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特表2024-510045インピーダンスの経皮測定を行う方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】インピーダンスの経皮測定を行う方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0533 20210101AFI20240227BHJP
【FI】
A61B5/0533
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574753
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2022051870
(87)【国際公開番号】W WO2022175051
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】2102479.9
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】523319368
【氏名又は名称】ゼレミック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】レーン ロドニー ポール
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127AA03
4C127AA04
4C127AA07
4C127BB05
4C127LL13
(57)【要約】
本発明は、生体組織の複素インピーダンスを測定する非侵襲的経皮装置に関する。本装置は、使用時に、皮膚表面に連結される少なくとも2つの電極と、電極に電位を加える信号源と、電極の間の生体組織を通る信号の変化を検出するモニタと、信号源とモニタとに動作可能に連結されるプロセッサであって、信号源を使用して電極に電位を印加することにより、角質層の電気インピーダンスを低減させ、かつ、モニタを使用して、α分散及びβ分散スペクトルに相当する複素経皮インピーダンスAC信号を測定するように構成される、プロセッサとを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織の複素インピーダンスを測定する非侵襲的経皮装置であって、
使用時に、皮膚表面に連結される少なくとも2つの電極と、
前記電極に電位を加える信号源と、
前記電極の間の生体組織を通る信号の変化を検出するモニタと、
前記信号源と前記モニタとに動作可能に連結されるプロセッサであって、
前記信号源を使用して前記電極に電位を印加することにより、角質層の電気インピーダンスを低減させ、かつ、
前記モニタを使用して、α分散及びβ分散スペクトルに相当する複素経皮インピーダンスAC信号を測定するように構成される、プロセッサと、を備える、装置。
【請求項2】
前記AC信号は10Khzよりも低い周波数を有する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記AC信号は約1KHzから1GHzの範囲内の周波数を有する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記装置はまた、γ分散スペクトルに相当するAC信号のモニタリングを行う、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記角質層の電気インピーダンスを低減させるために前記電極に印加する電位は、1Vから150Vの範囲内である、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記電極は、ヒトの皮膚の角質層のインピーダンスに近い大きさの均一な電気インピーダンスを有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記電極のインピーダンスは約10Ωcmである、請求項7記載の装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記電極を用いて共通の信号を入力して、電位を与えることによって前記角質層の電気インピーダンスを低減させるとともに測定用入力信号を供給する、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記電極を用いて別々の信号を入力して、電位を与えることによって前記角質層の電気インピーダンスを低減させるとともに測定用入力信号を供給する、請求項1から7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記モニタを用いて、前記電気信号内の位相シフトを検出及び/または測定する、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