(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】第二鉄の供給を必要とする培養細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20240227BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240227BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240227BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C12N5/078
C12N1/00 B
C12N5/071
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557690
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2022057221
(87)【国際公開番号】W WO2022195098
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523356455
【氏名又は名称】エリーファルム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム ルソー
(72)【発明者】
【氏名】マリー-カトリーヌ ジャラターナ
(72)【発明者】
【氏名】フロラン マチュー
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065BB03
4B065BC01
4B065BC22
4B065BD22
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、第二鉄の供給を必要とする培養細胞を製造するための方法であって、トランスフェリンを含有する培地を含む灌流バイオリアクター中で培養対象の細胞を培養する工程を含み、前記バイオリアクターに第二鉄の供給源が供給され、及び、前記培地はバイオリアクター出口で76kDa未満のカットオフ閾値を有するフィルターによってろ過される、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二鉄の供給を必要とする培養細胞を製造するための方法であって、トランスフェリンを含有する培地を含む灌流バイオリアクター中で培養対象の細胞を培養する工程を含み、前記バイオリアクターに第二鉄の供給源が供給され、及び前記培地は前記バイオリアクター出口で76kDa未満のカットオフ値を有するフィルターによってろ過される、方法。
【請求項2】
第二鉄の供給を必要とする前記培養細胞がヘモグロビン及び/又はミオグロビンを含む細胞である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第二鉄の供給を必要とする前記培養細胞が赤血球系細胞、培養赤血球、又は培養肉細胞である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第二鉄の供給を必要とする前記培養細胞が培養赤血球であり、及び前記培養対象の細胞が赤血球系幹細胞又は前駆細胞、又は赤血球系統の不死化細胞株の細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
灌流液及び/又は前記培地がさらに、栄養素、ならびに増殖因子、サイトカイン、及び/又はホルモンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記カットオフが50kDa未満、好ましくは15kDa未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第二鉄供給源が第二鉄塩又は第二鉄錯体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第二鉄供給源が第二鉄及びキレート剤の錯体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第二鉄供給源が第二鉄及びクエン酸の錯体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記バイオリアクターフィルターがタンジェンシャル濾過システムである、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記バイオリアクターフィルターが中空繊維からなる、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
