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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】絶縁ワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20240228BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B13/00 517
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550119
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2022054207
(87)【国際公開番号】W WO2022175515
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】63/152,009
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】21171941.4
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リー, ヴィクトリア
(72)【発明者】
【氏名】リッチ, ジェーソン
(72)【発明者】
【氏名】エル-ヒブリ, モハマド ジャマール
【テーマコード(参考)】
5G309
【Fターム(参考)】
5G309RA01
(57)【要約】
本発明は、熱可塑性絶縁体を含むワイヤ、特にマグネットワイヤに関する。特にそれは、全く接着剤層無しにポリアリールエーテルエーテルケトン組成物を含む熱可塑性絶縁体を含むワイヤに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 導体と、
- 前記導体の周りに形成され且つ前記導体と直接接触している少なくとも1つの絶縁層とを含むワイヤであって、前記絶縁層が、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンポリマーと組成物の総重量に対して6.0~40.0重量%のタルクとを含む組成物を含むか又はそれから製造され、且つ前記組成物が、400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定されるとき少なくとも120Pasの溶融粘度を有する、ワイヤ。
【請求項2】
前記組成物が、
- 少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンポリマー(PAEKポリマー)と、
- 6.0~40.0重量%のタルクと、
- 任意選択的に少なくとも1つのポリアリールエーテルスルホンポリマー(PAESポリマー)と、
- 任意選択的に少なくとも1つの核剤、好ましくは窒化ホウ素と、
- 任意選択的に少なくとも1つのプラスチック添加剤を含むか又はそれからなる請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
前記組成物が、
- 少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンポリマー(PAEKポリマー)と、
- 6.0~40.0重量%のタルクと、
- 少なくとも1つのポリアリールエーテルスルホンポリマー(PAESポリマー)と、
- 任意選択的に少なくとも1つの核剤、好ましくは窒化ホウ素と、
- 任意選択的に少なくとも1つのプラスチック添加剤を含むか又はそれからなる、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項4】
前記PAESポリマーが、PPSU、PES、PSU、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2又は3に記載のワイヤ。
【請求項5】
前記PAESポリマーが、PPSU、PSU及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2又は3に記載のワイヤ。
【請求項6】
前記ポリアリールエーテルケトンポリマーが、式(J-A)~(J-Q):
【化1】
【化2】
(式中、
-R’のそれぞれは、互いに等しく又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び4級アンモニウムからなる群から選択され、
-j’は、ゼロであるか、又は0~4の整数であり、好ましくはj’はゼロである)からなる群から選択される少なくとも50重量%の繰り返し単位(RPAEK)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項7】
前記PAEKポリマーの繰り返し単位(RPAEK)の前記フェニレン部分が、前記繰り返し単位においてR’とは異なる他の部分への1,3-又は1,4-結合を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項8】
前記PAEKポリマーの繰り返し単位(RPAEK)の前記フェニレン部分が、前記繰り返し単位においてR’とは異なる他の部分への1,4-結合を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項9】
前記ポリアリールエーテルケトンポリマーが、下記の式(J’-A)~(J’-O):
【化3】
からなる群から選択される少なくとも50重量%の繰り返し単位(RPAEK)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項10】
前記ポリアリールエーテルケトンポリマーがホモポリマー、ランダム、交互又はブロックコポリマーである、請求項1~9のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項11】
前記ポリアリールエーテルケトンポリマーがポリエーテルエーテルケトン(「PEEK」)ポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項12】
前記PEEKポリマーの繰り返し単位の
- 少なくとも75重量%、又は
- 少なくとも85重量%、又は
- 少なくとも95重量%、又は
- 少なくとも99重量%が式J’-A:
【化4】
のものである、請求項11に記載のワイヤ。
【請求項13】
前記PPSU、PES及びPSUが:
- 少なくとも60モル%、又は
- 少なくとも70モル%、又は
- 少なくとも80モル%、又は
- 少なくとも90モル%、又は
- 少なくとも95モル%、又は
- 少なくとも99モル%
より多いモル%の、それぞれ式(B1)、(B2)、(B3):
【化5】
(式中、d=e=f=0である)の繰り返し単位(RPAES
を有する、請求項4~12のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項14】
365℃の温度及び5.0kgの重りを使用してASTM D1238に従って測定される場合の前記PPSUのメルトフローレート(MFR)が5.0~45.0g/10分、好ましくは10.0~40.0g/10分、より好ましくは15.0~35.0g/10分及び更により好ましくは20.0~30.0g/10分の範囲である、請求項4~13のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項15】
343℃の温度及び2.16kgの重りを使用してASTM D1238に従って測定される場合の前記PSUのメルトフローレート(MFR)が2.0~20.0g/10分、好ましくは3.0~16.0g/10分、より好ましくは4.0~12.0g/10分及び更により好ましくは5.0~9.0g/10分の範囲である、請求項4~14のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項16】
ポリマー組成物中のPAESポリマーの量が、前記組成物中の前記PAEK及び前記PAESポリマーの総重量に基づいて1.0~45.0重量%、好ましくは30.0~40.0重量%の範囲である、請求項2~15のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項17】
前記タルクが天然水和ケイ酸マグネシウムである、請求項1~16のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項18】
