(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】長い貯蔵寿命安定性のオレフィンメタセシス用の触媒(前駆体)としての有機ルテニウム錯体
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20240228BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C07F15/00 A CSP
B01J31/22 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023536497
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 IB2022050893
(87)【国際公開番号】W WO2022167944
(87)【国際公開日】2022-08-11
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216030
【氏名又は名称】アペイロン シンセシス エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】フヴァルバ ミハウ
(72)【発明者】
【氏名】スコヴェルスキ クシシュトフ
(72)【発明者】
【氏名】クルバハ コンラド
【テーマコード(参考)】
4G169
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE06A
4G169BE06B
4G169BE07A
4G169BE13A
4G169BE13B
4G169BE21A
4G169BE21B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169CB44
4H050AA01
4H050AB40
4H050WB11
4H050WB13
4H050WB14
4H050WB15
4H050WB21
(57)【要約】
本発明による実施形態は、式Iの有機ルテニウム化合物を包含する:
【化1】
(式中、X、Y、L
1、L
2、L
3、R
1及びR
2は本明細書で規定した通りである)。また、オレフィンメタセシス反応のための触媒(前駆体)としての式Iの有機ルテニウム化合物の使用、並びにオレフィンメタセシス反応を行うための方法を本明細書において開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その全ての可能なエナンチオマー、ジアステレオマー、幾何又は任意の他の立体異性体を含めた、式Iの化合物:
【化1】
(式中:
Xは、ArOであり、Arは(C
6~C
10)アリールであり、
Yは、アニオン性配位子であり、
L
1は、(C
6~C
10)アリール置換イミド基であり、
L
2は、S-R
11であり、R
11は、(C
1~C
10)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
16)シクロアルキル、(C
2~C
16)アルケニル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロアリール、(C
3~C
12)ヘテロシクリル及び(C
4~C
20)アルキルアリールからなる群から選択され、
L
3は、中性配位子であり、
R
1は、水素及び(C
1~C
20)アルキルからなる群から選択され、
R
2は、(C
4~C
16)アルケニル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロアリール及び(C
3~C
12)ヘテロシクリルからなる群から選択されるか、或いは
R
1及びR
2は、それらが結合している炭素原子と一緒に、非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換された縮合単環又は二環(C
8~C
12)芳香環を形成するか、或いは
R
1及びR
2は、それらが結合する炭素原子と一緒に且つYを含んで、非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換された縮合単環又は二環(C
8~C
12)芳香族複素環を形成する)。
【請求項2】
化合物が、式(II)の化合物である、請求項1に記載の化合物:
【化2】
(式中、
Xは、非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換されたアリールオキシであり、
Zは、酸素又は硫黄であり、
L
1は、非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換されたフェニルイミド基であり、
L
2は、S-R
11であり、R
11は、(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル又は(C
4~C
20)アルキルアリールからなる群から選択され、
L
3は、中性配位子であり、
R
3は、水素、(C
1~C
20)アルキル、(C
2~C
20)アルケニル、(C
2~C
20)アルキニル及び(C
6~C
10)アリールからなる群から選択され、
R
4、R
5、R
6及びR
7は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、(C
1~C
16)アルキル、(C
1~C
16)アルコキシ、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル、(C
2~C
16)アルケニル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロアリール、(C
3~C
12)ヘテロシクリル、-OR
18、-NO
2、-COOH、-COOR
18、-CONR
18R
19、-SO
2NR
18R
19、-SO
2R
18、-CHO、-COR
18からなる群から選択され、R
18及びR
19は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)ペルハロアルキル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロアリールからなる群から選択されるか、或いは
R
4、R
5、R
6及びR
7のうちの2つ以上は、それらが結合している炭素原子と一緒に、非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換された縮合(C
4~C
8)炭素環、又は非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換された縮合芳香環を形成する)。
【請求項3】
Zが酸素であり、
R
3が水素であり、
R
4、R
5、R
6及びR
7が、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル及び-NO
2からなる群から選択され、
【化3】
が、式(III)を有し:
【化4】
(式中、
a及びbは、0~5の整数であり、
R
8、R
9、R
10及びR
11はそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C
1~C
16)アルキル、(C
1~C
16)アルコキシ、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル、(C
2~C
16)アルケニル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロアリール、(C
3~C
12)ヘテロシクリル、(C
4~C
20)アルキルアリール、-OR
18、-NO
2、-COOH、-COOR
18、-CONR
18R
19、-SO
2NR
18R
19、-SO
2R
18、-CHO、-COR
18からなる群から選択され、R
18及びR
19は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)ペルハロアルキル、(C
6~C
14)アリール、(C
6~C
14)ペルハロアリールからなる群から選択される)
L
3が、式(IVA)又は(IVB)のN-複素環カルベン配位子である:
【化5】
(式中、
R
12及びR
17は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換された(C
1~C
12)アルキル、(C
3~C
12)シクロアルキル、(C
2~C
12)アルケニル及び(C
6~C
14)アリールからなる群から選択され、
R
13、R
14、R
15及びR
16は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、任意選択により(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)ペルハロアルキル、(C
1~C
