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特表2024-510051生理活性物質の経口用ナノ粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-05
(54)【発明の名称】生理活性物質の経口用ナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/28 20060101AFI20240227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20240227BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20240227BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A61K47/28
A61K45/00
A61K9/51
A61K47/69
A61K31/337
A61P35/00
A61P33/00
A61K31/167
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580925
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-09-12
(86)【国際出願番号】 KR2022004490
(87)【国際公開番号】W WO2022211481
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0042768
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0038802
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523348896
【氏名又は名称】エスエヌジェー ファーマ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】SNJ PHARMA INC
【住所又は居所原語表記】MRL Bldg 3F, 1124 W Carson St. Torrance, California 90502, US
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ソン チュル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ジニ
(72)【発明者】
【氏名】ジャイ,チョンカイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ミンダ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076BB01
4C076DD70H
4C084AA17
4C084MA38
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA38
4C086NA05
4C086NA11
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA07
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA58
4C206NA05
4C206NA11
4C206ZB37
(57)【要約】
本発明は、溶解性、消化管内分解、腸透過性の問題により生体利用率が低いため、主に注射剤として投与される生理活性物質を経口投与するための経口用ナノ粒子、その製剤化方法及びその用途に関する。また、本発明は、腸マイクロバイオームへの生理活性物質の曝露を最小限に抑えることにより、腸内マイクロバイオームのバランスを維持又は保護する効果を有する経口用ナノ粒子、製剤化及びその用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に位置する生理活性物質と、前記生理活性物質を取り囲む胆汁酸とで構成され、前記生理活性物質及び胆汁酸は非共有結合されていることを特徴とする、経口用ナノ粒子。
【請求項2】
前記生理活性物質が10~90重量%であり、前記胆汁酸が10~90重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の経口用ナノ粒子。
【請求項3】
前記生理活性物質が、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、レムデシビル(remdesivir)、アジスロマイシン(azithromycin)、パクリタキセル(paclitaxel)、ドキソルビシン(doxorubicin)、オキサリプラチン(oxaliplatin)、フェニレフリン塩酸塩(Phenylephrine Hydrochloride)、グルタチオン(glutathione)、アセタゾラミド(acetazolamide)、アムホテリシン(amphotericin)、アプレピタント(aprepitant)、アザチオプリン(azathioprine)、クロロチアジド(chlorothiazide)、クロルタリドン(chlorthalidone)、シプロフロキサシン(ciprofloxacin)、コリスチン(colistin)、シクロスポリンA(cyclosporin A)、ジゴキシン(digoxin)、ドセタキセル(docetaxel)、フロセミド(furosemide)、エトラビリン(etravirine)、ファモチジン(famotidine)、グリセオフルビン(griseofulvin)、ヒドロクロロチアジド(hydrochlorothiazide)、メベンダゾール(mebendazol)、メトトレキサート(methotrexate)、ネオマイシン(neomycin)、ニクロサミド(niclosamide)、ナイスタチン(nystatin)、リトナビル(ritonavir)、アルベンダゾール(albendazole)、アルテムテル(artemther)、クロルプロマジン(chlorpromazine)、エファビレンツ(efavirenz)、グリベンクラミド(glibenclamide)、イベルメクチン(ivermectin)、ロピナビル(lopinavir)、メフロキン(mefloquine)、レチノール(retinol)、スピロノラクトン(spironolactone)、スルファジアジン(sulfadiazine)、スルファサラジン(sulfasalazine)、トリクラベンダゾール(triclabendazole)、アシクロビル(acyclovir)、アモキシシリン(amoxicillin)、ビジソミド(bidisomide)、ビペリジン(biperiden)、カプトプリル(captopril)、セファゾリン(cefazoliln)、クロロキン(chloroquine)、シメチジン(cimetidine)、クロクサシリン(cloxacillin)、ジダノシン(didanosine)、エフェドリン(ephedrine)、エリスロマイシン(erythromycin)、ファモチジン(famotidine)、フルコナゾール(fluconazole)、フォリン酸(folinic acid)、フロセミド(furosemide)、ガンシクロビル(ganciclovir)、リシノプリル(lisinopril)、メトトレキサート(methotrexate)、メトホルミン(metformin)、ニフルチモックス(nifurtimox)、ナドロール(nadolol)、ナイスタチン(nystatin)、プラバスタチン(pravastatin)、ペニシリン(penicillin)、ラニチジン(ranitidine)、レセルピン(reserpine)、テトラサイクリン(tetracycline)、バルサルタン(valsartan)、バンコマイシン(vancomycin)、ドキシサイクリン(doxycycline)、クロルフェニラミン(chlorpheniramine)、クロミフェン(clomiphene)、クロミプラミン(clomipramine)、デキサメタゾン(dexamethasone)、エチニルエストラジオール(ethinylestradiol)、メトクロプラミド(metoclopramide)、モルヒネ(morphine)及びキニーネ(quinine)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の経口用ナノ粒子。
