(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】気体から標的種を捕捉する方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240227BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20240227BHJP
C25B 9/21 20210101ALI20240227BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240227BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20240227BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B01D53/14 210
C25B1/01 Z
C25B9/21
C25B15/08 302
B01D61/44 500
B01D61/46 500
B01D61/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557310
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 GB2022050698
(87)【国際公開番号】W WO2022195299
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523354174
【氏名又は名称】ミッション・ゼロ・テクノロジーズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】ゴバイル-ショー,ゲール
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ,シラディチャ
(72)【発明者】
【氏名】チャドウィック,ニコラス
【テーマコード(参考)】
4D006
4D020
4K021
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006JA42C
4D006KA01
4D006KA33
4D006KB19
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4D006PA02
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4D020AA03
4D020AA04
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4D020BA21
4D020BB03
4K021AB25
4K021DB31
4K021DB36
4K021DB53
(57)【要約】
標的種を含有する気体(108)を、捕捉種を含む第1の吸収液(110)と接触させる工程と;標的種を第1の吸収液に溶解し、標的アニオンを形成する工程と;第1の吸収液を、1つまたは複数のイオン交換膜(114、116)と接触させることによって、標的アニオンを第1の吸収液から電気化学的に分離し、標的アニオンを、イオン交換膜(114)を通して第2の吸収液(134)へ移動させる工程と;少なくとも一部の標的種を第2の吸収液から放出する工程とを含む、気体から標的種を捕捉する方法。1つまたは複数のイオン交換膜が、捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種は、1つまたは複数のイオン交換膜を通過することはない。気体から標的種を捕捉するための装置(100)もまた提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的種を含有する気体を、捕捉種を含む第1の吸収液と接触させる工程と;
前記標的種を前記第1の吸収液に溶解し、標的アニオンを形成する工程と;
前記第1の吸収液を、1つまたは複数のイオン交換膜と接触させることによって、前記標的アニオンを前記第1の吸収液から電気化学的に分離し、前記標的アニオンを、イオン交換膜を通して第2の吸収液へ移動させる工程と;
少なくとも一部の前記標的種を前記第2の吸収液から放出する工程と
を含み;
前記1つまたは複数のイオン交換膜が、前記捕捉種に対して透過性ではないため、前記捕捉種は、前記1つまたは複数のイオン交換膜を通過することはない、
気体から標的種を捕捉する方法。
【請求項2】
前記第2の吸収液が、前記捕捉種を含有しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記捕捉種が、前記第1の吸収液中で前記標的アニオンと結合し、前記標的アニオンは、前記イオン交換膜を通って移動する前に、前記捕捉種から電気化学的に解離される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記捕捉種が、アルカリ金属カチオンを含まないカチオン性捕捉種である、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記捕捉種が、イオン性捕捉種、好ましくはカチオン性捕捉種、特に好ましくはカチオン性有機捕捉種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記捕捉種が、イオン性ポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記捕捉種が、コリン由来のイオン性液体、好ましくは、カルボン酸またはプロパン酸などの有機酸の共役塩基を含有するカチオン性のコリン由来のイオン性液体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記捕捉種が、カチオン性ポリマー、好ましくは複数のアミン基を含む繰り返し単位を有するカチオン性ポリマーであり、任意選択で、前記捕捉種が、カチオン性官能基で官能化された複数のポリマー樹脂粒子を含むか、または前記捕捉種が、カチオン性官能基で官能化されたアニオン交換樹脂粒子のスラリーを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記捕捉種が、ポリマーアミン、好ましくはカチオン性ポリマーアミンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記捕捉種が、ポリエチレンイミン(PEI)を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記捕捉種が、200、または250、または300、または400、または500、または550、または600、または700、または800g/mol以上の分子量を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1つまたは複数のイオン交換膜が、それを通る前記標的アニオンの通過を可能にし、かつ、カチオン性電荷、および/または200、もしくは250、もしくは300、もしくは400、もしくは500g/molより大きい分子量を有する捕捉種の通過を妨げるように構成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記捕捉種が、弱塩基性であり、好ましくは、前記捕捉種が、10未満、好ましくは8.5未満、特に好ましくは7.5未満のpK
aを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の吸収液が、溶解した前記標的種の前記標的アニオンへの転換を促進するための水和触媒を含有し、好ましくは、前記触媒が、炭酸脱水酵素などの酵素、亜鉛の有機金属化合物(亜鉛シクレン)、および/または金属もしくは金属酸化物の粒子もしくはナノ粒子を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの前記イオン交換膜が、前記標的アニオンに対して透過性のアニオン交換膜であり、好ましくは、前記アニオン交換膜が1価アニオン交換膜である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記標的種が、前記第1の吸収液に溶解して、標的アニオンおよび水素カチオン(H
+)を形成し、前記1つまたは複数のイオン交換膜が、前記標的アニオンに対して透過性のアニオン交換膜、および前記水素カチオンに対して透過性のカチオン交換膜を含み、好ましくは、前記水素カチオンが、前記第1の吸収液から電気化学的に分離され、前記カチオン交換膜を通って前記第2の吸収液へ移動する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記標的アニオンが、前記第2の吸収液中で、水素カチオンと組み合わされて、標的酸を形成し、好ましくは、前記標的酸が前記標的種の共役酸である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記水素カチオンが、H
2Oを電気分解することによって製造される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の吸収液が、前記第1の吸収液のpHとは異なるpHを有し、好ましくは、前記第2の吸収液のpHは7未満である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の吸収液が水溶液であり、前記第2の吸収液が非水溶液であり、好ましくは、前記第2の吸収液が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートまたはジメチルカーボネートなどの有機カーボネート溶媒を含むかまたはこれらからなる、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の吸収液が、前記捕捉種を含有しない、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記1つまたは複数のイオン交換膜と接触する1つまたは複数のフロー電極を含み、好ましくは、第1のフロー電極が、前記イオン交換膜のアウトプット側と接触する第2の吸収液の流れを含み、イオン交換膜を通って前記標的アニオンが移動する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記標的アニオンを前記第1の吸収液から電気化学的に分離する工程が、容量性脱イオン(CDI)、フロー-CDI、または電気透析を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
好ましくは室温および大気圧で、前記第2の吸収液中の前記標的酸の化学平衡を維持するために、前記標的種が前記第2の吸収液から気体として放出される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記第2の吸収液中の少なくとも一部の前記標的アニオンが、ミネラルまたは塩と反応して、前記第2の吸収液から放出される沈殿物質を形成する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記標的種が、CO
2、H
2S、SO
2、NO、NO
2およびN
2Oからなる群から選択される、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記標的種がCO
2であり、前記標的アニオンが重炭酸イオンであり、前記標的酸が炭酸である、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
標的種を含有する気体を、捕捉種を含有する第1の吸収液と接触させ、前記標的種を前記第1の吸収液に溶解して標的アニオンを形成するように構成された、気体接触器;
前記標的アニオンを前記第1の吸収液から電気化学的に分離し、少なくとも一部の前記標的アニオンを第2の吸収液へ移動させるための、1つまたは複数のイオン交換膜を備えるイオン分離器;および
少なくとも一部の前記標的種を前記第2の吸収液から放出するための放出容器
を備え、
前記1つまたは複数のイオン交換膜は、使用中に、前記捕捉種に対して透過性ではない、
気体から標的種を捕捉するための装置。
【請求項29】
前記1つまたは複数のイオン交換膜が、前記標的アニオンを前記第1の吸収液から前記第2の吸収液へ移動させ、かつ前記捕捉種を前記第1の捕捉溶液中に保持するように構成されている、請求項28に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体から標的種を捕捉する方法、詳細には、空気から標的種を捕捉する方法に関する。特に好ましくは、標的種はCO2であり得る。
【背景技術】
【0002】
保存のための汚染気体種の捕捉、または有害性が低い化合物への転換は、世界的に環境および経済的な重要性が増大している。詳細には、空気からの標的気体種の捕捉は、直接的空気捕捉またはDACとしても公知であり、多様な環境および経済的な理由から非常に望ましいプロセスである。生物学的なプロセス以外で、直接的空気捕捉は、過去の汚染気体排出に取り組む唯一の方法を表す。
【0003】
特別の関心事は、CO2の直接的空気捕捉(DAC)である。炭素種の直接的空気捕捉は、特に、排煙などの濃縮発生源からCO2を除去する従来的な炭素捕捉技術が導入不可能であるような状況において、21世紀における産業的および国家的なネットゼロ炭素排出目標を実現するための助けとなる可能性がある。
【0004】
直接的空気捕捉の現況技術は、一般に2種類のプロセスに依存する。DACの1つの実施では、CO2は、水酸化物の高苛性溶液によって吸収され、沈殿した炭酸塩を形成する。次に、炭酸塩は、それが分解してCO2を形成するまで800℃に加熱され、苛性溶液を再生する。DAC技術のもう1つの実施は、アミン基を含浸させた固体フィルタへのCO2の吸着に関連する。アミン基は、周囲温度でCO2と結合し、およそ100℃の昇温状態でCO2を放出する。
【0005】
これらの技術は、極めてエネルギー集約的で、直接的および/または間接的な高次の熱エネルギーに依存型である化学的プロセスを利用するものであり、このことは、プロセスの原理はうまく働くが、これらの技術の経済性は、広範な実用的展開にはあまりに不確実で好ましくないことがこれまでに証明されたということを意味している。最新技術であるこの分野の発明は、117kWH/トンという原理的な熱力学的最小値と比較して、空気から捕捉されたCO2の1トン当たり1500~2500kWHのエネルギーが必要とされることが公知である。これは、エネルギー消費量を低減し、したがって、これらのプロセスの経済原価を低減するために、さらにより効率的な技術が発明されなければならないことを明白に実証している。
【0006】
これらの先行技術の熱需要もまた、その環境上の利点を相殺する。なぜなら、DACプロセスに電力を送るのに必要なエネルギーを製造するために排出されるCO2は、達成されたCO2捕捉の実際の正味の量が、一見したところ推定され得るものより低いことを意味するためである。ある商業化されたDAC技術は、主要なサブプロセスに600℃を超える温度を必要とし;現在のところ、化石燃料である天然ガスの燃焼を通してのみ、これらの温度における熱を得ることが可能であり、これらはそれ自体著しいCO2フットプリントを伴う。他のDAC技術では、主要なサブプロセスに高次の加圧蒸気が必要とされ、これらもまた、化石燃料の燃焼プロセスまたは地熱エネルギーを有するロケーションが供給源となる場合がある。
【0007】
WO2013/036859A1は、CO2がアルカリ性水性流中で捕捉され、第2の水性流から放出される標的気体捕捉プロセスについて記載している。重炭酸カリウムを、カリウムイオンおよび炭酸カリウムからそれぞれ分離するために使用される、電気透析およびナノ濾過プロセスの例が提供されている。電気透析中に、溶解した標的種と緩衝種対イオン(典型的には、アルカリ金属カチオン)は、両方ともイオン交換膜を通過し、第2の水性流中で電気的中性を達成する。高温気体回収器を使用して、アルカリ金属重炭酸塩を分解し、CO2を遊離させる。
【0008】
EP3162294A1は、CO2回収のための双極性膜の電気透析を開示している。K2CO3/KHCO3水溶液を使用して、気体からCO2を捕捉し、次に、双極性膜を使用してH2Oが電気分解される電気透析セルに導入する。電気透析セル中で、重炭酸/炭酸アニオンは、アニオン交換膜を通って移動し、水電気分解からのH+と組み合わされ、カリウムカチオンは、カチオン交換膜を通って移動し、水電気分解からのOH-と組み合わされ、その結果、アルカリ金属水酸化物(水酸化カリウムKOH)の流れが、双極性電気透析セルから流出される。
【0009】
場合によっては、先行技術DACプロセスは、連続操作に対するものとして、バッチまたはセミバッチ様式でのみ操作可能であり、これらの発明の実用的な有用性および経済性を厳しく制限する。現在、CO2の200~750ドル/トンという平準化された費用を示すこれらの技術の既に法外な資本経費を考慮すると、バッチ/セミバッチ作動を通して生じる休止時間は、さらなる障害となり、これらの束縛を克服するDACのための新しい技術が発明されることが必要であることを示す。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、添付の独立請求項に定義され、それらをここで参照する。本発明の好ましい特色は、従属請求項に明示される。
【0011】
第1の態様では、本発明は、気体から標的種を捕捉する方法を提供し:
標的種(target species)を含有する気体を、捕捉種(capture species)を含む第1の吸収液と接触させる工程と;
標的種を第1の吸収液に溶解し、標的アニオンを形成する工程と;
第1の吸収液を、1つまたは複数のイオン交換膜と接触させることによって、標的アニオンを第1の吸収液から電気化学的に分離し、標的アニオンを、イオン交換膜を通して第2の吸収液へ移動させる工程と;
少なくとも一部の標的種を第2の吸収液から放出する工程とを含み;
ここで、1つまたは複数のイオン交換膜は、捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種は、1つまたは複数のイオン交換膜を通過することはない。
【0012】
本発明の方法と先行技術の気体捕捉法との主要な違いは、1つまたは複数のイオン交換膜が捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種がイオン交換膜を通過しないことである。本発明では、1つまたは複数のイオン交換膜のいずれも、捕捉種に対して透過性ではない。したがって、捕捉種は、第1の吸収液中に残存し、第2の吸収液へ移動しない。
【0013】
標的種が第2の吸収液から放出されるため、第2の吸収液は、代替的に放出溶液と名づけられてもよい。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、第2の吸収液は、捕捉種を含有しない。
【0015】
