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特表2024-510038エンベロープウイルス感染症の処置における使用のための化合物
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  • 特表-エンベロープウイルス感染症の処置における使用のための化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】エンベロープウイルス感染症の処置における使用のための化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/06 20060101AFI20240227BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240227BHJP
   C07K 5/09 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
A61K38/06
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
C07K5/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557682
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2022057220
(87)【国際公開番号】W WO2022195097
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】2103872.4
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523356271
【氏名又は名称】ファーマ・ホールディングス・アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ルッケン
(72)【発明者】
【氏名】ジョニー・イーヴァル・リヴォル
(72)【発明者】
【氏名】トルステイン・エリンソン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA15
4C084BA23
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA12
4H045BA50
4H045EA29
(57)【要約】
本発明は、対象におけるエンベロープウイルス感染症の処置における使用のための化合物であって、本明細書で定義されている通りの式(I):AA-AA-AA-X-Y-Z(I)の化合物である前記化合物を提供する。本発明は、対象においてエンベロープウイルス感染症を処置する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の式(I)の化合物を投与する工程を含む方法を更に提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるエンベロープウイルス感染症の処置における使用のための化合物であって、前記化合物が、式(I)
AA-AA-AA-X-Y-Z (I)
[式中、任意の順序で、前記AA(アミノ酸)部分のうちの2つは、カチオン性アミノ酸であり、前記AAのうちの1つは、親油性R基を持つアミノ酸であり、前記R基は、14~27個の非水素原子を有し、
Xは、分枝鎖状又は非分枝鎖状C1~C10アルキル又はアリール基によって置換されていてよいN原子であり、この基は、N、O及びSから選択される最大2個のヘテロ原子を組み込んでいてよく、
Yは、-Ra-Rb-、-Ra-Rb-Rb-及び-Rb-Rb-Ra-から選択される基を表し、ここで、
Raは、C、O、S又はNであり、
Rbは、Cであり、Ra及びRbの各々が、C1~C4アルキル基によって置換されていても又は非置換であってもよく、
Zは、各々5又は6個の非水素原子の1から3つの環式基を含む基であり、前記環式基の2つ以上が、縮合していてよく、前記環式基の1つ又は複数が、置換されていてよく、Z部分が、最大15個の非水素原子を組み込み、ここで、
YとZとの間の結合は、YのRa又はRbとZの前記環式基の1つの非水素原子との間の共有結合である]
の化合物である、化合物。
【請求項2】
前記化合物が、ペプチドである、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
前記カチオン性アミノ酸が、リジン及び/又はアルギニンである、請求項1又は請求項2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
前記カチオン性アミノ酸が、アルギニンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
前記親油性R基が、縮合又は接続されていてもよい2つ以上の環式基を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
Xが、非置換である、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
Raが、Cである、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
Yが、-Ra-Rb-であり、非置換である、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
Yが、-CH2-CH2-である、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
Zが、フェニルである、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
前記化合物が、式(II)
AA1-AA2-AA1-X-Y-Z (II)
[式中、
AA1は、カチオン性アミノ酸であり、
AA2は、親油性R基を持つアミノ酸であり、前記R基は、14~27個の非水素原子を有し、
X、Y及びZは、請求項1から10のいずれか一項に規定の通りである]
の化合物である、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
親油性R基を持つ前記アミノ酸が、トリブチルトリプトファン(Tbt)、又はPhe(4-(2-ナフチル))、Phe(4-(1-ナフチル))、Bip(4-n-Bu)、Bip(4-Ph)及びBip(4-T-Bu)から選択されるビフェニルアラニン誘導体から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
親油性R基を持つ前記アミノ酸が、トリブチルトリプトファン(Tbt)である、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
-X-Y-Zが、一緒になって-NHCH2CH2Phである、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
前記化合物が、構造式:
【化1】
を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項16】
前記エンベロープウイルス感染症が、気道感染症である、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項17】
前記エンベロープウイルス感染症が、上気道感染症である、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項18】
前記エンベロープウイルスが、コロナウイルス、オルトニューモウイルス又はオルトミクソウイルスである、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項19】
前記エンベロープウイルスが、SARS-CoV-2、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)又はA型インフルエンザウイルスである、請求項1から18のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項20】
前記対象が、ヒト対象である、請求項1から19のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項21】
対象におけるエンベロープウイルス感染症の処置における使用のための、請求項1から15のいずれか一項に記載の化合物と、希釈剤、担体及び/又は賦形剤とを含む、医薬製剤。
【請求項22】
前記処置が、治療的処置である、請求項1から20のいずれか一項に記載の使用のための化合物又は請求項21に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項23】
前記処置が、防護的処置である、請求項1から20のいずれか一項に記載の使用のための化合物又は請求項21に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項24】
対象においてエンベロープウイルス感染症を処置する方法であって、前記方法が、それを必要とする対象に、有効量の請求項1から15のいずれか一項に記載の化合物を投与する工程を含む、方法。
【請求項25】
前記エンベロープウイルスが、請求項18又は請求項19に規定の通りである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が、ヒト対象である、請求項24又は請求項25に記載の方法。
