、元素状硫黄と微多孔質ポリアクリロニトリルを質量比3-8:1で混合してから、300-400℃に加熱して4-10h保温すると硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、すなわち前記の二次電池用硫黄を含む正極材料である。
【0020】
好ましくは、二次電池用硫黄を含む正極材料において、硫黄の含有量は45-70 wt%である。好ましくは硫黄の含有量は50-65wt%である。
【0021】
本発明第3の態様では二次電池を提供し、負極および正極を有し、前記の正極は前記の二次電池用硫黄を含む正極材料を含む。
【0022】
好ましくは、前記の負極はリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムまたはアルミニウムである。
【0023】
好ましくは、前記正極は以下の製造方法を採用して得られる:接着剤と二次電池用硫黄を含む正極材料、導電剤を質量比7-9:0.5-1.5:0.5-1.5に従って均一に溶媒に分散させてから集電体に塗布し、乾燥後にプレスして正極が得られる。
【0024】
微多孔質ポリアクリロニトリルは多孔質構造を有するため、比表面積が大きく、硫黄分子により多くの空間を提供し、それによって硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料中の硫黄含有量高が高く、二次電池の正極とした場合、比容量が大きく、二次電池エネルギーの密度を顕著に向上させる;さらに製造方法が簡単で実行しやすく、環境にやさしく、コストが安価で、実用価値が高く、応用の将来性が高い。
【発明の効果】
【0025】
従来技術に比べ、本発明は以下の有益な効果を有する:
従来技術において線形ポリアクリロニトリルを前駆体として製造される硫黄材料S@pPANにおける硫黄の含有量が50wt%を超えた場合、大量の硫黄がその表面に吸着され、材料のサイクル性能および高率放電能力に影響を与える。本発明はアクリロニトリルモノマーと架橋剤を重合し、微多孔質ポリアクリロニトリルを形成し、孔径は0.2-2nm(且つ2nmを含まない)であり、線形ポリアクリロニトリルに比べ、比表面積が18.5倍に向上し、豊富な微多孔質構造が硫黄に追加の空間を提供し、高温焼結過程で、大量の硫黄分子がポリアクリロニトリル微多孔質に充填でき、製造されたS@pPAN中における硫黄の含有量が70 wt%に達し、材料の可逆比容量が818 mAh g-1に達する。効果が顕著で、プロセスが簡単で、拡大しやすく、実用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1に示されるのは線形ポリアクリロニトリル(a)、実施例1で得られる微多孔質架橋ポリアクリロニトリル(b)、線形ポリアクリロニトリルを前駆体として製造される対応する硫黄正極材料S@pPAN(c)、微多孔質ポリアクリロニトリルを前駆体として製造される対応する硫黄正極材料S@pCPAN(d)の透過型電子顕微鏡画像である。
図2図2に示されるのは比較実施例の線形ポリアクリロニトリルPAN、実施例2で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANおよび製造された正極材料の吸脱着曲線の比較図である。
図3図3に示されるのは比較実施例の線形ポリアクリロニトリルPAN、実施例2で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANおよび製造された正極材料の孔径分布の比較図である。
図4図4に示されるのは線形ポリアクリロニトリルPANおよび実施例3で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANを前駆体として製造される硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料のサイクルの比較図である。
図5図5に示されるのは線形ポリアクリロニトリルPANおよび実施例3で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANを前駆体として製造される硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料のサイクルレートの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
二次電池用の硫黄を含む正極材料であって、硫黄および微多孔質ポリアクリロニトリルを含み、前記の微多孔質ポリアクリロニトリルはアクリロニトリルモノマーと架橋剤を重合反応させて得られ、架橋ポリアクリロニトリル(CPAN)とも呼ばれる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態として、前記の微多孔質ポリアクリロニトリルの孔径は0.2-2nmであり、且つ2nmを含まない。
【0029】
本発明の好ましい実施形態として、微多孔質ポリアクリロニトリルの重合反応はさらに以下の原料を含む:開始剤、界面活性剤および溶媒。前記のアクリロニトリルモノマー、開始剤、架橋剤、界面活性剤および溶媒の質量比は1:0.01-0.1:0.01-0.1:0.01-0.1:4-10である。
【0030】
本発明の好ましい実施形態として、前記の架橋剤はジビニルベンゼン、ポリジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリラート、二アクリル酸1,4ブタンジオール、ポリエチレングリコールジメタクリラートおよびポリエチレングリコールジアクリレートの一種または複数である。
【0031】
本発明の好ましい実施形態として、前記の開始剤は過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾジイソブチロニトリル(AIBN)および過酸化ベンゾイル(BPO)の一種または複数である。
【0032】
本発明の好ましい実施形態として、前記の界面活性剤は1-ドデカンスルホン酸ナトリウム(SDS)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)およびヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)の一種または複数である。