トランスフェリン飽和係数が10%超、好ましくは50%超の値で維持される、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記バイオリアクター中のトランスフェリン濃度が10~3000μg/mlである、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第二鉄を必要とする培養細胞を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
培養肉、培養赤血球系細胞又は赤血球など、動物又はヒト起源の産物を置き換えるためのいくつかの技術は、大量の動物又はヒト細胞の製造を必要とする。
【0003】
しかし、動物又はヒト細胞の産業スケールでの製造には多くの障害があり、コストが高すぎること及び収率が低すぎることが特に障害となっている。
【0004】
コストのほとんどは、血清を置換するため又は補うために培地に加えられるタンパク質、ホルモン、及び増殖因子、特にそれらの組換え体に由来する。
【0005】
例えば、培養肉生産用の細胞の回分培養では、4種の必要な増殖因子、すなわちインスリン、トランスフェリン、FGF-2、及びTGF-βのコストが培地のコストの99%を占めると算出されており、FGF-2及びTGF-βのみが96%を占めていた(Specht (2020) “An analysis of culture medium costs and production volumes for cultured meat”, The Good Food Institute)。一方、赤血球培養のような第二鉄を要する培養ではトランスフェリン関連のコストが高くなる。
【0006】
したがって、Giarratana et al (2011) “Proof of principle for transfusion of in vitro-generated red blood cells”, Blood 118:5071-5079は、末梢血から単離された造血幹細胞からの、培養赤血球のex vivo製造を記載している。しかし、使用されるプロセスは産業又は医療用途ではコストがかかりすぎる。特にその理由として、培地を1週間に数回、完全に交換する必要があり、その培地には増殖因子及びトランスフェリン(330μg/ml)が多く含まれ、トランスフェリン濃度が、上述の例で培養肉を調製するための細胞の製造に必要な濃度の約30倍であるということが挙げられる。
【0007】
トランスフェリンの非タンパク質代用物が提案されており、その例としてクエン酸第二鉄が挙げられる(Eto et al. (1991) Agric. Biol. Chem. 55:863-865)。
【0008】
しかし、この種の置き換えの工業的実現可能性は、特に第二鉄を要する培養においてはまだ確立されていない。
【0009】
そのため、第二鉄を必要とする培養細胞製造のための工業化可能なプロセスに対する需要が存在する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、タンパク質、特にトランスフェリンの必要量を最小限に抑えつつ、灌流バイオリアクターにおける細胞産生を最大限にすることができたという本願発明者らの予期せぬ発見に基づくものである。
【0011】
したがって、本発明は、第二鉄の供給を必要とする培養細胞を製造するための方法であって、トランスフェリンを含有する培地を含む灌流バイオリアクター中で培養対象の細胞を培養する工程を含み、前記バイオリアクターに第二鉄の供給源が供給され、及び前記培地がバイオリアクター出口で76kDa未満のカットオフ閾値を有するフィルターによって濾過される、方法に関する。
【0012】
有利には、上記定義された方法により、従来技術の方法と比較して、「細胞の生産量/トランスフェリンの使用量」の比率を高めることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
「含むこと(comprising)」という用語は、「含むこと(including)」、「含むこと(containing)」、又は「包含すること(encompassing)」を意味するということにあらかじめ留意されたい。すなわち、ある対象が1つ又はいくつかの要素を「含む(comprises)」場合、言及されている以外の要素も前記対象に含まれうる。対照的に、「~からなる(consisting of)」という表現は、「~から構成される(constituted by)」という意味である。すなわち、ある対象が1つ又はいくつかの要素「からなる」場合、前記対象には、言及されている要素以外の要素は含まれない。
【0014】
細胞
本発明による細胞は、第二鉄の供給を必要とするいずれの種類のものであってもよい。
【0015】
それらは好ましくは真核細胞、より好ましくは動物細胞、特に鳥、哺乳類、又はヒトの細胞である。
【0016】
それらは自身が培養対象の細胞であってよく、例として、NK細胞、リンパ球、特にキメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞)、赤血球系細胞、特に赤芽球、培養赤血球、又は培養肉細胞、又は、目的とする分子、特にタンパク質、より特には抗体又は抗体誘導体、とりわけモノクローナル抗体を製造するために培養される細胞が挙げられる。
