(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】防御免疫の送達における、SARS-COV-2受容体結合ドメインに基づくワクチン組成物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/215 20060101AFI20240228BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20240228BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240228BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240228BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240228BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240228BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240228BHJP
【FI】
A61K39/215
A61K39/39
A61P31/14
A61P37/04
A61K45/00
A61K35/74 B
A61K47/64
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536891
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 CU2021050014
(87)【国際公開番号】W WO2022127946
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523057415
【氏名又は名称】インスティテュート フィンレイ デ バクナス
(71)【出願人】
【識別番号】509352381
【氏名又は名称】セントロ デ インミュノロヒア モレキュラル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベレス ベンコモ、ビンセント ギレルモ
(72)【発明者】
【氏名】バルデス バルビン、ユーリー
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア リベラ、ダグマー
(72)【発明者】
【氏名】オチョア アッセ、ロランド
(72)【発明者】
【氏名】クリメント ルイス、ヤネット
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ロドリゲス、ウンベルト
(72)【発明者】
【氏名】オロサ バスケス、イヴェッテ
(72)【発明者】
【氏名】ディアス エルナンデス、マリアンニス
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス ラミレス、ベリンダ
(72)【発明者】
【氏名】オヒト マガス、エドアルド
(72)【発明者】
【氏名】レオン モンソン、カレト
(72)【発明者】
【氏名】マシアス アブラハム、コンスエロ ミラグロ
(72)【発明者】
【氏名】チャン モンテアグド、アルトゥーロ
(72)【発明者】
【氏名】ポルト ゴンザレス、デリア エステル
(72)【発明者】
【氏名】デユベド エチェヴェリア、マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス アコスタ、ミレイダ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB092
4C085AA03
4C085BA71
4C085CC08
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF02
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC50
4C087MA02
4C087NA05
4C087ZB09
(57)【要約】
本発明は、バイオテクノロジー及び医学の分野に関する。COVID-19から回復した患者及びサブユニットワクチン以外のワクチンプラットフォームでワクチン接種された対象であって、有効な防御免疫を発達させることができず、又は免疫が経時的に低下しており、一次ワクチン接種で使用されたのと同じワクチンによるブースターは推奨されない場合の治療における、SARS-CoV-2ウイルスの受容体結合ドメインに基づくワクチン組成物の使用を記載している。特に、この使用は、受容体結合ドメイン(RBD)と、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド及びジフテリアトキソイド変異体CRM197などの担体タンパク質との共有結合コンジュゲートを含むワクチン組成物、並びに血清型Bナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)の免疫賦活剤外膜小胞を有する又は有さないRBDを抗原として有するワクチン組成物について記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回復したCOVID-19患者の治療におけるSARS-CoV-2ウイルスの受容体結合ドメイン(RBD)を含むワクチン組成物の使用。