6)アルコキシ又はハロゲンのうちの少なくとも1つによって置換された、水素、(C
1~C
12)アルキル、(C
3~C
12)シクロアルキル、(C
2~C
12)アルケニル及び(C
6~C
14)アリールからなる群から選択されるか、或いは
R
13、R
14、R
15及びR
16は、任意選択により、それらが結合している炭素原子と一緒に、非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換された縮合(C
4~C
8)炭素環、又は非置換であるか又は(C
1~C
4)アルキル、(C
1~C
16)ペルハロアルキル、(C
3~C
7)シクロアルキル若しくは(C
4~C
20)アルキルアリールによって置換された縮合芳香環を形成する)
請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
【化6】
が、
式(IIIA)の基:
【化7】
式(IIIB)の基:
【化8】
式(IIIC)の基:
【化9】
式(IIID)の基:
【化10】
式(IIIE)の基:
【化11】
式(IIIF)の基:
【化12】
及び
式(IIIG)の基:
【化13】
からなる群から選択される、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
L
3が、
【化14】
からなる群から選択される、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
【化15】
からなる群から選択される、請求項2に記載の化合物。
【請求項7】
少なくとも1種のオレフィンを、触媒(前駆体)としての請求項1に記載の化合物と接触させることを含む、オレフィンのメタセシス反応を行うための方法。
【請求項8】
前記メタセシス反応が、有機溶媒中で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒が、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トルエン、酢酸エチル及びこれらの任意の組み合わせの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記メタセシス反応が、一切の溶媒なしで行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記メタセシス反応が、化学活性剤の存在下で行われる、請求項7から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記化学活性剤が、ブレーンステッド若しくはルイス酸又はアルカン若しくはシランのハロ誘導体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記活性剤が、塩化水素、クロロトリメチルシラン又はp-トルエンスルホン酸である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記メタセシス反応が、ジシクロペンタジエンの開環メタセシス重合である、請求項7から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
一般式1の触媒(前駆体)が固体形態でジシクロペンタジエンに添加される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記重合反応が、ジシクロペンタジエンと一般式1の触媒(前駆体)との混合物を30℃以上の温度に加熱することによって開始される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記メタセシス反応が、20~120℃の温度で行われる、請求項7から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記メタセシス反応が、1分~24時間にわたって行われる、請求項7から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記メタセシス反応が、架橋結合の形成を促進する添加剤の存在下で行われる、請求項7から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記メタセシス反応が、1000ppm以下の量の触媒(前駆体)を使用して行われる、請求項7から19のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一連の長い貯蔵寿命安定性の金属錯体、メタセシス反応における触媒(前駆体)としてのその使用、並びにメタセシス反応を行うための方法に関する。より詳細には、本発明は、長い貯蔵寿命安定性を示し、かつ好適な条件下で活性化したときに広範囲のメタセシス反応に対して高い触媒作用を示す一連の有機ルテニウム化合物に関する。本発明はまた、これらの化合物の作製方法にも関する。これに応じて、本発明の化合物は、多種多様なオレフィンメタセシス反応(特に開環メタセシス重合(ROMP)を含む)を行うための触媒(前駆体)として有用である。
【背景技術】
【0002】
オレフィンのメタセシスは、有機合成において重要な手段である(R.H.Grubbs(Ed.)、AG Wenzel(Ed.)、D.J.O’Leary(Ed.)、E.Khosravi(Ed.)、Handbook of Olefin Metathesis、第2編、3巻、2015、John Wiley&Sons,Inc. 1608頁)。
【0003】
オレフィンメタセシス反応を能動的に触媒作用する多くのルテニウム錯体は、当該技術分野において周知である(例えば、Vougioukalakis,G.C.;Grubbs,R.H. Chem.Rev. 2010、110、1746参照)。第三世代錯体(Gru-III、Ind-III等)は開環メタセシス重合(ROMP)反応の非常に有用な触媒(前駆体)であることが示された。
【0004】
【0005】
第三世代触媒は、非常に迅速にメタセシス反応を開始するが、鋳型ROMP重合等のいくつかのメタセシス応用例では、基質へ添加した直後に反応を開始しないが、化学物質、温度又は光による適切な開始後のみ開始する触媒(前駆体)を使用することが有利である。遅延された開始によって特徴付けられる錯体は、多くの場合、「潜在性触媒(dormant catalysts)」又は「潜在性触媒(latent catalysts)」と称する(Monsaert,S.;Vila,A.L.;Drozdzak,R.;Van Der Voort,P.;Verpoort,F.、Chem.Soc.Rev.、2009、38、3360;R.Drozdzak、N.Nishioka、G.Recher、F.Verpoort、Macromol.Symp.2010、293、1~4)。例示的な「潜在性触媒」は、錯体A~F、並びに近年得られたP-1及びP-2である(Pietraszuk,C.;Rogalski,S.;Powala,B.;Mitkiewski,M.;Mubicki,M.;Spolnik,G.;Danikiewicz,W.;Wozniak,K.;Pazio,A.;Szadkowska,A.;Kozlowska,A.;Grela,K.、Chem.Eur.J、2012、18、6465~6469)。
【0006】
鋳型ROMP重合は、完成品を得ることを可能にする。ジシクロペンタジエンは、鋳型重合によく使用されるモノマーの1つである。ポリジシクロペンタジエンは、ジシクロペンタジエンの重合によって得られ、特に低い吸湿性並びに応力及び高温に対する耐性を特徴とする。これが、乗用車の部品及び化学工業用の特殊容器がジシクロペンタジエンの(鋳型)ROMP重合によって製造されることがより多い理由である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
参照により関連部分が本明細書に組み込まれる米国特許第9,328,132(B2)号は、オレフィンのメタセシス反応のより堅牢な「潜在性触媒」を実現させる上で当該技術分野が直面するこれらの欠陥の一部に対処する。しかしながら、所望のROMP重合条件下で活性化でき、目的とする末端用途に基づく、改善された「潜在性触媒」が依然として必要とされている。
【0008】
その上、休眠状態にあり、活性化されると高い作用で即座に活性化されうる潜在性触媒が依然として必要とされている。
【0009】
これに応じて、本発明の目的は、シェル上で(固体として)及び高度に反応性のモノマー(例えば、DCPD)との混合物中で、数か月間、周囲温度で安定性であり、活性化のときのみ高い活性を示す、一連の改善された「潜在性触媒」を提供することである。
【0010】
また、本発明の目的は、本明細書で開示する該有機ルテニウム潜在性触媒の調製方法を提供することでもある。
【0011】
