(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料及びその製造方法と応用
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20240228BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240228BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/58
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529058
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 CN2022131291
(87)【国際公開番号】W WO2023124574
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111629862.7
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522485888
【氏名又は名称】湖北万潤新能源科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUBEI WANRUN NEW ENERGY TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曹 名磊
(72)【発明者】
【氏名】王 勤
(72)【発明者】
【氏名】楊 嬌嬌
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA06
5H050GA10
5H050GA27
5H050GA29
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料及びその製造方法と応用に関す。この材料は、化学式がLi
1-yZr
yFe
1-xTi
xPO
4/C(但し、0.001≦x≦0.05、0.001≦y≦0.02)であり、チタンがFeサイトにドープされ、ジルコニウムがLiサイトにドープされている。その製造方法では、リン酸鉄、炭酸リチウム、炭素源、チタン源及びジルコニウム源を液相溶媒中に混合した混合材をボールミル及びサンドミルで所定粒径のあるスラリーに研磨した後、噴霧乾燥手段により造粒し、最後に乾燥した噴霧材を雰囲気炉において焼結する。この材料は正極材としてリチウムイオン電池に応用される。本発明では、炭素被覆のリン酸鉄リチウムにチタン及びジルコニウム元素をドープすることにより、リン酸鉄リチウムのイオン及び電子輸送能力が効果的に強化され、この材料の圧縮密度が向上し、この材料が高エネルギー及び高出力密度のリチウムイオン動力電池の正極材として非常に適している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式:Li
1-yZr
yFe
1-xTi
xPO
4/C(但し、0.001≦x≦0.05、0.001≦y≦0.02)で表れ、チタンがFeサイトにドープされ、ジルコニウムがLiサイトにドープされていることを特徴とする、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料。
【請求項2】
前記材料の炭素含有量が0.5~5.0wt%であることを特徴とする、請求項1に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料。
【請求項3】
リン酸鉄、炭酸リチウム、炭素源、チタン源及びジルコニウム源を液相溶媒中に混合した混合材をボールミル及びサンドミルで所定粒径のあるスラリーに研磨した後、噴霧乾燥手段により造粒し、そして、乾燥した噴霧材を雰囲気炉において焼結して粉砕することにより、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得ることを含む、請求項1に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項4】
(1)リン酸鉄、炭酸リチウム、チタン源及びジルコニウム源を元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=1-y:y:1-x:x:1(ただし、0.001≦x≦0.05、0.001≦y≦0.02)で秤量して液相溶媒中に混合する工程と、
(2)前記工程(1)で得られた混合材に炭素源を加えた後、ボールミル及びサンドミルでスラリーの粒径が0.1~0.8μmに制御されるように研磨する工程と、
(3)前記工程(2)で得られたスラリーを、霧化周波数を20~80Hz、加熱空气の空気入口温度を100~300℃、空気出口温度を50~200℃とした条件下で噴霧乾燥する工程と、