【請求項2】
回復した患者が、以下の条件:
-RBDに対する応答力価が1:1000未満である、
-RBD-ACE2タンパク質相互作用の阻害能が1:100希釈で50%未満である、又は
-SARS-CoV-2中和抗体価が1:160未満である、
の少なくとも1つを特徴とする体液性免疫を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ワクチン組成物が、RBDと、以下:
-破傷風トキソイド、
-ジフテリアトキソイド、及び
-CRM197、
からなる群から選択される担体タンパク質との共有結合コンジュゲートを含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
ワクチン組成物が、抗原としてAl(OH)
3に吸着されたRBDを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
免疫賦活剤をさらに含むワクチン組成物を特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)外膜小胞を免疫賦活剤として有することを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
RBDが単量体形態である、請求項4に記載の使用。
【請求項8】
RBDが二量体形態である、請求項4に記載の使用。
【請求項9】
ワクチン組成物が、21~28日の間隔で、1~3用量の範囲の1~100μgのRBDを含む免疫化スケジュールで回復期患者に筋肉内又は皮下投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
高いSARS-CoV-2中和能を有する高度免疫血漿を得るための、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
以下:
-アデノウイルス、
-不活化ウイルス
-弱毒化ウイルス
-mRNAベースのワクチン
からなる群から選択されるワクチンで以前に免疫化された対象において有効な防御免疫を送達するための、SARS-CoV-2 RBDを含むワクチン組成物の使用。
【請求項12】
以下の条件:
-RBDに対する応答力価が1:1000より大きい、
-RBD-ACE2相互作用の阻害能が1:100希釈で50%超である、又は
-SARS-CoV-2中和抗体価が1:160超である、
の少なくとも1つが適用される場合に、防御免疫が有効であると考えられる、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
ワクチン組成物が、RBDと、以下:
-破傷風トキソイド、
-ジフテリアトキソイド、及び
-ジフテリアトキソイド変異体
-CRM197、
からなる群から選択される担体タンパク質との間の共有結合コンジュゲートを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
ワクチン組成物が、抗原としてAl(OH)
3に吸着されたRBDを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
免疫賦活剤をさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)外膜小胞を免疫賦活剤として有することを特徴とする、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
RBDが単量体形態である、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