【請求項4】
前記胆汁酸が、コール酸(cholic acid)、ケノデオキシコール酸(chenodeoxy cholic acid)、デオキシコール酸(deoxycholic acid)、リトコール酸(lithocholic acid)、ウルソデオキシコール酸(ursodesoxycholic acid)、タウロウルソデオキシコール酸(tauroursodeoxycholic acid)、ヒオデオキシコール酸(hyodeoxycholic acid)、7-オキソリトコール酸(7-oxo lithocholic acid)、ヨードデオキシコール酸(iodo deoxycholic acid)、アイオジンコール酸(iodine cholic acid)、タウロリトコール酸(taurolithocholic acid)、グリコウルソデオキシコール酸(glycoursodeoxycholic acid)、タウロコール酸(taurocholic acid)、及びグリココール酸(glycocholic acid)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の経口用ナノ粒子。
【請求項5】
(a)生理活性物質を溶媒で溶かす段階と、
(b)胆汁酸を溶媒で溶かす段階と、
(c)生理活性物質溶液と胆汁酸溶液とを混合する段階と、
(d)混合された生理活性物質及び胆汁酸の混合溶液を凍結乾燥させる段階と、を含む、経口用ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記生理活性物質溶液及び胆汁酸溶液が10~90:90~10の体積%で混合されることを特徴とする、請求項5に記載の経口用ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
生理活性物質溶液と胆汁酸溶液とを混合した後、生理活性物質及び胆汁酸の混合液に低温処理または塩処理する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の経口用ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記低温処理は、生理活性物質及び胆汁酸の混合液を攪拌しながら、1℃/分以下の速度で常温から-20~+20℃の範囲の温度まで温度を下げながら行われることを特徴とする、請求項7に記載の経口用ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記塩処理は、生理活性物質及び胆汁酸の混合液を攪拌しながら、Na、Mg2+、Li、Ca2+、及びFe2+よりなる群から選ばれる塩を0.1~20Mの範囲まで添加することを特徴とする、請求項7に記載の経口用ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載の経口用ナノ粒子を含む経口用ナノ粒子組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解性、消化管内分解、腸透過性の問題により生体利用率の低い生理活性物質の生体利用率を改善した経口用ナノ粒子及びその製造方法に関する。また、本発明は、腸マイクロバイオームへの生理活性物質の曝露を最小限に抑えることにより、腸内マイクロバイオームのバランスを維持または保護する効果を有する経口用ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの健康のための生理活性物質(bioactive compound)を含む薬物、栄養剤、栄養補助食品は、錠剤型の経口剤が最も好まれる。注射剤の生産コストは、通常、錠剤の10倍以上であるため、注射剤の販売価も非常に高価である。また、服用が簡便な経口剤とは異なり、注射剤は、必ず病院を直接来院して投与なければならないため、患者に追加の時間と費用を要求する。また、注射剤は、投与過程で痛みを避けられない。このように、経口剤は、注射剤に比べて優れた利点を持っているため、体内吸収が必要な生理活性物質は、まず錠剤型に製剤化するのが最も一般的である。
【0003】
しかし、医薬品、栄養剤、栄養補助食品の生理活性物質の多くは、経口(oral)生体利用率(bioavailability)が非常に低いため経口剤として製剤化することが非常に難しく、注射剤のみが開発されている。経口生体利用率の低い薬物は、薬物の特性上、溶解度が低い特性や、消化酵素によって分解される特性、腸から血液への透過度が低い特性などを持っており、血液に直接注射する場合よりも経口投与の場合、血液への吸収量が投与量よりも非常に少なくなる。したがって、生体利用率の低い薬物は、注射剤としてのみ開発されているか、生体利用率の低い経口剤として開発されている状態である。
【0004】
生体利用率の低い薬物の別の問題点は、摂取量の一部のみが吸収され、残りの大部分は消化管に持続的にさらされることにより、消化不良などの腸の健康上の問題を引き起こすことである。また、消化管に常在している腸内微生物が消化管内の薬物にさらされると、それぞれの種(species)の生存率に大きな影響を及ぼすので、腸マイクロバイオームのバランスを崩して様々な健康問題を引き起こす。
【0005】
腸マイクロバイオームは、糖尿病、認知症、がん、高血圧、高脂血症などの各種疾患を含む、消化活動に関わるヒトの全般的な健康に大きな影響を与えている。このような腸マイクロバイオームの特性により、腸マイクロバイオームを健康な状態に維持管理することが健康にとって非常に重要である。ヒトが摂取した化学物質は、ヒトの腸内容物と均一に混ぜられる過程を経て体内に吸収されるため、摂取された化学物質が腸内微生物の生存及び群集などに非常に深刻な影響を与え、腸マイクロバイオームのバランスを崩す。特に、微生物死滅効果を有する抗生剤を経口用錠剤として服用すると、腸内微生物特定種の死滅を引き起こすので、腸マイクロバイオームのバランスを崩して下痢や腹痛などの消化管系疾患だけでなく、腸マイクロバイオームに関わる様々な健康問題を引き起こす。したがって、生理活性物質が腸マイクロバイオームに作用して腸マイクロバイオームに影響を与えないように、生理活性物質の生体利用率を高める技術を開発する必要性が切実に求められている。
【0006】
上述した理由から、優れた生体利用率を有する経口用製剤の開発が進められており、次の技術が開発されている。
【0007】
米国登録特許第7060708号は、体内吸収させる物質にアミノ酸を共有結合(conjugation)させ、消化管でアミノ酸が吸収されるときに結合物質も一緒に体内に吸収されるようにする発明である。この発明は、共有結合により化学的変化が起こると、物質の固有特性が変わって活性減少、変形及び副作用の問題がある。
【0008】
米国登録特許第7144877号、同第7598235号、同第7678782号などはいずれも、薬物-連結体-胆汁酸系の物質が互いに共有結合によって化学的に連結されている新規化合物構造を提示している。この発明は、消化管の消化酵素によって薬品が分解されるという問題があり、また、共有結合により化学的変化が起こると、物質の固有特性が変わるので、活性減少、変形及び副作用の問題がある。
【0009】
米国登録特許第7736679号は、クルクミンにウコン油を添加して混合物を調製すると、クルクミンの吸収率を増加させて生体利用率を高めるという方法を提示している。この発明は、クルクミンとウコン油に限定されており、生体利用率の改善の程度が微々たるものである。
【0010】
米国公開特許第2019-0247313は、中心部の薬物に正電荷を帯びるように電気刺激を加えた後、胆汁酸が共有結合されている負電荷のポリマー物質を混合して作ったナノ粒子を提供する。この発明は、封入可能な薬物が少なすぎるため、人体に薬物を送達するのに限界があり、負電荷ポリマー-胆汁酸共有結合物は、化学的に新規な化学物質であるため、予期せぬ副作用が発生する可能性がある。