(4)前記工程(3)で得られた乾燥した噴霧材を保護ガスを通した雰囲気炉において300~500℃で2~5時間仮焼結した後、500~900℃で5~15時間焼結し、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を製造する工程と、を含む、請求項3に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項5】
前記チタン源が、二酸化チタン、硫酸チタニル、四塩化チタン及びチタン酸テトラブチルのうちの一種又は複数種であることを特徴とする、請求項4に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項6】
前記ジルコニウム源が、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム及びリン酸ジルコニウムのうちの一種又は複数種であることを特徴とする、請求項4に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項7】
前記液相溶媒が、脱イオン水及び無水エタノールのいずれか一方又は両方であることを特徴とする、請求項4に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項8】
前記炭素源が、グルコース、スクロース、クエン酸及びポリエチレングリコールのうちの一種又は複数種であり、
前記炭素源の添加量が、最終生成物中の炭素含有量が0.5~5.0wt%になることを可能にする量であることを特徴とする、請求項4に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項9】
前記霧化周波数が60Hz、空気入口温度が200℃、空気出口温度が100℃であり、
前記仮焼結が400℃温度下で3時間行われ、
前記焼結が800℃温度下で10時間行われることを特徴とする、請求項4に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法。
【請求項10】
正極材としてリチウムイオン電池に用いられる、請求項1に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料、及び請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[相互参照]
この出願は2021年12月29日に中国特許庁に出願され、出願番号202111629862.7、発明名称「チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料及びその製造方法と応用」である中国特許出願の優先権を主張し、その全内容は援用により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、新エネルギー材料及びその製造の技術分野に属し、具体的には、高特性正極材としてリチウムイオン動力電池に適用可能な、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
1997年、J.Goodenoughらによって、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)がリチウムイオン電池の正極材として使用できることが報告された。この研究は学界で大きなセンセーションを巻き起こし、同時にLiFePO4の産業化が開発して始また。LiFePO4は、長サイクル寿命、高安全性、および低コストの利点を持っているから、リチウムイオン電池の重要な正極材として急速に進んできた。この材料を正極材としたリチウムイオン電池は、携帯型電子機器、自動車、船舶及びエネルギー貯蔵を含む分野に広く応用されている。近年、中国の新エネルギー自動車産業の急速な発展に伴い、リチウムイオン動力電池の需要量がますます上昇し、その中でLiFePO4を正極材とした動力電池の設置量の割合が徐々に増加しているため、LiFePO4正極材の市場は急速に発展している。
【0004】
ところが、LiFePO4は、他の正極材、特に三元正極材と比較すると、比容量及び圧縮密度(compacted density)が依然として低く、また、イオン伝導度及び電子伝導度が低くて、その高電流下での充放電能力が劣る。このような欠陥は、LiFePO4のエネルギー密度及び出力密度の向上を著しく制限している。LiFePO4の電気化学的特性及び圧縮密度を高めるためには、研究者は、形状・サイズの制御や、炭素被覆、イオンドーピングなどの技術的手段を用いてこの材料固有の欠陥を克服することが多い。金属イオンドーピングは、LiFePO4の電気化学的特性を向上させる重要な方法であり、例えば、この材料のFeサイトにチタンイオンがドープされた場合、そのリチウムイオン及び電子輸送能力が効果的に高まる[J.Power Sources,189(2009)440;J.Electrochem.Soc.,160(2013)A3148;CN108598383A;CN111498825A]。しかし、LiFePO4材料の圧縮密度に対しては、チタンイオンドーピングによる向上効果は十分ではない。近年、関連研究によると、ジルコニウムイオンがLiFePO4材料のLiサイトにドープすることができ、このドーピングにより、LiFePO4材料の粒径と形状を調整できるだけでなく、炭素の被覆効果を最適化して炭素材料とLiFePO4との間の作用をより緊密にすることもできることが示されている[J.Alloys Compd.,739(2018)529;J.Electrochem.Soc.,166(2019)A410;CN108682833B]。従って、ジルコニウムイオンドーピングにより、LiFePO4材料の圧縮密度の向上を図ることができる。