、生体組織の複素インピーダンスを用いて、被験者からの生体信号に関する相関データを検出する、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記生体信号は、脳波図(EEG)、心電図(ECG)、筋電図(EMG)、眼電図(EOG)、網膜電図(ERG)、胃筋電図(EGG)、電気皮膚反応(GSR)、及び皮膚電位(EDA)のうちの1つ以上を含む、請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記プロセッサは、生体組織の複素インピーダンスを用いて、体内の少なくとも1つの対象物質を表すインピーダンスの変動を測定する、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記少なくとも1つの対象物質は、血糖、血中アルコール、及びコレステロールのうちの1つ以上を含む、請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記装置はウェアラブルデバイスを備える、先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
生体組織の複素インピーダンスの非侵襲的経皮測定方法であって、
被験者の皮膚に少なくとも2つの電極を連結し、
前記電極に電位を印加して角質層の電気インピーダンスを低減させて、
α分散及びβ分散スペクトルに相当する複素経皮インピーダンスAC信号のモニタリングを行う、ステップを含む方法。
【請求項17】
前記電極へ電位を印加するステップはさらに、測定用入力信号を同時に印加することを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記α分散及びβ分散スペクトルに相当する複素経皮インピーダンスAC信号のモニタリングを行うステップはさらに、γ分散スペクトルに相当するAC信号のモニタリングを行うことを含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記モニタリングを行うステップは、前記電気信号内の位相シフトを検出及び/または測定することを含む、請求項16から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法はさらに、生体組織の複素インピーダンスを用いて、前記被験者からの生体信号に関する相関データを検出することを含む、請求項16から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法はさらに、生体組織の複素インピーダンスを用いて、体内の少なくとも1つの対象物質を表すインピーダンスの変動を測定することを含む、請求項16から20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、生体組織の複素インピーダンスの非侵襲的経皮測定を行う方法及び装置に関する。
[背景技術]
生体組織のインピーダンスの測定は、様々な医療用モニタリング用途において有用であることが分かっている。
【0002】
例えば、米国特許第5795293号明細書では、生体電気信号のモニタリングを行うシステム及び方法が開示されている。このような生体信号は概して経時変化する生体電気信号であり、特定の生体組織、臓器、または細胞系によって生成される。一般的な生体信号としては、例えば脳波図(Electroencephalogram:EEG)、心電図(Electrocardiogram:ECG)、筋電図(Electromyogram:EMG)、眼電図(Electrooculogram:EOG)、網膜電図(Electroretinogram:ERG)、胃筋電図(Electrogastrogram:EGG)、及び電気皮膚反応(Galvanic skin response:GSR)や皮膚電位(electrodermal activity:EDA)が挙げられる。通例では生体信号の測定は経皮で行われ、被験者の皮膚に取り付けられた電極を介して行われる。
【0003】
測定信号を経皮で組織内に導入して、その結果生じる反応を検出することによる生体組織の能動的な測定のために、インピーダンスを使用することも可能である。このような技術は、生体組織内の物質のレベル、例えば血液中のある物質の濃度を算出するために利用できる可能性がある。例えば、米国特許第8903484号明細書では、患者の水分補給や呼吸の測定値として、インピーダンスを測定する方法及び装置が開示されている。
【0004】
