IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウェクスラー ブルース イーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】神経系機能障害の薬物療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240228BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 25/18 20060101ALN20240228BHJP
   A61P 25/24 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K9/00
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555158
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 US2022019003
(87)【国際公開番号】W WO2022192090
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/159,228
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523340719
【氏名又は名称】ウェクスラー ブルース イー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】ウェクスラー ブルース イー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076AA99
4C076BB32
4C076CC01
4C076FF70
4C084AA17
4C084MA67
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZA01
4C084ZA12
4C084ZA18
(57)【要約】
対象が電子ディスプレイ上のオーディオ/ビデオに基づくタスクを見る又はそれと対話することにより、薬物送達システム(DDS)による対象の脳の標的化された領域における神経疾患治療薬の放出が意図的に引き起こされる。標的領域内の特定のpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、脳細胞によって放出される特定の分子、又は他の生理的因子に基づいて神経疾患治療薬が放出されるようにDDSを調整する。対話式タスクにより、薬物が処方される対象である脳内の特定の病変領域において生理的因子が産生され、したがって、正常機能を破壊し、問題のある副作用が引き起こされ、標的に影響を及ぼすために最適な用量レベルが妨げられる恐れがある、疾病の影響を受けていない領域への薬物送達が限定される。対話式タスク及び関連する認知プローブからのフィードバックにより、治療の過程中に脳病変の程度又は主要な焦点が変化するのに従って対話式タスクを適合させること又は新しい薬理的作用剤を提案することもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象によるタスクを通じて脳において神経疾患薬物療法を限局的に活性化するための方法であって、
薬物送達システム(DDS)を対象に投与するステップであって、DDSが、神経疾患治療薬を保有しており、薬物送達システムが、所定のpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は脳細胞によって放出される特定の分子に遭遇した場合に神経疾患治療薬を放出するように構成されている、ステップ;
対象に対する標的化活性化タスクを選択するステップであって、標的化活性化タスクが、認知神経科学的タスク又は感覚運動脳活性化タスクを含む、ステップ;
標的化活性化タスクを対象に提示するステップであって、標的化活性化タスクが、対象の脳の所定の神経機能系の物理的位置においてpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度が変化するように選択される、ステップ;及び
標的化活性化タスクによってpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度の変化が引き起こされた物理的位置に基づいて、脳内の神経機能系の物理的位置においてDDSから神経疾患治療薬を放出させるステップ
を含む、方法。
【請求項2】
標的化活性化タスクが、感覚運動脳活性化タスクであり、標的化活性化タスクを提示するステップが、対象に四肢を動かすよう指示することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
動かすことが、一定のリズムで周期的に動かすことを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
指示することが、動かすことを開始又は停止させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
標的化活性化タスクが、認知神経科学的タスクであり、標的化活性化タスクを提示するステップが、
ビデオディスプレイ上に、対話式ゲーム又は認知課題を表示すること;
対象からの対話式入力を受け取ること;及び
対話式入力に応答してビデオディスプレイを更新すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ビデオディスプレイが、仮想現実ゴーグルを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
標的化活性化タスクが、認知神経科学的タスクであり、標的化活性化タスクを提示するステップが、
スピーカーで可聴ゲーム又は認知課題を再生すること;及び
対象からの対話式入力を受け取ること
を含み、可聴ゲーム又は認知課題が、対話式入力に応答して更新される、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
放出させるステップをセンサーによって測定するステップ;及び
測定するステップから得られた値に応答して、標的化活性化タスクの長さ又は強度を調整するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
対象の脳におけるpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度の変化に基づいて標的化活性化タスクを適合させるステップ;及び
所定の用量の神経疾患治療薬が放出されると推定されるときに、標的化活性化タスクを停止するステップ
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
標的化活性化タスクを提示する前に、薬物送達システムが対象の血液脳関門を通過するための所定の時間待機するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