【0005】
このように、チタンイオンとジルコニウムイオンをLiFePO4材料に相乗的にドープすることができれば、この材料の固有欠陥を克服し、その真性電気伝導度や圧縮密度を効果的に向上させ、そのエネルギー密度及び出力密度の顕著な向上を実現することが可能になる。
【0006】
従って、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を開発することは解決すべき技術的課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術に存在する欠陥と改善ニーズに鑑みてなされたものであり、LiFePO4材料のFeサイト及びLiサイトに金属チタンイオン及びジルコニウムイオンをそれぞれドープすることによって得られた、高エネルギー密度及び高出力密度を有するチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料、及びその製造方法とその応用を提案する。チタンイオンとジルコニウムイオンの相乗的ドーピングにより、LiFePO4材料の電気化学的特性や圧縮密度を効果的に向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の技術的態様により実現される:
【0009】
上記チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、化学式がLi1-yZryFe1-xTixPO4/C(ただし、0.001≦x≦0.05、0.001≦y≦0.02)であり、チタンがFeサイトにドープされ、ジルコニウムがLiサイトにドープされ、炭素含有量が0.5~5.0wt%である。
【0010】
前記チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法においては、リン酸鉄、炭酸リチウム、炭素源、チタン源及びジルコニウム源を液相溶媒中に混合した混合材をボールミル及びサンドミルで所定粒径のあるスラリーに研磨した後、噴霧乾燥手段により造粒し、最後に乾燥した噴霧材を雰囲気炉において焼結して粉砕することにより、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得る。
【0011】
前記チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法は、
(1)リン酸鉄、炭酸リチウム、チタン源及びジルコニウム源を元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=1-y:y:1-x:x:1(ただし、0.001≦x≦0.05、0.001≦y≦0.02)で秤量して液相溶媒中に混合する工程と、
(2)前記工程(1)で得られた混合材に炭素源を加えた後、ボールミル及びサンドミルでスラリーの粒径が0.1~0.8μmに制御されるように研磨する工程と、
(3)前記工程(2)で得られたスラリーを、霧化周波数を20~80Hz、加熱空气の空気入口温度を100~300℃、空気出口温度を50~200℃とした条件下で噴霧乾燥する工程と、
(4)前記工程(3)で得られた乾燥した噴霧材を保護ガスを通した雰囲気炉において300~500℃で2~5時間仮焼結した後、500~900℃で5~15時間焼結し、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を製造する工程と、を含む。
【0012】
前記チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法においては、前記チタン源は、二酸化チタン、硫酸チタニル、四塩化チタン和チタン酸テトラブチルのうちの一種又は複数種である。前記ジルコニウム源は、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム及びリン酸ジルコニウムのうちの一種又は複数種である。前記液相溶媒は、脱イオン水及び無水エタノールのいずれか一方又は両者である。前記炭素源は、グルコース、スクロース、クエン酸及びポリエチレングリコールのうちの一種又は複数種であり、前記炭素源の添加量が、最終生成物中の炭素含有量が0.5~5.0wt%になることを可能にする量である。前記霧化周波数が60Hz、空気入口温度が200℃、空気出口温度が100℃であり、前記仮焼結が400℃温度下で3時間行われ、前記焼結が800℃温度下で10時間行われる。
【0013】