捕捉種が第2の吸収液に移動しないため、第2の吸収液は捕捉種を含有せず、そのため、本方法では、第2の吸収液中で捕捉種に結合した標的種を分離する必要がない。これは、標的種が、第2の吸収液中で相対的により揮発性状態にあり、第2の吸収液から標的種を遊離させるために、標的種-捕捉種化合物を分解するために熱を加える必要がないことを意味する。
【0016】
先行技術では、捕捉種(先行技術では、典型的にはアルカリ金属カチオンである)は、放出溶液中に存在する。したがって、放出溶液中で、この捕捉種が標的種に結合しているため、標的種を放出溶液から放出することは、標的種を遊離させるために、典型的には加熱によって、エネルギーを投入する必要がある。
【0017】
WO2013/036859A1では、例えば、段落[0043]が、緩衝種対イオン(典型的にはアルカリ金属カチオンである)が、アニオン交換膜を通って移動する溶解した標的種アニオンと、第2の水性流における電気的中性を達成するために、カチオン交換膜を通って第2の水性流に移動することを説明している。WO2013/036859A1の段落[0043]は、溶解した標的種が濃縮された水性流132’は、気体回収器へと流動する時に対イオン112’を含むことを記載し、段落[0045]は、対イオン112’が、1価カチオンであると述べている。この結果、第2の水性流が、堅く結合されたアルカリ金属-標的種の複合体を含有するように、これは、第2の水性流を高温に加熱することによってのみ、分解されて標的種を放出することができる。
【0018】
EP3162294A1では、例えば、入ってくるMX流からのカリウムカチオンが、カチオン交換膜を通って移動し、双極性膜水電気分解によって生成されるOH-イオンと、出ていくMOH流を形成する。
【0019】
EP3685904A1では、アルカリ金属カチオンは捕捉種として使用され、
図3に示されるように、同じアルカリ金属カチオンが放出溶液中に存在する。
【0020】
本発明では、捕捉種が、イオン交換膜を通って第1の吸収液から出ていくのを妨げることにより、捕捉種は、有利なことに第1の吸収液中に保持され、より多くの標的種の捕捉における再使用のために再循環され得る。これは、捕捉種の再使用がさらにより簡単で、より環境的に配慮されていることを意味する。捕捉種が第2の吸収液に入るのを妨げることは、第2の吸収液を捕捉種蓄積物として流出させる必要を取り除き、本方法が、第2の吸収液から捕捉種を除去するための複雑でエネルギー効率の悪い工程を必要としないことを意味する。捕捉種が第2の吸収液に入るのを妨げることの別の利点は、放出工程の一部として、捕捉種と標的アニオンの解離を強制的に行う必要がないことである。これは、放出工程に必要とされるエネルギーを低減する。標的アニオンと、捕捉種として作用するアルカリ金属カチオンも含有する溶液から、標的種が放出される先行技術の方法では、反応生成物が、気体状標的種への分解を強制的に行うために、高温に加熱されなければならないため、放出工程は高いエネルギー投入を必要としてきた。本発明では、放出工程前に、標的アニオンを捕捉種から電気化学的に分離することによって、有利なことにこれが回避される。
【0021】
溶解工程中または後に、捕捉種は、第1の吸収液中で標的アニオンと結合し得る。
【0022】
本発明は、標的種を第1の吸収液に溶解し、標的アニオンを形成することによって、標的種を捕捉する。標的種を第1の吸収液に溶解することは、標的酸の対イオン、言い換えれば1つまたは複数の標的アニオンおよび付加的に1つまたは複数の水素カチオンH+を形成し得る。これらの標的酸対イオンの少なくとも一部は遊離したままで、第1の吸収液のpHの低下によって測定可能であり得て、一方、標的酸対イオンの少なくとも一部は、第1の吸収液中で捕捉種と結びつき得る。
【0023】
さらに以下で議論される本発明の好ましい実施形態では、H+カチオンの供給源が提供され、第2の吸収液中で標的アニオンと結びつき得る。したがって、標的酸およびH+カチオンは、標的種の放出の前に、第2の吸収液中で結びついて標的酸を形成し得る。
【0024】
標的アニオンは、標的種の共役酸のアニオンであり得る。CO2捕捉の場合には、例えば、標的アニオンは重炭酸アニオンであり、標的酸は炭酸である。
【0025】
特に好ましい実施形態では、気体は第1の吸収液と接触し、標的種は溶解し、第1の吸収液中で複数の標的アニオンに転換される。標的種の溶解はまた、第1の吸収液中に複数の水素カチオンを生成する。標的アニオンは、捕捉種から電気化学的に解離され、イオン交換膜を通って第2の吸収液へ移動する前に、捕捉種と結びつきまたは反応し得る。1つまたは複数のイオン交換膜は、捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種は、第1の吸収液中に残存する。
【0026】
好ましい実施形態では、水素カチオンを、第1の吸収液から、カチオン交換膜を通って第2の吸収液へ通過させることによるか、または水素カチオンの代替の供給源を第2の吸収液に提供することによるいずれかで、水素カチオンの供給源はまた第2の吸収液に提供される。結果は、第2の吸収液が、複数の標的アニオンと複数の水素カチオンの両方を含有し、それらが結びついて標的酸を形成することとなる。標的酸は続いて分解し、標的種を第2の吸収液から気体として放出し得る。
【0027】
第2の吸収液への移動のために、標的種を標的アニオンに転換し、H+カチオンの供給源を提供し、標的アニオンと標的酸を形成して、次に標的酸から標的種を放出することの著しい利点は、第2の吸収体中で標的酸から標的種を放出することが、有利なことに、エネルギー投入をほとんど必要としないことである。CO2などの標的種に関して、標的酸およびそのイオンは、有利なことに、相対的に低い温度で不安定であり、そのため、標的酸は、先行技術で使用されたエネルギー多消費的な加熱工程を必要とすることなく、標的種を第2の吸収液から容易に放出し得る。
【0028】
代替の実施形態では、第2の吸収液中の標的アニオンは、別の種と反応して、沈殿の形態で標的種を放出し得る。標的種の沈殿した形態は、次に、例えば第2の吸収液から沈殿物を濾過することによって、第2の吸収液から除去することができる。
【0029】
特に好ましい実施形態では、例えば、標的種は二酸化炭素(CO2)であり、溶解したCO2は、第1の吸収液中で炭酸に転換される。炭酸は、捕捉種と結びつきまたは反応し得る重炭酸アニオン、および水素カチオンからなる。次に、重炭酸アニオンは、捕捉種および第1の吸収液から電気化学的に分離されるため、標的の重炭酸アニオンは、イオン交換膜を通って移行し、第2の吸収液に吸収される。水素カチオンを、第1の吸収液から、カチオン交換膜を通って第2の吸収液中へ通過させることによるか、または水素カチオンの代替の供給源を提供することによるいずれかで、水素カチオンの供給源はまた第2の吸収液に提供される。結果は、第2の吸収液が、標的の重炭酸アニオンと水素カチオンの両方を含有し、それらが結びついて炭酸を形成することとなる。炭酸は、続いて分解し、第2の吸収液からCO2ガスとして放出される。この技術の最も著しい利点は、捕捉されたCO2の放出が、炭酸およびそのイオンが室温で不安定であるという事実に起因して、最低限のエネルギーを必要とすることである。一方、アミン吸着剤または炭酸塩か焼炉は、CO2の1トン当たり1500~2000kWhを必要とする。
【0030】
有利なことに、第1および第2の吸収剤の液体溶液の使用は、消耗された場合の装置中の吸着剤の容易な補充を可能にし、固体の吸収剤に依存する先行技術のDAC法より、加工を著しく簡単なものとする。
【0031】
標的アニオンを第1の吸収液中の捕捉種から電気化学的に分離することはまた、先行技術における吸収液の再生用プロセスと比較して、相対的にエネルギー効率が良い。例えば、容量性脱イオン(CDI)による電気化学的分離は、標的アニオンを第1の流れから分離するために、CO2の1トン当たり300kWh未満を消費し得る。このプロセスから電荷の一部を回収するという選択肢もあり、エネルギー効率におけるさらなる利益をもたらす。
【0032】
有利なことに、本方法は、電気エネルギーのみを必要としながら、周囲温度および周囲圧力下での空気などの希薄な気体流から、CO2などの標的気体種を捕捉し、それを高純度に濃縮するのに使用可能である。これらの利点は、本発明の方法を、先行技術より環境的に効率が良く、エネルギー効率が良く、低コストの技術とする。
【0033】
第1の吸収剤
第1の吸収液は、水性または非水性のいずれかであってもよいが、好ましくは水溶液である。
【0034】
一部の実施形態では、第1の吸収液は、標的種を溶解する前に、7~11のpHを有し得る。特に好ましくは、第1の吸収液は、標的種を溶解する前に、7~8.5、または7~8、または7~7.9または7~7.5、特に好ましくはpH7のpHを有し得る。この場合は、これは、本発明の方法と、吸収動力学を改善するという要望から高アルカリ性吸収液が使用されてきた多様な先行技術の方法との間に、特定の差異をもたらす。WO2013/036859A1では、例えば、アルカリ性緩衝溶液のみが使用され、よりアルカリ性のpHが、CO
2の捕捉速度を著しく増加させることが実証された(
図6)。
【0035】
他の実施形態では、第1の吸収液のpHは、標的種の吸収前に、pH7より大きく、またはpH9、またはpH10、またはpH11より大きくてもよい。第1の吸収液のpHは、第1の吸収液中の捕捉種の選択、および第1の吸収液中の捕捉種の濃度によって決定され得る。
【0036】
標的種が溶解し、標的アニオンに転換されると、標的種の溶解が典型的には標的酸の両方の対イオンの生成に関わるため、第1の吸収液のpHはより酸性になる。例えば、第1の吸収液は、標的種の溶解後、7~9.5のpHを有し得る。特に好ましくは、第1の吸収液は、標的種を溶解した後、6.5~9、または7.5~8.5のpHを有し得る。これもまた、溶解したイオン種が、高アルカリ性の吸収液体中で運ばれる先行技術と異なる。WO2013/036859A1では、例えば、水溶液は、全ての時間に高アルカリ性のままである。
【0037】
良好な水和動力学を達成するために、ほとんどの先行技術系は、多量の溶解した無機塩を含有する高アルカリ性の吸収剤を使用してきた。アミン捕捉溶媒は、例えば、典型的には、30%wt.までの含有量を必要とし、一方、水酸化物溶液は、数mol/Lの濃度を必要とする傾向がある。しかしながら、吸収液中の塩濃度が増加するにつれて、電気化学的分離に必要とされるエネルギー、および得られた塩生成物を分解し、溶解した標的種を放出するために必要なエネルギーは、劇的に増加する。
【0038】
第1の吸収液は、好ましくは15℃~60℃、好ましくは18℃~45℃、特に好ましくは30℃~40℃の温度で維持され得る。第1の吸収液をこの温度範囲に保つことは、有利なことに、溶液を高温に加熱するために多量のエネルギーを費やす必要がないことを意味する。
【0039】
第1の吸収液は、好ましくは2バール未満の圧力、好ましくは大気圧で維持され得る。
【0040】
標的種を含有する気体は、多様な公知の方法によって、第1の吸収液と接触させてもよい。例えば、気体は、例えば液体の第1の吸収液を通って気体流を流動させることによって、第1の吸収液と気体を接触させるように構成された気体吸収装置または気体接触器を通って流動してもよい。
【0041】
捕捉種
第1の吸収液は、標的種を捕捉するための第1の吸収液の能力を向上させるように構成された捕捉種を含み得る。捕捉種は、第1の吸収液中で、標的アニオンと結合するか、または結びつき得る。
【0042】
電気化学的分離工程では、標的アニオンは、イオン交換膜を通って移動する前に、好ましくは捕捉種から電気化学的に解離される。
【0043】
本発明では、捕捉種は、好ましくは非アルカリ金属捕捉種である。アルカリ金属化合物、例えば重炭酸アルカリ金属/炭酸アルカリ金属緩衝溶液またはアルカリ金属水酸化物は、先行技術において、典型的には捕捉種として使用される。これらの化合物の高アルカリ性pHは、典型的には長所と考えられ、これらの化合物は、CO2などの標的種を捕捉する高い能力を示すことが見出された。しかしながら、本発明者らは、アルカリ金属含有の捕捉種は、標的アニオンが、典型的にはアルカリ金属カチオンと強く結合したイオン性反応生成物を形成するため、気体捕捉法のエネルギーの必要性を増加させ得ることを見出した。次に、電気化学的分離工程中に、標的アニオンを分離するためにより多くのエネルギーが必要とされ、アルカリ金属カチオンを含有する第2の吸収液から標的種を放出するために、溶液を高温に加熱することによって、これらの反応生成物の分解を強制的に行うことが必要である。
【0044】
捕捉種は、好ましくはイオン性捕捉種、特に好ましくはカチオン性捕捉種である。カチオン性捕捉種は、捕捉カチオンと呼ばれてもよい。好ましい実施形態では、捕捉種は、アルカリ金属カチオンを含まないカチオン性捕捉種であり得る。捕捉種は、好ましくはアルカリ土類金属カチオンを含まないカチオン性捕捉種である。
【0045】
カチオン性捕捉種は、本来カチオン性であってもよく、またはこれに代えて、第1の吸収液中でプロトン化されてもよい。
【0046】
有利なことに、カチオン性捕捉種の使用は、捕捉種がアニオン交換膜透過性ではなく、そのため、標的酸のアニオンは、アニオン交換膜を使用して、カチオン性捕捉種から容易に分離され得ることを意味し得る。第1の吸収液における非イオン交換膜透過性の捕捉種の使用は、有利なことに電気化学的分離工程のエネルギー消費量を減少させ、第2の吸収液が、第2の吸収液における捕捉種蓄積物として濾過されるかまたは放出される必要がないことを意味する。
【0047】
好ましい実施形態では、捕捉種は、カチオン性有機捕捉種であってもよい。捕捉種は、カチオン性有機緩衝種であってもよい。
【0048】
特に好ましくは、捕捉種は、イオン性ポリマーであってもよい。イオン性ポリマーは、有利なことに、例えば水素カチオンの移行を可能にするように構成されたカチオン交換膜のようなカチオン交換膜に対して非膜透過性であり得る。
【0049】
捕捉種は、カチオン性ポリマーであってもよい。好ましくは、捕捉種は、少なくとも1つのアミン基または複数のアミン基を含む繰り返し単位を有するカチオン性ポリマーを含み得て、好ましくは、繰り返し単位は1つまたは複数の分岐アミンを含む。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、捕捉種は、ポリマーアミンである。好ましくは、捕捉種は、カチオン性ポリマーアミンである。
【0051】
捕捉種は、カチオン性官能基で官能化された複数のポリマー樹脂粒子を含む。カチオン性官能基で官能化されたポリマー樹脂粒子は、異種塩として公知であり得る。カチオン性官能基で官能化された好適なポリマー樹脂粒子の例は、Lewatit R VP OC1065であり、Lanxessによって供給される市販のイオン交換樹脂である。供給元は、該樹脂が、寸法安定性のためにいくつかのジビニルベンゼンで架橋されたp-ビニルベンジルアミンのポリマーであると報告している。ビーズは、0.47~0.57mmの有効径および50m2g-1のBET表面積を有する。細孔容積および平均孔径は、それぞれ、0.27cm3g-1および25nmであると報告されている。
【0052】
捕捉種は、カチオン性官能基で官能化されたアニオン交換樹脂粒子のスラリーを含み得る。
【0053】
有利なことに、捕捉種としてのカチオン性ポリマー樹脂粒子の使用は、捕捉種が、ポリマー樹脂粒子の大きいサイズに起因して、アニオン交換膜またはカチオン交換膜のいずれに対しても膜透過性ではないという利点をもたらし得る。したがって、捕捉種から標的アニオンを電気化学的に分離する工程は、有利なことに簡単であり、相対的に電気エネルギーを必要としない。
【0054】
捕捉種は、コリン由来のイオン性液体、好ましくは、カルボン酸またはプロパン酸などの有機酸の共役塩基を含有するカチオン性のコリン由来のイオン性液体であり得る。
【0055】
好ましくは、本発明で使用される捕捉種は、弱塩基性である。弱塩基性の捕捉種は、有利なことに、電気化学的工程中に、標的アニオンから解離するために、より少ない電気化学的エネルギー投入を必要とし得る。これは、有利なことに、全プロセスのエネルギーの必要性、したがってカーボンフットプリントを減少し得る。
【0056】
好ましくは、捕捉種は、10未満、好ましくは8.5未満、特に好ましくは7.5未満のpKaを有し得る。これは、捕捉種の共役酸(すなわち、そのプロトン化された形態)のpKaを指す。
【0057】
特に好ましい実施形態では、捕捉種は、ポリエチレンイミン(PEI)、好ましくは分岐PEI、特に好ましくは第一級、第二級および第三級アミンを含む分岐PEIを含む。ポリエチレンイミンは、CO2に結合するカチオン性ポリマーである。PEIは水溶性であり、有利なことにCO2においてその重量のおよそ20%までを取り込み得る。図に示され、以下に記載されるように、本発明者らは、PEIを含有する吸収液は、有利なことに、はるかに低い濃度においてさえ、NaOHなどのアルカリ性塩溶液より良好な捕捉速度を示し得ることを見出した。分岐PEIは、直鎖PEIより高い捕捉能力を有することが示され、したがって、本発明における使用に好ましい。
【0058】
これは、炭酸塩または水酸化物塩より迅速にCO2と反応し、同様にCO2をより容易に放出するPEIのアミン官能基に起因し得る。同等のアルカリ性塩溶液の濃度の数分の1のPEI溶液でさえ当てはまり得る。
【0059】
一部の実施形態では、本発明の方法は、先行技術で使用された捕捉種の場合よりはるかに低い濃度で、捕捉種を含有し得る。好ましくは、本発明の第1の吸収液中の捕捉種の濃度は、先行技術の吸収液中の塩濃度より少なくとも1桁小さい大きさである。
【0060】
第1の吸収液は、20000mg/L未満(第1の吸収液の1リットル当たりの捕捉種のmg)、または10000mg/L未満、好ましくは7500mg/L未満、または5000mg/L未満の第1の吸収液中の捕捉種濃度を含み得る。特に好ましくは、第1の吸収液は、1000mg/L~5000mg/Lの異種塩などの、1000mg/L~5000mg/Lの添加剤を含み得る。
【0061】
好ましい実施形態では、第1の吸収液中の捕捉種は、0.5M未満(1リットル当たりのモル数)、または0.3M未満、または好ましくは0.2M未満の濃度を有し得る。好ましい実施形態では、第1の吸収液は、0.15M以下、例えば0.1M以下の捕捉種濃度を有し得る。
【0062】
一部の実施形態では、第1の吸収液中の捕捉種は、10wt%未満(第1の吸収液中の捕捉種の重量百分率)、または8wt%未満、または好ましくは5wt%未満の濃度を有し得る。好ましい実施形態では、第1の吸収液は、4wt%未満または2wt%未満または1wt%未満、例えば0.5wt%以下の捕捉種濃度を有し得る。
【0063】
それに対して、先行技術で使用されるアミン捕捉溶媒は、典型的には、30wt%までの濃度を必要とし、一方、水酸化物溶液は、数モル濃度である傾向がある。
【0064】
第1の吸収液にはるかに低い濃度の捕捉種を使用することによって、本発明は、一部の場合には、捕捉種から標的アニオンを分離するために、より少ないエネルギーが投入されることが必要とされ得て、これは、捕捉種として高濃度のアルカリ金属塩を使用する先行技術プロセスと比較して、プロセスのエネルギー消費量を低減する。
