(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】抗GPRC5DxBCMAxCD3三重特異性抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240228BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240228BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240228BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240228BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240228BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240228BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240228BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240228BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240228BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/62
C12N15/63 Z
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K35/76
A61K35/17
A61K47/68
G01N33/574 A
G01N33/53 D
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550109
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 CN2022076832
(87)【国際公開番号】W WO2022174813
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】202110189359.8
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】シュイ ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】シェン ワンワン
(72)【発明者】
【氏名】リー リー
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュアン
(72)【発明者】
【氏名】チュー チェンチュアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB42
4C085BB44
4C085CC01
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BC83
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、三重特異性抗原結合タンパク質に関し、より具体的には、GPRC5DとBCMAの2種類の腫瘍抗原とT細胞表面抗原CD3に特異的に結合する三重特異性抗体、およびそれを含む医薬組成物、調製方法ならびに使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三重特異性Y型抗体分子であって、下記の式(I):
(M1:M2-(X1)p)-Fc::Fc-(X2)q, (I)
の構造を有し、式中、
前記M1および前記M2は、前記抗体分子の第1抗体アームおよび第2抗体アームをそれぞれ表し、かつ前記M1および前記M2は、第1と第2抗原に結合する抗原結合部位をそれぞれ含み、前記抗原結合部位はFabまたはscFab、好ましくはFabであり、
前記Fc::Fcは、抗体分子のステムを表し、ペアリングして二量体化された第1のFcドメインおよび第2のFcドメインで構成され、ここで前記第1と第2抗体アームは、直接または連結ペプチド(好ましくはヒンジ領域)を介して前記第1のFcドメインおよび第2のFcドメインのN末端にそれぞれ連結され、
前記X1は、前記抗体アームのC末端に複合された複合成分を表し、前記X2は、前記ステムのC末端に複合された複合成分を表し、ここで前記複合成分は、第3抗原に結合する抗原結合部位を含み、かつ
式中、pとqは、0、1もしくは2の整数をそれぞれ表し、pとqのうちの1つは0であり、
好ましくは、式中、p=0の場合、q=1であり、前記M1および前記M2の抗原結合部位はそれぞれFabまたはscFabであり、複合成分X2は前記抗体分子のステムの2つのFcドメインのうちの1つに複合され、あるいは
q=0の場合、p=2であり、前記M1および前記M2の抗原結合部位はそれぞれFabであり、複合成分X1は前記抗体分子の前記抗体アームM1およびM2の両方のFab軽鎖に複合され、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される、
三重特異性Y型抗体分子。
【請求項2】
前記複合成分は、scFv、Fv、dsFvおよびdsAb、好ましくはscFvから選択される抗原結合部位を含む、
請求項1に記載の抗体分子。
【請求項3】
前記抗体分子は、
(M1:M2)-Fc::Fc-(X2)q, (Format_2)
の構造を有し、式中、
q=1、
前記M1および前記M2は、第1と第2抗原に結合する抗原結合部位FabまたはscFab、好ましくはFabをそれぞれ含み、かつ
前記X2は、第3抗原に結合する抗原結合部位scFv、好ましくはdsscFvを含み、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される、
請求項1に記載の抗体分子。
【請求項4】
前記抗体分子は、
(M1:M2-(X1)p)-Fc::Fc, (Format_7)
の構造を有し、式中、
p=2、
前記M1および前記M2は、第1と第2抗原に結合する抗原結合部位Fabをそれぞれ含み、かつ
前記X1は、第3抗原に結合する抗原結合部位scFv、好ましくはdsscFvを含み、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される、
請求項1に記載の抗体分子。
【請求項5】
前記抗体アームのFab抗原結合部位は2本の鎖を含み、その1本の鎖はN末端からC末端までVH-CH1を含み、もう1本の鎖はN末端からC末端までVL-CLを含み、または、その1本の鎖はN末端からC末端までVH-CLを含み、もう1本の鎖はN末端からC末端までVL-CH1を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体分子。
【請求項6】
前記複合成分に含まれたscFvはN末端からC末端まで、VH-リンカー-VLまたはVL-リンカー-CHを含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体分子。
【請求項7】
前記第1のFcドメインおよび第2のFcドメインは、IgG1、IgG2もしくはIgG4免疫グロブリンに由来するFcドメイン、好ましくは、IgG1免疫グロブリンに由来するFcドメイン、より好ましくは、ヒトIgG1免疫グロブリンに由来するFcドメインである、
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体分子。
【請求項8】
GPRC5Dに結合する抗原結合部位は、以下の群:
(a)配列番号1~3のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号4~6のLCDR1~3配列を含むVL、
(b)配列番号7~8のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号10~12のLCDR1~3配列を含むVL、
(c)配列番号13~15のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号16~18のLCDR1~3配列を含むVL、または
(d)配列番号19~21のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号22~24のLCDR1~3配列を含むVL、
から選択されるVHとVLを含み、
好ましくは、前記抗原結合部位は、以下の群:配列番号25/26、配列番号27/28、配列番号29/30および配列番号31/32から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、前記抗原結合部位がdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗体分子。
【請求項9】
CD3に結合する抗原結合部位は、以下の群:
(a)配列番号41~43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、または
(b)配列番号47、42、43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、
から選択されるVHとVLを含み、
好ましくは、前記抗原結合部位は、以下の群:配列番号48/49、配列番号50/49、かつより好ましくは配列番号48/49から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、前記抗原結合部位がdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む、
請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体分子。
【請求項10】
BCMAに結合する抗原結合部位は、以下のVHとVL:
配列番号33~35のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号36~38のLCDR1~3配列を含むVLを含み、
好ましくは、前記抗原結合部位は、配列番号39/40というVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、前記抗原結合部位がdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む、
請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体分子。
【請求項11】
前記抗体分子は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなり、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインを含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインを含み、
かつ、ここで、第1重鎖ポリペプチド鎖または第2重鎖ポリペプチド鎖は、直接または好ましくは連結ペプチド(例えば(G4S)2またはTS(G4S)2)を介してそのFcドメインのC末端に複合されたscFvドメインをさらに含み、
ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖のVH-CH1と第1軽鎖ポリペプチド鎖のVL-CLがペアリングして第1抗原に結合する第1抗体アーム(M1)を形成し、
第2重鎖ポリペプチド鎖のVH-CH1と第2軽鎖ポリペプチド鎖のVL-CLがペアリングして第2抗原に結合する第2抗体アーム(M1)を形成し、
第1重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインと第2重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインがペアリングおよび二量体化されて抗体ステム(Fc::Fc)を形成し、かつ
第1重鎖ポリペプチド鎖または第2重鎖ポリペプチド鎖のC末端に複合されたscFvドメインは、第3抗原に結合する複合成分(X2)を形成し、
ここで、第1、第2および第3抗原はそれぞれ異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される、
請求項3に記載の抗体分子。
【請求項12】
前記抗体分子は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなり、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインを含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインを含み、
かつ、ここで、第1軽鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖は、直接または好ましくは連結ペプチド(例えば(G4S)2またはTS(G4S)2)を介してそのCLドメインのC末端に複合されたscFvドメインをさらに含み、
ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖のVH-CH1と第1軽鎖ポリペプチド鎖のVL-CLがペアリングして第1抗原に結合する第1抗体アーム(M1)を形成し、
第2重鎖ポリペプチド鎖のVH-CH1と第2軽鎖ポリペプチド鎖のVL-CLがペアリングして第2抗原に結合する第2抗体アーム(M1)を形成し、
第1重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインと第2重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインがペアリングおよび二量体化されて抗体ステム(Fc::Fc)を形成し、かつ
第1軽鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖のC末端に複合されたscFvドメインは、第3抗原に結合する複合成分(X1)を形成し、
ここで、第1、第2および第3抗原はそれぞれ異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される、
請求項4に記載の抗体分子。
【請求項13】
(a)前記抗体分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、GPRC5DおよびCD3にそれぞれ結合され、かつ複合成分はBCMAに結合される、あるいは
(b)前記抗体分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、BCMAおよびCD3にそれぞれ結合され、かつ複合成分はGPRC5Dに結合される、あるいは
(c)前記抗体分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、GPRC5DおよびBCMAにそれぞれ結合され、かつ複合成分はCD3に結合される、
請求項11もしくは12に記載の抗体分子。
【請求項14】
第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなり、ここで、
(a)第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号65のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号66のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号67のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、あるいは
(b)第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号69のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号70のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号71のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、あるいは
(c)第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号72のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号73のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号74のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、あるいは
(d)第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号75のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号76のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号77もしくは78のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、あるいは
(e)第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号79のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号80のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号77のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項11に記載の抗体分子。
【請求項15】
第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなり、ここで、
(a)第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号87のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号88のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号77もしくは78のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号89のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、あるいは
(b)第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号90のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号91のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号77のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号89のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、あるいは
(c)第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号92のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号93もしくは96のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号94のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号95もしくは97のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項12に記載の抗体分子。
【請求項16】
GPRC5Dに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、以下:
(i)それぞれ配列番号1~6に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(ii)それぞれ配列番号7~12に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(iii)それぞれ配列番号13~18に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(iv)それぞれ配列番号19~24に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(v)それぞれ配列番号13、110および15~18に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、から選択されるCDR配列の組み合わせを含む、
抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
(a)配列番号25に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号26に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(b)配列番号27に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号28に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(c)配列番号29に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号30に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(d)配列番号31に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号32に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(e)配列番号98に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号99に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(f)配列番号100に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号101に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
から選択されるVHとVLアミノ酸配列の組み合わせを含み、
場合により、前記VHとVL配列には、導入したシステイン置換、例えば、VH配列の44位およびVL配列の100位でのシステイン置換が含まれ、このようにして前記VHとVLとの間にジスルフィド結合を形成する、
請求項16に記載の抗体。
【請求項18】
単一特異性、二重特異性または三重特異性抗体であり、好ましくは、前記抗体は、CD3に結合する抗原結合部位をさらに含み、または、BCMAに結合する抗原結合部位およびCD3に結合する抗原結合部位をさらに含む、
請求項16もしくは17に記載の抗体。
【請求項19】
GPRC5DおよびCD3に結合する二重特異性抗体であり、
好ましくは、ここで、前記抗体は、CD3に結合する以下の群:
(a)配列番号41~43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、または
(b)配列番号47、42、43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、
から選択されるVHとVL対を含み、
好ましくは、以下の群:配列番号48/49および配列番号50/49から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
場合により、前記VHとVL配列には、導入したシステイン置換、例えば、VH配列の44位およびVL配列の100位でのシステイン置換が含まれ、このようにして前記VHとVLとの間にジスルフィド結合を形成する、
請求項18に記載の抗体。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の抗体分子をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項21】
請求項20に記載のポリヌクレオチドを含み、好ましくは発現ベクターである、ベクター。
【請求項22】
請求項20に記載のポリヌクレオチドまたは請求項21に記載のベクターを含む、例えば、哺乳動物細胞である、宿主細胞。
【請求項23】
請求項1~19のいずれか1項に記載の抗体分子を製造するための方法であって、
前記抗体を発現するのに適するポリペプチド鎖の条件で前記ポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を培養することと、前記ポリペプチド鎖を前記抗体分子に組み立てるのに適する条件でポリペプチド鎖を組み立てて前記抗体を生成することと、を含み、好ましくは、
前記方法は、前記抗体分子を発現するのに適する第1重鎖ポリペプチド鎖および第1軽鎖ポリペプチド鎖の条件で、前記第1重鎖および第1軽鎖をコードするものを含む宿主細胞を培養し、第1親タンパク質を生成するステップ(i)と、前記抗体分子を発現するのに適する第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖の条件で、前記第2重鎖および第2軽鎖をコードするものを含む宿主細胞を培養し、第2親タンパク質を生成するステップ(ii)と、第1親タンパク質と第2親タンパク質とを等モル比率で混合し、インビトロで適切な酸化還元条件に置いて組み立てて前記抗体ステップを形成するステップ(ii)と、を含む、方法。
【請求項24】
請求項1~19のいずれか1項に記載の抗体分子と薬学的に許容可能なベクターとを含む、医薬組成物。
【請求項25】
請求項1~19のいずれか1項に記載の抗体分子、請求項24に記載の医薬組成物の、インビボおよび/またはインビトロでの以下の使用:
-細胞の表面にGPRC5D抗原を発現することを含む、10nM未満のKDなどの高親和性で、GPRC5D抗原に結合すること、
-T細胞(例えば、CD4+および/またはCD8+T細胞)を、その表面にGPRC5Dを発現する細胞、特にGPRC5D陽性腫瘍細胞を標的とすること、
-T細胞(例えば、CD4+および/またはCD8+T細胞)を、その表面にBCMAを発現する細胞、特にBCMA陽性腫瘍細胞を標的とすること、
-T細胞のCD3下流シグナル伝達経路を活性化すること、
-GPRC5D陽性および/またはBCMA陽性の腫瘍細胞に対するT細胞の殺傷効果を介在すること、
-T細胞がTNF-α、IFN-γ、およびIL-2などのサイトカインを放出するように誘導すること、
-GPRC5D陽性および/またはBCMA陽性の腫瘍細胞を抑制または殺傷すること、または
-BCMA陽性患者集団、GPRC5D陽性患者集団、または抗BCMA分子を投与した後のBCMA喪失を伴うGPRC5D陽性患者集団を治療するなど、GPRC5D陽性および/またはBCMA陽性の多発性骨髄腫を治療すること。
【請求項26】
前記抗体分子または医薬組成物は、個体において疾患を治療および/または予防するための薬物として使用され、あるいは疾患の診断ツールとして使用され、好ましくは、前記個体は哺乳動物、より好ましくはヒトである、請求項25に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三重特異性抗原結合タンパク質に関し、より具体的には、GPRC5DとBCMAの2種類の腫瘍抗原とT細胞表面抗原CD3に特異的に結合する三重特異性抗体、およびそれを含む医薬組成物、調製方法ならびに使用に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞二重特異性抗体(BsAb)は、腫瘍の治療に使用されている。このような抗体は、細胞傷害性Tリンパ球と腫瘍細胞との間にシナプスを形成し、腫瘍細胞の破壊を誘導することができる。BsAbは通常、腫瘍関連抗原(TAA)とT細胞表面抗原(T細胞エンゲージ抗原、TEAとも呼ばれる)に対する二重標的に関する。しかし、BsAbに基づいた治療計画は、典型的に、治療される腫瘍細胞における腫瘍関連抗原の分布に依存する。これは、患者集団に対する治療の選択性および治療の限界性につながっている。さらに、研究によると、単一のTAA部位を標的とする治療形式は、腫瘍の回避機構により疾患の再発を引き起こすため、治療の有効性を制限する可能性があることも示されている。
【0003】
三重特異性および/または四重特異性抗体を開発して、免疫細胞を腫瘍部位に効率的に動員し、治療効果を改善するために提案されている。このため、近年、さまざまな多価、多重特異性抗体形式(format)が報告されている。しかし、治療の機能性および治療の行動に関するさまざまな治療製品の多様な要件により、大部分の異なる望ましい分子の組み合わせに適用できる「最適な形態」が存在しないことが決められている。したがって、多重特異性を達成する場合、異なる標的抗原の空間分布またはサイズ、および腫瘍細胞表面の腫瘍関連抗原の発現密度など、さまざまな要因を考慮する必要がある。多くの場合、特定の標的抗原を組み合わせる有効な抗体形式は、異なる抗体形式の機能性を産生および比較することによって、同定する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
腫瘍におけるGPRC5DとBCMAの発現には相関がないため、本発明者らは、GPRC5DとBCMAを標的とする多重特異性抗体を組み合わせることで、GPRC5D陽性腫瘍患者とBCMA陽性腫瘍患者の両方をカバーすることができると同時に、単一抗原の喪失による再発を回避することができ、それにより患者のカバー率の増加および治療効果の改善の目的を達成する。
【0005】
この目的を達成するために、本発明者らは、GPRC5D/BCMA/CD3を標的とする三重特異性抗体を提案し、複数のGPRC5DxBCMAxCD3 formatを詳細に研究している。2種類のTAA抗原(GPRC5DおよびBCMA)とT細胞表面抗原(CD3)との間の組み合わせの方法および距離を調節し、T細胞活性化および殺傷効果を媒介する際のT細胞エンゲージャー(T cell engager)抗体の作用を調節することにより、本発明者らは、多標的の組み合わせをうまく達成し、複数の薬剤併用のニーズを減少させる。これに基づいて、FcセグメントによってKnob-in-Hole技術がさらに使用され、重鎖のミスマッチを減少させるとともに、細胞外酸化還元の手段によって軽鎖のミスマッチの問題が解決される。本発明の抗体は良好な調製可能性および良好な創薬可能性も有する。