【請求項27】
エンベロープウイルス感染症の処置における使用のための医薬の製造における、請求項1から15のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項28】
前記エンベロープウイルスが、請求項18又は請求項19に規定の通りである、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記対象が、ヒト対象である、請求項27又は請求項28に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してある特定のウイルス感染症の処置に関する。特に、本発明は、エンベロープウイルス感染症の処置のためのある特定の化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、宿主生物内でのみ複製することができる感染性因子である。ウイルスは、ヒトを含む様々な生存生物に感染することができる。ウイルス粒子は、それらの宿主細胞から独立している場合、典型的には、カプシドと呼ばれるタンパク質の殻内に含有されるウイルスゲノム(DNA又はRNA、一本又は二本鎖、直鎖状又は環状であってよい)を含む。エンベロープウイルスと称される一部のウイルスにおいて、タンパク質の殻は、エンベロープと呼ばれる膜内に封入されている。他のウイルスは非エンベロープである。
【0003】
ウイルス感染症は、重大な医療問題を代表する。過去20年間、世界ではウイルス感染症の発生件数が上昇している。例えば、2020年には、COVID-19を引き起こすエンベロープウイルスであるSARS-CoV-2ウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)が、世界の多くの地域に、世界経済及び国際保健の両方に深刻で長期にわたる影響を伴う「ロックダウン」を強いた。そのようなウイルスに対する新たな治療的及び防護的処置を同定することが非常に重要である。
【0004】
多くの異なる種類の抗ウイルス剤、例えば、侵入阻害剤、脱殻阻害剤、放出(又は退出(exit))阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、及びヌクレオチド/ヌクレオシド類似体がある。例として、商標名タミフルで販売されている小分子オセルタミビルは、宿主細胞からのA及びB型インフルエンザウイルス(これらはエンベロープウイルスである)の放出を阻害するノイラミニダーゼ阻害剤である。抗ウイルス剤に対するウイルスの耐性は、国際ヘルスケアにおいて重大な問題である。例えばこれに関して、ウイルスタンパク質における突然変異は、そのような突然変異したウイルスを、そのウイルスタンパク質を標的とすることにより作用する抗ウイルス薬による処置に耐性があるものにすることができる。例えば、オセルタミビルに耐性がある変異体A型インフルエンザウイルスが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009/081152A2
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Saravolatzら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy(2012)、第56巻(8)4478~4482頁
【非特許文献2】「Drug Design and Development」の第14章、Krogsgaard、Larsen、Liljefors及びMadsen(編)1996、Horwood Acad. Pub
【非特許文献3】Schmidt, R.ら、Int. J. Peptide Protein Res.、1995、46、47
【非特許文献4】Chorev, M及びGoodman, M.、Acc. Chem. Res、1993、26、266
【非特許文献5】Sherman D.B.及びSpatola、A.F. J. Am. Chem. Soc.、1990、112、433
【非特許文献6】Hoffman, R.V.及びKim, H.O. J. Org. Chem.、1995、60、5107
【非特許文献7】Allmendinger, T.ら、Tetrahydron Lett.、1990、31、7297
【非特許文献8】Sasaki, Y及びAbe、J. Chem. Pharm. Bull. 1997 45、13
【非特許文献9】Spatola, A.F.、Methods Neurosci、1993、13、19
【非特許文献10】Lavielle, S.ら、Int. J. Peptide Protein Res.、1993、42、270
【非特許文献11】Luisi, G.ら、Tetrahedron Lett. 1993、34、2391
【非特許文献12】Ostresh, J.M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1994)91、11138~11142
【非特許文献13】L. J. Reed及びH. Muench、American Journal of Epidemiology、第27巻、第3号、1938、493~497頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
代替的且つ好ましくは有利な、抗ウイルス処置(特に、ヒトにおいて疾患を引き起こすウイルス)が高度に望ましいであろうことが明確である。そのような処置は、(例えば、ヒトにおける)ウイルス性病原体による感染症を処置する又は予防する際に有用となるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、ある特定のC末端修飾を持っているあるクラスのトリペプチド化合物が、ヒトに対して病原性を持つエンベロープウイルスに対してを含む、エンベロープウイルスに対して優れた抗ウイルス活性を呈することを見出した。そのようなトリペプチドは、カチオン性(正に帯電した)及び嵩高である。このクラスの1種の化合物は、化合物LTX-109である。LTX-109は、抗菌活性を呈することが以前に報告されている(例えば、Saravolatzら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy(2012)、第56巻(8)4478~4482頁)が、これらの分子の抗ウイルス活性は以前に実証されたことがない。本発明者らの知見を考慮すると、そのような化合物は、抗エンベロープウイルス療法の現在の蓄積に追加される重要なクラスの作用物質であることは明らかである。
【0009】
故に、一態様では、本発明は、対象におけるエンベロープウイルス感染症の処置における使用のための化合物であって、式(I)の化合物
AA-AA-AA-X-Y-Z (I)
[式中、任意の順序で、前記AA(アミノ酸)部分のうちの2つはカチオン性アミノ酸、好ましくはリジン又はアルギニンであるが、ヒスチジン又はpH7.0で正電荷を持っている任意の非遺伝的にコードされている若しくは修飾されているアミノ酸であってよく、前記AAのうちの1つは大きい親油性R基を持つアミノ酸であり、R基は14~27個の非水素原子を有し、好ましくは縮合又は接続されていてよい2つ以上、例えば2又は3つの環式基を含有し、これらの環式基は、典型的には、5又は6個の非水素原子、好ましくは6個の非水素原子を含むことになり(縮合環の事例では当然ながら非水素原子が共有されてよい)、
Xは、分枝鎖状又は非分枝鎖状C1~C10アルキル又はアリール基、例えば、メチル、エチル又はフェニルによって置換されていてよいが好ましくはされていないN原子であり、この基はN、O及びSから選択される最大2個のヘテロ原子を組み込んでいてよく、
Yは、-Ra-Rb-、-Ra-Rb-Rb-及び-Rb-Rb-Ra-から選択される基を表し、ここで、
Raは、C、O、S又はN、好ましくはCであり、
RbはCであり、Ra及びRbの各々は、C1~C4アルキル基によって置換されていても非置換であってもよく、好ましくは、Yは-Ra-Rb-(ここで、Raは好ましくはCである)であり、好ましくはこの基は置換されておらず、Yが-Ra-Rb-Rb-又は-Rb-Rb-Ra-である場合、好ましくはRa及びRbの1つ以上が置換されており、
Zは、各々5又は6個の非水素原子(好ましくはC原子)の1から3つの環式基を含む基であり、環式基の2つ以上が縮合していてよく、環の1つ又は複数が置換されていてよく、これらの置換は、極性基を含んでよいが典型的には含まず、好適な置換基は、ハロゲン、好ましくは臭素又はフッ素及びC1~C4アルキル基を含み、Z部分は、最大15個、好ましくは5~12個の非水素原子を組み込み、最も好ましくは、それはフェニルであり、
YとZとの間の結合は、YのRa又はRbとZの環式基の1つの非水素原子との間の共有結合である]
である化合物を提供する。
【0010】
カチオン性アミノ酸を提供することができる好適な非遺伝的にコードされているアミノ酸及び修飾されているアミノ酸は、リジン、アルギニン及びヒスチジンの類似体、例えばホモリジン、オルニチン、ジアミノ酪酸、ジアミノピメリン酸、ジアミノプロピオン酸及びホモアルギニン、並びにトリメチリジン(trimethylysine)及びトリメチルオルニチン、4-アミノピペリジン-4-カルボン酸、4-アミノ-1-カルバムイミドイルピペリジン-4-カルボン酸及び4-グアニジノフェニルアラニンを含む。
【0011】