薬物送達システムが、デオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ、細胞送達系、微小電気機械(MEM)に基づくデバイス、ポリマーマトリックス、及び遺伝子送達系からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
神経疾患治療薬を放出させるステップが、神経疾患治療薬の活性領域を解離させる又は露出させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
対象が、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ヒトが、中枢神経系疾患に罹患している、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
中枢神経系疾患が、精神疾患である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、その全体があらゆる目的に関して参照により本明細書に組み込まれる2021年3月10日出願の米国仮出願第63/159,228号の利益を主張するものである。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の下でなされた発明に対する権利に関する記載
該当せず
【0003】
本発明の実施形態は、一般には、対象の脳の標的化された神経機能系における化学的性質などを変更させる対象の意図的な認知又は運動刺激を使用して、神経疾患治療薬(neurological drug)の薬物送達システム(DDS)の放出を制御することに関する。
【背景技術】
【0004】
統合失調症及びうつ病は、世界中で何百万もの人に影響を及ぼしている慢性の消耗性中枢神経系(CNS)障害である。統合失調症が20代及び30代で発症し、生涯にわたって持続すると、個人、家族及び集団社会的な医療費及び生産性の喪失は米国だけで毎年600億ドルになると推定される。
現在利用可能な薬物療法(薬物)は、部分的には有効であるが、薬物の副作用によって使用及び効果が著しく限定されている。副作用は、統合失調症を有する人の平均余命が15年短くなることの主な理由であり、また、統合失調症に罹患している人の生活の質にも負の影響を及ぼす。さらに、いくつかの研究で、通例よりも高い用量を用いれば症状の低減を増大させることができるが、付随する副作用によってそのような用量が大多数の対象に対して安全でなく許容されないものになることが示されている。
副作用により、最大投薬量が限定されるだけでなく、そもそも候補薬物の承認が妨げられる恐れがある。例えば、副作用により、安全性の問題が生じ、それにより、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)(FDA)の認可を獲得することができなくなる。或いは、副作用により、投薬量が治療量以下のレベルに限定される恐れがある。すなわち、副作用により、そのような薬物が安全でない又は効果がないものになる。CNS障害についての前臨床試験において開発された候補薬物のうち、93%が臨床試験に失敗する。
これらの限定の全ての主な原因は、薬剤が、治療作用が必要な場所に特異的に送達されるのではなく、脳全体を通る血液を通じて送達されるという事実である。したがって、薬物である化学物質が、意図された領域よりも多くの領域と接触する。或いは、薬物である化学物質が標的化された領域に十分な量で投薬されない。
本質的に、統合失調症に対して現在使用されている薬剤は全て、黒質におけるドーパミンD2受容体の遮断によって機能するものである。黒質は、中脳の大脳基底核構造のひとつであり、とりわけ、報酬の情報を提供する。
図1A~1Bは、先行技術の抗精神病薬による、黒質におけるD2受容体の遮断を示す陽電子放出断層撮影法(PET)画像である。各図には、統合失調症を有する対象の黒質におけるD2受容体への放射性標識の取り込みのレベル102A~Bが示されている。図1Aは、治療前の取り込みのレベル102Aを示し、図1Bは、受容体を占有し、ドーパミンの取り込みを妨げる抗精神病薬を用いた治療(すなわち、ドーパミン遮断)後の取り込みの減少に対応するレベル102Bを示す。
黒質の連合細区分における、薬物によるD2受容体の遮断によって引き起こされる取り込みの減少は、抗精神病薬の主要な治療的利益である。しかし、同様に薬物による影響を受ける黒質の他の細区分が存在する。
【0005】
黒質には機能的に別個の細区分が3つ存在する:運動(MSN)、連合(ASN)及び報酬/動機づけ(RMSN)。
中脳ドーパミンニューロンは、霊長類における線条体へのドーパミン投射の供給源であり、これらの構造は、齧歯類などの他の動物と共有されている。霊長類では、辺縁系は黒質の背側部を起源とする。齧歯類では、辺縁系は、黒質に対して内側に位置する腹側被蓋野を起源とする。中脳から連合線条体及び感覚運動線条体への投射は背内側対腹外側のトポロジーに従う。
薬物を投与すると、上記の全ての領域内を移動する。副作用は少なくとも2つの原因で生じる:1)D2受容体は、黒質の一部を含めた治療作用が必要な部位と無関係に脳の多くの部分に位置し、また、薬物による影響を受けるこれらの他の領域の機能と無関係である;及び2)利用可能なD2受容体遮断薬剤は、脳全体にわたる他の神経修飾物質の受容体にも影響を及ぼし、これらの影響によってさらなる望ましくない副作用が生じる。
統合失調症に対する薬剤の副作用としては、特定の薬剤に応じて対象の35%に至るまでに影響を及ぼす異常運動(錐体外路作用と称される)が挙げられ、こわばり、パーキンソン様動作緩慢及び硬直、手の振戦、及び口、頭部又は腕の不随意反復運動が含まれる。反復運動は、薬剤を止めた後にも持続する可能性がある。この後遺症は、遅発性ジスキネジアとして文献に記載されている。遅発性ジスキネジアは、ASN内の治療作用領域に隣接する運動制御に関連する黒質(MSN)区分におけるD2遮断によって引き起こされる。
【0006】
他の副作用として内分泌副作用が挙げられ、これは対象の20~40%において生じ、下垂体におけるD2遮断によって引き起こされるプロラクチンレベルの上昇に関連する。副作用症状としては、男性における乳房肥大及び性機能不全、並びに女性における乳房痛及び乳汁分泌が挙げられる。
寿命短縮の主要な因子は体重増加及び代謝に関する副作用である。これらの薬剤で対象が50ポンド以上増量することは珍しくない。これは、一部において、ASN内の治療作用部位に隣接する領域である、報酬及び欲求行動に関連する黒質の別の区分におけるD2遮断に起因する。体重増加はまた、臨床的有用性には関連しないと考えられるヒスタミンHi及びセロトニン5-HT2C受容体に対する統合失調症治療薬の影響にも起因する。
副作用には、側頭葉及び島皮質、並びに報酬及び動機づけに関連する黒質の一部におけるD2遮断に関連する、不快気分、並びに認知機能、感情調節、身体機能及び社会的統合の低減を含めた「主観的ウエルビーイングが低い」という主観的体験の複合という二次的な負の症状も伴い得る。
鎮静作用は生活の質に関して最も問題のある副作用の1つであり、これもヒスタミンH1拮抗作用に関連付けられる。
認知機能不全、ドライアイ及びドライマウス、尿閉、並びに便秘は全て、ムスカリン受容体の遮断による抗コリン効果に起因するものである。
この神経疾患治療薬の副作用及びそれらの生理的原因という背景から、統合失調症及び他の中枢神経系障害に対する、脳における、より標的化された治療が当技術分野において必要とされていることが明らかである。