本発明の他の目的及び更なる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実際の工業用途の観点から、触媒(前駆体)は、その合成中、精製中、モノマーとの混合物の調製中、取り扱い中、貯蔵中、輸送中で、並びにメタセシス反応中にそれを使用する間、酸素及び水分の存在下で安定性であることが極めて重要である。文献中に報告されたオレフィンのメタセシス用の安定性かつ活性の触媒(前駆体)の開発により、この変換の可能な使用範囲が有意に広がる。それにもかかわらず、これらの錯体は、酸素及び水分に対するその安定性が限定されるため、依然として不活性ガスの雰囲気下、乾燥溶媒中でのメタセシス反応の中で調製及び使用される。
【0013】
驚くべきことに、現在、式Iによって表されるルテニウム錯体は、空気及び水分の存在下で安定性であり、(活性化しない)活性のモノマーのROMPを数日間から数か月間開始しないことが発見されている。加えて、式Iによって表される錯体は、活性化されれば、改善された作用を示す。
【0014】
【0015】
(式中、
Xは、ArOであり、Arは(C6~C10)アリールであり、
Yは、アニオン性配位子であり、
L1は、(C6~C10)アリール置換イミド基であり、
L2は、S-R11であり、R11は、(C1~C10)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C16)シクロアルキル、(C2~C16)アルケニル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロアリール及び(C3~C12)ヘテロシクリル、(C4~C20)アルキルアリールからなる群から選択され、
L3は、中性配位子であり、
R1は、水素及び(C1~C20)アルキルからなる群から選択され、
R2は、(C4~C16)アルケニル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロアリール及び(C3~C12)ヘテロシクリルからなる群から選択されるか、或いは
R1及びR2は、それらが結合している炭素原子と一緒に、非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル若しくは(C4~C20)アルキルアリールによって置換された縮合単環又は二環(C8~C12)芳香環を形成するか、或いは
R1及びR2は、それらが結合する炭素原子と一緒に且つYを含んで、非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル若しくは(C4~C20)アルキルアリールによって置換された縮合単環又は二環(C8~C12)芳香族複素環を形成する)。
【0016】
更に、式(I)の化合物のエナンチオマー及びジアステレオマーの形態を非限定的に含めた全ての形態の立体異性体が本発明の一部であることに留意すべきである。
【0017】
好適な活性化の後、一般式(I)の錯体は、空気の存在下で行われるメタセシス反応を能動的に触媒作用する。その上、一般式(I)の錯体がメタセシス反応を能動的に触媒作用するのは、化学物質によって活性化された後のみであり、熱活性化の影響は非常に受けにくい。これらの性質により、反応の開始時間を優秀に制御でき、このような性質は、特にROMPタイプの反応に非常に有用である。意外なことに、一般式(I)の錯体は、周囲条件で極めて安定性であり、それ自体で又は多種多様な重合性オレフィンモノマーと組み合わせて、数日間から数か月間、例えば最長で3か月以上貯蔵することができることが観察された。
【0018】
更に、驚くべきことに、一般式(I)の化合物が、空気中で行われるROMPタイプの反応によってポリジシクロペンタジエン(ポリDCPD)を得ることを可能にしたが、使用した触媒(前駆体)の量が、古典的錯体を使用した場合より有意に少なかったことが観察された。NHC配位子(下記のN-複素環カルベン配位子)を含有する本発明による錯体の量が100ppm(重量による100万分の1)であっても、ジシクロペンタジエン(DCPD)の重合を効果的に触媒作用する。この量は、65,000:1のモノマーと触媒(前駆体)のモル比に対応する。したがって、この触媒(前駆体)の量は、触媒Gの場合の半分に満たない(M.Perring、N.B.Bowden Langmuir、2008、24、12480~10487)。
【0019】
意外なことに、現在、本明細書に記載の一般式(I)のチオ誘導体は、当該技術分野において報告された様々な類似化合物と比較したとき、非常に高い貯蔵安定性をもたらすことが発見されている。その貯蔵安定性にもかかわらず、式(I)の化合物は、以下に記載する実施例によって証明されるように、非常に高い触媒作用を示す。
【0020】
これに応じて、オレフィンメタセシス反応のための触媒(前駆体)として、上記の本発明による一般式(I)の化合物が提供される。
【0021】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は、
【0022】
【0023】
いくつかの他の実施形態において、式(I)の範囲内の有機ルテニウム化合物は、式(II)を有する:
【0024】
【0025】
(式中、
Xは、非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル若しくは(C4~C20)アルキルアリールによって置換されたアリールオキシであり、
Zは、酸素又は硫黄であり、
L1は、非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル若しくは(C4~C20)アルキルアリールによって置換されたフェニルイミド基であり、
L2は、S-R11であり、R11は、(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル及び(C3~C7)シクロアルキル、(C4~C20)アルキルアリールからなる群から選択され、
L3は、中性配位子であり、
R3は、水素、(C1~C20)アルキル、(C2~C20)アルケニル、(C2~C20)アルキニル及び(C6~C10)アリールからなる群から選択され、
R4、R5、R6及びR7は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、(C1~C16)アルキル、(C1~C16)アルコキシ、(C1~C16)ペルフルオロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル、(C2~C16)アルケニル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルフルオロアリール、(C3~C12)ヘテロシクリル、-OR18、-NO2、-COOH、-COOR18、-CONR18R19、-SO2NR18R19、-SO2R18、-CHO、-COR18からなる群から選択され、R18及びR19は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C1~C6)アルキル、(C1~C6)ペルハロアルキル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロアリールからなる群から選択されるか、或いは
R4、R5、R6及びR7のうちの2つ以上は、それらが結合している炭素原子と一緒に、非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル若しくは(C4~C20)アルキルアリールによって置換された縮合(C4~C8)炭素環、又は非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル若しくは(C4~C20)アルキルアリールによって置換された縮合芳香環を形成する)。
【0026】
いくつかの実施形態において、式(II)の化合物は、以下を有する:
Zは、酸素であり、
R3は、水素であり、
R4、R5、R6及びR7は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル及び-NO2からなる群から選択され、
【0027】
【0028】
【0029】
(式中、
a及びbは、0~5の整数であり、
R8、R9及びR10はそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C1~C16)アルキル、(C1~C16)アルコキシ、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル、(C2~C16)アルケニル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロアリール、(C3~C12)ヘテロシクリル、-OR18、-NO2、-COOH、-COOR18、-CONR18R19、-SO2NR18R19、-SO2R18、-CHO、-COR18からなる群から選択され、R18及びR19は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C1~C6)アルキル、(C1~C6)ペルハロアルキル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロアリールからなる群から選択され、