【0065】
第1の吸収液は、好ましくは無機塩を含有しない。あるいは、第1の吸収液は、好ましくは2wt%未満の無機塩を含有する。
【0066】
好ましい実施形態では、捕捉種は、200、または250、または300、または400、または500、または550g/mol以上の分子量(g/mol)を有し得る。より小さい捕捉種は、膜を通って動くより高い能力を有するため、これが起きるのを妨げるために、より大きい分子量が好ましくは使用される。
【0067】
特に好ましくは、捕捉種の分子量は、600、または700、または800、または1000g/mol以上であり得る。そのような分子量は、有利なことに、膜を通過するには大きすぎて、膜の細孔を遮断するには大きすぎ得る。
【0068】
このような高分子量を有する捕捉種の使用は、有利なことに、第1の吸収液中の標的アニオンを安定化し、また、捕捉種分子は、膜中の細孔を通過するには大き過ぎるため、捕捉種が、1つまたは複数のイオン交換膜を通って第2の吸収液へと動けないことを確実にする。したがって、捕捉種は、その大きさから、第2の吸収液から除外され得る。
【0069】
特に好ましい実施形態では、捕捉種は、600g/molより大きく、または700g/molより大きい分子量を有するポリマーアミンであり得る。第1の吸収液では、ポリマーアミンはプロトン化され、標的アニオンはプロトン化された(したがってカチオン性)ポリマーアミンと結びつく。次に、標的アニオンは、イオン交換膜を通って電気化学的に分離され得て、一方、捕捉種のイオン電荷および/または高分子量は、捕捉種が膜を通過することができず、代わりに第1の吸収液中に保持されることを意味する。
【0070】
使用される捕捉種に応じて、捕捉種は、一部の実施形態では、上で論じられたものより高濃度で使用されてもよい。ポリマーアミン捕捉種を使用する実施形態では、例えば、第1の吸収液中の捕捉種の濃度は、20wt%未満(第1の吸収液中の捕捉種の重量百分率)であってもよい。捕捉種、好ましくはPA捕捉種の濃度は、3wt%~20wt%、または5wt%~15wt%、または8wt%~12wt%であり得る。
【0071】
標的酸
上述のように、第1の吸収液中の標的種の溶解は、標的アニオンおよび水素カチオンも形成し得て、そのため、第1の吸収液は標的酸を含有する。標的酸は、好ましくは標的種の共役酸である。
【0072】
例えば、CO2が標的種である場合、標的酸は炭酸であり、以下の平衡に基づき、溶解した二酸化炭素から形成する:
【0073】
【化1】
この状況における標的アニオンは、重炭酸アニオンHCO
3
-であり、これは、第1の吸収液中の捕捉種と結合し、次に、電気化学的分離工程において、イオン交換膜を通って移行する前に解離され得る。
【0074】
例えば、SO2が標的種である場合、標的アニオンは重亜硫酸イオンであり、標的酸は亜硫酸であり、以下の平衡に基づき、溶解した二酸化硫黄から形成する:
【0075】
【化2】
例えば、NO
2が標的種である場合、標的アニオンは硝酸イオンであり、標的酸は硝酸であり、以下の平衡に基づき、溶解した二酸化窒素から形成する:
【0076】
【化3】
他の標的種は、第1の吸収液に溶解し、対応する標的アニオンおよび標的酸を形成し得る。
【0077】
触媒
本発明の一部の実施形態では、第1の吸収液は、溶解した標的種の標的アニオンへの転換を促進するための水和触媒を含有する。良好な水和動力学を達成するために、ほとんどの先行技術系は、高アルカリ性の吸収剤を使用してきた。しかしながら、本発明者らは、標的種の触媒水和を使用することによって、第1の吸収液の捕捉能力が著しく向上し得ることを見出した。第1の吸収液中での触媒の使用は、標的種捕捉の有効性およびエネルギー効率を著しく改善する。
【0078】
触媒は、酵素、例えば炭酸脱水酵素を含み得る。本明細書で使用される場合、炭酸脱水酵素は、一般に、炭酸脱水酵素の任意の天然由来または合成の遺伝的変異体を指す。
【0079】
第1の吸収液中の触媒の濃度は、例えば、0.05mg・mL-1~5mg・mL-1(溶液の1ミリリットル当たりの触媒のミリグラム)、好ましくは0.1~1mg・mL-1、特に好ましくは0.2mg・mL-1~0.5mg・mL-1であり得る。
【0080】
これに代えて、触媒は、亜鉛の有機金属化合物(亜鉛シクレン)、および金属または金属酸化物の粒子またはナノ粒子を含んでもよい。
【0081】
触媒は、均一触媒であっても、または不均一触媒であってもよい。例えば、触媒は、第1の吸収液と接触する基体または表面に固定化され得る。本発明で使用される固定化された触媒または酵素は、好ましくは、懸濁液として第1の吸収液全体に分散された粒子に固定化され得る。特に好ましくは、触媒は、有利なことに、回収が容易な磁性粒子に固定化され得る。特に好ましい実施形態では、磁性Fe3O4粒子が、例えばウシ炭酸脱水酵素(bCA)のような酵素が固定化された担体粒子として使用された。
【0082】
分離およびフロー処理
標的アニオンは、多様な異なる電気化学的技術を使用して、第1の吸収液から電気化学的に分離され得る。次に、例えばより多くの標的種を捕捉するために、第1の吸収液を再循環させることによって、第1の吸収液は再使用され得る。
【0083】
好ましい実施形態では、標的アニオンは、第1の吸収液と1つまたは複数のイオン交換膜とを接触させ、電位を印加することによって、第1の吸収液から電気化学的に分離され得る。
【0084】
1つまたは複数のイオン交換膜は、好ましくは、標的アニオンに対して透過性であるアニオン交換膜を含む。したがって、標的アニオンは、アニオン交換膜を通って第2の吸収液へ移行し得る。好ましくは、アニオン交換膜は1価-アニオン交換膜である。アニオン交換膜は、有利なことに、カチオンに対して透過性ではないため、カチオン性捕捉種は、アニオン交換膜を通過して第2の吸収液へ入ることができない。
【0085】
1つまたは複数のイオン交換膜は、イオン電荷、捕捉種の大きさまたは分子量のうちの1つまたは複数に基づいて、捕捉種の通過を妨げるように構成され得る。例えば、膜は、流体力学的半径限界または分子量カットオフ限界に基づいて、溶液種の通過を可能にするかまたは妨げるように構成され得る。
【0086】
一部の実施形態では、イオン交換膜は、標的アニオンの通過を可能にするが、その相対的な分子の大きさに基づいて、捕捉種の通過を妨げるように構成された膜であり得る。
【0087】
好ましい実施形態では、1つまたは複数のイオン交換膜は、それを通って標的アニオンの通過を可能にするようにし、カチオン性電荷、および/または200g/molより大きい分子量を有する捕捉種の通過を妨げるように構成される。1つまたは複数のイオン交換膜は、200、または250、または300、または400、または500、または600g/mol以上の分子量を有する捕捉種の通過を妨げるように構成され得る。特に好ましくは、イオン交換膜は、600g/molより大きい分子量を有する捕捉種の通過を遮断する。
【0088】
上述のように、標的種は、第1の吸収液に溶解し、標的アニオンおよび標的対イオンを形成し得て、好ましくは標的対イオンはH+である。
【0089】
標的アニオンが第1の吸収液から電気化学的に分離されるのと同様に、標的対イオンは、好ましくは第1の吸収液から電気化学的に分離され、カチオン交換膜を通って第2の吸収液へ移動する。
【0090】
標的アニオンは、好ましくは第2の吸収液中で標的対イオンと結びつき、好ましくは標的酸を形成する。
【0091】
イオン交換膜は、Nafion(RTM)などの少なくとも1つのカチオン交換膜、およびSustainion(RTM)などの少なくとも1つのアニオン交換膜を含み得る。一部の実施形態では、複数対のアニオン交換膜およびカチオン交換膜があってもよい。
【0092】
好ましい実施形態では、1つまたは複数のイオン交換膜は、標的アニオンに対して透過性のアニオン交換膜、および標的対イオンに対して透過性のカチオン交換膜の両方を含んでもよい。アニオン交換膜は、標的アニオンが、アニオン交換膜を通って第2の吸収液に移行するように構成され得て、カチオン交換膜は、標的対イオンが、カチオン交換膜を通って第2の吸収液へ移行するように構成され得る。この配置では、電位差の下で、標的酸のアニオンは、アニオン交換膜を通って移行し、水素イオンは、カチオン交換膜を通って移行し、一方、捕捉種および第1の吸収液は、膜を通って移行することはない。したがって、標的アニオンと標的対イオンの両方とも、第2の吸収液へ移行し得て、そこで結びついて標的酸を形成し得て、一方、捕捉種は第1の吸収液中に保持される。
【0093】
代替の実施形態では、水素カチオンは、別の供給源から第2の吸収液に提供されてもよい。標的アニオンは、第2の吸収液中で、水素カチオンと組み合わされ、標的酸を形成し得る。例えば、一部の実施形態では、水素カチオンは、H2Oを電気分解することによって製造され得る。
【0094】
本発明は、好ましくは、双極性イオン交換膜(BPM)の使用を含まない。EP3162294A1およびEP3685904A1では、双極性膜は、必要とされる溶液化学物質を再生するために、H2OをH+およびOH-に解離させるために使用される。本発明では、本発明者らが、双極性膜はより高価であり、膜界面における高pH勾配に起因して安定性の低下を示すことを発見したため、双極性膜の使用は好ましくは回避される。水解離反応もまた、少なくとも0.8V、典型的には>1Vのより高いセルペア電圧を必要とする。代わりに、本発明は、好ましくは水素カチオンを第1の吸収液から第2の吸収液へ移動させ、そこでH+は、標的アニオンと再び結びつく。これは熱力学的により好ましく、したがって、本発明者らは、0.5Vのセルペア電圧が、十分な物質移動速度を可能にすることを実証した。
【0095】
第2の吸収液中で標的酸を形成することによって、標的酸は、標的種に直接分解し、第2の吸収液から気体として放出され得る。
【0096】
代替の実施形態では、電気化学的に分離された標的アニオンは、H+カチオンから分離されたまま、および/または第2の吸収液から沈殿化合物の形態で標的種を放出するために、さらなる成分と反応し得る。特に好ましくは、本方法の工程は、連続プロセスとして実施される。連続的に操作可能な実施形態では、第1および第2の吸収液は、連続的に流動する液体流として提供される。
【0097】
第1の吸収液の流れは、第1の吸収液が標的種を含有する気体と接触する気体接触装置と、イオン交換膜(複数可)と接触しているイオン分離器との間で循環され得る。イオン分離器は、好ましくは、アニオン交換ビーズとカチオン交換ビーズの50:50混合物などの固体電解質によって接続された、1つ以上または2つ以上のイオン交換膜を有する分離チャンバを備え、それを通って第1の吸収液が流動し得る。
【0098】
2つ以上のフロー電極は、好ましくはイオン交換膜(複数可)と接触する。少なくとも1つのフロー電極は、好ましくは、フロー電極(複数可)と、標的種が第2の吸収液から放出される放出容器との間で循環される第2の吸収液の流れを含む。
【0099】
有利なことに、この配置は、標的種が、連続的に吸収され、標的アニオンに転換され、イオン交換膜(複数可)を通して電気化学的に分離されて第2の吸収液中に入り、放出されることを可能にする。分離工程に続いて、捕捉種を含有する第1の吸収液は、次に、再循環され、気体との接触に戻され、より多くの標的種を吸収し、再び循環し始め得る。
【0100】
好ましくは、各フロー電極は、懸濁した電気的および/またはイオン的に伝導性の粒子を含有する吸収液の流れを含むかまたはこれらからなり、これは10nm~150マイクロメートル、好ましくは20nm~50nmの大きさの範囲であり得る。フロー電極中の伝導性粒子は、活性炭、リボフラビン5’-一リン酸ナトリウム塩水和物などの酸化還元種、金属酸化物(例えばFe2O3、Mn2O3)または金属ナノ粒子およびこれらの組合せを含み得る。フロー電極は、限定されるものではないが、活性炭のほか、白金、銀、鉄、ニッケル、マンガンおよび/もしくはチタンの酸化物、水酸化物および/もしくはオキシ水酸化物、またはリボフラビン5’-一リン酸ナトリウム塩水和物、アントラキノン、ポリオキソメタレートなどの酸化還元種などの、炭素または金属ベースの粒子またはナノ粒子を含み得る。
【0101】
一部の好ましい実施形態では、電気化学的分離は、1セル当たり1.2Vまで(電極1対当たり)の電位差を印加することにより実行され得る。電圧を1.2V未満に維持することは、有利なことに、望まれない水電気分解を妨げ、エネルギー消費量を低減し得る。
【0102】
水電気分解を含む代替の実施形態では、例えば、作動電圧は、1セル当たり1.2Vより高くてもよい。例えば一部の実施形態では、電気化学的分離は、電極間の膜対の数に応じて、電極1対当たり100Vまでの電位差を印加することによって実行されてもよい。一部の実施形態では、電気化学的分離は、電極1対当たり80Vまで、または電極1対当たり60Vまで、または電極1対当たり50V、もしくは40V、もしくは30V、もしくは20V、もしくは10Vまでの電位差を印加することによって実行されてもよい。
【0103】
特に好ましい実施形態では、標的酸イオンを第1の吸収液から電気化学的に分離する工程は、容量性脱イオン化(CDI)、好ましくはフローCDI、すなわち、フロー電極を使用するCDIを含む。
【0104】
通例、CDIは、電極が飽和するまでイオンを吸収し、次にイオンを流出させることにより作動し、それがサイクル式/セミバッチ操作において、CDIが作動するのを制限する。しかしながら、1つまたは複数のイオン交換膜および「フロー電極」を加えることで、標的アニオンは、連続的に第1の吸収液から分離され、第2の吸収液へ入り得る。これは、有利なことに、標的種の連続的捕捉、標的種の電気化学的分離および放出を可能にし得て、そのため、本方法は、さらにより効率的に作動し得る。
【0105】
代替の実施形態では、標的酸イオンを第1の吸収液から電気化学的に分離する工程は、電気透析を含む。
【0106】
電気化学的分離工程は、標的種が、電気化学的分離セル中で気体として放出することを妨げるために、加圧下で実行され得る。好ましくは、電気化学的分離工程は、2気圧より高く、好ましくは3気圧もしくは5気圧もしくは7気圧より高く、またはさらに30気圧以上の静水圧下で実行され得る。電気化学的分離器セル中での気泡の発生は、セル中のイオン電流の流れに望ましくない影響を与え、場合によりイオン交換膜(複数可)を損傷する可能性がある。電気化学的分離工程中に、加圧状態を作り出すことによって、標的種の気体としての発生は、第2の吸収液が電気化学的分離器を出るまで、好ましくは、圧力が低減されて標的種が気体として放出され得る放出容器に、第2の吸収液が到達するまで妨げることができる。
【0107】
第2の吸収液
本発明では、第2の吸収液(放出溶液)は、第1の吸収液とは異なる組成を有する。例えば、捕捉種が膜を通過して第2の吸収液に入ることができないので、第2の吸収液は、捕捉種を含有しない。
【0108】
第2の吸収液は、第2の吸収液によって受け取られた標的アニオンの電荷のバランスを取るために、水素カチオンを含有し得る。H+は、任意選択で、第2の吸収液中に存在する唯一のカチオンであってもよい。好ましくは、第2の吸収液中に存在する水素カチオンは、第1の吸収液からイオン交換膜を介して第2の吸収液に移動する。
【0109】
第2の吸収液は、好ましくは、第1の吸収液のpHとは異なるpHを有する。好ましくは、第2の吸収液のpHは、7未満である。WO2013/036859A1などの先行技術の方法では、第2の水性流は、捕捉種として作用するアルカリ金属炭酸塩/重炭酸塩の緩衝イオンを含むため、第2の水性流は高アルカリ性である。標的種を第2の吸収液から分離し放出するのに必要とされるエネルギーは、したがって、著しく大きい。
【0110】
第2の吸収液は、水性でもまたは非水性でもよいが、好ましい実施形態では、第2の吸収液は非水性である。特に好ましい実施形態では、第1の吸収液は水溶液であり、一方、第2の吸収液は非水溶液である。
【0111】
非水性の第2の吸収剤の使用は、有利なことに、標的種を、第2の吸収液から放出された後に乾燥する必要性を低減するかまたは排除する。非水性の第2の吸収液はまた有利なことに、高沸点、低蒸気圧を示し、またCO2などの標的種を溶解する高い能力を有する。
【0112】
第2の非水性吸収溶媒の使用は、標的種が、最小湿度を伴って放出されることを可能にし、乾燥の必要性を低減することによって、プロセス全般のエネルギー消費量を低減する。加えて、より広い電位窓を有することに起因して、より高電圧における作動を容易にし得る(より速い分離速度)。
【0113】
第2の吸収液は、好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートまたはジメチルカーボネートなどの有機カーボネート溶媒を含むかまたはこれらからなる。
【0114】
一部の実施形態では、標的種は、気体から捕捉されたものと同じ標的種の濃縮形態として放出され得る。例えば、CO2は、気体から捕捉され、次に濃縮されて、純粋なCO2ガスとして放出されてもよい。
【0115】
あるいは、標的種は、気体中に存在したものとは異なる形態で放出されてもよい。例えば、気体中に存在するNOxまたはSOxは捕捉され、次にN2またはSなどの還元された形態で放出されてもよい。
【0116】
第2の吸収液は、標的アニオンの還元のために、または標的アニオンの標的放出種への転換のために、1つまたは複数の放出触媒を含み得る。1つまたは複数の放出触媒は、リスト:Pt、Pd、Fe、Mo、Mn、Cu、Zn、V、Wから選択される金属の金属触媒または金属カルコゲニド(酸化物、窒化物、硫化物、リン化物)を含み得る。
【0117】
1つまたは複数の放出触媒は、標的アニオンおよび/または標的種の還元を触媒し、酸素添加物および/または炭化水素を形成し得る。
【0118】
捕捉されたCO2に対して、放出触媒(複数可)は、例えば、1つまたは複数の:アルコール、カルボン酸、アルカン、アルケン、COの形成をもたらす水素化または還元反応を容易にし得て、次にそれらは第2の吸収液から放出され得る。
【0119】
気体から捕捉されたNOxまたはSOxに関して、放出触媒(複数可)は、例えば、放出のためにN2またはSへの還元を触媒し得る。第2の吸収液は、標的酸からの標的種の放出を促進するために、1つまたは複数の:無機塩、金属酸化物、金属オキシ水酸化物、FeOOH、TiOOH、またはニッケル-鉄もしくは白金-鉄などの金属合金を含み得る。
【0120】
第2の吸収液中の少量の塩は、有利なことにイオン分離器の電気抵抗を低減し得るため、第2の吸収液は無機塩を含み得る。好ましい実施形態では、第2の吸収液は、5wt%未満の塩、または2wt%未満の塩、または1.5wt%未満の塩、または1wt%未満を含有し得る。例えば、第2の吸収液は、10g/Lまでの塩、または15g/Lまでの塩、または20g/Lまでの塩を含有してもよい。
【0121】