【0006】
したがって、一態様において、本発明は、GPRC5D、BCMAおよびCD3に特異的に結合する抗原結合部位を含み、かつ2つの抗体アーム、抗体アームのC末端に位置するステム、および抗体アームおよび/またはステムのC末端に複合した複合成分を含む、前記の優位性を有する三重特異性Y型抗体分子を提供する。
【0007】
さらなる態様において、本発明は、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3の順による配列番号1~6、7~12、13~18もしくは19~24から選択されるCDR配列の組み合わせを含む、GPRC5Dに特異的に結合する抗体分子を提供する。本発明の抗体分子は、高親和性でGPRC5Dに結合し、細胞におけるGPRC5D介在性シグナル伝達を遮断する。
【0008】
さらなる態様において、本発明は、本発明の抗体分子をコードする核酸、ベクターおよび宿主細胞、ならびに本発明の抗体分子の使用、特に、GPRC5D陽性および/またはBCMA陽性腫瘍、例えば多発性骨髄腫を治療する方法および使用も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下の図面と合わせて読めば、次に詳細に記載される本発明の好ましい実施形態がより良く理解される。本発明を説明するために、図面には現在の好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は、図面に示される実施形態の精確な配置と手段に限定されないと理解すべきである。
【
図1A】Format_1、2、6および7により設計された三重特異性抗体分子の構造を模式的に示す。
【
図1B】Format_1、2、6および7により設計された三重特異性抗体分子の構造を模式的に示す。
【
図1C】Format_1、2、6および7により設計された三重特異性抗体分子の構造を模式的に示す。
【
図1D】Format_1、2、6および7により設計された三重特異性抗体分子の構造を模式的に示す。
【
図2A】実施例に使用される対照二重特異性抗体分子の構造を模式的に示す。
【
図2B】実施例に使用される対照二重特異性抗体分子の構造を模式的に示す。
【
図2C】実施例に使用される対照二重特異性抗体分子の構造を模式的に示す。
【
図3A】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-1および-2介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図3B】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-1および-2介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図4A】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-3およびTS-F6介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図4B】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-3およびTS-F6介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図4C】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-3およびTS-F6介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図4D】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-3およびTS-F6介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図5A】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-4および5介在性T細胞活性化(A-D)の検出、
【
図5B】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-4および5介在性T細胞活性化(A-D)の検出、
【
図5C】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-4および5介在性T細胞活性化(A-D)の検出、
【
図5D】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-4および5介在性T細胞活性化(A-D)の検出、
【
図5E】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-4、5および6介在性T細胞活性化(E-F)の検出を示す。
【
図5F】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F2-4、5および6介在性T細胞活性化(E-F)の検出を示す。
【
図6A】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F7-1および7-2介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図6B】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F7-1および7-2介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図6C】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F7-1および7-2介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図6D】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F7-1および7-2介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図7】Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによる例示的な抗体TS-F7-3および7-4介在性T細胞活性化の検出を示す。
【
図8】例示的な抗体介在性PBMCにおけるCD4+T細胞の活性化を示す。
【
図9】例示的な抗体介在性PBMCにおけるCD8+T細胞の活性化(B)を示す。
【
図10】H929細胞に対する例示的な抗体介在性PBMCの殺傷効果を示す。
【
図11A】NCl-H929細胞の殺傷プロセスに伴う例示的な抗体誘導性PBMCのサイトカインの放出量を示す。
【
図11B】NCl-H929細胞の殺傷プロセスに伴う例示的な抗体誘導性PBMCのサイトカインの放出量を示す。
【
図11C】NCl-H929細胞の殺傷プロセスに伴う例示的な抗体誘導性PBMCのサイトカインの放出量を示す。
【
図11D】NCl-H929細胞の殺傷プロセスに伴う例示的な抗体誘導性PBMCのサイトカインの放出量を示す。
【
図12】H929担腫瘍ヒト化マウスモデルにおける例示的な抗体の腫瘍抑制作用を示す。
【
図13】異なる多発性骨髄腫細胞表面におけるGPRC5DとBCMAの発現レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特に断らない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の当業者が理解している通常の意味を有する。本明細書に言及される全ての刊行物、特許出願、特許または他の参照文献は引用によりその全体が組み込まれる。また、本明細書に記載の材料、方法および例は、説明用のものであり、制限することが意図されない。本発明の他の特徴、目的および利点は、本明細書と図面、添付された特許請求の範囲から明らかになる。
【0011】
I. 定義
用語「約」は、数字または数値とともに使用される場合、下限として指定された数字または数値より5%小さく、上限として指定された数字または数値より5%大きい範囲内の数字または数値をカバーすることを意味する。
【0012】
本明細書に使用されるように、用語「包含する」または「含む」は、記載される要素、整数またはステップを含むが、任意の他の要素、整数またはステップを排除しないことを意味する。
【0013】
用語「抗体」は、本明細書において最も広い意味で使用されており、抗原結合部位を含むタンパク質を意味し、さまざまな構造の天然抗体および人工抗体を含み、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、一本鎖抗体、完全な抗体および抗体断片を含むが、これらに限定されない。
【0014】
用語「全抗体」、「全長抗体」、「完全な抗体」および「無傷抗体」は、ジスルフィド結合を介して互いに接続された少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)とを含む天然に存在する糖タンパク質を指す。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域とからなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインからなる。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)と軽鎖定常領域とからなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。VH領域およびVL領域は、さらに、その間に保存的な領域(フレームワーク領域(FR))が介在している超可変領域(相補性決定領域(CDR))に分けることができる。それぞれのVHとVLは、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシル末端まで、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配列されている。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接関与しないが、種々のエフェクター機能を示している。
【0015】
用語「抗原結合断片」は、無傷抗体または完全な抗体のアミノ酸残基の数よりも少ない無傷抗体または完全な抗体の一部または1つの断片であり、抗原に結合しまたは完全な抗体(すなわち、抗原結合断片が由来する無傷抗体)と競争的に抗原と結合できる。抗原結合断片は、組換えDNA技術、または酵素もしくは化学的手段により無傷抗体を切断することによって調製することができる。抗原結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、単鎖Fv、ダイアボディー(diabody)、単一ドメイン抗体(sdAb)を含むが、これらに限定されない。前記Fab断片は、VL、VH、CLおよびCH1ドメインとからなる一価の断片であり、例えば、Fab断片はパパインで完全抗体を消化することによって得られる。また、ペプシンを用いてヒンジ領域のジスルフィド結合の下方で完全抗体を消化して産生されたF(ab’)2は、Fab’の二量体であり、二価の抗体断片である。F(ab’)2は、中性条件でヒンジ領域におけるジスルフィド結合を破壊することによって還元でき、これによってF(ab’)2二量体はFab’単量体に変換される。Fab’単量体は、基本的にはヒンジ領域を有するFab断片である(他の抗体断片に関する詳細な説明は、基礎免疫学(Fundamental Immunology),W.E.Paul編集,Raven Press,N.Y.(1993)が参照される)。前記Fv断片は、抗体のシングルアームVLおよびVHドメインからなる。また、Fv断片の2つのドメインVLおよびVHは独立した遺伝子によってコードされるものの、組換え法により、この2つのドメインを1本のタンパク質鎖として産生できる合成接続ペプチドによってこれらを接続することができ、前記1本のタンパク質鎖においてVL領域とVH領域がペアリングして単鎖Fvを形成する。前記抗体断片は化学的方法、DNA組換え法またはタンパク質酵素消化法により得られる。
【0016】
本明細書で使用される用語「抗原結合部位」および「抗原結合ドメイン」は、互換的に使用可能であり、実際に抗原に結合する抗体分子の領域を表す。好ましくは、本発明に使用される抗体分子の抗原結合部位は、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体重鎖可変ドメイン(VH)からなるVH/VL対を含み、前記VH/VL対は、単一のポリペプチド鎖に含まれてもよく、単離した2本のポリペプチド鎖に含まれてもよい。好ましい実施形態において、本発明の抗体分子は、GPRC5Dに特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合部位、BCMAに特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合部位、およびCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合部位を含む。一実施形態において、本発明の抗体は、三価三重特異性抗体、4価三重特異性抗体、または6価三重特異性抗体である。
【0017】
本明細書で使用される用語「単一特異性」抗体は、1つまたは複数の結合部位を有する抗体を指し、前記部位のそれぞれは、同じ抗原の同じエピトープと結合する。本明細書で使用される用語「多重特異性」抗体は、少なくとも2つの抗原結合部位を有する抗体を指し、前記少なくとも2つの抗原結合部位の各抗原結合部位は、同じ抗原の異なるエピトープまたは異なる抗原の異なるエピトープと結合する。本明細書により提供される抗体は、GPRC5D、BCMAおよびCD3に対する三重特異性抗体である。
【0018】
用語「免疫グロブリン分子」は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合した2本の軽鎖および2本の重鎖からなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各本の免疫グロブリン重鎖は、重鎖可変ドメインとも呼ばれる1つの重鎖可変領域(VH)を有し、それに続くのは3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2およびCH3)である。同様に、N末端からC末端まで、各本の免疫グロブリン軽鎖は、軽鎖可変ドメインとも呼ばれる1つの軽鎖可変領域(VL)を有し、それに続くのは1つの軽鎖定常ドメイン(CL)である。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)またはμ(IgM)と呼ばれる5つのクラスのいずれかに分類することができ、ここで、一部のクラスは、例えばγ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)およびα2(IgA2)というサブクラスにさらに分けることができる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列によって、κおよびλと呼ばれる2つのタイプのいずれかに分類できる。IgG免疫グロブリンは基本的に、免疫グロブリンヒンジ領域を介して接続された2つのFab分子および2つの二量体化のFc領域で構成される。
【0019】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体と抗原の結合に関与する抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖と軽鎖の可変ドメインは、通常、類似の構造を有し、ここで、各ドメインは、4つの保存的なフレームワーク領域(FR)と3つの相補性決定領域とを含む。一部の状況において、単独のVHまたはVLドメインは抗原結合特異性を十分に与えることができる。
【0020】
「相補性決定領域」または「CDR領域」または「CDR」または「超可変領域」は、抗体可変ドメインにおける、配列において超可変であるとともに構造上に形成されて決定されたループ(「超可変ループ」)であり、および/または抗原接触残基(「抗原接触点」)を含む領域である。CDRは、主に抗原エピトープに結合する役割を果たす。重鎖および軽鎖のCDRは、N末端から順に番号付けられ、通常CDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれる。抗体の重鎖可変ドメイン内に位置するCDRはHCDR1、HCDR2およびHCDR3とも呼ばれ、抗体の軽鎖可変ドメイン内に位置するCDRはLCDR1、LCDR2およびLCDR3と呼ばれる。1つの所定の軽鎖可変領域または重鎖可変領域のアミノ酸配列において、抗体の3次元構造およびCDRループのトポロジーに基づくChothia、抗体配列の可変性に基づくKabat(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,4th edition,U.S.Department of Health and Human Services,National Institutes of Health(1987))、AbM(University of Bath)、Contact(University College London)、国際ImMunoGeneTics database(IMGT)(国際免疫遺伝学情報システム、ワールドワイドウェブimgt.cines.fr/)、および大量の結晶構造が利用されるアフィニティ伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義(North et al.,「A New Clustering of Antibody CDR Loop Conフォーマットions」,Journal of Molecular Biology,406,228~256(2011))など、当該分野で公知のさまざまな方案によってそのCDR配列を決定することができる。
【0021】
例えば、KabatおよびChothiaによって番号付けられるCDR領域の異なる定義範囲を使用する。
【表1】
【0022】
特に断りのない限り、本発明において、用語「CDR」または「CDR配列」は、前記いずれか1つの方法で決定されるCDR配列を含む。
【0023】
CDRは、参照CDR配列と同じKabat番号付け位置を有することに基づいて決定することもできる。特に断りのない限り、本発明において、抗体可変領域における残基位置(重鎖可変領域残基と軽鎖可変領域残基を含む)に言及する場合、Kabat番号付けシステム(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))に基づく番号付け位置を指す。
【0024】
用語「Fcドメイン」または「Fc領域」は、本明細書において、少なくとも一部の定常領域を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するように使用される。当該用語は、天然配列Fc領域および変異体Fc領域を含む。天然の免疫グロブリン「Fcドメイン」は、2つまたは3つの定常ドメイン、すなわちCH2ドメイン、CH3ドメインおよび選択可能なCH4ドメインを含む。例えば、天然抗体において、免疫グロブリンFcドメインは、IgG、IgAおよびIgD類抗体の2本の重鎖に由来する第2および第3定常ドメイン(CH2ドメインおよびCH3ドメイン)を含み、またはIgMおよびIgE類抗体の2本の重鎖に由来する第2、第3および第4定常ドメイン(CH2ドメイン、CH3ドメインおよびCH4ドメイン)を含む。本明細書において、特に断らない限り、Fc領域または重鎖定常領域におけるアミノ酸残基の番号は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interes,5th edition,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載のEU番号付けシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に基づいて番号が付けられる。
【0025】
用語「エフェクター機能」は、免疫グロブリンアイソタイプによって変化する免疫グロブリンFc領域に直結する生物学的活性を指す。免疫グロブリンのエフェクター機能の例は、C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合作用、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、免疫複合体介在性抗原提示細胞による抗原の取り込み、細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)のダウンレギュレートおよびB細胞活性化を含む。
【0026】
用語「キメラ抗体」は、(a)定常領域またはその一部を変化、置換または交換することによって、抗原結合部位が異なるまたは変化したタイプ、エフェクター機能および/または生物種の定常領域またはキメラ抗体に新しい性能を付与する完全に異なる分子(例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子、医薬品)などに接続され、または(b)可変領域またはその一部を、異なるまたは変化した抗原特異性を有する可変領域によって変化、置換または交換させた抗体分子を指す。例えば、マウス抗体は、その定常領域をヒト免疫グロブリンに由来する定常領域に変更することによって修飾できる。ヒト定常領域に変更したため、当該キメラ抗体は、抗原認識についてのその特異性を保持するとともに、元のマウス抗体と比べて、ヒトにおいて低下した抗原性を有する。
【0027】
「ヒト化抗体」は、非ヒト抗体(例えばマウスモノクローナル抗体)の抗原特異性反応性を保留するとともに、治療剤としてヒトに投与する場合に免疫原性が低い抗体である。これは、例えば、非ヒト抗原結合部位を保留するとともに、抗体の残りの部分をこれらに対応するヒト由来の部分(すなわち、定常領域および可変領域における結合に関与しない部分はヒト抗体の対応する部分である)に変更することによって実現できる。例えばPadlan,Anatomy of the antibody molecule,Mol.Immun.,1994,31:169~217が参照される。ヒト抗体工学技術の他の例は、US5,766,886に開示されているXoma技術を含むが、これに限定されない。
【0028】
本明細書に使用されるように、用語「結合」または「特異的に結合」は、結合作用が抗原に対して選択的であり、かつ好ましくないまたは非特異的な相互作用と区別できることを意味する。特定の抗原に対する抗原結合部位の結合能力は、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)または本分野で公知の通常の結合測定法により測定できる。
【0029】
「親和性」または「結合親和性」は、結合対のメンバー同士間の相互作用を反映する固有結合の親和性を指す。分子XのパートナーYに対する親和性は通常、解離速度定数と結合速度定数(それぞれkdisとkon)の比である解離定数(KD)で表すことができる。親和性は、本分野で公知の通常の方法により測定できる。親和性を測定するための具体的な方法の1つは、本明細書に記載のForteBio動力学的結合測定法である。
【0030】
アミノ酸配列の「同一性百分率(%)」とは、候補配列と本明細書に示される具体的なアミノ酸配列を比較し、かつ必要に応じて最大の配列同一性百分率を実現するためにギャップを導入し、いずれの保存的置換も配列同一性の一部と考慮されない場合、本明細書に示される具体的なアミノ酸配列のアミノ酸残基と一致するアミノ酸残基の候補配列における百分率を指す。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の抗体分子の変異体を考慮しており、前記変異体は、本明細書に具体的に開示された抗体分子およびその配列に対して相当な程度の同一性、例えば少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有する。前記変異体は、保存的修飾を含んでもよい。
ポリペプチド配列の場合、「保存的修飾」は、ポリペプチド配列に対する置換、欠失または添加を含み、それによって特定のアミノ酸は化学的に類似するアミノ酸に置換される。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、この分野でよく知られているものである。このような保存的に修飾された変異体は、本発明の多型変異体、種間ホモログおよび対立遺伝子に対しては、付加的なものであり、それらが排除されない。以下は、互いに保存的置換となる8組のアミノ酸である。1)アラニン(A)、グリシン(G)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、4)アルギニン(R)、リジン(K)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、7)セリン(S)、トレオニン(T)、および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton,Proteins(1984)を参照)。いくつかの実施形態において、用語「保存的配列修飾」は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特徴に明らかな影響がないまたは結合特徴を変えないアミノ酸修飾を指す。
【0031】
用語「宿主細胞」は、既に外因性ポリヌクレオチドが導入された細胞を指し、かかる細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」および「形質転換された細胞」を含み、「形質転換体」と「形質転換された細胞」は、初代より形質転換された細胞およびこれらより誘導された子孫を含む。宿主細胞は、本発明の抗体分子を産生するために用いられる任意のタイプの細胞株であってもよく、哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞などの真核細胞と、大腸菌細胞などの原核細胞とを含む。宿主細胞は、培養された細胞を含み、遺伝子組換え動物、遺伝子組換え植物または培養された植物組織もしくは動物組織の内部の細胞を含む。
【0032】
用語「発現ベクター」は、組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指し、発現されるヌクレオチド配列に有効に接続された発現制御配列を含む。発現ベクターは、発現するのに十分なシス作用エレメントを含み、発現用の別のエレメントは、宿主細胞により提供されるか、またはインビトロ発現系にあるものであってもよい。発現ベクターは、本分野で公知の全てのものを含み、これらは、組換えポリヌクレオチドが組み込まれたコスミド、プラスミド(例えば、ヌードなるものまたはリポソームに含まれるもの)、ウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)を含む。
【0033】
哺乳動物は、家畜(例えば、乳牛、綿羊、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギおよびげっ歯類(例えば、マウスとラット)を含むが、これらに限定されない。特に、対象はヒトを指す。
【0034】
用語「治療」は、治療を受けている対象における疾患の自然的過程を変えるための臨床的介入を指す。所望の治療效果は、疾病の発生または再発の防止、症状の軽減、疾病の如何なる直接的または間接的な病理学的結果の減少、転移の防止、病状進展速度の低減、疾病の状態の改善または緩和、および予後の緩和または改善を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は、疾患の発展または疾患の進行を遅延させるために用いられる。
【0035】
用語「腫瘍」および「癌」は、本明細書において交換して使用され、固形腫瘍と液性腫瘍を含む。
【0036】
用語「GPRC5D」は、腫瘍関連抗原Gタンパク質共役受容体ファミリーCグループ5メンバーD(例えば、受託番号UniProt Q9NZD1のヒトGPRC5Dタンパク質)を指す。本明細書において、「GPRC5Dに対する抗原結合特異性」とは、GPRC5Dに特異的に結合する抗体または抗体断片、例えばscFvまたはFabを指す。一実施形態において、フローサイトメトリーにより検出されるように、GPRC5Dに結合する本発明の抗体分子の抗原結合部位は、GPRC5Dを発現する細胞に対して高親和性結合活性、例えば、1nM~100nM、例えば20nM~60nMのEC50値を有してもよい。一実施形態において、前記抗原結合特異性は、ヒトおよびサルGPRC5Dに対して交差反応性を有する。
【0037】
用語「BCMA」は、BCMA、TR17_ヒト、TNFRSF17とも呼ばれる腫瘍関連抗原B細胞成熟抗原(例えば、受託番号UniProt Q02223のヒトBCMAタンパク質)を指す。本明細書において、「BCMAに対する抗原結合特異性」とは、BCMAに特異的に結合する抗体または抗体断片、例えばscFvまたはFabを指す。一実施形態において、バイオフィルム層光干渉技術により検出されるように、BCMAに結合する本発明の抗体分子の抗原結合部位は、BCMAに対して高親和性結合活性、例えば、0.1nM~10nM、例えば0.1nM~5nMのKD値を有してもよい。一実施形態において、前記抗原結合特異性は、ヒトおよびサルBCMAに対して交差反応性を有する。
【0038】
用語「CD3」は、T細胞エンゲージ抗原T細胞表面の糖タンパク質CD3(例えば、受託番号UniProt P07766のヒトCD3タンパク質)を指す。本明細書において、「CD3に対する抗原結合特異性」とは、CD3に特異的に結合する抗体または抗体断片、例えばscFvまたはFabを指す。一実施形態において、バイオフィルム層光干渉技術により検出されるように、CD3に結合する本発明の抗体分子の抗原結合部位は、CD3 epsilon鎖に対して高親和性結合活性、例えば、1nM~50nM、例えば0.1nM~5nMのKD値を有してもよい。好ましくは、本発明の三重特異性抗体分子において、50nM未満のKD値を有する高親和性CD3抗原結合部位を使用する。一実施形態において、前記抗原結合特異性は、ヒトおよびサルCD3に対して交差反応性を有する。