R11は、(C1~C16)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル、(C6~C14)アリール、(C6~C14)ペルハロアリール及び(C3~C12)ヘテロシクリル、(C4~C20)アルキルアリールからなる群から選択される)
L3は、式(IVA)又は(IVB)のN-ヘテロシクリルカルベン配位子である:
【0030】
【0031】
(式中、
R12及びR17は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C1~C12)アルキル、(C3~C12)シクロアルキル、(C2~C12)アルケニル及び(C6~C14)アリールからなる群から選択され、これは、非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル又は(C4~C20)アルキルアリールによって置換され、
R13、R14、R15及びR16は同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、任意選択により(C1~C6)アルキル、(C1~C6)ペルハロアルキル、(C1~C6)アルコキシ又はハロゲンのうちの少なくとも1つで置換された、(C1~C12)アルキル、(C3~C12)シクロアルキル、(C2~C12)アルケニル、(C6~C14)アリールからなる群から選択されるか、或いは
R13、R14、R15、R16は、任意選択により、それらが結合している炭素原子と一緒に、非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル若しくは(C4~C20)アルキルアリールによって置換された縮合(C4~C8)炭素環、又は非置換であるか又は(C1~C4)アルキル、(C1~C16)ペルハロアルキル、(C3~C7)シクロアルキル若しくは(C4~C20)アルキルアリールによって置換された縮合芳香環を形成することができる)。
【0032】
更に他のいくつかの実施形態において、本発明による式(II)の化合物は、
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
いくつかの実施形態において、公知のN-複素環カルベン化合物のいずれも、L3配位子として使用することができる。このようなN-複素環式化合物の非限定例は、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン、3-ブロモピリジン、ピペリジン、モルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、1,2,3-トリアゾール、1,3,4-トリアゾール、1,2,3-トリアジン及び1,2,4-トリアジンからなる群から選択される。これに応じて、いくつかの実施形態において、本発明による式(I)又は(II)の化合物は、
【0042】
【化16】
からなる群から選択されるL
3を有する。
【0043】
式(II)の化合物の代表的な非限定例には、以下を列挙することができる。
【0044】
【0045】
[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]{2-[(E)-({2-[メチルチオ-κS]フェニル}イミノ-κN)メチル]フェノキシド-κO}[2-(オキシド-κO)ベンジリデン-κC]ルテニウム(II)、
【0046】
【0047】
[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]{2-[(E)-({2-[イソプロピルチオ-κS]フェニル}イミノ-κN)メチル]フェノキシド-κO}[2-(オキシド-κO)ベンジリデン-κC]ルテニウム(II)、
【0048】
【0049】
[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]{2-[(E)-({2-[シクロヘキシルチオ-κS]フェニル}イミノ-κN)メチル]フェノキシド-κO}[2-(オキシド-κO)ベンジリデン-κC]ルテニウム(II)、及び
【0050】
【0051】
[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]{2-[(E)-({2-[メチルチオ-κS]フェニル}イミノ-κN)メチル]フェノキシド-κO}[2-(オキシド-κO)ベンジリデン-κC]ルテニウム(II)。
【0052】
一般式(I)の化合物は、当該技術分野において既知のいずれかの手順によって調製することができる。例えば、WO2005/082819 A2は、式(I)の化合物の調製手順と類似するが、好適な前駆体を所望の二座配位子(すなわち、シッフ塩基)のタリウム塩と反応させて該文献中に記載の有機金属化合物を形成することに関与する二座配位子を有する、様々な有機金属化合物の調製手順を開示している。WO2011/009721 A1は、シッフ塩基の銀塩を使用してシッフ塩基二座配位子含有化合物を調製する同様の手法を開示している。しかしながら、これらの手法は両方とも、有害なタリウム塩又は高価な銀塩の利用を要し、したがって工業上、実用的ではない。
【0053】
有利には、現在、本発明の化合物は、簡単に入手できる様々なアルカリ金属塩、例えばカリウム塩又はナトリウム塩等、例えば、カリウムtert-ブトキシド、tert-五酸化カリウム、ナトリウムtert-ブトキシド、及びtert-五酸化ナトリウム等を使用して非常に容易に調製することができることが判明している。
【0054】
スキームIは、式(I)の範囲内である式(Ib)の化合物の調製のための本発明による方法を示す。
【0055】
スキームIに示すように、式(Ia)の好適な有機ルテニウム前駆体化合物は、式(IIIa)の好適なシッフ塩基及び式ROAlの好適なアルカリ金属アルコキシドと反応する。式(Ia)及び(IIIa)中、a、b、Y、Z、L3、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は、上記の通りである。Xaは、塩素、臭素及びヨウ素から選択されるハロゲンであり、L4は、トリ(C1~C6)アルキルホスフィン、トリ(C3~C8)シクロアルキルホスフィン及びトリ(C6~C14)アリールホスフィンを含めた好適な任意の中性配位子である。そのようなタイプの代表的な配位子としては、非限定的にトリシクロヘキシルホスフィン及びトリフェニルホスフィンが挙げられる。Rは、(C1~C8)アルキル及び(C6~C14)アリールであり、具体例としては、メトキシド、エトキシド、n-プロポキシド、イソプロポキシド、tert-ブトキシド、tert-ペントキシド等が挙げられる。Alは、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムを含めた金属である。式(Ia)の化合物は、周囲又は周囲超過条件でのROAlの存在下で、式(IIIa)の化合物と反応することができる。一般的に、そのような反応は、約20℃~約100℃以上の温度下、好適な有機溶媒中で行われる。いくつかの実施形態において、そのような反応は、約30℃~約50℃の温度で行われる。式(Ia)の化合物、式(IIIa)の化合物及びROAlを溶解すると考えられるいずれかの溶媒を、この反応中に用いることができる。好適な溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0056】
【0057】
本発明は、メタセシス反応における触媒(前駆体)としての上記の一般式(I)の化合物の使用にも関する。いくつかの実施形態において、一般式(I)の化合物は、閉環メタセシス、交差メタセシス、ホモメタセシス、アルケン-アルキン型メタセシスの反応における触媒(前駆体)として使用される。他のいくつかの実施形態において、一般式(I)の化合物は、開環メタセシス重合反応における触媒(前駆体)として使用される。
【0058】
本発明はまた、少なくとも1種のオレフィンを、触媒(前駆体)としての一般式(I)の化合物と接触させる、オレフィンのメタセシス反応を行うための方法にも関する。
【0059】
一般的に、メタセシス反応は有機溶媒中で行われる。このような重合反応を行わせると考えられる有機溶媒は全て使用可能である。そのような有機溶媒の非限定例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トルエン、酢酸エチル及びこれらの任意の組み合わせの混合物が挙げられる。
【0060】
いくつかの実施形態において、メタセシス反応は、一切の溶媒を使わずに行われる。他のいくつかの実施形態において、メタセシス反応は、化学活性剤の存在下で行われる。一般的に、化学活性剤は、ブレーンステッド若しくはルイス酸又はアルカン若しくはシランのハロ誘導体である。このような活性剤の非限定例としては、塩化水素、クロロトリメチルシラン又はp-トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0061】