これに代えて、第2の吸収液は、無機アルカリ性の塩を含有しなくてもよい。第2の吸収液におけるほんの少量の塩の使用、または塩を全く使用しない最も最小限の場合は、標的種を放出するために塩生成物を熱的に分解する必要がないため、標的種を分離および放出するための著しいエネルギー低減を有利なことに容易にする。
【0122】
一部の実施形態では、例えば、第1の捕捉溶液からイオンを分離するために電気透析が使用される場合、第2の吸収液は、H2O、または別の水溶液、例えばスルホン酸などの有機酸であってもよい。ある実験では、本発明者らは、第2の吸収液として0.18%のポリ-4-スチレンスルホン酸を使用することに成功した。
【0123】
第2の吸収液は、イオン伝導率を増加する目的で、水性種または固体種を含有してもよい。例えば、双極性イオンであるベタインなどの有機塩は、第2の吸収液の伝導率を増加させ得て、そのネットゼロ電荷に起因して、第2の吸収液中に保持される。その代わりに、固定化された塩またはイオン交換樹脂は、イオン輸送を改善するために、電気化学セルの第2の吸収チャンバに配置され得る。
【0124】
標的種の放出
本方法は、少なくとも一部の標的種を第2の吸収液から放出する工程を含む。
【0125】
本発明の好ましい実施形態では、標的種は、第2の吸収液から気体として放出される。
【0126】
電気化学的分離後、標的アニオンは、好ましくは第2の吸収液中で水素カチオンと組み合わされ得て、そのため、第2の吸収液は標的酸を含有する。例えば、標的酸アニオンは、アニオン交換膜を通過して第2の吸収液へ移動し得て、一方、水素カチオンは、カチオン交換膜を通過して第2の吸収液に入る。水素カチオンは、第1の吸収液から、カチオン交換膜を通過して、第2の吸収液へ入る。あるいは、例えば水の電気分解によって生成された水素カチオンのような別の供給源からの水素カチオンが、第2の吸収液中に存在し得る。
【0127】
次に、標的種は、第2の吸収液中の標的酸の化学平衡を維持するために、第2の吸収液から放出され得る。例えば、標的酸は、標的酸対イオンが、所与の温度および圧力で第2の吸収液中で不安定である結果として、標的種に直接分解し得る。特に好ましくは、標的種は、第2の吸収液から、室温および大気圧で、気体として放出され得る。
【0128】
特に好ましい実施形態では、例えば、標的種は、二酸化炭素(CO2)であり、溶解したCO2は、第1の吸収液中で、炭酸(重炭酸標的アニオン、および水素カチオン)に転換される。重炭酸標的アニオンは、次に、捕捉種と結びつく。炭酸イオンは、次に、第2の吸収液中で再度組み合わされる前に、第1の吸収液から電気化学的に分離される。この場合、炭酸イオンのH+およびHCO3-は、室温で準安定性であり、プロセスが継続し、第2の吸収液中のH+およびHCO3-の濃度が増加するにつれて、平衡がCO2に傾き始めるため、分解してCO2ガスに戻る。第2の吸収液中の炭酸は、したがって、第2の吸収液が室温より高く加熱されることを必要とすることなく、二酸化炭素ガスに直接分解し得る。したがって、吸収、分離および放出のプロセスは、標的酸対イオンが再度結びついて、炭酸、続いてCO2を形成するため、イオンを蓄積することなく、連続的に作動することができる。
【0129】
化学平衡が、室温で第2の吸収液から標的種の放出を強制的に行う場合、捕捉された標的種の放出を強制的に行うために加熱または他のエネルギー投入が必要とされないため、全般的プロセスは、最も少ないエネルギー投入が必要とされる。
【0130】
本方法では、標的種は、好ましくは、第2の吸収液を加熱することなく、第2の吸収液から気体として放出可能である。
【0131】
標的アニオンを捕捉種から電気化学的に分離し、好ましくは第2の吸収(放出)液中に存在する捕捉種を持たないことによって、本方法では、有利なことに、標的種は、第2の吸収液を加熱することなく放出可能である。放出工程に必要とされるエネルギー投入量は、したがって、先行技術で必要とされるものより極めて少ない。好ましくは、標的種は、50℃未満、または40℃または30℃の温度で、第2の吸収液から放出される。一部の実施形態では、標的種は、0℃~50℃、または5℃~40℃、または10℃~30℃、または12℃~25℃の温度で、第2の吸収液から気体として放出され得る。
【0132】
好ましい実施形態では、標的種は、大気圧で、または大気圧より大きい圧力で、第2の吸収液から放出される。本発明における標的種は、放出工程中に捕捉種に結合していないため、第2の吸収液上にサブ大気圧を作り出すことによって、標的種を強制的に発生させる必要はない。放出工程中に、第2の吸収液上の標的種の分圧は、大気圧における空気中での標的種の分圧と等しくてもよい。
【0133】
好ましくは、標的種は、40℃未満または30℃未満の温度で、第2の吸収液から自発的に放出される(平衡によってのみ推進される)。特に好ましくは、標的種は、40℃未満または30℃未満の温度および大気圧で、第2の吸収液から自発的に放出される(平衡によってのみ推進される)。電気化学的分離工程が、イオン分離器における気体発生を妨げるために加圧状態で実行される場合、圧力は、好ましくは標的種の放出を可能にするために低減され、特に好ましくは大気圧まで低減される。
【0134】
少なくとも一部の標的種を第2の吸収液中の標的酸から放出する工程は、第2の吸収液を加熱する工程、第2の吸収液上の圧力を低減する工程、またはこれらの組合せを含み得る。
【0135】
溶液からの標的種の放出を促進するために、第2の吸収液が加熱される実施形態では、好ましくは、第2の吸収液は、70℃未満、または60℃未満、または50℃未満、特に好ましくは40℃未満または30℃未満の温度に加熱される。これらのような温度では、第2の吸収液中の標的酸の平衡は、標的アニオンの標的種への分解を助長するようにシフトする。しかしながら、第2の吸収液をこれらの温度に加熱することは、先行技術における高温分解工程より著しく少ないエネルギーを必要とする。
【0136】
少なくとも一部の標的種を第2の吸収液から放出する工程は、第2の吸収液の光熱加熱を含み得て、光子エネルギーは、電磁スペクトルの赤外可視と高周波数の間で光子と相互作用する第2の吸収液中の機能性材料を介して受け取られる。
【0137】
これに代えてまたはこれに加えて、放出工程は、磁気誘導を含み得る。磁気誘導は、第2の吸収液が金属粒子を含有する場合に使用可能であり得て、そこでは外部印加型の磁場によって電流が誘導され得る。
【0138】
有利なことに、光熱加熱または磁気誘導の使用は、放出工程の反応速度を増加させるために、第2の吸収液中の粒子の標的加熱を可能にし得る。一部の実施形態では、これらの方法は、第2の吸収液中の温度勾配の生成を可能にし、それによって、系全体を加熱することなく、放出工程の反応速度の増加を達成し得る。
【0139】
第2の吸収流から放出された気体状標的種は、有利には、さらなる使用のために圧縮および/または保存されてもよい。
【0140】
代替の実施形態では、標的アニオンの第1の吸収液からの電気化学的分離後、標的酸H+対イオンは、別の吸収液に移動し得る。例えば、標的アニオンは、アニオン交換膜を通過し、第2の吸収液に移動し得て、一方、標的酸水素イオンは、第1の吸収液からカチオン交換膜を通過して第3の吸収液へ入る。標的アニオンおよび/または標的酸水素イオンは、続いて、ミネラルまたは塩と反応し、吸収液から放出されるさらなる物質を形成し得る。例えば、標的アニオン(炭酸の場合は重炭酸イオン)は、第2の吸収液に移動し、ミネラルまたは塩と反応し、沈殿物質を形成し得る(例えば沈殿した重炭酸塩物質)。捕捉された標的種は、したがって、例えば吸収液から沈殿物質を濾別することによって、反応した形態で第2の吸収液から放出され得る。標的酸H+対イオンは、例えば水素ガスとして放出され得る。
【0141】
気体
気体から標的種を捕捉する方法は、標的種を含有する気体を第1の吸収液と接触させる第1の工程を含む。次に、標的種は気体から除去され、標的種を第1の吸収液に溶解することによって捕捉される。
【0142】
標的種は、典型的には、気体の一部のみを形成し、標的種が捕捉され得る容易さは、気体中の標的種の濃度に依存する。本発明の利点は、気体中の標的種の濃度が相対的に低い場合でさえ、標的種が捕捉され得ることであり、それは例えば空気から汚染源標的種を捕捉するために特に重要である。
【0143】
気体中の標的種の濃度は、約50vol%、または45vol%、または25vol%、または15vol%、または10vol%、または5vol%、または1vol%未満、好ましくは0.5vol%未満であってもよい。CO2などの汚染源気体は、典型的には、非常に希薄な濃度で、通例1vol%よりはるかに低い濃度で空気中に存在する。
【0144】
標的種を含有する気体は、空気、化石燃料燃焼からの排煙、工業用ガス、バイオガスまたはこれらの任意の組合せであり得る。特に好ましい実施形態では、気体は空気であり、そのため、本発明による方法は、空気から標的種を捕捉する方法である。
【0145】
標的種は、CO2、H2S、SO2、NO、NO2およびN2Oからなる群から選択され得る。
【0146】
二酸化炭素
本発明の特に好ましい実施形態では、標的種はCO2であり、標的アニオンは重炭酸イオン(bicarbonate)HCO3-であり、標的酸は炭酸である。
【0147】
本発明は、したがって、気体から二酸化炭素捕捉する方法であって:二酸化炭素を含有する気体を、捕捉種を含む第1の吸収液と接触させる工程と;
二酸化炭素を第1の吸収液に溶解し、重炭酸アニオンを形成する工程と;
第1の吸収液を、1つまたは複数のイオン交換膜と接触させることによって、重炭酸アニオンを第1の吸収液から電気化学的に分離し、重炭酸アニオンを、イオン交換膜を通して第2の吸収液へ移動させる工程と;
少なくとも一部の二酸化炭素を第2の吸収液から放出する工程とを含み;
ここで、1つまたは複数のイオン交換膜は、捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種はイオン交換膜を通過しない、方法を提供し得る。
【0148】
本発明の全ての態様に関連する、本明細書に記載される全ての特色は、気体からの二酸化炭素の捕捉に、特に好ましくは空気からのCO2の直接的捕捉に適用可能である。
【0149】
好ましくは、第2の吸収液は、捕捉種を含有しない。気体が空気である場合、本発明は、空気から二酸化炭素を捕捉する方法を提供し得る。
【0150】
二酸化炭素の第1の吸収液への溶解は、好ましくはHCO3-とH+の両方を形成し、特に好ましくはHCO3-とH+の両方とも、第1の吸収液から電気化学的に分離され、第2の吸収液へ移動する。したがって、対イオンは、第2の吸収液中で結びついて炭酸を形成し得て、これは、有利なことに、さらなるエネルギー投入を必要とすることなく放出される二酸化炭素ガスに分解し得る。
【0151】
したがって、本発明は、気体中のCO2の入ってくる希薄な流れと、第2の吸収液から放出されるCO2ガスの出ていく濃縮された流れの間のCO2移動のための主要な炭素種として、H+およびHCO3-と等価である、重炭酸アニオンHCO3-および炭酸を使用し得る。
【0152】
CO2捕捉の場合、標的炭酸対イオン(H+およびHCO3-)は、室温で準安定性であり、第2の吸収液中のH+およびHCO3-の濃度の増加に起因して、平衡がCO2に傾き始めるため、分解してCO2に戻る。したがって、イオンが、好ましくは第2の吸収液を室温より高く加熱することなく、化学平衡によって自然に推進され、再度結びついて、炭酸、続いて第2の吸収液から放出されるCO2を形成するため、プロセスは、イオンを蓄積することなく、連続的に作動することができる。
【0153】
第1の吸収液は、好ましくは、CO2<>H2CO3<>H++HCO3
-という動力学を促進するための触媒を含有し得る。これは、有利なことに、捕捉されたCO2の、重炭酸アニオンへ、したがって炭酸への転換を加速し、非常に希薄な濃度でのみ存在する気体流から二酸化炭素を捕捉することを可能にする。したがって、触媒は、空気中の二酸化炭素の濃度が、典型的には1vol%よりはるかに低く、典型的には0.04vol%に近い場合、有利なことに、空気からCO2を直接捕捉するためにDACを実施することを可能にする。
【0154】
特に好ましくは、CO2を重炭酸アニオンに転換するための触媒は、炭酸脱水酵素、または亜鉛シクレンなどのZn2+を含有する化合物であり得る。
【0155】
装置
第2の態様では、本発明は、気体から標的種を捕捉するための装置であって:
標的種を含有する気体を、捕捉種を含有する第1の吸収液と接触させ、標的種を第1の吸収液に溶解し、標的アニオンを形成するように構成された、気体接触器と;
標的アニオンを第1の吸収液から電気化学的に分離し、少なくとも一部の標的アニオンを第2の吸収液へ移動させるための1つまたは複数のイオン交換膜を備えるイオン分離器と;
少なくとも一部の標的種を第2の吸収液から放出するための放出容器とを備え、
1つまたは複数のイオン交換膜は、使用中に、捕捉種に対して透過性ではない、装置を提供する。
【0156】
気体接触器は、気体スパージャまたは流下膜式反応器を備えてもよい。
【0157】
1つまたは複数のイオン交換膜は、好ましくは、標的アニオンを第1の吸収液から第2の吸収液へ移動させ、かつ捕捉種を第1の捕捉溶液中に保持するように構成される。
【0158】
イオン分離器は、標的アニオンを第1の吸収液から電気化学的に分離し、少なくとも一部の標的アニオンを第2の吸収液に移動させるように構成された電気化学セルである。イオン分離器は、少なくとも1対の電極(アノードおよびカソード)を備え、電極間に電位差を印加し、第1の吸収液から標的アニオンを分離するように構成される。
【0159】
一部の好ましい実施形態では、イオン分離器は、電極1対当たり1.2Vまでの電場を印加するように構成される。電圧を1.2V未満に維持することは、有利なことに、望まれない水電気分解を妨げ、エネルギー消費量を低減する。水電気分解が電気化学的分離の一部を形成する他の実施形態では、イオン分離器は、電極1対当たり1.2Vより大きい、例えば100Vまで、または80Vまで、または60Vまで、または50Vまでの電位差を印加するように構成され得る。
【0160】
従来の電気透析セルでは、電流に対して2つの寄与:水分解からの酸化還元電圧および膜電圧がある。膜対の数が増加するにつれて、膜電圧が増加する。それで、電圧の大部分は、電気分解からではなく、膜上の電圧降下に関連するけれども、セル全体は100Vまでの電圧で作動し得る。
【0161】
イオン分離器は、イオン分離器における標的種気泡の形成を抑制するために、加圧状態下で作動するように構成され得る。好ましくは、イオン分離器は、2気圧より高く、好ましくは3気圧もしくは5気圧もしくは7気圧より高く、またはさらに30気圧以上の静水圧下で作動するように構成され得る。
【0162】
イオン分離器は、標的アニオンのみを第2の吸収液へ移動させるように構成され得るか、またはイオン分離器は、標的アニオンと複数の水素カチオンの両方を第1の吸収液から第2の吸収液へ移動させるように構成され得る。
【0163】
イオン分離器は、好ましくは1つまたは複数のイオン交換膜を備える。
【0164】
1つまたは複数のイオン交換膜は、好ましくは、それらを通る標的アニオンの通過を可能にするように構成されたアニオン交換膜を備えるか、またはそれからなる。
【0165】
イオン分離器は、2つ以上のイオン交換膜を備えてもよい。好ましくは、イオン分離器は、アニオン交換膜およびカチオン交換膜を備える。イオン分離器は、好ましくは、1つまたは複数対のイオン交換膜を備え、各対は1つのカチオン交換膜および1つのアニオン交換膜を備える。各アニオン交換膜は、好ましくはそれらを通る標的アニオンの通過を可能にするように構成され、一方、各カチオン交換膜は、好ましくはそれらを通る水素カチオンの通過を可能にするように構成される。
【0166】
イオン分離器中の全てのイオン交換膜は、好ましくは膜を通る捕捉種の通過を妨げるように構成される。
【0167】
イオン分離器は、好ましくは双極性イオン交換膜を備えていない。
【0168】
好ましい実施形態では、イオン分離器は、アニオン交換膜、およびアニオン交換ビーズとカチオン交換ビーズの50:50混合物などの固体電解質を有する分離チャンバを備える。イオン分離器は、好ましくは第1の吸収液の流れを受け、第1の吸収液の流れが固体電解質を通過するように構成される。標的アニオンを含有する第1の吸収液の流れは、固体電解質を通過すると、標的アニオンが流れから電気化学的に分離される前に、好ましくは第1の端部で分離チャンバに入り、第1の吸収液の流れは依然として捕捉種を含有するが、標的アニオンを失って、第2の端部を通って分離チャンバから出る。
【0169】
さらに好ましい実施形態では、イオン分離器は、固体電解質によって接続された、1対の対向するイオン交換膜(1つはアニオン交換膜および1つはカチオン交換膜)を有する分離チャンバを備え得る。第1の吸収液の流れは分離チャンバを通過し、イオン分離器にわたる電位差は、標的アニオンを捕捉種から解離させ、アニオン交換膜を通って移行させ、一方、第1の吸収液中の水素カチオンは、カチオン交換膜を通って移行する。
【0170】
イオン分離器は、好ましくは、イオン交換膜(複数可)のアウトプット側と接触する1つ以上、または2つ以上のフロー電極を備える。各フロー電極は、イオン交換膜と電極の間のチャネルを通って流れる吸収液の流れを含み得る。吸収液の流れは、複数の導電性粒子、または導電性粒子のスラリーを含み得る。この実施形態では、導電性吸収剤および電極は、フロー電極を形成する。
【0171】
フロー電極(複数可)は、好ましくは第2の吸収液の流れを含むため、イオン交換膜を通過する標的アニオンは、第2の吸収液の流れに移動する。
【0172】
フロー電極(複数可)を形成する吸収液の流れは、懸濁した導電性粒子のスラリーを含み得る。スラリー中の伝導性粒子は、10nm~150マイクロメートルの範囲の大きさであり得る。伝導性粒子スラリーは、好ましくは、活性炭、リボフラビン5’-一リン酸ナトリウム塩水和物などの酸化還元種、金属酸化物(例えばFe2O3、Mn2O3)または金属ナノ粒子およびこれらの組合せを含み得る。フロー電極は、限定されるものではないが、活性炭のほか、白金、銀、鉄、ニッケルおよびチタンの酸化物、水酸化物および/またはオキシ水酸化物などの、炭素または金属ベースの粒子またはナノ粒子を含み得る。
【0173】
装置は、好ましくは、アニオン交換膜、およびアニオン交換膜のアウトプット側と接触する第1のフロー電極を備える。第1のフロー電極は、好ましくは第2の吸収液の流れを含む。使用中に、第1の吸収液がイオン分離器を通過する際、標的アニオンは、アニオン交換膜を通過して第2の吸収液の流れに入る。
【0174】
一部の好ましい実施形態では、装置は、カチオン交換膜、およびカチオン交換膜のアウトプット側と接触する第2のフロー電極を備える。第2のフロー電極は、第2の吸収液の流れ、またはこれに代えて、第2の吸収液とは異なる第3の吸収液の流れを備えてもよい。第3の吸収液が使用される場合、第3の吸収液は、好ましくは第2の吸収液と同じ材料から選択され得るが、第2の吸収液とは別に保持される。使用中に、第1の吸収液がイオン分離器を通過する際、水素カチオンは、第1の吸収液からカチオン交換膜を通って第2のフロー電極中の吸収剤の流れへ移行する。