【0017】
好ましくは、第二鉄を必要する培養細胞は、ヘモグロビン及び/又はミオグロビンを含む細胞である。
【0018】
好ましくは、第二鉄を必要とする培養細胞は赤血球系細胞、特に赤芽球、培養赤血球、又は培養肉細胞である。
【0019】
本明細書では、「培養肉」は「合成肉」又は「クリーンミート」と同義であると理解される。
【0020】
本発明による細胞は、幹細胞、前駆細胞、又は赤血球系統の不死化細胞株の細胞であってもよい。
【0021】
幹細胞は、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、又は、造血幹細胞及び/又は前駆細胞(HSC/HP)であってよい。好ましくは、本発明の方法は、細胞供給源として造血幹細胞(HSC)を使用する。
【0022】
赤血球系統の不死化細胞株由来の細胞は、赤血球前駆細胞又は赤血球前駆段階で不死化することができる。造血幹細胞(HSC)も不死化することができる。
【0023】
不死化は条件的に行われることが好ましい。そして、これらの不死化細胞はin vitroで無限に継代することができ、凍結保存及び再生が可能であり、及び、定義済みの、及びよく特徴づけられた供給源から、完全に分化した赤血球を条件的に生成することができる。条件的不死化は、当業者に周知のいずれの方法でも達成することができる。
【0024】
胚性幹細胞(ESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)は多能性幹細胞である。これらの細胞はどちらも多数の細胞型に分化し、及び自己複製することができる。それらは分裂によって増殖しながらこの多能性分化を維持する。胚性幹細胞とは、動物発生の初期段階である胚盤胞期の胚に由来する、多能性幹細胞のことを指す。人工多能性幹細胞(iPSC)は、線維芽細胞などの体細胞にいくつかの種類の転写因子の遺伝子を導入することによって製造される。
【0025】
本発明による胚性幹細胞(ESC)は、ヒト胚の破壊を必要としない任意の手段によって得られる。例えば、Chung et al (Chung et al, Human Embryonic Stem Cell lines generated without embryo destruction, Cell Stem Cell (2008))によって記載された技術を用いる。また、本発明の方法はヒト胚を使用せず、及び、ヒトの発生過程を誘導することを意図したものではない。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、本発明の方法で使用される幹細胞は、ヒト胚性幹細胞(hESC)及び/又はiPSCではない。
【0027】
本発明の方法で使用される造血幹細胞(HSC)はマルチポテント(multipotent)な細胞である。それらは全ての血球分化系統に分化することができ、及び、そのマルチポテンシー(multipotency)を維持しながら自己複製することができる。
【0028】
不死化した赤血球系統の細胞は、すでに赤血球系統にコミットしているが、自己複製が可能であり、及び、赤血球系統の細胞に分化するように外部制御下にある細胞である。
【0029】
本発明の方法で使用される造血幹及び/又は前駆細胞(HSC/HP)は、骨髄、臍帯/胎盤血液、又は末梢血を含む任意の供給源から、事前の動員が有るか、又は無いかを問わず、得ることができる。
【0030】
幹細胞、及び赤血球系統の不死化細胞系統の細胞の起源は、哺乳類由来である限り特に限定されない。好ましい例としては、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、及び同種のものが挙げられ、ヒトが最も好ましい。
【0031】
限定されるものではないが、本発明の方法で使用される細胞は、万能給血者由来の赤血球、希少な血液型由来の赤血球、個別化医療のための赤血球(自家輸血;場合により遺伝子操作を伴うもの)、及び、1つ又は複数の目的のタンパク質を含むように設計された赤血球を産生することができる。
【0032】
上記の実施形態のいずれかと組み合わせてもよい特定の実施形態において、本発明の方法で使用される細胞は、Oh、CDE/CDE、CdE/CdE、CwD-/CwD-、-D-/-D-、Rhnull、Rh:-51、LW(a-b+)、LW(ab-)、SsU-、SsU(+)、pp、Pk、Lu(a+b-)、Lu(ab-)、Kp(a+b-)、Kp(ab-)、Js(a+b-)、Ko、K:-11、Fy(ab-)、Jk(ab-)、Di(b-)、I-、Yt(a-)、Sc:-1、Co(a-)、Co(ab-)、Do(a-)、Vel-、Ge-、Lan-、Lan(+)、Gy(a-)、Hy-、At(a-)、Jr(a-)、In(b-)、Tc(a-)、Cr(a-)、Er(a-)、Ok(a-)、JMH-、及びEn(a-)を含むが限定されない希少血液型を有する患者から単離されたものであってよい。