有用な応用であるにもかかわらず、生体組織の複素インピーダンスの信頼できる測定を非侵襲的に経皮で行える商業的に利用可能な方法または装置は今のところ存在していない。信頼性が高く効果的な技術があれば有益であることは明らかである。例えば、健康状態のモニタリング機能を提供可能なウェアラブルデバイス(例えばスマートウォッチ)に対する需要が一般的に存在する。さらに、いくつかの健康状態は、定期的なモニタリングが必要であり、ウェアラブル機器(または、体外型経皮デバイスと比べて難点がかなり多い植込み型デバイス)によってのみ提供できる連続モニタリングが有効である。例えば、糖尿病は世界的に死因や病因の代表格の一つであり、その患者数は著しく増加している。糖尿病のコントロールには血中グルコース値(血糖値)の管理が必須である。このような管理では通常、例えば、指穿刺器具を用いて血液滴を採取することにより、または植込み型デバイスまたはパッチを使用することにより実施可能な直接血液検査が必要になる。
【0005】
したがって、グルコース値等の血液物質のモニタリングを非侵襲的に経皮で行う手法を提供することへの要望があることは理解されよう。米国特許第6517482号明細書では、皮膚組織のインピーダンス測定に基づいてグルコース値を求める方法及び装置が提案されている。しかし、この特許は、商業的に利用可能なデバイスや方法を生み出してはいない。さらに、この特許は、電極が配置される皮膚表面を生理食塩水と導電性ゲルで処置しなければならないので、ウェアラブルデバイス等において実現可能である現実的な解決策を必ずしも提供していないように考えられる。
[発明の概要]
本発明の第1態様によれば、生体組織の複素インピーダンスを測定する非侵襲的経皮装置が提供され、本装置は、使用時に、(被験者の)皮膚表面に連結される少なくとも2つの電極と、電極に電位を加える信号源と、電極の間の生体組織を通る信号の変化を検出するモニタと、信号源とモニタとに動作可能に連結されるプロセッサであって、信号源を使用して電極に電位を印加することにより、角質層の電気インピーダンスを低減させ、かつ、モニタを使用して、α分散及びβ分散スペクトルに相当する複素経皮インピーダンスAC信号を測定するように構成されている、プロセッサと、を備えている。
【0006】
本発明の別の態様によれば、生体組織の複素インピーダンスの非侵襲的経皮測定方法が提供され、本方法は、被験者の皮膚に少なくとも2つの電極を連結し、電極に電位を印加して角質層の電気インピーダンスを低減させて、α分散及びβ分散スペクトルに相当する複素経皮インピーダンスAC信号のモニタリングを行うことを含む。
【0007】
特定の理論に縛られることなく、出願人は、先行技術の方法及び装置の制約は、皮膚の上側部分が備えている有効層、特に角質層に起因するようであることを認識した。角質層のインピーダンス(約105Ωcmで30nF/cm)は、それより下方にある組織のインピーダンスよりも数桁高い。絶縁層の作用は経皮測定する際に生体信号の減衰を生じさせるため、その結果、現行の方法で行える測定法の種類は限定されてきた。交流(AC)信号にさらされると、角質層の絶縁作用がキャパシタと同様の働きをするので、このような信号の減損は信号の周波数が低いほど最も顕著になる。そのため、現在のところ、約10Khzより低い周波数(β分散スペクトルの下端及びα分散スペクトルの全領域に相当する)で生体組織の複素インピーダンスを経皮測定する信頼性の高い手法は存在していない。
【0008】
本発明の各実施形態は、電極を介して皮膚に電位を印加して角質層の実効電気インピーダンスを低減させることによって、これらの問題に効果的に対処する。したがって、こうすることにより、α分散及びβ分散スペクトルに相当する信号のモニタリングを含む、身体からの生体信号と皮膚を通したインピーダンス測定値との両方のモニタリングを、より効果的に行うことが可能になる。
【0009】
いくつかの実施形態において、AC信号は10Khzよりも低い周波数を有していてもよい。例えば、AC信号は約1KHzから1GHzの範囲内の周波数を有している(例えば10kHzから100Hzの範囲内であってもよい)。
【0010】
本装置はまた、γ分散スペクトルに相当するAC信号のモニタリングを行ってもよい。このようなγ分散スペクトルは100MHzより上で発生し、よって、既存の方法で測定可能な場合もあるが、本発明の各実施形態であれば、定義された分散領域(つまりα、β、γ分散)の全てを効果的に測定可能である。
【0011】
出願人は、角質層の電気インピーダンスの低減を実現するのに必要な電位は、1つの二重層に必要な電位に二重層の数(当業者ならば、角質層は70~100個の脂質と角質細胞との二重層を備えていることが理解されよう)を乗じたものの関数であるとみなすことができることを確認した。このように、各実施形態において、電極に印加する電位は1Vから150Vの範囲内であってもよい。より詳細には、電位は14~40Vの範囲内であってもよい。
【0012】
各実施形態において、電極は、ヒトの皮膚の角質層のインピーダンスに近い大きさの均一な電気インピーダンスを有していてもよい。例えば、電極のインピーダンスは約105Ωcmである。出願人は、電位を印加すると、毛包と汗腺からなる優先的な伝導路が脂質-角質細胞の内側層と外側層の間の唯一の接続になるのを防ぐことを発見している。
