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特表2024-510036電気モータシステム用の潤滑及び冷却流体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】電気モータシステム用の潤滑及び冷却流体
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240227BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20240227BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20240227BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20240227BHJP
   C10M 135/06 20060101ALN20240227BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20240227BHJP
   C10M 133/08 20060101ALN20240227BHJP
   C10N 30/14 20060101ALN20240227BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20240227BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240227BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240227BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/02
C10M107/02
C10M135/36
C10M135/06
C10M133/06
C10M133/08
C10N30:14
C10N30:10
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N40:04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557666
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 IB2021062427
(87)【国際公開番号】W WO2022195350
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】17/206,888
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523355920
【氏名又は名称】アフトン ケミカル ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイヤー、ラムナス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンデル、クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー-ベルゲ、ヨルグ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BE02C
4H104BE04C
4H104BG04C
4H104BG19C
4H104DA02A
4H104LA03
4H104LA05
4H104LA07
4H104LA20
4H104PA03
(57)【要約】
潤滑基油、少なくとも1つの硫化成分、少なくとも2つの分散剤を含む分散剤系、及び少なくとも2つの摩擦調整剤を含む摩擦調整剤系を含む、電気モータシステム用の潤滑及び冷却流体。潤滑及び冷却流体は、電気モータシステムにおいて使用するための良好な摩耗及び摩擦性能、並びに良好な銅腐食及び導電率を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータシステム内の歯車及びクラッチを潤滑し、同時にそのモータを冷却するための方法であって、
潤滑及び冷却流体を収容する電気モータシステムを、前記電気モータシステムのサンプ内の前記潤滑及び冷却流体の温度が、70℃~125℃であり、前記電気モータシステムのステータ内の銅巻線の温度が、150℃~180℃であるように動作させることと、
前記電気モータシステム内の歯車及びクラッチを前記潤滑及び冷却流体で潤滑し、同時に、前記銅巻線を前記潤滑及び冷却流体と接触させることによって前記電気モータシステム内の前記モータを冷却することと、を含み、
前記潤滑及び冷却流体が、
APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物を含む潤滑粘度の油と、
約1000~約1500ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体と、約300ppm以下の硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する任意選択の硫化エステルと、
(i)約1500~約2500の数平均分子量を有し、最大約700ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するポリイソブチレンから得られる第1の分散剤と、(ii)約1000以下の数平均分子量を有し、最大約150ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する第2の分散剤と、を含む、分散剤系と、
最大約20ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するアルコキシル化脂肪族アミンと、
最大約20ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するエーテルアミンと、を含み、
前記第1の分散剤及び前記第2の分散剤のうちの少なくとも1つは、前記分散剤系中の前記窒素に対する前記分散剤系中のホウ素及びリンの総量が、約0.5~約0.7であるようにホウ素化及びリン酸化され、前記第1及び第2の分散剤が、前記分散剤系中で使用される、組み合わされたポリイソブチレン部分の数平均分子量1000当たり最大約100ppmの総ホウ素及びリンを送達する、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み、
【化1】
式中、
各Rが、独立して、水素又は硫黄であり、
各Rが、独立して、アルキル基であり、
nが、0又は1の整数であり、Rが、水素である場合、隣接のR部分の前記整数nが、0であり、Rが、硫黄である場合、前記隣接のR部分の前記nが、1であり、
少なくとも1つのRが、硫黄である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、又はこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記潤滑及び冷却流体が、最大約3ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する脂肪族ジアミンを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アルコキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、及び脂肪族ジアミンが、約30ppm以下の窒素の量で窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アルコキシル化脂肪族アミンが、各々2~4個の炭素原子を含有するヒドロキシアルキル基を含み、かつ16~25個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基を更に含む、ジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エーテルアミンが、イソデシルオキシプロピルアミンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記脂肪族ジアミンが、n-オレイル-1,3-ジアミノプロパンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコキシル化脂肪族アミン及びエーテルアミンが、各々、最大約15ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達し、前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、又はこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物であり、チアジアゾール混合物及び任意選択の硫化エステルが、約1400~約1800ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の分散剤が、最大約500ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の分散剤が、最大約115ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する量で存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の分散剤が、約2000~約2400の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、前記第2の分散剤が、約950の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の分散剤が、約100ppm以下のホウ素及び約250ppm以下のリンの量で、ホウ素及びリンを前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記潤滑粘度の油が、グループIII基油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記潤滑粘度の油が、ガス液化(GTL)基油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記潤滑粘度の油が、ポリアルファオレフィン(PAO)基油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記潤滑流体が、前記潤滑及び冷却流体を20Hz及び100℃で使用して、修正されたASTM D2624-15によって測定される際、約60nS/M以下の初期導電率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記潤滑流体が、約180~約300ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する硫化エステルを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体及び前記硫化エステルが、約1400~約1800ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記硫化エステルが、硫化エステル交換トリグリセリドを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
電気モータシステム用の潤滑及び冷却流体であって、
APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物を含む、潤滑粘度の主基油と、
約1000~約1500ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体と、最大約300ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する任意選択の硫化エステルと、
(i)約1500~約2500の数平均分子量を有し、約700ppm以下の窒素の量で窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するポリイソブチレンから得られる第1の分散剤と、(ii)約1000以下の数平均分子量を有し、約150ppm以下の窒素の量で窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するポリイソブチレンから得られる第2の分散剤と、を含む、分散剤系と、
最大約20ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するアルコキシル化脂肪族アミンと、
最大約20ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するエーテルアミンと、を含み、
前記第1の分散剤及び前記第2の分散剤のうちの少なくとも1つは、前記分散剤系中の前記窒素に対する前記分散剤系中のホウ素及びリンの総量が、約0.5~約0.7であるようにホウ素化及びリン酸化され、前記第1及び第2の分散剤が、前記分散剤系中で使用される、組み合わされたポリイソブチレン部分の数平均分子量1000当たり最大約100ppmの総ホウ素及びリンを送達し、
前記潤滑及び冷却流体が、20Hz及び100℃においてASTM D2624-15によって測定される際、60nS/M以下の導電率を有する、潤滑及び冷却流体。
【請求項22】
前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み、
【化2】
式中、
各Rが、独立して、水素又は硫黄であり、
各Rが、独立して、アルキル基であり、
nが、0又は1の整数であり、Rが、水素である場合、前記隣接のR部分の前記整数nが、0であり、Rが、硫黄である場合、前記隣接のR部分の前記nが、1であり、
少なくとも1つのRが、硫黄である、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項23】
前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、又はこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物を含む、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項24】
前記流体が、最大約3ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する脂肪族ジアミンを更に含む、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項25】
前記脂肪族アミン、エーテルアミン、及び脂肪族ジアミンが、最大約30ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項24に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項26】
アルコキシル化脂肪族アミンが、各々2~4個の炭素原子を含有するヒドロキシアルキル基を含み、かつ16~25個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基を更に含む、ジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンである、請求項25に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項27】