RBDが二量体形態である、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー及び医学の分野に関し、特に、COVID-19から回復した患者、及び防御免疫を発達させることができず顕著な自然防御抗体応答が低下しているか又は誘導されなかったワクチン接種された対象の治療における、SARS-COV-2受容体結合ドメインに基づくワクチン組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19は、病因不明の肺炎の重篤な症例が報告され始めた2019年12月に中国の武漢で発見された非常に最近の疾患である。SARS-CoV-2ウイルスによって引き起こされる疾患は、その急速な広がり、並びに症候性患者(50%未満を占める)の場合には発熱、咳、鼻漏、喉の痛み及び呼吸困難などの症候の出現を特徴とする。この疾患に感染した残りの人々は無症候性であり、これはウイルスの拡散における重要な要因であり、その制御に関して疫学的課題を表す(WHO Coronavirus disease(COVID-2019)situation reports.https://www.who.int/emergencies /diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports。2020年8月13日参照)。
【0003】
MERS及びSARSとして知られるSARS-CoV-2と同様の他のコロナウイルスは、過去数十年に同様の流行を既に引き起こしている。SARSはSARS-CoV-2とのより大きな相同性を示し、それらの間の主な類似性の1つは、両方のウイルスがACE2タンパク質を受容体として使用してヒト細胞に浸透することである。したがって、SARSもSARS-CoV-2も、S1ウイルスタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)とACE2(アンジオテンシン変換酵素2)タンパク質との相互作用が、ヒトがウイルスに感染する決定的要因である(Walls A et al(2020)Cell https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.02.058)。SARS-CoV-2のSタンパク質のRBDは、およそ195アミノ酸のフラグメント(配列333~257)であり、受容体結合モチーフ(RBM)を含有し、ウイルスがACE2受容体と相互作用する領域である。RBDは、システインCys336-Cys361、Cys379-Cys432、Cys391-Cys525、及びCys480-Cys488の間に4つの分子内ジスルフィド架橋を含有し、非常にコンパクトで安定した構造の作成に役立つ(Lan et al(2020),Nature https://doi.org/10.1038/s41586-020-2180-5)。
【0004】
RBDは小分子であり、その分子質量は、発現宿主及び組み込まれた炭水化物に応じて25~27kDaの範囲であり、主にアスパラギンN331及びN343に結合している(Chen WH et al,2017,Journal of Pharmaceutical Sciences 106:1961-1970)。
【0005】
SARS-Cov-2ワクチンのための戦略には、不活化ウイルス、アデノウイルス又はメッセンジャーRNAに組み込まれたウイルス遺伝物質を含有する遺伝子構築物、及び遺伝子改変宿主において発現されるウイルスタンパク質サブユニット又はフラグメントに基づくワクチンが含まれる。この場合、好ましい分子は、スパイクタンパク質としても知られるSタンパク質、又はその構造のフラグメント、すなわちRBDである。この戦略は使用中の多くのワクチンの戦略に近いので、それらの主な利点は安全性である。それにもかかわらず、その主な課題は、ウイルス感染から保護するのに十分な免疫応答の達成である。
【0006】
2020年12月2日現在、SARS-CoV-2に対する163種のワクチン候補が前臨床評価中であり、51種が臨床試験中であった。この数のうち、RBDを特異的抗原として有するワクチン候補は少なくとも13種(臨床試験では5種、前臨床試験では8種)存在する(DRAFT Landscape of COVID-19 Candidate Vaccines-December 2,2020、https://www.who.int/publications/m/item/draft-landscape-of-covid-19-candidate-vaccinesで入手可能)。
【0007】
パンデミックの開始から数ヶ月後、COVID-19の患者の免疫系に対する影響がよりよく理解されつつある。この疾患は、特にその重症及び重篤な段階では、サイトカインストームを引き起こす強力な過剰炎症性成分を有し(de la Rica,R;Borges M;Gonzalez-Freire,M(2020)Front.Immunol.https://doi.org/10.3389/fimmu.2020.558898;Riva et al.(2020)Critical Care.24:549)、適切に制御されなければ致死に寄与し得る。(Tisoncik,J et al.(2012)Microbiology and Molecular Biology.76(1):16-32)。実際に、この目的のためにいくつかの薬物が開発されており、そのうちのいくつかが、キューバ(Martinez et al.(2020)Anales de la Academia de Ciencias de Cuba.10(2)http://www.revistaccuba.sld.cu、2020年12月2日参照)及び世界(Xu,X et al.(2020)Military Medical Research.7:22)のCOVID-19治療プロトコルに導入されている。