AAの大きい親油性R基は、ヘテロ原子、例えばO、N又はSを含有してよく、典型的には、1個を超えないヘテロ原子があり、好ましくはそれは窒素である。このR基は、好ましくは2個を超えない極性基を有する、より好ましくは全く有さない又は1個を有する、最も好ましくは全く有さないことになる。
【0012】
本発明に従う使用のための化合物は、好ましくはペプチドである。
【0013】
本発明に従う使用のための化合物は、好ましくは式(II)
AA1-AA2-AA1-X-Y-Z (II)
[式中、
AA1は、カチオン性アミノ酸、好ましくはリジン又はアルギニンであるが、ヒスチジン又はpH7.0で正電荷を持っている任意の非遺伝的にコードされている若しくは修飾されているアミノ酸であってよく、
AA2は、大きい親油性R基を持つアミノ酸であり、R基は14~27個の非水素原子を有し、好ましくは縮合又は接続されていてよい2つ以上、例えば2又は3つの環式基を含有し、これらの環式基は、典型的には、5又は6個の非水素原子、好ましくは6個の非水素原子を含むことになり、
X、Y及びZは、上記で定義した通りである]
のものである。
【0014】
本発明に従う使用のための更なる好ましい化合物は、式(III)及び(IV)の化合物:
AA2-AA1-AA1-X-Y-Z (III)
AA1-AA1-AA2-X-Y-Z (IV)
[式中、AA1、AA2、X、Y及びZは、上記で定義した通りである]
を含む。式(II)の分子がより好ましい。
【0015】
上記の化合物の中でも、ある特定のものが特に好ましい。特に、本明細書において便宜上AA2と称される、大きい親油性R基を持つアミノ酸は、トリブチルトリプトファン(Tbt)又はビフェニルアラニン誘導体、例えばPhe(4-(2-ナフチル))、Phe(4-(1-ナフチル))、Bip(4-n-Bu)、Bip(4-Ph)又はBip(4-T-Bu)であり、Phe(4-(2-ナフチル))及びTbtが最も好ましい。一部の好ましい実施形態では、親油性R基を持つアミノ酸は、トリブチルトリプトファン(Tbt)である。
【0016】
一部の好ましい実施形態では、Yは-Ra-Rb-であり非置換であり、最も好ましくは、Ra及びRbはいずれも炭素(C)原子である。好ましくは、Yは-CH2-CH2-である。
【0017】
一部の好ましい実施形態では、Zはフェニル(Ph)である。
【0018】
化合物の更なる好ましい基は、-X-Y-Zが一緒になって-NHCH2CH2Ph基であるものである。
【0019】
化合物は、すべての鏡像異性形態、D及びL両方のアミノ酸、並びにアミノ酸R基内のキラル中心から生じる鏡像異性体並びにC末端キャッピング基「-X-Y-Z」を含む。β及びγアミノ酸並びにαアミノ酸は、いずれもAA単位とみなされ得るN置換グリシンであることから、用語「アミノ酸」内に含まれる。本発明に従う使用のための化合物は、ベータペプチド及びデプシペプチドを含む。
【0020】
最も好ましい化合物は、構造式:
【化1】
を有する。t-Buはターシャリーブチル基を表す。アミノ酸2,5,7-トリス-tert-ブチル-L-トリプトファンを組み込んだ上記の構造式を持つこの化合物は、本発明において使用するために最も好ましい化合物である(本明細書においてLTX-109とも称される)。Argの代わりに他のカチオン性残基、特にLysを組み込んだこの化合物の類似体も高度に好ましい。上記で定義した通りの代替的なC末端キャッピング基を組み込んだ類似体も高度に好ましい。
【0021】
本発明に従う使用のための別の好ましい化合物は、
【化2】
である。この化合物(すなわち、すぐ上に描写されている構造式を持つ化合物)は、Arg-Phe(4-(1-ナフチル))-Arg-NH-CH2-CH2-Phと称されうる。この化合物は、AA1がアルギニン(Arg)であり、AA2がPhe(4-(1-ナフチル))であり、-X-Y-Zが一緒になって-NHCH2CH2Ph基である、式(II)の化合物である。
【0022】
本発明に従う使用のための別の好ましい化合物は、
【化3】
である。この化合物(すなわち、すぐ上に描写されている構造式を持つ化合物)は、Arg-Phe(4-(2-ナフチル))-Arg-NH-CH2-CH2-Phと称されうる。この化合物は、本明細書においてLTX-7とも称される。この化合物は、AA1がアルギニン(Arg)であり、AA2がPhe(4-(2-ナフチル))であり、-X-Y-Zが一緒になって-NHCH2CH2Ph基である、式(II)の化合物である。
【0023】
本発明に従う使用のための別の好ましい化合物は、
【化4】
である。t-Buはターシャリーブチル基を表す。この化合物(すなわち、すぐ上に描写されている構造式を持つ化合物)は、Lys-Tbt-Lys-NH-CH2-CH2-Phと称されうる。この化合物は、本明細書においてLTX-12とも称される。この化合物は、AA1がリジン(Lys)であり、AA2がトリブチルトリプトファン(Tbt、2,5,7-トリス-tert-ブチル-L-トリプトファンとも称さうる)であり、-X-Y-Zが一緒になって-NHCH2CH2Ph基である、式(II)の化合物である。
【0024】
好ましい実施形態では、本発明に従う使用のための化合物は、LTX-109、LTX-7及びLTX-12からなる群から選択される。化合物LTX-109は、本発明に従う使用のための最も好ましい化合物である。
【0025】
本発明における使用のための化合物は、好ましくはペプチドである。
【0026】
式(I)から(IV)の化合物は、ペプチド模倣薬であってよく、本明細書で記述及び定義されているペプチドのペプチド模倣薬も、本発明に従って使用する化合物を代表する。ペプチド模倣薬は、典型的には、そのペプチド均等物の極性、三次元サイズ及び機能性(生物活性)を保持することによって特徴付けられるが、ここで、ペプチド結合は、多くの場合より安定な連結によって、置きかえられている。「安定な」が意味するのは、加水分解酵素による酵素的分解に、より耐性があることである。概して、アミド結合を置きかえる結合(アミド結合代用物)は、アミド結合の特性、例えば、立体配座、立体的嵩高さ、静電気的特徴、水素結合の可能性等の多くを保存する。「Drug Design and Development」の第14章、Krogsgaard、Larsen、Liljefors及びMadsen(編)1996、Horwood Acad. Pubは、ペプチド模倣薬のデザイン及び合成のための技術の一般的考察を提供している。本発明の事例では、分子が酵素の特異的な活性部位よりもむしろ膜と反応しうる場合、親和性及び効能又は基質機能を厳密に模倣しているという、記述されている問題の一部は無関係であり、ペプチド模倣薬は、所与のペプチド構造又は必要とされる官能基のモチーフに基づいて容易に調製されうる。好適なアミド結合代用物は、以下の基を含む:N-アルキル化(Schmidt, R.ら、Int. J. Peptide Protein Res.、1995、46、47)、レトロインバースアミド(Chorev, M及びGoodman, M.、Acc. Chem. Res、1993、26、266)、チオアミド(Sherman D.B.及びSpatola、A.F. J. Am. Chem. Soc.、1990、112、433)、チオエステル、ホスホネート、ケトメチレン(Hoffman, R.V.及びKim, H.O. J. Org. Chem.、1995、60、5107)、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル(Allmendinger, T.ら、Tetrahydron Lett.、1990、31、7297)、ビニル、メチレンアミノ(Sasaki, Y及びAbe、J. Chem. Pharm. Bull. 1997 45、13)、メチレンチオ(Spatola, A.F.、Methods Neurosci、1993、13、19)、アルカン(Lavielle, S.ら、Int. J. Peptide Protein Res.、1993、42、270)及びスルホンアミド(Luisi, G.ら、Tetrahedron Lett. 1993、34、2391)。
【0027】
本発明において使用するペプチド模倣化合物は、典型的には、サイズ及び機能においてアミノ酸(AA単位)とほぼ同等である3つの識別可能なサブユニットを有することになる。故に、用語「アミノ酸」は、便宜上、本明細書においてペプチド模倣化合物の同等のサブユニットを指すために使用されうる。その上、ペプチド模倣薬は、アミノ酸のR基と同等の基を有してよく、好適なR基並びにN及びC末端修飾基についての本明細書における考察を、ペプチド模倣化合物に準用する。
【0028】
上記で参照した教科書で論じられているように、アミド結合の置きかえと同様に、ペプチド模倣薬は、より大きい構造部分をジペプチド又はトリペプチド模倣構造によって置きかえてもよく、この場合、ペプチド結合を伴う模倣部分、例えばアゾール由来の模倣物がジペプチド置きかえとして使用されうる。しかしながら、アミド結合が上記で論じた通りに置きかえられたペプチド模倣薬及び故にペプチド模倣骨格が好ましい。
【0029】
好適なペプチド模倣薬は、アミド結合が、還元剤、例えばボラン又は水素化物試薬、例えば水素化リチウムアルミニウムによる処理によってメチレンアミンに還元された、還元ペプチドを含む。そのような還元は、分子の全体的なカチオン性を増大させるという付加的な利点を有する。
【0030】