【0033】
本発明の1つの実施形態によれば、細胞は、胚性幹細胞(ESC)、好ましくはヒト胚性幹細胞(hESC)、及び好ましくは、H1、H9、HUES-1、HUES-2、HUES-3、HUES-7、CLO1株からなる群から選択される胚性幹細胞、及び、多能性幹細胞(iPSC)、好ましくはヒト多能性幹細胞(hiPSC)、でありうる。
【0034】
好ましくは、細胞は造血幹細胞(HSC)、より好ましくはヒト造血幹細胞である。
【0035】
臍帯/胎盤血又は末梢血、骨髄、又はアフェレーシスに由来する細胞の場合、本発明の方法の工程a)の前に、特異的CD34+細胞選択工程を行うことができる。
【0036】
アフェレーシスは、体外血液循環を使用して特定の血液成分を除去するための技術である。除去対象の成分は遠心分離によって分離され、及び抽出され、除去されない成分はドナー(血液)又は患者に再注入される(治療的アフェレーシス)。
【0037】
CD34+(陽性)とは、CD(分化クラスター(differentiation cluster))34抗原が細胞表面に発現していることを意味する。この抗原は造血幹細胞及び造血前駆細胞のマーカーであり、及び、分化するにつれて消失する。同様の細胞集団はCD133陽性細胞も含む。
【0038】
開始細胞がESC、iPSC、又は赤血球系統の不死化細胞株の細胞である場合、バイオリアクター内の培養工程の上流に前培養工程を追加して細胞を増殖させ、及び場合によってそれらを分化経路、特に赤血球系統にコミットさせることができる。
【0039】
好ましくは、第二鉄の供給を必要とする培養細胞は培養赤血球であり、及び、培養対象の細胞は赤血球系幹細胞又は前駆細胞、又は赤血球系統の不死化細胞株の細胞である。
【0040】
細胞供給源が何であれ、輸送及び保存のために、培養対象の細胞の予備的な凍結工程が必要とされることが多い。細胞凍結法は当業者に周知であり、及び、プログラムされた温度降下、及び乳糖又はジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結保護剤の使用を含む。DMSOを培地に添加すると、それが凍結過程の細胞における細胞内及び細胞外結晶の形成を防止する。
【0041】
したがって、本発明の特定の一実施形態においては、本発明の方法は、培養対象の細胞が凍結されている場合、灌流バイオリアクター内の培養工程に先立ち、細胞解凍工程を含む。細胞の解凍方法は、当業者に周知である。
【0042】
解凍は、特にDMSOが凍結に使用された場合、このプロセスにおいて重要な工程である。この化合物は、細胞懸濁液が液体窒素又は窒素蒸気中に保持されている限り、凍結保存性がある。しかし、細胞懸濁液が解凍されるとすぐに細胞毒性になる。したがって、当業者に周知のように、DMSOは、細胞を解凍した際に数回の洗浄工程を極めて速やかに行い、除去する必要がある。
【0043】
あるいは、開始細胞は新鮮であってもよい。すなわち、細胞の収集及び培養の間の時間は凍結を必要としないほど短く、好ましくは48時間未満である。これは例えば、サンプリングセンターが生産センターと同じ場所又は近くにある場合などであってもよい。
【0044】
培養方法
灌流は、使用済培地を排出し、灌流液を加えることによって培地を更新しながら、細胞をバイオリアクターに保持するか、又は循環させ及びバイオリアクターに戻す連続培養法である。したがって、使用済及び排出培地には細胞が含まれていない。この場合、培地がバイオリアクター出口で濾過され、透過液が生成する。
【0045】
本発明による灌流バイオリアクターの培養段階の目的は、培養細胞を増殖させること、及び、培養赤血球の製造の場合には、その分化を脱核網状赤血球の段階まで完了させることである。
【0046】
培養は灌流培養に適したバイオリアクターで行う。灌流細胞培養に適したバイオリアクターは、多数のモデルが当業者に公知である。
【0047】
バイオリアクターは、好ましくは0.5~5000Lの容量を有する。
【0048】
好ましくは、バイオリアクターは、細胞の酸素要求を満たし、及び、二酸化炭素(CO2)の供給及び/又は除去を制御することによってpHを制御する、ガス交換手段を有する。好ましくは、ガス交換手段は低せん断である。
【0049】
好ましくは、次の増殖条件のうち少なくとも1つが、より好ましくはそれらすべてが、制御又は調節される:
・撹拌;
・pH;
・溶存酸素(DO);
・温度;
・バイオリアクターの容積又はレベル
・灌流速度;
・特に炭水化物、アミノ酸、ビタミン、及び鉄から選択される、栄養素の供給;
・増殖因子、サイトカイン、及び/又はホルモンの供給;
・バイオリアクターのファウリング、及びフィルターエレメントの目詰まり。
【0050】
好ましくは、培養は、3000万細胞/mlを超える細胞濃度を得るのに充分な時間行われる。好ましくはこの時間は5日間~25日間、より好ましくは10日間~20日間である。