【0033】
本発明の好ましい実施形態として、前記の溶媒は水、トルエン、エチルベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)およびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)の一種または複数である。
【0034】
本発明の好ましい実施形態として、重合反応の時間は3h-12hであり、重合反応の温度は50℃-100℃である。
【0035】
前記の二次電池用硫黄を含む正極材料の製造方法は、元素状硫黄と微多孔質ポリアクリロニトリルを質量比2-16:1に従って混合してから、250-450℃に加熱して1-16h保温すると硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、すなわち前記の二次電池用硫黄を含む正極材料である。
【0036】
本発明の好ましい実施形態として、前記製造方法において、元素状硫黄と微多孔質ポリアクリロニトリルを質量比3-8:1に従って混合してから、300-400℃に加熱して4-10h保温すると硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、すなわち前記の二次電池用硫黄を含む正極材料である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態として、二次電池用硫黄を含む正極材料において、硫黄の含有量は45-70wt%である。好ましくは硫黄の含有量は50-65wt%である。
【0038】
二次電池であって、負極および正極を有し、前記の正極は前記の二次電池用硫黄を含む正極材料を含む。
【0039】
本発明の好ましい実施形態として、前記の負極はリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムまたはアルミニウムである。
【0040】
本発明の好ましい実施形態として、前記正極は以下の製造方法を採用して得られる:接着と二次電池用硫黄を含む正極材料、導電剤を質量比7-9:0.5-1.5:0.5-1.5に従って均一に溶媒に分散させてから集電体に塗布し、乾燥後にプレスして正極が得られる。
【0041】
以下、図面と具体的な実施例を組み合わせて本発明を詳細に説明する。
【0042】
[実施例1]
5gのアクリロニトリル、0.25gのAIBN,0.2gの1,4-ビス(アクリロイルオキシ)ブタンおよび0.5gのPVPを50mlのDMACに加え、80℃で4h磁気撹拌し、白色の沈殿を精製し、白色の沈殿に塩酸/アセトン混合液および蒸留水を用いて洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0043】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄32gを、エタノールに加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で300℃で5h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は70wt%である。
【0044】
本実施例で得られる微多孔質架橋ポリアクリロニトリルおよび微多孔質ポリアクリロニトリルを前駆体として製造される対応する硫黄正極材料S@pCPANの透過型電子顕微鏡画像は図1(b)および図1(d)である。
【0045】
電池の組立および試験は以下のとおりである:金属リチウムを負極として採用してリチウム硫黄二次電池,を組み立て、電解液は1MのLiPF6/EC:DMC(1:1の体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)である;充放電カットオフ電圧は1-3V(vs. Li+/Li)である。最初の放電比容量は1150.8 mAh g-1である。
【0046】
[実施例2]
5gのアクリロニトリル、0.1gの過硫酸アンモニウム,0.1gのエチレングリコールジメタクリラートおよび0.25gのSDSを到40ml水/DMSO(m:m=1:1)に加え、60℃で10h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0047】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄4gに、エタノールを加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体于管式炉内の窒素雰囲気で250℃で10h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は45.1wt%である。
【0048】
本実施例で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANおよび正極材料の吸脱着曲線は図2を参照されたい。本実施例で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANおよび正極材料の孔径分布は図3を参照されたい。
【0049】
電池の組立および試験は以下のとおりである:金属リチウムを負極として採用してリチウム硫黄二次電池,を組み立て、電解液は1MのLiPF6/EC:DMC(1:1の体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)である;充放電カットオフ電圧は1-3V(vs. Li+/Li)である。0.2C倍率の条件での比容量は732 mAh g-1に達する。
【0050】
[実施例3]
5gのアクリロニトリル、0.05gの過硫酸カリウム,0.05gジビニルベンゼンおよび0.1gのPVAを20mlの水に加え、65℃で5h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0051】
製造された微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄16gを、エタノールに加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で300℃で5h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は54.8 wt%である。