前記エーテルアミンが、イソデシルオキシプロピルアミンである、請求項26に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項28】
前記脂肪族ジアミンが、n-オレイル-1,3-ジアミノプロパンである、請求項27に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項29】
前記アルコキシル化脂肪族アミン及びエーテルアミンが、各々、最大約15ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達し、前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、又はこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物であり、チアジアゾール混合物及び任意選択の硫化エステルが、約1400~約1800ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項25に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項30】
前記第1の分散剤が、最大約500ppmの窒素を前記潤滑冷却流体に送達する量で存在する、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項31】
前記第2の分散剤が、最大約115ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する量で存在する、請求項30に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項32】
前記第1の分散剤が、約2000~約2400の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、前記第2の分散剤が、約950の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られる、請求項31に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項33】
前記第1の分散剤が、約100ppm以下のホウ素及び約250ppm以下のリンの量で、ホウ素及びリンを前記潤滑流体に送達する、請求項32に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項34】
前記第1の分散剤が、約2000~約2400の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、前記第2の分散剤が、約950の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られる、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項35】
前記基油が、グループIII基油を含む、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項36】
前記基油が、ガス液化(GTL)基油を含む、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項37】
前記基油が、ポリアルファオレフィン(PAO)基油を含む、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項38】
前記潤滑流体が、約180~約300ppmの硫黄を前記潤滑流体に送達する硫化エステルを有する、請求項21に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項39】
前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体及び前記硫化エステルが、約1400~約1800ppmの硫黄を前記潤滑流体に送達する、請求項38に記載の潤滑及び冷却流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本開示は、2021年3月19日に出願された米国特許出願第17/206,888号に対する優先権の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、電気モータシステム用の潤滑及び冷却流体、並びに電気モータシステム内の歯車及びクラッチを潤滑し、モータを冷却する方法に関する。特に、開示された方法及び流体は、潤滑粘度の油、硫化成分、少なくとも2つの分散剤を含む分散剤系、及び少なくとも3つの摩擦調整剤を有する摩擦調整剤系を含む、電動車両において使用するための潤滑及び冷却流体に関する。
【背景技術】
【0003】
電気モータを唯一の駆動源として含む電気車両パワートレインでは、歯車及びクラッチを潤滑し、電気モータを冷却するための両方に、単一の潤滑剤が必要とされる場合がある。これらのタイプの潤滑剤を開発する際の主要な課題は、摩耗性能、摩擦性能、及び酸化安定性を達成する一方で、パワートレイン中の帯電した構成要素との潤滑剤相溶性を確実にすることである。例えば、潤滑剤は、電気車両パワートレイン内の歯車及びクラッチに、それぞれ良好な摩耗保護及び摩擦性能を提供しなければならない。しかしながら、潤滑剤はまた、(例えば、高温で動作するステータ内の銅巻線に接触することによって)電気モータを冷却するためにも使用されるので、潤滑剤はまた、銅腐食保護を提供しなければならず、帯電した構成要素内の静電蓄積及び放電を抑制するために相対的に低い導電率を有しなければならない。
【0004】
電気車両パワートレイン用の潤滑剤技術の進歩にもかかわらず、所望の摩耗性能、酸化安定性、銅腐食の抑制、及び/又は相対的に低い潤滑剤導電率を有する電気自動車のパワートレイン潤滑剤組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態では、電気モータシステム内の歯車及びクラッチを潤滑し、同時にそのモータを冷却するための方法が、本開示によって提供される。本方法は、潤滑及び冷却流体を収容する電気モータシステムを、電気モータシステムのサンプ内の潤滑及び冷却流体の温度が、約70℃~約125℃であり、電気モータシステムのステータ内の銅巻線の温度が、150℃~約180℃であるように動作させることと、電気モータシステム内の歯車及びクラッチを潤滑及び冷却流体で潤滑し、同時に、銅巻線を潤滑及び冷却流体と接触させることによって電気モータシステム内のモータを冷却することと、を含み、潤滑及び冷却流体は、APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物を含む潤滑粘度の油と、約1000~約1500ppmの硫黄を潤滑流体に送達する、少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体と、(i)約1500~約2500の数平均分子量を有し、最大約700ppmの窒素を潤滑及び冷却流体に送達するポリイソブチレンから得られる第1の分散剤と、(ii)約1000以下の数平均分子量を有し、最大約150ppmの窒素を潤滑流体に送達する第2の分散剤と、を含む分散剤系と、最大約20ppmの窒素を潤滑及び冷却流体に送達するアルコキシル化脂肪族アミンと、最大約20ppmの窒素を潤滑及び冷却流体に送達するエーテルアミンと、を含む。
【0006】
いくつかのアプローチ又は実施形態では、第1の分散剤及び第2の分散剤のうちの少なくとも1つは、分散剤系中の窒素に対する分散剤系中のホウ素及びリンの総量が、約0.5~約0.7であるように、ホウ素化及びリン酸化され、第1及び第2の分散剤は、第1及び第2の分散剤を得るために使用される、組み合わされたポリイソブチレンの1000の数平均分子量当たり最大約100ppmの総ホウ素及びリンを送達する。
【0007】
他のアプローチ又は実施形態では、上記に記載される方法のいずれかで使用される潤滑及び冷却流体は、任意選択の特徴を任意の組み合わせで含み得る。これらの実施形態は、以下を含み得る:少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体は、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み得、
【0008】
【化1】
各Rは、独立して、水素又は硫黄であり、各Rは、独立して、アルキル基であり、nは、0又は1の整数であり、Rが水素である場合、隣接するR部分の整数nは、0であり、Rが硫黄である場合、隣接するR部分のnは、1であり、少なくとも1つのRは、硫黄であり、並びに/又は少なくとも1つのチアジアゾール若しくはそのヒドロカルビル置換誘導体は、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、又はこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5-ジメルカプト-1,3 4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体の混合物であり、並びに/又は潤滑及び冷却流体は、最大約3ppmの窒素を潤滑及び冷却流体に送達する脂肪族アミンを更に含み、並びに/又はアルコキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、及び脂肪族ジアミンは、最大30ppmの窒素を潤滑及び冷却流体に送達し、並びに/又はアルコキシル化脂肪族アミンは、各々2~4個の炭素原子を含有するヒドロキシアルキル基を含み、かつ16~25個の炭素原子を含有する非環状ヒドロカルビル基を更に含むジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンであり、並びに/又はエーテルアミンは、イソデシルオキシプロピルアミンを含み、並びに/又は脂肪族ジアミンは、n-オレイル-1,3-ジアミノプロパンを含み、並びに/又はアルコキシル化脂肪族アミン及びエーテルアミンは、各々最大15ppmの窒素を潤滑及び冷却流体に送達し、少なくとも1つのチアジアゾール若しくはそのヒドロカルビル置換誘導体は、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、若しくはこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物であり、チアジアゾール混合物及び任意選択の硫化エステルは、約1400~約1800ppmの硫黄を潤滑及び冷却流体に送達する。
【0009】
更なるアプローチ又は実施形態では、上記に記載される方法のいずれかにおいて使用される潤滑及び冷却流体はまた、最大約500ppmの窒素を潤滑及び冷却流体に送達する量で存在する第1の分散剤を含み得、並びに/又は第2の分散剤は、約115ppmの窒素を潤滑及び冷却流体に送達する量で存在し、並びに/又は第1の分散剤は、約2000~約2400の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、第2の分散剤は、約950の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、並びに/又は第1の分散剤は、最大約100ppmのホウ素及び最大約250ppmのリンを潤滑及び冷却流体に送達する量で存在し、並びに/又は潤滑流体は、約180~約300ppmの硫黄を潤滑及び冷却流体に送達する硫化エステルを有し、並びに/又は少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体及び硫化エステルは、約1400~約1800ppmの硫黄を潤滑流体に送達し、並びに/又は硫化エステルは、硫化エステル交換トリグリセリドを含む。
【0010】
実施形態では、本明細書における任意の方法において使用される潤滑及び冷却流体は、グループIII基油、及び/若しくはガス液化(gas-to-liquid、GTL)基油、並びに/又はポリアルファオレフィン(polyalphaolefin、PAO)基油を含み得る。
【0011】
更に他の実施形態では、本明細書の方法のいずれかにおいて使用される潤滑及び冷却流体は、潤滑及び冷却流体を使用して修正ASTM D2624-15によって測定され、20Hz及び100℃で測定される際、約60nS/M以下の初期導電率を有し得る。
【0012】
本開示の他の実施形態は、本明細書に開示された発明の明細書及び発明の実施を考慮すれば、当業者には明らかであろう。
【0013】
以下の用語の定義は、本明細書で使用される特定の用語の意味を明確にするために提供する。
【0014】
「潤滑油」、「潤滑組成物(lubricant composition)」、「潤滑組成物(lubricating composition)」、「潤滑剤」、及び「潤滑及び冷却流体」という用語は、主要量の基油と、少量の添加剤組成物とを含む、完成した潤滑生成物を指す。
【0015】
本明細書で使用される場合、「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、「添加剤組成物」、及び「伝達流体添加剤パッケージ」という用語は、主要量の基油を除いた潤滑油組成物の一部分を指す。
【0016】
本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビル置換基」又は「ヒドロカルビル基」という用語は、当業者に周知である、その通常の意味で使用される。具体的には、それは、分子の残りの部分に直接結合した炭素原子を有し、かつ主に炭化水素の特徴を有する基を指す。各ヒドロカルビル基は、独立して、炭化水素置換基、並びにハロ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、ピリジル基、フリル基、イミダゾリル基、酸素、及び窒素のうちの1つ以上を含有する置換炭化水素置換基から選択され、2個以下の非炭化水素置換基は、ヒドロカルビル基中の炭素原子10個ごとに存在する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「重量パーセント」又は「重量%」という用語は、別段の断りがない限り、列挙した成分が組成物全体の重量に対して表す百分率を意味する。
【0018】
本明細書で使用される「可溶性」、「油溶性」、又は「分散性」という用語は、化合物又は添加剤が、全ての割合で油中に可溶性、溶解性、混和性、又は懸濁可能であることを示し得るが、必ずしもそうではない。しかしながら、前述の用語は、それらが、例えば、油が用いられる環境においてそれらの意図された効果を発揮するのに十分な程度まで油中に可溶性、懸濁性、溶解性、又は安定して分散性であることを意味している。更に、所望ならば、他の添加剤を更に組み込むと、より高いレベルの特定の添加剤を組み込むことも可能になり得る。
【0019】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、約1~約200個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、及び/又は置換飽和鎖部分を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「アルケニル」という用語は、約3~約30個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、及び/又は置換飽和鎖部分を指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「アリール」という用語は、アルキル、アルケニル、アルキルアリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロ置換基、及び/又はヘテロ原子、例えば、限定するものではないが窒素及び酸素を含み得る単環及び多環芳香族化合物を指す。