【0051】
好ましくは、培養温度は33℃及び40℃の間、より好ましくは35℃及び39℃の間、及び、さらに好ましくは36℃及び38℃の間である。
【0052】
好ましくは、培養pHは7及び8の間、より好ましくは7.2及び7.7の間である。
【0053】
好ましくは、培養DOは1%及び100%の間、より好ましくは10%及び100%の間である。
【0054】
有利には、灌流バイオリアクター培養工程により、培養細胞を、回分及び流加培養では達成不可能な水準にまで、すなわち、約3000万細胞/ml超、及び2億細胞/mlにまで、濃縮することができる。有利には、本発明のプロセスの灌流バイオリアクター培養工程は、培養細胞を分化させることにも使用することができる。有利には、培養赤血球を製造する場合、灌流バイオリアクター培養段階終了時の脱核細胞の割合は50%、60%、70%、又は80%を超える。
【0055】
本発明の一実施形態では、灌流培養工程の前に少なくとも1回の回分又は流加バイオリアクター培養工程を行う。
【0056】
回分培養では培地が更新されないため、細胞は限られた栄養素しか供給されない。一方、流加培養は、栄養素及び/又は培地の供給を伴う回分培養に相当する。
【0057】
回分又は流加バイオリアクター培養工程の利点は、培養対象の細胞があらかじめ増幅されること、及び、培養赤血球の製造の場合は、開始細胞が赤血球系統へ/赤血球系統内でコミット又は分化すること、又は、開始細胞の赤血球系統への/赤血球系統内でのコミット又は分化が強化されることである。
【0058】
このように、培養赤血球の製造の場合、本発明の一実施形態においては、培養細胞が赤血球系統にコミットするまで回分又は流加バイオリアクターで培養工程を継続することが可能である。本発明のこの実施形態によれば、細胞は、赤血球系統に特異的な1つ又は複数の特徴をそれらが示す場合に、赤血球系統に充分にコミットしたと考えられ、その特徴の例として、フローサイトメトリーなどによって測定可能なCD235マーカーを示す細胞の割合が50%超であること、又は、メイ・グリュンワルド・ギムザ色素で染色後の細胞学的な計数などによって測定可能な赤血球系の表現型を有する細胞の割合が50%超であることなどが挙げられる。
【0059】
回分又は流加バイオリアクターにおける1回又は複数回の、例えば1回及び4回の間の、連続又は反復培養を行うことができる。
【0060】
回分又は流加バイオリアクターの種類は、一般的に動物細胞を培養できる限り特に限定されない。好ましくは、工程a)のバイオリアクターの容量は、0.5~5000L、より好ましくは0.5~500Lである。
【0061】
本発明の一実施形態において、本発明の培養細胞の製造方法は、灌流バイオリアクター培養工程後に得られた培養細胞を精製するための工程を含む。
【0062】
精製工程の目的は次の通りである:
・プロセスから潜在的に有毒な残留物を除去するために細胞を洗浄すること;及び
・培養赤血球の製造の場合、脱核細胞をできる限り濃縮するために細胞を選別すること。
【0063】
精製工程は、1つ又は複数の操作、特に粒子選別操作及び洗浄操作を含む場合がある。洗浄操作は、粒子選別操作の前及び/又は後に実行してよい。
【0064】
培養赤血球製造の場合、粒子選別によって、特に赤芽球及び潜在的な残留骨髄性細胞を排除することにより、脱核細胞率が増加する。赤芽球は、脱核細胞分化段階に達していない、すなわち網状赤血球又は赤血球に達していない、培養細胞である。粒子選別により、細胞残渣、DNA、及びピレノサイト(pyrenocyte)などの細胞不要物も排除される。
【0065】
本発明による粒子選別は、タンジェンシャル濾過、前面濾過(frontal filtration)、及びエルトリエーション(elutriation)からなる群から選択される少なくとも1つの操作を含むことができる。
【0066】
タンジェンシャルフロー濾過は、当業者に周知である。これは、粒子を液体から、そのサイズに応じて分離する濾過法である。タンジェンシャル濾過では液体の流れがフィルターと平行であり、一方、全量濾過では液体の流れがフィルターに垂直である。流体の圧力によってフィルターの通過が可能となる。その結果、より小さな粒子はフィルターを通過し、より大きな粒子は液体の流れによって移動し続ける。
【0067】
全量濾過は、当業者に周知である。その原理は、除去対象となる粒子をフィルターを形成する多孔質ネットワーク内部に保持することからなる。濾過は、4つのメカニズムに基づく:(I)粒子/壁の付着力、(ii)粒子間の付着力、(iii)立体障害、及び(iv)粒子上の流体の抗力(drag force)。その有効性は、特に材料、孔径、繊維の絡み合いの種類、及び、濾過対象の材料の量に対する濾過表面積の割合に依存する。
【0068】