【0013】
プロセッサは、電極を用いて共通の信号を入力して、電位を与えることによって角質層の電気インピーダンスを低減させるとともに測定用入力信号を供給してもよい。あるいは、プロセッサは、電極を用いて別々の信号を入力して、電位を与えることによって角質層の電気インピーダンスを低減させるとともに測定用入力信号を供給してもよい。
【0014】
プロセッサは、モニタを用いて、電気信号内の位相角シフトを検出及び/または測定してもよい。位相角シフトは、例えば血中グルコース値の検出に使用されるような非常に有望な指標を与えてくれることが、出願人によって発見されている。位相角シフトを測定値として用いることは、本発明の各実施形態において角質層の電気インピーダンスを低減した結果としてもたらされた信号感度の向上によって、直接的に可能になると考えられる。
【0015】
いくつかの実施形態において、プロセッサは、生体組織のインピーダンスの低減を利用して、被験者からの生体信号の検出を強化してもよい。生体信号は、脳波図(EEG)、心電図(ECG)、筋電図(EMG)、眼電図(EOG)、網膜電図(ERG)、胃筋電図(EGG)、電気皮膚反応(GSR)、及び皮膚電位(EDA)のうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0016】
プロセッサは、生体組織の複素インピーダンスを用いて、体内の少なくとも1つの対象物質を表すインピーダンスの変動を測定してもよい。少なくとも1つの対象物質は、血糖、血中アルコール、及びコレステロールのうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0017】
本装置はウェアラブルデバイスを備えていてもよい。ウェアラブルデバイスは、常置のまたは半常置のパッチ等であっても、または腕時計やペンダント等の形態のデバイスであってもよい。ウェアラブルデバイスは例えば、皮膚に面する面に、使用時には被験者の皮膚との接触状態が保たれるように配置される電極を有していてもよい。
【0018】
本装置はさらに、プロセッサに連結される、測定値を記憶するメモリを備えていてもよい。本装置はさらに表示器またはディスプレイを備えていてもよい。本装置は無線通信送信器、例えば無線送信器(Wi-Fi、Bluetooth、または他の通信プロトコルを使用してもよい)を有していてもよい。本装置はさらに電源、例えば充電式バッテリを備えていてもよい。
【0019】
各実施形態に係る方法は、電極へ電位を印加するステップを含んでもよく、さらに測定用入力信号を同時に印加することを含んでもよい。α分散及びβ分散スペクトルに相当する複素経皮インピーダンスAC信号のモニタリングを行うステップはさらに、α分散スペクトルに相当するAC信号のモニタリングを行うことを含んでもよい。
【0020】
モニタリングを行うステップは電気信号内の位相シフトを検出及び/または測定することを含んでもよい。
【0021】
各実施形態に係る方法はさらに、生体組織の複素インピーダンスを用いて、被験者からの生体信号を検出することを含んでもよい。各実施形態の方法はさらに、生体組織の複素インピーダンスを用いて、体内の少なくとも1つの対象物質を表すインピーダンスの変動を測定することを含んでもよい。
【0022】
上記で本発明を説明してきたが、本発明は、上記において、または以下の説明もしくは図面において記載されている特徴のいかなる発明的組み合わせにも適用される。
【0023】
特に明記しない限り、記載された整数の各々は、当業者であれば理解されるように、他の任意の整数と組み合わせて使用してもよい。さらに、本発明の全ての態様は、その態様に関して説明されている特徴を「備える(comprise)」ことが好ましいが、請求項で略述しているこれらの特徴から「なる(consist)」または「本質的になる(consist essentially)」こともあり得ることが特に想定される。また、本明細書にて特に規定されない限り、全ての用語は、当該技術において一般的に理解される意味が与えられていることとする。
【0024】
さらに、本発明の説明では、反することを記述しない限り、あるパラメータの許容範囲の上限値または下限値の代替値の開示は、代替値の依り小さな値とより大きな値の間にあるそのパラメータの各中間値自体もパラメータが取り得る値として開示されていることを含意する説明として解釈される。
【0025】
また、特に明記しない限り、本願に登場する全ての数値は、「約」という語によって修正されるものとして理解される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の各実施形態は様々な手法で実施可能であり、これらの実施形態を、もっぱら例として、添付図面を参照して以下に説明する。