【発明の概要】
【0007】
一般に、対象の脳において局所的な生理的因子が存在すると薬物を放出する薬物送達システム(DDS)に神経疾患治療薬を付着させる。局所的な生理的因子は、対象が所定のタスク又は課題を実施することで対象によって故意に、意図的に創出される。タスク又は課題は、オーディオ若しくはビデオディスプレイを通じて、又は没入型仮想現実(VR)環境で提示される。タスク又は課題には、テレビゲーム、パズル、組合せ若しくは対比問題、又は他の課題を含めることができる。脳における局所的な生理的因子には、pH、乳酸レベル、血流、温度の変化、局所的な磁場、及び他のそのような因子の変化を含めることができる。わずかではあるが、これらの因子は、対象がタスクを実施することによって測定可能な程度に影響を受けるものであり、DDSによる薬物の放出を誘発するために使用される。
【0008】
各個体に対する神経系(neurosystem)機能障害及び薬物療法の標的を同定するために、治療前、治療中、又は治療後に、コンピュータモニタリング及び介入システムにより、個々の対象における神経系(neurosystem)機能障害を連続的に且つ非侵襲的に評定することができる。さらに、薬物療法の標的、神経系(neural system)標的化の感度又は特異性を高めるためのDDSの放出設定点、及び薬物療法剤を改変するために、介入システムによる神経系(neurosystem)機能の評定を治療過程全体を通して継続することができる。局所的な神経系(neural system)活性に関連する生理的変化に対して感受性である、DDSによって送達される薬物は、限局的な薬物放出がもたらされるように設計された外部からの神経活性化を休止した後も限局的な薬理効果の継続を可能にするために、それ自体が持続放出構造であってもよい。
【0009】
本発明の一部の実施形態は、神経疾患薬物療法(neurological pharmacotherapy)を対象による標的化活性化タスクによって活性化する方法であって、薬物送達システム(DDS)を対象に投与するステップであって、DDSが、神経疾患治療薬を保有しており、薬物送達システムが、所定のpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は脳細胞によって放出される特定の分子に遭遇した場合に神経疾患治療薬を放出するように構成されている、ステップ、標的化活性化タスクを対象に提示するステップであって、標的化活性化タスクが、対象の脳の所定の神経機能系の物理的位置におけるpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度が変化するように選択される、ステップ、及び、標的化活性化タスクによって引き起こされたpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度の変化に基づいて、脳内の神経機能系の物理的位置においてDDSから神経疾患治療薬を放出させるステップを含む、方法に関する。
【0010】
標的化活性化機能は、感覚運動脳活性化タスクであり得、標的化活性化タスクを提示するステップは、対象に、四肢(appendage)を動かすよう指示することを含み得る。動かすことは、一定のリズムで周期的に動かすことを含み得る。指示することは、動かすことを開始又は停止させることを含み得る。
標的化活性化機能は、認知神経科学的タスクであり得、標的化活性化タスクを提示するステップは、ビデオディスプレイ上に対話式ゲーム又は課題を表示すること、及び、対象からの対話式入力を受け取ること及び対話式入力に応答してビデオディスプレイを更新することを含み得る。ビデオディスプレイは、仮想現実ゴーグルを含み得る。
標的化活性化タスクを提示するステップは、スピーカーで可聴ゲーム又は課題を再生すること、及び、対象からの対話式入力を受け取ること、及び、対話式入力に応答して可聴ゲーム又は課題を更新することを含み得る。
方法は、放出させるステップをセンサーによって測定するステップ、及び、測定するステップによって得られた値に応答して、標的化活性化タスクの長さ又は強度を調整するステップを含み得る。方法は、対象の脳におけるpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度の変化に基づいて標的化活性化タスクを適合させるステップ、及び、所定の用量の神経疾患治療薬が放出されると推定されたら、標的化活性化タスクを停止するステップを含み得る。
方法は、標的化活性化タスクを提示する前に、薬物送達システムが対象の血液脳関門を通過するための所定の時間待機するステップを含み得る。
【0011】
薬物送達システムは、デオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ、細胞送達系、微小電気機械(MEM)に基づくデバイス、ポリマーマトリックス、及び遺伝子送達系からなる群から選択することができる。薬物を放出するステップは、神経疾患治療薬の活性領域を解離させる又は露出させることを含み得る。
対象は、ヒト又は他の哺乳動物であり得る。ヒトは、中枢神経系疾患に罹患しているヒトであり得る。中枢神経系疾患は精神疾患であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】統合失調症を有する対象の、先行技術の抗精神病薬を用いた治療前の陽電子放出断層撮影法(PET)画像である。
図1B図1Aの対象の、抗精神病薬を用いた治療後のPET画像である。
図2A】ある実施形態によるデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図2B】ある実施形態によるデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図2C】ある実施形態によるデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図2D】ある実施形態によるデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図2E】ある実施形態によるデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図2F】ある実施形態によるデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図3A】ある実施形態による追加的なデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図3B】ある実施形態による追加的なデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図3C】ある実施形態による追加的なデオキシリボ核酸(DNA)ナノケージ薬物担体を例示する図である。
図4】ある実施形態によるユニバーサルpH感受性DNAナノケージ薬物送達システムを例示する図である。
図5】ある実施形態による担体プロドラッグ薬物送達システムを例示する図である。
図6】ある実施形態によるビデオディスプレイを用いたデジタル神経療法行為を実施している対象を例示する図である。