他のペプチド模倣薬は、例えば、アミド官能基化ポリグリシンの段階的合成によって形成されたペプトイドを含む。一部のペプチド模倣骨格は、それらのペプチド前駆体、例えば過メチル化されたペプチドから容易に利用可能となり、好適な方法は、Ostresh, J.M.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1994)91、11138~11142によって記述されている。強塩基性条件は、O-メチル化よりもN-メチル化を優遇し、ペプチド結合及びN末端窒素における窒素原子の一部又はすべてのメチル化をもたらすことになる。
【0031】
好ましいペプチド模倣骨格は、ポリエステル、ポリアミン及びそれらの誘導体、並びに置換アルカン及びアルケンを含む。ペプチド模倣薬は、本明細書において論じられる通りに修飾されていてよいN及びC末端を好ましくは有することになる。
【0032】
本発明における使用のための化合物は、任意の好都合な手法で合成されうる。概して、存在する反応性基(例えば、アミノ、チオール及び/又はカルボキシル)は、全合成中にわたり保護されることになる。故に、合成における最終工程は、本発明の保護された誘導体の脱保護となる。
【0033】
ペプチドを構築する際に、原理上、C末端又はN末端のいずれからでも出発することができるが、C末端出発手順が好ましい。
【0034】
ペプチド合成の方法は当技術分野において周知であるが、本発明では、固相支持体上で合成を行うことが特に好都合となることがあり、そのような支持体は当技術分野において周知である。
【0035】
アミノ酸のための保護基の幅広い選択肢が公知であり、好適なアミン保護基は、カルボベンゾキシ(Zとも指定される)t-ブトキシカルボニル(Bocとも指定される)、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル(Mtr)及び9-フルオレニルメトキシ-カルボニル(Fmocとも指定される)を含みうる。ペプチドがC末端から構築される場合、アミン保護基は付加された各々の新たな残基のα-アミノ基上に存在し、次のカップリング工程の前に選択的に除去される必要があることが理解されるであろう。
【0036】
例えば用いられうるカルボキシル保護基は、容易に切断されるエステル基、例えばベンジル(Bzl)、p-ニトロベンジル(ONb)、ペンタクロロフェニル(OPCIP)、ペンタフルオロフェニル(OPfp)又はt-ブチル(OtBu)基、及び固体支持体上のカップリング基、例えばポリスチレンと連結しているメチル基を含む。
【0037】
チオール保護基は、p-メトキシベンジル(Mob)、トリチル(Trt)及びアセトアミドメチル(Acm)を含む。
【0038】
アミン及びカルボキシル保護基を除去するための広範囲の手順が存在する。しかしながら、これらは、用いられる合成戦略と合致しなくてはならない。側鎖保護基は、次のカップリング工程の前に一時的なα-アミノ保護基を除去するために使用される条件に安定でなくてはならない。
【0039】
アミン保護基、例えばBoc、及びカルボキシル保護基、例えばtBuは、例えばトリフルオロ酢酸による酸処理によって同時に除去されうる。チオール保護基、例えばTrtは、酸化剤、例えばヨウ素を使用して選択的に除去されうる。
【0040】
本発明に従う使用のための化合物(例えば、LTX-109)は、WO2009/081152A2で記述されている通りに合成されうる。
【0041】
本発明に従う使用のための化合物(例えば、ペプチド)は、エンベロープウイルスに対して活性を呈する。言い換えれば、本発明に従う使用のための化合物は、抗エンベロープウイルス活性を呈する。
【0042】
本発明において使用する化合物は、典型的には、好適なインビトロアッセイ、例えばエンドポイント希釈アッセイ(例えば、TCID50アッセイ)において(又はそれによって決定される又はそれによって評価される)、エンベロープウイルスに対する活性(抗エンベロープウイルス活性)を呈する。当業者は、好適なインビトロアッセイ、例えば好適なエンドポイント希釈アッセイ(例えば、TCID50アッセイ)に精通している。好ましいTCID50アッセイは、本明細書の実施例の項において記述されている。本発明において使用する化合物は、顕微鏡検査、例えば電子顕微鏡検査によって決定される(又はそれによって評価される)エンベロープウイルスに対する活性(抗エンベロープウイルス活性)を呈しうる。本発明において使用する化合物は、任意の好適な手段又はアッセイによって、例えば顕微鏡検査、例えば電子顕微鏡検査によって評価される(又はそれによって決定される)ウイルスエンベロープ破壊(又はエンベロープ不安定化若しくは溶解)を引き起こしうる。好ましい電子顕微鏡検査方法は、本明細書の実施例1において記述されている。
【0043】
本発明における使用のための化合物は、直接膜(又はウイルスエンベロープ)に影響を及ぼす機構を介して抗エンベロープウイルス効果を発揮することができ、故に、膜(又はウイルスエンベロープ)作用抗ウイルス剤とみなされうる。故に、これらの化合物は、溶解を起こす、ウイルスエンベロープを不安定化する又は更には穿通するとみなされうる。このことは、標的ウイルスのタンパク質性成分に作用する又はそれと相互作用する作用物質を上回る明白な治療上の利点を供与する。ウイルスタンパク質における突然変異は、そのようなウイルスタンパク質を標的とすることによって作用する抗ウイルス剤に対する耐性につながる、新たな形態のウイルスタンパク質をもたらしうる。しかしながら、耐性の発達は、標的が脂質層(又は脂質膜)(宿主細胞に由来する)である場合には、特定のウイルスタンパク質標的とは対照的に、それほど問題ではない。エンベロープ破壊効果は、エンベロープウイルス粒子の非常に急速な破滅を引き起こしうる。直接膜(エンベロープ)破壊又は不安定化活性に加えて、本発明に従う使用のための化合物は、標的ウイルスを(例えば、他の作用機序によって)壊す又は阻害する、他の有用な特性を有しうる。
【0044】
上記で指し示した通り、本発明は、エンベロープウイルス感染症を処置する際に使用するための、本明細書の他の箇所で定義されている通りの化合物を提供する。言い換えれば、本発明は、対象において感染症を処置する際に使用するための本明細書で定義されている通りの化合物を提供し、ここで、前記感染症の原因物質は、エンベロープウイルスである。
【0045】
「エンベロープウイルス」は、脂質層(又は脂質膜)に包み込まれている(又はくるまれている)ウイルスである。脂質層は、脂質二重層であってよい。故に、エンベロープウイルスは、脂質層(典型的にはリン脂質層)、例えば脂質二重層を含む外膜又はエンベロープによって覆われている(又はそれによって包み込まれている又はそれによってくるまれている又はそれによって囲まれている)、カプシド(ウイルスカプシド)を有する。ウイルスエンベロープは、1種又は複数のウイルスにコードされたタンパク質(例えば、糖タンパク質)も含みうる。ウイルスエンベロープの脂質層は、感染した宿主細胞の脂質膜(例えば、脂質二重層)に由来する(又はそれから獲得される)。当然ながら、本発明に従うエンベロープウイルスは、真核生物の脂質膜からの(又はそれに由来する又はそれから獲得される)、好ましくは哺乳動物の(例えば、ヒト)脂質膜からのエンベロープを有する。そのような真核生物の脂質膜は、細胞膜、又は細胞オルガネラ(例えば、小胞体;又はゴルジ体(又はゴルジ装置);又は時に小胞小管クラスター(VTC)と称される小胞体-ゴルジ体中間区画(ERGIC))の膜であってよい。ウイルスエンベロープは、典型的には、「出芽」又は「出芽放出」と称されうるプロセスにおいて、宿主細胞の膜(脂質二重層)で獲得される。出芽プロセス中に、新たに形成されたウイルス粒子は、宿主細胞(ウイルスの宿主細胞)の脂質膜でできている外皮内に「くるまれる」(又は「囲まれる」又は「被覆される」)。故に、ウイルスエンベロープの脂質層(又は脂質膜)は、宿主細胞に直接由来する(宿主細胞の膜に直接由来する)とみなされうる。
【0046】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、細胞膜(すなわち、ウイルスの宿主細胞の細胞膜)に由来する(又はそれから獲得される又はそれに特徴的である)エンベロープ(ウイルスエンベロープ)を有するウイルスである。細胞膜は、原形質膜、細胞質膜又はプラズマレンマとも称されうる。
【0047】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、細胞内オルガネラの膜(膜結合オルガネラ)(すなわち、ウイルスの宿主細胞のオルガネラ膜)に由来する(又はそれから獲得される又はそれに特徴的である)エンベロープ(ウイルスエンベロープ)を有するウイルスである。そのような膜結合オルガネラは、例えば、小胞体、ゴルジ体(又はゴルジ装置)、又は小胞体-ゴルジ体中間区画(ERGIC)を含む。
【0048】
任意のエンベロープウイルス感染症を本発明に従って処置することができる。典型的に且つ好ましくは、エンベロープウイルスは、哺乳動物に感染する(又は感染することができる)ウイルスである。哺乳動物は、例えば、ヒト及び任意の家畜、家庭内又は実験動物を含む。具体例は、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、雌ウシ及びサルを含む。本発明の一部の実施形態では、哺乳動物はヒトである。故に、典型的に且つ好ましくは、本発明に従うエンベロープウイルスは、哺乳動物の病原体、好ましくはヒトの病原体である。
【0049】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、気道感染症の原因物質である。気道感染症は、上及び/又は下気道の感染症であってよい。一部の実施形態では、気道感染症は、上気道の感染症である。
【0050】