【0022】
本明細書で使用される場合、「数平均分子量」又は「Mn」は、市販のポリスチレン標準(較正基準として約180~約18,000のMnを有する)を使用するゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)によって判定される。
【0023】
本開示全体を通して、用語「含む(comprises)」、「含む(includes)」、「含有する(contains)」などは、オープンエンドであると考えられ、明示的に列挙されていない任意の要素、ステップ、又は配合成分を含むことを理解すべきである。「から本質的になる」という句は、任意の明示的に列挙された要素、ステップ、又は配合成分、及び本発明の基本的及び新規の態様に実質的に影響を及ぼさない任意の追加の要素、ステップ、又は配合成分を含むことを意味している。本開示はまた、用語「含む(comprises)」、「含む(includes)」、「含有する(contains)」を使用して記載される任意の組成物は、具体的に列挙されたその成分「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」同じ組成物の開示を含むものとして解釈されるべきであることも企図している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】硫黄、リン、及び分散剤PIB鎖長に対する導電率のチャートである。
図2】クラッチ試験リグ上で測定された動摩擦係数のグラフである。
図3】クラッチ試験リグ上で測定された動摩擦係数のグラフである。
図4】クラッチ試験リグ上で測定された動摩擦係数のグラフである。
図5】クラッチ試験リグ上で測定された静摩擦係数のグラフである。
図6】クラッチ試験リグ上で測定された静摩擦係数のグラフである。
図7】クラッチ試験リグ上で測定されたトルク-Vシフト挙動のグラフである。
図8】SSP180試験リグ上で測定された同期摩擦値のグラフである。
図9】SSP180試験リグ上で測定された同期摩擦値のグラフである。
図10】導電率計で測定された抵抗対温度のグラフである。
図11】導電率計で測定された損失係数(タンデルタ)対温度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
例示的な実施形態によれば、電気モータシステム用の潤滑及び冷却流体は、APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物の潤滑基油、少なくとも1つの硫化成分、少なくとも2つの分散剤を含む分散剤系、及び少なくとも2つの摩擦調整剤を含む摩擦調整剤系を含む。少なくとも1つの硫化成分は、相対的に低い導電率及び良好な銅腐食性能を達成するために選択された添加剤及び量の硫黄を含む。2つの分散剤は、高導電性であることが知られている元素を提供するときでも、相対的に低い導電率を維持するように選択される。分散剤のうちの一方は、約1500~約2500の相対的に高い数平均分子量を有し、他方の分散剤は、約1000未満の相対的に低い数平均分子量を有する。摩擦調整剤は、アルコキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、及び任意選択の脂肪族ジアミンを含む。別の実施形態では、潤滑及び冷却流体は、2つの硫化成分を含む。任意の実施形態では、潤滑及び冷却流体は、ASTM D2270-10によって測定される際、約100℃において約4.5cSt未満の動粘度を有し、及び/又は本明細書においてより詳細に説明される、修正版ASTM D2624によって測定される際、約60nS/M未満の初期導電率を有する。
【0026】
摩耗及び摩擦性能だけでなく、冷却、低銅腐食、及び低導電率も提供する必要がある電気モータシステム用の流体では、硫黄、ホウ素、及びリンを含有する、内燃機関及びトランスミッションにおいて従来使用されている要素及び構成要素が、銅腐食及び/又は導電率に悪影響を及ぼす可能性があるため、かかる堅牢な流体を開発する課題がある。例えば、硫黄は銅に対して腐食性であり得、リン及びホウ素は流体の伝導性を増加させ得る。これらの望ましくない効果は、高温で大きくなる。このため、高温で動作する電気モータ及び歯車には、注意深く開発された流体が必要とされる。例えば、本明細書に記載される電気モータシステムの流体サンプ温度は、約70℃~約125℃に達し得る。更に、本明細書に記載される電気モータシステムのステータ内の銅巻線の温度は、最大180℃に達し得る。これらの高温では、良好な摩耗及び摩擦性能を達成するために使用される流体中の添加剤は、所望の導電率及び銅相溶性を維持するのに有害であり得る。
【0027】
しかしながら、硫黄、リン、及びホウ素は、かかる元素が本明細書に記載される少なくとも1つの硫黄成分、摩擦調整剤系、及び分散剤系の独自の組み合わせによって提供される場合、かかる電気移動度(「e-移動度」)用途のための流体に提供され得ることが本明細書において発見された。1つのアプローチでは、例えば、少なくとも1つの硫黄成分は、選択された量のチアジアゾール添加剤を含み、摩擦調整剤系は、選択された量の脂肪族アミン、エーテルアミン、及び任意選択的に、ジアミンを含み、分散剤系は、選択された量の少なくとも2つの異なる分散剤添加剤を含む。1つのアプローチでは、例えば、第1の分散剤及び/又は第2の分散剤のうちの少なくとも1つは、分散剤系中の窒素に対する分散剤系中のホウ素及びリンの総量が、約0.5~約0.7であるように、ホウ素化及びリン酸化され、第1及び第2の分散剤は、分散剤系において使用される、組み合わされたポリイソブチレン部分の1000数平均分子量当たり最大約100ppmの総ホウ素及びリンを送達する。
【0028】
かかる組成物では、本明細書における流体は(導電率に悪影響を及ぼすことが以前から知られている元素を有していても)、本明細書でより詳細に記載される修正版ASTM D2624によって測定される際、約60nS/M未満の初期導電率をもたらす。
【0029】
別の例示的な実施形態では、本開示は、電気モータシステム内の歯車及びクラッチを潤滑しながら、同時に電気モータシステム内の電気モータを冷却する方法に関する。この方法によれば、潤滑及び冷却流体を収容する電気モータシステムは、電気モータ内の潤滑及び冷却流体の温度が、電気モータシステムのサンプ内で少なくとも約70℃に達するように動作され、他の実施形態では、潤滑及び冷却流体は、電気モータシステムのサンプ内で約70~約125℃である。別の実施形態では、潤滑及び冷却流体を収容する電気モータシステムは、潤滑及び冷却流体が、電気モータシステムのステータ内の銅巻線に接触し、銅巻線が少なくとも約150℃の温度に達するように動作される。他の実施形態では、潤滑及び冷却を含む電気モータシステムは、潤滑及び冷却流体が銅巻線に接触し、銅巻線が少なくとも約180℃の温度に達するように動作される。この方法において使用される潤滑及び冷却流体は、APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物を含む少なくとも1つの潤滑基油、少なくとも1つの硫化成分、2つの分散剤を含む分散剤系、及び少なくとも2つの摩擦調整剤を含む摩擦調整剤系を含む。分散剤のうちの1つは、約1500~約2500の相対的に高い数平均分子量を有する。他の分散剤は、約1000未満の相対的に低い数平均分子量を有する。摩擦調整剤は、アルコキシル化脂肪族アミン及びエーテルアミンを含む。代替的な実施形態では、潤滑及び冷却流体は、追加の摩擦調整剤として脂肪族ジアミンを含有する。別の実施形態では、潤滑及び冷却流体は、2つの硫化成分を含む。上記の方法の実施形態のいずれかにおいて、潤滑及び冷却流体は、ASTM D2270-10によって測定される際、100℃において約4.5cSt未満の動粘度を有し得、本明細書においてより詳細に記載される修正版ASTM D2624によって測定される際、約60nS/M未満の初期導電率を有する。本明細書における方法の任意の実施形態はまた、ホウ素、リン、及び窒素の言及された比及び関係、並びに/又は方法において使用される潤滑流体について上記に記載される分散剤の分子量に対する量を含み得る。
【0030】
基油:本開示による電気モータ車両において使用するための潤滑及び冷却流体を配合する際に使用するのに好適な基油は、好適な潤滑粘度を有する好適な合成若しくは天然油又はこれらの混合物のいずれかから選択され得る。天然油は、動物油、及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、並びに液体石油及びパラフィン系、ナフテン系、又は混合パラフィン-ナフテン型の溶媒処理若しくは酸処理した鉱物潤滑油などの鉱物油を含んでいてもよい。石炭又はシェールから誘導される油もまた好適であり得る。更に、ガス液化プロセスから誘導される油もまた好適である。基油は、ASTM D2270-10によって測定される際、100℃において約2~約15cStの動粘度を有し得る。
【0031】
本明細書に記載される本発明で使用される基油は、単一の基油であり得るか、又は2つ以上の基油の混合物であり得る。1つ以上の基油は、American Petroleum Institute(API)Base Oil Interchangeability Guidelinesにおいて指定されているグループIII又はIV中の基油のいずれかから選択され得る。かかる基油グループを、以下のように表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
一変形形態では、基油は、APIグループIII基油、若しくはAPIグループIV基油、又はこれらの基油の混合物から選択され得る。代替的に、基油は、APIグループIII基油のうちの2つ以上、又はAPIグループIV基油のうちの2つ以上の混合物であり得る。
【0034】
APIグループIII基油は、フィッシャー・トロプシュ合成炭化水素から誘導される油を含み得る。フィッシャー・トロプシュ合成炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ触媒を使用して、H及びCOを含有する合成ガスから作製される。かかる炭化水素は、典型的には、基油として有用であるために更なる処理を必要とする。これらのタイプの油は、一般にガス液化油(GTL)と呼ばれる。例えば、炭化水素は、米国特許第6,103,099号若しくは同第6,180,575号に開示されるプロセスを使用して水素異性化されるか、米国特許第4,943,672号若しくは同第6,096,940号に開示されるプロセスを使用して、水素化分解若しくは水素異性化されるか、米国特許第5,882,505号に開示される方法を使用して脱ロウされるか、又は米国特許第6,013,171号、同第6,080,301号、若しくは同第6,165,949号に開示されるプロセスを使用して、水素異性化及び脱ロウされてもよい。
【0035】
APIグループIV基油である、PAOは、典型的には、4~30個、又は4~20個、又は6~16個の炭素原子を有するモノマーから誘導される。本発明で使用され得るPAOの例としては、オクテン、デセン、これらの混合物などから誘導されるものが挙げられる。PAOは、ASTM D2270-10によって測定される際、100℃において、2~15、又は3~12、又は4~8cStの動粘度を有し得る。PAOの例としては、100℃で4cStのPAO、100℃で6cStのPAO、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0036】
基油は、本明細書の実施形態において開示されるような添加剤組成物と組み合わされて、電気モータ、歯車、及びクラッチを有する電気モータシステム内で使用するための潤滑及び冷却流体を提供する。したがって、基油は、潤滑及び冷却流体の総重量に基づいて、約80重量%超の量で、潤滑及び冷却流体中に存在し得る。いくつかの実施形態では、基油は、潤滑及び冷却流体の総重量に基づいて、約85重量%超の量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。
【0037】
添加剤組成物:本明細書の流体は、少なくとも硫化成分、摩擦調整剤系又は成分、及び分散剤系又は成分を含む添加剤組成物を含む。以下、各々について説明する。
【0038】
硫化成分:潤滑及び冷却流体は、摩耗性能及び銅保護を改善するためにバランスのとれた量で少なくとも第1の硫化成分を含む。任意選択的に、第2の硫化成分もまた、いくつかの用途において使用され得る。
【0039】
第1の硫化成分は、1つ以上のチアジアゾール化合物若しくはそのヒドロカルビル置換誘導体であり得るか、又は他のアプローチでは、チアジアゾール化合物若しくはそのヒドロカルビル置換誘導体の混合物であり得る。使用され得るチアジアゾール化合物の例としては、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルチオ-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(ヒドロカルビルチオ)-1,3,4-チアジアゾール、又は2,5-ビス(ヒドロカルビルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールが挙げられる。1,3,4-チアジアゾールは、一般的にヒドラジンと二硫化炭素から既知の方法により合成される。例えば、米国特許第2,765,289号、同第2,749,311号、同第2,760,933号、同第2,850,453号、同第2,910,439号、同第3,663,561号、同第3,862,798号、及び同第3,840,549号を参照されたい。
【0040】
驚くべきことに、本明細書における第1の硫化添加剤の形態及び量は、低い導電率、より低い銅腐食を維持し、同時に他の所望の摩擦及び摩耗性能特性も満たす流体の能力に寄与する。アプローチでは、少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体は、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み、
【0041】
【化2】
式中、各Rは、独立して、水素又は硫黄であり、各Rは、独立して、アルキル基であり、nは、0又は1の整数であり、Rが、水素である場合、隣接のR部分の整数nは、0であり、Rが、硫黄である場合、隣接のR部分のnは、1であり、ただし、少なくとも1つのRが硫黄であることを条件とする。他のアプローチでは、少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体は、以下に示される式Ia及び式Ibの化合物のブレンドであり、
【0042】
【化3】
式Ia中、各整数nは、1であり、各Rは、硫黄であり、各Rは、C5~C15アルキル基、好ましくはC8~C12アルキル基であり、
【0043】
【化4】
式Ib中、一方の整数nは、1であり、関連するR基は、C5~C15アルキル基(好ましくは、C8~C12アルキル基)であり、他方の整数nは、0であり、両方のRは、硫黄である。いくつかの実施形態では、第1の硫化添加剤は、式Ia及びIbのブレンドを含み、式Iaがブレンドの大部分であり、他のアプローチでは、Ia及びIbのブレンドは、約75~約90重量パーセントのIa及び約10~約25重量パーセントのIb(又はその中の他の範囲)である。別のアプローチでは、第1の硫化添加剤は、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール(約75~約90%など)と、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール(約10~約25%など)とのブレンドを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールである。