いくつかの実施形態において、メタセシス反応は、ジシクロペンタジエンの開環メタセシス重合である。
【0062】
更に他のいくつかの実施形態において、一般式(I)の触媒(前駆体)を固体形態でジシクロペンタジエンに添加する。
【0063】
一実施形態において、ジシクロペンタジエンと一般式(I)の触媒(前駆体)との混合物を30℃以上の温度まで加熱することによって重合反応を開始する。
【0064】
いくつかの実施形態において、出発物質は、少なくとも94重量%のジシクロペンタジエンを含有する。
【0065】
別の実施形態において、メタセシス反応は、20~120℃の温度で行われる。更に別の実施形態において、メタセシス反応は、1分~24時間の間で行われる。
【0066】
いくつかの実施形態において、メタセシス反応は、架橋結合を促進する添加剤の存在下で行われる。
【0067】
一実施形態において、メタセシス反応は、1000ppm以下の量の触媒(前駆体)を使用して行われる。
【0068】
本発明の明細書及び特許請求の範囲を通して、物質の量に関してppm(100万分の1)単位が使用される場合、これは重量ベースである。
【0069】
本発明者らは、いかなる特定の触媒作用の機構にも束縛されることを望むものではないため、「触媒(前駆体)」という用語は、本発明による化合物が、触媒それ自体又は実際の触媒となる活性種の前駆体のいずれであってもよいことを示すために用いられる。
【0070】
以下で定義しない群の定義は、当該技術分野において既知の最も広い意味を有するものとする。
【0071】
用語「任意選択により置換された」は、問題とする基の1個又は複数の水素原子が指定の基で置き換えられるが、但し、該置換によって安定性の化合物が形成されることを条件とすることを意味する。
【0072】
用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、F、Cl、Br、Iから選択される元素を表す。
【0073】
用語「アルキル」は、指定の数の炭素原子を有する飽和の直鎖状又は分枝状炭化水素置換基に関する。アルキルの非限定例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチルである。
【0074】
用語「アルコキシ」は、酸素原子を介して結合された上記のアルキル置換基に関する。
【0075】
用語「ペルハロアルキル」は、全ての水素がハロゲン原子で置き換えられ、該ハロゲン原子が同一であっても異なっていてもよい、上記のアルキルを表す。
【0076】
用語「シクロアルキル」は、指定の数の炭素原子を有する飽和の単環式又は多環式炭化水素置換基に関する。シクロアルキル置換基の非限定例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルである。
【0077】
用語「アルケニル」は、指定の数の炭素原子を有し、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含有する非環式直鎖状又は分枝状炭化水素鎖に関する。アルケニルの非限定例は、ビニル、アリル、1-ブテニル、2-ブテニルである。
【0078】
用語「アリール」は、指定の数の炭素原子を有する芳香族の短環式又は多環式炭化水素置換基に関する。アリールの非限定例は、フェニル、メシチル、アントラセニルである。
【0079】
用語「複素環式」は、指定の数の炭素原子を有するが、1個又は複数の炭素原子が、窒素、リン、硫黄、酸素等のヘテロ原子で置き換えられ、但し、環中に2個の直接連結された酸素又は硫黄原子は存在しないことを条件とする、芳香族及び非芳香族の環式置換基に関する。非芳香族複素環式基は、4~10個の原子を環中に含むことができるのに対し、芳香族複素環式基は、必然的に少なくとも5個の原子を環中に含む。ベンゾ縮合系も複素環式基に属する。非芳香族複素環式基の非限定例は、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、2-ピロリニル、インドリニルである。芳香族複素環式基の非限定例は、ピリジニル、イミダゾリル、ピリミジニル、ピラゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、フリル、チエニルである。上記の基は、炭素原子又は窒素原子を介して結合されていてもよい。例えば、結合ピロールによって得られた置換基は、ピロール-1-イル(N結合)又はピロール-3-イル(C結合)のいずれであってもよい。
【0080】
用語「中性配位子」は、ルテニウム原子に配位結合できる、電荷を持たない置換基に関する。このような配位子の非限定例は、N-複素環式カルベン配位子、アミン、イミン、ホスフィン及びその酸化物、亜リン酸及びリン酸アルキル及びアリール、エーテル、硫化アルキル及びアリール、配位炭化水素、ハロアルカン及びハロアレーンである。用語「中性配位子」は、N-複素環式化合物も包含し、その非限定例は、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、3-ブロモピリジン、ピペリジン、モルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、1,2,3-トリアゾール、1,3,4-トリアゾール、1,2,3-トリアジン及び1,2,4-トリアジンである。
【0081】
用語「アニオン性配位子」は、金属中心に配位結合できる、金属中心の電荷を補完できる電荷を持つ置換基であって、該補完が完全であっても部分的であってもよい、置換基に関する。アニオン性配位子の非限定例は、フッ化物、塩化物、臭化物又はヨウ化物アニオン、カルボン酸アニオン、アルコール及びフェノールアニオン、チオール及びチオフェノールアニオン、(有機)硫酸及び(有機)リン酸アニオン、並びにこれらのエステルのアニオンである。
【0082】
用語「カルベン」は、原子価数2及び2つの不対の価電子を有する中性炭素原子を含有する分子に関する。用語「カルベン」は、炭素原子がホウ素、ケイ素、窒素、リン、硫黄等の別の化学元素で置換されたカルベン類似体も包含する。用語「カルベン」は、N-複素環式カルベン(NHC)配位子に特に関連する。NHC配位子の非限定例は、
【0083】
【0084】
「立体異性体」という表現は、本明細書で用いられる場合、空間中の原子の配向のみが異なる個々の分子の全ての異性体に用いられる。典型的には、通常、少なくとも1つの不斉中心(エナンチオマー)によって形成される鏡像異性体を含む。本発明による化合物が2つ以上の不斉中心を有する場合、立体異性体は、追加的にジアステレオマーとして存在することができ、また、特定の個々の分子は、幾何異性体(シス/トランス)としても存在しうる。同様に、本発明の特定の化合物は、高速平衡化にある2つ以上の構造的に異なった形態の混合物中に存在し得、一般的に互変異性体として既知である。互変異性体の代表例としては、ケト-エノール互変異性体、フェノール-ケト互変異性体、ニトロソ-オキシム互変異性体、イミン-エナミン互変異性体等が挙げられる。全ての該異性体及びそれらの任意の比率の混合物は、本発明の範囲内に包含されることを理解されたい。
【0085】
架橋結合の形成を促進する好ましい作用剤の非限定例は、過酸化tert-ブチル、過酸化ジ-tert-ブチル、及び更にはこれらの混合物である。
【実施例】
【0086】
以下の実施例は、本発明の化合物の調製に用いられる手順と、オレフィンメタセシスにおけるその使用を説明する。以下の実施例は、本発明を例示し、その特定の態様を説明することを唯一の目的とする。本発明による触媒(1B)の作用を、以下に提示する構造のLatMetSIMes3D3と比較した:
【0087】
【0088】
以下の実施例において使用されたDCPDは、商業的供給源(Cymetech製のUltrene 99-6)から購入し、6質量パーセントのトリシクロペンタジエン(TCPD)、トリフェニルホスフィン、リチウムビス(トリメチルシリル)アミドの溶液、tert-五酸化カリウムの溶液、塩化水素溶液(1,4-ジオキサン中、市販)を含有していた。全ての反応はアルゴン下で実施した。トルエンをクエン酸、水で洗浄し、4Å分子篩で乾燥し、アルゴンで脱酸素した。THFを4Å分子篩で乾燥し、アルゴンで脱酸素した。
【実施例】
【0089】
【0090】
リチウムビス(トリメチルシリル)アミドのトルエン溶液(1M、12mL、1.1当量)をトルエン(82mL)中のSIMesHBF4(5.1g、1.15当量)の懸濁液に添加した。結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌し、次いで80℃の温度に加熱した油浴に入れた。10分後、式M10の化合物(10g、11.3mmol、1当量)を添加し、混合物を10分間攪拌した。次に、(E/Z)-2-(プロパ-1-エン-1-イル)フェノール(2.27g、1.5当量)を添加し、更に30分経った後、トリフェニルホスフィン(1.48g、0.5当量)を添加した。反応混合物を80℃で90分間攪拌し、次いで室温まで冷却し、シリカゲルのショートパッドに通してろ過した。シリカゲルパッドをトルエンで洗浄した。粗生成物をジクロロメタン/n-ヘプタン混合物からの結晶化及び再結晶化によって精製して緑色の固形物4.2gを収率46%で得た。