図7】ある実施形態によるビデオディスプレイを用いた標的化活性化タスクを実施している対象の脳における効果を例示する図である。
図8】ある実施形態による標的化活性化タスクを実施している対象の脳における効果を例示する図である。
図9】ある実施形態による別の標的化活性化タスクを実施している対象の脳における効果を例示する図である。
図10】ある実施形態による対象によるタスクを通じた神経疾患薬物療法の脳における限局的な活性化のためのプロセスのフローチャートを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
薬物による治療のための多くの重要な標的は体内に存在し、大多数の薬理的作用剤は、経口摂取後に、又は静脈内に導入されることによって、血液を通じて所望の作用部位に送達される。これにより、血液が循環し、薬物が体の全ての部分に運搬され、そのうちの多く又は大多数は病変部位ではないという点で、問題が生じる。これらの他の部分は、薬物の影響を受け、それにより、薬物の最終的な利益を限定する副作用が生じる恐れがあり、そもそも薬物の承認を妨げる安全性の懸念が示される恐れがあり、又、薬物の最大用量が標的病変に影響を及ぼすには低すぎるレベルに限定される恐れがある。
【0014】
これらの問題に対処するために、薬物を不活性形態で血液中を運搬し、次いで、病変の部位においていくつかの特性に応答して薬物を活性化する、薬物送達システムが開発された。例えば、薬物を、標的化された病変の局所的な環境において生理的因子に応答して多孔質になり、薬物を放出する「容器」に入れて輸送することができる。或いは、薬物を不活性にするが、局所的な因子に応答して切断される別の分子を薬物と生化学的に結合させることができる。局所的な因子は、一般には、例えば、pH、血流、代謝副産物、温度、磁場、及び/又は他の因子など、代謝活性に関連するものである。
薬物送達システムは、抗がん薬を送達するために開拓されたものである。がん腫瘍自体が、例えば、周囲の健康な組織とは異なる温度など、別個の代謝的特色を有する。したがって、腫瘍の温度がより高いことにより、薬物放出を誘発することができる。いくつかの他の場合では、薬物を放出させるために、外部光を当てて皮膚を通じて体内の位置に到達させて、薬物送達システムの感光性機構を誘発する。
「薬物送達システム」(DDS)は、医薬化合物を対象に投与するために工学的に作製されたシステム、又は当技術分野で公知のシステムを包含する。この用語は、パッチ及びマイクロニードルなどの肉眼的デバイスを包含し、ナノスケールの粒子(例えば、DNAナノケージ)、細菌、ウイルス、又は他の顕微鏡レベルの担体も包含する。
【0015】
顕微鏡レベルの「薬物送達システム」(DDS)としては、リポソーム製の工学的に作製された担体、プロリポソーム、マイクロスフェア、ゲル、プロドラッグ、シクロデキストリン、又は薬物化合物に付着させることができ、体の特定の部分を標的とすることができる他の材料、又は当技術分野で公知のものが挙げられる。薬物送達システムは、標的に存在する状態になったら、pH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、及び/又は他の因子などの局所的な因子に応答して、カーゴ薬物を遮蔽のない状態にする、露出させる、又は他のやり方で放出するように構成される。
カーゴ薬物を薬物送達システムから「放出」させることには、薬物全体若しくはその一部を遮蔽のない状態にすること、薬物を解き放つこと、薬物を遊離させること、薬物を活性化すること、又は、他のやり方で対象の体内で薬物送達システムにより薬物が機能を果たすことが妨げられている状態から薬物がその意図された治療的機能を果たすことを可能にすること、又は当技術分野で公知のものが含まれる。例えば、薬物送達システムは、薬物を封入し、次いで、標的化された病変の局所的な環境において、生理的因子に応答して、多孔質になり、薬物を放出することができるものである。或いは、薬物を不活性にするが、局所的な因子に応答して切断される薬物送達システムの別の分子を薬物と生化学的に結合させることができる。
【0016】
DDSは、合わせて世界的な疾患負荷の主要な原因を構成する精神疾患及び他の中枢神経系(CNS)疾患を治療するためには以前は使用されていないと思われる。広く必要とされているにもかかわらずこの手法をCNSの障害に適用することができないこと、及び現行の治療の効果は著しく限定されたものであることから、薬物による影響を与えるための所望の部位において薬物を活性化するための生理的又は局所的なトリガーをもたらす方法が存在しないことが示される。脳は、流体的に体の他の部分からいくらか隔離されており、当然のことながら十分に保護されており、感受性が高く、一般的な外科ツールを用いて探索することが難しい。
【0017】
しかし、疾病によって損なわれている標的化された神経系(neural system)におけるニューロンの活動及び機能を増大させる、オーディオ/視覚表示を通じて提示されるデジタルで提供される神経療法行為により、治療的に活性な薬物のDDSによる放出を十分に誘発する局所的な生理的変化をもたらすことができる。これにより、個々の対象における特定の機能障害を有する神経系に対して高度に焦点を当てた方向付けられた薬物送達が可能になり、効果が増大し、副作用が低減する。
例えば、神経療法行為により、D2アンタゴニストを連合黒質に選択的に送達して、薬物効果の利益を最大にし、副作用を最小限にすることが可能であり得る。
この手法は、精神障害及び他のCNS障害の薬物による治療の増強を妨げている可能性がある複数の限定、例えば、以下の限定に対処するものである。
多くの精神障害及びCNS障害に対する薬剤は、シナプスを介したニューロンシグナル伝達を遮断又は増強することによって機能する。これは、例えば、特定のシナプス後受容体への接近を遮断すること、シナプス後受容体を直接活性化すること、又は内因的に放出される神経伝達物質の分解を妨げてそれらの濃度を高め、シナプス後受容体に対する影響を増大させることによってなされ得る。問題は、同じ個々の神経伝達物質が脳全体を通して機能することである。結果として、血流を介して脳全体に送達された薬物が多くの神経機能系の機能に影響を及ぼし、多くの著しい副作用が生じる。
【0018】
さらに、精神疾病及び他の疾病におけるCNS機能障害には複数の神経伝達物質及びモジュレーターの変更が関連する。統合失調症及びうつ病のような障害に対する第1の薬剤の作用の理論は、単一の神経伝達物質の障害に焦点を当てたものであり、第2世代及び第3世代の薬剤は、より有効であることが証明されているが、これらは、一般には、複数の神経伝達物質及びモジュレーターに焦点を当てたものである。これにより、特に、部分的に又は非応答性の対象に対して高用量が試みられる場合に、より広範な脳への影響及び付随する副作用の潜在性が増大する。
【0019】