エンベロープウイルスは、DNAウイルス又はRNAウイルスであってよい。一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、RNAウイルス(例えば、一本鎖(ss)RNAエンベロープウイルス)である。
【0051】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、以下の種類の1つのうちの1つのウイルス:ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス、アスファウイルス、フラビウイルス、アルファウイルス、トガウイルス、コロナウイルス、オルトミクソウイルス、オルトニューモウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、ブニヤウイルス、フィロウイルス又はレトロウイルスであってよい。
【0052】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、オルトニューモウイルス(例えば、呼吸器合胞体ウイルス、RSV)、オルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス、例えばA型インフルエンザウイルス)又はコロナウイルス(例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2、SARS-CoV-2)である。
【0053】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、オルトニューモウイルス(例えば、呼吸器合胞体ウイルス、RSV)である。
【0054】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、オルトミクソウイルス(例えば、A型インフルエンザウイルス)である。
【0055】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、コロナウイルス(例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2、SARS-CoV-2)である。
【0056】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、A型インフルエンザウイルス及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群から選択される。
【0057】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)である。RSVは、例えばヒトにおいて気道の感染症を引き起こすことができる。一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、RSVではない。
【0058】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、A型インフルエンザウイルスである。インフルエンザA型は、例えばヒトにおいて気道の感染症を引き起こすことができる。一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、A型インフルエンザウイルスではない。
【0059】
一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)である。SARS-CoV-2は、例えばヒトにおいて気道の感染症を引き起こすことができる。SARS-CoV-2は、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)を引き起こすことができるウイルスである。一部の実施形態では、エンベロープウイルスは、SARS-CoV-2ウイルスではない。
【0060】
代替的見解では、一態様では、本発明は、エンベロープウイルス感染症によって引き起こされる疾患又は状態を処置する際に使用するための、本明細書で定義されている通りの化合物を提供する。本明細書で記述される発明の他の態様の実施形態を、本発明のこの態様に準用する。
【0061】
一部の実施形態では、処置される疾患又は状態は、気道感染症(例えば、上及び/又は下気道感染症)である。
【0062】
一部の実施形態では、処置される疾患又は状態は、インフルエンザである。
【0063】
一部の実施形態では、処置される疾患又は状態は、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)である。
【0064】
本発明に従う使用のための化合物は、典型的には、本発明に従う1種又は複数の化合物を、好適な希釈剤、担体及び/又は賦形剤と混和して含む、製剤又は組成物の形態で提示される(又は投与される)。好適な希釈剤、賦形剤及び担体は、当業者に公知である。故に、本発明は、エンベロープウイルス感染症を処置する際に使用するための、本明細書において定義されている通りの化合物を含む製剤(又は組成物)を提供する。当然ながら典型的に且つ好ましくは、製剤(又は組成物)は、医薬製剤(又は医薬組成物)である。故に、好ましくは、希釈剤、担体及び/又は賦形剤は、薬学的に許容可能な希釈剤担体及び/又は担体である。
【0065】
本発明に従う使用のための組成物は、例えば、経口、経鼻、気道(例えば、上気道)、非経口、イントラヴィーナル(intravenal)、局所又は経直腸投与に好適な形態で提示されてよい。当業者は、例えば処置される感染症の種類(又は場所)に基づき、適切な投与形態を容易に選択することができる。
【0066】
本発明に従う使用のための化合物(又は製剤若しくは組成物)は、経口的に、経鼻的に、非経口的に、静脈内に、局所的に又は経直腸的に投与されてよい。
【0067】
本発明に従う使用のための化合物(又は製剤若しくは組成物)は、気道、例えば上気道に投与されてよい。
【0068】
本明細書で使用される場合、用語「医薬」は、本発明の獣医学的適用を含む。
【0069】
本明細書で定義されている活性化合物は、従来の薬理学的投与形態、例えば錠剤、コーティング錠、液剤、乳剤、リポソーム剤、散剤、カプセル剤又は持続放出形態で提示されてよい。
【0070】
従来の医薬賦形剤及び通常の生成方法が、これらの形態の調製に用いられてよい。
【0071】
錠剤は、例えば、有効成分(単数又は複数)を、公知の賦形剤、例えば希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム若しくはラクトース、崩壊剤、例えばコーンスターチ若しくはアルギン酸、結合剤、例えばデンプン若しくはゼラチン、滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム若しくはタルカム、及び/又は持続放出を取得するための作用物質、例えばカルボキシポリメチレン、カルボキシメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース若しくはポリ酢酸ビニルと混合することによって生成されうる。
【0072】
錠剤は、所望ならば、幾つかの層からなってよい。コーティング錠は、錠剤と同様の方式で取得されたコアを、錠剤コーティングに一般的に使用される作用物質、例えば、ポリビニルピロリドン若しくはシェラック、アラビアゴム、タルカム、二酸化チタン又は糖でコーティングすることによって生成されうる。持続放出を取得するため又は配合禁忌を回避するために、コアも幾つかの層からなってよい。錠剤コートは、持続放出を取得するために幾つかの層からなってもよく、この事例では、錠剤について上記で言及した賦形剤が使用されうる。
【0073】
液剤(例えば、注射液剤)は、例えば保存剤、例えばp-ヒドロキシ安息香酸塩、又は安定剤、例えばEDTAの添加によって、例えば従来の方式で生成されてよい。液剤は、バイアル又はアンプル中に充填されてよい。
【0074】
1種又は数種の有効成分を含有するカプセル剤は、例えば、有効成分を、不活性担体、例えばラクトース又はソルビトールと混合し、混合物をゼラチンカプセル中に充填することによって、生成されうる。
【0075】
好適な坐剤は、例えば、有効成分又は有効成分組合せを、この目的のために想定された従来の担体、例えば天然脂肪若しくはポリエチレングリコール又はそれらの誘導体と混合することによって、生成されうる。
【0076】
投薬量は、パラメーター、例えば対象の年齢、体重及び性別に基づいて変動しうる。適切な投薬量は、当業者によって容易に確立されうる。適切な投薬量単位は、容易に調製されうる。
【0077】
本発明に従う処置は、エンベロープウイルス感染症(又はそれによって引き起こされる状態)の処置又は予防において使用される1種又は複数の更なる活性剤との共投与を伴ってよい。一般的に言えば、1種又は複数の更なる活性剤は、対象に、本発明に従う化合物と実質的に同時に、例えば単一の医薬組成物から又は密接に一緒に投与される2種の医薬組成物から、投与されてよい。故に、一部の実施形態では、医薬組成物は、1種又は複数の更なる有効成分(例えば、1種又は複数の更なる抗ウイルス化合物)を追加で含んでよい。代替として、1種又は複数の更なる活性剤は、対象に、本発明に従う化合物の投与に続いて一度に投与されてよい。「続いて一度に」は、本明細書で使用される場合、1種又は複数の更なる作用物質が対象に、本発明に従う化合物の投与とは異なる時間に投与されるような、「時差がある」ことを意味する。概して、2種の作用物質は、2種の作用物質にそれらのそれぞれの治療効果を発揮させるために有効に間隔を空けた時間で投与されるであろう、すなわち、それらは「生物学的に有効な時間間隔」で投与される。1種又は複数の更なる活性剤は、対象に、本発明に従う化合物の前に生物学的に有効な時間で、又は本発明に従う化合物に続いて生物学的に有効な時間で、投与されてよい。