前記タルクが0.5~10.0μmの間のD50を示し、D50が、沈降方法によって得られる粒子の等価球直径の(体積における)分布の中央値である、請求項1~17のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項19】
前記タルクが0.1μmより大きいD10を示し、D10が、沈降方法によって得られる粒子の等価球直径の(体積における)累積分布の10%のサイズとして定義される、請求項1~18のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項20】
前記タルクが15.0μmより小さいD90を示し、D90が、沈降方法によって得られる粒子の等価球直径の(体積における)累積分布の90%のサイズとして定義される、請求項1~18のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項21】
前記PAEKポリマーが、400℃で1,000s-1の剪断速度でASTM D3835に従って直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して測定されるそれらの溶融粘度で異なる2つのPEEK(PEEK1及びPEEK2)の組合せに相当する、請求項1~20のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項22】
PEEK1が、300Pasより高い粘度を示し、前記粘度が、400℃で1,000s-1の剪断速度でASTM D3835に従って直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して測定される、請求項21に記載のワイヤ。
【請求項23】
PEEK2が、200Pasより低い粘度を示し、前記粘度が、400℃で1,000s-1の剪断速度でASTM D3835に従って直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して測定される、請求項21又は22に記載のワイヤ。
【請求項24】
重量比PEEK1/PEEK2が50/50~70/30の間、更に60/40~70/30の間である、請求項21~23のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項25】
前記組成物の前記溶融粘度が最大でも550Pasであり、この粘度が、400℃で1,000s-1の剪断速度でASTM D3835に従って直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して測定される、請求項1~24のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項26】
前記組成物が、400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して測定されるとき250~500Pa.sの溶融粘度を有する、請求項1~25のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項27】
前記組成物の前記溶融粘度が300~500Pa.sの間であり、前記粘度が、直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定される、請求項1~26のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項28】
前記組成物の前記溶融粘度が300~400Pa.sの間であり、前記粘度が、直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定される、請求項1~27のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項29】
前記組成物の前記溶融粘度が300~360Pa.sの間であり、前記粘度が、直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定される、請求項1~28のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項30】
前記組成物が5.0~10.0の間の粘度の比rを示し、rが、100s-1での溶融粘度を10000s-1での溶融粘度で割った比として定義され、両方の粘度が、直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して400℃でASTM D3835に従って測定される、請求項1~29のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項31】
前記比rが少なくとも6.0である、請求項1~30のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項32】
前記比rが最大でも9.0又は最大でも8.0である、請求項1~30のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項33】
前記組成物が10.0~30.0重量%のタルクを含む、請求項1~32のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項34】
タルクの比率が少なくとも10.0重量%である、請求項1~33のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項35】
タルクの前記比率が10.0~26.0重量%である、請求項1~33のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項36】
タルクの前記比率が5.0~10.0重量%の間である、請求項1~33のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項37】
タルクの前記比率が5.5~9.5重量%の間である、請求項1~33のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項38】
タルクの前記比率が6.0~9.0重量%の間である、請求項1~33のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項39】
タルクの前記比率が6.3~8.5重量%の間である、請求項1~33のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項40】
前記組成物が、ASTM D638に従って測定される場合(厚さ3.2mmのタイプI試験片、50mm/分)、少なくとも10.0%、好ましくは少なくとも13.0%、より好ましくは少なくとも16.0%、及び更により好ましくは少なくとも20.0%の破断点引張伸びを示す、請求項1~39のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項41】
前記組成物が、ASTM D638に従って測定される場合(厚さ3.2mmのタイプI試験片、50mm/分)、最大でも30.0%の破断点引張伸びを示す、請求項1~40のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項42】
前記絶縁層が、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンポリマーと少なくとも1つのポリアリールエーテルスルホンポリマー、好ましくはポリフェニルスルホンポリマーを含む組成物を含む、請求項1~41のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項43】
マグネットワイヤである、請求項1~42のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項44】
導体が、前記組成物の適用前に予備処理され、表面処理が火炎処理、機械的研磨及び化学処理から選択される、請求項1~43のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項45】
表面処理が表面の変更を含む、請求項44に記載のワイヤ。
【請求項46】
少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンポリマーと前記組成物の総重量に対して6~40重量%のタルクとを含む組成物であって、400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定されるとき、少なくとも120Pasの溶融粘度を有する組成物を押出して前記絶縁層を形成する工程を含む、請求項1~45のいずれか一項に記載のワイヤを製造するための方法。