【0175】
第1の好ましい実施形態では、装置は、両方のフロー電極からの第2の吸収液の流れを合わせるように構成される。これは、有利なことに、標的アニオンを水素カチオンと再度組み合わせるため、第2の吸収液は標的酸を含有する。標的種は、次に、放出容器中の標的酸の分解に続いて、気体として放出され得る。
【0176】
代替の実施形態では、装置は、2つのフロー電極からの吸収液の流れを合わせないように構成されてもよい。標的酸アニオンおよび/または標的酸水素イオンは、続いて別々に使用され得るか、または、ミネラルもしくは塩と別々に反応し、第2の吸収液から放出されるさらなる物質を形成し得る。
【0177】
一部の実施形態では、装置は、アニオン交換膜と接触する第2の吸収液の流れからなる第1のフロー電極、およびカチオン交換膜と接触する第3の吸収液の流れからなる第2のフロー電極を備え得る。使用中に、標的アニオンはアニオン交換膜を通過し、第2の吸収液へ移動し、一方、水素イオンは、カチオン交換膜を通過し、第3の吸収液へ移動する。標的アニオンおよび/または水素イオンは、続いて、ミネラルまたは塩と反応し、第2および/または第3の吸収液から放出されるさらなる物質を形成し得る。例えば、標的アニオン(炭酸の場合は重炭酸イオン)は、第2の吸収液に移動し、ミネラルまたは塩と反応し、沈殿物質(例えば沈殿した重炭酸塩物質)を形成し得る。捕捉された標的種は、したがって、例えば吸収液から沈殿物質を濾別することによって、反応した形態で第2の吸収液から放出され得る。
【0178】
一部の好ましい実施形態では、装置は、標的アニオンと結びつくために、第2の吸収液に複数の水素カチオンを提供するように構成されてもよい。装置は、水を電気分解し、得られた水素カチオンを第2の吸収液へ導入するように構成され得る。
【0179】
装置は、好ましくは、第1の吸収液を気体接触器からイオン分離器へ移動させる手段、および第1の吸収液をイオン分離器から気体接触器へ再循環させる手段を備える。
【0180】
装置は、好ましくは、第2の吸収液をイオン分離器から放出容器へ移動させる手段、および第2の吸収液を放出容器からイオン分離器へ再循環させる手段を備える。
【0181】
第1の特に好ましい実施形態では、イオン分離器は、容量性脱イオン(CDI)イオン分離器、またはCDIセルである。
【0182】
代替の実施形態では、イオン分離器は、電気透析イオン分離器、または電気透析セルである。
【0183】
装置は、好ましくは連続的に作動するように構成される。
【0184】
気体接触器は、標的種を含有する気体を、第1の吸収液の流れと連続的に接触させるように構成され得て、イオン分離器は、標的アニオンを第1の吸収液から連続的に電気化学的に分離し、少なくとも一部の標的アニオンを第2の吸収液の流れに移動させるように構成され得る。放出容器は、少なくとも一部の標的種を第2の吸収液から連続的に放出させるように構成され得る。
【0185】
第1の特に好ましい実施形態では、イオン分離器は、フロー電極容量性脱イオン(FCDI)イオン分離器、または連続流動式電気透析イオン分離器である。
【0186】
放出容器は、熱および/または磁気誘導を第2の吸収液に印加するように、ヒーター、および/または磁気誘導アセンブリを備えてもよい。
本発明の第1の態様に関連して上述された特色はまた、第2の態様の装置にも適用され、逆もまた同様である。
【0187】
添付の図式を参照しながら、本発明の特定の実施形態を例として以下に説明する:
【図面の簡単な説明】
【0188】
【
図1】本発明の好ましい実施形態により作動する、フロー電極容量性脱イオン装置の概略図である。
【
図2】
図2Aは本発明の好ましい実施形態で使用可能な、複合フロー-CDI-電気透析装置の略図である。
図2Bは本発明の好ましい実施形態で使用可能な、代替の電気透析装置の略図である。
【
図3】本発明の好ましい実施形態で使用可能な、電解槽-電気透析装置の略図である。
【
図4】本発明の好ましい実施形態による溶液を通して、毎分1Lで空気をスパージングする際の、時間に対するpH変化のグラフである。
【
図5】本発明の好ましい実施形態による溶液を通して、毎分1Lで空気をスパージングする際の、時間に対する捕捉されたCO
2のグラフである。
【
図6】本発明の好ましい実施形態による、フロー-CDIセルにおける、時間に対する捕捉された塩のグラフである。
【
図7】遊離ウシ炭酸脱水酵素(遊離bCA)、Fe
3O
4に固定化されたbCA、およびFe
3O
4に関するCO
2捕捉速度を比較するグラフである。
【
図8】遊離ウシ炭酸脱水酵素(遊離bCA)、Fe
3O
4に固定化されたbCA、およびFe
3O
4に関する平均捕捉効速度および最大捕捉効速度を比較するグラフである。
【
図9】例示的な分岐ポリエチレンイミン(PEI)ポリマー鎖の化学的構造を例示する図である。
【
図10】本発明の好ましい実施形態で使用可能な、ポリエチレンイミン(PEI)が第1の吸収液として使用される電解槽-電気透析装置の略図である。
【
図11】H
2O/PEI溶液で捕捉されたCO
2のグラフである。
【
図12】H
2O/PEI溶液から放出されたCO
2のグラフである。
【
図13】NaOH、H
2O/PEI中のbCA、およびNa
2HPO
4中のFe
3O
4に固定化されたbCAのCO
2捕捉速度を比較するグラフである。
【
図14】水性吸収剤PEI/CA、NaOHおよびNa
2CO
3の捕捉速度および捕捉効率を比較するグラフである。
【
図15】PEI吸収液を使用し、
図10に例示された装置を使用したCO
2の連続的捕捉に関する、放出されたCO
2、ならびにCO
2の分離および放出速度のグラフである。
【
図16】PEI吸収液を使用し、
図10に例示された装置を使用したCO
2の連続的捕捉に関する、CO
2の分離および放出速度を例示するグラフである。
【
図17】本発明の好ましい実施形態で使用可能な、代替の電気透析装置の略図である。
【
図18】
図17の装置を使用して測定したCO
2捕捉速度、およびエネルギー消費量のグラフである。
【
図19】本発明の好ましい実施形態による装置の略図である。
【
図20】本発明の好ましい実施形態で使用可能な、流下膜式反応器からのCO
2出口濃度のグラフである。
【
図21】ある範囲の温度にわたる、2つの異なる捕捉種に関する、
図20で使用された流下膜式反応器からのCO
2出口濃度のグラフである。
【
図22】本発明の好ましい実施形態で使用可能な、電気透析装置の略図である。
【
図23】本発明の実施形態で使用可能な、電気透析セルの写真である。
【
図24】
図23の装置を使用して測定された、電圧/電流の関数としてのCO
2放出速度を示すグラフである。
【
図25】
図24と同じ実験で製造されたH
2の総エネルギー消費量およびエネルギーを示すグラフである。
【
図26】電気透析セルを使用して得られたCO
2安定性データを示すグラフである。
【
図27】40膜対の電気透析セルに関する、kWh/tCO
2におけるCO2の分離および放出のためのエネルギー消費量(赤)に対する、mg/時におけるCO
2アウトプット速度(黒)のグラフである。
【
図28】第1の吸収液中の捕捉種の異なる濃度についての、
図27と同一の40膜対の電気透析セルを使用する電気透析の、モデル化された電気エネルギー需要のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0189】
図1は、気体捕捉プロセスの一部としてイオンを電気化学的に分離するために、フロー電極容量性脱イオンを利用する、本発明の好ましい実施形態を例示している。
【0190】
図1に例示されたフロー-CDI装置100は、気体接触器102、イオン分離器104、および放出容器106から構成されている。
【0191】
気体接触器102は、捕捉される標的種を含有する気体108の流れを受け取り、気体と第1の吸収液110の流れとを接触させるように配置される。流下膜式カラム、充填カラム、気泡カラムまたは噴霧塔などの多様な気液接触器の設計は当技術分野で公知であり、そのいずれも本発明での使用に好適である。
【0192】
イオン分離器104は、多孔質の固体電解質で満たされた分離チャンバ112、分離チャンバ112の一側面に沿ったアニオン交換膜114、および分離チャンバ112の反対側面に沿ったカチオン交換膜116を含む。入口管118は、気体接触器102の出口を分離チャンバの入口に接続し、出口管120は、分離チャンバの出口を気体接触器の入口に接続し、そのため、第1の吸収液110の流れは、気体接触器から圧送され、分離チャンバを通って、次に気体接触器へと再循環され得る。
【0193】
正電極122は、アニオン交換膜の側面でイオン分離器104に接続され、負電極124は、カチオン交換膜の側面でイオン分離器104に接続される。
【0194】
イオン分離器は、アニオン交換膜と正電極122の間に第1のフロー電極チャネル126、およびカチオン交換膜と負電極124の間に第2のフロー電極チャネル128を備える。
【0195】
フロー電極出口管130の一端は、第1のフロー電極チャネル126と第2のフロー電極チャネル128の両方の出口に接続され、フロー電極出口管130の他端は、放出容器106の入口に接続される。フロー電極入口管132は、放出容器106の出口と、第1のフロー電極チャネル126および第2のフロー電極チャネル128の両方の入口との間に接続される。
【0196】
フロー電極は、導電性粒子の懸濁液を含有する第2の吸収液134を圧送し、フロー電極チャネル126、128の両方を通って、放出容器へ送ることによって形成され、第2の吸収液134を、放出容器106からフロー電極チャネル126、128へと再循環させる。
【0197】
使用中に、捕捉種を含有する第1の吸収液110が気体接触器に導入されるのと同時に、捕捉される標的種を含有する気体108の流れは、気体接触器102へ導入される。気体108が第1の吸収液110と接触すると、標的種の吸収液への物質移動が起こり、そのため、第1の吸収液110は、気体から一部の標的種を吸収する。
【0198】
標的種は第1の吸収液110に溶解し、第1の吸収液中の水和触媒の存在によって任意選択で補助され、標的アニオンおよび水素カチオンを形成する。標的アニオンおよび水素カチオンは一緒に標的酸を形成するが、第1の吸収液110中で、標的アニオンは、捕捉種と結合または会合し得る。
【0199】
第1の吸収液110は、気体接触器102の出口から連続的に圧送され、入口管118を通って、イオン分離器104の分離チャンバ112の入口に入り、そこから液体の第1の吸収液110は、多孔質の固体電解質を通って流動する。
【0200】
作動中に、正電極122と負電極124の間に電位差が印加される。イオン分離器にわたるこの電位差は、第1の吸収液110が分離チャンバを通って流動すると、負に帯電した標的アニオンは、捕捉種から解離され、正電極の方に引き寄せられ、一方、正に帯電した水素カチオンは、負電極の方に引き寄せられることを意味する。したがって、標的アニオンは、アニオン交換膜114を通って移行し、水素カチオンは、カチオン交換膜116を通って流動し、そのため、標的酸イオンは第1の吸収液から分離される。アニオン交換膜114もカチオン交換膜116のいずれも、捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種は、第1の吸収液110に残存する。
【0201】
第1の吸収液110が分離チャンバ112の出口に到達する時までに、少なくとも一部の標的酸イオン(標的アニオンおよび水素カチオン)は、第1の吸収液110の流れから分離され、第1の吸収液は、出口管120を通って気体接触器102の入口へと再循環される。
【0202】
作動中に、伝導性粒子のスラリーを含有する第2の吸収液134の流れは、第1のフロー電極チャネル126および第2のフロー電極チャネル128を通って圧送され、そのため、イオン交換膜を通過する標的アニオンおよび水素カチオンは、第2の吸収液134の流れへ移動する。標的アニオンおよび水素カチオンは、放出容器106へ流動する際に、フロー電極出口管130中で再度組み合わされ、互いに再度結びつき、そのため、第2の吸収液134の流れは、放出容器106に到達したときに、標的酸を含有する。
【0203】
放出容器106に入ると、少なくとも一部の標的種は、気体として第2の吸収液から放出される。これは、好ましくは平衡によって単独に推進され、標的種気体は、好ましくは、追加の加熱または気体回収器の使用を必要とすることなく、室内の温度および圧力で第2の吸収液から発生する。
【0204】
放出された標的種の気体は、次に、放出容器106から取り出され、所望のように、圧縮され、保存されるかまたは反応させることができる。
【0205】
連続的フロー電極を提供するために、第2の吸収液134の流れは、フロー電極出口管130を通って、第1のフロー電極チャネル126と第2のフロー電極チャネル128の両方の入口に圧送して戻される。
【0206】
このシステムを使用して、標的種は、気体108の流れから連続的に吸収され、第1の吸収液から第2の吸収液へ移動し、最終的に放出容器106に放出され得る。
【0207】
この全構成を使用して実施され得る本発明の特に好ましい実施形態は、空気からの二酸化炭素(CO2)の捕捉である。
【0208】
この実施形態では、空気が気体108の流れとして使用され、第1の吸収液110は、CO2水和触媒を含有する水溶液である。
【0209】
この実施形態における第1の吸収液および捕捉種として特に好ましい選択肢は、カチオン性官能基で官能化された水溶液ポリマー樹脂粒子、例えば炭酸脱水酵素の水和触媒を含有するLewatit R VP OC1065である。
【0210】
空気が気体接触器102に導入され、カチオン性ポリマー粒子および炭酸脱水酵素の溶液と接触すると、溶液によって空気からCO2が吸収され、以下の平衡に基づき、炭酸(重炭酸アニオンおよび水素カチオン)を形成するために、水和される:
【0211】
【化4】
重炭酸アニオンは、弱塩基性のカチオン性ポリマー粒子と結合し、一方、遊離水素カチオンは、第1の吸収液のpHを低減する。
【0212】
第1の吸収液110の流れがイオン分離器104に到達すると、水素カチオンはカチオン交換膜(例えばNafion(RTM))を通って第1の吸収液から分離され、重炭酸アニオン(HCO3
-)は、カチオン性ポリマー粒子から解離し、アニオン交換膜(例えばSustainion(RTM))を通って移行する。イオン交換膜はいずれも、カチオン性ポリマー樹脂粒子に対して透過性ではないため、捕捉種は第1の吸収液中に残存する。標的アニオンと水素カチオンの両方とも、次に、フロー電極チャネルを通って流れる第2の吸収液134の流れへ移動し、再度組み合わされて、炭酸を形成する。この実施形態では、第2の吸収液は、捕捉種も、重炭酸アニオンが結合することができる任意の他のカチオン性種も含有しない。
【0213】
この実施形態における使用に好ましい第2の吸収液134は、フロー電極として作用する活性炭ナノ粒子の懸濁液を含有するジメチルカーボネートの非水性溶液である。
【0214】
この実施形態の特別な利点は、炭酸およびそのイオン(H+およびHCO3-)が、室温で自然に準安定性であることである。イオン分離器における気泡の形成を妨げるために、イオン分離器は、気泡が形成し得ない圧力まで加圧される。炭酸を含有する第2の吸収液134の流れが放出容器106に到達すると、圧力は減少する。イオンが電気化学的に分離され、第2の吸収液に導入されると、第2の吸収液におけるH+およびHCO3-の濃度が増加することに起因して、平衡はCO2に傾き始める。したがって、炭酸イオンは、自然に脱水されて気体状CO2を形成するようになり始め、次に、放出容器中の第2の吸収液から放出される。
【0215】
この放出工程は、完全に室内の温度および圧力で実行され得る。例えば気体回収器用に90~100℃のような、先行技術で使用されるエネルギー多消費的な高温への加熱は必要とされず、本プロセスをより環境を配慮したものとする。非水性第2の吸収液の使用もまた、有利なことに、放出された二酸化炭素ガスは、高湿度を有することがなく、いくつかの先行技術の方法の一部であるエネルギー多消費的な後続の乾燥工程を必要としないことを意味する。
【0216】
この方法を使用して、空気中の希薄なCO2ガス(1vol%よりはるかに少ない量)が、空気から捕捉され、純粋なCO2ガスとして濃縮され得る。
【0217】
これに代えて、同じ装置および同じ技術が、空気からまたは別の気体源から、他の標的種を捕捉するために使用されてもよい。例えば、標的種は、H2S、SO2、NO、NO2およびN2Oであってもよい。異なる標的種を捕捉するために、異なる水和触媒が使用され得て、標的種は、標的種の共役酸を形成する。特定の標的種のために、第2の吸収液は、標的種の放出を助長するために加熱されてもよく、または標的種は、第2の吸収液中で所定のモル濃度に濃縮され、次に流出されてもよい。
【0218】
図2Aおよび2Bは、気体捕捉プロセスの一部として、イオンを電気化学的に分離するために、代替のイオン分離器として電気透析スタック200を利用する、本発明の2つの好ましい実施形態を例示する。
【0219】
図2Aでは、装置は、フロー電極を使用するフロー-CDIと電気透析の複合であり、一方、
図2Bでは、電気透析装置200は、フロー電極を使用しない。
【0220】
電気透析スタック200は、上述の気体接触器102および放出容器106と共に使用され得る。
【0221】
電気透析スタック200は、正電極(アノード)222と負電極(カソード)224の間に、多孔質の固体電解質で満たされた分離チャンバ212を含む。3対のアニオン交換膜114およびカチオン交換膜116は、電極間に平行に配置され、分離チャンバ212を、2つの電極の間の7つの隣接する区画に分割する。2つの最外区画は、電極およびイオン交換膜によって形成され、一方、介在する5つのチャネルA、Bは、対向するイオン交換膜の対によって形成される。
【0222】
第1の吸収液210は、チャネルAを通って圧送され、一方、第2の吸収液234は、チャネルBを通って圧送される。
【0223】
作動中に、アノード222とカソード224の間に電位差が印加され、標的アニオンおよび水素カチオンを含有する液体の第1の吸収液210は、隣接する4つのチャネルAの一端に圧送される。
【0224】
例示目的のために、
図2は、電気透析スタック200によって分離される炭酸の対イオン(重炭酸アニオンおよび水素カチオン)を示すが、同じ装置が、代替の標的アニオンおよび標的酸で使用されてもよい。
【0225】
捕捉種、標的アニオンおよび水素カチオンを含有する第1の吸収液210がチャネルAを通って流動すると、電極間の電場が、標的アニオン(例示された炭酸の場合はHCO3-)を正電極222の方へ、酸カチオン(H+)を負電極224の方へ引き寄せる。したがって、アニオンは、チャネルAと接触するアニオン交換膜114を通過することによって、捕捉種から解離され、チャネルAから出て、隣接するチャネルBへ移行し、一方、カチオンは、カチオン交換膜116を通過することによって、チャネルAの別の方向へ出て、隣接するチャネルBへ移行する。イオン交換膜はいずれも、捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種は第1の吸収液中に残存する。