【0078】
本明細書で使用される用語「処置」又は「療法」は、治療的及び予防的(又は防護的)療法を含む。故に、本発明に従う使用のための化合物は、治療的又は防護的使用のためのものであってよい。
【0079】
別の見方をすると、本発明は、対象(又は患者)においてエンベロープウイルス感染症を処置する方法であって、それを必要とする対象に、治療又は防護有効量の本明細書で定義されている通りの化合物を投与する工程を含む方法を提供する。本発明の他の態様に関して本明細書で記述される本発明の実施形態を、本発明のこの態様に準用する。
【0080】
本発明は、エンベロープウイルス感染症によって引き起こされる(又はそれによって特徴付けられる)疾患又は状態を処置する方法であって、それを必要とする患者に、治療又は防護有効量の本明細書で定義されている通りの化合物を投与する工程を含む方法も提供する。本発明の他の態様に関して本明細書で記述される本発明の実施形態を、本発明のこの態様に準用する。
【0081】
有効量(例えば、治療的又は防護的有効量)は、臨床評価に基づいて決定されることになり、容易にモニターされうる。投与される量は、典型的には、標的エンベロープウイルスの全部又は一部を死滅させる若しくは不活性化するため、又はそれらの再生産率を防止する若しくは低減させるため、又は体に対するそれらの有害な効果を別様に軽減させるために有効であるべきである。投与は防護的であってもよい。
【0082】
更に別の見方をすると、本発明は、エンベロープウイルス感染症の処置における使用のための医薬の製造における、本明細書で定義されている通りの化合物の使用を提供する。本発明の他の態様に関して本明細書で記述される本発明の実施形態を、本発明のこの態様に準用する。
【0083】
更に別の見方をすると、本発明は、エンベロープウイルス感染症によって引き起こされる(又はそれによって特徴付けられる)疾患又は状態の処置における使用のための医薬の製造における、本明細書で定義されている通りの化合物の使用を提供する。本発明の他の態様に関して本明細書で記述される本発明の実施形態を、本発明のこの態様に準用する。
【0084】
更に別の見方をすると、本発明は、エンベロープウイルス感染症の処置のための本明細書で定義されている通りの化合物の使用を提供する。本発明の他の態様に関して本明細書で記述される本発明の実施形態を、本発明のこの態様に準用する。
【0085】
更に別の見方をすると、本発明は、エンベロープウイルス感染症によって引き起こされる(又はそれによって特徴付けられる)疾患又は状態の処置のための本明細書で定義されている通りの化合物の使用を提供する。本発明の他の態様に関して本明細書で記述される本発明の実施形態を、本発明のこの態様に準用する。
【0086】
更なる態様では、エンベロープウイルスのエンベロープを不安定化する及び/又は透過させる際に使用するための、本発明の化合物が提供される。
【0087】
用語「対象」又は「患者」は、本明細書で使用される場合、任意の哺乳動物、例えばヒト及び任意の家畜、家庭内又は実験動物を含む。具体例は、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、雌ウシ及びサルを含む。しかしながら、好ましくは、対象又は患者はヒト対象である。故に、本発明に従って処置される対象又は患者は、好ましくはヒトとなる。
【0088】
一部の実施形態では、本発明に従う対象は、エンベロープウイルス感染症を有する対象である。一部の実施形態では、本発明に従う対象は、エンベロープウイルス感染症を有すると疑われる対象である。一部の実施形態では、本発明に従う対象は、エンベロープウイルス感染症を発病するリスクがある(又はそれにかかるリスクがある)対象であってよい。
【0089】
一部の実施形態では、本発明に従う対象は、エンベロープウイルス感染症によって引き起こされる疾患又は状態を有する対象である。一部の実施形態では、本発明に従う対象は、エンベロープウイルス感染症によって引き起こされる疾患又は状態を有すると疑われる対象である。一部の実施形態では、本発明に従う対象は、エンベロープウイルス感染症によって引き起こされる疾患又は状態を発病するリスクがある(又はそれにかかるリスクがある)対象であってよい。
【0090】
本発明は、本明細書で記述される方法及び使用における使用のための本発明に従う化合物の1種又は複数を含むキットも提供する。好ましくは、前記キットは、本明細書で記述される通りのエンベロープウイルス感染症を処置する際に使用するための説明書を含む。
【0091】
本出願全体を通して使用される場合、用語「a」及び「an」は、上限がその後具体的に記載されている場合を除いて、「少なくとも1つ」、「少なくとも最初」、「1つ又は複数」又は「複数」の参照されている成分又は工程を意味するという意味で使用される。
【0092】
加えて、用語「を含む(comprise)」、「を含む(comprises)」、「を有する(has)」若しくは「を有する(having)」又は他の同等の用語が本明細書で使用される場合、一部のより具体的な実施形態では、これらの用語は、用語「からなる」若しくは「から本質的になる」又は他の同等の用語を含む。
【0093】
ここで、以下の非限定的な実施例及び図を参照して、本発明について更に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1】緩衝液のみ(対照)又は1%LTX-109溶液(1%ペプチド(Peptid))とともに10分間のインキュベーション後の、レンチウイルス様粒子の電子顕微鏡検査画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0095】
(実施例1)
レンチウイルス様粒子エンベロープに対する1%LTX-109のインビトロ効果
この実施例において使用されるウイルスは、表面に水疱性口内炎糖タンパク質(VSV-G)を発現しているレンチウイルス様粒子である。このウイルス様粒子は、完全なエンベロープウイルスのように振る舞うが、ゲノムを有さない。ウイルス試料を、グロー放電EMグリッドに、グリッドを対照ウイルス(緩衝液中)又は1%LTX-109最終溶液を加えたウイルスのいずれかとともに10分間にわたってインキュベートすることにより、ロードした。次いで、グリッドを濾紙で乾燥させ、ネガティブ染色液(水中4%ウラニルアセタット(Uranyl acetat))を2分間にわたって添加した。染色液の除去後、グリッドを手短に乾燥させ、次いで、80kVのJEOL社JEM-1230電子顕微鏡で画像化した。画像をモラーダカメラで記録し、Adobe社フォトショップで更に加工した。取得した画像を図1に示す。
【0096】
図1は、対照(緩衝液のみ)処理(インキュベーション)後のレンチウイルス様粒子が無傷のエンベロープを有するのに対し、1%LTX-109処理(インキュベーション)後のレンチウイルス様粒子は破壊された(又は溶解された)エンベロープを有することを明確に示す。故に、この実験は、レンチウイルス様粒子に対するLTX-109の抗ウイルス膜破壊/不安定化効果を示す。
【0097】
(実施例2)
A型インフルエンザウイルス(IAV)に対するLTX-109の抗ウイルス活性
狙い
この研究の狙いは、IAV(A型インフルエンザウイルス)に対するLTX-109の抗ウイルス活性を試験することであった。
【0098】
方法
1%LTX-109(w/v)がIAVに対して抗ウイルス活性を有するか否かを試験するために、1×106感染単位のIAV(A/WSN/33;40μl)を、PBS(160μl)に溶解した4体積の1%LTX-109又はPBS(リン酸緩衝溶液)対照とともにインキュベートした。実験は三連で実施した。
【0099】
1時間後、過剰の冷培地を添加することによってインキュベーションを停止させ、フィルターを介して製剤をウイルスから物理的に分離して、アッセイ細胞における細胞毒性を低減させた。調製中の若干の濁りが1%製剤について観測されたが、沈殿はなかった。マイクロタイタープレート中のMDCK-II細胞の単層上で、連続希釈(一連の10倍希釈)を介して感染性ウイルスを定量化した(MDCK-II細胞は、ウイルス感染時に細胞変性効果(CPE)を表示することができる哺乳動物の細胞である)。連続希釈用の出発溶液(すなわち、原液(又は未希釈)溶液)は、濾過工程を介して分離されたウイルスを、1mlの培地に再懸濁することによって取得した。希釈系列におけるウイルスの各希釈について、マイクロタイタープレートの8つのウェルを試験した(すなわち、ウイルスの各希釈を8つの別個のウェルに適用し、各ウェルはMDCK-II細胞単層を含有していた)。適切な対照も実施した。細胞の感染から5日後、細胞の半分(所与の希釈のウェルの半分)がウイルス誘発性細胞変性効果を表示した希釈(TCID50)を決定することにより、ウイルス力価を定量化した。TCID50(TCID50/ml)アッセイ(組織培養感染量50アッセイ)は、当技術分野において周知であり、ウイルス力価を定量的に測定するために日常的に使用される、一種のエンドポイント希釈アッセイである。TCID50/mlは、ウイルス/mlの感染単位の尺度を提供する。「/ml」は、上記で言及した出発溶液(すなわち、原液/未希釈溶液)の/mlを指す。
【0100】
アッセイ細胞に対する製剤のあらゆる残留細胞毒性効果を決定するために、ウイルスの非存在下で同じ手順を行う並行試験を含めた。
【0101】
結果