エルトリエーションは、各種サイズの粒子の分離及び粒径分析のための技術である。エルトリエーションはストークスの法則に基づく。細胞を含む流体を既知の速度でチャンバーに送り、そこで粒子に制御された遠心力をかける。粒子は、2つの力(流体抗力及び遠心力)が互いに打ち消しあった時に懸濁液内に残る。
【0069】
好ましくは、本発明による粒子選別操作は、一連の前面濾過、及び場合によってはエルトリエーションを含む。
【0070】
洗浄操作の目的は、特に、工程b)の細胞培養物に存在する可能性のある毒性化合物の量を、その毒性閾値未満に減少させることである。
【0071】
洗浄操作は、1回又は複数回の遠心分離、及び/又は、1回又は複数回のエルトリエーションを含んでいてよい。
【0072】
遠心分離は、当業者に周知である。これは、混合物中の化合物を、それらの密度差及び抗力に基づいて分離するための方法であり、前記化合物を一方向の遠心力、及び場合によっては反対方向の流れにかけることによって行う。
【0073】
好ましくは、本発明による洗浄工程は、一連のエルトリエーション操作を含む。
【0074】
粒子選別、洗浄、及び製剤化の工程は72時間未満、及びより好ましくは12時間未満の時間で行われる。
【0075】
培地
好ましくは、バイオリアクターには、培地を含んでいてよい灌流液が供給される。
【0076】
当業者は、本発明に従った適切な培地を選択又は調製することができる。適切な培地の例としては、国際公開第2011/101468(A1)号パンフレット及びGiarratana et al. (2011) “Proof of principle for transfusion of in vitro-generated red blood cells”, Blood 118:5071-5079の論文に記載されているものが挙げられる。
【0077】
前記培地は一般に、DMEM、IMDM、RPMI 1640、MEM、又はDMEM/F12培地などの真核細胞用の基本培地を含み、これらは当業者に周知であり、及び広く市販されている。
【0078】
培地又は灌流液は血漿も、特に0.5%~6%(v/v)の量で、含んでいてよい。
【0079】
好ましくは、培地又は灌流液には、栄養素及び増殖因子、サイトカイン、及び/又はホルモンも含まれる。
【0080】
このように、当業者は、特定の成分の添加又は特定の成分の量の調整によって、培地及び灌流液を適合させることができ、それら成分としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、各種アミノ酸、各種ヌクレオシド、各種ビタミン、各種抗酸化物質、脂肪酸、炭水化物及び類似体、ウシ胎児血清、ヒト血漿、ヒト血清、ウマ血清、ヘパリン、コレステロール、エタノールアミン、セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、界面活性剤、脂肪滴、抗生物質寒天、コラーゲン、メチルセルロース、各種サイトカイン、各種ホルモン、各種増殖因子、各種小分子、各種細胞外マトリクス、及び各種細胞接着分子が挙げられる。
【0081】
培地又は灌流液に含まれるサイトカインは、例として、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-11(IL-11)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-14(IL-14)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-21(IL-21)、インターフェロン-A(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、単球コロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、白血病細胞抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OM)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
培地又は灌流液に含まれる各種小分子としては、StemRegenin 1(SR1)などのアリール炭化水素受容体アンタゴニスト、UM171などの造血幹細胞自己再生アゴニスト、及び同種のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