【請求項47】
前記絶縁層が押出コーティングによって前記導体上に直接に形成される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記絶縁層がテープの形態で押出され、前記方法が、導体を提供する工程と、前記絶縁層を前記導体の周りに巻き付ける工程と、加熱して前記絶縁層を前記導体に接着させる工程を更に含む、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
請求項1~45のいずれか一項に記載の少なくとも1つのワイヤを含む電気機械。
【請求項50】
請求項1~45のいずれか一項に記載のワイヤを組み込むステータ。
【請求項52】
インバータードライブモーター、モーター始動発電機、変圧器などの電気機械及びデバイスにおける請求項1~45のいずれか一項に記載のワイヤの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年2月22日に出願された米国仮特許出願第63/152009号及び2021年5月4日に出願された欧州特許出願第21171941.4号(その内容をあらゆる目的のために参照によって本明細書に完全に組み込む)の優先権を主張する。本出願とこのPCT出願との間に用語又は表現の明確さに影響を与えるいずれかの矛盾がある場合には、本出願のみが参照されるものとする。
【0002】
本発明は、熱可塑性絶縁体を含むワイヤ、特にマグネットワイヤに関する。特にそれは、全く接着剤層無しにポリアリールエーテルエーテルケトン組成物の熱可塑性絶縁体を含むワイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
マグネットワイヤは、例えばインバータードライブモーター、モーター始動発電機、変圧器等に存在しているので、電気車においてますます使用されている。典型的に、マグネットワイヤは、電気絶縁体を銅、アルミニウム、又は合金導体などの金属導体に適用することによって作られる。絶縁体は、電気的結合性(electrical integrity)を提供し、マグネットワイヤの短絡を防ぐ。従来の絶縁体はしばしば、連続層として適用されて炉内で焼成されるポリマーエナメルフィルムからなる。より高い耐電圧及び部分放電性能を達成して電気的性能の増加基準を満たすために、より多数の層を適用することと、したがって、エナメルを厚くすることとが典型的に必要である。しかしながら、焼成炉のそれぞれの連続通過はエナメルと導体との間の接着力を低下させ、エナメルの厚さを特定の範囲外に形成することは難しい。更に、エナメルの層化の増加は、溶媒ふくれ又はビーディング及び/又は可撓性の低下をもたらし得る。
【0004】
最近、押出された熱可塑性材料からマグネットワイヤ絶縁体を形成する試みがなされている。熱可塑性絶縁体は、無被覆導体又はエナメル絶縁体を有する導体のどちらかの上に押出される。例えば、米国特許第9,224,523号明細書には、ポリエーテルエーテルケトン(「PEEK」)がエナメル層上に押出されるマグネットワイヤが記載されている。同様に、米国特許第9,324,476号明細書には、PEEK又はポリアリールエーテルケトンのどちらかがエナメル層上に押出されるマグネットワイヤが記載されている。
【0005】
欧州特許第3642283号明細書(国際公開第2018/234116号パンフレット)には、ポリマー層とワニス層とを含む層状構造物が開示されている。請求の範囲の溶融粘度を有する組成物の開示はない。
【0006】
欧州特許第0182580号明細書には、ポリアリールエーテルケトン及びタルクの組成物を含むポリマー組成物が開示されている。組成物が導体と直接接触しているワイヤの開示はない。
【0007】
国際公開第2014/085083号パンフレットには、PEEKを有する絶縁層が開示されている。充填剤の比率の開示はない。
【0008】
欧州特許第2900470号明細書(国際公開第2014/052801号パンフレット)は、請求の範囲の粘度を全く開示しない。
【0009】
国際公開第2016/120592号パンフレットには絶縁層が開示されているが、請求項1の主題の開示はない。
【0010】
[発明が解決しようとする課題]
比較的高性能の熱可塑性ポリマーが使用されるとき、適切な中間層の接着性を提供するために熱可塑性絶縁体と導体又は下にあるエナメル層との間に接着剤層がしばしば必要とされる。したがって、改良された絶縁マグネットワイヤ、より詳しくは、全く接着剤層及び/又はエナメル層無しに熱可塑性絶縁体を含む改良されたマグネットワイヤの可能性がある。
【0011】
マグネットワイヤは、良い巻線性を確実にするために十分に可撓性である必要がある。
【0012】
更に、とりわけ、絶縁フィルムと導体との間に剥離が生じる可能性が高い曲げ及び伸長などの加工をワイヤが受ける時に、絶縁フィルムと導体との間の接着性が十分である必要がある。この剥離によって導体と絶縁フィルムとの間にボイドが生じる場合、電界がそこに集中して絶縁破壊が生じるか、又は応力がそこに集中して絶縁フィルムが容易に破断する傾向がある。
【0013】
電気車のモーターの出力におけるこの改良のために、生成した熱量が増加する傾向があり、モーターの温度が上昇する。したがって、接着性は高温で維持される必要がある。
【0014】
したがって、良い巻線性を強い接着性、特に、ワイヤの加工後の且つ高温での強い接着性と組み合わせるワイヤが必要とされている。
【0015】
四角形又は矩形形状のワイヤの場合、更に別の問題が生じ得る。確かに、隅及び端縁上の応力は、丸いワイヤの場合よりもこれらのワイヤ上でより大きくなり得る。また、全ての4つの側面及び隅上に絶縁体の同じ厚さを得ることが難しくなり得る。
【0016】
本発明に開示される組成物を使用して、マグネットワイヤがこれらの技術的問題を解決することを目指す。
【0017】
発明の簡単な概要
本発明は、添付した一組の請求項において説明される。したがって本発明の目的は請求項1~45において規定されるワイヤである。
【0018】
本発明の別の目的は、請求項46~48のいずれか一項において規定されるワイヤを製造するための方法である。
【0019】
本発明の別の目的は、請求項49及び50において規定される電気機械又はステータである。
【0020】
本発明の別の目的は、請求項51において規定される使用である。
【0021】
別の目的は、本発明の少なくとも1つのワイヤを含む電気機械である。
【0022】
これらの目的についてのより正確な内容及び詳細はこれから以下に提供される。
【発明の概要】
【0023】
本発明のワイヤは、
- 導体と、
- 導体の周りに形成され且つ導体と直接接触している少なくとも1つの絶縁層とを含み、ここで、絶縁層は、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンポリマーと組成物の総重量に対して6~40重量%のタルクとを含む組成物を含むか又はから製造され、且つ組成物は、400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定されるとき少なくとも120Pasの溶融粘度を有する。
【0024】
したがって、本発明の文脈において使用される絶縁層は、本発明において開示されるポリアリールエーテルケトンポリマーとタルクとを含む組成物を含むことができる。また、使用される絶縁層は、本発明において開示されるポリアリールエーテルケトンポリマーとタルクとを含む組成物から製造することができる。
【0025】
上で規定した組成物の使用は、導体と熱可塑性絶縁体層との間の接着剤、エナメル又は促進剤の必要をなくすことがわかった。
【0026】
絶縁層を導体の周りに直接に形成することができる。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の絶縁層を導体の周りに形成することができる。
【0027】
他の実施形態では、導体は表面処理を含むことができるが、但し、前記表面処理は接着剤熱可塑性又は熱硬化性ポリマーを全く含まない。表面処理はより詳しくは、火炎処理、機械的研磨(例えばショットブラスチング)及び化学処理(例えばエッチング)から選択される。絶縁層の適用前に表面を処理してその表面を変える。表面を処理して表面を化学的に改良し、及び/又は表面状態を変える。
【0028】
組成物を導体の周りに押出すことによって少なくとも1つの絶縁層を形成することができる。特定の実施形態では、組成物を導体の周りに直接に押出すことができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、ワイヤはマグネットワイヤである。