A型インフルエンザウイルス(IAV)に対する1%LTX-109の抗ウイルス活性についての試験の結果を、Table 1(表1)(以下)にまとめる。
【0102】
1時間にわたるPBS対照とのインキュベーション後、IAVの5.16E+04 TCID50/mlの平均を測定した。
【0103】
1%LTX-109との1時間のインキュベーション後、1.58E+01 TCID50/mlの平均を測定し、これは、PBS対照と比較して、感染力における3ログを超える又は99.9%の減少に対応する。
【0104】
濾過後、最大で1%製剤の最初の希釈まで、試験の妥当性に影響を及ぼすことなく細胞毒性が観測された。
【0105】
【表1】
【0106】
結論
ここで報告された所見に基づき、インビトロで1時間にわたるIAVの1%LTX-109への曝露は、PBS対照と比較して3ログを超えるウイルス感染力における減少を引き起こし、これは、99.9%低減に対応する。これらの結果は、LTX-109がA型インフルエンザウイルス(エンベロープウイルス)に対して優れた抗ウイルス活性を有することを示す。
【0107】
(実施例3)
呼吸器合胞体ウイルスに対するLTX-109の抗ウイルス活性
狙い
この研究の狙いは、RSV(呼吸器合胞体ウイルス)に対するLTX-109の抗ウイルス活性を試験することであった。
【0108】
方法
1%LTX-109(w/v)及び0.1%LTX-109(w/v)がRSVに対して抗ウイルス活性を有するか否かを試験するために、1×105感染単位のRSV(40μl)を、PBS(160μl)に溶解した4体積の1%LTX-109若しくは0.1%LTX-109又はPBS(リン酸緩衝溶液)対照とともにインキュベートした。実験は三連で実施した。
【0109】
1時間後、過剰の冷培地を添加することによってインキュベーションを停止させ、フィルターを介して製剤をウイルスから物理的に分離して、アッセイ細胞における細胞毒性を低減させた。調製中の若干の濁りが特に1%製剤について観測されたが、沈殿はなかった。マイクロタイタープレート中のHep2細胞の単層上で、連続希釈(一連の10倍希釈)を介して感染性ウイルスを定量化した(Hep2細胞は、ウイルス感染時に細胞変性効果(CPE)を表示することができる哺乳動物の細胞である)。連続希釈用の出発溶液(すなわち、原液(又は未希釈)溶液)は、濾過工程を介して分離されたウイルスを、1mlの培地に再懸濁することによって取得した。希釈系列におけるウイルスの各希釈について、マイクロタイタープレートの8つのウェルを試験した(すなわち、ウイルスの各希釈を8つの別個のウェルに適用し、各ウェルはHep2細胞単層を含有していた)。適切な対照も実施した。細胞の感染から8日後、細胞の半分(所与の希釈のウェルの半分)がウイルス誘発性細胞変性効果を表示した希釈(TCID50)を決定することにより、ウイルス力価を定量化した。TCID50(TCID50/ml)アッセイ(組織培養感染量50アッセイ)は、当技術分野において周知であり、ウイルス力価を定量的に測定するために日常的に使用される、一種のエンドポイント希釈アッセイである。TCID50/mlは、ウイルス/mlの感染単位の尺度を提供する。「/ml」は、上記で言及した出発溶液(すなわち、原液/未希釈溶液)の/mlを指す。
【0110】
アッセイ細胞に対する製剤のあらゆる残留細胞毒性効果を決定するために、ウイルスの非存在下で同じ手順を行う並行試験を含めた。
【0111】
結果
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対する1%LTX-109及び0.1%LTX-109の抗ウイルス活性についての試験の結果を、Table 2(表2)(以下)にまとめる。
【0112】
1時間にわたるPBS対照とのインキュベーション後、RSVの3.13E+05 TCID50/mlの平均を測定した。
【0113】
1%LTX-109との1時間のインキュベーション後、1.58E+02 TCID50/mlの平均を測定し、これは、PBS対照と比較して、感染力における3ログを超える又は99.9%の減少に対応する。
【0114】
0.1%LTX-109との1時間のインキュベーション後、8.76E+01 TCID50/mlの平均を測定し、これは、PBS対照と比較して、感染力における3ログを超える又は99.9%の減少に対応する。
【0115】
濾過後、最大で1%製剤の最初の希釈まで、試験の妥当性に影響を及ぼすことなく細胞毒性が観測された。0.1%製剤について細胞毒性は観測されなかった。
【0116】
【表2】
【0117】
結論
ここで報告された所見に基づき、インビトロで1時間にわたるRSVの1%LTX-109又は0.1%LTX-109への曝露は、PBS対照と比較して3ログを超えるウイルス感染力における減少を引き起こし、これは、99.9%低減に対応する。これらの結果は、LTX-109がRSV(エンベロープウイルス)に対して優れた抗ウイルス活性を有することを示す。
【0118】
(実施例4)
SARS-CoV-2ウイルスに対するLTX-109の抗ウイルス活性
狙い
この研究の狙いは、SARS-CoV-2ウイルスに対するLTX-109の抗ウイルス活性を試験することであった。
【0119】
方法
1%LTX-109(w/v)がSARS-CoV-2に対して抗ウイルス活性を有するか否かを試験するために、5×106感染単位のSARS-CoV2(40μl)を、PBS(160μl)に溶解した4体積の1%LTX-109又はPBS(リン酸緩衝溶液)対照とともにインキュベートした。実験は三連で実施した。
【0120】
1時間後、過剰の冷培地を添加することによってインキュベーションを停止させ、フィルターを介して製剤をウイルスから物理的に分離して、アッセイ細胞における細胞毒性を低減させた。調製中の若干の濁りが1%製剤について観測されたが、沈殿はなかった。マイクロタイタープレート中のVero細胞の単層上で、連続希釈(一連の10倍希釈)を介して感染性ウイルスを定量化した(Vero細胞は、ウイルス感染時に細胞変性効果(CPE)を表示することができる哺乳動物の細胞である)。連続希釈用の出発溶液(すなわち、原液(又は未希釈)溶液)は、濾過工程を介して分離されたウイルスを、1mlの培地に再懸濁することによって取得した。希釈系列におけるウイルスの各希釈について、マイクロタイタープレートの8つのウェルを試験した(すなわち、ウイルスの各希釈を8つの別個のウェルに適用し、各ウェルはVero細胞単層を含有していた)。適切な対照も実施した。細胞の感染から5日後、細胞の半分(所与の希釈のウェルの半分)がウイルス誘発性細胞変性効果を表示した希釈(TCID50)を決定することにより、ウイルス力価を定量化した。TCID50(TCID50/ml)アッセイ(組織培養感染量50アッセイ)は、当技術分野において周知であり、ウイルス力価を定量的に測定するために日常的に使用される、一種のエンドポイント希釈アッセイである。TCID50/mlは、ウイルス/mlの感染単位の尺度を提供する。「/ml」は、上記で言及した出発溶液(すなわち、原液/未希釈溶液)の/mlを指す。
【0121】
アッセイ細胞に対する製剤のあらゆる残留細胞毒性効果を決定するために、ウイルスの非存在下で同じ手順を行う並行試験を含めた。
【0122】
結果
SARS-CoV-2ウイルスに対する1%LTX-109の抗ウイルス活性についての試験の結果を、Table 3(表3)(以下)にまとめる。
【0123】
1時間にわたるPBS対照とのインキュベーション後、SARS-CoV-2の4.27E+06 TCID50/mlの平均を測定した。
【0124】
1%LTX-109との1時間のインキュベーション後、1.99E+02 TCID50/mlの平均を測定し、PBS対照と比較して、感染力における4ログを超える又は99.99%の減少に対応する。
【0125】
濾過後、最大で1%製剤の最初の希釈まで、試験の妥当性に影響を及ぼすことなく細胞毒性が観測された。
【0126】
【表3】
【0127】
結論
ここで報告された所見に基づき、インビトロで1時間にわたるSARS-CoV-2の1%LTX-109への曝露は、PBS対照と比較して4ログを超えるウイルス感染力における減少を引き起こし、これは、99.9%低減に対応する。これらの結果は、LTX-109がSARS-CoV-2(エンベロープウイルス)に対して優れた抗ウイルス活性を有することを示す。
【0128】
(実施例5)
SARS-CoV-2ウイルスに対するLTX-12の抗ウイルス活性
狙い
この研究の狙いは、SARS-CoV-2ウイルスに対するLTX-12の抗ウイルス活性を試験することであった。
【0129】
方法
使用したSARS-CoV-2分離株は、BEI Resources:SARS-CoV-2 isolate England/02/2020(BEI Resourcesカタログ番号(NR52359)由来のものであった。
【0130】
LTX-12がSARS-CoV-2に対して抗ウイルス活性を有するか否かを試験するために、7×105感染単位のSARS-CoV-2(40μl)を、PBS(160μl)に溶解した4体積の1%LTX-12(w/v)又はPBS(リン酸緩衝溶液)陰性対照とともにインキュベートした。陽性対照として、PBS中に0.2%トリトンを含有する緩衝液を並行して試験した。各試料及びPBS対照を三連で試験した。
【0131】