培地又は灌流液に含まれる増殖因子としては、トランスフォーミング増殖因子-α(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、マクロファージ炎症性タンパク質-la(MIP-1α)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子-1、2、3、4、5、6、7、8、又は9(FGF-1、2、3、4、5、6、7、8、9)、神経細胞増殖因子(NGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、白血病抑制因子(LIF)、ネキシンIプロテアーゼ、ネキシンIIプロテアーゼ、血小板由来増殖因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、各種ケモカイン、Notchリガンド(Delta 1など)、Wntタンパク質、アンジオポエチン様タンパク質2、3、5、又は7(Angpt 2、3、5、7)、インスリン様成長因子(GF)、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)、プレイオトロフィン、及び同種のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
培地又は灌流液中のホルモンとしては、デキサメタゾン又はヒドロコルチゾンなどのグルココルチコイドファミリーのホルモン、T3及びT4などの甲状腺ホルモンファミリーのホルモン、ACTH、アルファ-MSH、又はインスリンなどが挙げられる。
【0085】
フィルター
本発明によるフィルターは、バイオリアクター内で増殖した細胞を保ちながら、使用済培地を透過液の形で除去する。
【0086】
「カットオフ」値、又はフィルター孔径は、フィルターによる保持率が90%である、濾過培地中の最小化合物のモル質量と定義される。一般に、市販のフィルターにはカットオフ値が明記されている。
【0087】
好ましくは、本発明によるカットオフは50kDa未満、好ましくは15kDa未満である。好ましくは、本発明によるカットオフは1kDa超である。好ましくは、本発明によるカットオフは、1kDa~50kDa、より好ましくは1kDa~15kDaである。
【0088】
好ましくは、フィルターはタンジェンシャル濾過システムである。
【0089】
タンジェンシャルフロー濾過は、当業者に周知である。これは、粒子を液体から、そのサイズに応じて分離する濾過法である。液体の流れがフィルターに垂直である全量濾過とは対照的に、タンジェンシャル濾過では液体の流れがフィルターと平行である。流体の圧力によってフィルターの通過が可能となる。その結果、より小さな粒子はフィルターを通過し、より大きな粒子は液体の流れによって移動し続ける。
【0090】
好ましくは、フィルターは中空繊維又はフィルターカセットからなる。
【0091】
第二鉄の供給源
第二鉄供給源は、直接、専用の供給ラインを介して、又は灌流液を介して、バイオリアクターに供給を行うことができる。後者の場合、第二鉄供給源は灌流液に含まれる。
【0092】
好ましくは、第二鉄供給源はタンパク質性のものではない。すなわち、非タンパク質である。より好ましくは、第二鉄供給源はトランスフェリンではない。
【0093】
好ましくは、第二鉄供給源は第二鉄塩又は第二鉄錯体である。
【0094】
第二鉄塩の例として、塩化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、又は二リン酸鉄などが挙げられる。
【0095】
より好ましくは、第二鉄供給源は第二鉄及びキレート剤の錯体である。
【0096】
好ましくは、キレート剤は、クエン酸、メチルグリシン二酢酸(MGDA、例えばTrilon(登録商標)M)、2,4-ペンタンジオン(ACAC)、N-(2-アミノエチル)イミノ二酢酸(AEIDA)、1,2-ジヒドロキシベンゼン(CAT)、1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CDTA)、アセトヒドロキサム酸、酢酸、デスフェリフェリオキサミン(desferriferrioxamine)B(DFB)、1,8-ジヒドロキシナフタレン-4-スルホン酸(DHNS)、ジピコリン酸(DIPIC)、1-2-ジメチルエチレンジアミン四酢酸(DMEDTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(DOTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、オキシビス(エチレンニトリロ)四酢酸(EEDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、エチレン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシフェニルグリシン(EHPG)、グリシン(Gly)、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(HBED)、N-(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミンーN,N’,N-三酢酸(HBET)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸(HEDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