【0091】
【0092】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、1.74mL、1.2当量)をイミン1(0.72g、1.2当量)のテトラヒドロフラン(23mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMetSIMesPPh3(2g、2.47mmol、1当量)を添加し、反応物を41℃で45分間攪拌した。反応混合物をセライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドをTHFで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して黒色の結晶0.95g(収率51%)を得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0093】
【実施例】
【0094】
【0095】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、5.23mL、1.2当量)をイミン2(2.41g、1.2当量)のテトラヒドロフラン(68.8mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMetSIMesPPh3(6g、7.4mmol、1当量)を添加し、反応物を41℃で1時間攪拌した。反応混合物をセライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドをTHFで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して黒色の結晶4.76g(収率82%)を得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0096】
【実施例】
【0097】
【0098】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、0.44mL、1.2当量)をイミン3(0.23g、1.2当量)のテトラヒドロフラン(11.9mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMetSIMesPPh3(0.5g、0.62mmol、1当量)を添加し、反応物を41℃で1時間攪拌した。反応混合物をセライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドをTHFで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して黒色の結晶0.23g(収率45%)を得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0099】
【実施例】
【0100】
【0101】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、0.44mL、1.2当量)をイミン4(0.22g、1.2当量)のテトラヒドロフラン(13.9mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMetSIMesPPh3(0.5g、0.62mmol、1当量)を添加し、反応物を41℃で1時間攪拌した。反応混合物をセライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドをTHFで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して茶色の粉末0.20g(収率40%)を得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0102】
【実施例】
【0103】
【0104】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、139mL、1.05当量)をトルエン(2050mL)中のSIPrHBF4(113g、1.05当量)の懸濁液に添加した。結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌し、次いで85℃の温度に加熱した油浴に入れた。20分後、M10(200g、226mmol、1当量)を添加した後、トルエン(50mL)を添加した。混合物を30分間攪拌した。その後、トルエン(50mL)中の(E/Z)-2-(プロパ-1-エン-1-イル)フェノール(45.4g、1.5当量)を添加した後、トリフェニルホスフィン(59.2g、1当量)を添加した。反応混合物を85℃で90分間攪拌し、次いで室温まで冷却し、シリカのショートパッドに通してろ過した。シリカゲルパッドをトルエンで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化して結晶38.6gを収率19%で得た。
【0105】
【0106】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、22mL、1.21当量)をイミン1(9.18g、1.22当量)のテトラヒドロフラン(288mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMetSIPrPPh3(27.73g、31mmol、1当量)を添加し、反応物を61℃で1時間攪拌し、次いで室温まで冷却し、セライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドをテトラヒドロフラン及びジクロロメタンで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/n-ヘプタン混合物から結晶化して、ジアステレオマーの混合物の茶色の粉末(1B)27.05gを粗生成物の104%の収率で得た。茶色の粉末をジクロロメタン(500mL)に溶解した。次いで、メタノール(150mL)を、攪拌されている茶色の溶液に、5時間にわたって少しずつ添加した。結果として得られた溶液を室温で1時間攪拌し、ろ紙に通してろ過した。ジクロロメタンをゆっくり蒸発させて、単一ジアステレオマー1Bを黒色の結晶で得た。生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から再結晶化して黒色の結晶20.82gを収率80%で得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0107】
【実施例】
【0108】
本発明の化合物を使用して、以下の比較例1に示す当該技術分野において開示された有機ルテニウム化合物と比較したときの、本発明の化合物の貯蔵寿命安定性を示した。
【0109】
実施例5の化合物、つまり化合物1Bを本試験に使用した:1B(14.93mg、40モルppm)を60mLのUltrene 99-6に溶解し、これを配合物Aと表した。結果として得られた溶液を、アルゴン下、室温で保存した。配合物Aの貯蔵寿命を、新たに調製されたHCl含有の配合物B(200モルppm)との反応の中で、隔週ごとに監視した。
【0110】
試験手順:
5mLのUltrene 99-6中の塩化水素溶液(1,4-ジオキサン中の4M溶液、1.85μL、200モルppm)を調製し、これを配合物Bと表した。形成された配合物Bを5mLの新たに調製された配合物A(1.244mg、1Bの40モルppm)に添加した。最終の反応性配合物は、20モルppmの1B及び100モルppmのHClを含有していた。結果を表1にまとめる。
【0111】
【0112】
次いで配合物Aを室温で30週間貯蔵した。その後、新たに調製された配合物B(5mLのUltrene 99-6と塩化水素、1,4-ジオキサン中の4M溶液、1.85μL、200モルppm)を5mLの配合物A(1.244mg、1Bの40モルppm)に添加した。最終の反応性配合物は、20モルppmの1B及び100モルppmのHClを含有していた。結果を表2にまとめる。
【0113】
【0114】
表1及び2で提示されたデータから、本発明の化合物、すなわち1Bの触媒作用が、室温で30週間貯蔵した後でも悪影響を与えないことが明白である。実際、配合物Aの溶液は、30週間後、調製された直後より更に活性である。
【0115】
比較例1
LatMetSIMes3D3(14.11mg、40モルppm)を60mLのUltrene 99-6に溶解して配合物Aを得た。結果として得られた溶液を、アルゴン下、室温で貯蔵した。配合物Aの貯蔵寿命を、新たに調製されたHCl含有の配合物B(200モルppm)との反応の中で、隔週ごとに監視した。