【0044】
少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体は、約1000~約1500ppmの硫黄、約1200~約1500ppmの硫黄、又は約1200~約1300ppmの硫黄(若しくはその中の他の範囲)を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在する。一実施形態では、少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体は、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールであり、このチアジアゾール化合物は、約1000~約1500ppmの硫黄、約1200~約1500ppmの硫黄、又は約1200~約1300ppmの硫黄(若しくはその中の他の範囲)を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在する。
【0045】
本明細書の実施例に示されるように、第1の硫化成分が、約1000~約1500ppmの硫黄、約1200~約1500ppmの硫黄、又は約1200~約1300ppmの硫黄(若しくはその中の他の範囲)を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在するとき、得られる組成物は、FZGスカッフィングスコア及び/又は減少した銅腐食を提供する。第1の硫化成分が、1000ppm未満の硫黄又は1500ppm超の硫黄の量で潤滑及び冷却流体中に存在するとき、得られる組成物は、不十分なFZGスカッフィングスコア及び/又は増加した銅腐食を提供する。
【0046】
潤滑及び冷却流体は、任意選択的に、硫化エステルの形態で第2の硫化成分を含み得る。硫化エステルの例としては、牛脂ラード、魚油、ナタネ油、及びダイズ油などの動物若しくは植物油脂、オレイン酸、リノール酸、及び上記動物若しくは植物油脂から抽出した脂肪酸などの不飽和脂肪酸と各種アルコール類とを反応させることによって生成される不飽和脂肪酸エステル、又はこれらの混合物を、任意の好適な方法によって硫化することによって生成されるものが挙げられる。一実施形態では、硫化成分は、マッコウクジラ油又は合成マッコウクジラ油であり、硫化エステル交換トリグリセリドから構成される。
【0047】
任意選択の硫化エステルは、最大約300ppmの硫黄、約200~約300ppmの硫黄、又は約225~約275ppmの硫黄(若しくはその中の他の範囲)を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。一実施形態では、任意選択の硫化エステルは、硫化エステル交換トリグリセリドから構成される硫化合成マッコウクジラ油であり、約200~約300ppmの硫黄又は約225~約275ppmの硫黄(若しくはその中の他の範囲)を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。
【0048】
両方の硫化成分が潤滑及び冷却流体中に存在するとき、それらは、約1400~約1800ppmの硫黄又は約1400~約1500ppmの硫黄(若しくはその中の他の範囲)の量の全硫黄を送達する量で存在する。一実施形態では、第1の硫化成分は、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール及び/又はそのヒドロカルビル置換誘導体であり、任意選択の第2の硫化成分は、硫化エステル交換トリグリセリドからなる硫化合成マッコウクジラ油である。この実施形態では、第1の硫化成分は、約1200~約1300ppmの硫黄を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在し、任意選択の第2の硫化成分は、約225~約275ppmの硫黄を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在する。この実施形態では、第1及び任意選択の第2の硫化成分は、約1400~約1500ppmの全硫黄を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。
【0049】
分散剤系:本明細書に記載される潤滑及び冷却流体は、スクシンイミド分散剤、コハク酸エステル分散剤、コハク酸エステル-アミド分散剤、マンニッヒ塩基分散剤、高分子ポリアミン分散剤、これらのリン酸化形態、及びこれらのホウ酸化形態からなる群から選択される油溶性無灰分散剤などの、少なくとも2つの分散剤を含む分散剤系を含有する。分散剤は、二級アミノ基と反応することができる酸性分子でキャップすることができる。
【0050】
ポリアルキレンポリアミンと反応したヒドロカルビルジカルボン酸又は無水物は、スクシンイミド分散剤を製造するために使用される。スクシンイミド分散剤及びそれらの調製方法は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,897,696号及び米国特許第4,234,435号に開示される。ヒドロカルビル-ジカルボン酸又はその無水物のヒドロカルビル部分は、ブテンポリマー、例えば、イソブチレンのポリマーから誘導され得る。本明細書における使用に好適なポリイソブテンとしては、ポリイソブチレン又は約70%~約90%以上などの少なくとも約60%の末端ビニリデン含有量を有する高反応性ポリイソブチレンから形成されるものが挙げられる。好適なポリイソブテンとしては、BF触媒を使用して調製されるものが挙げられ得る。
【0051】
分散剤のポリイソブチレン置換基の数平均分子量は、ポリスチレン(数平均分子量180~約18,000)を較正基準として使用してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって判定される際、例えば、約500~約5000の広い範囲で変化する場合がある。GPC法は、加えて、分子量分布情報を提供する。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、W.W.Yau,J.J.Kirkland and D.D.Bly,”Modern Size Exclusion Liquid Chromatography”,John Wiley and Sons,New York,1979も参照されたい。
【0052】
分散剤中のポリイソブチレン部分は、好ましくは、重量平均分子量(Mw)対数平均分子量(Mn)の比によって判定される、多分散度とも称される、狭い分子量分布(molecular weight distribution、MWD)を有する。Mw/Mnが約2.2未満、好ましくは約2.0未満であるポリマーが最も望ましい。好適なポリイソブチレン置換基は、約1.5~約2.1、又は約1.6~約1.8の多分散度を有する。
【0053】
ジカルボン酸又は無水物は、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、イタコン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸、シトラコン酸無水物、メサコン酸、エチルマレイン酸無水物、ジメチルマレイン酸無水物、エチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、ヘキシルマレイン酸など、対応する酸ハライド及びC-C脂肪族エステルを含む、カルボン酸系反応物から選択され得る。ヒドロカルビルジカルボン酸又は無水物を作製するために使用される反応混合物中のジカルボン酸又は無水物対ヒドロカルビル部分のモル比は、大きく変化し得る。したがって、モル比は、5:1~1:5、例えば3:1~1:3に変化し得る。酸又は無水物とヒドロカルビル部分の特に好適モル比は、1:1~1.6:1未満である。ジカルボン酸又は無水物対ヒドロカルビル部分の別の有用なモル比は、1.3:1~1.7:1、又は1.3:1~1.6:1、又は1.3:1~1.5:1である。
【0054】
多数のポリアルキレンポリアミンのいずれかを、分散剤添加剤の調製に使用することができる。非限定的な例示的ポリアミンとしては、重炭酸アミノグアニジン(aminoguanidine bicarbonate、AGBC)、ジエチレントリアミン(diethylene triamine、DETA)、トリエチレンテトラミン(triethylene tetramine、TETA)、テトラエチレンペンタミン(tetraethylene pentamine、TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(pentaethylene hexamine、PEHA)及び重質ポリアミンが挙げられ得る。重質ポリアミンは、TEPA及びPEHAなどの少量のポリアミンオリゴマーを有するが、主に1分子当たり7個以上の窒素原子、2個以上の一級アミンを有するオリゴマーを有し、かつ従来のポリアミン混合物よりも広範囲の分岐を有するポリアルキレンポリアミンの混合物を含み得る。典型的に、これらの重質ポリアミンは、1分子当たり平均6.5個の窒素原子を有する。ヒドロカルビル置換スクシンイミド分散剤を調製するために使用され得る、追加の非限定的なポリアミンは、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,548,458号において開示される。ヒドロカルビルジカルボン酸又は無水物対ポリアルキレンポリアミンのモル比は、約1:1~約3.0:1であり得る。
【0055】
一実施形態では、本明細書に記載される本開示における分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸無水物(polyisobutenyl succinic anhydride、PIBSA)とポリアミン、例えば、重質ポリアミンとの反応生成物であり得る。本明細書における分散剤は、4:3~1:10の範囲内の(A)ポリイソブテニル置換無水コハク酸対(B)ポリアミンのモル比を有し得る。
【0056】
マンニッヒ塩基分散剤は、典型的には、約1~約7個の炭素原子を含有する1つ以上の脂肪族アルデヒド(特に、ホルムアルデヒド及びその誘導体)を伴い、環上に長鎖アルキル置換基を有するアルキルフェノールと、ポリアミン(特にポリアルキレンポリアミン)との反応生成物であり得る。例えば、マンニッヒ塩基無灰分散剤は、約1モルの割合の長鎖炭化水素置換フェノールを、約1~約2.5モルのホルムアルデヒド及び約0.5~約2モルのポリアルキレンポリアミンと縮合させることによって形成され得る。
【0057】
本明細書の分散剤系は、少なくとも2つの異なる分散剤を含む。本明細書に記載される分散剤のうちの少なくとも1つは、ホウ酸化及び/又はリン酸化されていてもよく、好ましくは、長鎖ポリイソブテニル部分を有する分散剤のみがホウ酸化及びリン酸化される。これらの分散剤は、概して、i)少なくとも1つのリン化合物及び/又はホウ素化合物と、ii)少なくとも1つの無灰分散剤との反応生成物である。
【0058】
本明細書における分散剤を形成するのに有用な好適なホウ素化合物は、ホウ素含有種を無灰分散剤に導入することができるいずれかのホウ素化合物又はホウ素化合物の混合物を含む。かかる反応を受けることができる有機又は無機の任意のホウ素化合物を使用することができる。したがって、酸化ホウ素、酸化ホウ素水和物、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、HBFホウ素酸、例えば、ボロン酸(例えば、アルキル-B(OH)、又はアリール-B(OH))、ホウ酸(すなわち、HBO)、四ホウ酸(すなわち、H)、メタホウ酸(すなわち、HBO)、かかるホウ素酸のアンモニウム塩、及びかかるホウ素酸のエステルを使用することができる。三ハロゲン化ホウ素とエーテル、有機酸、無機酸、又は炭化水素との錯体の使用は、ホウ素反応物質を反応混合物に導入する便利な手段である。かかる錯体は知られており、三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素-フェノール、三フッ化ホウ素-リン酸、三塩化ホウ素-クロロ酢酸、三臭化ホウ素-ジオキサン及び三フッ化ホウ素-メチルエチルエーテルにより例示される。
【0059】
本明細書における分散剤を形成するための好適なリン化合物としては、リン含有種を無灰分散剤に導入することができるリン化合物又はリン化合物の混合物が挙げられる。このため、かかる反応を行うことができる有機又は無機のいずれかのリン化合物を使用することができる。したがって、かかる無機リン化合物を、無機リン酸、及びその水和物を含む無機酸化リンとして使用することができる。典型的な有機リン化合物としては、リン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、及びテトラチオリン酸のモノ-、ジ-、及びトリエステルなどのリン酸の完全エステル及び部分エステル;亜リン酸、チオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸、及びトリチオ亜リン酸のモノ-、ジ-、及びトリエステル;トリヒドロカルビルホスフィンオキシド;トリヒドロカルビルホスフィンスルフィド;モノ-及びジヒドロカルビルホスホネート、(RPO(OR’)(OR”)(式中、R及びR’は、ヒドロカルビルであり、R”は、水素原子又はヒドロカルビル基である)、及びそれらのモノ-、ジ-、並びにトリチオ類似体;モノ-及びジヒドロカルビルホスホナイト、(RP(OR’)(OR”)(式中、R及びR’は、ヒドロカルビルであり、R”は、水素原子又はヒドロカルビル基である)、及びそれらのモノ-並びにジチオ類似体など、が挙げられる。このため、かかる化合物を、例えば、亜リン酸(HPO、H(HPO)と表されることもあり、オルト-亜リン酸又はリン酸と呼ばれることもある)、リン酸(HPO、オルトリン酸と呼ばれることもある)、次リン酸(H)、メタリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、次亜リン酸(HPO、ホスフィン酸と呼ばれることもある)、ピロ亜リン酸(H、ピロホスホン酸と呼ばれることもある)、亜ホスフィン酸(HPO)、トリポリリン酸(H10)、テトラポリリン酸(H13)、トリメタリン酸(H)、三酸化リン、四酸化リン、五酸化リンなどとして使用することができる。ホスホロテトラチオ酸(HPS)、ホスホロモノチオ酸(HPOS)、ホスホロジチオ酸(HPO)、ホスホロトリチオ酸(HPOS)、セスキ硫化リン、七硫化リン、及び五硫化リン(P、P10と称されることもある)などの部分又は全硫黄類似体もまた、本開示のための分散剤の形成に使用することができる。PCl、PBr、POCl、PSClなどのような無機ハロゲン化リン化合物も使用可能である。
【0060】