)、イミノ二酢酸、コウジ酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、シュウ酸、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、ピコリン酸(PIC)、N,N’-ビス(2-メチル-3-ヒドロキシ-5-ヒドロキシメチル-4-ピリジルメチル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(PLED)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(TETA)、3,5-ジスルホカテコール(Tiron)、トリメチレンジアミン四酢酸(TMDTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(TRITA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、デフェロキサミン、デフェリプロン、トロポロン、及びヒノキチオールからなる群から選択される。
【0097】
より好ましくは、第二鉄供給源は第二鉄及びクエン酸の錯体である。
【0098】
好ましくは、第二鉄供給源は、培地に含まれるトランスフェリンの飽和係数を10%超、好ましくは50%超の値に維持するのに充分な量でバイオリアクター又は灌流液に供給される。
【0099】
トランスフェリン
【0100】
本発明によるトランスフェリンは、培養中の細胞に第二鉄を供給することができるいずれの種類のものであってもよい。
【0101】
好ましくは、トランスフェリンは、鳥、動物、特に哺乳類、例えばウシ、ブタ、又はヒトの、トランスフェリンである。好ましくは、トランスフェリンは培養細胞と同じ種に属するものである。トランスフェリンは血漿から抽出することができる。好ましくは、トランスフェリンは組換え体である。好ましくは、トランスフェリンは、コメにおいて組み換えにより産生されるヒトトランスフェリンである。
【0102】
好ましくは、バイオリアクター内のトランスフェリン濃度は10~3000μg/ml、より好ましくは10~500μg/mlである。
【0103】
好ましくは、バイオリアクター又は培地に添加する前に、トランスフェリンに第二鉄をロードする。
【0104】
好ましくは、トランスフェリン飽和係数は10%超、好ましくは50%超の値に維持される。
【0105】
トランスフェリン飽和係数は分光光度的に、特にBates & Schlabach (1973) J. Biol. Chem. 248:3228-3232、又はSteere et al. (2012) J. Inorg. Biochem. 116:37-44に記載されるように、測定することができる。
【0106】
トランスフェリン飽和係数は、バイオリアクター又は灌流液中の第二鉄供給源を調整することによって制御することができる。
【0107】
好ましくは、本発明の方法は、産生される培養細胞あたり、特に培養赤血球あたり、10-10g未満、より好ましくは10-11g未満、さらに好ましくは5.10-12g未満のトランスフェリンを消費する。
【0108】
本発明を、以下の限定されない実施例を用いてさらに説明する。
【実施例】
【0109】
本発明の細胞製造方法を、“Giarratana et al. (2011) Proof of principle for transfusion of in vitro-generated red blood cells” Blood 118:5071-5079の論文に基づく連続回分培養(比較例)と比較する。両者とも1個の血液バッグ、すなわち赤血球2.1012個に相当する量を製造するスケールである。
【0110】
回分培養の場合、培地全体を週2回更新する必要があり、及び、体積が増加した。
【0111】
【0112】
回分培養(比較例)
必要な培地の総量は2210.5Lである。トランスフェリンは培地に300μg/ml含まれる。必要なトランスフェリンの総量は663.15gである。
【0113】
それに比べ、トランスフェリンが第二鉄の供給源(クエン酸鉄)によって連続的に再チャージされる本発明の灌流培養(出口において10kDaのカットオフを有する中空繊維フィルターを備えた25Lバイオリアクター)の場合、トランスフェリンは、方法の開始時に反応器に充填するために使用される培地にのみ供給され、培地の組成は連続回分におけるものと類似する。
【0114】
【0115】
本発明による灌流培養
トランスフェリンは、バイオリアクターを占める培地に300μ/mlの濃度で含まれる。必要なトランスフェリンの総量は7.5gである。
【0116】
本発明による方法は、同量の細胞の産生及び同一の増殖率に対して必要なトランスフェリンの量を88.4倍減少させることが分かる。また、産生される赤血球の量に対するトランスフェリンの量は3.75.10-12g/赤血球である。
【国際調査報告】