【0030】
組成物
組成物ポリアリールエーテルケトンポリマー/タルクに関する詳細及び実施形態がここで提供される。組成物の成分の比率は重量%で与えられ、組成物の総重量に基づいている。
【0031】
組成物は、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンポリマーと組成物の総重量に対して6.0~40.0重量%のタルクとを含む。組成物は、組成物の総重量に基づいて6~40重量%のタルクを含む。
【0032】
下記により詳細に記載されるように、組成物は、
- 少なくとも1つのPAEKポリマーと、
- 6.0~40.0重量%のタルクと、
- 任意選択的に少なくとも1つのPAESポリマーと、
- 任意選択的に少なくとも1つの核剤と、
- 任意選択的に少なくとも1つのプラスチック添加剤を含むか又はそれからなる。
【0033】
第1の実施形態
この第1の実施形態によると、タルクの比率は少なくとも10.0重量%である。組成物は好ましくは、組成物の総重量に対して少なくとも11重量%及び/又は最大でも30重量%、好ましくは最大でも28重量%のタルクを含む。
【0034】
タルクの比率は有利には少なくとも11.0重量%、更に少なくとも11.5重量%、更に少なくとも12.0重量%、更に少なくとも12.5重量%、更に少なくとも13.0重量%、更に少なくとも13.5重量%、更に少なくとも14.0重量%、更に少なくとも14.5重量%、更に少なくとも15.0重量%である。
【0035】
タルクの比率は有利には最大でも30.0重量%、更に最大でも29.5重量%、更に最大でも29.0重量%、更に最大でも28.5重量%、更に最大でも28.0重量%、更に最大でも27.5重量%、更に最大でも27.0重量%、更に最大でも26.5重量%、更に最大でも26.0重量%、更に最大でも25.5重量%、更に最大でも25.0重量%である。
【0036】
10.0~26.0重量%のタルクを含む組成物は、導体への良い接着性をもたらすことがわかった。
【0037】
第2の実施形態
この第2の実施形態によると、タルクの比率は5.0~10.0重量%の間である。
【0038】
タルクの比率は有利には少なくとも5.5重量%、更に少なくとも6.0重量%、更に少なくとも6.5重量%である。
【0039】
タルクの比率は有利には最大でも9.5重量%、更に最大でも9.0重量%、更に最大でも8.5重量%、更に最大でも8.0重量%、更に最大でも7.5重量%、更に最大でも7.0重量%である。
【0040】
5.5~9.5重量%、更に6.0~9.0重量%、更に6.3~8.5重量%のタルクを含む組成物は、特性の良い妥協点、特に導体への良い接着性及び良い破断点伸びを示すことがわかった。
【0041】
絶縁層の組成物は、ただ1つのPAEKポリマーを含むか又はから製造され得る。
【0042】
また、絶縁層の組成物は、2つ以上のPAEKポリマーを含むか又はから製造され得る。組成物中のPAEKポリマーは、ポリマー中の繰り返し単位(RPAEK)の性質及び比に関して異なり得るか、又はそれらは分子量、すなわち溶融粘度に関して異なり得る。
【0043】
また、組成物は、1つのPAEKポリマー及び異なった性質のポリマーを含むか又はから製造され得る。
【0044】
組成物の成分についてのより詳細な内容がここで提供される。
【0045】
PAEKポリマー
組成物は、以下に「PAEKポリマー」と称される、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンポリマーを含むか又はから製造される。本明細書で用いるところでは、「PAEKポリマー」という表現は、Ar-C(=O)-Ar’基(Ar及びAr’は、互いに等しいか又は異なり、芳香族基である)を有する繰り返し単位(RPAEK)少なくとも50重量%を含む任意のポリマーを意味する。
【0046】
いくつかの実施形態ではPAEKポリマーは、少なくとも60重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%又は少なくとも98重量%の繰り返し単位(RPAEK)を有する。繰り返し単位(RPAEK)は、以下の、式(J-A)~(J-Q):
【化1】
【化2】
【化3】
(式中、
- R’のそれぞれは、互いに等しく又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び4級アンモニウムからなる群から選択され、
- j’は、ゼロであるか、又は0~4の整数であり。j’は好ましくは0である)からなる群から選択される式によって表わすことができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAEK)のそれぞれのフェニレン部分は独立して、繰り返し単位においてR’とは異なる他の部分に対して1,2-、1,4-又は1,3-結合を有することができる。いくつかの実施形態では、フェニレン部分は1,3-又は1,4-結合を有する。更なる実施形態では、フェニレン部分は、1,4-結合を有する。
【0048】
更に、いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAEK)におけるj’は、出現ごとにゼロであり得る;すなわち、フェニレン部分は、ポリマーの主鎖における結合を可能にするもの以外の置換基を全く持たない。いくつかのそのような実施形態では、繰り返し単位(RPAEK)は、下式(J’-A)~(J’-O):
【化4】
【化5】
の群から選択される式によって表わすことができる。
【0049】
PAEKポリマーは、ホモポリマー、ランダム、交互又はブロックコポリマーであってよい。PAEKポリマーがコポリマーである場合、それは、(i)式(J-A)~(J-O)から選ばれる少なくとも2つの異なる式の繰り返し単位(RPAEK)、又は(ii)1つ若しくは複数の式(J-A)~(J-O)の繰り返し単位(RPAEK)及び繰り返し単位(RPAEK)とは異なる繰り返し単位(R*PAEK)を含有することができる。
【0050】
いくつかの実施形態によれば、繰り返し単位(RPAEK)は、式(J’-A)~(J’-D)の単位:
【化6】
からなる群から選択される。
【0051】
PAEKは、当該技術分野に公知の重縮合技術、とりわけ求核経路又は求電子経路によって調製される。より正確には、PAEKは、ジアリールエーテル結合が得られる芳香族求核置換によって調製することができる。重縮合は一般的に、KCOなどの塩基の補助によって300℃以上の、ジフェニルスルホンなどの溶媒中で行われる。より具体的にはまた、PAEKは、2つのヒドロキシ基を有する少なくとも1つの芳香族化合物と2つのハロゲン、例えばフッ素を有する少なくとも芳香族化合物との混合物の重縮合によって得ることができる。例えば、PEEKは一般的に、高温、例えば>300℃の不活性雰囲気下で少なくとも1つのアルカリ金属炭酸塩の存在下でジフェニルスルホン中でヒドロキノンを4,4’-ジフルオロベンゾフェノンと反応させることによって調製される。求核置換を必要とする重縮合についての詳細は、例えば米国特許第4,176,222号明細書に見出すことができる。
【0052】
より正確には、PAEKは、ジアリールケトン結合が得られるFriedel-Crafts求電子置換によって調製することができる。重縮合は一般的に、AlClなどのルイス酸の補助によって150℃未満の温度の溶媒中で行われる。Friedel-Crafts求電子置換を必要とする重縮合についての詳細は、例えば米国特許第4,841,013号明細書、米国特許第4,816,556号明細書、国際公開第2011/004164号パンフレット及び国際公開第2014/013202号パンフレットに見出すことができる。
【0053】
PEEK
組成物中のPAEKポリマーはより詳しくはポリエーテルエーテルケトン(「PEEK」)ポリマーであり得る。本明細書で用いるところでは、用語「PEEKポリマー」は、繰り返し単位の少なくとも50重量%が式J’-Aの繰り返し単位(RPAEK)である任意のポリマーを意味する。いくつかの実施形態では、PEEKポリマーの繰り返し単位の少なくとも75重量%、少なくとも85重量%、少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%が、式J’-Aの繰り返し単位である。いくつかの実施形態では、PEEKポリマーの99.99重量%が式J’-Aの繰り返し単位である。いくつかの実施形態では、PEEKポリマーの繰り返し単位の実質的に全てが式J’-Aの繰り返し単位である。
【0054】