【0116】
試験手順:
5mLのUltrene 99-6と塩化水素(1,4-ジオキサン中の4M溶液、1.85μL、200モルppm)を調製し、これを配合物Bと表した。配合物Bを5mLの配合物A(1.176mg、1Bの40モルppm)に添加した。最終の反応性配合物は、20モルppmのLatMetSIMes3D3及び100モルppmのHClを含有していた。結果を表3にまとめる。
【0117】
【0118】
【0119】
5mLの新たな配合物Bを上記の通りに調製した。配合物Bを、2週間貯蔵しておいた配合物A(5mL、40モルppmのLatMetSIMes3D3)に添加した。最終の反応性濃縮物は、20モルppmのLatMetSIMes3D3及び100モルppmのHClを含有していた。反応性配合物はゲル化され、発熱ピークは観察されず、これは部分的な触媒の分解の結果だった。
【実施例】
【0120】
【0121】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、4.26mL、1.2当量)をイミン5(2.27g、1.2当量)の1,4-ジオキサン(56.0mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMetSIMesPCy3(5g、6.0mmol、1当量)を添加し、反応物を95℃で2時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、セライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドを1,4-ジオキサン及びジクロロメタンで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/n-ヘプタン混合物から結晶化して、ジアステレオマーの混合物としての5Aの茶色の粉末4.16g(粗生成物の84%の収率)を得た。生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から再結晶化してジアステレオマーの混合物としての純粋な5Aのこげ茶色又は黒色の結晶3.05gを収率61%で得た。純粋なジアステレオマーの混合物をジクロロメタン(30mL)に溶解した。次いで、メタノール(45mL)をゆっくり添加した。結果として得られた溶液を室温で終夜攪拌した。溶媒をゆっくり蒸発させて乾燥し、単一ジアステレオマーとしての5Aのこげ茶色又は黒色の結晶3.01gを収率61%で得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0122】
【実施例】
【0123】
【0124】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、4.26mL、1.2当量)をイミン6(2.36g、1.2当量)の1,4-ジオキサン(56.0mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMetSIMesPCy3(5g、6.0mmol、1当量)を添加し、反応物を95℃で2時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、セライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドを1,4-ジオキサン及びジクロロメタンで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/n-ヘプタン混合物から結晶化して、ジアステレオマーの混合物としての6Aの茶色の粉末4.74g(粗生成物の94%の収率)を得た。茶色の粉末を、ジクロロメタン(30mL)及びメタノール(150mL)の混合物に溶解した。結果として得られた溶液を室温で終夜攪拌した。ジクロロメタンをゆっくり蒸発させて、単一ジアステレオマーとしての6Aの黒色の結晶3.18gを収率63%で得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0125】
【実施例】
【0126】
以下に例示する錯体1Bの構造を、X線結晶解析によって決定した。この解析用の1Bの結晶をジクロロメタン/n-ヘプタン溶液から成長させた。
【0127】
【実施例】
【0128】
【0129】
SIMesHBF4(7.81g、19.8mmol、1.1当量)をアルゴン下、丸底フラスコに入れた。トルエン(160mL)を添加し、結果として得られた懸濁液を最大80℃まで加熱した。次に、LiHMDS(トルエン中1M、19.8mL、1.1当量)と添加し、混合物を3分間攪拌した後、M10(15.96g、18.0mmol、1当量)を添加した。15分後、M10の完全変換がTLCプレート(AcOEt/c-C6H12、1:9、v/v)上で観察された。温度を110℃まで上げ、(E/Z)-2-(プロパ-1-エン-1-イル)-6-イソプロピルフェノール(7.29g、36.0mmol、2当量)を添加した。結果として得られた混合物を20分間攪拌した後、トリシクロヘキシルホスフィン(5.55g、19.8mmol、1.1当量)を添加した。攪拌を更に2.5時間継続させた。その後、反応混合物を室温まで冷却し、セライトのショートパッドに通してろ過した。ろ過液を濃縮し、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(c-C6H12~c-C6H12/AcOEt、98:2、v/v)によって精製した。溶媒を除去し、粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から2回結晶化して緑色の固形物5.26gを収率33%で得た。化合物を1H、31P及び13C NMRによって特性決定した。
【0130】
【0131】
【0132】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、0.34mL、1.2当量)をイミン2(0.157g、1.2当量)の1,4-ジオキサン(5mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMet(6-iPr)SIMesPCy3(0.42g、0.48mmol、1当量)を添加し、反応物を95℃で3時間攪拌した。反応混合物をセライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドを1,4-ジオキサンで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥した。粗生成物をジクロロメタン(3mL)及びヘプタン(15mL)に溶解した。茶色がかった固形物をろ過により取り出して排除した。ろ過液を濃縮して乾燥し、粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化した。暗褐色の結晶をろ過により取り出し、メタノールで洗浄し、乾燥して0.19g(収率40%)の結晶を得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0133】
【実施例】
【0134】
【0135】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、0.81mL、1.2当量)をイミン1(0.33g、1.2当量)の1,4-ジオキサン(11mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMet(4-NO2)SIMesPCy3(1.0g、1.14mmol、1当量)を添加し、反応物を95℃で1.5時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却し、元の容量の40%まで濃縮した。粗生成物をろ過により取り出し、トルエン及びメタノールで洗浄し、ジクロロメタン/メタノール混合物から再結晶化して深緑色の結晶0.72gを収率79%で得た。生成物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0136】
2つのジアステレオマーを観察した。微量のジアステレオマーは、14.57ppmで特性ベンジリデンプロトンプロトンシグナルを示し、主要のジアステレオマー(95%)は、14.02ppmで特性ベンジリデンプロトンシグナルを示す。
【0137】
1H及び13C NMR中の主要ジアステレオマーのピーク:
【0138】
【実施例】
【0139】
【0140】