【0226】
アニオンは、一度チャネルBに移行すると、チャネルBの一側面を形成するカチオン交換膜116を通過することができないため、アノードの方へさらに移行することが妨げられるので、標的アニオンおよび水素カチオンは、チャネルB中で濃縮される。同様に、他の方向に移行するカチオンは、アニオン交換膜114によって、チャネルB中に閉じ込められる。したがって、標的アニオンおよび水素カチオンは結びついて、標的種の共役酸である標的酸を形成する。
【0227】
上述のように、電気透析スタック200は、セル内の気泡形成が1つまたは複数の膜を損傷し、性能を害する可能性があるため、標的種の気泡が形成できない加圧下で維持される。
【0228】
この配置を使用すると、標的酸対イオンは、チャネルB中の第2の吸収液234の流れの中で濃縮され得て、次に、放出容器へ循環され、そのため、標的種は、第2の吸収液234から放出され得る。
【0229】
図2Aのフロー電極は、伝導性粒子の懸濁液を含有する別個の第3の溶液から構成され、それは電極間を再循環し、第1および第2の吸収液から分離されたままである。それらは、アノードにおいて、標的アニオン(重炭酸アニオン)を受け取り、カソードにおいてそれを放すことより、イオンが各区画に連続的に確実に移行することができるようにする。
【0230】
図3は、本発明の好ましい実施形態で使用可能な電解槽-電気透析装置300の略図である。図は、例示として、重炭酸イオンおよび炭酸に関して記載される。
【0231】
電気透析装置300は、正電極(アノード)322と負電極(カソード)324の間に、多孔質の固体電解質で満たされた第2の吸収チャンバ312を含む。1対のイオン交換膜-アニオン交換膜114およびカチオン交換膜116-は、電極間に平行に配置され、装置300を3つの区画に分割する:アニオン交換膜114の入口側のカソード区画330、カチオン交換膜116の入口側のアノード区画340、および2つの膜の間の第2の吸収チャンバ312。
【0232】
作動中に、アノード322とカソード324の間に電位差が印加される。捕捉種、重炭酸アニオンおよび水素カチオンを含有する液体の第1の吸収液310は、捕捉容器(図示されず)からカソード区画330へ圧送され、カソードチャンバの周りを循環する。この例では、例えば硫酸ナトリウムまたは塩化ナトリウムのような電解質の水性流である第2の吸収液334は、第2の吸収チャンバ312を通って圧送される。H2Oは、アノード区画340へ圧送される。
【0233】
カソードは、アルカリ性環境にあるが、第1の吸収液中の標的種の溶解によって形成された水素イオンも含有するため、2つの反応が起きる。負に帯電したカソードでは、還元反応が起こり、カソードからの電子(e-)が水素カチオンと組み合わされて、水素ガスを形成する。カソードで起きる還元反応は:2H2O(液体)+2e-→2OH-(水性)+H2(気体)(OH-は、主に、HCO3によって中和されて、炭酸塩を形成する)であり、一方、2H++2e-→H2という反応も起こり、水素ガスを発生させる。
【0234】
正に帯電したアノードでは、酸化反応が起こり、酸素ガスを作り出し、電子をアノードに与えて、回路が完成する。アノードで起きる反応は:2H2O(液体)→O2(気体)+4e-+4H+(水性)である。
【0235】
標的アニオン(例示された炭酸の場合はHCO3-重炭酸アニオン)を含有する第1の吸収液310が、カソード区画330に流入すると、電極間の電場がアニオン交換膜114を通して標的アニオンを引き寄せ、第1の吸収液中の水素カチオン(H+)が、水素ガスとして放出される。したがって、標的アニオンは、アニオン交換膜114を通過することによって、カソード区画330から出て第2の吸収チャンバ312へ移行する。同時に、アノードで電気分解によって形成された水素カチオン(H+)は、カチオン交換膜116を通って引き寄せられ、第2の吸収チャンバ312へ移行する。
【0236】
この配置を使用すると、標的アニオン(HCO3
-)は、水素カチオンと組み合わされ、標的酸(示された例では炭酸)を形成し、第2の吸収チャンバ312を通る第2の吸収液334の流れの中で濃縮される。第2の吸収チャンバ312は、標的酸が、装置300内で分解して気泡を形成することがないように、十分に高い圧力で維持される。
【0237】
第2の吸収液の流れは、次に、放出容器(図示されず)へ循環される。第2の吸収液の流れ334に入ると、圧力は低減され、炭酸対イオンは分解して気体CO2を形成し、CO2は第2の吸収液334から放出され、放出容器に収集される。
【0238】
EP2163294などの先行技術文献は、CO2捕捉のために電気透析を利用してきたが、EP2163294では、水解離が双極性膜(BPM)によって実行され、それは、限られた安定性を示し、高還元性および高酸化性の反応を同時に実施しなければならない。
【0239】
図3におけるセル構成もまた、アニオン交換膜の10倍ほど高価である双極性膜の使用を除外する。
【0240】
図3に例示されたセル構成は、好ましくは、水素および酸素の1分子当たりの放出されるCO
2の量が増加するように、複数対のイオン交換膜を加えることによって拡大され得る。イオン交換膜対の数が大きくなるほど、生成されるH
2/O
2の1分子当たり
、より多くのCO
2が放出される。
【0241】
図3に示されるセル設計の性質は、水素が、例えば50~60kWh/kg(H2)のような、現在のPEM電解槽と競合する効率で製造され得ることを意味する。
【0242】
図4~6は、本発明の方法を使用した二酸化炭素の直接的空気捕捉に関する、本発明者らによって得られた実験データを例示する。
【0243】
図4は、3つの可能性のある第1の吸収液の、毎分1Lの速度で、各溶液を通して空気をスパージングする際の、測定された経時的なpH変化を例示する。この実験は、以下の有効性を実証する:
線400:Na
2HPO
4(0.1M、100mL)。
線420:Na
2HPO
4(0.1M、100mL)+0.2mg・mL
-1のウシ炭酸脱水酵素。
線440:Na
2HPO
4、(0.1M、100mL)+0.2mg・mL
-1当量のFe
3O
4粒子に固定化されたウシ炭酸脱水酵素。
【0244】
本発明で使用される固定化された酵素は、好ましくは、懸濁液として第1の吸収液全体に分散された粒子に固定化され得る。特に好ましい実施形態では、磁性Fe3O4粒子が、例えばbCAのような酵素が固定化された担体粒子として使用された。
【0245】
Na2HPO4は、本発明には好ましい捕捉種ではないが、この場合は、Na2HPO4を対照として使用して、二酸化炭素捕捉に関するCAおよび固定化されたCAの相対的効力を実証した。
【0246】
図4で示されるように、溶液を通して空気をスパージすると、3つの溶液全てのpHは、およそpH9.1~9.5から、およそpH8.3~8.5へ著しく減少した。これは、空気からのCO
2の吸収、および溶解したCO
2の炭酸(重炭酸アニオンおよび水素カチオン)への転換の結果である。プロセス中に形成される炭酸の酸性pH(<7)は、第1の吸収液の全般的pHを自然に低下させ、そのため、3つの溶液は全て、平衡時に最終的に8.5以下のpHを有した。
【0247】
図4における3本の線の勾配比較は、溶液がCO
2を吸収し、CO
2を炭酸のイオンに転換させる速度を、溶液中の炭酸脱水酵素の存在が著しく増加し、炭酸脱水酵素を含有する溶液420、440は、水和触媒を伴わない対照試料400よりはるかに迅速に平衡に到達したことを示す。
【0248】
図4はまた、炭酸脱水酵素が固定化されなかった試料420より、試料440に固定化された炭酸脱水酵素が有効であったことを示す。試料440はCO
2を吸収し、CO
2を炭酸により迅速に転換し、またおよそ8.3の低いpHで平衡に達し、固定化された触媒により、試料440が、他の試料400、420より多くのCO
2を吸収したことを示唆する。
したがって、本実験は、炭酸脱水酵素水和触媒によって、特にそれが固定化された場合に提供された、CO
2捕捉および炭酸への転換における改善を実証している。
【0249】
図5は、100mLの溶液に1L・分
-1の速度で空気をスパージングした後の、2つの溶液において測定されたpH変化を使用して、モデル化された捕捉されたCO
2の量を例示する。
線500:NaOH(0.1M、100mL)
線520:Na
2HPO
4、(0.1M、100mL)+0.2mg・mL
-1当量の固定化されたウシ炭酸脱水酵素。
【0250】
図5で示されるように、Na
2HPO
4中の固定化された炭酸脱水酵素を含有する試料520は、同じ時間においてNaOH試料500よりはるかに大量にCO
2を吸収する。これは、炭酸脱水酵素などの水和触媒の使用が、先行技術で有益であると考えられてきたNaOHなどの高アルカリ性吸収液よりさらに、著しく優れた結果をもたらすことを実証している。
【0251】
例示された実験では、試験の目的上、Na2HPO4が、CO2水和を実施するのにウシ炭酸脱水酵素にとって最適なpHに近いpHを有するため、Na2HPO4が担体溶液として使用された。
【0252】
図5で実証された良好なCO
2捕捉速度にもかかわらず、Na
2HPO
4の捕捉能力が本発明に所望されるものより低いため、Na
2HPO
4は本発明には第1の吸収液として好ましくない。本発明はまた、第1の吸収液におけるNaHPO
4などの膜透過性のアルカリ金属塩の使用を、好ましくは回避するかまたは少なくとも低減する。
【0253】
本明細書に記載される全ての実験において、CO2捕捉は、近赤外域センサを使用して測定された。この場合、近赤外域センサは、捕捉容器に入ってくる空気のバックグラウンドCO2を測定し、捕捉容器からの出口におけるCO2の濃度を記録するために使用され、そのため、第1の吸収液によって捕捉され、空気から除去されるCO2の量が定量化され得る。
【0254】
図6は、1トン当たり524kWhのCO
2当量エネルギー消費量を有するフロー-CDIセルによって実行される塩分離の有効性を例示する。他のCO
2捕捉プロセスに必要とされる、>1500kWhの熱エネルギーと比較して、これは極めてエネルギー効率的である。
【0255】
図6の背後の実験では、約400mg/Lの炭酸塩/重炭酸塩の緩衝剤を含有した塩注入流は、15mL・分
-1の速度でフローCDIセルへ導入され、フロー電極流は、20mL・分
-1の速度でフロー電極を通って圧送された。フロー-CDIセルに印加された電流密度は、1.2Vの電圧で、1mA・cm
-1であった。この配置は、0.25mg分
-1・cm
-2の捕捉速度を達成した。フロー-CDIセルのフットプリントは、100mLの体積を必要とする空気接触器より小さいため、フロー-CDIは、プロセスを速度制限するものではない。
【0256】
図6によって実証される塩捕捉速度は、フロー-CDIが、第1の吸収液から標的酸イオンを電気化学的に分離するのに、極めて有効かつ実行可能な方法であることを示す。アミン吸着剤または炭酸塩か焼炉は、CO
2の1トン当たり1500~2000kWhを必要とする一方、本プロセスは、CO
2の1トン当たり534kWhのみの当量エネルギー消費量を有することが見出された。
【0257】
図7は、例示的な第1の吸収液における、3つの異なる触媒に関する平均および最大のCO
2捕捉速度を比較するグラフである。
- 遊離ウシ炭酸脱水酵素(遊離bCA)、(0.2mg/mL);
- Fe
3O
4に固定化されたbCA、(0.2mg/mL、2.5mg/mLのFe
3O
4に固定化されたbCA);および
- Fe
3O
4(2.5mg/mL)。
【0258】
3つの吸収液は全て、100mLの0.1MのNa2HPO4中の触媒から構成された。空気は、毎分1Lの速度で吸収液を通って流動させた。
【0259】
図8は、同じ3つの触媒含有吸収液に関する平均捕捉効率および最大捕捉効率を比較する。
【0260】
これらの結果は、遊離bCAとFe3O4に固定化されたbCAの両方の平均CO2捕捉率が、Fe3O4単独のものより著しく高いことを示した。3つの触媒の平均捕捉効率は、Fe3O4に関するおよそ38%から、Fe3O4に固定化されたbCAに関するおよそ47%までの範囲であったが、最大捕捉効率は、Fe3O4に関して最も高かった。
【0261】
図9は、例示的なポリエチレンイミン(PEI)鎖の化学的構造を例示し、これは、分岐アミンを含有するカチオン性ポリマーである。PEIは、好ましい捕捉種であるため、PEIの溶液は、本発明で使用可能な好ましい第1の吸収液である。PEIは、水溶性で高安定性である。
【0262】
図10は、
図3の電解槽-電気透析装置300の略図であり、ここで、ポリエチレンイミン(PEI)が、CO
2捕捉用の第1の吸収液に使用される。
【0263】
この配置で、捕捉容器(図示されず)中で起きる捕捉反応は:
CO2+H2O→H2CO3→H++HCO3
-
である。
【0264】
第1の吸収水溶液中のポリエチレンイミン(PEI)は、重炭酸アニオンと反応し、それは1:2:1比の第一級、第二級および第三級アミンを含有する。第一級および第二級のアミンは、以下の機構で反応する:
CO2+H2O+2R2NH->HCO3
-+R2NH2
++R2NH
一方、第三級アミンは、以下の機構で反応する:
CO2+R3N+H2O->HCO3
-+R3NH+
R2-NH+[HCO3]-として捕捉された、溶解した重炭酸アニオンを含有する第1の吸収液は、次に、捕捉容器からカソード区画330へ循環され、そこから、重炭酸アニオンHCO3
-は電気化学的に分離され、アニオン交換膜114を通って移行し、一方、第1の吸収液中の炭酸カチオンは、水素ガスとして放出される。残留する捕捉種PEIカチオンR2-NHは、膜透過性ではなく、カソード区画330から再循環されて捕捉容器に戻り、さらにCO2を吸収する。
【0265】
図3に関連して上述されたように、重炭酸アニオンは、第2の吸収チャンバ312中で水素カチオンと再度組み合わされ、放出容器中で捕捉され得るCO
2ガスとして分解する前に、第2の吸収液334中で炭酸を形成する。
【0266】
図11は、H
2O/PEI第1の吸収液で捕捉されたCO
2の質量を示すグラフである。1.2mg・mL
-1(0.12wt%)のPEI濃度を有する3つの代替的な吸収水溶液が比較された:
- 炭酸脱水酵素(CA)を加えたPEI 1110;
- PEI 1120;および
- Fe
3O
4を加えたPEI 1130。
【0267】
図11に示されるように、炭酸脱水酵素(CA)を加えたPEIの水溶液1110は、PEI単独の1120より多くのCO
2を捕捉し、Fe
3O
4を加えたPEI 1130のほぼ3倍で作動した。炭酸脱水酵素(CA)を加えたPEIは、したがって、本発明における第1の吸収液として、捕捉種および触媒の有望な組合せであると考えられる。
【0268】
図12は、溶液の温度1220が上昇するにつれて、1.2mg・mL
-1(0.12wt%)のPEI濃度を有するH
2O/PEI溶液から放出されるCO
2の質量1210を示すグラフである。本発明では、PEI吸収剤からのCO
2の熱脱離は必要な工程ではないが、
図12の実験結果は、PEI-CO
2吸収プロセスの熱可逆性を実証する。
図12の結果は、溶液の温度が上昇するにつれて、特に50℃または60℃より高い温度で、CO
2が、PEI溶液から徐々に脱離されることを示す。したがって、本発明では、第1の吸収液は、好ましくは50℃未満、好ましくは40℃または30℃未満の温度で維持される。
【0269】
図13は、3つの異なる第1の吸収液のCO
2捕捉速度を比較するグラフである:NaOH(3モル)、H
2O/PEI中のbCA、およびNa
2HPO
4中のFe
3O
4に固定化されたbCA。
図13におけるCO
2捕捉は、50mLの第1の吸収液および吸収液を通って流れる空気の1L・分
-1の空気流速度を使用して、固定条件下で測定された。
【0270】
図13の結果は、NaOHの捕捉速度が、最初は最高であったが、すぐにおよそ0.008mg秒
-1の捕捉速度で定常状態に到達したことを示した。Na
2HPO
4中のFe
3O
4に固定化されたbCAの捕捉速度は、3つの吸収剤の最低であり、時間が経つにつれて、0.006mg秒
-1に下降する前に、およそ0.008mg秒
-1でピークであった。H
2O/PEI中のbCAの第1の吸収液は、最高のCO
2捕捉速度を実証し、0.0095mg秒
-1に下降する前に、およそ0.012mg秒
-1に到達した。
【0271】
試験したNaOHの濃度は120g/Lであり、これは水酸化物ベースのCO
2捕捉の現況技術で使用される濃度である。しかしながら、H
2O/PEI中のbCA試料におけるPEI濃度はわずか1300mg/Lであった。したがって、
図13は、たとえPEI濃度がNaOH濃度の92分の1であっても、H
2O/PEI中のbCA試料が最も良好に作動したことを示す。
【0272】
図14は、3つの異なる水性吸収剤の捕捉速度および捕捉効率を比較するグラフである:炭酸脱水酵素を加えたPEI(PEI/CA)、NaOHおよびNa
2CO
3。
【0273】
試験した3つの吸収水溶液は全て、50mLの液体容積および溶液を通る1L分-1の空気流速度を有した。PEI/CA溶液は、0.13wt%のPEIおよび0.02wt%のCAを含有した。NaOH溶液は、12wt%のNaOHを含有した。Na2CO3溶液は、29wt%のNa2CO3を含有した。
【0274】
これらの結果が、溶液中の吸収剤の量により正規化された場合、PEI/CA混合物は、NaOHおよびNa2CO3吸収剤のおよそ92倍高い吸収剤の1mg当たりの捕捉速度を達成する。これは、PEI/CA吸収液が、電気化学的分離工程の効率を低減し得る膜透過性イオンを含有しないという利益と組み合わされて、PEIおよびCAを含有する第1の吸収液を、本発明における使用に有望な候補とする。
【0275】
図10に例示された装置を使用して、PEI吸収液を使用したCO
2の連続的捕捉を実証するための実験が実行された。
図15は、本実験中の、CO
2の分離および放出速度1510、ならびに放出されたCO
2の量1520を例示する。
【0276】
図15の実験では、3.16%のPEIを含有する25mLの第1の吸収液は、4L分
-1の空気流で隔膜ポンプを使用して、空気からのCO
2で飽和された。次に、吸収液は、電気透析セル300のカソードチャンバの周りを、1mL分
-1の速度で循環した。同時に、0.5MのNaClを含有する第2の溶液は、アニオン交換膜とカチオン交換膜の間を、10mL分
-1の速度で圧送された。電源装置を使用して、セルにわたる電圧を印加し、電流は、4Vの電圧で、200mA・cm
-2の電流密度まで徐々に上昇させた。この電流密度で、安定した気泡の流れが、第2の溶液と共にセルから出ていくのが観察され、第1の吸収液からのCO