図1図1は、ヒトの皮膚組織の構造を示す断面図である。
図2図2は、角質層の構造を図示する。
図3A図3Aは、外表面上にある細孔が疎水性であるときの脂質層を示す。
図3B図3Bは、外表面上にある細孔が親水性であるときの脂質層を示す。
図4図4は、皮膚組織のある領域の表面での経皮電気的接続を示す。
図5図5は第1実施形態に係る装置を模式的に示す。
図6図6は第2実施形態に係る装置を模式的に示す。
図7図7は本発明の一実施形態に係るウェアラブルデバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[発明の詳細な説明]
以下において各実施形態を記載するが、文脈のために、かつ、本発明の動作の明確な理解のために、皮膚の構造と特性を図1~4を参照して説明する。
【0028】
身体は、生体信号として知られる測定可能な電気信号を発生しており、その信号は適切な機器を使用することによって受動的に検出できる。また、電気信号を体内に導入してその反応を測定することによる、生体組織の能動的な測定を行う技術も存在している。いずれの場合においても、測定手法は経皮で(つまり外表面から皮膚を介して)行われ、非侵襲的検査/モニタリングを行う方法及び装置を提供することが好ましい。しかし、以下においてさらに説明するように、経皮測定方法は皮膚の電気インピーダンスの影響を受け、皮膚の電気インピーダンスはこのような方法の適用範囲と有効性の両方を大きく阻害する可能性がある。そのような影響を小さくする手法の1つは測定を行う前に皮膚を擦り剥くことであるが、こうすると侵襲的処置になって、不快感や皮膚の炎症を生じさせるおそれがある。よって、本発明の各実施形態は、真に非侵襲的のままである方法及び装置を提供することに努める。
【0029】
図1に示されているように、皮膚または表皮1は最大で5つの層で構成されている。基底層2は表皮の最深層であり、立方体状及び円柱状の細胞からなる。有棘層3は、細胞間結合部に局所的に存在し、組織の一体性を機械的に維持するのに寄与するデスモソーム接着タンパク質複合体によって接続されている皮膚細胞からなる。顆粒層4は、外皮層の形成に寄与する成分を有する皮膚細胞からなる。透明層5は、掌と足裏にのみ存在する特殊な剪断層である。角質層6は、皮膚の最外層であり、表皮の他の層を保護する機能を有する、特殊な非常に丈夫な皮膚細胞からなる。
【0030】
全層のうち、角質層6は、皮膚を通過する電気信号に対する最も高いインピーダンス障壁を示す。図2に示されているように、角質層は角化細胞で構成されており、角化細胞は、表皮のより下層で生成されて角質層6まで押し上げられ、そこで非常に頑丈な細胞外皮を有する角質細胞11へと変わる。角質細胞11は、どの位置でも15~40層で互いに密集して、皮膚に対する外側の密な保護被覆を形成するその様子から、「れんが」に例えることもできる。ケノサイトの連続層の間隙は、顆粒層4内部の微小な層状体から放出された脂質13で満たされている。脂質は概ね、脂質-角質細胞マトリックスの「れんが」の間にある「モルタル」に例えることもできる。
【0031】
角質細胞11と脂質13との密集層の組み合わせにより、電気信号が容易に流れない高インピーダンス層が形成されている。
【0032】
角質層6のインピーダンス(約105Ωcmで30nF/cm)は、下方にある生体信号を発生する組織のインピーダンスよりも数桁高い。生体信号を収集する際に許容できないレベルの減衰を防ぐために、一般に、既存の測定装置は、角質層よりも著しく高い入力インピーダンスを有することを要する。これは効果的ではあるが、実行可能な測定の種類が大幅に限定されてしまう。
【0033】
生体信号の検出に加えて、生体インピーダンスは健康関連用途において有用な測定値となり得る。角質層6が直流(DC)信号の流れを大きく妨害する有効な絶縁層となるので、直流電圧を用いた生体インピーダンス測定は有効ではない。しかし、この表皮1の外側層は、交流(AC)信号にさらされるとキャパシタと同様の作用をもたらすので、AC電圧は生体の「複素インピーダンス」を測定するのに利用可能であることが分かった。このようにして行う複素インピーダンス測定には、純粋な抵抗成分と、リアクタンスとして知られる、容量性要素に起因する成分との情報が含まれる。
【0034】
残念なことに、測定に使用されるAC信号の周波数を低くしてDC信号に近づいていくと、当該方法の有効性が損なわれて、完全に無効となってしまう。この効果が持つ意味を十分に説明するには、組織の挙動を理解することが必要である。
【0035】
典型的な生物組織は、α、β、γ分散領域として知られる定義された3つの分散領域を有している。最も低い周波数のα分散は、1kHz未満のAC測定信号で起こり、細胞膜を横断するイオンの流れからの界面分極作用によって推進される。
【0036】