請求項1に記載のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料、及び請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、正極材としてリチウムイオン電池に用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料及びその製造方法では、採用される原料が安価および豊富で、プロセスが簡単で、工業的なバッチ生産が可能になり、反応系にチタン源及びジルコニウム源を同時に加えることにより、チタンイオンによるLiFePO4材料のFeサイトへのドーピング及びジルコニウムイオンによるLiサイトへのドーピングを実現することができる。チタンイオンドーピングは、LiFePO4材料の真性電気伝導度(intrinsic conductivity)を向上させることができ、ジルコニウムイオンドーピングは、形状とサイズの調整及び炭素被覆効果の最適化により圧縮密度を高めることができる。
【0015】
チタンイオンとジルコニウムイオンの共ドーピングは、相乗効果を生み出すことができ、LiFePO4材料のリチウムイオン及び電子輸送能力が強化される一方で、この材料の圧縮密度が効果的に向上する。このように得られたチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、0.1Cでの放電容量が158.0mAhg-1を超え、初回クーロン効率が96.0%を超え、1Cでの放電容量が145.0mAhg-1を超え、圧縮密度が2.50gmL-1に達し、高エネルギー及び高出力密度のリチウムイオン動力電池の正極材として非常に適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、炭素被覆リン酸鉄リチウム、ジルコニウムとチタンを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウムのXRDスペクトルである。
【
図2】
図2は、本発明のジルコニウムとチタンを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウムのSEM画像である。
【
図3】
図3は、炭素被覆リン酸鉄リチウム、ジルコニウムとチタンを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウムの最初の充放電図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料は、LiFePO4材料のFeサイト及びLiサイトに金属チタンイオン及びジルコニウムイオンをそれぞれドープすることにより特定のプロセスで製造されたものであり、具体的な化学式がLi1-yZryFe1-xTixPO4/C(ただし、0.001≦x≦0.05、0.001≦y≦0.02)であり、チタンがFeサイトにドープされ、ジルコニウムがLiサイトにドープされ、生成物中の炭素含有量が0.5~5.0wt%である。
【0018】
本発明に係るチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料の製造方法においては、リン酸鉄、炭酸リチウム、炭素源、チタン源及びジルコニウム源を液相溶媒中に混合した混合材をボールミル及びサンドミルで所定粒径のあるスラリーに研磨した後、噴霧乾燥手段により造粒し、そして、乾燥した噴霧材を雰囲気炉において焼結して粉砕することにより、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得る。具体的には、該方法は、
(1)リン酸鉄、炭酸リチウム、チタン源及びジルコニウム源を元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=1-y:y:1-x:x:1(ただし、0.001≦x≦0.05、0.001≦y≦0.02)で秤量して液相溶媒中に混合する工程と、
(2)前記工程(1)で得られた混合材に炭素源を加えた後、ボールミル及びサンドミルでスラリーの粒径が0.1~0.8μmに制御されるように研磨する工程と、
(3)前記工程(2)で得られたスラリーを、霧化周波数を20~80Hz、加熱空气の空気入口温度を100~300℃、空気出口温度を50~200℃とした条件下で噴霧乾燥し、黄色粉末噴霧材を得る工程と、
(4)前記工程(3)で得られた乾燥した噴霧材を保護ガスを通した雰囲気炉において300~500℃で2~5時間仮焼結した後、500~900℃で5~15時間焼結し、チタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を製造する工程と、
(5)焼結終了後に生成物を粉砕し、黒色粉末生成物を得る工程と、を含む。
【0019】
上記工程(1)において、チタン源は、二酸化チタン、硫酸チタニル、四塩化チタン及びチタン酸テトラブチルのうちの一種又は複数種であり、
ジルコニウム源は、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム及びリン酸ジルコニウムのうちの一種又は複数種であり、
液相溶媒は、脱イオン水及び無水エタノールのいずれか一方又は両者である。