【0008】
さらに、いくつかの研究は、疾患から回復した患者(回復期患者)において、SARS-CoV-2を中和する抗RBD抗体を示している。抗体レベルは個体間で異なり、それらの力価と疾患の重症度との間には一定の相関がある(無症候性患者では、中等度、重度又は重篤な疾患の患者よりも低い)。(Seow,J et al.(2020)Nature Microbiology doi:10.1038/s41564-020-00813-8;Bosnjak,B et al.(2020)Cell Mol Immunol.doi:10.1038/s41423-020-00573-9)。回復期患者における抗RBD抗体価は、インビトロ細胞のSARS-CoV-2ウイルス感染を中和する能力と強く相関することも実証されている(Tan,C et al.(2020)Nature Biotechnology https://doi.org/10.1038/s41587-020-0631-z)。
【0009】
それにもかかわらず、最近の研究は、抗RBD抗体価及びそのSARS-CoV-2中和能が時間依存的であり、感染から回復した個体において徐々に低下することを示している。(Lee,W et al.(2020)The Journal of Infectious Diseases,DOI:10.1093/infdis/jiaa673)。さらに、第2の感染が第1の感染よりも重症であった場合でも、患者の再感染の証拠が増加している。(Qu,YM and Cong HY(2020)Travel Med Infect Dis.34:101619;Lan L et al.(2020)JAM.323:1502-3;Tillett,R et al.(2020)Lancet Infect Dis.https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30764-7)。これらのデータは、効果的な保護のための戦略の必要性に国際科学界の注目を集めている。(Overbaugh,J(2020)Nature,26 1678-1685)。
【0010】
SARS-CoV-2回復期患者の免疫系が非常に特異的な(sui-generis)免疫学的状況でウイルス抗原に遭遇したことを考えると、ウイルスと接触していないナイーブ個体を保護するために開発されたワクチン又はワクチン戦略が、サイトカインストームの再活性化又は抗体産生の刺激などの意図しない有害作用を生じさせずに、ADE(抗体依存性増強)として知られる現象を引き起こさずに、再感染に対する保護を達成又は増強するのに適切又は有効であることは明らかではない(Arvin,AM et al.(2020)Nature 584(7821):353-363)。さらに、COVID-19に使用されている様々なワクチン技術によって提供される誘導防御の長さは知られておらず、ブースター用量が必要な場合、これらのワクチンの一部をブースターとして使用することができなかった。
【0011】
本発明は、防御抗体応答が低下しているか又は誘導されなかったCOVID-19回復患者の治療におけるSARS-CoV-2受容体結合ドメインに基づくワクチン組成物の使用を初めて記載する。さらに、これらのワクチン組成物は、アデノウイルス又はRNAワクチンで以前にワクチン接種された個体に使用することができる。記載されるワクチン組成物はまた、非感染個体において試験されているが、ここで初めて、回復期患者において中和能を有する強い免疫応答を効率的に再刺激する能力を実証する。両方のワクチン戦略がSARS-CoV-2ウイルスの小さな組換えタンパク質であるRBDに基づくという事実は、この応用分野において特別な利点をもたらし得る。特に、それらは、宿主細胞におけるウイルスとACE2受容体との相互作用の原因であるRBMに対する高度に標的化された応答を引き起こす。満足のいく安全性プロファイルを有するこの高度に標的化された応答は、弱毒化ウイルスワクチン、Sタンパク質ベースのワクチン又はウイルスベクターワクチンなどの他のワクチン戦略と比較した場合に利点である。
【発明の概要】
【0012】
一実施形態では、本発明は、回復したCOVID-19患者の治療におけるSARS-CoV-2ウイルスの受容体結合ドメイン(RBD)を含むワクチン組成物の使用に関する。特に、これらの回復した患者は、以下の条件の少なくとも1つを特徴とする体液性免疫を有する:RBDに対する応答力価が1:1,000未満であるか、RBD-ACE2相互作用の阻害能が1:100希釈で50%未満であるか、又はSARS-CoV-2中和抗体価が1:160未満である。