トルエン(30mL)を、丸底フラスコに入れたG2(3g、3.53mmol、1当量)に添加した。次に、(E/Z)-2-(プロパ-1-エン-1-イル)-4-メトキシフェノール(0.75g、4.59mmol、1.3当量)及びトリシクロヘキシルホスフィン(1.29g、4.59mmol、1.3当量)を添加した。反応混合物を80℃で6時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。半分のトルエンをロータリーエバポレーター上で除去し、ヘプタン(15mL)を添加した。粘着性の固形物をセライト上でろ過によって取り出して排除した。ろ過液を蒸発させて乾燥し、固形物の残留物を高真空下で更に乾燥した。粗生成物をジクロロメタン/メタノール混合物から結晶化してオリーブグリーン色の固形物2.6g(収率86%)を得た。化合物を1H及び31P NMRによって特性決定した。
【0141】
【0142】
【0143】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、0.49mL、1.2当量)をイミン2(0.23g、1.2当量)の1,4-ジオキサン(7mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMet(4-OMe)SIMesPCy3(0.6g、0.7mmol、1当量)を添加し、反応物を95℃で5時間攪拌した。反応混合物をセライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドを1,4-ジオキサンで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥した。粗生成物をジクロロメタン(3mL)に溶解し、ヘプタン(15mL)を添加した。茶色がかった固形物をろ過により取り出して排除した。ろ過液を約10mLに濃縮し、冷蔵庫内で終夜貯蔵した。暗褐色の結晶をろ過により取り出し、乾燥して0.53gの結晶を収率93%で得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。生成物の2つのジアステレオマーを観察した。特性ベンジリデンプロトン及びカルベン炭素シグナルのみが得られた。
【0144】
【実施例】
【0145】
【0146】
tert-五酸化カリウムのトルエン溶液(1.7M、0.49mL、1.2当量)をイミン1(0.20g、1.2当量)の1,4-ジオキサン(7mL)溶液に添加し、結果として得られた混合物を室温で30分間攪拌した。その後、LatMet(4-OMe)SIMesPCy3(0.6g、0.7mmol、1当量)を添加し、反応物を95℃で3.5時間攪拌した。反応混合物をセライトのショートパッドに通してろ過した。セライトパッドを1,4-ジオキサンで洗浄した。溶媒を蒸発させて乾燥した。粗生成物をジクロロメタン(3mL)に溶解し、再度セライトに通してろ過した。ヘプタン(15mL)を添加し、ジクロロメタンをロータリーエバポレーター上で除去した。粗生成物をろ過によって取り出し、ヘプタンで洗浄し、ジクロロメタン/メタノール混合物から再結晶化して暗褐色の結晶0.44g(収率80%)を得た。化合物を1H及び13C NMRによって特性決定した。
【0147】
【0148】
本発明を先の実施例によって例示してきたが、それによって限定されると解釈すべきではなく、本発明は先に開示した一般的な領域も包含するものとする。様々な変更及び実施形態を、その趣旨及び範囲から逸脱することなく施すことが可能である。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その全ての可能なエナンチオマー、ジアステレオマー、幾何又は任意の他の立体異性体を含めた、式I
Iの化合物:
【化1】
(式中:
Zが酸素であり、
R
3
が水素であり、
R
4
、R
5
、R
6
及びR
7
が、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、水素、メチル、エチル及び-NO
2
からなる群から選択され、
【化2】
が、式(III)を有し:
【化3】
(式中、
a及びbは、0~5の整数であり、
R
8
、R
9
、R
10
及びR
11
はそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C
1
~C
16
)アルキル、(C
1
~C
16
)アルコキシ、(C
1
~C
16
)ペルハロアルキル、(C
3
~C
7
)シクロアルキル、(C
2
~C
16
)アルケニル、(C
6
~C
14
)アリール、(C
6
~C
14
)ペルハロアリール、(C
3
~C
12
)ヘテロシクリル、(C
4
~C
20
)アルキルアリール、-OR
18
、-NO
2
、-COOH、-COOR
18
、-CONR
18
R
19
、-SO
2
NR
18
R
19
、-SO
2
R
18
、-CHO、-COR
18
からなる群から選択され、R
18
及びR
19
は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、(C
1
~C
6
)アルキル、(C
1
~C
6
)ペルハロアルキル、(C
6
~C
14
)アリール、(C
6
~C
14
)ペルハロアリールからなる群から選択される)
L
3
が、式(IVA)又は(IVB)のN-複素環カルベン配位子である:
【化4】
(式中、
R
12
及びR
17
は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、非置換であるか又は(C
1
~C
4
)アルキル、(C
1
~C
16
)ペルハロアルキル、(C
3
~C
7
)シクロアルキル若しくは(C
4
~C
20
)アルキルアリールによって置換された(C
1
~C
12
)アルキル、(C
3
~C
12
)シクロアルキル、(C
2
~C
12
)アルケニル及び(C
6
~C
14
)アリールからなる群から選択され、
R
13
、R
14
、R
15
及びR
16
は、同一であるか又は異なり、それぞれ独立して、任意選択により(C
1
~C
6
)アルキル、(C
1
~C
6
)ペルハロアルキル、(C
1
~C
6
)アルコキシ又はハロゲンのうちの少なくとも1つによって置換された、水素、(C
1
~C
12
)アルキル、(C
3
~C
12
)シクロアルキル、(C
2
~C
12
)アルケニル及び(C
6
~C
14
)アリールからなる群から選択されるか、或いは
R
13
、R
14
、R
15
及びR
16
は、任意選択により、それらが結合している炭素原子と一緒に、非置換であるか又は(C
1
~C
4
)アルキル、(C
1
~C
16
)ペルハロアルキル、(C
3
~C
7
)シクロアルキル若しくは(C
4
~C
20
)アルキルアリールによって置換された縮合(C
4
~C
8
)炭素環、又は非置換であるか又は(C
1
~C
4
)アルキル、(C
1
~C
16
)ペルハロアルキル、(C
3
~C
7
)シクロアルキル若しくは(C
4
~C
20
)アルキルアリールによって置換された縮合芳香環を形成する)。
【請求項2】
【化5】
が、
式(IIIA)の基:
【化6】
式(IIIB)の基:
【化7】
式(IIIC)の基:
【化8】
式(IIID)の基:
【化9】
式(IIIE)の基:
【化10】
式(IIIF)の基:
【化11】
及び
式(IIIG)の基:
【化12】
からなる群から選択される、請求項
1に記載の化合物。
【請求項3】
L
3が、
【化13】
からなる群から選択される、請求項
1に記載の化合物。
【請求項4】
【化14】
からなる群から選択される、請求項
1に記載の化合物。
【請求項5】
少なくとも1種のオレフィンを、触媒(前駆体)としての請求項1に記載の化合物と接触させることを含む、オレフィンのメタセシス反応を行うための方法。
【請求項6】
前記メタセシス反応が、有機溶媒中で行われる、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記メタセシス反応が、一切の溶媒なしで行われる、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記メタセシス反応が、化学活性剤の存在下で行われる、請求項
5から
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記活性剤が、塩化水素、クロロトリメチルシラン又はp-トルエンスルホン酸である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記メタセシス反応が、ジシクロペンタジエンの開環メタセシス重合である、請求項
5から
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
一般式1の触媒(前駆体)が固体形態でジシクロペンタジエンに添加される、請求項1
0に記載の方法。
【請求項12】
前記重合反応が、ジシクロペンタジエンと一般式1の触媒(前駆体)との混合物を30℃以上の温度に加熱することによって開始される、請求項1
0又は1
1に記載の方法。
【請求項13】
前記メタセシス反応が、架橋結合の形成を促進する添加剤の存在下で行われる、請求項
5から1
2のいずれか1項に記載の方法。
【国際調査報告】