【0020】
上記工程(2)において、炭素源は、グルコース、スクロース、クエン酸及びポリエチレングリコールのうちの一種又は複数種であり、炭素源の添加量が、最終生成物中の炭素含有量が0.5~5.0wt%に制御されることを可能にする量である。
【0021】
上記工程(4)において、保護ガスはアルゴンガス又は窒素ガスである。
【0022】
好ましくは、工程(1)においては、チタン源がチタン酸テトラブチル、ジルコニウム源が水酸化ジルコニウム、液相溶媒が脱イオン水である。
【0023】
好ましくは、工程(2)においては、炭素源がグルコース及びポリエチレングリコールであり、最終生成物中の炭素含有量が1.5wt%、スラリーの粒径は0.4μmである。
【0024】
好ましくは、工程(3)においては、霧化周波数が60Hz、加熱空气の空気入口温度が200℃、空気出口温度が100℃である。
【0025】
好ましくは、工程(4)においては、保護ガスがArであり、仮焼結が350℃温度下で3時間行われ、焼結が800℃温度下で10時間行われる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づいてさらに説明する。
【0027】
実施例1
リン酸鉄、炭酸リチウム、チタン酸テトラブチル及び水酸化ジルコニウムを元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=0.985:0.015:0.99:0.01:1で秤量して脱イオン水中に混合した。次いで、混合物にグルコースを加えた後、スラリー粒径が0.4μmに制御されるようにボールミル及びサンドミル処理を行った。霧化周波数を50Hz、加熱空气の空気入口温度を200℃、空気出口温度を100℃とした条件下で、スラリーを噴霧乾燥した。最後に乾燥噴霧材をアルゴンガスが充填された雰囲気炉において350℃で3時間仮焼結した後、800℃で10時間焼結した。焼成した産物を粉砕して黒色粉末のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得た。この材料は、炭素含有量が0.5wt%、0.1Cでの放電容量が158.3mAhg-1、初回クーロン効率が98.4%、1Cでの放電容量が145.5mAhg-1、圧縮密度が2.52gmL-1であった。
【0028】
実施例2
リン酸鉄、炭酸リチウム、二酸化チタン及び酸化ジルコニウムを元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=0.98:0.02:0.96:0.04:1で秤量して脱イオン水中に混合した。次いで、混合物にスクロースを加えた後、スラリー粒径が0.2μmに制御されるようにボールミル及びサンドミル処理を行った。霧化周波数を60Hz、加熱空气の空気入口温度を150℃、空気出口温度を70℃にした条件下スラリーを噴霧乾燥した。最後に乾燥噴霧材を窒素ガスが充填された雰囲気炉において300℃で5時間仮焼結した後、750℃で12時間焼結した。焼成した産物を粉砕して黒色粉末のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得た。この材料は、炭素含有量が1.1wt%、0.1Cでの放電容量が159.1mAhg-1、初回クーロン効率が97.3%、1Cでの放電容量が148.0mAhg-1、圧縮密度が2.38gmL-1であった。
【0029】
実施例3
リン酸鉄、炭酸リチウム、硫酸チタニル及び硝酸ジルコニウムを元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=0.985:0.015:0.99:0.02:1で秤量して無水エタノール中に混合した。次いで、混合物にクエン酸及びポリエチレングリコールを加えた後、スラリー粒径が0.1μmに制御されるようにボールミル及びサンドミル処理を行った。霧化周波数を80Hz、加熱空气の空気入口温度を100℃、空気出口温度を50℃にした条件下でスラリーを噴霧乾燥した。最後に乾燥噴霧材をアルゴンガスが充填された雰囲気炉において380℃で4時間仮焼結した後、600℃で12時間焼結した。焼成した産物を粉砕して黒色粉末のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得た。この材料は、炭素含有量が2.0wt%、0.1Cでの放電容量が156.5mAhg-1、初回クーロン効率が95.3%、1Cでの放電容量が140.2mAhg-1、圧縮密度が2.25gmL-1であった。
【0030】
実施例4
リン酸鉄、炭酸リチウム、四塩化チタン及びチタン酸テトラブチル、硝酸ジルコニウム及びリン酸ジルコニウムを元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=0.995:0.005:0.95:0.05:1で秤量して脱イオン水中に混合した。次いで、混合物にグルコースを加えた後、スラリー粒径が0.5μmに制御されるようにボールミル及びサンドミル処理を行った。霧化周波数を50Hz、加熱空气の空気入口温度を180℃、空気出口温度を90℃にした条件下でスラリーを噴霧乾燥した。最後に乾燥噴霧材をアルゴンガスが充填された雰囲気炉において320℃で4時間仮焼結した後、500℃で12時間焼結した。焼成した産物を粉砕して黒色粉末のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得た。この材料は、炭素含有量が3.5wt%、0.1Cでの放電容量が153.3mAhg-1、初回クーロン効率が94.1%、1Cでの放電容量が135.3mAhg-1、圧縮密度が2.15gmL-1であった。