同様に、有機リン化合物、例えば、リン酸のモノ、ジ、及びトリエステル(例えば、トリヒドロカルビルホスフェート、ジヒドロカルビルモノアシッドホスフェート、モノヒドロカルビルジアシッドホスフェート、及びこれらの混合物)、亜リン酸のモノ、ジ、及びトリエステル(例えば、トリヒドロカルビルホスファイト、ジヒドロカルビル水素ホスファイト、ヒドロカルビル二酸ホスファイト、及びこれらの混合物)、ホスホン酸のエステル(「一級」RP(O)(OR)、及び「二級」RP(O)(OR)の両方)、ホスフィン酸のエステル、ホスホニルハロゲン化物(例えば、RP(O)Cl及びRP(O)Cl)、ハロリン酸塩(例えば、(RO)PCl及び(RO)PCl)、ハロホスファイト(例えば、ROP(O)Cl及び(RO)P(O)Cl)、三級ピロホスフェートエステル(例えば、(RO)P(O)-O-P(O)(OR))、並びに前述の有機リン化合物のうちのいずれかの全硫黄類似体又は部分硫黄類似体などを使用することができ、ここで、各ヒドロカルビル基は、最大約100個の炭素原子、好ましくは、最大約50個の炭素原子、より好ましくは、最大約24個の炭素原子、及び最も好ましくは、最大約12個の炭素原子を含む。ハロゲン化ハロホスフィン(例えば、四ハロゲン化ヒドロカルビルリン、三ハロゲン化ジヒドロカルビルリン、及び二ハロゲン化トリヒドロカルビルリン)、及びハロホスフィン(モノハロホスフィン及びジハロホスフィン)も使用可能である。
【0061】
上記で考察されたように、本明細書に記載される潤滑流体及び冷却流体の分散剤系は、少なくとも2つの分散剤、(i)相対的に高い数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られる分散剤、及び(ii)相対的に低い数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られる分散剤を含む。2つの分散剤の量並びにリン及びホウ素の供給は、潤滑剤の導電率を改善し、好適な摩耗及び摩擦性能を維持するために、分散剤量及び分散剤ポリイソブチレン部分に対してバランスがとられる。
【0062】
一実施形態では、分散剤系で使用される第1の分散剤は、約1500~約2500の範囲内の数平均分子量を有するポリイソブテニル部分を含み、約300ppm超の窒素、約400ppm超の窒素、約300~約700ppmの窒素、約450~約500ppmの窒素、又は最大約600ppm、又は最大約500ppmの窒素(若しくはその中の他の範囲)を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在する。
【0063】
第1の分散剤は、ホウ酸塩化及び/又はリン酸化されてもよい。したがって、一実施形態では、第1の分散剤は、約0.25~約0.5重量%のホウ素含有量、約0.5~約1重量%リンのリン含有量、及び約1.5~約2重量%窒素の窒素含有量を有する。別の実施形態では、第1の分散剤は、約0.3~約0.4重量%のホウ素含有量、約0.65~約0.8重量%リンのリン含有量、及び約1.7~約1.8重量%窒素の窒素含有量を有する。いくつかの場合では、第1の分散剤は、ホウ酸化及びリン酸化されており、0:1~約0.8:1、又は約0.6:1~約0.7:1、又は約0.6:1~約0.60:1~約0.65:1のホウ素プラスリン対窒素((B+P)/N)重量比を有する。
【0064】
一実施形態では、分散剤系の第1の分散剤は、ホウ酸化及びリン酸化されており、約125ppm未満のホウ素、約300ppm未満のリン、約500ppm未満の窒素、又は約700ppm未満を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在する。別の実施形態では、第1の分散剤は、ホウ素化及びリン酸化されており、約100ppm未満のホウ素、約250ppm未満のリン、及び約700ppm未満の窒素を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在する。更に別の実施形態では、第1の分散剤は、ホウ素化及びリン酸化されており、約80~約100ppmのホウ素、約200~約250ppmのリン、及び約450ppm~約700ppmの窒素、又は本明細書において言及された量の間の任意の他の範囲のかかる元素を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在する。
【0065】
分散剤系において使用される第2の分散剤は、約1000未満、又は約500~約1000の数平均分子量を有するポリイソブテニル部分を含み、約150ppm未満の窒素、又は約130ppm未満の窒素、約115ppm未満の窒素、110ppm未満の窒素、約100ppm未満の窒素、又は50ppm未満の窒素を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在する。他のアプローチでは、第2の分散剤は、約10ppm超の窒素、約20ppm超の窒素、30ppm超の窒素、約50ppm超の窒素、又は約80ppm超の窒素(又は本明細書におけるかかる量の任意の他の範囲)を含む。本明細書の実施形態では、第2の分散剤は、好ましくは、ホウ素化及び/又はリン酸化されておらず、かかる元素を流体に提供しない。
【0066】
本明細書の実施例に示されるように、相対的に高い分子量を有する第1の分散剤が、約125ppm未満のホウ素、約300ppm未満のリン、及び約700ppm未満の窒素(又は上に言及された他の範囲)を送達する量で潤滑及び冷却流体中に存在し、約150ppm未満の窒素(又は上記に言及された他の範囲)を送達し、ホウ素もリンも送達しない量で潤滑及び冷却流体中の第2の分散剤と組み合わせられるとき、得られる組成物は、減少した電気伝導率を有し、好適な摩耗及び摩擦性能を維持する。相対的に低い分子量を有する単一の分散剤が、ホウ素及び/又はリンを潤滑及び冷却流体に送達するために使用される場合、得られる組成物は、増加した電気伝導率を有する。
【0067】
更に他のアプローチ又は実施形態では、本明細書における流体の組み合わされた分散剤系は、分散剤系内の組み合わされたポリイソブテニル部分の総分子量に対して高レベルのホウ素及びリンを提供するようにバランスがとられる。例えば、第1の分散剤及び第2の分散剤のうちの少なくとも一方が、分散剤系中の窒素に対する分散剤系中のホウ素及びリンの総量が約0.5~約0.7であるようにホウ素化及びリン酸化され、第1及び第2の分散剤が、分散剤系中で使用される、組み合わされたポリイソブチレン部分の数平均分子量1000当たり最大約100ppmの総ホウ素及びリンを送達する場合に、予想外に良好な導電率が達成された。
【0068】
このような固有の分散剤系の組み合わせは、他の所望の流体性能特性と共に低い導電率を予想外に達成する。図1は、以下の実施例において更に説明されるように、本明細書中の流体の導電率に対するかかる分散剤系の劇的な効果を示す。
【0069】
摩擦調整剤系:本明細書に記載される潤滑及び冷却流体はまた、アルコキシル化脂肪族アミン及びエーテルアミンなどの少なくとも2つの摩擦調整剤を、好適な摩擦性能及び低下した導電率を提供するための特定の量で含む、摩擦調整剤系を含有する。
【0070】
本発明において有用なアルコキシル化脂肪族アミンとしては、ビス[2-ヒドロキシエチル]-ココ-アミン、ポリオキシエチレンココアミン、(ビス[2-ヒドロキシエチル]ソイアミン、ビス[2-ヒドロキシエチル]アロウ-アミン、ポリオキシエチレン-タローアミン、ビス[2-ヒドロキシエチル]オレイル-アミン、ビス[2-ヒドロキシエチル]オクタデシルアミン、及びポリオキシエチレンオクタデシルアミンが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、アルコキシル化脂肪族アミンは、ジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンであり、ヒドロキシアルキル基は、同一であるか又は異なり、各々、2個~約4個の炭素原子を含有し、脂肪族基は、約16個~約25個の炭素原子を含有する非環状ヒドロカルビル基である。アルコキシル化脂肪族アミンは、最大約20ppmの窒素、又は最大約15ppmの窒素を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。
【0071】
本発明において有用なエーテルアミンとしては、一級エーテルアミン及びエーテルジアミンが挙げられる。より具体的には、これらは、イソヘキシルオキシプロピルアミン、2-エチルヘキシルオキシプロピルアミン、オクチル/デシルオキシプロピルアミン、イソデシルオキシプロピルアミン、イソドデシルオキシプロピルアミン、イソトリデシルオキシプロピルアミン、C1215アルキルオキシプロピルアミン、イソデシルオキシプロピル-1,3-ジアミノプロパン、イソドデシルオキシプロピル-1,3-ジアミノプロパン、イソトリデシルオキシプロピル-1,3-ジアミノプロパン、イソヘキシルオキシプロピルアミン、2-エチルヘキシルオキシプロピルアミン、オクチル/デシルオキシプロピルアミン、イソデシルオキシプロピルアミン、イソプロピルオキシプロピルアミン、テトラデシルオキシプロピルアミン、ドデシル/テトラデシルオキシプロピルアミン、テトラデシル/ドデシルオキシプロピルアミン、オクタデシル/ヘキサデシルオキシプロピルアミンのうちの1つ以上を含み得るが、これらに限定されない。エーテルアミンは、最大約20ppmの窒素、又は最大約15ppmの窒素を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。
【0072】
一実施形態では、アルコキシル化脂肪族アミン及びエーテルアミンは、最大約40ppmの窒素、又は最大約30ppmの窒素を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。別の実施形態では、アルコキシル化脂肪族アミンは、ジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンであり、エーテルアミンは、イソデシルオキシプロピルアミンであり、両方のアミンの組み合わせは、最大約40ppmの窒素、又は最大約30ppmの窒素を送達するのに十分な量で存在する。
【0073】
別の実施形態では、本明細書に記載される潤滑及び冷却流体は、脂肪族ジアミンなどの任意選択の第3の摩擦調整剤を更に含む。好適な脂肪族ジアミンの例は、モノ又はジアルキル、対称又は非対称エチレンジアミン、プロパンジアミン(1,2又は1,3)、及び上記のポリアミン類似体、n-ココ-1,3-ジアミノプロパン、n-ソヤ-1,3-ジアミノプロパン、n-タロー-1,3-ジアミノプロパン、及びn-オレイル-1,3-ジアミノプロパンである。脂肪族ジアミンは、最大約5ppmの窒素又は最大約3ppmの窒素を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。
【0074】
一実施形態では、本明細書に記載される潤滑及び冷却流体は、アルコキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、及び脂肪族ジアミンを含み、これらの成分の組み合わせは、最大約30ppmの窒素を送達するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。別の実施形態では、潤滑及び冷却流体は、ジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミン、イソデシルオキシプロピルアミン、n-オレイル-1,3-ジアミノプロパン、及び最大約30ppmの窒素を送達するのに十分な量で存在するこれらの化合物の組み合わせを含む。
【0075】
他の添加剤
本明細書に記載される潤滑及び冷却流体は、上記に記載される成分に加えて、トランスミッション液組成物中で使用されるタイプの従来の添加剤も含み得る。かかる添加剤としては、酸化防止剤、粘度調整剤、リン含有成分、清浄剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤、解乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、並びに追加の分散剤、追加の摩擦調整剤、及び追加の硫黄含有成分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
酸化防止剤:いくつかの実施形態では、潤滑及び冷却流体は、もう1つの酸化防止剤を含有する。好適な酸化防止剤としては、とりわけ、フェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、含硫黄酸化防止剤、及び有機ホスファイトが挙げられる。
【0077】
フェノール系酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、三級ブチル化フェノールの液体混合物、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ter-t-ブチルフェノール)、及び混合メチレン架橋ポリアルキルフェノール、及び4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、N,N’-ジ-sec-ブチル-フェニレンジアミン、
4-イイソプロピルアミノジフェニルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、及び環アルキル化ジフェニルアミンが挙げられる。例としては、立体障害性三級ブチル化フェノール、ビスフェノール、及びケイ皮酸誘導体、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0078】
芳香族アミン酸化防止剤としては、以下の式:
【0079】
【化5】
(式中、R’及びR’’は、各々独立して、6~30個の炭素原子を有する置換又は無置換アリール基を表す)を有するジアリールアミンが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基の置換基の例示としては、1~30個の炭素原子を有するアルキルなどの脂肪族炭化水素基、ヒドロキシ基、ハロゲンラジカル、カルボン酸若しくはエステル基、又はニトロ基が挙げられる。
【0080】
アリール基は、好ましくは置換又は非置換フェニル又はナフチルであり、特に、アリール基の一方又は両方が、4~30個の炭素原子、好ましくは4~18個の炭素原子、最も好ましくは4~9個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルキルで置換されている。一方又は両方のアリール基が置換されていることが好ましく、例えば、モノアルキル化ジフェニルアミン、ジ-アルキル化ジフェニルアミン、又はモノ-及びジ-アルキル化ジフェニルアミンの混合物である。
【0081】
使用され得るジアリールアミンの例としては、ジフェニルアミン;様々なアルキル化ジフェニルアミン、3-ヒドロキシジフェニルアミン、N-フェニル-1,2-フェニレンジアミン、N-フェニル-1,4-フェニレンジアミン、モノブチルジフェニル-アミン、ジブチルジフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、モノテトラデシルジフェニルアミン、ジテトラデシルジフェニルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、モノオクチルフェニル-アルファ-ナフチルアミン、フェニル-ベータ-ナフチルアミン、モノヘプチルジフェニルアミン、ジヘプチル-ジフェニルアミン、p-配向スチレン化ジフェニルアミン、混合ブチルオクチルジ-フェニルアミン、及び混合オクチルスチリルジフェニルアミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
硫黄含有酸化防止剤としては、それらの生産に使用されるオレフィンの種類及び酸化防止剤の最終硫黄含有量によって特徴付けられる硫化オレフィン類が挙げられるが、これらに限定されない。高分子量オレフィン、すなわち、168~351g/モルの平均分子量を有するオレフィンが好ましい。使用され得るオレフィンの例としては、アルファ-オレフィン、異性化アルファ-オレフィン、分岐鎖オレフィン、環状オレフィン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0083】