2の分離および放出が、同時に起こっていることが実証された(ただし、この装置のフルスケール版では、セル300は、セル内の気泡発生を妨げるために加圧される)。第2の溶液および発生したCO
2気泡は、放出チャンバまで圧送され、それを通って連続的な空気流が圧送され、放出されたCO
2を伴出した。発生したCO
2の量は、高速近IRセンサ(SprintIR(登録商標)-W 100% CO2 Sensor|CO2Meter.com)を使用して測定された。空気は、放出チャンバから300mL・分の速度で連続的に圧送され、CO
2メータで分析された。
【0277】
図15および16は、CO
2の分離および放出速度1510は急速に上昇し、徐々に下降する前に、速度およそ200グラムCO
2m
-2hr
-1においてピークとなったことを示す。分離および放出速度におけるこの下降は、電気透析セルが、第1の吸収液によって吸収されるより迅速に、CO
2を分離し放出したという事実により起こされたと考えられた。この実験は、
図10の装置が、典型的な電気透析速度と同じ範囲のCO
2分離速度を達成し、捕捉工程を速度制限するものではないことを立証する。
【0278】
放出されたCO2の総量1520は、連続的に上昇し、およそ1400秒後に50グラムCO2m-2に到達することが観察された。
【0279】
放出されたCO2の量およびCO2放出速度は、イオン交換膜の界面表面積によって正規化される。
【0280】
本実験で試験され、
図10に示されるセルは、1対のみの膜を含み(一方、電気透析スタックは、典型的には500対まで含む)、そのため、エネルギー効率は、典型的な膜対の数を有する全電気透析セルが達成し得たものを代表するものではない。しかしながら、エネルギー効率は2膜セルに期待されるものと同等である。
【0281】
全システムで無視し得るものとなる電気透析セルのファラデー寄与を除外して、本プロセスを実施するために算出されたエネルギーは、4800kWhトンである。これは、溶液中のCO2濃度をより高くし、電圧/電流およびフロー電極の使用を最適化し、セル対の数を増加することによって、著しく低減されることが期待される。
【0282】
これらの結果は、PEIおよびCAの第1の吸収水溶液が、CO2を捕捉し、それを炭酸イオンに転換することに成功し、炭酸のHCO3
-アニオンは、アニオン交換膜を越えて第2の吸収液へ輸送され、続いて分解されて炭酸に戻り、純粋な気体状CO2として放出され得ることを示す。
【0283】
図17は、本発明の好ましい実施形態で使用可能な、代替の電気透析装置1700を示す。
図17の装置1700は、
図3および10の装置と同様のものであり、電解槽の構成は、第1の吸収液がセルの中央チャンバに入り、電極の極性が逆になるという違いがある。
【0284】
電気透析装置1700は、正電極(アノード)322と負電極(カソード)324の間に、多孔質の固体電解質で満たされた第1の吸収チャンバ1712を含む。1対のイオン交換膜-アニオン交換膜114およびカチオン交換膜116-は、電極間に平行に配置され、装置1700を3つの区画に分割する:カチオン交換膜116の一側面上のカソード区画330、アニオン交換膜114の一側面上のアノード区画340、および2つの膜の間の第1の吸収チャンバ1712。
【0285】
作動中に、アノード322とカソード324の間に電位差が印加される。捕捉種、標的アニオン(示された例の場合、重炭酸アニオン)および水素カチオンを含有する液体の第1の吸収液310は、捕捉容器(図示されず)から第1の吸収チャンバ1712へ圧送される。例えば硫酸ナトリウムまたは塩化ナトリウムのような水性または非水性の電解質の流れであり得る第2の吸収液334は、アノード区画340を通って圧送される。
【0286】
カソードは、アルカリ性環境にあるが、第1の吸収液中の標的種の溶解によって形成された水素イオンも含有するため、2つの反応が起きる。負に帯電したカソードでは、還元反応が起こり、カソードからの電子(e-)が水素カチオンと組み合わされて、水素ガスを形成する。カソードで起きる還元反応は:2H2O(液体)+2e-→2OH-(水性)+H2(気体)(OH-は、主に、HCO3によって中和されて、重炭酸塩を形成する)であり、一方、2H++2e-→H2という反応も起こり、カソード区画330から水素ガスを発生する。
【0287】
正に帯電したアノードでは、酸化反応が起こり、酸素ガスを作り出し、電子をアノードに与えて、回路が完成する。アノードで起きる反応は:2H2O(液体)→O2(気体)+4e-+4H+(水性)である。
【0288】
上述の実施形態におけるように、第1の吸収液は、PEIなどの捕捉種を含有し、アニオン交換膜およびカチオン交換膜は、捕捉種に対して非透過性であるため、捕捉種は、第1の吸収液310中に保持される。
【0289】
標的アニオン(例示された炭酸の場合はHCO3-重炭酸アニオン)を含有する第1の吸収液310が、第1の吸収チャンバ1712に流入すると、電極間の電場が、アニオン交換膜114を通して標的アニオンをアノード区画340中の第2の吸収液334に引き寄せる。同時に、アノードで電気分解によって形成された水素カチオン(H+)は、アノード区画340で生成され、そこで標的アニオンと結びつき、第2の吸収液中で標的酸を形成し得る。アノード区画340は、標的酸が、装置300内で分解して気泡を形成することがないように、十分に高い圧力で維持される。標的酸は、第2の吸収液334の流れの中で濃縮され、放出容器(図示されず)に循環され、そこで標的種の気体(示された例ではCO2ガス)が発生し、捕捉される。
【0290】
この実施形態では、いくらかの酸素ガスがCO2流中に存在する。これは、H2+O2+CO2流を燃焼させることによるか、または気体を、エネルギーを回収するための燃料電池を通過させることによるいずれかで除去され得る。
【0291】
第1の吸収液中の水素カチオン(H+)は、カチオン交換膜116を通って、カソード区画330へ移行し、そこから水素ガスとして放出される。したがって、標的アニオンは、アニオン交換膜114を通過することによって、カソード区画330から出て第2の吸収チャンバ312へ移行する。同時に、アノードで電気分解によって形成された水素カチオン(H+)は、カチオン交換膜116を通って引き寄せられ、第2の吸収チャンバ312へ移行する。
【0292】
電気化学的分離プロセス中に、標的重炭酸アニオンおよび水素カチオンを失って、第1の吸収液310は、依然として捕捉種を含有して捕捉容器(図示されず)へ再循環される。
【0293】
図18は、
図17のCO
2捕捉用の装置を使用して、
図15および16に関して上述されたものと同じ成分およびパラメータを使用して得られたCO
2捕捉結果を例示する。
図18に示されるように、プロセスのエネルギー効率およびCO
2捕捉速度は、装置が作動する電圧に強く依存する。おおよそ毎時30mgにおいて、エネルギー消費量は、捕捉されたCO
2の1トン当たり900kWhである。しかしながら、電気化学セル中で電気分解が起きるため、プロセスは、同じ期間に500kWhのH
2を生成した。したがって、結局、CO
2は、1トン当たり約400kWhで捕捉され、放出された。
【0294】
図19
図19は、本発明の好ましい実施形態による装置の略図であり、気体捕捉プロセスの一部として、イオンを電気化学的に分離する電気透析を利用する。装置の作動は、
図1に関して上述されたフロー-CDI装置の作動と実質的に同様であり、イオン分離器が、フロー-CDIではなく電気透析を利用するという相違点を有する。
【0295】
図19に例示された電気透析装置1900は、気体接触器1902、イオン分離器1904、および放出容器1906から構成される。
【0296】
気体接触器1902は、捕捉される標的種を含有する気体1908の流れを受け取り、気体を第1の吸収液1910の流れと接触させるように配置される。流下膜式反応器、充填カラム、気泡カラムまたは噴霧塔などの多様な気液接触器の設計は当技術分野で公知であり、そのいずれも本発明での使用に好適である。
【0297】
イオン分離器1904は、分離チャンバ1912、分離チャンバ1912の一側面に沿ったアニオン交換膜1914、および分離チャンバ1912の反対側面に沿ったカチオン交換膜1916を含む。入口管および出口管は、気体接触器1902を分離チャンバに接続し、そのため、第1の吸収液1910の流れは、気体接触器から圧送され、分離チャンバを通って、次に気体接触器へと再循環され得る。
【0298】
正電極1922(アノード)は、アニオン交換膜の側面でイオン分離器1904に接続され、負電極1924(カソード)は、カチオン交換膜の側面でイオン分離器1904に接続される。
【0299】
イオン分離器は、アニオン交換膜と正電極1922の間に第2の吸収チャネル1926を備える。第2の吸収チャネルは、放出容器1906とループ状に接続され、第2の吸収液1934は、放出容器1906と第2の吸収チャネル1926の間で循環される。
【0300】
電気透析に関して、第2の吸収液は、H2O、または別の水溶液、例えばスルホン酸などの有機酸であってもよい。ある実験では、本発明者らは、第2の吸収液として0.18%のポリ-4-スチレンスルホン酸を使用することに成功した。
【0301】
使用中に、捕捉種を含有する第1の吸収液1910が気体接触器に導入されるのと同時に、捕捉される標的種を含有する気体1908の流れが、気体接触器1902へ導入される。気体1908が第1の吸収液1910と接触すると、標的種の吸収液への物質移動が起こり、そのため、第1の吸収液1910は、気体から一部の標的種を吸収する。
【0302】
標的種は第1の吸収液1910に溶解し、第1の吸収液中の水和触媒の存在によって任意選択で補助され、標的アニオンおよび水素カチオンを形成する。標的アニオンおよび水素カチオンは共に結びつき、第1の吸収液中の捕捉種によって安定化される。
【0303】
第1の吸収液1910は、気体接触器1902の出口から、イオン分離器1904の分離チャンバ1912の入口に連続的に圧送され、そこから液体の第1の吸収液1910は、分離チャンバを通って流動する。
【0304】
作動中に、正電極1922と負電極1924の間に電位差が印加される。イオン分離器にわたるこの電位差は、第1の吸収液1910が分離チャンバを通って流動すると、負に帯電した標的アニオン(例示された実施形態では重炭酸アニオンHCO3-)は、捕捉種から解離され、正電極の方に引き寄せられ、一方、正に帯電した水素カチオンは、負電極の方に引き寄せられることを意味する。したがって、標的アニオンは、アニオン交換膜1914を通って移行し、水素カチオンは、カチオン交換膜1916を通って流動し、そのため、標的アニオンは第1の吸収液から分離される。捕捉種の大きい流体力学的半径および高分子量に起因して、アニオン交換膜1914もカチオン交換膜1916のいずれも、捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種は、第1の吸収液1910中に残存する。
【0305】
第1の吸収液1910が分離チャンバ1912の出口に到達する時までに、少なくとも一部の標的酸イオン(標的アニオンおよび水素カチオン)は、第1の吸収液1910の流れから分離され、第1の吸収液は、気体接触器1902の入口へと再循環される。
【0306】
作動中に、伝導性粒子のスラリーを含有する第2の吸収液1934の流れは、第2の吸収剤チャネル1926を通って圧送され、そのため、イオン交換膜を通過する標的アニオンおよび水素カチオンは、第2の吸収液1934の流れへ移動する。標的アニオンおよび水素カチオンは、第2の吸収剤チャネル1926中で再度組み合わされ、放出容器1906へ流動すると、互いに再度結びつき、そのため、第2の吸収液1934の流れは、放出容器1906に到達したときに、標的酸を含有する。
【0307】
第2の吸収液1934の流れは、第2の吸収液チャネル1926中で圧力下に維持され、それはイオン分離器内での気泡形成を妨げ、次に放出容器1906中で減圧され、そこで標的ガス(例示された実施形態ではCO2)は、溶液から自発的に発生する。
【0308】
次に、第2の吸収液1934の流れは、連続的プロセス中に、第2の吸収液チャネル1926へ再循環されて戻る。
【0309】
このシステムを使用して、標的種は、気体1908の流れから連続的に吸収され、第1の吸収液から第2の吸収液へ移動し、最終的に放出容器1906中で放出され得る。
【0310】
上述の実施形態と同様に、この全構成を使用して実施され得る本発明の特に好ましい実施形態は、空気からの二酸化炭素(CO2)の直接的捕捉である。
【0311】
この直接的空気捕捉(DAC)実施形態では、空気が気体1908の流れとして使用され、第1の吸収液1910は、CO
2水和触媒を含有する水溶液である。
図19に例示されるように、空気1908は、298Kの温度および1バールの圧力で、400ppmのCO
2濃度で、気体接触器に流入する。気体接触器を通過し、そのCO
2含有量の一部が第1の吸収液によって吸収された後、空気は、100ppmのみのCO
2濃度を有する。
【0312】
この実施形態における捕捉種として特に好ましい選択肢は、800より大きい分子量を有するポリエチレンイミン(PEI)の水溶液である。PEIの高分子量および流体力学的半径は、これらの成分が、イオン交換膜の通過から除外され、したがって、第1の吸収液中に残存して再循環されることを意味する。
【0313】
図20
上述の実験の多くは、気体接触器として気体スパージャを使用して得られたが、本発明の使用には、「流下膜式」反応器が代替の気体接触器として組み立てられた。「流下膜式」反応器は、有利なことに、表面積、気体:液体比および滞留時間の関数としての、異なる捕捉種のCO
2捕捉速度のより正確な決定を可能とし得る。
【0314】
図20は、本発明の好ましい実施形態で使用可能な、流下膜式反応器からのCO
2出口濃度のグラフである。20℃における流下膜式反応器からのCO
2出口濃度は、PEI(M
w1800)の10wt%水溶液である第1の吸収液を用いた0.6gのCO
2hr
-1m
-2の捕捉速度と比較して、3モルのNaOHに関して、0.83gのCO
2hr
-1m
-2の捕捉速度を実証した。
【0315】
NaOHとポリマーアミン(PA)捕捉種の直接的比較を、
図20で見ることができ、それは、PEI(M
w1800)の10wt%溶液を示し、3MのNaOHによって達成された捕捉速度の78%内の捕捉速度を達成する。10wt%のPEI(M
w1800)を用いて温度感受性試験もまた実行され、下の表1で見ることができる。データは、溶液温度がCO
2捕捉速度に影響を及ぼすが、20℃から5℃への温度低下から、捕捉速度において17%のみの低下が観察されることを示す。
【0316】
【表1】
さらなる実験では、
図21に示されるように、異なる分子量を有するポリマーアミン(PA)の濃度および性質の影響を、CO
2捕捉実験で調査した。
【0317】
図21は、ある範囲の温度にわたる、2つの異なる捕捉種に関する、
図20で使用された流下膜式反応器からのCO
2出口濃度のグラフである。PA#1は、
図20で使用された捕捉種であるPEI(M
w1800)であり、一方、PA#2は、より低い分子量を有する関連変異体ポリマーアミンであるPEI(M
w800)である。
【0318】
結果は、PA#1(PEI、Mw1800)の濃度を10wt%から15wt%まで増加することによって、広い温度範囲にわたり性能が改善され得て、一方、20wt%までの増加は、特に高温において、最適ではなかったことを示す。PA#2とラベル付けされた別のポリマーアミン(PEI、Mw800)は、異なる分子量を有する代替の変異体として試験された。PA#2(PEI Mw800)は、温度範囲にわたり高度に有効で、全ての他の溶媒組合せより性能が優れていた。10wt%におけるPA#2(PEI Mw800)のCO2捕捉速度性能は、10wt%、15wt%または20wt%の濃度におけるPA#1(PEI Mw1800)より著しく高かった。
【0319】
図22は、本発明の好ましい実施形態におけるCO
2の直接的空気捕捉に使用可能な、電気透析セル装置の略図であり、Xは、アニオン交換膜またはカチオン交換膜のいずれも透過することができない捕捉種である。電気透析セルの作動は、
図2Bに関連して上述されたものに基づく。
【0320】
図22の好ましい実施形態では、ポリマーアミン(PA)を含有する第1の吸収液によって捕捉されたCO
2は、電気透析を通して再生される。電気透析の用語では、慣習的に「希釈液」と呼ばれる第1の吸収液は、PA捕捉種「X」ならびに安定性化されたH
+およびHCO
3
-イオンを含有し、希釈チャンバ2100を介して電気透析セルを通って流される。各チャンバは、相補性電荷のイオンが移行するのを選択的に可能にするカチオン交換膜2110およびアニオン交換膜2120によって分離される。PA捕捉種分子の大きいサイズにより、それらがいずれのイオン交換膜を通って移行するのも妨げられるため、PA捕捉種は、希釈チャンバ2100中に残留する。電気透析セルにわたり電圧が印加され、アニオンをアノードの方へ移行させ、カチオンをカソードの方へ移行させる。このプロセスは、第1の吸収「捕捉」液からのイオンを、濃縮チャンバ2200中で、慣習的に「濃縮液」と言われる第2の吸収「放出」液中で濃縮させる。単独では、これらのイオンは、溶液中で不安定であり、CO
2に分解し、その溶解度もまたH
2O中で低く、気相へ移る。
【0321】
捕捉種の大きいサイズにより、イオン交換膜を通過して、第2の吸収「放出」液に入ることが排除されるため、このプロセスは、サイズ排除電気透析(SEED)と称され得る。
【0322】
このサイズ排除電気透析(SEED)プロセスは、
図23に示されるDioxide Materialsから購入した3チャンバ電気化学セル2300を用いて小規模で実行された。このセルは、蛇行する2つのチタン集電器、1mm幅のチャネルおよび第1の吸収液がイオン交換膜間を流動する内部チャンバとして作用する2mmの分離器を特徴とする。この構成には、1対のカチオン交換膜およびアニオン交換膜がある。HCO
3
-標的アニオンはアノードへ輸送され、水の酸化によって起きるアノードチャンバの酸性環境によってCO
2に分解され、一方、PA-H
+からのH
+はカソードに輸送され、電極において還元されて水素を形成する。
【0323】
実験は、空気で事前飽和され、溶液中のHCO
3
-およびH
+の濃度を最大化するために実験全体を通して連続的にバブリングされた、3.6wt%のポリマーアミン捕捉種(ポリエチレンイミン、分子量1800)水溶液を用いて実行された。第2の吸収液は、純粋H
2Oであった。5.2V~2.6Vの範囲の電圧が印加された。より高い電圧では、膜および電極の安定性が著しく損なわれ、同様に第1の吸収捕捉液中で、CO
2の著しい濃度不足が起きた。2.6V未満の電圧では、CO
2アウトプットは、測定するのが非常に困難となった。CO
2測定は、高速近赤外域センサを使用して連続的に行われ、その結果は
図24で見ることができる。
【0324】
パワー投入を算出し、1時間あたりに捕捉されたCO
2の量によって除算して、
図25に示されるように、kWh/tCO