【0013】
特定の実施形態では、本発明は、RBDと、以下:破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、及びジフテリアトキソイド変異体CRM197からなる群から選択される担体タンパク質の共有結合コンジュゲートを含むことを特徴とするワクチン組成物の上記使用に関する。特許請求の範囲における他のワクチン組成物は、Al(OH)3に吸着された単量体又は二量体のいずれかの形態の抗原としてRBDを含むものである。他の特許請求の範囲に記載されているワクチン組成物は、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)外膜小胞などの免疫賦活剤の使用を含む。
【0014】
特定の実施形態では、上記ワクチン組成物は、21~28日の間隔で、1~3用量の1~100μgのRBDを含む免疫化スケジュールで回復COVID-19患者に筋肉内又は皮下投与される。本発明は、高いSARS-CoV-2中和能を有する高度免疫血漿を得るための上記免疫スケジュールによる使用が意図される。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、サブユニットワクチン以外のワクチンプラットフォームでワクチン接種され、有効な防御免疫を発達させていないか、又はこの防御免疫が経時的に低下しており、アデノウイルス、不活化ウイルス、弱毒化ウイルス及びmRNAワクチンなどの一次免疫に使用される同じワクチンではブースター用量が推奨されない対象の免疫における本明細書で言及されるワクチン組成物の使用を網羅する。本発明によれば、以下の条件の少なくとも1つが適用される場合に、効果的な防御免疫が達成される:RBDに対する応答力価が1:1,000より大きいか、RBD-ACE2タンパク質相互作用の阻害能が1:100希釈で50%超であるか、又はSARS-CoV-2中和抗体価が1:160超である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、中和能を有する有意なレベルの天然抗RBD抗体を伴わない、COVID-19回復(回復期)患者におけるSARS-CoV-2ウイルス受容体結合ドメインに基づくワクチン組成物の使用を記載する。特に、これらのワクチン組成物は、免疫賦活剤を含む、若しくは含まずに、Al(OH)3に吸着された二量体及び/又は単量体形態のRBDを含有し得るか、又は限定されないが、特許出願CU-2020-0057及びCU-2020-0069に含まれるものに詳述されているように、より複雑であり得る。
【0017】
COVID-19回復期で使用するためには、以下の条件の少なくとも1つが適用されることを検証しなければならない:ELISAで測定して抗RBD抗体価が1:1,000未満であるか、又はSARS-CoV-2感染力中和抗体価が生ウイルス若しくは偽ウイルスを用いたアッセイで測定して1:160未満であるか、又は競合ELISAで測定して血清の1:100希釈物においてRBD-ACE2相互作用タンパク質を阻害する能力が50%未満である。
【0018】
ワクチン調製物は、ウイルスに対する記憶免疫応答の活性化を誘導し、主に数ヶ月間(少なくとも6ヶ月間)中和能を有する高いRBD抗体力価を確保する。患者の力価が再び低下した場合、保護を回復するために追加のブースター用量が投与され得る。それらの広範な安全性を考慮すると、ワクチン調製物は、2~5年の数年間連続して投与することができる。さらに、本発明で言及されるワクチン組成物は、サブユニットワクチン以外のワクチンプラットフォームでワクチン接種された対象であって、有効な防御免疫を発達させていない対象、又は免疫が一旦低下してブースター用量が必要になった後の対象の免疫化に使用することができる。アデノウイルスベクターベースのワクチンプラットフォームは、1回目の注射後、アデノウイルスベクター自体に対する抗体が産生され、2回目の用量を無効にし得るので、1回又は2回だけ対象を免疫することができることが実証されている。(Casimiro,DR et al.(2003)J.Virol.,77:7663-7668)。
【0019】
ワクチン調製物は、21~28日の間隔で、1~3用量の範囲の1~100μg、好ましくは30~60μgのRBDを含む免疫化スケジュールで回復期患者に筋肉内又は皮下投与される。
【0020】