【0039】
本発明の抗体構造を説明する場合、用語「N末端」は、N末端の最後のアミノ酸を指し、用語「C末端」は、C末端の最後のアミノ酸を指す。
【0040】
「knob-in-hole」変異または「ノブインホール」変異は、本明細書において、「ノブインホール」技術により、第1のFcポリペプチドおよび第2のFcポリペプチドに変異をそれぞれ導入して、第1のFcポリペプチドのインターフェースおよび第2のFcポリペプチドのインターフェースに突起(「ノブ(knob)」)および相補な空洞(「ホール(hole)」)を形成することを意味する。当該分野で知られているように、「ノブインホール」技術は、抗体分子の異なる鎖同士の間にインターフェースを改変させることによって、抗体分子の各本の鎖の正確な結合を促進することができる。一般に、当該技術は突起が空洞に配置できるように、一方の鎖のインターフェースに「突起」を導入し、それとペアリングする他方の鎖のインターフェースに対応する「空洞」を導入することに関する。1つの好ましいインターフェースは、一方の鎖の重鎖定常ドメインのCH3ドメインおよびそれとペアリングする他方の鎖の重鎖定常ドメインのCH3ドメインを含む。一方の鎖に由来する重鎖定常ドメインのCH3ドメインのインターフェースの小さなアミノ酸側鎖を比較的大きな側鎖(例えばチロシンまたはトリプトファン)に置き換えることで突起を構築することができる。大きなアミノ酸側鎖を比較的小さな側鎖(例えばアラニンまたはトレオニン)に置き換えることによって、ペアリングされる他方の鎖の重鎖定常ドメインのCH3ドメインのインターフェースで、大きさが突起と同じまたは類似する補償用空洞が構築される。もう1つの選択可能なインターフェースは、前記Fab断片のように軽鎖のCLドメインと重鎖のCH1ドメインとを含み、突起-空洞の相互作用を構築することによってFab断片の2本の鎖同士の間に正確なヘテロ二量体化が行われるように促進する。
【0041】
「一本鎖可変断片」または「scFv」は、本明細書において、リンカーによって連結された重鎖可変ドメインVHおよび軽鎖可変ドメインVLを含む一本鎖抗体断片を指すために使用され、ここで、VHとVLがペアリングして抗原結合部位を形成する。「ジスルフィド結合安定化一本鎖可変断片」または「dsscFv」は、本明細書において、ジスルフィド結合により安定化された一本鎖可変断片を指すために使用され、ここで、システイン変異をVHドメインおよびVLドメインに人為的に導入することによって、前記scFv断片は、VHとVLドメインとの間にジスルフィド結合連結を形成する。
【0042】
「Fv断片」は、本明細書において、重鎖可変ドメインVHおよび軽鎖可変ドメインVLを含む抗体断片を指すために使用される。「ジスルフィド結合安定化可変断片」または「dsFv」は、本明細書において、VHとVLドメインの間に人為的に導入したジスルフィド結合によって安定化されたFv断片を指すために使用される。
【0043】
「単一ドメイン抗体」または「sdAb」は、本明細書において、単一の可変抗体ドメイン、例えばVHまたはVLからなる抗体断片を指すために使用され、例えばラクダ科重鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン、魚類IgNARに由来するVH様単一ドメイン(v-NAR)である。単一ドメイン抗体の単一可変ドメインは、標的抗原を認識するために別の可変ドメインと相互作用する必要がない。単一ドメイン抗体の例は、ラクダ科(ラマおよびラクダ)および軟骨魚類(例えばコモリザメ)に由来する単一ドメイン抗体を含む。
【0044】
「Fab断片」または「Fab」は、本明細書において、2本のポリペプチド鎖からなる、免疫グロブリンの重鎖可変ドメインVH、重鎖定常ドメインCH1、軽鎖可変ドメインVLおよび軽鎖定常ドメインCLを含む免疫グロブリン断片を指すために使用され、ここで、一方のポリペプチド鎖は、N末端からC末端まで、VHと、CH1およびCLから選択される一方の定常領域とを含み、他方のポリペプチド鎖は、N末端からC末端まで、VLと、CLおよびCH1から選択される他方の定常領域とを含み、ここで、前記VHドメインとVLドメインがペアリングして抗原結合部位を形成する。本明細書において、Fabの一方のポリペプチド鎖には、CLに連結されるVHが含まれるとともに、他方のポリペプチド鎖には、CH1に連結されるVLが含まれる場合、当該Fabは、crossFabとも呼ばれる。
【0045】
本明細書において、「一本鎖Fab」または「scFab」は、Fab断片の2本の鎖をリンカーによって連結して形成する一本鎖ポリペプチドを指すために使用される。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の抗体は、(i)VH-CH1を含む一本の鎖およびVL-CLを含む一本の鎖からなるFab、ならびに(ii)VH-CLを含む一本の鎖およびVL-CH1を含む一本の鎖からなるcrossFabから選択されるFab断片を含んでもよい。本発明の別のいくつかの実施形態において、本発明の抗体は、(i)VH-CH1-リンカー-VL-CLを含む一本鎖Fab、ならびに(ii)VH-CL-リンカー-VL-CH1を含む一本鎖Fabから選択される一本鎖Fab断片を含んでもよい。
【0047】
本明細書において、免疫グロブリン定常ドメインは、抗体分子の予期される機能に基づいて選択することができる。例えば、定常ドメインは、IgA、IgD、IgE、IgGもしくはIgMドメイン、特にヒトIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4の定常ドメインなどのヒトIgGの免疫グロブリン定常ドメインであってもよく、好ましくはヒトIgG1の定常ドメインである。一例として、抗体のFab断片は、IgG1に由来するCHおよびCL定常ドメインを含んでもよい。さらなる例として、抗体のFc領域は、IgG1に由来するCH2およびCH3ドメインを含んでもよい。
【0048】
本明細書において、用語「フレキシブル連結ペプチド」、「連結ペプチド」または「リンカー」は、アミノ酸からなる短いアミノ酸配列、例えば単独でまたは組み合わせて使用するグリシン(G)および/またはセリン(S)および/またはスレオニン残基(T)、あるいは免疫グロブリンに由来するヒンジ領域を指す。一実施形態において、連結ペプチドは、5個~50個のアミノ酸長さ、例えば、10、15、20、25もしくは30個のアミノ酸長さを有する。一実施形態において、連結ペプチドはアミノ酸配列(G4S)nを含み、ここで、nは1以上の整数であり、例えば、nは2、3、4、5、6もしくは7の整数である。一実施形態において、連結ペプチドはアミノ酸配列TS(G4S)nを含み、ここで、nは1以上の整数であり、例えば、nは2、3、4、5、6もしくは7の整数である。さらなる実施形態において、連結ペプチドは、免疫グロブリンに由来するヒンジ領域であり、例えば、「CPPC」を含むヒンジ領域のアミノ酸配列であり、例えば、アミノ酸配列「EPKSCDKTHTCPPCP」(配列番号114)または「EPKSSDKTHTCPPCP」(配列番号115)である。本発明に適用できる抗体分子の各ドメインを連結する連結ペプチドは、例えば、GGG(配列番号116)、DGGGS(配列番号117)、TGEKP(配列番号118)、GGRR(配列番号119)、EGKSSGSGSESKVD(配列番号120)、KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号121)、GGRRGGGS(配列番号122)、LRQRDGERP(配列番号123)、LRQKDGGGSERP(配列番号124)およびGSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号125)であってもよいが、これらに限定されない。あるいは、コンピュータプログラムを使用してタンパク質およびペプチドの三次元構造を模擬するか、またはファージディスプレイ法によって適切なフレキシブル連結ペプチドを合理的に設計することができる。
【0049】
I. 本発明の三重特異性抗体分子
本発明の三重特異性抗体分子はY型抗体分子である。本明細書において、用語「Y型抗体分子」は、2つの抗体アームおよび1つのステム部を含むY型構造の抗体分子を指し、ここで、2つの抗体アームはY型構造の2つの分岐が形成され、かつ2つの抗体Fcドメインによりペアリングされて形成されたY型構造のステム部にそれぞれ連結される。1つの典型的なY型抗体分子は免疫グロブリンIgG分子である。免疫グロブリンIgG分子のY型構造は、2つの抗体アーム(Fab)および1つのステム部(Fc)という3つの領域で構成され、ここで、フレキシブルなヒンジ領域(Hinge)は抗体のステム部(Fc)と抗体アーム(Fab)を連結する。IgG分子において、2つのアームは抗原の特異的結合に使用されるが、ステム部は抗体の種類および機能特性を決定する。本明細書において、Y型抗体分子は、IgG分子と同じまたは類似するY型構造を有する分子、例えば抗体の抗体アームおよび/またはステムに複合成分を有するY型分子もカバーする。好ましくは、本発明の抗体分子は複合成分を有する三重特異性抗体分子である。
【0050】
本発明のY型抗体分子において、抗体アームは、Fab、scFv、sdABなどの抗原結合ドメインで構成することができ、かつ2つの抗体アームを構成する抗原結合ドメインは、相同または相異の抗原および/またはエピトープを標的し、相同または相異の結合特異性を有することができる。本発明のY型抗体分子において、抗体分子のステムは、ペアリングした2つの免疫グロブリンFcドメインで構成することができ、ここで、前記Fcドメインは、それぞれ独立して変異を含んでもよく、含まなくてもよい。抗体分子が非対称IgG様分子である場合、好ましくは、ステム部の2つのFcドメインは、そのペアリングおよび二量体化を促進する変異、例えば、相補的な「ノブインホール」変異を含む。さらに、ステム部のFcドメインは、他の変異、例えばシステイン変異(第1のFcと第2のFcとの間でのジスルフィド結合連結の形成を促進する)、電荷ペアリング変異、および/またはエフェクター機能が低減または排除された変異(例えば、ADCC活性が低減または排除された変異、例えばL234A/L235A変異の組み合わせ)を含んでもよい。本発明のY型抗体分子の2つの抗体アームは、ステムのそれぞれのFcドメインに直接または連結ペプチドを介してそれぞれ共有結合されてもよく、好ましくは、アームは免疫グロブリンのヒンジ領域を介してステムのFcドメインに連結される。
【0051】
アームおよびステムに加えて、本発明のY型抗体分子は、好ましくは、アームおよび/またはステムに複合した複合成分をさらに含み、前記複合成分は、Fab、scFvおよびsdABなどの追加する抗原結合ドメイン、好ましくはscFvを含む。複合成分における抗原結合ドメインは、抗体アームと異なる抗原結合特異性を付与することができる。例えば、Y型分子の2つの抗体アームは、第1と第2抗原結合特異性をそれぞれ提供する抗原結合ドメインを含んでもよく、Y型分子の複合成分は、第3抗原結合特異性を提供する抗原結合ドメインを含み、かつ第1、第2および第3抗原結合特異性はそれぞれ異なる。あるいは、Y型分子の2つの抗体アームは、第1抗原結合特異性を提供する抗原結合ドメインを含んでもよく、Y型分子の複合成分は、第2と第3抗原結合特異性を提供する抗原結合ドメインを含み、かつ第1、第2および第3抗原結合特異性はそれぞれ異なる。
【0052】
本発明のY型抗体分子において、第1、第2および第3抗原結合特異性は、それぞれCD3、BCMAおよびGPRC5Dから選択される異なる抗原に対する結合特異性である。例えば、第1と第2抗原結合特異性は、それぞれGPRC5DとBCMAから選択される異なる腫瘍関連抗原(TAA)に対するものであってもよく、第3抗原結合特異性は、T細胞表面抗原(TEA)CD3に対するものであってもよい。あるいは、第1(または第2)と第3抗原結合特異性は、それぞれGPRC5DとBCMAから選択される異なる腫瘍関連抗原(TAA)に対するものであってもよく、第2(または第1)抗原結合特異性は、T細胞表面抗原(TEA)に対するものであってもよい。
【0053】
アーム、ステムおよび複合成分の構造によって、本発明のY型抗体分子は、少なくとも2本のポリペプチド鎖、例えば2本もしくは4本のポリペプチド鎖を含んでもよい。本明細書において、ステムFcドメインを含むポリペプチド鎖は重鎖と呼ばれ、それに対してFcドメインを含まないポリペプチド鎖は軽鎖と呼ばれる。したがって、いくつかの実施形態において、本発明のY型分子は第1重鎖ポリペプチド鎖と第2重鎖ポリペプチド鎖を含む二本鎖分子であり、他のいくつかの実施形態において、本発明のY型分子は2本の重鎖ポリペプチド鎖と2本の軽鎖ポリペプチド鎖を含む四本鎖分子である。複合成分を含む本発明のY型分子において、複合成分は、抗体分子の重鎖ポリペプチド鎖(例えば、ステム部のFcドメインのC末端)に複合されてもよく、または抗体分子の軽鎖ポリペプチド鎖(例えば、Fab抗原結合部位を含む抗体アームのFab軽鎖のC末端)に複合されてもよい。したがって、例えば、本発明の抗体は、2本の重鎖ポリペプチド鎖と2本の軽鎖ポリペプチド鎖を含んでもよく、ここで第1重鎖と第1軽鎖がペアリングして抗体の1つの抗体アームを形成し、第2重鎖と第2軽鎖がペアリングして抗体のもう1つの抗体アームを形成し、かつ第1重鎖のFcドメインと第2重鎖のFcドメインがペアリングして抗体ステムを形成し、ここで第1重鎖または第2重鎖のC末端には抗体複合成分を形成する一本鎖抗体断片(scFvなど)がさらに含まれ、あるいは第1軽鎖と第2軽鎖のC末端には抗体複合成分を形成する一本鎖抗体断片(scFvなど)がさらに含まれる。
【0054】
一態様において、したがって、本発明は、三重特異性Y型抗体分子を提供する。本発明のY型抗体分子は、下記の式:
(M1:M2-(X1)p)-Fc::Fc-(X2)q (式I)
の構造の構造を有し、式中、
M1とM2は、抗原結合部位を含むY型抗体分子の第1抗体アームと第2抗体アームをそれぞれ表し、ここで、第1抗体アームと第2抗体アームの抗原結合部位は相同または相異であってもよく、
Fc::Fcは、第1と第2抗体アームのC末端に位置するY型抗体分子のステムを表し、ペアリングおよび二量体化された第1のFcドメインと第2のFcドメインで構成され、
X1は抗体アームのC末端に複合した複合成分を表し、X2はステムのC末端に複合した複合成分を表し、ここで前記複合成分は抗原結合部位を含み、ここで複合成分は直接または連結ペプチドを介して抗体分子に複合され、かつ
式中、pとqは、0、1もしくは2の整数をそれぞれ表し、かつpとqは同時に0ではなく、
ここで、前記抗体は抗体アームおよび複合成分を介してGPRC5D、BCMAおよびCD3に特異的に結合され、
好ましくは、第1抗体アームおよび第2抗体アームが異なる抗原に結合する場合、pとqのいずれか1つは0であり、ここで抗体アームM1およびM2は第1と第2抗原結合特異性を提供し、複合成分は第3抗原結合特異性を提供し、あるいは
好ましくは、第1抗体アームおよび第2抗体アームが同じ抗原に結合する場合、pとqはいずれも0ではなく、ここで抗体アームM1およびM2は第1抗原結合特異性を提供し、複合成分X1およびX2は第2と第3抗原結合特異性をそれぞれ提供する。
【0055】
いくつかの実施形態において、抗体分子の抗体アーム(M1およびM2)は、FabまたはscFab(好ましくはFab)から選択される抗原結合部位を含み、かつpとqのいずれか1つは0であり、ここで抗体アームM1およびM2は第1と第2抗原にそれぞれ結合され、複合成分(X1またはX2)は第3抗原に結合され、ここで第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択され、
好ましくは、p=0の場合、q=1であり、複合成分X2は抗体分子のステムの2つのFcドメインのいずれか1つに複合され、あるいは
好ましくは、q=0の場合、p=2であり、複合成分X1は抗体分子の抗体アームM1およびM2の両方のFab軽鎖に複合される。
【0056】
いくつかの実施形態において、抗体分子の抗体アーム(M1およびM2)は、FabまたはscFab(好ましくはFab)から選択される抗原結合部位を含み、かつpとqはいずれも0ではなく、ここで抗体アームM1およびM2は同じ第1抗原に結合され、複合成分X1およびX2は第2抗原および第3抗原にそれぞれ結合され、ここで第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択され、
好ましくは、p=2かつq=2であり、ここで複合成分X1は抗体分子の抗体アームM1およびM2両方のFab軽鎖に複合され、かつ複合成分X2は抗体分子のステムの2つのFcドメインに複合される。
さらなる実施形態において、抗体分子の抗体アーム(M1およびM2)は、scFv(好ましくはdsscFv)から選択される抗原結合部位を含み、かつp=0、q=1もしくは2であり、ここで抗体アームM1およびM2は第1と第2抗原にそれぞれ結合され、複合成分X2は第3抗原に結合され、ここで第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択され、
好ましくは、p=0の場合、q=1であり、複合成分X2は抗体分子のステムの2つのFcドメインのいずれか1つのC末端に複合される。
【0057】
前記いずれか1つの実施形態において、好ましくは、複合成分は、scFv、dsFvおよびdsAb、好ましくはscFv、より好ましくはdsscFvから選択される抗原結合部位を含む。
前記いずれか1つの実施形態において、好ましくは、第1のFcドメインおよび第2のFcドメインは、「CPPC」アミノ酸残基を有するヒンジ領域を含み、これにより、本発明の抗体分子は、第1と第2のFcドメインの間に鎖間ジスルフィド結合を形成して、本発明の抗体分子のポリペプチド鎖が正しくペアリングすることを促進する。好ましくは、本発明の抗体分子において、抗体アームはFc領域のヒンジ領域によりFc領域のN末端に融合される。
前記いずれか1つの実施形態において、好ましくは、複合成分は、フレキシブル連結ペプチドにより抗体分子のステムおよび/またはアームに複合される。好ましくは、前記連結ペプチドの長さは、5個~15個のアミノ酸長さ、例えば10、12、15個のアミノ酸長さである。好ましくは、前記連結ペプチドは、アミノ酸配列TS(G4S)nまたは(G4S)nを含み、式中、n=1、2もしくは3、好ましくはn=2である。
【0058】
したがって、いくつかの好ましい実施形態において、式Iのpとqのいずれか1つが0である場合、本発明は、下記の式:
(M1:M2-(X1)p)-Fc::Fc-(X2)q (式I)
の構造の構造を有するIgG様抗体分子を提供し、式中、
M1およびM2は、第1と第2抗原に結合するFabまたはscFab、好ましくはFabをそれぞれ含み、
式中、p=0の場合、X2は第3抗原に結合するscFvを含み、あるいは
q=0の場合、X1は第3抗原に結合するscFvを含み、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
さらなるいくつかの好ましい実施形態において、式Iのp=0の場合、本発明は、下記の式:
(M1:M2)-Fc::Fc-(X2)q, (Format_2)
の構造の構造を有するIgG様抗体分子を提供し、式中、
q=1、
M1およびM2は、第1と第2抗原に結合するFabまたはscFab、好ましくはFabをそれぞれ含み、かつ
X2は、第3抗原に結合するscFvを含み、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0059】
さらなるいくつかの好ましい実施形態において、式Iのq=0の場合、本発明は、下記の式:
(M1:M2-(X1)p)-Fc::Fc, (Format_7)
の構造の構造を有するIgG様抗体分子を提供し、式中、
p=2、
M1およびM2は、第1と第2抗原に結合するFabをそれぞれ含み、かつ
X2は、第3抗原に結合するscFvを含み、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0060】
さらなるいくつかの実施形態において、式Iのp=2かつq=2の場合、本発明は、下記の式:
(M1:M2-(X1)p)-Fc::Fc-(X2)q, (Format_6)
の構造の構造を有するIgG様抗体分子を提供し、式中、
M1およびM2は、同じ第1抗原に結合するFabまたはscFab、好ましくはFabを含み、かつ
X1およびX2は、第2抗原および第3抗原に結合するscFvをそれぞれ含み、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0061】
さらなるいくつかの実施形態において、式Iのp=0かつq=1の場合、本発明は、下記の式:
(M1:M2)-Fc::Fc-X2, (Format_1)
の構造の構造を有するIgG様抗体分子を提供し、式中、
M1、M2およびX2は、第1、第2、および第3抗原に結合するscFvをそれぞれ含み、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0062】
以下、本発明の三重特異性抗体分子を構成する抗体アーム、複合成分およびステムについて、それぞれ詳細にさらに説明する。当業者にとって明らかのように、これらの説明は、前記の本発明にかかる任意の三重特異性抗体分子、例えば式Iの分子、およびFormat_1、2、6および7の構造を有する分子に適用される。
【0063】
本発明の抗体分子の抗体アームおよび複合成分
本発明の抗体分子は、抗体アームおよび複合成分の抗原結合部位により、第1、第2および第3抗原に特異的に結合する抗原結合部位を提供し、ここで第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立して腫瘍関連抗原GPRC5D、腫瘍関連抗原BCMAおよびT細胞エンゲージ抗原CD3から選択される。
【0064】
一実施形態において、本発明は式Iの抗体分子を提供し、式中、p=0またはq=0の場合、抗体の第1抗体アームおよび第2抗体アームは、第1と第2抗原結合部位をそれぞれ提供し、複合成分は第3抗原結合部位を提供する。
【0065】
他の実施形態において、本発明は式Iの抗体分子を提供し、式中、pとqがいずれも0ではない場合、抗体の第1抗体アームおよび第2抗体アームは第1抗原結合部位を提供し、かつ抗体アームのC末端に複合された複合成分は第2抗原結合部位を提供し、抗体ステムに複合された複合成分は第3抗原結合部位を提供する。
【0066】
本発明に適用できる三重特異性抗体分子の抗原結合部位(GPRC5D、BCMAおよびCD3に特異的に結合する抗原結合部位を含む)は、標的抗原に結合できる任意の抗体または抗体断片を含んでもよい。例えば、本発明の式Iの抗体分子において、抗体アームおよび複合成分における抗原結合部位は、独立してscFv、dsFv、Fab、scFabまたはsdAbであってもよい。好ましくは、いくつかの実施形態において、抗体アームの抗原結合部位は、FabおよびscFab、好ましくはFabから選択される。好ましくは、他のいくつかの実施形態において、複合成分の抗原結合部位は、scFv、dsFvおよびdsAb、好ましくはscFv、より好ましくはジスルフィド結合が安定したscFv(すなわち、dsscFv)から選択される。いくつかのより好ましい実施形態において、抗体アームの抗原結合部位はFab、かつ複合成分の抗原結合部位はscFv、特にdsscFvである。
【0067】
本明細書において、Fab_GPRC5D、Fab_BCMAおよびFab_CD3は、GPRC5D、BCMAおよびCD3に結合するFab形式の抗原結合部位をそれぞれ表すために使用される。本明細書において、ScFv_GPRC5D、ScFv_BCMAおよびScFv_CD3は、GPRC5D、BCMAおよびCD3に結合するscFv形式の抗原結合部位をそれぞれ表すために使用される。
【0068】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子に含まれるFab抗原結合部位は、免疫グロブリンVH、CH1、VLおよびCLドメインを含む2本のポリペプチド鎖で構成され、ここで前記VHとVLがペアリングし、かつ前記CH1とCLがペアリングして、抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態において、Fabにおいて、1本の鎖はN末端からC末端まで、VHとCH1(すなわち、VH-CH1)を含み、もう1本の鎖はN末端からC末端まで、VLとCL(すなわち、VL-CL)を含む。他のいくつかの実施形態において、Fabにおいて、1本の鎖はN末端からC末端まで、VHとCL(すなわち、VH-CL)を含み、もう1本の鎖はN末端からC末端まで、VLとCH1(すなわち、VL-CH1)を含む。いくつかの実施形態において、Fabは、本発明の抗体分子の抗体アームの抗原結合部位を構成する。前記実施形態において、前記Fabは、VHを含む鎖のC末端により抗体ステムのFcドメインのN末端に融合することができ、あるいは、ここで前記Fabは、VLを含む鎖のC末端により抗体ステムのFcドメインのN末端に融合される。好ましくは、前記Fabは、VH-CH1鎖およびVL-CL鎖を含み、VH-CH1鎖のC末端により抗体ステムのFc領域に結合する。好ましくは、本発明の抗体分子には、抗体アームに複合された複合成分が含まれる場合、前記複合成分は抗体ステムに連結していないFab鎖のC末端に複合される。本明細書において、抗体ステムに連結していないFab鎖はFabの軽鎖とも呼ばれる。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は、抗体アームのFab軽鎖に複合された複合成分を有する。
【0069】
他のいくつかの実施形態において、本発明の抗体分子に含まれるscFab抗原結合部位は、免疫グロブリンVH、CH1、VLおよびCLドメインを含む1本のポリペプチド鎖で構成され、ここで前記VHとVLがペアリングし、かつ前記CH1とCLがペアリングして、抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態において、前記scFabはN末端からC末端まで、VH-CH1、リンカー、およびVL-CLを含む。他のいくつかの実施形態において、前記scFabはN末端からC末端まで、VL-CL、リンカー、およびVH-CH1を含む。さらなるいくつかの実施形態において、前記scFabはN末端からC末端まで、VH-CL、リンカー、およびVL-CH1を含む。他のいくつかの実施形態において、前記scFabはN末端からC末端まで、VL-CH1、リンカー、およびVH-CLを含む。いくつかの実施形態において、scFabは、本発明の抗体分子の抗体アームの抗原結合部位を構成する。いくつかの実施形態において、前記scFabは、そのポリペプチド鎖のC末端により抗体ステムのFcドメインのN末端に融合される。好ましくは、前記scFabはN末端からC末端まで、VL-CL、リンカー、およびVH-CH1を含み、かつCH1ドメインのC末端により抗体ステムのFc領域に結合する。好ましくは、本発明の抗体分子にはscFab抗体アームが含まれる場合、抗体分子の複合成分は、抗体ステムのFcドメインのC末端にのみ複合される。
【0070】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子に含まれるFabまたはscFabは、IgG免疫グロブリンに由来するCH1ドメイン、例えば、IgG1のCH1ドメイン、好ましくはヒトIgG1のCH1ドメインを含む。いくつかの好ましい実施形態において、前記CH1ドメインは、配列番号104のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子に含まれるFabまたはscFabは、IgG免疫グロブリンに由来するkappa軽鎖定常ドメイン、例えばIgG1のCLκドメイン、好ましくはヒトIgG1のCLκドメインを含む。例えば、前記FabまたはscFabは、配列番号105のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するkappa軽鎖定常ドメインを含む。他のいくつかの実施形態において、本発明の抗体分子に含まれるFabまたはscFabは、IgG免疫グロブリンに由来するlamda軽鎖定常領域、例えばIgG1のCLλドメイン、好ましくはヒトIgG1のCLλドメインを含む。例えば、前記Fabは、配列番号106のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するlamda軽鎖定常ドメインを含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子の抗体アームM1およびM2には、異なる抗原に結合するFabまたはscFab(好ましくはFab)が含まれる場合、抗体アームM1および抗体アームM2のFabまたはscFabの軽鎖定常ドメインは互いに異なる。例えば、いくつかの実施形態において、抗体アームM1のFabはkappa軽鎖定常ドメインを含み、抗体アームM2のFabはlamda軽鎖可変ドメインを含み、または抗体アームM1のFabはlamda軽鎖定常ドメインを含み、抗体アームM2のFabはkappa軽鎖可変ドメインを含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子に含まれるscFv抗原結合部位は、免疫グロブリンVHとVLドメインを含む1本のポリペプチド鎖で構成され、ここで前記VHとVLはリンカーにより連結されてペアリングして抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態において、前記scFvはトランス構成であり、N末端からC末端まで、VH、リンカー、およびVL(VH-リンカー-VL)を含む。他のいくつかの実施形態において、前記scFvはシス構成であり、N末端からC末端まで、VL、リンカー、およびVH(VH-リンカー-VL)を含む。いくつかの実施形態において、リンカーは、アミノ酸残基で構成されるペプチドリンカーである。好適なペプチドリンカーは当業者によく知られている。一実施形態において、リンカーは、10個~50個のアミノ酸長さ、例えば5個~30個のアミノ酸長さ、例えば15個のアミノ酸もしくは20個のアミノ酸長さである。一実施形態において、リンカーはアミノ酸配列(G4S)nを含み、式中、n=1、2、3、4もしくは5、好ましくは、n=3もしくは4、より好ましくは、n=4である。