PAEKポリマーは、ポリアリールエーテルケトンポリマーの製造のための当該技術分野で公知の任意の方法によって調製することができる。上記を参照のこと。更に、PEEKは、Solvay Specialty Polymers USA,LLCからKetaSpire(登録商標)ポリエーテルエーテルケトンとして市販されている。
【0055】
上記のとおり、組成物は、2つ以上のPAEKポリマーを含むか又はから製造され得る。例えば、PAEKポリマーは、400℃で1,000s-1の剪断速度でASTM D3835に従って直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して測定される場合のそれらの溶融粘度で異なる2つのPEEK(PEEK1及びPEEK2)の組合せに相当し得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、PEEK1及びPEEK2の繰り返し単位の少なくとも75重量%、少なくとも85重量%、少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%が式J’-Aの繰り返し単位である。いくつかの実施形態では、PEEK1及びPEEK2の99.99重量%が式J’-Aの繰り返し単位である。いくつかの実施形態では、実質的に全てのPEEK1及びPEEK2の繰り返し単位が式J’-Aのものである。
【0057】
PEEK1はより詳しくは、300Pasより高い(上記の条件における)粘度を示すことができる。PEEK1の粘度は350~600Pasであり得る。適したPEEK1の例は、380~500Pasの溶融粘度を有するKetaSpire(登録商標)KT-820高粘度銘柄PEEKである。
【0058】
PEEK2はより詳しくは、200Pasより低い(上記の条件における)粘度を示すことができる。PEEK2の粘度は100~200Pasの間であり得る。適したPEEK2の例は、120~180Pasの溶融粘度を有するKetaSpire(登録商標)KT-880高粘度銘柄PEEKである。
【0059】
重量比PEEK1/PEEK2は、50/50~70/30の間、更に60/40~70/30の間であり得る。
【0060】
組成物PAEK/PAES
代替実施形態では、組成物は、1つのPAEKポリマー及び異なった性質のポリマーを含むことができる。この実施形態の有利な態様では、組成物は、少なくとも1つのPAEKポリマー及び少なくとも1つのポリアリールエーテルスルホンポリマー、以下に「PAESポリマー」を含むことができる。「PAESポリマー」という表現は、繰り返し単位の少なくとも50モル%が式:
【化7】
(式中、
- 各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され;
- 各cは、互いに等しいか又は異なり、0、1、2、3、及び4、好ましくは0から独立して選択され;
- Tは、結合、スルホン基[-S(=O)2-]、及び基-C(R)(R)-(ここで、R及びRは、互いに等しいか又は異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムから独立して選択される)からなる群から選択される)の繰り返し単位(RPAES)である任意のポリマーを意味する。R及びRは好ましくはメチル基である。
【0061】
好ましくは、繰り返し単位(RPAES)の少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%は、式(B)の繰り返し単位である。
【0062】
PAESポリマーは、当該技術分野に公知の重縮合技術、とりわけ任意選択的に置換された4,4’-ジハロジフェニルスルホン、とりわけ任意選択的に置換された4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを必要とする求核経路によって調製される。
【0063】
いくつかの実施形態では、PAESはポリフェニルスルホン(PPSU)である。本明細書で用いるところでは、「ポリフェニルスルホン(PPSU)」は、繰り返し単位(RPAES)の50モル%超が、式:
【化8】
(式中、R及びdは、各場合において、それぞれ、R及びcについて上に記載された群から独立して選択される)の繰り返し単位である任意のポリマーを意味する。好ましくは、式(B-1)における各dは、ゼロである。
【0064】
好ましくは、繰り返し単位(RPAES)の少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%は、式(B-1)の繰り返し単位である。
【0065】
PPSUは公知の方法で調製することができ、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.からRADEL(登録商標)PPSUとして入手可能である。
【0066】
本発明において使用するために適したPPSUは、365℃の温度及び5.0kgの重りを使用してASTM D1238に従って測定される場合5.0~45.0g/10分、好ましくは10.0~40.0g/10分、より好ましくは15.0~35.0g/10分及び更により好ましくは20.0~30.0g/10分の範囲のメルトフローレート(MFR)を有することができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、PAESはポリエーテルスルホン(PES)である。本明細書で用いるところでは、「ポリエーテルスルホン(PES)」は、繰り返し単位(RPAES)の50モル%超が式:
【化9】
(式中、各R及びeは、各場合において、それぞれ、R及びcについて上に記載された群から独立して選択される)の繰り返し単位である任意のポリマーを意味する。好ましくは、式(B-2)中の各eはゼロである。
【0068】
好ましくは、繰り返し単位(RPAES)の少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%は、式(B-2)の繰り返し単位である。
【0069】
PESは、公知の方法で調製することができ、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.からVERADEL(登録商標)PESUとして入手可能である。
【0070】
本発明において使用するために適したPESは、380℃の温度及び2.16kgの重りを使用してASTM D1238に従って測定される場合10.0~50.0g/10分、好ましくは15.0~45.0g/10分、より好ましくは20.0~40.0g/10分及び更により好ましくは25.0~35.0g/10分の範囲のメルトフローレート(MFR)を有することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、PAESはポリスルホン(PSU)である。本明細書で用いるところでは、「ポリスルホン(PSU)」は、繰り返し単位(RPAES)の50モル%超が、式:
【化10】
(式中、各R及びfは、各場合において、それぞれ、R及びcについて上に記載された群から独立して選択される)の繰り返し単位である任意のポリマーを意味する。好ましくは、式(B-3)中の各fはゼロである。
【0072】
好ましくは、繰り返し単位(RPAES)の少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%は、式(B-3)の繰り返し単位である。
【0073】
PSUは、公知の方法によって調製することができ、またSolvay Specialty Polymers USA,L.L.C.からUDEL(登録商標)PSUとして入手可能である。
【0074】
好ましくは、PAESは、PSU、PPSU、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、PAESには、PSU及びPPSUが含まれる。最も好ましくは、PAESはPPSUである。
【0075】
本発明において使用するために適したPSUは、343℃の温度及び2.16kgの重りを使用してASTM D1238に従って測定される場合2.0~20.0g/10分、好ましくは3.0~16.0g/10分、より好ましくは4.0~12.0g/10分及び更により好ましくは5.0~9.0g/10分の範囲のメルトフローレート(MFR)を有することができる。
【0076】
本発明の文脈において、組成物はより詳しくは、
- 少なくとも1つのPAEKポリマーと、
- 6.0~40.0重量%のタルクと、
- 任意選択的に、PPSU、PSU、PES及びそれらの組合せの群から選択される少なくとも1つのPAESポリマーと、
- 任意選択的に少なくとも1つの核剤と、