【0011】
米国公開特許第2020-0009067号は、脂質-界面活性剤-乳化溶媒の3つの成分からなる混合溶液に疎水性薬物を溶かして作った薬物溶液を提供する。この発明の薬物溶液を経口摂取すると、体内消化液と混合されて吸収増加により生体利用率が増加する可能性があるが、疎水性薬物のみに限定され、かつ生体利用率の向上がわずかであるという限界がある。
【0012】
上述したように、生体利用率を改善するための技術は、溶解性、腸透過度、吸収率などを改善するための物質を共有結合させる方法を用いている。しかし、化学結合(共有結合)の際に新規化学物質(New Chemical Entity)に変わって元の物質の構造と化学的特性が変わるので、薬物の固有特性を失ったり、予期せぬ毒性及び免疫副作用が発生したりするという問題がある。すなわち、従来技術では、経口剤の生体利用率を改善していないだけでなく、経口投与による腸マイクロバイオームの問題も解決していない。
【0013】
注射剤薬物を経口錠剤に置き換えるには、既存の経口投与の問題点を根本的に解決する必要がある。すなわち、経口投与した物質の変性が全くなく、体内吸収後に利用される生体利用率を画期的に増加させる技術が切実に求められる。さらに、経口投与した物質の腸内微生物への暴露を最小限に抑えて腸マイクロバイオームのバランスを維持させる技術が重要である。人類の健康な生活のためには、このような技術の開発が切実に求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、生理活性物質の生体利用率が低い問題と腸マイクロバイオームのバランスを崩す問題を解決するために鋭意努力した。そこで、本発明の目的は、生理活性物質の生体利用率を向上させた経口用ナノ粒子及びその製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、経口投与された物質の腸内微生物への暴露を最小限に抑えることにより、腸マイクロバイオームのバランスを維持及び保護する効果を有する、経口用ナノ粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、生理活性物質の生体利用率を画期的に向上させ、腸内マイクロバイオームのバランスを維持及び保護する効果を有する、経口用ナノ粒子及びその製造方法を提供する。
【0016】
本発明者らは、胆汁酸(bile acid)が、一方の部分は疎水性、他方の部分は親水性で構成される特徴を有する両親媒性(amphiphilic)であることに着目した。このため、本発明者らは、胆汁酸の親水性部分をナノ粒子の外側に置き、内側の疎水性部分で物質を取り囲む構造のナノ粒子を作ると、経口投与で消化器官に到達しても、ナノ粒子の内側に封入された物質は、消化器官の消化液によって分解されず、腸内微生物にさらされないため、腸マイクロバイオームのバランスを維持するという仮説を立てた。
【0017】
また、本発明者らは、消化器官に排出された胆汁酸が腸肝循環系(enterohepatic circulation)でアクティブアップテイク/トランスポート(active uptake/transport)システムを介して血液に90%以上再吸収される特性があることに着目した。胆汁酸は、脂質成分の栄養分が消化酵素とよく混ぜられるようにする一種の乳化剤(emulsifier)である。そこで、本発明者らは、生理活性物質に胆汁酸のみを用いて一体の変性なしにナノ製剤化することができれば、これは、胆汁酸と共に消化管から血液に再吸収されるという仮説を立てた。
【0018】
このため、本発明者らは、幾度もの実験の末に、胆汁酸で封入された経口型ナノ粒子の製剤化に成功し、製造された経口用ナノ粒子の実験によって、胆汁酸で封入された物質の大部分が体内に吸収されることを確認した。
【0019】
上記目的を達成するために、本発明のナノ粒子は、(1)体内吸収させようとする生理活性物質と、(2)これを取り囲んで封入した胆汁酸の非共有的結合からなる。本発明のナノ粒子は、1)封入された物質の生体利用率を画期的に向上させ、2)封入された物質の消化液への暴露を最小限に抑えることにより、消化器官における変性または分解を防ぎ、3)封入された物質が胆汁酸と共に血液に再吸収されて腸透過度を増加させ、4)封入された物質の生体利用率の増加により腸内微生物への曝露が最小限に抑えられることにより、腸内マイクロバイオームのバランスを維持及び保護する特徴を有する。
【0020】
特に、既存の技術とは異なり、本発明のナノ粒子を構成する物質と胆汁酸とは一体の共有結合なしに非共有結合のみで結合されているため、1)いかなる化学的変性もなくその化学物質の効能がそのまま維持され、2)新規化学物質(New Chemical Entity)の生成がないため、予期せぬ新たな副作用がないことが特徴である。
【0021】
したがって、本発明は、生体利用率を革新的に改善した経口用ナノ粒子及びその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明による経口用ナノ粒子は、1)封入された物質の生体利用率を画期的に向上させる効果、2)封入された物質の消化液への暴露を最小限に抑えることにより、消化器官における変性または分解を防ぐ効果、3)封入された物質が胆汁酸と共に血液に再吸収されて腸透過度を増加させる効果、4)封入された物質の腸内微生物への曝露を最小限に抑えることにより、腸内マイクロバイオームのバランスを維持及び保護する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例1によって製造されたニクロサミドナノ粒子で水溶液(表記濃度mg/ml)を作った後、ナノ粒子化していない元のニクロサミド物質と比較確認した結果である(A:製造されたニクロサミドナノ粒子の粒子サイズ分析、B:沈殿物が確認されるニクロサミド溶液、C:沈殿物のないニクロサミドナノ粒子溶液、D:ニクロサミドナノ粒子の低倍率電子顕微鏡画像、E:ニクロサミドナノ粒子の高倍率電子顕微鏡画像)。
図2】本発明の実施例1によって製造されたニクロサミドナノ粒子に対して長期間保管または様々なpHでの構造的安定性を確認した結果である(A:長期間保管されたニクロサミドナノ粒子溶液、B:長期間保管されたニクロサミドナノ粒子溶液の粒子サイズ分析結果、C:様々なpHでのニクロサミドナノ粒子溶液、D:様々なpHでのニクロサミドナノ粒子溶液中の粒子サイズ分析結果)。
図3】本発明の実施例1によって製造されたパクリタキセルナノ粒子の電子顕微鏡画像とパーティクルサイズアナライザ(Particl Size Analyzer)の分析結果である(A:パクリタキセルナノ粒子の低倍率電子顕微鏡画像、B:パクリタキセルナノ粒子の高倍率電子顕微鏡画像、C:平均189nmの粒子サイズで製造されたパクリタキセルナノ粒子の分析結果)。
図4】本発明の実施例2によって製造された5-フルオロウラシルナノ粒子とメトホルミンナノ粒子の電子顕微鏡画像とパーティクルサイズアナライザの分析結果である(A:5-フルオロウラシルナノ粒子の電子顕微鏡画像、B:メトホルミンナノ粒子の電子顕微鏡画像、C:平均119nmの粒子サイズで製造された5-フルオロウラシルナノ粒子の分析結果、D:平均108nmの粒子サイズで製造されたメトホルミンナノ粒子の分析結果)。
図5】本発明の実施例3によって製造されたアジスロマイシンナノ粒子とシプロフロキサシンナノ粒子の電子顕微鏡画像とパーティクルサイズアナライザの分析結果である(A:アジスロマイシンナノ粒子の電子顕微鏡画像、B:シプロフロキサシンナノ粒子の電子顕微鏡画像、C:平均172nmの粒子サイズで製造されたアジスロマイシンナノ粒子のナノ粒子分析結果、D:平均142nmの粒子サイズで製造されたシプロフロキサシンナノ粒子の分析結果)。
図6】本発明の実験例1において、本発明の実施例1によって製造されたレムデシビルナノ粒子と本発明の実施例2によって製造されたグルタチオンナノ粒子の電子顕微鏡画像である(A:レムデシビルナノ粒子、B:グルタチオンナノ粒子)。