2におけるセルのエネルギー消費原単位を得た。単一膜対セルにおける総エネルギー消費量の大部分が、電極における水素および酸素の生成に関連することに留意されたい。この寄生損失は、>10対の膜チャネルを含むシステムにおいて大きく減らされ、損失は40対によって無視される。実験後、濃縮溶液の試料を乾燥させ、膜を通って移行するPA捕捉種から得られた可能性がある残留物を検出した;この徴候は観察されなかった。全般に、これらの結果は、重炭酸標的アニオンが、第2の吸収放出液へのPAの顕著な移動を伴うことなく、ポリマーアミンを含有する第1の吸収液から分離され得ることを証明する。また、そのようなシステムでは、最適化を伴うことなく、400kWh/tCO
2の低さのエネルギー消費量(水素/酸素生成を省く)が可能であることも実証した。対応する電圧、電流密度、および表面積正規化された捕捉速度は、表2に示される。
【0325】
【表2】
図26は、流下膜式反応器および37cm
2の界面膜面積の単一セル対を含む
図23の電気透析セルを使用して得られたCO
2安定性データを示すグラフである。電圧4V;電流7mA;流速15mL/分。第1の吸収液は、10wt%のPEI濃度を有するPEIの水溶液であった。本実験で使用されたイオン交換膜は、Fumatech FKS-PET-130(カチオン交換)およびFumatech FAS-PET-130(アニオン交換)であった。
【0326】
図26に示されるように、放出容器中のCO
2濃度は、試験期間および事前処理後に安定化し、センサ試験が実行されるまで、およそ1750ppmでおよそ10時間、安定したままであった。
【0327】
40膜対電気透析
上述のように、典型的な電気透析モジュールは、水分解反応に関連するエネルギーの比率を低減することによって分離のエネルギー効率を高めるために、より多数の膜対を含むため、40膜対を含む研究室規模の電気透析セルをFumatechから購入した。FumatechからのED-40セルは、電気透析用途に使用される標準的Fumasep FASおよびFKSイオン交換膜を含み、450μmのスペーサーによって分離される。
【0328】
電気透析セルは、21.5Vの印加電圧を必要とする電極面積の約0.5mA・cm-2の電流密度で、一定電流の条件下で作動された。ファラデープロセスを推進するのに必要な電圧が1.5Vであると仮定することは、約0.5Vのセル対電圧を示す。これらの条件で、電気透析セルは、毎時0.7gまでのCO2を製造し、69%の関連する電流効率で、510kWh/tCO2のエネルギー消費原単位をもたらす。
【0329】
図27は、kWh/tCO
2でのCO2の分離および放出のためのエネルギー消費量(赤)に対する、mg/時でのCO
2アウトプット速度(黒)のグラフである。膜表面積、0.145m
2。電極面積、0.0036m
2。電圧=21.5V、電流=0.0017A、電流効率=69%。スペーサー厚さ、450マイクロメートル。
【0330】
図28は、第1の吸収液中のPEI捕捉種の異なる濃度を用いた、
図26と同一の40膜対の電気透析セルを使用する電気透析の、電気エネルギー需要のモデル化されたグラフである。
【0331】
電気透析の電気エネルギー需要、40セル対、PA負荷変動(3.6wt%のPA;7.2wt%のPA;14.4wt%のPA)。スペーサー厚さ100マイクロメートル。希釈液流速2L/時/セル、1気圧で、400ppmのCO2で飽和。
【0332】
電気化学的計算モデルを使用して、
図28に示されるように、セルの生産性および必要とされるエネルギー需要に対する捕捉負荷の影響が予測され得る。モデル化は、増加した伝導率および溶解したHCO
3
-およびH
+の濃度に起因した、より高い溶媒負荷における所与のエネルギー需要に対するCO
2捕捉速度における著しい改善を予測する。さらに、モデルは、非線形関係を明らかにするより薄い膜スペーサーの影響を考察し、現在の実験データに対して、10~100倍の改善が達成され得ることを示唆する。
【0333】
好ましい態様
本発明の好ましい態様は、以下の番号の条項で定義される。
条項1.標的種を含有する気体を、捕捉種を含む第1の吸収液と接触させる工程と;
標的種を第1の吸収液に溶解し、標的アニオンを形成する工程と;
第1の吸収液を、1つまたは複数のイオン交換膜と接触させることによって、標的アニオンを第1の吸収液から電気化学的に分離し、標的アニオンを、イオン交換膜を通して第2の吸収液へ移動させる工程と;
少なくとも一部の標的種を第2の吸収液から放出する工程とを含み;
1つまたは複数のイオン交換膜が、捕捉種に対して透過性ではないため、捕捉種は、1つまたは複数のイオン交換膜を通過することはない、
気体から標的種を捕捉する方法。
条項2.捕捉種が、第1の吸収液中で標的アニオンと結合し、標的アニオンは、イオン交換膜を通って移動する前に、捕捉種から電気化学的に解離される、条項1に記載の方法。
条項3.捕捉種が、非アルカリ金属捕捉種である、条項1または2に記載の方法。
条項4.捕捉種が、イオン性捕捉種、好ましくはカチオン性捕捉種である、条項1、2または3に記載の方法。
条項5.捕捉種が、イオン性ポリマーである、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項6.捕捉種が、アルカリ金属カチオンを含まないカチオン性捕捉種である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項7.捕捉種が、カチオン性有機捕捉種である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項8.捕捉種が、コリン由来のイオン性液体、好ましくは、カルボン酸またはプロパン酸などの有機酸の共役塩基を含有するカチオン性のコリン由来のイオン性液体である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項9.捕捉種が、カチオン性ポリマー、好ましくは、複数のアミン基を含む繰り返し単位を有するカチオン性ポリマーである、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項10.捕捉種が、カチオン性官能基で官能化された複数のポリマー樹脂粒子を含む、条項9に記載の方法。
条項11.捕捉種が、カチオン性官能基で官能化されたアニオン交換樹脂粒子のスラリーを含む、条項9に記載の方法。
条項12.捕捉種が、弱塩基性であり、好ましくは、捕捉種が、10未満、好ましくは8.5未満、特に好ましくは7.5未満のpKaを有する、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項13.捕捉種が、ポリマーアミン、好ましくはカチオン性ポリマーアミンである、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項14.捕捉種が、ポリエチレンイミン(PEI)を含む、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項15.捕捉種が、200、または400、または500、または600、または700、または800g/mol以上の分子量を有する、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項16.1つまたは複数のイオン交換膜が、それを通る標的アニオンの通過を可能にし、かつ、カチオン性電荷、および/または200、もしくは250、もしくは300、もしくは400、もしくは500、もしくは600g/molより大きい分子量を有する捕捉種の通過を妨げるように構成される、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項17.第1の吸収液が、無機塩を含有しないか、または2wt%未満の無機塩を含有する、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項18.第1の吸収液が、溶解した標的種の標的アニオンへの転換を促進するための水和触媒を含有する、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項19.触媒が、酵素、例えば炭酸脱水酵素、亜鉛の有機金属化合物(亜鉛シクレン)、および/または金属もしくは金属酸化物の粒子もしくはナノ粒子を含む、条項18に記載の方法。
条項20.第1の吸収液が、15℃~60℃、好ましくは18℃~40℃、特に好ましくは30℃~40℃の温度で、および/または2バール未満の圧力、好ましくは大気圧で維持される、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項21.少なくとも1つのイオン交換膜が、標的アニオンに対して透過性のアニオン交換膜であり、好ましくは、アニオン交換膜は1価アニオン交換膜である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項22.標的種が、第1の吸収液に溶解して、標的アニオンおよび標的対イオンを形成し、好ましくは、標的対イオンはH+である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項23.1つまたは複数のイオン交換膜が、標的アニオンに対して透過性のアニオン交換膜、および標的対イオンに対して透過性のカチオン交換膜を含む、条項22に記載の方法。
条項24.標的対イオンが、第1の吸収液から電気化学的に分離され、カチオン交換膜を通って第2の吸収液へ移動する、条項23に記載の方法。
条項25.標的アニオンが、第2の吸収液中で標的対イオンと結びつき、好ましくは標的酸を形成する、条項22から24のいずれか一項に記載の方法。
条項26.標的アニオンが、第2の吸収液中で、水素カチオンと組み合わされ、標的酸を形成し、水素カチオンは、H2Oを電気分解することによって製造される、条項22から24のいずれか一項に記載の方法。
条項27.標的酸が、標的種の共役酸である、条項25または26に記載の方法。
条項28.第2の吸収液が、第1の吸収液とは異なる組成を有する、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項29.第2の吸収液が、第1の吸収液のpHとは異なるpHを有し、好ましくは、第2の吸収液のpHは7未満である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項30.第1の吸収液が水溶液であり、第2の吸収液が非水溶液である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項31.第2の吸収液が、捕捉種を含有しない、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項32.第2の吸収液が非水性であり、好ましくは、第2の吸収液が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートまたはジメチルカーボネートなどの有機カーボネート溶媒を含むかまたはこれらからなる、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項33.第2の吸収液が、標的アニオンのin-situの還元のために、Pt、Pd、Fe、Mo、Mn、Cu、Zn、V、Wのリストから選択される金属の金属触媒または金属カルコゲニド(酸化物、窒化物、硫化物、リン化物)を含む1つまたは複数の触媒を含む、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項34.第2の吸収液が、5wt%未満の無機塩、好ましくは2wt%未満の無機塩を含有する、条項29に記載の方法。
条項35.1つまたは複数のイオン交換膜と接触する1つまたは複数のフロー電極を含み、好ましくは、第1のフロー電極が、イオン交換膜のアウトプット側と接触する第2の吸収液の流れを含み、イオン交換膜を通って標的アニオンが移動する(preferably in which a first flow electrode comprises a stream of second absorbent solution in contact with an output side of the ion-exchange membrane through which the target anion is transferred)、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項36.各フロー電極が、活性炭;白金、銀、鉄、ニッケルマンガンおよび/もしくはチタンの酸化物、水酸化物および/もしくはオキシ水酸化物;またはリボフラビン5’-一リン酸ナトリウム塩水和物、アントラキノン、ポリオキソメタレートなどの酸化還元種などの、炭素もしくは金属ベースの粒子もしくはナノ粒子の群から選択される、電気的またはイオン的に伝導性の粒子の懸濁液を含む吸収液の流れを含む、条項35に記載の方法。
条項37.標的アニオンを第1の吸収液から電気化学的に分離する工程が、容量性脱イオン(CDI)(capacitive deionisation)、好ましくはフロー-CDI、または電気透析を含む、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項38.好ましくは室温および大気圧で、第2の吸収液中の標的酸の化学平衡を維持するために、標的種が第2の吸収液から気体として放出される、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項39.少なくとも一部の標的種を第2の吸収液中の標的酸から放出する工程が、光熱的、磁気誘導、抵抗性もしくは誘電性などの手段を介して第2の吸収液を加熱する工程、および/または第2の吸収液上の圧力を低減する工程を含む、条項38に記載の方法。
条項40.第2の吸収液中の少なくとも一部の標的アニオンが、ミネラルまたは塩と反応して、第2の吸収液から放出される沈殿物質を形成する、条項1から39のいずれか一項に記載の方法。
条項41.気体中の標的種の濃度が、50vol%、または45vol%、または25vol%、または15vol%、または10vol%、または5vol%、または1vol%未満、好ましくは0.5vol%未満である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項42.標的種を含有する気体が、空気、化石燃料燃焼からの排煙、工業用ガス、またはこれらの任意の組合せである、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項43.標的種が、CO2、H2S、SO2、NO、NO2、およびN2Oからなる群から選択される、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項44.標的種がCO2であり、標的アニオンが重炭酸イオンであり、標的酸が炭酸である、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
条項45.第1の吸収液が、CO2を重炭酸塩に転換するための触媒を含有し、好ましくは、触媒が、炭酸脱水酵素または亜鉛シクレンなどのZn2+を含有する化合物である、条項40に記載の方法。
条項46.標的種を含有する気体を、捕捉種を含有する第1の吸収液と接触させ、標的種を第1の吸収液に溶解して標的アニオンを形成するように構成された、気体接触器;
標的アニオンを第1の吸収液から電気化学的に分離し、少なくとも一部の標的アニオンを第2の吸収液へ移動させるための、1つまたは複数のイオン交換膜を備えるイオン分離器;および
少なくとも一部の標的種を第2の吸収液から放出するための放出容器
を備え、
1つまたは複数のイオン交換膜は、使用中に、捕捉種に対して透過性ではない、
気体から標的種を捕捉するための装置。
条項47.1つまたは複数のイオン交換膜が、標的アニオンを第1の吸収液から第2の吸収液へ移動させ、かつ捕捉種を第1の捕捉溶液中に保持するように構成されている、条項46に記載の装置。
条項48.イオン分離器が、2気圧より高く、好ましくは、3気圧もしくは5気圧もしくは7気圧より高く、またはさらに30気圧以上の静水圧下で作動するように構成されている、条項46または47に記載の装置。
条項49.イオン分離器が、標的アニオンのみを第2の吸収液へ移動させるように構成されている、条項46、47または48に記載の装置。
条項50.イオン分離器が、標的アニオンと複数の水素カチオンの両方を第1の吸収液から第2の吸収液へ移動させるように構成されている、条項46、47または48に記載の装置。
条項51.1つまたは複数のイオン交換膜が、それらを通る標的アニオンの通過を可能にするように構成されたアニオン交換膜を備えるか、またはそれからなる、条項46から50のいずれか一項に記載の装置。
条項52.イオン分離器が、2つ以上のイオン交換膜、好ましくはアニオン交換膜およびカチオン交換膜を備える、条項46から50のいずれか一項に記載の装置。
条項53.イオン分離器が、アニオン交換膜を有する分離チャンバを備え、イオン分離器は、第1の吸収液の流れを受け取り、アニオン交換膜を通して標的アニオンを電気化学的に第2の吸収液へと分離するように構成されている、条項46から52のいずれか一項に記載の装置。
条項54.イオン分離器が、1対の対向するイオン交換膜を有する分離チャンバを備え、そのうちの1つは標的アニオンに対して透過性であり、他方は水素カチオンに対して透過性である、条項46から53のいずれか一項に記載の装置。
条項55.イオン分離器が、1つまたは複数のイオン交換膜のアウトプット側と接触する、1つ以上または2つ以上のフロー電極を備える、条項46から54のいずれか一項に記載の装置。
条項56.フロー電極(複数可)が、第2の吸収液の流れを含むため、1つまたは複数のイオン交換膜を通過する標的アニオンは、第2の吸収液の流れに移動する、条項55に記載の装置。
条項57.水を電気分解し、得られた水素カチオンを第2の吸収液へ導入するように構成されている、条項46から56のいずれか一項に記載の装置。
条項58.第1の吸収液を気体接触器からイオン分離器へ移動させる手段、および第1の吸収液をイオン分離器から気体接触器へ再循環させる手段を備える、条項46から57のいずれか一項に記載の装置。
条項59.第2の吸収液をイオン分離器から放出容器へ移動させる手段、および第2の吸収液を放出容器からイオン分離器へ再循環させる手段を備える、条項46から58のいずれか一項に記載の装置。
条項60.イオン分離器が、容量性脱イオン(CDI)イオン分離器もしくはCDIセルであるか、またはイオン分離器が、電気透析イオン分離器もしくは電気透析セルである、条項46から59のいずれか一項に記載の装置。
条項61.連続的に作動するように構成されている、条項46から60のいずれか一項に記載の装置。
条項62.イオン分離器が、フロー電極容量性脱イオン(FCDI)イオン分離器、または連続流動式電気透析イオン分離器である、条項46から61のいずれか一項に記載の装置。
【国際調査報告】