いくつかの実施形態において、scFvは、本発明の抗体分子の抗体アームの抗原結合部位を構成し、そのポリペプチド鎖のC末端により抗体ステムのFcドメインのN末端に融合される。
【0072】
他のいくつかの実施形態において、scFvは、本発明の抗体分子の複合成分の抗原結合部位を構成する。いくつかの実施形態において、前記scFvは、そのポリペプチド鎖のN末端により抗体ステムのC末端および/または抗体アームのC末端に融合される。好ましくは、本発明の抗体分子において、抗体アームはFabを含み、複合成分はscFvを含み、ここで、前記scFvは、そのポリペプチド鎖のN末端により抗体ステムFcのC末端および/または抗体アームFab軽鎖のC末端に融合される。
いくつかの好ましい実施形態において、本発明の抗体分子に含まれるscFv抗原結合部位は、ジスルフィド結合が安定したscFv、すなわちdsscFvである。抗原結合部位がdsscFvである場合、scFvに変異するVHとVL可変ドメインの間に導入するジスルフィド結合により、下記の残基対(以下の位置はKabat番号によって決定される):
VHの37位残基+VLの95位残基、VHの44位残基+VLの100位残基、VHの44位残基+VLの105位残基、VHの45位残基+VLの87位残基、VHの55位残基+VLの101位残基、VHの100位残基+VLの50位残基、VHの100b位残基+VLの49位残基、VHの98位残基+VLの46位残基、VHの105位残基+VLの43位残基、およびVHの106位残基+VLの57位残基、の間に位置することができる。好ましくは、dsscFvを形成するために、システイン置換にVHの44位とVLの100位残基を導入することで、前記VHとVLがペアリングする時に2つの残基の間にジスルフィド結合による連結を形成することができる。
【0073】
GPRC5Dに結合する抗原結合部位
本発明に適用できる抗体分子のGPRC5D抗原結合部位は、GPRC5Dに結合できる任意の抗体または抗体断片であってもよい。例えば、本発明の抗体分子において、抗体アームまたは複合成分に含まれるGPRC5D抗原結合部位は、独立してscFv、dsFv、Fab、scFabまたはsdAbであってもよく、かつ好ましくは上述したscFvまたはFab構造を有する抗原結合部位である。好ましくは、抗体アームのGPRC5D抗原結合部位は、FabおよびscFab、好ましくはFabから選択される。好ましくは、複合成分のGPRC5D抗原結合部位は、scFv、dsFvおよびdsAb、好ましくはscFv、より好ましくはジスルフィド結合が安定したscFv(すなわち、dsscFv)から選択される。1つのより好ましい実施形態において、抗体はGPRC5Dに結合する抗体アームを含み、かつ抗体アームのGPRC5D抗原結合部位はFabであり、もう1つのより好ましい実施形態において、抗体はGPRC5Dに結合する複合成分を含み、かつ複合成分のGPRC5D抗原結合部位はscFv、特にdsscFvである。
【0074】
いくつかの好ましい実施形態において、GPRC5Dに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するGPRC5D抗原結合部位は、
(i)配列番号25に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号26に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(ii)配列番号27に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号28に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(iii)配列番号29に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号30に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(iv)配列番号31に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号32に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(v)配列番号98に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号99に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(vi)配列番号100に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号101に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、を含む。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態において、GPRC5Dに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するGPRC5D抗原結合部位は、以下:
(i)それぞれ配列番号1~6に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(ii)それぞれ配列番号7~12に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(iii)それぞれ配列番号13~18に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(iv)それぞれ配列番号19~24に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(v)それぞれ配列番号13、110および15~18に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、から選択されるCDR配列の組み合わせを含む。
【0076】
あるいは、GPRC5Dに結合する前記抗原結合部位、例えば、scFvまたはFabは、前記CDR配列の組み合わせの1つの変異体を含み、ここで前記変異体は、1、2、3、4、5もしくは好ましくは6個のCDR領域において合計で少なくとも1個かつ5、4、3、2もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を含み、好ましくは、重鎖CDR3は変化しないままである。
【0077】
いくつかの好ましい実施形態において、GPRC5Dに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するGPRC5D抗原結合部位は、以下:
(a)配列番号25に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、
(b)配列番号27に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、
(c)配列番号29に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、
(d)配列番号31に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、
(e)配列番号98に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、および
(f)配列番号100に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、から選択される重鎖可変ドメインVHを含む。
【0078】
いくつかの好ましい実施形態において、GPRC5Dに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するGPRC5D抗原結合部位は、以下:
(a)配列番号26に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(b)配列番号28に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(c)配列番号30に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(d)配列番号32に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(e)配列番号99に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、および
(f)配列番号101に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、から選択される軽鎖可変ドメインVLを含む。
【0079】
いくつかの好ましい実施形態において、GPRC5Dに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するGPRC5D抗原結合部位は、以下:
(a)配列番号25に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号26に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(b)配列番号27に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号28に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(c)配列番号29に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号30に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(d)配列番号31に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号32に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(e)配列番号98に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号99に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(f)配列番号100に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号101に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、から選択されるVHとVLアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【0080】
いくつかの好ましい実施形態において、GPRC5Dに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するGPRC5D抗原結合部位は、以下:
(i)配列番号25に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(ii)配列番号27に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(iii)配列番号29に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(iv)配列番号31に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号32に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(v)配列番号98に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号99に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(vi)配列番号100に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号101に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、から選択されるVHとVL配列の組み合わせを含む。
いくつかの好ましい実施形態において、GPRC5Dに結合する抗原結合部位はジスルフィド結合が安定したscFvである場合、前記scFvはさらに、VHドメインの44位にシステイン置換が含まれ、VLドメインの100位にシステイン置換が含まれる。
【0081】
BCMAに結合する抗原結合部位
本発明に適用できる抗体分子のBCMA抗原結合部位は、BCMAに結合できる任意の抗体または抗体断片であってもよい。例えば、本発明の抗体分子において、抗体アームまたは複合成分に含まれるBCMA抗原結合部位は、独立してscFv、dsFv、Fab、scFabまたはsdAbであってもよく、かつ好ましくは上述したscFvまたはFab構造を有する抗原結合部位である。好ましくは、抗体アームのBCMA抗原結合部位は、FabおよびscFab、好ましくはFabから選択される。好ましくは、複合成分のBCMA抗原結合部位は、scFv、dsFvおよびdsAb、好ましくはscFv、より好ましくはジスルフィド結合が安定したscFv(すなわち、dsscFv)から選択される。1つのより好ましい実施形態において、抗体はBCMAに結合する抗体アームを含み、かつ抗体アームのBCMA抗原結合部位はFabであり、もう1つのより好ましい実施形態において、抗体はBCMAに結合する複合成分を含み、かつ複合成分のBCMA抗原結合部位はscFv、特にdsscFvである。
【0082】
いくつかの好ましい実施形態において、BCMAに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するBCMA抗原結合部位は、配列番号39に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号40に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列を含む。
【0083】
いくつかの好ましい実施形態において、BCMAに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するBCMA抗原結合部位は、以下:
-配列番号33に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるHCDR1、
-配列番号34に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるHCDR2、
-配列番号35に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるHCDR3、
-配列番号36に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるLCDR1、
-配列番号37に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるLCDR2、
-配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるLCDR3、というCDR配列の組み合わせを含み、
あるいは、BCMAに結合する前記抗原結合部位は、前記CDR配列の組み合わせの1つの変異体を含み、ここで前記変異体は、1、2、3、4、5もしくは好ましくは6個のCDR領域において合計で少なくとも1個かつ5、4、3、2もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を含み、好ましくは、重鎖CDR3は変化しないままである。
【0084】
いくつかの好ましい実施形態において、BCMAに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するBCMA抗原結合部位は、配列番号39に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインVHを含む。
【0085】
いくつかの好ましい実施形態において、BCMAに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するBCMA抗原結合部位は、配列番号40に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインVLを含む。
【0086】
いくつかの好ましい実施形態において、BCMAに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するBCMA抗原結合部位は、配列番号39に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインVHを含み、かつ配列番号40に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインVLを含む。
【0087】
好ましくは、BCMAに結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するBCMA抗原結合部位は、配列番号39に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインおよび配列番号40に示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。いくつかの好ましい実施形態において、BCMAに結合する抗原結合部位はジスルフィド結合が安定したscFvである場合、前記scFvはさらに、VHドメインの44位にシステイン置換が含まれ、VLドメインの100位にシステイン置換が含まれる。
【0088】
CD3に結合する抗原結合部位
本発明に適用できる抗体分子のCD3抗原結合部位は、CD3に結合できる任意の抗体または抗体断片であってもよい。例えば、本発明の抗体分子において、抗体アームまたは複合成分に含まれるCD3抗原結合部位は、独立してscFv、dsFv、Fab、scFabまたはsdAbであってもよく、かつ好ましくは上述したscFvまたはFab構造を有する抗原結合部位である。好ましくは、抗体アームのCD3抗原結合部位は、FabおよびscFab、好ましくはFabから選択される。好ましくは、複合成分のCD3抗原結合部位は、scFv、dsFvおよびdsAb、好ましくはscFv、より好ましくはジスルフィド結合が安定したscFv(すなわち、dsscFv)から選択される。1つのより好ましい実施形態において、抗体はCD3に結合する抗体アームを含み、かつ抗体アームのCD3抗原結合部位はFabであり、もう1つのより好ましい実施形態において、抗体はCD3に結合する複合成分を含み、かつ複合成分のCD3抗原結合部位はscFv、特にdsscFvである。
【0089】
いくつかの好ましい実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するCD3抗原結合部位は、配列番号48に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号49に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列を含む。
別のいくつかの好ましい実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するCD3抗原結合部位は、配列番号50に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号49に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列を含む。
【0090】
いくつかの好ましい実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するCD3抗原結合部位は、以下:
-配列番号41に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるHCDR1、
-配列番号42もしくは47に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるHCDR2、
-配列番号43に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるHCDR3、
-配列番号44に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるLCDR1、
-配列番号45に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるLCDR2、
-配列番号46に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるLCDR3、というCDR配列の組み合わせを含み、
あるいは、CD3に結合する前記抗原結合部位は、前記CDR配列の組み合わせの1つの変異体を含み、ここで前記変異体は、1、2、3、4、5もしくは好ましくは6個のCDR領域において合計で少なくとも1個かつ5、4、3、2もしくは1個以下のアミノ酸変異(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を含み、好ましくは、重鎖CDR3は変化しないままである。
【0091】
いくつかの好ましい実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するCD3抗原結合部位は、配列番号48もしくは50に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインVHを含む。
【0092】
いくつかの好ましい実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するCD3抗原結合部位は、配列番号49に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインVLを含む。
いくつかの好ましい実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するCD3抗原結合部位は、配列番号48もしくは50に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインVHを含み、かつ配列番号49に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインVLを含む。
【0093】
好ましくは、CD3に結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するCD3抗原結合部位は、配列番号48もしくは50に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインおよび配列番号49に示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。より好ましくは、CD3に結合する抗原結合部位、例えば、上述したscFvまたはFab構造を有するCD3抗原結合部位は、配列番号48に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインおよび配列番号49に示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。いくつかの好ましい実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位はジスルフィド結合が安定したscFvである場合、前記scFvはさらに、VHドメインの44位にシステイン置換が含まれ、VLドメインの100位にシステイン置換が含まれる。
【0094】
本発明の抗体分子のステム
本発明の抗体分子は、抗体アームのC末端に位置し、第1のFcドメインと第2のFcドメインにより形成されたステムを含む。いくつかの実施形態において、第1と第2のFcドメインは同じである。他のいくつかの実施形態において、第1のFcドメインと第2のFcドメインが異なり、両者がペアリングしてヘテロ二量体化されている。
【0095】
本発明に適用される抗体分子のFcドメイン断片は、任意の抗体Fcドメインであってもよい。例えば、本発明の抗体のFcドメインは、2つもしくは3つの定常ドメイン、すなわちCH2ドメイン、CH3ドメインおよび選択可能なCH4ドメインを含んでもよい。好ましくは、本発明の抗体のFcドメインはN末端からC末端まで、CH2-CH3を含み、より好ましくはN末端からC末端まで、ヒンジ領域-CH2-CH3を含む。
本発明の抗体分子において、Fcドメインは、IgG、IgAおよびIgD類抗体に由来する第2および第3定常ドメイン(CH2ドメインおよびCH3ドメイン)を含んでもよく、またはIgMおよびIgE類抗体に由来する第2、第3および第4定常ドメイン(CH2ドメイン、CH3ドメインおよびCH4ドメイン)を含む。いくつかの実施形態において、抗体分子のFcドメインは、IgGからのFcドメイン、例えば、IgG1、IgG2またはIgG4からのFcドメイン、好ましくはヒトIgG1からのFcドメインである。
【0096】
当業者には理解されるように、本発明の抗体分子の予期される使用に応じて、本発明の抗体分子は、Fcドメインにエフェクター機能を変更する修飾を含んでもよい。一実施形態において、本発明のFcドメインの1種または複数種のエフェクター機能は、同じアイソタイプの野生型Fcドメインと比較して、低減または排除されている。Fcドメインのグリコシル化の改変、天然に低減または排除されたエフェクター機能を有するFcアイソタイプの使用、およびFcドメインのアミノ酸配列の修飾から選ばれる任意の方法により、Fcドメインのエフェクター機能を低減または排除することができる。
【0097】
一実施形態において、Fcドメインのグリコシル化を低減することによってエフェクター機能を低減または排除する。当該分野で公知であるFcドメインのグリコシル化を低減するための様々な方法は、野生型グリコシル化が許容されない環境での本発明の抗体分子の製造、Fcドメインにすでに存在した炭水化物基の除去、および野生型グリコシル化が起こらないようにFcドメインの修飾を含むが、これらに限定されない。一実施形態において、Fcドメインを修飾することによってFcドメインのグリコシル化を低減する。例えば、Fcドメインの位置297に変異を導入することによって、当該位置での野生型アスパラギン残基が当該位置のグリコシル化を妨げる別のアミノ酸で置換される、例えばN297A変異である。
【0098】
別の実施形態において、少なくとも1つのFcドメインのアミノ酸配列を修飾することによって、エフェクター機能を低減または排除する。前記Fcドメイン修飾は、238、239、248、249、252、254、265、268、269、270、272、278、289、292、293、294、295、296、297、298、301、303、322、324、327、329、333、335、338、340、373、376、382、388、389、414、416、419、434、435、437、438および439から選択される1つもしくは複数の位置に、Fcドメインの1つもしくは複数のFc受容体への結合を損なう点変異を導入するか、または、270、322、329および321から選択される位置にC1q結合を損なう点変異を導入する。
【0099】
当業者には理解されるように、本発明の抗体分子の予期される使用に応じて、本発明の抗体分子は、Fcドメインに1種または複数種のFc受容体への結合親和性を変更する修飾を含んでもよい。一実施形態において、前記Fc受容体は、Fcγ受容体であり、特にヒトFcγ受容体である。一実施形態において、前記修飾は、本発明の抗体分子のエフェクター機能を低減する。一具体的な実施形態において、前記エフェクター機能は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)である。一実施形態において、本発明の抗体分子のFcドメインは、第234と235位(EU番号)にアミノ酸置換を含む。一具体的な実施形態において、前記アミノ酸置換は、L234AとL235A(LALA変異)である。別の実施形態において、本発明の抗体分子のFcドメインは、第329位(EU番号)にアミノ酸置換を含む。一具体的な実施形態において、前記アミノ酸置換はP329Gである。
【0100】
当業者には理解されるように、本発明の抗体分子が非対称抗体分子(例えばFormat_2とFormat_7の抗体分子)である場合、非対称抗体分子が正しく形成されるように促進するために、本発明の抗体分子は、第1と第2のFcドメインに、第1のFcドメインと第2のFcドメインのヘテロ二量体化を容易にする変異を含んでもよい。例えば、Knob-in-Hole技術により、第1のFcドメインと第2のFcドメインに相補的なKnob変異とHole変異を導入することができる。
【0101】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、第1のFcドメインと第2のFcドメインには、第1と第2のFcドメインのペアリングおよびヘテロ二量体化を促進する第1と第2ヘテロ二量体化変異がそれぞれ含まれる、三重特異性抗体分子を提供する。いくつかの好ましい実施形態において、第1のFcドメインの第1ヘテロ二量体化変異はKnob変異を含み、第2のFcドメインの第2ヘテロ二量体化変異は前記knob変異と相補的なHole変異を含み、または、第1のFcドメインの第1ヘテロ二量体化変異はHole変異を含み、第2のFcドメインの第2ヘテロ二量体化変異は前記hole変異と相補的なKnob変異を含む。いくつかの好ましい実施形態において、前記Knob変異はT366W、かつ前記相補的なhole変異はT366S/L368A/Y407Vである。
【0102】
一実施形態において、本発明は、
i)場合により、変異L234AおよびL235Aを有する、ヒトIgG1サブクラスのホモ二量体Fc-領域、または
ii)場合により、変異P329G、S228PおよびL235Eを有する、ヒトIgG4サブクラスのホモ二量体Fc-領域、または
iii)ヘテロ二量体Fc-領域であって、そのうち
a)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366Wを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368AおよびY407Vを含み、または