図7】本発明の実験例2において、アジスロマイシンナノ粒子を経口投与したマウスの腸マイクロバイオームをメタゲノムシーケンシングした後、Shannon alpha-diversity analysis programで腸マイクロバイオーム多様性(diversity)を分析した結果である(グループ1:無抗生剤対照群、グループ2:アジスロマイシンナノ粒子投与群、グループ3:アジスロマイシン投与群)。
図8】本発明の実験例3において、コロナウイルスに感染させたSH101ハムスター動物モデルにニクロサミドまたはニクロサミドナノ粒子を経口投与した後、抗ウイルス治療効能を確認した結果である(A:抗ウイルス効能評価実験設計及び一定の模式図、B:体温測定結果、C:体重測定結果、D:生存率(% survival)測定結果)。
図9】本発明の実験例3において、コロナウイルスに感染させたhACEトランスジェニックマウス動物モデルにニクロサミドまたはニクロサミドナノ粒子を経口投与した後、抗ウイルス治療効能を確認した結果である(A:抗ウイルス効能評価実験設計及び一定の模式図、B:体温測定結果、C:体重測定結果、D:生存率(% survival)測定結果)。
図10】本発明の実験例3において、コロナウイルスに感染させたSH101ハムスターとhACEトランスジェニックマウス動物モデルにニクロサミドまたはニクロサミドナノ粒子を経口投与した後に得られた肺組織の観察(矢印表示:感染による炎症部位)及び肺組織のコロナウイルス数値を定量分析した結果である(A:SH101ハムスターの肺組織H&E染色画像、B:hACEトランスジェニックマウスの肺組織のH&E染色画像、C:SH101ハムスターの肺組織1グラム当たりSARS-CoV-2ウイルスRNA copies、D:hACEトランスジェニックマウスの肺組織1グラム当たりSARS-CoV-2ウイルスRNA copies)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
各種疾患に対する効能を有する医薬品において、経口剤は、注射剤と比較できないほど服用が簡便であり、経済的であるため、医薬品の低い経口生体利用率(oral bioavailability)を改善するための様々な努力が行われてきた。しかし、現在までに発明された技術は、生体利用率の向上が微々たるものなので、注射剤に代わる経口剤として製剤化することが難しく、消化酵素により薬物が分解されることを避けられず、薬物に化学的に結合させる方法を用いるため薬物の構造、物性、化学的特性がすべて変わってしまう深刻な問題がある。そのため、これらの技術が成功して普遍的に活用されることがなく、多くの薬物が様々な欠点にもかかわらず注射剤として用いられるか、或いは生体利用率の非常に低い経口剤として用いられている。したがって、注射剤を経口剤に置き換えるには、革新的な概念の発明が必要である。本発明は、経口剤の上記問題点を全て解決することができるため、全ての注射剤を食べる錠剤に置き換えることが可能であるので、この発明が普遍化すると、人類に医療革命をもたらすものと期待される。
【0025】
本発明者らは、生理活性を有する化学物質を共有結合などの化学的結合で胆汁酸に連結させた既存の発明とは異なり、胆汁酸で所望の物質を取り囲んで安定的なナノ粒子を作る過程を、一体共有結合を使用せずに非共有的に行うことができれば、このナノ粒子の表面に位置する胆汁酸と中心部に位置する化学物質の構造変化が全くなくなるので、その化学的特性がそのまま維持されたまま、胆汁酸の吸収経路である腸肝循環系(enterohepatic circulation)を介して血液に超高効率で吸収できるという点に着目して、本発明の完成に至った。
【0026】
従来開発された経口用ナノ粒子の製造には、反応物質の化学的変化を引き起こす共有結合(conjugation)過程がすべて必須的に必要であった。これにより、ナノ粒子製造過程が非常に複雑であるだけでなく、共有結合による化学的結合物では、反応物質が構造的に変形して物質固有の特性を失ってしまうので、薬物の元の機能が維持され難く、同時に新物質による予期せぬ副作用が発生する可能性がある。また、ナノ剤形と薬物との化学反応が可能でなければならないため、ナノ粒子に封入可能な薬物の種類が制限的である。
【0027】
本発明の経口用ナノ粒子は、正確に2成分、(1)体内吸収させようとする物質と、(2)これを取り囲む薬物送達体の役割を果たす胆汁酸との非共有結合のみで連結され、1)封入された物質の生体利用率を画期的に向上させる効果、2)封入された物質の消化液への暴露を最小限に抑えることにより、消化器官における変性または分解を防ぐ効果、3)封入された物質が胆汁酸と共に血液に再吸収されて腸透過度を増加させる効果、4)封入された物質の腸内微生物への暴露を最小限に抑えることにより、腸内マイクロバイオームのバランスを維持及び保護する効果を有する。このような優れた利点のために、本発明のナノ粒子は、現在注射剤として使っているすべての薬物を経口用製剤に変えることができる革新的な発明である。
【0028】
本発明の一実施形態では、生体利用率の低い物質の経口用ナノ粒子、製剤化及びその利用法を提供する。
【0029】
したがって、本発明は、一態様において、中心部に位置する生理活性物質と、前記生理活性物質を取り囲む胆汁酸とで構成され、前記生理活性物質及び胆汁酸は非共有結合されていることを特徴とする、経口用ナノ粒子に関する。
【0030】
前記生理活性物質は、医薬品、栄養剤、栄養補助食品の薬物、栄養成分、機能性用途を有し、体内吸収を目的とする全ての物質を含み、具体的な例としては、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、レムデシビル(remdesivir)、アジスロマイシン(azithromycin)、パクリタキセル(paclitaxel)、ドキソルビシン(doxorubicin)、オキサリプラチン(oxaliplatin)、フェニレフリン塩酸塩(Phenylephrine Hydrochloride)、グルタチオン(glutathione)、アセタゾラミド(acetazolamide)、アムホテリシン(amphotericin)、アプレピタント(aprepitant)、アザチオプリン(azathioprine)、クロロチアジド(chlorothiazide)、クロルタリドン(chlorthalidone)、シプロフロキサシン(ciprofloxacin)、コリスチン(colistin)、シクロスポリンA(cyclosporin A)、ジゴキシン(digoxin)、ドセタキセル(docetaxel)、フロセミド(furosemide)、エトラビリン(etravirine)、ファモチジン(famotidine)、グリセオフルビン(griseofulvin)、ヒドロクロロチアジド(hydrochlorothiazide)、メベンダゾール(mebendazol)、メトトレキサート(methotrexate)、ネオマイシン(neomycin)、ニクロサミド(niclosamide)、ナイスタチン(nystatin)、リトナビル(ritonavir)、アルベンダゾール(albendazole)、アルテムテル(artemther)、クロルプロマジン(chlorpromazine)、エファビレンツ(efavirenz)、グリベンクラミド(glibenclamide)、イベルメクチン(ivermectin)、ロピナビル(lopinavir)、メフロキン(mefloquine)、レチノール(retinol)、スピロノラクトン(spironolactone)、スルファジアジン(sulfadiazine)、スルファサラジン(sulfasalazine)、トリクラベンダゾール(triclabendazole)、アシクロビル(acyclovir)、アモキシシリン(amoxicillin)、ビジソミド(bidisomide)、ビペリジン(biperiden)、カプトプリル(captopril)、セファゾリン(cefazoliln)、クロロキン(chloroquine)、シメチジン(cimetidine)、クロクサシリン(cloxacillin)、ジダノシン(didanosine)、エフェドリン(ephedrine)、エリスロマイシン(erythromycin)、ファモチジン(famotidine)、フルコナゾール(fluconazole)、フォリン酸(folinic