- 任意選択的に少なくとも1つのプラスチック添加剤を含むか又はそれからなることができる。
【0077】
PAESポリマーはより詳しくは、PPSU、PSU及びそれらの組合せの群から選択され得る。
【0078】
存在しているとき、ポリマー組成物中のPAESの量は好ましくは、組成物中のPAEK及びPAESポリマーの総重量に基づいて1.0~45.0重量%、好ましくは30.0~40.0重量%の範囲である。
【0079】
本発明の文脈において、組成物はより詳しくは、
- 少なくとも1つのPAEKポリマーと、
- 6.0~40.0重量%のタルクと、
- 任意選択的に少なくとも1つのPPSUと、
- 任意選択的に少なくとも1つの核剤と、
- 任意選択的に少なくとも1つのプラスチック添加剤を含むか又はそれからなることができる。
存在しているとき、ポリマー組成物中のPPSUの量は好ましくは、組成物中のPAEK及びPPSUポリマーの総重量に基づいて1.0~45.0重量%、好ましくは30.0~40.0重量%の範囲である。
【0080】
本発明の文脈において、組成物はより詳しくは、
- 少なくとも1つのPAEKポリマーと、
- 6.0~40.0重量%のタルクと、
- 任意選択的に少なくとも1つのPSUと、
- 任意選択的に少なくとも1つの核剤と、
- 任意選択的に少なくとも1つのプラスチック添加剤を含むか又はそれからなることができる。
存在しているとき、ポリマー組成物中のPSUの量は好ましくは、組成物中のPAEK及びPSUポリマーの総重量に基づいて1.0~45.0重量%、好ましくは30.0~40.0重量%の範囲である。
【0081】
組成物は有利には、組成物中のPEEK及びPPSUの総重量に基づいて55.0~70.0重量%のPEEK及び45.0~30.0重量%のPPSUを含むことができる。
【0082】
また、PAEKとPAESとを含む組成物は、上に開示された2つのPEEKの組合せをベースとすることができる。この実施形態について換言すれば、PAEKポリマーは、400℃で1,000s-1の剪断速度でASTM D3835に従って直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して測定される場合のそれらの溶融粘度で異なる2つのPEEK(PEEK1及びPEEK2)の組合せに相当し得る。この組合せPEEK1/PEEK2に関連する全ての詳細及び実施形態はここでも当てはまる。
【0083】
タルク
用語「タルク」は、ケイ酸マグネシウム鉱物又は鉱物クロライト(ケイ酸アルミニウムマグネシウム)、又は任意選択的に他の鉱物、例えば、ドロマイト及び/又はマグネサイトと混在されたこの2つの混合物のどちらかを意味する。また、用語「タルク」は、タルコース(talcose)としても知られる、合成タルクを意味することができる。
【0084】
タルクは有利には、天然水和ケイ酸マグネシウムである。
【0085】
タルクの粒子は、任意の適した寸法及び/又はアスペクト比を有することができる。
【0086】
タルクは有利には、10.0μmより低い、更に7.0μmより低い、更に5.0μmより低いD50を示す。D50は、有利には0.5μmより高い、更に1.0μmより高い。D50は、0.5~10.0μmの間、好ましくは7.0μmの間、好ましくは0.5~5.0μmの間、好ましくは1.0~5.0μmの間であり得る。
【0087】
タルクは有利には0.1μmより大きい、更に0.2μmより大きいD10を示す。D10は0.1~1.0μmの間又は0.2~1.0μmの間であり得る。
【0088】
タルクは有利には、15.0μmより小さい、更に10.0μmより小さいD90を示す。D90は5.0~15.0μmの間又は0.2~1.0μmの間であり得る。
【0089】
D10、D50及びD90は、沈降方法によって得られる粒子の等価球直径の(体積における)分布から決定される。Micromeritics Instruments Corporation,Morcross,Georgia,USAによって供給される「Sedigraph III 5120」装置を使用することができる(より詳細にはwww.micromeritics.com:http://www.micromeritics.com/Repository/Files/SediGraph_5120_Brochure.pdf)。この技術及びセディグラフは、粒子が重力下で落下する速度を測定することによって分布を決定することを可能にする。この技術及びセディグラフは、X線の狭い平行ビームを使用して、液状媒体中の粒子濃度を直接に測定する。
【0090】
D10、D50及びD90は、統計学及び粒径分析の分野において用いられる通常の意味を有する。例えばhttps://www.horiba.com/fileadmin/uploads/Scientific/Documents/PSA/PSA Guidebook.pdf.D50(メジアン)は、50%での累積分布に対応するサイズ値と定義される。同様に、D10及びD90は、それぞれ10%及び90%での累積分布に対応するサイズとして定義される。
【0091】
好適にはタルクは以下の特性を示すことができる:
- 1.0~5.0μmの間のD50;及び
- 0.1μmより高いD10及び/又は15.0μmより低いD90。
【0092】
核剤
いくつかの実施形態では、組成物は任意選択的に少なくとも1つの核剤も含むことができる。核剤の比率は一般的に2.0重量%未満、更に1.5重量%未満である。核剤は、窒化ホウ素、黒鉛、グラフェン、マイカ及びそれらの組合せからなる群から選択される。グラフェンはまた、黒鉛ナノプレートリットとしても知られる。核剤は好ましくは窒化ホウ素である。
【0093】
核剤は、とりわけPAEK及びPAESをベースとした組成物について、溶融組成物が導体上に押し出されるときにその晶出を速めるのに役立つ。これは、コーティングにおけるより高レベルの結晶度によって-ワイヤ上のコーティングのより良好な全性能-例えば耐薬品性を確実にする。更に、核剤は、ワイヤコーティングの調製の処理量の増加を促進する。
【0094】
プラスチック添加剤
いくつかの実施形態では、組成物は、着色剤(例えば、染料及び/若しくは顔料)、紫外線安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、酸掃去剤、加工助剤、内部潤滑剤及び/若しくは外部潤滑剤、難燃剤、煙抑制剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、又はそれらの任意の組合せを含むが、それらに限定されない1つ若しくは複数の添加剤を任意選択的に含むことができる。
【0095】
1つ若しくは複数の他の添加剤が存在する場合、組成物は、組成物の総重量に対して、50重量%以下、20重量%以下、10重量%以下又は5重量%以下の1つ若しくは複数の他の添加剤を含むことができる。最も好ましくは、プラスチック添加剤の比率は5.0重量%未満である。
【0096】
組成物の粘度
この組成物の、0.5×3.175mmのタングステンカーバイドダイを使用して400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定される溶融粘度は、少なくとも120Pas、更に少なくとも130Pas、still少なくとも150Pas、更に少なくとも200Pas、好ましくは少なくとも250Pas、より好ましくは少なくとも270Pasである。また、この粘度は少なくとも300Pas、より好ましくは少なくとも320Pasであり得る。
【0097】
この組成物の、0.5×3.175mmのタングステンカーバイドダイを使用して400℃及び1000s-1でASTM D3835に従って測定される溶融粘度は有利には、最大でも600Pas、更に最大でも580Pas、好ましくは最大でも550Pas、より好ましくは最大でも520Pas、最も好ましくは最大でも500Pasであり得る。
【0098】
250~520Pa.s、好ましくは250~500Pa.sの間、好ましくは300~500Pa.sの間、又は300~400Pasの間又は更に好ましくは300~360Pasの間の範囲の溶融粘度を有する組成物は、驚くべきことに導体への良い接着性をもたらすことがわかった。
【0099】
10000s-1における粘度:この組成物の、0.5×3.175mmのタングステンカーバイドダイを使用して400℃及び10000s-1でASTM D3835に従って測定される溶融粘度は、少なくとも50Pas、更に少なくとも90Pas、更に少なくとも100Pasであり得る。この組成物の、0.5×3.175mmのタングステンカーバイドダイを使用して400℃及び10000s-1でASTM D3835に従って測定される溶融粘度は、最大でも130Pas、更に最大でも120Pasであり得る。