b)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびY349Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびS354Cを含み、または
c)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびS354Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびY349Cを含む、ヘテロ二量体Fc-領域、
または
iv)ヒトIgG1サブクラスのヘテロ二量体Fc-領域であって、そのうち、2つのFc-領域ポリペプチドはいずれも、変異L234AおよびL235Aを含み、かつ
a)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366Wを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368AおよびY407Vを含み、または
b)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびY349Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびS354Cを含み、または
c)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびS354Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびY349Cを含む、ヒトIgG1サブクラスのヘテロ二量体Fc-領域、
または
v)ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc-領域であって、そのうち、2つのFc-領域ポリペプチドはいずれも、変異P329G、S228PおよびL235Eを含み、かつ
a)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366Wを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368AおよびY407Vを含み、または
b)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびY349Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびS354Cを含み、または
c)1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびS354Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびY349Cを含む、ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc-領域、
を含む三重特異性抗体分子を提供する。
【0103】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子のFcドメインは、ヘテロポリマー抗体の精製を促進する他の変異をさらに含んでもよい。例えば、H435R変異を第1と第2のFcドメインの一方(例えば、Hole変異を有するFcドメイン)に導入して、タンパク質Aを使用した標的ヘテロポリマー抗体の精製を促進する。
【0104】
本発明の抗体分子において、抗体ステムはFcドメインのN末端で抗体アームに連結される。当業者に明らかなように、本発明に適用される抗体分子において、抗体アームとステム部Fcドメイン断片とを連結する連結ペプチドは、当該分野で既知の任意のフレキシブル連結ペプチドであってもよい。いくつかの実施形態において、連結ペプチドは、IgG1に由来するヒンジ領域のアミノ酸配列を含んでもよく、または、(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)nおよび(GGGS)nから選択されるアミノ酸配列を含んでもよく、式中、nは少なくとも1の整数である。好ましくは、抗体ステムは、IgGに由来するヒンジ領域(特にヒトIgG1に由来するヒンジ領域)を介して抗体アームに連結することができる。いくつかの実施形態において、ヒンジ領域を含む本発明のヘテロポリマー抗体については、標的ヘテロポリマー抗体の形成を促進するために、ヒンジ領域に変異、例えばC220Sを導入することができる。
【0105】
例示的な三重特異性抗体分子
Format_2
いくつかの実施形態において、p=0かつq=1の場合、本発明の抗体分子は、(M1:M2)-Fc::Fc-(X2)qの構造の構造を有する。このようにして、前記抗体分子において、ステムに複合された複合成分X2のみがある。前記抗体分子において、好ましくは、抗体アームM1およびM2は、第1抗原および第2抗原にそれぞれ結合するFab抗原結合部位を含み、かつ複合成分X2は第3抗原に結合するscFv抗原結合部位を含み、ここで第1、第2、第3抗原はそれぞれ異なり、かつ互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0106】
したがって、いくつかの好ましい実施形態において、本発明は三重特異性Y型抗体分子を提供し、前記抗体分子は、以下:
(M1:M2)-Fc::Fc-(X2)q, (Format_2)
の構造の構造を有し、式中、q=1であり、
M1およびM2は、抗体分子の第1抗体アームおよび第2抗体アームをそれぞれ表し、かつM1およびM2は第1と第2抗原に結合するFabまたはscFab、好ましくはFabをそれぞれ含み、
Fc::Fcは抗体分子のステムを表し、ペアリングして二量体化された第1のFcドメインおよび第2のFcドメインで構成され、ここで第1と第2抗体アームは、直接または連結ペプチド(好ましくはヒンジ領域)を介して第1のFcドメインおよび第2のFcドメインのN末端にそれぞれ連結され、
X2はステムのC末端に複合された複合成分を表し、ここで前記複合成分は第3抗原に結合するscFvを含み、ここでX2は、直接または連結ペプチドを介して第1のFcドメインのC末端に複合され、あるいは第2のFcドメインのC末端に複合され、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0107】
いくつかの実施形態において、本発明は、Format_2構造を有する三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
(a):前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、GPRC5Dに結合するFabおよびCD3に結合するFabをそれぞれ含み、かつ複合成分X2はBCMAに結合するscFvを含み、前記分子は、(Fab_GPRC5D:Fab_CD3)-Fc::Fc-(scFv_BCMA)の構造の構造を有する(例えば実施例のTS-F2-1、3-6分子)、あるいは
(b):前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、BCMAに結合するFabおよびCD3に結合するFabをそれぞれ含み、かつ複合成分X2はGPRC5Dに結合するscFvを含み、前記分子は、(Fab_BCMA:Fab_CD3)-Fc::Fc-(scFv_GPRC5D)の構造の構造を有する(例えば実施例のTS-F2-2分子)、あるいは
(c):前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、GPRC5Dに結合するFabおよびBCMAに結合するFabをそれぞれ含み、かつ複合成分X2はCD3に結合するscFvを含み、前記分子は、(Fab_GPRC5D:Fab_BCMA)-Fc::Fc-(scFv_CD3)の構造の構造を有する。
【0108】
前述した本発明のFormat_2抗体分子の任意の実施形態において、GPRC5Dに結合するFabまたはscFvは、GPRC5Dに特異的に結合する任意の適切なFabまたはscFv、例えば上述したscFvまたはFab構造を有する本発明のGPRC5D抗原結合部位であってもよく、特に上述したVHとVLアミノ酸配列を有するscFvまたはFabである。
【0109】
前述した本発明のFormat_2抗体分子の任意の実施形態において、BCMAに結合するFabまたはscFvは、BCMAに特異的に結合する任意の適切なFabまたはscFv、例えば上述したscFvまたはFab構造を有する本発明のBCMA抗原結合部位であってもよく、特に上述したVHとVLアミノ酸配列を有するscFvまたはFabである。
【0110】
前述した本発明のFormat_2抗体分子の任意の実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位は、特異性CD3に結合する任意の適切なscFvまたはFab、例えば上述したscFvまたはFab構造を有する本発明のCD3抗原結合部位であってもよく、特に上述したVHとVLアミノ酸配列を有するscFvまたはFabである。
【0111】
前述した本発明のFormat_2抗体分子の任意の実施形態において、抗体分子は、上述したFormat_2に適用される任意の本発明の抗体ステム構造を含んでもよい。例えば、本発明のFormat_2非対称三重特異性抗体分子において、好ましくは、抗体分子ポリペプチド鎖が正しくペアリングされるように促進するために、ステムの第1のFcドメインおよび第2のFcドメインに第1と第2のFcドメインのヘテロ二量体化を促進できる変異、特に相補的な「ノブインホール」変異を導入することができる。例えば第1のFcドメインにknob変異を導入するとともに、第2のFcドメインに相補的なhole変異を導入し、または逆である。このようにして、前記抗体分子の2つのFcドメインは、ペアリングして「ノブインホール」の安定した結合を形成することができる。予期される使用に応じて、本発明のFormat_2抗体分子の第1および/または第2のFcドメインは好ましくは、ADCC活性を低減する変異など、抗体エフェクター機能に影響を与える変異、例えばLALA変異をさらに含んでもよい。
【0112】
いくつかの実施形態において、本発明のFormat_2三重特異性抗体分子は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなり、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインを含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインを含み、
かつ、ここで、第1重鎖ポリペプチド鎖または第2重鎖ポリペプチド鎖は、直接または好ましくは連結ペプチド(例えば(G4S)2またはTS(G4S)2)を介してそのFcドメインのC末端に複合されたscFvドメインをさらに含み、
ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖のVH-CH1と第1軽鎖ポリペプチド鎖のVL-CLがペアリングして第1抗原に結合する第1抗体アーム(M1)を形成し、
第2重鎖ポリペプチド鎖のVH-CH1と第2軽鎖ポリペプチド鎖のVL-CLがペアリングして第2抗原に結合する第2抗体アーム(M2)を形成し、
第1重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインと第2重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインがペアリングおよび二量体化されて抗体ステム(Fc::Fc)を形成し、かつ
第1重鎖ポリペプチド鎖または第2重鎖ポリペプチド鎖のC末端に複合されたscFvドメインは、第3抗原に結合する複合成分(X2)を形成し、
ここで、第1、第2および第3抗原はそれぞれ異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0113】
一実施形態において、抗体アームM1はGPCR5Dに結合され、第2抗体アームM2はCD3に結合され、複合成分X2はBCMAに結合され、このようにして、
-第1重鎖ポリペプチド鎖と第1軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはGPRC5Dに特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
-第2重鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはCD3に特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
ここで、複合成分X2が第1重鎖ポリペプチド鎖に複合される場合、第1重鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはBCMAに特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれ、または、好ましくは、複合成分X2が第2重鎖ポリペプチド鎖に複合される場合、第2重鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはBCMAに特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれる。
【0114】
他の実施形態において、抗体アームM1はBCMAに結合され、第2抗体アームM2はCD3に結合され、複合成分X2はGPCR5Dに結合され、このようにして、
-第1重鎖ポリペプチド鎖と第1軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはBCMAに特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
-第2重鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはCD3に特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
ここで、複合成分X2が第1重鎖ポリペプチド鎖に複合される場合、第1重鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはGPRC5Dに特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれ、または、好ましくは、複合成分X2が第2重鎖ポリペプチド鎖に複合される場合、第2重鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはGPRC5Dに特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれる。
【0115】
さらなる一実施形態において、抗体アームM1はGPCR5Dに結合され、第2抗体アームM2はBCMAに結合され、複合成分X2はCD3に結合され、このようにして、
-第1重鎖ポリペプチド鎖と第1軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはGPRC5Dに特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
-第2重鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはBCMAに特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
ここで、複合成分X2が第1重鎖ポリペプチド鎖に複合される場合、第1重鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはCD3に特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれ、または、複合成分X2が第2重鎖ポリペプチド鎖に複合される場合、第2重鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはCD3に特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれる。
【0116】
好ましい一実施形態において、GPRC5Dに特異的に結合するFabまたはscFvは、以下の群:
(a)配列番号1~3のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号4~6のLCDR1~3配列を含むVL、
(b)配列番号7~8のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号10~12のLCDR1~3配列を含むVL、
(c)配列番号13~15のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号16~18のLCDR1~3配列を含むVL、または
(d)配列番号19~21のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号22~24のLCDR1~3配列を含むVL、
から選択されるVHとVLを含み、
好ましくは、前記Fabおよび前記scFvは、以下の群:配列番号25/26、配列番号27/28、配列番号29/30および配列番号31/32から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、scFvがdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む。
好ましい一実施形態において、前記CD3に特異的に結合するFabまたはscFvは、以下の群:
(a)配列番号41~43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、または
(b)配列番号41、47、43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、
から選択されるVHとVLを含み、
好ましくは、前記FabおよびscFvは、以下の群:配列番号48/49、配列番号50/49、かつより好ましくは配列番号48/49から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、scFvがdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む。
【0117】
好ましい一実施形態において、前記BCMAに特異的に結合するFabまたはscFvは、以下:
配列番号33~35のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号36~38のLCDR1~3配列を含むVL、というVHとVLを含み、
好ましくは、前記FabおよびscFvは、配列番号39/40というVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、scFvがdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む。
【0118】
いくつかの好ましい実施形態において、第1軽鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、kappa軽鎖定常ドメインCLκとlamda軽鎖定常ドメインCLλをそれぞれ含む。一具体的な実施形態において、軽鎖定常ドメインCLκは、配列番号105のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖定常ドメインCLλは、配列番号106のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0119】
いくつかの好ましい実施形態において、第1重鎖ポリペプチド鎖と第2重鎖ポリペプチド鎖は、ヒトIgG1に由来する重鎖定常領域CH1を含み、好ましくは、配列番号104のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0120】
いくつかの好ましい実施形態において、第1重鎖ポリペプチド鎖と第2重鎖ポリペプチド鎖は、knobまたは相補的なhole変異を含むFcドメインをそれぞれ含む。一具体的な実施形態において、knob変異を含むFcドメインはT366Wを含み、相補的なhole変異を含むFcドメインはT366S、L368AおよびY407V変異を含む。一具体的な実施形態において、hole変異を含むFcドメインは、配列番号102および107から選択されるアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、相補的なknob変異を含むFcドメインは、配列番号103のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0121】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_2構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号65のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号66のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号67のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0122】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_2構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号69のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号70のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号71のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0123】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_2構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号72のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号73のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号74のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0124】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_2構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号75のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号76のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号77もしくは78のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0125】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_2構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号79のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号80のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号77のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号68のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0126】
Format_7
いくつかの実施形態において、q=0かつp=2の場合、本発明の抗体分子は、(M1:M2-(X1)p)-Fc::Fcの構造を有する。このようにして、前記抗体分子において、抗体アームに複合された複合成分X1のみがある。前記抗体分子において、抗体アームM1およびM2は、第1抗原および第2抗原にそれぞれ結合するFab抗原結合部位を含み、かつ複合成分X1は第3抗原に結合するscFv抗原結合部位を含み、ここで第1、第2、第3抗原はそれぞれ異なり、かつ互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0127】
したがって、いくつかの好ましい実施形態において、本発明は三重特異性Y型抗体分子を提供し、前記抗体分子は、以下:
(M1:M2-(X1)p)-Fc::Fc, (Format_7)
の構造を有し、式中、p=2であり、
M1およびM2は、抗体分子の第1抗体アームおよび第2抗体アームをそれぞれ表し、かつM1およびM2は第1と第2抗原に結合するFabをそれぞれ含み、
Fc::Fcは抗体分子のステムを表し、ペアリングして二量体化された第1のFcドメインおよび第2のFcドメインで構成され、ここで第1と第2抗体アームは、直接または連結ペプチド(好ましくはヒンジ領域)を介して第1のFcドメインおよび第2のFcドメインのN末端にそれぞれ連結され、
X1は抗体アームのC末端に複合された複合成分を表し、ここで前記複合成分は第3抗原に結合するscFvを含み、ここでX1は、直接または連結ペプチドを介して第1と第2抗体アームのFab軽鎖のC末端に複合され、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0128】
いくつかの実施形態において、本発明は、Format_7構造を有する三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
(a):前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、GPRC5Dに結合するFabおよびCD3に結合するFabをそれぞれ含み、かつ複合成分X1はBCMAに結合するscFvを含み、前記分子は、(Fab_GPRC5D:Fab_CD3-(scFv_BCMA)2)-Fc::Fcの構造を有する(例えば、実施例TS-F7-1,2,5の分子)、あるいは
(b):前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、GPRC5Dに結合するFabおよびBCMAに結合するFabをそれぞれ含み、かつ複合成分X1はCD3に結合するscFvを含み、前記分子は、(Fab_GPRC5D:Fab_BCMA-(scFv_CD3)2)-Fc::Fcの構造を有する(例えば、実施例TS-F7-3,4の分子)、あるいは
(c)前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、BCMAに結合するFabおよびCD3に結合するFabをそれぞれ含み、かつ複合成分X1はGPRC5Dに結合するscFvを含み、前記分子は、(Fab_BCMA:Fab_CD3-(scFv_GPRC5D)2)-Fc::Fcの構造を有する。
【0129】
前述した本発明のFormat_7抗体分子の任意の実施形態において、GPRC5Dに結合するFabまたはscFvは、GPRC5Dに特異的に結合する任意の適切なFabまたはscFv、例えば上述したscFvまたはFab構造を有する本発明のGPRC5D抗原結合部位であってもよく、特に上述したVHとVLアミノ酸配列を有するscFvまたはFabである。
前述した本発明のFormat_7抗体分子の任意の実施形態において、BCMAに結合するFabまたはscFvは、BCMAに特異的に結合する任意の適切なFabまたはscFv、例えば上述したscFvまたはFab構造を有する本発明のBCMA抗原結合部位であってもよく、特に上述したVHとVLアミノ酸配列を有するscFvまたはFabである。
前述した本発明のFormat_7抗体分子の任意の実施形態において、CD3に結合する抗原結合部位は、CD3に特異的に結合する任意の適切なscFvまたはFab、例えば上述したscFvまたはFab構造を有する本発明のCD3抗原結合部位であってもよく、特に上述したVHとVLアミノ酸配列を有するscFvまたはFabである。
【0130】
前述した本発明のFormat_7抗体分子の任意の実施形態において、抗体分子は、上述したFormat_7に適用される任意の本発明の抗体ステム構造を含んでもよい。例えば、本発明のFormat_7非対称三重特異性抗体分子において、好ましくは、抗体分子ポリペプチド鎖が正しくペアリングされるように促進するために、ステムの第1のFcドメインおよび第2のFcドメインに第1と第2のFcドメインのヘテロ二量体化を促進できる変異、特に相補的な「ノブインホール」変異を導入することができる。例えば第1のFcドメインにknob変異を導入するとともに、第2のFcドメインに相補的なhole変異を導入し、または逆である。このようにして、前記抗体分子の2つのFcドメインは、ペアリングして「ノブインホール」の安定した結合を形成することができる。予期される使用に応じて、本発明のFormat_7抗体分子の第1および/または第2のFcドメインは好ましくは、ADCC活性を低減する変異など、抗体エフェクター機能に影響を与える変異、例えばLALA変異をさらに含んでもよい。
【0131】
いくつかの実施形態において、本発明のFormat_7三重特異性抗体分子は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなり、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインを含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインを含み、
かつ、ここで、第1軽鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖は、直接または好ましくは連結ペプチド(例えば(G4S)2またはTS(G4S)2)を介してそのCLドメインのC末端に複合されたscFvドメインをさらに含み、
ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖のVH-CH1と第1軽鎖ポリペプチド鎖のVL-CLがペアリングして第1抗原に結合する第1抗体アーム(M1)を形成し、
第2重鎖ポリペプチド鎖のVH-CH1と第2軽鎖ポリペプチド鎖のVL-CLがペアリングして第2抗原に結合する第2抗体アーム(M1)を形成し、
第1重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインと第2重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインがペアリングおよび二量体化されて抗体ステム(Fc::Fc)を形成し、かつ
第1軽鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖のC末端に複合されたscFvドメインは、第3抗原に結合する複合成分(X1)を形成し、
ここで、第1、第2および第3抗原はそれぞれ異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0132】
一実施形態において、抗体アームM1はGPCR5Dに結合され、第2抗体アームM2はCD3に結合され、複合成分X1はBCMAに結合され、このようにして、
-第1重鎖ポリペプチド鎖と第1軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはGPRC5Dに特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
-第2重鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはCD3に特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
かつ、第1軽鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはBCMAに特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれる。
【0133】
一実施形態において、抗体アームM1はBCMAに結合され、第2抗体アームM2はCD3に結合され、複合成分X1はGPCR5Dに結合され、このようにして、
-第1重鎖ポリペプチド鎖と第1軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはBCMAに特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
-第2重鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはCD3に特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
かつ、第1軽鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはGPRC5Dに特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれる。
【0134】
一実施形態において、抗体アームM1はGPCR5Dに結合され、第2抗体アームM2はBCMAに結合され、複合成分X1はCD3に結合され、このようにして、
-第1重鎖ポリペプチド鎖と第1軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはGPRC5Dに特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
-第2重鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、N末端にはBCMAに特異的に結合するFab抗原結合部位のVHとVLアミノ酸配列がそれぞれ含まれ、
かつ、第1軽鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖は、C末端にはCD3に特異的に結合するscFvのアミノ酸配列がさらに含まれる。
【0135】
好ましい一実施形態において、GPRC5Dに特異的に結合するFabまたはscFvは、以下の群:
(a)配列番号1~3のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号4~6のLCDR1~3配列を含むVL、
(b)配列番号7~8のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号10~12のLCDR1~3配列を含むVL、
(c)配列番号13~15のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号16~18のLCDR1~3配列を含むVL、または
(d)配列番号19~21のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号22~24のLCDR1~3配列を含むVL、
から選択されるVHとVLを含み、
好ましくは、前記Fabおよび前記scFvは、以下の群:配列番号25/26、配列番号27/28、配列番号29/30および配列番号31/32から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、scFvがdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む。
【0136】
好ましい一実施形態において、前記CD3に特異的に結合するFabまたはscFvは、以下の群:
(a)配列番号41~43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、または
(b)配列番号41、47、43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、
から選択されるVHとVLを含み、
好ましくは、前記FabおよびscFvは、以下の群:配列番号48/49、配列番号50/49、かつより好ましくは配列番号48/49から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、scFvがdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む。
【0137】
好ましい一実施形態において、前記BCMAに特異的に結合するFabまたはscFvは、以下:
配列番号33~35のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号36~38のLCDR1~3配列を含むVL、というVHとVLを含み、
好ましくは、前記FabおよびscFvは、配列番号39/40というVHとVLアミノ酸配列対を含み、
かつ好ましくは、scFvがdsscFvである場合、前記VHとVL配列に導入されたシステイン置換、例えば、VH配列の44位とVL配列の100位でのシステイン置換をさらに含む。
【0138】
いくつかの実施形態において、第1軽鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、kappa軽鎖定常ドメインCLκを含む。いくつかの実施形態において、第1軽鎖ポリペプチド鎖と第2軽鎖ポリペプチド鎖は、lamda軽鎖定常ドメインCLλを含む。一具体的な実施形態において、軽鎖定常ドメインCLκは、配列番号105のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。一具体的な実施形態において、軽鎖定常ドメインCLλは、配列番号106のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0139】
いくつかの好ましい実施形態において、第1重鎖ポリペプチド鎖と第2重鎖ポリペプチド鎖は、ヒトIgG1に由来する重鎖定常領域CH1を含み、好ましくは、配列番号104のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0140】
いくつかの好ましい実施形態において、第1重鎖ポリペプチド鎖と第2重鎖ポリペプチド鎖は、knobまたは相補的なhole変異を含むFcドメインをそれぞれ含む。一具体的な実施形態において、knob変異を含むFcドメインはT366Wを含み、相補的なhole変異を含むFcドメインはT366S、L368AおよびY407V変異を含む。一具体的な実施形態において、knob変異を含むFcドメインは、配列番号102および107から選択されるアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、相補的なhole変異を含むFcドメインは、配列番号103のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0141】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_7構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号87のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号88のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号77もしくは78のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号89のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0142】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_7構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号90のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号91のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号77のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号89のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0143】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖、第1軽鎖ポリペプチド鎖、第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_7構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号92のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第1軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号93もしくは96のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号94のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号95または97のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0144】
Format_1
いくつかの実施形態において、p=0かつq=1の場合、本発明の抗体分子は、(M1:M2)-Fc::Fc-(X2)qの構造を有し、ここで抗体アームM1、M2および複合成分X2は、第1抗原、第2抗原および第3抗原に結合するscFv抗原結合部位をそれぞれ含み、ここで第1、第2、第3抗原はそれぞれ異なり、かつ互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0145】
したがって、いくつかの好ましい実施形態において、本発明は三重特異性Y型抗体分子を提供し、前記抗体分子は、以下:
(M1:M2)-Fc::Fc-(X2)q, (Format_1)
の構造を有し、式中、q=1であり、
M1およびM2は、抗体分子の第1抗体アームおよび第2抗体アームをそれぞれ表し、かつM1およびM2は第1と第2抗原に結合するscFvをそれぞれ含み、
Fc::Fcは抗体分子のステムを表し、ペアリングして二量体化された第1のFcドメインおよび第2のFcドメインで構成され、ここで第1と第2抗体アームは、直接または連結ペプチド(好ましくはヒンジ領域)を介して第1のFcドメインおよび第2のFcドメインのN末端にそれぞれ連結され、
X2はステムのC末端に複合された複合成分を表し、ここで前記複合成分は第3抗原に結合するscFvを含み、ここでX2は、直接または連結ペプチドを介して第1のFcドメインのC末端に複合され、あるいは第2のFcドメインのC末端に複合され、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0146】
いくつかの実施形態において、本発明は、Format_1構造を有する三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
(a):前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、GPRC5Dに結合するscFvおよびCD3に結合するscFvをそれぞれ含み、かつ複合成分X2はBCMAに結合するscFvを含み、前記分子は、(scFv_GPRC5D:scFv_CD3)-Fc::Fc-(scFv_BCMA)の構造を有する(例えば、実施例TS-F1-1の分子)、あるいは
(b):前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2は、BCMAに結合するscFvおよびCD3に結合するscFvをそれぞれ含み、かつ複合成分X2はGPRC5Dに結合するscFvを含み、前記分子は、(scFv_BCMA:scFv_CD3)-Fc::Fc-(scFv_GPRC5D)の構造を有する(例えば、実施例TS-F1-2の分子)。
【0147】
いくつかの実施形態において、本発明のFormat_1三重特異性抗体分子は、第1重鎖ポリペプチド鎖および第2重鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなり、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、第1scFvおよびFcドメインを含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、第2scFvおよびFcドメインを含み、
かつ、ここで、第1重鎖ポリペプチド鎖または第2重鎖ポリペプチド鎖は、直接または好ましくは連結ペプチド(例えば(G4S)2またはTS(G4S)2)を介してそのFcドメインのC末端に複合された第3のscFvドメインをさらに含み、
ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖の第1のscFvは、第1抗原に結合する第1抗体アーム(M1)を形成し、
第2重鎖ポリペプチド鎖の第2のscFvは、第2抗原に結合する第2抗体アーム(M1)を形成し、
第1重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインと第2重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインがペアリングおよび二量体化されて抗体ステム(Fc::Fc)を形成し、かつ
第1重鎖ポリペプチド鎖または第2重鎖ポリペプチド鎖のC末端に複合された第3のscFvドメインは、第3抗原に結合する複合成分(X2)を形成し、
ここで、第1、第2および第3抗原はそれぞれ異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0148】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖および第2重鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_1構造を有する三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号61のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号62のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0149】
いくつかの実施形態において、本発明は、第1重鎖ポリペプチド鎖および第2重鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_1構造を有する三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
第1重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号63のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
第2重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号64のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0150】
Format_6
いくつかの実施形態において、p=2かつq=2の場合、本発明の抗体分子は、(M1:M2-(X2)p)-Fc::Fc-(X2)qの構造を有し、ここで抗体アームM1およびM2は、第1抗原に結合するFab抗原結合部位を含み、かつ複合成分X1およびX2は、第2抗原と第3抗原に結合するscFv抗原結合部位をそれぞれ含み、ここで第1、第2および第3抗原はそれぞれ異なり、かつ互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0151】
したがって、いくつかの好ましい実施形態において、本発明は三重特異性対称Y型抗体分子を提供し、前記抗体分子は、以下:
(M1:M2-(X2)p)-Fc::Fc-(X2)q, (Format_6)
の構造を有し、式中、p=2かつq=2であり、
M1およびM2は、抗体分子の第1抗体アームおよび第2抗体アームをそれぞれ表し、かつM1およびM2はいずれも、第1抗原に結合するFabを含み、
Fc::Fcは抗体分子のステムを表し、ペアリングして二量体化された第1のFcドメインおよび第2のFcドメインで構成され、ここで第1と第2抗体アームは、直接または連結ペプチド(好ましくはヒンジ領域)を介して第1のFcドメインおよび第2のFcドメインのN末端にそれぞれ連結され、
X1およびX2は、抗体アームFab軽鎖のC末端またはステムFcドメインのC末端に複合された複合成分をそれぞれ表し、ここで前記複合成分X1は第2抗原に結合するscFvを含み、前記複合成分X2は第3抗原に結合するscFvを含み、ここでX1およびX2は、直接または連結ペプチドを介してアームまたはステムに複合され、
ここで、第1、第2および第3抗原は互いに異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0152】
いくつかの実施形態において、本発明は、Format_6構造を有する三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
(a)前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2はGPRC5Dに結合するFabを含み、複合成分X1はCD3のscFvを含み、かつ複合成分X2はBCMAに結合するscFvを含み、前記分子は、(Fab_GPRC5D:Fab_GPRC5D-(scFv_CD3)2)-Fc::Fc-(scFv_BCMA)2の構造を有する(例えば、実施例TS-F6-1,2の分子)、あるいは
(b):前記分子の抗体アームM1および抗体アームM2はBCMAに結合するFabを含み、複合成分X1はCD3のscFvを含み、かつ複合成分X2はGPRC5Dに結合するscFvを含み、前記分子は、(Fab_BCMA:Fab_BCMA-(scFv_CD3)2)-Fc::Fc-(scFv_GPRC5D)2の構造を有する(例えば、実施例TS-F6-3,4の分子)。
【0153】
いくつかの実施形態において、本発明のFormat_6三重特異性抗体分子は、2本の同じ重鎖ポリペプチド鎖および2本の同じ軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなり、ここで、
前記重鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、重鎖可変ドメインVH、免疫グロブリンCH1ドメイン、Fcドメイン、および第1のscFvドメインを含み、
前記軽鎖ポリペプチド鎖はN末端からC末端まで、軽鎖可変ドメインVL、免疫グロブリンCLドメインおよび第2のscFvドメインを含み、
ここで、前記重鎖ポリペプチド鎖と軽鎖ポリペプチド鎖の第1と第2のscFvドメインは、直接または好ましく連結ペプチド(例えば(G4S)2またはTS(G4S)2)を介してそのC末端にそれぞれ複合され、
ここで、
1本の重鎖ポリペプチド鎖のN末端のVH-CH1ドメインと1本の軽鎖ポリペプチド鎖のN末端のVL-CH1ドメインがペアリングして第1抗原に結合する第1抗体アーム(M1)を形成し、
もう1本の重鎖ポリペプチド鎖のN末端のVH-CH1ドメインと1本の軽鎖ポリペプチド鎖のN末端のVL-CH1ドメインがペアリングして第1抗原に結合する第2抗体アーム(M2)を形成し、
2本の重鎖ポリペプチド鎖のFcドメインがペアリングして形成し、二量体化されて抗体ステム(Fc::Fc)を形成し、かつ
2本の軽鎖ポリペプチド鎖のC末端に複合されたscFvドメインは、第2抗原に結合する複合成分(X1)を形成し、
2本の重鎖ポリペプチド鎖のC末端に複合されたscFvドメインは、第3抗原に結合する複合成分(X2)を形成し、
ここで、第1、第2および第3抗原はそれぞれ異なり、互いに独立してGPRC5D、BCMAおよびCD3から選択される。
【0154】
いくつかの実施形態において、本発明は、2本の同じ重鎖ポリペプチド鎖および2本の同じ軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_6構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
前記重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号81のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
前記軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号82もしくは83のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0155】
いくつかの実施形態において、本発明は、2本の同じ重鎖ポリペプチド鎖および2本の同じ軽鎖ポリペプチド鎖を含むか、またはそれからなるFormat_6構造の三重特異性抗体分子を提供し、ここで、
前記重鎖ポリペプチド鎖は、配列番号84のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
前記軽鎖ポリペプチド鎖は、配列番号85もしくは86のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、92%、95%、97%、98%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0156】
III.本発明のGPRC5D抗体分子
一態様において、本発明は、GPRC5Dに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を提供する。いくつかの好ましい実施形態において、本発明のGPRC5D抗体またはその抗原結合断片は、
(i)配列番号25に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号26に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(ii)配列番号27に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号28に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(iii)配列番号29に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号30に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(iv)配列番号31に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号32に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(v)配列番号98に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号99に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、または
(vi)配列番号100に示される重鎖可変ドメインのHCDR1、2および3の配列、ならびに配列番号101に示される軽鎖可変ドメインのLCDR1、2および3の配列、を含む。
【0157】
他のいくつかの実施形態において、本発明のGPRC5D抗体またはその抗原結合断片は、
(i)それぞれ配列番号1~6に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(ii)それぞれ配列番号7~12に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(iii)それぞれ配列番号13~18に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(iv)それぞれ配列番号19~24に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、または
(v)それぞれ配列番号13、110および18に示される重鎖可変ドメインHCDR1、2および3の配列ならびに軽鎖可変ドメインLCDR1、2および3の配列、から選択されるCDR配列の組み合わせを含む。
【0158】
さらなるいくつかの実施形態において、本発明のGPRC5D抗体分子またはその抗原結合断片は、
(a)配列番号25に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号26に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(b)配列番号27に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号28に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(c)配列番号29に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号30に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(d)配列番号31に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号32に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(e)配列番号98に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号99に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(f)配列番号100に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号101に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、から選択されるVHとVLアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【0159】
好ましくは、本発明のGPRC5D抗体分子またはその抗原結合断片は、
(i)配列番号25に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(ii)配列番号27に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(iii)配列番号29に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、または
(iv)配列番号31に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号32に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(v)配列番号98に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号99に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、
(vi)配列番号100に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号101に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、から選択されるVHとVLアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【0160】
いくつかの実施形態において、本発明のGPRC5D抗体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または三重特異性抗体である。いくつかの好ましい実施形態において、本発明のGPRC5D抗体は、CD3に結合する抗原結合部位、例えば上述した本発明のCD3抗原結合部位をさらに含む二重特異性抗体である。別のいくつかの好ましい実施形態において、本発明のGPRC5D抗体は、BCMAに結合する抗原結合部位(例えば上述した本発明のBCMA抗原結合部位)およびCD3に結合する抗原結合部位(例えば、上述した本発明のCD3抗原結合部位)をさらに含む三重特異性抗体である。