さらに、現行の臨床的な診断カテゴリーには、異なる脳病変、及び神経系(neurosystem)機能障害の異なる混合を有する個体が含まれる。脳イメージング及び遺伝的リスク研究により、同じ診断を有する個体が、全く異なる基礎をなす脳機能障害を有する場合があること、及び、異なる診断を有する対象が特定の基礎をなす脳機能障害を共有する場合があることが確立されている。これらの理由で、有効性を高めるためには、CNS疾患に対して、診断によってもたらされるあらゆる手引きをはるかに超える個別化を行うべきであるという認識が高まっている。したがって、米国National Institutes of Health(NIH)の研究理論及び優先事項が、診断カテゴリー全てにわたって機能の側面に焦点を当てるように変化している。しかし、この展望を個々の対象に対する治療に変換する実用的なデバイス又はシステムは存在しない。
薬物送達システムを、対象が自身の脳の神経機能領域を刺激するためのタスクを実施することと併せて使用する、組合せ手法により、精神障害及びCNS障害に対する治療の特異性を2次元で劇的に増大させる具体的な手順がもたらされる。第1に、組合せ手法は、脳全体を薬物効果に曝露させるのではなく、特定の疾患関連脳機能系の標的化薬物療法の範囲で役立つ。第2に、組合せ手法により、各対象に特異的な神経系機能障害の個別化治療が可能になる。すなわち、対象がどのように診断されるか、並びにその対象がリアルタイムでどのように反応するかに基づいて、個別化された視聴覚提示を提供することができる。
【0020】
システムは、特定の個体における特定の疾患関連脳機能系を決定することを含み得る。この決定には、各個体における機能障害を同定するため、及び治療過程を通じた機能障害の改善又はシフトをモニタリングするために、感覚検出及び情報処理プローブ試験を使用することができる。機能障害に効率的に焦点を当て、それをさらに特定するために、視覚及び聴覚プローブをデジタルで提示し、迅速に適合させることができる。一部の場合では、嗅覚、味覚、又は体性感覚プローブを使用する。
システムにより、特定の疾患関連脳機能系への薬物療法の送達を補助することができる。システムには、がん及び他の体の障害に対する標的化薬物療法の提供において有効であることがすでに証明されているが、精神障害又はCNS障害に対しては以前に使用されていない既存のDDS又はそれが改変されたものを使用することができる。新規のDDSを開発することも可能である。同定された一連の機能障害に基づいて、システムにより、機能障害を有する系におけるニューロン発火の増加を引き付け、誘導するために、カスタム標的化活性化タスク、例えば、一連の視覚的に提示されるデジタル認知ゲームを創出することができる。標的化された局所的なニューロン発火の増加に関連する局所的な生理的変化、例えば、付随する代謝活性及びエネルギーの消費により、DDSの活性化が誘発される。
図2A~4に、ある実施形態によるいくつかのDNAナノケージ薬物担体薬物送達システム(DDS)210a、210b、210c、210d、210e、210f、310a、310b、310c、及び410を例示する。DDSを構築する方法及び材料はいくつか存在する。例として、DNAナノケージにより、血液脳関門を通過し、また、種々の局所的な生理学に基づいたリガンド、生体分子、温度の変化、乳酸レベルの変化、血流の変化、磁場の変化、又はpHの変化によって、開口し、薬物を放出する又は薬物の活性領域を露出するように誘発することができる、高度に多用途の担体がもたらされる。
【0021】
pH感受性システムが特に興味深いものであり、これは、pH感受性システムが、ナノケージ上の水素結合基の化学的性質によって調整される放出の種々の設定点を用いて構築することができるものだからである。代替のDDSを、例えば、メソポーラスシリカナノ粒子を使用し、異なるpHレベルでの放出設定点を用いて構築することができる。異なる数のポリ(アリルアミン塩酸塩)及びポリ(スチレンスルホン酸塩)の層をメソポーラスシリカナノ粒子に適用することにより、pH感受性放出点を調整することができる。さらに、図4のDDS 410で例示される通り、エチレンジアミン(EN)をpH応答性ナノケージに使用することができる。
【0022】
例示的な実施形態では、DDSにより、統合失調症治療剤、例えば、ハロペリドールを、不活性形態で全身及び脳の血流を通じて運搬することができる。所望の治療作用の部位に存在するトリガーに応答して、DDSから薬物が活性形態で放出される。
図5に、ある実施形態による担体プロドラッグDDS 510を例示する。DDS 510は、神経疾患治療薬512、リンカー513、及び担体514を含む。担体514が神経疾患治療薬512と連結していると、神経疾患治療薬512は不活性である。しかし、担体514は、例えば、酵素又は他の生体分子によって神経疾患治療薬512から切断され得、それにより、神経疾患治療薬512が活性化される。
図2A~5にはDNAナノケージ及び担体プロドラッグが記載されているが、DDSの他の例として、細胞送達系、微小電気機械(MEM)に基づくデバイス、ポリマーマトリックス、及び遺伝子送達系も含まれ得る。
図6に、ある実施形態による、オーディオ/ビデオ(A/V)ディスプレイを用いてデジタル神経療法行為を実施している対象602を例示する。標的化活性化タスク604により、標的化された神経機能系におけるDDS 610からの薬物放出が誘発される。例えば、標的化活性化タスク604は、認知神経科学的タスク又は感覚運動脳活性化タスクであり得る。認知神経科学的タスクは、対象602が対話する対話式ゲーム又は認知課題のディスプレイを伴い得る。対象602との対話に基づいてディスプレイを更新することができる。一部の場合では、ディスプレイはコンピュータ又は仮想現実ゴーグルで構成されるものであってよい。認知神経科学的タスクの別の例には、可聴ゲーム又は認知課題を再生するスピーカーが伴い得る。対象602は、スピーカーと対話して、対話式入力を提供することができ、次いでそれにより可聴ゲーム又は認知課題が更新される。感覚運動脳活性化タスクは、対象602に四肢を動かすように指示することを伴い得る。動かすことは、一定のリズムで周期的に動かすこと、例えば、指定された頻度(例えば、1秒に1回)で周期的に手を軽くたたくことを伴い得る。標的化活性化タスク604により、対象602に動かすことの開始及び/又は停止を指定することができる。標的化活性化タスク604を対象602に提示する前に、DDS 610が対象の血液脳関門602を通過するための所定の時間待機することができる。
【0023】
例として、行動順応性が必要とされるタスクの間、黒質の連合細区分であるASNが強力に活性化される。ASNは、動物試験及びヒト試験のどちらにおいても結果の価値低減及び連続的な逆転学習に対して感受性である、目的指向行動に必要な共通領域として唯一知られるものであるので、DDSを用いてターゲティングされる神経疾患治療薬に関して特によく試験することができる。統合失調症を有する対象ではこれらの機能が損なわれている。
【0024】
統合失調症を治療するためのD2アンタゴニスト薬物の標的化送達の場合では、対象602によって実施される標的化活性化タスク604には、少なくとも毎日の「薬物活性化セッション」においてユーザーインタフェース(UI)アプリケーションモジュールに提示される結果の価値低減及び連続的な逆転学習タスクが伴い得る。UIアプリケーションを用いた各薬物活性化セッションは、30分間のタスク実施を含み得、実施成績を特定の範囲、例えば、75%~90%の正確さに維持するために、実施成績の正確さのモニタリングに基づいて、タスクの難しさが連続的に調整される。特定の範囲は、ASNが引き付けられ、刺激されることが確実になるように選択することができる。所望の実施成績レベルを維持するために、1つ又は複数のタスクパラメータを調整して難しさを個別化することができる。これらのパラメータには、例えば、高価値刺激と低価値刺激の類似性の程度(例えば、2種類のクッキー対クッキーとリンゴ)、高価値刺激に対する低価値刺激の固有の魅力(例えば、アイスクリーム対リンゴ)、刺激への曝露の持続時間及び連続的な刺激間の時間、逆転させる対照物(foil)のパーセンテージ、学習させる関連性又は刺激構成成分の組合せを逆転させる頻度、並びに手掛かり及び戦略助言の提供が含まれ得る。