acid)、フロセミド(furosemide)、ガンシクロビル(ganciclovir)、リシノプリル(lisinopril)、メトトレキサート(methotrexate)、メトホルミン(metformin)、ニフルチモックス(nifurtimox)、ナドロール(nadolol)、ナイスタチン(nystatin)、プラバスタチン(pravastatin)、ペニシリン(penicillin)、ラニチジン(ranitidine)、レセルピン(reserpine)、テトラサイクリン(tetracycline)、バルサルタン(valsartan)、バンコマイシン(vancomycin)、ドキシサイクリン(doxycycline)、クロルフェニラミン(chlorpheniramine)、クロミフェン(clomiphene)、クロミプラミン(clomipramine)、デキサメタゾン(dexamethasone)、エチニルエストラジオール(ethinylestradiol)、メトクロプラミド(metoclopramide)、モルヒネ(morphine)、キニーネ(quinine)などを例示することができるが、これに限定されない。
【0031】
前記胆汁酸は、両親媒性を有し、腸内能動吸収が起こる特徴を有し、好ましくは、胆汁酸またはその誘導成分を含み、具体的には、前記胆汁酸は、コール酸(cholic acid)、ケノデオキシコール酸(chenodeoxy cholic acid)、デオキシコール酸(deoxycholic acid)、リトコール酸(lithocholic acid)、ウルソデオキシコール酸(ursodesoxycholic acid)、タウロウルソデオキシコール酸(tauroursodeoxycholic acid)、ヒオデオキシコール酸(hyodeoxycholic acid)、7-オキソリトコール酸(7-oxo lithocholic acid)、ヨードデオキシコール酸(iodine cholic acid)、アイオジンコール酸(iodine cholic acid)、タウロリトコール酸(taurolithocholic acid)、グリコウルソデオキシコール酸(glycoursodeoxycholic acid)、タウロコール酸(taurocholic acid)、グリココール酸(glycocholic acid)などを例示することができるが、これらに限定されない。
【0032】
また、本発明の「生理活性物質の経口用ナノ粒子」は、生理活性物質と胆汁酸とが一体の共有結合なしに互いに非共有結合のみで結合されており、いかなる化学的変性も全くなく、その化学物質の特性がそのまま維持されることが特徴である。
【0033】
本発明は、他の態様において、前記経口用ナノ粒子を含む経口用ナノ粒子組成物に関する。
【0034】
本発明の経口用ナノ粒子組成物は、製剤時に通常用いられる薬学的に許容される担体を含むことができるが、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシ安息香酸塩、プロピルヒドロキシ安息香酸塩、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油などを例示することができるが、これに限定されない。
【0035】
本発明の経口用ナノ粒子組成物は、これらの成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでもよい。適切な薬学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.、1995)に詳細に記載されている。
【0036】
本発明の経口用ナノ粒子組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病状、食事、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感受性などの要因によって様々に処方できる。一方、本発明の経口用ナノ粒子組成物の好ましい投与量は、1日あたり0.0001~1000μgである。
【0037】
本発明の経口用ナノ粒子組成物は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施し得る方法によって、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することにより単位用量の形態で製造されるか、或いは多容量の容器に入れて製造されることができる。この場合、剤形は、油または水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、或いはエキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含んでもよい。
【0038】
本発明の経口用ナノ粒子組成物は、ナノ粒子に封入された物質の消化酵素への暴露を最小限に抑えることにより、消化器官で吸収される前に変性または分解されることを防ぐ効果がある。
【0039】
また、本発明の経口用ナノ粒子組成物は、ナノ粒子に封入された物質の腸内微生物への曝露を最小限に抑えることにより、腸内マイクロバイオームのバランスを維持及び保護する効果がある。
【0040】
本発明は、別の態様において、(a)生理活性物質を溶媒で溶かす段階と、(b)胆汁酸を溶媒で溶かす段階と、(c)生理活性物質溶液と胆汁酸溶液とを混合する段階と、(d)混合された生理活性物質と胆汁酸との混合溶液を凍結乾燥させる段階と、を含む、経口用ナノ粒子の製造方法に関する。
【0041】
前記生理活性物質を溶かす溶媒は、水、DMSO、エタノール、メタノール、アセトンなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
前記胆汁酸を溶かす溶媒は、エタノール、水、メタノールなどを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0043】
本発明の中心部に位置する生理活性物質と、前記生理活性物質を取り囲む胆汁酸とで構成され、前記生理活性物質と胆汁酸とは非共有結合されていることを特徴とする経口用ナノ粒子を製造するためには、生理活性物質溶液と胆汁酸溶液とを混合させなければならないが、前記混合は、生理活性物質溶液と胆汁酸溶液とを一緒に混合し、撹拌または超音波処理することにより混合させることができる。
【0044】
本発明の経口用ナノ粒子の製造方法は、経口用ナノ粒子の形成をさらに促進させるために、生理活性物質溶液と胆汁酸溶液とを混合した後、生理活性物質及び胆汁酸の混合液に低温処理または塩処理するか、或いは塩処理後に低温処理する段階をさらに含んでもよい。
【0045】
前記低温処理は、生理活性物質及び胆汁酸の混合液を攪拌しながら1℃/分以下の速度で常温から-20~+20℃の範囲の温度まで温度を下げながら行われることができ、前記塩処理は、生理活性物質及び胆汁酸の混合液を撹拌しながらNa、Mg2+、Li、Ca2+、Fe2+などよりなる群から選ばれる塩を0.1~20Mの範囲まで添加させることができる。
【0046】
前記低温処理時の速度または温度が上記の範囲を外れる場合には、経口用ナノ粒子の形成促進効果が微々たるものであり得る。
【0047】
また、前記塩処理時に処理される塩の濃度が上記の範囲を外れる場合には、経口用ナノ粒子の形成促進効果が微々たるものであり得る。
【実施例
【0048】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものと解釈されないのは、当技術分野における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0049】
実施例1.混合反応を用いた経口用ナノ粒子の製造