【0100】
100s-1における粘度:この組成物の、0.5×3.175mmのタングステンカーバイドダイを使用して400℃及び100s-1でASTM D3835に従って測定される溶融粘度は、少なくとも200Pas、更に少なくとも400Pasであり得る。この組成物の、0.5×3.175mmのタングステンカーバイドダイを使用して400℃及び100s-1でASTM D3835に従って測定される溶融粘度は、最大でも1000Pas、更に最大でも900Pasであり得る。
【0101】
粘度の比r:また、粘度の比rが5.0~10.0の間であるときに特性の良いバランスが得られることも発見されており、rは、400℃及び100s-1での溶融粘度を400℃及び10000s-1での溶融粘度で割った比として定義される。比rは好ましくは少なくとも6.0である。比rは好ましくは最大でも9.0又は最大でも8.0である。
【0102】
また、比rは好ましくは5.0~9.0の間、好ましくは6.0~8.0の間であり得る。
【0103】
破断点引張伸び
組成物は有利には、ASTM D638に従って測定される場合(厚さ3.2mmのタイプI試験片、50mm/分)、少なくとも10.0%、好ましくは少なくとも13.0%、より好ましくは少なくとも16.0%、及び更により好ましくは少なくとも20.0%の破断点引張伸びを示す。
【0104】
破断点引張伸びは通常最大でも30.0%、更に最大でも15.0%である。
【0105】
組成物の調製方法
組成物は、熱可塑性組成物又は化合物を調製するのに適した任意の公知の溶融混合プロセスによって製造することができる。この方法は、溶融混合装置で実施されるのが便利である。溶融混合によってポリマー組成物を調製する当業者に公知の任意の溶融混合装置を使用することができる。
【0106】
適した溶融混合装置は例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、一軸スクリュー押出機及び二軸スクリュー押出機からなるリストの中で選択されることができる。便利な溶融混合装置は一軸スクリュー押出機又は二軸スクリュー押出機である。便利な溶融混合装置は実施例において使用される装置であり得る。
【0107】
配合スクリューの設計(例えばねじのピッチ及び幅、クリアランス、長さ)並びに押出機の操作条件は好ましくは及び有利には、十分な熱及び機械的エネルギーを提供して組成物のポリマー成分を十分に溶融し且つ組成物の様々な成分の均質分布を得るように選択される。押出機の出口で、組成物のストランド押出物は、散水によるコンベヤー上での特定の冷却時間の後、例えば回転カッティングナイフによって細断することができる。組成物は、粉末の形態又はペレットの形態であり得る。後者の形態は、使用するのにより便利であるので好ましい。
【0108】
本発明の組成物の調製のために実施例における調製方法に有利に用いることができる。
【0109】
絶縁層
いくつかの実施形態では、絶縁層は、上に詳述された組成物からなる。
【0110】
絶縁層の厚さは典型的に200μm未満、更に180μm未満である。絶縁層の厚さは好ましくは5μm以上、より好ましくは15μmである。
【0111】
本発明に開示される組成物は、特性の良い妥協点を保持しながら厚さを増加させることを可能にする。厚さを300.0μmまで増加させることができる。したがって絶縁層の厚さは一般的に5.0~300.0μmの間であり得る。
【0112】
組成物は導体の十分な絶縁を提供する。組成物は結晶性であるので、それはまた、良い化学抵抗及び機械抵抗を提供する。
【0113】
電気導体
導体は、多種多様で適切な材料及び/又は材料の組合せから形成することができる。例えば、導体は、銅、アルミニウム、アニールした銅、無酸素銅、銀めっき銅、ニッケルめっき銅、銅被覆アルミニウム、銀、金、導電性合金、バイメタル、カーボンナノチューブ、又は任意の他の適した電気導電材料から形成することができる。典型的に、導体は、銅ベースの導体である。典型的に、導体は、本質的に銅からなる。
【0114】
更に、導体は、任意の適した寸法及び/又は断面形状を有するように形成することができる。導体は、円形又は丸い断面形状を有することができるか、又はそれは、四角形状、矩形形状、楕円又は卵形形状、又は任意の他の適した断面形状を有するように形成することができる。
【0115】
導体は、任意の適したゲージ、直径、高さ、幅、断面積等の任意の適した寸法を有することができる。
【0116】
ワイヤは、上で規定した少なくとも1つの絶縁層が、導体の表面と直接接触していることを条件に、2つ以上の絶縁層及び/又は付加的な層を含むことができる。本発明の絶縁層の組成物によって、全く接着剤層及び/又はエナメル無しに導体への絶縁層の良い接着性を得ることができることが見出された。したがって本発明のワイヤは、導体と組成物との間に接着剤及び/又はエナメル層を全く含まない。
【0117】
2つ以上の絶縁層が使用されるとき、それらは、同一又は異なる組成を有することができる。
【0118】
特定の実施形態では、1つ又は複数の絶縁層の他にワイヤは、1つ又は複数の適したラップ又はテープを備えることができる。例えばポリマーテープを導体及び絶縁層の周りに巻き付けることができる。他の実施形態では、ワイヤは、絶縁層の組成と異なる組成を有する押出材料の1つ又は複数の層を備えることができる。
【0119】
ワイヤを製造するための方法
本発明の更なる目的はワイヤを製造するための方法である。
【0120】
特定の実施形態では、導体は、絶縁層の適用と併せて形成することができる。他の実施形態では、所望の寸法を有する導体を予備成形するか又は外部ソースから得ることができる。次に、絶縁層を導体上に適用或いは他の方法で形成することができる。
【0121】
特定の実施形態では、絶縁層を押出し、押出された絶縁体を導体の周りに直接に形成する。公知の押出コーティング技術を用いて導体の周りに直接に絶縁層を形成することができる。押出された絶縁層を所望の任意の適した厚さを有するように形成することができる。押出された絶縁層の厚さは、例えば電気モーターにおいて、得られたワイヤの比較的密な充填を可能にするために十分に薄くなるように、しかし適した絶縁及び/又は機械抵抗を提供するために十分に厚くなるように選択される。実施例において使用される条件を銅に適用し、使用することができるが、任意の他の金属にも使用することができる。
【0122】
代替実施形態では、絶縁層をフィルム又はテープの形態で押出し、次いで導体に適用することができる。例えば、絶縁層を導体の周りに巻き付け、次いで熱処理に供して構造物を圧密することができる。
【0123】
他の実施形態では、1つ又は複数の適した表面改質処理を導体上で利用して絶縁層との接着性を促進することができる。例えば、導体の表面を粗化することができる。粗化は、エッチング(例えば化学エッチング若しくはレーザーエッチング)、機械研削、又はそれらの任意の組み合わせを含むことができる。代替の及び/又は追加の表面改質処理の例としては、プラズマ処理、紫外線(「UV」)処理、コロナ放電処理、及び/又はガス火炎処理が挙げられるがそれらに限定されない。表面処理は、導体のトポグラフィーを変えることができ、及び/又はその後に形成される絶縁層の接合を増強又は促進する官能基を導体の表面上に形成することができる。結果として、表面処理は、中間層の離層を低減することができる。
【0124】
ワイヤ
本発明のワイヤは、インバータードライブモーター、モーター始動発電機、変圧器等の多種多様な電気機械及びデバイスなど、多種多様な用途において使用することができる。
【0125】
また、電気機械は、電気モーター、同期発電機又は発電機であり得る。この電気機械は、ステータ及びローターを含む。ステータは、本発明のワイヤを有する金属コアを含む。本発明は、本発明のワイヤを導入するステータに及ぶ。
【0126】
ワイヤは、円形横断面を有することができる。
【0127】
また、ワイヤは、非円形横断面を有することができる。例えば、ワイヤは、四角形状横断面、矩形形状横断面、楕円形横断面又は卵形形状横断面を有することができる。また、ワイヤは、略四角形、略矩形、略楕円又は略卵形である横断面を有することができる。
【0128】
より詳しくは、ワイヤは、第1の外側に向いている表面と第2の外側に向いている表面とを備える横断面を示すことができ、ここで前記第1の表面及び第2の表面は好ましくは略平面であり、好ましくは、前記第1の表面及び第2の表面は反対方向に向いているが、互いに略平行に延在する。