アルファ-オレフィンとしては、任意のC4~C25アルファ-オレフィンが挙げられるが、これらに限定されない。アルファ-オレフィンは、硫化反応前又は硫化反応中に異性化され得る。内部二重結合及び/又は分枝を含有するアルファオレフィンの構造異性体及び/又は配座異性体も使用され得る。例えば、イソブチレンは、アルファ-オレフィン1-ブテンの分岐オレフィン対応物である。
【0084】
オレフィンの硫化反応において使用され得る硫黄源としては、元素状硫黄、一塩化硫黄、二塩化硫黄、硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム、及び硫化プロセスの異なる段階で共に添加されるこれらの混合物が挙げられる。
【0085】
不飽和油はまた、それらの不飽和のために、硫化され、酸化防止剤としても使用され得る。使用され得る油又は脂肪の例としては、トウモロコシ油、キャノーラ油、綿実油、ブドウ種子油、オリーブ油、パーム油、落花生油、ヤシ油、ナタネ油、ベニバナ種子油、ゴマ種子油、ダイズ油、ヒマワリ種子油、獣脂、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0086】
本明細書の潤滑及び冷却流体中の酸化防止剤の総量は、最大約200ppmの窒素、又は最大約100ppmの窒素、又は最大約150ppmの窒素、又は約100~約150ppmの窒素を送達する量で存在し得る。
【0087】
追加の摩擦調整剤:いくつかの実施形態では、潤滑及び冷却流体は、上記に記載される摩擦調整剤系内に含有されるもの以外の追加の摩擦調整剤を含有する。好適な追加の摩擦調整剤は、金属含有及び金属フリー摩擦調整剤を含むことができ、好適な摩擦調整剤としては、イミダゾリン、アミド、アミン、スクシンイミド、アルコキシル化アミン、アルコキシル化エーテルアミン、アミンオキシド、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、四級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアニジン、アルカノールアミド、ホスホネート、金属含有化合物、グリセロールエステル、硫化脂肪化合物及びオレフィン、ヒマワリ油、他の天然に存在する植物油又は動物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールのエステル又は部分エステル、並びに1つ以上の脂肪族又は芳香族カルボン酸などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0088】
好適な摩擦調整剤は、直鎖、分岐鎖、若しくは芳香族ヒドロカルビル基、又はこれらの混合物から選択されるヒドロカルビル基を含有することができ、かかるヒドロカルビル基は飽和又は不飽和であり得る。ヒドロカルビル基は、炭素及び水素又は硫黄若しくは酸素などのヘテロ原子で構成されてもよい。ヒドロカルビル基は、12~25個の炭素原子の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸エステルであってもよい。別の実施形態では、長鎖脂肪酸エステルは、モノエステル、又はジエステル、又は(トリ)グリセリドであってもよい。摩擦調整剤は、長鎖脂肪アミド、長鎖脂肪エステル、長鎖脂肪エポキシド誘導体、又は長鎖イミダゾリンであり得る。
【0089】
他の好適な摩擦調整剤には、有機、無灰(金属不含)、窒素不含有機摩擦調整剤が含まれてもよい。このような摩擦調整剤は、カルボン酸と無水物とをアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを含み、一般に親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えばカルボキシル又はヒドロキシル)を含んでもよい。有機無灰窒素不含摩擦調整剤の例は、一般に、オレイン酸のモノ-、ジ-、及びトリ-エステルを含有し得るモノオレイン酸グリセロール(glycerol monooleate、GMO)として知られている。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0090】
アミン性摩擦調整剤は、アミン又はポリアミンを含んでいてもよい。かかる化合物は、飽和又は不飽和のいずれかの直鎖、又はこれらの混合物であるヒドロカルビル基を有することができ、12~25個の炭素原子を含有し得る。好適な摩擦調整剤の更なる例としては、アルコキシル化アミン及びアルコキシル化エーテルアミンが挙げられる。かかる化合物は、直鎖、飽和、不飽和のいずれか、又はこれらの混合物であるヒドロカルビル基を有していてもよい。これらは、約12~約25個の炭素原子を含有していてもよい。例としては、エトキシル化アミン及びエトキシル化エーテルアミンが挙げられる。
【0091】
アミン及びアミドは、それ自体として、又は酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタボレート、ホウ酸又はモノ-、ジ-、若しくはトリ-アルキルボレートなどのホウ素化合物との付加物若しくは反応生成物の形態で使用してもよい。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,300,291号に記載されている。
【0092】
追加の摩擦調整剤が窒素を含有する場合、かかる追加の摩擦調整剤は、最大約200ppmの窒素、又は最大約150ppmの窒素、又は約100~約150ppmの窒素を送達する量で、潤滑及び冷却流体中に存在し得る。
【0093】
洗浄剤:本明細書に記載される潤滑及び冷却流体中に含まれ得る金属洗浄剤は、概して、長い疎水性尾部を有する極性頭部を含み、極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は、実質的に化学量論量の金属を含有し得、その場合、それらは通常、通常又は中性の塩として説明され、典型的には、0~150未満の全塩基価又はTBN(total base number)(ASTM D2896によって測定される)を有する。大量の金属塩基は、酸化物又は水酸化物などの過剰の金属化合物を二酸化炭素などの酸性ガスと反応させることによって、含まれ得る。得られる過塩基性洗浄剤は、無機金属塩基(例えば、水和炭酸塩)のコアを取り囲む中和された洗浄剤のミセルを含む。かかる過塩基性洗浄剤は、約150以上、例えば、約150~約450以上のTBNを有していてもよい。
【0094】
本実施形態における使用に好適であり得る洗浄剤には、油溶性過塩基性、低塩基性及び中性のスルホネート、フェネート、硫化フェネート、及び金属、特に、アルカリ又はアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウムのサリチレートが挙げられる。1つより多い金属、例えばカルシウムとマグネシウムの両方が存在してもよい。カルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムとの混合物もまた好適であり得る。好適な金属洗浄剤は、150~450TBNのTBNを有する過塩基性カルシウム又はマグネシウムスルホネート、150~300TBNのTBNを有する過塩基性カルシウム又はマグネシウムフェネート又は硫化フェネート、及び130~350のTBNを有する過塩基性カルシウム又はマグネシウムサリチレートであり得る。かかる塩の混合物もまた使用され得る。
【0095】
金属含有洗浄剤は、流体の防錆性能を改善するのに十分な量で潤滑及び冷却流体中に存在し得る。金属含有洗浄剤は、潤滑及び冷却流体の総重量に基づいて、最大300ppmのアルカリ及び/又はアルカリ土類金属を提供するのに十分な量で流体中に存在し得る。一例では、金属含有洗浄剤は、約100~約300ppmのアルカリ及び/又はアルカリ土類金属を提供するのに十分な量で存在し得る。別の実施形態では、金属含有洗浄剤は、約220~約250ppmのアルカリ及び/又はアルカリ土類金属を提供するのに十分な量で存在し得る。
【0096】
腐食抑制剤:防錆剤又は腐食抑制剤もまた、本明細書に記載される潤滑組成物内に含まれ得る。かかる材料としては、モノカルボン酸及びポリカルボン酸が挙げられる。好適なモノカルボン酸の例は、オクタン酸、デカン酸及びドデカン酸である。好適なポリカルボン酸としては、トール油脂肪酸、オレイン酸、リノール酸のような酸から生成されるダイマー及びトリマー酸が挙げられる。
【0097】
別の有用なタイプの防錆剤は、例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸無水物、テトラデセニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸無水物、ヘキサデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸無水物などのアルケニルコハク酸及びアルケニルコハク酸無水物腐食抑制剤であり得る。アルケニル基中に8~24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸とポリグリコールなどのアルコールとの半エステルも有用である。他の好適な防錆剤又は腐食防止剤としては、エーテルアミン、酸性リン酸、アミン、エトキシル化アミン、エトキシル化フェノール、エトキシル化アルコールなどのポリエトキシル化化合物、イミダゾリン、アミノコハク酸又はその誘導体などが挙げられる。かかる防錆剤又は腐食抑制剤の混合物が使用され得る。本明細書に記載される潤滑組成物中に存在する場合の腐食防止剤の総量は、潤滑組成物の総重量に基づいて、最大2.0重量%、又は0.01~1.0重量%の範囲であり得る。
【0098】
粘度調整剤:潤滑及び冷却流体は、任意選択的に、1つ以上の粘度調整剤を含有し得る。好適な粘度調整剤としては、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ-オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、又はこれらの混合物が挙げられ得る。粘度調整剤はスターポリマーを含んでいてもよく、好適な例は、米国特許出願公開第2012/0101017(A1)号に記載されている。
【0099】
本明細書に記載の潤滑及び冷却流体はまた、任意選択的に、粘度調整剤に加えて、又は粘度調整剤の代わりに、1つ以上の分散剤粘度調整剤を含有し得る。好適な分散剤粘度調整剤としては、官能化ポリオレフィン、例えば、アシル化剤(無水マレイン酸など)とアミンとの反応生成物で官能化されたエチレン-プロピレンコポリマー、アミンで官能化されたポリメタクリレート、又はアミンと反応させたエステル化無水マレイン酸-スチレンコポリマーが挙げられ得る。
【0100】
粘度調整剤及び/又は分散剤粘度調整剤の総量は、存在する場合、潤滑及び冷却流体の総重量に基づいて、最大約1.0重量%、又は最大約0.5重量%、又は最大約0.3重量%であり得る。
【0101】
解乳化剤:解乳化剤としては、トリアルキルホスフェート、並びにポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド及び(エチレンオキシド-プロピレンオキシド)ポリマーを含む、エチレングリコール、エチレンオキシド、プロピレンオキシドの様々なポリマー及びコポリマー、又はこれらの混合物が挙げられる。存在する場合、潤滑及び冷却流体中の解乳化剤の量は、潤滑及び冷却流体の総重量に基づいて、最大約0.05重量、又は最大約0.02重量%、又は約0.015重量%未満であり得る。
【0102】
消泡剤:安定した泡の形成を低減又は防止するために使用される消泡剤としては、シリコーン、ポリアクリレート、又は有機ポリマーが挙げられる。開示される発明の組成物において有用であり得る消泡剤としては、ポリシロキサン、エチルアクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートとのコポリマー、及び任意選択的に、酢酸ビニルが挙げられる。存在する場合、潤滑及び冷却流体中の消泡剤の量は、潤滑及び冷却流体の総重量に基づいて、最大約0.1重量、又は最大約0.08重量%、又は約0.07重量%未満であり得る。
【0103】
流動点降下剤:潤滑及び冷却流体は、任意選択的に、1つ以上の流動点降下剤を含有し得る。好適な流動点降下剤としては、無水マレイン酸-スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート若しくはポリアクリルアミド、又はこれらの混合物が挙げられ得る。流動点降下剤は、存在する場合、潤滑及び冷却流体の総重量に基づいて、約0.001重量%~約0.04重量%の量で存在し得る。
【0104】
概して、本明細書に記載される潤滑及び冷却流体は、表2に列挙される範囲内の添加剤成分を含み得る。
【0105】
【表2】
【0106】
上記の各成分のパーセンテージは、列挙された成分を含有する潤滑及び冷却流体の総重量に基づく、各成分の重量パーセントを表す。本明細書に記載される組成物を配合する際に使用される添加剤は、個々に又は様々な部分的な組み合わせで基油にブレンドすることができる。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒などの希釈剤)を使用して、成分の全てを同時にブレンドすることが好適であり得る。添加剤濃縮物の使用は、添加剤濃縮物の形態である場合には成分の組み合わせによってもたらされる相互相溶性を利用する。また、濃縮物の使用は、混合時間を短縮し、混合エラーの可能性を低減する。
【0107】
歯車、クラッチ、及び他の機械部品への潤滑だけでなく、電気モータへの冷却も提供する単一の流体を含む電気モータシステムは、良好な摩耗及び摩擦性能、低い銅腐食、及び相対的に低い導電率を提供するべきである。しかしながら、電気モータ内の高温は、このタイプの流体を開発するための課題を提起する。電気モータのサンプでは、潤滑及び冷却流体は、約70℃超又は約100℃超、場合によっては、約70℃~約125℃の温度に達する可能性がある。同様に、モータのステータ内の銅巻線の温度は、少なくとも約150℃、場合によっては、最大180℃に達する可能性がある。硫黄、ホウ素、又はリンのような元素を提供して、良好な摩耗性能を達成する添加剤は、過剰な銅腐食及びより高い導電率をもたらし得る。更に、これらの負の効果は、より高い温度で悪化する。このため、本明細書における硫黄、リン、及びホウ素の量を提供する選択された添加剤の組み合わせが、許容可能な摩耗及び摩擦性能を提供する一方で、高温で低い銅腐食及び低い導電率も提供することは予想外であった。
【0108】
本明細書における任意の実施形態では、本明細書に記載される硫化成分、分散剤系、及び摩擦調整剤系を含む流体は、APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物を含む潤滑粘度の油と共に使用されるとき、以下のうちの1つ以上を呈し得る:(i)3000回のシフトにわたって最大RPMの10%、最大RPMの50%、及び最大RPMの90%で測定される際、約2kNの最大力及び約80℃の流体温度を適用するクラッチリグ試験を使用したときのトルク、(ii)3000回のシフトにわたる動的シフト後及び3000回のシフトにわたる分離後に測定される際、約2kNの最大力、及び約80℃の流体温度を適用するクラッチリグ試験を使用したときのトルク、(iii)約2kNの最大力、約80℃の流体温度、及び100~0のランプ速度nを適用するクラッチリグ試験を使用したとき、制御可能なシフト性能を証明するμV挙動であって、100~0RPMで正の形状特性を呈するμV挙動、(iv)約0.6kNの最大力、約80℃の流体温度、並びに最大100回のシフトに対する平均摩擦係数(μavg)がおよそ0.1であり、最大100回のシフトに対する最小摩擦係数(μmin)がおよそ0.88である状態で、1450rpmで最大100回のシフトに使用したときのダブルカーボンシンクロリングを伴う、SSP180シンクロ試験リグ(ZF Friedrichshafen AG)を使用するときの同期摩擦値、(v)約25℃~約120℃、特に、約40℃~約80℃の温度範囲、並びに100℃で少なくとも15MΩmの抵抗、80℃でおよそ30MΩmの抵抗、及び40℃でおよそ115MΩmの抵抗において、少なくとも約10MΩmのFlucon又は当量導電率計を使用し、60hzの周波数で、DIN EN 60247に従う抵抗、及び/又は(vi)約30℃~約100℃、特に、約80℃~約100℃の温度で、約10以下のFlucon又は当量導電率計を使用し、60hzの周波数で、DIN EN 60247に従う誘電正接(tanδ)。