α分散は、細胞膜内部のタンパク質チャネルの周波数依存コンダクタンス、帯電している細胞表面付近にある周波数に依存する対イオン環境、及び収縮組織内の小胞体作用と関係する。
【0037】
β分散または中間周波数分散は、300kHz前後のAC測定周波数で起こり、細胞内空間と細胞外空間の間のイオンの流れに対する障壁として機能する細胞の細胞膜の電気分極によって発生する。細胞の直径、膜容量、及び流体の導電性が、タンパク質と有機高分子の分極からの寄与とともに、この作用を決定する。
【0038】
γ分散または高周波数分散は100MHzを超えて起こるが、主として分極した水分子の緩和が寄与している。
【0039】
上述の皮膚インピーダンスの問題は、先行技術の方法を用いてAC信号を用いた複素インピーダンス測定が、β分散領域の下端の10kHzから支障を来し始めることを意味し、1kHz未満でα分散領域に達する時には既存の先行技術の方法はほとんど無効であることを意味する。このように、先行技術の方法では現在のところ、β分散領域の下端内において、またはα分散領域の全ての範囲内において、生体組織の経皮複素インピーダンス測定を高い信頼性で行う手法は提供されていない。
【0040】
出願人は、皮膚に電位を印加すると、一時的に角質層の電気インピーダンスを低減させることができ、経皮インピーダンスの測定/モニタリングの改善を可能にすることを確認した。特定の理論に縛られることなく、この電気インピーダンスの低減の根拠を以下に説明し、本発明の理解を補佐する。
【0041】
ヒトの皮膚は厚さが1mm程度であり、角質層6が最外の10~40μmを構成している。図2に示されているように、角質細胞11は幅が30μmで深さが1μmの略六角形の形状をしており、これらが組織化されて、密に積層された平面層状の角質層6になる。角質細胞は、コルネオデスモゾーム12として知られる接合部で互いに結合されている。残りの細胞外空間には高導電性の塩イオン14で充填されている。角質細胞の各層の間には、スフィンゴ脂質、脂肪酸、及びコレステロールを含む特定の脂質13の層が存在する。角質層は、70~100個のこれらの脂質と角質細胞との二重層10、つまり脂質-角質細胞マトリックスと称される構造で構成されている。
【0042】
図3Aに示されているように、二重層10内の脂質分子13の横方向の熱揺らぎに応じて、脂質15の外膜に疎水性の細孔が形成される。この細孔は疎水性であり、細孔の内側部分が互いに反発している状態で配列されようとする。これにより、脂質が密に配置された状態16になった矩形状の形態になり、脂質-角質細胞マトリックスの二重層積層内で隣り合う角質細胞層の間のあらゆる間隙を閉鎖する。
【0043】
図3Bに描かれているように、角質細胞と脂質10の二重層の両端に電位差が200~400mVである電圧を印加すると、それまでは疎水性であった脂質膜上の細孔が親水性17になり、その結果互いに引き寄せあう。これにより、脂質全体としての外形の端部が丸くなり(18)、その結果、細胞外の塩イオンが脂質-角質細胞マトリックスの二重層間を接続させることが可能になり、二重層を横切る電気信号の流れに対するインピーダンスを大幅に低減させる。
【0044】
出願人は、この処理を脂質-角質細胞マトリックス6の二重層の全てにわたって繰り返すと、角質層の電気インピーダンスが数桁低減できることを認識した。これを実現するのに必要な電位は、1つの二重層当たりに必要な電位に二重層の数を乗じたものの関数である。このような効果をもたらすために十分な電位は1V~150Vの範囲内であり、特に14~40Vの範囲内の電位であればこの効果を効果的に実現できる。
【0045】
図1及び4から分かるように、考慮される必要がある皮膚の他の特徴は、毛包8及び汗腺7の通り穴が角質層を横切っている箇所である。これらの領域では、角質細胞がこれら毛包や汗腺穴9に対して垂直に並んでおり、角質層の厚さを構成する細胞の数がこれらの箇所では大きく減少することを意味している。その結果、角質層のこれらの領域は、皮膚を通過する電気にとって優先的な電流路になり、脂質-角質細胞マトリックスの平坦層にとって必要な電位よりもはるかに小さい電位を印加することでインピーダンスの大幅な低減が実現される。
【0046】
角質層の脂質-角質細胞マトリックス内でインピーダンスを均一に低減することは、生体信号測定及び生体の複素インピーダンス測定の改善を実現する際の鍵となる寄与要素である。したがって、出願人は、インピーダンスの低減を生じさせるのに必要な電位を角質層に印加する際、毛包と汗腺からなる優先的な伝導路が脂質-角質細胞の内側層と外側層の間の唯一の接続になることを確実に防ぐことが効果的であることを認識した。
【0047】