ニクロサミド(niclosamide)は、抗菌、抗寄生虫、抗がん、抗ウイルス、神経保護などの多様な薬理的効果が非常に優れていることが知られているが、吸収性や不水溶性の問題があるため、体内吸収が必要ない腸内寄生虫の錠剤としてのみFDAに承認されている。ニクロサミドが抗菌及び抗ウイルス効果に優れるにもかかわらず、COVID-19治療剤、結核治療剤、抗ウイルス剤または抗がん剤として開発されていない理由は、疎水性化学物質であるニクロサミド(niclosamide)が限定的な疎水性有機溶媒にのみ溶けて注射剤として開発し難く、経口投与時にうまく体内吸収されず、錠剤の生体利用率が10%未満であることにある。また、代表的な細胞傷害性抗がん剤であるパクリタキセル(paclitaxel)も、生体利用率が10%であるため、注射剤としてのみ処方されている。パクリタキセルを経口用ナノ粒子に製作すると、注射剤の代わりに服用薬として処方することができるので、薬物副作用の減少及び利用の利便性を期待することができる。
【0050】
そこで、本発明者らは、生体利用率を改善した経口用製剤として開発する場合、用量増加効果、副作用低減及び利用の利便性が期待されるニクロサミド(niclosamide)とパクリタキセル(paclitaxel)について、次の方法でナノ粒子化した。
【0051】
ニクロサミド粉末は、DMSO溶媒に6mg/mLの濃度で溶解し、コール酸(cholic acid)粉末は、水に6mg/mLの濃度で溶かした。ニクロサミド溶液1mLとコール酸溶液3mLとを混合し、水入りの超音波発生器に5分間両溶液を徹底的に混合した後、この溶液を凍結乾燥させて粉末化した。製造されたニクロサミドナノ粒子は、完全な水溶性ナノ粒子であって、純粋なニクロサミド(pure niclosamide)とは異なり、沈殿物なく水によく溶け、120~150nmの平均粒子サイズを有し、電子顕微鏡で確認された(図1)。
【0052】
また、製造されたニクロサミドナノ粒子を6週間以上長期間保管したり、pH6.8とpH7.4で12時間以上放置したりしても、粒子サイズが安定的に維持されることを確認した(図2)。
【0053】
パクリタキセル粉末は、DMSO溶媒に10mg/mLの濃度で溶かし、コール酸粉末は、エタノールに6mg/mLの濃度で溶かした。このパクリタキセル溶液1mLとコール酸溶液3mLとを互いに混合した後、このパクリタキセル及びコール酸の混合液を入れた容器を、水入りの超音波発生器に入れ、5分間超音波で徹底的に混合した。この混合過程が終わった溶液は、凍結乾燥させて粉末化した。
【0054】
製造されたパクリタキセルナノ粒子は、完全な水溶性ナノ粒子であって、純粋なパクリタキセル(pure paclitaxel)とは異なり、水によく溶け、150~250nmの平均粒子サイズを有し、電子顕微鏡とParticle Size Analyzerで確認された(図3)。
【0055】
製造されたナノ粒子のそれぞれをラットに20mg/Kg(試験物質基準)の用量で経口投与した後、時間別にラットから血液を採取した。このとき、対照群としては、ナノ粒子製造の際に使用された純粋な生理活性物質をラットに同量経口投与して同じ実験を行った。ラットから時間別に採取した血液0.1mLにアセトン0.9mLを加えた後、この混合溶液をボルテックス(vortex)で徹底的に混ぜた。混ぜられた溶液を15,000rpmで遠心分離して沈殿物を除去し、得られた溶液のみをLC-MS/MSで分析した結果、生体利用率は表1の通りであった。
【0056】
【表1】
【0057】
この実験は、ニクロサミドのナノ粒子製造過程を示しているが、BCS分類class IVグループの体内吸収率が低い疎水性物質(アセタゾラミド(acetazolamide)、アンホテリシン(amphotericin)、アプレピタント(aprepitant))、アザチオプリン(azathioprine)、クロロチアジド(chlorothiazide)、クロルタリドン(chlorthalidone)、シプロフロキサシン(ciprofloxacin)、コリスチン(colistin)、シクロスポリンA(cyclosporin A)、ジゴキシン(digoxin)、ドセタキセル(docetaxel)、フロセミド(furosemide)、エトラビリン(etravirine)、ファモチジン(famotidine)、フロセミド(furosemide)、グリセオフルビン(griseofulvin)、ヒドロクロロチアジド(hydrochlorothiazide)、メベンダゾール(mebendazole)、メトトレキサート(methotrexate)、ネオマイシン(neomycin)、ナイスタチン(nystatin)、パクリタキセル(paclitaxel)、リトナビル(ritonavir)など)、またはclass IVグループ以外の体内吸収率を改善する必要のある疎水性物質(アルベンダゾール(albendazole)、アルテメテル(artemther)、クロルプロマジン(chlorpromazine)、エファビレンツ(efavirenz)、グリベンクラミド(glibenclamide)、イベルメクチン(ivermectin)、ロピナビル(lopinavir)、メフロキン(mefloquine)、レチノール(retinol)、スピロノラクトン(spironolactone)、スルファジアジン(sulfadiazine)、スルファサラジン(sulfasalazine)、トリクラベンダゾール(tricalbendazole)など)もほぼ同様の方法で本発明のナノ粒子に製造できる。これらの場合、溶媒としてDMSOの代わりにエタノール、メタノール、アセトンなどを用いるか、或いはコール酸の代わりに胆汁酸を構成する他の胆汁酸を用いても、経口用ナノ粒子が製造されることを確認した。
【0058】
実施例2.塩処理を用いた経口用ナノ粒子の製造
5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)は、代表的な細胞傷害性抗がん剤であって、がん治療に最も多く使用されている抗がん剤の一つであるが、経口生体利用率(oral bioavailability)が低いため、現在注射剤としてのみ使用されている。メトホルミン(metformin)は、代表的な2型糖尿治療剤であって、服用の利便性のために主に錠剤で処方されているが、生体利用率は30%程度である。
【0059】
したがって、本発明者らは、生体利用率を改善した経口用製剤として開発する場合、用量増加効果、副作用低減及び利用の利便性が期待される5-フルオロウラシルとメトホルミンについて、本発明の技術を用いて様々な条件で実験した結果、次の方法でナノ粒子化した。
【0060】
5-フルオロウラシル粉末を水に6mg/mLの濃度で溶かし、コール酸粉末をエタノールに6mg/mLの濃度で溶かした。この5-フルオロウラシル溶液1mLとコール酸溶液3mLとを互いに混合し、この溶液にNaCl10mgを混合した後、エタノール入りの超音波発生器で5分間両溶液を徹底的に混ぜた。次に、超音波発生を維持しながら、超音波発生器にドライアイスを添加して5-フルオロウラシル溶液を冷凍させた後、凍結乾燥させて粉末化した。製造された5-フルオロウラシルナノ粒子は、90~120nmのサイズであることを確認した(図4)。
【0061】
メトホルミン粉末を水に5mg/mLの濃度で溶かし、コール酸粉末をエタノールに5mg/mLの濃度で溶かした。このメトホルミン溶液1mLとコール酸溶液3mLとを混合し、この溶液にNaClを60mg添加した後、エタノール入りの超音波発生器で5分間両溶液を徹底的に混ぜた。次に、超音波発生を維持しながら超音波発生器にドライアイスを添加してメトホルミン溶液を冷凍させた後、凍結乾燥させて粉末化した。製造されたメトホルミンナノ粒子は、90~120nmのサイズであることを確認した(図4)。
【0062】
製造されたナノ粒子のそれぞれをラットに20mg/Kg(生理活性物質基準)の用量で経口投与した後、時間別にラットから血液を採取した。対照群としては、ナノ粒子製造の際に使用された純粋な生理活性物質をラットに同量経口投与して同じ実験を行った。ラットから時間別に採取した血液0.1mLにアセトン0.9mLを加えた後、この混合溶液をボルテックスで徹底的に混ぜた。混ぜられた溶液を15,000rpmで遠心分離して沈殿物を除去し、得られた溶液のみをLC-MS/MSで分析した結果、生体利用率は表2の通りであった。