【0129】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、ある用語が不明確になり得る程度にまで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0130】
本発明は、実施例を参照することにより以下でより詳細に記載されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例
【0131】
原材料:
400℃で1,000s-1の剪断速度でASTM D3835に従って直径0.5mm×長さ3.175mmの寸法を有するダイを有する細管レオメーターを使用して測定される場合420Pasの溶融粘度を有するKetaSpire(登録商標)KT-820高粘度銘柄PEEK。
【0132】
同じ上述の条件を使用して測定される場合150Pa-sの溶融粘度を有するKetaSpire(登録商標)KT-880低粘度銘柄PEEK。
【0133】
Radel(登録商標)R-5800NT:Solvay Specialty Polymersから入手可能なPPSU この銘柄は、365℃の温度及び5.0kg重りを用いてASTM D1238に従って測定される場合25g/10分のMFRを示す。
【0134】
タルク:Imerys Perfomance AdditivesからのMistron(登録商標)Vapor;約2μmの中央値粒径D50。D10=0.5μm及びD90=7.4μm.これらの値はセディグラフによって得られる。
【0135】
Hostanox P-EPQは、Clariant Corp.から供給される酸化防止剤である。
【0136】
実施例の組成物の調製
最初に、所望の組成比でブレンドされるポリマーとタルクの粉末を約20分間タンブルブレンドし、続いて48:1のL/D比を有する26mm Coperion(登録商標)共回転部分かみ合い2軸スクリュー押出機を使用して溶融配合することによって全ての組成物を調製した。押出機は12のバレル部を有し、バレル部2~12及びピンホールダイの350℃の温度分布設定を有する。押出物についてそれがダイを出たときに記録した溶融温度は、組成物全てについて370~390℃の範囲であった。押出機の供給は、樹脂成分を押出機供給ホッパーで重量測定によって計量したものであったが、所望の充填剤もバレル部7で表1に相当する比率で重量計量供給装置を使用して計量した。押出機は、35lb/時間(15.9kg/時間)の全処理量及び200rpmのスクリュー速度で操作し、押出機トルク読取り値は、組成物全ての配合中約75%に維持した。Hg中真空レベル>25を有する真空排出を配合中にバレル部10で適用して、化合物から水分及びあらゆる可能な残留揮発分をストリップ除去した。それぞれの実行からの押出物をストランドにし、ウォータートラフ中で冷却し、その後直径約2.7mm、長さ3.0mmのペレットにペレット化した。
【0137】
試験フィルムの調製
実施例の組成物の調製したペレットをOCS Optical Control Systems,GmbHからの一軸スクリュー押出機を使用して厚さ130~150μm及び幅8~9cmのフィルムに加工した。この押出機は、直径が20mm、L/D比が30の単段式ノンベントスクリューを有していた。押出機は、0.5mmのギャップ厚を有する125mm幅のフィルムダイを装備していた。押出機のバレルには4つの加熱部分があり、後方から前方に向かって、それぞれ約350℃、385℃、390℃、及び395℃の設定温度で操作された。フィルムダイは395℃の温度で設定された。第1及び第2のロールについてそれぞれ240及び245℃に設定された、2つのチルロールでフィルムを延伸し、形成した。フィルム及びコンパウンドの処理量は、約1m/分のフィルムの巻取速度によって画定され、押出機は、17rpmのスクリュー速度で操作された。
【0138】
ワイヤ試料の作製
試験のために選択配合物を銅ワイヤ上に押出した。Entwistle1.5インチ(3.8cm)押出機及びUnitekセンター固定クロスヘッドを使用してサイズAWG12の無被覆の丸い銅ワイヤをポリマーでコートした。ワイヤを清浄化し、次に、ワイヤ上に押出す前にZumbach誘導加熱器を使用して300~450℃の間の所望の温度に予備加熱した。0.082インチ(0.21cm)の先端部及び0.090インチ(0.23cm)のダイを有する圧力器具を使用した。12~37m/分でラインを動かし0.005インチ(0.12mm)の肉厚を目標とした。ワイヤを試験のために集める前に周囲空気中で冷却した。
【0139】
ワイヤ試料の絶縁層の厚さは125μmであった。
【0140】
試験
全ての組成物の評価において以下のASTM試験方法を採用した:
D638:引っ張り特性-強度、弾性率及び破断点伸び
D3835:400℃の温度で0.5×3.175mmのタングステンカーバイドダイを使用して細管レオメトリーによる溶融粘度の評価。
【0141】
射出成形は、実施例配合物によって行なって、機械的特性試験のための厚さ0.125インチのASTM引っ張り及び曲げ試験片を作製した。タイプI引っ張りASTM試験片及び5インチ×0.5インチ×0.125インチの曲げ試験片を、供給業者によって提供されたPEEK射出成形ガイドラインを使用して射出成形した。
【0142】
剥ぎ取り力試験
下記に示すように、コーティングをワイヤから除去するのに必要とされる剥ぎ取り力を測定するために特化された器具を設計し、機械加工した。試験のために3インチ(7.6cm)の長さのワイヤを使用した。1.5インチ(3.8cm)のワイヤ片をそのコーティング材料から手で剥ぎ取り、ドリルブッシングの直径0.083インチ(2.1mm)の穴に挿入した。Instron Model 5565に取り付けた器具にドリルブッシングを挿入し、ワイヤの非被覆部分を上のグリップで締め付けた。ワイヤを0.1インチ/分(2.5mm/分)の速度で引っ張り、グリップ上の負荷を測定し、観察された最大負荷を試料の剥ぎ取り力として記録した。結果を表1にまとめる。
【0143】
剥離強度試験
各組成物の押出フィルムを使用して剥離試験を行ない、金属基材への組成物の接着性を決定した。各試験片について、銅又はステンレス鋼のどちらかから構成される厚さ0.024インチ(0.61mm)の5×10cm金属シートを基材として使用した。試験前に金属シートをアセトンで清浄化して一切の残留グリース又は油を表面から除去した。試験されるポリマーフィルムを長い端縁が押出方向に垂直である3×1.5インチの矩形に切断した。短い端部の一方でポリマーフィルムの約0.5インチ(12.7mm)の上にアルミニウム箔を折り重ねた。溶融プレスの上側及び下側定盤を400℃に予備加熱した。各試験のために、ポリマーフィルムを金属基材上に置き、定盤間の間隔を約5cmに開け、予備加熱された厚さ3/16インチ(0.5cm)のステンレス鋼プレートに隣接した下側定盤上に金属/ポリマー組立体を直接に置いた。次に、上部及び下部定盤の間の間隙が3/16インチ(0.5cm)になるように定盤を閉じ、組立体は2分間所定の位置のままであった。次に、定盤を幅10cmの間隔に開け、組立体を1分間下側定盤上に放置した。プレス上に合計3分置いた後、組立体を厚さ3/16インチ(0.5cm)のステンレス鋼ホットプレートに移動させ、プレートを周囲温度の冷却プレスに移動させた。
【0144】
90°剥離試験は、上側アタッチメント上にジョーフェースグリップ、下側アタッチメント上に摺動プラットホームを有するInstron Model 5565で行われた。剥離試験前に各々の長い端縁に沿って金属シートに接着したフィルムに切り目をつけてエッジ効果を取り除き、金属基材から剥離される少なくとも0.5インチ(12.7mm)の幅を有するフィルム切片を残す。フィルムを0.1インチ/分(2.5mm/分)の速度で基材から剥離し、負荷を記録し、切り目をつけた試料幅について正規化した。
【0145】
結果を表1にまとめ、ここで記号は以下の意味を有する:
(---): 切り目をつける前に剥離した
(--+): 切り目をつける前に部分的に剥離した
(-++): 切り目をつけた時に剥離した
(+++): 裂けた
ここで、溶融粘度はPas単位で与えられる。
【0146】
【表1】
【0147】
平滑な金属基材への接着性は、PEEK又は低量のタルクだけを含有する組成物に対してタルクを添加することによって改良される。接着性は、金属基材と熱可塑性層との間の接着剤層の無い場合でも良いレベルである。
【0148】
剥離強度のデータは、タルクの同じ配合量で、ワイヤへの接着性は配合物の粘度が高くなると増加することを示す。
【0149】
表Iの結果によって示されるが、実施例のワイヤは、強い接着性を示す。同様に見ることができるように、実施例E7~E10のワイヤは、特性のバランスを示す。
【国際調査報告】