【0025】
UIアプリケーションは、汎用又は他のコンピュータによって実行されるソフトウェア命令を含み得、ソフトウェアは、揮発性又は非揮発性メモリに記憶されているか、又はコンピュータネットワークを通じてローディングされる。ソフトウェアは、Microsoft Windows、Apple macOS、Google Chrome、又は他のオペレーティングシステムによってサポートされるものなどの対話式の要素を含み得る。これらは完全にブラウザベースのものであるか、又はローカルコンピュータにプログラムとしてローディングされる。
【0026】
ワークフローの例:対象及び医師が行うこと
医師及び対象のためのワークフローの例をここに記載する。第1に、医師が、臨床的評価を実施し、診断を割り当て、薬剤を処方することができる。第2に、対象が、一意的な使用者名及び個人パスワードを用い、医師の患者の一人として、病院又は診療所の職員によってシステムに登録される。第3に、対象が、入院患者として治療を受ける場合には病棟において、又は外来患者の場合は診察室若しくは自宅で、コンピュータ又はタブレットからシステムにログインすることができ、対象のCNS障害に関連する「ローカライザー」認知機能不全を同定するために、認知機能の評定を完了することができる。同定された認知機能不全は、機能障害を有する特定の神経系(neural system)を反映する。これが、薬物放出の標的位置になる。第4に、システムにより、pH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度の限局的な変化を生じさせて神経機能系の物理的な位置において神経疾患治療薬を放出させるために、標的神経系(neural system)機能障害を活性化することができる標的化活性化タスク「ゲーム」を設計、選択、及び/又は創出することができる。第5に、神経疾患治療薬の経口摂取後の時間間隔の一定期間、例えば、およそ20~60分間にわたって、対象が、システムにより、経口摂取された神経疾患治療薬の薬物動態学に適した認知ゲームをプレイするように説明を受けた後、リマインドを受けることができる。この目的は、経口摂取後に、神経疾患治療薬のほぼピークの血中レベルが実現されるのに十分な長さの時間、待機することである。第6に、この手順を、神経疾患治療薬の各用量との関連で、1日当たり2回、繰り返すことができる。第7に、標的系の機能の改善をモニタリングするため、及び標的とする必要がある他の機能不全を検出するために、システムにより、治療過程を通じて定期的に認知評定を繰り返すことができる。1つよりも多くの認知機能不全「ローカライザー」を同定すること、及び標的化薬物送達のために1つよりも多くの標的化活性化タスク「ゲーム」を含めることが一般的であり得る。
図7に、ある実施形態による、ビデオディスプレイを用いて標的化活性化タスク704を実施している対象の脳702における効果を例示する。標的化活性化タスク704は、認知神経科学的タスク又は感覚運動脳活性化タスクであり得、対象702の神経機能系の決定された機能障害に基づいて選択される。図7に例示されている通り、神経機能系は、対象702の神経機能系の機能障害に基づいて神経疾患治療薬が放出される脳の領域に対応する物理的位置706を伴い得る。
【0027】
例として、DDS 710Aを対象702に投与することができる。DDS 710Aは、神経疾患治療薬712Aを保有しており、乳酸放出の増加及びpHレベルの低下に応答して神経疾患治療薬712を放出するように構成されている。対象702は、標的化活性化タスク704を実施することができ、その結果、脳内の物理的位置706におけるニューロン発火の増加がもたらされ、物理的位置706における乳酸放出の増加及びpHレベルの低下が引き起こされる。物理的位置706における乳酸放出の増加及びpHレベルの低下に基づいて、神経疾患治療薬712AがDDS 710Aから放出され得る。したがって、神経疾患治療薬712Aは物理的位置706では受け取られるが、標的化活性化タスク704の結果としてニューロン発火の増加が生じていない脳の他の位置では受け取られない。
【0028】
別の例として、DDS 710Bを対象702に投与することができる。DDS 710Bは、神経疾患治療薬712Bと連結した担体714を含む。担体714は、プロテアーゼの放出の増加に応答して神経疾患治療薬712Bから切断され得、したがって、神経疾患治療薬712Bの活性化がもたらされる。したがって、対象702は、標的化活性化タスク704を実施することができ、その結果、物理的位置706におけるニューロン発火の増加がもたらされ、物理的位置706におけるプロテアーゼの放出が引き起こされる。物理的位置706におけるプロテアーゼの放出に基づいて、神経疾患治療薬712BがDDS 710Bから放出され得る。結果として、神経疾患治療薬712Bは物理的位置706では受け取られるが、標的化活性化タスク704の結果としてニューロン発火の増加が生じていない脳の他の位置では受け取られない。
【0029】
さらに別の例として、DDS 710Cを対象702に投与することができる。DDS 710Cは、神経疾患治療薬712Cを保有しており、血流の増加、デオキシヘモグロビンの減少、及び温度の上昇に応答して神経疾患治療薬712Cを放出するように構成されている。したがって、対象702は、標的化活性化タスク704を実施することができ、その結果、物理的位置706におけるニューロン発火の増加がもたらされ、物理的位置706における血流の増加、デオキシヘモグロビンの減少、及び温度の上昇が引き起こされる。物理的位置706における血流の増加、デオキシヘモグロビンの減少、及び温度の上昇に基づいて、神経疾患治療薬712CがDDS 710Cから放出され得る。したがって、神経疾患治療薬712Cは物理的位置706では受け取られるが、標的化活性化タスク704の結果としてニューロン発火の増加が生じていない脳の他の位置では受け取られない。
図8に、ある実施形態による、標的化活性化タスクを実施している対象802の脳808における効果を例示する。標的化活性化タスクには、対話式ゲーム又は認知課題を表示するビデオディスプレイ803が伴う。対象802が対話式入力を行い、それを受けてビデオディスプレイ803が更新される。例えば、対象802が統合失調症を有する場合、標的化活性化タスクは、統合失調症に対する薬剤の効果が必要な場所である関連する線条体を活性化するように設計された認知課題であり得る。
【0030】