【0063】
【表2】
【0064】
この実験は、5-フルオロウラシルとメトホルミンのナノ粒子製造過程を示しているが、BCS分類class IIIグループの低透過性(low permeability)を有する親水性物質(アシクロビル(acyclovir)、アモキシシリン(amoxicillin)、ビジソミド(bidisomide)、ビペリジン(biperiden)、カプトプリル(captopril)、セファゾリン(cefazoliln)、クロロキン(chloroquine)、シメチジン(cimetidine)、クロクサシリン(cloxacillin)、ジダノシン(didanosine)、エフェドリン(ephedrine)、エリスロマイシン(erythromycin)、ファモチジン(famotidine)、フルコナゾール(fluconazole)、フォリン酸(folinic acid)、フロセミド(furosemide)、ガンシクロビル(ganciclovir)、リシノプリル(lisinopril)、メトトレキサート(methotrexate)、メトホルミン(metformin)、ニフルチモックス(nifurtimox)、ナドロール(nadolol)、ナイスタチン(nystatin)、プラバスタチン(pravastatin)、ペニシリン(penicillin)、ラニチジン(ranitidine)、レセルピン(reserpine)、テトラサイクリン(tetracycline)、バルサルタン(valsartan)、バンコマイシン(vancomycin)など)又はclass III以外の体内吸収率を改善する必要のある親水性物質(クロルフェニラミン(chlorpheniramine)、クロミフェン(clomiphene)、クロミプラミン(clomipramine)、デキサメタゾン(dexamethasone)、エチニルエストラジオール(ethinylestradiol)、メトクロプラミド(metoclopramide)、モルヒネ(morphine)、キニーネ(quinine)など)もほぼ同様の方法で本発明の経口用ナノ粒子に製造される。これらの場合、溶媒として水の代わりに必要に応じてエタノール、メタノール、アセトンなどを用いるか、或いはコール酸の代わりに胆汁酸を構成する他の胆汁酸を用いても、経口用ナノ粒子が製造されることを確認した。
【0065】
実施例3.低温処理を用いた経口用ナノ粒子の製造
アジスロマイシン(azithromycin)は、代表的なブロードスペクトラム(broad-spectrum)抗生剤であって、細菌感染の治療のために最も多く使用している抗生剤の1つであるが、経口生体利用率が低いため、人体に吸収されず腸内に多量に残留している。腸内に残留したアジスロマイシンは、腸内微生物を殺して腸内細菌叢を破壊することにより、人々に多くの重篤な副作用を引き起こしている。
【0066】
シプロフロキサシン(ciprofloxacin)も、代表的なブロードスペクトラム(broad-spectrum)抗生剤であるが、生体利用率が高くないため、アジスロマイシンと同じ問題を引き起こす。よって、生体利用率を改善して腸内残留量を減らすことにより、薬物副作用を減らす必要がある。
【0067】
そこで、本発明者らは、生体利用率を改善した経口用製剤として開発する場合、用量増加効果、副作用低減及び利用の利便性が期待されるアジスロマイシンとシプロフロキサシンについて、本発明の技術を用いて様々な条件で実験した結果、次の方法でナノ粒子化した。
【0068】
アジスロマイシン粉末をエタノールに6mg/mLの濃度で溶かし、コール酸粉末をエタノールに6mg/mLの濃度で溶かした。次に、アジスロマイシン溶液1mLとコール酸溶液3mLを互いに混合し、この溶液にNaCl1mgを混合した後、エタノール入りの超音波発生器で5分間両溶液を徹底的に混ぜた。次に、温度調節装置を用いてアジスロマイシン及びコール酸の混合液を撹拌しながら0.001℃/分の速度で常温から-4℃まで温度を下げた。最後に、この混合溶液を凍結させた後、凍結乾燥させて粉末化した。製造されたアジスロマイシンナノ粒子は130~220nmのサイズであることを確認した(図5)。
【0069】
シプロフロキサシン粉末を水に5mg/mLの濃度で溶かし、コール酸粉末をエタノールに5mg/mLの濃度で溶かした。このシプロフロキサシン溶液1mLとコール酸溶液3mLを互いに混合し、この溶液にFeCl1mgを入れた後、エタノール入りの超音波発生器で5分間両溶液を徹底的に混ぜた。次に、温度調節装置を用いてシプロフロキサシン及びコール酸の混合液を撹拌しながら0.001℃/分の速度で常温から-2℃まで温度を下げた。最後に、この混合溶液を凍結させた後、凍結乾燥させて粉末化した。製造されたシプロフロキサシンナノ粒子は100~200nmのサイズであることを確認した(図5)。
【0070】
製造されたナノ粒子のそれぞれをラットに20mg/Kg(生理活性物質基準)の用量で経口投与した後、時間別にラットから血液を採取した。対照群としては、ナノ粒子製造の際に使用された純粋な生理活性物質をラットに同量経口投与して同じ実験を行った。ラットから時間別に採取した血液0.1mLにアセトン0.9mLを加えた後、この混合溶液をボルテックスで徹底的に混ぜた。混ぜられた溶液を15,000rpmで遠心分離して沈殿物を除去し、得られた溶液のみをLC-MS/MSで分析した結果、生体利用率は表3の通りであった。
【0071】
【表3】
【0072】
この実験は、アジスロマイシン(azithromycin)とシプロフロキサシン(ciprofloxacin)のナノ粒子製造過程を示しているが、BCS分類class IIIグループの低透過性(low permeability)を有する物質(クロロキン(chloroquine)、シメチジン(cimetidine)、クロクサシリン(cloxacillin)、ジダノシン(didanosine)、エフェドリン(ephedrine)、エリスロマイシン(erythromycin)、ファモチジン(famotidine)、フルコナゾール(fluconazole)、フォリン酸(folinic acid)、フロセミド(furosemide)、ガンシクロビル(ganciclovir)、リシノプリル(lisinopril)、メトトレキサート(methotrexate)、メトホルミン(metformin)、ニフルチモックス(nifurtimox)、ナドロール(nadolol)、ナイスタチン(nystatin)、プラバスタチン(pravastatin)、ペニシリン(penicillin)、ラニチジン(ranitidine)、レセルピン(reserpine)、テトラサイクリン(tetracycline)、バルサルタン(valsartan)、バンコマイシン(vancomycin)、ドキシサイクリン(doxycycline)など)又はclass III以外の体内吸収率を改善する必要のある親水性物質(クロルフェニラミン(chlorpheniramine)、クロミフェン(clomiphene)、クロミプラミン(clomipramine)、デキサメタゾン(dexamethasone)、エチニルエストラジオール(ethinylestradiol)、メトクロプラミド(metoclopramide)、モルヒネ(morphine)、キニーネ(quinine)など)もほぼ同様の方法で本発明の経口用ナノ粒子に製造される。これらの場合、溶媒として水の代わりに必要に応じてエタノール、メタノール、アセトンなどを用いるか、或いはコール酸の代わりに胆汁酸を構成する他の胆汁酸を用いても、経口用ナノ粒子が製造されることを確認した。
【0073】
実験例1.本発明のナノ粒子化が封入された物質の分解に及ぼす影響の評価
レムデシビル(remdesivir)は、一種のヌクレオシドアナログ(nucleoside analog)であって、優れた抗ウイルス効果により最初に承認されたコロナウイルス治療剤である。レムデシビルは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に最も効果的な治療剤であるが、注射剤としてのみ開発されている状態であるが、これは、レムデシビル摂取の際に消化液の核酸分解酵素によって殆ど直ちに分解されるので、血液に吸収される注射剤に比べて経口剤の生体利用率があまりにも低いためである。