本発明はさらに、ワクチン接種後のCOVID-19回復期患者によって産生された抗体からSARS-CoV-2ウイルス中和能を有する高度免疫血漿を得る方法を含む。高度免疫血漿は、いくつかの著者によって強調されているように、中等度、重度又は重篤なCOVID-19を有する患者の治療に有用である(Bloch EM et al.(2020)J Clin Invest.130:2757-65,Casadevall A.(2020)JAMA 324:455-7)。ドナーは、FDAの勧告に従って、症候がなく、SARS-CoV-2リアルタイムPCRについて陰性と試験され、少なくとも1:160の中和抗体価を有する必要がある(US Department of Health and Human Services Food and Drug Administration.Investigational COVID-19 convalescent plasma:guidance for industry.Rockville,MD:FDA,2020)。本発明の方法は、良好な免疫応答を自発的に生じさせていない回復期患者から高度免疫血漿を得ることを可能にする。この目的のために、SARS-CoV-2に対する抗体の受動的移入に有用な高度免疫血漿を得るために望ましい中和抗体レベル(力価>1:160)に達するまで、本明細書に記載の免疫化スケジュールに従って回復期患者を免疫化する。この方法で使用される血漿は、そのような目的のために血液処理基準に従って処理される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】RBDに対して検出された総IgG抗体力価と1:100希釈での血清の阻害値(パーセンテージ)との間の相関。
【
図2A】mRNAワクチンによる免疫化スキームを受けた6ヶ月後及びRBDワクチンによるブースター用量を適用後の対象血清の相互作用阻害RBD-ACE2のパーセンテージ値。
【
図2B】RBDワクチンによるブースター用量を受けた、不活化ウイルスワクチンによる免疫化対象において検出された抗RBD抗体の濃度。
【
図3】コンジュゲートRBDワクチンによるブースター用量を受けた、RBDワクチンで免疫された対象において検出された抗RBD抗体の濃度。
【実施例】
【0022】
例1.COVID-19から回復したキューバ患者における抗RBD力価及びRBD-ACE2相互作用の阻害能の変動。
39人のCOVID-19回復期個体の血清を間接ELISAで分析して、抗RBD抗体価を決定する。NUNC MaxiSorp 96ウェルマイクロタイタープレートを、50μLのRBD(リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.0)中5μg/mL)でコーティングし、37℃で1時間インキュベートした。コーティングされていない部位を150μLのブロッキング溶液(PBS、Tween 20 0.05%[v:v]、4%スキムミルク)で37℃で30分間ブロッキングした。次いで、ブロッキング溶液に溶解した血清(100μL/ウェル)を、一般に1:100から始まる連続希釈(1:2)で添加した。プレートを4℃で一晩インキュベートし、PBS、Tween 20(0.05%)[v:v]で3回洗浄した。ペルオキシダーゼコンジュゲートヒト抗免疫グロブリンGの希釈物(100μL)をブロッキング溶液(1:5000)に添加し、室温で1時間インキュベートした。最終洗浄工程の後、ペルオキシダーゼ酵素基質溶液(100μL/ウェル)を添加した。これを暗所で20分間インキュベートし、反応をH2SO4 2N(50μL/ウェル)で停止させた。ELISAリーダーを用いて490nmで吸光度を読み取った。IgG力価を決定するために、評価した希釈範囲で線形回帰を行い、補間した。閾値は、1:100に希釈したCOVID-19の前に得られた陰性血清の平均吸光度の2倍であった。
【0023】
これらの同じ39人の回復期患者の血清をELISAで評価して、RBD-ACE2相互作用を阻害する能力を決定した。ヒトACE2-Fc(5μg/mL)でコーティングしたプレートをブロッキングし、マウスRBD-Fc融合物を、37℃で1時間予めインキュベートした1:100~1:10,000の希釈の回復期患者由来の血清とともに添加した。乳0.2%及びSSTF-Tに希釈した抗マウスIgG-アルカリホスファターゼコンジュゲートを認識検出に使用した。最終洗浄工程の後、ジエタノールアミン緩衝液(1mg/mL)中の50μL/ウェルのpNPPを適用した。これを暗所で30分間インキュベートし、反応を3M NaOH(50μL/ウェル)で停止させた。吸光度を405nmで読み取った。阻害率を、以下の式を使用して計算した:(1-Abs405nmマウスRBD Fc+回復期血清/Abs405nmマウスRBD Fc)*100。
【0024】
図1は、RBDに対する抗体力価の関数として、1:100の希釈での回復期個体(n=39)からの血清の阻害能を示す。スピアマンの正の相関(r=0.9178)が、RBDに対する総抗体力価とそれらの阻害能との間で観察される(r=0.9178)。試験した全個体のうち、41%が30%未満の阻害値及び1:800未満の抗RBD抗体力価を有した。
【0025】