【0052】
電池の組立および試験は以下のとおりである:金属リチウムを負極として採用してリチウム硫黄二次電池,を組み立て、電解液は1MのLiPF6/EC:DMC(1:1の体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)である;充放電カットオフ電圧は1-3V(vs. Li+/Li)である。0.2C倍率の条件における最初の放電比容量は1048.8 mAh g-1であり、可逆比容量は849.9 mAh g-1で、図4に示すとおりであり、大高率放電能力は図5を参照されたい。
【0053】
[実施例4]
5gのアクリロニトリル、0.1gのBPO、0.5gのポリエチレングリコールジメタクリラートおよび0.25gのSDSを40mlの水/DMF(m:m=1:1)に加え、50℃で12h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0054】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄10gに、エタノールを加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で450℃で1h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は65.2wt%である。
【0055】
電池の組立および試験は以下のとおりである:金属ナトリウムを負極としてナトリウム硫黄二次電池,を組み立て、電解液は1MのNaPF6/EC:DMC(1:1の体積比、EC:炭酸エチレン,DMC:炭酸ジメチル)である;充放電カットオフ電圧は1-2.7V(vs. Na+/Na)である。0.2C倍率の条件での比容量は620 mAh g-1に達する。
【0056】
[実施例5]
5gのアクリロニトリル、0.5gの過硫酸カリウム、0.05gのポリエチレングリコールジアクリレートおよび0.05gのPVPを50mlのエチルベンゼンに加え、65℃で5h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0057】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄6gに、エタノールを加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で300℃で5h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は55.5wt%である。
【0058】
電池の組立および試験は以下のとおりである:金属ナトリウムを負極としてナトリウム硫黄二次電池を組み立て、電解液は1MのNaPF6/EC:DMC(1:1の体積比、EC:炭酸エチレン,DMC:炭酸ジメチル);充放電カットオフ電圧は1-2.7V(vs. Na+/Na)である。0.2C倍率の条件での比容量は550 mAh g-1に達する。
【0059】
[実施例6]
5gのアクリロニトリル、0.1gのAIBN,0.1gのポリエチレングリコールジメタクリラートおよび0.05gのジビニルベンゼン、0.1gのPVPを30mlの水/DMAC(m:m=1:1)に加え、60℃で5h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると分子内架橋ポリアクリロニトリルが得られる。
【0060】
得られた分子内架橋ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄10gを、エタノールに加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で400℃で10h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は45wt%である。
【0061】
[実施例7]
5gのアクリロニトリル、0.1gの過硫酸アンモニウム、0.2gの1,4-ビス(アクリロイルオキシ)ブタンおよび0.25gのCTABを50mlのDMSOに加え、100℃で3h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0062】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄16gに、エタノールを加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で300℃で10h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は46.73wt%である。
【0063】
[実施例8]
5gのアクリロニトリル、0.2gのBPO、0.5gのポリエチレングリコールジメタクリラートおよび0.5gのSDSを30mlのエチルベンゼンに加え、65℃で5h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0064】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄16gに、エタノールを加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で300℃で10h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は47.2wt%である。
【0065】
[実施例9]
5gのアクリロニトリル、0.05gの過硫酸カリウム、0.05gのポリエチレングリコールジアクリレートおよび0.05gジビニルベンゼン、0.5gのCTABを30mlの水/DMF(m:m=1:1)に加え、60℃で5h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0066】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄16gに、エタノールを加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で300℃で10h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は56.6wt%である。