室温(RT)で1時間後、過剰の冷アッセイ培地(5ml)を添加することによってインキュベーションを停止させ、フィルター(Sartorius社ビバスピン6、100000MWCO、PES(Sartorius社、VS0642))を介して製剤をウイルスから物理的に分離して、アッセイ細胞における細胞毒性を低減させた。アッセイ培地は、0.4%BSA(Gibco社15260037)及び1X p/s(Gibco社15070063)を補充したM199培地(Gibco社、41150087)であった。
【0132】
前日に8000細胞/100μl/ウェルにてマイクロタイタープレート中で平板培養したVero細胞の単層上で、連続希釈(一連の10倍希釈、10-1から10-8)を介して感染性ウイルスを定量化した(Vero細胞は、ウイルス感染時に細胞変性効果(CPE)を表示することができる哺乳動物の細胞(アフリカミドリザル上皮細胞)である)。連続希釈を作製するための出発溶液(すなわち、原液(又は未希釈)溶液)は、濾過工程を介して分離されたウイルスを、1mlのアッセイ培地に再懸濁し、次いで、出発溶液の連続希釈(10-1から10-8)を作製することによって取得した。希釈系列におけるウイルスの各希釈(10-1から10-8)について、マイクロタイタープレートの8つのウェルを試験した(すなわち、ウイルスの各希釈を8つの別個のウェルに適用し、各ウェルはVero細胞単層を含有していた)。適切な対照も実施した。細胞の感染から4日後、Reed及びMuenchの方法(L. J. Reed及びH. Muench、American Journal of Epidemiology、第27巻、第3号、1938、493~497頁)を使用し、細胞の半分(所与の希釈のウェルの半分)がウイルス誘発性細胞変性効果を表示した希釈(TCID50)を決定することにより、ウイルス力価を定量化した。TCID50(TCID50/ml)アッセイ(組織培養感染量50アッセイ)は、当技術分野において周知であり、ウイルス力価を定量的に測定するために日常的に使用される、一種のエンドポイント希釈アッセイである。TCID50/mlは、ウイルス/mlの感染単位の尺度を提供する。「/ml」は、上記で言及した出発溶液(すなわち、原液/未希釈溶液)の/mlを指す。
【0133】
アッセイ細胞に対するLTX-12のあらゆる残留細胞毒性効果を決定するために、ウイルスの非存在下で同じ手順を行う並行試験を含めた。
【0134】
結果
SARS-CoV-2ウイルスに対するLTX-12の抗ウイルス活性についての試験の結果を、Table 4(表4)(以下)にまとめる。
【0135】
1時間にわたるPBS対照とのインキュベーション後、SARS-CoV-2の6.86E+05 TCID50/mlの平均を測定した。
【0136】
LTX-12との1時間のインキュベーション後、1.58E+02 TCID50/mlの平均を測定し、PBS対照と比較して、感染力における3ログを超える又は99.977%の減少に対応する。
【0137】
トリトンベースの溶解緩衝液(陽性対照)との1時間のインキュベーション後、2.80E+01 TCID50/mlを測定し、PBS対照と比較して、感染力における4ログを超える又は99.996%の減少に対応する。
【0138】
上記で言及した並行試験において、Vero細胞(アッセイ細胞)に対する有意な細胞毒性は観測されなかった。
【0139】
【表4】
【0140】
結論
ここで報告された所見に基づき、インビトロで1時間にわたるSARS-CoV-2のLTX-12への曝露は、PBS対照と比較して約3.6ログのSARS-CoV-2感染力における減少を引き起こし、これは、少なくとも99.9%低減に対応する。これらの結果は、LTX-12がSARS-CoV-2(エンベロープウイルス)に対して優れた抗ウイルス活性を有することを示す。
【0141】
陽性対照としてのトリトンは、ベンチマークを提供し、アッセイの適性を確認する。エンベロープウイルスは、トリトンに感受性であることが公知であり、トリトン(陽性対照)の影響はLTX-12のそれをわずかに超えるが、試験ペプチド(LTX-12)は比較すると依然として良好に機能を果たす。
【0142】
細胞毒性試験は、濾過工程後のウイルスに関連しうるいかなる残留ペプチドも、TCID50アッセイにおいて見られた活性の原因ではないことを示す。
【0143】
(実施例6)
A型インフルエンザウイルスに対するLTX-7の抗ウイルス活性
狙い
この研究の狙いは、A型インフルエンザに対するLTX-7の抗ウイルス活性を試験することであった。
【0144】
方法
使用したA型インフルエンザ株は、A/WSN/33(H1N1)株であった。
【0145】
LTX-7がA型インフルエンザに対して抗ウイルス活性を有するか否かを試験するために、5×105感染単位のA型インフルエンザ(40μl)を、PBSに溶解した4体積の1%LTX-7(w/v)又はPBS(リン酸緩衝溶液)陰性対照とともにインキュベートした。陽性対照として、PBS中に0.2%トリトンX-100を含有する緩衝液を並行して試験した。各試料及びPBS対照を三連で試験した。
【0146】
室温(RT)で1時間後、過剰の冷アッセイ培地(5ml)を添加することによってインキュベーションを停止させ、フィルター(Sartorius社ビバスピン6、100,000MWCO、PES(Sartorius社、VS0642))を介して製剤をウイルスから物理的に分離して、アッセイ細胞における細胞毒性を低減させた。アッセイ培地は、0.1%FBS(Gibco社10500-064)、20mM Hepes(Gibco社15630-056)、0.3%BSAフラクションV(Gibco社15260037)及び1X p/s(Gibco社15070063)を補充したDMEM(Gibco社61965-026)であった。
【0147】
前日に9,000細胞/100μl/ウェルにてマイクロタイタープレート中で平板培養したMDCK-II細胞の単層上で、連続希釈(一連の10倍希釈、100から10-7)を介して感染性ウイルスを定量化した(MDCK-II細胞は、ウイルス感染時に細胞変性効果(CPE)を表示することができる哺乳動物の細胞(メイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞)である)。連続希釈用の出発溶液(すなわち、原液(又は未希釈)溶液又は100溶液)は、濾過工程を介して分離されたウイルスを、1mlのアッセイ培地に再懸濁することによって取得した。希釈系列におけるウイルスの各希釈(100から10-7)について、マイクロタイタープレートの8つのウェルを試験した(すなわち、ウイルスの各希釈を8つの別個のウェルに適用し、各ウェルはMDCK-II細胞単層を含有していた)。適切な対照も実施した。細胞の感染から4日後、Reed及びMuenchの方法(L. J. Reed及びH. Muench、American Journal of Epidemiology、第27巻、第3号、1938、493~497頁)を使用し、細胞の半分(所与の希釈のウェルの半分)がウイルス誘発性細胞変性効果を表示した希釈(TCID50)を決定することにより、ウイルス力価を定量化した。TCID50(TCID50/ml)アッセイ(組織培養感染量50アッセイ)は、当技術分野において周知であり、ウイルス力価を定量的に測定するために日常的に使用される、一種のエンドポイント希釈アッセイである。TCID50/mlは、ウイルス/mlの感染単位の尺度を提供する。「/ml」は、上記で言及した出発溶液(すなわち、原液/未希釈溶液)の/mlを指す。
【0148】
アッセイ細胞に対するLTX-7のあらゆる残留細胞毒性効果を決定するために、ウイルスの非存在下で同じ手順を行う並行試験を含めた。
【0149】
結果
A型インフルエンザウイルス(IAV)に対するLTX-7の抗ウイルス活性についての試験の結果を、Table 5(表5)(以下)にまとめる。
【0150】
1時間にわたるPBS対照とのインキュベーション後、A型インフルエンザの1.33E+06 TCID50/mlの平均を測定した。
【0151】
LTX-7との1時間のインキュベーション後、1.58E+01 TCID50/mlの平均を測定し、これは、PBS対照と比較して、感染力における4ログを超える又は99.99%を超える減少に対応する。
【0152】
トリトンX100溶解緩衝液(陽性対照)との1時間のインキュベーション後、1.58E+01 TCID50/mlを測定し、PBS対照と比較して、感染力における4ログを超える又は99.99%を超える減少に対応する。
【0153】
濾過後、MDCK-II細胞に対する細胞毒性は、LTX-7製剤の原液適用、トリトンX-100(陽性対照)及びPBS(ウイルスなし)で(のみ)観測されたが、試験の妥当性に影響を及ぼすことはなかった。
【0154】
【表5】
【0155】
結論
ここで報告された所見に基づき、インビトロで1時間にわたるA型インフルエンザのLTX-7への曝露は、PBS対照と比較して4.75ログのA型インフルエンザの感染力における減少を引き起こした。これは、少なくとも99.99%低減に対応する。これらの結果は、LTX-7がA型インフルエンザ(エンベロープウイルス)に対して優れた抗ウイルス活性を有することを示す。
【0156】
陽性対照としてのトリトンX-100は、ベンチマークを提供し、アッセイの適性を確認する。エンベロープウイルスは、トリトンX-100に感受性であることが公知である。LTX-7は、この研究において陽性対照と同様に良好に機能を果たす。
【0157】
細胞毒性試験は、LTX-7のMDCK-II細胞への直接適用が、あらゆる連続希釈が実施される前(すなわち、原液製剤で)のみ細胞毒性であることを示す。故に、濾過工程後のウイルスに関連しうるいかなる残留ペプチドも、TCID50アッセイにおいて見られた活性の原因ではない。
図1
【国際調査報告】