抗RBD抗体力価とRBD-ACE2相互作用を阻害する能力の両方において、キューバ回復期患者で観察された高い変動性は、文献(Tan,C et al.(2020)Nature Biotechnology https://doi.org/10.1038/s41587-020-0631-z)で報告されたデータと一致する。文献はまた、COVID-19回復期において、抗RBD IgG力価と血清/血漿が生ウイルス感染を中和する能力との間に正の相関があることを確認している。高い抗RBD抗体力価(1:1350超)のみが、1:160希釈での中和能のより高い確率(80%)を予測する。(Salazar,E et al.(2020)bioRxiv.https://doi.org/10.1101/2020.06.08.138990)。
【0026】
例2.効果的な液性免疫を発達させていないCOVID-19回復期患者は、免疫後に防御を達成する。
SARS-CoV-2を検出するための陰性RT-PCR試験の2ヶ月後及び4ヶ月後に、COVID-19から回復している2人の患者から血液試料を採取した。血清を、抗RBD抗体価及びRBD-ACE2相互作用の阻害能については例1においてそのような目的のために記載されるELISAで、及びSARS-CoV-2中和抗体価については特許出願CU-2020-0069に記載される比色ニュートラルレッドアッセイによって試験した。上記の技術は、特許出願CU-2020-0057及びCU-2020-0069に詳述されている。
【0027】
両方の場合において、抗RBD抗体力価及び中和抗体力価が、防御応答について確立されたパラメータを下回ったことを確認した後、両方の患者を、Al(OH)3に吸収された50μgの二量体RBDで免疫化した。免疫後14日目に採血した。得られた血清から、抗RBD抗体価及びRBD-ACE2相互作用の阻害能、並びにSARS-CoV-2中和抗体価を再度測定した。
【0028】
表1は、0日目(免疫前)及び免疫後14日目に実施した測定についての2人の患者の転帰を示す。留意され得るように、単回免疫後、両方の患者は高い抗RBD抗体力価、RBD-ACE2相互作用について80%を超える阻害値及び1:160をはるかに超える中和抗体力価を有した。中和力価の増加は抗RBD力価の増加よりも高いことに留意することが重要であり、これは、この免疫によって中和能を持つ抗体が血清/血漿中に優先的に濃縮されることを証明している。
【表1】
【0029】
満足のいく安全性プロファイルが両方の個体において認められたことを強調することも重要である。有意な有害事象は発生しなかった。
【0030】
例3.RBDを含むワクチン接種組成物を用いたブースター用量を受ける、不活化ワクチン及びmRNAワクチンを用いた以前に免疫化された対象における抗RBD抗体の濃度及びRBD-ACE2相互作用の阻害能の増加。
不活化ワクチン又はmRNAウイルスワクチンの完全な2用量スキームを受けた対象は、6ヶ月後に血液抽出を行い、以前のワクチン接種によって生じた応答の持続時間を評価した。これらの対象は、ブースター用量の14~28日後に、SARS-COVウイルスRBDに基づくワクチン組成物の用量、並びに抗RBD抗体の濃度及びACE2 RBD-タンパク質相互作用の阻害能を受けた。
【0031】
図2は、mRNAワクチンを接種し、AloH3に吸着されたナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)の外膜小胞を有するRBDを含有するワクチン組成物のブースター用量を投与した、個体の血清の阻害能を示す(
図2a)。見てとれるように、完全なスキームを受けた6ヶ月後、阻害値は65%未満であり、ブースター用量による免疫化後、これらの値は、評価された全ての対象について90%を超えて増加する。
【0032】
ARH3に吸着したRBDを含有するワクチン組成物を2用量の不活化ウイルスワクチンで以前に免疫化された対象に適用した場合、同様の増加が観察される。不活化ウイルスワクチンの完全スキームを適用した21日後に血清を評価し、抗RBD抗体濃度値を観察し、ブースター用量を適用した後に平均40 UA/mlで200 UA/ml超に増加した。
【0033】
両方の場合において、既存の免疫を強化する能力は、以前にワクチン接種された対象において用量を適用することによって実証された。
【0034】
例4.コンジュゲート破傷風トキソイドを含むワクチン組成物を用いたブースター用量を受け取る、RBDワクチンで以前に免疫化された対象における抗RBD抗体の濃度の増加。
2用量のRBDベースのワクチン候補で免疫化された対象は、RBDと破傷風トキソイドとの間の共有結合コンジュゲートを担体タンパク質として含むワクチン組成物の強化用量を6ヶ月で受けた。
図3に見られるように、全ての対象は、コンジュゲートRBDを含有するワクチン接種組成物によるブースター用量後に抗体濃度値の増加を示した。
【国際調査報告】