【0161】
いくつかの実施形態において、本発明のGPRC5D抗体は、GPRC5DおよびCD3に結合する二重特異性抗体であり、
好ましくは、ここで、前記抗体は、CD3に結合する以下の群:
(a)配列番号41~43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、または
(b)配列番号47、42、43のHCDR1~3配列を含むVHおよび配列番号44~46のLCDR1~3配列を含むVL、
から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
好ましくは、以下の群:配列番号48/49および配列番号50/49から選択されるVHとVLアミノ酸配列対を含み、
場合により、前記VHとVL配列には、導入したシステイン置換、例えば、VH配列の44位およびVL配列の100位でのシステイン置換が含まれ、このようにして前記VHとVLとの間にジスルフィド結合を形成する。
【0162】
したがって、好ましい一実施形態において、本発明は、GPRC5DおよびCD3に結合する二重特異性抗体を提供しており、ここで前記抗体は、以下の群から選択されるGPRC5Dに結合するVHとVLアミノ酸配列対およびCD3に結合するVHとVLアミノ酸配列対の組み合わせを含む。
【表2】
【0163】
本発明は、前記二重特異性抗体の変異体をさらに提供し、ここで前記変異体は、前記GPRC5Dに結合するVHとVLアミノ酸配列対、および/または、前記CD3に結合するVHとVLアミノ酸配列対にはアミノ酸の置換、欠失および/または挿入などのアミノ酸変異が含まれ、ここで前記アミノ酸変異は、二重特異性抗体のGPRC5DおよびCD3への結合に影響を与えない。いくつかの実施形態において、前記変異体は、以下から選択されるアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【表3-1】
【表3-2】
【0164】
好ましい一実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、前記GPRC5Dに結合するVHとVLアミノ酸配列対、および/または、前記CD3に結合するVHとVLアミノ酸配列対に導入したシステイン置換、例えば、VH配列の44位およびVL配列の100位でのシステイン置換を含み、このようにして前記VHとVLとの間にジスルフィド結合を形成する。
【0165】
本発明は、本発明のGPRC5D抗体を含む融合タンパク質と免疫複合体(例えば毒素または化学小分子との複合)、および医薬組成物ならびに薬物組合せをさらに提供する。医薬組成物または薬物組合せにおいて、本発明の抗体は、本発明の抗体の予期される使用に適用できる他の治療剤などの他の治療剤、例えば、化学療法剤、放射線療法剤、腫瘍抑制分子を含んでもよい。
【0166】
IV.本発明の抗体分子の製造および精製
さらなる態様において、本発明は、本発明の抗体分子を製造するための方法を提供し、前記方法は、前記抗体を発現するのに適するポリペプチド鎖の条件で前記ポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を培養することと、前記ポリペプチド鎖を前記抗体分子に組み立てるのに適する条件でポリペプチド鎖を組み立てて前記抗体を生成することと、を含む。
【0167】
本発明の抗体分子が、第1重鎖ポリペプチド鎖および第1軽鎖ポリペプチド鎖ならびに第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖を含む三重特異性抗体分子などの非対称抗体分子、例えばFormat_2およびFormat_7の抗体分子である場合、好ましくは、本発明の抗体分子の製造方法は、前記抗体分子を発現するのに適する第1重鎖ポリペプチド鎖および第1軽鎖ポリペプチド鎖の条件で、前記第1重鎖および第1軽鎖をコードするものを含む宿主細胞を培養し、第1親タンパク質を生成するステップ(i)と、前記抗体分子を発現するのに適する第2重鎖ポリペプチド鎖および第2軽鎖ポリペプチド鎖の条件で、前記第2重鎖および第2軽鎖をコードするものを含む宿主細胞を培養し、第2親タンパク質を生成するステップ(ii)と、第1親タンパク質と第2親タンパク質とを等モル比率で混合し、インビトロで適切な酸化還元条件に置いて組み立てて前記抗体を形成するステップ(iii)と、を含む。一具体的な実施形態において、ステップ(iii)は、精製した第1と第2親タンパク質の混合溶液にグルタチオン(GSH)を加えることを含み、ここで、好ましくは、GSH/タンパク質のモル比率を500倍~700倍に制御する。一具体的な実施形態において、ステップ(iii)は、GSHを除去した後、一定の時間(例えば2時間~3時間)の自然酸化を行うことをさらに含む。
【0168】
本発明の抗体分子のポリペプチド鎖は、例えば、固相ペプチド合成(例えば、Merrifield固相合成)または組換えにより製造できる。組換え製造において、宿主細胞でクローニングおよび/または発現するために、前記抗体分子のいずれか1本のポリペプチド鎖および/または複数本のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドを単離し、1つまたは複数のベクターに挿入する。通常の方法を用いて、前記ポリヌクレオチドを簡易に単離してシーケンシングすることができる。一実施形態において、本発明の1種または複数種のポリヌクレオチドを含むベクター、好ましくは発現ベクターを提供する。
【0169】
当業者が公知する方法を用いて発現ベクターを構築することができる。発現ベクターは、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージまたは酵母人工染色体(YAC)を含むが、これらに限定されない。
本発明の1種または複数種のポリヌクレオチドを含む発現用の発現ベクターを調製できたら、発現ベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクションまたは導入できる。この目的を達成させるためには、例えば、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、レトロウイルス形質導入、ウイルストランスフェクション、パーティクルガン、リポソームに基づくトランスフェクションまたは他の一般的な技術など、さまざまな技術を利用できる。
【0170】
一実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含む1種または複数種の宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。本明細書で使用される用語「宿主細胞」は、工学的手法により本発明の抗体分子を産生できる任意の種類の細胞系を指す。複製および本発明の抗体分子の発現をサポートするのに適する宿主細胞は、本分野で公知する事項である。必要に応じて、このような細胞は特定の発現ベクターを用いてトランスフェクションまたは形質導入することができ、しかもベクターを含む多くの細胞を培養して大型の発酵槽に接種して、臨床用として十分な量の本発明の抗体分子を得ることができる。適切な宿主細胞は、大腸菌などの原核微生物、糸状真菌もしくは酵母などの真核微生物、または、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、昆虫細胞などのさまざまな真核細胞を含む。懸濁培養に適する哺乳動物細胞系を用いることができる。使用可能な哺乳動物宿主細胞系の例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7)、ヒト胎児腎臓株(HEK 293または293F細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA)、犬腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、CHO細胞、NSO細胞、骨髄腫細胞株、例えばYO、NS0、P3X63およびSp2/0などが挙げられる。タンパク質の産生に適する哺乳動物宿主細胞株に関する概要は、例えば、Yazaki&Wu,Methods in Molecular Biology,第248巻(B.K.C.Lo編集,Humana Press,Totowa,NJ),p255~268(2003)が参照される。好ましい一実施形態において、前記宿主細胞はCHO、HEK293またはNSO細胞である。
本明細書に記載の通り調製された抗体分子は、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどの既知の従来技術により精製することができる。特定のタンパク質を精製するための実際の条件は、正味電荷、疎水性、親水性などの因素にも依存し、これは当業者にとって公知する内容である。
本発明の抗体分子の純度は、さまざまな公知する分析方法のいずれかにより決定でき、前記公知する分析方法は、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィーなどを含む。本明細書に係る抗体分子の物理的/化学的特性および/または生物学的活性は、本分野の公知するさまざまな測定法により、同定し、選別しまたはその特性評価を行うことができる。
【0171】
V.医薬組成物、薬物組合せおよび試薬キット
一態様において、本発明は、組成物、例えば、医薬組成物を提供し、前記組成物は、薬学的に許容可能なベクターと配合される本明細書に記載の抗体分子を含む。本明細書で使用される「薬学的に許容可能なベクター」は、生理学的に適合性がある溶剤、分散媒体、等張剤、吸収遅延剤などのいずれかまたはその全てを含む。本発明の医薬組成物は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、直腸投与、脊髄投与または表皮投与(例えば、注射または輸注)に適する。いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は、医薬組成物中の唯一の活性成分である。他のいくつかの実施形態において、医薬組成物は、本明細書に記載の抗体分子および1つ以上の治療剤を含んでもよい。
【0172】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載の抗体分子および1つ以上の治療剤を含む薬物組合せをさらに提供する。
【0173】
本発明の医薬組成物および薬物組合せに適用される治療剤は、以下のカテゴリ(i)~(iii):(i)抗原提示(例えば、腫瘍抗原提示)を増強する薬物、(ii)エフェクター細胞応答(例えば、B細胞および/またはT細胞活性化および/または動員)を増強する薬物、(iii)免疫抑制を軽減する薬物、(iv)腫瘍抑制効果を有する薬物、から選択されるいずれか1つの治療剤であってもよい。
【0174】
本発明の組成物は、さまざまな形態で存在することができる。これらの形態は、液体、半固体および固体の剤型、例えば、液体溶液剤(例えば、注射用溶液剤、輸注用溶液剤)、分散体剤もしくは懸濁剤、リポソーム剤および坐剤を含む。好ましい形態は、所望の投与モードと治療的使用によって決定する。一般的に好ましくは、組成物が注射用溶液剤または輸注用溶液剤の形態である。好ましい投与モードは、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内(i.p.)、筋肉内)注射である。好ましい一実施形態において、抗体分子は静脈内注入または注射により投与される。別の好ましい実施形態において、抗体分子は筋肉内、腹腔内または皮下注射により投与される。
【0175】
本明細書で使用される用語「非経口投与」および「非経口方式投与」は、経腸投与および局所投与以外の投与モードを指し、一般には注射して投与されるが、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、腹腔内、経気管、皮下注射、輸注を含むが、これらに限定されない。
【0176】
治療用組成物は一般に、滅菌されたものであり、しかもその製造・保管条件において安定している。組成物は溶液、マイクロエマルション、分散体、リポソームまたは凍結乾燥物の形態として調製することができる。活性化合物(すなわち抗体分子)を所定の量で適切な溶剤に加え、次にろ過・消毒することによって、滅菌された注射用溶液剤を調製することができる。一般には、前記活性化合物を滅菌溶媒に混入することによって分散体を調製し、前記滅菌溶媒は基礎となる分散媒体と他の成分を含む。レシチンなどのコーティング剤を用いることができる。分散体である場合は、界面活性剤を用いて溶液剤に適切な流動性を維持できる。吸収を遅延させる物質、例えばモノステアレート、ゼラチンを組成物に含有させることによって注射用組成物の吸収を引き伸ばすことができる。
【0177】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は経口投与され、例えば、不活性希釈剤または食用可能ベクターとともに経口投与される。本発明の抗体分子は、ハードゼラチンカプセルまたはソフトゼラチンカプセルに封入されるか、錠剤に圧縮されてもよいし、またはそのまま対象の食事に混入されてもよい。経口投与して治療に使用される場合は、前記化合物は、賦形剤とともに混入され、摂取される錠剤、頬錠、トローチ剤(troche)、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハ剤(wafer)などの形態で使用されてもよい。本発明の抗体分子を非経口経路で投与するためには、前記抗体分子をその不活性化を防ぐ材料でコーティングするか、または当該材料とともに投与する場合がある。さらに治療用組成物は、本分野で公知する医療機器を用いて投与できる。
【0178】
本発明の医薬組成物は、「治療有効量」または「予防有効量」の本発明に記載の抗体分子を含んでもよい。「治療有効量」とは、必要な期間にわたって必要な用量で所望の治療結果を効果的に実現するための量を指す。治療有効量は、病状、個体の年齢、性別、体重などの多くの要因によって異なる。治療有効量は、毒性または害が治療による有益な効果に及ばないような任意の量である。治療を受けていない対象と比べ、「治療有効量」は、測定可能なパラメータ(例えば、腫瘍増殖率)を好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約60%、一層好ましくは少なくとも約80%抑制する。前記測定可能なパラメータ(例えば、腫瘍体積)に対する本発明の抗体分子の抑制能力は、ヒト腫瘍における効果を示すための動物モデルシステムにおいて評価できる。
【0179】
「予防有効量」とは、必要な期間にわたって必要な用量で所望の予防結果を効果的に実現するための量を指す。一般には、予防的用量は疾患の早期より前にまたは比較的初期の段階で対象に使用されるため、予防有効量は治療有効量を下回る。
【0180】
本明細書に記載の抗体分子を含む試薬キットも本発明の範囲内である。キットは、1つまたは複数の他の要素を含んでもよく、例えば、取扱説明書、マーカーまたはカップリングのための試薬などの他の試薬、薬学的に許容可能なベクター、対象への投与のための装置もしくは他の材料を含む。
【0181】
V.本発明の分子の使用および方法
一態様において、本発明は、本発明の抗体分子のインビボ、インビトロでの使用および適用方法を提供する。
【0182】
いくつかの実施形態において、本発明の使用および方法は、本発明の抗体分子のインビボおよび/またはインビトロでの以下の適用に関する。
-細胞の表面にGPRC5D抗原を発現することを含む、10nM未満のKDなどの高親和性で、GPRC5D抗原に結合すること、
-T細胞(例えば、CD4+および/またはCD8+T細胞)を、その表面にGPRC5Dを発現する細胞、特にGPRC5D陽性腫瘍細胞を標的とすること、
-T細胞(例えば、CD4+および/またはCD8+T細胞)を、その表面にBCMAを発現する細胞、特にBCMA陽性腫瘍細胞を標的とすること、
-T細胞のCD3下流シグナル伝達経路を活性化すること、
-GPRC5D陽性腫瘍細胞および/またはBCMA陽性腫瘍細胞に対するT細胞の殺傷効果を介在すること、
-T細胞がTNF-α、IFN-γ、およびIL-2などのサイトカインを放出するように誘導すること、
-GPRC5D陽性および/またはBCMA陽性腫瘍細胞を抑制または殺傷すること、または
-BCMA陽性患者集団、GPRC5D陽性患者集団、抗BCMA分子に結合した後のBCMA喪失を伴うGPRC5D陽性患者集団を治療するなど、GPRC5D陽性および/またはBCMA陽性多発性骨髄腫を治療すること、
-多発性骨髄腫の再発など、BCMAエスケープ介在性腫瘍の再発を回避すること。
【0183】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子または本発明の抗体分子を含む医薬組成物は、個体において疾患を治療および/または予防するための薬物として使用され、あるいは疾患の診断ツールとして使用され、好ましくは、前記個体は哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0184】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の抗体分子、特に三重特異性抗体分子を使用した癌の治療方法および使用を提供し、ここで、前記癌は、多発性骨髄腫、黒色腫、B細胞リンパ腫から選択されてもよい。好ましくは、前記癌は多発性骨髄腫である。BCMAおよびGPRC5Dに対する抗原結合特異性を有するため、本発明の三重特異性抗体分子は、BCMAおよびCD3を標的とする二重特異性抗体ならびにGPRC5DおよびCD3を標的とする二重特異性抗体よりも、さらに広範な癌治療の患者集団を有することができる。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の三重特異性抗体分子を使用したBCMA陰性癌またはBCMA低発現癌の治療方法を提供する。さらなるいくつかの実施形態において、本発明は、本発明の三重特異性抗体分子を使用したGPRC5DおよびCD3二重陽性癌の治療を提供する。
【0185】
一態様において、本発明は、血清、精液、尿または組織生検試料(例えば、過剰増殖性または癌性の病巣に由来する)などの生体試料中の関連抗原の存在をインビトロまたはインビボで検出する診断方法を提供する。当該診断方法は、(i)相互作用が生じることが認められる条件において、試料(および場合により、対照試料)を本明細書に記載の抗体分子と接触させ、または対象に前記抗体を投与することと、(ii)前記抗体と試料(および場合により、対照試料)による複合物の形成を検出することと、を含む。複合物が形成される場合、関連抗原が存在することを示し、本明細書に記載の治療および/または予防の適合性またはその必要性も示唆される。
【0186】
いくつかの実施形態において、治療前、例えば、治療を開始する前、または治療間隔がある場合は、治療を再開する前に関連抗原を検出する。利用可能な検出方法は、免疫組織化学、免疫細胞化学、FACS、ELISAアッセイ、PCR技術(例えば、RT-PCR)またはインビボイメージング技術を含む。一般には、インビボおよびインビトロ検出方法に使用される抗体分子は、結合されたまたは未結合のコンジュゲートを検出しやすくするために、検出可能な物質で直接的または間接的に標識される。適切な検出可能な物質は、さまざまな生物活性酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、常磁性(例えば、核磁気共鳴活性)物質、および放射性物質を含む。
【0187】
いくつかの実施形態において、関連抗原のレベルおよび/または分布をインビボで決定し、例えば、検出可能な物質で標識された本発明の抗体分子を、非侵襲的方式(例えば、適切なイメージング技術(例えば、ポジトロン断層法(PET)による走査)により検出する。一実施形態において、例えば、PET試薬(例えば、18F-フルオロデオキシグルコース(FDG))を用いて検出可能な方式で標識された本発明の抗体分子を検出することによって、関連抗原のレベルおよび/または分布をインビボで測定する。
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の抗体分子と、取扱説明書とを含む診断キットを提供する。
【0188】
本発明の理解を補助するために、以下の実施例を説明する。如何なる方法によって、実施例を、本発明の請求範囲を制限するものと解釈する意図もなく、そうすべきでもない。
【実施例1】
【0189】
実施例
実施例1、ハイブリドーマ細胞の製造
過剰発現細胞株の構築
ヒト、サルおよびマウスのGPRC5D全長配列をPEE17.4プラスミド(Lonza、GS Xceed Expression System)にそれぞれ挿入し、エレクトロポレーションの方法によってプラスミドを宿主細胞GS-CHOに導入し、加圧スクリーニングによってGPRC5Dタンパク質を過剰発現する安定的な細胞株を構築した。同時にヒトGPRC5D全長配列をpCHO1.0ベクターに挿入し、宿主細胞293Fに導入し、過剰発現細胞株293F-huGPRC5Dを構築した。
【0190】
免疫
ヒトGPRC5D全長配列をpcDNA3.1ベクターに構築し、当該プラスミドをBalb¥cおよびHarbourマウス(北京維通利華実験動物技術有限公司から購入)に免疫するために使用し、2週間に1回筋肉内注射し(各マウスに50μgのプラスミド)、合計3回免疫した。続いて、ヒトGPRC5Dを過剰発現するGS-CHO細胞株を追加免疫に使用し、2週間に1回腹腔内注射し(各マウスに1×107)、合計2回免疫した。
【0191】
細胞の融合
血清力価が要件を満たした後、マウスの脾臓を摘出してBリンパ球懸濁液を調製し、SP2/0骨髄腫細胞(ATCC)と1:2~1:1の比率で混合した後に電気融合を行った。融合後の細胞を電極皿から50mLの遠心分離管に移入し、HAT培地で1×104個の細胞/mL~2×104個の細胞/mLになるまで細胞を希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに100μLの細胞懸濁液を加えた。融合後の7日目にスクリーニング培地を交換し、10日目(または細胞増殖状態によって、それ以上である)培養した後にフローサイトメトリー(FACS)検出を行い、陽性クローニングをスクリーニングした。
【0192】
ハイブリドーマ細胞によるハイスループットスクリーニング
フローサイトメトリー(FACS)によって抗GPRC5D抗体を特異的に発現するハイブリドーマ細胞をスクリーニングした。検出される細胞(293F-huGPRC5D/GS-CHO-huGPRC5D)をカウントし、1×106個の細胞/mLになるまで希釈し、U型底の96ウェルプレートに100μL/ウェル加えた。500gで5min遠心分離し、細胞培地を除去した。ハイブリドーマの96ウェルプレートで培養した上清および陽性対照抗体をU字形プレートに加えて細胞を再懸濁し、1ウェル当たり100μL加え、氷上で30min静置した。500gで5min遠心分離し、上清を除去し、PBSで細胞を1回洗浄した。500gで5min、PBS除去した。ハイブリドーマ上清が加えられたウェルの各ウェルにgoat anti-mouse IgGのFITCで標識された二次抗体(Jackson Immunoresear、Cat#115-545-006を1:500でPBSに希釈したもの)100μLを加え、陽性対照抗体(Roche-5E11)を含むウェルに抗ヒトFcのPEで標識された二次抗体(BioLegend、Cat#409304)100μLを加えた。氷上で30min遮光してインキュベートした。500gで5min、上清を除去し、PBSで細胞を1回洗浄した。50μLの1×PBSで細胞を再懸濁し、FACS機上検出を行った。
【0193】
スクリーニングされた陽性クローニングに対して前記と同じ方法によりGS-cynoGPRC5D/GS-huGPRC5A細胞の再スクリーニングを行い、ヒトGPRC5DおよびサルGPRC5Dの両方と結合し、かつヒトGPRC5Aと結合しないハイブリドーマ細胞を合計82株得た。
【0194】
陽性ハイブリドーマ細胞のサブクローニング
細胞結合実験の結果に基づいて、従来の方法により候補クローンに対してサブクローニングを行った。その後、前記のハイスループットのスクリーニング方法によって検出し、標的陽性ウェルを取り出し、細胞を凍結保存した。
【0195】
実施例2、キメラ抗体の製造
実施例1で得られたハイブリドーマ候補クローンから抗体の軽鎖と重鎖の遺伝子配列を取り出し、ヒト-マウスキメラ抗体を構築した。
【0196】
新たに培養した細胞を各株から約5×106個採取し、RNA(Macherey-Nagel、Cat#740984.250)を抽出した。PrimeScript II 1st Strand cDNA Synthesis Kit(Takara)逆転写によりcDNAが得られた。5’端末のFR1領域に位置する塩基配列で上流プライマーを設計し、抗体定常領域またはFR4領域に位置する塩基で下流プライマーを設計し、抗体の軽鎖と重鎖の可変領域遺伝子断片を増幅した。それをTベクター(Mighty TA-cloning Kit試薬キット、Takara)に連結し、モノクローナルを選び出して配列決定を行い、MEGA7ソフトウェアを用いて配列決定の結果に対して分析およびアラインメントを行った。
【0197】
アラインメントにより、抗体の軽鎖と重鎖の可変領域配列が正しく、かつペアリングされたクローニングを選び出し、南京諾維贊公司の相同組換え酵素(Exnase(登録商標)II、カタログ番号:C112-01)によってその軽鎖と重鎖可変領域遺伝子断片をpcDNA3.1ベクターにそれぞれ連結し、ここで、定常領域はIgG1サブタイプを選択し、軽鎖と重鎖抗体の発現プラスミドを得た。
【0198】
次に、同一抗体の軽鎖プラスミドと重鎖プラスミドを1:1のモル比で混合し、ポリエチレンイミン(PEI)(Polysciences、Cat#23966)を用いて293F細胞をトランスフェクションし、5日~7日培養した後、細胞活性が60%未満になると、細胞培養上清を収集し、Protein Aアフィニティーカラムでモノクローナル抗体を精製した。
【0199】
実施例3、キメラ抗体のインビトロスクリーニング
抗GPRC5D抗体の親和性はフローサイトメトリーにより検出された。異なる濃度の抗体と、ヒトGPRC5Dを過剰発現するGS-CHO細胞(huGPRC5D GS-CHO)、多発性骨髄腫細胞MM1.R、H929およびAMO-1を含むヒトGPRC5Dを発現する細胞とともに30分間共インキュベートした。次に、蛍光標識二次抗体(APC-マウス抗ヒトIgG Fc抗体、Biolegend、製品番号:409306)を加え、Live/Dead yellow死細胞染色剤(Thermo Fisher、製品番号:L34967)を使用し、フローサイトメトリーにより細胞蛍光強度を検出し、GraphPad Prism 8.0を用いて曲線をフィッティングし、抗体のヒトGPRC5Dに結合する親和性を示すために、EC50値を計算した。
【0200】
検出された抗体において、HB15H1G1(重鎖可変領域の配列番号25、軽鎖可変領域の配列番号26)は完全ヒト化抗体であり、ch5E12C4(重鎖可変領域の配列番号98、軽鎖可変領域の配列番号99)、ch11B7(重鎖可変領域の配列番号100、軽鎖可変領域の配列番号101)およびch7F5D4抗体(重鎖可変領域の配列番号27、軽鎖可変領域の配列番号28)はキメラ抗体である。結果は下記の表1に示される。
【表4】
【0201】
スクリーニングされたch5E12C4およびキメラch11B7抗体をヒト化し、抗体hz5E12.1.P1およびhz11B7.5を形成した。
【0202】
実施例4、三重特異性抗体(TS)の分子構造の設計および構築
同時にGPRC5D、BCMAおよびCD3を標的とするT細胞エンゲージャー(T-cell engager)類の多重特異性抗体は、多発性骨髄腫細胞(Multiple Myeloma、MM)表面の2種類の腫瘍関連抗原GPRC5DとBCMAおよびT細胞表面のCD3受容体に同時に結合することができる。4つの抗GPRC5D抗体(HB15H1B1、ch7F5D4、hz5E12.1.P1、hz11B7.5)、1つの抗BCMA抗体(ADI-38456)および親和性が異なる2つの抗CD3抗体(親和性が比較的低いCD3抗体hzsp34.87と親和性が比較的高いCD3抗体hzsp34.24)に基づいて、同時にGPRC5D、BCMAおよびCD3を標的とする多重特異性抗体を設計した。
【0203】
図1に示すように、1+1+1 format 1(TS-F1)の2つの例示的な抗体、1+1+1 format 2(TS-F2)の6つの例示的な抗体、2+2+2 format 6(TS-F6)の4つの例示的な抗体および1+1+2 format 7(TS-F7)の5つの例示的な抗体(下記の表4を参照)を含むformatの異なる4種類の多重特異性抗体分子を設計した。Fc「ノブインホール」(knob-in-hole)技術により非対称IgG様二重特異性抗体の重鎖のミスペアリングを解決し、ここで、FcはIgG1の重鎖定常領域であり、同時にエフェクター機能(effector function)を弱化するL234A、L235A(Kabatの「EU」によって番号付けられた)アミノ酸変異を導入して、例示的な抗体を設計した。
【0204】
TS-F2とTS-F7は、4本のポリペプチド鎖から左右非対称のIgG様四量体で構成され、TS-F6は、2本のポリペプチド鎖から左右対称のIgG様四量体で構成された。
【0205】
TS-F2は、重鎖可変ドメイン、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含む1本のペプチド鎖#1、軽鎖可変ドメインおよび免疫グロブリンCLドメインを含む1本のペプチド鎖#2、重鎖可変ドメイン、免疫グロブリンCH1ドメイン、Fcドメインおよび人工合成された連結ペプチドによって連結されてなる一本鎖抗体scFvを含む1本のペプチド鎖#3、ならびに軽鎖可変ドメインおよび免疫グロブリンCLドメインを含む1本のペプチド鎖#4で構成された。ペプチド鎖#1の重鎖可変ドメインとペプチド鎖#2の軽鎖可変ドメインがペアリングして第1抗原認識部位を形成し、ペプチド鎖#3の重鎖可変ドメインとペプチド鎖#4の軽鎖可変ドメインがペアリングして第2抗原認識部位を形成し、scFvは第3抗原認識部位を形成した。
【0206】