本発明の各実施形態では、これは、角質層6と同様の大きさの均一な内蔵電気インピーダンスを有する電気的接続部19を皮膚表面に使用することによって実現可能である。このようにすることでより一様な電荷分布がもたらされる。その理由は、電流が毛包と汗腺9の経路に沿って優先的に流れようとする場合に、皮膚への電気的接続部19に用いられている物質の内部インピーダンスがこれらの領域での電位差を下げる結果となるので、電流の流れが著しく増えることを防ぐからである。これにより、電荷を、角質層6の脂質-角質細胞マトリックスを横断して必要とされる電位を実現するのに十分なほど高いレベルまで高めることが可能になり、よって、脂質13内の疎水性細孔15が親水性17になることを可能にする。角質細胞層11の間に障壁の開口18ができると、開口が塩イオン14で充填されて、角質層6を貫く導電路が得られる。
【0048】
上述の効果を活用するために、本発明の各実施形態は、図5に示されているように、生体組織の複素インピーダンスを測定する非侵襲的経皮装置20を提供し得る。本装置は、使用時に被験者の皮膚表面に連結される少なくとも2つの電極19a,19bを有するか、またはそれらに接続されている。リード線またはワイヤ32によって装置に取り付けられている電極19が装置に固着されているか、あるいは脱着可能/交換可能であるか(例えば単回使用の衛生的な電極パッチ)は、装置の種類によって決まることを理解できるであろう。
【0049】
本装置はさらに、(例えばリード線32を介して)電極19a,19bに連結され、電極に電位を加えるように構成されている信号源22を備えている。また、モニタ24も電極19a,19bに連結されており、電極19a,19bの間の生体組織を通過する信号の変化を検出する。モニタで検出された信号の変化は、デバイスが入力した信号に起因するインピーダンスの変化、及び/または、体内で自然発生した生体信号に起因するインピーダンスの変化の両方を含み得ることを理解されよう。
【0050】
信号源22とモニタ24を制御するプロセッサ26が設けられている。プロセッサ26は、信号源22を用いて電極に電位を印加することにより、角質層の電気インピーダンスを低減するように構成されている。プロセッサ26はまた、モニタ24を使用して、α分散及びβ分散スペクトルに相当する複素経皮インピーダンスAC信号を測定するように構成されている。プロセッサ26、信号源22、及びモニタ24は、装置20の制御システム30内に統合されていてもよい。
【0051】
装置20はさらに、測定された信号のデータを供給する出力34を有していてもよい。装置20の種類により、出力は、インピーダンス測定値の生データでもよいし、または、被験者の体内の生体信号のデータや体内物質のうちの対象物質のデータといった、測定値の相関データであってもよいことは理解されよう。いくつかの実施形態において、生データと解釈されたデータの両方ともが出力されてもよい。出力34はディスプレイや他のヒューマンインターフェースに送られることも可能である。代替として、または追加として、出力は、測定データをコンピュータ、携帯電話、または他のデバイスへと送信する無線通信送信器等の出力インターフェースを有することも可能である。
【0052】
図6は別の装置20’を示している。装置20’では、図5の信号源22とモニタ24が統合されて1つの構成部25となっており、構成部25は、インピーダンス低減電位の供給と、電極19’からのインピーダンス信号の測定の両方を行う。
【0053】
図7は、本発明の各実施形態に係る装置120を内蔵するウェアラブルデバイス100の一例を示したものである。本例では、ウェアラブルデバイス100は、例えば人の手首の周囲に装着可能なバンド110上に配置されている(このため、ウェアラブルデバイスは、時計またはスマートウオッチと考えてもよい。)。バンド110はハウジング101に取り付けられていて、ハウジング101は、外表面にディスプレイ128(例えばLCDまたはOLED)を有し、内側の皮膚に面する面に間隔をあけて配置されている1対の電極119a,119bを有している。ハウジング内部には、電池等の電源130、プロセッサ126、信号源122、モニタ124、及び通信チップ140(例えばNFC、無線、またはBluetoothインターフェース)が設けられている。ウェアラブルデバイス100の電子部品を1つのプロセッサまたはチップに統合してもよいことは理解されよう。ウェアラブルデバイス100はまた、信号モニタリングによって発生したデータを保持する機械可読な記憶装置を有していてもよい。
【0054】
上記では本発明を、好適な実施形態を参照して説明してきたが、添付の請求項において定義した本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更や修正を行い得ることは理解されよう。例えば、上述のウェアラブルデバイスは手首に着用するデバイス形態であったが、例えば着用可能なペンダントまたはパッチといった他のデバイスを準備することも可能である。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】