【実施例
【0109】
以下の非限定的な実施例は、本開示の1つ以上の実施形態の特徴及び利点を更に例示すために提供される。これらの実施例、並びに本出願の他の箇所では、全ての比、部、及びパーセンテージは、別段の指示がない限り重量基準である。硫化成分、分散剤系、及び摩擦調整剤系が、流体の摩耗、酸化、銅相溶性、及び導電率にどのように影響を及ぼすかを実証するために、例示的な完成流体を配合し、試験した。
【0110】
実施例1:
配合物をFZGスカッフィング試験、DKA酸化試験、銅腐食試験で評価し、初期導電率を測定した。
【0111】
FZGスカッフィング試験は、潤滑剤のスカッフィング負荷容量を評価するために使用される摩耗試験であり、ASTM D5182-97(2014)に従って実施される。結果は、負荷段階パスで報告され、より高い負荷段階パスを有する試料についてより良好な結果が得られる。
【0112】
DKA酸化試験は、CEC L-48-A-00に従って、170℃又は180℃の動作条件で192時間実行される。得られた結果は、100℃における動粘度の増加率である。より低い値は、改善された性能を示唆する。
【0113】
電気モータ流体が低い導電率を呈し、このため、ある程度絶縁体として機能することは有益である。流体の導電率は、ASTM D2624-15の修正版(1.5VでFlucon Epsilon+を使用する燃料ではなく、潤滑剤の試験)に従って測定した。
【0114】
銅腐食試験は、ASTM D130-18の修正版であり、銅ストリップは、150℃の潤滑剤に504時間浸漬される。試験の終わりに、油を銅のレベルについて評価した。油中の銅のレベルが高いことは、銅に対する潤滑剤の腐食性を示している。
【0115】
配合物はまた、それらが適切な冷却能力を呈することを確実にするために熱伝導率について試験された。各配合物の熱伝導率は、ASTM D7896-14に従う1つの測定を使用して、100℃で測定され、全ての配合物は、126~136mW/(m・K)の熱伝導率を呈し、このため、好適な冷却能力を有した。
【0116】
以下の表3で試験した配合物は、全て、酸化防止剤、摩擦調整剤、消泡剤及び解乳化剤を含有する同じ添加剤ベースパックを含有していた。配合物はまた、表3に記載されるように、様々な量の硫化成分、追加の摩擦調整剤、分散剤、及び基油も含有した。配合物は、広範囲の基油で試験されて、4.10~4.33cStの100℃で動粘度を有する完成流体を得た。本発明の配合物は、比較配合物と同様の添加剤を含有するが、硫黄、摩擦調整剤及び分散剤の送達を異なるようにバランスさせて、電気モータシステム用の潤滑剤と関連して実行することが予想されない高レベルの硫黄、ホウ素及びリンであっても、驚くほど改善された摩耗、酸化安定性、銅相溶性及び低導電率を達成した。これらの構成要素の詳細を以下に説明する:
硫黄成分S-1:およそ35重量%の硫黄を含有する2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール及びそのヒドロカルビル置換誘導体であって、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールと2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールとの75:25~85:15混合物であった。
硫黄成分S-2:およそ6.75重量%の硫黄を含有する硫化エステル交換トリグリセリドからなる硫化合成マッコウクジラ油。
摩擦調整剤FM-1:ヒドロキシアルキル基が、各々2~約4個の炭素原子を含有し、脂肪族基が、約16~約25個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基である、ジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンであり、ジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンは、約4重量%の窒素を含有する。
摩擦調整剤FM-2:およそ6.1重量%の窒素を含有するイソデシルオキシプロピルアミン。
摩擦調整剤FM-3:およそ7重量%の窒素を含有するn-オレイル-1,3-ジアミノプロパン。
分散剤D-1:950Mnのポリイソブチレン、無水マレイン酸、1分子当たり平均6.5個の窒素原子を有するポリアルキレンポリアミンの混合物、リン酸、及びホウ酸から作製された、リン酸化及びホウ酸化されたスクシンイミド分散剤。この分散剤は、約0.76重量%のリン、約0.35重量%のホウ素、及び約1.75%の窒素を含んでいる。
分散剤D-2:2300Mnのポリイソブチレン、無水マレイン酸、1分子当たり平均6.5個の窒素原子を有するポリアルキレンポリアミンの混合物、リン酸、及びホウ酸から作製された、リン酸化及びホウ酸化されたスクシンイミド分散剤。分散剤は、およそ0.77重量%の窒素、0.15重量%のホウ素、及び0.35重量%のリンを有していた。
分散剤D-3:950Mnのポリイソブチレン、無水マレイン酸、及び1分子当たり平均6.5個の窒素原子を有するポリアルキレンポリアミンの混合物から得られるスクシンイミド分散剤。分散剤は、およそ2.1重量%の窒素を有する。
基油:グループIV基油は、最終流体粘度目標を達成するために、およそ2cSt及びおよそ4cStの油のkV100を有するポリアルファオレフィン(PAO)基油の混合物を含んでいた。グループIIIの基油は、最終流体粘度目標を達成するために、およそ3cSt及びおよそ4cStの油を有する混合油を含んでいた。
【0117】
全ての本発明の配合物は、第1の硫化成分、この場合、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール及びそのヒドロカルビル置換誘導体を、1000ppm~1500pmの硫黄を潤滑剤に送達するための処理速度で含有する。本発明の配合物のうちの2つはまた、任意選択の第2の硫化成分、この場合、硫化合成マッコウクジラ油を、潤滑剤に対して最大300ppmの硫黄の量で含有した。全ての本発明の実施例は、第1の硫化成分から送達された硫黄が少なすぎる若しくは多すぎる、及び/又は第2の硫化成分から送達された硫黄が多すぎる比較例と比較して、改善された摩耗性能及び改善された銅保護を呈した。
【0118】
本発明の配合物及び比較配合物の両方では、摩擦調整剤系は、以下の摩擦調整剤:アルコキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、及び脂肪族ジアミンを含んでいた。本発明の配合物は、好適な摩擦性能及び減少した導電率を提供する量でこれらの成分を含有する。
【0119】
比較配合物では、分散剤系は、950MWポリイソブチレンから得られた1つのリン酸化及びホウ酸化スクシンイミド分散剤を含んでいた。本発明の試料では、分散剤系は、2つの分散剤を含んでいた。第1の分散剤は、2300Mnポリイソブチレンから得られたリン酸化及びホウ酸化スクシンイミド分散剤であった。第2の分散剤は、950Mnポリイソブチレンから得られたスクシンイミド分散剤であった。任意の特定の理論に束縛されるものではないが、本発明の配合物中に第1及び第2の分散剤を含めることにより、潤滑剤の導電率を改善し、好適な摩耗及び摩擦性能を維持することが考えられる。分散剤系の驚くべき効果は、分散剤系中のポリイソブチレン鎖の全分子量に対するホウ素及びリンの比を用いて表4及び表5並びに図1に示される。
【0120】
【表3】
【0121】
図1は、分散剤系中の総ポリイソブチレン部分又は複数の部分の数平均分子量に対して分散剤系のホウ素及びリンがどのように提供されるかに関して、比較試料に対する本発明の試料の改善を示す。驚くべきことに、この係数は、導電率に影響を及ぼし、本発明の試料は、電気モータシステム用の流体に好適な非常に低い導電率を示す。
【0122】
【表4】
発明例1は、分散剤2の2300MnPIBプラス分散剤3の950MnPIBを1000で割ったもの、すなわち、(2300+950)/1000から計算される、分散剤系中の分散剤を得るために使用される、組み合わされたポリイソブチレンの分子量1000当たり3.25Mnを有する。(他の例についても同様に計算される。)
**発明例1は、90ppmのホウ素及び210ppmのリンを足して、分散剤系中の分散剤を得るために使用される、組み合わされたポリイソブチレンの分子量1000当たり3.25Mnで割ったもの、すなわち、(210+90)/3.25によって計算された、92.3の比を有する。(他の例についても同様に計算される。)
【0123】
【表5】
【0124】
実施例2:
APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物を含む潤滑粘度の油と共に使用される実施例1の本発明の試料1の硫化成分、分散剤系、及び摩擦調整剤系を含む本発明の流体を、2kNの最大力及び80℃の流体温度を適用するクラッチリグ試験を使用してトルクについて更に評価した。図2図3、及び図4に示されるように、トルクは、3000回のシフトにわたってそれぞれ最大RPMの10%、最大RPMの50%、及び最大RPMの90%でN・mとして測定された。トルク測定値がグラフ化された値から著しく逸脱する場合、シフト品質が悪くなる可能性がある。
【0125】
実施例3
実施例2からの本発明の流体を、2kNの最大力及び80℃の流体温度を適用する実施例2のクラッチリグ試験を使用して、動的シフト後及び分離後のトルクについて更に評価した。図5は、3000回のシフトにわたる動的シフト後のトルク測定値を例解する。図6は、3000回のシフトにわたる分離後のトルク測定値を例解する。トルク値がグラフ化された値から著しく逸脱する場合、シフト品質が悪くなる可能性があり、トルク伝達が最適でない可能性がある。
【0126】
実施例4
実施例2からの本発明の流体を、2kNの最大力、80℃の流体温度、及び100~0のランプ速度nを適用する実施例2のクラッチリグ試験を使用して、制御可能なシフト挙動(トルク-V挙動)について更に評価した。図7では、トルク-V測定値は、1/分[X]にわたってプロットされ、100~0RPMの正の形状特性を有する。トルク-V測定値がプロットされた値から逸脱する場合、ノイズ及び振動を伴う不十分なシフト品質が発生し得る。
【0127】
実施例5
実施例2からの本発明の流体を、SSP180シンクロ試験リグ(ZF Friedrichshafen AG)を使用して、600Nの最大力、80℃の流体温度、ダブルカーボンシンクロリングを1450rpmで適用して、同期摩擦値について更に評価した。図8に示されるように、この流体は、最大100回のシフトに対しておよそ0.1の平均摩擦係数(μavg)を呈した。図9は、流体が最大100回のシフトに対しておよそ0.88の最小摩擦係数(μmin)を呈したことを示す。
【0128】
実施例6
実施例2からの本発明の流体を、Flucon導電率計を使用して60hzの周波数でDIN EN 60247に従って比抵抗について更に評価した。図10に示されるように、未使用及び使用済みの本発明の流体の比抵抗は、25℃~120℃の温度範囲において少なくとも10MΩmであった。未使用及び使用済みの本発明の流体の比抵抗は、100℃で少なくとも15MΩmであった。Worldwide Harmonized Light Vehicle Test(WLTP)実験室試験では、油温は、約40℃であり、通常の消費者運転プログラムでは約80℃である。図10に示されるように、本発明の流体(未使用及び使用済みの両方)は、およそ115MΩm(40℃で)及びおよそ30MΩm(80℃で)の比抵抗を有し、これらは、図10に示される未使用又は使用済みの比較ATF及びDCT歯車油のいずれよりもはるかに高かった。
【0129】
実施例7
実施例2からの本発明の流体を、Flucon導電率計を使用して60hzの周波数でDIN EN 60247に従って誘電正接(tanδ)について更に評価した。図11に示されるように、30℃~100℃の温度では、誘電正接(tanδ)は10以下であった。80℃~100℃の温度での通常の消費者駆動プログラムに関して、誘電正接は、本発明の流体(未使用及び使用済みの両方)について10以下であったが、未使用及び使用済みの比較ATF及びDCT歯車油は、80℃を超える温度で全て10より高かった。
【0130】
本開示の潤滑組成物は、その詳細な説明及び本明細書における要約と共に記載されているが、前述の記載は、添付の特許請求の範囲によって定義される、本開示の範囲を説明することが意図され、これを限定するものではないと理解するべきである。他の態様、利点、及び修正は、特許請求の範囲内にある。本明細書及び実施例は、例示のみとして考えられ、本開示の真の範囲は、以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【0131】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考慮及び本明細書に開示される実施形態の実施から当業者に明らかとなるであろう。明細書及び特許請求の範囲を通して使用される場合、「a」及び/又は「an」は、1つ又は1つより多くを指し得る。他に指示がない限り、本明細書で使用される成分の量、分子量、パーセント、比、反応条件などのような特性を表す全ての数字は、「約」という用語が存在するか否かにかかわらず、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、本明細書に記載される数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値である。最低限、特許請求の範囲の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数の観点から及び通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。広範囲の開示を記載する数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いかなる数値も、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる、特定の誤差を本質的に含有する。
【0132】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基、又はパラメータは、単独で、又は本明細書に開示されるありとあらゆる他の成分、化合物、置換基、若しくはパラメータのうちの1つ以上との組み合わせでの使用について開示されていると解釈されるべきであることを理解されたい。
【0133】