TS-F7は、重鎖可変ドメイン、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含む1本のペプチド鎖#1、軽鎖可変ドメイン、免疫グロブリンCLドメインおよび人工合成された連結ペプチドにより連結されてなる一本鎖抗体scFvを含む1本のペプチド鎖#2、重鎖可変ドメイン、免疫グロブリンCH1ドメインおよびFcドメインを含む1本のペプチド鎖#3、ならびに軽鎖可変ドメイン、免疫グロブリンCLドメインおよび人工合成された連結ペプチドにより連結されてなる一本鎖抗体scFvを含む1本のペプチド鎖#4で構成された。ペプチド鎖#1の重鎖可変ドメインとペプチド鎖#2の軽鎖可変ドメインがペアリングして第1抗原認識部位を形成し、ペプチド鎖#3の重鎖可変ドメインとペプチド鎖#4の軽鎖可変ドメインがペアリングして第2抗原認識部位を形成し、ペプチド鎖#2とペプチド鎖#4における2つのscFvは、2つの同じ第3抗原認識部位である。
【0207】
TS-F2とTS-F7において、ペプチド鎖#1とペプチド鎖#3のそれぞれのFcドメインには、「ノブインホール」の対応する安定結合変異がそれぞれ含まれた。
【0208】
TS-F6は、重鎖可変ドメイン、免疫グロブリンCH1ドメイン、Fcドメインおよび人工合成された連結ペプチドにより連結されてなる一本鎖抗体scFvを含む2本の同じペプチド鎖#1、ならびに、軽鎖可変ドメイン、免疫グロブリンCLドメインおよび人工合成された連結ペプチドにより連結されてなる一本鎖抗体scFvを含む2本の同じペプチド鎖#2で構成された。ペプチド鎖#1の重鎖可変ドメインとペプチド鎖#2の軽鎖可変ドメインがペアリングして第1抗原認識部位を形成し、ペプチド鎖#1におけるscFvは第2抗原認識部位であり、ペプチド鎖#2におけるscFvは第3抗原認識部位である。
【0209】
TS-F1は、第1の一本鎖抗体scFvおよびFcドメインを含むペプチド鎖#1、ならびに、第2の一本鎖抗体scFvおよびFcドメインを含むペプチド鎖#2で構成された。ペプチド鎖#1における第1のscFvは第1抗原認識部位を形成し、ペプチド鎖#2におけるscFvは第2抗原認識部位を形成した。
【0210】
実施例5、TS抗体の発現および精製
4つの抗GPRC5D抗体(HB15H1B1、ch7F5D4、hz5E12.1.P1、hz11B7.5)において、HB15H1B1は完全ヒト化抗体、ch7F5D4はキメラ抗体、hz5E12.1.P1とhz11B7.5はヒト化抗体であり、1つの抗BCMA抗体(ADI-38456)および親和性が異なる2つの抗CD3抗体(hzsp34.87とhzsp34.24)のCDR領域、軽鎖可変領域および重鎖可変領域のアミノ酸配列は、本願の「配列表」の部分にリストされ、前記抗体のCDR領域、軽鎖可変領域および重鎖可変領域のアミノ酸配列の配列番号は表2に示される。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0211】
GPRC5DxCD3およびBCMAxCD3二重特異性抗体を同時に設計した。
図2Aに示すように、合理的な設計として、二重特異性抗体の両端はいずれもFab形式であり、1+1 formatの非対称Ig様構造を形成した。Fc「ノブインホール」(knob-in-hole)技術により当該非対称IgG-様二重特異性抗体の重鎖のミスペアリングを解決し、ここで、FcはIgG1の重鎖定常領域であり、同時にエフェクター機能(effector function)を弱化するL234A、L235A(Kabatの「EU」によって番号付けられた)アミノ酸変異を導入した。
【0212】
同時に、BCMAxCD3二重特異性抗体46758をさらに発現した。
図2Bに示すように、当該二重特異性抗体の1つの抗体アームはBCMAに結合するFabであり、もう1つの抗体アームはCD3に結合するscFvであり、ここで前記Fabは抗BCMA親抗体38456に由来し、前記scFvは前と異なる抗CD3親抗体に由来した。当該二重特異性抗体を構成した3本のポリペプチド鎖は配列番号111~113に示された。
【0213】
同時に、Roche-5E11二重特異性抗体(GPRC5DxCD3、2:1 format、特許WO 2019/154890 A1から)をさらに発現して精製した。
図2Cに示される通りである。二重特異性抗体Roche_5E11は、WO 2019/154890 A1の配列番号17、18、19および20の配列で構成され、2つのGPRC5D結合部位および1つのCD3結合部位を含む。
【0214】
組換え製造のために、宿主細胞におけるさらなるクローニングおよび/または発現のために、重鎖と軽鎖をコードするヌクレオチド配列を合成し、ベクターpcDNA3.1にそれぞれ挿入するように、蘇州金唯智生物科技有限公司に委託した。
【0215】
HEK293細胞における発現および精製:
Expi293F細胞(Thermo Fisher scientific社から購入)をExpi293F細胞培地(Thermo Fisher scientific社から購入)に継代培養した。トランスフェクションの前日に細胞密度を検出し、新鮮なExpi293細胞培地を2×106個の細胞/mLに調整して培養を継続し、トランスフェクションの当日に細胞密度を3×106個の細胞/mLに調整した。
【0216】
トランスフェクションされたExpi293F細胞の最終体積が1/10のOpti-MEM培地(Gibco社から購入)をトランスフェクション緩衝液として取り、1mL当たりのトランスフェクション緩衝液に1:1のモル比率で前記に製造された、ペアリングされた重鎖と軽鎖をそれぞれ含むヌクレオチド配列の組換えプラスミド10μgを加え、均一に混合し、1mL当たりのトランスフェクション緩衝液にポリエチレンイミン(polyethylenimine、PEI)(Polysciences)30μgをさらに加え、均一に混合し、室温で20分間インキュベートし、次にPEI/DNA混合物をExpi293F細胞懸濁液に軽く注入して均一に混合し、シェーカーにおいて、8%のCO2、36.5℃、120rpmの培養条件で培養した。
【0217】
16時間~18時間培養した後、培養フラスコにトランスフェクション後の培養物体積1/50の濃度が200g/LのFEED(100g/LのPhytone Peptone+100g/LのDifco Select Phytone)、最終濃度が4g/Lのグルコース溶液および最終濃度が2mM/LのVPA(Gibco)を追加し、軽く均一に混合し、8%のCO2、36.5℃、120rpmのシェーカーにおいて培養を継続した。連続的に6日培養し、培養物を収集し、4000回転/分間で30分間遠心分離し、細胞上清を取って0.45μMのろ過膜でろ過し、アフィニティークロマトグラフィーとイオン交換クロマトグラフィーにより親タンパク質を精製した。対称構造のIgG様抗体に関しては、最終分子を精製した。
【0218】
以下、前記の異なるFormatのTS抗体および二重特異性抗体に対して組換えによって生成された親タンパク質が示される。
【表9】
【0219】
非対称IgG様抗体の場合、精製された2つの親タンパク質が液を交換する必要はなく、タンパク質濃度はそれぞれ>1mg/mLであり、1:1のモル比および混合液中のタンパク質濃度1mg/mL~10mg/mLに従って混合した。次に、GSH/タンパク質のモル比を500倍~700倍に制御し、GSH最終濃度>5mMである適量なGSHを加えた。最後に、pHが10.0のArg1Mで前記混合液のpHを8.0~8.5に調節した。Arg最終濃度>=50mMである。前記反応液を、24hを超えないように、室温で一晩置いた。翌日、一晩反応させた反応液を交換してGSHを除去し、液交換用bufferは、GSHを含まない前記組換え反応0.2MのPB溶液(Ph6.0)であってもよい。2h~3h自然酸化した後、monoS(GE Cat.17516801)により精製されてよい。
【0220】
Roche-5E11二重特異性抗体は、WO 2019/154890 A1に開示された方法により製造された。
【0221】
前記方法により製造された対称性抗体および非対称抗体を回収し、アフィニティークロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーにより精製された。
サイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography、SEC)を利用して、クロマトグラフィーにより収集された各レベルのサブチューブ中の試料の純度を検出した。SEC結果に基づいて純度が95%より大きいレベルのサブチューブ中の試料を合わせた。
精製された二重特異性抗体溶液を15mLの限外ろ過遠心分離管で、4500回転/分間で30分間遠心分離し、PBSでタンパク質を希釈した後に遠心分離を継続し、緩衝液を交換するために、4500回転/分間で30分間遠心分離し、当該操作を数回繰り返した。緩衝液が交換された抗体を合わせて、抗体濃度を測定した。さらに、キャピラリー電気泳動(CE-SDS)および液体クロマトグラフィー-質量分析技術(LC-MS)を組み合わせて多重特異性抗体の成分および含有量に対して定性および定量を行った。
【0222】
実施例6、三重特異性抗体親和性の測定
例示的な三重特異性抗体において、ヒト化抗体hz5E12.1.P1およびhz11B7.5に由来する抗原結合部位のGPRC5Dへの結合親和性を調べた。実施例3と同じ方法により、異なる濃度の三重特異性抗体とhuGPRC5D GS-CHO細胞とともに30分間共インキュベートし、次に蛍光標識二次抗体を加え、フローサイトメトリー(BD)により細胞蛍光強度を検出し、GraphPad Prism 8.0を用いて曲線をフィッティングし、抗体のヒトGPRC5Dに結合する親和性を示すために、EC50値を計算した。結果は下記の表5に示される。
【表10】
【0223】
例示的な三重特異性抗体において、抗BCMA末端と抗CD3末端の親和性は、バイオフィルム層光学干渉技術(BLI)により検出された。例示的な抗体のヒトBCMA、サルBCMA、ヒトCD3E及びサルCD3Eへの結合動態を測定した。
【0224】
結合型ストレプトアビジンタンパク質(streptavidin protein、SA)または抗human-Fc(AHC)のプローブsensors(Fortebio、製品番号18-5019)を200μLのSD buffer(1×PBS、0.1%のBSA、0.05%のtween-20)に浸漬して予め湿らせた。例示的な抗体およびビオチンで標識されたまたはFc-tag付きのBCMAとCD3D&Eヘテロ二量体抗原をSD bufferでそれぞれ希釈した。200μLのSD buffer、各希釈試料(100nM)を96ウェルブラックプレート(Greiner、製品番号655209)にそれぞれ加えた。プローブおよび試料をOctet(Fortebio、Red96e)に置いた。Data Acquisition 10.0を起動し、「New Kinetic Experiment」を選択し、試料の位置に従って播種し、sensorsの位置を選択し、実行ステップおよび時間:Baseline 60s、Loading 250s、Baseline 100s、Association 600sおよびDissociation 600sを設定した。実験の回転速度は1000rpm、温度は30℃であった。
【0225】
「Data Analysis 10.0」ソフトウェアで結果を分析し、buffer参照チャネルを差し引いて、1:1のbindingを選択してデータをフィッテングし、例示的な抗体のkon、koff、KD値を計算した。
【0226】
前記の測定法に記載される実験において、ヒトBCMA抗原(ACRO Biosystems)およびサルBCMA抗原(ACRO Biosystems)を用いて例示的な抗体を検出した。ヒトBCMAに対する親和性の検出結果は表6に示され、サルBCMAに対する親和性の検出結果は表7に示される。
【表11】
【表12】
【0227】
前記の測定法に記載される実験において、ヒトCD3D&Eヘテロ二量体抗原(ACRO Biosystems)およびサルCD3D&Eヘテロ二量体抗原(ACRO Biosystems)を用いて例示的な抗体の親和性を検出し、結果は表8、表9に示される。同時に、GPRC5D×CD3二重特異性抗体、hz5E12.1-P1/SP34.24およびhz5E12.1-P1/SP34.87の、ヒト/サルCD3D&Eに対する結合親和性を調べた。
【表13】
【表14】
【0228】
実施例7、抗GPRC5DxBCMAxCD3抗体介在性Jurkat細胞活性化実験
Jurkat-NFAT-Lucレポートシステムによって抗GPRC5DxBCMAxCD3抗体のCD3E下流シグナル伝達経路を活性化する活性を検出した。抗GPRC5DxBCMAxCD3多重抗体が多発性骨髄腫(MM)細胞株表面のGPRC5Dおよび/またはBCMAに結合すると同時に、Jurkat-NFAT-Luc細胞(Jurkat)表面のCD3Eに結合する場合、腫瘍関連抗原(GPRC5Dおよび/またはBCMA)依存性CD3と架橋することにより、Jurkat-NFAT-Luc細胞中のCD3E下流シグナルを刺激することができる。したがって、Luciferaseレポートシステムによって例示的な抗体介在性T細胞活性化レベルを評価した。
【0229】
Jurkat NFAT luciferase細胞およびMM腫瘍細胞において、異なる濃度の例示的な抗体を加え、Jurkat細胞ルシフェラーゼの発現を観察した。
【表15】
【0230】
簡単に言えば、まず試料の希釈:RPMI medium 1640(5%のFBS)を用いて抗体を100nMの濃度に希釈した後に、5倍勾配希釈した。次に細胞の準備:Jurkat細胞および腫瘍細胞を300gで5min遠心分離し、上清を捨て、RPMI medium 1640(5%のFBS)に再懸濁させ、カウント(Countstar)後に細胞の密度をJurkat NFAT 2x106cell/mLに調整し、腫瘍細胞はエフェクター細胞と標的細胞との比率に応じて調整した。96ウェル白色細胞培養プレートの各ウェルに45μLの腫瘍細胞を加え、30μLの勾配希釈した試料を加え、45μLのJurkat NFAT細胞を加えた。次に、96ウェルプレートを37℃、5%のCO2インキュベーターに置いて培養を継続した。一定時間培養した後、培養プレートおよび細胞培養プレートを取り出し、室温で5min置き、各ウェルに80μLのBio-Glo(Promega、G7940)を加え、10min遮光してインキュベートし、SpectraMax i3(MOLECULAR DEVICES)で蛍光値を読取った。GraphPad Prism 8.0を用いて曲線をフィッティングし、例示的な抗体のT細胞を活性化する活性を比較するために、EC50値を計算した。結果は、対照hIgG1群の読取値に対する実験群の読取値の倍数の比として示される。
【0231】
結果:
TS-F2-1とTS-F2-2
H929細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を16時間共培養する条件で、およびL363細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を16時間共培養する条件で、TS-F2-1とTS-F2-2は、いずれも抗体濃度の増加に伴い、Jurkat細胞ルシフェラーゼの発現を顕著に向上させることができ(
図3Aおよび
図3B)、かつそのアゴニスト活性がTS-F1、対照群GPRC5DxCD3二重抗体およびBCMAxCD3二重抗体よりも高い。検出された抗体の具体的なEC50は表10に示される。ここで、例示的な抗体TS-F2-1とTS-F2-2は、いずれもHB15H1G1(GPRC5D抗体)、hzsp34.24(CD3抗体)および38456(BCMA抗体)に由来する3つの結合特異性で構成されるが、HB15H1G1および38456の結合特異性の位置が異なっている。
【表16】
【0232】
TS-F2-3
H929細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を16時間共培養する条件で、L363細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を16時間共培養する条件で、およびU266細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を16時間共培養する条件で、TS-F2-3は、いずれも抗体濃度の増加に伴い、Jurkat細胞ルシフェラーゼの発現を顕著に向上させることができ(
図4A、
図4Bおよび
図4C)、かつそのアゴニスト活性がTS-F6抗体よりも顕著に高く、対照群GPRC5DxCD3二重抗体(ch7F5D4/hzsp34.24)およびBCMAxCD3(46758)二重抗体よりも高い。検出された抗体の具体的なEC50は表11に示される。例示的な抗体TS-F2-3とTS-F6(TS-F6-1~TS-F6-4)は、ch7F5D4(GPRC5D抗体)、hzsp34.24(CD3抗体)および38456(BCMA抗体)に由来する3つの結合特異性で構成される。
【0233】
構築したhuGPRC5Dを過剰発現するGS-CHO(huGPRC5D-GS-CHO)細胞とJurkat細胞を16時間共培養し、GPRC5Dのみを発現する多発性骨髄腫細胞介在性T細胞活性化をシミュレーションするために、例示的な抗体を共培養した。ここで、エフェクター細胞(Jurkat細胞)と標的細胞(huGPRC5D-GS-CHO細胞)との比率は50:1であった。実験結果により、TS-F2-3は、抗体濃度の増加に伴い、Jurkat細胞ルシフェラーゼの発現を顕著に向上させることができ(
図4D)、かつそのアゴニスト活性がTS-F6抗体、対照群GPRC5DxCD3二重抗体およびBCMAxCD3二重抗体(46758)よりも高いことが示された。具体的なEC50は表11に示される。
【表17】
【0234】
TS-F2-4とTS-F2-5
H929細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を5時間共培養する条件で、
L363細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を5時間共培養する条件で、
8226細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を5時間共培養する条件で、および
U266細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を5時間共培養する条件で、
TS-F2-4とTS-F2-5は、いずれも抗体濃度の増加に伴い、Jurkat細胞ルシフェラーゼの発現を顕著に向上させることができ(
図5A、
図5B、
図5C)、かつそのアゴニスト活性が対照群GPRC5DxCD3、BCMAxCD3二重抗体(38456/hzsp34.24)および46758二重抗体よりも高い。具体的なEC50は表12に示される。ここで、例示的な抗体TS-F2-4は、hz5E12.1.P1(GPRC5D抗体)、hzsp34.24(高親和性CD3抗体)および38456(BCMA抗体)で構成され、例示的な抗体TS-F2-5は、hz5E12.1.P1(GPRC5D抗体)、hzsp34.87(低親和性CD3抗体)および38456(BCMA抗体)で構成された。
【表18】
【0235】
MM1.S細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が10:1)を5時間共培養する条件で、およびARD細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が10:1)を5時間共培養する条件で、TS-F2-4とTS-F2-5は、抗体濃度の増加に伴い、Jurkat細胞ルシフェラーゼの発現を顕著に向上させることができ(
図5E)、かつそのアゴニスト活性が対照群GPRC5DxCD3二重抗体およびBCMAxCD3二重抗体46758よりも高い。具体的なEC50は表13に示される。
【表19】
【0236】
TS-F7-1とTS-F7-2
H929細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を5時間共培養する条件で、
L363細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を5時間共培養する条件で、
8226細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を5時間共培養する条件で、および
U266細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を5時間共培養する条件で、
TS-F7-1とTS-F7-2は、抗体濃度の増加に伴い、Jurkat細胞ルシフェラーゼの発現を顕著に向上させることができ(
図6A、
図6B、
図6C、
図6D)、かつそのアゴニスト活性が対照群GPRC5DxCD3二重抗体およびBCMAxCD3二重抗体46758よりも高い。具体的なEC50は表14に示される。ここで、例示的な抗体TS-F7-1は、hz5E12.1.P1(GPRC5D抗体)、hzsp34.24(CD3抗体)および38456(BCMA抗体)で構成され、例示的な抗体TS-F7-2は、hz11B7.5(GPRC5D抗体)、hzsp34.87(CD3抗体)および38456(BCMA抗体)で構成された。
【表20】
【0237】
TS-F7-3とTS-F7-4
L363細胞とJurkat細胞(エフェクター細胞と腫瘍細胞との比率が5:1)を16時間共培養する条件で、TS-F7-3とTS-F7-4は、抗体濃度の増加に伴い、Jurkat細胞ルシフェラーゼの発現を顕著に向上させることができるが(
図7)、そのアゴニスト活性がTS-F2-3よりも低い。ここで、例示的な抗体TS-F7-3とTS-F7-4は、ch7F5D4(GPRC5D抗体)、hzsp34.24(CD3抗体)および38456(BCMA抗体)で構成され、hzsp34.24抗体が一本鎖抗体を形成する場合、TS-F7-3はVLが前、VHが後に位置し、TS-F7-4はVHが前、VLが後に位置する。
【0238】
実施例8、ヒト多発性骨髄種細胞に対する抗GPRC5DxBCMAxCD3抗体の殺傷実験
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)法によって、PBMCとGPRC5Dおよび/またはBCMA陽性のMM細胞を共培養する条件での、ヒト多発性骨髄腫細胞に対する例示的な抗体介在性T細胞の殺傷能力を検出した。抗GPRC5DxBCMAxCD3多重抗体がMM細胞表面のGPRC5Dおよび/またはBCMAに結合すると同時に、primary T細胞表面のCD3Eに結合する場合、腫瘍関連抗原(GPRC5Dおよび/またはBCMA)依存性T細胞と架橋することにより、T細胞の活性化を刺激し、腫瘍細胞の殺傷を介在することができる。多因子検出試薬キット(Human Th1/Th2/Th17、BD)を用いて複数のサイトカインのレベルを同時に検出するとともに、フローサイトメトリー(BD)によりT細胞中のCD69陽性細胞の百分率を検出した。
【0239】
【0240】
実験ステップ:
PBMC細胞を液体窒素から取り出し、37℃のウォーターバスで急速に溶解し、9mLの無血清培地に加え、300gで4min遠心分離し、上清を捨て、10%のFBSフェノールレッドフリー1640培地に再懸濁させ、細胞密度を4×106cell/mLに調整した。一定量の対数期H929細胞を収集し、遠心分離し、10%のFBSフェノールレッドフリー1640培地で腫瘍細胞密度を2×105cell/mLに調整した。前記の表に従って、抗体を10%のFBSフェノールレッドフリー1640培地で、5μMから5倍勾配希釈するように、100nMに希釈した。96ウェル細胞培養プレート(U字形)に、100μLの腫瘍細胞、50μLの勾配希釈した試料および50μLのPBMC細胞を加えた。同時に、対照ウェルを設定し、培地で200μL/ウェルまで補充した。37℃、CO2インキュベーターに入れて16h培養した。16h培養した後、細胞培養プレートを取り出し、室温で5min放置し、TMウェルの各ウェルに10%のLysis Solutionを加え、15min遮光して溶解させた。細胞培養プレートを400gで5min遠心分離し、50μLの上清を取って新しい平底96ウェルプレートに移した。LDH発色試薬50μLを加え、室温で30min遮光して発色させ、停止液50μLを加えた。プレートリーダーで吸光度を読取り、吸光度により殺傷を計算した。後続のサイトカイン検出のために、さらに90μLの上清を新しい96ウェルプレート(V字形)に取った。細胞培養プレートの各ウェルに200μLのFACS bufferを加えて1回洗浄し、遠心分離後に液体を除去し、各ウェルに45μLの染色溶液(FACS bufferで調製)を加え、4℃で、20min遮光してインキュベートし、200μLのFACS bufferで1回洗浄し、150μLのFACS bufferで再懸濁させた後に機上検出を行った。
【0241】
CBAによるサイトカインの検出:
standard 0(std 0)となるように、2mLのassay diluentで標準品を溶解し、次に8ウェルstd 1~8を2倍勾配希釈し、std 9はassay diluentブランク対照であった。各beadsを5s~10sボルテックスし、それぞれ322μL吸い出し、次に2254μLのassay diluentを加え、ボルテックスして均一に混合し、96ウェルのV字形プレートを準備し、各ウェルに50μLの均一に混合したbeadsを加え、各ウェルに30μLのassay diluentを加え、次に各ウェルに30μLの試料を加え、すなわち、すべての試料を2倍希釈した。PE detection reagent:assay diluent 1:1で希釈した後に使用された。ウェルに50μLのstdまたはsampleおよびPE detection reagentを加え、プレートをパラフィルムで密封し、アルミホイルで覆った。プレートシェーカーにおいて、1100rpmの回転速度で室温で5min振とうした。次に、室温で3hインキュベートした。インキュベート終了後、各ウェルに120μLのwash bufferを加え、300gで5minを遠心分離し、上清を吸い取った。120μLのWash Bufferを加えて再懸濁させ、フローサイトメトリーにより検出された。
【0242】
実験結果:
フローサイトメトリーにより検出されると、例示的な抗体は、用量依存的にprimary T細胞を活性化することができ(
図8Aおよび
図8B)、かつT細胞の活性化程度とCD3の親和性には一定の相関関係:抗CD3の親和性が高いほど、T細胞を活性化する能力が強くなり、それによりH929細胞に対するPBMCの殺傷作用を介在する(
図9)ことが見出され、殺傷過程に伴うさまざまなサイトカインの放出レベルは
図11A~
図11Dに示される。
【0243】
実施例9、H929担腫瘍ヒト化マウスモデルインビボにおける例示的な抗体の抗腫瘍薬効
雌のNOGマウス(35日~41日)は、北京維通達実験動物技術有限公司から購入した。グレードは、SPFグレードである。マウスを受け入れた後、研究開始前に7日間馴化と隔離した。
H929細胞は、後続のインビボ実験のために、日常的に継代培養し、遠心分離して細胞を収集し、PBSでH929細胞を分散させた。5×106細胞/匹、接種体積200μL/匹で、毛を剃ったH929細胞をNOGマウスの右側背腹部に接種した。H929細胞接種後の5日目に、5×106細胞/匹、接種体積200μL/匹で、マウスにPBMC細胞を静脈内注射した。
【0244】
投与:PBMC細胞接種後の3日目、腫瘍体積に従ってマウスを群分け(各群7匹)して投与した。7日ごとに1回、合計3回投与した。マウスの腫瘍体積と体重を週に2回監視した。腫瘍体積の測定:ノギスで腫瘍の最大長軸(L)と最大短軸(W)を測定し、腫瘍体積を下記の式V=L×W2/2により算出した。電子天びんを用いて体重を測定した。研究期間全体を通じて、腫瘍がエンドポイントに達した時またはマウスの体重減少>20%である時、マウスを安楽死させた。腫瘍のサイズを統計した。
【0245】
実験結果
腫瘍増殖曲線は、
図12に示され、例示的な抗体は、H929細胞の成長を顕著に抑制することができる。同時に投与されたマウス群において、いずれも体重減少は見られなかった。
【0246】
実施例10、異なる多発性骨髄腫表面におけるGPRC5DとBCMAの発現レベル
qifikit試薬キットにより、飽和濃度のBCMA抗体とGPRC5D抗体を使用してMM細胞を染色し、フローサイトメトリーで異なる多発性骨髄腫細胞株表面におけるBCMAとGPRC5D分子を定量した。
【表22】
【0247】
1×105個の異なるMM細胞を96-wellプレートに加え、GS-CHO-huGPRC5DとGS-CHO-huBCMA細胞は陽性対照とし、かつ互いに陰性対照とした。400gで5min遠心分離し、上清を除去した。10μLのマウス由来の一次抗体(BCMAおよびMgprc5d-17G1B8)を加えて4℃の条件で1hインキュベートした。陰性対照IgG1。QIFIKIT/Beads準備:100μLの均一に混合したbeads(Vial 1およびVial 2)をそれぞれ加えた。200μLのFACS bufferを加え、3回洗浄した後に上清を除去し、100μLの二次抗体(FITC Conjugate、Vial 3(合計200μL)、1:50で0.01mol/LのPBSに希釈した)を加えて均一に混合し、4℃の遮光条件で45分間インキュベートした。200μLのFACS緩衝液を加え、3回洗浄した後、100μLのPBSを加え、均一に混合し、フローサイトメトリーにより検出された。
【0248】
実験結果:
図13に示すように、試験した異なるMM細胞には、異なる表面GPRC5DとBCMAの発現レベルがあった。
図5A~
図5F、
図6A~
図6Dおよび
図7に示すように、対照GPRC5D/CD3二重抗体およびBCMA/CD3二重抗体と比較して、評価されたFormat 2およびFormat 7の三重特異性抗体は、異なるGPRC5DとBCMA発現レベルを有するさまざまなMM細胞(H929、L363、8226、U266、MM1.SおよびARD)において、いずれも有利な生物学的活性を誘導した。これは、GPRC5DとBCMAを組み合わせて標的とすることにより、本発明の三重特異性抗体は、GPRC5D陽性腫瘍患者とBCMA陽性腫瘍患者の両方をカバーし、多発性腫瘍患者に対するカバー率を向上させることができると同時に、BCMAなどの単一抗原の喪失による腫瘍の再発を回避し、治療効果を改善することができることが示唆された。
【配列表】
【国際調査報告】