標的化活性化タスクの第1段階804Aが、対象802にビデオディスプレイ803上の一連の単語を提示することを伴うものとして例示されている。しばらくした後、標的化活性化タスクの第2段階804Bでは、対象802が、一連の単語のうちの1つの単語が第1段階804Aの間にあった場所を選択することが伴う。例えば、場所を特定する単語が「舟」であり、第1段階804Aにおける一連の単語が「自動車-舟-イヌ-帽子」と提示されていた場合、標的化活性化タスクを正しく完了するためには、対象802は、第2段階804Bの間に「2」を選択すべきである。「2」という数字は、一連の単語のうち2番目の単語「舟」の位置である。対象802に種々の一連の単語を繰り返し示し、一連の単語の中での単語の場所を選択させることができる。標的化活性化タスクを、対象802の脳808の関連する線条体に対応する物理的位置806における所望の変化、例えば、所定のpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は脳細胞によって放出される特定の分子の変化が引き起こされるように十分に長く持続させることができる。
【0031】
対象802の神経疾患治療薬に対する応答に基づいて、又は標的化活性化応答に応答して神経疾患治療薬が放出される特異性を改善するために、標的化活性化タスクを経時的に調整することができる。例えば、標的化活性化タスクの間、脳活性化の領域を測定し、対象802が標的化活性化タスクを実施している間に治療用薬物放出が望まれる物理的位置806以外の脳808の別の位置が標的化活性化タスクによる影響を受けていることを示すために、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などのセンサーを使用することができる。結果として、神経疾患治療薬が、所望の位置ではない可能性がある他の位置においても放出される。したがって、fMRIに応答して標的化活性化タスクを調整することができる。例えば、対象802が標的化活性化タスクを1分間実施した後に物理的位置806が活性化され、所望の生理的変化が生じることが決定され、対象802が標的化活性化タスクを10分間実施した後に他の位置が活性化され、所望の生理的変化が生じることが決定された場合、神経疾患治療薬が物理的位置806において局所的に放出されるように、標的化活性化タスクの長さを7分間に短縮することができる。標的化活性化タスクの調整は、それに加えて、又はその代わりに、標的化活性化タスクの強度、例えば、スピード、難しさなどを調整することを伴い得る。
【0032】
測定された神経疾患治療薬の放出を、対象802の脳808におけるpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度の変化に基づいて標的化活性化タスクを適合させるために使用することもできる。例えば、種々の一連の単語に関して第1段階804A及び第2段階804Bがより迅速に表示されるように標的化活性化タスクを適合させることができる。センサーを使用して、所望の治療標的位置の活性化の程度を連続的に測定することができ、センサーにより、所定の用量の神経疾患治療薬が放出されると推定されることが決定されたら、標的化活性化タスクを停止することができる。
図9に、ある実施形態による別の標的化活性化タスク904を実施している対象902の脳908における効果を例示する。標的化活性化タスク904には、対話式ゲーム又は認知課題を表示するビデオディスプレイ903が伴う。対象902が対話式入力を行い、それを受けてビデオディスプレイ903が更新される。例えば、対象902がうつ病を有する場合、標的化活性化タスクは、うつ病に対する薬剤の効果が必要な場所である脳908の中前頭回を活性化するように設計された認知課題であり得る。
【0033】
標的化活性化タスク904が、対象902にビデオディスプレイ903上の文を提示することを伴うものとして例示されている。対象902は、その文に対象が同意するかを示す「はい」又は「いいえ」の選択を入力する。例えば、「鶏手羽肉が好きです」という文の場合、対象902は、「はい」を選択して鶏手羽肉が好きであることを示すか、又は「いいえ」を選択して鶏手羽肉が好きではないことを示す。対象902に種々の文を繰り返し示し、その文に同意するか否かを選択させることができる。中前頭回が位置する前頭葉は性格の制御に関連するので、対象902が文について考え、応答することにより、中前頭回が活性化され得る。標的化活性化タスク904を、対象902の脳908の中前頭回に対応する物理的位置906における所望の変化、例えば、所定のpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は脳細胞によって放出される特定の分子の変化が引き起こされるように十分に長く持続させることができる。
【0034】
最初に疾患により障害が生じた標的領域の機能の改善によって決定される対象902の神経疾患治療薬に対する応答に基づいて、標的化活性化タスクを経時的に調整することができる。これは、例えば、治療用薬物放出の標的を決定するために使用された認知神経科学的タスク、感覚タスク、又は運動タスクの実施成績の改善を測定するという形態であり得る。測定値に基づいて、標的化活性化タスク904に対する長さ、強度、又は他の調整を行うことができる。
図10に、ある実施形態による対象によるタスクを通じた神経疾患薬物療法の脳における限局的な活性化のためのプロセスのフローチャートを例示する。操作1002において、神経疾患治療薬を保有するDDSを対象に投与する。DDSは、DNAナノケージ、細胞送達系、MEMに基づくデバイス、ポリマーマトリックス、及び遺伝子送達系からなる群から選択することができる。DDSは、所定のpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は脳細胞によって放出される特定の分子に遭遇した場合に神経疾患治療薬を放出するように構成されている。
【0035】
操作1004において、対象に対して標的化活性化タスクの選択を行う。標的化活性化タスクは、対象の脳の所定の神経機能系の物理的位置においてpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度が変化するように選択される。標的化活性化タスクは、認知神経科学的タスク又は感覚運動脳活性化タスクを含み得る。認知神経科学的タスクには、可聴ゲーム若しくは認知課題又は対話式ゲーム若しくは認知課題が伴う。感覚運動脳活性化タスクには、対象が四肢を動かすことが伴い得る。標的化活性化タスクは、神経機能系の物理的位置を活性化するタスクであり得る。例えば、神経機能系が脳の線条体に関連するか、神経機能系が脳の中前頭回に関連するかで第1の標的化活性化タスクを選択することができる。
操作1006において、標的化活性化タスクを対象に提示する。標的化活性化タスクの提示には、対話式ゲーム又は認知課題をビデオディスプレイ上に表示することが伴い得、ビデオディスプレイは、仮想現実ゴーグルを含み得る。標的化活性化タスクの提示には、それに加えて、又はその代わりに、可聴ゲーム又は認知課題をスピーカーで再生することを伴い得る。標的化活性化タスクを提示する前に、薬物送達システムが対象の血液脳関門を通過するのを可能にするために所定の時間待機することができる。