本明細書に開示される各範囲は、同じ有効数字の数を有する開示範囲内の各特定値の開示として解釈されるべきであることを更に理解されたい。このため、1~4の範囲は、1、2、3、及び4の値の、並びに1~4、1~3、1~2、2~4、2~3などのような値のいずれかの範囲の明確な開示として解釈されるべきである。
【0134】
本明細書に開示される各範囲の各下限が、同じ成分、化合物、置換基、又はパラメータについて本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内の各特定値と組み合わせて開示されると解釈されるべきであることを更に理解されたい。したがって、本開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限と、若しくは各範囲内の各特定値と組み合わせることによって、又は各範囲の各上限を各範囲内の各特定値と組み合わせることによって導出される全ての範囲の開示として解釈されるべきである。
【0135】
更に、説明又は実施例において開示される成分、化合物、置換基、又はパラメータの特定量/値は、範囲の下限又は上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、したがって、本出願の他の個所で開示される同じ成分、化合物、置換基、又はパラメータについての範囲の任意の他の下限若しくは上限又は特定量/値と組み合わせて、その成分、化合物、置換基、又はパラメータについての範囲を形成することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-10-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータシステム内の歯車及びクラッチを潤滑し、同時にそのモータを冷却するための方法であって、
潤滑及び冷却流体を収容する電気モータシステムを、前記電気モータシステムのサンプ内の前記潤滑及び冷却流体の温度が、70℃~125℃であり、前記電気モータシステムのステータ内の銅巻線の温度が、150℃~180℃であるように動作させることと、
前記電気モータシステム内の歯車及びクラッチを前記潤滑及び冷却流体で潤滑し、同時に、前記銅巻線を前記潤滑及び冷却流体と接触させることによって前記電気モータシステム内の前記モータを冷却することと、を含み、
前記潤滑及び冷却流体が、
APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物を含む潤滑粘度の油と、
約1000~約1500ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体と、約300ppm以下の硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する任意選択の硫化エステルと、
(i)約1500~約2500の数平均分子量を有し、最大約700ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するポリイソブチレンから得られる第1の分散剤と、(ii)約1000以下の数平均分子量を有し、最大約150ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する第2の分散剤と、を含む、分散剤系と、
最大約20ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するアルコキシル化脂肪族アミンと、
最大約20ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するエーテルアミンと、を含み、
前記第1の分散剤及び前記第2の分散剤のうちの少なくとも1つは、前記分散剤系中の前記窒素に対する前記分散剤系中のホウ素及びリンの総量が、約0.5~約0.7であるようにホウ素化及びリン酸化され、前記第1及び第2の分散剤が、前記分散剤系中で使用される、組み合わされたポリイソブチレン部分の数平均分子量1000当たり最大約100ppmの総ホウ素及びリンを送達する、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み、
【化1】
式中、
各Rが、独立して、水素又は硫黄であり、
各Rが、独立して、アルキル基であり、
nが、0又は1の整数であり、Rが、水素である場合、前記隣接のR部分の前記整数nが、0であり、Rが、硫黄である場合、前記隣接のR部分の前記nが、1であり、
少なくとも1つのRが、硫黄であるか、又は
前記少なくとも1つのチアジアゾール若しくはそのヒドロカルビル置換誘導体が、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、若しくはこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記潤滑及び冷却流体が、最大約3ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する脂肪族ジアミンを更に含み、並びに/又は前記アルコキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、及び脂肪族ジアミンが、約30ppm以下の量の窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達し、並びに/又は前記アルコキシル化脂肪族アミンが、各々2~4個の炭素原子を含有するヒドロキシアルキル基を含み、かつ16~25個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基を更に含むジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンであり、並びに/又は前記エーテルアミンがイソデシルオキシプロピルアミンを含み、並びに/又は前記脂肪族ジアミンが、n-オレイル-1,3-ジアミノプロパンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アルコキシル化脂肪族アミン及びエーテルアミンが、各々、最大約15ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達し、前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、又はこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物であり、チアジアゾール混合物及び任意選択の硫化エステルが、約1400~約1800ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の分散剤が、最大約500ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する量で存在し、並びに/又は前記第2の分散剤が、最大約115ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する量で存在し、並びに/又は前記第1の分散剤が、約2000~約2400の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、前記第2の分散剤が、約950の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、並びに/又は前記第1の分散剤が、約100ppm以下のホウ素及び約250ppm以下のリンの量で、ホウ素及びリンを前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記潤滑粘度の油が、前記グループIII基油を含み、及び/又は前記潤滑粘度の油が、ガス液化(GTL)基油を含み、及び/又は前記潤滑粘度の油が、ポリアルファオレフィン(PAO)基油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記潤滑流体が、前記潤滑及び冷却流体を20Hz及び100℃で使用して、修正されたASTM D2624-15によって測定される際、約60nS/M以下の初期導電率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑流体が、約180~約300ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する硫化エステルを有し、並びに/又は前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体及び前記硫化エステルが、約1400~約1800ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達し、並びに/又は前記硫化エステルが、硫化エステル交換トリグリセリドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
電気モータシステム用の潤滑及び冷却流体であって、
APIグループIII基油、APIグループIV基油、又はこれらの混合物を含む、潤滑粘度の主基油と、
約1000~約1500ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体と、最大約300ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する任意選択の硫化エステルと、
(i)約1500~約2500の数平均分子量を有し、約700ppm以下の窒素の量で窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するポリイソブチレンから得られる第1の分散剤と、(ii)約1000以下の数平均分子量を有し、約150ppm以下の窒素の量で窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するポリイソブチレンから得られる第2の分散剤と、を含む、分散剤系と、
最大約20ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するアルコキシル化脂肪族アミンと、
最大約20ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達するエーテルアミンと、を含み、
前記第1の分散剤及び前記第2の分散剤のうちの少なくとも1つは、前記分散剤系中の前記窒素に対する前記分散剤系中のホウ素及びリンの総量が、約0.5~約0.7であるようにホウ素化及びリン酸化され、前記第1及び第2の分散剤が、前記分散剤系中で使用される、組み合わされたポリイソブチレン部分の数平均分子量1000当たり最大約100ppmの総ホウ素及びリンを送達し、
前記潤滑及び冷却流体が、20Hz及び100℃においてASTM D2624-15によって測定される際、60nS/M以下の導電率を有する、潤滑及び冷却流体。
【請求項10】
前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、式Iの構造を有する1つ以上の化合物を含み、
【化2】
式中、
各Rが、独立して、水素又は硫黄であり、
各Rが、独立して、アルキル基であり、
nが、0又は1の整数であり、Rが、水素である場合、前記隣接のR部分の前記整数nが、0であり、Rが、硫黄である場合、前記隣接のR部分の前記nが、1であり、
少なくとも1つのRが、硫黄であるか、又は
前記少なくとも1つのチアジアゾール若しくはそのヒドロカルビル置換誘導体が、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、若しくはこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物を含む、請求項9に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項11】
前記流体が、最大約3ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する脂肪族ジアミンを更に含み、並びに/又は前記脂肪族アミン、エーテルアミン、及び脂肪族ジアミンが、最大約30ppmの量の窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達し、並びに/又はアルコキシル化脂肪族アミンが、各々、2~4個の炭素原子を含有するヒドロキシアルキル基を含み、かつ16~25個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基を更に含むジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンであり、並びに/又は前記エーテルアミンが、イソデシルオキシプロピルアミンを含み、並びに/又は前記脂肪族ジアミンが、n-オレイル-1,3-ジアミノプロパンを含む、請求項9に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項12】
前記アルコキシル化脂肪族アミン及びエーテルアミンが、各々、最大約15ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達し、前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体が、2,5-ビス-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-モノ-(ノニルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、又はこれらの組み合わせのうちの1つを含む、2,5ジメルカプト1,3,4チアジアゾールのヒドロカルビル置換誘導体のチアジアゾール混合物であり、チアジアゾール混合物及び任意選択の硫化エステルが、約1400~約1800ppmの硫黄を前記潤滑及び冷却流体に送達する、請求項11に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項13】
前記第1の分散剤が、最大約500ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する量で存在し、並びに/又は前記第2の分散剤が、最大約115ppmの窒素を前記潤滑及び冷却流体に送達する量で存在し、並びに/又は前記第1の分散剤が、約2000~約2400の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、前記第2の分散剤が、約950の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、並びに/又は前記第1の分散剤が、約100ppm以下のホウ素及び約250ppm以下のリンの量で、ホウ素及びリンを前記潤滑流体に送達し、並びに/又は前記第1の分散剤が、約2000~約2400の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られ、及び前記第2の分散剤が、約950の数平均分子量を有するポリイソブチレンから得られる、請求項9に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項14】
前記基油が、グループIII基油を含み、及び/又は前記基油が、ガス液化(GTL)基油を含み、及び/又は前記基油が、ポリアルファオレフィン(PAO)基油を含む、請求項9に記載の潤滑及び冷却流体。
【請求項15】
前記潤滑流体が、約180~約300ppmの硫黄を前記潤滑流体に送達する硫化エステルを有し、並びに/又は前記少なくとも1つのチアジアゾール又はそのヒドロカルビル置換誘導体及び前記硫化エステルが、約1400~約1800ppmの硫黄を前記潤滑流体に送達する、請求項9に記載の潤滑及び冷却流体。
【国際調査報告】