【0031】
実施例5
リン酸鉄、炭酸リチウム、四塩化チタン及びリン酸ジルコニウムを元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=0.999:0.001:0.98:0.02:1で秤量して脱イオン水中に混合した。次いで、混合物にスクロース及びクエン酸を加えた後、スラリー粒径が0.6μmに制御されるようにボールミル及びサンドミル処理を行った。霧化周波数を40Hz、加熱空气の空気入口温度を220℃、空気出口温度を120℃にした条件下でスラリーを噴霧乾燥した。最後に乾燥噴霧材を窒素ガスが充填された雰囲気炉において430℃で3時間仮焼結した後、800℃で9時間焼結した。焼成した産物を粉砕して黒色粉末のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得た。この材料は、炭素含有量が1.5wt%、0.1Cでの放電容量が159.2mAhg-1、初回クーロン効率が96.5%、1Cでの放電容量が139.0mAhg-1、圧縮密度が2.39gmL-1であった。
【0032】
実施例6
リン酸鉄、炭酸リチウム、二酸化チタン、硫酸チタニル、四塩化チタン、水酸化ジルコニウムを元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=0.98:0.02:0.999:0.001:1で秤量して脱イオン水中に混合した。次いで、混合物にグルコース及びクエン酸を加えた後、スラリー粒径が0.8μmに制御されるようにボールミル及びサンドミル処理を行った。霧化周波数を20Hz、加熱空气の空気入口温度を300℃、空気出口温度を200℃にした条件下でスラリーを噴霧乾燥した。最後に乾燥噴霧材をアルゴンガスが充填された雰囲気炉において500℃で2時間仮焼結した後、900℃で5時間焼結した。焼成した産物を粉砕して黒色粉末のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得た。この材料は、炭素含有量が1.0wt%、0.1Cでの放電容量が155.5mAhg-1、初回クーロン効率が94.4%、1Cでの放電容量が136.2mAhg-1、圧縮密度が2.55gmL-1であった。
【0033】
実施例7
リン酸鉄、炭酸リチウム、チタン酸テトラブチル、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム及び硝酸ジルコニウムを元素モル比Li:Zr:Fe:Ti:P=0.99:0.01:0.97:0.03:1で秤量して無水エタノールで混合した。次いで、混合物にスクロース、クエン酸及びポリエチレングリコールを加えた後、ボールミル及びサンドミル処理を行い、スラリー粒径を0.7μmに制御した。霧化周波数を30Hz、加熱空气の空気入口温度を280℃、空気出口温度を150℃にした条件下でスラリーを噴霧乾燥した。最後に乾燥噴霧材を窒素ガスが充填された雰囲気炉において400℃で2時間仮焼結した後、850℃で7時間焼結した。焼成した産物を粉砕して黒色粉末のチタンとジルコニウムを共ドープした炭素被覆リン酸鉄リチウム材料を得た。この材料は、炭素含有量が5.0wt%、0.1Cでの放電容量が157.0mAhg-1、初回クーロン効率が96.2%、1Cでの放電容量が140.5mAhg-1、圧縮密度が2.35gmL-1であった。
【0034】
また、本発明においては、比較例として、ドープされていない炭素被覆リン酸鉄リチウム材料、即ち、製造中においてチタン源及びジルコニウム源を添加しなかったものを採用した。
図1、
図2、及び
図3から、チタンとジルコニウムの共ドーピングにより、炭素被覆リン酸鉄リチウムの電気化学的特性が効果的に向上し、高エネルギー及び高出力密度を有するリチウムイオン電池の正極材が得られたことが分かった。
【0035】
本発明では、炭素被覆のリン酸鉄リチウム材料中のFeサイト及びLiサイトにチタンイオン及びジルコニウムイオンをそれぞれドープすることにより、リン酸鉄リチウム材料の電気化学的特性及び圧縮密度を効果的に向上させることができ、高エネルギー及び高出力密度のリチウムイオン動力電池の正極材として非常に適している。上記の説明は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、本発明を限定するものではなく、本発明の精神及び原理の範囲内でなされるあらゆる修正や、同等の置換、改良などが、本発明の保護範囲内に含まれるべきであるということは、当業者なら容易に理解されるであろう。
【国際調査報告】