操作1008において、対象の脳内の神経機能系の物理的位置において神経疾患治療薬をDDSから放出させる。DDSに応じて、神経疾患治療薬の放出には、神経疾患治療薬の活性領域を解離させる又は露出させることが伴い得る。標的化活性化タスクによってpH、乳酸レベル、血流、温度、磁場、又は特定の分子の濃度の変化が引き起こされた物理的位置に基づいて神経疾患治療薬が放出される。すなわち、標的化活性化タスクにより、神経機能系に関連する物理的位置において所定の生理的変化が引き起こされるので、対象の脳全体を通してではなく、物理的位置において神経疾患治療薬が放出され、それにより、神経疾患治療薬の潜在的な副作用が低減する。
【0036】
プロトタイプでの実験方法
最初に細胞培養物において、次いでマウスを用いて、方法を試験し、改良することができる。
マウス神経細胞を60チャネル8×8微小電極アレイ(MEA)で培養することができる。実験手順は、シナプス結合の成長及びプローブ刺激に対するシナプスを介した応答の増強を促進するためにMEA内の選択された培養細胞のネットワークが「訓練」される手順に従うことができる。そのような訓練されたシステムは、薬理的作用剤を培養培地に適用することによるシナプス伝達の阻害に対する感受性を有することが実証されている。システムを使用して、シナプス伝達及びニューロン発火を減少させる薬物、例えばN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニストケタミンのDDSからのpH依存性の局所的放出を実証することができる。pH感受性放出の設定点が異なるDDSの3つのバリエーションによる放出を比較することができる。シナプスを介した伝達及びニューロンの活動に関連するpHの局所的変化も測定することができる。
【0037】
1つの実験において、各実験条件について10個のMEAを創出することができる。スパイク検出のためのシグナルを、各電極から、300Hz~3kHzのバンドパスフルタを用い、25kHzの率で記録することができる。スパイク検出の閾値を、各記録電極について個別に、500msにわたってベースノイズレベルの5倍の標準偏差に設定することができる。同じ電極を通した訓練刺激の提示前後のニューロン応答性を評価するために、「L」配置の電極刺激部位のサブセットを使用してプローブ刺激をもたらすことができる。プローブパルスは、0.5Hzの二相パルス、900mVの振幅で200マイクロ秒のパルス持続時間を含み得る。訓練パルスは、4ミリ秒のパルス間期間、200マイクロ秒パルスの持続時間及び900mVのパルス振幅を有する100の二相パルスをそれぞれが含有する40のパルス列を含み得る。スパイク頻度を刺激パルス後50msで計数し、以下の条件で10msのビンに分割することができる(10個のMEA/条件):
i. 訓練なし且つ薬物なしの対照MEA
ii. 訓練されたMEA、薬物なし
iii. 訓練されたMEA、薬物を伴わないDDSを用いる
iv. 訓練されたMEA、DDS+ケタミンを用いるが、DDSのpH放出感受性を、予測される範囲をはるかに超えるものに設定する
v. 訓練されたMEA、薬物ケタミンを用いる
vi. 訓練されたMEA、DDS+ケタミン、低DDS pH放出感受性を用いる
vii. 訓練されたMEA、DDS+ケタミン、中DDS pH放出感受性を用いる
viii. 訓練されたMEA、DDS+ケタミン、高DDS pH放出感受性を用いる
【0038】
条件ii~ivでは、条件iよりも高いスパイク計数が示され得るが、条件ii~ivの間では差異は認められない。iiとiの差異により、訓練パラダイムの妥当性が実証され得る。条件ii、iii、及びivの類似性により、DDS単独又は放出されないケタミンが不活性であることが実証され得る。条件v、及び条件vi及び/又はvii及び/又はviiiでは、条件iiよりも低いスパイク計数が示され得る。これにより、上記条件のpH放出感受性のうちの1つ又は複数でDDSから薬物が首尾よく放出されることが示される。
条件vi、vii、及びviiiの間の差異から、DDS放出の特異性と感度のバランスを取るための重要な情報がもたらされる。
【0039】
マウスにおける試験及び改良
マウスにおけるin vivo実験を行って、聴覚性又は視覚性感覚刺激に関連する限局的なニューロンの活動によって誘発される限局的な薬物放出の効果と特異性の両方を実証することができる。薬剤の限局的な放出を誘発するために単純な聴覚又は視覚刺激を使用することは限定されない可能性があるが、おそらくプロトタイプを確立するためだけになる。認知処理又は他の脳機能に関与する神経系を活性化して薬剤の局所的放出を誘導することもできる。これらの実験では、動物が聴覚又は視覚刺激を受けている間、聴覚野及び視覚野の細胞発火及び局所pHを測定することができる。測定は、聴覚刺激を用いて聴覚皮質ではpHが変化するが視覚野ではpHが変化しないこと、及び、逆に、視覚刺激を用いて視覚野ではpHが変化するが聴覚皮質ではpHが変化しないことに関連するDDSによる薬物放出が示されるように設計することができる。pHを、表面増強ラマン散乱(SERS)光学生理学的プローブ又は別の適切な方法を使用して単一細胞分解能で測定することができる。
【0040】
マウスにおける単一のニューロンスパイク列及び小さなネットワーク活性化の測定に関しては十分に確立された方法がいくつか存在し、それぞれから、潜在的な付加価値に関する異なる型の追加情報ももたらされる。例えば、1つの方法では、個々のニューロンからの自発性及び誘導スパイク列を測定するための市販の記録システムを使用したパッチクランプ記録と個々のニューロンのリボ核酸(RNA)に基づくサブタイプ決定を組み合わせる。別の方法では、自由に動いているマウスにおけるニューロンの活動を単一細胞分解能で記録することが可能な無線小型蛍光顕微鏡を使用する。
感覚刺激によって活性化された聴覚又は視覚神経処理系にpH感受性DDSによって送達されたシナプスアゴニスト及び/又はアンタゴニストを、マウス5~10匹の群において測定することができる。5つの薬理的条件下で、聴覚又は視覚刺激の前後にニューロンの活動を聴覚及び視覚処理領域において測定することができる:プラセボ、遊離の薬物、1~3のpH放出の設定点が異なる3種のDDS内の薬物。マウスの聴覚野及び視覚野における神経の活動を引き出すための感覚刺激プロトコールは十分に確立されている。パルスされたノイズ列及びパルスされた視覚刺激を使用して、細胞外乳酸を増加させ、細胞外pHを変更することができる。
【0041】
本発明の特定の実施形態を記載したが、種々の改変、変更、代替的構築、及び等価物も本発明の範囲内に包含される。本発明の実施形態は、ある特定の具体的な環境に操作に制限されず、複数の環境内で自由に運用される。さらに、本発明の方法の実施形態は特定の一連の処理及びステップを使用して記載されているが、本発明の範囲が記載されている一連の処理及びステップに限定されないことが当業者には明らかであるはずである。
さらに、本発明の実施形態はハードウェアの特定の組合せを使用して記載されているが、ハードウェアの他の組合せも本発明の範囲内に入ることが理解されるべきである。
【0042】
したがって、本明細書及び図は、限定的な意味ではなく、例示的なものであるとみなされる。しかし、追加、差し引き、削除、及び他の改変及び変化を広範な主旨及び範囲から逸脱することなく行うことができることが明らかであろう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】