【0074】
3つのアミノ酸がペプチド結合によって形成されたペプチドから誘導されたグルタチオン(glutathione)は、強力な抗酸化効能に加えて美白効果がある。グルタチオンを食べると、消化液中のタンパク質分解酵素によって直ちに分解され、極少量のみが吸収されるので、グルタチオンの生体利用率は非常に低い。したがって、グルタチオンを経口で服用すると、実質的に所望の皮膚美白効果を期待することが難しく、経口用よりは注射剤としてさらに多く使用されている。注射剤のいくつかの欠点により、グルタチオンの生体利用率を改善しようとする研究が盛んに進められてきたが、まだ消化酵素による分解問題を解決しておらず、経口用グルタチオン製剤開発の成功事例がない。
【0075】
そこで、本発明者らは、生体利用率を改善した経口用製剤として開発するために、本発明の技術を用いて種々の条件で実験した結果、上記実施例1の技術を用いて経口投与用レムデシビルナノ粒子を製造し(図6)、前記実施例2の技術を用いて経口投与用グルタチオンナノ粒子を製造した(図6)。
【0076】
製造されたレムデシビルナノ粒子とグルタチオンナノ粒子をそれぞれラットに20mg/Kg(薬物基準)の用量で経口投与した後、時間別にラットから血液を採取した。対照群としては、ナノ粒子製造の際に使用された純粋な生理活性物質(レムデシビルまたはグルタチオン)をラットに同量経口投与して同じ実験を行った。ラットから時間別に採取した血液0.1mLにアセトン0.9mLを加えた後、この混合溶液をボルテックスを用いて徹底的に混ぜた。混ぜられた溶液を15,000rpmで遠心分離して沈殿物を除去し、得られた溶液のみをLC-MS/MSで分析した結果、生体利用率は表4の通りであった。
【0077】
【表4】
【0078】
表4から分かるように、本発明は、経口投与時に消化される問題により注射剤としてのみ使用可能であった生理活性物質を経口用薬物として製剤化することができる革新的技術であって、生理活性物質を体内消化酵素から保護して生体利用率を大幅に改善した。
【0079】
この実験は、レムデシビル(remdesivir)とグルタチオン(glutathione)のナノ粒子製造過程を例示として示しているが、この他にも、経口投与時に消化器官の消化酵素により分解される特性を有する他の生化学物質も、ほぼ同様の方法で本発明の経口用ナノ粒子に製造される。必要に応じて、溶媒としてDMSOの代わりにエタノール、メタノール、アセトンなどを用いるか、コール酸の代わりに胆汁酸を構成する他の胆汁酸を用いても、経口用ナノ粒子が製造されることを確認した。
【0080】
実験例2.本発明のナノ粒子化が腸マイクロバイオームのバランスに及ぼす影響の評価
アモキシシリン(amoxicillin)、アジスロマイシン(azithromycin)、クリンダマイシン(clindamycin)、セフトリアキソン(ceftriaxone)、エリスロマイシン(erythromycin)、フルコナゾール(fluconazole)、ペニシリン(penicillin)、テトラサイクリン(tetracycline)などは、病院で一般に使用される抗生剤である。これらは、ほとんど優れた溶解性(solubility)と透過性(permeability)により生体利用率にも優れるため、注射剤の代わりに経口剤として使用するのが一般的である。しかし、経口摂取された後、腸に留まりながら、血液に吸収される前まで腸内腔に残留する抗生剤は、周囲の腸内微生物を殺すので、腸マイクロバイオームのバランスを崩して下痢や腹痛などの様々な消化器系疾患を引き起こす。
【0081】
そこで、本発明者らは、抗生剤のナノ粒子化の際に腸マイクロバイオームのバランスに及ぼす影響を分析するために、前記実施例3の技術を用いて経口用アジスロマイシン(azithromycin)ナノ粒子を製造した。製造されたナノ粒子をラットに20mg/Kgの用量で経口投与した後、時間別にラットから血液を採取した。この時、同量のアジスロマイシンを対照群のラットに経口投与して比較実験を行った。ラットから時間別に採取した血液0.1mLにアセトン0.9mLを加えた後、この混合溶液をボルテックスで徹底的に混ぜた。混ぜられた溶液を15,000rpmで遠心分離して沈殿物を除去し、得られた溶液のみをLC-MS/MSで分析した結果、生体利用率は表5の通りであった。
【0082】
【表5】
【0083】
前記実施例3の方法によって製造されたアジスロマイシンナノ粒子を各ラットに5mg/Kg(薬物基準)の用量で5日間毎日経口投与した後、メタゲノムシーケンシング方法によって腸マイクロバイオームを分析した。このとき、対照群として、ナノ粒子と同量の元の生理活性物質(アジスロマイシン)を動物に経口投与して同じ実験を一緒に行った。実験の結果、アジスロマイシン投与群に比べて、アジスロマイシンナノ粒子投与群では、抗生剤であるアジスロマイシンが腸マイクロバイオームにさらされないため、腸マイクロバイオームのバランスを全く崩さないことが分かった(図7)。
【0084】
実験例3:本発明のナノ粒子化が薬物の効能に及ぼす影響の評価
本発明者らは、実施例1の方法で製造されたニクロサミドナノ粒子の構造的安定性と向上した生体利用率を確認した後、in vivo動物実験で経口用ニクロサミドナノ粒子のウイルス感染に対する治療効果を確認した。すべての実験は、BSL 3段階で行われた。このために、まずコロナウイルス動物モデルであるSH101ハムスターを準備した後、致死量(TCID50)のSARS-CoV-2ウイルスに感染させた。ウイルス感染から1時間経過した時点で、ニクロサミドナノ粒子を5または10mg/Kg(薬物基準)の用量で毎日経口投与した。このとき、対照群として、元の生理活性物質ニクロサミド10mg/KgまたはPBS(Phosphate-buffered saline)を経口投与して比較実験を行った。その後、7日間のdpi(day-post-infection)中に感染症状(体重減少、発熱後の体温低下、個体死など)を確認した(図8)。
【0085】
別のコロナウイルス動物モデルであるhACE2トランスジェニックマウスを用いて同じ実験を行いながら、7日間のdpi(day-post-infection)中に感染症状(体重減少、発熱後の体温低下、個体死など)を確認した(図9)。
【0086】
3dpi及び7dpiの時点でそれぞれサンプリングされた肺組織は、切片をHematoxyline and Eosin(H&E)染色した後、顕微鏡で観察した(図10)。また、肺組織から抽出したRNAについては、SARS-CoV-2ウイルスのenvelope(E)遺伝子に対するPCR(forward primers:5’-GCCTCTTCTCGTTCCTCATCAC-3’,reverse primer:5’-AGCAGCATCACCGCCATTG-3’)を50℃で2分、95℃で2分の後、[95℃で15秒、60℃で30秒]を40サイクル行った後、95℃で15秒、60℃で1分、95℃で45秒の条件でRT-qPCRを行うことにより、肺組織内のSARS-CoV-2ウイルスの量を定量分析した(図10)。
【0087】
上述のように、コロナウイルス動物モデルであるSH101ハムスターとhACE2トランスジェニックマウスで実験した結果によれば、ニクロサミドナノ粒子投与群では、抗ウイルス剤であるニクロサミドを感染された組織に送達させることにより生体利用率が改善され、SARS-CoV-2ウイルスを死滅させることにより(図10のC、D)、PBS投与群及びニクロサミド投与群とは異なり、SARS-CoV-2感染に対して顕著な治療効果を有することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のナノ粒子は、現在注射剤として使っている全ての薬物を経口用製剤に変えることができる革新的な発明である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】