【0067】
[実施例10]
5gのアクリロニトリル、0.5gの過硫酸アンモニウム、0.1gのジビニルベンゼンおよび0.1gCTABを40mlの水/DMSO(m:m=1:1)に加え、75℃で5h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0068】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄16gに、エタノールを加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で400℃で5h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は55.2wt%である。
【0069】
[実施例11]
5gのアクリロニトリル、0.1gのAIBN、0.25gの1,4-ビス(アクリロイルオキシ)ブタンおよび0.5gのSDSを30mlのトルエンに加え、50℃で12h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると微多孔質ポリアクリロニトリルが得られる。
【0070】
得られた微多孔質ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄16gに、エタノールを加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で300℃で16h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は46.4 wt%である。
【0071】
[比較実施例]
架橋剤を加えず線形ポリアクリロニトリルを製造し、5gのアクリロニトリル、0.05gの過硫酸カリウムを20mlの水に加え、65℃で5h磁気撹拌し、白色の沈殿を生成し、白色の沈殿を塩酸/アセトン混合液および蒸留水で洗浄してから、乾燥させると線形ポリアクリロニトリルが得られる。透過型電子顕微鏡画像は図1(a)、吸脱着曲線は図2、孔径分布は図3を参照されたい。
【0072】
製造した線形ポリアクリロニトリル2gおよび元素状硫黄16gを、エタノールに加えて3hボールミリングし、乾燥して得られた粉体を管式炉内の窒素雰囲気で300℃で5h加熱すると、硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料が得られ、材料中の硫黄含有量は47.3wt%である。硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料の透過型電子顕微鏡画像は図1(c)を参照されたい。
【0073】
電池の組立および試験は以下のとおりである:金属リチウムを負極として採用してリチウム硫黄二次電池,を組み立て、電解液は1MのLiPF6/EC:DMC(1:1の体積比、EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)である;充放電カットオフ電圧は1-3V(vs. Li+/Li)である。0.2C倍率の条件での初めての放電比容量は951.2 mAh g-1であり、可逆比容量は718.9 mAh g-1図4)である。サイクルレート特性は図5を参照されたい。
【0074】
表1に示されるのは比較実施例で製造された線形ポリアクリロニトリルPANおよび実施例2、実施例3で製造された微多孔質ポリアクリロニトリルCPAN、および対応する硫黄含有材料の性質の比較である。
【表1】
【0075】
図1に示されるのは線形ポリアクリロニトリル(a)、微多孔質架橋ポリアクリロニトリル(b)、由線形ポリアクリロニトリルを前駆体として製造される対応する硫黄正極材料S@pPAN(c)、微多孔質ポリアクリロニトリルを前駆体として製造される対応する硫黄正極材料S@pCPAN(d)の透過型電子顕微鏡画像である。図1(a)から分かるように線形PANは緻密構造である;図1(b)の架橋方法で製造された微多孔質PANの孔径は0.75-1.5nmの間である。
【0076】
図2に示されるのは比較実施例の線形ポリアクリロニトリルPAN、実施例2で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANおよび製造された正極材料の吸脱着曲線の比較図である。線形PANの比表面積は16.8 m2 g-1であることが分かる;架橋方法によって製造された微多孔質PANは大量の微多孔質が存在するため、比表面積が18倍に増大する。
【0077】
図3に示されるのは比較実施例の線形ポリアクリロニトリルPAN、実施例2で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANおよび製造された正極材料の孔径分布の比較図である。図と1容貌および構造が一致し、線形PANは緻密構造である;架橋方法で製造された微多孔質PANの孔径は0.75-1.5nmの間である。
【0078】
図4に示されるのは線形ポリアクリロニトリルPANおよび実施例3で得られる微多孔質ポリアクリロニトリルCPANを前駆体として製造される硫黄化ポリアクリロニトリル正極材料のサイクルの比較図である。図から分かるように、豊富な微多孔質構造が存在するため、より多くの単分散の硫黄分子を収容でき、硫黄の含有量が効果的に上昇し(47.3%から54.8%に向上)、対応する第一次放電比容量は1048.8 mAh g-1であり、可逆比容量は849.9 mAh g-1である;対象サンプルの最初の放電比容量は951.2 mAh g-1であり、可逆比容量は718.9 mAh g-1である。
【0079】
前記の実施例に対する説明は該当業者が理解および発明を使用しやすくするためのものである。当業者は明らかにこれらの実施例に各種の修正を容易に行うことができ、ここで説明する一般的原理をその他の実施例に応用することは創造的な労力を必要としないことは明らかである。従って、本発明は前記実施例に制限されず、当業者は本発明の掲示に基づき、本発明の範囲を逸脱せずに行われる改良および修正はいずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】